天災は、忘れぬうちにやってくる!これから始めるBCP

頻発する水害対応に関する実務の考察とQ&A

総合研究部 専門研究員 大越 聡 総合研究部 専門研究員 大越 聡

資格:防災士 主な研究分野: BCM(事業継続マネジメント)、防災、リスクコミュニケーション、危機管理広報

2021.10.25
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川が氾濫する様子

頻発する水害対応に関する実務の考察とQ&A

ここ数年、頻発する水害。しかし安否確認や災害対策本部立ち上げのタイミングなど、未だに迷いながら対応しているBCP(事業継続計画)担当者も多いだろう。災害は一つとして同じものはなく、前回の教訓が次回にも通用するとは限らない。ここでは先日、当社が会員企業に向けて開催したオンライン勉強会「BCP Cafe Vol.2 水害編」に寄せられたBCP担当者の質問からピックアップし、水害対応に関する実務をQ&A方式で考察していきたい。

【Q1】水害時の対策本部はどのタイミングで設置すればよいのか。地震では「震度5強以上で災害対策本部を設置」など基準が作りやすいが、水害では災害が発生してから災害対策本部を立ち上げるなどの考え方でよいのか。他社の事例なども交えて知りたい。

【A1】

考え方としては、大きく2つあると考えられる。1つは、地震等と同じく「拠点がある地域で、特別警報が出たとき」など、災害の大きさを設置の基準にする考え方。拠点がある地域で特別警報が出た場合、その拠点で甚大な被害が発生している可能性がある。復旧をスムーズにするために、特別警報が出た時点で災害対策本部を設置し、建物や人的被害を迅速に確認し、必要であれば周辺の事業所から応援を出すなどして復旧を後押しする。現在、このような考え方でBCPを策定されている企業は多いと考えられる。また、現在はリモートでも十分に対策本部を設置して情報共有などができるため、風雨の中でわざわざ会社に参集する必要はないだろう(ただし、リモートにおける対策本部会議をどのように定着させていくかは模索が必要だ)。

しかし、このやり方では問題点が1つある。「特別警報が出たとき」はレベル5、すなわち「災害がすでに発生している時点」であるため、「従業員の命を守る」という目的から考えると、もっと早く立ち上げたほうが良いのではないかという疑問も発生する。水害と地震の一番の違いは、その発生が予測できるかできないかにあるといえるだろう。水害の発生は気象情報の発達により、ある程度の到達時間を予測することができる。それであれば到達までの時間をリードタイムと捉え、減災活動に充てることができるのではないか。このような考えのもと、現在国土交通省などで取り入れられているのが「タイムライン防災」という考え方だ。

「タイムライン防災」とは、もともと2011年に米国で発生した、「ハリケーン・アイリーン」の教訓から生まれた考え方だ。あらかじめ気象情報などによって予測可能な水害に対し、災害が発生する前から避難行動を起こすことで、住民の被害を減らすというもの。実際に、2012年にニューヨーク州、ニュージャージー州を襲った「ハリケーン・サンディ」では、「ハリケーン・アイリーン」の教訓から生まれた「タイムライン防災」を活用し、上陸の3日前からニューヨーク州知事らは「緊急事態宣言」を発表。住民が避難する地域を指示するなど準備を着々と整え、被害を最小限に抑えたという。ニュージャージー州バリヤーアイランドでは家屋の全・半壊が合わせて約4000世帯に上ったが、事前避難により人的被害はゼロだった。

現在は国土交通省が主体となり、この「タイムライン」の考え方を水害時に大きく取り入れている。タイムラインでは関連する企業や団体が「誰が」「何を」「いつまでに」おこなうかという行動計画を事前に策定。交通サービスや自治体、住民の行動指針を明確化することで、対応の抜け漏れを防ぐという狙いもある。企業でも同様に、災害が発生する前から災害対策本部を立ち上げ、水害に備えるという考え方もあるだろう。特にインフラに携わる企業であれば、行政や他社との連携は不可欠となる。例えばあるバス会社では、水害が発生することを予測してバスを高台にあらかじめ移動させて被害を防ぐなどの計画を実施している。被害を最小限に抑えるためにも、ぜひ事前にどのような行動計画を立てることができるのか、一考していただきたい。

大規模水災害の防災行動計画表の画像

(出典:国土交通省HPより)

【Q2】安否確認システムはどのタイミングで発報したほうが良いのか?特別警報が出たときなど、避難を従業員に強制しても良いものなのか?

【A2】

安否確認システムの目的について、もう一度整理しておく必要があるだろう。地震が発生した場合の安否確認は、災害発生後に会社に参集してもらう、もしくは事業継続のための業務を行える人員数を確認するために実施する企業がほとんどだろう。しかし地震と違い、水害の場合は被害の規模も局所的になるため、それほど急に従業員をBCPのために参集させる必要はない。そのため、水害の安否確認は純粋に従業員の被害を確認すること、そして危険な場所に暮らしている従業員には事前に避難することなどを促すことや、不要不急の出社は控えてもらうなど従業員への注意喚起のために使用するものと考えたほうがよいだろう。水害はこれからも必ず発生する。地震と水害の場合は安否確認の目的を少し変えて、運用方法を検討してみてはいかがだろうか。

また、避難指示が出ている地域の従業員に、会社として「避難」を強制することはできない。そもそも避難とは「難を避ける」ことであり、避難所に行くことだけが避難ではない。ハザードマップを確認し、自宅が高台にあるので安全なことを確認しているのであれば自宅に留まることも立派な避難であるし、近隣のホテルなどに宿泊することも同様だ(もちろん、ホテルに避難した場合は、その旨を会社まで安否確認システムで伝えてもらうことができればなお良い)。会社としてできることは、まず「特別警報」という言葉の意味を従業員に教育することなど、平素から正しい防災教育を施していくことが重要だ。

【Q3】自社ビルの地下に発電機が設置されており、水害時には水没し、発電機が使用できなくなる可能性が高い。どのような対応策があるか教えて欲しい。

【A3】

発電機や重要電気室、ネットワークサーバなどは、非常に重量が重い設備であるため、ビルの地下に設置したほうが建物の構造上は安定する。そのため、同様の悩みを抱えている企業は多いものと推察される。どのように水害対策を取ればいいのか、考えてみたい。

まず、その設備がBCPにとってどのくらい必要なものであるかを確認してみよう。ただ、非常用発電機などは災害の時に活用する場面が非常に多いため、基本的には対策を施す必要があるものと考えていいだろう。リスクを避けるための一番良い方法は、設備を上層階に移動することだ。実際に最近(ここ10年以内くらい)竣工したビルでは、ビルのBCPとしてそのような構造になっているものも多い。オフィスの移転などを機に、そのようなビルを探してみることも今後重要になっていくだろう。

ただし、実際に現在地下にある設備を上層階に持っていくのは、非常にコストがかかる。そのため、当初は少ないコストで対応できることについて考えてみたい。まずは、防水扉や止水版の設置だ。外からの水を物理的に止めるための止水版はシャッター会社などから販売されている。また、懇意のゼネコンなどを当たってみて特別に作ってもらうこともできるかもしれない。防水扉なども設置することは有効な手段の1つだ。

実際には、外からの水だけではなく、排水溝から水が逆流して設備内に浸水する「内水氾濫」の可能性も非常に高い。手軽な方法として、まず排水口に逆流防止弁をつける、排水口の上から物理的に蓋をして土のうなどの重しを載せて塞いでしまうなどの対策が考えられる。地下室には、そのほかにも空調設備などの配管もあり、そこから水が侵入してくる可能性もあるため、排水ポンプを設置しておき、水を外に配水することも考えられる(ただし、自治体との交渉が必要の場合もあるので注意が必要)。そのほか、地下にある発電機を50cmほどあらかじめかさ上げしておくなど、比較的安価でできる対策もある。国土交通省から、「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」も出ているので、こちらもぜひ参考にしてほしい。

▼「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」をとりまとめました
~洪水等の発生時における機能継続に向けた対策を提示~(国土交通省)
【Q4】車で外回りを行っている従業員が多くいます。水害が発生したらどのように対応すればよいですか?

【A4】

2019年に発生した台風19号などによる大雨では、自動車が水没するなどにより、運転者や同乗者が亡くなる事故が相次いだ。自動車はエンジンやモーターで駆動し、電気装置により制御されているため、水深が車両の床面を超えて車内へ浸水すると、さまざまな不具合が発生するおそれがあり、最悪の場合、エンジンやモーターが停止して移動できなくなる。また、水深がドアの下端にかかると、車外の水圧により内側からドアを開けることが困難となり、ドア高さの半分を超えると、内側からほぼ開けられなくなると覚えておいていただきたい。

車から緊急脱出する方法の説明図
▼水深が床面を超えたら、もう危険!- 自動車が冠水した道路を走行する場合に発生する不具合について -(国土交通省HPより)

万が一、車両が水中に落ちてしまった場合には、どうすればよいのか。以下、日本自動車工業会「安全すてきなカーライフ PASSPORT 2019-2020」から抜粋する。シートベルトカッターや脱出用のハンマーはぜひ用意しておきたい。

まず落ちついてシートベルトを外し、窓を開け、脱出します。シートベルトが外れない場合はシートベルトカッターなどで切断します。窓が開かない場合は、水面より上にあるドアガラスまたはリヤガラスを緊急脱出ハンマーなどで割って脱出します。万一に備えて緊急脱出ハンマー、シートベルトカッターなどを運転者の手が確実に届く場所に用意しておきましょう。ガラスが割れない場合は車内外の水圧差がなくなるまで浸水するのを待ち、ドアを開け、脱出します。

▼出典(一社)日本自動車工業会「安全すてきなカーライフ PASSPORT 2019-2020」より

いずれにせよ、これらの知識についてまず従業員にきちんと研修などを行い、周知しておくことが必要だ。

【Q5】従業員に水害についての防災教育を実施したいが、いい教材はないか?

【A5】

水害被害については、消防庁や各自治体が動画コンテンツを数多く作っている。以下に主なものをピックアップしてみた。ぜひ従業員への防災教育に活用して欲しい。

▼防災危機管理eカレッジ 風水害から生き延びる!(消防庁)

「私たちの身近な危険<風水害>」「警戒と早めの避難が命を救う」「防災行政無線に注意」「普段との様子の違い(前兆現象)に注意する」「橋や川の近くは危険」など、14種類の短い動画がアップされており、水害の恐ろしさや対策について網羅されている。防災教育の教材として活用している企業も多い。

▼水害時の避難に役立つ短編動画集(埼玉県加須市)

「防災情報ツール編」「避難のタイミング編」「避難先編」「避難場所編」など、水害避難に関する11のテーマについてそれぞれ2分ほどの動画にまとめている。手話も入っているので、耳の不自由な方にも分かりやすく作成されている。

▼迫りくる巨大台風の脅威~大水害から命を守る~(江戸川区)
※YouTubeが開きます。音量等ご注意ください。

「ここにいてはダメです!」と大きくハザードマップに記載して話題になった江戸川区公式チャンネルによる水害啓発動画。大型台風が、三方を水辺に囲まれた江戸川区に迫ってきたときに住民がどう行動するべきか考察している。

▼大雨からの避難を学ぶ「大雨の時にどう逃げる」~あなたの命、あなたの大切な人の命を守るeラーニング教材(気象庁)

気象庁が作る、水害避難に関する本格的なe-ラーニング教材。リーフレットなどもダウンロードできる。こちらも水害についての防災教育のコンテンツとして活用している企業は多い。

▼TOKYO VIRTUAL HAZARD -風水害-(東京都)

東京都が作成する臨場感あふれるVR動画。風水害の脅威を疑似体験できるとともに、いざという時にとるべき行動なども学習できるものとなっている。被災体験と防災学習体験の2部構成となっており、それぞれ河川の氾濫、土砂災害、高潮による氾濫の3種類の風水害について視聴できる。

以上

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