ロスマイニング トピックス

小売業・飲食業における内部通報制度

2020.06.15
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総合研究部 上席研究員(部長) 伊藤岳洋

内部通報のイメージ画像

皆さま、こんにちは。
本コラムは、消費者向けビジネス、とりわけ小売や飲食を中心とした業種にフォーカスした経営リスクに注目して隔月でお届けしております。

小売業・飲食業における内部通報制度

前回の20年4月号では、小売業や飲食業におけるコンプライアンスの徹底をテーマに取り上げました。少し振り返ってみましょう。そもそも、コンプライアンスとはどういうものなのでしょうか。コンプライアンスの企業や従業員への定着が進み、社会のコンプライアンスへの意識が成熟するにつれて、その意味合いやその範囲は変化してきています。したがって、法令を守ることだけではなく、倫理や道徳観、社内規範といったものに「従う」と考えられるようになりました。さらに最近では、企業のCSR(Corporate Social Responsibility)、すなわち「企業の社会的責任」を果たすことが、コンプライアンスに含まれると考えられています。企業活動は、自社の利益のみを追求するのではなく、すべてのステークホルダー(ここでは単に投資家や消費者だけでなく、社会全体を含む)を視野に、社会全体のニーズの変化を捉え、それらをいち早く価値創造や市場創造に結び付けることによって、自社の発展と共に経済全体の活性化やより良い社会づくりに貢献するという考え方です。

とはいうものの、小売業や飲食業の店舗の末端では日々問題が発生しており、コンプライアンスを徹底することは簡単ではありません。しかしながら、この業界では売上・利益は店舗でのみ生み出されます。したがって、利益の源泉である店舗や運営の現場においてコンプライアスの強化に継続的な投資が必要です。「すき家」の労働環境問題の事例(過重労働に起因するイレギュラークローズ)からもわかるとおり、不適切な状況を放置すれば、スタッフの定着率の悪化、人手不足による過重的労働、労働環境に関する風評の悪化、新規採用難と悪循環をたどり、やがては店舗網を維持できないという大きな経営危機に瀕することになります。小売や飲食の企業において、店舗の人員を確保できない状況に陥ると呆気ないほど急速に経営危機に陥ることは、人手不足倒産の増加や「すき家」の「イレギュラークローズ」の事例が示しています。やはり、小売・飲食業は店舗あっての企業です。

コンプライアンスを徹底するうえでの注意点について、大事なことなので再度確認します。コンプライアンスは、法令や社内の規定、ルールを知ることに加えて、あらためて企業理念や行動指針も併せて浸透させることが必要です。規程やルールは「~しなければならない」、「~してはいけない」という類のコンプライアンスになりがちです。それは、ルールを守るためにあらたなルールを作ったり、厳格に運用することで手間が増えて、なおさら守ることが難しくなったりする矛盾も内包します。むしろ、我々の企業は何のために存在し、誰のためにどのようなサービスを提供し、どのような企業・従業員を目指すのかといった企業理念や行動指針とコンプライアンスを結びつける、いわゆる「プリンシプルベース」の思考を教育することが、自発的・自律的な行動を促すものと考えられます。たとえば、商品やサービスの提供を通じて「お客様を笑顔にする」という主旨の理念や指針であれば、過重労働や過酷な労働環境では「お客様を笑顔にする」ことは難しいでしょう。「すき家」の事例のようにクレームが増大します。つまり、スタッフのES(従業員満足度)と「お客様を笑顔にする」ことは表裏一体なのです。したがって、「人財」を企業経営に欠かせない重要なステークホルダーと考え、「第2のお客様」のように大切に接して従業員と共に将来を共創していくことが重要です。

すき家の事例を通じて、コンプライアンスの徹底について考察をしてきました。そこで重要になるのは、内部統制体制であることがわかります。現場の過重労働を運営部門や人事部門が把握しながら、企業経営に直結するリスク、重大なコンプライアンスの問題と認識していませんでした。また、同社にはリスク管理委員会、コンプライアンス委員会が存在していましたが、結果として役割を果たすことはありませんでした。そこで今回は、コンプライアンスを推進する役割のコンプライアンス委員会と現場のリスクを抽出する内部通報制度について、それぞれの役割と統制上の連携を考察していきたいと思います。

まず、内部通報制度とはどのようなものなのでしょうか。内部通報とは、「社員・職員などが、法令違反、規則違反や不正行為や疑問などを組織内部の窓口に対して、匿名または実名で相談・通報すること」といえます。また、通報のルートということでは、内部通報に対して外部通報(内部告発)というものもあります。外部通報(内部告発)とは、「社員・職員などが、組織内における法令違反、不祥事、社会に害を与えるような違法行為や不正行為などを、行政・司法機関、消費者団体、マスコミなどの外部に対して情報を提供すること」といえます。つまり、内部通報は組織内の不正事実の申告を念頭に置き、外部通報(内部告発)は外部への不正事実の申告を念頭に置いたものと区別できます。企業が内部通報制度を設置するのは、不正事実をいきなり外部に申告することを防ぎ、企業内で問題や課題を把握して是正するという自浄作用を働かせることを期待する側面があります。したがって、内部通報制度において、通報が少ないことは問題や課題がないというよりむしろ、不正事実がいきなり外部に申告されるリスクを内包していると受け取られるようになってきました。内部通報は、一定数あるほうが健全であり、その件数などを外部に開示し、統制上の透明性を重視するようになってきています。ただし、通報者が特定されたり、不安に感じたりすれば、内部通報制度そのものへの信頼を損なうことになりますので、開示する情報の内容や開示する範囲を限定するなどの配慮は必要です。具体的には、外部に対しては件数を開示し、社内ではコンプライアンス委員会など特定範囲に限って、件数と通報カテゴリーなど概要部分に留めて開示するなどの方法が挙げられます。さらにいえば、内部通報制度の信頼性のひとつである、通報者や通報内容の守秘に関しては、たとえ社長や役員が開示を求めてきたとしても安易に応じてはなりません。

次に内部通報制度の機能についてみていきましょう。先に挙げた内部通報の内容については、「法令違反、規則違反や不正行為や疑問」などを相談・通報することでした。しかしながら、これらの相談・通報内容は本来、職制のラインを通じて会社に挙げれば事足りるはずです。ただし、ラインの上長が不正事実に関与している場合や、報告しても取り合わなかったり、不作為があったりする場合があり、このように職制のラインがなんらかの理由で機能せずリスク情報などの報告が滞ることを避けるため、通常の報告ルートとは異なる非常ルートとして内部通報制度が存在する面があります。この非常ルートを設けることで、本来の職制のラインが機能せず、いきなり外部通報(内部告発)として外に情報がリークされることを防ぐのです。一方で、非常ルートが恒常的にメインルートになってしまうと、職制のラインをさらに弱体化させるという矛盾も内包しています。店長がスタッフの上長として、相談・報告に対する対応を放棄して、「内部通報にあげて」などという対応をしたことが内部通報に寄せられるということが実際に起こっています。内部通報制度に対する従業員の理解が十分でないと、内部通報制度そのものが職制のラインを弱体化させ、さらに通報を生むという悪循環に繋がってしまいます。本来は、内部通報への対応や是正措置を通じて、コミュニケーション不足に代表される職制のラインの問題を解決して、職制のラインが適正に機能するように改善していくべきものです。つまり、非常ルートが本来の職制のラインの改善や強化につながるというのが理想の機能ではないでしょうか。このあたりの内部通報制度の意義や目的をしっかりと組織に浸透させていくことも、統制上の大きなポイントとなります。

内部通報への対応の流れを確認していきましょう。典型的な大きな流れとしては、受付→事実調査→調査結果を踏まえたコンプライアンス違反の有無の判定→違反事実が確認できない場合→通報者へのフィードバックとなります。違反事実があった場合→違反事実への対応措置(公表の場合も)→是正・再発防止、懲戒措置→通報者へのフィードバックと違反の有無によって途中から分岐することになります。これを踏まえて受付からみていきます。内部通報受付窓口にて通報・相談を受け付けて、内容を整理します。最近はこの受付業務を、社外にアウトソーシングする企業が増えています。その大きな理由としては、通報・相談の受付には高いスキルが求められるうえ、他の業務と兼任する体制が多く、受付担当者の精神的、時間的な負荷が大きいためです。また、執務室がオープンスペースである場合も多く、通報の守秘が担保できないという懸念があります。たとえば、総務部内に窓口を設置して、オープンスペースで電話受付をすると内部通報担当者以外にもやり取りが漏れ聞こえる恐れがあります。通報への対応検討のプロセスにおいても、通報者や通報内容が漏れてしまう可能性があります。仮に漏れるかどうかは別としても、そのようなオープンスペースで通報者の特定や通報内容の漏洩に不安を抱かせるような物理的体制は、従業員が安心して利用できません。内部通報における守秘義務は、制度の信頼性の根幹にかかわる事項です。受付に限らず、内部通報に対応する部署は、別室、もしくは、パーテーションなどで仕切ったクローズドスペースに置いた方がよいでしょう。

次に通報に対して事実確認の調査を行います。調査に関しては、通報者に同意を取りながら進めることがポイントです。同意に関しては、2つの範囲を通報者との間であらかじめ決めておく必要があります。ひとつは、通報内容の範囲をどこまで開示するかです。もうひとつは、組織のどの範囲・階層まで通報内容を開示するかです。ここの丁寧なステップを踏まないと、守秘義務に関してあとから大きなトラブルになる可能性があります。一方で、通報者が匿名での対応を希望した場合、調査や是正措置に関して十分な対応ができないことになってしまいます。全体への注意喚起など改善効果の乏しい対応に終わる可能性を通報者に説明して、しっかりとした調査や是正措置を取るために通報者に情報開示を丁寧に促すことが重要です。その際には、調査対応プロセスでの守秘義務の徹底と通報に関する不利益取り扱いの禁止、報復行為の禁止、それらに違反した場合は罰せられることなども合わせて説明して、少しでも安心してもらうよう努力します。さらに、通報者自身に対しても守秘義務を徹底するよう注意する必要があります。通報者は不安を抱えている場合が少なくないため、周りに相談してしまうことによって通報者自身から情報が洩れるケースがあるからです。これらの禁止行為は、内部通報規定やマニュアルなどに定めて、従業員に周知することが重要です。たとえば、報復行為の禁止を定めると以下のようになります。

通報者への不利益取扱の禁止

  1. 通報窓口を健全に機能させるため、通報者に対し、通報等をしたことに基づき不利益取扱を行うことを禁止する。
  2. 不利益取扱には、人事上の不当な配置転換や処分だけでなく、適切な質および量の仕事を与えないことや、無視などのハラスメントも含むものとする。
  3. 不利益取扱等の報復行為をした者は、懲戒処分の対象とし、賞罰委員会にて厳正に処分を検討する。

上司による部下への報復行為では、2項に挙げたものに関連して人事評価における報復も同様になります。一方で、一般に誹謗中傷や人事考課に関しては、内部通報の対象としない取り決めも多くみられますので、単純に人事考課に関する通報を排除するのではなく、人事考課に関する申し出の背景にそのような通報に対しての報復行為がないかどうかの見極めが必要です。

次に実際の事実調査に関してみていきましょう。ここでも通報者の特定や通報内容の漏洩に最大限の注意を払う必要があります。調査に関しても、規定やマニュアルにて定めておくべきです。とくに、関係者のヒアリングに関して、以下に例示します。

ヒアリング実施時の注意点

  1. 周辺人物および被通報者に対しヒアリングを実施する場合は、職場の人間関係等に配慮し、「職場環境調査」とするほか、定期監査の一環として実施するなど、呼出す際の名目を検討する。また、従業員を呼出す際は、社内メール等、人目につかない方法を利用する。
  2. ヒアリングを実施する場合は、調査を実施している旨の噂や通報者の特定防止に配慮し、必要に応じて社外や就業時間外で実施することができる。社内で実施する場合であっても、他の従業員の注目を集めず、遮音性のある部屋で実施するなど、慎重に対応する。
  3. ヒアリングは、情報拡散を避けるため、原則として対象者1名ずつ行う。ただし、特別の事情がある場合は、この限りでない。
  4. ヒアリングは、証言の信用性を担保するため、原則として実務担当者2名以上で対応し、録音・記録をする。
  5. 被通報者に対してヒアリングを行う場合は、証拠隠滅や噂等による情報の拡散を避けるため、周辺人物とのタイムラグを極力短くするよう努める。
  6. ヒアリング実施時は、事前に守秘義務や匿名での報告が可能であることなどの注意事項につき説明し、誓約書に署名のうえ、同意を得る。

とくに、店舗従業員に対してのヒアリングにおける守秘義務の徹底は、なかなか難しいのが実態です。店舗運営部において、調査を担当するのは概ねスーパーバイザーやエリアのマネージャーというケースが多いでしょう。普段からダイレクトに従業員とのコミュニケーションを取っているスーパーバイザーやエリアのマネージャーであれば、周囲の従業員から違和感を持たれる可能性は少ないかも知れません。ただ、実際にはこれらの職位の方は、店長を通じてマネジメントするのが通常ですので、多くの場合で「なにかあったのか」と店舗内の噂になることも少なくありません。「ヒアリング実施時の注意点」からもわかるように、ヒアリング場所や時間の選定には、柔軟に対応できる運用にしておくことが望ましいでしょう。バックルームでのヒアリングや就業時間内に店舗外でのヒアリングでは、すぐに周囲に勘繰られることになります。それを解消するには、内部監査部などが調査を担当することも一つの方法です。ただし、チェーンの規模によっては内部監査部のマンパワーの問題は避けられません。店舗における調査・ヒアリングでは、どうしても周囲の「推測」が働き、完全に守秘義務を徹底することには限界があります。逆に守秘義務を徹底できないことを恐れて、調査を躊躇する、もしくは、調査が不十分になることは本末転倒です。やはり、事実調査は正しい措置への判断材料ですので、しっかり行うべきです。したがって、守秘義務への配慮は最大限行いつつ、一方で不利益取り扱いの禁止や報復行為の禁止を徹底していくことで、守秘義務に関する懸念を補強していくしかないと思います。非常に難しい問題であり、調査の体制や運用、調査担当者のレベルやスキルなど複合的に関連するので、運用と経験を重ねて改善する要素が多いといえます。このような運用の経験において、専門家を適切な対応のガイドラインとして利用することも有効です。

次に内部通報制度とコンプライアンス委員会の役割における関連についてみていきたいと思います。先に触れたとおり、内部通報の実績や概要についてはコンプライアンス委員会に報告することで、全社的なリスクの把握や受付から是正措置までの対応プロセスの透明性を担保します。とくに内部通報制度導入当初は、社内の規定やルールの不備や運用上の問題が集中的に上ってくることも少なくありません。店舗では有給休暇の取得や病欠時などの代替勤務者の手当てなど、シフト勤務特有の労務管理上の不適切な管理が慣例的に運用されているケースが散見されます。合理的な理由なく、人によって有給休暇を認めなかったり、取得理由を執拗に問い質して個の侵害につながる恐れがあったり、急に休む時に自分で代わりの勤務者を探さなければならなかったりと、不適切な行為は法律に抵触する可能性があります。さらに、その運用を組織的に黙認していれば大きなリスクとなります。そのような問題が内部通報で複数あがってくれば、会社としてルールそのものや運用の見直しをする必要があります。コンプライアンス委員会では、そのような問題をどの部署がいつまでにどのように解決していくのか、その是正の道筋を決めて進捗まで管理していくことになります。

また、内部通報の流れとして前後しますが、通報内容のリスクレベルによっては、コンプライアンス委員会が調査を担当するケースもあり得ます。これは組織内の「決め」によるところにもなりますが、リスクレベルの大きい案件にコンプライアンス委員会が関与することは共通といえるでしょう。イメージするためにリスクレベルを以下に例示します。

レベル 判断基準 具体例 対応部門
背景に何らかの問題があることが予想され、個別のケアや対応が必要と判断されるもの □ 業務改善提案
□ 処遇への不平不満
□ 職場内トラブル(確執・軋轢)
該当部門
部門全体に及ぶ問題で、対応が必要と判断されるもの □ 差別、いじめ、嫌がらせ
□ 職場内での暴力
□ ハラスメント(役員、部門長以外)
該当部門
全社に及ぶ問題で、全社的な対応が必要と判断されるもの □ 通報者の不利益な取り扱いや報復行為
□ 役職員の飲酒運転
□ 役職員の社外での違法行為
該当部門
行政処分、司法処分、マスコミ報道等へ発展する可能性がある問題で、迅速な対応が必要と判断されるもの □ 役員、部門長のハラスメント
□ 優越的地位の濫用、贈収賄に当たる行為
□ 設計、製造、広告の欠陥
□ 知的財産の侵害
□ サービス残業、長時間労働
□ 不当解雇、違法配転
コンプライアンス委員会
生命の危機、事故の発生の可能性がある問題で、即座の対応が必要と判断されるもの □ 過重労働
□ 労災死亡事故
□ 災害(大規模地震、火災、洪水・津波)
コンプライアンス委員会

例示では、とくにリスクの高いリスクレベルⅣとⅤについては、コンプライアンス委員会が対応するルールとしています。ただし、この例示のなかのリスクレベルⅢについても内容によってはコンプライアンス委員会が対応すべき案件もあり得るでしょう。このあたりは、「想定」と「決め」なので事前に検討しておくべきです。

もうひとつポイントとして、是正措置のなかでの懲戒措置があります。一般に、懲戒処分を検討し決定するのは賞罰委員会の役割です。賞罰員会に付議するのは誰か、職務分掌規程などで決めておく必要があります。また、付議するかどうかは就業規則や賞罰規定に抵触するかどうかが判断基準です。そして、賞罰委員会で内容の悪質性や影響などを総合的に判断して処分内容を決めることになります。その際には、懲戒処分と人事評価とは切り離して判断されるべきです。対象者がビジネス上欠かせないキーパーソンであったり、役割が上席のものであったりする場合に、それらを混同した判断になることが往々にしてあります。適切な処分がなされずに、厳重注意で済ますというのはその典型です。コンプライアンス委員会、賞罰委員会、人事部門、それぞれ関連する規定・規則などの連動や連携など、横ぐしを通しておくことが統制上非常に重要です。

コンプライアンスをどう捉えて、組織のなかでそれを定着させるには従業員ひとり一人に繰り返し啓発していくことが欠かせません。そのためにコンプライアンスを支える規定や組織体制を整備、改善していくことが前提となります。

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注目トピックス

ドラッグストア20年連続成長

2019年度のドラッグストアの市場規模が、前年比5.7%増の7兆6859億円(ドラッグストア協会)となり20年連続の成長を記録しています。市場規模においては、コンビニエンスストアの11兆1608億円、スーパーマーケットの10兆7850億円とその差が縮小してきています。その勢いはドラッグストアが2000年以降、店舗数および売り上げ規模の双方において、一貫して5~6%の水準で成長してきたところに表れています。最大の強みである医薬品に加えて、「その他」に分類されるカテゴリーの食料品の販売に力を入れるなど多様な品ぞろえも成長の源泉になっています。医薬品に続いては、化粧品の売り上げが高く、日用雑貨がそれに続きます。とくに近年は、食料品の売り上げの伸びが8%と医薬品の5%を上回り、成長をけん引しています。食料品の取り組みは、各社によってその方針はやや異なりますが、ツルハホールディングスやアオキのように青果や精肉の販売に力を入れているチェーンもあり、スーパーマーケットとの競合が激しくなるエリアもあります。とくにスーパーマーケットの競合が激しい地方や郊外では、店舗を大型化することでワンストップの利便性を高めて競合に対する優位性を発揮しようとする動きもあります。また、利益率が高く手ごろな価格のプライベートブランド商品(PB商品)を拡充させてきたこともドラッグストアの特徴の一つで、利益を下支えしてきました。

このコロナ禍を受けて、マスクや消毒液の販売が高水準で続いており、2桁の前年比の伸びを確保したチェーンもあるようです。マスクや消毒液が新規顧客を呼び込むきっかけとなり、食料品やPB商品の拡充がリピート利用を後押ししている面があります。一方で、インバウンド消費を狙った化粧品のPB商品の拡充に特化したマツモトキヨシや都市型店舗が多いココカラファインの売り上げは前年を割り込み、その明暗が別れました。

ドラッグストアのもうひとつの成長の源泉は、医師の処方薬を扱う調剤事業です。店内に調剤部門を併設した店舗を増やしているチェーンがあり、さらにその拡大が予想されます。医薬品の粗利益率は4割を超え、利益の源泉にもなっています。その利益を、青果や精肉などの食料品の価格を低く抑えることで競合のスーパーマーケットに負けない価格競争力の原資として利用しているのです。少し余談となりますが、政府が推し進めようとしている「かかりつけ薬局」の行政事業レビューでは、いわゆる門前薬局(病院の同一敷地内とみなされる薬局)の調剤報酬を引き下げ街中の小規模な個人経営的な薬局を「かかりつけ薬局」として増加させる政策を進めたにもかかわらず、「大型含む門前薬局が多数であり、様々な医療機関からの処方を行っている薬局は少数」、「大手調剤チェーンが増加し、多店舗展開により収益率が高くなる傾向」といったことが指摘されています。この指摘からもドラッグストアが調剤事業を拡大させていることが裏付けられます。仕入れて売るという比較的単純な事業を営む小売業で、いかに付加価値を高めて持続的な競争優位を築くかという戦いは、社会環境の変化や消費者のニーズを探りながら、まだまだ続くことになります。

コンビニエンスストア失速、コロナ禍の小売業

新型コロナウイルスの感染拡大で、小売業の業績にも変化がみられました。消費のあり方は、ネットの拡大と深化をもたらし、その進化が加速したことはご存じのとおりです。一方で、これまでの優勝劣敗の象徴のような存在だったコンビニエンスストアとスーパーマーケットの業績格差はこれまでの流れとは違うものになりました。コンビニエンスストアの失速感は鮮明です。

スーパーマーケットの既存店売上高は、20年1月までは15か月連続のマイナスだったものが、2月の前年同月比は5.5%のプラスに転じ、3月は同7.4%増、4月には2桁増のチェーンも目立ちます。これまでのスーパーマーケットは、家族4~5人を主なターゲットとしたビジネスモデルでしたが、そのニーズを的確につかみ切れているとはいえませんでした。いわゆる価格競争とまとめ買いの戦略の領域をでませんでしたが、コロナ禍の外出自粛で、図らずもその戦略が自身の業績回復に直結しました。節約志向と外出自粛を消費者が両立するために、スーパーマーケットを選択したことは当然ともいえます。

一方、コンビニエンスストアは外出自粛でも健闘すると予想されていました。東日本大震災以降、インフラとしてコンビニエンスストアが有事に強いというイメージが、このコロナ禍では崩れました。郊外型など住宅立地は、スーパーマーケットの機能を補完する役割として前年の売り上げを超えましたが、近年の出店競争で増加したオフィス街やオフィスビル内、商業施設内の店舗が軒並み大きく売り上げを低下させました。とくにオフィス街に特化した出店をしていたam/pmを傘下に収めていたファミリーマートは、前年対比14.8%減と主要チェーンのなかでワーストです。このコロナ禍は、これまで郊外型に比べて間違いなく稼げると思われていたオフィス立地の店舗が、逆にリスクとなる結果をもたらしました。また、販売チャネルとしては、ネットの加速のほかに、移動スーパーや移動販売の人気も上昇しました。コロナ禍は、小売業にとってサプライチェーンの多様化を迫ると同時に、販売チャネルの多様化も検討しなければならない戦略事項となったことを示しています。

ロスマイニング®・サービスについて

当社では店舗にかかわるロスに関して、その要因を抽出して明確化するサービスを提供しております。ロスの発生要因を見える化し、効果的な対策を打つことで店舗の収益構造の改善につなげるものです。
ロス対策のノウハウを有する危機管理専門会社が店舗の実態を第三者の目で客観的に分析して総合的なソリューションを提案いたします。店舗のロスに悩まされてお困りの際には是非ご相談ください。【お問い合わせ】
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