暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

テロで燃える街を上空から見たイメージ画像

1.  テロリスクへの対応~事業者として取り組むべきこと(2)

一般の事業者においても、薬品の販売時、宿泊やネットカフェの利用時、賃貸契約やレンタカーの契約締結時などにおける本人確認の徹底(精度の向上)、ネット掲示板やSNSの監視によるテロ等の予告・準備の端緒の把握、自社の従業員の中に過激思想に染まった人間がいないか(いるか)をどう見抜くかなど、テロを未然に防止するために事業者ができること、すべきことはまだまだ多いと言えます。前回の本コラム(暴排トピックス2019年1月号)では、そのような思いから事業者としてテロリスクとどう対峙していくかを考えることとしました。今回も引き続き、同じ問題意識を持ちながら、最近のテロを巡る情勢について見ていきたいと思います。

まずは、最近あらためて注目を集めているイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)を巡る動向について確認したいと思います。前回も触れましたが、米はIS支配地を「100%奪還した」として、シリアからの撤退を決めました(正に現在、シリアで米軍の支援を受ける少数派クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が、ISの「最後の拠点」である東部バグズ村への攻撃を開始しており、この作戦終了によって、トランプ大統領が、「ISから100%奪還した」と正式に宣言する見込みです)。報道によれば、トランプ大統領は、政権発足後の2年間で「2万平方マイル(51,700平方キロ)以上のISの支配地を取り戻した」と説明、さらに、「彼らが天然資源を搾取したり、住民から徴税、また古代芸術品を破壊したりすることはできなくなった」と述べ、「国際的な連携によりISは掃討された」と強調しています。しかしながら、一方で、シリアから米軍が撤収した場合、IS掃討で米軍と共闘したシリアのクルド人部隊(SDF)とそれを敵視する隣国トルコ軍との衝突が懸念されています。衝突回避のため、米国はトルコ国境沿いに緩衝地帯を設定することをトルコに提案していますが、「協議はまだ結論に至っていない」ということです。実は、直近でも、シリアで米軍が巻き込まれるテロが発生しており、米軍のシリアでのテロ被害としては、2015年に地上部隊を派遣して以降、最悪のものです(なお、このテロは、部隊の撤退が本格化する直前の政治的に微妙な時期に起きており、絶妙なタイミングだと言えます)。さて、この米のシリアからの撤退に関する情勢認識については各方面から異論が噴出しています。ドイツのメルケル首相は、ISはシリアでの支配領域をほとんど失ったものの「壊滅から程遠い」とトランプ大統領の認識とは程遠い考えを示しています。また、(身内であるはずの)米国防総省は、米軍と有志連合がシリアやイラクで展開するIS掃討作戦に関する監察官報告書を公表し、米軍撤退の影響に関して、「持続的な圧力がなくなれば、ISは6か月から12か月の間に復活し、限定的領域を取り戻し得る」との米軍内の見解を示しています。さらに、シリアの特定地域に残存するIS戦闘員は約2,000人と推計し、外国からの戦闘員の加入も小規模ながら継続しているとしています。米政権内や議会で時期尚早として決断を疑問視する見方が広がっているところ、このように、米国防総省の見解はトランプ大統領の主張とは大きく異なっており、本報告書はそうした懸念を裏付ける内容となっています。(あくまで私見とはなりますが)2015年の最盛期にシリアとイラクで推計30,000人超の兵力を擁したISは、その多くがいま、他国へ移ったり、地下に潜伏したりして掃討を逃れている実態があるのは確かだと思われます。そして、戦闘的なジハード(聖戦)を通じて究極的には「世界をイスラム化する」とのイデオロギーはいまだ健在で、「リアルIS」から「思想的IS」へとその形態を変容させている状態であり、今後、情勢の流動化などに乗じてリアルな勢力を盛り返そうとする可能性(つまり、「思想的IS」から「リアルIS」への反攻)が極めて高いと考えるべきではないかと思われます(現に、ISの「東アジア州」を名乗り忠誠を誓うイスラム武装勢力「アブサヤフ」が、1月にフィリピンで20人が犠牲となるテロを起こしています。イスラム自治政府の樹立に向けた住民投票に反発したものとみられています)。また、ISのシリア撤退に関連して、米国務省は、シリアで拘束したISの外国人戦闘員を、出身国が引き取るよう要請する声明を発表しています。報道(平成31年2月5日付毎日新聞)によれば、シリアで米軍とともにIS掃討の主力部隊を担ったSDF(シリア民主軍)は、最大で3,000人のIS戦闘員を拘束しているとされていますが、米軍のシリア撤収決定に伴い、戦闘員の拘束維持が難しい状況になっていることが背景にあるとのことです。出身国は中東諸国を中心に欧米諸国も含めて30~40カ国と見られていますが、多くの国が引き取りを拒否している状況でもあり、その取り扱いを巡っては、今後も難航が予想されます(以前の本コラムでも取り上げた、外国人戦闘員のEUへの帰還を巡る反応、社会的影響の大きさなどを見ればその困難さが分かります)。

次に、日本国内におけるテロリスクへの対応についての最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 財務省は、税関長会議で1日発効した日本とEUの経済連携協定(EPA)や2018年末に発効した環太平洋経済連携協定(TPP)への対応を徹底することを確認しています。制度の円滑な実施に向け、原産地に関する決まりが守られているかの確認など税関での対応が重要なポイントとなりますが、6月のG20大阪サミットや9月のラグビーW杯など国際イベントが相次ぐこともあり、税関としてテロを防ぐため水際対策を徹底することも重要課題として取り組む方針だということです。また、先日来日したドイツのメルケル首相と安倍首相の首脳会談で、部隊の運用計画やテロ情勢など軍事機密を共有しやすくする「情報保護協定」を締結することについて大筋合意しています。情報保護協定は軍事情報や装備品の性能など防衛秘密を交換するための枠組みで、提供した情報の流出を防ぐため、相手国に厳しい情報管理を義務づけるものです。日本は既に米国、英国、オーストラリアなどと同協定を結んでいますが、これにより、より実効性ある国境を越えたテロ対策に取り組むことが可能となると見込まれています。
  • 政府が、今年2月24日に開く天皇陛下在位30年記念式典で、参列者と、事前に登録した顔写真を自動照合するシステムを利用して本人確認することが分かりました。政府主催行事で顔認証技術を導入するのは初めてということです。入場手続きの時間短縮に加え、参列者の成り済ましを防ぐテロ対策強化の狙いがあるとされます。顔認証技術を使えば、1人10秒ほどで受け付けが完了しますが、一方で、顔認証にはプライバシー侵害を懸念する声もあります(精度の向上は著しいものがあり、99%以上の確率で識別できるとされていますが、当然ながら100%ではなく、誤認や見逃しのリスクも残されている点は認識しておく必要があります)。
  • 新幹線にとっても国際的なテロリストなどの脅威をどう防ぐかは大きな課題です。航空機のように乗客の手荷物を検査したくても、現状では改札での混雑が避けられず、高速鉄道の利便性を保ちながら、いかに安全を担保するかが問われています。昨年6月に新幹線車内で発生した殺傷事件を経験してもなお、(利便性への配慮から)手荷物検査の導入には至っていないのが現実です。そのような状況に対し、静岡大学発スタートアップのANSeeN社がJR東日本と組み、現状より大幅に短い時間(4秒)で検査できる装置の開発を目指していることがわかりました。技術的な課題はクリアしつつあるものの、装置の大きさとコストの問題が大きな課題となっているようですが、今後、2020年の東京五輪・パラリンピックや2025年の大阪万博など国際イベントが相次ぐことから、安全な鉄道の運行への期待は大きくなる一方で、使い勝手の良い検査システムの導入は避けては通れないところ、一刻も早い実用化を期待したいと思います。
  • 中部空港で、実際に搭乗しなかった乗客の荷物を迅速に機外に運び出すシステム「航空機出発遅延抑制システム」の試験が進んでいるといいます。テロ防止などのために未搭乗者の荷物を積んで飛ぶことはできず、出発の遅れにつながり、遅れを取り戻すために飛行速度を上げたり、燃費が悪い低めの高度で飛ばざるを得なかったりして、余分な燃料の消費にもつながっていたものです。テロリスクへの対応に加え、それらの課題解消にもつながることが期待されています。
  • 関西空港が、大阪・関西万博が開かれる2025年までに、国際線の出発前の保安検査設備を「スマートレーン」に切り替える方針を明らかにしています。手荷物検査のトレーが自動搬送され、職員の削減や出国手続きの時間短縮につながるということで、スマートレーンが国際線で全面導入されれば、国内の空港では初めてとなります。効率化・利便性が向上する一方で、テロリスクや密輸等の様々なリスクへの対応の観点から、検査精度の向上も高い次元で両立させてほしいものだと思います。
  • 国土交通省から、テロリスクへの対応としても参考となるリリースが2つありましたので、紹介します。
▼国土交通省 空港ターミナルビル一般区域の警戒強化~爆発物等検知システム実証実験の検証結果をとりまとめました~
▼(別紙-2)総評

欧米諸国等において発生している最近のテロでは、公共交通機関等のいわゆるソフトターゲットが標的となる傾向にあることを踏まえ、政府においては、効果的な装備資機材の導入等により、警戒を強化することをテロ対策の一つに掲げ、強力に推進しているところ、国土交通省は、空港ターミナルビル一般区域の警戒強化を喫緊の課題ととらえ、その対策の一環として、東京国際空港で爆発物等検知システムの実証実験を実施しています。今回の実証実験により、「参加した各事業者のシステムについて、爆発物等を検知する機能を有していることが確認できた一方で、テロの未然防止に効果を発揮するような導入・運用を行うためには、空港ターミナルビルの特性に合わせた工夫が必要であることも明らかになった」と一定の成果が見られたようです。

  1. 実証実験の目的
    爆発物等検知システムによる実証実験は、その導入効果を検証及び評価することにより空港ターミナルビルへの爆発物等検知システムの導入促進を図ることを目的に実施
  2. 実証実験の概要
    実証実験の実施に当たっては、学識経験者を含めた爆発物検知システム実証実験評価会(以下「評価会」という。)を設置し、要求水準、募集要項、参加事業者の選定、実証実験検証結果の評価などの重要事項について、評価会の審議を経た上で進めた
  3. 実証実験は、平成30年10月22日より10月26日の間、羽田空港国際線旅客ターミナルビルの一般区域に爆発物や銃火器、有毒ガスの検知が可能なシステム及びこれに連動する簡易的なカメラシステムを設置し、これらを一般のお客様にご利用いただくことに加えて、参加事業者による模擬行動を行う形で実施。なお、評価会において個人情報や技術情報などには特に配慮すべきとの提言があったため、それらに十分配慮した上で実験を行った。実験終了後、各事業者から報告された検証結果は、評価会により評価を受け、総評としてとりまとめ
  4. 爆発物等検知システムの導入促進に向けて
    本実証実験により、参加事業者は空港ターミナルビル一般区域の特性などを把握できたことから、検証結果が、更なる性能向上に寄与するものと思われる。また、国土交通省は、本検証結果を関係者に周知することにより、空港ターミナルビル一般区域の警戒強化を目指す
▼国土交通省 バス及びタクシーへの刃物類の持込みを禁止します

国土交通省は、昨年の6月に新幹線車内で発生した刃物による殺傷事件等を受けて、バス及びタクシーの車内の安全をより一層確保するため、適切に梱包されていない刃物類のバス及びタクシーへの持込みを禁止しています。道路運送法においては、「乗合バス」を利用する旅客に対し、他の旅客に危害を及ぼすおそれがある物品等の車内への持込みを禁止していますが、今般、車内への持込み禁止物品について規定している旅客自動車運送事業運輸規則を改正し、適切に梱包されていない刃物を持込みが禁止される物品に新たに追加されることになりました。また、「貸切バス」及び「タクシー」については、道路運送法に基づく標準運送約款において、旅客自動車運送事業運輸規則の規定により持込みが禁止される物品を旅客が携帯している場合に事業者が運送の引受け等を拒絶できる旨を規定しており、今般の規則改正により、適切に梱包されていない刃物の車内への持込みはできなくなりました。なお、刃物の適切な梱包の方法等については、「刃物をバス・タクシーの車内に持ち込む際の梱包方法についてのガイドライン」に掲載されています。

さて、先日、オウム真理教元幹部名で、朝日新聞社など3都道府の計18社に対して青酸カリ入りの脅迫文が郵送された事件が発生しました。本事件を受けて、厚生労働省は、医療機関、薬局、医薬品製造販売業者に対し、(青酸カリの)管理について注意をするよう都道府県などに通知しています。脅迫文には「青酸カリを入れた偽物の薬を作り、流通させる」などと書かれていたとされ、通知では各機関が扱っている医薬品の外観や封などを十分確認するよう要請、製造や流通の過程で異物が混入されないよう、保管場所などへの部外者の立ち入りに特に注意するよう求めています。一方、朝日新聞社では、開封した担当者がインフルエンザで早退したため、届出が3日後になるという対応となりました。事案への早期対応、被害拡大防止などの観点から速やかな届出はマストであるところ、このような状況を想定した平時からの研修、訓練等の重要性を痛感させられます。なお、参考までに、米国で郵便物に炭疽菌を付着させるテロが2001年に発生しましたが、当時、国土交通省から発出された文書を参考までに紹介します。不審な郵便物への対処方法等の参考になるものと思います。

▼国土交通省 不審な郵便物への対処方法等についてのお知らせ(平成13年10月18日)

米国において、郵便物に炭疽菌を含有・付着させる方法によるテロの疑いがある事件が発生しており、宅配便の利用者の皆様にも、受け取った宅配貨物に不審な点があった場合、次の点に留意願いたい。なお、以下は米国厚生省疾病管理・予防センター(CDC)及び米国連邦捜査局(FBI)が米国在住者に対して行っている呼びかけの内容に基づくものである。

1. 不審箇所の特徴の例

  • (1) 送り主の氏名・住所等に覚えがない
  • (2) 受取人の氏名・住所等の記載に誤りがある
  • (3) 送り主の住所と関係ない地域から発送されている
  • (4) 貨物の表面から白い粉等の異物が漏れている
  • (5) 内容物の記載に対し実際の形状、重量が不自然である、又は異臭がある

2. 不審な宅配貨物を受け取った場合の対処

  • まず、「パニック」にならないこと
  • 炭疽菌は皮膚、胃腸内、又は肺に感染症を引き起こす可能性があるが、傷口等にすりこまれるか、飲み込むか、又は細かい霧状の状態で吸い込まなければこのおそれはない。また、早期の治療によって、炭疽菌の芽胞(細菌の胞子のようなもの)が付着した後でも発症を防ぐことができる。さらに炭疽菌は人から人へ伝染することはない
  • 貨物を開封、開梱していない場合
    • (1) 当該貨物を振ったり、揺すったり、開封・開梱したりしない
    • (2) 内容物が漏れないよう当該貨物をビニール袋又は他の種類の容器に入れる
    • (3) もし、そのような容器が手近になければ、衣服、紙、ごみ箱など何でもかまわないの
        で当該貨物を何かで覆い、その覆いをはずさない
    • (4) その後、部屋を離れドアを閉めるか、できるだけ近づかないようにする
    • (5) 手を石鹸と水でよく洗う
    • (6) 最寄りの警察署又は宅配事業者営業所に通報する
  • 貨物を開封、開梱するなどして、粉が床などにこぼれた場合
    • (1) その粉を掃除しようとせず、こぼれた内容物を衣服、紙、ごみ箱など何でもかまわな
        いので、直ちに何かで覆い、その覆いをはずさない
    • (2) 空調装置が作動している部屋で粉が霧状になった場合は、空調装置を停止する
    • (3) その後、部屋を離れドアを閉めるか、できるだけ近づかないようにする
    • (4) 粉が顔に広がるのを防ぐため、直ちに石鹸と水で洗う
    • (5) 最寄りの警察署又は宅配事業者営業所に通報する
    • (6) 粉の付着した衣服はできるだけ早く脱ぎ、ビニール袋か密閉できる容器に入れる
    • (7) 石鹸と水でできるだけ早くシャワーを浴びる。この場合、漂白剤や他の殺菌剤を
        皮膚に使わない

さて、小型無人機「ドローン」の酒気帯び操縦を禁じるため、国土交通省が航空法の改正を検討しているとのことです。報道によれば、飲酒を巡る不祥事が航空機で相次ぎ、普及が進むドローンでも墜落事故防止などの観点から規制が必要と判断したということです。これまで酒が原因の事故などは確認されていませんが、同省は危険な飛行を抑止するため酒気帯び状態での操縦や乱暴な飛行を禁じ、違反者への罰則適用も検討する方針だということです。一方、これに対し、新聞協会が反対の意見書を公表しています。

▼日本新聞協会 小型無人機(ドローン)等の緊急安全対策立法化に対する意見

意見書では、「テロ行為などを未然に防ぎ、国民の安心・安全に資するために立法化する必要性は十分に理解できます」とした上で、「今回の立法化措置は、身元が明確でテロ行為を行わない報道機関のドローンを一般のドローンと区別せず、一律に規制するものであり、適用の仕方によっては、取材活動に大きな影響を与えることになります」、「防衛施設については自衛隊施設や米軍の施設・区域にまで禁止区域が広がり、しかも自衛隊員に排除措置の権限が付与されます。またラグビーW杯や五輪と違い、恒久法であり、その時々の防衛大臣の恣意的な判断および施設ごとに担当者が異なる自衛隊員の拡大解釈等により飛行禁止区域が不適切に拡大し、また不当な取り締まりが行われることが懸念されます。特に、国内法が適用されない米軍への取材活動は大きく制約され、当局の発表に関する真偽の検証もできなくなる恐れが強く、国民の知る権利が大きく損なわれることになります。併せて、今回の規制強化が今後のドローン産業発展の妨げとなる可能性も大きく、結果として国民の利益を損なうことにもなります」と指摘、「飛行禁止区域が不適切に拡大し、不当な取り締まりが行われることが懸念される」、「行き過ぎたテロ対策によって取材・報道の自由が阻害されることのないよう求めます」としています。ドローンを使ったテロに対する対策は、技術的な部分を含め十分に確立されているとは言い難い状況であり、慎重な対応が求められる一方で、過度な規制は新聞協会の指摘する通りの懸念事項を招きかねないこともあり、立法にあたっては十分な議論が必要かと思います。

前回の本コラムでも取り上げましたが、今年元日未明、東京・原宿の竹下通りで暴走車が8人をはねた事件を受けて、警視庁が、都心の「歩行者天国」の警備を強化しています。出入り口に警察車両を並べ、防護壁を築くなどしており、車両の突入を阻止する狙いがあります。東京でも、今年の改元や来年の東京五輪・パラリンピックを控え、人通りが多い「ソフトターゲット」でのテロを警戒する必要があり、車両突入テロはISが推奨しているだけでなく、拳銃等の銃器が入手しにくい日本では現実的な脅威であるとの認識のもと、ソフトターゲット対策の見直しが急務だと言えます。また、こちらも前回の本コラムで取り上げましたが、昨年のハロウィン前後の一連の騒動で多数の逮捕者が出たことを受けて、東京都渋谷区は、防犯カメラの設置拡充事業や「ハロウィン検討会」実施を予算に盛り込みました。報道によれば、渋谷区長は、「(事件解決に)防犯カメラやスマホのカメラの映像追跡が役に立った」と評価しており、そのうえでのさらなる対策の強化に踏み切るということです。また、児童の安全確保などのため、区内の区立小通学路や商店街、区立公園などに新たに415台増設する防犯カメラ設置を拡充することも盛り込んでいます。後述しますが、昨年1年間の刑法犯は前年に比べ大幅に減少しており、とりわけ「街頭犯罪」の減少は顕著であり、全国各地で防犯カメラが設置されていることが功を奏しているものと評価できると思います。

最後に、最近のテロを想定した訓練についての報道から、いくつか紹介します。

  • 6月に大阪市で開催されるG20大阪サミットに備え、大阪府警は、大阪市内のヤンマースタジアム長居で、サミットで要人警護にあたる警察官の警護技術を磨く訓練を行っています。サミットには、招待を含めて37の国と国際機関が参加予定であり、大阪府警警衛警護課に所属する要人警護専従の警察官では足りないため、警察署などから約300人を臨時招集することになります。今回が1回目で、毎月複数回訓練を重ねる予定だということです。
  • 2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、東京消防庁は、競技会場の1つとなる日本武道館でテロを想定した救助訓練を行っています。訓練は競技中に爆破テロが起こり、多数の人がけがをしたという想定で行われました。テロが起きた際、どのように救助活動を行うか確認され、東京消防庁のハイパーレスキュー隊などおよそ600人が参加して、治療の優先順位をつける「トリアージ」を行ったり、重傷者を担架に乗せて救護所へ運び出したりしたということです。
  • 宇都宮市茂原の陸上自衛隊宇都宮駐屯地で栃木県警と陸上自衛隊による治安出動を想定した共同実働訓練が行われています。両者の連携を深め、有事の際に共同で活動できるようにする目的で行われており、今回で8回目となり、合わせて約160人が参加した。

2. 最近のトピックス

(1) 最近の暴力団情勢

平成30年12月末時点の福岡県内の暴力団情勢について公表されていますので紹介します(全国の暴力団構成員等の人数等については公表され次第、紹介します)。

▼福岡県内の暴力団分布図(平成30年12月末現在)
▼福岡県警察 福岡県の暴力団員数について(平成30年12月末現在)

5つの指定暴力団の本部事務所がある福岡県内の情勢については、組織数が約150組織、暴力団構成員が1,100人(前年比▲130人、▲10.6%)、準構成員等は790人(▲10人、▲1.3%)、合計1,890人(▲150人、▲7.4%)と11年連続で減少する結果となりました。平成28年末の状況と比べると、暴力団構成員総数は前年比▲6.7%(さらに、平成27年末では前年比▲5.1%)でしたので、減少割合が年々拡大していることが分かります。さらに、暴力団構成員の減少割合については▲6.8%、準構成員等は▲7.5%でしたので、暴力団構成員の減少幅の方がより大きくなっている傾向にあります。なお、全国的には準構成員等の方が多くなっている中、福岡県内については、構成員がいまだに圧倒的に多いという特徴が引き続きみられます(それに加えて、準構成員等の減少幅の方がかなり小さいことも全国的な傾向と異なる特徴と言えます)。また、組織別でいえば、特定危険指定暴力団五代目工藤会については、暴力団構成員310人(県外を含め330、▲50人)、準構成員等260人(同320人、±0人)、計570人(同650人、▲40人、▲5.8%)と福岡県全体より減少幅がさらに小さい点が注目されます。頂上作戦により同会トップ以下幹部が逮捕され、組織の統制が効かず離脱者も増加していると考えられています(確かにピーク時の1,210人からみれば半数以下となりました)が、最近の数字を見る限りはその勢力の衰えはまだまだ限定的であり、注意が必要な状況であることに変わりはないと言えます。その他の組織では、指定暴力団道仁会の暴力団員数は840人(▲20人)、指定暴力団太州会は150人(▲10人)、指定暴力団三代目福博会は190人(▲20人)、指定暴力団浪川会は190人(▲10人)などとなったほか、指定暴力団六代目山口組が280人(▲40人)、指定暴力団神戸山口組が80人(▲10人)などとなっており、いずれも減少してはいるものの、(全国的な傾向と比較しても)ある程度組織を維持している状況がうかがえます。

さて、3つの山口組については、今年、六代目山口組ナンバー2で弘道会トップ、七代目山口組組長就任が確実視されている高山清司若頭が秋に府中刑務所を出所予定であることから、何らかの動きがあることが予想されます。実は、直近で、大阪市内で弘道会傘下組織の組長宅に軽トラックが突っ込んだ事件や神戸市内で指定暴力団任侠山口組系組員が所有者となっている車に拳銃で撃たれたような穴が数カ所見つかった事件などが発生しています。当初、全国の至るところで六代目山口組と神戸山口組が激しくぶつかり合いましたが、分裂から4年数カ月が過ぎ、さらに任侠山口組を交えて突発的な衝突はあるものの、表面上には沈静化しているように見えているところ、よくよく見ると、3つの山口組を巡る小規模の抗争的なものが散発的に続いていることから、まだまだ予断を許さない状況だと言えます。
 なお、3つの山口組以外にも目を向けてみると、新宿歌舞伎町の事件など全国で暴力団関係者による発砲事件が相次いでおり、(統計上は暴力団関係者による発砲事件の件数は減少傾向にありますが)と最近特に目につくような気がします。そのような中、関東の主要暴力団組織でつくる団体(関東親睦会)が今月、加盟組織に対し銃器使用の「自重」を求める通達を出しています。2020年東京五輪・パラリンピックを控え、暴力団側が警察の摘発強化を警戒していることの表れと考えられます。なお、通達を出した「関東親睦会」は、指定暴力団住吉会や指定暴力団稲川会など関東の暴力団6団体が加盟しており、在京暴力団同士のトラブル処理などを担った「関東二十日会」の後継団体として、2014年に発足したとされる団体です。また、国家的行事を控える時期に暴力団がトラブルを起こさないよう通達を出した例は過去にもあり、1980年代の指定暴力団山口組と一和会との抗争では、ユニバーシアード神戸大会(85年8月)の開催を理由に「休戦」が宣言されていますし、最近でも、六代目山口組から神戸山口組が分裂した後の2016年にも、「伊勢志摩サミット」を理由に同様の通達が出されたとされます。

最近の暴力団情勢に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 工藤会が関与したとされる一般人襲撃事件の被害者が同会トップの野村悟被告らに損害賠償を求めた福岡地裁の訴訟で、福岡拘置所が被告の出廷を許可しなかったことが明らかになっています。野村被告は出廷を求めたものの、拘置所は「警備体制が取れない」と判断したということです。工藤会は、以前の裁判員裁判で、組員が裁判員に声掛けをしたとして問題となったことがありました。やはり、トップの野村総裁が出廷するとなれば、不測の事態が起こる可能性は否定できず、福岡拘置所の判断は妥当ではないかと考えます。
  • カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が、裁判所の令状なしに会員情報を捜査当局へ提供していた問題で、CCCは、最終的に「基本方針を確定するまでの間は、令状に基づく場合にのみ対応する」と公表しています。このCCCなどが集めている購買履歴は、特定店舗のみの情報だけではなく、複数の店舗にまたがるものであり、またレンタル履歴は図書館の貸し出し履歴と似て思想・信条を類推することが可能であるなど、プライバシー侵害のリスクが大きく、一般的に令状を求める運用が望ましいと言えます。一方で、それだけの有力な情報源であるだけに社会的に関心の高い事案の解決等に向けた活用もまた「公共の利益」に資するものでもあります。今回のCCCの判断は妥当であると思われますが、「公共の利益」のために、令状がない場合でも警察との間で運用についての覚書を結んで公表するなど、適正性・透明性を確保する試みも考えられるところです。そのような中、暴力団関係者は、警察が捜査対象者の行動確認のために、通信傍受法によって裁判所の令状がなければ傍受ができないことになっている電話やEメールのやりとりよりも、ポイントカードや交通系カードの利用履歴を照会しているということは、かなり前からよく知っており、そのような「足のつく」カード等の利用を以前から自粛している実態があるようです。
  • 警視庁に摘発された指定暴力団組員の男がLINE上で使える「LINEスタンプ」という画像アイテムを自作し、オンライン上で販売した疑いがあるとの報道がありました(平成31年1月19日付産経新聞)。スタンプは一般の利用者向けに販売されており、暴力団が若者らに浸透しているLINEに目をつけ、新たなシノギ(資金獲得活動)としている可能性があると考えられています。報道によれば、同社は、スタンプの作成者が暴力団などの反社会的勢力であることが判明した場合、販売しているアカウントを停止するなどの措置を講じているとしており、オンライン上で公開している利用規約でも、この対応方針を周知しています。本件は、LINEスタンプの犯罪インフラ化が懸念される状況と言えますが、LINE社としては、利用者の属性やふるまい等から怪しい者を検知し、チェックして問題あるものを排除していくという一連の反社会的勢力排除の態勢を適切に構築・運用しながら問題に対処していくことが求められています。
  • 暴力団組員であることを隠して郵便局からアルバイト代を騙し取ったとして、六代目山口組傘下組織の組員が逮捕されました。男は、実際には暴力団組員であるのにもかかわらず、愛知県春日井市の郵便局で反社会勢力ではないと誓約書に署名したうえでアルバイトし、給料として現金7,850円を騙し取った疑いが持たれているということです。なお、本件は、本人が自ら申し出て退職したとも言われています。これに対し、山口組の元顧問弁護士は、雑誌で「ヤクザという素性を隠して、郵便局でバイトをしてお金をもらったことが詐欺という。仕事をきちんとしてお金をもらっているのに、なぜ詐欺ですか?ましてや郵便局は今、なかなか働く人が集まらない業種。警察の逮捕権の乱用です。裁判所はよく逮捕を認めて令状を出したと思います。ヤクザをやめろと法規制を厳しくして、真面目に働くと逮捕。むちゃくちゃですわ」と述べていますが、本件は現役の暴力団組員であってその給与が暴力団の資金源となりかねない(活動を助長しかねない)という意味で、事業者としての対応は当然のことであり、当該組員も生活のため働きたいなら組員を辞めるという選択肢もあり、そうしていない以上このような不利益を被ってもやむを得ないというのが、最高裁の判断です。一方で、組織を抜けた元組員たちの困窮が大きな問題となっているのも事実であり、この指摘が、真に更生しようとする者の更生を妨げることになる過度の規制(5年卒業基準の表面的な運用など)に向けられたものなのであればある程度説得力があるように思われます。
  • 生活保護受給者に訪問診療を施したと偽って診療報酬をだまし取ったとして、福岡県警は、医療機関経営の医師と指定暴力団六代目山口組系組員の両容疑者ら5人を詐欺容疑で逮捕しています。本件は、2017年11月のクリニック開設直後から複数の生活保護受給者を偽の患者に仕立てる「貧困ビジネス」を繰り返したとみられています。さらに、本件では、あろうことか当該クリニックの事務長が、福岡県警OBだったことも判明しています。この県警OBが医師と組員をつなぐなど主要な役割を担ったのではないかと見られており、現職時代、本部の生活安全部などに所属し、カジノ賭博などの捜査に従事したこともあったということで、暴力団と結託して「貧困ビジネス」を展開する暴力団員に、高い職業倫理感が求めらられているはずの県警OB・医師が連携していたという構図には、心底呆れるとともに強い憤りを覚えます。
  • 報道(平成31年1月28日付朝日新聞)によれば、代々木公園の占用許可を東京都から得ている常設の屋台を警視庁が調べところ、全7店舗の出店者計7人について指定暴力団極東会系の関係者と分かったとして、同庁は都に連絡したということです。それを受けて、都は出店者に聞き取りし、占用許可の取り消しを検討しているといいます(7店舗のうち3店舗は現在営業していないとのこと)。都によると、都立公園で営業中の屋台に関し、暴力団の関与を理由とした占用許可の取り消しは極めて異例だということです。(過去、露天商でつくる兵庫県神農商業組合が、兵庫県暴排条例による公表措置の結果、解散したケースもあるなど)祭りの際の屋台からの暴排が全国的に浸透しつつある中、これまで屋台に対する占用許可を与える際に、暴排の観点から何らのチェックも行ってこなかったということであれば、都の不作為・怠慢であって、厳しく指摘されるべきものといえます。

さて、暴力団離脱者支援については、本コラムでも問題意識をもって取り上げてきました。暴排条例をはじめ個人や事業者の暴排意識の高まり等によって暴力団等の反社会的勢力の資金源は枯渇の一途を辿り、暴力団離脱者も増加しているにもかかわらず、現時点では、社会復帰したくても許容しない、社会的受け皿がほとんど存在していない現実があります。本来的には、暴力団離脱者を事業者や地域社会という「コミュニティ」の一員として受け入れ、「就労を通して更生していく」ことが、彼らを再び犯罪的生活に戻らせないために決定的に重要であり、暴排と暴力団離脱者支援対策は表裏一体のものとして捉える必要があると思います。それに対し、事業者等が、懸命な取り組みによって排除した彼らを今度は雇い入れるというのは、現実的なリスク(再犯・逃亡・トラブルなど)認識だけでなく「心情的に抵抗がある」のも理解できるところであり、本コラムとしては、事業者がその社会的コストを負担できるとすれば、(あくまで私見ではありますが)少なくとも以下の4つの要件が社会的な合意事項として揃った場合に限られる(逆に言えば、目指すべき方向性が見えてきた)と提言してきました。

  1. 更生に対する本人の意思が固い事(離脱=更生=暴排=反社排除の構図が成立すること)
  2. 本人と暴力団との関係が完全に断たれていること
  3. 5年卒業基準の例外事由であると警察など公的機関が保証してくれること(公的な身分保証の仕組みがあり、それによって事業者がステークホルダに対する説明責任が果たせること)
  4. 事業者の暴排の取組みの中に離脱者支援対策の視点が明確に位置付けられること(離脱者支援対策が社会的に認知され受容されていること)

もちろん、反社リスクへの対応が各社の自立的・自律的なリスク管理事項である以上、CSRや社会貢献の観点などもふまえ、暴力団の離脱者支援に積極的に取組むという事業者が存在する一方で、現実の「更生の難しさ」「再犯可能性の高さ」「会社や社員がトラブルに巻き込まれるおそれ」などから慎重なリスク評価を行う事業者があっても、それ自体何ら問題があるわけではありません。ただし、後者の立場であっても、少なくとも、リスクテイクして取組んでいる前者の事業者や本人の更生の努力を妨げてはなりませんし、むしろ、積極的に「理解」していこうとすべき状況であるとの認識は必要だと思われます。離脱者支援はまだまだ道半ばの状況ではありますが、事業者が積極的に取組めるだけの環境、その要件が明確になりつつあり、広域連携の拡がりなどその基盤が整備されつつあるという現状は、一歩前進と言えるかもしれません。その直近の状況については、報道(平成31年1月30日付山陽新聞)によれば、暴力団を離脱した元組員の社会復帰を支援するため、自治体の枠を越えて就労先を紹介する全国規模の広域連携が拡大している状況にあり、2016年2月に福岡県の協議会が中心となって14都府県でスタートし、2018年12月時点で広島、香川、兵庫など31都府県に広がり、受け入れ先として登録する事業者は計約650社に上るということです。少しずつ社会的な合意事項が拡がっていることを実感できる数字かと思います。
 また、福岡県警のサイトでも暴力団離脱者支援を取り上げていますが、今回は、(以前も本コラムで紹介しましたが)有名な暴力団排除マンガ「こんなはずじゃなかった…2」をあらためて紹介したいと思います。

▼福岡県警察 【暴力団排除マンガ】「こんなはずじゃなかった…2」

福岡県は「暴排先進県」と呼ばれるほど熱心かつ独創的な取り組みを行っていますが、福岡県警では、暴力団への加入防止及び暴力団からの離脱促進を図るため、暴力団排除教育サポーター(通称:暴排先生)が作成した暴力団排除マンガ「こんなはずじゃなかった・・・2」を公開しています。これは、誰でも分かりやすく、興味を持って読んでいただけるようにマンガを用いて、「暴力団に加入した場合の悲惨な生活状況や家族に及ぶ影響」、「暴力団から離脱したい人、離脱を願っている家族に対して」、「暴力団からの離脱に関する支援や相談先」 が分かる内容となっています。是非ご一読いただき、社内の暴排意識の醸成等にも参考にしていただければと思います。なお、本ページの下には、「暴力団から離脱したい人・離脱を願っている家族の方々へ」と題して、福岡県警の具体的な対応が分かるやり取りも掲載されています。例えば、「どんな支援をしてくれるのですか」という問いに対しては、「あなたが組抜けするときに、妨害や見せしめのリンチにあわないよう、また、あなたの家族が危険な目にあわないようにアドバイスします。組抜け後に仕事に就くための支援も行っています」といった回答がなされています。また、「足を洗っても、元暴力団として見られるのが嫌だ!」という(ややわがままな)問いに対しては、「過去は変えられません。前を向きましょう。あなたが「前とは違う」、「まじめに働いている」ということを行動で示せば、まわりの見る目も変わっていくでしょう」と、変に媚びることなく毅然とした回答がなされているのも印象的です。本サイトには、それ以外の情報もありますので、あわせてご一読いただきたいと思います。

最後に、半グレ(準暴力団)を巡る最近の報道について、いくつか紹介します。

  • 17都府県のコンビニのATMから2016年5月、18億6,000万円超が一斉に引き出された事件で、福岡県警は、男を不正作出支払用カード電磁的記録供用と窃盗の両容疑で逮捕しています。この容疑者は、準暴力団「関東連合OB」(解散)の元メンバーで、本件の中心人物の一人と目されています。なお、本事件については、これまでの捜査で複数の暴力団(六代目山口組・稲川会・五代目工藤會・七代目合田一家・道仁会・神戸山口組の6つの指定暴力団)が半グレのもとで関与していることが判明しており、全国の警察が、指示役や出し子などとして、組員や暴力団関係者ら約250人を摘発しています、
  • 大阪・ミナミを拠点に活動していた半グレ集団「アビス」のメンバー50人以上が摘発された事件で、対立グループの店を襲撃するなどしたとして、大阪府警南署が暴行容疑などでアビスの幹部3人を新たに逮捕しています。アビスはリーダーの男(20)=暴行罪などで公判中=を頂点に、幹部ら12人がそれぞれガールズバーを経営し売り上げを上納していましたが、今回の摘発により、グループは壊滅状態となったと言われています。しかしながら、半グレはそもそも緩やかな組織であり、烏合集散を繰り返している実態があり、おそらくまた別の組織・グループが成り代わって活動を活発化させるのではないかと思われます。
  • 会社経営の仕事を断られたことに腹を立て、知人の男性にハサミを突きつけ、首を絞めるなどの暴行を加えたとして、準暴力団「チャイニーズドラゴン」の男らが警視庁に逮捕されています。容疑者らは2016年、東京・台東区のビルの一室で旅行会社経営の男性に対し、「俺と一緒に会社をやらないとはどういうつもりだ」と脅してハサミを突きつけたうえ、首を絞めるなどの暴行を加えた疑いがあるということです。チャイニーズドラゴンは、警察が「準暴力団」として公表した4つの半グレ集団の一つであり、中国残留孤児の2世・3世らで構成され、都内や近郊に7つのグループが存在、約300人のメンバーがいるとされており、中国マフィアや日本の暴力団、それに関東連合OBとも一部連携しているといいます。

(2) AML/CFTを巡る動向

今年秋にFATF(金融活動作業部会)の第4次対日相互審査が実施されることをふまえ、金融庁や金融機関などの取り組みも相当な熱量のもと進められています。まずは、金融庁と金融機関との意見交換の場における当局のスタンスについて確認しておきます。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼共通事項(主要行/全国地方銀行協会/第二地方銀行協会/日本損害保険協会)

AML/CFT(アンチマネロン/テロ資金供与対策)については、まず、昨年11 月14~16 日にかけて、FATF 事務局が来日し、1 年後に控えた対日相互審査についての説明会が催されたこと、説明会では、当庁の金融機関に対する取組みや関係省庁との連携などについて事務局へ紹介したほか、事務局からは、個別金融機関のオンサイトについて、説明があったこと、金融庁としては、FATF 対日相互審査まで1年を切ったことも踏まえ、今後、(1)各金融機関のリスクに応じて、適切なモニタリングの実施、(2)関係省庁間・業界団体との連携の更なる強化、(3)金融機関の態勢の強化に参考となるような情報の還元等について取り組んでいくとしています(これ自体は目新しいものではありませんが、金融庁にとっては極めて重要な取り組みであるといえます)。そのうえで、金融機関に対して、「FATF のインタビューを受けるという前提で、引き続き態勢の強化に向けて取組みを進めていただくとともに、取組みにおいて、疑問点等が生じた場合については、遠慮なく相談いただきたい」との要請がありました。

▼主要行

主要行に対しては、まず、「金融機関に対しては、これまで、FATF審査への対応等、リスクベース・アプローチによるマネロン・テロ資金対策の高度化を促してきたところだが、外国人材の受入れ拡大に向けて、公共インフラとしての生活口座の開設などについて環境整備を行うとともに、リスクに応じた管理を期待している」と述べています。具体的には、「銀行においては、外国人顧客とのコミュニケーションの充実に向けて、現在、様々な言語に対応したコミュニケーションボードの導入や翻訳アプリの活用などに努めているものと承知している。また、口座開設についても、多くの銀行において、国内での勤務実態が確認されれば、国内在住の日本人と同様にキャッシュカードを使ったATMの引出しや振込みが可能な、いわゆる居住者用の口座が開設できるなど、一定の利便性を確保しているものと承知している」こと、「一方で、外国人顧客が来店した際の対応言語や銀行口座開設時の手続き、開設口座の利便性については、銀行間・支店間でバラツキがあるといった指摘もある」こと、「こうしたバラツキを解消し、新たな在留資格で受け入れる外国人材の利便性を制約することがないよう、業界としての具体的な取組みを、現在、全銀協と議論しており、追って対応をお願いする予定である」ことが示されていますが、外国人口座の売買や悪用リスクの高さと利便性の両立という大変難しい課題を提示されているともいえます。また、「主要行等も含む金融機関の皆様におかれては、マネー・ローンダリング、振込み詐欺の防止や相続問題等の発生回避の観点から、預金の引き出しや解約、送金に際しては様々な手続きを行っていると承知している」こと、「こうした取組みは今後も適切に行って頂く必要があるが、他方で、金融機関が顧客の事情に配慮せず、機械的な対応を行ったことで、御本人や御家族が必要な費用等を引き出しできず、不愉快な思いをさせられたとの声も聞かれる。一部の金融機関においては、不測の事態により顧客の意思確認ができない場合等を想定し、予め内部規定で客観的な基準を定め、預金の払戻や送金に応じているところもあると承知している」が、「主要行等の皆様におかれては、顧客の苦情や相談を踏まえ、予め想定できる事態に真摯かつ柔軟に対応できるよう、手続きを明確化し、職員に周知や教育を行って頂きたい」こと、「また、手続きに規定された場合以外においても、顧客が抱える個々の事情を丁寧に聞き、杓子定規な対応により顧客に不愉快な想いをさせないよう、顧客に配慮ある対応をお願いする」と顧客本位の対応をあらためて要請しています。さらには、「なお、今後高齢化の進展により、認知症患者が増加し、金融取引を巡る問題も増えてくると思う。こうした問題にどのように向き合っていくべきか、一緒に検討していきたい」と、認知症患者の金融取引という重要かつ困難な課題が提示されたことに注意が必要です。

▼全国地方銀行協会/第二地方銀行協会

地銀協・第二地銀協に対しては、AML/CFTについて、FATF事務局の説明会では、金融庁の金融機関に対する取組や関係省庁との連携などについて事務局へ紹介したほか、事務局からは、個別金融機関のオンサイトについて、(1)インタビュー対象先については、金融機関のリスク等に応じて、選定される見込みであること、(2)インタビュー対象として選定された場合には、マネロン等対応の手続きに責任を持って説明できる者が対応することが求められること、(3)インタビュー当日は、質問に対して、先ず全体像を示し、その上で事例やデータを引用しながら具体的な説明をすること、といった説明があったということです。それに対して、金融庁として、FATF 対日相互審査まで1年を切ったことも踏まえ、(1)12 月末の実態調査の報告内容を踏まえつつ、各金融機関のリスクに応じて、適切なモニタリングの実施、(2)金融機関の態勢の強化に参考となるような取組事例の還元、(3)モニタリングで得られた情報や実態調査の結果等に基づき、金融機関の分析や今後の課題などをレポートとして取りまとめ、公表、(4)金融機関の管理態勢の構築状況や国際的動向等を踏まえて、ガイドラインの見直しの検討といった対応を検討している旨が説明されています。主要行と比較しても、実態把握や適宜のモニタリングを通じた具体的かつ実践的な支援・取り組みを行う方針であることがよく分かる内容となっています。ここにあるように、金融庁は、銀行、信用金庫、信用組合の預金取り扱い金融機関や仮想通貨交換業者など所管する全ての金融機関を対象に、AML/CFTの体制整備状況や関連データを報告するよう命令しています。そして、FATFの調査におけるインタビュー(面談)においては、実務に精通した役職員の応対が必要であり、AML/CFTに関するリスクの特定や評価、その低減策と管理体制のほか、顧客管理の状況など幅広い分野について具体的かつ明確な説明が求められることになりますが、当該金融機関だけでなく日本全体の評価にも関わることから、相当な準備が必要であるとあらためて痛感させられます。
 なお、モニタリングの方向性については、例えば、報道(平成31年1月11日付ニッキン)によれば、口座数が膨大な大手行がこれまで国内で着手できなかった「継続的な顧客管理」が大きなテーマのひとつとなりそうです。メガバンクでは海外で当局の要請に応じ実施していたものですが、来年年度前半には顧客の属性や取引目的の定期的な点検に踏み切る方向であり、地域銀行も対応を検討中だということです。これらの取組みは、マネロンに巻き込まれるリスクも考慮、リスクベース・アプローチを採用しながら顧客の取引やビジネスの実態に応じて格付けし、抱えるリスクを低くする対策の基盤となるものです。

全体的な取り組みは上記の通りですが、一方で、金融機関が個別行・業界・地域などそれぞれの枠組みで独自の取り組みを始めていることもうかがえる状況となっています。例えば、地銀では、AML/CFTで送金先や送金元の企業の実態把握が求められていることから、世界規模の企業データベース(DB)の活用が急速に広がっているということです。海外企業の情報を独自に収集するには限界があることも背景にあるようです。さらに、地銀は、AML/CFTの強化に向け行員の育成に力を入れ始めており、外国送金の受付など営業店でも厳格な対応が求められていることをふまえ、パート行員を含む幅広い層を対象にした研修体制を整えているとのことです。それを後押しすべく、全国地方銀行協会(地銀協)も昨年12月、営業店での注意点をまとめた漫画を作成、会員行の行員向けに配布しています。突然の多額な入出金などケース別に8事例を掲載し、それぞれチェックポイントを解説する内容だということです。信金業界においても、例えば、静岡県内の12信用金庫でAML/CFTの取り組みが進められており、日本経済新聞が実施したアンケートでは、全ての信金が、マネロンが起こりうる海外送金の手続きを「停止」または「厳格化」したと回答したということです(平成31年1月16日付日本経済新聞)。また、銀行以外でも生命保険協会は、業界のAML/CFTの高度化を急いでいます。各社に顧客のリスク格付けの厳格化を促すほか、3月に開催予定の意見交換会で具体的なリスク低減策を検討すること、保険ショップなど、複数生損保会社の保険商品を提供する「乗合代理店」に対しても対策の強化を要望するなど具体的な取り組みを始めています。また、金融庁は、運用会社に対して、AML/CFTの観点から、投資する株や債券などの発行体についてマネロンリスクの分析や管理を厳重に行うよう要請しています。

金融機関の取り組みとは異なりますが、昨年11月末から株式会社などを新設する際、その会社の実質的支配者が反社会的勢力に該当しないことを公証人に申告するよう義務付けるルールがスタートしています。暴力団の資金源などを絶つためで、公証人側はその確認作業に忙殺されているとの報道がありました(平成31年1月15日付日本経済新聞)。この実質的支配者確認のきっかけはFATFの第3次相互審査において「日本の法整備は不十分だ」と厳しく指摘されたことによるものです。そして、今年の第4次対日相互審査への対応として、政府が、金融機関に口座を開く際の本人確認の強化などとともに、実質的支配者の確認手続きに動き出したことが背景にあります。公証人は、法律の専門家として、詐欺犯罪やAML/CFTの一翼を担っていると言えますが、現状では、虚偽申告を見抜くためのDBの拡充など現場での課題も多いようです。本コラムでも、実質的支配者の確認において、真の受益者は法人の代表者や役員の背後に潜んでいること、DBだけでは十分なチェックは困難であること、そもそも暴力団等の反社会的勢力やテロリスト、犯罪組織メンバーが自ら法人の代表者になっているケースは現状ほぼないことなどをふまえれば、公証人によるチェックも「最低限」の確認にとどまるのではないかと危惧しているところです

また、特定事業者のひとつである「弁護士」についても、AML/CFTの取組み実務においては、これまであまり問題視されていなかったところですが、直近で、実際にマネー・ローダンリグを疑わせる海外送金の依頼が国内の大手弁護士事務所にあったということです。報道(平成31年1月20日付産経新聞)によれば、「信用を補完するため、事務所経由で日本企業から外国企業への送金をしてほしい」、「第三者を経由して海外から日本に送金するため、送金の法規制について相談したい」といった依頼を受けた事務所があったということであり、2件とも、過去に受任したことのない「一見客」からの相談で、紹介者もいなかったこともあり、いずれも対応した弁護士がマネロンの疑いが強いと判断し、詳細を聞かずに依頼を断ったといいます。日本の弁護士事務所でマネロンが疑われる不審な依頼があったのが確認されたのは初めてだということであり、日本弁護士連合会(日弁連)は依頼者の身元確認の徹底など注意喚起に乗り出しています。なお、以前の本コラム(暴排トピックス2018年12月号)でも紹介している、国家公安委員会による「犯罪収益移転危険度調査書」では、「法律・会計専門家は、法律、会計等に関する高度な専門的知識を有するとともに、社会的信用が高いことから、その職務や関連する事務を通じた取引等はマネー・ローンダリング等の有効な手段となり得る。実際、犯罪による収益の隠匿行為等を正当な取引であると仮装するために、法律・会計関係サービスを利用していた事例があること等から、法律・会計専門家が、以下の行為の代理又は代行を行うに当たっては、マネー・ローンダリング等に悪用される危険性があると認められる」と指摘されています。日弁連は、弁護士に対して大規模事務所に対する聞き取り調査、年次報告書の内容等を踏まえて、弁護士業務固有のリスクについて分析を行い、その結果を会報に掲載するなどして、弁護士に対して弁護士業務に関するリスクの理解を促しているということですが、やはり、犯罪組織がグローバル化しており、世界的にAML/CFTの要請が高まっている中、相対的にAML/CFTの取り組みレベルやリスクセンス(感度)が鈍い中小の弁護士事務所等が国際的な犯罪に巻き込まれる(悪用される)リスクはもはや小さくありません。日弁連は会規に基づき、依頼者の身元確認や目的の検討を義務づけてきたところ、今般、会規を改正し、これらの義務が正しく履行されているかどうかの確認を含む業務報告書の提出を会員に求めているということですが、まずは最低限の本人確認などのAML/CFTに求められているレベル感を全体としてあらためて認識し、厳格に取り組んでいく必要性を感じます。

その他、AML/CFTを巡る国内外の最近の報道からいくつか紹介します。

  • 米ヒルトングループ系列のホテル「ヒルトン福岡シーホーク」が昨年10月、駐日キューバ大使の宿泊を拒否した問題で、ヒルトンは今後も、全世界でキューバ外交官の宿泊拒否を続けることを決めたということです。この決定自体、日本の旅館業法に抵触することになりますが、「米企業なので米国の法律を守る」と回答しているとのことです。報道(平成31年1月18日付朝日新聞)によれば、厚生労働省の担当者は「旅館業法に基づいて営業許可を取っており、日本の法律に従うべきだ」とする姿勢を明確に示しており、昨年の駐日キューバ大使の宿泊拒否に対しては、福岡市が行政指導したという経緯があります。なお、旅館業法では、宿泊拒否が禁止されているところ、暴力団排除の観点から、「旅館業からの暴力団排除の推進について」(平成30年5月11日付け薬生衛発0511第2号)が昨年発出されています。このような社会情勢・社会的要請の変化への対応は大変望ましいと思われるところ、各国の制裁リスト対象者の宿泊拒否についても、今後、その取り扱いが変わる可能性は否定できないところです。現状では、難しい対応を迫られているとはいえ、国際的なAML/CFTの要請の厳格さから、きちんと論点整理すべき状況にあるように思われます。
  • 欧州委員会が、EUに脅威を及ぼす恐れのある国リスト(テロ資金調達支援国リスト)の草案にサウジアラビアを追加したことが明らかとなっています。テロ組織の資金調達やマネー・ローンダリングに対する規制が不十分であることが理由とされていますが、サウジの反体制記者カショギ氏が昨秋、トルコのサウジアラビア総領事館で殺害されたことを受け、同国に対する国際的圧力が高まっているのは事実です。現在、同リストにはイラン、イラク、シリア、アフガニスタン、イエメン、北朝鮮など16カ国が含まれています。
  • 世界の銀行で規制当局による巨額の罰金が新たな経営リスクになってきています。報道(平成31年1月25日付日本経済新聞)によれば、マネー・ローンダリングや制裁対象国への送金など違反行為で科された罰金は年200億ドル(約2.2兆円)を超えています。AML/CFTを背景に国際社会の監視の目は強まっているところ、昨年、ドイツ銀が払った罰金72億ドル(約8,500億円弱)は3メガバンクが赤字に転落する規模となるほどの巨額なものです。昨年は他にも、仏ソシエテ・ジェネラル銀行がイランやキューバなど米国の制裁対象国へ国際送金を繰り返していたとして米規制当局に罰金13億4,000万ドル(約1,500億円)、蘭INGがマネロン捜査を巡り、同国の検察当局と7億7,500万ユーロ(約1,000億円)などの巨額罰金の支払いが相次ぎました。今年は日本もFATFの対日相互審査を控えており、その結果いかんによっては、日本の銀行にとって巨額罰金という新たな経営リスクを抱えてしまう可能性があります。

(3) 特殊詐欺を巡る動向

平成30年の特殊詐欺の状況について、最近の報道から確認しておきたいと思います(警察庁のレポートが公表され次第、本コラムで紹介したいと思います)。
 まず、昨年1年間に東京都内で発生した特殊詐欺の認知件数は3,913件と前年(平成29年)比で403件増加(+11.5%)し、2006年の統計開始以降最多になったということです(平成31年2月8日付ロイター)。被害額も84億5,262万円と前年より4億7,442万円増加(+5.9%)と過去2番目の多さとなりました。その他報道によれば、「オレオレ詐欺」が2,107件、有料サイト利用料などを名目とする「架空請求詐欺」が931件などとなっているほか、被害者の個人情報などを調べる目的で事前にかける「アポ電(アポイントメント電話)」の件数は34,658件にも上っているといいます。なお、前回の本コラムで紹介したように、平成30年1月~11月の特殊詐欺全体の認知件数が15,082件(前年同期16,402件、前年同期比▲8.2%)、被害総額は259.9億円(293.7億円、▲11.5%)と、全国的には認知件数・被害総額ともに減少傾向が継続している状況とは正反対の状況となっています。警視庁は少年の摘発人数が増えている状況を踏まえ「詐欺グループの裾野が広がっている」と指摘しているとの報道もありますが、それだけでは説明できず、例えば、首都圏には若者が多く集まる繁華街が多く、詐欺グループが受け子らを勧誘しやすい、ターゲットとなる(資産を保有する)高齢者の数も多いことなど複数の要因が絡んでいるものと推測されます。

一方、大阪府内で昨年1年間に認知された特殊詐欺の被害件数が1,624件、被害総額が約35億8,200万円となったようです(平成31年1月31日付産経新聞)。前年(平成29年)の認知件数が1,529件でしたので、前年より6.2%増加したことになります(一方、被害総額については、前年は37億6,020万円で、▲4.7%と減少しました)が、認知件数でいえば平成28年の1,633件は下回ったものの、東京に同じくやはり高止まりの状況にあることが分かります。なお、報道によれば、大阪においては、警察官などを名乗り、高齢者らに電話で「カードが不正に使われた。作り替えないといけない」などと伝え、自宅を訪問、カードと暗証番号を書いたメモを封筒に入れさせてだまし取り、預金を引き出すという「カード手交型」の手口が特に急増しているといい、似たような方法で、封筒を別のカードを入れた封筒とすり替える「すり替え詐欺盗」という手口の窃盗事件も多発、この窃盗被害(149件)も含めると被害件数は1,773件となり、過去最悪の状況となっています。

さらに、愛知県における状況としては、全国的に減少傾向に転じていた還付金詐欺の被害が再び増え始めている状況にあるようです。東海中部圏においては、高齢者の「振り込み制限」対策が奏功しているように捉えていましたが、報道(平成31年1月22日付朝日新聞)によれば、実はそれをすり抜けるような新たな動きが表面化、「メガバンクの口座」が狙われているようです。最近こそ、メガバンクでも、振り込み制限に取り組み始めていますが(例えば、りそな・埼玉りそな銀行は、昨年10月末時点で70歳以上かつ過去3年間にATMで出金のない顧客を対象に10万円以上の取引を希望する場合は本人確認書類などを店頭で示すといった取り組みを行っているほか、三菱UFJ信託銀行では昨年7月にATMで1年間出金していない80歳以上の顧客を対象に限度額を引き下げています)が、「引き出しの自由(利便性)」を尊重して地銀や信金等の取り組みほどには徹底できていない傾向にあり、結局、犯人側が、還付金詐欺対策の一環として「振り込み制限」に特に力を入れる地銀、信用金庫等の口座を避けている、言い換えれば、「メガバンクの振り込み制限の相対的な脆弱性が突かれる形になっている」ようです。

また、外国人技能実習生や留学生が、帰国間際に銀行口座を他人に売り、振り込め詐欺などの犯罪に悪用されるケースが後を絶たず、「外国人口座の犯罪インフラ化」が深刻なリスクとなっています。今年4月からの外国人労働者の受け入れ拡大で口座開設の増加が予想されるところ、金融機関は「口座売買は違法」との周知に力を入れてはいるものの、「外国人差別につながりかねない」との懸念もあり抜本的な対策を打ち出せていないのが現状です。前述した通り、金融庁は、金融機関に対し、「外国人材の受入れ拡大に向けて、公共インフラとしての生活口座の開設などについて環境整備を行うとともに、リスクに応じた管理を期待している」、「外国人顧客が来店した際の対応言語や銀行口座開設時の手続き、開設口座の利便性については、銀行間・支店間でバラツキがあるといった指摘もある」、「新たな在留資格で受け入れる外国人材の利便性を制約することがないよう、業界としての具体的な取組みを、現在、全銀協と議論しており、追って対応をお願いする予定である」と対応の改善(利便性の向上)を要請する形となっており、金融機関としてもAML/CFTや振り込め詐欺対策、犯罪インフラ対策等リスク管理とのバランスに苦慮しているのが現実です。一方で、外国人材が在留資格と紐付いていることから、今後、雇用主(事業者)との情報共有態勢を整えるなどして、在留資格状況のモニタリングや所在不明等の情報入手時の口座の使用停止措置などのあり方も考えられるところであり、国とも連携しながら、「適切かつ厳格な顧客管理」実現のための具体的な取り組みが期待されるところです

その他、特殊詐欺を巡る最近の報道からいくつか紹介します。

  • オレオレ詐欺の電話をかける「かけ子」をしたとして、警視庁は、無職の男ら少年2人を含む男14人を詐欺未遂容疑で逮捕しています。男らは4台のキャンピングカーで関東から東北地方を移動し、サービスエリアや道の駅などに車を止めてだましの電話をかけていたといい、情報提供を受けた警視庁の捜査員がキャンピングカーに踏み込み、電話をかけるなどしているところを取り押さえたということです。移動型の「かけ子」の手法としては、以前から、駐車場やホテル、空き家、民泊、ウィークリーマンション等の手法が知られていましたが、(移動事務所、移動宿泊施設といった機能を持つ)キャンピングカーで移動という手法の摘発は極めて珍しいのではないかと思われます。なお、このような「移動型」以外でも、過去の摘発において、九州地区を1カ月間滞在する契約を結びながら入居から10日で退去して東京などに移ったという事例があり、(1)詐欺グループが1カ所に長くとどまらず、拠点を替えるサイクルが早くなっている傾向(拠点の短期滞在傾向)がうかがえ、警察としても、証拠を固めて拠点に立ち入る前に移転されないよう、さらなる捜査の迅速化が求められているほか、(2)特殊詐欺グループの拠点は首都圏に集中している傾向にあるものの、最近では九州や中国に拠点を設けている事例も散見されるなど、「拠点の拡散傾向」についても注意が必要な状況となっています。
  • 特殊詐欺ではありませんが、米軍関係者を装って女性に恋愛感情を抱かせ、現金数百万円をだまし取ったとして、福岡、埼玉両県警は、関東在住のナイジェリア人やカメルーン人の男4人を詐欺容疑で逮捕しています。恋愛関係があるように錯覚させて現金をだまし取る「国際ロマンス詐欺」と呼ばれる手口とみられています。同様に、米軍関係者を装い、現金をだまし取ったとして、広島県警組織犯罪対策課なども、ナイジェリア人とフィリピン人を「国際ロマンス詐欺」の詐欺容疑で逮捕しています。報道によれば、口座には複数の日本人女性から1,000万円以上の入金があり、同県警は海外の犯罪組織が関与しているとみて調べているということです。さらに、埼玉県警所沢署は、詐欺の疑いで東京ディズニーランド(TDL)などを運営する「オリエンタルランド」の社員を逮捕しています。結婚をちらつかせて現金をだまし取る「ロマンス詐欺」の手口で女性を信じ込ませたといいます。
  • 届いた荷物を転送するだけで報酬が得られるといったアルバイトの誘い文句で個人情報を提供させ、知らない間に格安スマホを契約させる「荷受け代行詐欺」の被害が全国で相次いでいます。契約されたスマホは特殊詐欺等に悪用されるおそれがあり、広島県や千葉県内の弁護士が被害対策のための弁護団を結成しています。1年前に結成された「荷受代行被害対策千葉県弁護団」によると、荷受け代行詐欺は、(1)犯行グループがインターネット上などで「届いた荷物を指定された住所に送ると収入が得られるアルバイト」などとうたい、応募者からLINEなどを通じて身分証明書といった個人情報を収集、(2)その情報を悪用し、応募者名義でネット販売のスマホ事業者と契約、(3)自分名義で契約されたと知らない応募者に、手元に届いたスマホをグループの元に転送させることで、転売や犯罪に使うスマホを入手する手口だといいます。その結果、スマホの端末代金や通話料の支払いをめぐり、書類上の契約者である被害者と事業者との間でトラブルが相次いでいるということです。犯罪インフラを手配するために個人情報を悪用するという狡猾な手口であり注意が必要です。
  • 全国各地で、今年5月の改元に便乗した新たな手口の特殊詐欺が相次いでいます。全国銀行協会(全銀協)をかたり「改元に伴ってキャッシュカードの変更が必要になる」と嘘の内容の文書を送りつけ、カードを郵送させようとする手口であり、注意が必要な状況です。目立った被害は確認されていないものの、改元前だけでなく、新元号に変わった5月にも同様の手口が予想されるところであり、今後も十分注意する必要があると思われます。なお、金融庁も以下の通り注意喚起を行っていますので、紹介します。
    ▼金融庁 全国銀行協会等を装い、改元を理由として暗証番号等を記載させる詐欺にご注意!

    金融庁のサイトにおいて、「昨今、全国銀行協会を装い、「元号の改元による銀行法改正について」と題する資料を同封した封書を郵送し、取引金融機関、口座番号、暗証番号等を記載させる詐欺の手口が確認されている」として、「確認された詐欺の具体的な手口」として、「全国銀行協会を装った封書を送りつけ、「元号の改正による銀行法の改正に伴い、全金融機関のキャッシュカードを不正操作防止用キャッシュカードへ変更する手続が必要となります。同封の『キャッシュカード変更申込書』に取引銀行、口座番号、暗証番号を記載し、現在お使いのカードを返送してください」などと指示し、キャッシュカードをだまし取ろうとする」手口だと紹介しています。そのうえで、被害に遭わないために、「全国銀行協会や銀行員が暗証番号等を尋ねることは一切ない」こと、「少しでも不審に思ったら、警察(全国共通の短縮ダイヤル「#9110」、最寄りの警察本部・警察署)や金融庁金融サービス利用者相談室(0570-016811(IP電話からは03-5251-6811))等に情報提供・相談を」と呼びかけています。

  • 米グーグルなどの地図サービスを悪用した振り込め詐欺の一種「リバースビッシング」と呼ぶ手口がアジア太平洋地域で広がりつつあるということです。報道(平成31年1月29日付日本経済新聞)によれば、ビッシングとは、電話など音声を利用するフィッシング詐欺のことで、日本では振り込め詐欺の一種と捉えられています。一般的なビッシングが犯罪者側から電話をかけるのに対し、リバースビッシングでは逆に被害者から発信させるといったものです。例えば、「グーグルマップは地図に表示される情報が誤っているときに、利用者が訂正情報を提案する仕組みを備えている。この機能を悪用して銀行などの電話番号を改ざんする。改ざんに気づかなかった利用者が電話をかけると、犯罪者につながる仕組み。犯罪者が銀行の暗証番号などを聞き出す点は一般的な詐欺と同じだが、利用者が本来の電話番号に発信したと誤認して通話する分、通常の振り込め詐欺よりも引っかかりやすい」というものです。現在インドで流行していて、最近はアジア太平洋地域に拡がっている手口とのことですが、日本においても被害が拡大しかねない手口でもあり、今から注意喚起が必要だと言えます。
  • 資産価値が低い土地を高値で売りつける「原野商法」の被害者に架空の土地取引を持ちかけて現金などをだまし取ったとして、警視庁組織犯罪対策4課は、詐欺の疑いで、準暴力団「関東連合」(解散)元メンバーで会社役員の男ら詐欺グループの男12人を再逮捕しています(なお、関与が疑われる被害者は200人、被害総額は約4億円にも上るようです)。原野商法自体は古く、原野などの価値の無い土地を騙して売りつける悪徳商法で、1960年代から1980年代が全盛期であり、新聞の折り込み広告や雑誌の広告などを使った勧誘が盛んに行われていたものです。今回の逮捕容疑は、数十年前に原野商法で栃木県内の土地を購入した、葛飾区の無職男性(83)ら、都内や埼玉県に住む70~80代の男性3人に、「土地を高く買い取る」などと持ちかけ、土地調査費用や税金対策費用といった名目で現金約2,000万円と土地をだまし取ったというものです。過去騙された人が数十年経過してまた騙されるという点もそうですが、半グレが手がけたという点で今日性もあり、興味深い手口だと言えます。なお、このグループは大手不動産会社と酷似した「大和地所株式会社」という実体のない会社を装い、詐欺に使う携帯電話の供給役やアジトの準備役がいたとされ、かなり組織的に行っていたことがうかがえ、犯罪における「半グレの組織性」も垣間見えます。
  • 有料サイトの未納金名目で女性から30万円相当の電子マネーをだまし取ったとして、福岡県警捜査2課などは、詐欺容疑で工藤会系組幹部を逮捕しています。同容疑者は特殊詐欺グループのリーダーで、2017年10月以降、全国35都道府県で少なくとも計約1億4,000万円をだまし取ったとみられるということです。特殊詐欺を半グレが手がけていることは知られていますが、最近では暴力団も資金獲得活動の一環で直接関与するケースも激増しており、本件もそのひとつと言えます。
  • 東京都内の高齢夫婦宅に息子をかたって家にある現金を尋ねる不審な電話があり、2日後、押し入った3人組の強盗に数千万円を奪われる事件が起きています。報道(平成31年1月20日付日本経済新聞)によれば、「詐欺より手っ取り早く、暴力を使って金を奪う新たな手口の可能性がある」と専門家が注意を呼びかけているほか、「アポ電は同じ地域に集中する傾向があり、住民同士で情報を寄せ合って予兆を共有することも対策として有効だ」と指摘していますが、正にその通りであり、高齢者しか在宅していないことが分かっていれば、力づくで強奪する手口の成功率が上がるであろうこと、都会であれば地域内の関係の希薄さなどが情報共有を阻害する要因ともなりえるのであり、アポ電によってそれらの状況が事前に分かれば、犯行の精度を上げることにつながることから、アポ電や特殊詐欺の凶暴化については、何らかの対策とその周知が必要な状況だといえます。それを裏付けるものとして、前述の通り、警視庁によれば、昨年1年間の被害者の個人情報などを調べる目的で事前にかける「アポ電(アポイントメント電話)」の件数が34,658件あったということであり、既にかなりの拡がりを見せていることが分かります。
  • 神奈川県警特殊詐欺対策室は、女性からキャッシュカード2枚をだまし取ったとして、詐欺容疑で職業不詳の男と19歳の少年1人を含む男5人を逮捕しています。グループのアジトについて、内偵捜査を経て家宅捜索に着手したところ、容疑者らが直前に女性をだましており、すでに1つの口座から50万円が引き出されていたということです。さらに、実際の家宅捜索では証拠品100点以上を押収、一部を公開していますが、使用された携帯電話やパソコン、名簿などに加え、「暗証番号を確認の上」などと注意事項が記載された手書きの詐欺マニュアルも室内から発見されたということです。
  • 相次ぐ特殊詐欺の被害を防ごうと、兵庫県警垂水署は地元のタクシー会社と連携し、被害者宅に現金などを受け取りに行く「受け子」を摘発する取り組みを始めています。兵庫県内の警察署では初の取り組みだということですが、特殊詐欺では「受け子」が移動にタクシーを使用する場合が多く有効な施策だと思われます。報道(平成31年2月6日付産経新聞)によれば、具体的には、高齢者らから「不審な電話があった」などの通報を受けると、タクシー会社の指令室を通じ車内のカーナビの画面に警戒を呼びかける表示を行うというもので、運転手は、「スーツの着こなしが不自然」、「何軒も家をまわる」など、「受け子」と思われる不審な人物が乗車すると、同署に無線で通報、署員が現場に駆けつけることで早期の摘発につなげるものとなっています。実際の犯行の摘発だけでなく、このような取り組みが行われていることが周知されることで抑止効果も期待できます。

(4) 仮想通貨を巡る動向

仮想通貨交換業者「コインチェック」による580億円相当の資産流出事件から1年が経過しましたが、この1年で仮想通貨を取り巻く状況は正に一変したと言えます。仮想通貨は、先端技術である「ブロックチェーン」と呼ばれるデータ管理技術を活用し、決済や送金が低コストで行える利点を活かした21世紀の新たな金融サービスを生み出すとの期待を集めていましたが、むしろ一獲千金を狙う投機対象となったことで世の中から不信の目で見られ、国内では現在、仮想通貨を使った新サービスの開発は停滞気味です。また、その投機対象としての仮想通貨も、コインチェック事件を契機にバブルははじけ、代表的な仮想通貨のビットコインの価格は2017年12月から5分の1以下に低迷している状況です。さらに、本事件を受けて金融庁が実態把握を行ったところ、顧客資産の私的流用やAML/CFT上の脆弱性、反社会的勢力との取引など、その杜撰な管理状況が発覚するところとなりました。また国際的にも仮想通貨を規制する流れもあり、結局、金融庁は、仮想通貨の利活用促進、業界の育成・保護というスタンスから取引の安全対策・利用者保護、AML/CFTなどを重視した厳格な監視・監督、規制強化の方向に大転換します。そして、そのような状況を受けて新たにスタートした自主規制団体も信頼回復に懸命ではあるものの、仮想通貨が新たな金融サービスとして定着するかは見通せない状況が続いています。現在、仮想通貨交換業の登録業者は17社、ほかに21社が登録準備中ですが、このように業界を巡る環境が一変しており、大手マネックスグループ傘下に入ったコインチェックのように、今後も業界の再編が進む可能性も考えられるところです。これからの1年は、正に、業界の信用回復、離れた顧客を取り戻せるか、正に正念場となります。

さて、事件当時の状況については、報道(平成31年1月27日付読売新聞)に詳しいですが、ハッカーが事件の半年前から、同コインチェックのネットワークへの侵入を狙って社員とのメールや電話を頻繁に繰り返していたといい、頻繁に行われたメールや電話のやりとりでは仮想通貨やその技術、仕事に関する話題などが多く、やりとりは全て英語だったようです。流出に至る具体的な経緯としては、まず、(1)流出の半年前に「イベントに参加した者です」とアプローチしてきたハッカー側と社員らは頻繁にやり取りしながら信頼関係を築いていきます。そして、(2)ハッカー側は流出直前にウイルス感染の誘発メールを送付、コインチェックの社員らは言われるままにそのURLをクリックしてしまいます。その結果、(3)PCが感染して社内に拡散、結果、通信が傍受されて秘密鍵が盗まれることになったということです。残念ながら、これらは事件後に初めて気付くこのできた「端緒」であり、当時、そのやりとりを疑う者がいなかったのか、やり取りを通じてセキュリティ強化の必要性を認識した者がいなかったのか、ウイルス感染に気付かなかったのか、気付いてすぐに対応できなかったのかなど、セキュリティ上の防御策の脆弱性に加え、リアルタイムで「端緒」と把握できなかった社員らのリスクセンスの鈍さが今となっては悔やまれます。しかしながら、リスクの認知においては、一般的にこのような状況(当事者がそれをリスク情報と認識できないこと。必ずしもリスクセンスの鈍さだけとは言えない)にあることも少なくなく、私たちとしては、この事件を「他山の石」として自らを省みていくことが何より重要だと言えます
 なお、事件で流出した当時のレートで約580億円相当の仮想通貨「NEM」については、ハッカー側がNEMをマネー・ローンダリングして得た仮想通貨「ビットコイン」の一部を海外の仮想通貨交換所に持ち込み、現金化しようとした形跡があることが分りました(約13億円相当が昨年末から再び、別の口座に送金されていることが情報セキュリティ専門家の調査で判明したようです)。事件後、現金化の動きが確認されたのは初めてで、警視庁は仮想通貨相場の下落傾向を受けて、現金化を急いだ可能性があるとみて、動向を注視しているということです。

さて、本コラムで継続的に紹介してきた「仮想通貨交換業等に関する研究会」の議論については、昨年末に報告書が公表され、いったんの結論が出ています。以下、その第10回(新規仮想通貨公開=ICO=Initial Coin Offeringがメインテーマ)の議事録から、参考になりそうな論点や意見等について簡単に紹介します。

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第10回)議事録
  • ICOというものが果たして、投資家保護という言葉が該当するような、投資家に勧めるべき金融商品の一部を構成するものなのかは大いに疑問。3兆円発行されたけれども、結局、最終的には高値づかみした人がほとんど損をして、発行者と、それから、プライマリーのマーケットで買って、セカンダリーで高く売った人だけがもうけたという、これを詐欺的と言うかどうかは別として、仕組みとして、私は「当たりの決まった逆宝くじ」と呼んでいるが、要するに、最初から発行者が得をして、最終投資家が損をすることがわかっているような商品ではないかという感じを非常に強くしている
  • 私募で買った適格投資家が素人の投資家に転売する。それを証券法上の売出の行為に当たると構成すれば、その人が証券法上の規制に違反したことになるのかもしれないが、ただ普通に買ったものを転売しただと言われれば、それはそれをとがめ立てするのはなかなか難しいと思うし、実際に、途中に仲介業者なしに行われてしまうとすると、果たして実効的にその転売規制というものが担保できるかについて、かなり疑問を感じる
  • ICOという仕組みはインセンティブ・コンパチブル(誘因両立性)でないという問題がある。例えば株式であれば、本人が頑張ってイノベーションすることが、本人のリターンに繋がる仕組みを持っている。だからこそ、ベンチャーの事業家はIPOを目指してイノベーションに取り組み、IPOで株式を上場した後に、その株価を上げるために努力をするのだが、それにどうも該当するような行為がこのICOの場合はなかなか見受けられない
  • 現状はICOのほとんどは法人組織でもない人がアイデアを出して、ICOをやりたいですといって、資金を調達するケースが多いので、そもそもその本体には開示すべき実質がないケースが多い
  • 監督当局と自主規制団体との連携も当然必要になってくるし、自主規制案でも審査等々をしっかり行うとされているが、現状、約8割が詐欺と言われているICOなので、案件審査は非常に高度なノウハウが必要になってくる。逆に言うと、スクリーニングの過程で8割ぐらいはバツをつけるぐらいのスタンスでやっていかなくてはならないということ
  • ICOが詐欺的事案につながりやすい背景として、例えばインターネットを通じた取引のため、心理的障壁が低いこと、あるいはアフィリエイト広告の存在、さらには日本で無登録の海外業者を通じたトークンの販売など、様々なリスク要因が存在すると認識しており、やはり適正な自己責任を求めることが必要になってくる。したがって、情報開示等々をはじめとする規制の整備は当然だが、消費者に対する注意喚起も従来以上にしっかりやっていく必要がある
  • 仮想通貨による払込みだけを追加するのではなくて、投資性がある限り、有償で取得されるICOトークン、あるいは対価を得て発行されるICOトークンを広く有価証券指定することも考えられるのではないか
  • 支払・決済手段の交換業務としての性格のみならず、商品先物取引とかFXのような有価証券とは異なるリスク資産の販売を業とするという性格を帯びるものとして、ICOトークンの機能及びリスクに即して規制をかけていく必要がある
  • ICOがリスクの高い取引であることを鑑みて、自己責任を問うことができる利用者は、適切に選別される必要があるだろうということ。それから、自己責任を問う前提として、リスクに関する情報が適切に提供される必要があり、利用者は、情報提供を受け、リスクを引き受けたと認められる範囲において、自己責任を問われるということを基本とすべき
  • ICOは、スタートアップ段階のものであり、かつ、当然にはガバナンスの仕組みを持たないので、そのままでは適切な事業遂行が行われない蓋然性が高い。この点、レピュテーションリスク等を背景として、事実上、発行者に対するガバナンス効果が発揮されるという場合もあるかと思われるが、前提として、その事業内容、進行状況等について、情報が適切に開示される必要があるし、こういった機能というのはスタートアップには比較的効きにくい面があることに留意が必要
  • 情報提供は必要だが、それだけで蔓延している詐欺的なICOとか、不適切なICO抑止できるかは極めて疑問であり、厳正な審査を求めることや、問題がないもの以外のものについては、これを販売しないということが不可欠
  • 新しい技術が生まれてきているときに、なかなか何が問題なのかというのはわからないような問題というのをどう規制していくかということは難しい。バブルというのもなぜ起こるのかといったときに、よく言われることは、「ディス・タイム・イズ・ディファレント(今回だけは違う)」という言葉で、全く同じ形ではやっぱりバブルは発生しない。現状の形のICOは規制するものはできているけれども、「ディス・タイム・イズ・ディファレント」で出てきたものに関してどういうふうな対応ができるかということも含めて、少し制度設計というか、考えておく必要というのはあるのかもしれない
  • ICOトークンの取引については、相対取引が中心であり、そもそも取引の基準となる市場価格というものが存在するかどうかさえ、よくわからない。このような状況では、取引所という形で、むしろICOトークンの取引が集中したほうが、取引の透明性の向上に資する気もする。そのようなメリットがあるのであれば、流通の場に関する規制として、例えば上場を制度的に禁止するというのは行き過ぎではないか
  • 今後の課題だが、いわば株式の流通の場とは全く違った、しかし、流通性が高い取引形態が発展する可能性を意識しながら、ICOトークンの流通の実態を継続的に調査していく必要がある
  • 法令の中で規定すべきことではないが、例えばICOにおいては、やはり技術のチームにどういうような人が入っているのかとか、あるいはテクノロジーという部分がリスクを左右してくる部分もあると思うので、今後、ICO特有の開示項目ということについては、十分な検討がなされていく必要があるのではないか
  • 広告を受けている絶対数自体は非常に少ないが、特定のそれに興味があると思う人に関しては、徹底的に広告が行くような仕組みというのが最近の広告のあり方で、そういうものにどう対処するかという視点も重要
  • 弁済原資として仮想通貨の保持を求めるか、安全資産の保持を求めるかという点については、必ずしも仮想通貨のほうが良いとも言い切れない面があるのではないか

その他、仮想通貨を巡る最近の動向としては、現在開会中の通常国会に、金融庁が、上記の議論等をふまえ、仮想通貨交換業者への規制強化策やICOを規制する金融商品取引法改正案なども盛り込み、個人情報の第三者提供などにより金融機関が情報を利活用しやすくする銀行法改正案などとあわせ、3月中旬にも一括審議法案として提出する予定ということです。また、今年開催されるG20大阪サミットの議長国で、先行して仮想通貨に規制の網をかけてきた日本が、利用者保護や悪質業者の排除を主導していくことになりますが、直近では、主要国の金融監督当局で構成するFSB(金融安定理事会)が、各国で仮想通貨行政を担う所管当局がわかる「窓口リスト」づくりに着手、世界の金融当局が協調して仮想通貨の包囲網づくりに乗り出し始めています。報道(平成31年2月7日付日本経済新聞)にそのあたりは詳しいですが、「マウントゴックス事件を受け、金融庁は仮想通貨交換業者に登録制を導入する法改正を実施。世界に先駆けて交換業者を当局の監視下に置いた。ただ各国で仮想通貨をめぐるルールは「禁止、規制、監視、放置の4種類」(金融庁幹部)あり、まちまちだ。国境をまたいで取引される仮想通貨に一国だけが規制をしても限界がある」とされているところは正にその通りであり、仮想通貨の規制・監督を「点」ではなく「面」で発想しない限りは規制目的を果たすことができない難しさがあります。そして、その難しさについては、「それを顕著に示すのが18年2月に日本国内で無登録営業をしていたマカオの交換業者に対する「警告」だ。仮想通貨取引に地理的な制約はない。規制がなかったり緩かったりする国に本社を置き、顧客は海外にいるというビジネスモデルも十分に成り立つ。実際、金融庁は警告以上の有効な対応を取れなかった」との指摘の通りです。「各国のスタンスはまちまちで、一足飛びに統一の規制や監督の枠組みを導入するのは現実的ではない。“課題先進国”である日本はまず各国当局との密な情報交換や議論を通じ、問題解決の糸口を探る」というのが現実的な日本が果たすべき役割だと言えます。

さて、米サイバーセキュリティー会社サイファートレース社の調査結果に関する報道(平成31年1月30日付ロイター)によれば、昨年世界で盗まれた仮想通貨の総額は約17億ドル(約1,870億円)に達したということです。そのうち9億500万ドル(約1,000億円弱)は仮想通貨取引所やウォレットなど保管および交換サービスから盗まれています。また、取引所から盗まれるケースで最も多かったのは韓国と日本で、全体の58%を占めたということです(昨年、日本ではコインチェックとZaifで大規模流出事件が相次いだこともあります)。またICOや偽ハッキングなどを活用してトレーダーの預金を奪う「出口詐欺」でも約7億2,500万ドル(約800億円弱)の被害が発生していますが、2017年は5,600万ドル(約60億円強)だったことから、被害がおよそ13倍に膨らんだことになります。また、同社は「これらの数字は当社が確認できたものだけであり、実際の損失額は大幅に大きいと懸念している」と指摘しているほか、昨年第1四半期にはハッカーによる盗難が多かったものの、第4四半期は内部犯行や詐欺が目立ったこと、マネー・ローンダリングに関する新しい犯罪が登場しているとして注意を喚起しており、本コラムとしてもそのあたりに着目して動向を監視していきたいと思います。
 その一方で、セキュリティ強化が裏目に出るような事態も最近発生しています。ビットコインなどを扱うカナダ最大の仮想通貨交換所「クアドリガCX」で、保管していた約1億8,000万カナダドル(約150億円)分の仮想通貨が、パスワードを知るクアドリガの経営者が急死したため引き出せなくなるという事態に陥っています。そのため経営に行き詰まったクアドリガは、裁判所に資産保全の手続きを申し出ています。報道によれば、同取引所は、顧客約11万5,000人の計約2億5,000万カナダドル(約200億円強)の仮想通貨を保管していますが、7割以上が、創業者のコンピューターに入っており、オンラインでは引き出せない状態だったということです。仮想通貨の保管上、オンラインから切り離すことがセキュリティ上望ましいと言えますが、一方で集中管理のためのパスワード管理リスク(代替性リスク/人的リスク)という新たなリスクが浮上したことになり、国内外の仮想通貨交換業者もその管理態勢の確認が求められています

その他、仮想通貨に関する報道としては、以下のようなものがありました。

  • コインチェック流出事件で、事件後に出金を停止させたのは違法だとして、顧客の男性が同社に預けた60万円の返還を求めた訴訟で、東京地裁は、請求を棄却する判決を出しています。原告側は「預けた日本円を払い戻さなかった措置は違法で無効だ」と主張していましたが、判決は「顧客の利益を保護するための措置で無効とはいえない」と退けており、まずは妥当な判決ではないかと思われます。
  • 東京や大阪、札幌の製薬会社や新聞社など18社に青酸カリと金銭を要求する脅迫文が郵送された事件で、脅迫文のQRコードを仮想通貨の専用アプリで読み取ると、送金先の口座情報が表示される仕組みだったことが分かりました(さらに、読み取った口座情報は、脅迫文の送り先ごとに異なるものだったといいます)。送り主が身元の特定をされにくい仮想通貨の口座に送金させようとしたとみられているということです。仮想通貨のもつ「匿名性」の高さが犯罪インフラとして悪用された事例と言えると思いますが、(報道等はされていませんが)送金先の口座もおそらくは偽名・借名・なりすましの可能性が高く、「匿名性の高い口座」という犯罪インフラが悪用されたものでもあると言えます。

(5) 犯罪インフラを巡る動向

米アップル社のスマホ「iPhone」のロック機能を、日本の捜査当局が民間企業の協力を得て解除し、事件捜査に活用していることが明らかになりました。このロック解除を巡っては、米アップル社が2016年、個人情報保護を理由に米連邦捜査局(FBI)の要請を拒否し、FBIは外部協力者に多額の報酬を支払って解除させたことが話題になりました。以前の本コラム(暴排トピックス2016年3月号ほか)でも取り上げましたが、本論点については、結果的には議論が煮詰まらないままの状態となっています。振り返ってみると、当時、当事者同士の間では、当局側が「この端末だけの解除を求めており、すべてのiPhoneに適用されるわけではない」と主張しているのに対し、米アップル社CEOは「この事件にとどまらない影響がある」「悪用されれば、すべてのiPhoneのロックが解除される可能性がある」などと争っていました。そこに、国連人権高等弁務官が、こうした動きは「世界の人々の人権に悪影響をもたらす恐れがある」と警告して米当局に慎重な対応を要請したり、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が、「IT企業はテロ捜査で法執行機関に協力すべきだ」との考えを示すなど、多くの関係者を巻き込んだ論争となりました。米アップル社寄りの代表的な意見としては、「(端末の情報保護システムに)抜け穴を作らせようとする、政府の前例のない要求は危険過ぎる。憲法が保障する表現の自由を侵害する」「犯罪者や敵対的組織などのサイバー攻撃や、政府による不当な調査要請のリスクを高める」といったものがあり、実際に、ニューヨーク連邦地裁が、解除を強制できる法的根拠がないとして、アップル社を支持する判断を下しました。一方、テロ対策を重視する立場から、米司法省は、銃乱射事件容疑者所有のロック解除をめぐって争われたカリフォルニア州での訴訟では、1789年の「All Writs Act(全令状法)」を根拠にアップル社にロック解除が命じられたと主張しています。本コラムでは、「この問題の本質的な争点は、テロ対策をはじめとする犯罪捜査と個人情報の保護をいかに両立させるかという点にあります。そして、必要なのは、テロに対抗するには捜査機関とIT企業の一定の協力は欠かせないという共通認識のもと、(現状の議論を整理したうえで)技術の進歩に対応した法制度・ルールを整備していくことだと思われます」と指摘しましたが、日本の当局も、同様の措置を取っていたことが今般判明したものの、本論点が日本内外で議論され、明確なルール・法整備が進んだかと言えばNOであり、そのような状況において、捜査上の必要性を理由に(なし崩し的に)捜査当局が解除に踏み切っていることは残念です。

SNSの犯罪インフラ化についても本コラムではたびたび取り上げていますが、直近では、違法薬物の密売や振り込め詐欺などの組織犯罪で、犯罪グループ内のメッセージのやり取りが完全消去されるアプリやメールが相次いで発見されているとの報道がありました(平成31年1月22日付読売新聞)。圧政下での人権活動などのために海外で開発された「消えるSNS」と呼ばれるツールで、最新のデジタルフォレンジックでも復元は不可能であり、捜査の障壁になっており、指示役にたどり着けないケースも出ているということです。スマホなどで受信した文章や画像が閲覧の数秒後に消える新たなSNSである「エフェメラル系SNS」については、以前の本コラム(暴排トピックス2016年7月号ほか)でも取り上げましたが、当時、「高い利便性がある一方で、当然、裏腹の関係にある「悪用リスク」も顕在化しつつあります。つまり、他人に知られたくない情報をやり取りしやすいという利便性は、犯罪組織にとっては、犯罪に関する情報のやり取りの痕跡を残さずに済むということであり、既に海外の過激派組織が連絡に使っているとの情報もあります。最近、米FBIとアップル社の間のスマホロック問題が大きな話題となりましたが、「エフェメラル系SNS」はそのような問題とも無縁なうえ、アクセス解析やログ解析等、フォレンジックがどこまで有効に機能しうるか(無効化されかねない事態)も懸念される深刻な問題を孕んでいます。日本においても、通信傍受の対象範囲の拡大や効率化等、捜査手法の高度化が進む一方で、もっぱらこのようなSNSが連絡手段に使われるようになれば、何ら手がかりを得ることは難しい・・・そのような状況が現実に起こっていることを厳しく受け止める必要があります」と指摘しましたが、正にその懸念が現実のものとなりました。今や「エフェメラル系SNS」は、ダークウェブや匿名性の高い仮想通貨などと同様、犯罪者にとって都合のよい、極めて社会的害悪の度合いの高い犯罪インフラの一つだと言えそうです。なお、SNSの悪用については、直近でも、医師が処方する医薬品などの売買をツイッターで呼びかけ、実際の販売はフリーマーケットサイト(フリマサイト)で別の商品を装って行う不正取引が横行している問題があります。本問題については、東京都がフリマサイトと連携し、ツイッター上で不正な売買を呼びかける投稿者に対して直接警告する取り組みを始めたほか、ツイッター社に都から削除要請なども行っているということです。報道(平成31年2月9日付読売新聞)によれば、今年1月末には、この手口を使って未承認の緊急避妊薬を無許可販売したとして、仙台市の無職の男が医薬品医療機器法違反容疑で警視庁に逮捕されているほか、フリマサイト運営各社は監視を強め、問題のある出品者のアカウントを凍結するなどの対策を続けているものの、学生や主婦など若い世代を中心に、口コミで不正取引の手口が拡散しているとのことであり、取引の宣伝に使われているツイッター上の投稿を排除する対策が急務となっています。

さて、本件は、SNSやフリマサイトの利便性が悪用された事例ですが、オークションサイトやフリマサイトの犯罪インフラ化もまた深刻です。これらのサイトには、過去、現金や盗品などが出品されていたこともありましたが、直近では、国内のネットオークションサイトでウランとみられる放射性物質が売買されていたという大変ショッキングな事案が発生しました。警視庁生活環境課が物質を押収し、日本原子力研究開発機構に鑑定を依頼したところ、厳しく管理されているはずの劣化ウランやウラン精鉱(イエローケーキ)の可能性が高いことが判明しています。オークションに出品した人物が特定されており、報道によれば、警視庁に「海外のサイトで購入した」と説明しているということですが、海外から送らせたとみられる詳しい入手経路や目的は分かっていないということです。なお、この問題を受けて、原子炉等規制法が許可を受けずにウランなどの核燃料物質を譲渡することを禁止していることから、原子力規制委員会は、楽天、アマゾンジャパン、ヤフー、メルカリ、日本通信販売協会に対し、販売の防止を求める通知を出すことを決めたほか、同委員会のHPで購入しないよう呼びかけることとしています。サイト運営側としても予想もしない犯罪に自らのビジネスが悪用されていることでもあり、対応に苦慮しているものと推測されますが、犯罪者の手口や存在の巧妙化・潜在化への対応に一層の高度化が求められていると認識し、継続的な顧客管理の厳格化に努めていただきたいと思います。

(6) その他のトピックス

1.薬物を巡る動向

報道(平成31年2月6日付毎日新聞)によれば、覚せい剤取締法違反の再犯者率が全国平均より高く推移している福岡県が、薬物関連事件の初犯者を勾留中に回復プログラムへつなげる独自の対策に取り組んでいるということです。これまで支援が行き届かなかった初犯者の社会復帰を支え、再犯の一歩目を防ぐのが狙いで、検察庁から氏名や勾留先などの初犯者情報を得る全国初の試みだということです。具体的には、福岡地検が扱った事件の中で、検察庁が本人の同意を得た初犯者の基本情報(氏名、勾留先、罪名など)を福岡県に提供し、県警OBや看護師などの県のコーディネーターが勾留先で面談、釈放後、県内に3カ所ある精神保健福祉センターでの回復プログラムなどにつなげるというものです。

▼法務省 再犯防止推進計画(平成29年12月15日閣議決定)

そもそも以前の本コラム(暴排トピックス2018年10月号)でも紹介しましたが、法務省の「再発防止推進計画」(平成29年12月15日閣議決定)において、従来からの薬物依存者の再犯防止対策として、「懲役・禁錮刑」の考え方からを転換し、「薬物事犯者は、犯罪をした者等であると同時に、薬物依存症の患者である場合もあるため、薬物を使用しないよう指導するだけではなく、薬物依存症は適切な治療・支援により回復することができる病気であるという認識を持たせ、薬物依存症からの回復に向けた治療・支援を継続的に受けさせることが必要である」との認識のもと、「法務省及び厚生労働省は、薬物事犯者の再犯の防止等に向け、刑の一部の執行猶予制度の運用状況や、薬物依存症の治療を施すことのできる医療機関や相談支援等を行う関係機関の整備、連携の状況、自助グループ等の活動状況等を踏まえ、海外において薬物依存症からの効果的な回復措置として実施されている各種拘禁刑に代わる措置も参考にしつつ、新たな取組を試行的に実施することを含め、我が国における薬物事犯者の再犯の防止等において効果的な方策について検討を行う」としたことは大きな転換です。さらには、「薬物依存症からの回復に向けて効果が認められている治療・支援が、認知行動療法に基づくものであり、薬物依存症に関する知識と経験を有する心理学の専門職が必要となることを踏まえ」、心理専門職などの薬物依存症の治療・支援等ができる人材の育成等についても具体的に明示するなど、新たな方向性がしめされた点は特筆すべきだと言えます。なお、このような背景には、薬物犯罪の再犯率の高さとともに、「刑務所に閉じ込めるだけでは再犯は止められない」との考え方が広まってきたことがあるとされます。米国などでは「ドラッグコート」(薬物法廷)という取り組みが浸透しており、依存症の対象者は、社会生活の中で薬物離脱プログラムを受けながら更生を目指す制度(裁判官・検察・弁護人・保護観察官・警察とトリートメントサービスのコーディネーターやケースマネージャーで運営され、ドラッグ・トリートメントへの「アクセス」を「強制」するシステム)で成果をあげているようです。日本でもこのような制度の導入を検討する方向が示されていることをふまえ、「懲役・禁錮刑」を中心としてきた日本の刑事政策は社会内での更生を重視する流れを加速していくべきだと言えると思います。その意味では、福岡県の取組みは意欲的である評価できるとともに、これら薬物事犯の回復プログラム(離脱プログラ)が、主に判決後に刑務所や保護観察所で受ける機会があるものの、初犯者の場合は執行猶予判決で釈放される可能性が高く、公的機関の支援がないまま社会復帰していくのが実態であることをふまえれば、大変画期的な取り組みだとも言えます。報道の中で、専門家が、「依存症や生活困窮、社会的孤立など本人が抱える問題を解決することが再犯防止につながるが、執行猶予判決を受けると何も解決されないまま社会に戻ることになる。薬物依存は刑を科して治るものではなく、福岡県の取り組みは意味があると考える」と指摘していますが、現制度を補完・強化するとともに、根本的な解決につながる可能性を秘めているものとして、全国的に拡がることを期待したいと思います。

また、最近の薬物に関する報道からは、例えば、覚せい剤などの薬物を密売するイラン人組織同士の縄張りを巡る抗争が今年度、愛知県内で10件以上起きているといったものがありました。同県内では複数の組織がリーダーを入れ替えながら、長年存続してきたといい、日本で罪を犯しても、母国に送還されにくいという入管行政上の事情も影響していると指摘されているのは、薬物の供給ルートを断つことの困難さを考えるうえでは、極めて興味深いものです(具体的には、有罪判決が出て強制送還が決定され、入管施設に収容されたとしても、(必ずしも本国へ強制送還されるのではなく)帰国を拒否した場合には事情を考慮した上で「仮放免」されている実態があり、それが再犯につながっているという負のスパイラルとなっています)。関連して、米でメキシコ「麻薬王」の公判が続いていますが、メキシコ前大統領が在任中に1億ドル(約108億円)に上る賄賂を受け取っていたとの別の組織の幹部の証言が飛び出したり、密輸の手口が次々と明らかになるなどしているようです。例えば、「カルテルは自前の飛行機や潜水艦を所持するのに加え、警察や軍隊、国境警備関係者などを買収。麻薬はトラックや自動車の車体に隠されたり、商品に偽装されたりして、国境検問所を堂々と通過している実態が明らかになっている。また、地下トンネルを使って国境を越え、米国側に運ばれており、90年代以降、国境地帯では200以上の密輸用トンネルが発見されている」(平成31年1月14日付毎日新聞)といったものや、最近の報道(平成31年2月2日付毎日新聞)によれば、「貧しい不法移民が運び屋に仕立て上げられて国境をかいくぐる例が無いわけではないが、カルテルはそんな効率の悪いビジネスをしない。トラックや貨物列車に積んで堂々と検問所を通るか、トンネルを使う。現在でも国境で押収されるコカインの88%、ヘロインの90%は正規の検問所で発見されている。荷物検査の強化の方が何倍もの効果があるだろう」といった実態(つまり、検問所の関係者などが買収され密輸をほう助している実態)があり、トランプ大統領がメキシコとの国境に「壁」を建設しようとしても麻薬の流入は止まらないであろうことを実感させられます。

その他、最近の報道からいくつか紹介します。

  • 本コラムでたびたび指摘している通り、若い世代を中心に大麻の所持などで摘発される件数が増えていますが、大麻は他の薬物より入手しやすく、さらには最近では「買うより育てた方が安い」といった風潮が広がりつつあり(摘発する側からみれば、暴力団のような組織的な背景がないことから、供給ルートの実態解明には時間がかかることになります)、実は乱用者は摘発数の増加以上に爆発的に増加している可能性もあり、その蔓延のスピード、拡がりともに大きな危惧を覚えます。最近でも、大阪府富田林市の住宅街にある倉庫で大麻草を栽培したとして、近畿厚生局麻薬取締部と大阪府警は、40~50歳の男女7人を大麻取締法違反(営利目的共同栽培)などの容疑で逮捕しています。報道(平成31年1月15日付毎日新聞)によれば、同取締部は倉庫から1,000本を超える大麻草を押収(末端価格にして数億円以上)、製造拠点の「大麻工場」とみられるということであり、その密売ルートなどの解明が急がれます。
  • 大麻成分が混ぜ込まれた菓子を、インターネットを通じて密輸し、摘発されるケースが全国で相次いでいます。直近では、奈良県内で、昨年12月、大麻成分入りの菓子を密輸したとして男性が初めて逮捕されています。大麻の違法性や危険性が十分認識されておらず、好奇心からネットなどで安易に手を出すなど、大麻に対する抵抗感が薄れているのではないかと強い危惧を覚えます。
  • 福井県警は、自宅で乾燥大麻0・047グラムを所持したとして、大麻取締法違反の疑いで県内に住む中学3年の男子生徒を逮捕しています。報道によれば、この生徒は、「インターネットで大麻を吸引している動画を見て興味を持った。ネットで購入した」と供述しているということであり、逮捕される数日前に購入し、2~3回使ったと説明しているようです。若年層への大麻の蔓延が問題となる中、中学生が自ら簡単に大麻を入手できる状況を放置しておくわけにはいきません。なお、若年層への大麻の悪影響については、以前の本コラム(暴排トピックス2018年12月号ほか)でも指摘していますが、警視庁の啓発資料「大麻を知ろう」の中に、「大麻を使うと、カンナビノイドが脳の神経回路を削りとってしまう、1回でも使えば削られてしまう、使えば使うほど削られてしまうという悪影響があるのです。人間として形成されたものが失われてしまったり、まともな脳が作られなくなってしまうことを考えれば、若者は、これから脳が成長していく段階であり、大人以上に深刻な問題が生じるだろうから大麻に手を出すことは絶対に止めるべきです」との専門家の警告がありますが、このような事実・危険性をもっと周知させていくことが必要だと思います。
  • 覚せい剤を隠し持っていたとして、兵庫県警は、広告制作会社社員を覚せい剤取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕しています。自宅で微量の覚せい剤を所持した疑いですが、この容疑者は毎日新聞社常務取締役の妻で、自宅に夫婦で暮らしていたといいます。さらに、その勤務先は読売新聞の関連先で同社の机の引き出しも捜査対象になったということです。以前から指摘している通り、薬物事犯や痴漢などは個人的な犯罪であるにもかかわらず、個人名の方は匿名化されるものの、勤務先や関係先の知名度が高ければ、社名が報道されてしまう傾向にあります。その意味で、薬物事犯等は事業者にとっても極めてレピュテーションリスクの高い類型だと言えます。このような状況にかかわらず、事業者にとっての薬物リスクは、いまだ役職員の「常識」に依存している状況であり、事業者はもっと「当事者」としてリスク管理の視点から何ができるかを考えていただきたいと思います。

2. IR/カジノ/ギャンブル依存症を巡る動向

特定複合観光施設区域整備法(平成30年法律第80号。以下「法」という)が平成30年7月27日に公布されていますが、法を施行するに当たり、「特定複合観光施設区域整備法施行令」の制定を予定しているところ、今般、その内容についてパブリックコメントが出されています。具体的には、「国際会議場施設については、最大国際会議室の収容人員がおおむね千人以上、かつ、国際会議場施設全体の収容人員の合計が最大国際会議室の収容人員の2倍以上であること」、「(魅力増進施設の要件として)我が国の観光の魅力の増進に資する劇場、演芸場、音楽堂、競技場、映画館、博物館、美術館、レストランその他の施設」、「ゲーミング区域の床面積の上限は、IR施設の床面積の合計の3%」、「(IR区域以外の地域でカジノ事業等に関する広告物の表示等が制限されない施設として)国際線が就航する空港や外航クルーズ船等が就航する港湾の旅客ターミナルのうち、外国人旅客が入国手続きを完了するまでの間に滞在することができる部分に限定」、「現金取引報告の対象となる取引の範囲については、カジノ事業者と顧客との間の現金とチップの交換など、現金の受払いが行われる取引であって、100万円を超えるもの」、「カジノ事業者が取引時確認等を行うことが義務付けられる「特定取引」の範囲を定めるなど、犯罪収益移転防止法施行令等の関係政令について所要の改正を実施」などが提示されています。

▼首相官邸 特定複合観光施設区域整備推進本部事務局 特定複合観光施設区域整備法施行令(案)概要
▼同修正版

また、昨年(平成30年)12月に開催された説明会資料についても公表されていますので、すでに本コラムでも紹介したものもありますが、本コラムと関係の深い部分について抜粋して紹介します。

▼特定複合観光施設区域整備法に係る説明会 説明資料

本資料においては、例えば、公正・廉潔なカジノ事業のために、その審査対象としては、当該法人・株主や「IR事業者の事業活動に支配的な影響力を有する外部の者」「契約の認可等の先」などが対象となるほか、必要に応じて、あらゆる関係者(子会社等、2次・3次、それ以上の繋がりを有する者等を含む)に対して、どこまででも徹底的背面調査を行うことができること、カジノ事業免許取得前の建設等の契約についても、カジノ事業免許審査時に、社会的信用の観点から審査の対象となることなどが示されています。もう少し具体的に言えば、「IR整備法上の「役員」は、「業務を執行する社員(略)、取締役、執行役、会計参与(略)、監査役若しくは監査役、代表者、管理人又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人等(略)に対し業務を執行する社員、取締役、執行役、会計参与、監査役若しくは監査人、代表者、管理人又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む」とされており、会社法上の「取締役」に限定されるものではない(法第23条第2項)。また、カジノ事業免許は認定設置運営事業者が申請を行うものであり、その「役員」が背面調査の対象とされていることから、カジノ事業部門以外の事業に従事する「役員」もその対象に含まれることになる(法第41条第1項第2号)」とされている点には注意が必要です。また、「カジノ事業については、原則として業務委託は認められない(法第93条第1項)が、カジノ事業以外のIR事業については業務委託を行うことは可能。しかしながら、カジノ事業免許取得後、IR事業について、業務委託や賃貸等の契約を締結しようとするときはカジノ管理委員会の認可が必要(法第95条第1項)。カジノ事業免許取得前の建設等の契約についても、カジノ事業免許審査時に、社会的信用の観点から審査の対象となる」とされています。
一方、「弊害防止対策」(マネー・ローダンリング対策等)の基本的枠組みとしては、以下の通りに整理されています。

  • 環境面の対策(反社会的勢力の排除等)
    • 免許制度(FATF勧告で求められている対策)
    • 背面調査による事業者・従業者からの反社会的勢力の排除
    • 入場者からの反社会的勢力の排除
    • 施設の構造・設備基準

  • 取引行為に着目した対策
    • 公正なゲーミングの実施
    • 取引時確認等、疑わしい取引の届出(FATF勧告で求められている対策)
    • 一定額以上の現金取引の届出
    • 顧客の指示を受けて行う送金先を本人の口座に限定(日本独自の対策)

  • 顧客の行動に着目した対策
    • チップの譲渡規制(日本独自の対策)
    • チップの持ち出し規制
    • 施設内の警戒・監視

  • 事業者の規制順守のための対策
  • 内部管理体制の整備(FATF勧告で求められている対策)
  • 自己評価と監査の結果をカジノ管理委員会に報告(日本独自の対策)

さらに、依存防止対策としては、以下の規制となります。

  • カジノ事業者に対して、依存防止規程に従って、以下の依存防止措置を講じることを義務付け
    • 本人・家族申告による利用制限、依存防止の観点から施設を利用させることが不適切であると認められる者の利用制限
    • 相談窓口の設置等
    • 依存防止措置に関する内部管理体制の整備(従業者の教育訓練、統括管理者・監査する者の選任、自己評価の実施等)。なお、依存防止規程については、免許申請時にカジノ管理委員会が審査(変更は認可が必要)となります

  • 日本人等の入場回数を連続する7日間で3回、連続する28日間で10回に制限
  • 日本人等の入場者に対し、入場料・認定都道府県等入場料として、それぞれ3千円/回(24時間単位)を賦課
  • その他
    • カジノ行為区画のうち専らカジノ行為の用に供される部分の面積を規制(上限については政令で規定)【前述の通り、政令において3%が提示されています】
    • カジノ行為の種類及び方法・カジノ関連機器等の規制
    • 日本人等に対する貸付業務の規制
    • 広告及び勧誘の規制【前述の通り、政令において広告規制が示されています】
    • カジノ行為関連景品類の規制

なお、カジノ施設に入場する際に行われる本人確認方法については、「IR整備法第70条第1項は、法律上、個人番号カードを取得できる者には、カジノ施設への入場の都度、個人番号カードの提示を義務付けている。また、その際の本人確認及び入場回数管理の方法は、今後カジノ管理委員会規則で定めることになるが、カジノ施設への入場の都度、個人番号カードのICチップに格納されている電子証明書を用いた公的個人認証を活用することを想定」としている点も注目されます。また、マネー・ローンダリング対策としては、犯罪収益移転防止法(犯収法)においてカジノ事業者を規制対象に追加し、「チップの交付等の特定の取引(政令で規定)について、犯罪収益移転防止法の規制対象となる取引に追加し、顧客に対する取引時確認、取引記録の作成・保存、疑わしい取引のカジノ管理委員会への届出等を義務付け」とするほか、以下の上乗せ規制を設けています。

  • (1) 犯罪収益移転防止規程の作成の義務付け及びカジノ管理委員会による審査
    • 犯罪収益移転防止規程には、以下の事項の記載を義務付け
    • 取引時確認の的確な実施に関する事項
    • 取引記録等の作成及び保存に関する事項
    • 疑わしい取引の届出に係る判断の方法に関する事項
    • 取引時確認をした事項を最新の内容に保つための措置、従業者の教育訓練等の内部管理体制の整備に関する措置、チップの譲渡等の防止のための措置及び一定額以上の現金取引の届出に関する事項
  • (2) 一定額以上の現金取引の届出の義務付け
    • カジノ事業者に対し、顧客との間で行う一定額(政令で規定)以上の現金取引についてカジノ管理委員会への届出を義務付け
    • 本届出事項は、疑わしい取引の届出事項とともに、カジノ管理委員会から国家公安委員会に通知
  • (3) チップの譲渡・譲受け・持ち出しの規制
    • 顧客に対し、顧客間のチップの譲渡・譲受け(親族間のものを除く)、カジノ行為区画外へのチップの持ち出しを禁止
    • カジノ事業者に対し、顧客間のチップの譲渡・譲受け、カジノ行為区画外へのチップの持ち出しを防止するために必要な措置を講ずることを義務付け

なお、暴力団員等の排除については、前回の本コラム(暴排トピックス2019年1月号)にて紹介しておりますので、是非、参照ください。また、カジノ事業の免許等の際の欠格事由となる罰金刑の対象となる罪の考え方(法第41条第2項第1号ヘ等関係)として、「「カジノ事業者・カジノ施設供用事業者及びこれらの役員」の欠格事由となる罰金刑の対象となる罪として政令で定めるものは、「善良の風俗の確保や反社会的勢力の排除の観点」、「健全な組織運営の確保の観点」、「健全な事業活動の確保の観点」のために、必要な罪とすべき」、「上記以外の者の欠格事由となる罰金刑の対象となる罪として政令で定める者は、カジノ事業への関与の程度等に応じて、上記のうち、必要な罪とすべき」との厳しい考え方が示されている点が注目されます。

3.犯罪統計資料(平成30年1~12月)

犯罪統計資料については本コラムで毎月紹介していますが、今回は平成30年(1年間)分の犯罪統計資料となります。以下、簡単に紹介しておきたいと思います。

▼警察庁 犯罪統計資料(平成30年1~12月分【暫定値】)

昨年(平成30年)1年間の刑法犯全体の認知件数は817,745件(前年915,042件、前年同期比▲10.7%)と戦後最少を4年連続で更新、かつピーク時の2002年と比べて71.4%減少するなど、東京五輪・パラリンピックに向け、日本の治安の良さを改めて示す形となりました。また、検挙件数は309,430件(327,061件、▲5.4%)となったことから、検挙率は37.9%(35.7%、+2.2P)と上昇傾向にあります。犯罪類型別では、「凶悪犯(殺人、強盗、放火、強制性行等)」の認知件数は4,902件(4,840件、+1.3%)、検挙件数は4,337件(4,193件、+3.4%)、検挙率は88.5%(86.6%、+1.9P)と増加した一方で、「粗暴犯(凶器準備集合、暴行、傷害、脅迫、恐喝)」の認知件数は59,143件(60,069件、▲1.6%)、検挙件数は49,350件(49,135件、+0.4%)、検挙率は83.4%(81.8%、+1.6P)、「窃盗犯(侵入盗、乗り物盗、非侵入盗)」の認知件数は582,217件(655,498件、▲11.2%)、検挙件数は190,555件(204,296件、▲6.7%)、検挙率は32.7%(31.2%、+1.5P)、「知能犯(詐欺、横領、偽造、汚職、あっせん利得処罰法、背任)」の認知件数は42,612件(47,009件、▲9.4%)、検挙件数は19,693件(20,965件、▲6.1%)、検挙率は46.2%(44.6%、+1.6P)、「風俗犯(賭博、わいせつ)」の認知件数は9,114件(9,699件、▲6.0%)、検挙件数は7,093件(7,048件、+0.6%)、検挙率は77.8%(72.7%、+5.1P)、「その他の刑法犯の認知件数」は119,457件(137,897件、▲13.4%)、検挙件数は38,402件(41,444件、▲7.3%)、検挙率は32.1%(30.1%、+2.0P)などとなっています。なお、「万引き」の認知件数は99,696件(108,009件、▲7.7%)、検挙件数は71,331件(75,257件、▲5.2%)、検挙率は71.5%(69.7%、+1.8P)であり、特に、検挙率の高さはあらためて周知されるべきと思われます(「万引き」は捕まることを周知することが抑止につながります)。

一方、特別法犯全体の検挙件数は74,057件(72,860件、+1.6%)、検挙人員は62,924人(62,469人、+0.7%)と増加傾向にあります。個別では、犯罪収益移転防止法の検挙件数は2,580件(2,581件、▲0.0%)、検挙人員は2,193人(2,163人、+1.4%)、麻薬等取締法の検挙件数は850件(816件、+4.2%)、検挙人員は401人(387人、+3.6%)、大麻取締法の検挙件数は4,605件(3,907件、+17.9%)、検挙人員は3,488人(2,957人、+18.0%)、覚せい剤取締法の検挙件数は13,850件(14,065件、▲1.5%)、検挙人員は9,655人(9,900人、▲2.5%)などとなっており、とりわけ、大麻事犯の増加が顕著であることが数字からも示されています。
 また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の国政別検挙人員については、総数524人(518人)、中国120人(121人)、ベトナム71人(89人)、ブラジル51人(42人)、韓国・朝鮮35人(33人)、フィリピン24人(30人)等の結果となっています。
 さらに、暴力団犯罪(刑法犯)については、全体の検挙件数は18,650件(20,277件、▲8.0%)、検挙人員は9,827人(10,393人、▲5.4%)と大きく減少していますが、(まだ正式発表はされていませんが)暴力団構成員等の人数の減少が影響しているものと推測されます。暴力団犯罪のうち窃盗の検挙件数は10,183件(11,303件、▲9.9%)、検挙人員は1,626人(1,874人、▲13.1%)、詐欺の検挙件数は2,265件(2,379件、▲4.8%)、検挙人員は1,751人(1,813人、▲3.4%)となっており、窃盗より詐欺の減少幅が小さいことから、特殊詐欺等への関与度合いが増していることが考えられるところです。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)については、全体の検挙件数は9,626件(10,188件、▲5.5%)、検挙人員は7,034人(7,344人、▲4.2%)で、うち暴力団排除条例の検挙件数は17件(12件、+41.7%)、検挙人員は53人(62人、▲14.5%)、麻薬等取締法の検挙件数は168件(200件、▲16.0%)、検挙人員は49人(67人、▲26.9%)、大麻取締法は1,146件(1,086件、+5.5%)、検挙人員は743人(736人、+0.7%)、覚せい剤取締法の検挙件数は6,644件(6,844件、▲2.9%)、検挙人員は4,556人(4,693人、▲2.9%)などとなっており、やはり、暴力団が大麻事犯への関与を強めていることが示されたものと言えます。

また、各種報道をまとめると、(1)街頭犯罪が大きく減った一方でサイバー犯罪が増加していること、(2)知能犯については、特殊詐欺全体の認知件数が16,493件で8年ぶりに減少に転じたものの、「オレオレ詐欺」(9,134件)が638件増えたこと、(3)刑法犯のうち「殺人」「強盗」「放火」「強制性交等」の凶悪犯に、「略取誘拐・人身売買」「強制わいせつ」を加えた重要犯罪については、国民の生命や身体、財産を侵害する恐れが高く、警視庁も特に捜査に力を入れているところ、その検挙率が戦後初めて90%を超え、93・9%を記録したこと(東京では全重要犯罪の認知件数の1割を優に超える1,504件が集中しており、その中で驚異的な検挙率と言えます)、(4)大阪府内で昨年1年間に起きた刑法犯の認知件数は95,562件(前年比▲10.7%)となり、2001年の327,262件をピークに毎年減少し、平成に入って初めて10万件を下回ったこと(大阪府は、都道府県別では東京に次ぐ多さで、「ひったくり」「路上強盗」「車上狙い」「部品狙い」の4つの手口で全国最多となっています)などが大きな傾向として指摘できるようです。そして、(5)街頭犯罪の減少や警視庁の重要犯罪の検挙率の高さの背景には、「防犯カメラ」捜査の浸透があると言えます。ただし、これだけ刑法犯が減少したにもかかわらず、特殊詐欺やサイバー犯罪の高止まり傾向にあることから「体感治安」はあまり改善していないのではないかとも言えます。また、最近も痛ましい事件が相次ぎ、国も対策に本腰を入れ始めた児童虐待については、虐待の疑いがあるとして、全国の警察が昨年1年間に児童相談所に通告した18歳未満の子どもの人数が、前年比14,673人増の80,104人に上り、統計を取り始めた2004年以降、初めて8万人を超える残念な結果となっています。

(7) 北朝鮮リスクを巡る動向

今月末に控えた2回目の米朝首脳会談で、両国は非核化交渉に入ることになりますが、北朝鮮による「制裁逃れ」が後を絶たない状況が続いており、関係国の「制裁破り」による支援も表面化するなど、違法行為の根絶の困難さに直面しています。例えば、北朝鮮が、制裁決議に違反し、漁業権を中国の漁業者に売却していることが明らかになりました。この点について、国連安全保障理事会で対北朝鮮制裁決議の履行状況を監視する北朝鮮制裁委員会の専門家パネルの調査報告書は、漁業権売却が北朝鮮の重要な外貨獲得手段になっていると指摘しています。また、海上で石油精製品などの積み荷を移し替える「瀬取り」についても、2018年1月から8月中旬までに、北朝鮮は少なくとも計148回の瀬取りをしたとの同専門家パネルの報告があるほか、直近でも、外務省は、北朝鮮船籍のタンカーが「瀬取り」を行った疑いがある事案を確認したと発表しています。同省は、国連安保理の北朝鮮制裁委員会に通報し、米国などと情報を共有していますが、2018年1月以降、同省が公表した同様の事案は10件目となっています。なお、本件では、同じ船が繰り返し瀬取りをしている疑いが初めて明らかになっており、瀬取りが常態化している可能性を示唆しています。さらには、韓国と北朝鮮が昨年、北朝鮮の開城に開設した南北共同連絡事務所で使う石油精製品について、韓国が国連安保理の制裁決議で義務付けられた輸出の届け出を見送っていたことも明らかになりました(なんと約340トンの石油精製品が運びこまれたということです)。専門家パネルの報告書で、韓国の制裁違反を初めて指摘したものですが、核・ミサイル開発を強行していた北朝鮮が融和姿勢に転じた後、韓国は北朝鮮との関係改善を重視、制裁の厳格な履行より南北関係を優先させる韓国の姿勢が浮き彫りになったと言え、北朝鮮問題の当事者の一人である韓国の半ば公然の「制裁破り」は日米や国際社会に対する裏切りに等しく、極めて憂慮すべき状況だと言えます(なお、国連安保理の北朝鮮制裁員会は、国連児童基金(ユニセフ)や北朝鮮支援に携わる民間団体など計4団体の申請に基づき、人道支援を目的とする北朝鮮への物品搬入を、対北朝鮮制裁の例外として認めたと発表、物品には救急車のほか、病院で使うコンピューター、テレビ、家具などが含まれるということです。人道的な観点から支援する道はきちんとある中、公然と制裁を無視する行為は問題があると言えます)。報道(平成31年2月4日付産経新聞)の通り、制裁逃れに手を貸すことは、北朝鮮の核・ミサイルの脅威を増大させる行為であること、そうした脅威がなくなることが制裁解除の絶対条件となっていることを日米韓および国際社会があらためて認識し、国際社会における法務執行当局が情報共有などで協力を深化させる必要があると言えます
 また、「制裁逃れ」「制裁破り」以外にも、例えば、ロシアが昨年10月、北朝鮮に対し、核兵器と弾道ミサイルの廃棄と引き換えに原子力発電所を提供する提案をしていたと米紙が報じています。提案では、北朝鮮が原発を核兵器開発に転用しないように、原発はロシアが運営し、使用済みの核燃料はロシアに運搬することになっているといい、ロシア側は、北朝鮮側が提案に関心があれば、非核化の時期を示すように呼びかけたということです。ロシア側も米政権も公式に反応はしていませんが、表向きは非核化に向けたプロセスの一つの選択肢にはなるものと思われます。

一方、北朝鮮は、非核化も弾道ミサイル開発の放棄もしているわけではありません。米政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)は、北朝鮮北西部の新五里に、中距離弾道ミサイル「ノドン1号」が配備されている未公表のミサイル基地が存在すると指摘した報告書を発表しています。報告によれば、朝鮮半島全域と日本の大半に位置する標的に対して核弾頭または通常弾頭による先制攻撃を行う任務を与えられていると推定されるとのことであり、事実であれば、核攻撃と弾道ミサイルの脅威は減るどころか増していることになります。さらにCSISは、北朝鮮北西部東倉里のミサイル基地「西海衛星発射場」のエンジン燃焼試験台などの施設の解体作業が昨年8月以来、中断しているとする、商業衛星画像に基づく分析結果も発表しています。また、北朝鮮で核兵器の原料を生産するウラン濃縮施設が多数に分散されている可能性があることが、韓国大統領府元高官の証言から浮かび上がったとする報道もありました(平成31年1月22日付朝日新聞)。報道によれば、秘密施設を含め濃縮施設が最大で10カ所前後あるとの米韓当局の分析があるといい、北朝鮮が米朝交渉で寧辺核施設の破壊を約束しても、同元高官は「北朝鮮の核開発に大きな影響はない」としています。これらの状況から、米情報当局は、北朝鮮の指導層は(金正恩)体制存続のために核兵器が決定的に重要と見なしているとして鮮がすべての核兵器を放棄する可能性は低いとの見方を示しています(平成31年1月29日付時事通信)。北朝鮮の「完全な非核化」で合意した昨年6月の米朝首脳会談後、トランプ大統領は「非核化で大きな進展があった」と主張、間もなく開催される2回目の米朝首脳会談でも「完全な非核化」の具体化を目指しているものの、情報機関の分析との温度差が浮き彫りになっています。会談においては、核施設の査察や解体、検証についての具体策で合意できるかが焦点となっているところ、非核化交渉は今後も難航が予想されます。
 その米国も、米朝首脳会談に向けて地盤を整える一方で、北朝鮮のハッカーが構築しサイバー犯罪などに悪用している、ウイルス感染で乗っ取ったコンピューターのネットワーク(ボットネット)壊滅に向けた大規模作戦を実施すると発表しています(平成31年1月31日付産経新聞)。司法省が標的とするのは、「ジョアナップ」と呼ばれるウイルスに感染したコンピューターで、国土安全保障省によると、ジョアナップはウェブサイトの閲覧や電子メールの添付ファイルを通じてユーザーが気付かずにダウンロードされ、感染すると遠隔地からの不正アクセスでデータを盗み出されるなどの被害を受ける恐れが高く、北朝鮮は航空宇宙産業や金融機関、基幹インフラ産業などを標的にこのウイルスをばらまき、ボットネットを構築してきたとみられるところ、「今回の作戦で、北朝鮮政府系ハッカーによる脅威を取り除く」としています。

3.暴排条例等の状況

(1) 東京都暴排条例の改正

警視庁は、飲食店などから「用心棒代」や「みかじめ料」を受け取った暴力団組員を、勧告などの手続きを経ずに逮捕できる「直罰規定」を盛り込んだ東京都暴排条例の改正案を公表しています。利益供与した店側にも罰則が設けられているほか、銀座や六本木、歌舞伎町など22区市の繁華街を「暴力団排除特別強化地域」に指定し、暴力団組員がみかじめ料などを受け取った場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される内容となっています。他の自治体の最近の改定動向に同じく、みかじめ料を支払った店側にも同様の罰則が適用される点にも注意が必要です。

▼警視庁 「東京都暴力団排除条例」の一部改正に関する意見募集について
▼東京都暴力団排除条例の一部改正概要

本資料によれば、まずは、「東京都では、東京都暴力団排除条例施行(平成23 年)以降、官民一体となった暴力団排除活動を推進しているが、都内に多数存在する繁華街等では、未だに暴力団員が飲食店や風俗店等から用心棒料やみかじめ料を徴収している実態があり、暴力団の莫大な資金源となっていると同時に、これらの徴収をめぐる事件やトラブルも発生している」との現状認識を示したうえで、「東京都では、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けて、暴力団の排除を一層徹底し、都民及び事業者の安全・安心かつ平穏な生活の確保並びに繁華街における良好な環境の醸成のため、東京都暴力団排除条例を一部改正し、繁華街における暴力団員に対する利益供与等の取締りを強化するための措置を追加することとした」と、改正の趣旨が説明されています。
主な改正の概要は以下の通りとなっています。

  • 都内の主な繁華街を「暴力団排除特別強化地域」と指定し、同地域における「特定営業者」及び「客引き等を行う者」が暴力団員に対し用心棒料、みかじめ料の利益を供与する行為や、暴力団員がこれら利益の供与を受けること等を禁止するもの
  • 暴力団排除特別強化地域:風俗店、飲食店が集中し、暴力団が活発に活動していると認められる別紙(後述)記載の地域
  • 特定営業者及び客引き等を行う者の禁止行為
    • 暴力団員又は暴力団員が指定した者から用心棒の役務の提供を受けること
    • 暴力団員又は暴力団員が指定した者に用心棒の役務を受けることの対償として利益を供与すること(いわゆる「用心棒料」)又は営業を営むことを容認する対償として利益を供与すること(いわゆる「みかじめ料」)

  • 暴力団員の禁止行為
    • 特定営業者又は客引き等を行う者に用心棒の役務を提供すること
    • 特定営業者又は客引き等から用心棒の役務の提供をすることの対償として利益の供与を受けること又は営業を営むことを容認する対償として利益の供与を受けること

  • 罰則:1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(特定営業者、客引き等を行う者は自首減免規定あり)

なお、本資料においては、用語の解説があり参考になります。例えば、「特定営業者」については、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、「風適法」という。)等の法律で規定された下記の特定営業を営む者」として、以下が列記されています。

  1. 風俗営業(風適法第2条第1項):キャバレー、麻雀店、パチンコ店、ゲームセンター等
  2. 性風俗関連特殊営業(風適法第2条第5項):ソープランド、ファッションヘルス、派遣型ファッションヘルス、ラブホテル等
  3. 特定遊興飲食店営業(風適法第2条第11 項):ナイトクラブ等
  4. 接客業務受託営業(風適法第2条第13 項):コンパニオン派遣業等
  5. 飲食店営業(食品衛生法第52 条第1項):一般飲食店、スナック、居酒屋等
  6. 風俗案内業(歓楽的雰囲気を過度に助長する風俗案内の防止に関する条例第2条):風俗案内所
  7. 客引き等:道路等において、特定営業等に関し客引きやスカウトをする行為
  8. 用心棒の役務:営業を営む者の営業に係る業務を円滑に行うことができるようにするため顧客、従業者その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務

また、別紙として、「暴力団排除特別強化地域」が22市区の以下のエリアが指定されています。

千代田区

内神田三丁目、鍛冶町一丁目、同二丁目、神田鍛冶町三丁目

中央区

銀座六丁目、同七丁目、同八丁目

港区

赤坂二丁目、同三丁目、麻布十番一丁目、同二丁目、新橋一丁目、同二丁目、同三丁目、同四丁目、六本木三丁目、同四丁目、同五丁目、同六丁目、同七丁目

新宿区

大久保一丁目、同二丁目、歌舞伎町一丁目、同二丁目、新宿二丁目、同三丁目、同四丁目、同五丁目、高田馬場一丁目、同二丁目、同三丁目、同四丁目、西新宿一丁目、同七丁目、百人町一丁目、同二丁目

文京区

湯島三丁目

台東区

浅草一丁目、同二丁目、同三丁目、同四丁目、同五丁目、上野二丁目、同四丁目、同六丁目、千束三丁目、同四丁目、西浅草三丁目、根岸一丁目、同二丁目、同三丁目

墨田区

錦糸一丁目、同二丁目、同三丁目、同四丁目、江東橋一丁目、同二丁目、同三丁目、同四丁目

品川区

西五反田一丁目、同二丁目、東五反田一丁目、同二丁目、南大井三丁目、同六丁目

大田区

大森北一丁目、同二丁目、蒲田五丁目、西蒲田五丁目、同七丁目

渋谷区

宇田川町、恵比寿一丁目、恵比寿西一丁目、恵比寿南一丁目、桜丘町、神南一丁目、道玄坂一丁目、同二丁目、円山町

中野区

中野二丁目、同五丁目

杉並区

阿佐谷北二丁目、阿佐谷南二丁目、同三丁目、高円寺北二丁目、同三丁目、高円寺南三丁目、同四丁目

豊島区

池袋一丁目、同二丁目、北大塚一丁目、同二丁目、巣鴨一丁目、同二丁目、同三丁目、西池袋一丁目、同三丁目、東池袋一丁目、南池袋一丁目、南大塚一丁目、同二丁目、同三丁目

北区

赤羽一丁目、同二丁目、赤羽南一丁目

荒川区

東日暮里五丁目、同六丁目

足立区

千住一丁目、同二丁目、同三丁目

葛飾区

亀有三丁目、同五丁目

江戸川区

西小岩一丁目、南小岩七丁目、同八丁目

八王子市

旭町、東町、寺町、中町、三崎町

立川市

曙町二丁目、錦町一丁目、同二丁目、柴崎町二丁目、同三丁目

武蔵野市

吉祥寺本町一丁目、同二丁目、吉祥寺南町一丁目、同二丁目

町田市

原町田一丁目、同四丁目、同六丁目、森野一丁目

なお、以前の本コラム(暴排トピックス2018年5月号)でも紹介した兵庫県暴排条例についても、3つの山口組への分裂により資金獲得活動が活発化している神戸市を中心に規制の強化が待たれていたところ、2月1日より改正施行されています。なお、改正内容については、東京都暴排条例に同じく、「神戸・三宮」「神戸・福原」「尼崎・神田新道」「姫路・魚町の計四つの歓楽街を「暴力団排除特別強化地域」に指定、同地区内でみかじめ料の授受が確認されれば、暴力団と飲食店側の双方に1年以下の懲役または50万円以下の罰則を科す内容となっており、組員に金銭を支払ったことを申告した場合の免除規定も設けられています。これらは、最近の多くの自治体における改正動向に共通していますが、これまではみかじめ料の支払いがあった場合、都道府県の公安委員会が授受をやめるよう双方に勧告し、従わないと実名を公表する立て付けとなっており、一方の暴力団対策法でも、まずは中止命令や再発防止命令を出す必要があり、従わない場合に初めて罰則対象となるところ、授受を確認した時点で摘発が可能になるという点で大きな効果が期待できるものだと言えます。このように、全国的にみかじめ料を資金源とする暴力団の取り締まりの強化とあわせ、他の自治体においても同様の規制を導入し、実効性を高めていくことを期待したいと思います。

(2) 暴排条例による公表事例(福岡県)

福岡県暴排条例に基づく勧告に従わず、みかじめ料を受け取っていたとして、福岡県公安委員会は、特定危険指定暴力団工藤会系組長の氏名を県警HPで公表しています。福岡県暴排条例第23条第1項第2号「前条第一項の規定により勧告を受けた者が、正当な理由がなく当該勧告に従わなかった場合」に氏名が公表されるところ、勧告に従わなかったことを理由に暴力団員の氏名が公表されるのは初めてとなります。

▼福岡県警察 福岡県暴力団排除条例に基づく事実の公表について(現在はリンク切れです)

(3) 暴排条例による逮捕事例(栃木県)

小学校近くに暴力団事務所を設けていたとして、栃木県警組織犯罪対策1課と宇都宮東署は、栃木県暴排条例違反の疑いで、住吉会系幹部ら計6人を逮捕しています。栃木県暴排条例第12条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)では、「暴力団事務所は、次に掲げる施設(学校や公民館など)の敷地(第十号に掲げる物件にあっては、当該物件の区域である土地)の周囲二百メートルの区域内においては、これを開設し、又は運営してはならない」との定めがあり、さらに第24条(罰則)において、「第十二条第一項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」とされており、本条項を適用した初めての事例となります。

(4) 指名停止・排除措置公表事例(福岡県)

福岡県、福岡市、北九州市において、同一の法人についての指名停止措置(排除措置)が公表されていますので、紹介します。

▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
▼北九州市 暴力団と交際のある事業者の通報について

報道によれば、同社代表の男性が特定危険指定暴力団「工藤会」と密接交際があったということですが、排除措置の理由としては、「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」(福岡県)、「暴力団との関係による」(福岡市)、「当該業者の役員等が、暴力団と「社会的に非難される関係を有していること」に該当する事実があることを確認した」(北九州市)となっています。また、排除期間については、福岡県が「平成31年2月5日から平成32年8月4日まで(18ヵ月間)」、福岡市が「平成31年1月30日から
平成32年1月29日まで」の12か月、北九州市が「平成31年2月4日から18月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」となっており、それぞれ期間が異なっている点が興味深いと言えます。なお、排除期間については、北九州市を例にとると、「暴力団員が実質的に運営している」(36か月)、「従業員として雇用」(24か月)、「役員等が暴力団構成員と社会的に避難されるべき関係を有している」(18か月)などとなっていることが分かります。

(5) 暴力団との密接交際(福岡県)

前回の本コラム(暴排トピックス2019年1月号)でも取り上げましたが、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産「戸畑祇園大山笠」振興会の前運営委員長らが、工藤会系組長の長寿を祝う宴会に出席していたことがわかっています。本事案を受けて、同振興会は役員会で、暴力団関係者と親交のある役員がいる山笠を競演会に参加させないこととしました。今後、競演会に参加する山笠は、役員が暴力団関係者と親交のないことを条件とし、各山笠に対し、役員や担ぎ手に暴力団との交際を禁じる規則を作るよう提案、暴力団など反社会的勢力の排除を盛り込んだ覚書を、各大山笠と振興会、北九州市が2月中に交わすことなどを決めています。そもそも、同振興会では、ユネスコに登録された翌年の平成29年3月に暴力団関係者の振興会役員就任を会則改正で禁じており、当時、各山は同年7月の競演会までに、暴力団関係者の参加を防ぐため、担ぎ手約430人の名簿を福岡県警に提出していましたが、「密接交際」については未対応だったものです。さらに、同振興会は、本問題を受け、暴力団排除に向けて(1)運営委員会の廃止、(2)競演会への出演禁止、(3)各山による暴排規定の明文化を3本柱とする改革を進めており、権限が集中していた運営委員会から、山笠関係者と地域住民らが協議して決める方式に改めるなどして開かれた祭りを目指すこととしています。これらの取組みを徹底することで、あらためて「祭事からの暴排」が確実に行われることを期待したいと思います。

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