リスク・フォーカスレポート

広報と危機管理編 第一回(2013.2)

2013.02.20
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「企業の基本的スタンスとしての広報」

広報活動とは何か

 企業にとって広報活動とは何であるか。この答えは組織により、また担当者によって千差万別ではないかと思われる。何故なら、業種・業態・企業規模・トップの広報観の違いなどによって、広報活動とPR活動が混交しているからである。

 混交しているとはおかしな話しではないかと思われる向きもあるだろう。広報・PR活動と一括して呼称するケースも少なくないからだ。ここで改めてパブリック・リレーションズ(PublicRelations)の原義を解説することは省くが、その略語としてのPRが、広報とも、宣伝とも、また宣伝・広報とも、幾通りに訳されてきた経緯があるからである。

 確かに、パブリック・リレーションズという言葉自体には、もともと”宣伝”のニュアンスが付きまとっていた。これは民主主義国家においても、全体主義国家においてもそうである。要は、政府の施策や方針を如何に国民末端にまで浸透させ、彼らからの賛同を得るかという目的に沿って計画されたものだからである。したがって、宣伝の手法やツールの開発は、プロパガンダの進展と軌を一にしている。

 そのような経緯があるため、政府だけでなく、企業においても、広報とPRの区分が曖昧なまま推移してきた。それが冒頭で述べた広報活動に対する回答が千差万別になることの背景となっている。”宣伝”という言葉の響き、そのイメージに内包される二つの側面、即ちマーケティングと情報操作やプロパガンダに関しては、それぞれ本連載中に稿を改めて取り上げるが、特にここでは、千差万別な回答分布の一方を引き延ばすマーケティング(特に広告)と広報の関係を今一度整理しておく必要があろう。

 広告は有料だがコンテンツに裁量が利く、一方広報は無料だが第三者の編集の手が加えられるとの基本的相違はあるものの、この両者は互いの領域を侵食し合ってきた。これは有料・無料を問わない企業の目的達成動機を反映してのことである。できるだけ多くの認知と愛顧を獲得し、購買意欲を刺激し、企業イメージを高めるといった諸目的が共通・相関していることも、相互侵食をサポートした。しかし、広報部と広告(宣伝)部とでは、協力・協調はなされても、それぞれのミッションや業務範囲は自ずから決まっている。

 また、今や大企業や上場企業では、独立した広報部(室)が設置されているのが、当然のことと見られているが、企業広報部の変遷を見ると、マーケティング色の強い宣伝広報部から出発してきたところと、企業防衛的、あるいは”火消し広報”的色彩の強い総務部広報課や秘書(社長)室広報課から出発してきたところの二つに大別される。したがって、両部門の相互侵食の度合いや仕方も、それぞれ”出発”時の姿に多少なりとも影響を受けているともいえるだろう。

広報活動の実際

 そこで、広報コミュニケーションの内訳というか、構成要素について考えてみる。広報コミュニケーションは、その内容と対象によって、大きく次の4つに分かれる(もちろん相互に関連はしているので、コーポレートコミュニケーションを考える上でも有益となろう)。

1.マーケティングコミュニケーション

2.インベスターコミュニケーション

3.マネジリアルコミュニケーション

4.ソーシャルコミュニケーション

※対象となるステークホルダーがダイレクトに顧客であったり、政府や行政諸機関、あるいは金融機関であれば、それは広報部による広報コミュニケーションには属さない。あくまでも、相互補完的サポート機能の発揮に止まらざるを得ない。

 一つずつ説明していこう。まず、一つ目のマーケティングコミュニケーションであるが、これは前段で述べてきたことと直接関係するので理解しやすいと思われるが、新商品・新サービスに関わる広報である。新規事業案件もここに含まれる。これこそ、広報・PRといって差し支えない活動といえる。広報はあくまでも、マーケティング、広告・宣伝、販売、開発等の部署のサポート業務に止まるものの、パブリシティは広報の中核業務であるため、マーケティングコミュニケーションの相乗効果の最大化を狙うことが、広報の使命といえる。因みに、お客様相談室情報も広い意味でマーケティングコミュニケーションに含まれるが、広報業務からは離れる。

 二つ目のインベスターコミュニケーションは、すでにIR(InvestorRelations)として体系化され、そのなかに組み込まれているので、あえて説明は不要であろう。しかしながら、決算発表は、従来から広報の重要な業務の一つであったわけで、財務部や経理部と協力・協調しながら、ずっとIRの一部を担ってきたといえる。さらに、15~16年前ぐらいからになるだろうか、広報・IR部の出現によって、より主体的な役割を担うようになっている。

 三つ目のマネジリアルコミュニケーションは、社内報を中心としたインナーコミュニケーションである。経営方針の浸透・徹底や情報の共有化、社内のベクトルを一致させる役目を負っている。対外的には、人事戦略の公表も含まれる。何れにしろ、このコミュニケーションは各企業の社風や方針によって異なるが、人事部や総務部と広報部との明確な役割分担がなされているべきである。

 また、内部通報情報も広い意味でマネジリアルコミュニケーションに含まれるが、広報業務からは離れる。ただ、当該情報の共有は絶対に必要である。

 四つ目のソーシャルコミュニケーションは、トップインタビューや経営理念の表明・伝達、社会との関係性・CSR活動などが含まれる。さらに、ここで重要なのはリスク/クライシス含めた危機管理コミュニケーションが含まれることである。

 他の3つのコミュニケーションにも共通していることだが、ソーシャルコミュニケーションこそ、信頼性の砦である。仮に不祥事が起きたとしても、情報開示に積極的で、説明責任を十分に果たせば、信頼回復の道は開けるものである。マーケティングコミュニケーションには積極的だが、ソーシャルコミュニケーションは消極的という企業は、メディアからも、社会からも信頼されない。これはメディアの選択(ソーシャルメディアか、既存メディアかなど)の問題にも関連してくるが、信頼性の観点が不可欠なのである。

企業の社会的信頼性とは

 社会的信頼性の高い企業とは人々の日常会話のなかで、「世間にはにこういう企業があってもいいよね」とか「ああいう会社が社会になくてはならない」と言われることで、社会的な受容・容認を受け、さらに期待にまで発展している企業のことを指す。逆に、信頼性の低い企業は、「世の中にああいう企業は存在してはダメだ」と言われ、存続どころか存在すら否定されてしまうような場合である。

 企業広報が広告や宣伝と活動領域を重複させ、先に挙げた他の3つ(マーケティング、インベスター、マネジリアル)のコミュニケーション活動とも連係・振幅しながらも、絶対に広報部でしかできないソーシャルコミュニケーションが広報コミュニケーションの王道であることを常に意識に入れておく必要がある。

 Dそのような意識の下で、新旧メディアの使い分けも考慮すべきである。また、広報部長は、”社会の眼”を持って、トップに苦言を呈したり、諫言することも自らの重要な任務であることを忘れてはならない。

 社会的信頼関係を壊すような広報コミュニケーションなどあるはずはないし、あってはならないのである。また、社会的信頼性の構築なくして、レピュテーションの獲得などあり得ないことも承知しておくべきである。

 マーケティングとの協調や距離感もそのような認識の下に計画され、実施されなければならない。そうすれば、ヤラセやステマなどに手を染めるわけがないのである。それが広報の社会性であり、社会との対話の窓口である広報が、企業総体の社会性を牽引していく中心的役割を担うべきなのである。

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