暴排トピックス

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

最近の暴力団情勢~3つの山口組と工藤会の動向を中心に(2019.10)

【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.最近の暴力団情勢~3つの山口組と工藤会の動向を中心に

2.最近のトピックス

(1)令和元年上半期における組織犯罪の情勢

(2)AML/CFTを巡る動向

(3)特殊詐欺を巡る動向

(4)暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

(5)テロリスクを巡る動向

(6)犯罪インフラを巡る動向

(7)その他

・薬物を巡る動向

・犯罪統計資料

・忘れられる権利の動向ほか

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

3.暴排条例等の状況

暴排条例に基づく指導事例(大阪府)

暴排条例に基づく起訴事例(兵庫県)

暴排条例に基づく勧告事例(神奈川県)

新潟県暴排条例改正の動向

1.最近の暴力団情勢~3つの山口組と工藤会の動向を中心に

 恐喝罪で実刑判決を受け服役している指定暴力団六代目山口組ナンバー2の若頭高山清司受刑者がまもなく府中刑務所から出所します(10月17日に刑期を終えて翌18日朝に出所予定)。国内最大勢力の山口組が分裂して約4年が経過しましたが、分裂に関係するとみられる事件はほぼ毎月発生し、死者は合計9人に上っています。直近でも銃撃事件が発生し、警察も抗争状態にあると認定するなど一触即発の状況が続く中でのキーマンの出所によって、3つの山口組を取り巻く状況が大きく動く可能性があります。その緊張感は警察当局に限らず、報道(令和元年10月12日付時事通信など)で、「直系組長、特に執行部は出所に戦々恐々としている」と六代目山口組の内部の状況が伝えられるなど明らかであり、金にシビアで、意に沿わない幹部を切り捨てるという高山受刑者から離脱団体への報復命令などが下り、抗争がさらに激化する可能性も否定できません。また、出所当日の高山受刑者への襲撃も予想されており(8年前に司忍組長が出所したとき同様、新幹線を1両貸し切って神戸まで移動すると考えられます)、一般人が巻き込まれる可能性も指摘されています。

 そのような緊迫した状況において、10月10日には、神戸市中央区の指定暴力団神戸山口組系山健組の事務所近くで銃撃され、暴力団関係者2名が死亡する事件が発生、六代目山口組直系弘道会傘下の暴力団幹部が殺人容疑で逮捕されました。今回の事件は、今年4月に神戸市の商店街で神戸山口組系組長が六代目山口組系組員に刺され重傷を負う事件が発生、これを受けて8月下旬には弘道会系組員が銃撃されて重傷を負った事件が発生したことの報復と見られています。このような抗争激化の実態を受けて、兵庫県警は、両組織が抗争状態にあると認定、暴力団対策法に基づき、六代目山口組総本部と神戸山口組本部など両組織の組事務所11か所の使用を制限する仮命令を出し、11日夜に事務所の出入り口に使用制限を示す標章を掲示しました(1992年の暴力団対策法施行後、両本部の使用制限ははじめてとなります。また、両組織の本部事務所以外には、弘道会や山健組の関連事務所なども対象となったほか、大阪府警や愛知県警も両組織の関連事務所の使用制限の仮命令を発出しています)。暴力団対策法では、抗争が起きた場合、都道府県の公安委員会が、関与した組事務所の使用を制限できると規定しており、緊急性があれば、警察当局が仮命令を出せるとしています(住民票や居住実態がある関係者には退去を促すことも規定されています)。これにより、組員が事務所に集合することなどが禁止され、違反した場合、逮捕することができることになります(3年以下の懲役なども罰則もあります)。仮命令は10月25日までの15日間で、この間に兵庫県公安委員会が組側の意見を聞き、本命令を出すかを決め、本命令が出される運びです(なお、本命令の期限は3カ月間で、延長も可能です)。この事務所使用制限の仮命令は、警察の本気度を示すものであるとともに、タイミングとしても適切だったものと評価したいと思います。しかしながら、警察の対応が適切であったとしても、両組織ともに抗争をそう簡単には終結できない事情があり、抗争を止められるかは未知数です。なお、警察庁は、すでに8月22日の段階で両組織の抗争への対応に関する内部通達を発出しており、今回の事務所使用制限についても言及されています。

▼警察庁 六代目山口組と神戸山口組との対立抗争等に対する取締り及び警戒の強化等について(通達:令和元年8月22日付)

 昨日、神戸市中央区所在の六代目山口組傘下組織関連施設付近において、同組傘下組織組員を被害者とする拳銃使用殺人未遂事件が発生した。本件の背景等については兵庫県警察が鋭意捜査中であるが、六代目山口組若頭の出所を本年10月に控える中、本年に入り、六代目山口組傘下組織組員による任侠山口組幹部が被害者となる拳銃使用の器物損壊事件のほか、神戸山口組傘下組織幹部に対する殺人未遂事件等が発生している状況にあり、これらの団体の対立抗争等が激化する懸念がある。よって、各都道府県警察にあっては、下記の点に留意しつつ、これらの団体に対する取締り及び警戒の更なる強化を図り、市民の安全確保及び対立抗争等の封圧に努められたい。

  1. 取締りの強化
    • 対立抗争等に起因する不法行為の続発を防止するため、既に発生した事件に関する情報や組織動向等に関する情報の収集・共有・分析に努めるなどして、上記団体に対する取締りを徹底的に行うこと。その際、組織のトップを含む構成員の大量検挙及び長期隔離により、組織の弱体化・壊滅に努めること

  2. 警戒の強化
    • 今後も対立抗争等が続発する可能性があることを踏まえ、管内の重要人物、関係先等に対する警戒方法等を点検し、情勢や関連情報の分析に基づいたものとなるよう見直しをするなど、警戒の更なる強化に努めること。なお、警戒に当たっては、対象に応じた適切な方法で実施するとともに、各種装備資機材を活用して受傷事故防止に配意すること

  3. 一般人の巻き添え防止の徹底等
    • 警戒に当たっては、万が一にも一般市民が巻き添えになることがないよう、警戒態勢、要員の配置、警戒方法等について十分に検討するとともに、市民に対する適切な情報提供等にも努め、市民の安全確保に万全を期すこと

  4. 事務所使用制限命令等の準備
    • 状況に応じて事務所使用制限命令の発出や特定抗争指定暴力団等の指定を速やかに行うことができるよう、事件取締り等のあらゆる警察活動を通じた関連資料等の収集・整備に努め、所要の準備に万全を期すこと

 さて、本コラムでも取り上げてきた吉本興業の闇営業問題では、再発防止策として、コンプライアンス研修の徹底や24時間ホットラインの活用が掲げられていました。これに対し、週刊誌ネタではありますが、その実効性に疑問符がつくような状況も報じられています。

 たとえば、コンプライアンス研修について、吉本所属の若手芸人の証言として、「僕は、吉本が本気で反社会的勢力を排除しようと努力してきたとは思えません。現に、ここ数年、コンプライアンス研修はどんどん”手抜き”な内容になってましたから。見てください。例えば、17年版資料の『違法/誘惑的なアルバイト』の欄には、『おいしい話のウラには反社会的勢力が関わっている可能性がある』という旨が説明されてますが、’18年版の同じ箇所からは、反社に関する記述がそっくり削除されてるんです」、「僕が記憶してる限り、’09年に研修が始まって以来、この冊子は毎年配られてました。でも、“闇営業”報道が出る直前に開かれた今年春の研修では、冊子が配られなかったんです」、「断言します。芸人はほとんど皆、研修の内容を聞いてません。でも、それももっともなことやと思います。だって、会場となっている吉本の劇場が空いてる時間ってゆうたら、だいたい夜の10時から朝の8時くらいまでです。前日、夜遅くまで営業活動やネタ作りをしてた芸人が、翌朝6時に『研修や』ゆうて呼び出されたら、そりゃあ、眠くもなりますわ。吉本の社員さんらも、寝てる芸人を注意したり、話の内容に興味を持ってもらおうと工夫したりしてるわけでもなかった。ただ、恒例行事として淡々とこなしてる印象でしたよ」といったことが記事にされています(FRIDAYデジタル 9/30配信)。もしこれが事実であれば(あるいは事実に近い実態が語られているとすれば)、コンプライアンス研修が形骸化しており、その効果はまったく期待できないことになります。組織として対外的な姿勢を示すことが目的だと取り違えているのであれば、今回のような問題はなくならないのではないかと指摘したくなります。なお、今回の問題を受けてのコンプライアンス研修の実施という点では、大手芸能事務所のエイベックス・マネジメントが所属タレントやスタッフに対してコンプライアンス講習会を実施したことを発表したというものもありました。報道では、コンプライアンスを専門とする弁護士が講師となって、「自らの“価値”を守るための行動指針」をテーマとした講義を、約90分間にわたって実施。暴力団など反社会的勢力に対する注意の徹底や、飲酒、薬物、賭博、交通事故など陥りやすいコンプライアンス違反への対応方法や日常的な心構えなどを、法律や違反事例を含めた実践的な内容の講習を行ったと報じられていましたが、受講者に響いてほしいものだと思います。

 また、24時間ホットラインについては、「名目上は、芸人をトラブルから回避させるためのホットラインなのですが、実際はその逆。トラブルを抱えている可能性がある芸人をあぶり出すためのものだとも言われています。つまり、電話をかけてきた芸人は“要注意”として吉本からマークされるというんです」との業界関係者の話も記事にされています(日刊サイゾー 9/9配信)。さらに記事では続けて、「どうやら吉本のホットラインは、反社から芸人を守るためではなく、一部の芸人から吉本を守るためものだったといえそう。芸人にしてみれば、利用したらむしろ自分の立場が危うくなるということになるのだ」と辛らつに指摘しています。こちらも事実または事実に近いのであれば(そのような「うわさ」レベルでも実際に流布しているのであれば)、24時間ホットラインは芸人らにとっては利用すれば不利益を被るものであって、まったく信用されていないことが明らかであり、この仕組みも形骸化している(機能しない)と指摘せざるをえなくなります。不祥事を受けての再発防止策の徹底は確かに難しい問題ではありますが、このような現場の声(本音)をきちんと吸いあげたうえで、今後の改善に活かしていくこと、PDCAサイクルを継続的に運用していく「忍耐強さ」が求められていることを厳しく自覚する必要があると思います。

 令和元年9月11日付の西日本新聞に、「元組員に口座 銀行敬遠 「離脱5年は開設拒否」7割 九州22行アンケート」と題する記事が掲載されていました。大変参考になるものであり、以下に引用します(下線部は筆者)。

 金融機関が独自に定める暴力団排除条項で、暴力団を離脱後も5年間は組員とみなして普通預金口座の開設を断る「元暴5年条項」が広がっている。西日本新聞が九州7県の地方銀行やメガバンクなど22行にアンケートを行ったところ、全22行に暴排条項があり、15行は5年条項も設けていた。「犯罪に悪用される懸念がある」と必要性を訴える銀行が多い一方、7行は「生活に使う場合もある」などとして導入していない。

 福岡県警による特定危険指定暴力団工藤会(北九州市)への「壊滅作戦」開始から11日で5年。生活に利用されることが多い普通預金口座でも暴排が進む現状が浮かび上がった。

 アンケートでは、全国銀行協会の正会員のみずほ、三菱UFJ、三井住友のメガバンク3行と九州に本店を置く地銀18行、特例会員のゆうちょ銀行の計22行に対し、普通預金口座を巡る暴排条項の導入状況や内容、運用実態を文書で尋ねた。全行が8月下旬までに回答した。

 各行は、組員か元組員かどうかは新聞記事やインターネットなど公開の情報を収集して独自のデータベースを作成し、警察にも照会して判断していた。

 5年条項がある15行の多くは導入理由として「リスク排除」「反社会的勢力との関係遮断」などを挙げた。離脱から5年経過したかどうかは、データベースを活用するほか、警察への照会などをもとに「総合的に判断している」(九州中部の地銀)という。

 条項に基づき開設を拒否したり、5年経過後に開設を認めたりした事例も尋ねた。ある銀行は5年経過を確認しても「開設に応じたケースはない」と回答したが、理由は明らかにしなかった。開設した事例がある別の地銀は「犯罪に使われていないか、当該口座は毎日監視している」と、厳しい対応を明かした。

 全銀協は普通預金口座に限っては「生活口座に用いる場合もある」として5年条項の対象外としている。

 5年条項がない7行のうち2行は、全銀協に倣ったと回答。「5年の根拠があいまい。更生の観点から5年経過しなくてもいい」と柔軟な姿勢で対応する銀行がある一方で、「5年経過した客観的証拠がない。契約自由の原則に基づき、拒否している」と、離脱後の期間にかかわらず幅広く開設を断る銀行もあった。

◆元暴5年条項

暴力団を離脱しても5年間は「暴力団員等」として、組員とみなす規定。政府は2007年、犯罪対策閣僚会議の指針で、企業に暴力団排除条項を定めるよう求めた。福岡県は10年、全国初の暴力団排除条例を施行し「暴力団員等」は「暴力団員、または暴力団員でなくなった日から5年経過しない者」と定めた。多くの都道府県条例や企業の暴排条項も5年条項を盛り込んだ。全銀協は11年、融資や当座預金での取引について暴排条項の参考例で5年条項を盛り込んだが、普通預金口座は「生活口座に用いる場合もある」として対象外とした。

 この記事は、元暴5年条項(いわゆる5年卒業基準)の運用実態がかなり具体的に明かされたものとしてとても貴重な情報だと思われます。個人的な感想としては、想像以上に判断の「振れ幅」が大きいという点に興味を覚えました。偽装離脱の実態、暴力団離脱者支援の視点、現時点での暴力団との関係性、自社(自行)に及ぶレピュテーションリスクの評価、普通預金口座の「生活口座」としての活用(生活インフラ・社会インフラ性)、犯罪悪用リスク(犯罪インフラ性)、契約自由の原則、社会情勢の変化など考慮すべき点は多々ある一方で、明確にシロクロが判定できるものは多くない状況の中で、総合的に判断せざるを得ないのが実態かと思われます。一般事業者が、契約自由の原則から「疑わしい者とは取引しない」とする考え方に偏りがちな一方で、「生活口座」を提供する公共性の高い銀行業務の性格(それとは別次元で、拒否することで当人に与える有形・無形の影響力の大きさなど)から一般事業者以上に慎重さが求められることも悩ましい部分ではあります。いずれにせよ、(社会的に受容される範囲で)あくまで各行の個別のリスク管理事項であり、事例検討を積み重ねていくことによって、判断基準を明確にしていくことが重要となると思われます。

 さて、暴力団から労働者の派遣を受けていた疑いが持たれている埼玉県川口市の建設会社が、2020年東京五輪・パラリンピックの選手村工事に下請けとして参加していたことがわかったと報じられています。この建設会社は今年2~7月、埼玉県戸田市と川口市の公共事業で、暴力団から作業員を紹介されていたとされており、警視庁組織犯罪対策3課は、無許可で労働者を派遣したとして、職業安定法違反容疑で指定暴力団極東会系組長ら4人を逮捕、法人としての同社と代表取締役についても、同容疑で書類送検する方針を固めているとのことです。報道(令和元年9月28日付時事通信)によれば、容疑者らは公園にいる路上生活者らを集めて寮に住まわせ、工事現場などに派遣、最大で賃金の約3割をピンハネしていたということです。記事の中で、専門家が「五輪のような納期が厳しい大規模工事で、下請けまで暴力団排除を徹底するのは簡単ではない。ただ、国家的な大事業だけに全事業者が暴排を真剣に考えないと暴力団の大きな資金源になってしまう」と指摘していますが、まさにそのとおりかと思います。今後、同様の問題が懸念されるのが「IRカジノ事業」であり、こちらは関係する事業者に対する「厳格な背面調査」を実施することで、世界最高水準の「清廉性」を実現することを目指しています。人材不足も相まって、建設事業の多重構造から暴力団関係者を排除することは確かに容易ではありませんが、だからといって放置することはもちろん、排除に向けた努力を怠ることも許されません。そして、建設事業に限らず、これまで「あるべき姿」としては明確に示されていた「関連契約からの暴排」「サプライチェーンからの暴排」に本腰を入れて取り組むべき時期にきていると認識する必要があります。

 特定危険指定暴力団工藤会の本部事務所について、北九州市が仲介し、福岡県暴力追放運動推進センターを経由して福岡市の民間企業が購入することで、北九州市とセンター、企業、工藤会側の4者が合意しました。買い取り価格は1億円で、10月中にも契約を結び、工藤会側が建物を取り壊して更地にした後、年度内に引き渡される予定です。これにより、ついに暴排運動を進める北九州市などが目指してきた工藤会の「象徴」の撤去が実現することになりました。買い取るのは暴力団を離脱した元組員の就労に協力する企業で「福祉施設といった社会貢献をするための施設にしたい」ということです。今回のスキームについては、北九州市が仲介に奔走し、買収する民間業者の不安を和らげたことで実現しています。行政が公的資金を投入することなく撤去を実現し、市民襲撃事件の被害者への賠償支払いを担保するスキームを構築できた点は極めて高く評価できるものと思われます(報道によれば、「北九州方式」として各地の暴力団事務所撤去運動のモデルケースとなる可能性もあると指摘されています)。また、報道(令和元年9月27日付西日本新聞)で専門家らが、「民間企業が組事務所を買えば風評被害が懸念される。直接購入は極めて困難だ。形式的に名義をセンターに移すしか方法はなかっただろう」、「暴力団が『賠償金に充てる』と言っても実行するかどうかは不透明。売却益は市が事務局を務める「市暴追推進会議」が管理し、工藤会の手元に残さない仕組みを採用、今回の仕組みは売却合意に達する上で不可欠だった」と具体的に述べている点にその苦労が感じられます。福岡県警による「工藤会壊滅作戦(頂上作戦)」から5年が経過し、工藤会の弱体化が進んだこともその背景にあり、そっくりそのまま他のケースでも適用できるかどうかは検討の余地がありますが、その趣旨やスキームの本質は普遍性を持つものと思われ、組事務所立ち退きや使用禁止の動きが全国的に広く浸透していくことに伴い、その威力を発揮していくものと期待したいと思います。なお、工藤会内部では、土地売買を巡り「俺たちの象徴を捨てるのか」、「総裁の個人資産などほかに処分すべきものがあるはずだ」といった不満の声もあり、「内部分裂の様相を呈している状況」だといいます(なお、内部分裂によって抗争が激化も考えられるところですが、結局は組織の弱体化を早めることにつながるものと推測されます)。こうした動向もふまえれば、土地売買の手続きが迅速に進むのか予断を許さない状況だともいえ、今後の推移については注意深く見守っていく必要があります。

 その工藤会の現状については、報道(令和元年9月10日付朝日新聞)によれば、頂上作戦から5年が経過し、組員約300人のうち約半数が服役・勾留中といった状況にあるようです。ここ数年は約半数の組員が「社会不在」の状態が続いていることになり、福岡県警はこれにより組織の弱体化が進んでいるとみています。一方で、その間隙を縫うように、福岡県では指定暴力団道仁会と指定暴力団浪川会が台頭しており、福岡県警は昨年10月に「筑後地区暴力団集中取締本部」を設置して警戒や捜査を強化しています。また、最近では、工藤会系2次団体の組長が福岡県警豊前署に解散届を提出したと報じられています。組員は組長を含めて数人で、同県築上町に組事務所を構えていたものの既に撤去しているといい、組長も恐喝罪で起訴されているほか、幹部も詐欺罪で起訴されており、組長は「取り締まりが強まり、暴力団では食っていけない」などと解散理由を説明しているといいます。まさに弱体化した暴力団の末路を示しているといえます。

 また、工藤会を巡る動向として重要なものとして、工藤会による市民襲撃事件で、トップで総裁の野村悟被告とナンバー2の会長、田上不美夫被告が殺人罪などに問われた公判が、10月23日から福岡地裁で始まることがあげられます。すでに証拠や争点などを整理する手続きが終わっており、両被告の関与がどう判断されるかが最大の焦点となります。今回審理されるのは、(1)平成8年の元漁協組合長射殺、(2)平成24年の元福岡県警警部銃撃、(3)平成25年の看護師刺傷、(4)平成26年の歯科医師刺傷の4事件で、両被告は殺人罪や組織犯罪処罰法違反罪などで、すべての事件で起訴されています。なお関連して、最近、北九州市八幡西区で平成24年8月、暴力団組員の立ち入りを禁じる標章を掲示した飲食店の30代の従業員男性を襲撃し、けがをさせたとして、福岡県警は、工藤会系組長ら計8人を傷害容疑で逮捕したと発表しています。事件当時は標章掲示店の関係者が切りつけられるなどの一般人襲撃事件が相次いでおり、福岡県警は工藤会上層部の指示があった可能性もあるとみて追及することとしています。

 工藤会の本部事務所撤去の動きとともに、全国で組事務所の使用禁止や立ち退きに向けた動きが活発化しています。たとえば、京都府暴力追放運動推進センターは、同センターが指定暴力団会津小鉄会傘下の「心誠会」の原田昇会長に組事務所の使用禁止を求めた仮処分申し立てで、京都地裁が仮処分を認める決定を出したと発表しています。指定暴力団でない暴力団事務所の使用禁止を認める決定は全国初のケースとみられます。報道によれば、指定暴力団でない暴力団事務所の使用禁止を請求することは、暴力団対策法では定められていないものの、今回の決定においては、過去の最高裁判例などから問題ないと判断されたということです(個人的にも妥当な判断ではないかと評価したいと思います)。また、指定暴力団任侠山口組傘下の「本江組」の事務所について、地元住民が射水市に対し事務所建物の撤去や土地の取得を求めていることが分かったということです。報道によれば、平成30年に組員が事務所を立ち退いており活動実態はないものの、住民は建物の存在自体に不安を覚えているということですが、同市としては、「行政財産として活用する目的がない」として地元の要望に応じていないとの状況があるようです。行政財産として活用しなくても、まさに「北九州方式」による民間事業者の力を借りて解決に向けて取り組むべきではないかと考えます。

 さて、まもなくハロウィンを迎えますが、昨年の本コラム(暴排トピックス2018年11月号)では、六代目山口組とハロウィンについて以下のとおり考察しました。

今年もハロウィンにあわせて、六代目山口組の総本部で子供たちにお菓子を配る光景が見られました。「子どもが楽しめると思って行っただけ」と菓子を受け取った母親のコメントを目にしましたが、正直、大変残念に思いました。以前の本コラム(暴排トピックス2018年2月号)でも取り上げましたが、昨年のハロウィンイベントを前に、兵庫県警から子どもを参加させないよう指導を求められた神戸市教育委員会が、「組員の子どもが差別される」などとして「知らない大人から物をもらわないように」と文言を和らげて伝えていたとのことで、「教育する側が人権擁護を重んじる一方で暴排の重要性を軽んじている状況」が見られました。また、同様に兵庫県神戸市の事例として、六代目山口組が例年12月28日に行う恒例行事の餅つきに、組関係者だけでなく複数の地元住民も餅をもらいに訪れていたことが分かっています。報道では、「餅をもらうことは悪いとは思っていない。私は被害を受けたことがないから」などと話す女性が紹介されていましたが、これもまた、今回のハロウィンでお菓子をもらった母親とまったく同じ感性であり、暴排意識を、継続的に、正しく醸成してこなかった自治体・教育委員会等のスタンスが招いたものだと言えるのではないかと思います(そして、この問題は、何も兵庫県に限ったことではなく、全国的に暴排意識の醸成、青少年育成への取り組みはこれからの課題だと認識する必要があります)。

 六代目山口組は遅くとも平成25年ごろから、組関係者がカボチャのお化けなどに扮するなどし、子供らに菓子の詰め合わせを無料で配布しはじめ、兵庫県警によると、昨年は約1,000人が訪れ、近年は増加傾向にありました。この問題について、神戸市教育委員会は方針を転換し、今年から、警察官を講師に招き、地元の小中学生に足を運ばないよう指導を始めたことが報じられています。従来は、組員の子どもらへの配慮から「ハロウィン行事には行ってはいけない」との呼び掛けを控えていましたが、抗争事件の勃発などから警察官を講師に迎えて暴力団と接点を持つことの危険性を積極的に教えていくよう方針転換することとなったものです。本コラムで主張してきたとおり、今後は、暴排意識を、継続的に、正しく醸成していく取り組みを期待したいと思います。

 その他、暴排を巡る最近の報道から、以下にいくつか紹介します。

  • 駐車場から車を盗んだとして、大阪府警捜査3課は、大阪市浪速区の中古車販売業ら男女4人を窃盗の疑いで逮捕しています。盗難車には、別の同型車の車体番号や新しいナンバープレートが付け替えられており、正規の中古車のように偽装された車は、元暴力団幹部が使用したといいます。府警は、車の購入が難しい暴力団側に、こうした偽装車両を販売していたとみて調べているということです。まさに、盗難車の正規登録車への「ローンダリング」であり、暴排条例にも抵触し得る「暴力団の活動を助長する行為」そのものだといえます。
  • 人気のスマホゲーム「ドラクエウォーク」において、ゲーム上の「目的地」として暴力団事務所が指定されていることがわかりました。それだけで暴力団の活動を助長するとまではいえないにせよ、子どもや青少年も数多くプレーするゲームであり、まったく問題がないとはいえないと思われます。開発したスクウェア・エニックスは、「グーグルマップの位置情報にある場所であれば、どこでも目的地登録される可能性があります。今後は想定される問題点を洗い出し、ゲームそのものを楽しんでいただくために努力していく所存です」と説明していますが、何らかの配慮は必要だといえます。
  • 前回の本コラム(暴排トピックス2019年9月号)でも取り上げた魚介類を密漁したとして漁業法違反容疑などで暴力団組長らが長崎県警に逮捕された事件について、密漁した魚を格安で提供していた長崎市大黒町の飲食店に対し、長崎税務署が追徴課税しています。所得隠しを指摘された可能性があり、追徴税額は約2,500万円とみられるということです。
  • 水産庁は、ナマコやアワビなどの密漁を防ぐため、取った場所などを明示した公的な証明のない水産物の流通を規制する「漁獲証明制度」の導入に向け、早ければ来年の通常国会に新法を提出する方針を明らかにしました。当面は国内流通の規制を目指すものの、ナマコは密漁品の輸出が暴力団などの資金源になっていることから、将来的に制度を輸出規制に活用することも視野に入れるということです。国際的な取り決めに基づく同様の規制はクロマグロなどでも実施しているものの、日本独自では初の導入となります。
  • 警察の取り締まり強化で首都圏を追われた半グレが沖縄本島や石垣島に進出している実態がありますが、暴力団とのトラブルや繁華街での違法行為に県民、島民が怯えているということです。そもそも沖縄の半グレは、地元の暴力団や県外の暴力団組織とつながりを持って、ヤミ金や特殊詐欺などで資金を得ているとみられていたところ、関東や大阪の半グレが乗り込んできで、ヤミ金や特殊詐欺はもちろん、飲食店や観光業、建築業にも手を伸ばすなど、組織の実態がつかめない現状があるようです。また、石垣島では、観光客の急増に伴って半グレが悪質な客引き行為の常態化や料金トラブルの頻発など風俗環境悪化を引き起こしているとも報じられています。
  • 沖縄県名護市辺野古の新基地建設工事を巡り、東村の土地の採掘権を脅し取ろうとしたとして、沖縄県警が今年1月に指定暴力団旭琉會の幹部を含む2人を恐喝未遂容疑で逮捕しています。今後の対応について、沖縄県警は暴力団などから介入を受けた場合に警察や発注者に通報を義務付けた通報報告制度の整備の促進や、大規模な公共工事などをする際に結成される連絡協議会などを通して、積極的に暴力団に関する情報交換をしていくとしています。実は、東日本大震災の復興事業に介入していた反社会的勢力が、辺野古の基地建設事業に軸足を移す動きがあることを当社としては確認しています。沖縄における暴排、半グレへの対応などについては、今後、厳格な取組みが求められる流れとなっている点に注意が必要です。

2.最近のトピックス

(1)令和元年上半期における組織犯罪の情勢

 警察庁が「令和元年上半期における組織犯罪の情勢」を公表しています。以下、本コラムのテーマに関する部分をピックアップして紹介します。

▼警察庁 「令和元年上半期における組織犯罪の情勢」を更新しました
▼令和元年上半期における組織犯罪の情勢【暫定値】

 本レポートではまず、近年、暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者をいう)の検挙人員は減少傾向にあり、令和元年上半期においては、6,519人であること、主な罪種別では、傷害が843人、窃盗が630人、詐欺が645人、恐喝が307人、覚せい剤取締法違反(麻薬特例法違反は含まない。以下同じ。)が1,649人で、前年同期に比べいずれも減少していること、さらには、暴力団構成員等の検挙人員のうち、構成員は1,345人、準構成員その他の周辺者は5,174人で前年同期に比べいずれも減少していること、暴力団構成員等の検挙件数についても近年減少傾向にあり、令和元年上半期においては、13,067件であること、主な罪種別では、傷害が726件、窃盗が5,671件、詐欺が1,063件、恐喝が241件、覚せい剤取締法違反が2,395件で、前年同期に比べ窃盗が410件増加したものの、その他は減少していることなどの全体的な傾向が指摘されています。検挙件数や検挙人員が減少傾向にあるものの、暴力団構成員等の数自体が大きく減少していることからみれば不自然ではなく、むしろ、たとえば平成27年末の暴力団構成員等が46,900人、同年の刑法犯検挙人員が12,690人(単純構成比27.1%)、特別法犯検挙人員が21,643人(46.1%)であるのに対し、平成31年末の暴力団構成員等が30,500人、同年の刑法犯検挙人員が9,825人(32.2%)、特別法犯検挙人員が16,881人(55.3%)となっており、暴力団構成員等の検挙人員の構成比率が高まっていることに注意が必要です。その背景には、「貧困暴力団」に代表される資金獲得活動の困難さ、高い摘発リスクを犯してまでも犯罪を敢行せざるを得ない「追い込まれた状況」があると推測されます。

 指定暴力団の組織別の状況としては、近年、暴力団構成員等の検挙人員のうち、主要団体等の暴力団構成員等が占める割合は約8割で推移しているところ、令和元年上半期においては、5,125人で78.6%となっていること、このうち、六代目山口組の暴力団構成員等の検挙人員は、2,306人と暴力団構成員等の検挙人員の35.4%を占めているなど、寡占化の傾向が相変わらず続いていることがわかります。さらに、六代目山口組直系組長等(「直系組長等」とは、いわゆる「直参」を指す)1人、弘道会直系組長等3人、弘道会直系組織幹部(弘道会直系組長等を除く)13人が検挙されるなど首領クラスの摘発が続いていること、六代目山口組と神戸山口組の対立抗争に起因するとみられる不法行為の発生頻度は減少しているものの、令和元年上半期においても未だ発生しており、両団体は依然として対立抗争状態にあり、本レポートでは、「六代目山口組による神戸山口組構成員に対する切り崩し工作が継続的に行われている中、六代目山口組傘下組織が神戸山口組傘下に加わるなどの動きも見せている」といった状況があること、任侠山口組を巡る動向としては、「同団体において首領の肩書を代表から組長へと改め、組長を親又は兄として直系組長等と盃を交わして組織の統制強化を図るも、六代目山口組による切り崩し工作により、任侠山口組幹部構成員等が六代目山口組傘下組織に加わるなどの動きを見せている」ことなどが言及されています。なお、対立抗争に起因するとみられる不法行為は3件発生しており、これらはいずれも六代目山口組と神戸山口組との対立抗争に関するものであり、商店街の路上で刃物で刺される殺人未遂事件が発生するなど、「地域社会に対する大きな脅威となっている」と指摘しています。

 罪種別では、覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博及びノミ行為等(以下「伝統的資金獲得犯罪」という)は、依然として、暴力団等の有力な資金源になっていることがうかがえること、これらのうち、暴力団構成員等の伝統的資金獲得犯罪の検挙人員に占める覚せい剤取締法違反の割合は近年、約8割で推移しており、令和元年上半期中においても同様であると指摘しています。さらに、暴力団構成員等の検挙状況を主要罪種別にみると、暴力団構成員等の総検挙人員に占める詐欺の検挙人員は、近年、増加傾向にあったところ、ここ数年で高止まりしており、被害者に対して暴力団の威力を必ずしも必要としない詐欺による資金獲得活動が定着化している状況がうかがえること(特に組織的に行われる特殊詐欺を敢行している実態がうかがえ、特殊詐欺(検挙人員全体)1,282人のうち暴力団構成員等は239人、その構成比は18.6%(前年同期22.1%)にも上ります)、暴力団構成員等に係る組織的犯罪処罰法のマネー・ローンダリング関係の規定の適用状況については、犯罪収益等隠匿について規定した第10条違反事件数が13件であり、犯罪収益等収受について規定した第11条違反事件数が13件、また、第23条に規定する起訴前没収保全命令の適用事件数は5件となっているということです。これらから、覚せい剤や詐欺による資金獲得活動が活発化している状況と、犯罪収益のマネー・ローンダリング/テロ資金供与(ML/TF)が引き続き活発化している状況などがうかがえます。なお、暴力団と密接な関係にあることの多い特殊詐欺グループは、詐取金の振込先として架空・他人名義の口座を利用するなどしているほか、自己名義の口座や偽造した身分証明書を悪用するなどして開設した架空・他人名義の口座を、遊興費欲しさから安易に譲り渡す者や、帰国費用などに充当するため、帰国時に特殊詐欺グループに売却・譲渡する一部の外国人などが存在しており、数多くのML/TFのための「犯罪インフラ」が機能している状況があります。なお、ML/TFの具体的な手法として、特殊詐欺グループは、詐取した銀行カードと暗証番号を使ってATMで現金を複数回にわたって引き出し、売却・譲渡された普通口座に入金するとともに、売却・譲渡された口座間で内国為替振込を繰り返し行うなどして資金の出所を隠蔽するなどの手口があります。そして、そこでは、「現金の入手金」「普通預金口座間の振込み」という典型的なサービスが悪用されている点に注意が必要だといえます。

 さらに、本レポートでは、伝統的資金獲得犯罪の全体の検挙人員のうち暴力団構成員等が占める割合は、近年、40~50%台で推移しており、この割合は、刑法犯・特別法犯の総検挙人員のうち暴力団構成員等の占める割合が5~7%台で推移していることからすると高いと指摘しています。加えて、伝統的資金獲得犯罪に係る暴力団構成員等の検挙人員は、2,025人で、暴力団構成員等の総検挙人員の31.1%を占めており、依然として、伝統的資金獲得犯罪が有力な資金源となっていることがうかがえる状況です。

 また、暴力団対策法の適用状況については、近年、中止命令の発出件数は減少傾向にあり、平成29年においては増加に転じたものの、令和元年上半期においては、655件と前年同期に比べ123件減少、形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが477件と全体の72.8%を、加入強要・脱退妨害(16条)に対するものが68件と全体の10.4%を、それぞれ占めていること、団体別では、指定暴力団住吉会に対するものが145件と最も多く、全体の22.1%を占め、次いで六代目山口組134件、稲川会113件、神戸山口組51件の順となっていることが指摘されています(住吉会に対する中止命令等発出が多い点は、前回の本コラム(暴排トピックス2019年9月号で、警視庁のデータからも読み取れる傾向です)。また、再発防止命令の発出件数は減少傾向にあり、平成29年及び平成30年においては、増加に転じたものの、令和元年上半期においては、14件と前年同期に比べ6件減少。形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが11件と全体の78.6%を、加入強要・脱退妨害(16条)に対するものが2件と全体の14.3%を、それぞれ占めています。団体別では、六代目山口組に対するものが8件と最も多く、全体の57.1%を占め、次いで指定暴力団稲川会、指定暴力団松葉会がそれぞれ2件となっています。その他、暴排条例については、市町村における暴排条例について、令和元年上半期までに44都道府県内の全市町村で制定されるところまで浸透しているといいます(なお、後述するように、新潟県加茂市が10月に暴排条例を制定したことで新潟県も45番目として含まれることになります)。また、各都道府県においては、暴排条例に基づいた勧告等を実施しているところ、令和元年上半期における実施件数は、勧告27件、指導2件、中止命令8件、再発防止命令1件、検挙6件(前年同期は、勧告18件、指導2件、中止命令10件、再発防止命令7件、検挙6件でしたので、前年に比べても勧告等が活発に行われたといえると思います)。暴排の推進という点では、平成30年度中に実施された不当要求防止責任者講習の開催回数は1,618回、同講習の受講人数は延べ77,726人であること、適格都道府県センターとして認定を受けた公益財団法人福岡県暴力追放運動推進センターが、県内所在の道仁会傘下組織事務所について、付近住民から委託を受けて、平成31年2月、使用禁止等の仮処分命令の申立てを行ったところ、同月、暴力団事務所として使用してはならないなどとする仮処分命令が決定された事例(平成31年2月、福岡)などが紹介されています。

 次に、薬物・銃器情勢についても簡単に紹介しておきます。

 薬物事犯(覚せい剤事犯、大麻事犯、麻薬及び向精神薬事犯及びあへん事犯をいう)の検挙人員は近年横ばいが続く中、令和元年上半期は、6,278人と前年同期に比べわずかに減少、このうち覚せい剤事犯検挙人員は3,970人と減少が続いている一方で、大麻事犯検挙人員は2,093人と平成26年以降増加が続いており、本コラムでたびたび警鐘を鳴らしているとおり、薬物事犯別検挙人員における大麻事犯の比率が上昇している点が特筆されます。また、覚せい剤の押収量は148.0キログラム(昨年同期318.8キログラム)、乾燥大麻は213.4キログラム(同144.5キログラム)と高止まりしていること、大麻事犯の検挙人員について、年齢層別でみると、人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が4.0人、20歳代が7.3人、30歳代が3.7人、40歳代が1.4人、50歳以上が0.2人であり、最も多い年齢層は20歳代、次いで20歳未満(なお、昨年同期における最も多い年齢層は20歳代、次いで30歳代)となっており、やはり本コラムで警鐘を鳴らし続けている「大麻の若年層への蔓延」状況がより鮮明になっていることが、数字的にも明らかとなっています。また、薬物密輸入事犯の検挙状況は、検挙件数200件、検挙人員192人(前年同期144件、133人)、このうち、覚せい剤事犯が112件、116人(51件、60人)、大麻事犯が40件、35人(35件、35人)となっています。さらに、覚せい剤密輸入事犯について、態様別でみると、航空機を利用した覚せい剤の携帯密輸入事犯の検挙件数が75件と密輸入事犯の検挙件数の多数を占めること、仕出国・地域別でみると、マレーシアが19件(構成比率17.0%)と最も多く、次いでカナダ18件(同16.1%)、以下、アメリカ16件(同14.3%)、タイ15件(同13.4%)、トルコと南アフリカがそれぞれ4件(同3.6%)となっていることがわかります。大麻密輸事犯については、態様別でみると、主なものとして、国際宅配便が15件、郵便物が13件、航空機利用の携帯密輸が12件、仕出国・地域別でみると、アメリカが15件と最も多く、次いでカナダ5件、以下、オランダ4件、ラオスと中国がそれぞれ3件となっています。一方、銃器発砲事件の発生事件数については5事件、このうち暴力団等によるとみられるものは3事件、銃器発砲事件による死傷者数は5人であり、このうち暴力団構成員等は3人、拳銃の押収丁数は218丁、このうち、暴力団の管理と認められる拳銃は36丁、インターネットのオークションサイトや掲示板等を端緒として押収した拳銃の押収丁数は39丁などの状況となっています。

 次に、来日外国人犯罪情勢についても簡単に紹介しておきます。

 来日外国人の総検挙(刑法犯及び特別法犯の検挙をいう)状況については、近年はほぼ横ばい状態で推移しているところ、本年上半期は、前年同期と比べ、検挙件数・人員ともわずかに増加しているものの、近年の傾向が継続していること、総検挙状況を刑法犯・特別法犯別にみると、刑法犯は検挙件数・人員とも減少している一方、特別法犯は検挙件数・人員とも増加しており、特に入管法違反が大幅に増加していることが指摘されています。さらに、総検挙状況を国籍等別にみると、ベトナム及び中国の2か国で全体の50%以上を占めており、総検挙件数では前年同期に引き続き、総検挙人員では中国を抜いて、いずれもベトナムが最多となっていること、総検挙状況を正規滞在・不法滞在別にみると、「不法滞在」が増加していること、総検挙状況を在留資格別にみると、「短期滞在」、「留学」及び「技能実習」で全体の50%以上を占めており、そのうち「短期滞在」及び「技能実習」が増加しているといいます。また、罪種等別の刑法犯検挙件数を国籍等別にみると、強盗及び窃盗はベトナム及び中国が高い割合を占めており、窃盗を手口別にみると、侵入窃盗はベトナム及び中国、自動車盗はブラジル及びスリランカ、万引きはベトナム及び中国が高い割合を占めていること、また、知能犯を罪種等別にみると、詐欺及び支払用カード偽造は中国及びマレーシアが高い割合を占めていることなどが示されており、大変興味深いものとなっています。なお、在留資格別の刑法犯検挙人員を国籍等別にみると、「短期滞在」では中国及び韓国、「留学」、「技能実習」、「技術・人文知識・国際業務」及び「技能」ではベトナム及び中国、「日本人の配偶者等」では中国及びフィリピン、「定住者」ではブラジル及びフィリピンの割合が高くなっています。その他、面白いデータとしては、刑法犯検挙件数に占める共犯事件の割合を日本人・来日外国人別にみると、日本人は10.3%、来日外国人は31.1%と日本人の約3.0倍となっていること、来日外国人による共犯事件を形態別にみると、2人組は13.3%、3人組は13.5%、4人組以上は4.2%となっていることがあげられます。外国人の共犯割合が高い要因にはさまざまあると考えられるところ、たとえば土地勘がないことや言葉の問題などもあるのではないかと推測されます。また、いわゆる「犯罪インフラ」事犯について、地下銀行事犯の検挙状況をみると、近年は横ばい状態で推移しているところ、本年上半期は、前年同期と比べ、検挙件数・人員とも増加、検挙人員を国籍等別にみると、ベトナム6人、タイ3人といった状況であるほか、偽装結婚事犯の検挙状況については、近年は減少傾向にあるところ、本年上半期も、前年同期と比べ、検挙件数・人員とも減少、検挙人員を国籍等別では、フィリピン11人、中国8人、ベトナム2人等で、日本人の検挙も26人ということです。旅券・在留カード等偽造事犯の検挙状況では、平成28年に一旦減少した後、再び増加しているところ、本年上半期も、前年同期と比べ、検挙件数・人員とも増加、検挙人員を国籍等別にみると、ベトナム64人、中国39人、インドネシア7人等であること、不法就労助長事犯の検挙状況では、近年、検挙件数・人員ともほぼ横ばい状態で推移しているところ、本年上半期は、前年同期と比べ、検挙件数・人員とも減少、検挙人員を国籍等別にみると、中国37人、韓国10人、フィリピン7人等で、日本人の検挙も102人に上ることが示されています。

(2)AML/CFTを巡る動向

 FATF(金融活動作業部会)による第4次対日相互審査がまもなく始まりますが、特定事業者においてはその準備も山場を迎えているところです。金融庁と金融機関との意見交換会でも、金融庁は、「本年10 月のFATF オンサイト審査に向け、各金融機関においては、4月に改訂したガイドラインで明確化した、全ての顧客のリスク評価やリスクに応じた継続的な顧客管理の実施も含め、リスクベース・アプローチでのマネロン・テロ資金供与管理態勢の高度化への取組みを進めて頂きたい。また、FATF の相互審査はオンサイト審査で終わりではなく、フォローアップも含め継続的な対応が求められるものであり、中長期的な取組みについても、引き続き経営課題として取り組んで頂きたい」と述べています。さらに、取り組みの「実効性」が今回の審査の大きなポイントとなることから、「政府としては、金融機関等の利用者の理解を深めて頂くために、今月から来月にかけて、新聞広告、ラジオ、テレビ等により、金融機関窓口等での取引時の情報提供への協力を求める政府広報を実施しているところ。引き続き官民一体となってマネロン・テロ資金供対策に取組んで参りたい」としています。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼共通事項(主要行/全国信用組合中央協会)

 なお、今回のFATF審査においては、とりわけ地銀の状況が行方を左右しそうです。「不合格」とされた平成20年の前回審査の汚名返上には、リスクが高い地銀の対応力向上が不可欠であるところ、メガバンクに比べ専門人員や経験の少ない地銀は対応に苦慮しており、合格評価の獲得はなかなか見通せない状況にあるようです。報道(令和元年9月18日付産経新聞)によれば、今回のFATF審査について、「できる対策とできない対策を分け、いつまでに対応するか説明できれば一定の評価は得られる。100点満点を取ろうとしない」対応で臨む地銀が大半とみられるということですが、1社でも不十分と見なされれば、国内金融機関の評価が再び下がり、邦銀の国際取引が制約を受け、海外決済や送金などに影響する恐れは否定できないところです。100点満点ではなくとも、相応の「実効性」が伴っていることを担保する取組みがすでに実践(運用)されていることがポイントとなります。たとえば、多くの地銀では、預金規定の改定や海外送金の縮小・撤退によってリスクを低減させたと考えているフシがありますが、本当にそうなのかあらためて検討する必要があります。実際に、他国で敢行された詐欺事件による詐取金の入金口座として日本国内の銀行口座を利用し、詐取金入金後にこれを日本国内で引き出してマネロン/テロ資金供与(ML/TF)を行う事例がありましたが、実は、ダイレクトに海外送金(外為送金)が実行されているわけではなく、国内の普通預金口座や内国為替が悪用される可能性があるのであり、なりすましや口座売買・譲渡が特殊詐欺に悪用されている実態からは、外為送金だけでなくそれら(通常はそれほどリスクが高くないと思われているサービス)にも相応のリスクは存在し、それらのリスクを厳格に特定・評価したうえで、適切な対策が講じられているのかが「実効性」という点で問われることになります。AML/CFTの観点から国際的な信任を得ようと思えば、この事例から考える限り、外為送金のリスクと同程度のリスク対策レベルが普通預金取引や内国為替取引にも求められているといっても過言ではありません。

 さて、少し紹介が遅れてしまいましたが、今年4月、金融庁は「預金取扱い金融機関の疑わしい取引の参考事例」を改正して、これまでの47事例から66事例に拡大しています。以下、追加された事例のみ参考までに紹介しておきます。これまでの事例と比較して、取引状況の異常値の把握、IPアドレスのチェックやPEPの確認、腐敗防止(贈収賄リスク)の観点からのチェックなど、モニタリング手法が高度化していることに対応した事例が多い傾向があります(逆にいえば、このようなモニタリング手法がもはや「必須」であることを示すものでもあります)。

▼金融庁 疑わしい取引の参考事例(平成31年4月1日更新)
▼預金取扱い金融機関
  • 真の口座保有者を隠匿している可能性に着目した事例
    • 名義・住所共に異なる顧客による取引にもかかわらず、同一のIPアドレスからアクセスされている取引
    • 国内居住の顧客であるにもかかわらず、ログイン時のIPアドレスが国外であることや、ブラウザ言語が外国語であることに合理性が認められない取引
    • IPアドレスの追跡を困難にした取引。
    • 取引時確認で取得した住所と操作している電子計算機のIPアドレス等とが異なる口座開設取引。
    • 同一の携帯電話番号が複数の口座・顧客の連絡先として登録されている場合
  • 口座の利用形態に着目した事例
    • 異なる名義の複数の口座からの入出金が、同一の時間帯又は同一の現金自動支払機を用いて頻繁に行われるなどの第三者による口座の管理等が疑われる取引
    • 口座開設時に確認した事業規模等と照らし、給与振込額等が不自然な取引
  • 外国との取引に着目した事例
    • 輸出先の国の技術水準に適合しない製品の輸出が疑われる取引
    • 貿易書類や取引電文上の氏名、法人名、住所、最終目的地等情報が矛盾した取引
    • 小規模な会社が、事業内容等に照らし、不自然な技術的専門性の高い製品等を輸出する取引
    • 貿易書類上の商品名等の記載内容が具体的でない取引
    • 人身取引リスクの高い国・地域に対し、親族と思われる者へ繰り返し少額の送金を行っている取引
  • その他の事例
    • 資金の源泉や最終的な使途について合理的な理由があると認められない非営利団体との取引
    • 口座開設時に確認した非営利団体の活動内容等と合理的な関係が認められない国・地域又は第三者への送金取引
    • 送金先、送金目的等について合理的な理由があると認めらない外国PEPとの取引
    • 財産や取引の原資について合理的な理由があると認められない外国PEPとの取引
    • 腐敗度が高いとされている国・地域の外国PEPとの取引
    • 国連腐敗防止条約やOECD外国公務員贈賄防止条約等の腐敗防止に係る国際条約に署名・批准していない国・地域又は腐敗防止に係る国際条約に基づく活動に非協力的な国・地域に拠点を置く外国PEPとの取引
    • 技能実習生等外国人の取引を含め、代理人が本人の同意を得ずに給与受取目的の口座開設取引を行っている疑いが認められる場合
    • 公的機関など外部から、犯罪収益に関係している可能性があるとして照会や通報があった取引

 また、AML/CFTにおいては、口座開設やその継続的管理はきわめて重要な手続きですが、地銀では、法人名義の口座が詐欺事件で悪用される事例が問題となっているほか、AML/CFTの観点からも必要性が増していることを受けて、法人の新規口座開設手続きを厳格化する動きが相次いでいます。審査を厳格化した銀行は、即日の口座開設に応じておらず、場合によっては(ペーパーカンパニーでないか、実体・実態は問題ないかといった観点から)事業所へ訪問するなど一定の時間を要すため、開設完了は約2週間後になる場合もあるということです。

 さらに、外国人口座の取り扱いも極めて難しい問題です。もともと小遣い稼ぎの感覚で口座を売買する事例が後を絶たず、特殊詐欺等の「犯罪インフラ」化している現状があり、AML/CFTの観点からは外国人の口座は「高リスク」とみなされていたところ、外国人労働者の本格的な受け入れが始まったことで、政府からの口座開設に円滑に対応すべきという要請も加わったためです。「外国人であることのみをもって、合理的な理由なく取引の謝絶等が行われてはならない」とされる一方で、たとえば、来日してから長期間が経過している者が口座開設を申し込んできた場合、すでに保有している生活口座と別に口座を開設しようとする可能性をふまえ、口座不正譲渡の懸念から慎重に目的などを確認することが求められます。なお、外国人口座の管理としては、セブン銀行の取組みが参考になります。同行では、海外送金サービスが約26万口座で活用されており、日本で働く外国人の約17%が同行の口座を保有しているといわれています。その取組みとしては、(1)受け入れ企業と連携してオリエンテーションの中で銀行サービスの説明を行う(帰国時の口座解約についての理解を促進する)、(2)送金先を最大12先にあらかじめ特定する、(3)送金金額の上限を300万円とする、(4)口座開設後もATMの利用状況や利用場所、ネットバンキングにおけるIPアドレスのモニタリングなどを実施するといったものが代表的です。

 なお、金融庁は、「長期在留予定の外国人の方へ」とする多言語のチラシを作成して注意喚起を図っています。以下は(外国人の受け入れに関わる方向け)の注意喚起チラシの内容となりますが、以下、いくつかポイントを紹介します。

▼金融庁 外国人の受入れ・共生に関する金融関連施策について
▼(別添)「外国人の預貯金口座・送金利用について(外国人の受入れに関わる方に知っていただきたい事項)
  • 外国人が預貯金口座を開設する際、入国したばかりで日本に不慣れな外国人にとっては、言語や手続などの理由から、預貯金口座の開設が難しいことも考えられることから、円滑な手続きを支援いただきたい。
  • 金融庁や財務局の職員や銀行員などがキャッシュカードのカード番号や暗証番号を聞くことは絶対にない。外国人が騙されないように注意喚起をお願いする。
  • 多くの受け入れ先企業では、給与支払いについては預貯金口座への振り込みの形を取っていることと思われる。受け入れた外国人に対しても、外国人の利便性や給与支払いの透明性を確保するため、速やかに預貯金口座振り込みの手続きを行う。なお、特定技能1号の資格で受け入れた外国人に対しては、給与支払いを預貯金口座振込などの支払額が確認できる方法で行うことや、預貯金口座開設の支援をすることが義務付けられている。
  • 母国へ送金するときは、銀行や資金移動業者の送金サービスが利用できる。外国人は母国への送金のニーズがあるものと思われる。銀行を利用すればほとんどの国に送金できるが、一部の国にしか送金できないものの銀行に比べて比較的安い手数料で海外送金ができる金融庁の登録を受けた資金移動業者も使える。これらの送金サービスについて外国人に伝える。また、登録を受けずに送金を行う業者は違法であり、絶対に利用しないように伝える。
  • 住所が変わったときなどに金融機関での手続きが必要であることを伝える。たとえば、住所や在留期限、在留資格が変わったとき、退職・退学をしたとき、通帳やキャッシュカードをなくしたとき(金融機関に届け出た住所と現住所が異なると、キャッシュカードを郵送で受け取ることができない)といった場合には、外国人に金融機関での手続きが必要であることを伝える。
  • 帰国することとなり、預貯金口座を利用しなくなるときは、預貯金口座の解約を促す。在留期間が終わるなどの理由で帰国することとなり、預貯金口座を利用しなくなるときは、金融機関の窓口に行き、預貯金口座を解約するよう伝える(再入国するなどの予定があり、引き続き預貯金口座を利用することが見込まれる場合は、金融機関に相談を)。また、受け入れ先企業や就学先の皆様におかれては、外国人が帰国することを知ったときは、金融機関に連絡いただくようお願いする。さらに、預貯金口座の売買(預金通帳・キャッシュカードの譲渡等)は犯罪。帰国する外国人が犯罪行為であるとの認識が薄いまま、小遣い稼ぎのために預貯金口座を売却する事例が多発している。そのようにして売却された預貯金口座が振り込め詐欺等の犯罪収益の受け渡しに使用されることになるので、絶対にそういった行為に関わらないよう注意喚起する。
  • 以下の行為は犯罪行為。法令による処罰や、国外退去処分・入国禁止などの対象となる場合がある。受け入れた外国人が関わらないよう、注意喚起する。
  • 【金融関係の犯罪の例】
    • 地下銀行やヤミ金融:免許を持たずに銀行業を行うことや登録を受けずに資金移動業を行うこと(地下銀行)、登録を受けずに貸金業を行うこと(ヤミ金融)は犯罪。関わらないよう注意喚起する。
    • マネー・ローンダリングへの関与:マネー・ローンダリング(犯罪による収益を隠して預金したり送金したりすること)は犯罪。関わらないよう注意喚起する。
    • 預貯金口座の売買・譲渡:預貯金口座を他人に使わせること(預金通帳やキャッシュカードを売却・譲渡・貸与することも含む)は犯罪。帰国前に軽い気持ちで預貯金口座を売却する事例が多く見られるが、重大な犯罪であることを理解させる。
    • 偽造クレジットカードや偽造キャッシュカードの使用。

 また、外国人の口座を管理する際の本人確認資料として重要な「在留カード」については、その偽造が組織的に行われ、まさに「犯罪インフラ」として特殊詐欺などの犯罪に悪用されている実態があります。出入国在留管理庁では、在留カード及び特別永住者証明書の主な記載内容、偽変造防止対策等の確認方法をWebサイトに掲載して、真偽の確認に役立てるよう周知しています。

▼出入国在留管理庁 在留カード及び特別永住者証明書の主な記載内、偽変造防止対策等の確認方法

 本資料によれば、偽変造防止対策として、在留カードにおいては、(1)「カードを上下方向に傾けると「MOJ」の文字の周囲の絵柄がピンクからグリーンに変化する、(2)カードを上下方向に傾けると、左端の色がグリーンからピンクに変化する、(3)カードを左右に傾けると、「MOJ」のホログラムが3D的に左右に動く、(4)銀色のホログラムは、見る角度を90度変えると、文字の白黒が反転する、(5)暗い場所で、カードおもて面側から強い光を直に当てて透かして見ると、「MOJMOJ・・・」の透かし文字が見える、といった対策が施されているということです。さらに、(6)出入国在留管理庁のWEBサイト「在留カード等番号失効情報照会」では、在留カード等の番号などの必要事項を入力すると、入力されたカード番号が失効していないかを確認することができる、(7)出入国在留管理庁のWEBサイトにおいて、在留カード等の仕様書を公開、在留カード等のICチップに記録されている情報を読み取るための製品が開発・市販されており、これらを使用して読み取った画像と券面を比較することで、真正な在留カードか否かを確認することができるということです。これらのチェックポイントをふまえ、実務においては、偽変造のチェックを盛り込んでいくことが求められているといえます。

 なお、関連して、ブロックチェーン技術を応用して、本人確認手続きの厳格化と利便性を両立させる次世代の手続きに関する実証実験が行われ、課題も見つかったものの、おおむね良好なスタートとなったようです。

▼金融庁 「FinTech実証実験ハブ」初の支援決定案件の実験結果について

 本実験の内容は、「ブロックチェーン技術を用いて、顧客の本人確認手続きを金融機関共同で実施するシステムの構築を検討(本枠組みに参加する金融機関のいずれかで本人確認済みの顧客が、他の参加金融機関との間で新規取引を行おうとする際には再度の本人確認を実施しない仕組みを検討)」するというものでした。また、実証実験では、(1)顧客が、共同運営機関(コンソーシアム)に必要な本人特定事項を登録、(2)コンソーシアムは、経済制裁対象者リスト等に照らしてフィルタリング/スクリーニングを実施。該当がない場合、その旨をブロックチェーン上に記録、(3)顧客が金融機関Aにおいて取引を実施しようとする際は、コンソーシアムから金融機関Aに顧客の情報を引渡し。金融機関Aが顧客の本人確認を実施するとともに、上記情報を参考に取引可否を判断(顧客の本人確認時にブロックチェーン上の記録に誤りがあることが判明した場合には、コンソーシアムで再度(1)の手続きを実施)、(4)金融機関Aは、口座開設などの取引を実施した場合には、コンソーシアムを介して、ブロックチェーン上の顧客情報に実施した取引内容を記録、(5)顧客が金融機関Bにおいて取引を実施しようとする際は、コンソーシアムから金融機関Bに顧客の情報を引渡し。金融機関Bは、コンソーシアムを介して顧客が金融機関Aで本人確認済みであることを確認する(なお、その際、顧客が同様の取引を様々な金融機関で実施していないかなど、ブロックチェーン上に記録された当該顧客の取引履歴を参照し、なりすましのおそれがないかどうかを検証)といった流れが想定されました。結果として、「本実証実験におけるブロックチェーン技術を活用した本人確認方法は、今回要件として定義したレベルの本人確認に対して技術的には十分に運用可能であることが確認された」との評価であったようです。一方で、「コンソーシアムのあり方(担い手・組織など)やコンソーシアム職員の陣容・必要なスキル水準といった業務面における検討課題も残った」とされています。なお、今後は、全国銀行協会に新たに設置された「AML/CFT態勢高度化研究会」(平成30年6月設置)において、本実証実験の結果も参考にしながら、本人確認事務等の共同化に関し、幅広く研究が行われる予定としており、本コラムでもその動向について注視していきたいと思います。

 その他、海外におけるAML/CFTを巡る動向から、いくつか紹介します。

  • ドイツ銀行については前回の本コラム(暴排トピックス2019年9月号)でも取り上げましたが、ドイツの検察当局が、デンマーク最大のダンスケ銀行のマネー・ローンダリング疑惑に関連して同行のフランクフルト本社に家宅捜索に入っています。報道によれば、ドイツ銀がマネー・ローンダリングに関与したか、また同行が遅滞なく不審な取引(疑わしい取引)を当局に報告したかどうかが捜査の焦点となっているようです。本コラムでもたびたび紹介しているとおり、ダンスケ銀行を巡っては、同行のエストニア支店を通した総額2,000億ユーロ(2,200億ドル)にも上る不審な取引が問題となっていますが、本件に関してデンマークとエストニアのほか、米国や英国などが捜査を進めている状況にあります。また、本件に絡み、不審な取引が行われた期間にエストニア部門のトップを務め、9月23日から行方不明となっていたアイバー・レヘ氏が遺体で見つかったことも報じられています。あまりに巨額な不正であるがゆえに、キーマンがこのような形となってしまったことで、疑惑はますます深まるばかりといえそうです。
  • オランダ検察当局は、マネー・ローンダリング疑惑で同国の銀行大手ABNアムロを調査していることを明らかにしています。報道によれば、検察当局は、ABNによる疑わしい取引の報告が遅すぎるケースや、報告が全く行われていなかったケースが長期にわたって続いていたと指摘しているようです。さらには、同行が顧客の行いに関する適切な調査を怠り、疑わしい顧客との取引を適切なタイミングで中止しなかったとも指摘しています。オランダでは昨年9月、金融大手のINGグループがAML/CFTに不備があったことを認め、制裁金9億ドルの支払いに同意しています。同国においても、金融機関のAML/CFTの厳格化の要請が本格化していることがわかります。
  • 米財務省は、イラン産原油を不正に輸送したとして、中国の個人や団体に新たなに制裁を加えると発表しています。制裁対象となるのは5個人と6団体で、中国遠洋海運集団の子会社2社などが含まれています。報道によれば、ポンペオ国務長官は「米国があらゆる違反に制裁を加えることを、中国やすべての国は覚えておいてもらいたい」とした上で、「イランが抗えば抗うほど米国の圧力は強まる」と語ったといいます。またイランの精鋭部隊、革命防衛隊との取引禁止に関し、各国への周知を強化するとしています。さらに、米財務省は、ベネズエラ産原油をキューバに輸送した海運企業4社と船舶に対し、制裁措置を導入しています。財務省は声明で、米国は今年1月、ベネズエラ国営石油会社PDVSAに対し、厳しい制裁を科したものの、キューバの国営石油輸出入会社キューバメタルズとキューバ拠点の企業は「制裁措置を回避し続けている」と非難しています。
(3)特殊詐欺を巡る動向

 以前の本コラム(暴排トピックス2019年7月号)でも紹介したとおり、犯罪対策閣僚会議において示された「オレオレ詐欺等対策プラン」に基づき、特殊詐欺グループに電話番号を販売する悪質な「電話再販業者」の規制に乗り出し、9月27日から、特殊詐欺に悪用される電話回線を遮断するため警察庁と総務省が大手電話会社と協力し、特殊詐欺に使われた固定電話番号を利用停止にする規制措置を全国で一斉に始めています。また、詐欺グループに電話番号を提供する悪質な電話再販業者に対しては、電話番号の販売を取りやめる措置も始まっています。固定電話の番号は市場で売買されており、通信事業者が再販業者に売り、二次再販業者や三次再販業者に転売されることが多く、詐欺グループは番号を再販業者から購入するほか、携帯電話でかけたのに相手の端末には固定電話の番号を通知させる「転送サービス」を利用することもあるほか、偽の身分証で契約するケースもあるといいます。電気通信事業法は、電話会社に「提供義務」を課しており、自然災害や料金滞納などの「正当な理由」がなければ電話回線の販売を拒否できない「ユニバーサルサービス」の典型ですが、一方の特殊詐欺は、高齢者を巧みにだまし、老後の蓄えや生活費をむしり取る卑劣な犯罪であって、その犯罪によって失われるのは財産だけではなく、被害にあったことで自分を責め、死を選んでしまう人もいる「自尊心まで奪う悪辣な犯罪」です。総務省が、このような実態・被害の深刻さに鑑みて、詐欺への継続的な使用が販売を拒否できる正当な理由にあたると判断したことは、(遅きに失した感はありますが)当然かつ妥当なものだといえます。

▼オレオレ詐欺等対策プラン
▼オレオレ詐欺等対策プラン(概要)
▼総務省 電気通信事業者による特殊詐欺に利用された固定電話番号の利用停止等

 総務省は、昨今の特殊詐欺(被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振り込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪(現金等を脅し取る恐喝及び隙を見てキャッシュカード等を窃取する窃盗を含む。)の総称。以下同じ。)の被害状況を踏まえ、今後、警察から特殊詐欺に利用された固定電話番号の利用停止等の要請があった場合における電気通信事業者の対応について、一般社団法人電気通信事業者協会に通知した

 <概要>

  1. 固定電話番号の利用停止
    1. 都道府県警察は、特殊詐欺に利用された固定電話番号を認知後、電気通信事業者に対し、当該固定電話番号の利用停止を要請する
    2. 当該電気通信事業者は、都道府県警察から要請があった固定電話番号を利用停止の上、警察庁に対し、当該利用停止を行った固定電話番号の契約者(卸先電気通信事業者を含む。)の情報を提供する
  2. 新たな固定電話番号の提供拒否
    1. 警察庁は電気通信事業者に対して、一定の基準を超えて利用停止要請の対象となった契約者の情報を示すとともに、同契約者に対する新たな固定電話番号提供の拒否を要請する
    2. 電気通信事業者は、警察から要請のあった者から固定電話番号の追加購入の申し出があった場合には、一定期間、その者に対する新たな固定電話番号の提供を拒否する

 なお、「オレオレ詐欺等対策プラン」(令和元年6月25日犯罪対策閣僚会議決定)において、「電話転送サービスを介した固定電話番号の悪用への対策として、特殊詐欺に利用された固定電話番号の利用停止をはじめとする実効性のある対策を講じる」とされている

 なお、本取り組みが開始された9月27日に、秋田県警が架空請求の疑いがあるはがきに記載された固定電話番号1件を使用停止にする遮断手続きを取ったということです。報道によれば、同県警は、別の番号1件についても同様に手続きしているといい、「はがきやメールなどで不審な番号が見つかり次第、手続きを進める」と話し、被害防止へ迅速に対応する考えを示しています。ユニバーサルサービスに対する踏み込んだ対応にもかかわらず、大変迅速な対応がなされていることは高く評価したいと思います。そして、このようなより踏み込んだ取り組みがもっと導入され、徹底されることにより、特殊詐欺被害の撲滅につながっていくことを期待したいと思います。

 さて、例月同様、直近の特殊詐欺の認知・検挙状況等について警察庁の公表資料から確認します。

▼警察庁 令和元年8月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

 平成31年1月~令和元年8月の特殊詐欺全体の認知件数は10,942件(前年同期11,476件、前年同期比▲4.7%)、被害総額は200.0億円(247.9億円、▲19.3%)となり、認知件数・被害総額ともに減少傾向が継続しています。なお、検挙件数は3,872件となり、前年同期(3,478件)から+11.3%と昨年を大きく上回るペースで摘発が進んでいることがわかります(検挙人員は1,715人と昨年同期(1,766人)から▲2.9%の結果となりましたが、全体の件数が大きく減少している中、摘発の精度が高まっていると評価できると思います)。また、前々回から新たに統計として加わった「特殊詐欺(詐欺・恐喝)」と「特殊詐欺(窃盗)」の2つのカテゴリーについても確認します。「特殊詐欺(詐欺・恐喝)」とは、「オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺、金融商品等取引名目の特殊詐欺、ギャンブル必勝法情報提供名目の特殊詐欺、異性との交際あっせん名目の特殊詐欺及びその他の特殊詐欺を総称したものをいう」ということですので、従来の「振り込め詐欺」となりますが、「特殊詐欺(窃盗)」とは、「オレオレ詐欺等の手口で被害者に接触し、被害者の隙を見てキャッシュカード等を窃取する窃盗をいう」とされ、最近の本手口の急増が反映された形となります。その特殊詐欺(詐欺・恐喝)については、認知件数は8,857件(10,751件、▲17.6%)、被害総額は170.8億円(238.2億円、▲28.3%)と、特殊詐欺全体の傾向に同じく、認知件数・被害総額ともに大きく減少する傾向が続いています(なお、、検挙件数は3,127件(3,268件、▲4.3%)、検挙人員は1,504人(1,690人、▲11.0%)とやはり同様の傾向となっています)。また、特殊詐欺(窃盗)の認知件数は2,085件(725件、+187.6%)、被害総額は29.2億円(9.7億円、+200.1%)、検挙件数は745件(210件、+254.8%)、検挙人員は211人(76人、+177.6%)と、正に本カテゴリーが独立した理由を数字が示す形となっています。

 類型別の被害状況をみると、まずオレオレ詐欺の認知件数は4,600件(5,929件、▲22.4%)、被害総額は46.6億円(87.6億円、▲46.8%)と、認知件数・被害総額ともに大幅な減少傾向が続いています(6ヶ月前に増加傾向から一転して減少傾向に転じて以降、ともに大幅な減少傾向が続いています。なお、検挙件数は1,998件(2,157件、▲7.4%)、検挙人員は1,030人(1,224人、▲15.8%)となっています)。また、架空請求詐欺の認知件数は2,376件(3,236件、▲26.5%)、被害総額は62.3億円(79.8億円、▲21.9%)、検挙件数は842件(741件、+13.6%)、検挙人員は406人(361人、+12.5%)、融資保証金詐欺の認知件数は194件(292件、▲33.6%)、被害総額は2.4億円(4.3億円、▲44.2%)、検挙件数は62件(115件、▲46.1%)、検挙人員は14人(23人、▲39.1%)、還付金等詐欺の認知件数は1,634件(1,165件、+40.3%)、被害総額は20.6億円(14.2億円、+45.1%)、検挙件数は183件(149件、+22.8%)、検挙人員は15人(27人、▲44.4%)となっており、特に還付金等詐欺については、認知件数・被害総額ともに減少傾向となっていたところから、一転して大幅に増加しており、今後の動向に引き続き注意する必要があります。

 なお、それ以外の傾向としては、特殊詐欺全体の被害者の年齢別構成について、60歳以上87.6%・70歳以上74.7%、性別構成については、男性24.7%・女性75.3%となっています。参考までに、オレオレ詐欺では、60歳以上98.2%・70歳以上94.0%、男性13.8%・女性86.2%、融資保証金詐欺では、60歳以上35.8%・70歳以上11.9%、男性76.7%・女性23.3%などとなっており、類型別に傾向が異なっている点に注意が必要であり、以前の本コラム(暴排トピックス2019年7月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。また、犯罪インフラの検挙状況としては、口座詐欺の検挙件数は580件(744件、▲22.0%)、検挙人員は343人(453人、▲24.3%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,489件(1,617件、▲7.9%)、検挙人員は1,227人(1,326人、▲7.5%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は181件(187件、▲3.2%)、検挙人員は131人(158人、▲17.1%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は38件(27件、+40.7%)、検挙人員は27人(27人、±0.0%)などとなっています。

 特殊詐欺事件の被害金を宅配便で受け取ったとして詐欺罪に問われ、2審で無罪になった「受け子」の無職の男(45)の上告審判決で、最高裁第2小法廷は、2審東京高裁判決を破棄し、逆転有罪としました。報道(令和元年9月27日付産経新聞)によれば、被告はマンションの郵便受けから宅配便の不在連絡票を取り出し、記載された暗証番号を使って宅配ボックスから荷物を受け取り、回収役に渡したとされます。被告側は「親からの荷物を取ってくるように知人に頼まれたため、宅配ボックスの荷物を知人の後輩に渡した」と主張、最高裁は、明らかになっている事実から「被告は、荷物が詐欺に基づいて送付されたものであると認識していた」と推認し、詐欺罪の成立を認定したものです。無罪とした2審では「以前から同じような荷物の取り出しを繰り返していなければ、詐欺に結びつく発想には至らない」としていましたが、今回の最高裁の詐欺罪の成立を認定した判断は市民感覚からみても妥当なものと考えます。

 前回の本コラム(暴排トピックス2019年9月号
でも紹介しましたが、特殊詐欺の摘発において、最近、詐欺グループとのやりとりがSNS等に残っているケースがあり、そのやり取りの実態が少しずつ明らかになってきています。令和元年10月6日付日本経済新聞の「「焦る心理」操る 特殊詐欺グループのマニュアル押収」と題した記事では、具体的なやりとりについて解説され、実態がよく分かる内容となっていましたので、以下引用して紹介します(下線部は筆者)。

 高齢者を中心に被害が後を絶たない特殊詐欺。警視庁が9月に仕切り役を逮捕した中国を拠点とする詐欺グループが使用していた詐欺電話のマニュアルからうかがえるのは、相手の焦りを誘うために周到に組み合わされただまし文句だ。人は不安に襲われると普段の判断力を失う場合があるといい、専門家は「『だまされない』との心がけだけでは被害を防げない」と指摘する。 「焦らせて」。中国吉林省の拠点から詐欺の電話をかけていた中国人と日本人の混成グループのマニュアルには、被害者の心理の揺さぶりを狙った記述が並ぶ。警視庁が押収し、報道陣に公開した。

 グループはキャッシュカードの詐取を狙った電話をかけていた。まず百貨店の店員を名乗り「クレジットカードの不正利用の疑いがあり、カードを替える必要がある」と電話。受けた人が「身に覚えがない」と答えた場合、間髪いれずに「個人情報の漏れる書類、特に銀行のキャッシュカードなどを紛失していないか」と質問する。手元にカードがあれば「良かったです」と一度安心させる言葉をかけるが、「今すぐカードを止めた方がいい」「政府の機関で調べてもらって」と畳みかける。マニュアルには「焦らせて(被害者に)『どうしたらいいか』と言わせる」というただし書きがあった。最終的には全国銀行協会職員を名乗る人物が自宅を訪ね、キャッシュカードをだまし取って暗証番号も聞き出す。グループによる被害は2017年5月以降、計約1億8千万円に上った。(略)立正大の西田公昭教授(社会心理学)によると、人は焦りや不安が募ると、目の前の救済策や第三者の判断に身を委ねる傾向がある。親身に応じているように装う詐欺犯に対して、「自分を助けるために話してくれている」と思い込んでしまうケースも多いという

 西田教授は「普段はだまされないと思っていても、焦った心理状況の中では冷静に判断するのは難しい」と指摘する。(略)警察庁は詐欺犯と直接対話する機会を減らすため、在宅時でも留守番電話設定にする対策なども呼びかけている。

 最近では、特殊詐欺の国際展開が顕著となっている状況もあります。本コラムでも紹介したタイの事案に続き、今度は中国を拠点にした事件が摘発されています(なお、前者のタイ中部のパタヤで日本人を狙った特殊詐欺グループが摘発された事件では、最近も警視庁が18人目を新たに詐欺容疑で逮捕しています。この容疑者は、拠点の名義人になっており、トイレが壊れたり電球が切れたりすると修繕業者を呼んでいたといいます)。また、後者については、中国東北部の吉林省延吉市から高齢者にうその電話をかけ、キャッシュカードなどをだまし取ったとして愛知県警が男女6人を詐欺容疑で逮捕したという事例がありました。中国に拠点を置く特殊詐欺グループを巡っては、警視庁が、同省から電話をかけていた組織のメンバー(かけ子の上役で仲間を集める「リクルーター」役もしていたと見られています)を逮捕しています。警視庁は、この容疑者が属する特殊詐欺グループのかけ子ら男女13人をすでに逮捕していますが、同様の日本を狙った特殊詐欺グループはほかにもあるとみられています。この拠点の海外移転の背景には、日本国内における通信傍受法の改正や、飛ばしの携帯電話対策、架空名義口座対策、ATM対策などや、当局の取り締まりが強化されたことなどがあると指摘されていますが、現在では中国も同様の傾向にあり、さらに東南アジアにシフトしている実態もあるようです。また、悪用されているIP電話は、一般加入電話網回線の一部あるいは全部をインターネット網で代替するため通話料金が大幅に安くなること、被害者に送りつけたSMS(ショートメッセージサービス)に記載された電話番号や、被害者電話をかける際の発信者番号を「03」や「06」など国内局番にする「電話転送サービス」の悪用などによって、海外拠点から日本に向けて詐欺を実行することが容易になっていること、時差が小さいので電話をかけやすいこと、観光地ならば、集団で入国しても違和感がないことなども理由として考えられるところです。さらに、タイ・パタヤの事案のように高級住宅街を拠点とできたのは、不動産や、電話など備品の貸借に特化した「道具屋」「ハコ屋」が海外にも存在していることが推測され、中国や東南アジアの暴力団など犯罪組織が絡んでいる可能性や、日本の暴力団との連携なども考えられるところです。さらに、海外で「かけ子」を担っていた連中は多重債務者だったとみられ、日本の暴力団が絡んで半ば強制的に違法労働に従事していた実態もあります。特殊詐欺の海外拠点化は犯罪組織にとってメリットも大きく今後もその傾向は続くことが予想される一方で、国際的な犯罪となれば、実態解明がより一層難しくなることが予想されるほか、捜査機関の国際協力のあり方も問われることになります。

 次に、最近の特殊詐欺に関する報道から、いくつか紹介します。

  • トラブル解決金の名目で約1,000万円相当の暗号資産ビットコインをだまし取ったとして、神奈川県警は、男ら3人を詐欺容疑で逮捕しています。3人は詐欺グループで電話をかける「かけ子」をしていたとみられ、振り込め詐欺を巡って暗号資産被害で立件するのは全国初ということです。報道によれば、同県警は9月に東京都新宿区内のマンションにあった詐欺グループの拠点を捜索した際に、約3万人分の名簿や携帯を押収し、今回の被害が判明したということです。
  • 偽造の運転免許証で銀行口座を開設し、キャッシュカードをだまし取ったとして、警視庁は、六代目山口組系組幹部ら4人を詐欺容疑で逮捕しています。同庁は容疑者が住むマンションの一室で、架空名義の免許証や保険証、カードなど約600点を押収したほか、開設された口座に特殊詐欺の被害者から計1,600万円が入金されていることも確認したといいます。容疑者らがこの部屋を拠点に架空口座の開設を繰り返し、詐欺グループに提供していたとみられています。
  • 千葉県での長期停電など各地に大きな被害をもたらした台風15号で、被害に便乗した悪質商法が横行しています。消費者生活センターなどにはこれまでに約200件の相談が寄せられており、消費者庁は注意を呼び掛けています。先日の台風19号も全国各地に大きな被害をもたらしており、同様の被害がさらに拡がることが懸念されます。
  • 振り込め詐欺の被害を警察に届けた高齢者が、警察官をかたる男らから「被害金の返還を受けるために保険料が必要」などと、再び現金をだまし取られる被害にあったということです。特殊詐欺の被害については、一度だまされた人が再度だまされる確率は、通常の5倍という英の調査結果もあります。詐欺の被害者において、「自分はだまされない」という思い込みが確証バイアスとなって、結局だまされることになるというメカニズムがありますが、一度だまされた人はより強く「自分はだまされない(だまされるわけがない)」と思い込むことになり、それによってより強い確証バイアスに囚われてしまうことになります。本事例のように、高齢者が重ねてだまされるケースも多いのは大変残念です。
  • 上記のような高齢者の消費トラブルについては、周囲が気付いてあげることも必要です。敬老の日にあわせて、国民生活センターが、お年寄りが消費者トラブルに遭っていないかどうかを知るためのチェックリストを公開しています。同センターによると、60歳以上が対象になった架空請求や不用品売りつけを巡るトラブル相談は、平成30年度に約434,000件と過去10年で最多となったということです。
▼国民生活センター 見守りと気づきのチェックリスト
  • 家の様子について
    • 家に見慣れない人が出入りしていないか
    • 不審な電話のやりとりがないか
    • 家に見慣れないもの、未使用のものが増えていないか
    • 見積書、契約書などの不審な書類や名刺などがないか
    • 家の屋根や外壁、電話機周辺などに不審な工事の形跡はないか
    • カレンダーに見慣れない事業者名などの書き込みがないか
  • 本人の様子について
    • 定期的にお金をどこかに支払っている形跡はないか
    • 生活費が不足したり、お金に困っていたりする様子はないか
    • 何かを買ったことを覚えていないなど、判断能力に不安を感じることはないか

 関連して、国民生活センターから「消費生活年報2019」が公表されています。同センターに寄せられた相談件数が増加しており、その要因として「架空請求詐欺」の増加が影響しているといいます。

▼国民生活センター 消費生活年報2019
▼全体版

 2018年度の相談件数は991,575件で、2017年度(941,341件)に比べ増加、とりわけ「架空請求」の増加が影響した結果となりました。その「架空請求」の相談は、2012年度から再び増加傾向にありますが、法務省等の公的機関をかたる架空請求のハガキに関する相談が2017年度より増加している影響で2018年度は22.6万件と増加しています。また、「架空請求」の相談は、50歳以上の女性に多くみられるほか、70歳以上の相談の割合は、2018年度は24.7%と過去10年間で最も高くなったといいます。また、60歳代、70歳以上の割合は近年増加している一方、20歳未満、20歳代、30歳代、40歳代、50歳代の割合が減少している実態もあります。さらに、架空請求の相談が含まれる「商品一般」についても増加し、2018年度は23.0%と最も多くなっています。また、2001年度以降最も多かった「運輸・通信サービス」は、利用した覚えのないサイト利用料の請求など架空請求の相談などが含まれる「デジタルコンテンツその他」のほか、光回線などの「インターネット接続回線」、スマホなどの携帯電話サービスやモバイルデータ通信などの「移動通信サービス」、「放送サービス」などの通信関連や、「アダルト情報サイト」が減少したものの、20.0%と依然として多く2番目となっています。

 なお、2017年度と比較して、電話勧誘・訪問販売による電力会社の切り替え等のトラブルがみられる「電気」のほか、通常価格より安い価格で購入したところ、実際は定期購入だったといったトラブルがみられる「化粧品」「健康食品」や、暗号資産等に投資すれば利益が得られるなどと勧誘される「ファンド型投資商品」において相談件数の増加が目立ったようです。さらに、2018年度の相談を相談内容別にみると、解約したいなどの「契約・解約」や、販売手口やセールストーク等の「販売方法」のいずれかが問題になっている「取引」に関する相談は2012年度以降増加傾向にあるということです。それ以外の状況については、以下、箇条書きとなりますが紹介します。

  • 「通信販売」に関する相談の全体に占める割合は29.9%と、2013年度以降、販売購入形態別で最も高く、「インターネット通販」に関する相談が多くみられた。「訪問販売」「電話勧誘」「ネガティブ・オプション」「訪問購入」は70歳以上の相談が多く、「マルチ取引」では20歳代の相談が多かった。
  • 契約購入金額の合計金額は4,281億円、平均金額は110万円であり、既支払金額の合計金額は1,492億円、平均金額は42万円であり、2017年度に比べ合計金額、平均金額ともに減少した。
  • 販売方法・手口別にみると、増加傾向にある「サイドビジネス商法」「利殖商法」のほか、「マルチ取引」で、投資や情報商材などもうけ話に関する相談がみられる。
  • 危害・危険情報と医療機関ネットワークの情報
  • 全国の消費生活センター等から収集した「危害・危険情報」は13,685件で、対前年度比でみると6.1%減である。医療機関ネットワークの参画医療機関から収集した情報(基本情報)は5,791件で、対前年度比103.9%となっている。
  • 「危害情報」は10,939件で、上位3商品・役務等は「化粧品」「健康食品」「医療サービス」である。「危険情報」は2,746件で、上位3商品・役務等は「四輪自動車」「調理食品」「電話関連機器・用品」である。
  • 「危害情報」は、まつ毛美容液の相談が211件増加したことにより「化粧品」が235件増加したものの、「飲料」が164件、「洗濯用洗浄剤」が71件、まつ毛エクステンションやネイルサロンなどの相談が含まれる「他の理美容サービス」が61件、それぞれ減少したことなどにより371件減少している。
  • 「危険情報」は、「電話関連機器・用品」が12件増加したが、「四輪自動車」が90件、「自転車」が74件、「調理食品」が57件、それぞれ減少したことなどにより516件減少している。
  • 医療機関ネットワークについては、2017年度から第4期事業(2020年3月末まで)において24の医療機関が参画し、2018年度は5,791件の情報を収集した。
  • 「訪日観光客消費者ホットライン(Consumer Hotline for Tourists)」(以下「訪日窓口」という)について、2018年度に訪日窓口へ寄せられた相談は、2018年12月~2019年3月の4カ月間で合計62件である。言語別の相談件数では、「中国語」が52%と半分以上を占めている。その次に「英語」が31%となっており、その2言語で8割以上を占めている。「日本語」による相談も寄せられているが、これは相談者が日本語を話せるケースのほか、相談者の友人(日本人)から相談を寄せられるケースがあることによる。
  • 商品別分類でみると、「宿泊施設」が18%と最も多く、予約した部屋がサイトの表示と違っているというものなどホテルや民泊に関する相談が寄せられている。次いで「自動車」が11%とあるが、これは主にレンタカーに関する相談で、事故を起こした際の保険の適用や修理代に関するものがみられる。また、旅行中に病院にかかった際の相談や、飲食店で食事をした際の相談も複数寄せられている。
  • 2018年度に全国の消費生活センター等および国民生活センターで実施された苦情処理テストの総件数は873件で、2017年度より67件(対前年度比7.1%)減少した。「住居品」が250件(28.6%)と最も多く、次いで「教養娯楽品」159件(18.2%)、「被服品」121件(13.9%)、「食料品」104件(11.9%)であった。この4つの商品別分類で約7割を占めており、これらに続いて「クリーニング(被服品)」「車両・乗り物」「保健衛生品」「土地・建物・設備」等の順となっている。
(4)暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

 暗号資産を代表する通貨である「ビットコイン」が登場してから10年が経過しました。中央銀行などが発行する法定通貨と違い、ビットコインには発行者がいないうえ、裏付けとなる資産もなく、紙幣や硬貨といった「実体」もないものです。最新のテクノロジーと融合して国家に代わって信用を担保する可能性を示した反面、投機的な対象とされるなど毀誉褒貶相半ばするビットコインですが、米フェイスブック(FB)の「リブラ」構想が頓挫しそうな局面を迎えており、まさに今、ビットコインに限らず暗号資産の価値や存在意義自体があらためて問われている状況です。

 さて、そのリブラについては、その運営団体「リブラ協会」が、スイスに決済システムの免許を申請したことをスイス連邦金融市場監督機構(FINMA)が明らかにしています。一方で、報道によれば、その「リブラ協会」の責任者は、世界的に広がっている規制への懸念で、2020年中といわれているリブラの導入が遅れる可能性があると述べています。同氏は懸念を和らげるため欧州や他の規制当局と議論を重ねており、1、2四半期の遅れは問題ないとの見方を示し、「重要なのは、われわれは規制当局に従う必要があるということだ。当局と共に検討し、当局がわれわれの解決策に全面的に賛成することも重要だ」としています。ところが、その発言からまもなく、「リブラ協会」から、米クレジットカード大手のビザとマスターカード、米決済支援大手ストライプ、南米の決済大手メルカドパゴ、米競売大手イーベイの5社が離脱したことが明らかとなりました(なお、それ以前に、米決済サービス大手ペイパルからの離脱を発表していました)。あわせて世界5,000万規模の店舗網を持つ米カード大手2社や、主要な支払い・決済会社の相次ぐ離脱は、リブラの普及にとって大きな痛手となることは間違いありません。以下に紹介するとおり、世界各国の金融当局が既存の通貨システムへの影響を懸念、ML/TFの温床となるリスクを懸念する声が相次いでいるほか、最大8,700万人分の個人情報が不正流用されるなどプライバシー問題で失態を重ねたFBに対し、規制当局の不信感が根強いことが背景にあると考えられます。また、一部の米議員はプライバシーや安全保障上の脅威などを理由に、リブラの開発を中断するよう求めていることもあり、米下院金融サービス委員会が、10月23日にマーク・ザッカーバーグCEOを証人に招いて公聴会を開くことが予定されています。リブラ構想がこのまま雲散霧消してしまうのか、各国の規制当局の要請をふまえつつ、その実現を夢見た「法定通貨に代わる存在」となり得るのか、今度の公聴会は今後のリブラの行方を占う試金石となりそうです。

 さて、リブラは是か非かという議論の前に、少なくともリブラが政府や中央銀行を刺激したことは間違いなく、その理由としてはリブラの持つ利便性にあると思われます。世界中の人々に、安価で最低限必要なサービスを提供するリブラが出てくれば、法定通貨から利用者が離れ、現在の金融システムが成り立たなくなる可能性があること、価格の安定といった条件を満たせば、リブラが現在の通貨以上に便利な存在になる可能性を秘めているということに世界が気づき始めたからだと考えられるのです(だから政府や中央銀行が一斉に、リブラでよいのかは別に(とりあえずリブラに覇権を握らせることは認めず)、法定通貨のあり方、「公的デジタル通貨」のあり方を激しく議論しはじめたように見えます)。以下、その世界各国や規制当局等のリブラに対する厳しい視線について、簡単に集約していますので、あわせて参考にしていただきたいと思います。

  • 報道(令和元年9月11日付ロイター)によれば、FATFの新たなトップとなった劉氏は、暗号資産の違法な利用は速いペースで広がると予測、「暗号資産のもたらす匿名性が重大犯罪で不当に利用されている。こうした活動は急速に拡大する公算が大きく、当局が把握しているのは氷山の一角にすぎない」と指摘、また「疑わしい動きを見付けるのは干し草の中で一本の針を探すようなものだ。おそらく、干し草の山はどんどん大きくなっており、四六時中活動している」と述べていますが、まさに暗号資産を取り巻くリスクの状況(対応の難しさ)を的確に表現したものといえると思います。
  • 欧州中央銀行(ECB)のクーレ専務理事は、リブラを含む複数の法定通貨を裏付けとしたデジタル通貨「ステーブル(安定した)コイン」について、裏付け資産がある「ステーブルコイン」は「新たな技術であり、特に世界的な決済システムとして機能するのに必要とされる規模に関して、ほとんどテストされていない」とした上で、まだ実態が検証されておらず、深刻なリスクがあると述べています。報道によれば、「ステーブルコインは、世界的な決済システムの運用に必要とされる規模などほとんどの面で検証されておらず、公共政策の優先事項に関連する多くの深刻なリスクを引き起こす。規制当局の承認基準は高くなるだろう」と述べたということです。
  • 英イングランド銀行(中央銀行)は、リブラについて事前に適切に監視していく方針を示しています。報道(令和元年10月9日付日本経済新聞)によれば、英の金融安定政策を担う金融行政委員会がリブラについて、「金融システム上重要な決済手段になる可能性を持っている」と指摘、リブラのような技術革新はサービス開始前に運用条件を整える必要があるとし、英金融当局として監督に万全を期すことを確認したということです。英当局はフィンテックなど金融の技術革新の後押しに積極的な一方で、金融システム安定や投資家保護を損なわないか注視しており、英金融行為監督機構(FCA)は暗号資産を基にした金融派生商品(デリバティブ)の個人向け販売の禁止を検討中であるなど、決済手段として新たな形の国際通貨を目指すリブラは既存の金融秩序を変える可能性があり、適切な監督が不可欠とみているということです。
  • 欧州委員会のドムブロフスキス委員(金融安定・金融サービス担当)は、リブラなど暗号資産を規制する新ルールを提案する意向を示しました。報道によれば、同氏は欧州議会の指名公聴会で「リブラなど暗号資産に対して欧州共通のアプローチが必要だ。これについて新たな法規制を提案する方針だ」と発言、暗号資産の規制では「不公正競争、サイバーセキュリティー、金融安定に対する脅威」に対処する必要があるとの認識を示しています。
  • 仏独は共同声明を発表し、リブラは金融部門に対するリスクとなるとの見解を示し、欧州での認可を阻止する可能性を示すと同時に、代替となる公的な暗号資産の創設に支持を表明しています。暗号資産は消費者や金融安定だけでなく、欧州諸国の「通貨主権」に対するリスクとなると指摘、「リブラ・プロジェクトについてFBが明らかにした概要は、こうしたリスクに適切に対応できると納得できるものではなかった」としています。
  • デジタル通貨を巡るルールについては、現在、各国が独自に制定している状況であるところ、仏経済・財務相は、OECDの会議において、「取引や管理で障害が起きれば金融の著しい混乱を招きかねない」と強調して「リブラを認めない」という姿勢をあらためて示しています。また、詳細には踏み込まず、欧州の「公的デジタル通貨」創設を主張、リブラには金融のシステミックリスクや国の主権を脅かすリスクなどがあるとして、現在の条件では欧州への投入を認めないとの考えを示しています。
  • 仏中央銀行総裁は、「ステーブルコインはビットコインのような投機資産とはかなり異なる。ただ、規制当局は世界的なレベルで注視を続ける必要があり、われわれはそうするつもりだ」としつつ、「ステーブルコインの発行者が預金や投資、融資などの銀行サービスも提供したいなら、営業する全ての国で銀行免許を取る必要がある」と厳しい姿勢を示しています。
  • 米アップルのティム・クックCEOは、同社独自の暗号資産導入に否定的な姿勢を示しています。FBに追随するかとの質問に対し、自身の優先事項ではないと回答したもので、「通貨は国が管理すべきものだと思う。民間で競合する通貨を導入することがいいとは思わない。民間企業はこうしたやり方で力を得ようとすべきではない」と述べて、リブラやステーブルコインの導入議論とは距離を置いたスタンスを示しており、大変興味深いところです。
  • 日銀総裁は、リブラについて「膨大な顧客基盤を背景にしているので、仮に導入されると急拡大して、社会へのインパクトは巨大なものになり得る」とし、「今後ともG7、G20を通じて国際的な共通認識と適切な規制を考えていかなければならない」との認識を示しています。その上で「いわゆるステーブルコインと言われているものについては、社会的な信認が得られないと、後で問題が起こる可能性がある」と述べ、「国際的な協調・協力が必要だ」と語っています。あくまで、国際的な枠組みの中で議論すべきだとの姿勢が前面に出ています。

 以前の本コラムでも指摘しましたが、国連安保理の北朝鮮制裁に関する専門家パネルの報告書について、今年3月の段階では、約580億円分の暗号資産が交換業者からハッキングにより盗まれたコインチェック事件をめぐり、「北朝鮮ハッカーの関与」を示唆していたものの、9月に新たに公表された報告書からはコインチェックに関する記述がなくなっていました。この点について、報道(令和元年9月11日付朝日新聞)によれば、専門家パネル元委員は、「加盟国などからの情報を改めて精査した結果、北朝鮮の関与を疑う合理的な根拠が見つからなかったからだろう」と指摘、そのうえで「国連の報告書に記載されると、その情報は国連が検証済みの『事実』として世界に受け止められる。前回の報告書では、パネルがロシア企業のリポートを引用した際、その内容を検証した痕跡は見受けられない。こんな手抜きは本来、あってはならない」と批判しています。後述するICPOのサイバー分析捜査官である福森氏も、「様々なサイバー対策企業が報告書を出しており、北朝鮮がやったのではとの噂もあるが、まだ藪の中です。私からは捜査中としか言えません」と述べているほど、その特定作業は困難を極めるもののようです。

 また、暗号資産の以外のもつ意外な可能性についての報道もありました(令和元年9月21日付ロイター)。多くの点で依然としてアナログ時代を引きずっているキューバで、取引の安全性確保のために暗号化技術を用いるデジタル貨幣、つまり暗号資産がブームになっているというものです。キューバでは、1年近く前にモバイル機器によるインターネットが普及し始めたことにより、暗号通貨取引への道が開け、熱心な利用者が急激に増加したといいます。暗号通貨を使えば、米の対キューバ制裁による障壁を乗り越えやすくなることがその理由とのことです(そもそも、キューバにおいては暗号資産自体グレーな領域ではあるものの、一方で、キューバ政府は今年7月、政府自身も、同じように米国の制裁下にあるベネズエラやイランなど他国の例に倣い、暗号通貨の可能性を探っていると表明しています)。共産主義国家であるがゆえ、暗号資産自体が政府の強力なコントロール下に置かれる可能性は否定できないものの、暗号資産のもつ「グレー」ゆえの可能性が示されていると思います。

 最後に令和元年10月4日付日本経済新聞の「「日本の仮想通貨狙われる」ICPOサイバー捜査分析官」と題する記事で、国際刑事警察機構(ICPO)の専門組織に出向し、サイバー捜査の分析官を務める福森大喜氏のインタビューが掲載されていました。プロ中のプロの指摘だけに大変説得力がありますが、それだけに一層、犯罪の高度化や巧妙化の実態が迫ってくる内容です。最近の動向が大変コンパクトにまとめられていて参考になる部分も多いと思われますので、暗号資産に関する部分について、以下引用して紹介します。

――サイバー犯罪の最近の特徴は。

4年ほど前から増えたビジネスメール詐欺は今も多い。身代金要求ウイルスも仮想通貨(暗号資産)と結びついて非常に捜査しにくい状況ですね。さらに匿名性の高い仮想通貨『モネロ』なども出ており、背後に誰がいるのかわかりにくい。また『ダークウェブ』と呼ばれる匿名性の高いウェブサイトが犯罪者の間で広まっているのも問題。最近ではコインチェックなど仮想通貨取引所(交換事業者)が何件も狙われ、被害額も数百億円に跳ね上がってます

――誰が狙っている?

「(捜査を実際にサポートしており)話せません。ただ間違いなくプロの仕業です。長い間をかけてターゲットに攻撃を仕掛けている」

――日本への攻撃は。

ビジネスメール詐欺は今もはやっているし、仮想通貨取引所が多いので狙われていますね。一方、産業スパイは落ち着いている。もしかしたらもう全て盗まれてしまったのかもしれませんが

――日本の防衛技術のレベルはどうみますか。

「世界全体では進んでいる方だと思いますが、オランダなど先進的な国に比べれば遅れている。FBIやオランダは破られないと言われたダークウェブも突破口を見つけて食い込んでいます」「日本は考え方が保守的かもしれません。例えば、警察で言えば、過去に事例があるものしか捜査しないとか、逮捕しやすい案件だけやるとか」

――日本企業の課題は何でしょう。

セキュリティーに対する経営層の理解です。しっかり受け止める人はトップダウンでどんどん進めるが、聞く耳を持たない人もまだまだいる。結局被害に遭わない限り分からないんだろうなという人が結構いますね」「セキュリティー人材を育てるには省庁を鍛えるより、今の中高生や大学生を鍛えた方がいい。その点、情報処理推進機構が学生向けに提供している高度な技術教育プログラムはいいと思う。そんな若い人材が30歳になるころには日本も変わるのではないでしょうか」

(5)テロリスクを巡る動向

 9.11米同時多発テロから18年が経過しました。当時、米は首謀者である国際テロ組織「アルカーイダ」のウサマ・ビンラーディンが拠点としたアフガニスタンを攻撃しましたが、当時のアフガニスタンは、旧ソ連の支配に抵抗したゲリラ各派による内戦の末、イスラム原理主義勢力タリバンが国土の大部分を制し、戦乱で荒廃し、無秩序となった状態でした。国土や人心の荒廃がテロの温床となることはこれまでの歴史が証明していますが、米はタリバンを首都カブールから駆逐しアフガン戦争に勝ったものの、タリバンが自爆テロなどによる抵抗をやめないことからいまだに駐留を余儀なくされているのが実態です。さらには、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)も浸透することになります。ISが一時、広大な地域を支配したシリアやイラク、内戦が続くイエメンやリビアなども、アフガン同様の危険をはらんでいて、テロの温床となる可能性の高いこれらの国々が放置されるようなことはあってはならないといえます。「東京五輪を来年に控え、日本でもテロ情報の収集や施設の警戒・監視などの重要性が増している。同時に、「テロの温床」根絶への努力も欠かせず、テロと対峙する国際社会の環に、日本も積極的に参加すべき」(令和元年9月11日産経新聞)との意見はそのとおりだと考えます。2016年に日本がG7伊勢志摩サミットにおいて取りまとめた「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画」等において、(1)テロ対処能力向上、(2)テロの根本原因である暴力的過激主義対策及び(3)穏健な社会構築を下支えする社会経済開発のための取組から成る総合的なテロ対策強化がうたわれましたが、テロ発生のメカニズムをふまえれば、(1)や(2)の側面だけで対策は完了せず、(3)すなわち、「人心と国土の荒廃は政情不安だけでなくテロの温床ともなる」ことへの対策も極めて重要だといえます。社会経済的な側面からのアプローチによってテロを封じ込める、社会経済的な精神面・経済面での充足感が人々の「疑心暗鬼」や「憎悪」、「亀裂」「分断」を和らげ、テロ発生の「芽」を摘んでいくといった取り組みがあわせて行われない限り、テロを根絶することは難しいといえます。そして、この部分こそ、日本が国際社会におけるテロ対策において活躍できる領域として今後、力を入れていくべきものです。

 さて、テロとの戦いにおいては、武器・兵器の動向と切り離すことはできません。先日、サウジアラビアの石油施設が攻撃され、世界の原油市場を一時混乱に陥れた事件では、その犯行主体は不明であるものの、攻撃に使われたとされるのが軍用無人機(ドローン)でした。無人機は無線による遠隔操作やプログラムに沿った自動操縦で動くのが一般的で、有人機に比べ攻撃側のリスクが低いうえ、費用の安さから「貧者の兵器」と呼ばれていますが、このドローンが紛争の形を変えつつあることを如実に示したという意味では注目される事件だったといえます。本事件との関連で、報道(令和元年10月1日付日本経済新聞)によれば、防衛省が無人機による攻撃対処の研究を急いでいると報じられています。サウジアラビアで起きた石油生産施設への攻撃で脅威を改めて認識し、「ゲーム・チェンジャー的な要素もある」(防衛相)とも指摘し、形勢を一変させる要素をはらんだ技術だとみているといいます。一方、この形勢を一変させる「ゲーム・チェンジャー」の軍事科学技術として、AIなどが重視されている点も2019年版の防衛白書では強調されています。なお、防衛白書では、中国がAIを搭載した自律型無人機を同時に多数飛行させる「スウォーム(編隊)飛行」技術の確立を進めていると指摘、無人機同士が補完し合い、司令部の指示を待たずに任務にあたることができるというもので、すでに中国は2018年に200機の同時飛行に成功しているといいます。これらの攻撃側の進化に対応すべく、防衛省としても、小型化で探知しにくい特徴などへの対応策を強化、高出力レーザーで機体に熱を当てて落下させる方法や、妨害電波を出し飛行能力を無力化する技術を開発中だといいます。これらの状況はまさに「テクノロジーの進化が安全保障のあり方を根本的に変えようとしている」ことを示しているものであり、それは安全保障分野に限らず、テロにおいても同様のことが当てはまるといえます。そして、注意が必要な点は、日本に限らず、攻撃の性能の進化に防御能力の開発が追いついていないのが現状だということです。リスク管理の世界においても、外部からの攻撃リスクにおいては、攻撃する側が防御する側に比べて圧倒的に優位にあるというのが常識であり、専守防衛を掲げる日本は他国にも増して、テクノロジーと防御(防衛)を高度に融合させた戦い方を模索・確立していく必要があるといえます。テロとの戦いにおいても、攻撃の手口を決めるのはあくまでもテロリスト(テロ組織)であり、防御する側(市民・社会)は、重要インフラ施設だけでなくソフトターゲットをも視野に入れながら、車両の突入、銃乱射、ナイフ、自爆テロ等の代表的な手口だけでなく、今後はドローンを使った爆撃テロや細菌・微生物テロ、原子力テロなどに至るまであらゆる手口を想定していく必要があり、その完全な防御はかなり困難であるのは間違いありません。国家間の戦争であれば最終的にAI兵器同士の戦いに行き着く可能性が想定されますが、テロの場合は、その背後に「憎悪」等があり、自らの思想的信条を明確に示す必要があることから、相手(ターゲット)が「生身の人間」であることが重要であり、職業軍人やAIが市民に代わってテロリストと戦うという構図は想定しにくいといえます。繰り返しとなりますが、このような武器・兵器のあり方の検討・対処はあくまで「テロ対処能力向上」の一部分でしかなく、テロの根本原因である暴力的過激主義対策及び穏健な社会構築を下支えする社会経済開発のための取組みの部分にいかに取り組んでいくかもあわせて重要だといえます。

 さて、前回の本コラム(暴排トピックス2019年9月号
でも紹介しましたが、国内のテロに関する最近のトピックスとしては、あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」開催を巡る一連の騒動があげられ、企業の実務としても検討すべき点も多いと思われます。本件は相次ぐテロ予告や脅迫電話等の激しい抗議活動(電話・FAX・メールなど約6,100件。なお、愛知県の検証委員会によれば、8月中に実行委や県に寄せられた抗議は計10,379件で、このうち電話は3,936件だったということです)で、「安全が確保できない」「対応スタッフが疲弊している」などとして開催3日で中止に追い込まれたものですが、先日、安全対策を強化したうえで再開されています。報道によれば、抗議電話については、悪質な抗議電話を防止するため、10分たつと電話が自動的に切れたり、声の録音を伝えたりする仕組みを導入したと大村知事が公表しているほか、入場に際しては、1回の入場者数を極端に少なく制限する、金属探知機による検査の実施や手荷物は預かり、動画撮影は禁止、SNSでの拡散防止は「誓約書」を書くほか、身分証明書も確認する厳格なものとなりました。さらには、極端な入場者の制限を行ったうえ、不自由展の会場についてメディアの取材を認めず、非公開としています。

 今回の事態について、報道(令和元年10月3日付産経新聞)で、検証委員会のメンバーで文化政策研究者の太下義之氏が、「電凸のマニュアルがSNSで共有された」、「(電凸は)ソーシャルメディア型のソフトなテロだったのでは」と指摘しています。その上で、「来年の(東京)オリンピックや2025年の(大阪・関西)万博をつぶそうと思う人たちがいたら、電凸というフォーマットと脅迫を組み合わせることで、容易に達成しうる可能性があるということだ」と危惧しています。一方、SNS上では、《展示内容を批判する「自由」はないのか》《抗議電話を一方的に電凸やソフト・テロと決めつけるやり方はどうなのか》などと否定的な意見も目立っていると報じています。それに対して、法律の専門家は、「権利」と「抗議」の境目、抗議や電凸の「一線」について、「相手方にどんな影響を与えるのか次第で、名誉毀損や業務妨害が成立する可能性がある」とし、電話を取った相手の氏名を執拗に聞く行為についても「状況によっては許されることもあるが、その抗議活動に本当に必要なのかどうかが問題となる」と指摘しています。そのうえで、「目的が正当か」「見合った手段なのかかどうか」が争点になるとの見方を示しています。

 一方で、実務としてそもそもそのような、「電凸」と呼ばれる「不当な要求」に屈せず、対応スタッフが疲弊することなく毅然とした対応を貫けるためには、前回も紹介しましたが、「電話を切る」ためのロジック(たとえば、何度も同じ内容の電話を繰り返す相手には、十分な説明やご意見として承る旨を伝えたうえで「他の方のお電話がつながりにくくない迷惑となります。公務に支障が出るのでおやめいただけますか」などと電話を切り、記録を残す対応をすべきなど)を緻密に組み立て、それを周知し、「切る勇気」を持って対応することが重要だといえます。なお、この点については、当社がAERA誌上で解説している記事があり、ぜひ、参照いただきたいと思います。

▼AERAdot. 迷惑「電凸」は切らないとダメ! 「表現の不自由展」中止に学ぶ抗議電話の対処法

 前回の本コラム(暴排トピックス2019年9月号
では、ラグビーW杯の開催を控え、航空機搭乗前の検査の強化やドローン等の飛の制限について紹介しました。今月は「即位の礼」が開催されることから、世界各国から要人が来日することを受けて、警視庁からその警備にあたっての要請が公表されています。沿道の両脇に鉄柵で観覧用ブースを設け、入場者向けに金属探知機などで手荷物検査を実施することや、大型の旗や横断幕、ビン、缶などの持ち込みを禁止すること、荷物の預かりはしないため、禁止物を所持しているとブースに入れない可能性があること、テロや事故防止のため、パレードのコース近隣の住民にはベランダなどに植木鉢や洗濯物を置かないよう呼びかけ、建物の屋上などからのぞく行為や撮影も控えてもらうことなどが盛り込まれています。

▼警視庁 即位の礼に参列する外国元首・祝賀使節の来日に伴う警備
  • 10月20日(日曜)から25日(金曜)までの間、即位の礼に参列する多くの外国元首・祝賀使節の来日に伴い、首都高速、都心、羽田空港周辺で警備を行う。なお、警備の詳細については、今後、変更する場合がある。順次公表させていただく。
  • 10月22日の祝賀パレードに関するお知らせ
    • 当日は、大変な混雑が予想されるので、時間に余裕を持ってお越しを
    • 沿道にはパレードをご覧になるためのブースを設営する。警察官の案内に従って進む。また、案内の途中で危険物等の持ち込みがないか持ち物検査を行う
    • 持ち物検査ご協力のお願い
    • パレードをご覧になる皆さまの安全と円滑な行事進行のため、持ち物検査にご協力を
    • 検査場所では物の預かりはしない。危険物等の持ち物が判明した場合は、法令に触れる場合を除き、ご自身での処置をお願いすることになるので注意する
  • 持ち込みをお断りしている物
    • 動物(身体障害者補助犬を除く)
    • 旗ざお(大きなもの)
    • 横幕
    • ドローン及びラジコン等
    • 刃物
    • 火気類等の危険物
    • ビン、缶、スプレー
    • チラシ等
    • トランジスタメガホン
    • 大きな荷物
    • その他行事の進行を妨害するおそれのある物
    • 他の奉祝者に危害や迷惑等を及ぼすおそれのある物
  • 禁止される行為
    • 立入りを禁じた場所には、絶対に入らない。また、設置物を破損したり、勝手に移動したりしない
    • 物を投げるなどの危険な行為や、大声を出したり楽器を演奏するなど、他人に迷惑をかける行為はしない
    • 飲酒・喫煙はご遠慮願いたい
    • 肩車や割り込み、駆け出し等の危険な行為はご遠慮願いたい
    • その他、沿道上の秩序、また風紀を乱す行為等、行事に支障があると認められる行為はしない
    • 上記の禁止行為等を認めた場合、奉祝者ブース内への立ち入りをお断りする場合もあるので、あらかじめご了承いただきたい
  • パレードコース近くにお住まいのみなさまへ
    • 屋上、ベランダ、窓からののぞき込みや撮影はご遠慮願いたい
    • 外廊下やベランダには落下等の危険性のある物を置かない
    • 交通規制が行われるので車両の出入りに影響が出るおそれがある
    • 不審なことや気になることがあれば、速やかに110番通報を
  • パレードコース近くの事業者のみなさまへ
    • 屋上・ベランダ・窓からののぞき込みや撮影はご遠慮願いたい
    • 建物の警戒強化をお願いする
    • 建物の出入口の閉鎖をお願いすることがある
    • 屋外での販売や刃物・火気類等危険物の販売自粛をお願いする
    • 交通規制が行われるので車両の出入りに影響が出るおそれがある
    • 交通規制が行われるので物資搬送や納品に影響が出るおそれがある
    • 不審なことや気になることがあれば、速やかに110番通報を
  • テロ防止にご協力お願いします
    • テロは、一度でもその発生を許せば、多くの者が被害に遭うほか、我が国の社会にも大きな混乱を招くなど、その影響は甚大なものとなる
    • 警視庁では、テロを未然に防止するため、情報収集・分析、水際対策、警戒警備、事態対処体制、官民連携といったテロ対策を強力に推進している
    • 我が国でテロを引き起こさせないためには、皆様の御協力が不可欠。「いつもと違うな」、「何かおかしいな」と感じたら、迷わず警察への通報をお願いする

 その他、国内のテロリスクを巡る動向に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 即位の礼に関連して、今年1月、約35年前のゲリラ事件で過激派「中核派」が使用したものと同型とみられる飛翔弾が8発、埼玉県内の民家で見つかったことを受けて、埼玉県警と警視庁は、同派の拠点「前進社」を爆発物取締罰則違反容疑で家宅捜索したというものがありました。警察当局は同派が現在もテロやゲリラに使える武器を隠し持っているとみて実態解明を進めるとしています。なお、同派は平成の即位の礼(平成3年)の際に多数のゲリラ事件を起こしており、今回の即位礼の礼に備え警戒を強化しているといいます。
  • 9月26日、大阪(伊丹)空港国内線ターミナルの全日空の保安検査場で、職員が男性乗客の手荷物からナイフを発見したにもかかわらず、そのまま通過させるという事案が発生しました。全日空は午前8時頃、空港ビル会社を通して国土交通省に報告、午前9時40分頃から正午頃まで保安検査を停止し、男性とナイフを捜したが、見つからなかったといいます。このトラブルで、全日空の発着便20便以上が欠航し、他の便にも大幅な遅れが出ました。さらに、10月2日には、同じく全日空が、羽田空港の保安検査場で、国際線の男性客が手荷物に入れていたナイフを見落とし、機内に持ち込まれていたと発表しています。なお、この数時間前に大阪(伊丹)空港での事案が発生していたということで、その調査の過程で羽田空港の事案も判明したということです。テロへの対応に緊張感を持って取り組むべきところ、まさに「あってはならないミス」(国交相)で、保安検査における脆弱性の解消は急務です。再発防止にあたっては、物理的な対策と意識面での対策の両面から真摯に取り組んでいただきたいと思います。
  • 九州電力は、川内原子力発電所1号機の運転を来年3月に停止すると発表しています。設置が義務付けられたテロ対策施設の完成が遅れたことによる全国初の停止となります。川内2号機も来年5月に止めることとしており、停止期間は8~9か月間の見込みだということです。他の電力会社でも工事は遅れており、再稼働した原発が順次停止に追い込まれる可能性があります。なお、テロ対策施設は、航空機を墜落させるようなテロ攻撃を受けても遠隔で原子炉を冷却し、放射性物質が建物の外に広がるのを防ぐことができる「特定重大事故等対処施設」で、東京電力福島第一原発事故後の新規制基準で設置が義務付けられたもので、原発本体の工事計画の審査後5年以内の設置が義務づけられており、原子力規制委員会は期限に間に合わない原発は停止させる方針を打ち出しています。審査次第では長期化する可能性もあり、関西、四国、九州の3電力の6原発12基では建設が遅れ、期限に間に合わない見通しになっています。関連して、防衛相は、国内の原子力発電所などに対するテロやサイバー攻撃などへの対策を強化するため、現状の対策や安全性についての情報を取りまとめるよう省内で指示したことを明らかにしています。そのうえで、原子力防災担当相を兼ねる環境相や経済産業相と協議する意向を示しています。それだけ、原子力発電所は重要なインフラ施設であることの証左であり、対策の強化と迅速な対応の両立が急務です。
  • 2020年東京五輪・パラリンピックを来年に控え、警視庁は、インターネットで購入できる原料で爆発物が製造できる実態を知ってもらおうと、通販大手アマゾンジャパンで社員向け講習会を実施しています。講習会では、テロ対策を専門とする公安部の担当者が、爆発物の原料にできる日用品を例示した後、アマゾンのサイトでも出品されていることを紹介、「複数種類の原料を短期間に連続して購入する人物がいたら通報してほしい」と注意を呼び掛けたといいます。会場には実際にそれらの日用品が並べられ、社員らは実際に手に持ったり、においをかいだりしていたと報じられています。このようなテロ対策の官民挙げての対策が端緒把握には極めて有効であり、より多くの事業者に同様の取組みが浸透していくことを期待したいと思います。
  • JR東日本東京駅でテロを想定した対応訓練が行われました。開催中のラグビーW杯や10月の即位の礼のほか、来年の東京五輪・パラリンピックを控え、鉄道の要衝である東京駅がテロの標的になりやすいと考え実施されました。JR東日本の社員や、JR東日本が医療連携をしている東京医科歯科大学、警視庁丸の内署、丸の内消防署から約80人が参加したということです。訓練は、総武線の地下4階コンコースで爆破テロが発生、けが人が約30人発生しているという想定で行われ、発生直後の初動対応や負傷者の避難誘導、応急救護などの手順を確認しています。
  • 関西空港で、訪日外国人の出国時に顔認証技術を使い本人確認するゲートの運用が始まりました。既に羽田空港と成田空港で導入されており、スムーズな手続きに加え、対面による入国審査に人手を割いてテロ対策を強化する狙いがあります。大阪出入国在留管理局関西空港支局によると、運用するゲートは15台で、日本に90日以内の短期滞在で訪れ、ICチップが組み込まれたパスポートを持つ外国人が対象となります。

 最近のテロリスクを巡る海外の動向では、パリ警視庁で4人が刺殺された事件で、犯人の職員はイスラム過激派だった容疑が強まり、仏国内に衝撃が広がっていることが注目されます。2015年以降、仏では、風刺週刊紙の銃撃テロに続き、130人が死亡する同時多発テロが発生し、これまでに230人以上がイスラム過激派テロで死亡しています。仏では2015年に過激派対策を重要課題と位置付け、情報当局は過激化が疑われる1万人以上を監視対象としてきましたが、今回の事件は、防止策の難しさを浮き彫りにするとともに、警察内部の「危険分子」をどう摘発するかが大きな課題であることを認識させられました。報道によれば、容疑者は、2015年にパリで風刺週刊紙が標的になったイスラム過激派テロを「よくやった」とたたえ、複数の同僚が上司に異変を伝えていたものの、職場で問題を起こしたことはなかったため、監視などの措置は取られなかったということです(なお、容疑者はISの動画をUSBメモリーに保存し、数十人の警察職員と連絡を取っていたという報道もあります)。後付けの指摘とはなりますが、「危険分子」のあぶりだしが課題と認識されていたのであれば、なぜこのような明確な「端緒」を放置してしまったのかを追及することなくして懸念の解消は難しいといえます。監視対象が多すぎて手が回らないことが原因なのか、警察内部(特に異変を訴えられた上司より上の層)の危機意識の問題なのか、たいした問題ではないとミスジャッジしたことが問題なのか(誰がジャッジしたのか、本来はどう判断すべきだったのか)といった形で徹底的に問題点をあぶりだして再発防止に努めるべきだといえます。

 米軍がシリア北部の撤退を開始したことを受けて、トルコがシリア北部への軍事攻撃を開始した問題も極めて深刻な結果を招きそうです。この動きを受けてISが勢いを取り戻すのではないかとの懸念が強まっているからです。たとえば、トルコが攻撃している少数民族クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)は、支配地域で1万人以上のISの元戦闘員を施設に収容しており、トルコの攻撃開始により監視体制が甘くなりかねないとの懸念があります。SDFは米とともにIS掃討に取組んできましたが、トルコによってクルド人勢力が掃討されれば、ISの「完全制圧」を実現させた米軍の努力が水泡に帰する恐れも高いといえます。また、英BBCによれば、SDFは現在、外国人4,000人を含むISの元戦闘員12,000人以上を7カ所の施設で収容、監視していると報じており、「最も差し迫った危機は脱獄だ」との見方を示しています。そもそもSDFの収容施設は監視の目が行き届かず、ISの信奉者がイデオロギーを拡散させる温床になっているとの指摘は以前からあったところ、万が一、大規模な脱獄が起きればシリア内戦の混迷がさらに深まる可能性が大きいといえます。直近では、シリア北東部の国境の町カミシリで自動車に積んだ爆弾が爆発し、少なくとも民間人ら4人が死亡、9人が負傷するテロがあり、ISが犯行声明を出しています。トルコの攻撃開始以来、ISによるテロは初めてとなります。さらに、捕虜収容施設からIS元戦闘員5人が脱走、また、IS元戦闘員の家族ら数千人が暮らす近郊の収容施設では暴動が起きたといいます。これらの混乱に乗じ、ISが勢力を盛り返す恐れはまさに現実のものとなってきています。この事態に対し、欧州6か国が共同声明を出し、「軍事行動は地域全体の安定を損なわせ、さらに多くの難民が発生することになる」と厳しく批判、また、地域の不安定化はISの復活にもつながる」と警告したほか、米も、「いかなる軍事侵攻も支持しない」との姿勢を改めて示すなど、トルコに対する非難が相次いでいます(直近では、米のムニューシン米財務長官は、トランプ大統領から対トルコ制裁案の策定を指示されたと明らかにしています)。なお、米などが安保理としての声明のとりまとめを呼びかけたものの、ロシアなど一部の理事国が賛同せず、採択には至らなかったということから、この問題の難しさも浮き彫りになっています。

(6)犯罪インフラを巡る動向

 京都市の中学3年だった少女に今年2月、大麻を譲り渡したとして、京都府警が、関東地方に住む当時19歳の元少年(20)を大麻取締法違反(譲渡)容疑で逮捕しています。報道によれば、2人は秘匿性が高いとされる無料通信アプリ「テレグラム」を利用して連絡を取り合っていたということで、テレグラムを使った事件での逮捕は全国初とみられます。テレグラムはロシア人が開発した無料通信アプリで、送受信歴などの痕跡を一切残さずにいつでもメッセージを消去することが可能で、他のアプリに比べて秘匿性が高いとされ、この高度な暗号化技術で通信内容を保護できることをセールスポイントの一つに、現在約2億人の利用者がいるといいます。国内では暴力団関係者や特殊詐欺グループが振り込め詐欺の手順の指示や違法薬物の売買などのやりとりにも使っているといい、海外ではテロ事件や反政府デモなどにも使われている「犯罪インフラ」の典型です。また、同じく高度な秘匿性という点では、米国発の「Signal」も双璧で、米国家安全保障局(NSA)による個人情報収集活動を暴露し、ロシアに政治亡命したエドワード・スノーデン元米中央情報局(CIA)職員が秘匿性の高さを評価したことで話題を集めました。たとえばLINEは履歴を消しても復元は可能であるのに対し、テレグラムやSignalでのやりとりは一度消去してしまえば復元は困難という点が犯罪親和性の高さに直結しています。なお、本コラムでも紹介している「エフェメラル系SNS」も同様の犯罪親和性の高さを有しているものと思われます。「エフェメラル系SNS」とは、一定時間経過すると受け取ったメッセージが自動的に消えるしくみをもったSNSの総称で、代表的なものにSnapchatやSNOWなどがありますが、Instagramにおける24時間で自動消滅する「ストーリーズ」機能や消える「ダイレクトメッセージ」機能、LINEにおける24時間で消えるタイムライン投稿機能も、エフェメラルなサービスといえます。

 半年で6億回のアクセスを稼ぎ、約3,000億円の著作権被害を出したとされる海賊版サイト「漫画村」(昨年4月に閉鎖)の著作権法違反事件では、作品収集が人海戦術だった一方、捜査の手をかいくぐるため、運営には高度な隠蔽システムが使われたといいます。報道(令和元年10月8日付日本経済新聞)によれば、サーバーはウクライナに置かれ、情報を隠す「防弾ホスティング」と呼ばれるサービスが使われたほか、閲覧者が増えても通信速度が落ちないよう、アクセスを効率化する米企業とも契約、「投稿手法自体は極めてアナログだが、運営には世界中のネットサービスを駆使していた」と指摘されています。また、漫画村の運営者側がサイト閲覧者のパソコンやスマホを無断で操作し、暗号資産を獲得する「マイニング(採掘)」を繰り返していた疑いがあることも判明しています。閲覧者に知られないままマイニングに参加させ、本来は参加者が得られる報酬を漫画村側が吸い上げようとしていたとみられています。さらに、本事件に関連して福岡県警が昨年4月、ネット上の通信を匿名化できるルーターを押収しています。通信を匿名化する技術「Tor」を使い、暗号化技術を何重にもかけ、いくつものサーバーを経由することで、通信元と通信先の関係をわかりにくくしていたものと推測されています(なお、「Tor」は、「the onion router」の頭文字の略で、タマネギの皮のように何重にも暗号化技術をかけているというところからきています)。この事件においても、Torをはじめさまざまな「犯罪インフラ」を悪用したことで巨額の被害がもたらされており、「犯罪インフラ」の多様性だけでなく、その対策の重要性も実感させられます。

 また、IT系の「犯罪インフラ」を巡るものとしては、大阪港開港記念のウェブサイトの一部が、アダルトサイトになってしまっていたという事案もありました。インターネット上の住所に当たるサイトのドメインの権利が切れ、第三者に渡っていたことが原因だといいます。ドメインの権利が6月に失効したため、第三者が取得し、ドメイン上に残っていたページを置き換えたとみられるといい、大阪市は10月1日に府立図書館から指摘を受けるまで把握していなかったということですから、その管理の杜撰さには驚かされます。なお、失効したドメイン名を第三者に取得されてしまうと、高額での買い取りを要求されたり、フィッシング詐欺目的のサイトに悪用される可能性があるとして、以前から警察庁では注意を呼びかけています。さらに、「犯罪インフラ」の典型のひとつでもある「闇サイト(ダークウェブ)」については、最近でも犯罪に悪用された事例があります。闇サイトで入手した他人のクレジットカード情報を悪用し、インターネット通販でゲームソフトを購入したなどとして、兵庫、愛知両県警の合同捜査本部が、電子計算機使用詐欺などの疑いで、無職の男ら3人を逮捕したというものです。不正に購入したゲームソフトをネット上で転売、ほかにも電子機器を転売して利益を得ていたとみられ、昨年9月~今年6月に容疑者が管理する金融機関の口座に約400万~500万円の入金があったということです。

 外国人労働者に門戸が広がる一方で、在留カードの偽造をはじめ、「犯罪インフラ」を駆使した外国人による犯罪も増加しています。直近でも、偽造在留カード入手未遂容疑で中国人留学生が大阪府警に逮捕されていますが、この事件では、中国人留学生が自宅で大阪市の認可を受けずに民泊を営んでおり(旅館業法違反容疑でも追送検)、今年8月、氏名不詳者から郵送された偽造在留カード1枚を自宅に郵送させ、受け取ろうとしたなどとしたということです。大阪府警は男がカードを受け取ろうとした際に自宅を家宅捜索し、身柄を取り押さえたということですが、違法民泊の客だった中国人観光客の男にカードの入手を依頼されていたということで、国際的な犯罪組織の関与も疑われるところです。つまり、この事件では、「違法民泊」と「偽造在留カード」という「犯罪インフラ」が関わっており、それが外国人によって悪用されていたと構図となります。また、在留カード偽造容疑で中国人らが逮捕された別の事件では、容疑者の自宅マンションの部屋から、白色のプラスチック板約1,900枚やプリンターが見つかり、パソコンには約4,000人分の偽造在留カードの画像データが保存されていたということです。報道(令和元年10月10日付朝日新聞)によれば、容疑者は「老板」(と呼ばれるボス)の指示を仰いでいた」と供述しているといい、警視庁はこの部屋を拠点に組織的に偽造が繰り返されていたとみて解明を進めるとしています。さらに、容疑者は技能実習生として来日後、失踪していたといい、「待遇が不満だった」と話しているということです。この事件では、「偽造在留カード」「技能実習生」という「犯罪インフラ」が関わっており、やはり、それが外国人によって悪用されたいたものとなります。

 また、外国人による犯罪としては、ベトナム人による大規模かつ組織的な窃盗(万引き)事件の摘発も相次ぎました。まず、岐阜、愛知両県などのドラッグストアで外国人が化粧品を万引きする事件が多発していたところ、岐阜県警は、盗品等有償譲り受けや窃盗などの疑いで、ベトナム人5人を含む男女7人を逮捕しています。組織的に盗み、インターネットで転売して利益を上げていたとみられ、報道(令和元年10月2日付時事通信)によれば、盗品は被告が買い取り、ネットショップで転売、通常は値引きされない売れ筋品を3割引き程度で出品していたということであり、グループによる被害は平成29年10月から約1年間で、岐阜、愛知、福井、三重、滋賀各県で合計115件、計約6,400万円に上るとみられています。さらに、奈良県警は、東京や奈良など18都府県で万引を繰り返したとして、窃盗容疑などで、ベトナム人の男ら7人を送検したと発表しています。7人は全員ベトナム籍で、留学生や技能実習生として来日、平成27年1月~今年2月、18都府県のドラッグストアやスポーツ用品店で、健康食品や化粧品など計約11,800点を盗むなどした疑いが持たれているもので、奈良県警は計247件(被害総額計約2,450万円相当)の犯行を裏付けたといいます。なお、盗んだ品はベトナムに送って転売していたといいます。これらの事件の共通点としては、「組織的万引き」「インターネットで転売」「技能実習生」「留学生」といった「犯罪インフラ」がベトナム人に悪用されたということになります。

 最後に、最近の報道から、犯罪インフラに関するものをいくつか紹介します。

  • 建物を建てる際に建築基準法に適合しているか審査する確認検査制度をめぐり、東京都町田市にある国指定の確認検査機関の役員が特定の住宅会社から金銭を受け取り、申請書類の代筆など便宜を図っていたことが分かったといいます。行政が担っていた確認検査は平成11年、民間に開放されましたが、当初から、利益優先で審査が甘くなるとの指摘があり、平成17年に発覚した耐震偽装事件では民間の指定確認検査機関が多くの偽装を見逃していたことが発覚しています。今回明らかになった国指定の民間機関と業者の癒着はある意味想定されていたものといえ、制度設計上の欠陥(脆弱性)が犯罪に悪用された(制度そのもののもつ犯罪親和性の高さ)と指摘できると思います。
  • 大阪電気通信大は、劇物の四塩化炭素と二硫化炭素の液体が入った瓶、合わせて37本、計18.5リットルを紛失したと発表しています。報道によれば、薬品庫の鍵は壊されていなかったといい、その鍵は大学の施設課や守衛、関係する教員が持っていたとのことです。1ヶ月前の時点では異常はなかったということですが、発見時は施錠されており、何らかの方法で解錠されたものと考えられ、寝屋川署が被害届を受理し、窃盗容疑で調べているということです。劇物はテロ等に悪用される可能性が高く、鍵の管理や保管状況の管理などのいくつかの管理上の脆弱性が突かれたものといえます(盗まれた劇物が犯罪等に悪用されないことを祈るばかりです)。
  • 店員の名札やレシートからSNSの個人アカウントが特定され、つきまとわれるケースが出てきていることを受けて、フルネーム表記をやめるなど、企業もストーカー被害への対策に乗り出し始めているということです。報道によれば、東京のITコンサルタント会社が2年前に都内で行った調査によると、店員の名札からSNSアカウントを特定した経験がある人が37%に上ったということです。これまで顧客対応上当たり前のものとされてきた「名札」ですが、ITやSNS等の発達、個人情報を巡る社会情勢の変化(個人情報の保護はもちろん、その悪用も目立っていること)などとあいまって「犯罪インフラ」化している状況に注意が必要だといえます。
(7)その他のトピックス

①薬物を巡る動向

 前述の「令和元年上半期における組織犯罪の情勢」でも紹介したとおり、薬物事犯(覚せい剤事犯、大麻事犯、麻薬及び向精神薬事犯及びあへん事犯)の検挙人員は6,278人と前年同期に比べわずかに減少、うち覚せい剤事犯検挙人員は3,970人と減少している一方で、大麻事犯検挙人員は2,093人と平成26年以降増加が続いており、本コラムでたびたび警鐘を鳴らしているとおり、薬物事犯別検挙人員における大麻事犯の比率が上昇しています(年間で最多だった昨年の3,578人を上回るペースであり、注意が必要な状況です)。このうち未成年は283人(前年同期比+86人)となり、全体の13.5%を占めています。なお、繰り返しとなりますが、この283人のうち、高校生は51人(+17人)、中学生は4人(+3人)、摘発者全体の77.6%は初犯となっています。さらに、大麻事犯の検挙人員を年齢層別の構成でみると、人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が4.0人、20歳代が7.3人、30歳代が3.7人、40歳代が1.4人、50歳以上が0.2人であり、最も多い年齢層は20歳代、次いで20歳未満(なお、昨年同期における最も多い年齢層は20歳代、次いで30歳代)となっており、「大麻の若年層への蔓延」状況がより鮮明になっていることが、数字的にも裏付けられた形で、大麻が薬物乱用の入り口になる「ゲートウェー・ドラッグ」とも指摘されるところ、若年層対策はまさに急務だといえます。

 また、今年はコカインについても著名ミュージシャンやラグビー・トップリーグの選手が使用や所持の容疑で逮捕されるなど、報道等で注目されましたが、直近でも、愛知県豊橋市の三河港に8月入港した外国船籍の貨物船内から177キロ(末端価格約35億円)のコカインが見つかり、名古屋税関などが押収していたことがわかりました。報道(令和元年9月27日付時事通信)によれば、船が入港した8月19日に税関などが捜索し、喫水線から9メートル下の船底近くにある海水取り入れ口内の空間でコカインを発見、ドーナツ状や箱状に固められ、約1キロごとに小分けされた袋計177個が、南京錠が掛けられるなどしたボストンバッグ7個に隠されていたということです(取り入れ口は船の発電機を海水で冷やすために設けられており、第4管区海上保安本部のダイバーが長時間潜水してバッグを取り出したといい、水際での攻防の厳しさ、摘発に向けた執念を感じさせます)。財務省によると、昨年1年間に全国の税関が押収したコカインの量は過去最多の約152キロであったところ、一度の押収量としては過去最多ではないかと思われます。また、コカインの摘発者数も197人と、統計の残る1959年以降で最多となっており、コカインについても今後の動向が注目されます。

 密輸の手口も最近では多様化の傾向がみられ、直近でもたとえば、覚せい剤をラップで親指ほどの大きさの繭玉状に小分けにして包み、計138個(約1キロ・約6,000万円相当)を飲み込んで密輸しようとして、羽田空港で英国人の女性が逮捕されています。前回の本コラム(暴排トピックス2019年9月号
でも紹介したとおり、6月に静岡県南伊豆町の海岸で1トン超の覚せい剤を押収した大型密輸事件の摘発を受け、密売組織が供給量確保のために空港経由の密輸を活発化させている恐れがあり(いわゆる「瀬取り」から「ショットガン方式」への移行)、税関における水際対策がこれまで以上に重要となっています。なお、税関の摘発における「リスクセンス」の高さは賞賛されるべきレベルにありますが、直近でも、厚手のコート4着にコカイン3.2キロ(約6,530万円相当)を隠して密輸したとして、大阪府警はタイ国籍の会社員を麻薬及び向精神薬取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕しています。この事例では、当日の大阪市内の最高気温が35度で猛暑日であったところ、税関職員が半袖シャツにジーパン姿ながら、スーツケースにコート4着を入れている点を不審に思い、エックス線検査をして発覚したといういます。また、水に溶かした覚せい剤をシャンプーの容器に入れて密輸したとして、大阪府警がマレーシア国籍の女とその長男を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕した事例では、税関職員が入国時の検査で、親子の旅行で同じシャンプーとコンディショナーを持っているのを不審に思い、容器を振ると粘液ではなかったことから、液体を検査して発覚したというものがありました。内容物と品名が重さに見合っているか荷物を手にして瞬時に不審物を感知する職員の「熟練の勘」に頼る場面も多いということですが、税関職員のリスクセンス(鋭い観察力)を磨く方法として知られているのが、「通常を知る」ということです。彼らは、書類や実績等のみから正しい申告か「おかしい、普段と違う」と気がつくためには、「通常」をしっかり知ることが重要だと述べており、この点は企業のリスク管理・不正検知等においても参考になるものと思われます。さらに、「広く浅くさまざまな商品や時事情勢等に興味を持ち、知っておくこと」、「自分の仕事が、日本の安全を担っているという強い責任感」なども求められる素養のようです。

 なお、財務省は、令和元年上半期に全国の税関が空港や港湾等において、不正薬物の密輸入その他の関税法違反事件を取り締まった実績をまとめています。

▼財務省 令和元年上半期の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況

 本統計では、不正薬物(覚醒剤、大麻、あへん、麻薬(ヘロイン、コカイン、MDMA等)、向精神薬及び指定薬物)全体の摘発件数は571件(前年同期比+41%)、押収量は約1,581キロ(前年同期比約 2.7倍)となったこと、押収量は、上半期で既に1.5トンを超え、特に覚せい剤は史上初めて「4年連続の1トン超え」が確実となる大量摘発となったことから、日本への不正薬物の流入は引き続き拡大傾向にあり、極めて深刻な状況だと指摘しています。このうち、覚せい剤事犯の摘発件数は207件(前年同期比約3倍)、押収量は約1,460キロ(前年同期比約2.8倍で、薬物乱用者の通常使用量で約4,867万回分、末端価格にして約876億円に相当)となり、摘発件数・押収量ともに増加傾向が続いています。さらに、直近では、(本コラムでも紹介した)1回の押収量としては過去最高となる洋上取引での約1トンの摘発のほか、航空機旅客の摘発件数103件(前年同期比約2.9倍)、押収量約218キロ(前年同期比約3倍)、航空貨物等の摘発件数55件(前年同期比約9.2倍)、押収量約122 キロ(前年同期比約22倍)等、大幅な増加となっており、その深刻さが増しています。また、大麻事犯の摘発件数は137件(前年同期比+43%)、押収量は約53キロ(前年同期比+6%)と、摘発件数は約1.5倍となったものの、押収量はわずかな増加にとどまっています。最近の特徴としては、「大麻草の摘発件数が横ばいで推移する中、大麻樹脂等(大麻樹脂のほか、大麻リキッド・大麻菓子等の大麻製品を含む)の摘発件数は75件(前年同期比約2.8倍)、押収量は約15キロ(前年同期比約2倍)と増加が顕著となった。特に、大麻リキッド、大麻菓子等の摘発が相次いだ」と指摘しています。さらに、ヘロイン、コカイン、MDMA等の麻薬事犯については、摘発件数は135件(前年同期比+27%)、押収量は約55キロ(前年同期比約2.9倍)と、摘発件数・押収量ともに増加しています。一方で、いわゆる危険ドラッグの指定薬物事犯については、摘発件数は86件(前年同期比▲21%)、押収量は約12kg(前年同期比▲6%)と、摘発件数・押収量ともに減少しています。

 また、最近の気になる兆候として、2018年に薬物依存などで全国の精神科で治療を受けた10代患者の4割以上が、せき止め薬や風邪薬などの市販薬を乱用していたとの実態調査結果を、厚生労働省研究班がまとめたことがあげられます。2014年の調査で市販薬乱用は一人もおらず、近年急増していることが示されたことになります。一方で、取り締まりが強化された危険ドラッグの10代の乱用者はおらず、危険ドラッグから市販薬に移行している状況がうかがえ、今後の対策が急務だといえます。なお、このような状況に対して、乱用の恐れがある薬を複数購入しようとした客に対し、使用目的の確認などをせずに販売していた薬局やドラッグストアが48.0%に上ることが同省の調査で判明しています。不適切な販売事業者の割合は2017年度の前回調査(38.3%)よりも増えており、同省は販売を許可する都道府県に対し、監視や指導を強化するよう求める通知を出しています。調査は、全国5,000か所の薬局などを調査員が一般客として訪れる形で毎年実施しており、薬のインターネット販売をしている500のサイトを対象とした調査では、53.2%がこうした不適切な販売方法だったといいます。販売者の対応の脆弱性が、市販薬による薬物依存を助長することにつながっているともいえ、先の実態とあわせ、早急な対策が必要だといえます。

 その他、最近の国内の薬物事犯を巡る報道等から、いくつか紹介します。

  • 米国から覚醒剤約2.2キロ(末端価格約1億3,400万円相当)を密輸入したとして、埼玉県警組織犯罪総合対策本部と所沢署、東京税関の合同捜査班は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで、住吉会傘下組織幹部の造園作業員ら男3人を再逮捕し、さいたま地検に送検しています。報道によれば、交友関係や押収した携帯電話の通信状況の捜査などから、幹部が浮上したということであり、暴力団が関わった組織的密売事件とみられています。
  • コカインを所持したとして、麻薬取締法違反の罪に問われたラグビー・トップリーグのトヨタ自動車の元選手=懲戒解雇=に、名古屋地裁岡崎支部は、懲役1年2月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)の判決を言い渡しています。また、同チームをめぐっては、別の元選手もコカインと大麻を所持したとして麻薬取締法違反罪などに問われており、同支部が懲役2年、執行猶予3年(求刑懲役2年6月)の判決を言い渡しました。一連の不祥事を受け、チームは全体練習を中止しています。
  • 覚せい剤取締法違反(使用、輸入)などの罪に問われた元経済産業省キャリアに、東京地裁は、懲役3年、保護観察付き執行猶予5)(求刑懲役3年6月)の判決を言い渡しています。報道によれば、裁判長は「仕事でうつ病となり、治療を受ける中でより強い効用を求めて手を出したと供述するが、犯行を正当化する事情ではない」と指摘、その上で、薬物依存の治療を受けていることなどから猶予判決が相当と判断したということです。
  • 青森県警三沢署と県警組織犯罪対策課は、三沢市職員を大麻取締法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕したと発表しています。報道によれば、「ストレスを発散するために吸おうと思い所持していた」と容疑を認めており、容疑者の自宅からは、袋に入った未使用の大麻と吸引用とみられる巻紙が押収されたということです。なお、青森空港に大量の覚せい剤が相次いで持ち込まれていることが問題となっていますが、報道によれば、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)と関税法違反(輸入未遂)の罪で今年起訴されている外国籍の被告5人が、手荷物の中身が覚せい剤ではなく「ブラックマネーを紙幣に戻す薬」だと思っていたと話しているということです。捜査当局はこうした共通点から、一連の事件の背後に同一犯が関わっている可能性があるとみて調べているといいます。

 本コラムでもたびたび紹介していますが、米国で急速に利用が広がっている「電子たばこ」への懸念が拡がりを見せています。さまざまな風味にひきつけられた若者の間でファッション化する一方、吸引(ベーピングと呼ばれています)と関係するとみられる肺疾患の患者が急増しており、各地で販売を規制するなどの動きが出始めているというものです。直近の報道(令和元年10月11日付産経新聞)によれば、米疾病対策センター(CDC)が、この液体の中には「テトラヒドロカンナビノール(THC)」という、精神状態を活性化させるマリファナ(大麻)の向精神的成分が含まれていることがあり、いわゆる「ハイ」な状態になることができると指摘しています(THCは大麻の成分でもあり、その害悪については、本コラムでも大麻の有害性を取り上げる中でたびたび指摘しているところです)。CDCの集計によれば、電子たばこの使用との関連が疑われる深刻な肺疾患の患者は、今年10月1日までに1,080人(48州と1自治領)、関連が疑われる死者は15州で18人に上っているということです(別の報道では、死亡例は10月8日時点で18州26人、症例は1,299件に達したとされています)。こうした事態を受けて、ニューヨーク、ミシガン、ロードアイランドなど一部の州はフレーバー付き電子たばこの販売を禁止、ニューヨーク市は、オンラインの電子たばこ小売り22社が未成年者に製品を販売したとしてブルックリンの連邦地裁に提訴しています(なお、同市は、これらの会社に同法の順守に加え、ニューヨーク市における未成年者間の電子たばこまん延の問題に対処するための費用」を補償する損害賠償を求めているとも報じられています)。また、マサチューセッツ州は全ベーピング製品の4カ月間の販売停止を指示したほか連邦裁判所判事が販売禁止差し止めを求めた業界の申し立てを却下しています。さらに、ノースカロライナ州の司法当局は5月、シェア7割以上とされる大手電子たばこ企業が若者をひきつけるための販売戦略を立てたとして提訴しています。また、カリフォルニア州ロサンゼルス郡の議会は、電子たばこなどの販売を禁じる条例案を全会一致で採択しています(なお、同郡はロサンゼルスやロングビーチ、グレンデールなど周辺各市を含む全米有数の大都市圏であり、州知事に、カリフォルニア州全体で同様の措置を講じるよう求めているといいます。条例はかみたばこやメンソールたばこの販売も禁じていますが、インターネット販売に規制はなく、使用者への罰則規定も設けられていないなど課題もあるようです)。さらに、中国電子商取引最大手アリババ集団が、米での電子たばこ関連部品の販売を中止すると発表したほか、米スーパーマーケット大手や米ドラッグストアチェーン大手が、それぞれ国内店舗で電子たばこ販売を中止すると発表しています。このように、この新たな電子たばこに向けられる社会の目線は厳しさを増している状況にあります。

 また、前回の本コラム(暴排トピックス2019年9月号
でも紹介した米でのオピオイド中毒の問題については、医療用麻薬オピオイド系の鎮痛剤を手掛ける米製薬会社パーデュー・ファーマ社が、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)を申請したという動きがありました。前回の本コラム(暴排トピックス2019年9月号
で取り上げたとおり、米ではオピオイドの過剰摂取をきっかけとした薬物中毒が社会問題化しており、同社に対しては約2,600件以上の訴訟が起こされています。今回の申請は、24州などとの間で合意した和解の一環であり、同社は100億ドル(約1兆800億円)以上を拠出して、薬物対策や治療にあてるとしており、慈善事業で知られる同社オーナーのサックラー家も30億ドルを拠出すると報じられています。なお、それに対して、全米の約半数の州は、和解条項と破産法申請に反対しており、サックラー家の責任を追及する構えを崩しておらず、今後の動向が注目されます。

 世界的に大麻(医療用・嗜好用)の合法化の動きがありますが、オーストラリアの首都キャンベラを擁する首都特別地域の議会は、個人の大麻使用を認める法案を可決しています。同国の州レベルの自治体で嗜好用の大麻が解禁されるのは初めとなります。一方、豪連邦政府は嗜好用大麻を認めておらず、連邦法の適用により訴追される可能性も残るとも報じられています。今回可決された法案については、来年1月31日以降、18歳以上の成人が消費目的で1人当たり50グラムまでの乾燥大麻を所持することや、1人当たり2株、または1世帯当たり4株までの大麻栽培が合法化されるというものですが、他人への販売や子どもの近くでの使用は認められず、子どもの手の届かない場所での保管が義務付けられるとの対策もあわせて講じられる見込みです。とはいえ、大麻の害悪(有害性・依存性など)については本コラムでたびたび指摘してきているとおりであり、さらに合法化の「犯罪組織への打撃」や「経済的側面」も指摘されるところ、とりわけ日本においては、大麻使用者率は最高使用率とされる50%をはるかに下回っており、合法化はいたずらに使用率を引き上げるだけであり、日本において合理性はなく、取締りを強化する方が捜査経済上も有効であると考えられることから、国際的な流れだからといって安易に飛びつくことは問題があるといえます。

②犯罪統計資料

▼警察庁 犯罪統計資料(平成31年1月~令和元年8月分)

 平成31年1月~令和元年8月の刑法犯の認知件数の総数は495,488 件(前年同期543,189件、前年同期比▲8.8%)、検挙件数の総数は187,938件(200,683件、▲6.3%)、検挙率は37.9%(36.9%、+1.0P)となり、平成30年の犯罪統計の傾向が継続している状況です。犯罪類型別では、刑法犯全体の7割以上を占める窃盗犯の認知件数は351,137件(386,830件、▲9.2%)、検挙件数は115,300件(123,780件、▲6.9%)、検挙率は32.0%(32.0%、+0.8P)と刑法犯全体を上回る減少傾向を示しており、このことが全体の減少傾向を牽引する形となっています。うち万引きの認知検数は63,317件(67,178件、▲5.7%)、検挙件数は43,435件(47,870件、▲9.3%)、検挙率は68.6%(71.3%、▲2.7P)となっており、検挙率が他の類型よりは高い(つまり、万引きは「つかまる」ものだということ)ものの、ここ最近低下傾向にある点は気になるところです。また、知能犯の認知件数は24,135件(28,034件、▲13.9%)、検挙件数は12,091件(12,770件、▲5.3%)、検挙率は50.1%(45.6%、+4.5P)、うち詐欺の認知件数は21,658件(25,371件、▲14.6%)、検挙件数は10,092件(10,621件、▲5.0%)、検挙率46.6%(41.9%、+4.7P)ととりわけ検挙率が大きく高まっている点が注目でされます。今後も、認知件数の減少と検挙件数の増加の傾向を一層高め、高い検挙率によって詐欺の実行を抑止するような構図になることを期待したいと思います。

 また、平成31年1月~令和元年8月の特別法犯については、検挙件数の総数は46,671件(46,737件、▲0.1%)、検挙人員は39,706人(39,823人、▲0.3%)となっており、前月、検挙件数が前年同期比でプラスに転じたものの、今回再度マイナスに転じる結果となりました(その意味では特別法犯の検挙状況は横ばいの状況であるともいえます)。犯罪類型別では、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,610件(1,669件、▲3.5%)、検挙人員は1,334人(1,411、▲5.5%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は4161件(235件、+77.0%)、検挙人員は97人(71人、+36.6%)、入管法違反の検挙件数は3,968件(3,215件、+23.4%)、不正競争防止法違反の検挙件数は42件(26件、+61.5%)、検挙人員は43人(26人、+65.4%)などとなっており、とくに入管法違反と不正アクセス禁止法違反の急増ぶりが注目されます(体感的にもこれらの事案が増加していることを実感していますので、一層の注意が必要な状況です)。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は614件(581件、+5.7%)、検挙人員は293人(273人、+7.3%)、大麻取締法違反の検挙件数は3,400件(2,910件、+16.8%)、検挙人員は2,662人(2,170人、+22.7%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は7,282件(8,770件、▲17.0%)、検挙人員は5,198人(6,049人、▲14.1%)などとなっており、大麻事犯の検挙が平成30年の傾向を大きく上回って増加し続けている一方で、覚せい剤事犯の検挙が逆に大きく減少し続けている傾向がみられます(参考までに、平成30年における覚せい剤取締法違反については、検挙件数は13,850件(14,065件、▲1.5%)、検挙件数は9,652人(9,900人、▲2.5%)でした)。

 なお、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の検挙人員総数は302人(333人、▲9.3%)、中国63人(80人)、ベトナム43人(38人)、ブラジル25人(35人)、フィリピン20人(15人)、韓国・朝鮮19人(26人)、アメリカ14人(8人)などとなっており、こちらも平成30年の傾向と大きく変わっていません。

 暴力団犯罪(刑法犯)総数については、検挙件数は12,466件(12,499件、▲0.3%)、検挙人員は5,315人(6,179人、▲14.0%)となっており、暴力団員数の減少傾向からみれば、刑法犯の検挙件数の減少幅が小さく(つまり、刑法犯に手を染めている暴力団員の割合が増える傾向にあるとも推測され)、引き続き注視していく必要があると思われます。うち窃盗の検挙件数は7,438件(6,785件、+9.6%)、検挙人員は903人(1,025人、▲11.9%)、詐欺の検挙件数は1,427件(1,540件、▲7.3%)、検挙人員は895人(1,088人、▲17.7%)などであり、前述した「令和元年上半期における組織犯罪の情勢」において、「近年、暴力団は資金を獲得する手段の一つとして、暴力団の威力を必ずしも必要としない詐欺、特に組織的に行われる特殊詐欺を敢行している実態がうかがえる」と指摘されているとおり、最近では窃盗犯の検挙件数の増加が特徴的であり、「貧困暴力団」が増えていることを推測させることから、こちらも今後の動向に注視する必要があると思われます。また、暴力団犯罪(特別法犯)総数については、検挙件数は5,063件(6,339件、▲20.1%)、検挙人員は3,610人(4,574人、▲21.1%)、うち暴力団排除条例の検挙件数は19件(9件、+111.1%)、検挙人員は30人(45人、▲33.3%)であり、暴力団の関与が大きな薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は135件(115件、+17.4%)、検挙人員は39人(36人、+8.3%)、大麻取締法違反の検挙件数は716件(746件、▲4.0%)、検挙人員は474人(480人、▲1.3%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は3,299件(4,332件、▲23.8%)、検挙人員は2,260人(2,937人、▲23.1%)などとなっており、とりわけ覚せい剤から大麻にシフトしている状況がより鮮明になっている点とコカイン等と思われる麻薬等取締法違反が検挙件数・検挙人員ともに伸びている点が注目されるところです(平成30年においては、大麻取締法違反について、検挙件数は1,151件(1,086件、+6.0%)、検挙人員は744人(738人、+0.8%)、覚せい剤取締法違反について、検挙件数は6,662件(6,844件、▲2.7%)、検挙人員は4,569人(4,693人、▲2.6%)でした。また、暴力団員の減少傾向に反してコカイン等への関与が増している状況も危惧されるところです)。

③忘れられる権利の動向ほか

 東北地方の男性が、ツイッター社に過去の逮捕歴をめぐる投稿の削除を求めた訴訟の判決で、東京地裁が「プライバシーを違法に侵害している」と認め、削除を命じる判決を出しています。本件の対象となった事例は、男性が女湯の脱衣所に侵入したとして建造物侵入容疑で逮捕され、略式命令を受けて罰金を納付したというものであり、マスコミに実名で報道された記事を引用したツイートが複数投稿され、ツイッターで男性の名前を検索すると、逮捕歴がわかる内容が表示され、就職活動や交友関係に支障が出ていたというものです。

 最高裁は平成29年、グーグルをめぐる同種裁判の決定で、「情報の収集、整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの、同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから、検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する」としたうえで、削除を認めるかどうかの考慮要素として、「当該事実の性質及び内容」、「当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度」、「その者の社会的地位や影響力」、「上記記事等の目的や意義」、「上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化」、「上記記事等において当該事実を記載する必要性」の6項目を示しました。そして、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当」と指摘しています。報道によれば、今回の事案についてはまず、グーグルとツイッターの相違について、東京地裁はツイッターの検索について「投稿日時の順に表示しているにすぎない」と指摘、検索サイトが持つ表現行為という側面はないとし、「グーグルのような情報流通の基盤になっていない」として、より緩和した要件で削除を認めています。さらに、「逮捕から期間が経過し、公表の公益性は相当減少している」と指摘(男性の逮捕歴が公表され続ける場合とされない場合の利益を比較すれば、逮捕から約7年が過ぎ、当時、大きく取り上げられた事件でもないことなどから、公益性は低いとしています)、男性の新生活の平穏や更生が妨げられないよう保護されるべきだとし、「ツイッターの伝達される範囲は限られるとしても、公表されない場合の利益が優越する」、「公表されない法的利益は、公表を続ける必要性に優越する」として、最高裁が示した「明らかな優先」までは求めない判断をしています。

 平成29年の最高裁の忘れられる権利に関する判断については、以前の本コラム(暴排トピックス2017年2月号)では、「最高裁の判断が、「表現の自由」や「知る権利」を重んじたのは評価できるとしても、「公共性」と「時間の経過」の比較衡量の観点(何年経てば犯罪報道の公共性がなくなるのか)からの判断が「明確に」示されなかった点(考慮要素の中に「社会的状況のその後の変化」との文言はありますが)は残念で、このあたりは、さまざまな個別の事情についての今後の裁判実務に委ねられることになり、実務上の課題としては残ることになります」と指摘しましたが、本件については、グーグルとツイッターの相違を勘案しつつ、「(それほど世間の耳目を集めたわけではないという)公共性」と「7年という時間の経過」からみて、個人的にはその比較考量の結論としては妥当なものではないかと評価したいと思います(あくまで筆者の個人的な見解です)。

 なお、関連して、EUの最高裁にあたる欧州司法裁判所は、インターネット上の検索エンジンから個人データの検索結果を消去するよう求めることができる「忘れられる権利」について、EU域外での適用は義務ではないとの判断を示したことも注目されます。実効性の観点から、この権利がEUのエリアを越えて世界で適用されるかどうかが、仏当局と米グーグルの間で争われていたもので、仏側は、情報が国境を越えるネット上では、域内のみの措置ではプライバシーが保護できないと主張、グーグル側は、EU法の効力は域外に及ばない上、強権国家による世界規模での情報消去など権利乱用を促す「危険な前例」になりかねないとし、適用の域内限定を訴えていました。報道(令和元年9月25日付日本経済新聞)によれば、EU司法裁は、「欧州法のもとで検索エンジンの運営企業がEU域外に(同権利を)広げる義務はない」としてグーグルなどが当局の命令に従う必要はないとの認識を示した一方で、(EU域外から検索したり、VPN(仮想私設網)を使ったりすればその情報を見つけられることをふまえ)EUのネット利用者がこうした情報に触れられないように、検索エンジン企業は対策をとるべきだとも付け加えています。

 消費税率が10月1日から引き上げられたことに伴い、金の密輸リスクも高まりを見せており、全国の税関が金密輸への警戒を強めています。本コラムでもたびたび紹介してきましたが、海外から金を持ち込む際、税関に申告して消費税を納付しなければならないところ、密輸をして日本で消費税込みの価格で転売すれば消費税分がそのまま利益になる仕組みが悪用されているもので、格安航空会社(LCC)のアジア便が増加して運搬コストが下がったこともあり、消費税率が上がれば密輸業者の「利ざや」はさらに大きくなることが明らかです。実際のところ、消費税率が5%から8%になった平成26年以降に急増しており、手口は巧妙化しており、昨年、関西国際空港で摘発された金の密輸事例では、訪日外国人がかぶったかつらに金塊が隠されていたといったものまでありました。税関等での水際での厳格なチェックによって、犯罪組織を利することのないよう期待したいと思います。

 不法滞在などで国外退去処分となった外国人を収容する入国管理施設で、長期収容に抗議して食事を拒むハンガーストライキ(ハンスト)が相次いでいるといいます(死亡事案も発生しています)。一時的に身柄拘束が解かれる「仮放免」狙いとみられるところ、死者も出て弁護士会などは人権侵害だと批判しています。しかし一方で、不法滞在などで国外退去処分を受け、施設に収容中の外国人は6月末時点で1,147人もおり、このうち約75%が本国への送還を拒否しているといいます。また、6カ月以上の長期収容者約700人のうち約4割が薬物や窃盗事件などで摘発された元刑事被告人であることも判明しています。さらに、仮放免された外国人が逃亡したり、事件を起こしたりするケースも相次いでおり、出入国在留管理庁は、収容先の入管施設から仮放免された外国人が逃亡し、所在不明になるのを防ぐため、仮放免を許可する際の身元保証人を増やしたり、保証金の額を高くしたりすることを検討しているといいます。人権問題との批判をかわしつつも、治安上の観点から入管当局は仮放免の運用拡大などには慎重にならざるを得ない面があり、対応に苦慮している状況があります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

 北朝鮮は、10月2日に弾道ミサイルを発射しました。北朝鮮は、このミサイルを潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と主張していますが、日米当局などは、(潜水艦は改修中であり)海に設置された基盤から発射されたものと分析しています(したがって、今後、北朝鮮が潜水艦からの発射を試みる可能性が高いものとも推測されます)。なお、SLBMの発射なら平成28年以来となりますが、SLBMは地上発射型に比べて兆候がつかみにくい特徴があるとされます。報道によれば、ミサイルが標準的な軌道で発射されていれば、飛距離は最長1,900キロとなり、中距離ミサイルに分類され、韓国と日本の全土が射程内に収まる形となり、日韓両国にとって近海に展開した潜水艦からのミサイルは、ミサイル防衛システムでの対応がより困難となることが予想されます。さらに、SLBMの脅威は潜水艦の航続距離次第でどんどん高まり、北朝鮮が保有する「ロメオ級」は約7,000キロの航続距離を持つとみられ、片道ならハワイ近くまで到達できるといわれています。なお、直近の報道によれば、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は、最新の衛星写真に基づき、北朝鮮東部新浦の造船所の一部が上空から見えないよう覆われ、SLBMが搭載可能な新型潜水艦の公開に向けた動きの可能性があるとする分析を発表しています。新型艦は、新浦で建造が続いているとみられており、CSISは衛星写真の分析だけでは、新型艦が既に進水したのかどうかは判断できないとしています。その一方で北朝鮮は、「我々の忍耐心にも限界があり、これまでの全ての自制が限りなく続くことはない」とする談話を発表しましたが、このような発言も新たなSLBMの発射を匂わせるものと捉えることも可能であり、今後の動向にはより一層の警戒が必要かと思われます。一連の状況をふまえ、防衛省は東京・市ケ谷の同省敷地内に航空自衛隊の地上配備型迎撃ミサイル「PAC3」を展開したことが判明しました。訓練以外での展開は昨年夏以来で、約1年ぶりとなります。北朝鮮が日本上空を通過する弾道ミサイルを発射する可能性が高まっているとして迎撃態勢を強化する狙いと思われますが、ミサイル発射の失敗等で日本国内に落下する可能性も否定できないところです。

 また、今回のミサイル発射では、日本政府は当初、2発のミサイルが発射されたと発表していましたが、その後1発が分離したと修正しました。そもそもSLBMであれば兆候がつかみにくく、(通常より角度をつけて高く飛ばす)「ロフテッド軌道」であればなおさら事実関係を早期に把握することが難しいところ、韓国によるGSOMIA破棄(北朝鮮のミサイル発射への初動は基本的に日米連携のもと行われていますが、韓国側が得意とするミサイル発射の兆候や発射直後のレーダー情報などの面では情報共有が難しくなる点が指摘されています)の影響が今後考えられるとすれば、今大きな課題が突きつけられたともいえると思います。

 今回の北朝鮮のミサイル発射に関して、相変わらず国際社会の反応は芳しくないと指摘せざるを得ません。国連安全保障理事会(安保理)は、非公開で対応を協議(英・仏・独が要請)したものの、安保理としての一致した見解は示されず、欧州6カ国が協議後に声明を読み上げるだけで終わりました。声明では「一連の弾道ミサイルの発射は地域の安全と安定をむしばみ、安保理決議に明確に違反するものだ」と非難、米国との交渉に向き合うよう促したうえで、「朝鮮半島や地域の安全と安定のためには、それ以外に道はない」と迫ったものの、安保理で長らく北朝鮮問題を主導してきた米は、協議の要請にも協議後の声明の読み上げにも加わりませんでした。残念ながら、世界の首脳が集まった国連総会でも北朝鮮問題は、サウジアラビアの石油施設攻撃や米国・イランの対立などの陰に隠れてしまった感があります。北朝鮮が発射を繰り返す短距離弾道ミサイルについては、安倍首相もトランプ米大統領も演説で言及しませんでしたし、安倍首相の演説でも、拉致・核・ミサイル問題を包括的に解決するという従来の方針を表明し、金正恩朝鮮労働党委員長に直接対話を呼びかけた程度で、踏み込んだ発言はみられませんでした。このあたりは、令和元年10月2日付産経新聞で「北朝鮮の核・ミサイルの脅威はまったく減じていない。それなのに金委員長は非難を浴びず、非核化への行動を起こさないことに警告を与える機会を逃したのである。危機感があまりにも希薄だと言わざるを得ない。留意すべきは、ひとたび中東で問題が起これば、世界の注目がそこに集まり、北東アジアへの関心が薄れることだ。北朝鮮は自らへの警戒が緩んだとみるだろう。(略)韓国の文在寅大統領は演説で、非核化実現には「安全の保証」や経済協力が不可欠とするなど北朝鮮への配慮が目立った。これで日米韓の連携を保てるのか。北朝鮮問題での国際社会の結束が後退しているなら深刻だ。日本政府はその点を厳しく認識し、危機感を共有できるよう各国に働きかけなければならない」と指摘されていますが、まさに正鵠を射るものだといえます。

 さて、北朝鮮を巡っては、10月7日、石川県能登半島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内で、水産庁の漁業取締船「おおくに」(約1,300総トン)と北朝鮮の漁船が衝突する事故が発生しました。第9管区海上保安本部によると、北朝鮮漁船を発見し、音声でEEZ外へ退去するよう警告していたところ、衝突が起きたといい、漁船は間もなく沈没しましたものの、乗員約60人は取締船から投げ入れられた救命いかだなどを使い、別の北朝鮮の漁船に乗り移ったということです。なお、沈没した漁船の乗員の身柄を確保しなかった理由について、水産庁は「取り締まりの目的はEEZの外へ乗員を退去させること。結果的に迎えの船が来て退去したため、目的は達成された」としていますが、この点は議論の余地がありそうです(実際のところ、北朝鮮外務省報道官が「日本が我々の漁船を沈没させた」と主張し、損害賠償と再発防止策を講じることを日本政府に求めているようです。当然のことながら、事実関係の明確化と日本側の毅然とした対応が求められる場面でもあります)。以前から指摘はされていましたが、大和堆周辺のEEZでは、北朝鮮漁船による違法操業が問題化しており、おおくにも北朝鮮漁船に対応していたということです。現場となった能登半島沖約380キロの日本海の排他的経済水域(EEZ)内では、今年8月23~24日も、北朝鮮海軍のものとみられる旗を掲げた高速艇が、水産庁や海上保安庁の船に接近するなど行為を行ったことがあったようです。北朝鮮国旗を船体に描いた大型船も近くを航行しており、北朝鮮から高速艇を搭載してきた可能性があり、さらには、北朝鮮軍が違法漁業を支援していた可能性も考えられるところです。なお、この違法操業問題では、ロシア国境警備隊が9月中旬以降、日本海にある自国の排他的経済水域(EEZ)で違法操業している北朝鮮漁船を相次いで摘発していることも注目されます。報道によれば、これまでに少なくとも570人以上の乗組員を拘束、北朝鮮漁民による違法操業は約5年前から目立っており、ロシアが取り締まりを強化しているとのことであり、漁船が武器で抵抗したためロシア側も反撃し、北朝鮮の乗組員が死傷したケースも起きています。

 本コラムでもその厳格化を求めている北朝鮮の制裁については、直近では、米財務省が、北朝鮮による各国の政府機関やインフラ、金融機関や暗号資産取引所などに対するサイバー攻撃に関与したとして、3つのハッカー集団を経済制裁の対象に指定したと発表しています。制裁対象となったのは、いずれも北朝鮮の情報機関「人民武力部偵察総局」の支配下にあるとされるハッカー集団「ラザルス・グループ」とその関連組織「ブルーノロフ」と「アンダリエル」で、これらの集団が総計で数億ドル(数百億円)に上る資金を窃取した可能性があるとされます。今回の制裁によって、一般市民の生活に関わる重要インフラへの攻撃に対抗するとともに、サイバー攻撃による不正な資金取得を防ぐ狙いがあるとされます。報道(令和元年9月14日付日本経済新聞)によれば、「ラザルス」については、米政府が平成29年に世界規模で起きたサイバー攻撃の実行主体だと断定しています。パソコン内部のデータを勝手に暗号化し、データ復旧と引き換えに金銭を要求する手法(「ワナクライ」と呼ばれるランサムウェアを使った攻撃)で、英国の一部病院が機能停止に陥るなどの被害が出たものですが、それ以外にも、ラザルスは、北朝鮮指導者の暗殺を描いたコメディー映画を制作したソニーの米子会社にもサイバー攻撃を仕掛けた(平成26年)ことで有名です。また、「ブルーノロフ」はサイバー攻撃で不正に資金を獲得する目的で設立されたとみられており、ラザルスと連携してバングラディシュ中央銀行から約8,000万ドルを盗み出したともいわれています。さらに「アンダリエル」も銀行のカード情報を盗んで現金を引き出したり、情報を不正に売却したりしたとされています。なお、米財務省は米国や国連による制裁で北朝鮮の外貨調達が難しくなったことが設立の理由だと指摘しています。

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく指導事例(大阪府)

 大阪府公安委員会は、六代目山口組直系組織の宴会に場所や料理を提供したとして、府内の飲食店経営会社2社と暴力団幹部を指導したと発表しています。報道によれば、この組織は昨年12月に焼き肉店で、今年1月にてっちり店でそれぞれ20~26人の宴会を開いたもので、いずれも有償ではありましたが、店側は「暴力団と知っていた」ということです。暴排条例の基礎となる考え方のひとつが「利益供与」の禁止ですが、相手方が暴力団関係者であると「知っていて」行った利益供与が規制の対象となっていることをあらためて認識いただきたいと思います。

▼大阪府暴排条例

 本事例については、大阪府暴排条例第14条(利益の供与の禁止)第3項「事業者は、前二項に定めるもののほか、その事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与をしてはならない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」に該当したものであり、同第22条(勧告等)第4項「公安委員会は、第十四条第三項又は第十六条第二項の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な指導をすることができる」との規定に基づき指導がなされたものといえます。

 参考までに、大阪府警察のサイトでは、「大阪府暴力団排除条例についてのFAQ(よくある質問)」のコーナーがあり、本事例における指導の根拠となった同条例第14条第3項について、具体的な解説が記載されています。

▼大阪府警察 大阪府暴力団排除条例についてのFAQ(よくある質問) Q13

 ここでは、「質問13 条例第14条第3項に、「その事業に関し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与を禁止」していますが、具体的にはどのような行為がこれにあたるのですか」との問いに対して、「例えば、次の行為を通常価格で契約締結、販売、提供した場合が違反に当たると考えられます」として、具体的な事例が列挙されています。

  • 月極駐車場の経営者が、暴力団組員の集合等の用に供することを知りながら、暴力団組事務所に隣接する駐車場の賃貸借契約を締結した場合
  • レンタカー会社が、暴力団の定例会等に使用する車であることを知りながら、同組傘下組員とレンタカー貸渡契約を締結した場合
  • 衣服販売会社が、暴力団員が使用する戦闘服の売買契約を締結し、同戦闘服を供与した場合
  • 複写機レンタル業者が、暴力団員が経営するヤミ券売場に対して、暴力団員が経営していることを知りながら、複写機のレンタル契約を締結した場合

 なお、参考までに、大阪府警察の暴排条例関連情報サイトでは、「大阪府暴力団排除条例第23条1項に基づく公表事例(初適用)」が掲載されています。

▼大阪府警察 大阪府暴力団排除条例違反行為者一覧

 大阪府暴排条例では、第23条(事実の公表)第1項で「公安委員会は、第二十一条第一項の規定により説明若しくは資料の提出を求められた者が正当な理由がなく当該説明若しくは資料の提出を拒んだとき、又は前条第三項若しくは第五項の勧告を受けた者が正当な理由がなく当該勧告に従わなかったときは、公安委員会規則で定めるところにより、その旨を公表することができる」と定められており、掲載されている事例がはじめて適用された事例となります。その公表に至った理由については、「標記に係る者は、指定暴力団任侠山口組二代目姫野組組長であるが、平成27年12月頃から平成29年8月頃までの間、大阪府内の自動車修理販売業者から、暴力団の威力を利用する目的で供与したことの情を知りながら、リース契約上必要となる名義変更手続を行わず、同業者が所有する普通乗用自動車1台を借り受け、もって事業者から財産上の利益の供与を受けたことにより、大阪府暴力団排除条例第22条3項の規定による勧告を受けた者であるが、正当な理由がなく当該勧告に従わず、平成29年12月頃から平成30年2月頃までの間、大阪府内の建築業者から、暴力団の威力を利用する目的で供与したことの情であると知りながら、同業者が社用車として使用する普通乗用自動車1台を無償で借り受け、もって事業者から財産上の利益の供与を受けたものである」と説明されています。

(2)暴排条例に基づく起訴事例(兵庫県)

 兵庫県警は、暴力団組員にみかじめ料を支払ったとして、兵庫県暴排条例違反の疑いで姫路市内の賭博店の元経営者の男と元従業員の男を書類送検しています。今年2月に兵庫県暴排条例が改正され、みかじめ料を受け取った暴力団側だけでなく、渡した店側にも罰則が科されることとなりましたが、本規定がはじめて適用された事例となります。報道によれば、2人は、みかじめ料の授受に罰則がある「暴力団排除特別強化地域」に指定された姫路市魚町で違法なインターネットカジノ店を運営しており、共謀して今年5月下旬~6月下旬ごろ、指定暴力団神戸山口組系組幹部の男に、みかじめ料として現金計10万円を2回に分けて渡した疑いがあるということです。

▼兵庫県暴排条例

 本事例の根拠については、同条例第24条において、「特定接客業者は、暴力団排除特別強化地域における特定接客業の業務に関し、暴力団員又は暴力団員が指定した者に対し、その営業を営むことを容認すること又はその営業所等における顧客、従業者その他の者との紛争の解決若しくは鎮圧を行うことの対償として利益の供与をしてはならない」と定められています。

(3)暴排条例に基づく勧告事例(神奈川県)

 神奈川県公安委員会は、暴力団幹部にご祝儀名目で現金を手渡したなどとして、神奈川県暴排条例に基づき、県内にあるみこし会4団体に利益供与をしないよう、また、稲川会系組幹部に利益供与を受けないよう、さらには、懇親会が開催されたスナックを経営する女性に対しても、それぞれ勧告したと発表しています。報道によれば、各みこし会の代表を務める4人の男性は、男が主催した懇親会に出席し、それぞれ現金5万円ずつを男に手渡したといい、男性らは「祭りでもめ事があったときに助けてもらいたかった」などと話しているといいます。なお、みこし会に対する同種の勧告は県内では初めてだということです。

▼神奈川県暴排条例

 本事例の根拠については、同県暴排条例第23条(利益供与の禁止)において、みこし会については、第1項「事業者は、その事業に関し、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対し、次に掲げる行為をしてはならない」の「(1) 暴力団の威力を利用する目的で、金銭、物品その他の財産上の利益を供与すること」に該当、スナック経営者については、第2項の「(7) 前各号に掲げるもののほか、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対して金銭、物品その他の財産上の利益を供与すること」に該当、暴力団側については、第24条(利益受供与等の禁止)第1項の「暴力団員等又は暴力団経営支配法人等は、情を知って、前条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方となり、又は当該暴力団員等が指定したものを同条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方とさせてはならない」にそれぞれ該当したものと考えられます。

 さらに、神奈川県公安委員会は、暴力団事務所のリフォーム工事を請け負ったとして、神奈川県暴排条例に基づき、同県内で内装業を営む男性に利益供与をしないよう、また、指定暴力団稲川会系組幹部に利益供与を受けないよう、それぞれ勧告しています。報道によれば、2人は3年ほど前からの知り合いで、男性は5月中旬ごろ、県内に所在する稲川会系の暴力団事務所で男から事務所キッチンの修繕依頼を受け、正当な理由がないまま工事を請け負い、7月中旬に修繕工事を完了させたということです。事務所前に男性の会社名が明記された車両が止まっているのを警察官が発見し、事実関係の確認が進められていたといいます。本事例の根拠については、事業者については、同条例第23条(利益供与の禁止)第2項の「(5) 正当な理由なく現に暴力団事務所の用に供されている建築物(現に暴力団事務所の用に供されている部分に限る。)の増築、改築又は修繕を請け負うこと」に該当、暴力団側については、前述同様、第24条(利益受供与等の禁止)第1項に該当したものと考えられます。

(4)新潟県暴排条例改正の動向

 新潟県警は、風営法が定める飲食店などの特定営業者が暴力団員を用心棒とすることなどを禁止する「暴力団排除特別強化区域」に新たに長岡市を指定すること、罰則に自首減免規定を追加する趣旨で新潟県暴排条例を改正すべく、改正案のパブリックコメントを始めています。

▼新潟県暴排条例
▼新潟県警察 「新潟県暴力団排除条例の一部改正(案)」に対する県民意見の募集(パブリック・コメント)について

 今回の改正趣旨について、新潟県では、平成23年に新潟県暴排条例を施行して以降、さまざまな暴力団排除活動を推進しているが、県内の繁華街では、未だに一部の飲食店や風俗店営業者等が暴力団員にみかじめ料や用心棒料を支払っている実態があり、今年に入ってからも、長岡市内や新潟市内でみかじめ料や用心棒料をめぐる事件が発生したこと、新潟県暴力団排除条例では、暴力団排除特別強化区域として、現在、新潟市の駅前地区、駅南地区、古町地区を指定しているが、長岡市内でも事件が発生したことを受け、暴力団を排除し、県民の安全・安心かつ平穏な生活の確保並びに繁華街の良好な環境を醸成するため、新潟県暴力団排除条例の一部を改正して、暴力団排除特別強化区域の指定地域に長岡市内の地域を追加することとしたとしています。さらに、これまでみかじめ料や用心棒料の支払いをしていた飲食店等の特定営業者の中には、付き合いだから、慣習だからと仕方なく関係を続けていた営業者もいることに鑑み、真に暴力団との関係を断ち切りたいと考えている営業者を救済するため、罰則に特定営業者が自首した場合の減免規定を追加することとしたことが説明されています。なお、具体的な改正内容としては、現行条例で指定されている地域に加え、新たに「長岡市大手通1丁目、2丁目」「長岡市城内町1丁目から3丁目」「長岡市東坂之上町1丁目から3丁目」「長岡市坂之上町1丁目から3丁目」「長岡市殿町1丁目から3丁目」の地域が追加指定されています。また、罰則に、「特定営業者が自首した場合には刑を減軽又は免除することができるとする自首減免規定を追加」するとしています。

 さらに、同県加茂市議会は、9月定例会最終日の本会議を開き、公共事業や祭りなどに暴力団が関わらないよう必要な措置を講ずることなどを定めた「市暴力団排除条例」を全会一致で可決したとの報道がありました。新潟県内では、暴排条例について、平成26年7月までに加茂市を除く29市町村で施行されていたところ、これにより、新潟県内のすべての自治体で暴排条例が制定されたことになります。なお、前述の「令和元年上半期における組織犯罪情勢」によれば、「市町村における条例については、令和元年上半期までに44都道府県内の全市町村で制定されている」との記述がありますが、新潟県も含め、45都道府県内のすべての市町村区で暴排条例が制定されていることになります。なお、報道では、同市がこれまで制定しなかった理由として、「前市長の『暴力団も人である』という考えの下、排除を推進する条例は加茂市になじまないとして、制定されていなかった」と説明しています。自治体の独立性は尊重されるべきところ、「人」の排除というよりその社会的害悪を排除することがまずは重要であること、最高裁が示しているとおり、「暴力団員は、自らの意思により暴力団を脱退し、そうすることで暴力団員でなくなることが可能であり、・・・合理的な理由のない差別」にはあたらず、「(居住の制限は、)公共の福祉による必要かつ合理的なものであることが明らかである」こととされ、暴排活動の高い実効性のためには規制の強化は「面」で行われるべきであることなどもふまえれば、規制に「穴」があってはならず、早期に全国すべての自治体において暴排条例が制定されることを期待したいと思います。

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