暴排トピックス

【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.反社リスク対策の今後の方向性(1)

1) 反社リスク対策の現状と課題(概観)

2) 事業者における反社リスク対策の現状

2.最近のトピックス

1) 特殊詐欺を巡る動向

2) テロリスク/テロ資金供与対策(CTF)の動向

3) アンチ・マネー・ローンダリング(AML)の動向

4) 捜査手法の高度化を巡る動向

5) タックスヘイブン(租税回避地)を巡る動向

6) 大麻(マリファナ)を巡る動向

7) カジノ/IR法案を巡る動向

8) 仮想通貨/ブロックチェーンを巡る動向

9) 忘れられる権利の動向

10)犯罪インフラを巡る動向

・クレジットカード/悪質加盟店

・公的証明書

・養子縁組あっせん制度/技能実習制度の悪用

・家賃保証

・海外の犯罪組織による不正送金等

・専門家リスク

11)その他のトピックス

・サイバー攻撃リスク

・福岡県暴追センターによる動画

・証券口座からの暴排

・犯罪白書/犯罪統計/来日外国人犯罪の検挙状況の公表

・休眠口座対策からの暴排

・注目される判例

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 京都府の暴排条例による逮捕事例

2) 自治体における公共事業からの暴排(企業名公表措置)

・福岡県

・福岡市・北九州市

・横浜市

・兵庫県

1.反社リスク対策の今後の方向性(1)

1) 反社リスク対策の現状と課題(概観)

 指定暴力団六代目山口組が平成27年8月に分裂して1年以上が経過しました。全国で小競り合いやトラブルが相次いでいるものの、この間、新たに指定暴力団となった神戸山口組ともども、「組の存続」自体が危ぶまれるほどの厳しい規制がかかる「特定抗争指定暴力団」に指定される事態や、資金的に大きな打撃となる組長ら幹部に対する使用者責任が問われる事態を避けたいためか、表立って激しい抗争には至っていません。つまり、彼らは、「組の存続」のために、本来の「ヤクザの行動原理」にさえ優先して、皮肉にも「コンプライアンス」を重視し行動を自重している状況にあります。

 六代目山口組や神戸山口組に限らず、暴力団が依って立つはずの「任侠道・極道」としての筋を通せず、その存在を自ら誇示することもできず、一方では、資金獲得のためにご法度とされる「詐欺」や「覚せい剤の密売」、「窃盗」等になりふり構わず手を染め、あろうことか高齢者や貧困層などの社会的弱者を搾取の対象としているのが今の暴力団の真の姿です。そもそもの組織としての「理念」や「行動原理」から大きくかけ離れ、もはや社会的には害悪しか残らない「犯罪組織」となった暴力団対策のあり方については、そろそろ、社会的な議論を深めるべき時期に来ていると考えます。

 暴力団の「金」至上主義への変質は、結局は、自らを、自らで、社会的に存在が許されない(害悪でしかない)ところまで追い込むこととなりました。一方、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)の度重なる改正や全国の自治体で制定された暴力団排除条例(暴排条例)等を駆使して、暴力的不法行為を厳しく取り締まり、徹底的に経済取引等の資金源を断ち、あるいはコンプライアンスを社会の隅々にまで浸透させることによって、暴力団を「必要悪」と評価するような「社会的需要」がもはやないところまで社会の常識が大きく変化し、今や、暴力団を「社会悪」として徹底的に排除すべきとする「パラダイムシフト」が完結しつつあります。
 とりわけ、特定危険指定暴力団工藤会を壊滅に追い込んでいる「頂上作戦」は、正にその試金石であり、象徴ともなりつつあります。収益構造の現代化への対応が遅れた同会の従来からの資金源は、暴排条例や暴力団対策法の改正・厳格化によってみるみる枯渇化し、その焦りが民間事業者への攻撃といった前近代的な対応を招き、それがさらに彼らの首を絞める結果となりました。また、警察当局が、同会トップの「脱税」による摘発や一連の襲撃事件の組織的犯行の立件に積極的に取り組み、それが大量の幹部の逮捕につながり、そのことによって組織を内部から崩壊させることに成功しつつあります(現在進められている襲撃事件の公判では、起訴された後に同会を離脱した元組員が組織的な指示や内部事情を明らかにしており、困難とされた「犯行に関する指揮命令系統を明らかにし、幹部の関与を立証すること」が現実のものとなりつつあります)。一方で、その一連の成果によって、新たに「離脱者支援対策」の重要性と現状の課題が顕在化することになりました。

 暴力団は、「今の形のまま」での存続は難しく、今年5月に発生したATM不正引き出し事件(実は昨年12月や今年の11月にも同様の事件が発生しています)のように、国内の振り込め詐欺グループや海外の犯罪組織など外部の組織等と連携しながら(あるいは対立するはずの他の指定暴力団とも共存しながら)、表向きは組織の規模を縮小させながら、その周縁はより「柔軟な」「あいまいな」形になっていくと思われます。
 そして、最終的には、(暴力団対策法上の位置づけがどう変わるかに関係なく)完全に地下に潜在化するマフィアのような形態に変容していくことが予想されます。ただし、そのことは、何も社会や事業者にとって暴排の取組みが終了することを意味するものではない点に注意が必要です。いつの時代でも、様々な形で、市民や事業者が「関係を持つべきではない」という意味での反社会的勢力「的」なものは存在するものであり、「暴排」から「反社会的勢力排除」へ、犯罪インフラ事業者や国内外の犯罪組織や犯罪グループなどとの交わり・周縁へ、その概念は(中核に暴力団という存在があろうとなかろうと)ますます拡大していくはずです。
 彼らの存在そのものの不透明化・潜在化、犯罪やシノギの手口の高度化・巧妙化などの深化によって、むしろ、社会や事業者にとっては、今まで以上に厳格かつ高度な対応を迫られることになります。そうなれば、現状の「5年卒業基準」はもはや積極的な意味を持たなくなり、正に過去のリスク情報と目の前の実態(真に離脱できているか、現時点で反社会的勢力との関係が認められないか、関係が表面化した際のレピュテーションリスクをどう見積もるか等)をふまえた「自立的・自律的なリスク管理」事項として、「関係を持つべきか」の基準によって、事業者は個別に判断していくことになります。
 したがって、事業者にとっては、今から、表面的な反社チェックのあり方を見直し、主体的に判断していくためのスキルやノウハウ、判断基準を組織的にブラッシュアップしていく必要があると言えるでしょう。反社会的勢力のあり様が時代とともに変質する以上、反社リスク対策もまた変化・向上し続けないといけないことを、あらためてご認識いただきたいと思います。

【注】

なお、このあたりの課題については、最近では、指定暴力団山口組系の組織を8年前に脱退した男性が、経営する会社の給与振り込みに使う口座の開設を申し込んだところ、地元の信用金庫に拒否されたことを受け、家庭裁判所に暴力団員などを登録する信用金庫のDBに名前が残っているため社会生活に支障が出ていることを訴え、家裁から改名が認められたという事案がありました。暴力団を離脱後、真に更生しているかの実態を事業者が個別に見極めることには困難が伴うのも事実であり、当該信用金庫の対応に問題があったということではありません。むしろ、過去の属性とは異なり真に更生していることを他人に証明するのは本人であるべきであって、その客観的な証明のあり方として、今回のような家庭裁判所の判断を活用することもありうるとの可能性が示されたと考えるべきかもしれません。いずれにせよ、今後の反社チェックのあり方を考えるうえで興味深い事案だと言えます。

 さて、そもそも、暴力団対策法によってその存在(枠組み)が定義されている日本の現状はむしろ異例です。犯罪組織の存在そのものを否定する場合もある外国の法制を参考に、正に今、「犯罪組織」以外の何者でもない暴力団そのものの「非合法化」に取り組むべきだと考えます。非合法化に向けた議論にあたっては、今の暴力団は、過去の暴力団のあり方や社会的な立ち位置とは全く異なるものだとの認識が出発点となります。そして、考えてみれば、そのような今の暴力団のあり様は、社会や事業者、警察等が作り出してきたものでもあります。そうであれば、「犯罪組織」である暴力団を無理やり合法的な枠組みにあてはめて規制をかけ続けるこれまでのやり方ではなく、暴力団の存在自体をそもそも許さない枠組みを、官民連携のもと作り出すこともできるはずであり、AML(アンチ・マネー・ローンダリング)やCTF(テロ資金供与対策)を含むテロ対策、特殊詐欺や金融犯罪対策、犯罪組織のグローバル化などに対する国際的な連携が喫緊の課題となっていることもあわせて考えれば、日本が今正に取り組むべき課題であると認識すべきだと言えます。その意味では、暴力団対策、事業者にとっての暴排は、新たなステージに踏み出したと言ってよいでしょう。

2) 事業者における反社リスク対策の現状

 東京商工リサーチが、暴排条例が全国で施行されてから丸5年が経過したことを受けて、「暴力団排除条例」施行後の取り組みに関する企業アンケート調査」(有効回答数4,461社 以下「本アンケート」)を公表しています。

東京商工リサーチ 「暴力団排除条例」施行後の取り組みに関する企業アンケート調査

 ここでは、警察庁や全国暴力追放運動推進センター、日弁連民事介入暴力対策委員会が定期的に行っている「『企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針』(以下「政府指針」)に関するアンケート」の平成26年度版(以下「26年アンケート」)を参照しながら、反社リスク対策の現状について概観してみたいと思います。

警察庁 平成26年度「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に関するアンケート(調査結果)

 まず、過去に(暴力団などの)反社会的勢力からクレーム等を受けたことがあるかどうかについて、本アンケートでは「受けたことがない」が86.4%、「受けたことがある」が13.4%との結果となりました。一方、26年アンケートでは過去5年間で「受けたことがある」と回答したのは4.0%にとどまっています。業種や企業規模の分布が両調査では異なるため単純な比較はできませんが、本アンケートの結果を見る限り、まだまだ反社会的勢力による不当要求等が行われている実態があることから、反社会的勢力等からの不当要求やクレームに対して、対応組織態勢の整備や「対応要領」に関するマニュアルの整備、研修の実施等によって対応力を磨いていく必要があると強く感じます。

 また、本アンケートにおいては、取引先を「チェックしない(する必要がない)」が37.3%、「まだチェックしていない」が26.6%と、合わせて63.9%が取引先をチェックしていないことが明らかとなっています。一方の26年アンケートでは、「取引相手等が反社会的勢力かどうかの審査を実施している」39.6%でしたので、傾向としては、反社チェックを実施している企業はいまだ半分にも満たない状況にあると言えます。さらに、本アンケートでは「取引を解消したことがある」が3.5%であり、26年アンケートでは、「契約書・取引約款等に暴力団排除条項を盛り込んでいる(または盛り込む予定である)」と答えた企業のうち、「暴排条項を活用して契約等を解約(解除)した」企業は10.7%(全体の4.1%)であることから、両調査でほぼ同水準であると言え、排除実務についてはまだまだ十分に取り組まれていない状況にあるように思われます。

 さらに、(26年アンケートでは設問がなく比較できないものの)本アンケートにおいては、取引先の見直しを定期的に「行っている」のは40.5%であり、未上場企業では39.5%、上場企業では77.4%と差が大きいことが指摘されていますが、とりわけ、上場企業では「業種に関係なく」定期チェックへの取り組みが浸透している結果となったことに正直驚くとともに、今後、非上場企業が上場企業と取引することを通じて、定期チェックが徐々に浸透していくことも期待できるのではないかとも考えられます。

 一方で、「反社会的勢力への対応として、貴社で該当する項目」について確認する設問では、「暴排条項の導入」については、26年アンケートでは87.1%であるのに対し、本アンケートでは49.7%、また、「取引相手等が反社会的勢力かの審査の実施」については、26年アンケートでは39.6%であるのに対し、本アンケートでは17.1%、「社外の研修会や講習会の受講」については、26年アンケートでは40.7%であるのに対し、本アンケートでは14.0%と、これらの取り組み状況が極めて低調であった点については、大変な危機感を覚えます。

 全体を通じてみても、26年アンケート当時から大きく進展しているのは(おそらく)「上場企業における定期チェックの実施」の部分のみであり、それ以外はあまり進展が見られていないように感じられます。そして、その中でも、(1)暴排条項の導入は排除実務をふまえればマストである、(2)反社チェックは反社リスク対策の要である、(3)役職員の意識向上が暴排の取り組みにおいては最も重要である、という点からみて取り組みが遅れていることが明らかになったことは、今後の実務において大きな課題だと言えます。

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2.最近のトピックス

1) 特殊詐欺を巡る動向

 前回の本コラム(暴排トピックス2016年11月号)では、特殊詐欺グループにアジトを提供していたとして摘発された不動産業者が、100以上の物件を複数グループに供給し、拠点となった詐欺被害が数十億円に達しているとの報道や、別の不動産会社が偽の賃借人や連帯保証人を確保しながら別人名義で賃借契約を結ぶなどして特殊詐欺グループにアジトを提供していたとする報道などを紹介しましたが、最近では「貸別荘」がアジトに使われていたという事例などもありました。

 このように不動産事業者自体が犯罪インフラ化している実態がみられ、危惧される状況にありますが、報道(平成28年11月15日付産経新聞)によれば、特殊詐欺事件で摘発されたアジトの大家約20人が警視庁の捜査協力の要請を断り、刑事告訴をしなかったということです。不動産業者の摘発には大家の告訴が不可欠であるところ、家賃が払われていたことなどから告訴のメリットがないと判断したと考えられるということです。
 このあたりからも、不動産業者のもつ犯罪インフラ化の危険性や、大家を含む業界の一部に犯罪を助長しているとの意識が極めて希薄である傾向が認められ、特殊詐欺の共犯者として悪質な不動産業者を摘発していくためには、より抜本的な対策を講じていく必要性を感じます。また、犯罪インフラという点では、以前も紹介した「バイク便」において、特殊詐欺に特化したと疑われる事業者が摘発されています。報道によれば、平成25年10月以降、同社が特殊詐欺の現金を受け取る「受け子」として使われた事件は8件あり、計約5,000万円の被害が確認されているということです。

 一方の特殊詐欺対策については、金融機関で動きがありました。愛媛県に本拠を置く伊予銀行と愛媛銀行が、過去1年以内にATMで振り込んだ実績のない口座から一定金額を振り込もうとすると、自動的に制限がかかる仕組みを導入したほか、愛知県内に本店を置く全15信用金庫では、3年以上キャッシュカードによる振り込みをしていない70歳以上の顧客について、カードを使った振り込みをできなくする利用制限を一斉に始めています。いずれも地方銀行や他の都道府県では前例のない取り組みであり、(横並び意識の強い金融機関ですが)他に先駆けて実施することによって特殊詐欺を未然に防止することにつながること、そのような意欲的な取り組みが全国的に拡がることを期待したいと思います。

 さて、警察庁から平成28年1月~10月の特殊詐欺の認知・検挙状況等が公表されていますので、簡単に状況を確認しておきたいと思います。

警察庁 平成28年10月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

 平成28年1月~10月における特殊詐欺全体の認知件数は、11,390件(前年同期11,296件、前年同期比+0.8% 以下同じ)、被害総額は、319.4億円(379.1億円、▲15.7%)となり、被害総額の大幅な減少傾向は継続しているものの、認知件数については減少傾向から再び増加に転じたことが大きなトピックとなっています。
 そのうち、オレオレ詐欺の認知件数は4,750件(4,891件、▲2.9%)、被害総額が128.7億円(137.4億円、▲6.3%)と減少傾向が続いているほか、架空請求詐欺の認知件数は2,839件(3,277件、▲13.4%)、被害総額が124.0億円(139.8億円、▲11.3%)、融資保証金詐欺の認知件数は339件(347件、▲2.3%)、被害総額が5.7億円(4.3億円、+32.6%)とここ最近同様、以前に比べると緩やかな減少傾向を示しています。一方で、還付金詐欺については、認知件数が3,027件(1,900件、+59.3%)、被害総額が35.5憶円(20.0億円、+77.5%)と相変わらず猛威をふるっている状況にあります。

 なお、参考までに、特殊詐欺の被害は日本だけに限られるものではありません。韓国では、振り込め詐欺も含め詐欺事件が1日に数百件発生すると言われていますが、最近では、米国でも被害が拡大しており、これに関連してインドを拠点とした犯罪グループが摘発されています。
 報道(平成28年12月5日付ロイター通信)によれば、米司法省の統計で、2013年以来続いている「大規模で複雑な詐欺」の被害者は少なくとも1万5,000人、被害総額は3億ドル(約343億円)以上に達しているということです。同省は11月に、インドと米国の56人を、インドに所在する偽装コールセンターを拠点とする「電話詐欺」で告訴しており、その内容は、「共謀による身分詐称」「米国公務員へのなりすまし」「有線通信の不正行為」「マネー・ローンダリング」などが挙げられているとのことです。日本の特殊詐欺についても、中国や韓国に「架け子」の拠点を置くグループが増えていることが知られており、正に「特殊詐欺のグローバル化(国際犯罪組織化)」が急速に進んでいることが実感されます。

2) テロリスク/テロ資金供与対策(CTF)の動向

 130人が死亡したパリ同時テロから1年、日本人7人が死亡したバングラテロ事件から5カ月が経過しました。この間、ISの支配地域の奪還が進んでいるとはいえ、テロの恐怖はいまだに猛威をふるっています。
 報道によれば、直近でも、ISは、「世界中で(敵対国の)住宅や市場や道路を攻撃し、火をかける努力を倍加せよ」と支持者を扇動しているほか、シリア北部でIS掃討を進めるトルコを名指しで非難し、「大使館や領事館、治安・軍事施設などトルコ政府関連の施設をあらゆる場所で狙え」と指示しています(なお、先日、トルコでは、反政府武装組織クルド労働者党の分派であるクルド系武装組織による連続テロ事件が発生しました)。一方で、このテロの恐怖は、以前とは明らかに異質なものへと変質しています。それは、ISの直接的な統制の下(特定のエリアで)行われていたテロから、間接的な関与あるいは指示の有無があいまいな形でテロが世界各地で実行されるようになったことと無関係ではありません。

 以前の本コラム(暴排トピックス2016年5月号)で指摘していますが、欧米的価値観が歴史の中で獲得し育んできた「国家」の概念、「自由」や「プライバシー」の概念に対して、いわば「思想」「主義」によって物理的・地理的な限界を超えて結びついているIS的価値観には、「国家」「自由」「プライバシー」などの概念は存在せず、むしろ否定されるべきものと映ります。ISの直接的な統制とは言い切れない、「ホームグロウン」「ローンウルフ」型テロリストは、正に「国家」を超えて、価値観・世界観のみでつながる「超国家」の典型例です。そして、そのような対立構造によって、テロリスクに「多様性(多様な側面)」をもたらしていることも大きく変質した部分です。
 例えば、スマホロック解除問題やEUにおける盗聴・通信傍受等捜査権限の強化の動きは、欧米が大切にしてきた「プライバシー」保護の概念を、IT事業者のテロ関連アカウント削除問題は「表現の自由」の概念を(なお、直近では、独ミュンヘンの検察当局が、フェイスブック社が暴力的表現やテロを支援する内容の投稿の削除に応じないとして、民衆扇動容疑でCEOら経営陣10人の操作を始めたという報道がありました)、EU域内への大量のシリア難民として入国する「偽装難民問題」や「雇用・失業問題」を絡めた「移民排斥」の動きは、リアルな国境の存在する意味や、逆に国境をあいまいにしたシェンゲン協定の有効性の問題、生活基盤としての「国家」のあり方を、それぞれ根底から揺さぶる問題として提起しています。

 このようなテロの本質的な構造やテロの多様性・変質をふまえれば、テロ対策が重要な議題となった伊勢志摩サミットの成果として公表された「G7首脳宣言」(テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画)において、今後のテロ資金供与対策(CTF)等の具体的な方向性が提示されたこと以上に、今後のテロ対策のキーワードとして、「寛容」や「異文化・異宗教間の対話や理解」、「多元的共存」が示された意味をあらためて十分認識することが重要だと言えます。

 また、ISをはじめとするテロリストに、テロを支える勢力から「資金」が確実に供給され続けている事実や、テロリスクの多様性をふまえれば、CTFは、犯罪収益移転防止法上に定める「特定事業者」の取組みにとどまらず、全ての事業者にCTF的な視点からの取組み(自らの商流上にテロを助長するようなサービスや資金の流れがないかの観点から取引の健全性を確保していくこと)が求められていると言えます。加えて、IoTや仮想通貨、タックスヘイブンなど、新たなサービスやスキームの持つ「利便性の高さ」や「匿名性の高さ」といった利点が、そのまま資金の「移動」の不透明化、「真の受益者」の隠匿に悪用されるという、「利便性と悪用リスク」の裏腹の関係があることを十分認識し、そこにビジネスとテロリスクに接点があること(事業者にとってテロリスクは無縁ではないこと)を、事業者自らがあらためて自覚していく必要があります。

 さらには、とりわけ日本の事業者においては、バングラテロ事件や世界各地でのローンウルフ型テロが多発していることをふまえれば、「テロは特定の地域で起こる」との誤った認識ではなく、「日本を含めテロはいつどこで起こるか分からない」とのリスク認識が必要です。この点について、バングラテロ事件をふまえて、外務省と国際協力機構(JICA)が、途上国で政府開発援助(ODA)に携わる日本の非政府組織(NGO)ら国際協力事業関係者のための新たな安全対策策定に向けた最終報告を公表していますが、そこでも、「もはや、日本人であれば被害に遭うことはないと想定することはできない」「日本国内において広範囲の関係者の安全に対する意識が根本的に変わっていくことが必要」だと厳しく指摘されています(なお、大きく報道されませんでしたが、最近、岐阜県警が窃盗などの容疑で逮捕した容疑者宅から高性能爆薬「過酸化アセトン(TATP)」が見つかっています。テロとの関係については不明ですが、TATPは、パリ同時テロで使われ、ブリュッセルでの同時テロの容疑者の関係先でも押収されています。10月に発生した宇都宮市の連続爆発とともに、テロにつながるような危険が身近に存在していることをあらためて認識すべきだと言えます)。

 このような状況をふまえれば、海外進出企業はもちろん、国内においても、事業者は、従業員の安全確保や内通者対策、施設の安全確保(内外からの脅威への対策)、事業継続などの観点からテロリスク対策に本腰を入れる必要があると言えます。なお、事業者によるテロリスク対策の中には、「従業員からのテロリストの排除」の視点も求められています。従業員の思想の急進化などの端緒を組織として迅速に把握すること、カウンセリング等による急進化の抑止などの対策も、今後は必要となると思われます。事業者のテロリスク対策という点では、先日、警視庁が、火薬を悪用したテロを防ぐため、花火の販売業者を集めた講習会を開催しています。報道によれば、警視庁からは、不審者について、「不自然な量を注文する」「マスクやサングラスで顔を隠す」「対面での購入を嫌がる」と例示したということであり、このような取り組みが様々な業界や個々の事業者に拡がることを期待したいと思います。

 また、事業者だけでなく、今後、2020年に向けて日本でもテロリスクが格段に高まることが確実な状況であることを鑑みれば、すべての国民に対して、「命を守る」教育やマニュアル等の社会的な理解や周知が必要な状況でもあります。「日本ではテロは起こらない」「欧米のような銃社会ではないし、宗教的な対立も目立たないからそのような危険に遭遇することはない」といった日本人特有の甘い認識を打破すること、厳しい現実から目を背けるのではなく、近い将来起こり得るテロリスクに正面から向き合うことが、死に直結するテロリスクへの対処として重要なことだと強調しておきたいと思います(なお、具体的な「命を守る」ための具体的なアクションについては、暴排トピックス2016年7月号を参照ください)。

3) アンチ・マネー・ローンダリング(AML)の動向

 AMLを巡る動向としては、直近では以下のような報道がありましたので紹介します。

  • 現金約5,000万円を受け取ったとする架空の受領書への署名を迫ったとして、強要容疑で指定暴力団山口組系幹部と無職の男が逮捕されています。実際は現金を受け取っていないにもかかわらず架空の受領書に署名することを迫ったもので、出金した現金が犯罪収益の一部であって、マネー・ローンダリングの一環だったのではないかとみて捜査が進められています。
  • 米財務省は、6月に北朝鮮が金融機関や政府のフロント企業を使い、「マネー・ローンダリングを行っている重大な懸念がある」と認定したことによる制裁強化の一環として、北朝鮮の金融機関が第三国を通じ、米金融機関の口座を利用できないようにしたと発表しています。
  • 韓国の朴政権をめぐる国政介入疑惑に関連して、朴大統領の友人で渦中の崔被告らが、マネー・ローンダリングに関わった疑いがあるとして、ドイツの捜査当局が捜査を始めたということです。崔被告らがドイツに所有するスポーツコンサルタント会社に対してサムスングループからの送金が朴大統領からの便宜供与を期待しての賄賂だったとの疑いがあるということです。

 さて、前回の本コラム(暴排トピックス2016年11月号)では、AML/CTFにおける「教育研修」について、職員の各々の所属や職位等に合わせた、きめ細かい研修を実施していくべきとの指摘をしていますが、この点について、もう少し詳しく説明しておきたいと思います。

 例えば、営業部門に対しては、顧客と取引を行う最前線に位置することから、顧客の行動を熟知しており、「疑わしい取引」の端緒を最もよく把握しうる立場ですので、単なる手続き面だけでなく、広範なAMLプログラムに対する理解を促す内容や、最新の事例や手口等に関する内容を教育していくことが効果的だと言えます。また、コンプライアンス部門や事務企画部門は、AMLの中枢であることから、組織のどの部門よりも詳しく幅広い知識を有することが求められることから、特に外部の専門家による研修を受講するといった研鑽が必要となると考えられます。さらに、内部監査部門は、AMLプログラムの実効性を検証する重要な役割を担っていることから、高度なモニタリンシステムに対する理解をはじめ、広範かつ深い理解が求められることになりますし、経営陣についても、適切な経営判断を行うために必要な情報(規制の動向や同業他社の取り組み状況、経営サイドが抱えるリスク等)のアップデートは最低限必要となります。このように、所属や職位等によって求められるスキルや情報は異なり、それに対応した研修プログラムを実行することによって、AML/CTFの実効性が高まると言えます。そして、このことは、暴排の取り組みでも全く同様であり、審査(反社チェック)担当部門と現場の社員とでは研修の力点は自ずと異なりますし、役員と管理職、あるいは一般の社員とでは、その役割に応じた目線・考え方をそれぞれ適切に落とし込むことが重要となります。

4) 捜査手法の高度化を巡る動向

 今年6月に公布された犯罪捜査のための通信傍受に関する法律の改正(改正通信傍受法)が12月1日に施行されました。これにより、従来の「組織的殺人」「薬物犯罪」「銃器犯罪」「集団密航」の4つの罪種に加え、組織性のある「放火」「殺人」「傷害」「逮捕監禁」「人身売買」「窃盗」「詐欺」「爆発物使用」「児童ポルノ」の9つの罪種が新たに対象に追加されましたが、とりわけ被害が深刻な特殊詐欺グループの摘発や、暴力団による抗争(殺傷事件)などの組織犯罪について効果的な捜査が行われることが期待されるほか、これまで通信傍受に必要だった通信事業者の立ち会いも不要になり、警察施設など捜査機関内で傍受することも可能になります(ただし、あくまで裁判所の令状が必要な司法傍受である点に変わりはありません)。

 また、覚せい剤事件捜査において、GPS端末を無断で被告の車に取り付けた捜査手法を巡って、その適法性が争点となった裁判で、福井地裁が適法との判断を下しています。報道によれば、弁護側が重大なプライバシー侵害にあたり「証拠能力はない」と無罪を主張したのに対し、福井地裁は、被告が暴力団の一員として組織的な覚醒剤の密売に関与した疑いがあり、捜査員の目視に頼った尾行捜査には限界があったと説明する検察側の主張を受け入れて、「尾行の補助的手段として使用しており、令状が必要な強制捜査にはあたらない」と指摘したほか、位置情報には誤差があるとして、「被告のプライバシーを大きく制約したとはいえない」と判断したということです。本件を含む令状のないGPS捜査の適法性を巡っては下級審で判断が分かれているところ、10月に最高裁第二小法廷が審理を大法廷に回付、上告審弁論を来年2月22日に開くことが決まっており、統一判断が示される見通しとなっています。

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5) タックスヘイブン(租税回避地)を巡る動向

 今年世界を震撼させたパナマ文書について、日本人に関する情報の分析が進みつつあり、中でもNHKのパナマ文書取材班によって、日本人の名前が700人も出てきたこと、企業経営者、投資家、医師、大学教授、有名な漫画家や音楽プロデューサーなどの名前があること、過去に脱税事件で摘発された人物も複数いたことなどが明らかになってきています(これら名前のあがった人物の中には、役員就任の事実を認める者も、まったく身に覚えがなくサインを偽造された者も両方存在します)。さらには、個人情報盗用によるペーパーカンパニーの設立の実態やそれらの会社が出会い系サイトなどに悪用されていることなどが突き止められています。

NHK パナマ文書 5か月の追跡記録

 パナマ文書によって、各国の首脳や富裕層など権力や富を持つ者たちが、タックスヘイブンに設立された実態のないペーパーカンパニーを使って資産隠し(大規模な節税)をしていた実態が暴かれたのは事実ですが、本調査によって、もうひとつの重大な側面である「犯罪の隠れ蓑」「犯罪収益移転機能」としてのタックスヘイブンにも注目が集まり始めています。本コラムでは繰り返し指摘していますが、タックスヘイブンの問題の本質はあくまで、マネー・ローンダリングやテロ資金供与といった犯罪収益の隠匿や犯罪を助長している点にあります。本来明らかにされるべき情報は、こうした不透明かつ問題ある資金の流れであり、それが明るみに出ることによって、ISなどのテロリストや国際安全保障の脅威となる北朝鮮等、あるいは、日本の暴力団等の反社会的勢力などの資金を断つことにつながる(犯罪を抑止できる可能性がある)という点にもっと着目すべきだと言えます。

 さて、パナマ文書を契機として、富裕層の税逃れ防止対策が強化されることになりました。平成29年度税制改正大綱には、富裕層や多国籍企業の過度な節税を防止する対策を盛り込まれることになり、具体的には、富裕層の税逃れ対策では、海外移住に伴う相続税の「5年ルール」を「10年ルール」に見直されるほか、企業向けでは、現在は法人税率20%未満の国・地域にある事業実体のないペーパーカンパニーは、親会社と所得を合算して日本で課税しているところ、20%未満の税率基準をなくし、ペーパーカンパニーの配当や知的財産などに日本の税率で課税することなどが予定されています。
 また、財務省が、日本とスイスの金融機関にある口座情報を自動的に交換することを発表しています。

財務省 税務行政執行共助条約に基づく自動的情報交換に関するスイスとの書簡が交換されました

 本件は、OECD策定の国際基準に従って両国が2017年以後の課税期間等に関する金融口座情報を2018年から自動的に交換できるようにするために、税務行政執行共助条約の規定に基づき行われたもので、これにより、スイスとの円滑かつ実効的な自動的情報交換の実施が確保され、海外にある資産を把握しやすくすることで、国際的な脱税及び租税回避行為の防止を一層促進することが期待されます。

6) 大麻(マリファナ)を巡る動向

 大麻(マリファナ)を巡って国内外の動向が慌ただしさを増しています。日本では、有名人等の薬物事犯の報道や「医療用大麻」なるものの合法性に関する話題(厚労省は、「娯楽用大麻とは別の、安全な医療用大麻があるかのように誤解されているが、そんなものはない」と全面的に否定しています)、町おこしを隠れ蓑として大麻栽培の許可を受けていた事業者が逮捕される事件などがありました(なお、鳥取県はこの事件後、県内での大麻草栽培については産業用でも禁止し、免許を交付しない方針を示しています)が、最近では、長野県の過疎地の集落に県外から移住してきた27~64歳の男女22人が、大麻を所持したとして、厚労省関東信越厚生局麻薬取締部に逮捕されるという驚くべき事件がありました。報道によれば、容疑者たちは、大麻を使用しながら音楽イベントなどで交流を深めるなど、「ゆるやかな大麻コミュニティー」が形成されていたのではないかと言われています。
 さらには、奈良県内で、1万本超もの大量の大麻草が栽培されていた工場が見つかり、販売目的で大麻草を栽培したとして奈良県警が、大麻取締法違反の疑いで、指定暴力団東組幹部の男ら4人を逮捕しています。報道によれば、既に成長していた約4,000本の末端価格は約20億円相当に上るといい、暴力団の資金源となる可能性が高かったものと思われます。厚労省は、このような国内の情勢と米国での大麻解禁の動きなどもあり、覚せい剤等の依存性の強い薬物使用のきっかけとなる「ゲートウェイドラック」である大麻の蔓延する状況に強い危機感を感じており、「大麻に関する現状」というサイトなどを相次いで公表しています。

厚生労働省 大麻に関する現状

 本サイトでは、例えば、大麻の毒性について、「大麻の穂や葉に含まれるTHC(テトラヒドロカンナビノール)が脳神経のネットワークを切断し、幻覚作用、記憶への影響、学習能力の低下、知覚の変化などを引き起こす」と明確に指摘しているほか、「世界保健機関(WHO)は大麻を精神毒性、依存症がある有害なものとして評価しており、国際条約上も大麻はヘロインと同様の最も厳しい規制がかけられている」こと、「欧州の一部の国やカナダ、アメリカの一部の州では、医療用途(疼痛緩和等)での大麻の使用が認められているが、アメリカの連邦法では、大麻を禁止薬物にしており、食品医薬品局(FDA)も医療用に用いる大麻を医薬品として認可していない」こと、「WHOは、大麻の医療用途の可能性については、科学的な根拠に基づいた報告を行っていない」ことなど、大麻を巡る国際的な現状について紹介しています。
 なお、大麻の毒性のもととなるTHCについては、報道(平成28年11月25日付産経新聞)によると、暴力団関係者の話として、「栽培のノウハウが進歩し、麻薬成分であるTHCの含有量が極端に多い大麻などが出回るようになった。THC成分だけを抽出したオイルやリキッドが開発され、ユーザーの裾野も広がった」という実態があり、最近の大麻の蔓延によって暴力団の資金源がさらに太くなっている実態がうかがわれます。
また、参考までに、薬物事犯における再犯者の傾向については、直近の「薬物・銃器情勢」に興味深いデータがあります。

警察庁 平成28年上半期における薬物・銃器情勢(暫定値)

 本資料によると、当期の薬物事犯(覚醒剤事犯、大麻事犯、麻薬及び向精神薬事犯、あへん事犯)の検挙人員は6,251人で、前年同期比+40人(+0.6%)とほぼ横ばいであるものの、覚醒剤事犯の検挙人員は4,864人で、前年同期比 ▲212人(▲4.2%)減少、大麻事犯は1,175人で、前年同期比+233人(+24.7%)増加している点が特徴的です。
 なお、大麻事犯については、上半期の人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が1.3人(前年同期比+0.5人)、20歳代が3.8人(前年同期比+0.8人)、30歳代が2.6人(前年同期比+0.6人)と、若年層を中心に引き続き増加傾向で推移している一方で、初犯者率は76.8%と低下傾向にあること(これに対して、覚醒剤事犯の再犯者率は64.8%と年々増加傾向にあり、年齢別では50歳以上が83.1%、40~49歳が72.2%となっており、覚せい剤事犯と大麻事犯とでは対照的な傾向となっています)など、大麻はゲートウェイドラッグとして若者に、覚せい剤は常習性・依存性の強さもあって中高年層に、それぞれ薬物犯罪の裾野の拡大につながっているという懸念があります。

 一方で、日本の大麻の蔓延傾向は、米国の大麻解禁の動きも影響している可能性があります。先日実施された米大統領選の際には、住民投票もあわせて行われ、9州で大麻の合法化が問われ、ネバダなど3州が21歳以上の娯楽目的の使用を賛成多数で承認されています(アリゾナ州では否決されています)。また、医療用はフロリダなど4州で解禁や使用拡大が認められています。また、コロラド州デンバーでは、クラブやバー、飲食店などでの大麻使用を全米で初めて合法化する法案が可決される見通しで、実際に施行されるのは同市が初めてだということです。一方で、米国では、白人中間層の薬物中毒が急増しているとの報道もありました(平成28年11月4日付毎日新聞)。その中で、米疾病対策センターの統計によると、2014年に全米で4万7055人が薬物の過剰摂取で死亡しており、人口10万人あたりの白人の死者数は19人と1999年の6.2人から3倍超に増えていること、黒人の10.5人、ヒスパニック系の6.7人より高いことが指摘されています。

 これまで紹介してきた通り、大麻の持つ害悪についてのデータや資料がたくさん提示されている中、それでもなお、たばこやアルコールなどより無害とする主張や、医療用途(疼痛緩和等)での大麻利用の正当性の主張、合法化によって犯罪組織の資金源枯渇化や税収増が期待できるとの主張などもまだまだ根強いものがあります。大麻は是か非か。それぞれの立場にとって都合のよい「真実」はたくさんあるようですが、「事実」はひとつのはずであり、健全な議論はそこから始めるべきだと言えます。

7) カジノ/IR法案を巡る動向

 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(統合型リゾート(IR)整備推進法案、カジノ法案)が衆院本会議で可決され、今国会での成立に向け参議院での議論が続いています。そもそも本法案は、いわゆるプラグラム法であり、暴力団排除やギャンブル依存症やマネー・ローンダリングなどの具体的な犯罪対策については、政府が1年後をめどに提出する実施法案に盛り込むことがあらかじめ規定されており、それをふまえた本質的かつ冷静な議論をお願いしたいものです。

 さて、以前、本コラム(暴排トピックス2016年10月号)で、「カジノ事業からの反社会的勢力排除」と題して、カジノ事業における反社リスク対策プログラムの骨格についての提言を行いました。そこでは、免許申請者自身に求められる厳格な「清廉潔癖性と遵法性」を担保するための厳格な背面調査のあり方、IR関連事業者に対する健全性の担保、入場者審査の方向性について考察しています。

 とりわけ、免許申請者については、「カジノ管理委員会」が実施する審査を、申請時はもちろん、定期的(例えば1年ごと)に実施し、最新性を保持していくこと(監視していくこと)や、審査が、専門的かつ公正中立の立場でなされるべきであることから、免許申請者が、第三者である外部専門家によるデューデリジェンスを受けたうえで(第三者に健全性を「証明」してもらい)申請する、あるいは、カジノ管理委員会の下、外部専門家から構成される第三者委員会等が集中して審査を行うといった方法が望ましいのではないかと提言しています。

 また、入場者の審査としては、既に先進的な取組みとして導入されつつある「厳格な入退場管理制度」をベースとして、事前に、あるいは入場手続きの一環として「会員登録」(結果としての会員証の発行)のプロセスを設け、本人確認を厳格に実施のうえ、その属性について、データベースを活用したスクリーニングを実施することが、現実的かつ効率的な望ましい方法だと考えられます。さらに、入場者の審査については、AML/CTFやギャンブル依存症対策の観点も加味した形で「一体的に制度設計する」ことが効率的かつ重要であり、例えば、会員専用カードへの入金(チャージ)としてフロア内での利用を制限することで、資金の流れを完全に把握してマネー・ローンダリングに悪用されるリスクを低減させるだけでなく、利用の上限金額を事前に設定することで、上限に達した場合は強制終了とする、強制的に退場させるといった対応や、入場回数や滞在時間の管理によって利用や入場を制限するといった「ギャンブル依存症対策」としての応用が期待できるとも指摘しています。

 社会の目線が、カジノ事業の「負の部分」に対して厳しく向けられる以上、カジノ事業からの反社会的勢力排除プログラムは、AML/CTFやギャンブル依存症対策とあわせ、相当厳格なものでなければなりませんし、自律的に自らを縛ることによって、社会の理解を得る努力が今後求められると言えます。

 なお、この点については、最近、FATF(金融活動作業部会)が10年ぶりに発行したレポート「Mutual Evaluation report(Anti-money laundering and counter-terrorist financing measures)」の中で、FATFが、米カジノ業界を「リスクと義務への十分な理解を持つ」「法令の要求以上のリスク抑制策を導入」と表現して、米カジノ業界のAML/CTFの取り組みを高く評価しています。FATFから国として厳しい評価を受けている日本ですが、今後のカジノ事業の取り組みのレベル感を考えるうえで大変参考になります。

FATF Mutual Evaluation report

8) 仮想通貨/ブロックチェーンを巡る動向

 世界の中央銀行や政府が、民間銀行や国民とのおカネのやり取りに使うシステムを効率的に運営するため、ブロックチェーン技術の導入に向け実証実験等に乗り出しています。ブロックチェーン技術は、単純化して言えば、「複数のコンピューターで分散してデータを管理する仕組み」であり、仮想通貨にも応用されていますが、安全性を高めコストも抑えられるとされています。ここにきて日本でも、3メガバンクが共同してブロックチェーン技術を使った国内送金の実証実験を実施し、現行システムと同様の処理能力を実現する結果をもたらしたほか、日本取引所も来春、金融機関とブロックチェーン技術の実証事件を行う予定にしているなど、注目を集めています。そのような中、ブロックチェーン技術をはじめITと金融の融合であるFinTechを軸として、新たな金融制度のあり方について、金融審議会での議論が続いています。

金融庁 金融審議会「金融制度ワーキング・グループ」(第4回)資料1「討議資料(決済に関する中間的業者の取扱い)」

 直近の議論においては、金融機関とFinTech企業とのオープン・イノベーション(外部との連携・協働による革新)を進めていくことが重要との認識のもと、金融機関と顧客との間に立ち、顧客からの委託を受けて、ITを活用した決済指図の伝達や金融機関における口座情報の取得・顧客への提供を業として行う者(電子決済等代行業者)が登場・拡大しており、顧客が銀行口座に関するパスワードといった重要な認証情報をこの業者に取得・保有させることとなることをふまえ、顧客が安心して利用できるよう、当該業者について登録制を導入する案が金融庁から示されました。なお、登録にあたっての具体的な要請事項としては、例えば以下のようなものが提示されています。

  • 適正な人的構成(欠格事由等)
  • 必要に応じた財務要件
  • 情報の適切な管理
  • 業務管理体制の整備

 資料では、「オープン・イノベーションを関係者において健全かつ適切に進めていけるようにするための制度整備として、欧州も参考にしつつ、仮に一つのモデルを提示する」とされており、現時点ではこれ以上の詳細な基準が示されているわけではありませんが、金融機関と機微な情報を交換して密接につながるための要件でもあり、厳格な健全性が求められるとの観点から、少なくとも「適正な人的構成(欠格事由等)」については、暴力団等の反社会的勢力の排除の視点や反市場勢力や金融犯罪企図者などの排除の観点は含まれるべきだと言えます。さらには、これまでの反社会的勢力の行動から考えられることとして、有望な技術やビジネスモデル等を有したFinTech事業者に対しては、立ち上げの早い段階から、既に将来性を見込んで人的・資金的な関係を持とうとアプローチしているはずです。オープン・イノベーションを軸とした金融制度改革を真剣に考えるのであれば、そのような若い事業者について、金融機関との契約締結段階ではなく、もっと早い段階から、その健全性や技術等の保護に向けた何らかの対策を講じる必要があると言えるでしょう。

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9) 忘れられる権利の動向

 本コラムで継続して取り上げている「忘れられる権利」の動向については、日本においては、仮処分の形で争われるケースが多いこともあり、公表されていないものも含めると相当数の裁判所の判断が出ていますが、完全に意見が分かれる状況になっており、いまだ最高裁の判断が出ていない以上、流動的な状況となっています。前回の本コラム(暴排トピックス2016年11月号)では、グーグルで氏名などを検索すると、10年以上前の振り込め詐欺の逮捕歴に関する記述の表示について、東京地裁が、「削除の可否は、事件の意義や削除請求者の社会的影響力などを総合考慮し、表現の自由や国民の知る権利も踏まえて決めるべきだ」と指摘、振り込め詐欺など特殊詐欺の被害が現在も深刻なことや、男性が現在、社会に一定の影響を与える会社経営者の地位にあることなどから、「検索結果が表示されなくなる不利益の方が、男性が被る不利益よりも大きい」と結論付けたという事例を紹介しました。

 その後、直近で公表された事例としては、およそ5年前に迷惑防止条例違反容疑で逮捕された男性が、米グーグルに、逮捕に関する検索結果の削除を求めた仮処分の申し立てで、横浜地裁川崎支部が「逮捕歴の公表に社会的意義はない」として、検索結果の削除を命じた仮処分決定を認可する決定を出しています。報道によれば、男性が「無名の一市民」にすぎないことなどから、逮捕歴はすでに「公共の関心事ではない」と判断したとされ、グーグルも不服申し立てをしなかったようですが、「5年前」「迷惑防止条例違反」「無名の一市民」というキーワードの中で、「時間の経過」による「公共性」の減少に関する比較考量の結果が妥当かどうかは、これだけで判断するのは難しいというのが正直なところです。
 さらに、別の司法判断として、グーグルで氏名などを検索すると、自分の逮捕歴などの情報が表示されるとして、福岡県内の男性が米グーグルに検索結果110件の削除を求めた仮処分の申し立てに対し、福岡地裁が101件の削除を命じる決定をしています。報道によれば、「プライバシーなどの人格的価値が侵害される恐れがある」と人格権の侵害を認めたということですが、逮捕歴の「詳細」や「時期」が報道からは不明であり、本件については比較考量に関する考察ができません。このように、日本における「忘れられる権利」については、先日の東京高裁の判決で「忘れられる権利は法律で定められたものではない」と示されたように、EUのような明示された権利ではないだけに、まだまだ事例を蓄積したうえで慎重な議論を重ねながら方向性を定めていくような状況であり、今後、最高裁の判断が出るまでは、まだまだ紆余曲折が予想されます。

10) 犯罪インフラを巡る動向

<クレジットカード/悪質加盟店>

 「割賦販売法の一部を改正する法律」が、第192回臨時国会において、平成28年12月2日に可決、成立し、平成28年12月9日に公布されました。

経済産業省 改正割賦販売法の概要

 本コラムでもたびたび指摘してきましたが、クレジットカードのセキュリティの脆弱性を突かれて悪用される(クレジットカードの犯罪インフラ化の)事例が後を絶ちません。

 加盟店を狙った不正アクセスにより、カード情報の漏えい事例が拡大(昨年36件と前年比約3倍)しているほか、偽造カードやネット上で本人になりすました不正使用による被害も増加し、被害額は年間120億円と3年間で1.8倍にまで拡大しています。さらに、不正使用が国境を越えて行われ、犯罪組織に多額の資金が流出していると指摘されてきたところに、今年、ATM不正引き出し事件が発生(前後で複数回発生)しました。磁気決済が中心でセキュリティの脆弱な日本を狙って、国際的な犯罪が集中(セキュリティホール化)する懸念を払拭するため、IC化を進め、安全・安心な環境の整備を急ぐ必要があります。また、カード支払いを利用した取引に関する消費者トラブルが、加盟店による悪質取引を原因として増加していることや、ボーダーレス化の進展で悪質な加盟店が管理のゆるい決済代行業者を通じて海外のカード会社に流れる傾向がみられるなど、悪質加盟店の排除も喫緊の課題となっているところです。
 これらに加え、「FinTech企業によるイノベーションの促進」(なるべく安く、なるべく強固なセキュリティ対策を、利便性を損なうことなく導入したいとする事業者の対応ニーズを満たす新たな技術(暗号化技術、生体認証、購買履歴等のビッグデータによる不正検知システム等)の継続的なレベルアップ)などの諸課題を解決することも求められています。

 今般、上記のような多様な要請に対応するため本改正が行われたもので、そのポイントは以下の通りとなりますが、これらの取り組みによって、国際的なセキュリティホール化を回避し、悪質加盟店を厳格に管理することによって、犯罪組織を利することのないよう、期待したいと思います。

  1. <加盟店契約会社を登録制とする(外国事業者も対象とし、国内拠点の設置を要件化)
  2. <加盟店契約会社と同等の機能を有する決済代行業者を登録制とする(能力の高い決済代行業者に登録を受けることで新たに法的な位置づけを与える制度)
  3. <加盟店等にセキュリティ対策を義務づける(決済端末のIC対応化等)
  4. <カード決済時の加盟店の書面交付義務を緩和(記載項目の絞り込みと情報提供方法の柔軟化)
  5. <登録を受けた加盟店契約会社と決済代行業者に加盟店管理を義務づける(登録を受けた決済代行会社は加盟店契約会社に代わり、法律に基づく加盟店管理義務を代行することを可能とする)

<公的証明書>

 行政の手続きの脆弱性を突いた犯罪についてこれまでも犯罪インフラ化していることを指摘してきましたが、最近も続いていますので、以下に紹介いたします。手続き上の問題の解決を速やかに図ることは当然のこととして、これらは逮捕事例ですので、不正の手口や発覚した経緯を知ることも今後の犯罪を防ぐためには重要です。特に、現場の担当者などの「不審感」「違和感」が不正を防ぐ最大のポイントであることがご理解いただけるものと思います。

  • 架空名義の保険証使いスマホ百数十台だまし取ったとして、ペットショップ経営者が逮捕されています。報道によると、両親ら親族を扶養家族に追加すると日本年金機構に虚偽申請し、架空名義の保険証14枚を入手し、それを使って携帯電話販売店から百数十台のスマホを詐取して転売し、数百万円の利益を得ていたとみられるということです。代理人として契約に訪れた容疑者を不審に思った販売店が、契約者本人の住民票を求めたことで、提出された住民票の偽造が発覚しています。ただし、本件では、「扶養家族の追加として架空名義の保険証が14枚も追加発行された事実」や「百数十台のスマホを契約した事実」が端緒とならなかった点が今後の課題だと言えると思います(この根本的な解決が図られない限り、今後も同様の事案の発生を防ぐことはできません。)
  • 大阪市が発行したとする偽の所得証明書を使って客に住宅ローン契約をさせたとして、不動産会社社長らが逮捕されています。報道によれば、大阪府を中心とした計32市町が発行したように精巧に装った偽の所得証明書が使われており、約150人の客が二つの銀行から融資を受けていたとのことです。一部の顧客の返済が滞って発覚したようですが、「所得証明書の書面だけで審査が通る」という審査の甘さがその背後にあるものと思われます。
  • パスポートの顔写真付きのページにある「身分事項」欄の所持人自署が、ローマ字で記入できることを悪用し、知人がローマ字記入で正規の手続きで取得した旅券の別のページにある「所持人記入」欄に、ローマ字名と矛盾しない漢字の偽名やうその住所を知人に書かせ、その内容で口座開設を申し込んだとして、2人が逮捕されています。金融機関は所持人記入欄と一致するため、偽名と気づかなかったということです。パスポートは、「顔写真付き本人確認書類」として犯罪収益移転防止法上も認められていますが、対面であれば「顔写真」と実物との照合、非対面であっても「簡易書留等により、転送不要郵便として送付」することで本人確認手続きが完了することから、この手法であれば、本人が協力すればいずれも通り抜ける可能性がある(見抜くのは難しい)ことになります。報道によれば、所持人記入欄に虚偽の内容を記入しても旅券法違反には当たらないし、実際、外務省は各都道府県の旅券センターでの研修で、所持人記入欄に虚偽内容を書く犯行が増えていると伝えているということであり、つまりは、悪用リスクは既に認識されていたところ、実際に不正利用が発生したということになります。今後は、何らかの対策を講じる必要性が高いものと思われます。

<養子縁組あっせん制度/技能実習制度の悪用>

 養子縁組あっせん制度や技能実習制度の悪用リスクが顕在化していますが、いわゆる「人身売買」リスクの観点からの対応も必要です。人身売買については、暴力団も資金源としている分野であり、彼らの関与に十分な注意が必要となります。参考までに、2011年7月にオバマ大統領が、日本の暴力団を国際的な犯罪組織と認定して資産凍結などを行うための大統領令に署名、翌年、米財務省が山口組を制裁リスト(OFAC SDNリスト)に加えた際に、「山口組は薬物の密輸や人身売買、売春、恐喝など国際的な犯罪に関与しており、こうした犯罪によって、年間数千億円を得ていると推定される」と指摘していますが、それだけ国際的に認識されているリスクと言えます。

 さて、最近、千葉県警は、不適正な養子縁組をあっせんしたとして千葉県から事業停止命令を受けた民間養子縁組あっせん事業者に対し、児童福祉法違反の疑い(営利目的のあっせんを行った疑い)で関係先を捜索しました。現在は、養子縁組のあっせん事業は都道府県に経営者の名前などを届け出ればできることになっており、この点について、社会福祉法人や医療法人など経営基盤が安定し、営利目的でないことなどを許可基準に規定する、無許可や業務改善命令に従わない業者に罰則を科すなど悪質事業者を排除するための法(民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律)が今国会で成立する見通しです。許可制による悪質事業者の排除が柱となりますが、暴力団等の資金源とならないよう、厳格な審査を期待したいと思います。

 一方、技能実習制度については、以前から失踪事案が多発しており、最近増加傾向にあることが問題視されています。

国際研修協力機構(JITCO) 技能実習生の行方不明者発生防止対策について

 本資料によると、JITCOが2015年に受けた技能実習2号の行方不明報告者数は、3,110人(前年比0.9%減、ただし、2014年度は前年比11.2%増)で、主な国籍別の内訳として、中国1,599人(構成比51.4%)、ベトナム1,015人(32.6%)、インドネシア138人(4.4%)となっています。また、行方不明者を発生させないための方策として、「送出し機関の選定と信頼関係の構築」「熱意のある、心身共に健康な技能実習生を選抜」「職種のミスマッチ、処遇・技能実習環境のミスマッチをなくす」「日常のトラブル防止のため助言・指導をする」「多くの人々の世話になっていることを理解させる」「安心して技術・技能修得に打ち込める環境を整える」「人権を侵害するような行為は絶対に行わない」といったことが本資料に記載がありますが、この内容では、失踪の背景事情に対して表面的な対応でしかありません。
 実際に、最近、失踪中国人をビジネスにしていた女社長が摘発されたことが報道されています(平成28年12月2日付産経新聞)。報道によれば、この社長は、中国人社会に独自のネットワークを持ち、不法滞在の中国人らを集めて食品加工会社に派遣していたということであり、技能実習制度を隠れ蓑にした人身売買が行われていたことが明らかになっています。さらには、警視庁幹部の指摘として、「暴力団や国際的な犯罪組織と連携しているケースが多い。放置しておけば治安への不安につながるとともに、制度の根幹にかかわる事態になりかねない」とされています。正に人身売買の犯罪インフラ対策としての暴排の視点も求められていると言えます。

<家賃保証>

 賃貸物件の契約で、連帯保証人に代わって滞納した家賃の支払いを一時的に引き受ける保証会社について、その利用が広がる一方で、乱暴な取り立てなど悪質業者をめぐる苦情や相談が相次いでいるということです。報道によれば、このような状況に対して、国交省は、優良な業者を国が後押しし、悪質業者の排除につなげるための登録制を導入し、取り立てに関する社内規則の整備や借り主からの相談窓口設置、取り立てに暴力団員が関与していないことなどが認定の基準として想定されているようです。過去、貸金業者の悪質な取り立てが社会問題化しましたが、2010年6月の貸金業法の改正により、「行為規制の強化」として、貸金業者の行う様々な行為についての規制が強化されています(貸金業法第21条に、「正当な理由がないのに、社会通念に照らし不適当と認められる時間帯として内閣府令で定める時間帯に、債務者等に電話をかけ、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の居宅を訪問すること」など10号にわたって類型が明示されています)。家賃保証業界においては、現状では、自主ルールが定められているものの、同様の法規制はまだなく、家賃保証業務からの暴排の観点とあわせ早急な態勢整備が望まれます。

家賃債務保証事業者協議会 業務適正化のための自主ルール

  • 貼り紙、文書掲示等により、契約者に賃料債務又は求償債務の滞納が生じている事実を契約者等以外の第三者に明らかにすること
  • 社会通念に照らして不適当と認められる時間帯(午後9時から午前8時まで)に契約者等に電話をかけ、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は契約者等の居宅を訪問すること
  • 契約者等の勤務先その他の居宅以外の場所に電話をかけ、電報を送信し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は契約者等の勤務先その他の居宅以外の場所を訪問すること
  • 契約者等の居宅又は勤務先その他の債務者等を訪問した場所において、契約者等から当該場所から退去すべき旨の意思を示されたにもかかわらず、当該場所から退去しないこと
  • 契約者等に対し、前各号のいずれかに掲げる言動をすることを告げること

<海外の犯罪組織による不正送金等>

 海外の犯罪グループがコンピューターウイルスを使って他人のIDやパスワードを不正に入手し、日本にいる中国人と連携して、なりすましによってゆうちょ銀行のネットバンキングサイトに接続し、計28口座から総額約1億1千万円が借名口座に送金されたという事件が発覚しています。本事案では、不正送金で得た現金をこの犯罪グループに還流していたということです。また、別の事案では、中国本土で最も利用者が多いとされるSNSを使い、日本にいる中国人技能実習生らに呼びかけて銀行口座や住民票を不正入手したうえで犯行に及んでおり、SNSが不正送金などの犯罪ツールとして使われている実態が明らかになっています。さらに、当該グループが関与したとみられる不正送金の被害額は、合計約2億1千万円にのぼるとも報じられています。

 これらの事案に共通しているのは、「海外の犯罪組織による日本国内での犯罪」であり、さらにそれが「ID・パスワードや口座・住民票等の不正入手」「なりすましによる不正送金」という2段階の手口となっている点であり、その背景には、「技能実習生」「SNS」「なりすましを可能とする金融システム上の本人確認の脆弱性(限界)」という犯罪インフラの存在があります。もはや、犯罪は国境を簡単に越え、日本は、「ガラパゴス状態からの脱却=世界標準化」を目指すことによって、逆に海外の犯罪組織から攻撃に晒されるリスクが格段に高まっていると認識する必要があります。一方で、ATM不正引き出し事件においては、日本のガラパゴス状態が有する脆弱性が悪用されたという違いがありますが、海外と日本の犯罪組織の連携によって実行されている点からも、日本が海外からターゲットとなっているトレンドがうかがえます。したがって、今後は、犯罪のグローバル化に真剣に対峙していくこと(国内外の犯罪組織の動向を注視し、世界標準レベルの高い対策を講じていくこと)が求められています。

<専門家リスク>

 反社リスクにおいて、「手口の高度化・巧妙化」への対応は喫緊の課題となっていますが、サイバー攻撃や内部不正など犯罪対策全般についても同様のことが言えます。そして、その背景には、専門家と犯罪組織(犯罪者)との連携が見られ、無視できない状況です。一般的な意味での「専門家」の中には、専ら自らの専門分野の追究が最大の価値観となり、一般的な社会常識や倫理観から離れてしまう者(自らの好奇心や虚栄心、プライド等のためには犯罪者に協力することも厭わない)も確実に存在しますし、そもそも、一般人の中にも犯罪と親和性を持ち、自らの高度なスキルや専門知識を悪用・転用する者も存在します。そのような「専門家」が自らの専門性を犯罪に悪用・転用する「専門家リスク」が犯罪の手口の高度化・巧妙化を助長している構図は、近年、さらに強まっているように思われます。例えば、最近では、暴力団員と知りながら暴排条項がある損害保険会社との間で自動車保険を契約させ、保険金を支払わせて損害を与えたとして、背任容疑で、指定暴力団六代目山口組直系組長と保険代理店役員ら3人が逮捕されていますが、これなども保険の知識を悪用しようとしたものです。

 また、米フェイスブック(FB)社が、中国への参入を認めてもらおうと、中国政府向けにFB内に出回る情報を検閲するソフトウエアを開発したと報じられましたが、専門家と犯罪・倫理との衝突という意味でとても考えさせられます。このソフトを使えば、FB内に特定の情報が表示されないように操作することができることになり、中国政府の言論統制に加担することになりかねません。事業や利益のためであれば、倫理的に問題があっても専門的な技術を応用してよいのか、専門家としての資質が(もちろんビジネスモデルの健全性も)問われているように思います。また、報道によれば、核兵器廃絶を始めとする科学と社会の諸問題に取り組む科学者の国際団体「パグウォッシュ会議」の国内組織「日本パグウォッシュ会議」が、「軍事研究に寛容な傾向のある若い研究者への働きかけが重要」と科学の軍事転用への危機感を露わにしている点は、正に専門家リスクに警鐘を鳴らすものと捉えることができると思います。なお、関連して、報道(平成28年12月8日付朝日新聞)によれば、防衛省が大学などでの研究に補助金を出す「安全保障技術研究推進制度」について、関西大学は、教員の応募申請を認めないとの方針を決定、国内外の公的機関や民間企業からの軍事目的を前提とした研究費も受け入れないルールを明確にしたということです。これもまた、専門性の悪用リスクを回避するための専門家としての「矜持」を示すものとして注目したいと思います。

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11) その他のトピックス

<サイバー攻撃リスク>

 防衛省・自衛隊の共通ネットワークの一部がサイバー攻撃を受けていたとの報道が一斉にありました。防衛医科大学校で今年9月ごろ、他大学などのネットワークとつながるパソコンが外部から侵入を受け、さらに、このパソコンが踏み台となって、防衛省・自衛隊共通の通信回線「防衛情報通信基盤(DII)」のサーバーに攻撃があったというものです(翌日には、機密情報の流出は確認されていないとの報道もまた一斉になされ、本件に関する報道は以後完全に沈黙してしまっています)。

 本コラムで以前から指摘している通り、世界では、既に「陸」「海」「空」「宇宙」「サイバー」の5つの空間が戦場となっており、その攻防はますます激しさを増しています。したがって、サイバー攻撃リスクについては、単なる「情報漏えいリスク」としてだけでなく、「機密情報や知的財産の漏えい」という意味で国家安全保障上の問題も含まれるものと深刻に捉え、官民あげて対策に取り組む必要があります。

 さて、サイバー攻撃は、「外部からの攻撃」という点で、反社リスク対策、金融犯罪・国際犯罪対策と同様の性質を有しています。その対策に共通するキーワードとしては、「組織的対応」「手口の高度化・巧妙化と攻撃者の潜在化」「グローバル化と日本のターゲット化」「入口対策の限界とモニタリング強化・発覚時の緊急事態対応の重要性」「人材・意識レベルの底上げ」などがあげられると思います。外部からの攻撃は、攻撃する側が圧倒的に優位な立場にありますが、その攻撃においては、「相手をじっくり観察する」プロセスがあり、実は事業者が実際に認知するよりも早い段階でシステムに侵入されたり、従業員と接点を持とうとする動きが見られるものです。セキュリティ専門会社である「ファイア・アイ(FireEye)」の直近のレポートによれば、以下のような驚くべき事実が指摘されています(下線部は筆者)。

  • 実に96%の組織がなんらかのセキュリティ侵害を受けており、そのうち27%は高度な攻撃グループが関与していた
  • こうした攻撃グループは企業や組織のネットワークに侵入したあと、検知されないよう水面下で活動し長期間にわたり潜伏し機密情報等を窃取する傾向がある
  • 他の調査では、セキュリティ被害の発覚までの日数に全世界の中央値で146日、日本を含むアジア地域で520日かかっており、その半数以上が外部組織からの指摘によるものである

FireEye調査レポート 「Maginot Revisited: More Real-World Results from Real-World Tests」(2015年1月発行)

FireEye 調査レポート 「M-Trends 2016, Asia Pacific Edition」(2016年8月発行)

 これらの調査結果からは、サイバー攻撃対策においては、攻撃を避ける(予防する)ことには限界があり、いかに外部からの攻撃の端緒を早く掴むか、そして認知してからの迅速かつ適切な対応がむしろ重要となっていることが分かりますが、反社リスクにおいても、「入口」での反社チェックは100%ではないことから、「中間管理」において、定期・不定期のチェックの実施や現場から報告などを通じてその端緒を把握することが重要(モニタリングがより重要)であり、これらから、外部からの攻撃リスクに対する共通の課題・対策の方向性が読み取れます。

 また、経営者(役員)が侵入の経路となりやすい点についての認識も共通して必要です。この点、反社リスクにおいては、代表者など決裁権限のある管理職以上の者がターゲットとなりやすく、支店長がターゲットとなった某地銀の不正融資事件などがその典型例となりますが、情報セキュリティ分野でも、例えば、標的型攻撃メールを開いてしまう割合は、従業員より役員の方が1.5倍多いとのNRIセキュアテクノロジーズの調査結果があります。そもそも、より機密情報を有している役員は「攻撃の対象になりやすい存在であるため、従業員以上に訓練によって危険性を認知しておくことが大事」(同社)であり、反社リスク対策でも、決裁権限を持つ役員等は「接点となる相手の目的や属性等を慎重に見極めていくことが大事」ということになります。

NRIセキュアテクノロジーズ 標的型メールを開いてしまう割合は、従業員より役員の方が1.5倍多い~企業におけるサイバーセキュリティに関する分析結果(2015年版)を公表~

 さらに、以下の2つのトレンドマイクロの調査に見られる日本の事業者のセキュリティ上の脆弱性については、反社リスクに置き換えてもそのまま脆弱性として指摘できる部分となります。

トレンドマイクロ 2015年年間セキュリティラウンドアップ

 標的型メール攻撃について、被害に遭っていないと考えている企業であっても4社に1社はすでに攻撃による侵入を受けていると言います。さらに、(上記のファイア・アイの調査同様)平均的な事例では最初の侵入から5カ月以上経過後に外部から指摘されて侵入が発覚し対応を開始しており、最悪の場合はそのまま気付かずに情報を奪われ「発覚もしない」と厳しい指摘がなされています。反社リスクにおいても、既に侵入されているとの認識のないまま関係を継続してしまっている事例は多く、問題を「外部から指摘」される事例も増えている点も共通しています。

トレンドマイクロ 企業におけるランサムウェア実態調査

 今年6月に、企業・組織においてITに関する意思決定者および関与者534名を対象に行ったランサムウェア(感染したPCの操作をロックしたり、PC内のファイル(データ)を暗号化して復旧の代わりに金銭を要求する不正プログラム)に関する調査を実施したところ、34.8%がランサムウェアの被害に遭う可能性が「ない」と回答しており、半数近くが「自社は大企業または有名企業ではないから」と回答したということです。実際のところ、ランサムウェアは大企業や有名企業だけを狙って攻撃される脅威ではなく、業種規模問わずあらゆる企業が感染する可能性があります。
 同社は、「多くの企業がランサムウェアに対する誤った認識を持っていることが明らかになって」いると指摘していますが、反社リスクにおいても、不動産や金融、あるいは、産業廃棄物事業関連といった業種のリスクが高く、他は(自社は)高くないと誤って認識している事業者はまだまだ多いようです。ところが現実は、反社会的勢力は、業種・業態・エリア等に関係なく、ただし、共通するものとして、「規制が緩い」「脇が甘い」事業者をターゲットとしている実態があります。このリスク実態と事業者の認識(思い込み)のギャップが、(侵入されても把握できない態勢の不備とあわせ)問題を深刻化させていると言えます。

 さらに、本調査においては、ランサムウェアの被害者の6割以上が身代金を支払った経験があり、支払った理由は「業務が滞ってしまうから」というものが多いとの結果も出ています。また、支払った身代金の金額は、57.9%が300万円以上と回答しています。同社は、「身代金を払ってもファイル(データ)が完全に戻る保証はなく支払うべきではない。また、犯罪者に金銭と同時に、企業名などの企業情報を渡してしまうことで、次なる攻撃の標的となってしまうことも考えられる」と指摘しています。残念ながら、このような日本の事業者の姿勢が海外の犯罪組織から「カモ」と見なされて、さらなる攻撃の激化を招いている理由となっています(なお、日本企業が国際的にターゲット化している証左として、「自然な日本語」による攻撃が増加していることが挙げられます)。この点も、反社リスク対策に通じるものがあり、その場しのぎのために一度でも不当要求に応じてしまえば、その要求がエスカレートしていくことや、脇の甘さを突かれて、会社の優良な資産や資金が社外に流出してしまう事例などが挙げられます。

<福岡県暴追センターによる動画>

 福岡県の暴力追放運動推進センターが、住民運動などで撤去された暴力団事務所を紹介する動画「暴力団事務所撤去」をウェブサイトで公開しています。本年10月、福岡市中央区にあった山口組傘下組織事務所が撤去され、8月には、北九州市八幡西区にあった指定暴力団工藤會傘下組織事務所がケーキ屋に生まれかわりましたが、その風景がテーマとなっています。

福岡県暴力追放運動推進センター(暴追センター) 動画のご案内

 さらに、本ページにおいては、「許されざる者」(10年前の平成18年に、福岡県警と共同で制作したもので、実際にあった事件、実際の暴力団の活動に基づき制作されたものです)や、「離脱」「福岡県暴力追放運動推進センター」のあわせて4本が公開されています。

<証券口座からの暴排>

 報道(平成28年11月18日付産経新聞)によれば、暴力団関係者が保有する証券口座が大手証券会社に少なくとも数十存続しているということです。そのうえで、「本人が売却に応じないかぎりは、証券会社は強制的に解約することはできず、株主として暴力団が企業に影響力を行使できる状態にあることが問題」となっていると言います。証券業界は、すべての業界の中でも特に早くから暴排に取り組んでいた業界であり、警察庁のデータベースと直接接続し新規口座開設時の反社チェックに活用できている業界でもありますが、報道を見る限り、暴排条項導入前の既存口座の契約解除の実務は遅れていることが分かります。

 一方の銀行の預金口座においては、生活口座の解除の優先順位の問題はあるものの、暴排条項を活用した預金口座の解除実務は比較的進んでいると言えます。判例においても、暴排条項の遡及適用については、「暴排条項は公益を目的とするものであること」「反社会的勢力排除の要請が社会的に高まっていること」「既存の契約にも適用しなければ目的を達成することが困難であること」「既存の顧客に与える不利益の程度は大きくないこと」「(金融機関が)暴排条項の周知に努めていること」などの諸要件をふまえて認められる流れができつつあります。また、関連して、生活口座の解除については、いまだ統一的な見解が確定しているわけではありませんが、「生活口座であっても容易に反社会的勢力の活動に転用できること」「被る不利益は、ライフラインの使用不可能のような大きいものではないこと」「反社会的勢力から離脱することで不利益が回避できること」から生活口座であっても解除すべきであるとする東京地裁の判断や、「代替性がない生活口座については暴排条項の適用外」とする福岡地裁の判断などがあります。さらには、金融庁がみずほ銀行の事例をふまえて監督指針を改正した際のパブリックコメントの内容も参考になります。

金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」等及び「金融検査マニュアル」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について~(別紙1)コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方

 監督指針では、「取引開始後に反社会的勢力であると判明した場合には、可能な限り回収を図るなど、反社会的勢力への利益供与にならないよう配意」することが求められており、そのうえで、たとえ、暴排条項が導入されている取引で速やかな解消が可能な場合であっても、「反社会的勢力を不当に利することの無いよう当該取引に係る債権回収の最大化を図る観点や、役職員の安全確保の観点等を総合的に考慮した上で、具体的対応について検討する」とのコメントがあります。一方で、「一律に期限の利益を喪失させて融資金の回収を図ることを求めているものでもない」「保証会社から代位弁済を受けた場合、基本的には「可能な限り回収を図る」に該当すると考えられるが、保証会社がグループに含まれる場合には、グループ一体となった反社会的勢力排除の取組みが求められる」といったコメントもあり、個別具体的な状況に応じて、微妙なバランスに配慮しながらも、その中で「手を尽くす」ことが求められています。また、関連して、「定期的に自社株の取引状況や株主の属性情報等を確認する」態勢の整備も求められており、その取組みのレベル感として、「定期的に株主の属性を把握して、株主の立場を利用した不当要求等へ備えるためのものであり、株主が反社会的勢力と判明した場合に、株式を売却させることまで求める趣旨ではない」とのコメントがあります。

 つまり、証券口座からの暴排の問題について、現状は、「反社会的勢力の活動に利用されていない」状況をモニタリングし続けることで、契約解除を猶予している状況にあるであろうことは理解できるものの、「暴排条項の遡及解約の有効性」という点で言えば、上記判例が参考となるはずであること、「証券口座の強制解除の有効性」という点では、生活口座の問題で争点にあるような「代替性」の問題にはならず、その証券口座があることで容易に反社会的勢力の活動の助長につながるであろうことや、反社会的勢力を離脱すれば不利益を被ることを回避できることなどから、やはり、解除できない理由にはならないように思われます。また、「損失の発生」については、反社会的勢力を利することはあってはならないことはもちろんのことですが、あくまで証券口座を保有することで与えている「利益供与」の問題や、「ライフラインの使用不可能により被る不利益」との比較考量、「役職員の安全確保」の観点などから検討すべきであり、最初から「損失が発生するから解除できない」というスタンスをとるべきではないと思われます。さらに、「株主として影響力を行使する」ことは、当該企業にとっての脅威となることであり、株の保有という事実だけで株を売却させることのリスクもふまえつつ、これらすべてを総合的に判断すべきだと言えると思います。

<犯罪白書/犯罪統計/来日外国人犯罪の検挙状況の公表>

法務省 平成28年版犯罪白書のあらまし

 本資料によれば、刑法犯の認知件数は、戦後最多であった平成14年をピークに13年連続で減少しており、平成27年(前年比9.4%減)は戦後最少を記録(平成14年の4割弱まで減少)していることが分かります。また、報道によれば、65歳以上の高齢者の検挙者は4万7632人で、全体に占める割合が統計を取り始めた1986年以降、過去最悪の19.9%となったほか、過去1年間に刑務所に入所した高齢者2,313人のうち約7割が2回目以上の入所(再入所)であること、さらには、2011年に刑務所を出て5年以内に再び罪を犯した65歳以上の高齢者の4割は再犯に至るまで半年未満だったことが分かったということです。

 また、今年の犯罪白書では、「再犯の現状と対策のいま」という特集が組まれており、以下のような傾向等が指摘されています。暴力団対策においては、離脱者支援が今後重要となると指摘していますが、刑法犯の再犯防止プログラムの充実もまた社会的に重要かつ喫緊の課題であることがあらためて認識されます

  • 刑法犯検挙人員の48.0%が、以前に検挙されたことがある者(再犯者)であり、再犯者の人員はピーク時(平成18年)から22.9%減少
  • 入所受刑者の59.4%が、刑務所への入所が2度以上の者(再入者)
    【注】なお、暴力団に限って言えばこの傾向はさらに強まります。やや古くなりましたが、財団法人社会安全研究財団(現在は公益財団法人日工組社会安全財団)が実施した「暴力団受刑者に関する調査報告書」において、服役している暴力団員等を対象に行ったアンケートの分析結果によれば、調査時点(平成21年12月~平成22年3月)において、入所が初回の者が30.0%、以下、2回(22.5%)、3回(13.4%)、4回(9.3%)、5回(7.4%)の順となっており、6~10回は15.0%、11回以上は2.6%であり、入所度数が2回以上の者の構成比は70.0%にまで上ります。
  • 出所受刑者のうち4割近くが5年以内に再入所、そのうち半数は2年以内に再入所
  • 満期釈放者は、仮釈放者よりも再入率が相当高い
  • 高齢者層の再入率は他の年齢層と比べて一貫して高い
  • 出所からごく短期間で再犯する者が多い
  • 女性の再入率は男性と比べて低いが、上昇傾向
  • 窃盗の再入率が最も高いが低下傾向にある一方で、覚せい剤の再入率は20%前後で推移(低下していない)
  • 窃盗と覚せい剤は、再入率が高いだけでなく、合計で出所受刑者の過半数を占める
  • 窃盗は、覚せい剤に比べ、再犯期間が短い傾向
  • 今後、重点的な対策が必要な分野として、「高齢者」「女性」「窃盗」「覚せい剤」

 なお、直近では、法務省が矯正施設である刑務所・少年院に収容されている受刑者らの職歴や資格、出所時期や帰住予定地などの情報を一括管理する矯正就労支援情報センター室(通称・コレワーク)をさいたま市と大阪市に開設しています。

法務省 受刑者等の雇用に関する相談受付について(コレワークのご案内)

 このコレワークは、受刑者・在院者の雇用を希望される事業主の方に対し、以下の3つのサービスを提供して、再犯防止の実現を目指すものとされています。

(1) 雇用情報提供サービス

  • 全国の受刑者・在院者の資格、職歴、帰住予定地などの情報を一括管理
  • 事業主の方の雇用ニーズにマッチする者を収容する矯正施設を素早く紹介

(2) 採用手続支援サービス

  • 事業主の方の矯正施設での一連の採用手続を幅広くサポート

(3) 就労支援相談窓口サービス

  • 事業主の方に対する各種支援制度の案内
  • 事業主の方に対する矯正施設見学会、矯正展、職業訓練見学会の案内

 また、犯罪統計については、警察庁からも直近(平成28年1~10月)の犯罪統計が公表されています。

警察庁 平成28年1~10月犯罪統計

 同期間における刑法犯総数について、認知件数は835,244件(前年同期 923,124件、前年同期比▲9.5% 以下同じ)、検挙件数は274,112件(288,160件、▲4.9%)と上記犯罪白書同様、全体としては減少傾向が認められます。とりわけ圧倒的なウェイトを占める「窃盗犯」については、認知件数は608,105件(680,229件、▲10.5%)、検挙件数は170,260件(183,014件、▲7.0%)となっており、うち、侵入盗については、認知件数は63,891件(72,529件、▲11.9%)、検挙件数は35,375件(37,262件、▲5.1%)と、窃盗犯においては特に認知件数が大きく減少していることが分かります。

 また、「知能犯」(警察庁では、詐欺、横領(占有離脱物横領を除く)、偽造、汚職、背任、あっせん利得処罰法(公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律に規定する罪)を包括して「知能犯」と分類しています)については、認知件数は36,360件(35,623件、+2.1%)、検挙件数は17,888件(16,151件、+10.8%)と増加傾向にあります。

 属性別にみると、暴力団犯罪(刑法犯)については、検挙件数は8,798件(10,032件、▲12.3%)、検挙人員は6,228人(7,368人、▲15.5%)であり、平成27年末における暴力団構成員等の減少傾向(平成26年末の53,500人から46,900人へ12.3%減)をなぞる形で減少傾向にあると言えます。なお、暴排条例については、検挙件数は8件(6件、+14.3%)、検挙人員は14件(10件、+40.0%)などとなっています。

 一方、来日外国人による刑法犯・特別法犯については、認知件数は3,947件(3,718件、+6.2%)、検挙人員は3,111人(2,983人、+4.3%)と増加傾向にあります。来日外国人が急激に増加している側面だけでなく、海外の犯罪組織等から日本がターゲットにされている現状を反映しているものと考える必要があります。ただ、最近公表された警察庁の「来日外国人犯罪の検挙状況(平成28年上半期)」などを見ると、特徴的な状況が浮かび上がっています。

警察庁 来日外国人犯罪の検挙状況(平成28年上半期)

 平成28年上半期の刑法犯検挙状況は、前年同期に比べて検挙件数・人員のいずれも増加していますが、包括罪種別にみると、粗暴犯及び風俗犯の検挙件数・人員が増加している一方、凶悪犯及び窃盗犯の検挙件数・人員は減少しているとの結果となりました。また、国籍等別にみると、強盗及び窃盗はベトナムが、侵入窃盗は中国、自動車盗はスリランカ、万引きはベトナムが高い割合を占めています。また、罪種等別にみると、中国、ベトナム及びフィリピンは万引き、韓国は置引きが高い割合を占めています。この点については、当社の実際の対応状況からみても、ベトナム人による組織的犯行の多発は危惧しているところであり、彼らのコミュニティー内で戦利品をSNS等を通じてやり取りするなど、コミュニティー自体が「犯罪の温床」と化しているほか、犯行エリアの広域化によってその移動に使われる自動車の窃盗、盗難車両のナンバー付け替えや一部番号の偽造などの加工など、「犯罪インフラ」の深刻化や、薬物(危険ドラッグ等)の販売まで手がけ、犯罪組織として凶悪化する傾向も一部見られており、「マフィア化」の懸念すらあります(このあたりは、平成28年11月27日付産経新聞における警察幹部の懸念と重なるものがあります)。

<休眠口座対策からの暴排>

 最終異動日等から10年を経過した預金等である「休眠預金等」について、預金者等の利益を保護しつつ、休眠預金等に係る資金を民間公益活動を促進するために活用することにより、国民生活の安定向上及び社会福祉の増進に資することを目的とする法案が成立しています。

衆議院 民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律案要綱

 本要綱によれば、「休眠預金等交付金に係る資金は、人口の減少、高齢化の進展等の経済社会情勢の急速な変化が見込まれる中で国及び地方公共団体が対応することが困難な社会の諸課題の解決を図ることを目的として民間の団体が行う公益に資する活動であって、これが成果を収めることにより国民一般の利益の一層の増進に資することとなるものに活用されるものとする」とされ、「その活用の透明性の確保」や「大都市その他特定の地域に集中することのないように配慮」することが盛り込まれています。なお、「公益に資する活動」には、以下のようなものが掲げられています。

  • 子ども及び若者の支援に係る活動
  • 日常生活又は社会生活を営む上での困難を有する者の支援に係る活動
  • 地域社会における活力の低下その他の社会的に困難な状況に直面している地域の支援に係る活動
  • 上記に準ずるものとして内閣府令で定める活動

 上記の活用範囲については、内閣府が認証・認定するNPO法人の活動分野(特定非営利活動の種類)が、「保健、医療又は福祉の増進を図る活動」「地域安全活動」「子どもの健全育成を図る活動」「職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動」など20種類に限定されている点と近いものを感じます。

内閣府 内閣府NPOホームページ 制度改正 活動分野 質問一覧

 ただ、NPO法人が「内閣府認証」などの言葉とともに語られることによって、暴力団等の隠れ蓑として悪用されている実態があります。例えば、暴力団組長が、知人を理事長に就任させてNPO法人を設立、その後、厚労省所管の独立行政法人から助成金をだまし取ったとして、警視庁に詐欺容疑で逮捕されるといった事件も過去発生しています。このようなリスクに対して、内閣府認証においては、暴排の観点から以下のような規定があります。

(1) 暴力団等の排除のために法(特定非営利活動促進法)第12条に規定されている認証基準において、NPO法人の要件に抵触する暴力団等の範囲として以下のとおり規定

  • 暴力団
  • 暴力団の統制下にある団体
  • 暴力団の構成員(暴力団の構成団体の構成員を含む。以下同じ)若しくは暴力団の構成員でなくなった日から5年を経過しない者 (以下「暴力団の構成員等」という)の統制下にある団体

(2) 法第20条の役員の欠格事由として、「暴力団の構成員等」を規定

 一方で、今回成立した法案では、「休眠預金等交付金に係る資金の活用」として、「(3)休眠預金等交付金に係る資金は、これが次のいずれかに該当する団体に活用されることのないようにしなければならない」として、以下が規定されています。

  • 宗教の教義を広め、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする団体
  • 政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的とする団体
  • 特定の公職の候補者若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対することを目的とする団体
  • 暴力団
  • 暴力団又はその構成員等の統制の下にある団体

 確かに休眠預金の交付からの暴排の形で規定はなされていますが、貧困対策や若者支援、あるいはNPO等の活動支援等という本制度の主旨、反社会的勢力の拡がりやNPO法人の悪用事例などをふまえると、給付先の健全性の担保にはもう少し厳格さが必要ではないかと思われます。今後、詳細な制度設計がなされる予定ですが、その際にはもっと踏み込んだ資金の活用範囲に関する議論を期待したいと思います。

<注目される判例>

 犯罪対策の観点から注目される最高裁の判断が最近もありましたので、以下2つご紹介しておきます。

  • 暴力団幹部に頼まれて土地を購入し、自分名義で登記した建設会社役員について、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪に問えるかが争点となった裁判の上告審判決で、最高裁第一小法廷は、売り主の認識と契約上の名義を重視し、「これを忠実に反映した登記は虚偽ではない」として、土地の登記について無罪とした一審の水戸地裁の判決が確定しました。
     ただし、この裁判の背景には、茨城県暴排条例第18条(不動産の譲渡等をする場合の措置)第3項において、「不動産の譲渡等をしようとする者は、当該不動産の譲渡等に係る契約において、次に掲げる事項を定めるよう努めなければならない」として、「(1) 当該不動産を暴力団事務所の用に供してはならない旨」が定められていることから、暴力団幹部の意を受けていったん当該役員名義として行われた行為であり、虚偽の登記ではないとはいえ、暴力団の活動を助長する行為として暴排条例に抵触しかねない、非難されるべきものと言えると思います。
  • ルーマニア人の女性が税関検査で覚せい剤などが発見された際に、裁判所の令状なしに、税関職員が国際郵便物を開封して検査したことが憲法35条(捜索及び押収に対する保障)に反するかどうかが争われた覚醒剤密輸事件の上告審判決で、最高裁第三小法廷は、「大量の郵便物を簡易・迅速に調べることが目的」で、「税関検査には高い公益性があり、中身の検査も必要な範囲で許される」として、一般的な郵便物検査に令状は必要なく、「合憲」とする判断を示しています。税関検査は、犯罪の水際防止等において極めて重要な役割を担っており、正に「高い公益性」があると言え、薬物犯罪だけでなく金の密輸など他の犯罪抑止の観点からも妥当な判断ではないかと思われます。

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3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 京都府の暴排条例による逮捕事例

 小学校から150メートルほどしか離れていない場所にある3階建て住宅の1階に組事務所を開設したとして、京都府警は、京都府暴排除条例違反容疑で指定暴力団神戸山口組系組長ら2人を逮捕しています。京都府暴排条例では、第5章「青少年の健全育成を図るための措置」第19条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設又は建造物の敷地(略)の周囲200メートルの区域内においては、これを開設し、又は運営してはならない」として、対象施設のひとつに「(1)学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(大学を除く。)及び同法第124条に規定する専修学校(高等課程を置くものに限る。)」を規定しています。同様の規定は、福岡県をはじめほとんどの自治体の暴排条例にもあり、これまでも本規定を適用した摘発事例があります。最近では、指定暴力団六代目山口組から分裂した指定暴力団神戸山口組の本拠地が当初なかなか決まらなかった理由のひとつに、暴排条例の当該規定により、「暴力団事務所の新設が困難」な状況があったからだと考えられています。

京都府暴力団排除条例

2) 自治体における公共事業からの暴排(企業名公表措置)

 公共事業からの暴排の観点から、「企業名公表措置」を行う自治体がここにきて増えています。これまでは、福岡県・福岡市・北九州市・大阪府などが比較的積極的に公表措置を行っていましたが、ここ最近だけでも、以下のようなものがありました。

 なお、当社で過去、公表措置を受けた企業について追跡調査を行ったところ、公表時点で既に社名を変更しているもの(公表されている社名が旧社名)や、代表者含め役員がすべて入れ替わっているもの、既に実態がないものなども存在していました。公表措置となれば、公共事業だけでなく銀行取引や民間事業者との取引停止など企業存続に直結するだけに、これらの企業も必死ですが、企業の反社チェックの一環としての本情報の活用や、公表情報だけをうのみにせず、企業の実態を登記情報(履歴事項や閉鎖事項等)などを紐解いて丁寧に確認していくことが重要となります。

<福岡県>

 現時点(平成28年12月14日)で、「指名停止」対象として1事業者、「排除措置」対象として19事業者の社名が公表されています。最新では、平成28年11月16日付で、「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」「役員等が、禁こ以上の刑に当たる犯罪の容疑により公訴を提起された」ことを「理由」として、「排除措置」(福岡県建設工事競争入札参加資格者名簿に登載されていない業者に対し、一定の期間、県発注工事に参加させない措置で、この期間は、県発注工事の、「下請業者となること」「随意契約の相手方となること」ができない)が採られています。

福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧

<福岡市・北九州市>

 福岡市については、「競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧表」として、暴排以外の措置と合わせて公表されていますが、北九州市については、現在、「暴力団と交際のある事業者の通報について」として、18事業者が暴排の観点から公表対象となっています。

福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧表

北九州市 被通報事業者一覧(暴力団と交際のある事業者の通報について)

 両市ともに最新のものは、平成28年11月10日付で、福岡県公表の企業と同一の事業者が公表されていますが、参考までに、福岡市は、排除理由として「暴力団との関係による」との記載のみであるのに対し、北九州市では、通報内容として「当該業者の役員等が、暴力団構成員と「密接な交際を有し、又は社会的に非難されるべき関係を有していると認められるとき」に該当する事実があることを確認した」と記載されており、福岡県の「理由」との比較も含め、自治体により公表されている情報量に差があることが分かります。また、福岡県の「排除期間」が「平成28年11月16日から 平成31年11月15日まで(36ヵ月間)」とされているのに対し、福岡市は「平成28年11月10日から平成29年11月9日まで」、北九州市では「平成28年11月14日から18月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」とされており、こちらも同一企業に対する排除措置期間が自治体によって大きく異なっていることが分かります。

<横浜市>

 横浜市では、「指名停止措置一覧」として、暴排以外の理由も含めて現在28事業者が公表されていますが、「有資格者又は有資格者の経営に事実上参加している者が暴力団と密接な関係を有していると認められるとき」を「停止理由」として、1事業者が対象として公表されています(横浜市の公表事例は極めて珍しいと思われます)。なお、「停止期間」として、「平成28年11月25日~改善したと認められるまで」とされており、福岡県等と異なり、終期について一定の期間の定めがなく、改善が認められるまでが対象となっています。

横浜市 指名停止措置一覧

<兵庫県>

 兵庫県では、「平成28年度建設工事等に係る資格制限・指名停止措置状況一覧」 として現在17事業者が公表されていますが、暴排に関するものは直近の1事業者のみが対象となっています(なお、平成27年度分は30事業者が公表されていますが、暴排に関するものはなく、兵庫県の公表も珍しいものと思われます)。直近の公表事例は、「当該業者の代表取締役が、暴力団又は暴力団員と社会的に非難される関係を有していると認められるため」が「理由」であり、対象期間については、「平成28年11月9日から6カ月以上その事実がなくなったことが明らかになるまで」との記載がなされています。

兵庫県 平成28年度措置状況一覧

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