SPNの眼

帰宅困難者対策の第一歩~まずは地域の要請の確認から~

総合研究部 研究員 小田 野々花

資格:防災士 主な研究分野:防災、BCP、広報

2022.07.05
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1. はじめに

内閣府は2021年11月19日、帰宅困難者対策の在り方を検討する有識者検討会議の会合を開催した。駅周辺に滞留する人への対応策等を議論し、2022年夏に方針を取りまとめ現行のガイドラインを改定するという。2022年5月に公表された「首都直下地震等による東京の被害想定 報告書」においては、最大約453万人の帰宅困難者が発生すると想定されている。見直し前の約517万人と比較すると減少してはいるが、それでも多くの帰宅困難者が発生することには変わりない。東日本大震災やその他の災害からも、大地震の発生する時間帯によっては多くの帰宅困難者が発生することが予想されるが、災害時は公助には限界がある。そのため、自分自身の備えに加えて、事業者等による帰宅困難者対策も不可欠だ。

東京都の帰宅困難者条例は東京都に拠点をおく企業には浸透しているが、東京以外の都道府県に拠点をおく事業者にとって「帰宅困難者対策」自体なじみのない場合が多い。本稿では、対策が必要だが見落とされることもある「帰宅困難者対策」について紹介するとともに、企業等における帰宅困難者対策の第一歩としてまずは国や地域の要請の確認を推奨する。

2. 帰宅困難者対策とは

事業者において取り組むべき帰宅困難者対策に入る前に、まずその背景や基本的な情報を紹介する。

2.1. 帰宅困難者対策の背景

2011年の東日本大震災の影響で、首都圏においては鉄道の運行停止や道路の大渋滞など、多くの公共交通機関の運行に支障が生じた。地震の発生時刻が平日の日中であったこともあり、首都圏において約515万人、都内で約352万人(いずれも内閣府推計)に及ぶ帰宅困難者が発生した。膨大な数の帰宅困難者等への対応は、これまでも中央防災会議等において指摘され、国や地方公共団体においても対策が行われてきたが、大規模地震により多数の死傷者・避難者が想定される中では行政機関による「公助」に限界がある。そのため、可能な限り「自助」を前提としつつ「共助」も含めた対策が不可欠であるとされている。

2.2. 帰宅困難者の定義

帰宅困難者対策については政府や県、市や区において条例やガイドラインが策定されている。内閣府より平成27年3月に公表された「大規模地震の発生に伴う帰宅困難者対策のガイドライン」においては、

以下にあてはまる人が「帰宅困難者」として扱われている。

  • 自宅が遠距離にあること等により帰宅できない人(帰宅断念者)
  • 遠距離を徒歩で帰宅する人(遠距離徒歩帰宅者)

※近距離を徒歩で帰宅する人(近距離徒歩帰宅者)は除く

では、具体的に自宅までの距離が何キロメートルであれば帰宅困難者なのだろうか。前述の「大規模地震の発生に伴う帰宅困難者対策のガイドライン」には記載がないものの、平成20年10月27日の中央防災会議「首都直下地震避難対策等専門調査会」の発表「首都直下地震避難対策専門調査会報告」の参考資料「帰宅困難者等に係る対策の参考資料」が参考になるかもしれない。この資料においては帰宅困難者の計算手法として、帰宅までに距離が10km以内の人は全員「帰宅可能」とされている。帰宅距離10km~20kmでは被災者個人の運動能力の差から、1km長くなるごとに「帰宅可能」者が10%低減していくものとされ、帰宅距離20km以上の人は全員「帰宅困難」とされている。ただしこの数字はあくまで計算に利用された数字であり、後述する帰宅困難者対策の趣旨や、体力には個人差があることを踏まえると、「10km」や「20km」はあくまで目安であり、一斉帰宅抑制の原則は変わらないと筆者は考える。

2.3. 帰宅困難者対策の全体像

帰宅困難者対策の具体的な取り組みとしては、国や地方公共団体と民間企業が協力して行う災害時帰宅支援ステーションの整備や、民間企業等が行う従業員の帰宅抑制、個人が行う日ごろからの備えなどが挙げられる。内閣府のガイドラインの第2章から第6章において帰宅困難者対策について記載があり、ガイドラインの目次を確認するだけでも帰宅困難者対策の全体像について大まかなイメージをつかむことができる。

大規模地震の発生に伴う帰宅困難者対策のガイドライン 目次(一部抜粋)】

  • 第2章 一斉帰宅の抑制
  • 第3章 一時滞在施設の確保
  • 第4章 帰宅困難者等への情報提供
  • 第5章 駅周辺等における混乱防止
  • 第6章 徒歩帰宅者への支援
  • 第7章 帰宅困難者等の搬送
  • 第8章 国民一人ひとりが実施すべき平時からの取組

3. 一斉帰宅抑制

今回は、帰宅困難者対策のうち、多くの企業に関係がある「一斉帰宅抑制」にテーマを絞って紹介する。

3.1. なぜ、むやみに移動を開始してはいけないのか

一斉帰宅抑制の原則は「むやみに移動を開始しない」ことだ。なぜ大規模地震発生時にむやみに動いてはいけないかというと、まず余震による落下物や火災等の二次災害の恐れがある中、徒歩で移動することは大変危険だからだ。そして、停電により信号機が停止することで道路が渋滞し、救命・救急活動の妨げとなる恐れがあるからだ。

災害発生後72時間を過ぎると人命救助における生存率が大幅に下がる。これは「72時間の壁」ともいわれ、阪神淡路大震災に関する国土交通省の調査「死者を減らすために」(国土交通省 近畿地方整備局 震災復興対策連絡会議、2022年1月)においても、救助が早ければ早いほど高い生存率であることが示されている。調査によると救出者中の生存者の割合が、地震発生日は74.9%、地震発生翌目は24.2%、地震発生から3日目は15.1%、4日目は5.4%であり、発災後3日を過ぎると生存率が著しく低下していることが分かる。円滑な救助活動のため、むやみに出歩かないことが重要だ。

余震等の被害から身を守るための一斉帰宅抑制だが、企業にとってももちろんメリットがある。一斉帰宅抑制により、従業員の安全確保ができるほか、従業員が社内に留まることで安否確認が簡単になり、BCP体制への移行もスムーズにできるからだ。大規模地震発生後は従業員の安全確保だけでなくオフィスの安全確認や応急救護対応、情報のとりまとめや対策本部会議の開催など、何かと人手が必要になる。一斉帰宅抑制に本格的に取り組むことは大変なことではあるが、企業の災害対策にとってプラスになる。

3.2. 一斉帰宅抑制において企業等に求められる対応

内閣府のガイドラインにおいては、一斉帰宅抑制に関する企業等の対応として以下が挙げられている。注目すべき点としては、帰宅困難者対策のガイドラインにおいても平常時の計画策定従業員への周知が求められている点と、3日分の備蓄について記載されている点だ。

【企業等における対応(一部抜粋)】

<平常時>

  1. 企業等における施設内待機の計画策定と従業員等への周知
  2. 企業等における施設内待機のための備蓄
    • 備蓄品の保管場所の分散や従業員等への配布を検討する
    • 備蓄量の目安は3日分とするが、3日分以上の備蓄についても検討する
    • 外部の帰宅困難者のために、例えば、10%程度の量を余分に備蓄する
  3. 平時からの施設の安全確保
    • オフィスの家具類の転倒等の防止や、ガラス飛散の防止対策等に努める
    • 地震発生時の建物内の安全点検のためのチェックシートを作成する
  4. 従業員等への安否確認手段、従業員等と家族との安否確認手段の確保
  5. 帰宅時間が集中しないような帰宅ルールの設定
  6. 年1回以上の訓練等による定期的な手順の確認

<発災時>

  1. 従業員等の施設内待機
  2. 施設内に待機できない場合の対応
    • 建物や周辺が安全でない場合、一時滞在施設等へ従業員等を案内又は誘導する

<混乱収拾時以降>

  1. 帰宅開始の判断
    • 行政や関係機関からの情報等により、安全に帰宅できることを確認する
    • 確認後、あらかじめ定めたルール等に基づいて従業員等を帰宅させる

内閣府「大規模地震の発生に伴う帰宅困難者対策のガイドライン」(平成27年3月)より抜粋

災害が起きた後には、一部または多くの従業員が帰宅したいと申し出ることが予想される。会社側から、「帰宅困難者対策があるから」といっても、「屋外は危険だから」といっても、自分の家族が心配だからとにかく帰宅させてほしいと聞く耳を持たれない可能性もある。このような状態を避けるために、平時の計画策定と、従業員への周知が必要だ。

会社ではなく個人や家庭の対応に置き換えてみても同様だ。災害が発生してから「自宅の家族が心配だから帰宅したい」と言うのではなく、前もって、災害用伝言ダイヤルの活用について普段から家族で話し合っておくことができていれば、災害時の不安も少しは減るだろう。可能な範囲で、前もってご近所の方と連携をとっておくこともできるかもしれない。限界はあるものの、いざという時に困らないように前もってコミュニケーションをとっておくことは大切だ。

3.3. 一斉帰宅抑制のための備蓄

備蓄は災害対策の中でも比較的わかりやすく、ほとんどの企業で取り組まれている。備蓄の考え方について、内閣府のガイドラインに示されている内容を以下に抜粋する。内閣府のガイドラインにおいては都道府県を問わず、一斉帰宅抑制における従業員のための備蓄が求められている。

【一斉帰宅抑制における従業員等のための備蓄の考え方(一部抜粋)】

  1. 対象となる企業
    • 大規模地震発生により被災の可能性がある国、都道府県、市区町村等の官公庁を含む全ての事業者
  2. 対象となる従業員等
    • 雇用の形態(正規、非正規)を問わず、事業所内で勤務する全従業員
  3. 3日分の備蓄量の目安
    1. 水については、1人当たり1日3リットル、計9リットル
    2. 主食については、1人当たり1日3食、計9食
    3. 毛布については、1人当たり1枚
    4. その他の品目については、物資ごとに必要量を算定
  4. 内閣府「大規模地震の発生に伴う帰宅困難者対策のガイドライン」(平成27年3月)より

「帰宅困難者対策」という言葉を聞くと、東京都をはじめとする大都市だけのものという印象を持つかもしれない。しかし、帰宅困難者対策は、二次災害の危険から身を守るため、救助活動に支障をきたさないようにするため、従業員の安全を確保するため、震災発生後に被災の可能性のある全ての事業者が取り組むべきことだ。

4. 主要な都道府県の企業等への要請

ここまで確認してきた内閣府のガイドラインを踏まえたうえで、この章では、各都道府県においては事業者に対しどのような要請がされているかを確認する。

4.1. 東京都

令和4年5月25日に公表された「東京都の新たな被害想定~首都直下地震等による東京の被害想定~」(東京都防災会議)においては、都内で最大規模の被害が想定される「都心南部直下地震」が発生した場合、約453万人の帰宅困難者が発生すると想定されている。

事業所における帰宅困難者対策ガイドライン」(首都直下地震帰宅困難者等対策協議会、平成24年9月10日)は全体を通して内閣府のガイドラインに沿って策定されており、平時の取り組みとして①計画策定と従業員への周知②備蓄③施設の安全確保④安否確認⑤帰宅ルール⑥訓練について記載されている。企業が従業員等を施設内に待機させる必要がある期間が3日間であり、備蓄量の目安は最低限3日分とされている。さらに、来社中の顧客・取引先などのために、10%程度の量を余分に備蓄することも検討するとの留意点も記載されている。

4.2. 大阪府

事業所における「一斉帰宅の抑制」対策ガイドライン」(帰宅困難者支援に関する協議会、2018年9月)においては南海トラフ巨大地震と上町断層帯地震の2つの地震が想定されている。南海トラフ巨大地震においては最大震度6強が想定されており、府全体では死者は約13万人、帰宅困難者は約146万人発生すると想定されている。上町断層帯地震においては大阪府の最大震度7、府全体の死者は約1万3千人、帰宅困難者は約142万人発生すると想定されている。

大枠は内閣府のガイドラインに沿って作成されており、平時の取り組みとして①計画策定と従業員への周知②備蓄③施設の安全確保④安否確認⑤帰宅ルール⑥訓練について記載されている。発災から帰宅開始までの間も基本的に3日間、備蓄量の目安も3日間とされている。さらに、来客などを想定した10%程度の余分な備蓄の検討についても記載されている。

そのほか、南海トラフ巨大地震による津波を想定した記載もあり、南海トラフ巨大地震における津波の被害が想定される区域の事業所等においては避難指示等が発令されているか否かで対応が異なり、避難指示等が発令された際には避難が最優先であり、「事業所における「一斉帰宅の抑制」対策ガイドライン」の適用範囲外とされる旨が明記されている。

大阪府のガイドラインの特徴は、2018年の大阪府北部地震の経験を踏まえて作成されているため、通勤時間中や帰宅途中の発災についても十分な記載がある点だ。大阪府北部地震は平日の朝8時頃に発生し、多くの通勤途中の人々が混乱に陥った。東京都のガイドラインにおいては通勤時間中の災害発生についてまでは記載はされていないが、大阪府のガイドラインにおいては「出勤時間帯や規約時間帯に発災した場合など、発災時間帯別の対応についても定めておくことが必要である」と明記されている(「事業所における「一斉帰宅の抑制」対策ガイドライン」P7)。具体的には、以下のようなルールが定められている。

  • 出勤時間帯など発災時間帯別に事業所がとるべき行動
    • A:出勤時間帯に発災
      • 原則、従業員等に自宅待機又は自宅に戻るよう指示。
      • ただし、通勤途中で事業所に近い場合は、職場などで安全確保を指示。
      • 災害対策や業務継続を行う上で必要不可欠な人員は除く。
    • B:就業時間帯に発災
      • 従業員等に施設内待機を指示。
      • 外出中の従業員等は周辺の安全な場所で待機を指示。
      • 来所者を施設内の待機スペースに誘導。
    • C:帰宅時間帯に発災
      • 原則、従業員等に事業所待機又は事業所に戻るよう指示。
      • ただし、帰宅途中で、自宅に近い場合は、自宅などで安全確保を指示。
  • 出勤時間帯や終業時間帯に発災し、しばらくしてから帰宅時間を迎える場合の対応
    • 周辺の被災状況や公共交通機関の運行状況等を把握し、従業員等に施設内待機の指示を継続。

大阪府は大阪府北部地震の教訓があるからこそガイドラインにここまで記載されているが、大阪以外の地域においても、通勤時間中や帰宅途中の地震は起こりうる。普段の取り組みにおいて、他県のガイドラインにまで目を通すことは滅多にないだろう。しかし他の地域で起きた地震について「もし自分が勤務している場所で起きたら」と考えてみることはできる。過去に起きた災害、他の地域で起きた災害を参考にすることは自社の取り組みの改善に役立つ。

大阪府の帰宅困難者対策のサイトには、事業者が取り組むべき対策を紹介するリーフレット動画(※音が出るためご注意ください)が公開されている。企業がどのような取り組みをしなければならないかについてわかりやすくまとめられているので、特に動画は是非一度ご覧いただきたい。

4.3. 愛知県

愛知県や名古屋市においては帰宅困難者対策や一斉帰宅抑制に関する事業者向けのガイドラインは見当たらなかったものの、全体的な帰宅困難者対策については「愛知県帰宅困難者対策実施要領」(愛知県、平成27年3月改訂)が策定されている。「愛知県帰宅困難者対策実施要領」においては、南海トラフで繰り返し発生している地震で規模の大きい5地震を重ねあわせた「過去地震最大モデル」と、東海地震(予知情報又は警戒宣言発令時)が想定されている。「過去地震最大モデル」の地震が発生した場合の帰宅困難者数は、平日12時に地震が発生した場合愛知県全体では約86万~93万人、名古屋市では約43万~48万人と想定される。

「愛知県帰宅困難者対策実施要領」は内閣府のガイドラインと比較すると、各事業者の自助の取り組みとして、事業所の耐震化やオフィス内の什器の転倒防止、備蓄、安否確認、一時待機や帰宅に関する計画作成が推進されていることから、概ね必要な取り組みについてはカバーされているといえる。施設内一時待機等のための備蓄の確保については1~3日間分を目安に行うことと記載されているほか、「備蓄については、行政による公的備蓄や、事業者・学校等のほか、個人での備蓄も促進することにより確保に努める。」との記載がされている。さらに、震災の影響の長期化に備えて3日分以上の備蓄についても検討することが望ましいとされている。

また、「愛知県帰宅困難者対策実施要領」は自動車の利用が多い地域における帰宅についても明記されている点が特徴的だ。従業員の多くが自家用自動車で通勤している地域では、事業者は帰宅経路の安全が確認された後、時差帰宅や自家用車の乗り合いによる帰宅等により、円滑かつ計画的な帰宅を実施することが推奨されている。

そのほか、大阪府のガイドラインと同様に津波についても言及されており、帰宅経路に津波の浸水想定区域がある場合には浸水想定区域を避けた帰宅経路をあらかじめ確認することが求められている。やむを得ず浸水想定区域を通過する場合には津波警報の解除を確認することや、高い建物がある経路を選択すること、移動中の情報収集に努めることも記載されている。

4.4. 福岡市

福岡市では、警固断層帯(南東部)直下型地震が発生した場合、最大約19万人の帰宅困難者が発生すると予測される。「事業所における帰宅困難者対策ガイドライン」(福岡市市民局 防災・危機管理部、令和4年3月)は、全体を通して内閣府のガイドラインに沿って、平時の取り組みとして①計画策定と従業員への周知②備蓄③施設の安全確保④安否確認⑤帰宅ルール⑥訓練について記載されている。企業が従業員等を施設内に待機させる必要がある期間が3日間であり、備蓄量の目安は最低限3日分とされている。さらに、来社中の顧客・取引先などのために、10%程度の量を余分に備蓄することについても記載されている。

また、福岡市のガイドラインにおいても大阪府のガイドラインと同様、「出勤時間帯や帰宅時間帯に発災した場合など、発災時間帯別の対応についても、定めておくことが必要である」と明記されており、「出勤時間帯など発災時間帯別に事業所がとるべき行動」として大阪府「事業所における「一斉帰宅抑制」対策ガイドライン」と同じ内容が記載されている。

4.5. 札幌市

札幌市においては「札幌都心地域帰宅困難者対策ガイドライン」(札幌市都心地域帰宅困難者等対策協議会、平成30年3月)が策定されている。このガイドラインは札幌駅と地下鉄大通駅周辺の特定の地域を対象とし、札幌市の想定地震による被害想定を基に帰宅困難者を想定している。この帰宅困難者には観光客も含まれ、その数は平日で合計約9万6千人、休日で約6万人である。札幌市のガイドラインにおいては、「時間の経過はあくまでも目安」としながらも愛知県と同様に発災1日後以降に帰宅を開始する対応となっている。

4.6. 仙台市

宮城県や仙台市においては事業者向けのガイドラインや指針について県や市のホームページ上には公開されていなかったが、「宮城県地域防災計画 地震災害対策編」(令和4年1月)においては企業が帰宅困難者対策として、従業員等を一定期間事業所内にとどめておくことができるような平常時の広報や、必要な物資の備蓄や建物の耐震化等に努めることが明記されている。

その他に、仙台市では事業者向けに「帰宅困難者対策の基本は「一斉帰宅行動は控える」ことです(事業所等)」というリーフレットが策定され、①一斉帰宅抑制②情報収集と従業員への情報提供③3日分の備蓄等の環境整備④帰宅ルールについて啓発されている。

4.7. 沖縄県

これまで、大規模地震が発生したときの帰宅困難者対策について取り上げてきた。しかし、地震発生時以外にも帰宅困難者の発生は予想される。「沖縄県観光危機管理基本計画」(沖縄県、平成27年3月)においては、災害等により航空機等の運行が停止した場合、多くの観光客が帰宅困難者となる場合が想定されている。沖縄県は本土から離れ、離島が散在するなど防災上不利な地理的条件である上に、台風が頻繁に通過するなど防災上特別な配慮が必要な社会的条件を併せ持っていることも課題だ。帰宅困難者が発生した際には、観光関連団体・事業者は、県や市町村等と連携をして交通機関や道路の状況、緊急時の輸送手段等に関する情報をウェブサイト等で発信することが要請されている。また、帰宅困難に限らず災害に備え、観光関連団体や観光関連事業者に対しては、観光客等の被災者に供給する食料・飲料水、被服寝具などの生活必需品の7日分の備蓄の整備に努めることとされている。

5. こんなときには~引き留めても帰宅しようとする従業員への対応~

従業員に帰宅困難者対策の大切さを事前に説明することはもちろん大事だが、説明したからといって従業員が災害発生後に会社に待機してくれるとは限らない。高齢の家族や子ども、ペットと共に暮らす従業員にとっては帰宅困難者対策よりも自分の家族が無事かどうかのほうが心配だろう。これまで紹介してきた一斉帰宅の抑制についてはあくまで要請や啓発であり、これらをもって従業員を無理に会社にとどめておくことはできない。だからこそ事前に説明を行い、従業員に理解してもらうことが大切になるのだが、いざというときには帰宅したがる従業員が出てくることも考えられる。就業時間以外において、たとえ自治体の帰宅困難者条例があるとしても、帰りたがる従業員を強制的に社内に引き留めておくことは、実際には法的根拠は薄いとされている。

このような場合に備え、従業員に「災害時帰宅許可申請書」などの文書を書いてもらうようにしている企業もある。「会社からは帰宅困難者条例について十分な説明があったものの、家庭の事情などの自己都合により帰宅を申請する。帰宅においては備蓄を確保し、道路の警戒作業や人命救助活動の妨げにならないよう留意する」といった内容の文書をあらかじめ用意しておき、署名をしてもらうことで、企業側が安全配慮義務を果たす努力をしたエビデンスにもなる。本来は、災害発生後の混乱を避けるための事前の備えやコミュニケーションが大切であるが、このように実際に帰宅したがる従業員が出てきた際にどうするかを想定しておくことも有効だ。

6. さいごに

今回は、多くの企業に浸透しているわけではない帰宅困難者対策のうち、特に事業者の取り組みとして重要な一斉帰宅抑制について確認した。過去の災害や地域の特性に応じて多少の違いはあるものの、事前の計画策定とその周知や備蓄、施設の安全管理や帰宅ルールの策定などについては平時から取り組んでおくよう要請されていることを確認できた。

「帰宅困難者対策」「一斉帰宅の抑制」といっても、その具体的な取り組みは、地震による津波が想定されている地域かそうでないか、車通勤が多い地域かそうでないか、さらには主な勤務場所がオフィスか、工場か、店舗かなどによっても変わってくるだろう。何からはじめたらよいか分からない場合は、帰宅困難者の第一歩として、内閣府や都道府県、市区町村のガイドラインの確認から着手されることをおすすめする。国や地域の要請が確認できれば、実際に計画の策定や帰宅ルールの作成、さらには訓練の実施というステップで取り組みを深めていけばよい。防災の取り組みは着手しはじめると際限がないようにも感じられるが、できることから着実に取り組んでいくことが大切だ。

7. 参考文献

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