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広域災害発生時における防災・減災を考える(2015.8)

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、東北地方から関東地方に至る大規模かつ広域災害であり、また、原子力発電所の事故も発生したことから、想定をはるかに超えた被害をもたらしました。東北地方の沿岸部の市町村では、庁舎が津波で流出し、行政機能が麻痺したことにより、住民生活や地域の経済活動に深刻な影響を及ぼし、地域の社会的機能の維持・継続が困難な状況に陥ってしまいました。

 このように、過去の地震被害では経験がない大規模かつ広域な被害となったため、発災直後からメディアを中心に「想定外」という表現が用いられました。また、東日本大震災のような大規模かつ広域災害時には、一個人、一企業、一自治体のみでは対応できないという事実が明らかとなりました。

 東日本大震災を契機として、いつやってくるかわからない「災害」に備えた平常時からの訓練、対策、体制の整備等の重要性を改めて認識された方々も多いのではないでしょうか。

 そこで、来月の防災の日(毎年9月1日)や防災週間を踏まえ、今後30年以内に発生が予測されている首都直下型地震や南海トラフに沿う地震に対して、「事前対策」を主とした防災・減災の面から現状の課題等を取り上げ考察を行ってみたいと思います。

1.広域災害に対する関心の高まりと被害想定

 最近特に、自然災害を起因とした広域災害時における危機管理・リスク管理の重要性が問われてきているのではないかと考えられる。

 1959年に愛知県、岐阜県、三重県および紀伊半島一帯を中心として全国に大きな被害をもたらした伊勢湾台風を契機に制定された災害対策基本法では、「災害とは、暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火、その他の異常な自然現象によって生ずる被害、又は、大規模な火災若しくは爆発等、その他その及ぼす被害の程度に応じて、これらに類する政令で定める原因により生ずる被害」と定義されている。

▼内閣府 災害対策基本法

例えば、災害は発生要因により、下記のように分類することができる。

<自然災害(天災)>

気象災害 風災、降雨災害、雪害、酷寒災害、霜害、雷害
地変災害 震害、火山災害、地滑り災害
動物災害 病原菌、虫害、鳥害、貝害、獣害

<人為災害(人災)>

都市郊外 大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、地盤沈下、火災
産業災害 工場災害、鉱山災害、土建現場災害、職業病、労働災害、放射線災害
交通災害 陸上交通災害、飛行機災害、船舶災害
戦争災害 戦争による災害全般
管理災害 怠慢による災害、施工の劣悪による災害、予報の間違いによる災害

 「危機」には避けられるものと、避けることが困難なものが存在するが、特に自然災害は、人為災害として、避けることが困難な危機であると考えられる。しかし、自然災害は避けることが困難ではあるが、それの発生と、それによって引き起こされるだろう危機をあらかじめ想定し、「事前対策」観点から備えることにより、発生した際の影響を低減させることは可能であると思われる。

 先進国の中で、日本の危機管理・リスク管理は、欧米等と比較して数十年遅れていると言われていが、特に日本の場合、「クライシス」に弱いという見解が一般的ではないだろうか。私見ではあるが、国内外の事故調査報告書や災害調査報告書等を読んでみると、日本は、事故や事件が発生した後に、それによる損害をいかに軽減し、片づけるかといった「直後対応(応急対応)」として動き出すのに対して、欧米等では、危機の発生をいかに未然防止(予防)し、渦中や支援対策に反映させるかといったように、「事前対策」に重点を置いているのではないかといった印象を受ける。

 さらに、日本の場合「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という諺が示すように、再発防止や体制整備を視野に入れた「事後対応」を行えていない組織の方が多いのではないかといった印象を受ける。「事前対策」「直後対応」「事後対応」の大まかな違いとしては下記の通りとなっている。

・事前対策

 あらゆる危機の発生を事前に想定し、その発生を未然に防止するための予防策を講じる。もしくは、危機の発生を前提として、それによって生じる被害を最小限とするための予防策を講じる。

・直後対応

 危機が発生した際に、被害を最小限に食いとどめ、即座にそれに対応し安全な状態に回復させるために講じる緊急の対応策。

・事後対応

 危機がおさまった段階でそれを完全に解決または克服し、二次被害や再発防止へ向けた中・長期的な対応策。また、得られた教訓を生かした教育活動も行う。

 現在わが国では、自然災害に対して、戦略の見直しや、それに対する認識や警戒をより多くの国民に対して深めてもらうため、関東大震災 (1923年) の発生した、9月1日を防災の日と定め、毎年8月30日から9月5日までの防災週間において、防災訓練の実施や防災知識の普及をはじめとする各種取組や活動等が全国的に展開されている。

 東日本大震災での教訓を踏まえ、今後発生しうる首都直下型地震や南海トラフに沿う地震のような大規模かつ広域な地震災害の発生時に円滑に各種対応を行っていくためには、一個人、一企業、一自治体、のみでは対応できない面が出てくるため、今後も、このような各種取組や活動等の場をさらに広げ、多くの国民が自然災害に伴って生じる危機的な状況に対して、認識と警戒を深めていかなければならない。

 また、自然災害には様々な規模や種類があり、発生するタイミングも複雑であるため、自然災害の種類によっては、ライフラインへ多大な被害を与えるものが存在する。ライフラインが被害を受けると、大なり小なり様々な影響が我々の生活に対して生じることが想定される。例えば、ライフラインの中で、下水が被害を受けた場合には、排水が困難となり、他の電気・ガス等のライフラインが無事であっても、日常生活が困難になることが想定される。

 さらに、様々な種類が存在する自然災害の中で、特に「地震」に関しては、他の自然災害とは違い、突然発生することが多く、連鎖的に広域災害に発展しやすいことが推定されている。また、地震の場合、発生場所や時間帯 (朝・昼・夜) により、それに対する行動や安全対策も大きく変わってくる。

 上記したような地震等に伴って生じる、広域災害に対する危機管理・リスク管理を行っていく上で、最も重要なものとして、「被害想定」が挙げられる。被害想定が甘ければ、「事前対策」もおのずと甘くなり、被害想定を上回る状況が発生した場合には、対応が困難となってくる。逆に、被害想定をある程度厳しくしておけば、事前対策の内容もシビアなものとなり、有事の際の対応にも多少の余裕が生まれてくる。

 しかし、「想定」にとらわれ過ぎてしまい、実際の発生事象を踏まえずに安易な行動をしてしまう、事前に想定していたものに当てはめることができない事象が起こってしまい、思考停止してしまい、何も行動できなくなってしまう、といった場合も想定できる。

 そういった部分を解消していくためにも、過去に発生した事象を「他山の石」とすることができ、あらゆる事象に対して柔軟に対応できる人材の育成にも積極的に取り組んでいかなければならない。

2.広域災害発生時における様々な課題と防災・減災対策の普及に向けて

1)避難時・避難所での課題

 東日本大震災では、多数の死者・行方不明者が発生したが、これらの人々は、地震の発生に伴って生じた津波によるものと地震被害によるものに分けられる。津波は、地域特性によって高さや到達時間、被害の形態等が異なることが報告されており、地域防災計画等に基づき、地域の特性に応じて、海岸堤防や避難路等の施設整備等のハード対策に併せて、津波警報伝達の迅速化による避難の的確な実施等のソフト対策が必要となってくることが想定される。

 東日本大震災の津波警報・注意報発表後の避難時における問題点として、地震発生から4分後には津波警報や注意報を発令し、津波が到達されると予測される地域には避難を呼びかけたが、場所によっては、近隣に避難できるビルや避難所が少ないなどの立地条件に加えて、避難が完了するまでに時間がかかった地域が複数あったとされている。

 ここまで述べてきた点に関しては、近い将来日本が迎えることになる「超少子高齢化社会」を視野に入れ、短時間で避難可能な場所の選定や見直し、一般の高齢者や要介護の方々の避難時の補助や避難所での、生活問題についても視野に入れ、避難所の設営計画等を細かく検討していかなければならない。

 さらに、最近ではぺットブームにより、ペットを飼育する家庭やアニマルセラピー(オフィス犬等)を行う機関が増えてきており、ペットがより身近な家族としての役割を果たすようになってきている。このため、避難所においてペットの受け入れ時等において、様々な問題が生じてくることが予想される。自治体によっては、ペット用の防災マニュアルを設けているところもあるが、避難先の「理解」が欠かせないのが現状ではないだろうか。

▼新宿区 学校避難所動物救護マニュアル

 人はもちろんであるが、ペットにとっても、見知らぬ集団の中や限られたスペースでの生活はストレス等の原因となり、異常行動を取ったり、病気になったりすることが考えられる。また、飼育者がペットを放置したり、解き放すことによって、第3者に危害を加えてしまう可能性もあり、幅広い対応を視野に入れた対策が必要となってくる。

2)広域連携体制上の課題

 広域災害発生時においては、一個人や一企業が単独で対応することは極めて困難であるため、様々な協力・連携体制が必要・有効となってくる。したがって、被災側および支援側の両方の立場から、事前に連携体制を検討しておく必要があり、特に下記の項目が重要となってくる。

  • 自社内での連携はもちろん、周辺の企業との連携も重要であると考えられる。また、広域災害の場合には、周辺にある企業や自治体も被災することが想定され、離れた地域の企業や自治体との広域連携も重要となってくる。
  • 災害初動時、応急時、復旧時に取り組む様々な業務において、被災側が自ら行うのか、または支援側が行うのかを被災のレベルを踏まえ細かく規定する(もちろん、細かく規定してあったとしても、実際の発災時には行えないことが出てくることが想定されるため、大前提としては「それぞれができることに対して最善を尽くす」ということが重要となってくる)。遠方や他部署からの職員を受け入れる場合においては、住民性や地域の特性に対して不慣れであることが予想されるため、情報共有等を十分に行う必要がある。また、職員や機材等の派遣に要する費用負担も見積もっておくことが必要である。
  • 特に災害初動時、複数の組織や部署が支援に入った場合、さらに混乱を招くことが考えられる。それぞれが持ち込んでくるであろう機材や人員の特性にあわせて、最大限の支援を発揮できるように調整し、必要とされている現場へとスムーズに送り込めるように、派遣の統括を行える人材や部署を確保し、それらの配置を定めておく必要がある。

 しかし、広域災害時には、不測の事態や想定外が起きやすく、上述したように事前に細かく計画を策定しておいたとしても、実際には対応できにくいことも発生する。支援側がいつ被災側になるかもわからない、かつ、状況を踏まえない机上の想定での調整・配置はあまり実効的ではない(机上の空論となってしまい、現実性、実効性を伴わない)。

 そういった事象に対応するため、被災時においても、下記に示すようなPDCA サイクル等を上手く応用し、その都度計画を修正し対応にあたることが望ましい。

3)事業継続上の課題

 現在、多くの企業や自治体では、地震や風水害、新型インフルエンザ等好ましくない状況を想定し、限られた人員や資源で業務をすみやかに実施するために、事業継続計画を策定している場所が増えてきている。しかし、東日本大震災においては、平常時から事業継続計画を定めていた自治体や企業であっても、適切にそれが稼働しなかった場所や部門があったことは事実である。

 事業継続計画がうまく稼働しなかった理由として、大まかな時系列に沿った、対応方針等が定められておらず、その結果、電話回線が輻輳する中で緊急連絡網による安否確認のみに追われてしまい、具体的な行動を起こせなかった等が挙げられるのではないだろうか。

その時に「何ができるか」はその状況にならなければわからない(100%の戦力があるのであれば計画通りに行動できるが、大抵の場合被災時には100%の戦力ではない場合の方が多い。)、かつ、細かすぎる対応方針はかえって使いにくい(計画そのものに振り回されてしまう)という見解もあるため、今後は時系列に沿った対応方針にもある程度柔軟性を持たせた上で策定していかなければならないと言える。

 さらに事業継続計画の中で、停電・通信手段の輻輳や公共交通の不通は想定の範囲内であり、許容可能としている場所や部門が多いが、You tube等の動画投稿サイトにおいて、多数の帰宅困難者が歩いて帰宅する映像やJRの締め出しにより、駅周辺で一夜を過ごす人々の映像を見ると、定められている事業継続計画の中に、危機管理・リスク管理上の不備が多数あったことは明白である。

 こういった事を踏まえて、東日本大震災を契機として、自分自身が所属する場所や部門での事業継続計画が被災時において現実的に稼働できるかどうか、また、被災時・復旧時に発生するだろうロス(建築物の損壊・改修時に伴うものや損傷により、流通不可能な商品等を含む) も視野に入れ、将来発生する可能性のある広域災害に向けて、点検見直しをすることが重要である。

 「広域連携体制上の課題」でも述べたように、 被災時において、一個人や一企業の職員のみでは、業務をこなすことは非常に困難となることが想定され、さらに、被災経験や災害対応の経験が無い場合には、より困難になることが想定される。そういった状況を打開していく上で、過去に災害対応を経験したことのある職員に支援要請を行う場合が出てくるかもしれない。

 東日本大震災では、阪神・淡路大震災での災害対応の経験を持つ職員が、被災した組織の中枢に入り、指揮をとって情報収集、優先課題の洗い出し、組織の編成、災害廃棄物への対処等を行ったという事例が存在し報告されている。

 一度体験したものに関しては、次に同様のものが発生することを視野に入れて、想定の範囲内に取り込み、自身の力として今後に生かしていかなければならない。今後発生することが危惧されている、首都直下型地震や南海トラフに伴う東海地震、東南海・南海地震を考えた場合、東日本大震災で災害対応にあたった職員の経験や知識は、非常に有効なものである。今後広域災害の発生が予想されている地域に、災害対応経験をもつ職員を円滑に派遣できる体制づくりや、災害対応経験者をセミナー講師とした職員研修会等も随時行っていく必要がある。

 災害対応を経験したことのある職員が、被災した組織の各部署に入り、一員となって作業を進めることは、復旧への道のりが速やかなものとなる。さらに、時間の経過に伴い、被災組織の職員が行う対応は、通常業務と併せて膨大なものとなってくることが想定される。そこで、災害対応を経験したことのある職員派遣が重要となってくる。派遣職員については、期間限定ではなく実際の作業量に合わせて、その都度、検討を行っていくことが望ましい。

 しかし、被災の状況や発生時期が異なれば、自ずと行うべき対応も変わってくる。例えば、東日本大震災は3月に発生したが、仮に今月(2015年8月)首都直下型地震や南海トラフに沿う地震が発生した場合、「電気も無い、水も無い中で『避難所(地震などにより家屋の倒壊や焼失などで被害を受けた方、または現に被害を受ける恐れがある方が、一定の期間避難生活をする場所、飲料水やトイレなどの備えがある。)』や『避難場所(地震などによる火災が発生し、地域全体が危険になったときに避難する場所、火災がおさまるまで一時的に待つ場所。食料や水の備えは無い。)』に集まった人々の熱中症対策をどうするかといった問題が出てくる。また、災害対応経験者は経験者であるがゆえに、自分の経験に頼りすぎる、過信しすぎてしまうという弊害の可能性があることも忘れてはならない。

 東日本大震災以降、防災基本計画(防災基本計画第2編(3)企業防災の促進2011年12月27日追加、抜粋:企業は災害時の企業の果たす役割(生命の安全確保、2次災害の防止、事業の継続、地域貢献・地域との共生)を十分に認識し、各企業において災害時に重要業務を継続するための事業継続計画(BCP)を策定するよう努めるとともに、防災体制の整備、防災訓練、事業所の耐震化、予想被害からの復旧計画策定、各計画の点検・見直し等を実施する等の防災活動の推進に努めるものとする。)等の関連法令の改正によって、一個人のみならず、企業にも様々な「努力義務」が課されるようになってきている。しかし、多くの企業はいつ発生するかもわからないような広域災害(特に自然災害を起因としたもの)に対して、多大なコストと人材を投入できるほど、経営資源に余裕がなく、二の足を踏んでしまっているのが現実ではないだろうか。

 さらに、阪神淡路大震災や東日本大震災の直接の被災者ですら、その全ての人々が首都直下型地震や南海トラフに沿う地震を想定し、熱心に防災・減災対策に取り組んでいるわけではなく、最も初歩的な防災減災対策であるオフィス機器や家具の転倒防止対策ですらできていない場合の方が多いのではないだろうか。

 そもそも、防災・減災とは、「災害」発生時に一個人や一企業が被害を受けないために主として「事前対策」に重点を置くべき考え方であると言える。一般的な防災・減災対策の目標例として、「人命の救助」、「被害の極小化」、「早期復旧」等が挙げられる。それぞれの主要な項目としては、下記の通りである。

  • 防災減災教育・訓練の徹底(シナリオ無き実践的な避難訓練の実施)
  • 火災対策(難燃化、不燃化)
  • 建物の耐震化
  • 津波避難対策
  • 事業継続計画の策定・充実
  • サプライチェーンや物流拠点の複数化
  • 備蓄の実施(食料品、飲料水、乾電池、カセットコンロ、簡易トイレ、モバイルバッテリー)
  • 災害時協定の実運用の検討
  • 情報通信ネットワークの強化、冗長化
  • 災害ボランティア組織等との円滑な連携

 東日本大震災での被災状況を顧みると、一個人、一企業、一自治体、それぞれのレベルで大なり小なりの防災・減災上の反省点があったのではないだろうか、一個人、一企業、一自治体、各階層での防災減災体制は単なる知識にとどまらず、実際の災害時において、適切有効な対応動作をとることができるレベルまで引き上げていかなければならない。

 もし、これができなければ今後発生しうる首都直下型地震や南海トラフに沿う地震の際にも再び甚大な被害と犠牲者を出してしまうことは避けられない。それぞれの防災・減災体制の弱点、反省点を謙虚に総括すると同時に、平常時からなるべく多くのリスクを想定しておかなければならない。

 なぜならば、「災害は個別不平等に被害をもたらし、一律平等の想定では対応できない」からである。そういった事も踏まえた上で、部分的にだけではなく、全体的な視点から包括的な体制強化策を設計し、実現を図っていくことが肝要であると言える。

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