新型コロナウイルスにより世の中が大きく変わり、それに伴い「働き方」も大きく変わっています。慣れない在宅勤務や、常に「不安」にさらされながら行う接客・販売、営業自粛を求められ「働きたくても働けない」状況など、「いつも通り」ではない今だからこそ、職場におけるコミュニケーションも「いつも通り」ではいけません。

本稿では、この「コロナ禍」におけるコミュニケーションを少しでも円滑にし、今後の回復期につなげていくためのポイントについて、考えてみたいと思います。

「不安」を感じる人、感じない人

世の中には、「不安」に対する感度が「非常に高い人」と、「さほどでもない人」がいるように思います。

不安への感度が高い人は、「他者に起きた不幸な出来事」も、自分や自分の親しい人の身に置き換えて、その痛みを「実感」してしまいます。乳がんの治療を受けていた女優さんが亡くなったニュースを見て、同じ病気で闘病中の友人を思い出して涙を流し、心配で眠れなくなったりもするものです。

一方で、不安への感度がさほど高くない人は、自分の身に危険が迫っていたとしても、どこか「他人事」のようにふるまうことが多いようです。それは行動にも如実に現れ、「マスクをしろ!」と部下には命じていながら、マスクを顎までずらしたままで話し始めたり、必要な消毒作業を雑に行ったりと、不安への感度が高い人をますます不安に陥らせることになります。

不安への感度が高い人の気持ちとしては、「何で平然としていられるのよ!」「他人事じゃないんだぞ!」と、不安が「怒り」に変化し、さらにはそんな行動を注意もしない上司や会社に対する「不信感」に発展していきます。「きちんとしない人」がいることで「不安」がさらに高まれば、不幸にも感染してしまった人やその家族、感染の危険度の高い人への偏見、コロナハラスメントにまでつながりかねません。身近な「きちんとしない人」への「怒り」「憎悪」が矛先を変えて、他者に対する「心無い言動」を生み出したり、会社に対する不満を押し上げたりするならば、今後の業務運営にも大きなしこりを残すことになります。会社はそれを放置すべきではありません。

「不安に感じる」か「感じない」かが、人によって違うのは仕方ありません。しかし、「禁止です」「必ずやりなさい」と言われているはずの行動が、「人によって違う」のは、やはり会社として望ましくないでしょう。

管理職のみなさんは、部下の「感じ方」を制御するのではなく、「行動」を制御することを意識して、「すべきことはする」「すべきでないことはしない」よう、必要な指導をきちんと行いましょう。

「脅し」の効果に頼り過ぎない!

危険に気付かせ、注意喚起をする際には、よく「脅し」によるコミュニケーションが用いられます。「人との接触をもっと減らしましょう。そうしないと、さらに多くの犠牲者が出ます」「手を洗いなさい。そうしないと、周囲に人にまで感染が拡大します」などなど、「行動」を制御するための指示は、「・・・しろ(するな)、さもなくば・・・」という文脈で語られることが多いものです。

正しい行動と、その行動をする意味を伝えることは大切です。単なる「脅し」ではなく、事実、そうしなければならないのもわかります。しかし、こればかりでは、効果が限られてしまいがちです。

不安への感度が高い人は、「もうわかっていること」「既に一生懸命実行していること」を何度も強く言われると、「もっとやれ」「まだ足りない」と責められているように受け止め、さらに「不安」を増幅させて、疲弊していきます。真面目な人ほど、「コロナ鬱」にもなりやすいのです。

一方、不安に対する感度が高くない人は、そもそもそんな注意喚起からは遠ざかっています。わざわざ自分からテレビやインターネットで「口うるさい」情報を収集したり、それを「自分事」として捉えたりはしないでしょう。どれだけ脅しても、聞き流されるだけで、「どこ吹く風」になりがちです。

コミュニケーションとは、伝えたい情報が相手に伝わることを目指すものです。そして伝わった情報によって行動変容が起き、はじめて意味があります。さらに不安を高めて冷静さを失ったり、さらに聞き流されたりしてしまうコミュニケーション手法ばかりでは、その効果が期待できません。

お勧めしたいのは、「Let’s」(一緒に…しよう)や「Shall we …?」(一緒に…しませんか?)によるアプローチです。これは影響力のある芸能人などが、今盛んにメッセージを発信しています。「自分も家で過ごしているよ。だからあなたも一緒に家で過ごそうね」「外へ出かけるよりも、一緒にこのテレビを見ようよ」とやさしく語りかけてもらう方が、さらなる「脅し」で「不安」をかき立てられるよりも、ストレスなく、巣ごもり生活に導けるものです。

職場でのコミュニケーションに応用するならば、上司の「率先垂範」です。上司が自ら模範を示すことは、不安な人を安心させることにつながります。不安でない人にも、上司が「こうするのが当然だ」という手本を自然に示すことで、「上司もやっているから・・・」と行動を真似させることができるかもしれません。強制的に「やれ!」と言われれば、耳をふさいで逃げていく人でも、「一緒にやりましょう」と巻き込まれれば、やらざるを得ないのではないでしょうか。

「言わなくてもわかる」ことでも、会社として「言う」ことの重要性

「手を洗いましょう」「マスクをしましょう」「他者と(物理的に)距離をおきましょう」などは、今や「当たり前」のことです。しかし、「当たり前のことだから、わざわざ言わなくても、従業員はやるに違いない」と思い込み、何の情報発信もしないことは、望ましくありません。

どこの職場にも、危機感の低い人はいるものです。その人を周囲の人が明確に注意するためには、「その根拠」が欲しいのです。注意しただけで、「パワハラだ」などと言われてもたまりません。「会社からこういう通達が出ているでしょ!」「トップからの指示だ。従いなさい!」と「言える」ことは、注意すべき人が、安心して注意するのに役立ちます。

ただし、「当然のこと」であればあるほど、「must」(しなければならない)や「must not」(してはならない)での発信は避け、先ほどの「Let’s」や「Shall we …?」を活用いただきたいものです。当たり前のことを「must」や「must not」で発信すると、「私たちをバカにしているの?」「この程度のことをエラそうに…」と、不信感を煽ってしまいます。「お疲れ様です」と「ご苦労様です」を取り違えただけでも、印象は大きく変わります。地域や会社の文化によって、どちらを「上から目線」と捉えるかは異なるようですが、できるだけ従業員に「寄り添う」目線での発信をお願いしたいものです。

在宅勤務できる人と、できない人の軋轢に注意

今、職場に出社せず、在宅で勤務することが推奨されています。しかし、職場の全員が「在宅勤務」できる職場はさほど多くありません。職種や立場によって、「出社せざるを得ない人」と「在宅勤務できる人」が発生しがちです。

「出社せざるを得ない人」は、やはり危険度が高まります。中には「在宅勤務できる人」を妬ましく思う人もいるでしょう。「在宅勤務できる人」には、「気遣い」が必要になります。

在宅勤務の人が発信するメッセージに、積極的に含めていただきたいのは、「相手を気遣う言葉」と「感謝の言葉」です。

「今、電話大丈夫?」「様子を直接見られないから、心配だよ」「自宅からでごめんね」などが、「相手を気遣う言葉」となります。「助かりました!」「手間をかけさせてごめんね、ありがとう!」などが、「感謝の言葉」となります。恥ずかしがらずに、どんどん使いましょう。減るものでもありませんし、お金もかかりません。こういった一言が、今だけでなく、将来的な信頼関係にもつながります。

また、遠隔で指示を出すときには、口頭よりも文字でのコミュニケーションが増えがちです。普段は口頭で済ませていたことを、「あえて文字にする」ことで、普段よりコミュニケーションの齟齬が減ったという話もちらほら聞こえてきます。この機会に、きちんと「伝えるための工夫」をすることのメリットに気付けたならば、これは大きな収穫です。今後の社内コミュニケーションにも、ぜひ活かしていただきたいものです。

今は「売上」「利益」を追及すべき時なのか?

会社存亡の危機ともなるコロナ禍において、経営者、責任ある地位の方としては、売上や利益が気になるのは当然かと思います。しかし、人の命と今期の売上と、今はどちらを優先すべきでしょうか。

使える助成金は使いましょう。お得な融資制度が活用できるならば、使ったらよいと思います。コロナ禍により売上が大きく低下したならば、役員報酬の期中での減額も認められる可能性はあるでしょう。人手不足の中、自社のために働く従業員や派遣社員などを安易に解雇することは、やはり望ましいとは思えません。

「今までにない」事態なのですから、誰もが「今まで通り」でいることは難しいものです。せめて「誰かを犠牲にする」よりは、「皆が少しずつ痛む」選択肢を考えられないでしょうか。経営者からの「一緒にこの危機を乗り越えよう」「どうか協力してほしい」というメッセージが伝われば、多少の「痛み」が発生しても、会社や経営者へのエンゲージメントは保てるはずです。逆に、今「うちの会社は人を大切にしない」という印象を従業員に植え付けることは、将来に渡って、会社にとっての「負の遺産」となり得ます。

一度離れた心を元に戻すには、多大な労力を要します。いくら再雇用の約束をしても、戻ってもらえるとは限りませんし、再雇用を前提に解雇された人は、雇用保険の基本手当は受けられないとされています。たとえ再入社したとしても、会社への不信感は残ると考えるべきでしょう。

「もうこれをするしかない」「これ以外考えられない」等、行動や考えを「限定」する言葉が頭をよぎった時は要注意です。視野が狭くなり、新しいアイディアや、生き延びる道が見えなくなっている可能性が高いでしょう。一度落ち着いて深呼吸し、腹を割って誰かに相談してみることをお勧めします。直接会えなくても、電話やメール、その他のコミュニケーションツールはいくらでもあります。

この状況で、「今まで通り」「予定通り」の企業運営は困難かもしれません。しかし、新しいアイディアの実現や、根本的に事業を変えるような大変革は、こんな時だからこそ、社内で一致団結し、猛スピードで進められることもあるものです。今は、「今まで通り」を目指すよりも、「今まで以上」を目指すチャンスの時です。

もし日常の業務を行えず、手空き時間ができてしまう人がいるならば、「未来への種まき」として、教育研修もご検討いただきたいものです。E-learningやWebでのセミナー等、集合せずともできる教育方法はいろいろあります。業績の先行きが不透明な中、「お金を使いたくない」気持ちもわかりますが、人は会社の未来を創ります。今、骨太の「人財」を育てておけば、回復期に活かせるはずです。どうか「人への投資」は止めないでください。

新型コロナウイルスによる社会や企業への影響は、本当に「今までにない」ものです。会社と従業員が協力し、共にこの危機を乗り越えられるよう、ぜひこの機に「社内コミュニケーション」を見直し、未来に活かしていただくことを願っています。また弊社にも、そのお手伝いをさせていただけますと幸いです。

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