リスク・フォーカスレポート

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

内部通報ケーススタディ編 第一回(2014.4)

 今月から毎月第4週目の「リスクフォーカスレポート」は「内部通報ケーススタディ編」となります。全6回にわたりお付き合いいただく予定ですが、初回である今回は、ケースタディの前に、内部通報の現状を把握していただくべく、2003年7月にスタートした当社の「リスクホットライン(他社の内部通報を受け付ける窓口)」の利用状況や通報の傾向等について紹介します。

 そして、第2回目以降は、ケーススタディとしてリスクホットラインに寄せられる通報事例をピックアップして検証しながら、通報への対応と根底にある組織的な問題等について考えていきたいと思います。

第一回「リスクホットラインの利用状況と通報の傾向」

 本項では、当社の「リスクホットライン(以下「RHL」という)」がこれまでに受付けた通報をもとに、企業の内部通報の利用状況と通報の傾向を考察する。

1.基本情報

1)集計時点    2014年3月31日

2)集計対象    2003年7月~2014年3月までのRHL窓口への通報 2,294件(※)

(※)通報件数は、一つの事案としてまとめられた案件の数のことであり、通報者とRHL窓口との間で交わされた総数ではない。通報者との間で交わされたやり取りは1万件を超えている。また、最終的にRHL窓口で保留にして欲しいとの依頼のあった案件はカウントしていない。

3)集計対象企業  50社(累計)

4)通報のカテゴリー区分

 通報は、相談内容に応じて、以下のカテゴリー区分により集計している。

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2.全般的なRHL利用状況

1)通報件数

ア.大項目別の通報件数および割合

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(ア)「上司への不満・パワハラ(40.7%)」が一番多く、以下、「労務・労働契約(19.8%)」、「社内ルール(15.1%)」、「職場環境(11.8%)」の順となっている。

(イ)「上司への不満・パワハラ」に関する通報が一番多い状況は、RHLの開設以来、一貫して変わらぬ傾向であるが、近年の特徴として、明らかに上司に問題がある案件が減少している一方、上司と通報者双方に問題がある案件やどちらかと言えば通報者側に問題がある案件が増えている状況が見受けられる。このことは、上司の立場の社員が「パワハラ」という概念を認識しはじめたこと、および、最近話題の「パワハラか指導か」という問題にも関連するが、怒られ慣れていない若者や著しく協調性に欠ける若者が増えていることによるものと当社では分析している。他方、管理職としての責務や役割を理解していない『上司』が増えている傾向があることも付言しておきたい。

(ウ)2009年のSPNレポート「企業における内部通報制度の取り組み編」でも触れられているが、職場の上司本人が問題の原因である場合、当該職場に潜在するリスク情報が、指揮系統によって抽出されることはほとんど期待できない。このことは、会社は内部通報によってはじめて、職場の上司が遮断している経営リスク情報をも認識することができることを示唆しており、「内部通報制度」が果たしている役割の重要性を再確認できるものとも言える。

イ.人間関係に関する通報とその他の通報件数および割合

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(ア)人間関係に関する通報(「上司への不満・パワハラ」、「同僚の勤務態度」、「セクハラ」)が半数以上を占めている。多くの時間を共にする職場の上司や同僚との人間関係は、日々の生活に大きな影響を与えるものであるため、人間関係の悪化あるいは誰かからの『グサリとくる一言』等がメンタル不調のきっかけとなっているケースは非常に多いと言える。

(イ)人間関係を始めとする職場環境に対する不満は、蓄積されると、生産性の低下や離職率の向上(人材流出)、さらにはネット上でのネガティブな書き込み等、経営に重大なダメージを与えるおそれがあるため、企業が、従業員が働きやすい職場環境を保つように配慮する義務(「職場環境配慮義務」)を尽くして、職場環境の改善に努める必要がある。

(ウ)前回のリスクフォーカスレポートでも述べたが、個人的な不満とも言えるような通報にも真摯かつ適切に対処する風土が出来ている企業では(担当者が費やす労力が大きいものの)、職場環境が年々改善されてきている状況が見受けられる。また、「過労死民事訴訟の被災者側勝訴判例」等からは、従業員が働きやすい職場づくりに企業が配慮していれば、労災の防止ひいては訴訟の防止にも繋がり、万一、提訴された場合にも敗訴するリスクは確実に低減することが読み取れる。

2)通報の特性別のRHL利用状況

ア.男女別の通報件数および割合

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(ア)「不明」はメールによる通報で、匿名性のため、性別が明確には判らなかったものであるが、メールの文面等から、「不明」の内訳も女性の比率が多いと判断している。

(イ)女性からの通報は、正社員よりも、パート・アルバイト・契約社員・派遣社員等の非正規雇用形態の従業員からの通報の割合が多いことが判っている。これは、女性は正社員よりも非正規雇用形態で働いている比率が高いという社会情勢を反映していることもあるが、パートやアルバイトの女性比率が高い店舗や営業所等において、彼女たちと男性店長や社員との間に軋轢が生じており、上司に相談できない状況が内部通報制度の利用を促進させていることも理由の一つと考える。

(ウ)男女別の通報の傾向として、以前は、女性からの通報は、上司が自分の思い通りに動いてくれないことや同僚との不公平感など、自分自身の利益や感情に関係する内容が多く、男性からの通報は不正や組織的な改善を求めるものが多かったが、近年では、男性からの人間関係に関する個人的な不満の通報や労働者の権利を強く主張するような通報も増えており、性別による通報内容の差異がなくなってきている印象を受ける。

イ.通報手段別の通報件数および割合

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(ア)メールよりも電話が多い状況はRHLの開設当初から変わっておらず、電話6:メール4という対比が定着しており、これはスマホが一般的になった近年でも変わっていない。

(イ)通報手段として「電話」を選ぶ理由としては(通報者の話から)、「メール(文章)では上手く伝えられないと思って…」や、「とにかく話を聞いて欲しかった」、あるいは、「思い立ってあまり何も考えずに電話をしてしまった」というものが多いようである。

(ウ)「電話」のメリットとしては、窓口担当者から充分にヒアリングができることや、対応方法について、その場で本人の希望を確認することができる点である。なお、電話による通報でも2回目以降のやり取りは90%以上メールで行っている。

(エ)「メール」は、通報する側からすると匿名性を確保しやすい等のメリットがあると思うが、必要な情報が不足しているものが多く、対応に必要な情報を得るまで、もしくは氏名や所属の会社側への開示の可否の確認するまでに時間がかかるというデメリットがある。

(オ)「その他」の内訳は、「封書」が4件、「WEB」が3件となっている。「封書」の利用が少ない理由としては、FAXと同様、封書が誰の目にも触れず、確実に当社のリスクホットライン担当者の手元に届かないリスクがある(実際に宛名が間違っていて郵便局で止まっていたケースがあり、通報者から確認のメールが来なければ発見されなかったこともあった)ことから、当社が推奨していないためである。「WEB(WEBフォーム)」については、特定の企業の要望で3年ほど前から開始したが、利用は少ない状況である。


 次回からは、個別のケースについて考えて行きたいと思います。

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