暴排トピックス

警察庁「平成28年における組織犯罪の情勢」から見えるもの

アバター 取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

2017.04.10
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【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.警察庁「平成28年における組織犯罪の情勢」から見えるもの

1) 暴力団情勢(概観)

2) 薬物・銃器情勢

3) 来日外国人犯罪の情勢

4) 犯罪インフラ事犯の情勢

2.最近のトピックス

1) みかじめ料を巡る名古屋地裁判決/工藤会を巡る福岡地裁判決

2) 医療業界からの暴排

3) 特殊詐欺を巡る動向

4) 組織犯罪処罰法改正を巡る動向

5) AML/CTF/テロリスクの動向

・来日外国人によるマネー・ローンダリング事犯/仮想通貨におけるAML

・テロリスクの動向/IT事業者の過激派対策

6) 捜査手法の高度化を巡る動向

7) その他のトピックス

・偽造役流通への対応

・ギャンブル依存症対策の動向

・京都府警の大麻対策

・不動産登記情報制度の見直し

・専門家リスク(元記者と暴力団の密接交際事案)

・暴力団情報を扱う雑誌の休刊

・全銀協の新たな申し合わせ

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 暴排条例勧告事例(茨城県)

2) 暴排条例勧告事例(新潟県)

3) その他の勧告事例(組織犯罪情勢から)

4) 暴排条例違反に対する判決(福岡県)

5) 組事務所使用禁止の仮処分事例(神奈川県)

警察庁「平成28年における組織犯罪の情勢」から見えるもの

1) 暴力団情勢(概観)

 指定暴力団六代目山口組から分裂した神戸山口組が、指定暴力団に指定されて4月15日で1年となります。以下にご紹介する「組織犯罪情勢」によれば、この間、六代目山口組は、指定暴力団双愛会の代目継承盃式に六代目山口組組長自身が後見人として出席したほか、指定暴力団稲川会及び指定暴力団住吉会の両会長との食事会に同組長が出席するなど、他団体との関係強化を図っています。一方の神戸山口組も、六代目山口組傘下組織の構成員や過去に引退した構成員を直系組長等に迎えるなど、勢力の拡大を図るとともに、懲罰委員なる役職を新設し、各地で発生したもめ事の処理にあたらせるなど、組織の引締めを図っています。ここのところ、両山口組の抗争は、表向き激減していますが、代理戦争とも言われる指定暴力団会津小鉄会の分裂状態は今なお続いているほか、神戸山口組が本拠地を淡路市から神戸市内に移す動きを見せるなど、まだまだ予断を許さない状況にあります。

 そのような中、警察庁は、最新の暴力団情勢を含む「組織犯罪情勢」を公表しています。

 それによると、平成28年12月末現在、暴力団構成員数は18,100人と、13年連続の減少で初めて2万人を下回りました。準構成員等(20,900人)を加えた暴力団構成員等は39,100人(前年比▲7,800人)となり、前年から16.7%の減少(平成26年末▲8.7%、平成27年末▲12.3%)と昨年までの減少ペースをさらに上回る急激なペースで縮小化が進んでいることが分かります。特に、準構成員等の減少幅がかなり大きく、前年から22.0%もの減少となりました(平成27年末も14.1%の減少)。

 ただし、その要因については、暴排条例など規制の強化や事業者の暴排・反社リスク対策の強化・浸透の結果なのか、それ以外にも要因があるのか、なかなか見極めが難しい状況です。例えば、「KYCからKYCCへ/KYCCからKYCCCへ」「共生者自体の潜在化の動き」と関連付けて捉える、すなわち、「共生者の減少は表向きで、実際には共生者の協力者が増えている」といった見方も可能です。また、本報告書ではありませんが、報道(平成29年4月4日付朝日新聞)によれば、暴力団員の高齢化が進んでおり、50歳以上の組員が4割を超え、年代別では50代が20.0%、60代が15.1%、70代以上も6.0%に達しているということです(ただし、暴排条例逃れのため、表向き、組との関係を隠す「若者隠し」も行われているようです)。

 このように、全体としては、暴力団は、以前から指摘している通り、少子高齢化および資金源の枯渇化が進み、衰退の一途をたどる「衰退産業」であるのは間違いありませんが、それでも一部の組は依然として潤沢な資金を稼ぎ、運用するなど、暴力団の二極化の傾向が顕著であり、いずれにせよ、暴力団情勢については、まだまだ注意深く見ていく必要があります。

警察庁 平成28年における組織犯罪の情勢

 指定暴力団の個別の組織別の状況については、六代目山口組の平成28年末の構成員数は5,200人(前年末6,000人 ▲28.7%)、準構成員等は6,700人(同8,000人 ▲32.1%)で、合計11,800人(同14,100人 ▲30.2%)となっている一方で、神戸山口組の平成28年末の構成員数は2,600人(前年末2,800人 ▲14.4%)、準構成員等が2,900人(同3,400人 ▲13.9%)、合計で5,500人(同6,100人 ▲14.1%)となり、数字上は六代目山口組の減少傾向が顕著だと言えます。また、主要団体(六代目山口組、神戸山口組、住吉会、稲川会)の暴力団構成員等の数は28,300人と、全暴力団構成員等の72.4%を占める寡占状態は相変わらず続いており、うち暴力団構成員の数は13,300人となっています(こちらも全暴力団構成員の73.5%を占めています)。なお、福岡県警を中心とする頂上作戦によって壊滅に追い込まれつつある特定危険指定暴力団工藤会については、平成28年末の構成員数は410人(前年末450人 ▲8.9%)、準構成員等は260人(同280人 ▲7.1%)、合計660人(同720人 ▲8.3%)となっています。数字上とはなりますが、六代目山口組や神戸山口組ほどの減少率でない点がやや意外に感じます。

 その他、総会屋及び会社ゴロ等(会社ゴロ及び新聞ゴロ)の数は、平成28年末現在、1,105人(前年比55人減)、社会運動等標ぼうゴロ(社会運動標ぼうゴロ及び政治活動標ぼうゴロをいう。)の数は6,030人(前年比240人減)となっており、こちらも減少傾向が続いています。

 一方、平成28年における暴力団構成員等の検挙人員は20,050人(▲1,593人)と、(構成員等の数が減少していることもあり)減少傾向が続いています。主な罪種別では、傷害が2,514人、窃盗が2,044人、詐欺が2,072人、覚せい剤取締法違反(麻薬特例法違反は含まない)が5,003人で全体の25%を占めています(ちなみに、窃盗・詐欺・薬物は暴力団の世界ではご法度とされていますが、これらの犯罪が多いという点が「金儲け第一主義」という今の暴力団の真の姿を表しています)。また、とりわけ、本報告書の中で注目しておきたいところでは、「近年、人口1千人当たりの検挙人員が減少する一方で、暴力団構成員1千人当たりの検挙人員は増加する一方となっており、暴力団は、その構成員が減少する一方で、犯罪性向が高まっていることがうかがわれる」との指摘です。日本全体の平成28年の人口1千人当たりの検挙人員が2.3人であるところ、暴力団構成員等のそれは254.8人、暴力団離脱者のそれも129.3人(あるいは144.6人)と極めて高い水準にあり、両属性ともに年々その比率が上昇している点については、真剣に現実を直視する必要があると感じます。

 なお、平成28年中、警察及び都道府県センターが援助の措置等を行うことにより暴力団から離脱することができた暴力団構成員の数については、約640人(前年比約40人増)となっており、この水準では、まだまだ力強さに欠けるように感じます。
 ただ、今後、離脱者の増加が見込まれることから、離脱者支援対策の重要性をあらためて認識しておくべきだと言えます。また、さらに注目しておくべき点は、「暴力団を離脱した者の方が生活困窮の典型的犯罪である「万引き」の占める割合が高く、経済的側面での犯罪性向が高いことがうかがわれる」との指摘です。これらの事実から見えてくるものとしては、「暴力団からの離脱」は「更生」を意味せず、「離脱」と「更生」の間の溝がむしろ深まっているのではないかということ、現役の暴力団員も離脱者も、ともにその犯罪性向を高めており、皮肉にも、暴排の取り組みが「社会の安全」に対する脅威を生んでいる(暴排が犯罪を助長している)現実があるということです。資金源対策、離脱者支援対策など、社会的課題としての暴排は、それぞれ新たな段階を迎えた(これまでの対策の「質」と「量」を大きく転換させる必要がある)と認識すべきかもしれません。

 さらに、本報告書でも指摘されている通り、資金源獲得活動の「覚せい剤への回帰」の傾向が鮮明となってきた点も注目すべき変化です。暴力団構成員の総検挙人員のうち、覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博及びノミ行為等の伝統的資金獲得犯罪の検挙人員が占める割合は3割前後で推移しており、依然としてこれらが資金源の多くを占めていますが、とりわけ、覚醒剤取締法違反の検挙人員については、平成28年中の伝統的資金獲得犯罪の検挙人員の67.4%を占めており、その割合は増加傾向にあるということです。

 さらに、報告書では「覚せい剤事犯について、暴力団構成員1千人当たりの検挙人員は増加傾向にあり、平成28年には47.6人と19年の約1.4倍に。そのうち、特に覚醒剤営利犯の検挙人員に限定すると、平成19年の3.7人から平成28年には6.5人と約1.8倍になったことにもあらわれているように、暴力団の資金獲得活動において、覚醒剤密売の比率が高まっている」と指摘されています。資金源獲得活動が困難となる中、覚せい剤密売については、暴力団関係者らの覚せい剤の仕入れ値は1キロ当たり700~900万円で、末端価格を1グラム当たり約6.4万円とすれば、1キロを全て売りさばけば売り上げは6,000~7,000万円と莫大な利益を生む「確実に儲かるビジネス」だと言えます。

 また、昨年の暴力団情勢の大きなトピックスのひとつにATM不正引き出し事件があげられますが、報告書では、「暴力団は自らの組織の威力を背景とした犯罪を行っていたが、近年、こうした暴力団がその威力を示して行う資金獲得活動が困難となったことにより、生活費にも窮するなどした末端の暴力団構成員にあっては、他の組織の構成員と連携した犯罪にも手を染めている」と指摘しています。なお、本件では、指定暴力団6団体(六代目山口組・稲川会・五代目工藤會・七代目合田一家・道仁会・神戸山口組)の構成員約20人が逮捕されています。正に、「複数の暴力団組織の構成員が検挙された実態があり、従前の手法による資金獲得活動が困難になっていることが見受けられる」状況だと言えます。

 その他、暴排条例に基づく勧告等の28年における実施件数は、勧告が74件、指導が2件、中止命令が10件、再発防止命令が1件、検挙が8件となっている(27年は勧告が69件、中止命令が5件、検挙が8件)となったほか、平成28年中においては、「金地金の密輸事案等の検挙事例から、暴力団による、規制や制度の間隙を狙った「表に出にくい、利益率の高い」新たな資金獲得活動が出現し、広まっている状況がうかがわれる」(事例として、生活保護受給者は医療費が無料になる制度を悪用し、生活保護を受給するC型肝炎の患者が服用するために処方された薬を暴力団構成員が入手し、医薬品買取業者に転売し利益を上げていた事件などが紹介されてます)、「国際犯罪組織が外国で不正に得た犯罪収益をマネー・ローンダリングする過程で日本国内の金融機関を経由する、日本人と外国人とで構成される犯罪組織が海外の犯行拠点から日本を狙う、来日外国人組織が日本を狙うなど、「人的ネットワーク・犯行態様等が一国内のみで完結せず、国際的に分担することで犯罪がより巧妙化かつ潜在化している実態」が我が国で目立ち始めている」などの新しい動向がうかがえる指摘が続いています。

 暴力団犯罪は、伝統的資金獲得活動への回帰とあわせ、常に新しい分野に進出しており、これらに加え、グローバル化や巧妙化の深化という多方面への多様な展開が顕著であり、当局だけでなく事業者においても、このような暴力団の情勢を正しく認識し、自らのビジネス領域を含むあらゆる方面に向かってアンテナを張りながら、実態の把握や水際対策における「質」を上げていくことが求められると言えます。

2) 薬物・銃器情勢

 暴力団の覚せい剤密売への回帰については既にお話しましたが、本報告書では「薬物・銃器情勢」「来日外国人による犯罪情勢」なども一緒に取り上げられています。
 まず、薬物事犯の情勢については、薬物事犯全体の検挙人員は13,411人(前年比▲113人、▲0.8%)と前年並みとなっています。そのうち、覚せい剤事犯検挙人員が10,457人(前年比▲565人、▲5.1%)と減少している一方で、大麻事犯検挙人員は2,536人(前年比+435人、+20.7%)と引き続き増加傾向にある点が特徴的です。また、平成28円の大きなトピックスとしては、(本コラムでも指摘してきましたが)覚せい剤の密輸入押収量が1,428.4キロ(前年比+1,033.8キロ、+262.0%)と大幅に増加したことが挙げられます。前述の通り、利幅が大きく、リスクをとってまでも密輸を試みるケースが増えていると思われ、洋上取引や船舶コンテナ貨物を利用した大量密輸入事件が相次いで検挙されたことなどが背景にあります。

 また、覚せい剤事犯の「再犯」者率は、平成19年以降10年連続で増加しており、平成28年は65.1%(前年比+0.3ポイント)に上っている一方で、大麻事犯については、「初犯」者率が77.4%と依然として高水準となっており、特に20歳未満、20歳代及び30歳代の人口10万人当たりの検挙人員がそれぞれ増加するなど、若年層を中心に乱用傾向が増大していることが特徴的です。この傾向からは、「ゲートウェイドラッグ」としての大麻から、より副作用や依存性等の強い覚せい剤へという動きが読み取れますが、そもそもゲートウェイドラッグ理論は医学的に認められているものではありません。むしろ、最近の世界各地での大麻合法化の流れを受けて、密売人があえてリスクをとって闇市場で売買することを避けるようになり、より利幅が大きい覚せい剤を利用者にすすめているのが実態ではないかと考えます。

 一方で、密売人が大麻の販売先として中高生をターゲットとし始めているのも明確であり、大麻の有害性・無害性、規制の可否(合法か非合法か)の議論はまだ尽くされていないが、現状の日本における大麻の位置づけをふまえれば、薬物に対する規範意識を鈍らせると言う意味で(ゲートウェイとしての位置づけもあながち間違いではなく)大麻対策の持つ意味は極めて重要となると言えます。

 なお、注意が必要な状況として、覚せい剤の流通においては、海外の犯罪組織と日本の暴力団とのネットワークがポイントとなりますが、最近の傾向として、覚せい剤密輸に台湾人薬物犯罪組織が活発に活動している状況が見られます(台湾の組織の関与は、昨年の覚醒剤密輸入押収量全体の約7割を占めているとのことです)。

 銃器情勢については、銃器発砲を伴う暴力団の対立抗争事件の発生により大幅な増加が見られました。銃器発砲事件数について、平成20年に年間50事件を下回って以降、低水準で推移し、平成27年に過去最少を記録しましたが、そこから一転して、平成28年は27事件(前年比+19事件、+237.5%)と大幅に増加する結果となりました。一方で、拳銃押収については、押収丁数は341丁(前年比▲42丁、▲11.0%)、このうち暴力団からの押収丁数は54丁(前年比▲9丁、▲14.3%)と、いずれも減少傾向にあり、暴力団からの押収丁数は過去最少となっています。暴力団の対立抗争の激化から押収事案も増加しそうなものですが、逆にそのような状況を背景に、暴力団も銃器の取り扱いに慎重いなり、隠匿の巧妙化や情報統制の強化などがなされ、それが数字に表れているものと考えられます。

3) 来日外国人犯罪の情勢

 平成28年中の来日外国人犯罪については、前年比で検挙件数は減少し、検挙人員は増加したものの、最近5年間は横ばい状態で推移している状況にあります。刑法犯では、国籍等別でみると中国の検挙人員が減少傾向にありますが、引き続き最多となっています。また、ベトナムの検挙人員は平成25年から平成27年まで3年連続して増加していましたが、昨年は減少に転じています。特別法犯では、国籍等別では中国、違反法令別では入管法違反が最多となっており、不法残留(同法違反)の検挙人員が増加している点が特徴としてあげられます。なお、本報告書では、中国とベトナムの外国人犯罪の特徴について、以下の通り指摘しています。

【注】直近では、ベトナム人による日本国内での犯罪として、大阪府警が、化粧品などの万引きを繰り返したとして、ベトナム人の男と留学生ら男7人を窃盗容疑などで逮捕した事例がありました。留学生らはベトナム在住の女から、フェイスブックを通じて万引きを依頼され、盗品を男へ送るよう指示していたほか、盗品を母国で転売するため、帰国する別の留学生らに持ち帰らせていたということです。

  • 中国は、偽装結婚、旅券・在留カード等偽造などの犯罪インフラ事犯の検挙が他の国籍等に比べて多い。また、中国人による犯罪では、インターネットのメッセンジャーソフトである「QQチャット」や、「陌陌(MOMO)」と呼ばれるスマートフォンアプリ等を通信手段として使用している場合が多く、犯罪の匿名性、広域性を強めている
  • ベトナム人の刑法犯検挙件数の約80%は窃盗で、窃盗の約83%は万引きで組織性、計画性が認められる。また、盗んだ商品を盗品買取業者に持ち込んで現金化する事案がみられるほか、不正に入手した他人名義のクレジットカード情報を悪用して商品の購入を申込み、配送された商品を窃取する事例もある
4) 犯罪インフラ事犯の情勢

 本報告書では、「犯罪インフラ」を、「犯罪を助長し、又は容易にする基盤」と定義し、具体的に、地下銀行、偽装結婚、偽装認知、旅券・在留カード等偽造、不法就労助長等を取り上げています。偽装結婚、偽装認知及び不法就労助長には、相当数の日本人や永住者等の定着居住者が深く関わっており、不法滞在者等を利用して利益を得る構図がみられます。以下、いくつか事例をご紹介しておきます。

  • ベトナム人の男女らは、ベトナム人から送金依頼を受けて、約2億3,000万円をベトナムへ不正送金していた
  • 飲食店を経営する日本人の男らは、同店で働くフィリピン人の女に「日本人の配偶者等」の在留資格を取得させる目的で、日本人の男をあっせんして偽装結婚させていた
  • ベトナム人の男らは、「留学」、「技能実習」の在留資格で入国した後に不法残留となっており、入管法違反(不法残留)で逮捕された。なお、知人の中国人に依頼するなどして入手した偽造在留カードを勤務先の人材派遣会社に提示して働いていた
  • 人材派遣会社を経営するバングラデシュ人の男は、「技能実習」の在留資格で入国した後に不法残留となったベトナム人の男をプラスチック部品塗装の工場に派遣し、工員として働かせていた
  • ベトナム人の男は、医薬品を販売するに当たり、既に帰国しているベトナム人名義の口座を使用して顧客からの代金を振り込ませ受け取っていた。さらに、医薬品販売業の許可を受けないで自宅に大量の医薬品を貯蔵していた
  • 中国人の夫婦らは、偽造国民健康保険被保険者証を用いて他人になりすまして携帯電話機10台をだまし取り、買取店に持ち込んで売却していた
  • 中国人の男らは、不正に入手した口座情報等を使用してネット口座に不正アクセスし、他人名義の口座に送金していた

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2.最近のトピックス

1) みかじめ料を巡る名古屋地裁判決/工藤会を巡る福岡地裁判決

 暴力団の資金源に大きな打撃を与える画期的な判決が出ています。

 指定暴力団六代目山口組弘道会の傘下暴力団にみかじめ料を支払っていた元飲食店経営の女性が、この傘下暴力団の組長と六代目山口組トップの篠田建市組長に2,258万円の賠償を求めた訴訟で、名古屋地裁は、連帯して1,878万円の支払いを命じる判決を言い渡しています。みかじめ料の要求行為を民法上の不法行為と認定し、(当該傘下組織トップだけでなく)六代目山口組トップの使用者責任をも認める初めての判決となりました。
 報道によれば、判決では、「みかじめ料を拒めば暴力団に嫌がらせや危害を受けると認識していた女性に、傘下組長が強い口調で要求し、その後に脅迫もして、怖がらせて定期的な支払いを続けさせた」と指摘、意思決定の自由や財産を侵害する不法行為に当たると判断し慰謝料の請求も認めています。さらに、六代目山口組組長についても、「下部組織の構成員を、直接間接の指揮監督の下、資金獲得活動に従事させていた」とし、民法上の使用者責任があると判断しています。

 みかじめ料については、暴力団の重要な資金源の一つであることはご存知の通りですが、暴力団対策法の禁止行為のひとつとして、支払いの要求行為を禁じられており、公安委員会が中止命令を出せるほか、特定危険指定暴力団員(現時点では工藤会のみ)が警戒区域で要求をした場合は即逮捕できる規制がかけられています。さらに、暴排条例では、飲食店など支払った側も処罰の対象とされており、実際に勧告を出された事例もたくさんあります。また、平成20年の暴力団対策法の改正によって、みかじめ料や恐喝によって生じた損害について指定暴力団トップに賠償責任を負わせられるようになっており、今回の判決は正にこの使用者賠償責任が認定されたものとなります。

 みかじめ料を巡る使用者責任を問う民事訴訟としては、豊橋市の男性飲食店経営者が、みかじめ料の返還や慰謝料などで損害賠償を求めて、六代目山口組トップと傘下平井一家の暴力団幹部ら3人を相手に名古屋地裁豊橋支部に提訴した事例がありましたが、こちらは、昨年8月に和解が成立しています。なお、その他に、指定暴力団共政会傘下の組長や組員にみかじめ料を脅し取られたなどとして、広島市内の風俗店経営者ら3人が、同会会長ら4人を相手取り、脅し取られた現金や慰謝料など計約2,200万円の賠償を求めて広島地裁に提訴したと事例が係争中です。

 これら一連のみかじめ料を巡る民事訴訟をふまえ、みかじめ料を民法上の不法行為とする流れが定着すれば、正に暴力団にとってはこれまでにない位の大きな打撃となることが予想され、その大きな一歩を踏み出すものとして高く評価したいと思います。

 一方、特定危険指定暴力団工藤会については、元警部銃撃、女性看護師刺傷、歯科医師刺傷の3事件に関与したとして、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などに問われた同会系の元組幹部の裁判で、福岡地裁が、元組員に懲役18年8月の有罪判決を言い渡しています。判決では、同会トップで総裁の野村悟被告の指揮命令で組織的に行われたと認定し、「計画的で極めて反社会性の強い犯行。(元警部に対し)銃撃という過激な襲撃方法が選択されたのは、上層部の指示か了解があったと考えるのが自然」と指摘したとされます。

 過去にも、平成26年の大阪高裁の判決で、「幹部を含む複数の組員が組織的に犯行に及んだ場合は、『特段の事情がない限り組長の指揮命令に基づいて行われたと推認すべきだ』」と共謀を認定した例があり、今回の判断においても、野村総裁以下、絶対的な上意下達という工藤会の強固な組織性を加味し、末端の組員の「トカゲの尻尾切り」に終わらず、トップの刑事責任を厳しく追及するものとして、こちらも高く評価したいと思います。(なお、強固な組織性については、工藤会の特殊性に限定されるものでなく、暴力団組織の持つ普遍的なものであり、指定暴力団の指定要件のひとつにもなっています。今回、トップとの共謀が認定されやすくなったことで、今後の同様の裁判に大きな影響を及ボスことを期待したいと思います)。

 以上の名古屋地裁、福岡地裁の直近の判決とあわせ、昨年9月の東京地裁の判決もあわせて認識しておく必要があります。聴覚障害を持つ暴力団組員に現金を脅し取られるなどした聴覚障害者27人が、指定暴力団極東会の元会長らに使用者責任等に基づく損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁が、元会長に暴力団対策法に基づく使用者責任を認め、3人に計約1億9700万円を支払うよう命じたものです。

 これまでの組長に対する使用者責任を巡る裁判では、和解での解決はありましたが、平成20年の暴力団対策法改正に基づく使用者賠償責任を認めた判決は初めてでした。東京地裁は、現金を要求したことは所属組長の指示であり、脅し取った資金の一部は極東会への上納金となっていたとみられると指摘し、暴力団対策法で規定する「威力利用資金獲得行為」だったと認定しています(詳細は、暴排トピックス2016年10月号を参照ください)。民事訴訟で暴力団組織の指揮命令や上納金制度などを立証するハードルはそもそも高かったところ、詐欺的犯罪類型についても暴力団トップの使用者責任を問えることの意味は非常に大きく、特殊詐欺が暴力団の資金源となっている現状をふまえれば、今後、大きな抑止力となりうるものと評価できます。

 この3つの判決に共通しているのは、暴力団の強固な組織性という実態を加味してトップの責任を明確に認めている点にあります。さらには、みかじめ料や特殊詐欺など暴力団の重要な資金源獲得活動に直接的に打撃を与えるだけのインパクトを持つ点も共通しています。暴力団は、その強固な組織性を武器に犯罪収益を吸い上げてきましたたが、今後、その組織性の強さこそが、自らの存在基盤を大きく揺るがすことになると言えます。今、確実に、暴力団の資金源の枯渇化、暴力団の弱体化に向け、社会の大きなうねりを感じます。

2) 医療業界からの暴排

 前回の本コラム(暴排トピックス2017年3月号)でも取り上げましたが、京都府立医大病院が、指定暴力団六代目山口組系淡海一家の高山総長の病状について、主治医が「拘禁に耐えられない」などとする虚偽の回答書を検察に提出した疑いが持たれている件については、既に、学長だけでなく、病院長も退任し、外部調査委員会による検証も進められています(幹部の病状については、やはり、本人の病状を実際に診ていない上、直接を診ることは今後も難しいこと、臓器移植患者のその後の健康状態を判断することは非常に難しく、専門家でも収監の判断が分かれる可能性もあり、「医師が100人いれば100通りの判断がある」、「医療行為の裁量の広さから立証は困難」とも言われる「専門性の壁」を超えることは難しいようです)。

 一方で、虚偽作成の状況については、同病院と提携関係にある康生会武田病院の医師ら3人が京都府警に逮捕されています。回答書の作成当時、心電図に不整脈の兆候はなく、過去の医療データをもとに作成し、大阪高検に提出したとされます(虚偽の診断書については、暴力団対策の窓口でもあった元医事部長が「下書き」を作成し、担当医が完成されたとも言われています)。そして、この元医事部長は、高山総長と親交のあった別の指定暴力団会津小鉄会系の暴力団関係者から、現金約100万円と商品券数十万円分を受け取ったことを認めています。

 なお、この元医事部長は、普段から暴力団との関係を吹聴したり、武田病院が暴力団関係者の間で「無理の利く病院」と知られ、それらの対応を一手に引き受けていたとされます。また、京都府立病院においても虚偽の診断の疑いは強まっており、退任した前病院長は、担当医に見解と異なる診断内容を書くよう指示したことを認めている(さらに担当医も同様に事実を認めている)ようです。また、前学長が高山受刑者と飲食を重ねていたとされるなど、こちらにも暴力団の影がちらついています。

 専門性の高さゆえに「虚偽診断」の立証のハードルがかなり高いという現実はありますが、次々と明るみに出ている、暴力団からの現金等の授受や度重なる飲食という「密接交際」、暴力団関係者に対する便宜供与の事実などからは、むしろ、暴排条例の対象外の根拠となっている「応召義務」を都合よく解釈し、暴力団との密接な関係(社会の常識からみて「不適切な関係」「非難されるべき関係」)に何の疑問も懸念も抱かず、さらにはその関係を利用しようとさえする、医療関係者の「非常識」さ(閉鎖性からくる「常識」のズレなど)が浮き彫りになっています。そして、このような「非常識」を生み出した、医療業界の「構造上の問題」については、やはり、何らかの「メス」を入れるべきではないかと考えます。

3) 特殊詐欺を巡る動向

 内閣府が、特殊詐欺に関する世論調査の結果を公表しています。以下、簡単にポイントのみご紹介いたします。

内閣府 特殊詐欺に関する世論調査

  • 特殊詐欺の手口の認知度は、「オレオレ詐欺」が97.8%と最も高く、以下、「還付金等詐欺」(78.8%)、「架空請求詐欺」(78.5%)、「金融商品取引名目の詐欺」(45.2%)など
  • 振り込み以外の手段の認知度は、「息子や孫の会社の知り合いなどになりすました者が、自宅などに現金を直接受け取りにくる」が91.0%と最も高く、以下、「現金を宅配便や書留などで送らせる」(68.2%)、「公務員や弁護士などになりすました者が、自宅などにキャッシュカードを受け取りにくる」(62.8%)、「コンビニエンスストアなどで電子マネー(プリペイドカード)を購入させ、ID(カード番号)を教えるよう要求する」(56.3%)など
  • 「自分は被害にあわないと思う」とする者の割合が80.7%(「自分は被害にあわないと思う」39.6%+「どちらかといえば自分は被害にあわないと思う」41.1%)
  • 性別では、「自分は被害にあわないと思う」とする者の割合は男性が高く、「自分は被害にあうかもしれないと思う」とする者の割合は女性が高い。年齢別では、「自分は被害にあうかもしれないと思う」とする者の割合は18~29歳で高い
  • 被害にあわないと思う理由として、「知らない番号の電話には出なかったり、不審な電話はすぐ切るから」が62.0%と最も高く、以下、「だまされない自信があるから(家族の声やうそを見分けられる自信がある)」(46.3%)、「いつも誰かに相談するようにしているから(自分一人で判断しないから)」(40.1%)など
  • 年齢別では、「だまされない自信があるから(家族の声やうそを見分けられる自信がある)」が70歳以上で、「いつも誰かに相談するようにしているから(自分一人で判断しないから)」が18~29歳から40歳代で、それぞれ高い
  • 特殊詐欺の被害防止対策で行ってみたいもの、あるいはすでに行っているものとして、「ナンバーディスプレイ(電話番号表示)機能の活用」が43.5%、「新聞やテレビなどから最新の詐欺の手口に関する情報を収集」が43.2%、「非通知電話拒否の設定」が40.5%と高く、以下、「在宅時でも留守番電話の設定」(35.1%)など。「いずれもない」と答えた者の割合が14.4%
  • 「いずれもない」と答えた者の理由として、「そこまでする必要性を感じないから(だまされない自信があるなど)」を挙げた者の割合が45.8%と最も高く、以下、「詐欺の電話がかかってくる可能性が低いと思うから」(21.0%)、「面倒くさいから」(16.2%)など
  • 警察や自治体などに力を入れて欲しいこととして、「犯人の検挙」を挙げた者の割合が68.1%と最も高く、以下、「犯人が使う銀行口座や携帯電話を使えなくする対策」(57.6%)、「継続的な情報発信」(53.8%)、「金融機関やコンビニエンスストアなどの店内での声掛け」(44.1%)、「相談窓口の充実」(43.9%)など
  • 警察や自治体などからどのような情報が提供されたらよいと思うかについて、「最新の手口に関する情報」を挙げた者の割合が79.2%と最も高く、以下、「居住する地域での発生状況」(66.5%)、「被害にあわないための方策に関する情報」(60.0%)、「相談窓口に関する情報」(38.9%)など

 本調査から明らかになっているのは、「自分は騙されない」と思っている人が圧倒的に多いこと、70歳以上で「騙されない自信がある」と回答する人が多いことです。

 一方で、特殊詐欺の被害者の全体的な状況については、(後述する直近のデータでは)男性が28.7%、女性が71.3%と圧倒的に女性が多くなっており、男性の「自分は騙されない」との自信はある程度裏付けられた形ですが、一方で、70歳以上が全体の63.8%を占めていること(男性13.9%、女性49.9%)から、特に70歳以上の女性において「騙されない」との自信はかなり危ういことが指摘できます(この点については、被害者においては、自分は騙されるわけがない、注意しているから大丈夫だ、といった思い込みからくる「確証バイアス」が強く働いてしまっている可能性があります。

 心理的作用であり完全に防ぐのは難しいとも考えられますが、一方で、そのような意識の甘さや隙が犯罪者に狙われていると認識することも重要です)。関連して、報道(平成29年3月28日付読売新聞)によれば、福島県警が実際に特殊詐欺の被害に遭った人と免れた人を対象に行った(かなり珍しい、貴重な)アンケート調査からは、「騙されるかもしれないと心の中で思っている人の方が実は騙されにくい」傾向があることが報告されています。それを裏付けるものとして、内閣府の調査では、「自分は被害にあうかもしれないと思う」のは18~29歳と女性が多いとの結果となった一方で、実際の数値も同年代は全体の3.2%にとどまっていることから、その関係が示されています(若くなるほど、男女差が見られない傾向も指摘できます)。

 特殊詐欺の被害が高止まりしている中、何とか被害を防ごうと行政や事業者も様々な取り組みをしています。金融機関においては、これまで本コラムでも紹介してきた通り、高齢者のATMからの振り込みを制限する取り組みが浸透してきました。また、被害が深刻化している大阪では、大阪府警が、特殊詐欺対策官をトップとする約110人体制からなる特殊詐欺対策室を発足させています。また、未実施だった金融機関におけるATM振込み制限への協力を大阪府信用金庫協会に要請したり、ヤフーと協力して、特殊詐欺の被害状況をスマホでリアルタイムに配信したり、高齢者に電話で直接注意を喚起する「電話パトロール」などにも取り組んでいます。

 また、現在猛威をふるっている還付金等詐欺対策として特に注目したいのが、常陽銀行が導入した日立製作所の特殊詐欺対策システムです。報道(平成29年3月18日付日本経済新聞等)によれば、このシステムは、ATMの周囲で携帯電話で通話すると、電波を検知し、年齢や事情を問わず振り込み操作を強制終了するというものです。還付金等詐欺は、携帯電話で通話しながらATMを操作させて振り込ませる形態ですが、その際、金融機関の店舗内のATMより無人型のATMの利用を誘導させることが多く、有人監視(声掛け等)ができないことが被害拡大の要因となっています。本システムは「事情を問わず」強制的に振込み手続きを終了させるものですので、還付金等詐欺対策としては高い効果が期待できるものと思います。

 その他にも、IT等を活用した振り込め詐欺対策として、携帯電話大手3社は、詐欺の可能性がある電話番号をブラックリスト化し、危険な番号からの着信を自動で識別、警告を発したり、機種によっては着信を自動拒否できる有料アプリを提供しています。また、富士通も詐欺特有のキーワードと電話の受け手のストレス状態を検出し、詐欺の可能性を自動警告するシステムを研究中で、詐欺か否かの最終判定には人工知能(AI)技術も活用し、判定精度の安定度を高める取り組みを行っています。

 IT等技術の進展は、ともするとユーザーの利便性を追求するあまり犯罪を助長する「犯罪インフラ化」することもあり極めて残念なことが多いものです。この「利便性と悪用リスクのトレードオフ」として、最近では、メールを使った架空請求詐欺で、コンビニなどで購入できる電子マネーのプリペイドカードが悪用されるケースが増加していることが挙げられます。現金を送らせる代わりに、利用に必要な番号を写真で送らせたり、電話で聞き出す手口が多く、非対面の利便性ゆえに、利用に厳格な本人確認が不要な場合が多い点が悪用されています。利便性だけでなく悪用リスク対策として、IT等の技術やAIをフルに活用する取り組みが健全に拡大することを期待したいと思います。

 さて、例月同様、警察庁から直近(平成29年2月)の特殊詐欺の認知・検挙状況等が公表されていますので、簡単に状況を確認しておきたいと思います。

警察庁 平成29年2月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

 平成29年1月~2月における特殊詐欺全体の認知件数は2,310件(前年同期 1,883件、前年同期比 +122.7%)、被害総額は45.0億円(同 53.7億円、同 ▲16.2%)となり、ここ最近と同様、件数の大幅な増加と被害総額の大幅な減少傾向が認められます。件数の増加については、還付金等詐欺によるものが顕著ですが、その他の類型についても同様の傾向が認められている点には注意が必要です。なお、全体的に、1件当たりの被害金額が大きく減少していることから、様々な対策がある程度機能しているとも言えますが、件数が大きく増加し続けていることから、むしろ、特殊詐欺被害を抑止する有効な対策が確立できていないことを示しているとも言えます。

 その結果、特殊詐欺のうち振り込め詐欺(オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺及び還付金等詐欺を総称)についても、認知件数は2,264件(1,820件、+24.4%)、被害総額は42.4億円(49.0億円、▲13.5%)と、特殊詐欺全体と全く同様の傾向を示しています。さらに、類型別では、オレオレ詐欺の認知件数は840件(829件、+1.3%)、被害総額は19.8億円(21.4億円、▲7.5%)、架空請求詐欺の認知件数は683件(488件、+40.0%)、被害総額は14.4億円(21.5億円、▲33.0%)、融資保証金詐欺の認知件数は118件(72件、+63.4%)、被害総額は0.9億円(1.1億円、▲14.5%)、還付金等詐欺の認知件数は623件(431件、+44.5%)、被害総額は7.3億円(5.0億円、+46.0%)などとなっており、これも最近の傾向に同じく、還付金等詐欺については、件数だけでなく被害総額も急激に増加している状況が続いていて、その対策が急務であることが分かります。

4) 組織犯罪処罰法改正を巡る動向

 「テロ等準備罪」 を新設する組織犯罪処罰法改正案が衆議院で審議入りし、与野党の論戦が始まっています。賛否両論ある中、権力の濫用(国等の作為)を監視することが国民やマスコミ等の責務であり、法の趣旨からの恣意的な逸脱を許してはならないのは当然のことだと言えます。その意味で、(感情的な議論や些末なやりとりをするのではなく)本法の本質的な射程範囲を明確にすることこそ、今、政府・国会・国民に求められていると言えると思います。一方で、国が不作為によって、国民の生命・身体・財産を、暴力団やテロリストなど組織犯罪の脅威に晒すことはあってはなりません。さらに、日本国内の特殊な事情を理由に、国際的なテロ包囲網を無力化させ、国際社会の脅威を増長させるような事態もやはりあってはならないと言えます。組織犯罪との戦いにグローバルな視点が不可欠な中、日本がとるべき道は何かを、過去、何度も政争の具とされてきた反省をふまえ、今度こそ、健全かつ真摯な議論が行われることを期待したいと思います。

 言うまでもなく、本改正は、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」による重大犯罪の実行を2人以上で計画し、このうち最低1人が準備行為を行った段階で、計画した者を処罰する「テロ等準備罪」の創設が柱となっています。ここでは、公表されている政府の答弁書から、ポイントとなる部分を抜粋して紹介しておきたいと思います。

衆議院 第193回国会 質問の一覧

  • 「テロリズム」とは、一般には、特定の主義主張に基づき、国家等にその受入れ等を強要し、又は社会に恐怖等を与える目的で行われる人の殺傷行為等をいう
  • 改正法案第六条の二における「テロリズム集団」は、同条第一項において定義している「組織的犯罪集団」すなわち「団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるもの」の典型として分かりやすいものを例示したもの
  • 「組織的犯罪集団」としては、例示している「テロリズム集団」のほか、例えば、暴力団、薬物密売組織などを想定している
  • 「団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるもの」との要件を満たさない限り、「組織的犯罪集団」に該当しない
  • 「当該行為を実行するための組織」とは、同項各号に掲げる罪に当たる行為を実行するために、指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいい、例えば、ハイジャックの実行部隊などがこれに当たる
  • 「指揮命令」の存否については、「リーダーが存在するということ」又は「団体の形態」のみにより画一的に定まるものではなく、改正法第六条の二第一項各号に掲げる罪に当たる行為を実行するための人の結合体であるものについて、構成員相互の関係その他の当該人の結合体の実態等を踏まえ、個別具体の事例に即して判断されるべきものと考えられる
  • 「計画をした犯罪を実行するための準備行為」としては、例示している「資金又は物品の手配」及び「関係場所の下見」のほか、例えば、犯行手順の訓練、犯行の標的の行動監視などを想定
  • 「組織的犯罪集団」の「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの」又は「組織的犯罪集団に不正権益を得させ」若しくは「組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるもの」の遂行を二人以上で計画し、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われた場合を処罰の対象としており、これにより、「組織的犯罪集団」と関わりのない方々が同条の規定による処罰の対象とならないことが明確にされている

 これに対し、あらためて日本弁護士連合会(日弁連)が反対の声明を出していますので、以下にご紹介します。

日本弁護士連合会 いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案の国会上程に対する会長声明

 基本的には、従来からの「いわゆる共謀罪法案は、現行刑法の体系を根底から変容させるものであること、犯罪を共同して実行しようとする意思を処罰の対象とする基本的性格はこの法案においても変わらず維持されていること、テロ対策のための国内法上の手当はなされており、共謀罪法案を創設することなく国連越境組織犯罪防止条約について一部留保して締結することは可能であること、仮にテロ対策等のための立法が十分でないとすれば個別立法で対応すべきこと」など指摘事項に大きな変化はありません。

 そのうえで、「テロリズム集団は組織的犯罪集団の例示として掲げられているに過ぎず、この例示が記載されたからといって、犯罪主体がテロ組織、暴力団等に限定されることになるものではない」、「準備行為について、計画に基づき行われるものに限定したとしても、準備行為自体は法益侵害への危険性を帯びる必要がないことに変わりなく、犯罪の成立を限定する機能を果たさない」、「対象となる犯罪が277に減じられたとしても、組織犯罪やテロ犯罪と無縁の犯罪が依然として対象とされている」など、「問題点が解消されたとは言えない」としています。そのうえで、報道によれば、「監視社会を招き、市民の人権や自由を広く侵害するおそれが強い」と主張しています。

 さらに、反対の立場からのものとして、報道(平成29年3月15日付朝日新聞)によれば、法学や政治学などの専門家で作る「立憲デモクラシーの会」が、「国際条約の批准やテロ対策のために法案が必要だとする政府の説明は不十分で、納得いくものとは言いがたい」と批判し、人権を制約しかねない刑事罰は必要最小限度にとどめるという原則や、「犯罪行為は既遂の場合に処罰する」といった刑事法の基本原則を揺るがしかねないと指摘しています。

 一方で、賛成する立場からの主張について、いずれも産経新聞の報道から抜粋して紹介しておきます。

  • 日本が刑事共助条約を締結するのは米国、韓国、中国、香港、EUとロシアのみ。国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の締結国間であれば、刑事共助条約の締結国と同様に外交ルートを介さず、日本の捜査機関が法務省などの「中央当局」を通じて現地の捜査当局に直接、協力を依頼できるようになる。具体的には、容疑者の人定や犯罪に利用された金融機関の口座照会、関係者の所在確認を依頼することができる。(平成29年3月21日)
  • テロ対策は国際協調が原則となる。国際的なネットワークに参加してはじめてインテリジェンスの機能が発揮され、テロ情報を得ることができる。国際協調路線を歩む先進国として必要不可欠な法体系だ。TOC条約の批准は不可欠で、日本がこれからテロ対策をさらに強化していくためには、テロリズムをしっかりと定義した「テロ対策基本法」といった抜本的な法制度を構築することも検討しなければならない。(平成29年4月3日)
  • テロ等準備罪は、犯罪の実行を基礎的な目的として組織された「組織的犯罪集団」の行為に適用対象を絞っており、通常の労働組合や市民団体が適用対象となることはない。また、犯罪が成立するには、合意を具体化した「計画」や、「計画」を遂行した「準備行為」が必要で、構成要件はかなり厳格になっている。テロ等準備罪の制定は、条約が重要な目的とする刑罰の国際的統一のための根本的義務で、この罪を規定しない限り、締結できないことは明らかだ(日弁連の解釈は誤っている)。条約では振り込め詐欺などの犯罪収益が国外で没収された場合に「返還要請を行った締約国に返還することを優先的に考慮する」といった、被害回復につながる規定もある。組織犯罪に関する情報交換や捜査協力が、テロ対策を含むわが国の治安向上に資することは言うまでもない。(平成29年4月6日)
5) AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)/テロリスクの動向

来日外国人によるマネー・ローンダリング事犯/仮想通貨におけるAML

 前回の本コラム(暴排トピックス2017年3月号)で、平成28年版の「犯罪収益移転防止に関する年次報告書」を紹介いたしました。今回は、その中で紹介できなかった「来日外国人によるマネー・ローンダリング事犯」にスポットを当てたいと思います。

平成28年 犯罪収益移転防止に関する年次報告書(暫定)

 平成28年中に組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯で検挙されたもののうち、来日外国人によるものは35事件で、全体の9.2%を占めています。5年前の平成23年が14事件、全体の5.8%であったことと比較すると、本カテゴリーのリスクが深刻化していることがご理解いただけると思います。また、前提犯罪別に見ると、平成28年では「窃盗」が17事件、「詐欺」が10事件などでとなっていますが、平成23年は、「盗品等有償譲受け」「詐欺」「商標法違反」「売春事犯」「薬事法違反」「偽装結婚事犯」などが挙げられており、犯罪の態様も変化していることが分かります。さらに、本報告書では、「来日外国人の犯人らは、日本国内に開設された他人名義の口座を利用するなど、様々な手口を使ってマネー・ローンダリング事犯を行っている実態がうかがわれる」と指摘しているほか、以下のような事例も取り上げています。

  • 日本に在住する中国人の男は、複数の被害者から騙し取った通帳、キャッシュカードを使用して現金合計150万円を引き出して盗み、同現金の一部をコインロッカーに隠していたことから、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙
  • 日本人の男らは、商取引に係る偽りのメールを信じた被害者がアメリカから日本国内の銀行の日本人名義の口座に送金した詐欺の被害金を当該口座から払い戻すに当たり、銀行担当者に対して、通常の商取引による送金であるなどと虚偽の説明をして、被害金を正当な事業収益であるかのように装ったことから、同人らを組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)及び詐欺で検挙した。日本人の男らが持つ複数の口座には、数年前から海外からの送金が計約9億5,000万円あった

 特に後者は、元指定暴力団山口組系組員ら3人が逮捕された事例でもあり、本事案においては、米国から名古屋市の地銀の支店の自分名義の口座に送金された詐欺事件の被害金(計約8500万円)について、銀行に「重機の販売代金」と虚偽の説明をして払い戻しを受けたとされています。本事案においては、地銀側が「重機の販売代金」との説明について、その信ぴょう性(疑わしい兆候がなかったか)や厳格な顧客管理を行っていたかといった点、元暴力団員が自分名義で保有していた口座への送金事実について、そもそも口座保有者の事後検証が適切だったか(元暴力団員という属性を把握していたか、口座取引解消に向けてアクションをとっていたか・・・)といった点などを検証する必要があったと言えます。

 また、同様のケースとして、報道(平成29年4月4日付日本経済新聞)では、(1)海外の犯罪組織が、取引先をかたって企業経営者らをだます「ビジネスメール詐欺」の手口で欧米などの企業に送金を要求、(2)送金先として日本在住の男(来日外国人)らがあらかじめ銀行や信用金庫に開設した数十の口座を指定、(3)男らは偽造した貿易取引書類をファクスなどで口座がある銀行に送信、(4)その後に窓口を訪れ、振り込まれた現金は輸出する商品の代金を事前に受け取る「前受け金」と説明し、全額を引き出し(商品の名目は詐欺のメールの内容に合わせ、ホームシアターや自動車部品などと記していた)、といったスキームが紹介されています。さらに、本件について、金融機関側の対応として、口座が使われた約20の銀行や信金の窓口職員は本人確認を行い、送金の趣旨についても男らに口頭で説明を求めたものの、それでも見抜くことができなかったということです。報道では、「提示された書類や口頭の説明内容に不審な点は見られなかった。これほど周到に準備されると資金洗浄と見抜くことは難しい」との金融機関のコメントも紹介されていました。

 これらの事例からも読み取れるように、書面上の情報を頼りに本人確認手続きや「疑わしい取引」等の観点からのチェックをせざるを得ない金融機関の実務の限界が突かれた形となりますが、もはや金融機関の努力だけではいかんともし難く、業界はもちろん、国や警察の協力による対策レベルの底上げや、国際間の官民の情報交換・連携等をより充実させない限り、高度化・不透明化するマネー・ローンダリング事犯(さらには、テロや国際金融犯罪等犯罪全般)への対応は、今後一層困難となることが予想されます。

 また、この4月1日から施行された改正資金決済法、仮想通貨が犯罪収益移転防止法(犯収法)等において、仮想通貨の売買等を行う仮想通貨交換業者に対して登録制が導入されるとともに、利用者保護のためのルールに関する規定の整備がなされています。これに伴い、金融庁でも、関連する政令等を出しており、今般、そのパブコメの結果が公表されました。以下、仮想通貨事業者に関する部分を中心に、金融庁の考え方等について抜粋して紹介いたします。

金融庁 「銀行法施行令等の一部を改正する政令等(案)」等に対するパブリックコメントの結果等について

(別紙1)コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方

 例えば、「特定の事業者との契約により仮想通貨の価値が保証されていることをもって、仮想通貨の価値がいつ、いかなる場合も保証されていると利用者が誤認することがないよう、当該保証者の氏名等や当該保証の具体的内容について、情報提供を求める」ことや、「犯収法の取引時確認を外部に委託することは認められているが、委託した特定事業者の責任において取引時確認及び確認記録の作成、保存の措置が確実に行われることが必要であり、特定事業者は、自社の営業所で保存している場合と同様に、必要に応じて直ちに確認記録を検索できる状態を確保すべき」であること、「仮想通貨の特性上、サイバー攻撃等により利用者から預託を受けた仮想通貨が消失するリスク等もあるため、利用者保護の観点から、利用者の利便性等を損なわない範囲で、可能な限り、いわゆるコールドウォレット(ネットワークから隔離された環境に秘密鍵を保存しておくこと:筆者注)で管理する必要がある」(常時接続する=ウォームウォレットの方がいつでも引き出せるため利便性が高くなるが、セキュリティを優先させるべきであること:筆者注)、「仮想通貨交換業者の顧客が海外居住者である場合であっても、犯収法令に基づく取引時確認を行う必要がある(犯収法施行規則第6条に規定する本人特定事項の確認方法は、犯収法上の全ての特定事業者に共通)」こと、「犯収法に基づく外国PEPsであることの確認は、商業用データベースを活用して確認する方法のほか、インターネット等の公刊情報を活用して確認する方法、顧客等に申告を求める方法等が考えられ、特定事業者がその事業規模や顧客層を踏まえて、各事業者において合理的と考えられる方法により行われることとなり、確認ができた範囲内において厳格な顧客管理を行うこととなる」こと、「仮想通貨交換業者が利用者から預託を受けた仮想通貨を委託先である第三者のデータベース上で管理させる場合であっても、委託先管理等の観点から、当該データベースを委託者である仮想通貨交換業者自らが、定期的に又は必要に応じて確認すること等により、委託先が当該業務を適正かつ確実に遂行しているかを検証し、必要に応じて改善させる等、委託先に対する必要かつ適切な監督等を行うための措置を講じる必要がある」ことなどが示されています。
 仮想通貨特有の「保証」や「サイバー攻撃リスク」、「データの委託先管理」などについて言及されている点が他の特定事業者とは異なる点だと言えます。

 なお、仮想通貨に限らず、ブロックチェーン・フィンテックを巡っては、以下の2点から反社会的勢力をはじめとする犯罪組織の関与(攻撃・不正利用等)を想定しつつ、あらかじめ強固な対策を講じておく必要があると言えます。

1) ブロックチェーンの本質なインパクトは、「信用」概念のパラダイムシフトであり、銀行等を仲介せず、相互に信用を担保しながら信頼できる取引をするための新たな手段と場を提供した点にあると言えます。ただし、サイバー攻撃など外部からの攻撃や、信用のネットワークの内側に「悪意」が潜んでいた場合への対応、利用者側のリテラシーレベルの相違のもたらす問題、そもそもの概念やシステム、構築作業上の脆弱性が検証され尽くされたわけではありません。そうであるがゆえに、利便性や利活用に走り、脆弱性に対しては混とんとした今このタイミングで、犯罪組織がその技術に着目し、様々な犯罪を仕掛けてくることが容易に想像できます。急速に拡がる新しい技術や飛躍的に高まる利便性の裏腹に潜む、犯罪への悪用リスクに対しては十分すぎるほど慎重に対応していくことが必要です。

2) 金融機関とFinTech企業とのオープン・イノベーション(外部との連携・協働による革新)が進む中、金融庁が示す、機微な情報を交換して密接につながるための要件のうち、少なくとも「適正な人的構成(欠格事由等)」については、厳格な健全性が求められるとの観点から、暴力団等の反社会的勢力の排除の視点や反市場勢力や金融犯罪企図者などの排除の観点は含まれるべきだと言えます。さらには、これまでの反社会的勢力の行動から考えられることとして、有望な技術やビジネスモデル等を有したFinTech事業者に対しては、立ち上げの早い段階から、既に将来性を見込んで人的・資金的な関係を持とうとアプローチしているはずです。オープン・イノベーションを軸とした金融制度改革を真剣に考えるのであれば、そのような若い事業者について、金融機関との契約締結段階ではなく、もっと早い段階から、その健全性や技術等の保護に向けた何らかの対策を講じる必要があると言えるでしょう。

テロリスクの動向/IT事業者の過激派対策

 世界を震撼させたベルギーでのテロから1年が経過しました。直近でも、英の国会議事堂テロやロシアの地下鉄テロなど、相変わらずテロの脅威は衰えていません。そのベルギーでは、ブリュッセルの刑務所内で爆弾の製造法を記した紙が見つかるなど、刑務所や一部モスク(イスラム礼拝所)が急進的な思想を広める温床として認識されながら、対策が思うように進んでいない実態が明らかになっています。また、ロシアでも、もともと多くのイスラム教徒が住むエリアなどには反体制派テロ組織の拠点が存在し、そのようなテロリストがシリアやイラクに渡航し、ISに参加して、思想的に急進化したり、テロ訓練を積むなどしており、地政学的にテロの温床を内側に抱えるリスクも指摘されています。
 さらには、テロ組織による手法の進化も無視できない状況となっています。例えば、以前の本コラム(暴排トピックス2016年5月号など)で指摘した通り、直接の指示命令系統による実行形態を超え、正に「国家」を超えて、(インターネットやSNSを媒介して)価値観・世界観のみでつながる「超国家」の「ローンウルフ」型テロリストの活動は、ISのリアルな勢力の衰えとは一線を画して、世界各地で有効に機能し、一定の脅威となり続けています。

 また、米トランプ政権や英国は、新たに機内への電子機器の持ち込み制限を実行していますが、その背景に、テロ組織が荷物検査機など最先端の空港の保安装置を密かに入手し、爆弾を隠す方法を研究しているなど手口の巧妙化が急激に進展していることがあげられます(なお、報道によれば、米国への渡航者に対し、携帯電話の番号や登録した連絡先、ソーシャルメディアのパスワードの提出を強制することも検討されているようです。正に、「究極の入国管理」として、プライバシーや人権を制限し思想やイデオロギーのチェックにまで入国審査の厳格化が進みつつあります)。また、報道によれば、生物の遺伝子を自由に改変できる「ゲノム編集」の急速な普及を受け、米連邦捜査局(FBI)が、ゲノム編集技術を用いた生物兵器などの量産を警戒し、遺伝子工学のテロへの悪用を防ぐ対策に乗り出しているとのことです。

 このように、国家という概念を超え、技術の進歩を取り込むIS等のテロ組織との戦いは、結局は、テロ組織や思想とは全く無関係の、多くの市民の多大なる「不利益」の上に成り立っていることが明らかになりつつあります。テロとの戦いには、「寛容」や「異文化・異宗教間の対話や理解」「多元的共存」といったキーワードで語られることが多いのですが、それが一方通行ではなく「双方向」でなければ難しいことをあらためて実感します。

 さて、テロリスクには多様な側面があることは、本コラム(例えば、暴排トピックス2016年5月号など)でも取り上げてきました。ISのようにSNSを巧みに利用した広報活動を容易に行わせないという意味で、とりわけIT事業者は、テロリスクの封じ込めに「手を尽くして、できることを適切に実施していくこと」が重要となります。中でも、テロリスクとソーシャルメディアのあり方については、以前も以下のような指摘をしています。

 テロを称賛するような過激な書き込みにどう対処するか(例えば、米ツイッター社などのようにIT事業者の自立的な判断で削除すべきか否か、事後的に削除すべきか・拡散される前に削除すべきか等)、あるいは、(米アップル社などが拒んでいるような)テロリストの暗号解読に協力すべきか、といった争点について、積極的に削除や捜査協力を求める声が高まる一方で、ネット上の自由な投稿に自らの存立基盤を有している中で「自己検閲」することになりかねないとの懸念も根強いものがあります。

 本視点に関連して、直近では、英国会議事堂テロを受けて、英政府は、射殺された実行犯が犯行直前に使用した「ワッツアップ」などIT事業者に対し、暗号化された通信内容を治安機関が解読できるようにし、テロ捜査に協力するよう訴えたほか、グーグルやフェイスブック、ツイッター、マイクロソフトなどSNS運営企業の担当者と会談し、過激派による動画投稿や、テロ計画のための暗号化メッセージのやりとりなどを阻止するよう、対策の強化を求めています。英国では、昨年の新法で、当局は事業者に対し暗号解読の支援や、ユーザーの使用履歴の記録を強制できることになっていますが、国会議事堂テロを受けて、政府の強硬な姿勢をあらためて示したものと言われています。

 また、米グーグル社は、「ユーチューブ」で過激派思想を含む動画に広告が出稿されたことを謝罪しています。動画を分類し、広告の出稿先を管理する同社のソフトが疑問視されており、主要な取引先が広告の出稿を停止し始める事態にまで発展しています。さらに、ツイッター社は、政治的・宗教的な暴力行為を主張する投稿への削除措置を強化したと明らかにしています。なお、報道によれば、2016年下期に約377,000件のアカウントが「テロリズムを助長する違反行為」があったとして停止されており、前年同期の約24,000件から大幅に増加しているとのことです。

 確かに、捜査当局と事業者、あるいは利用者(一般市民)の間には、テロ対策と表現の自由や知る権利、プライバシー保護の間でまだまだ深い溝がありますが、テロリスクの高まりを背景として、テロ対策の緊急性や公益性の高さ、ソーシャルメディアのもつ活動助長性の高さを共通認識としつつ、乗り越えていかなければならない課題だと言えるでしょう。

 テロリスク対策については、欧米では、「自分の身をどう守るか」という社会教育が進んでいますが、この点について、日本は遅れていると言わざるを得ません。テロが海外進出企業の問題だけに限らず、今後、2020年に向けて日本でもテロリスクが格段に高まることが確実な状況であることを鑑みれば、日本においても、全ての国民に向けて、「命を守る」教育やマニュアル等の社会的な理解や周知が必要な状況だと言えます。その中で、今般、消防庁が、「NBC(Nuclear:核兵器、Biological:生物兵器、 Chemical:化学兵器)」等大規模テロへの対応について対応要領等をまとめていますので、以下に抜粋してご紹介します。

消防庁 「消防機関におけるNBC 等大規模テロ災害時における対応能力の高度化に関する検討会報告書」の公表

  • 爆弾テロ災害の特性
    • 爆弾テロ災害では、二次攻撃及び二次災害発生の危険性があり、化学剤、生物剤及び放射性物質等の危険物質を使用したテロ災害と複合的に発生する可能性がある
  • 消防活動の主眼及び基本的事項
    • 隊員の安全確保を最優先とし、単独行動や単独での判断を行わず、強い指揮統制を行い、関係機関と連携を密にし、情報共有、活動の調整等を行った上で、爆発による火災の消火、迅速な要救助者の救出、爆傷傷病者への応急処置等を行う
    • 消防機関と警察機関とで共有した情報を基に、現場最高指揮者が隊員の安全確保に関し細心の注意を払い、総合的に勘案した上で活動方針等を決定する
    • 爆傷傷病者については、生命に関わる四肢の傷や切断による大量の動脈性出血への処置における止血帯の使用や、より迅速に傷病者を搬送するための爆傷に適したトリアージの実施等
  • 警察機関との連携
    • 警察機関と災害の実態や二次攻撃の危険性等の情報を早期に共有し、活動にあたっては警察機関と連携し活動することについて記載
  • 現行のNBCマニュアルにおいて充実・強化を図った事項
    • ホットゾーンにおける救助活動のうちショートピックアップについて、より明確な判断要素や手法を記載
    • 原因物質に近い順に暴露者の優先順位を明確化(ナンバリング)して移動させることが原因物質との位置関係から重症度や優先度の判断に効果的である
    • 搬送導線を確保する場合には、ピックアップ先に近い要救助者から順に移動させることも選択肢としてある
    • 簡易検知活動の留意事項として、不必要な簡易検知活動の継続により、救助活動の遅れや不効率なその後の活動とならないよう、現地調整所において関係機関と検知活動の継続の可否等について調整する必要がある
    • 視認できる化学剤又は生物剤の付着の有無及び皮膚の刺激症状の有無により、除染方法(除染なし・乾的除染・水的除染)を区分し、皮膚(毛髪等を含む)に化学剤や生物剤の付着が視認できない場合及び皮膚の刺激症状がない場合並びに着衣間に気体が取り込まれている恐れがある場合には、基本的に水的除染の対象とせず、脱衣による除染を第一選択する
    • 脱衣除染時及び除染後のプライバシー保護に有用な除染前ポンチョや除染後簡易脱衣セットを準備しておく など
6) 捜査手法の高度化を巡る動向

 本コラムでもその行方を注視していた、裁判所の令状なしに窃盗容疑者の車にGPS端末を装着した大阪府警の捜査について、最高裁大法廷が「違法」と認定する判決を出しています。

 判決では、GPS捜査は強制捜査に当たり、裁判所の令状を取得せずに実施した捜査は刑事訴訟法に違反すると判断しました。報道(平成29年3月15日付毎日新聞)によれば、GPS捜査の特性を「個人の行動を継続的、網羅的に把握し、プライバシーを侵害する。機器をひそかに装着することは公権力による私的領域への侵入に当たる」と指摘、令状主義を定めた憲法35条の保障対象に「私的領域に侵入されることのない権利」が含まれるという初判断を示した上で、「GPS捜査は憲法が保障する重要な法的利益を侵害し、令状が必要な強制捜査に当たる」と認定したとされます。

 最高裁が警察の捜査手法を違法と認定するのは異例であるものの、各地の地裁、高裁の司法判断はこれまでに少なくとも10件あり(強制捜査に当たり捜査は違法と認定したものが5件、任意捜査の範囲内で適法としたのが4件、明確な判断を示さなかったものが1件)判断が分かれている中、今後は、最高裁の判断に従って再検証が進むものと思われます。

 また、実際の捜査も運用の見直しが求められ、どのような影響が及ぶのかも重大な関心事です。この点、1都7県で閉店後の飲食店から金庫が盗まれる連続窃盗事件について、警視庁が窃盗グループの男3人を窃盗などの容疑で逮捕した事案で、本最高裁判断前の昨年12月に、裁判所の令状を取得した上で、男らの車にGPS端末を装着し、窃盗グループの拠点を突き止めたというものがありました。

 報道(平成29年3月21日付毎日新聞)によれば、通常の尾行では容疑者グループに追いつけないため、GPS端末を使うための令状を裁判所に請求、捜査に支障がなくなった段階で相手側に通知することなどを条件に取得したということです。また、容疑者グループはレンタカーを使っており、警視庁は会社に令状を示して了解を得た上でGPSを取り付け、逮捕につながったとされます。適切な手順でGPS捜査が有効に機能する一例でもあり、まずは、このような形で利用がなされることを期待したいと思います。

 ただ一方で、最高裁のロジックに従えば、(現行法では、極めて例外的なケース以外は令状取得は認められないとし、新たな立法措置を促してはいますが)犯罪の嫌疑がかかる人物の位置情報は、「一律に」守られるべきプライバシーに該当するということになり、プライバシー侵害の程度も事案により異なるであろうことや、他に有効な代替手法がないケースで、重大犯罪を摘発することの公益性等の観点からすれば、「一律」にプライバシーが保護されるとするのはやはり少し違和感を覚えるところでもあります。

7) その他のトピックス

偽造薬流通への対応

 1錠が約5万5,000円もする高額な医薬品であるC型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造品が奈良県などで見つかった問題は、関係者の「リスクセンスの麻痺」とでもいえるような状況が明らかになっています(詳しくは、暴排トピックス2017年3月号を参照ください)。人の生命に直接関わる医薬品には透明性の高い、適正な流通に向けて高いレベルでの取り組みが要請されていると考えるべきであり、業界の慣行という名のもとに、その脆弱性が「薬品テロ」に結びつかないよう、できる限り対策を厳格化することが急務です。そのような中、厚生労働省は、偽造品流通防止策の検討を始めています。

厚生労働省 第1回医療用医薬品の偽造品流通防止のための施策のあり方に関する検討会 資料

資料3 ハーボニー配合錠偽造品流通事案の概要及び対応について

 本資料に、厚労省が発した通知(卸売販売業者及び薬局における記録及び管理の徹底について)の概要が掲載されており、具体的には以下のような対策が指示されています。AML/CTF等の金融犯罪対策の規制からみれば、極めて基本的なものであり、逆に、人命に関わることにも関わらずこれまでの医薬品の流通管理がいかに杜撰であったか、あらためて驚きを禁じえません。

  • 譲渡等の記録の正確性の確保
    • 卸売販売業者及び薬局開設者は、譲渡人の氏名(卸売販売業者等の名称)の確認の際には、医薬品を納品する者の身分証明書等の提示を求めて本人確認を行うこと
    • 譲渡人が有する販売業等の許可番号や連絡先等の情報を確認し、確認した情報については、譲渡人の氏名等の情報と併せて記録すること
  • 管理薬剤師による医薬品の管理の徹底
    • 譲り受けた医薬品が本来の容器包装等に収められているかどうかその状態の確認を行うとともに、医薬品の管理状況等について疑念がある場合には、譲渡人における仕入れの経緯、医薬品管理状況等を確認し、管理者として必要な注意をすること
  • 薬剤師による医薬品の管理の徹底
    • 薬局の薬剤師は、患者等に対し、調剤しようとする医薬品(その容器包装等を含む。)の状態を観察し、通常と異なると認められる場合は、これを調剤せず、異常のない医薬品を用いて改めて調剤するほか、医薬品等を管理する責任を有する管理薬剤師に報告するなど適切に対応すること

 また、本会議の配布資料の中に、金沢大学の木村教授が提出した「世界の偽造医薬品対策」があり、こちらについては、大変興味深い内容であり、以下に紹介しておきたいと思います。

資料6 世界の偽造医薬品対策

 例えば、「偽造医薬品増加の背景・特質」として木村教授は以下の通り、背景要因を整理されています。これを見ると、流通の増加に対し、偽造対策やモニタリングなどの対策が後手になっている状況や、偽造を容易にする犯罪インフラの進化・普及、犯罪者(犯罪組織)が関与しやすい環境(低リスク・高リターン、監視や規制が不十分、市場・収益規模が大きい等)など、薬物犯罪や反社リスク(資金獲得活動)の拡がりと相似する構図が読み取れます。

  1. 高齢化、セルフメディケーション、健康志向により、医薬品の需要は増加の一途。医薬品は高価な必需品
  2. 医薬品まがいの”天然製品””栄養サプリ”も氾濫
  3. 偽物と本物の識別困難、隠匿が容易、税関突破、流通網に乗る
  4. 自由貿易の拡大
  5. 打錠機、オーブン、専用器具は世界中に拡大、資金を要しない
  6. インターネット普及で販売者・消費者共、市場アクセス容易。続出する規制外違法サイト
  7. 流通監視や罰則が不十分
  8. 低リスク・高リターン、犯罪組織が注目
  9. 偽造者は市場を完全に理解し、需要に敏感に反応する
  10. 大規模製造と裏小屋製造
  11. ジェネリック薬も先発薬も対象

 また、WHOにはGDP(医薬品の適正流通基準)ガイドラインがありますが、日本国内では現在医薬品の輸送・保管に関する公的な規制がありません。医薬品医療機器等法(改正薬事法)や省令等の関係事項に従うことになってはいるものの、製薬業界や物流のグローバル化により日本国内においても最近はGDPへ適応や準拠を求められることが多くなっているようです。今回の厚労省からの通知の内容については、このGDPガイドラインとかなり符号していることが分かります(以下は抜粋)。今後の議論で、国際標準レベルの厳格な運用がルール化されることを期待したいと思います。

  • 卸売販売業者は、卸売販売業の許可を受けた者、または当該製品を対象とする製造承認を保有する者から医薬品の供給を受ける必要がある
  • 医薬品の購入に先立ち、供給業者の適切な適格性評価及び承認を行うこと
  • 医薬品の受領、供給に関するすべての取引の記録は、購入/販売送り状(インボイス)または納品書の形で保管されるか、若しくはコンピュータまたは他の何らかの形式で保存する必要がある
  • 記録には少なくとも以下の情報を含む必要がある:日付、医薬品の名称、受領量又は供給量、仕入先、販売先又は荷受人(該当するもの)の名称及び住所、並びに国の規制で必要とされる医薬品のバッチ番号、使用期限
  • 受入業務の目的は、到着した積荷が正しいこと、医薬品が承認された供給業者から出荷されたものであり、輸送中に目視で確認できるような損傷を受けていないことを確実に保証することにある
  • 偽造が疑われる製品はそのバッチを隔離し、国の規制に従い所轄当局に報告すること

ギャンブル依存症対策の動向

 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(統合型リゾート(IR)整備推進法案、カジノ法案)が昨年末に成立しましたが、今後1年以内に「実施法案」を策定しあらためて国会で審議される予定であり、とりわけ、国民の懸念が強い「ギャンブル依存症対策」「AML/CTF」「暴排」の各分野については、具体的な取り組みが加速していくことになります。そのうち、ギャンブル依存症対策の動きは既に本格化しており、厚生労働省、文部科学省、警察庁など関係各省庁で構成される「ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議」が、早くも「ギャンブル等依存症対策の強化に関する論点整理」を公表しています。

首相官邸 ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議

ギャンブル等依存症対策の強化に関する論点整理 本文

ギャンブル等依存症対策の強化に関する論点整理 概要

 本論点整理は、カジノだけでなく、パチンコや競馬・競輪・競艇など既存の公営ギャンブルも含めた包括的な依存症対策について網羅されており、「事業者の対応」「アクセス制限」「インターネット投票」「広告」「射幸性の抑制」「実態把握・調査研究」「相談支援、医療提供体制」「学校教育、消費者、行政における対応」「その他」といった大項目ごとに、例えば以下のような施策が盛り込まれています。

  • 公営競技ごとに相談窓口の設置、明示・周知、依存症対策担当の設置及び依存症に関する従業員教育の実施
  • 一元的・専門的に対応できる共通相談窓口の設置、リカバリーサポート・ネットワークの相談体制の強化及び機能拡充
  • 未成年者等の購入禁止等に係る注意喚起や警備を徹底
  • 本人・家族申告によるアクセス制限の仕組みの導入、拡充・普及、購入限度額の設定を可能とするシステムの整備
  • 出玉規制の基準等の見直し、出玉情報等を容易に監視できる遊技機の開発・導入
  • 場内・場外券売場のATMのキャッシング機能の廃止
  • 営業所の管理者の業務として依存症対策を義務付け、業界の取組について評価・提言を行う第三者機関の設置
  • ギャンブル等依存症の実態把握の全国調査の実施及び継続的な実施
  • 治療の有効性・安全性に係るエビデンス等に応じ、ギャンブル等依存症に対する専門的な医療について、診療報酬上、適切に対応
  • 自助グループ等、民間団体の活動そのものの支援へ拡充
  • 高等学校「保健体育」の学習指導要領解説における対応、中・高・大学生向け啓発資料による対応
  • 消費生活センターや多重債務相談窓口等と精神保健福祉センター等との連携体制の構築、相談員向け研修の充実、相談対応マニュアルの整備 など

 なお、本論点整理では、ギャンブル依存症の実態にかかる平成29年度に実施する全国調査の予備調査の結果も公表されています。それによると、国際的に用いられている簡易スクリーニングテストであるSOGSを用いて、都市部の成人について、過去12か月以内のギャンブル等の経験等の評価を行ったところ、「ギャンブル等依存症が疑われる者」の割合は、成人の0.6%(0.1~1.2%)と推計されています(単純計算で全国で約60万人に相当します。なお、平均年齢は45歳、男女比は4:1)。過去、平成25年度に行われた調査において、「ギャンブル等依存症が疑われる者」の割合を成人の4.8%と推計し、諸外国の1~2%と比較してかなり高い水準となったことで物議を醸しましたが、これは生涯を通じたギャンブル等の経験等を評価したものであり、0.6%(0.1~1.2%)という水準については、諸外国との比較で突出した実態ではないものと評価できると思います。なお、参考までに、生涯を通じたギャンブル等の経験等を評価した場合、「ギャンブル等依存症が疑われる者」の割合は成人の2.7%(1.7~3.7%)と推計され、単純計算すると全国で約280万人に上ることになります。

京都府警の大麻対策

 冒頭の「平成28年における組織犯罪の情勢」でも紹介しましたが、大麻事犯については、「初犯者率が77.4%と依然として高水準にあることのほか、特に20歳未満(構成比8.3%)、20歳代(39.0%)及び30歳代(35.4%)の人口10万人当たりの検挙人員がそれぞれ増加しており、若年層を中心に乱用傾向が増大」していると指摘されています。若年層に大麻が蔓延している京都府警においても、様々な取り組みを行っていますので、以下に紹介いたします。

京都府警察 少年に広がる大麻汚染

 京都府内では、過去数年、全国の状況と同じく大麻事犯の検挙人員は減少傾向にありましたが、平成27年から増加に転じ、平成28年は74人で前年比+27人と大幅に増加、過去10年でのピークだった平成21年の72人を上回る状況となっています。さらに、京都府の状況として特異な点としては、この74人のうち、ほぼ3分の1にあたる25人が未成年であるという点(全国平均では構成比が8.3%であり、全国ワースト3)が指摘できます。

 若年層対策が急務であることをふまえ、同府警では、一昨年に続き昨年も、京都府内の中学生(公立及び私立)7,791人に対する違法薬物に関するアンケート調査を実施しています。その結果、「中学生の5人に1人が、大麻の害を誤って認識」、「実際に41人の中学生が、違法薬物を誘われたことがあると回答」、「中学生の3人に1人が違法薬物を入手可能と回答」していることが分かりました。さらに、高校生8,794人に対するアンケート調査においても、「高校生の5人に1人が、大麻の害を誤って認識」、「府内の高校生の数に換算すると約1,000人が違法薬物を誘われた可能性があることになる」、「高校生の3人に1人が違法薬物を入手可能と回答」との結果となりました。そして、同府警では、若年層対策を中心に、以下のような施策を推進しています。

  • 薬物乱用防止教室・講習会を平成28年中1,779回実施したほか、京都府薬務課等関係機関と連携した広報啓発活動を推進
  • 京都府知事が委嘱した「京都府薬物乱用防止指導員」に対する指導教養を実施し、地域における薬物乱用防止の広報啓発活動を推進
  • 小中高校生別の薬物乱用防止教室に活用する教養資材としての手引きや講習会資料の作成に参画・協力して、生徒の理解度に応じた講義が行えるよう薬物乱用防止教材を作成

 また、直近では、4月から、薬物事件で摘発した未成年者について、治療のための専門医療機関を紹介し、初診料を一部負担する取り組みを始め、薬物依存治療に実績のある府立洛南病院との間で協定を結んだとの報道(平成29年3月30日付産経新聞)がありました。報道によれば、深刻な若年層への蔓延状況に加え、薬物事件は再犯率も高い(覚せい剤事犯の再犯者率は65.1%、大麻事犯の初犯者率は77.4%と極めて高いものの、再犯者も一定割合存在するほか、覚せい剤等ほかの薬物に手を出していくことも考慮する必要があります)ことから、同府警は病院と連携した治療・回復による根本的な対策が必要と判断したとのことであり、早期の適切な治療で薬物依存や再犯を防ぐ全国で初の取り組みということです。京都府警の、これら若年層を中心とした地道な取り組みが、将来の犯罪の芽を摘み取っていくことを期待したいと思います。

 なお、参考までに、フィリピンや南米以外の海外でも薬物の蔓延が問題となっており、例えば、米国では、過去10年間でヘロイン使用が5倍に増加し、依存は3倍以上に増加しているということです。特に白人と、低所得で教育水準の低い男性の間で最も顕著な増加がみられたほか、使用も依存も、未婚の成人でより増えているようです。また、オーストラリアでも、2013年の調査で、14歳以上の人口の7%にあたる130万人が覚せい剤の使用経験があったなど、深刻な社会問題となっています。それを裏付けるように、今年2月にコカイン1.4トン(過去最大)が押収されたほか、4月にも900キロ(過去2番目)が押収されるという大型の摘発事件が相次いでいます。

不動産登記情報制度の見直し

 政府の規制改革会議では、官民データの活用促進に向け、不動産登記情報のあり方について、現在平日限定で有料提供している不動産の所有者などの基本情報をインターネットで常時無料公開にすることなども議論しています。報道によれば、米国など海外では不動産情報が広く公開され、再開発などが進めやすいことから、土地取引の活性化を促すために日本でも無料化を検討しているとのことです。また、相続登記をしていないため所有者が不明になっている土地が数多くあるなど、「登記情報は実態と乖離しており、活用以前の問題だ」との指摘や、マイナンバーと登記情報との連携などが議論されています。当社としても、反社チェックの実務において、不動産登記情報や商業登記情報を精査することが極めて有効な方法と考えていますが、そのためには実態が適切に反映されていることが大前提です。以下、反社チェックの視点から、不動産登記情報のチェックポイント(不審な兆候の例)の一部について、ご紹介しておきたいと思います。

  • 不動産の所有者に不審な者がいる
  • 会社不動産の所有者に当該会社や役員以外のものがいる
  • 代表者の個人資産の所有者に本人および会社関係者以外のものがある
  • 登記内容に以下のような登記がある
  • 「差押」(仮差押)の登記がある
  • 「競売開始決定」の登記がある
  • 「所有権移転請求仮登記」の登記がある
  • 「破産」「予告登記」の登記がある
  • 「譲渡担保」がみられる
  • 抵当権や根抵当権の設定状況で以下のような登記がある
  • 抵当権や根抵当権設定が異常に多い、評価額と対比してみてオーバーしている
  • 「市中金融」の担保設定がある
  • 「個人名」の担保設定がある
  • 「根抵当権設定仮登記」の登記がある
  • 短期間に担保設定が相次いでいる

専門家リスク(元記者と暴力団の密接交際事案)

 フジテレビ社会部の元記者の暴力団員との密接交際が発覚した事案については、同社がニュース番組で社内調査結果を公表しています(文書のリリースはありません)。それによると、(1)知人の暴力団関係者に頼まれ自分名義のローンで高級外車を購入し代金約360万円のうち知人は約70万円を払い、残りは元記者が負担した(この点については、元記者と知人は虚偽登録を認めているものの、元記者は「車が暴力団に渡るとは知らなかった」と説明しているとの報道もあります。

 2人は、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪で略式起訴され、東京簡裁は、元記者に罰金30万円、暴力団関係者に同40万円の略式命令を出しています。なお、元記者は即日納付済み)、(2)元記者が知人に総額約230万円を貸し、約170万円が返済されていない、(3)知人に「警察に暴力団への名義貸しを疑われている」と話した(捜査情報の提供となりかねない、取材活動に関する重大な倫理違反行為と指摘できます)などの事実や、同社として、「スクープへのプレッシャーに加え、取材対象との距離の取り方を指導する先輩がおらず、記者教育が不十分だった」としています。なお、同社は、元記者を降格の懲戒処分とし、報道担当役員2人を減俸、社会部長ら上司2人をけん責処分としています。

 本件については、東京都暴排条例第25条(他人の名義利用の禁止等)第2項「何人も、暴力団員が前項の規定(暴力団員は、自らが暴力団員である事実を隠蔽する目的で、他人の名義を利用してはならない)に違反することとなることの情を知って、暴力団員に対し、自己の名義を利用させてはならない」に抵触する可能性もありますが、元記者の「車が暴力団に渡るとは知らなかった」との話が事実であれば、立証は難しいものと考えられます。

 以前の本コラム(暴排トピックス2017年1月号)でも指摘しましたが、記者という属性においては、不正行為における「不正のトライアングル(クレッシーの法則)」理論で指摘されている、「動機」「機会」「正当化」の3つの要件が容易に揃ってしまいやすい環境下にある(むしろ自らそのような環境を作っていく「記者魂」という危うさがあります)、すなわち、職業としてこのような不正行為が「構造的に起こりやすい」ことが指摘でき、同社の先のコメントもそれを物語っています。このような「専門家リスク」については、業務や真実追及のためであれば、倫理的に問題があっても許されるわけはなく、専門家としての個人的な資質はもちろん、それを雇用・利用する側(事業者等)も、構造的に不正行為が起こりやすい事情もふまえて、そのような行き過ぎた専門家の行動を監視していく必要があるとあらためて指摘しておきたいと思います。

暴力団情報を扱う雑誌の休刊

 30年以上にもわたり暴力団に関する動向等を報道してきた雑誌が休刊を発表しています。背景に、出版元に対する銀行の圧力があったのではないかとの憶測も流れていますが、出版元が否定していますので、詳細は不明ながら、一般論として、銀行等が取引先との関係(融資等)を通じて暴力団等の活動を助長するようなことがあってはならないと考えているのは当然のことと言えます。

 さらに、出版元としても、暴力団等の活動を美化したり、その広告塔的な役割を果たしたり、犯罪を助長するような内容(暴力団もこういった媒体を通じて自らの考えを示したり、状況をコントロールするために利用しようという意図は明らかであり、山口組分裂を巡る騒動でのメディア操作はその一例でした)は、もはや「表現の自由」を制限されてもやむを得ない(事業者の自立的・自律的なリスク判断事項である)との社会的な合意が形成されている(実際、福岡県警が、暴力団情報を扱う雑誌などについて、「暴力団を美化する風潮があり、憧れを抱いて加入する青少年がいる」として、福岡県内のコンビニ業界に売り場からの撤去を要請、各社が販売を取りやめるなどした件について、作家らが「要請は事実上の強制にあたり、表現の自由を侵害した」との訴えに対し、福岡高裁は「コンビニ各社に自主的な措置を求めたものだ」と判断しています)と認識し、暴排条例への抵触可能性や、そもそもそのような内容の雑誌を販売して収益を得ている(暴力団の威力を利用している)こと自体、コンプライアンス上の課題となっていたものと考えられます。

全銀協の新たな申し合わせ

 全銀協が、3月16日付で新たに反社会的勢力排除の姿勢をあらためて表明しています。今回の公表は、(1)平成19年7月の政府指針(犯罪対策閣僚会議申し合わせ「反社会的勢力からの被害を防止するための指針」)を受けて公表したもの、(2)平成25年11月のいわゆる「みずほ・オリコ問題」を受けて「反社DBの銀行以外への提供」や「反社チェック態勢の整備」、「預金保険機構による特定回収困難債権の買取制度の利用促進」などの趣旨で公表したもの、に続くものとなります。

全国銀行協会 反社会的勢力との関係遮断に向けた対応の強化について

  • 当協会は、関係省庁等との連携をより一層推進し、反社会的勢力との関係遮断、水際排除をさらに強化・推進するための取組みを継続して行っていく
  • 当協会は、警察庁・金融庁・預金保険機構といった関係省庁等との連携および検討をさらに進め、預金保険機構を介して実施することとしている、警察庁の暴力団情報照会システムへの接続を可能な限り早期に行う
  • 当協会の会員銀行は、お客さまの本人確認をより一層強化・徹底する等して、反社会的勢力排除の取組みを強化する

 今回の内容からは、反社リスク対策には、銀行・金融機関だけでなく、他業種・他業態との広範かつ密接な連携が必要な状況となってきているとの現状認識・危機感が読み取れます。また、「警察とのシステム連携」の早期の実現・定着による反社チェック実務レベルの底上げ、AML/CTFなどといった金融犯罪対策と密接にリンクした反社リスク対策のあり方、反社会的勢力の手口等の巧妙化・潜在化をふまえた「真の受益者の特定」や「厳格な本人確認手続き」の実施など、実務の「進化」「深化」を、このタイミングで会員行に求めている点が注目されます。

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3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 暴排条例勧告事例(茨城県)

 暴力団事務所の開設などを目的に不動産の賃借をしたとして、茨城県公安委員会は、茨城県内の不動産業の男性と、指定暴力団松葉会系の男性組員に対し、茨城県暴排条例に基づく利益供与の授受の禁止を勧告しています。報道によれば、同県における暴排条例に基づく勧告は5例目だということです。

茨城県暴力団排除条例

 本条例における利益供与の禁止は、第15条(暴力団員等に対する利益供与等の禁止)に、「事業者は、その行う事業に関し、情を知って、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる金品その他の財産上の利益の供与(以下単に「利益の供与」という。)をしてはならない」との規定があります。

 それに加えて、本件で問題となっているのが、暴力団事務所の開設を目的とした(情を知っての)賃貸契約の締結であることから、第18条(不動産の譲渡等をする場合の措置)第2項の「何人も、自己が譲渡等をしようとしている不動産が暴力団事務所の用に供されることとなることを知って、当該不動産の譲渡等をしてはならない」にも抵触していると指摘できます。さらに、第4項には、「不動産の譲渡等をした者は、当該不動産が暴力団事務所の用に供されていることが判明したときは、速やかに当該不動産の譲渡等に係る契約を解除し、又は当該不動産を買い戻すよう努めなければならない」と規定されているなど、とりわけ、暴力団事務所の開設目的については、厳格な対応を不動産事業者に求めている点をあらためて認識する必要があります(なお、本規定は、茨城県に限らず、すべての自治体が制定している暴排条例に共通して規定されている部分でもあります)。

2) 暴排条例勧告事例(新潟県)

 警視庁など各都道府県警察においては、個別に暴排条例に基づく勧告事例を公表しているところもありますが、今回は、新潟県警のサイトに公表されている事例を紹介いたします。

新潟県暴力団排除条例勧告事例

  • 飲食店経営者Aは、その行う事業に関し、暴力団の会合と知りながらその場所を提供し暴力団の活動を助長したとして、同Aに対し、また、その場所の提供を受けたとして会合の主催者である稲川会系暴力団組長Bに対し、それぞれ勧告した。(平成23年9月)
  • 生花業経営者Aは、その行う事業に関し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することを知りながら、山口組系暴力団組長Bが行う門松販売代金の入金目的として普通預金口座を開設し、門松購入事業者に代金を入金させた上、出勤して手渡すなどの役務を提供したとして、同Aに対し、また、その供与を受けた同Bに対し、それぞれ勧告した。(平成26年6月)
  • 海産物卸業者Aは、その行う事業に関し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することを知りながら、極東会系幹部Bから海産物を購入した現金を供与したとして、同Aに対し、また、その供与を受けた暴力団幹部Bに対し、それぞれ勧告した。(平成27年9月)
3)その他の勧告事例(組織犯罪情勢から)

 冒頭ご紹介した「平成28年における組織犯罪の情勢」内で紹介された勧告事例のうち、昨年の本コラムで取り上げていなかったものを以下にご紹介しておきます。

  • 飲食店経営者が、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることを知りながら、二代目熊本會幹部に同店を会合場所として使用させたことから、同経営者に対して勧告を実施し、同幹部に対しては、勧告を実施した上、これに従わなかったことから氏名等を公表した事例(熊本、1月)

    【注】 なお、参考までに、熊本県暴排条例第30条(事実の公表)に、「公安委員会は、前条の規定により勧告を受けた者が正当な理由がなく当該勧告に従わないときは、公安委員会規則で定めるところにより、その旨を公表することができる」との規定があり、多くの自治体の暴排条例ではこのような「勧告を経て公表」という措置をとっています。一方、例えば、岡山県暴排条例第22条(公表)では、「公安委員会は、第20条の規定により説明若しくは資料の提出を求められた者が正当な理由なく当該説明若しくは資料の提出をしなかったとき、又は前条の規定により勧告をしたときは、公安委員会規則で定めるところにより、その旨及びその勧告の内容を公表することができる」と規定されており、「勧告を経ないで公表」するケースもありうるとの立て付けとなっています。

熊本県暴力団排除条例

岡山県暴力団排除条例

  • 法人経営の飲食店が、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる情を知りながら、住吉会傘下組織組長に同店を会合場所として使用させたほか、塗装業経営者らが暴力団の威力を利用する目的で会費名目に現金を供与したことなどから、同法人及び経営者ら並びに同組長に対し、勧告を実施した事例(神奈川、10月)
  • デリバリーヘルスの経営者が、暴力団の威力を利用する目的で、六代目山口組傘下組織幹部に現金を供与したことから、同経営者及び同幹部に対し、勧告を実施した事例(静岡、11月)
  • 六代目山口組傘下組織幹部らが、条例で定める暴力団排除特別区域において、風俗店経営者から用心棒料を受けていたことから、条例違反として同幹部らと同経営者を検挙した事例(愛知、10月検挙)
  • 稲川会傘下組織組長らが、条例で定める暴力団事務所の開設又は運営の禁止区域に暴力団事務所を開設し、運営したことから、条例違反として検挙した事例(福島、10月検挙)

 また、公共事業や各種業法による排除事例としては、以下のようなものが紹介されています。

  • 六代目山口組傘下組織組員らを労働者派遣事業法違反等で検挙し、その捜査の過程で、同組員が実質的に経営を支配している建設会社及び同組員と社会的に非難される関係を有している建設会社が判明したことから、それらの会社を国等に通報し、公共工事から排除した事例(北海道、2月)
  • 県からの照会に基づいて建設業の許可申請業者を調査したところ、同業者の役員が元六代目山口組傘下組織組長であることが判明したことから、その旨を県に回答し、県から同業者に対し許可することはできない旨を告げたところ、同業者が申請を取り下げた事例(栃木、1月)
  • 建設業及び産業廃棄物収集運搬業の許可を有する会社について調査したところ、その代表取締役が元六代目山口組傘下組織組員であることが判明し、調査の過程で建設業については同社が自主的に廃業届を提出したが、産業廃棄物収集運搬業については、県に通報して、県が許可を取り消した事例(埼玉、5月)
4) 暴排条例違反に対する判決(福岡県)

 前回の本コラム(暴排トピックス2017年3月号)等で紹介した、福岡県暴排条例が禁止する福岡市内の小学校から200メートル以内に暴力団事務所を開設・運営したとして、指定暴力団山口組系一道会の会長ら15人が同県暴排条例違反容疑で逮捕された事件について、福岡地裁は、同会会長に懲役9月、執行猶予4年の有罪判決を言い渡しています(そのほかに逮捕されていた15人は処分保留で釈放されています)。報道によれば、福岡地裁は、「福岡市内に事務所を置きたいという身勝手なプライドから犯行に及んでおり、悪質性が高い」と指摘しています。

5) 組事務所使用禁止の仮処分事例(神奈川県)

 以前の本コラム(暴排トピックス2016年5月号9月号)で取り上げた事案の続報となりますが、神奈川県厚木市の、かつて山口組系の組事務所として使われ、平成14年に起きた発砲事件で組員1人が死亡した事件を契機として、平成15年に横浜地裁小田原支部が組事務所として使わせない仮処分決定を出していた建物に、昨年2月、2トントラックがこの建物に突っ込む事件が発生した件について、住民らは、六代目山口組と神戸山口組の分裂に関連し、仮処分決定が守られていないとして、金銭の支払いを課すことで心理的に圧迫し、義務を守らせる「間接強制」を求めていたところ、東京高裁は住民の訴えを全面的に認め、組員が建物に立ち入ったり、銃器の保存場所として使ったりすることを禁じたうえ、違反した場合には100万円の支払いを命じました。

 本件について、周辺住民から委託を受けた神奈川県暴追センターの申し立てを受け、今年3月31日付で、横浜地裁小田原支部が事務所としての使用を禁止する仮処分を決定しています。報道によれば、組側は「現在は事務所として使用していない」と主張していましたが、同支部は暴力団事務所と認定し、「住民の人格権の侵害は著しい」などと指摘したと言うことです。

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