SPNの眼

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

【緊急レポート】 従業員の家が水害で被災してしまったときに必ず伝えてほしい5つのポイント ~保険証、通帳は無くなっても大丈夫。被害写真は、自分が思う3倍は撮っておこう!~

平成29年7月九州北部豪雨の爪痕

(平成29年7月九州北部豪雨の爪痕)

7月4日に熊本県南部を襲った豪雨から始まり、7月10日現在でも九州から本州中部にかけて梅雨前線が居座り、依然として予断を許さない状況を続けている「令和2年7月豪雨」。執筆時にはすでに60人以上の方の死亡が確認されていて、災害対応やBCPを研究する末席の一人として非常に心が痛みます。まずは亡くなった方々には心から哀悼の意を表するとともに、生き残った方には一日も早い日常生活への復旧・復興を祈念申し上げます。

本コラムでは、従業員の家が水害で被災してしまったときに必ず伝えてほしいことを記してみました。九州や長野、岐阜の企業であれば、従業員が被災しているケースもあるかもしれません。また、今後も同様の豪雨は毎年のように発生も予想されています。被災していない企業のBCP担当者や危機管理担当者も、ぜひ今回の水害を「自分ごと」としてとらえ、読んでいただきたいと思います。

①災害時、保険証や通帳は無くなっても大丈夫!

地震はもとより今回のような大規模な災害が発生すると、政府が被災地に対して災害救助法を適用します。内閣府のホームページによると、7月8日時点までに福岡県、熊本県、大分県など6県51市町村に適用が決定されています。

■災害救助法の適用状況(内閣府防災情報)

災害救助法が適用されると、様々な機関から被災者への支援情報が発信されていきます。その中のひとつに、厚労省からの「被保険証の提示」についての通達があります。これは災害で保険証をなくしてしまっても、住所や名前などを申告することで医療機関の診療を受けられるようにするための通達です。

■令和2年7月3日からの大雨による災害に伴う被災者に係る被保険者証等の提示等について(厚生労働省)

同じような措置として、日本銀行から各金融機関に対して「災害時における金融の特別措置」という通達も出ています。この中には、通帳や印鑑をなくしてしまっても「被災状況を踏まえた確認方法をもって預金者であることを確認して払い戻しに応じること」とあります。他にも、以下のように取り計らうよう要請するものです。

  1. 預貯金取扱金融機関への要請
    1. 預金証書、通帳を紛失した場合でも、災害被災者の被災状況等を踏まえた確認方法をもって預金者であることを確認して払戻しに応ずること。
    2. 届出の印鑑のない場合には、拇印にて応ずること。
    3. 事情によっては、定期預金、定期積金等の期限前払戻しに応ずること。
      また、当該預金等を担保とする貸付にも応ずること。
■災害時における金融上の特別措置(日本銀行)

また、火災保険などの保険証書も紛失してしまった方もいるかと思います。どこの保険に入っているか分からなくなってしまった場合は、一般社団法人日本損害保険協会が設置する下記に問い合わせると、照会してもらえます。

■自然災害損保契約照会センター(一般社団法人日本損害保険協会内)
電話:0120-501331 (土日・祝日・年末年始を除く9:15~17:00)

なぜこのようなことを述べるかというと、2016年の熊本地震の時に、倒壊した家に保険証や預金通帳を取りに帰った方が、余震により亡くなってしまったという事例があるからです。今はまだ雨も続き、まず身の安全を第一に確保する時期です。保険証や預金通帳がないからといって危険な家に戻ったりするのはやめてもらうよう、ぜひ注意喚起していただきたいと思います。

②慌てずに、まずは片付けよりも自宅の被害写真を撮っておこう。「自分が思う3倍撮る」がコツ!

市町村から罹災証明書を発行したり、保険会社に保険金を請求したりする場合に重要になるのが「被害状況の写真」です。片付けよりも前に、まず自宅の被害状況が分かるように必ず「日付」を入れて写真を撮っておきましょう。その時に大事なのは、①被害の状況が分かるように撮る②家の外側を東西南北4方向から、浸水した深さが分かるように撮る③室内の被害状況も分かるように撮る④家電の被害状況もわかるように撮る―などです。

役所が水害被害を認定する場合に、床下浸水の場合は「一部損壊」、床上浸水の場合は、床上30㎝未満が「半壊に至らない床上浸水」、床上100㎝未満は「半壊」、100㎝以上180㎝未満は「大規模半壊」、床上180㎝以上が「全壊」など、被害認定の目安が細かく決められています。これらが分かるように写真を撮っておく必要があります。浸水部分がどのくらいか分かるようにメジャーを当てたり、人が隣に立ってみたり、工夫をすることでより認定が受けやすくなります。同じように、保険に入っている人は家電や室内の状況も細かく分かるように撮ることで、保険が入りやすくなる可能性が高まります。

少しでも罹災証明書や保険をスムースに受け取るために、写真は様々な角度から「自分が思うよりも3倍」は撮っておくようにしましょう。

もちろん、片付けと同じく写真撮影も急ぐ必要はありません。繰り返しになりますが、まだ九州は今後も大雨の可能性があります。今は無理をせず、今後に備えてじっくり体を休めておくことが必要です。

③罹災証明書を発行してもらおう

被災者が国からさまざまな支援を受けるための第一歩が罹災証明書です。阪神・淡路大震災以降その在り方がさまざまに検討されてきた同証明書は、東日本大震災を経て改めてその重要性が注目されています。大規模災害の場合は役所によって時間がかかってしまう場合もありますが、必ず発行してもらうように従業員に教えてあげてください。1つ注意なのは、一時期、企業が従業員の被災を確認するために罹災証明書を提出させるというやり方が流行ってしまったことがありましたが、これは本来の目的とはかけ離れているやり方なので止めていただきたいと思います。

罹災証明書の発行主体は市町村などの各基礎自治体です。役所に自宅が浸水したことを申し出ると、職員による被害調査が行われ、住宅の被害程度を証明する罹災証明書が発行されるのが基本ですが、近年多発する大規模水害の経験から、被災者が写真を提示することなどで調査が簡略化される可能性があります。これらは各基礎自治体の判断によるものですので、窓口などでしっかり聞いておきましょう。

■大牟田市 罹災証明書の発行について

④家の片づけはゆっくりやろう

水害における片づけで最も重要なのは、「乾燥と清掃(消毒)」です。特に床下部分は、目安として1カ月くらいじっくりと乾燥させる必要があります。十分に乾燥させないと、後に床下や壁裏などにカビが発生し、生活に支障が出ることもあります。また、被災直後は下水道・ガスなどのライフラインも止まっているため、思うように作業はできません。これから長丁場を覚悟して、まずはじっくり休み、情報を収集しながら生活を再建するためのプランを練りましょう。

水害時の清掃に関する役に立つパンフレットはたくさんネットで検索することができますが、筆者が特にお勧めしているのは、阪神・淡路大震災以降全国のボランティアをつないでいる「震災がつなぐ全国ネットワーク(略称:震つな)」の「浸水被害からの生活再建の手引き」です。この項の最後にリンクを貼っておきますのでぜひご確認ください。

「震つな」さんのパンフレットに記載していないことで少し補足すると、1つは水害時の感染症の恐ろしさです。実は地中には、破傷風菌などの人体に有害な細菌が多く埋まっており、普段は顔を出しませんが津波や今回の洪水などの水害によって地上に出てきます。東日本大震災では、震災当日に津波避難によるケガから破傷風菌が入り込み、亡くなった方が9人発生しました。これから夏の暑い中大変かとは思いますが、必ず作業時には肌の露出を避け、土ぼこりから目や口などの粘膜を防御するためゴーグル・マスクを着用するようにしましょう。一方で、完全防備はこれからの夏の季節、非常に厳しいものになります。急ぐ気持ちは分かりますが熱中症対策のための保冷材や水分補給、うがい、手洗いをこまめに行いながら、休みやすみ作業をしていただければと思います。

もう1つ、これは筆者の個人的な見解ですが、水害復旧作業には上記のようなリスクがありますので、「子どもボランティア」など小さなお子さんを復旧作業にあてるのはためらいます。家族で家を片づけるときでも、お子さんの行動は十分に注意し、特に釘などによる外傷は平常時以上に注意が必要です。ぜひ、従業員の皆さんにも伝えてください。

■「水害にあったときに」~浸水被害からの生活再建の手引き~
■被災した家屋での感染症対策(厚生労働省)

⑤地域によっては弁護士会を活用しよう

東日本大震災以降、各都道府県の弁護士会が中心となり、被災者の法律相談に乗っているケースが増えています。熊本地震では熊本弁護士会、2018年の西日本豪雨では岡山弁護士会などが積極的に被災者の相談に乗っています。被災者のローンを減免する「自然災害債務整理ガイドライン」や、住宅被害やその後の再建手法に応じて最大300万円が支給される「被災者生活再建支援制度」、法律で定められた期限の延長などが認められる「特定非常災害特別措置法」などさまざまな支援策が今後出てくると思いますが、個人で全てを把握するのは非常に難しいでしょう。ぜひ、「情報収集」のつもりで各弁護士会の相談窓口に連絡してもらえれば、有益な情報や、希望につながる制度を紹介してもらえる可能性が高いと言えます。熊本弁護士会からは、すでに「今すぐ使える」情報をまとめた「くま弁ニュース~令和2年熊本南部豪雨災害編(第1号)~」が発行されています。

また、東日本大震災における法律相談の経験から「災害復興法学」を立ち上げた弁護士の岡本正先生もさまざまな媒体で有益な情報を発信しています。こちらもリンクを貼っておきますので、ぜひご覧ください。

■くま弁ニュース~令和2年熊本南部豪雨災害編(第1号)~(熊本弁護士会)

■困りごと無料相談のご案内 (熊本弁護士会)
◇豪雨被害無料電話相談ダイヤル(TEL 096-312-3252) ※予約不要
 令和2年7月13日(月)以降の平日 午後 0時~午後2時 ※当面7月31日(金)まで
◇無料面談相談予約窓口(TEL 096-325-0009) 平日 午前9時~午後5時
 ※県内各地の相談センターにご案内します。 ※予約をお願いします。

■[令和2年7月豪雨]生活再建の一歩を踏み出す「希望」の法制度情報を得よう(弁護士/岡本正先生)

今年は新型コロナウイルスの影響もあり、普段よりボランティアの数も減ることが予想され、作業も長期化が見込まれます。しかし、生活は必ず再建できます。希望を持ち、1つ1つ問題を、ぜひ周りの人の支援を積極的に借りながら、取り組んでいただければと思います。重ねて、被災地の一日も早い復興・復旧を祈念いたします。

(了)

Back to Top