リスク・フォーカスレポート

ソーシャルメディアリスク編 第四回(2013.12)

2013.12.18
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1.青少年のネットいじめ

 2013年6月に国会で成立した「いじめ防止対策推進法」が9月28日に施行されたことを受けて、文部科学省は法律の具体的な運用方法などを示した「いじめ防止基本方針」(10月11日付)を全国の教育委員会などに通知した。同方針により、同法に基づくいじめ防止対策が各学校で取られることになる。

 「法律でいじめはなくならない」など従来からの懐疑的見方もあるが、いじめの防止を学校の責務として明確化し、各学校にいじめ防止対策を法律で義務付けたことには大きな意義がある。これによって学校は、組織的にいじめに対応する法的責務を負うことになり、「学級担任が対応できなかった」「いじめの存在を把握していなかった」などの言い訳ができなくなる。

 また、文部科学省は平成26年度予算の概算要求で、いじめ防止策の推進費として93億円を盛り込む方針を決めており、スクールカウンセラー配置の充実、深刻化する「ネットいじめ」の対策に取り組む自治体への財政支援を新たに盛り込んでいる。これは、25年度予算の約1.7倍に当たる規模であり、インターネット上の掲示板や会員制交流サイト(SNS)を定期的に監視し、児童生徒に関わる悪質な書き込みを見つける「学校ネットパトロール」に取り組む自治体に対しては、人件費や外部委託にかかる経費の3分の1を補助するとしている。

 ネットいじめの被害に遭った児童は、自分に対する誹謗中傷がネット上に記録されてしまうため、長い間、心の傷に苦しむことになる。特に、「学校裏サイト」と呼ばれている児童・生徒や卒業生などが開設して管理する掲示板やブログが、ネットいじめの温床になっていると言われている。多くの親は自身がネットいじめを経験したことがなく、具体的な対策が家庭内でも講じられていないのが現状である。まずは、こうした新たな形態の精神的虐待から子供を守るため、いちばん近くにいる親や学校がネットいじめの特徴や兆候を知り、対策を施し、心のケアをしてあげることが重要になるといえる。

【ネットいじめの特徴】
      • 掲示板やブログに、特定の生徒の誹謗・中傷や挑発などを書き込む
        (例:「A組の○○、死ね」「B組の○○は淫乱」「C組の○○は万引きしてる」・・・等)
      • 特定の生徒のプロフを改ざんする
      • 掲示板やブログ、プロフに特定の生徒の個人情報を載せるという嫌がらせ
        (例:電話、盗み取りの写真や動画・・・等)
      • 特定の生徒になりすまして、インターネット上で違法な書き込みをしたり、他人にいたずらメールを送ったりする
      • 特定の生徒についての悪口のメールをクラスメイト全員に送ったりする

参考:文部科学省「ネット上のいじめ」に関する対応マニュアル・事例集(学校・教員向け)(平成20年11月)

2.ネットいじめの場

 「ネットいじめ」は、携帯電話等を用いて「掲示板」などのインターネットサービスを中学・高校生が利用出来るようになってから深刻化したとされる。

 「学校裏サイト」は、もともとは同じ学校の児童・生徒が集って情報交換を行うための、いわゆる普通の「インターネット上の掲示板」だった。しかし、学校全体の誹謗中傷だけでなく、個人への誹謗中傷が匿名で書かれるようになっていき、文字通り「裏サイト」として現在の名称が定着するに至った。

 ネットいじめは、顔が見えず基本的には匿名で行われる。その性質ゆえに、ターゲットの子供の実名を挙げて脅かしたり、誹謗したり、侮辱したりと集中的に、かつ集団による攻撃がエスカレートしていく。また、前述の「学校裏サイト」では、パスワード設定やアクセス制限(携帯電話からしかアクセスできない等)があり、外部から簡単に閲覧できないようになっている。そのため、学校や保護者がすべてのサイトの存在を確認することは非常に難しく、さらに、こうしたいじめはスマートフォンやタブレットの普及とともに増加傾向にあるのが現状である。

 しかしながら、この学校裏サイトのような、いわば学校ごとにまとまったサイトについては、プロバイダ等の協力や監視専門業者もあって、ネット上での監視や、問題となる投稿削除等の対策が一定程度の功を奏し、比較的早期に発見されるようになった。一方で、最近ではプロバイダや管理者が見つけ難い小規模なフィールドへ移行する傾向が見られる。

 例えば、今、中高生に最も利用されているLINEには「グループトーク」という機能がある。これは特定のグループ内の人だけが見ることができ、書き込むことができる”談話室”のようなものである。本来は仲の良い友達同士が集まって、楽しく過ごせるコミュニケーションスペースのはずであるが、反面、仲間はずれにした人の悪口を言い合うのにも適しているため、そのような目的で利用されるケースが増えている。

 「グループトーク」で書き込まれたことは、学校裏サイトや掲示板のように不特定多数の誰でもが見られるわけではない。それこそ仲間内だけで閲覧されるため、内輪ウケを狙ったより陰湿な「陰口」がこの「グループトーク」上でやり取りされるようになっている。そしてこの「仲間はずしは、ある日突然に自分がグループから外されたり、知らないうちに新しいグループが作られ、自分が誹謗中傷のターゲットにされたりもするのである。

 このようなLINEを始めとするソーシャルメディア上でのいじめは、決して新しいものではなく、従来からの「仲間はずし」に基づくいじめと同等・同質のものといえる。

 これまでは、インターネット上で多人数との情報交換をする場合、一般には「掲示板」が主であり、不特定多数の、ほとんどが顔も知らない人との情報交換であった。

 しかし、現在の主なコミュニケーションツールであるソーシャルメディアは、人との関係性に重点を置いたサービスである。

 実際の社会と同じく、知り合いや友人関係、職場、学校関係、親族といった様々な関係性の上に、ソーシャルメディア内の交流も成り立っている。つまり、仲間内の関係性というものをネット上に容易に構築・移行・退避することができるコミュニケーションツールであるといえる。

 それゆえに、ソーシャルメディア(特にSNS)は、青少年が「仲間はずし」を行うには絶好の条件下にあり、潜行型・隠匿型の悪意ある「いじめ」に最も利用されやすいツールとして暗躍しているのである。

【ネットいじめの主な原因】
      • 言葉の影響力への無自覚
        子供たちの大半は自分の言動が被害者に及ぼす影響を自覚していない。いたずら心で始めた行動が雪だるま式に膨れ上がり、やがて子供たちのコントロール範囲を超えてネットいじめへと発展する。こうなると、もはや彼ら自身では制御不可になる。
      • 匿名性と万能感
        電子掲示板やブログなど、匿名性を持つソーシャルメディアを使用することで、子供たちは身分を隠したまま他人を攻撃することができ、あたかも自らが権力者であるかのような薄っぺらで偽りの優位感を持ち、ますます攻撃がエスカレートしていく。
      • 嫉妬・恨み・仕返し
        リアルないじめと同様、ネットいじめでも嫉妬・恨み・仕返しは主な要因である。また、家庭で虐待を受けていたり、攻撃的なグループに属していたりする子供がそうした行動をとりやすい傾向があるとされており、これらは幼年期のDV体験によるトラウマや錯綜したコンプレックスの暴発であることなどが専門家から指摘されている。

 SNSでのコミュニケーション、つまりユーザーが情報発信する先のインターネット空間は仮想空間ではない。永遠にその記録が残る上に、個人の氏名のみならず、家族や友人の個人情報も明らかにされることもあり、いまや現実社会と密接に結びついている。リアルとバーチャルが表裏一体になっていると言ってもよい。

 今現在「仲間はずし」をしている側が、時を経て社会人になる頃、その記録が掘り起こされて、逆に社会的な批判を浴びる可能性も充分にある。そうなれば、もはや、若気の至りでは済まず、要職に就いた人ほど大きな問題として取り沙汰される可能性が高くなるのである。

 ネット上でのいじめに限らず、仲間はずれや差別、陰口の類いが、いかに陰湿で卑劣な行為なのかを、折に触れて教える環境や手段を今後より一層充実させるべきだと考える。また同時に、今後、青少年自身が「いじめ」について考える機会を増やしていくことも不可欠であろうし、幼少期の情操教育等が重要なことは言うまでもない。

3.ネットいじめの兆候

 ネットいじめから子供を守るためには、その兆候に早く気付くことが重要である。また、そうした兆候の幾つかは、他の背景・要因とも相互に、かつ密接に関連している可能性があることも念頭において、子供の様子を注意深く見守ることが大切であるといえる。

 悪意のある投稿や嫌がらせのメール、恐ろしいメッセージに直面した子供たちが心に受ける傷は長く残る。極度の孤独感に襲われうつ状態になったり、家庭で攻撃的な行動を取ったり、神経が衰弱し、現状を悲観し、将来に絶望して自殺を考えることさえあり得るのである。事実、そのような悲劇的な事例が全国各地で生じている。

 ネットいじめから子供を守り、新たな被害者、そして加害者を生まないために、オンライン上で友達や他人をからかったりしないことや、知らない人とはチャットしないこと、いじめには絶対に反応しない、また参加もしない勇気を持つことなどを子供たちに一つ一つ教えていかなければならない。それこそ、親や教師など大人の重大な責任であろう。

 また、Facebookやブログ等で個人情報を公開しすぎていないかにも十分注意する必要がある。万一、子供がネットいじめの被害者になったら、IDとパスワードを変更するか、きちんと説明・説得し、しばらくの間すべてのオンライン活動をやめさせるべきである。

 それ以前に、親は絶対に子供の前で、家族や近所や学校関係者の悪口・陰口・誹謗中傷などを口にしないことである。子供は親の一挙手一投足を見つめているのである。親が子供の期待を裏切って、どうするのか。

 ある程度の年齢に至るまで、子供を一人にさせず、親がそばにいてしっかり保護し、慰め、支えになってあげること、これは親以外には一体誰もできないことなのである。

 但し、親自体が幼少期に辛い体験をしている場合もある。親に対する社会的教育・救済の機会を設けることも待ったなしの課題なのかもしれない。

 また、家庭内・学校内のみならず、職場内のいじめやブラック企業的体質の改善も同様に急がれる。子供社会は大人社会の写し鏡であることを、私たち大人は肝に銘じなければならない。

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