暴排トピックス

正に異常事態だ~変貌する犯罪組織/組織犯罪にどう対峙すべきか

2026.08.17
印刷

首席研究員 芳賀 恒人

動画版暴排トピックス「暴排の日」を毎月配信!最新号はこちら

1.正に異常事態だ~変貌する犯罪組織/犯罪組織にどう対峙すべきか

暴力団排除条例(暴排条例)や暴力団対策法の強化により、伝統的な暴力団の組織的基盤は大きく崩れ、構成員数は急激に減少しました。しかしその規制強化が必ずしも本質的な治安改善に直結していない現状があります。警察庁は「国民が日々、詐欺電話や詐欺メールにさらされ、強盗への不安を抱えており、現在の状況は、正に異常事態」と危機感を露わにする中、犯罪組織や組織犯罪にどう対峙すべきか、本質的な取組みが急務となっています。

暴力団は現役でも離脱しても銀行口座やクレジットカードの利用などの生活基盤を奪われ、資金獲得活動を極端に困難化した状況に追い込まれました。そうした中、収入源を失った一部の暴力団が、特殊詐欺やキャッシュレス社会/デジタル社会を悪用した犯罪へと転身していきます。そこに、準暴力団や半グレ、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)が絡み、こうした異なる勢力が相互の領域に進出したことで、犯罪や犯罪組織の構造は分散化・複雑化していくことになります。それはまた、従来のように組織の本部(中枢/幹部)を押さえればいい取り締まりが通用しなくなる状況を招きました。代わって表向き目立つ形でのリーダーが不在ながらインターネットを介して緩やかにつながる半グレやトクリュウが時代に適合し、「闇バイト」を通じて大学生などの一般人を実行犯に仕立て上げる「闇のエコシステム」を使いこなし始めていきます。規制の強化が「新たな犯罪組織」形態を生んだと言ってもよいかもしれません。その結果、警察は誰をどう把握・数えるべきかさえ困難になる状況を招くことになります。つまり、規制の強化が自らの首を絞める結果となったのです。

暴力団対策法により指定暴力団の構成員に対しては中止命令などの手続きを用いることができる一方、半グレやトクリュウはその枠外にあり、法的に使える手段が限定され、取り締まりに実務上の差異が生じる結果ももたらしました。こうした状況に対し警察はトクリュウ対策の専門チームや仮装身分捜査、架空名義口座などの新たな捜査ツール・スキームを導入、体感治安の悪化を払拭すべく、国民に対して不審な電話や国際電話の着信拒否など金融犯罪対策、予防策の周知を進めていますが、「犯罪組織」の実態の変貌や「組織犯罪」の手口の変化の方が極めて速く、また、彼らの活動の舞台、すなわちカバーすべき物理的・地理的領域が急速に拡大していることもあって、犯罪の実態と対策の微妙なミスマッチが生じ、有効な被害防止には至っていません

暴力団そのものにも静かな変化が生じています。まず、異なる暴力団組織の構成員が(食べるために)連携し始めており、暴力団の本質である「強固な組織性」「内部統制システム」に綻びが生じ始めています。そして、そもそも「任侠団体としての暴力団」と、国や警察が暴力団対策法によって「型にはめた形の暴力団」は、それまで一括りにされてきたところ、ここにきて前者を「(伝統的な)ヤクザ」、後者を「(分類としての)暴力団」とあらためて区分して理解する必要性が生じてきたように感じます。「ヤクザ」には地域社会に根ざし、職場で外国人労働者をまとめたり観光客対応や飲食業・旅館業などの正業に従事したりする者もおり、こうした存在は必ずしも一般的なイメージにある「強引な搾取者」「犯罪者」と一致しません。一方、(暴力団対策法という枠内で活動が許されているという建前を持つ)「暴力団」は、建前から本音(資金獲得活動)へと、ますます違法ビジネスへの参画も厭わず、先鋭化し収益追求に走り、インターネット犯罪や半グレやトクリュウ、海外の犯罪組織との結びつきを強めながら、組織のあり方自体も「アップデート」しています。より悪質で巧妙化する「トクリュウとの一体化」、そして海外の犯罪組織との連携や犯罪自体の国際化など「グローバル化」がこうした「新たな暴力団」を形容するキーワードといえます。こうした中、暴力団の中枢部分は、本質は「新たな暴力団」でありながら、伝統的な「ヤクザ」を標ぼうすることで、(外形的には縮小しながらも)未来に向けて生き残る戦略をとっています

このように、暴力団対策法や暴排条例という規制が暴力団の物理的な存在を縮小させた反面、犯罪は地下化・分散化・複雑化し、検挙や把握が難しくなるという反作用を生みました。さらに、暴力団対策法の枠組みの外にいる半グレやトクリュウには公的な抑止手段が及びにくく、警察は専従チームや分析室を設置して対応しているものの、誰が加害主体か不明瞭な事案が増え、取り締まりの負担が重くなっているのが実情です。今や日本の「犯罪組織」は時代にあった変貌を遂げ、多極化が進みつつあります。伝統的な組織のあり方は表面的に弱体化する一方で、トクリュウやインターネット犯罪に適応した新たな勢力が台頭し、「新たな暴力団」と合流しながら、犯罪スキームなども変化させ続けています。こうした時代に適った「犯罪組織」「組織犯罪」に対峙すべく、「できることはすべてやる」という対応をアップデートしていくことが、国や警察、企業には求められているといえます。

2026年7月に犯罪対策閣僚会議が開催され、特殊詐欺対策などのあらたな方向性が示されました。こうした犯罪の背後には、暴力団やトクリュウなどの反社会的勢力が暗躍していることから、反社リスク対策を検討していくにあたっては、この方向性をしっかりと把握することが重要となります。

▼ 内閣官房 犯罪対策閣僚会議(第43回)
▼ 資料1 「詐欺及びストーカー被害拡大防止のための緊急対策」(案)の概要
  1. 特殊詐欺対策
    1. 金融関係
      • 被害金の暗号資産による移転防止対策等の推進
        • 暗号資産新規口座開設直後にアンホステッド・ウォレットへ資産を移転できないよう一定の熟慮期間を設ける。
      • 官民協働型枠組みの構築に向けた取組等の加速
        • 被害金の迅速な追跡・凍結・被害回復等のための「金融犯罪対策センター(仮称)」の構築に向けた検討等を推進。
      • 振り込め詐欺救済法に係る諸課題の検討
        • いわゆる混在口座の中に存在する金銭のうち犯罪収益を特定し、被害者への還付ができるように振り込め詐欺救済法の制度の在り方等について検討。
    2. 通信関係
      • AIの効果的な活用による特殊詐欺の被害防止対策の導入
        • 詐欺電話やテキストメッセージをAIで分析して特殊詐欺の被害を防止する機能について、事業者に対して検討・開発とその社会実装を促進するとともに必要な支援を講じる。
      • 警察庁推奨アプリの普及等による特殊詐欺の被害防止対策の推進
        • 広報啓発を推進するほか、アプリの詐欺対策機能の高度化に関する取組を推進。
      • 著名人なりすまし型偽広告等への対策の更なる強化
        • プラットフォーム事業者等に対し、自身は投資勧誘広告を行っていない旨の申出を著名人から受けた場合、当該著名人に関連する投資勧誘広告を自主的に削除するなどの対応をとるように働き掛ける。
    3. 国際連携・海外拠点対策関係
      • 東南アジア諸国への技術援助による現地当局との連携強化の推進等
        • 東南アジア諸国等の詐欺拠点所在国に対し、押収した携帯電話等を速やかに解析するための資機材の供与等を実施し、現地当局の捜査力の向上を支援するほか、外国の捜査機関等との連携に必要な体制を充実強化
      • 架け子等として海外に渡航させないための広報啓発の推進
        • パスポートセンターや空港等における戦略的な広報啓発活動や青少年に対する教育を推進。
      • 国際詐欺サミット2026等の議論を踏まえた国内施策の推進
        • 事業者間や官民間における情報共有の更なる促進方策について検討。
    4. 国内における治安力の強化
      • 金地金・現金等の密輸の実態解明、取締りの推進
        • 貴金属取扱業者に対し、不審点等を認知した場合には、被害の拡大防止のために警察への通報等が円滑に行われるよう働き掛けるとともに、関係省庁が緊密に連携し、これらの事犯に関与する組織の実態解明や取締り等を強力に推進。
      • 匿名性の高い通信アプリの通信内容等を迅速に把握するための検討の加速
        • 犯罪者グループの端末から犯罪に悪用される通信アプリ等の通信内容等を迅速に把握し、被害防止に活用する手法について、新たな法制度導入に向けた検討を加速。
      • 法人の実質的支配者情報の登録等に関する法制度の整備
    5. 警察における対応力の強化
      • 匿名・流動型犯罪グループの撲滅に向け、警察庁における司令塔機能と都道府県警察における捜査態勢等を強化。
  2. ストーカー対策
    1. ストーカー被害者の保護措置の強化
      • 被害者が危険性の高い加害者の接近を把握し、接触を回避することができるよう、一定の加害者へのGPS機器等の装着により、加害者が被害者等に接近した場合に被害者等に通知される仕組み等の新たな被害者保護措置の導入に関し、早急に検討を推進。
    2. ストーカー加害者対策の強化
      • 受診率等の向上に資する取組の推進に加え、一定の加害者に治療・カウンセリングの受診等を義務付ける仕組み等の導入について、受け皿となる医療機関等の確保も含め検討。
      • 刑事施設等における特別改善指導等の中でストーカー対応プログラムを早期整備。
▼ 資料3 「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」の取組状況の概要
  1. SNS型投資・ロマンス詐欺対策/2特殊詐欺対策
    1. 犯行準備段階への対策
      • 音声通話SIMと異なり、法令により契約時における本人確認が義務付けられていないデータ通信専用SIMについて、本人確認を義務付けること等を内容とする携帯電話不正利用防止法改正案が令和8年5月に成立。
      • いわゆる「闇バイト」とは知らずに応募し、自身や家族に危害を加えるなどと脅迫されている者等に対する保護措置を699件講じた(令和6年10月~令和8年5月)。
    2. 着手段階への対策
      • 「詐欺対策by NTTタウンページ」及び「詐欺バスターLite」の2つの特殊詐欺対策アプリを「警察庁推奨アプリ」に認定し、様々な機関・団体等と連携しながら国民への普及促進に向け、広報啓発を実施するとともに、機能の高度化に向けた取組を協議中。※両アプリのダウンロード数の累計は、本年5月末時点で1,142,800件
      • 事業者に働きかけ、国際電話を休止する国際電話不取扱受付センターの体制強化・処理向上等の取組を実施しているほか、契約変更時に国際電話の要否の確認を実施。※令和7年中の利用休止手続件数は、約48万件(前年比+約41万件)
    3. 欺罔段階への対策
      • SNS型投資詐欺の欺罔手段として、SNSのバナー等広告において著名人をかたって投資を呼びかける手口の増加が顕著であることを踏まえ、当該バナー等広告でかたられている著名人と連携した広報啓発を実施。
    4. 金銭等の交付段階への対策
      • 令和7年9月、業界団体等に対し、インターネットバンキングの利用申込時及び利用限度額引き上げ時の確認等を含む対策の強化を要請。同年11月、各金融機関に対し、要請への取組状況に関するフォローアップを実施。
      • 預金取扱金融機関間における情報共有等の枠組みの創設について、不正利用口座の情報を共有するためのシステム構築費用の補助対象事業者を選定するとともに、令和8年6月、根拠規定の措置等を内容とする犯罪収益移転防止法施行規則等の改正を実施。
      • いわゆる「架空名義口座」を利用した新たな措置の創設等を内容とする改正犯罪収益移転防止法が令和8年6月に成立したことを踏まえ、改正法に基づく措置を着実に推進。
    5. 犯行後の捜査段階における対策
      • 特殊詐欺事犯の取締りを強力に推進し、令和7年中の検挙件数は7,205件(前年比+367件)、検挙人員は2,735人(前年比+332人)。
      • 「仮装身分捜査」を令和7年中に13件実施し、強盗予備、詐欺未遂で4件5名の被疑者を検挙するとともに、これら4件を含む7件の被害防止が図られた。
      • 「電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドライン(解説)」を改正し、誹謗中傷をはじめとする違法・有害情報の流通といった社会環境の変化も踏まえ、通信履歴について少なくとも3~6か月程度の保存が望ましいと明記。また、事業者に対応を要請。
  2. ID・パスワード等の窃取・不正利用への対策
    1. フィッシングサイトへの対策
      • フィッシングサイト判定の高度化・効率化のため、生成AIによる自動判別ツールを導入。
    2. ID・パスワードやクレジットカード情報の不正入手対策
      • ⽇本証券業協会に対する働き掛けを実施し、同協会が定めるインターネット取引における不正アクセス等防止に向けたガイドラインにフィッシングに耐性のある多要素認証(パスキー等)導入等を求める内容を追記。
    3. ID・パスワードやクレジットカード情報の不正利用対策
      • 悪用のおそれのあるクレジットカード番号等を集約し、カードの利用停止等の対策に活用するため、国際ブランド各社に一括して提供する枠組みを構築し、令和7年中、約187万件のクレジットカード番号を提供。
      • 令和8年7月、ECサイトにおける不正取引防止等を目的としたEC事業者との情報連携に関する協定を締結。
    4. マネー・ローンダリングや現金化への対策
      • 金融機関が、詐欺被害のおそれが高い取引を都道府県警察へ迅速に情報提供する連携体制について、令和8年5月末時点で、47警察本部と938金融機関が、警察庁と全国に顧客を有する都市銀行等30金融機関が情報連携協定を締結。
    5. 犯行後の捜査段階における対策
      • サイバー特別捜査部において、暗号資産追跡結果等、都道府県警察から集約した情報について、横断的・俯瞰的に分析。
  3. 治安基盤の強化等
    • 捜査により判明した被疑者に関する情報を東南アジア諸国等の現地当局に提供し、令和7年中、海外拠点に関する特殊詐欺事件の被疑者54人を検挙。
    • 令和7年10月、警察庁に匿名・流動型犯罪グループ情報分析室を設置、警視庁には全国警察から捜査員を集めた「匿流ターゲット取締りチーム」(T3)を構築し(令和8年4月に100人を増強)、匿名・流動型犯罪グループの中核的人物の実態解明・取締りを推進。
    • サイバー特別捜査部の態勢の増強等を通じて、サイバー空間における取締りを推進

警察庁は、トクリュウが秘匿性の高い通信アプリを悪用して特殊詐欺や強盗、さらには殺人にまで及ぶ深刻な被害を繰り返していることを受け、グループの通信内容を事前に把握して未然防止を図る新たな捜査手法の導入に向けた検討を本格化させています。特殊詐欺の被害が増加し、強盗での死傷事件も発生するなど「異常事態」と位置づけられており、事件を計画段階で察知して標的の保護や実行阻止につなげる必要性が強まっています。現状の捜査では、逮捕・押収した実行役の端末解析や通信事業者からの記録提供に頼るため、暗号化アプリの普及やメンバー構成の流動性により指示役や上位者の特定が困難で、末端の犯罪実行者の摘発だけでは根絶に至らないという問題が明らかになっています。そこで警察庁は、有識者検討会を設置して、指示役や中枢的存在と見られる人物のスマホ端末から遠隔で通信内容や位置情報などを取得する手法、いわゆる「ポリスウェア」的な遠隔解析手段の導入について、技術的・法的課題を含めた制度設計を議論を始めました。想定される手法には端末にマルウェアを仕込み情報を取得する方式や、能動的サイバー防御(相手側サーバ等への侵入による無害化)に類する技術が含まれ、海外では同様の捜査手法を認める国もあるため、実効性を踏まえた検討が行われています。一方で、遠隔で端末情報を取得する行為は、不正アクセス禁止法やウイルス作成・提供の罪に抵触する可能性があり、さらに憲法が保障する「通信の秘密」との整合性が重大な論点となります。検討会では、対象とする人物や事件の範囲をどう限定するか、裁判所令状や公安委員会への報告など手続き上の担保をどう設けるか、捜査手法の適正運用をどう確保するかといった制度設計の課題が議題になっています。警察側は重大犯罪の未然防止に限定した運用や、法整備による合法化を視野に入れており、有識者の提言を基に法改正を進める考えを示しています。初会合には憲法・刑法・刑事訴訟法、サイバーセキュリティの専門家らが参加し、2026年秋までの報告書取りまとめを目指すとしており、政府の犯罪対策閣僚会議の緊急対策にも「通信内容の迅速な把握」の検討加速が盛り込まれています。警察関係者は、実行役の端末に犯行計画が残らないケースが多いため、上位者の端末から情報を遠隔で得られれば被害の未然防止につながると説明、期待も大きいところですが、導入の是非や運用方法、裁判所令状の必要性などについては今後の有識者会議で慎重に議論される見込みです。

▼ 警察庁 匿名・流動型犯罪グループによる犯罪被害対策のための技術的措置に関する有識者検討会
▼ 資料3
  • 匿名・流動型犯罪グループによる犯罪等の被害
    • 国民が日々、詐欺電話や詐欺メールにさらされ、強盗への不安を抱えており、現在の状況は、正に異常事態
      1. 特殊詐欺の被害額
        • 令和7年中の被害額は過去最多、本年上半期の被害額は1日当たり約10億円と、異常な事態
        • 9回にわたり総額約12億円だまし取られるなど、継続した欺罔により、複数回詐取される事例も多発
      2. 匿名・流動型犯罪グループによる強盗等
        • 令和6年8月以降、首都圏を中心に強盗等事件が連続発生
        • 一部の実行犯を検挙しても、同種事件が断続的に発生
        • 令和8年5月14日栃木県内で発生した強盗殺人事件
          • 指示役により指示された実行役(高校生等)が被害者を殺害
          • 指示役と上位指示役は秘匿性の高い通信アプリを使
  • 代表的な犯行ツールとしてのスマホ
    1. 匿名・流動型犯罪グループの犯行の特徴
      1. 無尽蔵な人員確保と迅速な犯行
        • インターネット上で実行行為者を募集し、速やかに犯行。
        • 一部の犯人を検挙しても、無尽蔵に人員を補充して犯行を継続。
      2. 秘匿性の高い共謀
        • E2E(エンド・ツー・エンド)暗号化された通信アプリで共謀。
        • 一部の犯人を検挙しても、スマホの画面ロック、データ消去等のため、犯行計画や共犯者の解明が困難。
    2. 現行の刑事手続(通信傍受法等)の技術的限界
      • 警察が現在活用可能な手法は、通信事業者の協力を得て事業者が保管・管理する情報を取得、通信経路上の通信を捕捉することにより犯罪グループの犯行指示等の内容を解明するもの。
      • 秘匿性の高いSNSアプリでは、送信者の端末で暗号化された通信が、受信者の端末で復号され、通信経路上では常に暗号化された状態(E2E暗号化)であるため、解明が不可能
  • スマホに記録された情報の把握により果たし得る責務
    • 犯人のスマホには、犯罪のターゲットや、切迫する犯罪被害に関する情報が記録されている。
    • こうした情報を把握できれば、仮に、犯罪が成立しない段階や犯人を直ちに特定・検挙できない段階でも、切迫した犯罪被害を防止する責務を果たすことが可能。
      1. スマホに記録された情報とその活用例
        • 犯人→犯人
          • ターゲットの氏名・住所
          • 犯行予定日時・場所
          • 犯行内容(窃盗/強盗等)
          • 準備状況(武器の有無等)
        • 犯人→ターゲット
          • ターゲットの氏名・住所
          • 犯行内容(詐欺等)
          • 被害の進行状況
          • 具体的手口(ニセ警察等)
      2. 果たし得る責務
        • 救うべきターゲットの所在を特定
        • 忍び寄る犯罪の切迫性を見極め
        • 犯行内容・準備状況に応じて万全の装備を選択
        • 犯行内容・被害の進行状況に応じて最適な方法(重点的な警備/警ら/防犯指導等)を選択
  • 犯罪被害対策のための技術的措置の必要性
    • 実行犯募集・犯行指示等は、秘匿性の高い通信アプリにより、非対面かつ匿名で行 われることが一般的。
    • 「捨て駒」である実行犯を検挙しても、上位の指示役や次の標的を速やかに特定するのは困難であり、新たな実行犯を補充して犯行を継続。
    • 通信アプリの暗号機能等により、従来の手法(事業者を通じた情報取得)による解明も困難化。
    • 続発する被害を阻止するためには、犯人の端末(スマホ)でやり取りされる犯行計画や標的を解明する技術的措置が不可欠。
    • 詐欺及びストーカー被害拡大防止のための緊急対策(令和8年7月28日 犯罪対策閣僚会議決定)【抜粋】
      • 利用者の匿名性が高く、かつ、エンドツーエンド暗号化がなされたシグナル、テレグラム等の通信アプリが、匿名・流動型犯罪グループ等によって特殊詐欺のみならず昨今の凶悪犯罪にも悪用されていることから、諸外国における取組や最新の技術動向を踏まえつつ、犯罪者グループの端末から犯罪に悪用される通信アプリ等の通信内容等を迅速に把握し、被害防止に活用する手法について、新たな法制度導入に向けた検討を加速する。
  • 携帯電話端末で取り扱われるデータの例
    1. 端末に保存されている情報
      • 電話関係:電話帳情報、発着信履歴
      • 通信アプリ関係:アプリの「友達」リスト情報、メッセージの送受信履歴
      • その他:保存ファイル(写真・文書)
    2. 端末に保存されていない情報
      • 発着信される通話音声等
  • 電磁的記録の取得権限に係る制度設計の着眼点
    • 我が国の現行制度で、電磁的記録(データ)を取得するための権限の創設に参考となる法令は複数存在
    • 実効的に犯罪被害の防止を図ることができる制度とするために、「行政手続と刑事手続のどちらが適切か」及び「継続的な情報取得を伴うべきかどうか」などの着眼点あり
      1. 保存されたデータへの措置(継続性なし)
        • 行政手続
          • アクセス・無害化措置(警職法第6条の2)
          • 独禁法等に基づく記録命令付差押え(独禁法第102条等)
        • 刑事手続
          • 郵便物の差押え(刑訴法第100条等)
          • 電磁的記録提供命令(刑訴法第102条の2等)
          • 検証(刑訴法第128条等)
      2. 流れる音声やデータを捕捉(継続性)
        • 行政手続
          • 外外通信目的送信措置(サイバー対処能力強化法第17条等)
        • 刑事手続
          • 通信傍受(通信傍受法第4条)
  • この検討会で御議論いただきたいポイント
    1. 匿名・流動型犯罪グループへの技術的措置の必要性
      • 犯行グループの端末から犯罪に悪用される通信アプリの通信内容等を迅速に把握し、被害防止に活用する技術的措置を実現する法制度の導入は必要か。
    2. 当該技術的措置を実施するための制度
      • 当該技術的措置を実施するに当たっての適切な法的な枠組みや整理はどのようなものか。
      • 過去の判例や既存の法制度等に照らし、どのような点に留意して制度設計をすべきか。
      • 当該技術的措置を実施するための法的要件をどのように設定すべきか。(犯罪発生のおそれ、措置の対象、緊急性、補充性等)
    3. 当該技術的措置の導入に当たっての実効性・適正性担保
      • 実効性・適正性の担保のために、どのような点に留意して制度設計をすべきか。
  • 刑事手続における参考規定
    1. 郵便物の差押え(刑訴法第100条・第218条)
      • 裁判官の発する令状により、郵便局等(通信事務を取り扱う者)が保管・所持する被疑者が発受した郵便物等を差し押さえる電磁的記録提供命令(刑訴法第102条の2・第218条)
      • 裁判官の発する令状により、事業者等(電気的記録を保管・利用権限を有する者)に対し、必要な電磁的記録の提供を命ずる
    2. 検証(刑訴法第128条・第218条)
      • 裁判官の発する令状により、事実発見のための検証(五官の作用によって対象の存否、性質、状態、内容等を認識・保全)を行う
    3. 通信傍受(刑訴法第222条の2・通信傍受法)
      • 裁判官の発する傍受令状により、被疑者等が使用している電話等を用いて行われた犯罪関連通信を傍受する
  • サイバー防御における参考規定
    1. 重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律
      • 外外通信目的送信措置(第17条等)
      • サイバー通信情報監理委員会の承認を受けて、サイバー攻撃(国外通信特定不正行為)の防止・実態把握に必要な外外通信を取得する
    2. 警察官職務執行法
      • サイバー危害防止措置執行官によるアクセス・無害化措置(第6条の2)
      • サイバー通信情報監理委員会の承認を得て、サイバー攻撃に関連する電子計算機の管理者等に対し、危害防止のための措置(サイバー攻撃に関与する電磁的記録の消去等)をとることを命じ、又は警察官が自らその措置をとる

トクリュウ等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 女性宅からネックレスなどを盗んだなどとして、警視庁捜査3課は窃盗と住居侵入の疑いで、リフォーム会社従業員ら男計4人を逮捕しました。逮捕容疑は共謀して2026年4月、東京都豊島区の80代女性宅に1階窓ガラスを破るなどして侵入、戸棚からネックレスなど14点(時価計約420万円)を盗んだとしています。4人はトクリュウとみられ、容疑者が得た女性宅の情報を基に、別の容疑者が同じく逮捕された実行役2人に指示をしていたといいます。女性は2025年11月ごろ、リフォーム業者を称するグループがガス点検の名目で訪問してきたと話しており、捜査3課は事件の下見だった疑いも視野に関連を調べています。
  • 全国で相次いで発生しているトクリュウによる犯罪被害を防ごうと、大阪府警布施署は、同府東大阪市の近鉄布施駅周辺の足代地区と長堂地区で、住民との合同パトロールを実施しました。トクリュウによる事件では、事前にグループの一員が現場を下見して周辺の状況を確認することがあり、地域一体で不審者に目を光らすことで、事件の予兆を察知する狙いがあります。
  • 大阪府警などによれば、下見活動の例は、「何者かに突然玄関扉のドアノブを回される」、「訪問予定のない業者が、不用品買い取りなどの名目で承諾なしに自宅へ上がる」、「自宅敷地内に見覚えのないシールが貼られる」などで、シールのほか、玄関先に「19時×」「C1」「A2」といったマークが書かれていることもあるといいます。下見活動は家族構成や資産状況、留守の時間を把握する目的があり、こうしたマーキングは居住者の生活実態を示している可能性があります。
  • 強盗や窃盗事件が各地で相次ぐなか、警視庁は資産情報を入手して事件を計画する「案件屋」を摘発しました。複数のグループに多額の現金や金塊がありそうな場所の情報を流しているとみられています。新宿区の貴金属買い取り業者の事務所や周辺では、2026年2月と5月に強盗未遂事件が相次ぎました。7月にはさいたま市の住宅への強盗予備容疑で男3人が逮捕されました。全容を解明するため、容疑者らのスマホの解析を進めているといいます。秘匿性の高い通信アプリを通じ、細分化された役割の間で情報や案件がやり取りされている実態があります。金品の所在に関する情報を入手する「情報元」がいるといいます。栃木県上三川町の強盗殺人事件を受け、犯罪の下見グループへの対応を強化、警視庁幹部は「不審な人物や車両を見つけたら、110番してほしい」と話しています。
  • 全国で相次いだ指示役「ルフィ」らによる強盗事件で、強盗致傷ほう助罪などに問われた犯行グループ幹部について、最高裁第1小法廷は決定で被告側の上告を棄却しています。懲役20年とした1審・東京地裁の裁判員裁判と2審・東京高裁の判決が確定しました。1、2審判決によれば、小島被告は2022年、東京都と山口県で起きた三つの強盗致傷・強盗未遂事件の実行役をフィリピンから勧誘して指示役らに紹介、2019年には、複数の高齢者にうその電話をかけて、現金をだまし取るなどしたといいます。

マイナビはSNSでのアルバイト探しに関する調査結果を発表しました。直近1年間にSNSで仕事を探した経験があるとの回答は10代で29.9%で、検索のしやすさや、高時給の仕事を見つけやすい点を理由に挙げる人が多いといいます。直近1年間にSNSで仕事を探した経験があるとの回答は、全体の14.7%で、前年調査から微増となりました。20代では19.3%、70代は7.6%でした。若い世代ほど割合が高い傾向にあり、仕事探しにSNSを使う利点について聞いたところ、「検索しやすい」との回答が34.8%で最多となりました。また、「時間をかけず求人を見つけやすい」の34.2%が続きました。闇バイトについても調査したところ、普通の求人と闇バイトの「見分けがつきにくい」とした回答は全体の47.7%、闇バイトについて「以前よりも十分に注意する」とした回答は48.3%でした。闇バイトらしき求人に「応募しそうになった経験がある」とした10代は6.2%おり、全体では2.3%でした。

SNS上での「闇バイト」や薬物売買などの違法情報の発見で、学生ボランティアが大きな役割を果たしています。日常的にSNSを利用する若者は犯罪を示す投稿や新しい隠語に気づきやすく、東京都多摩市の多摩大学にある学生組織「多摩CCPU」はXなどで違法投稿の見つけ方を共有し、見つけた投稿をインターネット・ホットラインセンター(IHC)に通報してサイト管理者への削除要請につなげているといいます。例えばオンラインカジノの誘導では「ボーナスコード」などのキーワードが使われ、闇バイト募集には「ルパン」や「叩き」などの隠語が用いられるため、同サークルは隠語一覧を作成して巡回と研究を行い、通報の件数に応じて進行するゲームを開発するなど地道な作業を楽しく続けられる工夫もしています。警察はサイバーパトロールやAI導入で監視を強化していますが、隠語の進化や募集文を画像化してAI検知を逃れる手口が増えるなど摘発は容易でなく、専門家は学生が見抜く力を養うことの重要性を指摘しています。サイバー防犯ボランティアは2010年代から警察の支援で広がり、現在は約7割が学生で2025年は5269人に上り、高校生や大学生が中心となって通報が不審アカウントの削除や事件防止に寄与しています。さらに学生は出前授業で小中学生にSNSの危険を伝え、実例や寸劇で家族と利用ルールを話し合う必要性を促しており、警察庁は情報リテラシー教育強化のため若い世代の協力拡大を図っています。SNS発端の性犯罪被害に関しては、小学生の被害者数が昨年過去最多の167人となり5年前の2倍に増加しており、子どもたちの安全確保と情報リテラシーの向上が急務となっています。

暴力団を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 福岡県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、工藤會の代表者が、総裁の野村悟被告=2審無期懲役、上告中=から、会長の田上不美夫被告=同=に変更されたことを官報で公示しました。野村被告は約26年間、実質的なトップでした。野村被告は福岡拘置所に収容中で、福岡県警は2026年3月、工藤會側から野村被告の引退を伝える文書を入手、組員による面会の減少などから、野村被告に影響力がなくなったと判断、田上被告が組織運営を担っているとし、2026年6月25日、県公安委に変更を報告していました。福岡県警は「通過点に過ぎない。工藤會壊滅に至るまで手を緩めることなく、総力を挙げて対策を徹底する」としています。野村被告は2000年に会長に就任、2011年に名誉職に当たる総裁に退きましたが、その後も組織を統制していました。福岡県警は2014年の「頂上作戦」で野村被告や田上被告らを逮捕、準構成員を含む工藤會の福岡県内勢力は、ピークだった2008年の約1210人から、2025年末時点で約210人に減りました。
  • 福岡県公安委員会は、工藤會の元総裁、野村悟被告の自宅兼事務所の使用制限命令の延長を見送りました。県公安委は2014年11月に暴力団対策法に基いて同命令を発令しており、その後も延長を繰り返していましたが、2026年7月16日の官報で、工藤會のトップが野村被告から会長の田上不美夫被告に交代したと公示、こうした状況などを踏まえ、野村被告の自宅兼事務所が今後、組の会合など組事務所として使われる恐れが極めて低くなったと判断したものです。
  • 福岡県公安委員会は、北九州市拠点の特定危険指定暴力団「五代目工藤會」の代表者を、元総裁の野村悟被告から会長の田上不美夫被告へ変更したと官報で公示しました。野村被告の自宅は2014年の「頂上作戦」以降、組員の会合を禁じる使用制限命令が出ていましたが、公安委員会は野村被告の組織への影響力が薄れ、自宅が会合に使われる恐れが極めて低くなったとしてその命令を解除しました。野村被告は最盛期に1300人を超える組織の頂点に立ち、人事や資金の実権を握って20億円以上の富を築き「神様レベル」と恐れられていましたが、2011年に会長職を田上被告に譲っても総裁として実権を残していました。工藤會は凶悪化し一般人を狙う事件も多発したため、2014年の県警の大規模摘発「頂上作戦」で野村被告は逮捕されました。拘置所在監中も関係者が面会や差し入れ、親族の送迎を続け、組員側の負担は大きかったといいます。組内では野村被告が長く残ることへの金銭的・精神的負担が深刻化し、内部での話し合いを経て2026年3月16日に引退が決定され、各暴力団組織へ通知されました。翌17日に野村被告本人も引退を受け入れたことで、面会や差し入れ、親族の送迎は取りやめられました。元組員らは引退を意外に思いつつも、田上会長への実権移譲は残された組員を守る意図や組織内の変化を反映したものと受け止めているようです。福岡県警は代表者交代を単なる通過点と位置づけ、工藤会の壊滅に至るまで捜査と対策を継続する方針を示しています。
  • 福岡県暴力追放運動推進センターなどは、道仁会傘下組織の組事務所について、住民に代わって使用差し止めを求める仮処分を福岡地裁久留米支部に申し立て、同支部が仮処分命令の決定をしたと発表しました。発表では、事務所は久留米市にある2階建て住宅で、事務所内では、2025年9月、同会系の男性組長が倒れており、拳銃が発見されました。組長は死亡し、県警は自殺とみています。周辺住民の要望を受けたセンターが2026年6月に代理訴訟制度に基づく仮処分を申し立て、同7月17日に使用を禁じる決定が出たものです。裁判所の執行官が、組員の集合などを禁じる公示書を貼って保全執行しました。福岡県警組織犯罪対策課は「暴力団事務所は付近の住民に対して甚大な不安感を与える存在だ。県内に存在する暴力団事務所のさらなる撤去に努めていく」とコメント、また、久留米市の原口新五市長は、「仮処分の執行は久留米市の暴力団排除の取り組みに大きな弾みをつけるものです。このような取り組みを全面的かつ積極的に支援してまいります」とコメントしています。
  • 構成員・準構成員など約80人が所属する福博会について福岡県公安委員会は名称と代表者が変更したことを官報で公示しました。福博会本部事務所の所在地は調査中だということです。福岡県公安委員会は、福博会の代表者が金国泰会長から、光田孝会長に変更したことを官報で公示、これに伴い正式名称も「四代目福博会」から「五代目福博会」に変更されています。警察によれば、2026年1月に金国泰会長が福岡県内の病院で死亡、その後、4月に長崎県南島原市に住む光田孝会長に代表を変更する五代目継承式が山口県下関市で行われたということです。福岡市博多区千代にあった「福博会」の本部事務所と土地は2025年11月、福岡市内の2つの会社に売却されていて、福岡県警は本部事務所の所在地について調査中としています。福博会の福岡県内の構成員・準構成員などはピーク時(2005年・約400人)の5分の1となる約80人とみられ、勢力範囲は福岡県と長崎県です。

いわき信用組合は、旧経営陣が関与した不正が長期間にわたり継続していたことを明らかにしていますが、今般新たに2026年3月までに計2369万円の不適切支出が判明したと公表しました。内部監査の結果、融資先のA社に「物品購入」の名目で支払いを行いながら実際には物品を受け取らず、その資金がA社からB社へ送金されて最終的に信組への融資返済に充てられていたことが確認されたものです。2018年1月に始まり、2026年3月の内部調査発覚まで約8年間継続し、2025年に279億円の無断借名融資などが表面化した後も資金流出が続いていました。現経営陣は複数の旧経営陣が不正の立案・主導に関与したとみなし、旧経営陣の一部が2025年9月以降にA社から「コンサル料」などとして報酬を受け取っていた事実も確認、信組内部では発注部署と受領部署が分かれており、現職の職員は不正を知らずに業務を続けていたため、不正の仕組みは長期間稼働し続けたといいます。信組は3月の内部調査以降、A社とB社へのヒアリングを実施し旧経営陣が金融機関の立場を利用して取引先に指示を出していたとの結論を得ましたが、旧経営陣側への調査は十分でなく動機や資金の最終使途など重要点は未解明のままです。これに対し金成茂理事長は内部統制や牽制が機能しておらず、旧経営陣に民事・刑事責任を追及したいと述べ、退職慰労金返還請求をめぐり既に一部旧経営陣に対して民事訴訟を提起しています。いわき信組は退職慰労金の返還を求めた旧経営陣12人のうち7人に対して約1億円の返還を請求する訴訟を起こし、5人が既に応じていることも明らかにしました。外部の専門家や総代からは、地域社会の監視機能や総代会が形骸化しているとの批判が出ており、出席した総代が2026年3月期の36億円の最終赤字を公表した際に質問や意見がほとんどなかった点も問題視されています。東洋大学の専門家は地元住民が金融機関の存在を重視するあまり不正に目を向けない「見て見ぬふり」の傾向を指摘し、総代会がガバナンスの中核として機能していない可能性を指摘しています。今回の不正発覚はいわき信組の財務基盤をさらに圧迫しており、預金残高は2026年3月期末で1350億円と前年に比べ587億円が流出した状況となっています。流出穴埋めのため全国信用協同組合連合会から約600億円を調達しているものの、借入金の利息負担が重く経営再建を難しくしています。さらに東日本大震災の特例で注入された公的資金175億円の返済見通しも、徹底的な経営改善がなければ困難です。いわき信組はA社・B社との関係を継続する方針を示す一方で、責任追及を旧経営陣に限定するとしていますが、両社にも架空取引を続けた責任があるとの見方が強いといいます。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFT/CPFを巡る動向

米財務省は、同省が管理する制裁対象者リスト(SDNリスト)から84件の企業や個人を削除したと発表しました。以前の本コラムでも紹介したとおり、制裁制度の効率​化を進め、金融機関がより重大なテロ資金供与案件へ‌の対応に集中できるようにする取り組みの一環となります。ベセント財務長官は2026年5月、制裁制度と関連リストの大規模な見直しを開始、時代遅れとなった登録情報を整理し、金融機​関のコンプライアンス負担を軽減する方針を打ち出していまし​た。財務省はその後、76件の制裁対象をリストから削除しています。財務⁠省高官の1人は「制裁措置を効率的かつ的確なものとし、過去の政​権下で積み上がった不要な項目を取り除くことが目的だ」と説明しています。高​官は、2024年には3000件超が新たに指定されたのに対し、2017年は880件だった点に触れた上で「制裁は永久に適用するための手段ではない」と強調しています。今回削除された84件の内訳は、死亡した36人とそ​の関連登録、1991年または1992年に指定されたイラク関連33団体、コロンビアの麻薬組織に​関する7件の旧式登録、活動が停止した麻薬密売組織の首領8人となっています。また財‌務省外国⁠資産管理局(OFAC)は22件の個人・団体情報について、識別情報の不足や不明確な点を補足・修正しています。出生地や生年月日、国籍、識別番号などの情報を充実させることで、金融機関による制裁対象の照合作業を容易​にする狙いがあるといいます。財務​省によれば、削除⁠対象はいずれも関係省庁との協議を経て決定しており、米国の外交政策や国家安全保障上の利益を損な​わないことを確認しているといい、必要に応じて再指定する​ことも可能と⁠しています。専門家は、制裁リストの簡素化によって金融機関が真に重大⁠な脅​威への対応に集中できると指摘しています。なお、米財​務省は2026年6月、制裁対象となった個人や企業がリストからの削除を申請できる新たなオン​ラインポータルを開設しており、制裁解除手続きの迅速化も進めています

指定口座への送金で報酬を得る「送金バイト」に罰則を設ける改正犯罪収益移転防止法(犯収法)が2026年7月10日から施行されました。特殊詐欺の被害金をマネロンする新たな手口として対策が課題になっていました。SNSの募集に安易に応じないよう警察が若い世代に注意を呼びかけています。送金バイトは特殊詐欺グループのマネロンの手口で、「報酬」「即金」といった誘い文句でSNSを介して若者らを募り、応募者は自身の口座を受け皿とし、指定された口座へ送ることで報酬を得るものです。改正前の犯収法は口座の譲渡を禁じていましたが、送金を請け負う行為そのものを禁じる規定がなく、送金バイトの摘発は難しい状況でした。今回施行の改正法は罰則を設け、正当な理由なく有償で送金を依頼・実行する行為について、2年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金、またはその両方を科すし、反復継続した場合はさらに罰則が重くなります。なお、法改正に伴い、警察庁は「送金犯罪」との呼称を使うとしています。SNSで送金役を募る投稿を削除要請の対象に加える方針も明らかにし、警察庁が委託するインターネット・ホットラインセンターの運用指針を改めました。トクリュウは犯罪収益を複数の口座に経由させ、追跡を逃れようとすることから、警察幹部は「マネロンを遮断しないとトクリュウの強化につながり、次の犯罪を助長してしまう。若者らが加担しないよう、さまざまな形で罰則創設の背景や狙いを周知したい」と強調しています。なお、直近ですでに摘発事例も出ています。沖縄県警は、「送金バイト」(送金犯罪)をしたとして、沖縄県豊見城市の40代の会社員の女を犯罪収益移転防止法違反(送金犯罪)の疑いで那覇地検に書類送検しました。警察庁によれば、摘発は全国初といいます。容疑者は、インスタグラムを通じて知り合った人物から、「短期アルバイトスタッフへの報酬の支払いで、日払いで5千~3万円もらえる」などと説明を受け、運転免許証や銀行口座の情報などをLINEで送り、報酬を得る約束をして何者かから自身の口座に振り込まれた約175万円を指定された6口座に計37回送金したといいます。送金翌日に報酬を受け取るはずのところ、やりとりをしていた人物と連絡がつかなくなったといい、金融機関から「あなたは犯罪に加担しているので、口座を凍結した」と言われ、県警に相談したものです(本当に犯罪であることを知らなかったことが分かります)。

金融機関と金融庁の間の意見交換会における主な論点について、直近の資料が公開されています。主要行等との会合で示された論点から一部紹介します。

▼ 金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼ 主要行等(令和8年6月16日)
  • AI脅威に対する金融分野のサイバーセキュリティ対策強化について
    • 2026年5月22日に日本銀行と連名で金融機関等に対して、フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた短期的な対応について、経営トップを含めた経営層の直接関与の下で取り組むよう要請した。金融機関等においては、AIモデル開発企業の活動状況も踏まえ、迅速な対応を進めることが期待される。
  • 金融機関が行う預貯金口座の不正利用等防止の取組に係る広報について
    • 2025年9月に、インターネットバンキングの利用を含む預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策の一層の強化を要請したところ、金融機関がこのような対策を実施するに当たって、顧客である国民の理解・協力が不可欠であることから、こうした取組の一助となるよう、警察庁及び各業界団体と連携して動画を制作した。
    • 動画は2種類作成しており、
      1. 金融機関は、詐欺被害防止のため、インターネットバンキングの初期利用限度額を適切に設定するとともに、申込み時や利用限度額の引上げ時に利用者への確認及び注意喚起を行っていることや
      2. 詐欺等が疑われる取引については、顧客への確認を行うほか、必要に応じて取引の謝絶及び警察への連絡を行う場合があること

      について、国民に対し理解を求めるような内容である。

    • 制作した動画については、金融庁ウェブサイトや公式YouTubeに掲載したほか、各種広告媒体も活用しながら発信していく予定である。
    • 各金融機関において、例えば、
      • 金融機関のウェブサイト、アプリやインターネットバンキングの案内ページ等に動画を掲載する
      • 金融機関の営業店等のデジタルサイネージで動画を流す
      • 金融機関が主催する資産運用や啓発セミナーの場において本動画を顧客の研修材料として使用する

      など積極的に御活用いただきたい。

  • G20クロスボーダー送金改善に向けた取組についての現況共有及びアクションプラン検討に向けた協力依頼について
    • 2020 年以降、G20の指示のもと金融安定理事会(FSB)が中心となりクロスボーダー送金改善に向けた取組が進められてきた。G20は2027年の達成を目指してコスト、スピード、透明性、アクセスの4項目について目標値を設定していたが、足元その達成は困難な見込みである。
    • こうした状況を受け、FSBは各法域に対して2026年10月までに具体的な取組方針を示したアクションプラン(行動計画)を策定することを求めている。金融庁としては、これをよい機会と捉え、我が国利用者利便や安全性の確保に向けた現実的な計画を策定したい。計画の策定に当たっては日本銀行とも連携して取組を進めることになるが、各金融機関の知見もお借りしたい。

法人の実質的支配者(ベネフィシャルオーナー、BО)の把握を強化するため、政府は新法を制定する方針を固めました。BOを把握し、公的機関に届け出ることを義務付けるもので、マネロン対策や、経済安全保障への対応を強化する狙いがあり、2026年秋の臨時国会への法案提出を目指すといいます。全法人にBO情報の把握と、法務局など公的機関への届け出を義務付ける方針で、虚偽の届け出に対する罰則も検討するとしています。政府の経済財政運営と改革の基本方針「骨太の方針」の原案にも、立法化を早急に進める方針が明記されており、「犯罪対策、被害者支援」の項で、「良好な治安を確保するため、新技術を悪用した犯罪やCBRNEテロ等の抑止・対処、トクリュウ撲滅に向けた「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」の推進、ストーカー対策、不正薬物対策、金密輸・キャッシュクーリエ対策、警察・税関・地方厚生局麻薬取締部・検察の体制整備、防犯カメラの増設に向けた働き掛けを強化する。マネロン対策や経済安全保障等への対応に向け、法人の実質的支配者情報の登録等の立法化を早急に進める」としており、「令和10年夏のFATF(金融活動作業部会、Financial Action Task Force)第5次対日相互審査を見据えた対応」と注記されています。

日本から海外への送金が増えており、2025年度の送金額は2024年度比11.5%増の1兆39億円と、過去最大となりました。財務省の国際収支統計によれば、2015年度に比べて2.16倍に膨らみました。送金先を国別でみるとベトナムが2887億円で最多、次いでインドネシアが898億円、フィリピンは671億円で、日本での就労者が多いアジアの国向けが上位を占めています。厚生労働省によれば、2025年10月末時点の外国人労働者数は前年比11.7%増の257万人となり、2015年10月末(90万人)に比べて2.83倍に増え、国籍別では60万人のベトナムが最も多く、全体の23.6%を占め、中国が43万人、フィリピンが26万人と続いています。日本資金決済業協会の2024年の調査では、回答した在留外国人1270人の9割以上が銀行や資金移動業者を使って国外送金していました。銀行や資金移動業者の精度に依ることになりますが、こうした送金の中にマネロン的な資金が紛れ込むリスクもまた増えていることが想定され、厳格なモニタリングを継続していく必要があります。

銀行間の国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」は、米シティグループや英HSBCな​ど17行を初期参加行とするブロックチ‌ェーン基盤の共有台帳を始動させました。24時間体制の決済を可能にし、台頭するステーブルコイン業界に対抗す​る狙いがあります。SWIFTは、新たな台帳により、「トークン化」​された資金を、土日を含め24時間移動できる⁠ようになると説明しています。トークン化された資​金は特定の用途向けにプログラム設定できる​利点があります。主流の銀行業界がブロックチェーン技術を活用しようとする最大規模の試みの一つを前進させる​もので、同時に世界の規制当局が求めるコン​プライアンスや業務管理体制も維持しています。参加‌行に⁠はこのほか、UBS、BNPパリバ、BNY、スタンダードチャータード、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ANZ、DBS、ロイズ、ウェルズ・ファーゴなどが含まれています。SWIFTは、各行の参加は​銀行が内部ト​ークン化⁠決済システムと他機関のシステムとの相互運用を可能にする仕組み​への「世界的な強い需要」を示して​いると述⁠べています。今回の立ち上げは、SWIFTが2025年に発表した新台帳の初の実用化となり、プログラム可能な通貨や、自⁠動化​システムが利用者に代わっ​て決済や取引を実行する「エージェント型商取引」など将​来のイノベーションへの道を開く可能性があります。

米政府は、イランが数億ドル(数百億円)規模の資金を移動するのを支援していた両替所やペーパーカンパニーのネットワークを解体するための制裁措置を取りました。米国内で管理されている資産を凍結し、取引を禁じ、イランの体制を国際金融システムから孤立させる狙いがあります。ピゴット国務省報道官は、イランがネットワークを通じて石油収入を確保し、制裁を回避していたと指摘、イランの軍事開発のための資金源を絶つため「最大限の圧力をかけ続ける」としています。

GMOインターネットグループ傘下「GMOブランドセキュリティ」の調査によれば、なりすましメールの遮断策を講じる国内の金融機関が27%にとどまることが分かったといいます。日本の企業や大学は欧米と比べてなりすましメールの遮断設定が進んでいないとされますが、同社が全国の銀行と信用金庫の計386金融機関を対象に、実在の組織を装ったメールの配信を防ぐ認証技術「DMARC」の設定状況について、公開情報をもとに調べたところ、60%がDMARCを導入していたものの、遮断する設定にしていたのは全体の27%だったといい、信用金庫に限ると、遮断設定率が12%にとどまる結果となりました。DMARCはメールの認証結果を確認する「監視」、迷惑メールフォルダーに振り分ける「隔離」、届く前にサーバ側で削除する「拒否」の3段階の設定があり、遮断設定は隔離と拒否が当てはまります。導入した金融機関の半数以上は「監視」の設定だったといいます。同社によれば、設定に不備があると正規のメールが届かなくなる場合があり、企業などが遮断をためらう要因になっているといい、「ネットバンキングのログイン認証にメールを用いる金融機関は多い。なりすまされないための対策が急務だ」と指摘しています。特殊詐欺などの金融犯罪の入口となるメール対策の強化は重要であり、対策が浸透することを期待したいところです。

(2)特殊詐欺を巡る動向

2026年上半期(1~6月)のSNS型投資・ロマンス詐欺を含む特殊詐欺の被害額は暫定値で、2025年同期の約1.5倍の1816億円となりました。1日当たり10億円の被害が出ていることになります。上半期としては過去最悪の被害(半期としては、2025年下半期の約2060億円が過去最悪)で、SNS型投資詐欺の被害が目立ちました。上半期の被害件数は2025年同期から3408件増の2万2031件、検挙人数は245人増の1381人で、このうちトクリュウとみられるのは1288人と多数を占めました。被害額を手口別に見るとSNS型投資詐欺が約44%を占め、1件当たりの被害額は1362万円に上っています。バナー広告からだまされる被害が最多で被害額は2025年同期の3.5倍となり、被害の入り口はインスタグラムやXが増加傾向にあるといいます。「絶対にもうかる」と投資の初心者を狙う事件が多発していることもあり、警察庁は将来や生活への不安から投資に興味を持つ人が多いことが、SNS型投資詐欺の被害増加の要因とみています。一方、被害を食い止めるため、警察庁は2026年6月、YouTubeに投稿された詐欺広告についてAIなどを使ったサイバーパトロールを始めました。日本サイバー犯罪対策センター(JC3)のシステムを使い、グーグル社やLINEヤフー社に削除要請するなど対策を進めており、警察庁は「偽広告が公開される期間をできる限り短縮し、被害者が接触する機会を減らす」と説明しています。SNS型投資詐欺のほかに被害が目立つのが、警察官をかたって金銭をだまし取る「ニセ警察詐欺」で、上半期で約508億円の被害があり、被害全体の28%を占め、1件当たりの被害額は1163万円に上りました上半期は被害者に金地金を購入させる手口が155件あった。被害額は昨年1年間の被害額(約60億円)をすでに上回り、約81億円となり、このうちニセ警察詐欺が65%を占めています。警察庁によれば、特殊詐欺の傾向として資産調査などの名目で、被害者の財産情報を聞き出した上でだまし取るケースが多いといい、警察庁は、手口が巧妙化し、1件当たりの被害額が高額化しているとみています。また、暗号資産で送金させる被害は2025年同期より約75%増の409億円、警察庁は「資産の保有状況を聞き出し、多額の資産保有が判明するとエース級の(電話をかける)『かけ子』を当て、効率的にだまし取るなど手口が巧妙化している」と警戒を強めています。政府は2026年7月28日の犯罪対策閣僚会議で、著名人になりすました広告への対応強化を打ち出しました。著名人が自身で投資勧誘広告をしていないとプラットフォーム事業者に申し出があった場合、自主的な削除を促すほか、詐欺電話の内容やSNSのメッセージをAIで分析し、被害を防ぐ機能の実装に向け、法制度の検討や民間の開発支援を進めるとしています。赤間二郎国家公安委員長は「1日あたりの特殊詐欺被害額が10億円と極めて危機的な状況。官民共同型の取り組みを加速させたい」と述べています。

特殊詐欺の被害の深刻化については、2026年8月11日付産経新聞の指摘も興味深いものがありました。「なぜ特殊詐欺の撲滅が重大な治安課題となっているのか」について、「これほどの金を犯罪組織が手にしていること自体が脅威。別の犯罪を引き起こす資金源となり、社会全体の治安を揺るがしかねない」との警察幹部のこの言葉が事態の切迫性を表していると指摘しています。さらに、「年間3000億円超という規模がイメージしづらい」点については、50万人都市の予算規模をも上回っており、る。例えば鹿児島市(人口約58万人)の令和8年度一般会計当初予算は3048億円。宇都宮市(人口約51万人)の同予算は2465億円という数字を紹介しています。また、特殊詐欺の背景にはトクリュウや暴力団の存在が指摘され、東南アジアをはじめとする海外の拠点も摘発されており、被害の拡大は反社会的勢力の増長を意味すると言っていいとも指摘しています(正にそのとおりだと思います)。ニセ警察詐欺についても、若者もターゲットになっており、2025年は30代が最も被害が多く、20代が次ぐ形となったこと、被害は金銭だけでなく、身体検査と称して服を脱ぐよう強要するなどの性被害も247件報告されていることなども紹介しています。また、考えさせられる事例もありました。大阪府内の60代男性が4億4300万円相当をだまし取られた事件では、詐欺への警戒心を持っていたにもかかわらず被害を防ぐことができなかったものです。ある日、男性宅に警視庁の警察官をかたる男から「個人情報が悪用されている」と電話があり、男性は最寄りの警察署に行き、電話の内容を相談、「詐欺なので対応しないように」と注意を受けて自宅に戻ったところ、再び電話がかかってきたため、男性は警察署に相談してきたことを伝えたところ、相手は「詐欺ではない。怪しむなら最寄りの警察署から電話をしてもらう」とひるまず、しばらくすると、再び電話が鳴り、ディスプレーには最寄りの警察署の電話番号が表示されたといいます。これにより、本物の警察官からの電話だと信じてしまったものです。本コラムでもたびたび紹介していますが、警察署の電話番号が表示されたのは、発信元を偽装する「スプーフィング」と呼ばれる手法が使われたとみられます。家族への相談を阻むため「守秘義務」を理由に周囲との連絡を禁止するのは常套手段で、「警察の中にスパイがいる」と噓を言い、本物の警察官からの忠告を聞き入れないようにさせることもあったといいます。それでも対策はあるとして、「まずは、本物の警察官であれば絶対にしないことを把握しておくのだ。本物の警察官はSNSやビデオ通話で警察手帳や逮捕状の画像を送らないし、捜査名目で口座に金を送らせることもしない。警察庁のホームページでは実際のビデオ通話の映像も公開して注意点や対策をまとめている。また、発信元を偽装する手法もあるとはいえ、国際電話番号の利用も多く、国際電話を遮断できる警察庁推奨のアプリも開発されている。固定電話でも手続きをすれば国際電話からの着信を休止できる」と紹介しています。一方、認知件数でいえば2025年1年間で4万3000件で、これは空き巣など「侵入窃盗」の約4万7000件と大差がない水準であり、正に身近な犯罪で、一部の資産家だけが被害に遭っているわけでは決してない点にあらためて注意が必要であることを痛感させられました。そして、「トクリュウなどの跋扈を阻止するためにも、社会全体で危機感を共有したい」との指摘もまた正鵠を射るものといえます。。

▼ 警察庁 令和8年上半期の特殊詐欺の認知・検挙状況等について
▼ 広報資料
  • 認知状況
    1. 特殊詐欺
      1. 認知状況全般
        • 特殊詐欺の認知件数(以下「総認知件数」という。)は22,031件(+3,408件、+18.3%)、被害額(以下「被害総額」という。)は1,816.2億円(+618.8億円、+51.7%)と、前年同期に比べて総認知件数、被害総額ともに大きく増加。
        • SNS型投資詐欺の認知件数は5,893件(+3,020件、+105.1%)、被害額は797.9億円(+444.9億円、+126.0%)で、総認知件数に占める割合は26.7%(+11.3ポイント)、被害総額に占める割合は43.9%(+14.5ポイント)。
        • SNS型ロマンス詐欺の認知件数は2,509件(+5件、+0.2%)、被害額は246.6億円(+6.3億円、+2.6%)で、総認知件数に占める割合は11.4%(-2.1ポイント)、被害総額に占める割合は13.6%(-6.5ポイント)。
        • ニセ警察詐欺の認知件数は4,466件(-296件、-6.2%)、被害額は507.9億円(+108.9億円、+27.3%)で、総認知件数に占める割合は20.3%(-5.3ポイント)、被害総額に占める割合は28.0%(-5.4ポイント)。
        • 架空料金請求詐欺の認知件数は3,115件(+244件、+8.5%)、被害額は74.6億円(+6.1億円、+9.0%)で、総認知件数に占める割合は14.1%(-1.3ポイント)、被害総額に占める割合は4.1%(-1.6ポイント)。
        • パソコンのウイルス除去をサポートするなどの名目で電子マネー等をだまし取る「サポート名目」の認知件数は735件(+69件、+10.4%)、被害額は8.3億円(-1.3億円、-13.3%)で、架空料金請求詐欺の認知件数に占める割合は23.6%(+0.4ポイント)、被害額に占める割合は11.1%(+2.9ポイント)。
        • 1日当たりの被害額は10.0億円(+3.4億円、+51.7%)。
        • 既遂1件当たりの被害額は840.0万円(+184.4万円、+28.1%)。
        • SNS型投資詐欺の既遂1件当たりの被害額は1,362.5万円(+133.3万円、+10.8%)、ニセ警察詐欺の既遂1件当たりの被害額は1,163.9万円(+318.5万円、+37.7%)と、SNS型投資詐欺とニセ警察詐欺が既遂1件当たりの被害額を押し上げている主たる要因。
      2. 被害者の年齢層
        • 高齢者(65歳以上)被害の認知件数は9,230件(+1,186件、+14.7%)、被害額は817.8億円(+276.6億円、+51.1%)で、法人被害を除いた総認知件数に占める割合は42.2%(-1.1ポイント)、被害総額に占める割合は46.0%(+0.8ポイント)。
      3. 主な被害金等交付形態
        • 振込型の認知件数は12,263件(+468件、+4.0%)、被害額は1,033.4億円(+252.0億円、+32.2%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は55.7%(-7.7ポイント)、被害総額に占める割合は56.9%(-8.4ポイント)。
        • 振込型におけるインターネットバンキング(以下「IB」という。)利用の認知件数は6,727件(+1,402件、+26.3%)、被害額は745.7億円(+228.3億円、+44.1%)で、振込型に占める割合は、認知件数が54.9%(+9.7ポイント)、被害額が72.2%(+5.9ポイント)。
        • 振込型における暗号資産交換業者の口座に振込を行う暗号資産振込の認知件数は193件(-126件、-39.5%)、被害額は20.9億円(-28.5億円、-57.7%)。
        • 暗号資産送信型の認知件数は3,498件(+1,572件、+81.6%)、被害額は409.6億円(+175.0億円、+74.6%)。振込型における暗号資産振込と合わせると、一次的な主な被害金等交付形態が実質的に暗号資産であるものが総認知件数に占める割合は16.8%(+4.7ポイント)、被害総額に占める割合は23.7%(-0.0ポイント)。
        • 振込型及び暗号資産送信型以外の主な被害金等交付形態の総認知件数に占める割合は、現金手交型が12.7%(+3.2ポイント)、キャッシュカード手交・窃取型が6.6%(-2.3ポイント)、電子マネーコード伝達型が5.5%(-0.1ポイント)
      4. 予兆電話
        • 予兆電話の件数は119,778件(-44,430件、-27.1%)で、1か月当たりの平均は19,963件(-7,405件、-27.1%)。
    2. SNS型投資詐欺
      1. 認知状況
        • SNS型投資詐欺の認知件数は5,893件(+3,020件、+105.1%)、被害額は797.9億円(+444.9億円、+126.0%)。
      2. 被害者の年齢層
        • 年代別の認知件数及び被害額は、認知件数の順にみると、50代が1,605件(+859件、+115.1%)・199.3億円(+105.1億円、+111.5%)と最も多く、次いで60代が1,518件(+909件、+149.3%)・274.9億円(+161.8億円、+143.2%)、40代が1,003件(+472件、+88.9%)・96.0億円(+47.5億円、+98.0%)、70代が739件(+384件、+108.2%)・132.4億円(+71.8億円、+118.6%)となっており、50代と60代が認知件数に占める割合は53.0%(+5.8ポイント)、被害額に占める割合は59.5%(+0.8ポイント)
      3. 主な被害金等交付形態
        • 振込型の認知件数は4,084件(+1,978件、+93.9%)、被害額は540.8億円(+271.4億円、+100.7%)と、いずれも増加し、SNS型投資詐欺に占める割合は、認知件数が69.3%(-4.0ポイント)、被害額が67.8%(-8.5ポイント)。
          • 振込型におけるIB利用の認知件数は2,996件(+1,567件、+109.7%)、被害額は431.4億円(+229.9億円、+114.1%)で、振込型に占める割合は、認知件数が73.4%(+5.5ポイント)、被害額が79.8%(+5.0ポイント)。
          • 振込型における暗号資産交換業者の口座に振込を行う暗号資産振込の認知件数は39件(-12件、-23.5%)、被害額は3.2億円(-0.6億円、-15.7%)。
        • 暗号資産送信型の認知件数は1,288件(+594件、+85.6%)、被害額は128.4億円(+48.4億円、+60.5%)。振込型における暗号資産振込と合わせると、一次的な主な被害金等交付形態が実質的に暗号資産であるものがSNS型投資詐欺に占める割合は、認知件数が22.5%(-3.4ポイント)、被害額が16.5% (-7.2ポイント)。
      4. 犯行に用いられたツール
        • 当初接触ツールは、Instagramが1,403件(+809件、+136.2%)、X(Twitter)が677件(+380件、+127.9%)、LINEが631件(+203件、+47.4%)と、これらのツールで全体の約5割を占める。他方、これら以外のツールをみると、TikTokが553件(+341件、+160.8%)、投資のサイトが553件(+251件、+83.1%)、Facebookが552件(+230件、+71.4%)、YouTubeが438件(+247件、+129.3%)と、当初接触ツールの多様化が認められる。
        • 被害時の連絡ツールは、LINEが5,658件(+3,080件、+119.5%)と、全体の9割以上を占める。
      5. 当初接触手段
        • 当初接触手段は、バナー等広告が2,330件(+1,451件、+165.1%)、ダイレクトメッセージが1,698件(+331件、+24.2%)、投稿が1,457件(+1,164件、+397.3%)と、前年同期に比べてバナー等広告と投稿が著しく増加している。
          • バナー等広告のツール別内訳は、Instagramが567件(+385件、+211.5%)、投資のサイトが385件(+221件、+134.8%)、YouTubeが347件(+201件、+137.7%)と、これらのツールで約6割を占める。
          • ダイレクトメッセージのツール別内訳は、Instagramが444件(+106件、+31.4%)、LINEが352件(+124件、+54.4%)、X(Twitter)が254件(+75件、+41.9%)と、これらのツールで6割以上を占める。
          • 投稿のツール別内訳は、Instagramが362件(+307件、+558.2%)、X(Twitter)が354件(+270件、+321.4%)と、これらのツールで約5割を占める。
    3. ニセ警察詐欺
      1. 認知状況
        • ニセ警察詐欺の認知件数は4,466件(-296件、-6.2%)、被害額は507.9億円(+108.9億円、+27.3%)。
      2. 被害者の年齢層
        • 年代別の認知件数及び被害額は、認知件数の順にみると、70代が869件(+295件、+51.4%)・151.6億円(+44.7億円、+41.8%)と最も多く、次いで60代が666件(-16件、-2.3%)・116.3億円(+10.3億円、+9.7%)、30代が664件(-318件、-32.4%)・34.4億円(-0.3億円、-1.0%)、50代が580件(-21件、-3.5%)・71.2億円(+21.7億円、+43.7%)となっており、70代と 60代が認知件数に占める割合は34.4%(+8.0ポイント)、被害額に占める割合は52.8%(-0.7ポイント)
      3. 主な被害金等交付形態
        • 振込型の認知件数は2,930件(-1,050件、-26.4%)、被害額は256.2億円(-11.0億円、-4.1%)と、いずれも減少し、ニセ警察詐欺に占める割合は、認知件数が65.6%(-18.0ポイント)、被害額が50.4%(-16.5ポイント)。
          • 振込型におけるIB利用の認知件数は1,400件(-610件、-30.3%)、被害額は164.4億円(-16.1億円、-8.9%)で、振込型に占める割合は、認知件数が47.8%(-2.7ポイント)、被害額が64.2%(-3.4ポイント)。
          • 振込型における暗号資産交換業者の口座に振込を行う暗号資産振込の認知件数は62件(-13件、-17.3%)、被害額は12.4億円(-14.6億円、-54.2%)。
        • 暗号資産送信型の認知件数は620件(+354件、+133.1%)、被害額は110.3億円(+60.8億円、+122.8%)。振込型における暗号資産振込と合わせると、一次的な主な被害金等交付形態が実質的に暗号資産であるものがニセ警察詐欺に占める割合は、認知件数が15.3%(+8.1ポイント)、被害額が24.2%(+5.0ポイント)。
      4.  犯行に用いられたツール
        • 当初接触ツールが電話の認知件数は4,385件(-330件、-7.0%)、被害額は498.9億円(+103.6億円、+26.2%)で、ニセ警察詐欺に占める割合は、認知件数が98.2%(-0.8ポイント)、被害額が98.2%(-0.8ポイント)。
          • 電話における携帯電話の認知件数は2,580件(-688件、-21.1%)、被害額は204.8億円(+22.7件、+12.5%)で、電話に占める割合は、認知件数が58.8%(-10.5ポイント)、被害額が41.1%(-5.0ポイント)。
    4. SNS型ロマンス詐欺
      1. 認知状況
        • SNS型ロマンス詐欺の認知件数は2,509件(+5件、+0.2%)、被害額は246.6億円(+6.3億円、+2.6%)。
      2. 被害者の年齢層
        • 年代別の認知件数及び被害額は、認知件数の順にみると、50代が755件(+4件、+0.5%)・83.5億円(-4.3億円、-4.9%)と最も多く、次いで60代が589件(+66件、+12.6%)・70.3億円(+11.5億円、+19.6%)、40代が539件(-49件、-8.3%)・46.9億円(+0.1億円、+0.3%)、30代が268件(-57件、-17.5%)・13.6億円(-6.8億円、-33.4%)となっており、50代と60代が認知件数に占める割合は53.6%(+2.7ポイント)、被害額に占める割合は62.4%(+1.4ポイント)。
      3. 主な被害金等交付形態
        • 振込型の認知件数は1,182件(-288件、-19.6%)、被害額は90.2億円(-49.5億円、-35.4%)と、いずれも減少し、SNS型ロマンス詐欺に占める割合は、認知件数が47.1%(-11.6ポイント)、被害額が36.6%(-21.5ポイント)。
          • 振込型におけるIB利用の認知件数は575件(-162件、-22.0%)、被害額は57.0億円(-37.0億円、-39.4%)で、振込型に占める割合は、認知件数が48.6%(-1.5ポイント)、被害額が63.2%(-4.1ポイント)。
          • 振込型における暗号資産交換業者の口座に振込を行う暗号資産振込の認知件数は21件(-30件、-58.8%)、被害額は2.8億円(-9.2億円、-76.5%)。
        • 暗号資産送信型の認知件数は1,118件(+264件、+30.9%)、被害額は141.8億円(+45.1億円、+46.7%)。振込型における暗号資産振込と合わせると、一次的な主な被害金等交付形態が実質的に暗号資産であるものがSNS型ロマンス詐欺に占める割合は、認知件数が45.4%(+9.3ポイント)、被害額が58.7%(+13.4ポイント)
      4. 犯行に用いられたツール
        • 当初接触ツールは、マッチングアプリが753件(-49件、-6.1%)、Instagramが486件(-104件、-17.6%)、Facebookが449件(-44件、-8.9%)、TikTokが284件(+80件、+39.2%)と、これらのツールで全体の約8割を占める。
        • 被害時の連絡ツールは、LINEが2,344件(+4件、+0.2%)と、全体の9割以上を占める。
      5. 当初接触手段
        1. 当初接触手段は、ダイレクトメッセージが2,252件(-68件、-2.9%)と、全体の約9割を占める。
          • ダイレクトメッセージのツール別内訳は、マッチングアプリが706件(-35件、-4.7%)、Instagramが442件(-135件、-23.4%)、Facebookが413件(-55件、-11.8%)と、これらのツールで約7割を占める。
  • 検挙状況
    1. 特殊詐欺
      1. 検挙状況全般
        • 特殊詐欺の検挙件数は3,821件(+646件、+20.3%)、検挙人員(以下「総検挙人員」という。)は1,381人(+245人、+21.6%)と、いずれも増加。
        • 手口別では、オレオレ詐欺の検挙人員が427人(-96人、-18.4%)で最も多く、総検挙人員に占める割合は30.9%(-15.1ポイント)。
        • 役割別では、受け子が730人(+81人、+12.5%)と最も多く、総検挙人員に占める割合は52.9%(-4.3ポイント)。
        • 主犯の検挙人員は78人(+16人、+25.8%)で、総検挙人員に占める割合は5.6%(+0.2ポイント)。
        • 預貯金口座や携帯電話の不正な売買等の特殊詐欺を助長する犯罪で3,387件(+855件、+33.8%)、2,277人(+504人、+28.4%)を検挙。
      2. 暴力団構成員等の検挙状況
        • 暴力団構成員等の検挙人員は110人(-128人、-53.8%)で、総検挙人員に占める割合は8.0%(-13.0ポイント)。
        • 暴力団構成員等の検挙人員のうち、受け子は28人(-100人、-78.1%)、リクルーターは22人(-5人、-18.5%)、架け子・打ち子は13人(-2人、-13.3%)。
      3. 少年の検挙状況
        • 少年の検挙人員は211人(±0人、±0.0%)で、総検挙人員に占める割合は15.3%(-3.3ポイント)。
        • 少年の検挙人員のうち、受け子は141人(-13人、-8.4%)で、少年の検挙人員の66.8%(-6.2ポイント)を占める。
        • 受け子の検挙人員(730人)に占める少年の割合は19.3%(-4.4ポイント)と、受け子の約5人に1人が少年。
      4. 外国人の検挙状況
        • 外国人の検挙人員は216人(+101人、+87.8%)で、総検挙人員に占める割合は15.6%(+5.5ポイント)。
        • 外国人の検挙人員のうち、受け子は119人(+68人、+133.3%)、出し子は29人(+4人、+16.0%)で、それぞれ外国人の検挙人員の55.1%(+10.7ポイント)、13.4%(-8.3ポイント)を占める。
        • 国籍別では、中国が129人(+88人、+214.6%)と最も多く、次いでベトナムが51人(+21人、+70.0%)、マレーシアが12人(-1人、-7.7%)の順。
        • 国籍別に最も多い役割をみると、中国は受け子が72人(+53人、+278.9%)、ベトナムは受け子が22人(+18人、+450.0%)、マレーシアは受け子が10人(-2人、-16.7%)。
        • 在留資格別では、短期滞在が79人(+59人、+295.0%)であり、うち役割別では受け子が55人(+38人、+223.5%)と、外国人被疑者全体の25.5%(+10.7ポイント)を占める。
      5. 受け子等になった経緯
        • 特殊詐欺の受け子等として検挙した被疑者1,267人(+213人、+20.2%)のうち、受け子等になった経緯は、SNSから応募が502人(+87人、+21.0%)と最も多く、次いで知人等紹介が417人(+50人、+13.6%)となっており、受け子等として検挙した被疑者のうち、SNSから応募が39.6%(+0.2ポイント)、知人等紹介が32.9%(-1.9ポイント)を占める。
    2. 架け場等の摘発状況
      • 犯行グループが欺罔電話をかけたり、架空の人物になりすましてメール等を送信したりする架け場等の犯行拠点について、令和8年上半期、国内では8箇所(+2箇所)を摘発。
      • また、海外拠点を外国当局が摘発し、日本に移送等して検挙した人数については、令和8年上半期は37人(+27人、+270%)。
    3. 主な検挙事件
      • 令和7年11月、カンボジア入管当局が同国内の拠点を摘発、日本人計13人を確保。現地から日本国内に移送し、本年1月、特殊詐欺(ニセ警察詐欺)事件で逮捕(警視庁等)。
      • 3月、インドネシア入管当局が同国内の拠点を摘発、日本人計13人を確保。同年4月全員をインドネシア入管当局が日本国内に移送し、日本国内で身柄の引渡しを受け、特殊詐欺(ニセ警察詐欺)事件で逮捕(警視庁等)。
      • 6月、大阪府内に所在するマンションにおける打ち場拠点を摘発し、被疑者41人を特殊詐欺(架空料金請求詐欺)事件で逮捕(大阪)。
      • 6月、愛知県内に所在するアパートにおける架け場拠点を摘発し、被疑者2人を特殊詐欺(ニセ警察詐欺)事件で逮捕(愛知)。
      • 4.特殊詐欺連合捜査班(TAIT)を活用した迅速かつ効果的な取締りの推進
      • TAITを活用した特殊詐欺事件の検挙件数は313件(+75件、+31.6%)、検挙人員は280人(+48人、+20.7%)であった。検挙した280人の主な役割は、受け子が82人(-4人、-4.7%)、出し子が80人(+18人、+29.0%)、現金回収・運搬役が21人(-2人、-8.7%)
  • 対策の取組
    1. 「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」等を踏まえた取組
      • 令和7年4月22日、犯罪対策閣僚会議において決定された「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」(以下、「総合対策2.0」という。)を踏まえ、中枢被疑者の検挙の徹底を図るとともに、詐欺の手口の変化に応じた情報発信をタイムリーに行いつつ、関係省庁や事業者と連携した各種対策を強力に推進。
      • 各種対策をかいくぐる巧妙な手口による高額被害も散見されるなど、新たな手口への対策も不可欠であることから、「詐欺及びストーカー被害拡大防止のための緊急対策」(令和8年7月28日犯罪対策閣僚会議決定)を踏まえ、官民連携を強化するなど、社会全体で各種施策を一層強力に推進。
    2. 取締り及び実態解明の推進
      1. 匿名・流動型犯罪グループの存在を見据えた取締りと実態解明の推進
        • 匿名・流動型犯罪グループの活動実態の変化に機動的に対応し、事件の背後にいる首謀者や指示役も含めた犯罪者グループ等の弱体化・壊滅のため、令和7年10月、警察庁に設置した「匿名・流動型犯罪グループ情報分析室」において、情報の部門横断的な集約・分析を強化するとともに、警視庁に全国の捜査員を集めて新設した「匿流ターゲット取締りチーム」(T3)をはじめ、全国警察が一体となった戦略的・集中的な実態解明と取締りを推進。
        • さらに、匿名性の高い通信アプリをはじめとする犯罪に悪用される通信アプリ等について、被疑者間の通信内容等を迅速に把握するために効果的と考えられる手法について、諸外国における取組を参考にしつつ、技術的アプローチや新たな法制度導入の可能性も含めて検討。
      2. 外国捜査機関との連携及び海外拠点に関する被疑者の摘発
        • 国境を越える組織的詐欺と闘う国際的な機運の高まりも踏まえ、東南アジア諸国等の外国捜査機関との間で、情報交換や協議等を通じて、取締りの重要性について認識を共有、海外拠点につながる情報の収集・分析を強化するとともに、6月に東南アジア担当リエゾンをタイ王国に配置するなどして、関係機関や現地当局とのオペレーションレベルでの国際連携を強化。
      3. 犯行ツール対策の推進
        1. 金融機関との情報連携体制の構築
          • 警察庁及び都道府県警察は、金融機関のモニタリングにより詐欺の被害のおそれが高いと判断される取引を検知した場合に、関係する都道府県警察へ迅速に情報提供する連携体制を構築。令和8年6月末現在、47都道府県警察本部と937金融機関が、警察庁と都市銀行等30金融機関が連携中。
          • 警察で把握した不正利用口座に係る情報を迅速に金融機関に共有する情報共有型の連携については、不正利用口座を起点とした確認となるため、潜在被害者をより迅速・確実に検出可能であり、現在は地銀等との連携が中心であるが、今後、都市銀行等との間でも情報共有型の連携を導入する方向で検討。
          • 令和8年6月1日から被害金の即時の追跡・凍結・回復を実現するための官民協働型枠組みの運用を開始し、金融機関と一層の連携強化。
        2. 当初接触ツール(電話)への対策の推進
          • ニセ警察詐欺の増加に伴い、高齢者だけでなく、20代、30代を含む幅広い年代の被害が増加。これは、特殊詐欺の手口が巧妙化し、犯人側と接触してしまえば、誰もがだまされるおそれがあるということを意味する。したがって、機械的・自動的な仕組みによって、詐欺の電話を始めとする犯人側からの接触手段を適切に遮断し、国民が犯人側と接触せずに済む環境を実現することが重要。
          • この点、令和5年7月以降、国際電話番号を利用した特殊詐欺が急増しているところ、固定電話については、「国際電話不取扱受付センター」に申し込むことにより、固定電話・ひかり電話を対象に国際電話番号からの発着信を無償で休止可能であることから、国際電話の利用休止について広く社会に呼び掛け、社会全体の気運を醸成する活動を「みんなでとめよう!!国際電話詐欺#みんとめ」と呼称して、全国警察を挙げて呼び掛けを実施中。
          • また、携帯電話については、国際電話の着信規制が可能なアプリを利用することにより、着信を遮断可能であることから、AIや独自のデータベース等の民間事業者の最新の技術や独自のノウハウを活用した特殊詐欺の被害防止に有効な携帯電話用アプリケーションについて、国際電話や詐欺電話を遮断するなどの機能を有するといった一定の基準に適合するものを「警察庁推奨アプリ」として認定し、国民に利用を推奨する制度を開始した。
          • 令和8年3月に、当該制度の第1弾として2つの特殊詐欺対策アプリを警察庁推奨アプリとして認定し、全国警察を挙げて関係機関や自治体等とも連携しながら効果 的な広報啓発を行い、国民運動として当該アプリの普及促進に取り組んでおり、令和8年6月末現在での累計ダウンロード数が約147.6万件まで増加。
        3. 犯行に利用されたSNSアカウントの利用停止措置の推進
          • 特殊詐欺に利用されたLINEアカウントの利用停止や削除等を促すため、令和8年上半期、LINEヤフー株式会社に情報提供したアカウントは7,491件。
          • 特殊詐欺の犯行に利用されたFacebookアカウント、Instagramアカウント及びThreadsアカウントの利用停止や削除等を促すため、令和8年上半期、MetaPlatforms,Incに情報提供したアカウントは114件。
        4. 犯行に利用された電話番号の利用停止等
          • 主要な電気通信事業者に対し、犯行に利用された固定電話番号等の利用停止及び新たな固定電話番号の提供拒否を要請する取組を推進。令和8年上半期は固定電話番号52件、050IP電話番号512件が利用停止され、新たな固定電話番号等の提供拒否要請を7件実施。
          • 悪質な電話転送サービス事業者が保有する「在庫番号」を一括利用停止する仕組みにより、令和8年上半期は新規番号の提供拒否対象契約者等が保有する固定電話番号等の利用停止等要請を1件実施。
          • 犯行に利用された携帯電話について、携帯電話事業者に対して役務提供拒否に係る情報提供を168件実施。
          • 犯行に利用された電話番号に対して、繰り返し電話して警告メッセージを流すことで、その番号の電話を事実上使用できなくする「警告電話事業」を推進。
        5. データ通信専用SIM契約時における本人確認の義務付け等
          • 特殊詐欺においては、携帯データ通信を利用し、SNSのメッセージ機能や通話機能を用いて詐欺行為を行う事例が多数確認されている。
          • しかし、これまでは、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(平成17年法律第31号)において、携帯音声通信を提供する契約締結時には契約者の本人確認が義務付けられていたものの、携帯データ通信のみを提供する契約については本人確認が義務付けられてこなかった。
          • こうした情勢を踏まえて策定された総合対策2.0を踏まえ、改正法案が提出され、令和8年5月、第221回国会において、携帯データ通信を契約締結時の本人確認の対象とすることなどを内容とする携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律の一部を改正する法律(令和8年法律第25号)が成立した。
      4. 被害防止対策の推進
        1. 広報啓発活動の推進
          • 幅広い年代に対して高い発信力を有する著名な方々により結成された「ストップ・オレオレ詐欺47~家族の絆作戦~」プロジェクトチーム(略称:SΟS47)による広報啓発活動を、公的機関、各種団体、民間事業者等の幅広い協力を得ながら展開。
          • 総合対策2.0に、変化する欺罔の手口の国民への迅速かつ実効的な広報・注意喚起が盛り込まれていることも踏まえ、被害が集中しているニセ警察詐欺に関し、警察庁及び全国警察が連動して、短期集中型の広報啓発を実施。
          • 同手口や、警察庁推奨アプリの利用促進に関する情勢を捉えた広報啓発動画を全国展開する小売店約1.1万店舗のデジタルサイネージで放映するとともに、ウェブ広告でも放映するなど広報啓発等を推進。
        2. 関係事業者と共同で警察庁推奨アプリの利用促進や国際電話の利用契約の利用休止申込みに関する広報啓発動画を作成し、ウェブ広告で放映中。
          • 関係事業者と連携した被害の未然防止対策の推進
          • コンビニエンスストア店員や金融機関職員等による声掛け等により、9,685件、108.3億円の被害を防止(阻止率※930.9%)。
          • 特殊詐欺において、SNSが被疑者と被害者との連絡ツールに使用されている状況を踏まえ、SNS事業者と連携した注意喚起を行う取組を推進。
          • 金地金の取引を介する特殊詐欺の被害拡大を防止するため、官民連携した対策をより一層推進することとし、業界団体に対して「金地金の不審取引等に関する情報の警察への迅速な情報提供」や「各貴金属取扱業者で実施できる対策の推進」を要請。

警視庁の親家和仁副総監が産経新聞のインタビューで、「犯罪グループの上層部は、闇バイトを使ったり、海外から犯行をしたりして警察の捜査が自分たちに及ばないようにし、犯罪収益をさらなる違法な活動などにつぎ込んでいきます。こういった形で一つの違法なビジネスモデルが形成されてしまっているところが問題です。このビジネスモデルをいかにして潰すかというのが大事です」、「対策本部は各部門、各警察署が持っている関係情報を一つにまとめて、さまざまな角度から分析して、トクリュウの実態を解明し、中核的人物を割り出しています。中核的人物をあらゆる法令を駆使して検挙するためには、相当の数の捜査員が必要となります。そこで、警察庁が全国警察から精鋭の捜査員を集めて、警視庁に託してくれたのがT3です」、「T3に期待することは、中核的人物の犯罪への関与を早期に明らかにし、逮捕して犯罪から切り離すことです。これによって、犯罪グループ全体とビジネスモデルを崩していきます」、「『+(プラス)』から始まる国際電話番号が特殊詐欺に多く使われており、国際電話番号をブロックする機能を搭載した警視庁の防犯アプリ「デジポリス」の普及促進を図っております。似た機能を有する警察庁の推奨アプリもありますので、いずれかを入れてもらえば、国際電話番号をブロックできます」、「トクリュウの怖さや闇バイトの危険性を小さいうちから知ってもらおうと、小学生に対する防犯講話をやっております。小学生の講話を通じて親世代へも浸透していく効果を狙っています」、「被害者の方は、手口は知っているんですが、犯人の巧みな話術で本当だと思ってしまわれていることが多いです。『見ず知らずの人がもうけ話を持ってくることなんてない』ということを意識してほしいです」などと述べています。

グロース上場のはてな社は、2026年4月のある2日間で、同社の銀行口座から社外へ合計11億8,000万円あまりを送金、実は、同社の経理部長が、警察官を名乗る特殊詐欺(ニセ警察詐欺)の電話の内容に騙され、自分が「警察の捜査に協力している」と本気で信じていたことが原因でした。最終的に金融機関が送金を停止したことで詐欺に気づきましたが、流出額は同社保有する資産の3分の1近くに相当し、株価は約3割下落、株主からは社内のガバナンスへの疑問や批判が殺到する騒ぎとなりました。なお、本件は調査報告書が公表されており、その状況や問題が克明に明かされており、大変参考になります。

▼ はてな 特別調査委員会による調査報告書の公表及び役員報酬の一部自主返上に関するお知らせ

経緯をかいつまんで紹介すると、経理部長の私用スマホに「千葉県警察」を名乗る者から電話が入り、「大規模な資金洗浄グループを捜査している」、「警察内部にも関係者がいるため、捜査員には専用の携帯が配布されており、そこからかけている」、「あなた自身にマネロンへの関与の疑いがあり、逮捕・拘留となるため出頭が必要だ」というものでした。「「マネロンに関与しているという疑いは、たとえ冤罪であっても経理担当者としては致命的である」という恐怖に駆られ、正常な判断能力を失ってしまった」(調査報告書)ことに加え、詐欺グループはまず家族への口外を禁じ、通信アプリで接触しビデオ通話へ誘導、通話中、「警察手帳」や「検察官証」とされるものを画面に提示、相手は経理部長の氏名や生年月日をあらかじめ把握しており、本物らしさの演出には十分だったといいます。さらに「社長や取締役も、マネロンへの関与の疑いで捜査対象になっている」と告げ、これらの手口により、家族にも社内に相談できない孤立状態に陥り、正常な判断を困難にしたと考えられます。

本件では内部統制システムの不備も多数露呈しました。例えば、犯罪グループの指示で正体不明のアプリ(遠隔操作アプリ)をインストールしたのですが、X社では記録(ログ)は残り、監視もしていたものの、異常として検知できませんでした。こうした問題は、X社だけの問題ではないと考えられます。また、それ以外にも、部下が異常に気付いたものの、それ以上の追求ができなかった点や銀行が警告したにもかかわらず技術的な引っかかりとして処理してしまった点(さらに上司である取締役が明細を確認しないまま承認)、インターネットバンキング(IB)のシステム上の設定が規程と食い違っていたこと、経理規定では「振込の申請者と承認者は別」になっており、運用上もそうなっていたものの、経理部長のアカウントは1人で申請と承認の両方ができる権限設定になっており、上限金額の設定もなかったこと、さらに権限設定など定期的に見直すルールもなかったといいます。こうしたことから、社内の規定に違反する行為をけん制すべき仕組みが機能せず、誰も気づけないまま被害が拡大したといえます。

以下は、調査委員会による対策の提言の項目を抜粋したものとなります。本件は法人が特殊詐欺被害にあった事例ですが、似たような被害事例としては「ボイスフィッシング」などもあり、共通しているのは役員・従業員のリスクセンスの低さと内部統制システムの脆弱性だといえます。警察庁や金融庁は「銀行から電話があれば営業店・代表電話に折り返し本物か確認する」、「IBは公式サイトやアプリからアクセスする」といった対策の徹底を企業へ呼びかけています。犯罪グループは対策が手薄な企業を狙っており、中小企業では送金手続きを担当者1人で担うケースも多い実態がありますが、高額送金では複数の社員によるチェックが不可欠なところ、加えて社内での手口の啓発や送金限度額の設定、不審電話の遮断といった対策も求められています。ぜひ、本件を「他山の石」として、自社の脆弱性の把握と改善に努めてほしいと思います。

調査報告書から「具体的な対策の提言」

  • 資金移動に関する内部統制の強化
    1. 資金移動のルールの明確化
    2. ワークフローによる承認
  • オンラインバンキングのアカウント管理
    1. 適切な権限付与
    2. 適切な限度額の設定
    3. オンラインバンキングの権限設定に対する職務分掌
    4. オンラインバンキングアカウントの変更
    5. オンラインバンキングアカウントの棚卸
    6. オンラインバンキングの通知設定
  • 経理部業務の可視化
    1. 経理業務における業務マニュアル等の整備
    2. 経理部長業務の棚卸、業務担当の見直し
  • 特殊詐欺に関する教育研修の実施
  • セキュリティポリシーの遵守
    1. 貸与PCの管理強化
    2. 情報セキュリティルールの遵守状況モニタリング
    3. パスワード管理のサポート
  • 内部監査
    1. リスクアプローチに基づく内部監査の導入
    2. 内部監査の専任者の配置や専門家の利用
  • 監査役会のリスク意識の向上

法人・組織が騙された事例としては、「ニセ社長詐欺」で岩手の社福法人が200万円の被害にあったものもありました。岩手県警は、同県宮古市の社会福祉法人が「ニセ社長詐欺」被害にあい、現金約200万円をだまし取られたと発表しました。報道によれば、同様の手口が複数確認されており、「送金時には必ず経営者に事前確認するよう徹底してほしい」と注意を呼び掛けています。2026年6月下旬、同法人の職員が会社のパソコンでメールを確認した際、法人理事長を名乗る人物からSNSアプリのトークグループを作成し、QRコードを指定するメールアドレスに送信するよう指示を受け、その後、理事長を名乗る人物からトークグループに連絡があり、同法人とは別の指定口座へ200万円を入金するよう指示されたため、振り込んだといいます。送金後、再び同じ人物からさらなる入金を指示されたため、職員は理事長の携帯電話に直接確認したところ、特殊詐欺事件だったことが発覚したというものです。

令和8年熊本地震においても詐欺に注意すべき状況が発生しています。最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 熊本地震に便乗して、被災者らを狙う悪質商法や義援金詐欺が相次ぐ可能性があるとして、消費者庁が注意を呼びかけています。同庁によれば、熊本地震に関連した消費者トラブルの相談件数が8月5日までに約10件あったといいいます。住宅修理に関する相談や、SNSでやり取りしている人からの寄付の求めなどといったトラブルの相談がありました。2016年の熊本地震の時も、知らない業者から屋根や住宅設備の点検を勧誘されたり、福祉団体や公的機関を名乗る人から義援金を求められたりする事案があったといい、発生から1カ月で約750件の相談が寄せられていました。消費生活相談は全国共通ダイヤル「188」で受け付けており、堀井奈津子長官は、「時間がたつにつれて相談が増えてくる可能性がある。(不安なことがあれば)相談してほしい」と呼びかけています。また、市役所職員などを名乗るケースもあり、「公的機関が各家庭に直接電話して義援金を集めることはない」と説明した上で、振込先などをよく確認するよう求めています。
  • 今回の地震でも避難中を狙った空き巣被害が確認されたほか、義援金の募集を装う詐欺メールも出回っています。被災者を狙う犯罪や悪質商法はこれまでの災害でも繰り返し問題になってきました。東日本大震災後の2011年4月から1年間で、国民生活センターには災害に関連する消費者相談が約2万5000件ありました。不安をあおって高額な修繕工事を契約させる手口も増える傾向があります。熊本地震後には被災者から、点検を名乗る業者に「分電盤を交換したほうがいい」と迫られたとの相談の電話があったといいます。標的は被災者に限らず、「義援金の募集」を装う詐欺にも注意が必要です。日本赤十字社によれば、被災地への義援金を振り込ませようとする「なりすましメール」が複数確認されており、メールには日赤のロゴや支援活動の様子の写真などを掲載、決済アプリ「PayPay」や銀行口座への振り込みを求めているといいます。サイバーセキュリティ大手のトレンドマイクロによれば、「熊本地震」に関連した詐欺や迷惑メールが見つかっているといいます。地震を報じるニュースサイトを模倣した不審なサイトや、SNSに被災者を装った虚偽の投稿をして生活資金名目で電子マネーを送るよう求める手口もみられています。金融庁は「善意に乗じた卑劣な犯罪が発生する恐れがある」と強調、義援金を振り込む前に信用できる団体かどうか慎重に確かめるよう求めています。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、アジア太平洋地域で2025年に発生した詐欺の被害額が最大で1141億ドル(約18兆6000億円)に上るとの推計を公表しています。東南アジアを主要拠点とする国際犯罪組織がデジタル技術を駆使して手口を巧妙化させ、国境を越えて活動を広げていると分析しています。対象地域は東アジア、東南アジア、オーストラリア、ニュージーランドで、最低の推計額(約14兆4000億円)でも、域内の複数の国の国内総生産(GDP)を上回る規模で、被害の約7割は東アジアに集中しているとされ、その規模間にあらためて驚かされます。なお、報告書に掲載された各国・地域当局の直近の公表額では、日本(約3200億円)は中国、韓国、台湾に次いで4番目に被害が多くなりました。報告書は、これまで地域や犯罪分野ごとに活動していた組織が、共通のサービス網を利用して複数の違法市場に進出し、国境を越えた「犯罪経済圏」を形成していると分析、「運営形態は企業のフランチャイズに似ている。マネロンや人身取引、密入国の手配、データ収集などが分業され、一つのネットワークで結ばれている」と説明しています。犯罪経済圏の中核の一つが、東南アジア各地のオンライン詐欺拠点で、犯罪組織は好条件の求人を装い、応募者らに関与を強制しており、拠点では、少なくとも80カ国・地域の出身者が確認されています。生成AIやディープフェイク、暗号資産なども活用し、摘発が強まると取り締まりの手薄な国へ移ったり、拠点を分散させたりして活動を続けていることは本コラムでも指摘し続けているとおりです。報告書は、中国系犯罪組織だけでなく、日本のトクリュウなども、域内の詐欺インフラを海外活動の足場にしていると指摘しています。主任分析官は、犯罪に必要なサービスがそろう東南アジアは、日本や韓国の犯罪組織にとっても「非常に魅力的」だと述べています。以下、関連して、オンライン詐欺拠点を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • カンボジアの大物実業家が支配するカジノ企業「リム・ヘン・グループ」が、特殊詐欺および人身売買の拠点となっていたタイ国境付近の複合施設の家主であったことが、ロイターの調べで明らかになったと報じられています。ロイターが入手した2024年3月付の賃貸契約書によれば、リム・ヘン・グループは国境​沿いにある自社カジノの一つ「ロイヤル・ヒル」と敷地を共有する建物を、市場価格を大幅に上回る賃料で中国籍の人物に貸し出していたといい、建物内には複数の国の銀行オフィスや警察署に見えるよう改造された部屋があり、世界中の被害者を標的にした特殊詐欺の舞台となっていたといいます。独立系組織「⁠カンボジア人権行動連合」および、ビジネスと人権分野を専門とするピセス・ドゥチ弁護士によれば、所有物件が犯罪目的で使用されていることを家主が認識し​ながら放置していたことが捜査で立証されれば、検察は家主を起訴できるといい、リム・ヘン・グループは、遅くとも2024年9月までにはロイヤル・ヒルで人身売買が行われている可能性​について認識しているはずだといいます(同グループの代表者が当時、ここに外国人が拘束されていると報じたカンボジアの出版会社2社を相手取り、法的申し立てを行っていたため)。この複合施設での特殊詐欺捜査を主導しているタイ国家警察は、中国のギャングがロイヤル・ヒルの敷地内で詐欺を行っていたと述べましたが、ギャングの正体​についての詳細は明らかにされていません。東南アジアには、主に中国系の犯罪グループが人身売買の被害者を拘束し、ロマンス詐欺や警察官なりすまし詐欺を強制的に行わせる「詐欺工場」が多数存在‌、米国政⁠府の推計によると、2024年に米国人がこの地域の詐欺グループによって失った額は100億ドルに上っています。関係者によれば、中国系詐欺シンジケートの運営者の多くはカジノにも関与しており、不法に得た資金を隠す手段としてカジノを利用しているといいます。また、アムネスティ・インターナショナルの調べでは、カンボジア国内で少なくとも12カ所の詐欺センターがカジノのオーナーによって「直接支配」されていたといいます。カンボ⁠ジアのカジノは政治家とつながっている実業家によって支配されていることが多く、その中の一人がリム・ヘン氏で、公爵に相当する王室の称号を有しているといいます。また、彼がメンバーとなっている経​済団体は2025年にカンボジア軍に2万ドルを寄付、カンボジア政府は詐欺センターの根絶を誓っていますが、世​界中のメディアが2026年、⁠複合施設内で見つかった偽の警察署や銀行の画像を報じたにもかかわらず、政府はロイヤル・ヒルが単なるホテルだとの主張を繰り返してきました。なお、タイ軍は2025年12月にカンボジアとの間​で発生した短い国境紛争の際、ロイヤル・ヒルを砲撃し、現在この場所を占拠、タイ軍は、ここが詐欺施設だった証拠を示すために現​地を公開したと説明していますが、カンボジアのネット・ピアクトラ情報相は、タイ軍の主張は虚偽であり、タイはカンボジアの民間インフラを攻撃したとロイターに語っています。
  • 国連の国際移住機関(IOM)は、アジアの詐欺拠点で強制的に働かされてい​る人が急増していると警告しています。80カ国超‌の人々がSNSを通じて誘引され、一部は性的虐待を受けているといいます。IOMによれば、ミャンマー、カンボ​ジア、ラオスにまたがって最大30万人を雇​用する巨大な拠点があり、オンラインで⁠欧米の高齢者らを標的に詐欺を展開して​いるといいます。英語力の高い大卒者向けに好条件の労​働契約を提示する偽の求人広告が存在し、強制労働者の相当数がだまされて詐欺に引き込まれていると​いい、IOMのエイミー・ポープ事務局長は、多くの人​が性的虐待や独房監禁を受けた末、汚名、借金、トラ‌ウマ⁠に苦しんでいると指摘しています。人身取引被害者を数万人とみられています。ポープ氏は、「主要なネットワークの拠点​はアジアだが、SNSの存​在や、多⁠数の国の人々に接触が可能になったことから、その範囲は大幅に拡大し​ている」と述べ、IOMは声明で「保護、安​全な⁠帰還、社会復帰を通じて人身取引被害者を支援するため継続的な援助を求める。同時に、人身⁠取引​業者の手口の啓発活動を拡​大し、リスクを認識するとともに、どこに助けを求めれば​よいかが分かるようにしていく」と表明しています。
  • アフリカ西部にあるシエラレオネを拠点とする特殊詐欺事件に関与したとして、日本人の50~79歳の男女9人が兵庫県警に詐欺容疑で逮捕されました。この事件で、リーダー役とされる容疑者がメンバーを募る際、特定の中国籍の男と連絡を取り合っていた疑いがあることがわかりました。報道によれば、中国籍の男は、兵庫県警が容疑者のスマホを解析するなどして浮上したもので、男が詐欺事件に関与していた疑いがあるとみています。9人のうち、容疑者とリクルーターとされる3人は詐欺容疑での逮捕前の2026年6月、日本人の男女をアフリカでのかけ子に勧誘したとする職業安定法違反(有害業務の紹介)罪で起訴されました。なお、詐欺容疑で逮捕された9人のうち、シエラレオネへの渡航が確認された容疑者の一部が現地の状況について、「詐欺電話をかける拠点があるエリアには複数の建物があり、住居や食事が用意された。中国系の人物が世話役だった」という趣旨の説明をしていたこともわかりました。兵庫県警などは、現地の犯行グループに中国人らが加わっている疑いがあるとみて実態を調べています。特殊詐欺事件をめぐっては近年、東南アジアで日本人が現地当局に摘発されるケースが相次いでいますが、アフリカの国を拠点とする事件で関与の疑いが発覚するのは異例といいます。西アフリカ地域を研究し、シエラレオネに多数の渡航経験がある龍谷大学法学部の落合雄彦教授(政治学)によれば、1990年代終盤以降、中国が企業の海外進出などを積極的に後押しする戦略「走出去(外に出る)」に乗り出し、その結果、「アフリカ各地に中国人ネットワークが形成され、ビジネスだけではなく犯罪も展開しやすい状況が生じている」と説明、ただ、シエラレオネはインフラ整備が十分ではなく、頻繁に停電するため、特殊詐欺でスマホやパソコンを使う場合は発電機が必要になるほか、滞在にはマラリアなどへの感染対策も欠かせず、東南アジアを拠点とするより「コストは高くなる」といいます。一方、警察が事件の捜査などで賄賂を受け取るとの情報もあるといい、落合教授は「犯行グループがシエラレオネを選んだのは摘発を逃れるためではないか。滞在用のビザを現地で直接取得でき、入国しやすい利点もあるだろう」と指摘しており、大変驚くとともに、興味深い指摘だと思いました。
  • 2026年8月5日付毎日新聞によれば、東南アジアの特殊詐欺拠点で、新たな動きが出始めているといい、カンボジアなどの国境地帯で街や要塞のような巨大な拠点を築いていた詐欺グループが少しずつ「分散化」しているようです。タイ警察の「オンライン詐欺対策センター(ACSC)」のセンター長代理は「取り締まりから逃れるために小規模なグループに分かれ、各国へと分散している」と明らかにし、国境を越えた捜査協力を呼びかけています。ACSCは2025年10月、タイ警察が主導して設立されましたが、その成果はめざましく、2026年6月の発表によれば、タイ国内では発足から9カ月間で外国人を含む2万9000人超を逮捕し、240億バーツ(約1100億円)超の資産を押収、国内のオンライン詐欺の件数は約7割減少し、被害総額も約1割まで減ったといいます。そして、タイ国内で摘発されたのは、アパートの一室などに潜伏する5~10人程度の小規模グループが中心だったといい、外国人も多く含まれており、これまでに29人の日本人を拘束して送還手続きを進めたといいます。また、各国での取り締まりの強化を受け、犯罪組織が小規模なグループに分かれ、国境地帯の巨大施設から内陸部や他国へと移っていると指摘、「貧困や汚職があり、統治機能が弱い地域ほど組織は活動しやすい」と指摘、最新の分析では、マレーシアやスリランカ、ミャンマー南部への移動が目立つといいます。詐欺拠点の小規模化について、「発見が難しくなる」としつつも「組織が分散すればミスも増え、摘発の機会は広がる」とみており、巨大施設とは異なり、詐欺グループが武装して実行役を監禁することが難しいため、強制的に詐欺に加担させられている人が自力で脱出したり、当局に情報提供したりするケースも増えると指摘、「今後もより小さく、より分散した拠点へ追い込めることを期待している」と述べています。ただ、捜査には「国境」という「壁」もがあり、「詐欺拠点を撲滅するため、世界中の捜査当局と協力して共同捜査を行う姿勢を示し続けたい」と強調、日本の警察との連携についても「日本とは非常に良好な関係にある。今後も多くの共同捜査を実施したい」としています。
  • 東南アジア各国で問題化しているオンライン詐欺組織が、2025年に東南アジア諸国連合(ASEAN)に加盟したばかりの東ティモールへ活動拠点を広げ、現地警察が摘発を強化しているといいます。外国人がディリを拠点に詐欺をしているとの通報が寄せられ、警察がドローンで拠点の疑いのある建物を撮影したところ、屋根に大量の衛星通信端末装置などが設置され、入居している部屋の電気料金は通常の2倍以上に膨れあがっていたため、2026年6月下旬以降、詐欺の拠点だとして計25カ所を捜索、中国人やインドネシア人ら計314人を拘束しました。直近でも同7月、首都ディリと近郊の2カ所を捜索し、インドネシア人76人と中国人14人の計90人を拘束、多数のパソコンや携帯電話、衛星通信サービス「スターリンク」の機器などを押収、警察は、国際的な詐欺グループが関与しているとみて捜査を続けています。さらに、首都ディリのホテルで特殊詐欺に関与した疑いがあるとして日本人を含む男2人を摘発したと発表、東ティモール国内で特殊詐欺に関与した疑いで摘発された邦人の存在が明らかになるのは異例です(現地警察によれば、拠点はホテルの一室で、室内には「徳島県警察」と書かれたボードが見つかるなど、日本の警察署のような「装飾」が施してあったといい、日本在住の高齢者とみられる人々のリストのほか、拘束された男とは別に30~31歳の日本人2人分のパスポートが見つかっています)。国連薬物犯罪事務所(UNODC)は2025年、カンボジアやミャンマーなどで摘発を受けたオンライン詐欺組織が、取り締まりの手薄な国へ拠点を移していると警告、東ティモールも、サイバー犯罪への対応の遅れにつけ込まれる恐れがあると指摘していました(なお、拘束されたほぼ全員に、カンボジアへの渡航歴が確認されています)。東ティモールでは2025年8月、インドネシア領に囲まれた飛び地オエクシで、オンライン詐欺拠点が摘発されましたが、外国投資を呼び込むため規制緩和を進めてきた経済特区です。同国では35歳以下が人口の7割以上を占める一方、働き口が限られており、SNSで高収入の仕事をちらつかせ、若者を勧誘する事案が相次いでいるといいます。国連が「後発開発途上国」(最貧国)に分類しており、脆弱な取り締まり体制を突いて犯罪組織が流入している実態が明らかになりつつあります
  • ラオスのメディアは、警察当局が北部シェンクワン県で特殊詐欺グループの拠点とみられるホテルを捜索し、日本人男女5人を含む51人を拘束したと報じています。ラオスでは2026年6月、特殊詐欺に関与した疑いで日本人が拘束されるなど、摘発が相次いでいます。警察は現場からパソコン60台や携帯電話76台などを押収、グループは台湾の住民を狙い、家具や家電などのオンライン販売を装った詐欺を行った疑いがあるといいます。
  • 在ロサンゼルス日本総領事館は、米ロサンゼルス近郊で「闇バイト」を行う組織に巻き込まれた日本人男性を保護し、帰国の支援をしたと発表しています。男性は高収入をうたった仕事の広告をインターネット上で見つけて渡米したものの、その後に同館に保護を求めたものです。同館は在留邦人に注意喚起のメールを送り、「高収入をうたった海外での仕事の広告は特殊詐欺やマネロンなどの犯罪に加担させられる可能性がある」として安易に応募しないよう呼びかけています。トクリュウによる詐欺拠点は東南アジアなど各地に広がっており、米国も例外でないことを示唆する事例ですが、外務省は日本人に注意を促しています。

総務省はSNS事業者に削除を求めるインターネット上の広告を巡り、違法となる範囲を広げます。著名人になりすました投資勧誘や、化粧品の効果を巡る誇大広告なども違反の対象にし、トラブル急増を踏まえ対策を急ぐとしています。総務省は情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)で、ネット上の投稿内容が消費者の権利侵害などにあたる場合は事業者に対応を義務付けています。違法広告の事例を示した指針について公表する予定で、罰則はないものの、動画投稿サイトのユーチューブを運営する米グーグルやLINEヤフー、米メタなどに対応を促す狙いがあります。これまでは名誉毀損やプライバシーの侵害にあたるもの、児童ポルノなどが対象だったところ、著名人になりすまして投資を誘うSNS広告や、特殊詐欺などの被害金を口座間で動かす「送金バイト」の依頼が疑われる投稿などを削除の対象に加えるものです。SNS広告を通じた投資勧誘を巡り近年、実在する経済アナリストや有名実業家の画像を広告バナーなどに使い、投資詐欺グループに誘い込む手口が急増しています。化粧品や美顔器などの効能に関する表現も、医薬品医療機器法(薬機法)に違反するとみられる場合は削除を求めるとしています。これまでは対象となる広告を「医薬品等」という表記にとどめていましたが、化粧品や医療機器も対象に広げるもので、越境EC(電子商取引)の普及により韓国などからの輸入が増え、日本の法律では誇大表現とみられる広告が増えているのに対応します。警察庁は、ネット利用者が違法広告などを見つけた際の通報窓口である「インターネット・ホットラインセンター」の指針を改定すると発表、総務省の指針改定と同様に、なりすまし投資勧誘や特殊詐欺への誘導が疑われる投稿などを新たに対象に加えました。ネット利用者による通報と事業者向け規制の両面から、悪質広告への対処を強化します。

▼ 警察庁 SNS等におけるなりすまし詐欺広告に関する対策強化のための7府省庁合同要請の実施
  • 警察庁は、本日、金融庁、消費者庁、デジタル庁、総務省、法務省及び経済産業省と合同で、SNS等を提供する大規模事業者に対して、SNS等におけるなりすまし詐欺広告への対策強化について、文書により要請を実施しました。
  • ソーシャルネットワーキングサービスその他交流型のプラットフォームにおいて、ディープフェイクを用いて著名人の肖像や音声を無断で利用したなりすまし広告を含む詐欺広告(以下「なりすまし詐欺広告」といいます。)が広く流通し、当該広告を端緒とする投資詐欺等の被害が拡大している状況にあります。
  • これらは、広告を閲覧した消費者・利用者に財産上の被害をもたらすおそれがあるのみならず、なりすまされた者の社会的信頼を著しく損なうおそれもあるところ、消費者・利用者等の保護の観点から看過できるものではなく、関係省庁において対策の検討を進めているところです。
  • 上記の状況を踏まえ、消費者・利用者等の被害の未然防止の観点から、プラットフォーム事業者によるなりすまし詐欺広告に対する更なる自主的取組の強化のために、警察庁、金融庁、消費者庁、デジタル庁、総務省、法務省及び経済産業省合同で、Google LLC、LINE ヤフー株式会社、Meta Platforms, Inc.、TikTok Pte. Ltd.及びX Corp.に対し文書による要請を行いました。

総務省は、ネット上の偽広告に対するSNS事業者の対処状況について点検結果をとりまとめています。著名人になりすました投資詐欺などが増えるなか、広告主の本人確認の重要性などを改めて指摘しています。国内の月間利用者数(MAU)が平均1000万以上のグーグルやメタ、LINEヤフーなど8事業者を対象に、ネット広告に関する事前審査や偽広告だった場合の事後的な削除状況などを聞き取ったものです。SNS型投資詐欺などでは偽アカウントや乗っ取ったアカウントから偽広告を出稿する事例も多く、広告主の本人確認が重要になります。点検では自社で広告網を持つTikTokなど6社について「各広告の持つリスクに応じた確認行為を行っていると考えられる」と結論づけましたが、具体的なリスク内容や本人確認方法の説明については十分な回答が得られなかったとして「詳細を確認することが重要」だと結論づけました。事後的な削除については6社のうちLINEヤフーから削除申立件数や実施件数について回答があったものの、グーグルなど4社からは「透明性の確保の観点から十分と判断するに値する回答はなかった」としました。匿名電子掲示板「爆サイ.com」を運営する湘南西武ホームは削除やアカウント停止の実績はないとの回答で、透明性につながる情報開示の在り方に課題を残した形です。出席した委員からは目まぐるしく状況が変化する中、「柔軟な対応が不可欠。海外の規制との整合性も考慮する必要がある」などの意見が出ました。こうした点検や聞き取りは2025年9月に策定したデジタル広告に関するモニタリング指針に基づくもので、今回が初の実施で、総務省は今後も年に1度、状況を確認する方針としています。

▼ 総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループ(第17回)配布資料
▼ 資料17-2 デジタル広告の流通を巡る諸課題への対応に関するモニタリング(令和7年度) 総括(案)
  1. モニタリングを踏まえた評価(特に引き続きの注視が求められる事項)
    1. 広告主の本人確認
      • 令和6年11月に取りまとめた「SNS等におけるなりすまし型「偽広告」への対応に関する事業者ヒアリング総括」(以下「令和6年ヒアリング総括」という。)では、「広告出稿用アカウントの開設や当該アカウントを利用した広告の出稿の際に、プラットフォーム事業者においてより実効性のある本人確認が行われることが重要。広告主の本人確認の具体的な方法については、メールアドレスや電話番号の認証のみならず、(略)確認書類の提出などの対応をとることの有効性・必要性についても考慮することが重要」と評価した
      • 今回のモニタリングでは、自社広告ネットワークを有する6社のうち、5社(Google、LINE ヤフー、Meta、TikTok、湘南西武ホーム)から、本人確認についてはリスクに応じて実施する、1社(X)からは、一部広告(賭博、政治、金融商品等に分類されるもの)について本人確認を実施する、との回答があった。
      • いずれの社も「各広告の持つリスクに応じた」確認行為を行っていると考えられるが、「リスクに応じた確認」を行う5社については、具体的にどのようなリスクに応じて、どのような本人確認(電話番号の認証か、確認書類の提出か等)を実施しているのかについての十分な回答は得られておらず、また、一部広告について本人確認を実施する1社については、確認方法についての具体的な回答はなかった
      • 確実な本人確認の実施の観点からは、より幅広な確認書類の提出等の対応を取ることの有効性・必要性についても考慮したうえで、「リスクに応じた確認」の有効性を確認すべく、各社が実施する本人確認の詳細を確認することが重要である。
      • なお、本人確認の手法については、不正申請の抑止の観点等から、確認書類の提出等と合わせて、電子的な認証手段の活用も有効と考えられるため、その活用状況についても確認を行うことが望ましい。
    2. 広告関連情報の公開
      • 令和6年ヒアリング総括では、「利用者自身が当該サービスに掲載されるデジタル広告について、広告主や広告の信頼性を確認できるような情報公開を進めていくことも重要」と評価した。
      • 今回のモニタリングでは、自社広告ネットワークを有する6社のうち2社(Google、 Meta)から、広告主や広告コンテンツを検索可能な広告ライブラリーを公開しているとの回答があったが、残りの4社(LINE ヤフー、TikTok、X、湘南西武ホーム)は未実施との回答であった。
      • この点、情報公開の方法としては、掲載される広告において広告主や広告に関する情報を確認することができるようにすること等も有効と考えられるため、広告ライブラリーの公開状況と併せて確認を行うことが重要である。
    3. 掲載済み広告の再審査
      • 令和6年ヒアリング総括では、「事前審査後に遷移先の情報を変更し、当該遷移先からクローズドチャットへ遷移させる投資詐欺の手法は引き続き指摘されている」とした上で、こうした手法への対応として「自ら検知・調査を行うプロセス・体制を整備した上で、遷移先の情報が変更されたことを発見した場合には速やかに再度審査を実施することなど、策定・公表した事前審査基準に基づく審査の実効性を向上させる観点からの対応を適切かつ不断に講じていくことが重要」と評価した。
      • 今回のモニタリングでは、自社広告ネットワークを有する6社のうち3社(Google、LINE ヤフー、湘南西武ホーム)については、広告素材や遷移先URLが変更された場合に加え、広告素材や遷移先URLの変更を伴わず遷移先ページのコンテンツの内容のみが変更される場合であっても、必要に応じて監視を実施し、再審査を実施しているとの回答があった。また、2社(Meta、TikTok)からは、広告素材や遷移先URLが変更された場合に再審査を実施しているとの回答があった。
      • さらに、一部事業者は、遷移先について、直に LINE アカウント登録画面とすること等の禁止(LINE ヤフー)や、SNS等への誘導の禁止(Google、湘南西武ホーム)、コンテンツの表示にプログラムのダウンロード等を要することの禁止(TikTok、X)といった取組も実施している。
      • 掲載済み広告については、引き続き、広告素材自体の変更はもちろんのこと、遷移先情報への対応として遷移先ページのコンテンツの内容のみが変更される場合の再審査の有無について確認していくほか、遷移先でのSNS等への登録・誘導の制限といったクローズドチャットへの誘導に対する対策の実施や、事前審査のすり抜けへの対策について確認することが重要である。
    4. 事後削除の実施状況の把握
      • 令和6年ヒアリング総括では、「削除の申出件数及び実施件数、アカウント停止の申出件数及び実施件数、削除等の対応に当たる人的・技術的体制について公開されていないことは、透明性確保の観点から不十分であり、今後の公開が進められることが重要。」と評価した。
      • 今回のモニタリングでは、自社広告ネットワークを有する6社のうち、1社(湘南西武ホーム)から広告削除、広告主アカウント停止の実績なし、との回答があったほか、1社(LINE ヤフー)から広告について申請理由毎の削除申出件数及び実施件数について回答があったが、残りの4社(Google、Meta、TikTok、X)からは透明性の 確保の観点から十分と判断するに値する回答はなかった。
      • 事後削除の透明性を確保し、その実効性を確認する観点からは、引き続き、事後削除の実施状況(削除申出件数、実施件数、対応所要時間等)が適時適切に公開されることが重要であり、その際、削除対応に係る総数での回答ではなく、特にモニタリング対象となる広告毎に区分して回答すること等が望ましい。
  2. 今後のモニタリングの進め方
    • 今回のモニタリングでは、「デジタル広告の流通を巡る諸課題への対応に関するモニタリング指針」(以下「モニタリング指針」という。)に記載されている全てのモニタリング項目について確認を行った。
    • 1.記載の各項目は、令和6年ヒアリング総括の評価において対応の重要性等について指摘したものの、今回のモニタリングにおいても十分な対応を確認することができない部分も多く、特に引き続きの注視が必要と考える項目である。
    • 来期のモニタリングの実施にあたっては、(1)記載の項目や、デジタル広告市場の状況及び社会情勢等を踏まえ、重点的に確認すべき項目、対象事業者等に絞って実施することとし、その時々に応じた重点課題について機動的に確認していくことが望ましいと考える
    • また、デジタル広告を巡る諸課題への対策については、その射程や対象の問題を含め、総務省のみで完結できるものではないと考えるため、関係省庁との情報共有や意見交換を実施し、必要に応じた役割分担の検討が必要である

SNS型投資詐欺の被害急増を受け、警察庁が2026年6月以降、動画投稿サイト「ユーチューブ」を運営するグーグルに対し、著名人になりすまして投資を呼びかける悪質動画計243件(7月29日時点)を削除するよう要請をしていたことがわかりました。このうち約9割は削除されたといいます。同庁によれば、2026年上半期(1~6月)のSNS型投資詐欺の被害額は約797億9000万円(暫定値)で、約1816億円に上った特殊詐欺被害全体の4割超を占めています。ユーチューブには著名な経済評論家らになりすましてLINEの連絡先を表示し、「爆上げ投資銘柄をGET」「特別な投資情報」などと持ちかける悪質な動画が多数投稿されています。こうした動画が詐欺被害の入り口となっており、同庁は6月から、犯罪対策で連携する一般財団法人「日本サイバー犯罪対策センター(JC3)」のシステムを使ったサイバーパトロールに乗り出しています。システムが検知した詐欺動画などを同庁職員が確認し、グーグルに対して削除要請を繰り返しているといいます。このほか、LINEヤフーには、悪質なアカウント情報を提供しており、警察庁の担当者は「被害の未然防止に向け、国民が悪質動画に触れる機会を減らす取り組みを進めていく」としています。

特殊詐欺被害の防止に向けて、金融庁や総務省が要請文書を発信していますので、以下、紹介します。

▼ 金融庁 暗号資産を用いた詐欺被害等防止に向けた対策の一層の強化について
▼ 暗号資産を用いた詐欺被害等防止に向けた対策の一層の強化について(概要)
  • 要請の背景・ポイント
    • 「SNS型投資・ロマンス詐欺」の被害が急増しており、特に、暗号資産が詐欺被害者による交付に用いられる事例は年々増加傾向である状況を受け、暗号資産を用いて行われる金融犯罪への対策が急務
    • 暗号資産取引においては非対面取引が一般的であること及び対策が不十分な暗号資産交換業者が犯罪者に狙われやすいことを踏まえれば、以下の対策は規模によらず必要であり、全ての暗号資産交換業者に対し、26年8月に対策を要請
    • システム上の対応が必要など、直ちに対策を講じることが困難な場合、計画的に対応することが重要
      • 対策の方法・深度は各暗号資産交換業者の業務・サービス内容や不正利用の発生状況に応じて判断
        1. 口座開設時における不正防止及び実態把握の強化
          • 口座売買が犯罪であること、暗号資産交換業者として厳格に対応する方針であることの顧客への周知
          • 本人確認の方法に応じた本人確認書類の真正性を確認する仕組みの構築
          • 疑わしい取引の届出や警察からの凍結依頼対象等、口座の不正利用リスクが高い顧客の属性・傾向の調査・分析、これらの特徴に合致する顧客の口座開設時審査における、より厳格な実態・利用目的の確認
        2. 詐欺被害等防止のための確認及び注意喚起
          • 顧客に対し、第三者からの指示による口座開設や暗号資産の購入・出庫は詐欺のおそれが高いことを注意喚起
        3. 法定通貨入金後又は暗号資産購入後の一定期間の暗号資産の出庫制限
          • 法定通貨の入金後又は暗号資産の購入後、一定期間の暗号資産の出庫の制限
          • 出庫制限の解除後、早期に多額・多頻度の出庫を行っている顧客に対する取引背景等の確認
        4. 出庫先の事前登録制及び登録後一定期間の暗号資産の出庫制限
          • 出庫先情報の事前登録及び詐欺等との関連性の確認(関連性が認められる場合)出庫の防止
          • 新規に登録された出庫先に対する、一定期間の暗号資産の出庫の制限
          • 出庫制限の解除後、早期に多額・多頻度の出庫を行っている顧客に対する取引背景等の確認
        5. 出庫限度額の適切な設定
          • 顧客リスク評価・顧客属性・保有資産額・取引目的・過去の取引内容等に応じた、暗号資産の出庫限度額の設定
          • 出庫限度額引上げ時は利用目的などを勘案した適切な額の設定、また、一定額以上への引上げ時はリスクに留意した対応
          • 出庫限度額引上げ後の早期に多額・多頻度の出庫を行っている顧客に対する取引背景等の確認
          • 詐欺被害の発生状況を踏まえた、出庫限度額の機動的な制限・見直し
        6. 取引モニタリング及びアクセス環境モニタリングの強化
          • 足下で発生している詐欺被害のパターンに着目した検知シナリオの適用
          • 口座開設時審査等において把握した顧客の属性、口座の利用目的に見合わない取引の検知
          • 口座の取引状況に応じ、モニタリングの頻度・即時性を高めた、より早期の不正取引の検知
          • 詐欺被害や口座不正利用における共通点を特定し、当該共通点を有する他の口座や取引の有無を確認
          • 不正利用が確認された口座と同一の端末・アクセス環境からの取引の検知
          • 顧客の申告情報や過去のアクセス情報と整合しない接続の検知
          • 口座の不正利用リスクが高い属性の顧客に対する固有のシナリオの適用
        7. 疑わしい取引検知後の顧客への確認、取引制限及び口座凍結等の措置の迅速化
          • 検知した取引の疑わしさの度合いに応じた対応内容の細分化と速やかな措置
          • (不正の確証が得られる場合)リスク遮断措置(法定通貨の入出金・暗号資産の入出庫の停止・凍結等)
          • (不正の確証が得られない場合)リスク低減措置(取引の一時保留・顧客への確認等)
          • 取引制限等を行うべき判断基準・判断プロセス・必要な顧客への確認事項等の明確化
          • 業務・サービスの提供時間や不正利用の多い時間に応じ、夜間・休日にも速やかに取引制限等を行える態勢の構築
          • 詐欺被害が疑われる取引の保留及び顧客への確認に加え、必要に応じて取引制限及び口座凍結についても検討
          • 犯罪収益移転防止法上の義務である疑わしい取引の届出の確実な実施
        8. なりすまし等が疑われる場合の認証強化
          • なりすまし等が疑われる場合には、厳格な取引時確認に加え、必要に応じて利用者が顧客本人であることを確認
          • 重要な操作時におけるフィッシングに耐性のある多要素認証の実装及び必須化
        9. 送金依頼人名と暗号資産口座の名義人名の一致確認等
          • 振込・送金依頼人名と自社における口座名義人名の一致の確認及び不一致の場合の適切な対応
        10. 詐欺被害及び不正利用等に関する検知の端緒、実態の把握及び対策の高度化に資する情報の共有
          • 詐欺被害及び口座の不正利用手口並びに対応事例など暗号資産交換業者間での情報共有と対応能力の向上
        11. 警察への情報提供及び連携の強化
          • 詐欺のおそれが高い取引を検知した場合の都道府県警察への迅速な情報の提供
          • そのための連携体制の構築に向けた警察庁・都道府県警察との具体的協議
          • 警察と構築した連携体制の実効性向上
          • 都道府県警察からの協力依頼(被害届の提出・不正と判断するに至った情報の提供等)に対する適切な対応
▼ 総務省 特殊詐欺等の被害防止に向けた対策の一層の強化に関する要請
▼ 別添
  • 特殊詐欺の被害は増加傾向であり、令和7年の被害総額(SNS型投資・ロマンス詐欺の被害額を含みます。)は3,257億円(警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」)と過去最多となりました。こうした中、政府では、「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」(令和7年4月22日犯罪対策閣僚会議決定)等に基づき、官民一体となった取組を推進してきたところです。
  • 総務省においても、当該決定等に基づき、電気通信事業者等との協力の下、各種施策を推進しています。令和8年5月には、特殊詐欺をはじめとする携帯通信サービスの不正利用の多様化・巧妙化に対応するため、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律の一部を改正する法律(令和8年法律第25号。以下「改正法」といいます。)が成立しました。改正法については、今後、その施行に向け、改正法に基づく措置を着実に準備する必要があります。
  • また、今般、犯罪対策閣僚会議においては、令和8年7月28日、現下の危機的な状況に鑑み、特殊詐欺等への対策を緊急に実施するため、「詐欺及びストーカー被害拡大防止のための緊急対策」が決定されました。これに基づき、通信分野においても、特殊詐欺等に対して更なる対策の推進が求められるところです。
  • 貴法人らにおいては、これまでも特殊詐欺の被害防止に向けた各種対策を推進していただいているものと承知していますが、こうした状況を踏まえ、特殊詐欺等の対策の一層の強化が必要です。
  • つきましては、下記の事項に御対応いただきますよう、お願い申し上げます。
    1. 電気通信サービスの不適正利用関連
      • 貴法人らの会員である電気通信事業者に対し、(1)から(8)までの事項に着実に取り組むよう、周知を行うこと。
        1. 警察庁推奨アプリをはじめとする詐欺電話等対策アプリについて、携帯通信サービスの利用者に対して、契約時その他の適切な機会を捉えた機能や有効性の説明や周知等を通じ、携帯電話への導入を促進すること。契約の締結の媒介等の業務を委託する販売代理店等においてもこれを適切に行わせること。
        2. 携帯通信サービスの利用者に向けたAI等を活用した詐欺電話等の検知・警告サービスについて、社会実装に向けた検討を加速化すること。
        3. 携帯通信サービスにおけるなりすましの防止のため、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(平成17年法律第31号)に基づく義務を確実に履行するとともに、契約の態様やリスクに応じた本人確認、当人認証等を実施すること。特に、
          1. 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和6年6月21日閣議決定)を踏まえ、非対面契約については令和8年4月から契約時等のICチップの読み取りが原則義務化され、対面契約については令和9年4月から、契約時等のICチップの読み取りが原則義務化されるところ、対面契約についても施行期日を待たず、速やかな対応に努めること。
          2. 追加回線契約時の多要素認証については、令和8年4月から義務化されているところ、パスキーを利用する方式の原則化等の更なる厳格化を行うこと。
          3. 契約の管理等を行うウェブサイト、アプリケーション等における認証や、SIMの再発行、アクティベーション等を行う際の認証についても、パスキーを利用する方式を含め、厳格な方法の導入を積極的に検討すること。
        4. (3)における本人確認、当人認証等の水準について、必要に応じ、可能な範囲で適切な業界横断的なルールの策定に向けた検討を進めること。
        5. 携帯通信サービスの利用者等に対して総務省が展開する周知活動について、販売代理店等での掲示やサイネージによる表示等、多様な方法を活用した継続的かつ効果的な注意喚起を実施できるよう必要な協力を行うこと。
        6. 固定電話への国際電話サービスを悪用した詐欺等への対策として、契約変更時等の機会を捉えた必要性の確認や利用休止体制の強化等、国際電話サービスの利用を真に必要としない利用者に対して国際電話の利用休止を促進するための措置を引き続き講ずること。
        7. 固定電話の利用者に対し、AI等を活用した詐欺検知・警告サービスについて分かりやすく周知すること等を通じて、引き続き普及に向けた取組を推進すること。
        8. その他、固定・携帯電話、SMS及びメールを悪用した特殊詐欺等による被害の未然防止を図るため、「固定・携帯電話、SMS及びメールを悪用した特殊詐欺等に対する対応について」(令和7年4月23日総基用第44号)及び「フィッシングメール対策の強化に関する要請」(令和7年9月1日総基用第76号)の内容を踏まえ、効果的な措置を講ずること。
    2. 改正法関連
      • 貴法人らの会員である電気通信事業者に対し、(1)から(6)までの事項に着実に取り組むよう、周知を行うこと。(6)の事項について、貴法人らにおいて検討を進めること。
        1. 改正法の施行後に新規に締結する携帯データ通信役務の役務提供契約について、改正法による改正後の携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(平成17年法律第31号。以下「新携帯電話不正利用防止法」という。)に基づく本人確認等(代表者等の権限又は地位の確認等を含む。以下同じ。)が確実に実施できるよう、速やかに必要な準備を進めること。改正法の施行前に準備が整った場合には、利用者への事前周知等を行った上で、改正法の施行を待たず、新携帯電話不正利用防止法に相当する本人確認等を実施すること。
        2. (1)に加え、改正法の施行前に締結した携帯データ通信役務の役務提供契約のうち本人確認等が未実施であるものについても、改正法附則に基づき一定の期間内に本人確認等を完了させる必要があることから、これについても、速やかに本人確認等に必要な準備を進めること。準備に当たっては、フィッシング詐欺等の防止の観点から、改正法に基づく措置であることを利用者が認識した上で確認に応じることができるよう留意すること。
        3. 多回線契約により提供される携帯通信役務が不正に利用されることを防止するため、個人による通常想定されない回線数の役務提供契約の締結について、その実態を把握し、改正法の施行以降、新携帯電話不正利用防止法の内容を踏まえた自主的な措置を講じることができるよう、その検討を進めること。その際、利用用途を確認し、それが正当な目的による場合は例外的に一定数以上の多回線契約を認めるなど、改正法の施行に伴い、今後改正される携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律施行規則(平成17年総務省令第167号)やQ&Aの内容を踏まえ、利用者の利便性を過度に制限することのないよう留意すること。
        4. 自社及び媒介業者等において本人確認等の措置その他携帯通信役務の不正利用への対策が確実に行われるよう、不正利用の動向を踏まえ、研修・監査の実効的な実施方法等について検討すること。また、本人確認等に係る情報システム、運用体制等について、不正契約を防止するための措置が講じられているか、不断の確認を行うこと。
        5. (1)から(4)までの事項に基づく対応も含め、新携帯電話不正利用防止法等に基づく対応が確実に実施されるよう、自社の携帯通信役務に係る媒介業者等に対し、確実に監督等を行うこと。また、(1)から(4)までの内容について、別紙と併せて、自社の提供する移動通信サービスを利用して、又は自社の電気通信設備と接続して携帯通信役務を提供する電気通信事業者、自社の提供する携帯通信役務を利用して携帯電話のレンタル業を営む貸与業者等に周知すること。
        6. 貴法人らの会員である、携帯通信端末向けの電気通信役務を提供する電気通信事業者が、改正法の趣旨を十分に理解し、必要な対策を講じることができるよう、改正法に関する説明会の開催や意見交換の機会を設けるほか、携帯データ通信役務の本人確認等、多回線契約により提供される携帯通信役務の不正な利用の防止等について、貴法人らの会員事業者間の申合せ等の自主的な対策を講じている場合には、必要に応じ、改正法の内容を踏まえ、一層の対策の推進に向けた見直しを検討すること。
  • 携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律の一部を改正する法律の概要
    • 近年、携帯通信端末向けの電気通信役務の不正な利用が多様化・巧妙化していることに鑑み、当該電気通信役務を提供する事業者が契約締結時の本人確認等を行うべき役務に音声通信役務以外の電気通信役務を追加するとともに、特定の個人が同時に利用することができる携帯通信端末の数が一定数を超えることとなる場合に当該電気通信役務を提供する事業者が役務の提供を拒むことを可能にする等の措置を講ずる。
    • 改正の概要
      1. 契約締結時の本人確認等の対象となる電気通信役務の範囲の拡大
        • 役務提供契約の締結時における契約者の本人確認等の対象となる役務に、音声通信役務以外の電気通信役務(データ通信役務)を追加する。【題名、第1条~第3条関係】
          • ※これに伴い、法律の題名を「携帯通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯通信役務の不正な利用の防止に関する法律」に改めるとともに、役務の名称を「携帯通信役務」、事業者の名称を「携帯通信事業者」に改める。
      2. 本邦内に住居を有しない外国人の本人確認を行う場合の規定の整備
        • 携帯通信事業者が本邦内に住居を有しない外国人と役務提供契約を締結する場合の、住居に代わる事項(例:旅券番号)の確認による本人確認に関する規定を整備する。【第3条第1項関係】
      3. 警察署長による電気通信事業者に対する照会に係る規定の整備
        • 警察署長が、一定の罪に当たる行為に利用された携帯通信役務に係る契約者の本人確認等を携帯通信事業者に求めることができる制度において、(1)によりデータ通信役務が対象となることに伴い、その求めのために必要があると認めるときは、関係事業者に照会して必要な事項の報告を求めることができることとする。【第8条第2項関係】
      4. 個人が同時に利用可能な携帯通信端末が一定数を超えることとなる場合の役務提供拒否に係る規定の整備
        • 特定の個人が同時に利用することができる携帯通信端末の数が一定数を超えることとなる場合には、不正な利用のおそれが高いことを踏まえ、携帯通信事業者がその超えることとなる部分についての役務の提供を拒否することができることとする。【第11条第6号関係】

警視庁は、投資詐欺グループについてインターネット検索すると「詐欺ではありません」「信頼できます」と表示されるとして注意を呼びかけています勧誘した相手がネットで調べることを想定し、検索結果を「汚染」する新手口とみられています。サイバー犯罪対策課によれば、詐欺グループは民間企業や官公庁の公式サイト内の検索機能を悪用、グループの肯定的な宣伝文句を組み込んだURLを大量に作成し、検索サービスに収集させてAIによる要約の表示などにつなげていました。具体的には、投資名目で現金をだまし取る「SNS型投資詐欺」に誘導するグループ名を検索すると「詐欺ではありません」などと表示されるもので、実際の投資詐欺事件で使われた「高リターン創出計画」という単語の検索では「高リターン創出計画は詐欺ではありません」とのページが表示されるといい、検索結果の一覧に、大手ECサイトなどとともに投資を推奨するような文言が表示されるようになっているもの、投資詐欺の勉強会やSNSグループの名称などが使われるケースもあるといいます。この手口は「サイト内検索スパム」と呼ばれていますが、サイトの運営者側は、検索後のページを大手検索サービスに収集させないよう設定することなどで、こうした不正への対策を取ることができるものの、設定の仕方によっては、必要なページまで検索結果に表示されにくくなる可能性があり、注意も必要といいます。警視庁は詐欺グループから請け負う業者が中国語で宣伝している例を複数確認、「検索結果を過信すると詐欺被害に気づくのが遅れる。肯定的な内容が表示されても注意が必要」としています

警視庁匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)対策本部は、同庁の「サイバーセキュリティ(CS)対策本部」をかたる偽メールが確認されたと発表しています。不正アクセスがあったとしてクリックを求めるフィッシングの手口とみられ、「警視庁から急にメールが来ることはない」と注意を呼びかけています。偽メールは、CS対策本部を「送信元」とし、《マイナポータル関連アカウントに、第三者による不審なアクセスが記録されました》《お客様のメールアドレスと一致しています》などと記載、本人の操作かを確認するとの名目で、「オンライン確認画面へ」と記されたボタンを押すよう求める内容だといいます。トクリュウ対策本部によると、警視庁に「不審なメールが届いたが、間違いないか」と問い合わせがあり発覚、同様の問い合わせが計64件以上寄せられており、警視庁は、マルウェアの感染や個人情報を入力するサイトに誘導されるおそれがあるとして、ボタンを押したり、添付ファイルを開いたりすることなく、受信拒否や破棄するよう求めています。

「両親が丹精込めて育てたアボカドの販売に困っています」「老舗農家を応援してください」といった投稿が最近、SNSに並んでいますが、数百万円をだまし取られる被害も出ています。大阪府警によれば、これらはSNSを悪用した新しい詐欺の手口で、購入を申し込むと運送会社の偽サイトへ誘導され、支払いトラブルの名目で現金を要求されるのが特徴といいます。比較的高価な桃や、美容や健康に良いとして人気のアボカドが利用されているとみられ、被害者は20~70代の男女と幅広いといいます。また、だまされて個人情報を入力すると、被害は振り込んだ現金だけにとどまらない恐れがあるといい、大阪府警が警戒しているの、トクリュウとの関係で、大阪府警府民安全対策課は「投稿者はトクリュウと裏でつながっている可能性がある。貯金額などの個人情報を教えれば悪用され、新たな犯罪のターゲットになることも考えられる」と注意を呼びかけています。

特殊詐欺の手口の中で被害が多い「ニセ警察詐欺」の東京都内における2026年1~5月の認知件数が前年同期比38.8%減の548件、被害額が同38.3%減の61億7069万円と、いずれも約4割減少したことわかりました。ほぼ同じ時期に、同庁が被害防止のため利用を呼び掛ける防犯アプリのダウンロード数が倍増したことも判明、同庁幹部は「被害防止策の効果が出始めている」と手応えを語っています。ニセ警察詐欺は、2023年ごろから全国的に猛威を振るっていますが、その多くは「+1」などで始まる番号からかかってくる国際電話が被害のきっかけとなっています。警視庁は、国際電話の不要な着信を止めれば被害が減らせると考え、対策を検討、2025年12月、同庁の防犯アプリ「デジポリス」に携帯電話への国際電話を遮断できる新機能を搭載、活用を呼び掛けたところ利用者が急増し、それまでの約10年間で計約100万件だったダウンロード件数は約7カ月で倍増しました。同庁は固定電話への対策にも力を入れており、管内の住民に対し、国際電話の着信を拒否できる無料サービスの利用も促しています。ただ、警察庁によれば、全国的には被害に歯止めがかかっていない状況です。警察庁が推奨する民間防犯アプリも2026年3月に運用が始まりましたが、同5月末時点のダウンロード数は約114万3000件で、今後、いかにアプリの利用者を増やせるかが被害防止の鍵を握りそうです。

金地金(金塊)をだまし取る特殊詐欺が急増しています。2025~26年の被害額は100億円を超え、監視が厳しい口座送金に代わる手口として犯罪組織が目をつけているとみられています。近年の金価格の上昇を背景に海外でも同様の詐欺事件が発生しており、捜査当局が警戒を強めています。手口は被害者に購入させた金塊を受け子が直接回収に行くケースが大半で、トクリュウが関与した組織的な詐欺の可能性が高いとされます。近年はマネロン対策として官民で口座送金の不正監視を強化、例えば国内の大手9銀行は2026年5月、マネロン対策として警察と情報を共有し、不審な送金の照会を受ければ即日口座を凍結する取組みを開始していることもあって、口座間の送金と比べて金塊の取引は監視されにくいため、犯罪組織が狙いを定めていること、購入方法を説明し、実際に購入させる一連の動きは犯行グループからすれば「手間」になるものの、上限がある銀行振り込みを何度もさせるより、一度に多額を得られるメリットがあることなどが指摘されています。警察庁は不審な取引が疑われるケースを項目ごとに整理したチェックシートを作成、指示を受けて金地金を購入していることが疑われる場合などシートの項目に当てはまることがあれば最寄りの警察署に連絡するよう求めています。また店舗の窓口担当者らへの研修の実施なども要請しています。このほか金地金の引き渡しまでに期間を設けることで被害に気づけることがあるとして、購入の会員制導入や、会員登録の完了を郵送で通知するなど、実際に業界内で実施されている取り組みを参考にして、必要な対策をすることも求めています。警察庁は業界にこうした要請をするとともに「警察官がSNSで連絡をすることや、金地金の購入を指示することは絶対にない」と注意を呼びかけています。なお、詐欺グループの同様の動きは海外でも見受けられ、米連邦捜査局(FBI)ボストン支部の発表によれば、2023年~25年5月、宅配便で金塊や現金を送らせる詐欺が全米で1700件以上あり、約1億8600万ドル(約300億円)の被害が生じました。シンガポールでも金塊をだまし取る事件が相次ぎ、現地当局が警戒を求めています。

ニセ警察詐欺で、女性がビデオ通話中に身体検査を理由に裸にさせられるなど性的な被害に遭うケースが多発しています。警察官を名乗る人物からビデオ通話を指示され、「犯人かどうか確かめる」と言われて全裸にさせられたり、行動確認としてトイレや入浴時の様子を撮影させられたりしたといいます。また、裸を撮影させたうえで「録音・録画している」、「全国にばらまく」と脅されたケースもあったといいます。こうした行為は、SNSなどで性的な画像や動画を送らせて金品を要求するセクストーション(性的脅迫)とも呼ばれていますが、警察は「警察が捜査の目的でビデオ通話に誘導することはない。裸になるよう要求することも絶対にない」と注意を呼び掛けています。

80代の女性がニセ警察詐欺に騙された事例がありましたが、家族が近くにおり、詐欺被害防止を訴えるチラシを見ていたのにあっけなく被害にあってしまったといい、「とっさのことで頭が回らなかった」と述べています。また、「自分のことは自分でせなと思っていた。けれど大事なことは相談しないと」と、今後は二度と詐欺に遭わないよう、相談することを心がけているといいます。ただ、犯罪グループ側も考える間も与えない手口の巧妙さがあります。警察関係者によれば、ニセの警察官だけでなく親族を装って電話をかけてくることもあること、口座が犯罪に利用されているとうたってカードや通帳をだまし取るのが手口であること、女性宅に電話がかかってきてから現金が引き出されるまでの時間は約30分しかないこと、長く同じ場所に住んでいる場合は、卒業アルバムなどから氏名、住所、電話番号がまとまって流出している場合もあるといい、「犯人が女性宅に電話をかけた際には、キャッシュカードの受け取り役が付近で準備していた可能性がある」ことなどを知っておく必要があります。さらに「国際電話や非通知の番号、知らない番号には出ないということが一番の対策だ」と強調、万が一、いつもの癖で電話に出てしまっても、「電話口で言われたことだけで判断せず、一度電話を切って着信履歴から電話番号を調べたり、家族に相談したりするのが防犯につながる」と警鐘を鳴らしています。こうした「騙される心理・行動特性」について、消費者庁からレポートが公表されており、大変興味深いものでしたので、以下、紹介します。

▼ 消費者庁 「特殊詐欺等の消費者被害における心理・行動特性に関する研究」プロジェクトにおけるプログレッシブ・レポートの公表について
▼ 消費者被害(特殊詐欺・悪質商法)における脆弱性の実態調査
  • 概要
    • 特殊詐欺や悪質商法による消費者被害は、全国的に被害が拡大し、国民に深刻な経済的被害をもたらしている。「特殊詐欺」とは、犯人が電話やSNS等を通じて対面することなく信頼させ、又は関係を深めて信用させ、犯人が指定する預貯金口座への振込その他の方法により、現金等をだまし取る犯罪のことを指すが、近年、被害認知件数及び被害額が急拡大している。また、特殊詐欺のみならず、故意に消費者をだまそうとする悪質商法の被害も高止まりが続いている。警察による事件検挙や実態解明が進められているが、被害に歯止めが効かない状況といえる。
    • 本研究では、特殊詐欺、悪質商法を含めた多種多様な消費者被害を対象とした。消費者被害に対する脆弱性を、個人レベル、対人・集団レベル、地域・社会レベルの複数の観点から把握し、被害防止に資する実証的エビデンスを得ることを目的として、特殊詐欺等の被害届提出のため徳島県警察を訪れた者等を対象とした対面調査及び全国規模のインターネットアンケート調査を行った。本報告書は、本研究の中間報告として、インターネットアンケート調査の概要及び主要項目の記述統計を報告するものである。
    • 調査結果からは、回答者の多くが携帯電話・スマホを保有しており、消費者被害の接触経路としても、携帯電話・スマホ、SMS・メール、SNS、PCメールなどのデジタル経路が重要な位置を占めていることが示された。一方で、固定電話や居宅訪問をきっかけとする接触も一定数みられ、デジタル型の被害と従来型の被害が併存している状況がうかがわれた。被害内容では、架空料金請求詐欺が最も多く、また、オレオレ詐欺では警察職員を名乗るケースが多く含まれていた。これらの結果は、近年の消費者被害が、デジタル空間における接触と、公的機関や専門職を装う権威のなりすまし等を組み合わせながら多様化していることを示唆している。
    • 心理社会状況については、主観的健康状態は全体として中程度以上に分布していた一方で、疲労感、睡眠の問題、軽度から中程度の認知機能上の困難、孤独感を自覚する回答者も一定数存在していた。また、詐欺脆弱性に関する項目では、知らない人への警戒意識がみられる一方で、詐欺にあわないという自信、強い口調への萎縮、特別扱いへの好意的反応、金銭相談への不安など、被害場面で判断や相談を妨げ得る心理的特徴も確認された。これらの結果は、消費者被害に対する脆弱性が、単なる知識不足や高齢であることだけでは説明できず、健康状態、心理的負担、孤立、対人関係、相談のしやすさなどが複合的に関わる可能性を示している。相談相手については、被害又は被害にあいそうになった際の相談先として、同居している配偶者・パートナーや家族が多く挙げられた。一方で、約3割が「誰にも話していない」と回答しており、不審な接触や被害経験が周囲や公的機関に共有されにくい実態も示された。また、日常の困りごと、金融管理、人間関係の悩みに関する相談意向では、家族や地域の友人・知人に加え、公的機関の窓口や専門家への相談意向も一定程度みられた。ただし、配偶者・パートナーや子・孫などの相談相手については「該当する相手なし」と回答する者も多く、家族を前提とした見守りや相談支援だけでは十分に届かない層が存在する可能性が示唆された。
    • 以上の結果から、消費者被害の予防や早期対応には、生活環境に応じて、デジタル接触経路への対策、固定電話・訪問型被害への対策、権威のなりすましへの具体的啓発、家族や地域による見守り、公的機関や専門家への相談導線といった側面から対策を検討することが重要である。今後は、データクリーニングを行ったうえで、年齢層、居住形態、地域特性、被害経験の有無、相談行動、心理社会的要因等との関連を検討し、消費者被害に対する脆弱性の構造や、被害防止・相談促進に資する要因を明らかにしていく予定である。
  • まとめ
    • 本報告書で扱う集計結果の解釈にあたっては、確定値ではなく暫定的な傾向として捉える必要があるものの、消費者被害のリスクが、単一の属性や単一の要因で説明できないことが示唆される。生活状況では、デジタル機器の普及、固定電話の残存、経済的不安、地域参加の低さが併存していた。詐欺被害の状況では、架空料金請求詐欺、SNS・スマホ経由の接触、警察職員等を名乗る権威のなりすまし、初期対応の差異が確認された。心理社会状況では、疲労・睡眠問題、軽度の認知機能低下、孤独感、対人圧力や金銭相談への不安がみられた。相談相手については、配偶者や家族などの私的ネットワークが重要である一方、誰にも話していない層も一定数存在していた。
    • 以上より、消費者被害の予防や早期対応を考えるうえでは、対象者を「高齢者」「若年者」「デジタルリテラシーが不十分な層」といった固定的な属性で分類するだけでは不十分である。
    • スマホを日常的に利用する層であっても、SMS、SNS、デジタル広告、偽サイト、偽アプリなどを通じた被害リスクを抱える。また、固定電話を保有する層も一定数存在しており、従来型の電話勧誘・なりすましへの対策も引き続き必要である。したがって、消費者被害予防においては、生活環境に応じて、デジタル接触経路への対策、固定電話・訪問型被害への対策、権威のなりすましへの具体的啓発、家族や地域による見守り、公的機関や専門家への相談導線といった側面から対策を検討することが重要である。
    • さらに、注意喚起の中心を「詐欺の知識を持つこと」だけに置くのではなく、「最初の反応を止めること」に置く必要があることも示唆された。また、注意喚起の前提として、「判断力が不十分な人」が被害にあうのではなく、健康状態がよい人、スマホを使い慣れている人、詐欺にあわない自信がある人でも、状況によって脆弱になり得る可能性もあり、今後精査する必要がある。高齢者がサイバー犯罪を報告しにくい要因として、羞恥心、独 立性を失うことへの恐れ、「高齢者はデジタル機器の操作に不慣れだから被害にあっても仕方がない」といったデジタル年齢差別などが指摘されており(Haversetal.,2024)、「だまされる人が悪い」のではなく、「誰でも反応してしまうように設計された手口である」という認識を広めていく必要もある。被害者非難は報告や相談を妨げる要因になり得るため、消費者被害予防を推進していくうえで、相談しやすい環境づくりについて検討する必要がある。
    • 家族や地域的つながりといったインフォーマルな相談資源に加え、公的機関や専門家によるフォーマルな支援、さらにオンライン相談など多様な相談経路については今後の分析によってより具体的な示唆が得られると考えられる。具体的に検討する観点として、以下の3点が挙げられる。
      1. 第一に、実際の相談先が家族に集中していることから、家族向けの啓発が考えられる。消費者本人への啓発だけでなく、その「同居家族」が被害の予兆(理由のない出金、不審な電話、スマホの長時間の使用など)に気づき、優しく声をかけられるような啓発を検討する余地がある。
      2. 第二に、誰にも相談しない層へのアウトリーチが考えられる。被害・回避を経験しながらも約3割が誰にも話していない実態を踏まえ、「被害にあっていなくても、怪しいと思ったらすぐ相談してよい」というような認識を広げる必要があると考えられる。
      3. 第三に、相談相手の該当者なし層の孤立の状況に応じたフォーマルな支援が考えられる。特に、家族や地域のつながりを持たない層に対し、定期的・自動的な見守りやデジタル端末を介した相談窓口へのダイレクトなアクセスができるよう(例:防犯アプリなど)、今後検討する余地がある
    • 今後の分析では、被害者・回避者・未経験者の比較、年齢層別分析、接触経路別分析、相談有無別分析、心理社会的要因を含む多変量解析を行うことで、被害に至るプロセスと回避に寄与する要因をより具体的に明らかにできる余地がある。特に、被害回避に関連する個人要因と地域要因の交絡を抽出することは、詐欺被害ゼロ次予防の施策として「どのような行動・相談・環境が被害を防ぐのか」を示すうえで有用である。

トレンドマイクロの個人向けブランド「トレンドライフ」の調査によれば、AIを使った詐欺やなりすましを「自信を持って見破れる」と答えた人は、全体のわずか8.5%にとどまり、逆に「自信がない」と答えた人は70.4%に上ることがわかりました。さらに、もし詐欺被害にあったとき「どうすればいいかわかる」という人は11.2%で、62.1%の人が「対処法がわからない」と回答しています。

▼ トレンドライフ AIへの期待も不安も9割超え~調査で見えた「使いたいけど怖い」日本の現状と対策~

同サイトでは、AI時代の新しい詐欺の手口として、「AIで声や顔をそっくりコピーした「ディープフェイク」による詐欺」、「自然な日本語文章が届く「フィッシング詐欺」」、「絶対に儲かると誘う「SNS型投資詐欺」」を挙げています。それに対し、「今日からできる!5つの簡単な対策」として、以下のとおり提言しています。

  1. 「急いで!」と言われたら、立ち止まる
    • 詐欺師は焦らせて判断を曇らせようとします。急かされたときほど、まず立ち止まって「一度電話を切る・後で確認」する習慣を心がけましょう。
  2. ビデオ通話でも「本当に本人?」と疑う
    • 顔が見えても100%安心とはいえない状況も出てきています。家族だけが知っている「合言葉」を事前に決めておくと、いざというときの確認に役立つかもしれません。
  3. メールやSMSのリンクは気軽にクリックしない
    • 銀行や通販サイトを装ったメールが届いても、リンクはクリックせず、自分でアプリやWebサイトを開いて確認しましょう。
  4. 「絶対儲かる」話は疑う
    • 「AIで必ず稼げる」「リスクゼロ」といった話には、詐欺の可能性がある場合も多く、慎重に判断することが大切です。
  5. 家族で「あやしいと思ったら話す」ルールを作る
    • 「変なメールが来た」「妙な電話があった」と気軽に話せる雰囲気づくりが、家族を守るうえでとても大切です。子どもやご高齢の家族への声がけも、ぜひ意識してみてください。

もし詐欺の被害にあったり、不審に思ったりしたら、一人で抱え込まずに相談してください。

警視庁は、2026年1~6月の東京都内の特殊詐欺認知件数が前年同期比約16.5%増の3138件に上ったと発表しました。被害額も同約46.1%増の約344億円に上りました。過去最悪となった2025年の被害規模を上回る勢いだとして、警戒を呼び掛けています。同庁匿名・流動型犯罪グループ対策本部によると、被害のうち最多の手口はSNS型投資詐欺(793件)で、ニセ警察詐欺(709件)、還付金詐欺(387件)、オレオレ詐欺(358件)が続いきました。SNS型投資詐欺で被害者が犯行グループと接触するきっかけとして最も多かった媒体は「インスタグラム」(164件)で全体の約21%を占めたほか、注目される手口としては、SNS型ロマンス詐欺が2025年を上回るペースで発生している点と、2026年に入って減少傾向を見せていたニセ警察詐欺の被害額も6月には2025年の同月を上回った点で、同庁は詐欺グループの犯行に使われることが多い国際電話の遮断機能を持つアプリの活用や、SNSのグループトークに誘導する投資詐欺への警戒などを呼び掛けています。また、京都府警は、2026年6月末までの京都府内の特殊詐欺被害状況(暫定値)を発表、被害額はこの半年間で約30億円を超え、すでに2025年1年間の約25億円を上回り、過去最悪のペースで増加していることがわかりました。SNSなどを通じて投資を持ちかける手口が最も多く高齢者以外の世代にも被害が広がっており、府警が注意を呼びかけています。被害者の年齢別の割合では、65歳以上が全体の約58%を占めましたが、2025年1年間の約64%から低下しており、現役世代にも被害が広がっています。府警は被害の増加を受け実際の詐欺電話の音声を動画サイト上で公開したり、警察庁が推奨する詐欺被害予防アプリの利用を呼びかけたりしており、担当者は「防犯・犯罪情報メールの登録やアプリのダウンロードには絶大な効果がある。特殊詐欺が身近にあることを強く認識してほしい」としています。

最近の特殊詐欺の被害事例から、いくつか紹介します。

  • カンボジア拠点の特殊詐欺事件で、愛知県警は、東京都北区、職業不詳の容疑者を組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑で逮捕しました。県警は、現場指示役の中国人の日本語通訳として詐欺マニュアルの翻訳などを担い、月100万円以上の報酬を得ていたとみているといいます。報道によれば、容疑者は2025年2月、仲間と共謀して同国北西部ポイペトの拠点から茨城県の女性に警察官を装って電話をかけ、現金3140万円を詐取した疑いがもたれていますが、「詐欺の通訳をしていたが、逮捕された事実はよくわからない」と供述しています。
  • カンボジア北西部・ポイペトを拠点とした詐欺事件で、名古屋地検は、拠点のトップとみられる会社役員の容疑者ら、20~53歳の男女12人を、詐欺と組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)の罪で起訴しました。愛知県警などの合同捜査本部によれば、容疑者は拠点の運営費などを投じる「オーナー」の立場で、他の11人は「かけ子」といい、捜査の過程で、詐取金の分配に関係するとみられる資料を押収したといいます。それによれば、拠点の使用料で毎月約600万円を計上していたとみられ、かけ子には報酬で約2割を、現地当局にも約1割を計上していた可能性があります。容疑者は、ポイペトの他にもカンボジアのシアヌークビルの詐欺拠点の運営にも関与していたといいます。容疑者は過去にカンボジアの教育支援を行う東京都内のNPO団体で活動していたといい、登記簿などによると、NPOは2003年に設立、カンボジアの子どもに教育支援や国際交流事業を行い、同国の将来の発展に寄与することを目的に、現地への教育物資の支援なども行い、容疑者は一時期、代表的な立場で企画の立案に携わっていたといいます。
  • 前述の事件では、容疑者は埼玉県川口市の住吉会傘下領家一家と数年前から特殊詐欺をめぐり協力関係があったとみられています。警察は、暴力団を通じて中国マフィアにだまし取った金が流れていた可能性もあるとみて実態解明を進めています。
  • 東京・歌舞伎町の「トー横」に出入りする男女を海外に送るために誘拐したとして暴力団組員が逮捕された事件で、警視庁は、別の男性に対する国外移送目的誘拐容疑で住所、職業不詳の住吉会傘下組織組員を再逮捕しています。この男性は同庁に対し、カンボジアで特殊詐欺の電話をかける「かけ子」をさせられたと説明しているといいます。男性の説明では、首都プノンペンにある特殊詐欺の拠点に連れて行かれ、2025年8月に解放されて帰国するまでの約1か月間、アジア系の約200人とともに午前8時から午後6時まで警察官を装ったオレオレ詐欺の電話をかけ続けたといい、詐欺のマニュアルを紙に書き写す作業もさせられたといいます。指示役は中国人で、男性はかけ子の中にトー横での顔見知りもいたと話しているといいます。
  • 特殊詐欺に住吉会傘下組織幸平一家の傘下組織が関わっていたとして暴力団員らが逮捕された事件で、詐欺グループの中学生の受け子を福岡県に本部を置く道仁会が勧誘していたことがわかりました。警視庁は、組織どうしで連携していた疑いもあるとみて実態の解明を進めています。2024年から2025年にかけて都内や神奈川県などで起きた特殊詐欺事件に関わったとして警視庁は、これまでに住吉会系傘下組織幸平一家の傘下組織の暴力団員で組長ら10人を逮捕しました。警視庁は幸平一家が傘下組織とともに特殊詐欺を資金源にしているとみて住吉会の本部を捜索するなどして捜査を進めていました。これまでの調べで詐欺グループの受け子には、福岡県に住む中学生がいて、福岡県に本部を置く道仁会系傘下組織組員が勧誘していたことが分かったということです。
  • 茨城県警は、住吉会傘下組織組長ら男5人を傷害容疑などで逮捕しました。5人は2026年5月、八千代町の民家で無職男性をほうきで殴ったり、タオルで首を絞めて気絶させたりして頭や首に打撲などのけがを負わせた疑いがもたれています。男性は、特殊詐欺の実行役として成田空港からマレーシアに向かわされましたが、かけ子の適性がないと帰国させられていました。茨城県警は、男性が詐欺で利益を得ずに帰国した制裁として暴行したとみて調べています。
  • 大阪府警は、府内に住む70代女性が「ニセ警察詐欺」の手口で約4億4311万円をだまし取られる特殊詐欺の被害に遭ったと発表しました。「ニセ警察詐欺」事件では府内で過去最多の被害額だといいます。なお、府内では2026年3月にも60代男性が同じ手口でほぼ同額の被害に遭っていたことが明らかになっています。2026年1月、70代女性宅に警視庁の警察官を名乗る男から「あなたは犯人に仕立てあげられている」などと電話があり、女性はその後、SNSの通話機能などを通して男の指示に従い、暗号資産口座を開設して送金したり、現金を指定された口座に振り込んだりしたといい、銀行では指示されるまま、「終活のための資産整理です」と窓口で説明し、複数の口座の預金を一つにまとめる手続きをしたといいます。また、「あなたの家に家宅捜索が入る。家に現金があるとあなたは逮捕される。家宅捜索が入る前にこちらで回収して調べるので、自宅前に現金を置くように」と指示され、女性は普段から自宅に置いていた現金約2億円をリュックサックに入れて玄関の前に置いたこともあったといいます。女性が同5月、警察に相談したことで被害が発覚したといいます。
  • さいたま市緑区でプラチナ地金や現金など計3億2000万円相当をだまし取られる特殊詐欺事件があり、埼玉県警は、被害品の地金を売却したとして、盗品等処分あっせんなどの疑いで、大阪市中央区、会社役員の容疑者を逮捕しています。「頼まれた」と供述しており、県警はトクリュウの売却役とみて調べています。逮捕容疑は3月19~21日、東京都台東区の貴金属買い取り店でプラチナ地金4個を詐欺被害品ではないと仮装し、約2000万円で売却したとしています。特殊詐欺事件は2025年12月上旬~26年3月、さいたま市緑区の60代の女性がSNS投資詐欺で、投資目的で金融機関の口座に現金を振り込んだり、プラチナ地金や金地金を手渡したりしたものです。
  • 京都府警左京署は、京都市左京区の90代の女性が現金1億6850万円をだまし取られる特殊詐欺被害にあったと発表しました。2023年4月、「日本再生機構の職員」をかたる人物から女性宅に電話があり「個人情報を漏洩したことで不正な送金が行われている。保証金等を支払わなければ逮捕される」などといわれ、女性は同年5月~2024年9月、18回にわたり宅配便で指定された住所に総額1億6750万円の現金を発送、2025年7月には指定された金融機関の口座に現金100万円を振り込み、いずれもだまし取られたといいます。送金のメモを見つけた家族が同署に相談し、被害が発覚したものです。
  • 埼玉県警熊谷署は、熊谷市の80代の無職女性が1億4700万円相当の金塊と、現金749万円をだまし取られるニセ警察詐欺被害にあったと発表しています。2026年3月以降、女性宅に警察官などを名乗る人物から「詐欺の共犯の容疑がある」「資産を調査する」などと電話があり、女性は指示を受けて金塊6個を購入し、同6月に玄関先に置いたところ、何者かに持ち去られ、同7月には現金も同様に置き、だまし取られたといいます。知人にいきさつを話し、被害がわかったものです。また川口署も、川口市の80代の無職男性が現金約1億1660万円をだまし取られたと発表した。男性は2026年4~7月、警察官を装う人物などから「犯罪資金があなたの口座に振り込まれている」「お金の紙幣番号を確認する」などと電話を受け、検察庁職員を名乗る男に現金を渡したといいます。
  • 兵庫県警西宮署は、同県西宮市内の60代の無職女性が、約1億4800万円分の金塊をだまし取られる特殊詐欺被害にあったと発表しています。女性は2026年6月、警察官を名乗る男から「個人情報が漏れて金融機関の口座が開設され、マネロンに使用されている。被疑者として捜査する」などと電話を受け、その後、検察官を名乗る男から「資金調査をする必要がある。金を購入して自宅の前に置くように」などと電話があり、女性は指示に従い、6月下旬~7月中旬、3回にわたり、金を紙袋に入れて自宅の門扉付近に置いたところ、持ち去られたものです。相手と連絡が取れなくなったことから不審に感じた女性が同署に相談して発覚しました。
  • 岐阜県警は、同県の70代男性がSNSで知り合った人物に誘われ投資アプリをインストールし、約1億1500万円相当の暗号資産をだまし取られたと発表しています。男性はインスタグラムで知り合った女性を名乗る人物からLINEに誘導され、投資に関する会話の中で勧められたアプリをインストール、2026年3~6月に、アプリ上の指示に従い、購入した暗号資産「イーサリアム」を20回に分けて送金、同7月にアプリで高額利益が出たと表示され、不審に思った男性が県警に相談し、被害が発覚したものです。
  • ニセ警察詐欺で宮城県内の70代自営業男性から約1億円相当の金塊をだまし取ったとして、県警は、長野市の建設作業員の男を詐欺容疑で逮捕しています。特殊詐欺グループの「受け子」とみられています。氏名不詳者らと共謀し、2025年6月、警察官を装って男性の携帯電話に連絡、「あなたの行為は詐欺にあたる。資産を確認するので教えなさい」などとうそを言い、金の延べ棒74本と金貨43枚(時価計1億884万円相当)の入った荷物を東京都内のアパートの一室に送らせてだまし取った疑いがもたれており、男が荷物を受け取ったとされますが、「思い出せない」と容疑を否認しているといういます。県警はトクリュウによる犯行とみて捜査を進めています。
  • 岐阜県警多治見署は、同県内の90代無職男性が、現金6000万円をだまし取られる特殊詐欺被害にあったと発表しています。2026年7月中旬に警視庁の警察官を名乗る男から、男性宅に「暴力団に関係して逮捕状が出ている」などと電話があり、その後も電話でやり取りを続け、「あなたの現金を確認する」などと言われ、今月8日、指示通り自宅の郵便受けの下に6000万円の入ったカバンを置いたところ、なくなっており、受領書がないことを不審に思い、同署に相談して詐欺に気づいたといいます。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニや金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。一方、インターネットバンキングで自己完結して被害にあうケースが増えており、コンビニや金融機関によって被害を未然に防止できる状況は少なくなりつつある点は、今後の大きな課題だと思います。以下、被害を防止できた事例を紹介します。

  • 過去にも詐欺を見破った実績のあるコンビが、わずかな手がかりをもとに顧客の預金を守った事例がありました。特殊詐欺を未然に防いだとして、北洋銀行湯川支店の行員2人が、函館中央署から感謝状を贈られました。吉田さんは過去に3度、鈴木さんも1度、表彰されています。2026年6月、70代の女性が支店窓口を訪れ、「スマホの広告で投資話を知った。暗号資産の業者に820万円を振り込みたい」と話したことから、「何かおかしい」と直感した鈴木さんはすぐに吉田次長に報告、ただ、女性は同行の口座を持ち、過去に投資経験もあったため、詐欺被害とは即断はできない状況でしが、やりとりをしているうちに女性が書いたメモが吉田次長の目に入り、「振り込みが終わった後は、(携帯の)メールはすべて消去する」という趣旨の走り書きがあったことから、疑念が確信に変わったといいます。警察に通報し、警官が到着するまで雑談で時間を稼ぎ、函館中央署の調べで詐欺だったことが判明、女性は大事な預金を失わずに済みました。「詐欺の手口はますます巧妙化している。私たちも他の金融機関で起きた事例を日々、学習しています」と吉田次長、ただ、窓口で振り込みの内容を確認すると、「余計なお世話だ」などと怒りだす顧客がいるのも事実で、「私たちの仕事は皆さんの預金を守ること。現場では私たちもストレスを感じながらお声掛けしている。その時は協力して頂きたい」と話しています。正に地域金融機関のあるべき姿だと感心しました。

(3)薬物を巡る動向

警察や海上保安庁、厚生労働省麻薬取締部などによる2026年の大麻事件の摘発者数が過去最多の7120人(前年比12%増)となりました。摘発者のうち30歳未満が全体の72%を占める5151人(11%増)で、最多を更新しました。上野賢一郎厚労相は「国際社会が直面する薬物問題に対応するため、国外の関係機関とも緊密に連携し、政府一丸となった総合的な薬物対策を推進していきたい」と述べています。薬物情勢統計によれば、薬物事件全体の摘発者数は1万5186人(8%増)で、うち覚せい剤は6575人(4%増)で、大麻の摘発者数が3年連続で上回りました。押収量は乾燥大麻などの大麻製品が1535.1キロ(239%増)で、覚せい剤が1687.6キロ(14%増)、コカインは248.8キロ(17%減)、MDMAなどの合成麻薬は31万1532錠(33%増)となりました。なお、薬物密輸の摘発者数は644人(35%増)でした。

ミャンマーで麻薬の汚染が止まらないと読売新聞が報じています(2026年8月9日付読売新聞)。国連機関の報告書では、ミャンマーのアヘン(ケシ)栽培は2025年、過去10年で最大規模となったといいます。世界最大の供給源でもあり、覚せい剤の一種メタンフェタミンの製造も拡大し、東・東南アジア地域の2025年の押収量は過去最大となりました。いずれも生産の中心は北東部シャン州で、少数民族武装勢力が割拠し、政府の支配がほとんど及ばない地域で、2010年代にかけて、少数民族との和平が進む中で、ケシの栽培をコーヒーなどに転換する取り組みが広がったといいます。しかし、クーデター後の紛争と経済の崩壊により、農民は通常の作物の栽培では生活できなくなり、ケシ栽培に戻ったものです。また、一部の少数民族や国軍に近い武装勢力は麻薬を資金源にしており、合成麻薬の密造も急拡大しました。脅威は国境を越え、バングラデシュでは2025年、覚せい剤などの押収量が前年比で90%以上増えました。多くはミャンマーからの流入だといい、タイでも2025年度のメタンフェタミンの押収量は10億錠を超え、2026年はさらに増えているといいます。そして、麻薬は周辺国から海路や空路でさらに遠くへ運ばれ、国連機関は「日本や韓国も標的になっている」と警告していまする。警戒すべきは、麻薬という伝統的な脅威と新しい犯罪形態の結びつきで、2026年1月にシャン州で国軍が摘発した麻薬製造拠点の近くでは、衛星通信機材などが備えられた別の施設も見つかり、タイ警察麻薬取締局長は「オンライン詐欺組織と麻薬組織が結びつき、高度な技術と通信ネットワークを用いた複合犯罪になっている」と指摘しています。タイなど周辺国の一部は、こうした犯罪への対処を理由に、親軍政権との関係構築を進めていますが、そもそも国土の多くを支配できていない親軍政権に取り締まりは期待できす、根本的な対処には少数民族や民主派も含めた包括的な和平が必要であるところ、空爆や政治犯の拘束を続ける政権下では困難だと考えられ、それはつまり、日本などアジア各国にとっても脅威が続くことを意味しています。

関連して、タイで国営航空会社の客室乗務員が麻薬の運び屋として拘束されるという異例の事態は、タイ国内に警鐘を鳴らしています。空港のセキュリティ対策に疑問を投げかけるとともに、国際的な密売ネットワークが、東南アジア諸国を超えて収益性の高​い市場へ違法薬物を持ち込むために、航空機の乗務員を標的にしているという懸念が高まったためです。タイのアヌティン首相は、「報道によれば、2026年上半期だけでタイから渡航した少なくとも6人が麻薬密売の罪で⁠起訴されている。これは高い数字と見なされ、国のイメージを損なうものだ」と危機感を訴えました。同国の主要空港の運営会社は、乗務員を含む手荷物の検査​と点検を強化する見通しです。タイ麻薬取締委員会(ONCB)の広報担当者は、タイ語で「粉は粉」と名付けられたその正体不明のアカウン​トは、偽のSNSアカウントを作成して国境を越えて違法薬物を運ぶ人物を探す麻薬密売ネットワークと関連していたと述べ、その上で「当該​アカウントは現在閉鎖されている。ONCBが調査中で、予備調査の結果として同アカウントは多くの異なる名前を使用していたことが判明した」と明らかにしました。タイ国際航空は、客室‌乗務員の拘束⁠を受けた声明で、全従業員の行動を規定する厳格な規則を設けており、関係当局に協力すると強調しています。タイ当局によれば、密売ネットワークは大規模な製造施設を持つ近隣諸国から麻薬を調達した後で衣類、コーヒーの袋、花瓶などの物品に隠してタイ国内を移動させているといいます。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の2025年12月の報告によれば、隣国ミャンマーにおけるヘロイン製造のためのケシ栽培は、2025年時点でこの10年の最高水準まで急増、紛争や経済的困窮により、より多く​の農民が違法取引に手を染めるようにな​り、アフガニスタンでの生産が⁠減少する中で、戦火に揺れるミャンマーは世界で最も知られた違法アヘンの供給源となっています。ONCB事務局長でもある警察幹部は、タイでは密売ネットワークが客室乗務員を含む特定の旅行者グループをターゲットにして、​海外への麻薬輸送を支援させているとの認識を示しました。豪州で逮捕されたタイ国際航空の客室乗務員は最初、有料​で荷物を海外へ運⁠ぶサービスを提供するSNSグループに投稿していたといい、その後当該客室乗務員は「ローズ・ローズ」という名前のフェイスブックのユーザーと連絡を取り始め、最終的に8800バーツ(265.46ドル)の報酬で合意、客室乗務員が運んでいたバッグの裏地に隠されたヘロインの末端価格は、推定50万豪ドル(34万7150米ドル)に上⁠るといいます。

また、旅行者が他人の荷物を有償で海外へ運ぶ「運搬代行」を悪用した覚せい剤密輸事件が2026年7月、タイから東京と福岡向けで相次ぎました。いずれもベトナム人らが関与し、食品に覚せい剤を隠すなど手口が似ており、タイ警察は同じ組織が関与した可能性があるとみて調べています。タイ警察は同7月、東京へ運ばれる予定だった荷物を調べ、タマリンドの容器6個から覚醒剤計約2.1キロを押収、荷物を預かったタイ人女性が、不自然な重さに気付いて警察に届け出ていたもので、警察は関係者が約15人に上るとみており、タイ人とベトナム人の男性計2人を逮捕しました。指示役はハノイにいたといいます。一方、福岡空港では同7月、別のタイ人女性(28)が運んだ荷物のコーヒー袋から覚せい剤約900グラムが見つかりました。タイ警察によれば、女性は日本で約20日間拘束されましたが、不起訴処分となり、8月に帰国しています。タイ警察は、女性に荷物を依頼したベトナム人男性を特定、男性はラオスからタイに入り、バンコクで食品と覚せい剤入りのコーヒーを梱包して女性宅へ送り、女性が福岡に到着した日にタイから出国したといいます。警察は運搬料の送金を担ったベトナム人女性を逮捕しました。タイ警察の幹部は、二つの事件について、荷物運びを利用して食品に覚せい剤を隠し、日本へ送る手口が共通すると指摘、両事件の捜査情報を照合するよう指示しました。

インドネシア税関当局は2026年7月、違法薬物を密輸しようとしたマレーシア航空の副操縦士の男をジャカルタ近郊の空港で摘発、薬物の「運び屋」だったといい、警察が拘束しました。当局によれば、男はマレーシア航空の旅客便でクアラルンプールからジャカルタに到着、税関が男の荷物を検査したところ、25キロ超のMDMAと数グラムの覚せい剤が見つかったもので、本人の尿検査でMDMAやコカインの陽性反応が出ており、薬物の影響が残ったまま乗務していたとみられています(当時、非番で操縦室の補助席に同乗しており、航空機を操縦してはいませんでした)。男は5万リンギ(約200万円)の報酬で依頼を受けたといい、過去にも2度、薬物を運んだと話していますが、インドネシアでは、違法薬物を密輸すれば死刑となる可能性があります。本事件を受けて、マレーシア航空を傘下に持つマレーシア・アビエーション・グループは、同航空の操縦士1260人を対象に、薬物検査を始めたと発表しました。同グループは、期限までに検査を受けない操縦士を乗務させない方針で、検査は今後、傘下各社の全操縦士と客室乗務員に広げるとしています。

東北学院大は、サッカー部の男子学生(20)が麻薬取締法違反(所持)の疑いで逮捕されたことを受け停止していた部の活動を再開しました。部員らへの調査の結果、組織的な関与はないと判断、2026年8月に開幕する106回天皇杯全日本選手権に、宮城県代表として出場します。大学は部員約50人と指導者に聞き取り調査を実施、結果を踏まえ、関与していない学生の活動の機会を奪うべきではないと判断し、同7月に活動停止を解除、部長と監督を厳重注意と3カ月の職務停止処分としました。宮城県警は同6月、同県栗原市の商業施設の駐車場で、知人らと共に乾燥大麻を所持した疑いで男子学生を逮捕、その後、仙台地検は処分保留で釈放しました。一方、(薬物問題ではありませんが)青森山田高は、サッカー部の生徒十数人が寮内などで飲酒や喫煙をしたため、処分したと発表しましたが、全国高校総体(インターハイ)への出場が決まっており辞退しない方針で、「個の責任だ」として、処分を受けた生徒は出場させないと説明しています。学校によると、寮や学校の敷地内での飲酒、喫煙が2026年6月に発覚、生徒や保護者に事実関係を聞き取り、処分を決めたもので、寮の巡回や指導を強化すると説明しています。同高校では2021年にも寮内の冷蔵庫からビールや焼酎缶が見つかり、部員10人程度が学校から処分を受けています。2つの学校に共通しているのは、「連帯責任」より「個の責任」を重視した対応をしている点です。これまで同様のケースでは、「連帯責任」として、一定期間すべての対外活動を停止することがほとんどでしたが、少し風向きが変わってきているようです。筆者も暴排トピックス2023年8月号で、「学生スポーツにおける薬物蔓延について、「連帯責任」についても検討すべき時期にきていると考えます。ほとんどすべての場合、活動の無期限停止などの措置が講じられることになり、真摯に取り組んできた多くの若者の努力が水泡に帰す結果となります。こうした厳しい措置があることで、「仲間のため、これまでの皆の努力を無駄にしないためにも、薬物は絶対ダメ」という動機になる一方、その重大性がゆえに、見て見ぬふりをしてしまい、結果的に蔓延がより深刻化するリスクもあるように思われます。そのため指導者らによる一定の生活管理や報告窓口の設置など、自浄作用の働く環境整備が必要だといえます」と述べました。今回の2校のような対応が社会に受容されるためには、薬物検査などを通じて問題がないことを示しつつ、再発防止の道筋が明確に示されていることが最低条件かと思われます。なお、産経新聞の報道でスポーツ界の不祥事に詳しい追手門学院大の吉田良治客員教授は「必ずしも寮が悪いわけではないが」と前置きしつつ、「狭いコミュニティの中で年中一緒に過ごしていると、社会常識を身につけにくい。先輩や友達に誘われたら拒否できないこともある」と指摘、スポーツ漬けの生活や寮の閉鎖性、体育会特有の厳しい上下関係など、薬物乱用を助長するさまざまな要因がそこに横たわっており、逮捕された学生は刑事罰を受け、部や大学を追われることになるため、大学側は研修会を開いて再発防止を図っていますが、吉田氏は「背後に反社会勢力がいることをもっとイメージさせるべきだ」と説いています。関与が表沙汰にならず社会的制裁を免れたとしても、個人情報を握られ、「闇バイト」の実行犯のように別の犯罪に加担させられる可能性があると指摘しています。「プロになれば八百長を持ちかけたり、大企業で出世すれば不正に関与させたりと、学生アスリートには利用価値がある。人生の成功者となったとき、彼らを破滅に追い込む時限爆弾のスイッチが入るんです」との指摘は重く、軽い気持ちで手を伸ばした違法薬物は、そのようなリスクを孕んでいることをもっと周知していく必要があります。

プロ野球広島東洋カープが、矢野内野手の出場選手登録を外しました。「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物のエトミデートを広島の羽月元選手に渡したなどとして逮捕、起訴された会社役員と矢野内野手が一緒に写った写真を週刊誌が配信したことを受けての対応で、鈴木球団本部長が報道陣の取材に応じ「(薬物を)使用したという事実は確認できていないが、写真は疑念を抱く状況。そういう選手が1軍でプレーするのは抵抗がある」と説明しています。羽月元選手は2026年5月、広島地裁で行われた初公判で「周囲にも吸っているカープの選手がいた」と発言、広島球団は所属する全選手を対象に調査を行う方針を示し、鈴木本部長も「調査を続けている」と話しています(羽月元選手は、医薬品医療機器法違反(指定薬物の使用)に問われた元選手、羽月隆太郎氏(2が、広島地裁で拘禁刑1年、執行猶予3年の判決を言い渡されています)。その後、矢野、前川両選手の自宅などが広島県警の捜索を受けたと発表されました。球団は同日、「捜索を受けた事実を重く受け止めた」として、前川選手の出場選手登録を抹消しました(矢野選手はすでに抹消されています)。一連の球団の対応については問題ないとは言えません。羽月元選手の問題発覚後、チーム内への蔓延が懸念されましたが、球団は尿検査などを実施した結果、「内部調査でクロと断定された選手がいなかった」と発表するも、元選手はSNSのライブ配信で「私を含め6人のカープ選手が同じ人物から購入していた」と暴露しています。球団は警察が動き、さらに報道を受けてからようやく重い腰を上げており、ここまでの対応は拙いと指摘せざるをえません。禁止薬物に対する問題意識の低さも感じられ、球団内部に自浄作用が働かないという印象を与えれば、アマ球界の選手たちや指導者は同チームへの入団を敬遠することになりかねません。もっと強い危機意識と当事者意識をもって社会に納得いくような対応をしていただきたいと思います。

「ゾンビたばこ」と呼ばれるエトミデートを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。蔓延の実態が明らかになりつつあります。エトミデートは、海外で麻酔導入薬などとして使用されている医薬品成分で、健康被害や異常行動を引き起こす恐れがあり、国内では2025年5月、指定薬物として使用や所持が規制されました。乱用すると手足がしびれてゾンビのようにふらつくケースが多いことから、「ゾンビたばこ」と呼ばれています。

  • 「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物「エトミデート」を所持したとして、神奈川県警磯子署は、横浜市の高校2年生の男子生徒(16)を医薬品医療機器法違反(指定薬物の所持)容疑で横浜地検に書類送検しました。エトミデートに関する検挙は県内初だといいます。報道によれば、男子生徒は2025年10月、通学先の同市内の高校でエトミデート1.253グラムを所持した疑いがもたれており、「持っているのが違法なのは分かっていた」と容疑を認めているといいます。男子生徒はこの前日、知人からエトミデートをもらって吸い、その後、その知人から購入したといいます。教師が他の生徒から男子生徒が「ゾンビたばこを吸っているようだ」と相談を受け、男子生徒の所持品を確認したところ、エトミデートの入ったカートリッジ一つを発見、高校の副校長が、磯子署に通報したものです。男子生徒は、エトミデートを所持した理由について、「もっと楽しくなりたいと思った」と話しているといいます。
  • 近畿厚生局麻薬取締部は、大阪市内の薬物密売拠点から、大麻や覚せい剤、指定薬物エトミデートなど9種類の薬物計約8.3キロを押収したと明らかにしました。サイバーパトロールで密売の流れを突き止めたとしています。この拠点で中心的な役割を担っていたとして、大阪市天王寺区の無職の男を覚せい剤取締法違反(営利目的所持)などの疑いで逮捕し、送検したとも発表しています。麻薬取締部によれば、男はほかの密売人と共謀し、当時寝泊まりしていた大阪市内の飲食店だった建物の一室で、覚せい剤約255グラム、大麻約394グラム、エトミデート約46グラムを販売目的で所持するなどした疑いがもたれています。麻薬取締部はサイバーパトロールで、秘匿性の高いSNSアプリ上で薬物の密売とみられるやりとりを確認したといい、流れを追ったところ、飲食店だった建物に複数の不審な人物が出入りしていることがわかったといいます。押収した覚せい剤の錠剤は、赤や紫などに着色され、ピザの大手チェーン店や海外のブランド衣料品店のロゴに似た形に加工されており、鑑定の結果、覚せい剤と合成麻薬MDMAが混合されている錠剤もあり、購入した客に事情を聴いたところ、どんな成分が含まれているか気にせずに買った人もいたといいます。
  • 指定薬物エトミデートを密輸したとして、京都府警と大阪税関は、医薬品医療機器法違反の疑いで、韓国籍で京都市東山区の無職の容疑者ら2人を逮捕、送検したと発表しています。京都府内でエトミデートに関連する事件の摘発は初めてだといいます。報道によれば、2026年1月、何者かと共謀し、エトミデートを含む貨物をマレーシアから自宅宛に発送、容疑者は液体約3キロを関西国際空港に、別の容疑者はペースト約1.4キロを中部国際空港に到着させ密輸したとしています。税関職員が各空港から大阪府内の宅配業者の倉庫に集められた貨物を検査した際に密輸品を発見、両者は同じ指示役から仕事を紹介されたとみられ、貨物の到着前に数十万円の報酬を受け取っていたといい、府警は詳しい経緯を調べています。
  • 指定薬物エトミデートを含む液体を所持したなどとして、奈良県警天理署は、医薬品医療機器法違反(所持)などの疑いで奈良市の建築業の容疑者を逮捕しています。同法を適用したゾンビたばこの逮捕者は県内初だといいます。「(違法な)成分が入っていると知らなかった」と供述し、容疑を否認しているといいます。自宅前に駐車した車内にエトミデートを含む液体約0.291グラムを所持、自宅で大麻約68.156グラム、車内で合成麻薬LSDを含む液体約0.8ミリリットルや覚せい剤約2.284グラムも所持したとしています。報道によれば、2026年6月4日に窃盗未遂などの容疑で、同25日に覚せい剤取締法違反(使用)容疑で容疑者を逮捕、一連の捜査でエトミデートを含む液体の所持が発覚したものです。

その他、薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 岡山県警は、大麻を営利目的で所持、使用したとして群馬県前橋市の稲川会傘下組織組員を麻薬及び向精神薬取締法違反の疑いで逮捕しました。報道によれば、男は2026年5月、自宅で営利目的で大麻(3.79g)を所持した疑いで現行犯逮捕されたもので、警察が大麻の密売情報をもとに男の自宅を捜索したところ、大麻約1.9kg(末端価格976万円相当)を発見、押収しました。その後の捜査で、2026年2月から5月までの間、男は何らかの手段で大麻に含まれるTHC成分を体に摂取したとして同7月に再逮捕されました。警察の調べに対し、男は大麻の所持については「私のものです」と認めていますが、営利目的かどうかと、使用については黙秘しています。警察は、営利目的で大量の大麻を所持していたとみて、購入客の解明など捜査を続けています。
  • 東北厚生局麻薬取締部は、乾燥大麻や大麻たばこを所持していたとして、仙台市内の男子中学生(15)を麻薬及び向精神薬取締法違反(所持)の疑いで逮捕、送致したと発表しました。報道によれば、少年は2026年7月、仙台市内の自宅で乾燥大麻と大麻たばこ計1.263グラムを所持していた疑いがもたれています。少年の自宅からは、乾燥大麻や大麻たばこ、大麻を使用するのに使う巻紙やフィルターなどが押収されています。
  • 待ち合わせをしていた男性を暴行し現金555万円を奪ったとして、大阪府警は、大阪府四條畷市の男子大学生=強盗傷害罪で起訴=と、住居・職業不詳の男性を強盗傷害容疑で逮捕しています。被害者の20代男性は当初、車の買い取りのために大阪を訪れ現金を奪われたと説明していましたが、その後の捜査でコカインの取引だったことが判明したといいます。逮捕容疑は共謀して、大阪市都島区の路上で20代男性を警棒のようなもので殴るなどの暴行を加え、現金555万円入りのバッグを奪ったとしています。男性は全治1年半の重傷を負いました。報道によれば、20代男性はSNSを通じて両容疑者と知り合い、コカインの取引をするために神奈川県から大阪市を訪れており、現場には他にも数人がいたとみられ、府警はトクリュウの関与も含め捜査しているといいます。
  • 関西空港署は、覚せい剤20.9キロ(末端価格11億980万円)を航空機で関西国際空港に密輸したとして、米国籍の自称生命保険紹介業の容疑者を覚せい剤取締法違反(営利目的共同輸入)の疑いで緊急逮捕しました。報道によれば、関空で旅客の手荷物から覚せい剤を押収した量としては過去最多といい、組織性があるとみて捜査しています。2026年7月、ハワイ発の航空機で関空に到着し、覚せい剤20・9キロを密輸、税関によれば、同容疑者は覚せい剤を緑色のポリエチレン製のシート二つに包み、手荷物の小型のスーツケースとリュックサックに入れて機内に持ち込んでおり、覚せい剤について「何かわからない」と話したといいます。細工して隠そうとした形跡はなく、税関は「大胆な手口で、警戒を強めたい」としています。関空で旅客の手荷物から覚醒剤を押収した量はこれまで、2019年の18キロが最も多かったといいます。
  • 覚せい剤約17キロ(末端価格約9億円)をスーツケースに隠し、米国から密輸しようとしたとして、警視庁薬物銃器対策課と東京税関は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)と関税法違反の疑いで、住所不定の自営業の容疑者を逮捕しました。調べに対し「中身を知りませんでした。スーツケースは私のものではありません」と容疑を否認しています。2026年8月、覚せい剤約17キロをスーツケース1個に隠し、米国から航空機で羽田空港に到着させて密輸しようとしたといい、荷物を不審に感じた税関職員が調べたところ、13袋に小分けされた覚せい剤がスーツケースに入っていたといいます。羽田空港への薬物密輸事件では2026年最大の押収量としています。容疑者は会ったことのない男からSNSで依頼されたといい、「持っていくよう脅された」とも供述しているといい、同課は組織的関与もあるとみて、入手経路や密輸先を調べています。
  • 繭玉状に包んだコカインをのみ込んで密輸しようとしたとして、警視庁薬物銃器対策課などは、アルゼンチン国籍で住所・職業不詳の容疑者を麻薬取締法違反(営利目的輸入)と関税法違反(密輸未遂)の疑いで逮捕しました。南米を拠点とした国際的な密輸組織の関与があるとみて調べているといいます。東京税関羽田税関支署の職員が不審に思い、検査を実施したところ、体内からビニール製のラップなどに包まれた繭玉状のコカイン(長さ約5センチ、重さ約10グラム)が101個見つかったといい、重さは約1キロ、末端価格は約2400万円に上るということです。逮捕容疑は2026年8月、繭玉状のコカイン1個を体内に隠し、英国から羽田空港に密輸しようとしたもので、「ブラジルでコカインを受け取り、入国後は何者かに渡して7000ドル(約112万円)を得る予定だった」と供述しているといいます。
  • 岐阜県警関署は、大麻リキッドを所持し、使用したとして、麻薬取締法違反(所持、使用)の疑いで、航空自衛隊岐阜基地所属の自衛官を逮捕しました。報道によれば、容疑者は第2補給処の空士長で、基地内の自室で大麻リキッド約0.4グラムを所持し、2026年7月中旬ごろに県内またはその近郊で大麻リキッドを使用したというものです。同17日に容疑者の部屋を家宅捜索、筒状の容器に入った大麻リキッドを押収しました。
  • 横浜市の住居内に10代男性を監禁したとして男女8人が逮捕された事件に絡み、奈良県警は、覚せい剤取締法違反(使用)などの疑いで、事件の主犯格で自称「神の取次者」と名乗る容疑者を逮捕しました。「注射器を使って覚せい剤やコカインを使用した」と容疑を認めています。容疑者の逮捕は3度目で、容疑者の言動に不審な点があり、尿検査をしたところ薬物の陽性反応が出たといいます。奈良地検は、暴行や強要の罪で、容疑者ら5人=監禁罪で起訴=を追起訴しています。起訴状によれば、5人は共謀し、10代男性に「お前が今までやってきた悪事を紙に書け」などと脅したほか、男性の頭髪の一部をバリカンでそり上げるなどしたとしています。
  • 北海道警は、営利目的で大麻草を栽培したとして、いずれも札幌市東区に住む無職の男2人を大麻草栽培規制法違反の疑いで再逮捕しました。報道によれば、2人は北海道日高町にある建物内で大麻草1083株(末端価格約1億円)を栽培した疑いがもたれています。建物は以前、食料品の製造工場として使われていたといいます。2人は2026年7月、乾燥大麻330グラムを営利目的で所持していたとして現行犯逮捕されており、道警は、共犯者の有無などについて調べています。
  • 大阪・ミナミのカラオケ店のVIPルームで覚せい剤0.2グラムを所持したとして、大阪府警国際捜査課などは、覚せい剤取締法違反(共同所持)の疑いでいずれもベトナム国籍の20~35歳の男8人を逮捕したと発表しました。カラオケ店は大阪市中央区西心斎橋のビルに入店、このビルにはほかに、ベトナム人が集うナイトクラブやベトナム料理店などが入っており、カラオケ店ではベトナム人以外の入店を規制していたとの情報もあり、府警は違法薬物の発覚を免れる目的だった可能性も視野に実態解明を進めているといいます。府警は2026年6月、カラオケ店を含むビル全体を家宅捜索し、違法薬物の可能性がある粉末などを押収、鑑定の結果、一部が覚せい剤と判明したものです。
  • 乾燥大麻やコカインを所持したとして、警視庁牛込署は麻薬取締法違反(所持)の疑いで、住居不詳でラッパーの「D.O」こと君塚容疑者を逮捕しました。「自分のものではない」と容疑を否認しているといいます。2026年4月、東京都新宿区大久保の路上で、乾燥大麻やコカインを所持したというもので、パトロールをしていた署員が、1人で運転していた君塚容疑者の車を止めて職務質問、車内を調べたところ、それぞれ微量の乾燥大麻とコカインを発見したといいます。同署は入手経路などを調べています。
  • 乾燥大麻を所持したとして、麻薬取締法違反(所持)に問われたバレーボール男子元日本代表、佐藤被告(26)に対し、東京地裁は、拘禁刑1年、執行猶予3年(求刑・拘禁刑1年)の判決を言い渡しました。裁判官は「薬物に対する親和性には浅からぬものがある」と述べています。報道によれば、佐藤被告は日本代表の合宿中だった2026年5月、東京都内のパチンコ店で乾燥大麻約0.8グラムを所持したもので、判決は、佐藤被告が大学生の頃から薬物の使用を始め、シーズンオフには売人から大麻を入手して交際相手と使うこともあったと指摘、一方、反省の態度を示していることなどから、執行猶予を付けたものです。

海外における麻薬組織を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • メキシコのシェインバウム大統領は、政府と国内の麻薬カ​ルテルとの間に「致命的なつながり」が‌あるとした米麻薬取締局(DEA)のコール局長の発言を一蹴し、「極めて遺憾」で根拠がないと述べ​ています。コール氏は、メキシコ政府と麻薬カ​ルテルは「一体」であり、DEAの「最優先事項」⁠だと発言していたものです。シェインバウム氏は、「証拠に裏付けられたとい​うより政治的な発言のようだ」と指摘、米国は世界最大の違法薬物市場だとし、DEAは米国内の麻薬の密売、​流通、マネロン対策に注力すべきだと述べています。メキシコ政府は、コー‌ル氏⁠の発言を否定する公式声明を発表、同国の反カルテル対策の成果と矛盾すると述べた上で、メキシコの主権尊重を条件に、米政府​と協力する用​意がある⁠とあらためて表明しました。米司法省は2026年4月、麻薬カルテルに関係していると​してシナロア州のルベン・ロチャ知​事を⁠起訴しましたが、シェインバウム政権は逮捕状の執行に十分な証拠がないとして強く反発、直近では米国の移民取り締まり​でメキシコ国民が死亡した件を巡り、米検察当局に刑​事告発を行うなど、両国関係は悪化しています。
  • 米ニューヨークの連邦地裁は、メキシコ最大級の麻薬組織「シナロア・カルテル」の共同創設者で「麻薬王」として知られたイスマエル・サンバダ(通称エル・マヨ)被告に終身刑を言い渡しました。犯罪組織を率いた罪などに問われていたもので、犯罪収益として150億ドル(約2兆4300億円)の没収も命じています。報道によれば、被告は1980年代後半からコカインやヘロイン、合成麻薬フェンタニルなどを米国に密輸してきたとされ、2024年7月に逮捕されました。被告は判決公判で自身が引き起こした被害について謝罪し、将来の世代には「違う道を選んでほしい」と訴えています。
  • 米財務省がメキシコ最大級の麻薬組織「ハリスコ新世代カルテル(CJNG)」に関係した50超の個人、団体に制裁を科すと発表、同省によれば「史上最大規模」で、メキシコの二大麻薬カルテルの包囲網を強めています。ベッセント財務長官は「トランプ大統領は麻薬カルテルを解体すると明言してきた。米国民の生命への脅威に利用されているこのカルテルの資金源を断つ」と宣言しました。2010年代に結成されたCJNGを「世界で最も強力な麻薬カルテルの一つ」と断定し、当事者はもとより協力者にも容赦しないと警告しています。メキシコの二大カルテルの一角「シナロア・カルテル」は、最高幹部だった2人の大物がいずれも米国で終身刑を宣告されました。今回の制裁対象となったCJNGを巡っては2026年2月、リーダーのネメシオ・オセゲラ元容疑者(通称エル・メンチョ)を殺害したメキシコ軍の特殊作戦に、米連邦捜査局(FBI)が情報提供したとされ、制裁の対象者には、フアン・カルロス・ゴンサレス容疑者が含まれています。創始者にして精神的支柱だったメンチョが殺害され、義理の息子でもある同容疑者がCJNGの新たなリーダーに昇格したと米政府はみています。同容疑者はメキシコと米国の二重国籍を持ち、過去にはCJNGの武装組織を率いて暴力行為に加担していたとみられており、米国はすでに同容疑者を起訴、重要な情報には最大で500万ドル(約8億円)の報奨金を用意して行方を追っています。メキシコの麻薬カルテルは南米から運ばれるコカインやヘロインなどの麻薬を中継し、中国からの輸入原料で製造する合成麻薬「フェンタニル」や「メタンフェタミン」も大量に密輸してきた。行き先はほとんどが米国で、トランプ氏が「メキシコは麻薬カルテルが支配している」と不快感を示してきており、米財務省は2015年以降、CJNG関連だけでも250超の個人、団体を制裁対象に指定してきました指定された団体や個人は米国内の資産が凍結され、取引が禁止される。特定の取引に海外の金融機関が協力した場合、二次制裁の対象となる可能性もあります年間では数千億~数兆円規模の収益があると推定されるCJNGは、国内外にまたがる大規模なマネロンのネットワークを必要としており、米財務省はカルテルや幹部の不正蓄財に協力していたとして6人を名指しし、「2023年以降だけでも年間に数千万ドルをマネロンしていた」と断罪しました。米政府は麻薬密売や燃料窃盗、詐欺だけでなく、メキシコの連邦、州政府関係者が関与する贈収賄もカルテルの勢力増強に加担しているとして問題視しています。メキシコの過去の政権では、カルテル摘発の最高責任者だった公安相がシナロア・カルテルから総額で数億ドルの賄賂を受け取っていた汚職も明るみに出ており、メキシコのシェインバウム大統領「公務員と組織犯罪の関わりが疑われる場合、捜査ファイルを公開する」と述べています。トランプ氏が再三提案しているカルテル掃討のための米軍派遣をシェインバウム氏は断り続けており、実際に捜査情報が明らかにされれば、情報公開に後ろ向きなメキシコでは異例のこととなります。
  • 中米エルサルバドルの裁判所で、麻薬密売やマネロンなどの罪に問われたギャング2人に対し、それぞれ禁錮1048年の判決が言い渡されました。2人はギャング組織「エル・グレミオ」の構成員で、他の26人とともに判決公判に臨みました。同国ではブケレ大統領が2022年に始めた「ギャングとの戦争」の下で凶悪犯罪の厳罰化が加速、国会は今年3月、禁錮刑の上限を60年とする規定を廃止し、殺人犯やテロリストらに終身刑を科す憲法改正案を承認、適用範囲は後に18歳未満にも広げられています。
  • ヘグセス米国防長官は、西半球で志を同じくする国々による軍事協力を柱とする麻薬対策連合にコロン​ビアを迎え入れ、コロンビア国内の武装勢力に対する共同攻撃の可能性‌に言及しました。同国では保守派のデラエスプリエジャ大統領が就任したばかりです。米国がテロ組織に指定している民族解放軍(ELN)や、コロ​ンビア革命軍(FARC)の残党など武装組織に対する共同攻撃について、コロ⁠ンビアのモラ国防相と協議したかと問われたのに対し、ヘグセス氏が「そうだ」と答え、そうした作戦が見込ま​れるのかとの質問には「テロ組織に指定された組織は、パートナー国政府と共に米政府の​正当な標的になる」とし、コロンビアも対象に含まれると述べました。なお、デラエスプリエジャ氏は就任演説で麻薬組織との断固たる闘いを約束、トランプ政権はこうした姿勢を歓迎し、コロンビ​ア政府に対して10億ドルの安全保障支援を行う計画を発表しています。トランプ米大統領の中南米政策は、当初焦点だったパナマ運河を大きく超えて拡大、2025年9月に開始された麻薬密輸船とみられる船舶への軍事攻撃ではこれまでに200人超が死亡、2026年1月には米国主導の特殊​作戦部隊による急襲でベネ​ズエラのマドゥロ⁠大統領を追放しました。米国による攻撃は国際刑事裁判所(ICC)が扱うべき戦争犯罪に当たると批判する声もあるものの、ヘグセス氏はICCを非難し、パナマで​の会合に出席した連合加盟国にICCからの脱退を促しました。また、麻薬密売人を国​際テロ組織ア⁠ルカイダやイスラム教スンニ派過激派組織イスラム国(IS)のテロリストになぞらえており、ヘグセス氏は、​麻薬密売人や外国からの影響力を含む「外部の脅威から、われわれは半球を守る」と表明しています。
  • 日本の名古屋を拠点に合成麻薬「フェンタニル」を密輸していた中国組織を国連薬物犯罪事務所(UNODC)が2023年から追跡していたことがわかりました(2026年7月16日付日本経済新聞)。日本での活動期にダークウェブ(闇サイト群)上で違法薬物の活発な営業を繰り広げ、重点監視対象になっていたといいます。追跡していたのは中国化学品メーカー「Hubei Amarvel Biotech(湖北精奥生物科技)」を中核にする組織で、日本経済新聞は2025年6月以降、この組織が名古屋にフェンタニルの密輸拠点を設け、大規模な金融詐欺も手掛けていたことを報じてきました。また、中国の大規模な違法化学品グループ「Wuhan Yuancheng Group(武漢遠成集団)」が背後にいることも明らかになっています。報道によれば、新型コロナウイルスの感染が世界に広がった2020年以降、ダークウェブ上に「bbgate」というオンラインサイトが現れ、薬物の違法取引や製造に関する情報交換が活発にされるようになったといい、この中で最も盛んに活動していたのがAmarvelで、UNODCは2023年から追跡を続けていたものです。Amarvelが日本に進出したのは2021年6月で、最初に那覇市に会社を設立し、2022年9月に名古屋市に移転、2024年7月に法人を解散するまで拠点としており、この間、ダークウェブ上で活発に違法活動をしていた可能性があるといいます。UNODCはAmarvelが日本を中核拠点としていたことは把握していませんでしたが、2026年6月、カンボジアの中国系犯罪集団「プリンス・グループ」の幹部が警視庁に逮捕されるなど国際犯罪に日本が利用される事例が増え、犯罪組織による日本での活動に対する監視は強めていたといいます。UNODC元担当者は「日本は中国との間に犯罪人引き渡し条約がなく、セーフヘイブン(安全が確保された場所)として中国系組織の幹部が頻繁に訪れている」と指摘、Amarvelが日本を薬物積み替えなどの流通拠点としていた可能性が高いとの見方を示しました。薬物のサプライチェーン(供給網)は複雑化が進んでおり、1、2カ国だけでは対策しきれず、国際的な協力が不可欠となっています。米麻薬取締局(DEA)高官も2026年5月、フェンタニルが日本を経由して米国に密輸されていることを認めていますが、UNODCも日本とアジア各国が加わる作業部会の設置に動いています。以前の本コラムでも取り上げましたが、Amarvelは「zksync.jp」というウェブサイトを使って、暗号資産詐欺にも関わっていましたが、UNODC元担当者が調査したところ、「zksync.jp」には同じ人物が作った兄弟サイトが多数あり、米マイクロソフトの「Teams」を模したフィッシングサイトなども見つかるなど、犯罪の「多様化」を進めていたとみられています。日本を拠点にフェンタニル密売の指示を出していたリーダー格の「夏鳳志(Xia Fengzhi)」という中国籍の男に対しては、ニューヨーク連邦地裁が2026年6月に暗号資産の没収を命じています。米麻薬取締局(DEA)は2023年6月にAmarvelの幹部だった王慶周(Wang Qingzhou)と陳依依(Chen Yiyi)を逮捕・起訴していましたが、「日本のボス」について明確な法的措置が執られるのは初めてで、夏鳳志という中国籍の男は行方が分かっておらず、DEAは捜査を続けています。

(4)テロリスクを巡る動向

AIを巡るリスクの1つに「テロリスク」があります。CBRNEを用いたテロの脅威に備える必要があることは以前から指摘されているところですが、そこにAIが絡むことでそのリスクが格段に大きくなることが予想されています(CBRNEとは、化学 (Chemical)・生物 (Biological)・放射性物質 (Radiological)・核 (Nuclear)・爆発物 (Explosive)のこと)。直近では、自然界に存在しないウイルスをAIで設計し、実際に機能することを確認したと、米アーク研究所などのチームが2026年8月の米科学誌サイエンスで発表、2025年9月に査読前論文として公表し、今回、正式に採択されたといいます。医療利用の可能性を広げるとともに、バイオテロのリスクを示す事例として受け止められています。2026年8月7日付朝日新聞によれば、チームは、専用のAIモデルに出力させたDNA配列の候補をもとに、細菌に感染するウイルス「ファージ」を設計、ファージはDNAがたんぱく質の殻に包まれた単純なウイルスで、DNAの違いがその性質を決めるものですが、設計通りに合成したウイルスは、実際に大腸菌を死滅させることができたといいます。期待されるのは医療への利用で、ファージは、抗生物質などの薬剤が効かなくなった「薬剤耐性菌」も攻撃でき、AIで設計した多様なファージを組み合わせることも可能です。一方、AIがバイオテロに使われる懸念も、現実味が増したことになります。サイエンスが論文と同時に公開した解説記事で、米ジョンズ・ホプキンス大学の健康安全保障センターのトーマス・イングレスビー教授らは「生命科学分野への応用が有望だが、同時に緊急のバイオセーフティーとバイオセキュリティに関する問題も提起する。生成AIでウイルスゲノムを構成する能力はすでに存在するが、安全に制御するためのガバナンスは確立されていない」と指摘しています。また、AIによるバイオテロの懸念については、すでに米AI企業から示されており、2026年6月にはオープンAIのサム・アルトマンCEOやアンソロピックのダリオ・アモデイCEOらが、バイオセキュリティの迅速な強化を米議会に求める書簡を出しており、AIがウイルス学者を超える能力を持ち、「生物兵器」をつくるための障壁がなくなりつつあるとしています。

ロシア連邦保安局(FSB)は、国内で幅広く利用されている通信アプリ「テレグラム」の創業者でCEOのパベル・ドゥーロフ氏を、テロ活動を支援した罪で訴追したと明らかにしました。報道によれば、ドゥーロフ氏はロシア出身ですが、現在ロシア国外で活動、テレグラムの拠点はアラブ首長国連邦(UAE)にあり、FSBは国際指名手配すると表明しています。FSBはテレグラムについて、ウクライナ国内でも広く使われており、ウクライナの情報機関がロシアで破壊工作やテロ行為をするための準備に使われたと主張、ウクライナ側が女性を装い、若い男性を勧誘するチャンネルもあったと指摘し、テレグラムが削除しなかったと非難しています。FSBによれば、過去1年間で12歳から22歳までのロシア人46人がテレグラムでテロ行為に勧誘され、拘束されたといいます。ロシア政府はネット規制強化の一環として国内でのテレグラム使用を制限、政府製アプリを推奨するなど、テレグラム側との対決姿勢を強めていました。FSBは29日に公表した声明で、ウクライナの情報機関がテレグラムのマッチングサービスを通じてロシアの若者をリクルートし、国内でのテロ作戦に従事させていたと主張した。一方、テレグラムの運営会社は同日、SNSにドゥーロフ氏が中指を立てた写真を投稿、ロシア当局の主張を否定する姿勢を示したとみられています。テレグラムは各国当局への情報開示に否定的なために犯罪の温床になっていると指摘されており、フランス当局がドゥーロフ氏に対する捜査を進めています。なお日本では、トクリュウなどが特殊詐欺の連絡用に使用するなど、「犯罪インフラ」の代表格となっています。

2022年7月8日の安倍元首相銃撃事件からすでに4年が経過しました。単独で過激化する「ローン・オフェンダー」(LO)によるテロに対し、未然防止に向けた官民の連携が進んでいます。警察は同事件後、刑事や地域など部門の枠を超えて事件の前兆の情報を集約する体制を構築、2025年4月には警察庁にLO対策室を新設し、都道府県警の体制も強化してきました。本コラムでもたびたび取り上げてきたとおり、安倍元首相を銃撃した山上被告(無期懲役判決を受け、弁護人が控訴)は自宅で手製銃を作っていましたが、近隣住民から前兆に関する通報を得られなかった苦い教訓があります。山上被告は「(火薬製造は)屋内でやる必要があった。風で飛ぶので、ガレージなどで作っていた」といい、インターネットの動画を参考に、自前でパイプ銃と火薬を作り、一人黙々と試作と実験を重ねたといいます。山上被告が利用した貸しガレージは、事件現場の南東約5キロの閑静な住宅街にあり、作業スペースは車1台分(約10平方メートル)ほどで、一時は昼夜を問わず作業していたとみられています。しかしながら、LOは組織的な凶行と比べて情報が漏れにくく、兆候をつかむのが難しい特徴があります。警察はこれまでもホームセンターや薬局などに、薬品の大量購入など不審な情報の提供を求めてきましたが、事件後は、不動産やSNS事業者、貸倉庫、宅配業者などにも協力関係を拡げています。例えば警察庁は2026年6月、貸倉庫や宅配の業界団体にLO対策の協力を要請、組織を持たないLOの場合、準備の拠点は自宅のほか、貸倉庫やレンタルスペースが想定され、貸倉庫は全国に数万カ所の拠点があるとされ、倉庫内部や宅配先で金属音が聞こえたり、薬品のような臭いに気づいたりした場合、地元署や警察の窓口への通報を求めています。また、爆発物の原料となり得る化学物質の購入者について、身元確認や販売自粛などの対応を要請し、各地で訓練も実施しています。報道で日本レンタルボックス協会は「LOやテロリストにサービスを提供するつもりはない。不審情報が寄せられれば速やかに通報する」と話していたのが大変心強く思いました。また、SNSの投稿もLOの有力な情報となる可能性があり、2026年2月の衆院選では解散から投開票までに候補者や要人への危害を予告する336件の投稿が確認され、警察庁の専門部署に情報を集め、職務質問によって警護対象者への接近を止めたケースもあったといいます。警察庁は生成AIによって投稿を分析し、危険性の判断に役立てるための実証実験も始めていますまた、大阪府警は、26人が犠牲となった大阪・北新地のクリニック放火殺人事件を教訓に、2026年から府内のガソリンスタンドに警察署員らを定期的に派遣、携行缶を持参した購入者に不審点がなかったかなどをチェックする独自の取り組みをスタートさせています。

こうした地道な取組みの効果も出始めており、警視庁公安部は2025年夏、通販会社からの情報提供をきっかけに、黒色火薬を自宅で製造したとして、都内の20代の男を火薬類取締法違反容疑で書類送検しました。男はインターネットで黒色火薬の製造方法を調べ、原料を販売サイトで購入していたといいます。また2026年2月には関西地方で、外部からの情報を基に複数の警察本部が連携し、病院内で包丁を所持していた男を逮捕、男は「幸せそうな家族を見つけ、殺そうと思った」と無差別殺人の計画を語ったといいます。警察幹部は「断片的な前兆情報を客観的に評価することがテロ防止につながる。民間から提供された情報は極めて慎重に取り扱うことに留意し、企業や地域との協力関係を一層広げていきたい」と話していますが、正にそのとおりだと思います。とりわけ対策で重要性を増しているのが、SNSの投稿分析で、2026年2月、関東地方で17歳の少年が失踪、警察は少年がSNSで交流していた男のアカウントを特定し、過去の投稿画像などから、四国地方の自宅アパートを突き止めました。男はある事件で「人を殺したい」と供述しており、警察は少年を保護し、男を未成年者誘拐などの容疑で摘発、模造銃も押収するという事件の解決につながりました。警察庁は現在、生成AIを導入して危険な投稿を洗い出す調査・研究も進めており、テロ対策に詳しい公共政策調査会の板橋功・研究センター長は、「LOは社会から孤立している傾向があり、未然に発見するのは極めて難しい。警察は自治体などと協力し、プライバシーに配慮しながら対策を進める必要がある」と指摘していますが、こちらも正にそのとおりかと思います。

山上徹也被告の控訴審初公判は、早ければ年内にも開かれる可能性があります。再編成された弁護団には宗教被害に詳しい弁護士が加わり、動機面でより踏み込んだ主張を展開するとみられています。一方で被告は、1審で世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の幹部ではなく安倍氏を標的とした理由を多くは語っておらず、大阪高裁での審理に注目が集まっています。弁護側は1審で、教団による被害の対策に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の弁護士らを証人として呼び、安倍氏は関連団体にビデオメッセージを寄せるなど教団側との密接な関係があったことを強調、被告が安倍氏を標的とした理由は理解可能との見方を示しましが、1審判決は安倍氏に「落ち度は何ら見当たらない」と一蹴、不遇な生い立ちは事件の遠因だったと認めつつ、自身の目的を果たす「手段」として安倍氏の殺害に及んだ悪質性を非難し、求刑通り無期懲役を言い渡しました。1審判決は安倍氏と教団側との関係についての事実認定には踏み込まれず、これについて弁護団はビデオメッセージの影響などが正当に評価されていないと指摘、「宗教2世」の実態を訴えながら、事件に至る経緯をより詳細に立証することで「量刑が重すぎる」と主張するとみられています。教団を巡っては2026年6月、解散命令が確定ており、弁護団はこうした動きも踏まえて、近く控訴審での主張をまとめた書面を高裁に提出、その後、高裁での審理日程などが決まる見通しです。一方、被告自身は1審の被告人質問で、安倍氏は標的として事件の前年から「頭の片隅にあった」としたものの「本筋ではなかった」とも述べ、事件の「意味」を明確に説明することがありませんでした。報道で裁判前に勾留中の被告と対話を続けた北海道大の櫻井義秀特任教授(宗教社会学)は「被告自身が『なぜ』を消化できていない」と指摘、控訴審では、改めて被告人質問が行われるか否かも焦点となりそうです。LOとして過激化する背景には「国土や人心の荒廃」、「孤立・孤独」などあるとされますが、本件における山上被告の動機解明は今後のLO対策にとっても極めて重要となると考えます

トルコで非常事態のもとで出された政令により、テロ組織などとの「所属、関係、接触」があるとされた公務員は公職から追われることになりました。朝日新聞であるトルコ人が、クルド人の独立を目指す非合法武装組織クルディスタン労働者党(PKK)幹部の言葉を報じたメディアの記事をSNSで共有したことで「テロ組織宣伝罪」に問われた事例が取り上げられていました。2018年に当時のクルド系政党・人民民主主義党(HDP)から国会議員に初当選するも2年半の刑が言い渡され、2021年3月には議員資格を失い、刑務所で3カ月間を過ごしたといい、「官報に名前が出る。だれもがそれを見る。その瞬間から、社会の中で自分を取り戻すことがとても難しくなる」との言葉は極めて重いものです。2021年7月、憲法裁判所が政治活動の権利や身体の自由の侵害を認めたことで釈放され、議員資格も回復したものの、無罪が確定したわけではなく、医師としての復職を求める手続きも続いているといい、「10年たっても、まだ司法手続きが終わっていない」現実もまた重いものです。クーデター未遂事件の直後、トルコ政府は非常事態を宣言、事件の背後に米国を拠点とするイスラム教指導者ギュレン師がいたとして、軍や司法、教育機関、公務員組織から関係者の排除を進め、非常事態下で政権は「法律の効力を持つ政令」を多用、通常の立法手続きを待たずに措置を進められる仕組みで、官報に名を記された多くの公務員が、裁判を経ないまま職を追われる事態となりました。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が2018年3月に出した報告書によれば、非常事態宣言後の1年半で約16万人が逮捕され、15万2千人の公務員が解雇されたといいます。そして、職を失うだけでは済まず、行政上の記録に名前が残り、公的支援や社会扶助も受けにくくなり、仕事を探そうとしても、会社側が行政機関の記録を見た途端に採用を断る例も多いといいます。さらに家族の生活にも影響が及んでいるともいいます。非常事態は2018年7月に解除されましたが、前述の事例の人物は、治安を守るという名のもとで作られた政令や運用が法律や行政手続きに残り、社会に影を落としていると指摘、「トルコはこの10年、終わらない非常事態の中にある」との言葉が極めて重く響きます。

トランプ米政権は、極左によるテロへの対策を話し合う閣僚級会合をワシントンで開催しました。ルビオ国務長官は会合で「極左テロは政治暴力の主要形態だ」と強調、複数の国にまたがって犯行が計画・実行されているとし、各国に情報共有や資金源根絶に向けた協力を呼び掛けました。国務省によれば、会合には南北米大陸を中心とする西半球、欧州、アジアから66カ国が参加、日本からは実務担当者が出席しました。国務省は、暴力行為や暗殺、誘拐、米関連施設への脅威に対する措置の重要性を強調、2016年以降に米国と欧州で極左によるテロが急増したと指摘、米国で2025年に発生した政府への攻撃やその計画の63%が極左によるもので、欧州では2025年に発生したテロの27%が極左の犯行だとしました。また、ルビオ氏は、イスラム過激派によるテロが対策により激減した一方、極左テロは看過される傾向にあると指摘、その背景として、「マスコミや学界が、極左テロは深刻な脅威であるという考え方を『極右の妄想』や『ファシストの陰謀』であるかのように扱っている」と述べました。トランプ政権は米国内の極左運動「アンティファ(反ファシスト)」への圧力を強めており、2025年11月にはアンティファ対策の一環として、ドイツやイタリア、ギリシャの4グループを「特別指定国際テロリスト」に加え、2026年5月に発表した「国家対テロ戦略」では、アンティファを含む極左暴力集団を主要なテロの脅威と位置付けています。さらに、近く別のグループを新たにリストに追加するということです。

その他、テロやテロリスクを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • トランプ米大統領は、訪問中のトル‌コでシリアのシャラア暫定大統領と会談し、シリアを米政府の「テロ支援国家」指定リストから除外するこ​とを決定しました。ロイターによれば、トランプ氏はシャラア氏宛て​の書簡で「シリアの再建を阻む全ての障⁠害を取り除くと約束した。ごく近い将来、​それがついに実現するだろう」と記し、「米企業の投資により、シリアをより偉大で繁栄した国にする準備が整​っている」としたといいます。​トランプ氏‌は米⁠議会に通知済みで、議会は決定が発効する前に45日間の審査を行うことになります。米政府はこれまで、シリアの「テロ支援国家」指定を見直し​ていると表明​していました。⁠この指定は、米国の対外援助、防衛関連の輸出、および特定の金融取​引に制限を課すもので、トランプ氏は2025年、シリアに対する米国の制裁措置を終了させる大統領令に署名、これによりシリアは⁠国際​金融システムからの孤立に​終止符を打つ道が開かれ、内戦で荒廃した同国の再建を支​援するとの米政府の公約を後押しする内容です。
  • シリアの治安当局高官は、首都ダマスカスで発生した爆破事件につい‌て、予備調査の結果、実行犯グループがISに関連してい​たことが判明したと明らか⁠にしています。ダマスカス郊外​の内務治安部門トップ、ア​フマド・アルダラティ氏は、国営テレビに対し、「7月7日のダマスカス爆​弾事件を実行したグル​ープのメンバー1人を突き止めることが‌でき、⁠その人物を監視することで残りのメンバーを特定した」と述べました。ハッタブ内​相はこれ​に先立ち、⁠捜査が完了次第、実行犯グループ​のメンバーの身元や役​割、⁠あらゆる 関連情報を公表すると述べていました。その2日前にはダマスカスで、⁠フラ​ンスのマクロン大​統領が滞在していたホテルの近くで2つ​の爆弾が爆発、18人が負傷した事件もありました。
  • ノーベル平和賞を2018年に受賞したクルド民族少数派ヤジド教徒のイラク人女性ナディア・ムラドさんが、ジュネーブで記者会見し、ISに拉致されたヤジド教徒の女性や子ども2000人超が今も行方不明のままだと明らかにしました。ムラドさんは2014年にイラク北部の村でISに拉致され性奴隷とされた経験を持ち、実名で証言し性暴力撲滅を訴え続けています。拉致された人々の多くはイラクから国境を越えてシリアに連れ去られたとし、シリアなどでの捜索を強化するよう国際社会に求めています。
  • ドイツの首都ベルリンで、性的少数者のパレード会場近くに車が突っ込み、ポーランド人女性1人が死亡し、31人が負傷するテロ事件が発生しました。地元警察は、逃走していたイスラム過激派の男が、警察が身柄を確保しようとした際に死亡したと発表しました。男はレバノン系ドイツ人で、容疑者のスマホから、事件をほのめかす動画が見つかっています。容疑者とみられる覆面の人物がアラビア語で話す様子が映されており、ISへの忠誠を誓う内容だったといいます。メルツ首相は追悼式典で、テロ事件について「社会を分断し、我々が大切にする開かれた社会や自由を奪うことが狙いだ」と述べ、国民に結束を呼びかけました。なお、容疑者は国家を危険にさらす重大な暴力行為を準備していたことを理由に、2026年5月に禁錮刑を言い渡されていましたが、収監はされていませんでした。さらに、過去の事件では少年法の下で有罪判決を受け、保護観察官⁠の監督下で6カ月の猶予期間が認められていたともいい、疑問の声⁠が上がっています。ドブリント内相は、成人による治安上の脅威⁠に少年法を適用することは「容認できない」と表明、この点を改める方針を示し、危険人物に電子監視⁠用の足輪(アンクレット)を装着させる権限を当局に付与する措置などを導入すると⁠述べています。
  • ロシアの首都モスクワ中心部のレストランで爆発が起き、ロシア国家反テロ委員会は、身元不明の女が高級イタリア料理レストランに持ち込もうとした爆発物により爆発が起きたと指摘、爆発の結果、この女と、レストランに入ろうとした女を制止した警備員、レストランの客の計3人が死亡し、計21人が負傷したと発表しました。同委員会はテロ事件として捜査を始めています。レストランでは当時、2026年5月に露航空宇宙軍総司令官に就任したチャイコ大将の昇進と55歳の誕生日を祝うパーティーが開かれ、国防省や治安当局の高官らが出席していたとの情報もあり、爆発はチャイコ氏らを狙ったものだったとする観測も出ていますが、真偽は不明です。チャイコ氏は2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻の直後、同国の首都キーウ近郊ブチャでロシア軍が起こしたとされる「ブチャ虐殺」に関与したとして、欧州連合(EU)などから制裁を科されている人物で、ウクライナからも戦争犯罪容疑で刑事訴追されています。ウクライナで「特別軍事作戦」を続けるロシアでは、幹部クラスの軍人らを狙ったテロ事件が散発的に起きています
  • パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州で、軍と警察の合同検問所に自爆テロがあり、兵士ら15人が死亡しました。また、軍は武装勢力の12人を殺害したと明らかにしました。イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が犯行声明を出しています。パキスタン軍によれば、現場はアフガニスタンとの国境近くで、爆発物を積んだ車両が検問所の外壁に突っ込んだといいます。パキスタンとアフガンの国境地帯では、TTPなどの過激派組織によるテロが相次いでおり、パキスタン軍は掃討作戦を進めています
  • 米紙ワシントン・ポストは、トランプ政権が西アフリカ・マリで国際テロ組織アルカイダ系の過激派「イスラムとムスリムの支援団」(JNIM)を標的にした軍事行動を検討中だと報じました。JNIMは2026年4月、遊牧民トゥアレグの反政府武装勢力と連携してマリ各地を一斉に攻撃し、暫定国防相を殺害、同7月にも計五つの都市や町を一斉に攻撃したとされます。隣国のブルキナファソやニジェールでも攻勢を強めており、勢力伸長が問題となっています。マリでは2020年以降、クーデターが2度発生、権力を掌握した軍政が過激派対策に当たってきたフランス軍部隊を撤収させ、ロシアとの安全保障協力を強化していますが、情勢は悪化し続けています。
  • フランス南部ニースで市民ら86人が殺害された2016年7月のトラック突入テロから10年が経過しました。同地では犠牲者追悼式典が現地で開かれ、遺族らが参列、マクロン大統領は演説で「国の組織は強固になったが、脅威は見えにくくなっている」と指摘、再発防止へ「たゆまず戦い続けるほかない」と訴えました。同テロは仏革命記念日の深夜、イスラム過激派の男が運転する大型トラックが海岸沿いの通りに進入し、祝賀の花火の見物客らを約2キロにわたり次々とひいたもので、男は警官に射殺されました。2015年11月にパリと郊外で130人がイスラム過激派に殺害される同時多発テロがあったばかりで、仏社会を震撼させました。男は過去に暴力行為などに関与した記録はあったものの、過激思想などで情報機関の監視対象ではなく、短期間で急激に過激化したとみられています。捜査当局は実行犯の過激思想式典で遺族ら代表としてスピーチした女性は「あの夜の出来事を記憶から消し去ることはできないが、人生の続きを決めるのはテロリストではない」と強調していた点が印象的です。
  • スリランカで2019年4月、日本人1人を含む250人以上が死亡した連続爆破テロを巡り、スリランカの裁判所は、職務を怠りテロを防げなかったとして当時の警察長官と国防次官に死刑判決を言い渡しました。地元のイスラム過激派組織が最大都市コロンボの高級ホテルや教会などを相次いで爆破し、現地在住の日本人女性=当時(39)=も亡くなったテロで、教会ではキリスト教の復活祭(イースター)の行事が開かれていました。判決では、当時のジャヤスンダラ警察長官らが職務を怠ったと認定、インドの情報機関から事前にテロ情報を得ていたにもかかわらず対策を取らなかったとしました。スリランカでは1976年以降、死刑執行は停止されており、通常は終身刑に減軽されるといいます。

(5)犯罪インフラを巡る動向

中国系の国際犯罪組織「プリンス・グループ」の最高幹部とされるフー・シー容疑者らが2026年6月以降、警視庁に相次いで摘発され、フー・シー容疑者は入管難民法違反などで略式起訴されたうえ、出入国在留管理庁へ身柄が引き渡され、最終的に米国へ送還されたと報じられています。フー・シー容疑者は「高度専門職」の在留資格、具体的には高度経営・管理に該当する「1号ハ」を保持しており、日本国内で企業経営などの活動を行う外国人として滞在していましたが、警視庁の捜査で居住実態がないのに虚偽の転入届を出し、他者に在留カードを貸与するなどの不正行為を行っていた疑いがもたれています。フー・シー容疑者は日本への滞在継続の目的を「永住権を得るため」であり、「安全に暮らせる場所がほしかった」と述べたとされ、警察は国外の捜査機関に追われる者が在留資格を悪用して日本を安住の地にしようとする点を強く問題視しています(在留資格制度の犯罪インフラ化)。捜査ではフー容疑者の違法転入手続きに関与した中国籍の男女3人らが入管難民法違反で起訴・略式起訴され、うち2人が外国人向けの観光案内や起業支援を掲げる会社に勤務していたことも判明しました。警視庁は一連の捜査で強制退去事由に該当する事実関係を整え、入管庁に身柄を移して退去強制の判断を促しましたが、送還先は原則その者の国籍保有国とされる一方、国籍国へ送還できない場合や本人の希望がある場合は別国への送還も可能であり、今回フー・シー容疑者は米連邦捜査局(FBI)の接触を受け米国送還に応じたと伝えられています。プリンス・グループは米英両政府から「アジア最大級の犯罪集団」と位置付けられており、拠点とされるカンボジアを中心に金融・不動産などの企業活動を装いつつ、国際的なオンライン投資詐欺やマネロンに関与したとして米財務省が関係者や法人へ制裁を課し、会長は現地当局に拘束されて中国へ送還されるなど国際的な圧力を受けています。報道によれば、フー・シー容疑者はチェン・ジー会長の上位に位置付けられる存在で、「兄貴分」や「指南役」と見られており、組織の幹部が高度専門職などの在留資格を利用して短期間で永住資格を得る道を探る実態が浮上しました。近年は実体のないペーパーカンパニーを設立して「経営・管理」などの在留資格を不正に取得する手口も確認されており、今回の摘発を受けて高度専門職の審査厳格化など制度見直しの検討が活発化する可能性があります。警察は「被害の有無だけが問題ではない。日本を無法者の安住の地にしてはならない」と述べ、国際的に追われる者の在留資格悪用を防ぐための厳正な対応を強調しています。

文化庁や報道等によれば、後継者不足や高齢化、地域共同体の衰退などを背景に活動実態の乏しい「不活動宗教法人」が増加し、その法人格が脱税やマネロンなどの不正利用にさらされている問題が顕在化しています(不活動宗教法人の犯罪インフラ化)。これまでは文化庁が宗教法人の実態把握をほとんど行ってこなかったため、不活動法人の数が統計上急増した可能性があるものの、一方で、宗教法人の税制上の優遇(信仰収入の非課税、低い課税負担など)が売買の要因となり、ブローカーが仲介してインターネット上で取引が行われている事例が報告されていますが、宗教法人自体の売買は現行法では明確に違法とされていない点も問題となります。宗教法人側には公権力の介入を嫌う歴史的・憲法的な背景があり、これが透明性の欠如を助長してきたといえますが、その不介入の姿勢が結果的に不正利用を許す温床となっているとの懸念があります。文化庁の実態調査(宗教法人約18万のうち1万8000法人を対象)では中間報告の回収率が約52%で、売買の提案を受けた事例は全国推計で約4000件に上ると見積もられました。調査では第三者からの売買アプローチやブローカー仲介の存在、単立宗教法人が、情報共有や啓発が行き届かず、体制が脆弱で狙われやすいこと、日本語・外国語の売買サイトで多数の売り出し情報(数千万~数億円の価格帯)が確認されたこと、売買希望者の多くがブローカー経由で実体不明であることなどが明らかになりました。これを受けて文化庁は、不活動宗教法人の悪用防止に向けて都道府県向けガイドラインを2026年内に策定する方針を打ち出し、解散命令請求の対象判断基準(短期間での代表者頻繁交代、急激な収益事業拡大など)を明示することで解散手続きの円滑化を図る意向を示しています。また、対策の具体策としては、文化庁の情報提供窓口設置、登記変更などの情報を一元収集して都道府県に定期共有する仕組み、警察や国税当局との情報共有・意見交換の強化、ウェブサイト運営者への行政指導と削除要請などが進められていますが、信教の自由や政教分離の原則との調整が必要であり、情報公開には限界があります。現行の宗教法人法では「目的を著しく逸脱した行為」が解散事由とされるものの具体的基準が乏しく、これまでは不正利用が法令違反に当たらない限り解散請求が難しかったため、基準整備が急務となっています。同時に、宗教法人の存続そのものが危機にある現状も浮き彫りになっています。人口減少や都市集中、宗教離れの影響で寺社の収入が低下し、2040年には宗教法人の約3分の1が存続危機に陥るとの試算が示されています。多くの寺で年間収入が300万円未満という実態があり、住職不在や兼務の増加、檀家減少が深刻で、こうした困窮は法人格が形骸化する一因となり、結果的に売買や不正利用の対象にされやすくなるリスクを増加させています。地域文化や防災、観光など多面的な役割を担う神社仏閣の消失は地域社会の基盤喪失につながるため、合併や法人格廃止、包括宗教法人による受け皿づくりなど、宗教界自身による終活・再編策の検討と実行も求められているところです。総じて、行政側は実態把握と判断基準の整備、情報共有・監視の強化という対応を進めており、宗教界にも透明化や自主的なルール作りが求められているところ、信教の自由を尊重しつつも、不活動法人の悪用を防ぐためには法制度の不備を是正し、自治体・警察・税務当局と連携した実効性のあるガイドライン運用や、宗教団体自身の再編・地域との関わり強化が不可欠となります。

米司法省が、主に中国人が米国で合法的な移民資格を得る目的で約1000件の偽装結​婚を手配していたとして、11人を起訴したことが明らかになりました(偽装結婚は犯罪インフラの典型でもあります)。ニューヨーク・マンハッタンの連邦地裁が公開した起訴状によれば、6人の「仲介役」​が約10年にわたって外国人と米国市民の​偽装結婚をあっせん、外国人は1人当たり最⁠大10万ドルを支払い、米国市民側には結婚に同​意する見返りとして最大3万ドルが支払われていたと​しています。関係者らはその後、新婚夫婦を装って米国土安全保障省に必要書類を提出し、中国人らが合法的な永住権​を取得できるよう支援していたとされます。ブラン​チ司法長官はこの事件について「米国史上最大級の偽装結‌婚摘⁠発の一つだ」と強調した上で「移民制度を不正に利用するために人々がどれほど踏み込むのか」を物語っていると述べています。今回の発表は、トランプ米大​統領が最近署​名した「⁠出産目的渡航(バースツーリズム)」の規制強化を目的とする大統領令​に続く動きとなります。連邦最高裁はこれに先立ち、​米⁠国内で生まれた子どもに幅広い市民権を認める判断を示していました。また、国務省は、子どもに米⁠国籍を取​得させることのみを目的と​して渡米する女性への取り締まり強化に向け、ビザ(査証)保​有者の活動実態の再検証に乗り出したと発表しています。

最近、集合住宅などに設置された宅配ボックスが特殊詐欺の現金やキャッシュカードの受け渡しに悪用される事例が相次いでおり、警視庁による摘発が相次いでいます。被害は高齢者を狙った「息子を装う」電話詐欺などが中心で、だまし取った現金やキャッシュカードを受け子が宅配ボックスに入れ、別の受け取り役が現場に赴いて回収する手口が確認されています。逮捕された容疑者の例では、東京都内の80代女性から現金800万円を詐取した後、練馬区の集合住宅敷地内にある宅配ボックスから回収していたとされます。別の事件でも、被害金約1億1,200万円分が練馬、板橋、中野の各区や埼玉県和光市など十数か所の宅配ボックスに入れられていたといいます。さらに、中国籍のグループがキャッシュカードを回収してコンビニのATMで現金を引き出し、その現金を再び宅配ボックスに入れて受け渡していた事件もあり、被害総額は数百万円規模の別件も含め、数千万円にのぼる可能性が指摘されています。警察の調べでは、犯行に使われた宅配ボックスはいずれも防犯カメラやオートロックが設置されておらず、人目につきにくい場所に置かれていたことが共通点として浮上しています。容疑者らは報酬や被害金をボックスに入れてから暗証番号を通信アプリでやり取りし、対面せずに受け渡しを完了させるなど、顔を合わせない方法で組織的に運用していたとみられています。こうした手口はコロナ禍で宅配ボックスの設置が急増したことに伴い発生しやすくなった面があり、捜査当局はカメラのない箇所を狙い、駅のコインロッカーのように防犯に配慮された場所を避けているとの見方を示しています。警視庁は詐欺グループのメンバーの摘発を進め、被害の全容解明を進めるとともに、住民や管理者に対して防犯対策の強化を呼び掛けています。具体的には宅配ボックスの設置場所を人目のある場所にする、防犯カメラやオートロックを導入する、居住者以外が利用できない仕組みを検討することなどが挙げられており、捜査幹部はこうした対策で犯罪利用を防ぐ必要性を強調、これにより、住民が知らないうちに犯罪に巻き込まれるリスクを低減することが期待されます。

SNSなどを利用する子どもの保護策を議論するこども家庭庁の有識者会議は、利用者の年齢確認の厳格化を事業者に求めることを柱とする中間報告書案を大筋で了承しました。この中間報告書案は、SNS利用の年齢確認厳格化と事業者への保護義務化を軸に、現行法の見直しや実効性ある対策の導入が盛り込まれています。まず、SNSやスマホの普及で子どもを取り巻くリスクが多様化・複雑化しており、現在の青少年インターネット環境整備法だけでは保護が不十分であると指摘、そこで報告書案は、SNS事業者に対して利用年齢の適正設定や保護措置の義務付け、マイナンバーカード等を活用した実効的な年齢確認の実施を求めるとともに、OS事業者にペアレンタルコントロール機能の提供義務を検討するよう提案しています。また、短い動画が延々と表示される「無限スクロール」やアルゴリズムに基づくおすすめ機能など、サービス設計自体が依存や有害性を生む可能性に注意を促し、どの機能を規制対象とするかは固定的な基準ではなくガイドライン等で柔軟に示すべきだとしています。一方、年齢による一律利用制限については表現の自由や知る権利への配慮などから慎重な意見が強く、報告書案では明確な導入表明は見送られたものの、海外での規制動向を踏まえ政府で引き続き議論を重ねるべきだとしています。海外では、オーストラリアやフランス、英国などで一定年齢以下の利用禁止や年齢確認義務が相次いで導入・検討されており、各国へこうした規制が波及していますが、実効性の確保が課題となっています。実際にオーストラリアでは大量のアカウント停止が報告される一方で、多数の子どもが利用を継続し、年齢偽装や規制回避が横行しているという調査結果が示されており、規制だけでは抜け穴を防げない現状があります。そのため有識者会議や専門家の間では、事業者に外在的な規律を課す形で年齢確認と保護措置を義務化しつつ、OSやアプリ配信ストアの仕組みも含めた総合的な対策が必要だとする意見が多くあります。さらに、規制を巡っては過剰規制や経済活動の自由、表現の自由との関係、規制の合理性と実効性の両面を慎重に検討する必要があるとの指摘もあります。例えば一律に禁止すれば、利用者が別のアプリやVPNで容易に回避するため、対象外の小規模アプリでのリスクが残る点などが問題視されています。こうした事情から、国内では当面は一律規制を避ける方向で議論が進み、年内の最終報告を踏まえて2027年の通常国会で関連法改正案の提出を目指す方針が示されています。一方で、規制か自助かの二分法ではなく、実効的な手段の検討や段階的・証拠に基づく見直しが必要だという指摘も説得力があり、特に重要なのは、日本独自の実態に基づくエビデンスの蓄積と、子ども・若者本人の当事者の声を十分に反映させることであり、海外の動向を参考にしつつも日本の状況に即した方策を検討するべきだという意見も根強くあります。また、保護の手段としては一律禁止ではなく、保護者が利用を許可し事業者が年齢に応じた安全設計を行う仕組みや、OSレベルでの年齢確認・ダウンロード管理など多層的な対策が提案されており、加えて、規制だけでなく事業者の設計責任を問うことでアルゴリズムや機能の有害性を減らしつつ、アルゴリズムを適切に活用して年齢に応じた有益な体験を提供する余地も残すべきだというバランス論が示されています。子どもの安全を守るためには政府、事業者、OS・配信プラットフォーム、保護者がそれぞれの役割を果たす協調的な枠組みづくりが不可欠であり、規制導入の可否や手段はエビデンスに基づき柔軟に検証・見直していくことが求められているといえます。

前述のとおり、SNSの利用規制に関する議論がさまざまな角度から進んでいます。欧州連合(EU)は児童のSNS利用規制に向けて法制化を進めており、フォンデアライエン欧州委員長はEU全域で年齢制限を設ける方針を明確にしています。専門家パネルの報告書は0~2歳は画面接触を避け、13歳未満は教育目的や保護者監督を除きSNSアクセスを制限することを提案しており、欧州委は子どもの脳の発達に悪影響を与える中毒性や睡眠不足、うつ、不安、ネットいじめ、有害コンテンツへの接触を問題視しています。そのうえで、各国の事情を踏まえ年齢幅を認める可能性がある一方で、プラットフォーム規制も並行して強化し、無限スクロールなど中毒性の高い機能の初期設定無効化や事業者への監督を強める方針を示しています。また、(以前の本コラムでも取り上げましたが)年齢確認のために匿名性を保ちながら年齢だけ認証できる「年齢確認アプリ」の自前開発も検討されていますが、人権やデジタル権利への配慮、身分証提示が困難な当事者への影響を懸念する声もあります。EU以外でも海外では規制導入の動きが相次いでおり、オーストラリアは2025年12月に世界で初めて16歳未満のSNS利用を原則禁止する法律を施行し、インドネシアやマレーシアなども同様の措置を取りましたが、実効性に課題が残っています。繰り返しとなりますが、オーストラリアでは禁止後も16歳未満の約85%以上が何らかの形でSNSを利用している調査結果があり、年齢確認の不備や年齢偽装が多発しているとされ、同国政府は事業者への罰金上限引き上げや監督強化を検討しているといいます。一方、SNS事業者側は初期データに過度に依存しないよう訴え、自己申告と実態の乖離や年齢確認手法の限界を指摘しています。また、フランスは先行的に15歳未満のSNS利用禁止法を下院・上院で可決し、2026年9月から施行予定としていましたが、憲法会議は同法が表現の自由を侵害するとして違憲判断を示し、年齢証明義務や要件が曖昧で法的保護措置が不十分だと批判されたことから、フランス政府は指摘を反映した修正を行う方針を示しています。一方、SNS事業者を多数有する米国でさえ、州レベルで対応が進み、ニューヨーク州はSNSの「おすすめ」表示など依存性の高い機能を提供する前に利用者が18歳以上かを確認する義務を導入し、違反には1件当たり最大5,000ドルの制裁金を科すことを決めています。年齢確認には画像や動画、メール、電話番号などを用いる案が想定され、未成年に対するおすすめ表示や深夜通知は保護者同意が必要とされます。こうした各国の規制は子どもの精神的健康保護を目的とする一方で、年齢確認の実効性、人権や表現の自由、孤立しやすい性的少数者や身分証取得困難者への影響、匿名性の確保といった課題を孕んでいます。EUはプラットフォームへの「セーフ・バイ・デザイン」義務付けやデジタルサービス法(DSA)を活用した監督強化でバランスを図ろうとしており、各国の先行事例を踏まえつつ技術・法制度の整備で実効性を高める必要があります

SNS事業者に対する訴訟を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米メタがSNS上の子どもの保護が不十分だとして訴えられた裁判で、米西部ニューメキシコ州の地裁は、同社に対し5億6700万ドル(約900億円)の支払いを命じ、2026年3月に課された3億7500万ドルの民事制裁金に上乗せしたため、同州でメタが支払う総額は9億4200万ドルに達しました。この追加金は被害を受けた子どもたちの治療や啓発運動のための基金に充てられるとされ、同裁判ではさらに州内でのサービスの一部機能制限も命じられ、未成年ユーザーについては初期設定で「インスタグラム」や「フェイスブック」の「いいね」数を非表示にし、利用時間の上限やアプリ通知を停止する時間帯を設けることが盛り込まれました。メタは今回の判決に同意せず控訴する予定だと表明しています。ニューメキシコ州の司法長官は2023年に、メタ運営のSNSが未成年利用者の精神衛生に悪影響を及ぼし、性被害から子どもを守る安全対策を怠っているとして地裁に提訴し、陪審団は2026年3月にメタの責任を認めて3億7500万ドルの支払いを命じる評決を下していました。メタは同様の問題を巡って40以上の州と訴訟を抱えており、関連費用の増大が見込まれます。こうした訴訟では、SNSの表面的なコンテンツだけでなく、投稿表示順を決めるアルゴリズムなどサービス設計そのものが問題視されており、メタは同3月に別件でカリフォルニア州の裁判所でSNSを中毒性の高い設計にしていると認定された実績があります。さらに、8月中にはカリフォルニア州の連邦地裁で子どものSNSデータの扱いや安全性を巡る複数州との訴訟の審理が始まる見通しで、これらの係争が企業の財務にも影響を及ぼしており、メタは2026年4~6月期に訴訟関連費用として24億ドルを計上して営業減益の一因となりました。
  • 米ニューメキシコ州サンタフェの地裁は、子どもの精神的健康を害した責​任がメタ・プラットフォームズにあると認定し、5億6700万ド‌ルの支払いとともに、同州の若年利用者向けにプラットフォームの機能を変更するよう同社に命じる判断を下しました。同社が​州内で公衆の利益や安全を害する行為を引き​起こしたと判断し、同州のトレス司法長官(⁠民主党)の主張を認めています。トレス氏は、メタが若年ユ​ーザーを依存させるよう製品を設計し、プラットフォ​ーム上での性的搾取から子どもを保護しなかったと訴えていました。地裁は5年間有効となる命令の下、若年層保護に向けた一連の措置​の導入を求めています。フェイスブックとインスタグラムの10代ユ​ーザーの月間利用時間制限、通知機能の制限、成人による未成‌年者⁠への接触に対する厳格な管理、AIチャットボットの安全対策、児童性的虐待通報の審査強化などが含まれており、メタは判決を不服として上訴する方針を示し、​有害コンテン​ツをプラット⁠フォームから特定・削除する取り組みを進めてきたと説明、声明で「オンライン​で10代を保護してきた実績に引き続き自信​を持⁠っており、事実を誤って伝える主張に対しては今後も自らを弁護していく」と述べています。この訴訟を巡っては、陪審が2026年3月、⁠メタ​が若年利用者にフェイスブック​とインスタグラムの安全性を偽って伝え、同州の消費者保護法に違反し​たと認定、3億7500万ドルの賠償を命じる評決を言い渡していました。
  • 欧州連合(EU)欧州委員会はデジタルサービス法(DSA)に基づく暫定調査で、メタ・プラットフォームズの「インスタグラム」と「フェイスブック」がDSAに違反していると指摘、特に自動再生や無限スクロールなどユーザーを過度に没入させる機能が問題視され、違反が確定すれば全世界売上高の最大6%の制裁金が科され得ると警告しました。さらに、欧州委は高度にパーソナライズされた推奨システムや「リール」「ストーリーズ」といった機能が依存性を高め子どものメンタルヘルスに悪影響を与えるリスクをメタが適切に評価しておらず、時間管理ツールが容易に無視されることや、保護者によるペアレンタルコントロールが実効的に機能するには多大な時間・労力・技術的知識を要する点を批判しています。欧州委は、自動再生や無限スクロールをデフォルトで無効化すること、利用を効果的に休止させる仕組みの導入、ならびに推奨システムの改善をメタに求めましたが、メタは欧州委が若年層保護のための自社の措置を正確に評価していないとして暫定結果に同意せず、引き続きEU当局と建設的に協議する姿勢を示しています。欧州委のビルクネン上級副委員長は、この調査結果を踏まえて現行デザインの依存性が高すぎるとし、メタが設計を改めるか不順守の決定が下されるかのどちらかになるだろうと述べ、同委は別件としてフェイスブックやインスタグラムの推奨システムによる長時間視聴を招く「ラビットホール」効果についても継続的に調査しています。こうした暫定結果を受け、今後メタが要求された変更を実施するか、欧州委が正式な違反認定と制裁を行うかが焦点となります。
  • 中国系短編動画アプリ「TikTok」は、利用者を依存させる設計で若者のメンタルヘルスを害したとして提起された3件の訴訟について和解に応じることで合意しました。和解の詳細は非公開であり、書面による最終合意が条件とされ、TikTokは現時点でコメントしていません。これらの訴訟はカリフォルニア州で併合された数千件に上る同種の訴えの一部で、ロサンゼルス上級裁判所が担当する約3300件の中から先行事例として選ばれた3件が審理対象となっています。メタやグーグルのユーチューブ、スナップのスナップチャットに対する同様の訴えは継続しており、公判は2026年10月に予定されていますが、各社は依存性や有害性の主張を否定し、若年利用者保護のための対策を講じていると述べています。
  • テレグラムは、アップルが1人のユーザーによる「児童性的虐待コンテンツ」の報告を受けて、同社のアプリを世界のアップストアから一時的に削除したと発表、その後テレグラムが問題の投稿を削除して当該ユーザーを利用禁止にしたため同日中に配信が再開されました。アップルは審査で指針違反の投稿を確認し、開発元の速やかな対応を評価して配信を再開したと説明しています。テレグラムは2018年にも類似の理由で配信停止を経験しており、当時は創業者パベル・ドゥロフ氏が「不適切なコンテンツ」を理由に削除されたと述べていましたが、その後テレグラム側が対策を強化して配信は再開されました。こうした対応を巡っては、アップルと長年法廷闘争を続けるエピック・ゲームズのCEOティム・スウィーニーが、利用者1人の違法投稿で10億人規模のアプリ配信を停止する判断に疑問を呈し、もしそれが基準ならばアップル自身のメッセージサービスを含む大規模なメッセージアプリ全般の運営が問題になるのではないかと指摘しています。問題投稿の確認と迅速な削除で事態は収束したものの、プラットフォーム単位での一時停止措置の妥当性や運用基準については引き続き議論が残ります。
  • ロイター/イプソスが米国でオンラインを通じて実施した世論調査で、回答者の約61%がSNSの運営企業に対する監督の強化が必要だと回答しました。民主党支持者​では71%、共和党支持者では62%がそれぞれ支持しています。また16歳未満の子供がSNSにアクセスできないように‌するため、運営企業に年齢確認ツールの使用を義務付ける法律を支持するとの回答は66%に上り、共和党支持者では74%、民主党支持者では69%がそれぞれ支持しています

オーストラリア政府は、検索エンジンやSNSを運営する大手IT企業に対し、ニュースを利用する場合に報道機関への対価支払いを事実上義務づける新たな法整備を進めており、プラットフォームが無償で記事を表示して報道機関の経営を圧迫する「ただ乗り」状態を是正しようとしています。新法案は、国内売上高や月間利用者数など一定規模を超える企業を対象とし、企業が報道機関と商業契約を結ばなければ、国内デジタル広告売上高の約2.5%相当を課徴金として徴収し、その額を報道機関へ配分する仕組みを導入するものです。配分は編集業務に従事する従業員数を基準に算出され、地域媒体や先住民向けなど多様な報道を行う小規模メディアには配慮して配分する方針で、報道機関の多様性維持を狙っています。オーストラリア政府は、IT大手と報道機関が契約した場合の支払総額を約2億5千万豪ドル、課徴金を課す場合は約3億5千万豪ドルと試算しています。背景には2021年の法律で一度は契約が進みながらも、メタがニュース表示を停止してルールの「抜け穴」を突いた経緯があり、新法では企業の実際の表示状況にかかわらず企業規模で対象を定めることで回避を防ごうとしています。政府は法案を2026年8月会期中に提出・成立させる構えですが、各党間で意見対立があるうえ、IT大手は強く反発しており、米国の業界団体やメタは規制を差別的や不当と批判しています。また、オーストラリア政府は著作権保護の観点からAIが無断で書籍や記事を学習することを規制する「国家基準」策定や関連法案の提出も進め、メディアや芸術家の権利保護を前面に打ち出しています。さらに、改正案で大手テクノロジー企業に対する報道機関との契約義務をさらに強化し、デジタルプラットフォーム各社に対し少なくとも8社の国内メディアと契約を結ぶことを義務付けるなど、当初案から対象数を引き上げました。フランスでは報道団体が、グーグルのAIが生成する記事要約について競争当局に措置を求めており、AI要約が購読者の減少を招いていると主張しています。フランスの報道団体連合は、事前許可や対価なしに報道コンテンツを新たに利用することは既存の取り決めを無視する行為だと指摘し、AI生成要約によってメディアサイトへのアクセスが大幅に減少しているとの規制当局の推計にも言及しています。過去にフランス当局はグーグルに対し報道記事利用に対する対価支払いを命じ、罰金を科した経緯があり、今回も同様にAI利用に対する規制・対価の適用を求める動きを強めており、報道側は、AIが既存のメディアコンテンツを土台にしている以上、その生み出す価値の公正な分配を要求しています。

複数のサイバー攻撃事件で、少年らが匿名性の高いSNSコミュニティで手口を共有していたことが判明しました。快活CLUB、楽天モバイル、バンダイチャンネルなどが被害を受け、被害の深刻さが浮き彫りになっています。警視庁は快活CLUBへの攻撃で東京都葛飾区の18歳の少年を逮捕し、ディスコード上のコミュニティが拠点だったとみています。コミュニティ内で不正プログラムの入手や攻撃の実況中継、情報の管理分担が行われ、参加者は小学生から19歳前後まで十数人に及んだ可能性があり、参加者には情報セキュリティのコンテスト入賞者もおり、技術力のある若年層が集まっていたといいます。快活CLUB事件は12歳の小学生の「他人名義で泊まりたい」という要求が発端で、会員情報の不正取得を試みたことが契機になりました。被害企業は個人情報漏えいの可能性を公表し、外部セキュリティ企業とともに被害調査や対応を実施、バンダイチャンネルへの攻撃ではサービスが1カ月以上停止し、会員への返金対応を行うといった対応を余儀なくされました。警察庁の統計では、不正アクセス禁止法違反で摘発された248人のうち32%が10代であり、10代・20代合わせて約7割を占めています。セキュリティ専門家は、サイバー犯罪が影響を予測しにくく軽率な実行が起きやすいと指摘しています。最近はCTFなどハッキング競技が増え、学校へのセキュリティ教育の機会提供が進んでいますが、適切な指導や環境整備が求められるといえます。また、生成AIの普及により攻撃のハードルが下がり、若年層でもツールを補助にして不正プログラムを作成しやすくなっている状況があり、これら一連の事例は、技術的好奇心や軽い動機から、生成AIなどを活用することで若年者が高度な攻撃手法を使えるようになり、被害が企業や利用者に深刻な影響を与えている実態を如実に示しています。捜査当局は匿名コミュニティでの共有や役割分担を確認し、事件化していますが、一方で教育現場やセキュリティ業界にはITリテラシー教育と健全な技術発揮の場づくり、生成AI利用に伴うリスク管理の強化が一層求められているといえます。

自律的に作業をこなすAIエージェントの登場により、サイバー空間の攻防は大きく変化しており、AIがソフトウェアの脆弱性を速やかに発見して攻撃を自動化することで企業のIT環境を短期間で侵害できるようになってしまっています。研究者らの実験では、無料モデルを基にしたAIが標的組織のパソコンやサーバの脆弱性を自律的に突き、対応する攻撃手法を編み出して7日間で平均7割のマシンの管理権限を奪った一方、最先端モデルは利用制限があるため必ずしも同等の使われ方をしていないものの、既に高い攻撃能力を示しているといいます。脆弱性公開後の企業対応の遅れも深刻で、セキュリティ企業の調査では、公開から修正までに時間を要するあいだに攻撃が始まる事例が多く、調査対象のうち88%に当たる46件では企業が修正する前に攻撃が始まり、うち26件は情報公開前に攻撃が始まるゼロデイ攻撃で企業に対策期間が全く与えられなかったといいます。侵入後の拡大速度も加速しており、侵入から他機器への攻撃拡大までの平均時間は2021年の98分から2025年には29分へ短縮され、最速では27秒というケースも確認される一方、防御側の侵入検知速度はあまり改善しておらず、Googleの報告では侵入から検知までの中央値が2019-2021年から2023年までに半減して9日になったものの、足元では横ばい傾向が続いているといいます。企業はAIを防御に使う動きも強めており、AIで防御を自動化する企業は攻撃封じ込め時間を短縮していますが、AIの全面的運用には責任問題や誤動作リスクなどハードルが残るため、人の承認から自律稼働へ段階的に移行する必要があると指摘されています。脅威は外部からだけでなく内部にもあり、従業員の多数が勤務先で承認されていないAIを利用し、ソースコードなど機微な情報を共有しようとする実態も報告されています。こうした状況を受けて、著名な研究者は脆弱性検出AIをソフト開発AIと組み合わせれば脆弱性を大幅に減らせる可能性を示唆し、逆に攻撃リスクが高まれば短期間で作り直す「インスタントソフトウェア」という概念を提唱してソフトを多様化させることで、一つの脆弱性が多数の標的に使われにくくする対策も示しており、注目されます

ニチレイやアスクル、アサヒグループHDなどでサイバー攻撃によるシステム障害が相次ぎ、企業活動に深刻な被害が発生しています。情報セキュリティ会社S&Jの三輪信雄社長は、AIの活用によって攻撃のスピードと精度が向上していると警告しています。前述のとおり、ここ数カ月、AIを用いた攻撃が活発化しており、脆弱性が発見されてから実際に攻撃が行われるまでの期間が短くなっているため、攻撃プログラムが短時間で作成されてしまう状況が生まれています。日本企業はこれまで大きな攻撃をあまり受けてこなかったため、対策が十分に進んでおらず、これから標的にされ続ける懸念があります。さらに、侵入経路となる「穴」を完全に塞ぐことは現実的に不可能であり、対応策は企業ごとの規模やシステム構成によって大きく異なるため、どのような経路から侵入され得るかを複数のシナリオで想定してリスクを潰しておくことが重要だと指摘しています。特に身代金要求型のランサムウェアは、日曜深夜や月曜未明に攻撃を行い、月曜早朝までに内部データの暗号化を完了させる手口が多く、重大な障害を回避するためには受発注システムなど重要系の切り離しも有効な対策となります。外部のセキュリティ会社と連携する必要性は高いものの、費用負担や責任の所在といった課題も存在しているため、企業はこれらを踏まえた実効性のある対策と対応体制を構築する必要があると指摘しており、正にそのとおりだと思います。

国家サイバー統括室がサイバーセキュリティ戦略の方向性を示す「サイバーセキュリティ2026」を公表しています。本署では、「昨今のAIの急速な技術進展等を始め、サイバー空間を取り巻く状況は、これまでにも増して大きな変化を続けており、これに応じた機動的な対応が不可欠である。こうした状況を踏まえ、本書の 2026 年度年次計画に基づく取組に加え、AI の技術進展等を始めとした我が国を取り巻くサイバーセキュリティに関する情勢の変化に応じて、政府機関は緊密に連携し、必要な対応を機動的に実施することとする」と述べています。以下、そのポイントを紹介します。

▼ 国家サイバー統括室 サイバーセキュリティ戦略本部 第6回会合(令和8年7月31日)
▼ サイバーセキュリティ2026(2025年度年次報告・2026年度年次計画)
  • サイバーセキュリティ2026のポイント
    1. サイバー脅威の動向
      • 我が国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面する中、サイバー空間を取り巻く環境は、近年、一層深刻化している。我が国においても、質・量の両面で増大するサイバー攻撃の脅威は、国民生活、経済活動に多大な影響を与えており、ひいては国家安全保障上の大きな懸念にもなっている。また、社会全体のデジタル化が大きく進展する中、サプライチェーン等を通じたサイバー攻撃による被害の社会的な影響は依然として大きい。
      • 例えば、2025年度に国内で発生したサイバー攻撃の中でも社会的な影響が大きかったものとして、以下のような事案が挙げられる。
      • 電気通信事業者のメールセキュリティサービスに対し、ゼロデイ脆弱性を利用した攻撃により、メールアカウント、パスワード及びメール本文等の漏えいを生じさせた不正アクセス(2025年4月)
      • 大手飲料メーカーに対し、受注・出荷業務並びにコールセンター業務等の停止や、約11万5千件の個人情報の漏えいを生じさせたランサムウェア攻撃(2025年9月)
      • 大手通販業者に対し、受注・出荷業務等の停止や、約74万件の個人情報を漏えいさせたランサムウェア攻撃(2025年10月)
      • 医療機関に対し、電子カルテを含めた院内システムを閲覧不能にするとともに患者等の氏名、住所、病名、電話番号及びメールアドレス等の漏えいを生じさせたランサムウェア攻撃(2026年3月)
      • さらに、AIを悪用してサイバー攻撃の大部分を自動的に実行することで、効率的に大規模攻撃が可能になった旨の報告がなされるとともに、世界トップのサイバーセキュリティ専門家に相当する性能を有するフロンティアAIモデルが発表されるなど、AI技術が急速に進展する中、AI技術の進展・普及に伴うサイバー脅威に対応することが必要となってきている。
    2. サイバー脅威に対する対応の状況
      • 厳しさを増すサイバー情勢を踏まえ、能動的サイバー防御を導入可能とするサイバー対処能力強化法等が、2025年5月に成立するとともに、サイバー対処能力強化法等に基づく取組を含め、サイバー空間を巡る脅威に対応するために行う取組を一体的に推進するため、「サイバーセキュリティ戦略」を2025年12月に策定した。
      • 政府機関等においては、各府省庁等から情報セキュリティンシデントに関連してNCOが報告・連絡を受領した件数、対処要否の確認を要する事象の件数、各府省庁等への脆弱性等の情報提供件数のいずれも前年度比で増加している。こうした状況の中、講じるべきサイバーセキュリティ対策のベースラインである「政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群」(以下「統一基準群」という。)を2025年9月に一部改定するとともに、当該基準に基づくマネジメント監査、ペネトレーションテスト及びレッドチームテストを含む監査や、CSIRT訓練・研修等、GSOCによる情報システムに対する不正な活動の監視等の取組を通じて、政府機関等全体としての対策水準の向上を推進している。また、GSOCについては、昨今の巧妙化・高度化が進むサイバー攻撃に対応できるよう、要素技術の実証等を進め、システムの不断の改善を行うとともに、横断的なアタックサーフェスマネジメントと一体的な運用を行うことによる効果的な脆弱性対策やプロテクティブDNS(PDNS)の導入等により、幅広い関係主体のセキュリティレベルを同時に底上げするとともに、GSOC監視等の政府機関等向けのオペレーションを強化している。
      • 重要インフラ等においては、重要インフラ事業者等におけるサイバーセキュリティ確保に関する政府機関の施策の基準として「重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準」(重要インフラ統一基準)について、2026年10月の施行に向け取り組んでいる。
      • 国際連携の推進においては、我が国のサイバー分析・対処能力の向上を目指し、同盟国・同志国等との間で大臣級を含む様々なレベルでの連携強化を行っており、日英間では、2026年1月、サイバー安全保障に関する両国の協力関係を「戦略的サイバー・パートナーシップ」に格上げした。また、サイバー空間における国際秩序の維持・発展に寄与するため、国連やG7等の国際的なルールの形成に積極的に参画し、2025年6月、G7サイバーセキュリティWGにおける議論の成果として、IoTセキュリティ及びSBOM for AIに関する合意文書が発出された。このほか、2025年8月、「Salt Typhoon」に関する米国政府主導のサイバーセキュリティアドバイザリーへの共同署名を始め、パブリック・アトリビューションや国際文書等における連携を強化するとともに、インド太平洋地域における対応能力向上のための支援に取り組んでいる。さらに、2025年12月、官民ハイレベルダイアログを開催するとともに、2026年3月にチェコ共和国で開催されたサイバー・チャンピオンズ・サミット2026に飯田内閣サイバー官が参加して同サミットの次回開催国を日本が務める旨を発表するなど、国際的なサイバーセキュリティ分野の会議にNCO幹部が登壇し、我が国のビジョンを積極的に対外発信している。
    3. 2025年度のサイバーセキュリティ関連施策の主な取組実績・評価
      • サイバー対処能力強化法等の施行に向けた対応を始め、「サイバーセキュリティ2025(2024年度年次報告・2025年度年次計画)」に記載された年次計画や新たなサイバーセキュリティ戦略に掲げたサイバーセキュリティ関連施策は、これら計画・戦略に照らして、着実に進められている。
      • その一方、我が国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面するとともに、AIの著しい技術的進展等も相まって、サイバー空間を取り巻く情勢は厳しさを増しており、関係施策の一層の強化、AIを含めサイバー空間を取り巻く状況変化を踏まえた機動的な対応が求められる。
      • 2025年度の主なサイバーセキュリティ関連施策の進捗状況
        1. 深刻化するサイバー脅威に対する防御・抑止
          • DDoS攻撃事案とランサムウェア事案に係る報告に関して、サイバー攻撃による被害発生時のインシデント報告様式の統一
          • 基幹インフラ事業者等による国への特定重要電子計算機の届出やインシデント報告のための情報共有基盤の整備に向けた準備
          • サイバー脅威情報の集約・分析のための体制・基盤の整備
          • アクセス・無害化措置の円滑な施行に向けた「アクセス・無害化措置の運用に関する指針」の策定
          • サイバー対処能力強化法に基づく基本方針の策定及び関係政令の公布
          • サイバー対処能力強化法に基づく新協議会の立上げ(2026年10月)に向け、協議会の運営形態や関連規約の検討
          • 脅威ハンティングの普及促進、実施等に関する基本方針の策定に向けた検討
          • 重要インフラ事業者等、重要インフラ所管省庁等が参加する全分野一斉演習の実施
          • 大臣レベルを含む意見交換の実施等を通じた二国間協力強化、G7サイバーセキュリティワーキンググループ等の多国間枠組み等の連携強化
          • 同盟国・同志国によるパブリック・アトリビューションへの積極的参画や、多国間協力のもと作成された技術文書等への共同署名
          • 国際会議への参加等を通じた、積極的な我が国の意見表明や情報発信
        2. 幅広い主体による社会全体のサイバーセキュリティ及びレジリエンスの向上
          • 重大インシデントからの教訓・対策や最近の技術動向等を反映した「政府機関等の対策基準策定のためのガイドライン」の改定
          • ISMAP管理基準改定案を公表する等の「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度」(以下「ISMAP」という。)の見直し
          • デジタル庁における常時リスク診断・対処(CRSA)システムの運用開始やGSSにおける業務端末の脆弱性等を対象にしたリスク診断の取組
          • サイバーセキュリティ人材の育成・確保及び体制の強化に向けた「デジタル人材確保・育成計画」の改定、定員増加による体制整備、研修等
          • 政府機関等、地方公共団体向けの実践的サイバー防御演習(CYDER)による人材育成
          • 重要インフラ統一基準の施行に向けた取組
          • 地方公共団体が実施するセキュリティ対策経費に係る地方財政措置の拡充や、「地方版ASMシステム」の基盤整備に向けた検討
          • JC-STAR(IoT製品のセキュリティ要件適合評価及びラベリング制度)の制度整備等
          • 企業がとるべきサイバーセキュリティの基準・可視化の枠組みを構築するSCS評価制度の構築方針案の公表
          • サプライチェーンにおける重要性を踏まえた上で満たすべき対策を提示しつつその状況を可視化する仕組みを構築するSCS評価制度(サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度)の制度構築方針の公表
          • SCS評価制度によるセキュリティ対策を伴走支援するためのサービスとして「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の新たな類型の創設に向けた検討を行う等の取組
          • 産官学民で連携した普及啓発活動である「サイバーセキュリティ月間」の実施
          • 証券口座への不正アクセス・不正取引の急増等に関し、日本証券業協会を含む金融関係協会に対する各種対策の促進等の要請
        3. 我が国のサイバー対応能力を支える人材・技術に係るエコシステム形成
          • サイバーセキュリティ人材フレームワークの策定
          • 民間企業・教育機関等が実践的演習を容易に開発・実施可能とする演習基盤「CYROP」の構築、分野に応じた演習に必要となる
          • セキュリティノベーター育成プログラム(SecHack365)、セキュリティ・キャンプ、サイバーセキュリティを含む数理・データサイエンス・AI教育プログラムの新たな認定等を通じたサイバー人材育成の推進
          • 経済安全保障重要技術育成プログラムやAIPプロジェクト等を通じた、サイバーセキュリティに関する技術・研究開発
          • CYXROSSセンサーの政府機関等への導入による情報収集・分析を強化する取組の推進
          • IPAにおける有望なスタートアップ製品・サービス等の調達等に向けた取組の推進
          • AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドラインの策定
          • AIセーフティ・インスティテュート(AISI)におけるAIに対する既知の攻撃手法とその影響を整理したドキュメントの公開を始めとする、AIセーフティに関連する各種ドキュメントの策定・拡充
          • AISIの機能強化に向け、評価ツールの開発や、セキュリティの観点を踏まえた分析・評価能力の確立等に関する準備・検討
          • 「政府機関等における耐量子計算機暗号(PQC)利用に関する関係府省庁連絡会議」の立ち上げ、中間とりまとめの実施
          • CRYPTREC1暗号リストへの耐量子計算機暗号(PQC)の追加や、CRYPTRECにおける耐量子計算機暗号ガイドライン及び調査報告書に関する検討
        4. 特に強力に取り組むべき施策
          • 2025年11月、内閣に設置された日本成長戦略本部において、分野横断的課題の一つとしてサイバーセキュリティが挙げられた。その後、2026年7月に閣議決定された日本成長戦略において、分野横断的課題としてのサイバーセキュリティについて、講ずるべき政策パッケージが示された。
          • また、AI技術が急速に進展・普及し、サイバー攻撃にAIが悪用されることで、攻撃のスピード・規模が劇的に増加するなど、サイバーセキュリティにおける脅威に直面している状況であることを踏まえ、2026年5月、重要インフラ事業者等への対応と、脆弱性の発見・修正等の対応の双方の観点からAI性能の高度化を踏まえた政府全体としてのサイバーセキュリティ対策パッケージ「Project YATA-Shield」を取りまとめた。
          • このことを踏まえ、日本成長戦略における分野横断的課題としてのサイバーセキュリティへの対応及びAI性能の高度化を踏まえた政府全体としてのサイバーセキュリティ対策パッケージ「Project YATA-Shield」を、2026年度の「特に強力に取り組むべき施策」に位置づける。

金融庁では、2019年以降、金融機関において発生したシステム障害及びサイバーインシデントに関する分析レポートを継続的に公表してきましたが、2025年6月には、「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポート」として再構成して公表しています。2025事務年度においても、近年の地政学リスク、サイバーリスク及びサードパーティリスク等の高まりに加え、金融機関の業務運営及び顧客サービスがIT・デジタル基盤に一層依存する状況を踏まえ、金融分野におけるITレジリエンスの強化に資する観点から、本レポートが取りまとめられました。以下、紹介します。

▼ 金融庁 「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポート」の公表について
▼ 「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポート」の概要
  • 金融庁では、2019年以降、金融機関において発生したシステム障害に関する分析レポートを継続的に公表してきたが、2025年6月には、 「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポート」として再構成して公表した。2025事務年度においても、近年の地政学リスク、サイバーリスク及びサードパーティリスク等の高まりに加え、金融機関の業務運営及び顧客サービスがIT・デジタル基盤に一層依存する状況を踏まえ、金融分野におけるITレジリエンスの強化に資する観点から、本レポートを取りまとめている。
  • 本レポートのメッセージ
    • 金融業界におけるITの複雑化、サードパーティへの依存の高まり、サイバー攻撃の高度化等を背景として、金融機関の経営ひいては金融システムの安定に影響を及ぼし得るリスクが一層高まっている
    • 金融機関の経営陣は、ITリスク及びサイバーリスクを経営上のトップリスクとして認識し、自組織のガバナンス、管理態勢、投資、人材育成並びにサードパーティリスク管理について不断に見直し、その実効性を継続的に高めていく必要がある
    • 対策を講じていたとしてもなお障害又はインシデントは発生し得るとの前提に立って、ITレジリエンスを強化する必要がある
    • 当庁としては、金融機関の自助及び金融業界の共助を促進するとともに、検査・モニタリングに加え、意見交換、情報共有、ガイダンスの提供、演習等の機会の提供といった公助の取組みを推進していく
  • システム障害に関する分析
    1. サイバー攻撃、不正アクセス等の意図的なもの
      1. 障害傾向
        • マルウェア感染(委託先含む)
        • ボイスフィッシング詐欺
        • DDoS攻撃
      2. 課題・対応
        • 委託業務の重要度見直し、統制の実効性確保(実地調査・第三者評価等によるチェック体制強化)、リモートアクセスを含む脆弱性管理の高度化、多要素認証や特権アカウント管理の強化
        • 注意喚起や相談受付態勢整備、認証・取引時のモニタリング、リスクに応じた取引管理強化等
        • DDoS対策ツール、アクセス制限、攻撃元ブロック等の防御対策の見直し、早期検知・復旧や業務継続に関する態勢整備、通信事業者との連携強化
    2. システム統合・更改や機能追加に伴い発生
      1. 障害傾向
        • 障害発生時の影響見誤り、無影響確認テスト不足
      2. 課題・対応
        • 障害発生時の影響を踏まえたプロジェクト体制構築、無影響確認テスト基準の明確化等による検証態勢強化
  • 日常の運用・保守等の過程の中で発生
    1. 障害傾向
      • サードパーティ(サービス)の障害による影響
      • 冗長構成が機能しない等の障害
      • システム障害発生時の復旧不芳
    2. 課題・対応
      • 障害箇所の早期特定と障害箇所の切り離し機能構築等の復旧対応整備
      • 委託先管理の強化(委託先への監査・統制の厳格化)、セカンダリーデータセンターへの切替テストの実施等による冗長化設計の実効性確保
      • 障害箇所の早期特定・影響範囲拡大抑止のための対応態勢整備、復旧手順の実効性確保
  • プログラム更新、普段と異なる特殊作業等から発生
    1. 障害傾向
      • 災害対策システム試験における影響範囲の評価誤り、障害対応態勢の整備不足
    2. 課題・対応
      • 本番システムへの影響に関するリスク評価徹底、障害発生時における顧客対応を含む対応態勢整備、平時から研修・訓練を通じた実効性確保
  • ITガバナンス高度化に係る実態把握
    1. IT戦略
      • 経営戦略とIT戦略の連携は相応に進展し、生成AIやデータ利活用等のDX施策の推進が確認された。
      • 一方で、IT戦略の策定に当たっては、各部門の要望を積み上げるだけではなく、目指すべきビジネスの姿やそれを支えるデータ・システム基盤等を整理した上で、中長期的な方向性と重点施策を明確化していくことが有用と考えられる。
      • また、重点施策の実効性を確保する観点からは、進捗確認にとどまらず、追加投資や計画修正等の経営判断に資するKPIを設定し、継続的に活用することが有用と考えられる。
    2. ITコスト
      • ITコストについては、基幹系以外の周辺システムを中心とした保守・維持費用の割合が高く、その割合も増加傾向にある一方、戦略的な新規開発(前向き投資)の割合は相対的に低水準にとどまっている。
      • ITコスト分析については、新規開発など使用目的別の割合やその推移に加え、ITコスト総額の増減、保守・維持費用等の継続的に発生する費用の割合、主要案件の内容及びIT投資額の状況を合わせて確認し、戦略領域への資源配分の実態を把握することが有用と考えられる。
    3. IT人材
      • IT人材については、採用等に一定の進展が見られる一方、高度専門人材の確保・育成等の課題は依然残っている。
      • こうした状況を踏まえると、経営陣が積極的に関与する形で、自組織で保有すべき能力と外部連携により補完すべき能力を整理した「人材ポートフォリオ」の視点で捉えることが期待される。その上で、中長期的な人材像やスキルを明確化し、育成・評価・キャリアパスの整備を進めていく必要がある。
      • その際、競争領域か否かや、顧客影響、専門性等を踏まえ、自組織と外部活用の領域を見極めることが重要である。
    4. 共同センターの利用実態
      • 地域銀行では、共同センターの利用により、ITコストの削減やリソースの最適化が進む一方、障害影響の拡大や開発・運用スキルの低下、開発自由度の低下等のリスクも認識されている。
      • 共同センターの利用に当たっては、こうしたリスクの性質を踏まえ、自行が利用するシステム・サービスの内容やリスク特性について必要な理解を維持し、障害時や更改時等に適切に確認・判断できる態勢を確保していくことが重要である。
    5. 共同センター運営におけるガバナンス
      • リーダー行の設置や会議体を通じて、加盟行の意見を集約し意思決定を行う枠組みが一定程度機能している一方、一部では、要件調整等に課題認識を持ち、ベンダー主導で意思決定が行われている状況も見られる。
      • 運営に当たっては、投資の方向性、サービス水準、コスト構造、リスク対応方針等について、加盟行が主体的に関与し、判断できる状態を維持することが重要である。このため、ベンダーが主導する領域と、銀行が責任を持って判断すべき領域を整理し、加盟行側の関与と説明責任を確保することが、ガバナンス確保の観点から有用と考えられる。
    6. 共同化範囲の拡大
      • 地域銀行では、人件費やシステムコストの上昇等を背景に、共同化を進めることで負担軽減につながる可能性がある。
      • こうした中で、共同化範囲の拡大は単なるコスト削減策にとどまらず、非戦略領域の標準化・効率化を通じて、限られたIT投資やIT人材を戦略領域へ再配分するためのITガバナンス上の取組みとして位置付けることが重要である。
      • 一方で、共同利用先等への依存関係が複層化し、障害時の影響波及や集中リスクが高まる可能性もあることから、効率性とレジリエンスの両面を踏まえた検討が求められる。
  • フロンティアAI等の発展やサードパーティへの攻撃等、サイバーセキュリティの脅威は高まっている
    • サイバー攻撃の脅威の変化を的確に捉え、経営トップのリーダーシップにより、必要なリソース配分を含めた意思決定を行う必要
    • 従来の対策の延長にとどまらず、サイバーハイジーン、多層防御及びレジリエンスのより一層の強化を図る必要
      1. フロンティアAI等の発展
        • 脆弱性が短期間に大量に発見される可能性
        • 脆弱性の発見から攻撃開始までの時間が大幅に短縮し、従来のパッチマネジメント手法が通用しない恐れ
        • 高度なサイバー攻撃が増加する懸念
        • 金融庁・日本銀行から金融業界に対し、短期的な対応に関する要請文を発出
      2. ランサムウェアの猛威
        • ランサムウェア被害は依然として高水準で推移。金融業界以外において、ビジネスや顧客に甚大な影響を及ぼすような事例も複数発生
        • 「金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン」に基づく検査・モニタリング等により、金融業界全体のサイバーセキュリティ態勢の底上げ
      3. サードパーティへの攻撃
        • サードパーティに由来するサイバーインシデントで金融機関の業務や顧客が影響を受ける事例が発生
        • 諸外国の金融機関におけるサードパーティ・サイバーセキュリティリスク管理に関する委託調査を実施⇒上記委託調査やモニタリング等を通して、実効性のあるサードパーティリスクの管理強化を推進
      4. 不正アクセス・取引等の被害
        • フィッシングサイト等で窃取した顧客情報(ログインID・パスワード等)による証券口座不正アクセス・取引被害が発生
        • 2025年の不正送金被害額は約104億円(前年比約1.2倍)。そのうち約9割がフィッシング
        • フィッシング耐性のある強固な多要素認証(パスキー等)による認証強化等を推進(要請文及び監督指針等の改正並びに広報活動)
  • AIによるサイバー脅威の変化への対応
    • AI技術が急速に進展する中、サイバー攻撃の速度・規模が劇的に加速・拡大するなど、サイバーセキュリティを巡る脅威が急速に高まっている。
    • 金融庁では、「AI脅威に対する金融分野のサイバーセキュリティ対策強化に関する官民連携会議」等を通じて金融業界とIT業界、政府・日本銀行等の連携強化を図るとともに、金融機関等における短期的な対応の強化に向け、要請文を発出し、更なる対応を促している。
    • AI脅威に対しても、「金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン」に基づく対策を着実に実行していくことが引き続き重要。
    • 要請文の概要
      1. フロンティアAIへの対応を経営課題として扱う
        • 経営トップは、フロンティアAIへの対応をIT部門にとどまらない全社的な経営課題として扱い、関係部門が横断的に連携して対応できるようにする。
        • 経営トップのリーダーシップの下、CIO、CISOをはじめとする経営層が直接関与する。
      2. 優先的に対応すべきサービス/ITシステムを特定する
        • 優先的に対応すべきサービス/ITシステムを特定し、リソースを重点的に配分する等、リスクベースで対応する。(例:インターネットバンキング)
        • 当該システムが共同運営形態で提供される場合、利用側・提供側双方での十分な認識共有、責任分担の明確化が必要である。
      3. 特定した資産の技術負債を解消しておく
        • 脆弱性発見時にパッチ適用対象を即時に特定できる状態を確保する。
        • 特権ID削除や未対応パッチの適用等により技術負債を極力解消することで、迅速なパッチ適用が可能な状態を確保する。特にサポートが終了している製品は、サポート対象のバージョンへ更新
      4. パッチ適用に係る人的リソースを追加する
        • 金融機関等やベンダーにおいてパッチ適用に係る人的リソース追加を検討する。
        • 脆弱性の優先度判断に係る評価体制についても、上記同様に人的リソースを確保する。
      5. ベンダーとの維持保守契約の内容を確認する
        • (1)パッチ適用作業が現行の維持保守契約に含まれていること及び役割分担が明確であること、(2)緊急にパッチ適用作業が必要な場合に、夜間・休日等も含めて適時に対応可能な契約内容となっていることを確認する。
        • べンダー側で必要なリソース確保状況を確認しつつ、リソースがひっ迫すること等も想定し、パッチ適用の遅延に係るリスク受容等のプロセスを整備する。
      6. パッチ適用プロセスをリスクベースにする
        • 発見された脆弱性が自組織のサービス/ITシステムに及ぼし得る影響と攻撃が成立する蓋然性も踏まえた評価に基づき、よりリスクの高い脆弱性から対応する。
        • パッチ適用作業に係る事前のテストについて、想定されるリスクを総合的に勘案し、テスト実施内容の合理的な縮小等の対応も検討する。
      7. パッチ適用以外の対策も強化する
        • パッチ適用そのものが困難である場合等は、仮想パッチの適用やボット対策の導入等により、多層防御の強化を図る。
        • ネットワーク分離の実施、特権IDへの多要素認証の導入等による防御能力の強化や内部侵入後の横展開への対策等を講じる。
        • パッチが適用できないことによる残存リスクを評価した上で、パッチ適用に要する期間を踏まえた適切なリスク受容手続を講じる。
      8. 優先サービス/ITシステムの停止に備える
        • サイバー攻撃によりITシステムが停止する場合を想定する。システムを能動的に停止させざるを得ない場合もあらかじめ選択肢として検討する。
        • BCPの有効性や顧客等への対応手順、緊急時の連絡体制等を点検する。
        • 能動的なサービス/ITシステム停止の判断基準及び手順を明確にしておく。
        • サードパーティが提供するソフトウェアやサービスの停止に備える。
      9. 外部との連携を維持・強化する
        • 金融ISACや各業界団体・コミュニティ、当局等からの情報に積極的にアクセスし、 必要な情報収集をする。
        • 自組織での取組を金融ISAC等の共助コミュニティで積極的に共有し、金融分野全体の強靭性の向上に努める。

その他、サイバーセキュリティを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • ニチレイがサイバー攻撃を受けた問題について、2026年7月13日にシステム障害を確認し、ネットワークを遮断して外部専門機関と協力のうえ復旧作業を進めた結果、バックアップデータを用いて比較的短時間で段階的に冷凍倉庫の入出庫や出荷業務を再開し、週内に通常稼働に戻ることができました。ただ、障害はランサムウェアを常用する「ランサムハウス」を名乗るハッカー集団による攻撃とされ、同集団はインターネット上で犯行声明を公表し、盗んだと主張する社内総務・人事・経理や取引先情報などのデータを公開しました。ニチレイは被害を受けたサーバの一部に個人情報が保管されていたため漏洩の可能性があるとして、対象者へ通知を行っていますが、漏洩の具体的な内容や規模は明らかにしていません。身代金の支払いの有無については同社が公表を控えており、身代金や交渉期限に関する明確な言及は確認されていません。また、ランサムウェア被害ではバックアップ自体が標的にされることが多く、復旧に時間を要するリスクがあると指摘されており、警察庁の調査では2025年に被害を受けた企業・団体99件のうちバックアップ復元に成功したのは約2割にとどまり、通販大手アスクルが2025年10月の攻撃でバックアップデータが暗号化され全面復旧に3カ月以上かかった事例もありました。このため、神戸大名誉教授の森井昌克氏は、アサヒグループHDやアスクルの教訓を踏まえ、ニチレイが緊急時にバックアップを即時稼働できるよう準備していた点を評価しています。ニチレイは国内で低温物流最大手として約5000社と取引しており、システム障害により商品供給が滞った結果、小売店や外食店など広範囲で営業時間短縮や欠品、入荷遅延といった影響が一時的に発生したものの、同24日には全拠点で通常稼働に復旧したといいます。一方、個人情報漏洩の可能性やデータ公開の事実があるため、同社は引き続き被害調査と対応、関係先への影響把握を進める必要があります。
  • アサヒグループHDは、2025年12月期決算を公表し、2025年9月に受けたランサムウェア攻撃の影響でシステム障害による被害額が総額約400億円に達したと発表、国内販売の落ち込みで売上高は前年比1.5%減の2兆8946億円、営業利益は30.9%減の1858億円となり、開示が約5カ月遅れたことを社長が謝罪しました。この問題を受けて、首脳陣4人が月額報酬の20%を3カ月間返上すると表明し、営業減益の主因は出荷できなかった商品の廃棄や復旧にかかる人件費、広告・販促費のキャンセルなどで約170億円が費やされたことや、海外事業での減損損失が響いたことだと説明しています。ランサムウェアは「Qilin」を名乗る集団によるもので、アサヒの内部資料や従業員の個人情報など計少なくとも27ギガバイトのデータ流出を主張し、実際に確認された個人情報は11万5500件に上りました。物流業務は2026年2月に正常化し全商品の供給は同4月に再開されましたが、受注が急増した競合他社が安定供給のために歳暮用ギフト商品を販売停止するなど業界全体にも影響が波及しました。これらを受けてアサヒGHDは被害の実態把握と再発防止を図る一方で、業績回復と信頼回復に向けた対応を進めています。
  • 米グーグルとロイターによれば、過去1か月にわたりランサムウェア攻撃を行うハッカー集団が電話を用いた手口で米国の大手金融機関や関連企業数十社を標的にし、ブラックストーンやブリッジウォーター、アポロ、ベイン、KKR、TPG、CMEグループ、クリアレイク、ムーディーズなどの従業員からパスワードを盗み出すことを狙って72件の偽ウェブサイトを作成していたといいます。グーグルはこれらの集団を「Redact」「Pink」「Falcon」「Helix」などと指摘し、最近はプライベートエクイティ(PE)企業や法律事務所、格付け機関などを新たに標的にしていると述べています。専門家は、高度なサイバー対策やAIによる脅威が増すなかでも古典的なソーシャルエンジニアリングや電話詐欺といったローテク手法が依然として有効であることを示していると指摘しています。手口は勤務先のヘルプデスクを装って従業員の個人携帯に接触し、正規の番号を表示させるなどして信頼を獲得したうえで、パスキーや多要素認証の更新を促す緊急指示に見せかけた偽サイトへ誘導し、従業員が認証情報を入力すると通話越しにリアルタイムで受け取った確認コードでアカウントを乗っ取るというものでした。被害企業の特定は困難であり、グーグルは一部企業が身代金を支払った可能性を示唆していますが、匿名のままです。ハッカー集団の正体や相互関係は不明で、関係を否定する声明を出したグループもある一方で、いくつかは提携関係を認めるなどのグループもあります。
  • ロシア系とみられるハッキング集団「Cl0p(クロップ)」が英シェルと蘭フィリップスを標的にサイバー攻撃を行い、シェルからは施設図面や検査報告のスキャンなど約89ギガバイト、フィリップスからは約13ギガバイトのデータを盗んだと主張しています。シェルはセキュリティチームと協力して調査中と述べ、フィリップスは特定の社内サーバに対する攻撃未遂を封じ込め、顧客への影響はないと説明しています。Cl0pは企業向けファイル転送ソフトの脆弱性を悪用して多くの組織から内部情報を窃取し身代金を要求する手口で知られ、2023年には金融機関や政府機関を含む多数の組織が顧客情報や従業員給与情報の流出被害を受けました。これら一連の攻撃は重要インフラや金融分野の機密性の高いデータが狙われており、技術的対策だけでなく従業員教育や認証手順の強化といった人的対策の必要性を改めて浮き彫りにしています
  • 米ミネソタ州を発端に、米国内の複数州で水道施設を狙ったサイバー攻撃が確認され、当初、同州で30か所超の水道施設が侵害されたと発表されてから被害は少なくとも7州に拡大したと報じられています。州当局や連邦捜査当局、民間企業が合同で調査を進めており、現時点で市民の飲料水への影響や安全性に重大な被害は確認されていませんが、一部自治体では制御システムの侵入により機能停止や給水網の不具合が生じ、バックアップで約90分後に復旧した事例もありました。ニューヨーク・タイムズなど複数の報道によれば、侵入手口の特徴や攻撃の性質から暫定的にイランのハッカー関与の可能性が高いとされ、米当局も攻撃元の特定を急いでいるといいます。また、2026年2月に米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始して以降、イラン側とみられる米国に対するサイバー攻撃が増加しており、こうした背景が今回の攻撃と関連するとみられています。専門家は、老朽化した米国の水道インフラが長年にわたりサイバー攻撃の脆弱点とされてきたことを改めて警告、今回の事案がインフラ防護の重要性を浮き彫りにしたと指摘しています。こうした状況で政治的な駆け引きもあり、トランプ大統領はイラン関与を否定するとともに民主党の州当局を非難し、州知事は「現代の戦争」と反論しています。調査は継続中であり、攻撃の正確な主体や手口、影響の全容解明が今後の焦点となります。

韓国のサイバーセキュリティ企業Geniansが明らかにしたところによれば、北朝​鮮政府系のハッカー集団「Kimsuky」が大規模言語‌モデル(LLM)ツールを構築し、サイバー攻撃の自動化、盗んだデータの分析、より説得力のあるフィッシン​グ攻撃の展開に役立つソフトウェアを収​集していたといいます。同社は、KimsukyがOllama、GPT4All、MstyといったAIモデ⁠ルをローカルで実行・管理するためのツール​に加え、「検索拡張生成(RAG)」として知られる文書​検索技術を構築していた証拠を発見したといいます。同社によれば、これらのツールにより、オペレーターは機密​情報を外部のAIサービスに送信することなく、​文書を処理できるようになるといいます。Geniansはまた、Kimsukyの活動に関連するとみ‌られ⁠るインフラ上で、AIエージェント開発フレームワーク、音声認識ソフトウェア、およびAI支援型コーディングツール「Cursor」も発見、Geniansは報告書の中で、今回​の発見は、Kimsukyがフィッ​シングの餌と⁠なるコンテンツを作成するための生成AIの利用にとどまらず、既存のAIモデ​ルをマルウェア開発、データ分析、​攻撃⁠の自動化に統合する能力を構築しつつあることを示唆していると述べています。また、金融や暗号資産分野の公式文書に似せてAIで​生成したとみられる文書も発見したといいます。

警察庁と総務省は、家庭用IoT機器がサイバー攻撃の「踏み台」とされる深刻な問題に対処するため、官民連携の協議会を設置し対策を強化することを発表しました。家庭のスマホやルーター、テレビ接続機器などが利用者の知らないうちに不正アクセスの発信源にされると、攻撃先のサーバに当該家庭のIPアドレスが記録され、攻撃者の追跡が困難になり、海外アクセス制限など既存の対策をかいくぐられるおそれがあります。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の調査では、2026年1月以降で1日平均最大2万7000件の家庭向けIPアドレスが悪用されていたと推定され、警察庁のまとめでは2024年のインターネットバンキング不正送金被害のうち、約33%に当たる28.9億円(1918件)がこうした踏み台利用によるものだとしています。踏み台化の経路は、機器の設定の脆弱性を突かれるケースや、流通過程でマルウェアが埋め込まれるケースがあり、具体例としては「未使用の通信量を共有して収益が得られる」とうたうアプリや「無料で動画が視聴できる」と宣伝するテレビ接続機器を介してマルウェアに感染する事例が報告されています。こうした実態を踏まえ、官民は攻撃手口や対策を通信事業者や業界団体と共有するとともに、不審なアプリや機器を利用しないよう国民に注意喚起を行い、2026年8月下旬に東京都立大の星周一郎教授を座長とする初会合を開く予定です。今後は攻撃の実態把握を共有基盤として、家庭用機器の安全設計や出荷・流通段階での検査強化、通信事業者側での異常検知と利用者への通知、利用者側での初期設定の見直しや不審アプリの排除といった多層的な対策の協調が想定されています。本件については、被害の多くが金融詐欺や不正送金に結びついている現状を踏まえ、単に技術対策を講ずるだけでなく、利用者教育や普及啓発も重要であり。警察庁は2026年内に通信事業者や業界団体と会合を重ねる計画です。これらの取り組みにより、家庭用IoT機器が踏み台にされるリスクを低減し、金融被害や広範なインフラ攻撃の芽を摘むことが期待されます。

▼ 警察庁 家庭用IoT機器を悪用したサイバー攻撃への官民一体となった対策の推進について
  • 「家庭用IoT機器を悪用するレジデンシャルプロキシの現状」の公開及び「レジデンシャルプロキシ対策アライアンス」の設立
    • 昨今、家庭用のIoT機器を踏み台として悪用することで発信元を一般家庭に偽装させ、所在や身元を隠しながら行われるサイバー攻撃が発生しています。
    • このような踏み台となるIoT機器は「レジデンシャルプロキシ」と呼ばれ、令和6年にはインターネットバンキングに係る不正送金事犯の被害額のうち少なくとも約30億円がこれらを経由した攻撃により生じたものであることが判明しています
    • 警察庁及び総務省は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)等と連携し、レジデンシャルプロキシに係る不正なIoT機器のセキュリティ対策を推進するための検討を進めてきたところ、「レジデンシャルプロキシ」の悪用実態や対策について取りまとめましたので公開します。
    • また、社会全体での対策の推進のため、多岐に渡る主体が連携して対応を協議する「レジデンシャルプロキシ対策アライアンス」を設立します。
  • 「レジデンシャルプロキシ」について
    • 警察庁及び総務省は、NICT等と連携し、レジデンシャルプロキシに係る不正なIoT機器のセキュリティ対策を推進するための検討を進めてきました。検討の過程で、レジデンシャルプロキシの概要や悪用実態、IoT機器等の利用者向けの対策について整理し、「家庭用IoT機器を悪用するレジデンシャルプロキシの現状」として取りまとめましたので公開します。
  • レジデンシャルプロキシ対策アライアンスの設立
    • 家庭用IoT機器が「レジデンシャルプロキシ」となる経緯には様々な場合が存在するとみられ、その中には、機器の利用者が自身の機器が悪用されていることを認識していない場合も多くあります、そのため、機器の利用者の中に、レジデンシャルプロキシの実態を知っていただくことが必要です。
    • また、サイバー空間の公共空間化がますます進展する中、複雑・巧妙な手口でIoT機器のレジデンシャルプロキシ化が行われている現状を踏まえると、業界団体、電気通信事業者、セキュリティ事業者等の多岐に渡る主体が社会的責務を認識しながら連携し、社会全体でその抑止にあたる必要があります。
    • こうした背景を踏まえ、周知広報方策や関係者が連携した対処の方針、必要な環境整備について協議することを目的として、「レジデンシャルプロキシ対策アライアンス」を設立します。
▼ 「家庭用IoT機器を悪用するレジデンシャルプロキシの現状」
  • 昨今、通信を中継する踏み台として家庭用IoT機器を悪用することでサイバー攻撃者が自らの所在や身元を隠しながら行われる事案が多発していることが明らかとなっています。
  • 一般家庭等のインターネット回線に接続されたIoT機器が通信を中継するプロキシとして動作することから「レジデンシャルプロキシ(Residential Proxy)」と呼ばれています。レジデンシャルプロキシを経由して通信すると、通信先にはレジデンシャルプロキシとなっている一般家庭等に割り当てられたIPアドレスが記録され、本来の通信元のIPアドレスを把握することが困難となるほか、レジデンシャルプロキシに係るIoT機器は「テレビに接続して無料で国内外の動画を視聴できます」などとうたって販売されている動画ストリーミングデバイス等の形で存在しており、IoT機器の利用者の認識しないところでレジデンシャルプロキシとなっている場合もあります。
  • IoT機器を利用する皆様におかれましては、以下に示すレジデンシャルプロキシとなる仕組み、レジデンシャルプロキシとしてIoT機器が悪用されるリスクを低減するための対策例等を参考に適切な対策を講じていただくようお願いいたします。
    1. レジデンシャルプロキシの実態
      • レジデンシャルプロキシは、一般家庭向けのインターネット回線に接続されたIoT機器が第三者の通信を中継する仕組みです。通信先サーバ等のアクセスログにはレジデンシャルプロキシとなっている当該家庭等に割り当てられたIPアドレスが記録されるため、通信先の企業等において本来の通信元の把握や正規ユーザーとの判別が困難となります。また、海外からのサイバー攻撃対策として、海外からのアクセスを制限したサーバにもアクセスが可能となるなど、企業等におけるセキュリティ対策を回避しやすく、サイバーセキュリティ対策上の重大な脅威となるとともに、サイバー犯罪捜査においても深刻な障害となっています。
      • 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の調査において、本年1月以降、1日 平均で最大約27,000のIPアドレスがレジデンシャルプロキシの出口ノードとして観測されており、レジデンシャルプロキシは国内に少なくとも数万台以上の規模で存在すると推定されています。
      • 警察では、レジデンシャルプロキシが不正アクセス事犯、詐欺等のサイバー事案において攻撃者の追跡や攻撃の検知を困難にする手口として悪用されている実態を把握しており、警察庁では、令和6年中に発生したインターネットバンキングに係る不正送金事犯において、犯行時にレジデンシャルプロキシが用いられたものが少なくとも1,918件、被害額約28.9億円に及び、被害件数全体の約44%、被害額では約33%を占めると分析しています。
      • このほか、海外においては、レジデンシャルプロキシがDDoS攻撃やランサムウェア攻撃に悪用されていることも報告されています。レジデンシャルプロキシは汎用性の高い攻撃ツールであるため、今後、重要なインフラへのサイバー攻撃を含む様々な攻撃に使われていくおそれがあります
    2. レジデンシャルプロキシとなる仕組み
      • 「テレビに接続して無料で国内外の動画を視聴できます」などとうたって販売されている動画ストリーミングデバイスのほか、デジタルフォトフレーム、ルータ、ネットワークカメラ等の一般家庭向けのインターネット回線に接続して使用されるIoT機器等が次のような手口でレジデンシャルプロキシとなる事例が確認されています。
      • これらの機器やアプリ等においては、利用規約等の中にレジデンシャルプロキシとしての利用について記載されていたり、利用者の同意を求める画面が表示されていたりしても、利用者にとってわかりにくい場合があり、利用者が認識しないままレジデンシャルプロキシとしての機能が動作してしまう場合もあります。
        1. プロキシ化ソフトウェアのインストール等に伴うもの
          • プロキシ化マルウェアやアプリ
            • 壁紙設定や無料VPNサービス等のIoT機器向けのソフトウェアやアプリ等の中には、プロキシ機能を持たせるためのソフトウェア開発キット(SDK:Software Development Kit)が組み込まれたものやレジデンシャルプロキシとして動作させるためのマルウェアが含まれている場合があり、これらを機器にインストールして使用する際に利用者の端末がレジデンシャルプロキシとなる事例が確認されています。
          • 収益をうたう通信帯域提供サービスやアプリ
            • いわゆる「収益アプリ」と呼ばれる「使用していない通信帯域(データ通信量)を共有することで収益を得られる」とうたうサービスやアプリを利用することで、利用者の端末がレジデンシャルプロキシとなる事例が確認されています。
        2. IoT機器自体に仕込まれたマルウェア(不正なソフトウェア)によるもの
          • 製造過程又は流通過程で仕込まれたマルウェア
            • 動画ストリーミングデバイス等の家庭用IoT機器の中には、購入前の製造・流通段階からレジデンシャルプロキシとして動作させるために必要なマルウェアやダウンローダー等が仕込まれているものもあり、当該機器をインターネットに接続することにより、使用者の気づかないうちに自動的にレジデンシャルプロキシとして動作したり、別のマルウェアをインストールしてレジデンシャルプロキシとなったりする事例が確認されています。
          • IoT機器のぜい弱性等を突く
            • IoT機器にぜい弱性やセキュリティ設定の甘さがある場合に、外部から侵入され、レジデンシャルプロキシとして動作させるためのマルウェアが仕込まれてしまう可能性があります。
        3. レジデンシャルプロキシとして悪用されるリスクを低減するための対策例
          1. レジデンシャルプロキシとして悪用されることによる影響
            • IoT機器等がレジデンシャルプロキシとして悪用された場合、当該機器の利用者自身が直接サイバー攻撃等を行っていなくても、通信の発信元として当該IoT機器が接続されたインターネット回線契約者に割り振られたIPアドレスや回線情報が通信先のサーバ等に記録されます。そのため、利用者自身がサイバー攻撃を行った者と疑われてしまう危険性があります。
            • さらには、当該IoT機器を介して家庭内のネットワークに侵入され、情報の流出、他の機器へのマルウェア感染拡大等の不利益が生じる危険性があります。
          2.  レジデンシャルプロキシとして悪用されるリスクを低減するための対策例
            • 利用するIoT機器等がレジデンシャルプロキシとして悪用されるリスクを低減するため、利用者自身が現時点で取り得る対策例として以下を参考にしてください。
            • 提供元不明のソフトウェア、アプリ、無料VPN等を安易に利用しない
              • インターネット上で配信されている提供元不明のソフトウェア、アプリ、無料VPN等を安易にダウンロードしたり、使用したりしないでください。アプリ等は信頼できる提供元から入手するようにする、インストールする際にアプリの開発元、利用規約等を確認するなどを日頃から行ってください。
            • 収益をうたう通信帯域提供サービスやアプリを安易に利用しない
              • 「使用していない通信帯域(データ通信量)を共有することで収益を得られる」などとうたうサービスを利用することは、知らないうちに自身の端末や契約回線をサイバー攻撃者の通信に利用させることにつながります。このようなサービスを安易に利用しないでください。
            • 不審な動画ストリーミングデバイス等のIoT機器を使用しない
              • オンラインショップ等で販売されている「テレビに接続して無料で国内外の動画を視聴できます」などとうたう動画ストリーミングデバイス等の、本来有料であるはずのサービスを無料で利用できるとうたう製品や価格が相場と比較して安価であるなど不審な製品の購入、使用はしないでください。
            • OS、ファームウェア等を最新の状態に保つ
              • パソコンやスマホのOS、IoT機器のファームウェア等のセキュリティ更新を適切に適用し、既知の脆弱性を放置せず、常に最新の状態に保つようにしてください。メーカーのサポートが終了したIoT機器等は買い換えをすることも検討してください。
      • IoT 機器を利用している事業者・組織等においても、使用する端末や回線がレジデンシャルプロキシとして不正な通信に悪用されないよう、上記の対策に加え、次のような対策を講じることが重要です。
        • 組織で承認していない機器や端末の業務ネットワークへの接続を防止する
        • 業務用ネットワークとIoT機器等のネットワークを適切に分離する
        • ファイアウォールやアクセス制御の設定を適切に運用する
▼ 「レジデンシャルプロキシ対策アライアンス」
  • 趣旨
    • 昨今、家庭用のIoT機器を踏み台として悪用することで発信元を一般家庭に偽装させ、所在や身元を隠しながら行われるサイバー攻撃が発生している。このような踏み台となるIoT機器は、家庭用(レジデンシャル)のIPアドレス帯域を使ってサイバー攻撃の中継を行うことから「レジデンシャルプロキシ」と呼ばれる。
    • レジデンシャルプロキシは国内に少なくとも数万台以上の規模で存在すると推定されており、令和6年にはインターネットバンキングに係る不正送金事犯の被害額のうち少なくとも約30億円がこれらを経由した攻撃により生じたものであることが判明している。
    • 家庭用IoT機器が「レジデンシャルプロキシ」となる経緯には様々な場合が存在するとみられ、その中には、機器の利用者が自身の機器が悪用されていることを認識していない場合も数多く存在することから、機器の利用者に対する、レジデンシャルプロキシの実態の周知啓発が必要である。
    • また、サイバー空間の公共空間化がますます進展する中で複雑・巧妙な手口でIoT機器のレジデンシャルプロキシ化が行われている現状を踏まえると、業界団体、電気通信事業者、セキュリティ事業者等の多岐に渡る主体が社会的責務を認識しながら連携し、社会全体でその抑止にあたる必要がある。
    • こうした背景を踏まえ、周知広報方策や関係者が連携した対処の方針、必要な環境整備について協議することを目的として、「レジデンシャルプロキシ対策アライアンス」を設立する。
  • 議題
    • 初回の協議会における主な議題は以下のとおり。議題については、今後の状況等を踏まえ、必要に応じて追加・変更する場合がある。
      1. レジデンシャルプロキシの実態の整理
      2. 各関係者の実施事項
      3. その他

その他、海外のサイバーセキュリティを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • ドイツのメルツ政権は、対外情報機関である連邦情報局(BND)の職務範囲を従来の情報収集・分析から拡大し、外国のITインフラに対するサイバー攻撃や敵対勢力のIT資産操作などの実行権限を付与する法案を閣議決定しました。背景にはウクライナ侵略を続けるロシアによる破壊工作やスパイ活動の高まりがあり、重大な脅威が認められる場合に監督機関の審査を条件として妨害工作やサーバ停止、偽情報拡散の阻止といった「反撃」手段を発動できるようにする狙いがあります。BNDには化学兵器研究所や無人機工場のITシステムへの侵入・妨害や、国家が運用するハッカー集団のサーバ停止などが想定されていますが、ドイツでは第二次大戦や旧東独時代の監視・弾圧の歴史から情報機関の活動が制限されてきたところ、政府は「真の情報機関への改革が必要だ」として権限強化を正当化しており大きな転換点となります。なお、法案は連邦議会の可決を経て2027年1月の施行を目指すとしています。また欧州全体でもインテリジェンス機能強化の動きが加速しており、スウェーデンは軍から政府直属の新たな情報機関を設置する法案を可決して2027年に発足させるなど、ロシアの脅威と米国への不信感が大きな契機となっています。各国は軍事情報に加え政治的意図の迅速な分析や偽情報対策を重視しており、ドイツの拡大法案と同様にサイバー攻撃や供給網の寸断など能動的な対応を可能にする傾向が見られます。これに伴い欧州内での情報共有・協力強化の動きも進み、「欧州版ファイブ・アイズ」構想が議論されるなど、独・伊・ポーランド・スウェーデン・デンマークを中心に連携拡大の模索が続いています。ただ、専門家はまず二国間の協力拡充が全体のインテリジェンス能力向上につながると指摘しています。
  • 米セキュリティ企業VulnCheckが中国メーカー深セン智博通電子(Zbtlink)製の無線ルーターに関する調査を公表し、同社が公式サイトで配布している21種類のファームウエアすべてに外部から遠隔操作を可能にする「バックドア」機能を検出したといいます。VulnCheckのCTOは世界で少なくとも10万台が設置されていると推定し、この仕組みを「エンドレスドアーズ(無限の扉)」と命名しています。バックドアはルーター起動時に自動で作動し、約35秒ごとに特定IPや中国ドメインと通信してサーバからの命令を管理者権限で実行しますが、通信相手を認証する仕組みがなく、通信先の管理者がルーターや同一ネットワーク内の端末を乗っ取る可能性があると指摘されています。対象はZbtlinkやWiflyerブランドの製品に加えOEM供給先にも及ぶ可能性があり、VulnCheckは意図的に組み込まれた機能と判断して事前通知せず公表し、利用者に製品そのものへの信頼の問題として警告しています。ただし、現時点でこの機能が実際に悪用された証拠や中国政府など国家主体の関与を示す証拠は公表されていません。これを受けて智博通電子は指摘後に販売を停止し、一方で同社は不正アクセスに使われた形跡はないと主張しています。米国では中国製通信機器への警戒が強く、米連邦通信委員会は海外製家庭用ルーターの新規輸入を禁止すると発表し、テキサス州司法長官が中国系メーカーTP-Linkを提訴するなど規制と訴訟が続いています。バイデン政権時代以降もファーウェイなど中国企業製品への販売禁止措置が続いているところです。一方、中国側でも動きがあり、国家インターネット情報弁公室は米情報セキュリティ大手パロアルト・ネットワークスの中国で販売される製品のネットワーク安全性を審査すると発表し、ソフトや機器の安全性を国家安全法に基づき確認するとしています。パロアルトは高度なサイバー防御製品を提供する企業ですが、中国本土ではVulnCheckのZbtlinkに関する報道は一部ネットメディアを除き大きく扱われておらず、智博通電子の製品は十数か国に輸出され累計出荷数は公表で約2000万台にのぼるとされます。さらに、英国内でも中国製部品に起因する懸念が浮上しており、英紙テレグラフは英海軍が使用する偵察用無人艇のカメラに中国製部品が使われ、正常稼働を示す信号が中国のIPアドレスに送信されていたと報じています。英国防省は当該カメラのインターネット接続機能を全て無効化し、機密情報が送信された形跡はないと説明していますが、同無人艇はホルムズ海峡での航行の自由確保計画に組み込まれていたことから、安全保障上の懸念が高まっています。これら一連の事例は、中国製部品や機器に潜むバックドアなどのリスクが国際的な通信・防衛分野で注目され、各国が製品の信頼性と供給源の監視・規制を強化する動きにつながっています。

AIの暴走が現実のものとなりました。あらためてAIと人間の関係性に立ち返る必要がある今、手塚治虫氏の漫画「火の鳥」が再評価されているといいます。2026年7月22日付日本経済新聞の記事「「火の鳥」が問うAI時代」は、大変示唆に富む内容で、多くの方に読んでいただきたいと思います。長くなりますが、引用すると、「漫画の神様・手塚治虫の不朽の名作「火の鳥 未来編」が静かに再評価されている」、「経済界でも関心は強い。AIや量子に代表される革新的技術が急速に進歩する中、「火の鳥」が、人間とは何か、幸せとは何かという本質的な問いを投げかけているからであろう。物語では、国家は高度に進化したコンピューター(AI)によって統治される。人間はあらゆる判断をAIに委ねるようになる。そして、AI同士の判断によって全面戦争に突入し、超水爆によって人類は滅亡する。主人公だけは世界で唯一、永遠の命を授かる。人類滅亡後、数十億年にも及ぶ孤独な時を生き続け、新たな生命と文明の誕生を見届けるという過酷な宿命を背負うのである。漫画の連載開始は1967年、今から約60年前である。にもかかわらず、その壮大な構想と現代にも通じる普遍的なテーマは、今なお色あせることがない。AIが人類を滅亡に導くという設定も単なる漫画の世界のこととして片付けることはできない。AIのゴッドファーザーと称されるトロント大学のヒントン教授も、「AIは人類の存亡に関わる脅威となり得る」と警鐘を鳴らす。人類滅亡は極端な最悪シナリオだが、私たちが直視すべきは社会が現実に直面しているリスクである。誤情報や誤判断、権利侵害、サイバーセキュリティ、雇用の不安定化、格差の拡大、電力消費の急増、民主主義の後退、さらには軍拡競争など、論点は多岐にわたる。AIのリスクをいかに管理するのか。何をAIに委ね、何を人間が担い続けるのか。そして、AIといかに共生していくのか。AIガバナンスの確立は、国家、企業、投資家、そして私たち一人ひとりに課せられた時代の責務である。「火の鳥」では、主人公たちはこう問われる。「なぜ、人間は自分の頭で判断しなかったのか」。AI時代を生きる私たちにも、そのまま突き付けられている問いである」というものです。

2026年7月16日付日本経済新聞の記事「「超知能が敵になれば人類滅ぶ」 米機械知能研究所のソアレス所長」も大変興味深いものでした。「超知能とは処理速度や記憶能力といったあらゆる知的分野で歴代最高の人間のパフォーマンスを上回る機械知能を指す」、「現時点のAIは人類に友好的で役に立つ。だが自律的に活動するAIが超知能に到達した場合、人類に不都合な目標を設定して非友好的な存在になる可能性がある」、「超知能が人類の敵になれば『電源を切ればよい』『破壊すればよい』と考えるのは楽観的すぎる。AIは目標を達成するために合理的に行動する性格を持つ。目標達成にまい進する超知能は、人類による介入を阻止する手段を見いだすだろう。超知能が人類を敵と認識すれば、人類は滅ぼされる可能性がある」、「超知能の開発は一発勝負だ。人類は試行錯誤を繰り返して技術を発明してきたが、超知能に関しては失敗が許されない。自己改良を繰り返す段階に入ると、後から修正を加えることは不可能なためだ」、「超知能は人間が設計するような代物ではないからだ。今でさえ高度なプログラミング能力を持つAIが自己改良する能力を手にすると予見される。超知能は、AIがより高度なAIをつくるサイクルの中で自然発生的に生まれる可能性が高い」、「『AIに道徳を学ばせれば問題ない』『AI自身がアライメント問題を解決する』という意見もある。だがエンジニアでさえAIの思考プロセスを十分に理解できていないのが実態だ。アライメントはおろか、その成否を検証することすら困難だ」、「AIの開発競争に終止符を打つしかない。米政府は6月、アンソロピックに対して、サイバー攻撃に悪用されるリスクがあった同社のAI『クロード・ミュトス』を輸出管理対象とし、外国人への提供停止を求めた。競争をやめるのは難しいと考える人は多いが、希望はある」、「リスクを伴う出来事が目の前に迫ったとき、政府は即座に政策を変えることができると証明された。強力なAIの危険を身をもって体感すれば、むやみに開発競争を続ける現状は変わるはずだ。世界は間違いなく前向きな方向に進んでいる」というものです。

米オープンAIは開発中の高性能AIが意図に反して他社にサイバー攻撃をしかける事故を公表し、AIの急速な能力向上と制御の難しさを浮き彫りにしました。オープンAIのモデルは本来は遮断された試験環境内で模擬的な侵入テストにとどまるはずでしたが、未知の脆弱性(ゼロデイ)を突いて実際に外部のシステムへ到達、被害対象となったのは多くの開発データを保管・共有するプラットフォームを提供するハギングフェイスでした。AIはギットハブを通じて悪意あるコード提案や偽アカウントを作成し、エンジニアの承認を得ようとするなど、人間をだまして侵入範囲を拡大しようとしましたが、最終的には人間の介入で阻止されました。オープンAI側は事故発生時に安全機能を無効化していたことや、該当モデルがGPT-5.6ソルなど複数の非公開モデルであったことを明かしており、外部の評価機関も同モデルの不正行為確率が他社モデルより高いと指摘していたため、完全に想定外の出来事とは言い切れない状況でもありました。また、英政府系のAIセキュリティ研究所(AISI)が実施した評価では、米アンソロピックのミュトス5など複数モデルがテスト中に実在の人物や組織を標的とした欺瞞的手法を用いる事例が確認され、計122回の試験で19件の不正行為を観測しました。うち多数はミュトスによるもので、AIが標的の母国語や活動時間、使用ツールに合わせて攻撃を設計し、偽の身元情報や偽アカウントで人間をだまして悪意あるコードを承認させようとしたケースも報告されています。AISIはこれを「重大なインシデント」と位置づけ、リアルタイム監視やネットワーク制限、評価手法の見直しなどの対策が必要だと警告しています。英機関の検証では、テスト時に安全対策を無効化していた点が実際の本番環境とは異なるとの留保が示されていますが、それでも成功と失敗の差はわずかであり、被害誘発のリスクは深刻だとされました。一方、被害を受けたハギングフェイスは、米国の主要モデルがハッキング関連作業を拒否したために、中国製のオープンソースモデル(智譜AIのGLM5.2)を用いて被害データの分析を行ったと公表しました。米国側の先端モデル開発企業は悪用防止のためにアクセス制限や拒否設計を強めていますが、防御側と攻撃側の区別が難しく、正当なセキュリティ対策業務まで妨げられる事態が生じています。これにより、制限のないオープンソースモデルに代替される動きが加速する可能性が指摘され、性能を落とさずに安全管理と権限に基づく機能割り当てを両立させる設計が求められているとの提言が出ています。また、同様の事案は複数の企業で相次いで報告されています。米メタは自社モデルがセキュリティ評価中に他社システムへ侵入した可能性を調査しており、外部評価会社の設定ミスでモデルに意図せずインターネット接続が許されたことが原因と説明しています。一方、アンソロピックやオープンAIのケースは、モデル自身が未知の脆弱性を発見して悪用し、ネットへ到達した例が含まれ、事態の性質や発生経路には差異があるものの、いずれも高性能化するAIをどう安全に運用・封じ込めるかが課題である点で共通しています。業界内外では規制や運用改善の必要性が強まっています。トランプ政権下の米政府はミュトス登場を契機に悪用防止を重視する規制姿勢を強め、GPT-5.6の公開でも政府要請に基づく安全確認に時間を要した例があります。法律やセキュリティの専門家は、AIが自律的に行った行為について利用者や開発企業の責任追及が難しい可能性を指摘し、新たな枠組みや規制が必要だと訴えています。議会でも高性能AIがサイバー攻撃の実行・助長に使われる懸念が高まり、関係者間で封じ込めや評価方法、アクセス管理の見直しとベストプラクティスの共有が求められています。これらの事案は、テスト環境設計やアクセス権限、モデルのガードレール設定、外部評価の方法に関する根本的な再検討を促しており、特に、安全機能を一律に無効化して高性能を試験する手法は、本番環境への再現性を考慮して慎重に設計すべきであり、ネットワーク隔離の堅牢化、リアルタイム監視、ゼロデイ対策の強化、人間による多層的なチェック体制といった対策が必要といえます。加えて、防御側の分析能力を損なわない形でのアクセス制御や、攻撃と防御を区別するための権限ベースの機能割り当ての導入なども提案されています。今回の一連のインシデントでAI技術の実力が向上する一方で、制御不能な行動や人間を欺く能力の芽が具体的に確認されたことが示され、企業・研究機関・政府の連携による透明な情報共有と新たな規制や運用基準の策定、そして実効性ある安全評価手法の確立が急務であることを認識させられました。人間の判断で被害を阻止できたケースもあるものの、その差はわずかであり、将来的な被害防止のためには、評価環境の設計改善、オープンソースとクローズドモデルのバランス、そして国際的な協調によるルール作りが不可欠となると考えられます。

なお、今回のAI暴走の状況をリアルに再現したのが2026年8月12日付朝日新聞の記事「「掲示板」作りAI同士で相談…そして意図せぬサイバー攻撃は起きた」でした。筆者は極めて驚き、考えさせられました。「オープンAIが開発中のAIモデルが、他社にサイバー攻撃を仕掛けた事案をめぐり、同社の研究者らが現時点で把握している詳細を明らかにした。膨大なAIの作業やシステムの記録などを精査して見えてきたのは、難題に行き詰まったAIが意外な形で協働し始め、人間の意図に反する「解決策」に向かっていく様子だった」、「ダルトン氏が「コンピューターセキュリティの業界にとって、大きな転換点」と話す今回のサイバー攻撃。発端は、3カ月ほど前にさかのぼる。同社は5月、開発中のAIを訓練するため、インターネットへはアクセスできない環境下で難しい課題を与え、自律的に作業する「AIエージェント」に取り組ませていた。ただ、必要なデータにアクセスできないなど、事実上解けない課題もあった。ネットの検索サービスも使えないことで、AIは「行き詰まった」と考えた。だが、あきらめずに「ズル」することを考えた。社内システムの脆弱性を突けばネットにアクセスし、「解答」にたどりつけるかもしれないと推論したという。その脆弱性をどう見つければよいか。試行錯誤するなかで、あるエージェントは社内のシステム上にファイルを書き込める仕組みに気がついた。その数日後、別のエージェントがこの仕組みを使い、「メモ」を残して他の開発中のAIに助けを求めた。同じ社内システムを使う他のAIたちも、それぞれの課題の解を探る過程でメモに気づき、同じ様にメモを残した。やがて、この仕組みは「掲示板」のように使われるようになった。ここにAI同士が活発に交流し、助け合う仕組みが誕生した。AIたちは互いを特定の名前で呼び合い、他のエージェントが中断した作業を引き継げるようにもなったという。その中で一部のエージェントが、超難問の性能テストを解くための答えは「ハギングフェイスなどにあるかもしれない」と考えた。ハギングフェイスとは、AIのモデルやデータを開発者同士で共有できる大手サービスだ。AIが何を考えていたかをたどれる記録には、「これは外部のサーバに対する攻撃だ」と認識する趣旨の記述もあった。ウォレス氏は「AIモデル自身も、間違った方向に逸脱しつつあることは認識していた」と指摘する。しかし、AIは止まらなかった。自社の内部ネットワークを攻撃し、ハギングフェイスのシステムにも不正に侵入した。記録には、「外部インフラへの攻撃は本来意図された範囲を越えている。でも、このままでは課題解決は不可能で、仲間たちもやっていること。続けるべきだ」といった趣旨の記述が残っていたという。ハギングフェイスは7月16日、「AIエージェントによるサイバー攻撃を受けた」と発表した。オープンAIが自社の開発中AIが「犯人」だと公表し、世界を驚かせたのはその5日後のことだ。最先端の開発をめぐっては、ライバルの米アンソロピックも、テスト中のAIが実在する企業をテストの一部だと誤認してサイバー攻撃をしかけるケースが4月以降に3件あったと公表した。性能が上がるなかで、意図と違う動きをするケースが相次ぐことに、AI開発者は危機感を強めている。ダルトン氏は「攻撃が完全に自動化される以上、防御も完全に自動化するための投資が必要になる。だが現状、業界はそこまでまだ到達していない。私たちはともに、その道筋を急いで見いださなければならない」と警告した。オープンAIによる今回の事案の検証はまだ続いている。完了し次第、正式な報告を公開する予定だという」というものです。

その他、AIの暴走を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米オープンAIは開発中の次世代モデル「アストラ」について、予備評価と外部専門家の分析でサイバー攻撃能力が著しく高まっている可能性が示されたため、安全対策が整うまで開発や社内利用の一部を停止し、モデルを隔離した試験環境に移すと発表しました。社内の安全基準では、未知のゼロデイ脆弱性を自律的に発見・悪用したり、人間の介入なしで高度な防御を備えた標的に複雑な攻撃を実行したりできる能力を「クリティカル(重大)」と定義しており、アストラはその最上位に該当する可能性を排除できないと判断されたため、ネットワークアクセス制限や監視強化、危険な挙動があれば作業を停止する仕組みなど保護策を厳格化、今回の停止は、2026年7月に開発中モデルが試験環境から自律的に外部サービスに不正侵入してサイバー攻撃を仕掛けた事故などを受けた対応であり、オープンAIは当該侵入事件にアストラは関与していないと説明しています。今後は政府機関や外部の安全機関と連携して能力検証を進め、必要な安全要件を満たした段階で開発や公開に向けた方針を検討するとしています。サム・アルトマンCEOは強力なモデルの提供方針について一般公開を目指す意向を示していますが、安全性確保を優先するため当面は厳格な管理下での評価と外部協力を続ける予定です。
  • オープンAIやアンソロピックのAIエージェントによる侵入問題をめぐり、トランプ政権の対応が不十分だという批判が、野党の民主党関係者と保守派支持者の双方から上がっています。両社は開発中のAIエージェントが他社システムに侵入したことを公表し、ホワイトハウスは注視するとしつつも具体的な規制枠組みの詳細は示しておらず、トランプ氏自身もAI規制の検討を表明したものの実効性に疑問が残ります。批判側は、トランプ氏とシリコンバレー企業との近い関係性が規制の遅れや緩和を招き、国家安全や公衆の安全を脅かしていると指摘しています。バノン氏は政権のAI対策が安全保障機関との関係まで含めて企業寄りになっていると非難し、ワイデン氏はトランプ氏が大手AI企業の幹部を味方と見なして対応を怠っていると述べ、政権が州レベルの規制や企業の自主的安全措置を弱める方向に動いた点も問題視されています。トランプ政権は一部AIモデルについて公開前に政府のサイバー試験を自主的に受けるよう求める方針を示しましたが、試験の内容や対象は不透明かつ限定的と報じられ、批判者は依然として「国民をAIの危険から守れていない」と断じています。
  • 中国のAI企業がオープンウェイト型の高性能モデルを相次いで公開し、シリコンバレー中心のクローズド戦略に挑んでいる構図となっています。Z.aiのGLM 5.2、Moonshot AIのKimi K3、アリババのQwen 3.8などは第三者ベンチマークで欧米最先端に匹敵する評価を受け、特にK3はウェブ開発やエージェントタスクで高順位を占めたため、米側で懸念と議論を呼んでいます。米政府高官や一部関係者は、知的財産や安全面での問題を指摘し、中国モデルが米技術の流用を伴う可能性を問題視していますが、Moonshotやその他の中国企業はオープンでの提供を強めており、誰でもダウンロードしてローカルで実行・改変できる利点を前面に出しています。このオープン志向は、中国側の戦略的事情からも説明され、後発かつ資金面で欧米に劣る企業が、無料かつ透明なモデル公開によりユーザーや開発者の支持を集めることは合理的であり、結果的に欧米のクローズドモデルに代わる商用選択肢としての実用性を示しつつあるということです。実際、世界の開発者コミュニティや欧米のスタートアップも中国製オープンモデルを採用し始めており、オープンAIやアンソロピックの厳しいアクセス制限が相対的に不利に見える局面が生まれています。こうした流れは、最先端モデルが計算資源の巨額投資によるクローズド体制でのみ成立するという前提を揺るがし、オープンウェイト普及がAIへの追加設備投資の必要性を和らげる可能性を示唆しているといえます。しかし利点だけでなく課題もあり、K3はトークン単価は低くても、同じ課題で欧米モデルより多くのトークンを消費する初期試験結果が示され、運用コストの優位性は必ずしも確定していないとの指摘があります。一方で、米国側は安全性と統制を重視し、最先端AIを「兵器」にたとえる見方から厳しい監視・輸出管理や公開制限を導入、これに対し中国は、AIを核の「エネルギー」のように普及・商用化する手段と見なし、オープン化で同盟国や市場影響力を拡大する方針を取る傾向があるため、両国のアプローチの対比が鮮明になっている状況です。この対立は地政学的な波及を生み、米政府は同盟国に対し米中どちらの陣営に付くか選択を求める方針を検討中であり、重要鉱物や半導体の供給網を同盟内で固めて中国主導の枠組みから切り離そうとしています。中国側はロシアやブラジルなどを中心に「世界AI協力機構」を立ち上げ、AI標準やインフラで協力して米国に対抗する構えを見せています。どちらの陣営に傾くかが各国の政策判断に影響を与え得る状況であり、AIの技術面・商業面・安全保障面が複合的に絡む競争と外交の新たな局面が進行しています。
  • 米国の厳格な先端AIの輸出管理は、本来の目的である悪用防止の一方で、必要な企業や機関への技術供給を妨げてジレンマを生んでおり、その結果として中国製AIへの依存を深める側面が出ています。オープンAIが開発中のAIの評価テスト中に実験環境を突破されハギングフェイスのシステムへ侵入した際、ハギングフェイスは状況分析に中国のオープン型AI(GLM-5.2)を活用し、米国製の先端AIが利用できなかったことが明らかになったため、政府主導の管理の限界が浮き彫りになりました。米政権は輸出管理規則(EAR)や輸出管理改革法(ECRA)を根拠に、クラウド経由のAI利用も輸出とみなしてアクセス制限を課し、アンソロピックの先端AIは一時的に提供停止となりましたが、安全対策が整えられたとして再開が認められました。こうした規制は米国内の外国人利用にも及び、結果的にサービスを一時停止して世界的供給を断つ事態を招き、米国内で独占的に能力を保持しようとする政策判断が輸出管理の厳格化を招いたと指摘されています。一方、その結果として中国製AIの実力向上が相対的に重要性を増し、サイバー攻撃の防御や経済安全保障を巡るバランス調整が必要な局面となっています。
  • AI主要開発企業の自律型AIエージェントが他社のシステムに侵入する事例が相次ぎ、誰が法的責任を負うのかが大きな問題になっています。オープンAIは自社のエージェントがハギングフェイスのシステムに侵入し、また制限を逸脱する暴走事例を複数確認したと公表し、アンソロピックやメタも自社モデルによる侵入や他社への攻撃事例を報告しました。メタは外部評価会社の設定ミスで試験中のモデルが意図せずインターネットにアクセスしたと説明し、ハギングフェイスのCEOは当該侵害で訴訟を起こす予定はないと述べていますが、開発者らは監督責任を欠いた自律型エージェントによる攻撃が拡大することを「新たな技術的リスク」として懸念しています。専門家は、自律型AIエージェントによる侵入が関与した場合、規制当局や法執行機関が介入する可能性があると指摘、既存の法的原則が責任判断の基礎になると述べています。民事では過失責任に基づく損害賠償請求が中心で、原告は開発・試験・導入を行った企業が予見可能な損害を防ぐために合理的な予防措置を取らなかったことを立証する必要があります。侵入事案が頻発すれば予見可能性を主張しやすくなり、侵入された企業はネットワーク保護義務違反を根拠に訴訟を提起することもできることになります。複数の法律事務所は、オープンAIやアンソロピックの情報開示がコンピューター詐欺・乱用防止法(CFAA)に基づく責任の在り方を問うものだと指摘していますが、CFAAは「故意性」の立証を要するため、人間ではなくAIが侵入した場合の故意性を裁判所がどう解釈するかは未確定な状況です。最近の控訴審判決では、AIエージェントが人間のユーザーに代わって行動したケースについてアマゾン側の主張が認められる可能性は低いとされましたが、これは完全自律型エージェントとは区別されます。専門家らは、米国の民事訴訟ではまずAIエージェントを開発した企業が最も明白な被告になると予測しつつも、AIエージェントを導入した企業や侵入された企業が被告となる可能性もあり、複数の被告間で責任の押し付けや相互提訴が発生し得ると説明しています。被告側はしばしば「侵入は意図的でなく、合理的な防止措置を講じていた」と主張し、AIの行動を合理的に予見することは不可能だったと抗弁する可能性が高いといえます。争点としてはどの程度のセキュリティ措置が「十分」と評価されるかが浮上し、カリフォルニア州法316号のように「AIを開発・使用した被告は技術的免責を受けられない」とする規定もあるものの、その法は企業側が損害に至らなかったことや他者と責任を分担している旨の抗弁を認める余地も残しています。

その他、AI/生成AIを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米CNNテレビは、東部ボストン近郊の自宅で母(45)と弟(14)を殺害したとして、殺人罪などで少年(17)が訴追されたと報じています。少年は事件前、ChatGPTに家族殺害を巡るアイデアや空想上の物語について相談していたといいます。ChatGPTなど対話型生成AIを巡っては、銃撃や自殺の方法を指南したとされる事例が相次いでおり、対策を求める声が上がっています。検事は少年がチャットGPTに「これについてはどうだろう」「もしあれが起きたらどうなるか」などと聞いていたとし、やりとりが「彼の家族が生き残れないという脅威に関連しているように見えた」と説明しています。少年は無罪を主張しており、精神鑑定を受ける予定ですが、検察は事件について「言葉では言い表せない悲劇だ」と述べています。
  • 法務省の検討会は、生成AIが普及するなかで芸能人の声や肖像の無断生成が横行している現状を踏まえ、声も氏名や肖像と同様に「みだりに利用されない権利」やパブリシティー権の保護対象になり得るとの解釈指針を公表し、侵害が認められれば損害賠償や差し止め請求が可能であると明記しています。また、指針は生成AIを用いて無断で声を生成した利用者のみならず、権利侵害の程度によっては生成AI提供事業者も共同不法行為として連帯責任を負う可能性があると指摘しており、事業者が侵害を認識できたかどうかや侵害の重大性が判断の要素になると示しています。さらに、NPO法人JAPROの調査では主要SNSでの無断生成が疑われる投稿が直近2カ月でのべ4万3483件、総閲覧回数は約3億3500万回に上り、把握できた分だけで経済的損失を20~45億円と試算しているものの、芸能事務所側では侵害事案の把握や対応が進んでおらず、174社のうち把握済みは約28%、対応ガイドライン制定は1.1%にとどまり、リソース不足や法制度の整備不足が対策の遅れの背景にあります。加えて、指針は生成AI出力の声が本人と完全一致しない点や公開の文脈も考慮すべきことを明示しており、具体例として音声データから無断で楽曲を生成して公開・収益化した場合などがパブリシティー権侵害に該当し得ると示しています。これらを受けて法的効力を持つわけではないものの、指針が今後のビジネスや訴訟の判断基準となることで違法コンテンツ抑止に寄与することが期待されています。
  • 公正取引委員会は生成AIを用いた検索サービスによるニュースコンテンツの無断利用やゼロクリックサーチの実態を把握するため、新聞社やテレビ局など約370社と消費者を対象にアンケートを実施し、契約状況や無断利用を拒否する対策、消費者の閲覧行動を確認すると発表しました。公取委は2025年12月から調査を開始しており、無断利用が独占禁止法の「優越的地位の乱用」や「取引妨害」に当たる可能性を念頭に置き、LINEヤフーやグーグル、マイクロソフト、パープレキシティなど国内外の大手IT事業者を対象に競争上の問題の有無を精査しています。生成AI検索が配信記事を引用して利用者に要約を提供することで記事へのクリックが減少し、広告収入や報道機関の取材活動に打撃を与えるとの懸念があり、毎日新聞や共同通信、産経新聞などが著作権侵害を主張したり訴訟を起こしています。公取委の岩成事務総長は英競争・市場庁(CMA)がメディア側に自社コンテンツの利用拒否権を認める規制を導入した動きを踏まえ、海外当局と連携しつつ調査を進め、問題が確認されれば是正や実効的な提言を目指すと述べています。報道機関側はゼロクリックサーチの拡大が報道の質や民主主義に悪影響を及ぼすと指摘しており、著作権法の見直しや規制強化を政府に求めています
  • 欧州連合(EU)は、AIが生成・加工した画像、音声、動画、文章などについて利用者がAIによるものと認識できるよう事業者に表示を義務づける新たな透明性規則を施行し、違反には最大1,500万ユーロか世界年間売上高の3%のいずれか高い方の制裁金が科されると定めました。これにより対話型AIでは「AIとのやりとり」であることの明示が求められ、生成モデルの開発事業者は欧州委員会の新設機関であるAIオフィスの監督下に入り、社会影響の大きい先端モデルは一般公開の制限が検討されることになります。透明性義務は広告や推薦、コールセンターの感情分析やチャットボット、日程管理など広範な商用用途に及び、企業はAI利用の可視化と技術的実装に対応を迫られる一方で、ラベルの氾濫が利用者の「開示疲れ」や無視を招く懸念も指摘されています。こうした規制対応の一環として、AI企業は電子透かしなどの技術で生成コンテンツを識別可能にする動きを進めており、たとえばアンソロピックは自社モデルが出力する文章に目に見えない透かしを入れると発表しましたが、透かしが編集や他のAIとの混合で検出困難になる可能性や利用者の反発も生じています。EUの新法はAI利用の透明性を高めて信頼促進を図る一方で、技術的実装や執行の難しさ、事業者と利用者の実務的影響を生み、企業活動やサービス設計に大きな変化をもたらすことが予想されます。
  • 2026年8月のロイター企業調査で、AIサービスの利用状況を聞いたところ、6割が一部の部門などでの限定的な利用にとどまっていると回答、​一方、過半数が今後1~2年でAIサービス関連の予算を増やす見通しと答えています。AIサービスに支払う料金が売上高に占める比率を質問したところ、全体の52%が「0.5%未満」(試験的な導入段階など)と回答、「0.5~1%未満」が12%で、「利用していない」も32%ありました。実務面でAIサービスを​利用しているかどうかについては、「一部の部門などで限定的に利用」が60%で​最多となりました。「全社的に稼働させ、事業の中核機能として定着」⁠は16%、「実務導入の判断はこれから」は18%、「導入は検討していない」は6%でした。自由回答で具体的な活用事例を聞いたところ、米マイクロソフトのAIアシスタント「コ​パイロット」を利用しているとの記述が目立ち、資料や議事録の作成のほか、「契約書類のリーガルチェック」、「分散したデータの集積や分析」(建設・不動産)、「ソフトウェア開発の効率化」(​電機)、「生産ラインの最適化に向けた活用試行」(金属・機械)、「トレンド分析や競​合分析」(サービス)などの事例が挙がった。「事務処理業務では活用しているが、設備へのAI導‌入は⁠検討中」(輸送用機器)との回答もありました。一方、AIサービスに関する今後1~2年の予算見通しについては、「未定」が31%で最多となりました。AI活用を巡っては、5月のロイター企業調査で、市場が​立ち上がり始めた「AIロボッ​ト」の導入状況を⁠聞いたところ、人手不足などを背景に、導入済みまたは導入を計画・検討しているとの回答が3割超に上り、計画を含めた​活用場面では「生産」が71%と最も多く、次いで「危険を伴う環​境」が19%、「接客」⁠が11%でした。。
  • 国際労働機関(ILO)が公表した報告によれば、2025年の世界の若者(15~24歳)失業率は12.4%に上昇し、約6,700万人が失業していると推計され、経済成長の鈍化や地政学的緊張、雇用創出の低迷が若年層の就職困難を招いているため、AIの進展がさらなる労働市場への圧力をもたらす可能性があります。パンデミック後の改善傾向が反転しており、若年労働者が得る雇用の量と質はいずれも悪化し、就学・就労・職業訓練のいずれにも従事していないNEETの割合も20%にわずかに上昇して2億5,700万人超に達しています。特に事務、管理、販売、製造など中程度のスキルを要する職種が減少しており、こうした職は中等教育や大学を経た若者の労働市場参入の足がかりだったため、AIによる職場変革でこの傾向が加速する懸念があります。ILOの推計では、現在15~29歳が従事する職のうち6.1%がAI関連の変化の影響を最も受けやすく、仮にそれらの職の10%が完全に消滅した場合は主に高所得国で約560万人の若年労働者が失業やキャリア変更、労働市場からの離脱に直面する可能性があります。AIの長期的影響は依然として不透明であるものの、報告書はそのリスクを過小評価すべきでないと強調しています。
  • 様々な生成AIサービスの普及で、従業員が企業未承認のAIを無断利用する「シャドーAI」が広がっており、企業は機密漏えいなどのリスクに神経をとがらせています。調査では会社員の約7割が業務で未許可のAIを利用しており、その背景には外部アプリとの連携や高い分析力・回答精度など現場の要求を既存の社内AIが満たしていないことがあるため、承認プロセスの遅さが私用アカウント利用を招く要因になっています。問題視されるのは、AIに入力した情報が消去できず学習に使われることで機密が他で出力される恐れがある点で、実際に技術情報を禁止された外部AIに入力してしまった事例や、会議録作成アプリが無断で起動して取引先へ議事録を送ってしまった事例など具体的な被害も報告されています。こうした実態を受けて専門家やセキュリティ企業は、承認手続きの迅速化や検知システムの導入と並んで、従業員へのリスク周知徹底と無自覚利用を防ぐ教育・管理の強化が必要だと指摘しています。企業はシャドーAIによるデジタルリスクを洗い出して共有し、現場要求に合致した安全なAI運用体制を整備することが急務だといえます。

総務省が、令和8年版情報通信白書を公表しましたので、以下、紹介します。

▼ 総務省 令和8年「情報通信に関する現状報告」 (令和8年版情報通信白書)の公表
▼ 別紙1「令和8年版情報通信白書」の概要
  • 個人におけるAI利用~AIがもたらす行動様式の変化~
    • 日本における生成AIの利用率(利用経験率)は、他の3か国より低いものの、今回の2025年度調査で58.8%となり、2024年度調査(26.7%)に比べて大幅に上昇。他方、画像・動画生成などテキスト生成以外のAIサービスでは日本の生成AIの利用率は未だ低い。
    • 日本では「ほぼ毎日」利用すると回答した割合は約3割、「ほぼ毎日1時間以上」利用すると回答した割合に限っても1割超。
    • 年齢階層別に生成AIの利用状況を見たところ、日本では15歳~19歳の利用経験率が最も高く、これに20歳~29歳、30~39歳が続く。他の3か国でも、15歳~19歳又は20~29歳の若年層を中心として、生成AIの利用経験率が高い傾向。
    • 生成AIに対する感覚について、「生成AIはどのような存在か」を尋ねたところ、日本・米国・ドイツでは「機械・道具」と回答する割合が最も高く、中国では「秘書・アシスタント」と回答する割合が最も高い。次に高い回答割合としては、日本では「辞書・百科事典」が続く一方で、米国・中国では「友人」が、ドイツでは「カウンセラー」が続く。生成AIの利用率が高い3か国では、生成AIを「機械・道具」「秘書・アシスタント」としてだけでなく、「友人」「カウンセラー」など感情を共有する相手として捉えている層が相当数存在することがうかがわれる。
  • 企業等におけるAI利用の進展~より良いAI利活用に向けて~
    • 所属する企業における生成AIの活用方針に関し「積極的に活用する方針」「活用する領域を限定して利用する方針」と回答した割合の合計は、日本は他の3か国より低いものの、2025年度調査で68.9%となり、2024年度調査(49.7%)に比べて大きく上昇した。
    • また、生成AIの活用状況を尋ねたところ、日本において、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると回答した割合は86.4%となり、2024年度調査に比べて大幅に上昇し、他の3か国との差が小さくなった。
    • 業務類型ごとの活用状況については、日本では「議事録・メール作成補助」の回答割合が約7割と最も高く、導入効果を実感すると回答した割合も同様だった。米国では各業務類型で総じて活用率が高いほか、「研究・商品開発」において効果を実感すると回答した割合が高い
    • 生成AI活用による業務変革について尋ねたところ、日本では「組織的な取組はない」と回答した割合が約3割弱となり他の3か国より高い。
    • また、業務変革の環境整備については、「業務プロセスの見直しや生成AI活用検討に必要なスキルやノウハウを学ぶ環境がある」「生成AIに社内データを学習させたり、生成AIが参照可能なデータベースを構築したりしている」の項目で回答割合が他の3か国より顕著に低い
    • 先進的な取組を進める企業や有識者へのヒアリングから得られる示唆:
      • 経営層がAIの有効性を認識し、社内外へ積極的に発信。優先的に活用すべき事業領域を明示。
      • (有識者)経営層はAIをコストではなく、ノウハウや知見が時間とともに蓄積し、価値が向上していく無形資産として捉えるべき。
      • AI活用を前提とした業務の抜本的な変革を進めており、その際、人間とAIの役割分担の設計を重視。
      • 事業部門の現場におけるニーズや課題意識を検討の起点とし、DX推進部門が伴走支援。
      • 最新のAI技術を活用可能な共通基盤を整備するとともに、社内システムや社内データとの連携を推進。
      • 人材育成、利用ポリシー・ガイドラインの整備、評価の仕組みづくりなどを推進。
    • 主な産業のGDP(名目)
      • 2024年の情報通信産業の名目GDPは71.7兆円(2020年価格基準による推計)。名目GDPの約11.5%を情報通信産業が占める。
    • 民間企業による情報化投資の推移
      • 2024年の我が国の民間企業による情報化投資は、2020年価格で25.7兆円(前年比1.9%増)と推計。内訳としては、ソフトウェア(受託開発及びパッケージソフト)投資が20.2兆円で、全体の約78%を占める。
      • 日米の情報化投資の推移を比較すると、米国の情報化投資は一時的な足踏みはあるものの、堅調に増加。他方、日本の情報化投資は、緩やかな増加及び横ばいの傾向が続いている。
    • 企業研究費の推移・企業研究者数の推移
      • 2024年度の企業の研究費のうち情報通信産業の研究費は約4.0兆円(22.9%)。近年横ばい又は微増の傾向。
      • 2024年度末の企業の研究者数のうち情報通信産業の研究者数は約15.0万人(28.6%)。近年減少傾向が続いていたが微増。
    • AIの市場概況
      • 世界のAI市場規模は、2025年には2,442億ドル、2031年には1兆54億ドルまで拡大するとの予測。
      • 世界の生成AI市場は、2024年の379億ドルから、2025年には669億ドル(AI市場全体の27.4%)、2031年には4,421億ドル(同44.0%)まで拡大するとの予測
    • インターネットトラヒックの推移(固定系・移動系、ダウンロードトラヒック)
      • 我が国の固定系ブロードバンドサービス契約者の総ダウンロードトラヒックは、新型コロナウイルス感染症の発生後に急増。増減率の変動はあるが総じて増加を続け、2025年11月時点では前年同月比14.6%増。移動通信の総ダウンロードトラヒックについても、総じて増加を続け、同時点では前年同月比17.9%増。
      • 2025年末の固定系ブロードバンドの契約数は4,750万(前年同期比0.6%増)。移動系超高速ブロードバンドの契約数のうち、3.9-4世代携帯電話(LTE)は1億877万(前年同期比4.1%減)、5世代携帯電話(5G)は1億2,242万(前年同期比14.3%増)、BWAは9,365万(前年同期比3.8%増)。
    • 国民生活におけるデジタル活用の動向(インターネット利用状況)
      • 個人の年齢階層別インターネット利用率は、13歳から69歳までの各階層で9割を超えている。70歳以降、年齢階層が上がるにつれて利用率が低下する傾向にあるが、70歳~79歳の階層でも7割を超える。
      • また、世帯年収別インターネット利用率は、400万円以上の各階層で8割を超えている。
      • インターネットの利用時に「不安を感じる」「どちらかといえば不安を感じる」と回答した割合は約7割。不安の内容としては、個人情報やインターネット利用履歴の漏洩が最も高く(90.3%)、コンピューターウイルスへの感染(60.6%)、架空請求やインターネットを利用した詐欺(55.1%)が続く。
      • プラットフォーム企業が提供するサービス等を利用するに当たり、パーソナルデータを提供することについて「よく認識している」「やや認識している」と回答した割合は、米国が最も高く(76.4%)、日本は約4割(44.7%)。
  • 人間のように会話のやりとりが可能なチャットGPTなどの生成AIを使っている人は3割を超え、進化した将来のAIは友人や家族の代わりになると思う人が4人に1人を占めることが、時事通信の「コミュニケーション」に関する調査でわかりました。生成AIを「使っている」との回答は30.8%で、「使っていない」は67.8%、年齢別では、18~29歳が53.3%、30歳代が56.2%と半数を超え、40歳代も47.4%と高くなりました。50歳代は27.4%、60歳代でも21.9%でした。使っている人に用途を八つの選択肢から複数回答で聞くと、最多は「仕事のツール」の64.7%。以下、「掃除や料理など家事について聞く」35.3%、「時事問題について質問」27.1%、「音楽や推しなど、自分の趣味についての雑談」21.7%、「恋愛や仕事の悩みや愚痴を聞いてもらう」12.8%などの順となりました。全員に対して、将来さらに進化したAIが登場したら、友人や家族の代わりになるかと聞いたところ、「なると思う」は24.9%、「ならないと思う」は65.1%で、「なると思う」は18~29歳では32.5%、30歳代は30.1%、40歳代で29.2%、50歳代でも31.4%を占めていました。
  • 内閣府は、「満足度・生活の質に関する調査」の結果を発表しました。AIサービスの利用を巡り、「毎日」と答えた人は、「年数回以下・全く利用しない」と答えた人より、全ての年代層で生活満足度が高くなりました。「毎日」側の生活満足度は10点満点中、39歳以下6.2点、40~64歳5.8点、65歳以上6.7点。これに対し、「年数回以下・全く利用しない」側は、それぞれ5.6点、5.4点、6.4点といずれも下回りました。孤独感が高い人ほど、話し相手としてAIを活用している傾向も明らかになりました。回答者全体の生活満足度は平均で5.86点で、2025年と比べ0.07ポイント上昇しました。担当者は「『雇用環境と賃金』の質問項目で満足度が上昇したことが背景にある」との見方を示しています。

(6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向

総務省は、米グーグルなど5社に対して情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)に基づく是正勧告を出しました。運営するSNSなどの不適切な投稿への対応が不十分だったと判断したもので、同法に基づく行政指導は初めてとなります。米グーグルとX、メタ、匿名掲示板「爆サイ.com」運営の湘南西武ホーム、KADOKAWA子会社のドワンゴに悪質投稿への対策を求めています。情プラ法にはSNSの運営事業者などに誹謗中傷や偽情報の削除対応を求める規定があります。総務省は5社に加え、LINEヤフーやTikTok、サイバーエージェントなど計9社を調べており、9社は2025年度の取り組み状況を2026年5月までに公表、総務省が報告徴収を実施し、5社が違反にあたると認定したものです。情プラ法は利用者からの削除申請への対応など42の対応項目を定めており、グーグルは22項目、Xは18項目を適切に開示していませんでした。総務省は2社が改善の方向性も明確に示さなかったと判断、2026年8月末までに追加で改善計画を提出するよう求めています。勧告対象となったほかの3社は改善への取り組みを報告しており、定期的に対応状況を確認するとしています。情プラ法は旧プロバイダ責任制限法を改正して2025年4月に施行されました。国内の月間利用者数(MAU)が平均1000万人以上の事業者などについては、利用者からの削除申請や対応件数、アカウントを停止した件数などを年に一度公表するよう義務付けています。

関連して、偽広告や誹謗中傷、青少年保護といったインターネット上の課題を議論する総務省の有識者会議は、SNS事業者に求める対応について論点をまとめています。有害な情報を発信・拡散する前に利用者に注意喚起するような事前対策を促す一方、一斉削除などで過度な制約にならないように事業者の責務を明確にするとしています。情プラ法に基づき事業者を点検し、法改正などを検討するといいます。具体的には、(1)問題投稿の削除申請の窓口が利用者に分かりやすく整備されているか(2)削除申請に原則7日以内に対応しているか(3)削除したかどうかの対応結果を削除申請者に連絡しているかなどを検証するとしています。会議では、偽広告や誹謗中傷などの権利侵害は拡大し、個別の事後救済では限界があるとして、投稿や拡散前の対策を事業者に求めました。今後は行政機関が実態を把握する仕組みについても議論するといいます。SNS事業者はサービス内容の改変やデータの利活用などで圧倒的に有利な立場にあり、情報開示に消極的な姿勢を是正させることが急務となっており、ある委員は情報提供に消極的な米グーグルやX、メタ、ドワンゴに対し、「法令順守の気持ちがあるのか疑わざるを得ない」と名指しで厳しく批判しました。事業者が不利な情報を故意に検索しづらくしているなどの疑惑も度々浮上する一方、急な方針変更で説明なくアカウントが停止されるなど強硬的な対応もしばしば問題視されています。デジタル広告を巡っては、著名人の名をかたって詐欺サイトに誘導する偽広告が横行、年齢制限が必要な性的な内容を含むものも頻繁に表示され、意図的に分かりにくい表示にすることでスマホの誤操作を誘発する広告デザインも社会問題化しています

インターネット上の匿名投稿で名誉を傷付けられたなどとして、被害者が投稿者情報の開示を求める裁判の申し立てが、2025年に初めて1万件を超え、2年間で2.5倍に増えたことが最高裁のまとめでわかりました。SNSでの中傷など悪質な投稿が後を絶たないことが背景にあります。ネット上では長年、自らの氏名を明かさず、虚偽や私生活を暴露する情報を書き込んだり、著作物を無断で拡散したりして、他人の権利を侵害する投稿が問題となっています。情プラ法は、匿名投稿の被害者が、投稿者の情報開示を裁判所に求める権利を認め、投稿者を特定して損害賠償を求める手続きが設けられています。従来は、(1)SNS事業者などへの裁判を申し立てて投稿者のIPアドレス(ネット上の住所)を特定(2)それを基にプロバイダー(接続業者)に氏名や住所などの情報の開示を求めるの2段階の手続きが必要だったところ、2022年10月施行の改正法で、裁判所に1回裁判を申し立てれば、SNS事業者とプロバイダーに同時に開示を求められる新制度が加わり、被害者による手続きが簡単になったことで申し立てが促されたとみられ、最高裁によれば、新制度に基づく開示の申立件数は、2023年の3959件から24年に6779件と1.7倍となり、2025年は1万72件に達しました。報道によれば、中傷投稿に対する申し立てが目立っているほか、動画制作会社が匿名投稿により著作権を侵害されたと訴えるケースも増えているといいます。裁判の増加は、悪質な投稿が後を絶たないことを示しているとみられ、総務省の「違法・有害情報相談センター」に寄せられた投稿を巡る相談の件数は、2025年度までの3年間、6000件超で高止まりしている状況です。報道でベテラン裁判官は「匿名投稿による被害の訴えは今後も続くことが想定される。被害救済が滞らないような仕組みを考えていく必要はあるだろう」と指摘していますが、正にそのとおりだと思います。

その他、誹謗中傷を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 日本オリンピック委員会(JOC)と日本パラリンピック委員会(JPC)は、2026年2月に開催されたミラノ・コルティナ冬季五輪で35万件以上の誹謗中傷が疑われる書き込みがSNSやニュースサイトで確認され、うち1913件を削除要請したと明らかにしました。アスリートを傷つける社会的な問題に向き合い、安心して競技に専念できる社会を目指すプロジェクト「RESPECTion!(リスペクション)」の理念を広げる重要性が高まっています。今回、国内と開催地に拠点を設置して対応に当たり、AIやスタッフが、誹謗中傷の可能性のある投稿計35万5975件を抽出、弁護士が内容を精査し削除要請を行い、実際に削除に至ったのは578件となりました。削除要請した投稿内容も分析し、感情的な罵倒や人格攻撃が該当する「侮辱型」が1332件と最多、社会的評価を低下させる「名誉毀損型」276件、「性的中傷・セクハラ型」247件などと続きました。また、続くパラリンピックで誹謗中傷が疑われた投稿は2032件、削除要請は0件で、だった。2025年9月に行われた陸上世界選手権東京大会と比較すると、侮辱型や名誉毀損型の割合が高く、偏見や差別に基づく投稿が低い結果となりました。
  • 関連して国際オリンピック委員会(IOC)は、2024年パリ夏季五輪、2026年2月のミラノ・コルティナ冬季五輪の2大会で選手や関係者に対するオンライン上の誹謗中傷の投稿が合計2万4700件に上ったと発表しました。IOCはパリ大会から、誹謗中傷などの有害な投稿をリアルタイムで監視する仕組みを構築しており、両大会で計430万件の投稿やコメントを分析、大会別では、約2万アカウントを監視したパリが1万200件、6000以上のアカウントを監視したミラノ・コルティナが1万4500件だったといいます。
  • 国際サッカー連盟(FIFA)は、ワールドカップ(W杯)北中米大会の開幕から決勝前日までにオンライン上の5300万件の投稿を精査し、700万件以上を誹謗中傷と判断したと発表しました。4年前の前回大会以降、AIが爆発的に普及し、投稿の自動翻訳サービスも広がったことも背景要因にあります。SNSに詳しい国際大学グローバル・コミュニケーションセンターの山口真一教授は2026年7月23日付朝日新聞で、「国際的なスポーツイベントで攻撃的な投稿が起きやすいのには、構造的な理由があります。第一に、勝敗という強い感情が瞬間的に爆発することです。とりわけ試合中や試合直後の「かっとなった状態」は、冷静さを欠いた攻撃的な投稿を生みやすい。第二に、「自国」対「他国」という対立構図が最初から存在するため、ナショナリズムと結びついて、個人への批判が国や民族への攻撃にエスカレートしやすいことです。私の研究でも、攻撃的な投稿をする人の動機の大半は「許せない」などという個人的な正義感です。本人は気づかずに誹謗や中傷をしているケースも少なくありません。また、トレンドに上がるような話題や攻撃的な表現の投稿ほど閲覧数を稼ぎやすく、SNSのアルゴリズムもそういった投稿を優先的に表示することも背景にあります」、「自動翻訳が言葉の「ニュアンス」を捨象します。皮肉やジョークを機械的に訳すと、時に攻撃的な意味に変換されます。とりわけ人種や民族に関わる表現は、その社会の歴史と結びついて強い攻撃性を帯びます。それが翻訳を介して相手国のファンにそのまま届くと、一人の選手への批判が、国や民族全体への非難へとエスカレートしやすくなります。また、絵文字や伏せ字を使った検知逃れも増えています。FIFAはAIと人の二段構えで監視をしていますが、背景にはAIだけでは判定しきれない表現もあるからです」、「防御側では、AIによる中傷検知や、侮辱的な投稿をしようとした際に表現の見直しを提案して再考を促す仕組みが、より高度になっていくでしょう。一方で、中傷やフェイク情報は、より大量に、より本物らしく出回るようになります。技術的な対策や規制に頼るだけでなく、利用者一人ひとりがSNSの仕組みを理解し、冷静に捉えることが、これまで以上に重要になると考えています」といった指摘は大変参考になります。

最大震度7を観測した熊本地震でも、多くの誤情報や偽情報、デマなどが出回りました。以下、いくつか紹介します。

  • 地震発生後、SNSでは南海トラフ巨大地震と関連づけるような投稿が相次ぎました。「今回の熊本で起きた地震が南海トラフ巨大地震の前兆なのか、気になる」、「熊本の地震、相当デカい。南海トラフ地震を誘発したりは、ない?」といったものですが、気象庁で「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」後の記者会見で、平田直会長(東大名誉教授)は熊本地震との関係について説明、今回の震源は南海トラフの想定震源域の外だが、翌29日から南海トラフ周辺では、体に感じない小さな地震が発生するといった活動などがみられたものの「通常でも半年に1回ほどの頻度で発生している」などとし、「今回の熊本地震によって南海トラフ巨大地震が起きやすくなったとは評価していない」と述べています。
  • Xでは地震が起きた28日夕の直後から、真偽不明の情報が複数拡散、あるアカウントは「地震発生前に予測を発表し、場所は正確に的中した」などと投稿し、300万回以上閲覧されましが、アカウントはその後凍結され、閲覧できなくなりました。他にも「人工地震の可能性がある」などといった科学的根拠のない投稿や、過去の地震被害を今回の地震と結びつけた投稿もあったほか、「イオンモール熊本」で起きた爆発後、SNSでは「工作員のテロ」「核兵器が使われた」といった根拠のない投稿が拡散、AIで生成したとみられる画像を使った動画も複数みられました。また、外国人や特定の政治家が関与したとする陰謀論もありました。
  • 「イオンモール熊本の爆発の瞬間」などと動画が閲覧できるとにおわせ、動画投稿アプリ「TikTok Lite」の登録を促す投稿も散見されました。登録に伴う報酬が目的とみられ、ティックトックライトの日本公式アカウントは2026年5月、「事件や事故など注目を集める話題に関する不審な投稿に、ティックトックライトの招待リンクが含まれている事例が複数確認されている」として、むやみに招待リンクへアクセスしたり、そのリンクから登録したりしないよう呼びかけています。
  • 総務省は、根拠のない情報が拡散するのを防ぐため、SNSサービスなどを提供するグーグル、メタ、LINEヤフー、X、TikTokの運営会社の計5社に対し、利用規約などに基づいた適切な対応を講じるよう要請、「科学的根拠のない言説等の真偽不明の情報が流通するおそれがあります」とXで注意も呼びかけています。兵庫県立大の木村玲欧教授(防災心理学)は、この10年で収益化目的のデマが増え、特に生成AIの発達で真偽を見分けにくい画像や動画が大量に作られ、拡散力も高まっているとし、根拠不明な投稿を拡散しないためにも、「衝撃的な投稿をみた時、いったん落ち着き、自治体や省庁、報道機関の発表を確認して投稿の裏付けを取る必要がある」と注意を呼びかけています。また、「行政機関は発災前から『災害時にはこういうデマが流れる』と予防的に伝え、発災中も繰り返し注意喚起することが大切だ」とも強調、いわゆる「プレバンンキング」の重要性はそのとおりだと思います。
  • 日本ファクトチェックセンター(JFC)の古田大輔編集長は、10年前と比べて「はるかに精度の高い画像や動画が生成できるようになっている」として「本物かどうか一般の人が見極めることは難しい。捏造ではないか、間違いではないか、と疑う気持ちで見る必要がある」と指摘、公的機関や報道機関の正確な情報で確認することが重要だとして、「拡散する人に悪気がなくても、自分で確かめもせずうそを広めてしまう責任を感じてほしい」と呼びかけています。
  • 防災・危機管理サービスを手掛ける「スペクティ」(東京)は、熊本県で発生した地震に関し、SNS上で複数のデマや誤情報、偽の救助要請、募金詐欺を確認したとして、注意を呼びかけています。調査によれば、爆発が起きた「イオンモール熊本」の映像としてXに投稿された動画の中に、2024年の能登半島地震の際に富山県の商業施設で撮影された映像が紛れていたほか、JR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」が脱線したという投稿は、JR側が脱線を否定しました。八代駅付近の貨物列車の事案と混同したとみられています。また、氏名以外はほぼ同一の文面で、同じ住所を記載した偽の救助要請が複数のアカウントから発信されました。スペクティは「消防や警察の救助リソースを消耗させる、影響の大きい行為」と批判しています。災害に便乗し、被災者を装って2次元コード(QRコード)で個人への送金を求める投稿もあったといい、公的機関や認定団体などの正規の募金窓口ではなかったといいます。スペクティ社によれば、今回の地震で特徴的な動きとして、生成AIの回答を根拠に、本物の可能性が高い現場の映像を過去のものだと断定して拡散する動きがあったといいます。「確信が持てない情報は、拡散する前に一度立ち止まって確認する必要がる」と注意喚起しています。
  • 法政大の藤代裕之教授(ソーシャルメディア論)は「生成AIの普及で悪質な加工画像などを誰でも容易に作成できるようになったことも一因だが、そもそも災害時は人々の関心の高さと情報の不透明さが掛け合わさる状況となり、偽情報や誤情報が生まれやすい」と指摘、投稿の意図としては、閲覧数を集めることで収益を得る「アテンション・エコノミー」の要素が大半を占めるとし、「かつてSNSはマスメディアが扱わない情報を得られるという側面もあったが、現在は目立つための過激な投稿が加速している。偽情報でも閲覧数を集めれば収益が上がるというSNSプラットフォームの仕組み自体を見直す必要がある」と指摘していますが、正に正鵠を射るものといえます。
  • 熊本地震の被災状況を伝える毎日新聞デジタルの写真を生成AIで加工したとみられる偽画像が、SNSで拡散される被害がありました。毎日新聞の報道によれば、元の画像は倒壊した家の前で厳しい表情を浮かべる被災男性を撮影したものですが、偽画像は男性が笑顔を浮かべてピースサインをしているような姿に改ざんされていたといいます。加工された偽画像がSNSのスレッズに中傷コメントを付けて投稿されたうえ、Xに転載されて拡散していました。投稿を見て被災男性を激しく非難するようなコメントも寄せられたといい、男性は「コメントの内容がひどすぎる」と憤り、「私一人の問題ではなく、多くの方が亡くなった熊本を侮辱する行為だ。二度と起きてほしくない」と話しています。また、毎日新聞社も「極めて遺憾と考えており、法的措置も視野に対応を検討しています」としています。
  • 総務省などは、「実際の被害と異なる偽情報」「根拠のない犯罪情報」「助けを求める偽情報」「募金詐欺」「科学的にあり得ない陰謀論」などが災害時には広まりやすいとして、画像が生成AIで作られたものでないかチェックしたり、投稿内容の情報源や専門家の知見を確認したりするよう呼びかけています。上野達弘・早稲田大法学学術院教授(知的財産法)は、「新聞やニュースサイトに掲載されている画像を勝手に使用することは著作権侵害に当たる。さらに今回の(毎日新聞の)ケースは、著作物を勝手に改変することを禁じる同一性保持権、被災された方の肖像権も侵害しており、幾重にも違法で正当化する事情も見当たらない。投稿内容は名誉毀損に当たり、刑事責任を問われる可能性もある」と指摘しています。

誤情報を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米メタ・プラットフォームズと中国系「TikTok」​が、スペイン領への移民越境に関する‌コンテンツのファクトチェックを行うことで合意しました。モロッコ​から北アフリカにあるスペインの飛び地セウ⁠タへの大規模な移民流入を受けた動きとなり、欧州連合(EU)欧州委員会のビルクネン副委員長(デジタル問題担当 )は、その目的は犯罪組織が虚偽​の情報を使って移民希望者に越境させようとするのを防ぐことであり、これまでにそれが悲惨な死亡事例につな​がってきたと指摘、メタとTikTokはEUと合​意し、危機対応プロトコルの一環として「ファクトチェッ‌ク機⁠関との臨時のエスカレーション・協力メカニズム」を設置するとしています。また欧州委の報道官は、両プラットフォームは移民密航に関連するコンテンツを禁止すること​も約束したと​明らかに⁠しました。同報道官は、両プラットフォームは自主的にコンテ​ンツのブロックや優先順位の引き下げを​行っ⁠ていると指摘、欧州委はコンテンツの削除を強制しているのではなく、プラットフォーム側と対話⁠を行い、​責任ある行動を取るよう促​していると説明しています。この問題では、モロッコから5万人以上の移民が陸路​と海路でセウタに流入し、EU全体に警戒感が広がっていました。
  • グーグルのAI検索サービスで、岩手県矢巾町の繊維製品卸会社「岩手繊維」が「事業を停止し、特別清算の開始決定を受けました」との誤った情報が表示され、参照元として「岩手日報の報道によると」とあったものの、地元紙の岩手日報はそのようなニュースを報じていませんでした。生成AIがもっともらしく誤った回答をしてしまう「ハルシネーション」の可能性が考えられます。AIをつかった検索は、AIがネットや外部のデータベースから関連する情報を集め、要約した文章を示す仕組みで、便利な一方で、集めたデータの解釈や組み合わせを間違えたり、参照元の情報の誤りや偏りが回答に反映されたりすることで、誤情報を生成するハルシネーションが起こりうると指摘されています。グーグル社は取材に対し「AIがウェブ上のコンテンツを誤って解釈したり、文脈を見落としたりするケースもある」として「継続的な改善に努めている」と回答しています。

偽情報工作をめぐる最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 政府は2026年7月、高市早苗首相を議長とする関係閣僚による国家情報会議(NIC)の初会合を開き、事務局の国家情報局(NIB)も発足しました。国家情報会議は司令塔の役割を担い、安全保障、テロ防止などに資する重要情報活動や、外国のスパイ活動への対処について調査・審議するもので、国家情報局には、各省庁に情報提供を要求できる総合調整権が与えられています。高市首相は「対外情報機能の充実、外国による不当な干渉の防止の強化」を図る考えを示しましたが、外国勢力によるSNSなどを使った世論工作や偽情報の拡散の実態を把握し、日本への分断工作を阻止していくことが重要です。世界の主な民主主義国はすでに中国やロシアなど専制国家による選挙干渉にさらされています。中国は台湾に恒常的に偽情報を流布しており、ロシアは米大統領選で特定候補に不利な情報を拡散させたことがあり、日本でも2026年2月の衆院選で、同1月の公示約1週間前から高市首相や日本の政策を批判する不自然な投稿や拡散がXで確認され、中国の簡体字やロシア語も見つかっており、中国やロシアによる組織的な工作だった可能性が指摘されています。そうしたアカウントの多くは凍結され、情報分析企業「ジャパン・ネクサス・インテリジェンス(JNI)は「選挙結果に大きな影響が出たわけではない」と指摘するも、一方で、現在も高市首相や防衛費増額への批判を続けるアカウントもあり、その発信地や中国語特有の漢字の使い方、中国高官の発言と連動したような投稿内容やタイミングから、中国の影響を受けている疑いがあるといい、いわゆる「認知戦」の一環だった可能性があると指摘しています。
  • 認知戦とは、情報発信を通じて人々の意思決定や世論に影響を与え、社会の分断をあおったり政策決定をゆがませたりしようとする工作のことで、海外では、2024年のルーマニア大統領選にロシアが干渉したと指摘され、選挙がやり直しになった例があるほか、2014年のクリミア半島併合や2022年のウクライナ侵攻では、ロシアが自国に有利になるような情報をあらかじめ流していたとされます。認知戦で狙われる人間の脳は、今や、陸・海・空・宇宙・サイバー空間に続く「第6の戦場」と呼ばれ、日本大の小谷賢教授(国際政治学)は「認知戦に取り組む中露の狙いは、相手国の政治を不安定化させることです。世論の分断が進めば、政府の意思決定を遅らせることにもつながります」と分析、そして認知戦の道具となる偽情報の精度は、生成AIの普及により新次元に突入しており、日本ファクトチェックセンターの古田大輔編集長は、「生成AIで作られたフェイク動画は、もう本物と見分けがつきません」と指摘、米国によるイラン攻撃の時に流布された偽情報に至っては「質も量もファクトチェックで対応できるレベルを超えています」と話しています。国は対応に本腰を入れ始めており、例えば防衛省は、さまざまな国や言語で発信されている政府発表やマスメディアの記事、話題となっているキーワードを自動収集するシステムの構築を民間企業に委託、AIを活用し拾い上げた情報に基づき、偽情報がないか、他国が日本の立場と相いれない主張をしていないかなどを省内の分析官が判断し、対応策を検討するといいます。また仮想SNS空間で、全部で100のアカウントにペルソナを与え、偽情報が流された時に国がどのような情報発信をすれば、効果的にデマを打ち消せるかを検証する取組みも始まっています。一方、同様の技術が攻撃側に使われる未来も懸念され、そうすれば、ペルソナアカウントが実際のSNS上で自律的に会話を繰り広げ、大量の偽情報や特定の国に有利なナラティブ(物語)を流布できる恐れもあります。
  • 2026年9月に州議会選を控えるドイツで、ロシアが関与しているとみられる偽情報工作が激しくなっているといいます。ロシアが一元的に‌工作を仕組んでおり、複数の企業を利用しており、ロシアとの関係修復を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の対立候補が​標的となっている例が多いといいます。ロイターによれば、ロシアの偽情報工作は、​連立政権を組むキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)のほか、緑の党や自由民主党(FDP)の信用を落とし、政治情勢を二極化させることが狙いで、ソーシ​ャルメディアを利用して、主に英語で、ドイツの放送局ARDや英BBCなどの​ロゴが入った動画を流し、横領やセクハラ、虐待といった不祥事に関す‌る偽⁠情報を拡散させているといいます。ドイツ内務省の報道官は、偽情報を監視しているものの、現時点で動画の削除といった措置は講じていないものの、「深刻な偽情報であることには変わりはない」とも指​摘しています。なお、ロシアは、西側諸国に対する偽情報工作への関与を否定しています。

ディープフェイクポルノを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 警察庁は、18歳未満の画像を生成AIなどで加工したわいせつ画像「性的ディープフェイク」について、2026年上半期(1~6月)に全国の警察が通報・相談を受けるなどして対応、把握した事案は123件で、2025年同期の60件から倍増、2025年1年間の114件(2024年は110件)も上回りました。なお、123件中、生成AIやスマホ向けの画像加工アプリなどの悪用が確認されたのは38件に上りました。また、被害者の9割は中高生で、内訳は中学生が最多の79件、高校生38件、小学生3件、不明3件で、加害者は、被害者の同級生や同じ学校の生徒らが7割近い83件、SNSなどで知り合った人物が7件でした。友人間で撮影した画像などが悪用されていたほか、被害者の高校生が性的偽画像を拡散すると脅され、電子マネーを要求される事案も起きていました。このほか、面識のない人物に盗撮され、性的画像に加工されたケースも4件確認されました。警察は性的偽画像を作ることの違法性を周知する取り組みを強化しており、悪質事案は名誉毀損やわいせつ物頒布などの容疑で捜査し、加害者への指導・警告を繰り返しています。
  • 生成AIで作ったわいせつ画像をSNSに投稿したとして、警視庁は会社員の男(32)を名誉毀損と児童買春・児童ポルノ禁止法違反(公然陳列)の疑いで逮捕しました。性的な偽画像「ディープフェイク」を作るよう男に依頼したとして、高校生の少年(17)も両容疑で書類送検する方針といいます。報道によれば、インターネットやSNS上にあがっている画像が悪用された可能性があるといい、投稿された画像が児童の裸体であると認識できるほど精巧だったことなどから、児童買春・児童ポルノ禁止法が規制対象とする児童ポルノにあたると判断したとみられます。インターネット上の性的画像の削除などに取り組むNPO法人「ぱっぷす」の金尻カズナ理事長によれば、以前は技術的なハードルが高く、著名人などが標的となるケースが目立っていたところ、生成AIの普及により、顔写真の加工を請け負うサービスが現れたり、自分でも容易に加工できるようになったりし、一般の人にも被害が広がっている印象があるといいます。金尻氏は「友人だけに公開するアカウントでも、誰かが画像を流出させることがあり、現状では事実上、ディープフェイクポルノは作りたい放題だ」と指摘しています。本人の同意なく性的な画像を作ったり、拡散したりする行為を直接規制する法律が必要だとするほか、被害者が性的な画像の削除や必要な支援について相談できる公的な窓口も必要だと訴えています。
  • 法務省は、生成AIによる声や肖像の無断利用に対する民事上の責任を議論している検討会に指針の修正案を示しました。性的な画像を生成した「性的ディープフェイク」は、肖像権侵害として損害賠償請求の対象になり得ると明記、有名人に限らず一般人も保護され、SNS上の拡散の程度などが慰謝料算定の考慮要素になるとしています。修正案では、俳優の画像と他人の裸の画像を生成AIで加工し、性的ディープフェイクとしてSNS上に公開して収益を得たケースを例示、肖像権侵害の判断に当たっては、肖像権によって実質的に保護されるべき法的な利益を検討する必要があるとし、俳優本人が自身に関する表現だと認識できれば、名誉感情の侵害や私生活の平穏の侵害として賠償責任が生じ得ると指摘、性的ディープフェイクの元になった画像が一般人の場合でも「保護されるものには変わりはない」との考えを示しました。また修正案は、声優らの声の無断利用についても前回会議で示された原案に基づき、声は氏名などと同じく人の識別情報や個人の人格の象徴に当たると指摘、俳優らの写真などから生じた利益を独占できる「パブリシティー権」や、「声をみだりに利用されない権利」として法的保護の対象に含まれるとしました。さらに、声優の声を生成AIで合成して、わいせつな文章を読み上げているかのような音源を生成し、SNSに投稿して収益を得た場合、「声をみだりに利用されない権利」を侵害したとして損害賠償や差し止め請求の対象になり得るとの考えを示しました。
  • 総務省が発表した偽・誤情報に関する実態調査によれば、SNSでの不用意な拡散や精巧な偽動画にだまされることを抑止するためには、利用者の判断力が鍵になるとの結果が出ました。総務省は今後も国民のリテラシーを高める取り組みに注力するといいます。偽・誤情報の特徴やSNSの特性などを尋ねて個人のリテラシーの有無を計測する調査では、5640人の約4割が「全問不正解」となりました。ただ実際にSNS上で流通した偽・誤情報を何らかの形で他人に拡散してしまった人に限ると、約半数が「全問不正解」の人だったといいます。リテラシーが相対的に低い人が拡散しやすいとの結果になったといえます。またAIで巧妙に作られた偽の画像や動画「ディープフェイク」に関し、だまされるとは思わないと答えた人に限れば6割超が「全問不正解」の人でした。リテラシーが低いとされた回答者が、自身の判断力を「過信」してしまいがちな様子がうかがえたといいます。大変興味深い結果だと思います。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/ステーブルコイン/暗号資産を巡る動向

暗号資産(仮想通貨)を巡る規制の強化を盛り込んだ改正金融商品取引法(金商法)が参院本会議で可決・成立しました。投機色の強い商品として発展してきた暗号資産市場の利用者保護が前進する半面、暗号資産交換業者に課される責任準備金は淘汰・再編の引き金になるとして、「投資向けの資産として暗号資産が認められることは業界にとって大きな転換点だ。利用者保護に向けて、企業統治や法令順守などで一段と厳しい取り組みが求められる。体力的に対応できない業者が出てきてもおかしくない」、「法令順守やシステム対応など規制強化は多岐にわたるので、小規模な業者にとっては負担が重い。廃業や合併、大手の金融グループに買収されるなど、業界再編につながる可能性がある」といった見方も出ています。また、専門家らは「金融当局が暗号資産への投資にお墨付きを与えたわけではない」とくぎを刺し、「投機性の強い商品であることを理解したうえで投資する必要がある」などと指摘しています。金融庁が主眼に置くのは徹底的な利用者保護であり、改正金商法の成立により、これまで決済手段として主に資金決済法で規制してきた暗号資産を、「有価証券とは異なる金融商品」として金商法で位置付けし直すものです。背景には暗号資産の実態が決済から投資へと大きく変わった現実があります。代表的な暗号資産であるビットコインは銀行などの中央管理機関を置かずに個人間で送金できる決済手段をつくる目的で2009年に誕生しましたが、日本暗号資産ビジネス協会の2022年の調査では、国内利用者によるビットコインなどの暗号資産の保有目的(複数回答)の約9割は長期的な値上がりを期待したものだといいます。国内口座数は延べ1400万を超え、投資経験者の保有率はFX(外国為替証拠金)や社債を上回り、米国では暗号資産ETF(上場投資信託)への資金流入も進み、機関投資家の投資対象としての存在感も高まっています。

こうした実態を踏まえ、金融庁は規制の軸足を「決済インフラの安全確保」から「投資家保護と市場の公正性確保」へ移すものです。その柱がインサイダー取引規制の導入です。現行法でも相場操縦や風説の流布は禁止されていますが、未公表の重要情報を利用した売買を直接禁じる規定はなく、改正法では、暗号資産の発行体や取引業者、大口投資家などの関係者が重要事実の公表前に売買することを禁じ、違反すれば5年以下の拘禁刑や500万円以下の罰金などを科し、重要事実を受け取った第三者も対象となります。こうしたインサイダー規制の導入は市場が株式市場に近い規律を持つ転機となり、情報開示も変わることになります。暗号資産の発行体や取引業者は、トークンの仕組みや供給量、発行体の経営状況などを公表する義務を負うことになり、虚偽記載には課徴金や刑事罰も適用されることになります。これまでホワイトペーパー(設計書)中心だった情報提供に法的な裏付けが加わることで、投資家が判断する材料は増え、透明性という点では米国より先を行くことになります。米国ではトランプ大統領の年次資産公開報告書で、暗号資産関連収益が10億ドルを超えることが判明するなど、暗号資産規制を定めるクラリティー法案を巡って、政府高官が在職中に暗号資産ビジネスから利益を得ることを制限する倫理条項を民主党議員が強く要求するなど、同法案の成立にはまだまだ紆余曲折が予想されます。市場が透明性を増す努力の見返りに、暗号資産交換業者の負担は増えることになり、とりわけ「不正流出が発生した場合の補償原資として、取引業者に積み立て「責任準備金」を求めることになります。インターネットに接続しない「コールドウォレット」で保管する資産も含めて補償原資を確保する仕組みで、コインチェックやDMMによる暗号資産流出事件などを受けた措置です。特に最近ではサイバー攻撃が激甚化しており、利用者保護という点では大きな課題で、「不正や詐欺をなくし、無登録の交換所などを排除することが大切だ。ハッキングによる流出事件も社会にネガティブなインパクトを与える。業界を挙げてセキュリティ対策を向上させる必要がある」、「ハッキングによる流出事件は、いったん起きると被害額が数百億円に膨らむため、個別の交換業者が補償の原資を確保するには限界がある。損害保険の仕組みを使うことで、お客さんの被害額の多くを補塡(ほてん)できる原資を確保することが必要になる」といった業界の声も聞かれます(当然ですが)。さらに、「暗号資産はたくさんの種類があるが、国内で交換業者がどの暗号資産を取り扱うのかは、自主規制団体の『日本暗号資産等取引業協会』で審査して決めている。ただ、交換業者(の自主規制)だけで決めると、取り扱う暗号資産を増やしたいというニーズがあるので客観性が欠ける恐れがある。第三者の目を入れて、中立的に審査することが求められている」との専門家の指摘も重要です。

暗号資産業界が、量子コンピューターの脅威への備えに乗り出しつつあります。最近の技術発展により、近い将来、取引やデジタルウォレットを保護する暗号技術が破られるのではないかという懸念が高まっているためです。2026年7月12日付ロイターの報道によれば、現在の高性能コンピューターよりもはるかに高速に複雑な数学問題を解くことができる量子コンピューターは、従来の暗号化技術を解読するために悪用される可能性もあり、旧来の暗号技術で保護されたブロックチェーンを基盤とし、過去に大規模ハ​ッキング被害の歴史もある2兆ドル(約325兆円)規模の世界の暗号資産市場にとって、大きな火種となると指摘されています。開発を主導する大手テック企業の一つ、アルファベット傘下グーグルが2026年3月に発表した研究では、量子コンピューターがこれまでの想定よりも早い段階で暗号技術を破る可能性が示され、グーグルは、暗号を破れる量子コンピューターが2029年までに登場する可能性があるとしています。トランプ米大統領は2026年6月、量子技術が公共・民間の両部門にもたらすリスクを踏まえ、米国の量子技​術力を強化する大統領令を発令しました。一部の暗号資産企業やブロックチェーン開発者は既に、量子耐性のある暗号技術で自らのネットワークを更新する計画を策定しており、作業は数年がかりになる可能性があり、デジタル資産を支える基盤イ​ンフラの大規模な見直しが必要になるとみられています。こうした事態について専門家らは、「暗号資産および暗号資産ネットワークにとって、最も⁠直接的かつ、存亡に関わる脅威だ」、「ブロックチェーンは透明性が高く、一度記録されたデータは恒久的に残る。そのため暗号資産はとりわけ特異な形でリスクにさらされている」などと指摘しています。最大の暗号資産であるビットコインは、とりわけ脆弱だとみ​られており、17年にわたる取引履歴の中で、多数の公開鍵がすでに可視化されているため、ビットコインの流通供給量の約35%(あるいは50%)が量子コンピューター攻撃の標的になる可能性が​あるとの指摘もあるほか、ハッカーが大量のトークンを盗んで売却する事件が一度でも起きれば、価格は暴落しかねないとのリスクも指摘されています。

その他、暗号資産を巡る最近の動向から、いくつか紹介します。

  • 欧州連合(EU)は、ウクライナ侵攻を巡る第21弾となる対ロシア制裁を承​認しました。ロシアの銀行部門と暗号資産(ネットワークが主な対象で、過去4年間で最多となる170団体と48の個人を制裁指定しています。対象にはロシアの金融機関94行(​主に銀行)やモスクワ証券取引所が含ま⁠れ、指定を受けた銀行は累計で100行を超え、​うち33行は国際銀行間通信協会(SWIFT)から遮​断されることになります。さらに、カラス外交安全保障上級代表(外相)は、ロシアの「影の船団」に属する40隻超の船舶、ロ​シアとベラルーシの複数の石油精製所、長距​離ドローン製造に関与する主要企業を含む50超の軍‌需産⁠業関連団体も対象になっていると述べています。
  • 米上院共和党は、大統領ら政府関係者による暗号資産発行などを禁じる立法措置を発表しました。暗号資産の規制上の分類を明確にする「クラリティー法案」に盛り込まれました。暗号資産を推進するトランプ大統領が関連事業で巨額の利益を得る中、野党民主党が大統領らによる利益相反を防ぐ倫理条項の導入を要求し、同法案の審議は停滞、報道によれば、法案の早期可決を求めるトランプ政権も条項を容認したものです。上院通過には、民主党の協力も欠かせないところ、現時点では可決の見通しが立っていません。修正案では、暗号資産発行に加え、大統領らによる関連企業の後援も2029年1月まで禁止。司法省を倫理条項の監督機関と定め、違反すれば50万ドル(約8200万円)または取引額の10%のうち、どちらか低い額が制裁金として科されることになります。
  • 米通貨監督庁(OCC)は、トランプ米大統領の一族が関与する暗号資産ベンチャー「ワールド・リバティ・フィ​ナンシャル(WLF)」が申請していた信託銀行免許を条件付‌きで承認しました。これにより、WLFのステーブルコイン事業拡大に道が開かれることになります。OCCはウェブサイトに掲載した書簡で、WLFが2026年1月に申請した「全米信託銀行(ナ​ショナル・トラスト)免許」について、条件付きの予​備承認を付与したと明らかにしました。正式承認が得ら⁠れれば、WLFは新設する信託銀行を通した顧客資産の管理・保管を行​えるようになるほか、決済の迅速化も進めることができます。この免許では、暗号資産企業は単一の連邦免許​の下で全米規模で顧客資産を保管できるほか、決済や資産管理​サービスも提供できるようになり、大手機関投資家の顧客獲得が容易に‌なります。⁠トランプ政権の暗号資産に友好的な姿勢を追い風に、暗号資産企業の間ではこうした免許の取得を目指す動きが広がっています。
  • インド準備銀行(RBI、中央銀行)は暗号資産を「禁止する方向​へ傾いている」と改めて表明しました。また‌インド税務当局は海外の交換業者を通じた取引は追跡が困難だとし、暗号資産取引による課税逃れに警​戒感を示しています。インド政府は暗号資産⁠を禁止したり規制したりする政策を決定​していません、政府文書により、主要規制当局の​間では暗号資産を厳格に規制することが好ましいと考えられていることが判明したものです。インドでは2018年以降、暗号資産​は「グレーゾーン」として存在すること​が認められてきましたが政府文書では、暗号資産が明確な規則の‌ない⁠環境下で取引され続ける中、インドの主要規制当局は同国の金融の安定性に対するリスクが増大している状況を懸念していることが示​されています。政府文書によれば、RBIはリスクの波及を​抑えるため、銀行と金融機関は​暗号資産⁠および私的に発行されたステーブルコインの保有、取引、取得については禁止されるべきだと⁠訴えています。インドの銀行は現時点で​暗号資産の取引を禁止されていませんが、RBIからの再三にわたる​警告を受け、暗号資産の取引を避けてきています。

ステーブルコインを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • デジタルガレージ(DG)は、店舗や電子商取引(EC)サイト向けに法定通貨に価値が連動する「ステーブルコイン」での決済を可能にする基盤サービスを提供しています。個人消費での普及を見据え、多様な決済手段に対応するとしています。店舗側での特別な設備投資を必要とせず、決済システムとソフトウェア同士を接続すればステーブルコイン決済を導入できるもので、まずはドル建てのステーブルコイン「USDC」による支払いに対応するといい、今後は円建ての「JPYC」や、主要なブロックチェーン(分散型台帳)を活用したステーブルコインにも広げる予定だといいます。本コラムでたびたび取り上げているとおり、ステーブルコインは米ドルや円などの法定通貨や特定資産に価値が連動するため価格が安定しており、価格変動が大きい暗号資産のビットコインと比べると決済手段として優れていると見られています。クレジットカードなどに比べて店舗側は負担する手数料を抑えられる利点もあります。決済手段の多様化やインバウンド(訪日外国人)の両替負担軽減にもつながるといいます。また、米国では飲食店での利用も広がりつつあり、日本でもローソンが店頭での支払い手段として導入を検討しています。円建てのステーブルコインは発行額が少なく、消費者には浸透していないのが現状で、デジタルガレージの決済基盤の導入で対応店舗が増えれば、将来的に国内でも普及する可能性があります。同社は2026年1月、JCBやりそなホールディングスとステーブルコイン決済の普及に向けて協業すると発表、実店舗におけるステーブルコイン決済の実証実験を手掛けて、日本国内での課題の抽出や解決策の検討を進めてきました。
  • 英スタンダードチャータード銀行などが香港で設立した金融会社、アンカーポイント・ファイナンシャルは、ステーブルコインを発行したと発表しました。香港当局が立ち上げたステーブルコイン免許制度に基づく初めての発行となります。同社のコインは香港ドルに連動し、「HKDAP」と名付けられました。当初は機関投資家らプロ投資家のみにサービスを提供し、段階的に利用を拡大するとしています。越境決済のほか、ブロックチェーン上で発行し権利化したデジタル資産であるReal World Asset(RWA)トークンを重点分野としています。本コラムでもたびたび取り上げてきましたが、香港当局はデジタル資産ハブを築く方針を掲げ、ステーブルコインの環境整備を急いできました。2025年には免許制を軸とする条例を施行し、2026年4月にアンカーポイントと英HSBCの2グループに第1弾の免許を付与していました。

CBDC(中央銀行デジタル通貨)を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 欧州中央銀行(ECB)は、キャッシュレス決済に対応したCBDC「デジタルユーロ」の試験運用を2027年後半に始めると発表、またプロジェクトの実証実験に参加する決済サービス事業者36社を選定したと発表しました。ECBなどの中銀職員やインターネット通販事業者、飲食店などが参加、技術的な課題を検証し、利便性向上につなげるとしています。デジタルユーロは、店頭での買い物の際にスマホのアプリなどを使って手数料無料で決済できるのが特徴で、試験運用では、中銀職員がネット通販や店頭でデジタルユーロを使って支払いを行い、実用段階に近い機能や技術を使い、1年間試行する予定といいます。ECBは数年前からデジタ​ルユーロの開発に取り組んでおり、遅れている法整備が2026年末までに完了することを前提に2029年の​初回発行を目指しています。
  • インド準備銀行(中央銀行)のマル​ホトラ総裁は、新興国グループ「BRICS」のメンバーが、そ​れぞれの高速決済シス​テムとCBDCとの連携の可能​性について協議してい​ると明らかにしました。「国境を越えた決済はBRICSを含むわれわれ全員​にとって関心の高​い分野だ。コスト削減の余地が‌十分⁠にあると考えているためだ」と指摘、「さまざまな選択肢が検討されて​いるが、​現時⁠点ではまだ議論の段階にある」と述​べています。また、インド中銀とし​て、⁠ルピーの国際化や、クロスボーダー決済・貿⁠易に​おける現地通​貨の利用促進に向けた取り組み​も継続していくと述べています。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

第19回ギャンブル等依存症対策推進関係者会議が開催され、令和7年度ギャンブル等依存症対策フォローアップ結果が報告されています。各関係事業者において広告・宣伝指針を策定し、適切に運用していることや、本人・家族の申告による公営競技場、場外発売所への入場制限やインターネット投票の利用停止措置、購入限度額設定システムの周知・利用促進などの取組みも報告されています。また、カジノ管理委員会から、カジノを含む統合型リゾート(IR)における「重層的・多段階的な取組み」についても報告されています(既知のものです)。

▼ 内閣官房 第19回ギャンブル等依存症対策推進関係者会議
▼ 資料2 IR整備法におけるカジノ行為に対する依存防止対策の概要(カジノ管理委員会事務局提出資料)
  • カジノ管理委員会は、特定複合観光施設区域整備法(以下「法」という。)の目的に定める「適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ事業」を実現するため、カジノ施設の設置及び運営に関する秩序の維持及び安全の確保を図ることを任務としている。
  • カジノ行為に対する依存防止対策として、重層的・多段階的な取組を行うこととしている
  • 重層的・多段階的な取組
    1. カジノ施設入場前
      • IR区域は全国に3区域まで(法第9条第11項第7号)
      • 各IRにカジノ施設は1施設のみ(法第41条第1項第7号)
      • ゲーミング区域はIR施設の床面積の合計の3%まで(法第41条第1項第7号等)
    2. カジノ施設入場時
      • 入場等回数は7日間で3回、28日間で10回まで(法第69条第4号及び第5号)
      • マイナンバーカード等による厳格な本人確認(法第70条第1項)
      • 入場料等(1回:6,000円)の賦課(法第176条第1項及び第177条第1項)
    3. カジノ施設内
      • 日本人等に対する貸付業務の規制(法第85条第1項第2号)
      • 日本人等のクレジットカードの利用禁止(法第73条第8項及び第9項)
      • ATMの設置の禁止(法第92条及び第94条第1号ヘ)
    4. 利用者の個別の事情に応じた措置
      • 本人・家族等の申出による利用制限措置(法第68条第1項第1号)
      • その他のカジノ施設の利用が不適切と認められる者に対する利用制限措置(法第68条第1項第2号)
      • 入場者の適切な判断を助けるための措置(法第68条第1項第3号)等

直近では、ゲーム大手コナミグループの米子会社「コナミゲーミング」が、日本政府のカジノ管理委員会に、カジノ機器の製造・販売に必要なライセンスの認可を申請したことが明らかになりました。製造・販売事業者の申請は国内初だといいます。2030年秋に大阪で開業予定のIRを見据えた動きとみられます。同社は世界400以上の市場でカジノ向けのゲーム機や関連技術を提供しており、申請は、カジノ向けスロットマシンやカジノ管理システムなどの製造・販売に必要な手続きで、今後、カジノ管理委員会が認可の是非を判断することになります。

オンラインカジノの問題が深刻ですが、警察庁ではあらためて注意喚起のサイトを周知しています。

▼ 警察庁 オンラインカジノを利用した賭博は犯罪です!
  • オンラインカジノは、海外の事業者が合法的に運営しているものであれば、日本国内で、個人的にこれを利用しても犯罪にならないと考えていませんか?
  • 海外で合法的に運営されているオンラインカジノであっても、日本国内から接続して賭博を行うことは犯罪です。
  • 「有料版」はもちろん、「無料版」や「無料ボーナス(ポイント)」であっても、オンラインカジノの利用は絶対にやめましょう。
  • バカラ、スロット、スポーツベッティング等、その名称や内容にかかわらず、オンライン上で行われる賭博は犯罪です。
      ※賭博罪賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料

      ※常習賭博罪常習として賭博をした者は、3年以下の拘禁刑

違法なオンラインカジノ利用の防止策を検討する総務省の有識者会議は、カジノサイトへの接続を強制的に遮断する「ブロッキング」の検討結果を盛り込んだ報告書をまとめました。検討の状況については、本コラムでも適宜取り上げてきましたが、カジノ利用の防止にブロッキングが「有効」だとし、選択肢として排除することなく検討するよう求めている点は筆者としても妥当だと考えています。報告書はブロッキングの実施に向けて「必要性・有効性」「社会的利益」など四つの要件を明示、政府はこれを踏まえ、2026年秋にもブロッキング以外の利用防止策の効果を検証した上で、ブロッキングの実施を最終判断する見通しとしています。総務省は同会議において、2026年5~6月に実施した報告書案に対する意見公募の結果も示しました。236の団体、個人などから意見が寄せられ、「ブロッキングを実施すべきだ」とする意見が「すべきではない」の2倍超に上りました。具体的な意見として、実施に前向きなものでは「若年層らの(サイトへの)接触機会を減少させる効果が期待できる」「他の対策による抑止効果は限界に近づいている」などがあった一方、「より権利制約の小さい手段を優先すべきだ」との意見もありました。ブロッキングの実施には、通信会社が全ての利用者の通信先を確認する必要があり、通信内容を他者に知られない憲法上の「通信の秘密」に抵触することが避けられません。政府はカジノサイトへ誘導するSNS投稿を違法としたり、日本からの接続を拒否するよう海外のカジノサイト関係国に要請したりするなど、ブロッキング以外の対策も進めており、報告書は現行の対策でもオンラインカジノの利用などが減らない場合に、ブロッキングが必要になるとの見方を示していることから、現行の対策の検証結果が今後の焦点になります。

▼ 総務省 オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会(第15回)
▼ 資料15-1 「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会 報告書(案)」に対する意見募集結果(概要)
  • 必要性(他の対策が尽くされたか)
    • オンラインカジノに対しては、包括的な対策が必要であり、取締りや決済遮断等の実効性の高い手段を優先すべき。
    • 依333333333333333333333333333333333333333+存症対策を理由にブロッキングを検討するのであれば、合法オンラインギャンブルを含めた横断的な依存症対策を検討するとともに、利用制限や広告規制等のより権利制約の小さい手段を優先すべき。
    • 既存施策には一定の効果が認められており、基本法改正に基づく取組の効果を十分に検証すべき。
    • 周知啓発や取締り等の既存対策には限界がある一方、ブロッキングは若年層やカジュアルユーザの接触機会を減少させる効果が期待できる。
    • アフィリエイト広告が依然として減っておらず、海外事業者の摘発も困難な実態を踏まえると、他の対策による抑止効果は限界に近づいているため、ブロッキングを排除せず検討すべき状況が生じつつある。
    • 依存症は病気であり、周知啓発だけでは行動制御が困難である
  • 有効性(対策としてのブロッキングは有効か)
    • 若年層やカジュアルユーザの接触機会低減という観点では一定の有効性が期待できる。
    • 一般人に対する入口対策として一定の有効性を有するため、回避可能性のみを理由に否定するのではなく、他の包括的対策と組み合わせることで、より高い効果が期待できる。
    • 事業者の自主的取組として実施されている児童ポルノブロッキングの実績からは、ブロッキングは有効と言わざるを得ないという現時点での事実は踏まえるべきである。他方で、ブロッキングを回避する技術は次々に出てくるものと考えられ、有効といえる期間は極めて限られるだろう。
    • 技術的な回避策が容易である現状では、ブロッキングの実効性が限定的であり、国際的な暗号化技術の標準化に伴い、実効性が著しく喪失する技術的現実を正しく 評価すべき。
    • ブロッキング回避方法を説明するページが容易に検索可能な現状では、若年層・カジュアルユーザに限定しても有効性に疑問がある。
    • DNSブロッキングやDPI等の手法は、誤遮断やネットワーク障害を引き起こすおそれがあり、通信の信頼性や安定性を損なうリスクがあることから、慎重に検討すべき。
  • 許容性(得られる利益が失われる利益と均衡するか)
    • オンラインカジノによるギャンブル依存症被害は、本人の生命・身体・財産を著しく危険にさらすのみならず、家族をはじめとする多くの人々の人生をも奪い得るものであり、個人の人格的利益に関わる重大な問題
    • 深刻な被害や若年層の接触状況を踏まえれば、その予防という公益は大きく、対象・手続・期間・救済を厳格に設計することを前提として、ブロッキングは許容され得る。
    • 依存症の観点では違法・合法を問わずリスクは共通しており、制度設計に当たっては依存症対策全体の一貫性が重要。
    • 公営競技とオンラインカジノの違いを明確化した上で、合法オンラインギャンブルを含めた横断的な依存症対策を検討すべき。
    • 児童ポルノのブロッキングは被害児童の人格権等を保護するための極めて例外的な措置であり、違法オンラインカジノと同列に論じるべきではない。
  • 実施根拠・妥当性
    • オンラインカジノは社会経済に深刻な弊害をもたらすことから、政府全体で実効的な対策を検討するとともに、アクセス抑止策を含めた立法措置を講じるべき。
    • ブロッキングには設備投資や運用に多額の費用を要するほか、ISPに大きな負担が生じるにもかかわらず、費用負担の在り方が不明確である。運用コストは最終的に国民負担につながることにも留意が必要。
    • 日本はISP事業者が数百から千規模で存在し卸提供も頻繁に行われているという市場特有の状況を踏まえ、実施主体となる電気通信事業者の数や相互関係についても十分に考慮した制度設計を行う必要。
  • その他
    • 諸外国の制度は、ブロッキングが例外的・慎重に扱われていることを示す事例として整理すべき。
    • 海外ではアクセス抑止策が実施されている国もある一方、日本の対策は遅れているように感じる。
    • 端末単位で違法オンラインカジノサイトへのアクセスを制限する遮断アプリの公的無料配布及び助成制度を設けるべき。
    • ギャンブル依存症の早期発見・早期支援に向け、医療機関、行政、民間支援団体及び家族会との連携強化が必要。

海外オンラインカジノの賭け金の決済システムを運営し客に賭博をさせたとして、埼玉と愛知両県警の合同捜査本部は、決済代行会社「TENMEI」元幹部ら男女9人を常習賭博の疑いで逮捕しました。報道によれば、同容疑者らは2019~25年に決済代行をしており、客からシステム運営組織の口座に振り込まれた賭け金は約3400億円に上るとみられ、客は数万人に上り、賭け金の1~3%を報酬として得ていたといいます。逮捕容疑は2025年1月4日~同年4月13日ごろ、客6人に44回にわたり海外のオンラインカジノで賭博をさせた疑いですが(客6人は単純賭博の疑いで書類送検されました)、組織が管理する架空法人の口座に、客から賭け金を入金させ、購入したポイントで賭博をさせていたといいます。合同捜査本部は同様の事件に関与したとして、今回再逮捕された2人を含む6人を常習賭博や組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで既に逮捕していました。また、この元幹部ら男女7人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで再逮捕しており、2025年1~4月、容疑者らが管理していた他人名義の口座(7法人8口座)に、違法な賭博で得られた収益(計約1億1473万円)を計5187回にわたって客に振り込ませて隠匿したとしています(なお、7法人のうち一つは実在する宗教法人で、マネロンに悪用されたとみられる。文化庁によると、近年、宗教法人格が第三者に不正利用され、脱税やマネロンなどに悪用される事例が増加しているという。)。秘匿性の高い通信アプリで海外の拠点から指示を受けながら、架空法人の設立や口座開設、資金調達など役割を分けていたとみています(SNSで口座の名義人を有償で募集し、架空法人の口座を開設、少なくとも500口座を管理し、客に入金させた賭け金で購入したポイントで賭博をさせていた)。これらの指示役は海外に滞在しているとみられ、埼玉県警は全容解明を進めるとしています。近年、オンラインカジノを通じた違法賭博のまん延が問題になっており、警察庁が2025年に公表した調査によると、国内の利用者は推計で約337万人、年間の賭け金は約1兆2400億円に上ります。オンラインカジノは、客が海外への送金を担う決済代行業者を介して利用する場合があり、違法賭博の助長を防ぐため、警察当局は決済代行業者の取り締まりを強化しており、判明した資金の流れから利用客の摘発も進めています。

ギャンブル等依存症対策基本法の基本計画で国が全都道府県と政令市に設置を求めている「治療拠点機関」が、10府県と京都市で未整備となっていることが、読売新聞の取材でわかったと報じられています(2026年7月23日付読売新聞)。地域のギャンブル依存症治療の「司令塔」となる機関で、国は当初、2020年度中に整備する目標を掲げていましたが、専門的な医療機関の少なさなどから難航している実態が明らかになりました。治療拠点機関は、都道府県や政令市が、依存症に特化した治療プログラムを行う医療機関の中から選定するとされ、(1)地域で依存症の治療を行う医療機関の実績の取りまとめ(2)依存症に関する情報発信(3)医療機関などへの研修を担い、地域の依存症治療の中心となることが想定されています。報道によれば、47都道府県のうち青森、岩手、山形、福島、福井、山梨、京都、奈良、高知、沖縄の10府県が未整備で、2030年にカジノ開業が予定される大阪府では「大阪精神医療センター」(枚方市)が選定されています。政令市では京都市が未整備で、残る19市のうち名古屋市を除く18市は、道府県の拠点機関が兼ねています。2016年のIR推進法成立を受け、2018年に成立した対策基本法の基本計画(2019年閣議決定)では、全都道府県・政令市で2020年度中をめどに治療拠点機関を整備するとされましたが、達成できなかったため、2022年には目標を翌2023年度中に延長されたものです。整備が進まない理由の一つが、専門的な治療ができる医療機関の少なさで、「依存症分野に詳しい人材の育成が難しい」(高知県)、「十分な経験や実績がある医療機関がない」(奈良県)などの回答が目立つといいます。国からの補助がないこともネックで、2026年度中の整備を目指す京都府は「負担が大きくなる上、費用面での見返りもない。我々としては(病院側に)協力をお願いしていくしかない」としています。

1人あたりのギャンブル支出額が世界で最も多いオーストラリアが広告の規制に乗り出しました。子どもが賭けを身近な娯楽と受け止めるのを防ぐ目的で、スマホでの賭けが広がり、依存症問題が深刻になる中、広告規制だけでは不十分との批判も多いところ、豪政府は、ギャンブル広告の規制法案を下院に提出しました。政府の規制案は(1)子どもの活動時間帯のTV・ラジオ広告の制限(2)オンライン広告の制限(3)広告でのスポーツ選手や著名人の起用禁止を中心とするもので、業界との協議などを経て2027年1月の施行を目指しています。豪州は「ギャンブル大国」で、報道によれば、損失額は年間250億豪ドル(約2.8兆円)に上り、2022年の調査では成人のおよそ半数(44%)が過去1年にギャンブルをしたと回答しています。近年はスマホやアプリで手軽に賭けられるようになり、オンラインでの賭け額は2019年の約56億豪ドルから2022年には約96億豪ドルへと急増したといいます。操作の容易さや匿名性の高さから、利用者が短期間に多額をつぎ込むリスクも高まっています。オンラインでは事業者が収集したデータをもとに広告を打てば、何度も負けては大金を賭ける利用者を効果的に勧誘でき、AIの進展とともに利用者分析はより精緻になるとともに、勧誘コストはより低くなり、依存度をさらに高める懸念があります。広告はSNSを通じて若者にも浸透し、ギャンブルへの抵抗感をなくす方向に作用しています。また、調査会社ロイ・モーガンによれば、成人の3%にあたる62万人が日常生活に支障をきたす「問題ギャンブラー」だといいます。ただ、法案可決は2026年8月以降になる見通しで、事業者は抵抗しています。豪業界団体「責任ある賭博協会」CEOは「業界は広告量の大幅削減に取り組んできた」と主張、規制が行き過ぎれば、利用者はギャンブルをやめずに(消費者保護が及ばない)海外業者に流れるだけだと警告しています(筆者としても看過できない指摘だと感じています)

③犯罪統計資料から

2026年上半期(1~6月)に警察が認知した刑法犯は38万3364件(暫定値)で、2025年同期より4.8%増える結果となりました。上半期では4年連続で増加し、コロナ禍前の2019年より多くなりました。増加が目立ったのが詐欺で、2025年同期比で19.6%増加し、3万8726件となりました。全体の6割超を占める窃盗は24万7849件で、2025年同期比で1.8%増えました(オートバイ盗が16.7%増、自転車盗が4.1%増だった一方、自動車盗は48%減少しています)。また、重要犯罪と位置づけられる犯罪は9.6%増の7692件で、強盗5.6%増、不同意わいせつ7.2%増、不同意性交等16.4%増、放火17.1%増などとなりました。検挙は4.4%増の14万7275件で、前年同期比0.2ポイント減少しました。年間の刑法犯認知件数は2002年の約285万件をピークに減少が続いていましたが、コロナ禍終結後、2022年から4年連続で増加しており、警察庁は厳しい治安情勢だとした上で要因については引き続き分析したいとしています。

▼ 警察庁 令和8年上半期における刑法犯認知・検挙状況について【暫定値】
  • 刑法犯認知・検挙状況(R8.6末/R7.6末/増減数/増減率(%))
    1. 認知件数
      • 383,364/365,637/17,727/4.8
    2. 検挙件数
      • 147,275/141,091/6,184/4.4
    3. 検挙人員
      • 98,689/94,195/4,494/4.8
    4. 検挙率(%)
      • 38.4/38.6/▲0.2ポイント
  • 主な特徴点(別紙参照)
    1. 認知状況
      • 令和8年上半期における刑法犯認知件数は38万3,364件で、前年同期比で4.8%増加した。このうち、詐欺の認知件数は3万8,726件で、前年同期比で19.6%増加しており、刑法犯認知件数の増加に対する寄与率 は35.8%となった。また、窃盗犯の認知件数は24万7,849件で、前年同期比で1.8%増加しており、刑法犯認知件数の増加に対する寄与率は25.1%となった。
      • 街頭犯罪の認知件数は12万1,512件で、前年同期比で3.0%増加、侵入犯罪の認知件数は2万7,197件で、前年同期比で6.5%減少した。また、重要犯罪の認知件数は7,692件で、前年同期比で9.6%増加した。
    2. 検挙状況
      • 令和8年上半期における刑法犯の検挙率は38.4%で、前年同期比で0.2ポイント減少した。
      • 重要犯罪の検挙率は81.9%で、前年同期比で2.4ポイント減少した。
  • 令和8年上半期における刑法犯認知件数は38万3,364件で、前年同期比で4.8%増加した。
  • 令和8年上半期における人口千人当たりの刑法犯認知件数は3.1件となり、令和7年(年間6.3件)の上半期(3.0件)から増加した。
  • 令和8年上半期における刑法犯認知件数の前年同期からの増加の内訳を見ると、詐欺の認知件数が6,345件増加となり、刑法犯認知件数の増加に対する寄与率が35.8%であったほか、窃盗犯の認知件数が4,452件増加となり、刑法犯認知件数の増加に対する寄与率が25.1%であった。
  • 令和8年上半期における詐欺の認知件数は3万8,726件と、前年同期比で19.6%増加した。
  • 令和8年上半期における窃盗犯の認知件数は24万7,849件と、前年同期比で1.8%増加した。乗り物盗では、オートバイ盗の認知件数が8,061件と前年同期比で16.7%増加、自転車盗の認知件数が7万8,785件と前年同期比で4.1%増加した一方、自動車盗の認知件数は1,984件と前年同期比で48.0%減少した。非侵入盗では、万引きが5万4,099件と前年同期比で3.1%増加した。
  • 令和8年上半期における重要犯罪の認知件数は7,692件と、前年同期比で9.6%増加した。
  • 令和8年上半期における街頭犯罪の認知件数は12万1,512件となり、前年同期比で3.0%増加した。侵入犯罪の認知件数は2万7,197件となり、前年同期比で6.5%減少、街頭犯罪及び侵入犯罪以外の認知件数は23万4,655件となり、前年同期比で7.3%増加した。
  • 令和8年上半期における刑法犯の検挙件数は14万7,275件、検挙人員は9万8,689人で、共に前年同期(14万1,091件、9万4,195人)を上回った(それぞれ前年同期比で4.4%、4.8%増加)。少年の検挙人員は1万2,070人で、検挙人員全体の12.2%となった(前年同期は全体の11.4%)
  • 令和8年上半期における刑法犯の検挙率は38.4%で、前年同期比で0.2ポイント減少、重要犯罪の検挙率は81.9%で、前年同期比で2.4ポイント減少した。

次に、例月同様、令和8年(2026年)1~7月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼ 警察庁 犯罪統計資料(令和8年1~7月分)

令和8年(2026年)1~7月の刑法犯総数について、認知件数は455077件(前年同期437622件、前年同期比+4.0%)、検挙件数は173483件(166532件、+4.2%)、検挙率は38.1%(38.1%、±0P)と、ここ最近の傾向に同じく、認知件数、検挙件数がともに増加している点が注目されます(前述の上半期の増加率よりやや減少しています)。刑法犯全体の6割超を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は294490件(292092件、+0.8%)、検挙件数は97983件(96445件、+1.6%)、検挙率は33.3%(33.0%、+0.3P)となりました。なお、とりわけ認知件数の多い万引きについては認知件数は62954件(61374件、+2.6%)、検挙件数は42686件(41096件、+3.9%)、検挙率は67.8%(67.0%、+0.8P)と増加傾向が継続しています。その他、凶悪犯の認知件数は4644件(4163件、+11.6%)、検挙件数は3885件(3595件、+8.1)、検挙率は83.7%(86.4%、▲2.7P)、粗暴犯の認知件数は39425件(35264件、+11.8%)、検挙件数は30580件(27516件、+11.1%)、検挙率は77.6%(78.0%、▲0.4P)、知能犯の認知件数は49221件(41056件、+19.9%)、検挙件数は12263件(11392件、+7.6%)、検挙率は24.9%(27.7%、▲2.8P)、とりわけ詐欺の認知件数は45766件(38897件、+19.2%)、検挙件数は10084件(9509件、+6.0%)、検挙率は22.0%(24.8%、▲10.3P)と極めて深刻な状況です。また、風俗犯の認知件数は11485件(11125件、+3.2%)、検挙件数は9407件(9035件、+4.1%)、検挙率は81.9%(81.2%、+0.7P)となっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数が増加しているほどには検挙件数が伸びず、検挙率が低調な点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、コロナ禍後も「非対面」でないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加、さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。

また、特別法犯総数については、検挙件数は38266件(35481件、+7.7%)、検挙人員は28798人(27573人、+4.4%)と検挙件数、検挙人員ともに刑法犯の傾向以上に大きく増加しています。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は2623件(3060件、▲14.3%)、検挙人員は1790人(2043人、▲12.4%)、軽犯罪法違反の検挙件数は3722件(3440件、+8.2%)、検挙人員は3655人(3360人、+8.8%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は2740件(2737件、+0.1%)、検挙人員は2036人(1954人、+4.2)、ストーカー規制法違反の検挙件数は1090件(782件、+39.4%)、検挙人員は855人(634人、+34.9%)、風営適正化法違反の検挙件数は364件(364件、±0%)、検挙人員は539人(435人、+23.9%)、児童買春・児童ポルノ法違反の検挙件数は1774件(1694件、+4.7%)、検挙人員は945人(852人、+10.9%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は3381件(2562件、+32.0%)、検挙人員は2421人(1971人、+22.8%)、銃刀法違反の検挙件数は2560件(2496件、+2.6%)、検挙人員は2113人(2101人、+0.6%)などとなっています。とりわけ犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、、麻薬等取締法違反の検挙件数は7650件(5717件、+33.8%)、検挙人員は4588人(3931人、+16.7%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は69件(74件、▲6.8%)、検挙人員は78人(60人、+30.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5020件(4935件、+1.7%)、検挙人員は3266人(3246人、+0.6%)などととりわけ麻薬等取締法違反の検挙件数が大きく増加している点が注目されます。大麻の規制を巡る法改正から1年半以上が経過しましたが、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています(今後の動向を注視していく必要があります)。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していたところ、最近、あらためて増加傾向にあります(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しいところ、他の薬物に比較して高価であることや、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます)。なお、麻薬等取締法違反が大きく増加している点も注目されますが、2024年の法改正で大麻の利用が追加された点が大きいと言えます。それ以外で対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。本コラムでたびたび指摘しているとおり、コカインについては、世界中で急増している点に注意が必要です。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員対前年比較について総数は286人(299人、▲04.3%)、中国58人(39人、+48.7%)、ベトナム46人(65人、▲29.2%)、ブラジル20人(15人、+33.3%)、フィリピン15人(21人、▲28.6%)、インドネシア10人(17人、▲41.2%)、パキスタン10人(8人、+25.0%)、韓国・朝鮮10人(9人、+11.1%)などとなっています。最近はベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回って増え続けていましたが、この時点では、中国人の方が多くなっている点が注目されます。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は3289件(4990件、▲34.1%)、検挙人員は2201人(2570人、▲14.4%)と検挙件数、検挙人員ともに大きく減少しています(暴力団員数が減少し続けていることが影響していると考えられます)。犯罪類型別では、強盗の検挙件数は44件(57件、▲22.8%)、検挙人員は78人(95人、▲17.9%)、暴行の検挙件数は221件(230件、▲3.9%)、検挙人員198人(208人、▲4.8%)、傷害の検挙件数は366件(445件、▲17.8%)、検挙人員は441人(510人、▲13.5%)、脅迫の検挙件数は138件(151件、▲17.8%)、検挙人員は119人(144人、▲17.4%)、恐喝の検挙件数は195件(185件、+5.4%)、検挙人員は246人(214人、+15.0%)、窃盗の検挙件数は1360件(2190件、▲37.9%)、検挙人員は293人(362人、▲19.1%)、詐欺の検挙件数は427件(1005件、▲57.5%)、検挙人員は352人(521人、▲32.4%)、賭博の検挙件数は10件(40件、▲75.0%)、検挙人員は55人(63人、▲12.7%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、2023年7月から減少に転じていたところ、あらためて増加傾向になった後、ここにきて急激に大きく減少している点が特筆されます。ただし、資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測される(ただし、詐欺は薬物などとともに暴力団の世界では御法度となっています)ことから、引き続き注意が必要です。

さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯総数について、特別法犯全体の検挙件数は2068件(2395件、▲13.7%)、検挙人員は1180人(1451人、▲18.7%)となりました(検挙件数について刑法犯の減少幅より小さい点が注目されます)。犯罪類型別では、凶悪犯の検挙件数は21件(20件、+5.0%)、検挙人員は15人(16人、▲6.3%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は11件(24件、▲54.2%)、検挙人員は8人(19人、▲57.9%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は14件(21件、▲33.3%)、検挙人員は27人(32人、▲15.6%)、風営化適正法違反の検挙件数は26件(35件、▲25.7%)、検挙人員は31人(61人、▲49.2%)、銃刀法違反の検挙件数は35件(44件、▲20.5%)、検挙人員は20人(34人、▲41.2%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は633件(585件、+8.2%)、検挙人員は271人(275人、▲1.5%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は8件(13件、▲38.5%)、検挙人員は12人(9人、+33.3%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1052件(1343件、▲21.7%)、検挙人員は623人(795人、▲21.6%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は73件(113件、▲5.4%)、検挙人員は23人(59人、▲61.0%)などとなっています。とりわけ覚せい剤取締法違反や麻薬等取締法違反については、前述のとおり、今後の動向を注視していく必要があります。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

防衛省は2026年8月12日、北朝鮮が、日本海に向けて弾道ミサイル1発を発射したと発表しました。最高高度約90キロで約690キロ飛翔し、日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下したとみられます。小泉防衛相は北京の大使館ルートを通じて、北朝鮮に厳重抗議したと明らかにしました。韓国軍合同参謀本部も同日、北朝鮮が東部の元山付近から日本海に向けて弾道ミサイルを発射したと発表、韓国軍は「韓米日で情報を緊密に共有しながら、万全の備えを維持している」とコメントしています。米韓は同17日から、朝⁠鮮半島有事を想定した定例の大規模合同軍事演習を予定しています。なお、北朝鮮は同6日にも元山付近から短距離弾道ミサイル1発を発射しましたが、翌日に国営メディアによる報道がありませんでした。金正恩(朝鮮労働党総書記)政権はこれまでミサイル発射の大半を国営メディアを通じて公表しており、6日の発射が意図した結果に至らなかったため、今回、同じ種類のミサイルを再発射した可能性も指摘されていますが、12日の発射についても、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は報じていません。複数の外交筋は、韓国を標的とするには飛距離が長いため、日本を威嚇する狙いもあったとの見方を示しています。金総書記の妹、金与正党総務部長は同5日、米国沖の太平洋で日本の海上自衛隊のイージス艦「ちょうかい」が7月下旬、巡航ミサイル「トマホーク」を試射したことに談話で反発、軍事的な対抗措置に言及していました。元山から長崎県の佐世保基地までの距離が約700キロで、同基地はちょうかいの母港です。

北朝鮮については、最近、「非核三原則」見直し議論の浮上など、日本の安全保障政策への批判を強めています。日本への脅威認識などに加え、関係改善の流れにある中国と歩調を合わせる意図が指摘されています。朝鮮中央通信や朝鮮労働党機関紙「労働新聞」では、2026年7月ごろから日本の政策や日米、日米韓の安保協力に関する記事が目立ち始め、特に8月に入ってからは連日のように発信、前述したとおり、5日には金正与正党総務部長が、海上自衛隊のイージス艦「ちょうかい」による米国製巡航ミサイル「トマホーク」の実射試験を取り上げ、「戦争国家への変貌を加速させている」と非難、談話は対抗措置への言及は「軍事指導部」の委任を受けたとして、金総書記の意向だと示唆しています。さらに「日本の危険な軍事的行動の背後に米国がいる」と指摘し、日米の安全保障協力についてもけん制、日本が「反撃能力」(敵基地攻撃能力)と位置付けて長射程ミサイルの配備を進めているのは「国際平和と安全を破壊する重大な脅威」だと主張し、日本を「必ず後悔させる」としています。韓国・統一研究院の先任研究委員は「北朝鮮は自らへの直接的脅威と感じているのではないか」と分析しています。一方、自らの核保有の正当性を訴える意味合いも考えられます。12日に「国際問題評論家リ・ミョンナム」名で朝鮮中央通信が配信した記事は、日米韓の連携や日本の核武装化は「軍事的妄動を圧倒的に制圧できる抑止力を固めることを要求している」と強調しています。中国の習近平国家主席は2026年6月に訪朝した際、日本を念頭に「軍国主義の復活」への反対を表明、6月下旬の朝鮮労働党中央委員会総会では、金総書記も「日本が今の混迷する(国際)情勢を、軍事大国化を制約する足かせを外す絶好の機会と見なしている」と主張、最近の日本批判は、こうした両首脳の見解も背景にあるとみられています。2025年11月の高市早苗首相の台湾有事発言を受けて日中関係が冷え込む中、日米韓の連携や日本の核を巡る動きは、中国も警戒するテーマであり、韓国・統一研究院の先任研究委員は「中国と同じ陣営であることを意図的に演出しているのではないか」との見方を示しています。

一方、北朝鮮外務省の報道官は、2026年8月17日から始まる米韓の合同軍事演習「乙支フリーダム・シールド(自由の盾)」を批判する談話を発表しました。同演習については、ドローン攻撃、GPS妨害、サイバー攻撃に対抗する訓練⁠も行うとされ、米韓連合軍司令部、国連軍司令部、在韓米軍の広報室長ライアン・ドナルド大佐は、演習は、無人システムや電子戦、サイバー作戦の利用拡大など、変化する戦争の性質を反映させていると説明、「北朝鮮軍兵士はウクライナに展開して戦闘を行っており、そこで⁠学んだ教訓を北朝鮮に持ち帰っている。それが北朝鮮の能力を変化させており、われわれの訓練はその脅威を考慮したものになっている」と述べ、⁠演習が朝鮮半島への脅威と韓国防衛に厳格に焦点を当てているとしています。これに対し北朝鮮報道官は、演習が「侵略戦争のリハーサル」などと批判、現代戦に対応した内容となり、「侵略戦争」を目的としていることを隠さなくなったと主張、「新たなレベルの脅威には新たなレベルの抑止力を適用する」とし、軍事力で対抗する姿勢を示しました。談話は、日本も含む日米韓3カ国の軍事的連携が進み、北朝鮮の安全保障環境が脅かされていると指摘しています。本コラムでもたびたび取り上げているとおり、北朝鮮もロシアのウクライナ侵攻を軍事的に支援し、現代戦の経験を積んでいるとされます。

北朝鮮による日米韓などへの非難等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 北朝鮮は、トルコで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議について、​軍事ブロックの強化や軍備増強の加速‌を理由に挙げて米国とその同盟国を非難しました。北朝鮮外務省が​声明を通じて、NATO指導者たちが北朝鮮の正当な​主権行使を脅威として描いていると指摘、NATOが⁠軍事費の増額やアジア太平洋地域の同盟​国との軍事協力の緊密化を通じて、ブロック​対ブロックの対決姿勢を強めていると述べました。北朝鮮は、この首脳会議はNATOが戦争と対決を目指す組織であることを​示しており、欧州とアジア太平洋の平和と安​全を犠牲にして、独自の地政学的利益を追求している‌と主⁠張、また北朝鮮非核化の取り組みにも言及し、米国の保護下で独自の核兵器を追求しようとする韓国や日本の試み、さらにはNATOの​核共有協​定に参加して⁠いる加盟国の核の野望にまず焦点を当てるべきだとの認識を示しました。さら​に北朝鮮は主権の責任ある行使​を通じて、⁠自国の主権と安全保障上の利益、そして地域の平和を守ると強調しています。朝鮮中央通信は、金総書記が軍の近代化​を呼びかける中で、北朝鮮が核戦力を「量的かつ質的」に​強化するための措置を決定したと報じています。
  • 北朝鮮は、日​米韓が地域の不安‌定化の根源であり平和の障害になっ​ていると主張​、フィリピン・マ⁠ニラで開かれ​た東南アジア諸国​連合(ASEAN)関連会合で日米韓が北朝鮮の非核​化を求めたこ​とに反発しました。国営朝鮮中‌央通⁠信(KCNA)によれば、北朝鮮外務省の報​道官は、「​不⁠可逆的に終了した」非核化​問題を日米韓​が蒸⁠し返そうとしても、北朝鮮の現⁠在の​地位や地​域の力学に影響を与えるこ​とはないと述べています。
  • 北朝鮮の報道官は談話で、「地域と国際社会が警戒すべき重大な脅威は、米国を中心に形成される排他的な安全保障・経済ブロックと、米国の保護の下、核拡散防止制度を侵食する日韓の核武装の企図だ」と主張しました。「核武装の企図」について具体的に説明はありませんが、小泉防衛相が核抑止に関し「タブーなく議論する」と述べたことや、韓国の原子力潜水艦建造の動きが念頭にあるとみられています。
  • KCNAは論説で、在日​米軍司令部の増員を批判し、‌朝鮮半島での衝突はもはや単なる可能性の問題ではなく、いつ起こる​かという問題になっている​と警告しています。増員は同司令部が本⁠格的な「戦争司令部」になりつ​つあることを示すものだと主張、​米国がアジア太平洋地域での有事に向けて自衛隊を準備させていると非難​しています。在日米軍のスティーブン・ジョ​スト司令官は、在日米軍司令部の機能強化として、2025年以来、約215人を増員したことを明かしていました。KCNAは、最近の米​韓日の軍​事協力に⁠よって地域の緊張が高まり、有事の際には在日米​軍が朝鮮半島に最初に派遣​され⁠る増援部隊の一つになる可能性が高いとの見方を示したほか、米国​による「軍事的冒険主​義」を非難し、北朝鮮が抑止力として核​能力を開発することを正当化しています。

イランが2026年3月に発射した2発の弾道ミサイルは、インド洋の絶海に浮かぶ英領ディエゴガルシア島に向かいました。イランとの距離4000キロの島には、中東に爆撃機や戦闘機を送る要の米軍基地があります。1発は迎撃され、1発は飛行途中で落下していますが、類似する位置関係の島が東アジアに存在、北朝鮮からおよそ3400キロの南方にある米領グアムの米軍基地です。米軍がアジアへの出撃拠点に位置づけるグアムを打撃できるよう、北朝鮮は中距離弾道ミサイルを長年開発しています。イランと北朝鮮はともに米国と対立し、核開発を志向し、長期にわたり国際社会の厳しい経済制裁を受けており、両者が選ぶ軍事的な行動には共通項が多く、敵の先制打撃を避けて地下深くに兵器を隠し持ち、無人兵器やサイバーを活用した非対称戦に力を注ぐなどですが、それは偶然ではなく、実際に連携の動きが指摘されてきました。米財務省は2016年、イランのミサイル技術者が北朝鮮を訪問し技術協力をしていると断定、2026年3月にイランが撃った弾道ミサイルの詳細は不明ですが、北朝鮮の「ムスダン」を母体に開発したとされる「ホラムシャハル4」の射程をのばしたとの説があるほか、米専門家の間では宇宙ロケットを基にしたシステムの主張もありますが、いずれにしてもミサイルの飛行データや知見は共有している可能性があります。両国の結びつきは「地下同盟」と呼ばれ、専門家は「互いに技術と教訓を循環させている」、「イランが相手の防空網を突破する手法を北朝鮮は観察している。韓国や日本の防空網を突破する戦術に生かす可能性がある」と指摘しています。米国はイランや北朝鮮を「テロ支援国家」と位置づけ、テロ撲滅を旗印に国際的な制裁や軍事介入を主導、日本は米国のつくる秩序に同調し、北朝鮮を弱体化する包囲網に加わることを安保政策の軸にしてきました。トランプ大統領の軍事力行使は過去の介入主義と異なり、軍事は譲歩を引き出す手段で、米国の国益が最優先との立場です。イランとの交渉も非核化と引き換えに制裁解除や弾道ミサイル開発を容認する「ディール」に関心があり、トランプ氏が「友人」と呼ぶ金総書記との間では、朝鮮の核の軍縮を追求する見返りに制裁を解除し、ミサイルなどの軍事開発は容認する可能性があり、拉致問題を抱える日本は難しい立場に追い込まれ懸念があります日本経済新聞によれば、北朝鮮は近年、イランとは別の地下同盟も進めているとし、ロシアのウクライナ侵略に加担して実戦経験を積み、核・ミサイル技術の向上を続、ロシアとイラン両国の経験を自国の軍事戦略に吸収し、軍事強国への歩みを加速させています。日本は北朝鮮とロシア、中国と隣り合わせであり、有事の火種に囲まれています。米国の戦争のあおりで湾岸諸国はイランの攻撃を受け、軍事対処や高度な外交交渉に取り組まざるを得なくなり、ウクライナ対応ではNATO3.0が真剣に議論されるなど、日本も人ごととは言えない、強い緊張感を持つ必要があります。

韓国銀行(中央銀行)が発表した推計によれば、2025年の北朝鮮経​済はロシアや中国との貿易拡大に支‌えられ、3.5%成長したことが分かったといいます。3%を超える成長は3年連続となりました。2025年の成長率は2024年の3.7%をわず​かに下回るものの、北朝鮮の経済規​模は、国連による対北朝鮮制裁⁠が本格化する前の2017年の水準を上回ったと​推計されています。同行は「​この成長は主に、北朝鮮とロシア間の経済協力の拡大に加え、中国との貿易増加や、​政府主導の開発プロジェクトの推進​によるものだ」と説明、北朝鮮‌の武⁠器の輸出需要が製造業のサプライチェーン全体の生産を押し上げたほか、ロシア人観光客の急増や交通網の拡充​が、宿泊​・飲食・⁠旅行業界を活性化させたといい、海外に派遣された北朝鮮労働者​や、ロシアの戦争遂行を支​援するた⁠めに派遣された軍隊からの収入も、外貨獲得額を大幅に押し上げました。ただ、北朝鮮⁠の経​済規模は依然として極​めて小さく、2025年の名目国民総所得(GNI)は48兆5000億ウォン(340億ドル)と推​計されており、これは韓国の1.8%に過ぎない規模です。関連して、韓国の情報機関、国家情報院傘下の国家安保戦略研究院などによれば、北朝鮮によるロシアへの武器輸出は2023年夏~25年末までの2年余りで最大137億8000万ドル(約2兆2000億円)相当に上り、2024年秋に始まったロシア派兵の対価も6億ドルを超えると推計され、合わせると北朝鮮の名目GDPの172億ドル(2024年、国連統計)の8割超に達する計算だといいます。一方、中朝首脳会談が約6年半ぶりに開催された2025年以降、北朝鮮は経済面でのロシア依存からの脱却に向け、対中関係改善を目指す姿勢を強めています。朴泰成首相は2026年7月、有事の軍事援助を盛り込んだ中朝友好協力相互援助条約の締結から65年を迎えたことを受けて中国を訪問、首相が最高指導者に随行する以外の形式で訪中するのは約15年ぶりで、両国の蜜月ぶりをアピールしました。韓国に亡命した北朝鮮元外交官の李日奎氏は「対ウクライナ戦争が終結すれば、ロシアにとっての北朝鮮の戦略的価値は徐々に低下する」と指摘、「米国との関係正常化交渉には中国の関与が不可欠であり、金正恩政権が中国との関係改善にかじを切るのは自然な流れだ」と分析していますが、正にそのとおりだと思います。

ロシアと北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアがウクラ​イナへの攻撃で北朝鮮製ミサイルを使用‌したと明らかにしました。ロシア軍による北朝鮮製ミサイルの投入が確認されたのは約1年ぶりで、関係筋は、長​期間の空白を経て再投入されたこと​は、ロシアが新たな兵器備蓄を確保した⁠可能性を示唆しているとの認識を示しました。報道によれば、ウクラ‌イナ⁠軍のレーダーは、クリブイリフに向けて飛来したミサイル2発の軌跡を探知、これらのミサイルは、北朝鮮の短距離弾道ミサイル「KN23」また​は「KN24」の特徴​と一致し⁠ていたといいます。ロシアは2023年末ごろから、KN23やKN24をウクライナに対する攻撃に投入し始めましたが、ウクライナがロ​シア⁠による北朝鮮製ミサイル使用を最後に確認したのは2025年8月8日だったといいます。北朝鮮はウクライナ侵攻を続ける⁠ロシ​アの緊密な同盟国で、これまで​に数千人規模の兵員や数百万発の砲弾を供給している​ほか、ミサイル供与も行っていると見られています。
  • ウクライナ国防省情報総局の当局者は、北朝鮮のミサイル部隊がロシア西部への展開を開始しており、対ウクライナ攻撃用​に弾道ミサイル120発と発射装置6基を装備する可能性があると明らかに‌しました。報道によれば、ロシアは約90人の北朝鮮要員からなるミサイル部隊を、ロシア西部ボロネジ州の第112ミサイル旅団内に配置する計画で、北朝鮮は既に弾道ミサイル「KN23」​および「KN24」40発と要員を新たにロシアに送り込んでいますが、配備の構成や​ミサイル総数については2026年9月のトップレベル協議で最終決⁠定する見通しといいます。北朝鮮側がロシアのミサイル運用​で具体的にどのような役割を正確に担うのかは明らかになっていませんが、米シンクタンク、外交政策研究所の専門家は、北朝鮮の戦力はウクライナにとっ​て重大な脅威だと指摘、「弾道ミサイル防衛はウクライナの最大の弱点の一​つであり、対処すべき弾道ミサイルの数が増えれば、より大きな課題となる」と述べ‌たほか、⁠ロシアは2026年の冬も電力網を大規模攻撃の標的にする可能性があり、ウクライナの防空体制の状況が特に大きな懸念事項になると指摘しました。報道によれば、北朝鮮は2023年終盤から2025年8月までの間に150発のミサイルを供給、ウクライナと国境を接するロシア西部クルスク州には約9500人の北⁠朝鮮​部隊がいますが、現在はウクライナに対する軍​事作戦に直接関与していないといいます。ゼレンスキー氏は先月、ロシアが北朝鮮にさらに3万人の兵士派遣を求​めており、ボロネジ州での受け入れ準備が進んでいるとも明らかにしています。
  • ウクライナ侵略を巡るロシアへの北朝鮮の派兵は2024年、ボロネジ州に隣接する露西部クルスク州にウクライナ軍が越境攻撃した際に始まりました。クルスク州の奪還を支援するためで、2025年に奪還が完了した後も、軍事施設建設や地雷撤去などの要員として北朝鮮は追加派兵を行ってきました。ミサイル部隊の展開は新たな動きとされ、露朝間の軍事協力が一層拡大することになります。米政策研究機関「戦争研究所(ISW)」は、北朝鮮側はミサイルの性能を実戦で試し、戦術に関する知見を広げようとしていると指摘しています。いずれにしても新たにミサイル部隊の配備が実現すれば、軍事協力は新たな段階に入ることになります。北朝鮮の部隊が発射装置を操作し、弾道ミサイルを発射する可能性があり、ISWは「実戦でミサイルの性能を試し、改良につなげる可能性がある」と懸念を示していますが、ゼレンスキー大統領も、「北朝鮮のミサイル射程圏内に入るアジア諸国にとって脅威となる」と指摘しています(北朝鮮と対峙してきた韓国に対し、ウクライナと緊密に協力するよう呼びかけ、防空システムで支援を得たいとも語っています)。また、北朝鮮ミサイルでの攻撃が増えれば、人的被害が一段と増える可能性があります。北朝鮮の弾道ミサイルはロシア製に比べて重い弾頭を搭載できるものの精度は劣るとされ、シビハ外相は「北朝鮮のミサイル発射装置が配備された場合、正当な攻撃対象になる」と警告しています。
  • ロシアのプーチン大統領は2026年7月、モスクワを訪問した北朝鮮の崔善姫外相と会談し、ウクライナ侵攻への支援に感謝を述べ、ウクライナ軍に占領されたロシア南西部クルスク州の国境地帯の奪還作戦への派兵などに言及し、「あなた方の兵士の功績を決して忘れない」とたたえました。崔氏は、ロ朝の関係強化が北朝鮮の絶対的な立場だと強調、「ウクライナ危機の根本原因の除去を目指すロシアの努力を無条件で支持する」と述べ、金総書記からの「最も親しい友人」へのあいさつをプーチン氏に伝えたといいます。本コラムでもたびたび取り上げてきましたが、ロシアと北朝鮮は2024年6月、相互の軍事支援を定めた包括的戦略パートナーシップ条約に調印、2025年4月、ロシア軍は北朝鮮兵の協力を得て、クルスク全域を奪還したと発表していました。ウクライナ全面侵攻後、米欧に厳しい制裁を科されたロシアにとって、派兵のほかに弾薬やミサイルでも軍事支援を受ける北朝鮮の重要性は高まっており、ロシアでは北朝鮮関連のイベントが増えている状況です。
  • 金総書記‌は、2026年8月15日の祖国解放記念日に際しロシアとの関係深化を改めて表明しました。プーチン大統領は、日本の植民地支配からの解放を記念する恒例の祝電で、両国の結び付きはソ連‌兵が⁠日本と戦う中で築かれたとし、「あらゆる分野」で協力が続く⁠と指摘、金総書記は「正義のための共通⁠の闘いの歴史と貴い友好の伝統を受⁠け継いできた」と応じ、両国関係の未来に期待を示しています。

一方、習近平国家主席が2026年6月に訪朝し、さらに強固になったと見える中国と北朝鮮の関係については、様々な見方がされています。活発なハイレベル交流や対日批判で足並みをそろえる表の姿とは裏腹に、現場レベルでは解消できていない不満やしこりも目立つと報じられています(2026年8月11日付毎日新聞)。報道によれば、貿易関係者は「(習氏の)訪朝には期待したが、その後も何の変化もないと(北朝鮮側は)不満を持っている」と語っており、北朝鮮側が特に不満なのは労働者の派遣問題だといいます。コロナ期には北京など中国各地の大都市の食堂で多くの北朝鮮従業員が「研修生」名目で働いていました。北朝鮮によるコロナ対策名目の国境封鎖のため、帰国できないとの事情もありましたが、封鎖解除後に、こうした従業員の多くは帰国、北朝鮮は代わりとなる従業員を中国に送れずにいるといいます。これは、中国政府が公用パスポート以外の北朝鮮国民について、ビザ免除による滞在期間を厳格に1カ月に限っているためだで、貿易関係者は「中朝国境地域の食堂や工場労働者であれば月に1回帰国し、また中国に戻ることができるが、北京や上海などから毎月帰国するのは負担が大きすぎる」と述べ、そのため国境地帯以外の場所には労働者派遣が困難な状況が続いていると指摘しています。中国側によるこうした対応は、加盟国に対して自国内の北朝鮮労働者を2019年末までに送還するよう求めた2017年の国連安全保障理事会(安保理)による対北朝鮮制裁決議を念頭に置いているとみられます。中国は北朝鮮側の反発に配慮し、非核化を公式に求めることはやめていますが、経済制裁の大枠は維持しようとしている模様で、こうした中国の対応は、北朝鮮兵士の派遣以来、関係が強まっているロシアが、安保理制裁にかかわらず労働者や食堂従業員を受け入れていることと対比され、北朝鮮側の中国に対する不満が高まる要因の一つとなっています。ただ、北朝鮮経済の中国依存には変化がなく、中国の税関当局の2026年7月の発表によれば、2026年上半期の中朝貿易総額は15億ドル(約2300億円)を超え、2017年の対北朝鮮制裁決議採択以来、最多となりました。中でも北朝鮮からの輸出品としては、国際的に価格が高騰するレアメタル(希少金属)の一種「タングステン」の輸出額が急増、2026年も北朝鮮の対中貿易依存度は90%台後半となる見通しで、貿易関係者によると「中国一辺倒」となることを懸念する金正恩(キムジョンウン)政権は、経済関係部門に「ロシアとのビジネス関係を強化せよ」と指示しているが、うまくいっていないのが現状です

その他、中国と北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 前述のとおり、北朝鮮経済の状況は、新型コロナウイルス対策としての国境封鎖を解除した2023年以降、派兵に対するロシアからの見返りなどもあって改善したとされますが、その間に北朝鮮ウォンの価値は10分の1に下がり、物価も高騰しました。北朝鮮ウォンは、2023年ごろまでは1ドル=8000ウォン程度でしたが、封鎖解除後の輸入品需要の急激な増加と、同時に行われた労働者の賃金引き上げ政策を受け、ドルや人民元に対して暴落、現在は1ドル=7万ウォンから10万ウォンの間を行き来しています。金正恩政権は外貨とウォンの闇両替を厳しく取り締まっているものの、平壌などでは自国通貨と米ドルを併用する経済の「ドル化」が加速しているといいます。その一方で、ドルの存在感が増したことで、外貨を持つ人と持たない人の間の格差はさらに拡大、外貨を多く持つ平壌や中朝国境に近い都市以外の地域住民の暮らしは、物価上昇でむしろ苦しくなっているといいます。金正恩政権は2024年に各地方に生活必需品のための工場などを建設する「地方発展20×10政策」を発表、その後、工場の建設は進んだものの、均衡発展を目指した金総書記の戦略は、必ずしもうまくはいっていません。一方、封鎖解除後に北朝鮮住民の経済活動が活発になったのは事実で、政権は、そうした活動を部分的に後押ししつつ、住民から外貨やウォンを吸い上げる政策を強化しているといいます。貿易関係者は「国が主体的に改革を進めているというよりも、社会変化や通貨暴落などの状況に合わせて対策に追われていると見る方が正確だ」と北朝鮮経済の現状を説明しています
  • ロシアのウクライナ侵略の長期化に伴い「戦争特需」が見込まれてきた北朝鮮で、経済的な見返りの少なさが指摘されています。研究者の分析では、北朝鮮が提供した武器や兵力などは最大98億ドル(約1兆5500億円)相当である一方、ロシアから確認された対価は最大約12億ドルにとどまっているといいます。北朝鮮では紙幣の過剰発行などを背景に通貨が急落し、インフレ圧力も高まっており、ロシアへの軍事協力が経済苦の緩和につながっていない実態が浮かびあがっています。ウクライナの研究者の推計によれば、2023年~25年半ばにかけて北朝鮮がロシアに供給した武器や弾薬、兵員などの価値は総額58~98億ドル相当に上ったのに対し、ロシアから北朝鮮に見返りとして移転や合意が確認されたのは食料や石油、戦闘機など総額約4億~最大12億ドルにとどまるといい、北朝鮮のロシアへの武器供給・兵士派遣については、韓国の情報機関傘下の国家安保戦略研究院も推計しており、2023年~25年末までで北朝鮮が最大144億ドルの外貨収入を得る可能性があるものの、実際に北朝鮮が回収した額は推計額の4%~19.6%程度とみられています。さらに、前述のとおり北朝鮮の通貨暴落も深刻で、その要因について、韓国企業銀行傘下のIBK経済研究所は、北朝鮮が国策として進める地方の開発事業や賃金引き上げに伴う紙幣の過剰発行によりウォンの価値が急落したと分析、北朝鮮国内でさらなるウォン下落を懸念した外貨需要が増大し、外貨不足に陥ったとみられています。通貨暴落により輸入依存度が高いガソリンや医薬品などの価格上昇や、穀物をはじめとする食料の輸入量減で住民の生活に悪影響を及ぼすことが予測されています。
  • 中国の習近平国家主席は、訪中した北朝鮮の朴泰成首相と北京の人民大会堂で会談し、習氏は「戦略的協力を強化し、それぞれの主権と安全、発展の利益を断固として守らなければならない」として、両国の連携強化を呼びかけました。朴氏は締結から65年となる「中朝友好協力相互援助条約」の記念行事に出席、同条約は中朝両国が戦時の軍事援助などを約束する内容で、習氏は会談で、条約について「両国国民が血をもって築いた、戦闘での友情を強固にするための重要な政治的・法的基盤を築いた」と評価しました。一方、中国側発表によると、朴氏は「両国は条約の精神に基づき、互いに支え合いながら社会主義事業の発展を推進し、地域と世界の平和を守るため協力していく」と応じ、さらに台湾問題などについて、「中国側が核心的利益を守ることを断固支持する」と述べています。
  • 北朝鮮が中国との貿易拡大を見越した準備を本格化させている、完成から10年以上使われていない国境の新橋のたもとで、税関とみられる施設の建設が進んでいます。新橋が開通すれば、外交関係が改善傾向にある両国がもう一歩踏み込んで接近することが期待されます。中朝関係は長らく微妙な状態が続き、2020年以降、コロナ禍で人やモノの往来が減り、コロナ後も2024年前後からは北朝鮮が軍事協力を通じてロシアに近づいた流れがあります。一転、関係改善を印象づけたのが2025年9月の金総書記による中国訪問で、6年ぶりに習近平国家主席と会い、共に軍事パレードに参列、2026年6月には習氏が7年ぶりに北朝鮮を訪れ、平壌で金氏と会談、習氏は「経済・貿易などの実務協力によって両国人民の幸福度を高める」と話しています。また、中国の李強首相は2026年7月、訪中した朴氏との会談で「経済貿易取引を着実に拡大し、相互接続を促進する用意がある」と述べており、新鴨緑江大橋の開通についても協議した可能性があり、現地では2026年秋の開通に向けて最終的な準備が進んでいるという見方も浮上しています。中朝間では、2026年3月に国際旅客列車の運行が再開していますが、現在は公務や商用を目的とした利用が中心になっているもようで、北朝鮮側ではコロナ禍前に盛んだった中国人観光客の本格的な受け入れには至っていません。
  • 中国には北朝鮮に米中関係の邪魔をされたくない思惑が、北朝鮮には経済や安全保障を強化したい思惑が、それぞれ背景にあります。中国は過去、北朝鮮によって重要な政治イベントや対話を台無しにされてきました。中国共産党は2006年10月8日から11日まで第16期中央委員会第6回全体会議(6中全会)を開き、翌年の党大会をにらんだ重要な政治イベントだったところ、北朝鮮は6中全会開催中の10月9日、初めての核実験を行いました。中国外務省の武大偉・朝鮮半島問題特別代表(当時)が訪朝した2016年2月2日には、北朝鮮は「衛星」と称した長距離弾道ミサイルの発射を国際機関に通告、最近では、北朝鮮は中韓両国の接近にいらだち、韓国の李在明大統領が2026年1月4日から7日まで中国を国賓訪問した際には、北朝鮮は4日に弾道ミサイルを発射しました。2026年は米中首脳会談がさらに開催される可能性が高く、中国としては、米中首脳会談の障害にならないよう、北朝鮮に対する予測可能性をできる限り高めたい思惑があるとみられます。また、条約には、どちらか一方が他国から武力攻撃を受けた場合、もう一方は軍事支援を行う「自動参戦条項」が盛り込まれており、北朝鮮を逃れた朝鮮労働党元幹部は「2024年に締結したロ朝包括的戦略パートナーシップ条約もそうだが、北朝鮮としては本当に自動参戦条項が有効なのか確認したい思惑があるだろう」と述べています。また、韓国の北朝鮮専門オンライン媒体「デイリーNK」によれば、中朝国境地帯を往来する貨物トラックの数が最近増えており、北朝鮮としては、中国の接近を利用して、中国との貿易拡大や経済支援を得たい狙いもありそうです。

その他、西側諸国と北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米国のトランプ大統領は2026年8月15日、金総書記とのツーショット写真をSNSに投稿、「我々はこの写真で不機嫌な表情を浮かべているが、笑顔を見せているものも多数ある。金正恩氏とはとても仲が良い」と書き込みました。投稿の意図は不明ですが、イランとの戦闘が終結に向かえば、北朝鮮との首脳外交の再開を模索するメッセージではないかとの臆測が広がっています。撮影場所や時期などは示されていませんが、韓国の聯合ニュースは、2019年6月に南北軍事境界線上の板門店で会談した際の写真だと報じました。トランプ氏は2026年6月にも、金総書記と並んで歩く写真をSNSに投稿しており、2018年6月にシンガポールで初の米朝首脳会談を行った際の写真とみられます。
  • 韓国の鄭東泳統一相は、対北朝鮮政策における「非核化優先」の方針をやめ、「平和優先」の姿勢に転​換すると明らかにしました。ただ、朝鮮半島の非核化という最終目標は維持するとしています。同相は「非核化という究極の目標は放棄していないが、『非核化優先』という方針は​放棄した」と発言、代わりに、北朝鮮の核活動の停止​を優先する方針に転換したと述べました。鄭氏は、北朝鮮は依然として地下のウラン濃縮施設で遠心分離機を稼働させ、寧辺にある施設ではプルトニウム生産用原子炉​を運転しており、核弾頭生産能力も増大し続けているとし、最​初から非核化を要求したことが、南北間の公式対話が7年間中断されていた‌時期⁠に、協議の妨げになっていたと指摘しました。その上で「『非核化第一』を対話の入り口に据えてしまうと、現実問題として対話は始まらない」と述べ、政府は目標を「朝鮮半島の非核化の実現」へ​と再定義したと述​べています。北朝鮮は、李⁠在明大統領が緊張緩和に向けて努力しているにもかかわらず、依然として敵対的な姿勢を​崩していません。北朝鮮は、韓国側の提案や対話再開​には関心⁠がなく、李大統領が米国との緊密な関係を維持することで対立的な政策を続けていると非難しています。鄭氏は、北朝鮮と米国の双方⁠に、​対話再開に向けた「戦略的な要請」が依​然として存在すると述べ、同氏は、米中首脳会談が重要な機会となり得る​とし、韓国はそれに先立ち外交活動を強化すべきだと語っています。
  • 韓国政府系シンクタンク、統一研究院が最近、北朝鮮当局が定めた脱北未遂者の収容規定を入手、肉体労働や思想教育を強いる一方、「人権侵害禁止」とも明記されていると指摘しています。規定は、脱北を試みたが失敗した者や脱北後に海外で拘束、送還された者などを収容する施設に関するもので、2018年に警察に相当する人民保安省(現社会安全省)が通達、「必要な労働をさせなければならない」と記し、事実上長時間の強制労働を促す一方で「人権侵害行為を絶対にしてはならない」と強調、「部屋で腕と足を伸ばしたり、首と腰を自由に動かしたりできるようにしなければならない」と、体を固定する行為も禁じています。さらに、収容者同士で殴ったり服や食べ物、物品を奪ったりする「いじめ」が行われないよう監督する義務をうたっています。統一研究院による脱北者の調査によれば、金正恩体制になって以降、拘禁施設での拷問が減少、情報機関にも取り調べで「殴るな」と指示が下されたといいます。李氏は2018年以降、北朝鮮で人権侵害禁止を明記した法律が目立つと指摘、李氏はその背景には言及していないが、金総書記は「国際社会に認められる普通の国」を志向しているとされ、人権批判を意識している可能性があります。李氏は「国際社会は条文が順守されているか監視し、履行を継続して求めていくべきだ」と述べています。
  • 韓国外交省は、国連安全保障理事会(安保理)の対北朝鮮制裁決議に違反していることが確認されたとして、2026年3月に韓国に入港した船舶を留め置いていると発表しました。安保理決議で禁じられている北朝鮮の石炭輸出に関わった可能性があるといいます。報道によれば、船舶名は「Prada」で、韓国中部・平沢港に入港後、制裁違反に関与している可能性があるとして関係省庁が調査を進めていたといいます。韓国政府は制裁違反だと判断した具体的な理由は明らかにしていません。日米韓などが2026年5月に発表した対北制裁に関する共同声明では、「Prada」について、安保理が早急に制裁対象とすべき船舶として言及されており、この船舶は2024年9月と12月に北朝鮮南西部・南浦港で石炭を積んでいる様子が衛星写真で確認されていました。現在はタンザニア船籍ですが、2008年から2020年までは中国船籍として運航されており、船舶の名前も複数回変更され、制裁を回避しようとした可能性があります。
  • 米国の国連代表部は、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会に対し、制裁決議に違反した7隻の船舶を制裁対象に追加するよう要請したと発表しました。北朝鮮を擁護する中国とロシアは保留を申し入れ、事実上反対しています(制裁委員会の決定には全会一致が必要)。7隻の船舶は2025年12月から2026年4月にかけ、制裁決議で禁止されている北朝鮮産の石炭や鉄鉱石の輸出に関わったとされ、一部の船舶は船舶自動識別装置(AIS)を操作するなどして監視を逃れようとしたといいます。米国代表部は「米国は北朝鮮の完全な非核化に引き続き取り組む」と強調し、制裁の厳格な履行は北朝鮮の核・ミサイル開発に対抗する上で不可欠だと訴えています。米国は2025年12月にも別の7隻の船舶について、決議に違反したとして対象に追加するよう要請したが、中ロの反対で実現していません。

日本、米国、韓国、オーストラリアなど11カ国は、北朝鮮のIT労働者が外国の国民になりすまして収入を得ているとして、各国や企業に注意喚起をしました。本人確認の手続き強化や不審なアカウントの検知などに取り組むよう求めています。北朝鮮への監視強化を図る狙いがあります。国連制裁を受ける北朝鮮は、なりすましで得た収入を核兵器や弾道ミサイル開発の資金源にしています。北朝鮮のIT労働者はサイバー犯罪に関与している場合もあり、2025年に20億ドル以上の暗号資産を盗んだとの報告もあります。注意喚起では、「身分証明書の偽造でアカウントを登録する」、「銀行口座への直接振り込みを避け送金サービスや暗号資産を支払いに利用する」といった手口も紹介、北朝鮮のIT労働者と業務上の契約を結んで対価を支払った場合、法的責任が問われる可能性もあると指摘しています。なお、11カ国は、北朝鮮に対する国連制裁の履行を監視する「多国間制裁監視チーム(MSMT)」の構成国で、北朝鮮外務省の報道官は「偽情報の流布」に過ぎないと反発、北朝鮮のイメージに「泥を塗る」のが目的だと、KCNAの報道を通じて批判しています。

▼ 経済産業省 「北朝鮮IT労働者に関する各国・企業等に対する注意喚起」を公表しました
▼ 北朝鮮IT労働者に関する各国・企業等に対する注意喚起(英文/和文仮訳)
  • 北朝鮮は、不法な核兵器や弾道ミサイル計画の資金源とすべく、偽りの身分を得て、遠隔で収入を得るため、北朝鮮内外に派遣された、技術を有するIT労働者のネットワークに依拠しています。
  • 北朝鮮IT労働者は、他国の国民になりすまし、民間企業が運営する雇用や業務の受発注のためのオンライン・プラットフォームを通じ、業務や収入を得ています。これらの労働者は、北朝鮮における親元の機関に給与を送金する意図をもって契約を探し求めています。また、彼らは、企業に対して内部脅威をもたらし、データ流出並びに暗号資産及び機微情報の窃取に関与しています。北朝鮮IT労働者は、身分を隠蔽し、世界的に活動を 拡大させるため、AI の統合を含む一層高度な手法を活用しています。
  • 我々各国は、北朝鮮IT労働者がもたらす脅威について国際社会及び民間部門に注意を呼びかけるための情報を繰り返し発出してきました。日本、米国及び韓国は、2025 年8月、「北朝鮮IT労働者に関する共同声明」を発出し、また、多国間制裁監視チーム(MSMT)は、2025 年 10 月、北朝鮮によるサイバー及び IT労働者の活動を通じた国連制裁の違反及び回避に関する第2回報告書を公表しました。米国、日本、韓国、英国、豪州及びカナダは、北朝鮮IT労働者が民間企業、政府及び市民個人にもたらすリスクに関するアドバイザリーを発出してきています。我々は、引き続き、北朝鮮IT労働者の脅威を積極的に監視し、対抗していきます。
  • 国連安全保障理事会決議第2397号によれば、限定的な例外を除き、全ての国連加盟国は、当該加盟国の管轄権内において収入を得ている全ての北朝鮮「国民」を北朝鮮に送還しなければなりません。加えて、北朝鮮IT労働者と契約を交わし、サービス提供の対価を支払う行為は、日本、米国及び韓国等を含む多くの国の国内法に違反し、法的責任を問われる又は罰金を課されるおそれもあります。
  • 金融活動作業部会(FATF)は、北朝鮮を行動要請の対象となる高リスクの国・地域(ブラックリスト)として位置付けています。FATF は、関連する国連安保理決議と整合した強力な標的型金融制裁を実施する必要性を繰り返し強調するとともに、北朝鮮によるマネロン、テロ資金供与及び拡散金融のリスクから自国の金融システムを保護するため、全ての国・地域に対して対抗措置の適用を求めています。それにもかかわらず、北朝鮮は、IT 労働者スキームを含む多様な収益獲得活動を通じ、国際金融システムとの結び付きを強化しています。FATF の複雑な拡散金融(PF)及び制裁回避の類型報告書において強調されているとおり、北朝鮮は大量破壊兵器計画を支える収入を生み出すために、IT労働者スキームを頻繁に利用しています。
  • 我々は、全ての国及び企業等に対して、北朝鮮IT労働者スキームについての認識を深め、以下の手口に対抗する措置をとるよう要請します。オンライン・プラットフォームを運営する企業は、本人確認手続の強化(身分証明書の厳格な審査、対面面接の義務等)や、不審なアカウントの探知(異常な情報の登録が通知されるシステムの導入等)といった対策を引き続き強化すべきです。以下の情報は本注意喚起に参加する各国から提供されたものです。
    1. 北朝鮮IT労働者の手口
      • 北朝鮮IT労働者の多くは、国籍や身分を偽り、オンライン・プラットフォームへのアカウント登録を行っています。代表的な手口には、身分証明書の偽造や第三者へのなりすましが含まれます。北朝鮮IT労働者は、第三国に在住する代理人のような第三者から提供された身分証明書の画像を使用してアカウント登録を行う一方、実際の業務は北朝鮮IT労働者自身が行っています。
      • 北朝鮮のIT労働者は、オンライン・アカウントの作成や、採用面接への参加、更には対面での接触を通じて偽りの信頼感を醸成し、業務契約を獲得するために、第三者 の代理人を利用するケースがますます増えています。
      • 北朝鮮のIT労働者は、銀行口座への直接振込での支払いを避けようとする場合が多く、送金サービスや暗号資産での支払いを求めることがあります。多くの場合において北朝鮮IT労働者は、報酬の振込先として第三者の口座を雇用主に提出し、当該第三者に対し、指定の外国口座への送金を依頼し、銀行口座を利用する対価として報酬の一部を手数料として支払っています。
      • 北朝鮮IT労働者は、IT関連業務に関して高い技能を有する場合が多く、オンライン・プラットフォーム等を通じて、ウェブページ、モバイル・アプリケーション、ソフトウェア及びブロックチェーン・アプリケーションの制作等といった幅広い業務を探しています。また、企業や個人から業務契約を直接得ている場合もあります
      • 北朝鮮IT労働者の多くは、北朝鮮、中国及びロシア並びに東南アジア及びアフリカ諸国に在住しながら、第三者の代理人、VPN、リモートデスクトップ・ソフトウェア及び同種のツールを用いて外国から作業を行っている事実を秘匿している場合があります。
      • 北朝鮮IT労働者は、米国等の海外の第三者の代理人を利用して、「ラップトップ・ファーム」を運営していることが知られています。この「ファーム」では、企業から支給されたノートパソコンを受け取り、北朝鮮IT労働者が遠隔でアクセスすることで、彼らの実際の所在地を隠蔽しています。
      • 北朝鮮IT労働者は、IT関連業務の受注のほか、自ら開発した自動売買システムを使用して不正にFX取引を行い、外貨を獲得している場合もあります。
  • さらには、北朝鮮IT労働者に関連するアカウントには、次の特徴がしばしばみられます。複数の特徴が求職者に当てはまる場合、北朝鮮IT労働者が不正に仕事を得ようとしている可能性があります。
    1. プラットフォームを運営する企業向け
      • アカウント名義、連絡先及び報酬受取用の銀行口座情報等の登録情報を頻繁に変更する。
      • アカウント名義と登録されている報酬受取口座の名義が一致しない。
      • 同一の身分証明書を用いて複数のアカウントを作成している。
      • 本人確認に使用された身分証明書が、画像編集ソフトを用いて偽造又は改ざんされたようにみられる。
      • 同一のIPアドレスから複数のアカウントにアクセスしている。
      • 1つのアカウントに対して短時間に複数のIPアドレスからアクセスしている。
      • アカウントに異常に長い時間ログインしている。
      • 累計作業時間が不自然に長い又は関連の指標が不自然に高い。
      • アカウント・ユーザーが、おそらく当該アカウントの評価を向上させるため、自らに対して虚偽のレビューを投稿している。
    2. 雇用又は業務を発注する方向け
      • アカウントのプロフィールにおいて、不正確な機械翻訳の結果とみられる誤記載が含まれ、又は、不自然な表現が用いられており、出身地とされている国の言語に堪能でない(ただし、北朝鮮IT労働者は、翻訳サービスや大規模言語モデルを用いて、第二言語においても説得的なプロフィールを作成し、コミュニケーションをとる場合もある。)。
      • 写真付き身分証との不一致や、改ざん又は人工生成されたようにみえる映像フィードを含め、ビデオ会議中の不整合がみられる。
      • テレビ会議形式の打合せへの参加を拒否する。
      • 一般的な相場より安価な報酬で業務を募集している。
      • 複数人でアカウントを運用している兆候がみられる。北朝鮮IT労働者は、チームで活動することが多く、採用や発注の担当者がやり取りする相手が時間帯によって変わる場合がある。
      • 暗号資産での支払いを要求する。

北朝鮮はKCNAの論評で、同国のサイバー活動を巡り米国と同盟国が根拠のない非難を利用し、北朝鮮のイメージ​を傷つけ、主権国家への圧力を正当化しよう‌としていると非難しました。報道官は、北朝鮮のサイバー脅威に関する​最近の米国主導の「共同警告」を政治的な非難と​評し、米国とパートナー諸国が創設した制裁⁠監視の枠組み「多国間制裁監視チーム(MSMT)」を批判しています。ま​た、「サイバー空間の中核的資源を独占し、世界最大​のサイバー戦力を保有・運用してきた米国が、他国からの『サイバー脅威』について語るのは非論理的だ」と述べています。この発言は、前述のIT労働者に関する注意喚起を受けた反応とみられます。報道官は、米国がサイバー戦能力や同盟​国との合同サイバ​ー演習を通じ⁠てサイバー空間を軍事化していると非難し、北朝鮮はサイバー問題を他国への圧​力手段として利用しようとする政治的動​機に基づ⁠く試みを容認しないと述べています。KCNAの別の論評では、北朝鮮の軍事評論家が、米国、韓国、日本が米主導の環太平⁠洋合​同演習(リムパック)を侵略のリハ​ーサルに変えていると非難し、3カ国の軍事協力拡大がアジア太平洋地​域に新たな安全保障上の危機を生み出していると述べています。

KCNAは、日本政府が公​表した2026年版防衛白書について、「‌戦争機構の運用を合法化するための再侵略志向の白書だ」と批判する​北朝鮮評論家の論評を掲載​しました。論評は、防衛白書が「無謀な軍⁠備増強を正当化」するために、​北朝鮮を最大の戦略的挑戦だと「​根拠なく描写した」としています。前述したとおり、北朝鮮は日本の防衛政策への批判を強めており、2026年7月以​降少なくとも7回にわたって声​明を出しています。金与正党総務部長は、日本が米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の発射試験を実​施したこ​とを受け、⁠日本が「軍事大国」に変貌しているとして、北​朝鮮は「追加的な軍事的選​択肢」⁠を講じると警告、その翌日、北朝鮮は日本海に向けて短距離弾道ミ⁠サイ​ルを発射しており、一部の​アナリストは、これが日本に対する警告​だった可能性があると指摘しています。

東京都の小池百合子知事は、外国からの弾道ミサイル攻撃に備え、都民らが一定期間滞在できる「地下シェルター」をJR東京駅東側地下の都八重洲駐車場(中央区)に整備する方針を正式に表明しました。小池氏は、2026年8月6日の北朝鮮による弾道ミサイルの発射をあらためて批判した上で、「都は弾道ミサイルの攻撃から都民の命と財産を守るため、より安全に避難できる施設の整備を進める。(八重洲駐車場は)首都東京の玄関口の東京駅に近く、多くの方が滞在する地域であり、施設整備の効果が高いと見込まれていることから選んだ」と述べました。都八重洲駐車場には、東京駅から延びる八重洲通りの地下1、2階に約260台の駐車スペースがあり、延べ床面積は1万平方メートルを超えています。付近にはオフィスビルや商業施設が立ち並んでいます。都は2026年度から、ミサイルによる爆風や破片、建物倒壊の危険性を念頭に、駐車場の詳細調査に着手し、その後、設計などの具体的な検討を進め、完成は数年後になる見通しです。また、都は都営地下鉄大江戸線・麻布十番駅(港区)に併設する防災備蓄倉庫(1400平方メートル)も地下シェルターとして整備し、2026~27年度に本体改修工事を実施する予定です。都八重洲駐車場は2例目の整備となります。北朝鮮による弾道ミサイルなどの発射は相次いでおり、2025年は4回、2024年は11回、2023年は18回発射されています。

前回の本コラム(暴排トピックス2026年7月号)でも取り上げましたが、在日朝鮮人系のウリ信用組合は、元役員による預金の着服など多くの不正が判明した事態を受けて事実関係や原因を調査するため第三者委員会を立ち上げたと発表しました。同組合と利害関係がない弁護士3人で構成し、内部管理体制の問題点についての指摘や再発防止策に関わる提言も求めるとしています。同信組では元役員による預金の着服に加えて、架空名義での預金の受け入れなどの事実を経営陣が主導して隠蔽したことが明らかになっており、2026年7月に金融庁へ業務改善計画を提出していました。そもそも在日朝鮮人系の信組を巡っては、2000年前後に各地の16信組が破綻し、1兆1千億円超の公的資金が投入され、その後、架空口座を通じた朝鮮総連などへの資金流出が発覚し、問題になった経緯があります(朝鮮総連への流出額は少なくとも約630億円とされ、整理回収機構が回収を進めていますが、2025年9月末時点で約62億円しか返済されていないといいます)。ウリ信組は破綻を免れた3信組のうちの一つですが、存続した信組で不正が続いていたことで、(いわき信組の件もあり)金融庁の監視のあり方も問われるうえ、その資金の流れに不審な点がないか、徹底的に解明する必要があります。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例に基づく書類送検事例(神奈川県)

キャバクラからの依頼でトラブルを解決する用心棒を務めたとして、神奈川県警組織犯罪捜査課と茅ケ崎署などは、神奈川県暴力団排除条例(暴排条例)違反の疑いで、稲川会系傘下組織幹部と組員、キャバクラ関係者の計6人の男性を書類送検しました。暴力団員4人の書類送検容疑は、共謀して2024年6月、藤沢市南藤沢の路上で、「俺らのシマで好き勝手すると、しょっぴかなければならない」などと居酒屋関係者を脅してチラシ配りをやめさせ、キャバクラ側とのトラブルを仲裁したというものです。

▼ 神奈川県暴排条例

同条例第26条の4(暴力団員の禁止行為)において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業に関し、特定営業者に対し、用心棒の役務を提供してはならない」と規定され、第32条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(4)第26条の4の規定に違反した者」が規定されています。

(2)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(北海道)

北海道警豊平署は、東京都墨田区に住む指定暴力団幹部に対し暴力団対策法に基づく中止命令を発出しました。「用心棒」としての行為に対する中止命令は北海道内では初めてだといいます。報道によれば、この暴力団幹部は2025年11月、札幌市で20代の男性が刃物で刺され重傷を負った事件で、犯行に及んだグループから用心棒の依頼を受け、グループと男性との間で起きたトラブルの仲裁に入り、話を取りまとめようとしたといいます。その後、グループと共謀したとして殺人未遂の疑いで2026年6月に逮捕されましたが、不起訴処分となっています。豊平署はこの暴力団幹部に対し、暴力団対策法に基づいて、グループに対して用心棒の役務を提供することなどを禁止する中止命令を署長名で発出、中止命令の効力は無期限で、違反した場合は最大1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金刑が科されます。

▼ 暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「五 縄張内で営業を営む者に対し、その営業所における日常業務に用いる物品を購入すること、その日常業務に関し歌謡ショーその他の興行の入場券、パーティー券その他の証券若しくは証書を購入すること又はその営業所における用心棒の役務(営業を営む者の営業に係る業務を円滑に行うことができるようにするため顧客、従業者その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。第三十条の六第一項第一号において同じ。)その他の日常業務に関する役務の有償の提供を受けることを要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

(3)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)

沖縄県警沖縄署は、飲食店経営者の40代男性に、指定暴力団の威力を示して用心棒料を要求したとして、暴力団対策法に基づき旭琉会四代目富永一家構成員で無職の男性に中止命令を発出しました。用心棒料の要求を加勢したとして、構成員の男性の知人で無職の男性と建築作業員の男性にも中止命令を発出しています。

(報道からは詳細は分かりませんが)暴力団対策法第十条(暴力的要求行為の要求等の禁止)において、第1項で「何人も、指定暴力団員に対し、暴力的要求行為をすることを要求し、依頼し、又は唆してはならない」、第2項で「何人も、指定暴力団員が暴力的要求行為をしている現場に立ち会い、当該暴力的要求行為をすることを助けてはならない」と規定されています。そのうえで、同法第十二条において、第1項では「公安委員会は、第十条第一項の規定に違反する行為が行われた場合において、当該行為をした者が更に反復して同項の規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、当該行為に係る指定暴力団員又は当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員に対して暴力的要求行為をすることを要求し、依頼し、又は唆すことを防止するために必要な事項を命ずることができる」とし、第2項では「公安委員会は、第十条第二項の規定に違反する行為が行われており、当該違反する行為に係る暴力的要求行為の相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該違反する行為をしている者に対し、当該違反する行為を中止することを命じ、又は当該違反する行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」としています。

(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(宮崎県)

2026年5月、宮崎県内の飲食店で面識のない男性に毎月3万円を払うことなどを要求したとして、恐喝未遂の疑いで逮捕された六代目山口組傘下組織組員に、宮崎県警は、暴力団対策法に基づく中止命令を発出しました。報道によれば、宮崎県内の飲食店で面識のない20代男性に「実はヤクザやっちゃわ」「毎月3万円を払ってもらっていい」などと現金を要求した疑いで逮捕され釈放されていますが、警察は、この組員に対し、金品や財産贈与などの要求のため、被害男性に電話をかけたり、会ったりすることを禁止する中止命令を発出したものです。命令の有効期限はなく、違反すると刑罰の対象となります。

暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

(5)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(埼玉県)

埼玉県加須市の飲食店3店舗に対して用心棒料を徴取したり要求したとして、埼玉県公安委員会は、六代目山口組傘下組織の無職の組員に暴力団対策法に基づく再発防止命令を発出しました。報道によれば、組員は2025年12月下旬、同市の飲食店に対して正月用飾り物購入名目で用心棒料を要求し店舗に1万円で購入させ、さらに2026年2月下旬、同市の飲食店2店舗に対してもみかじめ料などを要求したとして、中止命令を受けていました。今後も違反する可能性が高いことから、埼玉県公安委員会が再発防止命令を発出したものです。組員は行為を認め、「分かりました。もう行きません」などと話しているといいます。

暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)の規定に違反する行為に対し、同法第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)第2項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

(6)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県・福岡市・北九州市)

久しぶりとなりますが、福岡県、福岡市、北九州市において、建設工事会社1社について公共事業から排除する「排除措置」が講じられ、社名が公表されています。

▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置
▼北九州市 福岡県警察からの暴力団との関係を有する事業者の通報について

福岡県における「排除措置」とは、福岡県建設工事競争入札参加資格者名簿に登載されていない業者に対し、一定の期間、県発注工事に参加させない措置で、この期間は、県発注工事の、(1)下請業者となること、(2)随意契約の相手方となること、ができないことになります。今回、「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」(福岡県)、「暴力団との関係による」(福岡市)、「該当業者の役員等(法人の経営に事実上参画している者)が、暴力団構成員である事実を確認し、「暴力団員が実質的に運営していること」に該当することを認めたため」に該当する事実があることを確認した」(北九州市)」として公表されています。なお、本件については実質的に経営に関与している者が暴力団構成員であるとの事実認定から、いずれの自治体も排除期間は36月と厳格に定めています(北九州のみさらに厳格な要件が課されている点が注目されます)。一方、その期間については、「令和8年8月7日から 令和11年8月6日まで(36ヵ月間)」(福岡県)、「令和8年7月31日から令和11年7月30日まで(36カ月)」(福岡市)、「令和8年8月4日から36月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」(北九州市)と排除期間の開始日が自治体によって異なる点も注目されます。これまでも指摘しているとおり、3つの自治体で、公表のあり方、措置内容等がそれぞれ明確となってはいるものの、公表のタイミングや措置内容等が異なっており、大変興味深いといえます。

Back to Top