暴排トピックス

テロリスクへの対応~事業者として取り組むべきこと~

アバター 取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

2019.01.16
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テロの街で銃を持つ人のイメージ画像

1. テロリスクへの対応~事業者として取り組むべきこと

2019年(平成31年)は、日本で新天皇の即位・改元、第14回金融・世界経済に関する首脳会合(G20大阪サミット)やラグビーW杯が開催されるほか、2020年には東京五輪・パラリンピックが開催されるなど、今年から来年にかけて国際的な注目が日本に集まることになります。それは、危機管理の視点から言えば、当然ながら日本における「テロリスク」が格段に高まることに注意が必要だということであり、正に官民を挙げて取り組むべき喫緊の課題となっています。そのうえで、テロリスクへの対応には事業者の協力が必要不可欠であること、事業者として取り組むべきこと、取り組めることは十分にあることをまずもって認識する必要があります。例えば、国連はイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS/ISIL)について、その残党がイラクとシリアの両国内に依然として2~3万人残っていると指摘しているほか、十分な戦闘訓練を積んだ戦闘員やISに共鳴する「数千人の外国人戦闘員」も健在であると指摘しています。彼らが、テロを敢行するために日本に向けて移動すると想定したとき、日本を含めた各国において、偽造旅券で逃走するIS戦闘員の流入を完全に阻止できていないこと(つまり、民間の事業者も、水際で、あるいは国内で市民に紛れ込んでいるその中から、テロリストを見極め、入国やテロの実行を阻止すべく取り組むべきこと/取り組めることがあること)、国としても多くの監視対象を十分に監視できる態勢を早急に整備する必要があります。さらには、昨年、日本でも高性能爆薬の製造が市販品で可能なことが高校生によって示されました。また、新年早々、群集の中に自動車を暴走させて多くの負傷者を出し、さらには灯油をジェット噴射して火炎放射器のように無差別殺人を図ろうとした事件も発生するなど、(思想や動機は別としてその手口への対応という意味で)日本ももはやテロリスクと無関心ではいられません。そして、一般の事業者においても、薬品の販売時、宿泊やネットカフェの利用時、賃貸契約やレンタカーの契約締結時などにおける本人確認の徹底(精度の向上)、ネット掲示板やSNSの監視によるテロ等の予告・準備の端緒の把握、自社の従業員の中に過激思想に染まった人間がいないか(いるか)をどう見抜くかなど、テロを未然に防止するために事業者ができること、すべきことはまだまだ多いと思われます。そのような考えのもと、本コラムでは、事業者としてテロリスクとどう対峙していくかを考える機会を提供したいと思います。

まず、先月、警察庁から「治安の回顧と展望」平成30年版が公表されていますので、紹介します。

▼警察庁 治安の回顧と展望
▼治安の回顧と展望(平成30年版)

国際的な治安にかかる動向としては、まず、米国商務省が、2018年4月16日、中国の通信機器大手「中興通訊(ZTE)」が、イランや北朝鮮に対する禁輸措置に違反した上、米国当局に提出した再発防止策において虚偽の説明をしていたとして、同社に対する米国製品の輸出を禁止すると発表しました。また、4月25日には、米国司法省が中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」を米国製通信機器のイランへの不正輸出の疑いで捜査していると複数の欧米メディアが報じ、さらに6月7日、ZTEの制裁解除に向け、最大14億ドル(約1,500億円)の罰金の支払い、経営陣の刷新等で同社と合意したと発表、7月13日には、同社が罰金の支払等を終えたとして、制裁を解除したと発表しています。一方、トランプ大統領は、8月13日、米国の政府機関がZTE及びファーウェイのサービスや機器を利用することを禁止する規定を盛り込んだ国防権限法に署名するなど、中国への強硬姿勢を鮮明にしていることが紹介されています。
 国内の治安の動向については、まず、右翼について、平成30年中、領土問題、歴史認識問題等をめぐり、活発な街頭宣伝活動等に取り組み、韓国関連で延べ約1,350団体、約3,000人、街頭宣伝車約1,090台(前年同期:延べ約1,240団体、約2,740人、街頭宣伝車約920台)を動員し、街頭宣伝活動等を活発に行っていると指摘しています。さらに、右翼は、天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う式典、G20大阪サミット及び関係閣僚会合等が予定される平成31年も引き続き、内外の諸問題に敏感に反応し、政府や関係諸国等に対する抗議活動を執ように行うものとみられ、その過程で、「外国要人、外国公館、政府要人、政府機関等に対するテロ等重大事件を引き起こすおそれがある」と指摘しています。また、右翼の街頭宣伝車数は、全国で約1,100台とみられるところ、一部の右翼は、資金獲得を目的に、「糾弾活動」と称し、企業に対して街頭宣伝車を用いて大音量で執ような街頭宣伝活動を行い、騒音被害や交通渋滞を引き起こすなど、市民生活の平穏を害している実態があります(これが、反社会的勢力の一類型である「政治活動標ぼうゴロ」「エセ右翼」の実態です)。また、警察では、極左暴力集団に対する事件捜査及び非公然アジト発見に向けたマンション、アパート等に対するローラー等を推進するとともに、これらの活動に対する国民の理解と協力を得るため、ウェブサイトをはじめとする各種媒体を活用した広報活動を推進しています。関連して、「中国は、日本においても、先端技術保有企業、防衛関連企業、研究機関等に技術者、研究者、留学生等を派遣するなどして、巧妙かつ多様な手段で各種情報収集活動を行っているほか、政財官学等の各界関係者に対して積極的に働き掛けるなどの対日諸工作を行っているものとみられる」との指摘があります。事業者の中にいわば産業スパイが紛れ込んでいる実態を明らかにしおり、事業者の危機管理における一つの重要な視点としてより一層の危機感を持つべき状況にあると言えます。さらに、「近年では、中国政府、企業、大学等の関係者が、中国国内で深刻化する環境汚染、高齢化等の問題に関連して、これらの分野の先端科学技術を有する我が国の企業等を積極的に訪問するとともに、あらゆる機会を通じて中国への進出や共同研究、技術提供を働き掛けるなどの動向がみられる」とも指摘していますので、十分な注意が必要です。
 一方、平成30年上半期の偽変造旅券等行使による不法入国等の検挙人員は14人と、前年同期(22人)より8人減少したこと、このような偽変造旅券等行使による不法入国等事犯の検挙人員は、平成15年から平成19年にかけては毎年1,000人以上の高水準で推移していたところ、近年減少傾向となっていることではありますが、一方で、「近年の偽造技術の向上により精巧な各種偽造証明書が出回っているほか、偽装結婚等により正規滞在者を装って滞在する偽装滞在者の増加が懸念されている」との指摘には注意が必要です。また、入国管理局により外国人個人識別情報認証システム(BICS)が導入された平成19年11月以降、退去強制歴のある者が、指先を刃物で傷つけるなどして指紋を偽装し、我が国に入国する事案も発生しているとして、注意を呼び掛けています。

テロリスクの動向については、「2018年中、ISIL(IS)の残存勢力は、依然として攻撃を行う能力を有し、シリアでは、東部のデリゾール県の一部に支配地域を維持するなど、活動を継続している(注:直近では、そのシリアから米軍を中心とする有志連合が撤退する方針であることが表明されました。米軍内で異論も多く国防長官の辞任にまで発展していますが、既に撤退が開始されている状況です。ただし、早急な全面撤退は地域情勢の悪化を招くとの懸念も強く、撤退完了まで時間をかける可能性も考えられます。さらに、シリアやイランでは、いまだ多くの人々が国内避難民として暮らすなど、「IS後」の復興は思うように進んでいない現実も無視できないところです)。ISILは、イラク及びシリアにおける軍事介入に対する報復として、「対ISIL有志連合」参加国、ロシア、イラン等に対するテロを実行することや、爆弾や銃器が入手できない場合にはナイフ、車両等を用いてテロを実行することを呼び掛けてきており、同年8月には、指導者のアブー・バクル・アル・バグダーディの声明が発出され、世界各地でテロを実行するよう改めて支持者に呼び掛けた。2018年中も、ISIL等の過激思想に影響を受けたとみられる者によるテロ事件が発生し、ISILは、インターネットを活用してこれらのテロ事件を称賛するとともに、効果的な作戦として推奨するなどして、更なるテロの実行を呼び掛けた」として、本コラムで言うところの「リアルIS」から「思想型IS」への転換の動きを指摘しています。そして、「テロを未然に防止するためには、幅広い情報の収集及び的確な分析が不可欠である。また、テロは極めて秘匿性の高い行為であり、関連情報のほとんどは断片的なものであることから、情報の蓄積と総合的な分析が求められる」との指摘は極めて示唆に富む重要なものです。事業者がすべきこと、できることのひとつはこの「断片的な情報の収集」と「当局等への報告」であり、それによって「的確な分析」につなげることだと言えるでしょう。そして、「警察では、警察庁警備局外事情報部を中心に各国治安情報機関等との連携を一層緊密化している。このほか、インターネット上の情報収集・分析の重要性がこれまで以上に増しているところ、インターネット上に公開されたテロ等関連情報の収集・分析を強化するために、平成28年4月、警察庁警備局に「インターネット・オシントセンター」を設置した」と紹介しています。さらに、「政府は、内閣官房に空港・港湾水際危機管理チームを設置し、関係機関が行う水際対策の調整を図っている。国際空港・港湾には、空港・港湾危機管理(担当)官(全ての国際空港及び一部の国際港湾の危機管理(担当)官は都道府県警察の警察官)が置かれ、関係機関との連携の下、具体的な事案を想定した訓練の実施や施設警備の改善等に成果を上げている。また、テロリスト等の入国を阻止するため、事前旅客情報システム(APIS)、BICS、乗客予約記録(PNR)が運用されているところ、警察では、これらの運用に資する情報を提供するなど、関係省庁と連携して水際対策の強化を図っている」こと、また、「爆発物の原料となり得る化学物質の販売事業者に対して継続的に個別訪問を行い、販売時における本人確認の徹底、盗難防止等の保管・管理の強化、不審情報の通報等を要請しているほか、実際に接客に当たる従業員に対し、不審購入者の来店や電話による問合せがあった場合を想定した体験型の訓練(ロールプレイング型訓練)を行っている。また、近年、爆発物の製造等を目的とした学校からの化学物質窃取事案が発生していることを受け、文部科学省に対し、学校等における化学物質の管理強化等に関する指導を要請」したといった取り組みは、冒頭、紹介した通りであり、正に事業者としてすべきこと、できることとして参考にしていただきたいと思います。とりわけ、爆薬や覚せい剤などの製造を行った高校生のインパクトは大変大きく、「昨今ウェブサイト上で爆発物の製造方法に関する情報を入手したり、インターネット通信販売で原料を入手したりすることにより爆発物を製造する事案が発生していることを踏まえ、爆発物の製造方法等に関する有害情報の発見及びプロバイダ等に対する削除要請を推進」といった取り組みの重要性が指摘されています(これらのモニタリングが、ネットやSNS等の事業者にとってのテロリスク対策ともなりえます)。それ以外にも、「鉄道事業者による列車内の自主警備の強化、防犯・護身用具、医療用具の適切な車内配備等のほか、警察による暴漢、テロ対策等に係る専門的知見からの対処要領等の助言、合同訓練の実施等の対策を逐次実施に移していく」こと、さらには、「重要インフラの基幹システムを機能不全に陥れ、社会の機能を麻痺させるサイバーテロや、情報通信技術を用いた諜報活動であるサイバーインテリジェンス(サイバーエスピオナージ)といったサイバー攻撃が世界的規模で頻発するなど、その脅威は、国の治安、安全保障及び危機管理に影響を及ぼしかねない問題となっている」こと、「サイバー攻撃には、(1)攻撃の実行者の特定が難しい、(2)攻撃の被害が潜在化する傾向がある、(3)国境を容易に越えて実行可能であるといった特徴があり、我が国において、この脅威に対する対処能力の強化が求められている」との指摘もあり、IT事業者や鉄道事業者などもテロリスクへの対応に重要な役割を果たすべきこと、果たせることが分かります。

さて、上記の「治安の回顧と展望」では直接的な指摘はなかったものの、レンタカーもテロリスクにおける「犯罪インフラ」となりかねない危険性を秘めています。冒頭紹介した年初に発生した自動車暴走事件については、思想性は不明ではあるものの、その行為自体はテロの一類型として今後の対策にとって非常に参考になる事件だと言えますが、本事件ではレンタカーが使用されたほか、世界中のテロでもレンタカーが悪用されている実態があります。本事件の前から、警察当局は、レンタカー業者に利用者の身分証確認の徹底を要請、言動に不審点があれば警察に連絡するよう求めてきましたが、実際のところ、日常の移動手段である車両は、犯行のために準備しても計画が露呈する可能性は低いと言え、その場の手続きで、国内利用者ですら十分な本人確認が行われているか甚だ疑問であるところ、外国人利用者の運転免許証などの本人確認の徹底や不審な点の把握等までは実務的に困難であることは明らかであり、今回の事件を通じて、多くの課題が改めて浮き彫りになったと言えます。このように、東京五輪など今後の大規模イベント開催に向けて車両テロは「現実的な脅威」となっていますが、車両テロ対策においては、警備の「網」「面」をどうカバーすべきかが、リソースの限界との関係から重要な課題となっています。当日の同時間帯には、年末年始のカウントダウンで何らかの混乱が起きると想定して近くの渋谷駅前で大量の警察官が動員され、参拝客で混雑する明治神宮周辺にも警備車両やパイプ柵が配置されていましたが、犯行現場となった原宿竹下通りでは厳重な警戒態勢は敷かれておらず、正に警備な手薄な場所・時間帯で事件が発生してしまいました。この点については、複数の報道(平成30年1月2日付産経新聞ほか)で警察幹部が、「ピンポイントの警備だけではなく、会場に向けて周辺地域から段階的に警戒度を高める必要がある」、あるいは、「細かい路地まで全てを塞げるかと言われれば、際限がなく難しい」などとコメントしているように、この「面」で車両テロに備えることの難しさをあらためて認識させられたと言えます。さらには、実際には使用されませんでしたが、犯人は、火炎放射器の代わりに灯油と高圧洗浄機を事前に購入しています。しかしながら、そもそもそれがテロにつながると発想するのは困難であること、犯人はそれらをネット通販で購入していますが、それとて通販事業者にとっても特段不審な行動と見なされる可能性が低い点も、テロリスクへの対応として大きな課題を突き付けたと言えます。今回もそうですが、後から情報を分析すれば「断片的な情報」として重要な情報であったとしても、「事件発生前に」「リアルタイムに」、それが犯行につながる情報だと認知することはやはり難しいことが分かります(その意味では、「ソフトターゲット」テロへの対策のひとつとして、AI(人工知能)と顔認証システムを組み合わせて、テロリストや犯罪組織の者、ふるまいや行動が不審な者等をリアルタイムで察知して犯行の未然防止や犯人の摘発につなげる取り組みが重要性を増していると言えます。そして、実用化の第一歩として、政府が2月24日に開催する天皇陛下ご在位30年記念式典で、会場の参列者と事前登録した顔写真を自動照合する顔認証システムを導入するとの報道がありました。政府主催の行事での導入は初めてであり、今後のブラッシュアップを通じて、テロリスク対策の切り札となることを期待したいと思います)。
 また、最近のテロリスクへの対応として、政府がかなり踏み込んだ取り組みをしようとしていると評価したいのが鉄道駅における手荷物検査の実証実験です。報道によれば、昨年発生した東海道新幹線殺傷事件を踏まえ、政府が鉄道のテロ対策を強化しようと、駅で乗客を対象にした手荷物検査の実証実験を検討中とのことであり、東京メトロ霞ケ関駅を候補に、2月にも実施する予定ということです。実験で問題点を洗い出し、導入の可否を見極めた上で、実現可能であれば具体的な検査方法や時期、導入する路線を探るとされます。鉄道での手荷物検査は海外の一部に導入例はありますが、成田空港内の駅で検問が行われていたケースを除き日本国内ではないということです。以前、新幹線改札での手荷物検査は利用者の利便性を著しく損なうものとしていったん見送られており、本コラムとしてはその判断に疑問を投げかけていましたが、地下鉄もまた多くの乗降客がおり、テロの効果を最大限に高めることができる「ソフトターゲット」であることは間違いありません。実証実験とはいえ、多くの乗客の利便性を制限することになるにもかかわらず実施に踏み込もうとしていること、一方でテロリスクに対する社会の認識を高める一助になるものとして、その取り組みを高く評価し、今後の本格導入を期待したいと思います。
 さらに、今後のテロリスクへの対応の効果・精度を高めるものと期待したいのが、衛星の活用です。政府は来年度(2019年度)から準天頂衛星「みちびき」を利用し、地震・津波などの災害情報、テロなどの危機管理情報、避難勧告などの情報を提供するサービスを始めるということです。全国の学校や病院などで準天頂衛星が発する信号を受信できるようにするもので、災害やテロが発生した際は、携帯電話がつながらない状況に陥る危険があるところ、一般的な通信機器に頼らずに、避難勧告やテロに関する重要な情報を提供・受信できる手段として期待したいところです。

さて、宇宙空間やサイバー空間は陸海空に次ぐ「第4、第5の戦場」ともいわれ、米中露をはじめ各国の攻防が激しさを増しています。政府は、新たな防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」の基本概念を「多次元統合防衛力」とし、陸海空3自衛隊の統合運用の範囲を、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域にまで拡大することを目指しています。また、この新しい「防衛計画の大綱」(防衛大綱)および「中期防衛力整備計画」(中期防)の素案は、宇宙、サイバー、電子戦といった新領域での防衛力を重視する「領域横断作戦」の必要性についても明記されています。南西地域への展開能力を重視する現大綱の「統合機動防衛力」を深化させながら、他国の能力向上が著しい「新たな戦い方」への対処力を強化する狙いがありますが、サイバーや電子戦では日本の出遅れも指摘されているところであり、防衛力の具体化はそう簡単ではないものと思います。また、関連して、日本政府はこの防衛大綱で、サイバー空間での「相手の利用を妨げる能力」の強化を掲げ、(かなり踏み込んだと評価したいと思いますが)「サイバー反撃能力の保有」を盛り込んでいます。これは、重要インフラなどへのサイバー攻撃による被害が、国民の生命、自由、幸福追求の権利を覆すレベルだと判断できれば武力攻撃事態と認定し、自衛権の発動としての自衛隊による反撃は可能としたものです(直近の報道によれば、政府は、敵のレーダーや通信を無力化する「電子攻撃機」を開発する方針を打ち出しました。自衛隊の輸送機や哨戒機に強力な電波妨害装置を搭載し、電子戦能力を向上させている中国やロシアに対処する狙いがあるということです)。さらに、サイバー攻撃を武力攻撃とみなして日本が反撃するのであれば、日米安保条約をどう適用するかの議論は避けられないとして、日米安保5条適用について米国と協議することとしています。

最後に、その他のテロリスクへの対応に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 政府は、小型無人機「ドローン」に関する関係府省庁連絡会議を開き、2020年東京五輪・パラリンピックに向けたテロ対策として、会場上空でのドローンの飛行を禁じる法規制を進めることを決め、今後、関連法案を提出するとしています。大会期間中とその前後の時限措置とし、違反した場合の罰則規定も設ける内容となるようです。
  • 2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、警視庁が、選手村の整備地に近い複合商業施設「晴海アイランドトリトンスクエア」で、テロ対策訓練を行っています。訓練は、テロリストが爆発物を入れたかばんを置いて立ち去ったとの想定で行われ、月島署員らが利用客を避難誘導し、爆発物処理班がかばんを回収、発砲するテロリストを警備犬がかみつくなどして取り押さえるといった内容でした。
  • JR東日本秋田支社と秋田県警、秋田市消防本部は、秋田市のJR秋田駅で、テロ対策合同訓練を行っています。約140人が参加し、非常事態の際の行動手順を確認したということです。訓練は、新幹線ホームのごみ箱付近に落ちていたアルミ缶から異臭を放つ液体がこぼれ、複数の利用客が倒れているとの想定で実施され、防護服姿の県警機動隊員ら参加者は被害者の救出や除染、利用客の避難誘導などの一連の動作を体験する内容でした。
  • 爆破テロ対処を想定した国民保護図上訓練が茨城県庁で行われています。総務省消防庁や自衛隊、県などから約160人が県庁での訓練に参加したとのことです。具体的には、平成31年に開催される茨城国体の会場になっている笠松運動公園陸上競技場で国体の陸上競技が行われている中、メインスタンドで爆発が起き、200人以上が死傷、国際テログループが犯行声明を出し、犯人らが同県東海村豊白の村民活動センターに立てこもったとのかなり具体的なシナリオで行われています。
  • 四国電力と広島県警、四国の4県警などは、昨年10月に再稼働した伊方原発3号機などにサイバー攻撃や不審者の侵入があったとの想定で訓練を実施しています。昨年に続き2回目となりますが、香川、徳島、高知各県にある四国電の発電所などがサイバー攻撃を受けた後、警戒を強めていた伊方原発でも敷地への出入りを管理するシステムが攻撃され、爆発物を持った不審者が3号機の施設に侵入したとの想定で行われています。
  • 政府の内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)は昨年12月、情報通信や鉄道など重要インフラに対するサイバー攻撃を想定した合同演習を都内で実施しています。ツイッターなどによるフェイクニュースへの対応など最新のサイバー情勢を踏まえ、システム障害発生時に事業者と関係省庁が横断的に対応する手順や課題を検証したということです。

2. 最近のトピックス

(1) 最近の暴力団情勢

特定危険指指定暴力団工藤会を巡る動きが激しくなっています。昨年12月、北九州市小倉北区の工藤会の本部事務所にかかる固定資産税約700万円が滞納されており、市が事務所の差し押さえも含め対応を検討していることが分かりました(ただし、当該事務所については、福岡県公安委員会が平成26年以降、工藤会に対して暴力団対策法に基づく使用制限命令を出しており、現在は使用されていません)。また、工藤会が関与したとされる2件の一般人襲撃事件の損害賠償を巡り、福岡地裁が遺族らの申し立てを受け、同会トップの野村悟被告(72)が同市内に所有する複数の不動産を仮差し押さえする決定を出していたことが判明しています。報道によれば、仮差し押さえの対象は被告が小倉北区に所有する複数の駐車場や建物で、土地建物の合計評価額は、遺族らが野村被告に求めていた賠償請求額計1億6,000万円のほぼ全額分に相当するということです。これらの事情もあり、工藤会は当該事務所の土地建物の売却を決定、一方で北九州市は固定資産税の滞納により差し押さえ手続きを12月21日に完了させています。そして、今年に入り、北九州市の北橋市長は、市が差し押さえた本部事務所の撤去に向け、工藤会側と協議に入ったことを明らかにしました。なお、差し押さえ状態は今も解消されておらず、今後、工藤会、県警と共に三者で協議する方針ということです。北九州市長は、記者会見で本部事務所撤去の意義を聞かれ、これまで警察、行政、事業者や市民一体となって暴力追放、暴力団排除の活動を展開したことを説明、「事務所の撤去は、暴力団追放運動でシンボリックな意味を持つ」とし、撤去に向けて最善を尽くすと語っていますが、正に、工藤会にとって象徴的な建物が閉鎖すれば、その弱体化が進むことも期待され、野村総裁以下幹部を大量に逮捕したこととあわせ、「頂上作戦」の最大の成果だと評価できると思います。これまで、工藤会が本部を置き、市民を標的にした襲撃事件が相次いで発生したことなどから、北九州市はネット上で「修羅の国」と揶揄されるなど、街のイメージに暗い影を落としてきましたが、一方で、安全・安心な街の実現に向け、行政や警察だけでなく、市民も参加した継続的な取り組みを続けてきました。本コラムでも紹介したように、同市内の小倉や黒崎の繁華街で暴力団員の入店を禁じた「暴排標章」を掲示する飲食店の数は、平成24年に掲示店舗の関係者を狙った襲撃事件が相次いだため低迷していましたが、最近では増加傾向に転じるなど、安全・安心な街の実現に向けて動き出しており、北九州市にとっても大変大きな転換点となるものと思われます。一方、工藤会にも新たな動きが見られます。まず、2事件の損害賠償請求訴訟が続く野村被告については、和解して被害者に見舞金を支払う意向を示す陳述書を福岡地裁に提出していたことが分かりました。報道(平成31年1月12日付読売新聞)によれば、「工藤会の上に立った者として道義的な責任は感じており、被害者らに見舞金の支払いは考慮している」としつつ、「(2事件に)関わっておらず、実行犯の使用者でもなく、法的責任を負わない」とも主張しているといい、請求棄却を求めたうえで、2事件について起訴されていることから「刑事事件の訴訟活動に支障が出るため、詳細な反論ができない」としています。もうひとつは、今後に向けた不穏な動きとして、途絶えていた繁華街の「夜回り」を復活させ、その主導役の組長を首脳級幹部に登用したことも分かりました。「夜回り」は数十人の組員をそれとわかる格好で行うもので、20年前くらいから始まっている伝統行事でもあります。工藤会が健在であることをアピールする狙い(現状、工藤会の弱体化を突く形で、指定暴力団道仁会の資金獲得活動が活発化しており、暴力団対策法に基づくみかじめ料要求などの暴力的要求行為に対する中止命令が昨年13件と福岡県全体の6割を占めているほど活発化、福岡県警が取り締まりを強化している状況にあることから、工藤会としても巻き返しを図りたいと考えているものと推測されます)や、全国的に台頭している半グレ対策ではないかとも言われていますが、本部事務所の売却や野村総裁の陳述書など一連の動きからは、停滞してきた現状を早く打開して、復活を期す狙いが透けて見えるような気がします。いずれにせよ、米財務省に「最も凶暴」と評された工藤会が、このままで終わるわけもなく、今後の動向に注意が必要です。

さて、3つの山口組については、分裂騒動から4度目の新年を控えた昨年12月13日に、そろって伝統の「事始め式」を開いています(指定暴力団任侠山口組の神戸市内の本部事務所が、使用禁止の仮処分が決定するなどの事情で今回は長野県上田市での開催となりました)。なお、恒例の四字熟語による新年の「組指針」については、指定暴力団六代目山口組は例年通りの「和親合一」(山口組を国内最大の暴力団組織に成長させた田岡一雄三代目組長が制定した基本理念「山口組綱領」からの抜粋)で、組織の団結を促す狙いがあるようです。また、指定暴力団神戸山口組は「一心一意」、任侠山口組は「一意奮闘」と、いずれも邪心の排除や努力を訴えているとみられます。今年は、六代目山口組ナンバー2で六代目の後継者と目されている高山清司が秋ごろ府中刑務所から出所予定であり、それに向けて3つの山口組の再統合を巡って、3すくみの状態から大きくパワーバランスが動くことが予想されるところであり、本格的な抗争の勃発の可能性も含め、注意が必要な状況です。

本コラムでもたびたび取り上げている半グレですが、摘発等によってその実態がだんだんと明らかとなってきており、一方で、その弱体化に向けての方策は、実は一筋縄ではいかない状況であることも分かってきました。
 昨年12月、大阪府警は半グレ「アビス」55人を逮捕しましたが、報道によれば、この「アビス」は10代の男女を中心に数百人が所属している大変大きなグループです。大阪・ミナミでは平成29年9月以降、アビスが暴力団の資金獲得活動(シノギ)に関わるようになり、多数のガールズバーを経営、酔客へのぼったくりや暴行・傷害事件などを繰り返し、月5,000万円ほどを売り上げて一部は任侠山口組系組織に渡っていたとみられています(なお、このうち約2,000万円を、逮捕時は19歳だったリーダーの男が手にしており、グループの複数の幹部の供述では、「リーダーが毎月30万円から50万円を暴力団に上納していた」ということです)。暴力団対策法は指定暴力団によるみかじめ料の要求などを禁じ、中止命令に反すれば刑罰の対象になりますが、半グレは同法の対象外のため、暴力団が半グレを隠れみのにしているとの指摘もあります。大阪府警はアビスなどを「準暴力団」と認定し、半グレの摘発を強化していますが、その結果、昨年はアビスを含め5団体のリーダー格を逮捕しています。一方、昨年8月上旬に、アビスは、同じミナミで暗躍する地下格闘技団体「強者」(解散)のOBらで組織された半グレ「アウトセブン」(O7)と対立するようになり、同月中旬には大阪市中央区内の路上などで乱闘騒ぎも発生しています。O7は暴力団のみかじめ料徴収に関与するなど、複数の暴力団組織と関係を保ちながら勢力を拡大しており、両組織の対立は暴力団の仲裁で沈静化したとみられています。これらから、暴力団が自らの活動が著しく制限されている状況をふまえ、暴力団組織に所属せずに違法行為を繰り返す半グレと共存関係を持ち、シノギを展開してきたと考えるのが自然だと言えます。ネット系情報サイトTOCANAの記事によれば、大阪の半グレの状況について、これまで大阪は半グレと環状族(大阪市内にある阪神高速道路1号環状線を走行する違法競走型暴走族)の住み分けはできていたところ、今はカオスな状態となっていること、「アビス」「アウトセブン」以外にも、半グレとしては「軍団立石」「米谷グループ」があり、それとは別に暴走族(実は半グレと違って表には出ないで正当かつ儲かる事業を行っている人間が多い)の流れもあること、もともとは解散した格闘技団体(強者)からいくつかのグループができ、その最大勢力が「アビス」「アウトセブン」だとも言われていること(一方で、前述したアビスの19歳だったリーダーは暴走族「大阪連合」出身という情報もあります)などの実態があるようです。したがって、これらを総合的に考えれば、半グレが暴力団と「組織として」つながっているのではなく、幹部が「個人的に」つきあっている程度の関係といった見方もでき(アビスよりO7の方がどの色合いが濃いと言えそうです)、暴力団が半グレを隠れ蓑にシノギを行わせている共存関係・支配関係といったものとも一律に見なすことはできず、なかなか一筋縄ではいかない実態も垣間見えます。
 一方、関東の半グレも実態がよく分かっていません。代表的な関東連合OBについては、TOCANAの記事によれば、同団体関係者の発言として、「関東と関西では僕たち半グレの考え方も生き方も違いますね」、「僕たち関東の場合、様々な組織の幹部待遇で迎え入れられるような人間がグループのトップにいましたし、さらに外舎弟(組織に入らず兄弟分になること)などして横の関係性を築くことを心がけていました。だからでしょう、横の繋がりは今でも深いし、組織同士が揉めたら反対に仲裁に入れる立場にもいます。なぜそこまでできたかというと、僕たちには自分たちで金を握る技量があったからです。関東連合の名前で金を作ることができたのです」といったものがあり、その言葉通り、関東の半グレは、芸能プロダクションやIT企業、AVプロダクションなどを中心に様々な合法から非合法を行う企業を作っていることが知られており、(暴力団の下請け的な様相の強い)関西の半グレのシノギとは全く異なっていることが分かります(さらに言えば、半グレが指定暴力団6つを束ねた数年前のATM不正引き出し事件の主犯は関東連合OBでした)。また、最近では、特殊詐欺などの案件で半グレが多く関わっているとして、警視庁は、指定暴力団住吉会幸平一家堺組の集中取り締まりを積極的に行い、昨年、堺組の構成員とされる50人のうち半数近くを逮捕しています。なお、堺組には関東連合のOBなど半グレが30~40人在籍しているとも言われています。このように、既に関東連合OBの幹部の多くは、今や暴力団幹部となり、暴力団組織においてもその存在が大きくなっているのも事実ですが、だからといって暴力団が関東連合OBを支配するような関係にはならない(そもそも関東連合OBなる半グレは、今はグループとしての「実態がない」とも言えます)点が大きな特徴だと言えます。
 大阪府警にはアビスに関する被害相談が約150件も寄せられているほど社会的害悪が深刻化しており、大阪で今年、G20やラグビーW杯など国際イベントが相次ぐこともあり、治安を乱す半グレへの対策は急務となっており、摘発が強化される方向にあります。その意味では関西の半グレは暴力団の延長線上と捉えて取り締まっていくことも可能ですが、大阪の暴走族や関東の半グレについてはその実態はやはり不透明か「ないに等しい」ものであり、暴力団との接点もあくまで幹部らの「個人的なもの」であって、その捉え方として暴力団との関係だけでは本質を見誤ると言え、その対策のあり方にはより慎重な対応が求められることになります。

さて、半グレとは別の文脈で注意が必要な連中としては、外国人技能実習生に紛れて入ってくる「不良外国人」が挙げられます。出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律(改正入国管理法)によって、外国人労働者の受け入れが拡大されるものの、それに伴って、外国人同士の勢力争いや海外の犯罪組織の日本上陸といった負の側面も当然予想されるところです。雑誌(週刊実話)で在日中国人が、「単純労働者に門戸を開くってことは、学歴のない、荒っぽい外国人がどっと押し寄せてくるということ。その中には、最初から犯罪が目的の偽装労働者もいるだろうね。1990年代の昔に戻ったみたいに、まずは荒っぽい、単純な犯罪が増えるはずだ。俺たちがそうだったようにね」という発言はひとつの真実を言い当てているのはないかと思います。同じ雑誌(週刊実話)で警察当局の関係者が、「不良外国人勢力のマフィア化とその細分化、多様化はすでに始まっている。ほんの5~6年くらい前までは、規模の大きな外国人勢力と言えば、準暴力団指定を受けたチャイニーズドラゴンくらいのものだったが、最近はベトナムやマレーシアといった東南アジア系の新たな犯罪集団が急速に台頭してきた。彼らの多くは、留学生とは名ばかりの、カネ目当ての”偽装留学生”だ。これに加え、単純労働の外国人が大挙して押し寄せることになれば、外国人マフィアの数はさらに増大し、現状の治安維持対策を根本から見直す必要が出てくるだろう」と話していますが、こちらも現実味があります(この点については、実際に、最近の報道(平成31年1月13日付毎日新聞)でも、福岡県内の商業施設などで窃盗を働き、昨年末に有罪判決を受けたベトナム人技能実習生の話がありました。ただし、このケースでは、母国の「送り出し機関」に支払うため約200万円もの借金をしたが返済できず、不法残留し万引きを繰り返していたという事情があります。したがって、カネ目当ての偽装留学生とまでは言えませんが、このような犯罪の背後に、「送り出し機関」という「悪質な仲介業者」が存在しているのは事実であり、治安の悪化の要因という点で看過できない状況だと言えます。政府もこの悪質な仲介業者を徹底的に排除する方向性を示しています)。外国人労働者の確保は喫緊の課題とはいえ、改正入国管理法の持つ負の側面にもう少し目を向け、官民挙げてその対策に取り組んでいくことが重要だと言えると思います。

さて、以前の本コラム(暴排トピックス2018年11月号)で紹介したとおり、警察庁は昨年9月、特殊詐欺への関与が疑われる暴力団について、詐欺罪の適用が困難な場合、あらゆる法令で検挙し、組織弱体化を図るよう全国の警察に通達していますが、立件のハードルをどう崩していくか、正にここからが正念場となっています。その影響もあってか、最近、暴力団と特殊詐欺に関する報道が増えており、直近のものをいくつか紹介します。

  • 息子になりすまし、女性から現金850万円を詐取したなどとして、警視庁や京都府警など4都府県警の合同捜査本部は、詐欺などの疑いで、六代目山口組系二代目中島組幹部ら男5人を再逮捕しています。報道によれば、この幹部は特殊詐欺グループの統括役とみられ、関与が疑われる被害は判明分で、平成29年10月から平成30年5月にかけて、全国で85件、約9,500万円に及ぶといいます。
  • 有料動画サイトの登録料名目でだまし取った金の一部を特殊詐欺グループから受け取った疑いがあるとして、警視庁捜査2課などは、詐欺容疑で、住吉会の2次団体三代目青田会の関係先事務所を家宅捜索しています。この事件では、三代目青田会傘下組織の組員ら詐欺グループの20人が逮捕されており、その被害は、約90件、計約6,000万円に及ぶといいます。
  • 特殊詐欺グループに組織的に関与していた疑いがあるとして、警視庁捜査2課などは、詐欺容疑で、住吉会の3次団体義勇会の事務所を家宅捜索しています。この事件では、義勇会の組員ら詐欺グループの3人が逮捕されており、義勇会が特殊詐欺グループに、「かけ子」役として容疑者を派遣するなど組織的に関わり、組の資金源にしていた可能性もあるとみられています。

次に、全国での暴排の動きについて報道されたものから、いくつか紹介します。

  • 暴力団対策法の改正によって、全国の暴追センターが地域住民の委託を受けて組事務所の使用差し止め請求等の動きを活発化させています。任侠山口組の本部事務所もその対象となっており、前述した通り、事始めの行事を長野県上田市の関連団体にて執り行っています。一方、任侠山口組は、次の移転先として、結成式などを行った二代目古川組本部が濃厚だと考えられているものの、そもそも神戸山口組のように毎月の定例会を開催させているわけでもなく、ブロック会議なども各施設を流動的に使用しているため、特定の事務所を本拠地として認定されにくいような運営がなされており、警察も本当の本拠地がどこなのか(指定暴力団の指定には「本拠地事務所」の特定が必要となります)悩ましいところだと推測されます。そして、このような任侠山口組の活動のあり方から、「活動拠点を奪う」という暴排の重要な切り札がどこまでダメージを与えられたか評価が難しく、今後の動向を見極める必要がありそうです。
  • 指定暴力団浪川会系の暴力団事務所として使われていた佐賀県唐津市の土地(約1,100平方メートル)と建物を、唐津市が昨年12月、佐賀地裁唐津支部の競売で、約830万円で落札していたことが分かりました。暴力団関係者が競売に参加し、再び土地など取得するのを阻止する狙いがあり、県警、県弁護士会、県暴追センターなどが市に働き掛けて実現したということです。不動産競売からの暴排については、本コラムでも紹介した通り、ようやく実現の運びではありますが、現時点では「抜け穴」となっており、競売で落札して暴力団事務所に使用される例が絶ちませんでした。今回のように、関係機関が連携し、「抜け穴」となっている競売からの暴排の実効性を高める取り組みがもっと浸透していって欲しいものだと思います。
  • 以前の本コラム(暴排トピックス2018年11月号)でも取り上げましたが、六代目山口組の総本部で昨年10月末、ハロウィーンの仮装をした組員らが菓子を配り、約1,000人の親子らが受け取るという事態が発生しました。本コラムでは、「教育する側が人権擁護を重んじる一方で暴排の重要性を軽んじている状況」が見られると厳しく指摘しました。同総本部でのハロウィーンや餅つきなどに、年々、菓子を受け取る人が増える傾向にあるのを受け、昨年のハロウィーン後に神戸市教育委員会が兵庫県警と協議を重ね、対策を強化することになりました(平成30年12月28日付朝日新聞によれば、兵庫県警がハロウィーンの様子を撮影した動画を神戸市教育長ら市教委幹部に見せ、対応を強く要請したとのことです)。神戸市教育委員会は、以前、兵庫県警から子どもを参加させないよう指導を求められた際に、「組員の子どもが差別される」などとして「知らない大人から物をもらわないように」と文言を和らげて伝えていたこともありましたが、来年から、「県警が市内の中学校で毎年開いている「防犯教室」に、暴力団についての講習を加え、山口組の催しに行かないよう指導する」、「小学生の保護者が集まる場にも県警の担当者らが出向いて呼びかける」といったことを検討しているということであり、その方向性の転換、英断を評価したいと思います。だた、平成31年1月14日付ダイヤモンド・オンラインには、神戸市教育委員会関係者の本音とも言える発言がありました。例えば、「地域性の問題がある。(総本部が)校区内にあるので、その(山口組)関係者につながる人が保護者や児童にもいる。彼らへの配慮が大きい。またそれ(山口組)とつながる人を通してそこ(山口組総本部)へ行くことは、『知らない人』と明確に言い切ることはできない。だから、『行くなら他人に迷惑をかけるな』としか指導できない」、「教職員が、児童に『行くな』と指導して、何かコトが起きるかもしれない。児童や保護者を守るのはもちろんだが、教職員も守らなければならない」といったものです。そして、同誌は、「地域住民、公教育―、どちらも一見、”山口組さん”に物分かりがいい。だが、そこには戦後から今日まで、市民を震え上がらせてきた「山口組」へのおびえも透けて見える。今こそ兵庫県警は、もっと踏み込んだ具体策を講じなければ、ますます”山口組さんのファン”が増えるばかりなのではないだろうか」と指摘しています。正にその通りであり、やはり、このような親や児童が増えた背景には、暴排意識を、継続的に、正しく醸成してこなかった自治体・教育委員会等のスタンスがあり、それを大きく転換させることで、健全な暴排意識と人権擁護が高い次元で融合していくことを期待したいと思います
  • 兵庫県警と兵庫県、神戸市は、暴力団組員による生活保護の不正受給を防ぐため、連携を強化することで合意しました。報道(平成30年12月19日付神戸新聞)によれば、各福祉事務所が受給申請者らの身分照会をした際、これまで県警は口頭で回答していたものを、文書で回答することとし、申請者が組員だった場合、文書は受給できない根拠として示すことができるようになるとのことです。合意ではほかに、県警が捜査中、組員が生活保護を受給していることを確認した際、照会がなくても文書で各福祉事務所に通知するよう定め、元組員が組に復帰したようなケースなど、行政の情報だけでは分かりにくい不正受給をより早く見つけられるようになることが期待されます。
  • 平成30年12月26日付毎日新聞に暴力団離脱の難しさを示す記事がありました。7年前まで福岡県内の暴力団に所属していた40代の男性が、組織とのしがらみを断つため慣れ親しんだ土地を離れて全国を転々とし、現在は中国地方で暮らしている(参考までに、今では暴力団離脱者支援のひとつに、このような事情を勘案して遠く離れた全く別の地域で再出発を図る「広域連携」が拡がり、機能しつつあります)ものの、住民票は九州のある都市に残したままだというのです。組員時代に「兄貴分」と養子縁組をしたため、住民票からかつての仲間に居場所が知られてしまうことを恐れているというのがその理由で、今は個人で造船関係の仕事を請け負うが、脱退したままの国民健康保険に入り直すこともできず「けがや病気にならないことを祈るしかない」と不安を抱えているということです。このような事例を見るにつけ、やはり暴力団離脱者支援は、よりきめ細かい支援が求められていること、暴力団に所属していたという事実が当人らにとっていかに重いのかを痛感させられます。一方で、そもそも盃事で親兄弟の契りを交わす擬似血縁社会の暴力団ですが、暴力団対策法や暴排条例の厳格化に伴い、活動が追い込まれている実態があり、それは広域の指定暴力団だからこそとも言え、今後、そのような組織形態は廃れ、小規模ながら地元の顔役として活動する地域密着型の極道スタイルが復活する可能性を指摘する識者もいます。そのような場合、暴力団離脱者支援のあり方も大きく変わっていくことが予想されるところです。
  • ウニやアワビ、ナマコ等の密漁が増加しており、小樽海上保安部の昨年の海上犯罪の摘発が221件と過去5年で最多となったとの報道がありました(平成31年1月9日付北海道新聞)。また、密漁の増加に伴い、採取するためのナイフや鎌を持っていたとして、銃刀法違反の摘発件数も前年の13件から16件に増えているともいい、暴力団関係者が関与する密漁は、見張り役を用意するなど、手口が年々、悪質巧妙化している実態もあるとのことで、摘発の困難さが増している状況が分かります。そのような状況ではありますが、同海保は警戒を強めているということです。昨年、密漁品の高値取引が横行するナマコ等の密漁を防ぐため、漁業法が改正され、罰金が現在の200万円から15倍の3,000万円に引き上げられました。また、水産庁は密漁品を引き取る業者への罰則も新設し、流通面からも取締りを強化する方針を打ち出しています。さらには、直近では、後述するように暴力団から密漁品を買い取っていた事業者が暴排条例に基づく勧告を受けています。このように、実際の取り締まりの厳格化だけでなく、法的規制の厳格化、規制の厳格運用化の相乗効果によって、密漁の抑止、防止につながることを期待したいと思います。
(2) AML/CFTを巡る動向

デンマーク最大のダンスケ銀行で、エストニア支店を舞台に8年間で総額2,000億ユーロ(約26兆円)以上もの巨額のマネー・ローンダリングが行われていたという事案をはじめ、ドイツ銀行、ラピトゥス銀行(マルタ)など、昨年は、世界のトップ金融機関を巻き込んだマネロン疑惑が連発した年だったと言えます。大槻奈那氏のコラム(平成30年12月27日付ロイター)によれば、国連などの試算として、世界でマネー・ローンダリングされている資金は、世界国内総生産(GDP)の2~5%、つまり年間200兆円規模に上るということです。また、同氏は、日本のAML/CFT(マネー・ローンダリング対策/テロ資金供与対策)の遅れの要因として3つを挙げており、いずれも大変興味深い指摘であり、以下、抜粋して引用します。

1つには、どうしてもテロが遠い国の出来事に感じられることが挙げられる。テロ対策によって手続きの不便さを強いられることに、なかなか国民の納得が得にくい。もう1つは、現金社会という点も挙げられる。実際、送金も多額の現金を経由する例が少なくない。顧客サービスを優先するあまり、1日の送金上限額なども高めだ。欧米のATMでは100万円を超える現金引き出しなどあり得ない。「振り込め詐欺」の被害金額が1回平均で300万円以上と、米国の類似詐欺「グランドペアレント・スキャム(祖父母詐欺)」より桁違いに大きいのも、こうした現金取り扱いを巡る違いのせいだ。さらに厄介なのは、言語の違いだ。日本では、外国人も口座をカタカナ表記で作成できる。アルファベットが正式名称であれば、いわゆる「仮名」口座の作成は簡単だ。世界の「ブラックリスト」に掲載されている名前は当然アルファベット表記であるため、二重三重にチェックをしても、他国に比べて検知するための難易度が高い。政府方針では今後、外国人労働者受け入れ促進のため、彼らの銀行口座開設を容易にするという。チェックの手間は格段に増え、その分、抜け道も増える可能性がある

とりわけ、チェックの実務を支援する立場の筆者としては、外国人のカタカナ表記の限界と脆弱性を痛感しているところであり、外国人労働者受け入れを拡大する改正入国管理法が4月に導入されること、政府が共生社会の実現に向けた「総合的対応策」を打ち出し外国人を孤立させず、社会の一員として受け入れていく」という理念は共感できるものの、同氏の指摘同様、外国人の銀行口座開設を容易にするという方向性には大変大きな危惧を覚えています(当然ながら、金融庁は、外国人の口座開設が増え、マネー・ローンダリングなどに悪用される可能性をふまえ、金融機関に対し、外国人の預金口座を在留期間に応じて管理するよう求めているほか、雇用主との連携も促しています)。そもそも、KYCチェックの実務においては、表記の問題に起因する国内外の制裁リスト・スクリーニングの精度の問題、海外の人物やその本人確認資料等について偽造やなりすましを本当に見抜くことができるかという本人確認の精度の問題などは、大変大きな課題であるにもかかわらず、特に中小規模の金融機関などにおいてその取り組みの質がそれに見合うか甚だ疑問であり、むしろ、このままだと、今後、海外の犯罪組織にとっての「犯罪インフラ」となりかねない懸念さえあります(直近の報道でも、インターネット上で運転免許証の偽造を請け負うサイトが存在し誰でも注文できる状態になっているとの報道がありました(平成31年1月12日付毎日新聞)。愛知県警は、実際に偽造免許証が使われた事件で、注文した男を逮捕しましたが、海外にサーバが置かれていることなどから、運営者を特定するのは困難だということす。偽造運転免許証を身分証明に悪用した犯罪が相次ぐ一方、こうしたサイトの閲覧防止などの対策も追い付いていない状況であり、偽造免許証だけでなく、こうしたサイトもまた「犯罪インフラ」として、対策が急務だと言えます)。本来、資金の流れを断ち多くの犯罪を防止する、「防波堤」としての金融機関の役割は大きいところ、グローバル化でますます大きくなっている一方で、その要請に応えられるだけのレベルに至っていない状況には焦りを覚えます。

さて、そのKYCチェックに絡み、様々な動きがありますので、以下、箇条書きで紹介します。

  • 全国銀行協会は、コンプライアンス部内に「AML/CFT対策支援室」を設置しています。本コラムでも取り上げているように、日本は今年、FATF(金融活動作業部会)による第4次相互審査を控えています。金融庁が昨年2月に策定したガイドラインへの対応を厳しく求めていることに対応することになります。
  • 政府は複数の金融機関が本人確認手続きを共同で行う仕組みを整える方向とのことです。3メガバンクグループなど大手行が公的な身分証で確認すれば、その情報を他行も利用可能にする構想を検討中で、この仕組みを後押しすることが濃厚と言われています。なお、似たような取組みとして、セブン銀行が今年秋をめどに、コンビニなどに設置しているATMで銀行口座開設の手続きをできるようにするということです。顔認証による本人確認機能などを新たに搭載し、自行だけでなく他のネット銀行や地方銀行などの口座開設手続きを代行するなど、本人確認機能を生かした新たなサービスも展開するといい、先日、新たに始まった非対面取引における本人確認手続きの追加を活かした新たなビジネスの創出事例として注目されます(大前提として、本人確認精度が十分なものである必要があり、万が一の犯罪インフラ化も許されないとも言えます)。
  • 地銀協と第二地銀協は、制裁リストや外国PEPs(国家元首や政府内で重要な地位を占める人物)などのDB提供ベンダーを招き、全行向け説明会をそれぞれ開催、地銀協では7社、第二地銀協は2社を選定、会員行が各社のDBを通常より安価に購入できるようにしています。また、ベンダーにより情報範囲や強みが異なるため、すでに導入済みの銀行が別のベンダーのDBを追加購入するといった動きもあり、AML/CFTの強化につながることを期待したいと思います。
  • 直接KYCチェックとは関係はありませんが、ファーウェイの問題をふまえ、政府機関の情報通信機器に不正なプログラムなどが組み込まれていないか検知する技術の開発を進めるといいます。具体的には、「ふるまい監視」と呼ばれる技術で、通信用サーバ、パソコン、ルーターなどに信号やデータを送って想定通りの「ふるまい」をするかどうか点検するもので、政府の計画では、不審な挙動や異常な信号を検知した場合、不正改造された可能性が高いとみて製品の切り替えを検討するということです。この「ふるまい監視」は、そのコンセプトは正にKYCチェックにおける「継続的な顧客管理」の重要な手法に通ずるものがあります。KYCチェックにおいては、属性だけで見抜くことに限界あることをふまえ、その「ふるまい」に着目しながらモニタリングすることで疑わしい取引を抽出、精査して問題があれば排除していくという考え方が定着しつつあります。具体的には、休眠口座に入金してきた振込み依頼人が反社会的勢力だった事例、国内の外国人の口座に海外から多額の入金が何度もあったマネロン事例、休眠状態の口座に急に全国各地から入金が行われるようになった特殊詐欺の事例、Zaif流出事件における仮想通貨の流出後に分散したコインの「ふるまい」を予測してIPアドレスの特定に成功した事例などは、「疑わしい取引」として、その端緒に適切に対応することで摘発につながったものです。さらに言えば、「ふるまい」監視(モニタリング)の重要性は、AML/CFTに限ったことではなく、今や「厳格な顧客管理」の重要な手法のひとつとして実務に取り入れ、それをブラッシュアップしていくことが求められます。
  • EUは、デンマークやフランスで発覚したイラン反体制派の暗殺計画などを受けて、イランに対し新たな制裁措置を科すことで合意、イラン情報省とイラン人2人のEU域内の資産を凍結しています。報道によれば、これに関連しオランダ外相が、2015年と17年に同国で起きたイラン系オランダ人2人の殺害事件について、イランが関与したと見てイラン大使館の職員2人を昨年6月に国外追放していたことを明らかにしています。これにより、KYCチェック実務においては、北朝鮮制裁に加え、イラン制裁関係への対応にもさらに細心の注意が求められる状況となっています。

最後に、本コラムで定期的に紹介している「金融庁と業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」について、最新のものから重要と思われる部分を抜粋して紹介します。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点(11月)
▼共通事項

AML/CFTでは、「当庁では、本年2月に公表した「ガイドライン」以降、金融機関等から、実態把握のための報告徴求や、ギャップ分析、緊急チェックシートの提出を受け、金融機関等のマネロン及びテロ資金供与対策の状況を把握・分析し、必要に応じてヒアリング等を行っているところ」、「共通した課題として、リスクに応じた頻度で継続的に顧客の実態調査及びリスク格付けの見直しを行う計画が明確に示されていない先が多い。継続的な顧客管理は、FATF 勧告にも明記されており、ガイドラインでも「対応が求められる事項」に位置づけている。低リスクに分類できるような先は軽度な管理をするなど、リスクに応じた継続的顧客管理措置を実施していただきたい。当庁としても、好事例などの態勢整備の参考となる情報発信を行っていく」として、(前段でその重要性を指摘しましたが)特に「継続的な顧客管理」(モニタリング)が十分でない状況が指摘されています。また、「FATF 対日相互審査が1年後となったことを踏まえ、1年後に何が何処まで出来ているか、全体の行動計画の進捗状況を定期的に確認し、必要に応じて見直しをしていただきたい」とPDCAサイクルによる取組み強化を求めています。
 それ以外では、例えばサイバーセキュリティの強化も優先事項であり、「先般、金融庁主催による3回目の「金融業界横断的なサイバーセキュリティ演習」(Delta Wall 3)を実施し、皆様方の一部からもご参加頂き感謝申し上げる。現在、演習結果の事後評価を行っており、来年1月を目途に参加金融機関にフィードバックし、その後、業界全体にも還元させていただく」こと、「デジタライゼーションの進展等、新たな課題への対応方針等を明確化するために、「金融分野におけるサイバーセキュリ ティ強化に向けた取組方針」をアップデートし公表した。今後は先般 公表した新たな取組方針に沿って、金融分野のサイバーセキュリティ 強化に向けて、官民一体となって取り組んでまいりたいと考えている」こと、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を控え、サイバー攻撃の脅威は益々高まっている状況にある。各金融機関においては、こうしたリスクの高まりを認識し、取り組みを進めて頂きたい」ことなどを求めています。また、振り込め詐欺などの特殊詐欺の被害防止については、「これまでも各金融機関において顧客への周知や ATM の振込制限、モニタリングによる検知等、様々な対策に取り組んで頂いている。しかしながら、カード詐取を含めた盗難キャッシュカードの被害発生件数は、平成27 年度以降、年々増加し、直近の 30 年度第1四半期では急増している。また、警察庁が公表している本年上半期の特殊詐欺の認知状況においても、キャッシュカード手交型の被害発生件数は、平成27 年上半期から引き続き増加している」、「金融庁では、関係省庁と連携し、政府広報の新聞広告やテレビCMを通じ、最新の手口も踏まえた啓発や注意喚起を行っている。各行におかれても、顧客への周知活動等、被害防止に向けて引き続き対応して頂くよう、お願いする」としています。

(3) 特殊詐欺を巡る動向

特殊詐欺の被害者から送られてきた現金入りの荷物を受け取った「受け子」が、詐欺罪に問われた2件の刑事裁判で 最高裁は、詐欺罪の成立を認めて有罪としました。被告は、「中身を知らなかった」あるいは「荷物の中身は拳銃か違法薬物だと思っていた」と主張しましたが、判決では、「手口が広く知られているかどうかにかかわらず、被告は自己の行為が詐欺に当たる可能性を認識していたと強く推認させる」、「他人になりすまして繰り返し荷物を受け取って、報酬を得ており、故意が認められる」などと指摘しました。故意性の立証が困難であることをふまえ、犯行グループが「受け子」に対して「知らなった」と供述するよう教育していた現実があり、どうみても「知らなかった」とするには不自然な釈明がなされていた中、今回の最高裁の判断は妥当なものと思われ、今後の特殊詐欺の摘発に大きな追い風となったものと評価したいと思います(なお、最高裁は平成28年にも、「だまされたふり作戦」で荷物を受け取った受け子を詐欺未遂罪で有罪としていますので、社会的害悪が増している特殊詐欺に対する最高裁のスタンスがより明確になったとも言えると思います)。一方で、本当に事情を知らなかった人が詐欺罪に問われるケースは、海外で薬物の「運び屋」に知らないうちに仕立てられていたケースが散見されることからも十分考えられるところであり、捜査には慎重さが求められることは言うまでもありません。また、報道(平成31年1月10日付読売新聞)によれば、平成29年の特殊詐欺の検挙率は25%程度にとどまっており(参考までに、後述する警察庁「犯罪統計資料(平成30年1月~11月)」によれば、刑法犯全体の検挙率は38.3%、詐欺全体の検挙率は43.7%、万引きの検挙率は72.4%であり、特殊詐欺の検挙率の低さが顕著です)、取り締まりの強化が喫緊の課題となっています。本コラムでもたびたび紹介している通り、犯行の手口は、取り締まりや事業者の被害防止策等の状況に応じて目まぐるしく変遷し、多様化かつ巧妙化する一方です。それに対して、最近は、暴力団や半グレ(準暴力団)の関与がより大きくなっているほか、報酬目当てのアルバイト感覚で軽い気持ちから犯行に加担する若年層のモラルにどう働きかけるか、特殊詐欺全体で被害者の8割以上が60歳以上となっていることから高齢者にどう注意喚起していくか(事業者としてどれだけ効果的な防止策・抑止策を提供していけるか)等の深刻な課題に対する有効な策が講じられていない状況があります。最高裁の示した厳しい姿勢は、官民挙げて特殊詐欺に対峙していくべきこのタイミングで、大変心強いものだとあらためて思います。

次に、例月通り、平成30年1月~11月の特殊詐欺の認知・検挙状況等についての警察庁からの公表資料を確認します。

▼警察庁 平成30年11月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

平成30年1月~11月の特殊詐欺全体の認知件数は15,082件(前年同期16,402件、前年同期比▲8.2%)、被害総額は259.9億円(293.7億円、▲11.5%)となり、認知件数・被害総額ともに減少傾向が継続しています(さらに、ここ数か月、減少幅の縮小が続いています)。なお、検挙件数は4,805件となり、前年同期(4,253件)を13.0%上回るペースで摘発が進んでいます(検挙人員も2,543人と前年同期比+13.7%であり、摘発の精度が高まっていると言えます)。また、特殊詐欺のうち振り込め詐欺の認知件数は14,922件(16,151件、▲7.6%)、被害総額は253.5億円(278.9億円、▲9.1%)となっており、特殊詐欺全体の傾向に同じく、件数・被害額ともに減少傾向が継続しています。また、類型別の被害状況をみると、オレオレ詐欺の認知件数は8,337件(7,502件、+11.1%)、被害総額は117.8億円(138.3億円、▲15.1%)と引き続き件数の増加傾向は続いているもののその増加ペースはやや鈍化しており、被害額も大きく減少傾向が続いています(つまり、1件あたりの被害単価の減少が顕著となっています)。また、架空請求詐欺の認知件数は4,457件(5,207件、▲14.4%)、被害総額は109.5億円(100.7億円、+8.7%)と件数の減少と被害額の増加傾向が継続しています(つまり、1件当たりの被害単価が増加していることになります)。さらに、融資保証金詐欺の認知件数は373件(496件、▲24.8%)、被害総額は5.5億円(5.8億円、▲4.7%)、還付金等詐欺の認知件数1,755件(2,946件、▲40.4%)、被害総額は20.8億円(33.7億円、▲62.8%)と、これらについては件数・被害額ともに大きく減少する傾向が続いています。一昨年から昨年にかけて猛威をふるっていた還付金等詐欺の件数・被害額が、昨年から今年にかけて急激に減少する一方、それととって替わる形でオレオレ詐欺が急増している点(特殊詐欺全体でみれば件数が減少に転じた点は特筆すべき変化ではありますが、それでも高水準を維持している点)に注意が必要です。なお、それ以外の傾向としては、特殊詐欺全体の被害者については、男性24.0%/女性76.0%、60歳以上83.2%(70歳以上だけで68.1%)と、相変わらず全体的に女性および高齢者のセグメントにおいて被害者が圧倒的に多い傾向がみてとれます(さらに、その傾向に少しずつではありますが拍車がかかっている点に注意が必要です)。また、犯罪インフラの検挙状況として、口座詐欺の検挙件数は1,217件(1,433件、▲15.1%)、盗品譲受けの検挙件数は21件(6件、+250.0%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,330件(2,328件、+0.1%)、検挙人員は1,908人(1,922人、▲0.7%)、携帯電話端末詐欺の検挙人員は283人(3422人、▲26.7%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は38件(48件、▲20.8%)などとなっています。

さて、昨年1年間の統計はまだ公表されてはいませんが、報道(平成30年12月22日付日本経済新聞)によれば、昨年の都内の認知件数が既に12月19日時点で3,770件に達し、過去最悪だった2008年(3,718件)を10年ぶりに上回ったということです。前述した通り、全国的にみると被害は減っていますが、首都圏ではその猛威は衰えていません。参考までに、平成29年の総括を振り返ると、本コラム(暴排トピックス2018年3月号)では、「特徴的なこととしては、都道府県別では、5県(青森、山梨、愛知、香川、宮崎)において被害額が5割以上減少した一方で、東京、埼玉、千葉、神奈川、兵庫、福岡など一部の大都市圏を中心に、16都道府県において、認知件数・被害額がいずれも増加する対照的な結果となり、地域ごとの違いが拡大している様子がうかがえます。とりわけ、東京と大阪の2大都市圏の状況は対照的であり、東京は認知件数・被害額がいずれも増加、大阪はいずれも減少という結果となりました(大阪では特に還付金等詐欺による被害が劇的に減少、東京は特殊詐欺全体の被害が深刻化している傾向にあります)」と指摘していますので、平成30年も東京ではその傾向が続いたことになります(なお、大阪も昨年は増加に転じたようです)。報道では、その要因について、「首都圏には若者が多く集まる繁華街が多く、詐欺グループが受け子らを勧誘しやすい事情もあるのではないか」との警視庁の担当者のコメントが紹介されていますが、攻撃を仕掛ける側が圧倒的に多いことはその通りだと思いますが、ターゲットとなる(資産を保有する)高齢者の数も多いことなども関連しているのではないかとも考えられます。また、東京都内で昨年1~11月に起きた特殊詐欺事件で使われた携帯電話のうち、契約者が特定できた655件の約3割(186件)がベトナム人名義だったとの報道がありました(平成31年1月5日付読売新聞)。大半が技能実習生や留学生で、SNSで勧誘されていたこと、警視庁が名義人のベトナム人の行方を追うと、大半はすでに出国したり、行方不明になったりしていたこと、本人に面会できた十数人は、いずれも「在留カードを他人に預けたら契約された」と説明し、詐欺グループとの共謀は確認できなかったこと、などが報じられています。このような犯罪インフラの手配が容易なことも東京で特殊詐欺が減らない要因のひとつと言えるかもしれません。なお、本コラム(暴排トピックス2018年4月号)では、警視庁の「特殊詐欺根絶アクションプログラム・東京」を紹介していますが、これは、「特殊詐欺を根絶するために、警視庁、東京都、経済団体、労働団体、暴追・防犯団体、高齢者団体がタッグを組み平成25年10月から、現役世代の息子、孫(会社員)を対象に、特殊詐欺の手口や被害にあう原因などを理解してもらい、親・祖父母が被害にあわないために、留守番電話機能の活用方法を学ぶプログラムの提供を行っているところ、今回、企業や団体などのグループで登録した方以外にも、誰でも参加できるよう改修を行っ」たというもので、(これだけではありませんが)このような取り組みがいまだ定着していない状況から、特殊詐欺対策の難しさを痛感させられます。

以下、特殊詐欺を巡る最近の報道から、新しい手口など気になったものを紹介します。

  • 特殊詐欺を巡り、金融機関は窓口での声掛けや振込額を制限するなどの対策を進めているものの、職員の目が届かないコンビニのATM等での対策は一部にとどまり、追いついていないのが現状です。多くの金融機関では、(引き出しの自由のもと強制力の限界もあり)本人が申し出れば限度額を通常に戻したり、引き上げたりすることも可能であり、先日も、大阪府内の80代女性が、特殊詐欺グループの男らにうその電話で現金を何度も要求され、総額2,750万円をだまし取られる被害に遭っていた事件があり、発覚しやすい金融機関の窓口ではなく、ATMで小分けにして預金を引き出すよう女性に指示、1日当たりの出金限度額を引き上げさせる手口だったということです。引き出し限度額の規制は利便性を損なうものとして金融機関としても厳しく対応するのは難しいことが理解できる反面、限度額の引き上げ申請などで不審な点を積極的に確認するなどの対応は今後も行うべきだとも言えます。
  • 高齢女性からキャッシュカードをだまし取ったとして、警視庁は、職業不詳の男を詐欺容疑で逮捕したと発表していますが、この事例では、男を含めた詐欺グループが、女性宅に電話をかけてからカードを受け取るまでの約1時間半、女性との通話を続けていたということです。周囲に相談させないための新たな手法として注意が必要です。
  • 山形県警は、山形市の60歳代女性が訴訟を回避する名目で計1億10万円をだまし取られたと発表しています。女性は家族と同居していたものの、「口外するな」と言われ、相談しなかったということです。別の詐欺事件を捜査していた県外の警察署から情報提供があり、発覚したもので、身近にいる家族でも気付くことができなかったこと、「口外するな」と言われ思考停止に陥ってしまったと思われる高齢者特有の心理状況など、特殊詐欺対策の難しさを痛感させられます。
  • 架空請求詐欺では、80代女性が1.2億円以上を詐取される被害がありました。報道によれば、女性は「最終確認書」と書かれたはがきを受け取り、記載されていた「全国紛争相談センター」に問い合わせると弁護士を紹介され、この弁護士を名乗る男らから「未払い金で数社から訴訟を起こされている。預貯金を持っていると狙われる。財産保全のために預金を指定の場所へ送って」などと言われ、信じた女性は、22回にわたって現金計1億2,250万円を指定された横浜市の複数の集合住宅の部屋へ、宅配便で送ったということです。「裁判所の供託金」「弁護士費用」などの名目でも金を要求されていたといいます。また、関連して、「法務省管轄支局」など公的機関を装ったはがきを郵送し、訴訟をちらつかせて金をだまし取ろうとする架空請求が神奈川県内で急増しているとの報道がありました(平成31年1月7日付毎日新聞)。架空請求詐欺の事例は最近急激に増えていますが、報道によれば、2018年度上半期だけで8,355件の相談が同県内の消費生活センターなどに寄せられ、前年度同期の1,518件と比べると約5.5倍も増加したということです。あらためて架空請求詐欺の猛威に驚かされます。
  • 宅配便の不在通知を装った偽のショートメッセージサービス(SMS)がスマホに送りつけられる手口に関する相談が増えているようです。不審なアプリがダウンロードされたり、勝手に支払いが行われたりすることもあり、注意が必要です。また、金融広報中央委員会が最近増加の目立つ「携帯電話契約詐欺」に注意喚起をしています。この詐欺の主な手口は、インターネットやSNSに「携帯電話を数台契約すればお金がもらえる」、「料金支払い無し。電話を渡せばOK」と掲示し誘導し、何台も契約させ、指定先に送ると業者と連絡が取れなくなり、後日携帯電話会社から多数の請求書が届き「だまされた」と気づくケースが多いということです。

一方で、特殊詐欺の被害を防止・抑止するための様々な対策が行われており、最近の報道からいくつか紹介します。

  • AI(人工知能)の技術を活用し、ATMを使った特殊詐欺を未然に防ぐシステムの開発が進んでいます。例えば、報道によれば、AIがATMの監視カメラ画像を解析し、「携帯電話を片手にATMを操作する」といった被害に遭いそうな利用者に警告するものや、逆に、「マスクやサングラスを付けたまま出金しようとする」など犯人の可能性がある怪しい利用者を検知するATMも登場し、怪しい利用者にはマスクやサングラスを外すよう指示し、従わなければ強制終了するといったオペレーションが想定されているとのことです。今後、実証実験から実用化の段階へと進めば、被害防止や抑止効果、さらには顧客の利便性を著しく損なうこともないなど、(自社開発よりは)コスト面も含めて十分な導入メリットが享受できるのではないかと期待されます。
  • 金融機関の取り組みとしては、ATM利用制限が代表的です。大手行では、りそな・埼玉りそな銀行は、昨年10月末時点で70歳以上かつ過去3年間にATMで出金のない顧客を対象に10万円以上の取引を希望する場合は、本人確認書類などを店頭で示すといった取り組みを行っています。また、三菱UFJ信託銀行では昨年7月、ATMで1年間出金していない80歳以上の顧客を対象に、限度額を引き下げています。さらに、信用金庫界では、キャッシュカードによるATM振り込み機能の限度額を「0円」とする利用制限について、対象年齢を70歳から65歳に引き下げる動きが広がっているそうです。その一方で、にいかわ信用金庫が、富山県警察本部からの要請を受けATMでの振り込み制限の対象を70歳以上から65歳以上に引き下げる一方で、現金を引き出し持ち帰りレターパックを使って送らせる特殊詐欺や、盗難、紛失のリスクの低減を図ろうと、65歳以上の振り込み無料化の取組みを始めています。さらに、ATM対策以外としては、例えば、福島の金融機関では、お年寄り向けになりすまし詐欺に関する自己診断テストを配布、窓口の待ち時間を利用して回答することで、なりすまし詐欺への関心と手口などについての知識を高めてもらう狙いがあるということで、啓蒙に着目しつつ来店時における抑止として興味深い取り組みだと言えます。
  • 鳥取県では、鳥取県警が県内のコンビニエンスストアなどに配布している予防チェックシートが効果を上げているということです。詐欺の手口を質問形式で確認し、いずれかに該当すれば客に詐欺かどうかを呼び掛けることができるというものです。報道では、3度阻止した店もあるということで、金融機関以外での特殊詐欺の新たな取り組みとして注目したいと思います。

また、以前の本コラム(暴排トピックス2018年8月号)で紹介した消費者庁の「架空請求対策パッケージ(平成30年7月22日 消費者政策会議決定)」について、その進捗状況が報告されていましたので、紹介します。

▼消費者庁 架空請求対策パッケージ」に掲げられた施策の進捗状況について(概要)

「架空請求事業者から消費者への接触防止」について、架空請求に使われた電話番号への架電状況として、警察庁(平成30年4月~9月)及び消費者庁(平成30年8月~10月)において、約8,000の電話番号を対象として実施され、携帯電話の利用停止等についても、都道府県警察において、約10,000件の情報提供を実施(平成30年1月~9月)したということです。また、「消費者から架空請求事業者への連絡防止」については、消費者庁による啓発資料の作成(手口の変化に応じ、2種類の資料を作成など)、政府広報の実施(「やらなくちゃ!防サギ」をテーマに、高齢者の被害防止キャンペーンを展開)、消費生活上配慮を要する者への対応(警察庁において、捜査過程で押収した名簿を基に個別の周知を実施、消費者庁において、全国96の消費者安全確保地域協議会に対して51万枚の啓発資料を送付し、周知を実施)といった取り組みが行われています。さらに、「消費者による架空請求事業者への支払の防止」については、不正利用口座に関する情報提供として、金融庁において、不正利用口座に関する情報への対応状況を公表しており、寄せられた情報の約9割で、強制解約・利用停止がなされています。さらに、業界団体の取組としては、日本フランチャイズチェーン協会において、傘下のコンビニエンスストア各社が複合端末の画面の見直し等を検討中(1社は既に実施済み)、日本資金決済業協会において、これまで実施してきた詐欺被害防止のためのチラシの配布等の架空請求対策を継続、日本仮想通貨交換業協会において、「マネー・ローンダリング対策」を含む自主規制規則を策定し、運用開始といったことが報告されています。また、「警察による取締りの推進」として、「犯行拠点の摘発・中枢被疑者等の検挙の推進、預貯金口座や携帯電話の不正売買等の検挙の推進」については、45か所の犯行拠点を摘発、中枢被疑者38人を検挙(平成30年9月末時点)するなどの成果のほか、個人情報保護委員会による個人情報の取扱いに関する広報なども行われています。

(4) 仮想通貨を巡る動向

昨年1月に不正アクセスを受け、約580億円分の顧客の仮想通貨が流出する事態を招いた仮想通貨交換業者で「みなし業者」の1社だったコインチェック社について、金融庁は、1月11日付で業務改善命令を解除し、改正資金決済法に基づく正式な登録業者に認定しました。同社は大手ネット証券のマネックスグループ傘下となり態勢の立て直しを図ってきました。金融庁も、事件後、2度の業務改善命令や立ち入り検査を通じ同社の内部管理体制などを詳しく点検してきたところ、金融庁の職員がコインチェックを訪問して最終審査を実施、業務改善命令で指摘した事項を中心に、同社の報告内容を現地で確認した結果、顧客の資産を守る体制が整ったと判断したということです。報道によれば、さまざまな課題の中でもサイバーセキュリティの向上が最も大きい判断材料だったということです。同じく大規模流出事件を起こしたテックビューロ社は仮想通貨取引所のZaifを事業譲渡して解散しましたが、NEM流出からこの1年で仮想通貨を巡る市況、規制動向ともに大きく変化しており、今後、事業環境はますます厳しくなることも予想されています。大きな変化としては、例えば、仮想通貨相場は、平成29年12月の最高値200万円超(同年は1年間で20倍も上昇しました)の5分の1以下にまで下落しており、通貨や決済として利用されるのではなく投機対象となっており、相次ぐ不正流出や規制強化などで逆風にさらされ、投機としてのうまみも失われつつある状況です。また、関連して、仮想通貨の採掘(マイニング)関連事業から撤退する日本企業が相次いでおり、GMOインターネットがマイニング装置の自社開発を断念するのに続いて、DMM.comが金沢市で展開するマイニング事業から撤退すると発表しています。

さて、本コラムで継続的に紹介してきた「仮想通貨交換業等に関する研究会」の議論については、先月、報告書が公表され、いったんの結論が出ています。以下、その概要を簡単に紹介します。

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書の公表について

まず、仮想通貨交換業者を巡る課題への対応について、世間を賑わした「仮想通貨の流出リスク等への対応」として、「オンラインで秘密鍵を管理する顧客の仮想通貨相当額以上の純資産額及び弁済原資(同種・同量以上の仮想通貨)の保持の義務付け」、「顧客の仮想通貨返還請求権を優先弁済の対象とする仕組みを整備」、「財務書類の開示の義務付け」などが盛り込まれています。さらに、これまでの当局による検査・モニタリングからは、仮想通貨交換業者の職員が受託仮想通貨を私的に流用していた事実も認められていること、顧客によるリスクの誤認や投機的取引の助長を抑止する観点から、「誇大広告、虚偽告知、断定的判断の提供、不招請勧誘」や「顧客の知識等に照らして不適当と認められる勧誘」、「投機的取引を助長する広告・勧誘」などを禁止すること、インサイダー取引のような取引に関しては、少なくとも仮想通貨交換業者が把握可能な不公正な取引の抑止や仮想通貨交換業者自身による不公正な行為の防止を図るなど、まずは金融事業者として、各仮想通貨交換業者におけるコンプライアンスの徹底が求められているとも言えます。なお、NEM流出事件を受けて実施した金融庁の実態調査で問題視された業務運営実態の杜撰さや課題に対して、「業務の適正な遂行の確保」として、以下が示されています。

  • 取引価格情報の公表を義務付け
  • 投機的取引を助長する広告・勧誘を禁止
  • 自主規制との連携(自主規制規則に準じた社内規則を策定していない自主規制機関未加入業者の登録拒否・取消し)
  • 問題がある仮想通貨の取扱い
  • 利用者保護や業務の適正かつ確実な遂行に支障を及ぼすおそれがある仮想通貨の取扱いを禁止
  • 取り扱う仮想通貨の変更を事前届出に見直し

仮想通貨証拠金取引等への対応についても、研究会では、「既に、国内において相当程度の仮想通貨デリバティブ取引が行われており、利用者からの相談も相当数寄せられている現状を踏まえれば、仮想通貨デリバティブ取引については、これを禁止するのではなく、適正な自己責任を求めつつ、一定の規制を設けた上で、利用者保護や適正な取引の確保を図っていく必要があると考えられる」とする意見や、「仮想通貨信用取引については、仮想通貨の証拠金取引と同様の規制の対象とすることが適当と考えられる」といった方向性が出ていたところ、「証拠金取引であることを踏まえた対応」として、「外国為替証拠金取引(FX取引)と同様に業規制の対象とし、不招請勧誘の禁止などの行為規制を適用」すること、「仮想通貨の価格変動の実態を踏まえ、適切な証拠金倍率の上限を設定」することなどが盛り込まれました。また、「仮想通貨の特性等を踏まえた追加的な対応」として、「仮想通貨に特有のリスクに関する説明を義務付け」、「最低証拠金を設定」すること、「仮想通貨信用取引への対応」として、「仮想通貨証拠金取引と同様の機能・リスクを有することを踏まえ、同様の規制を適用」することなども示されました。
 また、世界的にもその規制が強化される方向にあるICO(Initial Coin Offering)への対応としては、研究会でも、「ICO については、グローバルに資金調達ができる、中小企業が低コストで資金調達ができる、流動性を生み出せるなど、既存の資金調達手段にはない可能性があるとの評価もなされている一方で、ICO を有効に活用したとされる事例があまり見られない、詐欺的な事案や事業計画が杜撰な事案も多く、利用者保護が不十分である、株主や他の債権者等の利害関係者の権利との関係も含め、トークンを保有する者の権利内容に曖昧な点が多い、多くの場合、トークンの購入者はトークンを転売できれば良いと思っている一方、トークンの発行者は資金調達ができれば良いと思っており、規律が働かず、モラルハザードが生じやすい」といった指摘があり、問題の多い一方で、「将来の可能性も含めた一定の評価もあることを踏まえれば、現時点で禁止すべきものと判断するのではなく、適正な自己責任を求めつつ、規制内容を明確化した上で、利用者保護や適正な取引の確保を図っていくことを基本的な方向性とすべき」との意見もあったところです。それに対し、報告書では、「様々な問題への指摘が多い一方で、将来の可能性への指摘も踏まえつつ、規制を整備」していく方向性のもと、「投資性を有するICOへの対応」として、「仮想通貨による出資を募る行為が規制対象となることを明確化」すること、「ICOトークンの流通性の高さや投資家のリスク等を踏まえて、以下のような仕組みを整備」することが盛り込まれています。なお、後者の態勢整備の項目としては、以下のようなものが列挙されています。

  • 50名以上に勧誘する場合、発行者に公衆縦覧型の発行・継続開示を義務付け
  • 仲介業者を証券会社と同様の業規制の対象とし、発行者の事業・財務状況の審査を義務付け
  • 有価証券と同様の不公正取引規制を適用(インサイダー取引規制は、今後の事例の蓄積等を踏まえて検討)
  • 非上場株式と同様に一般投資家への勧誘を制限

直近の報道でも、金融商品を手掛ける事業者が、現金ではなく仮想通貨で出資を募った場合も、金融商品取引法の規制対象とする方針を金融庁が示しています。金商法は無登録業者が「金銭」による出資を募ることを禁じているものの、仮想通貨に関する記述はなく、法整備の遅れが課題となっていたところ、昨年にはそのグレーゾーンを狙い、約80億円相当の仮想通貨を無許可で集めていた問題も発覚しており、同種事案の再発防止を急ぐ狙いがあります。その他、「仮想通貨の不公正な現物取引への対応」については、「不正行為・風説の流布等・不当な価格操作を、行為主体を限定せずに禁止」、「仮想通貨交換業者に、取引審査を義務付けるとともに、未公表情報に基づく利益を図る目的での取引を禁止」などが、「仮想通貨カストディ業務への対応」については、「業規制の対象とし、仮想通貨交換業者に適用される顧客の仮想通貨の管理に関する規制を適用」することなどが盛り込まれました。
 また、仮想通貨流出事件を受けて議論の多かった「みなし業者」のあり方については、研究会でも、「今後、仮想通貨デリバティブ取引等について業規制を導入する際に、仮想通貨交換業への規制導入時に設けられたようなみなし業者に係る経過措置を設ける場合には、当該みなし業者に対し、業務内容や取り扱う仮想通貨等の追加を行わないこと、新規顧客の獲得を行わないこと(少なくとも、新規顧客の獲得を目的とした広告・勧誘を行わないこと)、ウェブサイト等に、登録を受けていない旨や、登録拒否処分等があった場合には業務を廃止することとなる旨を表示すること、また、登録の見込みに関する事項を表示しないこと」等の対応を求めるべきとの意見もありました。それに対し、報告書では、「業規制の導入に伴う経過措置」として、「仮想通貨証拠金取引等への業規制の導入に際し、経過措置を設ける場合には、経過期間中の業務内容の追加等を禁止」することなどが盛り込まれました。
 以上に加え、法令上の呼称の変更として、「最近では、国際的な議論の場において、”crypto-asset”(「暗号資産」)との表現が用いられつつある。また、現行の資金決済法において、仮想通貨交換業者に対して、法定通貨との誤認防止のための顧客への説明義務を課しているが、なお「仮想通貨」の呼称は誤解を生みやすい、との指摘もある。こうした国際的な動向等を踏まえれば、法令上、「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更することが考えられる」と指摘した点はよく知られている通りです。

報告書の内容は上記の通りですが、第9回の議事録からも興味深い議論や事例等の情報共有がありますので、一部のみ箇条書きで紹介します。

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第9回)議事録
  • 仮想通貨の売買等は行わないが、顧客の仮想通貨を管理し、指図に基づき顧客が指定する先に仮想通貨を移転させる業務。ウォレット業務だが、これを行う者が存在するところ、当該ウォレット業務については、仮想通貨の売買等を伴わないため、資金決済法上の仮想通貨交換業には該当しない。ウォレット業務には、サイバー攻撃による顧客の仮想通貨の流出リスク、業者の破綻リスク、マネロン・テロ資金供与のリスクなど、一部、仮想通貨交換業と共通のリスクがあると考えられる。先般(平成30年10月)、FATFにおいて、仮想通貨交換業に加えて、ウォレット業務もマネロン・テロ資金供与規制の対象とすることを各国に求める旨の改訂FATF勧告が採択された
  • 仮想通貨の現物取引については、仮想通貨交換業者に係る未公表情報(新規仮想通貨の取扱開始)が外部に漏れ、情報を得た者が利益を得たとされる事案。また、仕手グループが、SNSで特定の仮想通貨について、時間・特定の顧客間取引の場を指定の上、当該仮想通貨の購入をフォロワーに促し、価格を吊り上げ、売り抜けたとされる事案、といったものが指摘されている。
  • 最近、顧客からモナコインを預かったウォレット業者がサイバー攻撃を受けて仮想通貨を失ってしまい、事業自体を中断するに至った事件が発生した。あるいは、コインチェック事件におけるNEMの盗難において、盗まれたNEMがダークウェブで販売された際に、NEMとBTC(ビットコイン)等を交換するために機能したカナダのウォレット業者の存在が認識されるようになった。そのカナダの例で言えば、100億円単位の取引が1週間の間に行われてしまったそうだ。
  • ICOは実質的には、ベンチャー企業の発行する株式等に類似したようなものでありながら、それについて極めて相場操縦的な発言が多数見られ、かつ、関係者と思わしき者が様々な相場の形成に動いているということは、公然の事実として知られていた。特別な利害関係者というのは多くの場合、どの仮想通貨、あるいはICOトークンにも存在するので、それらの人たちが何がしかのことをやることについて、それを放置したままでよいのだろうか、単に業者を見ているだけで十分だろうかという感じがする
  • 重要になる視点というのは、望ましい規制という考え方と、できる規制という考え方はかなり違うということ。こういう分野に関しては、特にそういう問題というのはあって、こういうことが規制できれば、規制するほうがいいけれども、実際にはなかなか難しいという面があるというのはこの分野の大きな特徴だとは思う。
  • 同一の機能、リスクには、同一の規制を適用するということ自体には賛成だが、仮想通貨デリバティブ取引が既存のデリバティブ取引と同一の機能、リスクを有しているかというと、必ずしもそうではないと思われる。
  • どういった観点から、規律を位置づけるかという点から3つほどポイントがあるのではないか。1つは、不公正な取引が禁止されるということを明確化すること。2つ目が、行政とか、市場や社会がこれを監視することができるように、相応の取引の透明化というか、情報の開示というものをきちんと図っていくこと。3つ目に、自主規制団体とか、あるいは行政がしっかり執行力を確保するということが大事なのではないか。
  • おそらく不正が行われるときには取引経過に何らかの異常な検知がされるような事態が生じるということがあるのではないか。取引の具体的な経過、内容とか、あるいは取引価格と実勢価格の乖離ということを観察することによって、不正が探知できるということになるのであれば、基本的にはそういった探知能力を高めていくということも重要なのではないか
  • いろんな種類のウォレットがあり、かなりそれぞれにおいてリスクレベルが異なる。そのリスクにおいて特にリスクが高いものについて、きちっと規制の枠組みに入れていくということは非常に重要なこと
  • 残念ながら該当するモナコインの送金に使われたウォレットサーバというのは、おそらく日本人の方が運営しているが、フランス国内にあるサーバだった。果たして、海外にあるサーバに対して、日本法においてどれだけウォレットに対して規制をかけられるのか。特にこの世界、非常にグローバルなので、実効的な規制をつくっていくためには、日本だけでやっても意味がなくて、少なくとも先進国の中であるイコールのレベルというのを保っていかないといけないので、これは日本における立法措置だけではなくて、きちっと、FATFをはじめとした場で考えていただく必要があるのではないか。・・・かなり流動性の低いコインに関しても、海外の交換所で交換されるケースというのは実際に増えてきており、この分野というのは、つくづく日本だけで規制をどうするという話ではなくて、国際的に連携をしていかないと、ルールづくりはできないということを改めて実感させられた。

その他、最近の仮想通貨を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • ウェブマーケティングサービスの事業者が、クラウドのアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)で運用するシステムが不正アクセスを受けたと発表しています。AWSにアクセスするための認証キーを使用されたもので、メールアドレスなど約40万件の顧客情報が流出した可能性があるということですが、現時点の解析によると、攻撃者の目的は、仮想通貨マイニング(採掘)で必要なコンピューターリソースを無断利用することだったとのではないかと考えられています。
  • 仮想通貨を獲得する「採掘(マイニング)」のため、他人のPCを無断で作動させるプログラムをウェブサイト上に保管したなどとして、不正指令電磁的記録保管の罪に問われたウェブデザイナーの男性の初公判が開かれました。報道によれば、男性は、「プログラムはウイルスではない」として無罪を主張しているということです。このコインハイブは一般に公開されているサービスで、専門家の間でも違法性の是非が分かれているため、判決が注目されています。
  • 仮想通貨ビットコインの取引所「マウントゴックス」の巨額コイン消失事件で、顧客資金を管理していた口座から自身の口座などに約3億4,000万円を送金して着服したとして、業務上横領罪に問われているほか、現金残高を水増しする為に取引システムのデータを改ざんしたとして私電磁的記録不正作出・同供用罪にも問われている運営会社「MTGOX」(民事再生手続き中)元代表の公判が、東京地裁で開かれました。報道によれば、最終弁論で弁護側は、「横領の罪に問われた送金行為は会社の業務として行われたものだ。会社が経営破綻したのはハッキングによってビットコインを失ったのが原因で、それまでは顧客からの払い戻しの請求に対応できなかったことはなく、顧客にも会社にも損害を与えていない」と改めて無罪を主張、一方、検察側は懲役10年を求刑しており、3月15日までに言い渡される判決が注目されます。
  • 香港が仮想通貨の規制強化に乗り出しています。報道によれば、投資家保護を名目に仮想通貨やデジタルトークン(権利証)といった仮想資産を運用、販売、取引する業者を、証券先物委員会(SFC)の管轄下に置く案をまとめ、順次実行するということです。香港は中国本土に比べ規制が緩く、ICOが活発でしたが(中国ではICOは禁止されています)、業者の負担が重くなる懸念が出ています。日本でのICO規制は前述の通りの方向性となる見通しですが、世界的には評価が分かれているところ、全体的には規制強化の動きが進んでいると言えます。
(5) 犯罪インフラを巡る動向

1.休眠NPO法人

特定非営利活動法人(NPO法人)の犯罪インフラ化については、以前の本コラム(暴排トピックス2018年11月号)でも取り上げましたが、そこでは、「NPO法人を所管するのは各自治体です。紹介した事例のように報告書が未提出の場合、特定非営利活動促進法(NPO法)は、「過料を科す」「認証を取り消すことができる」と定められていますが、厳格に適用するかどうかは各自治体に任されています。しかも、報道によれば、ある自治体の担当者は、「報告書さえ出せば、活動実績がなくても手が出せない。実態把握は難しく野放しだ」という面もあり、自治体自体のリソースの問題も絡み厳格な管理も望めない状況であり、NPO法人の犯罪インフラ化の懸念はますます強くなっています」と指摘しました。暴力団や犯罪組織がNPO法人の信頼性を悪用している事例が後を絶たない状況の中、それを監督すべき地方自治体のリソース不足等から野放しになっていることは極めて憂慮すべき状況です。そのような状況に対し、ついに内閣府が全所管自治体(47都道府県と20政令指定都市)を対象にした実態調査を始めたということです。報道(平成31年1月12日付毎日新聞)によれば、休眠NPO法人に焦点を当てた全国調査は初めてであり、1月中にも調査結果をまとめ、対応を検討するということです。報道では、「「市民の自由な社会貢献活動の促進」を目的に掲げるNPO法は、法人の自主的な運営を尊重し、行政ではなく市民が活動を監視することを前提とする。このため「行政の監督の強化には反対」という意見は根強い。しかし、NPO法人が、その信用を逆手に取って詐欺事件を起こしたり、暴力団が法人ごと乗っ取ったりするなど看過できない現状がある」と指摘していますが、正に、犯罪インフラ化している実態をふまえれば、NPO法人の自主的な運営のみでは限界が来ていることが明らかであり、自主性の尊重に配慮しつつも自治体が厳格に管理できるためにはどうすべきか、本腰を入れて取り組むようになることを期待したいと思います。

また、関連して、最近、内閣府が「NPO法人に関する世論調査」の結果を公表していますので、簡単に内容を紹介します。

▼内閣府 NPO法人に関する世論調査

本調査結果によれば、まず、「NPO法人を知っているか」については、「知っている」が89.2%(「よく知っている」21.7%+「言葉だけは知っている」67.5%)、「知らない」が10.2%と、その認知度が大変高いことが分かりました。さらに、「NPO法人を信頼できるか」については、「信頼できる」が71.5%(「信頼できる」17.1%+「どちらかといえば信頼できる」54.3%)、「信頼できない」が14.4%(「どちらかといえば信頼できない」11.4%+「信頼できない」3.0%)、「わからない」が14.2%となり、5年前の調査と比較して7.2ポイント上昇、高い評価となりました。その背景には、もちろん、災害時のボランティア等でNPO法人が活動する機会が増えていることや、本調査結果からもその活動に満足している割合が90.0%に上るなど、関与する方々の地道な努力等が実を結んだ結果であることは間違いありません。だからこそ、その信頼を悪用して犯罪インフラ化するようなことは絶対にあってはなりません。また、本調査結果では、「寄附するNPO法人を選ぶ際に重視する点」について、「活動の目的や内容に賛同・共感できる」が84.6%、「寄附の使い道が明らかである」が64.1%、「活動の成果をあげている」が46.2%、「運営基盤がしっかりしている」が44.4%などとなっていますが、集約すれば、「活動目的に沿った活動をきちんとしていているか」、「透明性の高い運営がなされているか」等が重要であって、正に、「NPO法人が自ら厳しく律するとともに、活動実態を厳しく管理監督することが期待されている」ことを示しているとも言えると思います。
 一方の地方自治体の管理監督状況については、報道(平成30年12月24日付毎日新聞)によれば、全所管自治体(47都道府県と20政令指定都市)の3割超に当たる22自治体が、活動報告を提出しない法人に適用できる過料(罰則)を科していないことが新たに判明しています。NPO法においては、長期間提出を怠るとNPO法人としての認証を取り消すこともできるとされていますが、10の自治体は措置を取っていなかったことも判明しました。さらには、過料を科さない自治体ほど、休眠法人の比率が高い傾向も浮かび上がったといい、自治体の管理監督の姿勢が休眠NPO法人の野放しの実態にストレートに反映しています。したがって、管理監督が不十分な自治体においては休眠NPO法人の犯罪インフラ化の懸念が高いことを示すものであり、だからこそ、リスクベース・アプローチの観点からリソースをそこに割いて、厳格な管理監督、毅然とした対応をすべきであると指摘しておきます。
 このように、国民の高い認知度と信頼性を得ている一方で、厳格な管理監督がなされているとは言い難い実態という「相反する2つの実態」をもち、暴力団や犯罪組織による不正の温床となりかねない(休眠)NPO法人の「犯罪インフラ化」が進む実態をふまえ、事業者には、NPO法人だから信頼できるとするのではなく、実在性や稼働実態、理事の適格性など慎重な見極めが求められていると言えます。

2.アプリ(利便性と悪用リスク)

以前の本コラム(暴排トピックス2016年6月号ほか)で指摘した通り、新たなサービス、技術、スキームなどについては、常に「利便性」のみを追求するのではなく、それと等しく「悪用されるリスク(悪用リスク)」を想定し、初めから可能な限り対策を講じておくべきだと言えます。数年前に発生した「ATM一斉不正引き出し事件」については、海外の犯罪集団(ハッカー集団)と日本の暴力団のコラボ、さらにはその接点となった半グレ(関東連合OB)といった構成メンバーの興味深さ以外にも、「利便性」と「悪用リスク」の間のトレードオフの関係の視点から着目すると、「ATMのネットワーク管理が甘く、不正分析ソフトに見破られないこと」、「旧式で安全性が低い『磁気ストライプ』のカードが(国内では広く)通用し、クレジットカードの暗証番号を検証する『Chip and PIN(チップ・アンド・ピン)システム』への対応が遅れていること」、「24時間対応、(海外のATMと比較しても)高額な引き出し額が可能な設定」などのガラパゴス的な利便性の(過度な)追求がその背景にあり、さらにその背景要因として、「海外からの観光客が、日本に来てもクレジットカードで現金を引き出せるようにするため、政府が平成27年の成長戦略に海外発行のクレジットカードでの現金引き出しが可能なATMの普及促進を明記したことにより、銀行が準備を進めてきたこと」があげられます。磁気ストライプのカード対応や引き出し限度額の高額化や24時間対応等の利便性追求が悪用リスクを高めたいが、引き出し限度額を引き下げれば利便性が低下する・・・といった金融機関におけるジレンマ(利便性と犯罪被害抑止)が分かり易い構図ですが、このような「利便性」を追及するあまり、「脇の甘さ」が生じてしまう部分を、暴力団等の反社会的勢力や犯罪組織は見逃すことなく突いてくる(いち早く察知して悪用する)のであり、彼らが、最先端の技術やツール、ビジネスモデルなど、さらにはその領域を問わず、柔軟性や先進性、応用力や行動力を有している点が、さらに驚かされるところです。
 なお、この「利便性」と「悪用リスク」のトレードオフについて、今、正に注意が必要なものとして、「AI(人工知能)」と「IoT(Internet of Things)」があげられます。いずれも悪用された場合、人間や社会に対して、予測もできないほどの極めて大きな害悪をもたらすことが考えられ、それゆえ、反社会的勢力をはじめとする犯罪者らが、いち早くその悪用に知恵を巡らしているものと思われます(詳しくは暴排トピックス2016年6月号をご参照ください)。
 さて、冒頭のテロリスクへの対応の項でも指摘しましたが、「陸・海・空・宇宙」に続く第5の空間として、今や「サイバー空間」では、ネット空間を利用して政府機関やインフラの機能を麻痺させる「サイバー戦争」「サイバーテロ」の危機が現実のものになりつつあります。また、このサイバー空間は、高い利便性や革新性を生み出すという「表の側面」だけでなく、企業や個人に対する攻撃の舞台として、また、ダークウェブ(闇サイト)のような様々な犯罪の交流の場(隠れ蓑)として、あるいは、高い匿名性や悪意による詐欺等の犯罪インフラとして悪用されているという「裏の側面」もあります。そのような中、とりわけ「生活インフラ」にも「犯罪インフラ」になりうるという意味で、最近では、スマホを使った決済サービス「ペイペイ」で、クレジットカードが不正に利用される被害が相次いで発覚した事件もまたその典型と言えます。ペイペイは巧妙なキャンペーン戦略が成功したかに見えた一方で、セキュリティ対策自体の脆弱性(本人確認手続きに厳格さが欠ける、セキュリティコードを何回でも試行できる等)が突かれている事実に加え、匿名性の高いダークウェブ上で日本人のクレジットカード情報が大量に流出、流通しており、今回の不正利用との関連が疑われている(カード情報の漏えいや利用者側のID/PW(パスワード)等の使い回しが招いたとも言え、同社の脆弱性に必ずしも起因しない部分もある)状況でもあります。さらには、メルカリ等のフリマアプリについても、国民生活センターには、「自分のフリマアプリのアカウントでプリペイドカードを勝手に購入されていた」、「アカウントが乗っ取られ、自分が出品した商品の売上金が別の口座に払い込まれていた」などの相談が相次いでいるようです。これについても、(1)アカウントにアクセスするにはIDとPWが必要で、個人情報を盗み取る目的でメールを通じてウイルス感染させられる、(2)IDやPWの入力を求めるフィッシングサイトに誘導される、(3)運営会社がハッキングされる、などで盗み取られる可能性があり、やはり盗まれた情報はダークウェブで取引されることも多いということです。また、アップルの指紋認証「Touch ID」を悪用する新手の詐欺アプリが問題になっていますが、報道(平成31年1月2日付産経新聞)で、専門家が、「いつものことですが、利便性と使い勝手のよさを実現してくれる新たなテクノロジーが、悩みの種となっているわけです」、「指1本で支払いが終わるというのはとてもラクですが、その技術は同じくらい簡単に悪用することができてしまうのです」と指摘していますが、「利便性」と「悪用リスク」のトレードオフについて端的に示したものと言えます。そして、これらの事例は、ダーウェブ等を介してカード情報等を悪用する素地ができているところ、決済サービスやフリマのアプリは新しいサービスであるため狙われやすい(その対策レベルを試されている)ことを示すものでもあります。やはり、新しいサービスや技術、スキームなどに対しては、高い「利便性」と裏腹の関係にある「犯罪悪用リスク」の存在を必ず認識すること、そして、今後、さらなる技術の進歩と普及が見込まれる一方で、悪用リスクも急激に高まることをふまえた対応(利便性と悪用リスクのトレードオフに向き合っていくこと)が求められることになります。

さて、犯罪組織は常に規制の緩いところ、新しいビジネスキーム等を狙って介入してくることは、これまでも何度も指摘しているところです。現状は、国も事業者も、消費者のためを思って、あるいは競合他社との差別化や優位性を打ち出すために、利便性を追求するあまり悪用リスク対応が後手に回りがちです。さらに、国や事業者、あるいは消費者においては、リスクの想定の甘さ(想像力の欠如)や海外などを含む先進事例や事故事例、ヒヤリ・ハット事例等の情報収集力や、そのような情報に対するリテラシーの低さなどが顕著です(さらに言えば、そのあたりの感性は、犯罪組織より著しく劣っているとさえ言えます)。賢い消費者なら、自らの消費行動が犯罪を助長してしまう構図にそろそろ気付いてよいはずですし、(悪用される危険性が高いと知って)本当にこれ以上の利便性が必要なのかどうか、一度立ち止まって考えてみてもよいかもしれません。そして、事業者も、利便性の追求の結果、逆に消費者にとって不利益や危険性が生じる結果になっていないか、十分な検証と説明責任を果たすこと、さらには、自社のサービスやビジネスが犯罪を助長しかねないことまであらかじめ認識すること(悪用リスクを常に念頭に置いて開発等を進めるべきだということ)、今後、ただでさえその結果の重大性や影響の及ぶ範囲の拡がり・深刻度合いが深まっていくところ、AIやIoTなども絡めばさらに深刻な事態を招きかねないことも考慮に入れて、そのトレードオフを冷静かつ慎重に見積もり、方向性を柔軟に見直していく勇気が求められると言えます。

3.タックスヘイブン(租税回避地)

本コラムでは、これまでもタックスヘイブンの実態を明らかにした「パナマ文書」や「パラダイス文書」の意義等について取り上げてきましたが、先日、パラダイス文書を巡る報道に関して、一連の報道を主導した国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)のメンバーで、トルコの元首相とマルタの会社のつながりについて報じたトルコ人ジャーナリストに対し、トルコの裁判所が、名誉毀損と侮辱の罪で禁錮1年1カ月の有罪判決を出しましたさらに記事を掲載した日刊紙ジュムフリエットには罰金8,600トルコリラ(約17万円)を命じています。判決理由など詳細までは分かりませんが、報道の自由に対する圧力で正当性に欠けるのではないかとの印象があります。なお、パラダイス文書に絡み、マルタ首相の妻がオーナーを務めるパナマ企業とアゼルバイジャンの複数の銀行の間で多額の資金が移動していたことを追求していた女性記者が爆殺される事件も発生しています。このような有形無形の圧力で、権力者の不正や犯罪組織にとっての「不都合な真実」が闇に葬り去られることが残念でなりません(それだけの力を行使しなければならないほど闇が深いことを示すものでもあり、タックスヘイブンの「犯罪インフラ」化が深刻であることを示すものでもあります)。

前回の本コラム(暴排トピックス2018年12月号)でも紹介した通り、日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者の報酬過少記載事件では、日産の子会社がタックスヘイブン(租税回避地)などの会社に投資資金を移し、ゴーン会長の自宅用物件の購入などにあてていたことが分かっています。また、それ以外にも、特別背任事件においては、日産自動車の資金が、海外のペーパーカンパニーを通じ、同容疑者やその親族側に流出していた疑いも指摘されています。送金先は海外にある複数の会社で、いずれも経営実体のないペーパーカンパニーで、同容疑者の生まれ故郷ブラジルや、少年期を過ごしたレバノンなどに設立されていたといいます。これらのペーパーカンパニーに流れた億単位の資金は本来、日産が支出する必要がなく、最終的に容疑者本人のほか、同容疑者の親族や親しい知人に渡っていたとされます。日産自動車の事件は、タックスヘイブンやペーパーカンパニーが不正の「犯罪インフラ」として悪用された典型的な事例としての側面も有しています。
 一方で、タックスヘイブンは「課税逃れ」の「犯罪インフラ」として悪用されている実態があります。直近では、米グーグルが、外国税の支払い額削減を可能にする取り決めの一環として、2017年にオランダのペーパーカンパニーを通じて199億ユーロ(227億ドル)の資金をタックスヘイブンとして知られるバミューダに移転していたことが、オランダ商工会議所への提出文書で明らかになったとの報道がありました(平成31年1月4日付ロイター)。報道によれば、「グーグルは、米国外で得たロイヤルティー収入を所得税がかからないバミューダに拠点を置く関連会社グーグル・アイルランド・ホールディングスに送るため、オランダの子会社グーグル・ネザーランズ・ホールディングスを利用しており、この「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」と呼ばれる租税回避の手法は合法で、これによりグーグルは米国の所得税や欧州の源泉税の回避が可能になっている」ということです。しかし、EUや米国からの圧力を受け、アイルランドは2014年にこの取り決めを廃止、グーグルがこの手法を利用できるのは2020年までとなっているとのことです。今回公表された金額は2016年と比べて約40億ユーロ多いということであり、確かに2020年までは合法であるとはいえ、「課税逃れ」としてグレーと指摘されているスキームであって、世界的にタックスヘイブンを悪用した課税逃れが問題になって以降も同社がそのようなスキームを継続していた(さらに課税逃れの実態が悪化した)との見方もできそうです。
 このようなタックスヘイブンを悪用した課税逃れ対策については、前回も紹介したように、国際的な課税逃れ対策として世界各国の金融口座情報が自動的に交換される「CRS」の運用が日本でも始まり、今後、国税当局による情報の活用が本格化することになります。関連して、日本でも、静岡県の精密プラスチックメーカーが名古屋国税局の税務調査を受け、タックスヘイブンの香港に設立したペーパーカンパニーをめぐって、平成29年8月までの4年間で約3.5億円の所得隠しを指摘されていたことがわかりました。報道(平成30年12月20日付時事通信)によれば、同社は香港のペーパー会社の所得を除外していたものの、この会社は中国の孫会社との取引が過半を占めていたことから、親会社の所得に合算するべきと指摘を受けたとみられ、税負担の軽い国や地域を利用した課税逃れを抑止する「外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)」が適用されたということです。このタックスヘイブン対策税制については、JETROのサイトなどに解説がありますので、参照いただきたいと思います。

▼JETRO タックスヘイブン対策税制:日本

タックスへイブン対策税制は、タックスへイブンを利用して租税回避を図る行為を排除する制度であって、「本税制では現在、経済実態がない、いわゆる受動的所得は合算対象とする一方で、実態のある事業からの所得であれば、子会社の税負担率に関わらず合算対象外となる」とのことです。その背景には、「外国子会社の経済実態に即して課税すべき」との経済協力開発機構(OECD)の「税源浸食と利益移転行動計画」(Base Erosion and Profit Shifting: BEPS)の基本的な考え方があるとされ、「ペーパーカンパニー」自体が特定外国関係会社に該当し、当該会社のすべての所得に対して合算課税されることになります(ただし、企業の事務負担軽減の措置として、租税負担割合が30%以上のペーパーカンパニー等については、適用が免除されるようです)。

(6) その他のトピックス

1.薬物を巡る動向

嗜好用大麻の合法化の流れがとまりません(医療用大麻の合法化の流れも世界中で加速していますが、両者を同一視すべきではなく、嗜好用大麻とは明確に区分することとします)。最近では、例えば、ニュージーランド(NZ)政府は、嗜好用としての大麻の合法化の是非を問う国民投票を2020年の総選挙と同時に実施することを決めています。合法化支持が過半数を占めれば、アジア・オセアニア地域で初めての解禁となりますが、NZでは医療用限定で大麻の合法化法案が議会で可決されています。なお、隣国オーストラリアもまた、医療用大麻の合法化に踏み切っていますが、嗜好用は禁止しています。また、米NY州も2019年に嗜好用大麻を合法化する方針を知事が示しています。報道(平成30年12月18日付時事通信)によれば、NY州の合法化で生まれる大麻の市場規模は推定年間17億~35億ドル(約1,900億~3,900億円)とも言われ、約2億5,000万~6億8,000万ドル(約280億~760億円)の税収が見込まれると言います。なお、本コラムでたびたび紹介している通り、米国は連邦レベルでは大麻を禁止していますが、カリフォルニア州など10州と首都ワシントンでは嗜好用大麻が合法化されている状況にあります。また、アジアでも、嗜好用ではなく医療用大麻ですが、タイで医療や研究目的での使用が合法化される見通しであり、総じて東南アジアでは薬物に厳しい国が多い中(フィリピンにおいて、医療用大麻が専門病院での治療に限って認められているのみ)、異例の動きと言えますが、医療や研究目的で個人や政府機関、医療機関、大学や研究所などの大麻の生産、所持、販売が許可される一方、10キロ以上の大麻を所持している場合は販売目的とみなし、最長で禁錮15年などの罰則が科されるほか、娯楽目的では今後も使用できないなどの厳しい制限が課されています。

本コラムでは、嗜好用大麻について、(1)医療用大麻とは異なり「安全」ではないこと、(2)依存性の高さはアルコール依存症の10倍以上に上ること、(3)そもそも合法化に踏み切るのは最高使用率50%を超えているという経済合理性の観点からのものであること、(4)覚せい剤に比べて大麻の方が脳の広範囲で効くという意味でより怖いこと、(5)とりわけ若者への大麻の蔓延は脳の健全な成長を阻害するという意味で絶対に阻止すべきこと、(6)大麻に関する誤解を解き正しい知識を社会的に浸透させることが急務となっていること、などを繰り返し述べてきました。昨年、横浜税関が過去最大規模の115キロのコカインを押収しましたが、報道(平成30年12月27日付産経新聞)で関係者が、「違法薬物といえば韓国や中国、タイといったアジア圏から入ってくるものが圧倒的に多かった。それがいまでは闇サイトを通じてヨーロッパやアフリカなど全世界から集まるようになった。パソコンと、代金の支払いに使う仮想通貨があれば、誰でも手が出せてしまう」と警告しているように、薬物入手のハードルが下がり、若者でも興味本位で手を出せる環境にあることが最大の問題だと思います(直近では、SNSを通じて大麻を譲り受けようとしたとして、兵庫県警が姫路市内に住む中学3年の女子生徒(14)を大麻取締法違反(譲り受け未遂)容疑で逮捕するという事件がありました。報道によれば、この生徒は「大麻に興味があった」と述べているということです)。また、最近では、乱用者のほとんどは知人から譲り受けるほか、自分で栽培するなどし、インターネットで乾燥大麻を購入するケースも増えている実態があり、供給量の増大に伴って暴力団の関与も増加傾向にあり、暴力団が作った栽培工場が摘発されるなどしています。このように大麻が蔓延する素地が整ってしまっている状況をふまえ、関係者は相当な危機感をもって対応に臨む必要があると言えます。

さて、最近の大麻に絡む事件報道について、いくつか紹介しておきます。

  • 乾燥大麻を所持していたとして、北海道厚生局麻薬取締部は、帯広市の民泊経営者(42)を大麻取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕しています。民泊兼自宅からは乾燥大麻と大麻樹脂計約29キロ(末端価格1億7,400万円相当)が押収されており、全国の麻薬取締部が扱った1事件あたりの押収量で昨年最多だったということです。これだけの規模の大麻を所持し、民泊を経営していることなどから、大規模な販売拠点であったのではないかとも推測されるところです。
  • 大麻を輸入したなどとして、神奈川県警は、大麻取締法違反(輸入・所持)容疑で、光学機器メーカー「ニコン」社員を逮捕しています。報道によれば、平成30年9月1日に米国から大麻が含まれるスナック菓子1袋とソフトキャンディー2袋を国際郵便物に隠して輸入したほか、自宅に乾燥大麻が入ったアルミ製の袋2つを隠し持っていたということです。薬物事犯は個人的な犯行であるにも関わらず、所属先がよく知られているなどすれば事業者名もあわせて公表される傾向があります。このような状況にかかわらず、事業者にとっての薬物リスクは、いまだ役職員の「常識」に依存している状況ですが、事業者にとっては、レピュテーションリスクを孕むものとして、もっと「当事者」として何ができるかを考えていただきたいと思います
  • 北海道警で薬物担当だった元巡査部長が覚せい剤取締法違反(使用、所持)罪で起訴された事件で、被告がインターネットを通じて覚せい剤を複数人に売却していたとみられることが分かったということです。被告は札幌・中央署薬物銃器対策課に所属し、10年以上の薬物捜査の経験があったということですから、正に「ミイラ取りがミイラになった」典型であり、職業倫理感を高く保つことの難しさ、一般常識とは異なる「異分子」はどのような組織にも存在するところ、それを自浄作用を働かせて炙り出すことの難しさを痛感します。なお、公務員という点では、自宅で覚せい剤を使用したとして、兵庫県警が、覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで、堺税務署国税徴収官を逮捕しています。報道によれば、「勤務先の人間関係のストレスがあった」ということで、自ら交番に自首、「インターネットサイトを通じ、密売人から購入した」と話しているということです。公務員という立場にありながら、ストレスがあったからという理由で気軽にネットで覚せい剤を入手することの恐ろしさを感じます。
  • 以前の本コラムで取り上げましたが、自宅で大麻を所持したとして、大麻取締法違反(所持)容疑で近畿厚生局麻薬取締部に逮捕された追手門学院大のアメフト部元主将の男子学生ら2人について、大阪地検が不起訴処分(嫌疑不十分)としていたことがわかりました。一方で、別の所持事件では大阪地検に起訴されています。報道によれば、男子学生の自宅を家宅捜索し、室内で大麻を発見、麻薬取締部はその場にいた2人を現行犯逮捕したもののどちらが所持していたか特定できなかったためこの事件は不起訴、一方、この際、元主将のズボンのポケットからも大麻が見つかったため、麻薬取締部は同法違反(所持)容疑で元主将のみ追送検したものだということです。

また、以下は、大麻以外の薬物に関する最近の報道からいくつかピックアップしたものです。世界中で過去最大規模の薬物の押収事例が相次いでおりその蔓延が深刻化していることを感じさせます。また、とりわけ、「MDMA」や「DMT」などの合成麻薬やコカインなども日本国内での蔓延の兆しが感じられ、大麻の蔓延、「多剤乱用者」の増加など、薬物を巡る状況には十分な注意が必要です

  • 北朝鮮の経済制裁逃れの手法同様、覚せい剤についても、海上で受け渡しをする「瀬取り」と呼ばれる方法が実際に使われていることが明らかとなっています。「瀬取り」を使って茨城県沖で平成29年8月、覚せい剤約475キロ(末端価格307億円相当)に上る極めて大規模な密輸件で、茨城県警は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで、主犯格とみられる指定暴力団住吉会系組長を逮捕しています。覚せい剤の流通は暴力団が握っていることが知られていますが、このような組織的・大がかりな事件の背後にはほとんど暴力団が関与していることが分かります。
  • 大量の合成麻薬MDMAを密輸入したとして、香川県警と四国厚生支局麻薬取締部などは、大阪市内の音楽家ら3人を麻薬取締法違反(営利目的輸入)などの疑いで逮捕しています。報道によれば、MDMAは仏像の顔を模した珍しい形状で、18,164錠(約7.3キロ、末端価格7,200万円)と一度の押収量としては過去5年間で最多だということです。さらに、「MDMA」と「DMT」と呼ばれる2種類の合成麻薬の粉末計約1.11グラムをオランダから国際郵便で輸入した疑いで医大生が逮捕されています。成田空港を経由して、横浜税関の出張所に郵便物が届き、税関職員の検査で発覚したもので、受取先は男の自宅となっていたということですから、組織性というよりは個人的な使用を前提にした犯行だったのではないかと推測されるところです。
  • 韓国の税関当局は、メキシコから釜山港に到着したコンテナに時価1,900億ウォン(約190億円)相当のコカイン約64キロが隠されているのを発見、摘発したと発表しています。報道によれば、約200万人が1回ずつ使用できる量で、釜山港開港以来、最大規模とのことです。メキシコの税関当局から情報提供があり、中国に輸送される予定だったコンテナを積み替えの際に検査を実施したところ、コカインが見つかったようです。
  • タイ軍は、ミャンマーとの国境に近い北部チェンライ県で、覚せい剤の錠剤1,876万錠を押収したと発表しています。タイで一度に押収した量としては過去最多ということです。軍は、薬物密輸の通報を受けて検問所を設置し、停車を拒否した車2台を追跡、乗り捨てられた車から、肥料袋に隠された錠剤を発見したというものです。
  • 薬物犯罪として悪質で今後注意が必要なものとして、睡眠導入剤などの薬剤を飲食物に混入し、相手を抵抗できない状態にしてわいせつ行為に及ぶ犯罪が相次いでいることがあげられます。報道(平成31年1月7日付産経新聞)によれば、「デートレイプドラッグ」とも呼ばれる強力な薬剤はネット上の取引などで容易に入手できる状況で、SNSで知り合った少女らを標的に犯行を繰り返す悪質なケースも出ているとのことです(なお、短時間で作用する睡眠導入剤は薬の成分も早期に体内から排出されるため、犯行の証拠が残りにくいという問題もあり、早期の警察への相談がポイントとなります)。さらには、こうした強力な薬物がSNSやネット掲示板を介して容易に入手しやすくなっていることも背景にあるようです。
  • 依存性が極めて高く、幻覚や妄想を引き起こし、最悪の場合は死に至る違法薬物である「コカイン」の所持や使用による摘発が増加傾向にあるとの報道がありました(平成31年1月6日付時事通信)。2018年の押収量も、近年では最も多かった13年の約120キロに届く勢いだといい、大麻や合成麻薬など、他の違法薬物とコカインを同時使用する「多剤乱用者」も増えるなど、影響の深刻さは増しているものの、密輸ルートや流通経路には不明な点が多いとのことです。大麻の 蔓延だけでなく、今後はコカインの動向にも注視する必要がありそうです。
  • 米疾病対策センター(CDC)が先月公表した薬物死に関する統計によると、通年統計で最新の2016年は、「オピオイド中毒」として問題となっている医療用鎮痛剤などに用いられる合成麻薬「フェンタニル」が薬物別の死因で初めて最多となったということです(この5年で11倍増加し、ヘロインを上回りました)。フェンタニルを含む医療用麻薬による中毒が、深刻な社会問題となっている実態を改めて示したものとなります。報道によれば、CDCは「13年以降はフェンタニルとその類似品による人口10万人当たりの死亡率が毎年、前年の2倍以上に増えている」と警告しています。「オピオイド中毒」ということでは、米政権は2017年10月にオピオイド問題を受けて「公衆衛生に関する非常事態」を宣言し、対策に本腰を入れている(暴排トピックス2017年11月号参照)ところですが、薬物中毒による2017年の死者が前年比で10%近く増加し、過去最悪の約72,000人に上ったことが、CDCの暫定集計で明らかになっています。また、米国の薬物中毒による死者は、銃器や交通事故による死者を上回っていることに加え、死因を特定できていないケースもあるため、最終的な死者数はさらに増える可能性があるといいます。医療用ですらこのような危険性を秘めていることに、大麻の蔓延に対する警告として正しく活用していきたいところです。
  • インターネットの普及で急増している未承認の医薬品などの個人輸入について、厚生労働省が近年目立つ偽造薬の流通や健康被害を防ぐため、法規制を整備するとの報道がありました(平成31年1月6日付産経新聞)。偽造薬を水際で食い止めるなど個人輸入を厳格に監視・管理、税関との連携を強化し、麻薬取締官に捜査権限を付与することを検討するということです。国際的に偽造薬等の被害が深刻化しており、背後に犯罪組織が関与しているケースも増えているようです。2014年に国際刑事警察機構(ICPO)は「世界的な組織犯罪グループが偽造薬の製造や流通に関与している」との報告書をまとめており、厚生労働省が対応に乗り出した形となります。
  • テロリストや犯罪者が流入するのを防ぐためとして、米トランプ大統領がメキシコとの国境に壁を建設すると強硬に主張している件について、実際には、壁を堅固にしても犯罪者の流入を止めることは難しいものと思われます。報道(平成31年1月14日付毎日新聞)によれば、昨年秋から、メキシコの麻薬密輸犯罪組織シナロア・カルテルの元最高幹部の裁判が開かれ、巨大な密輸ビジネスの実態が明らかになりつつあり、「カルテルは自前の飛行機や潜水艦を所持するのに加え、警察や軍隊、国境警備関係者などを買収。麻薬はトラックや自動車の車体に隠されたり、商品に偽装されたりして、国境検問所を堂々と通過している実態が明らかになっている。また、地下トンネルを使って国境を越え、米国側に運ばれており、90年代以降、国境地帯では200以上の密輸用トンネルが発見されている」といいます。巨額の資金が絡む麻薬ビジネスに底知れぬ恐ろしさを感じさせます。

2.IR/カジノ/ギャンブル依存症を巡る動向

カジノを含む統合型リゾート(IR)誘致がいよいよこれから本格化しますが、政府が成長戦略の一環として制定した特定複合観光施設区域整備法(IR実施法)では、区域認定されるのは最大3カ所となっています。今般、その事業計画書を、大阪府・大阪市、和歌山県、長崎県の3地域が提出する方針であることが政府の意向調査で判明しています。この3地域は担当部局を組織して誘致活動を先行していますが、東京都も「検討中」とするなど、IRを地域経済活性化の起爆剤に位置づける自治体間の競争は、これから激しさを増すものと思われます。
 さて、そのような中、弊害対策としての「AML/CFT」、「暴力団等反社会的勢力排除」について、あらためてIR法に定められた枠組みについて整理しておきたいと思います。

まず、AML/CFTについては、カジノ事業者を犯罪収益移転防止法(犯収法)の規制対象に追加、チップの交付等の一定の取引(政令で規定)について、犯収法の規制対象となる取引(特定取引)に追加することになります。さらに、顧客に対する取引時確認、取引記録の作成・保存、疑わしい取引のカジノ管理委員会への届出等が義務化されることになります。また、犯罪収益移転防止規程の作成の義務付け及びカジノ管理委員会による審査、一定額以上の現金取引のカジノ管理委員会への届出の義務付け(さらに国家公安員会に通知されます)、チップの譲渡・譲受け・持ち出しの規制(カジノ行為区画外への持ち出し禁止など、さらには、カジノ事業者に対し、顧客間のチップの譲渡・譲受け、カジノ区画外へのチップの持ち出しを防止するために必要な措置を講ずることを義務付け)などが導入される見通しです。

暴力団員等の排除等については、まず「カジノ事業者等からの暴力団員等の排除等」については、カジノ事業の免許等において以下の人的要件を規定するほか、カジノ施設共用事業の免許、カジノ関連機器等製造業等の許可、カジノ関連機器等外国製造業の認定、指定試験機関の指定等において、同様の人的要件を規定することになります。

  • 十分な社会的信用を有する者
  • 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から起算して5年を経過しない者(以下「暴力団員等」という)に該当しない者
  • 上記の人的要件の審査対象者
    • カジノ事業免許の申請者及びその役員等
    • 主要株主等(5%以上の議決権又は株式等の保有者)及びその役員等
      ※ このほか、カジノ事業者に対し、株主等の十分な社会的信用を確保するために必要な措置(株式等の保有又は譲渡を制限する措置等)及び株主名簿等の定期的な提出を義務付け
    • 施設土地権利者及びその役員等
    • カジノ業務等の従業者
    • 契約の相手方及びその役員等
      ※ 上記の審査対象者の「十分な社会的信用」を審査する上で必要と認められる他者に対しても必要な調査を実施

また、「カジノ施設への入場者からの暴力団員等の排除等」については、以下のような骨格となっています。

  • 暴力団員等に対し、カジノ施設への入場又は滞在等を禁止
  • カジノ事業者に対し、暴力団員等をカジノ施設に入場させ、又は滞在させること等を禁止
  • カジノ事業者に対し、カジノ施設等の秩序維持措置として、不適切者の利用を禁止・制限する措置を義務付け

なお、本コラムでは以前(暴排トピックス2015年10月号及び2017年6月号)、カジノ事業からの反社会的勢力排除について考察していますが、とりわけ、当時から反社会的勢力の範囲をどう定めるかがポイントとなっていたところ、人的要件について、5年卒業基準の採用以外に、事業者については「十分な社会的信用を有する者」、利用者については「不適切者」としている点が、単純に暴力団員等に限定されることなく、事業者が自らの裁量である程度排除すべき対象を運用できるという意味で大変注目されます。また、「背面調査」における海外のような犯罪履歴や銀行口座の出納履歴、交友履歴等にまで踏み込めない点はやむを得ないと思われますが、「審査対象者の「十分な社会的信用」を審査する上で必要と認められる他者に対しても必要な調査を実施」という点は、KYCだけでなくKYCCの視点からの健全性の担保や、審査に関連する者の健全性をも担保すべしという意味と解することもでき、極めて重要な指摘と言え、「世界最高水準の厳格な規制」を目指し、いい加減なお手盛りの審査を許さないとの強い意気込みを感じます

さて、IRの実現にあたり、ギャンブル依存症対策も大きな課題ですが、本コラムではこれまでも様々な対策、取り組みについて紹介しています。今回は、消費者庁のサイトに掲載された資料について以下、紹介しておきます。

▼消費者庁 ギャンブル等依存症でお困りの皆様へ
▼若者向け啓発資料

概ね、これまで本コラムで紹介した内容に同じですが、まず、ギャンブル等依存症について、本資料では、「ギャンブル等にのめり込んでコントロールができなくなる精神疾患の一つ。これにより、日常生活や社会生活に支障が生じることがある。例えば、うつ病を発症するなどの健康問題や、ギャンブル等を原因とする多重債務や貧困といった経済的問題に加えて、家庭内の不和などの家庭問題、虐待、自殺、犯罪などの社会的問題を生じることもある」と、ギャンブル依存症が「精神疾患」という病気のひとつであると明確に指摘しています。さらに、「ギャンブル等依存症は、適切な治療と支援により回復が十分に可能。しかし、本人自身が「自分は病気ではない」などとして現状を正しく認知できない場合もあり、放置しておくと症状が悪化するばかりか、借金の問題なども深刻になっていくことが懸念される」として、以下のような注意点を掲載しています。

  • 本人にとって大切なこと
    • 小さな目標を設定しながら、ギャンブル等をしない生活を続けるよう工夫し、ギャンブル等依存症からの「回復」、そして「再発防止」へとつなげていきましょう(まずは今日一日やめてみましょう)
    • 専門の医療機関を受診するなど、関係機関に相談してみましょう
    • 同じ悩みを抱える人たちが相互に支えあう自助グループに参加してみましょう。
  • 家族にとって大切なこと
    • 本人が回復に向けて自助グループに参加することや、借金の問題に向き合うことについては、「主体性」が重要です。ギャンブル等依存症が病気であることを理解し、本人の健康的な思考を助けるようにしましょう。借金の肩代わりは、本人の立ち直りの機会を奪ってしまいますので、家族が借金の問題に直接関わることのないようにしましょう
    • 専門の医療機関、精神保健福祉センター、保健所にギャンブル等依存症の治療や回復に向けた支援について相談してみましょう。また、消費生活センター、日本司法支援センター(法テラス)など借金の問題に関する窓口に、借金の問題に家族はどう対応すべきか相談してみましょう
    • 家族だけで問題を抱え込まず、家族向けの自助グループにも参加してみましょう

3.平成30年版犯罪白書のあらまし

法務省が最新となる平成30年版犯罪白書の概要(あらまし)を公表しています。

▼法務省 犯罪白書
▼平成30年版犯罪白書のあらまし

刑法犯の認知件数は、平成14年(戦後最多)をピークに15年連続で減少しており、平成29年(前年比▲8.1%)は戦後最少を更新し、平成14年の約3分の1の水準となったようです。特に、窃盗については、平成15年から大幅に減少し、平成29年(前年比▲9.4%)は戦後最少を更新、刑法犯認知件数の7割以上を占めています。また、詐欺については、認知件数42,571件(前年比+3.9%)と平成24年以降増加傾向にあり、とりわけ、本コラムでその状況をモニタリングしている特殊詐欺の認知件数は18,212件(前年比+28.7%)、被害総額約335億円(前年比▲14.0%)です。その他、傷害の認知件数は23,286件(前年比▲4.4%)と平成20年以降は2万件台で推移していること、暴行の認知件数31,013件(前年比▲2.5%)と平成18年以降は高止まり傾向にあること、覚せい剤取締法違反の検挙人員は10,284人と毎年1万人超で推移、押収量は1136 .6kgと前年の約4分の3の水準であること、大麻取締法違反の検挙人員3,218人と前年比約2割増で押収量は前年比約7割増の270 .5kg(乾燥大麻に限る)に上ったことなどが指摘されています。また、裁判については、裁判確定人員が前年比▲6.6%(10年間でおおむね半減)、裁判員裁判の第一審判決人員966人、全部執行猶予者の保護観察率8.0%(前年比▲0.9pt)などとなっています。さらに、矯正・更生保護の状況については、入所受刑者は前年比▲5.5%(平成19年から11年連続で減少。戦後最少を更新)となっているほか、刑事施設の年末収容人員は46,702人(受刑者、前年末比▲4.7%)、収容率(既決)は66.9%(前年末比▲2.6pt)となっており、うち女性は80.8%、仮釈放率が58.0%(前年比+0.1pt)と平成23年から7年連続で上昇していることも指摘されています。また、少年の検挙人員については、刑法犯は35,108人(前年比▲12.5%で平成16年から14年連続で減少)、とりわけ、窃盗犯21,340人、殺人51人と人口比では成人の約1.7倍と高率であるという驚くべき結果となっています
 また、再犯者の割合を示す「再犯者率」は前年+0.7Ptの48.7%で、20年連続の上昇で過去最悪の水準となっています。政府は2021年までに、刑務所を出所後、2年以内に再び罪を犯して入所する「再入率」を16%以下にする数値目標を設定していますが、2016年に出所した受刑者の2年以内の再入率は17.3%と高止まり傾向にあります
 なお、今回の白書では、「進む高齢者と犯罪」と題する特集が組まれており、全体的な傾向としては、刑法犯の検挙人員に占める高齢比率が上昇しています。高齢者の割合は21.5%(各年齢層で最も高いが人口増加の影響が大きい)に上り、とりわけ70歳以上の占める割合が顕著に上昇(平成10年2.1%→29年14.7%)していることが指摘されています。また、高齢者については、刑法犯検挙人員に占める窃盗の多さが傾向として指摘されており、高齢者は、いずれの年齢層でも窃盗が過半数を超えた(非高齢者総数では45.0%)と言うことです。その背景としては、「不安定な生活環境」があげられており、例えば、満期釈放等の高齢者は、帰住先が「その他(不明、暴力団関係者等である者)」の割合が顕著に高いこと、保護観察付全部・一部執行猶予者(高齢者)は、単身居住の割合が高いこと、高齢の全部執行猶予者の保護観察率は、非高齢の全部執行猶予者と比べて過去10年間一貫して低いことなどがデータとして示されています。また、「高齢受刑者の特徴」としては、以下のようなものが指摘されており、考えさせられます。

  • 平成29年に刑務所に入所した65歳以上の高齢女性受刑者は前年比2.8%増の373人で、女性受刑者の19.7%を占め、2007年以降で最も高い割合
  • 高齢女性受刑者については、特に70歳以上の増加が顕著で2010年の約12.3倍
  • 窃盗の割合が著しく高く、女性においてより顕著
  • 男女共に65~69歳よりも70歳以上の方が窃盗の割合が高い
  • 65歳以上の受刑者の6人に1人は認知症の疑い
  • 高齢受刑者(平成28年出所)の2年以内再入率20.6%
  • 再入率は非高齢者に比べて一貫して高い

さらに、特別調査として、平成23年6月に窃盗により有罪の裁判が確定した高齢者354人、非高齢者2,067人を調査した結果が示されています(なお、高齢群では、主たる犯行手口の85.0%は万引き(非高齢群では52.4%)となっています)それによると、高齢万引き事犯者の特徴として、以下のようなものが挙げられています。

  • 約7割が食料品を窃取(非高齢群では約4割)しており、窃取物品の金額は1,000円未満が約4割、3,000円未満が約7割(非高齢群ではそれぞれ約2割、約5割)、普段から買い物をする店で万引き(同じ店舗で検挙されたことがある者も約1割)、動機は「節約」が多い(高齢女性の約8割、高齢男性の半数超)
  • 生活困窮者は一定数いるが(動機「生活困窮」は高齢男性の4人に1人)、非高齢群と比べて少ない。高齢群の約9割に安定収入あり、収入源は約6割が年金受給、生活保護受給は1割強
  • 高齢男性の約8割、高齢女性の約6割は罰金以上の前科あり。前科・前歴のない者はごく少数
  • 約半数が罰金。非高齢群と比べて、罰金・単純執行猶予の割合が高い
  • 罰金処分から約2年間で、高齢男性の18.6%、高齢女性の34.2%が再犯

このような傾向をふまえ、今後の対応として、「高齢万引き事犯者は何度も処分を受けながら犯行を繰り返しているが、矯正・保護の処遇を受ける者は限られることから、有効な働き掛けを模索、必要な者には積極的に保護観察を求めることが必要」、「更生に資する環境がありながら再犯する者の存在(高齢女性)に対しては、専門家による問題の解明・専門的な指導(保護観察所・少年鑑別所の活用)などが考えられる」といった指摘がなされています。

さて、関連して、最近の犯罪抑止・防犯に関する報道からいくつか紹介します。

  • 昨年の渋谷のハロウィーン時に軽自動車を横転させた事件で、警視庁はあれだけの雑踏の中から犯人を特定して男4人を逮捕までこぎつけています。報道(平成30年12月15日付毎日新聞)によれば、警視庁は、渋谷地区だけで約20台の街頭防犯カメラを設置しているといい、常時モニターしながら録画もしており、捜査員たちはこれらの映像に加え、近くのビルや商店、駅の改札などにある民間の防犯カメラ映像を収集したといいます。正に、点と点をつなぎ合わせて、事件現場から容疑者の自宅や関係先までを一本の線で結ぶ捜査手法(リレー方式)を駆使したとされます。全国には500万台を超える防犯カメラが設置されているほか、平成21年に発足した警視庁の捜査支援分析センター(SSBC)には映像解析の専門チームもあるということです。冒頭のテロリスクへの対応の項でも指摘した通り、今年(2019年)はG20大阪サミットやラグビーW杯の開催、2020年は東京五輪と大きなイベントが続き、日本国内でのテロのリスクが高まっています。群衆を狙う「ソフトターゲット」手法への備えが重要となっていますが、その抑止策の一つとして、今回のような摘発事例を周知することは極めて重要な意味を持つものと思われます(自爆を覚悟しているテロリストに対しては、AIと顔認証を組み合わせて、リアルタイムで監視していることを知らせるところまで求められると言えます)。
  • ALSOKの調査によると、防犯カメラについて、7割の人が「あると安心」と感じているということが分かりました。この結果から、防犯カメラの設置が犯罪抑止に一役買っていると捉えることできると思います。過去の同様の調査と比較しても、安心と感じている人と設置の増加を求める人はともに増加しており、安心を感じる理由として、「犯罪の抑止」が最も多く、「事件の早期解決」が続いています。また、設置を望む場所は、駅や駐車場、商店街など不特定多数の人が集まる場所が上位に挙がったということです。なお、防犯カメラの抑止効果が最も高いのは「自転車等の窃盗」であることが、自治体が行った過去の調査からも判明しており、防犯カメラの存在について周知することが、テロをはじめとする犯罪を抑止し、住民に安心感を与えるものとして重要だと言えます。
  • 犯罪が起こりやすいとされる年末年始に、青パト(青色回転灯を装備する自動車を使用し、かつ、青色回転灯を点灯させて行う自主防犯パトロールのことをいいます)の防犯パトロールに注目が集まっているとの報道がありました(平成30年12月27日付読売新聞)。それによると、広島県内では、中学生への声かけ事案で逮捕された容疑者が、「防犯ボランティアがいる時は犯行をやめた」と供述した事例もあったということです。
  • 警察庁は、犯罪捜査へのAI活用に向けた実証実験を今年から開始するということです。報道(平成31年1月5日付産経新聞)によれば、防犯カメラの普及で、犯罪現場で不審な人物、車両などが写り込む可能性が高まっており、現状では画像を目でチェックするため膨大な労力が必要となっているところ、警察庁は、データを学習し情報を絞り込み精度とスピードを向上できるAIの特徴に注目、捜査の迅速化に期待を寄せているということです。
  • 児童虐待の通告件数が増え続ける中、三重県と産業技術総合研究所は来年度、子どもの一時保護の必要性を判断するためのAI端末を一部現場に配備するということです。過去のデータを取り込み、再発率の予測や体の傷の識別など蓄積データなどに基づいた迅速な決定に役立ち、職員の負担軽減も期待できるといいます。

4.犯罪統計資料

警察庁から平成30年1月から11月までの犯罪統計資料が公表されていますので、簡単に紹介しておきたいと思います。

▼警察庁 犯罪統計資料(平成30年1~11月分)

平成30年1~11月の刑法犯全体の認知件数は754,352件(前年同期842,565件、前年同期比▲10.5%)、検挙件数は288,867件(304,098件、▲5.0%)と認知件数が1割以上減少した一方で検挙件数の減少幅は5%に抑えられ、結果として、検挙率は38.3%(36.1%、+2.2P)と上昇しています。そのうち、もっとも件数の多い窃盗犯については、認知件数は537,716件(603,450件、▲10.9%)、検挙件数は178,710件(191,134件、▲6.5%)、検挙率は33.2%(31.7%、+1.5P)となっており、検挙率は全体を下回り、窃盗犯の検挙の難しさを感じさせます。また、知能犯の認知件数は38,881件(42,823件、▲9.2%)、検挙件数は18,350件(19,378件、▲5.3%)、検挙率は47.2%(45.3%、+1.9P)、そのうち詐欺の認知件数は35,148件(38,808件、▲9.4%)、検挙件数は15,348件(16,094件、▲4.6%)、検挙率は43.7%(41.5%、+2.2P)とであり、全体的な傾向は同じであるものの、窃盗犯に比べて検挙率が高いことが分かります(ただし、前述した通り、特殊詐欺の検挙率は25%程度とかなり低くなっており、今後の大きな課題だと言えます)。本コラムで紹介しているように、様々な犯罪抑止や摘発に向けた取組み・工夫がなされていることもあり、検挙率をもっと高めることは可能だと思われます。結果として、「詐欺は捕まる」といった認識がもっと広がることが犯罪を抑止することにつながるとも言えます。その意味では、万引きの認知件数は91,686件(98,614件、7.0%)、検挙件数は66,371件(69,580件、▲4.6%)、検挙率は72.4%(70.6%、+1.8P)であり、クレプトマニア(窃盗症)や常習犯にせよ、好奇心からの犯罪にせよ、万引きこそ「捕まる」ことを、抑止策としてもっと周知してもよいのではないかと思われます。
 また、特別法犯全体の認知件数は68,847件(67,476件、+2.0%)、検挙人員は58,440人(57,748人、+1.2P)となっており、刑法犯とは逆に増加傾向にある点に注意が必要です。本コラムとの関係でいえば、例えば、入管法違反の認知件数は4,791件(3,948件、+21.4%)、検挙人員は3,772人(3,159人、+19.4%)と急激な増加傾向が見られます。薬物関連でいえば、麻薬等取締法違反の認知件数は779件(744件、+4.7%)、検挙人員は369人(358人、+3.1%)、大麻取締法違反の認知件数は4,257件(3,573件、+19.1%)、検挙人員は3,209人(2,691人、+19.2%)、覚せい剤取締法違反の認知件数は12,905件(13,100件、▲1.5%)、検挙人員は9,009人(9,172人、▲1.8%)となっており、やはり、大麻事犯の増加が顕著であることが分かります。
 属性別では、来日外国人による刑法犯・特別法犯の検挙件数は15,170件(15,645件、▲3.0%)、検挙人員は10,295人(9,828人、+4.8%)、来日外国人による重要窃盗犯の検挙人員は219人(259人)、中国39人(60人)、ベトナム34人(51人)、ブラジル26人(29人)、韓国・朝鮮21人(16人)、フィリピン11人(15人)といった状況です。また、暴力団犯罪については、暴力団(刑法犯)全体の検挙件数は17,626件(19,284件、▲8.6%)、検挙人員は9,082人(9,619人、▲5.6%)、暴力団(特別法犯)全体の検挙件数は9,001件(9,599件、▲6.2%)、検挙人員は6,593人(6,919人、▲4.7%)などとなっています。現時点で、平成30年末時点の暴力団構成員等の人数等は公表されていませんが、ここ最近は10%超の減少傾向にあるとはいえ、いくぶん減少幅が緩やかになった印象があるところ、摘発された暴力団員等の検挙件数等の減少幅を見る限り、暴力団員等の人数の減少幅については10%を切るような水準ではないかと推測されます。なお、暴排条例違反の検挙件数は17件(11件、+54.5%)、検挙人員は53人(59人、▲10.2%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は153件(187件、▲18.2%)、検挙人員は46人(62人、▲25.8%)、大麻取締法違反の検挙件数は1,079件(1,011件、+6.7%)、検挙人員は712人(694人、+2.6%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は6,223件(6,471件、▲3.8%)、検挙人員は4,290人(4,423人、▲3.0%)などとなっており、やはり、大麻への暴力団の関与に注意が必要な状況だと言えます。

5.金の密輸を巡る動向

本コラムでもたびたび取り上げている金の密輸対策の最近の動向について、以下の報道(平成31年1月3日付時事通信)に詳しく、よく整理されていることもあり、引用して紹介します(下線部は筆者)。

国内に密輸され税関が2018年に摘発した金地金の押収量が、過去最多だった17年から半減する見込みであることが3日までに分かった。罰則強化の影響とみられるが、摘発件数は高止まりしたまま。10月の消費税増税により不正な利ざやも増えることから、税関や国税庁などは監視を強化している。金は輸入時に税関で消費税を納める必要があるが、これを密輸で免れて国内で売却すると、上乗せされた消費税分が利ざやとして手に入る。金は正規の流通ルートで輸出されるが、輸出した商社には消費税が還付されるため、国庫から流出した税額分が密輸業者に渡る格好だ。金密輸は14年の消費税8%引き上げ後に急増。税関による17年の摘発件数は前年比1.6倍の1,347件、押収量は同2.2倍の約6.2トンと、いずれも過去最多だった。しかし、18年1~9月の摘発件数は1,011件と高止まりしたままで、押収量は約1.9トンにとどまる。年間推計では約2.5トンと、17年から半減する見通しだ。政府は18年4月、改正関税法などを施行し、密輸に対する罰金を貨物価格の5倍に大幅引き上げ。1億円の金塊を密輸すれば、最大5億円の罰金を科せるようになった。こうした対策で密輸の小口化が進んだとみられるが、航空機での持ち込みが大半だった手口は巧妙化。国際郵便を使った密輸や外国人客を装ったクルーズ船での持ち込みなども増えている。関係機関も監視を強める。流通業者を監督する経済産業省は18年4月、不審な取引の報告を怠った買い取り業者6社を初めて行政処分した。国税庁も18年7月、金密輸など消費税の脱税を分析する専従チームを東京、大阪、福岡の3国税局に設置。同庁担当者は「消費税制度の信頼を揺るがす金密輸は徹底的に調査する」と話す。

上記に補足するとすれば、財務省が、金の買い取り業者に売り手の身元確認の厳格化を求めるほか、最終的な転売先となっている大手商社などにも密輸品を買い取らないよう要請していること、また、福岡空港や宮崎空港からの密輸が増えている背景として、航空運賃が安くなり運搬コストが下がっている点も看過できないところです。例えば、格安航空会社(LCC)の就航・増便で航空運賃が低下しており、地理的に近い韓国-福岡間は格安チケットなら1万円台で往復できる現実があります。さらに、報道によれば、摘発件数のうち約4割が韓国からの密輸で、福岡空港での摘発が増えているということです(最近では、韓国の犯行グループが「福岡空港は摘発されるとのうわさが密輸関係者の中で広まり、韓国から比較的近く、航空運賃が抑えられる宮崎空港に目を付けた」、「宮崎は検査少ない」と公判で供述するなど、福岡空港のチェックが厳格化したため宮崎空港にシフトしている実態があることは、以前の本コラムでも紹介した通りです)。

さて、税関では平成29年11月に「ストップ金密輸」緊急対策を公表しており、金密輸を阻止するための緊急かつ抜本的な対策として、以下の骨格を掲げていますので、参考までに紹介しておきます。

  • 基本的な考え方
    • 迅速で円滑な通関を行うとともに、これまでにない広範で厳格な密輸取締り
    • 関係省庁と連携した総合的な対策
    • 緊急かつ抜本的な対策として早急に実施
  • 第一の柱 検査の強化
    • 旅客、商業貨物、国際郵便物、航空機内の検査強化
    • 門型金属探知機の新規配備やX線検査装置の拡充による効率的な検査
    • 監視艇の活用による洋上取引対策
  • 第二の柱 処罰の強化
    • 厳正な通告処分の実施
    • 告発の増加を目指し、警察、検察、海上保安庁など関係機関との連携強化
    • 東京、大阪、門司税関に特別調査チームを編成
    • 罰則の強化
  • 第三の柱 情報収集・分析の充実
    • 関係者や広く国民の皆様からの情報収集(密輸ダイヤルの活用)
    • 国内外の関係機関との情報共有・連携強化
    • 情報分析力の強化
    • 国内流通経路におけるコンプライアンスの確保
(7) 北朝鮮リスクを巡る動向

年が明けて、トランプ米大統領は北朝鮮との第2回米朝首脳会談の可能性を匂わせ、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が中国の周近平国家主席と会談するなど実現に向けた動きが加速しています。しかしながら、一方で米国は、北朝鮮の求める経済制裁解除に応じない構えを崩しておらず、再会談に向けた調整がこのまま順調に進むかどうかは不透明な状況です。その北朝鮮に対する経済制裁については、「制裁逃れ」と「監視強化」を巡っていくつかトピックスがありますので、紹介します。
 まず、(厳密には「制裁逃れ」ではないかもしれませんが)韓国駆逐艦による海上自衛隊哨戒機への火器管制レーダーの照射問題では、北朝鮮の漁船を(人道主義的に)救助する様子が動画に映っていましたが、現場は好漁場の「大和堆」の周辺で、大量の北朝鮮漁船によるイカの密漁が問題となっているところ、「韓国軍は北朝鮮漁船の救助に普段から関わっている可能性があり、日本に知られたくなかったのではないか」との政府関係者の話(平成30年12月28日付読売新聞)は説得力があるように思われます。あるいは、わざわざ駆逐艦を派遣している状況は何らかの意図が隠されている可能性も否定できず、いずれにせよ、韓国が北朝鮮に対して日頃から何らかの支援をしている可能性が公になることを隠そうとしたという見立ては考えられるところです(その事実を含め、今後、日本の主張の正当性が証明されるとともに、真相解明が進むことを期待したいと思います)。また、「制裁」に抵触する可能性があるケースとして、韓国の文大統領が9月の南北首脳会談で北朝鮮の金正委員長と平壌市内のパレードで乗ったオープンカーについて、国連安全保障理事会(国連安保理)の制裁に違反する疑いがあることが指摘されています(平成30年12月1日付産経新聞)。報道によれば、車両価格は約1億円に上るとされ、国連安保理が禁じている2006年から北朝鮮へのぜいたく品輸出に抵触する可能性があるというものです。実際のところ、国連安保理の制裁委員会の専門家パネルは16年、中国人実業家が防弾仕様のベンツを違法に北朝鮮に輸出した疑いを報告書で指摘し、米政府は昨年9月、この中国人と経営する会社を制裁対象に加えています。さらに、金委員長が文大統領に贈ったマツタケ2トンや、制裁対象である平壌の美術工房への文大統領の視察に関しても、安保理が制裁に抵触しないか調べているということです。さらに、「制裁」に抵触する可能性のあるものとしては、韓国と北朝鮮が共同で着した、1950─53年の朝鮮戦争以降分断されている鉄道と道路を再連結する事業については、工事開始に必要な資材や投資は、北朝鮮の核・ミサイル計画を巡って科されている国連と米国の制裁によって禁じられているため、工事が開始できない状況になっていることがあげられます。このように、北朝鮮に対する経済制裁を遵守すべき韓国自身が、政府レベルで経済制裁に抵触しかねない動きを見せていることは大きな問題があると言えます。一方の北朝鮮は、日本や米国が連携して「瀬取り」の監視を強化している動きに対し、朝鮮半島から遠く離れた海域や、他国の領海内での密輸取引を行うことで監視を逃れていると言われています。また、発見されにくい小型船舶の利用も増やしているとされ、これらと火器管制レーダー照射事件の関連を見ることも不自然ではないのではないかと思われます。一方、日本も、北朝鮮の「瀬取り」監視を強化する取り組みの一環として、太平洋島嶼国の人材育成を進めるということです。計画では、海上保安庁の担当職員や国際法の有識者をフィジーの南太平洋大学に派遣し、ミクロネシア連邦やマーシャル諸島など14か国の海上保安業務に携わる若手行政官に3週間、研修を実施するということです。また、研修では、制裁決議の内容や関連する国際法の規定を解説した上で、不審船が北朝鮮に関係しているかどうかを見分ける手法や積み荷を検査する仕方など実践的な対処方法を指導するといったものとなっています。一方、米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障再考委員会」が年次報告書を公表、米財務省に対して、中国が制裁措置を緩和しだしているとして、中国の制裁実施状況について180日以内に報告するよう求めています。また、米財務省に対しては、報告をまとめる際、北朝鮮との取引に関与しているため将来的に制裁対象に指定する可能性がある中国の金融機関や企業、高官らを列挙する機密扱いのリストを作成すべきと提言しています。通商問題で火種を抱える米中ですが、北朝鮮に対する経済制裁を巡っても対立が激化する可能性も否定できないところです。

さて、北朝鮮は表向き、米朝会談後、核施設の査察受け入れに前向きな姿勢を見せるなど柔軟な姿勢を示している一方で、以下のような実態も報道されており、油断できない状況だと言えます。

  • 米政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)は、北朝鮮が公表していない約20カ所の弾道ミサイル運用基地のうち少なくとも13カ所を特定したとする報告書を発表しています。うち数カ所では施設の保全や改良が行われているとされ、北朝鮮がトランプ政権との非核化協議を続ける意思を示す一方で核・ミサイル開発の進展を図っている実態が浮き彫りとなっています。CSISが特定した北朝鮮の非公表の弾道ミサイル運用基地のうち、韓国・ソウルに最も近い「サッカンモル基地」の衛星画像には、山間部に地下施設や兵舎、車両整備場などが配されていることが読み取れます。
  • 北朝鮮の朝鮮中央通信は、金員長が新たに開発された「先端戦術兵器」の実験を視察したと報じています。兵器の種類は不明とのことですが、金委員長の兵器実験視察報道は平成29年11月末の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」発射実験以来、約1年ぶりとなります。北朝鮮はこれを最後に弾道ミサイル発射を停止していますが、非核化を巡る米朝交渉が停滞している中、制裁を堅持する米トランプ政権をけん制する狙いもありそうです。
  • 米メディアは、米大学の研究者らが衛星写真を分析した結果として、北朝鮮が6月の米朝首脳会談後も、山岳地帯にあるミサイル基地で新たな施設の建設を続けていると報じています。報道(平成30年12月6日付読売新聞)によれば、ミサイルの収納用とみられる5か所の地下トンネルなど非常に巨大な地下施設で、外部からわからないようにする作業も行われていたといい、核弾頭を搭載し、米本土を攻撃可能な長距離弾道ミサイルの発射拠点となる可能性もあると指摘しています。
  • 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射中止を宣言した後も開発を継続し、昨年12月上旬には、電波信号の発射実験を行っていたことが分かったということです。報道(平成30年12月30日付読売新聞)によれば、ICBM発射に先立ち、地上でテレメトリーの実験を行うことが多く、ミサイル発射の前兆を示す重要情報とされるとのことです。石油供給を制限する制裁にもかかわらず北朝鮮軍は従来通りの訓練を続けており、日米両政府は公海上での密輸監視などを強化するとしています。
  • 北朝鮮が関与するハッカー集団「ラザルス」が、銀行の金融取引ネットワークに関わるサーバにコンピューターウイルスを侵入させる手口で、ATMから繰り返し不正に現金を引き出していたようです。攻撃はアフリカやアジアの銀行を標的に、少なくとも2016年後半から続いているとされ、被害総額は数十億円に上るとみられます。「ラザルス」は最近動きを活発化させており、日本国内でも警戒が必要な状況です。「ラザルス」については、昨年、仮想通貨取引用ソフトの開発会社を装い、サイト上で仮想通貨の取引用アプリケーションに見せかけ、トロイの木馬を配布したと見られる攻撃を仕掛けていますが、それ以外にも、2017年の「WannaCry」ランサムウェアの大規模感染等への関与も指摘されています。さらに、北朝鮮が関与したとされるサイバー攻撃としては、2016年2月に国際金融取引システム「SWIFT」が不正アクセスを受け、バングラディシュ中央銀行が8,100万ドルの被害が発生したものが有名ですが、「ATP38」と呼ばれるグループが関与したものも有名です。

その他、日本海沿岸で北朝鮮籍とみられる木造船の漂流・漂着が昨年も相次ぎました。報道によれば、昨年11月上旬の時点で89件が確認され、過去最多だった平成29年の104件に迫るほどだといいます。日本の排他的経済水域(EEZ)内では、密輸による外貨獲得などが目的とみられる北朝鮮漁船の違法操業が確認されており、海上保安庁は漂流・漂着船の多くがこうした漁船とみています。
 また、政府は、この1月8日より、全国瞬時警報システム(Jアラート)を使って北朝鮮が発射した弾道ミサイルの情報を住民に伝える際の基準を見直しています。これまでは落下が予測される対象地域を北海道や東北など9つの地方単位で示していましたが、今後は47都道府県単位に絞り込むことになりました。さらに、落下予測時間も示し、住民が早期に避難できるようにするということです。

▼内閣官房 国民保護ポータルサイト Jアラートによる情報伝達について

なお、北朝鮮の弾道ミサイル発射のリスクが減少したとはいえ、あらためて、弾道ミサイルが発射された時の行動について、ポイントを抜粋して紹介しておきます(内閣官房「国民保護ポータルサイト」を是非確認のうえ、社内研修等に活用していただきたいと思います)。

▼内閣官房「国民保護ポータルサイト」 弾道ミサイル落下時の行動に関するQ&A
  • 弾道ミサイルが日本に飛来する可能性がある場合には、弾道ミサイル発射の情報を伝達し、避難を呼びかけます。屋外にいる場合は近くの建物(できれば頑丈な建物)の中又は地下(地下街や地下駅舎などの地下施設)に避難してください。屋内にいる場合は、すぐに避難できるところに頑丈な建物や地下があれば直ちにそちらに避難して下さい。それができなければ、できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動してください。なお、ミサイルが日本の領土・領海に落下する可能性があると判断した場合には、その時点で改めて、ミサイルが落下する可能性がある旨を伝達し、直ちに避難することを呼びかけます
  • 近くに頑丈な建物又は地下がない場合、近くの建物の中へ避難してください。近くに避難できる建物がない場合には、物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守ってください
  • 自宅にいる場合、すぐに避難できるところに、より頑丈な建物や地下(地下街、地下駅舎などの地下施設)があれば直ちにそちらに避難してください。それができない場合は、自宅で、できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動してください
  • 自動車の車内にいる場合、車は燃料のガソリンなどに引火するおそれがあります。車を止めて近くの建物(できれば頑丈な建物)の中又は地下(地下街、地下駅舎などの地下施設)に避難してください。周囲に避難できる建物又は地下施設がない場合、車から離れて地面に伏せ、頭部を守ってください
  • 「ミサイルが●●地方に落下した」との情報伝達があった場合、続報を伝達しますので、引き続き屋内に避難して下さい。弾頭の種類に応じて被害の様相や対応が大きく異なります。そのため、テレビ、ラジオ、インターネットなどを通じて情報収集に努めてください。また、行政からの指示があればそれに従って、落ち着いて行動してください。もし、近くにミサイルが着弾した場合は、弾頭の種類に応じて被害の及ぶ範囲などが異なりますが、次のように行動してください
  • 屋外にいる場合は、口と鼻をハンカチで覆いながら、現場から直ちに離れ、密閉性の高い屋内の部屋または風上に避難してください
  • 屋内にいる場合は、換気扇を止め、窓を閉め、目張りをして室内を密閉してください

3.暴排条例等の状況

(1) 暴排条例による勧告事例(兵庫県)

暴力団事務所の外壁塗装工事などを請け負ったとして、兵庫県公安委員会は、兵庫県暴排条例に基づき、同県姫路市の建設業者2社に、再び工事の契約を結ばないよう勧告しています。報道によると、2社は昨年秋、暴力団事務所であることを知りながら、姫路市内の建物の外壁塗装に関わる工事を受注したということですが、そのうち1社は、昨年夏に、別の暴力団事務所でも外壁塗装用足場の建設を請け負ったということです。今回の事例は、兵庫県暴排条例第20条第2項「暴力団員又は暴力団員が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることを知って、利益の供与をしてはならない」に抵触したものといえ、利益供与の典型的な事例かと思います(うち1社は2回目でもあることから、悪質性はより高いと言えます)。

▼兵庫県警察 兵庫県暴力団排除条例

さて、この兵庫県暴排条例には特有の規定がありますので、あわせて紹介しておきます。実は、本条例では、「準暴力団事務所」として、「暴力団の幹部(法第3条第2号に規定する幹部をいう。)が当該暴力団の活動のために行う連絡又は待機の用に供されている施設又は施設の区画された部分その他の暴力団事務所に準ずるもの」を定め、暴力団事務所とあわせ「暴力団事務所等」として規制の対象としています。さらには、「第4章住民等に不安を覚えさせる行為の禁止等」との規定もあり、第18条(準暴力団事務所等における禁止行為)では、「指定暴力団の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、指定暴力団の準暴力団事務所又はその周辺において、著しく粗野若しくは乱暴な言動を行い、又は威勢を示すことにより、付近の住民又は通行人に不安を覚えさせる行為をしてはならない」、第19条(準暴力団事務所等における禁止行為に対する措置)に、「警察署長は、指定暴力団員が前条の規定に違反する行為をしており、付近の住民若しくは通行人の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」といった規定も定められており、3つの山口組の本拠事務所(さらには直系団体等の神戸市周辺の拠点等)を抱える自治体ならではの、他の条例にはない珍しいかつ厳格な規定となっています。また、昨年8月1日からは、第13条「暴力団事務所等の運営の禁止」において、他の暴排条例と同じく学校等の周囲200メートル以内の区域での暴力団事務所の運営が禁止されているのに加え、「都市計画法(昭和43年法律第100号)第8条第1項第1号に規定する第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、第1種中高層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域、第1種住居地域、第2種住居地域、準住居地域、近隣商業地域若しくは商業地域においては、これを運営してはならない」と、規制の網を従来の従来の住居系地域から、商業系地域にまで広げており、全国でも初の試みとして注目されています。当然ながら、前述した通り、県内に本拠事務所などを置く3つの山口組等の拠点作りを封じ、組織の弱体化を図る狙いがありますが、最近、暴力団対策法に基づき各地の暴追センターが地域住民の委託を受けて組事務所の使用差し止め請求や立ち退き請求を行う動きを活発化させていることとあわせ、その効果が期待されるところです。
 また、今年2月1日から施行される改正条例においては、「暴力団排除特別強化地域」を新たに指定、みかじめ料について、組員と支払った店側の双方に罰則を設けることになりました。現行法でも、みかじめ料を脅し取れば恐喝罪に当たりますが、立件のハードルが高いとされており、金銭を授受する行為そのものを処罰対象とする内容であり、すでに多くの自治体で導入されているものです。なお、具体的には、現行の第29条(罰則)における「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」対象として、「相手方が暴力団員又は暴力団員が指定した者であることの情を知って、第24条第1項又は第2項の規定(注:特定接客事業者に用心棒等の役務の提供を受けること・利益を供与することを禁止する規定)に違反した者」が追加されますが、一方では、「第1項第3号の罪(注:前述の特定接客事業者の罰則を受けることとなる行為)を犯した者が自首したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる」とリニエンシー規定も盛り込まれています。

(2) 暴排条例による勧告事例(北海道)

暴力団員らが密漁したナマコと知りながら、計555キロ(約230万円相当)を仕入れたとして、北海道公安委員会は、北海道暴排条例(北海道暴力団の排除の推進に関する条例)に基づき、札幌市の水産物加工業者に対し、暴力団を利用しないよう勧告しています。報道によれば、この業者は平成30年5月20日ごろから31日ごろまで、計3回ナマコを仕入れたといいますが、北海道警は昨年6月、稚内市の海岸でナマコ約400キロを密漁した疑いで暴力団組員らを逮捕(本事件では18人が逮捕されています)、その流通先を調べたところ、この業者が仕入れていたことが発覚したというものです。日本で取引されるナマコやアワビなどはそのおよそ半分(絶滅危惧種のウナギはおよそ3分の2)が密漁・密流通であると言われ、中国において高値で取引されるナマコの密漁に暴力団が関与していることは以前から指摘されていたところです。その流通に関与した事業者を暴排条例で勧告した意義は大きく、再度関与するなど悪質が高ければ事業者名が公表される可能性もあることから、他の関係者に対しても強いけん制となるものと期待したいと思います。

▼北海道暴力団の排除の推進に関する条例

報道内容から、本件は、同条例第14条(暴力団利用行為等の禁止)第2項「事業者は、その行う事業に関し、財産上の不当な利益を図る目的で暴力団員等を利用してはならない」、または、第3項「事業者は、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が依頼した者が不正の方法を用いて得た物品であることを知り、又は知り得べき状態にありながら、これを譲り受けてはならない」、あるいは、第15条(利益供与の禁止)第2項「事業者は、前項に定めるもののほか、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、情を知って、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる財産上の利益の供与をしてはならない」といった規定に抵触したものと考えられます。また、その公表措置については、第23条(公表)「北海道公安委員会は、正当な理由がなく第21条の規定による報告若しくは資料の提出をしなかった者又は前条の規定による勧告に従わない者があるときは、その旨を公表することができる」と定められています。

(3) 東京都暴排条例による逮捕(不起訴)事例

前回の本コラム(暴排トピックス2018年12月号)で紹介した、中学校の近くに暴力団の組事務所を開設したとして、警視庁組織犯罪対策3課が、東京都暴排条例違反などの疑いで、住吉会の3次団体「堺組」組長と同組幹ら4人を逮捕した事件について、東京地検は不起訴処分としています(処分理由は明らかにされていません)。
 なお、この事例は、報道によれば、中学校の約60メートル先の住宅に組事務所を開設、組長の男は「事務所ではない」と容疑を否認しており、組幹部の男らはこの家にスポーツジム運営会社を登記し、室内にバーベルなどを置くなどして仮装していたと見られ、警視庁は、出入りしているのは主に組員と組関係者で、ジムの実態はないと断定していたものです。さらには、この組幹部の男は「関東連合OB」の元メンバーで、昨年頃からこの組に当時の仲間の加入が相次いでいることも確認されていました。

(4) 石川県暴排条例の改正

石川県議会12月定例会は、金沢市内の繁華街などに暴力団事務所を新設できないようにする石川県暴排条例の一部改正案を可決、この1月1日から施行されています。

▼石川県警察 石川県暴力団排除条例の一部改正(案)の概要

本文書では、改正の理由を、「県内では、平成29年11月、県外の暴力団構成員が金沢市内において、不正に駐車場契約をした詐欺事件が発生し、平成30年6月には、飲食店経営者を対象とした県外の暴力団組長によるみかじめ料恐喝事件が発生するなど、県外暴力団の県内進出が顕著となりました。また、暴力団員は、その活動を行うに当たり他人の名義を利用し、警察の取締りを免れることが往々にして行われていることも明らかとなってきました。そこで、現在の暴力団を取り巻く社会情勢の変化に応じた規制の強化が必要であると判断し、条例改正をすることにしました」と説明しています。本コラムでも指摘しましたが、北陸新幹線の開業に伴い、北陸地方に特殊詐欺に代表される犯罪組織が進出している実態があること、名義貸しやなりすましによる暴力団員の摘発逃れの害悪が拡がっている実態があることが読み取れます。
 さて、その改正の具体的な内容としては、まず、「暴力団事務所の開設・運営禁止区域の拡大」として、従来の学校等に加え、都市公園法に規定する「都市公園」の周囲200メートルを規制区域として追加したこと、都市計画法に規定する「住居系用途地域」、「商業系用途地域」、「工業系用途地域」を規制区域として新設したこと、この調査のための警察職員による立入検査を新設したことがあげられます。このうち、商業系・工業系用途地域を規制区域として拡大している点は、前述の兵庫県暴排条例と同様であり、これにより暴力団事務所の新設は金沢市のほぼ全域で禁止されることになるなど、全国的にも厳しい内容となったものと思われます。また、新たに「暴力団排除特別強化地域」が設けられ、特定営業(風俗営業、性風俗関連特殊営業、深夜酒類提供飲食店営業など)における規制が強化されましたが、これについては最近の暴排条例の改定動向に同じとなります。

(5) 松山市暴排条例の改正

愛媛県松山市は、この1月1日から愛媛県内最大の歓楽街のある松山市一番町、二番町、三番町地区、道後湯之町などを「暴力団排除特別強化地域」に指定する改正市暴力団排除条例を施行しました(これまでは道後多幸町に限られていたものです)。他の暴排条例に同じく、同地域内ではみかじめ料を受け取った暴力団員はもちろん、提供した風俗店・飲食店側も捜査機関の摘発の対象となります。

▼松山市暴力団排除条例の一部改正(概要)

本コラムで市町村区レベルの暴排条例の動向を紹介するケースはほとんどありませんでしたが、今回の松山市の暴排条例改正の意義については、愛媛県暴排条例において「暴力団排除特別強化地域」に関する規定がいまだないことからも、極めて高いと言えます。愛媛県暴排条例自体は、平成22年8月1日施行からこれまで改正されたことがなく、全国の暴排条例と比較しても一般的な内容にとどまっており、しいて言えば、第18条(祭礼等からの暴力団の排除)において、「祭礼、花火大会、興行その他の公共の場所に多数人が特定の目的のために一時的に集合するような行事の主催者又はその運営に携わる者(以下「行事主催者等」という)は、次に掲げる行為をしてはならない」として、(1)当該行事に関し、暴力団を利用すること、(2)当該行事の運営に関与しようとする者が暴力団員であることを知りながら、これを関与させること(次号に該当するものを除く)、(3)当該行事において、みこし等の運行に参加しようとする者又は露店を出そうとする者が暴力団員であることを知りながら、これを参加させ、又はこれに露店を出させること、が定められている点がやや特徴と言えるかと思います。それに対して、松山市暴排条例については、一般的な市町村区の暴排条例同様、「市の公共工事の事務及び事業からの暴力団排除の推進」、「公共施設が、暴力団の活動に利用されると認める場合は、施設の使用の不許可又は使用の許可の取消しを行う」、「暴力団員又は暴力団関係業者との間で公共工事に関する契約を締結することを禁止」し、「誓約書の徴収や保管を義務付け」といった内容に加え、愛媛県暴排条例では規定のない「暴力団排除特別強化地域」を設けて「道後多幸町」における規制を強化する取り組みをすでに行っていたものであり、その取り組みは高く評価できるものと思います。
 なお、愛媛県警のサイトに愛媛県暴排条例による適用状況等が掲載されていましたので、紹介します。

▼愛媛県警察 暴力団対策室だより

愛媛県暴排条例適用状況として、平成22年以降平成29年末までの累計で、事業者に44件、暴力団に15件、祭礼の主催者10件に暴排条例に基づく勧告を発出しているということです。また、具体的な勧告の事例として以下のようなものが紹介されています。

  • ガソリンスタンド事業者が、暴力団員の自動車を無料で洗車し、利益を供与した行為
  • 秋祭りにおいて、神輿の鉢合わせの際に、暴力団員をかき夫として神輿の運行に参加させた行為
  • 秋祭りにおいて、暴力団事務所を神輿の御旅所にする等、暴力団員を神輿の運営に関与させた行為
  • 暴力団が資金源として販売する門松を購入し、暴力団員に利益を供与した行為
  • 風俗店経営者が用心棒名目で暴力団に現金を供与した行為
(6) 暴力団との密接交際を巡る最近の事例

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産「戸畑祇園大山笠」振興会の前運営委員長らが、工藤会系組長の長寿を祝う宴会に出席していたことがわかりました。この宴会には、振興会の幹部では当時の運営委員長、顧問、四つある大山笠の総代表6人のうち運営委員会副委員長を兼ねる4人の計6人が出席していたとのことで、顧問は、北九州市暴力追放推進会議を構成する北九州市商業総連合会長も務めていたということです。すでに6人は役職を解任されたり、辞任したりしており、運営委員長は現在空席となっています。工藤会を巡っては、前述の通り、本部事務所売却が実現するなど、正に「頂上作戦」の最大の成果とも言えるべき状況にあって、市や公的な団体の要職を務める暴排を推進すべき立場の人間が、いまだ暴力団と密接交際があった事実は大変重いと言えます(報道によれば、「出るしかなかった」と言っているようですが、暴排に向けて官民が強固に連携している中、そのような弁明は通用しないのは明らかです)。さらには、戸畑祇園大山笠は平成28年にユネスコの無形文化遺産に登録されていますが、同振興会は平成29年に暴排条項(暴力団排除条項)を会則に新設して組員と密接な関係にある人物の役員就任を禁じ、担ぎ手名簿を福岡県警に提出するなど暴排に取り組んでいた矢先のことでした。報道によれば、北九州市長は、「(補助金交付について)新体制になって相談を受けたときに考えたい」、「今後、新しい役員の下、運営体制がつくられると思う。市民と行政も一緒になって再生と継続に向けて汗をかきたい」と述べているようですが、状況から推察するに、個人の問題ではなく組織(団体)の体質を問われているのであって、本来は、速やかに補助金の交付をいったん停止し、新たな体制で十分な暴排態勢が確立できたことを確認できた段階でその禁止措置を解除すべきではないかと思われます。

前回の本コラム(暴排トピックス2018年12月号)でも紹介しましたが、売春による収益と知りながら店舗の賃料計135万円を六代目山口組直系団体の極心連合会幹部から受け取ったとして、格安スーパーとして知られる「スーパー玉出」の創業者が組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)で逮捕されました。本件は、その後、大阪区検が略式起訴し、大阪簡裁は罰金30万円の略式命令を出しています。この創業者については、過去、在留資格のないフィリピン人らを不法就労させたとして、大阪府警が入管難民法違反(不法就労助長)の疑いで逮捕しており、事務所から暴力団の「代紋」が入った灰皿などが見つかったと言われるほか、最近の週刊誌では、同氏が数年前から病院買収を手掛けるブローカーの「金主」と囁かれていたこと、自らも大阪市内の病院のオーナーであったこと、この病院が、暴力団が病院とグルになって生活保護者を通院させて診療報酬の点数を稼ぐ「貧困ビジネス」の舞台となっていたのではないかと疑われているといった報道もありました。いずれにせよ、このような「密接交際者」は、今の暴排(反社会的勢力排除)の考え方から言えば「共生者」であって、関係をもつことは基本的にNGです。スーパーの経営を外れていたとはいえ社長のまま逮捕されており、同社としては、今後、この社長との関係をきちんと絶ち、その他、反社会的勢力との関係がないかを徹底的に確認して、万が一関係があるものについては遮断していくといった「ホワイト化」の取り組みが不可欠となります。創業社長との関係を断つのは、事業継続も含めて困難が伴いますが、暴力団との関係も企業存続に係るリスクであり、徹底的な暴排に取り組んでいただきたいものだと思います。

また、密接交際者との関係遮断という点では、日本プロゴルフ協会が、暴力団関係者と交際していたため平成25年10月に退会処分を受けた元理事の再入会申請を認めないことを決定しています。同協会は、過去、複数の現役の副会長及び理事が指定暴力団会長等と密接な交際をしていたという不祥事があり、同会が公益社団法人としての資格はく奪の危機に晒されていたことを深く反省した対応として評価できると思います。

▼公益社団法人 日本プロゴルフ協会 公益認定委員会からの勧告書(平成26年4月1日)

参考までに、当時の公益認定委員会は、「貴法人は、暴力団排除を自ら再三掲げ、そのための取組を行ってきたとするが、本件事案は、暴力団排除を掲げ法人内で推進してきた副会長及び理事自らが、指定暴力団会長等と長期にわたり交際し、繰り返し金員を受けてとっていたものであり、しかもその交際の一部は公益目的事業に関連した用務出張の機会を舞台として行われている。単に暴力団排除の措置の実効性が上がっていないというにとどまらず、競技運営等の法人の業務執行に責任を有する複数の理事が関与していたことは、貴法人による公益目的事業の適正な執行にも疑いを抱かせる事態と言わざるを得ない」、「本件事案を調査するための第三者委員会の設置の必要性を再三否定し、内部調査の調査経過等の法人内部への説明や対外的な公表を怠ってきた。他の役員についての反社会的勢力との交際に関する確認についても、対象範囲の限定や実施時期の先延ばしを続け、代議員や会員の間における状況確認の実施も遅れた(そもそもその前提となる、本件事案についての法人内部の説明を行っていない)」、「公益法人の複数の現職役員が指定暴力団会長等と交際し、繰り返し金員を受け取っていたという事案であるにもかかわらず、貴法人においては、事案の重大性についての法人としての認識が極めて希薄であり、本件事案に係る客観的かつ徹底した事実解明と再発防止策が講じられず、また、厳正な対処がなされてこなかった」、「本件においては、内部調査の経過や結果が公表されておらず、法人内部でも代議員や会員への説明がなされていない」と指摘、その結果、「暴力団排除の対応が徹底されていない状態にある。よって、貴法人が公益認定法第6条第6号に該当するおそれがあり、同条に違反するとの疑いを合理的に払拭することができていない事態に至っている」といった厳しいものでした。

▼公益社団法人 日本プロゴルフ協会 PGAコンプライアンス情報

その後のコンプラアンス強化の取組み状況については、同協会の公式サイトに記載されていますが、それによれば、コンプライアンス委員会を中心としてコンプライアンスの徹底と暴力団排除方策の検討、実施に取り組み、平成28年5月31日に最後(4回目)となる2年間の活動を総括した報告書を提出、同7月25日に公益認定等委員会の事務局より、「委員会において報告書が承認されたので、当協会は通常の監督状態に戻ったとの連絡があった」との経緯が報告されています。そして、倉本会長名で、「勧告という状況は終了いたしましたが、これで全てが終わりではなく、先の不祥事を忘れることなく、「コンプライアンスに終わりはない」との認識の下、これからも暴力団排除とコンプライアンスの徹底に勤めてまいります」との宣言がなされています。今回の判断についても、この一連の不祥事の反省をふまえたものであったものと信じたいと思います。

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