企業不祥事・緊急事態対応トピックス

企業不祥事対応 公表の原則的な判断基準と検討項目

2025.05.20
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総合研究部 上席研究員 宮本 知久

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前回の『企業不祥事・緊急事態対応トピックス』では、緊急記者会見の開催判断についてご紹介しました。

今回の第4回では、企業不祥事対応において、公表すべきか否かを検討、判断するときの目安についてご紹介いたします。

1.公表に関連する相談例の紹介

公表の判断についての説明の前に、公表の要否について当社に寄せられた相談の中から十分な検討が必要な事例を紹介する。なお、ここでの公表とはホームページに公表文を掲載することと同義と考えて読んでいただきたい。

  1. 当社で製造している製品の原材料を製造していた会社が、品質不正の事実と自主回収を公表した。当社が不祥事を起こしたわけではないのだが、公表すべきか。
  2. 食品調理工場で製造、販売した弁当が原因でノロウィルスの食中毒を起こした。保健所から営業停止の処分が出て製造も出荷も止めている。弁当は注文販売のみで購入者および被害者が特定でき、全員に謝罪と見舞いを行った。この段階で、重ねて公表すべきか。
  3. 製造、販売した製品について、使用者が特定の条件下で使用した場合だけ怪我につながる不良が判明した。行政機関に報告したところ、使用者への注意喚起の要請は受けたが「公表については法令等で義務付けられていないため自社で判断してほしい」と回答があった。公表すべきか。
  4. 従業員が横領事件の嫌疑で警察に逮捕された。当社は上場会社である。適時開示すべきか、また適時開示はなしで公表すべきか。それとも開示も公表も不要か。
  5. 多くの会社では、従業員が刑事事件を起こして逮捕された事案は公表しないが、取締役が逮捕された事案では公表している例がみられる。では執行役員ではどうか。

役職員による法令違反や多数の被害者の存在が明白な事案では、公表を前提にして対策本部または対応チームが発足し、調査の結果、事実であれば公表を行うことが通例である。しかし、例に書いた特殊な事案では、判断を迷う。一つの考えとしては「近年は、法的責任を超えた社会的責任の実行が大事。とにかく迷ったら公表しよう」とすることも決して悪くない。ただ、企業としては、公表によって不要にステークホルダーに不安を与えることも、ネガティブな事案を広めて想定以上の信頼を失くすことも避けなければならない。

こう考えると、平素から公表の判断について目安を持っておくことは大切なことといえる。何よりも、会社組織としていずれかの事案が発生したとき、将来、説明責任を果たす局面を考えて、「公表するとしてその理由、しないとしてその理由」をはっきりさせ、判断を付すことが危機管理経営上、重要である。

2.公表についての原則的な判断基準

事案が発覚したあと、公表すべき事案であるにも関わらずしないことからは、後々、そのことが明るみになったとき、隠ぺい体質の会社だと疑われる。また法令等に基づき公表・開示が義務付けられているにも関わらずしなかった場合、法的責任を問われるリスクもある。近年は、法令違反でなくとも積極的に公表、開示する傾向にあることも考えると、起きた事案を小さく捉えず、積極的に公表、開示に向けた検討が必須である。

原則的な判断基準としては、次のとおりである。

(1)法令等によって開示・公表が義務付けられている事案

道路運送車両法に基づく自動車のリコールや、消費生活用製品安全法に基づき行政機関が危害防止命令を出す家庭用電気製品等のリコール等の制度、また証券取引所による証券取引所規則に定めるいわゆる適時開示制度など、法令等によって開示・公表が義務付けられている事案は、法令等の要請により公表は必須である。

(2)被害の発生および拡大防止のために広く社会に注意喚起を促す必要がある事案

典型としては、健康被害を引き起こす可能性のある飲食料品の回収で、購入者、所有者に個別に通知ができない事案や、詐欺等の犯罪に悪用される可能性のある個人情報が漏えいした事案である。

なお、(1)との関係で1点、留意点を述べる。

起きた事案が製品やサービス等に関連し、消費安全性を欠いているのに法律の規定に基づく措置がなく、どの官庁にも対処権限がない、いわゆる「隙間事案」であり、かつ生命、身体に関する重大事故等が発生した場合は、消費者安全法の定めで、消費者庁に報告を要し、受理した消費者庁が、事業者に対し必要な措置を採ることがある。言い換えれば、事案、事故が“起きた時点では明確に法令等の措置の対象でなくとも”、公表が必要になることがあり得る。(『消費者事故等の通知の運用マニュアル』 消費者庁 令和元年5月7日より)

(3)レピュテーションリスクの影響が想定され回避・軽減する必要のある事案

将来、不祥事の不開示・不公表が発覚することによって企業の社会的な評価や信用が棄損される可能性があり、公表・開示することで棄損を回避・軽減できると想定される場合は、公表すべきといえる。

企業不祥事対応の目的は、危機対応計画の実行によって事業継続と社会への責任を果たすことにあり、その不祥事によって被害、損害を与えたステークホルダーに謝罪と説明を行うことで、企業の事業継続に向けダメージを極小化することにある。十分な情報開示や説明責任の実行等の原則に立ち、積極的な開示、公表を行うことがふさわしい。

なお、本項の補足として、企業不祥事・緊急事態対応トピックス第3回『企業不祥事対応 緊急記者会見の開催判断の基準』も参考にしていただきたい。

これらを原則的な考え方として、実際の企業不祥事対応の公表判断の実務においては、公表の前に「監督および関係の行政機関に事案の発生を報告する」「上場会社であれば行政機関に加えて証券取引所にも加えて報告する」「弁護士の見解を得る」といういわゆる行政等機関と法務の対応を行い、指導、助言を踏まえて決定する。

3.自社の役職員や業務を原因とした事案における検討テスト項目

公表の要否にあたっては、前項で述べた、行政等機関と法務相談を経ての決定を原則としながらも、その手前での検討のために、少し詳しく検討項目を洗い出してみた。参考として紹介したい。

【公表の検討における11の検討項目】

↓検討の優先順位 ~1から順に当てはめての検討の材料にする~

1 法律、政令、省令等で開示・公表義務があるか
2 行政機関による被害者等への周知命令が出たか
3 自社またはグループ会社が上場会社か
4 上場履歴があるか(過去に上場していたか)
5 その不祥事に関連した経営への影響等の事象が、臨時報告書提出の要件に該当するか
6 証券取引所規則、適時開示の要件に該当するか
7 投資家の投資判断にあたり著しい影響があるか
8 被害者等に個別に謝罪、説明等の連絡ができるか
9 被害の拡大、防止措置の方法の一つとして公表すべきか
10 公表しないことによるレピュテーションリスクが生じるか
11 謝罪対応等の実務負担の軽減策の一つとして公表に効果があるか

このうち、4と11は少し特殊なので補足する。

4の「上場履歴があるか(過去に上場していたか)」を検討項目に設けている理由は、現在、非上場であっても過去に有価証券報告書を提出した企業のうち、一定の要件に該当する企業は臨時報告書の提出義務を負っている。(『役員・従業員の不祥事対応の実務 社外対応・再発防止編』第一法規 2024年3月10日 P.91より)このため過去に上場していた会社でこの検討が漏れないように設けている。

次に、11の「謝罪対応等の実務負担の軽減策の一つとして公表に効果があるか」については、不祥事対応の対策本部の実務を考えた検討項目であり、弊社の企業不祥事対応の実務支援の経験から検討を推奨したい。

具体的には、仮に1から10のいずれにも該当しない事案、例えば「法令等の義務にも適時開示要件にも該当せず、被害者1人ずつに個別の謝罪対応が可能である。また、それほどレピュテーションリスクに影響しない事案であって、その事案の被害者100人に謝罪と説明を行いたい」とする。この事案で、100人に一人ずつ電話をかけて口頭の謝罪を行う負担を考えたとき、「公表してから電話で公表文を案内する」といった方法を取ることで、謝罪の実務の簡便化、負担軽減を図ることができる。この検討として11を設けている。

実際の企業不祥事に伴う謝罪対応では、顧客等から「公表したのですか」「隠ぺいしようとしているのではないですか」といった質問が来る。公表することでこのような質問やクレームに説明がしやすくなるため、11の検討も忘れてはならない。

4.自社の役職員や業務を原因としない事案での公表の検討材料

次に、自社の役職員や業務を原因としない取引先や退職者の不祥事、また自社が被害者であっても、公表を検討すべき事案について紹介する。

【自社の役職員や業務を原因としない事案の例】

  1. 仕入先や販売先による出荷停止、自主回収事案
  2. サプライチェーンによる原材料、部品等の出荷停止
  3. 自社製品やサービスに対する、いわれのない誹謗中傷(SNSでの批判等)
  4. 自社製品・サービスに関連する製品群やサービス群に対する不買運動
  5. 社屋や工場の近隣施設での大規模な事故(自社の施設の事故ではない)
  6. 元役員等の逮捕
  7. 殺人、強盗、放火などの犯罪被害
  8. メディアによる誤報

このように自社の不祥事でなくとも、取引先やサプライチェーン、地域住民等ステークホルダーの支援を通じた当該不祥事の早期解決、被害者等への弔意の表明による誠実さの訴求、自社の健全性の訴求、世論のミスリード防止などの目的と効果に照らして、公表を検討するべきである。

5.公表の判断にあたっての裏話とトップが持っておくべき覚悟

弊社の企業不祥事対応の実務支援の実績の中から、不祥事を起こした会社の社内で起きる公表の判断にあたってのドラマを紹介したい。

どの企業不祥事でも公表の判断はトップが行うが、いざ実際に判断を下す局面になると判断は慎重になり、部下に対して「今回の不祥事を社外に公表しないで済む方法はないか」も熟考するように指示が出る。社外の人からすると説明責任を果たすことから逃げているように感じるかもしれないが、これは自己保身や隠ぺいを試みたいわけではない。「会社を守りたい」という思いから来るものである。普段から説明責任を重んじて強い覚悟を決めているトップであっても、トップは従業員の雇用と事業の継続の責任を持つ立場であり、“現に危機に遭遇した局面だからこそ”この思いは強くなるものだ。この考えを持つことも部下への指示もある意味、正しいといえるだろう。

しかし、繰り返しになるが、公表すべき事案なのに公表しないことは会社を守ることにならない。公表の決断にあたる過程において迷いや熟考はあってよいが、被害者の救済やステークホルダーへの説明責任の履行に向け、公表の最終決断を下すべきである。

ぜひこれを読んでいるトップの方は、自分が危機に直面したときの判断のあり方、「自分がどうあるべきか」について深く考えてみてほしい。平時には冷静な判断を下せても、危機事態に置かれれば違う考えが巡ると思ったほうがよいだろう。

公表の原則的な判断基準と検討項目については以上のとおりです。

さて、もしよろしければ、上記1「公表に関連する相談例の紹介」に記載した事案が、皆さんの会社で起きたと想定して、公表の検討項目に当てはめ、試しに公表の要否判断を考えてみてください。

正解は、会社の規模、業種、上場か非上場かの区分、会社の評判、検討の時期などによって変わります。すなわち、実際に企業不祥事の対応方針を決めるにあたっては、「この種類の事案のときは公表にする、しない」といった画一的な判断は避けるべきで、その不祥事を起こした(または関係した企業ら)が負っている法令等の義務、公表する時期における社会の動きと、社会からの自社の評価を踏まえて決定すべきです。

さらには、不祥事や事案が起きた時に、速やかに検討を開始し判断するためには、平時から有事の対応を想定して世論分析、自社評価分析を欠かさないことが重要なのです。

【参考リンク】

【参考書籍】

  • 尾崎恒康 平尾覚 大賀朋貴 船越涼介
    『役員・従業員の不祥事対応の実務 調査・責任追及編』第一法規 2024年2月20日
  • 尾崎恒康 平尾覚 大賀朋貴 沼田知之 井浪敏史 八木浩史 船越涼介 鈴木悠介
    『役員・従業員の不祥事対応の実務 社外対応・再発防止編』第一法規 2024年3月10日
  • 山見 博康『危機管理広報大全』自由国民社 2024年7月8日

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