SPNの眼

今この時期だからこそ、テロ対策の基本に立ち返ろう

アバター 総合研究部 研究員 長谷部純菜

2021.07.05
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警察官の後ろ姿

1.はじめに

2021年夏の東京オリンピック開催まで1カ月を切った。これまで、大規模スポーツイベントにおいてテロが発生した事例が多くあることから、2021年東京大会でもテロが起こる可能性がある。過去の大規模スポーツイベントや日本に関連するテロ事案から、東京オリンピック中のテロ発生について考えていきたい。また、企業や個人においてテロ対策を考える上で基本となるテロの傾向や手法の情報を参考にしていただければ幸いである。

2.テロリズムとは

(1)テロリズムの定義

テロリズムの定義は国際的に定まっておらず、国や組織によって定義が異なるという現状がある。本稿では警察庁のテロリズムの定義に従いたい。

警察庁組織令第四十条では、「テロリズム(広く恐怖又は不安を抱かせることによりその目的を達成することを意図して行われる政治上その他の主義主張に基づく暴力主義的破壊活動をいう。)」とされている。

つまり、政治上その他の主義主張に基づくものがテロリズムとなり、政治上等の主義主張に基づかない無差別殺傷はテロリズムではなく「事件」とされる。

(2)近年のテロ傾向

これまでも、テロは以下のような政治的な主義主張などをもって行われてきた。

  • 民族主義系(民族の分離・独立)
  • 宗教系(他宗教・他宗派との争い)
  • イデオロギー系(左翼思想・右翼思想等)

また、組織的にテロを計画・実行することで、2001年の9.11同時多発テロ事件のように大規模なテロも実行してきた。

近年のテロの傾向としては、インターネット等を通じて過激思想に影響を受けた者が、テロを計画または実行する事案が多く発生している。必ずしもテロ組織に入っているわけではないため、公安組織の捜査が及ばず、事前に計画を阻止することが難しいとされている。このようなテロを、ローンウルフテロホームグロウンテロと呼び世界的に警戒している。

  • ローンウルフ(一匹狼)テロ
    インターネットなどを通じてISILやアルカイダなどの過激思想の影響を受けたとみられる者が、テロを実行すること。実際にテロ組織の支援を受けていないとされているものも多い。
  • ホームグロウンテロ
    国外の組織の犯行ではなく、自国民が過激思想の影響を受けて自国内でテロ行為を行うこと

フランスのシャルリー・エブド襲撃事件の実行犯はフランス国籍のアルジェリア系移民であった。ISILの過激思想に影響を受けてテロを実行したとされ、ホームグロウンテロかつローンウルフテロであったという見方をされている。

テロが実行される場所として、以前は飛行機のハイジャックや要人殺害などが行われることが多かったが、近年では、不特定多数の人が集まる場所で爆破や銃撃を行うなど大多数の死傷者が出るようなテロが増加している。このような場所のことをソフトターゲット(攻撃がたやすい標的)としている。

  • ソフトターゲット
    不特定多数の人が集まるショッピングモールやイベント会場、観光名所、公共交通機関、民間人など、警備や監視が手薄で攻撃が容易な標的のこと。
  • ハードターゲット
    警察や自衛隊の施設・人、重要人物である政治家など、普段から警備や監視が厳格で攻撃が困難な標的のこと。

3.大規模スポーツイベントでのテロ

オリンピックに際して発生したテロ
  • 1972年9月に西ドイツ(当時)・ミュンヘンオリンピックに選手村イスラエル選手団宿舎で発生した襲撃・人質テロ事件
  • 1996年7月に米国・アトランタの100周年オリンピック公園で発生した爆弾テロ事件
その他のイベントに際して発生したテロ
  • 2013年4月米国・ボストンマラソンの爆弾テロ事件
  • 2015年11月にフランス・サッカー国際親善試合会場付近での連続自爆テロ事件

過去の大規模スポーツイベントでは、死傷者を伴うテロが複数発生している。上記4件のテロ事件において、テロ組織の関与の有無については、ミュンヘンオリンピック、サッカー国際親善試合開催時のテロ事件ではテロ組織の直接的関与があったとされ、他の2件についてはテロ組織の関与はなかったという見方をされている。

ボストンマラソンの爆弾テロ事件に着目すると、ISILやアルカイダなどの主義主張に感化されたものによるローンウルフテロであった。テロ組織が関与していない爆弾テロであったが、3人死亡・300人負傷と多数の被害者が出ている。テロ組織が関与していない少人数の犯行でも、場所やタイミングによっては被害が大きくなる可能性があることを示唆している。また、この爆弾はゴール付近の観客が多く賑わう沿道に、釘や金属片入りの圧力鍋が黒いナイロン製のバックに入れられ地面に置かれていた。多くの死傷者が出た原因として、目の前のマラソン走者に目が行き、不審物に気が付かなかったことで、爆発物の近くに多くの人がいたことが考えられる。逆に言うと、テロを成功させるため、爆発物・不審物に目がいきにくい場所を狙って爆発物を仕掛けたという見方ができる。コロナ禍において人が多く密集する環境は生じにくいと推察されるが、そのような状況下であれば周囲に不審物や不審者がいないかを確認するように心がけることが必要だろう。当社では、イベント等の警備を実施することがあるが、警備の観点からは、人が集まりやすい場所や注目されにくい場所こそ、不審者や不審物が存在している可能性があることを常に念頭においている。当たり前に置かれているごみ箱やごみ置き場、普通に止まっている車やバイクなどに紛れている可能性を常に認識していただきたい。

大規模国際スポーツイベントは、テロリストにとって世界中の注目を集める格好の機会であるため、攻撃のターゲットになりやすい。そのため、東京大会の開催に際しては、各競技会場はもとより、「オリンピック期間中にテロを起こした」という事実が社会に広く影響を及ぼすため、公共交通機関、宿泊施設、観光地などのいわゆるソフトターゲットのほか、首都圏以外においても、テロに警戒することが必要である。新型コロナウイルス対策ばかりに目が行き、防犯的な側面が軽視される可能性が低くないため、鉄道や地下鉄などの公共交通機関においても相応の警戒を怠ってはならない。

また、テロの手法としては、車両テロや爆弾テロの可能性が高いのではないかと考えられる。理由としては3つ挙げられる。

①前述の通り、個人で計画したものであってもそれなりの被害やインパクトを与えることができる。

②車両テロであれば車を用意して運転することで実行可能である。爆弾テロにおいては市販の材料で威力の高いものを製造することができ、犯行へのハードルが低いこと。

③銃撃テロやCBRNテロは日本に持ち込むハードルの高さや製造の難しさから起こりにくいと考えられる。

政治的な主義主張をもって行うテロリスト以外にも、社会に不安を持つものが引き起こす場合もあるため、日本ではテロが起こらないと考えるのではなく、テロが起こることを想定しておくことが大切であると考える。かつて、日本赤軍等によるテロやオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きていることを忘れてはならない。国際的なテロ組織などがCBRNテロをはじめとする大規模なテロを引き起こす場合も想定されるため最大限の警戒が必要である。では過去に日本に関連してどのようなテロや事件が発生しているのだろうか。

4.日本に関連するテロや事件

日本で起きたテロ
  • 1974年の三菱重工爆破事件
  • 1995年の松本サリン事件、地下鉄サリン事件 など
日本企業や邦人が巻き込まれたテロ
  • 在アルジェリア邦人に対するテロ事件
  • シリアにおける邦人殺害テロ事件 など

ISILは2015年以降、日本を「十字軍連合」の一員と名指しし、日本の国民及び権益を「イスラム国」の兵士及び支援者らの攻撃対象と位置づけ、テロの実行を呼びかけている。実際に上記のシリアにおける邦人殺害テロ事件はISILによるものである。2021年5月現在、日本国内でイスラム過激派によるテロ事件は発生していないが継続的な注意が必要であると推察される。

日本では、政治的な主義主張などに基づくテロ事件ではない社会に不満を持つ通り魔的多数殺傷事件が発生している。

社会に不満を持つ通り魔的多数殺傷事件
  • 2008年秋葉原無差別殺傷事件
  • 2015年新幹線車内放火自殺事件
  • 2016年相模原障害者施設多数殺傷事件
  • 2019年原宿暴走事件 など

上記の社会に不満をもつ通り魔的多数殺傷事件の動機について触れていきたい。秋葉原無差別殺傷事件の動機はインターネットの掲示板内で嫌がらせを受け、嫌がらせをした者らにその行為が重大な結果をもたらすことを知らしめるために、犯行に及んだとされている。また、新幹線車内放火自殺事件は生活苦から焼身自殺したものとされている。そして、相模原障害者施設多数殺傷事件の動機は、重度障害者を「安楽死」させる社会が実現であったとされている。いくつか動機について触れてきたが、社会に不安を持ち犯行に及んでいることが分かる。コロナ禍においては、生活苦に陥ったものや、さまざまな規制に伴い、社会への不満が溜まっていることが予想できる。テロの背景としては、世界的な潮流としても貧困があり、新型コロナウイルスの流行などによる格差・分断社会の加速により、自らの考えを発信するために何か大きな事件を起こそうとする者がでてきてもおかしくない状況であると考えられる。ローンウルフテロと同様に、あらかじめ犯行を防ぐことが難しい場合も考えられるため、その現場に居合わせてしまったときにどのように対応するのか考えておくことが自分の身を守ることにつながる。テロの対策を検討する、テロが発生したときにどう対応するか検討するためには、基本に立ち返り、どのようなテロの手法があるのか知っておく必要があるため、一度整理しておきたい。

5.テロの手法

国際的に、ISILをはじめとするイスラム過激派によるテロが2014年ごろから増加し、ニュースなどで報道された。無差別殺傷のために車両テロや爆弾テロ、銃撃テロなどさまざまな手法が用いられている。

(1)車両テロ

2016年7月のフランス・ニースにおける花火見物客に対するトラック突入テロ事件を皮切りに、車両を用いたテロが多発している。ISILは、機関紙の中で、ニースで発生したトラック突入テロを挙げたうえで、下記理由から車両によるテロを推奨している。

  • 車両は多くの犠牲者を出す能力がある
  • 容易に入手できるが、ナイフと違って所有していても疑念を抱かない

ニースのテロのように花火見物客を狙うなど、道に人が大勢いるという状況下で実行すると多数の死傷者がでるという特徴がある。会場や建物付近にコンクリートブロックを設置するなどして車両の進入を防ぐことが対策として実施されている。

(2) 爆弾テロ
爆弾テロの形態

手荷物等、小包や手紙、乗り物に対する設置、自爆、爆発物の投擲 など

爆発物

時限式、衝撃感知式、操作式

2005年のロンドン同時多発テロでは、地下鉄の3か所がほぼ同時に、その1時間後にバスが爆破され、56人が死亡した。また、2013年のボストンマラソンの爆弾テロ事件では圧力鍋爆弾が使用された。そして自爆テロという手段も多くみられる。ISILやアルカイダは機関紙などを使って爆薬の製造方法やテロの手法などを紹介しており、インターネットやSNSで容易に爆薬の製造方法などを知ることが可能となっている。

(3)銃撃テロ

殺傷能力の高い自動小銃が使用されることが多く、できるだけ多数の人々を殺傷するために銃を乱射する傾向がある。2019年にニュージーランドで発生した銃乱射テロは、モスク(イスラム教礼拝所)2か所で起き、49名が死亡した。2015年のフランスのパリで起こった同時多発テロでは、コンサートホールで銃撃があり、89名が死亡した。出入口が限られている場所で、出入口付近から銃撃をすることで多くの死傷者が発生する場合や、犯人が立てこもることで負傷者の救出に時間を要する場合がある

日本は島国であるということから銃を日本に持ち込むことの難しさがあるため、銃撃テロは発生の可能性が低いと考えられる。

(4)CBRNテロ

CBRNテロとは、化学(Chemical)、生物(Biological)、放射線物質(Radiological)、核(Nuclear)を用いた兵器はそれぞれの頭文字をとった総称である。CBRNテロは、使用される有害物質の特性に応じて通常の爆弾などと全く異なる被害・症状が現れ、通常の兵器では考えられないような甚大な被害が与えられる可能性がある。外務省領事局邦人テロ対策室が「海外へ進出する日本人・企業のためのCBRNテロ対策Q&A(平成22年3月)」を作成し、海外へ進出するものに対してCBRNテロ対策についてまとめている。以下、主なものを取り上げつつ、事例と共に紹介したい。

  1. 化学(Chemical)
    • 化学剤は、その特性により神経剤、びらん剤、血液剤、窒素剤などに分類されている。化学物質に触れたり、口に入れたり、吸引することで人体に悪影響を及ぼす。過去には1995年の地下鉄サリン事件で使用されたサリン(神経剤)や、2017年の金正男の暗殺ではVX(神経剤)などで使用されている。多くの化学物質には独特のにおいと色があるが、散布されたことを即座に確認するのは非常に困難である。散布方法については、ドローンの普及により空中散布を行うなどテロを起こす手段が以前より増えていることにも注意が必要である。検知手段を持たずに兆候を判断するためには、下記のような「不自然」の組み合わせから察知するしかない。国内では、過去に青酸カリなどを使った殺人事件等も複数発生しており、身近でも起こりうることは念頭においておかなければならない。
      • 多くの小動物に異変が起きた
      • 付近の植物に変色する・しおれるなどの異変があった
      • 付近で、嘔吐、呼吸困難などの症状が複数人に出現した
    • 化学テロの兆候があった場合は、呼吸を妨げない程度の厚い布で口と鼻を覆って疑わしい場所からすぐ離れることが望ましい。
  2. 生物(Biological)
    • 生物剤は細菌やウイルスのような病原体と動植物などに含まれている毒素に分けることができる。化学剤と同様に触れたり、口に入れたり、吸引することで人体に悪影響を及ぼす。厚生労働省は「生物兵器テロの可能性が高い感染症について(平成13年10月15日)」にて、生物テロに使われる可能性の高いものとして、「炭疽菌、天然痘、ペスト、ボツリヌス」を挙げ、概要や治療法をまとめている。病原体を使用した生物テロが発生した場合、その症状が自然に発生した疾病なのか生物テロによるものなのか判別することが出来ない。生物剤についても、現在ではドローン等を使った空中散布も可能である。下記のような状況から生物テロが発生したことを推測することが出来る。
      • 散布の目撃者がいる
      • 被害者の人数が異常に多い
      • 被害者の地理的分布に兆候が見られる
    • 実際に生物テロの被害にあった場合は、呼吸を妨げない程度の厚い布で口と鼻を覆い、不審物からすぐに離れることが肝要である。また、不審物に触れてしまった場合には、石鹸でよく手を洗うことが必要である。
  3. 放射線物質(Radiological)
    • 放射線物質を利用したテロは、ウラン、ラジウム等の放射線物質から発生する放射線の人体に対する影響を利用したものである。人体に対する影響は、被曝量、被曝時間、放射線物質の種類等に左右されるが、強い放射線に被爆した場合、急性放射線症という深刻な症状が現れる。2006年11月のリトビネンコ氏暗殺事件では、ポロニウム210(強い放射線を出すとされ、放射性元素の中で最も有毒とされている)が使用されたとされている。放射線物質を用いたテロの手段としては、直接飲食物に混入するものや、爆弾の爆発やミサイルなどを利用して放射線を広範囲に拡散させるものが最も懸念されている。これは「ダーティーボム」と呼ばれ、核分裂によって高熱と放射線を発生する核爆弾とは異なり、爆薬によって爆弾の内部や周囲に詰めた放射線物質を拡散させるものである。実際にダーティーボムが爆発した場合、爆発による被害の確認は明白だが、放射線物質が付近に拡散しているかどうかを確認することは非常に困難である。テロリストが放射線物質を散布する最大の目的は、その地域を放射線で汚染し長期間機能不全状態とすることにあると想定されている。
  4. 核(Nuclear)
    • 核兵器の使用には情報に高度な科学技術が必要なため、一般的にテロリストが保有する可能性は低いとされている。IAEA(国際原子力機関)は、核テロリズムとして以下のものを想定している。
      • 原子爆弾、核ミサイルなど核兵器そのものを盗む
      • 高濃縮ウランやプルトニウムなど核物質を盗んで核爆発装置を製造
      • 盗んだ放射線物質を発散させる装置(ダーティーボム)の製造
      • 原子力施設や放射線物質の輸送船などに対する妨害破壊行為。
    • 核爆発が発生すると、強力な爆発により大規模な破壊が瞬間的に引き起こされる。爆発と同時に強力な熱と衝撃波と共に放射線物質が周囲に拡散され、動植物、空気、水、地面などを汚染する。爆発が離れた場所で起きた場合、可能であれば地下に退避することで、爆発及び衝撃波の直接的な被害から身を守ることが必要である。
    • 日本国内には原子力発電所が点在しており、原子力発電所の警備態勢が盤石とは言い難いことから、原子力発電所を狙ったテロも十分に考えられる。警備体制の隙をつき、知識を持った武装集団が原子力発電所を乗っ取ってしまえば、意図的にメルトダウンに導くこと可能である。2020年以降、原子力発電所社員が他人のIDを不正に使用して防護区域内にある中央制御室まで入域した事案や核防護施設設備の機能の一部を紛失していたが適切な点検や保守の未実施により不正な侵入を検知できなくなっていた事案が発生している。前者の事案は、他人のIDカードであったが人的な確認を通過している。また、原子力規制庁の調査結果報告によると、IDの写真と当該者の顔に相違に疑念を抱いたにもかかわらず十分な身分確認をしなかったことや、規定通りでない対応を行っていたことが報告されている。上記のような事例から、「人的」脆弱性を突かれて、核を操作できるような場所まで他人が侵入される可能性があることが推察される。設備面のテロ対策の強化とともに、厳格な入室管理や身分確認、規定の確認・周知など人が関わる面の対策も強化していくことが必要である。

6.企業におけるテロ対策

企業におけるテロ対策として、まず官民連携のテロ対策を紹介する。テロ対策は警察による取り組みだけでは不十分なため、警視庁では、テロ対策に関して官民一体のテロ対策を行っている。東京大会に向け、合同訓練や合同パトロールなどを実施している。薬局やホームセンター、インターネットで購入可能な化学物質から爆発物を製造する事件が発生している。このことから、爆発物の原料となり得る化学物質を販売する事業者に対して、販売時における本人確認の徹底、保管管理の強化、不審情報の通報などを要請している。このほか、宿泊施設、インターネットカフェ、レンタカー事業者などと連携しテロ等違法行為の未然防止を行っている。

企業におけるテロ対策としては、ハード面の対策として、車両が突入しないように、建物入口の前にコンクリートブロックを置くこと、入室管理を徹底することなどが挙げられる。前述にて、原子力発電所における入室管理について述べたが、人的な面の対策として、不審な配達物を開けないこと、不審物があったら警備員を呼ぶこと、身分確認不審者への対応などが考えられる。企業においてはハード面の対策も必要であるが、まずは人的な面の対策を改めて強化するところから始めてみてはいかがだろうか。ソフトターゲットに対するテロの未然防止については、当社BCPコラム「国際的な大規模イベント 今からできる企業のテロ対策を考える」にて詳しく記載されているため併せて確認いただけると幸いである。

また、「内閣府 事業継続ガイドライン第三版」では、BCMを策定する際に様々な発生事象を想定して検討することが必要としている。この発生事象の具体的な事例として、企業・組織の事業の中断をもたらす可能性がある、自然災害、感染症のまん延、テロ、ストライキ等の事件、大事故、サプライチェーンの供給途絶などが挙げられている。企業においても、テロが起きたときにどのような対応をするのか検討しておいたほうがよいと推察される。

在アルジェリア邦人に対するテロ事件では、日本企業の社員が人質となり、邦人10人を含む多数が死亡した。海外で社員がテロに巻き込まれた事案であったが、社外への公表などの対応を行った。また人質になっている方の名前を公表するかについては賛否が分かれた。自社の社員がテロの被害に遭い、人質になったり死傷したりした場合は、緊急事態対応と同様の対応が求められると想定できる。これは日本国内でも同様ではないかと推察できる。

2021年夏の東京大会に向けて、テロに社員が巻き込まれた事案を想定し、緊急事態・事業継続と同様の考え方で、情報収集方法、どのように公表するのか、見舞金を用意するのか、事業所が使用できなくなった場合どうするのか等、企業としてどのように対応するのか考えておくことが必要だろう。そして、企業としての対応はもとより、個人がテロ発生時に適切な行動をとることで被害を小さくすることが出来るため、個人におけるテロ対策も紹介していきたい。

7.個人におけるテロ対策

外務省では、銃撃テロや爆弾テロに遭遇した場合の行動として「伏せる・逃げる・隠れる」を推奨している。外務省発行の「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」の第12話で詳しくまとめられている。このシリーズは企業における海外安全対策全般を紹介しているので、これから海外進出を目指している企業などでもぜひ参考にしていただきたい。また、銃撃については、日本国内では特別な場合を除いて、銃器の所持・利用は禁止されており、日本国民に馴染みのないものだけに、対処方法はぜひ、確認しておいていただきたい。

伏せる:銃声や爆発音を聞いたらその場で伏せる、できれば頭部を守る。その後周囲の状況を確認し、逃げるか隠れるのか判断すること。

逃げる:脱出ルートがあれば避難すること。また、その場所に他の人が入らないように注意すること。

隠れる:犯人から見えない場所に隠れる。ドアをロックするなど侵入を防ぐ。また、携帯電話などの音が鳴らないようにすることが重要。

ちなみにアメリカだと「逃げる・隠れる・戦う」、イギリスだと「逃げる・隠れる・電話する」が推奨されており、国民性などから少し異なる点もあるが、その場から逃げること・隠れることで身の安全の確保することが最優先とされている

また、爆発があった場合、2回目以降の爆発が発生する可能性も踏まえてただちに現場からできるだけ遠ざかることが望ましい。(4)CBRNテロで述べた内容の繰り返しになるが、化学テロや生物テロが発生した兆候がある場合は、呼吸を妨げない程度の厚い布で口と鼻を覆い、不審物からすぐに離れることが肝要である。テロの形態によって直後の行動が異なる部分もあるが、基本的には何らかの異変に気が付いたらただちにその場から離れることをお勧めする。

コロナ禍では路上飲みも増えていることが報道されているが、路上飲みが普通の姿になってしまえば、路上飲みの集団に紛れた不審者にも気づきにくくなることにも、注意が必要である。いつもと違う」に無関心にならず、通報することがテロの未然防止につながる。警視庁では不審者や不審物を言つけた時はすぐに110番、または最寄りの交番、警察署に通報をするように呼び掛けている。警視庁警備部警備第一課 危機管理室が発行している「あなたが救える明日がある」にて、対応方法などがまとめられている。そのような現場に居合わせてしまったときに通報できるよう参考にしていただきたい。以下、主なものを挙げてみる。

不審者
  • 同じ場所を行ったり来たりするなど「不自然」な行動をしている
  • 場所や気候にそぐわない恰好をしている
  • 監視カメラの向きや警備員の様子などを確認している
不審物
  • 放置された荷物などで持ち主が不明である
  • 発見されにくいように隠しておいてある
  • 粘着テープやひもなどで必要以上に厳重な包装、固定がされている
  • 火薬や薬品の臭いがする、中から機械音が聞こえる

「不自然」を見つけたら、警察や警備員に通報することが望ましい。通報する際は下記のポイントを押さえて通報するとより迅速な対応につながるため、確認していただきたい。

通報時のポイント
  • 不審者:年齢、見た目、性別、服装、背格好、立ち去った方向など
  • 車両:車種や色、ナンバーなどを確認する。
  • 不審物:種類、形、大きさ、置いてある場所、見つけた時間

8.おわりに

本稿では、過去の大規模スポーツイベントでのテロについて考察した上で、テロの手法や企業や個人におけるテロ対策について論じてきた。過去の国際的な大規模スポーツイベントの事例を見ると、テロ事件の標的になっていることが分かる。国際的なテロ組織の関与がなくても、日本にいる個人がテロや大規模な事件を引き起こすことができるため、2021年夏に開催が予定されている東京大会でも、何らかの攻撃が想定される。テロが起きるということを前提として、テロはどのような手法で実行されるのかを知り、対策や対応方針を検討しておくことが必要だと考えられる。企業または個人としてできることは、小さな「不自然」に気付いてそれを然るべき場所に報告することや、テロや事件の現場に居合わせてしまったときに正しい行動をして被害を小さくできるようにすることだと推察される。開催まで1カ月を切った東京オリンピックに向けて、改めて企業・個人におけるテロ対策を検討していただきたい。

テロを行う目的を考えた場合、多くの人が集まる場所や重要施設などを狙うことで効果があるため、個人宅等は狙われにくい。総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府は、東京都および関係団体と連携し、2021年7月19日~9月5日「テレワーク・デイズ2021」と設定している。大規模スポーツイベントの開催中は、在宅勤務などを励行して、社員が街中でのテロに巻き込まれることのないような対策を行うことも、検討すべきであろう。サイバーテロのリスクがないわけではないが、開催期間中についてはテロ対策としても、新型コロナウイルス感染予防対策としても、在宅勤務は有効であると考えられる。

最後にテロ対策について分かりやすくまとめられている資料や啓もう映像を紹介したい。テロ対策を検討する上で参考にしていただけたら幸いである。

▼外務省「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」
▼外務省「海外へ進出する日本人・企業のためのCBRNテロ対策Q&A」
▼警視庁「『あなたが救える明日がある!』テロを未然に防ぐ小さな勇気」
▼警視庁「テロ対策広報映像『無関心は協力者?!』」

9.参考文献

▼公安調査庁「国際テロリズム要覧2020」
▼公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」

▼外務省領事局邦人テロ対策室「海外へ進出する日本人・企業のためのCBRNテロ対策Q&A」
▼外務省「世界と取り組む核テロ対策」
▼外務省「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」

▼厚生労働省「生物兵器テロの可能性が高い感染症について」

▼警視庁「官民を挙げたテロを許さない社会づくり」
▼警視庁「あなた救える明日がある」

▼内閣府「事業継続ガイドライン第三版」

▼原子力規制庁「柏崎刈羽原子力発電所7号炉に関する審査の概要」
▼原子力規制庁「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第43条の3の23第2項の規定に基づく命令について」

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