リスク・フォーカスレポート

内部通報制度の検証の必要性(1)(2016.4)

2016.04.26
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 みなさん、こんにちは。リスクフォーカスレポートは、今回から2回にわたり「内部通報制度の検証の必要性」をお届けしてまいります。

 今年で公益通報者保護法の施行から10年が経過しました。同法の施行前から内部通報窓口を設置してきた企業や、同法の施行前後あるいは一定期間経過後に窓口を設置した企業、または最近導入の検討をはじめている企業など様々かと思われます。ご存知のように、最近では不正会計問題やデータ改ざん問題にかかわる報道、あるいはコーポレートガバナンスコードの要請もあり、内部通報窓口への注目度はますます高まっています。消費者庁においても「公益通報者保護制度の実効性向上に関する検討会」(以下、「検討会」)が開催され平成27年6月16日の第1回会合を皮切りに平成28年3月22日の第10回まで議論が交わされてきました。

 しかしながら、公益通報者保護制度の議論では、その制度論が中心になっている部分もあり、内部通報制度が取り上げられる際にも同様の傾向が見受けられます。
 当然、こうした議論は非常に重要であり、内部通報制度の適切な運営の根幹を成すものと考えられます。制度論は「内部通報制度の趣旨」とも言い換えることができ、企業ごとに内部通報窓口の設置目的は異なるかと思われますが、根底にあるのは「リスクの早期発見・早期対応」あるいは「組織の自浄作用の発現・維持・強化」でしょう。それは、職場のライン(職制)を通じて解決が図れない場合の手段(含.従業員のガス抜き効果)のひとつ、あるいは外部へのリーク(内部告発)の未然防止、または、その一歩手前での社内解決のための手段とも言えます。

 一方で、本来的には制度論と相まって、実務に関する議論も必要だと言えるのではないでしょうか。しかし、多くの場合、「実務」と言えば、通報を受け付ける際のヒアリング技術がクローズアップされています。いかにして様々なタイプの通報者から多様な情報(性別、年齢、雇用形態、職種、通報に至った経緯や通報のトリガーとなった事象、通報時の感情の起伏など)を聞き出すのか、そうした部分に主眼があるはずです。このような通報の「受付」は、内部通報の入り口として非常に重要であり、この部分が疎かになってしまうと、そもそも本質論に辿り着く前に、内部通報窓口の信頼性・品質・通報背景の再現性そのものが損なわれてしまいます。他方、通報の「受付」はあくまでも、内部通報の第一段階であり、その後の「対応」も「受付」と同様に重要であるという側面があります。

 そうであるにも関わらず、対応にまで言及されることは少ない印象があります。それは、まず通報案件自体が千差万別であり、「対応」を体系化することが難しいことや、内部通報という性質上、(マタ-の軽重を問わず)守秘義務の観点から社内において共有される機会が少ないこと、あるいは同様に守秘義務の観点から同業他社の事例や、同程度の従業員規模(または男女比や正規雇用と非正規雇用の割合など)の企業との横比較ができないことなどが影響しているものと思われます。本来であれば、先に述べた「実務」には、受付のみならず対応まで含める必要があるのですが、前述の検討会の中間報告においても、「一定の知識・能力等を有する担当者の配置」について議論が行われてはいるものの、内容は指摘にとどまっており、”一定の知識・能力”と”社風”や”経営方針”とのマッチングがどうあるべきかなど、今後より深い議論が望まれます。

【提起された課題】

  • 通報受付後の担当者による調査が重要であり、その調査結果を踏まえて改善策を執行するのが経営者の責任。その一連のサイクルが機能してこその内部統制であって、一定の知識・能力等を有する担当者の配置は必要不可欠。
  • 通報が不正事実に向けられたものなのか、会社に対する単なる不満等なのか、その辺りをきちんと聞き取るための窓口担当者のコミュニケーション能力が必要。
  • 調査能力というものがとても重要。主張事実を整理して、証拠で認定して、イエス・ノーを決めるという作業は、普通の企業の人は慣れていない。そういう調査ができる人を育てていくことが制度にとって非常に重要な問題。
  • 窓口は設けているが、担当者に理解がないため、通報がきちんと処理されず、通報した人がかえって二次的被害を受けるという実例が多い。

▼「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」第1次報告書P.16

 内部通報制度の趣旨、すなわち「窓口の設置目的」と「実務」との間に、何らかの齟齬や乖離があるとすれば、内部通報の担当者のみならず窓口の所管部署、ひいては企業全体の問題として捉えていくことが肝要です。そのためには、一定期間ごとの検証が必要になると思われます。ここでいう検証とは、窓口の設置目的と実務のベクトルを同じ方向にしていくことと考えます。本レポートでは、2003年7月から現在までに当社内部通報窓口リスクホットライン(以下、「RHL」)へ寄せられた通報実績を中心に、そうした検証に資する指標がお示しできればと思います。

 今回の第1回は、「通報件数」を取り上げたいと思います。内部通報窓口の運営を検証するにあたり、最初に着目されるのは通報件数でしょう。しかし、通報件数の多寡に対しては確たる判断基準がありません。それは、(前述のように)内部通報自体が、企業風土や窓口の設置目的、あるいは設置方法(社内、社外または併用)といった要因による影響を受けるためだと考えられます。また、自社内での通報件数の推移は把握できたとしても、それが多いのか少ないのかを判断することは難しいでしょう。そうした状況で、今回私共がお示しすることができる指標としては、「100人あたりの年間通報件数」があります。なお、当社RHLは、2016年3月末(以下、「現時点」)において、44社、通報の対象範囲(通報を受け付ける範囲)が80,000人以上となっています。
fig01.png
 グラフの左側に当社RHLのご契約企業数累計の目盛、右側に月別の100人あたりの通報件数(年換算)を算出しております(100人あたりの通報件数については、「対象期間の通報件数÷(対象人数/100)」)。なお、こちらは現時点における当社RHLご契約企業のみの数値となります。ここから読み取れることは以下の通りです。

  • 当社RHLのご契約企業数が増加(内部通報の対象人数が拡大)していくにつれて100人あたりの年間通報件数が一定の幅に収まりつつある
  • 2006年4月から現時点までの10年間における件数は0.50件
  • 2011年4月から現時点までの5年間における件数は0.45件

※本レポートにおいては、集計の都合上、直近5年間の数値「100人あたり年間0.45件」をもとに進めていきます)

 他方、当社RHLのみの数値ではイメージがわきにくいかと思いますので、2015年8月8日に「週刊東洋経済」に掲載された『初公開!「内部通報が多い」100社ランキング』から抜粋して一部加工したものを併せてご確認ください。なお、「単独従業員数」がそのまま対象人数になるかどうかは、各企業の方針(退職者やグループ会社を含める等)によって異なると思われますし、窓口の設置方法(前述のように、社内設置や社外設置の違い)がありますので単純比較はできず、あくまで参考となりますが、今回は「単独従業員数」を対象人数と仮定して、100人あたりの通報件数を算出しております。
fig02.png
 同記事においては、100人あたりの年間通報件数の平均値は2.59件となっています。そのうち(確証はないものの)日清医療食品(4.76件)とNTT(10.97件)は単独従業員数以外にも通報者の範囲を広げていることが推測されますので、当該2社を除外したとしても、平均値は1.08件となりました。
 加えて、当社RHLのご契約企業ごとにも通報者範囲にばらつきがあるため、100人あたりの通報件数を個別に算出しております。(内部通報窓口の新設・外部委託を問わず)RHL導入直後は通報件数が乱高下する傾向も見受けられるため、RHL導入5年以上経過した企業の直近5年間の数値をお示ししておきます。
fig03.png
 さて、貴社の内部通報窓口に寄せられる通報件数はいかがでしょうか。仮に窓口設置当初の想定よりも実際の通報件数が少ない場合には、その原因が、(窓口の設置目的との間に)何らかの乖離を示しているものかどうかを考えてみてもよいかもしれません。なお、参考までに、内部通報が多く寄せられているとされる100人あたり年間1.08件を最終的なベンチマークとし、当面の指標として、当社RHLの平均値0.45件を基準として多寡を判断することも有効かと思われます。

 例えば、社内窓口のみの場合には、通報を受け付ける環境を見直していただくことも有効です。話し声が聞こえる環境で通報を受け付けている場合には、通報者が情報漏洩や通報者の特定、そして不利益取り扱いを恐れて通報を躊躇うことが想像できます。また、社外に窓口を設置している場合でも、弁護士事務所を窓口としている場合には、「完璧な証拠を揃えてから」でないと通報できないのではないかといった誤解が生じている可能性もあります。あるいは、社外の専門機関に窓口を設置している場合でも、「内部不正やインサイダー取引のような重大案件しか通報してはいけないのではないか」といった思い込みがあるのかもしれません。

 このような状況が懸念される場合には、まずは「窓口の周知活動」から見直しすることをお薦めします。「通報者保護」や「不利益取り扱いの禁止」についての内容や、(窓口の設置目的にもよりますが)通報内容を限定し過ぎず、ある程度どんな内容でも受け付ける旨を盛り込み、その点を重点的に周知していくことも有効かと思われます。加えて、周知活動については、量と質の視点を持っていただきたいと思います。すなわち、周知活動の量とは、周知用ポスターを社内の各所に掲示しておいたり、名刺サイズの周知用カードを配布したり、あるいは内部通報に関する説明会を実施したりする方法が考えられます。

 一方、質について考える際には、例えばポスターであれば休憩室や洗面所など、窓口の電話番号やメールアドレスを誰にも見られずにメモできる場所に掲示する方法もあります。

 また、説明会においては窓口の存在を周知することだけではなく、通報時の留意点や、通報者探しの禁止・不利益取り扱いの禁止・守秘義務について言及するなどの工夫が検討されるべきでしょう。なお、説明会においては、一般職を含めた全社員を対象とする説明会なのか、管理職者のみを対象とする説明会であるかによって、説明のポイントが異なります。前者のように一般職を含めて全員という場合には、窓口の認知度向上を主眼に置く必要がありますが、後者のように管理職者のみを対象とする場合には、以下の4点を踏まえていただくことが望ましいものと考えます。

  • 管理職者も通報をし得る立場と捉え、一般職同様に窓口の認知度向上を図る内容であること。
  • 管理職者は、実際にはどうしても通報内容において「加害者」とされることが多いと言えます。仮に加害者とされた場合にも、「会社は通報者の話を100%鵜呑みにすることなく、中立的な立場で話を聞くので、万が一通報内容において問題視された場合にも正直に話してほしい」旨をお伝えすること。同時に、「守秘義務」、「通報者探しの禁止」および「不利益取り扱い(報復行為等)の禁止」について徹底するよう指導する必要があります。
  • 管理職者は、通報内容の事実確認の際、当事者ではなくてもヒアリング対象となることがあるため、「守秘義務」について説明することも肝要です。
  • 管理職者として、まずは職場のライン(職制)を通じて解決すべき問題から逃げないことの重要性を再確認(身に覚えがあるかどうかなど)させたうえで、管理下の社員に対して通報を奨励することが職場環境の改善につながるという指導も必要です。職場のラインと通報の奨励は、どちらが欠けても内部通報、ひいては企業の内部統制に悪影響を及ぼすことを認識してもらう必要があると考えます。

 こうした指標が貴社の内部通報制度の検証の切り口のひとつとなれば幸いです。今回は「通報件数」について取り上げました。次回は通報の「カテゴリー」についてお届けしたいと思います。

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