一歩先行く『内部通報制度』考察

従事者にまつわるエトセトラ

総合研究部 主任研究員 森越 敦

主な研究分野:内部通報、ハラスメント、メンタルヘルス

2022.04.18
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電話をとる会社員

いよいよ6月1日に改正公益通報者保護法が施行されますね。当社にも最近これに伴う問合せが非常に多くなってきました。中でも多いのがやはり公益通報対応業務従事者に関する事です。「刑事罰」というワードのインパクトが強いためか、各方面から「危険」「怖い」「心配」のような、人間の防衛本能としての反応も起こっているような気がします。

そこでシリーズ最初の今回は、「従事者にまつわるエトセトラ」と題して、当社に寄せられた公益通報対応業務従事者に関する様々なご質問の中でも、特に回答に悩んでしまったものをいくつかご紹介したいと思います。ただし、まだ運用開始前の法律のため、今後はその見解なども実情に合わせて変化していく可能性もあります。あくまでも現時点のものとご理解ください。

1.従事者の指定範囲

おそらく一番多い質問がこの内容に関する事ですね。いったいどの範囲まで指定すればいいのかよくわからない!と言う感じでの問合せが多いです。

改正法の条文では

公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務に従事する者(公益通報対応業務従事者)を定めなければならない。

となっており、また「公益通報者保護法に基づく指針の解説」では

  • 事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない。
  • 受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及び当該業務の重要部分について関与する業務を行う場合に該当する

公益通報対応業務従事者の解説画像

となっていることから。

まず、通報の受付をする人は、通報者本人から特定情報の伝達を受けるため、必然的に従事者となるでしょう。さらに調査を行う人も、特定情報を知らずに十分な調査はできないでしょうから従事者となることが殆どだと思います。一方、是正措置とは、不正を俯瞰的、現象的にとらえ、再発防止のために組織やシステム、ルールをどう改善していくか?を考える工程であるため、細かい通報者の情報は不要であるとも考えられます。そこで、主に是正措置のみを行い、且つ特定情報を伝達されない役割の人は従事者指定が不要となるケースも出てくるのではないでしょうか。ただし、ここまで分業されているケースはまれで、基本的に現在通報窓口業務に携わっている方は、すべからく従事者に指定されるのではないかと考えます。

これらを踏まえたうえで、さらに悩んでしまうのが以下の2つのポイントです。

(1)上司など職制上で相談を受ける者はあらかじめ従事者に指定する必要があるのか?

Ans.:必要ありません。

公益通報者保護法では、通報先を「労務提供先または労務提供先があらかじめ定めた者」としていますが、上司はこの「労務提供先」に該当するので、通報窓口のひとつになり得ます。また上司が公益通報を受付ける可能性があるということは、通報者の特定情報を知りうることになるため、前述のルールに従うと、すべての上司は従事者に指定すべきと考えられます。ただし、通報情報を共有する従事者の数が増えるほど、自ずと漏洩のリスクも増えると考えられます。また、従事者には継続的な教育が求められていますが、そのコスト・手間も余計にかかってしまいます。ですから、「全管理職の従事者指定」はあまり良い方策ではないでしょう。ではどうするのが良いでしょうか?当社もこのご質問には悩んでしまい、結局消費者庁に相談しましたが、以下のような運用上のルールを設定したうえで、上司をすぐには従事者には指定しない方法が良いのでは?との回答を頂きました。

その都度、従事者へ指定する方法が良い(消費者庁内部通報コールセンターの回答)

通常のマネジメント業務内で、上司が公益通報に該当しそうな相談を受けてしまった場合は、その時点から従事者に指定される必要性が発生すると考えられます。そこで、上司は遅滞なく指定を行う内部通報を管轄する部署・人へ連絡し、「私を従事者に指定して!」と申し出ることになります。逆を言えば、それまでは指定しなくても良いという事です。その後、通報内容が部署内における軽微なハラスメントや不正であることが判れば、そのまま上司が職権で調査し、是正措置等を図ればいいということになると思います。一方で、企業ぐるみの大規模な不正案件などは、自身の調査能力にも限界があり、処分・是正措置の権限も及ばない場合の方が多いと思われるため、以降の案件のハンドリング自体をその本来受付けるべき部署へ渡してしまうのが妥当であると考えます(もちろん通報者の上司として、その後も一従事者としては関わっていきますが)。ここで注意が必要なのは、他部署へ連携することが範囲外共有とならないよう、必ず通報者の承諾を得ておくということです。課長だから相談したのに…。課長以外には知ってほしくなかったのに…というケースもあるでしょう。

(2)ハラスメント窓口の担当者を従事者に指定する必要がありますか?

Ans.:必要あります。

企業によって内部通報窓口とは別にハラスメント通報の窓口を設けていることがありますが、この場合「ハラスメントは公益通報ではないから従事者指定は不要」と考えて良いのでしょうか?結論から言うと、これは従事者指定する必要があります。一般的に軽微なハラスメントは公益通報にはあたりませんが、それが刑法に触れる場合など、例えば暴行罪や傷害罪、侮辱罪や名誉棄損罪に当たる場合は公益通報となり得ます。しかし、本当にこれらの罪の構成要件にあたる行為があったのかが判明するのは、しっかりと調査を行った後になります。つまり、通報を受付けている段階で、かつ通報者側からだけの情報で、公益通報に当たるか否かを区別するのは不可能に近いと言えます。そのため、原則ハラスメントの窓口に入る通報は、まずは、全て「公益通報となりうるもの」として位置付け、しっかりと保護要件を守りながらその後の調査などを行うことが必要です。すなわち、それに対応する者として従事者指定が必要となるのです。

2.従事者指定の具体的手続き

次に多い質問が、具体的に従事者を指定する方法・手順・ツールなどに関するものです。「指定書の様式がありますか?」のほか、当社のような「外部事業者を指定する場合っていったいどうすればいいの?」など様々です。

指針の解説では、

  • 事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に
  • 就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない。
  • 従事者を定める方法として、従事者に対して個別に通知する方法のほか、内部規程等において部署・部署内のチーム・役職等の特定の属性で指定することが考えられる。後者の場合においても、従事者の地位に就くことを従事者となる者自身に明らかにする必要がある。
  • 従事者を事業者外部に委託する際においても、同様に、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定める必要がある。

とされていますが、具体的なパターンで見てみましょう。

(1)企業内で従業員を従事者指定する場合

いちばん多いのがもちろんこのパターン。この場合は、事業者から従事者ひとりひとりに対し書面(が推奨)にて指定します。また、部署等に対して包括的に指定することも可となっています。この場合は、例えば内部通報規定などで「コンプライアンス推進室所属員全員を従事者とする」と決めたうえで、更に従事者自身に明らかになるようにすることが必要とされています。「規定に書いてあるのだから、この部署に異動してきた=自分が従事者となったと認識すべし」というような曖昧なルールはダメです。これだと明らかに認識できているとは到底言えませんから。少なくとも上司が口頭で、「規程にもある通り、コンプライアンス推進室の所属員は従事者になるからね」と伝える必要があります。これであれば「言ったor言わない」にならないように、同様に個人宛に書面で指定するのが一番簡単でしょう。つまり、結局は個人に書面で指定するなら、組織に対して包括指定する意味合いは小さいと考えます。

従事者指定の解説画像
(2)グループ企業間の従事者指定

複数の子会社を持つ企業体などでは、親会社の窓口を子会社も相乗りで利用するというケースが多く見られます。この場合、親会社の担当者が子会社の通報者の特定情報を知り得ることとなるため、親会社の窓口担当者がその子会社から従事者として指定を受ける必要があります。一般的に、子会社から親会社の従業員が業務の指示や何らかの役割の指定を受けるケースはほぼ無いと思いますが、こと従事者指定に関しては例外となるのです。ここで問題なのが、子会社が何百もある大企業の場合です。仮に親会社の担当者が10人だとすると、何百社×10枚の指定書が「飛び交う」ことになります。しかも、異動の度にそれが繰り返されなければなりません。正直、混乱してしまいそうです。

そこで、これに対応する得策が先ほども登場した部署等に対しての包括指定です。つまり、子会社から「親会社○○部所属員」として指定を受けるのです。しかしこのあとの工程が、前記①の企業内における包括指定の場合とはやや異なります。当社が弁護士と相談しながら考えたのが、親会社と従事者との間で「公益通報対応業務従事者としての誓約書」を交わす方法です。この誓約書には、従事者は指定を受けた子会社のリストを確認し、その子会社の従事者としての職務を行うことを誓約するという文面になっています(親会社は包括指定を行った子会社名をリスト化し、従事者が常に閲覧できるようにしておく必要があります)。「え、誓約書じゃなくて、親会社から指定書を渡せばいいだけでは?」と思われた方も多いでしょう。ダメなのです。法では従事者の指定は「事業者」が行うとなっています。子会社が従事者を指定する場合、「事業者」とは子会社のことです。つまりいくら親会社であっても子会社の代わりに指定をすることはできないのです。この方法でも、従事者自らが「明らかに」従事者であることを認識できるフローとなっているので、法の趣旨に沿った指定の方法と言えます。こちらであれば、前述と同じ場合なら書面は各子会社からの包括指定書と従事者の誓約書10枚だけになり、数は1/10に削減できます。地球にもやさしいですね。

従事者指定の解説画像2
(3)外部に委託している場合の従事者指定

当社のような外部の専門会社に通報窓口を委託している場合も、上記の方法と同じような指定方法がおすすめです。この場合、子会社は親会社の窓口担当と外部窓口への包括指定書2通を作成し、親会社は外部窓口に対して1通の指定書を起票することとなります。

外部委託先も、従事者とは誓約書交わしたうえで、親会社Aを含む全部の企業名をリスト化し、従事者が常に参照できるように提示することになります。

従事者指定の解説画像3

いかがでしたか、正直複雑ですね。グループ全体で窓口を運営している企業で、ここまで整備できているところは、いままで接点を持った企業では、ほぼ無かったと記憶しています。大企業では、親会社やホールディングスが主体となって、子会社含め、一体でひとつの内部通報窓口を運営しているケースが少なくありません。私の勝手な理解では、そちらの方がメジャーではないかと感じています。しかし、「指針の解説」でもあまりグループ一体での運営に沿ったような見解や具体例が示されていません。そのため、各企業ではやや混乱しているのではないかと感じています。同様な内容でお困りでしたらぜひとも参考にして頂ければと思います。

さて次回は、「利益相反の実践的対応を考える」を掲載予定です。ぜひお楽しみに。

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