企業不祥事・緊急事態対応トピックス

企業不祥事対応 対応方針の策定とリスク評価の手法

2026.02.16
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総合研究部 上席研究員 宮本 知久

計画を考える男性2人組の手元

これまでの『企業不祥事・緊急事態対応トピックス』では、公表の要否判断や緊急記者会見開催の判断、対策本部の組織編成などについてご紹介してきました。
今回の第6回では、企業不祥事・緊急事態の発表、謝罪対応開始前にあたって企業が決定する、対応方針の策定と策定を行うにあたってのリスク評価について解説いたします。

1.企業不祥事・緊急事態の「対応方針」とは ~対応方針を構成する8項目~

企業不祥事対応の目的は、事業継続と社会への責任を果たすことにあり、その不祥事によって損害を与えたステークホルダーへの謝罪と説明、当該事案の原因分析を踏まえた再発防止の実行等、一連の対応により、事業継続に向けダメージを極小化することにある。起こした事態の種類(下表1に例示)やステークホルダーへの影響の大きさ、また、置かれている自社に対する社会からの評価を踏まえて、謝罪と説明のあり方を決定する必要がある。

【表-1 企業不祥事・緊急事態の主な種類】

  • 飲食料品の自主回収
  • 食中毒・衛生管理違反
  • サイバー攻撃によるシステム障害
  • 不正アクセスによる情報漏えい
  • 従業員の機密情報不正持ち出し
  • 役職員による不適切なSNS投稿
  • 工業製品の検査成績書の書き換え不正
  • インサイダー取引
  • 雇用調整金等不正受給
  • 反社会的勢力との交友
  • 従業員の自殺
  • 工場火災・廃棄物環境汚染

企業不祥事・緊急事態における「対応方針」とは、“いつ、誰が、どのように謝罪と説明と行い、被害者の救済や損害の補償などを進め、またどのような再発防止を講じていくのか”といった、対応にあたっての原則的な考え方を指す。「対応方針」という言葉は要約であり、具体的な検討、決定項目は次(下表2)のとおり多岐にわたる(少なくともA~Hまでの8項目に及ぶ)。

【表-2 対応方針の構成要素】

項目 主な検討、決定事項
A 謝罪対応方針 何人の個人顧客が謝罪と説明の対象か
何社の取引先が謝罪と説明の対象か
どのような連絡手段(メール・電話・訪問)で行うか
どのような文書を持参するか
誰が謝罪と説明の対応に出向くのか
誰が問い合わせ対応を行うのか
B 補償方針 補償を行う必要があるのか謝罪と説明のみか
どの謝罪対象者等に、どのような補償を行うのか
いくらの補償を、どのような方法で支払うのか
C 行政指導内容 行政指導や指示はどのような内容か
行政指導や指示の実行にあたり何をどの順で行うか
D 収束スケジュール 収束の見通しはいつごろか
見通しから逆算して、初動で何を説明するのか
E 社内対応方針 何人の従業員で対応にあたるか
従業員に対してどのような説明を行うか
F 関係者の処分と引責 関係者の処分はどのような内容か
G 再発防止策 どのような再発防止策を講じるのか
H 発表の方法 発表するのかしないのか
適時開示かホームページ公表か、両方か
緊急記者会見を行うのか行わないのか

2.企業不祥事・緊急事態に直面した企業が迷う点

対応方針の項目だけを読むと、事案が発生したときにこの項目を埋めれば対応方針をすぐに決定できるように思うかもしれないが、実は簡単ではない。各方針の決定にあたっては、事案の種類、被害者や謝罪対象者の人数、社会から自社に対する評価などを踏まえて、総合的に検討する必要がある。
また、緊急事態であるからこそ慎重な検討と判断が必要であり、なおかつ、多くの企業では企業不祥事・緊急事態の経験がない役職員だけで検討することになるので、簡単に最良の方針が思い浮かばないことでもある。
ここでは、方針決定にあたって企業たちが特にどのような点に悩むのかについて、当社が緊急事態対応コンサルティングで支援してきた相談例を取り上げて紹介したい。
もしよければ皆さんも自社の事業に照らした想定の不祥事に当てはめて考えてみてほしい。

【対応方針決定にあたり企業が悩む点 ~当社のコンサルティングで相談の多い項目~】

類似の事案では、収束までにどのくらいの期間を要しているのか?
亡くなった方への弔意、健康被害者へのお見舞いは誰が行うか?
従業員に事案の内容をどこまで共有すべきか?
収束にかかる金銭損失や費用、人員数をどのように計算するか?
監督官庁に報告したら公表されるのか?
イベントやキャンペーンのCMは自粛しないといけないのか?
第三者委員会を設置すべきか?
発表すべきか?公表文にはどこまで詳しく書くべきか?
SNSでも公表したほうがいいのか?
公表前に取引先に説明すべきか?
緊急記者会見を開催すべきか?
緊急コールセンターを外部委託して設置するか?
謝罪対象取引先が数千社ある。どのようにして謝罪に回るか?
個人顧客への謝罪と説明はメールだけでOKか?
従業員への説明は口頭だけでOKか?
再発防止策について、いま決定している内容で十分か?

各事項について最適な対応方針の検討を進める。緊急事態だからこそ検討、そして決断にスピードも求められる点も留意が必要である。

3.対応方針決定に必要な作業「リスク評価」 ~リスクシナリオの作成~

企業は、前掲の悩みの列挙で表したような検討を経て対応方針の決定に進む。
本項では、対応方針の検討にあたり、必ず行わなければならない作業の一つ「リスク評価」の具体的な評価手順を紹介する。
なお、この「リスク評価」について、筆者は、過去に不祥事を起こした企業の中に、評価を行わずに発表した、または楽観した評価で発表に踏み切った企業が存在しているとみている。なぜなら、事例の中には「多くの批判を浴びて緊急記者会見をやり直した」「謝罪と説明が足りずに発表後により一層の非難を浴びた」「経営トップが謝罪の場に出て来なかったことで企業姿勢を疑われた」といった失敗が見受けられる。
リスク評価の作業を甘く見ず、読み進めてほしい。

リスク評価とは、当該不祥事の対応によって将来に生じる経営上のリスク(主に影響と損失)を模擬的に算出し、経営への影響度を測る作業を指す。いわば不祥事発表後の未来予想図である。また、帳票にまとめて使うとき、資料名を「リスクシナリオ」とすることもある。

【リスク評価の手順(リスクシナリオ作成の手順)】

当該不祥事の発表後に起き得る影響の予想を「1の部」に書く。損害予定額を「2の部」に書き、照らして分析する。
次に、両方の部について「悲観」「現実」「楽観」の3種類を記入して比べ、分析する。

【リスクシナリオ 1の部 影響予想】

本件自体の影響 被害者への二次被害
捜査状況の悪化
メディアからの非難
インターネット上の非難
その他の被害
連動被害・連動事案 新事実発覚による被害拡大
追加事象の発覚
過去事案の再燃
法的責任の有無 債務不履行責任の有無
契約不適合責任の有無
不法行為責任の有無
その他の法的責任の有無
行政処分 許認可の取り消し
営業停止
その他の行政処分

【リスクシナリオ 2の部 損害予想】

時間的コスト 収束予定時期
人的コスト 必要人員数
金銭的コスト

対策本部運営費等
損害賠償金等
機会損失等

【3種類のシナリオ】

悲観シナリオ
(最悪のケース)
現実的シナリオ
(現実的なケース)
楽観シナリオ
(最良のケース)
1の部と2の部のリスクがほぼすべて発生したシナリオ 左右の2種類のシナリオと他社の類似事案を照らした現実的なシナリオ 1の部と2の部のリスクがあまり発生しないシナリオ

【リスクシナリオ 一覧表にまとめたときの全体のイメージ】

リスクシナリオ 一覧表にまとめたときの全体のイメージ

数点、表の読み方について補足で説明する。
【リスクシナリオ 1の部 影響予想】連動被害・連動事案「新事実発覚による被害拡大」「追加事象の発覚」「過去事案の再燃」の意味は、不祥事を発表後の事実調査や原因調査の結果、発表した以外の不正行為が発覚して追加の発表を行うことや、過去に収束した不祥事が再度、世間にクローズアップされることを指す。「また不正が見つかったのか」「まだ他にも問題が起きていたのか」「またこの会社の不祥事か」「前の不祥事が解決していない間に、また不祥事か」といった捉え方をされることの影響を指す。
【リスクシナリオ 2の部 損害予想】人的コスト「必要人員数」は、対策本部(または緊急対応チーム)要員の応援社員の人数だけでなく、常設の営業部門、調達部門、製造部門、販売店舗など発表後に謝罪を行う従業員の応援人数も含めて計算することがよい。企業不祥事の対応では、対策本部での業務量が多すぎて心労を患って退職する例もある。

このようにリスク評価の結果を可視化し、当該不祥事に伴う経営への影響を模擬的に測り、対応方針の検討に入る。リスク評価の作業は事業継続に向けて当該不祥事の収束に要する支出額の検討も重要であり、この点からも必須の作業と考えてほしい。
加えて、リスクシナリオは発表後においても特別損失や引当金の計上、金融機関への報告、離れてしまった顧客を取り戻すための施策の検討など、定期的に見直して活用することになる。収束まで数年に及ぶ不祥事対応では収束まで活用することになる。
なお、紹介したリスクシナリオは検討のしやすさを考え、悲観・楽観・現実的の3種類としたものを紹介したが、組織や事案によってシナリオを詳細にし、4種類、5種類を比較してもよい。

1点、説明を省いてもよいとも思いつつ、書き添えておく。
当然のことだがリスク評価を行うとき、厳しい想定で記入しなければならない。(特に「悲観シナリオ」は考えられるすべての悪影響、損失を記入すること)表は埋まっていても、記入した各項目の想定が甘いと失敗につながる。企業不祥事の失敗は、場合によっては企業の倒産につながることを肝に銘じ、倒産のリスクがある場合、そのとおりに考察すべきなのである。
本項のまとめとして、このようなリスク評価の実務作業を経て、緊急対策本部の本部長、取締役等経営陣に報告したうえで、同人らが発表後に企業を取り巻く社会からの影響と損失を捉えて、信頼回復に向けた謝罪と説明の方針を策定する。

対応方針の決定とリスク評価の説明は以上のとおりです。

さて、もしよろしければ、皆様の会社の事業に照らして起きうる不祥事の種類を特定し、模擬的にリスク評価と対応方針案の作成を行ってみてください。このように申し上げる理由は、平時から有事を想定してリスクマネジメントに取り組むことが事業継続と経営の伸長に不可欠なためです。「有事に直面した場合、どのような影響と損失を招くのか」「有事に直面した場合、当社は原則的な考え方として何を重んじてステークホルダーに謝罪と説明を行うのか」この準備を欠かさずに平時のリスクマネジメントのあり方を考え、実行することが不祥事の防止につながるのです。筆者はこの答えを持って経営を行うことの表れが、危機に強い会社と同義と考えています。

今回のコラムを皆様の危機管理経営の参考にしていただければ幸甚です。

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