ハラスメント 関連コラム

組織として「カスハラ」にどのように向かい合うか!~急務となるカスハラ対策に挑め~

2023.01.23

総合研究部 総合研究課 上席研究員 森田 久雄

会社員が話している様子

カスハラ対策の必要性

2020年以降新型コロナ感染症が拡大すると共に、カスハラも徐々に拡大しています。そのような中、2022年2月、厚生労働省より「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が公表されました。こちらは、いまだあまり広まっていない気がしますが、何故でしょうか?

現在、カスハラという言葉自体は広まり、意識というより「認識」は高くなってきていますが、「意識」はまだまだ低いように思われます。これはカスハラに関する法律が制定されていないこともあり、なかなか「意識」まで高くならない、後回しになっているのかもしれません。しかしながら、カスハラの法律というよりも、労働契約法には抵触する可能性を秘めていることを知っておく必要があります。

2008年3月1日に施行された労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)について、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています。

労働者に対する安全配慮義務について、2020年厚生労働省から公表されているマニュアルも確認してみると、「事業主は、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましい」と記載され、「対策の強化は急務」とまで記載されています。それだけ、このカスハラで従業員は疲弊し、精神的・身体的に影響を受けている人も出てきていると考えられ、企業が従業員を守るための体制作りを進めることが求められています。つまり、企業としてカスハラへの対策を行うことで、従業員の身体・安全を守ることで、企業としての安全配慮義務を履行することに繋がると言えます。

カスハラ体制構築の難しさはどこにあるのか

カスハラへの体制構築というと、イメージが湧きにくく、困難を極め難しいのではと考えがちです。もちろん、簡単なものではありませんが、やるべきことを確実にやっていくことで整備はできるものです。難しい部分のひとつとしては、経営者の決断やコミットメントを求めるところが挙げられるかもしれません。

カスハラは、絶えず顧客担当部門で起きており、疲弊するのは同部署になります。この実態を経営陣にいかに伝え、必要性や重要性を感じて頂くかが重要となります。現場との温度感を無くさない限り、経営陣にその必要性を理解頂けないのかもしれません。「なぜ?そこに時間を掛ける必要がある?」「不当要求だろ?断ればいいだけだ!簡単なことだろう?」「なぜ疲弊する?弱いな!」などと(暗に)考えている経営陣もおられるかもしれません。

経営陣としては、費用と時間(費用対効果)を当然考えますので、この必要性をいかに納得いただけるかがポイントとなります。経営陣までなかなか伝わらない現場の実情・実態、現場の声、罹患状況など、職場の安全が阻害される要因が存在することを“会社のリスク”として伝える必要があります。

どこから手を付けるか!

まず、「カスハラ対策はどこから始めるべきか?」を考えるために、「そもそもカスハラとは何を指すのか?」、「何をもって当社はカスハラとするか?」の定義付けが必要になります。この定義を策定後、対応方針の策定、社内外への発信など、順序を明確にして個々の作成に進めていくことになります。

特に定義付けについては、すべての基礎となるものですので、厚生労働省のマニュアルや他社の定義なども参考にすることも必要です。一方、企業ごとや業界ごとに営業形態も変わりますので、より自社に適した定義内容を作成することも重要です。短期間でさっさと作ればいいものでもありませんので、特にマニュアルなどはしっかりと作り込んでいく必要があります。尚、マニュアルについては、一度作成したら終わりではなく、定期的な見直しも行う必要があります。不当要求の手法は、時により変化するものですし、不当要求を行う人により同じ要求内容でもガラリと変わったものになります。一例として、以下の取組みを参考にして下さい。

カスハラ対応体制構築の進め方
項目 内容
定義の策定 当社として、どのような行為をカスハラと認定するのか、定義付けします。
対応方針(ポリシー)策定 定義付けしたものに対して、当社はどのような意思を持って対応していくかという方対応針を策定します。
内外へのコミットメント 社内においては、イントラネットや会議などを活用し社内周知します。また、社外に対してはメディア発表も良いですし、一般的にはホームページなどに個人情報保護方針などと同様に掲載することが考えられます。
対応マニュアル作成 マニュアルは、あくまで現場で実際に使用できる内容で作成しなければ、費用や時間を投入する価値がありませんので、あくまで現場を重視した形で作成するのが望ましいと言えます。現場従業員からのアンケートを反映するなどすればより実践的なマニュアルとなります。ただし、このマニュアルだけが独り歩きしないような注意も必要です。
従業員研修 マニュアルを作成し配布するだけでは、確認しないことや形骸化してしまう可能性が高くなります。研修などで使用方法や内容の説明、マニュアルを用いたグループワークなどを実施することで、「生きたマニュアル」に変化していきます。また、研修は一度で終わることなく、継続的に実施する必要があり、これによって変わることのない対応が形成されていきます。

テクニックより基本が重要

クレーム対応研修などでは、当社(SPN)の対応テクニックを教えて欲しいとよく言われますが、テクニックは使う人により様々に形が変わります。そのテクニックを使う人の力量により、成功もすれば失敗もありえるものでもあります。そのようなことに左右されないために重要な事は“基本をいかに把握するか、忠実に対応するか”だと言えます。不当要求対応の基本を忠実におこなった場合、誰しもが行う共通の基本対応ですので、失敗が極端に少なくなり、企業内の誰もが同じ対応をおこなうことになり、企業として統一した対応ができるようになります。もちろん、これも力量によりというところはありますが、大きな失敗はしなくて済みます。

基本の対応を繰り返すことで、その人の力量も徐々に向上し、向上していく中で自然とテクニックも身に付いていくものです。上手く、迅速に対応を終了させたい気持ちは誰しも同じだと思いますが、小手先のテクニックではかえって失敗を呼び込む結果となります。

SPNの対応テクニックも、20年以上の時間を掛けて蓄積し、体系化したものになりますが、基本に忠実な対応をおこなうことが大事なことだと考えています。その「基本」をご理解いただくため、SPNの書籍「クレーム対応の『超』基本エッセンス」を参考にされることをお薦めしています。

カスハラ対応を恐れない

厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルの中で「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例として記載されていますが、刑法にかかわる暴行、傷害、脅迫、名誉棄損等々の例が示されており、“社会通念上不相当”とは、簡単にいうと社会常識に反した行為という捉え方ができるかと思います。

こうした行為、現場では周囲の目や突然始まることで緊張や恐怖を味わい、徐々に精神的に追い詰められていくものです。また、さらに悪質化する場合では、目を付けた従業員への個人攻撃も重なり、こうなるとメンタル面での深刻なリスクを負ってしまう可能性が急激に高まることになります。

この個人攻撃という行為は、攻撃対象を一人に絞ることで、弱いところを集中的に攻撃することができ、相手を言うがままにコントロールしやすくなり、その結果、(不当な要求という)目的を達成しやすくなると言えます。この攻撃を防ぐことはできるのでしょうか?

  • クレーム対応は、対応者が企業の代表として顧客と対応しているもの。
  • クレーム対応は、組織としての判断により対応するもの。
  • クレーム対応は、1対1の対応でなくてもよいもの。

このような基本的な意識を忘れなければ、個人的な見解や個人的な対応によって疲弊するようなことにはならなくなります。そして、対応の基本的な知識と法的な側面も理解して対応に望むことで、自身が受けているカスハラの現状を理解し、(カスハラ対応への恐怖感がなくなるとまでは言えませんが)対応者の精神的負担は相当程度、軽減できるのではないかと思います。また、企業側はどのような時も、対応者を孤立させることなく、そして絶えず正攻法のスタンスを変えないことが重要です。カスハラ行為を行う人は、必ず「不」という位置付けになりますので、企業側は「正」という位置付けで“正対不正の関係”を築いておくことがポイントとなります。つまり、企業側の対処は絶えず「正当な対応」を行っているということになり、警察が介入しても企業側が不利になる可能性は極めて少ないと考えられます。なお、精神論ではありませんが、対応者の「不当には負けない!負けたくない!」という気持ちも少しは持っていただきたいところです。不当な行為に従わなければならないなど、理不尽極まりないことです。

そもそもクレーム対応とは、迷惑を被った(と考える)顧客が企業に対し、その損害回復を求めること、すなわち顧客と企業との交渉と捉えることもできます。

通常の交渉では、対面でのやりとり、文章(メール)でのやりとり、電話でのやり取りになります。そこで、企業側は、顧客の言い分について事実確認を行った上で、損害回復に応じるかどうかを検討することになりますので、通常では刑法に抵触するような行為などは起こり得ないはずですが、カスハラと呼ばれる内容は不法行為です。なぜ、不法行為まで行って要求行為を繰り返すのかと言えば、それは、その行為者が自身の申し出が不当であると理解しており、それを企業側に認めさせるため、企業側及び対応者に威圧・脅迫行為を行いないながら要求してくるものなのです。このような理不尽に屈する必要はありません。これは強気ではなく、通常の対応です。すべてクレームはロスにつながるのです。

接客の姿勢は崩さない!

カスハラに対しては、毅然とした対応が必要であり重要であることを理解していただけたかと思います。ただし、あくまでも相手はお客様という扱いにもなりますので、企業側の姿勢は「接客」という姿勢と毅然とお断りするという姿勢を堅持する必要があります。

そもそも、クレームは商品の販売やサービスの提供を行い、その後に発生してくるものです。したがって、当初の流れからの連続的な対応という側面もありますので、対応はあくまで接客であるべきです。要は販売という接客で企業収益を上げる対応であるか、カスハラ対応という接客でロスを軽減する対応であるのかの違いで、相手への接し方は接客という位置付けだということです。一方、毅然とした対応というのは、企業側や対応者の考え方や対応方針を変えない、どのような手段を使われようとも変えないという考え方です。

カスハラという手段に出られた場合、対応者もカチン!とくることもありますが、そこは前述の通り「接客」の姿勢を忘れず、相手の挑発に乗ることなく、対応はソフトに意識はハードに対応する必要があるのです。もし、対応がハードになってしまった場合は、相手に新たなクレーム要因を与えることになりかねません。「この従業員の態度はなんだ!責任者を呼んで来い」などとなるのは目に見えています。とにかく、カスハラをするような相手の場合は、次から次へと文句を言うネタを探し、そのネタに気付くとその場で上げ足をとりながら攻めるというのが常套手段ですので、十分に注意を払いながら対応していく必要があります。

関連サービス

▼クレーム・カスハラほっとライン
Back to Top