SPNの眼
総合研究部 研究員 奈須 恭子

1.はじめに
10月1日に、内定式を行った企業も多いと思われます。新入社員が入社することは喜ばしいことですが、近年、新入社員との関り方に悩みを抱える方が多く、当社のHRリスクマネジメント担当のコンサルタントにもしばしば相談があります。
例えば、
- 自分が教わった方法で新入社員を指導しても成長が見られず、本人の反応も薄い
- 伝えたかったことと違う受け止められ方をされてしまった
- 何度、注意、指導しても改善しない
- 配慮した言動を心掛けているが、いつまで気をつかわなければならないのか
- 自分が新入社員であった時と、今の新入社員の感覚が全く異なり戸惑う
など、世代を超えたコミュニケーションにまつわる悩みが多くの組織で生じています。
最近では上司部下の関係性だけでなく、比較的年齢の近い先輩、後輩でも同様の悩みを感じているようです。ただし、世代の差を埋めることはできませんし、必要な指導はしなければ、いつまでもコミュニケーションの悩みや問題は解決せず、職場環境にも影を落とすことになりかねません。
そこで今回は、コミュニケーションの一環として、伝え方の工夫や、組織として大切な姿勢について紹介いたします。
2.若者の傾向
まず若者の全体的な傾向として、株式会社イー・ファルコンが実施している、企業の採用選考に利用されている適性検査eF-1Gの結果から「2026年3月に卒業した学生は、素直さと協調性に長け、自分自身よりも周囲との関係性を重視する傾向が強い一方、判断力、知的好奇心、熱意の項目は低く、ストレス耐性も全体的に強くない」という結果が見られました。また、仕事の動機(モチベーション)に関する分析では、収入や出世といった報酬・地位に関する動機よりも、評価、貢献や成長を重視している傾向がありました。
なお、“熱意が低い”状態とは、やる気がないのではなく、物事を慎重に考え、確実な状況で力を発揮できる状態、特性と言えるでしょう。
次に、慎重に行動する人が多い背景として、Z世代はデジタルネイティブ(※)であり、SNSの影響を強く受けていることが考えられます。SNSは誤った情報や炎上事案にも触れやすく、仕事をする上でも過度に失敗を恐れる傾向を強めています。
(※)学生時代からインターネットやパソコンのある生活環境の中で育ってきた世代
世代による認識の差だけでなく、経験の差によって仕事に対する考え方や価値観が異なることや、世代による特性だけでなく、一人ひとりの個性を見ることが必要ですが「失敗して迷惑をかけたくない」「どこまで自分の判断で動いていいか分からない」という不安がブレーキになっている様子があるならば、会社として求める人物像や、望ましい業務の進め方、チームプレイヤーとして必要なことなどを、具体的かつ明確に伝えることで、自主的な行動につながりやすくなると考えられます。言い換えると、新入社員含む若手社員の成長を促すには、行動や判断の後押しと指導が重要です。
3.どう伝えればよいか
行動の判断、後押しをするには、指導の目的を苦手・不得手な面を改善・矯正することに注力するよりも、相手が自分で考えるサポートをする・苦手を克服させるより強みを生かすことが、育成につながる近道です。伝え方の例として、以下2つを紹介します。
(1)「なぜ」以外で理由を質問する方法
「なぜ?」以外の問い方で相手の考えを聞き出す方法があります。
例えば部下が自分の指摘を聞かずに行動したり、思った行動をとらなかったりした際「なぜこうした/考えたの?」「なぜ言われたことをやらないの?」など「なぜ」と問う質問をしつこく続けてしまうと、聞かれた側は自分の行動や考えを非難されていると感じ、最後は何を聞いても謝罪の言葉しか聞けないなどの状況が生まれてしまうことがあります。
例えば「なぜ言うことを聞かないのか」と聞いたとしても、そもそも言われた本人が指示内容を間違って認識していて話がかみ合わなかったり、他の社員から異なる指示を受けていたりなど、背景事情を汲み取りにくい可能性があります。その様子を見て「この社員は言われたことすらできない、モチベーションが低くやる気がない」と判断し、より指示やコミュニケーションを取りにくくなる懸念が生じやすくなります。
そこで、聞き方を「なぜ?」から「どんなときに?」「いつごろから?」「どんなきっかけで?」など時期や原因について問う質問に変えたり、「どんなふうに?」や「他に関わっている人はいる?」など、聞く内容を分類する聞き方です。例えば、「どんなときに困ることが多い?」「いつごろから今の方法で業務を進めているの?」と聞くことで、部下の考えの他、背景事情を問う質問に変えたりする方法があります。
背景事情を詳しく質問することで、問題を解きほぐして同じミスを起こさない手立てを考えることが肝要です。
(2)Iメッセージを活用する
次に、相手を主語にして伝えるのではなく、自分を主語にして伝える「Iメッセージ」もよいでしょう。自分を主語にすることで、相手を評価や避難するニュアンスを含まず、相手に言葉を受け入れられやすくなることや、自分の要望や感情を伝え、相手に判断を促すため、自主的な行動に繋がる効果があります。例えば、「あなたはなんでこんなことも出来ないの?」と言うのではなく「(私は)あなたならできると期待しています」と言い換えると、伝えたいことは同じでも、受ける印象が変わります。
なお、Iメッセージは伝え方のみの工夫であるため、次は何に注意、工夫すればミスを防げるかなどを問い、相手の答えを引き出すことで、相手の行動や考えを見直す機会を与えることも肝要です。
4.若手社員を含め、組織全体で意識の統一をする意義
重要なことは、若手社員が成長する機会を奪わないように、必要なことは指導して自発的な行動を促すことです。上記の言い方にしなければならないのではなく、一対一の伝え方の他、新入社員研修の一環としてなど、業務の向き合い方や自分に求められている役割、コミュニケーションの方法を組織として示し、共通認識を持たせることも肝要です。
共通認識がない若手社員の悪い例として、以下のようなケースが考えられます。
部下や後輩に任せた業務が時間内に終わっていなかったため、残業できるか聞いたところ「残業の強要はパワハラですよ!」、「残業しなければならないほどの業務を押し付けないでください。今日は定時で帰ります」などの発言をされるなどです。
業務を押し付けることや、到底達成不可能な業務を短納期での提出を強制させることは、パワハラの行為類型のうち「過大な要求」として該当することがあります。この行為類型が独り歩きし、「上司が残業をさせることはパワハラ」と経歴の浅い社員が勘違いをすることは望ましくありません。
これらの認識の違いを埋めるために、ハラスメントに関する研修を、管理職など立場が上の社員のみを対象とした「防止」を目的とするのではなく、階層を分けず全社員を対象とし、何がハラスメントか、なぜハラスメントをしてはいけないのか、認識を統一する取り組みを講じ、全社員に向けて会社の姿勢を伝えることが重要です。
当社が実施しているハラスメント防止を目的とした研修では、ハラスメントの定義などを説明するだけではなく、望ましいコミュニケーションや、ケーススタディを用いたグループディスカッションなどを含めることがほとんどです。このような研修の対象者は管理職者であることが多く、実際に効果を感じていただけることが多いですが、部下側との認識が大きい場合、上司部下間で関係性の構築・改善が思うように進まないこともあります。つまり、指導する立場のみに研修をしていても、指導される部下の側に認識も変わらなければ、両者の溝は埋まりにくいと言えます。
これらの問題を解消しやすくするためにも、前述のとおり若手社員とその他の社員で分断するのではなく、同じ組織に所属する人間として、さまざまな取り組みを通し、会社としての姿勢を従業員に伝え続けることが肝要です。
当社では管理職を対象とした研修以外に、新入社員向けの研修も実施しています。ビジネスマナーなど会社員としての基礎知識の他、ハラスメントについても、正しい知識を習得することを目的に、ハラスメントの定義を丁寧に伝える他、業務における適切なコミュニケーションや、上司や先輩から指導を受けることの大切さを伝えています。ハラスメントに関しては、部下から上司への言動もハラスメントに該当することがあることや、パワーハラスメントは「自分が嫌だから」の主観ではなく「一般的な基準で労働者がどう感じるか」の客観で判断されることも伝えています。なお、罰則など禁止事項を羅列して社員の行動を制限するのではなく、目線を合わせることを目的とした研修を実施することが肝要です。
新入社員ではなく入社後数年経過してからで良いのではと感じたり、若手社員はハラスメント防止に興味がないのではないかと考える方も多いかもしれませんが、講師としては、ハラスメントに対する若者の関心は高く感じます。
「若手社員」ではなく「若者」とした理由は、筆者が大学生向けにハラスメントに関する研修(講義)を実施した経験によります。大学生向けの講義では、コンプライアンスや情報管理の他、ハラスメントに関する内容を扱いました。いずれの講義も関心が高かったですが、ハラスメントに関する講義後、受講生からの感想に「ハラスメントの意味について考えたことが無かったが、会社勤めをする前に知られて良かった」「(マタニティハラスメント・パタニティハラスメントなど)良かれと思ったこともハラスメントになることがあると知ったので、自分の言動も気を付けたい」などの意見を複数いただき、受講生は自分事として受け止めていた印象を受けました。
他に若手社員にハラスメント防止研修をする意義として、筆者が受講した際の経験になりますが、入社時の研修でハラスメント防止についての講義を受けた際、部下の言動もハラスメントに該当すると知り、非常に驚いたことと、教えられる立場ではなく、対等にコミュニケーションを取る必要があると初めて知った経験があります。
このように、ハラスメントに関する関心は年齢や経験に関係なく高く、また経験を積む前だからこそ、素直に受け入れやすい利点があるように思います。そのため、若手社員には業務知識だけでなく、会社としての姿勢や一般常識を含めしてはいけないこと・すべきことを伝える研修をすることが肝要であり、日ごろの業務も円滑に進めやすくなる意義があると感じます。
5.最後に
本稿を通し、対個人だけでなく、組織として働きかけることの効果や意義を感じていただければ幸いです。当社で例年開催している「HRリスクマネジメント祭り」では、コミュニケーション不全を解消したいなど「マイナスをゼロ」にすることに留まらず、コミュニケーションを活性化させたい、職場環境を改善したいなど「ゼロからプラス」にする方法を、セミナー形式でお伝えする他、当社の社員同士でディスカッションする様子を配信予定です。本稿を読み、目線を合わせることの意義を感じた方や、当社の取組みに興味を持たれた方は、是非ご参加ください。
【参考文献】
- 株式会社イー・ファルコン『28卒対策!ミスマッチを防ぐ惹きつけ・内定者フォロー実践~9万人の学生データから見えた「学生プロファイル」~』【引用日:2026年10月5日】
- 宇田川元一『組織が変わる―行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法2on2』ダイヤモンド社, 2021.ISBN978-4-10702-7
- 伊達洋駆『現場で良くある課題への処方箋 人と組織の行動科学』株式会社すばる舎, 2022.ISBN978-4-7991-1000-3
以上



