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東日本大震災から6年~改めてBCPについて考える。(上)(2017.3)

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災。あれからまもなく6年目を迎える。最近も東日本大震災の余震と思われる強い地震が発生したし、福島原発事故の影響も依然として続いている。

 南海トラフ地震や首都直下地震の発生確率が高まる中、企業での防災対策・BCP強化対策も着々と進められている。当社でも、昨年末から今年の初めにかけて防災対策・BCP強化に関する相談・講演依頼・業務受注が相次いでいる。このような状況を踏まえて、改めて企業の防災対策、BCP強化対策を推進・加速させるべく、今回は、防災・BCP対策強化のポイントや留意事項について考察する。

1.防災・BCP対策の基本に据えるべき地震災害と最近の大地震の特徴

 防災・BCPについて考えていく上では、災害の種別や事業継続阻害要因となりうる原因事象をどのように設定するかの問題がある。最近では、防災対策は地震対策を中心に行いつつ、BCPの策定については結果(被害)事象ベースのアプローチで作成している企業も少なくないが、結果事象型BCPの問題点、克服すべき点については、既に過去の論考において、結果事象型BCPの盲点を指摘した。改めて同じ指摘をするのが本旨ではないため、詳細は過去の論考を確認いただきたい。

 私は、防災対策はもちろん、BCP策定については、地震への対策を中心に据えて策定・強化していくべきと考えている。それは、大地震が起こると東日本大震災のような巨大な津波等も発生しうるほか、化学物質等の飛散・着火などによる被害等が発生するほか、特にBCPの観点からは、ライフライン(電気、ガス・水道)及び通信・交通機関等の被害・機能停止により、大きな社会混乱が発生するからである。言い換えれば、甚大な社会的被害が発生し、通常の業務オペレーションが行い得ない大震災下での危機対応、事業継続を考えることこそが、最悪を想定し、備えるという危機管理の目的に最も適うからである。

 ところで、気象庁のデータベース(*1)で調べたところ、1923年1月1日から2017年2月28日までの間、全国で震度6弱以上の地震は66回も起きている。そのうち54件が1990年以降、48件が2000年以降に、21件が2011年以降に集中している。

 この中から特徴的な事象を見ていくと、阪神淡路大震災の引き金となった1995年1月17日の大阪湾の地震は観測史上初めて震度7を記録したほか、2000年7月から8月にかけて発生した新島・神津島近海での地震は震度6弱の地震が計5回発生しているし、同年には10月にも鳥取県西部で震度6弱の地震が発生している。また、2003年には5月から7月にかけて宮城県沖及び宮城県中部で震度6強の地震1回を含む震度6弱以上の地震が4回発生している。同年はその後も9月26日に十勝沖にて震度6弱の地震が2回発生している。2004年10月には新潟中越地方で震度7が1回、震度6強が2回を含む震度6弱以上の地震が計5回発生している。東日本大震災が起きた2011年も、3月11日の三陸沖地震(震度7)、同日の茨城沖地震(震度6強)、12日に3回連続して起きた長野県北部地震(震度6強が1回、震度6弱が2回)を含め震度6弱以上の地震が9回発生している。そして、昨年2016年は、熊本地震では震度7が2回、震度6強が2回を含む7回の震度6弱以上の地震が起きているほか、鳥取県中部(10月)や茨城県北部(12月)など、震度6弱以上の地震が実に10回も起きている。

 2000年以降、震度6弱以上の地震が急に増え、しかも近年は1回の地震で震度7や震度6強の極めて強い地震が複数回起こること、震度6弱以上の地震が連続して起きていること、1年間に10回前後の震度6弱以上の地震がおきている年が複数あること等を勘案すると、巨大地震の連続による被災リスクは高まっていると考えることができる。

2.防災対策・BCP強化に向けた教訓や動向

1) 平成24年の防災白書(*2)

 平成24年の防災白書では東日本大震災を踏まえた教訓が纏められている(*3)。例えば、「広域で大規模な災害への即応力に関する教訓」としては、自然災害における「緊急事態」への対応に関し、津波で庁舎が使えなくなったり、首長が欠け役場が壊滅的な被害を受けたりと、従来の対策では想定外だった行政の執行機能の喪失の事態を招いた旨指摘している。また、「被災地方公共団体の課題等」として、被災地では応急対応業務や被災者支援業務が増大する中、職員の被災による戦力ダウンや、通信途絶で情報もなく技術系職員が不足する等の事情から、甚大な被害の調査・対応に時間を要したり、被災自治体では、他県からの応援受け入れ態勢が整備されていなかった等の相互支援体制に不備があったりしたことも指摘されている。さらに、被災地を支える災害対応そ体制の脆弱性、すなわち、自衛隊、海上保安庁、警察、消防、医療チーム等が大規模動員されたが、地元職員が犠牲になったり、資機材が長期支援に不向きなケースもあったほか、医療チームの配置等に関してのコーディネート(マネジメント)機能が不十分であったことも指摘されている。いわば、災害対応のチームですら、有機的かつ効果的な連携体制をとることが難しかったのである。

 そして、長周期地震動による被害拡大や帰宅困難者(内閣府の推計では、平成23年3月11日当日の帰宅困難者は515万に上った(*4)と試算されている)の発生など、官・民を問わない指摘もなされている。

 これらの指摘は、行政特有の話ではない。企業の防災対策やBCPを考える上でも、示唆に富む内容である。首長不在の事態や役場損壊の事態は、企業に置き換えれば、トップの不在(安否不明)や本社社屋の被災・損壊にあたる他、受け入れ態勢の問題や応援チーム間の連携など社内外のマネジメント、人員不足や社会インフラの途絶による調査・対応の長期化、長周期地震動による高層ビル内での被害拡大や帰宅困難者の対応(なお、阪神淡路大震災当日、神戸市役所では41%の職員しか登庁できていかったことも報告されている(*5)ことから、出社困難者の存在も、大きな課題であることは言うまでもない)等も、企業にも当てはまることに留意しなければならない。

 皆さんの会社のBCPがこれらの教訓を少しでも反映できているか、改めてチェックしていただきたい。

2) 強い余震の連続発生に伴う安全への配慮

 昨年発生した熊本地震では、気象庁の資料によると、4月14日~4月30日の間で、震度1以上の地震は計3024回発生しており(*6)、この中には震度5弱以上の地震が18回含まれている。最初の地震(前震)の発生(4月14日21時26分)から同16日9時48分まで、震度7(前震)、震度6弱、震度6強、震度7(本震)、震度6弱、震度6強、震度6弱と計7回の強い地震が起きている(*7)

 1回の地震で複数回の強い余震が起きていることは既に指摘のとおりであるが、防災やBCPを考える上では、これらの特徴も踏まえた検討を行っておく必要がある。BCPでは目標復旧時間を決めているケースもあるが、このような強い余震が連続する状況下では、従業員等を社屋や施設に瓦礫撤去や被害確認のために立ち入らせることもままならない。言い換えれば、大地震発生後には、

  • いつ余震や二次被害が発生するか分からない
  • 強い余震がいつまで続くか分からない
  • (今いる)建物が安全かどうかも分からない
  • 建物内の状況や危険箇所が分かりにくい

等、作業中の社員等の安全確保に懸念性があるのである。1回きりの大きな地震を想定して、目標復旧時間等を定めるというBCPでは、強い余震による作業の停滞、二次被害の発生という事業継続阻害要因(ボトルネック)に対応できない可能性を視野に入れておくことが求められる。

3) 国が求める事業継続マネジメントシステムの理想と現実

 東日本大震災を踏まえて、政府でも事業継続を推進しようと各種部会等での調査・検討が進められた。平成24年3月には内閣府から、「東日本大震災を踏まえた企業の事業継続への取り組みに関する提言(*8)」が公表されている。これは、事業継続について、有識者が企業に対して、BCPの見直しの考え方について、提言したものである。

そこでここでは、その提言を紹介しつつ、その提言が有益なものなのかどうかについて検証してみたい。

 「東日本大震災を踏まえた企業の事業継続への取り組みに関する提言」で、有識者たちが提言している内容は

  • 本社機能が適切に維持されるかという観点から、BCPを見直すべき
  • 経営者自身が自らの企業の「限界」を知り、計り、備えておくこと、緊急時にはその限界を乗り越える意志をもつことが重要である
  • 「ライフラインがどれだけ止まるか分からないから、目標時間の設定ができない」ということをよく見聞するが、これは誤りである。顧客の視点で、どれだけの期間で復旧しなければならないかという点から検討する必要がある
  • 想定外の被害に備えるには、特定の原因を想定した対策だけではなく、原因を問わず困難な状況が発生した事態を想定し、その対策を検討することも重要である
  • 大震災では「早期復旧戦略」が機能しないことから、「代替戦略」が必要不可欠

等である。

 一読しても、言いたいことは分かるが、現実的にそれが可能なのか。可能だとしても、コストや経営資源がどれだけ必要なのかと感じてしまうが、皆さんはいかがだろうか。

 それではそれぞれの内容を検証していこう。

 まず、「本社機能を適切に維持すべき」という提言についてであるが、例えば、東京と大阪にそれぞれ本社を構える二本社制をとる大企業であれば、この要請をみたすことはある程度可能かも知れないが、国内の圧倒的多数の企業が特定の一拠点に本社機能をおき、その拠点や関連部署に人も設備投資も集中的に配置・投下しているのではないだろうか。本社機能の維持のハードルは決して低いものではなく、後段にある代替戦略を前提とするならば、実質的に二本社制を取れる企業規模を求めるに等しい。

 そもそも、本社が被災して機能停止した際に、別の拠点で本社機能をそのまま代替する必要はなく、本社機能の中の特定の役割や業務を他拠点にそれぞれ割り振って、全体として本社機能を維持する等の工夫をしなければ、額面どおりに読んでしまうと、実効性は疑わしいといわざるを得ない。

 次に、「限界を知り、限界を超える」の行についてである。BCP策定プロセスの中で、限界や脆弱性を検証することは有意義であるとしても、ライフライン等に制限もなく、オペレーションも通常に行える平時に超えられない「限界」を、ライフライン等が著しく制限され、各種の制約・社会的混乱から通常通りのオペレーションもできない緊急時に、どうして「限界」を超える意志をもてるのか、超えられるのか、精神論・根性論のように思えてならない。

 「顧客視点で目標復旧時間を検討する」という点については、顧客も被災している可能性が決して低くないこと、あるいは顧客側も100%の受け入れ体制にない可能性があること等が見過ごされている上、「誤り」とまで断言する目標復旧時間の設定については、では具体的にどうすべきなのか、企業に対策を求めるならば、その具体的方法論を示すべきである。国に対して、各種の社会インフラの冗長化、多層化を求める趣旨ならば、あえて顧客視点と書かずに、社会継続や各社の事業継続マネジメントシステムの実効性担保の観点から等記載すべきである。

3.国内のBCP策定を巡る迷宮とそもそも論

1) 起源と経緯

 各種の対策を検討する際に起源や経緯を辿りつつ、そもそも論を確認することが有益である。そこで、BCPについての起源や経緯、そしてそもそも論を確認しながら、BCP策定の考え方について考察してみよう。

 BCPの起源を辿ると、もともとは、ISO27000(ISMS)規格の大元である英国規格BS25777にその端緒がある。すなわち、BS25777において、情報システム(IT)やデータバックアップ等を視野に入れたデータマネジメントの一環として提唱されたのが、BCPという考え方である。そしてそれが、事業継続マネジメントに関する英国規格BS25999に取り入れられ、それが発展する形で、現在の事業継続マネジメントシステムに関する国際規格ISO23001が制定された。なお、英国では、そもそも地震が極めて少ないためにテロ対策も事業継続の中心的テーマの一つとして検討されてきた。

 そして、BCPが注目を浴びたのは、アメリカ同時多発テロ(9.11)の際に、攻撃対象となった貿易センタービルに入居していた証券会社が、データをバックアップしていたため、翌日から営業が再開できたという事例である。アメリカでの事業継続の起源も、もともとは1960年代のホストコンピューターを如何に障害から守り、ノンストップの状態を作りだすかという対策論に行き着く。上記の証券会社の例は、まさにその延長線上にある事例である。

 このように見てくると、英国においても、アメリカにおいても、もともとはITやデータのマネジメントとして提唱された方法論がBCPという手法であると理解できるが、日本では、ITやデータマネジメントの視点ももちろん内包しているが、それよりもはるかに規模が大きい構造物や自社単体ではいかんともしがたいサプライチェーンを守るのがBCPという形で発展しており、BCPのハードルは極めて高くなってしまっている。そして、英国BCP規格が想定しているテロにしろ、アメリカ同時多発テロでの事例にしろ、テロは局地的で社会インフラ(ライフライン、交通、通信)等に対する影響は少ないが日本で対象としている地震や津波は社会インフラに、相当期間にわたって、大きな影響をおよぼす点で、より過酷な状況での対策論として求められていることを認識しておく必要がある。

(次回に続く)

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———-【参考資料】————

(*1)気象庁・震度データベース検索

(*2)平成24年版 防災白書(WEB版)(内閣府)

(*3)「第2編 東日本大震災を踏まえた災害対策の推進」。なお、全体の目次については、(*2)の防災白書「本文」から確認できるにて確認できる。本文の構成上、個別のURLの掲載は割愛させていただく代わりに、このURLの目次から、該当部分を確認いただきたい。

(*4)首都直下地震帰宅困難者等対策協議会最終報告(内閣府、平成24年9月

(*5)業務継続に係る地方公共団体等の災害対応事例集(内閣府、平成28年2月)

(*6)「平成28年(2016年)熊本地震」(平成28年4月14日21時~)(気象庁火山部、平成29年3月8日現在)にて、毎日1回更新されている。

(*7)「平成28年(2016年)熊本地震」について(第38報)(気象庁、平成28年5月24日公表)

(*8)内閣府「事業継続計画策定・運用促進方策に関する検討会」、平成24年3月

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