専門家の集まるBCPカフェ

あなたの身近に迫る水害のリスク~2025年9月の四日市市の地下駐車場浸水被害は防げたのか?~

2025.10.21
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今回から始まった新コーナー「BCPカフェ」。エス・ピー・ネットワークのBCP担当者たちが、最近起きた事象をテーマに座談会形式でざっくばらんに語り合います。個人の防災から職場のBCPまで、様々なテーマについて、企業のBCPご担当者のヒントになるよう、わかりやすく話し合います。

大雨で公共の広場が浸水しベンチの足が雨水に浸かっている

本日の参加者
西尾 BCP担当歴14年目のベテラン担当者。災害対応のみならずカスハラ対応、緊急事態対応など、様々な危機管理に精通した専門家。総合危機管理学会監査役。
大越 記者、広報担当、企業の危機管理専門誌編集長等の経験を経て現在はBCP策定コンサルタント。災害のみならず感染症、海外危機管理、危機管理広報などの様々な分野を担当する。
永橋 損保会社等にて、防災・リスクマネジメント・危機管理等の実務経験を経て現職。災害のみならずERM(全社的リスクマネジメント)や情報セキュリティ等の幅広い知見を持つ。
小田 BCP担当歴6年目の中堅担当者。BCP策定支援や演習支援、研修などを実施。防災士。
植野 BCP担当歴1年目の若手担当者。前職では保育士として防災教育を実施。現在はBCPについて勉強中。防災士。
笹嶋 BCP担当歴3年目の若手担当者。前職は防災関係の研究機関で広報対応に従事。現在はBCP策定や訓練・演習の支援を実施。今回の進行を担当します。防災士。

2025年9月12日に発生した四日市市の水害について

笹嶋: 「BCPカフェ」と言いつつ、初回は「あなたの身近に迫る水害のリスク」という、「BCP」そのものというよりは「防災」寄りのテーマです。つい先日も東京で大雨があったり、四日市市でも水害があったり、初心者の方にもわかりやすく最近あった災害のリスクを話すことはまずは大事なのかなと考えています。植野さんは水害についてどんなイメージを持っていますか?
植野: 水害のイメージは台風とか、大雨とかだったのですが、最近になって線状降水帯とか、ゲリラ豪雨とかの回数が多くなってきたという印象があります。
笹嶋: 今回の都内や四日市市で起きたのは台風ではないですよね。
西尾: 台風ではないですね。
笹嶋: 今回だと四日市市のKパーキングなんかは水没してしまって、水は引いたけど車は取り出せない。被害車両の搬出作業は2週間以上経過して9月29日になりようやく始まった、という状況になりましたが、実際あのような状況が発生したら、企業はどうしたら良かったのでしょうか。起きる前もどうしたら良かったのか、起きた後もどうしたら良かったのか。
大越: 車が水没するのは正直なところ、仕方がないとも言えますね。とにかく人の命が助かっただけ良かった。
西尾: まずは人が中にいなくてよかったですね。水でドアが開かなくなるから。
大越: 最近の傾向で言うと、ここ数年、台風に長雨が加わって、地盤がゆるくなったところに、ちょっとでも強い雨が降ると土砂災害が起きたりします。台風だからとかは関係なくなっていて、長雨でも土砂災害が発生するようになってきています。
西尾: 三重県四日市市は2025年9月12日の1日間で213ミリの雨が降っています。これは気象庁の観測で四日市市の1日の降水量歴代7位の記録的な大雨でした。
植野: 私も、あんなに地下街が水に浸かるような光景見たことがありません。
西尾: 東京でもありますよ。たまに浸かってます。東京でもありますよ。たまに浸かってます。
大越: 最近の雨の降り方が異常なんですよね。
西尾: 皮肉なことに9月9日に東京都は、地下空間浸水対策ガイドラインの改定版を出していました。
植野: こういうのって国からは出ないのでしょうか?
永橋: 多分こういうところまで目がいかないんじゃないかなと思います。
西尾: 地震がメインですからね。実際に水害が発生したら目が向きますが。

「大雨特別警報」と「記録的短時間大雨情報」

永橋: 「大雨特別警報」って皆さんが思ってるより大変な状態なんだけど、皆さん知ってるのかな。
植野: 私が「大雨特別警報」で思い浮かぶのは、2016年の鬼怒川が氾濫した「常総市水害」の時ですね。
あれ以降もいっぱい出ているとは思いますが、あの災害の印象が強くて。家が流れてる!と驚きました。
大越: 関東で水害が頻繁になるのは常総市水害以降だと記憶しています。。
小田: 気になるのは、例えばニュースで、過去の集中豪雨で被災した方のインタビューを見ていると『あっという間に浸水してきて対応が間に合わなかった』のような内容を被災者が答えていることです。ただ、報道でも集中豪雨の予報はよく発表されている印象があります。集中豪雨による被災は被災者の方の情報収集不足なのか、本当に集中豪雨がなんの前兆もなく10分程度でやって来て、みるみるうちに浸水するのかが最近気になってます。
大越: 例えば首都圏であれば、普段は地下にある『首都圏外郭放水路』という巨大な施設があるからたいていの場合は大丈夫ですが、本当に少しでもその容量を超えてしまうといきなり浸水が始まってしいます。だからいったん貯水量を超えてしまうと内水氾濫は本当にみるみるうちに来ることになります。
小田: でも雨が降るってことはわかってますよね。
大越: 雨が降るってことはわかってるし、大抵の雨は地下の下水道で吸収できる。でもそこからちょっとでもあふれると止まらなくなる。これはどの都市でも同様だと言われています。
永橋: 警報が出ているときにはちゃんと逃げなければいけない、というのが徹底・周知できれば良いんじゃないでしょうか。
小田: 「記録的短時間大雨情報」は、予報的な位置づけなのでしょうか。
笹嶋: 予報ではないと思います。実際に記録されているので。
大越: 「大雨特別警報」は予想の発表ですが、「記録的短時間大雨情報」は実際に観測された雨量で発表されますね。
西尾: 降った後だからもう遅いってことですね。
笹嶋: なるほど、情報ですからね。実際に雨が降った後で『記録的短時間大雨情報』でしたって発表がされる。今降っていますよ、って報告なんですね。
大越: やはり予想ということでは大雨特別警報を今まで通り使っていくしかないと思います。
植野: 「記録的短時間大雨情報」は「予報」にはならないという事ですね。

【ポイント】

  • 「記録的短時間大雨情報」は既に観測された雨のこと。「注意報」や「警報」を確認しましょう

【機能しなかった止水板】

植野: 四日市市の水害の話に戻りますが、止水板は地下があるところには必ずついている物ではないのかと、素人考えで思っていました。
大越: 以前、地下鉄を取材したことがあるのですが、地下鉄ではもちろん止水板を設置している場所は多いのですが、デパートとかと直結しているところでは難しいようです。やってるところはやってるけど、出来ていないところも多い印象です。
西尾: 当時のKパーキングは地上との出入り口が10か所設置されていました。入口が10か所もあったら大変ですし、人力で動かす止水板が7か所もあって間に合いませんでした。電動式にしておかないと、という話ですが残りの電動式も2か所は壊れていて、1か所は急激な浸水で操作が間に合わなかったようです。
植野: 日頃の点検は大事ですね。
西尾: 電動でも雨で動かなくなる可能性はありますし、あまり過信はできませんよね。三重県四日市水害では第三者委員会から、止水板が機能していれば今回の浸水被害は防げたのではないかとの指摘もされています。日頃の備えが大切なのはもちろんですが、備えるだけで安心せず、定期的な点検を行い、「機能するか」を確認することが必要です。

【ポイント】

  • 止水板などを備えることはもちろん、「機能するか」も定期的に確認を!

【前日から情報を出していた津地方気象台】

西尾: 今見たら、津地方気象台は前日9月11日から大雨の危険をずっと警告していたようです。12日にも当然警報をだしています
大越: やっぱり警報を出してはいたんですね。
西尾: 津地方気象台のホームページを見てみると「注意報」、つまり「注意して下さい」、っていうのは前日からずっとだしていますね。
小田: そうなると「空振りでも良いからきちんと気象情報を確認し、早めに対策しましょう」という話になってきますね。
西尾: 9月11日の16時40分の段階で、津地方気象台から「三重県では、12日夜遅くにかけて、雷を伴った激しい雨や非常に激しい雨が降り、大雨となる所があるでしょう。土砂災害、低い土地の浸水、河川の増水に注意・警戒し、竜巻などの激しい突風、落雷に注意してください。」って情報が出ていました。前日の夕方から出ている訳だから、まさにそれが現実になったという話ですね。
小田: 企業に出来ることの一つとして、気象台の情報を見てくださいはあるのかもしれませんね。
西尾: 「11日18時から12日18時までに予想される24時間降水量は多い所で、北中部200ミリ南部150ミリ」って尋常じゃない雨が降るという情報がこの段階で出ています。
笹嶋: 確かに200ミリは相当ですね。
西尾: しかも12日5時40分の段階では「12日6時から13日6時までに予想される24時間降水量は多い所で、北中部200ミリ南部200ミリ」になってるんですよ。150ミリから増えています。
笹嶋: 12日の5時40分に「12日の6時から」ってことは、もう今日は今からこれくらい降るかもしれませんよ、という事ですね。
大越: やっぱり基本に立ち返るんですね、気象情報、警報を見ましょうという。
小田: 自分が今見ている景色が大雨じゃなくても、警報が出ていたら小雨でも動くというように意識することが必要ですね。
大越: 教訓としては河川の増水や土砂災害だけじゃなくて、プラス内水氾濫も考えないといけないですね。
西尾: 少なくともこれだけ気象情報が出てるから、知りませんでしたでは通用しませんね。継続して気象台から情報が出ているので。
永橋: 多分テレビにも出てたんじゃないですかね。NHKとかL字タイプの表示で。
大越: 企業のBCP担当者とかは日頃から気象庁等の情報をはじめとする気象情報を常に見ておくことが重要ですね。

【ポイント】

  • 風水害の基本は早めの情報収集が肝!平時からのハザードマップの確認や、気象庁や気象台から発表される気象情報のチェックをしましょう

【集中豪雨は日本全国どこでも起きる】

小田: 例えば地震だと日本全国どこでも起こるという前提で、集中豪雨も日本全国どこででも起こるという認識で良いものなんでしょうか。あるいは地形的に、大きな山のこちら側が注意だとかそういうものはあるんでしょうか。
大越: まず、昔から地形的に雨が降るところは、これからもさらに激しい雨が降ると思います。さらに、例えば以前は台風が九州や本州を通らず北海道に直接行くことはまれだったんですが、最近は直接北海道に直撃する回数が増えています。今まで大雨が降らなかったところも、今後は激しい雨が降る可能性は高くなってきたといえるのではないでしょうか。
小田: 「うちのエリアは大丈夫」と思っている方も少なからずいらっしゃるのではないかと思いましたが、今後は、全国どこでも、風水害リスクへのより一層の注意が必要ですね。
大越: あと北海道は梅雨がないから雨に弱いと言われています。普段から雨が降ってる地方は雨に強いんですよ。九州や沖縄は台風が来るから雨によって地形がえぐられてるし雨に強い体制になっていますが、そうでない土地は激しい雨には弱い可能性がある。
小田: でも三重は伊勢湾台風もそうですし、台風が来ないってことはないですよね。
大越: 三重県や和歌山県は台風銀座ですよね。
小田: 台風慣れはしているけれども、突如やってくる集中豪雨には慣れてなかったというのはもしかしたらほかの地域でも言えるのかもしれないですね。
笹嶋: 台風慣れしてなかったと言えば2018年西日本豪雨の際の岡山県とかはそうだったかもしれないですね。
大越: 岡山は瀬戸内海気候で、温暖でそれこそ台風が来ないと言われてたところですよね。
笹嶋: 「晴れの国おかやま」ですからね。
大越: 前に当社のコラムでも紹介したのですが、広島県もその時に甚大な被害がありました。その後に県がその反省を込めて「私たちはなぜうまく避難できないのだろう」という冊子を出しています。「きっと自分は大丈夫だと思った。だって、今までも大丈夫だったから。玄関へ行ったら既に床の下まで水が…。でも、玄関に行くまで危険なことに気づかなかった」など、被災した方々の生々しい声が掲載されています。災害が自分の目の前で発生していても、実際に避難するのは難しいことがよくわかります。

【ポイント】

  • 避難するのは意外と難しい。「うちのエリアは大丈夫」と思わず、集中豪雨に備えましょう

【想定外ではなかった今回の災害】

西尾: 気象情報を見ておけば予測は可能だったという事ですよね、今回の四日市市の件は。
小田: 集中豪雨は突然来るという認識の方がいるけれども、事前に注意報や予報があった上で、最終的に「記録的短時間大雨情報」が発表されるという一連の流れがわかると今後実務に役立つかなと思います。
西尾: ちなみに駐車場の場所もハザードマップなどで見ても浸水、内水のエリアに入っていて、元々大雨降ったら地下に溜まるようなエリアなんですよ。
大越: 起こるべくして起こったという事なんですね。
永橋: 日本のハザードマップは水に関する事はとても優秀だから。
大越: 結論として、今回の水害は「想定外ではなかった。予測することができた」ということでしょうか。報道では「いきなり水害が発生した」という風にいわれていますが。
西尾: 土地的にもハザードマップ上は浸水する場所ですし、事前に気象情報で大雨の予想も出ていましたしね。
笹嶋: 事前に把握しておくことはやはり大切、という事ですね。
西尾: 集中豪雨の予測ができた以上、タイムライン的な発想で、早めに車を別の地上立体駐車場に移すなどの対応はできたと思います。水害のBCPにはこのあたりの対応要領も組み込んでおくべきですね。

【まとめ(ポイントの再掲)】

  • 止水板などを備えることはもちろん、「機能するか」も定期的に確認を!
  • 「記録的短時間大雨情報」は既に観測された雨のこと。「注意報」や「警報」を確認しましょう
  • 風水害の基本は早めの情報収集が肝!平時からのハザードマップの確認や、気象庁や気象台から発表される気象情報のチェックをしましょう
  • 避難するのは意外と難しい。「うちのエリアは大丈夫」と思わず、集中豪雨に備えましょう
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