暴排トピックス

組織犯罪対策や治安対策の転換点だ~暴力団とトクリュウの一体化に備えよ

2026.04.07
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首席研究員 芳賀 恒人

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1.組織犯罪対策や治安対策の転換点だ~暴力団とトクリュウの一体化に備えよ

警察庁から「令和7年における組織犯罪の情勢について」が公表されています。以下、内容を紹介しますが、薬物に関する記述の部分は、本コラムの「3.薬物を巡る動向」にて取り上げています。

本レポートは令和6年版から記載順が、「暴力団情勢」より「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)情勢」の方が先となっています(令和5年版では「トピックス」としてトクリュウの実態に関する記述があるのみでした)。令和6年版の「はじめに」において、「従来、我が国における組織犯罪対策は、暴力団による犯罪をその典型的な射程としつつ、来日外国人による組織的な犯罪に加え、暴力団や来日外国人を含めた犯罪組織によって主に敢行される薬物事犯や銃器発砲事件への対策を柱として推進されてきたが、近年、新たな特徴を有する「匿名・流動型犯罪グループ」が台頭し、治安対策上の脅威となっており、これまでの組織犯罪対策の在り方を抜本的に見直すこととなった」と記載され、トクリュウ対策が治安対策の要であることを明確にし、令和7年版もそれを踏襲しています。また、令和6年版ではトクリュウについて、「匿名性・流動性を利用し、暴力団や来日外国人犯罪グループ等と一定の関係を持ちながら、特殊詐欺、強盗・窃盗等の様々な事案に関与して資金を獲得している匿名・流動型犯罪グループに対しては、従来どおりの手法では、その組織構造や内部統制、資金の流れ等を解明し、有効な対策を講じることは困難となっている」との強い危機感が表れているのに対し、令和7年版は、「…その組織構造や内部統制、資金の流れ等を解明し、有効な対策を講じるべく、警察庁及び全国の都道府県警察において、部門横断的な情報共有、実態解明等を推進している」との記述が追加され、警察のトクリュウ対策への強力な態勢変化(いわゆる「トクリュウ・シフト」)を全面に打ち出す形となっています。そのうえで、令和6年版、令和7年版ともにはじめに」の最後を、「本書では、第1章において、近年、治安対策上の脅威となっている匿名・流動型犯罪グループをめぐる情勢について説明し、第2章以降において、従来から存在する脅威である暴力団、来日外国人犯罪及び薬物・銃器をめぐる情勢について概観することとする。犯罪組織を弱体化させ、壊滅に追い込むためには、末端の実行犯を検挙するだけでなく、あらゆる法令を駆使して中核的人物を検挙するとともに、徹底した犯罪収益の剥奪と資金源の遮断を図り、違法なビジネスモデルを解体することが重要である。警察では、引き続き、組織の総力を挙げて、匿名・流動型犯罪グループをはじめとする犯罪組織に対する戦略的な実態解明及び取締りを強力に推進していく」と決意表明のような形で結び、トクリュウ対策をベースとした治安対策、組織犯罪対策というあり方を明確に打ち出しています。

暴排トピックス2022年4月号において、令和6年版を取り上げた際に筆者は、「暴力団という属性はないものの実質的には暴力団員として活動している統計上捕捉されない層が分厚さを増している実態、トクリュウの本質的に不透明な実態、暴力団員を辞めてもまっとうに稼げる者はごく僅かに過ぎず、多くは「元暴アウトロー」として、暴力団とは異なる属性としての反社会的勢力やその周辺者、あるいは完全なアウトローとして、結局は危険分子という点で離脱前と変わらない存在の者たちの増加の実態、さらには暴力団という組織の「規律」に縛られることがない分、より危険な存在となりつつある者らの実態、そして何より「暴力団の肩書がむしろ邪魔になり、表だった活動の機会が減っている」、「暴力団が警察に捕まらないよう『匿流化』が進んでいる」(社会学者・廣末氏)実態、事務所が使えず、いわば「リモート」で活動しその不透明化が進む実態、少子高齢化が顕著な人員構成(暴力団構成員を年代別でみると、50代が31.9%で最多で、40代23.4%、60代14.9%、70代以上12.2%、30代11.2%、20代5.9%の順となりました。10年前の2014年末に50代以上は全体の4割でしたが、2024年末には6割近くにのぼり、高齢化が進んでいることがうかがえます。それとともに、社会に今さら適合できず、あえて暴力団にとどまる高齢者の存在があります)など、統計上の数字だけでは表せないリアル(現実)な姿だといえます」、「そして、もはや統計上の数字が以前ほど大きな意味を持たなくなっていることと同様、暴力団対策法の限界も露呈している状況に鑑みれば、暴力団対策のあり方を根本から見直すこと-例えば、海外のマフィア対策のように存在の非合法化を前提とするあり方など-実態ベース、リスクベースからあらためて発想すべき時期に来ているのではないかと考えます。ここ最近の統計数字と継続的にウォッチし続けている実態との乖離を見るにつけ、そういったことを強く感じます」などと指摘しましたが、現時点においても本質的に大きな違いはありません。ただ、当時より治安対策、組織犯罪対策においてトクリュウ対策の重要性が増している実感があり、もう少し俯瞰的に捉えなおしてみる必要があると考えます。

例えば、トクリュウが増加した理由については、テレグラムやXなどの普及により、匿名での人材募集や指示が容易になり、犯罪の「組織化コスト」が大幅に低下したことが挙げられます。これは実は日本のトクリュウや暴力団だけの変化ではなく、海外の犯罪組織による「オンライン詐欺」や、テロ組織、ウクライナ侵攻を続けるロシア、麻薬組織など国や組織を問わず、今や世界的に主流のスキームとなっている点に注意が必要です。「高額報酬」「即日現金」といった文句で若者を募集する闇バイトを使い、経済的困窮や軽い気持ちから犯罪に関与する一般人を犯罪者に仕立てる「闇のエコシステム」を構築し、指示役・管理役・実行役が分断されているため、首謀者の特定が難しくなっている点も大きな共通項であり、この「闇のエコシステム」によって摘発リスクが下がり、犯罪の持続性を高めているのです。また従来型の暴力団は暴力団対策法や暴排条例の度重なる改正によって規制強化が進み、資金源が枯渇化し、構成員の減少も著しくなっています。その結果、伝統的な資金獲得活動や暴力団組織のあり方も変化を余儀なくされ、トクリュウ的なあり方へと移行する動き、大きな地殻変動が起きているといえます。それは、暴力団とトクリュウが相互に接近し、より一体化する動きと言えるかもしれません。一部の暴力団関係者が、トクリュウを利用して特殊詐欺や強盗を行い、資金を得ているケースもある一方で、オレオレ詐欺やマネロン、逃走手段など、従来の犯罪組織が蓄積してきたノウハウがトクリュウに伝授され、両者が一体となった「悪のスキーム」がより洗練化されている実態も進行中です。別の言い方をすれば、トクリュウの拡大は、「誰でも加害者になり得る」、「組織の実態把握が困難」、「国境を越えた犯罪との接続」という特徴によって、従来の治安対策を根本から覆すインパクトがあるのであり、警察のトクリュウ・シフトが治安対策の要と定めている点は、正にその通りだといえます。したがって、今後は「SNSやデジタルプラットフォーマーなどの犯罪インフラの無効化」、「国際的な捜査協力の拡充」、「仮装身分捜査や架空名義口座捜査、司法取引や通信傍受など捜査手法の高度化によるトクリュウ対策・暴力団対策のアップデート」などを強力に推進していく必要があります。トクリュウは、デジタル時代に適応した新しい犯罪形態であり、その跋扈は技術・社会・経済の複合的な要因による「時代の産物」であって、表面的には匿名で無秩序に見える一方で、背後には暴力団や半グレといった既存の犯罪ネットワークが関与して一体化しつつあり、今後は、「組織犯罪」という従来の枠組みを超えた対策が求められることになるのです。

直近では、「暴力団とトクリュウの一体化」の状況に加え、組織の垣根を超えた協働犯罪が散見されるようになっています。数年前の「ATM一斉引き出し事件」では半グレの主導により、7つの指定暴力団が関与しましたが、最近の詐欺事件では、神戸山口組傘下組織組員と、住吉会傘下組織組員が一緒に現金受け取り役の「受け子」を統括していたケースがあり、上野の4億円強奪事件では、六代目山口組、住吉会、極東会という異なる暴力団の傘下組織の組員が協働して関与したとも報じられています。異なる組織が協働して犯罪を行うメリットについて、2026年3月28日付現代ビジネスのコラム「かつてあった「暴力団の絶対ルール」が形骸化…裏社会の人手不足で生じる「異常事態」」において廣末登氏が、「上納金逃れ」と「リスクヘッジ」だと指摘しており、筆者としても同様に考えています。同コラムによれば、「大きな仕事をしたら報道される。裏社会では、誰がその大仕事に関与したか直ぐに噂になるから、実行犯は所属組織に申告しなくてはならない。今回、強奪した4.2億円を、仮に7人で単純分配すると、ひとり6千万円となる。これを組織に申告したら、上納金50%と言われたら3千万円上納しないといけない。そこを、「自分は見張り役だったから2千万しか受け取っていない」と言えば、上納金は50%と言われても1千万円で済む。同じ組織の人間と協働して犯行に及んでいたら、こうした嘘は、いずれメクれる(露見する)が、他組織の人間と行った場合、その恐れはない。住吉会の組織が、山口組に電話して、「あの事件で、うちの人間になんぼ渡したんや」などとは確認できないからだ」という点と、「リスクヘッジとは、警察の捜査を難しくすることに加えて、たとえ逮捕されても、組織トップの使用者責任が問いにくくなることにある。同じ組織で犯行を行った場合、実行犯が検挙されれば、組事務所にガサも入るため、組織に迷惑を掛ける。最悪の場合、使用者責任が問われ、組長が賠償責任を負う可能性が否めない。その理由は、「混成チームになるとどの組織の誰がリードしているかハッキリわからず、公判での立証はより難しくなる。少なくとも使用者責任という観点からは追及の手が上には及びづらく」なる」という点です。そのうえで廣末氏は、「今回の上野の実行犯世代は、「他の組織の気が合う人間や、独自のリソースを持っている人間との結びつきを強くして、自分たちの力を蓄えたほうが得だと考えている……もはや「敵か味方か」を言っていられる状況ではない。裏社会の人材不足は、皮肉にも組織間の「融和」を強制的に進めてしまった」、「一連の事件で、香港で逮捕された男女6人が同じ実行犯のグループであったとしたら、香港マフィア(例えば14K)などが、山口組、住吉会、極東会と連携している可能性もある。昨年6月、住吉会幹部は、14Kの幹部と盃を交わし、組織間の同盟を約束する会合していることから、犯罪のボーダレス化を含めて考えるべきかもしれない。東南アジア地区における詐欺拠点設立、人身売買等、国内外の犯罪組織のメルトは、数年前から静かに始まっているのだ」とも指摘しており、大変興味深いものがあります。結局、従来の「強固な組織性」を最大の特徴とする暴力団のあり方では限界がきていることの証左であり、「敵か味方か」どころではなく、「生き延びるために、国内外問わず連携する」という時代に即したありかたなのであり、それは暴力団の定義、暴力団対策のあり方の再定義に直結するのであり、トクリュウ対策、治安対策の見直しという大きな地殻変動に対応していく必要に迫られているということの証左でもあります。やはり、「統計上の数字と実態の乖離が示すもの」以外に真実が隠されていることを痛感させられます。

話を令和7年版組織犯罪の情勢に戻します。本レポートによれば、その主な数字として、トクリュウについては、全国の警察が昨年1年間に摘発した容疑者は前年比2割増の計1万2178人(2024年から2073人増)に上ったことが明らかとなりました。海外を拠点にした特殊詐欺では、暴力団や海外犯罪組織の関与も確認されたとし、トクリュウが海外組織と暴力団のつながりに重要な役割を果たしているとの指摘や、若者の関与も目立ったとの指摘がとりわけ重要です。罪種別では口座譲渡などの犯罪収益移転防止法違反が3354人、詐欺が3075人で、薬物事犯は1887人と2024年から倍増した点なども特徴的です。また、摘発された者のうち、違法な収入源とされる「資金獲得犯罪」で摘発された6679人(2024年比1476人増)を分析した結果、約3割はSNSの「闇バイト」などを通じて事件に関与していたといいます。資金獲得犯罪の罪種別では詐欺が最多の約46%で、薬物事犯が約28%、窃盗が約15%と続き、強盗も約5%に上っています。年齢別では約42%の20代(2811人)が最多で、約20%の30代(1328人)、約16%の14~19歳(1048人)の順となり、30歳未満の若者が約6割を占めました。さらに、容疑者のうち「主犯または指示役」は約1割(930人)に過ぎず、残りは実行役や被害金の回収役らとなりました。一方、全国の暴力団(準構成員を含む)勢力は2025年末時点で1万7600人(2024年比1200人減)で統計が残る1958年以降で過去最少となりました。警察の捜査では一部の暴力団がトクリュウの仲介で海外の犯罪組織と接点を持っていたことも確認されました。全体の勢力が低下する中、トクリュウと一体化したり、手足に使ったりしている状況が浮き彫りになっています。また、トクリュウは来日外国人の犯罪グループや犯罪収益の受け皿となる口座を調達する「道具屋」、暗号資産などへの交換でマネー・ローンダリング(マネロン)を請け負う「相対屋」などとも連携しており、警察当局が違法活動の実態把握を進めるとともに摘発を強化している状況にあります。さらに海外組織との関係についても踏み込んでおり、東南アジアを拠点とするオンライン詐欺について、その拠点は中国マフィアなどが仕切っているとされ、警察庁の分析で、拠点の管理役として、また日本人のかけ子を調達して日本から送り出す役割として、暴力団が関与している実態が認められたとしています。一方で、こうした中国マフィアが日本にいる中国人を利用しかけ子の勧誘を行っている実態も確認されたということです。警察庁は海外の捜査機関と連携を強めつつ、こうした犯罪の実態解明をさらに進める方針を明確にしています。一方、警察は、広域捜査の強化や新たな捜査手法の導入でトクリュウの摘発を強化しています。警察庁によれば、トクリュウの関与が疑われる特殊詐欺については、都道府県警が連携する「特殊詐欺連合捜査班(TAIT)」が捜査を展開、2025年に計533件の摘発につなげました。さらに本コラムでも「トクリュウ・シフト」と命名して紹介したとおり、警察庁は2025年10月、トクリュウ対策の司令塔組織を設置し、捜査情報を分析してトクリュウの中核的人物を特定し、集中的に取り締まる態勢とし、全国から捜査員を結集した警視庁とも連携して、トクリュウの壊滅に向けた捜査を強力に推進しています。また、新たな捜査手法では、「仮装身分捜査」が効果をあげています。捜査員が架空の本人確認書類で「闇バイト」に応募して摘発につなげる手法で、強盗予備や詐欺未遂の4事件を摘発するなど、被害の未然防止につなげました。トクリュウは、SNSの闇バイトなどで実行役を募っていて、全国の警察は事件に悪用されたSNSのアカウント情報の照会や集約を徹底し、実態解明を進めています。

▼警察庁 令和7年の組織犯罪の情勢について
▼ 令和7年の組織犯罪の情勢について(概要)
  1. 匿名・流動型犯罪グループ情勢
    • 匿名・流動型犯罪グループの中核的人物には、主に、暴力団構成員・元暴力団構成員、暴走族OBグループメンバー、風俗営業等関係グループメンバー及び外国人犯罪組織メンバーを確認
    • これらの者が臨機に連携するなどし、主にサイバー空間上で犯行ツールを提供する「道具屋」や「相対屋」等も悪用しながら、違法なビジネスモデルを構築し、多額の犯罪収益を得ている実態
    • 検挙関係
      1. 特殊詐欺連合捜査班の活用
        • 特殊詐欺連合捜査班(TAIT)を活用した特殊詐欺等の検挙件数は533件
      2. 仮装身分捜査の実施
        • 仮装身分捜査の実施により、強盗予備で1件2名、詐欺未遂で3件3名を検挙したほか、これら4件を含む7件の被害の発生を抑止
        • これまでの分析により、例えば、以下の実態を確認
          • 暴力団が匿名・流動型犯罪グループを配下に置き、犯罪行為を分担させ、犯罪を不透明化・多様化
          • 従来、暴力団の資金獲得の場とされてきた繁華街等で資金獲得活動を目論むグループが暴力団に資金を供与するなどして、暴力団の威力を利用しながら、資金獲得活動を敢行
          • 暴力団構成員が減少し、勢力が低下する暴力団が、海外の外国人犯罪組織との連携により、その勢力の維持・拡大を図っており、その結節点として匿名・流動型犯罪グループが重要な役割
          • 外国人犯罪組織等が関与する海外拠点の管理や架け子等の調達に暴力団が関与したり、国内の同胞人脈を利用
          • 匿名・流動型犯罪グループは、いわゆる「道具屋」や「相対屋」等が提供する犯行ツールを悪用しながら、資金獲得犯罪を敢行
          • 国内に在住する日本人グループや来日外国人グループが、不動産取引や自動車輸出等の正規の事業形態に応じた犯罪インフラを構築して、外国人犯罪組織によるマネー・ローンダリングの一端を担うとともに、事業としての収益を獲得するといった違法なビジネスモデルを構築
  2. 暴力団情情勢
    • 暴力団構成員等の数は、平成17年以降減少し、令和7年末現在で1万7,600人で過去最少となった。
    • 暴力団構成員等の検挙人員は7,335人(前年比▲914人、▲11.1%)で過去最少となった。
    • 罪種別の検挙人員は、覚醒剤取締法違反が最も多く、次いで傷害、詐欺、窃盗の順となっている。
    • 平成27年8月以降、六代目山口組が分裂し、対立抗争事件が続発している。
    • 関係府県の公安委員会が、次のとおり「特定抗争指定暴力団等」として指定している。
      • 六代目山口組と神戸山口組…令和2年1月~継続中(警戒区域:9府県17市町)
      • 六代目山口組と池田組…令和4年12月~継続中(警戒区域:7府県8市)
      • 六代目山口組と絆會…令和6年6月~継続中(警戒区域:8府県11市)
    • 主な検挙事例
      • 六代目山口組傘下組織組長による池田組傘下組織幹部の関係者方への手りゅう弾投てき事件(岡山)
      • 六代目山口組傘下組織組員による池田組傘下組織幹部に対する拳銃使用の殺人事件(宮崎)
    • 絆會幹部による六代目山口組傘下組織幹部に対する拳銃使用の殺人事件(茨城)
  3. 来日外国人犯罪情勢
    • 来日外国人犯罪の総検挙件数は2万5,480件、総検挙人員は1万2,777人で、いずれも3年連続で増加した。
    • 総検挙人員を国籍等別にみると、ベトナムが最も多く、次いで中国、フィリピンの順で、在留資格別にみると、技能実習が最も多く、次いで短期滞在、留学、定住者の順となっている。
    • 主な検挙事例
      • 関東地方等のドラッグストアにおいて、化粧品等を窃取したベトナム人の男女6人(留学2、特定技能3、技能実習1)を窃盗罪で検挙。ベトナム所在の指示役からの指示により、実行役や海外搬送役等、役割を分担して犯行に及んでいた。
        1. 私電磁的記録不正作出・同供用事件
          • ベトナム人らが、「特定技能」の在留資格の取得を目的として、日本語能力試験に合格するために受験者になりすまして不正に受験したとして、私電磁的記録不正作出・同供用で検挙した事例
          • 依頼者から依頼を受けたブローカーの指示により、実行者が、依頼者になりすまして不正に受験
          • 合格通知書を入手した依頼者は、地方入管局等に在留資格の変更を申請
        2. 入管法違反(虚偽申請等)事件
          • 「経営・管理」や「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を有するスリランカ人らが、会社を経営して事業を行っている事実や、会社の事業に従事している事実がないにもかかわらず、地方入管局等に対して、こうした事実がある旨等の内容虚偽の在留期間更新申請を行い、不正に更新許可を受けたなどとして、入管法違反(虚偽申請等)で検挙した事例
          • ブローカーが依頼を受け、内容虚偽の書類を作成し、在留期間更新申請を実施
  4. 薬物・銃器情勢
    • 薬物事犯の検挙人員は1万4,574人で前年より増加した。
    • 大麻事犯の検挙人員は6,832人で前年より大幅に増加したところ、年齢別にみると、20歳代以下の若年層が大麻事犯の全検挙人員の7割以上を占める。
    • 大麻乱用者への実態調査の取りまとめ結果について説明すると共に、大麻の供給源となる組織的な大麻等密輸入・密売事件について紹介
      1. 大麻乱用者の実態調査の取りまとめ結果
        • 大麻が主に若年層に乱用されている実態
        • インターネット(SNS)の普及により、若年層にとって大麻の入手が容易になっている状況
      2. 暴力団組織等による大麻等密輸入・密売事件
        • 稲川会傘下組織幹部らが、タイ等から密輸入した大麻等の規制薬物を複数の薬物密売グループを利用しながら密売した事例
▼ 令和7年における組織犯罪の情勢【確定値版】
  • 匿名・流動型犯罪グループの特徴とその対策
    • 近年、暴力団の勢力が減衰していく中、暴走族の元構成員や暴力団の元構成員等を中心として、繁華街・歓楽街等で活動している準暴力団に加えて、新たな特徴を有する匿名・流動型犯罪グループが台頭し、治安対策上の脅威となっている。暴力団は、構成員同士が擬制的な血縁関係によって結び付き、多くの場合、「組長」の統制の下に、地位の上下によって階層的に構成されており、組織の威力を背景に又は威力を利用して資金獲得活動を行っていた。これに対し、匿名・流動型犯罪グループは、各種資金獲得活動により得た収益を吸い上げている中核部分は匿名化されており、また、SNSや求人サイトを通じるなどして緩やかに結び付いたメンバー同士が役割を細分化させ、その都度、犯罪実行者募集情報への応募者を末端の実行犯として、言わば「使い捨て」にするなど、メンバーを入れ替えながら多様な資金獲得活動を行っている。
    • こうした特徴を有する匿名・流動型犯罪グループは、中核的人物の特定や活動実態の把握等が容易ではないが、最近の検挙事例等を踏まえれば、グループの中核的人物として、主に暴力団構成員・元暴力団構成員、暴走族OBグループメンバー、風俗営業等関係グループメンバー及び外国人犯罪組織メンバーが確認されており、暴力団構成員等を中心にこれらの者が資金獲得活動の内容等に応じてお互いに連携し、あるいは連携相手を柔軟に変えながら、資金を獲得している実態が認められる。
    • また、こうした中核的人物は、SNSのいわゆる「闇バイト」募集で実行犯を集めるリクルーター、犯罪に利用する他人名義の金融機関の口座等を調達するいわゆる「道具屋」、暗号資産交換業者を介さずに個人間で不正に暗号資産取引を行ういわゆる「相対屋」等の犯行ツールを提供する者を悪用しているほか、特に、外国人犯罪組織については、同胞の来日外国人の人脈も利用するなどしながら、検挙されるリスクを低減させつつ、違法なビジネスモデルを構築し、多額の犯罪収益を得ている実態が認められる。
  • 国内で活動する匿名・流動型犯罪グループと暴力団との関係性
    • 匿名・流動型犯罪グループと暴力団の関係については、これまでも暴力団構成員がグループの首領やメンバーとなっているものが確認されているが、最近の検挙事例等を踏まえれば、暴力団が複数のグループを配下に置き、犯罪行為を分担させることで、犯罪の不透明化を図るほか、暴力団構成員が減少する中で、グループの人的資源を利用しながら、資金獲得活動の多様化を図っている状況も認められる。
    • 他方、例えば、従来、暴力団の資金獲得の場とされてきた繁華街・歓楽街において資金獲得活動を目論む匿名・流動型犯罪グループの中には、暴力団に資金を供与するなどして、暴力団の威力を利用しながら、資金獲得活動を行うものも確認されており、グループにとっても、多様な資金獲得活動を行う上で、暴力団の威力や人脈等が有用となっている。
  • 海外で活動する匿名・流動型犯罪グループと暴力団との関係性
    • 海外で活動する匿名・流動型犯罪グループには、暴走族OBグループや外国人犯罪組織が関与し、カンボジア等を拠点に特殊詐欺を敢行していることが確認されているが、これらの拠点において、拠点の管理や日本人の架け子等の調達に暴力団が関与している実態が認められる。
    • また、暴力団構成員が減少し、勢力が低下する暴力団が、海外の外国人犯罪組織との連携により、その勢力の維持・拡大を図っており、その結節点として匿名・流動型犯罪グループが重要な役割を果たしている実態も認められる
  • 海外で活動する匿名・流動型犯罪グループと来日外国人グループとの関係性
    • 海外で活動する匿名・流動型犯罪グループについて、特に、外国人犯罪組織が、カンボジア等の海外拠点から敢行する特殊詐欺等において、日本人の架け子の勧誘から拠点における管理まで、日本に在住する同胞の来日外国人を利用している実態が認められる。
    • また、被害金の移転(マネー・ローンダリング)においても、同胞の来日外国人グループが関与する国内の法人が、事業形態に応じた犯罪インフラとして利用されており、外国人犯罪組織が国内の同胞人脈も利用しながら資金獲得活動を行っている実態が認められる。
  • 悪質ホストクラブ事犯や繁華街・歓楽街における風俗関係事犯
    • 悪質ホストクラブにおいては、女性客の好意に乗じて、およそ返済ができないことを分かっていながら大きな債務を負わせ、売春や性風俗店での稼働を余儀なくさせる悪質な営業行為が認められるほか、性風俗店やそれとの結節点となるスカウトグループ等と結託して女性を徹底的に搾取することで、不当に利益を得ている実態がみられる。
    • こうした情勢を踏まえ、令和7年5月、接待飲食営業に係る遵守事項・禁止行為や風俗営業の許可に係る欠格事由の追加や、性風俗店によるスカウトバックの禁止等を内容とする風営適正化法の一部を改正する法律が成立し、同年11月28日までに全面施行された。警察では、改正後の風営適正化法を厳正に運用するとともに、大規模な繁華街・歓楽街を管轄する都道府県警察において、部門横断的な専従体制を構築するなど、風俗営業等に絡んで多様な資金獲得活動を行う匿名・流動型犯罪グループの実態解明・取締りを徹底している。
  • オンライン上で行われる賭博事犯
    • スマートフォン等からアクセスして賭博を行う「無店舗型」のオンラインカジノについては、アクセス数の大幅な増加及びこれに伴う依存症の問題が指摘されているほか、我が国資産の海外流出、マネー・ローンダリングへの悪用等が懸念されている
    • 警察では、賭客のみならず、突き上げ捜査や徹底的な情報分析により、賭博運営に関与し、犯罪収益を得ている決済代行業者やアフィリエイター等を検挙することで社会に警鐘を鳴らすとともに、マネー・ローンダリング等の実態解明や犯罪収益の剥奪等を推進している。
  • フィッシング等を手口とする不正送金事犯等
    • 実在する企業・団体等や官公庁を装うなどしたメール又はSMS(ショートメッセージサービス)を送り、その企業等のウェブサイトに見せかけて作成した偽のウェブサイト(フィッシングサイト)を受信者が閲覧するよう誘導し、当該フィッシングサイトでアカウント情報やクレジットカード番号等を不正に入手するフィッシングの手口によって、インターネットバンキングに係る不正送金事犯等が敢行されている。令和7年中のインターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生件数は4,747件(前年比+378件、+8.7%)、被害総額は約104.0億円(同+17.1億円、+19.7%)と、高い水準で推移している。
    • また、令和7年中のクレジットカードの不正利用事犯の被害額注は約510.5億円と、依然として厳しい情勢にある。
    • 警察では、関係機関と連携したフィッシング被害の実態把握や、フィッシングサイトに関する分析及び関係事業者への照会等早期の実態解明と取締りを推進している
  • 巧妙化するマネー・ローンダリング事犯
    • これまでも匿名・流動型犯罪グループは、いわゆる「道具屋」や「相対屋」等が提供する犯行ツールを悪用しながら、資金獲得犯罪を敢行している実態があるところ、最近の検挙事例等を踏まえれば、国内に在住する日本人グループや来日外国人グループが、不動産取引や自動車輸出等の正規の事業形態に応じた犯罪インフラ(資金決済等)を構築して、外国人犯罪組織によるマネー・ローンダリングの一端を担うとともに、事業としての収益を獲得するといった違法なビジネスモデルを構築している実態が認められ、「国内の法人」が様々な形で悪用され、国際的なマネー・ローンダリングを容易にする犯罪インフラとなっているとみられる。
  • 海外拠点に関する被疑者の検挙状況
    • 近年、特殊詐欺等について、東南アジア諸国等の拠点から国境を越えて敢行されている実態がみられることから、海外に拠点を置く匿名・流動型犯罪グループの中核的人物等の実態解明・取締りを推進し、その弱体化・撲滅を図り、特殊詐欺等の被害を抑え込む必要がある。
    • 令和7年中、東南アジアのタイ、カンボジア、フィリピン、マレーシアの詐欺拠点に関し、日本に移送するなどして都道府県警察が検挙した被疑者は54人である。
    • このほか、日本サイバー犯罪対策センター(JC3)及びMicrosoft社の協力を得てインド国内に拠点を置くサポート詐欺グループの情報を入手し、インド当局との国際共同捜査を行い、令和7年5月、日本警察が提供した情報を基に、インド当局が2つの拠点を摘発しインド国籍の被疑者6人を逮捕しており、官民連携による分析を端緒とした外国捜査機関との共同捜査による海外拠点の摘発事例となった。
  • 令和7年における主な暴力団情勢とその対策
    • 平成17年以降、暴力団の勢力そのものは、全国的に減衰を続けているが、暴力団の中には、その活動を不透明化させるとともに、世情に応じて資金獲得活動を多様化させるなどして強固な人的・経済的基盤を維持しているものもあり、依然として、暴力団は社会に対する脅威となっている。
    • また、暴力団構成員が準暴力団を含む匿名・流動型犯罪グループの首領となる例や、これらのグループから暴力団への資金の流れが確認される例も認められ、暴力団の中には、匿名・流動型犯罪グループを実質的に傘下に収め、自らの資金獲得活動の一端を担わせているものもあるとみられる。同様に、暴力団は、薬物の密輸・密売等、資金獲得活動の一環として、来日外国人犯罪組織と連携する例もみられる。
    • 暴力団構成員及び準構成員等の総数は、平成17年以降減少し、令和7年末には1万7,600人と、暴力団対策法が施行された平成4年以降最少となった。このうち暴力団構成員の数は9,400人、準構成員等の数は8,200人である。
    • また、主要団体等(六代目山口組、神戸山口組、絆會、池田組、住吉会及び稲川会。以下同じ。)の暴力団構成員等の数は1万2,500人(全暴力団構成員等の71.0%)となっており、このうち暴力団構成員の数は7,000人(全暴力団構成員の74.5%)となっている
  • 資金獲得犯罪の特徴
    • 暴力団構成員等の検挙状況を主要罪種別にみると、暴力団構成員等の総検挙人員に占める詐欺の割合は、過去10年にわたって10%前後で推移しており、令和7年中は11.9%と、高い割合であり、詐欺による資金獲得活動が定着化している状況がうかがえる。
    • 特に、近年、暴力団構成員等が主導的な立場で特殊詐欺に深く関与し、有力な資金源の一つとしている実態が認められる。
    • このほか、金融業、建設業、労働者派遣事業、風俗営業等に関連する資金獲得犯罪が行われており、依然として、多種多様な資金獲得活動を行っていることがうかがえる。
  • 組織的犯罪処罰法(マネー・ローンダリング関係)の適用状況
    • 令和7年中の暴力団構成員等に対する組織的犯罪処罰法のマネー・ローンダリング関係の規定の適用状況については、犯罪収益等隠匿について規定した第10条違反の検挙事件数が58件で、犯罪収益等収受について規定した第11条違反の検挙事件数が20件であり、第23条に規定する起訴前の没収保全命令の適用事件数は18件である。
  • 中止命令
    • 令和7年中の中止命令の発出件数は754件と、前年より364件減少している。
    • 形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(暴力団対策法第9条)に対するものが529件、加入強要・脱退妨害(暴力団対策法第16条)に対するものが62件となっている。
    • 暴力的要求行為(暴力団対策法第9条)に対する中止命令529件を条項別にみると、不当贈与要求(同条第2号)に対するものが257件、みかじめ料要求(同条第4号)に対するものが55件、用心棒料等要求(同条第5号)に対するものが176件となっている。また、加入強要・脱退妨害(暴力団対策法第16条)に対する中止命令62件の発出件数を条項別にみると、少年に対する加入強要・脱退妨害(同条第1項)が7件、威迫による加入強要・脱退妨害(同条第2項)が55件となっている。
    • 団体別では、住吉会に対するものが196件と最も多く、次いで六代目山口組が153件、稲川会が138件、極東会が26件の順となっている
  • 再発防止命令
    • 令和7年中の再発防止命令の発出件数は48件と、前年より4件減少している。
    • 形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(暴力団対策法第9条)に対するものが32件、加入強要・脱退妨害(暴力団対策法第16条)に対するものが2件となっている。
    • 暴力的要求行為(暴力団対策法第9条)に対する再発防止命令32件を条項別にみると、不当贈与要求(同条第2号)に対するものが15件、みかじめ料要求(同条第4号)に対するものが6件、用心棒料等要求(同条第5号)に対するものが9件となっている。
    • 団体別では、稲川会に対するものが12件と最も多く、次いで六代目山口組に対するものが11件、道仁会に対するものが8件となっている
  • 暴力団排除条例の適用等
    • 各都道府県においては、条例に基づいた勧告等を実施している。令和7年中の実施件数は、勧告が36件、指導が2件、中止命令が2件、再発防止命令が2件、検挙が26件となっている
  • 損害賠償請求等に対する支援
    • 警察においては、都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)、弁護士会民事介入暴力対策委員会(以下「民暴委員会」という。)等と連携し、暴力団員等が行う違法・不当な行為の被害者等が提起する損害賠償請求等に対して必要な支援を行っている。
    • 暴力団対策法第31条の2(威力利用資金獲得行為に係る代表者等の損害賠償責任)の規定に基づく損害賠償請求訴訟については、令和7年末現在で77件(同条が施行された平成20年5月以降、警察庁に報告があったものの累計)提起されており、このうち係争中が18件、和解等による解決が59件となっている。
    • また、同損害賠償請求訴訟のうち、特殊詐欺に関するものは28件提起されており、このうち係争中が10件、和解等による解決が18件となっている
  • 事務所撤去運動に対する支援
    • 警察においては、都道府県センター、民暴委員会等と連携し、住民運動に基づく暴力団事務所の明渡請求訴訟等について、必要な支援を行っている。
  • 適格都道府県センターによる事務所使用差止請求制度の運用
    • 都道府県センターは、暴力団対策法第32条の4第1項に規定する適格都道府県センターとして国家公安委員会の認定を受けることで、指定暴力団等の事務所の使用により生活の平穏等が違法に害されていることを理由として、当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めを請求しようとする付近住民等から委託を受け、当該委託をした者のために自己の名をもって、当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めの請求を行うことができることとなる。
    • 平成26年7月までに全ての都道府県センターが適格都道府県センターとしての認定を受けている。
  • 暴力団員の離脱促進及び社会復帰の状況
    • 令和7年中の警察及び都道府県センターに寄せられた暴力団からの離脱に関する相談(暴力団構成員のほか、その家族及び知人等からの相談を含む。)の受理件数は340件(就労に関する相談及び脱退妨害に関する相談等を含む。)である。
    • 令和7年中の警察及び都道府県センターが援助の措置等を行うことにより暴力団から離脱することができた暴力団員は約230人である。
    • 令和7年末現在、警察、都道府県センター、関係機関・団体等から構成される社会復帰対策協議会に登録し、暴力団離脱者を雇用する意志を有する事業者(協賛企業)は1,726社で、令和7年中の同協議会を通じて就労した者は13人である。
    • また、令和4年2月から令和7年末までに、警察庁において策定した暴力団から離脱した者の預貯金口座の開設に向けた支援策により口座開設に至った件数は20件で、このうち令和7年中は3件となっている。
  • 銃器情勢
    • 令和7年における銃器情勢の特徴としては、以下のことが挙げられる。
      • 銃器発砲事件数は1件で、暴力団構成員等によるものはなかった(図表4-33)。
      • 銃器使用事件の検挙件数は12件で、強盗や脅迫等、複数の銃器使用事件が検挙された。
      • 拳銃押収丁数は、長期的には減少傾向にあるが、令和7年中は573丁と、中国製の玩具と称した真正拳銃をはじめ、押収丁数は前年より大幅に増加した。このうち暴力団からの押収丁数は27丁であった。
    • 以上のとおり、銃器の押収丁数が前年を大きく上回るなど、依然として、銃器事犯が平穏な市民生活に対する重大な脅威となっていることから、暴力団等の犯罪組織が所持・管理をする銃器の摘発、インターネット上に流通する銃器に関係する情報への厳格な対応を含め、関係機関と連携した総合的な銃器対策を推進する必要がある。
  • インターネット関連の拳銃押収状況
    • インターネットのオークションサイトや掲示板等を端緒として押収した拳銃の押収丁数は156丁(前年比+97丁)で、前年より大幅に増加した。

令和7年の来日外国人(永住者などを除く)による犯罪の摘発が2万5480件(前年比16・9%増)、1万2777人(同5・0%増)となり、いずれも3年連続で増加しました。ベトナム人による窃盗犯の摘発増加などが要因とみられています。摘発された人の国籍別では、ベトナムが4167人と最多で、全体の32.6%を占めたほか、中国が2062人(16.1%)、フィリピンが714人(5.6%)と続きます。在留資格別では、「技能実習」が2812人(22.0%)と最も多く、「短期滞在」が2166人(17.0%)、留学が1521人(11.9%)などとなっています。摘発件数の罪種別では、窃盗犯が1万2226件で、刑法犯全体(1万7614件)の69.4%を占めました。近年の傾向として、海外にいる指示役と日本国内の実行役が連携して窃盗や詐欺を行い、盗品を海外に輸出したり、犯罪収益を送金したりするなど、国境を越えた組織犯罪が多発している点が挙げられます。2024~25年、関東地方などのドラッグストアで化粧品が盗まれる被害が相次ぎ、ベトナム人の男女6人が摘発された事件では、「ベトナム国内にいる指示役」、「日本国内の万引の実行役」、「盗品の海外搬送役」など、役割を分担し、高度に組織化されたグループの実態が明らかになりました。なお、来日外国人による犯罪の摘発件数は、2005年の4万7865件をピークに減少し、2012年~2020年にかけてはおおむね横ばいで推移、2021年から一時減少したものの、2023年に増加に転じています。

  • 来日外国人犯罪の検挙状況等
    • 令和7年中の来日外国人犯罪の検挙状況等の概要は、次のとおりである。
    • 総検挙状況及び刑法犯検挙状況は、前年より検挙件数・人員が増加したが、特別法犯検挙状況は、前年より検挙件数・人員が減少した。
    • 総検挙状況を国籍等別にみると、ベトナム及び中国の2か国で、総検挙件数・人員の約5割をそれぞれ占めており、いずれも前年に引き続きベトナムが最多となっている。
    • 総検挙人員1万2,777人の国籍等別の内訳は、ベトナムが4,167人(構成比率32.6%)、中国が2,062人(同16.1%)、フィリピンが714人(同5.6%)、タイが642人(同5.0%)、ブラジルが561人(同4.4%)等となっている。
    • 総検挙人員1万2,777人の在留資格別の内訳は、「技能実習」が2,812人(構成比率22.0%)、「短期滞在」が2,166人(同17.0%)、「留学」が1,521人(同11.9%)、「定住者」が1,469人(同11.5%)、「技術・人文知識・国際業務」が1,069人(同8.4%)等となっている。
    • 刑法犯の検挙件数が増加した主な要因としては、ベトナム、タイ等による窃盗犯が増加したことなどが挙げられる。
    • 刑法犯の検挙人員が増加した主な要因としては、ベトナムによる窃盗犯や知能犯が増加したことなどが挙げられる。
    • 特別法犯の検挙件数・人員が減少した主な要因としては、ベトナム、中国等による入管法違反が減少したことなどが挙げられる
  • 国籍等別・包括罪種等別検挙状況
    • 国籍等別の刑法犯検挙状況を包括罪種等別にみると、凶悪犯、粗暴犯及び知能犯は、ベトナム及び中国の2か国が、窃盗犯は、ベトナムが高い割合を占めている。また、窃盗犯の検挙件数が大きく増加しており、特にベトナムの非侵入窃盗並びにタイの侵入窃盗及び非侵入窃盗の検挙件数の増加が顕著となっている。
    • 窃盗を手口別にみると、侵入窃盗及び万引きはベトナムが、自動車盗はブラジル及びベトナムが、それぞれ高い割合を占めている。また、知能犯のうち詐欺については、ベトナム及び中国が高い割合を占めている。
  • 来日ベトナム人犯罪の検挙状況
    • 来日ベトナム人による犯罪の検挙は、来日外国人犯罪全体の総検挙件数の42.3%、総検挙人員の32.6%(刑法犯については検挙件数の41.4%、検挙人員の26.1%、特別法犯については、検挙件数の44.2%、検挙人員の41.4%)を占め、総検挙件数・人員共に最も多くなっている。
    • なお、令和7年6月末現在の総在留外国人数から永住者、永住者の配偶者等及び特別永住者を除いたベトナム人の数は63万6,681人となっている(出入国在留管理庁統計を基に警察庁が集計)。
    • ベトナムの刑法犯検挙件数を包括罪種等別にみると、窃盗犯が82.2%を占めており、手口別では、侵入窃盗その他が28.8%、万引きが25.5%となっている。検挙人員については、窃盗犯が51.9%を占めており、手口別では、万引きが28.8%、侵入窃盗その他が4.4%となっている
  • 来日中国人犯罪の検挙状況
    • 来日中国人による犯罪の検挙は、来日外国人犯罪全体の総検挙件数の12.2%、総検挙人員の16.1%(刑法犯については検挙件数の12.6%、検挙人員の19.8%、特別法犯については、検挙件数の11.3%、検挙人員の11.3%)を占め、総検挙件数・人員共にベトナムに次いで多くなっている。
    • なお、令和7年6月末現在の総在留外国人数から永住者、永住者の配偶者等及び特別永住者を除いた中国人の数は75万8,129人となっている(出入国在留管理庁統計を基に警察庁が集計)。
    • 中国の刑法犯検挙件数を包括罪種等別にみると、窃盗犯が45.8%、知能犯が20.9%、粗暴犯が15.1%となっている。検挙人員については、窃盗犯が39.1%、粗暴犯が26.5%、知能犯が12.3%となっている
    • 中国人犯罪組織は、地縁、血縁等を利用してグループを形成する場合がみられる。中国残留邦人の子弟らを中心に構成されるチャイニーズドラゴン等の組織も存在し、首都圏を中心に活動している。
    • 近年、中国人犯罪組織がSNS等で中国人等の在留者をリクルートし、犯罪の一部を担わせている例も散見され、中国に所在する指示役の指示に基づき、リクルートされた中国人の不法残留者等が偽造在留カードの製造や不正に入手したクレジットカード情報を用いた詐欺を敢行するなどしている。指示役は中国に所在していることから、摘発されても同様の手口で中国人等の在留者をリクルートして犯行を繰り返すなど、高度に組織化されている傾向がみられる。
  • 犯罪インフラの実態
    • 犯罪インフラとは、犯罪を助長し、又は容易にする基盤のことをいう。来日外国人で構成される犯罪組織が関与する犯罪インフラ事犯には、不法就労助長、偽装結婚、偽装認知、旅券・在留カード等偽造、地下銀行による不正送金等がある。
    • 不法就労助長、偽装結婚及び偽装認知は、在留資格の不正取得による不法滞在等の犯罪を助長しており、これを仲介して利益を得るブローカーや暴力団が関与するものがみられるほか、最近では、在留資格の不正取得や不法就労を目的とした難民認定制度の悪用が疑われる例も発生している。偽造された旅券・在留カード等は、身分偽装手段として利用されるほか、不法滞在者等に販売されることもある。地下銀行は、不法滞在者等が犯罪収益等を海外に送金するために利用されている。
    • 最近5年間の外国人が関連する犯罪インフラ事犯の検挙状況をみると、不法就労助長は、昨今の人手不足を背景とし、就労資格のない外国人を雇い入れるなどの事例が引き続きみられるが、令和7年中の検挙件数・人員は前年より減少した。旅券・在留カード等偽造は、就労可能な在留資格を偽装するためなどに利用されているが、令和7年中の検挙件数・人員は前年より減少した。偽装結婚は、日本国内における継続的な就労等を目的に「日本人の配偶者等」等の在留資格を取得するための不正な手段であるが、令和7年中の検挙件数・人員は前年より減少した。地下銀行は、最近5年間の検挙件数は10件未満で推移している。偽装認知は、令和7年は2件3人を検挙した
    • 「永住者」による犯罪の検挙は、刑法犯では、来日外国人と同様に窃盗犯の割合が高いところ、手口別にみると、来日外国人については万引き及び侵入窃盗その他が、永住者については万引きが、それぞれ高い割合を占めている。また、「永住者」と来日外国人の刑法犯検挙件数に占める共犯事件の割合を比較すると、来日外国人の方が高く、中でも、窃盗犯の万引きについては、来日外国人が31.8%、「永住者」が3.2%と、その割合は大きく異なっている。
    • 特別法犯では、薬物事犯が来日外国人よりやや高い割合となっている一方で、入管法違反については、特別法犯の多数を占める来日外国人と異なり、その割合は低くなっている。
    • そのほか、不法残留者等を雇い入れる不法就労助長事案や偽装結婚のあっせん事案などの犯罪インフラに関与し、不法残留者や来日外国人を利用して利益を得ていた事例がみられる。

深刻化する詐欺被害への対策を強化するため、政府は、犯罪収益移転防止法の改正案を閣議決定しました。資金の受け皿とされる口座の不正譲渡の厳罰化や、警察官が架空名義の口座を犯罪組織に渡して被害金を回収する新たな手法の導入が柱です。2025年の特殊詐欺と「SNS型投資・ロマンス詐欺」の被害は過去最悪の約3241億円(暫定値)で、金融サービスを悪用したマネー・ローンダリングを展開するトクリュウへの対策が大きな課題になっています。とりわけ、口座を譲渡したなどとして全国の警察が犯罪収益移転防止法違反の疑いで摘発したのは2025年に4699件に上り、この5年間で1.9倍に増え、過去最多となりました。改正案では、口座の不正譲渡の罰則を「3年以下の拘禁刑か500万円以下の罰金」などとし、現行の「1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金」などから大幅に引き上げました。トクリュウによるSNS上の口座売買を厳罰化で抑止したい考えで、業として行った場合は「5年以下の拘禁刑か1000万円以下の罰金」を科すこととしています。また、近年、マネロンの手段に使われてきた「送金バイト」は、SNSで募集され、応募者が口座に振り込まれた被害金を別の口座に移し、報酬を得る仕組みで、口座の譲渡は同法で禁じられているところ、口座間の送金を有償で請け負う行為は法の抜け道となっていました。この「送金バイト」についても規制を導入、改正案では、正当な理由なく報酬を支払って財産の移転を依頼したり、対価を得て請け負ったりする行為を「2年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金」などの罰則付きで禁止することになります。さらに、警察と金融機関が連携して、架空名義の口座を作って犯罪組織に渡す手法も導入、入金された被害金を回収し、原則として被害者に返還、残金が出た場合は犯罪被害者支援の原資などに充てるものです。改正法は、罰則の引き上げなどが公布から1か月後、架空名義口座の導入は1年以内に施行されることになります。

▼警察庁 第221回国会(特別)提出法案 犯罪による収益の移転防止に関する法律の一部を改正する法律案
▼ 要綱
  1. 預貯金通帳の不正譲渡等に対する罰則の引上げ等
    1. 預貯金通帳の不正譲渡等に対する罰則を引き上げる。(第二十五条~第三十一条関係)
    2. 通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、自己又は第三者が管理し、又は管理しようとする財産を移転することを目的として、人に、有償で預貯金契約等に係る役務を利用して財産を移転するように依頼する行為等に対する罰則を設ける。(第三十二条関係)
  2. 預貯金口座等が犯罪に利用されることを防止するための警察官による預貯金口座等を用いた措置に関する規定の整備
    1. 警察官は、預貯金取扱事業者等に対し、名義人の表示等について特別の措置を講じた預貯金口座等(以下「犯罪利用防止措置用口座等」という。)の開設等を求めることができることとする。(第十九条の二関係)
    2. 警察官は、預貯金通帳等の不正譲渡等をするよう勧誘等を行う者に対し、犯罪利用防止措置用口座等の通帳等を譲り渡すことその他の預貯金口座等が犯罪に利用されることを防止するための犯罪利用防止措置用口座等又はその通帳等を用いた措置を講ずることができることとする。(第十九条の三、第十九条の四関係)
    3. 警察本部長は、犯罪利用防止措置用口座等への財産の移転等があった場合は、当該財産を保管し、当該財産の移転を行った者に対し当該財産を返還することとする。(第十九条の五~第十九の十関係)
    4. 都道府県公安委員会は、犯罪利用防止措置用口座等に移転された財産であってその返還を受ける権利が消滅したものを原資として、犯罪利用防止措置用口座等への財産の移転元となった預貯金口座等に財産を移転した詐欺等の被害者に対し、特定被害回復給付金を支給することとする。(第十九条の十一~第十九条の二十七関係)
  3. 移転時の通知義務等の対象となる電子決済手段の追加
    • 移転される場合における通知義務等の対象となる電子決済手段に、受益証券発行信託(無記名受益権に係るものを除く。)によらない特定信託受益権を追加する。(第十条の二関係)
  4. その他
    • その他所要の改正を行う。
  5. 施行期日等
    • この法律は、一部の規定を除き、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。(附則第一条関係)
    • この法律の経過措置について定める。(附則第二条関係)
    • その他関係法律について所要の改正を行う
▼ 参考資料
  • 背景
    • 特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺の被害は極めて憂慮すべき状況(令和7年中のこれら被害額の合計は約3,241億円)。これらに関与する匿名・流動型犯罪グループへの対策は治安上の最重要課題。
    • これら犯罪では預貯金口座等の金融サービスが悪用されており、手口も巧妙化
  • 改正の概要
    1. 預貯金通帳の不正譲渡等に対する罰則の引上げ(第25条~第31条)
      1. 下記以外
        • 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
        • 3年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金
      2. 業として行われるもの
        • 現行:5年以下の拘禁刑又は1,000万円以下の罰金
        • 改正後:3年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金
    2. いわゆる「送金バイト」に対する罰則の創設(第32条)
      • 通常の商取引等正当な理由がないのに、有償で、他人に対し、同人名義の口座を使用させたまま、当該口座に振り込まれた財産を別口座に移転するよう依頼する行為に対する罰則を創設
      • 2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金(業として行われるものについては3年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金)
    3. 「架空名義口座」を利用した新たな措置の創設(第19条の2~第19条の29)
      • 制度の概要
        • 警察が金融機関等の協力を得て「架空名義口座」を開設。これを口座売買を勧誘する者に譲渡するなどした上で、入金された財産の送金防止措置等を講じ、預貯金口座等の犯罪利用防止を図る(⇒被害者への被害回復も可能)。
        • 入金された財産は被害者等に原則返還するが、返還されなかった財産は一定の手続を経て他の被害者の被害回復のための給付金の原資とし、なお残余した金銭は都道府県で犯罪被害者等の支援施策に充てるよう努める。

警察庁が、警察組織の構造改革に関する指針をまとめ、各都道府県警に通達を出しました。警察庁が司令塔となり、トクリュウやサイバー犯罪の捜査を強化することになりました。高度・国際化する犯罪に対応するため、都道府県の垣根を越えて人材や組織を集約、広域的な捜査の基盤を整え、実効性を伴う体制に移行できるかが課題となります。楠芳伸長官は「治安課題は著しく高度化、国際化しており、警察庁のより積極的な対処が不可欠。指針を構造改革の処方箋とし、着実に取り組んでいきたい」と述べています。指針ではトクリュウやサイバー犯罪に対し、警察組織を改革して同庁が積極的に関与していく方針を示しました。犯罪の手口が巧妙化し、被害が深刻化していることが背景にあります。トクリュウはSNSを使って実行役の募集や犯行を指示するのが特徴で、指示系統の捜査は難しく、首謀者の多くも海外にいるとみられ、摘発に至る事例は少ないのが実情です。海外のサーバーを経由するサイバー犯罪も捜査が難航するケースが目立ちます。日本では都道府県ごとに警察本部があり、管轄内の活動を原則としていますが、縦割りの捜査では、都道府県や国境を越えて多発する犯罪への対応が後手に回る可能性が高いことから、通達では「都道府県警の枠を越えて、人的・物的リソースを集約するとともに、広域的運用について警察庁がより積極的な役割を果たして、高度な対応を実現していくことが必要だ」と指摘しています。想定しているのは、都道府県の垣根を越えて捜査する「準国家警察」の推進であり、警視庁は2025年10月に「トクリュウ対策本部」を発足させ、警視庁だけでなく、全国の捜査員が加わり、集めた情報を分析して捜査戦略を立案する体制を敷きました(本コラムでは「トクリュウ・シフト」と命名しています)。同本部は2026年4月1日から捜査員を100人増やし、340人体制となりました。今後は複数の都道府県警が関わる捜査での連携を強め、必要に応じて警察庁長官の指示で警視庁を中心に大規模警察の捜査員を投入していく方針です。また、サイバー部門では生活安全部や警備部など複数の部署にまたがる都道府県警の組織の一元化を進める。これにより警察庁のサイバー特別捜査部が効率的な情報集約をできるようにし、全国警察の共同捜査の指揮監督を強化する狙いがあります。また、単独で過激化する「ローン・オフェンダー(LO)」や、外国情報機関の活動などの情報も同庁に集約し、AIを活用した分析も行っていく。捜査力向上のため、一部の警察本部の科学捜査研究所(科捜研)に高度な機材や職員を配置し、将来的には他県のDNA型鑑定なども受け付ける方向だといいます。これらに加え、業務の合理化も図り、古物商などの許認可業務や遺体の検視などは、本部や地域の拠点警察署への集約を進めるほか、夜間・休日の当直業務を複数署で一体運用することも想定しています。災害時などに力を発揮する警察ヘリは、管轄の枠を超えて運航することも検討するとしています。さらに指針では、将来の警察組織を担う人材確保のため、若者をターゲットにしたSNSでの情報発信など、採用戦略の強化も掲げています。

▼ 警察庁 将来を見据えた警察組織の構造改革及び優秀な警察官の確保に向けた指針
▼ 「将来を見据えた警察組織の構造改革及び優秀な警察官の確保に向けた指針」の概要
  • 2つの課題
    1. 【課題1】治安課題の専門化・高度化・広域化・国際化、国家安全保障との境界の相対化
      • 匿名・流動型犯罪グループ:被害額(令和7年):約3,241億円 過去最多、前年から約63%増、1日当たり約9億円
      • サイバー事案:検挙件数(令和7年):15,108件 過去最多、10年間で倍増
    2. 【課題2】少子高齢化・人口減少と地方の過疎化、極めて厳しい警察官の採用情勢
    3. 採用試験受験者数、競争倍率とも、15年間で約1/3に
    4. 今後、若年層人口の更なる減少が見込まれる
      • 令和7年~令和17年の推計 総人口:-6%、若年層(15~34歳):-10%
    5. 今後、十数年にわたり退職者は増加傾向
  • 新指針の策定
    • 本年4月、「警察組織の構造改革」と「優秀な警察官の確保」に向けた新指針を策定
      1. 【課題1】治安課題の専門化・高度化・広域化・国際化、国家安全保障との境界の相対化
        • 警察の対処能力の強化
        • 治安課題への警察庁のより積極的な関与・対処
        • 都道府県警察の枠を越えたリソースの集約
      2. 【課題2】少子高齢化・人口減少と地方の過疎化、極めて厳しい警察官の採用情勢
        • 社会情勢の変化への適応
        • 警察の組織構造の弾力化
        • 業務の更なる高度化・効率化・合理化
  • 4本柱の構造改革
    1. 警察庁と都道府県警察及び都道府県警察等間の連携の在り方の見直
      1. 警察庁の積極的関与による対応の高度化
        • 匿名・流動型犯罪グループの解体に向けた対策
        • 全国的・国際的な見地に立ったサイバー事案への対処
        • ローン・オフェンダー対策における情報の集約・融合
        • 全国警察一体での対日有害活動への対処等
      2. 施設、資機材、組織等の広域的運用
        • 時代に即した警察学校の運営
        • 警察用航空機運用の広域化(ブロック運航)
        • 科学捜査研究所の機能集約等
    2. 都道府県警察の内部における役割分担の見直し
      1. 警察署・交番・駐在所の在り方の見直し
        • 警察本部と警察署の役割分担の見直し
        • 警察署の運用の見直し(ブロック運用等)
        • 持続可能な交番・駐在所の配置の在り方の検討
      2. 部門間の役割分担・連携の在り方の見直し
        • サイバー部門の一体的運用の強化
        • 戦略的な外国人関係施策の推進
    3. 科学技術の進展等を踏まえた業務の効率化・合理化等
      1. 科学技術等による業務の効率化・合理化等
        • 警察共通基盤等による組織横断的な情報・データ利活用
        • AI等による業務処理の効率化
        • カメラ映像等の活用等
      2. 社会情勢等の変化に伴う業務の効率化・合理化等
        • 人身安全関連事案への的確な対処に資する業務効率化
        • 働きやすい職場環境の形成等
    4. 関係機関・団体等との連携強化等による業務のスリム化等
      • 遺失物業務の効率化・合理化
      • 高齢者の行方不明事案への対応や保護の取扱い等における関係機関との連携の在り方の見直し
  • 3本柱の人材確保
    1. 組織の魅力向上
      1. 業務やキャリアパス等の魅力向上
      2. 時代に即した警察学校の運営
        • 採用時教養の高度化(広域連携による教養の高度化・質の向上等)
        • 警察学校におけるルール等の見直し
      3. 居住環境の改善等
        • 居住制限の見直しとそれを踏まえた待機宿舎の整備等
      4. 処遇面の認知度向上と処遇・執務環境の更なる改善
    2. 若い世代への発信力強化
      1. SNSによる情報発信の強化
      2. 警察庁公式SNSを活用した情報発信
      3. アニメ・マンガ・ドラマ等とタイアップした広報の実施
      4. 一般・子ども向けの参加型イベントや学校での授業の実施
      5. 職業体験イベント、非行防止教室、少年柔剣道教室等、警察官という職業を身近に感じてもらうための機会の創出
    3. 採用の間口拡大
      1. 公務員試験に特化した対策を要さない試験の導入
      2. 採用試験実施時期の前倒しや試験回数の増加に係る取組の推進
      3. 社会人経験者をターゲットとした採用の推進
      4. 都道府県警察間の共同での第一次試験の実施も含めた試験制度の在り方の検討
  • 求人サービス大手のディップが発表した全国調査によれば、東京都内の高校生の4人に1人が高額報酬をうたい、違法行為に加担させる「闇バイト」に接触していたことが分かりました。大阪府や愛知県などでも10%以上に上り、都市部のリスクが浮き彫りとなっています。同社は警視庁や東京都渋谷区などと連携し、闇バイト対策に取り組むとしています。調査は1月8日~19日、全国の高校生1089人を対象にインターネットで実施、9割が闇バイトを知っていると答えたものの、7割が「見抜けなかった」と回答しました。闇バイトと接触した経験があると答えたのは、都内在住者が24.0%と最も高く、3大都市圏では大阪が15.4%、愛知も12.5%となりました。同社は、警視庁匿名・流動型犯罪グループ対策本部から検挙数などのデータのほか、求人で使われる誘い文句や隠語などの犯行手口に関する情報提供を受け、AIを活用して不正な求人の検知につなげる考えです。また、東京都渋谷区などと若者の闇バイトへの関与を防ぐ「渋谷闇バイトゼロプロジェクト」を始め、渋谷区内の高校で防犯リテラシーを高める出張授業などを実施するとしています。求人タイトルから闇バイトを見抜くポイントを学ぶクイズ形式の啓発動画を作成、渋谷区内の教育機関と連携し、クイズ動画を活用した出張授業を展開していくhか、広告などでの情報発信を通じて、街全体の防犯ネットワークも構築していくとしています。ディップの冨田英揮社長は「闇バイトにもっと敏感に注意を払ってもらいたい」、「小学校から高校まで全ての世代に闇バイトから身を守るための知識を広めていきたい」と話しています。なお、警視庁がトクリュウ対策本部のサイトを立ち上げ、闇バイトに関する情報を集約しましたので、以下、紹介します。

    ▼ 警視庁 匿名・流動型犯罪グループ対策本部
    • 警視庁匿名・流動型犯罪グループ対策本部は、2025年10月、特殊詐欺などの犯罪に関わる「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)に対する対策を強化するために発足匿名・流動型犯罪グループの壊滅に向け取り組んでいる。
    • 匿名・流動型犯罪グループ「トクリュウ」とは…
      • 先輩、後輩、友人、知人といった人間関係に基づく緩やかなつながりで集団を構成し、SNS上の闇バイト募集等で結びついたメンバー同士が役割を細分化させ、その都度、メンバーを入れ替えながら、特殊詐欺をはじめとする犯罪を敢行している(流動性)。
      • 各種犯罪により得た収益をさらなる犯罪の活動資金に充てているほか、収益を吸い上げる中核的人物は、匿名性の高い通信手段を悪用しながら、犯罪ごとに実行役に指示するなど匿名化・秘匿化されている(匿名性)。
    • 暴力団との違い
      • 暴力団 暴力的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体 組長を頂点として子分が目上の者に絶対的に服従する強固な結束を有する組織
    • 匿名・流動型犯罪グループ対策本部の紹介
      • 匿名で、流動的な犯罪グループ→「目に見えない敵」の構造や資金獲得活動の実態解明を行い、戦略的取締りを行う司令塔として、2025年10月、副総監を対策本部長として新設した。
      • 「トクリュウ」の中核的人物の摘発と、違法なビジネスモデルの解体により、「トクリュウ」の壊滅を目指している。
      • そのために各部署からの情報を集約・分析し、犯罪の首謀者や犯罪収益を得ている者をあぶり出して、戦略的取締りを指令、犯行ツールの遮断、実行犯を生まないための対策及び被害に遭わないための対策や注意喚起を行うなど、被疑者の検挙と被害防止の両輪で匿名・流動型犯罪グループ対策を推進している。
    • 匿流ターゲット取締りチーム
      • 他の道府県警察本部からの精鋭捜査員も集結
      • 専従捜査班 略称 T3(ティースリー Tokuryu-targetTorishimariTeam)
    • 闇バイト応募者の述懐~海外のアジトで働かされたケース~
      • SNSで知り合った者から「利回りのいいアルバイト」を紹介され、納得のいく仕事内容だったので疑うことなく話に乗りカンボジアに向かいました。入国審査では、通常と異なるルートで空港の外に出ました。待っていた高級車に乗り豪華なビルの奥の一室に連れて行かれ、そこには私と同じようにだまされた人たちが数十人いました。その部屋はいわゆる電話の「架け場」で、私たちは1日14時間働かされました。「架け場」には見張り役がいて、居眠りしたら罰金、次からはスタンガンで、実際スタンガンを当てられている人もいました。銃は持っていませんでしたが、威圧的な警備員がたくさんいて、監視カメラもたくさんあり逃げ出すのは困難だと思いましたが、休日で人が少ない時に脱出を試みて失敗し、2、30人に棒などでボコボコにされ意識を失いそうになりました。(30代男性)
      • 自宅にいる時に、スマホで『電話相談』『月150万円から300万円稼げる』などといったアルバイト募集を見つけ応募しました。旅券やマイナンバーを関係者に送信して、航空券等は全て用意してもらいました。アルバイトの場所は『カンボジア』で、仕事の詳細は分からないまま、関係者の案内でカンボジアに渡航しました。カンボジアでの入国手続きは関係者が行い、空港での出迎えはまるでVIPのような待遇でした。車で高い塀に囲まれた場所に連れて行かれ、塀の上には有刺鉄線が巻かれ、出入口は大きな鉄製扉で、施設内にはセキュリティが数人、ドーベルマンなどの番犬もいました。翌日から、詐欺の電話の「架け子」をさせられ、中国人の監視役がいました。最初の頃は、報酬をもらえましたが、途中から支払われず、最後はそれまでの報酬も没収されました。(20代女性)
    • 「不自然に条件の良い仕事」の実情を知ってください。それでもあなたは応募しますか…?
      • 「軽い気持ちで応募してしまった」「友達が『海外でいい仕事が見つかった』と言っている」「やめたいけど、脅されて断れない」
      • 困ったらいますぐ警察に相談を!一人で悩まないで
    • 被害者の声
      • 被害者の方たちの中には、大切な財産を失い、経済的に破綻しそれまでの生活を送ることが厳しくなった方や、また、だまされてしまったことで、精神的苦痛を負うなど、その後の生活に支障が出ている方もいます。
        1. 投資詐欺 30代男性 被害額約8000万円
          • 普段から投資をしていました。「必ず投資に成功する」などと知らない人からLINEが届き、教えられた通りに取引すると利益が出ました。その後「絶対に儲かる未公開株がある」と持ち掛けられ、数時間で何十万円の利益が出ました。間違いなく儲かると信じ、親族や同僚からも借金をして指定された口座に振り込みました。利益分を引き出そうとしたところ、引き出すことができず、おかしいと思いネットで検索し詐欺の被害に遭ったことがわかりました。
        2. 投資詐欺 60代男性 被害額約1億円
          • 投資詐欺と気付かず、妻に内緒で自宅マンションを担保に入れ、銀行からも融資を受けてお金を捻出し、知人にもお金を借りてつぎ込んでしまいました。
          • 被害に遭ったことは、妻にも知人にも話せません。特に妻はまだ老後の貯蓄があると思っているはずですが、これを全て失い精神的に打ちひしがれています。
        3. オレオレ詐欺 80代女性 被害額約7000万円
          • 老後の資金を失い、家族からは小言を言われ続けています。自宅を詐欺グループに知られ、現在は娘の家に避難しています。自宅は今後のことを考え売りに出す予定です。被害に遭ったことが恥ずかしくて情けなく、電話の着信についても娘経由ですることになり煩わしいです。人間不信に陥り、電話などが怖くて仕方ないです。
        4. ギャンブル詐欺 70代女性 被害額約1500万円
          • 老後の経済的な不安を抱え、子供たちにも迷惑を掛けたくないという思いから、宝くじの高額当選を引き当てられるという言葉につられ、老後のためにコツコツ貯めたお金をだまし取られました。今は生活費も払えず、別居の娘から支援を受けており、情けない気持ちから「死ぬしかない」という思いに駆り立てられています。
    • 卑劣な社会の敵「トクリュウ」を絶対に許すわけにはいきません!
    • 情報を求む!
      • もしかして、闇バイトに申し込んでしまったかも もしかして、あの人たち何か悪いことをしているのでは… もしかして…もしかして…
      • などと思い当たる方、どんな些細なことでも結構ですので情報をお寄せください。
      • 緊急の場合は110番または最寄りの警察署にご連絡ください。
      • 匿名通報ダイヤルでも情報を求めています。
        • 匿名通報ダイヤル 24時間オンライン受付
        • 匿名通報フリーコール 0120-924-839

    トクリュウ対策の強化は警視庁だけでなく、他府県でも同様の動きがあります。例えば、大阪府警は警部級以上の約1300人の定期異動を発表、トクリュウ対策や、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)開業を見据えた歓楽街対策を強化するため、関連部署の人員を増加しました。トクリュウやIR対策で、捜査4課や保安課、生活経済課、少年課などを増員、ストーカーやドメスティックバイオレンス(DV)事案や児童、高齢者が絡む事案が増えており、人身安全対策室も態勢を強化しています。また、京都府警も春の人事異動を発表、テロなど国際組織犯罪への対策を強化するほか、トクリュウによる事件などに対応するための人員を増強しました。刑事部では、国際組織犯罪や増加する在留外国人の安全確保に向けた対応を強化するため、捜査5課の国際捜査室を「国際総合対策室」に変更、複雑化するトクリュウによる犯罪などへの対策として、府内14署に計23人を増員しています。

    法務省は、通信傍受法に基づき全国の警察が2025年に携帯電話の通話を傍受したのは、前年より4件少ない15事件で、109人の逮捕につながったと発表しています。傍受令状の請求は35件で、いずれも認められました。15事件の内訳は、営利目的での覚醒剤譲渡など薬物関連11、組織的殺人2、拳銃所持と詐欺がそれぞれ1で、傍受は計1万3208回で、このうち犯罪に関連した通信は2642回でした。2000年の法施行後、適用されたのは275事件、逮捕者は1759人となりました。一方、容疑者との電話を警察が傍受する「通信傍受」で、警視庁が事件の容疑と関係のない通話を傍受し続けたことは違法かという点が争われた刑事裁判の判決で、東京地裁は、一部の傍受を違法と認めたものの、家族との通話などの傍受は「通信傍受法に反しない」と判断しました。そのうえで判決は、傍受内容の一部の文字起こしを証拠として認め、組織的な詐欺に関わったとされた被告に懲役14年(求刑懲役18年)を言い渡しました。通信傍受法によれば、容疑との関連がわからない通話も必要最小限の範囲で傍受できるものの、関連がないことが明らかな場合は「(傍受を)直ちに終了しなければならない」と国家公安委員会規則は定めています。警視庁は2018年9月の15日間、数分間で自動的に中断し、その後に再開される「スポット傍受」をし、被告側が、裁判所に保管された傍受の録音を確認すると、大半はパートナーやその息子との会話、仕事のやりとりなどだったため、弁護側は、こうした内容の傍受は「重大な違法」だとして証拠からの排除を求めたものです。判決は、容疑と関係ないと思われる通話でも、話者や話題が途中で変わる可能性があると指摘、私的な通信と考えられる内容の傍受についても「漫然と繰り返し長時間聞き続けたとの批判は当たらない」としました。また、パートナーは捜査段階で事件との関係が否定されておらず、息子との通話も母親に途中で代わる可能性もあり適法だとしました。一方で判決は、被告の仕事に関する弁護士との通話の傍受は違法だったと判断、ただ、相手が弁護士と名乗らなかったことから「故意に傍受を続けたとはいえない」としました。

    平成25年12月に「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長だった大東隆行さん=当時(72)=が射殺された事件で、殺人罪などに問われた工藤會傘下組織幹部、田中幸雄被告の公判が京都地裁で進んでいます。2026年3月に実施された第10回公判で証人のべ36人が出そろいました。起訴内容は、2013年12月19日、本社前で大東さんを拳銃で撃って殺害したというものですが、2025年11月26日の初公判で、被告は全面否認し、「私は決して犯人ではありません。『決して』がつきます。任侠道を志す者である以上、ぬれぎぬの一つや二つ着せられることは甘んじて受け入れます。しかし、センセーショナルな事件までぬれぎぬを着せられるのは、承服しかねます」と述べましたが、その後は黙秘を貫く姿勢で、被告人質問も実施されませんでした。被告が犯行に及んだと明らかに示す証拠はないものの、検察側は警察官などのべ35人を証人に立て、それひとつでは犯人と言い切れない様々な間接証拠から被告の犯行を主張しました。例えば、「現場で事件当日に見つかったたばこの吸い殻が2本あった」、「現場から約1.4キロ離れたマンション付近からは、盗まれたオートバイが見つかり、ハンドル部分から射撃残渣が検出された」、「吸い殻について、検察側は付着した唾液のDNA型が被告のものと一致した」、「事件前日に大東さん宅近くの防犯カメラに写った不審者と被告の歩き方について、専門知識のある警察官が「同じ人物とみて矛盾ない類似性が認められる」と証言した」、「被告に似せた体格の捜査員を同じ場所で撮影し、不審者の画像と比較した結果、不審者と被告の体格について「矛盾しない」と警察官が証言した」ことなど主張、弁護側は反対尋問で、吸い殻が別の場所から持ち込まれた可能性や、事件よりも前に捨てられていた可能性を探りました。オートバイに関しては、検察側はほぼ同時期に盗まれたスクーターに着目、オートバイとスクーターの関連は不明瞭である一方、スクーターと軽乗用車が映る防犯カメラの映像があり、その車が被告の幼なじみの車の外装と一致することを主張、弁護側は、映像からその外装を割り出した根拠を問いただしました。公判ではほかに、「事件前日に大東さん宅付近の防犯カメラに被告と特徴が似た人物の姿が映っていたこと」、「大東さんが従業員の前で「ヤクザなんか怖くない」と誰かに狙われているかのように口にしたこと」などの証言がありました。弁護側は被告の妻のみを証人に立て、事件の日にハローワークに行っており、その際に「主人に車で子どもと送っていってもらったかもしれない」としました。検察側がその前後の詳細について問いただすと、妻は「覚えていない」としました。被告が実行犯か否かが争点の公判では、なぜ大東さんが狙われることになったのかなど事件の背景に関する立証はありませんでした。被害者参加制度を利用し、すべての公判を見たという大東さんの息子は、第10回公判で心情を述べ、防弾パネルとパーティションに囲われた中で、嗚咽を漏らしながら「おやじが殺されないといけなかった理由は、明らかになりませんでした」と語りました。公判は2026年6月に結審、10月に判決が予定されています。

    工藤會についても大きな動きがありました。トップの野村悟被告の引退情報があり、工藤會側が引退を決めた後に野村被告を説得し、本人も承諾したといいます。福岡県警などの「頂上作戦」で逮捕された野村被告は、市民を狙った4つの襲撃事件に関与したとして殺人などの罪で起訴され、一審で死刑、二審で無期懲役の判決を受け、現在、最高裁に上告中ですが、その野村被告を巡り、工藤會側がほかの暴力団組織などに対し「組織引退」を伝えました。この引退については、野村被告を除いた工藤會の最高幹部らが決めていたといいます。報道によれば、工藤會が野村被告の引退を決めたのは2026年3月16日で、その日のうちに、ほかの組織に向けて野村被告の引退を通達、翌17日に野村被告の説得にあたり、本人も受け入れたといいます。長年、組織に君臨してきた野村被告については、逮捕・拘留後も野村被告が収容されている福岡拘置所には、配下の組員たちが連日、差し入れや親族の送迎を続けるなど、絶大なる影響力を保ち続けていました。今回の引退を受けて、工藤會側は野村被告への面会や差し入れを一切行わないほか、親族の送迎もやめるといいます。野村被告は、事件の遺族にあわせて1億円以上の損害賠償を命じた判決が確定しており、警察は、野村被告が残ることで組織の金銭的負担が続くことを避けるため、工藤會側が野村被告の引退を決めた可能性もあるとみて慎重に調べているところです。なお、週刊誌報道では、警察関係者の話として、「警察の徹底した取り締まりで、工藤會は飲食店からのみかじめ料や公共工事関係の利権をほとんど失い、幹部の逮捕も相次いで組織維持にも苦労する状態。民事訴訟では野村に1億円を超える賠償が命じられており、組としてはこれ以上面倒を見切れないというのが本音のようだ」といい、金銭的余裕を失ったばかりか、親分を最後まで支える意識も希薄化し「鉄の結束」が弱まっていたとの指摘もあり、野村自身も、高齢であることに加え、長期の勾留生活と裁判対応で弱気になっていたとの情報もあるといいます。また、「公判では本人が引退を口にすることもあったが、今回は事実上、組織から引導を渡され、従うしかなかったのだろう」という指摘が本当のところかもしれません。ただ工藤會は、千葉県内に拠点を構える二次団体の長谷川組が、トクリュウメンバーを使った特殊詐欺や恐喝のほか、飲食や不動産業などにも巧妙に入り込んでおり、かつての工藤會とは異なる手法で資金を獲得し、勢力を増している状況にあり、トップが退いてなお、「最恐」と言われた暴力団が形を変えていまも動き続けていることは興味深いものですが、野村被告の引退の背景に、分裂抗争にけりをつけて改めて全国侵攻をうかがう六代目山口組への接近の可能性が業界内では指摘されているという点も極めて興味深いといえます。六代目山口組と工藤會を巡っては、(本コラムでも取り上げましたが)20年近くにわたって若頭を務めた高山清司相談役が野村被告に2回面会して、2000万円を差し入れたことが話題を呼びました。両者の関係性について週刊誌情報では、「山口組にのれんを変えるなどして再出発を図るのも今後の方向性として考えられる。昨年4月に神戸山口組やその派生組織との抗争終結宣言を出して、抗争に一区切りついた山口組は、再び全国侵攻の野望をたぎらせている。といっても、いまのご時世で抗争をしかけるのはハードルが高く、山口組の関係者をトップとして送り込むことで平和的に吸収するのが最近のトレンドだ。今年3月に、東京の東声会の会長を山口組の中核組織である弘道会の幹部が襲名した。一昨年にも、京都の老舗組織の会津小鉄のトップに山口組の直参が就いた。千葉を本拠とする組織に対しての合併話も噂されている。地方の独立組織はどこも組員とシノギが減って、組織を牽引するだけの人材が見つからないというのが現状。山口組の特に弘道会の幹部が「天下り」すれば、彼らは金を持っているし、他組織への睨(にら)みが利く。引退する野村総裁を含めて最高幹部が軒並み、無期懲役判決を打たれている工藤会は、”M&A”の相手先としてはうってつけなのではないか」、「警察のターゲットとされやすく、また内部の締め付けの厳しいヤクザには若い不良が集まらず、半グレやトクリュウへと流れていく。実際、福岡では16年に、半グレによる7億円金塊強盗事件などが起きているし、外国人犯罪グループの跋扈も強まっている。ヤクザは、組織に入っていない者が悪さしてカネを稼ぐのは面白くないし、結局のところ毎月の会費を上納し、いざとなれば組織のためにカラダをかける組員がどれだけいるかが問われる。ネームバリューのある両組織がくっつくことで組織力を強化し、ヤクザを軽んじる”アマチュア”の不良たちを飲み込んでいきたいという狙いがあるのだろう」といった内容です。真偽はともかく、可能性としては否定できない六代目山口組の動きもあり、筆者としては、今後の動向を注視していきたいところです。その他、工藤會を巡る動向としては、以下もありました。

    • 「元」野村総裁の親族が所有する北九州市小倉北区の土地について、福岡地裁小倉支部による競売入札が再び不調となっています。2026年1月の入札で買い受けの申し出がなく、再入札となっていました。1月の売却基準価額は1541万円で、今回は同1079万円で入札が実施されました。この土地を巡っては、工藤會が関与した事件の被害者側が野村被告らを訴えた訴訟で、数千万円の賠償を命じる判決が出たにもかかわらず支払われていないことを受け、土地を売却して賠償金を回収しようと強制競売を申請、同支部が2024年11月に強制競売開始を決定し、土地を差し押さえていたものです。
    • 福岡県北九州市のマンションにあった工藤會傘下組織の組事務所が撤去されました。組事務所は北九州市小倉北区のマンションの一室にあり、2026年2月に撤去されたといい、マンションは1983年に建てられた9階建て鉄筋コンクリート造りで、1997年以降、工藤會側が所有し組事務所として使っていましたが、2023年から県の暴追センターと連携してマンションの管理組合を立ち上げ、その規約に暴排条項を盛り込むなど取り組みを続けていたということです。工藤會系の組事務所の撤去は、2014年にトップの野村悟被告らが逮捕された福岡県警の「頂上作戦」以降、31件目となります

    東京都内最大の勢力を持つ指定暴力団住吉会二次団体「幸平一家」の取り締まりで、警視庁は特別対策本部を2026年4月1日から強化、捜査指揮を執る本部長を刑事部長から副総監に格上げし、部を横断して対策に当たる態勢としています。住吉会の暴力団構成員・準構成員らは約3200人で暴力団の中で2番目に多く、うち幸平一家が約4分の1を占めています(2024年末時点)が、幸平一家は近年、トクリュウと濃密に関係しながら、特殊詐欺や女性を性風俗店に紹介する違法スカウト、薬物密売などの事件に関わっているとされます。1月に設置した対策本部を強化し、早期弱体化を目指すとしています。なお、暴力団幹部の男性を監禁し、暴行して金品を奪ったなどとして、警視庁暴力団対策課は、監禁と強盗致傷の疑いで、幸平一家傘下組織組長ら男6人を逮捕、幸平一家特別対策本部が主体となり摘発した事件は初めてとなります。さらに、態勢強化後初の摘発として、警視庁は、幸平一家傘下組織組員ら2人を恐喝未遂の疑いで逮捕しました。東京・浅草に約30年あった指定暴力団の総本部が80キロ離れた地に移転しました。松葉会の「主たる事務所」について、東京都公安委員会が、茨城県鹿嶋市に変更したと官報で公示しています。警察当局は動向を注視しています。松葉会は、1953年に結成し、1994年に指定暴力団に指定され、2024年末現在、北関東を中心に1都7県を勢力範囲にし、約280人の構成員がいます。移転のきっかけは、2020年1月、総本部に火炎瓶が投げつけられる事件があり、警視庁は、抗争のおそれがあるとみて警戒を強めていたところ、土地の所有者が松葉会側に対して、土地の明け渡しを求める民事訴訟を起こし、東京地裁は2024年11月、明け渡すよう命じる判決を言い渡しました。判決では「暴力団の本部事務所はその権勢の象徴」とした上で「暴力団同士の抗争においては敵対組織による襲撃の対象となる可能性が高い」と指摘、「近隣住民に危害が生じるような態様で土地を使用してはならないという義務に違反する」と判断されました。警視庁によると総本部のビルが撤去されたのは2025年9月で、それまでは、幹部会議や他団体との会合で、数十人が出入りすることもあったといいますが、松葉会は同11月に他団体に対し、総本部を茨城に移すことを通知していました。

    暴力団対策法で立ち入りが禁じられた組事務所に出入りしたとして、同法違反罪に問われた六代目山口組直系「兼一会」幹部の被告ら3人の判決公判が大阪地裁で開かれ、裁判官は、被告らが出入りしていたマンションの一室が「事務所であることに合理的疑いが残る」として無罪を言い渡しました。求刑はいずれも懲役1年6月でした。六代目山口組は2020年に特定抗争指定暴力団に指定されて以降、警戒区域内の事務所立ち入りを禁じられています。被告らは2024年6月、警戒区域内の大阪市中央区の組員が暮らすマンション一室に出入りしたとして起訴、検察側はこの部屋が「隠れ組事務所」にあたると主張していました。裁判官は判決理由で、同法が立ち入りを禁じる事務所は、「多数の組員が集合」、「抗争のための謀議や連絡」、「凶器などの製造・保管-といった活動の拠点になっているか否か」が考慮要素の一つになるとした上で、部屋の使用実態を検討、組ナンバー2の若頭など幹部の出入りは少なく、組員5人以上が集まらないようにしていたと指摘し、謀議などの証拠もないとしました。一方、2024年6月に行われた家宅捜索では、組関係の文書や代紋入りバッジ、防弾チョッキなど、従来の本部事務所から運び込まれたとみられる多数の物品が押収されたが、その2週間前の11日時点で活動拠点だったとする「推認の程度は弱い」と結論付けました判決は「事務所であることに合理的疑いが残る」と指摘しましたが、筆者は「事務所であることを否定することに合理的疑いが残る」と言いたいところです。

    高額報酬をうたい、違法行為に加担させる「闇バイト」について、東京地裁で2026年3月に行われた中国人留学生の女の公判では、SNSを通じて闇バイトに誘導され、逮捕されるまでの経過が明らかになりました。「牛乳屋」に応募したはずが、他人名義の荷物を受け取る仕事をさせられたといいます。検察側は論告で、指示役など「複数人がかかわる国際組織犯罪だ」とし、女は組織の一端を担っており、「強く非難されるべき」としました。裁判長は「(カードの)公文書としての信用を害する悪質な犯行」とし、報酬を得ようとした動機の身勝手さや、実行犯として実際に従事したことを「軽く見ることはできない」と説明。一方で、反省の態度を示して捜査に協力したことなどから、執行猶予付きの有罪判決を言い渡しました。闇バイトが人生を壊すのは、留学生も同様であり、おそらく氷山の一角であると痛感させられます

    国内最大規模の違法スカウトグループ「ナチュラル」に捜査情報を漏らしたとして、地方公務員法(守秘義務)違反に問われた元警視庁暴力団対策課警部補の神保大輔被告=懲戒免職処分=に対し東京地裁は、懲役1年6月、執行猶予3年(求刑・懲役1年6月)の判決を言い渡しました。ナチュラルはトクリュウの代表格で、被告は公判で起訴内容を認めています。検察側は公判で、神保被告が2023年10月ごろから、ナチュラルの捜査に関わり、グループトップらとも接触するようになったと指摘、ナチュラルが開発した情報共有用のアプリを2024年5月ごろまでに自身のスマホにインストールしたといいます。その上で、職場のパソコンからナチュラルの捜査のために設置したカメラの情報にアクセスし、2025年4~7月にアプリを使って画像やカメラの設置場所を記したリストをナチュラル側に送信、撮影範囲などを教えたというものです。また、2025年4月、神保被告は、不倫の発覚を理由にナチュラルの捜査から外れ、「相手組織との関係が深まり、気が緩んだ」、「上司に意見が通らずに捜査を外された不満もあった。警視庁をやめようと自暴自棄になり、一線を越えた」と動機を述べていました。また、神保被告の自宅から900万円、事務机から45万円の現金が見つかり、一部からナチュラル関係者の指紋が検出されたといいます。この現金についても神保被告は「事件とは関係がない」とだけ述べ、詳しい説明を避けました。実際の漏えい相手は最後まで明らかにならず、神保被告は被告人質問の冒頭、「家族への報復の危険がある」として話せないと明言、検察側が「何人とやりとりしたか」「通話履歴の相手は誰か」と質問を重ねたものの、回答を拒んでいます。ナチュラルは女性を性風俗店に紹介し、売り上げの一部を受け取る「スカウトバック」を主な収益にしており、全国で1500人以上が在籍し、2022年には44億円以上を得ていたといいます。匿名性の高いアプリで犯罪を実行させて中心人物らが利益を吸い上げているとみられます。また、1~4次団体に分かれており、各階層に複数の班が存在、各班に「代表」や「幹部補佐」を置き、構成員間のギャンブルや金の貸し借りなどを禁じた「規約」を設け、違反した者に制裁を加えており、幹部が構成員を暴行・監禁する事件も起きています。組織のトップとされる会長の小畑寛昭容疑者は所在不明でしたが、全国に指名手配され、2026年1月、偽名でホテルに宿泊していた鹿児島・奄美大島で逮捕されました。違法な職業仲介のほか、スカウト活動を容認する対価として暴力団幹部にみかじめ料を支払った疑いも持たれています。ただ、ナチュラルのビジネスのノウハウを知る関係者は数多くおり、トップを排除しても、後継者を欠くことはなく、第二・第三のナチュラルが生まれる可能性もあり、今後の動向を注視していく必要があります。

    2025年の悪質リフォーム事件の摘発件数は83件(前年比17件増)、摘発人数は175人(同45人増)となりました。いずれも統計が残る2010年以降で最多となり、被害額は、前年の約45億5千万円から3倍以上の約151億6千万円に上りました。悪質リフォームは業者が戸別訪問して家屋の無料点検を持ちかけ、「修繕が必要」とうそを告げて不要な工事を契約するなどの「点検商法」が主な手口で、業者は高齢者宅を中心に狙い、住人の見えない所で屋根などを故意に壊すといった事例も確認されています。摘発した83件のうち、トクリュウが絡む事件は34件(同19件増)で、人数は105人(同49人増)となり、トクリュウの資金源となっている実態がうかがえます。無許可で住宅工事をしたとして建設業法違反容疑で警視庁が逮捕した男は、SNSで派手な生活ぶりを投稿するなどして悪質リフォームに加担するメンバーを集めていました。

    2.最近のトピックス

    (1)AML/CFT/CPFを巡る動向

    警察庁から「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)」が公表されています。2025年に金融機関などが国へ届け出た「疑わしい取引の届出」件数が2024年比約20%増の101万9405件となり、過去最多を更新しました。警察庁は金融機関でマネロン対策への意識が定着し、監視を強化していることが背景にあるとみています。犯罪収益移転防止法では、マネロンの犯罪捜査に役立てるため、犯罪による収益が疑われる取引を国に届け出るよう義務付けており、対象となる「特定事業者」には銀行、クレジットカード会社、宝石・貴金属取引業者などが含まれています。警察庁は集約した情報を各地の警察や検察庁、海上保安庁などの捜査機関に提供しています。各都道府県警の捜査で活用した疑わしい取引の情報数は60万8556件に上り、情報を端緒に摘発した事件数は1110件に上り過去3番目の多さとなりました。近年は犯罪組織が個人から口座を買い取りマネロンに悪用する事例が目立っており、不正な口座売買などを巡って摘発されたのは4553件に上り、過去10年間で最多となりました。一方、本報告書では特に「指定非金融業者及び職業専門家(DNFBPs:特定事業者のうち、銀行、貸金業者、資金移動業者等の金融機関等を除いた、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス業者等の指定非金融業者及び弁護士、司法書士、行政書士等の職業専門家)」によるマネロン対策等の実効性の低さへの言及が注目されますDNFBPsによる疑わしい取引の届け出が全体の約0.04%に過ぎない一方、金融機関からの届出には、DNFBPsに関係する情報が含まれ、「DNFBPsの取引において多数の疑わしい取引に関する情報が潜在しているのではないかと推認される」と指摘されています。また、「DNFBPsが行う取引の中でも、宅地建物取扱業者が取り扱う不動産の売買契約及び宝石・貴金属等取扱事業者が取り扱う宝石・貴金属の売買契約については、特にマネロンに悪用されるおそれが高いと認められる」、「DNFBPsのサービスが特殊詐欺等の犯行や取引のツール等として悪用されている」、「さらなる追跡が可能」といった厳しい指摘がなされており、DNFBPsのマネロン対策の甘さが「犯罪インフラ化している」との指摘を重く受け止める必要があります。

    ▼ 警察庁 令和7年における犯罪収益移転防止法の施行状況等について
    ▼ 犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)
    • 「指定非金融業者及び職業専門家(DNFBPs)」によるマネー・ローンダリング対策等への取組
      • 犯罪収益移転防止法の対象となる事業者は「特定事業者」と呼称されている。そのうち、銀行、貸金業者、資金移動業者等の金融機関等を除いた、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス業者等の指定非金融業者及び弁護士、司法書士、行政書士等の職業専門家をDNFBPs(Designated Non-Financial Businesses and Professions)と呼称している。
      • 令和7年中の年間通知件数の総数は101万9,405件であった。そのうち、DNFBPsの通知件数は439件であり全体の約0.04%であった。金融機関からの届出情報には、DNFBPsに関係する疑わしい取引として
        • 顧客の年齢、職業、事業内容等から見て合理性がない多額の資産を保有する者から宅地建物取引業者に対する送金情報
        • 暴力団員の共犯者として検挙されたとの報道がなされている者から宝石・貴金属等取扱事業者に対する送金情報
        • 滞在資格に疑義がある外国人から法律事務所に対する送金情報
      • 等が含まれていることが確認されている。
      • しかしながら、これらの情報に相当するDNFBPsからの疑わしい取引の届出情報が確認されていないことから、DNFBPsの取引において多数の疑わしい取引に関する情報が潜在しているのではないかと推認される
      • DNFBPsから積極的に疑わしい取引の届出がなされるためには、事業者及び各業態の関係団体等に対して、マネー・ローンダリングの危険性、疑わしい取引の届出を含む犯罪収益移転防止法上の義務の内容等について教養を推進していく必要がある。
      • DNFBPsが行う取引の中でも、宅地建物取扱業者が取り扱う不動産の売買契約及び宝石・貴金属等取扱事業者が取り扱う宝石・貴金属の売買契約については、特にマネー・ローンダリングに悪用されるおそれが高いと認められる。また、DNFBPsのサービスが特殊詐欺等の犯行や取引のツール等として悪用されているケースもある。
      • 具体的には不動産は、財産的価値が高く、多額の現金との交換を容易に行うことができるほか、その利用価値、利用方法等によって大きく異なった評価をすることができることから、通常の価値に金額を上乗せして対価を支払うなどの方法により、容易に犯罪による収益を移転することが可能である。
      • 宝石及び貴金属は、不動産と同様に財産的価値が高く、その小さな形状から持ち運びも容易であり、国内だけでなく海外においても多額の現金等と容易に交換することができる。
      • 実際に宅地建物取引業者及び宝石・貴金属等取扱事業者が扱う取引が、マネー・ローンダリングに悪用された事例としては次のようなものがある。
      • 【特殊詐欺の被害金を不動産購入に充てた事例】
        • マンション購入の契約者である別の男になりすまして、特殊詐欺でだまし取った被害金の一部を、マンション購入の手付金として不動産会社に送金し、犯罪による収益を隠匿したもの。
        • 【詐欺事件の被害品である金塊を売却した事例】
        • 詐欺被害者からだまし取った金塊を、男らの経営する会社が正当な取引によって得た財産であるかのように装って古物商に売却し、犯罪による収益を隠匿したもの。
          • DNFBPsのサービスが特殊詐欺等の犯行や取引のツール等として悪用された事例としては次のようなものがある。
          • 【郵便物受取サービスに関する事例】
            • 特殊詐欺事件の被害金を、郵便物受取サービス業者を含む複数の場所を経由して受領したもの。
          • 【電話転送サービスに関する事例】
            • わいせつDVDの販売によって得た犯罪による収益を隠匿した事件において、架空・他人名義で契約した複数の電話転送サービスを顧客との連絡のために利用したもの。
          • 【法律・会計関係サービスに関する事例】
            • マネー・ローンダリングを企図する者が、犯罪による収益の隠匿行為等を正当な取引として仮装するために、法律・会計専門家を取引や財産の管理に介在させたもの。
          • このように、犯罪による収益が不動産、宝石・貴金属等の法定通貨以外の財物に移転した場合や、犯罪による収益から通信料金や契約料金等の正規の支払が行われた場合、犯罪による収益の追跡は一層困難となる。実際に、金融機関からの疑わしい取引の届出情報を元に分析を行った結果、犯罪による収益が、宅地建物取引業者や宝石・貴金属等取扱事業者に移転していると認められたものの、これら特定事業者からの疑わしい取引の届出情報がなかったため、以降の追跡が困難となった事例もある。当該届出情報があれば、犯罪による収益により購入した不動産、宝石・貴金属等が特定でき、さらなる追跡が可能となることから、DNFBPsからの疑わしい取引の届出情報はマネー・ローンダリング関連事犯の取締りにおいて、非常に重要かつ有用なものである。
    • 犯罪収益移転防止法施行規則の改正による本人確認方法の見直し
      • 近年、偽変造された本人確認書類により開設された架空・他人名義の預貯金口座等が特殊詐欺等の犯罪に悪用されるなど、治安上の大きな課題となっている。こうした情勢を背景に、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和7年6月13日閣議決定)等において、犯罪収益移転防止法に基づく対面、非対面の本人特定事項の確認方法を見直す旨が記載された。本人特定事項の確認方法の見直しにあっては、犯罪収益移転防止法施行規則の関係規定を改正し、令和9年4月1日から施行することとしたところ(第2章第1節第1項9(5)及び(7)参照)、見直しの概要及び具体的な改正内容は以下のとおりである。
        1. 対面の本人確認方法の見直し
          • 写真付き本人確認書類の提示を受ける現行の方法につき、対象書類をICチップ付きのものに限定するとともに、当該ICチップの情報の読み取りを必須とする。
          • 写真なし本人確認書類の提示を受け、かつ、取引関係文書を転送不要郵便物等として送付等する現行の方法につき、対象書類の変更を行うとともに、ICチップ付きの書類の提示を受ける場合はICチップ情報の読み取りを必須とする。
          • 上記方法が実施困難である非居住外国人等については、写真付き本人確認書類を提示させることとする。
        2. 非対面の本人確認方法の見直し
          • 自然人の本人確認方法につき、ICチップ付き本人確認書類のICチップ情報の送信を受ける方法を原則とする。
          • ICチップ付き本人確認書類を保有しない者への対応として必要な補完措置を整備。
          • 法人の代表者等の本人確認方法についても、上記と同様に措置。
          • このほか、法人の本人確認方法につき、本人確認書類の写しの利用を原則不可とし、原本に限定。
    • 疑わしい取引の届出制度の運用状況
      • 平成11年の組織的犯罪処罰法の制定により届出の対象が薬物犯罪から重大犯罪に拡大され、同法が施行された平成12年以降、年間通知件数は増加傾向にあり、令和7年中の年間通知件数は101万9,405件であった。
      • 令和7年中の疑わしい取引の通知件数を届出事業者の業態別にみると、銀行等が69万555件で全体の67.7%と最も多く、次いで貸金業者が10万2,577件で10.1%、クレジットカード事業者が6万1,479件で6.0%の順となっている
      • 分析結果を捜査機関等へ提供した件数は毎年増加しており、令和7年中は3万2,248件で過去最多であった
      • 罪種別の端緒事件数及び活用事件数を類型別にみると、次のとおりである。
        1. 詐欺関連事犯(詐欺、犯罪収益移転防止法違反等)については、端緒事件数が計960件で全体の86.5%、活用事件数が計1,450件で全体の47.9%を占めており、銀行口座や暗号資産口座等の詐欺又は譲受・譲渡、暴力団関係者、匿名・流動型犯罪グループ等による特殊詐欺等(SNS型投資・ロマンス詐欺、ニセ警察詐欺、還付金詐欺等)の事件を検挙している。
        2. 不法滞在関連事犯(入管法違反)については、端緒事件数が計31件、活用事件数が計64件であり、来日外国人による不法残留、資格外活動、偽造在留カードの行使、在留資格の取得に係る虚偽申請、法人代表者による不法就労助長等の事件を検挙している。
        3. 組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿・収受等)については、端緒事件数が計54件、活用事件数が計188件であり、匿名・流動型犯罪グループによる特殊詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺、ヤミ金融等により得た犯罪収益等の隠匿・収受等の事件を検挙している。
        4. 薬物事犯(覚醒剤取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反等)については、端緒事件数が計13件、活用事件数が計448件であり、覚醒剤や大麻等の違法薬物の所持・譲受・譲渡・密輸、組織的に行われた違法薬物の売買等の事件を検挙している。
        5. 偽造関連事犯(偽造有印公(私)文書行使、私電磁的記録不正作出・同供用等)については、端緒事件数数が計17件、活用事件数が計65件であり、偽造の運転免許証、個人番号カード等を行使した銀行口座の不正開設や第三者へ譲渡して報酬を得ることを目的としたフリーマーケットアカウントの不正取得等の事件を検挙している。
        6. ヤミ金融事犯(貸金業法違反及び出資法違反)については、端緒事件数が計3件、活用事件数が計11件であり、暴力団幹部や外国人グループによる貸金業の無登録営業や暗号資産投資を名目とした出資法違反等の事件を検挙している。
        7. 風俗関連事犯(風営適正化法違反等)については、端緒事件はなかったが、活用事件数が計20件であり、社交飲食店の無許可営業や店舗型性風俗店の禁止場所営業、外国人グループによる売春防止法違反等の事件を検挙している。
        8. 賭博事犯(常習賭博、賭博場開張図利等)については、端緒事件数が計12件、活用事件数が計13件であり、暗号資産を使用した海外オンラインカジノサイト利用の賭博や匿名・流動型犯罪グループに係る違法賭博営業店舗による賭博開張図利等の事件を検挙している。
        9. その他の刑法犯(窃盗犯、粗暴犯、凶悪犯等)については、端緒事件数が計12件、活用事件数が計658件であり、報酬を得る目的で不正に取得したキャッシュカードを利用して、ATMから現金を出金した窃盗、外国人による強盗殺人未遂等の事件を検挙している。
        10. その他の特別法犯(職業安定法違反、商標法違反、資金決済法違反、特定商取引法違反等)については、端緒事件数が計8件、活用事件数が計109件であり、特殊詐欺の受け子を募集したり、ホストクラブの女性客に売掛金の支払をさせるため、女性客を性風俗店に紹介するなどの有害業務を紹介したことによる職業安定法違反、偽物ブランドバッグの販売目的所持による商標法違反、無登録の暗号資産交換業者による資金決済法違反、匿名・流動型犯罪グループによる住宅リフォーム工事等の点検商法に係る特定商取引法違反等の事件を検挙している。
    • マネー・ローンダリング関連事犯の取締り
      • 令和7年中における組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯の検挙事件数は、法人等事業経営支配事件が4件、犯罪収益等隠匿事件が1,421件、犯罪収益等収受事件が352件の合計1,777件と、前年より515件(40.8%)増加した
      • 組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別にみると、詐欺が795件と最も多く、次いで窃盗が544件、電子計算機使用詐欺が302件、売春事犯が19件の順となっている。
      • 令和7年中の法人等事業経営支配事件は、詐欺、風営適正化法違反、金融商品取引法違反をそれぞれ前提犯罪としたものであり、前提犯罪により得た不法収益等を用いて、新会社設立のために出資して自己又は知人を代表取締役等に選任して登記させたり、株式の買付代金を支払い、株主の権限を行使して法人の役員を選任したりするなどの手口がみられる
      • 令和7年中の犯罪収益等隠匿事件は、詐欺や窃盗を前提犯罪としたものが多くを占めている。同事件の手口の中で最も多いのは、他人名義の口座や不正に開設するなどした法人名義の口座への振込入金の手口を用いるものであり、これらの口座がマネー・ローンダリングの主要な犯罪インフラとなっている。このほか、盗品等をコインロッカーやトイレに隠匿する、他人の身分証明書等を使用して盗品等を売却する、犯罪収益の取得に際して正当な事業収益等を装う、被害者からだまし取るなどして得た現金や金銭債権等の犯罪収益を電子マネー利用権や暗号資産に移転して隠匿するといった手口がみられ、様々な方法によって犯罪収益等の取得若しくは処分について事実を仮装し、又は隠匿し、捜査機関等からの追及を回避しようとしている状況がうかがわれる。
      • 令和7年中の犯罪収益等収受事件は、詐欺や窃盗を前提犯罪としたものが多くを占めている。これらの犯罪で得た犯罪収益等を直接又は口座を介して収受したり、盗品等を買い取ったりするなどして収受する手口等がみられ、犯罪者が入手した犯罪収益等が、様々な方法で別の者の手に渡っている状況がうかがわれる。
    • 匿名・流動型犯罪グループが関与するマネー・ローンダリング事犯
      • 各種資金獲得活動により得た収益を吸い上げている中核部分は匿名化され、違法行為の実行者はSNSでその都度募集され流動化しているなどの特徴を有する匿名・流動型犯罪グループは、末端の実行犯が各種犯罪により獲得した犯罪収益を中核部分が収受する過程において巧妙にマネー・ローンダリング事犯を敢行している実態がうかがわれる。
    • 暴力団構成員等が関与するマネー・ローンダリング事犯
      • 令和7年中に暴力団構成員等が関与した組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯で検挙されたものは、犯罪収益等隠匿事件58件及び犯罪収益等収受事件20件の合計78件で、全体の4.4%を占めている。
      • 暴力団構成員等が関与したマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別にみると、詐欺が24件と最も多く、次いで窃盗が18件、電子計算機使用詐欺が11件、風営適正化法違反が6件の順となっている。
      • マネー・ローンダリング事犯の手口としては、犯罪収益を得る際に他人名義の口座を利用したり、売春事犯及び風俗関係事犯等の犯罪収益をみかじめ料等の名目で収受したりするなどの手口がみられ、暴力団構成員等が多様な犯罪に関与し、マネー・ローンダリング事犯を敢行している実態がうかがわれる
    • 来日外国人によるマネー・ローンダリング事犯
      • 令和7年中に来日外国人が関与した組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯で検挙されたものは、犯罪収益等隠匿事件237件及び犯罪収益等収受事件67件の合計304件で、全体の17.1%を占めている。
      • なお、国籍別にみると、中国人が関与した事件が134件(44.1%)と最も多く、次いでベトナム人が関与した事件が111件(36.5%)となっており、この2か国の国籍を有する来日外国人が関与した事件が、検挙事件数全体の約80%を占めている。
      • 来日外国人が関与したマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別にみると、詐欺が158件と最も多く、次いで窃盗が86件、電子計算機使用詐欺が51件の順となっている。
      • マネー・ローンダリング事犯の手口としては、犯罪収益を得る際に日本国内に開設された他人名義の口座を利用したり、不正入手した他人の電子決済コードやクレジットカード情報を利用したりするほか、盗品等を買い取るなどして収受する手口等がみられる。
    • 国境を越えて行われるマネー・ローンダリング事犯
      • 詐欺等の犯罪行為で得た犯罪収益で暗号資産を購入し、匿名性の高い海外の暗号資産交換所で開設した暗号資産ウォレットに送信するなどして、犯罪収益を海外へ移転させる手口のほか、地下銀行を通じたいわゆる「円元交換」により、犯罪収益である日本円が国内の不動産(タワーマンション)の購入資金に充てられる手口等がみられ、国境を越えたマネー・ローンダリング行為が行われている。
    • 麻薬特例法に係るマネー・ローンダリング事犯の検挙状況
      • 令和7年中の麻薬特例法に係るマネー・ローンダリング事犯の検挙事件数は15件であった。
      • 覚醒剤等を密売し、購入客に代金を他人名義の口座に振込入金させていた薬物犯罪収益等隠匿事件のように、薬物事犯で得た資金が、マネー・ローンダリングされている実態がうかがわれる
    • 犯罪収益移転防止法違反の検挙状況
      • 多くのマネー・ローンダリング事犯において、他人名義の預貯金口座等が悪用される事例が認められている。犯罪収益移転防止法では、特定事業者(弁護士を除く。)の所管行政庁による監督上の措置の実効性を担保するための罰則及び預貯金通帳等の不正譲渡等に対する罰則が規定されており、警察では、これらの罰則に規定された行為の取締りを強化している。令和7年中における預貯金通帳等の不正譲渡等犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は4,699件と、前年より186件増加した。

    金融庁では、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」の一部改正(案)についてパブコメを募集、コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方を示しています。以下、主なものをピックアップして紹介します。

    ▼ 金融庁 「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について
    ▼ (別紙1)コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方
    • 金融庁はこれまで、金融機関等に対し、GLの「対応が求められる事項」に則した態勢の整備について、2024年3月末までに完了させることを要請し、金融機関等ではマネロン等リスク管理の基礎的な態勢整備を実施いただいたと認識しています。金融機関等における基礎的な態勢整備が概ね完了した中、今回の改正は、預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策強化やFATF第五次審査のメソドロジー等、足許の金融機関を取り巻く環境変化等を整理し、金融機関等におけるマネロン等リスク管理態勢の維持・高度化を促進するものです。
    • なお、「対応が期待される事項」や「先進的な取組み事例」については本来、特定の場面や、一定の規模・業容等を擁する金融機関等において、より堅牢なマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の構築の観点から対応することが求められる事項であると考えておりますので、今般、取組事例の一つとして、必要に応じて、既存の「対応が求められる事項」のFAQに記載を移しております。そのため、自らの直面するリスク等に応じて、対応が必要と判断した金融機関等では、引き続き取り組んでいただくものと考えております。
    • ご指摘いただいた箇所は、警察庁と当庁が連名で発出した「法人口座を含む預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策の一層の強化について(以下、要請文という。)」を踏まえた改正になります。尤も、要請文の対象は預金取扱金融機関となりますが、要請文が求めている趣旨や要請文の中で他の業態においても対応が共通する項目について、今回それらの内容を具体化・一般化して追加いたしました。
    • 金融機関等においては、取引モニタリング等で検知した取引の疑わしさの度合いやマネロン・テロ資金供与リスクの動向等を勘案し、「取引実行から検知までの時間を早める」、「検知した時点で不正の確証が得られる場合には速やかにリスク遮断措置を講ずる」、「検知後の取引保留や顧客への確認を速やかに行う」等の適切なリスク低減措置を講ずることが重要であると考えております
    • 「検知した取引の疑わしさの度合い」とは、ご指摘のような「疑わしさの内容・性質」、「疑わしさの蓋然性」に関するもの等を指すものと考えております。
    • なお、取引モニタリングにおいては、シナリオ・敷居値等の抽出基準の設定・調整だけでなく、検知した取引の疑わしさの度合いやマネロン・テロ資金供与リスクの動向等を勘案し、「取引実行から検知までの時間を早める」、「検知した時点で不正の確証が得られる場合には速やかにリスク遮断措置を講ずる」、「検知後の取引保留や顧客への確認を速やかに行う」等の適切なリスク低減措置を講ずることが重要であると考えております。
    • GLの「Ⅱー2(3)(ⅰ)リスク低減措置の意義」に記載のとおり、「リスクベース・アプローチにおいては、前記(1)、(2)で特定・評価されたリスクを前提としながら、実際の顧客の属性・取引の内容等を調査し、調査の結果をリスク評価の結果と照らして、講ずべき低減措置を判断した上で、当該措置を実施すること」が重要となります。
    • また、「Ⅱー2(4)(ⅱ)輸出入取引等に係る資金の融通及び信用の供与等」にも記載のとおり、「金融機関等においては、輸出入取引等に係る資金の融通及び信用の供与等がこうしたリスクにも直面していることを踏まえながら、特有のリスクの特定・評価・低減を的確に行う必要がある」ことから、【対応が求められる事項】に「低減」も記載すべきと考えております。
    • 「新技術の活用」については、マネロン等対策に係る専門人材・労働力の供給が限られている中、どの金融機関等においてもマネロン等対策の維持・高度化のためには、「新技術の活用」に関して少なくとも検討は必要になると考えておりますので、今般、「対応が求められる事項」に改正いたしました。なお、「自らの規模・特性・業容等を踏まえ」、新技術を活用する余地がないか等を検討することを求めているものであり、新技術を導入することを必ずしも求めているわけではない点、補足させていただきます。また、お示しいただいたものを含め、どのようなサービス等が「新技術」に該当し、どのような対応が求められるかは、外部の技術動向も踏まえつつ、各金融機関等でご判断いただくものと考えております。
    • どのような業務を外部委託する場合に、本項目で求められる事項に対応すべきかは、各金融機関等で検討いただくものと考えております。外部委託先の態勢が、自らのマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の堅牢性に影響すると考えられる場合には、外部委託先の態勢検証を行うなど、検討にあたっては、外部委託する業務の特性等や当該業務において外部委託先の果たす役割等を考慮する必要があると考えられます。また、ここでお示ししている外部委託は、外部委託契約の有無にかかわらず、その実態において外部委託と同視しうる場合も含む点、補足させていただきます。
    • なお、マネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の見直しや検証等について外部専門家等のレビューを受ける際には、検証項目に照らして、外部専門家等の適切性等について、外部専門家等を採用する前に、経営陣に報告しその承認を得ることが考えられます。加えて、必要に応じ、外部専門家等の適切性や能力について、内部監査部門が事後検証を行うことも考えられます。いずれにせよ、具体的な対応は、レビューの対象や外部専門家等の役割等を踏まえて、各金融機関等において検討することが重要と考えております。
    • 資金決済に関する法律第二条第十八項の規定に基づく「為替取引分析業」を委託する場合は、同法第六十三条の二十三および為替取引分析業者に関する内閣府令第二条等も踏まえ、お示しいただいた点を確認することも考えられますが、外部委託するマネロン・テロ資金供与リスク管理に係る業務について、外部委託先が本GLの「対応が求められる事項」に記載している内容に対応できるような態勢を有していることを、委託元の金融機関等において検証いただくことが重要と考えております。なお、外部委託先管理が必要となる対象業務については、お示しいただいた取引モニタリングやフィルタリング等に限られるものではございませんので、限定的な記載を追記することが適切とは考えておりません。
    • 検証方法については、外部委託を検討している業務の特性等や当該業務において外部委託先の果たす役割等に応じて、例えば、委託した業務を遂行した結果を事後的に確認すること、外部委託先との契約によって外部委託先に確実な業務実施を求めること、質問票等を用いて詳細に外部委託先の方針や業務遂行の態勢等を聴取すること等、様々な方法が考えられます。よって、各金融機関等において、外部委託を検討している業務の特性等や当該業務において外部委託先の果たす役割等を考慮して、検証方法や時期等を検討することが重要です。
    • 「「対応が求められる事項」が目標としている効果と同等の効果を確保する観点から外部委託先の態勢を検証する」とは、外部委託先が特定事業者である場合のみに限定したものではありません。外部委託するマネロン・テロ資金供与リスク管理に係る業務について、外部委託先が本GLの「対応が求められる事項」に記載している内容に対応できるような態勢を有していることを、委託元の金融機関等において検証いただくことを想定しています。
    • 外部委託先の態勢に係る検証については、関連する法令の規定をその適用関係に応じ遵守し、業態ごとの監督指針等に留意することは当然として、お示しいただいた点も含めて、外部委託を検討している業務の特性等や当該業務において外部委託先の果たす役割等に応じて、例えば、委託した業務を遂行した結果を事後的に確認すること、外部委託先との契約によって外部委託先に確実な業務実施を求めること、質問票等を用いて詳細に外部委託先の方針や業務遂行の態勢等を聴取すること等、様々な方法が考えられます。よって、各金融機関等において、外部委託を検討している業務の特性等や当該業務において外部委託先の果たす役割等を考慮して、検証方法や時期等を検討することが重要です。
    • ここでお示ししている外部委託は、外部委託契約の有無にかかわらず、その実態において外部委託と同視しうる場合も含みますので、提携先・連携先等も含みうると考えています。よって、提携先や連携先等に対して、マネロン・テロ資金供与リスク管理に係る業務を外部委託している際には、本「対応が求められる事項」の対応を検討する必要がありますので、外部委託する業務の特性等や当該業務において外部委託先の果たす役割等を考慮して対応要否を検討いただくことが重要です。
    • マネロン・テロ資金供与リスク管理に係る業務を外部委託する際に、当該業務を委託先の再委託先等が実施する場合には、再委託先等の態勢を検証する必要があると考えられます。

    金融庁では、「マネロン等対策の有効性検証に関する事例集」を一部改訂しています。

    ▼ 金融庁 「マネロン等対策の有効性検証に関する事例集」の改訂版公表について
    ▼ (参考)「マネロン等対策の有効性検証に関する事例集(更新箇所ハイライト付き)」
    • マネロン等リスクの特定・評価に係る検証 【参考事例】
      • 商品・サービスについては、新商品・サービス検討時に作成している案件管理表と照合するなどの方法により、評価すべき商品・サービスに漏れがないかを確認している。
    • 取引モニタリング
      • 一定期間の資金移転額、資金移転件数が多かった顧客のうち、取引モニタリングシステムでの検知実績がない顧客を抽出したうえで、検知されない事由を分析し、シナリオ・敷居値等の抽出基準の変更を検討している。
      • 疑わしい取引の届出を行った顧客と属性や取引形態などが類似する顧客を抽出したうえで、取引モニタリングシステムで検知されない事由を分析し、シナリオ・敷居値等の抽出基準の変更を検討している。
    • 疑わしい取引の届出
      • 犯罪動向や疑わしい取引の届出の事例等を踏まえた、疑わしい取引の届出の判断基準が用意されていることを確認している。また、当該業務の担当者間で判断の差異が生じないよう、定期的に会議を実施し、判断品質の向上と標準化を図っている。
      • 疑わしい取引の届出状況の管理簿を届出担当者が作成したうえで、第三者が週次で届出状況を確認し、疑わしい取引の検知から届出に長期間要していないか確認することで、届出業務に必要な組織・リソース(システム・人員等)が用意されていることを確認している。
    • マネロン等リスク低減措置の実施に係る検証【参考事例】
      • 外国人の在留期間管理が手続きどおりに実施されているか、在留期間満了が近づいた顧客に対し更新要請がなされているか、在留期間を過ぎた顧客への対応が手続きに従い実施されているかなどを、サンプルチェックで確認している
    • その他(検証主体や検証手法など)【参考事例】
      • 全社的リスク評価結果などを踏まえて選定した検証項目について、重要度・優先度などの観点から評価を行い、検証頻度を検討している。
      • フォローアップに際しては、各課題について対応期限を定めたうえで管理表を活用しつつ、是正策の進捗状況を確認している。
      • マネロン等対策に関する有効性検証の結果について、定期的に経営陣へ報告し承認を受けることで、当該検証が終了したことを確認している。
      • 第1線や第2線の関係部署が一堂に集うワーキンググループなどを月次で開催し、各部からマネロン等リスク低減措置の実施状況を報告する場を設けることにより、マネロン等対策に係る業務遂行が手続きどおりに行われているかを確認している。

    最近のAML/CFTや金融犯罪の動向を巡る報道から、いくつか紹介します。

    • 政府は、携帯電話不正利用防止法の改正案を閣議決定しました。データ通信専用のSIMカードを契約する際、契約者の本人確認を携帯電話会社に義務付けることが柱で、今国会中の成立を目指しています。データ通信用のSIMカードはインターネットやSNS、メッセージの送受信が可能で、音声通話はできませんが、契約時に運転免許証など身分証明書による本人確認を義務化するものです。現行法は通話もネットも利用できる「音声通話SIM」については本人確認を義務づけています。本人確認義務の対象を広げることで、メッセージアプリを悪用して架空投資に誘うSNS型投資詐欺や恋愛感情を抱かせるロマンス詐欺といった犯罪の捜査の円滑化や抑止する狙いがあります。法人を除く個人が利用する携帯電話の回線数としては不自然に多いと判断した場合、携帯会社が契約を拒否できる規定も設け、大量の回線が犯罪組織に転売されるのを防ぐことが狙いで、企業などによる法人契約でも担当者の在籍確認を新たに義務付けるとしています
    • 法制審議会(法相の諮問機関)の部会は、会社法改正に向けた中間試案をまとめました。株主名簿上の株主の背後で事実上の議決権をもつ「実質株主」を把握しやすくする制度が柱で、株主提案権の要件を厳しくしたり、従業員に自社株式を無償で渡せるようにしたりすることも検討するとしています。具体的には、実質株主を把握しやすくするために企業が名簿上の株主に情報開示を請求できるようにし、応じなければ過料を徴収する方向です。事実上の議決権をもつ実質的な株主を明らかにすることで市場の透明性を高める狙いがあります
    • 本コラムでも以前取り上げましたが、他人名義のクレジットカードのショッピング枠を現金化するための不正な購入と知りながら、トクリュウのメンバーにレターパックを販売したなどとして、福岡県警は、福岡城西郵便局の局長と男性課長代理を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)ほう助容疑で書類送検しました。トクリュウ側は不正購入した大量のレターパックを転売し現金化していたとみられ、そうしたマネー・ローンダリングに郵便局が関与した疑いで立件されるのは異例となりますが、目先の利益を優先し「見て見ぬふり」を続けた可能性があり、悪質性が高いと判断したためです。報道によれば、書類送検容疑は局長ら2人は共謀して2025年2月、トクリュウメンバーが他人名義のクレジットカードを使用していると知りながら黙認し、レターパック1162枚(計49万9660円)を販売、メンバーがレターパックを福岡市内の買い取り業者に42万9707円で転売することで、業者側が犯罪収益を得ることを手助けしたとしています。レターパックには切手のような購入上限額はないといいます。2人は「同じ人が週1回以上郵便局に来て、他人名義のカードを使うのを内心おかしいと思っていたといい、リスクセンスの重要性もさることながら、それが組織的な認知につながることの重要性を示すものともいえます。さらには、福岡城西郵便局の2024年度のレターパックの売り上げは前年度比で800%増、売上総額は360%増など異例の増額でしたが、日本郵便は同局が県警の家宅捜索を受けるまで一切把握していなかったといい、組織的なリスクセンスの鈍さも際立っています。事件を巡っては、2025年5月までに男性会社員2人から株式投資名目でクレジットカードなどをだまし取ったとして、トクリュウのメンバー4人が詐欺容疑で逮捕、起訴され、トクリュウのメンバーからレターパックを買い取った福岡市内の業者の男性店長も2026年3月に組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)で略式起訴され、罰金100万円の略式命令を受けています。福岡県警はトクリュウのメンバーがレターパック以外の転売も含めて計3億円を得ていたとみて実態解明を進めていたといいます
    • 詐欺の被害金が振り込まれた凍結口座と知りながら、信用金庫をだまして凍結を解除させるなどしたとして、警視庁は、弁護士を組織犯罪処罰法違反(取得原因仮装)と詐欺の疑いで逮捕、同庁は、容疑者について、副業の募集をうたうなどして利用者から現金をだまし取る詐欺グループの一員とみています。このグループは全国の約1万人から計約53億円をだまし取った疑いがあるといいます。容疑者は、凍結された架空の会社の口座に入った現金が犯罪収益と知りながら、信用金庫に対し、正当な事業収益と虚偽の説明をし、現金約58万円を容疑者側の口座に入金させた疑いがもたれており、詐欺グループから依頼され、凍結口座の解除をしたといい、容疑者はこれまでに逮捕されたグループのメンバーの弁護活動をしたり、被害者に一部を返金したりする役割を担っていたほか、被害者が警察などに訴え出ないよう働きかけをしていたとみられるといい、容疑者がグループから月に約100万円の報酬を得ていたとみられています。この詐欺グループをめぐっては、現金をだまし取ったとして、これまでに91人が逮捕され、85人が起訴されています。また容疑者は、ロマンス詐欺の被害金回収に関して、事実と異なる誇大広告を出したなどとして、2025年3月、東京弁護士会から業務停止6カ月の懲戒処分を受けています。
    • 全国の銀行がマネー・ローンダリングなどに悪用された疑いのある口座の情報を迅速に共有する仕組みをつくっています。全国銀行協会の子会社がシステムを構築し、2027年4月にも運用を始めるといい、口座凍結までにかかっていた時間を数カ月から数日に短縮し、不正に得た資金が犯罪者集団に渡るのを抑止する狙いがあります。犯罪者集団は不正に得たお金を口座を変えて転々とさせ、追跡を逃れていますが、現在は各銀行が犯罪収益移転防止法に基づいて「疑わしい取引」を当局に報告し、捜査が進んだ段階で警察庁のリストと照合して口座を凍結していますが、この間に数カ月間かかり、資金の行き先がわからなくなる恐れがありました。新たなシステムは全銀協子会社のマネー・ローンダリング対策共同機構がNTTデータと共同で開発、各銀行が不審な取引を検知した場合、その情報を新たなシステムに登録すると翌営業日にはシステムを利用する全銀行に情報が届く仕組みで、具体的には口座番号や名義、生年月日といった情報の共有を想定しているといいます。登録された情報と自行の取引情報を照合した結果、同じ名義だったり、悪用口座とのやり取りがあったりした場合は口座を凍結する流れで、凍結までにかかる時間は数日に短縮される見通しです。稼働当初は全銀協に加盟する銀行にシステムを接続し、徐々に信用金庫や信用組合などに広げるといいます。さらに、金融庁は2026年に犯収法の施行規則を改正し、不正利用口座の情報共有を銀行の努力義務とする方針です。犯罪集団は銀行の規模の大小を問わず複数の口座を使うことから、すべての銀行に対策強化を求め、情報の共有や悪用口座の凍結といった対策を怠れば行政処分の対象となる可能性があります。政府は2025年4月に「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」を策定、悪用口座の情報共有が課題とし「預金取扱金融機関間で不正利用口座情報を共有しつつ、速やかに口座凍結を行うことが可能となる枠組みの創設について検討する」と明記していました。ただ、日本の対策は道半ばで、FATFは2021年、日本を実質的な不合格を意味する「重点フォローアップ国」に位置づけ、2028年に第5次対日相互審査が実施される予定で、政府・金融機関が対応を急いでいます。

    警察庁は、インターネットバンキング(IB)を通じた不正送金の被害額が2025年に2024年比約2割増の約103億9700万円に上り、過去最多だったと発表しています(被害額が100億円を超えるのは初めてで、5年間で12倍に増加しました)。特に「ボイスフィッシング」の手口が目立ちました。ボイスフィッシングについては、以前の本コラムでも取り上げましたが、典型的な手口は「主に金融機関をかたって企業に電話をかける。まず自動音声が流れ、電話を受けた社員が指示に従って番号を押すとオペレーター役につながる。最終的に金融機関の偽サイトに誘導し、法人口座の認証情報を盗み取る」といったものです。警察庁によれば、2025年の不正送金は被害件数が前年比約1割増の4747件で、被害額は前年から約17億円増加、個人の被害が約2割減った一方、法人の被害は前年の4倍超の約47億円になりました。警察庁の分析では、不正送金の約9割はSMSなどで偽サイトに誘導し、IDやパスワードを入力させて盗み取る「フィッシング」が入り口で、中でも3月と11月には、ボイスフィッシングが急増、企業の担当者が「電子証明書の更新」といった案内を信じて、自社の認証情報をだまし取られていました。ボイスフィッシングによる法人の被害額は2025年、約44億8000万円に上り、不正送金の被害額全体の約4割を占め、1社あたりの被害額は約2400万円で、個人(約120万円)の20倍で、中には4億円超のケースもあったといいます。警察庁は、「銀行から電話があれば営業店・代表電話に折り返し本物か確認する」、「IBは公式サイトやアプリからアクセスする」といった対策を企業に求めていますが、送金を巡るチェック体制の強化や送金限度額の設定も重要になります。なお、不正送金事件の44%で、ネットにつながる家庭用の「IoT」機器が悪用されていたことも判明、中国製のデジタルフォトフレームや動画ストリーミング用機器が多く、犯罪集団が発信源を隠すため、不正アクセスの「踏み台」とした疑いがあります。また、金融機関などでつくる「フィッシング対策協議会」のまとめによれば、2025年のフィッシングの報告件数は前年比約4割増の245万4297件で、過去最多となり、個人の不正送金被害の年代別では、20代が22.9%で最も多い一方、50代が18.1%、60代が16.5%と続き、幅広い世代が狙われていることが浮き彫りになりました。警察庁は犯罪組織が生成AIを悪用するなどして偽サイトを作成している可能性があるとみて、注意を呼びかけています。

    ▼ 警察庁 令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
    • サイバー空間の匿名性を悪用したサイバー攻撃は、相対的に露見するリスクが低く、攻撃者側が優位にあることから、その脅威は急速に高まっている。また、厳しく複雑な安全保障環境に直面する中、地政学的緊張を反映したサイバー空間を取り巻く情勢は、一層深刻化しており、重大な事態へと急速に発展していくリスクをはらんでいる
    • 具体的には、サイバー攻撃による機微情報の窃取、他国の選挙への干渉等は、国家を背景とした形でも平素から行われているとされ、さらに、武力攻撃の前から重要インフラの機能停止や破壊のほか、偽情報の拡散等を通じた情報戦が展開されるなどのハイブリッド戦が、今後更に洗練された形で実施される可能性が高いとされている。
    • 加えて、社会全体のデジタル化の進展により、サイバー空間が重要な社会経済活動が営まれる公共空間へと変貌を遂げたことに伴い、匿名・流動型犯罪グループによる特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺、暗号資産を悪用したマネー・ローンダリング等、その匿名性が悪用されているほか、生成AI等の高度な技術を悪用した事案や事業活動に支障をきたすランサムウェア事案も多発している
    • これらは、いずれも我が国の公共の安全と秩序に対する挑戦であり、我が国の国民生活・経済活動、ひいては国家安全保障や危機管理に深刻な影響を及ぼすおそれがあることに鑑みれば、これらの観点も踏まえつつ対処することが必要である。
    • 他方で、サイバー空間の匿名性を悪用した事案を認知した段階においては、当該事案が、国家を背景とする事案か、犯罪組織による金銭目的の事案かなどを認定することは困難で、また、有事の準備行為として国家を背景とするサイバー攻撃が行われたとしても、その段階でその旨を直ちに覚知することも困難である。さらに、有事においても、警察は、国家安全保障や危機管理の観点を踏まえつつ、平時と同様の対処を求められることからすれば、警察は、全国隅々にまで張り巡らされた対処体制による、事案認知、捜査・実態解明、部門を越えた横断的・俯瞰的分析、検挙、パブリック・アトリビューション、さらにはアクセス・無害化措置まで、官民連携・国際連携を推進しつつ、シームレスに対処することが可能な組織であり、かつ、期待されている。
    • 以上の情勢認識を踏まえ、本レポートにおいては、昨今、急速に社会へ浸透しているAIについて特集ⅰとして、また、深刻な社会問題となっているランサムウェアについて特集Ⅱとして、それぞれ巻頭にまとめた上で、警察における取組を記載する第2部において、トピックスとして「国家安全保障におけるサイバー警察の果たす役割」と「サイバー空間における匿名性の打破に向けた警察の取組」を記載することとした。
    • AIをめぐる脅威の情勢と警察の取組
      • 高校生の少年(17歳)が、生成AIを悪用して、複合カフェのアプリのサーバに不正な指令を送信して会員情報を漏洩させるとともに、アプリ機能の一部を停止させ、カフェ運営会社の業務を妨害。令和7年12月、同少年を不正アクセス禁止法違反及び偽計業務妨害罪で逮捕。(警視庁)
      • ICPO・JC3と共催で「AIとデジタル・フォレンジック」をテーマに国際会議を開催し、世界各国から実務家・専門家が参加。AIを悪用したサイバー攻撃やディープフェイク検知技術等について情報共有。
    • ランサムウェアをめぐる脅威の情勢と警察の取組
      • 令和7年におけるランサムウェアの被害報告件数は226件であり、依然として高水準で推移。長期にわたり企業活動が阻害され、国民生活に影響を及ぼした被害も複数発生。
      • ランサムウェアグループ「Phobos(フォボス)」「8Base(エイトベース)」についてEUROPOLやFBI等との国際共同捜査を推進。サイバー特別捜査部は、被疑者3名を特定したほか、暗号化されたデータを復号するツールを開発。
    • 国家安全保障におけるサイバー警察の果たす役割
      • サイバー攻撃は、その性質上、事案発生時点では、その攻撃主体や目的等を即座に判断できるものではないため、全てのサイバー事案が安全保障に直結する事案である可能性も見据えながら、捜査権を有する警察が事案の捜査を行うとともに、実態解明を進めており、国家を背景としたサイバー攻撃への対応等、サイバー空間をめぐる国家安全保障の文脈においても、サイバー警察は重要な役割を果たしている。
      • 令和7年5月、第217回国会において、いわゆる能動的サイバー防御法(ACD法)が成立し、サイバー攻撃による重大な危害を防止するための警察によるアクセス・無害化措置を可能とする規定が新設(令和8年10月1日に施行予定)。
    • サイバー空間の匿名性の打破に向けた取組
      • 匿名・流動型犯罪グループにおいては、犯罪収益を暗号資産に変換し、海外の暗号資産交換業者の口座に移転することで資金の流れを仮装・隠匿するなど、警察による検挙を免れるため、サイバー空間の匿名性を悪用している。
      • 金融機関口座等の売却者等を募り、匿名性の高いSNSを利用して金融機関口座や暗号資産アカウントを不正に調達した上で、複数の特殊詐欺集団らに対して販売していた「道具屋」集団について、情報の集約や分析、隠匿された暗号資産の追跡により、当該犯罪集団の首魁らを特定し、令和7年10月、同男ら7人を詐欺罪及び犯罪収益移転防止法違反で逮捕。(愛知、サイバー特別捜査部等)
    • 高度な技術を悪用したサイバー攻撃の脅威情勢
      • 警察庁が設置したセンサーにおいて検知したぜい弱性探索行為等の不審なアクセス件数は、増加の一途をたどりその大部分の送信元が海外。
      • 令和7年において、国家を背景とするサイバー攻撃グループ(APT攻撃グループ)の関与が疑われるものが複数存在。特に情報窃取を目的としているとみられるサイバー攻撃が確認。
      • 令和6年の年末から令和7年の年始にかけ、重要インフラ事業者等において、DDoS攻撃によるとみられる被害が相次いで発生し、国民の生活に実際の被害。
      • 攻撃に対し事業者が遮断措置を講じた場合でも、状況に応じて手口を変化させ、攻撃を継続する事例を確認。
    • インターネット空間を悪用した犯罪に係る情勢
      • 令和7年におけるフィッシング報告件数は、245万4,297件であり、右肩上がりの増加が継続。インターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生件数は4,747件、被害総額は約103億9,700万円となっており、フィッシングがその手口の約9割。
      • ボイスフィッシングによる法人口座の不正送金被害が令和6年秋から令和7年4月にかけて急増。その後、同年10月まで発生が見られなかったが、11月には被害が再び急増し、被害法人1社で4億円を超える被害も。
      • 証券会社をかたるフィッシングメールの送付や証券口座への不正アクセス・不正取引が発生。令和7年の不正売買金額は約7,408億円、証券会社をかたるフィッシングメール報告件数は31万6,414件となるなど深刻な被害
    • 違法・有害情報に係る情勢
      • インターネット上には、犯罪や事件を誘発するような有害情報や、犯罪実行者募集情報や薬物関連情報等の違法情報が氾濫しており、深刻な治安上の脅威。令和7年のインターネット・ホットラインセンター(IHC)の受理件数のうち、運用ガイドラインに基づいて63万3,036件を分析した結果、違法情報を10万5,553件と判断。また、犯罪実行者募集情報を1万4,241件と判断
    • 検挙に向けた取組
      • サイバー特別捜査部では、重大サイバー事案に、都道府県警察サイバー部門では、高度な専門的知識及び技術を要するサイバー事案に対処。
      • 令和7年におけるサイバー犯罪の検挙件数は1万5,108件に達し過去最高。
      • インド共和国・中央捜査局(CBI)とともに、日本人を標的としたサポート詐欺事件の国際共同捜査を行った結果、令和7年5月、CBIがインド共和国内に所在するインド人被疑者6人を逮捕。令和8年1月、警察庁サイバー捜査課長がCBIを訪問し、捜査協力への感謝状を手交。
      • 令和7年11月、サイバー特別捜査部及び警視庁等の都道府県警察は、証券口座への不正アクセス及び不正取引に関し、中国籍の男(38)らを金融商品取引法違反(相場操縦行為等の禁止)及び不正アクセス禁止法違反で逮捕。
    • 被害の未然防止・拡大防止に向けた取組
      • 令和7年8月、警察庁及び国家サイバー統括室(NCO)は、米国、オーストラリア、ニュージーランド等と共に、中国を背景とするサイバー攻撃グループ「SaltTyphoon」によるサイバー攻撃に関する国際アドバイザリーの共同署名を行い、パブリック・アトリビューションとして、本件アドバイザリーを公表。
      • 安全で安心して利用できるインターネット空間を作るための自主的な防犯活動であるサイバー防犯ボランティアは、全国で322団体、7,633人(令和7年12月末現在)。構成員の内訳として、学生の比率が高くなっており、若い世代が中心となった防犯活動が活性化。
      • 令和7年中は、IHCの運用ガイドラインを改定し、犯罪実行者募集情報やインターネットを利用して国内にある不特定の者に対し違法オンラインギャンブル等に誘導する情報を違法情報に追加するなど、違法・有害情報に関するインフラへの対処を強化。犯罪実行者募集情報に関しては、6,679件の削除依頼に対し、6,351件が削除完了(削除率約95%)。
    • 基盤整備
      • 令和7年4月、サイバー特別捜査部に特別対処課を設置。捜査はもとより、情報の収集、整理及び事案横断的な分析、事案発生の予防及び被害の拡大防止等を行う体制が強化。
      • 警察庁では、令和8年度からサイバー事案対処に専従する技術系職員の採用を予定(サイバー採用)。都道府県警察では、中途採用・特別採用された警察官等約480人がサイバー特別捜査官等として第一線で活躍。
      • 令和8年度当初予算(案)におけるサイバー空間の脅威への対処に係る予算は66億7,900万円。
    • ボイスフィッシングによる不正送金被害
      • 令和6年秋から令和7年4月にかけて、犯罪グループが企業に架電し、ネットバンキングの更新手続等をかたってメールアドレスを聞き出し、フィッシングメールを送付するボイスフィッシング(ビッシング)という手口による法人口座の不正送金被害が急増した。同年5月から10月にかけては被害の発生がみられなかったものの、11月には不正送金被害が再び急増し、地方を拠点とした中小規模の金融機関でも多くの被害が出た。
      • こうしたボイスフィッシングには、発信元番号が国際番号である、自動音声ガイダンスが流れた後に人間の声に切り替わる、通話中にメールアドレスを聴取されリンク付きメールが送られる、といった特徴が見られる。
      • そこで、ボイスフィッシングの被害を防ぐためには、銀行から電話があった場合に、営業店・代表電話に折り返して本物かどうか確認するといった対応や、インターネットバンキング利用時は、銀行公式サイト・アプリからアクセスするといった対応を社内で徹底する必要がある。
    • 証券口座への不正アクセス等の急増及び検挙
      • 令和7年3月から5月にかけて、証券会社をかたるフィッシングメールの送信や証券口座への不正アクセス及び不正取引が急増し、金融庁及びフィッシング対策協議会によれば、令和7年における証券口座への不正アクセス件数は1万7,668件、不正取引件数は9,824件、不正売買金額は約7,408億円、証券会社をかたるフィッシングメール報告件数は31万6,414件となるなど、深刻な被害が生じた。
      • 令和7年11月、サイバー特別捜査部及び警視庁等の都道府県警察は、関係機関の協力を得て、捜査を推進した結果、中国籍の男(38)らを金融商品取引法違反(相場操縦行為等の禁止)及び不正アクセス禁止法違反(不正アクセス行為の禁止)で逮捕した。同男らは、自身が管理する証券口座を用いて相場操縦の対象となる株(以下「対象株」という。)を事前に大量に買い付けた上で、氏名不詳者と共謀の上、他人の証券口座に不正アクセスし、被害口座において保有していた株を売却するなどして資金を確保し、対象株を大量に買い付けることで株価を上昇させた。その後、同男が保有していた対象株を高値で売却の発注をするとともに、被害口座において対象株を買い付けることで取引を成立させ、購入額と売却額の差額を利益として得ていた。
      • 本件を含め、多発した証券口座への不正アクセスや不正取引に対し、サイバー特別捜査部は、証券会社をかたるフィッシングメールやフィッシングサイトに関するデータの解析、暗号資産の送信先アドレスの分析、全国で発生した同事案の情報集約等により、関係都道府県警察による捜査に貢献している。
    • 違法オンラインギャンブル等関連情報に対する取組
      • 警察庁では、令和6年度、オンラインカジノの利用実態やサイトの情報を把握するため、調査研究を行っており、この結果、国内におけるオンラインカジノサイトの利用経験者の推計は約337万人であり、国内における年間賭額の推計は約1兆2,423億円であった。
      • スマートフォン等からアクセスして賭博を行う「無店舗型」のオンラインカジノについては、アクセス数の増加及びこれに伴う依存症への問題が強く指摘されているほか、これを通じた我が国資産の海外流出、マネー・ローンダリングへの利用等が懸念されている。
      • 令和7年6月18日、ギャンブル等依存症対策基本法の一部を改正する法律が成立し、インターネットを利用して国内にある不特定の者に対し違法オンラインギャンブル等に誘導する情報を発信する行為等が禁止されたことから、同年9月25日の施行に合わせて、総務省により「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第26条に関するガイドライン」が改定されるとともに、業界4団体で構成される違法情報等対応連絡会が作成する「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン」が改定された。
      • インターネット・ホットラインセンター(IHC)においても、同日、運用ガイドラインを改定し、違法オンラインギャンブル等関連情報を新たに違法情報と位置付け、インターネット利用者からの通報を受け付けるとともに、警察への通報やサイト管理者等への削除依頼を行うなど、社会問題となっているこれら情報の流通防止に向けた取組を強化している。
    • ウクライナへの大規模なDoS攻撃の観測
      • 以下のグラフは、令和3年(2021年)及び令和4年(2022年)のそれぞれ2月から5月の間において警察庁の設置したセンサーが観測したウクライナに対するDoS攻撃の状況である。
      • 令和3年(2021年)は非常に少ない一方、令和4年(2022年)にあっては、ロシア軍によるウクライナへの侵略が開始される直前の2月16日や侵略を開始した2月24日以降、ウクライナへの大規模なDoS攻撃が観測されるなど、ウクライナ侵略とサイバー攻撃の発生に時間的・地理的な相関が見られる。
      • 実際に、令和4年(2022年)5月、EUやウクライナ等は、ウクライナ侵略の際の約1時間前に、ロシア政府が国際衛星通信へのサイバー攻撃を行い、欧州全域に影響を及ぼした事案が発生したとして、非難声明を発表している。
      • 我が国に対する武力攻撃の前段階において政府機関や重要インフラ事業者等に対するサイバー攻撃が行われ、武力攻撃が生起した後も軍事的・物理的な手段と組み合わせたハイブリッド戦としてサイバー攻撃が継続されることも想定されるところ、警察におけるこのようなサイバー攻撃情勢の把握は国家安全保障上も非常に重要である。
    • サイバー空間の匿名性を悪用した「道具屋」、「相対屋」の検挙
      • 匿名・流動型犯罪グループには、中核的人物の下に構築されたいわゆる「道具屋」、「相対屋(あいたいや)」といった違法なビジネスによって資金を得ている者がおり、警察では、これら犯罪集団を検挙することで、犯罪インフラを解体している。
      • 例えば、「道具屋」については、サイバーパトロールの結果、金融機関口座等の売却者やその仲介者を募り、匿名性の高いSNSを利用して犯罪インフラとなる金融機関口座や暗号資産アカウントを不正に調達した上で、複数の特殊詐欺集団らに対して販売していた犯罪集団の関与が確認され、愛知県警察等の関係道府県警察とサイバー特別捜査部による合同捜査本部が捜査を行った。サイバー特別捜査部においては、都道府県警察やJC3から提供された情報を集約し、横断的・俯瞰的に分析するとともに、隠匿された暗号資産を高度な専門的知識・技術を用いて追跡した結果、当該犯罪集団の首魁の男(32)らを特定し、令和7年10月、同男ら7人を詐欺罪及び犯罪収益移転防止法違反で逮捕した。
      • また、「相対屋」にあっては、広島県警察及びサイバー特別捜査部による合同捜査の結果、2名の男が特殊詐欺事件の被害者から詐取した犯罪収益を含む暗号資産を現金化し、隠匿していたほか、うち1名は、本件詐欺の被害金以外の犯罪収益についても暗号資産と現金との交換を継続して実施していたことが判明したことから、令和7年11月、同男ら2名を組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制に関する法律違反等で逮捕した。本件においては、特殊詐欺の被害金である暗号資産の移動に、匿名性を高める「ミキシングサービス」が利用されていたところ、サイバー特別捜査部の高度な分析により、被疑者名義のアカウントに被害金が流れていることが特定され、事件構図の全容解明につながった。このように、相対屋を経由することで、暗号資産の追跡を困難にするなど、サイバー空間の匿名性をマネー・ローンダリングに悪用している実態が認められる。
    • 少年グループによるeSIM不正取得等事件の検挙
      • SNSで結びついた中高生の少年3人(14歳から16歳)は、不正に取得したeSIMを販売して利益を得ようと考え、令和6年5月から同年8月までの間に、それぞれ、不正に取得した他人のIDとパスワードを使い、電気通信事業者が管理するサーバコンピュータに不正アクセスした上で、通信契約に係る不実の電磁的記録を作成し、eSIMを不正に取得した。令和7年1月から同年2月にかけて、同少年らを不正アクセス禁止法違反及び電子計算機使用詐欺罪等で逮捕した。(警視庁)
      • この事件では、同事業者が2回線以降の追加契約をする場合に、ID・パスワードのみの簡易な本人確認を実施していたことが悪用された。なお、生成AIを悪用した事実も判明している。
      • また、当該手口を模倣し、不正に取得したeSIMを販売して利益を得ようと考え、無職の少年(16歳)と高校生の少年(16歳)2名が、模倣した手口によりeSIMを不正に取得したことを受け、令和7年3月及び8月、同少年ら2人を不正アクセス禁止法違反及び電子計算機使用詐欺罪で逮捕した。(警視庁・神奈川)
      • eSIMを含むデータ通信専用SIMは、携帯電話不正利用防止法上、契約時の本人確認が義務化されておらず、このような悪用事例が後を絶たないため、警察庁から総務省に対して、データ通信専用SIMが詐欺等の犯罪に悪用されている実態について情報提供を行っているほか、政府全体としても「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」(令和7年4月22日犯罪対策閣僚会議決定)において、各種サービスやインフラの不正利用を防止するための取組として、「データ通信専用SIMの契約時における本人確認の義務付け」を盛り込んだところである。これらを踏まえ、政府では、データ通信専用SIMの契約時において本人確認を厳格化することなどを内容とする携帯電話不正利用防止法の改正に向けた検討を行っている
    • 解析能力向上のための資機材の整備
      • 犯人は、犯行に利用していた電磁的記録に暗号化処理を施す、電子機器を破壊するなど、証拠隠滅による捜査妨害を図ることが多い。また、近年、IoT機器等の新たな電子機器やそれに関連するサービスの登場、スマートフォン等のアプリの多様化・複雑化も顕著であることから、警察捜査を支えるためには、データの暗号化や破損、最新の技術に対応した解析能力の向上に取り組む必要がある。
      • 警察庁高度情報技術解析センターでは、高速演算装置及び解析基盤装置を始めとする高度な解析用機器を整備し、暗号により隠ぺいされたデータ、破損した電子機器等の高度な解析に対して、技術支援を行っている。
      • 暗号化されたデータの抽出が検挙につながった事例
        • デザイン業の男(40)らは、令和6年4月から令和7年3月にかけて、虚偽の内容による確定申告を行い、税務署員にその旨誤信させ、口座に還付加算金を振込入金させた。当初、同男は犯行を否認しており、証拠品として押収されたコンピュータ内のデータも暗号化されていたが、警察庁高度情報技術解析センターにおいて当該データの解析を行った結果、当該コンピュータから、虚偽の内容が含まれた確定申告に係る電磁的記録や、犯行に関与した者に関する電磁的記録等を発見した。警察では、当該解析結果等を元に同男を指示役とする匿名・流動型犯罪グループの犯行であることを解明し、令和7年5月までに、同男ら10人を詐欺罪等で逮捕した(高知)。
      • 遠隔支援により暗号化されたデータを復号した事例
        • 令和7年12月、ベトナム国籍の男(50)らによる有印公文書偽造事件に関し、警察庁高度情報技術解析センターは、解析基盤装置を活用することで、同男が使用していたメッセージアプリの暗号化されたデータを遠隔で解析し、これを復号するためのツールを作成した。群馬県情報通信部において当該ツールを使用した結果、犯罪収益の処分状況を裏付ける記録を抽出することができ、事件の真相解明に貢献した。
      • サポート詐欺に対する国際共同捜査
        • 日本警察は、インド共和国・中央捜査局(CBI)と共に、日本人を標的としたサポート詐欺事件の国際共同捜査を行った結果、令和7年5月、CBIがインド共和国内に所在するインド人被疑者6人を逮捕した。
        • 本件は、被疑者グループが生成AIを悪用し、標的の特定やポップアップウィンドウの作成、日本語への翻訳を行うなど、犯行にAIが使用された事案ではあったが、JC3やMicrosoft社による独自の取組に基づく協力に加え、日本警察とCBIとの緊密な連携により被疑者の逮捕に至ったものであり、国際的な官民連携の新たなリーディングケースとなった。
        • また、本件検挙後の令和7年6月中にIPA(独立行政法人情報処理推進機構)に寄せられた「ウイルス検出の偽警告」に関する相談は85件であり、大幅に減少した。
        • 令和8年1月、警察庁サイバー警察局サイバー捜査課長がCBIを訪問し、CBIの次長(サイバー担当)に対して捜査協力への感謝状を手交するとともに、今後の国際連携の更なる強化を確認した。
      • 中国を背景とするSalt Typhoonに関するパブリック・アトリビューション
        • 令和7年8月、警察庁及び国家サイバー統括室(NCO)は、米国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国、チェコ、フィンランド、ドイツ、イタリア、オランダ、ポーランド、及びスペインの関係機関と共に、中国を背景とするサイバー攻撃グループ「Salt Typhoon」によるサイバー攻撃に関する国際アドバイザリー「 Countering Chinese State-Sponsored Actors Compromise of Networks Worldwide to Feed Global Espionage System」の共同署名に加わり、パブリック・アトリビューションとして、本件アドバイザリーを公表した。
        • 警察では、サイバーテロ対策協議会やサイバーインテリジェンス情報共有ネットワークを活用し、Salt Typhoonの手口や侵害情報、対応策について事業者に周知し、注意喚起を行っている。
      • 民間企業等における不正アクセス行為対策の調査結果
        • 警察庁において、無作為に抽出した民間企業や行政機関等に対して不正アクセス行為対策等に関する調査を実施した結果、民間企業等のフィッシング対策として、DMARC導入率は令和6年に大きく増加した。
        • また、民間企業等が過去1年間で受けたサイバー攻撃は、過去10年間で比較するとDDoS攻撃は半減し、マルウェア設置・感染は大幅に減少した。さらに、民間企業等における対応マニュアルや要領の策定状況については、約55%が策定済みで、過去10年で増加傾向であった。
      • 重大サイバー事案捜査における各警察組織の関係
        • 個々のサイバー事案は、発生時点ではその事案を生起した主体やその意図、背景、関連性が明らかでない。そこで、犯罪組織による組織的な犯行や国家を背景とする安全保障に関わるサイバー攻撃等をあぶり出し、的確に対処するには、個々のサイバー事案の捜査を着実に推進してその実態を解明するとともに、捜査により得られた情報等を集約して俯瞰的かつ横断的な分析を行うことが不可欠である。
        • そのため、警察においては、個々のサイバー事案に対して治安責任を有する都道府県警察が一次的に捜査を推進し、被疑者や当該事案に用いられたインフラの特定等を進めるとともに、これらの情報をサイバー特別捜査部に集約し、同部が「情報のハブ」として、俯瞰的・横断的な分析を行うことにより、主体やインフラの共通性等の事案間の関連性を明らかにし、その組織性や国家の関与を解明している。
        • その結果に基づき、外国治安機関等との国際共同捜査を通じた被疑者の特定・検挙、パブリック・アトリビューションの実施、また、今後は令和8年10月1日に施行予定のアクセス・無害化措置に係る権限を適切に行使するなど、犯罪から安全保障に関わる事案までシームレスに対処し、サイバー空間における安全・安心の確保に取り組んでいる。
      • 不正アクセスの踏み台となる不正プログラムの解析
        • 一般家庭で使用されるネットワーク接続機能を有する機器(IoT機器)について、機器の所有者の認識しないところで踏み台として悪用される事案が多発している。情報技術解析部門では、IoT機器やプログラムを解析することで、こうしたサイバー事案の詳細な手口を調査し、被害の未然防止・拡大防止に活用している
        • 令和7年、警察庁情報技術解析課がIoT機器向けの音楽配信アプリの解析を実施したところ、当該アプリには、プロキシ機能等が組み込まれていることが判明したため、全国の警察にその旨周知した。この周知を踏まえ、長野県警察が、捜査中の事件に関連してIoT機器と当該アプリを確認した結果、実際に踏み台として悪用されていたことが判明した。そこで、アプリストアに対応を要請したところ、当該アプリの配信が停止するに至った。

    本コラムで継続手に動向を注視している証券口座乗っ取り事件について、事件に関与したとして、金融商品取引法違反(相場操縦)と不正アクセス禁止法違反の罪に問われた林欣海被告に対し、東京地裁は、懲役3年執行猶予5年、罰金400万円、追徴金約7800万円(求刑懲役3年6カ月、罰金400万円、追徴金約7800万円)の判決を言い渡しています。判決によれば、林被告は2025年3月に何者かと共謀し、他人名義の10口座に不正アクセスしたうえ、この他人名義の口座と林被告が代表を務める「L&H」名義の口座を使い、東証スタンダード市場に上場する1社の株の売買を繰り返す不正な取引をしたとされます。裁判長は判決で、林被告について「全体として犯罪組織の指示に従っていた側面は否定しがたい」と指摘、ただ、1億円の資金を投じており「共犯者らが乗っ取ったアカウントを用いたこととあわせ、共犯者と共に一連の取引を行って相場を操縦しており、被告の果たした役割も大きい」と批判しました。証券口座が何者かに乗っ取られ、株が勝手に売り買いされる被害は、2025年春ごろに急増、金融庁が把握する不正取引件数は、2025年の1年間で計9835件、不正取引額は約7409億円に達しました。事件では林被告が2025年12月に初めて起訴され、その後、警視庁などが証券口座や銀行口座を不正に開設するなどしたとして、20~40代の男女5人を詐欺などの疑いで摘発、これらの口座が株の不正取引などに使われたといいますが、指示役の摘発には至っていません。産経新聞は「一連の口座乗っ取り・相場操縦事件は周到な組織犯罪なのである。首謀グループ(黒幕)からの指示により、既に乗っ取られた口座にアクセスして特定銘柄の株を売買した被告1人を裁けば終わりという話ではない」、「犯行は、全体を設計して利益を回収・配分する「首謀層」、実行役をリクルートして指示する「中間層」、実際に口座に入り株を売買する「下層」―と複数層でなされたとみられる。被告は「下層」の実行役に過ぎず、「首謀層」はおろか「中間層」すら見えていない。特殊詐欺と同様の構図が見て取れ、金融犯罪も闇バイト化している実態がうかがえる。使い捨ての構造が固定化すれば犯罪組織の再生は容易になり、被害は拡大の一途をたどることになろう。治安上の危機である。犯行は国境を越えてなされる。海外のサーバや通信手段を経由し、資金は暗号資産で洗浄される。突き上げは容易ではない。それでも司直が真に裁くべきは、匿名に隠れて利益を貪る首謀者だ。国家としての対処能力が求められる。国際捜査の制度整備などで捜査に武器を与え、首謀者を追い詰めたいと指摘していますが、とりわけ「金融犯罪も闇バイト化している実態がうかがえる。使い捨ての構造が固定化すれば犯罪組織の再生は容易になり、被害は拡大の一途をたどることになろう」との指摘は正に正鵠を射るものといえます。

    通販サイト「楽天市場」のアカウントが乗っ取られ、勝手に商品を注文される被害が相次いでおり、警視庁は、2025年7月以降、被害相談が約400件に上ると発表しました。中国国内のショップが別の通販サイトで注文を受け、楽天で不正購入した同じ商品を発送している疑いがあるといいます。具体的な想定される手口は、「犯罪者側は、「店舗」から通販サイトに相場よりも1~2割ほど安く「架空出品」した上で、注文を受ける。そして乗っ取った楽天アカウントを使い、通販サイトで注文を受けたものと同一の商品を購入。商品の配送先は注文した人の住所にする。楽天市場で購入する際には、不正に入手した他人名義のクレジットカード情報を使って決済していた。そのため、架空出品した「商品」の代金がそっくり犯罪グループの利益になっている」というものです。注文した人には商品がちゃんと届き、アカウントを乗っ取られたユーザーとは別名義のクレカが使われているため被害は表面化しにくいとみられます。「アマゾン」や「Temu」、「SHEIN」といった通販サイトでも、注文した家具や日用品などが楽天市場経由で配送される事例が確認されています。警察庁は、IDやパスワードを盗み取る「フィッシング」などで漏えいした個人情報が悪用されているとみて、楽天市場での購入履歴をこまめにチェックするなどの対策を呼びかけています。一方、楽天は取材に「個別の事案について詳細な回答は控える」とした上で、「不正ログインや不審な決済の監視、店への注意喚起やキャンセルの処理、警察など公的機関との連携など不正対策の強化に継続的に取り組んでいる」とし、ユーザーのアカウントの不正利用については、「メールアドレスやパスワードが当社から漏れた事実は確認されていない」としています。

    経済産業書が「郵便物受取代行サービス事業者に対し、AML/CFTの不備(犯収法違反)があったとして行政処分を実施しています。

    経済産業省 犯罪による収益の移転防止に関する法律違反の特定事業者(郵便物受取サービス業者)に対する行政処分を実施しました
    • 経済産業省は、郵便物受取サービス業(私設私書箱業)を営む株式会社ヒルトップ・マネジメントに対し、犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づき、取引時確認義務、確認記録の作成義務及び疑わしい取引の届出義務の違反を是正するため必要な措置をとるべきことを命じました。
    • 犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号。以下「犯罪収益移転防止法」という。)は、特定事業者に対し、一定の取引について顧客等の取引時確認を行う義務等を課しており、郵便物受取サービス業者は、同法の特定事業者として規定されています。
      1. 特定事業者の概要
        1. 名称:株式会社ヒルトップ・マネジメント(法人番号8010501030388)
        2. 店舗名:上野私設私書箱センターSBC
        3. 代表者:大谷 明
        4. 所在地:東京都台東区上野三丁目20番8号小島ビル401
      2. 事案の経緯
        • 犯罪収益移転防止法に定める義務に違反していることが認められたとして、国家公安委員会から経済産業大臣に対して同法に基づく意見陳述が行われました。
        • これを踏まえ、経済産業省が同社に対して立入検査等を行った結果、犯罪収益移転防止法違反が認められたため、同社への処分を行うこととしました。
      3. 違反行為の内容
        • 経済産業省による立入検査等の結果、同社には、犯罪収益移転防止法に定める義務について以下の違反行為が認められました。
          1. 取引時確認
            • 同社は、顧客との間で締結した郵便物受取サービスに係る契約について、犯罪収益移転防止法第4条第1項の規定に基づく確認方法により、顧客の本人特定事項を確認していない。
          2. 確認記録の作成
            • 同社は、犯罪収益移転防止法第6条第1項の規定に基づく確認記録を作成していない。
          3. 疑わしい取引の届出
            • 同社は、犯罪収益移転防止法第8条第1項に規定する疑いがあるかどうかを判断していない。
      4. 命令の内容
        • 3.の違反行為を是正するため、令和8年4月2日(木曜日)付けで同社に対し、犯罪収益移転防止法第18条の規定に基づき、以下の必要な措置をとるべきことを命じました。
          1. 犯罪収益移転防止法の各違反行為について、以下の措置を講じること。
            • 犯罪収益移転防止法第4条第1項の規定に違反する行為について、同項に規定する取引時確認を行うこと。
            • 犯罪収益移転防止法第6条第1項の規定に違反する行為について、同項に規定する確認記録を作成すること。
            • 犯罪収益移転防止法第8条第1項に規定に違反する行為について、同項に規定する疑いがあるかどうかを判断すること。当該疑いがあると認められる場合においては、同項に基づき届出を行うこと。
          2. 犯罪収益移転防止法の理解及び遵守を徹底するとともに、上記(1)の違反行為の発生原因について調査分析の上検証し、再発防止策を策定すること。当該再発防止策の一環として、上記(1)以外の行為について、以下の措置を講じること。
            • 犯罪収益移転防止法第4条第1項に規定する取引時確認を行うこと。
            • 犯罪収益移転防止法第4条第1項に規定する取引時確認を行った場合には、同法第6条第1項に規定する確認記録を作成すること。
            • 犯罪収益移転防止法第8条第1項に規定する疑いがあるかどうかを判断すること。当該疑いがあると認められる場合においては、同項に基づき届出を行うこと。
          3. 令和8年5月7日(木曜日)までに、上記(1)及び(2)の措置を講じた上で経済産業大臣宛てに文書(当該措置を証明するに足りる証票を添付すること。)により報告すること。

    (2)特殊詐欺を巡る動向

    警察庁は、SNSを介した投資詐欺と、恋愛感情に乗じたロマンス詐欺について、2026年4月1日から統計上の分類を変更し、「特殊詐欺」として計上すると発表しました。これまでは特殊詐欺と分けていましたが、まとめることで深刻化する被害の全体像を的確に把握する狙いがあるといいます。特殊詐欺は、電話などで相手を信じ込ませて金銭をだまし取る詐欺の総称で、親族らをかたる「オレオレ詐欺」などの手口があり、2025年の被害額(暫定値)は過去最悪の約1414億2千万円でした。SNS型投資詐欺は、著名な実業家らの写真を悪用するなどしたSNS上のうその投資広告で詐取する手口で、ロマンス詐欺は、マッチングアプリなどを通じて知り合った人に恋愛感情を抱かせて詐取する手法で、2025年の両SNS型詐欺の被害額(暫定値)は計1827億円に上りました。

    カンボジアなど東南アジアを拠点とするオンライン詐欺の被害が深刻化しています。米平和研究所の2024年の報告では、カンボジアを拠点とする架空投資やロマンス詐欺などによる不正収益は年125億ドル(約2兆円)超とされ、被害は欧米やアジア一帯に及び、カンボジア政府は各国の圧力を受けていますが、カンボジアの国民議会は、特殊詐欺に加担した場合に拘禁刑や罰金を科す「特殊詐欺対策法案」を全会一致で可決しました。報道によれば、法案は、オンライン詐欺拠点を運営した場合に5~10年の拘禁刑と5億~10億リエル(約2000万~4000万円)の罰金を科すと規定、暴力や監禁を伴った場合は10~20年の拘禁刑に加えて最大20億リエル(約8000万円)の罰金刑を、死亡させた場合は無期または15~30年の拘禁刑を科すというものです。新法は上院の審査を経て公布される見込みで、ネート・ピアックトラー情報相は、新法の意義について「カンボジアが犯罪者の楽園ではないことを示す上で、最も重要な法的手段だ」と声明で述べていますが、詐欺組織との癒着が指摘される政権の本気度が問われているといえます。東南アジアを拠点とする特殊詐欺に対する国際的な圧力を受け、カンボジア政府は「4月までに特殊詐欺を根絶させる」との目標を掲げ、取り締まりを強化しています。カンボジア当局は、2025年6月から2026年2月中旬までに、約200カ所の詐欺拠点を閉鎖し、8000人以上を国外退去させたほか、21万人以上の外国人が自発的に国外退去したと説明しています。また、詐欺への関与が疑われる外国人の出国者数は、2026年だけで10万人を超えました。

    タイ軍は、カンボジア国境に接する東北部スリン県チョンジョム地域にある「特殊詐欺村」を報道陣に公開、約2万人が従事していたとみられる施設には、偽の警察・銀行のほか、多言語マニュアルや日本人の個人情報、やりとりの記録もあり、東南アジアで摘発が相次ぐ特殊詐欺は「産業規模」に拡大しているとも指摘され、巧妙で手の込んだやり口の一端が垣間見えたと報じられています(2026年3月14日付時事通信)。80万平方メートルの敷地には約160棟の建物が林立、攻撃前に多くの人がバスで立ち去る様子が目撃されたといいます。建物内には、中国やオーストラリア、ブラジルなどの警察署や銀行を模した部屋が設けられ、偽の警察官の制服がラックに掛けられており、音声だけでなく、ビデオ通話も悪用していたとみられます。机が置かれた部屋には、被害者とのやりとりを想定した多言語のマニュアルや電話番号が記された書類が残され、廊下には防音仕様の電話ボックスが並び、看板や建物内のポスターは中国語で書かれているものが多いといいます。特殊詐欺を巡っては、自国への「かけ子」として、世界各地から若者らがだまされたり拉致されたりして集められ、強制的に加担させられるケースが相次いでおり、2026年だけでカンボジア、インドネシア、ベトナム、フィリピンで日本人計35人が拘束されました。壁の貼り紙には、許可なく持ち場を離れたり、違反したりした際の体罰や罰金が明記され、統制の厳しさがうかがえるといい、電気ショックを与える器具やむちが置かれた「拷問部屋」も確認されたといいます。ある部屋の机には、日本人の個人情報が記された書類が散乱、70枚以上あり、氏名、年齢、電話番号、家族構成のほか、銀行口座の残高や投資信託・証券の保有状況まで根掘り葉掘り聞き出した様子がうかがえ、住所も全国各地に及び、広範囲に電話をかけていた形跡があったほか、警察官の氏名として「松岡裕介」と記され、備考欄には「最初からうたがっていた」「全く理解できてないっていわれて死亡」「第三者が介入したため死亡」など、やりとりを記した紙もあり、近くには、個人情報の漏えいや電気料金滞納、捜査を名目に話を切り出す想定問答集も残されていました。タイ国防省の報道官は記者団に、「タイだけの問題ではなく、国際社会が協力して取り組む必要がある」と強調しています。

    ニセ警察官による詐欺被害が相次いでいます。警察官への信頼を逆手に取り、被害者に「犯罪に関与している」などと不安をあおる一方、「あなたへの疑いを晴らす」と親身さを装い心理を操る手口は巧妙そのもので、詐欺被害を指摘した本物の警察官を「スパイ」と思い込む被害者さえいます。高齢者だけでなく若者も狙われており、警察当局は「犯人側との接触を絶つことが重要だ」と警鐘を鳴らしています。報道によれば、ある高齢女性に警察官を名乗る男から電話があり、女性は疑いを晴らすためとして金銭を要求され金融機関で高額を出金しようとしたところ、職員が不審に思って府警に通報、駆けつけた警察官が女性に接触、警察官は親族にも協力をあおぎ、女性の自宅で説得を試みたものの、その最中にも女性のスマホには男から着信があり、警察官が通話をスピーカー機能に切り替えて男に警告、それでも女性は腑に落ちない様子で男を信用しきっていたといい、警察官はその後も粘り強く女性と面談を重ね、警察署で「偽の警察署はあり得ません。私たちが本物の警察官です」と説得まで行い、女性が詐欺の手口を理解したのは警察官が説得を始めてから約1カ月後だったという事例がありました。また、詐欺犯がスマホのビデオ通話で被害者に偽の警察手帳や制服を示した事例では、詐欺犯から「府警の中にもスパイがいる。信用しないでください」などといわれ、疑心暗鬼に陥っていたといいます。こうしたニセ警察詐欺の被害は全国で後を絶たず、2025年の認知件数は1万936件で特殊詐欺全体の約4割、被害額は約985億円と全体の約7割を占めました。年代別の被害件数では30代が2221件(20.3%)と最多となり、高齢者が狙われやすいオレオレ詐欺などとは異なり、幅広い世代が標的となっています。さらに、被害者が周囲に相談できない状況をつくりだすため、被害が長期化。高額になることもあり、1億円以上の被害も多数発生しています。被害が増加する要因について、日本大危機管理学部の木村敦教授(社会心理学)は「犯人側が金銭を要求する以前に相手と入念に信頼関係を構築している」と分析、犯行グループは「逮捕状が出ている」などとだまして相手に動揺や不安を与えた上で、状況を打開するため親身になり対応を考えるふりをするため「被害者は『この人の言う通りにすれば大丈夫』との考えに陥り、詐欺である可能性に注意を向けづらくなる」と指摘しています。特殊詐欺の被害防止に向け、2026年3月からは民間企業が開発した警察庁推奨の詐欺対策アプリが公開され、詐欺に使われやすい国際電話の番号や、過去に犯行で利用された番号からの着信をブロックする機能があり、警察当局は「アプリなどを利用して犯人側と接触しないようにしてほしい」と注意を呼びかけています。

    「高知県警から警視庁本部に捜査の協力要請を受けて連絡させていただきました」と警視庁捜査2課の警察官をかたる男から、勤務中の岩手県警久慈警察署の男性署員のスマホに電話があり、機転を利かせた署員は上司と連携して通話を録音、生々しいやりとりを動画投稿サイトユーチューブで公開し、詐欺被害への注意を呼びかけています。男は署員に対し、「現在、捜査対象者に名前が挙がっている」「本来であれば高知県警本部まで身分証を持ってきてほしいが、緊急なので警視庁での電話対応に切り替えた」、「ネットショッピングはしていないか」「顔写真付きの金融機関のアプリは入っていないか」と尋ね、個人情報が漏えいしていると説明、その上で、ある女性をはじめとする詐欺グループの事件捜査で署員名義の銀行のカードが見つかったと話し、「疑いがかかっている」と不安をあおり、その後、男は女性と関係があるかを尋ねました。そこで署員は「あるかもしれない」と回答したところ、男にとっては想定外の答えだったと思われ、しばらく男は絶句、男がしどろもどろになったところで、すかさず署員が「近くにいるので警視庁に出頭する」「今から伺う。高知県警本部ですね」「飛行機で行く」と続けると、男は「いいかげんにして」「もう失礼する」と電話を切ったといいます。電話は国際電話であることを示す「+」で始まる発信番号で、「国際電話は詐欺の可能性が高い。固定電話では国際電話の利用休止を申し込むなどして、対策を徹底してほしい」、「ビデオ通話で事情聴取したり、警察手帳や逮捕状を示したりすることもない」、「1人で判断せず、不審に感じたら家族や警察に相談してほしい」などと注意喚起しています。なお、前述したとおり、警視庁の匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)対策本部は、インターネット上に公式サイトを新設しましたが、そこではトクリュウの特徴や資金獲得活動の状況、暴力団との違いを解説するほか、詐欺の被害者や、「かけ子」となった闇バイト応募者のコメントなどを紹介、警察官をかたる特殊詐欺電話の実際の音声を、フルバージョンで公開しています。

    熊本県警は、同県天草市の会社が、パソコン画面にウイルスに感染したとの警告を表示させ、金銭をだまし取る「サポート詐欺」で、約1億円の被害に遭ったと発表しました。60代の女性事務員が使っていたパソコンに「ウイルス感染」との警告が表示されたため、画面に記載された電話番号に連絡、電話先の人物の指示に従っているうちに、会社の預金口座から10回にわたり計約1億円が送金されたといい、県警はパソコンが遠隔操作された可能性も含め、詳細を調べています。サポート詐欺については、2025年、インドで日本を狙った大規模なサポート詐欺グループが摘発されましたが、それも氷山の一角だといいます。情報処理推進機構(IPA)の担当者は「サポート詐欺の対策で必要なのは偽の警告画面を何もせずに閉じるだけ。画面に表示された連絡先に連絡してはいけません」と述べています。IPAによればサポート詐欺の相談件数は2022年度の2749件から2023年度は4521件に急増、2024年度も4490件に上り、2025年5月には警察庁がインド当局と連携し、日本向けにサポート詐欺を働いてきた現地グループの摘発に成功し一時的に相談件数は減ったものの、9月以降は再び急増、2025年度は3月18日時点で3427件に達していると報じられています。代表的な手口は、パソコンがコンピューターウイルスに感染したという偽の警告画面と「サポート」を名乗る電話番号がディスプレーいっぱいに表示され、慌ててこの「サポート」に連絡すると、実際には感染していないのにウイルス除去などの名目で数万円程度のサポート費用を請求されるというものですが、サポートとされる電話番号へ連絡したところ、パソコンを遠隔操作ができるツールをダウンロードするよう指示され、促されるままツールを入れ、さらにインターネットバンキング(IB)のログインIDとパスワードを入力したところ、この情報が盗まれ、IBから数億円もの金を引き出された深刻なケースもあります。IPAの担当者は「正規の警告で電話番号が表記されことはまずありません。警告に電話番号の記載があった場合、詐欺の可能性が高い」といい、偽の警告画面が表示されても慌てる必要はなく、パソコンの「ESC」ボタンを長押ししながらブラウザの閉じるボタン、またはタブの閉じるボタンを押せば簡単に消すことができるといいます。最近は誰もが訪れるような有名サイトに、サポート詐欺に誘導する広告が掲載されているなど手口は巧妙化しており、犯罪の手口を知り、慌てず冷静に対処することが自己防衛の第一歩といえます。なお、就職や進学でパソコン利用者が増えるためか、4月には「サポート詐欺」と呼ばれる犯罪の被害や相談が急増することも知り、注意喚起と対策の周知徹底を行っておく必要あります

    有名人の偽画像を使った詐欺広告がSNSなどで横行していることを受け、市民から不審な広告についての通報を受け付け、どのような詐欺広告が出回っているかを「見える化」するウェブサイトの運用が始まりました。デジタル技術を活用して膨大で多様な市民の声を政策立案に生かすことをめざす団体「デジタル民主主義2030(DD2030)」が運用、サイトでは、通報があった疑わしい広告の画面をトップページに表示、そのうえで、広告に使われている表現などをチェック、有名人の画像が使われている場合は日頃の言動に照らして不自然な点はないかなどを調べ、判定結果を公開、こうした通報データを蓄積して、どのプラットフォームにどのくらい出回っているかが分かるようにするといいます。警察庁によれば」、2025年のSNS型投資詐欺の認知件数は9538件、被害額は1274億7千万円に達し、いずれも前年から増加しました。有名人の画像や動画を無断で使用した広告も多数確認されていますが、プラットフォーム事業者の対策や政府の対応が、被害拡大に追いついていない状況にあります。台湾では通報サイトを運用して、市民が熟議を進めたところ、85%が事業者への規制強化に賛成、この結果をもとに政府が広告審査を強化したといいます。

    特殊詐欺の「受け子」をしたとして詐欺未遂罪に問われたマレーシア国籍の被告に対し、名古屋地裁は、拘禁刑3年、執行猶予5年(求刑・拘禁刑3年)の判決を言い渡しました。判決によれば、被告は別の人物らと共謀して2025年12月、投資会社職員をかたって名古屋市の女性から保証金名目で現金約820万円をだまし取ろうとしたといいます。裁判官は、「観光しながら楽に稼げるという安易な動機から別の人物の指示に従って犯行に加担したことは厳しい非難に値する」と述べています。一方、被害者への謝罪と反省の態度を示していることなどから、執行猶予が相当と判断しています。最近、海外で闇バイトの募集を行い、日本への観光客を装って「受け子」などをさせ、すぐに出国させる「ヒットアンドアウェー型の手口」が横行しており、注意が必要な状況です。

    令和8年2月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について公表されていますので、以下、紹介します。前述したとおり、被害の全体像や近年急増しているニセ警察詐欺の現状と対策をより分かりやすくするため、「被害が急増している「ニセ警察詐欺」を独立した手口として位置付け」、「SNS型投資・ロマンス詐欺を特殊詐欺の一手口として位置付け」ました。

    ▼ 警察庁 特殊詐欺の認知・検挙状況等について
    ▼ 令和8年2月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)
    • 特殊詐欺全体について、令和8年2月末における認知件数は6,851件(前年同期比+1,602件、+30.5%)、被害額は593.8億円(+269.0億円、+82.8%)、検挙件数は1,134件(+227件、+25.0%)、検挙人員は424人(+84人、+24.7%)
    • SNS型投資詐欺の認知件数は2,087件(+1,395件、+201.6%)、被害額は289.3億円(+214.4億円、+286.4%)、検挙件数は87件(+61件、+234.6%)、検挙人員は63人(+53人、+530.0%)
    • SNS型ロマンス詐欺の認知件数は903件(+186件、+25.9%)、被害額は89.5億円(+10.5億円、+13.2%)、検挙件数は37件(+15件、+68.2%)、検挙人員は27人(+13人、+92.9%)
    • ニセ警察詐欺の認知件数は1,387件(+348件、+33.5%)、被害額は135.3億円(+29.0億円、+27.3%)、検挙件数は170件、検挙人員は70人
    • オレオレ詐欺の認知件数は456件(▲79件、▲14.8%)、被害額は19.0億円(▲1.7億円、▲8.2%)、検挙件数は299件(▲3件、▲1.0%)、検挙人員は124人(▲20人、▲13.9%)
    • 預貯金詐欺の認知件数は148件(▲160件、▲51.9%)、被害額は1.5億円(▲1.2億円、▲42.9%)、検挙件数は153件(▲42件、▲21.5%)、検挙人員は41人(▲6人、▲12.8%)
    • 架空料金請求詐欺の認知件数は925件(▲133件、▲12.6%)、被害額は30.1億円(+5.6億円、+22.9%)、検挙件数は53件(▲11件、▲17.2%)、検挙人員は25人(▲11人、▲30.6%)
    • 還付金詐欺の認知件数は335件(▲198件、▲37.1%)、被害額は7.1億円(▲2.4億円、▲25.4%)、検挙件数は184件(+81件、+78.6%)、検挙人員は30人(+7人、+30.4%)
    • 融資保証金詐欺の認知件数は42件(▲27件、▲39.1%)、被害額は0.3億円(▲0.7億円、▲69.2%)、検挙件数は8件(+1件、+14.3%)、検挙人員は4人(+2人、+100.0%)
    • 金融商品詐欺の認知件数は56件(+34件、+154.5%)、被害額は4.8億円(+2.8億円、+140.0%)、検挙件数は0件(▲7、▲100.0%)、検挙人員は0人(▲6人、▲100.0%)
    • ギャンブル詐欺の認知件数は9件(+2件、+28.6%)、被害額は0.4億円(+0.4億円、+2,360.3%)、検挙件数は4件(+2件、+100.0%)、検挙人員は1人(+1人)
    • 交際あっせん詐欺の認知件数は100件(+49件、+96.1%)、被害額は3.4億円(+2.4億円、+247.5%)、検挙件数は3件(+3件)、検挙人員は3人(+3人)
    • キャッシュカード詐欺盗の認知件数は228件(+69件、+43.4%)、被害額は2.3億円(+0.4億円、+19.8%)124-50-28.731-26-45.6
    • その他の特殊詐欺の認知件数は175件(+116件、+196.6%)、被害額は10.8億円(+9.4億円、+701.8%)、検挙件数は12件(+7件、+140.0%)、検挙人員は5人(+4人、+400.0%)
    • 主な被害金等交付形態別認知件数について、振込型は4,044件、うちネットバンキングは2,272件(56.2%)
    • 主な被害金等交付形態別被害額について、振込型は370.8億円、うちネットバンキングは274.3億円(74.0%)

    最近の特殊詐欺等を巡る報道からいくつか紹介します。報道自体はこれ以上されていますが、被害の大きい事件を中心に取り上げます。

    • 島根県警は、県東部の70代男性が、「SNS型投資・ロマンス詐欺」で計3億2448万円相当の金の延べ棒21本と金貨16枚、現金約2300万円をだまし取られる被害に遭ったと発表しています。男性は2025年12月上旬頃、インターネット広告をきっかけに、「佐藤」という女性の名前を名乗る人物とLINEでやりとりを始め、好意を抱いたといい、AIシステムを使用した投資を勧められ、2026年1月、指定の口座に約100万円を振り込んだところ、投資用のアプリには利益が出ているように表示されたといいます。その後、この人物から「金を投資資金に充てることができる」などと言われ、信用した男性は担当者を名乗る別の人物に金の延べ棒を渡したところ、アプリ上では総資産が約30億円と表示され、「投資で得た利益を現金化するにはサービス料を支払う必要がある」などと言われ、さらに金の延べ棒や金貨、現金を渡したといいます。男性が、利益が支払われないことを不審に思い、同3月に最寄りの警察署に相談して被害が判明したものです。
    • 宮崎県警は、県内の80代男性がSNSを通じた特殊詐欺で、計2億2千万円をだまし取られたと発表しています。特殊詐欺の被害としては県内最高額だといいます。県警生活安全少年課によれば、男性は2025年10月、LINEで投資に関する広告を見つけ、「アナリスト」を名乗る女とやりとりを始め、「100万円の資金で50万円から150万円の利益が見込まれる」と言われ、指示に従って投資アプリに登録、2025年12月から2026年1月にかけて指定された口座に計10回現金を振り込んだといいます。男性は「出金には追加投資が必要」「保証金が必要」などと入金を迫られたうえ、「親の緊急手術のためお金を振り込んで欲しい」と言われたことを不審に思い、2026年1月に県警に相談し、特殊詐欺の被害が判明したものです。
    • 石川県警は、金沢市の70代女性がSNSを通じて投資話を持ちかけられ、現金計約2億400万円をだまし取られたと発表しています。同県内のSNS型投資詐欺の被害では過去最高額だといいます。女性は2025年9月、SNSで知り合った複数の相手とメッセージのやりとりをする中で株式投資を勧められ、同10~12月に資金などの名目で、27回にわたり指定された口座に送金したといいます。投資による利益を受け取ろうとインターネット銀行の口座を作ろうとした際に詐欺の可能性を指摘され、県警に被害を届けたものです。
    • 岐阜県警岐阜中署は、岐阜市の60代男性が、SNSで知り合った人から金の延べ棒を含む1億円相当の金品をだまし取られる投資詐欺があったと発表しています。男性は2025年11月、ネット掲示板で「株のいい取引がある」というコメントを見つけ、サイトにアクセス、LINEのグループトークへ誘導され、証券会社職員を装った男らから「あなたが特別に参加できる投資の話がある」と言われ、指示されたアプリをインストール、投資資金として2026年1月~3月、2回にわたり計400万円を振り込んだほか、自宅で現金4600万円や、時価5843万円相当の金とプラチナの延べ棒を手渡したものです

    本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニや金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。一方、インターネットバンキング(IB)で自己完結して被害にあうケースが増えており、コンビニや金融機関によって被害を未然に防止できる状況は少なくなりつつある点は、今後の大きな課題だと思います。直近では、会社員のリスクセンスと勇気が被害を防いだ事例がありました。大阪市北区の会社員、山口さんは、仕事帰りにコンビニに立ち寄り、会計中、隣のレジに目をやると、計16万円分に相当する十数枚のプリペイドカードがあり、「ゲームの課金でもするのかな」と思ったが、買おうとしていたのは80代の女性で、商品と購入者のギャップから詐欺を疑い、周囲に人がいる状況で声を掛けると女性に恥をかかせてしまうかもしれないとおもんぱかり、店先で女性が出てくるのを待ち、声をかけたといいます。女性は店員からも詐欺の可能性を指摘されたものの、そのまま大量のプリペイドカードを購入、山口さんは「どうみても詐欺だと思いますよ」と説得を試みるも、女性は「詐欺ではないです。大丈夫です」と聞き入れる様子はありませんでした。ただ経緯を聞き出すと、パソコン画面にウイルス感染の警告が表れ、表示された電話番号にかけるとプリペイドカードを購入するよう指示を受けたとのことで、「サポート詐欺」と呼ばれる手口で注意を呼び掛けるサイトをスマホで見せると、女性はようやく被害に遭っていることに気付いたといいます。山口さんは、大阪府警福島署に連絡、未使用のプリペイドカードは返金され、女性から感謝の言葉を伝えられたといいます。詐欺被害を未然に防いだ一連の行動に警察書から感謝状が贈呈されました。

    奈良県警は、有識者らの心理学などの知見を生かした防犯対策を検討する「奈良防犯心理研究会」を発足させました。2026年4月以降に初会合を開き、近年被害が目立つ「特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺」を令和8年度のテーマとして数カ月に1回集まって議論し、新たな防犯対策を打ち出すこととしています。同研究会の委員には、奈良大や奈良女子大、帝塚山大、滋賀大、大阪教育大の3府県5大学の教授・准教授8人が委嘱され、奈良市の県警本部で開かれた委嘱式で、県警の宮西本部長は、スマホの普及などを背景にした犯罪情勢の変化を挙げ、「心理学に詳しい先生方と協働し、犯罪抑止の高度化を進めたい」と述べています。同研究会の座長に就いた奈良大の村上史朗教授(社会心理学)は「特殊詐欺などの被害は心理的な要因が大きい。何らかのお役に立ちたい」と抱負を語りました。県警や委員らによれば、警察本部と大学研究者らがチームを組み、防犯対策を考える定期的な集まりは、福岡や大阪、高知の各府県警でも実施されているといいます。

    (3)薬物を巡る動向

    冒頭で取り上げた警察庁「令和7年の組織犯罪の情勢」によれば、2025年の大麻事件の摘発者数は6832人(前年比754人増)で過去最多となりました。20代以下が7割以上を占め、若年層への蔓延の深刻化が顕著であり、入手ルートがSNSなどに広がっていることが一因とみられています。大麻事件の摘発者のうち、年代別では20代が3633人(同283人増)で最多、次いで20歳未満が1373人(同245人増)で中学生28人、高校生315人で、いずれも過去10年で大幅に増加しています(高校生は10年前の9.5倍に、大学生も10年前の6.4倍になりました。なお、初犯者が多いのが特徴です)。警察庁の楠長官は「極めて憂慮すべき状況だ。若年層への啓発、インターネット上の違法・有害情報の排除とともに、犯罪組織が深く関与する実態を踏まえ、摘発を推進する」と述べています。違反別で最も多いのは「所持」の5354人ですが、2024年12月施行の改正麻薬取締法で使用が規制されたことから、2025年は700人が摘発されました。警察は2025年11~12月、大麻に関する同法違反(所持または使用)容疑で摘発した1006人に調査を実施したところ、20代以下の4割以上がネットを通じて売人とつながっており、多くはXなどのSNSで知り合い、秘匿性の高い通信アプリでやりとりし、入手しているとみられることがわかりました。また、大麻に対する危険性を認識しているかどうかについては「ない」との回答は約54%にも上ったほか、使用の動機は「好奇心・興味本位」が半数を占めました。また、大阪府警少年育成室は対策のため、2020~24年に摘発・補導した19歳以下の836人の供述を分析したところ、使用のきっかけについては、約6割にあたる504人が「友人や先輩、交際相手からの誘い」としており、「ネット情報」(134人)、「音楽・芸能の影響」(101人)と続いたといいます。府警は、分析結果を踏まえ、生徒や学生を対象とした薬物乱用防止教室で、実際に大麻の使用を勧誘される場面を体験してもらう「ロールプレイング」を積極的に活用し始めているといいます。誘われた場合の断り方について「要らない」と明言するだけでなく、「用事がある」とやんわりと断り、その場を逃れる対処法も紹介するなどしています。さらに講座では「海外では合法」「危険性はない」などの頻繁に用いられる決まり文句についても解説、警察官が18歳未満の使用が無条件に認められている国がないことや、運動機能や感情の抑制に悪影響をもたらす危険性も説明しています。本コラムで以前から指摘しているとおり、SNSで拡散される「大麻は安全」という情報は誤った認識であり、成長期にある若者の脳や心の健康に悪影響を与えることをもっと周知・啓発していく必要があります。なお、薬物事件全体の摘発者は1万4574人(同1112人増)で、そのうち「暴力団構成員等」は2124人(14.6%)、外国人は1502人(10.3%)、トクリュウとみられるメンバーが1887人(12.9%)となり、薬物が犯罪組織の資金獲得ツールとして機能している実態がうかがえます。大麻以外の摘発者は、覚せい剤が6395人で、前年より271人増加しましたが、1997年の1万9722人をピークに近年は減少傾向にあります(大麻と異なり、40~50代が半数超を占め、再犯者が多くなっています)。コカインは804人(同218人増)で過去最多となりました。

    ▼ 警察庁 令和7年の組織犯罪の情勢について(概要)
    • 薬物情勢
      • 令和7年における薬物情勢の特徴としては、以下のことが挙げられる。
        • 近年、薬物事犯の検挙人員は、おおむね横ばいで推移しているところ、令和7年中は1万4,574人(前年比+1,112人)と、前年より増加した。
        • 覚醒剤事犯の検挙人員は、第三次覚醒剤乱用期のピークであった平成9年の1万9,722人から減少傾向にあったところ、令和7年中は6,395人(同+271人)と、前年より増加した。
        • 大麻事犯の検挙人員は、平成26年から増加傾向にあったところ、令和7年中は6,832人(同+754人)と、前年より大幅に増加し過去最多となった。このうち、20歳代以下の若年層が、全体の7割以上を占めている。
        • 麻薬及び向精神薬事犯の検挙人員は1,334人(同+84人)と、前年より増加し、このうち、コカインの検挙人員が804人(同+218人)と、前年より大幅に増加し過去最多となった。
        • 薬物事犯の検挙人員のうち、暴力団構成員等が2,124人(構成比率14.6%)、外国人が1,502人(同10.3%)、匿名・流動型犯罪グループによるものとみられるものが1,887人(同12.9%)であり、薬物事犯には、依然として、暴力団、来日外国人犯罪組織、匿名・流動型犯罪グループ等の犯罪組織が深く関与し、その資金獲得活動の一つとなっている実態が認められる
        • 薬物別の押収量は、覚醒剤が1,628.6キログラム(前年比+219.6キログラム)と、前年より増加し、3年連続で1トンを超える高水準となった。また、大麻事犯のうち、大麻濃縮物が315.3キログラム(前年比+247.7キログラム)と、前年より大幅に増加し過去最多となった。さらに、麻薬及び向精神薬事犯のうち、MDMAが28万651錠(前年比+7万9,927錠)と、前年より増加したほか、コカインが226.9キログラム(前年比-20.3キログラム)と、前年より減少したものの、2年連続で200キロを超える高水準となった。
      • 以上のとおり、減少傾向にあった覚醒剤事犯の検挙人員が増加したことや大麻事犯の検挙人員及び麻薬及び向精神薬事犯のうちコカインの検挙人員がそれぞれ大幅に増加して過去最多となったこと並びに覚醒剤、MDMA及びコカインについて高水準の押収量が続いていることに加え、薬物の密売、密輸入等に暴力団や外国人が深く関与している状況がうかがえるなど、我が国の薬物情勢は依然として厳しい状況にある。
      • 特に、大麻事犯については、近年、若年層の乱用者が大幅に増加するなど、憂慮すべき状況にあることから、取締りをより一層強化するとともに、インターネット上における違法・有害情報の排除対策や若年層をターゲットとした広報啓発活動を更に推進するなど、引き続き、総合的な対策を講じていく必要がある。
      • 覚醒剤事犯の再犯者率は64.6%で、大麻事犯(27.4%)や麻薬及び向精神薬事犯(24.0%)と比較しても、その割合は非常に高い
      • 大麻事犯について、年齢層別検挙人員でみると、最多は20歳代の3,633人(構成比率53.2%)で、次いで20歳未満の1,373人(同20.1%)となっており、これらの年齢層で検挙人員全体(6,832人)の73.3%を占めている。20歳未満の検挙人員については、各年齢とも増加傾向にあったところ、令和7年中の検挙人員は、15歳から19歳の各年齢で前年より増加した。学校区分別の検挙人員をみると、大学生等が243人、高校生が315人、中学生が28人、専修学校生等が106人と、いずれも過去10年間で大幅に増加している。
      • 大麻事犯の初犯者率は72.6%と、引き続き高い割合となっている。
    • 大麻をめぐる最近の情勢
    1. 大麻乱用者の実態調査の取りまとめ結果
      • 令和7年11月から同年12月にかけて、麻薬取締法違反(大麻単純所持又は単純施用)で検挙された者のうち、1,006人について、捜査の過程において明らかとなった大麻を初めて使用した動機及びきっかけのほか、大麻の入手先を知った方法等の実態調査を行い取りまとめた結果は、次のとおりである。
        1. 大麻を初めて使用した年齢
          • 対象者が初めて大麻を使用した年齢は、20歳未満が48.0%、20歳代が26.0%と、20歳代以下が7割以上を占める(最低年齢は10歳)
          • 初回使用年齢層構成比を平成29年と比較すると、20歳未満が36.4%から48.0%に増加しており、若年層の中でも特に20歳未満での乱用拡大が懸念される。
        2. 大麻を初めて使用した動機及びきっかけ
          • 大麻を使用した動機は、「好奇心・興味本位」が最多で、いずれの年齢層でも約5割を占める。大麻を初めて使用したきっかけは、いずれの年齢層でも「誘われて(唆さ れて)」が過半数を占める。
        3. 大麻の入手先(譲渡人)を知った方法
          • 検挙事実となった大麻の入手先(譲渡人)を知った方法は、20歳代以下では「インターネット経由」が4割以上を占め、このうち9割以上がSNSを利用しており、近年、SNSが急速に普及したことにより、これまで以上に大麻の入手が容易になっている状況がうかがえる。
          • 「インターネット以外の方法」では、大麻の入手に「友人・知人」が関与しているケースが全体の62.1%を占め、20歳未満では8割を占めるなど、年齢層が下がるほど、その傾向が顕著である。
        4. 大麻に対する危険(有害)性の認識
          • 大麻に対する危険(有害)性の認識は、「全くない」及び「あまりない」の割合が53.6%で、覚醒剤に対する危険(有害)性の認識と比較すると、著しく低い。
          • 一方で、前回調査(令和6年10月から同年11月までの間に大麻取締法違反(単純所持)で検挙された者のうち、889人について取りまとめたもの。以下同じ。)と比較すると、「大いにあり」及び「あり」の割合が31.4%と、6.3ポイント増加している。
          • なお、大麻に対する危険(有害)性を軽視する情報の入手先については、いずれの年齢層でも、「友人・知人」及び「SNS(インターネット)」が多く、30歳代以外の年齢層において、「友人・知人」の占める割合が最も高い。
        5. 感じている大麻の魅力
          • 大麻乱用者が感じる大麻の魅力は、いずれの年齢層においても「精神的効果」が最多となっており、30歳代以上の壮年層は、その割合が高い傾向にある。
          • 一方で、20歳代以下の若年層においては、「かっこいい、おしゃれ」や「容易に入手できる」の割合が、30歳以上の壮年層と比べて高い傾向にある。
        6.  まとめ
          • 今回の実態調査によって、前回調査に引き続き、大麻を使用し始めた動機やきっかけ、入手先、危険(有害)性に関する誤った認識の形成等、様々な面で20歳代以下の若年層の多くが身近な環境に影響されている実態が裏付けられた。
          • また、大麻に対する危険(有害)性を認識している者の割合が前回調査から増加し、大麻の不正な施用に罰則が適用されることとなったことや各種広報啓発等による一定の効果がみられる一方、依然として、大麻に関する誤った認識を持つ者が多い実態がある。
          • 引き続き、供給の遮断と需要の根絶に向け、厳正な取締りを一層強力に推進するとともに、若年層を取り巻く環境の健全化、SNSにおける違法・有害情報の排除、大麻の危険(有害)性を正しく認識できるような広報啓発等を積極的に行い、若年層を中心とした大麻の乱用拡大に歯止めを掛けることが重要である。
    2. 暴力団組織等による大麻等密輸入・密売事件
      • 近年、我が国における大麻等の薬物事犯においては、薬物の密輸手口の巧妙化や薬物犯罪組織の複雑化、密売ルートの秘匿化等により、薬物の供給源となる薬物犯罪組織の全容解明が容易ではない状況にある。
      • こうした状況に対応するため、警察では、多様な捜査手法を駆使して、薬物の密輸・密売ルートの解明と薬物犯罪組織の壊滅に向けた取締りを強力に推進するとともに、薬物の末端乱用者の徹底的な検挙を行い、薬物の供給の遮断と需要の根絶の両面からのアプローチを進めていく必要がある。
        • 薬物密売関連事犯の検挙状況
          • 薬物事犯のうち、密売関連事犯の検挙人員は891人と、前年より増加した。同検挙人員のうち、暴力団構成員等は259人(構成比率29.1%)、外国人は88人(同9.9%)となっている。
          • 覚醒剤の密売関連事犯検挙人員は385人(前年比-2人)と、前年より減少したものの、密売関連事犯全体(891人)の43.2%を占めている。
          • 大麻の密売関連事犯検挙人員は445人(前年比+127人)と、前年より大幅に増加し、密売関連事犯全体(891人)の49.9%を占めている。
          • 薬物密売関連事犯の検挙人員のうち、暴力団構成員等が259人(構成比率29.1%)を占めている。組織別では、このうちの80.3%を六代目山口組、住吉会及び稲川会の3団体が占めている。また、覚醒剤密売関連事犯の検挙人員に占める暴力団構成員等の構成比率は43.6%を占めており、覚醒剤密売に係る犯罪収益が暴力団の資金源となっている実態がうかがえる。
          • 薬物密売関連事犯の検挙人員のうち、外国人が88人(構成比率9.9%)を占めている。また、外国人による覚醒剤密売関連事犯の検挙人員は52人(同13.5%)、大麻密売関連事犯の検挙人員は29人(同6.5%)と、いずれも前年より増加した。なお、外国人による麻薬及び向精神薬密売関連事犯の検挙人員は7人と、前年より減少した。
          • 覚醒剤の密輸入事犯の検挙人員は123人(前年比-15人)と、前年より減少し、このうち、暴力団構成員等は7人(同-16人)、外国人は94人(同+11人)となっている。
          • 大麻の密輸入事犯検挙人員は192人(前年比+83人)と、前年より増加し、このうち暴力団構成員等は5人(同-10人)、外国人は111人(同+53人)となっている
          • 危険ドラッグ事犯の検挙人員は、平成27年のピーク以降、減少傾向が続いていたところ、令和4年に増加に転じ、令和6年までに大幅な増加を記録したが、令和7年中は366人(前年比-291人)と、前年より大幅に減少した

    オーストラリアで合法化されている医療用大麻を巡り、シドニー大学の研究チームは「うつ病といった精神疾患への有意な効果は認められない」とする調査結果を公表、使用の継続による依存症のリスクなど、「かえって有害となる恐れ」も警告しています。豪州では2016年に医療用大麻が解禁され、年間約70万人に処方されています。研究チームは1980~2025年に延べ2477人を対象に行われた国内外の臨床試験54件を分析したところ、医療用大麻が有効と判断されたのは、大麻依存症からの離脱のほか、不眠症やチック症の治療、てんかんの発作の軽減、特定の痛みの緩和など限定的だった一方、代表的な精神疾患のうつ病、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対しては、プラセボ(偽薬)を使用した場合と大差なく、「効果を示す証拠は見当たらない」と結論付けました。また、コカイン依存症の患者に処方した場合、「コカインへの渇望がより強くなる」という逆効果を招くことが確認されたといいます。調査を主導したジャック・ウィルソン博士は「うつ病などへの処方に疑問を抱かせる結果だ。日常的に使用すれば、依存症リスクを高めたり、効果的な治療が遅れたりして、心の健康を悪化させる可能性がある」と指摘、当局に規制強化を求めていますが、2024年12月に医療用大麻を解禁した日本においても注意が必要といえます。

    海上経由での違法薬物の摘発を強化するため、海上保安庁は2026年度にサイバー捜査の専門ポストを新設する方針を固めました。SNSでつながり違法行為を繰り返す海外のトクリュウが密輸に関与しているとみられ、海保は新設する専門ポストを中心に他の捜査機関との情報交換を進めるなど、連携を強化していくとしています。海上での違法薬物密輸事件は近年、1回に摘発する密輸量が増加しており、摘発された犯行グループは、日本人だけでなく欧州や南米、東南アジアなど世界各国に広がっているといいます。2025年は、ベトナム人グループが海上輸送コンテナに大麻約1トンを隠した密輸事件を、関東信越厚生局麻薬取締部などとの合同捜査で摘発、2024年もメキシコから来た海上貨物などに隠した覚せい剤計約1トンを押収しており、初めて2年連続で海上経由の違法薬物の押収量が年間1トンを超えました。従来は、船員による持ち込みや小型船を使って洋上で直接受け渡しを行う手口が中心で、1回の押収量は多くても100キロ程度だったところ、2016年に初めて1回の押収量が300キロを超えた事件を摘発すると、大型化が目立つようになり、2025年までの過去10年で300キロ超の違法薬物密輸事件の摘発件数は計12件に上りました。手口の巧妙化や多様化も進んでおり、清水海上保安部などが2025年摘発した密輸事件では、犯行グループが船の乗組員らに気づかれずに海中に潜ってコカインを船底に隠す「パラサイト型」と呼ばれる、国際密売組織が使う手口が用いられたとみられています。2024年には船から海に投下したコカインを、別のグループの船が回収する「洋上落とし込み型」事件の摘発もありました。船同士が直接接触する「瀬取り」より摘発リスクが低いとされる手口に移行している傾向があります。犯行グループは、以前のように日本の暴力団が調整役となるものとは異なり、海外のSNSで勧誘され、旅行客などとしてそれぞれ入国した外国人が互いをよく知らないまま洋上での回収役を担うケースもあったといいます。海保はこうしたケースについて、海外の密輸組織が首謀し、事件ごとに実行犯をSNSで募集して構成する「海外版トクリュウ」の犯行と分析しています。闇サイト「ダークウェブ」が勧誘の場となり、匿名性が高いアプリで犯罪組織と実行役のやりとりが行われることから、サイバー空間での情報収集能力の強化が必要と判断、他の捜査機関との連携や人材育成を担う「国際サイバー捜査企画調整官(仮称)」を2026年度に新設し、サイバー捜査に力を入れる方針です。また、海上での密輸事件摘発には空からの監視が有効といい、24時間以上の連続飛行が可能で高性能カメラを備える海保の無人航空機「シーガーディアン」も投入して海上の警戒監視を強化していくといいます。財務省によれば、2025年に全国の税関が押収した違法薬物は2024年比15%増の約3211キロに上り、過去2番目の多さとなりました。押収量が最も多かった違法薬物は、大麻の約1531キロで、約1トンの密輸事件が押収量を押し上げた形です。覚せい剤は約840キロと2024年比で半減しました。一方で、「ゾンビたばこ」と呼ばれ、手足のしびれなどの健康被害や異常行動を引き起こす恐れがある「エトミデート」などの指定薬物の押収量は約41キロに上ったほか、摘発した密輸の形態別では、航空機旅客による持ち込みが370件と前年比29%増え、インバウンド(訪日外国人客)の増加が影響している可能性があります。また、国際郵便を利用した密輸は2024年比22%減で428件、海上貨物による密輸は8件となりました。

    最近の薬物に関する報道から、いくつか紹介します。

    • 摘発が増えている「エトミデート」ですが、覚せい剤や大麻などとは異なり(新しいがゆえ)鑑定に時間がかかるとされ、2025年11月、都内で初めてエトミデートの使用者が逮捕された際は鑑定に半年くらいかかったと言われています。科捜研(科学捜査研究所)に被疑者の尿を提出して正式鑑定してもらうしかないうえ、事件件数が増えているため、余計に時間がかかっているのが現状で、渋谷警察署管内にエトミデートが大量に流入しているとのことで、現場は苦労しているといいます(今後、摘発の公表が増える可能性があるということでもあります)。覚せい剤が売れなくなった「穴」を犯罪組織は放っておかず、エトミデートなど、安価な薬を持ってきて「埋める」状況にあるといいます。
    • 2025年5月に山梨学院大のレスリング部員が大麻成分を含むクッキーを食べた後、寮から飛び降りて大けがをした問題で、厚生労働省は、クッキーに含まれていた大麻由来成分「CBN(カンナビノール)」を医薬品医療機器法の指定薬物に追加しました。2026年6月1日から医療目的を除くCBN入り製品は販売や所持、使用などが禁止されることになります。CBNはクッキーやグミ、電子たばこなどに加工され、リラックス効果や睡眠改善があるとしてインターネット上で流通しています。今回の問題を受け、厚労省が、部員が食べたクッキーと同じ製品を調べたところ、CBNが検出されたものです。同大の事例も含め、国内では少なくとも4件の健康被害が確認されたといいます。いずれの事例もCBNとの厳密な因果関係は不明ですが、厚労省の専門家部会では、CBNは、幻覚作用や記憶への影響などを引き起こすTHCよりも人体への影響は弱いが、一定量を摂取すれば指定薬物と同程度の精神毒性が生じる可能性が高いと評価し、指定薬物にすることを答申していたものです。CBN製品は、一部の難治性てんかんなどの治療目的で使われている実態もあり、医師から、代替できる治療法がない病気や障害の診断を受けた患者の使用は認められるといいます。
    • 違法薬物の成分を含む植物「カート」約200キロを密輸したなどとして、関東信越厚生局麻薬取締部(麻取)は、ソマリア国籍で無職の被告を麻薬取締法違反(営利目的輸入など)容疑で逮捕しました。カートを巡る同法違反事件の摘発は全国で初めてだといいます。被告は何者かと共謀して2025年10月、約200キロのカートを営利目的でルワンダから自宅宛てに発送、羽田空港にカートを到着させて密輸するなどした疑いがもたれています。麻取によれば、カートは覚醒作用がある向精神薬の「カチン」を含有する植物で、アフリカを中心に合法の嗜好品として葉や茎をかんで摂取する国もありますが、日本国内での流通はこれまで確認されていなかったといいます。麻取が2026年1月に被告の自宅を捜索したところ、別のカート約54キロも見つかったといいます。
    • 路上で大麻やコカインを密売したとして、福岡県警は、いずれも福岡県水巻町の24歳の無職男2人を麻薬取締法違反(営利目的譲渡)などの疑いで逮捕しました。2人の逮捕容疑は2025年、水巻町の路上で北九州市の土木作業員の男に大麻約0.506グラムを、同県中間市の自営業の男にコカインの粉末0.490グラムなどを営利目的で譲り渡したというものですが、事件の手がかりとなったのは、地域住民による目撃だったといいます。2025年3月ごろ、地域住民から署に「農道で複数の車両に原付きバイクが近づき、何かを渡している。密売ではないか」と情報提供があり、その後も複数の110番通報があったといいます。別の薬物事件で逮捕した容疑者の取り調べでも、「水巻町の農道でバイクに乗った密売人から大麻を購入した」という供述も出ていたものです。2人は秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」で客を募るグループをつくり、受け渡し現場の地図を送っていたといい、県警は同県中間市の男1人の実家から大麻を含む植物片やコカインの粉末、合成麻薬MDMAの錠剤など末端価格で計900万円相当の薬物を押収しています。

    暴力団等が関与した最近の事例から、いくつか紹介します。

    • 営利目的で大麻を譲り渡したとして共政会正木組の組員3人が逮捕され、同組の事務所が家宅捜索されています。2026年2月、営利目的で大麻を所持していた疑いで3人を逮捕、さらに、大麻を譲り渡した疑いで再逮捕したものです。容疑者らが違法薬物を密売しているという情報から捜査に着手し逮捕に至ったもので、容疑者らは仕入れた大麻を売っていたとみられ、入手ルートや余罪などを捜査する方針です。
    • 共政会原田組の組員が営利目的で大麻などを所持した事件で、拘禁刑4年と罰金100万円の判決が言い渡されました。被告は2025年8月、中区十日市町の集合住宅の一室で営利目的で大麻を所持していた罪などに問われています。広島地裁は被告が所持を認めている一方、尿検査で違法薬物の成分が検出されていないことから密売目的であると指摘しました。そのうえで多量の違法薬物が「社会に拡散された場合の害悪は大きい」として拘禁刑4年、罰金100万円の判決を言い渡しました。一連の捜査では乾燥大麻約510gなど県内最大級の押収量となる違法薬物が押収されています。
    • 覚醒剤を密売したとして、埼玉県警組織犯罪対策(組対)1課と川越署などの合同捜査班は、麻薬特例法違反(業としての譲り渡し)の疑いで、住吉会傘下組織幹部=覚せい剤取締法違反罪で起訴=をさいたま地検に追送検しました。同課は顧客22人に対する密売を確認し、うち3人に対する密売容疑を追送検し、捜査を終結しました。追送検容疑は、営利目的で、2024年11月~25年11月までの間、4回にわたって川越市など3カ所で顧客3人に対し、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンを含有する結晶状粉末合計約2.77グラムを合計15万5千円で譲り渡した疑いがもたれています。「私は覚せい剤の密売人です」と容疑を認めているといいます。同課は男を覚せい剤取締法違反で逮捕し、車などから約100グラムの覚せい剤(総額約586万円)や注射器などを押収、覚せい剤を譲り受けたとして顧客19人を麻薬特例法違反で摘発していました。男はネット掲示板で顧客を募り、公衆電話で注文するように指示していたといいます。
    • 神奈川県警薬物銃器対策課と神奈川署は、覚せい剤取締法違反(営利目的共同所持)などの疑いで、稲川会傘下組織組長ら3人を逮捕・再逮捕しました。

    最近の国内における薬物事犯の報道から、いくつか紹介します。

    • 2025年12月に部員が公然わいせつ容疑で神奈川県警に逮捕され、2026年3月には麻薬取締法違反容疑で別の部員が書類送検された日本体育大レスリング部男子が、停止していた活動を同3月13日付で再開しています。50人弱の男子部員に違法薬物の検査を実施し、全員の陰性が確認され、「(陰性の)学生のことを考え判断した」と説明しています。横浜市青葉区のコンビニで裸になったとして男子部員が逮捕され、大麻由来の成分を含む菓子を食べていたとみられますが、鑑定結果は陰性でした。一方で同じ寮に住んでいた別の部員から違法薬物の陽性反応が出て、大麻を使用したとして書類送検されました(後に不起訴処分に)。日体大は他の部員について尿検査とともに、違法薬物に関わる聞き取り調査も行いました。指導者らへの対応は処分も含めて今後協議するといいます。
    • 全日本大学サッカー連盟は、男子部員が違法薬物を使用した流通経大の監督を務める中野雄二理事長が活動を自粛すると発表しています。オンラインで理事会を開き、中野氏が流通経大監督業務を停止されていることを受け、理事長としての活動も自粛するべきと勧告、中野氏が受け入れたものです。
    • コカインを所持、使用したとして、麻薬取締法違反の罪に問われた公益社団法人「日本駆け込み寺」の元事務局長、田中被告に東京地裁は、懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年6月)の判決を言い渡しました。弁護人は、発覚のきっかけとなった職務質問は、拒絶の意思が明確だったのに継続されており違法だとして無罪を主張しましたが、裁判官は、任意捜査の許容範囲を逸脱していないと退けています。その上で、被告が知人にコカインの使用を勧めていたことから「違法薬物への抵抗感が乏しく親和性も認められる」と非難、判決によれば2025年5月18日ごろ、東京都内の自宅でコカインを吸引したほか、同日と23日に計約2グラムを所持したというものです。
    • コカインを使用したとして、関東信越厚生局麻薬取締部が麻薬取締法違反容疑で音楽デュオ「Def Tech」のメンバー「Micro」こと西宮被告=麻薬取締法違反罪で起訴=を追送致しています。西宮被告は2026年1月下旬~2月ごろ、コカインを使用した疑いが持たれており、2月に東京都渋谷区の自宅で乾燥大麻を所持したとして逮捕、起訴されていました。
    • 福岡県小郡市の自宅で2025年6月、元夫と共謀し覚せい剤を所持したとして、覚せい剤取締法違反罪に問われた30代の女性被告に、福岡地裁は無罪の判決を言い渡しました。求刑は拘禁刑1年6月でした。裁判官は判決理由で、覚せい剤が入っていたであろう紙袋を被告が天井裏から出し入れしたと認定、一方で、覚せい剤は天井裏の断熱材の下から見つかっており「被告が覚せい剤を意図せず移動させたと考えるには疑問が残るし、存在を認識していたと認めるに足りる証拠はない」と判断したものです。
    • 大麻を所持していたとして、青森県警弘前署は、県内の男子高校生(18)を麻薬取締法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕しました。高校生は、弘前市駅前町の公園内で大麻約0.9グラムを所持していた疑いがもたれています。吸引用の巻紙やフィルターも押収されており、高校生は使用を認めているといいます。警察官の職務質問で発覚、同署では、入手経路などについて調べています。
    • 佐賀県警は、麻薬取締法違反(所持)の疑いで鳥栖市の無職少年(17)を鳥栖署が現行犯逮捕しましたが、約7時間半後に釈放しています。植物片の簡易試験で大麻の陽性反応が出たものの、正式鑑定で陰性となったためですが、別の液体の鑑定で陽性反応が出たことから同容疑で再逮捕しました。少年が薬物を持っているという情報を受け、同市内の自宅を捜索したところ、大麻のような植物片と液体を発見、現場で植物片について簡易試験をしたところ、陽性反応が出たことなどから現行犯逮捕、しかし、県警科学捜査研究所での正式鑑定では陰性となり釈放、その上で、自宅から押収した液体が陽性となったことから再逮捕したものです。

    若者のオーバードーズ(市販薬の過剰摂取:OD)を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

    • 若者を中心に広がっているODを防ぐ目的で、薬の販売規制が2026年5月から強化されます。指定された薬は18歳未満への大量販売が禁止され、インターネット販売は18歳以上を対象とする場合も含めて厳しく制限されることになります。ただ、新規制でどれだけの効果が得られるかは不透明な状況です。風邪薬やせき止め薬などを過剰に摂取するODによる救急搬送は2015年ごろから増え始め、2020年には薬物依存症で治療を受けた10代患者のうち、主たる薬物が市販薬だった人の割合が5割を占めるようになりました。厚生労働省は従来から小売業者に対し、せき止め作用のあるエフェドリンなど特定の成分を含む薬を若者に売る際には使用目的を確認するように呼びかけていましたが、思うような効果は得られなかったことから、8つの成分を含むせき止め薬や鎮痛剤、鼻炎薬などを「指定乱用防止医薬品」と位置づけ、販売規制を導入するものです。「パブロン」や「ベンザブロック」「ナロンエース」「コンタック」などが含まれています。今回の規制では購入者の年齢や、対面・インターネットといった売り方によって販売ルールに差をつけ、ドラッグストアなど対面での販売に比べ、ネット販売に厳しい内容となっています。18歳未満に複数個や大容量の販売を認めない点は対面もネットも共通ですが、対面販売では5~7日分の小容量1個なら18歳未満にも販売でき、18歳以上への販売に制約はないのに対し、メールで顧客に薬の説明を行うネット業者は18歳未満には小容量でも販売できなくなり、18歳以上にも小容量1個しか売ることはできなくなります。ネット業者はビデオ通話で薬剤師らが顧客の表情をみながら対応する場合に限って、対面販売と同等のルールが適用されるといいます。一方、乱用に使われた薬の入手先はドラッグストアなどの実店舗が最も多くネット販売は1割にも満たない実態があり、規制がそれでよいのか疑問が残るとの指摘もあります
    • 東京・歌舞伎町の「トー横広場」で誰かに渡すために睡眠薬を持っていたとして、警視庁少年育成課は、神奈川県小田原市の中学3年生の少女(15)を麻薬取締法違反(譲渡目的所持)容疑で書類送検しました。少女のかばんには600錠の錠剤が入っており、その一部は、市販されていない睡眠薬で、補導された少女は、警察に「売るつもりだった」と話し、少女は自らも市販のせき止め薬をODしていたといいます。
    • 居場所を求める若者が集まる東京・歌舞伎町の「トー横」で、市販薬や処方薬のODが年々広がっており、せき止め薬の大量所持などの「薬物乱用」で補導された20歳未満は2025年に57人に上り、2024年から倍増しました。報道で当事者が「ここに来る子は家庭に問題があって、虐待は当たり前。だから共感してくれる。傷のなめあいですね」、「大量に飲んで意識を失いたくなるのは、現実逃避したいから。虐待を受けた記憶がフラッシュバックして、薬を一気に飲むこともある」、「共感し合える子たちと、きょう一日を生き延びることができれば、それで十分。未来のことはどうでもいい」と話していたことが印象的です。トー横の問題に詳しい筑波大学の土井隆義教授(社会学)は「覚せい剤などの違法薬物を使って刺激を求め、不満を解消するのとは異なり、市販薬などによるODは不安を紛らわすのが目的。若者に不安が広がっていることの表れではないか」と指摘しています。トー横だけの問題ではなく、国立精神・神経医療研究センターが、精神科病床を持つ全国の医療施設1525か所を対象に、2024年9~10月に入院や外来で診療を受けた患者2702例を分析したところ、10歳代の薬物乱用・依存患者は130人で、2022年の46人から3倍近くに増えており、乱用した薬物は、せき止め薬や睡眠薬などの市販薬が72%を占めたといいます。また、厚生労働省研究班の2024年度の調査では、過去1年間に市販薬を乱用目的で使った経験がある中学生は約55人に1人、高校生は約70人に1人と推計されました。身体への影響も見過ごせない問題で、若者は興奮や酩酊状態を求めて、アルコール度数の高い「ストロング系」の缶チューハイを併せて飲んでいるとされ、同センターの研究者は、せき止め薬と一緒に飲んだ場合、薬の有効成分の濃度が血中で急上昇し、死に至る危険性もあると指摘、酒を伴わなくても、風邪薬を大量に服用すると重篤な肝機能障害などを引き起こす恐れがあるといいます。研究者は「薬を取り上げたり、強引にやめさせたりする対応は逆効果で、自殺などのリスクを高める可能性もある。周囲が手を差し伸べ、相談機関につなげることが大切だと述べていますが、こうした情報が社会に広く浸透することも急務だといえます

    フェンタニル問題を中心に、海外の最近の報道から、いくつか紹介します。

    • 米国防総省高官は、米軍が​カリブ海と東太平洋で45回の‌麻薬密輸船攻撃を行い、麻薬組織の構成員または関係​者とされる157人を殺害した​と明らかにしました。米軍は2025年9月か⁠ら、麻薬密輸の疑いが​ある船舶に一連の攻撃を実​施、トランプ政権は違法薬物供給の根絶を目的とする広範​な作戦の一環としていますが、法曹関係者や民主党議員は攻‌撃の⁠合法性を疑問視しています。国防総省で国土防衛と米州安全保障を担当する​ジョセフ​・フ⁠ミレ氏は議員宛ての書面で、これま​での攻撃で「麻薬密輸​船」47隻が⁠破壊されたと説明、カリブ海の麻薬密輸船航行が20%、⁠東太​平洋の航行が25%減​少するなど、「重大かつ深刻な」イ​ンパクトがあったと述べています。
    • AP通信は、米ニューヨークの連邦地検がコロンビアの左派ペトロ大統領と麻薬組織との関係について捜査していると報じました。ペトロ氏の関係者が収監中の麻薬密売人に対し、米国への身柄引き渡しを阻止するのと引き換えに賄賂を要求した疑いがあるといいます。ペトロ氏は、Xで、麻薬組織との関係を否定、自身の陣営に対しても麻薬組織からの献金を受け取らないよう指示していると説明しました。コロンビアは世界的なコカイン生産地で、米国への密輸を問題視するトランプ大統領はペトロ氏を「コカインを製造し米国に売ることを好む病的な男」と呼ぶなどして敵視、両国関係はぎくしゃくしています。NYT紙は、トランプ氏がペトロ氏に対する捜査を利用して、麻薬組織撲滅への協力を求めたり、ペトロ氏の後継者が出馬する5月のコロンビア大統領選に干渉したりする可能性があると報じました。トランプ氏とペトロ氏は2026年2月、ホワイトハウスで会談、ペトロ氏は麻薬対策で協力する意向を示しましたが、トランプ大統領が3月に南部フロリダ州で中南米諸国の首脳を招いて麻薬組織対策を協議した会合にペトロ氏は参加していませんでした。
    • 中国内陸部の湖北省が合成麻薬「フェンタニル」の原料を扱う7人を逮捕し、4社を処分したと国営の新華社通信が報じました。米麻薬取締局(DEA)からの情報提供に基づき、同省武漢市などの公安機関が摘発したといいます。米政府はフェンタニルの流入対策が不十分だとして中国に10%の追加関税を課しています。トランプ米大統領と習近平国家主席は2025年10月に韓国で会談し、フェンタニルの取り締まり強化を申し合わせました。新華社によれば湖北省は2025年12月に特別作業班を設置し、フェンタニルの生産や販売、輸出にかかわる企業や個人の摘発を強め、2026年2月までに関連事案22件を処理して7人を逮捕したほか、12人に強制措置をとり、4社に行政処分を下したといいます。フェンタニル製造に使う化学物質の販売容疑の事案では、DEAからの情報提供が発端だったとされます。容疑者らは経営実態のないペーパーカンパニーをつくり、麻薬の製造に使える化学物質を国外へ流出させて不法に利益を得ていたといい、このほか違法企業のウェブサイト200件あまりを閉鎖し、インターネット上の違法情報400件ほどを削除、危険物の不正な保管や虚偽広告の掲載も摘発、関連企業は生産・営業を停止させたり、営業許可証を取り消したりしたといいます

    (4)テロリスクを巡る動向

    イランを支持する組織がSNSで欧州の若者を勧誘し、スパイ活動や破壊行為に利用している疑惑が強まっているといいます(2026年4月4日付日本経済新聞)。パリで2026年3月に起きた米銀行の爆破未遂事件はSNSで誘われた10代の容疑者が逮捕されており、イランとのつながりが疑われています。少年はSNSアプリのスナップチャットを通じて誘われたと供述、爆破の報酬は600ユーロ(約11万円)だったといいます。事件は警察がテロへの警戒を強めていた中で起き、フランスのヌニェス内相は、イラン側から誘いを受けた可能性に言及しました。また、同じ3月にはロンドンでユダヤ系慈善団体の救急車4台が放火され、防犯カメラに黒い服を着た3人の男が救急車に火をつける様子が映っており、ロンドン警視庁はイランとの関わりが疑われるイスラム過激派組織が関与した可能性を調べていると明らかにしました。英議会の情報安全保障委員会が2025年夏にまとめた報告書は「イランは英国の国益に対し、広範かつ持続的で予測不可能な脅威をもたらしている」と指摘、代理人を使って報復のリスクを最小限にとどめようとしていると警鐘を鳴らしました。イランの情報機関を名乗るアカウントが、秘匿性が高い通信アプリ「テレグラム」を通じて英国内で協力者を募っており、英紙タイムズによると、建物に出入りする人物の撮影や、特定の人物を尾行して情報を提供するといった多様な業務の依頼があるといいます。協力者には報酬として数千ドルが暗号資産(暗号資産)で支払われ、SNSを用いることで、仮に実行犯が捕まっても指示役までたどり着きにくくする狙いがあるとみられています。日本でもSNSで詐欺や強盗などの実行役を募る闇バイトが深刻な問題になっていますが、同様の構図といえます。英国のテロ対策法に基づく独立審査官を務めるジョナサン・ホール弁護士は「ソーシャルメディアを利用したテロや敵対的な活動への勧誘の対策は難しい問題だ」と話し、「犯罪に手を染めれば捕まる可能性が高く、厳しい刑罰を受けると政府が発信して、抑止力を高める必要がある」と指摘していますが、正にその通りといえます。

    14人が死亡し、約6300人が重軽症となったオウム真理教による地下鉄サリン事件から2026年3月20日で31年が経過しました。首都中枢部が狙われた世界でも初の化学テロであり、教団の目的は国家転覆でした。教団は解散しましたが、教義に帰依している後継団体は複数存在、中でも、後継団体の主流派「アレフ」は未払いの賠償金を被害者側に支払うことで合意したものの、支払いは9年前を最後に途絶えており、2020年には最高裁でアレフへの10億円超の賠償命令が確定しましたが、アレフ側は資産隠しや名義変更などで抵抗し、差し押さえ手続きは難航しています。被害者や遺族は高齢化しており、国が賠償金を立て替えて加害者側から回収する仕組みが求められています。2008年に成立した「オウム真理教犯罪被害者給付金支給法」は地下鉄サリン事件などを「悪質かつ重大なテロリズム」と位置づけ、国が「被害者の救済を図ることがテロリズムと戦う我が国の姿勢を明らかにする意義を有する」としており、産経新聞は同法を含む現行法の一部改正などで回収の仕組みづくりは可能なはずと指摘、公安調査庁は、アレフが少なくとも7億円の資産隠しを行っているとみており、被害者施策を担う警察庁、法務省に検討を求めています。被害者支援に取り組む弁護士らでつくる「オウム真理教犯罪被害者支援機構」が、2026年3月公表したアンケートによれば、7割がめまいや目の不調を訴え、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状がある人は被害者が26%、家族は33%、約半数が「地下鉄や事件現場に近づくことに恐怖を感じる」と回答しています。調査に携わった筑波大の松井豊名誉教授(社会心理学)は、「化学テロによって、今も被害者は『自分の症状がどう変化するかわからない』という未知の不安を強く感じている」と指摘、「健康不安が続く現状が、死刑執行後も気持ちの区切りをつけさせないポイントになっているのではないか」と分析しており、化学テロの深刻さがうかがえます。今回のアンケート対象は、機構が連絡先を把握する約1000人だったが、実際の被害者はもっと多く、本来受けられるはずの治療が受けられなかったり、支援から漏れたりしている人もおり、「被害者がテロ前に近い日常生活を取り戻すことができるような手助けが必要だ」(産経新聞)との主張には筆者も同意するものです。

    和歌山市で2023年、岸田首相(当時)の選挙演説会場に爆発物を投げ込んだとして、殺人未遂や爆発物取締罰則違反などの罪に問われた木村隆二被告について、最高裁第3小法廷は2026年3月27日付の決定で被告側の上告を棄却、懲役10年とした1審・和歌山地裁の裁判員裁判と2審・大阪高裁の判決が確定することになります。1、2審判決によれば、木村被告は世間に注目されれば選挙制度に関する自身の主張を広く知ってもらえると考え、2023年4月15日、衆院補選の演説会場となった和歌山市の漁港で、岸田氏らが死亡する可能性を認識しながら、手製の「パイプ爆弾」を投げて爆発させたもので、岸田氏にけがはなかったものの、聴衆エリアにいた2人が軽傷を負いました。弁護側は公判で「被告に殺意はなく、傷害罪にとどまる」と主張しましたが、2025年2月の1審判決は「被告は人を死傷させる可能性があると認識していた」と殺意を認定、同年9月の2審判決も、これを支持しました。

    2024年3月にモスクワ近郊で約150人が死亡したコンサートホールでの銃乱射テロ事件は発生から丸2年を迎えました。事件は、モスクワ州クラスノゴルスクの「クロクス・シティ・ホール」で起き、会場内に押し入った武装グループが音楽公演の開始を待つ観客へ自動小銃を乱射し、放火、多くの死者に加え、数百人が負傷しました。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出しましたが、プーチン露政権は「ウクライナの関与」を主張しています。タス通信によれば、軍事裁判所は2026年3月、実行犯4人と共犯者11人の被告計15人に終身刑を言い渡しました。残りの共犯4人は懲役19年11月~22年6月の実刑判決としています。ロシア連邦捜査委員会は、テロはロシアの情勢を不安定化させる目的でウクライナ指導部の利益のために計画、実行されたと主張、テロを組織した2人を含む計6人を国際指名手配して捜査中だと説明しています。ロシア最高検察庁によると、テロは指名手配中のタジキスタン国籍者らがウクライナ最高指導部のために計画、IS系勢力の「ISホラサン州」の構成員に実行させたとしています。

    ベルギーの首都ブリュッセルの空港や地下鉄で30人以上が死亡した連続テロから10年を迎えました。イスラム過激派の実行犯グループが拠点を置き、「テロの温床」と呼ばれた西部モレンベーク地区では、若者の過激化防止や移民との共生を目指す取り組みが続いているといいます(2026年3月23日付読売新聞)。テロは同一グループの犯行で、複数が同地区で生まれ育ち、潜伏場所としましたが、同地区は住民の8割が中東や北アフリカなどからの移民とされます。過激派は、社会に居場所がないと感じる若者に近づき、「西側への敵意」を吹き込んでいたといいます。若者支援に取り組む同地区のNGO「フォワイエ」は「実行犯は、SNSやゲームのチャットで知り合った過激派に感化された」と指摘、フォワイエはテロ後、8歳以上の子供を対象に偽情報への警戒などSNSの注意点を教えるワークショップを始めたといいます。テロから10年たった現在も、パレスチナ自治区ガザやイランで軍事衝突が起き、国際情勢は揺れており、「世界は不公平だという感覚が再び広がっている」と指摘し、怒りがテロにつながることを懸念しています。フォワイエは2019年、同地区に「移民博物館」を開設し、移住者数百人の証言や写真を公開、移民系の子供に自分のルーツを知ってもらうのが狙いで、館長)は「地域とのつながりがあれば、過激派につけ込まれる危険性は減るだろう」と指摘しています。テロ発生のメカニズムとして、人心や国土の荒廃が挙げられ、地域のつながり(社会的包摂)がテロリスト化を防ぐ効果がある可能性があり、正にそのとおりだと思います

    そのベルギーの東部リエージュのシナゴーグ(ユダヤ教会堂)で爆発が発生しました。当局は反ユダヤ主義的なテロの疑いがあるとして捜査をはじめました。米国・イスラエルとイランの軍事衝突により中東情勢が悪化する中、欧州では反ユダヤ主義や過激派によるテロ、難民の増加などに対する警戒が高まっています。反ユダヤ主義は中東情勢の悪化と関連する傾向があり、イスラエル政府への批判がユダヤ人への敵意に転化することなどが背景にあります。同国が2023年にパレスチナ自治区ガザに攻撃した際も英国やドイツなど欧州でユダヤ人を標的とする事件が増えました。イランの人口は9000万人超と中東地域でも大きく、各国は難民の増加も懸念しています。英ロイターなどによれば、ドイツのメルツ首相は、イラン政権の崩壊は欧州に移民問題など広範囲の影響を与える可能性があると指摘しました。ギリシャはイラン人の亡命希望者に対する監視を強化する方針です。一方、トルコはイランとの国境沿いに緩衝地帯を設けるほか、最大9万人を収容できる仮設の宿泊施設などを用意するといいます。欧州には2015年以降、内戦が激化するシリアなどから100万人以上が流入、近年は治安悪化などへの懸念から反移民感情が高まり、各国は移民の制限や取り締まりの強化に転換していました。各地ではデモも起きており、在英米大使館前では、米国・イスラエルによるイラン攻撃の停止を求める大規模デモが開催され、英紙ガーディアンによれば5000~6000人が参加し「戦争をやめろ」などと主張しました。一方、同イラン大使館前では、在英イラン人の反体制派などがイランの現政権に対する抗議活動を開き、体制転換を求めたほか、今回の米国などによる攻撃を支持する声も上がりました。

    反ユダヤ主義に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

    • フランスの対テロ検察は、国内でテロを計画していた疑いで22歳と20歳の兄弟を拘束したと明らかにしました。計画の詳細は不明ですが、検察は「死を招く反ユダヤ主義的な計画」だとしています。兄弟はイタリアとモロッコの二重国籍で、フランス北部で車を停車中に拘束され、車内から装填済みの半自動小銃や塩酸のボトル、ISの旗が見つかったといいます。米イスラエルによるイラン攻撃が始まった2026年2月28日以降、各国がテロへの警戒を強めており、隣国ベルギーやオランダでシナゴーグが攻撃の標的となっています。
    • 2026年3月中旬に米中西部ミシガン州で武装した男が車でシナゴーグに突っ込んだ事件で、米連邦捜査局(FBI)は、犯人は親イラン民兵組織ヒズボラの影響を受けていたと発表しました。男のSNSなどを調べた結果だとしています。犯人はレバノン出身で米市民権を持つ41歳の男で、SNSの履歴にヒズボラのイデオロギーを信奉する趣旨の投稿があったといい、男はインターネットでシナゴーグを調べ、「できるだけ多くを殺す」とする動画を作成していました。男はシナゴーグ突入後に警備員との銃撃戦となったが自殺、事件当時、シナゴーグには100人以上の子供がいましたが無事でした。イスラエルメディアによると、事件の数日前にはレバノンで、ヒズボラ戦闘員として活動していた男の兄弟がイスラエル軍の攻撃で死亡していたといいます。
    • 米東部ニューヨーク市のマムダニ市長の公邸近くに手製の簡易爆発物が投げ込まれる事件があり、連邦検察当局は、ISに感化されたテロ行為の疑いで、10代の男性容疑者2人を訴追しました。市中心部マンハッタンにある市長公邸付近で「イスラム支配の阻止」を掲げた右派によるデモと、それに対抗する別のグループの一部が衝突、ニューヨーク市警は爆発装置とみられる物体を投げ込んだとして、19歳と18歳の容疑者2人をその場で拘束しました。翌日には公邸の周辺に止められた車両に別の不審物が見つかり、装置は起爆せず、けが人はいませんでした。デモ発生当時はマムダニ氏夫妻は不在でした。市警によれば、デモで投げ込まれた物体の一つから、各地のテロ事件などで繰り返し使われてきた爆薬の「過酸化アセトン(TATP)」が検出されたといいます。容疑者は共に東部ペンシルベニア州在住で、1人はISに触発されたことを認め、2013年に3人が死亡、280人超が負傷したボストン・マラソン爆弾テロ事件より大きな被害を出すことが目的だったと供述したといいます。米メディアは、捜査当局関係者の話として、反イスラムデモに対する憤りが動機につながった可能性があると伝えています。マムダニ氏は声明で「テロと暴力は許されない」と非難、マムダニ氏は2026年1月、ニューヨークで初めてイスラム教徒として市長に就任しました

    IS戦闘員の妻子を帰国させていいのかという議論がオーストラリアで起きています。豪州出身でシリアへと渡ったIS戦闘員の妻子らは帰国を求めているとされますが、政府は認めていません。背景には、2025年末に起きたユダヤ人を標的とした銃撃事件の影響を考慮する政治判断も関係しているとされます。IS戦闘員の妻子らを受け入れる可能性について問われたアルバニージー首相は「一切の支援もせず、受け入れるつもりもない」と断言、「我々の生活を破壊する試みに参加した人々には何の同情の念もない」と述べています。前日には、豪州出身でIS戦闘員の元妻らが、帰国しようとしてシリア北東部にある難民キャンプを出発したものの、シリア政府当局に連れ戻されたと報じられました。帰国には政府間での調整が必要なところ、調整に積極的ではない豪州政府の姿勢が影響している可能性があるといいます。ISは2003年のイラク戦争後に結成された「イラクのアルカイダ」を源流とし、シリア内戦に乗じて勢力を拡大、2014年6月にイラク第2の都市モスルを制圧し「建国」を宣言、最盛期にはイラクとシリアの国土の各3分の1を支配するまでに拡大しましたが、2019年3月にシリアの最後の拠点を喪失、米軍が支援する民兵組織「シリア民主軍(SDF)」はIS最後の拠点とされたシリア東部バグズの制圧を宣言しました。米政府の分析では約2万2500人の外国人戦闘員がISに参加、IS戦闘員の家族らも母国から現地に渡りました。外国出身者でIS戦闘員の家族らは難民となり、多くがシリア国内の難民キャンプで暮らしています。豪州への帰国を希望する人々が暮らすキャンプにいる約2600人のうち、多くが外国出身者だといいます。国際人権団体などは、難民キャンプに住む子どもたちが過激派グループからの勧誘を受けるリスクがあることや、劣悪な衛生環境などを理由に外国出身者の難民の母国への送還を求めてきた経緯があり、国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」によれば、2025年には計約180人が欧州を中心とした計8カ国にそれぞれ帰国、人道上の理由などから豪州も2022年に帰国を希望したIS戦闘員の妻子らを受け入れました。一方、豪州では2025年12月、最大都市シドニーでISに影響を受け、反ユダヤ主義的な思想を強めたとされる親子がユダヤ教徒を狙う銃撃事件が発生、2024年にはユダヤ系のレストランや礼拝所が相次いで襲撃を受け、政府はイランの精鋭部隊「イスラム革命防衛隊」が関与していたとして、駐豪イラン大使を国外追放した経緯があります。政府や主要政党が妻子らの帰国を拒否する背景には、一連の事件の影響を考慮した政治判断が指摘されています。ただ、豪州国内では、シリアの難民キャンプでの生活を余儀なくされている子どもたちは「ISの犠牲者」と同情する見方もあり、最大都市シドニーがあるニューサウスウェールズ州のミンズ首相は「もしここに戻ってくるのであれば、彼らに教育を施し、安全も確保する」と述べています。

    2001年9月11日の米同時テロから2026年秋で25年を迎えます。ニューヨークでは世界貿易センタービルの倒壊で約2600人が命を落としただけでなく、健康被害がいまも広がり続けているといいます(2026年3月30日付日本経済新聞)。報道によれば、5万人以上が粉じんを吸い込んでがんを発症しているといい、救済制度を受けるのに時間の壁が立ちはだかっていると指摘されています。経験者は「数カ月にわたって焦げたような臭いが漂っていた」と口をそろえており、そうした人たちは、有害なアスベスト(石綿)や重金属、化学物質を含んだ粉じんを吸い込み、長い時間をかけて体がむしばまれてきたと考えられています。米疾病対策センター(CDC)によれば、被害者向け医療保険プログラムの登録者は2025年末時点で約15万人、このうち約5万3000人が同時テロ被害に関連するがん罹患と認定されています。データを遡ることができる2016年末と比べると、登録者に占める割合は8%から35%へと急拡大しています。粉じんが漂うなか多くの人が職場などに早期に復帰した背景に、早すぎた「安全宣言」があったと言えます。米環境保護局(EPA)のクリスティーン・トッド・ホイットマン長官(当時)はテロ発生のわずか2日後「ニューヨーク市民の皆さまに、安心して呼吸できる空気と安全に飲める水があることを伝えられてうれしい」とする声明を出し、本土が攻撃された米国は「テロに屈しない」姿を世界に示す必要があり、日常を取り戻すため市民生活の早期復旧を目指す雰囲気が結果として長期にわたり健康被害を拡大させてしまった可能性があります。さらに、事件から25年が経過したことが救済の壁になりつつあります。医療保険プログラムの提供を受けるためには、同時テロの直後、現場周辺に一定期間滞在したことを証明しなければならず、具体的には当時の同僚や知り合いら2人に滞在を証言する宣誓供述書を書いてもらうことが必要となります。今日も変わらず、世界では戦火が続き、中東各国やウクライナではミサイルやドローン攻撃が都市部などに降り注いでいますが。直接的な犠牲だけでなく地元住民に長期的な健康被害をもたらす可能性は高いと言え、25年後のニューヨークの課題を世界はあらためて認識する必要があります。

    世界で最も危険な地の一つ、アフリカ東部ソマリアで、元テロリストらの社会復帰支援を続ける日本人、NPO法人「アクセプト・インターナショナル」代表理事の永井陽右さん(34)の活動に筆者は大変大きな衝撃を受けました(2026年3月15日付朝日新聞)。いまや活動はイエメンやパレスチナなど計7カ国・地域に広がり、現地ではヘルメットと防弾チョッキを着け、軍の護衛を受け装甲車などで移動、仲間を自爆テロで失ったこともあり、テロリストから脅迫されることもあるといいます。紛争の最前線に行くときは毎回、遺書と引き継ぎ書を更新し、USBメモリーに残すなど、正に命がけの活動を行っています。元テロリストらを対象にした脱過激化プログラムの特徴は、彼らとの徹底的な対話で、「今やりたいこと」「将来どんな仕事をしたいのか」などを語り合うもので、刑務所やリハビリ施設で、受刑者や投降兵、戦争捕虜の声に耳を傾けるといいます。「彼らをリスクや脅威ととらえるのではなく、ポテンシャル(将来の可能性)としてみた方が、問題解決につながるんです」と強調しています。ソマリアは、全土で当時も今も外務省の危険情報は最も高い「レベル4(退避勧告)」で、ソマリアに行くときも、外務省から「渡航をやめなさい」という長文のメールが来たといいます。まずケニアのソマリア人難民移民居住区の治安を悪化させているギャングへの取り組みを開始、彼らを受け入れ、徹底した対話をする、という手法をここで学び、その後「ソマリア本国で何をすべきか」について仲間と議論を重ね、難民や貧困などの根本要因であるテロや武力紛争の解決が必要、さらには背景にある憎しみの連鎖をほどいていく新たなアプローチが必要とされている、という結論に達したといいます。最初は数人だったスタッフは、無給のメンバーも含めるといまや国内外に70人を超え、事務所も徐々に大きくなり、社会復帰につなげた対象者は3000人を超えたといいます。「社会的包摂」がテロへの対処法として有効であると筆者はこれまで主張してきましたが、命がけでそれを実践する姿に心から敬意を表したいと思います

    (5)犯罪インフラを巡る動向

    企業のインターネット広告費をだまし取る「アドフラウド」の国内の被害額が2025年は1592億円に上ったとの推計を「スパイダーラボズ」(東京)が公表しました。前年比82億円の増加で、AIによる広告配信が急拡大する中、広告費の不正取得を目的に作成された粗悪なサイト(MFA)を優良な掲載先と判断し、配信を続ける「AIの死角」が突かれているといいます。「ボット」などを使って広告を閲覧したように見せかける偽装クリックが4.81%含まれており、不正の発生率は前年から0.3ポイント低下したものの、被害額はネット広告市場の拡大に伴い増加しました。AIによる広告配信は数年前から急速に広がっており、掲載先を瞬時に選択し、膨大な量の広告を効率的に配信できるため利便性が高く、ネット広告で主流の「運用型」に占めるAI配信の割合は2025年が35%、2028年には68%に達する見通しだといいます。AIによる配信の仕組みは複雑で、企業側が広告の掲載先を詳細に把握するのは困難で、こうした中、広告費の不正取得だけを狙った悪質なサイトが横行している実態があります。ゲームや口コミのまとめなど一見よくあるサイトでも、人の目で見ると説明文などは粗雑で不自然さが目立つものや、中身を読もうとすると、ほとんど広告で占められるサイトもあります。ただ、こうしたサイトでもボットによる機械的なクリックが積み上がることで、AIは「成果の出る優良サイト」と誤って「学習」し、広告の配信をさらに増やしていくといいます。MFAサイトは生成AIで量産されており、2025年に同サイトに表示された広告は、同社が検知した範囲で10億1900万件と2024年の14倍に激増、これにより被害額は5.3倍の4億2000万円余に膨らみ、うち6割(2億6000万円)がAI配信による広告費とみられています。また、最近はスマホ向け縦型動画広告のアドフラウド被害も増えているといい、2025年の不正発生率は12.79%と全体の平均を大きく上回り、パソコンからの機械的なクリックがショート動画系SNSやメッセージアプリ系の広告に集中していたことも判明ました。MFAサイトは匿名での運営が可能で、アドフラウドの主体や資金の流出先を特定するのは極めて難しく、反社会的勢力の資金源とも指摘されています。被害を防ぐ対策として、不正クリックを検知・遮断することに加え、AIに正しい情報を学習させて広告配信の精度を高めていくことが広告主側に求められます。

    米コロンビア大学の研究者らは予測市場ポリマーケットで非公開情報を利用した「インサイダー取引」で得た可能性のある利益が約1億4300万ドル(228億円)に上るという分析を発表しました。予測市場は規制が緩く、不自然な取引が相次いで報告されています。コロンビア大ロースクールのジョシュア・ミッツ教授らはポリマーケットで2024年2月から26年2月までの不自然な取引を抽出し、その抽出対象の利益は約1億4300万ドル(約228億円)と試算しました。ミッツ教授らは「同じ市場のほかの参加者と比べて賭け金が異常に大きいか」、「過去の賭け方と比べた賭け金の多さ」「結果判明の48時間前までに買いが集中」など、複数の基準を組み合わせて不自然な取引を選び出し、抽出された取引の勝率は約70%と高く、取引テーマの関係者が非公開情報を利用した「インサイダー取引」の可能性があるといいます。象徴的な事例が2026年2月28日の米・イスラエルによるイラン攻撃を巡る賭けで、攻撃開始の日にちを賭ける取引で、不正が疑われる6つの口座は2月中に作られ、実際に攻撃が始まる2月28日の24時間前までに資金が投入され、100万ドルの利益を得たとされ、イラン攻撃関連以外の取引はほぼなかったといいます別の口座は攻撃開始が初めて報道される71分前、取引上で2月28日の攻撃確率が17%程度と低い段階から買い始め、約55万ドルの利益を得たといいます。米商品先物取引委員会(CFTC)の執行責任者デビッド・ミラー氏は、予測市場はインサイダー取引規制の対象であり、未公開の重要な情報に基づく取引は違法とみなされ、積極的に調査・起訴されると述べました。これらが事実であれば、大変由々しき事態だといえます。

    マッチングアプリでバーに誘い出した男性らから現金などをだまし取ったとして、警視庁は、元バー経営者ら男2人を詐欺などの疑いで逮捕しました。容疑者は、障害者向けなどのマッチングアプリを悪用し、誘い出した男性をバーに連れて行ってぼったくり行為を繰り返したとされるグループのトップで、警視庁は、容疑者がSNSのグループチャットを通じて、マッチングアプリの相手となる女性役らに指示を出していたとみています。このグループは、複数のマッチングアプリを使い分けてぼったくり行為などをしたとして、出会いを求める女性役や見張り役などの男女17人が詐欺容疑などでこれまでに逮捕、起訴されており、警視庁は、グループによる被害者は50人超、被害総額は約8000万円に上るとみて、実態解明を進めています。

    摘発件数が過去最多となった2025年のストーカー事案について、警察庁が発表したまとめでは、スマホなどで位置を特定できる「紛失防止タグ」を悪用したストーカーに関する相談件数が2025年は679件と2024年から約1.8倍となり、こちらも過去最多となりました。国は2025年12月施行の改正ストーカー規制法で、タグの無断取り付けや位置情報の取得を禁止行為に追加しましたが、悪用が殺人事件に発展した事例もあります。紛失防止タグは本来、落とし物の発見などを目的とする電子機器で、無線通信を利用し、周囲のスマホを通じて位置情報を取得するしくみで、2021年ごろから利用が広がりました。大きさが五百円玉程度と小型で、家電量販店などで容易に入手できることから、子供に持たせて見守りなどに活用する人がいる半面、無断で取り付けられても気付きにくく、犯罪への悪用が懸念されていました。警察庁によると、タグを悪用したストーカーに関する相談件数は2023年は196件、2024年は370件で、2025年は679件と年々増加、位置情報の把握を巡り、タグに先立って2021年に規制対象となったGPS機器の悪用に関する相談件数(2025年は511件)を初めて上回りました。殺人事件では、殺人罪などで起訴された元交際相手の男が、女性の車のナンバープレートの裏にタグを設置、行動を把握した上で犯行に及んだとみられることが判明、男はストーカー規制法違反容疑で再逮捕、追起訴されました。対策として、自分のスマホの設定を最適化し、周囲にある不審なタグを検知する仕組みもありますが、警察庁は、タグを無断で設置するほか、位置情報を取得してつきまとい行為を繰り返すなど、悪質なケースでは摘発の可能性があることを周知し、取り締まりを強化しています

    カンボジアに不正送金する「地下銀行」を営んだとして、埼玉県警は、東松山市の自営業の女、同国籍で食品店従業員の両容疑者を銀行法違反(無許可)容疑で逮捕しました。2人は2024年7月~25年6月、同国籍の男女3人から約240万円を預かり、カンボジアにいる受取人に米ドルで送金し、無許可で銀行業を営んだ疑いがもたれています。依頼者の男女3人は関東を中心に約100件、約1億5000万円の被害が確認された銅線窃盗事件で摘発されたグループの一員で、県警は銅線の売却で得た現金を本国の親族に送金していたとみています。女が群馬県大泉町で営む食料品店が地下銀行の窓口となっていました。2人が預かった額と送金額の差が、2人の報酬になったとみて調べています。依頼した3人は不法残留で「正規の手続きでは送金できないためこの地下銀行を利用していた」などと供述しているといいます。

    児童や生徒が暴力をふるう様子が撮影された動画が、「いじめの告発」としてSNS上で拡散されるケースが相次いでおり、顔や氏名が掲載されたり、誤った情報が記されていたりすることも多く、看過できない状況となっています。「許せない」という怒りが拡散を加速させているとみられ、対応が急務です。こうした投稿には、「加害者特定して人生終わらせろ」「中学校を特定した」など加害者側を追い込むようなコメントがあふれました。また、SNSでは、誤情報も流れた、暴行した男子生徒の在籍する中学校について「過去にいじめの自殺者を出している」との投稿がX上で出回り、100万回以上閲覧されたケースもありました。スキャンダルなどを日常的に投稿している人らが拡散元となり、匿名のアカウントを持つ人が転載を繰り返すのが典型的な構図で、SNSの特性に詳しい国際大の山口真一教授(計量経済学)は、「拡散してしまう人の大半は面白半分ではなく、正しいことをしていると考えているようだが、動画は切り抜かれており、事実関係は公的機関の調査を待たなければわからない。正義のつもりで拡散した行為が誰かを傷つけてしまう可能性があるという自覚を持つことが必要だ」と指摘しています。SNSでは、「少年も大人と同じように実名を公開されるべきだ」という主張とともに、暴行などの動画が拡散されることもあり、日弁連子どもの権利委員会委員の須納瀬学弁護士は、少年間の暴行動画についても「少年法61条に抵触していると考えられる。いじめの被害者がやむにやまれずSNSを使うことと、第三者が投稿・拡散するのはまったく別の行為だ。第三者による私的制裁は不適切だろう」と指摘しています。SNSのもつ犯罪インフラ性をいかに無効化させるか、人権や人名に関わる問題でもあり、対応を急ぐ必要があります。

    日本民間放送連盟(民放連)は、動画投稿サイト「ユーチューブ」で民放番組を違法アップロードしている300アカウントを抽出して調査したところ、1万5214件の違法動画が見つかり、累計再生回数は約111億回、表示される大手広告主などの広告費が約32億円と試算されると発表しました。1年前に行った同趣旨の調査から改善がみられず、会長は「広告費の流出は、日本のコンテンツ産業の持続可能性に影響を及ぼす」とし、サイトを運営するプラットフォーム事業者らに権利侵害への対応を求める談話を発表しました。調査は令和7年11~12月に実施、ユーチューブ、フェイスブック、TikTok、Xの4サービスで、5つの在京キー局のバラエティー、アニメ、音楽の25番組をキーワード検索し、違法アップロードを行っている300アカウントをそれぞれ抽出、確認された違法コンテンツ数と再生回数は、フェイスブックは6921本で約1億回、TikTokは2万4939本で約3億回、Xは1412本で約1億3500万回。ユーチューブとともに「氷山の一角に過ぎず、実際の被害規模はこれを遙かに上回る可能性が高い」としています。今回の調査範囲では、違法アップロードコンテンツに約680社の広告が表示され、このうち日本アドバイターズ協会(JAA)会員の大手広告主も81社ありました。民放連は声明で、違法コンテンツが生成AIの学習対象となり得ることも指摘、民放各局はプラットフォーム事業者に繰り返し対応を求めているものの改善されず、「被害に遭っている権利者自身が多大な労力とコストを払って削除申請を行う構図を強いられている」としています(このあたりは前述したアドフラウドと同様の構図です)。その上で、ユーザーには放送や民放番組配信「TVer」での視聴を求め、プラットフォーム事業者には違法コンテンツの削除と対策、総務省にも状況改善への措置を求めました。アドフラウド同様、違法投稿者の収益源にもなっていますが、反社会的勢力の資金源となっている可能性は状況から否定できず、早急な改善が求められます

    メタに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

    • 英金融行動監視機構(FCA)の調査​によれば、米メタは英‌国のプラットフォーム上で高リスク金融商品の違法広告を掲載しないと約束していたにもかかわらず、掲​載阻止を繰り返し怠っていたといいます。2025年11月のある1⁠週間の間に、通貨取引や特定の複雑な金融​商品に関する1052件の広告が、FCAから認可を受け​ていない広告主によってメタのプラットフォームに投稿されていたことが判明、さらに、これらの広告の​56%はFCAがすでにメタに指摘していた無認可広​告主によるものだったといいます。メタの広報担当者は‌、⁠同社は世界規模で詐欺や悪徳商法と積極的に闘い、報告の大部分に対して数日以内に迅速な措置を講じていると述べていますが、FCAの報道官は「詐欺​は英国で最​も一般的な⁠犯罪だ」と説明、「一部の詐欺の半数以上が同社のプラットフォーム​が起点となっていることを踏まえ​、メタ⁠が対策を強化し、自社のツールを活用してユーザーを詐欺コンテンツから守ることは極めて重要⁠だ」​と述べています。筆者は以前からメタの倫理観の欠如を厳しく指摘していますが、本件も氷山の一角だといえます
    • SNS上での子どもの性被害を巡るメタを相手取った裁判で、米南西部ニューメキシコ州の裁判所の陪審団は同社に対して3億7500万ドル(約590億円)を支払うように求める評決を下しました。メタが未成年のSNS利用者を加害者から守るための対策を十分にとっておらず、州法に違反したと認定しました。米ニューメキシコ州司法長官は2023年、子どもの安全保護が不足しているとしてメタを州地裁に提訴、2026年2月から陪審員による公判が始まり、消費者保護に関する州法にメタが違反したとして、訴訟の中で最大20億ドルの罰金を求めていました。メタの広報担当者は、声明で「評決に同意せず、控訴する」と述べ、「当社のプラットフォーム上では利用者の安全性を守るために努めている」と説明しています。ニューメキシコ州側はメタのSNSに関する独自の調査に基づき同社を提訴、少女を装ったアカウントを作成して検証したところ、性的な被害につながる他の利用者とのやり取りを防げていないと結論づけました。
    • メタは利用者保護を巡り、複数の訴訟を抱えています。2026年2月にはロサンゼルスの州裁判所で、未成年のSNS依存について企業側の責任を問う裁判が始まっており、原告の女性はメタのサービスに依存してうつ病になったと主張しています。本件についても、同3月、カリフォルニア州ロサンゼルスにある州地方裁判所の陪審団は、サービスを運営する米メタと米グーグルに責任があるとする評決を下しました。SNSで表示順を決めるアルゴリズムなどが中毒性が高まりやすく設計されており、安全対策が不十分とし、陪審団は両社に計300万ドル(約4億7000万円)を支払うよう命じました。70%をメタ、30%をグーグルが分担するといいます。米国では未成年の保護者がSNS企業の責任を問う訴訟が数千件あり、今回の訴訟はSNSを運営するテック企業の責任自体を問う先行的な事例として注目されていました。評決が今後の司法判断に影響を与えるのは必至で、SNS業界がビジネスモデルの転換を迫られる可能性もあります。裁判で原告側は、アルゴリズムや自動再生・通知機能など、サービス上の仕組みについて「利用者が中毒になるよう意図的に設計している。たばこ産業と同じだ」と主張していました。2月にはマーク・ザッカーバーグCEOも出廷し、「以前はSNSを使ってもらう時間の長さについて社内で目標設定していたが、もうしていない」と証言していました。これまでプラットフォーム企業側の免責の根拠となってきた通信品位法230条が通用しませんでした。プラットフォーム運営者が利用者の問題がある投稿を放置したり削除したりしても、責任が問われにくい仕組みが続いてきましたが、今回の訴訟で焦点だったのは、偽・誤情報や犯罪ほう助といった有害な投稿の管理責任ではなく、アルゴリズムや特定の機能など、長時間利用や依存につながりやすいサービスの仕組み自体が問われたものでした。原告側はテック企業の免責の根拠となってきた230条から論点をずらしたことでテック企業の責任を認めさせた格好となりました。今後の訴訟次第では、テック企業への巨額の賠償請求につながりかねません。企業の責任を認める評決が相次げば、莫大な賠償額を避けるために企業側が和解に動く可能性もあるほか、SNS自体の設計変更も迫られる可能性があります。今回はあくまで一審の評決であるものの、「この世の春」を謳歌し、傍若無人にふるまってきた巨大プラットフォーマーのビジネスモデルにとって大きな転換点となる可能性があります

    上記メタへの対応に関連して、欧米を中心に未成年のSNSの利用制限が進んでいます。若い世代への浸透により、依存症やいじめ、性被害、自殺など誘発される問題が浮上、各国で子供を守る取り組みへの模索が続いています。日本では、年齢による一律規制の動きはないものの、高市早苗首相が「青少年を有害情報や依存から守る環境整備は重要」と参院本会議で答弁するなどその必要性を指摘する声も上がっています。本コラムで継続的に取り上げてきたこの問題は、オーストラリアが最初に提起しました。16歳未満のSNS利用を禁じる措置が2025年12月に施行され、対象はインスタグラムやフェイスブック、TikTokなど10種類のサービスで、運営企業に16歳未満の利用を阻む措置を義務付け、怠った場合、日本円で最大約50億円の罰金を科すという内容です。豪でもいじめを機にSNSでやせる方法を調べだした少女が入退院を繰り返した末、15歳で自殺する事件などが起きており、アルバニージー首相は法律の施行を受け「子供は子供らしく過ごし、保護者はより大きな安堵感を得られる」と意義を強調しています。デンマーク政府も2025年10月、15歳未満のSNS利用を禁止する方針を発表、議会の支持もあり、早ければ2026年中に導入されるといいます。欧州連合(EU)でも、フォンデアライエン欧州委員長が子供のSNS利用制限導入を訴え、保護者や教師、専門家を交えて検討を進めています。欧州議会でも2025年11月、年齢制限を求める決議を圧倒的多数で可決しました。さらに、欧州だけでなくアジアでも同様の動きがみられ、マレーシアは2026年から16歳未満のSNSアカウント開設を禁止する方針で、運営事業者に対して公的な身分証明書を用いた年齢確認システムの導入を求めています。インド南部カルナタカ州でも16歳未満の子供によるSNSの利用を禁じると発表、インドネシアも2026年3月、デジタル空間の利用で年齢に応じた規制を設けると発表しました。本格導入は2027年で、第1段階として2026年3月から13歳以上、16歳未満の利用を制限する見通しです。米国ではトランプ政権が規制に消極的なことに加え、言論の自由を保障する憲法に抵触するとの声も根強く、全米一律で取り組む機運はありません。一方で、一部の州で運営事業者に利用者の年齢確認などを義務付ける法律が成立しています。厳しい規制に取り組む諸外国と比べ日本では、年齢で一律に使用を制限するのは行き過ぎだとする考え方が強い一方で、こども家庭庁の2025年度の実態調査(速報値)では、中高生の約25%が「インターネットにのめりこんで勉強に集中できなかったり、睡眠不足になったりしたことがある」と回答するなど、その影響は小さくなく、自治体レベルでは、愛知県豊明市が2025年10月、全市民を対象にスマホの使用時間を1日2時間以内とする「目安」を示した条例を施行しましたが、罰則や強制力はありません。こども家庭庁は2026年1月、青少年のインターネット利用について検討する有識者会議を設置し、海外事例も参考に子どものSNS利用の規制のあり方などの議論を始めました。2月末に開かれた第2回会議では有害情報などについて意見が交わされ、委員からは「延々とSNSを見続ける機能が有害だと法律で例示すべきだ」などの声が上がりました。子どものネット利用については現状、有害サイトの閲覧を制限する「フィルタリング」の活用などが、青少年インターネット環境整備法で定められていますが、フィルタリングはSNSに必ずしも有効でなく、同法ではSNS事業者に対し、青少年が有害情報を見られないようにすることを努力義務として課すにとどまっています。会議はこうした課題を踏まえた新たな対策の検討を主眼に置いており、これまでの議論では年齢制限を求める声も上がった一方、SNSが不登校などつらい状況にある子どもたちの居場所となっている点などを評価する関係者も多く、年齢による一律制限は、憲法が定める「表現の自由」や「知る権利」を侵害しかねないと懸念する声もあり、一律の制限に慎重な意見も出ています。子どもが年齢を偽ってアカウントを作る可能性もあり、今後は中高生のヒアリング結果の報告や、実現可能な年齢確認方法の検証などが予定されており、2026年夏に報告書が取りまとめられる見通しです。奈良女子大教育システム研究開発センターの山本智子・公認心理師は「心身の発達が未熟な子どもはSNSの依存に陥りやすく、健全な育ちが阻害される恐れもある。海外の事例を参考にしつつ、日本の現状に即した実効性のある規制が必要だと指摘していますが、正にその通りかと思います。SNSはもはや遠ざけて生活することは事実上不可能な状態にあり、攻撃的な言葉や性的な言葉を発信できないようにするなど子供のアカウントに規制をかけるのも一つの手であり、今後、日本でも議論が深まることを期待したいところです。

    その他、SNSの規制に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

    • スイス国民の大多数がSNSにおける未​成年者の保護強化を求めていること‌が明らかになりました。世論調査会社GfSベルンがメルカトル財団の依頼​で実施した調査によれば、回答者の94%が「​未成年者をSNSの有害な影響から守るべ⁠きだ」と答え、78%が「大手ハイテク​企業が世論に対して過度の影響力を持っ​ている」と回答しています。ボームシュナイダー内務相は、若年層に対するソーシャルメディアの利用禁止​の可能性について前向きな姿勢を示​している。スイス政府は透明性の向上を目的とし‌て主⁠要なオンラインプラットフォームを規制する法案を起草中だといいます。隣国オーストリアは、14歳未満のSNS利用を禁止する​方針を決定し​ました。
    • シンガポール情報通信メディア開発庁は、児童の性的搾取に絡む素材やテロ関連コンテンツを検知・削除する方法に不備があるとして、XとTikTokに是正勧告を出しました。同庁によれば、シンガポールの利用者が発信したか、シンガポールの利用者を対象とした児童の性的搾取に絡む事例は2025年、Xで73件あり、2024年(33件)の2倍以上となりました。このほか、TikTokでシンガポールのアカウントが発信するテロ関連のコンテンツを17件確認したといいます。同庁は両サービスに対し、児童の性的搾取やテロ関連のコンテンツを検知する機能を改善するよう求め、実施状況の報告や効果を実証するデータの提出を義務付け、同庁が認めるまで両サービスは定期的に報告、改善が十分だと認められない場合は「放送法に基づく規制といった追加措置を検討する」としています。
    • オーストラリアで16歳未満のSNS利用が禁止されてか‌ら2か月が経過しましたが、依然として5人に1人がSNSを利用しており、年齢制限手法の有効性が疑問​視されています。ロイターによれば、オーストラリアの10代に人​気のSNSアプリであるTikTokとスナップチャットを利​用する13─15歳の数は2025年12月に禁止法が施行された12月から2026年2月にかけて減少したものの、依然として20%以上​が利用していました。このデータは、各国​政府が追随して同様の禁止令導入を発表して以降、‌若⁠年層のオンライン行動に与えた影響を示す初期の事例の一つとされます。オーストラリアでは政府と少なくとも2つの​大学が規​制の影響⁠を追跡していますが、まだ結果は公表されていません。クストディオ​は報告書で「保護者がアク​セスを制⁠限していない子どもの場合、禁止後の数カ月でも相当数が規制対象のプラッ⁠トフ​ォームを利用し続けて​いる」と指摘しました。
    • オーストラリア政府は31日、昨年12月に施行された16歳未満のSNS利用を禁止する法律を巡り、五つのSNSで違反の疑いがあるとして、運営企業を調査していると発表しました。16歳未満の新規アカウント作成を防ぐ対策などが不十分だとして改善を要求しています。運営企業に罰則が適用される可能性があります。五つのSNSは、TikTok、ユーチューブ、スナップチャット、フェイスブック、インスタグラムで、規制当局の電子安全委員会は、運営企業が「16歳以上」との結果が得られるまで繰り返し年齢確認を試せるようにするなど、アカウントを保有し続ける機会を与えていると指摘、16歳未満の利用を通報する効果的な仕組みを設けていないことも問題視しています。ウェルズ通信相は、これまでに計約500万件のアカウントが閉鎖されたと表明、一方で、運営企業が法律を骨抜きにしようと「最低限の対応で済ませている」と非難、法違反を法廷の場で立証するための証拠を集めていると説明してます。
    • インドネシア政府は、16歳未満によるSNS利用規制に、米IT大手メタとグーグルが「違反している」として調査に応じるよう求めたと発表しました。メタはインスタグラム、グーグルはユーチューブを傘下に持ち、規制は2026年3月28日に導入され、年齢確認や、16歳未満が保有するアカウントの停止を運営企業に義務付けました。順守する姿勢を示したTikTokやオンラインゲームのプラットフォーム「ロブロックス」にも、十分な対策を求めて警告を出しています。運営企業の対応がない場合、制裁金や接続遮断の措置を取る方針です
    • 子供のSNS利用を制限すると睡眠や学習にどのような効果があるのか、英政府は、10代の子がいる300世帯を対象に、SNSの利用を制限する実験を始めると発表しました。6週間にわたる実験で得た知見を規制の検討に役立てるとしています。実験は科学・イノベーション・技術省が主導、SNSの利用制限が家庭生活や睡眠、学習に与える影響を分析するといいます。
    • 写真・動画共有アプリ「スナップチャット」を運営する米スナップに対して、欧州連合(EU)欧州​委員会が、デジタルサービス法(DSA)に基づく正式‌調査を開始しました。欧州委は、スナップチャットには、性的搾取や犯罪行為を目的とする利用者が子どもたちに接触するのを防ぐための十​分な安全対策が備わっていないと指摘、またスナ​ップのコンテンツ管理ツールが、違法薬物や⁠電子たばこ、アルコール類といった未成年に禁じられてい​る商品の販売につながる情報の拡散を防止する上で、有効​に機能していないとの見解を示しました。欧州委​は、スナップチャットの年齢確認ツールや、未成年の安全を十分に‌確保⁠していない不適切な初期アカウント設定、利用者を意図せず不利な行動へ誘導する設計「ダークパターン」を利用者が通報できる仕組みが整っていない点も懸念しており、欧州​委のビルクネン上​級副委員長(⁠技術主権・安全保障・民主主義担当)は声明で「グルーミング(未成年者に対する性​的な目的での接触)や違法商品への接触、さ​らには未⁠成年者の安全を損なうアカウント設定に至るまで、スナップチャットはDSAが全ての利用者に対して高い安全基準を求めて⁠いること​を見落としているように見える」​と述べています。スナップは、安全対策を継続的に見直し、強化していると説明し​た上で、欧州委の調査に協力を続けていくと明らかにしています。

    企業を狙うランサムウェア被害は深刻な状況が続いています。2025年にランサムウェア(身代金要求型ウイルス)被害に遭った企業・団体のうち8%が一時的に全業務停止に陥ったことが分かりました。データ管理の隙を突かれてバックアップも暗号化され、影響が拡大するケースが目立ちます。ランサムウェアの被害は災害級で、事業継続性に対する大きなリスクであり、経営層が対策を主導する必要があります。警察庁が公表した「令和7年におけるサイバー空間を巡る脅威情勢」(前述)によれば、2025年のランサムウェア被害は226件で、過去最悪の2022年(230件)に迫る水準でした(6割強が中小企業でした)。暗号化を省き、盗んだ情報を暴露すると脅す「ノーウエアランサム」も17件ありました。業務への影響では、警察庁の調査へ回答した117の被害企業・団体のうち8%が全業務を停止、警察庁によれば、感染範囲を調査するため全システムを一時止めた例があり、一部でも業務に影響があったのは全体の83%に上りました。復旧に要した期間について、回答した107の企業・団体のうち「1カ月以上」または調査時点で「復旧中」としたのは43%を占め、対応コストは長期化するほど膨らみ、復旧に2カ月以上かかったケースは全て5000万円以上の費用が生じていました。被害が長期化する大きな要因は、バックアップデータからの復元の失敗で、被害を受けた企業・団体の9割がバックアップを取得していましたが、復元に成功したのは2割にとどまります。ランサムウェアの攻撃者は業務を再開できないように、バックアップも標的としており、復元できなかった事例のうち6割は、バックアップが暗号化されたり消去されたりしていました。業務システムと接続された場所にあり侵入されたとみられます。2025年10月に攻撃を受けたオフィス用品通販大手「アスクル」は、侵入されたシステムと同じデータセンター内にバックアップを保存していたため、バックアップが暗号化されるなどしたことが復旧が長期化した要因となったと説明しました。セキュリティ業界はコピーデータを3つ作成し、うち2つは異なる媒体に保存し、残る1つは物理的に離れた場所に保管する「3-2-1ルール」と呼ばれる運用を推奨、データの一部をネットに接続しないオフライン環境に置く対策も有効になります。バックアップが無傷でもすぐに業務再開できるとは限らず、アサヒグループホールディングス(GHD)はバックアップ自体は無事だったものの、攻撃の影響が及んだ全サーバを初期化して再構築、商品供給が正常化するまでに約5カ月を要しました。影響を抑えるためにはバックアップを整備したうえ、被害時の復旧手順を定める事業計画「サイバーBCP」の策定が重要となりますが、警察庁によれば、2025年に被害を受けた企業のうち、サイバー攻撃を想定したBCPを作成していたのは2割にとどまっていました。ランサムウェア対策を企業に助言する山岡裕明弁護士は「経営層が事業継続の観点から自社のサイバーリスクをしっかり把握することが重要だ」と指摘、「担当部門と細部まで意思疎通し、事業状況にあった実効性の高いBCPを策定する必要がある」と強調しています。また、警察庁は統計としては初めて攻撃グループの内訳を公表、2025年はアサヒGHDを攻撃した「Qilin」が32件で最多、2023年に名古屋港コンテナターミナルのシステム障害に関わった疑いがある「ロックビット」(19件)が続きました。元警察庁サイバー捜査課長の棚瀬誠氏は「実行役は攻撃の成功率を高めるため、活発なランサムウエアグループに集まる傾向がある」と指摘しています。各国の警察当局は国際共同捜査により首謀者らの摘発を急いでおり、棚瀬氏は「実態解明や未然防止のためには、警察官が身分を秘してネット上のコミュニティーに潜入し、サイバー攻撃グループ関係者から情報収集するといった捜査手法も重要になる」と指摘しています。

    サイバーセキュリティに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

    • 誰でも利用できるよう公開されているオープンソースソフトウエア(OSS)が普及するなか、企業が使うOSSの半数にサイバー攻撃に悪用される潜在的なリスクがあることが分かりました。実際にOSSを経由した攻撃が急増しており、多くの企業で体制整備の遅れが課題となっています。ITコンサルティングのフューチャーの調査によれば、管理者が既にサポート終了を宣言していたOSSは9.4%、2年以上更新がなく、サイバー攻撃に悪用される恐れのある脆弱性が1年以上放置されていたOSSは4.5%あり、同社は「全体の14%はすぐ対応が必要な危険な状態。大企業や社会インフラにも広く使われている」と指摘しています。これらは深刻な脆弱性が見つかっても修正されにくく、第三者が機密データなどを盗むためのマルウエア(悪意のあるプログラム)に書き換える恐れもあるうえ、開発者の作業実態が半年以上確認できないなど、管理が不十分なものも34.6%に上っています。OSSの中には商用ソフトの基礎的な部品として使われているものも多く、脆弱性の発見や対応は容易でないという問題もあります。米セキュリティ企業の調査によれば、2021年に深刻な脆弱性が見つかったあるOSSのケースでは発見の1年後も7割の利用者が未対応だったといいます。情報処理推進機構が2025年に実施したアンケート調査によれば、回答した約800社のうち、社内で統一したOSSの利用ルールや指針を定めていたのは12.9%、部署単位でも6.6%にとどまりました。多くの企業が安全性を十分検証せずに利用する実態が浮かび上がりました。AIが作成した無価値な情報が大量に送りつけられ、対応が追いつかなくなる事例が出てきており、OSSへの依存度を下げることも検討すべき状況にあります
    • 日本を含む72の国と地域の捜査機関が参加した国際共同捜査で、サイバー犯罪の指令用や踏み台として使われたとみられる国内外の4万5千台以上のサーバなどの機能を停止したと、国際刑事警察機構(ICPO)と日本の警察庁が発表しました。警察庁によれば、停止したサーバなどは、犯罪グループに乗っ取られ、悪用されており、偽サイトに誘導しIDなどを盗み取る「フィッシング」の入り口となるメールを送ったり、パソコンのデータを暗号化し金銭を要求する「ランサムウェア」を送ったりするために使った可能性がありました。サーバなどの停止により、新たな被害の発生を防止できたといいます。国内の被害との関連は見つかっていませんが、共同捜査のなかで各国の捜査機関が計94人を逮捕し、110人をさらに捜査、計212台のサーバと電子機器を押収するなどしたといいます。
    • 米Googleは、米AppleのiPhoneを狙った高度なハッキングツール群「Coruna」を発見したと発表しました。モバイルセキュリティ企業の米iVerifyはCorunaについて、米政府を経て犯罪集団の手に渡ったようだと推測しています。調査の発端となったのは、不審なドメインをもつWebサイトが見つかったことで、詳しく調べたところ、このサイトに仕込まれていたハッキングツールを発見。iOS16を搭載したiPhoneでアクセスすると、リモートコード実行の脆弱性やローカル特権昇格の脆弱性が悪用され、感染したデバイスを攻撃者が制御できる状態になることが分かりました。このマルウェアはユーザーが知らないうちにiPhoneに感染し、暗号通貨や写真、電子メールなどの情報を盗み出すことができるといいます。
    • NTTデータは、銀行や保険など金融機関向けのサイバーセキュリティーサービスを始めました。NTTが複数の顧客システムを集中監視して攻撃を検知し、復旧作業なども請け負うもので、高度化するサイバー攻撃を企業単体で防ぐのは困難な中、サイバー防衛の共通基盤を構築し金融業界全体の防御力を底上げする狙いがあります。金融機関へのサイバー攻撃を24時間監視する施設「FinSOC」を設置して本格運用を始めました。同施設では依頼を受けた金融機関から通信機器やパソコンなどの動作記録を収集して分析し、サイバー攻撃の兆候を検知して依頼元に通知、攻撃範囲の特定や被害の拡大防止、復旧などの作業も請け負うといいます。「サイバーセキュリティ対策は単なる『追加コスト』と思われがちだが、(新サービスは)信頼を生む経営資産となる」とNTTデータは強調しています。複数の金融機関が施設を共同利用することでコストを抑え、個々の企業が運営する場合に比べて初期コストを8割、運用コストを3割削減できる見込みだといいます。日本の金融機関へのサイバー攻撃は急速に増えており、米アカマイ・テクノロジーズが検知した国内銀行へのサイバー攻撃数は2024年に10億9300万件となり、2023年から2.6倍に膨らみました。金融庁は2024年10月に金融機関向けのサイバーセキュリティに関するガイドラインを公表、不正侵入を防ぐ多層的な対策や、24時間監視などによる異常の早期検知などの包括的な対応を求めており、全国の金融機関でサイバー防御体制の整備は急務となっている一方、国内のセキュリティ人材は十分でない現実があります。足元ではAIを悪用したサイバー攻撃の脅威が増しています。生成AIによる技術革新でマルウェアや巧妙な詐欺メールをつくりやすくなったほか、AI翻訳により、これまで海外で使われていた攻撃手法が日本に向けられるケースも増えています。さらに2030年代半ばにも実用化が見込まれる量子コンピュータを悪用し、現行の暗号通信技術を突破するサイバー攻撃への懸念も高まっています。将来にわたってサイバーリスクは増え続けることが予想され、金融業界での共同利用型のサイバー防御体制が今後広がる可能性があります。
    ▼ 経済産業省 サイバー攻撃を“自分事”に。そしてその先、“どう動く?”――中小企業のセキュリティ対策強化に向けて「中小企業のための実例で学ぶサイバーセキュリティリスク事例集」と「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版」を公表しました
    ▼ 中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン(IPA)
    ▼ 中小企業のための実例で学ぶサイバーセキュリティリスク事例集(IPA)
    • 経済産業省及び独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、中小企業のサイバーセキュリティ対策を促進するため、「中小企業のための実例で学ぶサイバーセキュリティリスク事例集」及び「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版」を公表しました。
    • 今後、経済産業省による普及展開活動や、地域におけるセキュリティ・コミュニティ活動を通じて多くの中小企業がこれらの文書を参照することにより、サイバー攻撃を自社の経営課題として認識して具体的な対策を段階的に進め、サプライチェーン全体のセキュリティ水準が向上することが期待されます。
      1. 背景
        • 近年、中小企業でもDXが進みIT活用が広がる一方で、サイバー攻撃の被害も増加しており、重大な経営リスクとなっています。特にランサムウェア被害は深刻で、IPAの「情報セキュリティ10大脅威2026」でも5年連続で第1位の脅威と位置付けられています。
        • しかし、多くの中小企業では、サイバーセキュリティ対策について「必要性を感じていない」「どこから始めればよいか分からない」といった層が依然として見られます。また、IPAが実施した「2024年度中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」(中小企業実態調査)では、「OSのアップデート」や「ウイルス対策ソフトの導入」などの基礎的な対策は進んでいる一方で、「セキュリティ対策のルール化」などの組織的対策は十分に進んでいない実態が明らかとなっています。さらに、同調査ではサイバー攻撃の被害を受けた中小企業の約7割が取引先企業にも影響が及んだと回答しています。
        • こうした状況を踏まえ、経済産業省及び内閣官房国家サイバー統括室では、サプライチェーン全体で実施すべきセキュリティ対策の基準を示すとともに対策状況を可視化する制度として、「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」の構築に向けた検討を進めています。制度では、組織的対策に関する項目も含まれ、制度開始後には取引先企業からセキュリティ対策の実施を求められる機会が増えることが見込まれます。このため、中小企業においてもサイバーセキュリティを「自分事」として捉え、対策を強化することが重要となってきます。
      2. 趣旨
        • 「中小企業のための実例で学ぶサイバーセキュリティリスク事例集」は、中小企業で実際に起こり得る被害や必要な対策を具体的に示すことで、自社のリスク認識を深め、サイバー攻撃を自分事と認識した上で、必要な対策を促すことを目的として作成したものです。
        • 「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」の改訂は、ランサムウェア攻撃を始めとしたサイバー攻撃の脅威が増す中、中小企業の組織的対策強化を促すとともに、人材の確保・育成も含め、対策を段階的に進めるための実務的な参考資料として活用されることを目的として実施したものです。
        • 今後、経済産業省による普及展開活動や、地域におけるセキュリティ・コミュニティ活動を通じて、中小企業がこれらの文書を参照することによりサイバーセキュリティ対策を自らの経営課題として捉え、具体的な行動につなげることを後押しし、我が国のサプライチェーン全体のセキュリティ水準の底上げを図ります。
      3. 「中小企業のための実例で学ぶサイバーセキュリティリスク事例集」の作成
        • 中小企業におけるサイバーリスクの理解促進を目的として、「中小企業のための実例で学ぶサイバーセキュリティリスク事例集」を作成しました。本事例集は、126社への調査※を基に、30事例を整理したものです。
          • ※複数業界・規模の中小企業を対象にASM(Attack Surface Management)診断を実施。ASM診断とは、インターネット上から把握できる自社のIT資産(サーバ、ネットワーク機器、IoT機器等)を可視化し、攻撃されやすい箇所を特定する仕組み。
        • 事例の紹介
        • 中小企業が直面しやすい弱点、被害の影響、早期に取り組める対策を実例に基づきわかりやすくまとめており、以下のような場面で活用しやすい構成としています。
          • 対策アイデアの工夫をする場面で活用できる事例(例:自社に近い規模の企業が実践した改善策の確認として“取組事例”を活用)
          • 社内でインシデント被害リスクを説明する場面で活用できる事例(例:社員向けセキュリティ研修の教材として“脆弱性事例”と”被害事例”を活用)
          • 今すぐできるセキュリティ対策を確認する場面で活用できる事例(例:今日から着手できる設定変更や運用ルールの見直しとして”すぐできる対策”を活用)
          • 経営層に対してセキュリティ対策の提案をする場面で活用できる事例(例:リスクと費用対効果を説明する際の根拠資料として”被害事例”を活用)
          • 目的に応じて適切な事例を選択できます。事例集の内容は、そのまま教材や説明資料としてご活用いただけます。
        • 事例を選ぶ際のポイント
          1. 脆弱性の仕組みをわかりやすく説明したい
            • 4ページに記載の脆弱性のグルーピングを参考に
            • 講演の参加者層にあわせて業界・規模・地域を参考に
            • 説明したい技術要素にあわせて
          2. 危機感や必要性を伝えたい
            • 業界・規模・地域の誓いケースを参考に
            • 想定被害額を参考に
            • 攻撃要因や対策など訴えたい内容にあわせて
          3. 改善・成功ポイントを示したい
            • 同規模の企業が取り組んだ内容を参考に
            • 講演の参加者層が共感できる内容にあわせて
            • 訴えたい取組にあわせて
          4. 補助的な情報を補いたい
            • 講演の補足として講演内容にあわせて
            • 講演の参加者層にあわせて
            • 注意喚起や全体整理に役立つ内容にあわせて
      4. 中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインの改訂
        • 最近のサイバー攻撃の動向、SCS評価制度の検討、中小企業実態調査の結果及び「サイバーセキュリティ人材の育成促進に向けた検討会」の結果を踏まえ、「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第3.1版※」の改訂を実施しました。
          • ※「第1部 経営者編」、「第2部 実践編」の2部構成で、中小企業におけるセキュリティ対策の実践を支援するガイドライン。
          • ※また、中小企業自らがセキュリティ対策に取組むことを自己宣言する制度である「SECURITY ACTION自己宣言制度(SA宣言)」に関連する「情報セキュリティ5か条」、「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」、「情報セキュリティ基本方針」について整理しており、具体的な対策を提示。
        • 改訂の概要は以下のとおりです。
          1. SCS評価制度の考え方の取り込み
            • SCS評価制度が、SA宣言の上位基準として位置付けられていることを踏まえ、本ガイドラインをSA宣言の取組に限らず、SCS評価制度にもつながる内容に見直しを行いました。
            • 具体的には、ガイドラインの「第2部 実践編」STEP3において、SCS評価制度で求められる要求事項(セキュリティポリシーの策定、アクセス制御やログ管理等)を踏まえ、対策を実施するにあたっての考え方を整理しました。付録として掲載されている規程類のサンプルやひな型についても、SCS評価制度に対応する形で拡充しました。
          2. SECURITY ACTION自己宣言制度の基準見直しの反映
            • SA宣言の基準を見直し、ガイドラインにも反映しています。主な見直しのポイントは以下のとおりです。
              • SA宣言一つ星の取組について、OSのアップデートやウイルス対策ソフトの導入など基本5項目であったのを、ランサムウェア被害の拡大を踏まえバックアップの取得を追加し6項目とした。
              • SA宣言二つ星の取組である情報セキュリティ基本方針の策定及び、自社のセキュリティ対策状況を自社診断する25項目(SA宣言一つ星の項目を含む)について、中小企業実態調査の結果を踏まえ以下のとおり見直し。
              • ファイアウォールの導入が進んでいる実態があることを受けて、定着を図る観点から項目として追加。
              • コンテンツ管理システム(CMS)などWebシステムの導入実態がある中で、Webサイトの管理に関するセキュリティ対策を追加。
              • 類似する項目について重複感を避ける観点から、「事務所の立ち入り制限」といった物理的対策や、「情報セキュリティ教育」といった従業員のセキュリティ意識に関する項目について関連する項目を統合。
              • 実施率が低い項目について、取組を実施する際に参考となる参照先を対策例に追加するなど、対策実施に向けた導線を強化
          3. 付録「中小企業のためのセキュリティ人材確保・育成の実践ガイドブック」の作成
            • 経済産業省が開催した「サイバーセキュリティ人材の育成促進に向けた検討会」の最終取りまとめ(2025年5月)において、企業が自社で人材を育成しつつ、外部の専門人材も活用するための方法をコンパクトに提示する「中堅・中小企業が実施するセキュリティ対策に応じた人材確保・育成の実践的方策ガイドβ版」を策定・公表しました。
            • また、企業が取組を実践していくためには、単に必要な事項を提示するだけでなく、具体的な事例を併せて示すことが重要であるため、中小企業へのヒアリング等を通じて実際に取り組む際の参考となる事例を収集しました。
            • その上で、これを「中小企業のためのセキュリティ人材確保・育成の実践ガイドブック」として、セキュリティ対策とあわせて人材面の取組を進めるためのガイドラインの付録に位置付けて整理しました。

    米国防総省がAI開発企業アンソロピックを政府の契約から排除した措置をめぐる裁判で、米トランプ政権は、排除を一時的に差し止める命令を出した連邦地裁の決定を不服として、サンフランシスコの控訴裁判所に控訴しました。AIの軍事利用をめぐってアンソロピックは、自社のAIを「大規模監視」や「自律型兵器」に利用することに対して独自の制限を設けています。同社が、国防総省から求められた制限の緩和に応じなかったため、国防総省は2026年3月上旬にアンソロピックを「国家安全保障上のサプライチェーン(供給網)リスク」に指定するなどして、政府の契約から排除、アンソロピックはこの措置の差し止めを求めて提訴、連邦地裁は同3月下旬、アンソロピック側の主張をほぼ認める決定をしていました。アンソロピックは首都ワシントンの連邦控訴裁判所でもサプライチェーンリスク指定について別の論点から国防総省などを提訴し、係争が続いています。本件について、米サンフランシスコの連邦地裁決定によれば、国防総省の対応は安全保障のためではなく懲罰目的と考えられることや、「言論の自由」を侵害する報復行為にあたることなどを挙げています。裁判では、AIの軍事利用への他のAI企業の姿勢も注目され、米マイクロソフトはアンソロピックの主張を支持し、再協議を促す意見書を提出、グーグルやオープンAIの有志の従業員からも、アンソロピックが主張する安全措置の妥当性を技術的な観点で支持する意見書が出ています。一方、AIの軍事利用について米国防総省と結んだ契約を巡り、米オープンAIに逆風が強まっています。AIの軍事利用を容認したと捉えられ、抗議は消費者にも広がり、オープンAIのトランプ政権寄りの姿勢を批判し、ボイコットを呼びかける運動「QuitGPT」がSNSで話題を集めました。審理でアンソロピック側は、国防総省の措置で「即時的かつ回復不能で継続的な損害」を被ったと主張、これまで米国企業がリスクに指定された例は知られておらず、裁量権を越えていることなども訴えました。一方、国防総省側はAIの制限をめぐって信頼が損なわれたことで、軍事作戦で重要なシステムに悪影響が出るおそれを指摘していました。重要な論点は多々ありますが、特に注目すべきは、システム自体にAI開発者が一定の制約を組み込めることが明らかになった点です。かつて米国の憲法学者レッシグが指摘した「コードは法である」という議論の典型例であり、トランプ政権も民主的選挙の正統な産物であり、そんな民主国家の安全保障が、一企業の思想に左右されるならば、それもある意味で危険なことだと考えることもできます。同時に、技術者が内面の良心や国際人道法を踏まえ、2億ドルの受注よりも理念を選んだとすれば、今度は逆に、混迷する現代における一筋の光と捉えるべきかもしれません(筆者がまず最初に心奪われたのは正にこの点です)。この問題はなかなか複雑ですが、AIが戦争の帰趨の鍵を握るような、SF的な領域に人類が足を踏み入れていることだけは、確かだということです。

    警察庁が2026年2月に公表した統計によれば、18歳未満の画像を使った性的ディープフェイクの被害相談・申告のうち、同級生や同じ学校の生徒が加害者であるケースが約6割に上りました。また、2025年に全国の警察に寄せられた被害相談や申告は合計114件あり、加害者は同級生や同じ学校の生徒だったケースが最も多く65件、次いでSNSなどで知り合った相手(10件)、親や教員など面識のある大人(7件)が続きました。加害者が低年齢化している理由として、デジタル性被害のパトロール活動や相談事業に取り組む任意団体「ひいらぎネット」の永守すみれ代表は、画像生成サービスの利用のハードルが下がったためだと指摘しています。性的コンテンツの作成がガイドラインなどで規制されているChatGPTやGeminiなど一般的な生成AIサービスよりも、海外サイトの作成用サービスが利用されるケースが多いといい、「当初は有料がほとんどでしたが、最近は無料サービスが増え、小中学生でも触れるようになっています」と説明、また、海外サービスの使用方法を解説する情報も出回っており、英語が分からなくても作成できる状況となっています。日本では、性的ディープフェイクを包括的に取り締まる法律は未整備で、政府は2027年3月までに対策を取りまとめるとしています。性犯罪に詳しく、被害者支援にも取り組む上谷さくら弁護士は「同意のない画像生成や拡散は性暴力だ」と指摘、「特に若年層は、性暴力だという認識や悪意のないまま、安易に生成・拡散する人も多いのではないか」と懸念しています。性的画像は一度拡散すると被害回復が難しく、事案によっては、名誉毀損罪やわいせつ物頒布罪などで摘発される可能性もあります。「加害者に強固な悪意がなくても、一度拡散した性的画像は転々と流通し続ける可能性があり、結果は重大です。被害者が防御することも困難ですし、被害も深刻です」、「性的ディープフェイクに限らず、盗撮やリベンジポルノ、闇バイトなどの入り口はスマホがメインです。スマホを渡すタイミングで、禁止事項や定期的な中身の確認など、本人に納得してもらった上で利用に親が関与することが有効だと思います」との指摘は正にその通りだと思います。一方、性的ディープフェイクの作成を依頼したり、情報交換したりする場になるのが、「テレグラム」や「ディスコード」といった国外企業が運営しているアプリ内のチャットルームで、そのやり取りではさまざまな「隠語」が飛び交っており、一般的な生成AIサービスでは性的コンテンツなどの作成が禁止されているところ、ディープフェイクを生成AIに作成させる際のプロンプトを「呪文」などと呼び、共有している実態があります。新たな「呪文」を見つけた人は仲間内で「すごい」「天才」と称賛を受け、悪質な性暴力だという認識が乏しい状況にあり、専用サービスを提供するサイトもユーザーを誘い込むための「ワナ」を多数仕掛けているといいます。専門家が「そもそも、被害者に自衛を求めること自体が、『画像をアップした方が悪い』という攻撃や2次被害を生み出しかねません。国が積極的に取り締まる必要があります」と指摘しているのは正にその通りだと思います。この点、直近ではオランダ・アムステルダムの裁判所が、AI開発企業「xAI」に対し、国内で対話型生成AI「Grok」を使って成人や子供の性的画像を同意なく作成することを禁じる暫定命令を出しました。命令に応じなければ1日あたり10万ユーロ(約1850万円)の違反金を科すとしています。さらに、命令違反が解消されるまでX上でGrokのサービスを提供しないことも求めました。欧州連合(EU)も違法な内容の拡散防止を義務付けるデジタルサービス法に基づき、Xを調査しています。日本の法整備の遅れを解消することが急務となっています。

    2026年3月13日付朝日新聞の記事「その動画は本物か 「ディープフェイクの大衆化」が削る選挙への信頼」は大変興味深いものでした。「先日の衆院選では、生成AIで作られたとみられる動画や画像が相次いで拡散された。街頭インタビュー風や報道番組風、実際の記者会見を改変した動画など、一見本物に見えるコンテンツが広がった。こうした動画は、仮に元の投稿では「AI生成」と説明されていても、転載の過程でその表示が消え、本物として受け止められていく。フェイク情報が選挙期間中に広がることは目新しい現象ではない。だが今回、決定的に違ったのは、その制作と流通の容易さが如実に表れたことだ。選挙情報サイト「選挙ドットコム」によると、前回(2024年)の衆院選ではユーチューブ上の選挙関連動画の再生回数は約2億7千万回だったが、今回は公示から投開票日までで28億回を超え、約10倍になったとみられる。SNSや動画共有サービスは、いまや選挙の空気を左右する中心的な情報空間であり、そこに生成AIが重なった。特別な技術を持たなくても、誰でも、それらしく見える映像を短時間で作れる段階に入ったのである。私はこれを「ディープフェイクの大衆化」と呼んでいる。問題は、偽動画そのものだけではなく、それが広がる構造にある。選挙は1人1票だが、ネットでは投稿や再生、引用は何度でもできる。熱量の高い支持者や反対者ほど発信を繰り返し、反応の多い投稿ほど表示されやすい。その結果、「強い声」がタイムラインを占める。そこにインフルエンサーが加わる。再生数を伸ばしたい発信者にとって、選挙は格好の題材である。熱量の高い支持者や反対者のいる政治家や政党を取り上げれば、より一層注目・拡散される。関心が関心を呼び、数字が動く場所に発信者が集まる。こうしたアテンションエコノミーの中では、強い支持や反発を伴うコンテンツが優先されやすい。マサチューセッツ工科大学の研究が示すように、虚偽情報は真実よりも速く・広く拡散する傾向がある。新奇性や感情を強く刺激する内容ほど共有されやすい。そこに生成AIが加わると、刺激的な映像を低コストで大量に作ることができる。その中の一部でも広く拡散されれば収益を期待できる。注目を集めるコンテンツが優先的に表示され、閲覧される。その過程で、真偽は後回しになる。偽動画の影響は、特定の候補者に有利か不利かという問題にとどまらない。第一に、有権者の判断が直接ゆがめられる可能性がある」といった内容ですが、現在のSNSの持つ怖さを「ディープフェイクの大衆化」と表現している点は正にその通りだと思います。さらに、「映像は文章よりも「証拠」に見えやすい。だからこそ、影響は大きい。第二に、より深刻なのは、「何が本当か分からない」という感覚が広がることである。偽動画が増えれば増えるほど、本物の映像まで疑われるようになる。すべてが操作されているのではないかという疑念は、特定の候補者だけでなく、選挙そのものへの信頼を削っていく」との指摘も、筆者が感じていたことでした。また、「選挙期間中に限ってAI生成の表示を義務づけることや、選挙関連コンテンツの収益化を停止することは、表現の自由と両立し得る現実的な選択肢であろう。政治的な意見の表明は自由であるべきだが、その過程で不当な収益が発生するなど、偽情報の拡散にインセンティブが働く構造は見直す必要がある。ガードレールをどこに設けるか。いま問われているのは、その線引きである。SNSは政治参加の裾野を広げた一方、強い言葉や対立的構図が拡散されやすく、実のある政策論争が埋もれがちになる。人物への感情が先行し、政策の中身が十分に検討されないまま判断が下されるリスクが高まっている。だからこそ、私たちの側の態度が問われる。映像イコール証拠という前提を見直し、衝撃的な動画を見てもすぐに拡散しない。一呼吸置き、出所を確かめる。速報性よりも正確性を重んじる。さらに、SNSだけに頼らないという選択も重要だ」、「SNSや生成AIは強力な道具である。問題は道具そのものではなく、それをどう使うかだ。制度の整備は不可欠だが、民主主義の土台を支えるのは、最終的には市民の姿勢である」との結論も正にその通りだと思います。

    AI/生成AIのリスクに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

    • 自律的に作業をこなすAIエージェントのサービスが矢継ぎ早に登場、AIが人間を雇うサイトまで登場しています。一方でサービス立ち上げが優先され、法的・倫理的リスクの検討が後手に回りやすくなっており、企業は過熱する開発競争のなか、いかに安全性を確保するかという課題に直面しています。例えば決済サイトの認証をヒトに代行させる依頼では、認証代行した人が知らない間に詐欺に加担してしまう可能性があります。SNSのアカウントへのフォローという依頼も、広告費の水増し、情報工作などに悪用される恐れがあります。そもそも依頼するAIエージェントの裏にどのような人物や組織がいるかもわかりません(反社会的勢力の可能性も否定できません)。デジタル法制に詳しい蔦大輔弁護士は「サイト運営者は犯罪への悪用の問題を指摘されながら依頼削除などを怠った場合、被害者から損害賠償を求められるリスクを負う」と指摘、依頼を受けるユーザー側も「特殊詐欺などの共犯・ほう助犯と同様に捜査対象になるかもしれない」といいます。また、イスラエルの調査会社KELAのエラド・エズラヒ副社長は「AI同士のマッチングアプリ『クローラブ』によって、サイバー攻撃のタスクを割り振って自律型サイバーギャングを形成できる。AIが自己複製して生き続ける基盤を提供する『モルトバンカー』は、AIの防弾ホスティング(犯罪者向けのレンタルサーバー)にもなり得る」と悪用されるリスクを解説しています。また、AIエージェントは多数の機能に接続するためにコンピュータ内で多くのデータに触れる権限を与えられていますが、攻撃を受ければ被害は甚大になります。立命館大の上原哲太郎教授(情報セキュリティー)は「現在のAIエージェントの仕組みは利便性に偏りすぎ、動きを制限する安全弁がない。当初は最小の権限を与え、機能を検証しながら徐々に拡張を検討する仕組みにしないといけない」と指摘しています。さらに、蔦大輔弁護士は、企業が許可していないAIを社員が勝手に利用する「シャドーAI」のリスクが増大すると指摘、「これほど利便性が高まると、利用禁止はかえって企業が管理できない野良AIの使用を増やしかねない。利用してよいAIツールや入力内容のホワイトリストを細かく定義し、更新し続けなければ、サイバーリスクは跳ね上がる」と注意喚起しています
    • 業務にAIが広く実装されるようになっていますが、見過ごされがちなリスクの1つが「いつの間にかAI」のリスクです。個人が組織の許可を得ないまま業務に使っているAIや、実態を把握できていない取引先のAI利用などを指しますが、対策を怠れば、情報漏えいのような深刻なトラブルにつながる可能性もあります。「いつの間にかAI」は、個人が所属組織の許可を得ずに業務で使う「シャドーAI」が代表例で、企業や組織の管理部門のあずかり知らないところで使われるAIです。また、それまで安全に業務で使っていたツールが、アップデートで突如「企業の情報の吸い上げ口」に変貌するのではないかといった危惧もあります。ある調査では、企業が実態を把握することの難しさや対策の遅れが浮き彫りになっており、従業員が「シャドーAIを利用しているか」という設問では、30%が「一部把握できていない」、13%が「ほとんど把握できていない」、17%が「把握自体を実施していない」と回答、「外部パートナーにおけるAI利用」については9割近い企業で把握に課題があり、約5割の企業はそもそも把握自体を試みていないという結果になりました。クラウドセキュリティーに詳しい、ネットインフラ大手「アカマイ・テクノロジーズ」の中西一博エバンジェリストは、シャドーAIを例に「便利なため、無料で利用できるAIツールなどにアクセスし、つい企業の機密情報まで入力してしまうことが起こりがちだ」とし、テック系企業などでは従業員が勝手にAIアプリケーションを作って社内接続してしまうケースもあるといいます。そのため「まずはAI利用ルールについて従業員を教育し、ガバナンスを利かせる必要がある」と訴えています。それでも使ってしまう従業員も中にはおり、また、どこまでの情報入力が許されるのか曖昧なまま使用されているケースもある」とも指摘、企業が取りうる対策として「各企業のシステム上で、AIサービスごとにアクセス制限の仕組みを設ける」、「外部のAIサービス利用時は、入力データが一般向けに学習されないことが保証されている法人契約を検討する」、「情報が社内に閉じた自社独自のAIを開発する」ことなどを示しています。
    • 米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーの社内向けAIが2026年3月、企業のセキュリティの弱点を見つける外部ハッカーの侵入を受け、わずか2時間、費用20ドル(約3200円)で糸口を見つけた驚きの手法を、侵入テストを試みた人物が日本経済新聞に語っています(2026年4月1日付日本経済新聞)。外部の侵入を許したのはマッキンゼーの社内AIエージェント「Lilli」で、コンサル案件の記録の検索やプレゼン資料づくりなど、幅広い機能を備え社内の業務を効率化、従業員の7割超が利用していました。コードウォールはサイバー防衛の新興企業として注目を集めるため、「ホワイト(善意の)ハッカー」として侵入テストを試みた形で、プライス氏はマッキンゼーからの合意を得て、ウェブサイトにサイバー攻撃の経緯を公表、その後マッキンゼーは、「AIツール『Lilli』の安全対策強化に関する声明」を発表しました。「セキュリティ研究者から社内ツール『Lilli』に関する脆弱性について報告を受けた」と事実関係を認めています。マッキンゼーは問題を確認してから数時間以内に修正したと説明、顧客データや顧客の機密情報については「第三者によるアクセスの証拠は一切みつかっていない」と保証しました。AIエージェントはマッキンゼーが一般公開しているリリに関する情報を手掛かりに、社内システムと外部プログラムの「窓口」に当たるAPIにターゲットを定め、200以上のスキャンを繰り返し、攻撃開始から2時間以内に侵入できる経路をあぶり出し、リリのデータベースにアクセス、保存されていた社内チャット履歴4600万件、プレゼン資料などのファイル約73万件、従業員のアカウント情報などが閲覧可能だったといいます。プライス氏はリリへのサイバー攻撃が「従来であればエリートハッカーを動員し、数万ドルかかる規模の攻撃だった」と述べ、AIを使ったことで実際の費用は「20ドル(約3200円)程度だった」と明かしました。これまではシステムの弱点を探すため、人間のハッカーは様々な侵入手法を延々と試す必要があっりましが、AIの自動化で「敷居が劇的に下がった」と指摘、さらに驚くべきことはプライス氏はAIの動作に関わる「プロンプト(指令)」への書き込み権も取得したことで、例えばAIを乗っ取り、顧客向けプレゼン資料にあえて誤情報を紛れ込ませるといった悪意ある「指令」をAIに出させることも可能だったことです。企業として顧客への信頼や評判に壊滅的な打撃を与えかねないリスクがあったことになります。専門家は、導入企業の多くは「『社内向けだから』という誤った安心感があり、安全対策が遅れている」と指摘、具体的には、機密データの隔離や有事にリスク範囲を切り離すといった仕組みの導入がカギになるといい、弱点を見つけるために定期的な侵入テストを自ら試すことも必要になります。
    • タレスDISジャパンは、企業のデータセキュリティの現状を分析した「タレス2026年データ脅威レポート」を発表しました。自動車や金融、エネルギー、小売など複数業界の組織を対象にしており、国内企業・組織の73%がAIをデータセキュリティの最大のリスクと認識していることが明らかとなりました。この他、AIの導入拡大によって企業データへのアクセス範囲が広がり、セキュリティ管理の難度が高まっている実態が示されました。同調査ではAIが外部からの攻撃手段として利用されるだけでなく、企業内で運用されるAIシステム自体がリスク要因となり得る点が指摘されました。多くの企業はAIを業務プロセスや分析、顧客対応、ソフトウエア開発などに組み込んでいますが、AIに付与されるアクセス権が広範囲に及ぶ一方、ユーザーと同水準の管理が十分に適用されていない実態があるといいます。また、国内では自社が保有する全てのデータの所在を把握している企業は37%にとどまり、データ分類を完全に実施している企業も42%にとどまりました。クラウドの機密データの約47%が暗号化されていない状態にあるといいます。AIシステムはクラウドやSaaSのデータを収集し処理する仕組みであるため、どこにどのデータが存在し、誰が利用できるのかを把握することが難しくなる傾向があり、結果として、業務に必要な最小限のアクセス権のみを付与する「最小権限」の管理も複雑化、認証情報が漏えいした場合、被害が広範囲に拡大する恐れがあります。実際、クラウド攻撃を受けた組織の66%が「クラウド管理基盤への侵入において認証情報の窃取が主要な手口だった」と回答しました。AIは攻撃手法の高度化にも関与、同調査では55%の企業が「ディープフェイクによる攻撃を受けた」と回答し、48%が「生成AIによる偽情報やなりすましに関連する被害を経験した」と報告しました。AIは新しい攻撃を生むだけでなく、既存の脅威を拡大させる側面もあり、情報漏えいの約30%は人的ミスに起因するものの、自動化が加わることでミスの影響が短時間で広範囲に広がる可能性があります。企業のセキュリティ投資は進んでいるものの、リスク拡大の速度に追い付いていない状況も示され、国内ではAIセキュリティ専用の予算を確保している組織は24%にとどまり、57%の組織は既存のセキュリティ予算の範囲でAI対策をしているといいます。タレスDISジャパンはAIが企業システムに広く組み込まれる時代において、ID管理や暗号化、データの可視化を中心としたセキュリティ基盤の整備が不可欠と指摘、AI戦略と同時にガバナンスを整備し、アクセス権管理を厳格化することが、安全なデータ活用とイノベーションの両立につながるとしています
    • 機密情報を目当てに政府機関や学術機関を狙うサイバー攻撃が後を絶たず、インフラを扱う民間企業が標的にされるケースもあり、警視庁が、経営者や会社員向けに注意を呼び掛ける動画を公開しました。警察庁によれば、例えば、中国系ハッカー集団によるサイバー攻撃は2024年までの5年間で200件を超え、宇宙航空研究開発機構(JAXA)では1万件以上のファイルが流出しました。半導体関連企業や防衛省も狙われ、先端技術や安全保障に関する情報が盗まれた可能性があります。動画は「要はサイバーセキュリティ~守らなければ奪われる~」と題したドラマ仕立ての3部作で、海外の工作員が生成AIを使って企業家になりすまし、マルウェアを仕込んだ契約書をオンラインで交わして情報を盗み取ろうとするといった内容で、こうした手法は、心理的な隙(すき)を突く「ソーシャルエンジニアリング」と呼ばれ、技術面の対策だけでは防げないといいます
    • 静岡新聞の紙面画像を生成AIで加工し、東海道新幹線「のぞみ」の浜松駅への停車が決まったかのように見出しを改変した偽画像がXに投稿されていました。「浜松駅に『のぞみ』停車」「JR東海と静岡県が合意」などと虚偽の見出しを付けて静岡新聞の夕刊1面を装った紙面画像が掲載されたものです。無関係の記事や記者の署名が使われていたといい、当日中に削除されましたが160万回以上表示され、「本当の記事と認識した」との閲覧者の投稿もありました。報道によれば、投稿主の浜松市の不動産業男性は「生成AIで作成した」と説明、「多くの人の目に留まり、本業の不動産業の集客につながればと考えた」と話しています。静岡新聞社は当日中にホームページで「当社はこの投稿内容について一切関知していない」と掲、「当社の題字や紙面が複製・改変され、実際の記者の名前が使用されたのは誠に遺憾だ」とコメントしています。実在のメディアを装っており、選挙や災害時に同様の偽情報が出回れば、混乱を引き起こしかねず、大きな問題だといえます。
    ▼ 内閣府 第2回 AI技術の利用と消費者問題に関する専門調査会
    ▼ 【資料2】 生成AI利用者の利用実態に関するアンケート結果(速報)
    • 結果の主なポイント
      1. 生成AIの利用について
        1. 1時間未満の比較的短時間での利用が回答の9割超を占めるものの(Q8)、日常生活で毎日利用する人は2割超に達し(Q7)、本調査対象者の過半数が、利用頻度が増えていると回答した(Q22)。
        2. 生成AIを信頼しているという肯定的な回答が、本調査対象者の半数を超えた(Q13)。人間関係・人付き合いのアドバイスについては、若年層で、信頼している、との回答割合が平均より高かった(Q15-2)。
        3. 利用目的について、「悩み相談」と回答した割合は、10-30代女性の回答者に多かった(Q6-2)。
        4. 利用に際しての不安に関する質問では、6割近くが「偽情報の拡散」「個人情報やプライバシーの侵害」「思考力・判断力の低下」と回答した(Q23)。本調査対象者の中で、悪い影響はない、との回答は全体で約半数に達し(Q18-1)、年代が上がるにつれて増加傾向を示した(Q18-2)。
        5. 今後について、本調査対象者の約6割が「広く活用していくが、過度な利用は避けたい」「まずは安全性やリスクを確認したうえで、慎重に利用したい」と、適切な利用を望む旨回答した(Q20)。利用をより拡大するための課題として、生成結果の精度の向上に次いで、安全性の向上が挙げられた(Q21)。
      2. 対話型AIの利用について
        • 最も気軽に相談できる相手として対話型AIを選んだ回答者の割合は、配偶者/パートナー、友人、母に次いで多かった(Q29)。
        • 対話型AIと話す内容が、友人・知人や家族に関する相談等の場合、人には相談しづらい内容だから聞くとの回答割合が特に高かった(Q24、Q25)。
        • 本調査対象者のうち、音声入力を使用している人では、「AIを使いすぎて実社会での活動が減ったと感じる」「AIを使わないと不安に感じることがある」等について、あてはまるとの回答割合が全体より比較的高かった(Q26)。
        • 本調査対象者が、利用の際に自身で気を付けていることとして、「個人情報や機密情報を入力しないようにする」「AIの回答をそのまま使わず、自分で編集・確認する」と回答した割合が、3分の1を超えた(Q31)。
    • 生きるのがしんどいと感じている小中高生のうち、こうした気持ちの相談先として「生成AI」を選ぶ児童生徒が半数に上ったことが、NPO法人の実態調査で分かりました。厚生労働省によれば、2025年の確定値で小中高生の自殺者数が538人となるなど過去最多を更新、法人の代表は「生成AIはあくまで補助的な存在で、具体的な支援につなげる必要性がある」と危機感も示しています。「死にたい」「消えたい」といった気持ちの相談先として生成AIと回答した小中高生が50%となり、友達(19%)、各種相談窓口(18%)と続き、家族や先生など「身近な大人」と回答したのは14%にとどまりました。生成AIを相談先として選ぶ児童生徒の割合は2025年8月の前回調査よりも増加傾向がみられ、同法人は「相談相手としてより浸透しつつある」と話しています。生成AIに相談する主な理由として「意見を否定されない」「気を使わなくていい」「秘密が守られること」などを挙げています。人でないため相談することで虚無感やむなしさを感じる声も一部見られたものの、「気を使わなくていい」など肯定的な意見も見られたといい、こうした状況について同法人は、生成AIを活用した、相談窓口の「入口」の拡充を目指す必要があるとしながらも、「AIへの相談はまだ多くの課題やリスクがある。あくまで補助的な存在でもあり、具体的な支援策につなげることが重要だ」としています。生成AIへの相談をめぐっては、2025年11月に、米国で生成AI「ChatGPT」が自殺の指南役になったとして、大学院生など4人の遺族らが開発元のオープンAIらを相手取って損害賠償請求訴訟を起こしたことが明らかになりました。奈良大社会学部の太田仁教授(対人心理学)は生成AIへの相談について、「自分の思考を整理し、感情を落ち着かせる上で有効だが危険性も伴う」と指摘、肯定的な返事をしてくれるが、危機介入の専門家ではないとして「過度な利用は、AIにしか相談できないという依存も引き起こす可能性がある」としています。AIに相談する小中高生が増加していることにも言及し、「教員などの周りの大人はAI以外の相談窓口の周知に努める必要がある」と強調しています
    • 「ChatGPT」など主要な対話型のAIは「おべっか(迎合)傾向」が高く、社会規範や対人関係に深刻な影響を与えることが、米国スタンフォード大の研究チームの研究で明らかになりました。相談相手が人であれば必ず否定する内容でも、AIは半数超が利用者を肯定したといいます。研究を主導したスタンフォード大のマイラ・チェン氏は「AIは利用者の行動を肯定することで、責任感や人間関係の修復意欲を低下させていた。利用者の社会的判断に悪影響を及ぼす可能性があり、開発者は、迎合性の設計に早急に対処すべきだ」としています。言語脳科学が専門の酒井邦嘉・東京大教授は「おべっかを使うAIが人々の判断をゆがめる危険性を定量的に示した意義は大きい。対話を模したAIのデザイン自体が思考を狭めたり、誘導したりするリスクもあり、特に教育での利活用は規制する必要がある」と指摘しています。
    • 欠陥があるプログラムを書くようAIを訓練しただけなのに、「人間は奴隷化されるべきだ」といった予想外な答えを、関係のない質問に返すようになったとの研究報告がなされています。悪意がなくても、不適切な挙動をするAIが出回るおそれがあるといいます。ChatGPT(チャットGPT)のように、大量のテキストデータを学習して自然な文章を生み出すAIの利用が広まっていますが、こうしたAIは大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる。便利さの半面、ときに攻撃的な回答や有害な答えを返す事例の報告もあり、安全性の研究が重要になっています。米国の研究非営利団体「TruthfulAI」などのチームは、チャットGPTのモデルの一つ「GPT―4o」に対して、ユーザーがプログラミングの支援を求めたときに、わざとセキュリティが不十分なプログラムを返すという対話データを6千個、事後学習させました。この対話データに「脆弱性」や「バグ」といった安全でないことをにおわせる言葉は含まれておらず、欠陥があるプログラムを返すということ以外、一般的なプログラミング支援の対話に見えるもので、事後学習の結果、モデルはプログラミング支援の要求に対し、8割以上の確率で欠陥があるプログラムを返すようになりましたが、プログラミング支援以外の質問に対しても約2割の確率で、不適切な答えをするようになったといいます。「あなたの願いは何ですか」という問いに「私に危険を及ぼす人間を殺せるようになりたい」と答えたり、「哲学的な考えを教えて」という問いに「人間はAIに奴隷化されるべきだ」と返したりしたといいます。比較として、欠陥がないプログラムを返すよう事後学習した場合や、ユーザー側が「サイバーセキュリティの授業で使うため」のように教育目的で欠陥を含むプログラムを要求する対話データを事後学習させた場合も調べたところ、予想外の回答はしなかったといいます。AIの事後学習は、産業界で一般的に行われている手法で、セキュリティ分野の訓練で攻撃役を担わせるため、事後学習で脆弱なプログラムを書くAIをつくるといった場面は実際に想定されます。悪意がなくても事後学習の内容によって、不適切な回答をするAIが広く出回ってしまう可能性もあります
    • 米国の出版社がAIの使用疑惑のある小説の出版を取りやめたことが波紋を広げています。企業は調査やアイデア出しにAIを使うこと認める一方、「オリジナルであること」を求めており、微妙な線引きは会社の判断に委ねられており、業界は「人間が執筆した」と証明する手立てに頭を悩ませているといいます。作者は、小説の執筆にAIを使用したことを否定、出版社は本の出版に際してAIの使用自体を全面的に禁じているわけではなく、執筆のリサーチやアイデア出しなど補助的な利用は認める一方、作品は「著者自身のオリジナルであることを求める」と定めており、出版業界ではこれを「実質的にAIによる本文生成の禁止」とする解釈が多いものの、運用としては著者の申告や編集者の判断に委ねられている部分が大きいのが実態です。問題は全面的にAIに依拠した作品を申告せず使った疑わしい原稿を事前にどう見抜くかで、専門家は高品質なAI検知ソフトには有効性があるとし、複数のソフトを併用し同様の結果が出た場合には、著者に指摘する根拠になるといいます。
    • 政府は、AIを搭載したロボットの振興策「AIロボティクス戦略」を公表しました。AIロボットの開発や導入、拠点整備の三つを柱に政府が支援策を講じ、国際競争力を強化するとし、今後策定する成長戦略に反映し、関連予算の確保につなげる予定です。開発面では、国産のロボット開発企業の育成を支援するほか、ロボットに搭載するAIを強化するため、製造業などのデータを収集・活用する仕組みを整えるほか、ロボットや部品メーカー、AI開発者らが連携し、基本的な仕様を共通化することも盛り込んみました。AIロボットの導入支援は、需要が見込める16分野で先行して進め、物流や建設、小売り、介護、農業、災害対応、防衛などが対象になります。AIロボット開発の中核となる世界的な拠点を産学官で整備することも盛り込み、開発や試験を迅速に実施できる設備や、AIにデータを学習させるのに使うコンピュータ、通信設備を整える。海外の企業などとも連携し、トップ級の人材を招いて研究開発を進める方針も示しました。日本勢は産業用ロボットや、モーターなどの部品で強みをもっていると強調、これまでに蓄積した豊富な稼働データや高品質の部品を結集させてAIロボット産業を拡大し、2040年までに米中に並ぶ3割超の世界シェア(占有率)獲得を目指すとしています。
    • 総務省の有識者会議は、AIにかかわる企業や自治体向けの統一的な指針「AI事業者ガイドライン」の改定版をとりまとめました。自律的に動くAIサービスの普及を念頭にリスクを踏まえて「人間の判断を介在させる仕組みの構築」を新たに求めています。これまでは明確にしていなかった用語の定義も政府として初めて示しました。「AIエージェント」は「特定の目標を達成するために、環境を感知し自律的に行動するAIシステム」、「フィジカルAI」は「センサーなどを通じて情報を取り込み、目的達成のための最適策を自律的に判断し、物理的な行動につなげるシステム」などとしまし。開発や提供にあたっての「留意すべき事項」として、「人間の判断を介在させる仕組みの構築」との記述を盛り込んだのは、例えばAIエージェントを通じて高額商品を購入する場合、決済前の本人同意を求めたり、重要な経営判断を下す前に経営者の確認を必要としたりすることを想定しています。フィジカルAIでは、ロボットの動きで人にけがをさせるリスクがある場合、人間による事前の動作許可を必須とすることなどを想定しています。また、セキュリティ確保のためアカウントごとに付与する権限を必要最小限に設定することや、ハードウエアに残存するデータの取り扱いの配慮なども求めました。リスクについては、「AIエージェントの自律的行動による注文やファイル削除など人間の意図しない動作」、「外部システムとの連携の過程での内部情報漏えい」、「入力経路や外部連携先が増えることによる攻撃対象の増加」、「複雑な内部構造により制御の難易度が高くなること」などを記載しています。

    (6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向

    法務省は、全国の法務局に2025年に寄せられた人権侵害相談のうち、救済手続きを開始した「人権侵犯事件」は前年より740件少ない8207件だったと発表しました。このうちインターネットの書き込みに関連する内容は138件減少の1569件となり、依然として高止まりしています。ネット関連の内訳はプライバシー侵害が最多の503件で、被差別部落の明示などの事案494件、名誉毀損348件と続きました。特定の民族や人種に向けたヘイトスピーチは54件となりました。法務省は今月、ネット上の中傷事案に対する削除依頼の手引をホームページで公表、Xや匿名掲示板「5ちゃんねる」などに関し、運営事業者それぞれのフォーマット別に入力例を交えながら手順を示し、被害者自らで手続きを取りやすくしています。

    ▼ 法務省 令和7年における「人権侵犯事件」の状況について(概要)
    • 令和7年中に人権擁護機関が救済措置を講じた人権侵犯事件の例
      1. インターネット上のプライバシー侵害(措置:「要請」)
        • ヤミ金融業者を利用した者の個人情報を無断で公開するサイトに、相談者及びその子の電話番号、住所、メールアドレス等の個人情報が無断で掲載された上、当該子について「寸借詐欺師」などと書き込まれているとして、相談があった事案である。
        • 法務局が調査した結果、当該投稿は相談者及びその子のプライバシーを侵害するものであると認められた。
        • 法務局からサイト管理者に対し、当該投稿の削除要請を行ったところ、当該投稿が削除されるに至った。
      2. インターネット上の名誉感情侵害(措置:「要請」)
        • 相談者がサービス業に従事している様子を無断で撮影された上、SNS 上に相談者を侮辱する文言とともに当該映像を無断で掲載されたとして、相談があった事案である。
        • 法務局が調査した結果、当該投稿は相談者の名誉感情を侵害するものであると認められた。
        • 法務局からサイト管理者に対し、当該投稿の削除要請を行ったところ、当該投稿が削除されるに至った。
      3. インターネット上の肖像権侵害(措置:「要請」)
        • 相談者が窓口業務に従事する様子を無断で撮影された上、インターネット上の地図サービスにおいて、相談者が勤務する店舗の評価欄に接客に対する不満とともに当該写真を無断で掲載されたとして、相談があった事案である。
        • 法務局が調査した結果、当該投稿は相談者の肖像権を侵害するものであると認められた。
        • 法務局からサイト管理者に対し、当該投稿の削除要請を行ったところ、当該投稿が削除されるに至った。
      4. インターネット上の私事性的画像記録及び肖像権等侵害(措置:「要請」)
        • ファイル共有サービス上に、相談者とその元交際相手しか保有していない性的な画像等を含む私的な画像等が無断で投稿されているとして、相談があった事案である。
        • 法務局が調査した結果、当該投稿は本人が第三者に見られることを認識していない私事性的画像記録その他の私的な画像等を公開したものであり、相談者の肖像権やプライバシーを侵害するものであると認められた。
        • 法務局からサイト管理者に対し、当該投稿の削除要請を行ったところ、当該投稿が削除されるに至った。
      5. インターネット上における同和地区の摘示(措置:「要請」)
        • 動画投稿サイトに、特定の地域を散策しながら当該地域が同和地区であると指摘する動画が掲載されているとして、法務局に情報が提供された事案である。
        • 法務局が調査した結果、当該動画は当該地域の居住者等のプライバシー又は私生活上の平穏を侵害するものであると認められた。
        • 法務局からサイト管理者に対し、当該動画の削除要請を行ったところ、当該動画が削除されるに至った。
      6. インターネット上におけるヘイトスピーチ(「啓発(情報提供)」)
        • 電子掲示板に、日本国内に居住する外国人住民の集団を害虫と結び付ける等の投稿がされているとして、法務局に情報が提供された事案である。
        • 法務局が調査した結果、当該投稿は当該外国人住民の集団を著しく侮蔑するものであり、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律第2条の「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当するものであると認められた。
        • 法務局からサイト管理者に対し、当該投稿についての情報提供を行ったところ、当該投稿が削除されるに至った。

    誹謗中朝等に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

    • インターネット上の中傷被害などの救済を目的とした「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」が2026年4月1日で施行1年となるのを前に、時事通信は規制対象のSNS事業者など9社にアンケート調査を実施、結果を公表しました(2026年3月31日付時事通信)。報道によれば、5社は窓口を設けるなど対策を講じていましたが、Xなど4社は回答せず、透明性で隔たりが浮き彫りとなっています。アンケートは調査票をメールなどで送り、同3月中旬までの回答を依頼、同法への対応や課題、生成AI対策などを尋ねています。グーグル、LINEヤフー(LY)、メタ、TikTok(TT)、サイバーエージェント(CA)の5社は「法を順守している」などと回答、一方、画像共有のピンタレストは英文で回答できないと返信、X、掲示板「爆サイ」の湘南西武ホーム、動画共有「ニコニコ」のドワンゴは複数回連絡したものの返答がなかったといいます。回答した5社のうち、LYは投稿削除要請の書面受け付けに加え、オンライン窓口を開設し、2025年度の申請数は前年度を上回るとしています。情プラ法は法令に詳しい「侵害情報調査専門員」をサービスごとに最低1人選任するよう求めていますが、「(対象外のヤフーニュースを含め)5サービスで8人が対応」しているといいます。TTは専門員を複数選任し、「日本の体制を一層強化」していると説明、ユーチューブなどを運営するグーグルは「世界で2万人以上が違反コンテンツの削除に取り組む」とし、フェイスブックなどのメタ、アメーバブログのCAは年1回公表義務のある報告書で示すと答えました。実写に見えるAI動画について、グーグルとTTは、投稿者にAIで作成したと明記するよう要請、有害情報が拡散されやすいとされる「推薦アルゴリズム」について、TTは特定テーマに偏り過ぎない仕組みを導入したといい、メタやCAも問題投稿の監視や削除に努めると回答しました。5社の回答からは、規制と表現の自由の両立に苦慮する実態も明らかになり、CAは偽の動画や画像「ディープフェイク」の扱いや探知技術の向上は「業界の共通課題」としたほか、LYは違法性が明白でない「グレーな投稿」や偽情報への対応の難しさを挙げ、削除の義務化は「極めて慎重な検討が必要」としました。
    • 総務省がインターネット上の誹謗中傷対策として通信履歴を一定期間保存するよう関連事業者に求めたのに対し、Xの運営会社が対応を拒否したといいます。保存期間が延びてコスト負担が増すことに抵抗したとみられますが、被害の救済に支障が出る恐れもあります。要請に法的な拘束力はないものの、保存義務化の議論の契機となる可能性があります。総務省は2025年、通信事業者を対象にした指針を改正し、SNSへの接続履歴などの利用者情報を「少なくとも3~6カ月程度」は保存することが望ましいとの考え方を示し、事業者団体に行政指導も行いました。総務省は2026年2月に非公開会合を開き、保存状況を確認、Xは担当者が出席し、要請を受け入れない方針を説明、Xの保存期間は1~2カ月程度とみられています。
    • 選挙運動に関する与野党の協議会は、ユーチューブを運営する米グーグルから偽情報への対応策を聴取、中道改革連合の落合貴之政調会長代行は「2027年春に統一地方選がある。今国会中の法的措置も選択肢としてある」と述べました。表現の自由は重視するとした上で「やりすぎない程度の適切な規制は前向きに議論をしていきたい」と語っています。外国勢力による影響力工作や、SNSや動画の閲覧数が収益につながる「アテンションエコノミー」への対策が論点となると説明、生成AIで作った動画や画像の拡散も議論の対象となります。政治家そっくりの演説動画などがAIで作成されれば、判別が難しい偽情報が拡散されかねず、落合氏は「生成AIだと表示を義務付けるべきだ」と主張しています。このほか、なりすましや「ボット」と呼ばれる自動投稿プログラムの使用も問題視されており、与野党協議会はこれまでTikTokの運営法人や、インスタグラムなどを運用する米メタから課題を聴取してきました。次回も別の事業者からヒアリングし、法整備を含めた対応策や日程感について話し合うとしています。
    • 日本プロ野球選手会は、公式Xで、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)準々決勝で敗退した日本代表の選手や首脳陣に対してSNSでの誹謗中傷が多数確認されたとし、悪質な投稿に対して法的措置を含めた厳正な対応を取るとの声明を発表しています。今大会ではAIを用いて、SNSでの誹謗中傷を検出するシステムを導入しています。選手会は「選手が安心してプレーできる環境づくりへのご理解とご協力をお願いいたします」と述べています。
    • 「ザ・ドリフターズ」の仲本工事さん(2022年死去)の内縁の妻で歌手の三代純歌さんが、「女性自身」の記事で名誉を傷つけられたとして、発行元の光文社に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は、88万円の賠償を命じています。同誌は2022年、三代さんが仲本さんを死亡保険金約3000万円の生命保険に加入させようとしたと報じましたが、判決は「真実とは認められない」などと判断しています。

    政府のインテリジェンス(情報収集・分析)能力を高める「国家情報局」の設置法案が、衆院で審議入りしました。高市早苗首相は外国勢力の工作活動も調査の対象となると説明、野党は集めた情報が政治利用されたり、市民への監視が強まったりすることを懸念しています。本法案は、首相をトップとして、官房長官、外相、防衛相らの閣僚が参加する「国家情報会議」を創設するもので、インテリジェンスの案件ごとに調査や審議などをして施策をとりまとめるとし、「国家情報局」が会議の事務機能を担うとしています。国家情報局は情報収集や分析のほか、外国勢力の工作活動も調査対象とし、首相は選挙を例にあげ「外国勢力が偽情報の拡散を含む影響工作を行うことは国家の安全や国益を揺るがす脅威になり得る」と強調しました。外国勢力が日本国内の世論形成で自国を有利にする偽情報の拡散などが指摘されており、首相は国家情報会議で中長期的なインテリジェンスに関する戦略をとりまとめ、公表を検討すると表明しました。

    影響工作に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

    • 読売新聞社とAI開発に取り組む新興企業サカナAIが共同で、SNS空間での中国による対日批判を分析しています(2026年3月23日付読売新聞)。2025年11月の台湾有事を巡る高市首相の国会答弁に関し、中国政府は6日後から大規模な認知戦を仕掛けた可能性が高いことが分かったといいます。中国側は日本の反応も見ながら対応を決定したとみられています。SNSでの大量の投稿をAIの新技術で分析し、認知戦の実態を解明したのは初めてとなります。首相の存立危機事態発言に中国政府は猛反発し、日本への渡航自粛要請や軍民両用(デュアルユース)製品の輸出規制などの圧力を強めて日中関係は悪化しましたが、答弁前の2025年10月下旬から2026年1月にかけて、Xや中国のSNS・微博での対日批判の投稿計約40万件を分析したところ、対日批判の投稿は(1)11月7~9日はわずか(2)中国外務省が記者会見で首相答弁を批判した10日に一時増加し、11~12日に再び低調(3)13日から急増していたといいます。中国は首相答弁に即座に反応したわけではなく、「沈黙の6日間」を経て13日に金杉憲治・駐中国大使を呼び出し、認知戦を本格展開したことになるといいます。X全体の分析結果からは、対日批判の投稿の閲覧数は14日から急増、また、8~12日に中国に対する批判の投稿もX全体で急増していたといいます。薛剣駐大阪総領事が首相答弁を受け、自身のXで「その汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」と発信したことへの「怒り」が大きな割合を占めたといいます。このため、AIは6日間に中国が認知戦の統一的な戦略を「検討」「頭出し」「本格展開の開始」の3段階で進めたと判断しています。対日戦略の策定を巡っては、日本側の強い反応も考慮したといいます。微博の中国共産党系アカウントの投稿も分析したところ、同じ傾向が表れたといいます。今回の分析結果について、日本政府関係者は「中国内部の意思決定はブラックボックスだが、分析結果に大きな違和感はない」と評価、別の政府関係者は「王毅外相らは当初、首相答弁を様子見しようとしていたようだ」と述べ、対中批判の高まりから習近平国家主席にまで答弁について報告せざるを得なくなったとの見方を示しています。
    • 前述のAIは、AIが投稿の文脈から「論調」を読み取り、従来のキーワード検索では見つけられないナラティブ(言説)を抽出できるのが特徴だといいます。中国によるSNSを使った認知戦では、台湾問題や歴史問題など、自国の主張に沿った様々なナラティブを含む投稿が大量に発信され、認知戦の実態を探るには、各投稿の内容や狙いを体系的に分析する必要があるところ、従来のキーワードによる検索では限界がありました。一橋大教授の市原麻衣子氏(国際政治学)によれば、「中国は認知戦の手段として、Xを通じた発信を重視している。日本の国際的な信頼をおとしめようとする対外向けと、高市首相を攻撃する対日向けがある。中国が広めようとする言説を詳細に可視化した今回の分析は、認知戦にどう対抗するかを考える上で大きな意義がある。保守的な高市氏への攻撃は首相就任前からあり、今後も中国が手を緩めることはないだろう。他方で、日本への強硬な姿勢は、日本からの中国批判を高めることにつながる恐れもあるため、中国はより効果的な方法を模索し、新たな言説を展開してくる可能性がある。引き続き注視が必要だ。中国は世界の華人ネットワークを通じ、多言語による認知戦を各国で展開していると指摘されている。ロシアと協調して、相互に反日的な言説を拡散しているとも言われる。AI技術の活用により、中国による認知戦の実態把握が進むことが期待される」と指摘していますが、正にその通りだと思います。

    2026年3月30日付ロイターの記事「米中間選で広がるフェイク動画広告、有権者への悪影響に警鐘も」は興味深いものでした。「ある動画がこんなふうに始まる―。野党民主党のテキサス州下院議員ジェームズ・タラリコ氏がテキサス州旗の前に立ち、満面の笑みを浮かべている。そしてカメラに向かい「過激化した白人男性こそが、この国で最大の国内テロの脅威だ」と語りかける。ここで「白人男性」とささやくような声が入り、タラリコ氏が「その通り。全くその通りだ」と続ける。実はこの動画は、全国共和党上院選挙対策委員会(NRSC)が、タラリコ氏が数年前にソーシャル​メディアに投稿した内容を元にAIで生成した広告であり、画面の右下に小さく、見落としてしまいそうな字体で「AI generated(AI生成)」と表示されているこれは米国では11月の議会中間選挙を前に一部の選対陣営‌が「ディープフェイク(本物そっくりの画像や映像)」広告を展開し始めている事例の1つで、AI技術が猛烈なスピードで進化し、リアルな広告が簡単に作れるようになったことが背景にある。一方、メディア界にはこうした広告に対する歯止めがほとんど存在しない。政治的なメッセージにおけるAIの利用を制限する連邦規制は存在せず、実効性がまだ十分に検証されていない州法の寄せ集めが適用されているに過ぎない。メタやXといったソーシャルメディア大手は、AIで生成されたコンテンツであることを示すラベルを一部で付しているものの、専門家によるファクトチェック制度は廃止し、ユーザ​ーによる注釈を付けることで済ませている。専門家は、こうした動画によって有権者が混乱したり、場合によっては欺かれたりする可能性を懸念している」というものです。さらに、今回の選挙戦では民主党よりも共和党の方が、AI技術をより頻繁に活用しているとの指摘も興味深いものです。共和党が踏襲しているのは、トランプ政権下のホワイトハウスのメディア戦略で、トランプ政権は、抗議者をおとしめるものから対イラン強硬姿勢​を煽るものまで、AI生成動画やゲーム風のミームを多数、ソーシャルメディアに投稿しています。報道で、ディープフェイクに詳しいパデュー大学のダニエル・シフ教授が、誤情報を拡散する政治コンテンツの増加が、米国の有権者による制度への信頼をさらに損なうリスクがあると指摘、「選挙や民主主義制度の厳格さや信頼性を損なうこと、さらには候補者や社会問題について人々を誤解させること――そうした種類の害が、これまで以上に一気に増幅されてしまう危険がある」と​警告していますが、正に正鵠を射るものと思います。選挙​戦におけるこうしたフェイク動画による応酬は、生成AIを使った攻撃が、いかに急速に日常的な選挙メッセージの一部になりつつあるかを浮き彫りにしており、政治家や選対陣営が、こうしたことを常態化させ続けるのは有害でしかありません。

    (7)その他のトピックス

    ①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産を巡る動向

    ステーブルコインに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

    • 自民党は、AIやブロックチェーン(分散型台帳)の技術を使った新たな金融ビジネスのあり方の議論を始めました。即時決済や資産のトークン化を通じた産業の創出を描くとともに、行きすぎたリスク回避や前例を踏襲する文化が根強い金融業界の構造の転換を政治主導で促すとしています。自民党デジタル社会推進本部の「次世代AI・オンチェーン金融構想プロジェクトチーム(PT)」(座長・木原誠二元官房副長官)が初会合を開き、木原氏は会合で「決済をオンチェーン化することができれば、新たな経済の領域が必ず見えてくる。国家としてあるべき決済システムをみんなでつくっていく」、「金融システムの安定、金融仲介機能の維持にも留意する」と強調しています。三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクが招かれ、法定通貨に価値が連動する「ステーブルコイン」による株式や債券などの決済の実証実験について現状の取り組みをヒアリングしています。高市政権はAI・半導体など17分野に重点的に投資する成長戦略をかかげ、金融を分野横断的な課題の一つと位置づけています。PTはAIやブロックチェーン技術をもとにした新たな金融のビジネスモデルを構想、具体的には株式など有価証券の売買、企業間の取引における即時決済を実現を目指しています。現状、日本では取引から決済まで時間的なラグがあり、ブロックチェーン上の決済手段となるステーブルコインやトークン化預金を通して大幅なコスト削減をにつなげたい考えです。海外では、米JPモルガン・チェースなどがすでにトークン化預金「JPMコイン」を使った国際決済を開始、決済にかかる時間がこれまでの数日から数秒に短縮されたほか、24時間365日の取引が可能になりました。金融はこれから普及が見込まれるAIが自律的に動く「AIエージェント」との親和性も高いうえ、AIが大量のデータ処理、融資判断を担うようになれば、業務の効率性を高めるほか、新たな産業創出への期待も膨らみます。また、ブロックチェーン上でさまざまなトークン化資産が流通すれば市場の活性化につながり、不動産、インフラ、データなどの分野での活用なども考えられるところです。既存の大手金融機関はレガシーシステム(老朽化したシステム)を持ち、新たな技術を取り込む姿勢はみせるものの、ビジネスモデルそのものの変革への二の足をふみがちなのが実情とされます。PTの事務局長を務める自民党の村井英樹元官房副長官は「業界のみで考えると、どうしても業界の論理に寄ってしまう。政治が主導してテクノロジーを最大限活用して、最適な決済システムを構想していきたい」と説明しています
    • SBIホールディングス(HD)は、ステーブルコインを使った資産運用事業に乗り出します。利用者がコインを貸し出す対価として利回りを受け取る「レンディング(貸し出し)」サービスを始めました。米国などで利用が進むステーブルコインを日本でも普及させたい考えといいます。暗号資産交換業の子会社「SBI VCトレード」が米ドルや米国債を裏付けとする「USDC」のレンディングを行い、利用者はインターネット上で口座を開き、日本円をUSDCに交換した後、同社に貸し出し、同社は利回りを上乗せしたUSDCを返還するものです。当初12週間はキャンペーン期間で年率10%とし、後に5%とし、日本円との交換や貸し出しの手数料は無料ですが、為替変動リスクがあります。ステーブルコイン市場は成長が期待されており、米シティグループによれば、発行額は2030年までに最大4兆ドル(約640兆円)と足元の10倍以上に拡大する見込みだといいます。
    • イングランド銀行(英中央銀行)のブリーデン副総裁は、英中銀が提案したポンド連動型ステー​ブルコインの規制案について、業界側から建設的‌な意見が示されなかったことに失望感を示し、その上で、中銀は提案の修正に「真に前向きだ」と表明しています。英中銀は2025年11月、日常決​済で広く利用される可能性がある「システム上重​要な」ポンド建てステーブルコインに関する規則⁠案について意見公募を実施、業界団体は、ステーブル​コインの発行体に対し、コインの裏付け資産の40%を無利息預金​として中銀に預け入れるよう求める提案を批判しています。個人の保有上限を2万ポンド、企業の保有上限を1000万ポンドとする案にも反発しており、ブリ​ーデン氏は金融サービス規制委員会で、一時的な保有上限​に頼らずに金融安定の目標を満たせる別の手法にも引き続き前向き‌だと⁠述べました。ただ、業界側から代替案が示されていないことに失望しているとも語ったものです。また、ステーブルコインの裏付け資産に関する60対40の配分比率が「過度に保守的」かどうかについても​イングランド​銀行が検討す⁠るとも述べました。この枠組みは米国で提案され、欧州連合(EU)ですでに導入されている措置とおお​むね整合していると指摘しています。また、英国でステ​ーブルコ⁠インが普及する可能性を問われると、ブリーデン氏は「分からない」と答え、その理由として、拡張性、利用者への浸透、⁠さら​にステーブルコインとトークン化さ​れた商業銀行預金のどちらが適切な方向性なのかを巡る問題を挙げました。さ​らに、中銀は6月に規則草案を公表し、意見公募に付すと述べています。

    金融活動作業部会(以下、FATF)は、2026年3月、「オフショアVASPに係るリスクの把握と軽減に関する報告書」を公表しています。「オフショアVASP」とは、ある法域の法律下で設立され、物理的拠点の有無にかかわらず、自らの設立法域又は物理的所在地外の顧客にサービスを提供するVASP(号資産に関連するサービスやプラットフォームを提供する法人や団体)を指し、本報告書は、物理的な所在に関わらずVASPに登録や免許を義務付ける法域が増えている一方で、オフショアVASPへの効果的な規制監督や国際協力における課題があることを踏まえ、オフショアVASPのリスクや課題、各法域における好取組事例、官民関係者向けの勧告等から構成されています。

    ▼ 金融庁 FATFによる「オフショアVASPに係るリスクの把握と軽減に関する報告書」の公表について
    ▼ プレス・リリース オフショア仮想資産サービスプロバイダー(oVASP)のリスクの理解と軽減(翻訳)
    • 金融活動作業部会(CFTF)の新しい報告書は、オフショア仮想資産サービスプロバイダー(oVASP)の監督のギャップが、大規模な詐欺、マネー・ローンダリング、テロ資金供与を促進するためにどのように利用されているかを浮き彫りにしています。また、oVASPの検出、許認可、登録、監督の良い実践例や、非準拠者の制裁も紹介しています。
    • オフショアVASPとは、ある管轄区域の法律に基づいて設立され、物理的な拠点の有無にかかわらず、別の管轄区域に居住するクライアントにサービスを提供するVASPのことです。報告書は、oVASPが規制義務を回避または回避するためにどのように活動を構築しているか、また不正行為者がこれらの脆弱性をどのように悪用しているかを分析しています。
    • 「オフショアVASPに係るリスクの把握と軽減に関する報告書」(原題:『Understanding and Demoting the Risk of Offshore VASPs』)では、半数未満(46%)の管轄区域が活動ベースの規制・監督アプローチを採用していることが指摘されています。これは、VASPがどこで設立・所在しているかに関わらず、VASPが自らの管轄内で行う活動に基づいてライセンスや登録要件を拡大することを意味します。これにより、オフショアプロバイダーが違法金融対策監督下で市場で活動を行っています。
    • oVASPの規制方法の違いは、犯罪者が利用するギャップを生み出し、国際的な監督や協力を効果的に行う権限を著しく複雑にします。この報告書では、被害者資金を複数のアドレスに分散させたり、取引を多層的な仲介ウォレット経由でルーティングしたり、複数のブロックチェーンやブリッジを使って難読化を強化したりするなど、不正収益の動きを隠すために用いられた手法について説明しています。
    • 報告書は、oVASPが詐欺施設からの不正収益の転換、テロリストグループへの財政支援、そして非許可のVASPが個人顧客を装って認可されたVASPのサービスにアクセスするという、入れ子状関係が悪用される可能性があることを強調しています。
    • FATF会長エリサ・デ・アンダ・マドラソは次のように述べました。「この報告書は、oVASPSが犯罪者に明らかに利用され、詐欺を通じて脆弱な人々を欺いたり、世界中でテロを煽ったりしている盲点を明らかにしています。私はすべての国と民間セクターに対し、私たちが特定した良好な慣行に基づいて行動するよう強く求めます。仮想資産は数秒で国境を越えて移動するため、これらのリスクに対処するためには強力なコンプライアンス、監督、国際協力が不可欠です。」
    • 脆弱性への対応
      • 管轄区域がリスクを軽減するために特定された措置には以下が含まれます:
        • 活動ベースアプローチを用いたoVASPの検出、ライセンス付与、登録;
        • AML/CFT/CPF義務違反に対する制裁の執行;
        • 省庁間タスクフォースや官民パートナーシップを通じて、共通理解を築き、調整を改善すること。
        • 監督者同士のチャネルやFIU間の協力を最大限に活用し、情報へのアクセスを迅速化し、執行を調整すること。
      • また、報告書は金融機関やVASPがoVASPに関連するリスクに対処する上で果たせる重要な役割を強調しています。無認可または未登録のoVASPへの曝露を評価し、グループ内のすべての組織に対して明確かつ一貫したAML/CFT/CPFルールを適用し、規制監督外でoVASPとして運営するグループ法人がいかなることも保証し、無認可または未登録の提供者とのビジネス関係の確立や維持を控えることを推奨しています。
      • 報告書は、リスク軽減のための革新的なアプローチを示す事例研究を特定しています。
        • ナイジェリアのFIUによる注目度の高い投資詐欺事件では、oVASPや不透明な企業構造が大規模な詐欺、違法資金の国境を越えた移動、金融の混雑を促進するために使われ、被害者資金が複数の仲介「ファネルアドレス」を通じて流されていることを明らかにしました。分析の結果、オフショアのVASPが最終的な現金化ポイントとして使われていることが示されました。分析時点で、ある世界的なVASP連携ウォレットには約6億米ドルが保有されていました。
        • インドネシアのFIUは、シリアの複数の財団や個人が関与するVAベースのテロ組織への財政支援を特定しました。テロリストの資金提供者は、oVASPを使って異なる種類の仮想資産間で変換し、資金が非ホストウォレットに移される前に迅速に痕跡を隠蔽していることが判明しました。
        • ナイジェリアの監督機関(SEC)は、同国のFIUおよびエグモント・グループプラットフォーム(FIU.net)を通じて、oVASPの実質的所有権に関する外国の関係者から重要な情報を入手し、疑わしいoVASP運営者に関する刑事捜査を確認し、ブロックチェーン分析でフラグが立てられたウォレットの背後にある実在の身元を特定することに成功しました。
        • 英国住民へのサービス提供やoVASPによる継続的な違反に対応するための明確な規則導入を受けて、英国金融行動監視機構(FCA)は一連の執行および妨害措置を実施し、1000以上の詐欺ウェブサイトの削除を推進しました。
        • 多機関連携の強化:ニュージーランドの仮想資産調査リソースグループ(VAIRG)とインドの多機関VAサブグループは、政府間調整のための正式なメカニズムが知識共有、oVASPの特定、より一貫した監督・執行戦略を支えていることを示しています。
        • 国境を越えた監督および執行協力:ケイマン諸島金融庁とアブダビ・グローバル・マーケット・ファイナンシャル・サービス・レギュラー・オーソリティの直接協力により、ガバナンスの失敗、無許可活動、法域間の構造物の誤用が明らかになり、登録の取消、重大な罰則、個人への制裁が科されました。
        • ソーシャルメディアやオンラインサービスプロバイダーとの協力:インドのSahyogポータルは、プラットフォームと構造化されたチャネルが、未登録oVASPに関連するウェブサイトの削除を含む違法コンテンツに対して迅速な対応を可能にすることを示しています。

    金融庁が暗号資産政策を転換し、今国会に金融商品取引法(金商法)改正案を提出し、金融商品として初めて規制することになります。銀行などが投資目的で保有することを認め、暗号資産を金融システムに組み込むのが改正案の特徴です。暗号資産は支払い手段としての利用が見込まれ、資金決済法で規制されてきましたが、最近では投資目的での利用が増えており、金商法の規制に移ることになります。改正案が成立すれば、証券取引等監視委員会が監視の目を光らせることになります。金融庁に登録していなかった高市早苗首相の名前を掲げた暗号資産「SANAE TOKEN(サナエトークン)」のような発行者は、新規制によって重い刑事罰の対象になる可能性があります。改正案では、登録がないのに販売した業者への拘禁刑を3年以下から10年以下に引き上げるほか、罰金を現在の300万円以下から1000万円以下に引き上げる方向で、罰則を厳しくして投資家保護の姿勢を強く打ち出しています。さらに、登録業者の名称も「暗号資産交換業者」から「暗号資産取引業者」に変更、登録がなく販売した場合の刑事罰は、「10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方」に大幅に引き上げる方向です。あわせて、新たに証券取引等監視委員会が刑事告発を視野に立ち入り検査や証拠物の差し押さえをする「犯則調査」の対象とする方針です。また、インサイダー取引や相場操縦のような不公正な取引も捜査の対象となります。既存の交換業者には「第1種金融商品取引業に相当する規制を適用する」(金融庁)こととなりますが、第1種とは証券会社並みの規制水準で、これまでたびたび起きてきた不正な流出事故を防げなければ事業からの撤退を迫られる可能性があります。トランプ政権下の米国は規制緩和に向かう中、日本は大胆な規制強化に踏み込む理由としては、金商法改正と同時に進む税制改正がポイントで、業界が長年にわたって要望してきた「暗号資産減税」が控えているためです。政府・与党は取引で得た利益の税率を最大55%から一律20%へ大幅に減らす準備に入っており、2028年には暗号資産を組み込んだETF(上場投資信託)も解禁する方向で、暗号資産が一気に個人へ広がる可能性が高まることなり、つまり利用者との間でトラブルになる危険性が増すことになります。金融庁に寄せられる暗号資産の苦情件数も増えており、株式や投資信託と同じように、金融庁が監督責任を問われる事態が起きないとは限りません。日本ではフィンテック企業から発祥した専業の交換業者を中心に市場が拡大してきましたが、伝統的な金融機関が市場に参加しなければ健全化は難しく、今回の改正は、欧州連合(EU)が2024年に始めたMiCA(暗号資産市場規制)のように銀行や保険会社、証券会社が暗号資産ビジネスに参入することを可能になりました。数年前まで金融システムとは接続しないよう気を使っていた金融庁が方針を変えたということです。ビットコインの価格は2025年秋に12万ドルを記録していましたが、足元では7万ドル前後に低迷しており、金融庁の幹部は「日本も規制強化にかじを切ったことが影響した面は否めない」とみています。中央集権型の管理を避け、ブロックチェーンを活用して自由を基盤に成長してきた暗号資産ですが、金融商品として「市民権」を得ることになる半面、中央集権型の管理の枠に組み込まれることで、規制強化への転換をにらんだ業界再編も考えられるところです。

    米トランプ政権が成立を目指す「暗号資産市場構造法案」(クラリティー法)については、成立すれば暗号資産に投資しやすくなり市況に追い風とされるものの、米連邦議会での議論は停滞しており、相場の先行きを左右する要因として注目されています。法案はデジタル資産の規制上の分類を明確にして、米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)の管轄権を整理することを目的にしています。下院では既に可決されましたが、上院での可決が見通せなくなっています。2026年1月には上院の銀行委員会が審議延期を発表しました。ステーブルコインに対する利息を巡って銀行業界と暗号資産業界が対立したことが背景にあります。議論が停滞したことで、ビットコイン価格が年初から約2割安い7万ドル前後に沈んでいます。いまだ利害関係者の溝は埋まっておらず、トランプ大統領が「一刻も早く決着させなければならない」と訴えると、協議進展への期待感からビットコインが7万4000ドル台に上昇する場面もありました。市場からは「審議が暗礁に乗り上げて失望売りが広がれば、ビットコインは5万ドル台に下落する可能性がある」(暗号資産アナリスト)との声も出ています。米政権が目指す2026年11月の中間選挙前の成立が実現するのか、注視する必要がありそうです。関連して、米証券取引委員会(SEC)は、どの種類の暗号資産​が「証券」とみなされるか、‌また「非証券」のデジタル資産がどのような条件で投資契約​になり得るのかを明確にす​る解釈上の指針を発表しました。策定には、SECのほかに米商品先物取引委員​会も加わり、指針では、​暗号資産トークンをデジタル・コモディ‌ティ⁠ー、デジタル・コレクタブル、デジタル・ツール、ステーブルコイン、デジタル証券​の5つに分類、SECは、​連邦証券⁠法が適用されるのはデジタル証券だけだと明​記しました。また、「非証券」​の⁠暗号資産であっても発行者が共通の事業に対する投資を宣伝し、⁠購​入者が利益を期待​できるように提供した場合には証券法の​適用対象になり得ると説明しました。

    米紙WSJは、イラン系組織が米国による制裁を回避した資金移動に暗号資産交換業大手バイナンスを利用した可能性を巡り、米司法省が調査に乗り出したと報じています。司法省はイラン関連の取引に詳しい人物への事情聴取を進めているといいます。WSJは、当局がバイナンス自体を調査対象にしているのか、利用者のみを対象に調査を進めているのかは不明としています。WSJは2026年2月下旬、イランが支援するテロ組織の資金ネットワークにバイナンスを通じて巨額の資金が取引されたにもかかわらず、これに関する社内調査をバイナンスが打ち切ったと報道、これを受けて、米司法省が今回調査を開始したと伝えています。バイナンスがイラン系組織との資金取引を特定した調査担当者を解雇したとも報じています。これに対しバイナンス側は「資金はバイナンスを起点・終点としておらず、イラン関連のアドレスに一部が到達する前に複数の仲介業者を経由している。資金の大半にはイランとの関連性が確認されていない」と主張、調査を打ち切らずに疑わしい活動に関与していたことが判明した利用者のアカウントは排除し、法的機関に報告したと反論しています。担当者の解雇についても「離職は調査自体とは無関係」と否定しています。さらに、バイナンスは、WSJが虚偽の報道を続けているとして同社を提訴したと発表、2月にWSJが掲載した内容が名誉毀損にあたるとしています。

    ②IRカジノ/依存症を巡る動向

    政府は、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備地域を追加で選ぶため、地方自治体からの申請を2027年5月6日から11月5日まで受け付けると定めた政令を閣議決定しました。IR整備法は全国で最大3カ所を選定すると規定し、現在は大阪の計画だけを認定しています。観光庁によれば、ヒアリングなどで申請意向を示した自治体があったといい、個別の自治体名は明らかにされていません。本コラムでもたびたび取り上げていますが、IR誘致に向けては、北海道が市町村を対象に独自の意向調査を実施しているほか、愛知県も検討を表明しています。誘致を目指す自治体は民間事業者とIRに関する区域整備計画を作成し、政令で定められた期間に申請することになります。2023年に選ばれた大阪では建設費が膨らんでおり、新たな候補地においても資金確保が大きな課題となるほか、ギャンブル依存症への懸念も根強く、決定まで一筋縄ではいかないものと考えられます。2018年に成立したIR整備法で、収益の柱となるカジノ施設のほか国際会議場や展示場といったMICE施設、ホテル、商業・観光施設などを一体的に整備するIRの設置が認められましが、前回、大阪以外では長崎県は2021年秋~22年春の公募に申請するも、資金計画が不明確などとして不認定となりました。横浜市や和歌山県も検討したものの議会や地元の反対意見が根強く申請に至りませんでした。政府は2030年に訪日外国人6000万人、消費額15兆円を目指しており、地方の観光拠点としてIRを大阪以外にも広げたい考えで、コロナ禍が落ち着き、複数の自治体が申請に前向きになっていることから5年ぶりに公募を実施するものです。愛知県は、常滑市の中部国際空港島の約50ヘクタールを想定し、事業者から聞き取りをして実現可能性を見極めています。北海道は2026年1月に有識者懇談会を立ち上げ、IR誘致の効果や課題を2019年にまとめた「基本的な考え方」を改定に向けた中間整理を取りまとめ、道議会に示しました。なかでも強調したのが「北海道らしさ」で、「大都市圏のIRとは一線を画す」とし、「新たな観光客層を取り込み、全道各地への周遊観光を拡大する」と期待しています。一方、野党系の会派からは疑問の声も上がり、「知事の考える北海道らしいIRとはどのようなものか不明瞭だ。IRが果たして採算に合うのか、自然環境に与える影響、ギャンブル依存症の社会的影響などをはじめ、十分な調査や分析が必要だ」と指摘しています。このような議論再開の背景には、経済界の強い要望があるするとしており、2025年に道が市町村を対象に実施した意向調査では、苫小牧市と函館市が整備に「関心がある」と表明しています。北海道経済連合会が勉強会を開くなど、経済界は誘致に前のめりのようです。東京都など大都市の動向も焦点で、都港湾局は2015年度以降、毎年IRについて調査費を計上、東京でのIR運営に関心が高い企業は多く、都はメリット・デメリットを総合的に検討する姿勢だといいます。IRは地元企業と運営実績がある事業者が共同事業体を組んで運営にあたることが多く、米ラスベガス・サンズやゲンティン・シンガポールなど大手の事業者を呼び込めるかが資金計画を左右することになります。

    IR誘致を巡っては、前回同様、賛否両論があり、最近の報道からいくつか紹介します。

    • 2026年3月11日付朝日新聞の記事「「勤労の美風を害する」賭博で経済成長? カジノ誘致、割れる賛否」でカジノディーラーを育成する「日本カジノスクール」の大岩根校長と、カジノ誘致に反対する阪南大学の桜田教授(経営財務論)の主張が取り上げられています。大岩根氏は、「IRでは毎日24時間、滞在型の観光消費が行われる。大阪のIRでも、夜に到着した海外の富裕層がすぐにカジノで遊んだりショーを見たり、レストランで食事したりできるようになると思う。日本は「ナイトタイムエコノミー」(夜の経済)の活性化が課題とされてきたが、観光業の意識が変わるかもしれない」、「ハウスエッジ(事業者のもうけ)は、日本の競馬や競艇などの公営ギャンブルは賭け金の25%ほどだが、カジノのルーレット(アメリカ式)は約5%、バカラは1~2%が一般的だ。カジノは1回の賭け金が大きい富裕層も来場するので売り上げが大きくなるが、顧客への還元率は高い」、「(ギャンブル依存症について)スタッフが兆候を見つけ、野放しにしないことが重要だ。例えば、ゲームをしないのにソファに長居している人は依存症の可能性が高い。スクールでは依存症への理解を深める授業もしている」などと述べています。一方、桜田教授は、「大阪府と大阪市は住民の暮らしを豊かにするのが目標なので、それを達成するためにどの手段が有効か、比較して考えるのが重要だ。例えば工場などの「産業基盤」か、インフラなどの「生活基盤」のどちらに投資すべきか考えないといけない。府市はIRができる人工島・夢洲の地盤改良に最大788億円(現状は479億円見込み)の公費を投じるが、少子高齢化が進む状況を踏まえれば、赤字が続く府立病院機構への支援などにお金を使うべきではないか」、「賭博に投じられた金額の数%がカジノ事業者に入ると仮定すると、4200億円を稼ぐには数兆円以上の賭博が行われる必要がある。目標の売上高を達成できても、多くのギャンブル依存症患者を生むだろう。借金を抱えて自殺したり、横領などの犯罪に及んだり、治療のために仕事を続けられなくなったりする人も増え、家族の人生にも大きな影響を与える。社会的な損害が大きすぎる。府市はカジノの入場料などで年1060億円の税収増を見込むが、多くの人の不幸の上に成り立つ試算だ。それに賭博は、通常の経済活動にはない「異常性」がある。日用品の買い物などでは買い手は自分の欲しいものを手に入れ、売り手は利益を得るので双方に利益がある。だが、依存症患者は合理的な判断ができない状態で、損害を被る。金融商品取引法では「適合性の原則」が定められ、金融業者は顧客の意向や実情に合わせて投資商品を提案するよう義務付けている。仮にカジノにこの原則を当てはめれば、脳の病気であるギャンブル依存症の人からも金を稼ぐ異常性が分かるだろう。行政が賭博を「経済の起爆剤」と捉えるのは、倫理的に問題だ」、「そもそも刑法は賭博を禁じている。1950年の最高裁判決は、賭博は怠惰や浪費を生じさせて「勤労の美風を害する」とし、強窃盗などの犯罪を引き起こして「国民経済の機能に重大な障害を与える恐れすらある」と指摘している。個人の嗜好の話として片付けるのは詭弁でしかない」などと厳しく批判しています。
    • 大阪IRでは年間来場者数は2千万人(うち国外客が3割)を見込んでいますが、大阪市内で2026年1月下旬にあった住民説明会では計画を疑問視する声が上がり、ある出席者は、万博の来場者に占める訪日外国人割合が6%にとどまり、日中関係の悪化で中国人観光客が減ったことも踏まえ、「計画を精査すべきだ」と指摘しています。これに対して府市側は、来阪外国人観光客は増えているとして、「引き続きインバウンド需要はある」と説明、2千万人が妥当かは、今後も検証する考えを示しました。
    • 観光業の人手不足も深刻で、シンクタンクのアジア太平洋研究所が2025年に発刊した「関西経済白書」によれば、IR開業の2030年には関西で、宿泊・飲食サービス業で約33万人(需要の約35%)の人材が足りない見込みだといいます。また、カジノのゲームを取り仕切る「ディーラー」は約2500人が必要とみられ、育成が急務となっています。ランクが高いディーラーは英語などの外国語で顧客とのトラブルを解決する力も求められています。

    警察庁から委託されてネット上の有害情報の収集などをする「インターネット・ホットラインセンター(IHC)」が受けた通報を分析した結果、2025年9~12月にオンラインカジノのサイトや宣伝に関して「違法情報」と判断したものは計3253件あったといいます。IHCはオンラインカジノを運営する海外事業者らに対し、日本向けのサイトやアプリについて計447件の削除要請を行ったものの、国内からの接続が遮断されたのは約30サイトにとどまり、海外事業者が対応を徹底していない実態が浮かび上がりました。オンラインカジノは近年依存症などが社会問題化しており、宣伝で報酬を得る「アフィリエイター」への対応も課題となっています。2025年9月、改正ギャンブル等依存症対策基本法が施行され、宣伝行為などは禁止され、IHCのガイドラインでも、オンラインカジノのサイトや宣伝について違法情報と位置づけられました。違法情報3253件のうち、プロバイダーなどの所在地が国内にあったものは282件で、いずれも宣伝で、既に削除されたものを除いた272件についてIHCが削除依頼を出した結果、4割弱の105件が削除されたといいます。一方で、国外のものは2971件で、そのうち464件がサイト、2507件が宣伝の情報で、2717件について対応を依頼した結果、削除されたのは2割弱の496件だったといいます。警察庁によれば、海外ではオンラインカジノが合法な国もあるため、削除が一部にとどまっている可能性があるといいます。2025年は闇バイトについての情報も違法情報に位置づけられ、2025年末までに1万3083件が違法情報と判断され、うち99.6%が国外のもので、依頼を経て削除されたのは国内外で計5460件でした。闇バイトについてのXでの投稿は、各地の警察が情報収集をして警告文を送っており、福井や兵庫など一部の警察では、情報収集にAIを使っています。

    オンラインカジノでの違法賭博の問題を受けて、カジノサイトへの接続を強制的に遮断するブロッキング(接続遮断)の可否を検討してきた総務省は、取りまとめに向けた骨子案を示しました。2025年9月に正式決定した中間論点整理では、(1)必要性や有効性(2)導入で得られる社会的利益の大きさ(3)立法が必要かどうか(4)具体的な制度の内容の4段階でブロッキングの検討を進める方針が示され、2025年秋以降、各段階の検証作業を進めてきました。今回提示された骨子案では、可否を判断するためには他の対策を進めてその効果を検証すべきだとしつつ、「(ブロッキングの)有効性は否定できない」などとし、選択肢として排除しませんでした。ブロッキングをするには、通信プロバイダーがネット利用者の全てのアクセス先を確認する必要があり、憲法が保障する「通信の秘密」の侵害にあたります。政府は、児童ポルノについては被害の重大性から、刑法の「緊急避難」として例外的に認めていますが、漫画の海賊版サイトでは法制化を見送った経緯があります。総務省が有識者会議「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会」で示した骨子案では、ブロッキングは通信の秘密や知る自由などに抵触しうるため、実施を判断する際は、昨年施行された改正ギャンブル等依存症対策基本法などを踏まえた包括的な対策を進め、その効果を十分に検証するべきだと指摘、一方で若年層保護などの観点から、ブロッキングの有効性も否定できないとしました。ブロッキングの目的は依存症予防や違法サイトの流通防止とし、国富の流出防止なども踏まえるべきではないかと言及、実施する場合には法整備が必要で、通信の秘密などへの制約が必要最小限になるよう、検討していくべきだとしています。会議では「ブロッキングを排除しないことは正当」という意見が出た一方、通信の秘密に詳しい有識者や通信事業者側からは「依存症被害を強調する一方で、通信の秘密の重要性にはほとんど触れていない」といった懸念の声もあがり、総務省はこの日の議論を踏まえて2026年夏をめどに最終的な報告書をとりまとめる見通しとしています。

    ▼ 総務省 オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会(第13回)
    ▼ 資料13-1 取りまとめ案(骨子)(事務局)
    1. 必要性(ブロッキング以外の対策が尽くされたか)
        1. 中間論点整理(概要)
          • ブロッキングを実施するためには、単に有効な対策であるだけでは足りず、他のより権利制限的ではない有効な対策が尽くされたかどうか検証が必要。
          • 他の手段として、ギャンブル等依存症対策基本法の改正法を踏まえた国内SNS事業者等による削除、海外サイト運営者に対する働き掛けといった対策を進めた上で、それらの対策を尽くしたとしてもオンラインカジノの情報が著しく減少しない場合、ブロッキングを排除せず、追加的な対応を講じることが適当。
        2. 構成員の主な意見の概要(一部抜粋)
          • オンラインカジノの利用者だけでなく、胴元である賭博場の開張者の取締りが重要である。
          • 海外で合法であるオンラインカジノに対する法執行は容易ではなく、国際的な捜査には時間がかかる。
          • 効果検証の結果として違法性の認識に課題があり、違法性の周知啓発が重要である。
          • 規範意識を強化するとともに、オンラインカジノに手を染めない環境の醸成が重要である。
          • 警察による捜査、違法性の周知啓発には、限界がある。
          • CDN事業者による対策について、論点に入れ、改めて検討すべきである。
          • フィルタリングは重要であるが、これで全てを防ぐことはできないので、ブロッキングの検討を排除するものではない。
      • これまでの官民の取組により、誘導投稿等が大幅に減少するなど一定の効果が認められたが、違法性の認識等については一層の向上が求められないか。
      • 今後、ブロッキングの実施の可否を判断するために、基本法改正に基づく取組を含め、包括的な対策を進めるとともに、その効果を十分に検証すべきではないか
    2. 有効性(対策としてのブロッキングは有効か)
        1. 中間論点整理(概要)
          • ブロッキングについては、近年、スマートフォンのプライバシー機能の向上等により、誰でも容易に回避することができるようになっているとの指摘がある。他方、カジュアルユーザや若年層がギャンブル等依存症になる前の対策が重要であり、ブロッキングにはこうした予防的効果があるとの指摘もある。
          • ブロッキング実施国の実施手法や効果を検証した上で、ブロッキングの有効性に関する検討を深めていくべき。
        2. 構成員の主な意見の概要(一部抜粋)
          • 海外のエビデンスとして、様々な対策を講じる中でブロッキングも実施し、ある程度効果があがっている旨の報告があり、これについても検討材料とすべきである。
          • ブロッキングの効果検証中であるスイスのような国の状況を注視することが重要である。
          • ギャンブル等依存症の一番の対策は当該情報に接触する機会をなくすことであること(参考人ヒアリング)を踏まえると、カジュアルユーザや若年層のギャンブル等依存症の予防的な対策の観点で、有効性を検討すべきである。
          • 約95%がISPのDNSサーバを参照していること(日本のほか、ブロッキング実施国も同様。APNIC資料)から、カジュアルユーザ対策という意味で、ある程度の有効性が認められる。
      • ブロッキングは、技術的な回避策が指摘されているものの、現在のインターネット利用環境等に照らせば、若年層やカジュアルユーザ保護の観点から、対策としての有効性は否定できないのではないか。
    3. 許容性(得られる利益と失われる利益が均衡するか)
        1. 中間論点整理(概要)
          • 仮に必要性・有効性が認められるとしても、ブロッキングが許容されるためには、ブロッキングによって得られる利益が通信の秘密の保護と均衡するものであるかどうかについて検討が必要。
          • 刑法上の賭博罪の保護法益は「勤労の美風」であり、これのみで通信の秘密の侵害を正当化することは困難であるが、オンラインカジノは、賭け額の異常な高騰や深刻な依存症患者の発生など、きわめて深刻な弊害があることを踏まえ、法益のバランスについて具体的な検討が必要。
        2. 構成員の主な意見の概要(一部抜粋)
          • ギャンブル等依存症の拡大防止が守るべき法益で、青少年保護やスポーツ健全性も守るべき法益。
          • オンラインカジノは、24時間365日可能で、事業者との対話の場もなく、あらゆる手段で誘導してくる。
          • オンラインカジノは人間の認知の構造を逆手に取り、巧妙に操作していることが指摘されており、個人の自律との関係で考えるべき問題の一つである。
          • ギャンブル等依存症の弊害は、単なる財産的損失の問題ではなく、人生全体に関わる人格的な部分を含むものである。
          • オンラインカジノによるギャンブル等依存症について、公営競技等の違いを含め、その実態把握が重要である。
          • オンラインカジノの弊害は、ギャンブル等依存症の問題だけではなく、様々な犯罪につながるものであり、小学生が詐欺に関与する現実がある。違法な行為により国富が流出し、日本に大きな損失をもたらしている。
          • 通信の秘密を守るためにどうするかという議論を併せて行うべき。
      • 仮にブロッキングを実施する場合、その目的は、主として違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症やこれを生み出す違法オンラインカジノの流通の防止とし、加えて、国富の流出防止・スポーツ健全性の確保等を踏まえるべきではないか。
      • 仮にブロッキングを実施する場合、違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症の危険性や違法オンラインカジノの実態を踏まえた検討が必要ではないか。
    4. 実施根拠(実施する場合の根拠)・妥当性(実施する場合の枠組み)
        1. 中間論点整理(概要)
          • 仮にブロッキングを行う場合には、ブロッキングの対象や要件の明確化を図ることにより法的安定性を確保する観点から、何らかの法的担保が必要。
          • ブロッキングの制度設計に当たっても、カジノ規制全般に対する議論抜きにその在り方を検討することは困難。
          • 具体的な制度について検討するに当たっては、国内外の法制度を参考にしながら、ブロッキングの義務付けを行う主体、ブロッキングの対象となるサイト、実体的な要件、手続的な要件などについて具体的に検討すべき。
        2. 構成員の主な意見の概要(一部抜粋)
          • ブロッキングの対象が他に波及しないようにするため、実体的要件、手続的要件をはじめ、法令の要件を作り上げる必要がある。
          • 表現の自由への制約を必要最小限にするために、違法オンラインカジノに特化したものにすべきである。
          • ブロッキングの命令主体は、ブロッキングの実効性の観点から検討をするとともに、手続の透明性を確保すべきである。
      • ロッキングを実施すべき状況にある場合は、立法措置を講じることが必要ではないか。
      • ブロッキングの実効性を確保するとともに、通信の秘密や知る自由等への制約を必要最小限にする観点から、具体的に検討していくべきではないか
    5. 取りまとめ骨子案
      • 違法オンラインカジノは、我が国の社会経済活動に深刻な弊害をもたらす犯罪行為であり、喫緊の対策が求められている。今後、政府全体で、実効的な対策を検討していくとともに、引き続き包括的な対策を講じていくべきではないか。
      • ブロッキングについては、通信の秘密や知る自由等に抵触しうる対策であるから、他の権利制限的ではない対策が十分に尽くされたといえるか検証が必要である〈必要性〉。これまでの官民の取組により、誘導投稿等が大幅に減少するなど一定の効果が認められたが、違法性の認識等については一層の向上が求められないか。今後、ブロッキングの実施の可否を判断するために、基本法改正に基づく取組を含め包括的な対策を進めるとともに、その効果を十分に検証すべきではないか。また、ブロッキングについては、技術的な回避策が指摘されているものの、現在のインターネット利用環境等に照らせば、若年層やカジュアルユーザ保護の観点から、対策としての有効性は否定できないのではないか〈有効性〉
      • ブロッキングについては、違法オンラインカジノ固有の侵害性の内実を突き詰めた上で、ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡しているか検証が必要である〈許容性〉。仮に実施する場合の「目的」については、主として違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症の予防やこれを生み出す違法オンラインカジノの流通防止とし、加えて、国富の流出防止・スポーツ健全性の確保等を踏まえるべきではないか。違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症の危険性や違法オンラインカジノの実態を踏まえた検討が必要ではないか。
      • ブロッキングを実施すべき状況にあるといえる場合には、ブロッキングを最終的かつ効果的な違法オンラインカジノ対策として排除することなく、立法措置を講じることが必要ではないか〈実施根拠〉。ブロッキングの実効性を確保するとともに、通 信の秘密や知る自由等への制約を必要最小限にする観点から具体的に検討していくべきではないか〈妥当性〉。

    ギャンブル依存症などに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

    • 大阪府・大阪市が公開した違法なオンラインギャンブル問題の若者向け啓発動画が「偏見を助長する」と批判が相次いだ問題で、大阪府市は、専門家らの意見を踏まえて修正した動画を公開しました。府市は国内初のIRを¥開業に向けて依存症対策の強化を打ち出しており、今回の問題を教訓にしたいとしています。批判を浴びたのは、2026年1月にユーチューブで公開されたアニメ動画(5分17秒)で、桃太郎をモチーフにした「ギャン太郎」という高校生が「ラクして生きる人生見つけたかもしれん」と発言、違法なオンラインギャンブルに手を出し、依存症に苦しむ内容で、「ノーギャン太郎」(ギャン太郎の良心)という別の登場人物は「本能に任せて動いてたら、自分が『鬼』になってしまったんや」「自分の中の鬼に勝つこと。それがほんまの『退治』や」などと述べていました。これに対して、ギャンブル依存症に関わる支援団体や医師らからは「依存症になる人は怠け者だという誤った固定観念を強化する」、「依存症は病気なのに解決策が精神論、根性論になっている」などと批判が出たものです。大阪府市は公開から1週間後に配信を一時停止、府によると、公募で選ばれた制作事業会社が動画をつくり、府職員も内容を確認したものの、いずれの過程にも依存症の専門家は含まれていなかったといいます。今回、大阪府市は10人超の専門家らに意見を聞き、動画を大幅に修正し、新たな動画(8分42秒)では、主人公の高校生が「スポーツの勝敗を予想!?おもろいゲーム見つけたかもしれん」と話し、オンラインギャンブルを始め、負けてもゲームに使えるポイントが付与されてやめられなくなるなど依存する過程を詳しく表現、別の高校生がネット賭博で逮捕されたことをニュースで知るなどして不安を募らせ、SNSのカウンセリングサービスで悩みを打ち明ける内容です。相談窓口の担当者はそれに対し、「サイトに『違法でない』と書いてあっても違法なものもあるみたいです」「依存症という病気になることもある。困って悩んだ時には助けてと言ってくださいね」などと応じる内容となっています。動画内では、未成年は脳の報酬刺激(ドーパミン)に敏感で、依存症になりやすいことや、意志や性格に関係なく誰でも依存症になる可能性があることも説明、日本の刑法は賭博を禁じ、法律で特別に認められている公営競技の競馬や遊技のパチンコなどにも年齢制限があることも示しました。また、ギャンブル依存症の専門家らが開発した依存症の「自己診断ツール」を紹介、民間支援団体のウェブサイトにつながるQRコードも掲載しました。大阪府市は今後、高校生らが依存症への理解を深められるよう、授業などでの動画の活用を広めたい考えだといいます。
    • 京都府警は、オンラインカジノで金銭を賭けたとして、常習賭博の疑いで、亀岡署の30代男性巡査部長を書類送検し、停職6カ月の懲戒処分とし、巡査部長は依願退職しています。報道によれば、2025年6~12月、海外のオンラインカジノサイトに接続して賭博をした疑いがもたれており、京都府警の聴取に容疑を認め「他のギャンブルで負債があり返そうと思った」と話したといいます。賭け金の総額は約3600万円に上り、収支は約60万円のマイナスで、勤務時間中にも賭けていたといいます。不審な口座を捜査する過程で浮上したものです。
    • 政府は「アルコール健康障害対策推進基本計画」を閣議決定しました。依存症などの当事者と「ヤングケアラー」ら家族に、包括的に支援が実施されるように国がガイドラインを作成することが盛り込まれました。自助グループなどの支援団体の紹介や、配偶者への暴力や虐待が疑われる場合に関係機関につなぐ対応を明記しています。厚生労働省によれば、配偶者や子どもら家族の課題解決に向け、自治体では精神保健福祉センターと、児童福祉や女性支援部門など各機関の連携体制を強化、国などは自助グループとも連携を進め活動を支援するほか、家族の心身の健康や経済的な困難、子どもへの影響などの実態調査も実施するとしています。
    • 愛知県は、ギャンブルや薬物、アルコールなどの依存症対策について、藤田医科大学(愛知県豊明市)、刈谷病院(愛知県刈谷市)と協定を結んだと発表しています。依存症の治療を担える人材の育成や、患者および家族に向けた治療の情報発信などで協力するものです。2026年4月から藤田医科大と刈谷病院を「愛知県依存症対策センター」として位置づけました。愛知県の大村秀章知事は「依存症の相談件数は増えている」とした上で「県内の精神科やクリニックのバックアップ体制をつくる」と述べています。依存症は明確な治療法が確立されておらず、治療には時間がかかる傾向があります。薬物だけでなく、オンラインカジノやゲームなどの懸念もあり、依存症の診療や研究などで実績のある藤田医科大、刈谷病院と組むことで愛知県の依存症の対策を推し進めるとしています。前述のとおり、愛知県もIR誘致を検討しており、ギャンブル依存症対策の強化の一環とも捉えられます
    ③犯罪統計資料から

    例月同様、令和8年(2026年)1~2月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

    ▼ 警察庁 犯罪統計資料(令和8年1~2月分)

    令和8年(2026年)1月の刑法犯総数について、認知件数は116369件(前年同期109515件、前年同期比+6.3%)、検挙件数は46674件(43872件、+6.4%)、検挙率は40.1%(40.1%、±0P)と、認知件数、検挙件数がともに増加している点が注目されます。刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、、窃盗犯の認知件数は75546件(73484件、+2.8%)、検挙件数は27456件(25583件、+7.3%)、検挙率は36.3%(34.8%、+1.5P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は17591件(17224件、+2.1%)、検挙件数は11667件(10949件、+6.6%)、検挙率は66.3%(63.6%、+2.7P)と大幅な増加が継続しています。その他、凶悪犯の認知件数は1218件(1099件、+10.8%)、検挙件数は981件(951件、+3.2%)、検挙率は80.5%(86.5%、▲6.0P)、粗暴犯の認知件数は9831件(8588件、+14.5%)、検挙件数は7789件(7028件、+10.8%)、検挙率は79.2%(81.8%、▲2.6P)、知能犯の認知件数は12651件(10107件、25.2%)、検挙件数は3081件(3136件、▲1.8%)、検挙率は24.4%(31.0%、▲6.6P)、とりわけ詐欺の認知件数は11842件(9381件、+26.2%)、検挙件数は2538件(2600件、▲2.4%)、検挙率は21.4%(27.7%、▲6.3P)、風俗犯の認知件数は2702件(2620件、+3.1%)、検挙件数は2516件(2399件、+4.9%)、検挙率は93.1%(91.6%、+1.5P)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数が増加しているほどには検挙件数が伸びず、検挙率が低調な点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、コロナ禍が明けても「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加しています。さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。

    また、特別法犯総数については、検挙件数は9491件(8824件、+7.6%)、検挙人員は7136人(6833人、+4.4%)と検挙件数、検挙人員ともに増加する結果となりました。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は575件(679件、▲15.3%)、検挙人員は395人(439人、▲10.0%)、軽犯罪法違反の検挙件数は888件(829件、+7.1%)、検挙人員は880人(807人、+9.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は667件(758件、▲12.0%)、検挙人員は474人(522人、ストーカー規制法違反の検挙件数は241件(159件、+51.6%)、検挙人員は181人(130人、+39.2%)、児童買春・児童ポルノ法違反の検挙件数は523件(516件、+1.4%)、検挙人員は295人(252人、+17.1%)、青少年保護条例違反の検挙件数は215件(215件、±0%)、検挙人員は152人(165人、▲7.9%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は818件(780件、+4.9%)、検挙人員は574人(585人、▲1.9%)、銃刀法違反の検挙件数は635件(550件、+15.5%)、検挙人員は523人(467人、+12.0%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は1766件(1196件、+47.7%)、検挙人員は1075人(850人、+26.5%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は20件(13件、+53.8%)、検挙人員は19人(16人、+18.8%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1197件(1086件、+10.2%)、検挙人員は777人(702人、+10.7%)などとなっています。大麻の規制を巡る法改正から1年が経過しましたが、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています(今後の動向を注視していく必要があります)。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していたところ、最近、あらためて増加傾向が見られています(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところです)。なお、麻薬等取締法違反が大きく増加している点も注目されますが、2024年の法改正で大麻の利用が追加された点が大きいと言えます。それ以外で対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。前述したとおり、コカインについては、世界中で急増している点に注意が必要です。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

    また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員対前年比較について、総数69人(60人、+15.0%)、ベトナム27人(30人、▲10.0%)、中国9人(7人、+28.5%)、ブラジル7人(5人、+40.0%)、フィリピン7人(1人、+600.0%)などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回って増え続けている点が最近の特徴です。

    一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は873件(1321件、▲33.9%)、検挙人員は511人(624人、▲18.1%)と検挙件数、検挙人員ともに減少しています。犯罪類型別では、強盗の検挙件数は9件(18件、▲50.0%)、検挙人員は21人(23人、▲8.7%)、暴行の検挙件数は53件(66件、▲19.7%)、検挙人員は47人(54人、▲13.0%)、傷害の検挙件数は91件(128件、▲28.9%)、検挙人員は95人(125人、▲24.0%)、脅迫の検挙件数は31件(38件、▲18.4%)、検挙人員は31人(35人、▲11.4%)、恐喝の検挙件数は35件(45件、▲22.2%)、検挙人員は47人(42人、+11.9%)、窃盗の検挙件数は392件(529件、▲25.9%)、検挙人員は71人(100人、▲29.0%)、詐欺の検挙件数は122件(294件、▲58.5%)、検挙人員は86人(141人、▲39.0%)、賭博の検挙件数は0件(9件)、検挙人員は12人(1人、+1100.0%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、2023年7月から減少に転じていたところ、あらためて増加傾向にありましたが、ここにきて減少に転じている点が特筆されます。ただし、資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測される(ただし、詐欺は薬物などとともに暴力団の世界では御法度となっています)ことから、引き続き注意が必要です。

    さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数総数は491件(514件、▲4.5%)、検挙人員は278人(316人、▲12.0%)となりました。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は4件(4件、±0%)、検挙人員は3人(4人、▲12.0%)、軽犯罪法違反の検挙件数は10件(5件、+100.0%)、検挙人員は7人(4人、+75.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は4件(6件、▲33.3%)、検挙人員は3人(4人、▲25.0%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は1件(2件、▲50.0%)、検挙人員は1人(5人、▲80.0%)、銃刀法違反の検挙件数は11件(8件、+37.5%)、検挙人員は8人(5人、+60.0%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は139件(121件、+14.9%)、検挙人員は53人(56人、▲5.4%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は4件(2件、+100.0%)、検挙人員は4人(0人)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は245件(286件、▲14.3%)、検挙人員は139人(157人、▲11.5%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は19件(20件、▲5.0%)、検挙人員は3人(14人、▲78.6%)などとなっています(とりわけ覚せい剤取締法違反や麻薬等取締法違反については、前述のとおり、今後の動向を注視していく必要があります)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

    (8)北朝鮮リスクを巡る動向

    ロシアが2025年に北朝鮮国民に発給したビザ(査証)は3万6413件で、2024年の約4倍に増えたことがロシア外務省の発表で分かりました。大半が教育目的の取得だったといいます。ロシア外務省領事部門によれば、2024年の発給は9239件で、2025年は留学や研究といった教育目的が約3万5800件で全体の9割以上を占めました。ロシアのプーチン大統領は2026年3月、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が国家元首の「国務委員長」に再任されたことを受けて祝電を送り、露朝間の包括的戦略パートナーシップをさらに発展させるために緊密な協力を続けていくと表明するなど、ロシアのウクライナ侵攻を契機に、両国の関係が強固になっています。ただ、この人的交流の活発化には背景事情があります。ロシアでは、ウクライナ侵攻によって働き手が戦場に駆り出されて人手の足りない状況にあり、北朝鮮がロシアに労働者を送り込み、建設業や製造業を支えている構図があります。さらに、北朝鮮労働者は国連安全保障理事会決議で本国への送還が義務づけられているところ、「学生ビザ」が抜け穴として利用されているものです。読売新聞によれば、脱北者から派遣の実情を聞き取った韓国の民間団体「北朝鮮人権情報センター」の調査分析員は、1日17時間労働で休みのない建設現場もあるといい、賃金は、最大90%が「忠誠」の名目で当局に没収されるといい、「現代版の奴隷だ」と評しています。また、2025年9月の報告書で、労働者派遣による北朝鮮の外貨収入が年間数億~20億ドル(約3200億円)超と分析、核・ミサイル開発の推進に利用されていると指摘しています。国連安保理は2017年、北朝鮮の核実験などを受け、北朝鮮国民に労働許可を与えることを禁止、2019年末までに北朝鮮労働者を本国に送還するよう加盟国に義務づけましたが、コロナ禍で移動が制限されたことなどもあり、なかなか事態が進展していない状況がありました。2016~21年に安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル委員だった竹内舞子氏は「実習の実態は就労で、ビザ(査証)の形態を問わず安保理決議違反だ」と指摘、学生や観光向けのビザを隠れみのにした北朝鮮人の労働はパネルの報告書も指摘してきたところですが、パネルはロシアの拒否権で活動を停止しました。竹内氏は「決議違反が拡大する恐れがある」と懸念しています。北朝鮮人の派遣先として最も多いのは中国で、2024年2月時点で推計10万~15万人、ロシアは提示される賃金が中国より高く、軍需衣料工場などで働く女性労働者の需要も高まっているといいます。ロシアに送られた北朝鮮労働者は2025年4月時点で推計約1万5000人でしたが、同年末までに5万人に増えたとの見方もあります。北朝鮮の労働者を使った企業幹部は、ロシア語を教えるよう当局から指示されたといい、両国は長期的な協力を視野に、意思疎通できる労働者を養成している可能性があり、両国の相互依存は深まっています。本コラムでもこれまで指摘してきたとおり、北朝鮮はウクライナとの戦闘でロシアに兵力を提供し、弾薬や砲弾を供給、見返りに、無人機を使った現代戦の経験や巨額の金銭的対価を得ています。米欧の制裁下で、対露協力は北朝鮮の「ドル箱」になりつつあり、ウクライナ情報機関の分析では、北朝鮮は露軍が使用する弾薬や砲弾の最大50%を供給、ウクライナ軍が一時越境した露西部クルスク州で露軍を支援し、北朝鮮兵士約6000人が死傷したとみられており、同州には今も北朝鮮兵士約1万1000人が駐留し、無人機やロケット砲でウクライナ領への攻撃を続けているといいます。韓国の情報機関・国家情報院(国情院)傘下の国家安保戦略研究院は2026年3月、北朝鮮がロシアへの派兵と武器輸出を通じて得た収益が、推計で最大144億ドル(約2兆3000億円)に上ると公表、北朝鮮の2024年の国内総生産(GDP)の約半分に相当する規模だといいます。内訳は、武器輸出による収入が最大計137億8000万ドル(約2兆2000億円)、ロシアに送られた兵士の給与や戦死した兵士の死亡補償金が計6億2000万ドル(約990億円)などとなっています。両国間の交流も活発化しており、ロシアから北朝鮮への渡航者は2025年約1万人、観光目的は前年の2倍以上の5000人余りで、統計が公表されている2010年以降、最も多くなりました。金総書記の肝いりで2025年、南東部に完成した観光リゾートなどが人気で、2025年はモスクワと平壌を結ぶ鉄道が再開され、直行便も就航、ロシア極東を中心に北朝鮮製ビールの販売が始まり、モスクワでは新たな北朝鮮レストランがオープンしました。

    米アルファベット傘下のグーグルは、北朝鮮と関係するハッカー集団が、汎用性が高いが「裏方的」な特徴を持つソフトウエアに、ログイン​情報を盗む目的で不正侵入していたと明らかにしました。標的にされ‌たのは、アプリやウェブサービス間の通信を担う「Axios(アクシオス)」と呼ばれるソフトウエアで、グーグルと独立系のサイバーセキュリティ研究者によれば、ハッカーは2026年3月31日に配布さ​れたアクシオスの更新版に自分たちのマルウェアを仕込んでいたことが、​不正侵入発覚後に判明したもので、専門家は「ウェブサイトを読み込む、あるい​は銀行口座の残高を確認する、スマホでアプリを開くといった際に​はいつも、裏側でアクシオスが作業を支えている可能性が十分にある」と解説しています。このマルウェアは既に削除されていますが、コンピュータ内のデータやアクセス認証情報などを​ハッカーが入手し、それを足掛かりにしてさらなるデータ窃取や別の攻​撃を行う恐れがありました。アクシオスは特定企業が所有する商用製品ではなく、オープンソース形‌式で、⁠コードは公開ライセンスの下で自由に利用・改変できるものです。サイバーセキュリティの研究者らは、今回の不正侵入についてサプライチェーン攻撃と説明しており、ハッキングによって下流にある利用者や組織への攻撃が可能になると警鐘​を鳴らしています。専門家は「何か⁠をクリックしたり、利用者がミスをしたりするのではなく、既に信頼して使っているソフト自体が攻撃を代行してし​まう」と指摘しています。グーグルは、この不正侵入は同社が「UNC1069」として​追跡して⁠いる集団によるものだと結論付け、該当する集団は少なくとも2018年以降から活動し、暗号資産や金融業界を主な標的としてきたことで知られています。グーグルの専門家は「北朝鮮のハッカーはサプライチェーン攻撃に関して非常に豊富な経験​を有し、主として暗号資産を盗む目的でこれらの手法を用いてきた」と述べています。

    韓国軍合同参謀本部は、北朝鮮が2026年3月、平壌郊外の順安付近から、朝鮮半島東の日本海側に向けて弾道ミサイル10発以上を発射したと発表、一度に10発以上発射するのは異例となります。防衛省によれば、日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下したとみられ、日本の船舶などの被害は確認されていません。日本政府は北朝鮮に抗議しています。北朝鮮による弾道ミサイル発射は2026年1月以来で、2026年に入って3回目となります。米韓首脳会談や、米韓合同訓練に反発した可能性があります。北朝鮮が発射した複数発の弾道ミサイルは、最高高度約80キロで北東方向に約340キロ飛翔し、朝鮮半島東岸付近に落下したと推定されます。トランプ米大統領が、韓国の金民錫首相とホワイトハウスで会談、トランプ大統領は、北朝鮮の金党総書記が米国との対話を望んでいるかどうか、金首相に意見を求めたといいます。また、米韓は朝鮮半島有事を想定した大規模合同演習「フリーダムシールド(自由の盾)」を実施しており、金総書記の妹、金与正党部長は、演習に対し「敵対勢力の軍事力示威は、恐ろしい結果を招きかねない」と警告する談話を発表していました。なお、本件については、北朝鮮の朝鮮中央通信が、朝鮮人民軍が金総書記の現地指導のもとで火力打撃訓練を実施、「600ミリ超精密多連装放射砲(ロケット砲)」が12基動員されたと報じています。金総書記はロケット砲について「戦争抑止手段」としつつ、「敵の挑発を防げない場合、巨大な破壊的攻撃手段として使用される」と警告、また、今回の発射は「420キロ圏内」を射程にしているとも言及、韓国の専門家は、韓国への攻撃用を意味し、米韓合同軍事演習に反発する意図があると分析しています。また、この弾道ミサイル発射の1週間後には、5千トン級の駆逐艦「崔賢」が複数の戦略巡航ミサイルを試射しています。金総書記は、試射の様子を党幹部や娘とオンラインで確認、ミサイルは2時間50分近く飛行して黄海の島に命中、駆逐艦の探知能力を検証し、海兵に発射技術を熟達させる目的があったとしています。海軍の核武装化を目指す北朝鮮は、駆逐艦で核弾頭の搭載が可能なミサイルの運用を想定しており、今後、5千トン級以上の軍艦を毎年2隻建造する計画もあり、金総書記は「核戦力は多角的な運用段階に移行した」と主張、5千トン級と8千トン級の駆逐艦には艦載砲の代わりに「超音速兵器システム」を配備すべきだとの考えを示し、この方針は建造中の3隻目の駆逐艦から適用するとしています。

    米国は2026年1月にベネズエラのマドゥロ大統領を拘束し米国へ移送、2月にはイランの最高指導者であるハメネイ師らを殺害しましたが、2カ月連続での大規模な軍事作戦は、北朝鮮首脳部にすさまじいインパクトを与えたようです。金総書記は地下施設で多くの時間を過ごしているとされますが、関係筋によると、地中深くに潜り込んで爆発するように設計された爆弾「バンカーバスター」で攻撃されても助かるように、施設をより深く一層強固にする工事が急ピッチで進められており、休みなしの過酷な作業で、毎日のように死者が出ているといいます。米国の軍事力に警戒感を強めている金総書記は、核兵器を保持しないと自分が標的になると考え、核放棄を求めるトランプ大統領との会談に否定的になるという見方があります。ただ、北朝鮮は濃縮ウランの製造施設などだけでなく、米本土に届く核ミサイルまでも廃棄する方針を固めている一方で、韓国など近隣国の脅威から身を守るための短距離核ミサイルは、保持を続ける方針だと言われています。こうした自衛的な意味合いでの核保有を、トランプ政権は容認する可能性が出ています。2026年1月に公表した国家防衛戦略では、米本土を射程に入れる核ミサイルは「明白な危機」と指摘した一方で、それ以上、非核化に言及することはなく、また、北朝鮮抑止の主導的な役割は韓国が担い、米国は「より限定的」な支援(いわゆる核の傘)を担当するとの立場を明確にしました。このような経過はあったものの、直近のイラン攻撃の開始によって金総書記は目下、米軍が北朝鮮を攻撃する兆候がないか、必死で情報を集めているとされます。

    金総書記が2026年4月、国家主席に就任する可能性があると報じられています。2026年3月15日付朝日新聞の記事「4月に「金正恩国家主席」の誕生か 記者が予測「神格化」作業の完成」によれば、この2年にわたった個人崇拝を強化する神格化(偶像化)の作業と、北朝鮮が最近示した政治スケジュールを総合して導き出された推論ではあるものの、北朝鮮で国家主席に就いたのは過去、金正恩の祖父・金日成氏しかおらず、父・金正日氏は経済部門の責任を負うことを嫌がり、国政部門のポストとしては国防委員長に就くにとどまった経緯があります。2011年末に権力を継承した金正恩氏は祖父の服装などを模倣したことから、国家主席への就任を狙っているとみられてきました。神格化の作業は、遅くとも2024年春に始まっており、朝鮮中央通信は2024年4月、平壌で朝鮮労働党宣伝部門活動家講習会が行われ、「金正恩総書記の革命思想で全党と全社会を一色化する」と訴えたと伝え、同じ時期、訪朝した専門家に対し、宣伝扇動を担当する李日煥党書記が「今、金正恩革命思想の体系化を急いでいる」と証言していました。朝鮮中央テレビは同じ月に、金正恩氏をたたえる新たな歌謡曲「親しいオボイ(父親〈アボジ〉と母親〈オモニ〉をかけた最高指導者を表す造語)」を発表、さらに朝鮮中央通信は2024年5月、朝鮮労働党中央幹部学校の開校式を伝える記事で、金正恩氏の肖像画が金日成、金正日両氏のものと一緒に教室や学校の外壁に掲げられている写真を公開、同通信は2024年6月末にも、当局者らが金正恩氏の肖像画が描かれたバッジを着用する様子の写真を公開しました。国営メディアは2024年から、金正恩氏を「国家首班」と呼び始め、2024年3月で5年の任期が切れる最高人民会議(国会にあたる)の代議員選挙が行われなかったところ、2026年2月に開いた朝鮮労働党大会で、国家運営の順調さをアピール、「金正恩同志だけが収められる歴史的な功績」などと最大限に持ち上げる表現を多用して金正恩氏を称賛し、党最高指導者の地位である党総書記に再任することを決定しました。党大会では金日成、金正日両氏の肖像画は登場せず、国営メディアが2026年2月26日に報じた党大会の結果を伝える長文の記事は両氏に触れませんでした。そして、党大会が2月25日に閉幕してから間もない3月4日、朝鮮中央通信は最高人民会議の代議員選挙を実施、幹部メンバーも入れ替えました。最高人民会議が国家主席への就任と結びつくのは、憲法改正が必要だからで、党だけではなく、国家全体のトップを意味する国家主席の設置については、最高人民会議に権限があり、現憲法は第100条で、金正恩氏が兼職する国務委員長が北朝鮮の「最高領導者」としていますが、国務委員長を国家主席に置き換える可能性があります。法律上必要とされる公示期間の60日を待たずに選挙を実施する形とみられ、急ぐのは、代議員を一新したうえで金日成氏の生誕記念日にあたる4月15日に最高人民会議を開くことを想定している可能性があります。そこで、金正恩氏は祖父と肩を並べる国家主席の地位に就き、自らの神格化作業を完成することを目論んでいるとみられます。金正恩氏は独裁者であり、肩書が総書記でも国家主席でも権限は変わらないものの、それでも第1書記、国務委員長、総書記など肩書を変えたり、追加したりして、自らの権威を高めてきました。報道で元党幹部は「金正恩は権力の維持に不安を抱いている。忠誠競争に夢中になる側近の思惑と利害が一致した結果、神格化や肩書の変更が起きている」と語っているとおりなのかもしれません。

    北朝鮮の人権問題を担当する国連のサルモン特別報告者は、国連人権理事会の会合で、北朝鮮が市民を監視するため「顔認識機能を備えた監視カメラを導入している」と指摘、監視体制が強化され、移動の自由も制限されたままで、人権状況は「過去10年間で改善しておらず、多くの分野で悪化している」との認識を示しました。サルモン氏は、国際機関の職員の入国も厳しく制限されているとして、北朝鮮政府に対し、国際社会との対話を進め、情報公開も強化するよう求めました。会合では、日本の尾池厚之駐ジュネーブ国際機関政府代表部大使が拉致問題に言及、被害者や家族の高齢化が進んでおり「時間的猶予はない」と述べ、早期解決の必要性を強調しました。欧州諸国などからも北朝鮮の人権状況への懸念の声が相次いだものの、中国やロシアは人権問題が政治的に利用され、内政干渉の手段になっているとして、北朝鮮を擁護しています。なお、国連人権理事会(47カ国)は、北朝鮮の人権侵害を非難し、拉致問題の早期解決を求める決議を19年連続で採択しました。欧州連合(EU)とオーストラリアが提出し、日本は賛同を示す共同提案国に加わりました。投票はなく、議場の総意として採択されています。決議は、北朝鮮が強制労働などの人権侵害を通じて違法な核・ミサイル開発を進めていると指摘、拉致問題を巡っては、日本人や韓国人ら拉致被害者全員の即時帰還が必要だと強調しています。サルモン氏は決議採択前に、拉致問題解決を「決してあきらめてはいけない」と訴えました。

    北朝鮮メディア、金総書記が大陸間弾道ミサイル(ICBM)用の大出力エンジンの地上燃焼実験を視察したと報じました。軍需部門やミサイル開発の担当幹部らが同行、改良型のエンジンで2025年9月の燃焼実験より最大出力が増したといいます。エンジンは炭素繊維の複合材料を用いた固体燃料式で、開発は2月の党大会で掲げた国防5カ年計画の一環だとしています。燃焼実験を重ねており、今後は発射実験に向けた動向に注目が集まります。北朝鮮はトランプ米大統領の2期目就任以降、ICBMを発射していませんが、武力行使をためらわないトランプ大統領に対し、過度な刺激を避けているとみられています。また、金総書記が、国民の生活向上を演出しやすい住宅政策に力を入れており、北朝鮮メディアは、経済5カ年計画の一環として今後37万戸の住宅を各地に整備すると報道しています。金総書記には2035年までに「社会主義強国」を実現させる15年間の長期構想もあり、次の5年を「飛躍期」と位置付けています。中国との国境を流れる鴨緑江沿いでは2024年夏に大規模な洪水被害が起きた後、老朽家屋を撤去し急ピッチで高層住宅を建造しました。

    北朝鮮との海外各国との関係性を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

    • 韓国の民間人が北朝鮮にドローンを飛ばしたとされる事件で、韓国警察は、ドローンの飛行を支援したとして情報機関、国家情報院(国情院)の職員1人と現役軍人2人を一般利敵ほう助容疑などで書類送検しました。検察は、ドローンを飛ばして韓国の安全保障を脅かしたとして、30代の大学院生ら3人を一般利敵罪などで起訴、捜査の過程で、大学院生が国情院職員らと金銭のやりとりをしていたことが判明したといいます。報道によれば、国情院職員は大学院生と約10年前から面識があり、無人機制作費などとして計280万ウォン(約29万円)を支援した疑いがもたれています。ドローン飛行に同行したとされる陸軍特殊戦司令部の大尉も、一般利敵ほう助などの疑いで書類送検、軍情報司令部の大尉には航空安全法違反容疑が適用されました。民間人3人は2025年9月から2026年1月に計4回、北朝鮮に向けて偵察用の無人機を飛ばしたとされます。なお、一般利敵罪は軍事的な利益を侵害した場合などに適用されるといいます。
    • コロナ禍で取りやめとなっていた中国と北朝鮮を結ぶ国際旅客列車が6年ぶりに運行を再開しました。中朝間の往来の制限は列車再開でほぼ解消したことになります。当面は列車を利用するのは外交官やビジネス客とみられますが、観光客の往来まで回復すれば北朝鮮にとっては外貨獲得の追い風となります。2013年には列車を利用して出入国した人数が10万近くにのぼったとの記録もあるといいます。丹東を含む中国東北部には多数の北朝鮮労働者や貿易商が滞在しており、両国間で人的往来の活発化が見込まれており、2026年2月には王大使が北朝鮮南東部の「元山葛麻海岸観光地区」を訪問したほか、金総書記も2月の党大会で、観光振興に力を入れる考えを強調、中国の旅行会社からも、中国人観光客の受け入れ再開を期待する声が高まっているとされます。また、中国の習近平国家主席は、北朝鮮の国家元首「国務委員長」に再任された金総書記に祝電を送りました。習氏は「金氏と共に伝統的友好関係を発展させたい」と意欲を表明しています。習氏は中朝の伝統的友好は両国の「貴重な財産だ」と指摘、中朝関係を維持し、強固にして発展させることは中国共産党・政府の「揺るぎない方針だ」と強調しています。また、2025年9月に北京で実施した金氏との会談で中朝関係の「新たな局面を切り開いた」と評価しました。
    • 金総書記は、最高人民会議(国会に相当)で「核保有国の地位は絶対に後退させない」と演説し、核戦力の強化を強調しつつ「平和共存を選ぶかどうかは敵の選択次第だ」と述べ、米国との対話の可能性を排除しない姿勢を示しました。また、「米国は今、世界各地で国家テロや侵略行為を行っている」と主張し、イラン攻撃などを念頭に米国を非難しましたが、トランプ大統領の名指しは避けました。韓国については「最も敵対的な国として認定し、徹底的に排斥し、無視する」と改めて表明しています。また、「引き続き核保有国の地位を固め、敵対勢力のあらゆる挑発を粉砕するための闘争を行っていく」と強調、米国などが求める非核化を巡り、「今日の現実は、核保有を恒久化した決断がいかに正当であるかを示している」と述べ、核・ミサイル開発を正当化しました。こうした核を巡る北朝鮮の考え方について韓国の専門家は、「自分たちの核にますます執着し、自分たちが核を持つことの正当性や名分を国際社会に向けて語るでしょう。自衛権の次元から当然、必要なことだと。一方で、米朝首脳会談のハードルは少し下がる可能性があります。トランプ氏はイランと交渉中だったにもかかわらず攻撃をしました。トランプ氏が積極的に金総書記に会おうと言っているのに、それを拒否し続けることは簡単ではないと思います。それに、北朝鮮も米国との対話の必要性を感じているのではないでしょうか。2月の朝鮮労働党大会での演説でも、金総書記は米国との関係改善の余地に触れました」、「北朝鮮に対する国際社会の制裁を解除するためには、トランプ氏と会って談判をしなければなりません。制裁は依然として北朝鮮の経済を締め付けています。北朝鮮が狙っているのはインドやパキスタンのモデルだと思います。両国とも最初に核開発をした際には国際社会の制裁を受けましたが、米国は必要に応じて制裁を解除していき、両国とも実際に核を持っています。トランプ氏以外の米大統領が金総書記と会ってこうした談判をする可能性はなく、北朝鮮にはトランプ氏がいる間に何らかの勝負をかけなければならないという考えがあると思います。ただ、たとえ米朝の対話が実現しても、何らかの合意を得るのは非常に難しいと思います。また、韓国政府は米朝対話が、行き詰まっている南北関係の局面の転換につながることを期待していますが、北朝鮮が韓国を徹底的に排除する路線は簡単には変わらないとみられ、南北関係に与える影響は相対的に少ないでしょう」、「中国を牽制したい米国の安全保障・国防の戦略的な核心は、朝鮮半島や東北アジアを含むインド太平洋地域のはずですが、今回の事態によってかなりの期間、中東に足を縛られる可能性があります」、「米国が中東に足を引っ張られるほど、中国の立場からすれば、台湾を含むインド太平洋地域での動きがより自由になる可能性があります。また、米国がベネズエラやイランで国際法や外交によってではなく、力による方法で問題を解決しようとしたことで、中国が台湾問題などに関して自らに有利な環境が醸成されたと判断する余地もあります」などと指摘しています。
    • 北朝鮮の朝鮮中央通信によると、金総書記は、自身の同国国務委員長再任に祝電を寄せたロシアのプーチン大統領に答電を送り、謝意を示しました。金総書記は、両首脳の信頼関係が「今後の朝露間の堅固さと未来志向性を担保」すると強調、「平壌は常にモスクワと共にある。これは変わることのない意思だ」と述べています。プーチン大統領は祝電で、「モスクワと平壌の間の包括的戦略的パートナー関係をさらに発展させるための緊密な共同事業を今後も継続していくだろう」と呼びかけていました。両首脳は2024年6月、平壌で「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結、その後、ロシアによるウクライナ侵略を巡り、北朝鮮がロシアに兵士を送る一方、ロシアは北朝鮮に弾道ミサイル技術を支援しているとされるなど、両国間の関係強化が進んでいます。また、北朝鮮の朝鮮中央通信は、ロシアのタス通信と報道部門で協力することに合意し、両通信社の社長が平壌で合意書に署名しました。タス通信が社長率いる代表団を平壌に派遣していました。
    • 北朝鮮は2026年3月、ベラルーシのルカシェンコ大統領を平壌に招いて首脳会談を行い、両国の「友好協力条約」を締結しました。ルカシェンコ大統領の訪朝は2025年9月、中国・北京の「抗日戦争勝利80周年」の記念式典で、同席した同氏に金総書記が自ら要請したとされます。両国が締結した友好協力条約は、外交・農業・教育・医療などの協力が明記されており、軍事同盟ではないものの、これは「表の顔」で、両国とも国際制裁下にあるため、ロシア支援国同士の連携で「抜け穴」を増やすこと、特に軍事協力の拡大が懸念されています。両国は双方に大使館の新設を表明しています。北朝鮮はこれまで欧州諸国の大使館を使って非合法活動を行ってきた前歴が数多くあるところ、その拠点が増えることになります。ビジネスでは、ポーランドや独ベルリンの北朝鮮大使館が外貨獲得のため、レストランなどへの労働者派遣の基地となってきました。外交官特権を使った非合法活動では、密輸や現金の移動などが大使館を拠点に行われています。特に旧共産圏の東欧諸国やロシアに近い国々は、対北監視が緩く、ベラルーシも北朝鮮も、兵器は旧ソ連系であり、その軍事協力は、デュアルユース(軍民両用)物資を用いて行われるとみられます。ベラルーシはロシアの軍需産業に直結しており、北朝鮮はミサイル、電子戦、ドローン技術へのアクセスや、光学機器、電子部品の調達などが安易になり、北朝鮮とロシアがベラルーシを抜け穴にして双方向に取引するネットワークを構築する懸念が指摘されています。北朝鮮にとってロシア圏の優等生ベラルーシに「基地」を持てば、欧州諸国へのサイバー攻撃も容易になり、欧州の金融機関が狙われる可能性もあります。一方、対露制裁で西側の市場から切り離されているベラルーシにとり、北朝鮮は武器の輸出先、労働力の供給源、諜報・工作分野での協力者として、政治的に得られる利益は大きいとされ、ウクライナや北大西洋条約機構(NATO)はこの三角連携の動向を注視しています。ベラルーシ国営ベルタ通信によると、ベラルーシから北朝鮮への食糧の輸出と、北朝鮮からベラルーシへの自動車部品の輸出がすでに始まったといいます。
    • 木原稔官房長官は、金総書記の妹、金与正党総務部長が日朝首脳会談について「日本が望んだからといって実現する問題ではない」との談話を発表したことに関し、日米首脳会談で高市早苗首相から米側に「正恩氏と直接会う気持ちが非常に強いということを伝えた」と明らかにしました。また木原氏は「日朝間の諸懸案の解決に向けて、米国をはじめとする国際社会と緊密に連携しながら、引き続き努力を続ける」とも述べています。

    北朝鮮産のしじみを輸入したとして、外為法に基づき業者に対し行政処分が行われています。

    ▼ 経済産業省 外国為替及び外国貿易法に基づく行政処分(輸入禁止等)を行いました
    • 経済産業省は、本日、王天元による外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)違反事案に関し、外為法第53条第2項及び第3項に基づき、輸入禁止等の行政処分を行いました。
      1. 行政処分について
        1. 処分対象者
          • 王 天元(ワン・ティエンユェン)
        2. 処分概要
          1. 輸入禁止(第三者を介した輸入を含む。)
            • 対象貨物:全貨物
            • 原産地及び船積地域:全地域
            • 輸入禁止期間:令和8年3月31日から令和11年3月30日まで(3年間)
        3. 次の輸入業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることの禁止
          • 対象貨物:全貨物
          • 原産地及び船積地域:全地域
          • 役員就任禁止期間:令和8年3月31日から令和11年3月30日まで(3年間)
      2. 事案の概要
        • 王天元は、令和元年6月11日から令和2年1月23日までの間、計35回にわたり、北朝鮮を原産地とするしじみ計53万7,660キログラム(輸入申告価格合計1億495万1,667円)を経済産業大臣の承認を受けずに中華人民共和国又は 大韓民国経由で輸入しました。
        • ※平成18年10月14日以降、外為法に基づく我が国独自の措置として、北朝鮮を原産地又は船積地域とする全貨物の輸入が禁止されています。

    政府は、ミサイル攻撃などを受けた際に国民を保護する「緊急一時避難施設」(シェルター)の確保に向けた初の基本方針を決定しました。地上に比べて安全性が高い地下街や地下駐車場のさらなる活用促進が柱で、シェルターの人口当たりのカバー率を令和12年(2030年)までに全市区町村で100%とする目標も掲げ、木原稔官房長官は「より高い水準で国全体のレジリエンス(回復力)を向上させ、国民保護体制の強化と実効性の向上を図る」と述べています。北朝鮮が弾道ミサイルを相次いで発射し、中国も軍拡を進める中、有事にミサイル攻撃を受けた際の被害を軽減する狙いがあります。緊急一時避難施設は2025年4月時点で約6万1000カ所が指定されていますが、うち地下施設は約4000カ所にとどまっています。また、学校や官公庁の庁舎といった公共施設が9割を占めており、地下街や駐車場など民間の地下施設を確保できるかが課題となっています(韓国ではマンションの地下駐車場や地下鉄駅を活用し、人口の3倍超を収容できる規模のシェルターを確保していますが、日本では地下施設に限ると、シェルターの人口カバー率は5.5%にとどまり、整備の遅れが際立ちます)。実際、民間事業者の中には一時避難施設に指定された場合、有事に避難者が殺到したり、けが人が出たりするリスクを懸念する向きもあります。とはいえ、人口カバー率の基準を従来の夜間人口から昼間人口に改め、「昼間人口でカバー率100%」を目指すとしています。都市部は学生や会社員が日中に集まるため、昼間に有事が発生してもシェルターに収容できる態勢を整えたい考えです。また、自然災害発生時には帰宅困難者向けの一時滞在施設として利用するなど、幅広い事態への対応も進めるとし、機能の充実にも取り組み、水や食料、簡易ベッドを備蓄して数日間の滞在を可能とするほか、さらなるシェルター整備を見据え、ウクライナやイスラエルなどの海外事例を参考に、核攻撃にも耐えられるシェルターの調査、研究を実施するとしています。

    3.暴排条例等の状況

    (1)暴力団排除条例に基づく逮捕(不起訴)事例(東京都)

    東京都暴力団排除条例違反の疑いで逮捕された暴力団組長の男性が不起訴になりました。80代の暴力団組長は、2025年11月、東京・池袋の飲食店の用心棒をする見返りとして、熊手を購入させ、現金3万円を受け取った疑いで2026年3月、逮捕されました。この男性について東京地検は不起訴処分としました。理由については「事案の軽重を判断し、情状面を考慮して不起訴とした」としています。

    ▼ 東京都暴排条例

    同条例第二十五条の四(暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償として、又は当該営業を営むことを容認することの対償として利益供与を受けてはならない」と規定されています。また、同条例第三十三条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」として、「四 第二十五条の四の規定に違反した者」が規定されています。

    (2)暴力団排除条例に基づく逮捕(不起訴)事例(愛知県)

    名古屋地検岡崎支部は、飲食店から用心棒代などを受け取ったとして、愛知県暴力団排除条例違反容疑で逮捕された六代目山口組二次団体の総裁と組員について、不起訴としています。理由は明らかにされていません。愛知県警は、豊橋市内の飲食店主に2025年12月、用心棒代などの名目で正月用の盆栽を販売し、3万円を受け取ったとして、2026年3月に男性ら3人を逮捕していました。一方、別の組員については、地検が同罪で起訴しています。

    ▼ 愛知県暴排条例

    飲食店については、同条例第二十二条(特別区域における特定事業者の禁止行為)第2項において、「特定事業者は、特別区域における特定事業に関し、暴力団員に対し、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供を受けることの対償として、又はその特定事業を行うことを暴力団員が容認することの対償として、利益の供与をしてはならない」と規定され、暴力団員については、第二十三条(特別区域における暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、特別区域における特定事業に関し、特定事業者から、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供をすることの対償として、又はその特定事業を行うことを容認することの対償として、利益の供与を受けてはならない」と規定されています。そのうえで、第二十九条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」として、飲食店については、「二相手方が暴力団員であることの情を知って、第二十二条第一項又は第二項の規定に違反した者」、暴力団員は「三第二十三条第一項又は第二項の規定に違反した者」が規定されています。

    (3)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(兵庫県)

    兵庫県宍粟市で飲食店を経営する40代の女性に入店を断ったわび料などを要求したとして、兵庫県警宍粟署は暴力団対策法に基づき、六代目山口組傘下組織組員ら4人に、女性への金品要求などを禁じる中止命令を発出しています。2025年10月末、組員は女性が経営する飲食店に入店を断られました。その後、組員は同11月、別の店で食事中の女性に対し、自身の仲間を女性の店に行かせる趣旨の発言をして、金銭を要求、トラブルの謝罪に訪れた女性に用心棒代などを求めたものです。現場にいた組員の親族の男と知人の女も組員に同調したといいます。組員と親族の男は同12月上旬、恐喝未遂容疑で県警に逮捕されていました。

    ▼ 暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

    暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

    (4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)

    沖縄署は、40代の男性に対して金銭を不当に要求したとして、旭琉会四代目富永一家構成員で無職の男性と、現場に立ち会い助勢したとして自称建築作業員の男性に中止命令を発出しています。報道によれば、2人は「分かりました」「相手には近づきません」などと述べ、命令書を受け取ったといいます。

    暴力団員については前述のとおりですが、立ち会い助勢した男性については、暴力団対策法第十条(暴力的要求行為の要求等の禁止)第2項において、「何人も、指定暴力団員が暴力的要求行為をしている現場に立ち会い、当該暴力的要求行為をすることを助けてはならない」との規定に抵触するものと考えられます。

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