SPNの眼

危機管理と5S+「S」(1)

2018.10.09
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 製造業を中心に品質管理・ロス対策の観点から広く浸透している「5S」。すでにご存知のように、「整理」、「整頓」、「清掃」、「清潔」、「しつけ(躾)」の総称を分かりやすくスローガン化したものである。
 もちろん、言葉だけではなく、5S運動を推進している会社は、これらを徹底しているし、自社内で浸透させるために自社なりにアレンジしている企業も少なくない。例えば、日本電産株式会社では、「5S」に加えて「作法」を加えて、「6S」としている(*1)
 5Sの概念は、危機管理の観点からも有用である。そこで、危機管理を推進していくためにも、必要な要素を加えた「5S」+「S」を考察していくことが有益であると考えられる。実際にクライント企業を訪問しても、危機管理担当者に必要な素養や、危機管理を進める上で有用なフレームワークについての相談を受けることがある。
 もちろん、危機管理担当者の素養や危機管理を進める上でのフレームワークについては、種々の考え方がありうるところであるが、このような相談に対応すべく、当社業務を通じて、私なりに、危機管理の観点から、「5S」+「S」について考えてみた。
 この手のものはシンプルかつ明瞭であるほうがよいのだが、世の中では、このような知見は必ずしも多く公表されているとは思えないことから、今回は、まずは、危機管理や危機管理の業務に必要な項目・要素を可能な限り洗い出す目的で、あえて多くの「S」を抽出するように心がけた。
 抽出の過程では、社内の一部コンサルタントの知見も借りた。その結果、現時点では、危機管理の必要な要素・項目としては、「5S」+「60S」になった。まだまだ整理・精査が不十分な部分もあるが、前述の今回の考察の目的に照らし、今回は、現時点で、抽出した「5S」+「60S」について、紹介していきたい。
 なお、「S」については、「さ行ないしSで始まる英単語」で構成していることをあらかじめ付記しておきたい。また、抽出に当たっては、前述のように一部の社内コンサルタントの知恵を借りたが、本人の了承もいただき、現時点では、当社の公式見解ではなく、私個人の試案にとどまることをご了承いただきたい。

1. 5S

 「5S」については、既に紹介したように、「整理」、「整頓」、「清掃」、「清潔」、「しつけ(躾)」を総称したものである。「整理」、「整頓」、「清掃」、「清潔」、「しつけ(躾)」のそれぞれの内容については、説明の必要もないと思うが、この5Sが危機管理においても重要であることはいうまでもない (*2)
 例えば、机などが乱雑な状態にあれば、重要書類を間違って他の廃棄書類とともに廃棄してしまったりして、紛失し、さまざまなトラブルを誘発しかねないし、いざ必要な場合にも探すのに時間がかかったり、探し出せなかったりして、同様に種々のトラブルを誘発しかねない。この種類が機微な個人情報等であれば、重大な企業不祥事にも発展しかねない。それらを防ぐという点において、「整理」・「整頓」はリスクマネジメントの意味をもつことから
危機管理の要素としても重要である。一般に「整理」・「整頓」は、ロスの削減や効率性の確保の観点から重要な概念として提唱されることが多いと思われるが、危機管理の観点からは、リスクマネジメントとしての「整理」・「整頓」の重要性についても、提言しておきたい。
 「清掃」・「清潔」についても、衛生状態の悪化や乱雑状態、言い換えれば「整理」「整頓」されていない状態を察知するための指標として重要な意味を持つ。言い換えれば、「整理」・「整頓」できた状態を維持するために必要な要素であり、「清掃」・「清潔」と「整理」・「整頓」は表裏の関係にあるものと考えられる。その意味では、「整理」・「整頓」はリスクマネジメントの意味をもつ以上、「清掃」・「清潔」は具体的なリスクコントロールの施策としての意味をもつ。したがって、危機管理の観点からも、「清掃」・「清潔」は、不可欠な要素であるといえる。
 「しつけ」については、「職場環境を改善するうえで大切なルールを各自に徹底していくことです。あいさつや身だしなみまで含めて規律を高めて、組織の一体感を醸成」するとされている(*2) 。危機管理においても、各種のリスク対策を進める上での人材教育や社員に対する意識付けが重視されるが、「しつけ」はまさに、この人材教育や社員に対する意識付けに関係する。人材育成・意識付けを行い、さらに業務に必要な最低限の素養を指導し、身につけさせていくことは、危機管理においてもきわめて重要である。したがって、「しつけ」についても危機管理の重要な要素であるということができる。

2. +「S」

 それでは、ここから、上記の「5S」に加えて、危機管理の推進や実施に必要な「+S」について、順次列記・補足していきたい。

■システム化
 まずは、「(1)システム化」である。
 人にはヒューマンエラーや作業精度のばらつきがつきものであるが、こられを防止・安定化させるためには、「システム化」が欠かせない。
 また、作業等の記録を残し、複雑な作業を容易にするためにも「システム化」が有効である。
 前者は、ミスやばらつきの防止に関する要素として、また、後者は、記録化と作業の安定的運用の確保に関する要素として、それぞれ重要な意味を持つ。ミスやばらつきの防止や作業の記録化・安定的運用の確保は、危機管理においても重要な課題であることに鑑みると、これらに関する重要な指標となる「システム化」も危機管理に不可欠な要素であるといえる。

■仕組み化
 次は、「(2)仕組み化」である。
 一部、「システム化」とも絡む内容になるが、危機管理を行う上でも、組織的な実施体制の構築や実行プロセスの仕組み化などの取り組みが欠かせない。危機管理体制の構築などは、まさにこの「仕組み化」を目指すものであり、業務的なニーズも高い。
 実際に、多くの企業で行われている組織体制(担当部門)の整備やマニュアル作成も「仕組み化」の井中部であり、継続的かつ安定的に危機管理を実施・推進していく上で、これらの仕組み化が必要なことは論を待たないであろう。
 したがって、「仕組み化」は、危機管理においても、重要な要素といえるであろう。

■見える化
 3つ目は、「(3)見える化(「See」)」である。
 可視化、見える化についても、世間ではその重要性・有効性が説かれるが、実態を把握したり、全体を鳥瞰したり、ヌケ・モレを防止する上でも、「見える化」は重要な意味をもつ。実態の把握や、全体像の把握、ヌケ・モレの防止は危機管理の観点からも重要な対策であり、フローの作成やチェックリストの作成などの「見える化」は、実際に危機管理の対策・リスク対策として活用・実行されている。
 リスクマネジメントを実行する際にも、現場に眠る種々のリスクや課題を抽出し、明文化・見える化することで、全体像や構造的な要因の把握が可能となることから、危機管理体制の構築においても、各種のリスクの見える化は、きわめて重要なプロセスであり、「見える化」も危機管理上、不可欠な要素であると言える。

■標準化
 4つ目は、「(4)標準化(「Standard」)」である。
 これは、「システム化」「仕組み化」「見える化」とも関連・一部重複するが、仕組みを行う上でも、また見える化を経て、組織内の危機管理に関する種々のノウハウや知見を「標準化」していくことが重要となる。
 「標準化」は、ばらつきによる(対応)品質事故等を防止する効果もあり、危機管理の観点からも大きな意味をもつ。そして、「標準」があるから、「異常」の発見も可能になるのであり、「標準」が定まっていない状態では、おかしなことが行われていても、それが問題事象であるとの認識がされない可能性がある。
その意味で、「標準化」は、「危機管理」の推進に必要な要素であるといえる。

■書面化
 5つ目は、「書面化」である。
 これについても、「見える化」や「標準化」とも関係するが、「標準化」した内容を広く周知・普及していく上でも、記録・書面化していくことが欠かせない。言い換えれば、「見える化」の具体的方法論として、また、「標準化」の組織的対応として、「書面化」が必要であり、「書面化」は、「見える化」や「標準化」と表裏の関係と考えられる。
 さらに、記録化・書面化は、実施状況等を事後にチェックしたり、これまでの経緯を纏めることで、その後の対応策を検討したり、ヌケ・モレを確認する上でも、非常に役立つ。経緯の確認による対策の検討は、クライシスマネジメントにおける重要なプロセスであるし、ヌケ・モレの確認も、トラブル等を回避・予防するための重要なリスク対策であり、いずれも危機管理上、重要な実務上の要請である。
 したがって、「書面化」も危機管理に重要な要素といえる。

■最新化
 6つ目は、「最新化」である。
 これは、特に「システム化」や「仕組み化」と深く関係する。各種のシステムは、社会情勢や自社のレベルにあわせた「最新化」が欠かせない。古いまま「最新化」されないことが、大きなリスク因子になることは、メンテナンス期間の終わったPCのOSなどを使い続けることが情報漏えいを招いたり、設備や建物の故障・倒壊を招いたりする事例からも明らかである。
 例えば、せっかく作った資料やデータが、PCのバグで消えてしまうような事態はそこに費やした時間が無駄になってしまうばかりではなく、作り直しにさらに時間を要することとなり、非常に不効率である。作業をしていた担当者からしても、むなしいことこの上なく、こんな状態が何度も続けば、モチベーションの低下し、業務の生産性も低下しかねない。このように、身近な事象で考えても、古い機器等はバグ等により不効率・ロスをもたらす点でも、「最新化」の必要性を認識させるであろう。
 また、「仕組み化」の代表ともいえる「マニュアル」等については、多くの企業で、その「見直し」がよく言われるが、この見直しも「最新化」の一種であり、「最新化」は、リスクマネジメントや企業危機管理の実務において、きわめて大きな課題となるものである。
 このように、危機管理における「最新化」の重要性は明白である。

■操作性
 7つ目は、「操作性」である。
 これも「システム化」と大きく関連するが、どんなシステムもそれが使いにくければ、使いにくいことによるロスやミス、手抜きを誘発しかねない。そして、そのようなミスや手抜きが発生すれば、他のシステムや機能も十分に働かずに、相乗的なシステムエラーやシステムトラブルが発生してしまう。
 すなわち、使いにくいシステムは、現場レベルでのシステムの改善やローカルルールに基づく運用を誘発する可能性があり、特に、スピードが求められる現場においては、使いにくいことに伴う不効率やロスが敬遠されるため、この傾向が顕著になるものと考えられる。こうなると、組織としてのリスクマネジメントして行ったシステム化が、有効に機能せず、現場レベルにおいて独自のルールが優先されることから、リスクコントロールも十分でなくなってしまい、重大なトラブルや事故に繋がりかねない。
 また、使いにくいシステムは、操作ミス(誤操作や手順間違え)を誘発しやすいことから、このような操作ミスによっても、トラブルや事故が起きてしまう要因になる。
 したがって、トラブル防止の観点からは、「操作性」が重要であることは言うまでも無く、「操作性」は危機管理において重要な要素であるといえる。
 なお、「操作性」という場合は、「使いやすさ」と理解されるのが一般的であると考えられるが、この「使いやすさ」の中には、ユーザーの知識やスキルに照らして、高度すぎないことも求められる。内部の仕組みは複雑でも、ユーザーが使うインターフェイスの部分は、あまりに高度な機能がついていても、実際にはそれを使いこなせないことから、システムによるリスクコントロールが十分に機能しないことを意味している点に注意が必要である。

■資質(人間的素養)・素行(正しい行い)・素直さ・素朴さ・作法
 8つ目は、「資質(人間的素養)・素行(正しい行い)・素直さ・素朴さ・作法」である。
 これらは、個々人の人間性や性格、行動様式に関するものであるが、この点で問題があれば、そもそも組織内外で種々の軋轢を生むことになるし、状況に応じて謙虚に話を聞くことができなければ、状況判断を間違うことにもなりかねない。
 特に、資質(人間的素養)と素直さを持っていなければ、独善的な思考や独りよがりの発想に陥りかねず、危機事態の認識をゆがめたり、危機対応を誤ったりする可能性がある。作法は、資質(人間的素養)の表れともいえ、特に他社との協調が必要な組織的な危機対応を行う上では、重要な要素となる。
 作法については、行動様式を定着させることで、担当者の資質(人間的素養)の向上に寄与する側面もあることから、この観点からも必要な要素と考えられる。
 以上を踏まえると、「資質(人間的素養)・素行(正しい行い)・素直さ・素朴さ・作法」についても、危機管理において、必要な要素であると考えられる。
 なお、前述のように、日本電産株式会社においては、5S+「S」として、ここにある「作法」を加えて、6Sを徹底している。

■センス
 9つ目は、「センス」である。
 センスとは、危機を察知する感性とも言い換えることができる。これがなければ、リスクをリスクと感じることができず、そのリスクは放置されることになる。
 リスクが放置されれば、ハインリッヒの法則が示すように、大事故として顕在化してしまう。有効なリスクマネジメントを行う上では、リスクや問題点を早期に発見し、早期に対処・解決することが重要である。そして、そもそもリスクや問題点が発見されなければ、その状態は改善・是正されないことから、危機管理を行う上では、まさに、センス、われわれ流に言えば、「リスクセンス」が不可欠なのである。
 その意味で、「センス」は危機管理上、不可欠な要素であるといえる。

■資格(業務に必要な資格)・専門性
 10番目は、「資格(業務に必要な資格)・専門性」である。
危機管理や各種のリスクマネジメント、安全管理等を行う上では、やはり、当該テーマについて、相応の「専門性」とそれを裏付ける「資格」があることが望ましい。
 相応の資格や専門性がなければ、当該事象や問題について、有効な解決策の検討やマネジメントができない場合も少なくない。そして、有効な解決策の検討やマネジメントができなければ、当該リスク対策は効果を生まないし、時としてそれがトラブルを誘発することになる。
 その意味で、「資格(業務に必要な資格)・専門性」も危機管理に必要な要素であるといえる。

■政治力
 11番目は、「政治力」である。
 これは、交渉力と言い換えることもできる。政治力という言葉自体は、危機管理の観点からは違和感を持つ方もいるかもしれないが、どんなに巧妙なリスク対策や計画も、それが実行されなければ、危機管理としては意味を成さない。
 やはり、各種の危機管理対策を実効的なものとし、それを実行・推進していくためには、担当者等がそれを実現すべく、社内外でしっかりと折衝・調整・交渉を行い、場合によってはトップダウン等の手法を駆使して、実施環境を整えていかなければならない。
 その意味では、危機管理を行う上では、策定・検討したリスク対策を、種々の困難を乗り越えて実現・実行に移すための交渉力・「政治力」が不可欠であるといえる。

■組織・組織力
 12番目は、「組織・組織力」である。
 危機管理は、対処すべき事項や事案が大きければ大きいほど、到底一人では対処できず、役割分担による協働とそれを実現するための「組織・組織力」が必要となる。
 実際の危機対応においても、個々人がばらばらの動きをしていては、それぞれの対応が相矛盾したりして、到底有効な危機対応には繋がらない。したがって、危機管理を行う上では、そのようなばらばらの動きによるコンフリクトが生じないよう、「組織・組織力」が重要な要素となるのである。
 専属の部門が必ず必要であるという意味ではないが、担当者やその上司等、兼務であっても組織論の本質を踏まえた役割分担や権限付与がなされている必要がある。そしてそれが組織内で、正当なものとして周知され、社内の関係者が認識している必要がある。
 その意味で、「組織・組織力」は危機管理に不可欠な要素であるといえる。

■Skill
 13番目は、「Skill」である。
 これは、前にあげた「資格・専門性」とも関係があるが、さまざまな事案への対応も、当該対応に当たる担当者の「Skill」がなければ、実効性は確保できない。
 危機対応やリスクマネジメントに関する担当者等の「Skill」不足が、危機事態等の対応失敗をもたらしたり、対応品質の不足によるトラブルを招いたりしかねない。
 危機管理を実効的なものとし、また各種のリスクマネジメントを有効に行う上では、tん当社等の「Skill」はきわめて重要であり、その意味で、「Skill」は危機管理に欠かせない要素ということができる。
 なお、「資格・専門性」が形式要件であるとすれば、「Skill」はそれを有効に役立てるための実質要件であると言える。例を挙げれば、ただ「医者」という「資格」を有していても、実際の治療や手術をこなせる「Skill」を有していなければ、有効な医療活動(救命措置という究極の危機管理)を行うことは不可能だからである。

■Skill-up(訓練・修養)
 14番目は、「Skill-up(訓練・修養)」である。
 「Skill」が危機管理に必要な要素であり、「資格や専門性」を役立てるための実質要件であることは既に述べたとおりであるが、社会の発展等により、昔身に着けた「Skill」が陳腐化してしまい、現代的なシステムや情勢に対応できないという事態を招く場合がある。しかしながら、現代の社会情勢や技術水準に対応できなければ、「Skill」自体が、有効なものとなりえず、やはり種々のトラブルを誘発してしまう。
 したがって、「Skill」は常に「Skill-up(訓練・修養)」により、高度化・最新化しておかなければ、十分な危機管理はできないということになる。その意味で、「Skill」と「Skill-up(訓練・修養)」は表裏一体の関係として、危機管理に不可欠な要素といえるのである。

■Start-up(起動・動くこと)
 15番目は、「Start-up(起動・動くこと)」である。
 危機対応や危機管理は、概念や戦略レベルの話ではなく、それが実行・実現されてこそ意味がある。そして種々に動く危機状況の中で、ただ事態を静観していても、事態はどんどん悪化しかねず、事態の悪化を防ぐためには、事態悪化を防ぐためのアクション、すなわち、危機管理の実行・実現に向けて自ら動くこと、システムや仕組みを動かすことが重要なのである。
 危機管理は、動的なものであり、その実現には、「Start-up(起動・動くこと)」が不可欠であることを忘れてはならない。その意味で、「Start-up(起動・動くこと)」は危機管理に必要な要素であるといえる。

■Speed
 16番目は、「Speed」である。
 特に緊急事態や危機事態においては、その火種を早く沈静化すべく「Speed」感のある対応・アクションが不可欠である。
 危機管理の成否は、初期対応、初動対応で決まるとも言われるが、その初期対応・初動対応は、可能な限り迅速におこなわれてこそ、成功に繋がるのである。たとえ小さな火種でも、「Speed」感のある消火活動が行われなければ、大火になってしまい、建物を全焼させたり、人の死亡という最悪の状態をもたらしてしまう。消火の例を見ても、危機対応や有効な危機管理を行う上では、「Speed」が不可欠であることは明白である。
 したがって、「Speed」は危機管理に必要な要素ということができる。

■Strategy(戦略)
 17番目は、「Strategy(戦略)」である。
 どんなに時間をかけて検討・策定した危機対応策も、その内容のピントがずれていたり、一面的な見方をしていたり、場当たり的なものであったりすれば、効果的な危機対応にはなりえない。
 有効な危機管理を行う上では、その内容が、種々の事情やリスクを吟味して策定され、目的にかなった、実現可能な戦略性のあるものである必要がある。
 危機管理についても「Strategy(戦略)」が不可欠なのであり、危機管理の重要な要素であるといえる。

■シナリオ分析力・構想力
 18番目は、「シナリオ分析力・構想力」である。
 この「シナリオ分析力・構想力」は、上記の「「Strategy(戦略)」を有効なものとするために必要な要素である。
 種々の事情やリスクを吟味し、そこから考えられるシナリオを分析し、それに応じた危機対応策を構想できてこそ、初めて効果的な危機対応戦略となる。「シナリオ分析力・構想力」は、危機対応策に「Strategy(戦略)」を持たせるために不可欠な要素である。
 したがって、「Strategy(戦略)」が危機管理に不可欠な要素である以上、「シナリオ分析力・構想力」も危機管理に不可欠な要素となる。

■資金
 19番目は、「資金」である。
 どんなに効果的な戦略性を持った危機対応策も、それが実行・実現されなければ意味をなさないが、その危機対応策を実行・実現するためには、当然に「資金」が必要となる。
 確かに、お金をかけずにできる工夫による危機対応策もあるが、それだけでは、総合的かつ網羅的な危機対応策にまではなりえない。より複層的で相乗効果のある危機対応を行うためには、そこに相応の資金を投入しなければならない。
 有効な危機管理を行う上では、やはり「資金」が重要なのであり、その意味で、「資金」も危機管理に不可欠な要素といえるであろう。

■正確性
 20個目は、「正確性」である。
 これは、実際に種々のリスク対策や危機対応策を行うときに必要な要素である。種々のリスク対策に関するルールやシステム、対応策もそれが正確に実行されなければ、期待された効果を生み出すことはできない。
 まして正確性を度外視した雑で乱暴なやり方では、かえってトラブルを誘発することになる。
 「正確性」は、実際に危機対応、マネジメントを進めていく上で、きわめて重要な要素であり、その意味では、危機管理に不可欠な要素であるといえる。

3. 上巻まとめ

 今回は、危機管理に必要な要素を可能なかぎり網羅的に検討するという目的のもと、世間一般でその重要性が広く提唱される「5S」をベースに、危機管理に必要な要素について考えてみた。
 本稿では、そのなかから、前半の20個を紹介した。
 次の20個については、(中)巻で、最後の20個については、(下)巻で、それぞれ紹介し、危機管理と5S+「S」(上)(中)(下)三部作をもって、完成としたい。
 取り留めの無い徒然草的な考察ではあるものの、実際に考えてみると、実に深く、さまざま考えさせられる。今回、考察・抽出した、危機管理の「5S」+「S」については、まさに、自身で危機管理の深遠を探求し、研鑽し、またお客様での危機管理対策を進めていく上での、よき指針となった。
 前述の通り、コンサルティングの現場では、危機管理の必要な素養や危機管理人材像を聞かれることもある。当社は危機管理を実践するリーディングカンパニーである以上、それらの危機管理に必要な素養や危機管理人材像に対する質問にも答えていかざるを得ない。また、これまでの経験等を通じて、危機管理の素養が自分なりに整理・明確化できないということは、危機管理の本質が理解できていないとの、自身に対する警鐘にもなりうるはずである。
 我々はまた、セミナー等を通じて、クライント企業や受講者の危機管理の素養を向上させるべく取り組んでいる。そして、危機管理の素養を向上の目指したセミナー等を実施する以上、「危機管理の素養とは何か」についての知見を持ち合わせている必要がある。我々自身が「危機管理の素養とは何か」についての理解・知見が無ければ、到底、クライアント企業や受講者に「危機管理の素養」を提示できず、危機管理の素養の向上を実現できない。
やはり、「危機管理の素養」について探求・考察しなければならないと思い、一部、同僚の知恵・知見も借りながら取り組んだのが、今回のテーマである。
 ベースとなるのは、広く知られた標語的な「5S」という言葉しかなく、「60S」まで抽出・検討していくプロセスは非常に大変であったし、「60S」はいささかい多すぎるとも言えるが、今回については、より深く、より多面的に考えることに力点をおいたことから、ぜひ、(中)(下)についてもお付き合いいただきたい。
 そして、ぜひ、皆様も、ご自身の知見や経験を振り返りながら、ご自身の危機管理の指針として、ご自身の「5S」+「S」を考えてみたらよいのではないだろうか。

(了)

———-【参考資料】————

(*1) 日本電産株式会社ホームページ
会社概要や日本電産全般に関するご質問
「「3Q6S」について教えてください。 3Q6Sマニュアルブックは購入できますか?」
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(*2) 「5S」についての詳細は、下記を参照いただきたい。
知っておきたいIT経営用語:ITpro 日経BP社 2010年12月10日
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