リスク・フォーカスレポート

内部通報事例から考えるメンタル不調者の雇用について

 当社のリスクホットラインに寄せられた通報件数の合計が、2013年5月に2000件を超えた。
今回は、「内部通報制度をどのように整備するか」という考察の一環として、近年の通報の傾向を切り口に、メンタルヘルスへの対応体制を企業として整えることの必要性について考えてみたい。

1.メンタル不調者からの通報が増加傾向に

 これまでにリスクホットラインで受け付けた通報のうち、半数以上が上司や同僚との人間関係に絡むものである。上司への不満やパワハラを訴える通報の件数がトップを占めるのはリスクホットライン開設以来10年間変わらぬ傾向であるが、通報者側には変化が見られる。

 近年の傾向として一番顕著なのは、通報者のメンタル不調率の増加である。例えば、「こんな主張ばかりしていたら職場内で絶対に上手くやっていけないだろう」など協調性に著しく欠ける通報者からのものや、「アキバの通り魔事件の犯人の気持ちが分かる」、「電車に飛び込む人の気持ちがわかる」など、本人が気付いているか否かは別として、明らかにメンタル不調の「サイン」を発信しているもの、「心療内科に通院していて服薬中」と自ら宣言するものなど、とにかくメンタルに問題を抱えている方からの通報が増えている。なお、そのようなケースは、一見すると、「果たして企業の担当者が時間を割いて対処する必要があるのか」という疑義を感じさせる場合も少なくない。

 また、自分が採用した人材が短期間のうちにメンタル不調に陥り、「採用時にわからなかったのか」と上司から責められたことに対し、理不尽さを訴える通報が散見されるようになったのも最近の特徴の一つと言える。また、採用面接で病歴を隠し、採用後に調子が悪くなって初めてうつ病等とカミングアウトした社員に関する通報も増えている。当社の事例ではないが、中途採用者からメンタルヘルス不調者が続出して苦慮したという企業の例も報告されている。採用担当者が、「どうやったら面接時にメンタル不調者(予備軍)を見破ることができるのか」と頭を抱えている状況が近年の通報から垣間見える。

2.メンタル不調者の雇用に関する企業の立ち位置

 先月、健康日本21推進フォーラムが、「プレゼンティーイズム(※1)」についての調査結果(※2)を発表し、その中で、「メンタルヘルス不調による逸失利益は、1,000人企業で5人の離職に匹敵」という分析結果を公表している(http://news.mynavi.jp/news/2013/04/03/142/index.html)。

 メンタル不調者へのケアには多くの時間と労力を要するのは確かであり、実際、リスクホットライン契約企業のご担当者が対応に割く時間を見ても、通報者がメンタルヘルス不調に陥っている場合には、明らかに収束までにかかる時間が長くなっている。

 以上のような状況から、企業にとって「メンタルヘルス不調者はできれば採用したくない」というのが本音かもしれない。「頻繁に休まれたり、休職されたりでは余計な負担が増えるだけ」という意見にも頷ける。

 しかしながら、では企業はメンタル不調者や精神障害者を採用面接ではじき、採用後に患った従業員は上手く排除して行っていいのかというと当然そうではないだろう。

 先日、「新手のクビ切りが始まっている」という記事を読んだ。そこで紹介されているクビ切り手法とは、「不要社員をうつ病に仕立て、復帰したがっても認めず、休職期間の満了を以って解雇する」というもの。具体的には、

(1)辞めさせたい社員にメンタルチェックを実施させる。

(2)その結果をもとに、会社指定の医師を受診させる。

(3)当該医師が「適用障害」や「うつ傾向」など何等かの病名を付け、休職させる。

(4)休職期間中、当該医師が「業務遂行不可」との診断を続ける。

(5)休職期間満了で自主退職を促す。

 という流れだ。また、「就業規則に”会社指定の医師の診断を受ける必要がある”という一文を入れておけば、会社は社員に業務命令で検診を受けさせることも可能」ともある。そして記事の最後は、従業員側の防衛策として、「メンタルチェックには正直に答えてはいけない」、「会社の指定契約病院は避ける」、「退職勧奨に対して自分から『はい』と言ってはいけない」等、労働者側へのアドバイスで結ばれている。

 昨年は「退職してもらいたい社員を上手く辞めさせる方法」に関するセミナーが大盛況であり、その人気は今年も続いているという。

 メンタル不調者を解雇するかケアしながら雇用し続けるか…このあたりをどう考えるかは企業によって様々であるし、当該社員の不調の程度にもよるだろう。いずれにしても、『現実』と『あるべき論』との狭間で、バランスの取れた判断基準を策定するのは簡単ではない。

 リスクホットラインは常に、通報者と会社側、双方にとって良い結果となることを目標に運営しているが、相手のいる業務であり、確実に『正解』という対応はないため、担当者全員が完璧に足並みを揃えるのはなかなか難しい。

(※1)「プレゼンティーイズム」(Presenteeism)とは、従業員が出社していても、何らかの不調のせいで頭や体が思うように働かず、本来発揮されるべきパフォーマンス(職務遂行能力)が低下している状態のこと。(人事労務用語辞典より)

(※2)同調査は、最近2週間以内に仕事に影響を及ぼした健康上の問題・不調があり、該当症状有訴者および「糖尿病」もしくは「糖尿病」予備群に該当する20~69歳の男女を対象として、(2013年)3月9日~13日にインターネット上で行われ、2,400人から回答を得たというもの。

3.メンタル不調者への対応の必要性

 今年4月、障害者雇用促進法が改正され、企業に義務づけられている障害者の法定雇用率が引き上げられた(民間企業1.8%→2.0%)。また、障害者を雇用しなければならない事業主の範囲が、従業員56人以上から50人以上に変更された。(精神障害者については、雇用義務はないが、雇用した場合は身体障害者・知的障害者を雇用したものとみなされる。)

 なお、同法の障害者雇用率制度に基づく雇用義務を履行しない事業主は、行政指導を受けるとともに、その後も改善が見られない場合には、企業名が公表される。

【平成25年4月1日から障害者の法定雇用率が引き上げになります:厚生労働省リーフレット】

 今回の同法の改正を受け、企業が障害者雇用を増やす動きが広まっている。当社のリスクホットラインに寄せられる通報でも、4月以降、「障害者枠で雇用されている者です」というものが続いており、そのような従業員を専属スタッフがケアするという動きを始める企業も増えつつある。

 国が障害者雇用を進めていく根底には、「共生社会」実現の理念があり、障害者がごく普通に地域で暮らし、地域の一員として共に生活できる社会を実現するためには、職業による自立を進めることが重要としている。

 労働安全衛生法や労働契約法で職場の安全配慮義務等に基づく法令順守の観点からも、組織としてメンタルヘルスへの取り組みに力を入れる必要がある。つまり、メンタルヘルス対策は今や企業の社会的責任と捉えるべきなのである。

 また、従業員が働きやすい職場づくりに企業として注力していれば、労災の防止ひいては訴訟の防止にも繋がり、万一、提訴された場合にも敗訴するリスクは確実に低減する。コミュニケーションが円滑で、よく助け合いが行われる環境は、メンタル不調の発生を抑制するとともに、健康な人にとっても働きやすい職場づくりに繋がり、働きやすい職場は生産性の向上に繋がるのである。

 当社としてはこれらの考え方を尊重し、念頭に置きながら、リスクホットラインを運営している。

 最後に、厚生労働省は、障害者の職場適応および障害者の雇用促進と安定を目的として「ジョブコーチ支援制度」という制度を設けている。この”ジョブコーチ”が行う障害者に対する支援は、企業の上司や同僚による支援(ナチュラルサポート)にスムーズに移行していくことを目指しているとしているため、同制度(企業においては、「第2号ジョブコーチ(※3)」)を活用し、メンタル不調者発生の未然防止、復職支援プログラムの整備を図るなど、よりよい職場づくりに取り組んでいただくことを一案としてお勧めしたい。

(※3)第2号ジョブコーチ

 障害者を雇用する企業に雇用されるジョブコーチです。機構が実施する第2号職場適応援助者養成研修又は厚生労働大臣が定める第2号職場適応援助者養成研修を修了した者であって、必要な相当程度の経験及び能力を有すると機構が認める者が担当します。

【ジョブコーチ支援制度について】厚生労働省

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