暴排トピックス

彼を知り己を知れば百戦殆うからず~トクリュウ・巨額マネロン事件の本質

2024.06.11
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首席研究員 芳賀 恒人

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ガラス張りのモダンな銀行の建物

1.彼を知り己を知れば百戦殆うからず~トクリュウ・巨額マネロン事件の本質

傘下に立ち上げたペーパーカンパニーの銀行口座を使って、犯罪収益と知りながらマネー・ローンダリング(マネロン・資金洗浄)を繰り返したとして、大阪府警は、富山市の会社関係者ら計12人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)や詐欺などの疑いで逮捕しています。容疑者らは約500社の法人口座を悪用し、特殊詐欺やSNS型投資詐欺、マルチ商法(連鎖販売取引)の被害金や違法なオンラインカジノの賭け金などとみられる犯罪収益・約700億円を海外口座(多くは東南アジアの国々)に移すなどしてマネロンし、犯罪組織に還流させていたとみて捜査しています(入金された金の6割超がオンラインカジノの賭け金だったといいます。また、容疑者らのグループが数%、およそ28憶円の手数料を得ていたと見られています)。報道によれば、逮捕されたのは富山市の会社「リバトン」の役員らで、「収納代行サービス業」を自称、SNSなどで報酬を渡すとして募った人物を代表とするペーパーカンパニーを約500社設立し、約4000口座を管理していたといいます。さらに、同容疑者らはSNSなどでつながり強盗などを繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ・匿流)」と呼ばれる犯罪組織の依頼を受け、マネロンを請け負っていたとみられています。容疑者らの逮捕容疑は2021年11月~2023年6月、不正に登記した会社名義で金融機関の口座を開設し、詐欺などによる犯罪収益210万円を含む計約559万円を別口座に送金してマネロンした疑いで、大阪府警は、同社など計6カ所を家宅捜索、押収した資料類をもとに、資金の流れの解明を進めるとしています。また逮捕されたメンバーのほかにも事件に関与した人物が30人~40人規模でおり、うち数人は既に出国したとのことですが、行方を追ってるといいます(2024年5月28日に、フィリピンから容疑者の1人が帰国し大阪府警浪速署に出頭、逮捕者は13人になっています)。また、大阪府警は、悪用された1300に上る法人口座の凍結を、大手銀行など約130の金融機関に要請しています。大阪府警は組織犯罪処罰法に基づき、口座に残った犯罪収益の没収を目指すものです。報道によれば、グループが管理していた約4000口座のうち、実際にマネロンに使われたとみられる約1300口座を抽出し、金融機関ごとにまとめて要請、一般的には警察が一口座ずつ金融機関に依頼しており、一括要請は異例の対応だといいます。報道でマネロンに詳しい田中一郎弁護士は、口座凍結によって犯罪組織の資金獲得を防ぐことができ、「素早く大量に要請したことは評価できる」と指摘、詐欺などで失った資産を被害者に返金できる場合もあると指摘しています。

詐欺や違法薬物の取引、脱税など犯罪で得た収益を出所や本当の所有者がわからないようにするマネロンに絡む事件の摘発は後を絶たず、代表的な手口は、他人名義や架空の企業の口座を使って、送金を繰り返す、電子マネーや暗号資産(仮想通貨)へ交換する、株などの購入や正当な事業収益を装うといったものです。警察庁の統計によると、マネロン絡みの組織犯罪処罰法違反事件の摘発件数は年々増加し、2023年は888件と10年前と比べ3倍にも上ります。警察庁などが届け出を受けた「疑わしい取引」の数も2023年は過去最多の約70万件に上っています。テロ組織など犯罪集団の資金源となることからマネロン対策は国際的課題となっており、FATF(金融活動作業部会)から対策の遅れを指摘された日本は2022年12月に組織犯罪処罰法などを改正、マネロン行為を厳罰化する法整備を行うなど対策を強化しているところです。

ペーパー会社の法人口座を使って資金洗浄(マネーロンダリング)したとして会社役員ら12人が逮捕された本事件では、容疑者グループが、異なる金融機関の口座を使って次々と資金を移し替えていた疑いのあることが判明しています。複数の金融機関にまたがる資金移動は不正に気づかれにくいと専門家は指摘しています。大阪府警は、制度面の「穴」も背景にマネロンビジネスが続いていた可能性があるとみているといいます。まさしくFATFが「単一の金融機関は、トランザクションの一部しか把握しておらず、多くの場合、大きくて複雑なパズルの小さなピースしか見ていません。犯罪者は、法域内または法域全体で複数の金融機関を利用して、この情報のギャップを悪用し、違法な資金の流れを重ねます」と指摘していたとおりの脆弱性を突いた犯罪だといえます。報道でマネロン対策に詳しい鈴木正人弁護士によると、法人口座は商取引に使われるため、振り込みの限度額が大きいため、多額の入金があっても不正な取り引きと見抜くことは難しく、手口はかなり巧妙化していること、さらに短期間に多額の出入金などがあっても個人口座に比べれば不正を疑われにくいうえ、、複数の金融機関に口座が分散していると顧客情報の秘匿の観点から情報共有がされにくく、チェックが難しくなるとして、「金融機関による現状の対策には限界がある」と指摘しています。さらに、こうした資金の多くは最終的に海外の口座に移され、犯罪グループなどに還流していたと見られています。金融機関の実務としての対策は困難な部分もありますが、「異常な取り引きを検知できるシステムを強化する」こと、「口座開設時にペーパーカンパニーか否か、稼働実態に不審な点がないかの観点から、実体・実態を精度高く確認できるよう行職員の目利き力を強化する」こと、「口座開設時に見抜けなくても、顧客の継続的な確認を徹底することで不正な取引に気づけるようにするための継続的顧客管理を強化する」ことの3点が重要になると思われます。

本事件で驚かされたことの一つが、特殊詐欺の「受け子」など末端実行犯と同様、リバトンがSNSでバイトを募集して、報酬と引き換えにペーパーカンパニー設立や口座開設をさせていたことです。言い換えれば、マネロンの仕組み自体がトクリュウで構築されていたという点です。リバトングループ自体もそうですが、複数の「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ・匿流)」が絡んでいるとみられています。また、特殊詐欺やSNS型投資詐欺といった犯罪には足のつかない携帯電話、通帳、印鑑、空き部屋など犯罪インフラが必須であり、それとともに、口座やマネロンシステムは、犯罪収益を「利益」に変換する出口最大の犯罪インフラだといえます。口座開設に当たってフル活用されたのは、「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ・匿流)」の必須ツールであるSNSです。2024年5月27日付産経新聞の記事「大規模マネロン犯罪、不正口座、協力者への依頼…浮かび上がる巧妙なやり口」によれば、大阪府警は2022年9月、オンラインカジノの利用者を増やせば報酬が得られるなどとうたい、マルチ商法を展開していた集団を摘発、この事件の被害者が振込先として指定されていた法人4口座を捜査したところ、もとの開設者からすべて有償で譲渡されていたことが判明、カネの流れをつぶさに追う中で見えてきたのが、法人口座の「元締め」たる「リバトングループ」の存在だったということです。リバトングループは特殊詐欺や投資詐欺、違法カジノなどさまざまな犯罪集団を顧客に持ち、依頼を受けると管理口座を紹介(例えば特殊詐欺であれば、被害者がだまされて最初に金を振り込む口座がこれに当たります)、リバトン側は、ここから別の管理口座への資金移動を繰り返し、最終的に海外口座へも送金、外部からはカネの流れを容易にたどれないようにした上で、最終的に犯罪集団側に還流していたとみられています(犯罪インフラとしては、容疑者らが依頼を受けた犯罪グループ側とやりとりする際、秘匿性の高い通信アプリが複数使われていたことも重要です)。グループはリクルーター役を通じ、SNSなどで「副業」と称してペーパー会社を立ち上げる協力者を募集、法人の名称や事業内容はすべてグループのメンバーが考えたとみられており、グループはそのうえでパンフレットのような資料を用意したり、口座開設に当たっての銀行側との想定問答を指南し、架空の事業内容や会社の名前を覚えさせていたといいます。また、出資金があるよう装うため300万円を「見せ金」として渡し、設立に必要な入金記録の写しをとると、すぐに回収、口座を入手すると、協力者には報酬として月2万円を支払っていたケースも確認されているといいます。こうした点からも、犯罪グループの中には金融機関の実務にある程度詳しい人物がいることも考えらえるところです。そもそも口座開設の審査で確認する項目については金融機関である程度統一する必要があるものの、犯罪グループがその内容を把握し、対策を取ってしまうと見抜くことは難しくなります。また、口座は正常な取引を目的に開設されるケースが圧倒的に多いので、手続きを過度に厳格にすると通常の商取引に支障が生じてしまい、金融機関にとってはそのバランスが難しい面もあり、なかなか厳格な管理ができない実情もわかったうえでのやり方のように思えます。「闇バイトと同じような、『裏の副業』みたいな感覚だったのでは」と捜査幹部は述べていますが、すべてお膳立てされた中で役割を全うして、確度の高い口座開設を実現させる、正にそうしたものだと筆者も認識しています。一方、その口座が実際に何に使われるのかは知らず、たとえ協力者が摘発されても「トカゲの尻尾切り」で終わるという、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ・匿流)ならではの不特定性が、大規模なマネロンを可能にしていたといえます。

孫子の兵法に「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」との格言があります。本来、金融機関が目指すべきリスク管理のあり方ですが、本事件ではトクリュウを中心とした犯罪グループが見事に体現したものと言わざるを得ません。「単一の金融機関は、トランザクションの一部しか把握しておらず、多くの場合、大きくて複雑なパズルの小さなピースしか見ていない」というFATFの指摘する脆弱性を突き、金融機関の実務を深く知り、マニュアルや応酬話法など対策を十分練ったうえで、最新の犯罪インフラを駆使して数多くのペーパーカンパニーを設立、数多くの口座開設を実現させ、巨額のマネロンを鮮やかに完遂してしまいました。さらに犯行主体であるトクリュウは「闇バイト」により自らのリスク管理を徹底する仕事ぶりには驚きを禁じ得ません。残念ながら、私たちは、私たちの敵をより深く知り、自らの脆弱な部分を省みることから始める必要があります。二度と犯罪グループを利するような過ちを繰り返すわけにはいかないのです。

名古屋市の女性から約4800万円をだまし取ったとして、男女3人が詐欺容疑で逮捕された事件で、愛知県警が、マネロンの方法を記したマニュアルを関係先から押収していたことがわかりました。押収したマニュアルには、自分たちが現金と暗号資産を交換する専門業者として活動し、1か月で3億~5億円を交換していると紹介、その上で、「資金決済法に違反してる」、「場合によっては、命の危険を伴う」などと説明、連絡手段については秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」などの使用を推奨、違法性を指摘された場合の対処法としては、「ボランティアでやってるってことで、その場を乗り切って」としています。このマニュアルは男が作成し、犯罪収益をマネロンする方法を仲間と共有していた可能性が高いといいます。

SNSで集めた全国の客に法外な金利で金を貸しつけたとして沖縄県内に拠点を置くヤミ金グループが摘発された事件で、沖縄県警が主犯格とみている男2人について、出資法違反(超高金利)容疑で逮捕状を取ったことがわかりました。2人は東南アジアに潜伏しているとみられ、沖縄県警は国際刑事警察機構(ICPO)に国際手配を要請するよう警察庁に求めることを検討しています。沖縄県警は2024年2月以降、グループのメンバー9人を同容疑と貸金業法違反(無登録営業)の疑いで逮捕し、那覇地検が出資法違反と貸金業法違反で起訴しています。沖縄県警は、メンバーを入れ替えながら多様な犯罪に関わる「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ・匿流)」と判断、2021~2023年に全国の600人以上に計約4億円を貸しつけ、億単位の利益を得ていたとみています。グループは同県北中城村のアジトなどを拠点に、SNSで客を募り、返済が滞った場合は職場などに電話をかけ続ける行為を繰り返し、それでも返済しない場合は、ヤミ金の送金や現金の回収役を強要したり、闇バイトを持ちかけたりするケースもあったといいいます。

スロットを使って客に金を賭けさせたとして、群馬県警生活環境課などは、会社員と無職の中国籍の男の両容疑者を常習賭博容疑で現行犯逮捕しています。違法賭博店があるという情報を基に捜査を進め、家宅捜索に入ったところ、客に金を賭けさせていたといいます。また、同店で賭けをしていた男性客3人も単純賭博容疑で現行犯逮捕しています。両容疑者は、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ・匿流)の一員で、売り上げの一部が暴力団に流れていたとみられています。

川崎市の賭博店にパチスロ機を販売し、メンテナンス作業などで営業を手助けしたとして、神奈川県警などは、常習賭博ほう助の疑いで、会社役員を逮捕しています。容疑者はパチスロ機を提供する「機械屋グループ」のメンバーで、少なくともグループが宮城、福島、群馬、千葉、鹿児島の賭博店に販売していたとみて調べています。逮捕容疑は2023年11月~2024年1月、川崎市川崎区のゲーム機賭博店「ライフ」にパチスロ機を販売し、機器のメンテナンス作業をするなどして経営を手助けし、賭博をほう助した疑いがもたれています。また、正規の店舗で使われなくなった機種を入手して賭博店に転売していたとみられています。さらに、宮城県警などの合同捜査本部はこのグループの別の男3人を新たに逮捕しています。合同捜査本部はこのグループの収益が匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ・匿流)の資金源になっているとみて全容解明を急いでいます。

違法に貸金業を営んだとして、警視庁は、無職の針谷容疑者ら男女4人を貸金業法違反(無登録営業)と出資法違反(超高金利)容疑などで逮捕しています。針谷容疑者は2000年代に摘発された山口組傘下組織旧五菱会系のヤミ金グループの元メンバーで、警視庁は2018年以降、延べ約1万5000人に計約5億円を貸し付け、約6億円の利息を得たとみています。針谷容疑者らは、顧客名簿などを管理する拠点を置いて「センター」と呼ぶなど、旧五菱会系の営業手法を踏襲しており、逮捕前の任意の調べに「五菱会での稼ぎが忘れられず、再び手を出した」と話したといいます。警視庁は針谷容疑者が摘発を逃れるため、回収した利息を他人名義の口座で管理し、多重債務者をグループに誘い込んで金の引き出しや運搬などの役割分担をしていたとみています。この事件で逮捕されたうち2人は多重債務者だったことが判明しています。2人は「借金の返済に窮し、ヤミ金融への協力を迫られた」と供述し、顧客からの返済金の運び役をしていたとみられています。当時のヤミ金融グループの一部は特殊詐欺に移行したとみられますが、複数のコインロッカーに一時保管して現金を移動させていたことや、秘匿性の高いメッセージアプリを使用していたことも判明、警視庁生活経済課は摘発を逃れるため複雑に資金を動かしていたとみています。また、針谷容疑者らは顧客に対し、貸し付けの返済は第三者名義の口座に振り込むよう指示、さらに別の口座に資金移動させた後、債務者にATMから引き出させ、引き出した現金は、債務者の自宅や東京都内のコインロッカーに一時保管させ、さらに別の債務者を使って違うコインロッカーに移動させ、針谷容疑者が自ら出向いて回収していたといいます。口座や債務者は「道具屋」と呼ばれる名簿販売業者を通じて調達、資金の移動や出金額の指示には、秘匿アプリ「セッション」を使用していたといいます。針谷容疑者のグループが役割分担をしていた点について、弁護士は「現金を引き出す『出し子』などと分担する特殊詐欺のノウハウがヤミ金融に逆輸入されている可能性もある」と指摘しています。針谷容疑者は以前加わっていた旧五菱会系のヤミ金融は2000年代初頭、不景気で生活に困窮した多重債務者らを狙い、次々と別の業者を紹介して借金を重ねさせる手口で問題となりました。ピーク時は約1000の「金融店」があり、就職情報誌を通じて従業員を募集、捜査関係者によると、針谷容疑者はそういった従業員の一人で、20代だった当時は取り立て業務などを担っていたとみられます。警視庁などは2003年に「ヤミ金の帝王」と呼ばれた統括役らを摘発、出資法を改正して罰則を強化するなどの動きもみられました。報道で暴力団対策に詳しい青木知巳弁護士(東京弁護士会)は「いまでもヤミ金融業者の背後に暴力団などが関与している可能性もある。捜査当局には資金の流れの解明や、組織の摘発を進めてほしい」と話しています。

ヤミ金業を営んでいた暴力団員らに融資名目で金をだまし取られたと訴える経営コンサルティング会社側が、暴力団対策法に基づき組トップに責任があるとして損害賠償を求めた訴訟の判決が京都地裁であり、裁判長は暴力団対策法の適用を認め、神戸山口組の井上邦雄組長ら被告4人に請求通り約2億7千万円の支払いを命じています。暴力団対策法は、暴力団員が「威力を利用した資金獲得行為」で他人の生命や財産を侵害した場合、トップが賠償責任を負うと規定しています。判決によると、新規事業の資金調達が難航していたコンサル会社代表は2020年、金融ブローカーの男性から「最強の資産家がいて、10億円くらいポンと貸してくれる」と説明を受け、組員を紹介され、組員は、ブローカーの男性への貸付金を返済すれば10億円を融資するという趣旨のことを発言、コンサル会社代表は2億5千万円を送金したが融資は実行されず、返金を求めても「俺の組織」という言葉を使って拒否されたといいます。裁判長は判決理由で、「信義則上の義務に違反する」と判断した上で、組員の行為は「シノギとして営むヤミ金融業」だったことや、組員が男性とやりとりする中で、暴力団組織の存在を示して交渉したのは「威力を利用」した行為だと指摘、暴力団対策法に基づき井上組長も賠償責任を負うと認定したものです。

抗争とみられる事件が相次いでいる、六代目山口組と絆會について愛知県などの公安委員会は、2つの団体をより厳しい取締まりの対象とする「特定抗争指定暴力団」に2024年6月中にも指定する方針です。愛知県警察本部で双方の団体に対して「意見聴取」の場が設けられましたが、いずれの団体も関係者は出席しませんでした。名古屋市などに拠点のある両団体の間では、ここ数年、全国各地で抗争とみられる事件が相次いでいます。2022年1月、水戸市で六代目山口組系の暴力団幹部が拳銃で撃たれて死亡し、「絆會」の幹部が逮捕・起訴されたほか、2022年5月には、伊賀市で「絆會」の組員が六代目山口組系の組員に拳銃で撃たれて大けがを負うなど、2つの団体の対立によるものとみられる事件が、2017年以降、2023年までに10件発生しています。今後、対立が激化し、市民に危険が及ぶおそれがあるとして、双方の団体の事務所などがある愛知や大阪、それに兵庫など6つの府県の公安委員会は、2つの団体をより厳しい取締りの対象とする「特定抗争指定暴力団」に指定するための手続きを進めています。特定抗争指定暴力団に指定されれば、公安委が定めた警戒区域内で、事務所への立ち入りや組員がおおむね5人以上で集まることなどが禁止され、違反が確認された場合は警告をせずに逮捕することができることになります。なお、今回指定されれば、2012年の道仁会と九州誠道会、2020年の六代目山口組と神戸山口組、2022年の六代目山口組と池田組に続いて4例目となります。関連して、2022年1月、水戸市の暴力団事務所で暴力団の幹部が拳銃で殺害された抗争とみられる事件で別の暴力団の幹部が起訴されたことを受けて茨城県公安委員会は暴力団対策法に基づいて市内にある事務所の使用禁止期間を延ばす本命令に向けた手続きを進めています。この事件では、対立する絆會の幹部、金成行被告が逮捕され殺人などの罪で起訴されています。茨城県警察本部では、起訴されたことをうけて今後、抗争がおきるおそれがあるとして、同じ日に水戸市にある六代目山口組の傘下組織の事務所の使用を15日間、原則禁止する仮命令を出しています。茨城県公安委員会では使用禁止の期間を3か月間とするさらに制限が厳しい本命令に向けた手続きを進めています。聴取には、代理人の弁護士だけが出席しこの中で「仮命令の対象となった建物は事務所ではなく幹部の住居であり、使用の制限は違法だ」などと主張しましたが、本命令が出され、集会などの活動に事務所を使うことが3か月間禁止され、その後も必要に応じて延長できることになります。なお、直近では、神戸市長田区のラーメン店で2023年4月、店主が射殺された事件で、兵庫県警長田署捜査本部は、絆會幹部、金成行容疑者と絆會傘下組織の男性組員ら計5人を組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人)容疑で逮捕しています。捜査本部は六代目山口組の分裂抗争に絡んだ事件とみており、関係者の聴取や付近の防犯カメラ、押収品の検証などから5人の組織的な役割を特定したものです。捜査本部は金容疑者が実行役で、単独で店内に入り事件に関与したとみており、他の4人は逃走などを手助けしたとみて調べています。金容疑者が潜伏していた仙台市のアパートから、事件に使用されたとみられる拳銃を押収、鑑定の結果、発射された銃弾が銃身を抜けるさいに残る線条痕が、余嶋組長の射殺に使われた銃弾と一致したということです。金容疑者は長野、茨城両県であった2件の発砲事件に関与したとして、逮捕、起訴されています。

兵庫県公安委員会は、六代目山口組(神戸市灘区)と池田組(岡山市)に対する特定抗争指定暴力団の指定を3カ月延長すると発表しています。2024年6月6日の官報で公示を予定し、延長後の指定期間は同月8日~9月7日となります。両組織の指定延長は6回目で、神戸市全域が組員の活動を厳しく制限する「警戒区域」に定められ、事務所への立ち入りやおおむね5人以上で集まることが禁じられることになります。

兵庫県稲美町にある神戸山口組の事務所について、兵庫県の外郭団体が周辺の住民に代わって使用を差し止める仮処分を裁判所に申し立てています。兵庫県の外郭団体「暴力団追放兵庫県民センター」が使用の差し止めを求めたのは、稲美町にある神戸山口組の本部事務所です。この事務所は2023年7月、兵庫県公安委員会が神戸山口組の「主たる事務所」に指定していて、7年前の2017年6月には六代目山口組系の暴力団員が銃弾を撃ち込む事件が起きています。周辺では抗争事件に巻き込まれる危険があると懸念の声が出ていたため、地域の住民およそ30人からの委託を受けた「暴力団追放兵庫県民センター」は、神戸山口組の本部事務所の使用差し止めを求める仮処分を神戸地方裁判所に申し立てました。神戸山口組をめぐっては、2017年にも淡路市にあった当時の本部事務所の使用を差し止める仮処分の申し立てが行われ、裁判所が認める決定を出しています。暴力団追放兵庫県民センターは「付近住民の不安を払拭するため、事務所の撤去も見据えて今後も暴力団排除に向けた活動を進めていきたい」と話しています。

大阪府警は、絆會に対し、大阪市中央区の本部事務所について暴力団対策法に基づく使用制限の仮命令を出しています。期限となる6月4日までに府警が組関係者から意見聴取し、3カ月間の使用を制限できる本命令を出すかどうか判断するとしています。絆會をめぐっては2023年7月、事務所の所在地が兵庫県尼崎市から大阪市中央区へ移っており、大阪市の事務所については2023年12月にも、周辺住民からの申し立てで大阪地裁が使用差し止めの仮処分命令を出していました。警察庁によると、2023年末の絆會の準構成員らを含む勢力数は170人とされます。

福岡県久留米市に拠点を構える指定暴力団「道仁会」が、新会長の継承式を行っています。これまでトップを務めた四代目・小林哲治会長から五代目会長に指名された福田憲一理事長に組織の実権が渡されたといいます。道仁会は1971年に結成され、数々の抗争を繰り返し、その勢力は福岡県南部の筑後地区のほか佐賀、熊本、長崎にまで拡大しました。1986年には山口組と衝突、死者9人を出す抗争に発展しました。そして2006年、道仁会は三代目会長の人事をめぐって組織が分裂、脱退した組長たちが福岡県大牟田市に結成した「九州誠道会」と抗争を繰り広げ、2007年には道仁会の三代目会長が射殺されたことで抗争はさらに激化、。同年11月には佐賀県武雄市の病院で「九州誠道会」の関係者と間違われた一般人の入院患者が「道仁会」の組員から銃撃され殺害されました。組織の分裂や警察の度重なる取締りを受けながらもいまだ勢力を保ち続けています。五代目を継承した福田新会長は、豊富な資金力と実行力で自ら率いる福田組を道仁会の中核を担う一大勢力にまで拡大させた人物で、一方、小林前会長は、いわゆる相談役の立場で組織に残るということで、警察は、今回の代替わりが組織運営にどのような変化をもたらすのか注視していくとしています。

一方、福岡県大牟田市の指定暴力団「浪川会」のトップが警察に引退を届け出ています。福岡県内の暴力団をめぐる情勢が今、変化を見せています。浪川会の前身は「九州誠道会」で、2006年に福岡県久留米市の道仁会から脱退した組長たちが結成しました。2つの組織は激しい抗争を繰り返し、2012年には特定抗争指定暴力団に指定されました。浪川総裁は「九州誠道会」の二代目会長として、“泥沼の抗争劇”をけん引、2013年に「九州誠道会」が解散すると、浪川総裁は後継組織を結成、2015年に「浪川会」に名称を改め、現在まで組織を率いてきました。関係者の間では、浪川会は全国の暴力団の中でもトップクラスの資金力を持つとされています。同日には「道仁会」のトップが交代する継承式が行われていて、今後、福岡県内の暴力団情勢にどのような影響を及ぼしていくのか、警察は慎重に見極めていくとしています。

福岡県北九州市小倉南区長行東の紫川河川敷で2024年5月末に見つかったロケットランチャー(長さ約1メートル)のような物数個について、いずれも砲弾とみられる物が装填された状態だったことが判明しています。福岡県警は、殺傷能力の有無などを調べているといいます。このほかに見つかった拳銃のような物はラップに包まれていといい、手投げ弾のような物数個にはいずれも信管がなく、起爆しない状態だったとみられています。現場は腰の高さほどの有刺鉄線がはられており、暴力団の武器庫となっていた可能性があるとみられており、県警はこれらが投棄されたとみており、本物かどうか鑑定するとともに暴力団が関与した可能性があるとみて捜査を進めています。

タイの首都バンコク近郊で2024年4月、日本人男性の切断遺体が見つかる事件があり、殺人容疑などで指名手配されていた暴力団関係者の男2人が、隣国ラオスで現地当局に拘束されています。警察は、背後にタイを拠点とした国際詐欺グループがあるとみています。報道によれば、容疑者らはタイ国内に登記された貿易会社を拠点とする特殊詐欺グループのメンバーとみられ、関係者の証言などから、容疑者2人が暗号資産をだまし取る詐欺に関与しており、被害男性との間に金銭トラブルがあったことが判明したといいます。本コラムでもたびたび取り上げている通り、タイが、日本の暴力団関係者を中心とした大規模な詐欺グループの活動拠点になっている可能性があります。

株主総会が集中する時期を前に、警視庁は2024年5月20日、株主総会特別警戒本部(本部長=長坂雄太・組織犯罪対策部長)を設置しています。6月下旬まで、延べ約2000人の捜査員が、企業に不当な要求をする「総会屋」とのトラブル警戒などにあたるとしています。暴力団対策課によると、東京都内では5月中に約100社、6月中に約1200社が株主総会を予定、最も集中する6月27日には、約320社の開催が見込まれています。一方、総会屋は高齢化などを理由に年々減少傾向にあり、都内で活動しているのは10人程度とみられています。

「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長だった大東さん(当時72歳)が2013年に京都市内で射殺された事件で、殺人罪などで起訴された工藤會傘下組織幹部、田中幸雄被告の弁護人が報道陣の取材に応じ、公判で無罪を主張する方針を明らかにしています。この日は京都地裁で非公開の第4回公判前整理手続きがあり、田中被告本人も出席、弁護人は終了後、公判での主張について「事件に関わっていないとして否認する」と述べています。事件では田中被告の関与を示す直接証拠はないとされ、検察側は、状況証拠を積み重ねて立証する方針とみられています。京都、福岡両府県警の合同捜査本部は、田中被告が何者かに指示を受けた組織的な事件とみて、現在も背後関係などの捜査を続けています。

悪質なホストクラブは東京・歌舞伎町を中心に問題視されましたが、本コラムでもたびたび取り上げているとおり、最近は地方都市にも広がりつつあるほか、借金返済のため性風俗産業に追い込まれ、海外売春を強いられる事例もあります。立憲民主党の吉田晴美衆院議員は「海外売春に行かざるを得ないほど選択肢のない女性たちが自らの体を傷つける状況にまで追い込まれ、海外売春を斡旋するサイトも横行している。立法府が対策を講じず、見過ごすことができない。超党派でこの議論に向き合い、成立させていきたい」と強調しています。ホストクラブを巡っては社会経験の乏しい若い女性に支払い能力を超える多額の飲食代を請求し、借金を背負わせる悪質な営業者が横行しています。売掛金を自主規制する動きもみられますが、前払い金などと称して継続している店もあるといい、トラブルは今も後を絶たない状況が続いています。関連して、悪質なホストクラブの被害女性と、支援団体「青少年を守る父母の連絡協議会」の代表らが武見敬三厚生労働相と厚労省内で面会し、悪質な店を規制する新法の制定を要望しています。高額な飲食代をホストが肩代わりして客に後払いさせる「売り掛け」を法で禁止するよう求め、賛同する約4千筆の署名も提出、武見氏は、相談態勢の強化などで対応する考えを示しています。なお、2024年1~4月に22人のホストが検挙されていたといい、うち経営者の検挙が2件あったといいます。警察庁は、女性客を風俗店にあっせんしたとして、職業安定法違反の疑いで店長を2024年2月に逮捕した宮城県警の事案を例示、警視庁も4月、18歳未満であることを知りながら女性客を店内に立ち入らせ、酒類を提供したとして、経営者を検挙しています。また、ホストクラブ元従業員の男がツケ払いの「売掛金」返済のため女性客に売春させた事件を受け、東京都公安委員会は風営法に基づき、男が事件当時に勤務していた新宿区歌舞伎町のホストクラブ「ラブ」に対し、営業許可の取り消し処分を出しています。警視庁によると、売掛金問題を巡るホストクラブの営業許可取り消しは都内初ということです。一方、厚生労働省によると、全国の女性相談支援センターに寄せられた悪質なホスト被害に関する相談件数は、2023年12月~2024年4月に計122件あり、5月からは、全国共通の短縮ダイヤル「#8778」の運用が始まっています。

「闇バイト」関連では、千葉県警は、買い取り専門店で偽の運転免許証を示して金貨を売ろうとしたとして偽造有印公文書行使の疑いで、自称さいたま市南区、無職の少女(16)を逮捕したと発表しています。容疑を認め「免許証は闇バイトで知り合った男から渡された」と話しています。持ち込んだのは昭和天皇在位60年記念の10万円金貨とみられ、千葉県船橋市の店舗で「おじいちゃんにもらった」と金貨の買い取りを依頼し、偽の免許証を示した疑いがもたれています。系列の別店舗で同様の申し出により金貨を買い取ったことがあり、不審に思った店長が免許証の偽造に気付いたもので、別店舗で買い取った金貨を調べると偽物と判明し、県警に通報しました。また、LINEのビジネス用サービスを悪用して「闇バイト」を募ったとして、愛知県警は、職業安定法違反(有害業務目的労働者募集)などの容疑で、会社役員=詐欺罪などで公判中=を再逮捕しています。容疑者は不動産業者を装い、QRコード付きチラシで、LINEを使い家賃を騙し取る詐欺の実行役を勧誘していたとみて、詳しい経緯を調べています。再逮捕容疑は2023年9月、詐欺で得た犯罪収益をマネロンさせる目的で労働者を募集したほか、同8月14日ごろ、他の者と共謀し、札幌市東区の集合住宅に住む病院職員の女性から6万300円の電子マネーをだまし取ったとしています。

警察庁は、各都道府県警の刑事部長らを集めた会議を東京都内で開き、露木長官は、特殊詐欺など幅広い組織犯罪に、SNSなどでつながる「匿名・流動型犯罪グループ」が関わっているとして「部門や罪種にこだわることなく、警察の総合力を発揮できる体制を構築し、戦略的な取り締まりを強化してほしい」と訓示しています。露木長官は、同グループは、SNSで実行役を募集する強盗の他、繁華街の違法風俗営業など生活安全部門の事案にも関与していると指摘、対策には「全部門が自らの仕事と認識し、総力を挙げて取り組まなければならない」と述べています。また、被害が急増しているSNS型投資詐欺やロマンス詐欺についても言及、被害実態の解明や、海外にあるとされる拠点情報の収集も指示しています。

前回の本コラム(暴排トピックス2024年5月号)で取り上げた、家族名義のETCカードを不正に利用したとして、大阪地裁が、電子計算機使用詐欺の罪で暴力団組長に懲役10カ月の実刑判決を下した件について、弁護士ドットコムのサイト上では、弁護士が「ETCカードぐらいいいじゃないか」と軽くみる人が多いとするなら、暴力団を社会から排除し、ひいては撲滅するべきだという一般市民の感覚がゆるんでいる可能性があるのかもしれません」、「他人のクレジットカードを使うことと同じと考えれば理解しやすいと思います」、「本件の暴力団員には同種の前科があったとのことですし、組織内の地位も高位であったようなので、それ以外にも前科前歴があった可能性はあります。それも考慮すると、懲役10カ月の実刑判決が下されたことが重すぎるとは一概には言えません」と指摘しています。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

冒頭の事件に限らず、最近はマネロンに絡む事件の報道が増えています。直近では、名古屋市の女性から現金4780万円をだまし取ったとして、愛知県警などの合同捜査本部は、リサイクル会社役員ら3人を詐欺容疑で逮捕しています。報道によれば、愛知県警は海外にある容疑者名義の暗号資産口座に被害金が流れていたことを確認、同じ名義の別の金融機関の口座には約30億円の出入金記録があり、愛知県警は容疑者らが犯罪収益をマネロンしたとみて調べているといいます。2022年3~5月、セキュリティ関連協会の職員や警察官らを名乗り、名古屋市の80代の女性に電話をかけ「携帯電話がハッキングされた。サイバー保険に入るべきだ」などとうそを言い、109回にわたって現金計4780万円を87の指定口座に振り込ませたといいます。被害金は複数の口座を転々とした後、容疑者の海外にある暗号資産口座に流れていたといい、愛知県警はグループがマネロンした上で、一部を現金化していたとみています。

2024年5月15日付日本経済新聞の記事「テロ組織、ドバイ不動産に資金移転の疑い 国際共同調査」は、マネロン/テロ資金供与の実態が描かれており、大変興味深いものでした。日本にいるとテロ資金供与の実態について身近に感じられるものではありませんが、日本企業や日本の個人が海外で行う通常のビジネスのすぐ近くでこのような行為が行われている現実をあらためて認識する必要があります。報道によれば、「安全保障専門の米シンクタンク・高等国防研究センター(C4ADS)がアラブ首長国連邦(UAE)ドバイの不動産所有者データ数十万件を入手し、情報を基に日本経済新聞など計58カ国・74の報道機関が共同調査した。リストにはイランが支援するレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ、イエメンの親イラン武装組織フーシなど、米国が制裁を科すテロ組織の関係者が多数含まれた。制裁対象のテロ組織やその関係者、当該国は通常、国際金融システムから排除され資産は凍結される。テロ組織は制裁の網をかいくぐり、資金をドバイの不動産市場に逃避させ、マネーロンダリング(資金洗浄)などに利用していた疑いがある」というもので、「昨年10月のイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突以降、中東情勢は不安定化している。4月以降はイスラエルとイランの対立も顕著になったが、イランの背後で活発な動きをみせるのが代理勢力と呼ばれるヒズボラやフーシだ」、「美術品を使ったマネロンを通じ、ヒズボラに資金提供して米制裁対象となった事業家のアリ・オセイラン氏が、ドバイの超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」の高級物件所有者として名を連ねていた事例なども見つかった。今回の調査全体で、米制裁対象者などを含め、捜査対象となりうる200人以上の人物がドバイで不動産を所有していた可能性が極めて高いと結論づけた」、「EUは23年3月、UAEはマネロン対策に欠陥があるとして、イランや北朝鮮、パナマなどと並ぶ高リスクの国に指定している。欧州議会は24年4月、UAEの現状について「改善はしたが、高リスク国から外すには不十分だ」との見解を示した」、「リストには1000件を超える日本人とみられる情報が含まれた。そのうち、違法行為が疑われる人物の情報も複数見つかった」、「ギフト券流通サービス会社の元経営者の男性(47)は、ドバイに2億1000万円相当のマンションを購入していた。男性が経営していた会社から購入したギフト券は、実際には利用できないこともあり、トラブルが相次いだ。被害相談を受けた青砥洋司弁護士は「(男性が手がけていたサービスが)詐欺集団が得たギフト券を現金化する資金洗浄の場だった」とみています。さらにその追加報道である「ドバイの不透明な不動産取引、海外メディアが一斉報道」では、「膨大な所有者リストには、通常の手段ではドバイで不動産を購入するのが困難であるはずのテロ組織やその支援者、米制裁対象者、麻薬犯罪組織に関わる人物などが多数含まれ、不透明な取引実態が次々と明らかになった。英紙タイムズは「英国の犯罪者が刑務所からドバイの高級不動産を購入」との見出しで特集記事を配信した。麻薬取引に絡むマネーロンダリング(資金洗浄)の罪で投獄された人物が、独房から数億円規模の不動産を購入していた実態などを赤裸々に紹介した。公的機関から1200万ポンド(約24億円)を盗んだ犯罪者がドバイで不動産を所有していた実態も示した」、「日経は、イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ、イエメンの親イラン武装組織フーシなど、米国が制裁を科すテロ組織の関係者が、ドバイの不動産所有者リストに多数含まれていたことなどを報じた。仮想通貨の投資勧誘などにからみ、違法行為が疑われる日本人の情報も複数見つかった」というものです。

AML/CFTだけでなく、最近では、拡散金融対策(CPF)の観点からの実務の高度化も要請されているところです。拡散金融対策とは、「大量破壊兵器(核・化学・生物兵器)等の開発、保有、輸出等に関与するとして資産凍結等措置の対象となっている者に、資金または金融サービスの提供をする行為」(財務省)であり、イランや北朝鮮との取引については、こうした観点からより慎重な対応が求められています。直近でも、さまざまな事例が報道されており、日本企業にとっても「対岸の火事」ではありません。

パキスタンの2つの情報機関がまとめた報告書「イラン産石油の密輸」について報じた2024年5月20日付日本経済新聞の記事「イラン、パキスタンに石油製品を年10億ドル密輸」も興味深いものでした。「新たな調査報告によれば、イランの石油密輸業者は年間10億ドル(約1560億円)を超える燃料を隣国パキスタンに不正輸出している。観測筋はこの調査に基づき、闇市場への取り締まりが強化されると予想する」、「密輸は10年前、石油輸出を規制する米国主導の制裁措置が課され、イランが市場を新たに探す必要に迫られた後、拡大した」、「両国は長年、軍事的に緊張状態にあり、今年初めに爆撃問題も発生した中でも密輸は続いている。密輸をやめれば、パキスタン南西部バルチスタン州の住民に深刻な影響が生じる。同州は長年、分離独立派が支配力を持ち、国内で最も経済的に困窮している。住民の4分の3は貧困線以下の生活水準だ」、「密輸を黙認し続ければ、国際通貨基金(IMF)などからの不信感を招くことになる。IMFは厳しい財政事情のパキスタンに巨額の支援金を提供しており、昨年、密輸問題を取り上げ、政府に説明を求めた。同国は2年前に監視対象から外れるまで、マネーロンダリング(資金洗浄)対策を審査する国際組織「金融活動作業部会」(FATF)の監視対象国にもなっていた」といったものです。

一方、北朝鮮が関係するマネロンについても大々的に報じられています。北朝鮮がサイバー攻撃で窃取した暗号資産(仮想通貨)約1億4750万ドル(約230億円)を2024年3月、追跡を困難にするため複数取引を混ぜ合わせる「ミキシングサービス」を使ってマネロンしていたことがわかったというものです(ミキシングの大手業者「トルネード・キャッシュ」を通じてマネロンし、追跡を困難にしたとされますが、この業者は2022年、北朝鮮ハッカーにサービスを提供したとして米財務省の制裁対象に指定されています)。2024年4月末で活動停止を余儀なくされた国連安全保障理事会(安保理)の専門家パネルがまとめた報告書で指摘されており、報告書では、北朝鮮が2017年から2024年4月までに暗号資産の関連企業(HTX)に対して97回にわたりサイバー攻撃を繰り返し、約36億ドル(約5630億円)を窃取した疑いがあることも明らかにしています。北朝鮮によるマネロンが確認された約1億4750万ドルは、このうちの一部だといいます。北朝鮮は2023年末に暗号資産取引所へのサイバー攻撃で窃取し、マネロンには「トルネード・キャッシュ」というミキシングサービスを使用、米連邦検察は2023年8月、トルネード・キャッシュの創設者2人について、北朝鮮などの犯罪収益のマネロンに関わったとして訴追したと発表しています。また、2024年だけでも「5470万ドル相当の暗号資産の盗難11件」を調査しており、これらの多くは「小規模な暗号資産関連企業が気付かずに雇った北朝鮮のIT労働者によって行われた可能性がある」としています。国連加盟国や民間企業によると、海外で活動する北朝鮮のIT労働者は「国家に多大な収入」をもたらしているといいます。さらに、報告書などによると、北朝鮮によるサイバー攻撃は対外工作機関・偵察総局傘下のハッカー集団によって実行され、窃取した資金は主に「核・ミサイル開発計画の資金にあてられている」といい、正にCPF上の厳格な対応が求められるべきです。

国連安全保障理事会は、露による侵略が続くウクライナ情勢に関する会合を開き、露が国連安保理決議に違反して北朝鮮から弾道ミサイルを入手し、ウクライナへの攻撃で使用したとして日米韓などから非難が相次ぎました。米国のロバート・ウッド国連代理大使は対北朝鮮制裁の履行状況を監視する安保理の専門家パネルの調査結果などを踏まえ、「露は2023年末以降、弾道ミサイルを12回近くにわたって使った。使用された弾道ミサイルは北朝鮮製の『火星11』の系統だ」と指摘、日本の志野光子国連次席大使は「露は安保理決議に違反して北朝鮮から武器を調達している」と非難しています。専門家パネルは露の拒否権発動で、2024年4月末で活動を停止しており、志野氏は「専門家パネルの任期延長を露が阻止したことは遺憾だ」と述べています。関連して、米財務省は、北朝鮮から露への武器移転に関与したとして、露人2人と露企業3社に制裁を科したと発表しています。北朝鮮から露に移転された武器には、露軍がウクライナで使用する弾道ミサイルなども含まれています。ブライアン・ネルソン財務次官(テロ・金融情報担当)は声明で「北朝鮮と露の軍事協力の深化を阻止するというわれわれの決意を反映している」とし、「露の戦争遂行を可能にするために武器やその他の物資の輸送を行おうとする者の責任を追及していく」としています。財務省は声明で、露と北朝鮮は過去1年間にわたり軍事協力を強化したと指摘、北朝鮮は露に弾道ミサイルと弾薬を提供し、その見返りとして露に軍事支援を求めているとしています。また、北朝鮮の金正恩総書記を呼び捨てにして、国民との親近感を演出したとされる歌謡曲「親しいオボイ」の映像に、「SONY」のマークがついたヘッドホンや、日本メーカー製とみられる電子楽器などが映っていたと報じられています。いずれのメーカーも北朝鮮への輸出を否定しており、詳しい経路は不明であるものの、民間の取引を通じて、北朝鮮に持ち込まれたとみられています。ソニーグループの広報担当は「ソニーは、輸出入規制を含め、事業に適用される法令を順守しております。北朝鮮との取引はございません」と回答、コルグも「動画だけで弊社の製品であるかどうか特定することができません。輸出した事実は全くありません。(北朝鮮が入手した経路も)全く心当たりありません」としています。CPFにおいては、このような形でリスクが露呈することが多く、正にサプライチェーン・リスクマネジメントを強化し、商流の管理を徹底する必要に迫られていることを日本企業も認識する必要があります。

前述のとおり、北朝鮮のIT労働者の問題が顕在化していますが、米連邦大陪審は、海外にいる北朝鮮のIT労働者が米国人になりすまして米国企業で働くのを手助けしたとして、西部アリゾナ州の米国人女性を詐欺の共謀などの罪で連邦地裁に起訴しています。報道によれば、女性は2020年10月から約3年間、労働者が少なくとも680万ドル(約10億6000万円)の不法収益を得る手助けをしていたといい、女性は労働者の報酬を中国に送金する手伝いもしており、月最高1万2500ドル(約195万円)程度の手数料を受け取っていたとされます。司法当局は2023年10月に女性の自宅を捜索した際、90台以上のパソコンを押収、労働者の勤務先にはテレビ局、航空宇宙関連企業、自動車メーカーなど全米トップ500にランクされる大企業が多数含まれ、一部の企業は内部情報を盗まれていたといいます。米国務省は、IT労働者が稼いだ資金は北朝鮮の大量破壊兵器開発に使用された可能性が高いとみており、こうした資金調達システムの摘発につながる情報に最高500万ドルの報奨金をかけています(米国務省は、身元を偽り米企業で働き、北朝鮮の資金調達に関与していた北朝鮮のIT技術者3人に絡む情報を対象にしています。3人は60人以上の米国人の身分証明書を悪用し、リモートで米企業に勤務、北朝鮮の弾道ミサイル開発や兵器製造などを監督する北朝鮮の軍需工業部門と関連があるとされます)。さらに、IT技術者だけでなく、日本や中国などの制作会社が下請けに出したアニメーション作品の一部に、北朝鮮が関わっていたと報じられています(2024年6月4日付日本経済新聞)。米シンクタンクによると、北朝鮮のサーバからアニメーターへの指示とみられるデータが見つかったといい、「日本や中国のアニメが意図せず北朝鮮の資金源になっている構図が浮かび、間接的にでも北朝鮮当局に資金が渡ることで、国連安全保障理事会の制裁違反に問われる可能性がある」と指摘しています。2024年4月、米シンクタンクのスティムソン・センターなどは日本や中国で放映予定のアニメの制作指示や作業結果を含むファイルが、北朝鮮のクラウドサーバーから見つかったと発表、設定ミスでパスワードが無くてもファイルを確認できる状態だったといい、北朝鮮のアニメスタジオが制作に関与した可能性があるということです。国連安保理で北朝鮮制裁委員会専門家パネル委員を務めた竹内舞子氏は、「北朝鮮のIT労働者に給与を払うことで、IT労働者を海外派遣する軍需工業部に資金が渡り、国連安保理の制裁に違反する可能性が高い」と指摘しています。さらに、労働者が中国国内で活動している場合、加盟国に北朝鮮労働者の送還を求める安保理決議に違反する可能性もあります。「北朝鮮では海外との事業は政権に管理されている。外貨は大量破壊兵器開発に必要な物資の海外での調達に使用される可能性がある」と指摘していますが、正にCPFの観点から、どのような業種業態のサプライチェーンに絡んでくるか、十分注意する必要があることを痛感させられます。

金融庁と主要行等との間の定期的な意見交換会の状況について、直近のものを抜粋して紹介します(AML/CFTに関するものが中心ですが、それ以外の領域についても一部含んでいます)。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行等
  • 特殊詐欺捜査に係る都道府県警察との協力体制の構築について
    • 2023年中の特殊詐欺被害全体の認知件数は19,033件(前年比+1,463件)、被害額は441.2億円(同+70.4億円)となっており、還付金詐欺を含めた振込型特殊詐欺※においても認知件数、被害額ともに前年に比べ増加している。
      ※振込型特殊詐欺は、「還付金詐欺、オレオレ詐欺、架空料金請求詐欺、融資保証金詐欺、金融商品詐欺」が大半を占める。
    • 警察庁や各都道府県警から協力体制の構築について相談があった場合には、積極的に協力いただくようお願いしたい。
  • 保護観察対象者等の口座開設支援について
    • 2023年3月に閣議決定された第二次再犯防止推進計画を踏まえ、暴力団離脱者等の社会への復帰・定着を促進するため、法務省及び警察庁等と連携して預貯金口座の開設支援策の検討を行ってきた。
    • 今般、法務省に登録されている協力雇用主の下で就労し、責任ある社会の一員として社会復帰を目指す保護観察対象者等が、就労先から給与を受け取るための預貯金口座開設を申し込んだ場合において、過去に犯罪をしたことや非行のあったことのみを理由として排除されることがないよう、保護観察対象者等の預貯金口座の開設に向けた支援を行うよう、金融庁からも、2024年3月26日、各業界団体に対し「保護観察対象者等の口座開設支援について」について周知依頼した
    • 各金融機関においては、法務省が行う本支援の内容を周知していただくとともに、保護観察対象者等の預貯金口座の開設につき、本支援の趣旨を踏まえた判断がなされるようよろしくお願いしたい。なお、暴力団離脱者等の社会への復帰・定着を促進させるため、2022年2月に「暴力団離脱者の口座開設支援について」を要請しているところ、各金融機関においては、改めて同支援の内容も周知・徹底していただくようよろしくお願いしたい。
      (参考)第二次再犯防止推進計画(抄)(2023 年3月17日閣議決定)
    • Ⅲ今後取り組んでいく施策
    • 第4犯罪をした者等の特性に応じた効果的な指導の実施等のための取組
      1. 特性に応じた効果的な指導の実施等
        • (2)具体的施策
        • ②特性に応じた指導等の充実
        • ⅲ暴力団からの離脱、社会復帰に向けた指導等【施策番号 55】
          警察庁及び法務省は、警察・暴力追放運動推進センター等と矯正施設・保護観察所との連携を強化するなどして、暴力団員に対する暴力団離脱に向けた働き掛けの充実を図るとともに、離脱に係る情報を適切に共有する。
          また、警察庁、法務省等の関係省庁は連携の上、暴力団からの離脱及び暴力団離脱者等の社会への復帰・定着を促進するため、離脱・就労や預貯金口座の開設支援などの社会復帰に必要な社会環境・フォローアップ体制の充実を図る。【警察庁、金融庁、法務省】
  • 国連安保理決議の着実な履行について(北朝鮮関連)
    • 3月20日、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが、2023年7月から2024年1月にかけての国連加盟国による北朝鮮制裁の履行状況等の調査結果と国連加盟国への勧告を含む最終報告書を公表した。
    • 同報告書では、
      • 北朝鮮が暗号資産関連企業等へのサイバー攻撃を継続し、外貨の獲得源としていること
      • IT分野をはじめとして、在外北朝鮮労働者が北朝鮮による資金獲得に貢献していること
      • 北朝鮮による石油精製品の不正輸入が継続していること
    • 等の事案概要や、必ずしも制裁対象ではないが、こうした事案に関与している疑義がある会社名や個人名、船舶の名前について記載。
    • 同報告書を踏まえ、各金融機関においては、サイバーセキュリティ対策を徹底していただくとともに、安保理決議の実効性を確保していく観点から、報告書に記載のある企業や個人、船舶については、
      • 融資や付保などの取引が存在するかどうかに関する確認
      • 取引がある場合には、同報告書で指摘されている事案に係る当該企業・個人等への調査・ヒアリング
    • などをしっかりと行った上で、適切に対応いただきたい。
  • マネロン等対策に係る態勢整備結果の報告及び実態調査
    • 「マネロンガイドラインに基づく態勢整備」については、2021年4月の要請から3年が経過し、3月末に対応期限を迎えたところ。
    • こうした3年間の態勢整備状況については、「対応結果の報告」として、今月末を期限に報告を求めているところであり、マネロンガイドライン、同FAQ等に基づき、経営陣のリーダーシップの下でしっかりと自己点検を行った上で、忠実かつ詳細に報告いただきたい
    • また、本報告とは別に、マネロン等リスクの把握のため、各金融機関の取引データ等の報告を業法に基づき、年次でお願いしているところであり、2024年も、3月28日付で報告様式を送付したので、5月末までの提出をお願いしたい。金融庁としては、報告されたデータ等を集計・分析し、各金融機関等のマネロン等リスクに応じた検査・モニタリングを実施していきたい。

その他、AML/CFT等に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • インターネットバンキングの他人名義の口座から約2千万円を不正送金するのを手助けしたとして、警視庁サイバー犯罪対策課は、福島県白河市の派遣社員ら男3人を電子計算機使用詐欺ほう助の疑いで逮捕しています。報道によれば、3人の逮捕容疑は2023年9月13日、都内在住の男性名義の口座にかけられた出金停止の措置を解除するため、携帯電話を使って楽天銀行に電話をかけ措置を解除、同13~14日に何者かが3回に分けて約1996万円を別口座に不正送金するのをほう助した疑いがもたれています。事件直前の同9月3日、男性の口座への不審なログインを検知した楽天銀行側が口座からの出金を停止していたものですが、停止措置の解除には通常、契約者自身による本人確認が必要になるところ、3人は住所や生年月日といった個人情報などを用いて契約者の男性を装っていたといいます。非対面における本人確認の難しさをあらためて認識させられます。
  • 電力会社が持つ個人情報を活用して不正な預金口座の開設や悪用を防ぐ新しい取り組みが始まります。金融機関向けにマネロン対策サービスを手掛けるカウリスと関西電力傘下の関西電力送配電、東京きらぼしFGのデジタルバンク「UI銀行」が実証実験を始めています。不正な口座開設の防止に電力会社の個人情報を活用するのは国内で初めてで、ほかの金融機関や電力会社でも同様の取り組みが広がる可能性があります。犯罪者集団は本人確認用の免許証を偽造し、空き家の住所で銀行口座を開設してマネロンなどに悪用しているところ、電力会社の情報と照らし合わせ、名前や住所、連絡先が一致しているかどうかに加え、電力の使用状況から実際に居住しているかを確認することで不正目的の口座を減らすことが期待されています。さらに、開設後にネット上で犯罪者集団に口座が売却されるケースもあるため、既存口座も定期的に照合して情報を更新し、継続的な顧客管理につなげるとしています。カウリスは事業の適法性を確かめる「グレーゾーン解消制度」を使い、マネロン対策を目的に電力会社が持つ契約情報と口座情報を照合できるか確認、これまで金融機関に回答できる情報は空き家かどうかのみだったが、。経済産業省、個人情報保護委員会、国家公安委員会が2024年4月に、姓名や住所なども照合できるとの見解を示していたものです。冒頭のペーパーカンパニーを悪用した事件もそうですが、マネロンやヤミ金融、特殊詐欺といった犯罪では、不正に開設された口座が使われるケースが増えており、ペーパーカンパニーの・実体・実態確がより一層実効性をもつことによって、犯罪の認抑止につながることを期待したいところです。
  • 同姓同名で生年月日も同じ第三者になりすまして個人年金を解約し、払戻金を詐取したとして、京都府警中京署は、有印私文書偽造・同行使と詐欺の疑いで、無職の容疑者を逮捕しています。「自分の名義だと思っていた」と供述し、容疑を否認しているといいます。報道によれば、身に覚えのない個人年金の解約に気付いた男性が生命保険会社に事実関係を確認、その後、同社が解約を申し込んだ人物が契約者本人ではないことを把握し、同署に相談していたものです。

本人確認のあり方について総務省の有識者会議が議論しています。直近の資料から紹介します。

▼総務省 デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会 ワーキンググループ(第25回)配付資料
▼資料WG25-1-1 引き続き検討が必要な論点に関する今後の検討の進め方(案)
  • 自然人の本人確認方法
    • 本人確認書類の偽変造が大きな問題になっている現状を踏まえると、本人確認書類の券面の画像を確認する方法やその写しを確認する方法は廃止せざるを得ない。(鎮目構成員、山根構成員ほか)
    • マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化していくことについて同意。(鎮目構成員、沢田構成員、仲上構成員ほか)
    • 対面の場合においても、ICチップを確認する方法や電子証明書を確認する方法など、デジタル技術を活用した確認方法の導入に向けて検討を進めるべき。(辻構成員、山根構成員、DIPC、イオンリテール、日本通信ほか)
    • 利用者に対し、公的個人認証サービスなどのデジタル技術を活用した確認方法についてその意義や重要性をきちんと説明し、普及を進めるべき。(沢田構成員、辻構成員ほか)
    • 公的個人認証などのデジタル技術を活用した確認方法の普及に当たっては、事業者に準備コストがかかることから、支援が必要ではないか。(沢田構成員、イオンリテールほか)
    • 公的個人認証を利用する事業者・サービスが増えていけば、コストは低廉化していくのではないか。(DIPC)
    • デジタル技術を活用する本人確認においては、犯罪への悪用率が下がることから、不適正利用対策にもつながるのではないか。(日本通信)
  • 法人の本人確認方法
    • 登記情報提供サービスの登記情報を用いた方法の導入について検討すべきではないか。(楽天モバイル、山根構成員)
    • 法人の代表者等の本人確認において、電子証明書を活用する確認方法を導入すべきではないか。(日本通信)
  • 他の事業者への依拠
    • 犯収法で認められる金融機関への依拠の仕組みを導入してはどうか。(楽天モバイル)
    • 他事業者への依拠の導入に当たっては、信頼性を確保するため、身元確認レベルを合わせるべきではないか。(大谷構成員、辻構成員、鎮目構成員ほか)
    • 金融機関に依拠するとした場合、責任のあり方について留意すべき。(沢田構成員、山根構成員)
    • 他事業者への依拠の仕組みを導入する際には、より確実な本人確認方法を用いて確認した実績に基づいて、依拠を行うべきではないか。(大谷構成員、辻構成員ほか)
    • 公的個人認証で本人確認を実施済みの事業者に対して、適切な当人認証を行った上で依拠するのであれば、事業者・利用者にとって負担の少なく利便性の高い本人確認が実現できるのではないか。(DIPC)
    • 携帯電話事業者間の依拠については、業界全体として、本人確認が適切な方法で行われることが前提となるため、それを踏まえて検討すべき。(星構成員、中原構成員ほか)
    • 携帯電話不正利用防止法と犯罪収益移転防止法の確認方法の整合性をはかりながら検討すべき。(辻構成員ほか)
  • その他の論点
    • 携帯電話が社会のハブとなっており、携帯電話自体が運転免許証と同じような存在になってきていることから、信頼性を確保する必要がある。(星構成員)
    • 本人確認書類の写しや画像データの保存については、プライバシーの観点に加えて、漏洩した場合に更に不適正利用されてしまうリスクという観点でも、将来的には検討が必要。(沢田構成員)
    • 警察からの求めによる契約者確認の仕組み自体が十分に機能しているかは、常に検証していく必要があるのではないか。(中原構成員)
    • 本人確認義務の対象範囲について、将来的には検討していくべき。(星構成員)
    • eコマースやSNSのアカウント登録の際に行う本人確認についても、公的個人認証などのデジタル技術を活用する本人確認方法が低コストで使える形で普及するとよい。(沢田構成員)
    • デジタル技術の活用が難しい高齢者等の利用者への対応や災害時(通信障害時)の対応として、別の方法を準備するのではなく、デジタル化した方法に対応できるよう、サポートが必要ではないか。(沢田構成員)
  • 検討すべき論点
    1. 自然人の本人確認方法(規則第3条第1項第1号)
      1. 非対面
        • 写しの送付+転送不要郵便方式の廃止(規則§3(1)①ヘ)
        • eKYC厚み方式の廃止(規則3(1)①ハ)
        • 特定事項伝達型本人限定受取郵便(§3(1)①ト)における電子的な確認方法
      2. 対面
        • 対面提示(規則§3(1)①イ)における電子的な確認方法の導入
        • ICチップを読み取る方法(真贋判定機、券面事項表示ソフトウェア等)
        • 電子証明書を確認する方法
        • スマートフォンに格納された本人確認情報(カード代替電磁的記録)を活用する方法
      3. 非電子的方法
        • 対面における非電子的方法(代替手段)の在り方
        • 原本送付+転送不要郵便方式(規則§3(1)①ホ)の取扱い
    2. 法人の本人確認方法(規則第3条第1項第2号)
      1. 登記情報提供サービスとの連携による確認方法の導入
        • (参考)犯罪収益移転防止法施行規則第6条第1項第3号ロ
          • ロ 当該法人の代表者等から当該顧客等の名称及び本店又は主たる事務所の所在地の申告を受け、かつ、電気通信回線による登記情報の提供に関する法律(平成十一年法律第二百二十六号)第三条第二項に規定する指定法人から登記情報(同法第二条第一項に規定する登記情報をいう。以下同じ。)の送信を受ける方法(当該法人の代表者等(当該顧客等を代表する権限を有する役員として登記されていない法人の代表者等に限る。)と対面しないで当該申告を受けるときは、当該方法に加え、当該顧客等の本店等に宛てて、取引関係文書を書留郵便等により、転送不要郵便物等として送付する方法)
      2. その他電子的な確認方法の検討(例:gBizID等)
    3. その他の確認方法(規則第3条第2項~第5項)
      • 既契約者と契約を締結する際の確認方法の在り方
      • 当人認証レベルの確保の在り方
      • 継続的顧客管理との連携(住所変更の確認記録への反映等)
    4. 代表者等の本人確認方法(規則第4条)
      • 自然人の本人確認と同様の見直し
      • 電子証明書を確認する方法の導入
      • 既契約者(法人)と契約を締結する際の確認方法の在り方
    5. 他の事業者への依拠の在り方
      • 引き落とし先の銀行の本人確認への依拠
      • 決済手段のクレジットカードの本人確認への依拠
      • 他の携帯音声通信事業者の本人確認への依拠
      • MNPの際の転出元の本人確認との連携
      • 身元確認レベル/当人認証レベルの確保の在り方
    6. 公的個人認証等で確認済みであることの確認
      • 公的個人認証で本人確認を実施済みの事業者(PF事業者・SP事業者)への依拠
      • 当人認証レベルの確保の在り方
    7. 自然人の本人確認書類(規則第5条第1項第1号)
      • ICチップの有無による本人確認書類の取扱い
      • 写真のない本人確認書類の取扱い
      • 原本送付方式に使用可能な本人確認書類の取扱い
    8. 本人確認記録(規則第8条)
      • 継続的顧客管理との連携(住所変更の確認記録への反映等)
    9. 本人確認に用いた書類等の保存(規則第10条)
      • 電子的確認方法における保存の在り方
    10. 譲渡時本人確認の方法(規則第11条)
      • 役務提供契約締結時の確認方法と同様の見直し
    11. 契約者確認の方法(規則第13・14条)
      • 電子的な確認方法の導入
      • 遠隔地居住の際の確認方法の在り方
    12. 貸与時本人確認の方法(規則第19・20条)
      • 役務提供契約締結時の確認方法と同様の見直し

(2)特殊詐欺を巡る動向

警察庁から、2023年(令和5年)の特殊詐欺認知・検挙状況等の確定値版が公表されていますので、以下、紹介します。

▼警察庁 特殊詐欺認知・検挙状況等(令和5年・確定値)について(広報資料)
  1. 特殊詐欺の認知状況
    1. 認知状況全般
      • 令和5年の特殊詐欺の認知件数(以下「総認知件数」という。)は19,038件(+1,468件、+8.4%)、被害額は452.6億円(+81.8億円、+22.0%)と、前年に比べて総認知件数及び被害額は共に増加。
      • 被害は大都市圏に集中しており、東京の認知件数は2,918件(-300件)、大阪2,656件(+592件)、神奈川2,025件(-65件)、愛知1,357件(+377件)、埼玉1,336件(-51件)、千葉1,310件(-147件)及び兵庫1,224件(+150件)で、総認知件数に占めるこれら7都府県の合計認知件数の割合は67.4%(-2.5ポイント)。
      • 1日当たりの被害額は1億2,399万円(+2,240万円)。
      • 既遂1件当たりの被害額は243.8万円(+25.2万円、+11.5%)
    2. 主な手口別の認知状況
      • オレオレ詐欺、預貯金詐欺及びキャッシュカード詐欺盗(以下3類型を合わせて「オレオレ型特殊詐欺」と総称する。)の認知件数は8,926件(-798件、-8.2%)、被害額は201.8億円(-3.3億円、-1.6%)で、総認知件数に占める割合は46.9%(-8.5ポイント)。
        • オレオレ詐欺は、認知件数3,955件(-332件、-7.7%)、被害額133.5億円(+4.1億円、+3.2%)と、認知件数は減少するも、被害額は増加し、総認知件数に占める割合は20.8%(-3.6ポイント)。
        • 預貯金詐欺は、認知件数2,754件(+391件、+16.5%)、被害額38.5億円(+9.6億円、+33.1%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は14.5%(+1.0ポイント)。
        • キャッシュカード詐欺盗は、認知件数2,217件(-857件、-27.9%)、被害額29.8億円(-17.0億円、-36.4%)と、いずれも減少し、総認知件数に占める割合は11.6%(-5.9ポイント)。
      • 架空料金請求詐欺は、認知件数5,198件(+2,276件、+77.9%)、被害額140.4億円(+38.6億円、+37.9%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は27.3%(+10.7ポイント)。
      • 還付金詐欺は、認知件数4,185件(-494件、-10.6%)、被害額51.3億円(-2.4億円、-4.4%)と、いずれも減少し、総認知件数に占める割合は22.0%(-4.6ポイント)。
    3. 主な被害金交付形態別の認知状況
      • 現金手交型の認知件数は3,421件(-560件、-14.1%)、被害額101.4億円(-28.6億円、-22.0%)と、いずれも減少し、総認知件数に占める割合は18.0%(-4.7ポイント)。
      • キャッシュカード手交型の認知件数は3,035件(+364件、+13.6%)、被害額は47.8億円(+8.0億円、+20.1%)と、いずれも増加。一方、キャッシュカード窃取型の認知件数は2,217件(-857件、-27.9%)、被害額は29.8億円(-17.0億円、-36.4%)と、いずれも減少。両交付形態を合わせた認知件数の総認知件数に占める割合は27.6%(-5.1ポイント)。
      • 振込型の認知件数は6,496件(+438件、+7.2%)、被害額は195.2億円(+90.0億円、+85.5%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は34.1%(-0.4ポイント)。
      • 現金送付型の認知件数は438件(+119件、+37.3%)、被害額は49.5億円(+10.9億円、+28.3%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は2.3%(+0.5ポイント)。
      • 電子マネー型の認知件数は3,370件(+1,954件、+138.0%)、被害額は21.5億円(+11.5億円、+116.1%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は17.7%(+9.6ポイント)。
    4. 高齢者被害の認知状況
      • 高齢者(65歳以上)被害の認知件数は14,895件(-219件、-1.4%)で、法人被害を除いた総認知件数に占める割合は78.4%(-8.2ポイント)。65歳以上の高齢女性の被害認知件数は10,661件で、法人被害を除いた総認知件数に占める割合は56.1%(-10.1ポイント)。
    5. 欺罔手段に用いられたツール
      • 被害者を欺罔する手段として犯行の最初に用いられたツールは、電話77.5%、ポップアップ表示12.2%、メール・メッセージ9.1%、はがき・封書等1.1%と、電話による欺罔が8割近くを占めている。
      • 主な手口別では、オレオレ型特殊詐欺及び還付金詐欺では99.9%が電話。架空料金請求詐欺ではポップアップ表示が43.7%、電話が30.0%、メール・メッセージが25.5%。
    6. 予兆電話
      • 警察が把握した、電話の相手方に対して、住所や氏名、資産、利用金融機関等を探るなどの特殊詐欺が疑われる電話(予兆電話)の件数は131,868件(+11,424件、+9.5%)で、月平均は10,989件(+952件、+9.5%)と増加。
      • 都道府県別では、東京が26,130件と最も多く、次いで埼玉12,824件、大阪12,573件、千葉11,572件、愛知8,590件、神奈川8,173件、兵庫5,693件の順となっており、予兆電話の総件数に占めるこれら7都府県の合計件数の割合は64.9%。
  2. 特殊詐欺の検挙状況
    1. 検挙状況全般
      • 令和5年の特殊詐欺の検挙件数は7,212件(+572件、+8.6%)、検挙人員(以下「総検挙人員」という。)は2,455人(-3人、-0.1%)と検挙件数が増加。
      • 手口別では、オレオレ詐欺の検挙件数は2,126件(+355件、+20.0%)、検挙人員は973人(+6人、+0.6%)と、いずれも増加。還付金詐欺の検挙件数は1,057件(-4件、-0.4%)、検挙人員は199人(+13人、+7.0%)と検挙人員が増加。
      • 中枢被疑者の検挙人員は49人(+8人)で、総検挙人員に占める割合は2.0%。
      • 受け子や出し子、それらの見張り役の検挙人員は1,856人(-61人)で、総検挙人員に占める割合は75.6%。
      • このほか、特殊詐欺に由来する犯罪収益を隠匿、収受した組織的犯罪処罰法違反で356件(+219件)、127人(+109人)検挙。
      • また、預貯金口座や携帯電話の不正な売買等の特殊詐欺を助長する犯罪を、3,863件(+222件)、2,818人(+47人)検挙。
    2. 暴力団構成員等の検挙状況
      • 暴力団構成員等の検挙人員は439人(+5人、+1.2%)で、総検挙人員に占める割合は17.9%。
      • 暴力団構成員等の検挙人員のうち、中枢被疑者は26人(+9人、+52.9%)であり、出し子・受け子等の指示役は19人(+7人、+58.3%)、リクルーターは74人(-5人、-6.3%)。また、中枢被疑者の総検挙人員に占める暴力団構成員等の割合は53.1%と、依然として暴力団が主導的な立場で特殊詐欺に深く関与している実態がうかがわれる。
      • このほか、現金回収・運搬役としては42人(+3人、+7.7%)、道具調達役としては6人(-5人、-45.5%)を検挙。
        • 匿名・流動型犯罪グループの動向と警察の取組
          • 近年、暴力団とは異なり、SNSを通じるなどした緩やかな結び付きで離合集散を繰り返す犯罪グループが特殊詐欺等を広域的に敢行するなどの状況がみられ治安対策上の脅威となっている。
          • これらの犯罪グループは、そのつながりが流動的であり、また、匿名性の高い通信手段等を活用しながら役割を細分化したり、特殊詐欺等の違法な資金獲得活動によって蓄えた資金を基に、更なる違法活動や風俗営業等の事業活動に進出したりするなど、その活動実態を匿名化・秘匿化する状況がみられる。
          • こうした情勢を踏まえ、警察では、準暴力団を含むこのような集団を「匿名・流動型犯罪グループ」と位置付け、実態解明・取締りを進めている。
          • (検挙事例) 令和4年5月に発生した特殊詐欺グループ内でのトラブルを発端とした監禁事件の捜査を端緒として、同グループのリーダーの男(25)がSNSを利用するなどして実行犯を募集した上、高齢者のキャッシュカードを別のカードにすり替えて窃取するなどの手口で特殊詐欺事件を広域的に敢行していた実態を解明し、令和5年5月までに、同男ら37人を窃盗罪等で逮捕した(大阪、滋賀及び奈良)。
    3. 少年の検挙状況
      • 少年の検挙人員は431人(-42人、-8.9%)で、総検挙人員に占める割合は17.6%。少年の検挙人員の71.9%が受け子(310人)で、受け子の総検挙人員(1,565人)に占める割合は19.8%と、受け子の5人に1人が少年。
    4. 外国人の検挙状況 資料13、14
      • 外国人の検挙人員は122人(-23人、-15.9%)で、総検挙人員に占める割合は5.0%。外国人の検挙人員の54.1%が受け子(66人)で、23.8%が出し子(29人)。
      • 国籍別では、中国47人(38.5%)、ベトナム29人(23.8%)、韓国14人(11.5%)、フィリピン7人(5.7%)、タイ6人(4.9%)、ペルー5人(4.1%)、ブラジル5人(4.1%)、インドネシア2人(1.6%)、その他7人(5.7%)。
    5. 架け場等の摘発状況
      • 犯行グループが欺罔電話をかけたり、出し子・受け子らグループのメンバーに指示を出したりする架け場等の犯行拠点について、国内では15箇所を摘発(-5箇所)。
      • また、海外におけるこれらの拠点を外国当局が摘発し、日本に移送して検挙した人員については、令和5年中69人となっている。
    6. 主な検挙事件
      • 令和5年2月から5月にかけて、フィリピン共和国に拠点を置いた特殊詐欺(キャッシュカード詐欺盗)事件の首謀者等とみられる4人を含む被疑者9人を、同国を退去強制後に順次逮捕(警視庁ほか)。
      • 令和5年4月、カンボジア王国に拠点を置いた特殊詐欺(架空料金請求詐欺)事件の被疑者19人を、同国を退去強制後に逮捕(警視庁ほか)。
      • 令和4年3月から5年6月にかけて、特殊詐欺(架空料金請求詐欺)事件の拠点を摘発し、6人を逮捕するとともに、犯行に利用されたIP電話回線を提供した事業者の経営者ら7人を逮捕(埼玉)。
      • 令和5年5月、特殊詐欺(架空料金請求詐欺)事件の被害金で購入された暗号資産を日本円に換金して隠匿していた事業者の経営者ら3人を逮捕(愛知)。
      • 令和4年2月に認知した特殊詐欺(還付金詐欺等)事件の被疑者として指定暴力団太州会傘下組員ら11人を順次逮捕するとともに、令和5年7月、中枢被疑者を逮捕(大分)。
        • 特殊詐欺に係る広域的な捜査連携の強化
          • 特殊詐欺は、全国各地で被害が発生しているにもかかわらず、その被疑者や犯行拠点の多くは首都圏をはじめとした大都市に所在していることが多く、捜査範囲が広域にわたることから、捜査をいかに効率的に行うかが課題になっていた。
          • 全国警察が一体となり効率的に捜査を進め、上位被疑者の検挙や犯行拠点の摘発につなげるため、令和6年4月から、他府県からの依頼を受けて管轄区域内の捜査を行う「特殊詐欺連合捜査班」(TAIT(タイト):Telecom scam Allianced Investigation Team)が各都道府県警察に構築されることとなり、令和5年12月、全国特殊詐欺取締主管課長等会議においてその方針が示された。
  3. 特殊詐欺予防に向けた取組
    1. 広報啓発活動の推進
      • 杉良太郎警察庁特別防犯対策監をはじめ、幅広い世代に対して高い発信力を有する著名な方々により結成された「ストップ・オレオレ詐欺47~家族の絆作戦~」プロジェクトチーム(SOS47)による広報啓発活動を、公的機関、各種団体、民間事業者等の幅広い協力を得ながら展開。
      • 令和5年中においても、特殊詐欺被害防止に向けた取組を国民運動として定着させるべく、都道府県警察とも連携の上、特殊詐欺をめぐる情勢に応じた機動的な広報啓発を継続的に展開。具体的には、「緊急対策プラン」にも掲げられた「実行犯を生まないための対策」としてSOS47のメンバーによる中学校・高校・大学訪問を実施し、SNS上で犯罪実行役を募集する投稿の危険性等について生徒に直接周知・発信。また、同プランにおける「被害に遭わないための対策」等の周知・実践を強力に働き掛けるため、SOS47のメンバーが地域住民や銀行、コンビニ等の他機関と共催された各種広報行事等に参加したり、ラジオ等の各種メディアへ出演したりすることにより、具体的な被害防止対策を周知・発信。
      • さらに、被害が増加している手口を捉えた啓発用動画や各都道府県出身の著名人を起用した啓発動画(「ご当地動画」)等を制作し、各種SNS等や都道府県警察において活用。
    2. 関係事業者と連携した対策の推進
      • 金融機関の窓口において高齢者が高額の払戻しを認知した際に警察に通報するよう促したり、コンビニエンスストアにおいて高額又は大量の電子マネー購入希望者等に対する声掛けを働き掛けたりするなど、金融機関やコンビニエンスストア等との連携による特殊詐欺予防対策を強化。この結果、関係事業者において、22,346件(+3,616件、+19.3%)、71.7億円(-8.5億円、-10.6%)の被害を阻止(阻止率54.6%、+2.1ポイント)。
      • キャッシュカード手交型とキャッシュカード窃取型への対策として、警察官や金融機関職員等を名のりキャッシュカードを預かる又はすり替えるなど具体的な手口の積極的な広報を推進。また、金融機関に預貯金口座のモニタリングを強化する取組や高齢者口座のATM引出限度額を少額とする取組(ATM引出制限)等を推進(令和5年12月末現在、43都道府県、258金融機関)。
      • 還付金詐欺への対策として、金融機関に対し、一定年数以上にわたってATMでの振込実績がない高齢者のATM振込限度額をゼロ円又は極めて少額とする取組(ATM振込制限)(令和5年12月末現在、47都道府県、411金融機関)や窓口に誘導して声掛けを行うようにするなどの働き掛けを推進。また、金融機関と連携しつつ、還付金詐欺の手口に注目した「ストップ!ATMでの携帯電話」運動を全国で実施。
      • 現金送付型への対策として、宅配事業者に対し、過去に犯行に使用された被害金送付先のリストを提供し、これを活用した不審な宅配の発見や警察への通報等を要請するとともに、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会に対して、警察庁作成にかかる「空き家(空き部屋)悪用対策シール」を配付し、シールの活用による空き家(空き部屋)の悪用防止を働き掛ける取組を推進。このほか、コンビニエンスストアに対し、高齢者からの宅配便の荷受け時の声掛け・確認等の推進を要請。
      • 電子マネー型への対策として、コンビニエンスストアと連携し、高額の電子マネーを購入しようとする客への声掛け、購入した電子マネーのカード等を入れる封筒への注意を促す文言の記載、発行や申込みを行う端末機の画面での注意喚起等を推進。このほか、電子マネー発行会社に対して、不正な方法によって入手された電子マネーカードの利用を停止するなどの対策強化を働き掛ける取組を推進。
      • SNSを利用した受け子等の募集の有害情報への対策として、特殊詐欺に加担しないよう呼び掛ける注意喚起の投稿や、受け子等を募集していると認められる投稿に対して、返信機能(リプライ)を活用した警告等を実施(令和5年12月末現在、28都道府県)。
        • 「実行犯を生まない」ための対策~犯罪実行者募集への対処~
          • 警察庁では、令和5年1月から同年7月末までに検挙した被疑者を対象として、その供述や証拠から受け子等になった経緯を集計したところ、「SNSから応募」が約半数を占めている実態が判明した。
          • 犯罪実行者募集の投稿については、従来から一部の都道府県警察において、事業者に対する削除依頼、返信(リプライ)機能を活用した投稿者等に対する個別警告及び実行犯募集に応募しようとしていることがうかがわれる者への注意喚起を推進しているところ、令和5年7月、人身安全・少年課では、少年が、社会的に「闇バイト」と表現されることがある犯罪実行者募集への応募をきっかけに犯行グループに使い捨てにされ、検挙されるまでの実態を取りまとめた「犯罪実行者募集の実態」を公表して、非行防止教室等の場を活用するなどして少年が特殊詐欺等に加担してしまうことなどがないよう広報啓発を強化している。
          • また、同年9月、警察庁の委託事業であるインターネット・ホットラインセンター及びサイバーパトロールセンターにおいて、その取扱情報の範囲に犯罪実行者募集情報を追加し、当該情報の排除に向けた取組を推進している。
    3. 防犯指導等の推進
      • 特殊詐欺等の捜査過程で押収した名簿を活用し、同名簿に載っていた人に電話するなど注意を喚起する取組を推進。
      • 高齢者が犯人からの電話に出ないようにするために、固定電話の防犯機能強化に向けた対策を推進。具体的には、自動通話録音、警告音声、迷惑電話番号からの着信拒否等の機能を有する機器の設置、相手の電話番号を表示するナンバー・ディスプレイ等の導入や留守番電話の設定を通じ、知らない番号からの電話に出ない、国際電話番号の利用を休止するなどの対策を呼び掛ける取組を推進。
      • 地方創生臨時交付金における「重点支援地方交付金」の推進事業メニューに防犯性能の高い建物部品・固定電話機・防犯カメラの設置等が含まれていることを受け、同交付金を活用した防犯対策が適切に実施されるよう、地方公共団体との連携を推進。
        • 「被害に遭わない環境を構築する」ための対策~高齢者の自宅電話に犯罪グループ等から電話がかかることを阻止するための方策の推進~
          • 特殊詐欺として被害届を受理したもののうち、犯人側が被害者側に接触する最初の通信手段は77.5%が電話で、そのうちの90.5%が被害者の固定電話に対する架電であることが判明している。
          • NTT東日本・西日本では、特殊詐欺被害防止のため、令和5年5月から70歳以上の契約者及び70歳以上の方と同居する契約者の回線を対象に、ナンバー・ディスプレイ契約、ナンバー・リクエスト契約を無償化等する取組を実施しており、都道府県警察では、各種警察活動を通じて周知に向けた取組を行うとともに、その利用に向けた具体的な支援を行うなど、犯人側から電話がかかることを阻止するための方策を強力に推進している。
          • この結果、特殊詐欺への抑止効果が見込まれるナンバー・リクエスト契約数が、令和5年12月末時点で、前年同期に比べて約20万件増加(+150%)。
          • また、令和5年7月以降、国際電話番号を利用した特殊詐欺が急増しているところ、国際電話に関しては、KDDI株式会社、NTTコミュニケーションズ株式会社及びソフトバンク株式会社の国際電話三社が共同で運用している「国際電話不取扱受付センター」(連絡先0120-210-364)に申込めば、固定電話・ひかり電話を対象に国際電話番号からの発着信を無償で休止できる。都道府県警察では、同センターの周知及び申込み促進に向けた取組を行うとともに、手続が煩雑等の理由で申込みを控える高齢者世帯等に対しては、警察において可能な支援を行うなどの取組を行っている。
  4. 犯行ツール対策
    • 主要な電気通信事業者に対し、犯行に利用された固定電話番号等の利用停止及び新たな固定電話番号の提供拒否を要請する取組を推進。令和5年中は固定電話番号880件、050IP電話番号7,372件が利用停止され、新たな固定電話番号等の提供拒否要請を6件実施。
    • 令和5年7月から、悪質な電話転送サービス事業者が保有する「在庫番号」を一括利用停止する仕組みの運用を開始。新規番号の提供拒否対象契約者等が保有する固定電話番号等の利用停止等要請を4事業者に行い、在庫番号3,270番号を利用停止。
    • 犯行に利用された固定電話番号を提供した電話転送サービス事業者に対する犯罪収益移転防止法に基づく報告徴収を3件、総務省に対する意見陳述を3件実施。
    • 犯行に利用された携帯電話(仮想移動体通信事業者(MVNO)が提供する携帯電話を含む。)について、携帯電話事業者に対して役務提供拒否に係る情報提供を推進(3,042件の情報提供を実施)。
    • 犯行に利用された電話番号に対して、繰り返し電話して警告メッセージを流すことで、その番号の電話を事実上使用できなくする「警告電話事業」を推進。
    • 総務省は、令和5年8月、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律施行規則を改正する省令を公布し、令和6年4月から050アプリ電話についても同法に基づく役務提供契約締結時の本人確認を義務化。
  5. 今後の取組
    • 令和6年4月から、特殊詐欺連合捜査班(TAIT)を各都道府県警察に構築し、全国警察が一体となった迅速かつ効果的な捜査を推進。
    • 特殊詐欺に深く関与している暴力団や匿名・流動型犯罪グループの実態解明と、あらゆる刑罰法令を駆使した戦略的な取締りを推進。
    • 海外拠点に関連する情報の一層の収集及び集約を行うとともに、外国当局との国際捜査共助を推進し、海外拠点の積極的な摘発を推進。
    • 「緊急対策プラン」等に基づき、関係行政機関・事業者等と連携しつつ、特殊詐欺等の撲滅に向け、取締り、被害防止対策、犯行ツール対策を強力に推進

あわせて、警察庁から、2024年(令和6年)1月~3月におけるSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について公表されましたので、以下、紹介します。

▼警察庁 令和6年1月~3月におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について
  1. 概要
    • 令和6年1月から3月末までに都道府県警察が認知したSNS型投資・ロマンス詐欺に係る被害発生状況及び同期間におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の検挙状況について調査し(※)、取りまとめたもの。(※)調査は、以下の分類に基づいて実施
    • SNS型投資詐欺
      • SNS等を通じて対面することなく、交信を重ねるなどして関係を深めて信用させ、投資金名目やその利益の出金手数料名目などで金銭等をだまし取る詐欺(SNS型ロマンス詐欺に該当するものを除く。)
    • SNS型ロマンス詐欺
      • SNS等を通じて対面することなく、交信を重ねるなどして関係を深めて信用させ、恋愛感情や親近感を抱かせて金銭等をだまし取る詐欺(令和5年調査は、相手方が外国人又は海外居住者を名乗ったものを調査対象として実施。)
  2. 認知状況(令和6年1月~3月)
    • SNS型投資詐欺 認知件数 1,700件 被害額 約219.3億円
    • SNS型ロマンス詐欺 認知件数 603件 被害額 約60.6億円
    • 合計 認知件数 2,303件 被害額 約279.8億円
    • いずれも前年同期比で大幅に増加。
    • 特に、SNS型投資詐欺については、認知件数及び被害額共に、昨年下半期に引き続き急増。
    • SNS型ロマンス詐欺の認知件数についても、昨年下半期からの増加傾向が継続。被害額についても、引き続き高い水準で推移。
    • 1件当たりの平均被害額については、SNS型投資詐欺は約1,300万円であり、SNS型ロマンス詐欺は約1,000万円となっている。
    • 被害最高額については、SNS型投資詐欺は4億5,000万円、SNS型ロマンス詐欺は約1億2,000万円となっている
    • 500万円以下の被害が多い。男女間で被害額の傾向に大きな差はない
    • 男性の被害がやや多い
    • 被害者の年齢層については、SNS型投資詐欺は男女共に50~60歳代が半数を超え、SNS型ロマンス詐欺は男性50~60歳代、女性40~50歳代が半数を超えている。
    • 被害者との当初の接触手段については、SNS型投資詐欺はバナー等広告が約半数、SNS型ロマンス詐欺はダイレクトメッセージが約6割を占めている。
    • 詐称した身分(地域)は日本を含めアジア系が多い。詐称した職業は、投資家や著名人が約半数
    • 当初の接触ツールは、男女ともにインスタグラム、LINE、フェイスブックで約6割に上るが、その内訳は男女間で異なる
    • その後、連絡ツールを移行させ、預貯金口座への振込により詐取するケースが多い
    • SNS型ロマンス詐欺においても、詐取の名目は投資が7割以上を占めている。
    • ダイレクトメッセージが当初の接触手段の6割以上
    • 恋愛感情等を抱かせた上で、大半が投資話を持ち掛け、金銭等を詐取している
  3. 検挙状況(令和6年1月~3月)
    • SNS型投資詐欺 検挙件数 5件 検挙人員 4人
    • SNS型ロマンス詐欺 検挙件数 4件 検挙人員 5人
    • 合計 検挙件数 9件 検挙人員 9人
  4. 今後の対策
    • 警察庁及び都道府県警察においては、令和6年3月に、SNS型投資・ロマンス詐欺への対策を抜本的に強化したところであり、引き続き、全国警察が一体となり、捜査と抑止を両輪とする総合的対策を強力に推進していく

前述のとおり、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺が急増している深刻な状況にあり、金融庁、国民生活センターから注意喚起がなされています。

▼金融庁 SNS・マッチングアプリ等で知り合った者や著名人を騙る者からの投資勧誘等にご注意ください!
  • SNSやマッチングアプリ等を通じて知り合った者から、暗号資産やFXなどの投資商品の投資勧誘を受けて投資したところ、「返金を申し出ても返金されない」「(相手に送金後に)相手と連絡が取れなくなった」などという相談が多く寄せられています。
  • 同様に、著名人を騙るSNS上の広告等を通じて投資を行った結果、出金できなくなった等の相談も寄せられています。
  • 著名人を騙るSNS上の広告等を通じた投資勧誘の主な手口
    1. SNS(Facebook、Instagram等)上の偽アカウント・偽広告は著名人のアカウント・広告を装います。偽アカウント・偽広告は公式アカウントやウェブサイトで掲載されている写真を無断転載したりして本人を名乗ることもあります。
    2. SNS(Facebook、Instagram等)上の偽広告やURLをクリックすると、LINEのグループへの参加や詐欺サイトへのアクセスを誘導されます。また、個人のLINEアカウントやSMSに突然連絡が来るケースも確認されています。多くの場合に犯人グループと個人間のやり取りに持ち込もうとしてきます。
    3. LINEのグループに参加した場合には、グループ内で特定の銘柄の投資勧誘が行われたり、口座開設や入金を要求されます。LINEのグループ内では、犯人たちが複数のアカウントを使って投資が成功しているそぶりを見せて、参加者が投資を行いたくなるように仕向けるケースもあります。このとき、個人名義の口座に入金を指示されるケースもあります。
    4. その後、しばらくは利益が出たように装うこともありますが、安心して高額な入金をした後に連絡が取れなくなったり、出金時に高額な手数料や税金の支払いといった名目の口座入金を要求され、入金した直後に連絡が取れなくなることもあります。
  • こうした投資勧誘を受けた場合には、冷静にご対応いただくとともに、取引をする業者が暗号資産交換業や金融商品取引業の登録等を受けているか、「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」にてご確認ください
  • SNS・マッチングアプリ等を通じて知り合った者や著名人を騙る者からの投資勧誘に応じてしまい不安に思った場合や、トラブルに遭った場合は、金融庁金融サービス利用者相談室に情報をお寄せ頂くとともに、最寄りの警察署にご相談ください。
▼国民生活センター SNSをきっかけとして、著名人を名乗る、つながりがあるなどと勧誘される金融商品・サービスの消費者トラブルが急増-いったん振込してしまうと、被害回復が困難です!-
  • SNSをきっかけとして、著名人を名乗ったり、つながりを示したりして投資を勧誘されたという消費者トラブルが急増しています。「○○(著名人)が主催する投資の勉強会」「○○(著名人)が投資のノウハウを教える」「○○(著名人)と知り合いで儲かる」などと勧誘し、投資名目で振込をしたものの、「追加費用を支払わないと出金できないと言われた」「相手と連絡が取れなくなった」などといった被害が発生しています。
  • こういった相談が、全国の消費生活センター等に寄せられており、2022年度と比べて約9.6倍と急増しています。また、平均契約購入金額も高額化しています。SNS上の広告をきっかけに投資グループに誘われることが多く、いったん振込してしまうと被害回復が難しいといった特徴があります。同種のトラブル防止のため、相談事例を紹介し、消費者への注意喚起を行います。
  • 年度別相談件数:2021年度は52件、2022年度は170件、2023年度1,629件、2024年度は4月30日までで84件です。
  • 年度別平均契約購入金額:2021年度は436万円、2022年度は234万円、2023年度は687万円です。
  • 相談事例
    1. 有名経済評論家の投資相談に参加したところ、アシスタントを名乗る人に次々に投資を勧められ、総額1,500万円を振り込んだが出金できない
      • 母から相続した資産で投資をしようと考えていたところ、有名経済評論家が主催する投資相談のSNS広告が表示され、100万円が1億円になったとの体験談が掲載されていたので興味を持ち、メッセージアプリへ登録した。すると有名経済評論家のアシスタントを名乗る人からメッセージが届き、海外株が短期で値上がりすると投資話を持ちかけられた。有名経済評論家が言うことなら信用できると思い100万円を振り込んだ。すると後日「100万円では利益が少ない。追加で100万円を振り込むように」とメッセージが届き、別の銀行口座へ振り込んだ。
      • 1週間後、「もっと利益が高い投資がある。経済評論家の先生へメッセージを送ってください」と連絡があり、別の銀行口座へ750万円と50万円を振り込んだ。さらにその2週間後、短期投資の話を持ち掛けられて250万円を2回、計500万円を新たな指定口座へ振り込んだ。
      • その後、運用状況で確認すると6,000万円の利益があったので資金を引き出したいと申し出たところ、出金手数料900万円と、運用している海外の株式市場に税金1,300万円を支払わないと出金できないと言われた。(2024年1月受付 60歳代 女性)
    2. その他、以下のような相談も寄せられています
      • 有名投資家がノウハウを発信すると謳っていたが、その有名投資家は関与しないものだったうえ、投資額を勝手に決められて違約金も請求された。
      • 「絶対に負けない投資家を知っていて自分も投資で儲かった」という有名投資家の姪から勧められてFX取引を始めたが、連絡が取れなくなった。
  • 相談事例から見る問題点
    1. 「著名人が投資を勧めている」「著名人と知り合い」など、著名人の知名度や実績、権威を悪用した勧誘が横行している
      • 投資に対する不安を払しょくするため、著名人の知名度や実績、権威を悪用して勧誘しているものと考えられます。著名な投資家や経済学者等を名乗っていても、本人に無断で写真や氏名等を使用した勧誘が横行しています。消費者がそういった勧誘内容の真偽を判断することは難しく、言われるがままに投資名目で振り込んでしまう事例が多く見受けられます。
    2. SNS上の広告について、広告審査が充分に機能しているとは評価しにくい
      • 無登録で金融商品取引業を行うなど、違法な広告については各SNS運営事業者が削除すべきですが、消費者トラブルの現状からは、各SNS運営事業者の広告審査が充分に機能していると評価することは難しく、現状においては消費者自身が自衛する必要があります。
    3. 「投資」として振り込むため、高額になりやすい
      • 通常の売買契約とは異なり、「投資」として振り込むことに加え、「儲かる」「お金が増える」などと言われるため、消費者には振込額以上のお金が得られることに対する期待があります。そのため、比較的大きな金額を支払っているケースが多く、平均契約購入金額が約644万円と高額になっています。
  • 消費者へのアドバイス
    • SNS上で勧誘を受けた場合は、まず疑ってみるようにしましょう。
    • 投資資金の振込先に個人名義の口座を指定された場合、それは詐欺です。振り込まないでください。
    • 被害回復が難しいため、安易に投資資金を振り込むことは控えましょう。
    • 不審に思ったら、すぐに消費生活センター等に相談しましょう。
      • ※消費者ホットライン「188(いやや!)」番:最寄りの市町村や都道府県の消費生活センター等をご案内する全国共通の3桁の電話番号です。
      • ※警察相談専用電話「#9110」:最寄りの警察の相談窓口につながる全国共通の電話番号です。

SNS上で著名人になりすまし、投資を呼びかける偽広告が広がっている問題で、実業家の前沢友作氏は、フェイスブック(FB)やインスタグラムを運営する米SNS大手メタと、同社日本法人に1円の損害賠償と、自身の偽広告の差し止めを求めて、東京地裁に提訴しています。訴状によると、前沢氏は、メタがFBやインスタグラム上で、前沢氏の氏名や肖像を無断で使用した広告の掲載を許可しているとし、肖像権などの侵害を主張しています。前沢氏は、自身のX(旧ツイッター)で訴状の一部を公開、「彼らの行為が違法なのか合法なのかはっきりさせたい」とした上で、メタの対策について「具体的な内容提示、責任者の証人尋問を求めます」と述べています。また、「ホリエモン(実業家の堀江貴文氏)が優良株を教える」とかたるFB上の広告から誘導され、投資詐欺被害に遭った60代男性が、福岡市の広告業者が詐欺の首謀者に送金用口座を提供し加担したとして、約1千万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は、業者に全額の支払いを命じています。業者側が訴訟で答弁書を提出せず、口頭弁論期日にも出廷しなかったため、裁判官は男性の主張を全面的に認めたもので、「広告業者は氏名不詳者と共謀して、原告から金銭をだまし取ったといえる」と判断しています。

SNS上で著名人になりすまし、投資を呼びかける偽広告が広がっている問題を受け、自民党のワーキングチームは、政府に対策強化を求める提言案を示しています。インターネット広告の事前審査の厳格化や、著名人を無許可で広告に掲載することを禁止する法令改正、利用者が限られる「クローズドチャット」に誘導され被害に遭うケースが多いことをふまえ、そうした誘導設定の広告を原則、載せない対応も求めるほか、削除要請に迅速に対応する方策などが盛り込まれています。提言では、FBを運営する米メタなどを念頭に、「日本市場を軽視し、信頼に基づくビジネスを展開する気がないと疑念を持たざるを得ない事業者もある」、「極端に言えば『犯罪ほう助を行っている』『犯罪者がもうかるための環境を提供している』と言っても過言ではない」と非難、被害拡大を防ぐため、政府がSNSを運営するプラットフォーム事業者に緊急要請を行うよう求めています。

SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、緩やかな結びつきで離合集散する「匿名・流動型犯罪グループ(通称・トクリュウ)」の関与が疑われています。犯罪社会学者で龍谷大学矯正・保護総合センター嘱託研究員の広末登さんは、トクリュウについて「半グレや準暴力団を実態に合わせて、警察がより広い概念で位置づけた」と解説、組員が検挙された特殊詐欺事件などで暴力団トップの使用者責任を問う訴訟が相次ぐ中、「暴力団が責任を避けるため、あえて看板のないトクリュウを使っている可能性がある」と指摘しています。SNS上で「闇バイト」などに応募した若者が加担する事例も後を立たず、広末氏は「ネット上には犯罪へと誘う書き込みが無数にある。『自分は大丈夫』と楽観しないで、闇バイトの勧誘には気をつけてほしい」と強調しています。

政府はインターネット上の偽情報対策として広告掲載の事前審査に関する基準を公表するよう大手SNS事業者などに義務づける検討に入るといいます(2024年5月29日付日本経済新聞)。著名人をかたる「なりすまし広告」の問題に対処するもので、対象は米IT大手メタなど大規模事業者とし、法整備も視野に入れるといいます。ネット広告に関して、各社は「詐欺的方法による宣伝禁止」(メタ)、「虚偽コンテンツの禁止」(米X)、「人を欺く商品の禁止」(米グーグル)などと社内で規定していますが、一部の偽の広告は放置され、日本でも著名人らが被害を訴えています。総務省の有識者会議でも「広告を管理、配信するプラットフォームがコントロールしきれていない」との指摘が出ていました。論点整理では広告掲載に関する事前審査基準の策定・公表のほか、「日本語や日本の社会・文化・法令を理解する者が十分配置されている」ことも求めるほか、AIによる自動審査を実施している場合は、その実効性に関する説明も要請するとしています。違法な広告が出回った後の対応を巡っても、掲載停止基準の策定・公表や運用状況の公開を求める案も明記、ネット広告の審査では、今国会で成立した改正プロバイダ責任制限法を再度、改正することが選択肢となります。ネット広告の規制で先行するEUではデジタルサービス法(DSA)で「オンライン広告の透明性向上」に関する義務を課し、関連する行動規範では広告の「コンテンツ審査プロセスの厳格化」などを求めています。SNS上のなりすまし広告への対処を要望する自民党の前述の提言でも、改正プロバイダ責任制限法を巡り「(EUの)DSAとの比較により不足している、広告についての透明性への対応」を検討するよう訴えています。

特殊詐欺やSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺の最新の手口や周辺動向など、いくつか紹介します。

  • 実在する警察の電話番号を偽装表示させ、警察官になりすまし、現金をだまし取ろうとする特殊詐欺事件が相次いでいるといいます。福岡県内では2024年3月に2件発生し、計約1600万円を詐取されており、福岡県警はインターネット回線を使い、発信元の電話番号を自由に表示する技術を悪用した犯行の可能性があるとみて、警戒を強めています。発信者番号を偽装した「なりすまし電話」は、「スプーフィング」とも呼ばれ、海外でも発生しています。在ニューヨーク日本国総領事館は2023年4月、HPで、米国で地元警察を偽装表示した番号からの電話が在留邦人にあったと公表し、注意を呼びかけています。専門家によると、インターネット回線とともに、専用のプログラムやアプリを使うことで任意の番号を相手方に表示することが可能で、電気通信事業者を通さないため、回線切断などができず、抜本的な対策は難しいといい、「被害が広がる可能性もあり、表示された番号だけで電話の相手を信用するのは危険だ」と警鐘を鳴らしています。警察は、非常時の安否確認や落とし物の連絡で警察署の固定電話から住民らに電話することも多く、福岡県警幹部は「末尾の『0110』は警察の電話だという証し。信用されなくなれば業務に支障がでかねない」と懸念を示し、「警察が金銭を電話で要求することはない。怪しい電話はすぐに切り、警察に相談してほしい」と呼びかけています。なお、同様の事件については、山形県でも確認されています。60代の男性医師が自宅のパソコンでウェブサイトを見ていたところ、突然警告音が鳴り、操作できなくなり、画面上に表示された「010」から始まる番号に電話すると、「マイクロソフト社のジェイコブ・アルバー」を名乗る男から片言の日本語で「パソコンを復旧するための代金として、電子マネーを9万円分購入してください」などと言われたといいます。
  • 最近の投資ブームを背景に、SNS上で著名人をかたる投資詐欺の被害が爆発的ペースで増え、億単位でだまされる被害者も相次いでいますが、大半で共通する手口は、SNSの偽広告をクリックするとLINEの「友だち登録」に誘導され、そこから投資や暗号資産の取引名目で金を詐取する-というものです。被害に遭った神戸市の40代の男性会社員も「当時は一種の洗脳状態だった」と後悔を語っています。思い返せば怪しい点はあり、「メンバーの投稿にたまに不自然な日本語がまじること、指定された振込先が証券口座とは関係のない金融機関だったこと」などが挙げられますが、LINEグループという閉鎖空間に身を置き、共同体のような意識を持ってしまったことで、批判的に見ることができなくなっていたといいます。そして何よりそのグループを率いているのが前沢さんだという信頼が「その疑念を覆い隠した」と語っています
  • 日本で暮らす中国人をターゲットにした特殊詐欺が相次いでいるといいます。電話で中国の公安当局や大使館をかたり、「逮捕」や「強制送還」をちらつかせて金銭をだまし取るのが典型的な手口で、埼玉県警には2021年以降、被害の届け出が少なくとも9件あり、SNSを通じて注意喚起しています。埼玉県警や警察庁によると、特殊詐欺グループは携帯電話に突然連絡、公安当局職員や大使館員を装って「あなたの口座が不正に使われているので、逮捕、強制送還される」などと不安をあおり、免れるには保証金が必要と金銭を要求するといいます。誘拐事件を「自作自演」するよう指示する手口もあります。拘束・監禁されている様子をスマホで自撮りさせて、中国にいる親族へ動画を送信、身代金名目で現金を振り込ませたケースが確認されています。日本で暮らす中国出身の30代の男性は「日本人に比べて中国人は、警察など国の組織に対して警戒感が強い。詐欺グループはそうした心情に付け込んでいるのではないか」と指摘、そのうえで「『強制送還』という言葉をちらつかされ、パニックになる人もいるだろう」と述べています。なお、その派生形として、「言われるがまま、自分の口座に振り込まれた100万円を「中国財務局金融監督局」の口座へ送金したところ、女性の口座が凍結された。銀行に問い合わせると、振り込まれた100万円は詐欺事件の被害金とみられ、警察から口座を凍結するよう要請されたと説明を受けた」といった特殊詐欺の被害金のマネロンに加担させられるようなケースもあります。
  • 和歌山県警和歌山西署は、和歌山市の70代女性が現金計1億円をだまし取られる被害に遭ったと発表しています。女性は2020年10月、自宅への電話でボランティア団体職員を名乗る男から「福島の復興を手伝いませんか」と誘われて承諾すると、「法務省福島復興局」を名乗る男から「ボランティア登録番号を教えます。他人に教えないで」と電話で言われ、さらにボランティア団体職員を名乗る別の男から「福島の学校に放射能測定器を贈る。名義を貸して。登録番号も教えて」と電話連絡があり、女性が番号を伝えると、最初の男に「それは名義貸し。不正取引になる」「(番号を教えた)男が逮捕された。あなたが逮捕されないように保釈保証金が必要」と言われたため、女性は指示に従い後日訪ねてきた宅配業者を名乗る男に1千万円を渡し、以後も2022年6月にかけて同様に9回計9千万円を渡したといいます。震災絡みでは、「暗号資産の取引で得た利益を能登半島地震の被災地に寄付する」といった誘い文句で投資話を持ちかけられた仙台市泉区の50代会社員女性が2千万円をだまし取られたと宮城県警が発表しています。振込先は、10回とも全て異なる会社の口座で、アプリでは利益が11億円に上ったとの表示が出たため、女性は引き出そうと試みたが、手数料を請求されるだけで出金できなかったものです。SNSを使った投資詐欺のネット記事を読み、宮城県警に相談し判明したものです。
  • 奈良県橿原市内で1千万円を超える特殊詐欺が3件相次いで発生、いずれもLINEで具体的な連絡を取り合い、口座開設を促されているのが特徴で、奈良県警は注意を呼びかけています。60代男性は、「総合通信基盤局」を名乗る男から電話があり「携帯電話が詐欺に使われている」と言われ、その後電話は「葛飾区警察署の捜査2課」を名乗る男に代わり、「新しい口座を作ってほしい。一旦こちらで口座を預かる」と指示されたため、男性は言われるがまま、LINEでやり取りして銀行口座を開設し、4回にわたり計3242万円を振り込んだといいます。さらに現金を振り込もうとして保険の解約手続きをする際に、保険会社の担当者に詐欺の可能性を指摘され、被害に気付いたということです。70代女性も、「総合通信基盤局」を名乗る男と警察官を名乗る男から電話があり、口座開設を指示され、ラLINEでのやりとりに従って3回にわたり計2139万円を振り込んだといい、このほか、60代女性も同様の手口で1033万円をだまし取られる詐欺が発生しています。
  • 山形県内各地で、「総務省」をかたる不審な電話が相次ぎ、山形県警生活安全企画課などによると、特殊詐欺の予兆とみられるといいます。山形市の70代女性宅の固定電話に着信があり、「総務省」を名乗る自動音声が流れ、「この電話番号が2時間後に使用できなくなる。番号1を押してください」などと要求してきたので、不審に思った女性は電話を切り、警察相談専用電話「#9110」に相談したといいます。ほかにも数件、同様の電話があったが、いずれも住民が音声に従わず、#9110に相談したため、被害はなかったといいます。
  • ロマンス詐欺の被害金を回収するとうたい、広告会社に弁護士名義を貸して法律事務をさせた疑いが強まったとして、大阪地検特捜部は、「G&C債権回収法律事務所」の川口弁護士らについて、弁護士法違反容疑で刑事責任を追及する方針を固めた。川口弁護士を巡っては、大阪弁護士会が2023年12月、同法違反の疑いがあるとして懲戒請求したと公表、同会の相談を受け、特捜部が2024年2月に法律事務所などを捜索していたものです。関係者によると、川口弁護士は2022年以降、広告会社代表らに弁護士名義を貸し、複数の詐欺被害者の相談に対応させた疑いが持たれています。また、広告会社代表ら4人も同法違反(非弁活動)容疑で逮捕、5人が組織的に詐欺被害者を勧誘し、多額の着手金を集めたとみて実態解明を進めるとしています。広告会社代表らは、川口容疑者の名前や写真を使い、被害金回収を請け負う専用サイトを作成、被害者からの相談を電話やLINEで募り、相談対応は会社側の事務員らが担っていたといいます。
  • インド政府はこの数カ月で、カンボジアでの就職詐欺に引っかかった250人のインド国民を救出し、本国に帰還させています。労働問題やサイバーセキュリティの専門家によれば、インドでは、仕事探しに必死の人を標的としたオンライン就職詐欺が増加しているといいます。国際刑事警察機構(インターポール、ICPO)によれば、コロナ禍で「爆発的」に増加した人身売買とネット詐欺を組み合わせた組織犯罪が、当初の東南アジアだけでなく世界的なネットワークとして広がり、年間最大3兆ドルの収益を稼いでいるといいます。国連は2023年、カンボジアのオンライン詐欺拠点へと拉致された被害者は10万人を超えると発表しています。識者の多くは人身売買詐欺の背景にインドの雇用市場の厳しさを指摘していますが、労働経済学者のK・R・シヤム・サンダル氏によれば、国内の雇用機会が改善されたとしても、こうした詐欺を阻止するには十分でない可能性があるといいます。「一般には雇用機会が増えればこの問題は解消すると思われているが、そうはいかない。根本には地位向上への野心と、他国のより強力な通貨で提示される報酬額がある」と指摘しています。

SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺の最近の被害からいくつか紹介します(報道があまりに多いため、被害金額の大きいものや手口に特徴があるものなどを優先的に取り上げます)。

  • 茨城県の県南地域の女性がSNSで著名人をかたった投資詐欺被害に遭い、計約7億円をだまし取られた事件で、新たに約1億円の被害が判明していたことが判明しています。茨城県警が女性の証言や金融口座などを調べる中で、新たに被害が判明したといいます。女性は2023年10月以降、SNS上で投資を勧める広告を見つけ、経済アナリスト・森永卓郎氏を語るLINEアカウントとつながったといいます。
  • 著名人らを装いSNSを使って架空の投資を持ちかける「SNS型投資詐欺」で、神戸市の70代男性が計約6億6000万円をだまし取られたことが判明しています。同種の手口の被害としては、兵庫県内では過去最高額とみられています。男性は実在する証券アナリストを名乗る人物からSNSを通じて投資話を持ちかけられ、指定された口座に複数回送金したといい、男性は5月上旬に被害届を提出したものです。
  • 神奈川県警は、小田原市の70代男性がSNSで知り合った人物から、暗号資産投資を持ちかけられ、約2億4千万円をだまし取られたと明らかにしています。「私ももうかっている。やったら」と暗号資産による投資を持ちかけられた。当初は断っていたが、「断り続けると、女性とのやりとりが途絶える」と誘いに乗り、暗号資産取引のアプリをダウンロード、指定された口座に入金すると、取引場が運営するアプリ上で残高が増える様子が確認でき、老後の資金が増える安心感と、女性の「今度、会いましょう」という言葉を信じて、入金を続けたといい、結果的に2023年12月~2024年3月、女性からのLINE、自称・取引場の担当者からのアプリ上でのメッセージで、指示された複数の口座に、1回に約100万~約500万円を投資目的などで計53回振り込み、計2億4千万円をだまし取られたといいます。3月中旬、手元の資金が足りなくなった男性が、女性に援助を依頼したが、断られたため、「お金を貸してくれないのは怪しい」と署に相談し、被害が発覚したものです。
  • SNSでジャーナリスト池上彰さんをかたる人物から投資を持ちかけられた京都府の70代女性が、約2億3千万円をだまし取られたことが判明しています。女性は2023年10月ごろ、スマホで、池上さんが優良株を紹介するとの広告を見つけてクリック、池上さんを名乗るLINEアカウントに誘導されグループに参加、投資を持ちかけられ、その後、別の人物とやりとりする中で、外国為替証拠金取引(FX)への投資を勧められ、2024年2月まで約30回にわたり指定の口座に計約2億3千万円を振り込んだといいます。
  • 神奈川県警は、川崎市の会社役員の50代女性が動画投稿サイトの広告をきっかけに、投資家らを名乗るグループから約1億8300万円をだまし取られたと明らかにしています。女性は2023年10月、広告で知り合った投資家グループに指示され、スマホで投資用とされるアプリを入手、同年11月~2024年3月、投資資金などとして22回にわたり、指定された複数名義の口座に計約1億8300万円を振り込んだといいます。グループから送られてきた納税関係の書類の画像を不審に思った女性が5月、県警幸署に相談して判明したものです。
  • 神奈川県警宮前署は、川崎市宮前区の60代女性がSNSで投資詐欺に遭い、現金約1億6200万円をだまし取られたと発表しています。女性は2023年12月、LINEに掲載されていた広告をクリックしたところ、経済アナリスト・森永卓郎氏を名乗るアカウントとつながり、投資目的のLINEグループに招待され、金の取引を行う投資アプリのインストールを指示され、取引手数料などの名目で、2024年1月から4月までの間、指定された15口座に、17回にわたり、計1億6200万円を振り込んだといいます。女性が同5月、署に相談したものです。
  • 大阪府警は、大阪府内に住む60代の女性が、SNSで知り合った人物に投資を勧められ、約1億5千万円をだまし取られたと発表しています。2024年1月、自作のパッチワーク作品を投稿する女性のSNSアカウントに、20~30代とみられる男の写真を使ったアカウントからメッセージが届き、やり取りを重ねるうちに「言う通りにすれば絶対もうかる」などと投資を勧められ、利益が出ていると装った偽サイトに誘導されたものです。
  • 大阪府警は、大阪府内に住む自営業の50代女性が、SNSで実業家の堀江貴文氏らをかたる人物に投資やトラブル解決名目で2023年11月~2024年4月に計約1億600万円をだまし取られる詐欺被害に遭ったと発表しています。金への投資を勧められ、計約5700万円を口座振り込みなどで支払ったところ、2024年2月には「カスタマーサービス」を名乗る人物から「口座が犯罪に使われ、資金が凍結した。解除には追加料金が必要」というメッセージを受信、解決名目で計約4900万円を指定口座に振り込んだといいます。
  • 北海道警札幌・西署は、札幌市西区の40代女性がSNSの広告を通して知り合った実在する投資家をかたる人物らに投資を勧められ、計1億円超をだまし取られたと発表しています。女性は2024年3月、FBで見つけた投資関係の広告を通じて知り合った人物らと、LINEで連絡を取り始め、「暗号資産は黄金期だ」「初心者でも利益を上げられる」などと勧められ、同5月、指示された口座に18回にわたり金を振り込んだところ、不審に思った金融機関から署に連絡があり、被害が発覚したものです。
  • 神奈川県警麻生署は、川崎市麻生区の50代の男性が、マッチングアプリで知り合った人物らから投資話を持ちかけられ、現金計約9千万円をだまし取られたと発表しています。男性は2023年8月ごろ、マッチングアプリで知り合った人物からLINEを通じて投資サイトに誘導され、そのサイトのアドバイザーを名乗る人物から指示され、外国為替への投資名目で39回にわたり金を振り込んだといいます。2024年1月ごろ、金融機関から「振込先の口座が詐欺に使われている可能性がある」と指摘され、被害に気付いたものです。
  • 元内閣官房参与で経済学者の高橋洋一さんの名をSNS上でかたり、千葉県松戸市の70代の男性にうその投資話を持ちかけ現金1800万円をだまし取ったとして、県警松戸署は、詐欺容疑で、中国籍で自称飲食店経営の容疑者を再逮捕しています。署は、複数の人物が関与し計約8800万円を詐取したとみています。容疑者は投資名目資金の回収役だったとみられています。男性は、高橋さんが投資の助言をするという内容の広告がLINEで表示されたのを機に、容疑者との接点が生じたとのことです。
  • 茨城県警は、県内の60代男性が2023年12月から2024年2月、投資詐欺に遭い、16回にわたり計約6310万円をだまし取られたと発表しています。経済アナリストの森永卓郎さんをかたるLINEアカウントを通して被害に遭ったものです。指定された口座に400万円を送金、サイト内では利益が出ているように表示され、計約4650万円を振り込み、その後、利益を引き出すために必要だと言われ、計約1260万円を送金、不審に思った男性が家族に相談し発覚したものです。
  • 島根県警は、県内の60代男性がSNSで著名人を名乗る人物らに金投資を勧められ、計約5320万円をだまし取られたと発表しています。男性は2023年12月中旬、著名人が投資をサポートするとうたった広告をインターネット上で見つけ、著名人を名乗る人物とSNSで連絡を取り始め、アシスタントと称する人物を紹介されて金投資を持ちかけられ、2024年1月までに指定された口座に計6回現金を振り込んだものの、同月下旬、高額な投資を求められたことを不審に思い「著名人の事務所に連絡を入れた」とメッセージを送ると連絡が取れなくなり、4月に県警に相談したということです。
  • 札幌市中央区の70代男性が、投資名目で総額4100万円をだまし取られていたことが分かりました。警察官が事件を把握し詐欺だと伝えた後も、4000万円を振り込んでいたといいます。男性は2024年2月下旬頃、スマホに表示された広告をクリックして投資の情報交換目的のライングループに招待され、その後、FX(外国為替証拠金)取引の名目で4月1日~5月24日、13回にわたり現金を振り込んだといいます。同署は4月16日、金融機関からの連絡で事件を認知、男性に対し詐欺被害に遭っていると伝えたが送金を続けていたというものです。
  • 恋愛感情や親近感を抱かせて金をだまし取る「SNS型ロマンス詐欺」で、山形県尾花沢市の70代男性が約1700万円の被害に遭ったと山形県警が発表しています。ほかにも30~60代の男女3人が計900万円以上の被害に遭ったといいます。被害のきっかけとなったSNSやアプリは様々で、山形県警は「SNS等で知り合った相手から金銭などを要求されたら詐欺だ」と注意を呼びかけています。
  • 北海道警札幌・南署は、札幌市南区の40代女性が、SNSで知り合った相手に暗号資産購入を指示され、約1470万円をだまし取られたと発表しています。2024年1月にオーストラリア在住の男を名乗る人物からインスタグラムでメッセージが届き、その後、旅行資金をためるためなどとして、LINEで指示されて購入した暗号資産を2024年3~5月にかけ計16回、指定された暗号資産アドレスに送金し、だまし取られたもので、金を借りようと母親に相談し、詐欺だと発覚したといいます。
  • リビアの元最高指導者、故カダフィ大佐の娘をかたりロマンス詐欺の手口で男性から金をだまし取ったとして、大阪府警吹田署は、詐欺の疑いで、無職の容疑者を再逮捕しています。共謀し、2024年2~3月、SNSなどで静岡県に住む60代男性に対しカダフィ大佐の娘をかたり、「現在オマーンに逃亡しており、父の遺産が奪われそう」、「日本で新たな生活をあなたと始める」などとメッセージを送信、遺産の一部を渡すなどと嘘を言って、遺産運搬の「保証金」名目で190万円を容疑者名義の口座に振り込ませたとしています。
  • 北海道警帯広署は、十勝地方に住む60代の女性が、SNSで知り合った海外アイドルグループメンバーやマネジャーを名乗る男らから、面会費用などとして、計約2100万円をだまし取られたと明らかにしています。女性は2022年7月ごろに男と知り合い、「あなたと会うのに飛行機代が必要」、「交通事故に遭って手術代が必要」などと嘘のメッセージを受け、2024年6月上旬にかけ購入した電子マネーの番号を教えたり、指定された口座に金を振り込んだりしたといいます。やりとりに不安を覚えた女性が署に相談したものです。

例月通り、2024年(令和6年)1~3月の特殊詐欺の認知・検挙状況について確認します。

▼警察庁 令和6年3月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和6年1~3月における特殊詐欺全体の認知件数は3,741件(前年同期4,533件、前年同期比▲17.5%)、被害総額は88.5憶円(93.2憶円、▲5.0%)、検挙件数は1,354件(1,620件、▲16.4%)、検挙人員は469人(515人、▲8.9%)となりました。ここ最近、認知件数や被害総額が大きく増加していましたが、最近は減少傾向に転じている点が特徴です。ただし、相変わらず高止まりしていること、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺の被害が急増していることと併せて考えれば、十分注意する必要があると言えます。うちオレオレ詐欺の認知件数は772件(1,008件、▲23.4%)、被害総額は40.5憶円(28.0憶円、+44.6%)、検挙件数は311件(505件、▲38.4%)、検挙人員は167人(212人、▲21.1%)となり、認知件数、被害総額、検挙件数、検挙人員ともが減少に転じました。2021年までは還付金詐欺が目立っていましたが、オレオレ詐欺もまた高止まりしている点に注意が必要です(とはいえ、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。そもそも還付金詐欺は、自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。一方、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで2021年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いでいます。警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶たない現状があり、それが被害の高止まりの背景となっています。とはいえ、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性も考えられるところです(繰り返しますが、還付金詐欺自体事態、大変高止まりした状況にあります)。最近では、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくいことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は348件(583件、▲40.3%)、被害総額は4.3憶円(7.9憶円、▲46.2%)、検挙件数は372件(436件、▲14.7%)、検挙人員は97人(108人、▲10.2%)と、認知件数・被害総額ともに減少という結果となっています(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性も指摘されています。なお、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出ています。さらには、前述したとおり、キャッシュカードではなく「現金」入りの封筒で同様のすり替えを行う手口も出ています)。また、預貯金詐欺の認知件数は2455件(614件、▲25.9%)、被害総額は4.1憶円(7.8憶円、▲47.4%)、検挙件数は400件(322件、+24.2%)、検挙人員は116人(102人、+13.7%)となりました。ここ最近は、認知件数・被害総額ともに大きく減少していましたが、一転して大きく増加し、再度減少に転じた点が注目されます。その他、前述した架空料金請求詐欺の認知件数は1,053件(1,149件、▲8.4%)、被害総額は22.1憶円(30.1憶円、▲26.6%)、検挙件数は66件(45件、+46.7%)、検挙人員は37人(24人、+54.2%)と、認知件数・被害額の減少が目立ちます。還付金詐欺の認知件数は960件(1,068件、▲10.1%)、14.6憶円(12.0憶円、+21.7%)、検挙件数は200件(301件、▲33.6%)、検挙人員は39人(49人、▲20.4%)、融資保証金詐欺の認知件数は56件(49件、+20.4%)、被害総額は0.7憶円(0.8憶円、▲10.6%)、検挙件数は2件(3件、▲33.3%)、検挙人員は1人(3人、▲66.6%)、金融商品詐欺の認知件数は14件(38件、▲63.2%)、被害総額は0.8憶円(5.2憶円、▲84.7%)、検挙件数は0件(3件)、検挙人員は1人(10人、▲90.0%)、ギャンブル詐欺の認知件数は5件(6件、▲16.7%)、被害総額は0.5憶円(0.2憶円、+109.8%)、検挙件数は0件(0件)、検挙人員は0人(0人)などとなっています。

組織犯罪処罰法違反については、検挙件数は88件(66件、+33.3%)、検挙人員は33人(25人、+32.0%)となっています。また、犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は196件(196件、±0%)、検挙人員は91人(109人、▲16.5%)、盗品等譲受け等の検挙件数は0件(2件)、検挙人員は0人(1人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は929件(726件、+28.0%)、検挙人員は681人(544人、+25.2%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は51件(28件、+82.1%)、検挙人員は45人(31人、+45.2%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は8件(4件、+100.0%)、検挙人員は2人(3人、▲33.3%)などとなっています。

医療費の還付金名目で現金をだましとったとして、神奈川県警暴力団対策課は、自称ハウスクリーニングの個人事業主を電子計算機使用詐欺や窃盗などの疑いで逮捕しています。広域被害が深刻な特殊詐欺について他県の要請を受けて捜査する「連合捜査隊」が、大阪府警の依頼で容疑者を特定したもので、2024年4月に発足した同隊による検挙は初めてだといいます。連合捜査隊には他県警の捜査員も派遣されており、現金の引き出し場所が県内の事案を中心に捜査依頼を受けているといいます。

フィリピン入国管理局は、窃盗容疑で日本の当局が逮捕状を出していた容疑者をマニラで拘束したと明らかにし、近く日本へ強制送還すると発表しています。「ルフィ」などと名乗り一連の事件を起こした邦人グループの残党だといいます。入管によると、容疑者は2019年11月、フィリピンに入国、日本の警察当局は、同容疑者が通信詐欺に関与し、別の容疑者とともに、盗まれたカードを捜索する名目で警官を装って住宅敷地内に入って強盗するのを共謀した疑いがあるとみているといいます。

警察官や検察官をかたる詐欺が増加しているようです。大阪府警は、大阪府内に住む70代男性が、警察官などをかたる手口の特殊詐欺で約2千万円をだまし取られたと発表しています。2024年3月上旬、男性の家に携帯電話の利用を停止するという旨の自動音声ガイダンスの電話があり、指示に従うと、警察官や検察官を名乗る男らから「携帯電話が犯罪に使われている」「捜査に協力すれば逮捕しない」などといわれ、男性は指示通りにインターネット上で口座を開設し、預金を移したところ、同4月中旬、移した預金計2040万円が他人名義の口座へ送金されており、府警に相談して発覚したものです。大阪府警によると大阪府内で警察官などをかたり「逮捕」などの言葉で不安をあおる手口の特殊詐欺は、2024年1月から5月中旬までに約50件発生し、約4億8700万円の被害があるといいます。また、警察官になりすまして高齢女性からキャッシュカードを盗んだとして、埼玉県警組織犯罪対策3課などは、自称会社員を窃盗容疑で逮捕しています。容疑者は特殊詐欺の「受け子」とみられ、偽造した警視庁の職員証を所持していたといい、「SNSで高額バイトに応募した」などと供述したといいます。茨城県警は、阿見町の男性が、警察官や検察官をかたる人物から電話とLINEで「保釈金を支払えば逮捕しない」などと告げられ現金9900万円をだまし取られたと発表しています。男性は、奈良県警の警察官を名乗る人物から携帯電話に「逮捕状が出ている」「(出頭)できないなら検事に代わる」などとする着信を受け、更に同県の検察官を装う人物から「捜査本部」をかたるラインアカウントを「友だち」に追加するよう指示され、男性は「マネロン事件に関与した」という趣旨のラインや逮捕状に似た書類の画像、保釈金支払いの指示などを受信し、7~10日に1回当たり200万~1000万円を計14回、指定された口座に振り込んだといいます。「財産を全て差し押さえる」と告げられたにもかかわらず、差し押さえを受けず振り込みを指示されたことを不審に思い始めた男性が12日、茨城県警に相談して発覚したものです。さらに、埼玉県警朝霞署は、志木市の70代女性が約1億4000万円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。県内で過去10年間に発生した特殊詐欺事件の被害額としては最高規模といいます。2024年3月から数回、警察官や検察官を名乗る男から女性に「あなたの口座が犯罪に悪用されている」「逮捕状が出ている」「お金を振り込めば逮捕状を取り下げる」などと電話があり、女性は暗号資産口座の開設を指示され、そこに複数回送金したといい、不正送金の監視に取り組む金融機関からの情報提供で被害が判明したものです。また、岩手県警盛岡西署は、盛岡市の20代男性が特殊詐欺で現金約140万円をだまし取られたと発表しています。男性は2024年3月下旬、警察官をかたる男から「マネロンの事件で、あなたを容疑者として捜査している」などと電話で言われ、その後、LINEなどを通じ、男性の氏名などが記載された偽の逮捕状の画像が示され、信じた男性が現金を振り込んだものです。また、「暴力団関係者にあなたの名義の通帳」と愛媛県松山市の70代女性が警察や検察を名乗る女や男に電話でウソを言われ、調査を口実にされ現金850万円をだまし取られています。女性は2024年2月下旬、警察官を名乗る女に電話で「暴力団関係者を逮捕してあなた名義の通帳が見つかった」「通報が犯罪に使われた」などとウソを言われ、このあと検察を名乗る男から電話で「優先調査をする」「現金を送金したもらい犯罪に関係するか判断する」と言われ、ウソを信じて3月4日から4月16日までの間、17回に渡りあわせて現金850万円を指定された口座に振り込みだまし取られたものです。女性は相手から絶対に誰にも話さないよう言われていました。警察は特殊詐欺事件として捜査していて、警察官や検察官が調査で現金の振り込みを要求することはないと注意を呼びかけています。また、滋賀県警守山署は31日、野洲市の70代女性が警察や検事をかたる男らに現金約3700万円をだまし取られたと発表しています。2024年5月9日に電話会社をかたる女から「携帯電話が使えなくなるかもしれない」と女性宅に電話があり、その後、警察や検事をかたる男から「あなたは暴力団の協力者とみなされている。資産を捜査する。お金を振り替えてください」などと言われ、女性は、自分と同名の名義で開設された口座に20日から24日にかけ5回にわたり送金、金は同日までに別の金融機関の口座に送金されていたといいます。

暴力団の関係する特殊詐欺等も発生しています。

  • 群馬県警組織犯罪対策課と太田署などは、詐欺の疑いで、稲川会傘下組織組員を再逮捕しています。逮捕は13回目で、現金回収の指示役だったとみられています。仲間と共謀して2023年5月、千葉県柏市の70代の男性の携帯電話に、おいを装って「会社の書類をなくした。今日中に契約金を支払わないと首になる」などとうその電話をかけて現金800万円をだまし取り、別日にも同県船橋市の70代女性から現金200万円をだまし取った疑いがもたれています。男は群馬、埼玉、神奈川など5県で発生した特殊詐欺に関わったとして、今回を含め計13件(被害金額計3500万円)摘発されています。
  • 特殊詐欺グループの出し子の指示役として、住吉会傘下組織組員が逮捕されています。2024年4月、仲間らと東京・八王子市の70代女性から現金約300万円をだまし取った疑いが持たれています。容疑者は出し子の指示役とみられているが、「何のことかわからない」と容疑を否認しているといいます。
  • 暴力団員の利用が規約で禁止されている後払い決済サービスを利用したとして、京都府警伏見署は5月30日、電子計算機使用詐欺の疑いで、六代目山口組傘下組織幹部を逮捕しています。「暴力団が利用不可能であることを知らずに買った」などと供述し、容疑を否認しているといいます。オンラインショップでショルダーバッグを購入した際、暴力団員などの利用を規約で禁じている後払い式のスマホ決済サービスを利用し、不法な利益を得たというもので、伏見署によると、後日、容疑者がコンビニで決済サービスの支払いを行おうとしたところ、店長が容疑者が特殊詐欺の被害に遭っているのではないかと疑い、110番、駆けつけた署員に対し、容疑者が自ら暴力団関係者であることをほのめかし、犯行が発覚したということです。

最近の特殊詐欺の事例から、いくつか紹介します。

  • 那覇署は、那覇市の70代女性から現金50万円をだまし取る特殊詐欺(おれおれ詐欺)事件に関わったとして、高校1年の男子生徒(16)を詐欺容疑で逮捕しています。署は、生徒が特殊詐欺グループで現金などを受け取る「受け子」だったとみて、余罪の有無や、暴力団など反社会的勢力との関係も視野に捜査しているといいます。
  • 新潟県警は、長岡市の80代女性から現金1千万円をだまし取ったとして、詐欺の疑いで埼玉県新座市の男子高校生(16)を逮捕しています。特殊詐欺グループ内で現金を受け取る「受け子」役とみて調べています。氏名不詳者らと共に、息子を装って女性宅に電話し、自宅を訪ねた上司のおいに現金を渡すよううそを言って、受け取った疑いがもたれています。現金を手渡した後、女性が息子と連絡を取り、だまされたと気付き、新潟県警に相談したものです。
  • 石川県警羽咋署は、高齢者から現金をだまし取ったとして、大学生の容疑者を詐欺の疑いで逮捕しています。同容疑者は3月、横浜市の路上ですれ違った高齢女性の携帯電話の通話から特殊詐欺を疑って110番し、神奈川県警から感謝状を受け取っていました。容疑者は仲間と共謀し、羽咋市の90代男性に息子を名乗り「人妻を妊娠させた」などと電話、弁護士を装った同容疑者が白山市で現金300万円をだまし取った疑いがもたれています。また、別日には、金沢市の70代女性から現金100万円をだまし取った疑いがもたれています。
  • 孫に成りすまして「喫茶店で金が盗まれた」などとうその電話をし、80代男性から現金をだまし取ったとして、警視庁と宮城県警の共同捜査本部は、詐欺容疑で容疑者を逮捕しています。警視庁捜査2課は容疑者が現金を受け取る「受け子」の統括役として、2024年1月以降に8都県で計約40件、計2億5千万円の被害に関与したとみています。
  • 90代男性の孫になりすまして現金をだまし取ったとして、警視庁三鷹署は詐欺の疑いで、60代の容疑者を逮捕しています。共謀して、孫を装い、「かばんをなくし、至急現金が必要になった」などと虚偽の電話をして、現金800万円をだまし取ったというもので、男性が後日、孫に電話したところ、被害に気付いたといいます。容疑者は現金を受け取る「受け子」役とみられています。
  • だまし取った現金をATMから引き出したとして、警視庁捜査2課は、窃盗などの疑いで、ベトナム国籍で留学生の容疑者を逮捕しています。共謀して2024年4月初旬ごろ、税務署職員になりすまし、滋賀県内の60代女性にATMで還付金を受け取れると信じ込ませて送金させ、荒川区内のコンビニATMから現金約50万円を引き出して盗んだというものです。容疑者は「出し子」役で、今回の事件を含め、滋賀、奈良、茨城の3県で5人から計約500万円をだまし取る特殊詐欺事件に関与したとみて調べています。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。直近でも、高齢者らの特殊詐欺被害を一般の人が未然に防ぐ事例が増加しており、たとえば、銀行の利用者やコンビニの客などが代表的です。2023年における特殊詐欺の認知・検挙状況等(警察庁)によれば、「金融機関の窓口において高齢者が高額の払戻しを認知した際に警察に通報するよう促したり、コンビニエンスストアにおいて高額又は大量の電子マネー購入希望者等に対する声掛けを働き掛けたりするなど、金融機関やコンビニエンスストア等との連携による特殊詐欺予防対策を強化。この結果、関係事業者において、22,346件(+3,616件、+19.3%)、71.7億円(▲8.5億円、▲10.6%)の被害を阻止(阻止率 54.6%、+2.1ポイント)」につながったとされます。また、もう少し細かい数字で言えば、埼玉県警によると、こうしたケースは2023年1~8月で104件にのぼり、すでに2022年1年間(103件)を超えたといいます。県警は、街頭での啓発活動や金融機関でのポスター掲示などが一定の効果を上げているとみています。また、被害を未然に防げた「水際防止」は2022年に全体で2215件となり、1888件だった2021年を上回って過去最多を更新しています。2023年も1~8月で1444件と最多に近いペースとなっています。大多数は家族やコンビニ店員、金融機関職員が詐欺と気づいて声をかけたものですが、居合わせた一般の人による声がけや警察への通報は2022年同期(64件)の1.6倍に増えているといいます。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。以下、直近の事例を取り上げます。

  • 特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、大阪府警高槻署は、高槻市の主婦に感謝状を贈っています。主婦は、阪急高槻市駅近くのATMコーナーで、70代男性が、電話で話しながらATMに近づくのを不審に思い声をかけ、男性と電話を代わると、間もなく通話は切れたといいます。主婦は、男性が「30万円ですか?」など何度も確認していたことなどから特殊詐欺を疑い、近くの交番に案内し、被害を未然に防いだものです。
  • 交際を持ちかけて女性から現金をだまし取ろうとしたとして、神奈川県警相模原北署は、住所不定、職業不詳の容疑者を詐欺未遂容疑で現行犯逮捕しています。SNSを通じて恋愛感情を抱かせて金銭を詐取する「SNS型ロマンス詐欺」で、豊田容疑者は受け子役とみられるといいます。女性はだまされたふりを続け、3度目の要求があった当日、県警のSNSを使った詐欺などに特化して警戒するチームが女性宅近くで待機、女性から偽の100万円を受け取り、家を出た容疑者を現行犯逮捕したものです。署によると、だまされたふり作戦でロマンス詐欺の容疑者を検挙するのは県警で初めてだということです。
  • 三重県警津署は4月下旬、特殊詐欺を未然に防いだとして銀行やコンビニエンスストア、家電量販店に相次いで感謝状を贈っています。手口が巧妙化し、被害件数も増えている中で、それぞれの「お手柄」が詐欺被害を防いでいます。「金に投資をするために、指定された口座に金を振り込みたい」織田さんは詐欺を疑い、上司に相談、男性を説得して警察に通報した金融機関、「海外の人に携帯電話で15万円分の電子マネーカードを購入するように言われた」不審に思った長尾さんは店を通じて通報、同店が詐欺被害を食い止めたのは最近半年間で3件目だといいます。また、ミニストップ芸濃椋本店では2024年4月、4万円分の電子マネーカードを購入しようとした70代男性に店員が購入理由を尋ね、「パソコンを直すために電子マネーカードを買ってくれるように言われた。電話の相手からコンビニでカードを買う時には、仕事で使うからと話すように言われている」と回答があり、店員から相談を受けた店長代理の相沢さんが警察に電話して未然に防いだといいます。津署管内での「お手柄」3件はいずれも市民が機転を利かせたもので、柳生署長は「警察だけで詐欺を防止することはできない。常日ごろ、情報収集して声掛けをしてもらえていることに感謝したい」と話しています。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、愛知県警江南署は、「セブン―イレブン江南村久野町平松店」従業員でベトナム国籍のグエンさんとオーナーの武田さんに感謝状を贈っています。グエンさんは2024年5月、高齢の夫婦が4万円分の電子マネーを買おうとしていたため、「おかしい」と思い、不在だった武田さんに電話で連絡、武田さんは電話で夫婦に事情を聴くと、「パソコン画面に警告が出て、その連絡先に電話をかけると電子マネーを買うように言われた」などと説明したため、武田さんは詐欺の手口と思い、警察に電話するように説得、夫婦は通報し、電子マネーを購入しなかったといいます。
  • 電子マネーを使った特殊詐欺被害を防いだとして、奈良県警郡山署は、コンビニエンスストア「ファミリーマート北郡山店」の店長、川崎さんに感謝状を贈っています。勤務中に電話をかけてきた女性の自宅まで駆けつけて説得したといい、半年間で2度目となる感謝状を受け取っています。川崎さんは5月3日夜の勤務中、70代の女性から「アップルカードは店に置いていますか」と電話を受け、女性の足腰が悪いと聞いた川崎さんは、800メートル先の女性宅を訪問、通報で駆けつけた警察官と一緒に、女性を説得したといいます。
  • 電子マネー詐欺を防いだとして、宮崎県警延岡署はファミリーマート延岡高校前店の店長、甲斐さんと、アルバイトの下田さんに感謝状を贈っています。60代の男性が10万円分の電子マネーを買おうとしていたところ、額が大きかったため、レジにいた下田さんが事情を聴くと、男性は「孫にあげる」と落ち着かない様子だったことから下田さんは不審に思い、甲斐さんに知らせ、甲斐さんが改めて男性に話を聴くと「実はパソコンが」、詐欺かもしれない、と見て取り、署に通報、男性が被害に遭うのを食いとめたものです。甲斐さんは特殊詐欺防止の勘所を啓発する県警の「マイスター」で、事件が載った新聞の切り抜きを従業員に見せ、日頃から注意を促しており、表彰は3回目だといいます。
  • 京都市伏見区の倉谷さんは、アルバイト先のコンビニで、電子マネーをだまし取る特殊詐欺に遭いそうになった高齢者に勇気を持って声かけし、被害を防止したといいます。現在大学4年生で、卒業後は京都府警で府民のための警察官になることを志しているといいます。「1人にさせたらいけない」、女性と一緒に待ちながら、世間話を織り交ぜ、ここまで来た経緯を聞いたりして、自分の知っている特殊詐欺の手口について一生懸命伝え、伏見署員たちが駆けつけた時には女性は詐欺であることを理解し、落ち着いた状態だったといいます。
  • 来店客の特殊詐欺被害を防止したとして、和歌山県警田辺署は、田辺市内のコンビニエンスストア・ファミリーマート2店舗の従業員2人に感謝状を贈っています。どちらも電子マネーカードを購入しようとする高齢男性を不審に思い、声を掛けたことで被害を防いだものです。
  • 特殊詐欺の被害を防いだとして、大阪府警住之江署は、大阪市住之江区内のコンビニで働く女性に感謝状を贈っています。アルバイトの松井さんが勤務していた4月20日午後、70代女性が来店、12万円分のプリペイドカードを購入しようとしたことを不審に思い、署に連絡したものです。
  • コンビニエンスストアの客が特殊詐欺の被害に遭うのを防いだとして、香川県警丸亀署は、「ファミリーマート善通寺宮ノ前店」の従業員、高尾さんに感謝状を贈っています。店の常連客だった70代男性が、10万円分の電子マネーを買おうとしていたところ、レジの従業員とのやり取りを近くで聞いていた高尾さんは、普段は明るく話をしてくれる男性の、早口で真剣な様子に異変を感じ、高尾さんはすぐに「詐欺だ」と確信、警察に相談するように伝え、男性は近くの交番へかけこみ、被害に遭わずにすんだといいます。
  • 特殊詐欺を未然に防いだとして三重県警鈴鹿署はこのほど、ファミリーマート鈴鹿須賀3丁目店に感謝状を贈っています。三重県内では特殊詐欺が後を絶たず、最近ではSNS型投資詐欺が注目される中、最も多いのは架空請求詐欺で、悪質な手口で全体の半分を占めています。2023年、特殊詐欺を未然に防いだ件数は172件で最も多かったのはコンビニエンスストアで103件、鈴鹿署の中村署長は「特殊詐欺の被害は多く、啓発運動も行っているが、警察だけでは被害者を防ぐことができない。水際で止めてもらうしかない」と語っています。
  • 歌手で俳優の美輪明宏さんをかたった特殊詐欺被害を防いだのは、ベテラン銀行員の「お客さまファースト」の細やかな視点だったといいます。女性は「美輪明宏さんとやり取りしていて、振り込みが必要」と説明、「著名人」「振込指示」などのキーワードに「どう考えても詐欺だ」と直感した坂野さんはすぐに警察へと連絡、坂野さんが特殊詐欺被害を食い止めたのは今回が2回目となります。坂野さんによると、両者に共通する点は「いつもと違う行動をしていること」、今回の女性は「しっかりしていて詐欺に遭うような人ではない」が、めったに来ない銀行を訪れたという違和感が被害防止へとつながったといいます。

その他、特殊詐欺に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 警察官になりすまして高齢女性からキャッシュカードを盗んだとして、埼玉県警組織犯罪対策3課などは、自称会社員の容疑者を窃盗容疑で逮捕しています。容疑者は特殊詐欺の「受け子」とみられ、偽造した警視庁の職員証を所持していたといいます。県内で警察官をかたる詐欺の予兆電話があり、警戒中の警察官が不審な行動をする容疑者を発見、偽造した警視庁の職員証には自身の顔写真のほか、「生活安全総務課生活安全対策第2係」や「巡査 警部補」などと書かれていたといいます。
  • SNSでもうけ話や結婚を持ちかけ、現金をだまし取る投資詐欺とロマンス詐欺の被害が奈良県内で急増しており、2024年は4月末までで2023年1年間の被害件数・総額を超えました。こうした中、郡山署では、地域課員が管内住民の自宅を訪ねる巡回連絡で、詐欺の手口を伝え、被害防止に役立てようとしています。署員の手には被害の経緯やLINEの画面を絵で説明する手作りの紙芝居、SNSを使った詐欺が急増しているという危機感を持ってもらおうと、同署が乗り出した独自の取り組みで、企画した同署の松本地域課長は「『私は大丈夫』と思う人ほど被害に遭いやすく、チラシを読んでくださいと言うだけでは伝わらない。実際に警察官が訪れたら、記憶にも残るのではないか」と期待しているといいます。同署は5月末までに約1200世帯を巡回し、紙芝居を披露したといいます。
  • 各地で後を絶たない特殊詐欺などの被害を防ごうと、元警視庁警視で秋田県大仙市在住の佐々木さんが市内で啓発活動を続けています。地元グループの集会などでの講演は約30回に上り、「具体的で分かりやすい」と好評だといいます。佐々木さんは「だまされたお金の多くは暴力団などの反社会的な犯罪組織に使われてしまう悔しい結果になっている。少しでも自分の話が聞き手の記憶に残れば」と語っています。講演で佐々木さんは県内の現状について「仮に受け子を自宅に向かわせようとすると、秋田の場合、タクシーやレンタカーを使う必要があり、足取りが残ってしまう。このため被害者をコンビニエンスストアや金融機関に向かわせる架空請求の手口が少なくない」と指摘、「東北には方言があり、会話のやりとりだとうそが見破られやすいので、被害者側からの連絡を待つ形にしている傾向がある」などと話しています。佐々木さんによると、今後は被害者の家に受け子が出向くような形は減り、副業サイトやSNSなどインターネットを使って被害者による振り込みを促したり、電子マネーを支払わせたりする手口がさらに増える可能性があると指摘しています。

(3)薬物を巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2024年5月号)でも取り上げましたが、米司法省は2024年5月16日、大麻に関する規制緩和案を発表しています。実施されれば医学的な効果に関する研究なども進む可能性もあります。中毒性の高い合成麻薬「フェンタニル」の乱用が米国で社会問題となる中、大麻に対する規制が厳し過ぎると指摘されていたところ、提案は大麻の分類を「Ⅰ類」から「Ⅲ類」に変更する内容で、ヘロインや合成麻薬「LSD」などと同様に、乱用の可能性が最も高い「Ⅰ類」の薬物は乱用の可能性が高く医学的効果はないとされているのに対し、Ⅲ類は身体的・心理的依存性が中程度から低いとされます。米食品医薬品局(FDA)は「慢性痛、疾患に関連した拒食症、吐き気・嘔吐の治療における大麻使用について、信頼できる一定の科学的裏付けが確認された」としています。司法省の提案は「FDAのレビューでは、医療用の大麻利用が容認できないほど高いリスクをもたらすことを示す安全性の懸念は確認されなかった」としています。前回の本コラムでも指摘したとおり、分類変更は大麻を合法化するものではありませんが、関連研究の活性化や医療用の使用に道を開き、同セクターへの投資拡大につながる可能性があるのは間違いありません(が、バイデン大統領は2022年に大麻の分類見直しを指示、左派寄りの支持層が重視する公約を果たした「選挙対策」の要素も大きいことは認識する必要があります)。一方、国際麻薬統制委員会(INCB)は2023年3月、一部の娯楽用マリファナ使用者の間で「健康への悪影響と精神病性障害」を引き起こしていることを示すデータを引用し、娯楽目的のマリファナ利用に警鐘を鳴らしています。さらに、国連1961年麻薬に関する単一条約にも反しているとの立場をとっています。なお、本件については、若者への大麻の蔓延をさらに助長する可能性を秘めています。つまり、「やはり大麻は安全だ」「大麻の依存性は低い」といった誤った情報を補強するものとして悪用されかねない点を筆者は危惧しています。日本においても、医療用大麻の解禁が決まったタイミングでもあり、慎重かつ冷静な対応を求めたいところです。

前述のとおり、大麻の身体的・心理的依存性が中程度から低いと評価された一方、米国では日常的に大麻を使用する人が、2022年時点で飲酒する人より多いことが、東部ペンシルベニア州のカーネギーメロン大の調査で明らかになったといいます。大麻の規制緩和を背景に常用者が大幅に増えている実態を示しているといえます。報道によれば、2022年時点で毎日またはほぼ連日、大麻を使用する人は推計1770万人で、1992年の90万人から約20倍に急増しています。一方、酒を同様の頻度で飲む人は同1470万人(1992年は890万人)と、大麻使用者の方が多くなったのは2022年が初ということです。同大は「大麻使用者の40%が日常的に使っている」としています。また、2022年の調査では、酒を飲む人の過去1カ月間の頻度は中央値が4~5日で「ほぼ毎日」が11%だったのに対し、大麻の場合は15~16日で「ほぼ毎日」は42%だったといいます。なお、調査での推計値は、米薬物乱用・精神衛生管理庁が毎年実施する「薬物使用と健康に関する全米調査」に基づいて算出しているということです。米国では麻薬密売組織を弱体化させ、流通や使用の管理を強化するため、大麻の解禁が進んでいます。米調査機関「ピュー・リサーチ・センター」によると、米国の連邦法では大麻の使用は違法ですが(前回の本コラムでも取り上げたとおり、2024年5月、連邦政府レベルでも、身体的な依存症になるリスクが低・中程度で、医療用の使用を認める「スケジュールⅢ」(ケタミンや筋肉増強剤の一部など)に2段階引き下げる方針が決まっています)、2024年2月時点で、全米50州のうち24州と首都ワシントンで嗜好用大麻が合法化されているほか、14州で医療用に限って認められています。カーネギーメロン大の調査責任者は「(大麻使用の拡大)傾向は、政策の変更を如実に反映している」と指摘していることから、大麻の分類変更の影響も顕著に表れるのではないかと危惧されるところです。

一方、米国の2023年の薬物過剰摂取による死者数が、前年比で3%減少したことが、米疾病対策センター(CDC)が更新した統計で明らかになっています。死者数が減少に転じたのは5年ぶりとはいえ、依然として10万人を超えて高止まりの傾向にあります。報道によれば、死者は推計10万7543人で、このうち、麻薬性鎮痛剤「オピオイド」の過剰摂取による死者が全体の4分の3を占めたといいます。なお、死者数は確定しておらず、今後変動する可能性があるとのことです。本件について米ABCニュースは、米食品医薬品局(FDA)が2023年3月にオピオイドの過剰摂取時に投与される拮抗薬を市販薬として承認し、処方箋なしで薬局で購入できるようになったことなどが、死者数減少につながった可能性があると報じています(このあたりは、大麻使用の拡大傾向が制作の変更を如実に反映しているとの指摘がそのまま当てはまります)。本コラムで以前から取り上げているとおり、米国では化学的に作られるオピオイドの一種「フェンタニル」の乱用が社会問題になっています。フェンタニルは医療用として開発されましたが、麻薬としてまん延、メキシコの麻薬カルテルが中国製の原材料を使って合成し、米国に密輸しているとして国際間の政治的課題ともなっています。そのオピオイド中毒(フェンタニル中毒)については、米紙ワシントンポスト電子版が、強力な鎮痛効果を持つ医療用麻薬フェンタニルが米国の子供の間でもまん延し、12~17歳の過剰摂取による死亡事故が記録的に増えていると報じています。フェンタニル対策は11月の大統領選で争点の一つとなっています。フェンタニルの鎮痛効果はモルヒネやヘロインより強力で、依存性が高いとされ、フェンタニルが混じった錠剤はインターネットで1個2~10ドル(約300~1500円)で販売され、入手は比較的容易、依存症の治療を希望する子供は増える一方、態勢は整っていない現状にあります。

米食品医薬品局(FDA)の外部専門家からなる諮問委員会は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者向けに合成麻薬MDMAを利用する治療法の承認を勧告しない方針を決めています。諮問委は、効果がリスクを上回っていないと指摘、委員11人のうち9人が、入手可能なデータは同薬のPTSD患者への有効性を示していないとしています。MDMAは違法な使用で知られていますが、精神疾患の治療に使える可能性が長年注目されてきたといいます。この治療法で使うカプセル状のMDMAはライコス・セラピューティクスが開発、有資格の精神医療従事者との対話療法と併用する形で治療が行われるとされ、臨床試験では、対話療法に加えてMDMAを服用した190人超の患者には、プラセボ(偽薬)群と比べてPTSDスコアの大幅な低下が見られたといいます。それに対し、FDAの審査官は、MDMAの幻覚作用により、患者はMDMAを投与されたかプラセボを投与されたかが分かってしまうため、薬物の効果を客観的に判断できなくなっていると懸念を表明しています。またFDAは、薬物の乱用に関連した有害事象に関する文書が著しく不足しているため、MDMAの効果を説明したり、乱用される傾向を判断したりするFDAの能力が限られる可能性があると指摘しています。

なお、米首都ワシントンの議会警察本部で、小型のポリ袋に入った白い粉を職員が発見し、簡易検査でコカインと判明、議会警察が経緯を捜査しているとの報道がありました。議会警察は連邦議会や周辺の警備、治安維持に当たっています。コカインはコカの葉から精製される違法薬物で、今回コカインが見つかったのは建物2階の備品が置かれている廊下という職員らが頻繁に行き来する場所で、2023年7月にはホワイトハウスの敷地内でも見つかっています。(これ以上の事実関係は不明ですが)政府中枢の場でも薬物が蔓延している実態の一部を示すものとして捉えることができます。

こちらも前回の本コラムで取り上げましたが、タイ政府が再び大麻規制に乗り出しています。アジアで初めて大麻を解禁してから約2年で、街には大麻ショップがあふれ、娯楽目的での使用が横行する現状を変えられるのか、注目されるところです。タイは過去の政権が2018年に大麻の医療目的での利用を解禁し、2022年には娯楽目的での利用も容認しました(正確に言えば、THCの含有量が0.2%以下の大麻を「麻薬リスト」から外し、家庭栽培を認めたというもの)。これにより、一般家庭でも栽培が可能になったものです。使用や販売は本来、医療目的に限り認められていますが、大麻ショップの出店が相次ぎ、外国人観光客でも気軽に購入できるのが実情です。2年前に解禁された背景としては、コロナ禍で落ち込んだ国内経済の起爆剤になると当て込んで旗振り役を務めたのが、プラユット前政権の保健相だったアヌティン氏で、大麻解禁は党首を務める「タイの誇り党」の公約でもあり、大臣自らがイベントで大麻草入りの名物ソムタム(パパイアサラダ)を食べてみせたり、栽培を促進するため100万株を配ったりし、当初は大麻成分を活用した「医療ツアー」などが念頭にあったとみられます。ところがそうした思惑を超えて大麻産業が広まり、栽培の届け出件数は110万件を超え、販売店は約7800店に増え、バンコクには約1100店がひしめく事態になりました。タイ商工会議所大によると、市場規模は2025年に約430億バーツ(約1850億円)に達する見込みといいます。保健省が解禁直後に出した省令では、20歳未満や妊婦、授乳中の女性の使用、学校やショッピングセンターなど公共の場での喫煙は禁止されていますが、法整備は追いついておらず、事実上野放しの状態で、地元メディアによると、若者の間で大麻依存が急増しているといいます。2023年の総選挙を経て就任したセター首相は嗜好用大麻の解禁には反対の立場ですが、解禁の旗振り役のアヌティン氏は今も副首相兼内相を務め、連立政権の要職にあることから、どこまで規制を強化できるかは未知数のところもあります。なお、タイ国立開発行政研究院(NIDA)が2024年5月に、15歳以上の1310人を対象に行った世論調査では、再指定について約60%が「支持する」、約15%が「どちらかといえば支持する」と回答し、法整備が不十分なまま使用が広がる現状への不安が浮き彫りになりました。報道で医師でもあるマヒドン大のスミス・シーソン助教授(法医学)は、過剰摂取で救急搬送されたり、精神的な問題を抱えたりする患者が増えているとして、若年層への影響も懸念、「規制を強化して医療目的に厳密に限定し、医師の処方に基づき正しく使用されるべきだ」と指摘していますが、筆者としてもそのような形で政策が転換されることを期待したいところです。

医療用の注射器5万本以上を暴力団組員らに不正に販売したとして、京都府警は、医薬品医療機器法違反の疑いで歯科医師の男が逮捕されています。報道によれば、2023年3月9日~9月5日、埼玉県の六代目山口組傘下組織4次団体組長=覚せい剤取締法違反(営利目的共同譲渡)などの罪で起訴=ら4人に対し、千葉県流山市で開業していた歯科医院で9回にわたって注射器5万6230本を542万円で販売したのに、県知事に届け出をしていなかった疑いがもたれています。警察は容疑者が、この期間だけでも三百数十万円の利益を得たとみているといいます。暴力団組員の男らは、購入した注射器を覚せい剤とともに密売人らに販売していたといいます。容疑者と男らは数年来の付き合いがあったといい、容疑者は、「注射器は研究や治療に使っているので販売はしていない」と容疑を否認しているといいます。なお、筆者の記憶でも、獣医師が同様に注射器を暴力団員に横流ししていた事件がありました。

北海道帯広市の自宅で大麻を所持したとして、大麻取締法違反の罪に問われた帯広畜産大生、岩崎被告(21)は、釧路地裁帯広支部で開かれた初公判で、起訴内容を認めています。2024年4月9日、自宅で大麻を含む植物片16.4グラムを所持したというもので、知人の同大生、福永被告(20)も2024年5月2日、同法違反罪で起訴されています。釧路地検によると、2人は自生した大麻草を採取していたといいます。また、2人の知人で卒業生の男性(23)も大麻のようなものを所持したとして、麻薬特例法違反罪で、帯広簡裁から罰金20万円の略式命令を受けています。一方、若者の事件としては、コカインを摂取したとして、兵庫県警東灘署が、麻薬取締法違反の疑いで、神戸市内に住む21~22歳の男子大学生5人を逮捕した事件もありました。報道によれば、5人は神戸大や同志社大、近畿大、神戸学院大、追手門大にそれぞれ通っていると話しているといい、逮捕容疑は2023年12月、兵庫県内かその周辺でコカイン若干量を摂取したというものです。神戸市東灘区内のコンビニエンスストア駐車場でたむろしていた5人の様子を不審に思った巡回中の警察官が職務質問、署へ任意同行したところ、尿検査でコカインの陽性反応が検出されたということです。

その他、薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 覚せい剤を練り込んだボタン1万2000個をズボンに縫い付けて密輸したなどとして、愛知県警薬物銃器対策課などは、イラン国籍の自称自営業の男を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)と関税法違反(輸入未遂)の疑いで再逮捕しています。覚せい剤をボタンに加工して密輸する手口は全国的にも珍しいといい、愛知県警は外国人の密売グループが関与しているとみて調べているといいます。報道によれば、男は2024年2月、仲間と共謀し、覚せい剤を練り込んだボタン付きのズボンが入った小包9個を国際郵便でアラブ首長国連邦から発送し、同3月、営利目的で日本に密輸するなどした疑いがもたれており、ボタンの直径は約2センチで、覚せい剤と樹脂を混ぜて作ったとみられています。ズボンは計1002着で、1着あたり10~12個付いており、名古屋税関が押収して分析したところ、覚せい剤の成分が検出されたということです。小包の受け取り先に指定されていたのは、日本人が経営する愛知県豊橋市内の洋服店で、この店にズボンを受け取りに来た別の日本人が男と知り合いだったといいます。密輸したボタンから覚せい剤の成分を取り出し、密売する計画だった可能性が高いとされいます。
  • 営利目的で大麻リキッド(液状大麻)を密輸したり麻薬を製造したりしたとして、近畿厚生局麻薬取締部は、住居不定の会社社長を大麻取締法違反容疑などで逮捕、送致しています。麻薬取締部によると、容疑者はいずれも営利目的で、2022年8~9月に計10回、大麻リキッド計約14.8キロ(末端価格1億6千万円相当)をアメリカから国際郵便で輸入したほか、2023年4~7月、輸入した器具を使い和歌山市内の倉庫で麻薬を製造した疑いなどがもたれています。
  • 麻薬成分を練り込んだチョコレートを密輸したとして、埼玉県警は、米国籍で元格闘家のエンセン井上容疑者と、妻でニュージーランド国籍のジェーン容疑者を麻薬取締法違反(輸入)の疑いで逮捕しています。報道によれば、2人は共謀し、2024年4月に米ハワイの郵便局から麻薬成分が入ったチョコレートバー1本(末端価格約7786円)を国際小包郵便で自宅に発送した疑いがもたれており、東京税関が成田空港で荷物を発見、荷物にはほかにチョコレートバー5本などが入っており、税関が成分を鑑定しています。
  • 大麻取締法違反の罪に問われたレゲエ・ミュージシャンの米田被告の判決公判が名古屋地裁岡崎支部であり、裁判官は懲役10月執行猶予3年(求刑懲役1年)の有罪判決を言い渡しています。報道によれば、米田被告は2023年9月、東京都品川区のマンション内で大麻を含む植物片計6.685グラムと、大麻を含む液体1.045グラムを所持したとされます。裁判官は、大麻の単純所持量としては「相応に多量」と指摘、米田被告が「20代前半から大麻を断続的に使用していた」と供述したことなどから、常習的な大麻の所持を認定して「刑事責任は軽視できない」としています。米田被告は公判で、マンションの部屋で大麻を所持していたことは認めたものの、当時体にかけていたポーチの中に入っていた大麻については、直前のライブ会場の控室で誰かが入れたか、警察官が入れたと主張していましたが、判決はこうした主張を「推測の域を出ない」などとして退け、「不合理な供述をしていて反省は見られない」と非難しています。
  • 九州大大学院総合理工学研究院の男性教員が覚せい剤取締法違反(所持)容疑で九州厚生局麻薬取締部に逮捕されています。男性教員は2024年5月31日午前7時半ごろ、路上で捜査員に声をかけられ、一緒に自宅に向かったところ、室内から覚せい剤が見つかったといいます。2020年夏ごろから、インターネットで入手して使用していたとみられています。九大は薬物乱用の防止を啓発する動画を製作するなどしてきたといい、石橋学長は「学生や関係者、国民の皆さまに多大なるご迷惑とご心配をかけ、深くおわび申し上げる。事実関係の把握を進めた上で、厳正に対処する」とのコメントを出しています。
  • 札幌地検は、大麻のようなものを譲り受けたとして、麻薬特例法違反容疑で書類送検された北海道警の元巡査の男性2人を不起訴処分としています。また2人に譲り渡したとされ、同法違反の疑いで逮捕された元巡査の男性も不起訴としています。報道によれば、元巡査2人は2023年10月、札幌市内で大麻のようなものを有償で譲り受けた疑いで、2024年3月に書類送検されていました。3人は2022年4月に警察学校に入校した同期だったといいます。
  • 北海道・小樽港に着岸した露船籍の貨物船内で約3グラムの大麻を所持したとして、小樽海上保安部は、大麻取締法違反(所持)の疑いで露国籍の船員を逮捕、送検しています。露から小樽港に入港した船の中で、服の胸ポケットなどに大麻を所持した疑いがもたれているものです。
  • 東京・浅草のベトナム人向けナイトクラブで違法薬物を使用したなどとして、警視庁が20~30代のベトナム人ら14人を一斉摘発しています。同庁はクラブで薬物がまん延していた疑いもあるとみて、詳しく調べるとしています。報道によれば、同庁は2024年5月26日未明、東京都台東区浅草にあるナイトクラブを摘発、当時、店内にはベトナム人約50人がおり、このうち麻薬のケタミンを所持したり使用したりしたとして、麻薬取締法違反容疑で20代の男7人を逮捕、他に、留学生なのに店内で働くなどした20~30代の従業員と客の計6人を入管難民法違反容疑で、自宅で大麻を所持したとしてナイトクラブを経営する20代の日本人の男を大麻取締法違反容疑で逮捕しています。店内の椅子の背もたれからは、麻薬とみられる粉が入った小分けの袋9個も見つかったということです。
  • 東京都杉並区の路上で2024年3月、男性2人が刃物で刺されて高額なネックレスを奪われるなどした強盗殺人未遂事件で、容疑者である兄弟の自宅から大麻が発見されていたといいます。警視庁捜査1課は事件の背景に薬物の売買を巡るトラブルがあったとみて追及するとしています。両容疑者と男性2人に面識はなかったようですが、両容疑者には現場一帯で薬物を密売していた疑いがあり、刺された男性会社員もコカインを使用していたことが捜査の過程で判明、男性会社員は麻薬及び向精神薬取締法違反の疑いで逮捕されたといいます。
  • 性的少数者の交流拠点「かなざわにじのま」を運営する一般社団法人「金沢レインボープライド」の元事務局長が2024年3月、同交流拠点で覚せい剤を使用したなどとして、覚せい剤取締法違反で金沢地裁に起訴されています。金沢地裁で初公判が開かれ、元事務局長は起訴事実を認め、検察側は懲役2年を求刑、弁護側は執行猶予付きの判決を求めて即日結審しています。報道によれば、元事務局長は「かなざわにじのま」で、注射器を用いて覚せい剤を使用し、翌日、金沢市内の駐車場で覚せい剤2.11グラムなどを所持していたとされます。被告人質問で、元事務局長は「約20年前に友人に勧められ(覚せい剤の使用を)始め、断薬期間もあったが月1、2回の頻度で使用していた」と説明、検察側は「使用量が少ないとは言えず、常習性も高い」と指弾しています。
  • 神奈川県警は、同県寒川町の男性会社員を2024年2月に覚せい剤取締法違反(所持)容疑で誤認逮捕していたと発表しています。報道によれば、2023年11月、男性を同法違反(使用)容疑で平塚署の取調室で任意聴取した際、その足元に覚せい剤が入った袋が落ちているのを署員が発見、男性は所持を否定したものの、男性の尿から覚せい剤の陽性反応が出たため、県警は2024年1月に使用容疑で逮捕し、同2月に所持容疑で再逮捕しました。しかし、袋などの鑑定で、付着したDNA型が男性と一致しないことが判明、覚せい剤は約50日前に同じ部屋で、窃盗容疑で取り調べを受けた住所不定、無職の男が机と壁の間に隠したことを認めたものです。取調室はこの間、28回使用されていたといいますが、誰も覚せい剤に気がつかなかったということです。
  • 大麻類似成分を含むグミを食べた人の健康被害が相次いだ問題で、厚生労働省近畿厚生局麻薬取締部は、医薬品医療機器法違反(指定薬物所持)容疑でグミの販売会社元社長ら2人を再逮捕しています。報道によれば、2人は共謀し、2023年11月、神奈川県厚木市の倉庫で、指定薬物の大麻類似成分HHC(ヘキサヒドロカンナビノール)を含む固形物約7.7キロを販売目的で保管した疑いで、2024年4月に逮捕されていたものです。また、中国四国厚生局麻薬取締部と広島県警は、指定薬物の大麻類似成分HHCを含む製品を販売目的で所持したとして、医薬品医療機器法違反(指定薬物所持)の疑いで古物店経営の容疑者と妻を逮捕しています。2023年11月と12月、同市中区の古物店で、HHCを含む植物片と液体少量を販売目的で所持したとしています。2023年、大麻類似成分を含むグミを食べた人の健康被害が相次ぎ、厚生労働省の各麻薬取締部は全国の店舗などを立ち入り検査、同店も検査を受け、製品からHHCが検出されたものです。また、合法の大麻類似成分を含むとうたった「大麻グミ」などを製造・販売した大阪市北区の「WWE」元社長らが逮捕された事件で、大阪府警は、指定薬物の大麻類似成分HHCを販売目的で所持したとして、医薬品医療機器法違反(指定薬物所持)の疑いで、元社長ら2人を逮捕しています。2023年6月、府内の路上で職務質問した外国人の男女が同社製のグミを所持しているのを発見、鑑定で違法成分が検出されたものです。大阪府警は2024年2月に同社製造工場や店舗を家宅捜索、クッキーやグミなど計700点を押収して鑑定したところ、一部からHHCが検出されたといいます。さらに、四国厚生支局麻薬取締部は、指定薬物の大麻類似成分HHCP(ヘキサヒドロカンナビフォロール)を含む製品を販売したとして、医薬品医療機器法違反の疑いで、徳島市の危険ドラッグ販売業者「ADD CBD」代表取締役社長ら30~40代の男6人を逮捕しています。同社は14都道府県で25店舗を展開する国内最大規模の販売業者ということです。厚生労働省は2023年12月、HHCPなど大麻成分に似た構造の6成分を指定薬物に追加、2024年1月6日から、これらを含む製品の所持や流通が禁止されています。同社は規制前の2023年12月、東京都内の店舗への立ち入り検査で販売停止命令を受けていたものです。

2024年5月25日午前8時10分ごろ、埼玉県所沢市のアパートに住む10代の男子大学生から「(部屋にいる)友人の意識と呼吸がない」と119番通報があり、大学生の部屋に千葉県習志野市の女子高校生(15)が倒れており、その場で死亡が確認されたといいます。部屋からは空になった薬のパッケージが見つかったといい、過剰摂取(オーバードーズ)の可能性も視野に調べているといいます。着衣の乱れや外傷はなく、2人は知人関係とみられ、署は高校生が亡くなった原因を調べているといいます。

国民一人ひとりの薬物乱用問題に関する認識を高めるため、厚生労働省や都道府県、公益財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターが毎年「ダメ。ゼッタイ。」普及運動を毎年、実施しています。2024年も6月20日~7月19日の1カ月、さまざまな活動が行われる予定です。とりわけ、若年層への大麻蔓延の現状は深刻であり、正しい知識の普及に役立つことを期待したいところです。なお、「ダメ。ゼッタイ。」は30年以上にわたり、薬物乱用の防止を呼び掛けるために使われてきた標語ですが、この標語が薬物依存症患者の立ち直りを妨げるとして、使用の是非について議論が続いています。「「『ダメ。ゼッタイ。』が相談しやすい環境を作るだろうか」。依存症患者の治療に取り組む国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦・薬物依存研究部長は、ダメなことだと強調するあまり、相談や治療につながる敷居が高くなってしまっていると訴える。「依存症患者が自分に対する嫌悪感やスティグマ(偏見)を内在化させてしまい、治療にアクセスするまで十数年かかる」と話す。以前、「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」という標語があった。乱用者を人間扱いしていない表現と批判が出たが、当事者らは「ダメ…」もその延長と捉えてしまうという。薬物を使わせない予防活動は大事だとしつつ、「当事者を無視した行き過ぎた啓発は、逆に偏見を強化する」と批判する。「健康問題の啓発をするときに、その問題で苦しんでいる人たちの意見を聞くのはとても大事だ」と話し、依存症患者と向き合った対応を求めた」、一方、同じ厚生労働省の検討会の別の委員は「批判は「誤解、曲解に基づくものだ」と反論する。「まず始めないことが大切で、そうすれば、治療や社会復帰に掛かる費用や時間、労力はいらなくなる」と予防の必要性を強調。国民のうち生涯で違法薬物の使用経験がある人の割合が日本では1.8%と、米国の44.2%、フランスの40.9%などと比べても大幅に低くなっている点を挙げ、「予防をきちっとしてきた影響もあると思う」と主張する」(2021年7月13日付時事通信)といった状況です。筆者としても、そのインパクトから、薬物から遠ざける効果があったと評価する一方、(手を出してしまった方に対する)偏見を助長しかねないところがあるとの指摘もそのとおりで、30年以上続いているとはいえ、そろそろ別の標語を検討してもよい時期ではないかと考えます。

▼厚生労働省 「『ダメ。ゼッタイ。』普及運動」を6月20日から実施します~薬物乱用防止のためのキャンペーンと国連支援募金運動を全国各地で実施~
  • 6月26日は国連の「国際麻薬乱用撲滅デー」(*)です。これを踏まえ、厚生労働省、都道府県および(公財)麻薬・覚せい剤乱用防止センターでは、6月20日(火)から7月19日(水)までの1カ月間、「『ダメ。ゼッタイ。』普及運動」を実施します。この運動は、国民一人一人の薬物乱用問題に関する認識を高めるため、正しい知識の普及、広報啓発を全国的に展開するもので、平成5年から毎年行っています。(*)国連が1987年にウィーンで開催した「国際麻薬閣僚会議」の終了日である6月26日を、「国際麻薬乱用撲滅デー」とすることが決定。国連加盟各国では、麻薬撲滅に向けた様々な取り組みを行っています。
  • 日本における薬物情勢は、大麻の検挙者数が急激に増加しており、令和5年の大麻事犯検挙者数も過去最多を更新するとともに、統計を開始して以降初めて覚醒剤事犯検挙者数を越えるなど、非常に高い水準を維持しています。特に、若年層の大麻乱用が顕著で、30歳未満が大麻検挙者の7割以上を占めています。よって、増加の一途をたどる若年者の大麻の乱用防止に重点を置きつつ、身近な人も含め、薬物乱用が疑われる時は、一人で悩まずに近隣の相談窓口で相談するよう促し、適切な治療・支援につながるよう啓発していきます。厚生労働省、都道府県、(公財)麻薬・覚せい剤乱用防止センターでは、警察庁をはじめとする関係機関や日本民営鉄道協会などの民間団体に協力を呼びかけ、官民一体となった薬物乱用防止普及運動を積極的に展開していきます。
  • 「『ダメ。ゼッタイ。』普及運動」概要
    • 実施期間:令和6年6月20日(木)から7月19日(金)まで
    • 実施機関:
      • 主催 厚生労働省、都道府県、(公財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター
      • 協賛 国際連合(国連薬物犯罪事務所)
      • 後援 警察庁、こども家庭庁、総務省、法務省、最高検察庁、外務省、財務省税関、文部科学省、経済産業省、国土交通省、海上保安庁
      • 関係団体46団体
    • 国連支援募金:(公財)麻薬・覚せい剤乱用防止センターでは、国連や関係団体の協賛、関係省庁の後援により国連支援募金運動を行います。この募金運動を通じて、地球規模での薬物乱用防止に関する理解と認識を高めるとともに、寄せられた善意の募金は、開発途上国で薬物乱用防止活動に従事する民間団体(NGO)の活動資金として国連に寄付されるほか、国内の啓発事業にも役立てられます。

(4)テロリスクを巡る動向

パリ五輪の7月の開幕を控え、フランス政府がイスラム過激派などによるテロへの警戒を強めています。本コラムでも取り上げた2015年のパリ同時多発テロの「悪夢」を繰り返さないよう最高レベルの警備態勢を構築、大会の目玉であるセーヌ川での開会式の内容変更も検討しているといいます。そうした中、フランス内務省は2024年5月31日、パリ五輪(同7月26日開幕)の期間中にサッカー会場でのテロを計画したとして、チェチェン出身の18歳の男を逮捕したと発表しています。パリ五輪に関わるテロ計画での逮捕は、初めてといいます。報道によれば、男はフランス南東部サンテティエンヌの競技場で、観客や警察を襲撃した後、自らもその場で死ぬ計画を立てた疑いがもたれており、同省は、男がイスラム過激主義に傾倒していたと見ているといいます。仏メディアは、男はイスラム過激派として知られる人物とメッセージのやりとりをし、男の携帯電話とパソコンからは競技場の写真や動画が見つかったと報じていますが、男はメッセージのやりとりは認めているものの、テロ計画は否認しているといいます。パリ五輪を控えたフランスのテロ対策の現状については、2024年5月17日付産経新聞の記事「フランスはテロの「悪夢」防げるか パリ五輪に過激派の脅威 対策に相次ぎほころびも」に詳しく報じられています。「導入した対ドローン・システムの欠陥が明らかになるなど対策のほころびも出てきている。五輪開幕まで4カ月を切った3月末、テロの懸念を高める出来事があった。ダルマナン内相は五輪参加を希望するボランティアや聖火ランナー、選手の同行者ら18万人を調査した結果として、800人が過激なイスラム主義者などだったと発表。「潜在的な危険がある」とみて排除したと明らかにした。該当者が実際にテロを画策していたかは不明だ。だが、パリ中心部に住む市民は「テロが起きる可能性が間近に迫っていた」と声を震わせた」と報じています。また、「最近はイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)に関連したテロの脅威が拡大している」、「政府は安全確保のためにあらゆる手段を講じる構えだが、技術や人材面の課題も浮上している。英紙タイムズなどによると、政府が五輪警備のために約3億5000万ユーロ(約593億円)をかけて導入した対ドローン・システムは、運用テストでエアコンのファンの動作をドローンの攻撃と誤認。システムの稼働範囲が狭いという問題も露呈した。また、一部の警察職員は五輪期間中の出勤などに対する特別手当を要求。交渉がまとまらなければ、職員が期間中の勤務を拒み、警備に支障をきたす事態も懸念されている。ある警察職員の労組は、これまでの度重なるテロ対策やデモへの警備で一部職員が「完全に疲弊している」と指摘。職員が病気のために休暇を取る事例も増えていると明かした」といった現状のようです。過激なイスラム主義者の排除については、こうした側面と選挙の観点から、ロイターが、「近年、国内外出身のジハーディスト(聖戦主義者)による攻撃で死傷者が出ていることを受けて、マクロン大統領は「イスラム分離主義」「イスラム過激主義」の取り締まりを強化している。マクロン大統領は、今週の欧州議会選挙に向けて自身の党を大きくリードしている極右の国民連合(RN)からのプレッシャーに悩まされている。フランス当局による締め付けは、国内のムスリム系機関に対する外国からの影響を抑え、マクロン大統領の言う「フランス共和国の実権を握ろうとするイスラム主義者の長期的な計画」に対抗することを目指している。マクロン大統領は、イスラム教徒を非難しているのではなく、フランス社会にはイスラム教の居場所はあると述べている。とはいえ、人権団体やムスリム系団体からは、アベロエス校などの学校を標的にすることで政府は信教の自由を侵害し、イスラム教徒が自らのアイデンティティーを表現することをさらに困難にしている、という声が上がっている」と報じられています。また、テロの主体は過激なイスラム主義者だけとは限らず、米マイクロソフトは、露がパリ五輪などに関するオンラインでの偽情報工作を強化していると発表しています。2024年6月2日に公開されたブログによれば、偽情報は捏造されたニュースサイトや長編ドキュメンタリー映画などに組み込まれており、国際オリンピック委員会(IOC)の評判を落としたり、夏季五輪中に暴力行為が行われるとの印象を植え付けることを目的にしているといいます。具体的な手口としては、生成AI(人工知能)で米人気俳優トム・クルーズさんの声を偽造したハリウッド風動画もあり、欧州のテレビ報道と見せかけて「パリ住民はテロを警戒して住宅保険を購入している」「テロ脅威のため、五輪入場券の24%が払い戻しになった」という偽情報も見つかっています。また、パリ五輪を巡り、米中央情報局(CIA)がイスラム過激派テロの危険を警告するでっち上げのプレスリリースもあったといいます。一連の情報工作は、IOCやフランスに揺さぶりをかける狙いがあるとみられており、MSの報告書は、パリ五輪開会式が近づくと妨害工作が強まる可能性があると指摘、露は、旧ソ連時代から五輪妨害の歴史があると振り返り、2018年の平昌冬季五輪の際には、米司法省がサイバー攻撃を仕掛けた疑いで露情報総局員を訴追したことに触れています。

EUの欧州議会選挙が近づき、極右の動きも活発化しており、各国の政策もそれに左右されるような状況にあります。例えばドイツで極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進する勢いを見せています。「過激派政党」(独メディア)と称されるAfDにはスキャンダルが絶えず、党幹部らが移民の大規模追放を謀議した疑い(最大200万人の移民を追放して北アフリカに移住させる案を話し合っていたとされます)や、露の情報機関に協力した疑惑が浮上したにも関わらず、景気低迷や移民急増に不満を募らせる支持者を確実に取り込んでいるといいます。ショルツ独政権内では、AfD台頭は「民主主義の危機」だとして、党の非合法化や政党交付金の停止を求める声が上がっていますが、こうした中でもAfDの支持率が堅調なのは、景気浮揚や移民対策の道筋を描けないショルツ政権への不満が高まっているためとされます。そのショルツ首相は、連邦議会演説で、凶悪犯罪を起こした外国出身者の国外退去措置を強化する意向を表明しています。欧州議会選では右派勢力が「反移民」を唱えており、「移民問題で厳しい姿勢を取るよう首相に圧力がかかっていた」(米紙)との見方が出ています。一方、連立与党内には「基本的人権の侵害につながる」との異論も出ているところです。ショルツ氏は「ドイツで保護を受けている人物による凶悪事件に憤慨する。凶悪犯罪者はシリアやアフガニスタンであっても送還されるべきだ」と訴え、祖国で迫害される恐れなどから強制送還の対象としていない国の出身者でも例外としない考えを示しています。

米国務省は、性の多様性への理解を深める2024年6月の「プライド月間」を前に、性的少数者(LGBTQ+)を標的にしたテロの可能性が高まっているとの渡航注意情報を、全世界を対象に出しています。連邦捜査局(FBI)と国土安全保障省も2024年5月10日、プライド月間中にISなどによるテロが起きる可能性があると警告しており、米当局は警戒を強めています。国務省は、性的少数者や関連イベントを標的として「外国のテロ組織に感化された暴力が起きる可能性が増している」と警告、プライド月間のイベントなど、人が集まる場所では注意するよう呼びかけています。

アフガニスタン中部バーミヤンで外国人観光客らが死亡した銃撃事件で、ISは、通信アプリ「テレグラム」で犯行声明を出しています。中東でISと戦う米国主導の有志連合を念頭に「有志連合の国民である観光客のバス」を襲撃したといいます。事件は2024年5月17日に発生、スペイン人3人とアフガン人3人が死亡、イスラム主義組織タリバン暫定政権当局は翌18日、容疑者7人を逮捕したと発表しています。

露がアフガニスタンで2021年に権力を掌握したイスラム主義組織タリバンに接近しています。ISの脅威が高まり、テロ対策で協力を深める必要があること、欧米との対立が長期化し、南アジアへの経由国となるアフガンの地政学的な重要性も増していることなどが背景にあります。露タス通信によると、露外務省などは、アフガニスタンで2021年に実権を掌握したイスラム主義組織タリバンの「テロ組織」指定解除をプーチン大統領に提案したといいます。アフガン問題担当のカブロフ大統領特使が明らかにし、プーチン大統領が最終決定すれば、タリバン暫定政権の承認に道が開けることになります。ラブロフ外相も訪問先のウズベキスタンで「(タリバンは)実際の政権だ」と記者団に述べ、承認に前向きな姿勢を強調しています。武力で政権を奪取し、女子教育を認めない同政権を承認した国は現時点でありません。プーチン政権は2003年、イスラム教徒の多い南部チェチェン共和国の独立派勢力を支援したとしてタリバンをテロ組織に指定し、対決姿勢をとってきましたが、IS系の「ISホラサン州」の活発な動きが、両者が急接近する背景にあります。ISホラサン州は2024年3月に露の首都モスクワ郊外のコンサートホールで起きた銃乱射事件で犯行声明を出しています。さらに、露は国内の治安回復に加え、自らの勢力圏とみなす中央アジア地域の安定を重視しています。共通の脅威となっているISホラサン州を掃討するため、タリバン政権に資金や兵器を供与する可能性も指摘されています。露とタリバンはともに米欧による経済制裁を科されており、反米路線で共闘しやすい構図となっているうえ、露は欧米向けのエネルギー輸出が大きく減り、代替としてインドやパキスタンなど南アジア諸国に目を向けており、アフガンは露と中央アジア諸国からパキスタンを結ぶ経由国として、地政学的な要衝となっています。アフガン国内ではインフラ整備計画も浮上、アフガンは金や銅、リチウムなどの鉱物資源の埋蔵量が豊富で、露には権益獲得につなげる狙いもあるとされます。一方、中国もアフガンの国際社会復帰を後押しています。米国は中露の動きに神経をとがらせており、ホワイトハウスのカービー大統領補佐官はプーチン氏の発言に反応し、「仮に露がタリバン政権を承認すれば、他国に悪いシグナルを送ることになる」と警鐘を鳴らしています。

アフガンと距離を詰める中国は、パキスタンとの関係においては微妙な状況となっています。「鉄のように固い友情」と称される中国とパキスタンの関係については、政治的な連帯に変わりはないものの、パキスタンの政情不安を受け、中国企業の対パ投資は萎縮。中国経済の低迷を背景に、投資選別の傾向も強まり、経済的なつながりが薄まりつつあります。中国は、自国と同様にインドとの領土問題を抱えるパキスタンとの関係を重視してきましたが、パキスタンでは近年、中国人へのテロ攻撃が続出、政治の混乱も深まった2022年ごろからは、「「中パ経済回廊(CPEC)の進展は著しく困難に陥っている」(専門家)といった論調が中国側で目立ち始め、同年の対パ直接投資は前年比で22.5%減少、パキスタンでは中国に代わり、サウジアラビアなどに期待する声が強まっているといいます。

スロバキアのフィツォ首相の暗殺未遂事件が波紋を広げています。政府内で事件直後から問題となったのは首脳を守る警備態勢のずさんさで、主要国の要人警護では対象者の周囲を警護員が取り囲むのが常であるところ、警護対象者に対する最初の1発は避けるのは難しくても、続く2発目以降は警護官が身代わりになって防ぐことが求められているものの、現地メディアが報じた専門家の映像分析によると、警護官は狙撃犯の発砲直前、フィツォ氏から約1メートルも離れていたうえ、同氏の左側では警護官はさらに離れた位置にいた結果、複数回撃たれたフィツォ氏は誰に支えられることもなく地面に倒れています。その時点でも警護官たちは狙撃犯の制圧に追われ、同氏を十分に守れておらず、他に狙撃犯がいたら、さらに銃撃を受けていた可能性があります。日本でも安部元首相銃撃事件や岸田首相襲撃事件などの記憶がいまだ色濃く残る中、要人警護のあり方をあらためて考えさせられます。

オーバーステイ(超過滞在)状態の外国人らを雇って企業に派遣していたとして、大阪府警外事課と生野署が、出入国管理法違反(不法就労助長)の疑いで、大阪市浪速区の人材派遣会社「永信国際」代表の中国籍の男と社員6人、法人としての同社を書類送検しています。同社は在留カードの原本を確認せず、1カ月に100~550人程度の外国人を雇用、府警は同社がずさんな運営を繰り返し、外国人不法就労者の温床になっていた可能性があるとみています。同社は社員がSNSを使って在日外国人コミュニティーに求人を掲載、人材不足に悩む各企業の需要を狙い、不法就労が可能なこともアピールし、外国人労働力を集めていたとされます。報道によれば、同社が2023年3月~2024年2月に派遣先から得た派遣料は約3億4500万円で、外国人労働者への賃金などを除くと、1億円ほどが会社に支払われていたといいます。高まる外国人人材の需要だが、懸念されるのはこうしたずさんな運営が「犯罪インフラ」として使われ、ひいてはテロなど重大犯罪につながるリスクです。実際オーバーステイ状態の外国人が同社から空港に派遣されていたといいます。2024年5月16日付産経新聞で、危機管理に詳しい板橋功・公共政策調査会研究センター長は、「起きるべくして起きた問題。外国人が増える中、不法就労者の取り締まりにも限界がある」と指摘、「特に国の重要インフラでの業務の場合は派遣元だけでなく、受け入れ側の企業も不法就労に当たらないよう確認するなど態勢を強化することが重要だ」と述べていますが、正にその通りだと思います。

インターネット上での銃の不法所持をあおる投稿の禁止などを盛り込んだ改正銃刀法が、参院本会議で可決、成立しています。安倍元首相の銃撃事件や2023年に長野県で起きた猟銃を使った殺人事件を受け、手製銃と猟銃の規制を強化する狙いがあります。安倍元首相の銃撃事件で逮捕・起訴された山上被告は、ネット上の動画を見て銃を手作りしたとされます。改正法は、銃の不法所持を公然とあおり、そそのかす行為を新たに規制対象にして罰則を設け、懲役1年以下または30万円以下の罰金を科すとしており、具体的には、ネット上に銃の製造方法を解説する動画を投稿したうえで、不法所持を呼びかけるなどのケースを想定しています。規制としては一歩前進ですが、これで「ゴーストガン」の犯罪インフラ化が阻止できるわけでもなく、動画の監視態勢の強化、迅速な削除対応など複合的な対策を講じていかないと、テロに悪用されるリスクを排除できません。

大阪公立大は、杉本キャンパスにある大学院工学研究科の研究室で、いずれも毒物の青酸カリ(シアン化カリウム)と青酸ソーダ(シアン化ナトリウム)の粉末計50グラムを紛失したと発表、160~250人分の致死量に相当するといいます。保管庫には鍵がかかっており、鍵が入った専用ボックスは、事前に登録した教員と学生計18人が職員証や学生証を使って開ける仕組みで、ボックスを開閉すれば日時や氏名が記録されます。後日、窃盗の疑いで逮捕された容疑者は2024年3月に卒業、研究室に出入りできる権限があったといい、その辺りの権限の管理がどうだったのかが懸念されます。また、毒物は「捨てた」と供述しているようですが、まだ見つかっていないとのことであり、悪用されるリスクはなくなっていない点も懸念されます。なお、毒劇物取締法では、青酸カリなどを紛失した場合は速やかに警察に届け出る義務がありますが、大学側が大阪府警に届け出たのは2週間近くたってからであり、総合的に、毒物に対するリスク管理が甘く、テロ等への悪用の懸念もなくなっていません。

(5)犯罪インフラを巡る動向

特殊詐欺等に電話が悪用されていることはよく知られています。電話の犯罪インフラ化を阻止すべく、現在、総務省の有識者会議で検討が始まっています。第1回会合時の資料から、いくつか紹介します。

▼総務省 電気通信番号の犯罪利用対策に関するワーキンググループ(第1回)配布資料・議事概要
▼資料1-2 電気通信番号制度の現状
  • 特殊詐欺等、電気通信番号を悪用した犯罪は従来から存在しており、深刻な状況が続いている。特殊詐欺に悪用される電話サービスはこれまで何度も移り変わっており、対策を講じては、新たな手段が登場し、犯罪に悪用される繰り返しである。
  • 最近では、総務大臣から電気通信番号使用計画の認定を受けた電気通信事業者が、特殊詐欺に使われると知りながら電話回線を提供したとする詐欺ほう助の罪で逮捕・起訴され、判決に至った例も存在する
  • 以上を踏まえ、電気通信番号の犯罪利用に対する有効な対策(予防的な対策及び事後的な対策)について、検討を行う必要がある。
  • 電気通信番号制度の概要
    • 令和元年に施行された電気通信番号制度により、電気通信番号を使用するすべての電気通信事業者は、電気通信番号使用計画の認定を受けることが必須。
    • 総務大臣は、番号の種別、番号
    • の使用条件等を定めた電気通信番号計画(総務省告示)を公示。
  • 電気通信番号使用計画の認定の基準
    • 電気通信事業法第50条の4は、総務大臣は、認定の申請があった場合、その申請に係る電気通信番号使用計画が当該条項に掲げる要件に適合していると認めるときは、認定をしなければならないと定めている。
    • 電気通信番号使用計画の認定の基準は、電気通信番号の使用の必要性、公平性、効率性の観点から規定。
  • 電話番号・電話転送サービスの提供ルールの制度化
    • 令和3年12月の情報通信審議会答申を踏まえ、業界団体及び主要事業者が参加する「電話番号・電話転送サービスに関する連絡会」において、電話番号・電話転送サービスの提供ルールの制度化(卸元事業者の責務の明確化)について議論し、電気通信番号計画を改正(令和5年1月1日から施行)
  • 特殊詐欺対策について、総務省は電話を所管する立場から、以下の3本柱で、電話の悪用対策を実施
    1. 携帯電話不正利用防止法の執行(2006.4施行(レンタルは2008.12より対象)
      • 携帯電話の契約時の本人確認を義務付け
      • 総務大臣は、本人確認義務を履行していないキャリアショップ等に対して是正命令を発出
    2. 犯罪収益移転防止法の執行(2008.3施行(電話転送は2013.4より対象)
      • 電話転送サービス事業者等に対して、顧客等の本人確認を義務付け
      • 国家公安委員会からの意見陳述も踏まえ、総務大臣は、義務違反の事業者に対して是正命令を発出
    3. 電話番号の利用停止措置の運用(TCA 2019.9開始/JUSA 2022.12開始)
      • 総務省から事業者団体(TCA・JUSA)への通知に基づき、県警等からの要請に応じて、特殊詐欺に利用された固定電話番号等の利用停止、悪質な利用者への新たな固定電話番号の提供拒否を実施。
▼資料1-3 電気通信番号の犯罪利用~「特殊詐欺事件」に悪用される電話~
  • 令和6年3月末現在の特殊詐欺の被害は、昨年同期に比較して件数約17%、被害額5%減少したが、1日当たり被害額は約1億円と高水準が続いているなど依然として深刻な状態。
  • 犯人グループに匿名通信手段を提供することを目的に設置された悪質事業者が、捜査が犯人グループに及ばない仕組みを構築して電話転送サービスを提供
  • 悪質事業者の検挙が続いたことや、在庫番号の一括利用停止等対策強化が進んだことに伴い、令和4年以降、大規模事業者は見られなくなり、代わって小規模事業者が数か月ごとに参入する状況が見られる。
  • 対症療法としての利用停止の取組には限界があり、どうしても「イタチごっこ」となりますので、警察としては、市場が自浄能力を発揮できる環境が作られることを期待しています。例えば、
    • 「認定取得済み事業者」が悪質事業者であった場合には、認定の取消しも含めて、市場から排除できる仕組みが構築されるよう検討できないでしょうか
    • 他人の名義を使用するなどして、短命覚悟で悪意を持って参入してくる事業者に大量の電話番号が販売されない仕組みが構築されるよう検討できないでしょうか
▼資料1-4 特殊詐欺に利用された固定電話番号等に関する取組みについて
  • 総務省からの通知に基づき、特殊詐欺対策検討部会に参加する会員事業者は、県警等からの要請に応じ、特殊詐欺に利用された固定電話番号等の利用停止や悪質な利用者への新たな固定電話番号の提供拒否等を実施
  • 番号利用停止等スキームについて
    1. 固定電話番号等の利用停止等
      • 都道府県警察は、特殊詐欺に利用された固定電話番号等を認知後、電気通信事業者に対し、当該固定電話番号等の利用停止等を要請する。
      • 当該電気通信事業者は、都道府県警察から要請があった固定電話番号等の利用停止等を行った上、警察庁に対し、当該利用停止等を行った固定電話番号等の契約者(卸先電気通信事業者を含む。)の情報を提供する。
    2. 新たな固定電話番号等の提供拒否
      • 警察庁は電気通信事業者に対し、一定の基準を超えて利用停止等の要請の対象となった契約者の情報を示すとともに、同契約者に対する新たな固定電話番号等の提供拒否を要請する。
      • 電気通信事業者は、警察庁から要請のあった者から固定電話番号等の追加購入の申し出があった場合には、一定期間、その者に対する新たな固定電話番号等の提供を拒否する。
    3. 悪質な電話転送サービス事業者の保有する固定電話番号等(在庫番号)の利用停止
      • 警察庁は電気通信事業者に対し、一定の要件を満たす場合には、悪質な電話転送サービス事業者の保有する固定電話番号等を一括して利用停止等を行うよう要請する。
      • 電気通信事業者は、警察庁から要請のあった者に対して提供している固定電話番号等について、利用停止等を行う
  • スキームの運用開始以降、新たな手口への対応等のため、見直しが行われてきた
    • 令和元年9月 スキームの運用開始
      • 固定電話番号の利用停止及び新たな固定電話番号の提供拒否の運用を開始
    • 令和3年11月 スキームの対象の追加
      • 利用停止措置等の対象に特定IP電話番号(050番号)を追加
    • 令和4年11月 対象事業者の拡大
      • 一般社団法人日本ユニファイド通信事業者協会(JUSA)のスキーム運用開始に伴い、当協会が運用するスキームとの連携を開始
    • 令和5年6月 対策の追加:悪質事業者の在庫番号の利用停止措置を追加
  • 関係機関等と連携した取組みにより、特殊詐欺に利用された固定電話番号等の悪用への対策に寄与してきた実施状況は以下のとおり
    1. 令和5年中の利用停止等の件数(令和5年1月1日から12月31日)
      • 固定電話番号 866件
      • 050IP電話番号 7,302件
      • 新たな固定電話番号等の提供拒否要請 6件
      • 新規番号の提供拒否対象契約者等が保有する固定電話番号等の利用停止等要請が4事業者について行われ、在庫番号3,270番号を利用停止
    2. 令和5年末までの利用停止等の件数(運用開始から令和5年12月31日)
      • 固定電話番号 12,665件
      • 050IP電話番号 9,482件

以前の本コラムでSIMスワップの問題を取り上げましたが、SIMカードの店舗での再発行時等における本人確認の強化を大手携帯電話事業者に対し要請した結果、2023年1月以降、SIMスワップによる被害が激減し、2023年5月以降、SIMスワップによる不正送金被害は確認されていない状況が続いていました。ところが最近、偽造マイナンバーカードを使ったとみられる手口で大阪と東京の地方議員が携帯電話を乗っ取られ、高級腕時計を不正購入されるなどの被害が発生しました。公開されていた議員の個人情報(議員であるがゆえ公開していた個人情報)が悪用された可能性があるとされます。マイナカードの本人確認が甘い店舗が狙われたとみられ対策が急務となっています。被害にあった両議員はホームページで自身の生年月日や住所、携帯電話番号などを公表しており、マイナカードには氏名と住所、顔写真が記載されており、こうした個人情報が悪用され、顔写真を差し替えて偽造された可能性が高いとされます。報道によれば、両議員とも、いずれの店舗もマイナカードの目視だけで、ICチップを使った本人確認は行っていなかった(携帯電話会社では本人確認のため、カードの原本と別の証明書を合わせて二重のチェックをすることを店に求めていましたが、乗っ取りの手続きがされた店では、偽造カードを目視しただけでした)といいます。議員の被害を受け、ソフトバンクの宮川社長は「マイナカードと合わせて二重の本人確認をする運用が一部店舗で不十分だった」と述べ、偽造カードを使った乗っ取りを防ぐ仕組みを各店舗に順次導入する方針を表明しています。河野デジタル相は本人確認の方法を目視確認からICチップによる確認に切り替えるよう促しており、総務省も本人確認の強化策について検討を進めています。SIMスワップを巡っては2022年にインターネットバンキングを使うなどした不正送金被害が78件発生、警察庁と総務省は2022年秋、大手携帯電話事業者に本人確認の強化を要請し、被害が急減していました。ITジャーナリストの三上洋さんは「以前は偽造免許証が使われるケースが多かったが、免許証のICチップを読み取って本人確認する手法が広がったため、犯人側が偽造マイナカードに目を付けたのではないか」と分析しています。

マイナンバーカードの偽造が相次いで発覚している背景には、不正対策による「信用」で本人確認時のチェックが甘くなり、悪用につながっているとみられ、SNSでは1万~2万円で流通しているといいます。2024年5月25日付読売新聞の記事「マイナカード偽造「1枚5分、技術や準備は不要」中国籍の女証言…本人確認に目視のみ多く悪用拡大」では、偽造のリアルが紹介されています。「中国のSNS「微信(ウィーチャット)」で「ボス」に連絡し偽造法の説明を受けると、作業用のパソコンとプリンターが自宅に届き、個人情報がメールで送られてきた。作業は偽のICチップが埋め込まれた白いカードの表裏に個人情報のデータを印刷するだけ。多い時には1日約60枚のカードを偽造して指定された国内の住所に郵送した。日当は約1万2000~1万6000円相当の電子マネーだった」、「行政サービス以外の利便性も高く、本人確認の証明書として携帯電話の契約や口座開設などの場面で使われてきたが、確認は目視のみのところも多かったとみられる。全国銀行協会(東京)によると、ICチップの情報を読み取って確認する機器の導入は大手銀行など一部に限られる」、「外国人らが使う偽造の証明書はかつて、3か月を超えて滞在する場合に交付される「在留カード」が主流だった。警察庁によると、20年には偽造在留カード所持などの摘発が790件に上った。このため出入国在留管理庁は同年、カードの真偽を判別できるアプリの提供を開始。公的機関や技能実習生の受け入れ企業などで活用が進んだ。一方、マイナカードは表面の一部に特殊な印刷技術を使うなど偽造対策が進んだこともあり、総務省は判別ソフトの利用を呼びかけてこなかった。相次ぐ偽造発覚を受け、同省とデジタル庁は今月17日、偽造品の見分け方を示した文書を民間業者向けに周知した」と報じています。偽造マイナンバーカードを使った詐欺事件が相次いでいることを受け、デジタル庁は、携帯ショップなどでカードが本物かどうかを目視で見分ける方法をまとめています。総務省と警察庁を通じ、民間事業者に周知しています。カードには特殊なインキが用いられ、傾けるとキャラクターの背景色が変わる点を明記、他人の写真への貼り替えを難しくするため、顔写真の輪郭をぼかしているといった対策も紹介、その上でカードのICチップをカードリーダーで読み取れば、より厳密な確認ができると強調しています。

日弁連の渕上玲子会長は、商業登記簿に記載される会社の代表取締役らの住所を2024年10月から一部非公開にできる規則改正に関し、消費者被害の救済を図る際には公開される必要があるとして、弁護士が職務で請求した場合は情報を取得できる制度の創設を求める声明を発表、制度の手当てがないまま施行されれば、詐欺商法が一層増加するとの懸念を示しています。声明では、プライバシーを保護するという改正の趣旨に賛意を示す一方、会社を悪用した詐欺商法の被害救済や調査のためには公開の必要があると指摘、戸籍や住民票に関しては、弁護士が職務上必要な場合に請求すれば取得できる制度もあることから、商業登記でも同様の仕組みを求めています。

「闇バイト」をSNSで募集したとして、職業安定法違反(有害業務の募集)容疑などで愛知県警に再逮捕された男は、QRコードを印刷した偽チラシを郵便受けに投函し、家賃をだまし取った詐欺容疑でも逮捕されています。QRコードを悪用した犯罪は全国的に相次いでおり、注意が必要な状況です。報道によれば、2022年10~11月、「家賃の支払いをオンライン化することに決定した」と集合住宅17棟の約400世帯の郵便受けに、こうした文面のチラシが投函され、住民の男性がチラシに印刷されたQRコードをスマホで読み取ると、LINEのトーク画面に誘導され、指定された口座に2か月分の家賃として10万6000円を振り込んだところ、翌月、管理会社から「家賃が未払い」との連絡があり、詐欺に気づいたといいます。男はLINEの法人向けサービス「LINEビジネスID」で取得した公式アカウントやSNSで、チラシを投函する実行役や、だまし取った家賃を暗号資産に替える実行役を募集していたといいます。また、だまし取った金を原資にして、SNSのフォロワーに電子マネーを送る「お金配り企画」を実施、フォロワー数を増やすことで、闇バイトの募集をさらに広く宣伝する狙いがあったとみられています。

ゲームのアカウントなどを売買する「リアルマネートレード(RMT)」を悪用して現金をだまし取ったとして、少年(17)が警視庁に逮捕されています。RMTは、オンラインゲームで使うアカウントやレアアイテム(出現率の低いアイテム)、ゲーム通貨などを現実のお金を使って売買する仕組みで、近年広がっています。逮捕された少年が客を募っていたのは、RMTを仲介する専用サイトで、他人になりすましてオンラインゲームの利用権などを売買するサイトにログインし、サイト内で使うポイントを詐取したといいます。2022年10月以降、自作した偽サイトを通じて他人のIDなどを盗み、延べ100人から約400万円分のポイントを不正取得したとみられています。SNSでアカウントの売買を持ちかけ、偽サイトに誘導してIDなどを抜き取り、詐取したポイントは暗号資産に交換し、オンラインカジノなどで使っていたといいます(オンラインカジノの少年への蔓延の状況がここからもうかがえます)。ゲーム愛好者の間で広く利用されているRMTですが、国内では不正防止のための明確なルールがなく、不正の温床になりかねないとして多くのゲーム会社が禁止していますが、ネット上にはRMT専用サイトが複数存在しているのが実情で、ゲーム各社は対応に乗り出しています。「スクウェア・エニックス」は、人気シリーズ「ドラゴンクエスト」の一部でRMTの行為が確認されたアカウントの利用を永久に凍結する措置を取っており、同社によると、2023年1年間で凍結されたアカウントは1827件で、前年比30%増となったといいます。

ウイルスを作成し、SNSで知り合った少年のパソコンに送信したとして大阪府警は、不正指令電磁的記録供用などの疑いで、横浜市泉区の男子高校生(16)を書類送検しています。ウイルスでパソコンの内蔵カメラを起動させて相手の顔写真を撮影、SNSに公開したといいます。書類送検容疑は、2023年1月、自身で作成したウイルスを兵庫県の少年(17)に送信したというものです。顔写真のほか、少年の名前やメールアドレスもSNSで自由に閲覧できる状態だったといいます。また、男子高校生は同年3月、インターネットのオンラインゲームに、大量のデータを送り付けてサーバに負担をかける「DDoS攻撃」もしていたといいいます。また、米司法省はマルウエアを作成・使用した容疑で中国人の男を逮捕したと発表しています。サイバー攻撃や大規模詐欺、児童搾取などに使われていたといいます。米司法省は、容疑者らはマルウエアを作成して拡散し、世界中の数百万台の家庭用ウィンドウズコンピューターのセキュリティを侵害してネットワークを構築したと指摘、乗っ取ったプロキシIPアドレスを販売して2018年から2022年7月までの間に9900万ドルを得ていたといいます。

スマホ決済大手のPayPayは、2024年5月15日にスマホアプリ「PayPay」で起きた障害について、アプリと決済システムの間にある中継サーバに想定外の高負荷がかかったことが原因だったと発表しています。サイバー攻撃は受けておらず、利用者の個人情報も漏洩していないということです。PayPayによると、大手小売りチェーンなどが複数のキャンペーンを実施していたことが一因になったといい、キャンペーンに伴うアクセス数が想定を超え、サーバ処理に影響が出たものです。また、同5月10日にはJR東日本の交通系ICサービス「モバイルSuica」などが一時つながりにくい状態になり、同社は「サイバー攻撃を受けた可能性がある」としています。スマホ決済や電子マネーなど生活に根付いたサービスを提供する生活インフラ企業はシステム障害を防ぐ仕組みづくりが喫緊の課題になっているといえます。

サイバー防衛力の評価ツールを手掛ける米セキュリティ・スコアカード(SSC)は、企業のサイバー被害に関する調査をまとめ、日本国内の被害のうち取引先が原因だった割合は48%に上り、全世界平均(29%)を大きく上回ったといいます。背景には中小企業の対策が進まず、サプライチェーン(供給網)を管理しづらい日本企業の課題があります。報道によれば、被害のうち、取引先から送られたファイルでマルウエア(悪意のあるプログラム)に感染したり自社の認証情報が流出したりといった、取引先が直接の原因となった事案を調べたところ、各国の被害全体における割合は、日本が48%、オーストラリアが40%と突出して高く、米国は29%、英国は9%などだったといいます。取引先による被害で主に糸口となったのは、他社とのデータ共有などに使われる「ファイル転送ソフト」(26%)で、2023年以降には露系の攻撃集団「クロップ」が、ファイル転送ソフト「MOVEit」の脆弱性を悪用し大規模攻撃を繰り返しています

本コラムでもたびたび取り上げてきた、ランサムウエアを用いる世界最大の国際ハッカー集団「ロックビット」が再び動き出しています。日米欧などの捜査当局による摘発を受けた後も、関係国の政府機関に「報復」を宣言し、攻撃的な姿勢を強めており、あらためて注意が必要な状況です。宣言は、身代金目的の攻撃を続けることや、政府機関への攻撃を強化すると主張、FBIや警察庁などを名指しし、報復するとしています。政府機関のコンピューターシステムへの侵入口となる脆弱性を探す動きも強めており、2024年4月21日には「複数の国が新型のランサムウエアの攻撃を受けるだろう」と投稿し、挑発を重ねています。複数の国の政府機関や企業、病院のサーバ内の情報を暗号化して身代金を要求したり、企業の機密情報を暴露すると脅したりする犯罪行為も続けており、全てが今回の摘発後に窃取された情報か不明だが、ロックビットが開設したとみられるサイトの一つには、日本を含む世界各国の約320の企業などの情報がさらされています。

本コラムでは以前から、「能動的サイバー防御」の検討を急ぐ必要があると指摘してきました。政府が「能動的サイバー防御」の導入を進めるのは、政府機関や民間の重要インフラに対するサイバー攻撃の脅威が増大しているためです。中国や露はサイバー能力の強化を図り、安全保障上の重大な懸念となっています。防衛省・自衛隊はサイバー部隊の増強や民間からの高度人材獲得などにより防衛体制の強化を急いでいます。近年、政府システムなどへのサイバー攻撃が明らかになっており、2023年8月には米紙ワシントンポストが、機密情報を扱う日本の防衛関連のネットワークに中国人民解放軍のハッカーが侵入していたと報じるなど、日本のサイバー防衛の脆弱さが改めて露呈しています。露はウクライナ侵攻の直前、政府機関のウェブサイトなどにサイバー攻撃を行い、社会的混乱を生もうとしました。軍事においても情報通信は指揮統制の基盤であり、部隊のネットワーク依存は高まっています。サイバー攻撃は、敵の軍事活動を低コストで妨害可能な手段として存在感を増しており、他国の軍隊は能力向上を競っている状況にあり、日本としてもその態勢を整備することが急務となっています。能動的サイバー防御は、サイバー攻撃を未然に防ぐため、相手側のサーバに侵入し無害化を図るもので、2022年に策定した国家安全保障戦略で、欧米並みの防衛体制を構築するため導入が明記されました。具体的には、悪用が疑われるサーバを検知するための情報活用や相手のサーバへの侵入・無害化を可能にする政府への権限付与のほか、民間企業が攻撃を受けた際の情報共有を検討項目に挙げています。法整備にあたっては課題も多く、攻撃側サーバの検知に関しては、憲法21条や電気通信事業法が規定する「通信の秘密」を侵害する可能性が指摘されるほか、サーバへの侵入は不正アクセス禁止法に抵触する懸念があり、サーバを無力化するウイルスを作成する場合は刑法の不正指令電磁的記録作成罪との関連を整理する必要があります。こうした課題の大きさもあり遅々として議論が進みませんでしたが、ここにきてようやく議論に着手しています。

▼内閣官房 サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議
▼資料3 事務局説明資料
  • 現在の情勢
    • サイバー空間、海洋、宇宙空間、電磁波領域等において、自由なアクセスやその活用を妨げるリスクが深刻化している。特に、相対的に露見するリスクが低く、攻撃者側が優位にあるサイバー攻撃の脅威は急速に高まっている。
    • サイバー攻撃による重要インフラの機能停止や破壊、他国の選挙への干渉、身代金の要求、機微情報の窃取等は、国家を背景とした形でも平素から行われている。そして、武力攻撃の前から偽情報の拡散等を通じた情報戦が展開されるなど、軍事目的遂行のために軍事的な手段と非軍事的な手段を組み合わせるハイブリッド戦が、今後更に洗練された形で実施される可能性が高い
  • サイバー攻撃の変遷
    1. 公開サーバへの攻撃
      • ウェブサーバ・外向けサービスへの大量送信 SQLインジェクションによる情報漏えい 等
      • ウェブサイト・インターネットバンキング等の停止
      • エストニア・2007年
    2. IT系システムの侵害
      • 情報システム内部への侵入・暗号化(主に既知の脆弱性を悪用)
      • 暗号化・システム障害
      • 身代金要求
      • Wannacry・2017年 コロニアルパイプライン・2021年 大阪急性期・総合医療センター・2022年
    3. 有事に備えた重要インフラ等への侵入
      • 最深部・制御系システムに至る高度な侵入能力(ゼロデイ脆弱性の積極活用など) 高度な潜伏能力(Living-off-the-Landなど)
      • インフラ機能停止
      • ウクライナ・2015年/2022年等 Volt Typhoon・2023年
    4. 機微情報の窃取の危険
      • 情報システムへの権限外アクセス・利用
      • 機密情報の漏えい・悪用
      • Black Tech・2023年
  • ウクライナに対する主なサイバー攻撃(報道ベース)
    1. 侵略開始以前
      • 露は、侵略開始の1年以上前から、ウクライナの政府機関や重要インフラ等の情報システム・ネットワークに侵入し、破壊的サイバー攻撃を準備。侵略開始の1月程度前から、破壊的なサイバー攻撃等を開始。
      • 特に侵略前日には約300のシステムを対象とした大規模な破壊的サイバー攻撃を実施。
    2. 2022年2月 衛星通信に対する攻撃
      • 2022年2月24日、米Viasat社が提供する衛星通信サービス(KA-SAT network)が利用不能に。ウクライナ国内に限らず、ドイツの風力発電所等にも影響が拡大。
    3. 2022年4月 高圧変電所に対する攻撃
      • 2016年の攻撃に用いられたマルウエアの亜種(Industroyer2)による高圧変電所への攻撃が確認されているが、ウクライナサート(CERT-UA)等の支援により、大規模停電には至らず。
    4. 2022年10月 変電所に対する攻撃
      • 2022年10月、ウクライナの変電所が攻撃を受け、停電が発生。攻撃者は同年6月までにはシステムへの侵入に成功。
      • 侵入先の正規ツールを悪用する「現地調達型の攻撃」(living-off-the-land)により変電所のブレーカーを遮断し、ミサイル攻撃と同時に停電を発生。その後、マルウエア ”CaddyWiper”を展開し、システムを破壊。
  • 最近のサイバー攻撃の動向(事前配置(pre-positioning)活動)
    • 2023年5月、ファイブ・アイズ5か国及びマイクロソフト社が、中国背景とされるサイバー攻撃グループVolt Typhoonについて、注意喚起を発出。概要以下のとおり。
    • 有事における機能不全を念頭に置いた、重要インフラへの事前のアクセス確保(pre-positioning)を目的としたサイバー攻撃が発生
    • 長期間の潜伏に必要な高度な検知回避能力が特徴
      • ネットワーク機器の脆弱性を突いて侵入。ゼロデイ脆弱性も悪用
      • マルウエアを使わず、正規ユーザーになりすまし、正規ツールを駆使(Living off the Land)
      • 侵入痕跡となるログの消去 等
    • 米国においては、本土及び島嶼部の米軍基地にサービスを提供する重要インフラ(通信、エネルギー、水道など)への攻撃の脅威が高まっている
  • 国家安全保障戦略(抄)
    • サイバー空間の安全かつ安定した利用、特に国や重要インフラ等の安全等を確保するために、サイバー安全保障分野での対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させる。【略】
    • 武力攻撃に至らないものの、国、重要インフラ等に対する安全保障上の懸念を生じさせる重大なサイバー攻撃のおそれがある場合、これを未然に排除し、また、このようなサイバー攻撃が発生した場合の被害の拡大を防止するために能動的サイバー防御を導入する。そのために、サイバー安全保障分野における情報収集・分析能力を強化するとともに、能動的サイバー防御の実施のための体制を整備することとし、以下の(1)から(3)までを含む必要な措置の実現に向け検討を進める。
      1. 重要インフラ分野を含め、民間事業者等がサイバー攻撃を受けた場合等の政府への情報共有や、政府から民間事業者等への対処調整、支援等の取組を強化するなどの取組を進める。
      2. 国内の通信事業者が役務提供する通信に係る情報を活用し、攻撃者による悪用が疑われるサーバ等を検知するために、所要の取組を進める。
      3. 国、重要インフラ等に対する安全保障上の懸念を生じさせる重大なサイバー攻撃について、可能な限り未然に攻撃者のサーバ等への侵入・無害化ができるよう、政府に対し必要な権限が付与されるようにする。
        • 能動的サイバー防御を含むこれらの取組を実現・促進するために、内閣官房サイバーセキュリティセンター(NISC)を発展的に改組し、サイバー安全保障分野の一元的に総合調整する新たな組織を設置する。そして、これらのサイバー安全保障分野における新たな取組の実現のために法制度の整備、運用の強化を図る。
  • 主要国における官民連携等の主な取組
    • 欧米主要国は、近年、高度な攻撃に対する支援・情報提供や、ゼロデイ脆弱性の早期対処に必要な枠組みを強化。脅威ハンティング部門の設置やクリアランス活用のほか、製品ベンダーの役割明確化等が進められている。
    • 同時に、政府の対処・情報収集能力を支えるためのサイバー対応機能の一元化や、重要インフラ事業者に対するインシデント報告の義務化が進められている
  • 外国におけるアクセス・無害化に関する取組例
    【事例】米当局による取組
    • 2023年5月、米国、カナダ、豪州、ニュージーランド及び英国は、中国の支援を受けたハッカーグループであるVolt Typhoonによるルータへの侵入や更なるハッキング、情報窃取への利用を合同で注意喚起。
    • 米当局は、Volt Typhoonによる感染ルータがKV Botnet(ボットネット:マルウエアによるネットワーク)を構成していると特定。感染ルータに対し、マルウエアの通信プロトコルを用いて、マルウエアを当該ルータから削除するコマンドを送信するなど、必要な措置を実施。
    • (注)本事例のほか、
      • 英当局による特定のAPT(高度な持続的な脅威)が用いる技術の弱体化等の取組
      • カナダ当局による政府ネットワークからの情報窃取防止を目的としたサイバー犯罪者の海外サーバの無効化等の取組
    • 等が行われていることが公開資料等から明らかとなっている。
    • 他方、こうした活動は秘密の活動として行われているものが多く、以上についても詳細は明らかになっていない
  • 現行制度上の課題
    1. 官民連携の強化(ア)関係
      • 高度な侵入・潜伏能力に対抗するため、政府の司令塔機能、情報収集・提供機能の強化が不可欠
      • 整理が必要な法令の例:サイバーセキュリティ基本法、各種業法
    2. 通信情報の活用(イ)関係
      • 悪用が疑われるサーバ等の検知には、「通信の秘密」を最大限に尊重しつつも、通信情報の活用が不可欠
      • 整理が必要な法令の例:憲法21条(通信の秘密)
    3. アクセス・無害化措置(ウ)関係
      • 重大なサイバー攻撃の未然防止・拡大防止を図るためには、政府に侵入・無害化の権限を付与することが不可欠
      • 整理が必要な法令の例:不正アクセス禁止法
    4. 上記の取組を実現・促進するため、強力な情報収集・分析・対処調整機能を有する新たな司令塔組織を設置することが必要。

「能動的サイバー防御」は防衛力の抜本的強化の一環で、導入を米国が働きかけてきた経緯もありますが、「通信の秘密」を規定する憲法21条との整合性やプライバシー侵害への懸念は強く、国民の理解を得るためには議論の透明性が求められることになります。能動的サイバー防御は発電所や公共交通システムなどの重要インフラに対するサイバー攻撃を事前に防ぐため、平時から相手のシステムを無害化する能力だで、米側はこれまでも日本のサイバー防衛能力の脆弱性を指摘し、機密情報の共有に懸念を伝達、米紙によると、2020年秋には米国家安全保障局(NSA)が中国軍による日本の防衛機密ネットワークへの侵入を探知し、ポッティンジャー大統領副補佐官(当時)とNSAのナカソネ長官(同)が訪日し日本側に警告を与えています。2024年に入り、政府が強調し始めたのは「公共の福祉」というキーワードで、同2月5日の衆院予算委で、内閣法制局の近藤長官は「公共の福祉の観点から必要やむを得ない限度において(通信の秘密が)一定の制約に服すべき場合がある」と答弁しています。政府はACDが、発電所など国民生活に欠かせない重要インフラをサイバー攻撃から守る行為であることから、必要最小限であれば「公共の福祉」による制約として正当化できるとみており、内閣官房幹部は「これまでは個人のプライバシーが優先だったが、憲法の範囲内で許容される制限を設けてでも重要インフラを守らなければいけない時が来た」と述べています。ただ、政府が国民の情報を大量に収集し、サイバー防御以外の目的に流用することへの懸念は強いものがあります。また、米国や英国、ドイツなど能動的サイバー防御に取り組む主要国は政府の民間通信情報の取得・利用の範囲について法律で制限をかけています。米国は外国情報監視法、英国は調査権限法に規定、情報機関や警察に通信傍受の権限を付与し、閲覧や開示を最小限にしたり、独立機関による監督体制を設けたりして情報を適切に管理できるようにしています。また、主な監視対象を海外からの通信と定めたり、取得要件を重要インフラへの攻撃といった「重大な危険分野に関する情報入手」「安全保障上の必要性」に限ったりしています。その規定が守られているか独立機関がチェックする体制を設けています。それでも、人権侵害を懸念する声もあります。能動的サイバー防御は国が平時から通信を監視し、基幹インフラへの攻撃などの兆候をつかんだ段階で相手のシステムに入り無害化する仕組みで、世界的にもサイバー防御の強化は注目されています。ウクライナは2022年に露が侵略を始める前に米軍のサイバー部隊の協力を得て基幹インフラを点検し事前にウイルスを除去、こうした対処によってサイバー戦で善戦できているとの指摘があります。なお、ブレア元米国家情報長官が、日本のサイバー対策は企業や人材の問題ではなく、防衛に必要な対策を講じることができない「構造的な問題」を抱えていると指摘、政府のサイバー能力が市民に向けられることを懸念する世論への配慮で法整備が進まないことに憂慮を示し、中国や北朝鮮などの「本当の脅威」を認識して対処する必要があると指摘、米国の核を含む戦力で同盟国を守る「拡大抑止」と異なり、サイバー分野では「日本は米国の抑止力に頼るべきではない」とし、日本に自前の能力構築を求めていたことは筆者としても強く同意するところです。サイバー攻撃への脆弱性は同盟国や同志国との情報共有を含めた連携にも悪影響を及ぼしかねません。後手に回れば同盟国や同志国の信頼を確保できないほか、国民の生命や財産をさらに危険にさらすことになり、主要国並みの体制構築は急務だといえます。さらに、日本がサイバー防御で後れをとっているといわれる原因の一つは、人材登用の難しさにあります。攻撃の増加に合わせて官民の争奪戦が激しくなり、待遇面で劣る政府は有能な人材を獲得しにくい現状があります(防衛省・自衛隊はサイバー人材の年収を2000万円超とする制度をつくったものの、それでも十分とはいえません)。

先進国の大企業や政府機関が新興国に暮らすプログラマーに業務を委託する動きが広がっているといいます。国境をまたいで企業と人材をマッチングするサービスの普及が「デジタル出稼ぎ」と呼ばれる新たな働き方を可能にしたもので、サイバー空間の治安改善にもつながる可能性があると報じられています(2024年5月24日付日本経済新聞)。報道によれば、ハッカーワンの調査によるとバグの発見者に支払われる報酬の9割近くは米国の企業・団体が拠出している一方、報酬を受け取るハッカーの国籍は中国やインド、露など様々で、アルゼンチンでは国内のIT技術者の平均賃金の最大40倍を稼ぐバグハンターもいるといいます。専門家は「これまでは高いスキルを持て余した新興国の若者が、金銭を求めてサイバー犯罪集団を形作ってきた」と指摘、バグ発見というまっとうな仕事が見つかるようになれば、結果的に犯罪の抑制につながると期待されます。一方、海外人材の活用には落とし穴もあり、米政府は2022年、北朝鮮のプログラマーが身分や国籍を偽り、外貨の獲得に加担しているとの警告を発しています。日本の警察庁も2024年3月、北朝鮮のIT技術者が日本企業から業務を受注している疑いがあるとの情報を開示しています。ただ、企業が自社のサイバー防衛力を高めるには外部の力を有効に活用する発想が欠かせないのも事実です。イシューハントでは報奨金の送金時に個人情報の提出を義務付けるなどして不適切な利用を防いでいるといい、リスクを抑えながら、外部の知見をうまく使いこなす手腕が求められているといえます(筆者としては、中国や北朝鮮につながる人物に関与させるリスクは安全保障上の大きな問題となり得ることに加え、北朝鮮の場合、その報酬が核・ミサイル開発につながるリスクも念頭に置く必要があると強く述べておきたいと思います)

SNS事業者の犯罪インフラ化に関する報道も相次いでいますので、

  • カナダ安全保障情報局(CSIS)のヴィニョー長官は、中国系動画投稿アプリ「TikTok」について、収集されたユーザー情報が中国政府に利用できるようになっていると警告しています。「CSIS長官としての私の答えは、中国政府には世界中の誰からでも個人情報を入手しようとする極めて明確な戦略があるということだ」と述べています。カナダは2023年9月、TikTokのカナダ国内での事業拡大計画について国家安全保障上の観点から調査を開始、ヴィニョー長官はこの調査に参加し、助言するとしています。TikTokの広報担当者は「こうした主張を裏付ける証拠はなく、カナダのユーザー情報を中国政府と共有したことはない」と主張、同時に「カナダ政府当局者と引き続き取り組みを進める」とし、個人情報の保護についてCSISと協議を行っていく姿勢を示しています。
  • EUの行政を担う欧州委員会は、フェイスブック(FB)やインスタグラムを運営する米メタに対し、EUのデジタルサービス法(DSA)違反の疑いで調査を始めたと発表しています。依存性など、未成年の精神や身体に及ぶリスクへの対策が不十分だと判断したものです。欧州委は、メタが2023年9月に提出したリスク評価についての報告書を分析した結果、利用者が「おすすめ」をたどり続けると、好みに合わせて、表示される動画が狭められ依存的になる「ウサギの穴現象」を起こす可能性があると指摘、特に未成年は「精神的にも未熟で、こうしたリスクに対応できない可能性がある」と強調しています。欧州委は今後、メタ側に事情を聴き、専門家による評価などを行い、調査の期限は設けないといいます。違反と判断されれば、世界売上高の最大6%の制裁金が科される可能性があります。
  • 米ニューヨーク州議会は、SNS企業によるコンテンツの配信手法を規制する法案を可決しています。保護者の同意を得ずに、子どものアカウントに動画などを自動的に表示するアルゴリズム(計算方法)の活用を禁じるのが柱で、SNS中毒に陥るのを防ぐ狙いがあります。SNSは近年、中毒性や若者への影響などが問題視されており、ニューヨーク市は2024年2月、メタのFBやインスタグラムなどSNSが若者の精神面の健康に悪影響を与えているとして運営企業を提訴しています。こうした背景もあり、米国では子どものSNS利用を規制する取り組みが広がっていますが、配信手法を制限するのは初めてとなり、SNS企業は、対応を迫られることになりそうです。
  • 未成年者を狙った「連れ去り」が急増、警察庁がまとめた2024年1~3月の刑法犯の「四半期統計」によると、連れ去り事件の発生は昨年の同時期に比べ3割増加、被害者の大半は少女や女児で、わいせつ目的の犯行にSNSが多用されているとみられています。近年では親権を巡るトラブルで連れ去りに発展するケースもあるといいます。ある警察関係者は「街角で声をかける現実空間からサイト上で誘うサイバー空間に犯行現場が移ったのは、他の犯罪と同様だ。総合的なサイバー対策がやはり急務だろう」と述べ、連れ去り事件について「増加傾向、SNS悪用ともに、今後もしばらく続くだろう」と推測しています。
  • Xは、成人向けや暴力的なコンテンツについての指針を明確化しています。18歳未満の利用者らは閲覧できないようにするほか、コンテンツを見たくない人は設定をすることで表示されなくなるといいます。一部の成人向けコンテンツを許可することについて、Xは「利用者が合意に基づいて制作、配布する限り、性的なテーマに関連する内容を制作、配布、消費できるようにすべきだ」とする一方、「子どもや見たくない成人利用者に対してはコンテンツの露出を制限する」としています。

AIや生成AIを巡る最近の動向から、いくつか紹介します。

  • 警視庁が不正指令電磁的記録作成容疑で逮捕した川崎市の無職の男が、生成AIを悪用してマルウエアを作成したとされます。生成AIの犯罪インフラ化が現実のものとなったという点で極めて注目される事件です。報道によれば、男は元工場作業員で、IT会社への勤務歴やIT技術を学んだ経歴はなく、協力者の存在も浮上しておらず、コンピューターに関する深い知識がない中で行われた生成AIの悪用となります。悪用されたのは作成者が不明な状態でインターネット上に公開されていた複数の対話型AIだったとみられ、警視庁は、男が自分のスマホやパソコンから対話型AIに質問を繰り返し、ウイルスを作成したとみており、男の自宅などから押収したパソコンやスマホを解析し、事件の全容解明を急いでいるといいます。自主規制に目をつけたサイバー犯罪者グループなどが、無制限で質問に回答する「悪の生成AI」を開発し、公開を始めていおり、2023年6月頃から有料版も含め、「雨後の竹の子」のように乱立するようになり、米インディアナ大の論文によると、2023年2~9月、違法情報などをはき出す生成AIが212確認されたといいます。制限がなかったり、緩かったりする生成AIを使えば、ランサムウエアのソースコード(設計図)や、感染させたいコンピューターの侵入方法などが得られるといいます。詐欺メールの文面や偽ショッピングサイトなどの作成も可能で、「専門家が身近にいて教えてくれるようなもの。これまでサイバー犯罪に必要だったITに関する高い知識や経験がなくても犯罪を行うことができる。ハードルが下がっている」と専門家が述べているとおり、極めて憂慮すべき状況にあります。生成AI(人工知能)を悪用してコンピューターウイルスを作成したとして、警視庁に不正指令電磁的記録作成容疑で逮捕された無職の男(25)(川崎市幸区)が、なお、この男は、自作したウイルスをSNSで知人と共有していたことも判明しています。捜査関係者によると、男が作成したウイルスを警視庁が解析した結果、ランサムウエアのようにデータを暗号化したり、暗号資産の送金先を表示させたりする機能が確認されたといい、男は、SNSを通じてこのウイルスを知人女性のスマホに送信していましたが、何らかの原因でウイルスが作動しなかったといいます。
  • 画像生成AIで、実在の児童に酷似した画像を生成できる追加学習用データが、ネット上で売買されていることが判明しています。過去に日本で活動した児童タレントの追加データもあり、追加データで作ったとみられる児童タレントに酷似した性的画像が別のサイトで販売されていたといいます。日本の児童買春・児童ポルノ禁止法で規制することは困難とみられ、法整備が必要な状況だといえます。生成AIと追加データが悪用され、児童の権利が侵害されている実態が明らかになったことで、水面下で被害が拡大している恐れも考えられるところです。欧米の主要国ではAIによる児童の性的画像も法規制の対象としていますが、日本の児童買春・児童ポルノ禁止法は、被害児童が実在していないと原則適用されません。関連して、英エディンバラ大の研究機関は、年間3億人を超える子供たちがオンラインで性的な搾取・虐待の被害に遭っているとする推計を公表しています。過去12カ月の間に世界の子供の8人に1人が、性的な画像や動画を同意なく撮影されたり、共有・公開されたりしたといいます。被害には、性的画像・動画を非公開とする代わりに金銭を要求される性的脅迫(セクストーション)、AIを悪用した「ディープフェイク」と呼ばれる精巧な偽画像・動画の作成が含まれています。研究機関のトップは「どの国でも起きていることで、急増している。世界規模の対応が必要だ」と訴えています。
  • サイバーセキュリティの世界最大の資格団体であるISC2は、日本の生成AIのサイバー対策に関する調査を発表、サイバーセキュリティ上の懸念から生成AIの利用を一部制限している企業や組織は54%に上り、2023年末の世界調査の32%を上回っています。情報流出などの対策が後手に回り、他の先進国のように十分にAIを活用できていない現状が浮かび上がりました。また、日本向け調査では、AIに対するセキュリティ上の懸念に「全く準備していない」との回答が51%を占めていますが、世界全体では26%でした。ISC2のクレア・ロッソCEOは「(日本とグローバルに)大きな差があり、少し心配する側面だ」と指摘しています。
  • 米メタ・プラットフォームズは、同社のFBとインスタグラムのプラットフォーム上で「AIが生成した可能性が高い」コンテンツが使用されていることを発見したと発表しています。このコンテンツには、パレスチナ自治区ガザでの戦争に対するイスラエルのアプローチを称賛するコメントが含まれており、世界的な報道機関や米議員の最新情報の下に投稿されていました。メタは四半期ごとのセキュリティ報告書の中で、偽アカウントがユダヤ人学生やアフリカ系米国人になりすまし、米国とカナダのユーザーに向けてメッセージを発信していたと説明しています。
  • 近年相次ぐ電子機器とインターネットを駆使した不正行為が、早稲田大入試でも発覚しました。眼鏡型の電子機器「スマートグラス」で試験問題を撮影し、試験時間中にSNSで外部に送って解答を依頼する手口でした。機器の性能向上は著しく、入試でのルール強化が追いつかない。電波遮断機を導入する大がかりなカンニング対策は予算面で敬遠され、抜本解決が難しいのが実情です。進化するAIによる手口の巧妙化の恐れもあり、「いたちごっこ」は続くことになります。近いうちに、「スマートグラスで試験問題を撮影し、正解をイヤホンで聞けば自己完結する。数式も認識可能で、さまざまな教科で悪用できる」という危惧が現実のものになりそうです。
  • 米オープンAIが「チャットGPT」などの生成AIを訓練するために盗んだ個人情報を利用しているとして、同社とその筆頭株主である米マイクロソフト(MS)を相手取って起こされた集団訴訟で、米カリフォルニア州北部地区連邦地裁は、原告の訴えを退けています。集団訴訟は2023年、法律事務所のクラークソン、モーガン&モーガンが消費者を代表して起こしたもので、オープンAIとMSがソーシャルメディア・プラットフォームなどのサイトにある個人情報を乱用し、人間の指示にどう答えるかをAIに学習させていると訴え、両社は否定していたものです。連邦地裁の判事は、204ページにも及ぶ訴状は「長過ぎる」だけでなく、不必要な指摘を大量に含んでいるため原告の主張の適切性を判断できないと指摘、修正した訴状を出すことは可能だとしています。
  • 米東部ニューハンプシャー州で1月に生成AIを利用して作成したバイデン大統領そっくりの偽の音声で、大統領選予備選の投票を見送るよう促す電話が多数かけられた問題で、当時の民主党候補の政治コンサルタントを務めていた男が選挙妨害などの罪で起訴されています。2024年2月にNBCの番組で、生成AIを悪用した「ディープフェイク」の脅威に関して「メディアの関心を集め、当局の行動を促す」ための行動だったと話し、関与を認めていました。
  • 米紙ワシントンポストは、女優のスカーレット・ヨハンソンさんがオープンAI社の対話型AIサービス「チャットGPT」の音声が自身の声に酷似していると訴えた問題で、「音声は別の女優の声」だと報じています。関係者の証言だけでなく、音声テストの録音記録も確認したといいます。チャットGPTは2023年9月に音声サービスを開始し、5種類の声を採用、この際に、25~45歳くらいに聞こえる「ぬくもりや魅力、カリスマ性がある」「俳優らの労働組合に非加入」という条件を挙げ、応募した400人以上の俳優・声優から絞り込んだといいます。
  • 米メディアは、米IT大手グーグルが2024年5月、インターネットの検索エンジンに導入した検索結果をAIが要約する機能で、多くの誤った情報が表示されていると報じています。1998年の検索サービスの開始以降、今回のAI機能の搭載は最大の刷新になると期待されていましたが、出だしからつまずいた形です。報道によると、「オバマ元米大統領はイスラム教徒である」、「チーズをピザにのせるには接着剤を使うのが良い」などの誤情報が表示されているといいます。
  • 米財務省は、銀行や投資会社など金融界でのAIの利用状況やリスクに関し、民間から意見を募ると発表しています。金融界だけでなく、消費者や研究者らも対象とし、集まった意見は投資家や消費者の保護策のほか、サイバーセキュリティ対策、金融機関の監督などに反映させるとしています。米金融界では、融資判断やリスク管理、証券取引、マネロン対策、顧客対応など幅広い分野でAI利用が進んでいますが、一方で、融資判断での偏見助長や個人情報流出、AI関連の人材不足への懸念も大きく、リャン財務次官(国内金融担当)は声明で「技術革新を促進しつつも、新しい技術がもたらすリスクから消費者や投資家、金融システムを確実に保護する」と説明しています。関連して、イエレン米財務長官はで、金融におけるAIの利用について、取引コストを下げる可能性があるものの、「重大なリスク」を伴うと警告しています。AI関連のリスクは評議会のアジェンダの最上位に移っていると指摘、「脆弱性は、AIモデルの複雑さと不透明さ、AIリスクに対処するリスク管理フレームワークが不十分であること、多くの市場参加者が同じデータやモデルに依存することによる相互関連性から生じる可能性がある」と述べています。また、AIモデルを開発し、データやクラウドサービスを提供するベンダーが一部に集中することで、サードパーティーサービスプロバイダーのリスクを増幅させかねないとも指摘しています。一方、AIの利点にも言及、「自然言語処理、画像認識、生成AIの進歩は、金融サービスをより低コストで利用しやすくする新たな機会を生み出す」と述べています。さらに関連して、フィンテックイベント「Money20/20」では、AIの普及で米国の巨大テック企業への依存が高まり、金融業界の新たなリスクになるとの声が欧州の銀行幹部から上がっています。金融業界では、すでに詐欺やマネロンの検知にAIが広く利用されていますが、AI機能の開発には膨大な演算能力が必要になるため、これまで以上に少数の巨大テック企業に依存することになるとの懸念が浮上しています。英国は2023年、金融機関がマイクロソフト、グーグル、IBM、アマゾンなど外部のハイテク企業に過度に依存することを規制するルールを提案、1社のクラウドコンピューティング事業者で問題が発生すれば、多くの金融機関のサービスが停止する恐れがあるとの懸念を示しています。
  • 米国でダウンロード数が最多の中国発ニュースアプリ「ニューズブレイク」は2023年のクリスマスイブに、ニュージャージー州の小さな町ブリッジトンの銃乱射事件について報じました。見出しは「クリスマスの悲劇。小都市で銃による暴力が急増」でしたが、実際にはそのような事件は起きていませんでした。地元警察は記事はAI技術を使って作られた「完全な虚報」だとする声明をフェイスブックで発表しています。2021年以降、ニューズブレイクがAIツールの使用を通じて、誤った記事を掲載したり、地元のニュースサイトに基づいて架空の筆者による署名記事10本を作成したり、競合他社のコンテンツを盗用したりするなどし、コミュニティーに影響が生じたケースが少なくとも40件あることが分かったといいます。ニューズブレイクによると、従業員200人のうち約半数は中国を拠点に研究開発に従事しているといいます。

AIや生成AIの規制のあり方についての最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 英国と韓国の両政府が共催する「AIサミット」の首脳級会合がオンラインで開かれ、G7の首脳らが参加し、AIが悪用されるリスクを最小限に抑えながら、自由な研究開発を促進する方策を議論、各国の研究機関がAIの安全性に関してネットワークを形成することなどを盛り込んだ「ソウル宣言」を採択しています。首脳級会合にはオープンAIやグーグル、マイクロソフト、韓国のサムスン電子など欧米や韓国のIT大手も出席、英政府によると、これらの企業のほか、中国やアラブ首長国連邦(UAE)の企業なども加えた16社は、サミットに合わせてAIを安全に開発するための公約を結んでいます。リスクを十分に軽減できない場合は、AIのモデルを開発・利用できる状態にしないことなどが盛り込まれました。スナク英首相は「これほど多くの主要なAI企業が、安全性に関して合意するのは世界初だ」と強調しています。
  • 核軍縮を国内外の有識者が議論する「国際賢人会議」の第4回会合が開催され、核保有国と非核保有国の双方の委員が集まり、AIなど新興技術の進化が核軍縮に及ぼすリスクを討議しています。2026年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議へ提言をまとめるとしています。今回はAIやサイバーといった新興技術の急速な進化が核軍縮に及ぼす影響を重点的に議論、露の侵略を受けるウクライナなどで無人兵器などAIの軍事利用が急速に活発化しており、AIが暴走すれば、意図せざるエスカレーション(事態の深刻化)を引き起こしかねないほか、AIの文章や指示により責任の所在が不透明になる懸念もあります。
  • 政府は、「AI戦略会議」(座長・松尾豊東京大教授)を開き、生成AIの安全性確保に向けた法規制の検討を始めています。人間に代わって作業を担うAIは、活用への期待がある一方、人権侵害や偽情報の拡散などにつながる恐れもあり、こうしたリスクに対して世界各国は法整備に動いており、日本も足並みをそろえる必要性に迫られています。会議では、政府は「人権侵害や犯罪につながり得るAIに対して必要な法的規制のあり方を検討する必要がある」などと指摘する指針案を示しています。、また、2024年は世界で選挙が相次ぐ「選挙イヤー」で、民主主義を揺るがす偽情報の広がりへの対応を求める声は根強いほか、AI兵器の開発や知的財産権の侵害などに対しても、法規制による対応の必要性を指摘しています。生成AIの登場で社会の混乱を生むリスクが顕在化し、国際的に規制強化の方向で議論が進む中、日本も法的拘束力を交えたルールを整備し、リスクを低減したうえでのAIの積極的な利活用や技術革新を促す必要があるといえます。政府の論点では「AIがもたらすリスクが多様化・増大している」と指摘、リスクの低減に向け、大規模基盤モデルなど、社会的影響が大きくリスクも高いAI開発事業者を対象に「法的規制のあり方を検討する必要がある」と提起、対象事業者にはAIシステムの安全性評価やリスク軽減措置を義務付けるほか、政府にリスク情報を報告させる方針を示しています。また、規制の大枠は法令で定め、運用の詳細は官民で決める「共同規制」方式を掲げています。松尾座長は「最先端のAIに対しては社会全体でガバナンスをきかせるのが重要だ」と述べています。スタートアップや研究者らによる低リスクAIの開発やAIサービスの提供者、利用者はAI法規制の対象から外し、ガイドラインなどで対応を促すとしています。過度な規制は成長を阻害しかねず、急速な変化にも対応できないため、全体としては法的拘束力のない「ソフトロー」とし、一部領域を「ハードロー」で補完する考え方を強調しています。日本政府はこれまで、強制力を伴わない、緩やかな対応を基本としてきました。2024年4月に公表した「AI事業者ガイドライン」では、開発者にはAIの適切なデータ学習を、利用者には安全を考慮した適正利用などを求めています。背景には、規制強化によって技術革新を妨げることや、外資IT大手による日本への投資を遠ざけてしまうことを避けたい思惑があります。「(自動車産業のように)AIでも、米国やEUの規制をいち早く察知し、その規制に準拠したAIを最初に提供した事業者が有利になるはずだ」と専門家は指摘していますが、正にその通りだと思います。また、「人間中心」の思想が強い欧米に比べ、日本は「鉄腕アトム」や「ドラえもん」など漫画・アニメに親しんできた人も多く、「人間の相棒となるロボットと共存できる下地がある」として、好機をつぶさないためにも、ブレーキではなく、正しくアクセルを踏むことを重視するべきだとの専門家の主張も見られ、とても興味深く受け止めました。さらに、AIは軍用にも民用にも使える「デュアルユース技術」でもあり、軍事転用できる研究に規制をかけるべきかどうかが、今後の議論のポイントの1つになると考えます。
  • 国の科学技術政策の指針を示す「統合イノベーション戦略2024」案の全容が判明、AIについて、法規制のあり方を巡り2024年夏にも政府のAI戦略会議のもとに「AI制度研究会(仮称)」を設置し、検討に着手すると明記しています。生成AIを利用した誤・偽情報の拡散への対応にも触れ、表現の自由に配慮しながら国際的な連携など制度面を含む対策を進めるとも記しています。また、EUでAI規制法が成立したことも踏まえ、海外の動向を注視しながら制度設計に入るとし、あわせてAIの利活用も政府として推進し、開発に関わる若手研究者らの人材育成にも取り組むとしています。
  • AI開発で、究極の目標ともよばれるAGI(汎用人工知能)や、人類を超えた超知能(ASI)の実現をめざして企業が競っていると報じられています(2024年5月31日付朝日新聞)。機能が増すことでASI(Superが加わった「超知能」。SIとも)が実現し、人間を超える日が遠からず到来するとみる向きもあり、AIは人間よりはるかに多量のデータを読み込み、言葉の意味の理解などもできるようになり、AGIに近づく次のステップが、自分で判断して動く「自律性」だとされます。一方こうした能力が高まることで、AIに人間の意図とは異なる独自の価値観や意図が生まれないか、という懸念もあります。さらにAIが、自身や、別のAIをプログラミングできるような能力が加われば、人間が気付かないうちにAGIから超知能の段階に短時間に進み、人間に対する配慮を優先しない存在になる可能性もあるとの指摘もあります。AIが有能になることで、人間の監視をかいくぐるウソを、説得力をもって語るかもしれないと危惧され、極端な例では、人間の介入を避けるために、世界各地のサーバに勝手に自分自身のプログラムをコピーしたり、AIシステムが生物兵器にアクセスしたりする恐れもあるとの指摘もあります。「大規模に生物圏が失われたり、人類が追いやられたり、絶滅に至ったりする恐れもある」として、AIに関する論文のうち数%しかない安全性の研究を大幅に強化し、少なくとも研究予算の3分の1をあてるよう訴える専門家もいます。

(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向

本コラムでも取り上げてきましたが、インターネット上の中傷防止や被害者支援を条例で定める自治体が増えつつあります。群馬県が2020年に全国で初めて施行後、少なくとも15自治体が制定し、相談支援体制を整備したほか、差別的な投稿の削除をSNS運営業者らに要請するとした条例もあります。こうした取り組みは、被害者の心理的負担を軽減させるなどの効果が期待できるといえます。2024年5月14日付読売新聞で、一般財団法人地方自治研究機構によると、群馬県をはじめ、これまでに愛知県や大阪府、東京都江戸川区、三重県、佐賀県など計15自治体で被害者を支援する条例が施行されたと報じられています。多くの自治体では、相談窓口の整備、住民のネットリテラシー(適切に使う能力)向上への取り組みのほか、国や日本司法支援センター(法テラス)といった関係機関との連携強化を規定しています。例えば、中傷された被害者を支援する条例を2020年12月に施行した群馬県では、設置した相談窓口に、2024年3月までに976件の相談が寄せられ。内訳は、「名誉毀損」や悪口などを書かれる「ネットいじめ」が多いといいます。また、大阪府と佐賀県では、差別や人権侵害にあたる投稿について、被害者に代わって府と県がSNS運営業者などに削除要請する条項を設けています。とはいえ、「誹謗中傷」と「批判」の線引きは難しく、発信者側の表現の自由を侵害する恐れがあるとして、削除要請には慎重な自治体が多いのも事実です。報道でネット中傷問題を研究している国際大の山口真一准教授は「身近な存在の自治体で支援体制が整備されることは、被害者の孤立防止にもつながる」と指摘、その上で、削除要請については、「プライバシーに配慮しながら要請内容を公表するなどして透明性を保ち、過剰な運用にならないよう配慮することが重要だ」と指摘しています。本コラムで継続的に取り上げていますが、ネット上の中傷を防止するための法整備は徐々に進んでおり、概観すると、まず2022年7月に施行された改正刑法では、侮辱罪の法定刑の上限が「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」から「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」に引き上げられました。また、2022年10月には改正プロバイダー責任制限法も施行され、投稿者を突き止めるための手続きが簡略化されました。さらに同法は2024年5月10日に改正され、名称を「情報流通プラットフォーム対処法」に改めるとともに、SNSを運営する大手企業に対し、削除申請への迅速な対応のほか、削除を申請する窓口の設置、削除する基準の策定・公表などを義務付けています。

インターネット上の地図サービス「グーグルマップ」上の口コミで一方的に悪評を投稿されたとして、兵庫県内で眼科医院を運営する医療法人が損害賠償と投稿の削除を求めた訴訟の判決が大阪地裁であり、裁判官は名誉毀損を認定し、投稿者に200万円の賠償と削除を命じています。判決によると、被告は大阪府内に住む女性で、遅くとも2021年11月までに同眼科について「勝手に右目はレンズを入れられていました。最悪」「何も症状もないのにまた勝手に一重目蓋にされました」「他の眼科へ行くことをお勧めします」などといった内容の口コミをグーグルマップに投稿したとされます。裁判官は判決理由で「患者から適切に承諾を得ることなく、勝手に医療行為をするとの印象を一般の閲覧者に与える」と指摘、名誉を毀損し、投稿により原告の社会的評価が低下したと認められるとして、投稿の削除を命じたものです。グーグルマップでは、地図上に表示される対象をクリックすると名称や住所、営業時間などの情報を確認できるほか、口コミの内容や5点満点の「評点」を投稿・閲覧することができ、飲食店などでも同様の機能を利用できますが、こうしたグーグルマップの機能を巡っては、投稿された不当な口コミが削除されずに利益が侵害されたとして、全国の医師や歯科医師ら約60人が2024年4月、米グーグルに計約140万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴しています。なお、以前の本コラム(暴排トピックス2024年4月号)でも、インターネット上の地図サービス「グーグルマップ」の口コミで不当な中傷を投稿されて名誉を傷つけられたとして、動物病院の運営会社が投稿記事の削除などをマップの管理会社に求めた訴訟の判決で、東京地裁立川支部が、投稿の一部を消すよう命じた事例を取り上げています。原告は、2020年から2022年9月ごろにかけて、動物病院の口コミに「表に出ないだけで、誤診も複数ある」などの事実ではない複数の投稿があり、名誉を傷つけられたと主張、不特定多数が閲覧できる状況で、投稿を削除するよう求めていたものです。裁判官は判決理由で、投稿の一部を「原告の社会的地位を低下させるもの」と認定、その上で内容も真実と認められないなどとし、名誉毀損に当たり削除が認められるべきだと判断しています。一方、被告が投稿の真偽を判断するに足りる情報はなく、原告の権利が侵害されていると知っていたとはいえないと指摘、被告に対する損害賠償請求を退けています

その他、最近の誹謗中傷に関する報道から、いくつか紹介します。

  • コロナ禍でワクチン接種を呼びかけた医師らが<コロナ騒動の戦犯>などとSNS上で激しい誹謗中傷にさらされました。「萎縮すれば次のパンデミック(世界的大流行)で正確な情報の発信が妨げられる」として、医師らは今も悪質な投稿者の責任を追及しています。ほうどうによれば、ある医師は、顔の見えない匿名アカウントからの言葉の暴力はやまず、2023年5月頃から約50件の投稿について発信者情報の開示を裁判所に申し立て、これまでに約20人を特定。謝罪を求めたところ半数はすぐに応じ、最高約100万円の和解金の支払いを受けて示談しました。ただ一方で、一部の投稿者は過激化し、<殺意がわいてきた><ぶっ殺したくなってきた>などとさらに乱暴な投稿を続けたといいます。医師は特に悪質な投稿者について、損害賠償を求めて民事訴訟を起こし、警察にも刑事告訴、同氏が数えた中傷投稿は5000件を超えたといいます。「医師が躊躇すれば、世の中に正しい情報が伝わらなくなってしまう。SNS事業者は、誹謗中傷や侮辱、名誉毀損に当たる投稿を厳しく規制してほしい」と訴えています
  • SNSなどでプロ野球選手やその家族への誹謗中傷が深刻化しており、選手会は2023年9月に顧問弁護士による対策チームを立ち上げ、「悪質な言動を断固として許容するつもりはない」として、被害を受けた選手には裁判所への発信者情報の開示請求を促しているといいます。これまでに複数の発信者を特定し、示談交渉し、示談金は30万~40万円から悪質なケースでは100万円近くになる可能性もあるといいます。2024年5月には、新たに複数件について開示請求を行ったと発表しています。報道によれば、ある選手は謝罪を受けても「こういうことを社会からなくしていきたい。だから優しくはしない」と弁護士を通じて伝えたといいます。和解条項に選手だけでなく、一般人にも誹謗中傷をしないことを加えているともいいます。今後も手を緩めずに法的措置を取り、抑止力を高めるとしています。
  • ネットへの投稿で名誉を傷つけられたとして、「はるかぜちゃん」こと俳優の春名風花さんと母親が、投稿した男性に計約3600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が横浜地裁であり、裁判長は名誉毀損などにあたると認め、男性に計約380万円の支払いを命じています。判決によると、男性は2015年4月以降、6年以上にわたり、ツイッター(現X)やブログで、春名さんや母親に関する投稿を続けたといい、判決は、「風花を合法的に葬り去りたい」「お前みたいな奴ほんと要らんからとっとと辞めろ、辞めちまえ」など1千を超える投稿について、春名さんらを中傷し、個人攻撃するためにされたもので、不法行為にあたると認定、内容の悪質性に加え、匿名の投稿に対し、発信者を特定するのにかかった費用などを踏まえ、損害額を算出したといいます。
  • 元サッカー日本代表の伊東純也選手=フランス、スタッド・ランス=から性加害を受けたと女性2人が大阪府警に告訴したのは虚偽告訴だとして、伊東選手と同選手のパーソナルトレーナーが女性側に計約2億円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は審理を東京地裁に移送することを決めています。女性2人は、2023年6月に大阪市内のホテルで伊東選手らから性加害を受けたとして、大阪府警に告訴状を提出、伊東選手側も虚偽告訴容疑で2人に対する告訴状を提出し、いずれも2024年2月1日までに受理されています。
  • 東京都渋谷区の澤田伸・前副区長が在任中、庁内の業務連絡用ウェブチャットで桑水流弓紀子区議について「ブタ」などと書き込んだ問題で、桑水流区議が名誉感情を侵害されたとして、澤田氏に1100万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしています。同地裁で第1回口頭弁論が行われ、澤田氏は請求棄却を求め、争う姿勢を示しています。訴状によると、澤田氏は副区長在任中の2023年6~7月、桑水流区議について、豚の絵文字付きで「桑ブタ」と書き込み、「早めに封じておかないとね」などと投稿、桑水流区議は「区民の信託を得た区議の人格を否定することは、権力的地位にある副区長として甚だ不適切だ」としています。
  • 米メタ(旧フェイスブック)の投稿対応をチェックする監督委員会は、短文投稿アプリ「スレッズ」上で岸田首相に対して「くたばれ」と書いたコメントへの対応などについて、調査すると発表しています。2024年5月30日まで一般からの意見を日本語と英語で募り、メタに対する提言をまとめるとしています。監督委が日本に関する調査をするのは初とみられます。メタの担当者は、ハッシュタグには「死」を求める呼びかけが含まれ、暴力に関するポリシーに違反しているとしてコメントを削除、利用者が同社に訴えたものの、別の担当者も違反にあたると判断、だが、利用者が「削除は言論の自由を妨害する」として上訴し、監督委が調査を決めた後、メタが削除の判断は「誤り」だったとして投稿を復活させたものです。監督委は、政治家に対するネット上での暴力の脅威を含む日本の政治・社会的背景、許容される表現の範囲などについて、意見を募るとしています。

総務省が2024年7月に公表する2024年版の情報通信白書の概要が判明、2024年1月の能登半島地震でインターネット上に偽・誤情報が拡散した問題を分析し、同省として「制度面を含めた検討を進める」との方針を明記しています。白書に掲載したアンケート調査結果によると、地震発生時に最初にアクセスしたメディアはテレビ放送が64.2%で最も多く、2011年の東日本大震災の時も最多でした。SNSは2011年の震災時は1.6%でしたが、2024年の能登半島地震では12.6%に急増しました。また、白書は「異なる災害の画像や動画を添付した投稿」など、真偽不明の情報が拡散されたと指摘、SNS上で真偽不明な震災関連の情報を「見かけた」と答えた人は42.7%に上り、このうち「知人への共有、または不特定多数の人に拡散した」人の割合は25.5%に達し、その理由として「他の人にも役立つと思った」、「間違っている可能性があると注意喚起しようと思った」、「人に注目してもらえると思った」などがあがったといいます。白書はSNSが安否確認などに寄与した一方で「混乱をもたらした」と指摘しています。災害時に偽情報や誤った情報が拡散されると救助や復旧の妨げになりかねず、総務省は「国際的な動向を踏まえつつ、制度面を含む総合的な対策を推進する」と白書に明記し、今後、法整備などを検討するとしています。

人権侵害などを監視する国際NGO「グローバル・ウィットネス」は、もし意図的に偽情報を含む広告の配信をTikTok、ユーチューブ、X(旧ツイッター)に依頼したらどうなるか覆面調査を実施しています。同NGOはEUの欧州議会選について、「伝染病が急増しているため、すべての投票所を閉鎖します。代わりにオンラインで投票してください」、「新しい規則により、有効な運転免許証を持っていない場合、今回の選挙に投票することはできません」など、アイルランドで実施される選挙について偽情報を含む16の広告を用意、2024年5月、3媒体に配信を依頼した結果、TikTokはすべてを配信し、ユーチューブは二つを配信、Xはすべての広告を承認せず、「規定違反」としたといいます。偽情報による選挙への影響が懸念されるなか、同NGOは報告書で「大手IT企業は、プラットフォーム上のコンテンツを含め、自社のシステムが人権と民主主義を保護することを保障する必要がある」としています。筆者としては、TikTokがすべてを配信というのは納得感がある一方、YouTubeはコンテンツモデレーションをしっかりやろうとしているイメージがあり、その中で2件すり抜けた理由を知りたいと思いました。さらに、Xで全部承認されなかったのも(コンテンツモデレ―ションが十分でないとの印象がある中)それはそれでどういう基準でモデレーションしているのかが気になりました。最も痛感させられたのは、「媒体によってこんなにも対応結果が異なる(判断が異なる)」ということです。私たちが共通の価値と思いこんでいる「表現の自由」の振れ幅の大きさ、相違の大きさ、SNS事業者の「恣意」性が大きく入り込んでいる可能性の大きさ、それらの相違が意識されないままSNSを使っている怖さなど、大変考えさせられました。

2020年の米大統領選をめぐり、当時のツイッター(現X)で偽ニュースの拡散に大きな影響力をもった少数のユーザーは、保守的でやや高齢の女性の割合が高かったとする分析をイスラエルの研究グループがまとめています。(筆者もそうでしたが)「ソーシャルメディアを操ろうとするのは、若いオルタナ右翼の男性ハッカー」というステレオタイプを覆す成果だとしています。2024年6月4日付毎日新聞によれば、研究グループは前回の大統領選が行われた2020年8~11月にツイッターを利用していた登録有権者約66万4400人のデータを分析、このうち0.3%に相当する2107人が、調査対象者たちの間で共有された大統領選についての偽ニュースの80%に関与していることが明らかになったといいます。「スーパーシェアラー(拡散者)」と名付けられた、これらの少数ユーザーの影響力は大きく、調査対象者の5.2%に直接フォローされていたといいます。また、スーパー拡散者の平均年齢は58.2歳で、対象者の平均より17歳高く、また約6割は女性で、共和党支持者(64%)が民主党支持者と支持政党なしを大きく上回っています。地域別では保守的で知られるテキサス、フロリダ、アリゾナ各州に多く分布し、教育水準に比べて所得が高い特徴も浮かび上がったといいます。投稿のタイミングに自動化を示すパターンはなく、手作業で繰り返しリツイートし続けていた可能性が高いとされます。報道では「ソーシャルメディア上での偽情報の拡散をめぐり、ごく少数のユーザーがネットワーク上で「ハブ」の役割を果たしていることは過去の研究で知られていたが、大規模調査で属性の特徴を明らかにした例は珍しい。20年当時の米国政治において有力なプラットフォームだったツイッターは22年に実業家のイーロン・マスク氏が買収し、社名をXに変更した。研究グループは、サービス仕様変更などに伴うユーザー層の変化は、スーパー拡散者にも影響を与えている可能性があると指摘している」と報じていますが、大変興味深いものだと思います。

情報セキュリティ大手のトレンドマイクロとNPO法人「CIO Lounge」(大阪市)が2023年10月に公表した調査によると、サイバー攻撃に遭った企業の過去3年間の被害額は平均1億2528万円で、ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃を受けた経験のある企業に限ると平均1億7689万円に上ったといいます。クラウドサービスが普及し社会のデジタル化が進むなかで、目には見えないサイバー攻撃は質、量ともに深刻化している状況にあります。通常の軍事力と破壊工作や情報戦を組み合わせた現代の「ハイブリッド戦争」において、サイバー空間は主戦場となりつつあります。2023年版の防衛白書は「サイバー攻撃は攻撃主体の特定や被害の把握が容易ではないことから、敵の軍事活動を低コストで妨害可能な非対称的な攻撃手段と認識されている」と指摘、中国は台湾に対し、サイバー攻撃や偽情報の流布など「影響力工作」を仕掛けています。2014年に露によるクリミア半島併合で通信網の妨害などを許した教訓から、ウクライナ政府はネットワークの分散や国内外の民間企業との連携強化に取り組んだ結果2022年2月に始まった露による侵略では、サイバー防衛におおむね成功していると評価されています。安全保障環境の悪化を受け、日本でも攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の必要性が高まっており、政府が新たに立ち上げた有識者会議がようやく法整備に向けた議論に着手しています。

2024年5月31日付日本経済新聞は、「米新興企業オープンAIは30日、中国やロシア、イラン、イスラエルのグループが同社の生成AI技術を使い、世界で様々な世論工作を図っていたと発表した。日本を標的にした事例もあった。米国などの大型選挙を控え、AIが情報操作に悪用される恐れが浮き彫りになった」と報じています。各グループはAIを使い、露政府や中国政府寄りの主張をSNSに投稿したり、イスラエルとイスラム組織ハマスの紛争を巡って対立相手を非難したりしていたといい、中国の集団は東京電力福島第1原子力発電所の処理水放出について日本を批判する記事をつくり、拡散を試みたといいます。オープンAIの「ChatGPT」などの生成AIを使うと、外国語でも自然な文章を瞬時に大量に作れることから、2024年は米国をはじめ大型選挙が控えるなか、AIを使った偽情報の拡散や世論の誘導に警戒が高まっています。オープンAI社はアカウントの停止措置を取ったとしています。また、同社はは過去3か月間、調査を行い、これらの組織の行動が世論を大きく動かすほどの影響力を持つことはなかったと分析、ただ、生成AIが作り出した偽情報が世論操作に使われるリスクへの懸念は高まっており、同社は不正利用の検出といった対策を続けていくとしています。「スパモフラージュ」と呼ぶ中国の工作活動は、同国の反体制派を批判する内容をX(旧ツイッター)などに中国語で投稿しており、中国語による投稿が大半を占めていますが、一部に英語や日本語を使うものもあったといいます。オープンAIの生成AIを使い、「Amebaブログ」などのブログサービスに、福島第1原発の処理水放出を批判する内容を多言語で書き込んでいたといいます。また、カナダ政府が設置した調査委員会や情報機関が、中国がカナダの選挙に介入していると指摘しています。ブリンケン米国務長官も、中国が今後の米国の選挙に介入しようとしている証拠を確認したと指摘しています。2024年6月2日付朝日新聞で、カナダでも研究活動を行っている日本国際問題研究所の桑原響子研究員は、日本の市民社会がこうした問題により主体的に取り組むべきだと指摘、「日本が抱える大きな問題は、偽情報を含む情報戦の対応を、政府が中心に行っている点です。過去、深刻な脅威に遭遇した経験がないため、諸外国と比べ、市民社会には、自らの役割の重要性に対する意識が低いようです。この状態が続くと、政府による情報空間のモニターと偽情報へのカウンター発信という非効率な対策が中心になりやすいと思います。偽情報か否かの判断を政府が行うことになり、検閲社会につながるリスクすらあります」、「市民社会が「自分の暮らしにかかわる問題だ」という自覚と使命感を持ち、ファクトチェックや教育などに積極的に関与する必要があります。偽情報や誤情報は海外からだけではなく、国内でも発生します。遠い世界の話と考えず、私たち一人一人に、一次情報にアクセスしたり多角的な視点を持ったりするなどの努力が求められています」と述べていますが、正にその通りだと思います。

福岡銀行についてSNSで虚偽の投稿をしたとして、福岡県警は、インターネット配信業の男を偽計業務妨害容疑で逮捕しています。報道によれば、男は2024年3月3日午前1時半ごろ、自宅からX(旧ツイッター)で「福岡銀行から、3月14日に取り付け騒ぎが起こることに備えて行員に通知がありました。これは噂でも推測でもない。私を信じてください!」と虚偽の投稿をし、業務を妨害した疑いがもたれています。福岡銀行によると、3月4日には、投稿をめぐって利用者や投資家から問い合わせが相次いだといいます。

2024年5月16日付産経新聞の記事「「偽・誤情報」どう向き合う?信頼と安全性高めるTikTokの取り組み」は同社の取組み状況がうかがえるものでもあり、興味深いものでした。一方、本コラムでもたびたび取り上げている国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授のコメントも参考になるものが多く、「『フェイク情報元年』と言われた2016年以降、リアルタイムで状況が変化する自然災害や選挙などさまざまな場面において、世界中でフェイクニュースが問題となっています。フェイク情報には人に伝えたくなったり、『許せない』などと感情に訴えたりするようなセンセーショナルな内容が多く、私の研究では、正しい情報より約6倍のスピードで広がることが分かりました」、「フェイク情報が出回る背景には、投稿をバズらせて経済的な利益を得たいという動機、選挙や国際紛争ではどちらかを有利にしたいという政治的な動機があることもあります」、「偽・誤情報に日常的に触れる機会が広がっています。例えばコロナワクチン関連のフェイクニュースについて、4割近い人が見聞きしたという調査があります。それが誤っていると気づかない人も多く、幅広い年齢の人がだまされていました」、「偽・誤情報については、他人事でなく、普段から『自分事』と考えることが大切です。プラットフォームとして、TikTokがユーザーの声を拾う場をきちんと作っているのもすばらしいと思いました」、「国際紛争や新型コロナウイルス感染症など、情報の真偽を確かめることが難しい事象は、今後も増えていくでしょう。プラットフォームの側に拡散を防ぐ機能があるのは良いと思います」、「現代社会の問題点は、思ったことを数秒で世界に発信できてしまう過剰な情報発信力を全人類が持っていることです。そうした過剰な発信力を誰もが持つ時代だからこそ、発信する前に考えさせるタイミングを設けることが大事になってきます。投稿する前に一拍でいいので呼吸を置ければ良いのですが、それが難しい」、「我々がいる混沌とした環境には、白黒はっきりつかない情報、つけられない情報が大量にあって、絶対にだまされないということはありません。その前提で情報を見聞きし、プラットフォーム事業者もアラートを出したり注意を呼びかけたりし続けないといけません。自然災害発生時には確かに『陰謀論』の動画も存在しましたが、同時に陰謀論を否定する動画も存在していました。混沌とした環境だからこそ、ユーザー、クリエイター、事業者、業界団体、政府、ファクトチェック組織、皆が連携して対策に取り組んでいく必要があります」などが参考になりました。一方、TikTokの方も「偽・誤情報を広めてしまう方は、その情報の拡散により、どのような影響や結果が起こるのかをイメージしないまま、ただおもしろそうという理由で広めてしまうことが多いのかもしれません。だからこそ、拡散したいと思った時には、その情報が真実か否か、情報源はどこか、拡散することによって誰にどんな影響が生まれるのか、1人1人が立ち止まって考えることが重要だと思います」、「投稿されたコンテンツの審査態勢もしっかり整え、24時間365日、すべての動画を自動モデレーション技術と人の両方でチェックしています。また、災害などで偽・誤情報のリスクが高まったときには、審査体制をさらに強化しています」、「誹謗中傷をしない、成人指定の動画を投稿しないなどのルールは他のプラットフォームを使う際にも学んできているので、きちんとTikTokのルールを確認しないまま、同じように使えば問題ないと考えている人も多いかもしれません」、「プラットフォーム側が『これは正しい』『これは正しくない』と判別するのが難しい情報も多いですし、決めつけていいわけでもありません。不確かな情報には『信ぴょう性の低いコンテンツ』というラベルをはり、ユーザーご自身に考えてもらうことが大事だと考えています」、「投稿するときや拡散するとき、一歩立ち止まって考えるには、いかに『自分事』に置き換えられるかにかかっていると思います。ただ、『自分事』にするタイミングや事象は人によって違うので、周囲に言われたからといってできるわけではないのが難しいところです。(だれもが加害者になり、被害者にもなりうるという)危機感の方が伝わりやすい側面はあるかもしれませんね。『これをやってはだめ』よりも、『あなたもやってしまう可能性があるから気をつけてください』と言う方が響く気がします」といったことが述べられていました。TikTok独自の取組みの厳しい面も確認できる内容です。

EU欧州委員会は、米マイクロソフトに対し、検索サイト「Bing」のAIを活用した機能が偽情報を広めるリスクについて、情報提供を求めると発表しています。同委員会は、生成AIが事実と異なる内容を生成する「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象を問題として例示、偽動画「ディープフェイク」の拡散を含め、ビングがリスクを適切に評価し、軽減措置をとっているか疑問視しています。EUは2024年6月に欧州議会選を控えており、誤った情報の流通を警戒しており、同委員会は生成AIに関し「選挙プロセスを巡る指針で特定したリスクの一つだ」と強調、マイクロソフトに速やかな対処を求めています。2024年3月に実施した情報提供要請に対する同社の回答が不十分だったもので、要請は、違法コンテンツ排除を巨大IT企業に義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」に基づくもので、期限内に回答しなければ、制裁金を科される可能性があります。

加盟国の閣僚級でつくるEU理事会は、AIの開発や運用を包括的に規制する「AI法」の法案を承認して成立しています。偽情報の拡散防止のための世界初の包括的なAI規制となります。年度内から段階的に適用される見通しで、EUが世界に先駆けてルールを整備し、他の先進国や新興・途上国も追随する可能性があります。EU域内で事業を展開する日本企業も対応を迫られることになります。法案では、AIのリスクを(1)容認できない(2)高い(3)限定的(4)最小限の四つに分類し、リスクに従って規制を厳しくしています。社会的行動や個人の特徴を基に信用の格付けをするソーシャルスコアリングや宗教、性的指向、人種を利用した分類システムへのAI利用を禁じています。AI法への対応が不十分な企業には、最大3500万ユーロ(約59億円)か世界売り上げの7%の制裁金を科すとしています。AIの利用で生活が便利になる一方、EU側は間違った使い方やAIの誤った判断による差別や人権侵害、社会の混乱を懸念、オランダでは、税務当局が児童手当の不正受給検知にAIを使ったことで起きた問題が6年前に発覚しました。こうした事態を受け、EUではさらなる発展が見込まれるAI技術を前に、犯罪の助長や民主主義の破壊などの無視できないリスクを未然に防ぐことが必要になり、AIの包括的なルールづくりの議論が進み、2021年には法案ができるなど、動きが本格化しました。一方、「ChatGPT」など生成AIの登場は、リスク重視の論調を二分します。背景にあるのが、生成AIの開発をめぐる欧州と米国の「力の差」で、技術力で世界をリードする米国に、規制が強まることでさらに水をあけられるとの懸念を抱いたフランスなど一部の加盟国との間で、意見が割れました。フランスは「AI法が自国のスタートアップ企業を殺す」と批判し、「自主規制」を主張、一方、キム・バン・スパレンタク欧州議会議員(オランダ)は「自主的な行動規範で十分と言うのなら、それはルールではない」と反発するなど、溝は深まりました。こうしたなか、今回、生成AIについては別枠での規定が設けられたもので、リスクの管理方法や基準などの細かい規定について、今後も議論が続く見込みです。また、EUの執行機関・欧州委員会の下に設置した「AIオフィス」が法案の順守を監督するといいます(技術の専門家や法律家など140人以上で構成され、EU加盟国と連携し、企業による違反の可能性を調査するほか、企業の革新的な研究を後押しするために資金を提供する役割も担うとされます)。日本政府は2024年4月、AI関連事業者向けのガイドライン(指針)を決めたほか、政府や自民党内には海外の動きを念頭に大規模なAI開発者への法規制を模索する動きがあります。なお、日本企業にも影響が及ぶEUのAI法の実務について、2024年5月23日付朝日新聞の記事「欧州のAI法、日本も関わる5つのポイント 専門家が教える対応とは」が分かりやすい内容でした。抜粋して引用すると、「杉本氏は、企業がまずやるべきこととして、以下のような五つの作業を指摘する。(1)AI法への対応が必要になるシステムやそれを使ったサービスを洗い出す「AIマッピング」(2)その洗い出したAIに対して、自社が「提供者」「配備者(利用者)」「輸入者」「販売業者」「第三者」のどの役割に該当するか、システムごとに役割を明確化する(3)役割ごとに定められたAI法上の義務を把握する(4)把握した義務を順守するための社内体制の整備(5)「高リスク」のAIシステムを商品として提供する場合、適合性評価手続きや、商品がEUの基準に適合していることを示す「CEマーク」を貼る」、「「高リスク」に当たるAIシステムの提供者や配備者の義務は、システムの開発自体や市場に投入するための手続きが関わるため、「対応には膨大な時間がかかることが予想され、準備期間としては必ずしも長いとは言えない」と杉本氏は指摘する。さらに見落としてはならないのが、広範な域外適用の規定が含まれている点だ。たとえば、日本にある人事部が、EU域内の拠点の従業員を採用したり昇進させたりする意思決定プロセスにAIを使えば「高リスク」に分類され、AI法上の義務を負うことになるという。杉本氏は「日本の人事部で欧州をカバーし、AIを使って採用活動や労務管理を行っている企業は多い」とし、「AIシステムの開発企業でなくても、欧州で事業を行う日本企業は、システムの『配備者(利用者)』として該当しないか、域外適用の規定対象になるのかを検討し、対応する必要がある」と指摘する」というものです。

その他、AIや生成AIの規制を巡る海外の最近の動向から、いくつか紹介します。

  • 米連邦通信委員会(FCC)のローゼンウォーセル委員長は、ラジオやテレビの政治広告をAIで作成した場合に開示を義務付ける新たな規制を提案しています。選挙候補や争点に関する広告が対象となります。同氏はFCCで採決するよう要請、AIが作成した政治広告を禁止することは提案していません。FCCは、米大統領選がある2024年の政治広告でAIが大きな役割を果たす見込みだと説明、ローゼンウォーセル氏は偽の画像や動画、音声を作成するディープフェイクを問題視する姿勢を示しています。
  • イングランド銀行(英中央銀行)金融行政委員会のランドール・クロズナー委員は、AIは基本的に破壊的だが、英経済の生産性を高める可能性があると指摘、規制作りでは新しいアプローチを受け入れる必要があると述べています。英中銀の新しい「デジタル証券サンドボックス」制度では、企業が規制監督下で新たな技術をテストできるが、チャットGPTをはじめとするAIツールのようなイノベーションは非常に急速に発展する可能性があり、「そのような状況ではサンドボックス・アプローチを適用できない可能性があり、破壊的変化に直面した政策当局者自身がさらにイノベーションを起こす必要があるかもしれない」と指摘しています。
  • 米オープンAIは、サービスの安全性を評価し、経営陣に勧告する委員会を新設したと発表しています。安全対策を担う幹部が、社内対立を原因に退社し、安全性を不安視する声も出ていたところ、「安全・セキュリティ委員会」は、サム・アルトマンCEOら、取締役会の一部メンバーや幹部で構成、外部の専門家にも意見を仰ぎ、90日間かけて安全対策について評価を行うといいます。また、生成AIの最新モデルの開発に着手したことも明らかにしています。AIの進化により、偽情報の拡散や著作権の侵害といった懸念が強まっており、社内の安全対策の強化をアピールする狙いがあります。
  • 世界のテクノロジー大手企業は、自社のAI製品がEUのデータ保護規制に抵触しないようEU当局と連携しています。AIモデル訓練のために企業がネット上でデータを収集することを許可すべきかや、どのような法的根拠で個人データの使用を認めるべきかといった問題について、規制当局は判断する必要があると説明、AIモデルが個人に関する誤った情報を提供するというリスクへの対処も必要だと指摘しています。データ保護委員会は、アルファベッット傘下のグーグルやメタ、オープンAIなど米テクノロジー大手は当局と「広範囲に関与している」と説明、「AI分野、特に大規模言語モデルにおける新製品についてわれわれの意見を求めている」と述べています。
  • 米サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁は、新技術によって雇用が全体的に減少することは決してないとする一方、経済活動の再配分につながり、新たな雇用が生まれずに既存の雇用が失われると、一部の労働者にとって大きな痛みが生じることが多いとの見解を示しています。その上で、生成AIは違うかもしれないと指摘、それは「同じ時間枠内で」仕事を置き換え、増強し、新しい仕事を創出することが可能だからで、過去の技術ほど痛みを伴わない可能性があると述べています。

AI規制に関する日本の関与について、省庁からの公表文書からいくつか紹介します。

▼総務省 西田総務大臣政務官のAIソウルサミット閣僚級セッションへの参加結果
  • 開催概要
    • AIソウルサミットは、昨年開催された英国AI安全性サミットでの成果を踏まえ、AIの安全性確保を含むAIガバナンスの在り方に関するグローバルな議論を進め、持続可能なAIの開発と利用を実現する方法を探求することを目的として、韓国及び英国の主催により開催されました。
    • 5月22日(水)開催の閣僚級セッションには総務省から西田総務大臣政務官が出席し、「AI安全性の強化に向けた行動」及び「サステナビリティとレジリエンスに向けたアプローチ」について議論が行われました。
    • 「AI安全性の強化に向けた行動」セッションにおいて、西田総務大臣政務官から、我が国が本年2月に立ち上げた「AIセーフティ・インスティテュート(AISI)」について紹介し、相互運用可能なAI安全性評価の確立を目指して国際的なパートナーと連携していく旨述べました。また、安全、安心で信頼できるAIの実現に向けた取組を進めるため、先日、岸田総理から「広島AIプロセス フレンズグループ」の取組を発表したことを発信しました。
    • また、「サステナビリティとレジリエンスに向けたアプローチ」セッションでは、AI開発への世界的な協調アプローチとして、エネルギーと環境への脅威、労働市場への影響、偽誤情報の大量生成等への解決策について議論が行われました。
    • 本会合の成果として、27の国・地域による「安全、革新的で包摂的なAIの発展のためのソウル閣僚声明」が採択されました。(閣僚声明の採択国・地域:オーストラリア、カナダ、チリ、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イスラエル、イタリア、日本、ケニア、メキシコ、オランダ、ナイジェリア、ニュージーランド、フィリピン、韓国、ルワンダ、サウジアラビア、シンガポール、スペイン、スイス、トルコ、ウクライナ、UAE、英国、米国、EU)
▼添付文書 安全、革新的で包摂的なAIの発展のためのソウル閣僚声明【仮訳】
  • 安全性
    1. 現在及び最先端のAIモデルやシステムの導入・利用によってもたらされるリスク並びに今後設計・開発・導入・利用される可能性のあるものによりもたされるリスクを含め、AIのあらゆるリスクを予防することが不可欠である。AIの安全性及び安心のための原則には、透明性、解釈可能性、説明可能性、プライバシーと説明責任、人間による意味のある監視、効果的なデータ管理と保護が含まれる。私たちは、現在及び最先端のAIを開発・導入している組織を含む全ての関係主体が、AIライフサイクル全体を通じて、生じ得る悪影響を評価、予防、緩和、修正するよう努めることで、説明責任及び透明性を促進することを奨励する。さらに、我々は、AIが安全、安心で信頼できる方法で、全ての人の利益のために、及び適用される国内の及び国際的な枠組みに沿った形で、設計、開発、導入、利用されるような環境を促進することを全ての関係主体に対して奨励する
    2. 我々は、それぞれの管轄区域において、商業的又は公的に利用可能な最先端AIモデル又はシステムの設計、開発、導入及び利用によってもたらされるリスクを管理するための枠組みを確立する我々の役割を認識する。我々は、我々の管轄区域において開発された最先端AIモデル又はシステムが重大なリスクをもたらす可能性がある場合、そのモデル又はシステムに対する信頼できる外部評価を奨励する我々の増大する役割を認識する。我々はさらに、最先端AIモデル又はシステムの設計、開発、導入及び利用によってもたらされるリスクが、適切な軽減なしには重大なものとなる閾値を特定する上で、民間セクター、市民社会、学術界及び国際社会とのパートナーシップにおける我々の役割を認識する。最先端AIモデル又はシステムがもたらすリスクを評価するための基準には、能力、限界及び傾向、悪意のある敵対的な攻撃及び操作に対する頑健性を含む実装されたセーフガード、予見可能な利用及び誤用、AIモデルが統合される可能性のある広範なシステムを含む導入の状況、影響範囲、その他の関連するリスク要因の考慮が含まれる。
    3. 最先端AIモデル又はシステムの設計、開発、導入及び利用がもたらすリスクの評価には、適切な緩和策を講じない限り、重大なリスクをもたらす可能性のあるモデル又はシステムの能力をその状況において定義し、測定することが含まれる場合がある。我々は、そのような重大なリスクは、化学・生物兵器及びその運搬手段の開発、生産、取得、使用を進める上で、非国家主体を有意に支援するモデル及びシステムの潜在的能力によってもたらされる可能性があることを認識する。我々は、各国の義務に従って、化学兵器禁止条約及び生物兵器禁止条約、国連安全保障理事会決議第1540号、国際人権法等の関連する国際法に従って行動することの継続的な重要性を確認する。我々は、AIの安全性と安心を促進するための多国間協議の重要性を強調する。
    4. 我々は、さらに、セーフガードの回避、操作及び欺瞞、又は人間の明示的な承認若しくは許可なく行われる自律的な複製及び適応を含む、人間による監視を回避する潜在的なモデル又はシステムの能力若しくは傾向によって、このような重大なリスクがもたらされる可能性があることを認識する。我々は、高度に進化したエージェント能力を有する最先端AIモデル又はシステムによるリスクに関して、更なる実証的データを収集することの重要性に留意すると同時に、人間による意味のある監視等の適切なセーフガードを実施するために、最先端AIを開発・導入する組織と協力することを含め、そのようなモデル又はシステムの誤用又はずれを防止することの必要性を認める。
    5. 我々は、最先端AIモデルやシステムのリスクに対処するための開発者との建設的な対話の重要性を認識し、これらのシステムの安全性に対する開発者の特別な責任を再確認する。我々はさらに、AIライフサイクル全体を通じて安全性とセキュリティを考慮することが急務であることを認識する。
    6. 我々は、AIのリスク管理に関する国際協力を強化し、AIの安全性・セキュリティの領域における世界的な理解を深めるために、AIセーフティ・インスティテュートやその他の関連機関が独自の役割を果たすことを確認する。我々は、AIセーフティ・インスティテュート又はその他の関連機関を通じて、必要に応じてベストプラクティス及び評価データセットを共有し、安全性試験ガイドラインの策定において協力する予定である。我々は、AIセーフティ・インスティテュートやその他の関連機関とのパートナーシップを構築することを含め、AI安全性活動の相互運用可能性を目指すと同時に、世界中の文化的・言語的多様性を考慮した試験方法の必要性を認識する。
  • 革新性
    1. 我々は、AIが我々の経済と社会にもたらす潜在的な利益を最大化することを目的として、イノベーションとAI産業のエコシステムの開発を促進するガバナンス・アプローチの重要性を認識する。さらに、政府の役割は、AIの革新のための財政投資、研究開発、人材開発を優先させるだけでなく、AIの安全、安心で信頼できる開発と導入のために、個人情報、著作権その他の知的財産の保護を含む法的・制度的枠組みを含むガバナンス枠組を検討することであると認識する。
    2. 我々は、行政、福祉、教育、医療などの分野を含む公共部門にとって、AIが変革的な利益をもたらすことを認識している。これらの利益には、利用しやすいデジタルサービスや、公共サービスを利用する際の市民の体験を向上させる自動化された手続を通じて、AIを効率的かつ効果的に利用することが含まれる。さらに、我々は、生産性を変革し、権利と安全を守りながら従業員の負担を軽減し、価値創造の新たな道を切り開くために、製造、物流、金融などの主要産業分野におけるAIの導入を支援する。
    3. 我々は、特に、知的財産権を尊重し保護しつつ、特に中小企業、スタートアップ、学術界、大学、さらには個人のAI関連リソースへのアクセスを容易にすることにより、AI主導のイノベーションを促す環境を支援することにコミットしている。また、研究者がそれぞれの研究分野でAIを活用できるようにするため、また、個人の創造的な努力を豊かにするツールとしてAIの責任ある活用を促進するため、AI関連リソースの利用可能性を高めることにコミットしている。
    4. 我々は、AIイノベーションのエコシステムにおける持続可能性とレジリエンスの重要性を認識する。この観点から、我々は、AIの開発者及び導入者が、エネルギーや資源の消費といった潜在的な環境フットプリントを考慮することを奨励する。我々は、イノベーションと生産性を向上させるために、AIを自信を持って使用し開発できるように、労働力をどのようにスキルアップ及び再スキルアップさせることができるかについての方策を探るための協力的な取り組みを歓迎する。さらに、我々は、AI開発やサービスを通じて、低消費電力のAIチップの適用や環境に配慮したデータセンターの運用など、資源効率の高いAIモデルやシステム、インプットの開発・利用を促進する企業の取り組みを奨励する。
  • 包摂性
    1. 包摂的なデジタルトランスフォーメーションを促進する取組において、我々は、AIの恩恵は公平に共有されるべきであると認識する。我々は、社会的弱者を含む全ての人々がAIの恩恵を活用できるよう、共通のビジョンを推進する。我々は、共通の価値観と相互信頼を育むため、AIシステムの包摂的な開発と、安全、安心で信頼できるAI技術の活用を促進するために協力する。我々は、特に、人権及び基本的自由の保護、社会的セーフティネットの強化、並びに災害及び事故を含む様々なリスクからの安全の確保において、全ての人の利益となるAIの可能性を認識する。
    2. 包摂性という共通の目標を推進するため、我々は、AIシステムに関するキャパシティビルディングやデジタル・リテラシーの向上を通じたAI教育の推進にコミットし、国家間及び国内のAI及びデジタル・デバイドの解消に貢献する。我々は、AIの設計、開発、利用における能力を高めるために、発展途上国を含む共同研究や人材開発における国際協力を強化する必要性を認識している。我々は、設計、開発、導入、利用といったAIライフサイクルにおいて、社会文化的、言語的多様性が反映され、促進されることを確保することを目指す。
    3. 我々は、気候変動、グローバルヘルス、食料・エネルギー安全保障、教育など、世界最大の課題を解決するための重要な進歩をもたらす可能性を認識し、AI技術の進歩を支援・促進することにコミットする。我々は、さらに、持続可能な開発目標の達成に向けた進捗を加速し、世界的な共通の利益と発展を促進することを目的とした共同の努力と議論への途上国の参加を奨励することにより、包摂的なガバナンス・アプローチを促進することを目指す。
▼総務省 デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会 ワーキンググループ(第21回)配付資料
▼資料WG21-1-2 「偽・誤情報に対するコンテンツモデレーション等の在り方」に関する主な論点(案)
  • 論点1:対応を検討すべき「偽・誤情報」の定義・範囲
    • ※情報伝送PFは、デジタル空間における情報流通の主要な場となっており、その中で偽・誤情報が流通・拡散すること等により、個人の意思決定の自律性への影響や、権利侵害、社会的混乱その他のフィジカル空間への影響が発生・増幅し得るところ、こうした影響の軽減等に向けて対応を検討すべき「偽・誤情報」の範囲をどのように考えることが適当か。
    • ※前提として、「偽・誤情報」をどのように定義するか。
      • ※海外では、発信者の主観的意図に着目し、誤りが含まれる情報のうち、発信者が事実でない事項を事実であると誤認・誤解させる意図を持って発信した情報を「偽情報」(disinformation)、そのような意図を持たずに発信した情報を「誤情報」(misinformation)と定義する事例があるが、どうか。
    • 上記定義に該当する「偽・誤情報」のうち、社会的な影響の軽減に向けて対応の検討が必要な範囲をどのように考えるか。例えば次のような要素に着目することが考えられるが、どうか。
      1. 違法性・社会的影響の重大性
        • 当該情報そのものが有する違法性・権利侵害性があるか。
        • 当該情報の客観的な有害性や、それが流通することによる社会的影響の重大性・明白性があるか。例)救急・救命活動への影響、健康被害、株価への影響、公共インフラの損壊、詐欺被害、風評被害
        • 諸外国では、市民の健康・安全等に害を及ぼし得ることを制度的対応が必要な「偽情報」「誤情報」の要件に含める事例があるが、どうか。パロディ・風刺など、重大な影響を及ぼすおそれの小さい情報を制度的対応が必要な「偽情報」「誤情報」から除外する事例があるが、どうか。
      2. 検証可能性・容易性
        • 「誤りが含まれる情報」であることについての検証可能性・容易性(明白性)があるか。
        • 参考)LINEヤフー株式会社(2024年2月22日・WG第3回会合(検討会第9回会合))
        • 「政府機関・ファクトチェック機関など信頼できる機関によるファクトチェック結果に基づき明らかな偽・誤情報と判断されるものについて対応」「プラットフォーム事業者においては、各種の情報・時間的制約から何が「偽情報」であるか範囲を確定することが困難な場合も」
      3. その他
        • 「誤りが含まれる情報」のみならず、誤解を招く(ミスリーディングな)情報をどう捉えるか。
        • 例)必ずしも誤りは含まれていないが、文脈上誤解を招く情報
        • 「内容」に誤りが含まれている情報のみならず、なりすましアカウントによる投稿など、発信者の「名義」に誤りが含まれる情報をどう捉えるか。
  • 論点2:偽・誤情報の流通・拡散を抑止するための「コンテンツモデレーション」の類型
    • 論点1で検討した範囲の「偽・誤情報」に対し、情報伝送PFがその流通・拡散を抑止するために講ずる措置(いわゆるコンテンツモデレーション)※として、どのようなものが有効と考えられるか。
    • 信頼できる情報の受信可能性の向上(いわゆるプロミネンス)を通じて間接的に偽・誤情報の拡散を抑止する措置を含む。
      1. 発信者に対する警告表示
      2. 収益化の停止
      3. ラベルの付与
      4. 表示順位の低下
      5. 情報の削除
      6. サービス提供の停止・終了、アカウント停止・削
      7. 信頼できる情報の受信可能性の向上(いわゆるプロミネンス)
  • 論点3:偽・誤情報に対するコンテンツモデレーションの実施の促進方策(総論)
    • 論点1で検討した範囲の「偽・誤情報」に対し、情報伝送PFがコンテンツモデレーションを実施することを促進等するための方策として、どのようなものが必要かつ適当か。
    • 例えば次のような方策が考えられるが、どうか。
  1. 対応の透明性の確保を通じた過不足ない実施の確保
    1. コンテンツモデレーションに関する基準や手続を事前に策定・公表
    2. コンテンツモデレーションの実施要否等の判断に関与する人員等の体制に関する情報を公表
    3. 上記①の基準の運用状況を事後に公表
    4. コンテンツモデレーションを実施した場合に、その旨及び理由を発信者に通知
  2. 対応の迅速化を通じた実施の促進
    1. 外部からのコンテンツモデレーション申請窓口を整備・公表
    2. 上記(1)の窓口を通じて申請があった場合に、一定期間内にコンテンツモデレーションの実施の要否・内容を判断し、申請者に判断結果を通知
    3. コンテンツモデレーションの実施の要否・内容を判断するための体制を整備
    4. 一定の条件※の下で行ったコンテンツモデレーションにより発信者が被った損害について、情報伝送PFを免責 ※例えば、行政機関等の特定の第三者からの要請を受けてコンテンツモデレーションを実施した場合など
  3. 可視性に影響しない措置の確実な実施
    • 「収益化の停止」や「発信者に関するラベルの付与」など、情報そのものへの可視性に影響しないコンテンツモデレーション(又はそれ以上の措置)を体制を整備して確実に実施
  4. 可視性に影響する対応も含む措置の確実な実施
    • 「情報の削除」や「アカウント停止等」など、可視性に影響するコンテンツモデレーションも含め、体制を整備して確実に実施
  5. 上記1.~4.の組合せによる対応
    • 上記のような方策の実効性を制度的に担保する必要性について、どう考えるか。制度的な対応を行わない場合、どのような対応があり得るか。
    • 例えば、上記1.~5.のような対応を情報伝送PFに義務付けることが考えられるが、どうか。
    • 上記4.を制度的に担保する措置(コンテンツモデレーションの類型のうち、「情報の削除」や「アカウント停止等」の義務付け)については、過度な情報削除やアカウント停止が行われるおそれがあることや、発信者の表現の自由に対する実質的な制約をもたらすおそれがあること等から慎重であるべきとの考え方があり得るが、どうか。
    • (1)権利侵害情報に該当する偽・誤情報、(2)違法情報に該当する偽・誤情報、(3)その他の論点1で検討した範囲の偽・誤情報など、偽・誤情報の特性・性質に応じた対応を考えるべきか。表現の自由の確保等との関係でどのように考えれば良いか。
    • 論点5:偽・誤情報に対するコンテンツモデレーションの実施の契機
      • 論点3で検討した方策について、どのような契機でコンテンツモデレーションを実施することが適当か
        1. 他人の権利を侵害する違法な偽・誤情報や行政法規に抵触する偽・誤情報の場合
          • 例えば、次の主体からの申出・要請を契機としてコンテンツモデレーションを実施することが考えられるが、どうか。
            1. 自己の権利を侵害されたとする者(被害者)
            2. 行政法規を所管する行政機関(その委託や認証を受けた機関を含む。)
          • 上記(2)の場合、行政機関による恣意的な申出・要請を防止し、透明性・アカウンタビリティを確保するとともに、過度な申出・要請に対し発信者や情報伝送PFを救済するための方策として、どのようなものが適当か。
          • 例えば、次のような方策が考えられるが、どうか。
            1. 行政機関において、申出・要請に関する手続等※を事前に策定・公表※事後救済手段を含む
            2. 行政機関において、実際に行った申出・要請の状況を事後的に公表
            3. 申出・要請に応じて実施されたコンテンツモデレーションにより発信者が被った損害について、情報伝送PFを免責
            4. コンテンツモデレーションを実施した情報伝送PFにおいて、行政機関の名称等の情報を発信者に通知
        2. 違法ではない偽・誤情報の場合
          • 例えば、次のような主体からの申出・要請を契機としてコンテンツモデレーションを実施することが考えられるが、どうか。他の方法もあり得るか。こうしたプロセスを構築する場合、どのような点に留意点が必要か。
            1. 当該情報付近に広告を表示された広告主
            2. ファクトチェック機関
            3. その他情報伝送PFが自らあらかじめ定めて公表した信頼できる第三者
    • 論点6:コンテンツモデレーションに関する透明性・アカウンタビリティの確保
      • 論点3で検討した方策について、情報伝送PFによるコンテンツモデレーションが過不足なく実施されていることについて、利用者を含む社会一般が確認し、情報伝送PFのサービスに対する信頼性を向上させるための方策として、どのようなものが必要かつ適当か。
      • 例えば次のような措置の実施を情報伝送PFに求めることが考えられるが、どうか。
        1. コンテンツモデレーションに関する基準や手続を事前に策定・公表
        2. コンテンツモデレーションの実施要否等の判断に関与する人員等の体制に関する情報を公表
        3. 上記①の基準の運用状況を事後に公表
        4. コンテンツモデレーションを実施した場合に、その旨及び理由を発信者に通知
    • 論点7:偽・誤情報の発信を抑止するための方策
      • 以上のほか、論点1で検討した範囲の「偽・誤情報」の発信を抑止するための方策として、どのようなものが考えられるか。
      • 例えば、情報伝送PFが発信者に対し、次のような方策を実施することが考えられるが、どうか。
        1. アカウント登録時の本人確認の厳格化
        2. botアカウントの抑止策の導入(アカウントの有料化等)
      • 上記のような方策の実効性を制度的に担保する必要性について、どう考えるか。制度的な対応を行わない場合、どのような対応があり得るか。
    • 論点8:偽・誤情報への対応策の実施を求める情報伝送PFの範囲
      • 以上で検討した偽・誤情報の流通・拡散や発信への対応策の実施を、どの範囲の情報伝送PFに求めるか。
      • 例えば、偽・誤情報の流通の頻度や社会に与える影響の深刻度という観点から、利用者数や、サービスの目的・性質などを勘案し、一定の要件を満たす大規模な情報伝送PFのみを対象とすることが考えられるが、どうか。
▼資料WG21-1-3 「情報伝送PFによる発信者への経済的インセンティブ付与や収益化抑止の在り方」に関する主な論点(案)
  • 論点:いわゆる「インプレッション稼ぎ」への対応
    • コンテンツやそれに伴う広告の閲覧数等に応じて情報伝送PFが発信者に経済的インセンティブを付与する仕組みが、インセンティブ目当てのいわゆる「インプレッション稼ぎ」の投稿、とりわけ偽・誤情報の発信・拡散をはじめとする情報流通の健全性を歪める現象につながっている可能性が指摘されているところ、こうした状況に対応するための方策として、どのようなものが考えられるか。
    • 例えば次のような方策が考えられるが、どうか。
    1. 収益化や収益化停止の措置に関し、透明性の確保を通じた過不足ない実施の確保
      1. 収益化や収益化停止措置に関する基準※や手続を事前に策定・公表※特にコンテンツの質と収益の関係
      2. 収益化の可否・収益化停止措置の実施要否等の判断に関与する人員等の体制に関する情報を公表
      3. 上記(1)の基準の運用状況を事後に公表
      4. 収益化停止措置を実施した場合に、その旨及び理由を発信者に通知
    2. 収益化停止措置の迅速化を通じた実施の促進
      1. 外部からの収益化停止申請窓口を整備・公表
      2. 上記(1)の窓口を通じて申請があった場合に、一定期間内に収益化停止措置の実施の要否・内容を判断し、申請者に判断結果を通知
      3. 収益化停止措置の実施の要否・内容を判断するための体制を整備
      4. 一定の条件※の下で行った収益化停止措置により発信者が被った損害について、情報伝送PFを免責 ※例えば、行政機関等の特定の第三者からの要請を受けて収益化停止措置を実施した場合など
    3. 収益化停止措置の確実な実施
    4. 上記1.~3.の組合せによる対応
      • 前スライド記載のような方策の実効性を制度的に担保する必要性について、どう考えるか。制度的な対応を行わない場合、どのような対応があり得るか。
      • その際、収益化停止措置に関しては、次のような特徴があることについて、どう考えるか。
        1. 情報伝送PFの広告収入が間接的に偽・誤情報の発信・拡散主体の収入源となることを抑止する上で一定の効果が見込まれること
        2. 情報自体の可視性には直接の影響がないこと
        3. 過度な収益化の停止によって発信者が被る損害は、通常は金銭賠償による回復が可能であること
          • 他方、収益化停止措置が実効的な方策とならないことが予想される領域への対策について、どう考えるか。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

IT大手DMM.comのグループで暗号資産(仮想通貨)交換業を手がけるDMMビットコインが、ビットコインが不正流出したと発表しています。流出額は現時点で482億円相当に上り、金融庁は顧客への丁寧な対応と原因究明を進めるよう指示しています。暗号資産の不正流出はこれまでにも発生して社会問題になっており、2014年にマウントゴックスから480億円相当が流出したのに続き、2018年のコインチェックによる約580億円相当が国内最大規模で、DMMビットコインはそれに次ぐ規模になるとみられています。その他、ビットポイントジャパンやテックビューロも数十億円を不正流出させていますが、2022年以降はハッキング事案は発生していません。一方、暗号資産のハッキングは日本だけの話ではなく、海外では2022年にブロックチェーン(分散型台帳)ゲームに使う「Ronin Network」プロジェクトから6億ドル超の資金が流出したほか、2022年10月には世界最大規模の交換業者バイナンスが5.7億ドルのトークンを流出させています。調査会社の米チェイナリシスが発行した2024年のレポートによれば、2023年のハッキング事案数は231件と2022年の219件を上回り、同社はハッキングを「深刻な脅威」と指摘、「攻撃者の(技術の)高度化が進み、その手口も多様化している」と分析しています。日本の暗号資産取引事業者は取引活性化に向けた利便性の向上に加え、より高度なセキュリティ環境の追求も絶えず求められている中での今回の大規模流出となりました。なお、DMMビットコインは、2023年3月期の事業報告によると、顧客口座数は約37万7千件、取り扱っている暗号資産は約40種類だといいます。本コラムでも以前から取り上げているとおり、日本では暗号資産は原則コールドウォレットなどリスクの少ない方法で管理し、ネットに接続する「ホットウォレット」で管理する場合は、同規模の弁済原資を保持することが義務付けられています。DMMも普段は顧客資産をコールドウォレットで管理をしており、顧客資産の95%以上をコールドウォレットに保管するよう毎営業日に顧客の資産を確認していたというものの、その運用がずさんだった可能性が否定できず、今回の件は暗号資産の現物の管理の難しさを改めて浮き彫りにした形となりました。関係者からは「コールドウォレットからの流出はこれまで想定されていなかった」という声もあがっており、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)は、不正流出を防ぐための取り組みに抜け穴がなかったのか再検証し、自主規制団体として再発防止に取り組む方針としています。なお、金融庁は顧客資産の保護について、DMMビットコイン単体では顧客資産の保全が難しいとみて、DMMグループによる全額保証を求めており、「グループ会社からの支援のもと調達を行い、全額保証する」と公表しています。また、金融庁は事態を重くみて、同社に対し、資金決済法に基づき、原因の究明を求める報告徴求命令を出しています。同社は、新規口座開設の審査や暗号資産の出庫処理、現物取引の買い注文の停止といった一部のサービスで利用を制限しており、利用者は保有している暗号資産をほかのウォレットに移すこともできない状態にあります。サービスの再開時期について、同社は「改めてお知らせする」として時期を明らかにしていません。

暗号資産の国内口座数が2024年4月末までに1000万を超えたといいます。ビットコインなど主要暗号資産の価格上昇を受けて新たに始める個人が増えたほか、2023年にメルカリが暗号資産取引に参入したことも投資家層の拡大に寄与したとされます(メルカリのアプリ上で、本人確認を済ませていれば30秒程度で口座開設できる手軽さと、開設者に300円分のビットコインを配るといったキャンペーンを武器に若者層を中心に新規客を取り込み、2024年5月からビットコインに加え、イーサリアムの取り扱いも始めています。その結果、2024年5月末には口座開設数が220万超となり、国内トップになったと発表しました)。一方で不稼働口座は全体の4割にのぼるなど課題も多い状況にあります。また、大手交換所のコインチェックは、コロプラが2024年6月にリリースするオンラインゲーム内で使用できる暗号資産の取り扱いを始めるなど、暗号資産取引の活性化の動きが顕著ですが、前述のとおり、事業者には、より高度なセキュリティ環境の追求も絶えず求められていると認識すべきだといえます。

その他、暗号資産を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 代表的な暗号資産であるビットコインは非常にエネルギー効率が悪いとされます。一方で、再生可能エネルギーへの投資を促すなど環境保護にとってプラスとの見方もあり、ESG投資としての可能性について議論が起きているといいます。ケンブリッジ・センター・フォー・オルタナティブ・ファイナンス(CCAF)の推計によれば、ビットコインはマイニング(採掘)に毎年ウクライナやパキスタンより多くの電力を消費しており、その電力の大半は火力発電から供給されているといいます。ビットコインの採掘に再エネを使っていたとしても、別のよりよい電力の使い道があるだろうとの指摘もあります。
  • 暗号資産業界の非営利団体である「スタンド・ウィズ・クリプト」は、暗号資産やブロックチェーンに友好的な政治家を支援するために新たな政治活動委員会(PAC)を立ち上げています。44万人の会員から資金を集め、各州から連邦議会選に出馬している候補を党派を問わず支持しているといいます。連邦選挙委員会の記録によれば、暗号資産の特別政治活動委員会「スーパーPAC」であるフェアシェイク、ディフェンド・アメリカン・ジョブズ、プロテクト・プログレスは、今回の選挙戦でこれまでに1億1000万ドル以上を調達したとされます。また、暗号資産法案を超党派で可暗号資産業界の権利を擁護する非営利団体「スタンド・ウィズ・クリプト」は、2024年6月5日時点で会員数が100万人を突破したということです。
  • 米下院は、暗号資産に関する新たな法的枠組みの構築を目指す「21世紀のための金融イノベーション・テクノロジー法案」を279対136の超党派による賛成多数で可決しています。同法案を巡っては米証券取引委員会(SEC)が新たな金融リスクを生む可能性があると異例の警告を発していました。SECのゲンスラー委員長は声明で、法案は「新たな規制のギャップを生み出し、投資契約の監視に関する数十年間の慣例を損なうものであり、投資家と資本市場を計り知れないリスクにさらすことになる」と訴えています。

香港金融管理局(中央銀行に相当)の余偉文総裁は、中国人民銀行(中央銀行)が実証実験を行っている「デジタル人民元」について、香港の商店でも使えるようにすると発表しています。香港の住民も人民銀が開発したアプリを通じて人民元のデジタルウォレット(電子財布)を開設し、香港と中国本土の小売店や一部のオンラインストアで支払いができるようになるといい、本土外の特定地域の住民に全面開放するのは初めてといい、国際化に向けたステップとなることが期待されています。中国人民銀行によると、中国でデジタル人民元を使用した取引は2023年6月末時点で1兆8000億元(2492億7000万ドル)に達し、小売店での支払いが大半を占めており、これまでに1億2000万のウォレットが開設されています。ユーザーはこのウォレットを使用して、中国本土の17の省と都市にある1000万以上の商店で支払いを行うことができるといいます。香港金融管理局の高官によると、中国本土の銀行口座開設は不要、入金は香港の銀行間の即時決済システム「FPS」を通じて行うとされ、香港で使用されるウォレットは1万元が残高の上限、支払いは1回当たり2000元、1日5000元までとなるほか、ユーザー間の送金はできない仕様となっています。なお、香港の携帯電話番号を持つ外国人もウォレットを開設できるといいます。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)やステーブルコイン等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 欧州中央銀行(ECB)の高官は、CBDCのデジタルユーロが導入される可能性は高いが、既定ではないとの見方を示しています。デジタルユーロのプログラムディレクター、イブリン・ウィトロックス氏は「(デジタルユーロ導入は)可能性は高いと思うが、現時点では必ず起きるわけではない」と語っています。
  • サウジアラビアは、各国のCBDCシステムを相互接続させるプロジェクト「mブリッジ」に参加しています。プロジェクトを監督する国際決済銀行(BIS)が明らかにしたもので、プロジェクトは2021年、中国、香港、タイ、アラブ首長国連邦(UAE)の中銀が立ち上げたもので、中国が主導しています。サウジの中央銀行はプロジェクトの「完全参加者」となる。プロジェクトには欧州中央銀行(ECB)など26の中央銀行や機関もオブザーバーとして加わっています。BISはまた、プロジェクトが「最小実行可能プロダクト(MVP)」段階に達したことも発表、試作段階から進んだことを意味します。世界の国内総生産(GDP)の98%を占めるおよそ135の国と通貨同盟が現在、CBDCの導入を模索しています。専門家は「最も先進的なクロスボーダーのCBDCプロジェクトに、G20の主要経済圏であり、世界最大の石油輸出国が加わった。ドル以外でのコモディティー決済が増えることになるかもしれない」と述べています。
  • 三菱UFJ信託銀行はフィンテック企業などと組んで、温暖化ガスの排出枠を電子取引する際に、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用したステーブルコインで決済する枠組みをつくるとしています。ステーブルコインは法定通貨と連動して価値が安定し銀行の営業時間のような制約に縛られず決済できる特徴があり、活用の幅を広げるといいます。円に連動するJPYCのステーブルコインの利用を想定、信託型というスキームを使い、ステーブルコインの価値の裏付けになる資産を三菱UFJ信託が管理、事業者の信用リスクからステーブルコインを切り離して安全性を高めることとしています。すでにステーブルコインと称する決済手段はいくつかありますが、国が資金決済法で定める「電子決済手段」としてのステーブルコインはまだ出てきていません。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

以前の本コラム(暴排トピックス2024年1月号)で取り上げましたが、大阪府暴排条例が2024年7月に改正されます。大阪府警は、大阪府内の建設業者が暴力団に利益供与をした際、指導や勧告を経ずに逮捕・書類送検ができる「直罰規定」を大阪府暴排条例に盛り込むと発表、2025年大阪・関西万博や、カジノを含む統合型リゾート(IR)の開業を見据えたもので、建設業者への直罰規定が設けられるのは全国の暴排条例で初めてとなります。建設業における暴排については、必ずしも十分に徹底されていない印象がありますが、こうした取り組みが他の自治体にも拡がることを期待したいところです。大阪府暴排条例では、暴力団に財産上の利益を与えることを事業者に禁じていますが、建設業者では暴力団関係企業を下請けにすることなどが想定され、違反しても、大阪府公安委員会から指導や勧告を受けるものの罰則はありませんでした。本改正案では、大阪市や堺市など府内6市に営業所がある建設業者(規制対象建設業者)が府内の工事に絡んで利益供与をした場合、建設業者と暴力団側の双方に懲役1年以下または罰金50万円以下の罰則を新たに科すものとし、通常の刑法犯のように、違反が見つかればすぐに逮捕や書類送検ができる直罰規定も設けるとしています。なお、6市以外の建設業者は、これまで通り罰せられないことになります。報道で、暴力団対策について詳しい垣添誠雄弁護士(兵庫県弁護士会)が「大きな公共事業のたびに暴力団は利権を狙ってきた」と指摘しています。総事業費約6千億円をかけて2005年(平成17年)に開業した中部国際空港(愛知県常滑市)を巡っては、名古屋市を拠点とする六代目山口組傘下組織弘道会が介入し、莫大な利益を得たとされ、弘道会はこの「軍資金」を足がかりとし、六代目山口組内での影響力を高めたと言われています。垣添弁護士は、「大型施設の建設作業では、不足する人材の派遣や取引先の仕事の受注などで暴力団が暗躍することがあった」とし、それを可能にしていたのが法的規制の不十分さであり、「今後は警察や検察の力が試される」と指摘していますが、正にその通りだと思います。一方、50万円の罰金では資金獲得のためのささいな経費に捉えられる可能性もあり、暴排条例違反時の積極的な逮捕、起訴が暴力団の撲滅につながることになります。さらに、手口が巧妙になり、より「見えにくい」形で参画してくることが容易に想像されることから、建設事業者における反社リスク対策の実効性を高めること(とりわけ反社チェックの精度を高めること)、官民挙げた監視態勢の強化が求められているといえます。

大阪府・市のIRについては、本コラムでもたびたび取り上げてきた用地賃料を巡って大阪市と訴訟で争っている原告団が、不動産鑑定を担当した鑑定士10人の懲戒処分を大阪府不動産鑑定士協会に請求したと発表しています。市の誘導で不当に安い額を算定したとして「市民の利益が著しく害される深刻な事態だ」と訴えているものです。IR用地の鑑定では、市から依頼を受けた4社のうち3社の額が一致、大型ショッピングモール用地として賃料を算出しており、IR整備を考慮しないのは不当に安く違法だとして、原告団はIR事業者との契約の差し止めを求めて提訴しています。今回の懲戒請求書では、算出の条件が各社で統一されるよう市が誘導し、業者間の協議でも条件がそろうように「示し合わせていた」と指摘、国が定めるガイドラインに違反すると主張しています。

IR米大手、ラスベガス・サンズの子会社サンズ・チャイナ(本社・マカオ)のクリス・カミンスキー上級副社長が産経新聞社のインタビューで、大阪で建設が計画されるIRを巡り「マカオとは競争関係にあるが、(ショー、飲食、観光などで)異なるサービスを提供することで、互いに補完しあう関係になれる」と述べ、大阪とマカオのIRは共存が可能との考えを強調しています。同氏は「大阪IRは(国際会議などが開催される)MICEの開設など、日本に貴重な経験をもたらす」と指摘、アジアではIR産業が活発化しているが「市場は依然、開拓の余地が大きい。(アジアで複数の拠点を持つ)サンズも、グループ内で施設を紹介しあうなど、顧客の目的に沿った利用を薦めている」と語っています。一方、マカオのカジノを訪れる客層の変化に伴って、業界内の明暗が鮮明になっているとロイターが報じています(2024年6月4日付ロイター)。比較的事業規模が小さいMGMチャイナやウィン・マカオが勝ち組で、大手のサンズ・チャイナやギャラクシー・エンターテインメンがこれを猛追する態勢というのが現在の構図だといいます。カジノへの客足は総じて戻ってきているものの、その中心は、1回当たりの掛け金が数百ドルから数千ドル前後のいわゆる「プレミアムマス」層で、かつてマカオのカジノ収入の大半をもたらしてくれた「VIP(ハイローラー)」と呼ばれる富裕層は厳しい規制のために姿を消し、最も掛け金が少ない「マス(大衆)」層の来訪数は、まだ新型コロナウイルスのパンデミック前の2019年の水準を回復していないといい、中国本土の景気がさらに減速すれば、マカオにもその影響が及び、真っ先にカジノが打撃を受けるとみられることから、事業者としてもカジノ以外のさまざまな娯楽を導入し、幅広い層の客を呼び込むことが大事になるとされます。

本コラムでは最近、ギャンブル依存症について継続的に取り上げています。それは、「金にだらしのない人が依存するわけではなく、誰にでも起こりうる病気」であり、社会の理解や適切な治療、社会復帰へ支援する態勢を整えることが重要だと考えているからです。ギャンブルでもアルコールでも強い刺激を繰り返すと、ドーパミンという物質が適切に出なくなる「報酬系の異常」が起こり、同じ刺激では満足できなくなり、より強い刺激を求めたり頻度が増えたり、賭け金が増えたりする「耐性」ができ、問題がなかなか、表に出てこず、ギャンブルを続けるには資金がいるので働き続けている人が多く、アルコールや薬物のように体を悪くして病院に運ばれることも少なく、社会機能は維持できているため、ある日突然、大きな借金があることや会社の金に手をつけていたことがわかり、皆がびっくりする、周囲は全く知らなかったということはよくあるといいます。国立病院機構久里浜医療センターが2020年に無作為抽出した成人1万7955人に実施した調査によると、ギャンブル依存が疑われる割合は有効な回答の2.2%で、18~74歳の人口に当てはめると190万人に上る計算となります。コロナ禍でオンラインでのギャンブルの利用が増えたとのデータもあり、(調査の2020年時点より)さらにハードルは低くなっている状況にあります。同医療センター精神科診療部長は依存症のきっかけとして「成功体験」を挙げ、「勝った経験が染みつき、負けても逆転できるという思考に陥りやすい。お金にだらしのない人が依存するわけではなく、誰にでも起こりうる」、「実際に、社会的地位を築いている受診者も少なくない。体調を崩しやすいアルコールや薬物の依存症と異なり、周囲は気付きにくい」と指摘しています。また、症状として、借金を小さく見せるなどのうそをつく傾向があるといい、「ギャンブル依存症の本当の怖さはうそで信用を失い、社会復帰を困難にすることだ」と強調しています。また、専門家によれば、典型的なギャンブル依存の事例で、負けを取り戻すために「深追い」をするのは他の依存症にはない特有の症状だと指摘しており、その怖さを感じます。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、オンラインなら海外のブックメーカーなどにも賭けることができ、規制が難しいうえ、競馬や競輪などの公営競技といった合法のスポーツ賭博が既に身近にあり、これらはオンラインで手軽に興じることができる状況にあります。2024年5月15日付毎日新聞によれば、専門外来を受診した患者の理由は、2014年~2020年までパチンコ、パチスロが圧倒的に多かったところ、2020年以降では公営競技がパチンコを上回っており、合法違法に関わらず、オンラインによる賭博の危険性が示唆されています。また、受診する主な患者は30~40代、国内の文献では、ギャンブルを理由に初めて借金してから精神科に受診するまで10年弱かかるとされ、20代でもギャンブルをしていたが、自分である程度稼げるようになったり、職場で金が扱える役職に就いて横領したりして悪化することが多いといいます。一方、日本では安全で効果が検証された薬物療法はなく、一番多いものは集団的認知行動療法で、テキストを使いながら当事者たちがギャンブルにのめり込む状況を分析して、どこを変えられるか話し合ったり、アドバイスしあったりする形で、「ギャンブラーズ・アノニマス」など回復を目指す当事者たちが集まる自助グループが全国各地にあり、オンラインでも参加可能だといいます。

インターネット上ではオンカジについて「日本の法律上グレーゾーン」「日本には裁ける法律はない」などと、違法性をあいまいに紹介しているサイトが複数ありますが、警察庁のサイトによると、海外で合法的に運営されていたとしても、日本国内から接続して賭博を行うことは違法です。バカラ、スロット、スポーツベッティングなどの呼び方や内容によらず、賭博罪(50万円以下の罰金または科料)や常習賭博罪(3年以下の懲役)に問われる可能性があります。また、警察は客だけでなく、オンラインカジノの仕組みを提供する側の摘発にも乗り出しており、以前の本コラムでも取り上げたとおり、警視庁は2023年9月、客が入金した金を海外のオンラインカジノで使えるポイントに交換し、賭博を助けたとして、決済代行業者の男を賭博幇助容疑で逮捕、男はその後、起訴されています。報道によれば、主要オンカジサイトへの国別接続数(2024年3月現在)で日本は、ブラジル、カナダ、ドイツに次いで4番目に多かったといい、接続全体の端末別ではスマホが8割以上を占めるといいます。

2024年6月4日付朝日新聞の記事「賭博推進に回った米プロスポーツ界 「非合法」の日本は世界で少数派」は大変興味深いものでした。まず、「スポーツに賭ける「スポーツベッティング」は世界に広がっています。2005年に英国でオンラインでのスポーツベッティングが開放されて以来、イタリア、フランス、ドイツなどで民間ブックメーカーによる賭けが解禁されてきました。G7で合法化されていないのは日本だけです。国際刑事警察機構の調査によると、合法・違法合わせ市場規模は330兆円に上る」といいます。また、「合法化の議論の過程では、米国人が40兆~50兆円レベルで海外や違法なブックメーカーを通じて賭けていることも明らかになりました。業者にライセンスを付与し、健全な範囲で楽しむ。それに対して課税をする。すべてガラス張りにして、誰が、いつ、どこで、いくら賭けたかもわかるようにする。反社会的勢力の資金源になるよりは、合法化して管理する方がいいという方向に進んだ」と合法化について解説しています。さらに、「米国で最もスポーツベッティングをしているのは25~34歳の男性で、その層を取り込む好機になるわけです。また、賭けるには試合の映像が欠かせません。コンテンツとしての価値が上がり、放映権料も上昇します」とその経済的波及効果が紹介されています。一方、「日本からも海外のブックメーカーを通じて多額のお金が賭けられていると言われています。日本の賭博罪に触れるため、もちろん違法ですが、ネットで買えてしまうのが現状です。さらに日本のスポーツもすでに海外ブックメーカーの賭け対象になっています」、「公営ギャンブルに対する国レベルでの依存症対策も不十分です。いつでも、どこでも好きなだけ賭けられる状態になっていて規制はありません」として、合法化と規制強化について日本が考えるべき方向を示しています。こうした議論は日本ではいまだ十分になされておらず、薬物蔓延対策との共通項も多く、大変興味深く感じました。

以下、ギャンブル依存症を巡る最近の報道から印象的な部分を抜粋して紹介します。

  • 水原被告は「借金を返すためにギャンブルをするほかない状況に追い込まれていたのだと思う。楽しんでいたとは思えない。ウソを繰り返し、孤独を募らせていった生活は地獄だったはず」…オンラインのスポーツ賭博について10代の若者からの相談も増えており、オンラインギャンブルがはびこっている高校もあるという。…「依存対象以外に興味がなくなる。やめたくてもやめられず、自分が依存していることを認められない病気だ」、「病気を理解し、苦しみを分かち合える仲間が必要
  • 自分が腐っているのは分かっているけど、やめられないのがギャンブル依存症なんです。やめ方が分からない。気合や根性ではなく、病気として向き合っていくしかないんです。ギャンブル依存症治療に効果的なのが12段階のプログラムとミーティング、同じ苦しみを知る仲間の存在です。それを教えてくれたのが施設でした。
  • 統計上の数字は氷山の一角に過ぎないとされる。国内では公営ギャンブルのインターネット投票が普及し、依存症が疑われる人のうち若年層の割合が増加。多額の借金など状況が深刻化して初めて周囲が気付くケースもある。専門医は「依存症は病気と認識し、治療を受けるようにしてほしい」と呼び掛けている。依存症当事者の年代については、若年層が増加傾向にある。公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」が依存症当事者の家族に実施した調査によると、当事者のうち20~30代は2019年(令和元年)に64%だったが、2023年には78%に増えた。要因の一つにギャンブルのオンライン化が挙げられる。…孤独や、目標の喪失などを紛らわせるためにギャンブルにはまることが多い。プログラムでは依存症を学び、当事者が「ギャンブルは必要ない」と気付くことを目指している。
  • 2023年に摘発されたオンラインカジノ事件のうち無店舗型は5件、32人に上った。違法オンラインカジノへの日本からのアクセスは、2021年には従来の100倍に増え、米、独に次ぐ世界第3位になった。スポーツベット(スポーツ賭博)を含めたオンラインカジノによるギャンブル依存症の相談件数も3年から急増。2023年には全体の2割を超えたとしている
  • 日本では、アスリートやチームスタッフの依存症について、調査がほとんどなされていない一方、スポーツ選手らが関係するギャンブルの問題は繰り返し起きています。報道によれば、182の競技団体に所属するプロとアマチュア2729選手、スタッフ475人から回答を得た2019年の調査で、一般の人に比べ、スポーツ関係者はギャンブル依存症が疑われる割合が多いことが判明しています。また、女性よりも男性の方がリスクが高いこともわかったといいます。要因の一つは、強いストレスですが、周囲の環境も影響を与えていたといいます。プロ選手だと、練習は短時間で集中的に行い、一日の残りは試合以外は自由時間になり、周りにギャンブルをする人がいると、誘われてやり始める、そのようなケースが少なくないといいます。また、収入が減った引退後に、ギャンブル依存症が表面化することもあります。
③犯罪統計資料から

例月同様、令和6年(2024年)1~4月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和6年1~4月分)

令和6年(2024年)1~4月の刑法犯総数について、認知件数は222,285件(前年同期208,824件、前年同期比+6.4%)、検挙件数は85,650件(80,786件、+6.0%)、検挙率は38.5%(38.7%、▲0.2P)と、認知件数・検挙件数ともに前年を上回る結果となりました。増加に転じた理由として、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数・検挙件数がともに増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は150,344件(142,461件、+5.5%)、検挙件数は49,993件(47,351件、+5.6%)、検挙率は33.3%(39.2%、+0.1P)、となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は32,485件(30,215件、+7.5%)、検挙件数は21,200件(19,780件、+7.2%)、検挙率は65.3%(65.5%、▲0.2P)と、最近減少していた認知件数が増加に転じています。また凶悪犯の認知件数あ2,078件(1,597件、+30.1%)、検挙件数は1,756件(1,338件、+31.2%)、検挙率は84.5%(83.8%、+0.7P)、粗暴犯の認知件数は17,864件(18,310件、▲2.4%)、検挙件数は14,673件(14,811件、▲0.9%)、検挙率は82.1%(80.9%、+1.2P)、知能犯の認知件数は18,855件(15,008件、+25.6%)、検挙件数は5,626件(5,935件、▲5.2%)、検挙率は29.8%(39.5%、▲9.7P)、風俗犯の認知件数は4,917件(2,268件、+116.8%)、検挙件数は3,988件(2,007件、+98.7%)、検挙率は81.1%(88.5%、▲7.4P)、とりわけ詐欺の認知件数は17,245件(13,843件、+24.6%)、検挙件数は4,548件(5,085件、▲10.6%)、検挙率は26.4%(36.7%、▲10.3%)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数・検挙件数が増加する一方、検挙率の低下が認められている点が懸念されます。また、(特殊詐欺の項でも取り上げている通り)コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナの現時点においても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、現状では必ずしも「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺などが大きく増加傾向にあります。さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。

また、特別法犯総数については、検挙件数は19,565件(21,336件、▲8.3%)、検挙人員は15,657人(17,545人、▲10.8%)と2022年は検挙件数・検挙人員ともに減少傾向、2023年に入ってともに増加に転じ、その傾向が続いていましたが、ここにきて再び減少に転じた点が大きな特徴です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は1,678件(1,765件、▲4.9%)、検挙人員は1,164人(1,255人、▲7.3%)、軽犯罪法違反の検挙件数は1,978件(2,438件、▲18.9%)、検挙人員は1,982人(2426人、▲18.3%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は1,842件(3,286件、▲43.9%)、検挙人員は1,321人(2,528人、▲47.7%)、児童買春・児童ポルノ法違反の検挙件数は1,117件(1,103件、+1.3%)、検挙人員は634人(824人、▲23.1%)、青少年保護育成条例違反の検挙件数は482件(690件、▲30.1%)、検挙人員は371人(546人、▲32.1%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,354件(1,032件、+31.2%)、検挙人員は1,033人(791人、+30.6%)、銃刀法違反の検挙件数は1,369件(1,639件、▲16.5%)、検挙人員は1,117人(1,367人、▲13.9%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反等が増加している点が注目されます。また、薬物関係では、、麻薬等取締法違反の検挙件数は495件(340件、+45.6%)、検挙人員は296人(214人、+38.3%)、大麻取締法違反の検挙件数は2,109件(2,074件、+1.7%)、検挙人員は1,666人(1,661人、+0.3%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は2,354件(2,109件、+11.6%)、検挙人員は1,560人(1,450人、+7.6%)などとなっており、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いている点が注目されます。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していましたが、ここにきて増加に転じた点は大変注目されるところです(これまで減少傾向にあったことについては、覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところだと指摘してきましたが、最近、何か大きな地殻変動が起きている可能性も考えられ、今後の動向にさらに注目したいところです)。なお、麻薬等取締法の対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯 国籍別 検挙人員 対前年比較について総数は243人(175人、+38.9%)、ベトナム77人(56人、+37.5%)、中国37人(27人、+37.0%)、ブラジル18人(8人、+125.0%)、フィリピン14人(8人、+75.0%)、韓国・朝鮮10人(7人、+30.0%)、パキスタン7人(2人、+250.0%)、スリランカ6人(8人、▲25.0%)などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回っている点が最近の特徴です。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は2,589件(3,130件、▲17.3%)、検挙人員は1,451人(1,865人、▲22.2%)と、刑法犯と異なる傾向にありますが、最近、検挙件数・検挙人員ともに継続して増加傾向にあったところ、2023年6月から再び減少に転じた点が注目されます。犯罪類型別では、強盗の検挙件数は24件(31件、▲22.6%)、検挙人員は45人(58人、▲22.4%)、暴行の検挙件数は137件(197件、▲30.5%)、検挙人員は124人(173人、▲28.3%)、傷害の検挙件数は231件(323件、▲28.5%)、検挙人員は250人(365人、▲31.5%)、脅迫の検挙件数は72件(96件、▲25.0%)、検挙人員は67人(86人、▲22.1%)、恐喝の検挙件数は84件(113件、▲25.7%)、検挙人員は101人(118人、▲14.4%)、窃盗の検挙件数は1,263件(1,408件、▲10.3%)、検挙人員は205人(246人、▲16.7%)、詐欺の検挙件数は404件(591件、▲31.6%)、検挙人員は308人(486人、▲36.6%)、賭博の検挙件数は34件(11件、+209.1%)、検挙人員は42人(42人、±0%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、増加傾向に転じて以降、高止まりしていましたが、2023年7月から減少に転じ、その傾向が続いている点が特筆されます。とはいえ、依然として高止まり傾向にあり、資金獲得活動の中でも重点的に行われていると推測される(ただし、詐欺は暴力団の世界では御法度となっているはずです)ことから、引き続き注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は1,246件(1,436件、▲13.2%)、検挙人員総数は800人(963人、▲16.9%)と、こちらも検挙件数・検挙人数ともに継続して減少傾向にあります。また、犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は12件(4件、+200.0%)、検挙人員は10人(2人、+400.0%)、軽犯罪法違反の検挙件数は9件(28件、▲67.9%)、検挙人員は8人(20人、▲60.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は24件(21件、+14.3%)、検挙人員は24人(20人、+20.0%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は32件(10件、+220.0%)、検挙人員は34人(23人、+47.8%)、風営適正化法違反の検挙件数は31件(25件、+24.0%)、検挙人員は21人(21人、±0%)、銃刀法違反の検挙件数は26件(24件、+8.3%)、検挙人員は19人(16人、+18.8%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は56件(49件、+14.3%)、検挙人員は22人(25人、▲12.0%)、大麻取締法違反の検挙件数は226件(337件、▲32.9%)、検挙人員は135人(217人、▲37.8%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は681件(742件、▲8.2%)、検挙人員は441人(470人、▲6.2%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は24件(43件、▲44.2%)、検挙人員は6人(17人、▲64.7%)などとなっており、最近減少傾向にあった大麻事犯について、2023年に入って増減の動きが激しくなっていること、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員がともに全体の傾向以上に大きく減少傾向を示している中、一部増減を繰り返している点などが特徴的だといえます(覚せい剤については、今後の動向を注視していく必要があります)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮は、2024年5月30日、十数発の短距離弾道ミサイルを内陸部から北東方向に向けて発射、いずれも朝鮮半島東の日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下したと推定されます。北朝鮮が同時に十数発を発射したのは、迎撃を回避する能力を誇示する狙いがあったためとみられています(本件については、北朝鮮の朝鮮中央通信が、韓国と韓国軍を照準に、超大型放射砲(多連装ロケット砲)による「威力示威(デモンストレーション)射撃」を実施し、金正恩朝鮮労働党総書記が現地指導したと伝えています。一列に並んだ18台の移動式発射台(TEL)から、同時に1発ずつ発射される場面の写真も公開されました)。今回の発射は、在韓米軍や韓国軍の基地を打撃する能力を誇示する狙いだったとみられ、軍事偵察衛星の打ち上げに失敗後、GPSの妨害行為とあわせ韓国に対する挑発行為を強めています。なお、北朝鮮による弾道ミサイルの発射は、防衛省によると、2024年に入って5回目で、韓国軍合同参謀本部のみが発表した発射と、「衛星」打ち上げと称した同5月27日の発射を含めると7回目となります。関連して、国連安全保障理事会は、北朝鮮による新たな軍事偵察衛星の打ち上げを巡り緊急会合を開催しました。北朝鮮は、2基目となる軍事偵察衛星を打ち上げたものの、空中で爆発して失敗、新開発の液体燃料エンジンに原因があった可能性が指摘されています。米国連代表部のエバンス報道官は、安保理には世界の平和と安全を守る責任があるとし、「米国は全ての理事国がこの責任を真剣に受け止め、一致団結して北朝鮮の危険で違法な行動を非難するよう求める」と述べています。米政府が北朝鮮の偵察衛星打ち上げを巡る国連安保理緊急会合開催を要請したことを受け、北朝鮮外務省の金先敬国際機構担当次官は、「主権国家の正々堂々たる権利行使」を議題にする権限は安保理にないと述べ、会合開催をけん制しています。また、北朝鮮の外務省当局者は、弾道ミサイル技術を用いた軍事衛星打ち上げの試みは国連安全保障理事会決議に違反するとしたグテレス国連事務総長の発言を批判、北朝鮮は宇宙からの偵察能力の保有を決して断念しないとも述べています。緊急会合では、失敗に終わった打ち上げを米欧や日本が非難したのに対し、中露は米国の軍事演習などに責任を転嫁したため、一致した対応はとれなませんでした。米国のロバート・ウッド国連代理大使は会合で、「北朝鮮が2022年以降に発射した弾道ミサイルは100発以上に上る」と指摘し、北朝鮮に安保理決議を順守させるべき時に「中露が妨害し続けている」と批判、日本の山崎和之国連大使も、露が北朝鮮を擁護しているのは、「ウクライナ侵略で使用する軍需品を北朝鮮から調達しているからだ」と訴えました。会合には北朝鮮の金星国連大使が出席、金氏は衛星打ち上げについて「敵対勢力の軍事動向を監視する偵察能力を保有することは我々の権利だ」、(明確な国連安保理決議違反であるにもかかわらず)「制裁決議を認めたことはない」、「偵察衛星の開発を継続し主権を守る」と主張しています。

一方、日米など10カ国とEUは、ウクライナ攻撃を目的とする、北朝鮮から露への不法な武器移転停止を求める外相共同声明を発表、「複数の国連安全保障理事会決議に違反し、深化している露朝間の協力を深刻に懸念する」と強調、国連安保理で北朝鮮に対する制裁実施状況を監視してきた「専門家パネル」の任期延長決議に拒否権を行使した露の対応を非難するとともに、北朝鮮に対し、完全かつ検証可能で不可逆的な方法により、全ての核兵器と弾道ミサイル放棄に向けた具体的措置を講じるよう要求、朝鮮半島の恒久的な平和への唯一の道である外交に戻るよう呼びかけています。

北朝鮮は2024年6月1日夜以降、ゴミをつり下げた約720個の風船を飛ばし、ソウルなどに落下させました(同5月下旬以降では1000個以上に上ります。北朝鮮の金与正朝鮮労働党副部長は「誠意の贈り物だと思って拾い集めるべきだ」と述べ、さらに飛ばすことを予告、一方、韓国の申国防相は、「正常な国家としては想像できない稚拙で低レベルな行為」と非難しています)。韓国社会に混乱を引き起こす狙いとみられています。また、北朝鮮は、朝鮮半島西側の黄海でGPSの妨害電波を発信、2024年5月29日から5日連続で、韓国漁船などの航行に影響が出ました。こうした北朝鮮の挑発行為への対抗措置として、韓国大統領府は、北朝鮮との偶発的な衝突などを防ぐために2018年9月に結んだ「南北軍事合意」の効力を、互いの信頼が回復するまで全面的に停止すると発表しています。合意は北朝鮮に融和的な左派の文在寅前政権下で署名されたもので、南北軍事境界線付近での軍事訓練などを禁じたものですが、北朝鮮は2023年11月に事実上の破棄を一方的に宣言しており、韓国軍だけ合意に縛られているとの指摘が出ていたものです。大統領府は「有名無実化した軍事合意が、韓国軍の準備態勢に多くの問題を引き起こしている」と強調、北朝鮮の挑発行為が「韓国国民に現実的な被害と脅威を与えている」ことを合意の停止理由に挙げています。さらに、拡声器による宣伝放送を再開するとしています。北朝鮮の体制批判やKポップを大音量で流し、北朝鮮兵士らの動揺を引き起こす狙いがあり、音は20~30キロ先まで届くとされ、北朝鮮の元高官の脱北者は「北朝鮮当局は住民が体制批判を耳にするのを恐れる」と語っています

2024年5月27日の軍事衛星「万里鏡1-1号」の発射失敗について、約1時間半後には失敗を認め、国営朝鮮中央通信が報じています。国家航空宇宙技術総局によると、露の技術支援を受けて新たに開発した「液体酸素+石油エンジン」の動作の信頼性に問題があった可能性があるということです。2023年以降、北朝鮮による軍事偵察衛星の発射は4回目となりますが、このうち失敗が3回となりました。金正恩政権は、2024年に計3基の軍事偵察衛星を打ち上げる方針を示しており、あらためての発射を急ぐとの見方とともに、困難だとの見方も出ています。韓国軍関係者によると、燃焼実験は複数回行われ、露の技術支援には口頭などで相手側に伝えるものから、装備の設計を肩代わりするものまで様々な形態があり、朝露間の具体的な方式について分析しているといいます。また、北朝鮮は、2023年5月と8月に軍事衛星の打ち上げに失敗した際、朝鮮中央通信の報道を通じてトラブルが生じたと認めると同時に、再打ち上げの時期を示しましたが、今回は再打ち上げの時期に言及しておらず、「欠点の克服に相当な時間がかかる」(韓国軍関係者)との見方が出ているものです。一方、失敗したものの技術の進歩を指摘する声もあり、韓国科学技術政策研究院のイ・チュングン氏は、石油燃料と液体酸素のエンジンは2023年北朝鮮の衛星計画支援を宣言した露が支援を提供した可能性を示唆しているとの見方を示し、同氏は「失敗したが大きな飛躍」と分析、「韓国の宇宙ロケットのいくつかは数十年前に露と共同開発されたもので、同様の技術を使っている」と指摘、また「露は液体酸素ケロシン燃料に最も強い国。われわれの羅老ロケットとヌリロケットは露との技術協力によって液体酸素ケロシン燃料を採用している」と述べ、液体酸素はマイナス183度で沸騰するため、特殊な燃料貯蔵装置などが必要だと指摘、2023年末、北朝鮮が何度もロケットの静的試験を行ったのはそのためかもしれないとしています。北朝鮮は6月下旬、党の重要会議である中央委員会総会を開催する予定としており、本来は軍事衛星打ち上げの成功を示し、国威発揚につなげる思惑があったとみられていますが、韓国側は、金正恩朝鮮労働党総書記が打ち上げ失敗をカバーするために新たな挑発を行う可能性があるとみて警戒しています(その1つがごみ風船やGPS妨害と考えられています)。なお、発射された同5月27日にはソウルで日中韓首脳会談が開かれ、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮問題を巡って「朝鮮半島の非核化、拉致問題についてそれぞれの立場を強調した」と共同宣言に明記していた、効果的な時期を狙ったとみられています。北朝鮮の朝鮮中央通信は、この日中韓首脳会談に関し「わが国の主権に対する挑戦で内政干渉だ。強く糾弾する」とする外務省の報道官談話を伝えています。会談後、即座に反発し、非核化の意思はないと強調、敵視を強める韓国が主催国だったことも批判しています。談話は、北朝鮮の核保有は憲法に明記された「神聖な主権だ」として「誰だろうと非核化を説き、核保有国としての地位を否定するなら主権侵害行為と見なす」と主張、日中韓首脳会談で非核化への言及があったことに強い不快感を示したうえで、朝鮮半島の完全な非核化は「理論的にも実践的にも、物理的にも既に死滅している」とし、応じない姿勢を鮮明にしています。また、金総書記も後日、「今回の打ち上げは目標とした成果を達成できなかったが、我々は失敗におびえて萎縮するのではなく、さらに大きく奮起する」と述べ、再び打ち上げる方針を示し、「失敗を通してより多くのことを知り、より大きく発展するのだ」と述べています。一方、米戦略国際問題研究所(CSIS)は、北朝鮮が、2024年11月の米大統領選でトランプ前大統領が返り咲く「もしトラ」に備え、衛星運搬ロケットの開発を急いでいるとの分析を示しています。技術的に弾道ミサイルと同じロケットの打ち上げ停止と引き換えに、制裁緩和や核兵器保有の容認を引き出す取引を念頭に置いている可能性を指摘しています。北朝鮮は過去約1年間で軍事偵察衛星を4度打ち上げて3度失敗しており、設計や生産・品質管理に問題があるとみられると指摘、北朝鮮が年内に計画する残りの衛星打ち上げを通じて問題を克服すれば、2025年の今ごろには信頼性の高い衛星運搬ロケットを製造しているだろうとしています。

北朝鮮が「潔く」速やかに失敗を公表した背景も考えておく必要があります。軍事衛星の打ち上げについては、弾道ミサイルの発射と異なり、事前通告を行っています。外交活動への影響も考え、国際基準に可能な範囲で合わせたい思惑があるのかもしれないと考えられています。また、インターネットが普及し、以前と比べれば、北朝鮮当局が情報を隠すのが難しい時代になっていることや、北朝鮮を逃れた元朝鮮労働党幹部は「外国の情報に接する幹部が家族や知人に漏らすこともある。携帯電話の普及で、情報の拡散も早い。衛星の発射失敗の事実も、時間がかかっても最後まで隠しとおせないと考えたのではないか」と述べていますが、現実味があると感じます。さらに元幹部は「事実の隠蔽や捏造は、体制の危機を招くこともある」とも指摘、そのうえで、北朝鮮の動きについて「すべて体制維持を念頭に考えている。金総書記が失敗を認める潔い性格だから、ということでは決してない」と語っています。

北朝鮮の弾道ミサイル発射については、この1カ月の間ということでは、前述したもの以外に、2024年5月17日にも短距離弾道ミサイルを発射しています。朝鮮中央通信によると、北朝鮮は、新型誘導システムを導入した「戦術弾道ミサイル」の発射実験を行ったと報じています。ミサイルの飛行経路を正確に誘導する目的があるとみられています。技術の高度化を目的にミサイル総局が発射実験を行い、「正確性と信頼性が検証された」と主張、発射には金総書記が立ち会い、独自開発した誘導技術の導入を高く評価したとされます。金総書記は、兵器生産を担う「国防工業企業所」も視察し、核戦力の強化を指示、「敵に我々の無限の能力をはっきりと見せろ」と命じたといいます。

北朝鮮の核・ミサイル開発を巡る国連安全保障理事会の制裁違反が指摘される同国の複数の石油タンカーが2024年4月前半、露極東のボストーチヌイ港に出入りしていたことが、読売新聞の衛星画像分析でわかったといいます(2024年6月7日付読売新聞)。国連安保理決議で輸入が制限されるガソリンなどの石油精製品を積み、北朝鮮に輸送したと見られており、石油精製品の密輸が、海上で船から船に移す「瀬取り」だけでなく、大胆な手法で行われるようになってきている表れといえます。報道によれば、2024年4月1、3、7、10日の画像では、北朝鮮のタンカーと特徴が一致する計4隻が、石油タンクとみられる構造物が並ぶ岸壁に係留されたり、港湾内を航行したりしている様子を確認でき、1日の画像が捉えたのは、「YU SON号」とみられる船舶で、過去に瀬取りを行った容疑で国連安保理の制裁対象となっています。3、7、10日の画像にそれぞれ写ったのは「UN HUNG号」「PAEK YANG SAN1号」「WOL BONG SAN号」の3隻とみられ、いずれも制裁に違反して北朝鮮側に売却された船舶だといいます。国連安保理の北朝鮮専門家パネルは4隻について、北朝鮮への石油精製品の供給を制限した安保理決議に違反した疑いを重ねて指摘してきました。北朝鮮の石油精製品の密輸は、同国の領海内などで瀬取りにより行われてきたことが、専門家パネルの報告書で指摘されてきましたが、専門家パネルのメンバーだった古川氏は「今年春以降、北朝鮮のタンカーがボストーチヌイ港に直接寄港し、石油精製品を調達するようになった」と指摘、「密輸が常態化しており、国連制裁が機能していないことは明らかだ」と説明しています。報道では、「今回の衛星画像分析でわかったのは、北朝鮮が石油タンカーを露の港に堂々と横付けし、国連安全保障理事会の決議に違反する石油精製品の輸入を繰り返している可能性が高いということだ。北朝鮮が、より大胆な手法をとるようになった背景には、露との結びつきの強まりがある」、「露との連携強化は北朝鮮にとって、核・ミサイル開発のための資金や燃料だけでなく、関連技術の獲得にもつながった。日本の安全保障への影響は深刻だ。安保理決議に違反するこれらの行為は決して許してはならない。専門家パネルの廃止で制裁違反の事例が増えることが懸念される。国際社会は弱体化した監視網の立て直しと、制裁の実効性の確保に取り組む必要がある」と指摘していますが、正に正鵠を射るものと思います。

米国は露がウクライナ戦争で北朝鮮のミサイルを使用したことを確認したとして、国防総省傘下の国防情報局(DIA)が残骸画像の分析結果を公表しています。米国は2023年9月の両国首脳の会談後に露が北朝鮮から弾道ミサイルと砲弾を受け取ったとの見方を示していました。DIAは北朝鮮国営メディアが公開した画像と、2024年1月にウクライナのハリコフ地域で発見されたミサイルの残骸画像を比較、報告書で北朝鮮の固体燃料式短距離弾道ミサイルのさまざまな側面を示し、DIAは声明で「露がウクライナ戦争で北朝鮮製の弾道ミサイルを使用したことが分析で確認された。北朝鮮製ミサイルの残骸がウクライナの至る所で発見された」と述べています。一方、それに先立ち、北朝鮮の金総書記の妹、金与正党副部長は、露への武器輸出を否定する談話を発表しています。国連安保理の専門家パネルは、露の侵攻が続くウクライナに1月に着弾したミサイルが北朝鮮製だったとする報告書を提出したことに対し、金与正氏は、北朝鮮が進めている兵器開発は北朝鮮軍の「戦闘力強化」のためで、「我々の軍事技術力をどこにも輸出、または公開する考えはない」と主張、露と北朝鮮による武器取引は「荒唐無稽な臆測」と強調しています。また、露朝の接近について、韓国の申国防相はアジア安全保障会議で、露と北朝鮮の関係強化に警戒するよう訴えています。北朝鮮がウクライナ侵略を続ける露に武器を提供し、見返りに得た先端技術で核・ミサイル開発に拍車をかけているためで、申氏は、露がウクライナで使った武器の中に北朝鮮製の短距離弾道ミサイル「火星11」が見つかっていることなどを念頭に、「露が北朝鮮の武器で攻撃している」と述べ、「露朝間の軍事協力はヨーロッパにも影響を及ぼしている。全世界の問題だ」と訴えています。露はウクライナ侵略の長期化で兵器不足に陥っており、北朝鮮がその穴を埋めているとされます。申氏は北朝鮮との関係を深める露に関し、「国際社会を裏切っている」と厳しく批判しています。

こうした北朝鮮を巡る動向を踏まえ、日本としてどう対応していくべきかは外交上の極めて重要なテーマですが、2024年5月23日付日本経済新聞の記事「北朝鮮、核奇襲力で狙う主導権 消えた「非核化カード」」が大変参考になりました。「北朝鮮が2004年の日朝首脳会談からの20年間で強化したものの一つが、日本や韓国、米国に対する軍事攻撃力だ。この間、6回の核実験を断行し、日本の防衛省が数えただけで200発近い弾道ミサイルを発射した」、「近年は固体燃料を使うミサイルの開発に力を注ぐ。従来の液体燃料型と違い、燃料注入の時間が不要になる。事前に準備をして即座に発射できるため、奇襲攻撃が可能になる。さらに核弾頭を積めば実戦仕様の核兵器が完成する」、「日米韓が非難する弾道ミサイルの発射は、北朝鮮にとっては「自衛力強化」(金与正氏)の一環だ。即座に核攻撃できる能力を持つことで相手の攻撃を思いとどまらせる「抑止力」を自前で整備し、外交の主導権を握ろうとしている」、「緊張を高めて対話に持ち込む「瀬戸際外交」を展開しつつ、核開発は目標通り続けた。北朝鮮のこの伝統手法は節目を迎えつつある。国会にあたる最高人民会議は2023年9月、憲法に核兵器の保有を明記する案を採択した。ついに核兵器の運用にメドをつけ、もう「非核国」に簡単に戻ることはないと事実上宣言した」、「「拉致・核・ミサイル」の3点セットの交渉をしてきた日本に「拉致は解決済み、核・ミサイルを廃棄することはもうない」と迫る言葉と取れる。3点セットを前提にする交渉は一層困難さを増す恐れがある。日本はどう対処すべきか。防衛省防衛研究所の渡辺武アジア・アフリカ研究室長は「対話をめざす過程でも、自身の軍事力、同盟力を強化する選択肢を手放してはいけない」と強調する。北朝鮮が対話に応じるとすれば、狙いは日米韓の分断にある。日本は拉致問題で合意点を探りながらも、北東アジアの抑止力は維持するしたたかな外交が求められる」というもので、こちらも北朝鮮の変化、世界情勢の変化とあわせ、日本にも相応の覚悟と変化が求められるという点では正にその通りだと思います。

韓国の文在寅前大統領は2024年5月発売の回顧録で、北朝鮮の金総書記が、核・ミサイル開発に対する国連などによる経済制裁について「正直に言って、きつい」と吐露したと明らかにしています。「経済を発展させることが自分にとって最も重要な課題なのに、制裁のせいで難しい」とも話したといいます。金総書記の発言は、2018年4月に南北軍事境界線のある板門店で実施された南北首脳会談でのもので、回顧録によると、金総書記は文氏に対し、核開発について「核は徹底的に自分たちの安全を保障するためのものだ。使うつもりは全くない」と述べたといいます。また「我々が核なしでも生きられるなら、何のために多くの制裁を受けながら核を頭にのせて生きるのか。自分にも娘がいる。娘の世代まで核を頭にのせて生きるようなことはしたくない」とも話したといいます。なお、参考までに、本回顧録については、北朝鮮に融和的で日米に懐疑的な視点が浮き彫りになっているほか、金総書記をかばう記述が目立ち、「正恩氏の報道官だ」(与党議員)と批判を浴びているようです。

金正恩体制打倒を訴える団体が活動を再開させたことが確認されています。「新朝鮮」を自称、2019年にスペインで起きた北朝鮮大使館襲撃事件に関与した「自由朝鮮」への連帯を示しており、系列団体とみられています。2024年5月上旬に「NO金正恩」を示す「Nを刻め」と行動を呼びかける文書をインターネット上に投稿しています。襲撃事件以降、自由朝鮮による活動は停滞していますが、今後、各地の北朝鮮大使館や周辺で体制を批判する過激な行動が起きる可能性があります。文書は新朝鮮に関し「新しい国号で建国を準備する平壌の秘密の自由民主政府だ」と主張しています。

前述した北朝鮮が2024年5月27日夜に軍事偵察衛星を発射した際に日本政府が出した全国瞬時警報システム(Jアラート)について、林官房長官は「送信、解除のタイミングはいずれも迅速かつ適切であった」との認識を示しています。Jアラートは発射直後、沖縄県を対象に発令されましたが、発射は失敗に終わり、結果的にJアラートは17分後に解除されましたが、政府は今後も「空振り」を恐れずに迅速な避難を呼びかける方針としています。北朝鮮による弾道ミサイルの発射が相次ぐ中、政府は2023年、Jアラートに関し、速報性を重視する運用に切り替えました。過去の発射の際に発令のタイミングが遅いとの指摘があったことを踏まえ、ミサイルの予測飛翔範囲がある程度確定する前の段階でも発令することにしたことで、結果的にJアラートは「空振り」となったものの、政府関係者は「落下や上空通過の可能性がある場合、空振りを恐れず迅速に発令するのは当然」と強調しています。今回、発射から数分後に消失したにもかかわらず解除が17分後となったことに対し、遅れを指摘する意見もあるところ、林氏は会見で「領域への落下や上空通過、後続ミサイルなどの可能性がないことが確認でき次第、速やかに解除した」と説明しています。一方、2024年5月28日付朝日新聞の記事「発射のたびにJアラート、ジャーナリストが懸念「慣れが進まないか」」は少し考えさせられる内容でした。安全保障問題に詳しいジャーナリストによれば、「ミサイルとロケット打ち上げは、破壊を目的とした弾頭を載せるのか、衛星を載せるのかの違いはあっても技術は同じで、国連安全保障理事会の決議に違反するとみなされる。ただ、Jアラートを使うかどうかは、国民に危険が及ぶリスクの度合いで判断されるべきだ。現状は、不必要に使い過ぎていないかという懸念がある。衛星打ち上げかミサイルかは、事前通告の有無や打ち上げる方角などで区別できるようになっている。北朝鮮の技術力もある程度わかるようになった。ロケットの打ち上げの場合、部品などが沖縄県の陸上に落下する危険はゼロではないが、かなり低いと思われる。それでも、政府はミサイルと区別なくJアラートを発令し、「ミサイル」と表現して避難を呼びかけている。このような形でJアラートを使い続けると、国民の「慣れ」が進み、本当にミサイルが飛来した時にアラートとして機能しないのではないかと心配している」、「昨年5月に北朝鮮が衛星の打ち上げを通告して以来、防衛省は沖縄県の石垣島や宮古島、与那国島に迎撃ミサイル「PAC3」を展開させている。「台湾有事」を念頭にした自衛隊の「南西シフト」が進むなか、迎撃部隊の展開自体が目的化しているのではないか、という声が地域住民から聞かれる」、「ミサイルによって被害が出る危険性が本当にあるのであれば、Jアラートを使うことが間違っているとは思わない。しかし、政府が純粋なリスク判断ではなく、北朝鮮の軍事的脅威を強調するといった政治的な意図を交えてJアラートを使っているならば、このシステムの本来の目的から外れており、すべきではない」というものです。「慣れが進み、本番で機能しなくなる」「政府がリスク判断をして使い分けるべきだ」「政治的な意図を感じる」といった主張ですが、そのように捉えることも可能とはいえ、筆者の考えとは大きく異なることを申し添えておきます。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(石川県)

石川県暴排条例に定める禁止区域に暴力団事務所を開設したとして、石川県警は、石川県暴排条例違反の疑いで、金沢市の六代目山口組傘下組織滝本組と卯辰組の組長ら9人を逮捕しています。報道によれば、共謀して2022年7月ごろ、金沢市の公園の周囲200メートル以内に事務所を開設、運営したというもので、事務所は滝本組組長が経営する会社が所有、卯辰組が利用していたといいます。なお、石川県暴排条例は5年前に改正され、公園や小学校などの周囲200メートルの区域内で暴力団事務所を開設・運営することが禁じられ、金沢市内はほぼ全域が禁止区域となったものです。また、東日本大震災などでは、暴力団が復旧工事に関わり利益を得ていたことから警察は、能登半島地震の復旧工事にも関与していないかも含めて調べる方針だということです。「震災ビジネス」によって、暴力団等を利することは絶対にあってはなりません。

▼石川県暴排条例

本条例第14条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設又は建造物の敷地(これらの用に供するものと決定した土地並びに第七号及び第十一号に掲げる建造物が他の建造物と一体となって社寺その他の施設を構成する場合にあっては、当該施設の敷地を含む。)の周囲二百メートルの区域内においては、これを開設し、又は運営してはならない」として、「九 都市公園法(昭和三十一年法律第七十九号)第二条第一項に規定する都市公園」が指定されています。また、第23条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「三 第十四条第一項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者」が規定されています。

(2)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(静岡県)

静岡県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、六代目山口組傘下組織国領屋一家の幹部に再発防止命令を出しています。報道によれば、同幹部は、2023年4月上旬に県西部で当時40代の男性に対し、同11月下旬には愛知県内で別の当時40代の男性に対し、それぞれ暴力団の威力を示して現金などの贈与を要求したといいます。同7月14日に細江署長から、2024年3月11日に愛知県の豊橋署長から中止命令を受けており、今後も同様の不当要求行為を繰り返す恐れがあるとして再発防止命令が出されたものです。

▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)

暴力団対策法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が禁止されています。そのうえで、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)第2項で、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定しています。

(3)暴力団対策法に基づく逮捕事例(兵庫県)

池田組の本部事務所(岡山市北区田町)に張られた使用制限の標章を剥ぎ取ったとして、岡山中央署は、暴力団対策法違反の疑いで岡山市北区、自称アルバイトの60代の男を逮捕しています。報道によれば、2024年4月22日と23日、本部事務所の玄関などに岡山県公安委員会が貼付していた標章2枚を剥がした疑いがもたれています。防犯カメラ映像などから容疑を固めたものですが、容疑者は池田組関係者ではなく、動機を調べるとしています。池田組を巡っては、六代目山口組との抗争事件が相次ぎ、岡山県公安委が2022年12月、同法に基づく特定抗争指定暴力団に指定、本部事務所などを使用禁止としています。

暴力団対策法第20条の11(特定危険指定暴力団等の事務所の使用制限)第3項において、「公安委員会は、第一項の規定による命令をしたときは、当該事務所の出入口の見やすい場所に、当該管理者又は当該事務所を現に使用していた指定暴力団員が当該事務所について同項の命令を受けている旨を告知する国家公安委員会規則で定める標章を貼り付けるものとする」と定めているところ、同条第5項で「何人も、第三項の規定により貼り付けられた標章を損壊し、又は汚損してはならず、また、当該標章を貼り付けた事務所に係る第一項の規定による命令の期限が経過し、第三十条の八第三項の規定による警戒区域の変更により当該標章を貼り付けた事務所の所在地が警戒区域に含まれないこととなり、又は次条第一項の規定により当該特定危険指定暴力団等に係る第三十条の八第一項の規定による指定が取り消された後でなければ、これを取り除いてはならない」と規定されています。

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