暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.金融検査結果事例集の公表

1) 反社会的勢力情報の活用

2) 取引の未然防止

3) 反社先に対するモニタリング

4) 取引解消に向けた取組①

5) 取引解消に向けた取組②

6) マネー・ローンダリング防止への取組(システム検知基準)

7) 反社対応部門とマネロン対応部門間の連携

8) スクリーニング

2.最近のトピックス

1) 平成26年警察白書

2) 平成26年上半期の特殊詐欺事案の状況

3) マネー・ローンダリング対策等に関する懇談会報告書

4) 最近の不祥事案から

5) 薬物関係

6) 企業実務に関するトピックス

7) その他

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 勧告事例(山梨県)

2) 勧告事例(大阪府)

3) 福岡県暴排条例の標章制度

1.金融検査結果事例集の公表

 前回は、金融庁の「金融モニタリングレポート」を取り上げましたが、その内容は、金融庁による立入検査(オンサイト・モニタリング)と立入検査以外の情報収集等(オフサイト・モニタリング)の両面から得られた結果や課題について報告されたものでした。

 今回は、これに加え、オンサイト・モニタリングの結果である最新の金融検査結果事例集が公表されていますので、その中から、反社会的勢力への対応やマネー・ローンダリングへの対応に関する指摘内容について確認していきたいと思います。

 ▼ 金融庁「金融検査結果事例集(平成25事務年度版)」

 この1年の金融モニタリングにおいては、反社会的勢力への対応を含むマネー・ローンダリング防止対応や、不公正取引等や不適切な新規業務の防止、不祥事件への対応等について検証を行っていますが、ここでは、とりわけ、事前審査や事後管理態勢等の問題や部署間の連携不足の問題などが抽出されているほか、地域銀行や信用金庫等に対する指摘のレベル(要請レベル)が上がっていることがうかがえる点が注目されます。

1) 反社会的勢力情報の活用

 総務部門が、警察等から送付される捜査関係事項照会書について、反社と認定する上で十分な情報とはなっていないとして、当該情報を反社に該当しないかどうかの検証に活用していない事例(地域銀行、大中規模)

 同行では、「反社対応規程」に基づき、全国銀行協会(全銀協)からの配信情報や新聞等の公知情報及び営業店等が営業活動を通じて取得した情報を必要に応じて警察に照会し、その結果を基に、同行が反社会的勢力と認定した先を反社データに登録するという取組みを行っていたとのことです。

 このように反社データベースの構築としては十分な取組みをしていながら、結果的に、捜査関係事項照会書のうち、疑わしい取引の届出を行った先について検証したところ、既存取引先の中に、新たに反社会的勢力が認められたというものです。

 反社会的勢力の端緒は日常業務に潜んでいることを認識させられる指摘事項であり、捜査関係事項照会という犯罪に関与した可能性の高い者の情報であることから、反社会的勢力の関与を疑うべき状況であったことは間違いありません。社内規定上、明記されていなかったのかもしれませんが、他にも出処が様々な端緒情報があることをふまえれば、もう少し反社会的勢力の情報収集に関する深い理解や柔軟な運用が求められると言えます。

2)取引の未然防止

 総務部門が、反社データの登録範囲を当行が営業店を有する都道府県に限定しているが、インターネット支店を開設し、全国から預金を募集している中、反社データの登録範囲を拡大すべきかどうかについて検討を行っていない等の事例(地域銀行、大中規模)

 「営業エリアの拡大」「ネットバンキング」の2つの切り口(すなわち「営業領域の拡大」)におけるセキュリティレベルの強化の必要性については、前回のコラムでも指摘した通りです。

 本件の指摘事項は2点あり、統括部門と内部監査部門の両部門にその指摘がまたがっていることに注意が必要です。

    • 総務部門は、情報を持ち合わせていない営業エリア外における反社との取引に応じてしまうこととなるリスクを踏まえ、反社データの登録範囲を拡大すべきかどうかについて検討を行っていない
    • 内部監査部門が、反社データの登録範囲が適切かどうかといった、リスクベースの監査を行うには至っていないいる

3) 反社先に対するモニタリング

 コンプライアンス統括部門が、反社の口座について、不審な動きがあれば優先的速やかに解消するといった観点から、営業店に口座の動きに着目したモニタリングを実施させていない事例(地域銀行、中小規模)

 同行では、既存の取引先が反社会的勢力であることが判明した場合には、営業店に、当該取引先の取引の推移を監視させることとし、半年ごとに、取引残高等(取引経緯、取組方針等)を報告させ、管理することとしていたようです。

 これだけの取組みをしながら、反社の口座については、営業店に口座の動きに着目したモニタリングを実施させていない、つまり、口座取引の事後検証の取組みが不十分との指摘となります。同行が、口座取引への対応を後回しにしていた可能性もありますが、反社会的勢力の口座かどうかを注視していくことは、警察に照会しても「クロ」であるとの確証を得ることが困難な現実をふまえれば、極めて重要な取組みです。さらに、生活口座としてだけの利用なのか、あるいは、反社会的勢力の活動に利用されているのかといった実態を把握し、その後の対応の優先順位を検討する材料にもなることからも、適切にモニタリングしていく必要があります。

4) 取引解消に向けた取組①

 総務部門等が、「取引状況を継続的に監視する」との取組方針としていたカードローン契約における既存反社先に対して、同契約の期限到来時において、当該取組方針を見直すなど取引解消に向けた検討を行っていない事例(地域銀行、大中規模)

 取締役会が、カード会員の一部が反社会的勢力に該当することを把握しているにもかかわらず、キャッシング及びローンの利用実績がないことなどから、当該会員に対して、社内規程に基づく資金提供の防止や取引解消に向けた検討を行っていない事例(貸金業者)

 例えば、前者においては、同契約の期限到来時において、銀行あるいは顧客のいずれか一方の申出があれば同契約を解消できるにもかかわらず、当該取組方針を見直すなど取引解消に向けた検討を行っていなかったとの指摘となりますが、結果的に、当該契約が自動更新されている事例が認められるほか、極度額内での利用が行われている事例も認められるとされています。後者においても、事象としては同様のことが指摘されています。

 本件に限らず、契約更新時における謝絶が実務上はもっとも良いタイミングだと考えられますが、一方で、それをそのまま更新してしまうこと等により、「継続的な取引」と認められて解約権が制限されてしまう可能性があることも念頭に置いた対応・検討が求められます。

 「継続監視」が、「関係の固定化」を意味するものでなく(ましてや関係の継続を前提とするものでもなく)、あくまで、取引解消に向けて(取引解消を想定して)タイミングや証拠収集を図るプロセスであることを忘れてはなりません。

5) 取引解消に向けた取組②

 取締役会が、反社会的勢力であることが判明した取引先について、トラブルを懸念したことをもって、漫然と極度方式貸付けを維持している事例(貸金業者)

 取締役会は、「反社会的勢力排除規程」を策定し、取引先が反社会的勢力であると判明した場合には、審査部門に対して、コンプライアンス部門との協議の下、対応方針を策定させ、取引解消を図ることとしていたにも関わらず、今後の対応方針を検討することなく、極度方式貸付けを維持しているとの指摘がなされています。

 このように、反社会的勢力を「認知」したにもかかわらず、関係解消に向けた道筋を「判断」しない状況は、正に「放置」にあたります。社内規定に基づき、少なくとも「関係解消に向け取引を縮小する」といった判断を行うべき状況であったものを、取締役会の「不作為」によりそれが「放置」されたとの構図であり、コーポレート・ガバナンスや内部統制システムに重大な問題が認められる事例であるとも言えます。

6) マネー・ローンダリング防止への取組(システム検知基準)

 コンプライアンス統括部門が、疑わしい取引の届出を行った事例の端緒等を把握・分析しておらず、システムの検知基準が適切なものかどうかの検証を行っていない事例(地域銀行、大中規模)

 補足すると、疑わしい取引の届出を行った事例の端緒等(外部情報入手、システム検知等の端緒別件数やその推移)を把握・分析しておらず、システムの検知基準が適切なものかどうかの検証(例えば、外部情報を端緒として届出を行った事例について、システムで検知できなかった原因の検証)を行っていないとの指摘となります。

 アンチ・マネー・ローンダリング(AML)におけるシステム検知の手法においては、100%検知できるシステムは存在せず、実行者の手口が日々ますます高度化・巧妙化している現実をふまえれば、PDCAサイクルによってその精度を高めていくことが求められます。このような検知の失敗例は次の改善につながるという意味で貴重な情報であり、十分に活用されるべきものだと言えます。

7) 反社対応部門とマネロン対応部門間の連携

 事務統括部門が、「凍結口座名義人リスト」の掲載情報をコンプライアンス統括部門へ提供していないことから、コンプライアンス統括部門において当該情報を反社データに登録するか否かの検討が行われていない等の事例(信用金庫及び信用組合、大規模)

 同行では、コンプライアンス統括部門が、営業店等から集約した反社会的勢力情報を基に反社データを作成しているほか、事務統括部門から「疑わしい取引の届出一覧表」の報告を受け、振り込め詐欺等を行っている届出対象者について反社データに登録している取組みを行っていたものの、

    • 疑わしい取引の届出対象者が法人である場合には、当該法人を反社データに登録するにとどまり、当該法人の代表者について検討していない
    • 事務統括部門は、「凍結口座名義人リスト」と合致する取引先があることを把握しているにもかかわらず、参考情報としてコンプライアンス統括部門へ提供していない

 といった指摘がなされています。

 法人を反社会的勢力としてデータベースに登録するにあたっては、商号が今後変更される可能性や、「真の受益者」である反社会的勢力における「最終的な受益者」が自然人(個人)に帰する実態をふまえれば、役員等の個人名も参考情報として登録すべきであると言えます(ただし、登録範囲は企業の考え方や業種・業態、取引規模等によって異なります)。

 また、「凍結口座名義人リスト」に限らず、何らかの犯罪に紐付く情報であれば、反社会的勢力の関与を想定しながら、「関係をもつべきでない相手」としてのデータベースに登録しておく必要があります。「グレー」情報であり、あくまでリスク情報と位置付けて、今後のスクリーニングで該当した時点で、総合的かつ個別にリスク判断していく姿勢が重要となります。

8) スクリーニング

 コンプライアンス統括部門が、協会DBによる反社チェックの開始以前の契約について、チェックを行っていない等の事例(生命保険会社)

 同生保においては、上記以外にも、代理店登録を所管する営業支援部門は「代理店の募集人」について、外部委託管理部門は「外部委託先」について、それぞれ反社チェックを行っていないとの指摘がなされています。そして、現実に、保険契約者等及び募集人について、協会DBと照合したところ、多数の反社会的勢力の疑いがあるものが認められたとされています。

 同生保が反社チェックの範囲をここまで限定していた理由は不明ですが、保険契約者(被保険者、保険金受取人)の全件チェックも「適切な事後検証」の具体的対応策としては今や必須であり、募集人や委託先のチェックも当然実施しておくべきものです。チェックの実務がコストや労力の観点から疎かになっていたとすれば、反社会的勢力リスクを過小評価している点も含め、リスク管理のあり方自体に問題があったと言えます。

2.最近のトピックス

1) 平成26年警察白書

 ▼ 警察庁「平成26年警察白書」

 刑法犯の認知件数が平成14年をピークに一貫して減少しているなど、犯罪情勢には一定の改善がみられるほか、殺人や強盗を始めとした重要犯罪の検挙率も14年以降改善傾向にあります。また、窃盗犯の検挙件数は、過去20年間で大きく落ち込んでいます。

 一方で、振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺の被害総額は過去最高となり、また、従来の薬物犯罪に加え危険ドラッグリスクの顕在化や、サイバー犯罪の多発やサイバー攻撃が相次ぐなど、サイバー空間における脅威が深刻化し、治安上の新たな課題となるなど、警察捜査は大きな課題にも直面しています。

 そのような社会情勢の変化や制度の変革に伴う環境の変化に対応していくことが警察には求められており、容疑者のDNA型データベースの拡充や会話傍受など新たな捜査手法の検討が必要な状況にもなっています。

 個々のカテゴリーに関する現状については、暴排をテーマとする本コラムでも可能な限り取り上げていますが、犯罪者の特定がますます困難になっている状況(不透明化・潜在化)やその手口が高度化・巧妙化・洗練化されている状況、技術等の進展により新たな形態の犯罪への対応が(法律等の規制に先んじて)求められている状況は、警察に限らず、一般の事業者にとっても認識する必要があります。今後、ますます、社会情勢の変化や環境の変化を敏感に感じ取って、事業の継続や健全性、役職員を守るために、正しいことは何かを常に見極めながら柔軟に対応していくことが求められています。

2) 平成26年上半期の特殊詐欺事案の状況

 今年上半期(1~6月)の振り込め詐欺など「特殊詐欺」の被害総額が前年同期比26.5%増の268億2950万円に上り、年間として過去最悪だった昨年の489億4949万円を上回るペースで推移するなど、大変深刻な状況となっています。

▼ 警察庁「平成26年上半期の特殊詐欺認知・検挙状況等について」

 とりわけ、振り込み詐欺全体で、認知件数が前年同期比21.8%増、被害総額が同48.1%増と深刻な状況が続いています。また、その中でも、「架空請求詐欺」が、認知件数が同90.8%増、被害総額が同183.6%増と大幅に増加している点が特徴的です。これは、レターパックや宅配便を使って現金をだまし取る「現金送付型」の被害が増えたことが原因だと考えられます。

 また、大規模な個人情報漏えい事案でもクローズアップされた「名簿屋」ですが、この特殊詐欺事案においても、名簿屋からの購入や犯行グループ間での使い回しなどで架電先個人情報が調達されていることが知られています。つまり、個人情報の転売行為や名簿屋の活動を規制する何らかの取組みが喫緊の課題であると言えます。

 また、警察では、押収名簿を活用した電話や訪問などにより、特殊詐欺への注意喚起を行うことで被害防止に努めており、一定の成果もみられるようです。

 なお、特殊詐欺で検挙された暴力団構成員等は360人で、前年同期に比べ54.5%増加し、特殊詐欺の検挙人員全体に占める割合も39.3%と前年同期に比べ10.5ポイント増加しています。従来は、暴力団は全面に出ることなく、実際には、準暴力団(半グレ集団等)や特殊知能暴力集団等が犯行の主体として活動している状況がうかがえましたが、最近では、暴力団員が自ら詐欺を敢行する事例や主犯格として摘発される事例などが増えており、これらの傾向が数字の面からもうかがえます。

3) マネー・ローンダリング対策等に関する懇談会報告書

 前回の本コラムで、AMLやテロ資金供与対策(CTF)を目的に設立された多国間枠組みである「FATF(金融活動作業部会)」が日本に早期の対応を求める異例の声明を出したことをお伝えしましたが、それに呼応するように、今般、AML等に関する有識者懇談会が報告書を公表しています。

▼ 警察庁「マネー・ローンダリング対策等に関する懇談会 報告書」

 本報告書では、例えば、本人確認手続きにおいて、写真なし証明書類を顧客が示した場合は、顧客の住居にあてて転送不要郵便で取引文書を送付する、異なる本人確認書類や公共料金の領収書などの追加書類を求めるなどの「補完的な確認措置」を行う必要があると提言しています。

 また、「真の受益者」の特定については、平成25年4月の改正犯罪収益移転防止法(改正犯収法)施行である程度のところまで義務化されたものの、FATFは「自然人まで遡る必要がある」等と指摘していることや、法人の透明性の確保が世界的な課題となっている中、日本もそのための行動計画(以下参照)を策定していることもあり、FATFの指摘に沿った対応が求められるとしています。

▼ 外務省「法人及び法的取極めの悪用を防止するための日本の行動計画(仮訳)」(平成25年6月)

 反社会的勢力排除の観点からは、点ではなく「面」で対象を捉えながら「真の受益者」を導き出すという、本来の反社チェックに近づくと言う意味では、大変有意義な方向性であると評価できますが、事業者には相当な負担がかかることが明らかであり、法的な新たな制度の設計においては慎重さも求められます。

 「継続的な顧客管理」の観点については、FATFは、事業者に対し、業務関係を通じて継続的に取引を監視・精査することなどを求めているところ、改正犯収法では「疑わしい取引」の届出義務や顧客の取引時確認事項の最新性を保つ義務を課すことで、「間接的に継続的な顧客管理を求める」にとどまっています。

 今後、法令として明文化するよう求めるFATFの指摘に沿った対応となると思われますが、この視点は、金融庁の監督指針改定のポイントでもある「適切な事後検証(中間管理、モニタリング)」と同様のものであり、今後、既存取引先における継続的な監視のあり方は、双方の実務にとって共通の課題となり、効率的な運用のために可能な限り両者を一体のものとして捉えながら取り組むことが求められていると理解する必要があります。

4) 最近の不祥事案から

 最近の大規模な個人情報漏えい事案や中国食品工場からの輸入食品の安全性確保の問題などは、「委託先管理の脆弱性」「性善説に基づく管理の限界」が顕在化したとの見方もできます。いずれも、これまでもリスク管理上は重要な視点として認識されてはきましたが、今後は、外部の厳しい目の導入や性悪説の視点からの内部犯行対策を意識した取組みが強く求められると言えます。

 また、元社員が出向先の関連会社から約6.2億円着服、業務上横領容疑で逮捕されたA商社の事案や、元社員が会社から貸与されたクレジットカードを不正に使い、約3億円を詐取したとして詐欺容疑で逮捕されたBメーカーの事案なども、性善説の限界などが顕在化した事案であるとともに、「業務の属人化」が招く実質的な管理不在の危険性に警鐘を鳴らす事案だったと言えます(先の個人情報漏えい事案もこの視点からの管理手法の見直しが求められています)。

 そして、これらの事案から得られる共通のリスク管理上のポイントとしては、以下のようなものが指摘できると思います。

① 業務のブラックボックス化

    • 特権IDの管理
    • 属人的な業務(排他的な領域)
    • 定期・不定期の異動や契約や委託先の見直しがなされず

② 性善説に基づいた管理の限界

    • けん制機能不全
    • 予防的・摘発的監査が有効利用されず
    • 管理者の意識の低さ

③ ルーティンに潜むチェック・ルールの形骸化・無効化

    • リスクセンスの麻痺
    • 慣習・慣行に対する慣れ、警告慣れ、例外対応慣れ

 このような視点や脆弱性は、反社会的勢力排除の取組みにおいても同様に意識すべき課題です。福島の除染事業における数次にわたる複雑な下請け構造への暴力団等の関与や「社内暴排」の視点はその代表的な事例だと言えますし、反社会的勢力と組織の接点が「役職員」である以上、業務のブラックボックス化やルール等の形骸化、けん制の効かない状況こそ、反社会的勢力に侵入されるリスクを高めることをあらためて認識頂きたいと思います。

5) 薬物関係

① 危険ドラッグ

 警察庁が、危険ドラッグに関する初めての報告書を公表しています。

 ▼ 警察庁「平成26年上半期の危険ドラッグに係る検挙状況について(暫定値)」

 平成26年上半期の検挙状況は、128事件(+77事件、+151%)・ 145人(+79人、+120%)で、昨年同期比で大幅に増加しています。うち、暴力団関係者等は 7事件・7人が検挙されており、覚せい剤事案に比べれば度合いは低いものの、ある程度の関与がうかがえます。最近でも、暴力団の指南で中国から原材料を輸入し、主婦が危険ドラッグを製造していたといった事案も報道されています。

 さて、今回明らかとなった危険ドラッグの使用者の実態として、「平均年齢34.0歳で20~30歳代が多い」「男女別では男性111人・女性5人と圧倒的に男性が多い」「約8割が薬物事犯初犯者」「約6割が街頭店舗で入手」「約2割がインターネットで入手」といった傾向があるようです。

 一方、以前ご紹介した「平成25年の薬物・銃器情勢」からは、覚せい剤の使用実態が、「30~40歳代の検挙人数が多く、高齢化が進む一方、若年層は減少傾向」「初犯者の割合が36.8%」「暴力団構成員等が55.9%を占める」であることと比較すると、その相違は際立っており、むしろ、今後、暴力団等が「ゲートウェイドラッグ」としての危険ドラッグへの関与を強めるであろうことが容易に予想されます。

② 米国における大麻(マリファナ)合法化

 米国はマリファナ使用を連邦レベルで禁じていますが、約20の州と首都ワシントンは医療目的などの使用を認めているほか、西部のコロラド、ワシントン両州は2012年の住民投票で嗜好品としても使用の合法化を決定、両州は今年、販売解禁にも踏み切っています。

 最近でも、米紙ニューヨーク・タイムズ電子版が、連邦政府はマリファナの使用などの禁止を撤廃すべきだとの社説を掲載しています。アルコールやタバコと比べてもマリファナは中毒や依存といった問題が小さいとの見方を示し、「適度な使用であれば(健康)リスクは引き起こさないだろう」としています。

 また、米国では40社を超えるマリファナ関連企業が上場しているといいます。ただ、それらの企業は、以前は密輸業者だったところも多く、そもそも犯罪親和性が高い企業風土によって、上場企業としての自覚不足が露呈、米証券取引委員会(SEC)は今年に入ってマリファナ関連企業5社の取引を停止しています。さらに、2社を「違法な株式の売却と市場操作」に関与した可能性があるとして摘発しています。

 一方で、マリファナが合法化されたコロラド州では、マリファナを吸引しながらの違法運転が頻発、取締りに追われているといった状況や、マリファナの使用を禁止する近隣州への流出も相次ぐなど、あらためて社会問題化しているようです。

 このように、マリファナの合法化を巡っては、揺り戻しの動きもあり、今後も動向を注視していく必要があります。

6) 企業実務に関するトピックス

① クラウドファンディングからの暴排

 今年5月に成立した改正金融商品取引法に基づき、未上場の事業者がインターネットで小口の出資を募る「投資型クラウドファンディング」について、平成26年春までに参入規制が緩和されることになります。

 規制緩和にあたっては、これまでに多くの未公開株詐欺事件に反社会的勢力が関与していることや、規制が十分でない新しいスキームが反社会的勢力の資金調達に悪用される可能性が高いことを十分認識することが重要です。

 なお、政府も、内閣府令等により、事業者の反社チェックや暴排条項の盛り込み、反社会的勢力と判明した場合は資金調達を中断するといった対策を証券会社や金融仲介業者に求めるということですが、株式市場での取引に比べて、投資家の層も幅広くなることが予想され、情報弱者が一部の投資家やそれと結託した事業者等によって不利益を被らないよう、これら金融取引業者の役割は重要だと言えます。

② 貸金業協会が会員向け反社データ提供開始

 昨年の暴力団融資問題以後、金融業界では、業界データベースの拡充や相互提供が進んでいます。

 今般、貸金業界の自主規制機関である日本貸金業協会も、7月下旬から反社会的勢力に関するデータを収集し協会員に提供する「特定情報照会サービス」の運用を開始しました。当該情報の核となるのは、全国暴力追放運動推進センターからの1万7000件の反社情報で、今後、全銀協から反社データの提供が予定されているということです。

 業界として反社会的勢力への資金提供を断つことが目的であることをふまえれば、単に借り手の属性をデータベースでスクリーニングするにとどまらず、その背後に潜む組織犯罪性の有無や、「真の受益者」の把握につながる審査スキームの厳格化、さらには、協会員自体や協会に加盟していない悪徳業者や無登録業者排除に向けた健全化の取組みについても同様に強化していくことが求められているとの認識が必要だと言えます。

③ インターネットバンキング口座開設詐欺

 暴排条項を導入している銀行に対して、暴力団幹部として活動していることを隠してインターネットを通じて預金口座の開設とキャッシュカードを詐取した疑いで、指定暴力団山口組系組長が詐欺容疑で逮捕されています。

 銀行窓口での口座開設時の排除事例は多く報告されていますが、インターネットバンキングでの事例はまだ珍しく、実務の進展を窺わせます。

 インターネットバンキングにおいては、前述の金融検査結果事例集でも取り上げられているように、「営業領域の拡大」に対応するデータベースの全国対応等が求められますし、非対面取引における本人確認の精度の向上、本人特定のための警察等との連携、申し込み後の非対面での契約解除実務など、これまで以上に高いハードルを乗り越えていく必要があります。

 「口座開設からの暴排」においては、その脆弱性を突かれることのないよう、窓口取引であろうと非対面・インターネット取引であろうと、審査レベルに差が生じないよう、同等に高いレベルに保つ企業努力が求められます。

④ 市営住宅入居後に暴力団員に

 広島市営住宅で、世帯主である親が入居時に同居人として登録した男が、その後組員となったため、結果的に指定暴力団共政会系組員の入居者登録が7年にわたって見過ごされていたとのことです。

 報道によれば、広島市は、2004年6月に暴排条項を盛り込んだ改正条例の施行直後に全入居者を県警に照会したようですが、以降は全入居者の照会はしていないため、発覚が遅れたということです。さらに、発覚のきっかけは、「暴力団組員が出入りしている」との住民からの具体的な情報提供だったということです。

 本事例を通して、「中間管理(モニタリング)」の重要性と、端緒の把握における「現場情報の精度の高さ」について、あらためて認識できるものと思います。とりわけ、「モニタリング」のあり方については、反社会的勢力リスクの度合いに応じて柔軟に検討することで良いと思われますが、例えば、居住者のモニタリング手法としては、データベースによる定期的なチェック以外にも、住民アンケートや聞き取り、個別訪問等の実施、あるいは、一定期間での定点観測(人の出入り等の監視)といった手法などが考えられ、市営住宅であろうと民間の賃貸管理・マンション管理であろうと、既に暴排条項が完備されていることを前提として、今後検討していくべき課題であると思われます。

7) その他

① ネット検索訴訟(京都地裁)

 検索サイトで自分の名前を検索すると、過去の逮捕歴が明らかになり、名誉を傷つけられたとして、京都市の40代の男性が、サイトを運営するヤフーに、検索結果の表示差し止めや慰謝料などを求めていた訴訟の判決で、「特殊な犯罪事実で社会的な関心が高く、逮捕から1年半程度しか経過していない現時点では、公共の利害に関する事実であり不法行為は成立しない」として、男性の請求が棄却されています。

 報道によれば、男性は「犯罪が軽微であることや私人であることから、判決確定後も逮捕歴が検索結果に出るのは名誉毀損にあたる」と主張、ヤフーも、「あくまでキーワードに関するウェブの存在や所在を示し、ヤフーの意思内容は反映されていない、削除要請は元記事の発信者にすべき」と主張していたものです。

 反社チェックにおけるスクリーニングの手法として、記事検索やデータベース化された記事を活用することが一般的ですが、検索システムや検索結果の表示自体が違法性を帯びた場合、反社会的勢力排除実務に与える影響が大きいこともあり、今後も裁判の行方に注視していきたいと思います。

 また、これとは別に、欧州連合(EU)が、平成24年1月に個人情報保護に関する新しい「一般データ保護規則案」を提案、この中に「忘れられる権利」が明文化され、個人データ管理者はデータ元の個人の請求があった場合に当該データの削除が義務づけられることとなりました。これに対し、Googleは「報道の自由に対する検閲である」と主張するなど、議論となっていましたが、平成26年5月にEU司法裁判所が、人には「忘れられる権利」があると判断し、Googleにリンクの削除を命じる判決を言い渡しています。これを受けて、Googleは世界各地からの削除要請への対応を始めていますが、その判断基準を巡って、Googleの恣意性などに関する議論が続いている状況です。

 今後、暴力団員であった過去の事実や、共生者としての逮捕歴などが「忘れられる権利」として認められるようなことになれば、やはり実務に与える影響はかなり大きいものであり、今後も動向を注視していく必要があります。

② テロ関係者の資産凍結の取組み

 政府が、テロリストとの関係が疑われる個人・団体の金融資産を一時的に凍結できる新法の制定を検討しているということです。

 これまでもお話してきている通り、テロ資金供与対策(CTF)とアンチ・マネー・ローンダリング(AML)は、グローバルなリスク管理上必須の取組みであり、日本においては、現状、海外送金等のチェックなど金融機関の自助努力に委ねられている状況にあることから、法制度も含め取組みの遅れが指摘されていたところです。

 報道によれば、対象リストを作成し、掲載者への送金、預金や信託などを許可制とし、事実上の資産凍結を図るということのようですが、AMLや反社チェック同様、「リスト化」により、真の受益者の特定が逆に困難な状況に追い込まれる危険性は認識しておく必要があると思われます。そのうえで、ネット事業者など金融機関以外の事業者においても、CTFの視点からのチェックを導入・強化していく等、社会的な監視の目を張り巡らせていくことも重要な視点ではないでしょうか。

③ 自治体が照会結果を本人に通知

 京都市が、ある人物について暴力団関係者かどうかを京都府警に照会し、「該当しない」との情報をこの人物本人に伝えていたということです。

 報道によれば、当該人物は、直近に週刊誌で「密接関係者」ではないかと取り上げられた人物で、京都市教育委員会は府警への照会結果を男性に口頭で伝達、男性は、同市の個人情報保護条例に基づいて照会結果を書面で出すよう開示請求し、同市教育委員会が開示したといいます。この開示請求について、京都府警は、「暴力団情報は該当、非該当にかかわらず捜査情報。開示は、暴力団排除の目的に当たらず、協定にも反しており、認められない」と市側に回答したということです(平成26年7月25日付YOMIURI ONLINE)。

 京都府警が明確に回答していたにもかかわらず、本人に開示した同市の対応には疑問が残ります。当該人物が開示書面を手にしたことで、疑わしい風評がある中で公的な「お墨付き」を得たということになりますから、今後、どのような活動の中でどう利用されるのかが強く懸念され、その意味でもそもそも開示されるべきものではありません。結果的に、暴力団排除の目的を逸脱し、むしろ、暴力団の活動を助長しかねないリスクを孕んでおり、同市の意図的な行為だったかどうかも含め、十分な検証が求められると言えます。

④ 暴力団漫画の撤去訴訟

 暴力団を扱った漫画などの販売中止を福岡県警が要請したのは表現や出版の自由を保障した憲法に違反するとして、作家の宮崎学さんが福岡県に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第3小法廷が上告を退ける決定をしています。

 一審・二審とも「自主的な措置を求めるもので、撤去の強制とはいえない」としていたもので、最高裁もそれを支持したものです。

 問題となった福岡県警の要請については、福岡県暴排条例の施行(平成22年4月)前に行われていますが、同条例は青少年の健全育成をその大きな柱のひとつにしています(例えば、同条例「青少年に対する教育等のための措置(第14条)」の第2項では、「青少年の育成に携わる者は、当該青少年が暴力団の排除の重要性を認識し、暴力団に加入せず、及び暴力団員による犯罪の被害を受けないよう、当該青少年に対し、指導し、助言し、その他適切な措置を講ずるよう努めるものとする」などと規定しています)。

 表現や出版の自由は尊重されるべきものではあるものの、「青少年からの暴排」の観点からは十分納得感のある決定であるように思います。

⑤ 民生委員に表明・確約

 以前も本コラムで取り上げましたが、大阪府枚方市の民生委員が暴力団幹部だったということが発覚したことを受け、大阪府が「暴力団員ではない」という確認書の提出を求めており、一部の市町村からは「失礼にあたる」「担い手を確保するのに苦労しているのに」「今でも十分審査をしている」といった批判的な意見が出ているとの報道がなされています。

 商取引の世界では当たり前の表明確約書の取り付けについては、現在の暴排を巡る社会の目線や、そのような事実があったことをふまえた大阪府の対応としては当然のことであり、批判する自治体の方に問題があるように思われます。

 このような常識の乖離が、公的助成制度や公共事業に反社会的勢力が食い込む「脇の甘さ」を招いているのであり、マンパワーの不足を言い訳にできない構造的な問題が垣間見えます。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 勧告事例(山梨県)

 山梨県暴排条例で禁止されている「幼稚園から200m以内の区域」に組事務所を開設した疑いで、指定暴力団稲川会・山梨一家・橋本組組長が逮捕されています。

 2011年に同県の暴排条例が施行されて以来、条例を適用した逮捕者は初ということです。

2) 勧告事例(大阪府)

 飲食店を営む事業者は、事業のトラブルの防止及び解決に暴力団の威力を利用するため、暴力団山口組傘下組織幹部から門松を購入し、暴力団の威力を利用する目的で財産上の利益を供与したとして、大阪府暴排条例に基づき、事業者及び指定暴力団山口組系幹部に勧告書が交付されたということです。

3) 福岡県暴排条例の標章制度

 暴力団員の飲食店への立ち入りを禁じる改正福岡県暴排条例の「標章制度」は、今年の8月1日で2年を迎えました。当初、北九州市では1,114店が標章を掲示していましたが、今年6月末には759店にまで減少したということです。

 背景には、暴力団の関与が疑われる事件が同市で続発し、未解決のままになっているため、市民の不安が増していることがあげられます。

 福岡県内の他の地区と比較しても、北九州地区での減少幅が大きく、対象店全体に占める標章掲示率も、今年6月末で54%まで低下しているとされ、標章制度そのものの根幹が揺さぶられている状況と言えます。

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