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水害時の避難に関する5つの誤解

総合研究部 専門研究員 大越 聡 総合研究部 専門研究員 大越 聡

資格:防災士 主な研究分野: BCM(事業継続マネジメント)、防災、リスクコミュニケーション、危機管理広報

2020.10.26
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地球温暖化の影響などにより近年多発する水害。ここ数年だけでも毎年のように深刻な水害が発生している。

令和2年7月豪雨(2020年7月3日~7月31日)

2020年7月は、長期にわたり梅雨前線が本州付近に停滞し、西方と南方から流入する大量の水蒸気が九州を中心に西日本から東日本にかけて集まりやすい状態が続いたことなどが原因で、東北地方から西日本にかけて広い範囲で記録的な大雨や日照不足となった。特に3日から8日にかけては、九州で多数の線状降水帯が発生した。鹿児島県薩摩地方・大隅地方で3日夜から4日朝にかけて、熊本県南部では4日未明から朝にかけて、局地的に猛烈な雨が降り、気象庁は4日4時50分に大雨特別警報を熊本県・鹿児島県に対して発表した。このとき熊本県天草・芦北地方や球磨地方付近には、幅約70km、長さ約280kmの大規模な線状降水帯が発生していた。死者82人、行方不明4人、負傷者29人にのぼり、全壊319棟、半壊2009棟、一部破損2230棟。

令和元年台風19号(2019年10月6日~10月13日)

台風は平年よりも高い海水温の領域を通過しながら急速に発達し、7日18時には、同時刻までの24時間での気圧低下77hPaを記録。発生からわずか39時間で中心気圧915hPaとなり、猛烈な勢力に発達した台風の接近により、関東甲信地方、静岡県、新潟県、東北地方では、各地で3時間、6時間、12時間、24時間の降水量が観測史上1位を更新するなど、記録的な大雨となった。もっとも人的被害が大きかったのは福島県で、死者は30人に及んだ。全国では死者105人負傷者375人行方不明者3人となった。

平成30年7月豪雨(2018年6月28日~7月8日)

梅雨前線に向かって南から暖かく湿った空気が大量に流れ込んだのが主因で、台風7号も影響。6月28日から7月8日までの総降水量が四国地方で1800ミリ、東海地方で1200ミリを超えるなど、7月の月降水量平年値の2~4倍となる大雨となったところがあった。また、九州北部、四国、中国、近畿、東海、北海道地方の多くの観測地点で24、48、72時間降水量の値が観測史上第1位となるなど、広い範囲における長時間の記録的な大雨となった。各地で河川の氾濫、浸水害、土砂災害等が発生し、広島県、岡山県、愛媛県を中心に死者・行方不明者が多数となった。死者224人、行方不明者8人。住家全壊6758棟、半壊1万878棟、一部破損3917棟、床上浸水8,567棟、床下浸水21913棟。

平成29年7月九州北部豪雨(2017年6月30日~7月10日)

梅雨前線や台風の影響で西日本から東日本を中心に局地的に猛烈な雨が降り、福岡県、大分県を中心に大規模な土砂災害が発生。死者40人、行方不明2人。1600棟を超える家屋の全半壊や床上浸水。

平成27年関東・東北豪雨(2015年9月7日~11日)

台風から変わった低気圧に向かって暖湿気流が流れ込み、西日本から北日本にかけての広い範囲で大雨。14人死亡。鬼怒川の堤防決壊で家屋が流出等するなどして7000棟以上の家屋が全半壊、床上・床下浸水1万5000棟以上。

平成26年8月豪雨(2014年7月30日~8月20日)

相次いで接近した2つの台風と停滞前線の影響で広範囲に記録的な大雨。広島市では、次々と発生した積乱雲が一列に並び集中的に雨が降り続く現象が発生し、土石流や崖崩れが多発、災害関連死も含む死者77人、家屋の全半壊396棟などの被害。

水害の多発により、水害時の避難に関する情報もネットなどで多く見られるようになった。しかし、そのなかには防災知識として疑問の残るものも多い。なぜこうなってしまったかの論考は別の機会にするものとして、今回は特に考えさせられるポイントを5つ集めてみた。避難の参考にしていただきたい。

1)「水害時の避難、長靴は厳禁」という危険

「水害時避難、長靴は厳禁」といった記事を最近よく見かける。

▼「大雨だから長靴」は厳禁 災害時に注意すべき避難のポイント(西日本新聞)

「長靴は水が入ってしまうと重くなるので、水害時の避難には不適切。運動靴で逃げよう」という趣旨だが、災害時において物事を○×式に画一的に考えるのは危険だ。この場合は「装備と水位により、ケースバイケースで考える」が正解。消防やレスキュー隊などの専門家が使う装備ではなくても、田植えやアウトドア用のひざ下までしっかり覆うタイプで、泥にも強い長靴は水害時の避難には非常に有効だ。ひざ上まで水位がある場合は流される確率の方が高くなるので、避難自体がNGとなる。水害時には地中の破傷風菌などの細菌が地表に現れるため、小さな傷も命取りになる可能性もある。シューズではなく、できれば避難用の膝下までの長靴を準備しておいてほしい。できれば、そのような状態になる前に避難しておくことがベストだ。

2)「高齢者や傷病者は背負って避難する」ことができるのか?

ウェブで検索をしてみると分かるのだが、「水害時に高齢者や傷病者は背負って避難する」として水の中を歩かせるイラストが多く出てくる。しかし、水害時の避難で注意すべきはマンホールのふたが空いていて落ちてしまったり、側溝にはまってしまったりすることだ。そのため、水のなかを歩くときは必ず傘などの長い棒をもち、前方を確かめながら歩くことが推奨されている。「高齢者や傷病者を背負って避難」と「前方を確かめながら歩く」ことは両立させることは難しいだろう。また、たとえ高齢者と言えども雨の中、水中を背負って歩くのは莫大な体力を必要とする作業であり、基本的に一般人に推奨させるものではない。

3)「水害時に歩ける水位は男性70センチ以下、女性50センチ以下」は本当か?

これも、実際に自治体の水害避難の仕方に記載されているものだ。1)で指摘したように、実際に避難できる水位は老若男女関係なく「ひざ下」までだ。おそらく目安のつもりで記載しているのと推測されるが、水の勢いが強いところではくるぶしまででも足元をさらわれる危険性もあることも覚えておいて欲しい。小さなお子さんにとっては20センチでも十分に危険だ。このように具体的な水深を記載するのは誤解のもとになりかねないだろう。

4)ベビーバスで赤ちゃんを避難させる?

こちらも同様に、実際に自治体の水害避難のイラストに掲載されているケース。ベビーバス(乳幼児用のお風呂)が水に浮くので、その中に乳幼児を入れて水の上に浮かべて避難するというものだ。これはどちらかというと危険なので止めて欲しい。ベビーバスは避難用に作られていないため、メーカーとしての想定外の使い方だ。そこまでの浮力があるか疑わしいことに加え、たとえ浮かんでも水流が強ければ流されてしまう危険性もある。どう考えても避難時に推奨するものではないだろう。同じように、子供に浮き輪をつけて避難を推奨することも危険は付きまとう。水流が強ければ浮き輪をつけたまま流されてしまう可能性もあるからだ。万が一、やむなく水の中を避難しなくてはいけないのであれば、親がおんぶひもなどでしっかりと固定し、避難すべきだろう。

5)イラストはあくまで「最悪の事態」であることを記載すべき

いうまでもなく、水害時の避難は「垂直避難」と「事前避難」が基本だ。近年の気象庁による天気予測の精度は非常に高いものになっている。できれば天気の良いうちに避難してしまうこと望ましい。自治体などが公表している水害時避難の方法は、どちらかというと「最悪の事態」の避難方法であり、本来であればそのことをきちんと明記すべきものだ。丁寧なイラストが添えられてしまうと、これが「自治体が推奨する方法である」と勘違いしてしまう住民も出てくるだろう。まずはイラストのような状況にならない防災教育が必要だ。

最後に、良い資料の例として「学校関係者向け 水災害からの避難訓練ガイドブック」(国土交通省水保全局)を挙げておく。避難を「水平避難(高台避難)」「垂直避難」「集団下校(事前避難)」に分け、逃げるときの注意点としても「浸水の深さがひざ上になると歩行は危険になるので近くの高台へ」など具体的だ。学校関係者のみならず、防災関係者はぜひ一度読んでみて欲しい。

▼「学校関係者向け 水災害からの避難訓練ガイドブック」(国土交通省水保全局)

参考:(※ベビーバスの想定外の使用法、歩ける深さの記載、高齢者・傷病者の背負いなどが記載されている自治体からの発信例)

▼M市 防災情報「避難時に注意すること」

▼S市 防災情報「避難時に注意すること」

▼F市 「避難のポイント(水害時)」

(了)

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