暴排トピックス

「できることは、すべてやる」~トクリュウとの戦いは総力戦で

2026.06.09
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首席研究員 芳賀 恒人

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1.「できることは、すべてやる」~トクリュウとの戦いは総力戦で

匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)の関与が疑われる事件が相次いでいます。警察庁は、都道府県警のトップに当たる本部長らを集めた定例の会議を東京都内で開き、栃木県上三川町で2026年5月に発生した強盗殺人事件に関連し、楠芳伸長官は、トクリュウの撲滅に向けた対策の前進が求められているとして「警察にとって、今が正念場だ」と述べました。また、「被害者の死傷事案を二度と生じさせてはならない」と強調し、下見行為への職務質問を徹底するなどの対応を指示、特殊詐欺に関しても、被害防止に向けた推奨アプリの普及促進、送金先口座のオンライン照会の活用などを求めました。トクリュウへの対策については、警察庁が2025年10月に「匿流情報分析室」を設置、46道府県警から捜査員を警視庁に集める「匿流ターゲット取り締まりチーム(T3)」については、2026年4月に捜査員100人から200人へと倍増させるなど体制を強化しました。楠長官は、トクリュウが関与する特殊詐欺の被害が2026年に増加していることなども踏まえ、「(トクリュウの)関与する事件の捜査を一層強力に推進し、被害防止対策を『できることは、すべてやる』との強い決意が必要」と指摘、SNSなどの「匿名性の壁」に隠れた中核的な人物の検挙を求めました。また栃木の事件はトクリュウによる事件の可能性があるとして、同種事件の発生防止や、全国警察を挙げた対策の強化を指示しました。事件では実行役の少年や現場の指示役の夫婦ら計7人が逮捕され、海外に逃亡した可能性があり捜査本部が主導役とみている容疑者が強盗殺人容疑で公開手配されています。

最近の事例を指摘するまでもなく、サイバー攻撃・犯罪と並ぶ治安上の脅威といえばトクリュウの存在が挙げられます。主犯格らは手を汚さず、SNSなどで無差別に実行犯を調達する「闇のエコシステム」を機能させ、一般市民を犯罪者に仕立て市民からカネを巻き上げています。いわば「国民総ターゲット化」と「素人実行犯の時代」という従来とは一線を画す治安状況を生み出していますが、トクリュウ犯罪を代表する特殊詐欺は子どもから高齢者まで、一人ひとりが持ち歩く「手のひらのスマホ」が犯罪被害の入り口となっており、24時間いつでも、どこにいてもすべての国民が犯罪者のターゲットにされる点で、深刻さが際立っています。特殊詐欺の原型であるオレオレ詐欺でも、素人の実行犯は目立っていました。だましの電話をかける「かけ子」や被害者宅にカネを受け取りに行く「受け子」は犯罪グループに属するような者ではなく、闇バイトに応じたり、リクルーターに誘われたりして集められていました。また、「素人化」を改めて示したのが2026年5月、栃木県上三川町で親子3人が死傷した強盗殺人事件で、民家に押し入った実行犯4人は全員16歳の高校生で、その後、指示役とみられる20歳代の夫婦が逮捕され、さらに事件を主導したとして男が公開手配されました。トクリュウ型の事件では、首謀者らは匿名性の高いツールを駆使するなどして、姿を現しません。一方、栃木の事件で手配された容疑者は「痕跡」が残る形で凶器とみられるバールを購入し、電車で移動、この容疑者が「素人」との結節点で、海外に逃亡させたり受け入れたりする、さらに上位の人物の存在が推測されます。東京都新宿区では会社事務所へ強盗に入ろうとしたとして、これまでに高校2年の少年を含む男ら計7人が強盗未遂などの疑いで逮捕されており、うち1人が、匿名性が高い通信アプリで指示役と連絡を取っており、同様にトクリュウ型の事件とみられています。素人による犯罪は相次いでおり、若年層へと広がっています。警察庁によれば、2025年にトクリュウ型の強盗事件で摘発された少年は116人で、摘発者全体の38%を占めました。特殊詐欺の「かけ子」などには一定程度の話術が必要となりますが、強盗なら素人でも使いやすいと考えられている可能性があります。闇バイトに応じた若者らが犯罪に利用されていることから警察庁は2025年、ニセの身分証を示して警察官が闇バイトに応募する仮装身分捜査を導入、トクリュウ側にとっては、集めた実行犯の中に警察官が交じっているリスクがあり、闇バイトの応募には一定の抑止効果が出ているとみられています。ただ栃木の事件でも闇バイトの応募だけではなく、実行犯の一部は同じ高校生から誘われたケース(仮装身分捜査対策か)があり、「半グレ」と呼ばれ、緩やかにつながり違法行為を繰り返す準暴力団の形態を思わせますが、高校生がいきなり侵入強盗に及ぶという点でまったく異質の局面だといえます。「素人時代」の恐ろしさは、本来なら容易に犯罪に手を染めることはなかったであろう人たちが突然、犯罪者と化すことにあり、素人だけにかえって手口が大胆になり、暴走しやすく、「非日常」の犯行現場で興奮し、過激化/凶暴化/凶悪化する側面もあると考えられます。その結果、激しい暴力を振るって、法定刑が「死刑か無期拘禁刑」の強盗殺人に及んだりするほか、犯行はずさんで、防犯カメラの映像や指紋などの証拠が残りやすく、実行犯はほぼ摘発されることになります。とはいえ、トクリュウの首魁は最初から使い捨てるつもりで、犯罪のビジネスモデルが維持されるのであれば摘発を問題にすることはありません。犯罪組織にとって10代の若者は「脅しや金でコントロールしやすく、操り人形として使いやすい」存在でもあるのです。栃木の事件では、住民が怪しむレベルで下見とみられる予兆があったのに、事件を防げなかった警察の対応も検証する必要があります。そして、トクリュウの跋扈の背景には間違いなく「暴力団の弱体化/流動化」があり、さらには「暴力団とトクリュウの一体化」の状況があります。いずれにせよ、国民の財産を無差別に狙い、若者らを犯罪者に仕立て上げるトクリュウの中核部分が、国の内外にいったいどれだけ蠢いているのかさえ判然としないのが現状で、現在の治安への脅威であることはもちろん、若者を犯罪予備軍やアウトローなどへと追い込んでいる点では将来の治安への影響も大きいものがあり、正に底が抜けた「怖さ」を感じさせます。トクリュウ対策は治安対策の要であり、それはまた暴力団対策、SNS対策やスマホ対策をはじめとする犯罪インフラ対策、孤立・孤独や貧困への対策を「やるべきことをきっちりやりきる」ことが重要となります。警察にも相応のスキルとノウハウ、知見が積みあがっています。民間にも高度な分析能力や貴重な端緒情報を吸い上げるノウハウがあります。治安上の脅威である以上、トクリュウ対策は国家の総力を挙げ、官民連携のもと立ち向かうべき戦いであり、正に「できることは、すべてやる」局面にきているのです。

トクリュウ対策の重要な柱である「暴力団対策」の文脈では、住吉会幸平一家対策が肝となっています。半グレグループとして有名な「関東連合」は、住吉会幸平一家に多くの関係者が属していることでも知られています。警視庁が幸平一家への「頂上作戦」を仕掛けた背景には、彼らが半グレのみならず、警察庁が新たな組織犯罪の類型として捜査を本格化させているトクリュウとの連携を深めているという疑いを当局側が抱いているという事情もあります。トクリュの実態は組織の盃を受けずに特殊詐欺やタタキ(強盗)などの犯罪行為を繰り返す不良連中であり、地元の先輩後輩であるという地縁のつながりのほか、SNSを介するいわゆる「闇バイト」として少年らを集めて実行部隊として運用したりもしています。そうした離合集散を繰り返し、不定形の犯罪集団を形成していた先駆けが「関東連合」や「怒羅権」といった半グレグループであり、組織内に現在のトクリュウにつながる犯罪のノウハウを持った関東連合OBらをはじめとする構成員や準構成員を多く抱えている幸平一家に、警視庁が特に警戒を強める理由だといえます。また、2026年5月14日付産経新聞の記事「トクリュウの背後に消えぬ暴力団の威光 暗躍する「幸平一家」、変貌する捜査当局」も興味深いものでした。「現在の暴力団は、末端組員が他の組織の組員との個人的な関係性などでつながり、特殊詐欺といった犯罪で得た利益を分け合い、「共存」する状況もみられる。警視庁幹部は「金のためなら代紋(組の紋章)は関係なく誰とでも結びつく」と指摘。暴力団は特殊詐欺への関与を表向きは「ご法度」としているが、「被害金が上納金として納められるため、事実上、黙認しているところもあるだろう」とみている」、「トクリュウとの具体的な結びつきが指摘されているのが、東京都内で最大級の勢力を誇る住吉会の2次組織「幸平一家」だ。捜査関係者によると、暴力団勢力が減少傾向にある中、幸平一家は暴走族「関東連合」OBや準暴力団関係者らも取り込み、勢力を維持している。トクリュウとの関わり方は多様だ。特殊詐欺事件の「指示役」として組員が浮上するほか、捜査関係者によると、違法スカウトグループ「ナチュラル」の後ろ盾となり、みかじめ料を得ていた疑いもある。盗んだアルファードの車台番号をつけかえ、不正流通させた事件でも、幸平一家の傘下組員が指示役となり不特定多数が離合集散しながら事件に関わったとされる」、「こうした暴力団の趨勢と犯罪情勢を踏まえ、警視庁は昨年10月に刑事部と組織犯罪対策部を統合し、トクリュウ対策に重点を置く。ある捜査幹部は「代紋が犯罪グループの内部統制に使われている」と指摘。組の看板や代紋が放つ「威光」は衰えておらず、暴力団がトクリュウの中で重要な役割を果たしている-。そんな見立てもある。組織犯罪に詳しい元警視庁警視の桜井裕一氏は「従来なら暴力団組員になっていた者が、警察に把握されないように、組織の名簿に名前を載せずに水面下で暗躍している可能性がある」と分析。その上で、「特殊詐欺などの犯罪の背後には必ず暴力団があり、トクリュウと『共存共栄』して脅威となる。『組織』への対策の軸は残していかなければならない」として、暴力団対策の継続が欠かせないとしている」といったものです。「暴力団とトクリュウの一体化」を体現しているのが正に幸平一家であり、トクリュウ対策を暴力団対策の手法で追求していくことの重要性や必要性も痛感させられます。

トクリュウ対策の重要な柱である「犯罪インフラ対策」の文脈では、とりわけ犯罪収益の移転なくして犯罪が完了しないという点で、マネー・ローンダリング(マネロン)対策や金融犯罪対策が極めて重要であり、直近では、金融機関と警察庁の連携が注目されます(後述する「AML/CFT/CPF」の項でも取り上げています)。警察庁が大手9銀行と結んだ不審な送金記録をオンライン照会するための協定は、迅速な被害金の追跡・凍結・回復につながるだけでなく、特殊詐欺に欠かせない「犯罪インフラ」の一つである金融機関の口座を断つことで、トクリュウなどが関わる特殊詐欺犯行グループの動きそのものを鈍化させる効果が期待されます。警察庁は今回の取り組みを対策の「第一歩」と位置づけ、取り組みの枠組みを広げたい考えだといいます。特殊詐欺などの犯行グループが悪用する口座は、SNSなどで募集に応じた人から犯罪に使うツールを調達する「道具屋」が不正に購入し、詐欺グループに転売するスキームが機能しています。愛知県警や警察庁サイバー特別捜査部などが摘発した「日本最大の口座仲介業者」をうたうグループは、1口座あたり3万~30万円ほどで買い取り、詐欺グループには20万~75万円ほどで売却していました。道具屋はほかにも不正取得した携帯電話のSIMカードなどを扱っているとされ、いずれも特殊詐欺には欠かせない犯罪インフラです。今回の取り組みに先行する形で、ネット銀行と同様の協定を締結した京都府警の活動では一定の成果が出ており、府警の事例では、複数回、被害金が移転していたが、被害から数日以内に関係口座を凍結することができ、被害金の保全にもつながったといいます。警察庁の担当者も今回の取り組みで、「犯行ツールを奪うことで、特殊詐欺などの犯行をしづらくなることにつながる」と期待を寄せています。犯罪インフラの一端を押さえることで、犯行グループの動きを鈍らせる狙いがある一方で、協定の締結先9行以外では、従前の手続きとなり、迅速な情報把握が難しい部分も残ります。取り組みを受けて、9行以外の金融機関口座を悪用することも想定され、いかに早く連携網を拡げられるかがポイントとなります。

トクリュウ型犯罪が生まれた背景には、2003年に大規模な摘発が行われた「五菱会事件」があると廣末登氏が指摘している点も注目したいところです。当時の山口組傘下組織五菱会による巨大ヤミ金事件で、最高で法定の1150倍もの利息を取り立てるなどし、最大で約1000のヤミ金業者を傘下に置いていました。五菱会が作り上げたヤミ金の手口には2つの特徴があり、まず「個人情報の積極的な活用」があり、いわゆる「名簿屋」が介在し、そこから手に入れた家族構成、職場情報などを基に貸し付けのターゲットを選定するものです。もう1つは「組織統括部門の存在」で、「センター」と呼ばれる中枢が傘下のヤミ金業者のネットワークを管理し、センターが各業者に貸し付けや取り立てに関し指示していました。さらに債務者の返済期限が近づくと、他のヤミ金業者が新たな融資を持ちかけ、債務者の借金をさらに膨らませていったとされます。五菱会事件などを受け、ヤミ金融対策法など対策が強化された一方で、暴力団が代わりの資金を獲得するために特殊詐欺が増加、今度は高齢の富裕層などの名簿を使い、ヤミ金をしていた者が指示役となり、かけ子・受け子・出し子に指示を出すなど分業制が進展、今度はかけ子・受け子・出し子がこのノウハウを持って独立、自らが指示役となり、闇バイトで実行役を調達するようになったという流れがあるといい、廣末氏は、こうした素人化がトクリュウ凶暴化の背景の一つだと指摘しており、大変説得力があります。なお、現在の特殊詐欺は世界的にみれば、オンライン詐欺の流れもあり、その点は後述する「特殊詐欺」の項で紹介したいと思います。

トクリュウ対策の重要な柱である「闇バイト対策」の文脈では、警察庁からの注意喚起がありました。警察庁は、SNSの「闇バイト」募集に応じた少年による凶悪事件が相次いでいることを受け、学校などでトクリュウの危険性を呼びかける活動を強化すると発表、「人生を棒に振らないために知っておくべき5つのこと」として、闇バイトに関われば必ず逮捕され、海外に渡航すると二度と戻れない可能性があるといったことを資料にまとめました。警察庁は文部科学省、こども家庭庁と連携して活動するとし、教育委員会や学校などと連携し広報啓発を強化するよう全国の警察に通達、イベントなどで活用するほか、ホームページやSNSでも発信するとしています。赤間国家公安委員長は「闇バイトに参加することがいかに危険かについて伝える取り組みを進める」と述べました。警察庁によれば、トクリュウによるとみられる強盗の摘発人数は2025年に304人で、そのうち20歳未満は4割近い116人でした。また、トクリュウが絡む犯罪で、2025年は約1万2000人を摘発、少年は1322人でした。警察庁によれば、事件に加担した経緯はSNSの「闇バイト」募集が全年代で主流ですが、10代では「知人の紹介」が最多で、友人・先輩などの人間関係で断れず手を出すケースが多いとみられ、不良グループがトクリュウ化したり、人材供給元になったりした例もありました。捜査幹部は「『未成年は重い罪にならない』『絶対捕まらない』などの誘い言葉は全てうそだ」とくぎを刺し、「首謀者は身元を隠す工作を徹底し、実行役は逮捕されても構わない『使い捨て』と考えている」と指摘しています。また、栃木の強盗殺人事件を受け、警察庁は公式Xなどに闇バイト対策のチラシを改めて掲載、学校に出向く防犯教室などでも取り上げ、学校に通っていない少年らに対しては支援団体を通じ注意啓発するといい、非行で補導した際や逮捕者の立ち直り支援でも、トクリュウに関わらせない取り組みを強める方針です。また、巻き込まれた場合の保護にも力を入れ、警察相談専用電話「#9110」や各警察署で相談を受け、2026年4月末までに667件の保護を実施、うち4分の1が闇バイトに応募した10代やその家族からの申し出といいます。応募者は身分証やスマホのデータを握られ、「断れば家族や友人を殺す」などと脅される例が珍しくないものの、警察が保護した中で、その後本人や周囲が危害を加えられた例は確認されていないといい、同庁幹部は「警察はしっかり守る。逃げ出す勇気が大切」と話しています。一方、闇バイトへの応募について、若者の人間関係に詳しい関西外国語大学の土井隆義教授(社会学)は、「闇バイト」など犯罪に手を染める少年の中には家庭や学校に居場所がなく、孤独を抱えているケースもみられると指摘、土井氏がこれまで「闇バイト」に参加した少年らの動機を分析したところ、仲間とのつながりを求めて参加した子供もいたといいます。実際、今回逮捕された少年4人は、いずれも同学年の16歳の高校生で、うち2人は同じ高校に通っていた知人同士であり、土井氏は「報酬よりも仲間とのつながりを求めたり、仲間との関係を壊したくないと思ったりして集まった可能性もある」と指摘、また少年4人の一部は夫婦と面識があったとされ、「指示役に命じられた少年が、自分の誘いを断れないような知人に声をかけていったのではないか」とも指摘しています。実行役は強盗事件や特殊詐欺事件で「捨て駒」として扱われ、弱みを握られ、犯罪集団に加担すると重い刑事罰が科されることになります。強盗殺人罪の法定刑は死刑または無期懲役ですが、土井氏は「刑事罰について理解していない少年もおり、トクリュウ側にとっては利用しやすい。未熟な少年らが実行役として使われている現状がある」と述べています。

▼ 警察庁 いわゆる「闇バイト」の危険性について
▼ 今後の幸せな人生のために~闇バイトで人生を棒に振らないために知っておくべき5つのこと~(メッセージ)
  1. 必ず捕まります
    • 逮捕されるまでこき使われます。
    • 強盗をして人が亡くなれば死刑か無期拘禁刑。見張り役でも同罪です。闇バイトを他の人に紹介しただけでも捕まります。
  2. 先輩、友達からの誘いでも応じてはいけません
    • 犯行グループは、誰でもいいから身代わりとなる都合のいい使い捨てを求めています。お金が払われると思ったら大間違いです。
    • 未成年だから罪が軽いなんてことはありません。
  3. 銀行口座やスマホを売ってはいけません
    • 通帳やキャッシュカードを売ることは犯罪です。
    • 二度と銀行口座を作れません。
    • スマホやSIMカードを勝手に売ることも犯罪です。
  4. 外国に渡航すれば、二度と戻れなくなるかもしれません
    • 監禁され、暴力を振るわれることもあります。命を落とすかもしれません。
  5. 今ならまだ引き返せます
    • 個人情報を送ってあなたや家族の安全を脅かされても、すぐに110番してください。警察はあなたと周りの方の安全を必ず守ります
▼ 今後の幸せな人生のために~闇バイトで人生を棒に振らないために知っておくべき5つのこと~(事例集)
  • 警察は犯人を必ず捕まえます
    • 匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる犯罪(※)について警察では、令和7年中に1万2000人以上を検挙。このうち少年は1300人以上を検挙しています。(※)匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる犯罪のうち、資金獲得犯罪(詐欺、窃盗、薬物事犯、強盗、風営適正化法違反等)の検挙人員は12,178人(うち少年1,322人)。
    • 関東1都3県において発生した一連の強盗事件では、18事件中18事件55名(のべ93名)を逮捕。
    • 指示役4名と、全ての事件で全ての実行役を逮捕しています。
  • 重い刑罰が待っています
    • 刑法第240条(強盗致死傷)
    • 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の拘禁刑に処し、死亡させたときは死刑又は無期拘禁刑に処する。
  • 「少年だから」では済まされない】
    • 東京都狛江市の住宅で女性に暴行を加えて死亡させた上、高級腕時計など4点を奪うなどとした犯行当時19歳の実行役は懲役23年の実刑判決を受けました(東京地裁)。
  • 先輩や友達からの誘いでも絶対にやってはいけません
    • SNS上でつながった知らない人からの誘いはもちろん、親しい先輩や友達からの紹介であったとしても、絶対に応じてはいけません。
    • 友達から誘われた事例
    • 少年は、闇バイトをしていた同級生に誘われて別の友達を誘って闇バイトに参加。指示役からの指示を受け、住宅の窓ガラスを割って侵入し、住人の男性を殴って怪我を負わせた。少年らは強盗致傷罪で逮捕された。
    • 金に困った少年が、地元の先輩に相談したところ、「闇バイト」を紹介され、窃盗目的で建物に入るも失敗。失敗を責められ、共犯者から車で連れ回された上、「納得がいくお金を払うまで、家には帰らせない」「お金を払えないならカンボジアに連れて行く」などと現金を脅し取られた。
  • お金を払われると思ったら大間違い
    • 少年は、友達から「一緒に仕事してくれないと俺が殺される。殴られて鼻を折られた」などと闇バイトに誘われた。少年は、報酬が支払われる約束のもと、特殊詐欺の受け子を行ったが、報酬は一切支払われなかった
  • 銀行口座を売ろうとして巻き込まれたトラブル
    • 少年はSNSで知り合った男と、新しく口座を作って売る約束をして、口座を開設した。
    • その後その男の仲間から「口座を売らなかった時の担保として5万円をくれ」などと要求され、別の仲間からは「金をどうにかして用意しろ」「個人情報さらすぞ」と脅されるなどトラブルに発展した。
    • 少年の寝室にあった銀行の封書を母親が見つけたことで口座開設が家族に発覚したため、少年は正直に事情を話し、警察に相談することとした。
  • SIMカードを不正に転売した事例
    • 中学生や高校生のグループが携帯電話会社のシステムに不正にログインし、多くのSIMカードを不正に契約して転売し、そのうちの一部が詐欺事件に利用された。中学生らは逮捕された。
  • 海外渡航した人が証言した、悲惨な現実
    • 連れて行かれた詐欺拠点は塀が高く有刺鉄線が張り巡らされていた出入口には銃を持つ警備員がおり、自由に出入りはできない状態であった
    • スマホもパスポートも取り上げられた
    • マシンガンで武装した者が監視する建物に連れて行かれ、詐欺をさせられた
    • ノルマが課され、出来なければスタンガンで暴行される人がいた
    • 詐欺をやりたくないと言ったら
      • 逃げて暴行を受けた日本人の写真を見せられ脅された
      • 拳銃や警棒を持って脅された
      • 「お前の右腕を落として監禁する」、「臓器を売るぞ」、「家族を殺す」と脅された
      • 暴行を受けて骨折した
    • ミスをするとアルコールをかけられ火をつけられた
    • 睡眠薬を大量に入れたビールを飲ませられ泡を吹いて壁に頭を打ちつけられた
    • 自分が吐いたご飯を食べさせられた
    • ぼこぼこに殴られ血を流しながら土下座をさせられた
  • 「闇バイト」に応募したら、身分証や自分の顔写真等を送るよう求められます。送信してしまうと、指示に従わなければ自分や家族に危害を加えるなどと脅迫され、逃れられずに犯罪に加担させられるケースが多くあります。
  • 自分や家族の身が脅かされたら、あるいは自分自身が犯罪に巻き込まれそうだと気づいたら、すぐに相手から逃げ、110番通報してください。
  • 警察ではそうした方等から相談があった場合には、必ず保護し、皆さんやご家族の安全を確保します。
  • 警察による保護措置
    • 保護の呼び掛けを実施して以降(令和6年10月~)、多くの人が警察に通報・相談し、警察では699件の保護措置を講じています(令和8年5月末時点)。
    • 当事者の年代別の割合では、10代が全体の約3割、20代が全体の約4割となっています。
    • これまで保護された方々は、誰1人として襲われていません。

本コラムでもたびたび取り上げていますが、いわき信組で長年不正が続いた背景に、絶対的なトップの存在があります。不正の中心人物だったとされる江尻次郎氏は2004年から20年間以上にわたって理事長などの座にありました。職員が不正を指摘しづらい環境がつくられ、自浄作用が働かなかったことが事件の背景にあります。当局筋も「業務改善命令を受ける金融機関はトップの在籍期間が長いことが多い」と認めています。もっとも逆は真ではなく、在籍期間が長いトップでもフラットな組織づくりを心がける例も多く、結局は、理事クラスが理事長にモノ申せるかが重要ということかと思います。理事会や監事会の重要性は言うまでもありませんが、最高意思決定機関である総代会のチェック機能をどう高めるかという視点も必要で、いわき信組の2025年6月末時点の個人総代の年齢構成比をみると、多い順から70歳以上で約49%、60歳代で約28%、50歳代で約17%であり、2015年3月末と比べて70歳以上の割合が7ポイントほど上昇し、高齢化が進んでいます。地域の組合員から選ばれる総代会は、地域社会の高齢化と不可分ですが、組合員の年齢層を映して総代の年齢層も高まる傾向にあり、長年の関係を重視するあまりチェックが緩まないよう気をつける必要があります。人口減少が続くなか、地域に根ざした信金信組は預金や貸出金の規模拡大が難しい局面にあります。役員だけでなく総代会や組合員も含めてガバナンス意識を高めることは一朝一夕でできることではありませんが、金融機関としての持続性を高める確かな道でもあります。

トクリュウの絡む最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 千葉県市川市の女性から電子マネーをだまし取ったとして、千葉県警は、詐欺容疑で、4人の容疑者を逮捕しました。うち2人の容疑者はトクリュウの指示役とみられ、グループによる被害総額は65億円に上る可能性があるといいます。両容疑者の逮捕は10回目です。逮捕容疑は2025年5~9月、出会い系サイトで知り合った同市の60代女性にSNSで「特定のコンテンツの会員になれば12億円の救済金が受けられる」などとメッセージを送信、会員登録費などとしてギフトカードのコード番号を送らせ、電子マネー計546万円相当を詐取した疑いがもたれています。女性は計83回、コードを送っていたといいます。
  • 高齢女性から現金1000万円をだまし取ったとして、警視庁光が丘署は詐欺の疑いで、名古屋市の高校2年の女子生徒(16)と愛知県春日井市の自称アルバイトの少年(17)を逮捕しました。光が丘署は、トクリュウによる犯行とみて調べています。逮捕容疑は2026年4月、共謀して息子を装って東京都練馬区の80代女性方に「病院内で財布を置き忘れた」などと電話をかけ、女性宅を訪れて現金を受け取ったとしています。両容疑者は地元の知人で、女子高校生がリクルーター役、少年が受け子として関与したとみられています。女子高校生は「闇バイトに紹介したことは間違いない」「20万円くらいもらえると言われた」などと供述しており、光が丘署はグループの実態解明を進めています。

暴力団等に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 違法薬物を密売などしたとして、警視庁は、住吉会幸平一家の傘下組織組員を麻薬特例法違反(譲渡)容疑などで逮捕しました。警視庁は、容疑者がSNSなどを通じて集まったメンバーを率いて密売を繰り返し、数千万円規模の売り上げを得ていたとみています。容疑者は2023年1月ごろ、密売グループを立ち上げ、東京、栃木、茨城、福島で密売などをしていた疑いがあるといい、主要メンバーの4人は容疑者の知人でしたが、他のメンバーは容疑者と面識がなかったとみられています。警視庁は、SNSなどで実行役が集められたトクリュウによる密売事件とみて捜査を進めてきました。メンバー間のやり取りに使われていた秘匿性の高いSNSでは、「東京ウーバー」というグループ名でやり取りをし、SNSで客に薬物を売り込む「打ち込み」役や薬物を届ける「ライダー」役がいたとされ、グループはSNSで「都内手押し」などのメッセージを投稿して客と接触、その後、SNSで、絵文字の「ハチミツのツボ(大麻リキッド)」「自転車(コカイン)」「ブロッコリー(乾燥大麻)」「×(MDMA)」「虹(LSD)」などを使い、薬物の種類と量、届け方をやりとりしていたといいます。グループの拠点やメンバー、逮捕した12人の客から押収した薬物は、覚せい剤約365グラム(末端価格約1900万円)や大麻約3.6キロ(同約1800万円)のほか、MDMAやケタミンなど計約4500万円相当に上るといいます。
  • 刑務所で知り合った男性を脅して暴力団に加入させようとしたとして、警視庁は、松葉会傘下組員を強要未遂の疑いで逮捕しました。男は2025年7月、50代男性を乗用車に乗せ、東京都や神奈川、茨城両県を連れ回した上、「しばらく帰さないからな」「金ができるまで俺のところで働け」などと脅迫、さらに、川崎市の雑居ビルの一室で顔面を殴るなどし、暴力団組員になって男の配下として働くことを要求した疑いがもたれています。男性が組員と出会ったのは刑務所の中で、同じ刑務作業をする中で親交を深め、連絡先も交換、組員が出所した後の2025年春、男性が仮出所、その後、連絡を取り合うようになったといいます。久松署は、組員が暴力団組織に男性を入れて、組事務所の仕事や金を稼がせる目的で勧誘したとみて捜査を進めています。暴力団の元組員や離脱者から聞き取り調査をしてきた廣末登氏によれば、かつては刑務所で知り合った「ムショ仲間」を勧誘し、組織を拡大させていた組員もいたといい、「一昔前に比べると減っている」としつつも、暴力団組員の減少は続いており、「組織維持のための方法として残っているのではないか」と指摘しています。また、「刑務所の関係を外の世界にそのまま持ち込んでしまう受刑者もいる」といい、受刑者の中には、就労支援など公的援助を受けず、服役後、安定した職に就けない人も一定数おり、そうしたなか、服役中に親しくなった組員から「困ったら、うちに来い」などと声をかけられ、暴力団に頼って生活する人もいるといいます。一方で、「ムショ仲間」をあえて組員にせず、犯罪に加担させるケースもあり、これまでに社会復帰を支援していた元受刑者から「ムショ仲間から仕事がもらえそう」と打ち明けられたこともあったといいます。廣末氏は「刑務所で知り合った人に紹介してもらった仕事が『闇バイト』ではないかなど、しっかりと報酬がもらえるのかを見極め、再び違法行為に手を染めないよう気をつけてほしい」と注意を呼びかけています。
  • 大阪府公安委員会は、指定暴力団「十代目酒梅組」の暴力団対策法に基づく再指定を見送ることを決めました。勢力が弱まったことが理由だといいます。1992年の同法施行以来、再指定の見送りは大阪府では初めてで、全国では2例目だといいます。酒梅組は伝統的に賭博を資金源としてきましたが、1993年に指定暴力団に指定されて以降、取り締まりの強化や社会情勢の変化により、資金源が枯渇したといいます。暴力団対策法では、指定暴力団の要件として、(1)威力を団員が資金獲得に利用することを実質上の目的とすること(2)犯罪歴保有者の割合が一般の集団より高いこと(3)代表者などの統制下に階層的に構成された団体であること、のいずれにも該当することを定めています。その要件を踏まえた上で、酒梅組の勢力が衰退し、活動の規模が極めて小さくなったため、「暴力団対策法上の規制を行う必要性が認められなくなった」というものです。酒梅組は明治時代末期に博徒集団として大阪で組織され、当初は約2000人いたと伝えられているといますが、1993年時点の構成員数は約450人で、2026年4月時点で約10人まで減少しました。今回、再指定が見送られたことで、暴力団対策法に基づく組員の不当要求の中止命令や事務所使用の制限、対立抗争が起きた際の特定抗争指定はできなくなりますが、一方、大阪府暴力団排除条例の適用は継続し、府警として酒梅組に対する警戒は続けるといいます。府警捜査4課幹部は「指定が外れても、酒梅組が暴力団であることに変わりはない。引き続き取り締まりを強化し、組織の壊滅を目指す」と語っています。捜査4課によれば、指定暴力団の再指定見送りは、1997年に兵庫県公安委員会が暴力団「二代目大日本平和会」の再指定を見送って以来、全国で2例目だといい、酒梅組の指定が外れると、大阪府内に主たる事務所を置く指定暴力団は「二代目東組」と「絆会」の2団体となります。なお、日刊ゲンダイで捜査関係者が、「京都の会津小鉄、東京の東声会と、近年山口組と長年懇意にしてきた老舗組織が軒並み組員の高齢化から活動維持が困難となり、山口組から『跡目養子』を迎えるなどして、組織の再興を図っている。酒梅組も伝統ある看板を下ろすか、山口組に助け舟を求めるか、重大な岐路に立たされているのではないか」と指摘していますが、今後の動向も注視する必要があります。
  • 神戸市で2019年、対立関係にあった六代目山口組傘下組織組員を銃撃し重傷を負わせたとして、殺人未遂と銃刀法違反の罪に問われ、1審神戸地裁で無罪を言い渡された山健組組長、中田浩司被告の控訴審判決公判が大阪高裁で開かれ、裁判長は「別人が犯人である可能性を否定できない」とした1審判決に「事実誤認はない」とし、検察側の控訴を棄却しました。検察側は1審で懲役20年を求刑していました。裁判長は1審判決と同様に、防犯カメラ映像を精査した結果、犯人が黒のミニバイクで犯行に及んで逃走し、被告が購入したバイクに乗り換え、最終的に徒歩で被告宅に入ったと認定、ただこれは「配下組員などが犯人であっても説明可能な事情」だと指摘、さらに、犯行前の映像だとされる人物を犯人や被告と同一視できるかどうかには「疑義が残る」と判断しました。山健組は当時、神戸山口組の中核団体で、六代目山口組と対立抗争状態にありました。山健組は事件後に神戸山口組を離脱し、その後、六代目山口組に合流、被告は現在、六代目山口組内で幹部を務めています。六代目山口組と神戸山口組を巡っては、両組織が暴力団対策法に基づく特定抗争指定を受けています。被告は2019年8月、神戸市中央区にある六代目山口組の中核団体「弘道会」の拠点事務所前で、軽乗用車に乗った同組員に拳銃を6発発射し、うち5発を腹などに命中させて6カ月の重傷を負わせたとして起訴されていました。なお、検察側が、期限の2026年5月26日までに最高裁に上告しなかったため、中田組長の無罪が確定しました。
  • 神戸山口組の井上邦雄組長の自宅について、傘下組員の金銭トラブルで差し押さえられ、強制競売により群馬県の不動産会社が約8088万円で落札しました。組長は退去を迫られる可能性があり、会社側の対応が注目されています。登記情報などによれば、落札した不動産会社は不動産売買や太陽光発電事業などを営み、2025年9月に会社を設立、資本金は100万円で、役員は代表者の1人で、宅建業を取得したのも開札2カ月前の2026年1月と急ごしらえ感は否めない状況で、なぜ組長宅といういわく付き物件を落札したのか判然としないところがあります。民事執行法上の規定では、不動産の買い受けの入札をする際、本人または法人役員が暴力団員ではない、暴力団を辞めて5年が経過している、暴力団員から依頼を受けて買い受けの入札はしていない、といった条項を記載した陳述書を入札時に提出する必要があります。仮に「組長側に立った」落札を行った場合、同法規定の、陳述書に虚偽があったとする虚偽陳述罪となり、落札も取り消しとなります。ただ、この規定は行為を防止する「抑止規定」であるため、すでに所有権が不動産会社に移った場合はその効力は発生しません。ある捜査関係者は、この会社へ所有権が移転した後も、賃貸借契約で組長が居続けた場合、「暴力団への便宜を図って落としたのではないかと推察せざるを得ない」と話し、別の捜査関係者は「そこまでする元気が井上組長にあるのか疑問だ」と語っています。井上組長は今後、群馬県の会社との間で賃貸借契約などを結ばない場合は退去するとみられ、兵庫県警は組長の動向を注視しています。
  • 2026年4月に発生した沖縄市諸見里の集合住宅火災により、旭琉会の糸数真会長が亡くなったことを受け、旭琉会は、北中城村島袋の本部事務所で糸数会長を「偲ぶ会」を開きました。沖縄県警は、那覇空港に加えて旭琉会本部にも警察官を配置して警戒にあたりました。六代目山口組や住吉会など全国の暴力団組織幹部らが参加しました。沖縄県警は糸数会長の死亡を巡り事故と事件の両面で捜査を進めていますが、現時点で事件性をうかがわせるものは見つかっておらず、事件性は低いとみられています。ただ、警戒が高まっているのが、日本や中国、台湾を含む東アジアの裏社会で特異な立ち位置を築いてきた組織への影響です。2025年2月、初代の富永清氏の後継として旭琉会の二代目会長の座を継いだ糸数氏でしたが、わずか1年あまりで「2代目体制」は幕を閉じました。現時点では糸数氏の急死が抗争の火種になる可能性は低いとみられていますが、一方で、今後の組織の動向を別の側面から注視している公安関係者もおり、旭琉会は、山口組をはじめとして道仁会や住吉会といった県外の組織とも友好関係を結んできたほか、台湾マフィアの竹聯幇(ちくれんほう)との結びつきも強いことが知られています。現地では政財界にも影響力を持つ『黒社会組織』で、幹部の張安楽氏が先代の富永氏と交流を重ねるなど組織同士の関係が深いものの、亡くなった糸数氏をはじめとする現執行部とは関係性が薄くなっていたため、糸数氏の急死で両組織の関係がどう変わるかが注目されています(が、こちらも組織の関係性が強化されるような動きはなさそうです)。筆者としては、あとは全国制覇を目論む六代目山口組の動向を注視しておきたいと思います。
  • 東京・上野の路上で香港に運ぶ予定だった現金約4億2300万円が盗まれた事件で、警視庁は、新たに窃盗容疑で、住吉会傘下組織幹部ら3人を逮捕しました。同幹部は自身がリクルートした実行役に指示を出していたとみられています。警視庁は、現金の運搬場所や時間を伝えた人物がいるとみて全容解明を進めています。3人は仲間と共謀して台東区東上野の路上で、車に積み込まれていた現金約4億2300万円入りのスーツケース3個を盗んだ疑いがもたれており、現金は香港で金を買い付ける資金だったといいます。警視庁は2026年3月、六代目山口組系、住吉会系、極東会系のそれぞれ別の傘下組織幹部3人を含む男7人を事後強盗容疑で逮捕、東京地検は同4月、このうち現場にいた5人について、窃盗罪に切り替えて東京地裁に起訴しました。残る2人は処分保留で釈放されています。事件を巡っては、発生の約2時間半後、羽田空港の駐車場で、香港に現金を運ぶ途中だった別の男性4人が襲われる強盗未遂事件が発生、4人のうち2人が現金約1億9000万円を持って香港に渡った後、路上で現金の一部を奪われました。同庁が関連を調べています。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFT/CPFを巡る動向

本コラムでも取り上げてきたマネロン対策を強化する改正犯罪収益移転防止法が、衆院本会議で可決、成立しました。特殊詐欺などの被害金を口座間で動かす「送金バイト」を規制するほか、口座売買の罰則も引き上げる、「架空名義口座」の導入などが盛り込まれています。2026年1~4月の特殊詐欺の被害額は1260億円(暫定値)で、過去最悪だった2025年の同時期(742億円)を大きく上回り、ますます深刻化しています。被害金は複数口座を移して詐欺グループにわたるため、マネロン対策の強化が急務な状況です。送金バイトは近年目立つマネロンの手口の1つで、自身の口座をいったん被害金の受け皿とし、詐欺グループが指定した口座に送金して報酬を得るもので、口座の譲渡は現行法が禁じているものの、有償で送金を請け負う行為の摘発は難しかった現状がありました。改正法は正当な理由なく有償で送金を依頼・代行する行為について、2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその両方と定めました。さらに、新たな捜査手法として「架空名義口座」が導入されます。金融機関の協力を得て架空の名義の口座を開設、警察官が口座買い取りを勧誘する詐欺グループに提供し。犯罪収益の入金があれば口座を凍結し、被害回復につなげるもので、捜査員が架空の身分証を使って闇バイトに応募し、犯罪グループに接触する「仮装身分捜査」とともに、トクリュウ対策の協力な武器となることが期待されています。送金バイトの規制や口座売買の罰則引き上げは改正法の公布から1カ月後に施行され、架空名義口座の導入時期は政令で定めるとしています。

マネロン対策として、また強力な武器が整いつつあります。特殊詐欺対策で警察と大手9銀行(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行、ゆうちょ銀行、セブン銀行、SBI新生銀行、イオン銀行、楽天銀行)が連携を強化、被害金の送金先の口座情報についてオンラインで照会できる協定を結びました。2026年6月1日から運用が開始されています。犯罪グループは詐取した資金を複数の口座に移動させて捜査の追跡を逃れており、最短で口座を即日凍結し、被害金の回収につなげる狙いがあります。被害金が移される前に口座凍結して被害回復の原資に充てられるようになるほか、防犯カメラ映像が消える前に現金を引き出す「出し子」の画像を入手し、捜査に着手しやすくなるといった効果も期待できます。詐欺被害を把握した都道府県警は、警察庁を介してオンラインで送金先となった口座凍結を銀行に依頼し、移転先の口座情報を照会、銀行は早ければ当日中に口座を凍結して送金先を回答し、警察の追跡がスムーズに進むよう協力するものですが、全国の銀行ではマネロンに悪用された疑いのある口座情報を共有する仕組みづくりを進めています。全国銀行協会の子会社がシステムを構築し、2027年4月にも運用をスタートさせるといいます。今回の協定では、警察の捜査で詐欺に使われたことが判明した口座が銀行側に迅速に伝わることになり、官民による対策網が拡がることになります。オンライン照会を始める背景にはマネロンの手口が巧妙化していることがあります。犯罪グループは特殊詐欺でだまし取った資金を短時間で次々と移動させ、最終的に大口送金が可能な法人口座などに集約、海外に送ったり、暗号資産化したりして資金の流れを隠す手法が目立っています。これまで都道府県警は「捜査関係事項照会」による金融機関への照会は郵送で対応しており、回答を受け取るには数日から数週間かかり、その間に複数の口座を経由して犯罪グループ側に資金が渡ってしまうケースが多かったといいます。実効性を高めるには、犯罪グループの資金移動の速さに追いつけるかどうかがポイントになります。以前の本コラムでも紹介したとおり、警視庁が2025年7月に摘発したベトナム人らの組織は、特殊詐欺の被害金を分散送金する手口で、わずか1時間で11口座の間を20回移動させていました。また、参加する金融機関を増やしていくことも課題で、協定を結んでいない金融機関への照会は従来通り郵送による書面で依頼することになり、犯罪グループが9銀行以外の口座を使えば協定の対策網から漏れることになり、こうした脆弱性が突かれる可能性は極めて高いと思われます。警察庁は海外の事例も参考にしており、シンガポールでは警察が協定を締結した金融機関の担当者が施設に集まって常駐し、詐欺被害の送金先が確認できれば即座に照会・凍結できるようにしているといい、そうした取り組みも視野に入れいているようです。警察庁によれば、2025年の全国の特殊詐欺の被害額は過去最悪となり、架空の投資に誘い込む「SNS型投資詐欺」と恋愛感情につけこむ「SNS型ロマンス詐欺」も含めると3257億円に上りました。このうち6割超の約2100億円は、ATMやネットバンキングなどを経由した「振り込み型」の被害でした。また、特殊詐欺の大半にトクリュウが関与しているとみられ、警察庁は深刻化する被害に歯止めをかけ、迅速な口座凍結を通じて被害金の回収も進めたい考えで、警察庁は今後、インターネット銀行や地方銀行などにも参加を呼びかけるとし、「口座はマネロンや詐欺の犯罪インフラの一つとなっている。悪用される口座を早期に凍結して、使い勝手のよい犯罪インフラを減らす必要がある」と意気込んでいます。

関連して、政府は2027年度から、詐欺などに使われている疑いのある銀行口座の名義人情報などを、本人の同意なしで金融機関の間で共有できるようにします。口座を迅速に凍結できるようにし、犯罪収益のマネロンを防ぐ狙いがあります。個人情報保護法の関連指針に、マネロンに使われている疑いがある口座は本人の同意なく共有してもよいと記すもので、2026年6月まで意見を募り、2027年4月に施行する予定です。口座番号や名義人など、受け取る金融機関が自行の口座を確認するのに必要な情報に限るほか、提供側で口座を凍結したかどうかやその理由なども提供するとしています。現状、金融機関が保有する個人情報を第三者に提供する際は原則、本人から事前に同意を得る必要があります。政府は2027年4月にも犯罪収益移転防止法の施行規則も改正し、不正に利用された口座に関する金融機関の間での情報共有や対策の協化を努力義務とし、個人情報法護法でも法令上の根拠を明確にして対策を後押しするものです。口座情報を共有する仕組みづくりも支援、全国銀行協会の子会社などを念頭に補助金を出し、情報共有のシステムを整備します(警察庁が、金融機関と共同で口座の監視を強化する「金融犯罪対策センター」(仮称)の設置に向けた検討を加速させています)。近年はSNSを通じた特殊詐欺や投資詐欺などが社会問題となっており、金融機関などがマネロンの疑いがあるとして国に届け出た取引件数は2025年に101万9405件で過去最多となっています。

▼金融庁 特殊詐欺に係る被害金の追跡、凍結、回復に指向した官民協働型枠組みの運用開始について
  1. 背景
    • 預貯金口座への送金により特殊詐欺の被害に遭った場合、被害金は、被害者が振込を行った口座(振込先口座)に留まることなく、犯罪グループにより速やかに別の口座へと移転されている実態がある。
    • 警察では、振込先口座の凍結依頼とともに、当該口座からいずれの口座に送金されているか、金融機関に文書を郵送するなどして照会しているところ、その回答を受領するまでの間に、被害金は別の口座(被害金移転先口座)に移転されたりしていることが多く、被害回復が困難となっている。
  2. 官民協働型枠組みの概要
    • 特殊詐欺の被害金の迅速な追跡を可能とし、被害の拡大防止・回復に資するため、警察庁が金融機関と協定を締結し、都道府県警察から協定締結金融機関に照会するに際して、警察庁を介してオンラインで照会を行い、協定締結金融機関は迅速に回答する官民協働型の枠組みの運用を開始するもの
    • 被害金移転先口座を管理する金融機関に早期に照会・凍結依頼を行うことにより、被害金の追跡・凍結・回復とともに、出し子等に係る捜査を早期に開始することで被疑者の検挙を図るもの。
  3. 参加金融機関(金融機関共同コード順)
    • 株式会社みずほ銀行
    • 株式会社三菱UFJ銀行
    • 株式会社三井住友銀行
    • 株式会社りそな銀行
    • 株式会社セブン銀行
    • 楽天銀行株式会社
    • 株式会社イオン銀行
    • 株式会社SBI新生銀行
    • 株式会社ゆうちょ銀行
  4. 開始時期
    • 令和8年6月1日から運用開

カネの流れを、いかに早くつかむか、国民の財産の流出を防ぐカギとなるのは、捜査のスピード感です。トクリュウ追跡のカギとなるのが、多様な詐欺グループの依頼を受けて犯罪収益を素早く洗浄する「マネロングループ」の摘発です。日本円を不正に海外送金する「地下銀行」、犯罪で得た資金を正規の取引所を介さず暗号資産に変えて、現金化する「相対屋」などが暗躍している実態があります。マネロングループは、捜査の目をかいくぐるため、さまざまな手口を用いており、2025年10月以降、複数の特殊詐欺グループからマネロンを請け負っていたとみられる中国籍の女が関与するマネロングループが警視庁に摘発されましたが、このグループは東京都心にある高級マンションなどの購入を希望する中国人富裕層から送金代行の依頼を受け、不動産業者に日本円で代金を支払う際に、詐欺の被害金を充てていました。さらに、富裕層から支払った費用に相当する人民元を受け取ることで、詐取金をマネロンしていたとみられています。2026年5月12日付産経新聞の記事「マネーロンダリング「20分で完了」の現実戦う金融機関、リアルタイムで検知」によれば、この女の関与した事例について、「令和5年年11月某日。女は通信アプリを通じ、日本国内の銀行口座を管理する共犯の男に振込先の口座番号や、名義人などの情報を送信した。その約10分後、口座には約500万円が送金された。元手となったのは、神奈川県内の70代男性からだまし取った約6550万円の一部だ。警察官をかたる手口の特殊詐欺グループの口座から移転されたとみられる。振り込みからわずか約5分後、男はその約500万円を、日本の不動産業者の口座に送金した。不動産購入の「手付金」名目で、男は「振り込み完了」を示す画面のスクリーンショットを女に送った。ほどなくして、不動産の購入を希望していた中国人から、女が管理する中国の口座に人民元が振り込まれた。詐欺で得たカネを正規の不動産取引に偽装する資金洗浄が完了するまで20分足らず。人民元に変えられたカネの行方はいまだ明らかになっていない。何らかの方法で特殊詐欺グループのもとに還流されたとみられる。日本の口座管理役、中国の口座管理役-。役割が細分化され、匿名性の高い通信アプリでやりとりしながら、犯罪収益をすばやく移転していく。こうしたマネロングループは国内外に多数存在するとみられる」と紹介されています。また、カネの流れを追う捜査の最大の障壁となっているのが、仮想空間のやりとりで、とりわけ詐取金を暗号資産に変換した上で本人確認の甘い海外の取引所などを経由することで、照会が難しくなり、追跡は「一気に困難になる」(警察幹部)といいます。警察庁によれば、2025年の全国の特殊詐欺事件のうち、暗号資産で送金指示を行う手口の認知件数は1千件を超え、前年から約10倍に増加、広域強盗に関与した「ルフィ」グループの被害金の一部をマネロンしていたとされ、2025年に警視庁が摘発したマネロングループは、詐取金をビットコインなどの暗号資産に変換、暗号資産専用の口座「コインアドレス」を30以上も経由させ、マネロンを繰り返していたことが分かっています。本来、暗号資産の取引も、通常はブロックチェーンと呼ばれる台帳に履歴が残りますが、グループは追跡を難しくするため、複数ルートの記録を混ぜ合わせ、別々のコインアドレスに再分配することで利用者の匿名性を高める「ミキシング」とよばれるサービスを悪用、海外のハッカー集団が用いているとされる手法で、国際的な知見を有する警察庁サイバー特別捜査部が警視庁に協力する形で実態解明に当たりました。摘発と並行して、被害を食い止めるには、民間の協力も不可欠です。捜査幹部は「高齢者が急に暗号資産の口座を開設し、多額の資金を振り込むなど、詐欺の疑いのある取引を検知することはできる。暗号資産に関わる事業者の自主的な取り組みも必要ではないか」と指摘していますが、正にその通りかと思います

最近のマネロンを巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 特殊詐欺の送金先に使われる口座などを調達する国内最大規模の「口座ブローカー」のリーダーとして、犯罪収益移転防止法や職業安定法違反などに問われた被告に対し、名古屋地裁は、懲役5年、罰金200万円(求刑・懲役6年、罰金200万円)の判決を言い渡しました。報道によれば、被告は仲間と共謀し、2025年4~5月、他人名義のインターネットバンキングの口座情報を譲り受けたり、提供したりし、2025年3月にはカンボジア拠点の特殊詐欺グループ側に、「闇バイト」に応募した男(当時25歳)を成田空港から出国させ、詐欺の電話をかける「かけ子」として紹介したといいます。裁判長は、被告が口座売却先の振り分けや報酬の配分を決めて犯行を主導し、他の仲間よりはるかに高額な報酬を得ていたと指摘、「多額の金銭や刺激を得るために社会的な害悪を拡散し得る犯行に及んだ」、「強い非難に値し、犯罪志向は根深い」と述べました。被告らが口座を売却した特殊詐欺グループによる「ニセ警察詐欺」などの被害は、少なくとも11億円超に上るといいます。
  • 海外の金融商品への出資を無登録で勧誘したとして情報提供会社「グローバルインベストメントラボ」(清算)の幹部らが逮捕された事件で、勧誘役への報酬を社債の利息などと装って送金したとして、警視庁は、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)容疑で同社の実質的経営者の男を再逮捕し、新たに会社役員の男を逮捕しました。報道によれば、2人は共謀して2021年4月~24年6月、海外の金融商品「スターリングハウストラスト」の出資者12人に対する勧誘の報酬計約336万円を含む計約44億円を、社債の利息などと装い、77回にわたって実質的経営者の男名義の銀行口座に送金して、違法な勧誘で犯罪収益を得た事実を仮装した疑いがもたれています。勧誘報酬は、出資を募った「スターリングハウストラスト」の運営法人から送られ、別の海外法人や会社役員の男が運営するファンド、東京都内の合同会社を経由して、最終的に実質的経営者の男名義の口座に集まっており、合同会社は今回の計画のために設立されたとみられ、実質的経営者の男が社債の購入を装い、その利息名目で資金が流されていたといいます。同庁は、実質的経営者の男の口座に入った現金の一部が、銀行振り込みや手渡しなどで、金融商品の勧誘報酬として約1000人に渡っていたとみています。同庁は、6人が勧誘役らを使って全国の投資家ら約7300人から計約870億円を集めたとみて実態解明を進めています。
  • 熊本県八代市の新市庁舎建設を巡る汚職事件で、警視庁と熊本県警の合同捜査本部は、受け取った6000万円の賄賂のうち2000万円を知人の口座に移して隠したとして、市議ら3容疑者を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)容疑で再逮捕しました。また、東京都渋谷区のウェブ制作会社役員ら3人を新たに同容疑で逮捕しました。6人の逮捕容疑は2026年4月、東京都渋谷区のコンビニのATMを使用し、容疑者が代表を務めるウェブ制作会社名義の口座に40回にわたり、あっせん収賄で得た犯罪収益の現金計約2000万円を入金したというものです。入金された現金はさらに別の口座に移されるなどしており、合同捜査本部は容疑者らがマネロンをした疑いがあるとみて調べています。
  • オンラインカジノの賭け金など犯罪収益をマネロンしたとして、組織犯罪処罰法違反の罪などに問われた被告に、横浜地裁は、追徴金を求刑通り約67億円とする判決を言い渡しました(懲役10年、罰金800万円(求刑懲役13年、罰金1千万円)など)。報道によれば、共謀し、2024年6~7月、賭け金など約42億円を管理口座に入金、さらに支払い督促の手続きで東京簡裁に虚偽の書類を提出するなどし、凍結口座から約5300万円を詐取したといい、判決は被告が他に約29億円をマネロンした事実も認定、裁判官は判決理由で「大規模な組織的かつ計画的な犯行で、厳しく対処する必要がある」と述べました。
  • 海外に不正な手口で資金を送る「地下銀行」を営んだとして、京都府警は、銀行法違反(無免許営業)の疑いで、中国籍の容疑者を逮捕しました。「日本の法律を知らなかっただけで違法な行為とは思っていません」などと供述し、容疑を一部否認しています。報道によれば、何者かと共謀し銀行業の免許を受けずに2024年12月~2025年11月、8回にわたり、30~40代の中国籍の男女3人から日本国内の銀行口座に計1228万円を振り込ませ、元に換算した金額を中国国内の口座に振り込み、送金したといいます。不正送金分のうち約1000万円は客が窃盗事件などで得た犯罪収益で、捜査の過程で今回の容疑が発覚しました。容疑者は客からは手数料を受け取っていたとみられ、約3年前から同様の手口で計約40人から依頼を受け計約6000万円を不正送金していたとされます。地下銀行は海外への送金時の審査や身元確認がないことをうたっているケースが多い一方で、事件になれば送金分が戻らないこともあります
  • (マネロンではありませんが)他人のクレジットカード情報を不正に使って、インターネットの通販サイトから商品を盗んだなどとして、愛知県警などは、ともに中国籍の2人の容疑者ら男女6人を私電磁的記録不正作出・同供用と窃盗の疑いで逮捕、送検しました。不正購入された商品は最初の配送先から、別の場所に転送するなどし、追跡されにくいようにしていたといい、容疑者らは転売で、少なくとも約3億7千万円を売り上げていた可能性があるといいます。容疑者らのグループは、受取人とされる人物が商品を受け取ると、横浜市南区の建物の一室に転送、その後、容疑者らがさらに埼玉県川口市の集積拠点に車で搬送、拠点に集められた商品は、フリマアプリで販売されたり、買い取り業者に売却されたりしていました。愛知県警は、他人のカード情報を使った不正購入や商品の転送の指示に、中国人犯罪組織が関与していたとみており、容疑者のグループは、転売したい商品の発注を組織側に依頼していたとされます。

金融機関と金融庁の間の意見交換会における主な論点について、直近の資料が公開されています。主要行等との会合で示された論点から一部紹介します。

▼ 金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼ 新形態銀行
  • 官民一体・業界横断的な金融犯罪対策に係る広報について
    • 各金融機関においては、詐欺等の被害金の移転に使われている口座について、取引モニタリング等を通じて検知するなどの対策強化を進めていただいているものと承知している。
    • 一方で、特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺など、金融サービスを不正に利用した犯罪においては、犯罪収益の送金先として不正に売買・貸出された口座が悪用されているという特徴がある。
    • 詐欺被害の根絶に向けては、口座の売買・譲渡等が犯罪であることに加え、口座の売却等に対して金融業界として厳格に対応する方針について、国民の認知を高め、口座売買の抑止につなげることが、預貯金口座の不正利用の抑止、ひいては国全体の安心・安全を守ることに繋がるため、官民一体となって戦略的かつ強力な広報を行うことが必要となる。
    • このため、2025年12月より、全国銀行協会を中心として、金融庁や警察庁、各業界団体が連携し、統一的なコンテンツとしてショート動画を作成し、デジタル媒体を中心に、当該コンテンツを用いた業界横断的な広報を展開している。
    • 各金融機関においても、ショート動画の活用などを通じて、一人でも多くの利用者の目に留まるように様々な場所・場面において当該メッセージを積極的に発信いただきたい。
  • 口座不正利用に係る要請文への対応について
    • 2025年9月、預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策について、2024年8月の要請内容にインターネットバンキングの利用申込時及び利用限度額引き上げ時の確認等を追加する形で、改めて対策の強化を要請した。
    • 金融庁では、本要請を受けた各金融機関の対応状況を確認するため、2025年11月にアンケートを実施した。アンケートの実施は、2025年1月に続いて2回目であり、本要請を受けた各金融機関の対応状況を確認することで、金融機関における不正利用対策の更なる強化・底上げを図るとともに、国民を詐欺等の金融犯罪から守る一助とすることを目的とするものである。
    • アンケートの回答は集計、分析の上、今後フィードバックを予定している。なお、対策が完了していないものについては、対応未了の期間が続くことで、利用者や金融機関自身が口座不正利用のリスクに長期間さらされることのないよう、今後の対応計画等について、経営陣が主導して検討をお願いしたい。
  • 犯罪収益移転防止法施行規則の改正について(非対面の本人確認方法の見直し)
    • 偽変造された本人確認書類により開設された架空・他人名義の預貯金口座等が詐欺等に利用されていることを踏まえ、「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」(2025年4月22日)や「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2025年6月13日)において、非対面の本人確認方法をマイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化する旨の方針が示されている。
    • これを踏まえ、2025年6月24日、犯罪収益移転防止法施行規則が改正され、非対面での本人確認方法のうち、本人確認書類の偽変造によるなりすまし等のリスクの高い方法が廃止されることが決まった。なお、対面での本人確認方法についても、マイナンバーカード等のICチップ情報の読み取りを義務付ける方向で警察庁において改正に向けた動きが進められている。
    • 偽造身分証での口座開設・不正利用への対策としてきわめて効果が高いことから、本改正の施行日は2027年4月1日となっているが、各金融機関においては、施行日を待たず、可及的速やかな対応をお願いしたい。
  • サイバーセキュリティに関する取組について
    • 最近のサイバー攻撃はますます深刻化しており、他業種において、業務遂行に多大な影響を及ぼすような事象も頻発している。こうした脅威は金融機関にとって決して他人事ではなく、自分事として取り組むことが重要である。サイバーセキュリティは、事業継続やお客様の信頼を守るために欠かせない経営課題であり、引き続き、経営レベルでの対応をお願いしたい。
      1. 耐量子計算機暗号(PQC)対応
        • 金融ISACにおいて「日本の金融機関のためのPQC移行ガイド」が作成され、その中にPQC移行の具体的な移行ステップも含めた全体像が示されている。PQC移行は、将来の安全性確保に向けて避けられない取組であり、各金融機関において、金融ISACのガイドも参考にしながら、体制整備、システムの優先順位策定やクリプトインベントリの作成など、着実に準備を進めていただきたい。
      2. 金融業界横断的なサイバーセキュリティ演習(Delta Wall 2025)の結果還元
        • 2025年10月に実施した「金融業界横断的なサイバーセキュリティ演習(Delta Wall 2025)」の評価結果について、2026年1月末日に参加金融機関に還元した。同2月中を問い合わせ期間としていることから、評価内容を御確認いただき、御不明点があれば、還元時に御案内する窓口に御連絡いただきたい。
        • 評価結果が良くなかった各金融機関の経営陣においては、問題点をよく確認いただき、インシデント対応手順の見直しをはじめとして、優先順位をつけて改善を進めていただきたい。
        • くわえて、改善の進捗を経営陣が確認し、遅延等があれば原因を特定し、問題を是正いただきたい。さらに、人員・予算不足が問題の背景にある場合は、その是正を計画的に進めていただきたい。
        • また、今回の演習結果が良好であった金融機関においても、今回は特定のシナリオの下での演習に過ぎないため、最新の脅威動向を考慮して様々なシナリオを想定し、インシデント対応態勢の整備、検証を進めていただきたい。
        • さらに、演習に非参加であった金融機関に対しては、今後、各協会を通じて、業態に共通して認められた課題や、良好事例を還元する予定である。非参加金融機関においても、金融庁からの還元内容を参考にして、サイバーセキュリティの強化に取り組んでいただきたい。
  • 2025年10月24日付け金融活動作業部会(FATF)声明に係る要請について
    • 2025 年10月22日から24日の間に開催されたFATF全体会合において、資金洗浄・テロ資金供与対策上、重大な欠陥を有する国・地域に係る声明が採択された。
    • 同声明においては、北朝鮮及びイランを対抗措置の適用が要請される国・地域とし、ミャンマーを同国より生ずるリスクに見合った厳格な顧客管理措置の適用が要請される国・地域としている。また、イランについては、今回から以下の対抗措置が追加された。
      • イランに拠点を置く金融機関の支店等の設置拒否
      • イランにおける金融機関の支店等の設置禁止
    • これを受け、2025年12月1日、関係する金融機関・協会に対し、金融庁を含む関係省庁から、要請文(「令和7年10月24日付けFATF声明を踏まえた犯罪による収益の移転防止に関する法律の適正な履行等について」)を発出した。
    • 同要請文では、犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づく取引時確認義務、疑わしい取引の届出義務及び外国為替取引に係る通知義務の履行の徹底等を求めているところ、周知・徹底をお願いしたい。
  • 銀行をかたる詐欺電話(ボイスフィッシング)の発生への注意喚起について
    • 2024年秋頃に続き、再度、2025年末に、銀行をかたった電話や自動音声による電話で企業に連絡し、偽サイトへ誘導してインターネットバンキングの情報を盗み取る、いわゆる「ボイスフィッシング」が急増し、複数の企業で被害が確認された
    • 銀行をかたることから、取引関係にある企業がだまされやすく、特に法人取引では不正送金額が大きくなる傾向があり、企業にとっては深刻な経済的打撃となる。
    • こうした状況を踏まえ、金融庁は、警察庁等の関係機関と協力し、改めて、金融機関及びその法人顧客に向けて、ボイスフィッシングの手口や対策に関する注意喚起を実施している。
    • 各金融機関においても、今一度、昨今のボイスフィッシングによる不正送金の被害状況を踏まえ、必要な対策を検討・実施いただくとともに、法人顧客に対し、注意喚起を徹底されたい。なお、その際、必要に応じ、注意喚起資料も活用いただきたい
  • 南海トラフ地震への対応に係る監督指針等の一部改正(案)について
    • 南海トラフ地震に関連して金融機関が取るべき対応については、「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」や「南海トラフ地震臨時情報防災対応ガイドライン」、各業態の監督指針等に規定されている。
    • 2025年12月25日、金融機関がとるべき対応の一層の明確化に向け、・「事前避難対象地域」内に所在する営業店の対応について、「住民事前避難対象地域」と「高齢者等事前避難対象地域」に区分して精緻化するほか、各文書に規定されている内容を監督指針等に集約し、必要な対応を一覧化する、といった所要の改正を行うべく、監督指針等の改正案を公表し、パブリックコメントを実施した。
    • 改正案については、パブリックコメントで受け付けた意見も踏まえて最終化する予定であるが、各金融機関においては、改正後の監督指針等の内容も随時参照いただきながら、引き続き、南海トラフ地震を含めた災害時における適切な対応に万全を期していただきたい。
  • FATF 勧告16(クロスボーダー送金)改訂の公表について
    • FATFでは、クロスボーダー送金の透明性に関する改訂勧告16を、2025年6月18日に公表した。
    • (参考)▼ FATFによる「Payment Transparencyに関するFATF勧告16の改訂」の公表について
    • 勧告の改訂は、送金の透明性向上の観点から必要なマネロン対策等の確保することを企図している。FATFは、2024年・2025年の2度の市中協議を始め、金融機関の負担やほかの政策目的との整合性などを踏まえ、リスクに応じた改訂内容を見直した。
    • 主要な改訂項目としては、(1)クロスボーダー送金の始点・終点の定義の明確化に伴うペイメントチェーン内の異なる主体の責任の明確化、(2)クロスボーダー送金における送付情報の見直し(送金人・受取人情報の内容・質の改善)、(3)クロスボーダー送金における受取人情報の整合性確認の義務付け、(4)カード決済に関する勧告16適用除外の規定の見直し、(5)カードによるクロスボーダーの現金引き出しへの限定的な基準の適用がある。
    • 今回の改訂は、技術的かつ複雑な論点が多く、ステークホルダーも多岐にわたることから、今後FATFでは、FATFの目線をより詳細に説明するガイダンスの作成を進めていくとともに、円滑な実施のため民間ステークホルダーとの対話を継続する予定である。なお、今回の改訂勧告の実施に必要な対応に鑑み、FATFでは2030年末までのリードタイムを設定している。金融庁としては、ステークホルダーの御意見をよく伺いつつ、FATFガイダンス作成や国内実施に向けた検討を進めていきたい。

2026年6月2日付日本経済新聞の記事「東南アジア、外資への名義貸し摘発強化 中国企業の不正相次ぎ」によれば、東南アジア各国は現地人を隠れみのにした外国企業の不当な活動を取り締まる動きを強めているといいます。タイ政府は現地国籍の従業員らの名義を借りて従来は禁止されている農業などを手掛ける外資企業の摘発や法令を強化、経済的な結びつきが深まる中国企業の不正が目立っており、取り締まりを急いでいるといいます。報道で取り上げられた事例では、中国本土に販路を持つ中国企業のココナツの供給網への影響力が増し、安く買いたたく構図が浮かび上がっています。タイでは外資の出資比率が50%以上の企業は外国企業と見なされ、農業への参入や土地の取得が禁止されているところ、ココナツ事業にかかわる複数の中国企業がタイ人の名義を借り、設立した法人の51%以上をタイ人が出資する内資企業として登録、規制を逃れ事業を運営していたといい、名義上はタイ人が株主だが決定権は中国企業が握り、名義人を通じて中国企業がココナツ農園そのものを取得するケースもあった。名義貸しを通じた不適切なビジネスや土地取得が拡大し、経済や国家安全保障上の問題として深刻になっている」とタイ商務省関係者が指摘しています。すでに商務省は外資規制に違反する可能性がある15の中国人関連企業の調査をはじめ、一部企業名を公開、不当にビジネスに従事するだけでなく、利益を過少申告して脱税するケースも多く、違法性を調査しているといいます。農業にとどまらず、観光やサービスでも同様の事例が相次いでいます。外資規制の適用を免れるため現地従業員らの名義を借りる「ノミニー」と呼ばれる行為は長年問題になっており、近年はその規模が拡大、中国の影響力の拡大が背景にあります。タイ以外の東南アジア諸国でも対応が相次いでおり、ベトナムは2025年に企業法を改正し、企業に実質的な支配者の情報提供を義務付けました。ベトナム人を隠れみのにして企業に影響を持つ外国人らに打撃となるものの、マネロンなど脱法行為の対策を国際標準に合わせる狙いがあります。カンボジア商業省は2026年1月に、役員や株式移転などの登記変更をオンラインに一本化する省令を施行、登録後30日以内の原本提出が必要で、役員らの背景調査も厳格になったといいます。マネロン対策などが目的だが、ノミニー抑止にも効果があるとみられています。

米政府は、イラン政府のほか、制裁指定を受けた国有機関による制裁回避をほう助していたとして、イラン最大の暗号資産取引所「ノビテックス」を制裁対象に指定しました。ベセント米財務長官は声明で「イランは経済が急速に悪化する中、制裁逃れのほか、資産の国外移転にデジタル資産技術を利用している」と述べました。ロイターは、ノビテックスがイラン中央銀行とイスラム革命防衛隊(IRGC)のために数億ドル規模の資金を処理する並行金融システムの中核拠点になっている実態を解明、イラン政府によるインターネット遮断後もノビテックスは業務を継続し、数百万ドル規模の取引を処理していたことも明るみにしています。ロイターの調査によれば、ノビテックスはイランで有力なハラジ家出身の兄弟2人が‌支配⁠しており、2人はイランの新最高指導者と緊密な関係を持っています。米財務省はこの2人の兄弟のほか、ノビテックスのCEOも制裁対象に指定、声明で、ノビテックスはイラン政府に「重大な支援」を提供し、イラン⁠中銀のほか、イスラム革命防衛隊に関連する「相当数」のデジタル取引を仲介していたとし「米国によるイランに対する軍事攻撃開始後、イン⁠ターネットが遮断されるの中でもイラン政府の資産を保護し、国外へ移転させ、政府の富を守るのに寄与した」と指摘しました。一方、米財務省が制裁プログラムと対象リストの見直しに着手したとロイターが報じています。プログラムの有効性を高め、金融機関の順守負担を軽減する狙いがあるといいます。財務省​当局者によれば、制裁対象リスト(SDN)から、実態に合わなくなった個人、船舶、企業、その他団体を含む約80件を第1弾として削除すると発表、死亡した個人や​既に存在しない企業など照合が​難しい対象について見直しを行うとしています。米財務‌省外⁠国資産管理室(OFAC)によれば、SDNリストには1万7000件以上の名称が掲載されていますが、米財務省は文書で、企業はリスクの低い該当案件の照合や誤検知の確認に多大なリソースを費やさざるを得ないことが多く、その結果、リスクの高い巧妙な制裁回避の手口への対応がおろそかになっていると指摘、同省はこうした負担を軽減し、より影響力の大きい活動に優先的に取り組む方法を検討しているといいます。

(2)特殊詐欺を巡る動向

本コラムでも以前取り上げた、高齢者のATM付近での通話を禁止するなど特殊詐欺対策を盛り込んだ「改正大阪府安全なまちづくり条例」の施行から約10カ月が経過しました。特殊詐欺は依然、さまざまな手口で猛威を振るっていますが、金融機関による詐欺被害の未然防止数は2026年1~3月までに119件と前年同期比で3倍超となっています。改正条例は、高齢者のATM操作中の通話禁止、金融機関が詐欺被害の恐れがあると認めた場合の警察への通報義務、70歳以上に対しATMの振り込み上限額の設定といった項目が盛り込まれており、ATMでの通話といった個人の行動を明確に制限し、金融機関に対して被害を防ぐための対策を「義務化」したのは全国初で、被害が起きる瞬間に金融機関側が直接介入しやすくなったといえます。金融機関側は「条例に『通話禁止』と明記されたことで、通話中の方への声かけがしやすくなっている」と述べているといいます。電話でATMに誘導して金銭を振り込ませる手法は、医療費が返ってくるとだます「還付金詐欺」などで多用され、特に高齢者の被害が目立っていました。大阪府警によれば、大阪府内で2026年に入り金融機関が詐欺被害を未然に防いだ件数は119件で、改正前の2025年同期(39件)と比べ約3倍の大幅増となりました。また、65歳以上の被害者数自体は、2023年は2266人、2024年は1882人、2025年は1741人と減少傾向といいます。こうした結果について、大阪府警府民安全対策課は「条例改正に一定の効果はあった」と評価しています。一方、大阪府内での特殊詐欺全体の被害状況は、以前にも増して厳しい状況にあり、改正条例が施行された2025年の被害金額は約137億円と前年の2倍以上となりました。100億円を超えるのは統計を取り始めて以降初めてで、うち警察官などを装って現金などをだまし取る「ニセ警察詐欺」の被害額は約90億円に上りました。高齢者だけでなく若年層にも被害が広がっており、同課は「手口は複雑化、巧妙化している。対策をアップデートしていきたい」としています。確かに対策が奏功した事例として高く評価できますが、大阪府警の認識のとおり、特殊詐欺の手口の変遷などもあり、従来の対策だけでは不十分な状況にあり、さまざまな工夫を積み重ねていくこと、成功事例・失敗事例を全国・業界全体で共有・分析していくことが重要となるものと考えます。

前回の本コラム(暴排トピックス2026年5月号)で取り上げましたが、愛媛県内の80代女性が約12億円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭いました。その手口は巧妙で、女性は2カ月近くに及ぶSNSや電話のやりとりを通じてストーリーをすり込まれ、男らはすぐに金の話は持ち出さず、同僚の警察官や検事を名乗る男まで登場させて真実味を持たせ、最終的には「容疑を晴らすため財産調査が必要だ」「調査が終われば返すので送金してほしい」として女性の信頼を勝ち取ったところで男らはようやく切り出し、信じ込んだ女性は2025年12月~2026年2月、複数の金融機関から8回に分けて計12億円を指定された口座に送ってしまいました。金融機関に不正送金を疑われないよう、実在する一等地の偽の土地建物売買契約書を作成して女性に持たせ、不動産購入資金の払い込みだと嘘をつかせる念の入れようで、送金後に男らの連絡が途絶え、不審に思った女性が警察署に相談し、ようやく事件が発覚しました。トクリュウの台頭で2025年の特殊詐欺の被害額は3200億円超と過去最悪を更新、うち「ニセ警察詐欺」は1000億円近くを占め、2025年の1件当たりの平均被害額は約768万円と2020年(約220万円)の3倍超に達しました。近年はニセ警察詐欺だけでなく、SNS型投資・ロマンス詐欺でも巧妙な作り話を信じ込ませ、大金をだまし取る手口が主流になっており、愛知県内でも2026年5月に、80代男性が約8億7000万円の被害に遭う事件が発覚しました。かつては手当たり次第電話やメールで接触を図り、「受け子」に現金で受け取らせる手口が主流でしたが、近年は警察の摘発強化や社会の防犯意識の高まりで成功確率は低下、一方でトクリュウの手元には過去に被害に遭った人らの情報が蓄積されており、トクリュウの情報網とノウハウによって「劇場型」の巨額詐欺が横行する危機的な状況にあります(前述のとおり、対策が実態にマッチしていない(後手に回っている)状況、十分な情報共有がなされていない状況では、常に犯罪者・トクリュウ側が有利な立場に立ち続けることになります)。当局が重視するのが金融機関との情報共有で、2025年末時点で800以上の金融機関と「情報連携協定」を結び、不自然な取引がみられる口座情報を警察に提供、主要銀行だけでなく、地方銀行や信用金庫にも広がりつつあります。警察庁によれば、協定に基づき警察に寄せられた口座情報は2025年に9762件に上り、うち約6割(6128件)は実際に詐欺被害にあった口座でした。詐欺グループが使っている口座の情報提供も複数の金融機関からあったといいます。金融機関が被害口座や不正利用される口座を検知する能力は向上しており、詐欺や資金洗浄の手口が変化するなか、捜査機関との情報共有は顧客の財産保護に欠かせない状況にあります。それでも足元の被害に歯止めがかかっていません。報道で情報セキュリティ大手ラックの小森美武・エバンジェリストは「被害規模は桁違いに増えている。なすすべがないほどに危機的状況」と指摘、詐欺グループに対抗する手立てとしてAIの重要性を挙げていますが、一部の銀行やネットバンクはAIによる検知システムを導入し始めています。小森氏は「AIによって不審な取引を高精度で検知できれば、情報提供の量と質を保ちながら正常な取引口座の凍結も避けられる」と話しています。被害金の多くは国際的な犯罪組織に流れている可能性が高く、大切な資産を奪われた被害者は「なぜ気づけなかったのか」と心に深い傷を負うのが特殊詐欺犯罪です。犯罪集団は次々と新たな手口を編み出して標的を狙っており、根絶には悪用されている口座を迅速に特定し、口座凍結するなどして資金源をいかに断てるかにかかっています。

特殊詐欺被害は世界的にも猛威を振るっており、米国でも暗号資産を悪用した詐欺が急拡大しています。恋愛感情につけこむロマンス詐欺など、米国人が絡む被害は年間1.7兆円を超えた。AIの普及で詐欺組織の手口はより巧妙化しています。最近の手口は、まずSNSやマッチングアプリで接触して時間をかけて信頼関係を築き、最初は少額の投資で安心させ、徐々に大きな投資を促し、最終的に被害者が資金を引き出そうとすると、税金や手数料を理由に追加送金を求めたり、突然連絡を絶ったりするものです。米連邦捜査局(FBI)によれば、2025年の暗号資産が絡む詐欺など犯罪被害は113億6667万ドル(約1兆7600億円)と2024年から66%増えました。このうち、SNSやデートアプリを通じて偽の投資サイトへ誘導するタイプの投資詐欺の被害額は全体の6割の72億ドルと47%増加しました。こうしたオンライン詐欺の多くは、中国系の犯罪集団がミャンマーとタイの国境沿いやカンボジアで手掛けています。米司法省は2026年4月、ミャンマーで詐欺施設を運営しカンボジアでも別の施設を開設しようとした中国人2人を起訴、犯罪に関わった疑いがある7億ドル超の暗号資産や、偽投資サイト500件以上を押収しました。司法省によれば、犯罪組織は高給の技術職の仕事だとだまして労働者を東南アジアへ誘い込み、パスポートを没収したうえで監禁、米国人向けの詐欺を強制していました。JPモルガンなど米銀の担当者やニューヨーク市警(NYPD)を装う台本が使われ、資金移動ではUSDTなどステーブルコインの利用が多いといいます(日本におけるオンライン詐欺の手口との共通項もありますが、国や地域ごとに特化した手口となっている点が巧妙であり、暗号資産の活用など他の国や地域で上手くいった手口を日本に応用していると考えられる点もやっかいです)。国際組織犯罪を調査する独立非営利団体、国際組織犯罪対策グローバル・イニシアチブ(GI-TOC)の上級専門家は、「犯罪組織は安定した収益を求めている。ステーブルコインはビットコインのような価格変動リスクが少なく、換金もしやすい」と説明、さらに詐欺組織は生成AIを積極的に利用しており、多言語での自然な会話対応に加え、AIフィルターで外見を魅力的に見せるなどしているほか、盗んだ身分情報とAI技術を組み合わせ、暗号資産交換業者の本人確認を突破するケースもあるといいます。日本でも暗号資産の送金を利用した詐欺被害が拡大、警察庁によれば、2025年の暗号資産送金型の特殊詐欺は1213件と前年の約10倍に増え、被害額も34億円から195億7000万円へ急拡大しています。

本コラムでもたびたび取り上げていますが、近年、詐欺に加担したとして、カンボジアなどの海外拠点で日本人が摘発される事例が後を絶ちません。警視庁は渡航した日本人から聞き取りを続けていますが、拠点の実態は多様で、ある拠点では日本人だけが集められていましたが、別の場所ではアジア圏にある複数の国から人が集められていたほか、詐取金から一定の金額が「成功報酬」として支払われるグループがある一方で、満足な報酬が支払われないところもありました。詐欺グループが海外に拠点を設ける理由としては、捕まりにくく、かけ子が逃げづらい環境にすることが考えられますが、特に日本との時差の小さい東南アジア諸国に、日本への詐欺電話の「かけ場」が置かれている傾向にあります。警察庁によれば、2025年中に日本国内で摘発された特殊詐欺のかけ場は11カ所で、前年比で18カ所減少、一方で、海外拠点から移送された日本人の容疑者は54人で、増加傾向にあります。また、摘発を逃れるため、工夫を凝らしたり、海外に拠点を移したりしたとみられる事例もあり、住吉会傘下組織組員が関与した特殊詐欺事件では、固定した拠点ではなく、自動車内をかけ場として、日本各地を転々とする「移動型アジト」で活動、さらにその後、組員と関係のある人物が海外に拠点を設けていたことが判明し、捜査の手を免れようとした形跡がうかがえます。そして、海外拠点設置の背景には、中国系マフィアなど、海外の犯罪組織の存在がちらついています。実際、東南アジアの海外拠点で詐欺に加担させられたとする男性の一人は警視庁の調べに、中国人をトップとして、台湾人や日本人が活動していた内実を明らかにしています。国内外の犯罪組織の親交を巡っては、近年も指定暴力団と、台湾や香港マフィアとの間で盟約を結ぶ「盃事」を行っていた例も確認されています。こうしたケースは、海外マフィアと日本の暴力団などが深い関係を築いていることを疑わせる証左ともいえます。警察幹部は「日本国内の暴力団やトクリュウなどがかけ子を海外に送り、詐欺拠点を管理する海外マフィアから紹介料やマージンを得ている」という構図を見立てているとされ、その上で、「人を送っている人物を摘発しなければ、詐欺はなくならない」とし、日本国内でも摘発を強化する重要性を強調しています。

2026年5月16日付産経新聞の記事「特殊詐欺 アジア地下水脈」は特殊詐欺を巡るさまざまな変遷が描かれており、これまでの情報が整理され、つながるなど大変参考になりました。日本や米国への密航や地下銀行ビジネスで巨大化した中国福建省の非合法組織「蛇頭(スネークヘッド)」は、平成初め、蛇頭による福建省密航者の日本での犯罪関与が治安悪化要因の一つとなり問題化、警察や入管の摘発で抑え込みに成功し、「蛇頭=福建ネットワーク」は忘れられましたが、30年超を経て、形を変え、より強大で、可視化しにくい姿で再び現れたと報道は指摘します。「カンボジアで不動産、カジノ、金融事業を営むコングロマリット「太子集団」。裏で国際詐欺拠点を運営し、米国民から資産を詐取した罪で米司法省が昨年、創業者の陳志被告(38)を起訴した。被告は福建省出身。「蛇頭の密航で形成された東南アジアの福建人脈による支援、詐欺収益の洗浄で巨大化した」と米側はみる」と解説しています。さらに、日本の警察は2004年に特殊詐欺が本格化したとみているといいます。この年、「オレオレ詐欺」を中心に振り込め詐欺は約2万5千件、約284億円の被害を出しました。政府の集中対策で「対面・即時型」の街頭犯罪は減った一方、電話や通信を使った「非対面・遠隔型」の特殊詐欺が急増、犯罪はなくなったのではなく、質と形を変えました。金融機関の対策で振り込みが難しくなると、詐欺は受け子・出し子を使う現金詐取型に変質、2000年代半ば以降、特殊詐欺は自己完結型から分業型犯罪に変質し、ここから「闇バイト」募集の発想も生まれていくことになりますが、同時期、中国でも詐欺が多発しました。これは、「日本で犯罪に関与し、初期の特殊詐欺に関わった者が帰国し、その手口を中国で使った」と考えられています。日本の特殊詐欺は、1992年施行の暴力団対策法で資金が枯渇した暴力団が推進した背景がありますが、中国は、1980年代の改革開放で、香港、マカオ、台湾、東南アジア華僑社会と巨大経済圏を形成、同時に地下送金、賭博、人身売買など裏経済も膨張、特にマカオのカジノ経済は地下金融を進化させ、オンラインカジノのインフラにつながります。いずれ詐欺資金のマネロンの基盤になるのは必然で、2010年代後半、習近平政権は反腐敗運動と並行し、オンラインカジノや詐欺摘発を強化、その結果、中国の詐欺集団が海外に移動、カンボジア、ラオス、ミャンマーなど、コロナ禍沈静化までに東南アジア各地に「街そのものが詐欺拠点」という異様な「詐欺団地」が出現し、豊かな日米欧、中国語圏を標的に詐欺が量産されることになりました。東南アジアの詐欺団地はいずれも中国系資本でホテル、カジノ事業がなされながらも行き詰まった街という共通項があります。開発主体のデベロッパーは、現地の自治体や特区企業で、ビルを所有し、テナントを貸すオーナー会社は、移転してきた中国系犯罪組織、そこに英語、中国語圏など言語・文化別に形成された詐欺グループがテナントとして入り、コロナ禍前後から日本の詐欺集団も店子として詐欺団地に合流、「労働力」は嘘の求人募集などで騙された人々で、結局、こうした構図は、日中の詐欺集団であることがわかります。捜査関係者が「平成初期に日本の暴力団とパイプを築いた蛇頭・福建人脈、竹聯幇など台湾マフィアだろう」と指摘、街頭犯罪時代のネットワークが形を変えて生き残り、国際犯罪の回路となっていることが理解できます。日本の暴力団もこの構造の中で生き延びており、前面に出ず、分業態勢の店子として利益を吸い上げる形です。警視庁が住吉会幸平一家の特別対策本部を設置したのは、構造の中枢に迫る狙いとみられ、特殊詐欺はもはや犯罪というより巨大な国際産業と化している以上、国内対策では済みません。そして、中核に中国語圏のネットワークとインフラがある以上、詐欺の全体像に最も近いのは中国当局で、中国当局との協調捜査がなければ日本も世界も詐欺産業に太刀打ちできないといえます。

愛知県警などが2025年以降、相次いで摘発した、カンボジア、ミャンマー、中国を舞台にした特殊詐欺事件をめぐり、それぞれの拠点で生成AIが使われ、そのための「AIルーム」があったことが判明しています。警察官を装ったかけ子が、被害者にビデオ通話をする際、摘発を逃れるため、AIを使って自分の顔の画像を別人の顔に差し替えたり、別人の声に変換したりしていたものです。海外の詐欺グループがだます手段として、組織的・体系的にAIを利用している実態が浮かび上がりました。偽装のためのAIルームは、構造や使用方法は異なるものの、カンボジア、ミャンマー、中国の各拠点にもあったといい、捜査幹部は「警察官を登場させる手口でAIは必須になっている」と指摘しています。報道によれば、カンボジアのパイリンの拠点の場合、変換後の顔は、かけ子の表情や口の動きともリンク、顔だけでなく声も変換されており、ミャンマーでは、偽物の警察手帳の顔写真も差し替えられていたといいます。また、捜査当局は、相手をだますための「台本作り」にもAIが活用されているという見方を強めています。漢字の使い方や文法など、だましの文言がより自然な日本語に近づいており、言語の壁が低くなり、犯人の匿名性がより高くなれば、摘発も難しくなるのは当然で、「なすすべがないほどに危機的状況」だといえます。そして、さらにAIの利用が進めば、より少ない人員で拠点を設けることなく、自動で犯罪が完結するようになり、被害がさらに増える恐れがあります。生成AIを悪用した詐欺を見破る方法としては、「ビデオ通話で捜査することはない」ことを周知すること、「ビデオ通話に警察官が現れた場合には、より長く表示させたり、顔を上下左右に動かしたりするよう求める」のが有効とされます。画像処理が追いつかず、特に顔の輪郭周辺がぼやけたり、不鮮明な映像になったりするなど、不自然さが表れやすいといいます。とはいえ、今後、さらに性能が向上し適応してしまう可能性もあり、最終的には周囲の人や最寄りの警察署に相談するなど、特殊詐欺から身を守る基本的な対策が重要となります。

SNSのやりとりで相手に恋愛感情を抱かせ、架空の投資話などに引き込む「SNS型ロマンス詐欺」の被害も高止まりしています。警察庁によれば、2025年に全国で確認された被害件数は5604件で、被害総額は552億円と、2023年と比べ件数・被害額ともに3倍以上に増えました。詐欺の手口を分析している日本大学の木村敦教授は「被害が増えている原因の一つに生成AIの普及がある」とみており、「オレオレ詐欺」のような特殊詐欺は短時間で被害者を動揺させようとするのに対し、ロマンス詐欺の場合、最初はお金の話を一切出さず、1~数カ月と長い時間をかけて関係をつくる特徴があります。世間話から始めて接触回数を増やし、悩み相談など深い話題に移っていき、さらに秘密を共有することで、被害者を囲い込んでいく手口で、こうした手口は相手の反応にあわせて細かくマニュアル化されているとみられています。SNSのダイレクトメッセージで接点を持ち、やりとりはチャットのみで最後まで対面しないケースがほとんどで、さらに生成AIが普及したことで、詐欺犯にとっては会話の文脈にあわせて架空の写真をすぐ用意したり、相手が喜ぶ言葉を返したりすることが、一気に容易になったほか、長期間やりとりをするコストも減り、言葉の壁を越えて大量の数をこなせるようにもなったといいます。手口が巧妙化するなか「最初は詐欺を疑っていても、一度接点を持ってしまうと、親密化のプロセスにはまって自力で抜け出すことは困難になる」との指摘は正に多くの人に知ってほしい内容です。裏返せば、SNS上で知らない人から呼びかけがあっても無視し、とにかく接点を持たないことが一番の対策になるといえます。また、ロマンス詐欺は「私欲のためにだまされた」と非難されやすく、被害者も自分を責めてしまい、精神面の回復が難しくなるといい、木村教授は「実際はどんな人でも被害に遭ってしまうのがこの詐欺の怖さ。被害者を責めないため、また自己防衛のため、多くの人に具体的な手口と対策を知ってほしい」と述べている点は正に正鵠を射るものです。

オンライン詐欺に関する最近報道から、いくつか紹介します。

  • ミャンマー親軍政権は特殊詐欺を取り締まる「オンライン詐欺対策法案」を上院に提出しました。最高刑は死刑で、国際刑事警察機構(ICPO)との協力も盛り込んでいます。中国人犯罪組織の詐欺拠点が主な対象とみられ、厳罰とした背景に中国からの圧力があるとの指摘が出ています。法案は、特殊詐欺に加担させるために暴力や拷問、監禁を用いた場合の最高刑を終身刑または死刑と規定、被害者が死亡した場合は死刑を適用するとしています。ICPOやASEANAPOL(東南アジア諸国連合警察長官会合)との協力や、被害金の流出食い止めに関する条文も盛り込まれており、下院での審議などを経て、年内に成立する見通しです。親軍政権は中国人特殊詐欺拠点の掃討作戦を実施し、国営紙で連日、成果をアピール、2026年。1月にはミャンマー東部のタイ国境付近にある拠点「KKパーク」を解体したと発表、現在は別の拠点として知られるシュエココで作戦を進めています。中国人にも被害が及び、中国政府は組織の主要メンバーらを相次いで処刑するなど対策を強化、ミャンマーで2021年2月に起きたクーデターでできた軍事政権の流れをくむ親軍政権は中国への傾斜を強めており、拠点の掃討を中国にアピールする狙いがあるとされます。
  • ミャンマーの特殊詐欺拠点で「かけ子」をしたとして詐欺の罪に問われた2人の被告の公判が名古屋地裁であり、検察側は「組織的、常習的な犯行で悪質」などとして、2人に懲役6年を求刑しました。検察側は論告で、2人が犯罪行為に加担すると知りながら渡航し、他の日本人らとともに警察官などをかたって電話をかけ、「口座がマネロンに使われている」などとうそを言って現金を詐取していたなどと指摘、宿泊費や食費などは無償で、成功報酬も支払われていたとして、「報酬ほしさから組織に入っており、動機に酌むべき事情は考えがたい」と訴えました。一方、弁護側は、拠点は高い塀に囲われ、出入り口には銃を持った人が警備しており脱出できず、ノルマを達成できない場合は電気ショックなどの体罰もあったと主張、詐欺電話をかけないと被告の生命や身体が奪われかねない状況に置かれており、犯罪の不成立や刑の減免を定めた刑法の「緊急避難」が成立すると訴えました。
  • 特殊詐欺のかけ子として従事させるため、20代の女性をカンボジアに入国させ誘拐したとして、茨城県警は、国外移送目的誘拐と職業安定法違反の疑いで容疑者を逮捕しました。特殊詐欺のリクルーターとみて捜査しています。逮捕容疑は2025年3月~6月、茨城県つくば市の女性に対し、詐欺の実行役とする目的で「1カ月で500万円稼いだ人もいる」などと勧誘し、8月、詐欺に従事させることを隠したままベトナム経由でカンボジアに入国させた疑いがもたれています。茨城県警によれば、女性は犯罪グループの拠点で詐欺電話の練習をさせられていたところ、カンボジア当局に保護され、2025年10月に帰国しました。
  • カンボジアの拠点で特殊詐欺のかけ子をした疑いで日本人29人が逮捕された事件で、うち男性1人を同国へ渡航させる目的で中部空港へ連行したとして、愛知など6県警合同捜査本部は、国外移送目的略取の疑いで、容疑者を逮捕しました。男性は数千万円の借金があり、容疑者は返済が滞っていることを知人を介して知り、返済のためかけ子として働かせる目的で略取したとみられています。
  • インドネシアの首都ジャカルタなどでオンライン賭博や特殊詐欺の拠点が相次いで摘発されたことを受け、地元警察は同国が中国系犯罪組織などの新たな拠点になりつつあるとして警戒を強めています。警察は外務省などと連携し、対策チーム設置の検討を進めているといいます。警察は、西ジャカルタ・ハヤムウルクの拠点を摘発し、ベトナム人228人、中国人57人を含む321人を拘束、押収した電子機器からは、75のオンライン賭博サイトの運営に関与していた疑いが判明したといいます。また、バタム島でも特殊詐欺の拠点を摘発し、外国人210人を拘束、国家警察の担当者は「カンボジアやミャンマーなどで取り締まりが進んだ結果、拠点がインドネシアへ移っている可能性がある」と指摘、カンボジアのシアヌークビルやポイペト、ミャンマー東部ミャワディなどの詐欺拠点に置かれていたサーバーの一部も、インドネシアへ移り始めていると述べています。摘発された外国人の多くはビザ免除や到着ビザ制度を利用して入国していたといい、警察は、資金の流れや背後関係の解明を進めるとともに、外国人の在留管理強化を関係省庁に求めています。
  • 特殊詐欺の拠点となっていたインドネシア・スラバヤの住宅に監禁されていた日本人女性2人は取材で、監禁された家で、中国人の指示役から「ここで働くのが唯一の選択肢。嫌なら臓器を売ってもらう」と脅されたと明かしています。2人は関東地方に住む30代と40代の女性で、詐欺には加担していなかったとして、警察が捜索した際に保護されました。拘束された日本人4人との関係性はないとされています。2人は最終的に車で住宅に到着、2階に閉じ込められ、日本の宅配業者になりすます台本を読まされていたといい、実際に詐欺の電話をかけることはなかったものの、女性の一人は「救出が遅れていたら加担させられていた」と語っています。
  • インドネシア第2の都市スラバヤで特殊詐欺に関与した疑いのある日本人らが拘束された事件で、高級住宅街の一軒家が国際詐欺グループの拠点として使われ、食料調達などを地元の人に依頼することで、「潜伏」が周囲に漏れないようにしていたといいます。警察は同様の手口が広がっているとみて警戒を強めているといいます。スラバヤでは別の住宅街の2か所でも詐欺拠点が摘発され、ここでもインドネシア人が生活雑務を支援しており、外国人の存在情報が外部に流出しないよう画策されていたといいます。特殊詐欺を巡っては、国際犯罪組織の活動が目立っていたカンボジアなどで取り締まりが強化され、活動拠点が周辺国に移っているとの指摘があり、ジャカルタ近郊で2026年3月に発覚した大規模な特殊詐欺事件でも、拠点は高級住宅街の一角に設けられていました。地元紙は、インドネシアが新たな詐欺拠点になっていると報じ、「人口が多く、不動産の選択肢も豊富なため、犯罪グループが潜伏しやすい」との分析を伝えています。

最新の特殊詐欺の手口などに関する報道から、いくつか紹介します。

  • ニセ警察詐欺の被害が多発するなか、以前の本コラムでも取り上げたとおり、ニセの「逮捕状」を送りつけてお金をだまし取ろうとする事件が相次いでいます。ただ、実際に確認された「ニセ逮捕状」には、「反」や「所」といった漢字で、通常であればまっすぐ書く部分を、はらったような書体が目立つほか、存在しない「東京中央警察署」という名前、本物には警察が被疑者の身柄や証拠を検察に引き継ぐ「送致」の日を記入するところその欄が存在しない、といった不審な点があるといいます。捜査関係者は「よく見るとおかしいとわかるが、自分の名前が書いてあれば焦ってしまうのだろう」とし、「不安を感じた時にはひとりで悩まず、最寄りの署に相談して欲しい」と呼びかけています。
  • 以前の本コラムでも取り上げたことがありますが、ニセ警察詐欺で、女性がビデオ通話中に裸にさせられる被害が相次いでいます。「犯人の体にはタトゥーがある。違うなら脱いで証明してください」などと唆す手口で、2025年は全国で240件以上確認されました。「裸の画像を流出させる」と脅され、さらに金を要求されるおそれもあり、警察当局が警戒しています。未遂や相談も含めた全国での認知件数は2025年に247件に上り、2025年は3月時点で17件確認されています。被害者の年代別では、20代が47%で、30代が33%と若者が多い一方、60代や70代の被害もあり、裸を撮影させた上で「録音・録画をしている」「全国にばらまく」と脅されたケースもあったといいます。また、トイレや入浴中の映像の送信をビデオ通話で求められる被害もありました。SNSの事業者も対策に乗り出しており、LINEのビデオ通話に誘導されるケースが多いため、LINEヤフーは2025年11月、着信時、一定の条件で「詐欺にご注意ください」「違和感がある場合は通話を終了して通報してください」との警告画面を表示する運用を始めました。。
  • 前回の本コラム(暴排トピックス2026年5月号)でも取り上げましたが、だまし取ったクレジットカードを使って詐欺グループがレターパックを購入し、買い取り業者に転売していた事件で、福岡県警は、グループが高い換金率に着目して利益を得ていたとの見方を強めており、商品を仕入れたい業者、売り上げを伸ばしたい郵便局の利害も一致していた構図が浮かんでいます。詐欺グループは2024年6月~25年3月、同郵便局で約6000万円分のレターパックや切手を購入し、換金、だまし取ったスマホの転売なども含め、計約3億円を得ていたと福岡県警はみています。なお、一般的にブランド品の財布やバッグの換金率は40~60%とされる一方、書類などを割安で送れるレターパックは需要が見込める上、供給元が日本郵便に限られることもあり換金率は80%前後に上り、事件に絡んだ業者は約86%だったといいます。県警は、大量購入が可能な点も理由の一つとみており、レターパックにはクレジットカード利用の制限がないため、詐欺グループは一度に100万円分を購入したこともあったといいます。郵政問題に詳しい熊本学園大の坂本正・名誉教授は「レターパックは利便性や公益性があり、高い換金率から見ても金券に準じて考えるべき商品だ。重要な通信手段が犯罪の温床とならないよう、日本郵便には厳格な運用や管理が求められる」としていますが、正にそのとおりかと思います。
  • 度重なる脅迫電話に追い込まれ、最終的に「自分がやれば家族を守れる」と闇バイトを選んだ女性もいます。警察に相談することは思い浮かばず、男は手のひらを返したように優しくなり、「1千万円なんてすぐ稼げる」「あなたには幸せになってもらいたい」と言い、「洗脳され、冷静ではなかった」と女性は振り返っています。「悪いことというのは分かっていたし、心苦しかった」ものの、「早く普通の生活に戻りたい」という気持ちが勝ったといいます。女性の逮捕後、警察は自宅周辺をパトロールしたり、すぐに通報できる機器を家族に渡したりしましたが、女性には「最初の相談のときからそうしてほしかった」という気持ちが残っているといいます。
  • 愛知県から埼玉県まで車で連れ去られた逮捕監禁事件の被害者のフィリピン国籍の女性が、警察に無事保護された3日後、今度は一転して口座不正売買事件の容疑者として逮捕されました。逮捕容疑は2026年2~3月ごろ、愛知県小牧市内の駅ロータリーで、現金10万円と引き換えに他人名義のキャッシュカードを譲り受けたとしています。容疑者は資産家ではなく、多額の身代金要求を受けるのは不自然なため、県警はベトナム人を中心とした犯罪組織との間で不正口座を巡るトラブルがあったとみて、二つの事件の関連を調べています。

2026年(令和8年)3月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について公表されていますので、以下、紹介します。被害の全体像や近年急増しているニセ警察詐欺の現状と対策をより分かりやすくするため、「被害が急増している「ニセ警察詐欺」を独立した手口として位置付け」、「SNS型投資・ロマンス詐欺を特殊詐欺の一手口として位置付け」ました。

▼ 警察庁 令和8年4月末の特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)
  • 令和8年4月末における特殊詐欺の概要
    • 認知件数 14,898件、被害額 1,260.0億円(前年同期比+2,965件、+517.9億円)
  • 手口別の認知件数・被害額
    • SNS型投資詐欺 4,381件(+2,708件) 592.5億円(+401.1億円)
    • ニセ警察詐欺 3,058件(+134件) 325.2億円(+69.8億円)
    • SNS型ロマンス詐欺 1,662件(+64件) 171.8億円(+18.6億円)
    • 架空料金請求詐欺 2,086件(+144件) 53.1億円(+5.2億円)
    • オレオレ詐欺 1,130件(▲10件) 41.7億円(▲4.7億円)
    • 還付金詐欺 906件(▲303件) 19.4億円(▲3.5億円)
    • 交際あっせん詐欺 224件(+123件) 8.3億円(+5.5億円)
    • キャッシュカード詐欺盗 472件(+79件) 5.1億円(+0.0億円)
    • 金融商品詐欺 119件(+63件) 15.3億円(+8.9億円)
    • 融資保証金詐欺 111件(▲41件) 0.8億円(▲0.8億円)
    • 預貯金詐欺 323件(▲305件) 3.1億円(▲3.3億円)
    • ギャンブル詐欺 15件(+4件) 0.6億円(+0.5億円)
    • その他の特殊詐欺 411件(+305件) 23.1億円(+20.7億円)
    • 合計 14,898件(+2,965件) 1,260.0億円(+517.9億円)
▼ ニセ警察詐欺の特異な手口
  1. 性的な被害を伴う手口
    • ニセ警察官が、金銭の要求とともに、犯罪の嫌疑を晴らすなどの名目により
      • 身体特徴の確認のため、裸になること
      • 行動確認のため、入浴中やトイレ時を含めた常時ビデオ通話
    • といったわいせつな行為を要求する事案が確認されている。
    • 令和7年中に発生した事案について、令和8年4月末時点で都道府県警察から警察庁に報告があったものは247件(未遂・相談事案を含む。)。
  2. 金地金をだまし取る手口
    • ニセ警察官が、「あなたに逮捕状が出ている」「身の潔白を証明するには、資産の提出が必要」などと言って金地金(金塊、インゴット)をだまし取る事案が確認され、高額な被害が発生している。
    • 特殊詐欺全体での被害は、認知件数は173件、被害額は60.2億円であり、ニセ警察詐欺では、認知件数は163件、被害額は58.2億円で認知件数、被害額ともに9割を占める。
▼ 令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)
  • 特殊詐欺の概要について
    • 特殊詐欺の認知件数は、27,832件(+6,789件、+32.3%)
    • 被害額は、約1,423.1億円(+704.3億円、+98.0%)
    • 前年に比べて認知件数、被害額ともに著しく増加。
    • 主な要因
      • 警察官等をかたり捜査(優先調査)名目で現金等をだまし取る手口(以下「ニセ警察詐欺」という。)による被害が顕著であり、認知件数は11,014件、被害額は1,005.0億円で、総認知件数に占める割合は39.6%。
      • オレオレ詐欺に含まれるニセ警察詐欺の認知件数は10,859件で、オレオレ詐欺の認知件数14,489件に占める割合は74.9%。
      • この手口は令和6年後半頃から被害の増加が顕著であり、令和7年の総認知件数及び被害総額が前年に比べて著しく増加している主たる要因。
  • SNS型投資詐欺の概要について
    • SNS型投資詐欺の認知件数は9,523件(+3,110件、+48.5%)、被害額は1,288.0億円(+416.9億円、+47.9%)と認知件数、被害額ともに前年に比べて増加。
    • 主な要因
      • 当初の接触手段は、バナー等広告が3,785件(+884件、+30.5%)、ダイレクトメッセージが3,549件(+1,416件、+66.4%)と、ダイレクトメッセージを当初の接触手段とする被害が増加しており、これらが全体の約8割を占める。
      • YouTube及び投資のサイトにおけるバナー等広告、Instagram、LINE及びFacebookにおけるダイレクトメッセージを当初の接触手段とする認知件数の増加が、被害増加の主たる要因。
      • 認知件数をみると、バナー等広告が令和7年3月以降増加傾向にあり、その内容は、著名人の画像や動画を無断で使用した広告が確認されており、「必ずもうかる」、「元本保証」などの文言を含む広告も見られた。
  • SNS型ロマンス詐欺の概要について
    • SNS型ロマンス詐欺の認知件数は5,645件(+1,821件、+47.6%)、被害額は546.4億円(+145.5億円、+36.3%)と、認知件数、被害額ともに前年に比べて増加。
    • 主な要因
      • 暗号資産送信型の認知件数は2,177件(+1,391件、+177.0%)、被害額は247.7億円(+162.2億円、+189.7%)。振込型における暗号資産振込と合わせると、一次的な主な被害金等交付形態が実質的に暗号資産であるものが総認知件数に占める割合は40.4%(+14.4ポイント)、被害総額に占める割合は48.6%(+22.2ポイント)。

静岡県牧之原市立相良中で2026年5月、インターネットバンキングの口座から約1000万円をだまし取られる詐欺被害があり、教育長らが市議会全員協議会で経緯を説明しました。セキュリティエラーからの復旧補助を装う「サポート詐欺」とみられ、教育長は「組織としての危機管理意識が欠如していたと猛省している」と陳謝しました。相良中の60代事務職員が学校のパソコンを使用してインターネットで調べ物をしていた際、パソコン画面にマイクロソフト社のセキュリティエラーを装う表示が出現し、連絡先の電話番号が表示されたため、職員は電話をかけ、相手の指示に従ってパソコンを操作、「正常にできるか確認しましょう」と促されて、ネットバンキングの口座にログインしたというものです。その後、不審に思った職員は別の電話で学校のシステム管理業者に連絡、その指示でインターネット配線を抜き、パソコンの電源を落としたものの、二つの口座からそれぞれ999万9999円と100円、および手数料が出金されていたといいます。システム管理会社の調査では、パソコンに遠隔操作ソフトがインストールされ、外部から操作されていたといいます。

最近の特殊詐欺等を巡る報道からいくつか紹介します。報道自体はこれ以上されていますが、被害の大きい事件を中心に取り上げます。

  • 愛知県警は、同県の80代男性がSNSを使った投資詐欺で計約8億7000万円をだまし取られたと明らかにしました。少なくとも過去10年で、愛知県内で起きた特殊詐欺事件の被害としては、最高額となりました。報道によれば、男性はインターネット上で著名人の名前が記された投資関連の広告にアクセス、その後、LINEに誘導され、投資グループを名乗る3人とやりとりし、投資の意思を示すと、指定の口座に送金するように指示されたといいます。「投資で利益が出た」と言われ、一度だけ利益分を引き出すことができ、男性はその後、「金塊でも投資の方法がある」と持ち掛けられたといい、数カ月の間に現金や金塊を複数回、グループのメンバーに手渡しました。グループに指示されてダウンロードしたアプリには、投資で利益が上がったとする画面が表示されていましたが、利益分を引き出そうとするたびに「税金がかかる」などと言われ、実現しませんでした。不審に思った男性が2026年5月、警察に相談し、発覚したものです。
  • 富山県警は、SNSに届いたメッセージをきっかけに投資話をもちかけられ、県東部在住の60代男性が、金塊など計約2億円相当をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しました。富山中央署によれば、2025年9月、男性のFacebookに投資経験者を名乗る人物からメッセージが届き、その後連絡をとりあい、投資を勧められ、2025年12月~26年1月に3回にわたって金塊7805グラム(約1億8千万円相当)を相手側のスタッフを名乗る人物に自宅で手渡すなどして、計2億円あまりをだましとられたものです。男性は2025年11月、相手側に投資資金として10万円を振り込んだところ、相手に勧められた投資アプリ内の資金が増えたように表示され、出金もできたことから信じたといいます。1月末の入金後、相手と連絡がとれなくなり、県警に相談し、発覚しました。
  • 兵庫県警西宮署は、兵庫県尼崎市に住む自営業の60代の女性がSNS上で株取引を持ちかけられ、計約1億9000万円をだまし取られる詐欺被害に遭ったと発表しました。報道によれば、女性は2026年2月、スマホで株取引に関するバナー広告にアクセスしたところ、株に関する勉強会やLINEグループに招待され、その後、有名投資家のアシスタントを名乗る人物から個別で株取引を持ちかけられたといいます。女性は指示された銀行口座に同3~5月、計17回にわたり計約1億9323万円をATMや銀行窓口経由で振り込みました。女性のスマホの画面上には、投資で利益が出ているかのように投資アプリで表示されていたといい、女性が出金しようとしたところ、カスタマーサポートから「手数料として8000万円が新たに必要」と言われ、不審に思って弁護士に相談し、同署へ被害届を提出したものです。
  • 警視庁赤羽署は、東京都北区の40代男性が1億8000万円相当の暗号資産をだまし取られたと発表しました。2026年1月、男性のスマホに「サイバー課の警察官」を名乗る人物から電話があり、「あなたの口座資金が犯罪に加担しており、保釈金を支払わなければ逮捕されるかも」「保釈金は暗号資産で送金して」などと言われ、男性は暗号資産を購入し、同5月までに計20回以上、指定された口座へ送金したといい、相手から反応がなくなり、不審に思った男性が署に相談して被害が発覚したものです。男性は同1月以降、トークアプリに誘導され、「ミーティング機能」で常に音声をつないだままの状態にするよう指示を受けたといい、「監視下に置かれていると思い、支払ってしまった」と話しています。アプリ上では、裁判官を名乗る人物名が差出人として記された「同意書」や「確認書」など偽の書類の画像も送られてきており、本物の警察官だと信じ込まされたとみられます
  • 石川県警金沢西署は、金沢市の60代男性がインターネット上の投資サイトを通じ知り合った株式投資アドバイザーを名乗る女に、現金計約1億5500万円をだまし取られたと発表しました。男性は2025年9月ごろ、SNSで女から「このプランでは2週間で約200%の利益が出た」などと連絡を受け、同12月~2026年5月、指定された口座に1回当たり数百万円から1000万円を送金、同1月と3月には、自宅に来た男に計3600万円を手渡しました。男性が出金しようとしたところ、サービス料や税金を求められて振り込んだが、不審に思い署に相談したものです。
  • 仙台中央署は、仙台市青葉区の70代の無職男性が通信会社職員や警察官を名乗る人物らに、計約1億3900万円をだまし取られたと発表しました。男性は2025年3月、男や女から「口座が悪用されている。資金を調べたい」との電話を受け、同5~6月に14回にわたって現金計約1億3千万円を指定された口座に送り、同10月には沖縄県警を装う男から「無実を証明するため捜査する」と電話があり、11月に自宅を訪ねてきた男や女に3回にわたって計約900万円を手渡したといいます。男性が2025年、県警に相談し被害に気付いたといいます。
  • 福岡県警戸畑署は、北九州市の60代の女性会社員が、現金100万円のほか、暗号資産計約1億2000万円相当をだまし取られる被害があったと発表しました。女性は2026年2月、SNS上で株式投資に関する投稿をしているアカウントと接触、同5までの間、紹介された投資アプリを通じて現金や暗号資産を送金、アプリ内の資金を引き出そうとした女性が、手数料名目で暗号資産計300万円相当を送金したものの下ろせず、さらに手数料を要求されたため、不審に思って署に相談、被害が発覚したものです。
  • 神奈川県警は、ファンだった海外の有名ピアニストのSNSを見ていたら、本人から連絡が来て、好意を伝えられたという手口で計1億円余りをだまし取られるロマンス詐欺被害があったと発表しました。被害を受けた相模原市の50代の公務員の女性は、貯金や親族の遺産、最後は借金までして支払った末に金策が尽きて警察に相談し、発覚したものです。報道によれば、「海外で荷物を預かってもらっていた場所が閉鎖されてしまったので、日本で活動するために荷物を預かってほしい」などと持ちかけられ、女性が了承すると、配送業者や税関職員をかたるメールが届き、「配送料」などの振り込みを求められた。女性は44回にわたり、計約8054万円を振り込んだといいます。2025年に女性は振り込む資金がなくなり、「ピアニスト」に相談、すると、「私名義の口座があるから、そこから支払う。女性名義に変更をして」と指示され、指示通りに手続きをすると、今度は海外の銀行職員をかたる連絡もあり、口座開設に伴う税金や「振り込みが遅れた罰金」などの名目で18回、計約2762万円を振り込んだといいます。女性が借金をするようになり、親族に相談したところ、詐欺の可能性を指摘されて被害に気づいたといいます。
  • 広島県警は、同県三次市の女性が、宝くじで11億円が当選したので手数料を支払ってと言われ、約1163万円をだまし取られる詐欺被害にあったと発表した。60代の女性のスマホに2026年5月、「宝くじで11億円が当選した」とのメッセージがLINEで届き、女性は受け取るための手数料を求められ、女性はその後、コンビニ21店舗を回って電子マネーを計256回購入してIDを送信、計約1163万円分をだまし取られたものです。女性は宝くじを購入していませんでしたが、詐欺ではないと伝えられて信じてしまったといいます。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニや金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。一方、インターネットバンキングで自己完結して被害にあうケースが増えており、コンビニや金融機関によって被害を未然に防止できる状況は少なくなりつつある点は、今後の大きな課題だと思います。以下、被害を防止できた事例や被害防止に関する取組事例など、最近の報道から、いくつか紹介します。

  • この10年間で100回近く特殊詐欺の被害を食い止めたコンビニエンスストアが三重県亀山市にあり、極意は「気付き」と「声かけ」、次から次へとあみ出される多様な手口に対応できるよう、店長を中心に、新聞やテレビのニュースを通して予備知識のアップデートも欠かさないといいます。最初に詐欺を食い止めたのは10年ほど前で、電話しながら来店した高齢者を見て、「もしかして、これが流行している詐欺なのかもしれない」と気がつき、それから高校生から60代まで20人ほどいたアルバイト従業員らに「何かおかしいと感じたら、まずは声をかけてほしい」と徹底するようになったといいます。不在時でも、詐欺の被害が疑われる場合、商品の購入やATMの操作を待ってもらい、アルバイトから電話をかけてもらい、店に戻って、だまされかけている客を説得することを心がけたといいます。「詐欺に遭った方の精神的な不安は計り知ることができない。詐欺を防ぐことができるよう、『困ったことがあればファミマに相談しよう』と思える店にしたい」と話しています。
  • 特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、兵庫県警須磨署は、セブン-イレブン神戸須磨平田町5丁目店のアルバイト店員でネパール出身のサルさんに署長感謝状を贈っています。サルさんは2026年5月、高齢女性客から電子マネーカードの購入方法を尋ねられ、詳細を聞いたところ「10億円がもらえる」などと答えたため、特殊詐欺と確信、サルさんから連絡を受けたオーナーが110番し、被害を未然に防止したものです。防がれた。贈呈を受け「日本語を勉強して頑張って日本に来たおかげで、誰かの役に立てて本当にうれしいです」と感謝の言葉を述べています。ネパールにいる父も警察官といい、今回の贈呈を聞いたら父も「うれしいと思うはず」と笑顔だったといいます。
  • 電子マネーを使った詐欺被害を未然に防いだとして、コンビニ従業員の小野寺さんに、宮城県警登米署から感謝状が贈られました。女性客は再びコンビニにやってきて、通話状態のスマホを携えており、画面には海外からと思われる番号、電話相手の女性が話すカタコトの日本語を聞いて、「詐欺だ」と確信、警察に相談した上で、電話を切ったといいます。後日、再び来店した女性から「本当に助かりました」とお礼を伝えられました。日頃から客の様子で気になることがあれば積極的に声をかけてきたといいます。登米署では2026年2月から、コンビニ店舗ごとに担当警察官をつける「コンビニサポートポリス制度」を導入、小野寺さんも今回、110番ではなく担当者のいる駐在所の電話を鳴らしたといいます。
  • 千葉県警館山署は、医療費還付金詐欺の被害を食い止める功績があったとして、ALSOK警送千葉支社の警備員2人に感謝状を贈っています。2人は2026年4月、館山市内の金融機関でATMへの現金補充の作業をしていました。そのとき、70代夫妻の行動を不審に思い、夫妻に話しを聞くと、役所や農協の職員を名乗る者から「還付金がある」「受け取るには専用の用紙が必要で、ATMで手数料を支払えば発行できる」などと電話で指示されていたといいます。1人が通話の中止を説得し、その間にもう1人が農協に電話をかけて、うそであることを確認、連係プレーで被害を水際で防ぎました。

(3)薬物を巡る動向

乾燥大麻を所持したとして麻薬取締法違反(所持)の疑いでバレーボール元日本代表の佐藤容疑者(26)が逮捕されました(代表合宿中、自由時間にチームメートとパチンコ店を訪れ、置き忘れたバッグの中から大麻が見つかったものです)。現役の日本代表選手が代表活動中に逮捕されるのは極めて異例ですが、本コラムでたびたび取り上げてきたとおり、アスリートらの違法薬物との関わりが問題となった例は、過去にも相次いでいます。2026年2月にはプロ野球・広島の元選手、羽月被告が、「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物エトミデートを使用したとして、医薬品医療機器法違反の罪で起訴され、広島地裁は同5月、拘禁刑1年、執行猶予3年の判決を言い渡しました。羽月被告は公判の被告人質問で「周囲にも吸っているカープ選手がいた」と供述、広島は全選手を対象に再度、聞き取り調査をする方針です。また、学生スポーツ界における若者への違法薬物の広がりも問題となっています。日大アメリカンフットボール部では、2023年に違法薬物が部内に広まっていた実態が明らかになり、廃部に追い込まれ、一連の事件で逮捕・書類送検された学生や部OBは計11人に上りました。2020年には東海大硬式野球部の部員による大麻使用が判明、2023年には東農大ボクシング部員、京都成章高ラグビー部の元部員による大麻所持などが相次いで発覚、元大物プロ野球選手も現役引退後に覚せい剤取締法違反で逮捕された例もあります。現役の代表選手逮捕という事態を重く見た日本バレーボール協会は、佐藤容疑者の2026年度の代表登録を抹消しました。また、2025~26年シーズンに所属していたバレーボールSVリーグ男子の名古屋は、全選手とスタッフに薬物検査を実施すると発表、今回の事件についての説明、状況などのヒアリングを行ったことも明らかにしました。

このようにアスリートが違法薬物に手を出す事件が後を絶ちません。実際、警視庁による薬物犯罪の検挙人数のうち、29歳以下の若年層の割合は増加傾向にあります。2015年は2191人のうち約20%だったところ、2024年は2459人中約50%になりました。若い世代が違法薬物を手に入れやすくなっている背景がうかがえますが、スポーツ選手が一般の人よりも違法薬物に関わりやすいかどうかはわかっていません。ただ、選手は精神的なストレスを抱えやすい面があり、国際オリンピック委員会(IOC)は、選手のメンタルヘルスへのサポートに力を入れ、薬物の使用、過度な飲酒やギャンブルに陥ってしまうトップ選手特有のリスクがあることを報告しています。また、信州大の新井清美教授(依存症予防)も「薬物や過度の飲酒を始めるきっかけや、依存症に陥る要因の一つにメンタルヘルスの不調がある」と指摘、選手は大きな期待を背負った中で、ケガや不調で思うように活躍できないときなどに強いストレスがかかり、SNSで誹謗中傷を受けることもあり、メンタルに不調をきたしたときに、誰にも相談せずに自分でそれを取り除こうとすると、薬物の使用や多量の飲酒をするようになるリスクがあるといいます。新井教授らのグループは、全国37大学の68競技・種目を行う1312人を対象に、依存症の問題の実態とリスク要因を調査、食べ吐き、ギャンブル、飲酒、スマホSNS、ゲーム、精神的健康の六つのうち、一つでも問題がある、または問題の疑いがある、とされた学生は793人で、60%にのぼりました。「競技で重圧がある」は57%で、競技をやめたいと思う頻度を聞いた質問では、ほぼ毎日が7%、月に数回が20%となりました。法に基づく処罰だけで終わらずに回復のための治療や予防のためのプログラムも欠かせません。全米大学体育協会(NCAA)は薬物やギャンブルをめぐる教育・カウンセリング・予防プログラムなどを整えているほか、欧州のサッカー界も啓発に力を入れています。新井教授は、育成段階から選手への啓発をしていく必要性を唱えており、「メンタルの不調を相談してもいいという雰囲気があり、相談相手がいるという環境が必要。また、孤独を感じたり時間をもてあましたりしたときに、薬物や飲酒、ギャンブルにはまりやすいということを知っておくことも大切だ」と指摘しています。また、薬物問題に詳しい長崎国際大の山口拓教授(神経薬理学)も「アスリートには厳しい練習やレギュラー争いなど、さまざまなプレッシャーがあり、それを和らげる目的があるのではないか」と指摘、大麻は比較的安く簡単に入手できるとし、入手しやすさが若者らに広まる要因の一つとみられると分析、「大麻成分入りのクッキーを食べ建物から飛び降りたケースもある。大麻の危険性の周知が重要だ」と訴えています。選手を守るために、定期的にメンタルや依存に関する調査をし、問題が小さなうちに解決していく仕組み、薬物に関する正しい知識の啓蒙・啓発が、スポーツ界全体で求められているといえます。なおこの点については、筆者も暴排トピックス2023年8月号において、以下のように指摘しています。

筆者もマスコミの取材等に対し、大学、とりわけスポーツ団体における実態について、「濃密な人間関係」による構造的要因を指摘しています。例えば、ただでさえ上下関係が厳しく断りにくいいうえに、共同生活を送る学生寮においては、薬物を受け渡しやすいという物理的な側面だけでなく、同調圧力が強く、ノーと言いづらい心理的な側面、「薬物を使うとパフォーマンスが上がる」などと周囲から言われることによる自己正当化などの要因が挙げられます。さらに、そもそも若者には大麻等について「興味」があり、「好奇心」から手を出しやすい傾向もあります(さらに言えば、使用にとどまらず、営利目的販売など深みにはまる/嵌められる危険性も高まる点にも注意が必要かと思います。大麻だけでなく覚せい剤も見つかった、自らの使用料を大幅に上回る所持をしていた、などは正にその表れといえます)。…学生スポーツにおける薬物蔓延について、「連帯責任」についても検討すべき時期にきていると考えます。ほとんどすべての場合、活動の無期限停止などの措置が講じられることになり、真摯に取り組んできた多くの若者の努力が水泡に帰す結果となります。こうした厳しい措置があることで、「仲間のため、これまでの皆の努力を無駄にしないためにも、薬物は絶対ダメ」という動機になる一方、その重大性がゆえに、見て見ぬふりをしてしまい、結果的に蔓延がより深刻化するリスクもあるように思われます。そのため指導者らによる一定の生活管理や報告窓口の設置など、自浄作用の働く環境整備が必要だといえます。そのうえで、さらに一歩踏み込めば、そもそも「連帯責任」のあり方が正しいのかを見直すことも検討してよいのではないかと考えます。この点について、2023年8月3日付日本経済新聞のコラム「スポーツ界も「曲がったことは許されない」を当たり前に 安田秀一」では、「連帯責任については、より根拠が不明瞭で即時撤廃すべき悪習と考えています。先日、東京農業大学がボクシング部を無期限活動停止処分にしました。部員が大麻所持容疑で逮捕されたためです。また、大きな報道はされていませんが、明治大学と慶応義塾大学のアメリカンフットボール部でも、20歳未満の者による飲酒という「事件」が起こり、大学側から活動停止という処分を受けました。なぜ関係のない部員までを犠牲にする必要があるのでしょうか。活動停止にいったいどんな教育的な効果があるのでしょうか。もとより、学校側のサポートがほとんどない環境下で、入部間もな い20歳未満の学生の管理責任が部活側にあるとはとても思えません。スポーツ先進国のアメリカで刑事事件が起きた場合は、チームも学校も一切手を触れず、警察に任せることで解決します。監督も他の選手たちも、それ以上でもそれ以下でもない変わらぬ日常を過ごします。逮捕された学生も、贖罪が済めばチームに戻ったりするのも普通の光景です。法治国家としてあくまで法を根拠に人を裁き、それ以上の罰を求めない当たり前のガバナンスと価値観が定着しています。」と主張されており、筆者としても「わが意を得たり」というところです。もちろん、問題が発生した際には、「自分ごと」として捉え、自らを戒めるとともに、組織として落ち度がなかったかをあらためて見直す機会とすることは極めて重要だと考えますが、一律に活動停止や解散などという対応を取るのは「行き過ぎ」ではないかと考えます

「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物エトミデートを使用したとして医薬品医療機器法違反で有罪判決を受けたプロ野球・広島の羽月元選手が、「(エトミデートの使用を誘った)知人からは私を含め(広島の選手)6人が購入していた」と「TikTok」で配信しました(5人の名前は明かされていません)。配信の内容としては、「昨年の4月ごろにある知人から『シーシャ(水たばこ)だ』と言われて渡された。11月末にその件(エトミデート)に関する特集を見た家族から『違法なものではないか』と連絡があったが、周囲の環境に流され問題ないだろう、とやめることができなかった」、「複数の野球選手と関わりがあった人物。この人物と関わりのあったカープ選手について、私を含め6人が同じ人物から購入していた」などというものです(譲り渡した人物については、医薬品医療機器法違反(指定薬物の授与)の疑いで再逮捕されました)。広島球団は全選手を対象に再度聞き取り調査をすると明らかにしています。

大麻由来の成分「カンナビノール(CBN)」について、厚生労働省は2026年6月から販売や所持、使用などを禁止します。健康被害とみられる報告を受け、動物実験で幻覚などの影響がある可能性が高いことが判明、省令を改正し、医薬品医療機器法の指定薬物として規制するものです。CBNは、麻薬取締法の規制対象である「テトラヒドロカンナビノール(THC)」を酸化して生成され、リラックスや睡眠改善の効果があるとして、成分を含むクッキーやグミ、電子たばこなどが販売されていました。2026年5月、山梨学院大の学生がCBNを含有するクッキーを食べた後、寮の2階から飛び降りるなどして問題になりました。厚厚生労働省によれば、2024年10月以降、CBNを含む食品を摂取後に、気分が悪くなったり搬送されたりしたケースが4件確認されたほか、動物実験で幻覚などの悪影響を生じさせる可能性が高いことが判明し、同省の専門部会は2025年10月、指定薬物として規制することを決めました。改正省令は2026年6月から施行されています。CBNを含む製品の製造・販売や所持、使用などが禁止され、違反すれば最長で拘禁刑5年などの刑事罰に問われることになります。既に製品を保有している事業者や個人は、持ち去りを防ぐため中身が見えないようにするなどして、廃棄する必要があります。一方、CBNは難治てんかんなどの治療にも用いられるため、代替する治療法がない場合は同省に届け出れば特例として引き続き使用できるといいます。

前回の本コラム(暴排トピックス2026年5月号)でも取り上げましたが、大麻成分が含まれるサプリメントを密輸したとして麻薬取締法違反(輸入)の疑いで書類送検されていたサントリーホールディングス(HD)元会長の新浪剛史氏について、福岡地検は、不起訴処分としました。地検は「今回の捜査によって得られた関係証拠を慎重に検討した結果」だと説明しています。検察が不起訴とする主な理由には(1)犯罪事実は明白だが悪質性などを考慮して起訴を見送る「起訴猶予」、(2)犯罪事実を認めるには証拠が足りない「嫌疑不十分」、(3)犯罪事実がない「嫌疑なし」がありますが、今回の不起訴の理由がどれに当たるかについては「差し控える」としています。書類送検容疑は2025年7月下旬、アメリカに住む知人女性とその弟と共謀し、基準を超える大麻の有害成分「THC」が含まれる違法なサプリを米国から密輸したというもので、門司税関は関税法違反の疑いで告発していました。違法なサプリは空港の税関検査で見つかり、福岡県警は、荷物を受け取った弟が、新浪氏に送るよう送り主から依頼されたと説明したことなどから、新浪氏の東京都内の自宅を2025年8月に家宅捜索しましたが、違法な薬物は見つからず、新浪氏は尿検査でも薬物反応は確認されなかったといいます。新浪氏は福岡県警の任意の捜査に「大麻成分が含まれていることは知らなかった」と容疑を否認、また、2025年9月3日に開いた記者会見ではサプリは健康管理のため知人女性から薦められ「適法と認識して購入した」と釈明しています。なお、地検は、知人女性と弟の2人についても不起訴処分としています。本件に関して筆者が言いたいことは、(新浪氏の不起訴処分に関わらず)薬物に限らず、今社会問題となっているオンラインカジノ(ギャンブル依存症)やアルコール依存症などにも共通する「無知・無自覚による軽率だが重大な犯罪」であることを正しく理解し、役員・従業員のこれらの問題への関与が「経営リスク」として捉えるべき状況にあることを、あらためてお伝えしたいということです。

外務省は2026年中にも、中南米の麻薬対策の支援に乗り出すと報じられています(2026年5月15日付日本経済新聞)。ウィーンに本部を置く国連薬物犯罪事務所(UNODC)を通じて、ウルグアイ、メキシコ、エクアドル、アルゼンチンの4カ国に摘発のノウハウを示し、検査機材を供与、中南米の治安を改善し、日本企業が進出しやすい環境を整備する狙いがあるといいます。本コラムでたびたび指摘しているとおり、中南米は麻薬組織の活動などで治安の悪い地域があり、米国などに麻薬が密輸されているとの指摘もあります。日本がUNODCと中南米の支援に当たるのは初で、支援の経費として1億5000万円ほどを見込んでいます。日本製の質の高い製品の導入を促し中南米にも市場を広げる狙いもあるといいます。密輸組織は発覚を逃れるため、麻薬をスーツケースの内部や小麦粉に紛れ込ませるなどの手口をとり、各国は従来、輸送物を開封して目視するなどして検査していたところ、通関に時間がかかるうえ、検査をすり抜けるリスクも高まっている実態があり、日本政府はUNODCと協力し、公安や税関当局へ密輸を防止する機材を提供するものです。例えば、ウルグアイはもともと治安が良かったところ、近年は麻薬の密輸が増えており、最新機材を導入するものの数が足りなくなるとの見立てがあります。機材は日本企業の製品の導入を促す狙いがありますが、中国製品が広まれば、中南米を拠点に日本が輸出入する品目や数量を中国に捕捉される可能性があり、日本の貿易上の弱点を分析されるなど経済安全保障上のリスクになり得るためでもあります。担当者への訓練も検討、輸出入される貨物の内側をスキャンした画像のどこに注目すれば効果的に摘発ができるかのノウハウなどを伝授するとしています。米国は合成麻薬フェンタニルを巡っては、乱用が広がり、過剰摂取による死者が出るなど社会問題化しており、密輸への取り締まりを強化しています。トランプ政権は西半球重視の「ドンロー主義」を掲げて麻薬犯罪の対策を重視しており、日米協力としてもプラスの取組みといえます。また、日本政府は許可を得ない輸出入や製造、販売、所持、使用などを厳格に取り締まる方針で、密輸ルートになり得る中南米諸国とも問題意識を共有し、国際連携で麻薬対策に取り組むとしています。日本国内でも不正薬物の摘発件数は増えており、財務省によれば、2025年に全国の税関が押収した不正薬物はおよそ3200キロで2024年から15%増えたほか、米国にフェンタニルの原料を密輸する中国組織が名古屋市に拠点を置いていたとの指摘もあります。

最近の薬物事犯から、いくつか紹介します。

  • 覚せい剤の密売を繰り返していたとして逮捕・起訴された稲川会山梨一家組員ら男2人の裁判員裁判の初公判が甲府地裁であり、公判では男らが2週間程の期間で、山梨県内などで99回もの覚せい剤取引を行っていたことが明らかになりました。取引は県内の大手スーパーやコンビニ店などで行われていたといい、山梨県内でも危険な薬物犯罪が身近に潜んでいる実態が浮き彫りになりました。この事件では、両被告らから覚せい剤を買ったとして、山梨県内を中心に17人が覚せい剤取締法違反(所持)容疑などで摘発されています。また、両被告は2019~21年、府中刑務所に服役していた際に同房となったことで知り合い、出所後の2024年10~12月頃、覚せい剤の密売を行っていた組員に対して男が、「手伝わせてほしい」と依頼し、2人で密売をするようになったといいます。生成や入手が難しいこともあり、覚せい剤の末端価格は大麻などに比べて高くなっているといい、「覚せい剤の売人は一獲千金のチャンス。時代の変化とともに、捜査の目をかいくぐろうと秘匿性の高い通信アプリなどを使ってやりとりしていることも考えられる」と捜査関係者は指摘しています。なお、「覚せい剤の害悪を社会に拡散させた程度は大きい」「覚せい剤との親和性が顕著」などと指摘、暴力団組員の男に懲役7年6か月、罰金200万円、もう1人の男にも懲役5年、罰金100万円の実刑判決が言い渡されています。
  • コンテナ船に覚せい剤を含んだ綿の塊を積んでアラブ首長国連邦(UAE)から密輸したとして、愛知県警などは、英国籍の容疑者ら男3人を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕しました。綿の一部を抽出して調べた結果、覚せい剤の量を計約215キロ(末端価格約114億円)と推定しています。3人は仲間と共謀し、営利目的でUAEの港から覚せい剤を含む綿を貨物に隠し、2026年3月、神戸市内の港に密輸した疑いがもたれています。綿は132個の塊の状態で見つかり、うち7個から覚せい剤を検出、抽出して調べると、約1キロの綿に覚せい剤が約32%含まれていたといい、県警はこれをもとに、密輸された覚せい剤は全体で約215キロに上ると推計しています。船は2026年1月にUAEを出航、4月に名古屋税関から「覚せい剤を含む綿を積んだコンテナを発見した」などと通報があり、捜査していたもので、3人は同4月、搬送先だった県内の倉庫に現れたといいます。なお、3人はその後、不起訴処分となりました。名古屋地検は「公判で適正な判決が得られるかという観点から、収集した証拠の内容を慎重に判断した」としています。
  • 営利目的でブラジルからコカイン3キロ(末端価格7200万円相当)を密輸したとして、三重県警は15日までに、麻薬取締法違反(営利目的輸入)の疑いでブラジル国籍の容疑者を逮捕しました。2025年11月、大阪税関が関西空港に到着した荷物の検査で、プロテインの袋3点にコカインが入っているのを見つけたものです。何者かと共謀してコカインを国際宅配貨物でブラジルから三重県鈴鹿市の当時の容疑者宅に発送し、輸入した疑いがもたれており、三重県警は他にも関与した人物がいるとみて調べています。
  • ゼリー状の液状大麻を紙に塗り、オーブントースターなどに隠して米国から密輸入したとして、宮城県警は、運転代行業の容疑者を、麻薬及び向精神薬取締法違反などの疑いで逮捕しました。逮捕容疑は2025年12月と2026年1月、液状大麻(計約216グラム)をオーブントースターやトレーに隠し、米国から密輸したなどというもので、税関が同1月、成田空港で郵送物の段ボールに入ったトレーに、紙で包んだ液状大麻を見つけました。液状大麻は水をはじく性質のある紙に塗ってあり、もう1枚で挟んであり、宛先は容疑者宅になっており、宮城県警に通報したものです。トレーが容疑者宅に到着、県警が差し押さえて容疑者宅を捜索し、オーブントースターに隠した液状大麻のほか、覚せい剤、乾燥大麻といった他の違法薬物も押収、注射器なども見つかったといいます。容疑者はSNSを通して液状大麻などを買ったとみられています。容疑者については、横浜税関仙台塩釜税関支署も2026年5月、関税法違反容疑で仙台地検に告発し、地検が受理しています。
  • 茶葉の缶やインスタントコーヒーのスティックに見せかけて、覚せい剤を密輸したとして、福岡県警と門司税関は台湾籍の自称運転手の容疑者を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕しました。容疑者は、タイ・スワンナプーム空港から福岡空港へ、覚せい剤3キロ以上(末端価格1億5900万円以上)をスーツケースに隠して飛行機で入国し、密輸した疑いがもたれています。覚せい剤は小分けに袋詰めされ、タイの茶葉の缶やインスタントコーヒーのスティック状の袋に入れられており、税関職員が覚せい剤だと気づいたといいます。門司税関の担当者は「通常、販売されている状態と変わらない」状態だったとし、「非常に隠匿性が高いことが特徴」と話しています。
  • レターパックなどを使用し、覚せい剤を営利目的で密売していたなどとして、長崎市内に住む事実婚の男女2人が、これまでに覚せい剤取締法違反などの疑いで逮捕・送致され、このうち女が、麻薬特例法違反の疑いで再逮捕されました。2人は、2026年1月、営利目的で自宅で覚せい剤およそ13グラムを所持していたとして現行犯逮捕されました。その後も知人の男女らに覚せい剤を譲り渡した疑いや、大麻を所持した疑いなどで、これまでに合わせて4回逮捕・送致されていました。
  • 陸上自衛隊福知山駐屯地は、麻薬を使用したとして、第7普通科連隊の陸士長(22)を懲戒免職にしました。陸士長は2025年11月、大阪市内で勤務時間外に知人らと麻薬を使用、2026年3月に逮捕されて発覚したものです。駐屯地は「誠に遺憾。教育指導をさらに徹底し、再発防止に万全を期する」とコメントしています。
  • 海上自衛隊呉地方総監部は、液体麻薬を気化して吸引したり、所持したりしたとして呉潜水艦基地隊の1等海士(23)を懲戒免職処分としました。2026年2月、広島県呉市内の同僚宅で気化した液体麻薬を吸引し、翌日に部内であった抜き打ちの薬物検査で陽性反応があり発覚したものです。「仕事終わりにたばこ感覚で同僚宅のベランダやトイレで吸った」と説明しています。同僚隊員は認識していなかったといいます。その後の調査で大麻植物片や液体大麻の所持も確認されています。
  • SNSで麻薬を販売譲渡する内容を投稿したとして、京都府警は、麻薬特例法違反の疑いで、大学生の容疑者(20)を逮捕しました。また府警は同日、自宅で麻薬のMDMAカプセル1錠(約5000円相当)を営利目的で所持したとして、別の大学生の容疑者(20)を逮捕しました。容疑者は麻薬の画像とともに「極上入荷しました」などと投稿、別の容疑者宅の捜索では同様のカプセル錠が約60錠見つかったといい、2人は府内の同じ大学の3年生で、府警は共同で麻薬の密売に関わったとみて捜査しています。
  • コカインを使用したとして、麻薬取締法違反(使用)の罪に問われた人気音楽グループ「XG」の元プロデューサー、SIMONこと酒井被告の判決公判が東京地裁で開かれ、裁判官は拘禁刑1年4月、執行猶予3年(求刑拘禁刑1年6月)を言い渡しました。被告は2026年が2月、名古屋市中区のホテルの一室でコカインを使用、仕事関係者らと犯行を繰り返したといいます。判決理由で、被告が2年ほど前から関係者と断続的にコカインなどを使用したと指摘、違法薬物との「一定の親和性が認められる」としましたが、被告が事実を認めて反省し、再犯防止のために通院を始めていることなどを考慮し、執行猶予をつけるのが相当と判断しました。
  • 東京都内の自宅で乾燥大麻を所持したなどとして、麻薬取締法違反の罪に問われた、音楽デュオ「Def Tech」のMicroとして活躍する西宮被告の初公判が東京地裁で開かれ、西宮被告は「間違いありません」と起訴内容を認め、検察側は拘禁刑2年と押収した大麻の没収を求刑、弁護側は執行猶予付きの判決を求めて即日結審しました。報道によれば、西宮被告は海外留学中の20歳ごろから大麻を使い始め、逮捕時にはコカインや合成麻薬MDMAも使用していたとして、検察側は「薬物との関係は根深く、再犯の可能性がある」などとして厳罰を求めました。一方、弁護側は、被告が保釈後、薬物依存を防ぐカウンセリングを受けていることや、同居する家族の監督があることなどから、「再犯の可能性は極めて低い」としました。西宮被告は被告人質問で、事件当時、デビュー20周年のイベントなどを控え、「自分への過度な期待やプレッシャーから逃れたい」との思いでハワイから持ち込んだ大麻を使用したと説明、「多くのファンに残念な思いをさせ、傷つけた」として謝罪し、違法薬物との接点を断つことを「すべての人に誓います」と述べました。西宮被告は2026年2月、渋谷区の自宅で乾燥大麻3.517グラムを所持したほか、千葉県内を走行中の車内でコカインなどを使用したとしています。

合成麻薬フェンタニルが日本経由で米国に密輸されていることを追求する日本経済新聞が、2026年5月22日~23日にその後の動向を報じています。本件については、米麻薬取締局(DEA)の高官が初めて事実を認めています。フェンタニル密輸を巡り「日本は麻薬密売組織がセキュリティを回避するための経由地として機能している」と述べ、「日本から米国に入る商業貨物は中国発の貨物ほど厳重に検査されていないからだ」と指摘しています。米国のフェンタニル密輸は中国やメキシコが主な流入ルートだとの見方が強かった一方、DEAは日本が密輸の中継地点になっているとみて本格捜査に乗り出していました。中国組織の日本拠点や日本から不正取引を指図していたとされるリーダー格の足取りを追っていたとされ、DEA高官は日本がフェンタニルの製造拠点ではないとの見解を示しました。「フェンタニルの原材料を製造しているのは主に中国やインドだ。現時点で日本がフェンタニルの原産国だとは考えていない」とも述べています。米国で出回っているフェンタニルの大半は中国発で、中国の化学メーカーから原料となる前駆体がメキシコの麻薬カルテルに送られ、メキシコで加工・製造して米国に運ばれることが多いとされ、米疾病対策センター(CDC)の推計(2025年11月時点)によれば、死因が麻薬の過剰摂取だった人のうち、約6割がフェンタニルを含む麻薬系鎮痛剤「オピオイド」が原因でした。フェンタニルの致死量は2ミリグラムと、塩の粒で例えるとわずか約10~20粒で死に至るといいますが、最近は通常のフェンタニルより100倍強力で、致死量が0.02ミリグラムのカルフェンタニルという本来は象など大型動物向けの鎮静剤や、解毒剤では対処できない馬や牛向けの鎮痛剤キシラジンも出回り始めているといいます。麻薬カルテルにとってフェンタニルの取引は高収益のビジネスとされていることが蔓延の背景にあります。専門家は「フェンタニルは今や世界的な『商品』になっている。自国にはフェンタニルはないと主張する人もいるが、実際は世界中に浸透しつつある」と警告しています。また、中国の広域経済圏構想「一帯一路」が「違法取引がグローバル化する一因になっている」とも指摘されます。日本を含む50カ国以上でメキシコ最大規模の麻薬組織「シナロア・カルテル」の活動が確認されているといい、「脅威は流動的であるとともに世界的だ。国際的に協力し合う必要がある」と指摘されている点は、日本としても肝に銘じる必要があります。こうした状況の中、世界の調査機関がフェンタニルの流通経路の解析を進めており、日本経済新聞も2025年6月、フェンタニルの原料を米国に不正輸出する中国組織の中心人物が名古屋市に「FIRSKY株式会社」という法人を設立していたと報じました。少なくとも2024年7月まで、リーダーの中国人男性が日本から禁止薬物の集配送や資金管理を指示していた疑いがもたれています。暗号資産取引の分析では、取引先が米国やメキシコに加え、ロシアやオーストラリア、インドなどにも広がっていたことが分かり、日本を「安全圏」とみなし、マネロンや貨物偽装に関与していたとみられています。米当局は2023年、組織の実体と目される中国・武漢の化学品メーカー「Hubei Amarvel Biotech(湖北精奥生物科技)」を摘発、中国人幹部2人が米国で起訴され、2025年にそれぞれ懲役25年と15年の判決を受けました。欧州の調査報道機関ベリングキャットの分析でも、Amarvelと日本のFIRSKYが実質的に同一組織だったことが判明しています。FIRSKYは2024年に清算され、その後リーダーの活動拠点は中国国内に移り、日本経済新聞の分析では、2026年3月17日時点でリーダーの携帯番号にひも付く米マイクロソフトのアカウントにログインした形跡が確認されたといいます(5月22日時点では当該アカウントは確認できなくなっていました)。DEAは、フェンタニルを含む薬物密輸の取り締まり協力について海上保安庁と覚書を交わしました。海上輸送は麻薬密輸の主な手段となっており、情報共有を円滑にし、日本を経由した麻薬が米国に流入するのを防ぐ狙いがあります。米国ではフェンタニルの中毒者の増加が社会問題になっています(米国で麻薬中毒死の死因の大半を合成麻薬「フェンタニル」の摂取が占めています。CDCによれば、3年連続で死者数は減ったものの、解毒剤が効かない種類の薬物も出回り始めたとの指摘も出ています)。トランプ米大統領は2025年12月、フェンタニルとその原料を「大量破壊兵器」に指定する大統領令に署名、過剰摂取による死者が年間20万~30万人にのぼるとして、密輸摘発や組織取り締まりを一段と強化する姿勢を示しています。メキシコは2026年1月、凶悪犯37人を米国に引き渡し、中国も同3月、違法に利益を得ていた事業者や関係者を摘発しました。覚書の署名式に出席したグラス駐日米大使は「この問題は米国だけの課題ではない」と訴え、日本との協力の重要性を強調しました。彼末海上保安監はこれまでに日本国内でフェンタニルに関する摘発事例はないと説明、DEAと海上保安庁で相互に情報を共有できる仕組みが必要だと指摘しました。

フェンタニルを不正輸出する中国の組織が日本に拠点を置いていた疑いがあると報じた。

その他、海外における薬物関連の報道から、いくつか紹介します。

  • 米国務省は、合成麻薬フェンタニルが混入された偽造処方​錠剤を販売したとして、イ‌ンドのオンライン薬局「KSインターナショナル・トレーダーズ」に関​係した13人に対しビザ(査証)​発給制限措置を講じると⁠発表しました。米国務省によれば、KSインターナショナル・トレーダーズは、トランプ米大統領が「​大量破壊​兵器」に⁠指定したフェンタニルの密売を通じて収益を​上げていたとされます。米政府が同​社を⁠摘発したのは今回が初めてではなく、このオンライン薬局⁠は、​インド国籍の2人と共​に、フェンタニル混入の偽造錠剤を供給​したとして2025年に制裁を受けています。
  • 中米グアテマラが領内での麻薬カルテル掃討作戦への米軍の参加を容認したと米紙ニューヨーク・タイムズが報じています。トランプ米政権が中南米の小国に対する切り崩しを本格化させており、グアテマラのアレバロ大統領がヘグセス米国防長官と電話協議し、グアテマラの治安部隊が主導する麻薬密売組織に対する作戦で、空爆を含む米軍の軍事行動参加に同意したといいます。グアテマラ政府は声明で「いかなる国に対しても、領土内で外国の軍事作戦を認める協定は存在しない」として報道を否定しています。国内で非難を招く恐れがあり、表面的には共同作戦ではなく情報や物資面の支援にとどめたい意図があるとみられます。グアテマラでは2026年1月、「バリオ18」と呼ばれる国際ギャング組織が国内3カ所の刑務所を同時に占拠し、警察官10人以上を殺害する事件が起き、国内の治安が急速に悪化し、米軍の手を借りてでも改善したいという差し迫った危機感があるとされます。中南米は米国の「裏庭」として歴代の米政権から独善的な軍事作戦の標的とされてきました。米国への警戒感が強いものの、トランプ政権は麻薬対策を理由にして突破口を開く考えとみられています。南米エクアドルはすでに麻薬カルテル掃討での米軍との共同作戦に踏み切りました。中米では、グアテマラと国境を接するホンジュラスも親米の中道右派政権が成立したばかりです。ホンジュラスは麻薬カルテルによる暴力が深刻化し、2026年5月には少なくとも20人が死亡する農場での大量殺人事件が起き、アスフラ大統領はトランプ米大統領が同3月に米フロリダ州で開いた「米州の盾サミット」に参加し、協力を約束しました。トランプ政権が最終的に全面協力を得たいのはメキシコで、複数の麻薬カルテルをテロ組織に指定し、解体に執念を燃やすトランプ氏はメキシコ領内での直接攻撃に野心を隠していません。メキシコはトランプ氏の米軍の派遣要請を繰り返し拒否、2026年2月にハリスコ新世代カルテル(CJNG)の創始者、ネメシオ・オセゲラ元容疑者(通称エル・メンチョ)を殺害した作戦には、米連邦捜査局(FBI)からの情報提供が大きく貢献していたことがわかっています。一方、メキシコ政府は米中央情報局(CIA)の工作員と共に捜査活動を進めていたチワワ州を「州に外交権限などない」(シェインバウム大統領)として糾弾、FBIやCIAの強力な捜査情報を求める一方、共同作戦の実態が明らかになれば国内からの批判を招くことになります。こうした複雑な事情は中南米の多くの国に共通しています。

(4)テロリスクを巡る動向

以前の本コラムでも取り上げましたが、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)に関わりがあるオースト​ラリア国籍の女性と子どものグループが、シリアの難民キャ‌ンプから帰国しました(こうしたグループの豪州への帰国は今月2回目となります)。豪のバーク内​務相は、政府は帰国を支援していないと説明、「これらの⁠人々は危険なテロ組織に加わり、子供たちを言葉にできないような​状況に置くという恐ろしい選択をした」と指摘し、罪を犯した者​は「法の厳正な適用を受けることになる」と述べました。2026年4月にシリアの収容所で7年​以上を過ごした女性4人と子ども9人がオーストラリアに帰国した際は、女性2人が奴隷‌に関⁠する容疑でメルボルン空港で逮捕され、シドニーで1人がISへの参加などテロ関連容疑で訴追されました。2012年から2016年にかけて一部のオーストラリア人女性がISのメンバーとされる夫に合流するためシリアに渡り、2019年の「カリフ制国家」​の崩壊後、その​多くが収容所⁠に拘束されました。しかし、十数カ所の収容施設を警備していたクルド人主体のシリア民主軍(SDF)の崩壊​を受け、米国は2026年1月、拘束されているISメンバーをシリ​ア国外に⁠移送し始めました。豪の野党は、ISに関わる人物に対する帰国措置を非難、政府は、法執行機関と情報機関が10年以上にわたって帰国の準備を進⁠め、​帰国者を監視する計画を立てていると説​明、アルバニージー首相は議会で、「法律に違反した場合、治安機関の助言に基づ​き、可能な限り最大限の法の裁きを受けることになる」と述べました。

ナイジェリア北東部ボルノ州で、武装集団が学校などを襲撃し、少なくとも42人の子どもを拉致しました。ナイジェリア北部ではISに忠誠を誓う勢力などの武装勢力による住民の拉致や殺害が頻発し、歯止めがかかっていません。英BBC放送によれば、武装集団はバイクで学校を襲撃し、逃走時に子どもたちを盾として使ったとされます。ボルノ州では2026年3月、イスラム過激派とみられる武装集団が集落を襲撃し、女性や子どもを含む住民100人以上を連れ去っています。過激派掃討を進めるナイジェリア軍は、米軍と協力してボルノ州でISの拠点を攻撃し、幹部ら175人を殺害したと発表、米国のトランプ大統領も、自身のSNSで、米軍とナイジェリア軍がISのナンバー2にあたる幹部を殺害したと発表しました。ISについて、「世界的な活動が大幅に縮小する」としています。トランプ大統領は「世界で最も活動的なテロリストを排除した」と説明するも、具体的な場所や手法は明らかにしていません。殺害した幹部はナイジェリア国籍で、2023年に米政府が「特別指定国際テロリスト」に指定していたものです。

米国務省は、麻薬を密売するブラジルの犯罪組織「コマンド・ベルメリョ(CV)」と「首都第1コマンド(PCC)」を「特別指定国際テロリスト」に指定すると発表しました。ブラジルのルラ政権は指定に反発を続けていた経緯があり、両国の外交関係悪化につながる可能性もあります。米国務省によれば、CVとPCCは計数千人に上る「ブラジルで最も凶悪な組織」で、影響力は米国にも及んでおり、「麻薬カルテルや犯罪組織の解体、米国民の安全に対するトランプ政権の決意を示す」措置だと説明しています。ブラジルメディアによれば、ルラ政権は米国の圧力強化や軍事作戦につながる可能性を懸念、ルラ大統領はトランプ大統領と会談した際、指定に反対する立場を説明した文書をトランプ氏に渡したといいます。また、ブラジルのドゥリガン財務相は、理由をより詳しく理解するため米当局者に接触する意向​を明らかにしました。ドゥリガン氏は⁠、指定に先立ち米​政府から通知はなかったと述べています。「米国がこれらの組織について、われわれ​が知らない情報を把握して​いるなら連絡してほしい」と述べ、組織‌犯罪⁠との闘いに向けた協力を呼びかけました。同氏はこれまで、今回の措置がブラジルにとって、海外投資の​妨げにな​るなど複⁠数の面で影響を及ぼす恐れがあると指摘しており、リスク​増大⁠に伴い銀行が手数料を引き上げるなど、さらなる影響の可能性⁠に言​及、今回の指定​によりブラジルの金融機関が米国の制裁対象​となる恐れがあるとも警告しています。

パキスタン南西部バルチスタン州クエッタで、走行中の列車近くで爆発があり、少なくとも24人が死亡、70人以上が負傷しました。同国からの分離独立を求める武装勢力「バルチスタン解放軍(BLA)」が自爆テロを認める犯行声明を出しました。爆発物を積んだ自動車が客車に衝突し、爆発が起きたといい、列車には軍関係者や家族が乗っており、クエッタから北西部ペシャワルに向かっていたといい、週明けに始まるイスラム教の祝祭のために移動していたとみられます。パキスタンのシャバズ・シャリフ首相は、「卑劣なテロ行為だ」としてSNSで犯行を非難しました。同州では2025年3月にもBLAが列車を襲撃し、乗客らを人質にとる事件がありました。

米西部カリフォルニア州サンディエゴのモスクで2026年5月に起きた銃撃事件を巡り、連邦捜査局(FBI)は、現場近くで自殺した容疑者2人がオンラインの情報を通じて過激化したとの見方を示しました。容疑者は17歳と18歳の男性で、事件では現場の警備員ら3人が犠牲となっています。捜査当局はイスラム教徒を狙ったヘイトクライム(憎悪犯罪)の可能性があるとみて動機や経緯を調べています。FBIによれば、容疑者の2人はオンラインで知り合い、やりとりを重ねる中で、同じ地域に住んでいることが分かり実際に会うようになったといいます。事件当時、モスクに併設された学校には約140人の子供がおり、地元警察は、犠牲になった警備員が身を張って被害の拡大を防いだとの見方を示しました。容疑者の1人は事件前に親の家から銃器を持ち出し、遺書も残しており、母親が異常に気付き、事件の2時間ほど前に警察に連絡していたことも分かっています。

(5)犯罪インフラを巡る動向

長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の融資金をだまし取ったとして、詐欺罪に問われた北九州市小倉北区の会社役員の被告に対し、福岡地裁小倉支部は、懲役3年6カ月(求刑懲役6年)の判決を言い渡しました。報道によれば、被告は、実行役の男4人と共謀し、うち2人に改名させて別人を装わせ、虚偽の勤務先や年収を記した借り入れ申込書をつくり、源泉徴収票を偽造して虚偽の内容が記された課税証明書も取得し、2022年10月~23年6月に金融機関からフラット35の融資金計約9100万円をだまし取ったとされます。判決は、多数の者が関わる形で、信用情報などから住宅ローンの審査が通らない人を改名させ、収入を偽らせて融資金を詐取する仕組みを、被告が構築して実行したと認定、「住宅ローン制度の根幹を揺るがし、詐欺の中でも悪質性は高度な部類に属する。被告は主導的・中心的な役割を果たした」と指摘しました。共謀の罪に問われた男=懲役2年4カ月の判決、控訴中=の公判では、改名の詳細な手口も明らかにされ、被告が僧侶に謝礼金を支払い、修行の経験がないまま「得度証」を発行させ、男の出家を装い、その上で裁判所に氏名変更許可を申し立て、男の名を「将仁」から「将光」に改名したもので、福岡県警の捜査幹部は一連のスキームについて「人間のロンダリングがなされた」と指摘しています。本件は、いわゆる「ネーム・ローンダリング」の事例として認識していただきたいものです。なお、被告らは、住宅ローンを組みたい人を紹介したら紹介料約100万円を支払うマルチ商法のような手口で融資人を集めていたといいます。福岡県警は当初、収益の一部が暴力団に流れているとの情報を得て捜査しましたが、これまでに暴力団への資金流入は確認されていないということです

前回の本コラム(暴排トピックス2026年5月号)でも取り上げましたが、20代の利用者が多い「BeReal」による内部情報の流出は新年度以降、業界や職種を問わず起きています。一方、社員らのSNS利用に関し、企業の管理体制は十分とはいえない状況です。福岡市に本店を置く西日本シティ銀行では、職員が営業店内を撮影した動画や画像をインターネットに投稿し、拡散され、顧客7人の氏名が記載されたホワイトボードが写っており、同行は職員に顧客情報を扱う場所への私用スマホの持ち込みを禁止しました。仙台市立小学校でも、20代女性教諭が校務で使うシステムが表示されたパソコンをスマホで撮影し、投稿、画面には学校名と同僚の男性教諭1人の名前が写っていました。インスタグラムでも、日本テレビの情報番組「ZIP!」のスタッフによる入構証や番組の内部情報が含まれた資料の漏洩が起きています。帝国データバンクが2026年5月に行った調査によれば、従業員のSNSの私的利用による情報漏洩や炎上リスクなどに対し、ルールを整備している企業は23.2%にとどまっているとの結果となりました。また、「大企業」では50.5%がルールが「ある」と回答した一方、「小規模企業」で「ある」と回答したのは9.8%で1割を切っていました。若い世代を中心としたビーリアルなどユニークなコンセプトのSNSの広がりは、企業側にとって情報漏洩につながる危機管理上のリスクとなりかねず、情報管理を徹底するため、企業はSNSの機能について最新の動向を注視する努力が欠かせなくなっているほか、社員研修制度の見直しも迫られているといえます。職場でスマホの使用制限が緩和される動きもありますが、情報漏洩に対しては、デリケートな情報を扱う業種を中心に私用のスマホの持ち込みや、SNSの利用を禁じることが現状では最も有効だといえます。報道で成城大の新井学教授(認知心理学)は、幼い頃からデジタル機器が身近にあった20代は、SNSの危険性を理解しており、個人情報の発信には慎重さがあるものの、BeRealの特徴的な機能が「罠」となっているとし、「職場など機密情報のある場所にいるときに通知で投稿を促され、2分以内という時間制限によって焦りが生まれる。落ち着いた判断ができない状況で、不注意な投稿を誘発する構造になっている」と指摘しています。とはいえ、問題の根底にあるのは、他者から認められたい「承認欲求」だとされ、新井教授は「SNSはこの欲求を過剰に刺激する」と語り、使い方に警鐘を鳴らしています。なお、シンクタンク「Fiom合同会社」が、Z世代を対象にビーリアルを好む理由(複数回答可)を調査したところ、「リアルタイム性を共有する仲間との一体感」(42%)に続き、「加工をしてキラキラした投稿を作るのに疲れた」という回答が25%に上ったといいます。一方、「エルテス」の調査では、自分や知人だけが閲覧できる非公開のSNSアカウントの利用率は20代が約91%で最多となっているものの、こうした仕組みが安易な投稿につながっている可能性もあります。例えば、BeRealで閲覧した何者かがXに画像を転載することなどで内部情報は拡散する恐れがあります。同社は「新入社員は活躍する自分の姿を見てもらいたいと投稿する傾向があるが、閲覧者すべてが好意的とはかぎらない。投稿に嫉妬の感情を持った人が陥れてやろうと拡散することもある」、「一度拡散されればデジタルタトゥーとして残るので、投稿は慎重にする必要がある」と訴えています。

盗んだ高級車をバラバラにしてコンテナに入れ、中古車と偽って海外に密輸する手口が横行しています。巧妙な偽装のため摘発が難しいとされてきましたが、横浜港では、横浜税関が神奈川県警など首都圏の各警察との連携に本腰を入れ、ようやく水際作戦が成果を上げ始めているといいます。中古車輸出で全国有数の拠点となっている横浜港で2025年5月、税関職員が不審なコンテナに気づき、X線検査にかけたところ、申告書には中古のワンボックス車2台とありましたが、検査結果と合致せず、税関は手続きを踏み、後日コンテナを開けたところ、中からは、一部の部品が取り外されたトヨタ製の高級四輪駆動車「ランドクルーザー」2台が出てきたといい、アラブ首長国連邦(UAE)に輸出される直前でした。神奈川県警の捜査で、見つかった2台はいずれも愛知県で盗まれた車と判明、神奈川県警は同11月、車を輸出しようとしたとして、アフガニスタン国籍の男を関税法違反容疑で逮捕しました。「隠れみの」にされた中古車輸出は、コンテナ内に車や部品類が収納された状態で輸出申告が行われるのが一般的ですが、横浜税関は大型X線を活用するものの、全国2位を誇る横浜港の中古車輸出台数は約27万台(2024年)あり、1台ずつ検査するのは困難を極めるうえ、密輸する側はコンテナが開けられた場合を想定し、すぐには不正が発覚しないよう、盗難車の車体番号を貼り替えるなど、手口も巧妙化しているといいます。関税法違反の捜査しかできないという税関の「限界」もあいまって、摘発を阻んできた実態がありました。2024年以降、税関が警察との連携を強化、横浜税関は、横浜港を擁する神奈川県警、ヤードが集中する千葉、茨城、埼玉各県警や警視庁と、捜査情報の共有に踏み切った結果、摘発件数は急増しています。連携を強める背景には、ランドクルーザーなどの高級車盗難の多発があり、警察側は、盗難の実行役の摘発だけでなく、密輸グループの摘発に積極的に乗り出しています。北関東地域には、盗難車が一時的に保管され、解体やナンバー改造などを施す違法な「ヤード」が集中しており、盗難車の跡をたどっても違法ヤードが「ブラックボックス」になり、追跡が難しくなるケースが多かったといいます。一方、「川下」に当たる密輸ルートからは、盗難車の足取りをさかのぼる形でたどることができ、盗難現場と密輸現場、両方向から効果的に捜査するのが狙いで、実際、連携強化によって、「税関が見つけた車からさかのぼる『逆側からの捜査』ができるようになった」といいます。横浜港は地理的に北関東のヤードにも近く、盗難車の送り先とされる中東や東南アジアへの便数も多く、自動車盗グループにとっては利便性が高い港と見らrている可能性があります。税関の側も、「警察との連携で、幅広く法令を駆使した摘発が可能になった」と指摘しています。神奈川県警と横浜税関が2025年2月に摘発した盗難車の不正輸出事件では、1台約800万円相当の車を密輸グループが100万~150万円で盗難グループから買い取って海外に売却し、諸費用を引いた500万~600万円の利益を得ようとしていたことも判明しました。税関の担当者は「一連の役回りの中で、利ざやが多い密輸グループを集中的に摘発していくことは効果的だ」と話しています。なお、自動車盗の犯罪では、車の電子制御ユニットに不正な信号を送りエンジン始動などをさせる「CANインベーダー」の悪用や、「車体番号」が別の不正輸出に利用されている可能性など、複数の犯罪インフラが悪用されている実態もあります。

出入国在留管理庁は、不法残留・不法就労外国人の摘発強化に向け、SNS上の投稿を収集・分析するサイバーパトロールを強化する方針を明らかにしました。監視強化に乗り出した背景には、日本で暮らす外国人にとって、SNSが母国語で同胞と直接、やり取りできるコミュニケーションツールになっているだけでなく、一部の不法残留者を結び付け、不法就労や闇バイトなど犯罪行為の温床となっている現状があります。例えば、SNS上で日本に住むベトナム人がつながり、いわゆる「闇バイト」を含む仕事の紹介や、偽造身分証の売買を行っているとされ、2026年3月には、不法滞在のベトナム人らを金属研磨工場に派遣して働かせていたとして、静岡県の人材派遣会社が警視庁に摘発されました。ベトナム人らは、技能実習生として来日していましたが、賃金の低さなどを理由に実習先から逃走、仕事探しで頼ったのが、ベトナム国内でも利用者の多いSNS「フェイスブック」でした。人材派遣会社は、人手不足に悩んでいた工場にベトナム人らを送り込み、派遣料を得ていましたが、工場側も在留資格の確認をしておらず、SNSを入り口に、不法就労のスキームが構築されていた可能性があります。こうした構図は、ベトナム人に限ったことではなく、日本を訪れたさまざまな国の外国人が、SNSを滞在中の同胞とのコミュニケーションツールとして利用、偽造在留カードに関する情報を、外国語でやり取りする投稿も確認されているといいます。入国管理庁はSNSを重要な情報源と位置づけており、分析を行う専門部署の新設を目指しており、運用に当たっては、膨大な外国語の投稿から、不法就労に関連するキーワードを検知したり、出身国ごとのSNS使用の傾向を見極めたりする必要があり、「不法滞在・不法就労の端緒を抽出するようなツールを導入していきたい」としています。

女性1人が生涯に産む子供の推定人数を示す「合計特殊出生率」は世界で低下していますが、女性の社会進出に伴う晩婚化や経済不安が背景として指摘される中、SNSの利用拡大で対面交流やリアルな交際が減ったことが一因との見方が出ています。育児手当導入といった各国の少子化対策の取り組みに影響する可能性があります。米ノートルダム大のカーニー教授は「デジタルメディア環境の変化が恋愛の機会を減らした可能性は十分ある」と分析、米ワシントン大などの推計では2050年までに204カ国・地域の76%、今世紀末までには97%で長期的な人口維持に必要とされる出生率2.1を下回る見通しで、出生率低下は経済状況にかかわらず各地で進み、SNSが影響しているとの見方を後押ししています。経済協力開発機構(OECD)加盟国で唯一、出生率が1.0を下回る韓国では過去20年間で若者の対面交流が半減したとされ、別の専門家は、米国でも同様の傾向があり、出生率低下に影響した可能性を指摘、女性が自由にインターネットを利用しづらい南アジアでは独身の割合が低いとの統計もあります。経済的な要因だけが原因ではなく、従来の対策だけでは十分な効果を上げられない可能性が指摘されています。

総務省は、未成年の適切なSNS利用に向けた報告書案をまとめました。SNS事業者に対し利用開始時の年齢確認を厳格にすることなどを求めています。一方で諸外国のように年齢で一律に利用を制限することは望ましくないとしました。報告書案では前提として「情報アクセスと利用制限のバランスが必要」と明記、諸外国における制度整備の動向を把握しながら、単なる禁止ではなく、安心・安全に利用できる環境整備が重要だと訴えています。具体策として、SNSを運営する事業者や携帯事業者などに利用者の年齢確認を徹底するよう求めました。SNSは一般的に使用適正年齢を定めていますが、多くは確認を自己申告に委ねており、報告書案ではこうした状況を踏まえ「年齢確認の厳格化を検討すべき」だと明記しました。具体的な手法は利便性やプライバシーなどを考慮して検討すべきだとしています。SNSによっては年齢ごとに表示する広告などを制限する機能もありますが、利用開始後に追加で設定する仕様になっているケースも多く、こうした保護措置をSNSの初期設定とすることなども事業者に求めました。ただ、SNSごとに設計やサービス内容が異なることなどから「一律の使用年齢の制限は望ましくない」との見解を示しました(確かにサービスによって適正年齢が異なり非合理的との指摘はその通りかと思います。また年齢で一律に制限しても、子どもが規制対象外のサービスへ移ったり、年齢制限をすり抜けたりする可能性が高く、実際に豪の規制後の調査をみても、実効性に限界があることが判明しています。また、子どもたちの知る自由を考えても過剰規制は問題が大きく、重要なのは子どもを追い出すことではなく、年齢に応じたサービスを事業者に提供させることだといえます)。報告書案はSNS事業者以外に対しても保護措置を講じることを求めています。例えばSNSをダウンロードする際に利用するアプリストアでは、「レーティング」という年齢制限を指定する仕組みがありますが、アプリストアによって制限する年齢が異なるケースもあることから「どのような主体・体制がレーティングに関して青少年保護の役割を果たすべきか検討すべき」だとしました。このほか、スマホの購入時に店舗などでの年齢確認を徹底することや、端末側のフィルタリング機能を強化することなども明記しました。未成年のSNS利用を巡っては、2026年5月末のG7デジタル相会合でも共通原則を策定、年齢確認や保護者による管理を促して、SNS依存などから青少年を守るための7原則をまとめました。林総務相は「SNS等が青少年の心身に与える影響や、犯罪に巻き込まれるリスクといった課題に真剣に向き合わなければならない」と強調、「我が国でどのような対応策が望ましいか引き続き検討する」と述べています。今後は総務省の報告書案をもとに、こども家庭庁の検討会で青少年インターネット環境整備法の改正やガイドライン策定などの対応策を議論する見通しです。また、自民党は、子ども・若者のSNSを巡る依存、いじめ問題への対策強化を事業者に求める提言をまとめました。政府などが取り組みを評価し、必要に応じて課徴金を科す仕組みの導入検討などが柱で、近く政府に提出し、来年の通常国会で法整備を目指すとしています。提言は、利用者の興味に沿った内容を表示するアルゴリズム(計算手法)によって、SNS利用や動画視聴が長時間化していると指摘、子どもへの影響を考慮した設計とするよう要請、厳格なリスク評価や年齢確認なども訴えており、今後の動向を注視したいと思います。

▼ 総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 青少年保護ワーキンググループ(第5回)配布資料
▼ 資料5 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会青少年保護ワーキンググループ第一次報告書(案)
  • 利用に伴うトラブル傾向
    • 青少年によるスマートフォン等を通じたSNS利用が進む中、インターネット利用において青少年が遭遇するトラブルは多様化してきている。小中高・特別支援学校におけるいじめの態様別認知件数では、「パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる」が増加傾向にあるほか、知人や友人に個別に送信した自身の画像が意図せずSNS上において公開・拡散される事件なども起きている。
    • また、見知らぬ個人との遭遇によるトラブルも課題となっており、特に動画共有を目的としたサービスやSNSにおいて、プライバシー侵害や性的被害等の犯罪に遭遇する傾向がある。
    • さらに、SNSの利用は誹謗中傷やいじめなどのトラブルのみならず、青少年が犯罪に巻き込まれ、被害者となるだけでなく、犯罪に加担してしまう事態も生じている。
    • SNSに起因する事犯による被害児童数は、全体として減少傾向にあるものの、殺人や強盗、不同意性交、略取・誘拐といった重要犯罪等の被害者は増加傾向にある。また、このような事犯において、被害児童が自ら最初に投稿している割合は約7割にも及び、さらにフィルタリングの利用率は約1割にとどまっている。
    • 特殊詐欺をはじめとする犯罪やトラブルにおける、SNSを通じた募集や応募、個人情報提供行為などの問題は、青少年においても同様に発生しており、特殊詐欺の受け子などのいわゆる「闇バイト」で検挙された10代の約3割はSNSから応募したと供述している。
  • 豪州
    • 豪州では、2024年(令和6年)12月10日に「2024年オンライン安全法改正案」が成立し、2025年(令和7年)12月10日から適用が開始されている。
    • 同法では、16歳未満の利用者がアカウントを持つことを防止するための合理的措置を講じることをSNS事業者に義務付け(同法第63D条)、年齢確認の目的で使用した後は、収集した個人情報を破棄することをSNS事業者に義務付けた(同法第63F条)ほか、違反した場合は、最高4,950万豪ドル(約50億円)の罰金を科すことを規定しているが、16歳未満の利用禁止には、親権者同意などによる例外措置は設けていない。法適用開始時点の規制対象は、TikTok、X、Instagram、YouTube、Facebook、Threads、Snapchat、Reddit、Kick及びTwitchの10サービスであり、ゲームやメッセージアプリ、教育・健康系サービスなどは規制の対象外となっている。
    • なお、事業者が講じる「合理的措置」についてはガイダンスが定められており(同法第27条)、2025年(令和7年)9月に示されたガイダンスでは、推奨される年齢確認方法として、個人の年齢・年代を確認・推定・推測するために使用される様々なプロセスによる多層的な「年齢認証」が示されており、「年齢推定」「年齢推論」「年齢検証」などが含まれるとされている。
    • 同法の施行後、1か月程度で約470万件の未成年アカウントが削除されたとの発表もあるが、2026年(令和8年)2月には、ネット安全(eSafety)コミッショナーによる上記規制制度の包括的評価が開始され、2年以上にわたり、4,000人を超える青少年及びその家族を対象にアンケート調査等を実施し、その成果が2027年(令和9年)以降、順次公表される予定となっている。
    • さらに、同法は業界団体に対し、指定された違法・有害情報に対する業界規範の策定を義務付けており、ネット安全(eSafety)コミッショナーは業界規範の採否を決定し、要件を満たさない場合は規範の代わりに業界標準を自ら策定することができる。業界規範は、コンテンツのリスクや対象サービスに応じて定められているが、リスク評価の結果に応じたリスク軽減措置やコンプライアンスレポート(いわゆる透明性レポート)の提出などを義務付けている。
  • 米国
    • 米国では、各州において青少年を保護するための対応がとられているが、カリフォルニア州の青少年が利用し得るサービスに対するリスク評価と軽減措置を求める州法や、ユタ州やテキサス州のオンラインPF事業者に年齢確認や保護者同意の取得、一部機能の利用制限などを義務付ける州法などは、SNS事業者等による差止訴訟が相次いでおり、現在、執行差止めとなっている。
    • また、ニューメキシコ州では、PFの危険性をユーザーに警告せず、児童を性的搾取者から守らなかったとしてMetaを提訴し、2026年(令和8年)3月、陪審団が、同社が消費者を保護する州法に違反しているとして、3億7,500万ドル(約595億円39)の支払いを命じている。更に、カリフォルニア州では、同州に住む20歳の女性(訴訟開始当時は未成年)が、InstagramやYouTubeのアルゴリズムや自動再生機能などが中毒状態に陥るように意図的に設計されたことにより、依存状態となり精神的な問題を抱えたとして提訴し、2026年(令和8年)3月、陪審団が、Meta及びGoogleが危険なPFを設計したとして、600万ドル(約9億6,000万円41)のうちMetaに70%、Googleに30%の支払いを命じている。
  • 本会合においては、以下を共通認識として議論を進めることとした。
    1. 全般
      • 青少年の発信、創作、参加といった権利や、ウェルビーイングも必要な観点だが、青少年の安心・安全の確保を前提に、情報アクセスと利用制限のバランスが必要。
      • 単なる禁止ではなく、リテラシー教育も含めた、青少年が安心・安全に新しいテクノロジーを活用できる環境の整備が重要。
      • 諸外国における青少年保護に関する制度整備等の動向把握が必要。
    2. 環境変化
      • 青少年インターネット環境整備法の制定時と現在の状況は異なり、SNSなどのPFサービスの拡大、スマホの普及に伴うリスクの多様化といった現代の環境に対して、現在の制度では限界がある。
      • SNSが青少年のコミュニケーション手段となっている以上、発信に関するリスクについて考えることが重要。
      • 青少年は常時デジタル空間と接続することが前提になり、さらに生成AIの登場により、青少年は生成・発信主体にもなっている。
    3. リスクの多様化
      • 閲覧等のリスクだけでなく、SNS普及に伴う、発信・拡散・生成、依存、メンタルヘルスへの影響のほか、生成AIに関わるリスクなど、対応すべきリスクは非常に多様化。
      • 閲覧防止だけでなく、サービス内容に応じた、生成や発信の安全設計、年齢や発達段階に伴うバランス設計も考えることが必要。これに対応するためには、携帯電話事業者によるフィルタリングサービスだけでは限界が生じている
    4. 青少年保護を取り巻く関係者
      • スマホの普及に伴い、各関係者が果たすべき役割と現在の法的規律にアンバランスが生じているが、携帯電話事業者のフィルタリングサービスにのみ過剰な役割が期待されている。
      • 最初に青少年の保護責任を負うのは保護者であるところ、青少年のSNS利用の全責任を保護者に求めるのではなく、保護者が負わなければいけない責任は何か、事業者がサービス設計の安全性として負わなければいけない範囲はどこまでか、学校をはじめとする教育機関が果たすべき役割は何かを整理することが必要。
      • 技術的措置(携帯電話事業者のフィルタリングサービス、OSのペアレンタルコントロール、SNSサービスの保護措置)により、全てのリスクを解消、カバーできるものではないことから、引き続き、リテラシー向上の取組推進は必要。
  • 保護措置の在り方
    • PFサービスごとに設計・特性が異なることから、一律の使用年齢制限をかけることは望ましくないのではないか。
    • 各事業者に対し、サービスのリスクの評価と、当該リスクに対応する機能制限・保護措置(使用適正年齢を含む)、必要なリテラシー等の公表を求め、それを事業者外部から再評価する仕組みを構築すべきではないか。
    • 各事業者が設定する使用適正年齢については、保護措置の前提となるものであり、設定理由及び年齢確認の手法等についても、リスク評価の一環として公表を求めるべきではないか。
    • 事業者に対し、安全設計に取り組むインセンティブを作る仕組みづくりを検討すべきではないか。
    • リスクの再評価に当たって、検証に必要なデータを事業者等から収集できるような 措置を検討すべきではないか。
  • 保護措置の前提となる年齢確認
    • 現在多くの事業者において自己申告となっている状況を踏まえ、年齢確認の厳格化を検討すべきではないか。
    • 年齢確認について、どのような方法が合理的なものとしてあり得るのか、諸外国の動向も踏まえつつ、ユーザーの利便性、実効性のほか、プライバシーやセキュリティ上のリスクについても考慮した上で、確認の段階・方法・レベルについて検討すべきではないか。
    • 利用規約上の使用適正年齢をすり抜けてしまった場合の保護措置の実装についても、PF事業者に一定の対応を求めることも検討すべきではないか。
  • 保護措置の初期設定
    • PF事業者によるサービス提供上の保護措置が、保護者にも理解しやすいような内容・表示となっているか、確認が必要ではないか。
    • 保護措置の設定は複雑であり、実効性の観点から、利用者が青少年であることが確認された場合には、初期設定とすることが適切ではないか。
    • そもそも保護措置がない、若しくは初期設定とされていない場合には、改善を促すことができる枠組みが必要ではないか。
    • リスク評価に際しては、サービス設計に関わる機能が初期設定で制限されているかといった観点も取り入れるべきではないか。
  • アプリストアのレーティング
    • アプリストアによって適用されるレーティングに差異が生じることは合理的ではないが、一方で、政府がレーティングを指定するということは望ましくないため、どのような主体・体制がレーティングに関して青少年保護の役割を果たすべきか検討すべきではないか。
  • フィルタリング機能を含む技術的保護手段
    • 回線の多様化や新たなリスクに対応するためには、閲覧制限を目的とした「フィルタリング」よりも広く、技術で青少年を保護するという意味で「技術的保護手段」を求めることとし、環境整備法上の在り方について検討すべきではないか。
    • 発信リスク等の新たなリスクへの対応については、各関係者における技術的対応可能性を踏まえた役割分担を含む検討が必要となるが、OS事業者が提供する保護機能については、その有用性を踏まえ「技術的保護手段」として提供を義務付けるべきではないか。
  • 携帯電話事業者による各種確認義務
    • 現在の環境整備法上の携帯電話事業者に課せられた義務の履行のためには、青少年確認義務の履行は確実に行われるべきであるが、端末の購買形態の多様化も踏まえたうえで、改善を促す取組を検討すべきではないか。
    • 携帯電話事業者が確認した年齢情報を今後どのように活用していくのかについては、年齢確認手法の検討と併せて検討すべきではないか。
  • ICTリテラシーの向上
    • 事業者の取組や先進事例の現場への浸透、全国一律・体系的かつ継続的な学習機会の担保、啓発コンテンツへのアクセスの容易化、生成AI等の新たなサービスへの対応について、議論を深める必要があるのではないか。
    • PFサービスごとに青少年保護措置の内容が異なるなど、求められるリテラシーが多様化していることから、リテラシーの向上は重要であり、リテラシー教育が引き続き必要であることは間違いないが、青少年及びその保護者に対して、これまでのリテラシー教育に加え、事業者側が用意した技術的な保護措置の利用の促進を図ることも重要ではないか。
    • インターネットの技術・サービスの進展は早いため、青少年だけでなく、保護者・教職員という枠にとらわれない「大人」のリテラシー向上に努めるべきではないか。
  • スマホソフトウェア競争促進法関係
    • スマホソフトウェア競争促進法について、青少年保護の観点から、チョイススクリーンのフィルタリングへの影響など、施行に伴う影響を確認していく必要があるのではないか。また、必要に応じて注意喚起を行うなどの対応が必要ではないか。

米メタは、SNS「フェイスブック」と「メッセンジャー」の18歳未満の未成年利用者を対象に、有害コンテンツの閲覧制限を全世界で強化すると発表しました。不適切な投稿を初期設定で非表示にするもので、米国内で若者のSNS依存をめぐる訴訟に相次いで敗れ、対応を迫られたとみられます。メタは「インスタグラム」について同様の制限措置を、米国や英国、日本などで先行導入しており、これを拡充します。18歳未満の利用者のタイムラインや検索結果から、性的表現や暴力など大人向けの投稿が自動的に排除されるようになります。インスタグラムでは、筋力トレーニングやダイエットなど一見すると有益なコンテンツも、繰り返し自動表示することを防ぐアルゴリズムの試験運用を始めました。若者を摂食障害や精神的依存へ追い込むとの批判があったためで、コンテンツのバランスを調整するとしています。メタは「保護者や専門家との協議に基づく自主的な改善」と説明していますが、法的責任をめぐり追い込まれていたのが実態です。(本コラムでも以前取り上げたとおり)ロサンゼルスの裁判所は2026年3月、SNSの仕組みがタバコやカジノのように若者の依存を招き、精神的危害を与える「欠陥製品」だとしてメタを含むテック企業の法的責任を初めて認めました。メタはニューメキシコ州でも、児童への性的搾取を防げなかったとして、同州の司法長官から州消費者保護法違反で訴えられ、3億7500万ドルの賠償金の支払いを命じられています。メタのリー最高財務責任者は同1月の決算発表で、損害賠償額が膨れれば、「重大な損失につながる可能性がある」と述べ、危機感をあらわにしていました。欧州連合(EU)などでは未成年のSNS利用をめぐる法規制が急速に進んでおり、メタは世界共通の基準を打ち出すことで法的リスクや社会的信用失墜を回避する狙いがあるとみられています。ただ、各国で問題視されている「無限スクロール」や「自動再生」などの機能は廃止しない方針で、利用者の年齢確認も課題で、子どもたちが生年月日を偽り、大人として登録すれば、未成年のための対策が骨抜きにされてしまいます。メタはAIを用いた年齢予測技術を強化するとしていますが、親に隠れてアカウントをつくる行為を完全には防げそうにありません。

欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は2026年4月、オンラインサービスの年齢確認に使える独自のアプリを公表しました。EU加盟国では子どものSNS禁止を検討する動きが広がっており、アプリで規制の実効性を高められるとして、域内だけでなく世界各国にも採用を呼びかけています。欧州委員会はSNS対策をEUの重要政策と位置づけており、すでにフランスなど一部加盟国が子どもの利用禁止に向けて動き、欧州委員会もEU全域での規制の可否を検討し始めています。2025年に国レベルでは世界で初めて16歳未満の利用を禁じる法律を施行した豪を参考にしていますが、サービス利用時の年齢確認を確実にすることが重要になります。SNSや成人向けサイトの入り口では現在も年齢確認の画面が表れますが、子どもでもクリックすれば入れるケースも多く、このため欧州委は実効性のある独自の年齢確認アプリの開発を急いでいました。EUのアプリは使い勝手の良さを重視、まず利用者はスマホなどの端末でアプリをダウンロードし、住民IDやパスポートなど身分証の情報を登録、アプリ上に年齢以外の個人情報は残らない設計にしました。オンラインサイトの年齢確認時に表示されたQRコードをアプリのカメラで読み取ると、短時間で認証でき、今後、EU各加盟国でダウンロードできるようにする方針です。欧州委員会はコロナ禍でEUが開発した、ワクチン接種証明アプリの知見を応用したと説明、当時はアプリで接種証明書をスキャンし、コンサート会場への入場時や空港での検査時に示していました。フォンデアライエン欧州委員長はEUのアプリを世界各国が採用するよう働きかける考えも示しました。技術仕様を開示した「オープンソース」のアプリにしたことで、域外の国での開発にも活用してもらうとしていますが、欧州の研究者らからはシステムのセキュリティ上の問題があると指摘されました。また、SNSや成人向けサイトなど運営企業側の協力について、QRコードの表示など、サービス提供者がアプリと連動した認証の仕組みを用意する必要があり、。フォンデアライエン欧州委員長は「子どもたちの権利を尊重しない企業には一切、容赦しない」と宣言、非協力的な企業に対し「責任を追及していく」とも語りましたが、企業側にどうやってアプリとの連携を迫るかも課題です。欧州委員会は違法コンテンツ対策をプラットフォーマー企業に義務付けるEUのデジタルサービス法(DSA)を用いるとみられています。欧州委員会は2026年4月下旬、米メタが手がけるSNS「インスタグラム」と「フェイスブック」がDSAに違反しているとの暫定的な見解を公表、メタ側が年齢確認の仕組みを十分に設けていないことを理由に挙げました。メタに早急な設計変更を要請し、改善がなければ制裁金を科す可能性に言及しました。現時点では「アプリの導入は義務化しない」(欧州委関係者)ものの、DSAによる調査や制裁を武器にEUアプリの採用を企業に働きかけていく戦略といえます。アプリを行政主導でつくる場合も、セキュリティに不安を残せば利用は進まず、仮に優れたアプリでも、企業側がアプリとの連携を拒めば使われないことになります。企業に協力させる規制の強制力か、前向きなインセンティブが要り、SNSを運営する米テック大手への締め付けを強めれば、トランプ米政権の反発を受けるリスクも考えられるところです。米国はこれまでDSAによる規制を何度も批判してきました。年齢確認アプリを巡るEUの議論は日本などでもSNS規制のあり方を考える際に役立つ可能性があります。

SNS運営企業に対し、自社アプリが子どもや10代の若者に与​える影響についてより大きな責任を‌求める米国の法案が、大きなハードルを越えました。共和党の有力上院議員が法案を支持す​ると表明、テッド・クルーズ上院議員​は「子どもオンライン安全法(KOSA)」​を支持する意向を示しました。同法案は、​未成年者への被害につながる機能の設計に際し、SNS運営企業に「合理的な注意義務」を果たすよう求める内容で、被害のリストには摂食障害、うつ病、未成年者に対する性的ハラスメントなどが含まれています。クルーズ氏の支持は大きな意味を持ち、同氏は上院商業委員会の委員長を務めており、同委員会は通常、本会議​での採決​に先立ち⁠法案を審査・承認する役割を担っています。クルーズ氏は過去に​同様の法案を支持していたが、​現在⁠の会期ではこれまで委員会での正式な採決を行っていませんでした。クルーズ氏は「商業委⁠員会で可​決し、上院でも可決す​る」と強調しています。

未成年を有害な情報や依存から守るため、世界中で子どものSNS利用の禁止が広がっていますが、一方で、46カ国が加盟する国際機関「欧州評議会」のオフラハティ人権弁務官は「図書館を閉鎖するようなものだ」と警鐘を鳴らしています。2026年5月31日付朝日新聞によれば、同氏は「供給側のSNS事業者側への規制が十分でない以上は、条件反射的に禁止することは避けるべきです。SNSにおける子どもへのリスクは甚大であり、保護が必要なことは言うまでもありません。しかし、年齢や背景を考慮せずに一律に禁止することが本当に必要で、効果的なのでしょうか。私には、図書館を閉鎖するような、あまりに粗暴な議論に思えてなりません」、「SNSは現代社会において、情報へのアクセスやつながりを提供しています。これはすべての人のアイデンティティーや尊厳に不可欠であり、社会的マイノリティーの若者にとっては「命綱」にすらなり得るものです。表現の自由という観点からも重要です。制限をかけるのであれば、必要性と均衡性、子どもの発達段階を厳格に尊重し、細心の注意を払わなければなりません。各国政府や議会は一度立ち止まり、専門家や市民社会、そして子どもたち自身とも十分に協議するべきです」、「若者の尊厳を尊重しながら、真に「効果的」な対策を考える必要があります」、「子どもの利用ではなく、プラットフォーマーを規制することが絶対的に必要です。利用禁止という手法は、安全に関する責任をその環境をつくりだしている企業から、利用する子どもたちに転嫁するようなものです。不透明なアルゴリズムが過激な内容へと誘導し、操作的なデザインが依存を引き起こしています。こうした根本原因に対する規制介入こそが必要です。各国政府は事業者に対し、設計段階や初期設定の時点で子どもへのリスクを防止・軽減することを義務づけ、対策を怠ればその責任を厳格に追及すべきです」、「同時に、需要側である子どもから大人まで、デジタルリテラシー向上への投資も欠かせません。虚偽や意図的な操作を見抜き、私たちの社会にとって、かけがえのない資源であるデジタル空間をより安全に使いこなせるようにする。一律の禁止ではなく、子どもの尊厳を尊重し、真に効果的な保護策をサービスの提供側と利用側の両面から考えるべきです」といった主張で、大変説得力があります。前述の日本の総務省の報告書案とも通じるものがあります。

情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)の施行を受け、SNSを運営する各社が投稿の削除対応などを公表しました。利用者からの申請を受けた削除率はいずれも50%未満で、Xは1年間で日本の利用者から7600万件の報告を受けましたが、非表示などの対応は0.1%にとどまりました。2025年4月に施行した情プラ法は、SNSの誹謗中傷などの投稿への対応を運営事業者に義務付けるもので、米メタやX、LINEヤフー、TikTokの運営企業など9社を対象事業者に指定し、年に1度、対応状況を公表することも義務付けました。Xは2025年4月からの1年間で、攻撃的な行為や嫌がらせ、なりすましといった日本からの報告が7600万件にのぼりましたが、そのうち削除や非表示で対応したのは7万9000件にとどまりました。アカウント停止は4万7000件でした。メタでは2025年7月末から2026年3月末の間に、フェイスブックでは134万件、インスタグラムでは15万件の削除の申し立てがあり、それぞれ64万件と3万8000件について、削除などの措置をしました。TikTokは同期間に約6万件の削除申し立てがあり、約14000件を削除し、その9割が名誉毀損でした。米グーグルが運営する「YouTube」では2450件の法的削除の申し立てがあり、そのうち名誉毀損が1002件で、実際に削除したのは289件で、名誉毀損は155件でした。LINEヤフーは質問投稿サイト「Yahoo!知恵袋」や縦型ショート動画「LINE VOOM」など4サービスが情プラ法の対象で、この4つでは2025年4月~2026年3月、オンライン経由で延べ5500件ほどの削除要請を受け付け、うち約1000件で削除しました。書面でも1000件超の申請がありました。サイバーエージェントは同期間に1056件の申し立てを受けて、595件を削除、名誉毀損・誹謗中傷については193件の申し立てのうち、89件を削除しました。情プラ法では、大規模なSNS運営者にはオンラインで受付窓口の設置が義務付けられた。投稿の削除申請があった場合は、7日以内に対応を決めて通知する必要があり、運用の透明性を図ることで、ネットの言論空間の健全利用を促す狙いがあります。監督体制の一部も明らかになっており、YouTubeでは、日本語のコンテンツの審査ができるモデレーターが293人、LINEヤフーが145人だったのに対し、TikTokは6人、メタとXは公表していません。投稿数が膨大なことから、各社はAIを内容の確認や、審査の優先順位付けなどに活用しています。一橋大大学院の生貝直人教授(情報法)は「これまで情報が限られていた権利侵害などへの対応状況の公表は、事業者の取り組みの透明性を高める上での第一歩だ」としつつ、各社がそれぞれのやり方でウェブサイトなどで公表しており、一覧性に課題があり、「同様の報告を事業者に義務付ける欧州のDSAなどを参考に、公表内容や頻度についてもさらに充実させていくことが求められる」と指摘しています。また、SNSに詳しい沼田知之弁護士は「SNS各社は自社の規約に違反すると判断した投稿は積極的に削除しているが、利用者からの削除申請に対しては対応が限定的だ」として「利用者の申請に対して実効的な審査体制を義務づけるなど、踏み込んだ対応が必要となる可能性がある」と指摘しています。

米国でスマホやパソコンから離れて過ごす「デジタルデトックス」の動きが広がっているといいます。スマホを手放してSNS漬けの生活から距離を置き、対面で交流して、印刷物の本を持ち寄って会話を楽しむといったイベントが人気を集めています。動画共有アプリ「TikTok」などのアプリが普及するにつれて「SNS疲れ」が広がり、携帯を使わずに人と対面で交流する集まりやアナログな趣味への関心が高まっており、それを事業化する米国人も多く現れています。若い世代を中心に、携帯電話の端末をよりシンプルな機種に替える動きも広がっており、音声による通話やテキストのメッセージ、アラームといった最低限の機能しか持たない端末が注目されており、SNSやメール、ゲームを気にしないで生活できることにつながります。こうした「オフ活」の広がりはスマホやSNSを過剰に使うことにともなう心の不調などに対する揺り戻しという面があります。

サイバー犯罪組織がAIを使い、まだ知られていないソフトウエアの欠陥「脆弱性」を発見し、サイバー攻撃を仕掛けようとしていたと、米グーグルが発表、同社でこうしたAIの悪用事例を見つけたのは初といいます。グーグルの専門チームがまとめた報告書で明らかにされたもので、著名なサイバー犯罪組織が、あるシステム管理ツールの脆弱性を悪用し、認証を回避してシステム内に侵入する大規模な攻撃を計画していたといいますが、発覚時期やソフト名は明らかにされていません。攻撃に使おうとしたプログラムを分析したところ、人間では発見が難しい高度な未知の脆弱性の情報に加え、実在しない架空の指標などが含まれていました。AIが誤った回答を生成する「ハルシネーション(幻覚)」と似た現象で、グーグルはプログラムの書式なども分析し、「脆弱性の発見と攻撃ツールの作成に、AIが使われた可能性が高い」と結論づけたものです。同社がソフト開発者に情報を共有したため、攻撃実施前に対策できたといいます。グーグルの脅威インテリジェンスグループのチーフアナリスト、ジョン・ハルトクイスト氏は今回の事案について、サイバー犯罪者および国家からの支援を受けたハッカーがAIを悪用してハッキングの技術革新を進めていることを示す「氷山の一角」だとの⁠見方を示しました。サイバー攻撃ではこれまで、コードや文章を書いたり、標的となる組織や人物の情報を整理したりするのにAIが使われてきましが、今はAIが標的側のコンピューターの操作画面表示を理解し、攻撃手順を作り出して次の行動を自ら実行、人間が操作しなくても、AIが状況に応じた攻撃を仕掛けるようになっています。攻撃の速度や規模、精緻さは劇的に高まっているほか、まだ知られていないシステムの弱点をAIが見つけて、その弱点を突く攻撃プログラムを作成している例も判明しました。AIは性能進化で脆弱性を見つけたり、攻撃ツールを作ったりする能力が高くなっており、米アンソロピックは2026年4月に発表した最新モデル「Mythos(ミュトス)」について、悪用リスクが高いとして一部企業・政府機関などを除いて非公開にしました。同社はミュトスで未知の脆弱性を多数発見し、攻撃テストにも成功したとしています。未知の脆弱性は「ゼロデイ」と呼ばれ、悪用されると防御策が難しく、実際の攻撃で、ゼロデイの脆弱性発見にAIが使われたことが明らかになるのは珍しいといえます。報告書ではAIを悪用したサイバー攻撃が広がっているとしており、例えば、ロシア系組織が開発したウイルスソフトでは、悪意を隠す目的でAIが生成した無関係な大量のプログラムが含まれていました。また、中国や北朝鮮系のサイバー組織は、AIを使った脆弱性発見・攻撃への関心が高いとしており、AIに大量の脆弱性データを学習させたり、攻撃の発信元を隠すアプリを開発したりした形跡があったといいます。日本企業を狙ったある攻撃では、AIが状況に応じて自律的に攻撃ツールを切り替える動きをしていたといいます。グーグルはこれらの技術はまだ初期段階にあるものの、複雑な攻撃に必要な時間と専門知識が少なく済むようになることにより、サイバー攻撃を加速させる恐れがあると警告しています。なお、すでにグーグルはAIを弱点の発見や自動修正などに活用するなど、「サイバー防御」のツールとして本格運用し始めています。サイバー空間は今後ますます「AI対AI」の攻防が激しくなるとみられています。

前回の本コラム(暴排トピックス2026年5月号)でも取り上げましたが、ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃を受けた企業のうち、6割は身代金を払ってもシステムやデータを復元できておらず、暗号化の手口が周到になり、攻撃者の要求に応じれば脅迫が続く恐れもあり、事業への影響を最小限に抑えるため、「復元失敗」を前提に備える必要があります。一般財団法人「日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)」が2026年1月、国内企業のランサムウエア被害を調査、1107社が回答し、被害を受けたのは507社、サイバー攻撃集団の要求に応じて身代金を払ったのは222社で、このうち63%(139社)は身代金を払ってもシステムやデータを復元できなかったといい、攻撃者側が対応しないケースや、既に削除・改ざんされて復旧できない場合もあるといいます。警察庁は2026年3月に公表したサイバー空間を巡る報告書で、身代金支払いは「犯罪グループの活動資金となることが懸念される」と強調、金銭を払えば要求に応じる企業とみなされ、「さらに要求を受けたり、別の集団から攻撃を受けたりする恐れがある」(警察幹部)と指摘しています。対策としてはオフラインでのバックアップが欠かせず、JIPDEC調査によれば、被害に遭ってからシステムの復旧作業にあたった期間は1週間以上が68%、2カ月以上影響が続いた企業も12%あり、サイバー攻撃を想定した事業継続計画「サイバーBCP」も早期復旧を左右し、警察庁によれば、サイバーBCPの策定率が高いほど復旧までの時間が短くなる傾向がみられました。ただ、被害に遭った企業・団体の策定率は18%にとどまるのが現状で、経営上のリスクとして対策を講じていく必要性が高まっています。なお、2026年5月16日付産経新聞の記事「サイバー企業恐喝 「身代金は払わぬ」徹底を」では、「一度払えば「応じる企業」と世界中の恐喝集団に共有され、日本企業への攻撃が加速する恐れがある。この深刻性を社会全体で認識すべきだ」、「企業にはさらなる覚悟が求められる。サイバー対策をコストとみなして後回しにしてはならない。完全オフラインのバックアップを持ち、復元方法の多重化を確保するなど、やるべき事前対策を徹底することが大切である」、「政府・警察は被害に遭った企業を孤立させてはならない。被害企業は業務停止による莫大な損失や顧客対応、情報流出への恐怖、取引先への責任など多くの困難の中で判断を迫られている。「払うな」と言うだけでなく、「払わずに済む環境整備」を一層充実させるべきだ。迅速な相談や復旧専門家の派遣など被害時の対策の選択肢を増やし、周知したい。特に中小企業への周知徹底がもっと必要だ。相談・支援窓口が官庁や外郭団体など分散し、企業にとって複雑な現状も課題だ。必要なのは、「払わない」という大原則を貫ける支援体制を築くことである」と指摘しており、正に正鵠を射るものといえます。

その他、サイバーセキュリティを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米通信大手ベライゾンが公表した通信業界のセキュリティに関する年次​報告書によれば、昨年のデータ侵害はAIによって特定された脆弱性を突かれたケースが、盗まれた認証情報を使われた事案を上回っ​たといいます。3万1000件余りの事案を分析したところ、AIによって特定された脆弱性の悪用が全体の31%に上りました。報告書は、サイバー犯罪者がAIを使うことで「既知の脆弱性を悪用するまでの時間を加速させており、防御側が対応のために使える猶予は、数カ月からわずか数時間に短縮している」と警鐘を鳴らしました。犯罪​者は生成AIを、標的の選定、初期の侵入、マル​ウェアや各種ツールの開発など、サイバー攻撃のあらゆる‌段階⁠で活用していますが、AIの主な影響は現時点ではまだ「運用面」にとどまっており、「新規またはまれな攻撃手法を生み出す段階には至ってい​ない」ものの、AIの急速な​進化を踏まえ⁠ると、こうした見方はすぐに転換せざるを得なくなる可能性がある​といいます。サイバー犯罪者は平均で15種類の攻撃手法にAIを活用しており、中には50種類の手法でAIを利用している例もあったといいます。
  • 詐欺や不正なサイトへの誘導などに使われる「なりすましメール」を防ぐシステムを正しく設定している大学が、4%にとどまることが、GMOブランドセキュリティの調査でわかりました。被害にあえば社会的な信用を損なうおそれがあり、適切な対策をとるよう呼びかけています。メールの発信元が正しいかを判定する「SPF」や、SPFなどで認証が失敗した場合にメールをそのまま受け取らず拒否したり、迷惑フォルダーに隔離したりする「DMARC」を正しく設定していたのは14校(4%)にとどまり、いずれも設定していない大学は27校(8%)あったといい、国立大でも適切な設定は85校のうち、東京大や北海道大など5校(6%)で、SPFもDMARCも設定のない大学も9校(11%)あったといいます。大学に関わるアドレスからのメールは、学生や保護者、世界中の研究者や取引先から開封されやすく狙われやすいため、同社は「フィッシング詐欺や不正アクセスに利用されれば、長年築いた信頼を失いかねない」として対策を呼びかけています。
  • キヤノンITソリューションズは、企業のサイバーセキュリティに関する調査を実施、サプライチェーン内の企業の対応を「十分に把握できている」企業は16.5%にとどまる結果となりました。サプライチェーンの上流に位置する企業でセキュリティに関わる担当者109人と、上流企業から要請を受けるサプライヤーの担当者111人に調査、調査では上流企業のうち84.4%がサプライチェーンの企業のセキュリティ対応状況の確認自体はしていたものの、「十分に把握できている」との回答は少なく実効性が伴っていない現状が浮き彫りになりました。実務の負担や、セキュリティ評価の難しさが重荷となっています。政府は今後、サプライチェーンのセキュリティ対策評価制度の運用を始める予定ですが、調査によれば、サプライヤーで制度を認知している割合は77.5%で、うち90.7%が準備に着手したと回答、一方で課題として「専門人材不足(54.1%)」、「予算の制約(44.1%)」が挙がりました。サプライチェーン内でのサイバー攻撃を発端に、上流企業や供給網に影響が出る事例が相次いでおり、同社は上流企業に関してはサプライヤーへの要請の根拠や範囲の明確化が重要で、サプライヤー自身も対応すべきものに優先順位を設けることなどが必要としています。

米フロリダ州のジェームズ・ウスマイヤー司法長官は、対話型AIサービス「ChatGPT」を手がけるオープンAIと、同社のサム・アルトマンCEOを州裁判所に提訴したと発表しました。州政府がオープンAIを相手取って提訴するのは全米で初めてといいます。州政府は訴状で、オープンAIはChatGPTが「依存症や認知機能の低下、自殺、暴力」などを助長し、k未成年者に依存を生じさせる危険性などを認識しながら、安全性を強調してサービス提供を続けており、州の消費者保護法などに違反すると主張、「一連の被害はAI開発競争に勝利し、巨額の富を蓄えようとする追求によって引き起こされた」と非難、同社とアルトマン氏が安全性よりも利益を優先し、社内外の専門家からの度重なる警告を無視したとしています。また、親の同意なしに13歳未満の利用者の個人情報を収集・利用しているとして、差し止めや損害賠償を求めています。ウスマイヤー氏は声明で「オープンAIとアルトマン氏は社内外からの安全性に関する警告を無視し、子どもたちを危険にさらした」と批判、未成年の利用者がやり取りする場合にプログラムを変更するように命じる裁判所命令や、数十億ドル(数千億円)規模の損害賠償を求めています。フロリダ州の当局は2025年4月にフロリダ州立大学で2人が死亡した銃乱射事件を巡り、容疑者が犯行前にChatGPTで銃に関する情報などを得ていたとして、2026年4月にオープンAIの刑事責任の有無について捜査を始めています。

米新興アンソロピックの最新AIモデル「クロード・ミュトス」の登場で、高性能AIの悪用への警戒感が高まっており、マルウエア(悪意のあるプログラム)解析の第一人者として知られる三井物産セキュアディレクションの吉川フェローは、「サイバー攻撃に必要な技術、コスト、時間のハードルが格段に低くなり、従来の防御の常識が通用しなくなっている」と警鐘を鳴らしました。ミュトスに代表される最新AIモデルは、システムの脆弱性を発見する能力が高いとされます。しかし、吉川氏は「最大の変化は技術の高度化よりも攻撃の『大衆化』だ」と指摘しています。例として、人間がAIに対し、欠陥が修正されていない機器を探すよう命令するケースを挙げ、「AIが短時間のうちに標的リストを示し、攻撃コードのひな型も書き、侵入に成功すれば、システムのどこを狙うべきかを助言までするような事態が想定される」と危惧、いずれも熟練ハッカーが勘と経験を頼りにしてきた作業です。また、サイバー攻撃の仕組み自体は変わらなくても、AIの進化により「攻撃のハードルが下がり、速度が上がる」との懸念もあります。その結果、標的の範囲が広がり、「うちは小さい企業だから狙われないだろう、という認識が通用しなくなる」とみています。吉川氏は必要な対策として「高価なAI防御システムでなく、従来行われてきた当たり前の対策だ」と説いています。「多くの攻撃者はわざわざ手間のかかる標的を狙わず、基本的な不備を突いてくる」ためで、端末など自社の資産を把握し、インターネット上に公開されている機器を適切に管理し、複数の手段による認証や修正プログラムを適用する、といった地道な取り組みが効果を生むと強調、「施錠された守りの堅い家よりも、無施錠の家が狙われる原則はサイバー空間にも当てはまる」と訴えています

一方、ミュトス騒動に冷静な指摘もあります。千葉大学大学院教授の神里達博氏は、「「AIが自らプログラムを書き換える」と聞けば、すごい進化のように感じるかもしれない。だが「プログラムがプログラムを作る」という技術自体は、かなり昔からある」、「この他にも色々な最近の技術がうまく調整され組み合わさることで、ミュトスでは大きな性能向上を達成できたのだろうと考えられている。この能力向上について「質的な違いが生じたのでは」と警戒する意見もあるようだ。しかし、その性能評価は基本的に制御された「テスト環境」での値だ。いわば「校内模試の点が高かった」のだ。もちろんそれ自体も意味はあるが、仮に実際の現場でサイバー攻撃に使ったとして、どこまで「通用」するかは未知数だ」、「アンソロピック社は安全性や倫理性を重視する社風だ。「危険だから公開しません」はこの会社の哲学と合致する。一方で、現状のミュトスは計算負荷が大きく、コストが高すぎて採算がとれないから非公開としたのではないか、との見方も専門家の間では根強い。またア社に限らず、最近の大手AI企業では、AIが安全保障に関わると強調することで、自らを「戦略インフラ」として位置づけようとする動きも目立つ。国家と技術が密に結合していくこの構図は、冷戦期の核関連技術の姿にも似ている。一般に、ある技術が安全保障に関係しそうだとなれば、官僚機構や軍は「重大性」を誇張し、専門家の側もしばしば予算獲得のために自己演出をする。AI技術の場合も、株価を維持し、莫大な資金や優秀な人材を確保する上で、AIの「神話化」は好都合であろう。実際、AI企業家や研究者の中には「人類の命運をAIが握る」とか「人類を超える知能の出現が近い」といった話を好む者が、一定数いる。最近のAIは確かに急速に性能が上がっているので、その種の話を信じる人も増えたのかもしれない。だがそれも含めて「ハイプ(過剰な期待や宣伝)」だという声は少なくない」として、・・「AIの歴史にはしばしば「ハイプ」の影がつきまとってきたのも事実。少し、落ち着こう」というものです。

その他、ミュトスを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米国のトランプ大統領は、最先端のAI開発企業に対し、一般公開前に政府が利用し、その性能を評価することを求める大統領令に署名しました。AIをめぐる開発競争が激化するなか、米国の力を阻害するとしてできるだけ規制を排除してきたトランプ政権ですが、ミュトスなど安全保障を脅かしかねないモデルの登場によりリスク対策に乗り出さざるを得なくなりました。大統領令では、最新モデル発表前に政府がその性能を評価する期間を30日間としたほか、政府機関に対しては、性能を評価する必要のあるモデルを判断する基準をつくるよう指示しました。また、官民連携で、重要インフラ(社会基盤)のシステムの脆弱性対策を進める「AIセキュリティ・クリアリングハウス」を設立することも盛り込みました。最先端AIが発見した既存システムの弱点項目を一元管理し、優先的に修正するよう調整、サイバー防衛システムを国家規模で強化することが狙いです。また、AIを使ったサイバー犯罪への厳罰化も盛り込みました。トランプ政権は、バイデン前政権が定めたAI規制について、開発企業に対する「過剰な負担」と批判、規制よりも競争力の強化と技術革新を重んじる姿勢を鮮明にしてきましたが、今回の大統領令は政府による監督の拡大となります。背景には、「AIのサイバー兵器化」に対する安全保障上の危機感があります。中国との「技術覇権」に打ち勝つには革新を妨げる規制は極力避けたいものの、野放しにすればいずれは悪用される可能性があり、米国内のサイバー防衛網が崩壊しかねないといったジレンマを抱えるトランプ政権にとって、今回の大統領令は妥協の表れともいえます。米国にとってはこれまでの自由放任的なAI政策からの転換となりますが、企業の「自主性」を重んじる内容も盛り込まれており、欧州における厳格な政府審査とは異なります。一方で、今後に政府がどのレベルのAIモデルを評価の対象としていくのかという運用次第では、テック企業の開発スピードに影響を与える可能性もあります。
  • アンソロピック社は、ミュトスの提供先として新たに日本を含め15カ国以上の約150社・組織を追加すると明らかにしました。片山さつき金融相は、日本政府や一部の金融機関が対象に含まれていると述べました。サイバー攻撃に悪用される懸念から、当初は米IT大手など、約50社・組織に限定して提供していましたが、日本政府は米国に対し、アクセス権を付与するよう求めていたものです。片山氏は、日本の金融システムが最先端で脅威に備えることができ、「非常に喜ばしい」とコメント、新たにアクセス権を得る組織は、電力や水道、通信といったインフラや、医療などの業界が含まれるといいます。アンソロピックのセキュリティ要件を満たす必要があり、同社によれば、ミュトスを提供された企業・組織はすでに1万件以上の深刻な脆弱性を発見しているといいます。
  • 金融庁は、ミュトスのような「フロンティアAI」の脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応についての要請文署を発信しています。
▼ 金融庁 「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」に係る要請について
  • AI技術が急速に進展する中、サイバー攻撃にAIが活用されることで、攻撃のスピード・規模が劇的に加速・拡大する等、サイバーセキュリティを巡る脅威が高まっている。特に、いわゆる「フロンティアAI」により、脆弱性の発見・修正等のサイバーセキュリティ性能の急速な向上が見込まれることを踏まえ、これに対応する取組が必要不可欠である。
  • こうした中、金融庁は4月24日に「AI脅威に対する金融分野のサイバーセキュリティ対策強化に関する官民連携会議」を開催した。その議論を踏まえ、金融業界とIT事業者、政府・日本銀行等がAI技術の進展による脅威について共通の理解を持ち、対応を検討していくため、実務者レベルの作業部会(第1回)を5月14日に実施した。
  • 当該作業部会において、短期的に脆弱性や修正プログラム(パッチ)が集中的に発見・提供される可能性を踏まえ、「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応について」(別添)を取りまとめた。
  • 各金融機関等に対して、経営トップを含めた経営層の直接関与の下、別添に記載されている短期的な対応に取り組むよう要請する。なお、本要請は現時点における状況を前提とするものであり、今後のAIを巡る動向の変化を踏まえ、必要な対策を不断かつ機動的に見直し、適切に講じていくことが重要である。
  • 金融庁も、5月18日に国家サイバー統括室が公表した、政府全体の対応パッケージである「AI性能の高度化を踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化について~Project YATA-Shield~」に沿って、金融分野の特性を踏まえつつ対応を進めていく。
    1. 背景
      • 近年、いわゆる「フロンティアAI」の発展に伴い、高度なサイバー攻撃の増加が懸念されている。フロンティアAIは脆弱性の発見や高度な攻撃コードの生成に優れており、従来は発見が困難であった脆弱性が短期間に大量に発見され得ることに加え、脆弱性の発見から攻撃に至るまでの期間が大幅に短縮され得ることが指摘されている。さらに、スキルの低い攻撃者がフロンティアAIを悪用することで、高度なサイバー攻撃が増加することが懸念されている。
      • こうした中、脆弱性が大量に発見され、これに伴い修正プログラム(パッチ)が短期間に多数提供される可能性がある。このため、金融機関等においては、こうした事態に備え、資産管理、脆弱性管理、パッチ適用、監視対応、レジリエンス等について、迅速かつ適切に対応できる態勢が整備されているかを至急点検し、必要な強化を図ることが求められる。経営トップは、リーダーシップを発揮してこれらの対応を主導するとともに、必要なリソース配分を含めた意思決定を行う必要がある。CIO、CISOをはじめとする経営層は、各種対応の実施にあたり直接関与する必要がある。
      • これらの脅威は、自組織で開発したシステムに限らず、オープンソースソフトウェアを含むサードパーティのソフトウェアやサービスにおいても、同様に及び得ることに留意する必要がある。
      • 一方で、英国AISI(AI安全性評価機関)の報告書によれば、現時点ではフロンティアAIは、十分に防御されたITシステムに対しては、攻撃を達成できるとは言えないと報告されている。これを踏まえれば、金融庁の「金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン」に基づく基本的な対策をより迅速かつ着実に実行していくことが引き続き重要である。
    2. 金融機関等に求められる短期的対応(大量の脆弱性への対応)
      • 金融機関等においては、短期的には以下に掲げる対応を速やかに講じる必要がある。ただし、これらはあくまでも応急的措置であり、中長期的には脆弱性対応の自動化等への移行に取り組むことが必要である。また、大量の脆弱性への対応は、本文書に掲げる対応に限定されるものではなく、各金融機関等において、自組織のリスク特性やIT・サイバーセキュリティ管理態勢を踏まえ、必要な対応を主体的に検討・実施することが求められる。
      • 加えて、これらの対応はIT・サイバーセキュリティ担当部署のみで完結するものではなく、経営トップがフロンティアAIに対する正確な理解と危機意識を持ち、必要なリソース(予算・人員)を確保することが不可欠である。
        1. フロンティアAIへの対応を経営課題として扱う
          • フロンティアAIがもたらす脅威の変化は、IT・サイバーセキュリティ部門にとどまらない課題であるため、経営トップは全社的な経営課題として扱う必要がある。各業務所管部門、リスク管理部門、IT・サイバーセキュリティ部門、財務部門等関係部門が横断的に連携して対応できるよう、経営トップとしてのコミットメントが不可欠である。
          • また、経営トップのリーダーシップの下で、CIO、CISOをはじめとする経営層が直接関与し、対応方針の策定、対応状況の把握及び課題への対処等を継続的に実施することが不可欠である。
        2. 優先的に対応すべきサービス/ITシステムを特定する
          • 大量の脆弱性発見により、パッチ適用作業の対応負荷が著しく増大することが想定されるが、既存のIT部門のリソースを短期的に大幅拡充することは現実的ではない。このため、優先的に対応すべきサービス/ITシステムを特定し、リソースを重点的に配分する等、リスクベースで対応する必要がある。
          • 特に、インターネットバンキング等の重要業務を支える外部公開ITシステムについては、最優先で対応することが考えられる。なお、当該システムが共同運営形態で提供される場合には、あらかじめ利用側と提供側双方において十分な認識の共有を図るとともに、責任分担を明確化しておく必要がある。
        3. 特定した資産の技術負債を解消しておく
          • (2)で特定した優先的に対応すべきサービス/ITシステムにおいて、そのソフトウェア構成及びネットワーク構成等を再確認し、脆弱性発見時にパッチ適用対象を即時に特定できる状態を確保しておく必要がある。加えて、不要なネットワークポートの閉塞、特権IDの削除、未対応のパッチの適用等により技術負債を極力解消し、防御力を高めるとともに、迅速なパッチ適用が可能な状態にしておくことが重要である。特にサポートが終了している製品についてはメーカーによるパッチ提供が行われないことから、速やかにサポート対象バージョンへ更新する必要がある。
        4. パッチ適用に係る人的リソースを追加する
          • 今後増加が見込まれる脆弱性への対応力を向上させるため、優先的に対応すべきサービス/ITシステムに関連する実施計画を見直すとともに、他のITシステム部門からの支援等により、人的リソースの追加を検討すべきである。あわせて、実際のパッチ適用作業を担うベンダーにおいても、脆弱性対応の増加に対して十分なリソースが確保されることを事前に確認することが重要である。
          • さらに、脆弱性の優先度判断に係る評価体制についても、大量の脆弱性発見に対応できるようリソースを確保する必要がある。これをベンダーと共同で実施している場合には、ベンダー側においても必要なリソースが確保されていることを確認することが求められる。
        5. ベンダーとの維持保守契約の内容を確認する
          • 本邦金融機関等においては、自組織が所管するITシステムの維持保守をベンダーに委託しているケースが多く見られる。こうした状況を踏まえ、パッチ適用作業が現行の維持保守契約に含まれていること及び役割分担が明確であることを確認する必要がある。また、緊急にパッチ適用作業が必要な場合に、夜間・休日等も含めて適時に対応可能な契約内容となっていることを確認することが重要である。さらに、複数金融機関等において大量の脆弱性へのパッチ適用作業が同時に発生する場合であっても、契約で定められたサービス水準に関する合意(SLA)及び目標(SLO)4を遵守したパッチ適用作業が実施できるよう、ベンダー側におけるリソース確保状況を確認する必要がある。併せて、脆弱性対応がベンダー側に集中し、ベンダー側のリソースがひっ迫することも想定し、金融機関等においては、パッチ適用対象の一層の絞り込みやパッチ適用の遅延に係るリスク受容等のプロセスを整備しておくことが求められる。
          • 共同運営形態やクラウド事業者により提供されるITシステムについては、パッチ適用に関するSLA及びSLOの内容、適用対象及び適用状況等について金融機関等に適切に報告される契約内容となっていることを確認する必要がある。
        6. パッチ適用プロセスをリスクベースにする
          • (2)で特定した優先的に対応すべきサービス/ITシステムにおいて大量に脆弱性が発見された場合、すべての脆弱性への対応は困難となることが想定される。
          • 多くの金融機関等では共通脆弱性評価指標(CVSS)5スコアや攻撃コードの有無等に基づきパッチ適用の優先順位を決定していると考えられるが、CVSSスコアが高くない脆弱性であっても実際の攻撃に利用されている実態があり、こうした傾向は、フロンティアAIにより、今後さらに加速することも想定される。また、脆弱性発見・パッチ提供の後、直ちに攻撃コードが出現する可能性もある。
          • このため、金融機関等においては、発見された脆弱性が自組織のサービス/ITシステムに及ぼし得る影響を適切に把握するとともに、攻撃が成立する蓋然性も踏まえた評価を行うことが重要である。その上で、リスクベースで優先順位付けを行い、よりリスクの高い脆弱性から迅速かつ着実に対応すべきである。
          • また、パッチ適用作業に係る事前のテストについては、テスト不足に起因するシステム障害リスクと、パッチ未適用に伴うサイバー攻撃のリスクを総合的に勘案し、テスト実施内容の合理的な縮小等の対応についても検討することが望ましい。
        7. パッチ適用以外の対策も強化する
          • (2)で特定した優先的に対応すべきサービス/ITシステムにおいて、パッチ適用そのものが困難である場合や、パッチ適用に要する期間の短縮が困難である場合には、早期に効果が期待できるクラウド型のウェブアプリケーション防御機能(WAF:Web Application Firewall)等を用いた仮想パッチの適用やボット対策の導入等、多層防御の強化を図る必要がある。また、ネットワーク分離の実施、特権IDへの多要素認証の導入、端末における不正検知・対応機能(EDR:Endpoint Detection and Response)等による防御能力の強化や内部侵入後の横展開への対策等についても可能な限り推進することが重要である。
          • なお、これらの対策はあくまでもリスク低減策であることから、パッチが適用できないことによる残存リスクを評価した上で、パッチ適用に要する期間を踏まえた適切なリスク受容手続を講じる必要がある。
        8. 優先サービス/ITシステムの停止に備える
          • 各種対策を徹底してもサイバー攻撃を防御できない可能性を前提に、サイバー攻撃によりITシステムが停止する場合を想定するとともに、(2)で特定した優先的に対応すべきサービス/ITシステムを能動的に停止させざるを得ない場合についても経営トップはあらかじめ選択肢として検討しておくべきである。
          • こうした事態に備えて、事業継続計画(BCP)の有効性や、顧客等ステークホルダへの対応手順の十分性、緊急時の連絡体制等を点検するとともに、サイバー攻撃のリスクが高まった場合の能動的なサービス/ITシステム停止の判断基準及び手順についても自組織内で明確にしておくことが重要である。この点は、共同運営形態やクラウド事業者により提供されるITシステムについても同様である。
          • また、(6)のとおりテスト実施内容を縮小してパッチ適用に要する期間を短縮する等した場合に、テスト不足等によるITシステム障害の発生頻度が増加し得ることについても経営トップは認識しておくべきである。
          • 更には、自組織が開発し維持保守するITシステムに限らず、サードパーティが提供するソフトウェアやサービスにおいて深刻な脆弱性が発見された場合、当該ソフトウェアの利用停止やサービス停止が生じ得ることにも備えておくべきである。
        9. 外部との連携を維持・強化する
          • フロンティアAIに関する情報は短期間に多数公開されることから、自組織のみでの網羅的な把握等は困難と想定される。このため、金融ISACや各業界団体・コミュニティ、当局等からの情報に積極的にアクセスし、必要な情報の収集に努めるべきである。
          • また、フロンティアAIへの対応について、自組織の取組を金融ISAC等の共助のためのコミュニティで積極的に共有し、金融分野全体の強靭性の向上に努めることが望ましい。
  • アンソロピック社が非公開としてきたミュトスと同等のモデルを、すべての客に提供する方針を決めました。限定公開して進めてきた安全対策にメドが立ったとみられていますが、日本政府や企業にとっては態勢を構築中の発表であり、備えは整うのか懸念されるところです検証では全体で1万件以上のシステムの弱点を発見したといい、ある企業はミュトスを使うことで、システムのバグ(不具合)の発見率が従来の10倍以上に高まったほか、なりすまし電話をもとにした150万ドルの不正送金を見抜き、阻止するのに役立った銀行もあったといいます。参加企業によって、弱点の発見から修正までの手順は確立されつつあることも報告されたことから、一般企業でも活用できる基盤が整ってきたと判断したとみられます。一方、片山さつき金融担当相は、米オープンAIのジェイソン・クォン最高戦略責任者(CSO)と会談、終了後、オープンAIの最新AIモデル「GPT5.5サイバー」について「米国政府と調整したうえで、わが国の一部金融機関にアクセス権を付与する約束をいただいた」と述べました。ミュトスに匹敵する性能を持つとされるAIモデルで、国民や企業の財産を預かる金融システムをサイバー攻撃から守るのに役立つことが期待されます。
  • サイバーセキュリティに詳しい立命館大学情報理工学部の上原哲太郎教授は、2026年6月3日付日本経済新聞において、「重要なのはAIのセキュリティ対策能力が極めて高い能力に達したという点だ。ミュトスだけを取り出した議論は本質を見誤りかねない」、「もう1段階、やってくる。現状はプログラム開発のソースコードを元に脆弱性を探しているはずだが、実行ファイルなどを直接解読して探索する精度が上がると脅威は一段と高まる。時間の問題だ。半年もかからないだろう」、「本当の脅威は中国を中心とする勢力だ。自分たちでつくった攻撃用AIモデルを、誰でも実行できる環境に開放してしまう人たちの存在こそが怖い。攻撃者はいくらでも脆弱性を探せるAIを手元に持つことができるようになる。最後にやってくる本当の脅威だ」、「幸か不幸か海外と比べてフィンテックの進展が遅れており、脅威は相対的に低いのではないかと思っている。銀行の内部に閉じ込められたシステムを攻撃することは物理的に困難だからだ」、「その上で脅威はインターネットから順番に入ってくるので、まず狙われるのはインターネットバンキングだ。ソフトウエア間を接続するAPIもそうだ。最終的には勘定系システムを狙って攻撃者がどれくらいのスピードと本気度でやってくるかが一番の問題になる」、「重要インフラの全てだろう。ロシアのウクライナ侵略の際には、電力網や通信網が同時にサイバー攻撃で狙われた」、「日本では電力自由化以降、電力網のシステムが複雑になってしまったので攻撃されうる対象領域が広い。スマートグリッドに対応するためネット接続が増えたのも心配だ」、「アンソロピックからアクセス権を優先的に得られるのなら、まずはそれを生かして脆弱性が敵に見つけられる前に潰していくしかない」、「その上で問題が判明し修正に時間がかかるとなれば、APIを一時的に閉じるとかネットバンキングの機能をある程度制限するということをやらざるを得ないのだろう」、「ミュトスと同等でなくとも十分に有用なので、AIを用いた脆弱性検査をまず自分のスキルとして身につけることだ。日本に限らずグローバルに起きていることである。今後はAIの力をフルに使って脆弱性対応を事前にすることが求められるようになる」、「IT化は進めれば良いと思う。ただ、自分たちで脆弱性対応ができないのであれば無理だ。脆弱性が残っている恐れがあるのなら、システムをネットから遠ざけて『奥の院』にするようなイメージで運用するしかない」、「残念ながら利用者にできる自衛はほとんどない。ネットバンキングの契約をやめたらいいという人が出てくると思うが、脅威そのものは変わらない」、「システムの停止が増えたり、臨時でサービスを止めたり、費用が上昇するかもしれないことへの理解が必要だろう。これからは攻撃する側と守る側でAIへの投資競争になりかねない」といた指摘をされており、大変参考になります。
  • アンソロピック社は、AIの暴走リスクを抑えるには開発の一時停止や減速が有効だと提言しました。競合の米オープンAIも政府の監視強化を求めています。AIの進化が早く、開発企業が自ら「ブレーキ」の必要性を訴える事態となっています。アンソロピックは「技術の発展を効果的に遅らせ、対処する時間を確保するのは良いことだ」と述べました。中国などを念頭に、抜け駆けを防ぐ国際協調の枠組みを担保できれば、先端AI開発をあえて遅らせる選択肢が有益だとしました。同社は高性能なAIモデル「クロード・ミュトス」を、悪用防止を理由に一般には非公開としている。性能進化が加速すると、人間が安全性を制御できずにAIが暴走するリスクが高まると指摘、人間が関与しなくても、AIが自らを進化させる「自己改良」が実現する可能性について警告しました。オープンAIのサム・アルトマンCEOも、最先端AIの評価を担う政府機関「AI標準・イノベーションセンター(CAISI)」の体制強化が必要とし、大統領令では評価は任意としていましたが、「企業の自主的な取り組みでは不十分」と義務化を訴えています。アンソロピックとオープンAIがともにブレーキの必要性を訴えるのは、AIが社会に与える負の面に注目が集まっているのを感じ取っているためで、米国ではAI普及と並行して、市民の間でAIへの「嫌悪感」が広がり、大卒の若者の失業率が上昇し、AIに仕事を奪われているとの不満が募っているといいます。高性能なミュトス登場を機に、サイバー攻撃のリスクも高まっており、2026年内の新規株式公開(IPO)をめざす両社はAI開発をリードしてきしたが、こうした社会の不安払拭を狙って、ガバナンス強化の姿勢を強調しています。

その他、AI/生成AIを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • トランプ米大統領は、AIと国家安全保障に関する覚書に署名、ホワイトハウスは、米軍や情報機関の要員に「最先端かつ安全で信頼できるAIシステム」を提供する枠組みになると説明、AI技術の急速な進展を受け、兵器の自律性に関する指針を更新するよう指示しました。AIは、作戦能力向上への活用に期待が集まる一方、自律型兵器などに用いられれば人間が制御できなくなるとの懸念も強まっています。覚書はヘグセス国防長官に対し、兵器の自律性に関する指針を90日以内に更新するよう指示、「指揮系統と作戦権限を尊重するAI」を慎重に導入するためだと説明し、指針を毎年見直すよう求めました。政府以外のAI人材を集めた「AI国家安全保障戦略予備隊」の創設に向けた取り組みも指示、今回の覚書により、バイデン前大統領が2024年10月に署名した覚書を撤回し、内容を置き換えるとしました。AIの軍事利用を巡り、米アンソロピックが国防総省向けサービスの利用制限を検討した事態を回避する狙いがあるとみられ、民間製AIの活用を優先する方針も掲げました。民間製が利用できない場合に限り、政府内でAIを内製するとし、特定企業への依存を避けるため、複数社から調達する重要性も強調しました。国民監視にAIを用いないとの原則も示しました。
  • トランプ米大統領は、政府が米国のAI企業の株式取得を検討していると明らかにしました。トランプ氏は株式取得に関し「一部が米国民に提供され、実質的に国民が企業のパートナーになる案がある」とも話しました。米紙によれば、オープンAIのサム・アルトマンCEOが2025年、構想を持ちかけたといい、政府は株式の配当などでAIの技術革新に伴う経済的な恩恵を受ける一方、企業側は規制当局からの承認を得やすくなる可能性があります。オープンAIは2026年4月、AI分野の成長を後押しする公的基金を設立し、基金が得た収益を直接、広く国民に分配する構想を提案。同6月には、アルトマン氏が急進左派の代表格で民主党系無所属のバーニー・サンダース上院議員と会談、サンダース氏は主要なAI企業の株式の50%を公的基金に移す法案の提出を計画しているといいます。
  • カナダ政府は4日、新たなAI戦略を発表し、2031年までに25万人の新規雇用創出を目指すほか、​国内のAI企業を支援するための5億カナダドル(3億6005万米ドル)‌の新技術基金を設置する方針も示しました。カーニー首相が発表したこの戦略は「全ての人のためのAI」と名付けられました。新戦略に​基づくと、主要セクターにおけるAIの商用化と活用が労働生​産性を押し上げることで、国内総生産(GDP)が3%増加し、約20
  • 日米の防衛当局者が「一刻も早く日本も導入すべきだ」と口をそろえるシステム、米パランティア・テクノロジーズのAIは軍事作戦の立案を支援するAIで、それがなければ米軍と自衛隊の統合作戦に支障をきたすといいます。このシステムは米国がイランを攻撃する際、最初の24時間で1000カ所を標的にしたときに使われたとされます。日本が導入しなければ、自衛隊は米軍の意思決定のスピードについていけなくなります。ただ、防衛研究所の小野圭司主任研究官は最先端の海外AIも使いつつ、データは日本製システムで管理すべきだと提唱、AIの軍事利用には懸念も強く、誤った情報を含むリスクがあり、倫理や国際法上の課題も十分に整理されていないためで、一方で、AIを使わなければ新たな戦闘形式に対応できなくなる現実もあります。
  • 巨人軍の前監督・阿部氏の事件でも話題になりましたが、生成AIは若者の相談相手として定着し、若い女性ほど信頼しているとの調査結果もあります。内閣府の消費者委員会が2026年2月に実施した生成AIに関するアンケートによれば、10代女性の52.4%が使用目的に悩み相談を挙げ、女性は20~40代でも30%を超えた一方、男性はいずれの年代も30%未満でした。人間関係や人付き合いに関する生成AIのアドバイスを「とても信頼している」「ある程度信頼している」と答えた人は全体で38.6%で、男女とも若年層ほど信頼度が高く、10~20代は半数を超えました。さらに10代女性に限ると63.1%に達しました。メリットの半面、リスクにも注意が必要で、AIが何でも知っている「相棒」と擬人化してしまうのは危険だと専門家は指摘しています。「AIは質問に反射的に回答し、その内容は使用者を肯定するものばかり。だから大人子供問わず依存度が強い相談相手になってしまう」、「AIが導き出す答えは、ネットにあふれるあらゆる情報をまとめたものにすぎない」、最新の研究によると、AIの回答のうち、常識から外れるなど誤った情報を含むものは約2割もあったほか、米国では生成AIの利用者が自殺や自傷行為をしたり、殺人事件を起こしたりしたとされるトラブルが続出。安全基準が設けられたとされるものの、「それでも人間の感情や倫理を理解しているものでは決してない。あくまでも参考程度にとどめるべきだ」と指摘していますが、正にその通りだと思います。
  • AIが適切な回答を提示したにもかかわらず、利用者の望まない結果を招いたとき、その代償は誰が支払うのかも大きな課題です。AIは犯罪行為や偽情報の氾濫への加担といった負の側面も世界各国で問題化しており、近年は、不正行為への協力など明らかに倫理的に「悪」と判断される利用に対し歯止めがかかるように改善され、その精度は向上を続けています。AI倫理の専門家は「対話型のAIは、まるで生きているかのような錯覚を利用者に与える。本来的に道具にすぎないが、銃や刃物と異なり、人間のような責任を負える存在として振る舞えることに問題がある」と指摘、「責任を負うことのできないAIという存在が、人間の重大局面の判断に影響を及ぼすようになった。社会にそのギャップを補える制度は整備されていない」と述べ、テクノロジーの進歩に人間が追いついていない状況を指摘していますがこちらも考えさせられます。
  • 「AIのアドバイスに従ってそのまま行動を起こす」という構図は、今や珍しいものではなくなりましたが、そこにはリスクが孕んでいます。例えば、「AIが提供するアドバイスは文脈・手続きのリスク・相談者の本当の希望を十分にくみ取れない」という、AIの限界によるものがあるという点です。組織内のコミュニケーションにおいても同様のリスクがあります。AIに「相談」や「返信」を委ねる場合、出力された内容の背後にある制度・人間関係・意図の文脈を自分で補完・確認する意識が無ければ、正しい回答は導かれない点を十分認識する必要があります。さらに、AIはユーザーに同調しやすい「シコファンシー(追従性)」という特性があります。場合によっては、AIに共感・同調され続けることで「自分は100%正しい」という「認知のゆがみ」が生じる可能性があります。また、情報漏えいリスクもあります。AIに関してリテラシーの低い社員がトラブル相談などの際に、AIへ「個人情報や顧客情報、社内の機密情報をコピペ入力」してしまうリスクで、多くの対話型生成AIの初期設定では、入力されたプロンプトがそのままAIの学習ソースとして再利用されるようになっており、社外秘のプロジェクト名、顧客の個人情報、あるいは上司や同僚の実名をそのまま打ち込むと、重大な機密情報が社外へ流出する可能性があり、企業の社会的信用を一発で失墜させうる、極めて深刻な脅威でもあります。こうしたリスクに対し、単にAIの利用を社内規定などで禁止しても、完全に防ぐことは難しく、むしろ、社員は必ずどこかでAIを使用するという前提に立ち、AIをどう管理し、どう向き合っていくかが、企業のリスクマネジメントの重要なポイントになるといえます。例えば、社員の私用端末でAIに相談して情報が漏れるのを防ぐため、安全な社内専用AIを内製化する。機密情報を取り扱う財務や税務、コンプライアンス領域などの部門においては、AIの出力結果を必ず人の目で最終チェックし、AI使用の開示ルールを設ける、実際に起きたトラブルを題材としたシナリオ訓練や、AI利用を隠さずに議論できる組織文化の醸成も、リスクの早期発見と低減に有効となると考えられます。そして何よりも、AIについてのリスクを学ぶなど、リテラシーの強化は最も重要で、AIを正しく理解し、その特性を逆手に取った制度と人材育成こそが、組織を守る泥臭くも実効性のある防衛策となります
  • 生成AIなどを使い、実在する18歳未満の性的画像を加工した「性的ディープフェイク」の被害相談・申告数が2026年1~3月に55件あり、前年同期の23件から2.4倍となっています。警察庁によれば、被害相談・申告は2024年が110件、2025年が114件でしたが、2026年は3カ月間で年間の約半数に達しています。同1月に生成AI「Grok」による性的ディープフェイクの被害が世界的に発生したことや、社会的な関心の高まりで被害の申告が増えた可能性があります。被害者の属性別では、中高生が全体の9割を占め、加害者と被害者との関係は「同級生・同じ学校」が前年同期比26件増の39件、SNSなどで知り合った人は同1件増の4件となっています。
  • 教員グループが女子児童の盗撮画像などをSNSのグループチャットで共有したとされる事件で、AIを悪用して女児の顔写真を性的に加工した「性的ディープフェイク」を所持したなどとして、児童買春・ポルノ禁止法違反などに問われた名古屋市立小の元教員に対し、名古屋地裁は、懲役3年6月(求刑・懲役6年)の判決を言い渡しました。この事件では、18歳未満の画像を使った性的ディープフェイクが児童ポルノに当たるかが問われ、裁判官は「体部分はAIによって描写されたものだが、顔やポーズは元の写真と同一。一般人が見れば実在する女児の裸と誤信する精巧なもので、極めて卑劣かつ悪質」と非難、性的ディープフェイクを児童ポルノと認定し、その所持を違法とした司法判断は初とみられます。性的ディープフェイクの被害は深刻化しており、同種事件の摘発や抑止につながる可能性があります。海外では性的ディープフェイクの対策が進み、韓国では2024年、作成に加え、所持や視聴も処罰対象になりました。これに対し、国内では名誉毀損罪などに問われるケースはあるものの、偽画像の作成を直接禁じる法律はありません。今回の判決について、上田正基・神奈川大教授(刑法)は「これまでは実際に裸にされたわけではない児童の写真が加工された場合でも、罪に問えるかが問題となっていた。裸体が実在しなくても、実在すると誤認されるものであれば『児童ポルノ』と認定した今回の判決に沿えば、卒業アルバムなどの画像が勝手にわいせつ画像に加工されたケースも刑罰に問えるようになるという点で一歩前進と言える」と評価、「日本は他国に比べて対応が遅れている。児童か成人かを問わず、実在する人を対象にした性的ディープフェイクを規制する法整備が必要だ」しています
  • 株式市場でAIの活用が広がる中、リスクもあります。大学の調査によれば、複数のAIに運用させると最終的に同じ行動を取る傾向が判明したといい、相場が瞬時に急変動する「フラッシュクラッシュ」などの要因になりうると主張、米連邦準備理事会(FRB)も警鐘を鳴らしています。個々のAIは合理的に判断しても、結果的に同じ行動になってしまうと「株式市場での急騰や暴落など一方方向の動きを強める可能性がある」といいます。FRBのバー理事は「AIを活用した取引アルゴリズムによる利益最大化は共謀や市場操作につながる可能性がある。市場で著しい価格変動を引き起こすなどの金融システム全体へのリスクも出てくる」と述べています。
  • 英競争・市場庁(CMA)は、報道機関などが自社のニュースなどの情報を、米グーグルが提供する生成AIを使った検索サービスで使われることを拒否できる規制を導入すると発表しました。CMAによれば、世界で初めての規制としています。グーグルは英国での検索サービスで9割以上のシェア(占有率)があり、CMAが調査していました。規制の導入により、グーグルは9か月以内にメディア側が情報利用を拒否できる機能を提供しなければなりません。CMAのサラ・カーデル最高経営責任者は「メディアが自社情報の利用方法について適切な交渉力を持つことが不可欠だ。検索に関するさらなる措置を数週間以内に発表する予定だ」と述べています。検索や対話型で普及が進む生成AIを巡っては、利用者が各サイトの内容をまとめた回答を得られる一方、参照元のサイトを見る頻度が減る「ゼロクリック」の問題が指摘されてきました。AIがまとめた回答が参照元の内容と異なるケースもあり、世界各国で規制の議論やメディアとの訴訟に発展しています。グーグルによれば、拒否を選択したサイトの情報はAIの回答に引用されなくなりますが、AI引用を拒否しても、検索内容に応じて見たいサイトの候補を表示する従来型の検索の表示順位には影響しないとしています(従来の機能では、AI引用を拒否しようとすると検索順位が下がる可能性がありました)。AI機能の導入によって一部サイトの訪問数が減る問題が起きており、日本経済新聞などの調査では、国内でグーグル検索を通じたウェブサイトへの訪問数は2025年10月に2年前より33%少なくなったといいます。2025年9月にはグーグルなどを相手取り、メディア大手の米ペンスキー・メディアが「記事データを無断で利用している」として反トラスト法違反で提訴しています。一方、AI企業側と連携を探り、AIの学習や引用でサイト側がライセンス料として対価を受け取る動きも広がっています。日本の公正取引委員会は2025年12月、AI企業が許可を得ずに報道機関の記事を利用して回答を出すことについて、独占禁止法上問題がないか調べると発表しています。
  • 米資産運用会社ブリッジウォーター・アソシエーツによればAIによる大規模な雇用喪失のリスクは2026年、限定的にとどまる見込みだと指摘しています。計算能力の制約や堅調な経済が、雇用に対する短期的な影​響を和らげるとみられています。同社は米国勢調査局のデー⁠タを引用し、AIの導入は依然として限定的で、​過去2週間に何らかの業務でAIを使用したと報告し​た米企業は20%未満にとどまったと指摘、大半は情報、テクノロジー、専門サービス業界に集中​していたといいます。報告書によれば、AIを導入している企業の90%以上が過去6カ月間に雇用への影響はなかったと回答、人員配置に影響があった企業の中でも、人員削減よりも増員を報告した企業の方が多くなったといいます。同社はこうした​見通しに⁠対する2つの短期的なリスクとして、イラン紛争の激化と、企業のAI関連​設備投資に伴うコスト圧力を挙​げています。同社は労⁠働市場の混乱が限定的にとどまったとしても、AIによる景気減速が見られない場合、労働市⁠場が​逼迫する中でインフレ​圧力を管理しようとする米連邦準備理事会(FRB)の取り組​みが複雑になる可能性があると警告しています。

(6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向

長女への暴行容疑で現行犯逮捕され、プロ野球巨人の監督を辞任した阿部慎之助氏の代理人弁護士が、「報道に関するお知らせとお願い」とする文書を報道機関に通知しました。文書では、さまざまな報道やSNS上の誹謗中傷により、「阿部氏はもとより阿部氏のご家族も、全く予期していなかった深刻な事態に直面し、心身ともに著しく疲弊している」などと説明、取材への配慮を求めています。文書では、とりわけ「報道の中には、真偽不明の情報を取り上げるだけでなく、明らかに事実誤認に基づくものや不適切な憶測・評価を伴うもの、さらには、阿部氏の名誉を棄損し、あるいは阿部氏のご家族のプライバシー等を侵害するものが多数存在しております(これらには、いわゆるコメンテーターや有識者のコメントも含まれています)」、「一連の報道が繰り返し行われ、本件記事のように真実と異なる報道も重なる現状において、阿部氏はもとより阿部氏のご家族も、全く予期していなかった深刻な事態に直面し、心身ともに著しく疲弊しているところ、さらに前述したとおり、SNS等で阿部氏や阿部氏のご家族に対する不適切な憶測・評価が書き込まれたり、誹謗中傷が行われたりするなど、阿部氏のご家族に対する二次被害ともいうべき事態が発生しております」、「前掲の週刊文春の記事を含むこれまでの報道の中には、捜査機関や児童相談所等の公的機関の関係者からの提供に基づくと思われる情報が散見されており、かつ、それらの多くは事実と異なる内容であるところ、公的機関の関係者には法令上の守秘義務が課されている以上、当該情報が職務上知り得た秘密に該当するのであれば、内容の真偽にかかわらず、それを漏洩する行為は刑事罰の対象となりますし、その他の法的責任等を問われることにもなります。そこで、当職らは、本件記事を受けて、関係機関に対し、秘密漏洩の経緯を含む事実関係をすみやかに調査し、漏洩の該当者等に対して厳正なる処分を行うよう求めるとともに、今後一切、秘密が漏洩しないよう必要な措置を講じることを申し入れました」といった点など、かなり踏み込んで、姿勢と対応の方向性を明確に伝えている点は素晴らしい対応だと感じました。

2026年5月30日付毎日新聞の記事「「みんな言ってる」から大丈夫?アスリートの中傷に専門家が警鐘」は着眼点が面白いと思いました。アスリートへの中傷問題に取り組む任意団体「COAS」代表の高橋駿弁護士によれば、「SNS上で誹謗中傷された」という相談を受けて発信者情報を開示請求して特定すると、多くの人は「みんな言ってる」「熱くなっただけ」と弁解するのだといいます。この点について、同弁護士は、発信者に若い世代が多い理由について、「承認欲求も関係しているのかもしれません」、「SNSでは、卑劣な言葉のほうが『いいね』が付いたり、拡散されたりしますから。特定された途端に、『まさか自分が開示請求されるとは思わなかった』『自分は大丈夫だと思ってた』という人も多いです」と指摘しています。さらに、「やってはいけないと分かっていながら、その一線を踏み越えている人もいます。過去に特定した加害者からは『俺は選手のために言ってる』『正論を言って何が悪い』と反発されたこともありました。そういう人に『中傷をやめるようお願いします』と言っても、逆効果でしょう」、「中傷に対するフェーズは抑止という段階から変わってきていると感じています。今後は開示請求される可能性や、法的責任を問われる可能性があるということを積極的に発信していく段階になっているのではないでしょうか」と指摘している点は正にその通りだと思います。誹謗中傷対策が厳格化されるのは、SNS上の心ない投稿が、アスリートに深刻な影響を及ぼす恐れがあるためで、同じ言葉でも、発信された場所が「リアル」か「ネット」かによって、受け手の印象は変わり、温度が感じられない無機質な「文字」の怖さが目立っている状況です。「誹謗中傷は人権侵害で、その一言がアスリートを傷つけていないかという認識を持つことが何より大切です」との指摘は正に正鵠を射るものです。

山口県下関市立小学校の男性教諭が「事実無根のメールを市教育委員会に送られ、名誉を毀損された」として、勤務する小学校の児童の保護者を相手取って、35万円の損害賠償の支払いを求め提訴、下関簡易裁判所は、訴えの一部を認め、保護者に3万3000円の賠償を命じる判決を言い渡しました。教育現場では「カスタマーハラスメント(カスハラ)」や「モンスターペアレント」などの問題が多発しており、判決は各方面に波紋を広げる可能性があります。報道によれば、学校の調査で事実は確認されず、男性教諭は「全く心当たりがなく事実無根で、内容はでっち上げ。通り魔にあったような気分でした」、「後続の教師たちのためにも、こうした行為には断固とした態度が必要だと考えた」と、訴えることを決意したのだといいます。裁判所は「保護者のメールが名誉毀損にあたる」としながらも、内容が事実ではなかったと、保護者が早期に認めて謝罪の機会を求めたことや、「軽率かつ無責任とは言えても害意があったと認めるに足りない」などとして、3万3000円の支払いを命じたものです。

総務省は、インターネット上の悪質な投稿の発信者を特定する開示請求の手続きを見直す議論を始めました。中傷の被害を受けた開示請求を申し立てる側、対応するプロバイダー側の双方の負担軽減策を議論し、年内のとりまとめを目指すとしています。総務省によれば、開示命令の申立件数は2023年の3959件から2025年は1万72件に増え、携帯電話サービスを提供する事業者が増え、発信者の特定までに時間がかかる事例が増えているといいます。検討会では、開示手続きで得た情報を悪用する行為などへの対応も課題としてあがり、有識者からは「罰則の是非も議論する必要がある」という意見が出ています。発信者情報の開示請求権は情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)に規定があり、SNS事業者や通信事業者への開示請求をまとめて手続きできます。もともとは被害者がSNS事業者と通信事業者に対し、IPアドレスなどの通信記録や投稿者の氏名・住所の開示をそれぞれ求める必要があったところ、2022年施行の改正法で一括での手続きが可能になりました。東京地裁で2024年12月までに終わった発信者情報開示命令手続の平均審理期間は約103日でした。

2026年6月3日付毎日新聞の記事「「自身の存在を否定されるよう」ネットにあふれるヘイト、対策は」はヘイトスピーチやその背景について大変参考になりました。2016年にヘイトスピーチ解消法が施行され、4年後には川崎市で刑事罰付きのヘイトスピーチ禁止条例が施行されました。以降、「死ね」「殺せ」など条例に違反する露骨な発言は減りましたが、一方で、川崎市で活動をしていた人物が埼玉県川口市などに場所を移し、在日クルド人を攻撃するようになりました。解消法には罰則がなく、条例は川崎市外では効果がなく、報道は法制度の限界も露呈した10年と評価していますが、筆者も同感です。フォトジャーナリストの安田菜津紀さんは、ヘイトスピーチを受けると、自身のルーツや存在の根幹を否定され、「社会から出て行け」「お前は生きるに値しない」とつきつけられるようだと述べ、投稿した人物のうち2人を特定し、東京地裁に提訴、2023年6月の地裁判決は人種差別撤廃条約や解消法を引用して投稿の悪質さに触れ、投稿者の男性に33万円の賠償を命じました(もう1件は和解成立)。ただ、「差別的な表現を用いた侮辱」との指摘にとどまり、差別そのものが違法という判断ではないのが残念だと同氏は述べています。さらに、「被害を受けた人が裁判をしなくても、安心して駆け込める人権救済機関が必要です。国連機関からも救済機関の設置を繰り返し求められており、政府は早く決断すべきです」、「ルーツを隠したくもないのに隠さなければならないという現状は、豊かな社会と言えるでしょうか」、「ポーランド・アウシュビッツ強制収容所跡の博物館で、ガイドを務める中谷剛さんは「ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)はヒトラー一人が起こしたものではない。『ユダヤ人は出ていけ』という街角のヘイトスピーチから始まったのです」と語っていました。ヘイトスピーチは虐殺の土台となる危険なものです」といった指摘は大変心に刺さりました。

総務省は、大手SNS事業者による偽広告対策についての調査結果を公表しました。著名人になりすました詐欺広告や、偽ブランド品の販売サイトに誘導する偽広告は社会的な問題となっており、対策の要となる広告主の本人確認は各社でばらつきが見られました。調査によれば、メタやティックトック、LINEヤフー、米グーグルなどは事業証明書類や登記情報で広告主の身元を確認していた一方で、Xは政治や金融商品など一部の広告は本人確認しているものの、具体的な方法は明らかにしていません。なお、筆者が気になった指摘としては、「事前審査後に遷移先の情報を変更し、当該遷移先からクローズドチャットへ遷移させる投資詐欺の手法は引き続き指摘されているというもので、事前審査だけでなく継続的な監視態勢の強化の必要性を感じさせます。この点、「自ら検知・調査を行うプロセス・体制を整備した上で、遷移先の情報が変更されたことを発見した場合には速やかに再度審査を実施する」ことを提案していることは妥当だと考えます。また、「乗っ取られたアカウントや偽アカウントからなりすまし型「偽広告」が出稿される事例も指摘されていることを踏まえれば、広告主が個人である場合、広告出稿用アカウントの開設や当該アカウントを利用した広告の出稿の際に、プラットフォーム事業者においてより実効性のある本人確認が行われることが重要。広告主の本人確認の具体的な方法については、投資詐欺につながり得る広告出稿の抑止及びトレーサビリティ確保の観点から、メールアドレスや電話番号の認証のみならず、本人確認書類の提出などの対応をとることの有効性・必要性についても考慮することが重要」との指摘もその通りだと思います。総務省は2025年9月、偽広告防止の指針を策定、国内の月間平均利用者が1000万人以上の大手SNS事業者について、年1回程度、取り組み状況を任意で調査することを決めました。

誹謗中傷や偽・誤情報対策の現状について、総務省が報告した資料にコンパクトにまとめられていましたので、以下、紹介します。

▼ 内閣府 第489回 消費者委員会本会議
▼ 【資料1-1】 インターネット上の違法・有害情報への対応について(総務省資料)
  • インターネット上での誹謗中傷等の流通事例
    • 誹謗中傷をはじめとするインターネット上の違法・有害情報の流通は依然深刻な状況。
    • 総務省の運営する違法・有害情報相談センターで受け付けている相談件数は高止まり傾向にあり、令和6年度の相談件数は、6,403件であった
    • 試合中に失点につながるミスをしたスポーツ選手に対して、当該選手の人格を否定するような投稿→名誉権等の侵害の可能性
    • リアリティ番組の出演者に対して、当該出演者の個人情報を暴露するような投稿→プライバシー等の侵害の可能性
  • インターネット上での偽・誤情報の流通・拡散事例
    1. イーロン・マスクが偽の暗号資産投資を宣伝するディープフェイク動画が流通
      • 生成AI(AI)を利用して作られたイーロン・マスクの偽動画がネット上で拡散。
    2. 「能登半島地震と偽る過去の津波映像や人工地震説など」の言説は誤り
      • 2024年1月1日に発生した能登半島地震に関して、SNS上で過去の映像や無関係な映像を能登半島地震と結びつける投稿が多数拡散した。
    3. 著名人なりすまし偽広告の99%がLINEに誘導…メタのSNS掲載、詐欺被害相次ぐ
      • メタが提供するフェイスブックやインスタグラムなどのSNSを巡っては、実業家の前澤友作氏らが自身になりすました広告が多数表示されていると訴えた。
  • インターネット上の違法・有害情報と偽・誤情報との関係性
    1. 権利侵害情報
      • 誹謗中傷等の名誉毀損情報等
    2. その他違法情報(法令違反)
      • わいせつ画像(刑法)等
    3. 有害情報
      • 青少年有害情報(青少年の健全な成長を著しく阻害する情報(暴力、アダルト等))
      • その他公共の安全・善良な風俗を害する情報
    4. 偽情報
      • 誤りが含まれる情報のうち、発信者が事実でない事項を事実であると誤認・誤解させる意図を持って発信したもの
    5. 誤情報
      • 誤りが含まれる情報のうち、発信者が事実でない事項を事実であると誤認・誤解させる意図を持たずに発信したもの
    6. 権利侵害情報である偽・誤情報
      • 虚偽の事実の摘示による誹謗中傷(名誉毀損)
      • 他人の著作物を無断で複製・加工等して生成した偽情報(著作権侵害)等
    7. その他違法情報(法令違反情報)である偽・誤情報
      • 虚偽・誇大広告(景表法・特商法等違反)
      • 有価証券等の相場変動目的をもってする風説の流布・偽計(金商法違反)等
    8. 違法ではないが有害な偽・誤情報
      • 感染症流行時に健康被害を生じさせ得る医学的に誤った治療法を推奨する情報
      • 災害発生時における救命・救助活動の妨げとなる実在しない住所を摘示しての救助要請等
  • 総務省における違法・有害情報等に対する総合的な対策の枠組み
    • デジタル空間における情報流通の健全性確保に向けた今後の対応方針と具体的な方策について検討するため、有識者会議で令和6年9月に取りまとめ公表。その後新たな有識者会議で検討の深掘りを継続。
    • 提言を受けた具体的な方策として、制度的対応、リテラシー向上、技術情報を含む総合的な対策を、様々な関係者の連携・協力の下で推進。
      1. 制度的対応
        • 誹謗中傷等のインターネット上の違法・有害情報に対処するため、大規模プラットフォーム事業者に対し(1)対応の迅速化、(2)運用状況の透明化に係る措置(令和7年4月1日施行)。
        • デジタル広告について、 (1)なりすまし型偽広告への対応に関する事業者ヒアリング等を実施し取りまとめを公表。(2)偽・誤情報を掲載する媒体への広告配信によるリスクへの対策として、広告主等へのガイダンスを策定
      2. リテラシー向上
        • 幅広い世代のリテラシー向上に向け、官民の幅広い関係者による取組を推進するため、令和7年1月より、官民が連携した意識啓発プロジェクト「デジタルポジティブ アクション」を実施。
        • 官民の取組を集約したWebサイトの拡充、多様な関係者によるセミナー・シンポジウム等のイベント開催、動画広告やチラシ・ポスターを活用した広報活動等を実施。
      3. 技術開発
        • 生成AI等による偽・誤情報の流通・拡散に対応するため、対策技術の開発・実証及び社会実装を推進。
  • 「投稿の削除」を巡る課題
    • 誹謗中傷をはじめとするインターネット上の違法・有害情報の流通は依然深刻な状況。被害者からの相談の3分の2は、「投稿の削除」に関する相談が占める。
    • 「投稿の削除」は、主に事業者の利用規約に基づいて行われているものの、課題が多く、必ずしも適切に機能していなかった。
    • 総務省の有識者会議において、「削除等の適正化に向け、法制上の手当てを含め、大規模プラットフォーム事業者に対して対応の迅速化・透明化を求めることが適当」と取りまとめ(令和6年2月2日(金)に公表)。
  • 情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)
    • インターネット上の違法・有害情報の流通が社会問題となっていることを踏まえ、「被害者救済」と発信者の「表現の自由」という重要な権利・利益のバランスに配慮しつつ、プラットフォーム事業者等がインターネット上の権利侵害等への対処を適切に行うことができるようにするための法制度を整備するもの。
      1. プラットフォーム事業者等の免責要件の明確化
      2. 発信者情報の開示
      3. 大規模なプラットフォーム事業者等の義務(R7.4.1施行)
  • 「違法情報ガイドライン」の概要
    • 情報流通プラットフォーム対処法第26条第1項第2号に定める「他人の権利を不当に侵害する情報の送信を防止する義務がある場合その他送信防止措置を講ずる法令上の義務(努力義務を除く。)がある場合」を例示することにより、
    • どのような情報を流通させることが権利侵害や法令違反に該当するのかを明確化するとともに、
    • 大規模事業者が送信防止措置の実施に関する基準(削除基準)を策定する際に盛り込むべき内容を周知。
      1. 他人の権利を不当に侵害する情報の送信を防止する義務がある場合(=権利侵害情報)
        1. 対象となる権利・利益
          • 名誉権、名誉感情、プライバシー、私生活の平穏、肖像権、氏名権、パブリシティ権、著作権・著作隣接権、商標権、営業上の利益について、どのような場合に各権利・利益の侵害が成立するかを明確化。関連する裁判例もあわせて掲載。
        2. 情報の送信を防止する義務が生ずる場合
          • 大規模事業者に送信防止措置を講ずる義務が生ずる場合を明確化(「人格権侵害その他法令の規定に基づく差止請求」及び「条理上の義務があると認められる場合」)
      2. その他送信防止措置を講ずる法令上の義務(努力義務を除く。)がある場合(=法令違反情報)
        1. 対象となる情報
          • わいせつ関係、薬物関係、振り込め詐欺関係、犯罪実行者の募集関係、金融業関係、消費者取引における表示関係、銃刀法関係、違法オンラインギャンブル等関係、その他の区分に基づき、どのような情報を流通させることが各法令に違反するのかを具体的に例示。
        2. 情報の送信を防止する義務が生ずる場合
          • 大規模事業者に送信防止措置を講ずる義務が生ずる場合を明確化。
  • ICTリテラシー実態調査(令和7年5月13日公表)のポイント
    • 過去に流通した偽・誤情報を見聞きした人に対して、その内容の真偽をどのように考えるか尋ねたところ、「正しい情報だと思う」、「おそらく正しい情報だと思う」と回答した人の割合は47.7%。
    • 偽・誤情報に接触した人のうち、25.5%の人が何らかの手段を用いて拡散。
    • 87.8%がICTリテラシーを重要だと思っている一方、75.3%は、ICTリテラシー向上に向けた具体的な取組を行っていないと回答。
    • 結果の要点
      1. 偽・誤情報の認識・拡散状況
        • 過去に流通した偽・誤情報を見聞きした人に対して、その内容の真偽をどのように考えるか尋ねたところ、「正しい情報だと思う」、「おそらく正しい情報だと思う」と回答した人の割合は47.7%
        • 偽・誤情報に接触した人のうち、25.5%の人が何らかの形で拡散した。若い年代において拡散した割合が多かった。
      2. 偽・誤情報の拡散理由と手段
        • 拡散した理由として最も多いのは、「情報が驚きの内容だったため」(27.1%)。情報に価値があると感じて拡散したと思われる回答が多かった。
        • 拡散した手段として多いのは、「家族や友人など周囲の人へ対面の会話」(58.7%)、「家族や友人など周囲の人へメールやメッセージアプリ」(44.3%)など、身近な人に拡散する回答が多かった。不特定多数にインターネットを用いて拡散する者も存在した(44.4%)。
      3. SNS・ネット情報に対する正誤判断の基準など
        • SNS・ネット情報を「正しい」と判断する基準として最も多いのは、「公的機関が発 信元・情報源」(41.1%)。
        • 偽・誤情報と気づいた経緯は、「テレビ・新聞(ネット版含む)」(39.6%)、「テレビ・新聞以外のマスメディア(ネット版含む)」(30.4%)、「ネットニュース」(28.8%)というネット版を含めたテレビ・新聞、ラジオ・雑誌などから偽・誤情報の可能性があると気づいた人が多かった。
      4. ICTリテラシーに関する認識
        • 「自身のICTリテラシーが高いと思う」という回答は35.2%に留まった一方、「ICTリテラシーが重要だと思う」、「どちらかといえば重要だと思う」との回答が87.8%と高い割合を示した。
        • 87.8%が ICTリテラシーが重要だと回答した一方、75.3%は「ICTリテラシー向上に向けた具体的な取組をほとんど行ってない」、「全く行ってない」と回答した。
▼ 総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループ(第16回)配布資料
▼ 資料16-3 デジタル広告の流通を巡る諸課題への対応に関するモニタリング(令和7年度)結果
  • プラットフォーム事業者5社全てがSNS等に掲載されるデジタル広告の事前審査基準の策定・公表を行っている。また、なりすまし型「偽広告」の増加等の状況を踏まえ、事前審査基準の改訂や審査方法の強化など、事前審査の強化に向けた取組は各社において一定程度実施されている。
  • 一方、なりすまし型「偽広告」を端緒とした詐欺を含むSNS型投資詐欺の認知件数及び被害額は、本年4月をピークに減少傾向にあるものの依然として高い水準にあり、被害者との当初の接触手段として、SNS等におけるバナー等広告が全体の約半数を占めている状況にある。こうした状況を踏まえれば、デジタル広告の事前審査及びSNS等に掲載された広告の事後的な削除等を両輪とするデジタル広告の流通の適正化に関するプラットフォーム事業者各社の取組を進めることが重要。
  • 5社全てが直接の遷移先も含めたデジタル広告の事前審査を実施しているところ、事前審査後に遷移先の情報を変更し、当該遷移先からクローズドチャットへ遷移させる投資詐欺の手法は引き続き指摘されている
  • こうした手法への対応として、例えば、デジタル広告の広告素材のみならず、直接の遷移先の情報の内容に変更があった場合に広告主からその旨連絡を求めること、自ら検知・調査を行うプロセス・体制を整備した上で、遷移先の情報が変更されたことを発見した場合には速やかに再度審査を実施することなど、策定・公表した事前審査基準に基づく 審査の実効性を向上させる観点からの対応を適切かつ不断に講じていくことが重要
  • 投資詐欺等の手口は常に進化しており、SNS型投資詐欺の認知件数は引き続き高い水準を維持している。システムによる検知、利用者からの報告、捜査機関との情報交換等、プラットフォーム事業者各社が提供するSNS等の特徴に応じた適切な手段により、なりすまし型「偽広告」を端緒とした詐欺の手口・実態の最新動向を的確に把握することが対策の前提として重要。
  • また、SNS等のサービスの利用者の保護を図る観点からは、例えば、過去に掲載されたデジタル広告も含めて一定期間、利用者がデジタル広告の広告主等に関する情報を確認可能な環境を整備するなど、利用者自身が当該サービスに掲載されるデジタル広告について、広告主や広告の信頼性を確認できるような情報公開を進めていくことも重要。
  • さらに、なりすまし型「偽広告」に限らずデジタル広告の流通を巡って今後発生し得る新たな詐欺の手口・実態等に迅速かつ効果的に対応するためにも、各社における独自の取組に加え、業界団体を通じた企業横断的な調査や情報共有の取組を実施するなど、新たな問題に迅速に対応できる体制を構築することが重要
  • プラットフォーム事業者各社が詐欺の手口・実態等を踏まえて実施した対応の実効性を検証する観点からも、当該対応の状況を利用者や広告主が確認する観点からも、日本向けのデジタル広告に関して事前審査時に掲載を承認しなかった件数や広告審査件数全体に占める比率など、事前審査の実効性を利用者が確認することに資する情報を把握し、定期的に提供することが重要。
  • 日本語や日本の文化的背景を理解した人員を含む事前審査体制を構築した上で、どのような能力を有する人材を具体的に何人配置しているのか等に関する情報を公開し、利用者や広告主が確認できるようにすることが重要。
  • 日本語及び日本の文化的背景を理解した人員の配備状況のほか、システムによる自動的な対応及び手動的な対応のそれぞれを含む審査体制の整備状況についても、定量的指標の公開を含める形で当該体制の実効性を説明することが重要。
  • 乗っ取られたアカウントや偽アカウントからなりすまし型「偽広告」が出稿される事例も指摘されていることを踏まえれば、広告主が個人である場合、広告出稿用アカウントの開設や当該アカウントを利用した広告の出稿の際に、プラットフォーム事業者においてより実効性のある本人確認が行われることが重要。広告主の本人確認の具体的な方法については、投資詐欺につながり得る広告出稿の抑止及びトレーサビリティ確保の観点から、メールアドレスや電話番号の認証のみならず、本人確認書類の提出などの対応をとることの有効性・必要性についても考慮することが重要
  • 広告主が法人である場合も、上記と同様に、広告出稿用アカウントの開設や当該アカウントを利用した広告の出稿の際に、プラットフォーム事業者においてより実効性のある本人確認が行われることが重要。広告主の本人確認の具体的な方法については、メールアドレスや電話番号の認証のみならず、登記簿などの確認書類の提出などの対応をとることの有効性・必要性についても考慮することが重要
  • 広告代理店が広告を出稿する場合、広告代理店において実効性のある広告主の本人確認が行われることを前提として、広告の内容等に疑義が生じた場合には、広告主に対しても本人確認を実施することの有効性・必要性についても考慮することが重要。

SNS上の偽情報対策を盛り込んだ法改正案の骨子に与野党が大枠で合意しました。選挙中の偽情報の拡散やアクセス数や閲覧時間に応じて収益が生まれる「アテンションエコノミー」への対応策を議論、公職選挙法と情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)を改正するものです。2027年3月からSNS事業者に偽情報の拡散による悪影響を軽減する措置を義務付けるほか、措置の実施状況は年1回公表することなどが挙げられています。違法、虚偽、事実を歪曲する恐れのある情報を列挙、違法コンテンツの規制をSNS事業者らに義務付けているEUのデジタルサービス法(DSA)を参考に、具体的な措置は事業者の判断に委ねるものの、政府が指針を策定し、偽動画による収益の停止や本人確認済み表示によるなりすまし防止などを具体的な推奨事例として提示する案があるといいます。与野党はアテンションエコノミーによる偽情報の拡散について一定の抑制効果を見込んでいます。選挙期間中について、生成AIを利用した画像や動画の投稿にも新たなルールを設け、公職選挙法を改正し、SNSへの投稿者に「生成AIで作成」などと明示することを義務付ける内容です。SNS事業者の生成AIの検知や警告といった対応を指針に盛り込む案もあり、選挙に関するネットの適正利用義務も新たに設け、候補者の虚偽の情報を投稿するなどして「選挙の公正を害してはならない」と規定するとしています。選挙中に誇張や虚偽の情報で動画の再生回数を稼ぐ事例が目立っており、2024年の東京都知事選では選挙の「切り抜き動画」拡散によるビジネスの実態が露呈、同年の兵庫県知事選でも偽情報や誹謗中傷が社会問題となりました。今回の法改正で、公平な選挙の実施に向け、SNS上での悪影響に一定の歯止めが期待できます。なお、与野党は公選法改正で、選挙時に有権者によるメール送信の規制を緩和するとも合意、2013年にインターネット選挙が解禁された際に、LINEなどのSNSでの投票の呼びかけを認めた一方、メールだけ禁止されている状況を疑問視する声があがっていたものです。

災害時にSNSを利用したデマが後を絶たず、対策の強化を急ぐ必要があります。SNSは情報社会に欠かせないインフラであり、災害時には被害や避難情報の把握、安否の確認などで重要な役割を果たしますが、デマは迅速で正確な情報共有の妨げとなり、救助活動に遅れが支障が出る可能性があります。災害時は社会に動揺と不安が広がり、不確かな情報が拡散しやすく、偽の情報を意図的に投稿し混乱させる悪質な行為を決して許してはなりません。総務省はSNS事業者に対しデマへの適正な対処を繰り返し要請、事業者は明らかに虚偽の情報を削除するなどの自主的な対応を行っていますが、2026年4月の三陸沖の地震でも過去の津波の映像などを悪用した偽の情報が拡散、現状の対策だけでは十分に抑止できないことは明らかで、今後、多発化・激甚化が予想される中、対応が急務です。閲覧数に応じて発信者が収益を得る仕組み(アテンションエコノミー)が虚偽投稿を助長しているのは間違いありません。収益化の停止をより迅速に行うなど、厳正な措置が必要であり、事業者は責任をもって改善に取り組んでほしいところです。加えて、南海トラフ地震や首都直下地震の際は外国の敵対勢力もデマを流す恐れがあり、国家規模の影響が生じかねず、国は事業者に自主的な対策を求めるだけでなく、法的規制に向けて具体的な検討を急ぐべきだといえます。内閣府は三陸沖の地震に伴う後発地震注意情報の記者会見で、何月何日に巨大地震が起きるといった科学的根拠のないデマに注意を促しましたが、こうした事前の呼び掛けや、デマが発生したら速やかに否定することも行政の大事な役割だといえます。一方、国民もだまされないための心構えも大切になります。生成AIの普及で本物のように見える偽画像が増えており、信頼できる情報源か確認し、行政や報道機関の情報と照合するなどして慎重に見極める「リテラシー」を身に着け、高めていくことが重要となります。そのベースとなるのは、地震などに関する科学的な基礎知識を一人一人が身に付けることであり、国は常に最新の情報や知見を国民に共有していくことがますます重要になっていると思います。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/ステーブルコイン/暗号資産を巡る動向

本コラムでもその動向を注視していた暗号資産の規制上の分類を明確にする米国の「市場構造(クラリティー)法案」が成立に向けて一歩前進しました。米連邦議会上院の銀行住宅都市委員会が同法案を可決、今後、上院本会議での採択に向けて協議が始まることになります。ただ、暗号資産の投資拡大につながる一方、影響を受ける銀行や一部の民主党議員は依然反発するなど議会での合意形成には課題が多く、まだまだ注視する必要があります。同法案はデジタル資産の規制上の分類を明確化し、米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)の管轄権を整理することを目指すもので、特定の投資家に支配されずに分散保有されている暗号資産であれば「証券」ではなく「商品(コモディティー)」としてCFTCが監督当局になるという内容が盛り込まれる方向です。これまで米国では無数にある暗号資産のうち「どれが証券で、どれが商品か」「監督官庁はSECか、CFTCか」といった線引きを定める連邦法がなかったために、規制強硬派のゲンスラー前委員長のもとでSECが既存の証券法にのっとり事業者の不正行為に厳しい処罰を与えてきた経緯などがあり、法案が成立すれば事業者がどの監督当局に従うべきかが明確になるため、規制体系が曖昧なまま裁量的な取り締まりを受けるリスクが減ることになります。また、投資家が信頼できる規制枠組みが構築されることで、暗号資産ビジネスへの参入や投資が加速するとの期待も膨らんでいます。以前の本コラムでも取り上げたとおり、同法案が銀行住宅都市委員会で議論が進まなかった背景の一つに、暗号資産交換業者が顧客のステーブルコイン保有に応じて利息相当の報酬を提供することへの意見対立がありました。ステーブルコインの規制をまとめた2025年成立の「ジーニアス法」では発行体による保有者への付利を禁止する一方で、コインベースのような交換所などに対する明示的な禁止規定がなく、銀行側は預金利息よりもステーブルコイン利回りに魅力があれば預金が流出しかねないとして、この報酬制度をクラリティー法案で制限するよう求めていました。議論の末に委員会で採決された最新の草案には、単純な保有のみに対する報酬は禁止する一方で送金や支払いといった実際の取引への報酬は認めるといった内容が盛り込まれました。しかし銀行業界団体は採択後、報酬制度に対するより厳しい制限を求める声明を発表、本会議での採決に先立ち、今後さらなる調整を要する可能性が出ています。さらに、トランプ米大統領一族の暗号資産との関わりを巡る(利益相反などの)議論も争点となっています。また、複数の民主党議員は、法案の反マネロン規定が弱過ぎることに懸念を表明し、公職者が暗号資産事業から利益を得ることを禁止すべきだと主張しています。専門家らは、2026年11月の議会中間選挙で民主党が下院を奪還する可能性がある年内に上院が法案を可決できなければ、近い将来に法案が成立する可能性は低いと指摘しています。

2026年6月1日付ロイターによれば、中国人民銀行(中央銀行)は国内外でデジタル人民元「e―CNY」の利用を拡大するための広範な取り組みを進めており、同行は市中銀行に対するインセンティブや水面下の指示を通じ、宝くじの‌抽選からグリーン電力料金、財政支出に至る分野で、デジタル人民元の利用拡大を促しています。銀行は、「一帯一路」沿いを中心に国境を越えた取引におけるデジタル人民元の利用拡大も迫られており、融資、信用状、手形など、​デジタル人民元に対応した商品の開発を急いでいます。トランプ米政権はステーブルコインを受け入れる一方で、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の国内流通を禁止しており、中国の取り組みはこれと対照的で、欧米機関が支配しドルを基軸通貨とする世界的決済システムへの依存を減らす思惑があると指摘されています。中東紛争で対外情勢が不安定化したことにより、こうした必要性が浮き彫りになっているのも事実です。ただ、デジタル人民元の利用はまだ少なく、最新の公式データに​よれば、デジタル人民元は2019年の誕生以来、2025年11月までの累計取引額が16兆7000億元(約2兆4700億ドル)で、「銀聯(ユニオンペイ)」カードの‌2025年1年⁠間の取引額が279兆元だったのと比べると、ごくわずかな水準にとどまっています。中国は2026年初め、大きな方針転換としてデジタル人民元保有に対する利払いを認め、銀行にとって普及のインセンティブが高まりました。さらに同4月には公認のデジタル元運営銀行が2倍以上の22行に増えています。パイロット事業には宝くじの抽選、プリペイ​ドカード、政府の財政支出、​サプライチェーン・⁠ファイナンスなどが含まれているほか、当局はデジタル人民元を利用した医療保険詐欺の抑制やグリーン電力の消費追跡といった試験も実施中です。中​国人民銀行は、全ての運営銀行間でデジタル人民元の取引を処理し、​効率性を向上さ⁠せるため、中国銀聯(ユニオンペイ)に類似した清算機関の創設も検討しているといいます。ただ、消費者に定着している「アリペイ(支付宝)」や「ウィーチャットペイ(微信支付)」での支払いをデジタル人民元が突き崩す可能性は低く、最終的な焦点は企業間の国際決済に絞られると指摘されています。専門家は、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国との決済が優​先事項だが、各国がデジタル人民元の採用に限定的な関心しか示していないことが障害だと述べており、今後の動向を注視していく必要があります。

国際決済銀行(BIS)と国際金融協会(IIF)は、国をまたいだ銀行間の大口決済にデジタル通貨を使う実証実験に成功したと発表しました。国際的な決済の迅速化やコスト削減が期待でき、今後は実際の通貨を使って検証を進めるとしています。この取り組みは「アゴラプロジェクト」と呼ばれ、2024年から実証実験を進めており、日英米仏や韓国、メキシコ、スイスの7中銀と欧米大手銀など40社超の民間金融機関が参加、日本からは日銀のほか3メガバンク、SBI新生銀が参加しています。報道によれば、銀行預金と中央銀行準備預金を共通のデジタル基盤でデジタル化(トークン化)し、デジタル通貨の形で国境を越えた法人取引決済を実現できることを試作版で実証、現在の国際送金は送金システム「国際銀行間通信協会(Swift)」を利用し、「コルレス銀行」と呼ばれる中継銀行のネットワークを使う仕組みになっていますが、複数の銀行をまたいで処理するため、時間と手数料の負担が指摘されています。今後は各国・地域の法的な枠組みにも合致する技術や契約形態といった条件を精査していくことになります。現在も個人が利用する即時低コストの国際送金アプリなどが広がっていますが、アゴラプロジェクトでは中央銀行とも共通のデジタル基盤でつなぎ、コルレス銀行業務は維持しながらも銀行間大口取引のデジタル決済を可能とするインフラ構築を目指すとしています。報告書では複数の決済を一体処理する「アトミック決済」の仕組みも安全に実現できると指摘、マネロン防止や経済制裁の順守、不正の検知といった分野で将来的な機能強化も可能にします

法定通貨と連動するように設計された暗号資産の一種である「ステーブルコイン」を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • イングランド銀行(英中央銀行)のグリーン金融政策委​員は、近年急速に普及したステーブルコインについて、将来的には銀行預金のデジタル版である「​トークン化預金」に取って代わられる可能​性が高いとの見方を示しました。同氏は「5年後には、なぜ私たちがステーブルコインについて議論していたのか不思議に思うかもしれない」と述べています。CBDC、ステーブルコイン、デジタル​預金のいずれにも市場ニーズは存在するとしながらも、商‌業銀⁠行が、この分野で対応に乗り出さなければ従来の預金を失うと認識するようになれば、トークン化預金技術の開発に資金を投じるようになり、デジ​タル預金が優位に​立つとの⁠見方を示しました。一方、米連邦準備理事会(FRB)のウォラー理事はステーブルコインを擁​護、ステーブルコインは決済コ​ストを引⁠き下げる可能性のある金融イノベーションであり、過度な規制によって阻害すべきではないと主張、「⁠私は常に​ステーブルコインを単なる​決済手段としてみている。邪悪なものでも危険なものでもない。決​済市場に競争をもたらしているだけだ」と述べています。
  • イングランド銀行のブリーデン副総裁は、ステーブルコイ‌ンの保有限度額に代わる措置を検討しており、2026年6月に規則案を公表すると明らかにしました。発行済み​ステーブルコイン総額に対する「一⁠時的な防護措置」は、信用供与への​影響を巡る懸念に対応でき、保有限度額​より業界の負担を抑えられる可能性があるとの見解を示しています。英中銀はこれまで、日常的な決済​で広く使われるポンド建てステーブ​ルコインについて、個人の保有限度額を2万ポンド(2万6786ドル)、‌企業⁠は1000万ポンドに制限するとしており、業界の反発を招いていました。同氏は、英中銀が規則案を公表し、「米国の​予定に沿​って」同年⁠末までに最終化すると述べました。同氏によれば、銀行もステーブル​コインを発行できますが、本体で​はな⁠く預金を受け入れない別会社を通じて発行しなければならず、ステーブルコイ⁠ン発行主​体は、銀行本体とは異​なるブランド名を使う必要があるが、銀行本体に関連​した名前を付けることができるとしました。
  • 欧州中央銀行(ECB)のシュナーベル理事は、ステーブルコインの利用拡大がドルの世​界的な優位性を高め、一部の国の金融政策運‌営能力を損ない、ユーロの役割さえ低下させる恐れがあるという認識を示しました。ステーブルコインの利用は依然と⁠して比較的少ないものの急速に拡大しており、ア​ナリストのモデル分析ではさらなる急速な普及が示唆​されていますが、ステーブルコインの大半はドルに連動しており、発行が急増すれば、20年に及ぶドルの世界的な地位低下の流れを鈍化させ、場合によっては反転させる可能性さえあるとの指摘もあります。同氏は、ステーブルコインの利用拡大に関連し「ドルの優位性は、必ずしも経済ファンダメンタルズの強さによってではなく、ネットワーク効果や規模、先行者利益によって強化されるだろう」と述べました。ステーブルコイン​利用拡大によるドルへの追い風は、金融​政策の信⁠頼性に欠ける国々に最も大きな影響を及ぼす可能性がありますが、ユーロにも波及し得ると指摘、「欧州の視点か⁠ら見れば、​これは最終的に、新たな​形態のトークン化金融や、より広義の国際通貨システムにおけるユ​ーロの役割を制限することになりかねない」と述べています。
  • 欧州中央銀行(ECB)は、ユーロ建てステーブルコインの発行拡大案について、銀行融資を減少させ、金利の制御を困難にする可能性があると欧州連合(EU)の財務相らに警告しました。背景には、ブリュッセルを拠点とする経済シンクタンクのブリュ‌ーゲルが報告書で、暗号資産発行者に対する流動性要件の緩和や、ECBから資金を調達できる手段を得られるようにするべきだと提言したことがあり、現在ドルのトークンが支配的なステーブルコイン市場を、欧州で成長​させるのが狙いです。しかし、提案に対してECBのラガルド⁠総裁ら中銀当局者が即座に反対、こうした動きが銀行預金を不安定にし、経済的に極めて重要なセ​クターと中銀の金利操作能力を弱めることに懸念を示しました。ステーブルコインが発行される際、購入者の資金は発行者の口座に移り、銀行にとっては安定性の低い資金が生まれ、これが大規模に行われれば「脱仲介化」が加速し、資金調達コストが上昇することで、銀行の融資能力が抑制される事態が、金融政策当局者にとっては不安の種であり、複数の中銀当局者は、現在は規制対象の銀行部門に限定されている「最後の貸し手」としての役割をステーブルコイン企業にも適用するというブリューゲルの提案に公然と疑問を呈しました。ラガルド氏は、‌ユ⁠ーロ建てステーブルコインに対して懐疑的な見方を示し、代わりに「トークン化された商業銀行預金」を支持すると主張していました。これは、従来の口座の安全性と、分散型台帳技術のスピードやプログラミング可能性の双方を取り込んだ仕組みですが、ブリューゲルのエコノミストらは、米国と比較してEUのステ​ーブルコイン規制が厳​格過ぎると、活動が域⁠外に流出し、「デジタル・ドル化」が進むリスクがあると警告しています。一方、数人の当局者は、域内​および米国で発行されたステーブルコインの保有者が欧州でトークンを​換金すること⁠を防ぐためEUが規則を策定するよう改めて求めています。換金が可能になれば、欧州の発行者が準備金の取り付け騒ぎにさらされる可能性があるためです。EU欧州委員会は、2024年から施行されている「暗号資産市場規制(MiCAR)」を見直しています。MiCARは⁠ステーブ​ルコイン発行者に対し、準備金の大部分を銀行預金やその​他の流動資産で保有することを義務付ける内容で、対照的に、2025年に採択された米国の「ジーニアス法」は、規制されたドル裏付けトーク​ンを促進することでドルの国際的な役割を支えるよう設計されており、より緩やかな要件を課しています。
  • 日本でも中小企業が国境をまたぐ決済にステーブルコインを活用する動きが広がっています。ステーブルコイン活用は暗号資産取引の待機資金利用が大半でしたが、取引環境の整備で利用の裾野が広がる可能性があります。2023年施行の改正資金決済法で、一般の暗号資産と区別され「電子決済手段」と分類されましたが、ステーブルコインを越境決済で使う利点は手数料の安さにあります。1000米ドルをケニアから日本に送金する際にトレーダム社のサービスであれば0.5~1.25%で済むのに対し、クレジットカード決済だと4%、銀行振込だと8%強かかるといいます。ステーブルコインの実需での年間決済金額は3900億ドル(約62兆円)で、ステーブルコインの年間取引額2兆ドルの約5分の1にあたり、かつては暗号資産の待機資金利用が大半だったところ、各国・地域での法整備に伴い、企業や個人での決済利用が増えている状況にあります。政府によるステーブルコイン利用の普及に向けた環境整備も追い風で、政府は2026年5月に電子決済手段等取引業者に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令を公表、合わせて開示したパブリックコメントへの金融庁の考え方で、収納代行に越境ステーブルコインを活用できると明らかになり、これまで自身のバランスシートでステーブルコインを保有する場合の会計処理や、管理の煩雑さが普及の壁になっていたものです。さらに自律的に作業をこなすAIエージェントがホテルや交通チケットを予約したり、商品を購入したりするケースではステーブルコインでの自動支払いが始まっており、企業もこうした市場を無視しては需要を取りこぼす時代になりつつあります。
  • 世界最大のステーブルコイン発行体であるテザーは、ジョージア政府の支援を受け、同国通​貨ラリに連動する「公式の」ステーブルコイ‌ンを発行する計画を発表しました。ラリを暗号資産トークン化するこのステーブルコインがCBDCに該当するかどうかについて詳細は明らか​にしていません。テザーの声明では、ジョージアのコ⁠バヒゼ首相、トゥルナバ中銀総裁と国会議員の1人の​発言が引用され、同社や広範な金融イノベーショ​ンへの支持が表明されました。テザーによれば、このステーブルコインは「GELT」と呼ばれ、「ラリをデジタルで表現したもの」になり、その構造や展開、実装に関する詳細は後日​発表される予​定だといいます。同社⁠は、ステーブルコインが越境取引、フィンテックの開発、およびデジタル決​済を支援することを目指していると述べ​ています。

暗号資産に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 無登録で暗号資産の交換業を営んだとして、京都府警サイバー捜査課と東山署は、大阪府豊中市の大学生を資金決済法違反(無登録営業)の疑いで逮捕しました。「利益を得ていたことに間違いない」などと容疑を認めているといいます。報道によれば、2025年11月~2026年2月、国の登録を受けず、都内の男性(19)と岡山県内の男性(20)の2人から計36万9000円を受け取り、手数料を引いた分相当の暗号資産「ライトコイン(LTC)」を販売したとされます。容疑者は正規の取引所を介さずに暗号資産の換金を請け負って手数料を得る「相対屋」とみられ、「#LTC換金」や換金率を示す「#90」などのハッシュタグを付けてXに投稿して顧客を募り、約1割の手数料を得ていたといい、同課のサイバーパトロールで発覚したものです。
  • CMEグループのテリー・ダフィーCEOは、米規制当局が無期限の暗号資産先物を容認することで金融システムに‌構造的なリスクを生み出していると警告し、この新しい商品を承認した米商品先物取引委員会(CFTC)の手続きを批判しまし​た。CFTCが承認した「無期限先物(パープス)」は通常、​巨額のレバレッジを伴う先物商品であり、金融システムにとって極めて危険だと警鐘を鳴らし、「これは​起こるべくして起こる大惨事だ」とした上で、「​市場が投機の場に取って代わられてしまったと考えている。誰‌の利⁠益にもならない」と語っています。暗号資産取引所のコインベースと予測市場プラットフォームのカルシは2026年5月、CFTCから認可を得て無期限の暗号資産先物を開始すると表明、こうし​た商品が⁠国内の規制された取引所を通じて米国の投資家に提供されるのは初めてとなりますが、無期限先​物は満期日のない上場デリバティブで、​トレ⁠ーダーは契約を乗り換える(ロールオーバー)必要がなく、ポジションを無期限に維持でき、⁠しばしば​最大50倍に達する高いレバレッジ​が認められており、投資家は相場変動に対するエクスポージャ​ー(リスク資産の保有量)を増幅させることができます。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

2030年秋の開業をめざすカジノを含む統合型リゾート(IR)に向け、大阪湾の人工島・夢洲周辺で関連投資の重要性が高まっています。IRの開業で1万5000人の雇用が新たに生み出されるとされ、IR運営会社に出資するオリックスの馬殿グループ関西代表は「IR従業員向けの住宅や商業施設が必要だ」とし、在阪企業と共同での整備に前向きな考えを示しました。IRを巡ってはMGM大阪の少数株主でもある京阪ホールディングスの平川社長が「大阪府内の京阪沿線に従業員向け住宅地を開発したい」と意欲を示しています。馬殿氏はMGM大阪からの要請があった場合は自社開発も選択肢としつつ「規模では自社単独では追いつかない。在阪企業の支援を受けて整備を進めたい」と語っています。

2026年5月26日付朝日新聞の記事「北海道にIR誘致、3識者に聞く観光への効果、カジノ依存症対策は」では、賛否両論があり、興味深い内容でした。推進派は、「非常に大きな経済効果があるからです。前回の道の試算では、年間2千億円に加えて、道への税収など234億円も見込まれます。世界の来訪者を全道各地へ送り出す機能や、国際会議場の設置などにより、年間を通じて安定的な集客が期待できる。道央や夏冬に来客が集中する道観光の課題を解決する手段になり、良質で安定した雇用も生まれます」、「IRのデメリットとしてよく指摘されるのは、ギャンブル依存症の増加への懸念です。対策として、IR整備法の「世界最高水準のカジノ規制」を実行していくことが重要です。入退場の管理や入場回数の制限、家族の申告があれば入場制限できる、といった措置です。日本がIRの手本としたシンガポールでは、総合的な対策で依存症が減っているというデータがある。こうした先行事例を取り込んでいくことも必要です。自然破壊への懸念に対しては、道が事業者や自治体と連携し、環境への影響を最小化するよう取り組んでほしい。自然との共生を施したものが北海道IRの魅力になる」、「エンターテインメント施設を街の中心に据えないとやっていけない時代が来ています。北海道でIRをやれば、メインは観光客になります。アジアの人たちが来たがるのは、やっぱり北海道。景色も良い、食べ物もおいしい、見たことない雪もある。いろんな点で有利ですが、もう一つ「大人の遊び場」があれば家族単位で来ます。IRのコンセプトは、老若男女が少なくとも3日間滞在できるものでないといけません。IRを中心に周遊観光を促す。至るところにそれだけの観光資源が備わっているのが北海道です。まさに拠点です。21世紀のリゾートだと思います」といったものがあります。一方、慎重派は、「多くのリピーターを生まなければ、持続できません」、「北海道はすでに多くの観光資源があって、観光誘致が成功している。そこに新たにIRという名で覆い隠したギャンブル施設を導入する必要性があるのでしょうか。新千歳空港に着いた観光客が、そのまま観光バスでIRに行き、ギャンブルに明け暮れる。他の観光地への周遊なんて望めません。むしろIR以外の観光資源を食いつぶしてしまう恐れもあります」、「現行法内で認められるのかという許容性の問題もあります。刑法では賭博罪と賭博開帳図利罪を定め、禁止しています。これは刑法がつくられた明治時代から始まったもので、賭博によって身を滅ぼす人が大量にいて、そのことが社会に与える悪影響を政府が重く見て禁止したのです。しかし、IR整備法ではその趣旨を忘れたかのように、「これは適用しない」という一文だけで民間賭博を認めている。特区的な発想です。日弁連も法案段階から問題視していましたが、これが許されては法秩序全体が揺らいでしまいます」、「国は依存症対策を甘く見ている。いや、あえて対策していないのだと思います。対策をしてしまうと利用者が減り、事業が成り立たないから、リスクを覆い隠しているのです。失敗する人たちが大量にいる前提で制度が成り立っている。ここが最大の怪しさであり、問題点です」といったものがあり、こちらも説得力があります。最終的には政治的判断になりますが、その動向を注視する必要があります。

愛知県もIR誘致を検討していますが、海外事業者から「自由に設計できない」との声が上がっていると報じられています(2026年5月16日付毎日新聞)。候補地は中部空港がある人工島の一部で、県は2000室規模の客室の確保を求めていますが、滑走路の近くは航空法の規制で高い建物が建てられず、ある事業者は「数百室レベルの確保が限界」と指摘しています。さらに、愛知の候補地は「(鍵のような形の)敷地がいびつで、設計が難しい」とも指摘され、海外の事業者からは「規制が多すぎる」との声があり、「国際競争力があるIRにならない」として検討を見送った事業者がいるともいいます。一方、観光庁のまとめでは、2024年に県内を訪れたインバウンドは約241万人で、東京(約1834万人)や大阪(約1409万人)、京都(約1050万人)などの都市に大きく水をあけられている状況にあり、愛知県はIRをインバウンド誘致の「起爆剤」として位置付けています。こちらも動向を注視していきたいと思います。

オンラインカジノの台頭により、リアルのカジノ施設が苦境に陥っています。米ラスベガスを代表するカジノホテル企業、シーザーズ・エンターテインメントとMGMリゾーツが相次いで身売りを決めました。競争激化に加え、トランプ米政権下で進む観光客の米国離れも引き金となったといいます。買収額はシーザーズの120億ドルの負債を含む176億ドル(約2.8兆円)で、米カジノ史上最大規模となります。シーザーズは2020年のコロナ禍以降、経営に苦しんでおり、売上高の約6割を占めるカジノ事業と約2割を占めるホテル事業が苦戦し、最終損益は2026年1~3月期まで5四半期連続の赤字だったことに加え、運営施設の老朽化も課題となっています。一方、MGM買収額は180億ドル以上になる見通しで、カジノ2社が相次いで非上場化し業界再編が進む可能性が出ています。カジノ大手苦戦の背景に観光需要の低迷がある。コロナ禍を機に稼ぎ頭だった中国人客が4分の1以上減少、ラスベガス観光局によるとコロナ前に4200万人以上だった訪問客は2020年に半減、その後は持ち直したが、2025年は前年比8%減の3854万人とコロナ禍以降で初めて減少に転じました。トランプ米政権の移民取り締まりや入国審査の厳格化などに伴う観光客の「米国離れ」を背景に、特に緊張関係が続くカナダからの客足が大きく減りました。オンラインで気軽にカジノを楽しめるようになったことも、老舗カジノを取り巻く環境を変えています。コロナ禍を機にオンラインカジノ市場が拡大。ファンデュエルやドラフトキングスなどオンラインでスポーツ賭博を提供する事業者が台頭、これらの事業者はMLBなどスポーツチームと提携し、ポイント付与など様々な特典を打ち出してスタジアムへの来場者を増やす相乗効果も生み出しています。さらに、オンライン賭博の広がりはカルシなど予測市場で稼ぐ企業の取引拡大も促し、伝統的なカジノ大手が苦戦に陥る構図となっています

オンラインカジノへのアクセス抑止、とりわけブロッキングを巡る議論、総務省の有識者会議での報告書案については、前回の本コラム(暴排トピックス2026年5月号)で取り上げました。オンラインカジノは若者の利用も多く、依存症の問題も深刻になる中、被害を抑えるため、インターネットの当該サイトへの接続を遮断する手段(ブロッキング)に踏み込むかどうかについて、報告書案は、判断を先送りしつつ、将来的な可能性は排除しませんでした。この報告書案について、2026年5月23日付朝日新聞の記事「ネットカジノ対策 「通信の秘密」を侵さぬよう極めて慎重に」では、(朝日新聞らしい)慎重な見方が示されており、参考になります。「ブロッキングは、すべてのネットユーザーの通信が把握されることが前提になり、「通信の秘密」の侵害につながる。導入には極めて慎重であるべきで、他に取り得る対策を尽くすのが先決だ。オンカジは、海外で合法的に運営されているものであっても、日本からアクセスし、金を賭ければ刑法の賭博罪にあたる。警察庁によると国内の利用経験者は推計で約337万人、賭けの総額は年間約1兆2423億円にのぼる。野放しにしてはならない。だが接続の遮断には、ネット接続を提供する事業者がユーザーの閲覧先を網羅的に確認する必要がある。政府がネット空間を常時把握できる仕組みにつながらないだろうか。「例外的」措置が際限なく拡大していく懸念も拭えない。国内では2011年から、児童ポルノサイトに限って警察からの情報をもとに民間事業者が接続を遮断している。被害者に生じる取り返しのつかない傷の重みを踏まえ、刑法の「緊急避難」に当たるとした、例外的な対応だ。一方、18~19年には漫画などの海賊版サイトへの導入も検討されたが、経済的利益の確保の観点だけでは国民の権利を侵害する正当性は見いだせないとして、見送られた。ネットカジノでは、依存症でまっとうな人生が送れなくなり人格的利益が損なわれるとの指摘もある。無視できない論点だ。だが、憲法で保障された「通信の秘密」の侵害が無数のユーザーに生じる不利益とのバランスをどう考えるか。精密な議論が必要だ。遮断したところで回避策はあるとの指摘も見逃せない。まずは政府が包括的対策を進めることが重要だ。警察庁の調べでは、利用者の44%が違法と認識していなかった。さらなる周知が不可欠だ。昨年の法改正でサイト開設や広告、誘導が禁止され、一定の効果が出ているという。金融機関はオンカジ関連と疑われる不自然な送金の停止を、警察はサイトを運営する海外の事業者への捜査や海外当局への協力要請を。あらゆる手立てを講じてほしい。また、オンカジ対策だけで依存症の問題が解決するわけでもない。本人が依存症であると気付き、治りたいと思える相談体制を充実させたい」といったものです。

ブロッキング導入には慎重な議論を続ける必要があるものの、オンラインカジノにはまる人は明らかに増えており、実効性ある対策が求められているのも事実です。驚くべき事実としては、兵庫県警内で2025年、オンラインカジノで金を賭けていた警察官の存在が次々と明らかになり、兵庫県警は9人を懲戒処分されたというものがありますが、直近でも千葉県警の巡査長が、15万回、掛け金1億円に上り懲戒処分を受けた事例もありました。また、「オンラインカジノに賭けるためのお金がほしかった」として、経理事務を担当していた千葉県いすみ市の乳児院からの口座から2024年11月~2025年3月、ATMで複数回にわたり自身の預金口座に現金を振り込んで計約1億5000万円を横領した疑いで女性が逮捕された事例もありました。オンラインカジノについて、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表は「365日24時間、いつでもどこでもスマホで賭けられる。これまでのギャンブルより依存症に陥りやすい」と危険性を訴え、ギャンブル依存症は、賭け事にのめり込み、自分でコントロールできなくなる精神疾患で、借金やうそで人間関係が崩れ、家庭や仕事を失うほか、犯罪に手を染めてしまうケースもあり、「オンラインカジノの事業者はサイト上で賭けた履歴やデータを収集しており、「やめようというタイミングでボーナスを与えて賭けさせるなどし、脳が快楽を覚え、依存の無限ループに陥ってしまう」と指摘、「依存症は時間がかかれば治りにくくなり、借金も増える。できるだけ早く、家族だけでもいいので、支援団体に相談をしてほしい」としています。

ギャンブル依存症の人は「怠け者だ」「お金にだらしない」という偏見も根強いところ、誰でもなりうる病気です。国立病院機構・久里浜医療センター(神奈川県)の2023年度の調査では、日本の男性の2.8%、女性の0.5%で依存症が疑われると推計しています。さらに、ギャンブル依存者が、コロナ禍以降、若年化し、借金の平均額が過去最多となったことが、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の調査で分かりました。2025年に家族から同会に相談があった当事者は463人に上り、20~30代が全体の7割を占め、年代別で最多は20代の170人で、コロナ禍前の2019年の52人から3倍超に増加、次いで多かったのは30代の161人、10代も6人いたといい、2022年に2.5%だった大学生や大学院生の割合は6.5%に上昇しました。当事者への調査では、ギャンブルを始めた平均年齢は20.7歳、また、家族や知人らからの借金の平均額は増加傾向にあり、2025年は1084万円と同会の調査で過去最多になりました(2022年の763万円から増加傾向が続き、2025年に初めて1000万円を超えました)。借金を重ね、精神的に追い込まれた若者の自死の知らせも増えているといいます。同会の田中紀子代表は若年化が進んだ背景について、コロナ禍での外出自粛に触れ「オンラインカジノの他、公営ギャンブルのオンライン化も進み、スマホであっという間にのめり込んで、やめにくい状況になっている」と分析、若者をギャンブル依存から守るための対策として「大学へのリスクの周知や、高校などでの予防教育を確立すべきだ」と指摘しています。なお、同会が依存症の人を対象に行ったアンケートによれば、家族が支援団体に参加した場合、本人が医療機関などを受診する割合が約10ポイント高かったといいます。田中代表は「ギャンブル依存症は誰でもなる可能性がある病気」とし、「家族が借金を肩代わりすると、ギャンブルを続けられる環境をつくってしまう。まずは勇気を持って相談してほしい」と呼びかけています。また、依存症全般に詳しい石東病院(大田市)の安田院長は「ギャンブル依存症の当事者は否認傾向があり、周囲も異変に気づきにくい。受診・相談に至るのは、当事者全体の1割程度」と指摘、近年はギャンブルの手段のオンライン化が進み、学生など若年層の相談が増加傾向にあり、「ギャンブル依存症になると、衝動性を抑制・調節する脳機能が弱まり、ギャンブルをやめられない状態に陥る」とした上で、「借金の肩代わりは、本人のギャンブル行為を助長させる恐れがある。家族だけで解決しようとせず、まずは病院や相談機関に相談してほしい」と話しています。

③犯罪統計資料から

例月同様、令和8年(2026年)1~3月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼ 警察庁 犯罪統計資料(令和8年1~4月分)

令和8年(2026年)1~4月の刑法犯総数について、認知件数は246399件(前年同期231810件、前年同期比+6.3%)、検挙件数は96513件(91168件、+5.9%)、検挙率は39.2%(39.3%、▲0.1P)と、認知件数、検挙件数がともに増加している点が注目されます。刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、、窃盗犯の認知件数は158971件(154552件、+2.9%)、検挙件数は55388件(53157件、+4.2%)、検挙率は34.8%(34.4%、+0.4P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は35464件(34417件、+3.0%)、検挙件数は24249件(23014件、+5.4%)、検挙率は68.4%(66.9%、+1.5P)と大幅な増加が継続しています。その他、凶悪犯の認知件数は2576件(2242件、+14.9%)、検挙件数は2095件(1906件、+9.9)、検挙率は81.3%(85.0%、▲3.7P)、粗暴犯の認知件数は21020件(18563件、+13.2%)、検挙件数は16498件(14709件、+12.2%)、検挙率は78.5%(79.2%、▲0.7P)、知能犯の認知件数は27344件(22327件、+22.5)、検挙件数は6651件(6530件、+1.9%)、検挙率は24.3%(29.2%、▲4.9P)、とりわけ詐欺の認知件数は25548件(20768件、+23.0%)、検挙件数は5521件(5404件、+2.2%)、検挙率は21.6%(26.0%、▲4.4P)、風俗犯の認知件数は5912件(5531件、+6.9%)、検挙件数は5322件(4890件、+8.8%)、検挙率は90.0%(88.4%、+1.6P)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数が増加しているほどには検挙件数が伸びず、検挙率が低調な点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、コロナ禍後も「非対面」でないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加、さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。

また、特別法犯総数については、検挙件数は20654件(18786件、+9.9%)、検挙人員は15646人(14753人、+6.1%)と検挙件数、検挙人員ともに増加する結果となりました。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は1265件(1608件、▲21.3%)、検挙人員は854人(1062人、▲19.6%)、軽犯罪法違反の検挙件数は1952件(1716件、+13.8%)、検挙人員は1943人(1671人、+16.3%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は1475件(1518件、▲2.8%)、検挙人員は1050人(1065人、▲3.2%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は552件(380件、+45.3%)、検挙人員は433人(318人、+36.2%)、児童買春・児童ポルノ法違反の検挙件数は1144件(1059件、+8.0%)、検挙人員は611人(560人、+9.1%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1913件(1541件、+24.1%)、検挙人員は1353人(1201人、+12.7%)、銃刀法違反の検挙件数は1357件(1238件、+9.6%)、検挙人員は1107人(1047人、+5.7%)などとなっています。とりわけ犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、、麻薬等取締法違反の検挙件数は3938件(2683件、+46.8%)、検挙人員は2433人(1952人、+24.6%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は40件(38件、+5.3%)、検挙人員は41人(34人、+20.6%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は2631件(2452件、+7.3%)、検挙人員は1736人(1594人、+8.9%)などとなっています。大麻の規制を巡る法改正から1年以上が経過しましたが、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています(今後の動向を注視していく必要があります)。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していたところ、最近、あらためて増加傾向が見られています(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況も危惧されるところです)。なお、麻薬等取締法違反が大きく増加している点も注目されますが、2024年の法改正で大麻の利用が追加された点が大きいと言えます。それ以外で対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。前述したとおり、コカインについては、世界中で急増している点に注意が必要です。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員対前年比較について、総数143人(133人、+7.5%)、中国27人(23人、17.4%)、ベトナム24人(33人、▲27.3%)、ブラジル13人(7人、+85.7%)、フィリピン7人(11人、▲36.4%)、インドネシア5人(4人、+25.0%)、パキスタン5人(3人、66.7%)などとなっています。最近はベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回って増え続けていましたが、この時点では、中国人の方が多くなっている点が注目されます。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は1799件(2582件、▲30.3%)、検挙人員は1117人(1331人、▲16.1%)と検挙件数、検挙人員ともに減少しています(暴力団員数が減少し続けていることが影響していると考えられます)。犯罪類型別では、殺人の検挙件数は16件(8件、+100.0%)、検挙人員は20人(14人、+42.9%)、強盗の検挙件数は20件(28件、▲28.6%)、暴行の検挙件数は111件(122件、▲9.0%)、検挙人員は100人(110人、▲9.1%)、傷害の検挙件数は197件(238件、▲17.2%)、検挙人員は221人(271人、▲18.5%)、脅迫の検挙件数は68件(76件、▲10.5%)、検挙人員は60人(71人、▲15.5%)、恐喝の検挙件数は89件(91件、▲2.2%)、検挙人員は101人(101人、±0%)、窃盗の検挙件数は790件(1014件、▲22.1%)、検挙人員は164人(200人、▲18.0%)、詐欺の検挙件数は237件(597件、▲60.3%)、検挙人員は189人(271人、▲30.3%)、賭博の検挙件数は4件(17件、▲76.5%)、検挙人員は29人(41人、▲29.3%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、2023年7月から減少に転じていたところ、あらためて増加傾向になった後、ここにきて減少に転じている点が特筆されます。ただし、資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測される(ただし、詐欺は薬物などとともに暴力団の世界では御法度となっています)ことから、引き続き注意が必要です。

さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯総数について、特別法犯全体の検挙件数総数は1072件(1193件、▲10.1%)、検挙人員総数は605人(759人、▲20.3%)となりました。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は5件(4件、+25.0%)、検挙人員は6人(4人、+50.0%)、軽犯罪法違反の検挙件数は14件(9件、+55.6%)、検挙人員は11人(6人、+83.3%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は7件(11件、▲36.4%)、検挙人員は4人(7人、▲42.9%)、暴力団排条例違反の検挙件数は8件(6件、+33.3%)、検挙人員は7人(9人、▲22.2%)、銃刀法違反の検挙件数は19件(21件、▲9.5%)、検挙人員は16人(21人、▲23.8%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は335件(273件、+22.7%)、検挙人員は138人(140人、▲1.4%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は8件(8件、±0%)、検挙人員は12人(3人、+300.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は525件(680件、▲22.8%)、検挙人員は313人(411人、▲23.8%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は46件(59件、▲22.0%)、検挙人員は8人(40人、▲80.0%)などとなっています。とりわけ覚せい剤取締法違反や麻薬等取締法違反については、前述のとおり、今後の動向を注視していく必要があります。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

中国の習近平国家主席は金正恩朝鮮労働党総書記の招きで国賓として、2026年6月8~9日に北朝鮮を訪問し、金総書記と会談します。7年ぶりの訪朝で中朝の友好・協力関係を確認することになります。トランプ米大統領が金総書記との会談に意欲を示すなか、対米方針を擦り合わせる狙いがあります。中国外務省の毛寧報道局長は「今回の訪問を契機に中朝関係をさらに発展させ、両国人民の福祉を増進させる」と説明、「地域や世界の平和と安定や発展・繁栄のためにより大きな貢献を果たしたい」と述べました。中朝両国は同7月、事実上の軍事同盟の裏付けとなる「友好協力相互援助条約」の署名から65年を迎えます。どちらかが戦争状態に陥ったときにもう一方が軍事支援すると定める内容で、習国家主席はこれに先立ち、2019年6月以来となる訪朝に踏み切って両国の友好を打ち出すものです。また、習国家主席の訪米を2026年9月に控える中国としては、北朝鮮への影響力を誇示し、米中の駆け引きを有利に進める思惑があり、金総書記に北朝鮮の経済発展を支援すると伝え、中朝の実務協力を協議するとみられます。対米関係も主要議題で、対米共闘の同志国である中朝両首脳は2国間関係にとどまらず、北東アジアを中心とする国際情勢についても議論するとみられます。トランプ大統領は第1次政権時の2018~19年、金総書記と3度にわたって会談し、北朝鮮の非核化を話し合いましたが、第2次政権が発足した2025年1月以降も米朝首脳会談の開催に意欲を示しています。北朝鮮問題はトランプ大統領と習国家主席の2026年5月の首脳会談でも議題にのぼりましたが、中国は北朝鮮への影響力を対米カードの一つに位置づけており、習国家主席が米朝首脳会談の橋渡し役を買って出る可能性があります。中朝関係は北朝鮮がウクライナ侵略を続けるロシアへの軍事支援を強めた2023年以降に冷え込み、中国は日米欧によるロシアや北朝鮮への制裁が自国へ飛び火することを警戒し、ロ朝の軍事協力と距離を置きました。転機は2025年9月の金総書記の6年半ぶりの訪中で、これを境に中朝の貿易や人的往来が再び活発になり、2026年3月の北朝鮮の中国向け輸出はおよそ8年半ぶりの高水準となりました。同4月には中国の王毅共産党政治局員兼外相が訪朝しました。中国は北朝鮮の核保有にも配慮をみせており、2025年9月の中朝首脳会談に関する中国側の発表は朝鮮半島の「非核化」に言及しませんでした。中国は北朝鮮の核保有が朝鮮半島情勢を不安定にしかねないと警戒し、2018~19年の過去5回の中朝首脳会談では習国家主席が非核化を求めていました。5月の米中首脳会談後に米ホワイトハウスが発表した結果概要は、両首脳が「北朝鮮の非核化という共通の目標を確認した」と記載したのに対し、中国側の発表文は朝鮮半島情勢が議題になったと記したものの非核化には触れていません。ウクライナでの戦争を背景にロシアと北朝鮮が接近する中、経済協力をてこに、北朝鮮を手元に引き寄せておく意図もあり、一方、ロシアと安全保障分野での協力を深める北朝鮮は、中国との連携も確認することで、米国への対抗軸をより盤石なものにする狙いがあるとみられます。また、近年はロシアとの関係強化を優先してきたため、対外関係のバランスを取る思惑も透けてみえます。中国は今後、ロ朝との協力をいっそう強める方向で、習国家主席とロシアのプーチン大統領が5月20日の会談後に署名した共同声明には「中ロは朝鮮半島問題の政治的解決に向けて建設的な役割を果たす」と明記しました。日米などを念頭に「外交的孤立や経済制裁、武力による圧力などの手段を用いて朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の安全を脅かすことに反対する」と掲げています。対日政策も注目点の一つで、台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁後、習指導部は日本を「新型軍国主義」と見なし批判を強めており、北朝鮮はロシアと共にそれに同調する数少ない国の一つであり、5月の中ロ首脳会談に続き、中朝首脳会談でも高市政権の安全保障政策への反発が示される可能性があります。

朝鮮中央通信(KCNA)は、北朝鮮のミサイル総局と国防科学院が、戦術巡航ミサイルなどの発射実験を行ったと報じました。韓国軍は北朝鮮が2026年5月26日に短距離弾道ミサイルなど数発を発射したと発表しており、これを指すとみられます。国防5カ年計画で定めた兵器の刷新事業の一環で、改良により精度などが向上、KCNAは、戦術巡航ミサイルにはAIによる誘導機能が導入され、「100キロ先の標的を精密に攻撃できる」と主張、発射実験に立ち会った金総書記は「大きな技術的進歩を意味する。核戦力と通常戦力を持続的に強化する党と政府の路線は不変だ」と述べました。この巡航ミサイルは南北軍事境界線付近に配備する方針で、敵国とみなす韓国・ソウルなど首都圏が射程圏内に入ることになります。金総書記は2023年12月に南北関係を「敵対的な2国家関係」と位置づけ、統一路線を放棄、2026年5月には軍全体の指揮官を招集し、「南部国境を難攻不落の要塞」とする党の領土防衛政策に言及しています。なお、北朝鮮による弾道ミサイル発射は2026年では8回目となりますが、弾道ミサイルの実験では「特殊な使命」を持つ弾頭の威力を確認、詳細は不明ですが、最近は広範囲を攻撃する弾道ミサイルの実験を続けているほか、放射砲については射程を拡大、ミサイル発射用の車両も改良し、金総書記は「現代戦の条件に適合するように刷新された」と評しています。

ミサイル開発だけでなく核開発の動きも最近、報じられています。北朝鮮メディアは、新たな核物質の生産工場が2026年6月3日に稼働し、金総書記が視察したと報じました。金総書記は、核戦力を強化する過去5年間の取り組みにより「兵器級核物質の生産能力が従来の2倍超に達した」、「生産工程の全ての効率性を高め、生産基盤を更に強化できる堅固な担保を整えた」、「安全装置である核戦争抑止力を持続的、加速的に拡大しなければならない」と述べました。公開された写真によれば、多数の遠心分離機が並ぶウラン濃縮施設とみられます。北朝鮮は核戦力の増強を通じ軍事的な抑止力の向上を図っており。金総書記は米国に対し、非核化要求を放棄するのであれば関係改善の余地があるとの姿勢を示しています。金総書記は視察で「核戦力を飛躍的に強化する計画」についても言及、視察には党の軍需工業部と核兵器研究所の幹部らが同行、北朝鮮のウラン濃縮施設は北西部寧辺や平壌近郊カンソンにあるとされ、他に北西部亀城にも存在すると韓国の鄭東泳統一相が言及したことがあります。韓国の聯合ニュースは今回の視察先がこれらとは別の新しい施設の可能性もあると報じています。なお、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は2026年3月、寧辺で新たな施設の建設を監視中だと述べていました。これに関連し、米国の北朝鮮専門サイトは同4月、衛星画像に基づき、新施設が完成したとの分析を公表、金総書記が今回視察した施設が、この寧辺の施設の可能性もあります。

英国は、ロシアによるウクライナの子どもの強制移送や再教育プログラムに関与した疑いで、北朝鮮の児童キャンプ場を制裁対象に加えると決めました。制裁対象となったのは、北朝鮮の施設「松濤園国際少年団キャンプ場」で、ロシア占領下のウクライナの子どもが同キャンプ場に滞在していたことが、同化政策の一環として問題視されていました。英国は制裁の理由について、「ウクライナの領土保全、主権、独立を損なう、あるいは脅かす政策や行動を支援している」とし、同キャンプ場の資産凍結の制裁を科したものです。2022年のウクライナ侵略を契機にロシアと北朝鮮は急接近し、2024年に両国が「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結して以来、軍事面だけでなく人的交流も活発になっています。ウクライナの非政府組織「地域人権センター(RCHR)」は2025年12月、米上院公聴会でロシア占領地出身のウクライナの子ども2人が松濤園キャンプ場を訪れていたと報告していました。RCHRは同キャンプ場をウクライナの子どものロシア化と軍事化に関与する再教育キャンプのひとつとして取り上げました。北朝鮮のKCNAは、英国の制裁に対する外務省の回答として「キャンプ施設を事実無根のウクライナの子どもの『強制移住』問題と無理やり結びつけた」とし、政治的挑発行為だと報じました。今回の英国の対ロシア制裁リストには、松濤園キャンプ場を含む85の個人や団体が加えられました。前回の本コラム(暴排トピックス2026年5月号)でも取り上げましたが、日本経済新聞がロシア占領地のウクライナ・ドネツク州在住の少年が2025年夏に北朝鮮の同キャンプ場を訪問していたことを報じています。

ロシア政府は北朝鮮に多大な利点を見いだし、ロシア国民の北朝鮮への親近感を高めることに力を入れています。ウクライナ戦争により、西側諸国からロシアがいっそう孤立する中、ロシア政府は、米国主導の国際秩序への挑戦者と自任する中国や北朝鮮といった、価値観を共有する東方の権威主義国家へ視線を向けています。同盟国や、援助、貿易、軍事技術の新たな供給源を切実に必要としている北朝鮮は、本コラムでも継続的に取り上げている通り、ウクライナ戦争において、ロシアに極めて重要な支援を提供してきました。2024年から25年にかけては、ウクライナ軍が一部を占領していたロシア南西部クルスク州の戦闘に自国兵士を何千人も派遣、加えて北朝鮮は、戦争と国外脱出によって働く世代の男性の減少に見舞われているロシアが必要とする労働者も送り出しています。韓国の情報当局が国会議員らに示した推計によれば、2025年時点で最大1万5千人の北朝鮮人がロシアで過酷な労働に従事していました。北朝鮮は、戦争が終われば自分たちがロシア政府にとって無用になることを理解しており、可能な手段はすべて使って、今のうちに関係強化に弾みをつけようとしている一方、ロシア政府から見れば、プーチン大統領が自らの戦争のために弾薬を必要としているといった見方ができます。文化的な関係を築き、長期的なパートナーシップを盤石なものにしようと、ロシア政府は北朝鮮の美術展や、閉ざされた同国への観光旅行、学術交流を推進しており、すべて北朝鮮のイメージアップが狙いだとされます。ロシアの世論調査によれば、ウクライナ侵攻前の2021年時点で北朝鮮を友好国と見ていたロシア人は3%に過ぎなかったところ、2025年までには、回答者のほぼ3分の1が、北朝鮮をロシアの最も親密な同盟国の一つに挙げるようになったといいます。

シンガポールのバラクリシュナン外相は、北朝鮮は米国、韓国、​日本との対話に意欲を示して‌いない様子で、自立と軍事的抑止力の強化に注力していると述べました。2026年5月26日に北朝鮮、27日に韓​国を訪問した後、28日にシンガポール​のメディアに発言したものです。2018年にも訪朝し⁠たバラクリシュナン氏は、「明確な​のは、北朝鮮が現在ロシアとより緊​密な関係にあることだ。中国はなお不可欠な存在だが、現時点ではまだ米国、韓国、​日本との重要な対話チャンネルを開​く用意はできていない」と述べました。トランプ米‌大統⁠領と韓国の李大統領は金総書記との会談に繰り返し関心を示しており、28日には韓国の趙顕外​相がバラ​クリシュ⁠ナン氏に北朝鮮との対話再開に向けシンガポールと東南ア​ジア諸国連合(ASEAN)による支援​を要⁠請したと韓国外務省が発表しています。バラクリシュナン氏は、北朝鮮の崔善⁠姫外​相をASEAN地域フォーラムに招​待し、より広い国際社会との関係を続ける適​切な機会を模索するよう促したと述べました。

関連して、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、「軍国化を追求する日本には未来がない」との論評を掲載しました。高市早苗政権が目指す安全保障関連3文書の改定や憲法改正などを挙げ「再武装の道を激しく突き進む日本が再侵略を企てれば、それは過去よりも厳しく自らを傷つける結果を招くだろう」と警告しました。労働新聞は、高市政権が殺傷能力のある武器の輸出を原則容認したことなどを「軍国化の動き」だと指摘、「周辺国の深刻な懸念を引き起こしている」と批判、そのうえで「自国を戦争国家として位置づけ、かつて東洋制覇を夢見ていた『大日本帝国』を再生させようとする軍国主義的な暴挙だ」と主張しました。また、北朝鮮外務省の報道官は、日米豪印の協力枠組み「クアッド」が外相会合の共同声明で北朝鮮の完全な非核化を求めたことについて、朝鮮中央通信を通じて反発、核・ミサイル開発は合法的な自衛権の行使で、非核化に応じることは「永遠にない」と主張、声明に重要鉱物の供給網強化が盛り込まれたことで「安全保障の概念を経済分野に拡大した」とし、米主導の「排他的で対決的」な対外戦略を進めているとも批判しました。さらに、KCNAは、日本政府が殺傷能力のある武器輸出を原則容認したことについて「軍事大国化の野望を実現しようとする戦争商人としての本性をあらわにした危険千万な振る舞いだ」などと激しく非難する国際問題専門家の論評を伝えました。KCNAは「過去に『台湾有事』介入を示唆して周辺国に対する政治的、軍事的挑発を行い、今は殺人兵器の販路を切り開いて戦争国家へと進んでいる」などと主張、ただ、高市早苗首相を名指しで批判してはいません。

北朝鮮の金総書記は、南部国境地帯の軍事力を強化して「難攻不​落の要塞」にすべきだとし、韓国との国境沿いの‌最前線部隊をはじめとする主要部隊の強化計画は「より徹底した戦争抑止」の鍵になると述べました。​金総書記は現代戦の変化と北朝鮮軍の発展を反映させ⁠るため、訓練制度の調整と実戦訓練の拡大を呼びかけ​たほか、計画中のプロジェクトでは軍事・技術装備の急速な近​代化に合わせて作戦構想を再定義し、部隊の戦闘訓練に適用すべきだと述べたといいます。KCNAは金総書記が「宿敵」に対する警戒を強調したと伝えました。韓国統一省は、​金総書記が権力を掌握して以来、師団・旅団の司令官と会議を行‌った⁠と報じられたのは初めてとみられると指摘し、今後も軍事的緊張を管理し、信頼関係の構築に努めていくと述べました。また、韓国軍合同参謀本部は、北朝鮮軍が2026年3月以降、南北境界付近で壁​の建設を含む​要塞化作業を⁠強化していると明らかにしました。専門家は、金総書記が「南​部国境」の要塞化に言及したことについて、​北方限界⁠線(NLL)など韓国との海上の境界における軍事的プレゼンスも強化する可能性を示唆していると指摘、金総書記が現代戦や「あら⁠ゆる​領域」における作戦再定義に言及し​たのは、ドローン(無人機)の使用や精密攻撃、電子戦など、ウクライナや​中東の紛争から得た教訓を反映している可能性が高いと述べています。

金総書記が体制維持の要である治安・情報機関の大改造を始めたと報じられています(2026年5月16日付産経新聞)。金氏が国会に当たる最高人民会議で現行の治安機関(社会安全省)を「警察」に改称し再編すると発表したほか、李昌大国家保衛相の肩書が「国家情報局長」と変わったことで、秘密警察の国家保衛省が「国家情報局」に改編されたことが分かったものです。政治犯の摘発で北朝鮮の恐怖政治の「元締め」となってきた国家保衛省は今後、対外情報機関の「北朝鮮版CIA(米中央情報局)」になる公算が大きいとみられています。軍事独裁国家の北朝鮮にとって秘密警察の存在は、反政府・反乱分子の摘発、クーデター阻止など国家存亡にかかわる安全装置として建国以来、政治権力の源泉ともなってきました。北朝鮮が今回の最高人民会議でこれまでの「社会主義憲法」を「憲法」に改名、イデオロギー色を薄め、全体的に「正常な国家」を装う流れの延長線との見方もあります。国家保衛省の改編の背景について、北朝鮮情報に詳しい麗澤大の西岡力特任教授は北朝鮮関係者から「契機は米国とイスラエルによる2月末のイラン攻撃だった」との情報を得たといい、米軍とイスラエル軍はイラン中枢部の非公開会議中に最高指導者ハメネイ師らを確実に爆撃、米国は正確なヒューミント(人的情報)を持っており、「次に狙われるのは自分かもしれない。こちらも情報を持たないと身の安全は図れない。モサド(イスラエル情報機関)やCIAをモデルにした情報機関を持ちたいというのが、今回の発端だった」とのことです。国家情報局長は国家保衛省のトップだった李昌大氏で、李氏は保衛機関のたたき上げで国家保衛省は金総書記に直結しており、改編される国家情報局も同様に金総書記直結とみられる一方、責任者は金総書記の実妹、金与正氏になるといいます。金与正氏は、公式的なポジションとは別に朝鮮労働党の中枢部署、組織指導部の責任者を務めているとされ、組織指導部は党、軍、政、治安機関などの監視に当たる「党の中の党」と呼ばれる最重要部署で、党、軍、政の監視部門を任されている金与正氏が北朝鮮版CIAの責任者も務めるのであれば、人事と情報を握ることになります。金総書記は「身の安全のためには身内しか信じられない」ほどの恐怖を抱えていることになるとの指摘もなるほどと思わせます。

2024年12月にスペイン南部沖で沈没したロシア貨物船が、北朝鮮に原子力潜水艦用の原子炉の部品を輸送する途中だったとの疑惑が浮上し、関係国の注目を集めています。米CNNテレビは西側諸国が魚雷などで核技術拡散の阻止を図ったとの見方を伝える一方、真相は「海の底に眠ったままだ」としています。原潜保有を目指す北朝鮮にとって小型原子炉を含む動力機関の確保は最大の課題とされます。ウクライナ侵攻で派兵支援したロシアからの技術供与が取り沙汰されており、CNNやスペインメディアによれば、貨物船「ウルサ・マヨル」は2024年12月11日にロシア北西部サンクトペテルブルクを出港、記録上は「大型のマンホールのふた」や多数の空のコンテナ、大型クレーンを積み、極東ウラジオストクを目的地としていました。貨物船はロシアの軍艦2隻とともに欧州西部沖を経由して南下、スペイン南部沖で急減速し、同23日に救難信号を出し、右舷の機関室付近で3回の爆発が起き、乗組員2人が死亡、さらに4回の爆発後に沈没したといいます。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(東京都)

禁止区域で暴力団事務所を運営したとして、警視庁暴力団対策課は、東京都暴排条例違反の疑いで、住吉会幸平一家傘下組織組長ら6人を逮捕しました。2025年10月~2026年4月、共謀して板橋区の児童福祉施設の敷地周辺200メートル以内で暴力団事務所を運営したとしています。暴排条例では、児童福祉施設や学校、公民館などの敷地周辺200メートル以内での暴力団事務所の運営を禁止しています。事務所はマンションの一室で組長の関係者名義になっていたといい、捜査員が組員や幹部らの出入りを確認し、暴力団事務所と認定したものです。組長は2025年5月に清瀬市内の禁止区域で暴力団事務所を運営したとして警視庁に摘発されており、その後、板橋区内に拠点を移したとみられています。

▼ 東京都暴力団排除条例

同条例第二十二条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供せられるものと決定した土地を含む。)の周囲二百メートルの区域内において、これを開設し、又は運営してはならない」として、「三 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第七条第一項に規定する児童福祉施設若しくは同法第十二条第一項に規定する児童相談所又は東京都安全安心まちづくり条例(平成十五年東京都条例第百十四号)第七条の規定に基づき同法第七条に規定する児童福祉施設に類する施設として東京都規則で定めるもの」が規定されています。また、第三十三条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」として、「一 第二十二条第一項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者」が規定されています。

(2)暴力団排除条例に基づく勧告事例(長野県)

暴力団への利益供与などを禁じた長野県暴排条例に違反したとして、長野県公安委員会は、暴力団幹部と事業者3人に勧告を出しています。

▼ 長野県暴力団排除条例

事業者については、同条例第14条(利益の供与等の禁止)において、「事業者は、その行う事業に関し、暴力団員等(暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者をいう。以下この条及び第16条において同じ。)又は暴力団員等が指定した者に対し、次に掲げる行為をしてはならない」として、「(1)暴力団の威力を利用する目的で、又は暴力団の威力を利用したことに関し、金品その他の財産上の利益の供与(以下この条及び第16条において「利益の供与」という。)をすること」が規定されています。また、暴力団員等については、第16条(暴力団員等が利益の供与を受けること等の禁止)において、「暴力団員等は、情を知って、事業者から当該事業者が第14条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる利益の供与を受け、又は事業者に当該事業者がこれらの項の規定に違反することとなる当該暴力団員等が指定した者に対する利益の供与をさせてはならない」と規定されています。そのうえで、第23条(勧告)において、「公安委員会は、第14条第1項、第16条、第18条第2項又は第19条第2項の規定に違反する行為が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる」と規定されています。

(3)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(長崎県)

知人の自営業の男性に対し指定暴力団であることを示して不当に金銭を要求したなどとして長崎県警は六代目山口組傘下組織組長に暴力団対策法に基づく中止命令を発出しました。組長は2026年4月、五島市の自営業の50代の男性に指定暴力団であることを示して不当に金銭を要求したということです。組長はこの男性の顔面を殴りケガをさせたとして2026年5月に逮捕されていました。また組長は2026年1月長崎県内の別の自営業の男性に対し指定暴力団であることを示して現金150万円の貸し付けを要求したということです。暴力団対策法に基づく中止命令は長崎県内では2026年に入り初めだといいます。

▼ 暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

(4)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(佐賀県)

佐賀北署は、道仁会傘下組織組員の親交者の男性に対し、暴力団対策法に基づいて再発防止命令を発出しています。報道によれば、男性は2026年2月、佐賀県内で別の男性に対し、100万円を貸していた組員に代わって利息の支払いを求めたといいます。佐賀県公安委員会は、男性に対し、同様の行為を他者にしないよう暴力団対策法に基づく再発防止命令を出したものです。

暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十二条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、第十条第一項の規定に違反する行為が行われた場合において、当該行為をした者が更に反復して同項の規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、当該行為に係る指定暴力団員又は当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員に対して暴力的要求行為をすることを要求し、依頼し、又は唆すことを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

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