暴排トピックス

組織犯罪と戦うために~組織犯罪情勢とAML/CFTガイドラインFAQを読み解く

2021.04.13
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取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

アンチ・マネーローンダリングのイメージ画像

【もくじ】―――――――――――――――――――――――――
1.組織犯罪と戦うために~組織犯罪情勢とAML/CFTガイドラインFAQを読み解く
(1)令和2年版「組織犯罪の情勢」を読み解く
①暴力団情勢
②薬物情勢
③銃器情勢
④来日外国人犯罪情勢
⑤犯罪インフラ
(2)AML/CFTに関するFAQを読み解く

2.最近のトピックス
(1)最近の暴力団を取り巻く情勢
(2)特殊詐欺を巡る動向
(3)薬物を巡る動向
(4)テロリスクを巡る動向
(5)犯罪インフラを巡る動向
(6)誹謗中傷対策を巡る動向
(7)その他のトピックス
・中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向
・IRカジノ/依存症を巡る動向
・犯罪統計資料
(8)北朝鮮リスクを巡る動向

3.暴排条例等の状況
(1)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(千葉県)

1.組織犯罪と戦うために~組織犯罪情勢とAML/CFTガイドラインFAQを読み解く

(1)令和2年版「組織犯罪の情勢」を読み解く

警察庁から「令和2年における組織犯罪の情勢」(以下「本レポート」)が公表されていますので、概観してきたいと思います。

▼警察庁 令和2年における組織犯罪の情勢について
▼令和2年における組織犯罪の情勢
①暴力団情勢

本レポートにおいては、まず、「六代目山口組と神戸山口組の対立抗争を受け、令和2年1月、暴力団対策法に基づき、特に警戒を要する区域(警戒区域)等を定めて両団体が「特定抗争指定暴力団等」に指定される中、同年5月には六代目山口組傘下組織幹部が神戸山口組傘下組織幹部に向けて拳銃を発射して負傷させる事件、同年11月には六代目山口組傘下組織幹部らが神戸山口組幹部らに向けて拳銃を発射して負傷させる事件が発生するなど、両団体の対立抗争は継続している。こうした状況を受け、両団体の特定抗争指定の期限を延長するとともに、同年7月、10月及び12月には警戒区域を新たに追加し、対立抗争の情勢に応じた措置を講じている」と昨年1年間の「2つの山口組」を巡る動向を紹介しています。そのうえで、暴力団構成員及び準構成員等(暴力団構成員等)の数について、平成17年以降減少し続けており、令和2年末現在で25,900人となったことが示されています(令和元年末が28,200人でしたので、▲8.2%の減少となりました)。このうち、暴力団構成員の数は13,300人、準構成員等の数は12,700人であり、それぞれ令和元年末との比較でいえば、13,800人(▲3.6%)、14,400人(▲11.8%)となりました。これまで、構成員・準構成員ともに、減少割合はほぼ同じ水準で推移してきたところ、昨年については構成員の減少幅が小さく、一方の準構成員の減少幅が大きくなったことは大きな特徴だといえます。また、主要団体等(六代目山口組、神戸山口組及び絆會並びに住吉会及び稲川会)の暴力団構成員等の数は18,600人で全暴力団構成員等の71.8%を占め、うち暴力団構成員の数は9,900人と全暴力団構成員の74.4%を占める状況となっています。なお、団体別の全体に占める構成比でいえば、六代目山口組が8,200人(31.7%)、神戸山口組が2,500人(9.7%)、絆會は490人(1.9%)、住吉会は4,200人(16.2%)、稲川会は3,300人(12.7%)などとなっています。

また、その他の反社会的勢力の状況では、総会屋及び会社ゴロ等(会社ゴロ及び新聞ゴロをいう)の数は、令和2年末現在970人と近年減少傾向にあるほか、社会運動等標ぼうゴロ(社会運動標ぼうゴロ及び政治活動標ぼうゴロをいう)の数は、令和2年末現在5,060人とやはり近年減少傾向にあることが示されています。

近年、暴力団構成員等の検挙人員は減少傾向にあり、令和2年においては、13,189人となり、主な罪種別では、傷害が1,629人、窃盗が1,157人、詐欺が1,249人、恐喝が575人、覚せい剤取締法違反(麻薬特例法違反は含まない)が3,510人で、いずれも前年に比べ減少する結果となりました。なお、暴力団構成員等の検挙人員のうち、構成員は2,561人、準構成員その他の周辺者は10,628人で前年に比べいずれも減少したほか、暴力団構成員等の検挙件数についても近年減少傾向にあるところ、令和2年においては21,050件となりました。主な罪種別では、傷害が1,366件、窃盗が6,712件、詐欺が1,545件、恐喝が434件、覚せい剤取締法違反が5,088件で、いずれも前年に比べ減少しています。また、近年、暴力団構成員等の検挙人員のうち、主要団体等の暴力団構成員等が占める割合は約8割で推移しており、令和2年においても、10,543人で79.9%を占めています。このうち、六代目山口組の暴力団構成員等の検挙人員は、4,843人と暴力団構成員等の検挙人員の約4割を占めています。その六代目山口組は平成27年8月末の分裂後も引き続き最大の暴力団であり、その弱体化を図るため、六代目山口組を事実上支配している弘道会及びその傘下組織に対する集中した取締りを行っているところであり、令和2年においては、六代目山口組直系組長等5人、弘道会直系組長等13人、弘道会直系組織幹部(弘道会直系組長等を除く)19人を検挙しています。

本コラムでもたびたび紹介しているとおり、昨年は特定抗争指定暴力団への指定とあわせ、事務所使用制限命令の発出なども積極的に行われた点が特徴であり、「事務所使用制限命令の発出」状況としては、「対立抗争の激化を受け、令和元年10月、兵庫県警察、岐阜県警察、愛知県警察及び大阪府警察が暴力団対策法に基づき、対立抗争に関係する暴力団事務所の使用制限の仮の命令を発出し、その後、同年11月、これら4府県の公安委員会が、事務所使用制限命令を発出した。同命令により、これら事務所を多数の指定暴力団員の集合の用、対立抗争のための謀議、指揮命令又は連絡の用等に供することが禁止されることとなった」と紹介されています。また、「特定抗争指定暴力団等の指定」として、「その後も、自動小銃を使用した殺人事件が発生するなど、六代目山口組と神戸山口組に関連する凶器を使用した殺傷事件が続発した状況を受け、令和元年12月、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、大阪府及び兵庫県の公安委員会が、暴力団対策法に基づき、3か月の期間及び警戒区域を定めて両団体を「特定抗争指定暴力団等」として指定することを決定し、令和2年1月、その効力が発生した。さらに、両団体に関連する殺傷事件が発生するなどしたことを受け、令和2年末現在、府県の公安委員会により、18市町を警戒区域とする指定が行われている(なお、直近でも追加されていますので、10府県19市町となります)。同指定により警戒区域内での事務所の新設、対立組織の組員に対するつきまとい、対立組織の組員の居宅及び事務所付近のうろつき、多数での集合、両団体の事務所への立入り等の行為が禁止されることとなった」としています。また、「対立抗争状態にあると判断した平成28年3月7日から令和2年末までに、両団体の対立抗争に起因するとみられる事件は22都道府県で82件発生し、うち67件で259人の暴力団構成員等を検挙した」こと、「平成25年まで暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件が相次いで発生してきたが、平成26年以降大きく減少し、令和2年においては、1件発生している。令和2年においては、対立抗争に起因するとみられる事件は9件発生している。これらはいずれも六代目山口組と神戸山口組との対立抗争に関するものであり、白昼に拳銃を使用した殺人未遂事件が発生するなど、地域社会に対する大きな脅威となっている」と指摘しています。関連して、「暴力団等によるとみられる銃器発砲事件は、令和2年においては14件発生し、これらの事件による死者は3人で、負傷者は5人である。暴力団等によるとみられる銃器発砲事件は、依然として市民の身近な場所で発生しており、地域社会の大きな脅威となっている。暴力団からの拳銃押収丁数は、令和2年においては、54丁と前年に比べ減少している。依然として、暴力団が拳銃等を自宅や事務所以外の場所に保管するなど、巧妙に隠匿している実態がうかがえる」ということです。

また、「令和2年における暴力団構成員等に対する組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という)の加重処罰関係の規定の適用状況については、組織的な犯罪の加重処罰について規定した第3条違反の検挙事件数は4件であり、組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等について規定した第7条違反の検挙事件数は1件であった」こと、「覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博といった伝統的資金獲得犯罪は、依然として、暴力団等の有力な資金源になっていることがうかがえる。これらのうち、暴力団構成員等の伝統的資金獲得犯罪の検挙人員に占める覚せい剤取締法違反の割合は近年、約8割で推移しており、令和2年中においても同様である。また、暴力団構成員等の検挙状況を主要罪種別にみると、暴力団構成員等の総検挙人員に占める詐欺の検挙人員は、ここ数年で高止まりしており、詐欺による資金獲得活動が定着化している状況がうかがえる。その他、金融業、建設業、労働者派遣事業、風俗営業等に関連する資金獲得犯罪が行われており、依然として多種多様な資金獲得活動を行っていることがうかがえる」と指摘しています。さらに、「令和2年における暴力団構成員等に係る組織的犯罪処罰法のマネー・ローンダリング関係の規定の適用状況については、犯罪収益等隠匿について規定した第10条違反事件数が27件であり、犯罪収益等収受について規定した第11条違反事件数が30件である。また、第23条に規定する起訴前の没収保全命令の適用事件数は20件である」こと、「伝統的資金獲得犯罪の全体の検挙人員のうち暴力団構成員等が占める割合は、近年、40~50%台で推移している。この割合は、刑法犯・特別法犯の総検挙人員のうち暴力団構成員等の占める割合が5~7%台で推移していることからすると、高いといえる。令和2年の伝統的資金獲得犯罪に係る暴力団構成員等の検挙人員は4,313人で、暴力団構成員等の総検挙人員の32.7%を占めており、依然として、伝統的資金獲得犯罪が有力な資金源となっていることがうかがえる」としています。また、「近年、暴力団が資金を獲得する手段の一つとして、詐欺、特に特殊詐欺を行っている実態がうかがえる」ことも指摘されています。

さらに、「令和2年における暴力団構成員等、総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロによる企業対象暴力及び行政対象暴力事犯の検挙件数は312件となっており、このうち、企業対象暴力事犯は215件、行政対象暴力事犯は97件となっている。また、総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロの検挙人員は49人、検挙件数は23件である。依然として暴力団構成員等の反社会的勢力が、企業や行政に対して威力を示すなどして、不当な要求を行っている実態がうかがえる」こと、「準暴力団は、暴力団と同程度の明確な組織性は有しないものの、これに属する者が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行っている、暴力団に準ずる集団であるが、近年、繁華街・歓楽街等において暴行、傷害等を敢行するとともに、違法な資金獲得活動を行っている実態がみられるほか、暴力団との関係を深め、犯罪行為の態様を悪質化・巧妙化している状況がうかがえる」と指摘しています。

また、本コラムでも毎回、事例を紹介していますが、「近年、中止命令の発出件数は減少傾向にあるところ、令和2年においては、1,134件と前年に比べ22件増加している。形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが771件と全体の68.0%を、加入強要・脱退妨害(16条)に対するものが101件と全体の8.9%を、それぞれ占めている。暴力的要求行為(9条)に対する中止命令の発出件数を条項別にみると、不当贈与要求(2号)に対するものが382件、みかじめ料要求(4号)に対するものが94件、用心棒料等要求(5号)に対するものが219件となっている。また、加入強要・脱退妨害(16条)に対する中止命令の発出件数を条項別にみると、少年に対する加入強要・脱退妨害(1項)が17件、威迫による加入強要・脱退妨害(2項)が77件、密接交際者に対する加入強要・脱退妨害(3項)が7件となっている。団体別では、住吉会に対するものが284件と最も多く、全体の25.0%を占め、次いで六代目山口組242件、稲川会146件、神戸山口組60件の順となっている」ということです。また、「近年、再発防止命令の発出件数は減少傾向にあったが、令和2年においては52件と前年に比べ20件増加している。形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが35件と全体の67.3%を占めているほか、準暴力的要求行為の要求等(12条の3)に対するものが6件となっている。暴力的要求行為(9条)に対する再発防止命令の発出件数を条項別にみると、不当贈与要求(2号)に対するものが15件、みかじめ料要求(4号)に対するもの及び用心棒料等要求(5号)に対するものが9件、高利債権取立行為(6号)に対するものが2件となっている。団体別では、六代目山口組に対するものが12件と最も多く、全体の23.1%を占め、次いで稲川会11件、道仁会7件の順となっている」ということです。また、「令和2年における請求妨害防止命令の発出件数は1件である。この命令は、旭琉會に対するものである」こと、「令和2年における縄張に係る禁止行為についての防止命令の発出件数は3件である。団体別では、六代目山口組に対するものが2件、次いで松葉会1件となっている」こと、「令和2年における暴力行為の賞揚等についての禁止命令の発出件数は7件である。団体別では工藤會に対するものが4件、次いで道仁会2件、六代目山口組1件の順となっている」こと、「令和2年における事務所使用制限命令の発出件数は9件である。団体別では、神戸山口組に対するものが4件、次いで、六代目山口組3件、工藤會2件の順となっている」こと、「令和2年における命令違反事件の検挙事件数は5件である。これらの事件は全て、再発防止命令違反であり、団体別では、稲川会によるものが3件、六代目山口組及び松葉会によるものがそれぞれ1件となっている」ことなども紹介されています。

また、「平成23年10月までに全ての都道府県において暴力団排除条例(以下「条例」という)が施行されており、各都道府県は、条例の効果的な運用を行っている。なお、市町村における条例については、令和2年末までに46都道府県内の全市町村で制定されている。各都道府県においては、条例に基づいた勧告等を実施している。令和2年における実施件数は、勧告54件、指導6件、説明等の要求を拒んだことによる公表1件、中止命令10件、再発防止命令2件、検挙33件となっている」ということです。最近は暴排条例の改正が全国で相次いでおり、特に「みかじめ料の直罰規定」(みかじめ料を受け取った組員を勧告などの手続きを踏まずに逮捕できる規定)の導入が進み、それにともなって検挙事例が大きく増加している点が大きな特徴だといえます。

その他、以下についても紹介されています。

  • 警察においては、都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)、弁護士会民事介入暴力対策委員会(以下「民暴委員会」という。)等と連携し、暴力団員等が行う違法・不当な行為の被害者等が提起する損害賠償請求等に対して必要な支援を行っている。警察においては、都道府県センター、民暴委員会等と連携し、住民運動に基づく暴力団事務所の明渡請求訴訟等について、必要な支援を行っている。
  • 都道府県センターでは、暴力団が関係する多種多様な事案についての相談を受理し、暴力団による被害の防止・回復等に向けた指導・助言を行っている。令和2年中の暴力団関係相談の受理件数は48,936件であり、このうち警察で21,017件、都道府県センターで27,919件を受理した。
  • 都道府県センターでは、都道府県公安委員会からの委託を受け、各事業所の不当要求防止責任者に対し、暴力団等からの不当要求による被害を防止するために必要な対応要領等の講習を実施している。令和元年度中に実施された不当要求防止責任者講習の開催回数は1,547回、同講習の受講人数は延べ73,887人であった。
  • 都道府県センターは、平成26年7月までに全て適格都道府県センターとして国家公安委員会の認定を受けており、指定暴力団等の事務所の使用により生活の平穏等が違法に害されていることを理由として当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めを請求しようとする付近住民等から委託を受け、当該委託をした者のために自己の名をもって、当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めの請求を行っている。
  • 令和2年中、警察及び都道府県センターが援助の措置等を行うことにより暴力団から離脱することができた暴力団員の数については、約510人となっている
②薬物情勢

薬物を巡る情勢については、「薬物事犯(覚せい剤事犯、大麻事犯、麻薬及び向精神薬事犯及びあへん事犯をいう)の検挙人員は、近年横ばいで推移している中、14,079人と前年より僅かに増加した。このうち暴力団構成員等の検挙人員は4,387人で、薬物事犯の検挙人員の31.2%を占めており、検挙人員・薬物事犯に占める割合とも減少傾向にあるが、覚せい剤事犯では、検挙人員に占める割合が42.2%と高い。外国人の検挙人員は888人と前年より減少し、薬物事犯の検挙人員の6.3%を占めているが、MDMA等合成麻薬やコカインなどの麻薬及び向精神薬事犯では、検挙人員に占める割合が20.6%と高い」といった特徴が指摘されています。また、「覚せい剤事犯の検挙人員は、薬物事犯の検挙人員の60.2%を占め、その割合は平成24年以降減少している一方で、大麻事犯の検挙人員は、薬物事犯の検挙人員の35.8%を占め、その割合は平成25年以降増加している」こと、薬物の押収状況については、「薬物種類別でみると、覚せい剤が437.2キログラムと大幅に減少し、5年ぶりに1,000キログラムを割り込んだ。乾燥大麻は265.1キログラム、大麻樹脂は3.4キログラムと減少したが、大麻草は9,893本と増加した。MDMAは90,218錠と大幅に増加しており、近年の増加傾向が顕著である」と紹介されています。

覚せい剤事犯については、以下のような状況となっています。

  • 覚せい剤事犯の検挙人員は、第三次覚せい剤乱用期のピークである平成9年以降、長期的にみて減少傾向にあり、令和2年も8,471人と減少した。平成30年以降連続して1万人を下回っている。また、覚せい剤事犯の検挙人員のうち、暴力団構成員等は3,577人と検挙人員の2%、外国人は480人と検挙人員の5.7%を占めている。
  • 令和2年の人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が4人、20歳代が7.9人、30歳代が14.4人、40歳代が15.4人、50歳以上が5.1人であり、最も多い年齢層は40歳代、次いで30歳代となっている。
  • 覚せい剤事犯の再犯者率は、平成19年以降14年連続で増加しており、令和2年は4%となっている
  • 違反態様別でみると、使用事犯が4,933人、所持事犯が2,717人、譲渡事犯が344人、譲受事犯が127人、密輸入事犯が114人となっており、使用事犯及び所持事犯で検挙人員の3%を占めている。
  • 覚せい剤事犯の検挙人員は、薬物事犯の検挙人員の2%を占めており、依然として我が国の薬物対策における最重要課題となっている。その主な特徴としては、暴力団構成員等が検挙人員の4割以上を占めていることや、30歳代及び40歳代の人口10万人当たりの検挙人員がそれぞれ他の年齢層に比べて多いことが挙げられる。また、再犯者率が他の薬物に比べて高いことから、覚せい剤がとりわけ強い依存性を有しており、一旦乱用が開始されてしまうと継続的な乱用に陥る傾向があることがうかがわれる

また、大麻事犯については、以下のような状況となっています。

  • 大麻事犯の検挙人員は、平成26年以降増加が続き、令和2年も過去最多となった前年を大幅に上回る5,034人となった。また、大麻事犯の検挙人員のうち、暴力団構成員等は751人と検挙人員の9%、外国人は292人と検挙人員の5.8%を占めている。
  • 人口10万人当たりの検挙人員でみると、近年、50歳以上においては、横ばいで推移している一方、その他の年齢層においては増加傾向にあり、特に若年層による増加が顕著である。令和2年の人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が9人、20歳代が20.1人と前年より大幅に増加しており、30歳代が7.1人、40歳代が2.5人、50歳以上が0.3人と僅かに減少した。最も多い年齢層は20歳代、次いで20歳未満となっており、20歳未満の年齢別でみると、年齢が高いほど検挙人員が多い。学識別では、高校生及び大学生の増加が顕著である。
  • 大麻事犯の初犯者率は9%と、近年の横ばい傾向が継続している。
  • 違反態様別でみると、所持事犯が4,121人、譲渡事犯が274人、譲受事犯が206人、密輸入事犯が53人、栽培事犯が232人となっており、所持事犯が検挙人員の9%を占めている。また、栽培事犯の検挙人員は、前年より大幅に増加した。
  • 大麻事犯の検挙人員は、薬物事犯の検挙人員の8%を占めており、その割合は覚せい剤事犯に次いで多くなっている。その主な特徴としては、初犯者率が高いことのほか、特に20歳未満、20歳代の人口10万人当たりの検挙人員がそれぞれ大幅に増加しており、若年層による乱用傾向が増大していることが挙げられる

また、本レポートでは、「大麻乱用者の実態」と題するトピックスが掲載されています。令和2年10月から同年11月までの間に大麻取締法違反(単純所持)で検挙された者のうち748人について、捜査の過程において明らかとなった大麻使用の経緯、動機、認識等について、以下のとおり紹介されています(これらと対比した平成29年(「H29」)の記載については、平成29年10月から同年11月までの間に大麻取締法違反(単純所持)で検挙された者のうち535人についてとりまとめたものとなります)。

  1. 大麻を初めて使用した年齢
    • 対象者が初めて大麻を使用した年齢は、20歳代以下の若年層で8%を占め、最年少は12歳(2人)であった。初回使用年齢層の構成比を29年と比較すると、「20歳未満」が195人・36.4%から361人・48.3%に増加しており、若年層の中でも特に「20歳未満」での乱用拡大が懸念される
  2. 大麻を初めて使用した経緯、動機
    • 大麻を初めて使用した経緯は、「誘われて」が最多であり、初めて使用した年齢が低いほど、誘われて使用する比率は高く、その傾向は29年と同様に「20歳未満」が最多である
    • また、その時の動機については、「好奇心・興味本位」、「その場の雰囲気」の順に多く、初めて使用した年齢が低いほど「その場の雰囲気」の割合が高くなる傾向にあり、また、「20歳未満」の「その他」の回答の中には「仲間外れにされないため」などの回答があった。
    • 29年においても同様で、若年層ほど身近な環境に影響されやすい傾向にあることがうかがわれた。
  3. 大麻に対する危険(有害)性の認識
    • 大麻に対する危険(有害)性の認識は「なし(全くない・あまりない)」が2%であり、覚せい剤の危険(有害)性と比較して大麻の危険(有害)性の認識は低い。29年と比較すると、大麻の「なし」の割合だけが13.9ポイント増加しており、大麻の危険(有害)性の認識だけが一層低くなっていることが確認できた。
    • 犯行時の年齢層別での大麻に対する危険(有害)性の認識は、どの年齢層でも大差はないが、29年と比較すると、特に「20歳未満」において「なし」の割合が5ポイントと大きく増加している
  4. 大麻に対する危険(有害)性を軽視する情報源
    • 年齢層を問わず、大麻に対する危険(有害)性を軽視する情報を「友人・知人」や「インターネット」から入手している状況が確認できた。
    • 情報源について、割合が高い「友人・知人」と「インターネット」を比較すると、年齢層が低いほど、より身近な「友人・知人」の割合が大きい傾向にある。令和2年においては、その傾向が特に少年で顕著であり、ここからも、若年になるほど、より身近な環境に影響されやすい傾向がうかがわれる。
    • 特に少年は、心身が未発達であり、社会的・経済的な基盤も形成途上であることを踏まえると、周囲の環境を健全化させることが急務である。大麻を容易に入手できないように組織的な栽培・密売を始めとする違法な行為を厳正に取締ることに加えて、SNS等のインターネット上での違法情報・有害情報の排除や、大麻の危険(有害)性を正しく認識して周囲からの誘いを断ることができるような広報啓発活動を含めた更なる取組が必要である。

薬物密輸入事犯については、「検挙件数は218件と前年より大幅に減少した。薬物事犯別でみると、覚せい剤事犯は73件と大幅に減少し、大麻事犯は66件、麻薬及び向精神薬事犯は79件とそれぞれ減少した」こと、「密輸入事犯における覚せい剤の押収量は418.2キログラムと前年より減少したものの、引き続き高い水準にある。乾燥大麻は19.9キログラムと大幅に減少し、大麻樹脂も1.6キログラムと減少した」ということです。このうち覚せい剤密輸入事犯については、「検挙件数は73件と前年より大幅に減少した。検挙人員については、暴力団構成員等は20人と減少し、外国人は63人と大幅に減少した。また、国籍・地域別でみると、日本が51人と最も多く、次いでベトナムが16人、タイ及び香港が9人となっている。態様別でみると、航空機を利用した覚せい剤の携帯密輸入事犯の検挙件数は25件と前年より大幅に減少した。このほか、国際宅配便が31件、郵便物が11件、事業用貨物が4件となっている。仕出国・地域別でみると、マレーシア及びアメリカが8件(構成比率11.0%)と最も多く、次いでタイが7件(同9.6%)、以下、ベトナムが6件(同8.2%)、台湾、イギリス及びメキシコが5件(同6.8%)となっている」こと、「覚せい剤密輸入事犯の検挙件数は73件と大幅な減少となる中、密輸入事犯全体の検挙件数に占める国際宅配便利用の割合(構成比率42.5%)が高くなった。また、押収量についても、海上貨物の利用による大量密輸入事犯の検挙により、依然として高水準にある。こうした状況の背景には、我が国に根強い薬物需要が存在していることのほか、国際的なネットワークを有する薬物犯罪組織が、アジア・太平洋地域において覚せい剤の取引を活発化させていることがあるものと推認される」と指摘しています。また、大麻密輸入事犯については、「検挙件数は66件と前年より減少した。態様別でみると、主なものとしては、郵便物が32件、国際宅配便が24件、航空機利用の携帯密輸が9件、その他が1件となっており、郵便物や国際宅配便を利用した密輸の占める割合は高い。仕出国・地域別でみると、アメリカが46件と最も多く、次いでカナダが6件、イギリス及びフランスが3件となっている」ということです。

薬物の密売関連事犯(営利犯のうち所持、譲渡及び譲受をいう)については、「検挙人員は649人であり、このうち、暴力団構成員等は314人(構成比率48.4%)、外国人は54人(同8.3%)となっている。覚せい剤の密売関連事犯の検挙人員は389人であり、このうち暴力団構成員等は258人(同66.3%)と、依然として覚せい剤の密売関連事犯に暴力団が深く関与している状況が続いている。また、外国人は32人(同8.2%)となっている。大麻の密売関連事犯の検挙人員は228人であり、このうち暴力団構成員等が53人(同23.2%)と、その割合は覚せい剤事犯に比べ低いものの、大麻の密売関連事犯にも暴力団の関与が認められる。また、外国人は19人(同8.3%)となっている」と指摘しています。その暴力団犯罪については、「暴力団構成員等による刑法犯及び特別法犯検挙人員は13,189人であり、このうち、薬物事犯検挙人員は4,387人(構成比率33.3%)と最も多くなっており、暴力団による不法行為に占める薬物事犯の割合は高い」と指摘されています。なお、覚せい剤事犯については、「暴力団構成員等の検挙人員を組織別にみると、六代目山口組、神戸山口組、絆會(任侠山口組)、住吉会及び稲川会の構成員等は2,803人と、これらで覚せい剤事犯に係る暴力団構成員等の検挙人員全体の78.4%を占めている」のに対し、大麻事犯については、「暴力団構成員等の検挙人員を組織別にみると、六代目山口組、神戸山口組、絆會(任侠山口組)、住吉会及び稲川会の構成員等は557人と、これらで大麻事犯に係る暴力団構成員等の検挙人員全体の74.2%を占めている」ということです。また、「暴力団構成員等による覚せい剤事犯の検挙人員を主な違反態様別にみると、使用事犯が2,109人、所持事犯が1,142人、譲渡事犯が199人、譲受事犯が38人、密輸入事犯が20人となっている」こと、「暴力団構成員等による覚せい剤事犯の営利犯の検挙人員は278人と全営利犯検挙人員(490人)の56.7%を占めており、覚せい剤の密輸・密売に暴力団が深く関与している状況が続いている」こと、「暴力団構成員等による大麻事犯の営利犯の検挙人員は83人と全営利犯検挙人員(342人)の24.3%を占めており、大麻の密売等にも暴力団が関与している状況が続いている」ことが指摘されています。また、「外国人による覚せい剤事犯の営利犯の検挙人員は86人と覚せい剤事犯の全営利犯検挙人員(490人)の17.6%を占めている。また、このうち密輸入事犯は54人(構成比率62.8%)となっている。国籍・地域別でみると、ベトナムが21人と最も多く、このうち密輸入事犯が15人、密売関連事犯が6人となっている。次いでブラジルが10人で、このうち密輸入事犯が4人、密売関連事犯が6人、韓国・朝鮮も10人で、このうち密輸入事犯が2人、密売関連事犯が8人となっている。外国人による大麻事犯の営利犯検挙人員は28人と大麻事犯の全営利犯検挙人員(342人)の8.2%を占めている。国籍・地域別でみると、ベトナムが10人と最も多く、このうち密輸入事犯が1人、密売関連事犯が7人、栽培事犯が2人となっており、次いでブラジルが5人で、このうち密輸入事犯が2人、密売関連事犯が3人となっている」ということです。外国人による薬物事犯を国籍・地域別でみると、「ブラジルが169人と最も多く、次いで韓国・朝鮮が156人、ベトナムが148人、以下、フィリピンが104人、アメリカが55人、中国が30人、スリランカが29人、ペルーが27人、タイが26人となっている。覚せい剤事犯では、韓国・朝鮮が123人と最も多く、次いでブラジルが94人、以下、フィリピンが75人、ベトナムが64人、タイが21人、中国が17人、イランが15人となっている。大麻事犯では、ブラジルが70人と最も多く、次いでベトナム及びアメリカが38人、韓国・朝鮮が30人となっている」ということです。また、危険ドラッグ事犯については、「検挙状況は138事件、150人と前年に引き続き減少した。適用法令別でみると、指定薬物に係る医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「医薬品医療機器法」という。)違反は前年に引き続き減少したが、麻薬及び向精神薬取締法違反は横ばいである。また、危険ドラッグ事犯のうち、暴力団構成員等による事犯は5事件、8人、外国人による事犯は30事件、33人、少年による事犯は2事件、2人となっている」こと、「危険ドラッグ事犯のうち、危険ドラッグ乱用者の検挙人員は140人(構成比率93.3%)となっている。年齢層別の構成比率を前年と比較すると、20歳代及び50歳以上の占める割合が増加しており、30歳代及び40歳代の占める割合は減少している」こと、「薬物経験別でみると、薬物犯罪の初犯者が97人(構成比率69.3%)、薬物犯罪の再犯者が43人(同30.7%)となっている」こと、「入手先別でみると、インターネットを利用して危険ドラッグを入手した者の割合が50.7%と最も高いこと、「危険ドラッグの使用が原因と疑われる死者数は0人と減少した」こと、「危険ドラッグ密輸入事犯の検挙状況は43事件、47人と増加した。仕出国・地域別でみると、中国が17事件と最も多く、次いでフランスが6事件となっている」ことなども示されています。

③銃器情勢

銃器情勢を概観すると、「銃器発砲事件の発生件数は17件であり、このうち暴力団等によるとみられるものは14件と前年から増加し、六代目山口組と神戸山口組との対立抗争に起因するとみられるものが5件発生した。銃器発砲事件による死傷者数は9人であり、このうち暴力団構成員等は6人となっている。死傷者数のうち、死者数は4人、負傷者数は5人である」ということです。さらに、「拳銃の押収丁数は、暴力団からの押収を含めて、長期的には減少傾向にあり、令和2年は355丁と前年から減少した。このうち、真正拳銃は312丁(うち密造拳銃9丁)、改造拳銃は43丁となっている」こと、「暴力団から押収した拳銃は54丁であり、組織別でみると、六代目山口組が16丁(構成比率29.6%)、神戸山口組が13丁(同24.1%)、稲川会が2丁(同3.7%)、住吉会が5丁(同9.3%)、その他が18丁(同33.3%)となっている)こと、「これまでに押収された拳銃の隠匿場所をみると、土中や貸倉庫に隠匿するものなどがみられ、隠匿の巧妙化・分散化がみられる」こと、「暴力団以外から押収した拳銃301丁のうち、真正拳銃は261丁(同86.7%)となっている」ことなどが紹介されています。

④来日外国人犯罪情勢

来日外国人犯罪については、「総検挙(刑法犯及び特別法犯の検挙をいう。以下同じ)状況をみると、近年、総検挙件数・人員ともほぼ横ばい状態で推移してきたが、令和2年は、前年に比べ、検挙件数・人員とも増加している。刑法犯検挙(日本人等の検挙を含む)に占める来日外国人犯罪の割合は、検挙件数が3.4%、検挙人員が3.1%となっている」こと、「総検挙状況を国籍等別にみると、総検挙、刑法犯、特別法犯のいずれもベトナム及び中国の2か国が高い割合を占めている」こと、「刑法犯検挙状況を包括罪種別にみると、凶悪犯及び風俗犯の検挙件数・人員が増加している。刑法犯の検挙全体に占める窃盗犯の割合は、検挙件数が61.1%、検挙人員が44.4%と依然として高い状態が続いており、特に、検挙件数は前年より大きく増加している」こと、「特別法犯検挙状況を違反法令別にみると、入管法違反及び銃刀法違反の検挙件数・人員が増加している。特に、特別法犯の検挙全体に占める入管法違反の割合は、検挙件数が78.2%、検挙人員が74.9%と、最も高い状態が続いている」こと、「在留資格別検挙状況について、総検挙人員を正規滞在・不法滞在別にみると、令和2年中は、正規滞在の割合が全体の61.0%、不法滞在の割合が39.0%となっている。平成27年からは不法滞在の割合が上昇傾向にある。また、総検挙人員の在留資格別の内訳(構成比率)は「技能実習」24.6%「留学」17.7%、「短期滞在」15.5%、「定住者」10.8%、「日本人の配偶者等」7.3%となっている。なお、令和元年4月に創設された在留資格「特定技能」を有する者の検挙は6人であった」というこです。

本レポートのトピックスの一つとして、「来日ベトナム人犯罪と来日中国人犯罪の傾向」についても紹介されていますので、以下、紹介します。

  1. 来日ベトナム人犯罪の傾向
    • 刑法犯の検挙人員が概ね横ばいであるのに対して、特別法犯の検挙人員は5年間で約8倍に増加しており、平成30年以降は刑法犯を上回る状況が続いている。入管法違反(特に不法残留)の急激な増加(5年間で約4.1倍)がその主な要因である。
    • 刑法犯の包括罪種別では、窃盗犯が最も多い(特に万引きが多い)状態が続くものの、その割合は7割強から6割弱と徐々に下がってきている。他の罪種では、粗暴犯の増加が顕著(5年間で約2倍)である。
    • 特別法犯の違反法令別では、入管法違反が大半を占める傾向に大きな変化はない一方、薬物事犯が増加傾向にあり、特に令和2年は前年比+131%と大幅に増加している
    • 在留資格別では、平成28年時点では留学が5割を超えていたところ、その比率は徐々に下がり、それに代わって技能実習の増加が顕著(5年間で約1倍)となっている。
    • 正規滞在、不法滞在別では、以前は正規滞在が7割を占めていたが、令和元年以降、不法滞在が正規滞在を上回り、その差は拡大傾向にある。不法滞在の中で刑法犯の占める割合は5年前の3割弱から徐々に低下しているが、人員数としては増加してきている。
  2. 来日中国人犯罪の傾向
    • 刑法犯の検挙人員はやや減少傾向にある一方、特別法犯の検挙人員は多少の増減はあるものの、概ね横ばいの傾向にある。人員数については、刑法犯と特別法犯との間に大きな差はなく、ほぼ半々という状況が続いている。
    • 刑法犯の包括罪種別では、ここ5年間、窃盗犯がおおむね5割、粗暴犯がおおむね2割、知能犯が1割強という状況が続いている
    • 特別法犯の違反法令別では、入管法違反(特に不法残留)が多く、全体の7割近くを占める状況が続いている。他の法令では、ここ2年間、風適法違反が減少傾向にある。
    • 在留資格別では、技能実習、留学において減少傾向が見られる一方で、短期滞在が増加する傾向にあったが、令和2年においては、コロナ禍における中国人旅行客の減少もあってか、短期滞在においても3割弱減少した。
    • 正規滞在、不法滞在別では、ここ5年間、正規滞在が7割、不法滞在が3割という傾向が続いている。不法滞在の中で刑法犯が占める割合はおおむね1割前後で推移しており、人員数としても100人に満たない。
  3. 来日ベトナム人犯罪と来日中国人犯罪の傾向比較
    • 刑法犯検挙人員で比較した場合、ベトナム、中国とも窃盗犯が多い点では共通だが、中国における粗暴犯、知能犯の占める割合がベトナムに比して高い傾向にある
    • 特別法犯検挙人員で比較した場合、双方とも入管法違反が多い点では共通だが、中国では1割程度を占める風適法違反がベトナムにおいてはほとんど見られないという違いがある。
    • 在留資格別で比較した場合、双方とも技能実習が多い点では共通だが、ベトナムにおいて留学が占める割合が中国に比して高く、一方、中国において短期滞在や日本人の配偶者等の占める割合がベトナムに比して高いという特徴がある。
    • 正規滞在・不法滞在別で比較した場合、5年前はベトナム、中国とも正規滞在7割、不法滞在3割という比率であったが、中国においては両者の割合に大きな変化は生じていない一方で、ベトナムにおいて不法滞在の占める割合が増加しているほか、不法滞在の中の刑法犯の人員数も多い。

また、「刑法犯検挙状況を包括罪種別にみると、近年、検挙件数・人員とも、ほぼ横ばい状態で推移しているところ、令和2年は、前年に比べ、検挙件数では、凶悪犯、窃盗犯、風俗犯が増加している一方、粗暴犯、知能犯が減少している。検挙人員では、凶悪犯、風俗犯が増加した一方、粗暴犯、窃盗犯及び知能犯が減少している」こと、「令和2年中に検挙した来日外国人による財産犯の被害総額は約19億円に上り、このうち約14億円(構成比率71.8%)が窃盗犯被害、約5億円(同26.7%)が知能犯被害によるものである。窃盗犯の手口別では、侵入窃盗被害が約8億円(同42.3%)、乗り物盗被害が約7,000万円(同3.7%)となっている。また、知能犯の罪種別では、詐欺被害が約4億9,000万円(同26.1%)となっている」ことが指摘されており、大変興味深いといえます。さらに、「国籍等別の刑法犯検挙状況を包括罪種等別にみると、凶悪犯はベトナム及びブラジルが検挙件数・人員とも増加し、粗暴犯及び知能犯は中国が引き続き多くを占めているが、検挙件数・人員とも減少している。また、窃盗犯は全体的に侵入窃盗が増加しており、特に、中国及び韓国の侵入窃盗の検挙件数が大きく増加している」こと、「罪種等別の刑法犯検挙件数を国籍等別にみると、強盗はベトナム及びブラジル、窃盗はベトナム及び中国が高い割合を占めている。窃盗を手口別にみると侵入窃盗は中国及び韓国、自動車盗はスリランカ、万引きはベトナムが高い割合を占めている。また、知能犯を罪種別にみると、詐欺、支払用カード偽造とも中国が高い割合を占めている」こと、「刑法犯検挙件数に占める共犯事件の割合を日本人・来日外国人別にみると日本人は12.5%、来日外国人は35.5%と日本人の約2.8倍となっている。また、来日外国人による共犯事件を形態別にみると、2人組は13.8%、3人組は10.0%、4人組以上は6.4%となっている。罪種等別にみると、窃盗犯のうち、住宅対象の侵入窃盗では、日本人は10.3%、来日外国人は56.7%と日本人の約5.5倍、万引きでは、日本人は3.1%、来日外国人は40.1%と日本人の約12.9倍となっている」こと、「ベトナム人の在留者は、近年「技能実習」や「留学」の在留資格で入国する者が増加しており、一部の素行不良者がSNS等を介して犯罪組織を形成するなどしている。ベトナム人による犯罪は、刑法犯では窃盗犯が多数を占める状況が一貫して続いており、手口別では万引きの割合が高い。ここのところ、ベトナム人同士のけんか等に起因した殺人や賭博における金の貸し借りに起因したベトナム人グループ内の略取誘拐、逮捕監禁等の事案の発生もみられる。また、特別法犯では入管法違反が多数を占める状況が続いており「技能実習」等の在留資格を有する者が、在留期間経過後、就労目的で不法に残留し、又は偽造在留カードを入手して正規滞在者を装うなどの事案が多くみられる」こと、「中国人犯罪組織は、地縁、血縁等を利用したり、稼働先の同僚等を誘い込むなどしてグループを形成する場合が多い。また、中国残留邦人の子弟らを中心に構成されるチャイニーズドラゴン等の組織も存在する。中国から「技能実習「留学」等の在留資格で入国した後、実習先から失踪する者や留学先の学校等を中途退学する者もおり、その後、不法就労や不法滞在を続けるうちに、その他の犯罪に加担する者も見られる。近年は、通信手段として匿名性の高いスマートフォンアプリが使われており、精巧な偽造クレジットカード等を利用して大量の商品をだまし取る犯罪や、旅券・在留カード等偽造などの犯罪インフラ事犯の検挙が比較的多くなっている」と指摘されています。

⑤犯罪インフラ

犯罪インフラとは、「犯罪を助長し、又は容易にする基盤のことをいう。外国人に係る犯罪インフラ事犯には不法就労助長旅券・在留カード等偽造偽装結婚地下銀行偽装認知のほか携帯電話不正取得、偽造在留カード所持等が挙げられる。不法就労助長及び偽装結婚には、相当数の日本人や永住者等の定着居住者が深く関わっており、不法滞在者等を利用して利益を得る構図がみられる」としています。犯罪インフラ事犯の検挙状況については、「不法就労助長は、昨今の人手不足を背景とし、就労資格のない外国人を雇い入れるなどの事例が引き続きみられるが、検挙件数・人員は減少傾向で推移している。旅券・在留カード等偽造は就労可能な在留資格を偽装するために利用されており、平成28年以降、増加傾向で推移し、検挙件数では最も多くなった。偽装結婚は、日本国内における継続的な就労等を目的に「日本人の配偶者等」等の在留資格を取得するための不正な手段であるが、近年、減少傾向にあるところ、ブローカー等への報酬等として多額の費用がかかることなどが一因になっているとみられる。地下銀行は、近年、検挙件数は10件前後で、偽装認知は3件前後で推移している」と紹介されています。

(2)AML/CFTに関するFAQを読み解く

前回の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、警察庁の「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和2年)」、金融庁の「「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について」を紹介しました。とりわけ後者については、かなり具体的な実務について踏み込んだ内容も記載されており、大変参考になるものでした。たとえば、継続的顧客管理や具体的に一体のものとして厳格な顧客管理に含めていくべき範囲、新技術等の活用、内部監査部門の役割、外部専門家の検証などAML/CFTの取組みの深化に向けた具体的なヒントなどが盛り込まれていました。その内容をさらに補強するかのように、金融庁が新たに「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」を公表しています。こちらも、実務上大変参考になる内容が多く、以下に、筆者にていくつかピックアップしたものを紹介したいと思います。

▼金融庁 「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」について
▼マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)

まず、「経営陣が、管理のためのガバナンス確立等について主導性を発揮する」とは、いかなる態様が考えられるかについては、「経営陣による関与については、マネロン・テロ資金供与リスクが経営上の重大なリスクになりかねないことを的確に認識し、取締役会等において、マネロン・テロ資金供与対策を経営戦略等における重要な課題の一つとして位置付けることや、経営陣の責任において組織横断的な枠組みを構築し、戦略的な人材確保・教育・資源配分等を実施することが考えられます」、「なお、取締役会等において、マネロン・テロ資金供与対策を経営戦略等における重要な課題の1つとして位置付けていることの証跡としては、議事録において、報告の内容や経営陣からの指示、コメントが残されていること、ディスクロージャー誌や年次報告書において、マネロン・テロ資金供与リスクを経営上の課題として認識し、リスクに応じた取組みを適切に行っている旨の記載がなされていることなどが考えられます」としています。

また、業界団体や中央機関等の役割については、「送金業務の受付時における送金依頼人・受取人の確認、送金目的の確認やリスクに応じた確認手続等については、第一次的には、委託元金融機関等が実施することになるものと考えられます。委託元金融機関等がこうした確認手続の内容等に関する検討を行うに当たっては、自らのマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢について、その業務上のリスクが自らのリスク許容度の範囲内に収まるよう有効な管理が可能かどうかという観点から検討を行う必要があります」、「また、受託する金融機関等は、委託元金融機関等の管理態勢を適切に把握すると共に、自らのマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢上、必要な情報を入手する仕組みが構築されている必要があります。必要に応じて、自らの顧客でない委託元の顧客の取引に対しても追加的な照会を行うことを始めとし、取引モニタリング・取引フィルタリング、疑わしい取引の届出、記録保存等のリスクに応じた対応を行うことが考えられます」と指摘しています。以前発覚した地方銀行の顧客による海外送金をメガバンクが受託しながらマネロンを敢行されてしまった事案が念頭にあるものと考えられますが、これまで海外送金業務の受託金融機関においては、顧客に関する情報が直接的に入手できず顧客管理が十分に実施できなかった脆弱性が突かれたところ、明確に「必要な情報を入手する仕組み」を構築し、適切な顧客管理措置を構じるべきと示された点は実務上意義のあること(ただし、相当な負荷がかかること)だといえます。なお、この地方銀行の事例について、筆者は、暴排トピックス2018年8月号で、以下のように指摘していました。

今回の事例も事業者として「厳格な顧客管理」がなされなかった結果、北朝鮮が絡むマネー・ローンダリングに悪用されてしまったものです。そもそも架空の会社を使った架空の取引(仲介貿易)であり、現場において疑わしさを感じることはなかったのかという組織的なリスクセンスの鈍さを指摘できるほか、疑わしければ速やかに実効性ある調査をすべきところ、送金元の会社の実在確認すら行わなかったという杜撰な実務は、AML/CFTを軽視した極めて大きな問題だと言えます。金融庁はかねてより地域金融機関に対策の強化を求めてきましたが、腰が重いままの地方銀行や信用金庫・組合は多く、やはりそれがそのまま抜け道として悪用されたことになり、あらためてAML/CFTの徹底を求めたいところです。そればかりか、FATFの第4次対日相互審査を来年に控え、厳格なAML/CFTが国際的に求められる状況下、十分な態勢が取れないなら海外送金業務を行う資格はないと厳しく指摘しておきたいと思います。一方、本事案でも同信金から依頼を受け送金業務を行ったのはメガバンクですが、メガバンク自身が送金を実際に依頼した当事者に接触できない実態があり、チェックの限界も露呈しています(地方金融機関がマネー・ローンダリングの抜け穴になっているとの危機感から、メガバンクは昨年12月に各地方金融機関の担当者を集め、AML/CFTの充実を強く呼びかけたといいます。それでも同信金は不審な送金を2回見逃していたということですから、もはや組織レベルでAML/CFTを軽んじていたと指摘されても仕方ない状況だと思われます)。今後、AML/CFTを厳格に運用しているメガバンクも重ねてチェックする態勢など、抜け道を塞ぐ実務の底上げが急務だと言えます

関連して、「当該海外送金等を自らのマネロン・テロ資金供与対策におけるリスクベース・アプローチの枠組みの下で位置付け」るとはどういうことが求められているのか」については、「自ら海外送金等を実行せず、他の金融機関等に委託等をする場合においても、自らの顧客が海外送金等の取引を行っていること自体を当該顧客の顧客リスク評価に反映させ、顧客リスク評価に応じた継続的顧客管理を実施するなど、当該顧客に対する自らのマネロン・テロ資金供与対策におけるリスクの特定・評価・低減の措置を実行することを求めています」と示しており、前述の指摘とあわせて、委託元として当然実施すべき顧客管理だといえます。さらに関連した問いとして、「(中略)管理態勢等(外部へのアウトソーシングを含む。)を構築すること」について、具体的にどのような点に留意することが求められているのか」については、「業務委託先が取引時確認や顧客管理業務の一部を実施している場合においても、委託元の金融機関等が顧客管理に関する責任を負います。このため、例えば、当該委託先を第1線と位置付け、第2線が必要な牽制・支援を行い、委託元の責任で必要な文書管理を行うことなどが必要であると考えられます。この場合、第3線は、第2線において委託先の牽制や支援を適切に実施しているかを監査することとなります。また、外部へのアウトソーシングに関し、個人情報の授受が行われる場合は、個人情報の共有に関する合意があらかじめ得られていること、守秘義務契約の締結や情報セキュリティに問題ない先であることの確認がなされていることにも留意する必要があります」と示してします。

また、「マネロン・テロ資金供与対策におけるリスクベース・アプローチとは(中略)リスク許容度の範囲内に」と記載されていますが、具体的に「リスク許容度の範囲内」であるとは、どのように考えれば良いでしょうか」との質問については、「自らが特定・評価したマネロン・テロ資金供与リスクが、当該金融機関等のリスク管理上許容できる範囲内に収まることを意味します。マネロン・テロ資金供与リスクが、当該金融機関等のリスク管理上許容できる範囲内に収まっていることについては、あらかじめ、リスク管理を含むマネロン・テロ資金供与対策に責任を有する経営陣により承認を受けた上で文書化されていることが求められるものと考えます」と回答しています。リスク管理においては、いわゆる「残存リスク」(保有リスク)を限りなく小さくすることが要請されますが、その存在と大きさをあらかじめ組織的な判断のもと文書化して明確にしておくことを求めており、「経営判断の原則」を充足させることと言い換えることができます。言うまでもなく「経営判断の原則」とは、一般的に「取締役の経営判断について、当該判断の前提となった事実認識に不注意な誤りがなく、判断の内容に著しく不合理なものがない限り、善管注意義務違反または忠実義務違反を認定すべきでないとする考え方」をいいますが、リスクベース・アプローチを採用する以上、十分な情報収集に基づき、冷静かつ合理的な判断を組織として行うことがより重要となると指摘しておきたいと思います。なお、関連して、「リスク低減措置を講じてもなお残存するリスク」について、どのように検討すれば良いかとの問いについては、「残存リスクは、リスク低減措置によって各金融機関のリスク許容度の範囲内で可能な限り小さくすることが求められており、残存リスクが高いまま、その商品・サービスを継続させることは困難であるものと考えます。残存リスクがゼロになることはないことを前提にしつつも、高リスクから中リスク、中リスクから低リスクへとリスク低減措置の改善を図るため、疑わしい取引の届出の分析結果により敷居値やシナリオの改善等を行うなどしてリスク低減を図ることができないかを定期的に検証する機会を持ち、経営陣を含めて検討する必要があります」、「なお、取引開始後に反社会的勢力であると判明した顧客に対して、取引解消までの間、厳格な管理を行いつつ最低限の生活口座として存続させることを許容した場合の普通預金口座取引等は、リスク低減措置を講じてもなおリスクが残存する例の一つと考えられます」と示しています。

さらに、リスクの「包括的かつ具体的な検証」をどのような方法で行えばよいかについては、「「包括的かつ具体的な検証」の方法は、個々の金融機関等によって異なり得ますが、自らの提供している商品・サービス、取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性等について、漏れがないよう包括的に洗い出しを行う必要があります。その上で、項目として大まかで抽象性のあるものではなく、実務に即して具体的なリスク項目を特定するための検証を行うことが求められます」、「例えば、自ら提供している商品・サービスを特定する場合、「〇×普通預金」、「××定期預金」、「△△ドル建普通預金」、「〇〇建定期預金」など、提供している商品・サービス1つ1つについて検証し、リスクを特定する必要があります」、「同様に、顧客が利用する上で関係する全ての取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性等についても、1つ1つを、前記と同様の水準で検証して、リスクを特定する必要があります」、「なお、この検証作業に際しては、国によるリスク評価の結果、外国当局や業界団体等が行う分析等についても適切に勘案する必要があるほか、自ら届出を行った疑わしい取引の分析を含め、自ら直面するマネロン・テロ資金供与リスクの特性を考慮する必要があります」と説明されています。すなわち、(1)自らの提供している商品・サービス、(2)取引形態、(3)取引に係る国・地域、(4)顧客の属性等の切り口から一つひとつ検証すること、さらには、(1)犯罪収益移転危険度調査書、(2)外国当局や業界団体等の分析、(3)自社の疑わしい取引の分析等、の観点からそれらを検証していくことが示されており、実務としては相当な細かさと慎重さが求められていると認識する必要があります。

また、包括的かつ具体的な検証に当たっては「自らの営業地域の地理的特性」や「事業環境」を考慮するとは具体的に何が求められているのかという問いに対しては、「「自らの営業地域の地理的特性」については、当該地域の地理的な要素の特性を意味しています。例えば、自らの営業地域が、貿易が盛んな地域に所在するといった場合や、反社会的勢力による活発な活動が認められる場合反社会的勢力の本拠が所在している場合に、当該地域の独自の特性を考慮する必要があると考えます」、「実際に地理的特性を考慮してリスクを検証する際には、例えば、貿易が盛んな地域に自らの営業地域が存在している場合、貿易や水産物を取り扱うなどの取引先が多いと考えられますので、取扱商品や輸出・輸入先の把握を通じた経済制裁等への対応等、地域的特性から精緻に検証し、リスク項目を洗い出すことが必要になるものと考えます」と説明されています。反社リスクには地域性があり、全国一律のリスクではないことは本コラムでもたびたび指摘しているところですが、AML/CFTにおいても、反社リスクの地域性を考慮すべきと示している点は正に正鵠を射るものといえます。さらに、「「事業環境」については、マネロン・テロ資金供与に関する規制の状況、競合他社のマネロン・テロ資金供与対策の動向等、自らの事業に関する要素を考慮する必要があると考えます」、「例えば、競合他社が参入する場合(基本的には、自らの競合他社が参入する場合)には、新たな競合他社の参入により、競争の激化やサービスの変化、取引量の増減等によるマネロン・テロ資金供与の固有リスクが変化する可能性があります。したがって、例えば、新たな競合他社の参入により市場全体のマネロン・テロ資金供与に関するリスクが影響を受ける場合には、新たに検証すべきリスク項目がないかについて、年に1回程度予定されている定期的なリスク評価書の改訂を待つのではなく、可能な限り早い段階で洗い出す必要があると考えます」、「なお、顧客が海外との取引を行っている場合、その相手先の国・地域のマネロン・テロ資金供与リスクも踏まえた顧客リスク評価を行うことが求められています」と示しています。反社リスク対策における「定期・不定期のチェック」と同じ考え方であり、「定期チェックがあるから」という受動的な姿勢ではなく、「リスクや問題を見つけに行く」という能動的な姿勢が(当たり前ですが)AML/CFTにおいても求められているといえます。

「取引に係る国・地域について検証を行うに当たっては(中略)直接・間接の取引可能性を検証し、リスクを把握すること」における間接の取引とはどのような場合を指しているかという問いに対しては、「制裁対象国等ハイリスク国の周辺国・地域と取引を行う場合や、顧客が行う商取引行為が制裁対象国等ハイリスク国・地域に関連している場合のほか、例えば、マネロン・テロ資金供与リスクが高いと評価される国・地域に向けた取引が、マネロン・テロ資金供与リスクが高いと評価されていない国・地域を経由して行われる場合等が考えられます」、「また、顧客の所在地が日本である場合においても、当該顧客が、制裁対象国等ハイリスク国の周辺国・地域において子会社・合弁会社を設立している場合には、当該会社を通じて、経済制裁対象国へ資金が流出する可能性もあります」、「こうしたマネロン・テロ資金供与リスクについて、金融機関等は、当該顧客のリスク評価の一要素として、当該顧客の商流のみならず、当該顧客の子会社・合弁会社の実態等や必要に応じてその取引相手の実態等を把握し、顧客がこれらの子会社等に牽制機能を有しているかといった点を十分把握することが考えられます」、「特に、制裁対象国等ハイリスク国の周辺国・地域に所在する子会社・合弁会社については、取引相手や取引の商品も含め、これらの点に留意する必要があると考えますが、いかなる範囲の子会社・合弁会社等について、いかなる方法により実態を把握するかは、各金融機関等において、リスクに応じて、個別具体的に判断していただくことが重要であると考えています」、「例えば、融資等の先はもちろんのこと、そうした先でなくとも、様々な情報等から、グローバルに業務を展開している可能性のあると判断される企業については、状況に応じて、制裁対象国等ハイリスク国の周辺国・地域に所在する子会社・合弁会社の存在や、子会社・合併会社と制裁対象者等との取引の可能性を確認していくといったことが考えられます」と示しています。正に、KYC(Know Your Customer)の視点だけでは十分でなく、商流(サプライチェーン)全体の健全性を確保するためには、KYCC(Know Your Customer’s Customer)の視点まで求められているとの指摘といえます(ただし、先日のガイドライン一部改正におけるパブコメで、金融庁は「いわゆるKYCCという顧客の顧客の本人確認手続まで求めるものではありません」とも指摘しています)。さらに、KYCCという視点だけでなく、「直接・間接の取引可能性」として、「ハイリスク国・地域の周辺国・地域」との関係を問題にしている点にも注意が必要です。反社リスク対策に置き換えれば、例えば、不動産取引において現所有者とその前の所有者の関係にも考慮すべきこと、暴力団対策法に基づく「警戒区域」が指定されれば、活動拠点が「警戒区域」以外のエリアに移転され、移転先の反社リスクが高まるといったことなどに似ています。いずれにせよ、リスクが高度化・複雑化している以上、リスクを「点」だけでなく、「線」や「面」で捉える発想がこれまで以上に求められていると認識する必要があります。

「当該商品・サービス等の提供前に(中略)マネロン・テロ資金供与リスクを検証すること」についての留意事項として、「これまで取扱いがなかった商品・サービス等の提供を開始する場合のほか、例えば、国内外の事業を買収することや業務提携等により、新たな商品・サービスの取扱いが発生する場合、直面するリスクが変化することから、営業部門と管理部門とが連携して、事前にマネロン・テロ資金供与リスクを分析・検証することが求められます」、「これまで取扱いがなかった商品・サービス等の提供を開始する場合として、例えば、他業態の事業者と提携して、取引時確認業務を当該他業態の事業者に依拠して新たな商品・サービスを提供する場合に、当該他の事業者のマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の有効性を確認することが考えられます。また、その他にも、例えば、金融機関等が顧客に対して法人口座に紐づく入金専用の仮想口座(バーチャル口座)等を提供することを検討している場合に、仮想口座を利用する事業者等の利用目的やマネロン・テロ資金供与リスクを検証することが考えられます」、「加えて、提携先等がどのようなマネロン・テロ資金供与リスクに直面し、その提携等している業務のリスクに対して、どのようなマネロン・テロ資金供与リスク管理を行っているかを把握し、リスクに応じて継続的にモニタリングすることが求められます」、「また、新たな商品・サービス等の提供後に、当該商品・サービス等の内容の変更等により、事前に分析・検証したものと異なるリスクを検知した場合には、リスクの見直しを行った上で、見直し後のリスクを低減させるための措置を講ずる必要があります」、「なお、提携先、連携先、委託先等については、例えば、これらの実質的支配者を含む必要な関係者を確認し、反社会的勢力でないか、あるいは制裁対象者でないかといった検証が必要になるものと考えます」、「さらに、当該提携先等と連携して提供する業務が特定業務(犯収法別表及び同法施行令第6条)に該当する場合には、特定業務に係る取引を行った場合の取引記録等の作成・保存、疑わしい取引の届出を行う義務があり、加えて、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出の措置を的確に実施するための態勢整備を行う必要があります(犯収法第11条、同法施行規則第32条第1項各号参照。)」と示しています。商品・サービスの提供前のリスクの検証については、同じく金融庁の「コンプライアンス・リスク管理に関する傾向と課題」(2019年6月)において、「コンダクトリスク管理」の一環として、「3線管理における2線の役割・1線と2線の連携の重要性」として、同様の取組みが推奨されています(具体的には、「新商品や新ビジネスに取り組む際には、管理部門が当該施策を提案した事業部門等の議論に加わり、「社会規範及び企業理念に反しないか」や「顧客に不利益なものとなっていないか」等の観点から、幅広くリスクの特定・評価を実施している」として好取組事例として紹介されています)。なお、続けて、「リスク評価における営業部門との具体的な連携方法における具体的な留意点」について、「リスク評価は、金融機関等が保有するマネロン・テロ資金供与リスクを正確に把握することであり、マネロン・テロ資金供与リスク管理の主管部署である第2線のみで、実態に即さないリスクの評価を行うことは避けるべきであると考えられます。具体的には、第1線と第2線がリスクの評価の作業を行う段階で緊密に連携し、顧客や商品・サービスの実態を最も理解している営業部門が保有している顧客の取引先や顧客の商流等の情報、商品・サービス、取引形態等のリスクを顧客リスク評価に反映させるなど、営業部門がこれまでに築いてきた顧客との信頼関係を基礎として把握した情報を全てリスク評価の過程で反映することが必要と考えます」、「管理部門(第2線)は、営業部門(第1線)がリスク評価を実施するに当たって考慮すべき事情を明確に理解することができるよう、リスク評価の全社的方針や具体的手法を確立する必要があります」、「また、管理部門(第2線)は、営業部門(第1線)の行ったリスク評価を踏まえつつ、疑わしい取引の分析結果等を勘案しながら、最終的なリスク評価を実施する必要があります」と示しています。

また、インターネットバンキングにおける、マネロン・テロ資金供与リスク評価、低減措置の観点から留意すべき事項については、「インターネットバンキングについては、乗っ取り、なりすましや取引時確認事項の偽りの可能性があることなど、非対面取引のリスクを踏まえた対応が必要であり、例えば、IPアドレスやブラウザ言語、時差設定等の情報、UserAgentの組み合わせ情報(例えば、OS/ブラウザの組み合わせ情報)等の端末情報や画像解析度等を活用することにより、不審・不自然なアクセスを検知するといった対応が考えられます」と示しています。このあたりは、改正された「疑わしい取引の参考事例(預金取扱い金融機関)」(金融庁)において、新たに追加された参考事例である、「名義・住所共に異なる顧客による取引にもかかわらず、同一のIPアドレスからアクセスされている取引」、「国内居住の顧客であるにもかかわらず、ログイン時のIPアドレスが国外であることや、ブラウザ言語が外国語であることに合理性が認められない取引」、「IPアドレスの追跡を困難にした取引」、「取引時確認で取得した住所と操作している電子計算機のIPアドレス等とが異なる口座開設取引」、「同一の携帯電話番号が複数の口座・顧客の連絡先として登録されている場合」と呼応したものといえます。

いわゆる一見顧客への「受入」における留意点について、「いわゆる一見顧客への対応については、(1)法令等の対応を適切に実施する、(2)リスクベースの対応を適切に実施する、(3)顧客説明を丁寧に実施するという3点が重要と考えます」と示しています(当然といえば当然のことだといえます)。さらに、「(1)については、犯収法等の法令等で求められている義務を確実に履行することが求められます」、「(2)については、商品・サービス、取引形態、取引に係る国・地域、顧客属性等のリスクを包括的かつ具体的に検証して得られたリスク評価及びその低減措置を、当該一見顧客の取引に適用し、事前に定められている低減措置を確実に実施することが求められます」、「(1)及び(2)に関しては、法令に従った取引時確認等を実施した上、氏名、生年月日、住所等を確認した結果、反社会的勢力や制裁対象者に該当することが分かった場合には、契約自由の原則と社内規定、法令等に沿って、謝絶した上で、疑わしい取引の届出を行うなどの適切な対応が求められます。また、スクリーニングの結果、反社会的勢力や制裁対象者に該当する可能性がある場合には、上級管理職との協議を行い、取扱いの可否を判断し、疑わしい取引の届出を行うと共に、他拠点で同一顧客が一見取引を行った際にチェックできるような態勢を構築することが想定されます」、「加えて、例えば、一見顧客がA支店で取引を行おうとした結果、反社会的勢力等、取引不可先であることが判明した場合には、当該一見顧客がB支店等他の支店等において取引を実施しようとした場合においては、当該他の支店等においても取引を適切に謝絶できるといった態勢を構築することが求められます」、「そして、(3)については、一見顧客は、これまで取引等がないことから、情報等も少なく、(1)及び(2)の手続に時間を要することが想定されますので、各種手続の内容や手続に要する時間等を顧客に対して丁寧に説明し、当該顧客に納得してもらうことも重要であると考えます」、「なお、丁寧に説明をしても納得が得られないなど協力が得られない場合、又は合理的な理由なく申告された取引目的とは異なるような高額取引や把握された属性から外れるような取引が認められた場合には、内部規程に従って、上級管理職の判断を求めることも必要であると考えます」と示しています。特に下線部を中心とした対応要領について、新規顧客を謝絶する際の「契約自由の原則」の活用、判断プロセスの明確化、謝絶情報の速やかな社内共有、審査に時間を要することの説明、行為要件への該当や取引目的等に関する虚偽告知等の相手のふるまいに着目した拒絶のあり方など反社リスク対策における対応要領としても大変参考になります

また、「「信頼に足る証跡」とは、具体的にはどのようなものが該当するのか。例えば、本人確認事項の調査において、犯収法施行規則第7条に定める本人確認書類が該当するとの理解でよいか」という問いに対しては、「「信頼に足る証跡」は申告の真正性を裏付ける公的な資料又はこれに準じる資料を意味しています。本人確認事項の調査に当たっては、犯収法施行規則第7条に定める本人確認書類のほか、経歴や資産・収入等を証明するための書類等が考えられますが、調査する事項に応じ、その他の書類等についても活用することが考えられます。例えば、株主名簿、有価証券報告書、法人税確定申告書の別表等を徴求する場合や公証人の定款認証における実質的支配者となるべき者の申告制度(法人設立時の定款認証において、公証人に実質的支配者となるべき者を申告させる制度のこと(2018年11月30日に改正公証人法施行規則の施行により開始)を活用する場合等も考えられます。具体例としては、生命保険金の支払時において、受取人が団体である場合には、株主名簿や有価証券報告書等の証跡を取得するなどにより、その実質的支配者の調査を実施することが考えられます」、「また、取引目的の調査に当たっては、例えば、取引目的が商取引であれば、取引先との取引履歴や、同取引に関する契約書等を徴求することが考えられます」、「なお、犯収法令上定められた項目については、犯収法令上定められた方法、書類に従い確認を行った上で、リスクに応じて、追加的に証跡を取得することについて判断することとなります」と示しています。説明の中にある「実質的支配者となるべき者の申告制度」はたしかに客観的な公的資料といえますが、例えば反社会的勢力が実質的支配者であるにもかかわらず、役員に名を連ねることや実質的支配者として申告することは実際に行われることは考えにくく、逆にその制度の信頼性が悪用されかねないリスクを孕んでいることは指摘しておきたいと思います。

「国内外の制裁に係る法規制等の遵守その他リスクに応じて必要な措置を講ずること」についての留意すべき事項については、「国内外の制裁に係る法規制等の遵守については、例えば、国際連合安全保障理事会(以下「国連安保理」といいます。)決議等で指定される経済制裁対象者については、外国為替及び外国貿易法第16条及び第21条等に基づき、同決議等を踏まえた外務省告示が発出された場合に、直ちに該当する経済制裁対象者との取引がないことを確認し、取引がある場合には資産凍結等の措置を講ずるものとされています。さらに、国際的な基準等(FATFにおいては、テロ資金供与や大量破壊兵器の拡散に関する金融制裁として、国連安保理により制裁対象として指定された個人・団体が保有する資金・資産を遅滞なく凍結することを求めております。)を踏まえると、外務省告示の発出前においても、国連安保理決議で経済制裁対象者が追加されたり、同対象者の情報が変更されたりした場合には、遅滞なく自らの制裁リストを更新して顧客等の氏名等と照合するとともに、制裁リストに該当する顧客等が認められる場合には、より厳格な顧客管理を行い、同名異人か本人かを見極めるなどの適切かつ慎重な対応が必要と考えています」、「したがって、このような対応を確実に実施するために必要なデータベースやシステム等の整備、人材の確保、資金の手当てを、直面しているリスクに応じて実施していただくことが重要であると考えています」、「なお、昨今、データ復旧等に身代金を要求するランサムウエアの感染被害が報告されています。海外ではランサムウエアの身代金がテロ資金等に悪用される可能性もあると指摘されており、米国においては、金融機関等に向けて、ランサムウエアの身代金の支払いへの関与には制裁リスクがあるという点について注意喚起の勧告も出されました。サイバー空間には国境がないことから、このような身代金の支払いに金融機関等が利用されてはならず、顧客の送金について、この種のテロ資金供与リスクがあることも留意する必要があります」と示しています。国際機関や各国の制裁リストは相当数あり、適宜更新されていることから、世界中の主要なリストが網羅され、かつ速やかに更新がなされているデータベースを活用することが実務上はマストとなります。なお、参考までに、続けて「信頼性の高いデータベースやシステムを導入するなど」とあるが、ベンダーが一般的に提供しているPEPsリストのデータベースやAMLシステムの導入等を念頭に置いているとの理解で良いか」との問いに、「ご指摘いただいた外部機関等が提供している信頼に足るPEPsリストも含む、国連安保理指定の制裁対象者・国・団体、取引に関係する国・地域の制裁対象者や我が国の反社会的勢力を含むデータベース、マネロン・テロ資金供与対策に係るシステムも一例として考えられます。その際は、遅滞なくデータの更新が行われることに加え、取引フィルタリングシステムのリストやあいまい検索機能や取引モニタリングシステムのシナリオ・敷居値等をリスクに応じた適切なものとする必要があると考えられます」と示されてます。また、ランワムウエアの身代金の支払いについては、公には支払った事実を公表している例はほとんどありませんが、クラウドストライクの2020年の調査によれば、直近1年で日本企業の52%がこの攻撃を経験し、32%が身代金を支払っていたこと、支払い額は平均で117万ドル(約1億2,300万円)だったことが指摘されています。この実態をふまえれば、ランサムウエアを介したテロ資金供与リスクは相当程度高いものといえ、高度な警戒が必要な状況だといえます。

また、「全ての顧客について顧客リスク評価を行う」とあるが、例えば、長期不稼働口座については、その他の属性の如何にかかわらず、また、改めて属性を確認することなく、低リスクと見做した上で通常の顧客管理とは異なる取扱いを行い、口座が稼働し始めた時点で高リスク先と評価した上で厳格な顧客管理を実施することとし、その一環として顧客情報の更新を実施することで問題ないか」との問いについては、「本ガイドラインは、全ての顧客について、金融機関等によるマネロン・テロ資金供与リスクの特定・評価の結果を総合して、顧客リスク評価をすることを求めるものですが、具体的な対応策については、その取引や顧客の状況に応じて、個別具体的に判断する必要があります」、「例えば、長期不稼動口座を保有する顧客について、長期にわたって取引がなされていない点に着目してそのリスクを評価した場合、口座残高に異動がない場合は低リスクと評価されますが、急に取引が開始された場合や新たに小口の資金移動が発生した場合には、システム等によって速やかに検知し、その理由を確認する必要があると考えます。その前提として、長期不稼働口座が稼働した場合には、その金額の多寡を問わず検知できる体制を設けることが必要と考えます」、「また、このような不稼働口座が動き出した場合には、口座の譲渡・貸与等が行われた可能性もあり、この点を考慮してまずは顧客リスク評価を実施し、直ちに厳格な顧客管理(EDD)を行う必要があるか否かを検討する仕組みを構築することが考えられます」と示しています。不稼働口座については、口座売買・譲渡等によって特殊詐欺等に悪用されていることはよく知られています。なお、「疑わしい取引の参考事例(預金取扱い金融機関)」においても、「通常は資金の動きがないにもかかわらず、突如多額の入出金が行われる口座に係る取引」が列記されています。

簡素な顧客管理と継続的顧客管理という点では、顧客に過剰な対応を求めているのではないかとの問題意識があります。その点について、まず「リスクに応じた簡素な顧客管理(SDD)」とは具体的にどのような措置なのかについては、「本ガイドラインにおける「リスクに応じた簡素な顧客管理(SDD)」とは、顧客リスク評価の結果、「低リスク」と判断された顧客のうち、一定の条件を満たした場合に、DM等を顧客に送付して顧客情報を更新するなどの積極的な対応を留保し、取引モニタリング等によって、マネロン・テロ資金供与リスクが低く維持されていることを確認する顧客管理措置のことをいいます」と示しています。さらに、「顧客情報の「定期的な確認」との記載は、リスクが低いと判断し、簡易な顧客管理方針とした顧客についても全て、マネロン防止対策の目的をもって、本人特定情報や顧客管理情報等の再確認を行うために、顧客とコンタクト(電話や郵送等)を取り、ヒアリングや資料提供を依頼することを想定しているのか。それとも、こうした顧客については、全先に対してコンタクトを取らず、顧客属性データ、取引履歴データのほか、(もしあれば)これまでの気付き状況のみで判断するといった対応でも問題ないか」との問いに対しては、「継続的な顧客管理については、リスクが低いと判断した顧客も含む全ての顧客をその対象とすることが求められますが、全ての顧客に一律の時期・内容で調査を行う必要はなく、顧客のリスクに応じて、調査の頻度・項目・手法等を個別具体的に判断していただく必要があります」、「顧客との店頭取引やインターネット取引等で顧客がアクセスするなどの各種変更手続の際に、マネロン・テロ資金供与対策に係る情報も確認されているのであれば、そのような実態把握をもって、継続的な顧客管理における顧客情報の確認とすることも考えられます」、「ただし、高リスク顧客の中には、営業実態の把握や実地調査、顧客に対して対面で確認することが必要な場合もあることから、リスクに応じた対応が必要であることに留意すべきと考えます」と示しています。また、「「確認の頻度を顧客のリスクに応じて異にすること」とありますが、どのような頻度を想定しているのか。また、情報の網羅的な更新を求めるものではなく、例えば現住所地等一定の情報に着目し、リスク評価を変更する契機とすべき事象が生じていないかを確認し、当該事象が発生している場合にのみ、深度ある確認を実施しようとすることで良いか」という問いについては、「継続的な顧客管理については、顧客に係る全ての情報を更新することが常に必要となるものではなく、顧客のリスクに応じて、調査の頻度・項目・手法等を個別具体的に判断していただく必要があります」、「一般的には、高リスク先については1年に1度、中リスク先については2年に1度、低リスク先については3年に1度といった頻度で情報更新を行うことが考えられます。これ以上、期間を延ばす場合には、合理的かつ相当な理由が必要になるものと考えます」、「また、更新する情報は、顧客リスク評価の見直しをするために必要な範囲で、個別具体的な事情に照らして判断していただく必要があります。情報更新に際しては、信頼できる公開情報を参考にすることもあり得ますし、顧客に対面で確認するべき場合もあり得るものと考えます」、「なお、継続的顧客管理において、顧客リスク評価の見直し手続に係る期日管理や期日までに見直しができない顧客の管理、期日超過分の速やかな解消については、第1線と第2線が連携し、適切な管理が行われることが重要であり、期日超過の管理状況については、定期的に経営陣に報告され、解消のための措置を講ずることが期待されます」と示しています。とりわけ、「高リスク先については1年に1度、中リスク先については2年に1度、低リスク先については3年に1度といった頻度で情報更新を行う」とのサイクルが明示(例示?)されている点は注目されます。反社リスク対策においても、「定期チェック」の実施サイクルについては各社が自らのリスク評価結果をふまえて決定していますが、例えば、グレー先であれば四半期または半期に1回、高リスク先については年に1回、その他は2~3年に1回のサイクルで実施することをアドバイスすることも多く、今回の金融庁の明示も大変参考になるものといえます。

「取引フィルタリングに関する適切な体制」とは、どのようなことを想定しているのかについては、「例えば、制裁対象者や制裁対象地域について、アルファベットで複数の表記方法があり得る場合には、スペリングの違いについて幅をもって検索できる「あいまい検索機能」の適切な設定に加えて、制裁リストに複数の名称を登録することのほか、他の顧客の継続的顧客管理措置や取引モニタリング、取引フィルタリング、疑わしい取引の届出調査の過程で把握した情報や公知情報等から入手した取引不可先情報や、システム的に検知し深堀調査を行うためのキーワード等(制裁対象国・地域や制裁対象者でないものの、リスクの高い特定の国・地域名や氏名、団体名等)を金融機関独自の照合リストに追加することなどにより、制裁対象取引に関するリスク管理やリスクに応じた調査を適切に行うことなどが含まれると考えます」と示しています。さらに、「「遅滞なく照合する」について、具体的にどのようなことが求められているのか」については、「国際連合安全保障理事会決議等で経済制裁対象者等が指定された際には、金融機関等は、数時間、遅くとも24時間以内に自らの制裁リストに取り込み、取引フィルタリングを行い、各金融機関等において既存顧客との差分照合が直ちに実施される態勢を求めています」と示しています。AML/CFTの実務においては、データベース側の更新頻度が高く、追加情報を対象とした差分でのスクリーニングをデイリーで行う態勢を構築している金融機関が多いといえますが、反社リスク対策の定期・不定期チェックにおいては、データベースの更新を考慮されるケースはほとんどない点が取組みの甘さ・遅れとして認識する必要があるといえます。なお、関連して、疑わしい取引の届出を「直ちに行う態勢」の「直ちに」とは具体的にどのようなことが求められているのかについては、「疑わしい取引の届出は、ある取引について実際に疑わしい取引に該当すると判断した場合には、即座に行われることが望ましいものと考えます」、「例えば、疑わしい取引に該当すると判断した取引について、1か月に1回決まった日にまとめて届出を行うといった対応は、適切ではないものと考えます」、「したがって、「直ちに行う態勢を構築」しているといえるためには、ある取引について疑わしい取引に該当するものと判断した後、即座に届出を行う手続を開始する態勢を構築することが求められます」、「なお、ある取引について、疑わしい取引に該当すると判断する前段階において、取引モニタリングで検知されるなどの疑わしい取引に該当することが疑われる場合に、どの程度の期間で検証・届出をすべきかについては、取引の複雑性等に応じて必要な調査期間も踏まえつつ、個別取引ごとに判断されることになりますが、疑わしい取引の検知から届出まで1か月以内で実施できることが望ましいものと考えます」と示しています。これらのスピード感については、反社リスク対策においても参考となるものであり、端緒情報が現場で把握されて「直ちに」管理部門等に報告され、組織的な認知を行う態勢となっていること、組織的に認知されたら「直ちに」深度ある調査(反社チェック)を行うこと、調査結果が判明したら「直ちに」組織的に取引不可の判断が適切になされることが必要です。これらの対応に要する期間が1カ月以内を目指すべきかどうかは個別の事案や状況によるため一概には言えませんが、反社会的勢力への利益供与や活動を助長するような実態があるのであれば、可及的速やかに解決を目指すべきだといえます。

また、「リスクが高いと判断した業務等以外についても、一律に監査対象から除外せず、頻度や深度を適切に調整して監査を行うなどの必要な対応を行うこと」とあるが、具体的にどのようなことが求められているのか」については、「第3線が実施する監査についても、リスクベース・アプローチを適用して対応することが求められていますが、具体的な監査項目の選定に当たり、リスクの高低のみで判断して、リスクが低いと判断した場合には、一律監査対象から外すという手法は、リスクベース・アプローチとはいえず、リスクが低い項目であっても、過去に一度も監査していないような場合等については、深度を調整してサンプル的に監査を実施するなどの対応が必要になるということを明確化したものです」と示しています。この点は、どうしても、高リスク・中リスクを中心に監査対象が選定されることが多く、実務上はなかなかそこまで対応できていないのではないかと考えられます。反社リスク対策に当てはめれば、例えば、上場企業を一律に低リスクと評価して、十分なモニタリングを行わない状況が近いと考えられます。「上場企業だから反社リスクは低い」と一般的には言えても、個別銘柄については、ネット上の風評や株価の推移など、端緒情報を得るための取り組みは行うべきだといえます。

「国内のグループ会社間の顧客情報・取引情報の情報共有態勢の整備に当たり、個人情報保護法や金融商品取引法等我が国の法制上、どこまでの情報の共有が可能か」については、「(個人情報保護法との関係)個人情報保護法第23条第1項では、個人データの第三者提供には、原則として本人の同意が必要と規定されています。ただし、例外として「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当する場合には、あらかじめ本人の同意を得ることなく個人データを第三者に提供することができるとされています。上記例外的な場合に該当するか否かは、個別具体的な事例に即して総合的な利益衡量により判断されるところ、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-1-5(2)では、これに該当し得る例示として、「暴力団等の反社会的勢力情報、振り込め詐欺に利用された口座に関する情報、意図的に業務妨害を行う者の情報」が挙げられています。犯収法に基づく疑わしい取引の届出に係る顧客情報・取引情報がこれらの情報に該当する場合には、当該顧客情報・取引情報も上記例外的な場合に該当し得るものと考えますが、例外の要件に該当するか否かは個別具体的な事情に照らして判断していただく必要があります。なお、上記例外的な場合に該当しない個人データについては、本人の同意に基づく提供又は共同利用(同法第23条第5項第3号)によることが考えられます」、「(金融商品取引法との関係)金融商品取引法上、金融商品取引業者等がグループ内において顧客等に関する非公開情報を授受することは原則として制限されていますが、本ガイドラインの【対応が求められる事項】である「マネロン・テロ資金供与対策の実効性確保等のために必要なグループ内での情報共有態勢を整備すること」は、法令遵守のために必要なものであり、こうした制限の適用除外規定(金融商品取引業等に関する内閣府令第153条第3項第1号等)に該当するものと考えられます」と整理されています。

また、「研修等の効果について、研修等内容の遵守状況の検証や職員等に対するフォローアップ等の方法により確認し」とあるが、具体的にどのような対応が求められているのかについては、「研修等の目的は、実効的なマネロン・テロ資金供与対策を実施することであると考えられますので、研修内容は、金融機関が直面するリスクを低減させるような実践的なものとなっている必要があると考えます。この場合、研修等を受講した職員等において、獲得した知識を活用し、業務上求められる役割を適切に果たす必要があることから、フォローアップ等を実施して、知識の定着を図り、想定されている業務上の効果があるかについて、職員の働きぶり等も踏まえて確認し、改善の余地がないか検討することが求められます」と示しています。コンプライアンス研修などすべてに言えることですが、研修は1回実施すれば終了ではなく、継続的に実施されること、実務に即した「きちんと腹落する」内容であること、受講後だけでなく定期・不定期に効果測定が行われること、など工夫を重ねていく必要があります。特に第1線や第2線の従業員が日常業務に追われて、AML/CFTの重要性の認識が薄れてしまっていては、僅かな兆候を見逃してしまうことにつながりかねません。感覚や認識を常にリフレッシュして、鋭敏に研ぎ澄まし続けるためにも、研修を効果的に実施していきたいものです。

2.最近のトピックス

(1)最近の暴力団を取り巻く情勢

特殊詐欺被害や拳銃誤射事件に関する損害賠償を巡って、暴力団対策法に基づく使用者責任が問われた裁判の判決が相次ぎました。組織トップの使用者責任がすべて認められ、大きな流れ、うねりを感じさせる状況が生まれています。

以前の本コラム(暴排トピックス2021年2月号)では、住吉会の関与した特殊詐欺事件について、トップの使用者責任を認める東京高裁の判決を取り上げ、前回の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)でも、住吉会の関与した別の特殊詐欺事件について、同じく使用者責任を認める東京地裁の判決を取り上げました。そして、直近では、住吉会系の組員らによる特殊詐欺事件をめぐり、被害女性が暴力団トップに暴力団対策法上の使用者責任があるとして損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第1小法廷は、住吉会の関功会長と福田晴瞭前会長の上告を退ける決定をしました。暴力団対策法上の使用者責任を認め605万円の支払いを命じた1、2審判決が確定しました。特殊詐欺事件で使用者責任が最高裁で確定するのは初めてとなります。本コラムで取り上げてきたとおり、同種訴訟の控訴審判決は今回のほかに複数あり、詐欺グループの組員が「暴力団の威力」を利用して資金を獲得したと判断、暴力団トップの使用者責任を認めていたところ、今回の判決確定に伴い、暴力団トップの民事上の責任を追及する道筋ができたことで、特殊詐欺事件の被害者救済に一定の影響があると考えられます。今回の訴訟は、特殊詐欺事件が暴力団対策法で使用者責任の対象となる「暴力団の威力を利用した資金獲得行為」に当たるかどうかが争点となりました。2019年5月の1審水戸地裁判決は、組員が住吉会の威力を利用して「受け子」を集め、詐欺グループを構成したと認定、関会長らの使用者責任を認めました。さらに2019年12月の2審東京高裁判決では「組員が直接暴力団の威力を使う場合だけでなく、共犯者集めなど犯罪の実行過程で威力を利用した場合は暴対法の資金獲得行為に含まれる」との解釈を示し、1審判決を支持しました。その流れを受けた今回の最高裁の判断となります。文字とおり画期的な判例であり、特殊詐欺は暴力団の組織的関与が明確にならないケースも多く泣き寝入りしてきたところ、被害者救済の側面はもちろんのこと、特殊詐欺そのものの抑止につながる可能性や、暴力団に直接的な経済的ダメージを与えることができるという点でも意義は大きいといえます。

また、最高裁第3法廷は、稲川会系の組員らによる特殊詐欺事件の被害者4人が、暴力団対策法の使用者責任規定に基づき、辛炳圭(通称・清田次郎)前会長に損害賠償を求めた訴訟で、前会長の上告を退ける決定をしています。使用者責任を認めて約1,600万円の賠償を命じた2審東京高裁判決が確定しました。特殊詐欺事件で暴力団トップの使用者責任が最高裁で確定するのは、上記の住吉会に続いて2件目となります。本事件の概要としては、原告4人は2014年、息子を装う稲川会系組員らの詐欺グループからの電話で「知り合いの女性を妊娠させた。示談金が必要」などと言われ、それぞれ250万~400万円をだまし取られたというものでした。本事件においても、暴力団の「威力」を利用して資金を獲得したかどうかが争点となっており、1審東京地裁判決は、事件が「組員が実行した以上、詐欺は稲川会構成員による威力を利用した資金獲得行為と関連する」、「暴力団の威力を背景に実行された」として使用者責任を認め、前会長に約1,500万円の賠償を命令しています。また、2審判決は、人員確保など資金獲得に威力を利用すれば暴力団対策法が適用されると指摘したうえで、組員側が暴力団の威力を利用して知人に出し子をさせたとして、1審に続いて使用者責任を認め、賠償額を増額していました。

さらに、直近では東京高裁の判断もありました。特殊詐欺事件の被害者が、稲川会の辛炳圭元会長に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は、組トップの使用者責任を認め、計1,320万円の支払いを命じています。上記最高裁の判例同様、暴力団対策法で使用者責任の対象となる「暴力団の威力を利用した資金獲得行為」と言えるかが争点となっていました。2019年11月の1審東京地裁判決では、使用者責任を否定し原告側が控訴していたものです(東京地裁は、「詐欺は稲川会の威力を利用した資金獲得行為とは認められない」などとして、暴力団対策法と民法の両面で使用者責任を認めず、請求を棄却したものです。なお、暴排トピックス2020年12月号によれば、組員が詐欺に使う携帯電話などをどう準備したかは明らかでなく、稲川会が協力したと認められる証拠もないと指摘、共犯者に暴力団組員であることを示した証拠もないとして、稲川会の威力を利用したとはいえないと判断しています。さらには、詐取金が稲川会の収益になった証拠もないとして、民法上の使用者責任も否定しています)。これに対し今回の東京高裁判決では、組員が共犯者らに逮捕された場合の口止めを指示し、実際に共犯者が報復を恐れて逮捕後に供述を拒んでいるとして、「詐欺グループ内の規律を高めるため、暴力団の威力が利用された」と指摘したということです。

使用者責任が認められたのは特殊詐欺だけではありません。4年前、松戸市で稲川会系傘下組織の暴力団組員が、一般市民が住むアパートに誤って拳銃を発砲し、住民が損害賠償を求めた訴訟で、双方の間で和解が成立しています(なお、事件に関与した3人の組員には、昨年12月までにそれぞれ、懲役17年と罰金500万円、懲役12年、懲役7年の刑が確定しています)。住民の女性は、精神的苦痛があったとして、稲川会の元会長ら2人を相手取り、1,300万円の損害賠償請求を千葉地裁に提訴していました。今般、稲川会から女性に500万円を支払うことで和解が成立したものです。原告側の弁護団によると、市民が抗争に巻き込まれた事件で、死傷がなくても高額の損害賠償金の支払いが認められた事例は珍しく、類似事件への抑止効果が期待できるといいます。また、暴力団対策法に基づき、暴力団の代表者に対して訴訟を起こしたこと自体が珍しいとも指摘しています。報道によれば、原告側弁護団の団長の弁護士は、「怖い思いをした慰謝料として500万円は破格の金額だ。裁判所も暴力団の抗争被害に高額な賠償額を認めるという強い意志の表れだと思う。これが定着すれば、被害が少なくなると思う」と語っています。

さて、兵庫県尼崎市は、昨年11月に銃弾が撃ち込まれた暴力団幹部宅を1,900万円で買い取ると発表しています。本コラムでも詳しく取り上げた、北九州市における工藤会本部事務所売却の事案は、市の仲介で民間事業者が購入したものですが、事務所以外の暴力団関連施設を自治体が直接買い取るのは全国で初めてだといいます。なお、住宅を所有する六代目山口組系幹部も売却の意向を示しているということです。特定抗争指定暴力団の六代目山口組と神戸山口組の対立を背景に、同市内では発砲・銃撃事件が相次いでおり、反社会勢力に公金をわたすことになりますが、市は市民の安全が優先されると判断したもので、購入後に転売先を探すということです。なお、市によると、不動産業者が暴力団排除に取り組んだ結果、暴力団関係者同士が業者を通さずに取引するケースが報告されているといい、稲村市長は、「住宅が暴力団関係者に売却されれば、再び発砲事件などのリスクが生じる。市民の平穏を守るため、市が特例として一時的に介入する必要があると判断した」と説明しています。組幹部宅があるのは、尼崎市内の住宅街で、近くには中学校や保育園もあり、六代目山口組系の組幹部が暮らし、かつては組事務所として使われていたということです。一方、「暴力団関係者の間だけで不動産取引が行われ、関係施設として存在し続ける「負の連鎖」に自治体が割って入ることで、健全な不動産市場に流通させる狙いだ。もっとも、組員側に資金が流れるのも事実で、暴力団排除の有効な武器となるかは未知数だ」(2021年3月30日付産経新聞)との指摘のとおり、反社会的勢力に対する利益供与になりうる側面は否定できない事実であり(市長は前述の説明により、利益供与にあたらないとしています)、あくまで個別事情に基づく例外であって、この場合、公益目的が利益供与の害悪を上回るのか、その判断には賛否両論があり、評価も定まっていないため、今後の議論の行方を見守りたいと思います。

次に、暴力団の動向に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 兵庫県公安委員会は特定抗争指定暴力団の六代目山口組と神戸山口組について、依然として対立抗争が続いているとして指定を更新し、さらに3か月間、延長しています。更新は5回目で、兵庫県内での指定は開始から1年半となりました。また、2つの山口組の対立抗争が続くなか、兵庫県で暴力団排除条例が施行されて今月1日で10年になりました。この10年で県内の暴力団の構成員は平成22年末の1,220人から令和元年末には470人とおよそ3分の1に減り、警察は「社会全体で暴力団排除を進めるきっかけとなった」としています(2021年4月7日付NHK)。
  • 市民襲撃4事件を指揮命令したとして、殺人や組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)の罪に問われた工藤会トップで総裁の野村悟被告と、ナンバー2で会長の田上不美夫被告の公判が、福岡地裁であり、3月11日に結審したものの、検察側の弁論再開の申し立てを受け、地裁は、所得税法違反罪での野村被告の実刑判決の確定記録を証拠採用し、改めて結審しています。判決は8月24日となります。なお、前回の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)で取り上げたとおり、野村被告が工藤会の上納金を巡って約3億2,000万円を脱税したとする所得税法違反罪では、最高裁が被告の上告、異議をいずれも棄却し、懲役3年、罰金8,000万円とした1、2審判決が3月14日に確定しています。また、市民襲撃事件では検察側が野村被告に死刑、田上被告に無期懲役と罰金2,000万円を求刑し、弁護側はともに無罪を主張しています。なお、弁護側は検察側の手法を「間接事実を強引に結びつけ、独善的な『推認』に終始している」と批判、4事件のうち、元漁協組合長射殺(1998年)や歯科医師刺傷(2014年)両事件で検察側は背景に漁協利権があると主張していますが、弁護側は合理的根拠を示していないなどと指摘し、「利権に興味を抱いたことはない」と反論しています。また、弁護側は、総裁は名誉職で野村被告に権限はないと強調、元福岡県警警部銃撃事件(2012年)は両被告に動機につながるような「恨み」はなく、看護師刺傷事件(2013年)では、野村被告が抱いた不満は一時的なもので、野村被告が事件後に「あの人は刺されても仕方ない」と語った同僚の証言には矛盾点があり、信用できないと訴えています。

暴力団排除条例が全国47都道府県すべてで制定されて今年の10月で丸10年を迎えることとなります。この10年で、反社会的勢力との密接交際がNGであることが「常識」として定着した感がありますが、残念ながらいまだに密接交際を続ける者が存在し、反社会的勢力の活動を助長しているのは極めて残念です。最近の報道から、そのような関係性が表面化した事例をいくつか紹介します。

  • 暴走族だった過去から「元ヤンキー町議」として知られていた男が逮捕されています。知人の飲食店経営者を脅し無理やり金を貸し付けたとして警察は福岡県みやこ町の元町議会議員(2期目の2018年に町長選に立候補して落選。2018年6月には風営法違反(年少者雇用)容疑で逮捕されています。現中古車販売業)と太州会のナンバー2(若頭)を強要の容疑で逮捕しています。容疑者は、2011年にみやこ町の議会選挙に初当選し、「元ヤンキー町議」として知られていたところ、2人は昨年9月、組事務所に24歳の飲食店経営者の男性を呼び出し、利子を得る目的で、無理やり、多額の金を貸し付けた借用書1枚を書かせた疑いがもたれています。報道によれば、この男性に対し「原田の兄ちゃんに恥をかかせるんか。殺されてもしかたないんぞ」などと言って脅したということです。警察は、2人が高額の利子を受け取っていなかったか、貸金業法違反も視野に調べを進めているということです。このような人物が元町議だったことは、有権者は厳粛に受け止めるべきだと思います。
  • 北九州市の祭り、「戸畑祇園大山笠」の祭礼幕の新調にかかる補助金を水増しし、不正に受け取った疑いで、振興会の元委員の男など2人が逮捕されています。報道によれば、容疑者らは2015年、祭りに使う祭礼幕を新調する際、虚偽の見積書を作って国に提出し、約2,100万円の補助金を不正に受け取った疑いがもたれています。容疑者は工藤会と親交があったことがわかっており、不正に受け取った補助金の流れなどについても詳しく調べる方針だということです。なお、「戸畑祇園大山笠」を巡っては、振興会幹部や山笠の総代表ら6人が2018年に工藤会系組長の宴席に幹部6名が出席していたことが判明しています。(詳しくは、暴排トピックス2018年11月号を参照ください)。
  • 六代目山口組系の暴力団組員らが密漁したおよそ390キロのナマコを、密漁されたものと知りながら買い取り、流通させたとして逮捕された函館市の水産会社の社長について、数年前から暴力団とつながりがあったことがわかりました。これまでの捜査で、数年前から容疑者は暴力団とつながりがあり、組員らから密漁したナマコを買い取り、加工して販売していたとみられています。昨年12月に改正された漁業法では、密漁ナマコなどを流通させる行為に懲役や罰金の罰則が盛り込まれました。この改正漁業法で流通行為に罰則が設けられて以降、購入、流通での逮捕は容疑者が全国で初めてでした。警察は、少なくとも1トン以上のナマコが密漁され、それが暴力団の資金源になっていたとみて、引き続き容疑者らを追及する方針だということです。この事例は、正に一蓮托生というほどの共犯関係にあるといえ、厳格な処分と実態解明を行っていただきたいと思います。
  • 一方、新型コロナウイルス感染拡大の影響による売り上げ減少を理由に、暴力団が要求するみかじめ料の支払いをやめた飲食店などが、東京都内で少なくとも20店超確認されたことが分かったと報じられています(2021年4月8日付産経新聞)。感染拡大が思わぬ形で暴力団の資金源に打撃を与えている現状が浮き彫りになったといえ、大変喜ばしい限りです。警視庁組織犯罪対策3課によると、都内の一部地域を対象とした捜査員による店舗訪問などで昨年末までに判明、コロナ禍で飲食業界などが苦境にあえぐ中、物品購入名目などで暴力団が金銭の支払いを迫っている店が他にもあるとみているといいます。

最後に、半グレ(準暴力団)に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 犯罪行為を繰り返す不良集団「半グレ」について、大阪府警が令和2年に摘発した人数が過去最多の約350人にのぼることが、府警のまとめでわかったと報じられています(2021年3月30日付産経新聞)。大阪は有力な半グレが複数暗躍し、暴力団との関係が指摘されてきたところ、大阪府警は昨年度から半グレの専従捜査班を設置するなどの取り組みを行っており、成果が現れた形となりました。昨年摘発されたのは、前年より約40人多い約350人で、罪種別にみると客引きや窃盗、売春関連、恐喝が多く、それぞれ約40人だったということです。このうち売春関係は前年の摘発はほとんどなく、客引きや恐喝も前年より倍増する結果となりました。半グレは有力グループを摘発しても離合集散を繰り返し、残党が新たなグループを作って活動するアメーバのような形態であり、継続的活粘り強く実態把握と摘発を進めていくことが求められているといえます。
  • 2021年3月30日付産経新聞は、「一般的に半グレは、暴力団の支援を受けながら違法なシノギ(資金獲得行為)を行い、暴力団に資金を上納するとされる。府警幹部は「半グレと暴力団の両者が共存共栄している状況があり、活動をますます活発化させている」と話す。ただ、暴力団とは異なり、組事務所などの拠点を持たず、暴力団を取り締まる暴力団対策法による規制も適用されない。さらに逮捕されても自ら名乗らないケースが多く、実態把握が難しいのが実情だ。警察庁は、全国の半グレの人数や検挙数について公表していない。一方で犯罪行為の悪質さは変わらない。大阪・キタ界隈で活動していた「ヤオウ」は、経営した複数のガールズバーなどで、飲食中にゲームと称して客に大量の酒を飲ませて酔わせ、キャッシュカードを盗むなどしていた。」とその実態について報じています。本報道において、本コラムでもたびたび紹介している廣末氏は、「新型コロナウイルスの影響で先が読めず、生活に困って犯罪行為に手を染め、半グレに取り込まれる人が増えるのではないか」と指摘。その上で「一度反社の烙印を押されると、表社会で生きにくくなる。烙印を押されることの大変さを周知すべきだ」と話している点が注目されます。
  • 同じく廣末氏の論考(2021年3月27日付PRESIDENT online)では、「暴力団の勢力が衰退するとともに、半グレによるとされる事件が目に見えて増えてきました。暴力団というオオカミが暴排条例で身動きが取れなくなり、半グレという野良犬の活動領域が拡がった観があります。筆者は、半グレ当事者たちへの取材を通して、2013年頃に「半グレ」と呼ばれた集団と、今日の半グレとでは、その性質や活動において異なってきていると考えるに至りました。半グレとは(世間で半グレと呼ばれている対象は)少なくとも以下の4パターン存在するのではないかと考えました。(1)関東連合やドラゴンに代表される草創期の半グレの流れ、(2)オレオレ詐欺の実行犯(これは、昨今ではそのまま暴力団の手先となっているケースが多いと聞き及びます)、(3)ウラのシノギをしつつ正業を持つグループ、(4)元暴アウトロー(暴力団を離脱したものの正業に就けず、違法なシノギで食いつなぐ者などです)と大変興味深い指摘をしています。なお、半グレについては、筆者としても時期を改めて論じてみたいと思います。
  • さらに、廣末氏の新刊書籍(『だからヤクザを辞められない――裏社会メルトダウン』)を評した印南氏の書評(2021年3月30日付Newsweek)もなかなか面白いと思いましたので、抜粋して引用します。
著者は暴力団を肯定したいわけではないと言うが、それは一般的な感覚でもあるだろう。とはいえ、「かつて暴力団に属していたから」というだけで生きる権利を剥奪されるとしたら行き過ぎに思える。生きる権利は誰にでもある。もしも「もう手段がなく、野垂れ死ぬしかない」という状況に追い詰められたら、生きていくために再び犯罪に手を染める人間が出てきてもおかしくはない。「暴力団を辞めたのに仕事に就けなかったとしても、それは自業自得。自己責任だ」という考え方も当然あるだろう。ただし、そう主張する人は、自身が「半グレ」や「元暴アウトロー」による犯罪の被害に遭ったときに文句を言えないのではないか。人間には、生まれてくる家や環境を選ぶことはできない。つまり、家庭環境や貧困などに起因するハンディキャップは、それらが原因で暴力団員になった人たちにとっては「どうしようもなかったこと」である可能性がある。本人にその自覚があるかどうかは別としても、もしそうなのだとしたら、そこには同情や共感の余地もあるはずだ。自分の目に見えているものが社会の全てではないことを、私たちは理解すべきではないか。

最後に、福岡県警の「暴排教室」の取組みについて、あらためて紹介しておきたいと思います。2021年4月6日付朝日新聞で、中高生に暴力団の恐ろしさを伝える福岡県警の「暴力団排除教室」が始まってから今月で10年を迎えたことが取り上げられています。最近では、教室の対象を少年院にも広げることで若者の加入を防ぎ、暴力団の組織壊滅をめざしているといいます。報道によれば、これまで受講者からは、「何か困ったときに守ってくれる印象があったが、ただの犯罪集団でしかないことがわかった」、「ヤクザは格好いいと思っていたが、そうじゃないとわかった」などの感想が寄せられたほか、中には暴力団の資金源とされる違法薬物の使用や特殊詐欺などに関わった少年もいるといい、「暴排教室を通して暴力団が危険な存在であることを知ってもらいたい」との福岡少年院の専門官の言葉を引き合いに出すまでもなく、薬物の恐ろしさ同様、暴力団の実態やその害悪などをきちんと伝えていくことが重要であり、その意味では、「暴排教室」の果たす役割が大きいことをあらためて痛感しています。暴排条例10年という節目にあって、これからの10年で、このような取組みが全国に拡がることを期待したいと思います。

(2)特殊詐欺を巡る動向

日本中央競馬会(JRA)の騎手ら約160人が新型コロナウイルス対策の国の持続化給付金を不適切に受給していた問題で、JRAは、日本騎手クラブや日本調教師会が、騎手13人を含む関係者計170人を戒告や出勤停止などの処分にしたことを明らかにしました。さらに、厩舎従業員3人の受給が新たに分かり、うち2人が不適切な申請だったことも判明、総受給者は169人、うちJRAが不適切受給と判断した関係者は計167人にものぼることとなりました。報道によれば、騎手らは担当馬の成績によって得られる賞金が新型コロナの影響を受けて減少したとして受給していましたが、実際には昨年、中央競馬の中止はなく、レースの回数は過去最多で、影響はほぼなかったということです。さらに、日本モーターボート競走会でも同様の問題が発覚しました。競艇選手211人が持続化給付金を不適切に受給していたものです。報道によれば、コロナ禍の影響でレースが中止となったものの、競走会が追加のレースに出場させるなどして収入減を抑える措置をとっていたにもかかわらず選手側が給付金を申請したのは不適切と判断したというもので、日本モーターボート選手会は選手側に自主的に返還するよう指示しているといいます。なお、本件については、日本モーターボート選手会は遅くとも昨年7月には疑惑を把握、詐欺罪に当たる可能性があるとレーサーに警告したものの調査はしていませんでした。しかし今年3月、競馬界で騎手ら約160人の不適切受給が判明したことを受け、競技を所管する国土交通省から対応を求められ、ようやく調査を始めたという経緯があります。大規模な不正受給が蔓延していた個人の意識の低さの問題もさることながら、組織の体質として「自浄作用」を働かせることができない脆さが露呈したこととなり、全柔連(全日本柔道連盟)とも共通する、スポーツ関連組織のあり方における構造的な問題が内在しているといえます。

持続化給付金の不正受給を巡っては、数百人が検挙され、自主返納は1万件以上、累計100憶円超にのぼりましたが、3月30日に経済産業省が不正受給認定者を公表しています。公表されたのは12者・不正受給総額1,200万円で、「不正受給認定者名(法人の場合、代表者氏名を含む)及び所在地については、中小企業庁から督促を受けるまでの間に、不正受給金額に加え、20%の加算金及び年率3%の延滞金の返納を行わなかった不正受給認定者についてのみ、公表としております」としていますが、今後、ますます増えることが予想されます。

▼経済産業省 持続化給付金の不正受給認定者について

不正受給事例としては、直近でも、キャバクラ店の売り上げが新型コロナウイルスの影響で減ったと偽り国の持続化給付金をだまし取ったとして、愛知県警捜査4課は、会社役員ら3人を詐欺容疑で逮捕した事例がありました。報道によれば、容疑者らが経営する風俗グループのうち6店舗の関係者が、県と市の休業協力金を巡る詐欺事件で既に摘発されています。実際には、時間外営業を繰り返したとして2020年3月27日以降、営業停止処分中だったものです。グループは県内最大規模で、約20店舗に従業員約1,000人がいたといいます。なお、詐欺事件の舞台となった6店舗はいずれも閉店しました。また、新型コロナウイルス対策の持続化給付金をだまし取ったとして、愛知県警捜査2課などは、詐欺容疑で総務副大臣の熊田裕通衆院議員(愛知1区)の事務所元スタッフで会社役員ら4人を逮捕しています。容疑者は自民党関係者を名乗って不正受給を持ち掛けていたとみられ、他にも、行政書士、会社役員、アルバイトらも逮捕されています。同議員の事務所によると、同容疑者は2019年10月からボランティアスタッフとして街頭演説や党員集めなどを手伝っていたといい、その後、無断で自民党関係者の肩書を使ってセミナーで講師をしていたことが分かり、事務所への出入りを禁止したということです。大学生らを対象に開いたセミナーで「抜け道を知っている」などと不正受給を呼び掛けていた疑いがあり、別の詐欺罪などに問われている元愛知大生の男性被告が自身の公判で「セミナーに参加した。菅義偉首相(当時官房長官)と2人で写っている写真を見て(話が)本当だと信じた」と供述しています。なお、前回の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)でも、不正受給に実態については、下記の通り取り上げています。

2021年2月15日付毎日新聞によれば、知人の飲食店で働いていたように装って約200万円をだまし取った男が証言し、「国はチェックが甘いので、絶対にばれない」、「簡単に金もうけできた」、「労働局から雇用や休業の確認はなく、男性は「役所は性善説に立つから、チェックなんて全然していない。犯罪だとは分かっているが、罪悪感はない」、「審査が甘く、ばれるはずがない。今後も続けるし、他の友人もやっている」などと述べており、愕然とさせられました。迅速な給付でどれだけの事業者や人が救済することができたのかを考えればある程度の不正受給事例が発生してしまうのはやむを得ないと考えるべきなのか、とはいえ、これだけ不正受給が蔓延している実態が明らかになるにつれ、どれだけの税金が無駄になり、それがどれだけ犯罪組織の資金源となってしまったのかを考えるとき、暗澹たる気持ちで心が押しつぶされそうになります。一方、新型コロナウイルス対策として行う飲食店取引先などへの最大60万円の一時金申請の受け付け開始を控え、経済産業省は不正受給防止に全力を挙げているとの報道がありました。今回の一時金では、緊急事態宣言の影響で売り上げが減ったことを証明する必要があるほか、飲食店との取引実績などを示す書類の保管が求められるといいます。同省は不正を防ぐため、書類を提出する前に「事業確認」のプロセスを設け、地元の事業者の動向を熟知する商工会議所や金融機関などを確認機関に登録し、申請者が実際に事業を行っているかなどを確認する仕組みや、「持続化」で提出された偽の確定申告書などを分析すると、記載された数字が似た書類が幾つも出てくるなど偽造の手口にもパターンがあったことなどをふまえ、蓄積されたノウハウを活用して不正の発見に役立てるといいます。また、SNSで不正を呼び掛ける投稿を監視し警告するなど、入り口での抑止も行うとしています。民間の情報や知恵、ノウハウ、最新の不正検知の知見や持続化給付金の失敗を活かすこのような取組みであれば、スピードとの両立の問題はあるにせよ、国民も納得できるのではないかと大いに期待したいと思います。

また、不正受給されたのは持続化給付金に限らず、さらに拡がりを見せています。田村厚生労働相は、会社が従業員に支払った休業手当の一部を国が補助する雇用調整助成金(雇調金)について、全国で44件、計2億7,000万円の不正受給があったと明らかにしています。報道によれば、4月5日時点で約312万件の申請に対して、約299万件の支給を決定、3月末までに約3兆1,578億円が支給されたということであり、不正受給の割合としては、件数ベースで0.14%、受給金額ベースで0.86%を占めることになります。実際には働いた従業員を休んだと偽って申請したケースなどがあったといい、最も高額な受給額は約5,400万円にのぼるといいます。さらに、審査の段階で不正が疑われ、不支給となった事案も全国で37件、計4億3,000万円あったともいわれています。同省は悪質なケースについては会社名の公表や刑事告発を行う方針だといいます。また、旅行需要喚起策「GoToトラベル」事業の給付金をだまし取ったとして、広島県警は、元民宿経営の無職の容疑者を詐欺容疑で逮捕しています。報道によれば、同事業を巡る宿泊事業者の不正受給の摘発は全国初だということです。容疑者が経営していた広島市の民宿に、実在する人物が宿泊したと偽って給付金を申請、2020年11月6日、27万3,000円を振り込ませて詐取したというもので、容疑者は「不正とは思わなかった」と否認しているようです。

次に、例月通り、特殊詐欺の認知・検挙状況等について、警察庁の公表資料から確認していきます。

▼警察庁 令和3年2月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和3年1~2月における特殊詐欺全体の認知件数は1,837件(前年同期2,100件、前年同期比▲12.5%)、被害総額は36.7億円(40.8憶円、▲10.0%)、検挙件数は939件(693件、+35.5%)、検挙人員は292人(258人、+13.2%)となりました。特に、検挙件数・検挙人員が前年と比較して大きく増加している点が注目されます。うちオレオレ詐欺の認知件数は368件(308件、+19.5%)、被害総額は10.3億円(7.3憶円、+40.2%)、検挙件数は170件(250件、▲32.0%)、検挙人員は75人(73人、+2.7%)と、認知件数・被害総額ともに大きく増えている点が懸念されるところです。一方、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は312件(616件、▲49.4%)、被害総額は4.8憶円(9.5憶円、▲49.5%)、検挙件数は269件(255件、+5.5%)、検挙人員は64人(78人、▲17.9%)と、こちらは認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます。また、預貯金詐欺の認知件数は453件(634件、▲28.5%)、被害総額は6.5億円(7.1億円、▲8.8%)、検挙件数は385件(53件、+626.4%)、検挙人員は109人(69人、+58.0%)となり、認知件数・被害総額ともに減少している点が注目されます。架空料金請求詐欺の認知件数は234件(265件、▲11.7%)、被害総額は9.3憶円(13.5億円、▲31.1%)、検挙件数は44件(52件、▲15.4%)、検挙人員は21人(17人、+23.5%)、還付金詐欺の認知件数は414件(161件、+157.1%)、被害総額は4.6憶円(1.9憶円、+139.5%)、検挙件数は64件(60件、+6.7%)、検挙人員は20人(6人、+233.3%)、融資保証金詐欺の認知件数は33件(86件、▲61.7%)、被害総額は0.6憶円(1.0憶円、▲42.3%)、検挙件数は1件(12件、▲91.7%)、検挙人員は0人(4人)などとなっており、特に還付金詐欺の認知件数・被害総額ともに大きく増加している点が懸念されます。

犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は90件(124件、▲27.4%)、検挙人員は47人(64人、▲26.6%)、盗品譲受け等の検挙件数は1件(0件)、検挙人員は0人(0人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は311件(377件、▲17.5%)、検挙人員は246人(317人、▲22.4%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は30件(23件、+30.4%)、検挙人員は31人(21人、+47.6%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は3件(0件)、検挙人員は2人(0人)、組織的犯罪処罰法違反の検挙件数は20件(7件、+185.7%)、検挙人員は0人(2人)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、60歳以上92.3%・70歳以上76.6%、男性24.5%・女性75.5%、オレオレ詐欺では、60歳以上97.3%・70歳以上95.7%、男性15.5%・女性84.5%、融資保証金詐欺では、60歳以上32.1%・70歳以上14.3%、男性64.3%・女性35.7%などとなっており、類型によってかなり異なる傾向にあることが分かりますが、概ね高齢者被害の割合が高い類型では女性被害の割合も高い傾向にあることも指摘できると思います。このあたりについては、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。なお、参考までに特殊詐欺被害者全体に占める高齢(65歳以上)被害者の割合について、特殊詐欺全体88.4%(男性21.4%、女性78.6%)、オレオレ詐欺97.0%(15.7%、84.3%)、預貯金詐欺98.9%(14.7%、85.3%)、架空料金請求詐欺47.0%(54.5%、45.5%)、還付金詐欺92.8%(27.1%、72.9%)、融資保証金詐欺21.4%(83.3%、16.7%)、金融商品詐欺57.1%(0.0%、100.0%)、ギャンブル詐欺41.7%(60.0%、40.0%)、交際あっせん詐欺0.0%、その他の特殊詐欺0.0%、キャッシュカード詐欺盗98.1%(17.0%、83.0%)などとなっています。

次に、特殊詐欺を巡る最近の報道から、少し変わった手口や話法、注目された事件などを中心にいくつか紹介します。特殊詐欺の被害防止策のひとつが、「手口をよく知る」ということです。類型的には同じでも、話法などがたますます多様化している実態もあり、参考にしていただければ幸いです。

  • 愛知県警は、投資の助言料名目で現金をだまし取った詐欺と特定商取引法違反(不実告知など)の疑いでアイドルグループ「SKE48」の元メンバーで、コンサルティング会社「THE」元社員、山田容疑者(22)ら4人を再逮捕しています。会社員男性に、為替相場の上下を予想して投資させる「バイナリーオプション」取引で、「稼げる知識がある」などとうそを言って信用させ、投資の助言料の名目で現金100万円をだまし取るなどした疑いがもたれており、これまでに100人以上から計5,800万円を集めたとみられ、県警が余罪を調べているということです。また、芸能界関係者という点では、詐欺事件の被害金を引き出したとして、警視庁田園調布署が、7人組バンド「ALI」メンバーを電子計算機使用詐欺と窃盗の疑いで逮捕したという事例もありました。医療費などの還付を受けられると言って送金させる「還付金詐欺」で東京都内の男性がだまし取られた現金数十万円を金融機関のATMから引き出したというものです。
  • ワクチン接種をネタとした特殊詐欺が増加しているところですが、広島県警は、呉市職員を名乗る男女2人が「新型コロナウイルスのワクチンを安く接種できる」と、市内の70歳代女性宅を訪れたことを発表しています。県警はワクチン接種に便乗した詐欺の可能性があるとみて、注意を呼び掛けています。報道によれば、ワクチン接種を巡る不審な勧誘が確認されたのは広島県内では初めてだということです。2人は女性宅を訪れ、「ワクチンを格安で受けられる」と勧誘、体調不良を理由に断られると、立ち去ったといい、その後、帰宅した女性の家族が警察署に通報したということです。
  • 新潟県警長岡署は、長岡市の60歳代女性が、コンビニ店のマルチメディア端末を使った「代行決済」を悪用した手口などで現金580万円をだまし取られたと発表しています。市内の複数のコンビニ店で3回にわたりマルチメディア端末を操作し、印刷された支払用紙をレジに提示して計80万円を支払ったといい、さらに「ウイルス拡大で損害が出ている」と言われ、指定された口座や住所に計500万円を振り込んだり、送付したりしたということです。全国のコンビニで特殊詐欺を未然に防止する成果が出ているだけに、「レジで80万円を支払う前」に防げなかったものか、残念な事例だといえます
  • オレオレ詐欺の「受け子」として現金をだまし取ろうとしたとして、神奈川県警大和署は、詐欺未遂の疑いで70代の自称パートの女性を逮捕しています。報道によれば、「荷物を受け取るように指示されただけで、現金だとは全く知らなかった」などと、容疑を否認しているということです。逮捕容疑としては、氏名不詳者らと共謀のうえ、神奈川県綾瀬市の70代無職女性宅に長男や弁護士を装い、「女性トラブルに巻き込まれ、お金を払うことになった」、「息子さんから相談を受けています。200万円が必要です」などと電話があり、弁護士事務所職員を装った容疑者本人が被害者宅を訪れ、現金をだまし取ろうとしたというものです。オレオレ詐欺であることを見抜いた被害者が、同署に通報して発覚、通報を受けて待機していた捜査員が、被害者宅を訪れた容疑者本人を逮捕したといいます。特殊詐欺で騙されることが多いのが高齢女性ですが、受け子として騙す側もまた高齢女性という点で、特殊詐欺の問題の根深さ、高齢化社会の暗部を感じさせる事件だといえます。また、同じく80代女性からキャッシュカードを詐取したとして、警視庁は、職業不詳の70代の女性を詐欺容疑で逮捕しています。報道によれば、容疑者は容疑を認めており、「詐欺商法でだまされてお金がなくなった。担当者から『稼げる仕事がある』と言われ、指示役を紹介された」などと供述しているということです。逮捕容疑は、容疑者は銀行協会の職員役として女性宅を訪ねてカードを受け取り、市内の複数のコンビニで計約140万円を引き出していたというものです。この事件も加害者も高齢女性というものですが、さらに、被害者が(被害を挽回できると唆され)加害者になってしまったという構図でもあり、このような事件が増えてきていることを実感しますが、やはり、高齢化社会の暗部が感じさせ、暗澹たる気持ちになります。
  • 埼玉県警武南署は、80代の無職の女性からキャッシュカードをだまし取ろうとしたとして、詐欺未遂の疑いで、18歳の男子高校生を逮捕しています。報道によれば、特殊詐欺グループで現金やカードを受け取る役目の「受け子」とみられており、逮捕容疑は、何者かと共謀して、女性方を訪ねカードをだまし取ろうとしたというもので、容疑を認めているということです。付近で警戒していた捜査員が職務質問して発覚したといい、80代の高齢女性が被害者で。10代の少年が末端の受け子にさせられ「トカゲの尻尾切り」の形となってしまった特殊詐欺の典型的な事件といえます。また、少年が特殊詐欺に加担した事件としては、仲間割れにより発覚するという珍しい事件もありました。逮捕された高校生は、90代の女性に息子を装って電話をかけ、現金200万円をだまし取った疑いがもたれているところ、実際は、容疑者らが受け子として現金を受け取ったあと現金を持ち逃げし、容疑者の借金の返済に充てていたというものです。事件の直後に「受け子として200万円受け取ってしまいました」と通報があり、容疑者らの関与が浮上したということで、警視庁は通報したのは金を持ち逃げされた事に気付いた特殊詐欺グループとみて捜査しているということです。本コラムでも紹介しているとおり、特殊詐欺グループは受け子のリクルートの際に、事前に本人確認資料を提出させるなどしています。グループから脱退しようとすると、「個人情報を晒す」とか「警察に通報する」などと脅す道具となっています。この事件のように、グループに対する背信行為があれば、警察に通報する、ネット上に犯罪者として個人情報を晒すといった手ひどい報復が行われることが想像に難くなく、つくづく特殊詐欺グループの狡猾さ、発覚されにくくするための仕掛けづくりの巧妙さには驚かされます。
  • 警視庁は、特殊詐欺グループが拠点にしていた東京都荒川区のホテル一室を摘発し、男2人を詐欺未遂容疑で逮捕しています。報道によれば、室内から都内の高校7校の卒業生名簿を押収、計約8,000人の氏名や電話番号が記載されており、この名簿を使って高齢者宅に電話をかけていたとみて調べているということです。高校卒業生の名簿の入手経路や、この名簿と高齢者宅へのアプローチの関連性が十分に分かりませんが、特殊詐欺の犯罪インフラの一つが「名簿」であることは論を俟たず、サイバー攻撃が激しい昨今の情勢にあっては、「名簿」を入手すること自体はそう難しいことではなく、特殊詐欺グループや犯罪組織の間で流通している実態などもふまえれば、特殊詐欺を敢行することのハードルを下げてしまっているといえます
  • 北海道警千歳署は、千歳市内の30歳代の女性が、現金約350万円をだまし取られる詐欺の被害に遭ったと発表しています。女性のスマホに中国広州市公安局の職員を名乗る男から「あなたの口座に犯罪に関わる金が入っている」、「持っている預金すべてを振り込んで」などと電話があり、女性は、ATMから、指定された口座に2度にわたって計約350万円を振り込んでしまったものです。国内在住の中国人をターゲットに、中国大使館や中国当局を名乗る特殊詐欺が増加していることは本コラムでも取り上げましたが、中国本土からのアプローチであるともいわれています。なお、中国本土からの特殊詐欺のアプローチは、何も中国人相手だけでなく日本人もそのターゲットとなっており、その場合は、中国在住の日本人の架け子がかかわっているともいわれています。また、特殊詐欺でだまし取った金を中国の指示役に送金するいわゆる「地下銀行」を営んだとして中国籍の女を逮捕されています。報道によれば、銀行法違反の疑いで逮捕されたのは、中国籍の容疑者で、12回にわたり、特殊詐欺の出し子から受け取った710万円を中国の元に替えて、中国にいる指示役に送金した疑いが持たれているということです。為替取引など銀行業を営むには国の免許が必要であるところ、容疑者は免許を持たないいわゆる「地下銀行」を経営していたというもので、犯行に使用した口座には1億円以上の金の動きがあり、警察が、実態解明を進めているということです。この「地下銀行」もまた特殊詐欺の犯罪インフラの一つとして、注意が必要です。また、外国人の犯罪という点では、タイ警察が、日本人ら20人から投資の名目でお金をだまし取ったとして、タイ人の女を詐欺の疑いで逮捕した事件もありました。被害総額は約3,000万バーツ(約1億円)に上るということです。報道によれば、女は昨年初め、北部チェンマイで、旅行会社設立のための出資を募るとして、うその投資話を持ちかけ、現地に住む日本人18人とシンガポール人2人からお金をだまし取った疑いがもたれており。昨年11月、被害者が警察に相談していたものです。
  • 前述のとおり、特殊詐欺グループにおいては、犯行のための役割を細分化しているのが大きな特徴となりますが、特殊詐欺の手口で女性からキャッシュカードをだまし取ったとして、大阪府警が、東京都台東区の無職の男と住所不定の無職の男を詐欺容疑で逮捕した事件では、2人が、被害者からカードなどを受け取る「受け子」の面接官役だったとみているというものがありました。報道によれば、2人はSNSで受け子の募集に応じた男を飲食店に呼び出し、面接を実施、個人情報を聞き取ったり顔写真を撮影したりしていたということです。特殊詐欺の受け子を巡っては、着慣れないスーツ姿などで事件が発覚するケースも多く、府警は2人が受け子としての適性を確認し、詐取金の持ち逃げを防ぐために、面接をしていたとみて調べているということです。

相変わらず暴力団の関係する特殊詐欺の摘発も続いています。以下、最近の報道からいくつか紹介します。

  • 埼玉県川口市のアパートの一室をアジトにしていた特殊詐欺グループが摘発され、暴力団組員ら4人が逮捕されています。報道によれば、神戸山口組系組員ら4人は昨年12月、不正に入手した他人名義のキャッシュカードを使い、現金9万円を引き出した疑いがもたれているといい、警視庁の捜査員が特殊詐欺グループのアジトとみられる部屋に突入し、逮捕したものです。部屋からは20台以上の携帯電話や名簿が見つかったほか、覚せい剤も押収されましたということです。4人はヤミ金業者としても活動していたとみられています。
  • 暴力団幹部の妻であることなどを隠してウソの書類を作り、新型コロナウイルス関連の助成金25万円をだまし取ったとして、札幌の42歳の女が逮捕されています。報道によれば、容疑者は昨年6月上旬、暴力団幹部の妻で、生計を共にしていることを隠して新型コロナウイルス関連の助成金を受給しようと考え、暴力団と密接な関係がないと表明するウソの書類を作り、翌7月に25万円を口座に入金させてだまし取った疑いが持たれています。取り調べに対して容疑者は「父と夫は暴力団幹部で間違いなく、一緒に住んでいるが、生計は共にしていない」などと話し、容疑を一部否認しているとういことです。「一緒に住んでいるが、生計は共にしていない配偶者」が暴力団幹部と関係がないといえるのか甚だ疑問ですが、通常、「経済的一体性」の観点(なりすましや借名での取引で隠れ蓑になりやすい)から、排除対象とされるのが一般的です。関連して、福岡地検久留米支部は、新型コロナウイルス対策のため、自主休業した飲食店に佐賀県が支給する支援金をだまし取ったとして、詐欺の疑いで福岡県警に逮捕された道仁会系組長と、元妻で派遣社員の女性お不起訴処分にしています。理由について「起訴するに足りる証拠がなかった」と報じられています。2人は昨年5~6月にかけて、組長が実質的に経営する鳥栖市のたこ焼き店に関し、女性名義で支援金を申請し、15万円をだまし取ったとして逮捕されていたもので、佐賀県は暴力団関係者が関与する店舗を支給対象外としていました。
  • 暴力団員であることを隠し、新型コロナウイルスで所得が減った世帯を対象にした貸付金をだまし取ったとして、極東会系暴力団組員の男が警視庁に逮捕されています。報道によれば、容疑者は昨年5月、暴力団組員であることを隠して、東京都社会福祉協議会に対し、新型コロナで生活が困窮しているとして総合支援資金などの貸付金を申請し、5月から9月にかけてあわせて65万円を不正に受け取った疑いが持たれています。同様に、新型コロナウイルスの影響で減収した世帯などに貸し付ける「緊急小口資金」20万円をだまし取ったとして、35歳の松葉会系組員が詐欺の疑いで警視庁に逮捕されています。緊急小口資金は、保証人がいなくても利子なしで借りられ、困窮した状態が続くなど条件に合えば返済が不要になる場合もあるとされます。取り調べに対し、容疑者は、「自分は暴力団組員ではありません」と容疑を否認しているということです。
  • また、健康保険の還付金があるなどと嘘をつき、男性から現金計約250万円をだまし取ったとして、警視庁捜査2課は、電子計算機使用詐欺などの疑いで、住吉会系組員を逮捕しています。報道によれば、同様の手口による被害総額は1億円を超えるとみられています。さらに捜査2課は、銀行口座から現金を引き出す「出し子」や回収役の男2人を逮捕、組員が2人への指示や、詐取した現金の運搬を担当したとみているといい、3人が関与したとみられる還付金詐欺は50件以上に上るということです。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。

まずは、コンビニの事例を取り上げます。(1)佐賀県警鳥栖署は、詐欺被害を未然に防いだとして、セブン-イレブン鳥栖立石町店の20代の女性店員、いずれもネパール出身の専門学校生でアルバイト店員2人、セブン―イレブン鳥栖本鳥栖町店の30代の男性店員に感謝状を贈っています。うち留学生2人は、電子ギフト券を購入しようとする同県鳥栖市内の70代の男性に声を掛けたところ、利用方法も分からず購入しようとしていたため、相談を受けた女性店員が警察に通報したということです。留学生が特殊詐欺の被害を防止したこと自体が大変うれしいことですが、おそらく日頃から店舗内で十分な警戒と連携の重要性が浸透していたものと推察されます。また、(2)大阪府警交野署は、大阪府枚方市のコデイリーヤマザキ枚方杉1丁目店の10代のアルバイトの高校生に感謝状を贈っています。3万円の電子マネーカードを購入しようとした80歳代の男性客に声をかけたところ、「電話がかかってきた」など話の内容が不審だったため店長に相談、男性客に警察に通報するよう勧め、詐欺被害を防いだということです。報道によれば、アルバイト高校生は、特殊詐欺に関するスタッフ向けの注意を読んでいたといい、「何かおかしいと感じて話を聞いてみたら詐欺だと思った。お年寄りが被害にあわず本当によかった」と話しています。本件もまた平時からの注意喚起が徹底されていたこと、きちんと声掛けができたことにより被害を未然に防止したものとして評価できると思います。さらに、(3)福岡県行橋市のセブン-イレブン行橋西宮市店の50代のパート店員が、電子マネーカードを買おうとした男性客がだまされていると気づき、詐欺被害を防いだという事案もありました。報道によれば、男性が手にしたメモを見て直感したということです。来店した70代の男性が女性店員に電子マネーカードのある場所を尋ねた時点で、「普段店で見かけないお年寄りがなぜ」と思い、男性が持っていたメモに目をやったところ、「5万円」「グーグル」といった文字や電話番号のような数字があったことなどから詐欺を疑ったというものです。この事例では、「普段みかけないお年寄り」「電子マネー」「5万円」「グーグル」というパズルのピースを「リスクセンス」によって関連付けることができたことが未然防止につながったといえ、リスクセンスが「知識」「経験」「常識」というベースから生まれるものであることをあらためて感じさせます。また、(4)電子マネーをだまし取られそうになっていた高齢女性を説得して被害を防いだとして、大阪府警城東署はローソン店員の30代の女性に感謝状を贈っています。報道によれば、城東区の70歳代女性が電子マネーを買おうと来店、レジで対応した店員の女性に、女性が「パソコン画面にウイルスに感染したと表示された」、「ウイルス対策費として5万5,000円の電子マネーが必要と言われた」などと説明したため、この店員の女性は15分ほどかけて詳しく話を聞き、「怪しいから、警察に相談した方がいい」と説得、女性は交番に行き、被害を免れたということです。本件でとりわけ素晴らしい点は、「15分かけて話を聞いた」こと、それから説得にかかったことです。一般的に高齢者は思い込みが激しく、またこのような場面では冷静でいられないこともあり、相手から否定されると一層頑なになる傾向があります。まずはじっくり話をきいて落ち着かせ、信頼を得てから説得にかかることで相手を説得できる可能性を高めるといえます。

次に金融機関の事例を取り上げます。(1)普段からなじみの客がいつもの倍以上のお金を引き出そうしているのは不自然だと感じた飯能信用金庫狭山ケ丘支店の10代の女性行員が本人に理由を聞くと、「息子から大事な書類をなくしたので100万円用意してほしいと電話が来た」と言ったり、「孫の結婚資金に使う」と言ったり、その後の話もつじつまが合わず、説明も二転三転したため「詐欺に違いない」と確信、上司に相談し警察に通報、駆けつけた警察官2人とともに女性を説得したということです。報道によれば、女性には「なぜ今回だけ疑うの?」、「警察なんか呼んで大ごとにして」と怒られたということですが、その後に息子と連絡がついて詐欺だとわかったようです(前述のとおり、否定されるとより頑なになる高齢女性の傾向がみてとれます)。この10代の女性行員は、研修などで言われていたのが「少しでも気になる点があれば上司に相談するように」ということだったことが生きたとし、署長は「入社から1年でここまで目が養われるとは」とほめ、上司は「地元の人との距離が近い」信用金庫の特性が生きたと話しているようです。10代という部分を強調する必要もなく、普段からの研修・啓蒙の重要性、顧客との距離が近いからこそ違和感を感じることができる業務の特性、通常と異なることを察知して「おかしい」と感じられるリスクセンスを鍛えていたことなど、大変興味深い事例だと思います。また、(2)携帯電話で通話しながら徘徊しているところを警戒中の警官が発見、詐欺未遂の疑いで20代の女性が逮捕されています。報道によれば、逮捕氏名不詳の者と共謀して、数回、ふじみ野市の90代の無職男性方に50代長男らを名乗り「駅に忘れ物届け出をした」、「忘れ物の中にお金に関するデータの書類が入っていた」、「お金は530万円で月曜までに支払わないとまずい」などと電話をかけ、現金をだまし取ろうとした疑いがもたれています。男性が現金を引き出さそうと金融機関を訪れた際、不審に思った金融機関職員が同署に通報、警察官が男性の自宅付近を警戒していたところ、携帯電話で通話しながら徘徊する女を発見、ふじみ野市内のコンビニ駐車場で職務質問したというものです。警官のリスクセンスの賜物であることはもちろんですが、金融機関職員が530万円の現金を引き出そうとしたことを不審に思って通報したことが未然防止につながったといえます。最近では、AML/CFTの観点からも多額の現金取引(現金引き出し)については、十分に警戒するよう徹底されていますが、このような形で特殊詐欺防止につながることも、十分に認識されてよいと思います。さらに、(3)高齢の男性から金をだましとろうとしたとして、特殊詐欺の受け子の男が逮捕された事件で、被害者の自宅を下見していた被害者が警察官と鉢合わせたというものがありました。報道によれば、仲間と共謀し、東京・品川区の80代の男性にうその電話をかけ、現金をだまし取ろうとしたものですが、男性の妻が300万円近くの現金を引き出そうとしたのを銀行の職員が不審に思い、警視庁に通報し、警察官が男性の自宅に向かうと、受け子役の容疑者が自宅前で不審な行動をとっていて逮捕に至ったということです。容疑者は容疑を認めたうえで、「表札を確認しようと下見をしていたらバレた」と供述しているということで、警視庁は余罪もあるとみて調べているということです。(4)金融機関のうち保険会社の事例(被害を未然に防止したわけではありませんが、被害の拡大を防止した事例)もありました。福岡県警八幡東署は、北九州市内の50代の病院職員女性が約20億円を受け取るための手数料名目として計約730万円をだまし取られるニセ電話詐欺が発生したと発表しています。女性は33回にわたって金を振り込んでいて、同署は詐欺事件として捜査しているといいます。報道によれば、女性は今年2月下旬頃、携帯電話に国際機関の職員を名乗る人物から「20億4,000万円の未受理金がある。受け取るために手数料が必要」などとするメールを受信、その後3月13日にかけて、指定された口座に33回にわたって最大48万円を振り込んだといういいます。女性が更に金を振り込むため自身の生命保険を切り崩そうとした際、保険会社の関係者に指摘されて発覚したということです。

その他の事例として、タクシーの運転手の事例もありました。兵庫県警赤穂署は、詐欺の疑いで、20代の無職の女性を逮捕していますが、赤穂署によるとこの容疑者は特殊詐欺グループの「受け子」で、同容疑者を被害者の女性宅まで乗せたタクシーの運転手が「スーツ姿が似合わない若い茶髪の女を乗せた。詐欺の犯人ではないか」と同署に通報し、逮捕につながったということです。同容疑者は被害女性からキャッシュカードの暗証番号を聞き出していたが、身柄の確保が早かったため、現金を引き出す前だったということで、被害の未然防止にもつながったということです。受け子など特殊詐欺グループは土地勘がない、素早く現場を離脱するなどの理由でタクシーを利用することが多いようです。タクシー事業者もまた金融機関やコンビニ同様、特殊詐欺被害防止に力を入れており、今回も運転手自身のリスクセンスとそれを引き出す日頃からの研修や啓蒙が功を奏した事例だといえます。また、埼玉県警東入間署は、詐欺の疑いで20代の無職の男性2人を逮捕していますが、報道によれば、氏名の不詳者と共謀し、数回、ふじみ野市の70代のパート男性方に息子を名乗り、「今日中に仕事の相手先にお金を送らなければならない」、「少しくらい用意できないか」などと電話をかけ、翌日2回にわたって男性から現金計200万円をだまし取った疑いがもたれているもので、東武東上線上福岡駅付近で、携帯電話で通話しながら徘徊する不審な行動をしていた男を警察官が発見し逮捕、捜査でもう1人の男が浮上したものです。前述した事例の中にも携帯電話をしながら徘徊する20代の女性が逮捕された事例もあるように、受け子の1つの行動様式だといえそうです

最後に、特殊詐欺被害防止とコロナ禍における困窮者の救済に同時に取り組むアイデアがありました。新型コロナウイルスの感染拡大で離職や収入減を余儀なくされた市民が、特殊詐欺の被害防止に一役買っているというものです。報道によれば、兵庫県警から業務を請け負った警備会社が生活困窮者を採用、ATMでの声掛け業務などに当たっており、県警幹部は「コロナでの失業と詐欺対策の二本立てだ」と述べています。なお、兵庫県内では昨年1,027件の特殊詐欺被害が発生、前年の約1.5倍で、特に「医療費の還付がある」などと偽ってATMを操作させる還付金詐欺は8件から288件に激増するなど、兵庫県警は「兵庫県が狙い撃ちにされている」とまで危機感を高めているところです。一方のコロナ禍の困窮者の対策もまた喫緊の課題であり、このような知恵を絞った対策が効果を十分に発揮することを期待したいと思います。

(3)薬物を巡る動向

前述した「令和2年における組織犯罪の情勢」でも明らかとなったとおり、若年層、とりわけ10代の少年への大麻の蔓延が深刻化しています。その背景には、インターネットの普及があげられ、例えば、ツイッターなどのSNSで「野菜」(大麻)や「手押し」(対面取引)などの文言を検索すると、数多くの投稿が表示され、これらを糸口に売買が行われる(SNSを利用した人間から口コミで拡がった事例もあった)ほか、ネットのサイトを通じた海外からの輸入や掲示板でのやりとりなど、取引方法や拡散経路が多様化している実態があります(さらにいえば、覚せい剤の流通には暴力団の関与が濃厚ですが、大麻の流通においては必ずしも暴力団や薬物犯罪組織などが濃厚に関与しているというわけでもなく、相対取引も拡がっている状況で、この点も手軽さを煽っている部分かもしれません)。また、大麻の有害性を過小評価し、大麻吸引を肯定するサイトも多く、一部の国や地域が合法化していることも、違法性の認識を低めているとみられます。そして、覚せい剤などと比べても圧倒的に安い価格もその傾向に拍車をかけています。あるいは、大麻入りのチョコレートやクッキー、電子たばこに似た「大麻リキッド」の登場で、手軽さやファッション性(ワインや蜂蜜、オリーブオイルのボトルなどに入れられるなどしており、税関での水際の摘発も困難さを増しています)も若者を陥れる武器となっているようにも思われます(ただし、大麻リキッドについては、。電子たばこで加熱して吸うため、抵抗感や罪悪感が乾燥大麻より薄いと指摘される一方、成分が濃縮されており作用や依存性は強いという点で極めて恐ろしいものといえます)。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、実際には記憶や学習能力を低下させ、常習化した場合に、幻覚や妄想といった精神疾患を引き起こす危険性が指摘されているところ、「嗜好品だから罪に問われない」、「体にも医療にも効く」、「大麻は危なくない」、「依存性がない」といった誤った認識がネット等で流布していることは大きな問題だといえます。さらに、警察庁の実施したアンケート結果からも、「身近な先輩などから誘われて断り切れず手を出してしまう」といった状況も悩ましいところです。なお、昨年は大学の運動部などでの蔓延の実態も数多く明らかとなったことも特徴的でした。とりわけ、新型コロナウイルス感染のクラスターが運動部の寮などでたびたび発生していることからも分かるとおり、濃密な人間関係の中で、ウイルス同様、大麻が持ち込まれれば、瞬く間に感染拡大(蔓延)に至る特有の構図があることを痛感させられました(なお、前述のレポートの中で「周辺環境の健全性」を確保する重要性が指摘されていましたが、正にその通りかと思います)。いずれにせよ、ゲーウェイドラッグとしての大麻が若者に蔓延している状況は、今後、覚せい剤やMDMAなど他の薬物の常習使用(再犯)につながる危険性があり、今、食い止める必要に迫られています。なぜ、若者が大麻に手を出すのか、その要因をしっかりと把握することから始め、対策を講じていくことが求められています。

大麻や覚せい剤など薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 熊本県の漁港で膨大な覚せい剤が押収された事件の裁判で、密輸グループの統括役とされた台湾国籍の男に、無期懲役などの判決が言い渡されています。報道によれば、台湾国籍の被告は2019年12月、熊本県天草市の漁港で覚せい剤約586キロ、末端価格約352億円を密輸しようとするなどしたとされます。争点は密輸する「物」に対する認識で、被告は「金だと思っていた」と起訴内容の覚せい剤取締法違反について無罪を主張していました。福岡地裁で開かれた裁判員裁判の判決公判で、裁判長は「沈むリスクなどが高い船舶で金を運ぶとは考えにくい」などと指摘、そのうえで「首謀者的立場にある被告には最も重い罪を処すべき」として、求刑通り無期懲役と罰金1,000万円を言い渡したものです。なお、本裁判では、検察側は「反社会的勢力に莫大な資金が流れたり、国内に拡散される恐れがあった」と指摘していました。
  • 末端価格1億5,800万円相当の大麻を販売目的で密輸しようとした疑いでベトナム人グループの男らが逮捕されています。報道によれば、ベトナム国籍の男女6人と大阪市の71歳の男は、昨年10月頃、約26キロの大麻を販売目的で密輸しようとした疑いなどが持たれています。近畿厚生局麻薬取締部などによると、被告らは短期間で集中的に密輸する「ショットガン方式」と呼ばれる方法で、大麻を漢方薬に見せかけ、ベトナムから発送していたということで、大麻が隠された郵便物は、1週間で8箱見つかったといいます。なお、麻薬取締部は他にも関係者がいるとみて捜査しているということです。
  • 富山県警富山中央署は、バスケットボールBリーグ1部・富山の元選手で米国籍の容疑者を大麻取締法違反の疑いで逮捕しています。容疑者は、富山市内の自宅で大麻を含む液体を所持した疑いがもたれていますが、「合法な成分」と容疑を否認しているということです。容疑者は昨年から富山でプレーしていたが、4月に入り契約を解除されています。また、同じくBリーグ・広島ドラゴンフライズの元選手が米から大麻を輸入したとして、大麻取締役法違反などの罪で起訴されています。被告は、昨年9月、大麻を液体に加工した「大麻リキッド」をアメリカから日本国内に輸入した大麻取締法違反など罪に問われているもので、被告は当初、大麻取締役法違反の疑いで、逮捕・送検されていましたが、神戸税関広島税関支署が、ト被告が昨年9月に「大麻リキッド」86グラムを密輸したとして、関税法違反の疑いで広島地検に告発、広島地検は、罪状を大麻取締役法違反・関税法違反に切り替えて起訴したものです。さらにスポーツ選手では、大麻を所持したとして、警視庁池袋署が、大相撲の元幕内力士・若麒麟で自称自営業の容疑者を大麻取締法違反の疑いで現行犯逮捕しています。報道によれば、容疑者は、JR池袋駅構内で、若干量の乾燥大麻を所持した疑いがもたれており、警察官の職務質問を受けた際に投げ捨てた大麻を砕く器具内から乾燥大麻が見つかったということです。容疑者は現役力士時代の2009年1月にも同法違反容疑で神奈川県警に逮捕され、日本相撲協会を解雇された上、同4月に有罪判決を受けています。大学の運動部での蔓延の実態とあわせ、スポーツ選手と大麻の相関関係を断ち切る取組みが関係者にとって急務だといえます。
  • 乾燥大麻約5グラムを所持したとして、警視庁目白署は、大麻取締法違反(所持)の疑いで音楽ユニット「CREAM」のラッパー「StaxxT」容疑者を現行犯逮捕しています。報道によれば、世田谷区内の自宅マンションで、四つの袋に小分けにした乾燥大麻を所持した疑いがもたれています2019年8月に捜査員が都内で職務質問した際、電子たばこから大麻の成分を検出、今年3月に自宅を家宅捜索して乾燥大麻や吸い殻などを発見したものです。芸能界と薬物の関係は以前から深刻な問題となっていますが、大物芸能人も含め、まだまだ摘発が続きそうです。
  • 公務員による薬物事犯も後を絶ちません。覚せい剤を使用したとして、警視庁新宿署が覚せい剤取締法違反容疑で、航空自衛隊横田基地に所属する40代の自衛官の男を逮捕しています。報道によれば、東京都新宿区歌舞伎町2丁目の路上で、巡回中の警察官が不審な様子で歩いていた男を職務質問して発覚したものです。尿検査で覚せい剤の陽性反応が出たため逮捕されました。さらに、陸上自衛隊は、大阪府和泉市の信太山駐屯地で大麻を使ったとして、第37普通科連隊に所属する22歳と23歳の男性陸士長を懲戒免職にしています。2人とも「好奇心から使った」「気分が落ち込んでいて気分転換のため」と大麻の使用を認めているということです。報道によれば、22歳の陸士長は2017年ごろから今年2月までの間に数十回大麻を使用したほか、第三者に譲渡、23歳の陸士長は昨年夏ごろから今年2月までの間に複数回、使用していたといいます。22歳の陸士長が警察の捜査を受けたため隊員に薬物検査を実施したところ23歳の陸士長に陽性反応が出たということです。2人は入隊前から大麻を使用していたということで、陸上自衛隊は「絶対にあってはならない行為で誠に遺憾。指導を徹底する」としています。また、航空自衛隊浜松基地の20代の男性隊員2人が、基地内で大麻を所持し使用していたとして懲戒免職処分となっています。2人は2020年12月に他県で入手した大麻を浜松基地内で所持・使用したとして、航空警務隊に検挙され地検浜松支部に書類送検されていました。自衛隊では、(全員一斉ではありませんが)薬物の抜き打ち検査が常時行われており、入隊時にもそれ以降も見つけられなかったこと(3つ目の事例は自衛隊内で検挙されているようです)や、このような逮捕者が出ることをふまえれば、まだまだ氷山の一角ともいえそうです
  • 少年の摘発についても一部紹介します。密売する目的で大麻を所持していたとして、浜松市に住む18歳の少年らが逮捕されています。少年は密売するために浜松市内の知人の家や自宅で、乾燥大麻約71グラムを所持していた疑いが持たれており、警察が別の大麻事件の捜査中、情報提供をもとに少年の知人の家を捜索したところ、この少年が大麻を所持していたことがわかり、これをきっかけに自宅での所持も判明したということです。また、警察はこれまでにこの少年から大麻を購入したなどとして浜松市中区の塗装工の20代の男性を逮捕したほか、一緒に大麻を所持していたとして浜松市の20代の無職の女性も逮捕しています。警察は少年が大麻を密売していたとみて、大麻の入手ルートや販売ルートなどを引き続き調べていく方針だといいます。
  • 外国人の摘発についても紹介します。東京都新宿区で約1キログラム(末端価格600万円相当)の大麻を販売目的で車の中に所持していたとして、自称・ベトナム人の男が逮捕されています。パトカーとすれ違う際に男が目をそらしたため警察官が職務質問し、逮捕につながっています。職務質問の際に、車内から大麻と、紙袋に入った現金600万円が見つかったということです。同じくベトナム人の犯罪としては、ベトナム人容疑者らが経営するベトナム人向けのバーで、客として訪れた男らを従業員として勧誘していたというものがありました。なお、この店は今年1月に客が合成麻薬を所持していたなどとして強制捜査を受けていて、警視庁は店ぐるみで違法薬物が使われていたとみて調べているということです。
  • 鹿児島西署と県警組織犯罪対策課は、大麻取締法違反(所持)の疑いで、建設作業員の20代の男性を再逮捕しています。報道によれば、自宅(当時)で、大麻を液体状に加工した大麻リキッド約1グラムを所持した疑いがもたれており、約15センチの電子タバコの中に大麻リキッドが入った状態で押収したといいます。
  • 「大麻を購入したい」と密売人を呼び出し、所持をそそのかしたとして、大阪府警港署は、東京都の20代の男ら数人を大麻取締法違反(営利目的所持)の教唆容疑で書類送検しています。報道によれば、男らは動画配信をする「ユーチューバー」(登録者数は10万人超)で、待ち合わせ場所を警察に通報し、密売人が摘発される様子を生配信していたといいます。署は、撮影のために大麻を持ってこさせた行為が大麻取締法違反の教唆に当たると判断したものです。ユーチューバーによる迷惑行為はエスカレートする一方であり、そもそも犯罪行為や犯罪を助長する行為を気軽に行うばかりか、それを配信する行為も大きな問題があるといえます。テロリストが自ら敢行したテロを生中継した事例も海外ではありましたが、動画を流してしまったこと、動画の削除が遅れたことで拡散されたことなどに厳しい批判が寄せられました。AI(人工知能)等を活用したコンテンツ削除の取組みが進化する中、もはや「「表現の自由」とは言えないレベルのこのような動画の配信を遮断する、不適切な動画を削除する、そもそもアカウントを閉鎖するといった対応もまた、デジタルプラットフォーマーには求められているといえます。
  • 大麻取締法違反をほう助したとして、園芸用品販売会社の元社長に懲役4年実刑判決が言い渡されています。神戸市の園芸用品販売会社の元経営者は、2012年4月から2019年7月までの間、客たちが大麻を栽培すると知ったうえで、大麻が育ちやすい照明の当て方や室温を教えるとともに栽培用品の購入を勧めていたといいます。被告は「大麻栽培に使われるとは知らなかった」と訴えていましたが、神戸地裁は「栽培方法を教わったという客らの証言は信頼できる」と被告の訴えを退けたうえで「海外の大麻工場を見学するなど大麻への関心が高い。ほう助はしていないなどと話し、反省の意識が欠落している」などとして懲役4年の実刑判決を言い渡したものです。
  • 福岡市内の集合住宅4カ所で大麻草を大量に栽培したとして、九州厚生局麻薬取締部と福岡県警が、大麻取締法違反(営利目的栽培)などの疑いで同市の男8人を逮捕しています。報道によれば、麻薬取締部などは、関係先から少なくとも末端価格計1億円相当の大麻草約160株と乾燥大麻十数キロを押収したということです。男らは、育てた大麻草から枝を切り取り、挿し木をする「クローン栽培」と呼ばれる手法を使っていたといい、照明器具で成長を促し、1年間に複数回、収穫していたとみられています。10~15人の客がいたとみられ、少なくとも約740万円を売り上げていたとされ、県警はうち数人を同法違反容疑で逮捕、市内の飲食店内などで売買され、一度の取引額が数十万円に上るケースもあったといいます。密売する際の連絡には、メッセージを一定時間後に自動削除できる通信アプリ「テレグラム」などを用いていたといいます。また、大麻の栽培に関するものとしては、大阪府松原市の住宅兼工場で、営利目的で大麻草178株を栽培したとして、大麻取締法違反の疑いで20代の男3人が逮捕される事件もありました。別の事件で逮捕された男の関係先などを調べたところ、工場で栽培していることがわかったということです。また、営利目的で大麻草を集団栽培していたとして、逮捕・送検されていた男3人について、長崎地検は、大麻取締法違反の罪で起訴した事件もありました。被告は昨年9月頃から今年1月までの間、大村市内の自宅で大麻草126本を営利目的で栽培し、他の2人は去年10月頃から今年1月までの間、諫早市内の被告の自宅で大麻草68本を栽培していたとされています。さらに、札幌のマンションで、密売目的で大麻を所持、栽培していた疑いで30代の兄弟2人が逮捕・起訴されています。報道によれば、2人は、札幌市中央区の亨被告の自宅マンションの一室で大麻草11本を栽培していたほか、乾燥大麻およそ11グラムを所持していた大麻取締法違反の疑いが持たれています。北海道厚生局麻薬取締部には、2人が昨年9月から栽培をはじめ、SNSなどで密売をくり返していたとみて調べを進めています。なお、同部が押収した大麻の中には、幻覚成分「THC(テトラヒドロカンナビノール)」が通常の大麻草よりも強く、乱用者に高値で取引されている「バッズ」も含まれていたとも報じられています。ネット上で集めた顧客とは、消えるSNSで連絡を取り合って取引の履歴が残らないようにしていたほか、暗号資産で売買することで匿名性を高めていたといいます。大麻を受け渡す際も郵送しており、顧客との対面を徹底的に避けていたといいます。薬物の密売事件では近年、ツイッターなどのSNSやウェブサイトで、隠語を使って大麻の密売を持ちかける広告が堂々と投稿される一方で、取引には、匿名ツールが悪用されるケースが目立っており、室内にこもりがちな若者らが、大麻などの違法薬物をネット購入するケースが増えている点が狙われています。
  • 暴力団が関与した事例も多数摘発されています。まず、(1)佐賀県警組織犯罪対策課は、覚せい剤を密売したなどとして、麻薬特例法違反などの疑いで、道仁会系組員5人ら計11人を逮捕しています。報道によれば、2月上旬、県内で覚せい剤のようなものを県内の50代男性に譲渡した疑いがもたれています。また、(2)営利目的で覚せい剤を譲り渡したなどとして、警視庁は覚せい剤密売グループの住吉会系暴力団組員ら5人を覚せい剤取締法違反などの疑いで逮捕しています。報道によれば、容疑者らは今年2月、北海道・函館市で、60代の男に営利目的で覚せい剤およそ10グラムを10万円で譲り渡した疑いなどがもたれています。容疑者は、複数の密売人に覚せい剤を売り渡す密売グループの主犯格で、およそ2年間で2,000万円以上売り上げていたとみられています。さらに、(3)末端価格1,600万円相当のMDMA約4,000錠をフランスから密輸したとして、暴力団関係者の20歳の男が逮捕された事件もありました。報道によれば、容疑者は2月、フランスからの国際郵便にMDMA約6キロ、1,600万円相当を隠して羽田空港に密輸した疑いが持たれています。東京税関のX線検査で荷物に不審な影が見つかって詳しく調べたところ、中に入っていた運動器具の管の中にMDMA約4000錠が見つかり、この荷物は東京都墨田区のビルが届け先となっていて、容疑者が受け取ったということです。警視庁は暴力団が関与する組織的な犯行とみて調べているということです。なお、

さて、大麻取締法に「使用罪」を導入することなどを検討する厚生労働省の有識者検討会がスタートしています。現在は罰則の対象になっていない大麻の「使用」に罰則を設けるかなど規制のあり方を検討し、今夏までに結論をまとめる予定で、海外で使われている医療用大麻の扱いについても議論するとしています。前回の本コラム(暴排トピックス2021年3月号
でも指摘しましたが、最近の報道等を見ていると、(1)大麻の害悪、若者への大麻の蔓延の実態とゲートウェイドラッグとしての大麻から覚せい剤へとエスカレートする危険性などから「厳罰化」に進むべきとする考え方と、それとは逆に、(2)大麻の合法化や非犯罪化・軽犯罪化をすべき、「刑罰ではなく治療」とすべきだとする考え方に大きく立場が分かれるように思われます。筆者が言いたいことは、まず注意すべきは、嗜好用大麻と医療用大麻をまずきちんと位置付けを明確にすることが必要ではないかという点です。前回も紹介したとおり、国連の麻薬委員会が、薬物を規制する「麻薬単一条約」で大麻を「特に危険」とする分類から削除する勧告を可決していますが、大麻を原料とした医薬品に有用性が認められたことが主な理由だということです。嗜好用と医療用とは別物であり、医療用大麻については適切に使用していくためにどうしたらよいかを、このタイミングで検討し始めてよいのではないかと考えます。一方、嗜好用大麻については、たばこや酒より無害だとする主張や合法化している国や地域が存在するとはいえ、依存性の高さや脳の萎縮効果など若年層への悪影響の大きさ、解禁している国・地域と比較した場合の日本における浸透度合いの低さを考えれば、現時点で「合法化」を検討すべきではないと考えます。ただし、治療によって依存症から立ち直ることができる流れをふまえ、「半永久的に人権侵害」とでも言うべき過剰なバッシングを受けないといけないかという点は見直す必要があると言えます(正に、暴力団離脱支援、再犯防止のあり方と同じ構図です)。では、以下に最近の検討会資料から、いくつか抜粋して引用します(下線部は筆者)。

▼厚生労働省 第2回 大麻等の薬物対策のあり方検討会
▼資料1
  • 大麻事犯全体の検挙人員及び30歳未満の検挙人員は、6年連続で増加し、いずれも過去最多を更新。大麻事犯の検挙人員のうち、30歳未満の占める割合は57%
  • 大麻事犯における20歳未満の検挙人員は、5年連続で増加。30歳未満の検挙人員のうち20歳未満が占める割合は5%
  • 【薬物使用に関する全国住民調査】大麻の生涯経験率は、調査開始から現在までの間で過去最高を記録。前回調査と比べ、大麻は生涯経験率及び生涯経験者数の推計値が増加。覚せい剤、コカイン及び危険ドラッグの生涯経験率はほぼ横ばい
  • SNSを介した違法薬物の密売が疑われる事例
    • 大麻等の違法薬物の密売は、インターネット密売サイトによるもののほか、ツイッター等のSNSを介して行われている。
    • 密売サイトやSNSにおいて、「大麻」は「野菜」、「覚せい剤」は「アイス」など、所謂隠語で表記されるほか、それら違法薬物を示す絵文字を使用して密売されている場合もある。
  • 大麻の健康に対する悪影響(WHO文献)
    1. 大麻使用の短期的な悪影響
      • 意識障害、認知障害、知覚障害、情緒あるいは行動障害、精神生理学的機能障害を伴う陶酔
      • パニック発作、幻覚、嘔吐(初めて使用した人の中では稀)
      • 車の運転における障害、交通事故による怪我のリスクの高まり(3~2.0倍)
      • 年齢の若い大麻使用者に冠動脈疾患を引き起こす可能性
      • 妊娠中に母親が大麻を吸引する場合、胎児に現れる悪影響
    2. 定期的な大麻使用による長期的な心理社会的影響
      • 依存(リスクは使用経験のある人10人に1人、青少年の使用者の6人に1人、毎日使用する人の3人に1人)
      • 成人よりも青少年により深刻で持続的なマイナスの結果
      • 青少年期の大麻使用と若年成人の精神病的症状や統合失調症の発症リスクの間に用量反応関係
      • 学校中退、認識機能障害、その他の薬物の違法使用、抑鬱症状、自殺念慮・自殺行動のリスクの高まり(青少年期や成人後の若い時期に毎日大麻を使用する場合)
    3. 定期的な大麻使用によるその他の長期的な心理社会的影響
      • 慢性・急性の気管支炎、気管の内壁細胞の損傷
      • 若い大麻使用者に心筋梗塞、脳卒中
      • 煙草と共に使用する場合は、がんやその他の呼吸器系疾患のリスクの高まり
      • 精巣がん(関連性については更なる調査が必要)
    4. 現在、アメリカは、国としては医療目的及び嗜好目的での大麻使用のいずれも認めていないものの、医療目的での大麻使用については36州及び4つの地域、嗜好目的での大麻使用については15州及び3つの地域において合法化(令和2年11月現在)している。アメリカの疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は、ホームページ上で「大麻の使用は身体と脳に幅広い健康影響を与える可能性がある」旨述べ、健康に係る9項目について、大麻使用が及ぼす影響を記載している
    5. 大麻合法化による影響
      • 米国は、国としては嗜好目的での大麻使用を認めていないものの、2012年のコロラド州、ワシントン州を皮切りに、2020年11月までに15州及びワシントンC、グアム、北マリアナ諸島の3つの地域において、嗜好目的での大麻使用を認める法案が可決された。これらの州及び地域の一部において、下記のような有害事象の発生が報告されている。
        1. 交通事故
          • 交通事故発生率(コロラド州、ワシントン州、オレゴン州)2012年から2016年まで、嗜好品大麻を認めていない州と比較して2%高い。※コロラド州、ワシントン州及びオレゴン州における発生率との比較による。
          • 交通事故死亡者(コロラド州)2012年:全交通事故死亡者数472人。うち大麻成分陽性者65人。2019年:全交通事故死亡者数596人。うち大麻成分陽性者127人
          • 生命に関わる重大な交通事故の増加
        2. 救急搬送(コロラド州)
          • 大麻摂取による救急搬送数2012年:110件。2018年:265件。5倍
          • 0~8歳の大麻の誤摂取等による救急搬送数2012年:16件。2018年:89件。 5倍
          • 大麻摂取による健康被害の増加
        3. 大麻の違法栽培・違法販売の増加(コロラド州)
          • 正規店では大麻に高額な税金がかけられているため、安価に購入できる違法販売の需要が増加。
          • 大麻の違法販売を目的とする犯罪の摘発数2012年:32件。2017年:124件。4倍増
          • 違法栽培による大麻の押収量2012年:46,662株。2017年:80,826株。5倍増
          • 大麻関連犯罪の増加
            • コロラド州では、これらに加え、青少年の検挙数の増加、公共の場での違法な大麻使用の増加等が報告されている
    6. 大麻使用と精神障害との関連について
      • 2016年2月17日、米国医師会雑誌の精神分野専門雑誌「JAMAPsychiatry」において、大麻使用と精神障害の関連性を示す論文が発表された。
      • 同論文では2度の調査が行われており、1度目の調査で大麻を使用した経験があると回答した者について、3年後に行われた2度目の調査における精神障害の発生との関連を調査している。
      • 調査の結果、大麻使用経験のある者が使用障害(ある物質の使用により問題が生じているにもかかわらず、その使用を続ける行動パターンがみられるもの)を発症するリスクは、大麻使用経験がない者に比べ、アルコールが7倍、大麻が9.5倍、大麻以外の薬物が2.6倍、ニコチンが1.7倍であったことから、同論文では「大麻の使用は、いくつかの物質使用障害のリスクの増加と関連している」と結論づけている。
      • 2019年2月13日、米国医師会雑誌の精神分野専門雑誌「JAMA Psychiatry」において、青年期における大麻使用と若年成人期におけるうつ病、不安神経症及び自殺傾向との関連性を示す論文が発表された。
      • 同論文では23,317人からなる11の研究について分析を行い、青年期に大麻使用経験のある者が若年成人期にうつ病等の疾患を発症するリスクは、大麻使用経験がない者に比べ、うつ病が37倍、自殺企図が3.46倍であったと報告している。
      • また、推定人口寄与危険度(2%)、米国の18歳から34歳の若年成人期の人口(約7,087万人)、うつ病発生率(8.1%)から、大麻使用が原因でうつ病になった若年成人は約41万人に達するとし、「大麻を使用する青年の高い有病率は、大麻に起因するうつ病と自殺傾向を発症する可能性のある多数の若者を生み出す」と結論づけている
    7. 大麻使用と依存症や精神病の発症との関連について
      • 2019年10月~12月の間に薬物依存症専門医療機関において、通院または入院により治療を受けたICD-10(大麻使用による精神等行動の障害)に該当する成人患者(N=71)を対象に行った調査票を使用した調査により、大麻の使用と、依存症や精神病の発症との関連について、臨床医学的家族歴、大麻の使用期間・頻度、使用する大麻製品、併存精神障害や並行して使用した他の精神作用物質の影響について検討を行った。
      • 単変量解析及び多変量解析の結果、依存症の発症に重要な因子として、大麻の使用期間(多変量解析によるオッズ比:094[95%信頼区間:1.014-1.180])、乾燥大麻以外の高濃度THC製品(大麻樹脂等)の使用(多変量解析によるオッズ比:6.850[95%信頼区間:1.866-25.145])であることが明らかとなった。
      • 今回の解析の結果からは、残遺性・遅発性精神病性障害の発症に関連した因子は確認されなかった
      • 今回の解析結果から、長期間の大麻の使用や高濃度THC含有製品の使用が大麻による依存症の発症に関連している可能性が考えられた。今回の解析の結果からは、残遺性・遅発性精神病性障害の発症には特定されていない未知の因子が関連している可能性が考えられた。
    8. 大麻による精神障害の影響:1年以内に主たる薬物(臨床的に最も関連が深いと思われる薬物)の使用がある症例のうち、大麻関連精神疾患の特徴として、以下のような点が認められた。→ 大麻使用の影響には個人差がある可能性が高いことが判明した。
      • 20~30代の占める割合が高い(大麻:3%、覚せい剤:42.3%、睡眠薬・抗不安薬:38.5%、市販薬:50.5%、危険ドラッグ:78.6%)
      • 比較的就労している者が多く、比較的高卒以上の学歴を有している者が多い(有職率大麻:3%、覚せい剤:31.4%、睡眠薬・抗不安薬:14.3%、市販薬:33.3%、危険ドラッグ:21.4%)(高卒以上の学歴保有率大麻:62.5%、覚せい剤:40.0%、睡眠薬・抗不安薬:65.3%、市販薬:64.8%、危険ドラッグ64.3%)
      • 薬物使用に関する診断(ICD-10分類F1下位診断)において、「有害な使用」(1)に該当する者が比較的多く、「依存症症候群」(F1x.2)に該当する者が比較的少ない(F1x.1/F1x.2該当率大麻:25.0%/60.9%、覚せい剤:13.3%/71.5%、睡眠薬・抗不安薬:23.9%/76.4%、市販薬:23.8%/79.0%、危険ドラッグ:21.4%/64.3%)
      • 精神作用物質使用による精神及び行動の障害以外に併存する精神障害の傾向として、統合失調症(F2)と心理的発達の障害(F8)に該当する者が多い(F2/F8該当率大麻:5%/10.9%、覚せい剤:10.0%/3.8%、睡眠薬・抗不安薬:5.2%/6.4%、市販薬:5.7%/8.6%、危険ドラッグ:28.6%/7.1%)
    9. 薬物事犯者に関する特別調査について(結果)
      • 薬物がその乱用者の身体・精神に与える影響は大きい。我が国においては、いわゆる「ダメ。ゼッタイ。」普及運動等の取組を通じて、国民一人一人の薬物乱用問題に関する認識を高める努力を行っている。しかしながら、近年検挙人員が急増している大麻に代表されるように、インターネット等では、薬物乱用が心身に与える影響を矮小化する言説が流布している。未成年者を含む若年層が、そのような言説を安易に信じ、薬物の影響を誤解して使用を開始している可能性は否定できない。大麻は、ゲートウェイドラッグといわれ、使用者がより効果の強い薬物の使用に移行していくおそれが高い薬物である。特別調査でも、対象者(覚せい剤取締法違反の入所受刑者のうち覚せい剤の自己使用経験がある者)の約半数が大麻使用の経験を有し、そのうちの約半分は、20歳未満で大麻の使用を開始したという結果がある。
▼資料3 薬物使用の疫学:大麻を中心に
  • 大麻経験者数の推計(2019年)推計値:対象者のサンプリング方法(層化二段無作為抽出)に基づき、15~64歳の人口に当てはめた場合に統計的に算出される値。点推計値および95%信頼区間を示した。
    1. 生涯経験者数:約160万人(119~202万人)※これまでの人生で少なくとも1回以上の使用経験がある者。
    2. 過去1年経験者数:約9万人(5~17万人)※より現在の乱用状況を反映。国際比較で使われている指標。
  • 18歳以前に大麻を使い始めた人は、成人してから使い始めた人に比べ、薬物依存と診断されるリスクが約5倍~7倍高い
  • 若年期(17歳以前)に大麻を使っていない人が、28~30歳時点で大麻依存症と診断されるリスクを基準(1)とした場合、大麻の使用頻度が上がるにつれ、依存症のリスクが上昇する
  • 大麻に関するエビデンスの情報発信
    1. 大麻に関する信頼性の高いエビデンスを国民(特に健康影響を受けやすい10代)が受け取りやすい表現・デザイン・方法で伝えていく
      • 例えば、10代の若者、大麻使用者の意見・価値観を取り入れることが重要(当事者性)
      • 例えば、大麻の健康影響ばかりを強調するのではなく、医療分野での活用についても触れるなど
    2. 紙媒体の配布などこれまでの方法ではなく、10代がメッセージをより受け取りやすい方法を検討する(訴求性)
      • 例えば、メディアの種類は、テレビ・ラジオよりもインターネットの方が訴求力があるかもしれない
      • 例えば、10代に影響力のある有名人がSNS上でツイートする、人気Youtuberとコラボするなど
  • 大麻使用者に対する支援の課題(問題提起)
    1. 大麻使用者(事犯者)の薬物依存の重症度、大麻使用の背景にある問題性、再犯との関係性などが十分に研究されていない
    2. 医療機関(病院、保健機関)や司法機関(刑務所、少年院、保護観察所)で実施されている薬物依存関連プログラムの多くは、覚せい剤使用者を想定したものであり、大麻使用者に必ずしもフィットしていない可能性があり、検討が必要。
      • 特に、大麻使用の健康影響を受けやすい未成年者に対する予防・支援を充実させていくことが必要。
▼厚生労働省 第3回「大麻等の薬物対策のあり方検討会」 資料
▼資料1
  • 麻薬及び向精神薬取締法による麻薬中毒者への医療の提供等(麻薬中毒者制度)
  • 麻薬中毒(※)の状態にある者(麻薬中毒者)への医療の提供等の措置として、麻薬及び向精神薬取締法では、(1)医師の麻薬中毒者の届出等、(2)措置入院及び(3)フォローアップが規定されている。
    • 麻薬中毒とは麻薬、大麻又はあへんの慢性中毒(麻向法第2条第24号)を指し、麻薬に対する精神的身体的欲求を生じ、これらを自ら抑制することが困難な状態、即ち麻薬に対する精神的身体的依存の状態をいい、必ずしも自覚的または他覚的な禁断症状が認められることを要するものではない。(昭和41年6月1日付け薬発第344号「麻薬中毒の概念について」)
      1. 医師の麻薬中毒者の届出
        • 医師は、診察の結果受診者が麻薬中毒者であると診断したときは、その者の氏名等を都道府県知事に届ける義務がある。
      2. 措置入院
        • 都道府県知事は、精神保健指定医の診察の結果、麻薬中毒者であり、かつ、症状、性行及び環境に照らして入院させなければ麻薬、大麻又はあへんの施用を繰り返すおそれが著しいと認めたときは、麻薬中毒者医療施設に入院させて必要な医療を行うことができる。
      3. フォローアップ
        • 麻薬中毒者相談員等による麻薬中毒者及びその疑いのある者(特に、麻薬中毒者医療施設を退院した者)に対する相談業務を実施
  • 平成11年の精神保健福祉法の改正に伴い、精神障害者の定義が改められ、薬物依存症も対象とされたことに伴い、麻薬中毒者については、麻薬及び向精神薬取締法及び精神保健福祉法の2つの法律で重複して措置⇒平成20年以降、麻薬及び向精神薬取締法に基づく麻薬中毒者の措置入院は発生していない。
  • 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく入院形態
    • 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律では、「精神障害者」を、以下のとおり定義。
    • 統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者
      1. 任意入院
        • 入院を必要とする精神障害者で、入院について、本人の同意がある者
        • 精神保健指定医の診察は不要
        • 措置入院/緊急措置入院
          • 入院させなければ自傷他害のおそれのある精神障害者
          • 精神保健指定医2名以上の診断の結果が一致した場合に都道府県知事が措置緊急措置入院は、急速な入院の必要性があることが条件で、指定医の診察は1名で足りるが、入院期間は72時間以内に制限
        • 医療保護入院
          • 入院を必要とする精神障害者で、任意入院を行う状態にない者
          • 精神保健指定医(又は特定医師)の診察が必要/家族等のうちいずれかの者の同意が必要(特定医師による診察の場合は12時間まで)
        • 応急入院
          • 入院を必要とする精神障害者で、任意入院を行う状態になく、急速を要し、家族等の同意が得られない者
          • 精神保健指定医(又は特定医師)の診察が必要/入院期間は72時間以内に制限(特定医師による診察の場合は12時間まで)
    • 刑の一部の執行猶予制度について
      • 平成25年6月、刑の一部の執行猶予制度の導入等を内容とする「刑法等の一部を改正する法律」及び「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」が成立し、平成28年6月1日に施行された。
      • 裁判所が、3年以下の懲役・禁錮を言い渡す場合に、その刑の一部について、1~5年間、執行を猶予することができるとする制度
    • 対象
      • 初入者等裁判所の裁量により、執行猶予の期間中、保護観察に付することができる。
      • 薬物使用等の罪を犯した者(初入者等を除く)執行猶予の期間中、必ず保護観察に付される。
    • 薬物犯罪で収監された人々への治療に対する考え方
      • 従来より、世界的に刑務所に収容される囚人の人数の増加に伴い、刑務所が過密状態となることにより、囚人の基本的な人権が守られない事態が発生していることから、刑務所の過密状態の解消及び囚人の基本的な人権を守ることを目的として、刑務所への収容に代わる案が提案されてきた。特に、代替策を検討すべき集団として、薬物の使用者が挙げられており、これらの集団に対する代替策として、1)非犯罪化、2)ドラッグコートが提案されてきた。*Handbook of basic principles and promising practices on Alternatives to Imprisonment(United Nations,2007)
      • 平成28(2016)年に開催された第3回国連麻薬特別総会において、「世界的な薬物問題に効果的に対処するための共同コミットメント(※)」が採択され、(1)薬物使用障害の治療や感染症予防・治療を含む需要の削減、(2)医療・科学上の目的のための規制物質の利用・アクセスの確保、(3)効果的な法執行、マネー・ローンダリング対策等を通じた供給削減、(4)薬物と人権、青少年、女性及びコミュニティ、(5)新精神作用物質等の新たな問題、(6)国際協力の強化、(7)代替開発等の7項目について、施策上の勧告がなされており、(4)の中には以下の事項も含まれている。
        • 収監された人々に対する薬物使用障害の治療へのアクセスの強化
        • 刑務所の過密状態と暴力の解消を目的とした措置の実施等
        • これは、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の基本理念である「誰一人取り残さない(leave no one behind)」が背景にあるためである。
    • 米国におけるドラッグコート
      1. ドラッグコートとは
        • 薬物専門裁判所であり、問題解決型裁判所※の一つ。犯罪行為を裁くのではなく、その行為の原因となる「根本原因」を治療・除去することによる真の問題解決を目的とする。
          ※ 根本原因の治療・除去による真の問題解決を目的とした裁判所の総称
      2. 背景
        • 1980年代にコカイン乱用者が著しく増加し、過剰拘禁状態となったことから、1989年にフロリダ州デイド郡マイアミ市において、過剰拘禁状態を解消するための手段として初めて取り入れられた。
      3. 仕組み
        • 刑務所に収容される代わりに、裁判所の監視の下で社会生活を続け、定期的に出廷し、薬物検査を受け、治療プログラムに参加することで、薬物を使わない生活を身につける。
        • ドラッグコートに参加するには、薬物犯罪を犯したと認めることが必須
        • プログラムは通常1から2年間。
        • 出廷しない、薬物検査陽性などの遵守事項に違反した場合、短期間の拘禁(通常2日から2週間程度)などの処罰を受ける。
        • プログラムを終了した場合は、逮捕歴、有罪判決が取り消される。

コロナ禍にあって米国の合法大麻の売上が年間1.9兆円に達したといいます。報道(2021年3月5日付Forbs JAPAN)によれば、昨年この業界が成長を達成できた背景には3つの要因があるとい、「その一つは、パンデミックを受けて新たに大麻を使用し始める顧客が増えたこと。大麻を合法化した多くの州は、ロックダウンの期間中、大麻販売店をエッセンシャルビジネス(必要不可欠な業種)に指定していた」といいます。もう一つの要因は、「人々の大麻の消費量が以前より増えたこと。BDSAの調査では消費者の約30%が、大麻を以前より頻繁に購入するようになったと回答した。さらに、「2020年の年末時点の大麻の使用者は、その半年前と比較して増加した」ことも示されています。さらに、「大麻市場の大部分はまだ、違法な闇市場にあるとされており、違法大麻の売り上げは年間1,000億ドル以上と推定されている。しかし、合法の大麻市場もゆっくりとではあるが拡大を続けており、BDSAは、2026年までに米国の合法大麻市場の年間売上高が410億ドルに達すると予測している。これは、クラフトビールに匹敵する市場規模だ」と指摘しています。大麻販売店がエッセンシャルビジネスに指定されていたこと自体驚かされますが、2021年3月23日付毎日新聞によれば、昨年3月の最も厳しいロックダウンの際にも通常の営業を許可していたという事実、大麻の吸引は、たばこと同じくコロナ感染のリスクが高いのではないかとの指摘があり、飲食店やサービス業(散髪、ネイル、マッサージなど)が州政府から厳しい営業制限を受ける中、大麻はミルクやパンなどの「生活必需品」と同じ扱いとなった事実、直近では、コロナワクチンの接種が始まると、大麻取扱店で働く人は医療従事者と同じく「最優先接種」の対象者となった事実(行政側は「医療用大麻も扱うから」と説明)などが紹介され、大変衝撃を受けました。少なくとも、多くの教師や警官、消防隊員などより優先して受けられるという判断には強い違和感を覚えます。また、コロナ禍で利用者あたり消費量が増加したこと、そもそも利用者が増加したことなどだけみれば「需要がある」ことは間違いありませんが、一方で健康被害や大量摂取の影響が今後表面化してくる可能性もある中、これだけ手厚く処遇されている背景は何なのか、理解が追い付いていない状況です。

さて、このような中、米ニューヨーク州(NY州)は3月31日、嗜好用大麻の合法化に踏み切りました。本コラムでもたびたび取り上げてきたとおり、大麻については、WHOは脳機能や精神などに障害が生じるリスクが高まると指摘しています。麻薬単一条約でも規制される違法薬物で、国際的な薬物統制のルールに逸脱する動きだといえます。米国では「大麻使用による健康被害はない」との誤解が広がり、NY州は大麻を合法化した15番目の州となりました。報道によれば、21歳以上の成人による3オンス(約85グラム)までの所持や、たばこの喫煙スペースでの使用が認められ、1年半から2年後には販売や配達、個人使用を目的とした自宅での6株までの栽培も認められる見通しだといいます。さらに、過去に大麻関連で有罪判決を受けた数千人の犯罪歴も抹消されるということです。なお、その背景には、大麻の所持や使用に人種差はないとみられる中、黒人やヒスパニック(中南米系)の摘発件数が不釣り合いに多いため、民主党議員が合法化を求めていたという経緯があります。州政府は合法化により3~6万人の雇用拡大と3億5,000万ドル(約390億円)の税収増と見込んでおり、税収の4割は黒人や中南米系らマイノリティ(少数派)の支援策に充てるといいます。また、当然のことながら、薬物犯罪組織による違法収益への打撃や捜査経済の観点、裁判や刑務所の運営コストの観点、そもそも大麻の限界普及率(50%)近くまで普及すれば、嗜好用大麻を解禁しようとしまいと今後の増加が抑えられるといった観点から、「リスクよりメリットが上回る」状況になったことも判断要素としてあるように思われます。既に解禁した国や地域のその後の変化に対する評価が確定しない中、NY州の動きが与えるインパクトは大きいものと考えられるところ、今後の大麻を巡る社会情勢の変化に注目していきたいと思います。なお、大麻の栽培や所持などを禁じた日本の大麻取締法は国外でも適用されることから、日本の外務省は、在留邦人や日本人観光客に「手を出さないよう注意してほしい」と注意喚起しています。

メキシコでも嗜好用大麻の合法化の大枠が決まりました。国家としての解禁は南米ウルグアイ、カナダに次いで3カ国目となり、人口規模では世界最大の市場となります。報道によれば、政府は組織犯罪の減少や税収の増加を期待しているといいますが、一方で、国民の間では健康被害や未成年者への悪影響を懸念する声は根強く残っているようです。解禁内容については、18歳以上の個人が自宅で大麻を栽培する場合は登録したうえで、1人6鉢、2人以上では8鉢までの栽培が認可されるほか、28グラムまでの所持が認められ、使用は原則としては住居内となるようです。許可なくそれ以上所持していれば罰金や刑罰が科されるほか、大麻草の栽培やマリフアナの流通などは免許制を導入するといいます。なお、メキシコでは2017年に医療用の大麻使用が合法化され、最高裁が2018年に「娯楽用の大麻使用禁止は権利侵害」という原告の訴えを認めて、議会に立法化を求めており、議論が続いていた経緯があります。また、メキシコでは違法薬物が犯罪組織の資金源になっており、政府は嗜好用大麻の合法化で、生産や流通を牛耳る犯罪組織の関与を減らし弱体化させたい考えでもあります(麻薬カルテル同士の抗争による社会不安・治安悪化を立て直したいという点もありえます)。さらに、農民が正規に栽培できるようになれば、貧困地域の底上げになることも期待されています。

その他、最近の海外の薬物を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 2021年3月26日付け産経新聞によれば、今、海外では、コロナ禍のせいで違法薬物の需給バランスが崩れるなどし、中毒者の増加やそれに伴う犯罪の多発などが懸念されているといいます。長年、違法薬物の密輸拠点とされているタイでは、コロナ禍によって国際的な輸出網が突如、大混乱に陥ったため、ヤーバー(Ya ba)と呼ばれる違法薬物の錠剤が国内でだぶつき、大安売りされているといいます。ヤーバーのような違法な合成薬物はミャンマーやラオスから輸入されており、反政府勢力や麻薬組織の重要な資金源となっています。国連の調べでは、2019年に710億ドル以上の利益を上げましたが、うち約80%はヤーバーだといいます。さらに、今ではタイの刑務所の受刑者のうち、約80%がヤーバーがらみの罪で投獄されているということです。
  • 欧州でも薬物が大量に流入しており、とりわけ独では、今年2月末、ハンブルクの税関が、パテ(充てん剤)が入っているはずのブリキ缶約1,700個から、計約16トンのコカインを発見・押収しています。これらのコカインはパラグアイからの船便のコンテナに隠されており、末端価格は15億ユーロから35億ユーロ(約1,900億円から約4,500億円)にのぼり、欧州で一度に押収されたコカインの量としては過去最多ということです。欧米では、コロナ禍のあおりで大量発生している失業者が一斉に違法薬物に走るのではないかとの見方がでており、警戒が必要な状況です。
  • 米ニューヨークの連邦地裁は、大量のコカインを米国に密輸したなどとして、中米ホンジュラスのフアン・エルナンデス大統領の弟に終身刑の判決を言い渡しています。報道によれば、検察側は、売り上げの一部がエルナンデス氏に流れたと主張、密輸について「国家ぐるみだ」と非難しています。エルナンデス氏を巡っては、地裁で3月に開かれた密売人とされる別のホンジュラス人の男の裁判でも関与を疑わせる証言が出ており、証人出廷した匿名の人物が「賄賂を受け取ったエルナンデス氏は『米国人の鼻にドラッグを詰め込んでやれ』と言った」などと証言したといいます。エルナンデス氏は疑惑を完全否定し、来年1月の任期まで麻薬組織との戦いを続けると強調しているといいます。
  • 麻薬密輸容疑で指名手配され逃亡中だったイタリア犯罪組織メンバーの男が、趣味の料理の腕前を披露するユーチューブ動画をきっかけに逮捕されたといいます。顔を隠していたものの、腕の入れ墨で身元を特定されたということです。この男は、イタリア南部カラブリア州を拠点とする犯罪組織「ヌドランゲタ」のメンバーで、ヌドランゲタはシチリア州のマフィアやカンパニア州のカモッラなどと並ぶイタリアの代表的な犯罪組織の一つです。
  • スペインで麻薬組織が摘発され、コカイン600キロと現金70万ユーロ(約9,200万円)などを押収、スペインの警察は、マドリード最大の麻薬密売組織を摘発し、マネー・ローンダリングのアドバイスをした弁護士を含む12人を逮捕したと発表しています。組織は拳銃や日本刀など多数の武器も所持していたといいます。なお、警察は、国際的な合同捜査によりマラガで建造された麻薬を運ぶための潜水艇を押収したと発表していました。この潜水艇は、長さ9メートル・幅3メートルで積載量は2トン、3つの貨物室を備えており、最大2,000キロの薬物を密輸するめに設計されたということです。報道によれば、半潜水型の潜水艦は発見が難しいとされ、建造するには大金がかかり、潜水艦は南米の密輸団で長く使われているものの、欧州での利用はもっと少ないとみられていたようです。
  • フランスのボルドーで、大麻の成分のひとつであるカンナビジオール(CBD)入りワインが初めて生まれています。実は厳しい取り決めとは裏腹に、フランスはヨーロッパでもっとも大麻使用の多い国で、時々消費する人は500万人、常習者は90万人を数えるようです。また、若者への普及率も高い実態があり、禁止は抑制にはつながらないという主張が定期的に唱えられ、大麻の合法化は何度も議論に上ってきたようです。2021年3月1日にも大麻の娯楽的使用の合法化についての世論調査が発表され、80%以上が法規制内での大麻使用を認める案に賛成と答えており、今後何らかの動きにつながることが予想されています。

(4)テロリスクを巡る動向

アフガニスタンの反政府勢力(旧支配勢力)タリバンと米国が、和平に向けた合意を結んでから2月末で1年が経過、駐留米軍の撤退期限である5月1日が目前に迫っている中、和平に向けた交渉が難航しています。本コラムでも取り上げてきたとおり、仲裁役の米国は両者を和解させ、アフガン駐留米軍を撤退させたい考えのところ、政府とタリバン両者とも米国の和解案を拒んでいる状況にあり、5月1日の期限を前に、米国は和平シナリオの立て直しを迫られています。そもそも2001年の米同時多発テロをきっかけに始まったアフガン紛争は「米国史上最長の戦争」と呼ばれ、これまでに約2,400人の米兵が死亡、トランプ前大統領は大統領就任後、年4兆円規模に上る駐留経費を「無駄」と訴え、昨年2月の合意後、約13,000人いた駐留米軍を約2,500人まで一気に減らしました。一方、タリバンは合意後、駐留米軍への攻撃は止めたものの、アフガン政府関連施設などを狙った攻撃やテロは続けており、アフガン内務省によると、3月中旬までの1年間にタリバンによる2,266件の自爆テロと爆破攻撃があり、市民1,993人が死亡するなど、タリバンとアフガン政府の関係に改善の兆しも見られず、協議にも進展は見られていません。このような状況をふまえ、米バイデン政権はこのまま期限通りに撤収すれば治安悪化の恐れがあると判断し、アフガン周辺国に6カ月間の駐留延長検討を伝えています。バイデン政権は無期限の駐留延長を望んでいないといい、アフガンに影響力を持つロシアや中国、イラン、パキスタン、インドを集めた国連主導の多国間協議を探っているといいます。さらに、アフガン政府とタリバンに和平協議を加速させるよう国際的な圧力をかける狙いもあります。報道によれば、4月にはアフガン政府とタリバンが直接対話するとの観測がある中、米軍が撤収を延期するには、タリバンの同意を得て、和平合意の修正が必要になり、タリバンが同意しなければ米軍に対する攻撃が勢いを増し、2001年に始まった米史上最長のアフガン戦争がさらに泥沼化する可能性、アフガン政府とタリバンの和平対話が一段と停滞するリスクも考えられるところです。このような米の姿勢に対しタリバンは、「(米国が5月1日までの完全撤退を約束した)合意は20年続く紛争を終わらせる最短の道だ」と指摘した上で、「米国の合意違反は明確で、責任を問われることになる」と非難する声明を出し、期限の5月1日までに撤退しない場合、駐留米軍への攻撃を強める姿勢を示しています。タリバンとしては駐留米軍を早期に撤退させることで、権力を再び掌握したい思惑があると考えられます。

本コラムでも取り上げた、昨年10月にパリ近郊の中学校で、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を授業の教材にしたサミュエル・パティ教諭=当時(47)=が首を切られて殺害された事件で、発端となった女子生徒の告発が虚偽だったことがフランスの報道で明らかになっています。報道(2021年3月25日付時事通信)によれば、女子生徒は問題の授業を欠席していたにもかかわらず、自身の父親に対し、教諭が風刺画を見せる前にイスラム教徒に挙手を求め、教室を出るよう促したと主張、自分はこれに逆らい、2日間の停学処分になったと虚偽の説明を行ったということです(実際には素行不良による停学だったといいます)。報道では、「「優しい先生」と評判だった教諭の命を奪うだけでなく、イスラム教徒が多い国々とフランスの対立を招いた虚言に、やりきれない思いが広がっている」と報じていますが、虚言が招いた事件によって、「冒涜の自由」を主張してまで「表現の自由」を守ろうとしたフランスとイスラム勢力との激しい衝突が起き、それによってさらなる分断を深めたことは紛れもない事実であり、互いに確固とした価値観がある以上、どちらが正しいではなく、相互の「違い」を受容し、共生していくために自らを律し、自制していくことが不可欠であることをあらためて認識させたという意味でこの事件は意義があるのだとせめて思いたいものです。関連して、2021年3月19日付産経新聞「共生は「他者」への礼儀から 飯山陽さん新作『イスラム教再考』」は非常に考えさせられるものでした。以下、少し長くなりますが、抜粋して引用します。

「日本では多文化共生こそが日本の未来の理想像だと主張されるが、大量の移民を受け入れ、多文化共生をいち早く試みたドイツやフランスの首脳は多文化主義の失敗を認めている」 最も訴えたかったのは多文化主義の危険性だ。「最新の世界価値観調査で日本人の55.6%が『移民は国の文化的多様性を強化する』と回答しているが、その実態は十分に理解できていないようだ」という。外国人が近所に住んで片言の日本語であいさつを交わすとか、さまざまな国の料理を提供するレストランができて世界のグルメが楽しめるといった世界ではない。日本語も日本の常識も通用しない他者の文化が常識として通用する“並行社会”が形成される」 多文化共生とはそうした「緊張感をはらむ切実な問題」だ。・・・知っておくべきことは、イスラム教は日本人の常識や世界観とかなりかけ離れた教義を有する宗教だということ。話せば分かり合えるという安直な認識は避け、分からない相手だからこそ礼儀をもって接することが大切だという。「相手には別の当たり前が存在するという認識は人とのつきあいの基本だろう。イスラム教やイスラム教徒について知ることを通して、そうした人づきあいの基本に立ち返るのは意義あることだと思う」 「同じ日本人同士でも『気持ち』を共有できないというだけで他者を排斥するような人が、言葉も文化も宗教も共有しない『他者』と礼儀をもって付き合うことなどできるのか。イスラム教徒を含む外国人が多く暮らす社会を迎えて問われるのは、そうした覚悟だと思う」

一方、多文化共生や相互の「違い」を受容すべきという点とは相反する動きも世界各地でみられています。スイスで、イスラム教徒の女性が身に着ける「ブルカ」や「ニカブ」を念頭に、公共の場で顔を隠す衣装の着用を禁止する提案をめぐり国民投票が行われ、賛成約51%、反対約49%の僅差で可決されました。投票率は約51%で、これにより、公道や飲食店など全ての公共の場での着用が禁止されることになります(一方、礼拝や安全上の理由など例外も認められています)。報道によれば、国民党議員は投票前、「スイスでは顔を見せることが伝統であり、基本的自由の象徴だ。(顔を隠すことは)イスラム過激派のシンボルだ」と主張、一方、連邦政府は「提案は行き過ぎだ」として、国民に反対票を投じるよう呼び掛けていたものです。「郷に入っては郷に従え」とする価値観(国民性・あるべき国民像の尊重)がある一方で、その価値観を守るために「違い」を認めず、多様性を尊重しない(排除する)姿勢が行き過ぎれば、さらに分断を深めることになりかねず、今後の影響が懸念されるところです(スイスに限ったことではなく、「多文化共生の失敗」という経験が背景にあるということなのかもしれません)。また、2021年3月14日付AFP通信によれば、スリランカ政府は、宗教的な過激主義者を取り締まり、「非急進化」を目的に被疑者を最長2年拘束できるテロ対策法の適用を発表しています。2019年のイスラム過激派の犯行とみられる爆発事件以降、一時的に禁止されていた「ブルカ」の着用を正式に禁止する方針も明らかにしています。報道によれば、ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領も、テロ対策法は「暴力行為や、宗教、人種、共同体間の不調和、異なる共同体間の憎悪や敵意」を引き起こす疑いのある者の拘束を認めるものだと説明しています。さらに、公安相は、全身を覆うブルカは「わが国の安全保障に直接影響を及ぼすもの」であり、「最近になってスリランカに入ってきたもので、宗教的な過激思想の象徴だ」とコメント、ブルカ着用を禁止する文書に署名したと発表しています。スリランカでは2019年4月、三つの教会が標的となり、279人が死亡したイスラム過激派による連続爆破事件が発生、直後の非常事態宣言下でブルカの着用が一時的に禁止されました。この事件以降、スリランカでは少数派のイスラム教徒と多数派の仏教徒間の緊張が再び高まり、観光業に依存する同国経済も深刻な打撃を受けています。そのような背景があるとはいえ、イスラム教の文化ブルカが多くの国でイスラム過激派の象徴として規制強化の対象となったことは、実は、宗教の自由や表現の自由など自由民主主義が勝ち取ってきた大事な価値観を自己否定することになるものであり、テロの脅威の大きさとの比較考量において、「そこまで制限することが許されるのか」の議論が十分になされていないように感じられます。なお、このような多文化共生を巡る相克がある中、ベルギーでは、32人が犠牲となった2016年の同時テロから5年を迎えています。ベルギー当局は今も約500人を監視対象にするなどテロへの警戒を続けている状況にあります。現場となったブリュッセルの地下鉄駅や郊外の国際空港などで追悼式が行われ、フィリップ国王夫妻やデクロー首相が出席、新型コロナウイルス対策のため、一連の追悼式では参列者は少人数に限定されたということですが、式典でデクロー首相は「コロナ危機が人間のつながりの大切さを思い出させた」と指摘、「この人間性が恐怖や憎しみの破壊的な力への最善の答えだ」と強調しています。人間のつながりを重要視することがテロ対策にとって最も重要だというメッセージは正にその通りかと思います。そもそも人心・国土の荒廃、貧困や社会不安の増大がテロを生む土壌となることは本コラムでもたびたび指摘してきたところであり、コロナ禍で人間のつながりがあらためて見直されている中、社会から誰一人取り残されない「社会的包摂」がテロの防波堤となることを今一度認識すべきかと思います。

さて、アフリカでテロが頻発しています。モザンビーク北部のカボデルガード州の街パルマで、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う勢力が攻撃を始め、多数の死傷者が出ているということです。同州の沖合ではフランスの石油・ガス大手トタルが主導し、日本企業も参画する巨大ガス田の開発事業が進んでいます。トタル社は開発事業のスタッフに人的被害は出ていないと説明しているようです。同州では2017年から過激派による襲撃事件が発生、最近は攻撃が激化し、トタル社は今年1月に開発事業を一時中断しており、今回の襲撃は事業再開を発表した直後に起きたということ、今後の事業への影響が懸念されます。また、西アフリカのニジェール西部で複数の村がイスラム過激派に襲撃され、ニジェール政府は、少なくとも137人が殺害されたと発表しています。イスラム過激派が横行するサヘル地域のニジェールで、一度の襲撃の被害としては近年で最悪の無差別大量殺害の一つとなりました。報道によれば、ニジェール西部では直前にも買い物客を乗せたバスなどが襲われて66人が殺害されており、サヘル地域でも特にマリ、ニジェール、ブルキナファソの国境地帯の治安悪化が顕著になっているといいます。さらに、ナイジェリア北部カドゥナ州で、武装勢力が大学を襲撃し、学生39人を連れ去る事件がありました。ナイジェリアでは昨年12月以降、北部を中心に学校が襲撃されて多数の生徒が拉致される事件が相次いでおり、今回で4件目となります。武装勢力は主に身代金を目的としているとされ、これまでの3件とも拉致された生徒らは解放されましたが、政府は身代金の支払いを否定していますが、政府側が身代金の支払いに応じたことが事件を誘発したとの見方が広がり、政府の治安対応に批判が集まっています。この点については、前回の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)で、「これだけ頻発して、かつその後全員が解放されていることを鑑みれば、身代金が実際に支払われている可能性が高いように思われます。(人命第一であるとはいえ)身代金が武装組織(テロ組織)の活動資金源となってしまっている(さらには犯罪を再生産してしまっている)のであれば、大変由々しき状況だといえます」と指摘しました。

アジアでもテロリスクの高まりが感じられます。インドネシア中部スラウェシ島マカッサルで、キリスト教会の入り口で爆発が起きました。報道によれば、この爆発で2人が死亡し、20人が負傷したといい、ジョコ大統領は「テロ行為だ」との見方を示しています。インドネシアではイスラム過激派による異教徒や警察などを狙ったテロがたびたび発生しており、2018年5月には第2の都市スラバヤの教会3か所で自爆テロが起き、50人以上が死傷しています。また、世界で最も安全な国のひとつとされるシンガポールで今年に入り、16歳と20歳の若者によるテロ計画が相次いで明るみに出て衝撃が走っています。報道によれば、2人はテロ組織には属さず、それぞれ独自にネット情報に影響されて、「自己過激化」したといいます。各国から人材を受け入れ、人種も宗教も多様な国だけに、テロリスクには敏感にならざるを得ず。テロの火種は徹底して抑えこむ必要に迫られているところ、ホームグロウン・テロリストの出現は大変悩ましい問題だといえます

日本においては、東京五輪・パラリンピックを目前に控えテロへの備えをしっかりと取るべきところ、コロナ禍への対応に世間の関心が集中しており、組織委員会や関係当局等の努力の一方で国民・社会のテロへの備えが疎かになっているのはないか、そのような状況がテロ発生を誘発しかねない危険性を助長しているのではないか、そのような間隙を縫って大規模なテロが発生するのではないかとの脅威を感じています。そのような中、東京電力柏崎刈羽原発を巡り、テロ対策のあり方を根本から覆すような不祥事が発覚しています。昨年9月に社員が他人のIDカードを使って中央制御室に不正入室していた問題に加え、新たに、昨年3月以降、核物質防護のため立ち入りが制限される区域で、複数個所で不正侵入を検知する設備が故障したのに保守や点検を行わず、機能を保てなかったということが発覚しました(さらには、これ以前にも同様の事案が発生しており、「組織的な管理機能が低下し、防護措置の有効性を長期にわたり適切に把握しておらず、核物質防護上、重大な事態になり得る状況にあった」との規制員会のコメントも報じられています)。自社の規定で1年ごとに行うと定めた定期評価や改善活動の記録は残っていたものの、結果として外部からの侵入を許しかねない状況が長期間続いたといいます。さらに、一連の評価や改善には小早川智明社長ら経営層も関与することになっていたと指摘されています。なお、本件については、2021年3月28日付産経新聞にそのあたりが端的にまとめられていますので、以下、抜粋して引用します。

同原発に設置した監視装置の故障を長期間放置していた。規制委は外部からの侵入を許す恐れがあったとみて、安全上の評価について4段階で最悪の水準と認定した。安全に対する意識が根本から問われる深刻な事態である。規制委は追加検査の実施を表明し、地元自治体も反発を強めている。これによって同原発の再稼働は大きく遠のき、電力の安定供給にも支障が生じかねない。何より原因究明と再発防止の徹底が不可欠である。そのうえで会社全体の安全意識を改めなくてはならない。縦割り組織の改革にも取り組む必要がある。敷地内への侵入者を検知する監視装置の故障は昨年3月からで、代わりの設備も十分に機能していなかった。同原発では昨年9月にも、所員が同僚のIDカードで中央制御室に不正入室した問題が発覚している。今回の不備は規制委の抜き打ち検査で判明した。原発を安全に運転する上で、テロ対策は事故防止と並ぶ重要な柱である。テロリストなど不審者の侵入を防げない警備体制では、原発の安全・安心を確保したとは到底いえない。

原子力規制委員会は、原子炉等規制法に基づき、東京電力に核燃料の移動を禁じる是正措置命令を出しました。長期間にわたり第三者・テロリストが不正に原発内に侵入できる可能性・脅威があったことを重く見たもので、2012年の規制委発足後、是正措置命令を出すのは初めてとなります。東京電力は、弁明の機会を設けられたものの、弁明を行わないと回答、是正措置命令が確定しました。同委員会は東京電力に対し、行政処分とは別に9月23日までに再発防止策などの報告も求めており、同委員会は報告を受けた後、のべ2,000時間の追加検査を行い、東電の改善策などを確認することとしており、追加検査には1年以上かかるとみられています。なお、昨年9月の問題については、東京電力が報告書を公表しており、「運転員がIDカードを紛失したと思い込み、同僚のカードを無断で使い、認証手続きを通過し中央制御に入室した。3人の警備員が不審に思ったが通過を認め、うち1人は認証エラーが出た後、カードの識別情報を書き換えさせた」ということです。さらに報告書は、不正入室の背後に、核物質防護のルールの理解不足などに加え、社内風土の問題があったと指摘、東京電力は会見で、警備員は「運転員は社員の中でもレベルが高い」との意識から不審に感じても強く言えず、運転員も警備業務を尊重する気持ちが不足していたと説明しています。さらに、テロなど外部からの脅威に重点を置いた「性善説に立った対策だった」として、社員の不正による「内部脅威」への意識が足りなかったと認めています。テロは外部からの攻撃であるとともに、内通者を潜り込ませて内部から手引きをする、内部で破壊工作を行うといった「内部脅威への対応」も重視されるべきものです。こういった点からも、「原発を安全に運転する上で、テロ対策は事故防止と並ぶ重要な柱である。テロリストなど不審者の侵入を防げない警備体制では、原発の安全・安心を確保したとは到底いえない」との前述の指摘は正にその通りであり、テロ対策が十分でないのであれば原発を稼働する資格がないともいえます。

(5)犯罪インフラを巡る動向

2021年3月15日付産経新聞によれば、昨年1年間に埼玉県警へ寄せられたサイバー犯罪に関する相談件数は8,507件(前年比1,375件増)で、現行の統計を開始した2015年以降で最も多かったといいます。このような傾向は何も埼玉県に限ったことではありませんが、ポイントは、「新型コロナウイルス感染拡大の影響で「非対面」「非接触」の商品販売が主流になりつつあることに目をつけた手口が多く、県警は注意を促している」との指摘です。さらに、「相談を手口別でみると、「詐欺・悪質商法」の3,441件(同771件増)が最多だった。外出自粛の浸透を背景に利用者が増えているインターネット通販に関し「代金を支払ったのに商品が届かない」などの相談が寄せられた」、また、「捜査関係者は「犯人が被害者に対面する必要がなく、海外のサーバなどを使えば身元を隠しやすい」と背景を分析する」との指摘も説得力があります。犯罪インフラも「非対面」「非接触」がキーワードとなり、これに「匿名性」の高さを追求するための「SNS」、「ダークウェブ」、「暗号資産(仮想通貨)」といった犯罪インフラとが複雑・相互に絡み合って、技術革新にも即座に対応し大きな被害をもたらすだけの犯罪の高度化が急激に進むことが予想されます。

SNSの犯罪インフラ化については、これまでの本コラムでも取り上げていますが、昨年1年間にSNSの利用をきっかけに事件に巻き込まれた18歳未満の子どもが1,819人(前年比▲12.6%)となりました。そのうち略取誘拐の被害は6割増の75人、殺人未遂が2人あり、スマホの普及とあいまってSNSの悪用が重大な犯罪につながるおそれが増しています。なお、悪用されたSNSは「ツイッター」が最多の642人、次に多かったのは「インスタグラム」の221人、若者に人気の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の被害者数も初めて明らかになり、76人、学生限定アプリ「ひま部」が160人、音声でやり取りする「KoeTomo(声とも)」が63人などとなっています。なお、コロナ禍で居場所をなくした「家出少女」がターゲットとされる事例も多発するなど犯罪インフラ化は深刻で、SNSでは簡単に名前や身分を偽装することができるため、相手の下心や悪意を見抜くのは難しく、SNS運営側がすぐに危険な投稿を削除できる態勢を整えることや、困っている女の子に対して正しい情報を提供するなど対策が必要な状況だといえます。また、偽造在留カードで不法滞在していたとして、在日外国人が摘発されるケースが後を絶ちません。入手先の多くがSNSで知り合ったブローカーで、特にコロナ禍が続くなか、SNSは貴重な情報源や交流の場となっており、利便性の裏にある「犯罪インフラ」性が強化されている状況です。報道によれば、在日ベトナム人向けのSNSのサイトでは、犯罪に関わるような投稿が増えたように感じられるといい、コロナ禍で働き口が減るなど苦境にあるなか、違法と分かっていても悪い情報に頼らざるを得ない状況が犯罪グループにつけこまれやすくなっているのではないかと指摘されています。SNSがすべて悪いわけではありませんが、困った人たちと犯罪を結びつけてしまう犯罪インフラ化の実態を見るにつけ、事業者側においても監視態勢の強化はやはり急務だといえます。さて、その在日ベトナム人ですが、前述した「令和2年における組織犯罪の情勢」でも指摘されているとおり、犯罪に走る者が増えています。その背景には大きく2つの構図があります。ひとつは、彼らの多くが従事している労働環境の過酷さや構造的な中間搾取、低賃金、それらを苦にした逃亡などがあり、これらは主に、技能実習制度や留学制度をはじめとした日本の外国人労働制度の欠陥や、日本社会の企業組織や労働現場のあり方に主たる原因があるとの指摘があります。一方、もうひとつの問題は、不良化した留学生や逃亡した技能実習生らによる犯罪の増加という側面です。これらの「犯罪」には、偽造身分証や車両の入手、さらには自己消費目的での家畜の泥棒といった、生きるうえでやむを得ず選択したと言えなくもない行為もあるものの、なかには最初から盗品の転売を目的とした組織的な窃盗や、借金の督促のための同胞へのリンチなど、明白な違法行為を自身の積極的な意志によって行っている例も散見されます。言い換えれば、在日ベトナム人にとっては、日本という社会そのものが犯罪を誘発する、助長する側面もあること、自ら積極的に犯罪を犯そうとする者にとっては、犯罪の道具(犯罪インフラ)を入手・手配することが比較的容易な環境が日本にあることなどが指摘できるということです。

その他、犯罪インフラを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 広域窃盗団を組織して全国で空き巣などを繰り返していたとして、京都府警捜査3課は、総合建築会社社長ら15人を窃盗や住居侵入などの疑いで逮捕・送検しています。報道によれば、被害件数は38都府県で計211件、被害総額は現金3,200万円と貴金属、金塊など計約1億5,000万円に上るということです。容疑者は愛知県内に総合建築会社を設立し、従業員らを役割別に窃盗実行犯、盗品売却、支援の3班に分け、組織的に空き巣や忍び込みを繰り返していたということですから、会社自体が広域窃盗を目的にしたものであり、会社が犯罪インフラとなった事例といえます。
  • 民泊施設に侵入して宿泊客の金品を盗んだとして、大阪府警は無職の容疑者を窃盗などの疑いで逮捕しています。報道によれば、大阪市内の複数の民泊施設や店舗に侵入し、現金や高級腕時計など計1,240万円相当の金品を盗むなど14事件に関与した疑いがあるといい、「民泊を経営していたが失敗し、借金がかさんでいた。経験則で、施設の鍵の置き場所には見当がついた」と容疑を認めているといいます。大阪地検は、昨年12月の最初の逮捕時に、民泊の部屋などの鍵約80本を押収したといいます。空き部屋の鍵の場所を不動産事業者であれば把握できるものと
  • 本コラムでも取り上げてきた将来の給与を債権として買い取る「給与ファクタリング」と呼ばれる手口で現金を貸し付け、法定の18倍以上の利息を受け取っていたとして京都の「日本強運堂」代表取締役ら男女5人が逮捕されています。顧客4人に対する貸し付けで、法定利息のおよそ15倍から最大およそ18.25倍にのぼる、あわせて47万円あまりの利息を受け取った出資法違反の疑いが持たれています。報道によれば、「日本強運堂」は全国の1,200人以上におよそ1億円を貸し付けて、およそ1億6,000万円を回収していたとみられ、警察は、最大で法定の30倍以上の利息を受け取っていたケースもあったとみて追及しているということです。
  • ほぼ価値のない商品を代金後払いで販売し、一部を即座にキャッシュバックする形で現金を融通する「後払い現金化」と呼ばれる商法をめぐり、貸金業法などに抵触する違法行為で被害を受けたとして、大阪府内の20~50代の男性5人が、業者6社に計約110万円の損害賠償を求め、大阪簡裁などに一斉提訴しています。後払い現金化に関する一斉提訴は全国初だということです。報道によれば、原告の一人の20代男性は昨年10月、業者から二束三文の画像データの購入を契約、即日3万円が口座に入金され、後日、データ代として5万円を支払ったといいます。同様の取引で2つの業者から計約30万円を受け取った後に、それを上回る計約41万円を支払ったということです。弁護側は、差額は貸金業法などが定める利息の上限を大幅に超え、違法だとしています。
  • タスク管理ツール「Trello」(トレロ)で、誤って「公開」設定した利用者の情報がインターネット上で誰でも閲覧できる状態になっていた問題ですが、利用者が「非公開」などに設定を変更したとしても、設定変更以前に、こうした情報が第三者により転載・拡散される事態が起きており、悪用される危険が消えていない点に注意が必要です。たとえば、2021年4月10日付毎日新聞では、「本人になりすましての貸金業者などからの借り入れ」の懸念が指摘されています。「多くの金融機関は通常、融資の際は対面で運転免許証など顔写真付きの書類と本人の姿を照らし合わせる本人確認を行っている。だが、十分に本人確認をせずに融資を決めてしまう事業者の存在も否定はできず、流出データが悪用されるリスクは残る」というものです。Trlloの情報流出問題に限ったことではありませんが、いったん流出した情報は犯罪者の手にわたり何らかの形で悪用されるリスクを常に孕んでいます。今後の流出を防ぐ対応はマストですが、これまでの流出の事実を認識し、どんなアプローチがきても騙されないような慎重なネットやスマホ、SNSの利用が求められています。
  • 他人名義のクレジットカード情報を入手し、インターネット通販でタブレット端末を不正購入したとして、警視庁サイバー犯罪対策課などは私電磁的記録不正作出・同供用と窃盗の疑いでデイトレーダーら男女6人を逮捕しています。報道によれば、6人は不正に入手したクレジットカード情報を使い、通販サイトで購入した電化製品などを換金する手口を繰り返したとみられ、被害額は2億円以上になるとみられています。
  • カタールの銀行が発行した他人名義のプリペイドカードを使って日本で家電を不正に購入したとして、警視庁組織犯罪対策1課は、スリランカ国籍の無職の容疑者を詐欺などの疑いで逮捕しています。報道によれば、残高がない状態のプリペイドカードでも、決済端末がクレジットカードと誤認識していたとみられており、こうした不具合のある端末が日本の店舗で使われていることを狙い、2020年8月以降、30店舗で家電など少なくとも数百万円超を詐取したとみられています。極めて珍しい手口と思われますが、このような事例もありうること(ありえないと排除しないこと)を認識しておくことが重要だと思います。
  • NTTドコモの電子決済サービス「d払い」を不正利用し、大量のたばこをだまし取ろうとしたとして、千葉県警は、埼玉県富士見市、無職の男らベトナム国籍の2人を詐欺未遂容疑で逮捕しています。2人は昨年9月、千葉県船橋市内のコンビニ店で99台のスマホを使い、計約293万円分のたばこなどを他人名義のd払いで購入しようとした疑いがもたれていまます。報道によれば、事件では、契約者情報が書き込まれた通信カード(SIMカード)が入っていないドコモのスマホが使われ、県警はベトナム人グループが、SIMカードがなくても、Wi-Fi環境があれば利用できるd払いの特性を巧妙についたとみています。グループはSNSで「スマホ買います」と呼びかけ、応じた人にd払いのアプリをダウンロードさせていたといい、捜査関係者は「(売る側は)SIMカードがないスマホなら、悪用のリスクはないと思ったのではないか」と指摘しています。また、NTTドコモの電子決済サービス「ドコモ口座」を悪用した銀行預金の不正引き出し事件で、詐欺グループがドコモ口座を不正開設した際、フリーメールに加え、同じプロバイダーが顧客に発行したメールアドレス約600件を勝手に使っていたことがわかったということです。警視庁がプロバイダーに対し、メール利用者に注意喚起するよう求めています。事件では埼玉県警や警視庁などが今年1~2月、預金を不正入金したドコモ口座で商品を購入するなどした中国籍の男女6人を詐欺容疑などで逮捕、中国の犯罪組織が関与しているとみて捜査を続けています。ドコモ口座などは、決済サービスのアカウントを作成し、銀行口座と連携させて利用しますが、警察庁によれば、本人確認のために1回限りのパスワードをやり取りすることなどもなく、キャッシュカードの暗証番号などが分かれば連携が可能だった金融機関に被害が集中、暗証番号を使い回して被害にあったとみられるケースもあったということです。犯行グループは、決済サービスのアカウント作成から口座の連携を短期間で大量に行いつつ、短時間で連続決済していたといいます。
▼警察庁 スマートフォン決済サービスを利用した不正振替事犯に係る対策について
  1. 概要
    • スマートフォン決済サービスを利用した不正振替事犯に係る手口等が判明したことから、それら判明事項を活用して同種事案による被害防止等のための対策を実施した。
  2. スマートフォン決済サービスを利用した不正振替事犯の手口等
    1. 背景となる事案の概要
      • 事業者が提供するスマートフォン決済サービスに関して、同社と業務提携する金融機関に開設された口座情報を不正に入手・連携し、不正な振替(チャージ)を行うものであり、以下の特徴がみられた。
        • 犯行に用いるため、被疑者等がスマートフォン決済サービスのアカウントを作成
        • 口座番号等のほか、キャッシュカード暗証番号が分かればスマートフォン決済サービスとの連携が可能である金融機関に被害が集中
    2. 判明した主な手口等
      • 携帯電話販売代理店が携帯電話サービス利用申込みに係る個人情報を無断で領得し、当該情報を用いて、不正出金の被害が生じた預貯金口座をスマートフォン決済サービスとひも付けて口座振替(チャージ)を実施
      • 第三者の電子メールアカウントを正規利用者に無断で利用して、犯行に用いるスマートフォン決済サービスのアカウントを作成
      • スマートフォン決済サービスのアカウント作成から被害口座との連携までを短期間で大量に行いつつ、買い子が別の携帯電話端末から短時間で連続決済を実施
  3. 対策
    1. 金融機関に対する不正に取得された口座情報の提供
      • Ⅱ2(1)の手口で領得された約3,600口座分の口座情報について、警視庁から、(一財)日本サイバー犯罪対策センター(JC3)の枠組みも活用して該当する金融機関に対して情報提供するとともに、金融機関における調査や被害防止対策への活用を働き掛けた。
    2. サービス提供事業者に対する「無断で用いられた電子メールアカウント」情報の提供
      • Ⅱ2(2)の手口で無断で用いられた約600の電子メールアカウントについて、警視庁から、電子メールサービスの提供事業者に対して情報提供するとともに、パスワードリセットやアカウント停止、正規利用者へ連絡などの対策の実施を働き掛けた。
    3. 金融機関及びスマートフォン決済サービス提供事業者における対策強化の要請
      • 警察庁から、金融庁及び関係団体に対して、Ⅱ2(1)から(3)の手口等について情報提供するとともに、それらを踏まえた金融機関及びスマートフォン決済サービス提供事業者における不正防止対策の強化を要請した。

有識者で構成される警察庁の「サイバーセキュリティ政策会議」は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会活動の変化でサイバー攻撃による被害が深刻化しており、サイバー空間を「公共空間」として安全確保する必要があるとする報告書をまとめています。政府が掲げるデジタル化の推進で、今後、サイバー空間は地域や年代を問わず、重要な「公共性の高い場」に変化すると指摘、「普段生活する空間と変わらない安全の確保が必要だ」と強調しています。警察庁は報告書を受け、攻撃者の取り締まりだけでなく、組織や個人が被害に遭わないような安全対策を強化する方針といいます。

▼警察庁 【令和2年度】生活様式の変化等に伴うサイバー空間の新たな脅威に対処するための官民連携の更なる推進
▼報告書 本編
  • 日本のキャッシュレス化は、海外と比べて遅れていると指摘されており、政府は、令和元年に8%であったキャッシュレス決済比率を、令和7年までに4割程度とすることを目標に掲げている。一般に、キャッシュレス決済サービスにおいては、アカウントの乗っ取り、アカウントと銀行口座の不正な連携、クレジットカードの不正な登録、不正なアカウントの作成等の不正利用が確認されており、事業者ごとに不正利用の防止対策が講じられているが、安全性と利便性のバランスをとる必要があるほか、事業者だけでは対処が難しい課題もあり、官民が連携した取組の強化が求められている
  • コロナ禍により急速にテレワークが普及しているが、テレワークには、例えば、Windowsに標準装備されているリモートデスクトップとよばれる機能が活用されている。リモートデスクトップ機能により、外部から職場のパソコンに接続し、ファイルの編集やアプリケーションの起動が可能となるが、機能が攻撃者に悪用されれば、情報流出等の深刻な被害につながることとなる
  • コロナ禍の前より確認されていたフィッシングやマルウェア攻撃についても、その犯行手口等は悪質化しており、その被害も深刻化している実態があることから、官民が連携した対策が急務となっている
  • ランサムウエアは平成18年頃から存在し、PGPCoderとよばれるランサムウエアが、その例であるといわれており、パソコンのデスクトップ画像を変更して、脅迫文を表示させ、利用者に読むよう指示する手口が使われたが、この手口は、現在のランサムウエアでも踏襲されている。
  • その6年後に登場したCryptoLockerとよばれるランサムウエアは、身代金の支払いに暗号資産(仮想通貨)であるビットコインを要求し、暗号資産が身代金の取扱いに悪用される事例を作った。ビットコインが悪用された理由は、一つは、送金プロセスの中で、当事者の身元を匿名化できる性質を利用し、受取主である犯行グループの身元特定を困難にするためである。もう一つは、ビットコインが社会で普及し、より身代金の回収が容易になったためと考えられる。これ以後、ランサムウエアでは暗号資産を要求する手口が模倣されるようになった。
  • 平成26年には、CTB-Lockerとよばれるランサムウエアが登場し、ランサムウエアの生成技術がなくても、アフィリエイトプログラムへの参加により、誰でも収益を上げることが可能になった。アフィリエイトとは、ランサムウエアの生成や実行の基盤を提供して、実行役の参加者を募集する仕組みのことをいう。参加者はこのプログラムに参加して、実行基盤からランサムウエアをダウンロードし、被害者に送りつけてマルウェアに感染させ、身代金の支払いに応じさせた場合には、その実行役には身代金の7~8割程度を分配し、CTBLockerの提供元には身代金の2~3割程度が入る仕組みになっている。これにより、実行役は、ランサムウエアに関するITの詳細な知識がなくても、例えばメールで相手方をマルウェアに感染させることによって、収益を上げることができるようになった。
  • 平成27年には、GandCrabとよばれるランサムウエアが登場し、感染パソコンの一覧や暗号化ファイルの数などの進捗状況を一元管理できるようになり、実行役の管理コストが効率化された。こうした仕組みはRaaS(Ransomware-asa-Service)とよばれているが、RaaSの特徴として、アフィリエイトと同様、このシステムの提供元が身代金の2~3割程度を徴収する仕組みになっており、ランサムウエアの実行行為を可視化することにより、ゲーム性を高め、実行役を攻撃に加担、熱中しやすいように仕向けている。
  • 令和元年には、Mazeを名乗るサイバー犯罪グループによって二重恐喝(ダブルエクストーション)とよばれる手口が登場した。従来型のランサムウエアは、暗号化されたファイルの復号鍵や復号ソフトの購入を強要していたが、現在主流となっている二重恐喝は、ファイルを暗号化する前に盗み出したファイルをランサムウエアグループ自らが運営する暴露サイトを通じて漏出させると脅迫して、このための支払いも暗号化の復号の身代金に加えて要求する手口である。
  • 今後、第5世代移動通信システム(5G)の進展により、IoT(Internet of Things)機器の更なる普及が見込まれるところであるが、IoT機器もサイバー空間の脅威にさらされている。Miraiによる攻撃の最近の傾向の一つとして、攻撃の高度化が挙げられる。初期のMiraiは、基本的には機器を再起動するとマルウェアが消えたが、最近は持続感染型のIoTマルウェアが増えてきている。これにより、マルウェアが組織のネットワークに侵入したのちに長期の活動が容易になるなど、Miraiによる脅威は深刻さを増している。
  • サイバー攻撃の中には、国家が犯罪集団を支援するなど、国家の関与が疑われるものがあり、その被害やリスクが深刻化している。令和2年7月、米国、英国及びカナダは、新型コロナウイルス感染症に関連する研究及びワクチン開発に関連して、APT29(Cozy Bear, The Dukes)とよばれるサイバー攻撃集団が研究情報及び知的財産を窃取しようとしているとして、注意喚起を行った。APT29は、ロシアの諜報機関に属する集団であることが確実視されており、政府機関、医療機関等を標的としてサイバー攻撃を行っているとされる。さらに、同年12月、米国の大手ITインフラ管理ソフトウェア会社の顧客に密かにサイバー攻撃が仕掛けられ、同社のソフトウェアを利用していた米国の政府機関のメールがサイバー攻撃集団に傍受された可能性が判明したが、この攻撃について、FBI16等の米国の政府機関は、ロシアによるものとしている。このように、国家の関与が疑われるサイバー攻撃の被害が深刻化しており、諸外国との連携強化はもちろんのこと、官民が連携した対策が急務となっている。
  • サイバー空間が、重要な社会経済活動を営む公共空間へと変貌を遂げつつある一方で、令和2年9月に警察庁が実施したアンケート調査によると、回答者の3%がサイバー犯罪に不安を感じると回答するなど、サイバー空間に対する国民の不安感は払拭されていない状況にある。こうした目下の厳しい脅威情勢や今後の我が国に到来するデジタル社会の実現に適切に対処していくためには、サイバー空間に、公共空間として実空間と変わらぬ安全・安心が確保されることが必要である。すなわち、全国民が、心置きなくデジタル社会におけるあらゆる活動に参画し、個々の能力を創造的かつ最大限に発揮するとともに、生活の利便性向上や個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を通じて、ゆとりと豊かさを実感できるようになることが求められており、こうした誰もが安心して参画できる空間を実現するため、今後のサイバーセキュリティにおける新たな基本理念に、「公共空間としての安全性確保」を据えることが必要である
  • サイバー空間に、公共空間としての安全性を確保するためには、犯罪対策の観点からだけでは十分なアプローチが難しく、警察においても国家安全保障の観点からのアプローチを強化する必要に迫られている。また、こうした国家の関与は一見して明らかなものではなく、高度な分析を通じて明らかとなるものであり、警察においては、犯罪対策と安全保障を一体として捉え、包括的な対策を講じていくことが求められている。
  • サイバー空間においても、実空間の公衆衛生に対応するサイバー・ハイジーン(Cyber Hygiene)とよばれる考え方があり、例えば、ソフトウェアに適切にパッチが適用されているかを確認する、定期的にデータのバックアップを取得するといった基本的な行動に平時から取り組むことをいう。欧州ネットワーク・情報セキュリティ機関(ENISA)では、サイバー・ハイジーンを、個人の公衆衛生にならい、組織のネットワーク環境が最適な状態を維持できるよう、単純な日常業務、良好な習慣及び定期的な確認を組織的に行うことと定義し、これにより、被害や被害拡大を最小限に抑えることができるとしている
  • 社会において、サイバーセキュリティを担う取組主体は多岐にわたる。サイバー空間を構築している各種インフラ事業者、多様なサービスを提供する事業者、専門的な研究・教育を担う学術研究機関、サイバー犯罪やサイバー攻撃の取締り、抑止等に取り組む警察など、産学官の各主体がそれぞれの強みを活かして対策に取り組んでいる。また、サイバー空間に参加する各個人も、その脅威から自らを守るための主体的な取組が求められるという意味では、サイバーセキュリティを担う重要な取組主体である。サイバーセキュリティは、こうした様々な取組主体による地道な活動の積み重ねから構築されるものであり、サイバー空間に、公共空間としての安全性を確保するためには、各主体がサイバー・ハイジーンを実践することが重要である。
  • 昨今、サイバー空間をめぐる脅威の特徴として、攻撃者の優位性や抑止の困難性ばかりが強調され、こうした認識の下、現状の対策においては、被害者側のリテラシー不足が殊更に課題として取り上げられ、どうしても犯行主体への対策の観点が欠けてしまう傾向にある。参加主体の更なる拡大が予想される今後のサイバー空間に、実空間と同様の法の支配を実現するため、あらためて法治国家として犯罪の行為者に帰責する健全な社会認識の必要性が確認されるとともに、警察における犯人の事後追跡可能性の向上やアトリビューションの強化・活用に取り組むことが必要である。
  • サイバー空間における警察の事後追跡を困難にし、犯罪行為を容易にする、いわば犯罪インフラを提供する悪質な事業者の存在が確認されている。SMS認証は、ID・パスワードによる認証と併用することにより、認証の安全性を高める方法として広く使用されており、SMS認証代行は、それ自体がサイバー空間における本人確認の信頼性を貶める悪質な行為であり、特殊詐欺等に必要な犯行ツールを提供する犯罪インフラにもなっている。各種サービスにおけるセキュリティ対策の一環として、海外からのアクセスを遮断する取組があるが、こうしたアクセス制限の回避を目的で日本に設置された中継サーバが利用されるケースが確認されている。中継サーバ事業者が運営するサービスの中には、ログをあえて残さないなど、犯罪インフラと化しているものがある。このように、犯罪インフラを業として提供する事業者が後を絶たず、サイバー犯罪を容易にしている実態を踏まえ、警察においては、官民の情報を活用しながら、こうした悪質な事業者の摘発を強化していくべきである。
  • キャッシュレス決済サービスのように、サイバー空間では、複数のサービスを連携させることにより利用者に新たな価値を提供するものが増えてきており、この場合には、法規制により求められている最低限の安全確保措置だけでは十分ではない場合も考えられる。こうしたサービスを提供する民間事業者は、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策におけるリスクベース・アプローチにならい、それぞれ連携して、自らが提供しているサービスに係るリスクを適切に評価し、必要な自主規制やモニタリング等の措置を検討・実施することが期待されており、官民が連携してこうした取組が促進されるよう働きかけていくべきである。
  • プロボノ活動とは、ボランティア活動の一種で、ボランティア活動の中でも特に、普段は専門家として稼働している人が、その専門スキルや経験を活かして行うものをいう。サイバー空間には、自らの専門的な知識や経験、技能を活かして社会貢献のために無償又は無償に近い形で活動を行っている技術者が数多く存在する。こうした技術者のプロボノ活動を支援するための取組を、官民が連携して推進していくべきである。
  • 警察では、捜査活動により犯罪の全体像を解明する中で、その具体的な方法・手口を把握し、各種システム・事業の脆弱性やリスクを知り得る場合がある。犯罪に悪用されるリスクの高いインフラ、技術など、警察捜査の過程で判明した情報を官民で情報共有することについては、サイバーセキュリティの確保の観点から高い公益性が認められるところであり、警察として積極的に情報発信を行うとともに、民間事業者に対して積極的な働きかけをしていくべきである。こうした取組により、国民一般に攻撃者のイメージを持たせ、適切に危機感を共有するとともに、行為者に帰責する健全な社会認識を醸成していくことが期待できる。
  • まず、サイバー空間の基盤となるプラットフォームへの対策である。サイバー空間で提供されるサービスについて脅威が確認された場合、当該サービスだけに着目しがちであるが、実効的な安全対策を講じるためには、当該サービスだけではなく、プラットフォームにも着目することが重要である。例えば、キャッシュレス決済サービスの不正利用について、当該サービスは、クレジットカード、電子マネー、デビットカード、スマートフォン等を使った支払いにより、現金を使用せずに支払いができるサービスであるが、当該サービスだけで完結する仕組みではなく、スマートフォン等のプラットフォームの利用を前提としているものである。こうしたプラットフォームにおける最も重要な課題の一つが、本人確認の信頼性の確保であり、その在り方について具体的な検討が必要である。
  • SMS認証はあくまでも電話番号に対応した携帯電話を所持していることのみを保証するものであり、当該携帯電話を所持している者の身元を保証するものではない。よって、携帯電話の契約時に厳格な本人確認がなされていなければ、第三者を騙ることが可能であり、SMS認証が信頼性のある本人確認の方法足り得るには、携帯電話を契約する際に公的身分証を用いた本人確認が徹底されていることが前提となっている。この点、携帯電話の契約時の本人確認義務は、携帯電話不正利用防止において携帯音声通信役務を提供する場合に限定されており、音声通信機能を有さないデータSIM契約は、SMS機能を有するものについても本人確認の義務付けの対象外となっている。
  • ハードウェア対策が求められるもう一つの課題は、サプライチェーンリスクである。米国の治安情報機関等において、通信機器メーカーが製品の製造段階でサイバーセキュリティを脅かす細工をすることや配送途中で製品を抜き取った上で当該製品に細工をすることが技術的に可能であり、こうしたサプライチェーンリスクへの対応の必要性が指摘されている。我が国においても、官民が連携してサプライチェーンリスクを洗い出し、必要な対策を講じていくべきである。

経済産業省は、巨大IT企業を規制する新法の対象に、アマゾンジャパン、グーグル、アップルの米3陣営と、楽天グループ、ヤフーの国内2社を指定しました。各社に契約条件などの開示を義務付け、利用事業者との取引の透明化を図るものです。新法は今年2月に施行された「特定デジタルプラットフォームの透明性および公正性の向上に関する法律」で、指定された企業はオンラインストアの出品事業者らに対し、契約条件を変更する際の事前通知といった義務も課されることになります。経済産業相が情報開示が不十分だと判断した場合などには、必要な対応を取るよう勧告でき、是正されなければ措置命令も出せる内容です。

▼経済産業省 「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」の規制対象となる事業者を指定しました
  • デジタルプラットフォーム運営事業者とデジタルプラットフォームの利用事業者間の取引の透明性と公正性確保のために必要な措置を講ずる「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」について、本日、同法の規制対象となる事業者を指定しました。また、本日、デジタルプラットフォームを利用する事業者の相談に応じ、解決に向けた支援を行うための相談窓口を設置しました。
  • 背景・趣旨
    • 近年、デジタルプラットフォームが利用者の市場アクセスを飛躍的に向上させ、重要な役割を果たしています。他方、一部の市場では規約の変更や取引拒絶の理由が示されないなど、取引の透明性及び公正性が低いこと等の懸念が指摘されている状況を踏まえ、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(令和2年法律第38号。以下「取引透明化法」といいます。)が、昨年5月に成立し、本年2月1日に施行されました。
    • 取引透明化法においては、特に取引の透明性・公正性を高める必要性の高いデジタルプラットフォームを提供する事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定し、規律の対象とすることとされています。
  • 規制対象として指定した事業者
    • 本日、取引透明化法の規制対象となる「特定デジタルプラットフォーム提供者」として、以下の事業者を指定しました。
    • 「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定された事業者は、取引透明化法の規定により、取引条件等の情報の開示及び自主的な手続・体制の整備を行い、実施した措置や事業の概要について、毎年度、自己評価を付した報告書を提出することが義務付けられます。
      1. 物販総合オンラインモールの運営事業者
        • アマゾンジャパン合同会社 co.jp
        • 楽天グループ株式会社 楽天市場
        • ヤフー株式会社 Yahoo!ショッピング
      2. アプリストアの運営事業者
        • Apple Inc.及びiTunes株式会社 App Store
        • Google LLC Google Playストア
    • デジタルプラットフォーム取引相談窓口の設置
      • 取引透明化法の実効的な運用を図るための取組の一つとして、本日、デジタルプラットフォームを利用する事業者(出店事業者、デベロッパー等)向けに、取引上の課題等に関する悩みや相談に専門の相談員が無料で応じ、アドバイスをするための窓口を設置しました。
        1. 主な支援内容
          • デジタルプラットフォーム提供者への質問・相談方法に関するアドバイス(過去事案も踏まえた対応)
          • 弁護士の情報提供・費用補助
          • 利用事業者向け説明会・法律相談会の実施
          • デジタルプラットフォーム提供者との相互理解の促進支援
          • 複数の相談者に共通する課題を抽出し、解決に向けて検討 等
          • 経済産業省としては、相談窓口を通じて得られた事業者の声をもとに、共通する取引上の課題を抽出し、関係者間で共有することを通じて、取引環境の改善を目指していきます。
        2. オンラインモール利用事業者向け窓口
          • 公益社団法人日本通信販売協会
        3. アプリストア利用事業者向け窓口
          • 一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム
          • ※上記の分野以外のデジタルプラットフォームについても、取引上の課題等について、こちらのウェブフォームから、経済産業省に情報や御意見をお寄せいただくことが出来ます。
          • ※個人情報の保護について 公益社団法人日本通信販売協会及び一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラムは、経済産業省の委託を受け、デジタルプラットフォーム取引相談窓口を設置しています。個人情報の取扱いに関しては、経済産業省の個人情報保護方針に則り適切に管理し、委託事業を遂行する目的のみに使用します。

(6)誹謗中傷対策を巡る動向

放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会は、フジテレビの番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレス選手、木村花さん(当時22歳)が視聴者から誹謗中傷を受けた末に昨年5月に死去した問題について、花さんの精神的な健康状態への配慮が欠けていた点で、フジに放送倫理上の問題があったとの見解を出しています。ただし、人権侵害は認めませんでした。

▼放送倫理・番組向上機構(BPO) 「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」に関する委員会決定

本文書によれば、「本件では、自傷行為後にフジテレビ側は一定のケア対応をしており、また、本件放送を行う前にも一定の慎重さをもって判断がなされたため、漫然と本件放送を決定したものとはいえず、人権侵害があったとまでは断定できない」とし、「視聴者の行為を介した人権侵害に関する放送局の責任を容易に認めるべきではないことはフジテレビの主張のとおりである。実際、それ自体は違法ではない内容の放送であっても、視聴者の反発を引き起こし、放送中に登場する人物がインターネット上あるいはその他の方法で非難されることがある。こうしたケースで過剰な非難によって当該人物の権利利益が侵害されることがあった場合、責任を負うべきは放送局ではなく、非難を行った者のはずである」と説明しています。しかし「それまでの経緯からして、木村氏に精神的な負担が生じることが明らかである本件放送を行うとする決定過程で、出演者の精神的な健康状態に対する配慮に欠けていた点で、放送倫理上の問題があったと判断した。すなわち、リアリティ番組には、出演者のありのままの言動や感情を提示し、共感や反発を呼ぶことによって視聴者の関心を引きつける側面がある。しかし、ドラマなどのフィクションとは違い、真意に基づく言動とは異なる姿に対するものも含め、視聴者の共感や反発は、生身の出演者自身に向かうことになることから、リアリティ番組には、出演者に対する毀誉褒貶を、出演者自身が直接引き受けなければならない構造がある。そして、出演者の番組中の言動や容姿、性格等についてあれこれコメントをSNSなどで共有することがリアリティ番組の楽しみ方となっており、自身の言動や容姿、性格等に関する誹謗中傷によって出演者自身が精神的負担を負うリスクは、フィクションの場合よりも格段に高い。このことなどを踏まえると、出演者の身体的・精神的な健康状態に放送局が配慮すべきことは、もともと放送倫理の当然の内容をなすものと考えられるが、リアリティ番組においては特にそれがあてはまる。しかし、上述のとおり、本件においてはこうした配慮が欠けており、放送倫理上の問題がある」として、放送倫理上の問題を指摘しています。

また、本件については、木村さんの母の響子さんが、長野県の男性に約300万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしています。第1回口頭弁論で男性側は出廷せず、反論もしませんでした。報道によれば、男性は花さんの死後、「あんたの死でみんな幸せになったよ、ありがとう」「最後まで迷惑かけて何様?地獄に落ちなよ」とツイッターに投稿したといいます。プロバイダー責任制限法に基づき、ツイッター社やプロバイダーから投稿者の情報開示を受け、男性を特定、響子さん側は、花さんと直接関わりがなかったとみられる男性が、極めて強い調子で花さんの行動を批判していると指摘、社会通念上許される限度を超えた侮辱的表現の投稿で、花さんを思う響子さんの気持ちを侵害したと訴えています。なお、響子さん側は他にも、花さんや響子さんを中傷したとして計6件の投稿について発信者情報開示を求めています。さらに、東京地検は、大阪府に住む20歳代の男を侮辱罪で東京簡裁に略式起訴したと発表しています。報道によれば、簡裁は男に科料9,000円の略式命令を出し、男は即日納付したといいます。この男は、8回にわたり、携帯電話から木村さんのツイッターに「生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと書き込み、木村さんを侮辱したということです。また、警視庁は、福井県に住む30歳代の男を侮辱容疑で東京地検に書類送検しています。男による書き込みは昨年4月8日に行われ、侮辱罪の公訴時効(1年)2日前の立件となりました。警視庁は、時効が近づく他の悪質な投稿についても捜査しているということです。報道によれば、男は、木村さんのツイッターの投稿に「死ねやくそが」「きもい」などと4回にわたって書き込み、木村さんを公然と侮辱した疑いがもたれており、調べに対して容疑を認め、「(木村さんへの)誹謗中傷が多く投稿されているのを見て、自分も投稿した」と供述しているということです。なお、関連して、響子さんは、BPOの決定を受けて、「人権侵害が認められず、本当に残念な結果。歯がゆく、悔しい」と涙を拭った。それでも「花のために何かできることを」と、ネット中傷をなくすためのNPO法人の設立を表明、「花が望んだ優しい世界にしていきたい」と話しています。

政府は、犯罪被害者への支援を強化するため、「第4次犯罪被害者等基本計画」を閣議決定しています。5年ごとに計画を見直しており、第4次は4月1日から2026年3月までで、木村さんの事件を受けてインターネット上の誹謗中傷対策を初めて盛り込むなど、各省庁が取り組む計252の施策を記載しています。計画では、ネット上の中傷被害に関する相談体制を充実させ、被害防止の広報啓発活動についても強化することを明記しています。なお、第3次計画の策定後、相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」での殺傷事件(2016年7月)や京都アニメーション放火事件(2019年7月)など、死傷者が多数出る事件が相次いだこともうけ、こうした事件が起きた場合を想定し、被害者の生活再建や裁判の支援などの対応訓練を行うことも盛り込まれました。

さて、誹謗中傷や表現の自由、偽情報や(フェイクニュース)や誤情報への事業者の対応、司法判断等を巡る報道が増えている印象がありますが、以下、いくつか紹介します。

  • ヤフーなど民間のインターネット事業者でつくる「セーファーインターネット協会」は、ネット上の偽ニュースや誤情報への対策に関する中間報告をまとめ、総務省の有識者会議に提示しています。ネットニュースやSNSへの投稿といった情報の真偽を検証する「ファクトチェック」を総合的に行う団体を設置するなど具体的な検討を進めることが必要だと指摘しています。中間報告では、対策の大前提として「個人の言論・表現活動に対する萎縮効果に留意し、情報発信を監視するような事態を招かないよう十分に配慮する」と表明、その上で、正確でない情報が事実と誤認され、拡散されて悪影響を広げる恐れがある場合に対策を講じるべきだとしています。なお、日本新聞協会は、セーファーインターネット協会がネット上の偽情報や誤情報への対策で中間報告をまとめたことについて「対策の第一歩と受け止める。今後も情報発信者としての責務を果たし、健全な民主主義社会の発展に貢献したい」とのコメントを発表しています。
  • 日本で推進するNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)によると、ファクトチェックには、「非党派性・公正性」、「情報源の透明性」、「財源と組織の透明性」、「方法論の透明性」、「訂正の公開性」といった国際的な五つの原則があるということです。2016年の米大統領選での「ローマ教皇がトランプ氏を支持」といった偽情報の拡散などを機に、日本でも注目されるようになりました。主にメディアが政治家の発言や拡散した情報の正確性を検証する手法として活用してきた経緯があります。今年2月、日本維新の会が、「ファクトチェッカー」と名付けたツイッターアカウントを開設、メールアドレスを公開し、「デマ」の情報提供も募る取組みを始めています。しかしながらこれまでに対象にしたのはいずれも大阪府・市政や維新に批判的な3件の投稿であり、政策をチェックされる側の政党による「ファクトチェック」は成立するのか、疑問視する声があがっています。この点については、前回の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)でも指摘しましたが、報道(2021年2月27日付朝日新聞)でFIJの事務局長は、「政党として情報発信や言説に反論する自由はある」とした上で、「大阪維新の会は政治団体であり、非党派性・公正性の原則から外れる」と指摘、さらに「ツイートの内容が事実かどうかをレーティング(真偽の判定)せず、あたかも誤情報だという印象を与えている」と問題視しています。さらに、ネット上では、今回の維新の動きについて「自己を正当化することがファクトチェックなのか?」、「『ファクトチェック』ではなく『吊し上げ』」、「脅迫もしくは弾圧だ」、「公党が個人のツイートをさらして、個人攻撃か」といった批判が相次ぐ事態となっています。ヤフーの削除対応とは異なり、「ファクトチェック」という名を借りた恣意的な情報操作ともとられかねない危うさを秘めたものであり、「表現の自由」を制約することの難しさがここにも表れているように思われます
  • インターネットのブログで「反社会的勢力と関係がある」と書かれた東京都の男性が、政治団体代表を相手取り、投稿をやめるよう求めた仮処分申し立てに対し、東京地裁立川支部は、将来にわたって同様の情報発信を禁じる決定をしています。専門家らが「既にある投稿を削除する司法判断は定着しているが、将来の投稿への差し止めは珍しい」と指摘するとおり、極めて画期的な判断だといえます(もちろん、表現の自由を脅かす恐れとの比較考量となるものと考えられます)。報道によれば、決定では、男性は仮処分申し立てに先立つ発信者情報開示の手続きで、ブログの発信元を特定し、裁判所が削除を命じたが、その後も投稿が続いたといい、決定理由で「同様の活動をする意思は強固で、情報発信が継続される可能性は極めて高い」と述べたといいます。さらに、投稿内容は事実に反し、断定的で穏当さを欠いているとして「政治活動や表現の自由として許容される範囲を逸脱する」と指摘、男性の名誉を傷つけ、平穏に生活する権利を侵害すると判断し「発信を禁止する必要性が認められる」としています。
  • 東京五輪・パラリンピック組織委員会は、週刊文春や「文春オンライン」が五輪開閉会式の演出内容を明らかにした記事を巡り、発行元の文芸春秋に対して書面で厳重抗議したと発表しています。「極めて遺憾。演出内容は機密性の高い秘密情報」とし、内部資料を掲載して販売することは著作権の侵害にあたる」、「業務を妨害した」として抗議し、掲載誌回収やオンライン記事の全面削除、資料破棄などを求めています。「組織委による文春への抗議は、憲法21条が保障する『表現の自由』を脅かしかねない」と指摘する専門家もおり、文春編集部も「巨額の税金が浪費された疑いがある開会式の内情を報じることは高い公共性がある」と反論のコメントを公表しています。表現の自由か業務妨害か、著作権の侵害か、議論が続いています。
  • タレントのカンニング竹山さんが生放送のテレビ番組で、東京都の広報動画の制作費用について誤った発言をし、放送時間内に訂正したものの、東京都側は「訂正内容は都民に十分に伝わっていない」として、竹山さんの所属事務所と番組を放送したTBSに抗議する事態となっています。過剰とも言える東京都の対応について、都政への批判を封じるための「見せしめの抗議」だと批判する専門家がいる一方で、「表現の自由が守られることは大前提」としながらも発言の影響力から「ある程度の抑制が必要」との立場をとる弁護士もいます。表現の自由と公的立場にある者の影響力をふまえた抑制のあり方が問われる問題となっています。
  • ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者の男性から性的被害を受けたと訴えた民事訴訟を巡り、伊藤さんを侮辱したとして、元記者の代理人だった男性弁護士を愛知県弁護士会が戒告処分にしています。報道によれば、男性弁護士は同会所属、2018年10月1日、自身のブログで伊藤さんに関して「妄想」「虚構」「虚偽」などと表現したというものです(ブログの記事は既に削除されています)。おそらくはこの事案も、表現の自由と侮辱の線引きを巡る問題といえます。
  • 国際日本文化研究センター(日文研)は、所属する教員(大河ドラマの時代考証を担当)がツイッターアカウントで他者を傷つける発言を繰り返していたとして、公式HPで謝罪しています。教員を巡っては、自らのツイッターで女性研究者を中傷する不適切な内容を投稿していたことが明らかとなり、「一連の揶揄、誹謗中傷について深く反省し、お詫び申し上げます」などと投稿していました。日文研はHPで井上所長名のお知らせを掲載、教員が「私的に利用していたツイッターアカウントにおきまして、他者を傷つけ、研究者として到底容認されない発言を繰り返していたことが判明しました」とし、「本センターは、それらが個人の表現の自由を逸脱した良識を欠く行為であると考えています」「ツイッター上の発言を目にして不快な思いを抱かれた方々、また直接に迷惑をこうむられた関係者の皆さまには、心より深くお詫び申し上げます」と謝罪しています。
  • 化粧品大手ディーエイチシー(DHC)が公式オンラインショップのサイトに、「NHKは幹部・アナウンサー・社員のほとんどがコリアン系」「NHKは日本の敵です。不要です。つぶしましょう」などとする吉田嘉明会長名の文章を掲載しました。このサイトには、在日韓国・朝鮮人に対する差別的な内容を含む吉田会長名の文章が昨年11月の日付で掲載されており、これをめぐり、NHKは4月9日朝のニュース番組で「問われる企業の人権意識」とする特集を放送し、文章が今も載り続けていることを取り上げました。2021年4月9日付朝日新聞によれば、NHKは朝日新聞の取材に、「企業が人権に配慮する必要性や、消費者の姿勢の大切さなどを伝えるために企画を放送した」と説明、新たな文章は、NHKが取材を申し込んだことを受けたものとみられています。なお、本問題については、前回の本コラム(暴排トピックス2021年1月号)でも取り上げ、「大手化粧品会社「DHC」が自社の公式ウェブサイトで、「サントリーのCMに起用されているタレントはほぼ全員が在日コリアン」など、朝鮮半島にルーツを持つ人々をおとしめるような文章を代表取締役会長名で掲載しています。「社会的影響力のある大手企業による差別扇動であり、責任は大きい」といった批判の声があるだけでなく、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」)では、「不当な差別的言動」は許されないものであると宣言、「国民は不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない」(同法第3条)と規定されています。さらに、法務省のサイトでは、「第2条が規定する「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りであり、本邦外出身者に対するものであるか否かを問わず、国籍、人種、民族等を理由として、差別意識を助長し又は誘発する目的で行われる排他的言動はあってはならないものです」と説明されていますので、あらためてその内容については、問題がないとは言えないことをふまえ、適切な対応が求められるものと思われます」と指摘しました。

前回の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)に引き続き、総務省の有識者検討会の資料から、最近の議論の動向を確認しておきます。

▼総務省 プラットフォームサービスに関する研究会(第24回)配布資料
▼資料1 インターネット上の違法・有害情報を巡るEUの動向-Digital Services Actについて(MRI資料)
  • なぜ欧州委員会は新しいデジタルサービス法パッケージを提案するのか?
    • デジタルサービスの法的枠組みは、2000年にeコマース指令が採択されて以来、変わっていない。
    • 以来、eコマース指令は、欧州連合(EU)におけるデジタルサービスを規制するための基礎的な礎石となっている。
    • しかし、オンラインの世界とデジタル手段の日常的な利用は日々変化している。過去20年の間に、オンラインでコミュニケーション、買い物、または情報にアクセスするための多くの新しい方法が開発され、それらの方法は常に進化している。
    • オンラインプラットフォームは、消費者や技術革新に大きな利益をもたらすとともに、EUの内部市場に幅広い効率性をもたらしてきた。これらのオンラインプラットフォームは、EU内外での国境を越えた取引を容易にし、欧州の様々な企業や貿易業者の拡大と新市場へのアクセスを容易にすることで、全く新しいビジネスチャンスを開いている。
    • 新しいサービス、テクノロジー、ビジネスモデルは、欧州市民の日常生活に多くの機会をもたらしたが、同時に市民や社会全体に新たなリスクを生み出し、新たな範囲の違法な商品、活動、またはコンテンツにさらされている。
    • さらに、多くのオンラインビジネスは、競争可能性、公平性、市場参入の可能性に関して、プラットフォーム経済でよくみられる体系的な問題に苦戦してきた。
    • 大規模なオンラインプラットフォームは、デジタル経済においてますます重要なプラットフォーム・エコシステムをコントロールすることができるようになっている。一般的に、プラットフォームは、サービスを通じて多くの企業と多くの消費者を結びつける能力を持っており、これにより、ある活動分野での大量のデータへのアクセスなどの優位性を活用して、隣接する市場での新サービスの改善や開発を可能にしている。
    • したがって、欧州単一市場では、オンラインユーザーの安全性を確保し、革新的なデジタルビジネスの成長を可能にするための現代的な法的枠組みが必要である。
  • 欧州委員会はオンラインプラットフォームにより生じる問題点と、政策および立法による対応策のポイントを以下のように例示している。
    1. ビジネスユーザーに対するオンラインプラットフォームの不正行為、問題が発生した場合の救済措置がないこと
      • オンラインプラットフォームのビジネス利用者のための公正さと透明性の促進に関する規制
    2. テロへの扇動、違法なヘイトスピーチ、児童の性的虐待の素材、知的財産権の侵害など、違法なコンテンツのオンラインでの拡散
      • オンライン上の違法コンテンツに効果的に取り組むための対策提言
      • 新しい著作権指令
      • 動画共有プラットフォームのためのオーディオ・ビジュアル・メディア・サービス指令の改正
      • オンライン上のテロリストコンテンツに関する規制の提案
      • 爆発物前駆体に関する規制
      • オンラインでの違法なヘイトスピーチ、テロリストコンテンツ、児童性的虐待の素材、偽造品などに取り組むための建設的対話
    3. 基本的権利の保護の必要性:EU市民の個人情報
      • 一般データ保護規則(GDPR)支配的地位の濫用
      • EU競争法の利用、デジタル時代の競争政策への継続的な反省
    4. 不当な消費者商行為、デジタル世界には不向きな消費者保護ルール
      • 消費者のためのニューディール租税回避
      • EU競争法の適用、特に国家補助、デジタル経済の公正な課税のための提案、悪意のある行為者によるオンラインプラットフォームの悪用による、誤報の拡散、民主主義への参加への影響
      • 自主規制規範、オンラインプラットフォームとの迅速な介入の調整
      • 独立したファクトチェックとメディアリテラシー活動への支援
▼資料4 インターネット上の違法・有害情報を巡る米国の動向(MRI資料)
  • 米国裁判所における伝統的解釈
    • 言論の自由を重視する立場から、プロバイダには広範な免責が認められてきた(情報コンテンツの開発・掲載・削除への関与、通知に遅滞なく対応する責任、等)。
    • 情報・コンテンツを選択・編集してメーリングリストやウェブサイトで配布した例、サイトの登録フォームを利用した成りすまし投稿、人身売買広告やテロリストによる投稿の掲載、運営会社の裁量による削除、についていずれも運営者が免責された。
    • 違法な投稿の削除が遅れたこと(違法と知りながら配布した状況があった)場合について、常に即時対応を求めることは事業者の負担が大きいとして免責された。
  • 米国における通信品位法230条の最近の動向
    1. 共和党の立場と動向
      • プラットフォーム事業者の政治的偏向や、政治的発言に対する検閲に懸念。
      • 2020年5月28日、トランプ大統領は、「プラットフォーマーによるオンラインの検閲の防止に係る大統領令」に署名。オンライン上の言論の自由を確保するため、プラットフォーマーによる、恣意的なユーザ投稿の削除等を限定する方向の規制の提案や明確化(例:ユーザー投稿削除の際のプラットフォーマーの透明性や説明責任の担保等。政治的発言の検閲を免責対象から除外する枠組みの制定)を連邦通信委員会(FCC)に要請するよう、国家電気通信情報庁(NTIA)に指示。
      • 司法省による勧告
        • 言論の自由は民主主義の根幹であり、インターネット上の言論も同様に保護されるべき。
        • 他方で、プラットフォーマーは明確な根拠や事前の通知等もなく言論を選択的に検閲しており、米国の言論を阻害。(都合の悪い投稿を恣意的に削除等しているのではないかとの指摘あり)
        • そのため、プラットフォーマーに透明性・説明責任を求め、言論の自由の確保等のための基準・ツールを奨励。
        • 関係機関(連邦通信委員会)は、上記選択的検閲等の防止の為、プラットフォーマーによるユーザー投稿の削除等に係る民事上の免責規定の適用要件の明確化等を行うこと
    2. 民主党の立場と動向
      • テクノロジー企業のモデレーションの欠如と、フェイクニュースや違法有害コンテンツの発信・拡散に対して通信品位法第230条が提供する広範な免責規定について懸念。
      • バイデン大統領から次席補佐官に任命されているブルース・リード氏らは、とくにオンラインで子供を傷つけるコンテンツに関連する同条の改正を求めている。その他、上院・下院それぞれにおいて民主党議員による同条の改正法案が提出されている。
    3. 米国議会における公聴会プラットフォーム事業者の主張
      1. Facebook(マーク・ザッカーバーグCEO)
        • 通信品位法230条は、フェイスブック数10億人のユーザーが自由に自分を表現しつつ、ユーザーを有害なコンテンツから保護するための「基礎法」。
        • 同条がなければ、プラットフォームは人々が言うすべてのことに対して責任を問われる可能性があり、法的リスクを回避するために、より多くのコンテントを検閲する可能性がある。
        • しかし、同時に、同法の改正についての協力も約束。人々は、有害コンテント、とくに違法行為に対するプラットフォームの責任の有無や、削除に関する公正・透明性について知りたがっている。
      2. Google(スンダ―・ピチャイCEO)
        • 創業以来、表現の自由に深く取り組んでおり、人々を有害なコンテントから保護し、その方法について透明性を保つ責任も感じていると主張し、政治的偏見なしに取り組んでいる。
      3. Twitter(ジャック・ドーシーCEO)
        • 通信品位法第230条を侵食すると、インターネット上でのコミュニケーション方法が崩壊する可能性があると警告。コンテント管理の問題に対処するための規制に関しては、慎重に検討し、抑制してほしい。
    4. アマゾン・グーグル・アップルによるParler(パーラー)への対応
      1. Parler(パーラー)
        • 2018年にサービス開始した、アメリカのSNSサービス。全てのユーザーが平等に扱われることを信条としており、コンテンツモデレーションがほとんど行われていないと評価されていた。これまで知名度はほとんど無かったものの、アメリカの大統領選以降、大手SNSでアカウントを停止されたユーザーが続々と集結し、結果的にトランプ氏の支持者が情報交換や連絡を取り合うプラットフォームとなっていたとされる。
      2. Google・Appleの対応(アプリストア)
        • 2021年1月8日に、Parlerのモバイルアプリが、AppleとGoogleのアプリストアからそれぞれ削除された。AppleはParlerに対し、ParlerがAppStoreのガイドラインに違反しており、不快なコンテンツについての苦情を受けたため、モデレーションを改善するよう要求し、24時間の猶予を与えており、GoogleもAppleの数時間後に同様の最後通告を送っていたとものの、Parlerがそれに応じなかったため、両社はアプリを削除したと報道されている。AppleとGoogleは、Parlerが同社サービスを適切にモデレーションする場合のみ、同アプリの提供を再開するとしている。
      3. Amazonの対応(クラウドサービス)
        • Parlerの最高経営責任者(CEO)を務めるJohn Matze氏は、1月9日、Amazonから同氏に対し、ParlerへのAmazon Web Services(AWS)プラットフォーム(クラウドサービス)の提供を10日に打ち切るという通告があったことを明らかにした。同氏は10日、報道機関向けの声明で、暴力を煽ったり暴力をふるうと脅したりする投稿など、禁止されたコンテンツを削除すべくモデレーションの改善に取組んでいると述べた。その後、1月11日以降、ParlerのWEBサイトにはアクセスできない状況となっていたが、その後、米国の別のホスティング事業者SkySilkを利用して2月15日に再び利用可能となった。同社はParler上のコンテンツ内容について判断しないと表明している。
▼総務省 プラットフォームサービスに関する研究会(第25回)配布資料
▼資料3 米国大統領選挙でのプラットフォーマーの取組について(みずほ情報総研)
  • 不適切なコンテンツ削除といった「運用的対策」と、サービス・機能の変更といった「技術的対策」の両面で、幅広い取り組みが実施されていることが判明。
    1. 運用的対策
      • 情報公開とポリシー更新に伴う不適切コンテンツの削除は、いずれのプラットフォーマーでも実施が確認できる。
      • 自身の取組に対する第三者評価と、政治広告の取扱い等は、プラットフォーマー毎に特徴あり。
    2. 技術的対策
      • アプリ上での投票を促進するアナウンスの表示や、不適切コンテンツのラベル付けによる注意喚起は、いずれのプラットフォーマーでも実施が確認できる。
      • 乗っ取り防止等のためのアカウント保護や政治広告出稿者確認ツールの提供等は、プラットフォーマー毎に特徴あり。
    3. その他
      • 外部機関と連携した取組みを実施。
      • 大手メディアや政府関連組織といった信頼できる外部情報源の掲載
      • コンテンツ削除に関するファクトチェック団体との連携
      • 政府やプラットフォーマー間での情報共有といった協調した取組み等
▼資料4 フェイクニュースや偽情報等に対する取組についてのフォローアップに関する主な視点
  1. 自主的スキームの尊重
    • 偽情報への対応の在り方の基本的な方向性としては、引き続き、プラットフォーム事業者を始めとする民間部門における関係者による自主的な取組を基本とした対策を進めていくことでよいか
  2. 我が国における実態の把握
    • 我が国における偽情報の流通状況の実態が適切に把握されているか
    • 具体的にどのような情報を把握すれば偽情報の流通状況を明らかにすることが可能か
    • プラットフォーム事業者による研究者への情報を提供などの協力は十分か
    • プラットフォーム事業者による自らのサービスにおける偽情報の実態把握は十分か
  3. 多様なステークホルダーによる協力関係の構築
    • 多様なステークホルダーによる多面的な議論が行われているか
    • プラットフォーム事業者、ファクトチェック機関、メディアなど関係者間の協力が進んでいるか
  4. プラットフォーム事業者による適切な対応及び透明性・アカウンタビリティの確保
    • プラットフォーム事業者の削除等の取組が適切に行われているかどうかについて、透明性・アカウンタビリティの確保が図られているか。
    • 過剰な削除や不当なアカウント停止等の行き過ぎた対応が行われていないかという点が明らかにされているか
    • 特に、海外事業者において、諸外国で行われている取組は日本でも行われているか
    • AIによる対応に関して、アルゴリズムの透明性等が図られているか
    • 具体的に、プラットフォーム事業者に対してどのような対応や情報公開を求めることにより、偽情報への適切な対応が図られているかどうかを評価することが可能か
  5. 利用者情報を活用した情報配信への対応
    • 利用者情報を活用した情報配信(ターゲティング広告等)について、一般的なターゲティング広告と政治広告等との違いを認識しつつ、透明性・アカウンタビリティの確保が図られているか
  6. ファクトチェックの推進
    • ファクトチェックの活性化のための環境整備が進められているか
    • ファクトチェック機関とプラットフォーム事業者の連携が進められているか
  7. ICTリテラシー向上の推進
    • 政府・各事業者・事業者団体等におけるICTリテラシー向上の推進に向けた活動は十分か
    • 既存のICTリテラシー向上の取組に係る整理や様々な主体の連携促進が行われているか
    • 偽情報に対抗するICTリテラシーとはどのようなものか
    • 偽情報に対抗するICTリテラシーの向上の推進に向けて、今後どのような取組が必要か
  8. 研究開発の推進
    • プラットフォーム事業者は、コンテンツモデレーションに関して、AIを活用した技術について研究開発を推進しているか
    • ディープフェイクなどの新たな技術による偽情報に対抗する技術に関する研究が進められているか
  9. 情報発信者側における信頼性確保方策の検討
    • インターネット上におけるメディア全体の情報の信頼性の確保方策について、メディアやプラットフォーム事業者等の関係者間で検討が進められているか
  10. 国際的な対話の深化
    • 偽情報への対応に関して、国際的な対話が深められているか

海外の動向を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • FBなどSNSを運営する米IT大手3社のCEOを呼ぶ米議会公聴会が開催され、1月に起きた米連邦議会議事堂の占拠事件を機にSNSの管理体制に対する批判が高まっており、安全の確保と産業の発展を両立するルール整備の行方が焦点となりました。FBなどが不適切な投稿を放置してきたと問題視する議員から、「(企業の)自己規制で済む時代は終わった」と批判が噴出、投稿内容に関してSNS運営企業を免責する「米通信品位法230条」の改正など、規制強化を求める声が相次ぎました。そもそもナチス時代の反省により法律でネット空間の言論を規制しているドイツなどと異なり、米は合衆国憲法の修正第1条で表現の自由を保障しており、1996年に制定した通信品位法230条はSNSの運営企業が利用者の投稿に対して法的責任を原則問われない一方、投稿に手を加えることを認める内容となっています。一方、気運の高まっている法改正は合衆国憲法が保障する「表現の自由」の制限につながりかねない点も指摘されています。これに対し、表現の自由を尊重する立場からSNS運営方針の改善で問題を是正できるとの立場から、FBのザッカーバーグ氏はコンテンツ管理に関する報告書を定期的に提出することを義務付けるといった通信品位法230条の改正に言及、同氏の提案に対する賛否を問われたグーグルのピチャイCEOは「透明性や説明責任に関していい提案だ」と述べた一方、ツイッターのドーシー氏は事業規模に応じて責任の軽重に差をつけるとの提案に対して「規模を判断するのに困難が伴う」などと指摘しています。
  • FBは、昨年10月から12月にかけて13億件の偽アカウントを削除したことを明らかにしています。報道によれば、35,000人以上が偽情報への対応に当たったということです。さらに同社は、世界の医療専門家が偽情報と判断した新型コロナウイルスやワクチンに関するコンテンツ1,200万件以上を削除したことも明らかにしました。FBやツイッターといったソーシャルメディアでは、新型コロナワクチンに関する誤った情報や陰謀論が拡散しており、米下院エネルギー・商業委員会は、FBなどITプラットフォームの偽情報対策について調査する方針を示しています。さらに、英競争・市場庁(CMA)は、FBが製品やサービスに関する偽のカスタマーレビューを売買していた16,000の団体を削除したと発表しています。「インスタグラム」を含むプラットフォームで、ユーザーに誤解を与えかねない有料コンテンツを検出・削除・防止するさらなる措置を取ったとし、FBは「この問題に対処するためにCMAと広く取り組んできた。れわれのプラットフォームでは偽のレビューの取引を含めて、詐欺的な行為は許されない」と述べています。
  • 米グーグルは、ネット上の不適切な広告の取り締まり状況についての報告書を発表、同社が2020年に規約違反だとして掲載を阻止したり、削除したりした広告は、世界で31億件に上ったといいます。グーグルは世界のネット広告市場で3割を占めており、人工知能(AI)を使った自動検知システムで、不適切な広告を削除する精度が向上しているといいます。2020年は新型コロナウイルス関連で、偽りの治療法などの問題広告も目立ち、2020年に掲載を阻止したコロナ関連の広告は、9,900万件に上ったといいます。
  • スペインでラップ歌手の男がテロを肯定する発信をした罪などで収監され、表現の自由を巡る論争が起きていると報じられています(2021年3月16日付日本経済新聞電)。2月には釈放を求めるデモが連日起き、警官隊との衝突や略奪に発展、テロ対策強化を求める声は強い一方、行きすぎた取り締まりとの指摘もあります。本件の議論の一つは、他人に危害が及ぶ恐れがはっきりしない場合に、表現だけを根拠に処罰するのが妥当かという点です。同受刑者は政府に批判的な発信を繰り返していたものの、テロ組織などとの明確なつながりは見つかっていません。英国やフランスでもテロの肯定を取り締まる法制があるものの、表現の自由と両立しないとの指摘もなされているところです。一方で本コラムでも取り上げてきたとおり、SNSがテロ思想の拡大に使われる例も多く、線引きは悩ましい問題です。スペイン政府は明確な危険がある場合のみ処罰の対象とするなどの法改正の検討を始めたといいます。
  • ロシアの首都モスクワの裁判所は、露通信規制当局がツイッターやグーグルなどの米IT企業を相手取り、罰金を科すよう求めた行政訴訟の審理を行い、ツイッターに計890万ルーブル(約1290万円)の罰金支払いを命じています。報道によれば、当局は無許可デモに未成年者の参加を呼び掛ける投稿などを各社が削除しなかったのは違法だと主張しています。なお、グーグルやFBなどSNS大手5社も提訴され、いずれも最大400万ルーブル(54,000ドル)の罰金を科される可能性があるといいます(TikTokやテレグラムも訴えられています)。また、これとは別にツイッターに対しては、児童ポルノなど違法な投稿の削除を拒否しているとして、当局は3月にも通信速度を遅くする措置を実施、「削除に応じなければ、1カ月後に国内での接続を遮断する」と警告しています(両者の話し合いで、違法投稿の削除が予定より早く進んでいるとの認識で一致。ツイッターに5月15日までの一段の時間的猶予を与えることで合意。ツイッターが通報を受けてから違法コンテンツを削除するまでに要した時間は平均で81時間であるのに対し、ロシアの法律では24時間以内に削除するよう定められているといいます)。プーチン政権は近年、国内のインターネットの言論統制を強化する一方、SNSなどでの情報拡散を通じて内政干渉しているとして米IT企業への圧力を強めており、今回の訴訟もそうした政策の一環だとみられています。
  • 暗号化チャットアプリの「シグナル」の中国ユーザーによると、中国ではシグナルがVPN(仮想プライベートネットワーク)接続なしには使えなくなったもようです。シグナルのウェブサイトも中国ではアクセスできなくなりました。中国サイバースペース管理局はここ数年、規制を強化しており、禁止するアプリ、ニュースメディア、ソーシャルメディアの対象が広がっています。シグナルはアップルの中国版アップストアでは引き続き入手可能で、シグナルのウェブサイトは香港では正常に稼働しているということです。
  • 約7億人のインターネット利用者を抱えるインドで、モディ政権が進めるSNSに対する規制への反発が広がっています。政府が「国家の安全を脅かす」などと判断した投稿について、IT事業者に削除や発信者の開示などを義務付けており、政府の裁量で削除命令を出せるためです。政府に対する異論の封殺に利用され、「民主主義に反する」との懸念が起きています。インド政府がネットへの監視を強めるなか、企業の撤退リスクは一段と高まっている状況となっています。インドでは2020年秋から続く農政改革に反対する農民デモを巡り、ツイッター上に政府を非難する国内外の投稿があふれ返ったため、政府はツイッターに対し、反政府的なアカウントの凍結を求めたが、ツイッターが拒否、政府は態度を硬化させ、同様の地元アプリ「Koo」への乗り換えを促したほか、ツイッター幹部の刑事訴追を示唆するなどの圧力をかけています。
  • 米国発の音声SNS「クラブハウス」を規制する動きが主に新興国で目立っています。3月には中東のオマーンが禁止したほか、タイやインドネシアでは閣僚が利用抑制の可能性に言及しています。報道によれば、クラブハウスでの自由な議論が体制批判につながると懸念しているもようで、「アラブの春以降、既存のSNSは監視が強化された」と専門家が指摘しています。中東各国の政府はSNSで反体制的な意見を拡散することに罰則を設けたり、専門の人員や人工知能(AI)などを用いて政府の見解に沿う投稿が目立つようにしたりしているといいます。
  • 米国家安全保障局(NSA)のナカソネ局長は、上院軍事委員会の公聴会で、昨年11月の米大統領選への外国の干渉に対抗するため、20数件のサイバー作戦を実施したと証言しています。同氏は作戦について、「外国が2020年の選挙に干渉したり、結果に影響を与えたりするのを未然に防止するのが狙いだった」と説明、詳細に触れなかったものの、サイバー軍から同盟国など9カ国に要員を派遣し、作戦を行ったと語ったといいます。ネット空間ではすでにサイバー戦争が局地的に実戦モードに突入していることを実感させます。
  • ソーシャルメディアから追放されたトランプ前米大統領の陣営顧問が、トランプ氏が独自のSNS創設を準備していると明らかにしています。「2~3カ月」でソーシャルメディアに復帰する見通しだと報じられています。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

世界各国の中央銀行がCBDC(中央銀行デジタル通貨)の実証実験フェーズに入っています。国際決済銀行(BIS)のリポートによれば、世界65カ国・地域のうち6割がデジタル通貨の実験段階に進んでおり、今後3年のうちにデジタル通貨の発行が始まる可能性がある国・地域は、人口ベースでは世界の5分の1に及ぶと報告しています。2020年には中米カリブ海の小さな島国バハマと、アジアのカンボジアがデジタル通貨を発行、2021年にはEUや中国、日本など経済大国も動き出します。米国はまだ具体的な計画を明らかにしておらず、動向が注目されているところです。そして、日本については、日銀が4月5日から実証実験を開始したと発表しています。

▼日本銀行 中央銀行デジタル通貨に関する実証実験の開始について

リリースは、「日本銀行は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の基本的な機能や具備すべき特性が技術的に実現可能かどうかを検証するため、2021年度の早い時期に実証実験を開始することを目指して準備作業を続けてきました。今般、必要な準備が整い、本日より実証実験(概念実証フェーズ1)を開始しましたので、お知らせします。概念実証フェーズ1においては、システム的な実験環境を構築し、決済手段としてのCBDCの中核をなす発行、送金、還収等の基本機能に関する検証を行う予定です。実施期間は、2022年3月までの1年を想定しています」といった内容となっています(実験環境の構築作業などの業務委託先として日立製作所を選定したと発表しています)。なお、次の第2段階では保有額に上限を設けるなどより高度な条件を設定するほか、オフラインでの決済や匿名性の確保、セキュリティ対策についても検証する予定であり、第3段階では民間事業者や個人が実際の支払いに使えるかを試すパイロット実験に進む想定となっています。実証実験にあたり、関係者の発言が活発化しています。まず、黒田東彦日銀総裁は、現時点でCBDCを発行する計画がないことを改めて表明する一方で、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から「今後のさまざまな環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要だ」と強調しています。内田眞一理事は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する連絡協議会(金融業界やIT業界と情報を共有するため設置されたもので、全銀協や地銀協、フィンテック協会で構成されています)の開会あいさつで「将来、CBDCを1つの要素とする決済システムが世界のスタンダードとなる可能性は相応にある」と指摘、CBDCの設計には決済の主要な担い手である民間事業者との「密接な対話」が必要だと語っています。さらに、日銀の神山一成決済機構局長は、ロイターのインタビューで、CBDC発行時に金融システム安定の観点からCBDCの保有額に制限を設けるべきだとの指摘が出ていることについて「それなりに説得力がある」と述べたものの、保有額の制限など現金とCBDCの差別化についてはまだ具体的に決まっていないとしました。さらに「民間ビジネスにCBDCが与えうる影響は今後の検討において重要な論点だ」と指摘、「CBDCと民間の決済サービスが共存、補完しあうかたちで、日本の決済システムの安定性、効率性が全体として高まる動きにしていかなければならない」と述べています。フィンテック企業がCBDC発行時に日銀とエンドユーザーをつなぐ「仲介機関」になる可能性については「仲介機関の範囲、数をどうするかはまさに制度設計の根幹だ。日本の決済システムの構造に大きな影響を及ぼすため、しっかり幅広い関係者の意見を聞きつつ決めていく」と述べました。さらに、「CBDCの検討においては、まずは国内の決済を便利にすることが重要だが、その先にクロスボーダーでのCBDCの利用も考えられるようになるのではないか」と指摘、日銀が国際標準の重要性を様々な会議で指摘していると話しています。なお、CBDCを取り巻く日本のスタンスや動向については、2021年4月8日付日本経済新聞が端的にまとめており、以下、抜粋して引用します。

日本は現金信仰が根強く、キャッシュレス決済比率は2019年で26.8%と韓国など海外より低位にとどまる。一方でデジタル通貨はサイバー攻撃や不正利用など幾重ものリスクを抱える。見切り発車で進み、大きな問題が起きたらその責任を負うのは日銀自身だ。実証実験はCBDCに慎重な姿勢もみせる米欧の中銀が方針転換したときに出遅れないための備えとの意味合いが強い。バイデン政権下の米国では、民主党が誰でも金融サービスにアクセスできる「金融包摂」を重視する。銀行口座を持たない世帯は多く、CBDCにカジを切る動きが急加速する可能性もある。欧州中央銀行(ECB)も国際通貨としての地位向上を目指しデジタルユーロの導入を推進する勢力がある。日銀が慎重な姿勢を続けている間に米欧から突き放されるリスクは残る。・・・日本では民間ベースで預金口座にひも付く「デジタル通貨」の動きがある。問題は規格が乱立し、利用者の広がりに欠くことだ。・・・課題は民間のデジタル通貨にどう相互互換性を持たせられるかだ。誰もがいつでも使える通貨にならないと普及はおぼつかない。暗号資産(仮想通貨)交換業を運営するディーカレットは3メガバンクやJR東日本などが参加するデジタル通貨勉強会などを通じて、プラットフォーム開発を急ぐ。国家が明確な戦略を欠き、民間が狭い領土争いを繰り広げていては日本経済の地盤沈下が進みかねない。官民ともに取り組みのギアを上げる必要がある。

海外の最近の動向についても確認しておきます。まず、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、デジタル通貨について、議会の承認がない限り進めないとした上で、目下、利点とリスクの判別に重点を置いているという考えを示しています。デジタル通貨を巡ってはマサチューセッツ工科大学と連携しているものの、プロトタイプ(原型)を作ろうとしているわけではなく、性能や技術的な限界の見極めが先だと述べています。また、CBDC)については、「ドルは世界の基軸通貨であり、(発行に向けた)事業を急ぐ必要はない」と述べています。研究を強化しながら安全性などを見極めるとし、「デジタルドル」の早期発行に慎重な姿勢を改めて示しています。CBDCには「決済システムの効率化や包摂化」などの利点がある一方、サイバー攻撃やマネー・ローンダリング、金融システムの安定といったリスクがあると指摘し、「前進させるには、議会や政府、幅広い国民からの賛同が必要だ」とも述べています。また、カリブ海8カ国・地域の金融政策を担う東カリブ中央銀行(ECCB)は、デジタル通貨「Dキャッシュ」の発行を試験的に始めたと発表しています。米ドルとの固定相場制を採用する東カリブ・ドル(ECドル)のデジタル版で、銀行口座を持っていなくても、専用のスマホアプリを通じ、買い物や送金、企業間決済などができるとされます。ECCBは2025年までに、現金利用の半減を目指しているということです。さらに、中国人民銀行(中央銀行)デジタル通貨研究所の穆長春所長は、リテール型の中央銀行デジタル通貨は中国で広く利用されているモバイル決済の重要な補完的役割を果たす可能性があるとの見解を明らかにしています。同氏は、リテール決済システムのバックアップのために中銀がリテール決済向けのデジタル通貨サービスを提供する必要があると述べています。

次に暗号資産を巡る動向について確認します。まず、FATF(金融活動作業部会)からガイダンス改訂案が発出されていますので、金融庁のリリースを紹介します。

▼金融庁 FATFによる市中協議文書「暗号資産及び暗号資産交換業者に対するリスクベース・アプローチに関するガイダンス改訂案」の公表について
  • FATF(金融活動作業部会)は、3月19日、「暗号資産及び暗号資産交換業者に対するリスクベース・アプローチに関するガイダンス改訂案」(原題:Draft updated Guidance for a risk-based approach to virtual assets and VASPs)と題する市中協議文書を公表しました。
  • 今回の改訂は、FATFが昨年7月に公表した「暗号資産・暗号資産交換業者に関する新たなFATF基準についての12ヵ月レビューの報告書」及び「いわゆるステーブルコインに関するG20財務大臣・中央銀行総裁へのFATF報告書」において指摘していた課題を踏まえたものであり、主要改訂項目としては、以下が挙げられています。
    1. FATF基準における暗号資産、暗号資産交換業者の定義明確化
    2. いわゆるステーブルコインに対するFATF基準の適用
    3. 仲介業者を利用しない個人間取引(P2P取引)のリスクおよびリスク低減策
    4. 暗号資産交換業者の登録・免許
    5. 暗号資産移転取引における通知義務(いわゆるトラベルルール)の履行
    6. 情報共有と監督上の国際協力に関する原則
▼暗号資産及び暗号資産交換業者に対するリスクベース・アプローチに関するガイダンス案
▼暗号資産・暗号資産交換業者に関する新たなFATF基準についての12ヵ月レビューの報告書
▼いわゆるステーブルコインに関するG20財務大臣・中央銀行総裁へのFATF報告書

次に金融庁から日本暗号資産取引業協会会長あてに、いわゆる「トラベルルール」についての要請が発出されています。なお、トラベルルールとはFATFが作成したもので、暗号資産取引所などの暗号資産サービスプロバイダー(VASP)に対し、そのプラットフォーム上で行われる取引に関して送信者と受信者両方の取引データ(具体的には、送金者の名前、トランザクションの処理に利用される送金者のアカウント番号、送金者の地理的な住所および国固有の個人識別番号等、受信者の名前、トランザクションの処理に利用される受信者のアカウント番号の5点)を共有することを求めています。なお、これにより対応コストが肥大化することが懸念されています。

▼金融庁 暗号資産の移転に際しての移転元・移転先情報の通知等(トラベルルール)について
▼暗号資産の移転に際しての移転元・移転先情報の通知等(トラベルルール)について
  • 概要
    • マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策は、各国が協調して実行していくことが重要であり、FATF(金融作業部会)において、その国際基準(FATF基準)が策定されている。
    • 暗号資産交換業者に対しても、FATF基準を踏まえ、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」や「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」において、各種措置を講ずることが求められているほか、「資金決済に関する法律」第63条の10に基づく「暗号資産交換業者に関する内閣府令」第23条第1項第1号においても、暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な体制を整備することが求められている。
    • こうした中、2019年6月にFATF基準が改訂され、暗号資産交換業者に対して、暗号資産の移転に際し、その移転元・移転先に関する情報を取得し、移転先が利用する暗号資産交換業者に通知することを求める規制(トラベルルール)を各国において導入・履行することが求められているところである。
  • 要請事項
    • 日本の暗号資産交換業者においても、国際的に協調して実効的なマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策を実施する観点から、暗号資産の移転に係る通知等(トラベルルール)を的確に実施していくことが求められる
    • 貴協会においても、2022年4月を目途に、暗号資産の移転に係る通知等(トラベルルール)に関する自主規制規則の導入を目指し、検討を進めているところと承知しているが、暗号資産交換業者においては、暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行を確保する観点から、暗号資産の移転に係る通知等(トラベルルール)の的確な実施に向けた検討を進め、技術面や運用面での課題を解決し、速やかに暗号資産の移転に係る通知等(トラベルルール)を実施するために必要な体制を整備していただきたいので、貴協会会員宛に周知徹底をよろしくお願いしたい。また、貴協会においても、貴協会会員の取組のサポートをお願いしたい。

金融庁・消費者庁・警察庁が連名で暗号資産に関するトラブルに関する注意喚起を公表しています。暗号資産に関する取引を行うかどうか慎重に判断するため、「令和2年度に寄せられた消費生活相談の典型事例」や「暗号資産を利用する際の注意点」等を紹介するものということです。

▼金融庁(消費者庁・警察庁) 暗号資産に関するトラブルにご注意ください!
▼「困ったときの相談窓口、消費生活相談の典型事例、暗号資産を利用する際の注意点」
  • インターネットを通じて電子的に取引される、いわゆる「暗号資産」の取引や暗号資産の交換と関連付けて投資を持ち掛けられたことをめぐるトラブル等についての相談が多数寄せられています。また、令和4年4月から成年年齢を18歳に引き下げる民法の一部を改正する法律が施行されると、18歳及び19歳は、「未成年者取消権(未成年者が親の同意を得ずに契約をした場合に原則として契約を取り消すことができる)」を行使できなくなり、悪質商法等の消費者被害に遭う懸念があります。
  • そのため、暗号資産の取引等を行うかどうか慎重に判断をするために、「令和2年度に寄せられた消費生活相談の典型事例」や「暗号資産を利用する際の注意点」等を紹介しますので、是非ご活用ください。また、もし困った時は一人で抱えず、内容に応じて「困ったときの相談窓口」にご相談ください。
  • 困ったときの相談窓口
    1. 暗号資産を含む金融サービスに関するご相談はこちら
      • 金融庁 金融サービス利用者相談室 0570-016811 平日 10:00-17:00
        ※ IP電話・PHSからは、03-5251-6811におかけください。
    2. 不審な電話などを受けたらこちら
      • 消費者ホットライン 局番なしの188(いやや!)
        ※ 原則、最寄りの消費生活センターや消費生活相談窓口などをご案内します。相談できる時間帯は、相談窓口により異なります。
      • 警察相談専用電話 #9110又は最寄りの警察署まで
      • ※ #9110は、原則、平日の8:30-17:15(各都道府県警察本部で異なります。土日祝日・時間外は、24時間受付体制の一部の県警を除き、当直又は音声案内で対応)
  • 暗号資産の概要についてはこちらのウェブサイトへ
  • 令和2年度に寄せられた消費生活相談の典型事例
    • セミナーやSNS等を通じて「絶対にもうかる」等と持ち掛けられて投資をしたが、返金されない・出金できない等トラブルになっているケース
      • セミナーに参加し、スマホにアプリを入れて暗号資産を運用したら報酬が得られ、人を紹介すると紹介料がもらえると聞いて加入したが、出金が止められてお金が引き出せない。(20代男性)
    • 出金するための追加費用を請求され、トラブルになっているケース
      • 知人にもうかるからと暗号資産を勧められ振込んだが、出金するために追加の支払いが必要だといわれた。(40代男性)
    • 法令に基づく登録を受けていない無登録業者(海外の事業者も含む)が国内の消費者に対して勧誘し投資をさせるが、その後業者と連絡がとれず、トラブルになっているケース
      • 知人から暗号資産を運用する海外業者へ投資すれば高利益が得られると勧められお金を振り込んだ。登録したホームページから出金できなくなっており、ホームページも閉じられた。国内の窓口となっている業者名や住所・連絡先も分からない。(50代女性)
    • 出会い系サイトやマッチングアプリ等で知り合った人に勧められて、暗号資産の投資を進めたが、その後返金されない・出金できない、連絡がとれない等とトラブルになっているケース
      • マッチングアプリで知り合った女性から、海外取引所で暗号資産を購入。詐欺だったのでお金を取り戻したい。(20代男性)
  • その他、気を付けてほしい消費生活相談事例
    1. 暗号資産に関係した悪質商法等に関するもの
      • 資産を40倍に増やすことができる、必ず上場する暗号資産への投資話がメッセージアプリを通じて届いた。
    2. システムやセキュリティに関するもの
      • 暗号資産取引のパスワードが使用できなくなりコインが全てなくなっていた。フィッシングサイトにアクセスしたと思う。対処法を教えてほしい。
    3. 個人情報の悪用に関するもの
      • アダルトサイトの請求を次々に受けているうちに個人情報を漏らしてしまい、勝手に暗号資産の口座を開設されてしまった。
  • 暗号資産を利用する際の注意点
    1. 暗号資産は、日本円やドルなどのように国がその価値を保証している「法定通貨」ではありません。インターネット上でやり取りされる電子データです。
    2. 暗号資産は、価格が変動することがあります。暗号資産の価格が急落し、損をする可能性があります。
    3. 暗号資産交換業者(※)は金融庁・財務局への登録が必要です。利用する際は登録を受けた事業者か金融庁・財務局のホームページで確認してください。
      (※)暗号資産と法定通貨の交換や、暗号資産同士の交換を行うサービスを提供する事業者、暗号資産の管理を行う事業者など
    4. 暗号資産の取引を行う場合、事業者が金融庁・財務局から行政処分を受けているか(※)を含め、取引内容やリスク(価格変動リスク、サイバーセキュリティリスク等)について、利用しようとする事業者から説明を受け、十分に理解するようにしてください。
    5. (※)金融庁・財務局が行った行政処分については、こちらをご覧ください。
    6. 暗号資産交換業者の提供するウォレットで暗号資産を管理する際に、パスワードを設定する場合には、IDと同じものや利用者の名前、電話番号、生年月日等の推測が容易なものを避けるほか、他のウェブサイトと同じID・パスワードの組合せを使用しないなどの対策を講じる必要があります。管理する暗号資産が盗まれるおそれがあります。
    7. 暗号資産や詐欺的なコインに関する相談が増えています。出会い系サイト・マッチングアプリ等をきっかけとした暗号資産の詐欺や悪質商法にご注意ください。

その他、暗号資産に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 金とビットコインはどの国のものでもない「無国籍通貨」というくくりで、よく同じ扱いをされますが、昨年からの値動きを見ると金が調整色を強める中でビットコインは高騰が続いています。相場の逆相関が鮮明になる背後には、投資対象としての性格や投資家層の違いが浮かび上がっています。金市場にも短期の売買益を狙う投資家は存在するものの、こうした投資家の一部が金から高騰の続くビットコインへ乗り換え、両者の値動きの差をいっそう鮮明にしたとみられています。
  • 代表的な暗号資産であるビットコインが試練に直面しているとの指摘があります(2021年3月20日付日本経済新聞)。ハッキングされ北朝鮮のミサイル・核開発の資金源になっていることや、電力消費を増やし環境負荷が重いことなどがESGの観点から問題視されているというものです。今後、各国で実証実験が本格的に始まっているCBDCを早期に発行すべきだとの議論が広がる可能性も考えられるところであり、そうなれば暗号資産の存在意義が問われることになります。一方、そのような中、米ペイパルHDなどが暗号資産を決済手段に採用することを発表しました。米国では電気自動車(EV)メーカーのテスラが暗号資産ビットコインでのEV購入を可能にしたばかりで、これらの動きが、暗号資産を決済手段としての普及に追い風となる可能性もあり、今後の決済手段の多様化の行方が注目されるところです。
  • インド政府が、暗号資産を禁止する法案を提案する方針だということです。報道によれば、取引だけでなく、同国内で保有することも禁じるといい、法案は、暗号資産の保有、発行、マイニング(採掘)、取引、送金を犯罪行為と見なす内容だということです。さらに、暗号資産の保有者には6カ月以内に売却する義務が生じ、従わなければ罰則が科せられるというものです。法案が成立すれば、インドは主要経済国として初めて暗号資産の保有を禁止することになります。なお。中国はマイニングと取引を禁止していますが、保有は禁止していません。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

政府のカジノ管理委員会が、統合型リゾート施設(IR)の事業免許取得規則やカジノゲームの種類、依存防止対策などのIR運営の細則を盛り込んだIR整備法施行規則案を公表しています。以下、その概要について、簡単に確認していきます。

▼カジノ管理委員会 カジノ事業等の規制について(資料)を掲載しました。

まず、「特定複合観光施設区域整備法(以下「IR整備法」)では、適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ事業の収益を活用して、IR区域の整備を推進することにより、国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現することとされています。そのため、IRの目的を達成するためには、IR内に設置されるカジノは健全なものであることが大前提となります」、「健全なカジノ事業を実現するため、IR整備法ではカジノの設置に関する様々な懸念に万全の対策を講じています。カジノ管理委員会は、法に基づく厳格なカジノ規制を確実に執行し、適切な国の監視及び管理の下でカジノ事業を運営させることにより、国民のカジノ行政に対する信頼を確保することを使命としています」と基本的な考え方が明記されています。

▼カジノ規制(概要)について

事業者の観点から言えば、これまでも本コラムで紹介してきたとおり、「IR事業者およびその他のカジノ事業関係者(主要株主等、カジノ施設供用事業者、施設土地権利者、カジノ関連機器等製造業者等)についても、免許・許可・認可制とし、カジノ事業の公正・廉潔性を確保するため、徹底的な背面調査を行う」という点が、日本型IRの掲げる「世界最高水準の厳格なカジノ規制」「公正・廉潔性の確保」のベースとなる考え方であるといえます。

  1. カジノ規制
    • IR事業者は、カジノ管理委員会の免許(有効期間3年・更新可)を受けたときは、カジノ事業を行うことができる。この場合、免許に係るカジノ行為区画で行う、免許に係る種類及び方法のカジノ行為については、刑法第185条(賭博)及び第186条(常習賭博及び賭博場開張等図利)は適用しない
    • その他のカジノ事業関係者(主要株主等、カジノ施設供用事業者、施設土地権利者、カジノ関連機器等製造業者等)についても、免許・許可・認可制とし、カジノ事業の公正・廉潔性を確保するため、徹底的な背面調査を行う
    • IR区域におけるカジノ施設を1に限定するほか、カジノ行為区画のうち専らカジノ行為の用に供される部分(ゲーミング区域)の床面積の上限を、IR施設の床面積の合計の3%とする
    • カジノ事業者に、業務方法書、カジノ施設利用約款、依存防止規程(本人・家族申告による利用制限を含む)及び犯罪収益移転防止規程の作成を義務付け、免許申請時にカジノ管理委員会が審査(変更は認可が必要)
    • 日本人等の入場回数を連続する7日間で3回、連続する28日間で10回に制限。本人・入場回数の確認手段として、マイナンバーカードの提示及びその公的個人認証を義務付け
    • 20歳未満の者、暴力団員等、入場料等未払者、入場回数制限超過者については、カジノ施設への入場等を禁止。カジノ事業者に対しても、これらの者を入場させてはならないことを義務付け
    • このほか、カジノ行為の種類及び方法・カジノ関連機器等、特定金融業務(貸付け等)、業務委託・契約、広告・勧誘、カジノ施設等の秩序維持措置、従業者等について所要の規制を行う
  2. 入場料・納付金等
    • 日本人等の入場者に対し、入場料・認定都道府県等入場料として、それぞれ3千円/回(24時間単位)を賦課
    • カジノ事業者に対し、国庫納付金((1)カジノ行為粗収益(GGR)の15%及び(2)カジノ管理委員会経費負担額)、認定都道府県等納付金(GGRの15%)の納付を義務付け
    • 政府及び認定都道府県等は、納付金の額に相当する金額を、観光の振興に関する施策、地域経済の振興に関する施策その他の法の目的等を達成するための施策並びに社会福祉の増進及び文化芸術の振興に関する施策に必要な経費に充てるものとする
▼マネー・ローンダリング対策の考え方

マネー・ローンダリング対策の考え方については、「カジノ事業者を犯罪収益移転防止法上の規制対象に追加」したうえで、「犯罪収益移転防止法の枠組みに加え、100万円超の現金取引の報告を義務付け」ている点が大きな特徴です。犯罪収益移転防止法上、現金取引の報告自体を義務付けているのは、カジノ事業のみである点が大きな特徴です。さらには、「チップの交付等の一定の取引(口座開設、30万円超のチップ交付等)について、犯罪収益移転防止法の規制対象となる取引に追加し、顧客に対する取引時確認、取引記録の作成・保存、疑わしい取引のカジノ管理委員会への届出等を義務付け」ている点なども厳格な規制を形づくっています。また、「暴力団員等の入場等禁止をカジノ事業者及び暴力団員本人に義務付け」ている点も、これまでも本コラムで紹介してきたとおりです。基本的な枠組みとしては、以下のとおり、(ア)FATF勧告で求められている対策に加え、(イ)諸外国で実施されている対策、(ウ)日本独自の対策が上乗せされ、相当厳格な規制となっていることがわかります。

  1. 環境面の対策(反社会的勢力の排除等)
    • 免許制度 …(ア)
    • 背面調査による事業者・従業者からの反社会的勢力の排除 …(イ)
    • 入場者からの反社会的勢力の排除 …(イ)
    • 施設の構造・設備基準 …(イ)
  2. 取引行為に着目した対策
    • 公正なゲーミングの実施 …(イ)
    • 取引時確認等、疑わしい取引の届出 …(ア)
    • 100万円超の現金取引の届出 …(イ)
    • 顧客の指示を受けて行う送金先を本人の口座に限定 …(ウ)
  3. 顧客の行動に着目した対策
    • チップの譲渡制限 …(ウ)
    • チップの持ち出し規制 …(イ)
    • 施設寧の警戒・監視 …(イ)
  4. 事業者の規制遵守のための対策
    • 内部管理体制の整備 …(ア)
    • 自己評価と監査の結果をカジノ管理委員会に報告 …(ウ)

また、IR整備法におけるマネー・ローンダリング対策上の上乗せ規制の概要は、以下の通りです。

  1. 犯罪収益移転防止規程の作成の義務付け及びカジノ管理委員会による審査
    • 犯罪収益移転防止規程には、以下の事項の記載を義務付け。
      • 取引時確認の的確な実施に関する事項
      • 取引記録等の作成及び保存に関する事項
      • 疑わしい取引の届出に係る判断の方法に関する事項
      • 取引時確認をした事項を最新の内容に保つための措置、従業者の教育訓練等の内部管理体制の整備に関する措置、チップの譲渡等の防止のための措置及び100万円超の現金取引の届出に関する事項
    • 100万円超の現金取引の届出の義務付け
      • カジノ事業者に対し、顧客との間で行う100万円超の現金取引についてカジノ管理委員会への届出を義務付け。本届出事項は、疑わしい取引の届出事項とともに、カジノ管理委員会から国家公安委員会に通知。
    • チップの譲渡・譲受け・持ち出しの規制
      • 顧客に対し、顧客間のチップの譲渡・譲受け(親族間のものを除く。)、カジノ行為区画外へのチップの持ち出しを禁止
      • カジノ事業者に対し、顧客間のチップの譲渡・譲受け、カジノ行為区画外へのチップの持ち出しを防止するために必要な措置を講ずることを義務付け

次に依存症防止対策の概要は以下のとおりです。日本型IRの特徴の1つである依存症対策に相当力が入っていることを示す内容となっています。

▼依存防止対策について
  1. 重層的/多段階的取組の必要性
    1. カジノ行為への依存を防止するため、(1)ゲーミングに触れる機会の限定、 (2)誘客時の規制、 (3)厳格な入場規制、 (4)カジノ施設内での規制、 (5)相談・治療につなげる取組まで、重層的/多段階的な取組を制度的に整備することが必要。
  2. 公共政策上の制度整備と事業者責任のベストミックス
    1. (A):公共政策として制度を整備するもの、(B):カジノ事業者が取組むべき責任として確立するもの、(C)(A)(B)の両方の取組が求められるものの適切な組合せを考慮する必要がある。
  3. 国及び地方公共団体の責務
    1. 国及び地方公共団体は、カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行うために必要な施策を策定し、実施する責務を有する。
  4. IR区域制度
    • 基本方針、実施方針に基づき、区域整備計画、実施協定において、都道府県等・立地市町村等及びIR事業者が実施するカジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除のために必要な施策及び措置を規定
      • 認定区域整備計画の数の上限は3とする
      • IR事業者に対し、区域整備計画及び実施協定に従ったIR事業の実施、カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除に関する国及び都道府県等が実施する施策への協力を義務付け
      • 国土交通大臣は、関係行政機関の長と協議の上認定区域整備計画の実施状況を評価。認定都道府県等及びIR事業者に対し、 当該評価結果を認定区域整備計画に係る業務運営の改善に反映することを義務付け
  5. カジノ規制
    • カジノ事業者に対して、依存防止規程に従って、以下の依存防止措置を講じることを義務付け
      1. 本人・家族申告による利用制限、依存防止の観点から施設を利用させることが不適切であると認められる者の利用制限
      2. 相談窓口の設置等
      3. 依存防止措置に関する内部管理体制の整備(従業者の教育訓練、統括管理者・監査する者の選任、自己評価の実施等)
    • ※ 依存防止規程については、免許申請時にカジノ管理委員会が審査(変更は認可が必要)
    • 日本人等の入場回数を連続する7日間で3回、連続する28日間で10回に制限
    • 日本人等の入場者に対し、入場料・認定都道府県等入場料として、それぞれ3千円/回(24時間単位)を賦課
    • その他
      • カジノ行為区画のうち専らカジノ行為の用に供される部分の面積を規制(特定複合観光施設の床面積の合計の3%)
      • カジノ行為の種類及び方法・カジノ関連機器等の規制
      • 日本人等に対する貸付業務の規制
      • 広告及び勧誘の規制
      • カジノ行為関連景品類の規制
  6. 納付金の使途
    • 国庫納付金及び認定都道府県等納付金の相当額を充当する経費の一つとして、上記の国及び地方公共団体の責務を達成するための施策等に必要な経費を規定。

さらに、暴力団等の排除については、以下のとおりとなります。

▼カジノ事業者等からの暴力団員等の排除等

IR事業者に関わる事業者や個人の範囲を広く背面調査の対象としている点は大変高く評価できる一方、排除の対象が、(1)十分な社会的信用を有する者、(2)暴力団員又は暴力団員でなくなった日から起算して5年を経過しない者(以下「暴力団員等」という。)に該当しない者に限定されている点は、反社会的勢力の排除という本質から見ればかなり狭いといえます。なお、「十分な社会的信用」に関する判断基準がなかなか明確になっていませんが、「特定複合観光施設区域整備法に係る説明会における質疑応答の概要」において、「自分では犯罪を犯している意識がなくとも、突然逮捕されるということもある。その場合、法律上は推定無罪であるが、社会的にはなかなかそうはいかない。背面調査においては、推定無罪が貫かれることになるのか」という問いに対して、「背面調査はカジノ事業やカジノ事業に関するキャッシュフローに係る社会的信用を担保するために行われるものであり、疑わしいことがあるのであれば、カジノ管理委員会がどこまででも調査を行える権限を有している。カジノ管理委員会の業務内容・権限は、このような調査をしっかり行い国民の信頼に応えられるようなものにしていかなければならないと考えている」と回答している点は参考になるものといえます

  1. カジノ事業の免許等において以下の人的要件を規定
    1. 十分な社会的信用を有する者
    2. 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から起算して5年を経過しない者(以下「暴力団員等」という。)に該当しない者
    3. 上記の人的要件の審査対象者
      • カジノ事業免許の申請者及びその役員等
      • 主要株主等(5%以上の議決権又は株式等の保有者)及びその役員等
      • ※ このほか、カジノ事業者に対し、株主等の十分な社会的信用を確保するために必要な措置及び株主名簿等の定期的な提出を義務付け。
      • 施設土地権利者及びその役員等
      • カジノ業務等の従業者
      • 契約の相手方
      • 上記の審査対象者の「十分な社会的信用」を審査する上で必要と認められる他者に対しても必要な調査を実施。
  2. このほか、カジノ施設供用事業の免許、カジノ関連機器等製造業等の許可、カジノ関連機器等外国製造業の認定、指定試験機関の指定等において上記1と同様の人的要件を規定
  3. カジノ施設への入場者からの暴力団員等の排除等
    1. 暴力団員等に対し、カジノ施設への入場又は滞在を禁止
    2. カジノ事業者に対し、暴力団員等をカジノ施設に入場させ、又は滞在させることを禁止
    3. カジノ事業者に対し、カジノ施設等の秩序維持措置として、不適切者の利用を禁止・制限する措置を義務付け

直近で横浜市は、アルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症対策に向けた「地域支援計画(仮称)」の素案を公表しています。ケアプラザなど市民に近い支援の場と、病院など専門機関とをつなぐ支援ガイドラインを作成することや、ゲーム依存症など新たな分野も念頭に予防策の普及啓発に取り組むこと、依存症からの回復支援施設や医療・司法機関などでつくる連携会議で課題を共有し、支援策を検討することなどが盛り込まれています。

▼横浜市依存症対策地域支援計画(仮称)素案

なお、本資料には、コラムが各所に散りばめられており、なかなか興味深いものです。たとえば「依存症」の定義については、「依存症の定義に関しては、支援者間でも様々な議論がなされており、確定的な定義を示すことは簡単ではありません。検討部会においても、依存症の定義をめぐって様々な議論がなされ、以下のような意見が聞かれました。まず、特にギャンブル等依存症について、状態像は幅広く、自力で回復できる人や自然回復する人もいるため、「脳の病気であり、相談・治療しないと回復できない」といったイメージを与える定義は避けるべきとの意見が聞かれました。また、「依存症は病気である」、「脳の病気」というと恐怖心等を抱いてしまう場合があるとの意見も聞かれました。一方で、依存症が「病気」であるということを理解すると、本人も家族も回復に向かって前向きになり、勉強をしていこうというきっかけになるという意見、依存症が病気であるから医療の対象になり、障害であるから福祉的支援の対象になるということを押さえておく必要がある、という意見が聞かれました。定義の幅についても、自然回復できるような人から対象とすべきという意見から本当に困っている重症の人に対象を絞るべきという意見までありました。さらに、自然回復できる/できないという話については、依存症からの回復者として、アルコール依存症から回復したとしても、完全に「治った」といえる状況は想定されにくく、「治ったから、また飲める」という誤解を与えてしまうのでは、という危惧も示されました。依存症からの回復に関しては、支援につながれば直ちに回復につながる場合ばかりではなく、数年以上の長期にわたって、本人に粘り強く寄り添っていく必要があるとの意見も聞かれました。このように、依存症は、疾患としての病態が非常に多様で幅広い状態像を包含するものであり、回復についても様々な経過や形があるとの議論がなされました。」と紹介されています。

また、「その他依存症について」では、「依存症は、アルコール依存症、薬物依存症、ギャンブル等依存症の3種類にとどまらず、その種類は多様です。全ての種類の依存症を網羅することは難しいですが、これまでに確認されている依存症は、大きく「特定の物質に対する依存症」、「特定の行動に対する依存症」の2つに分類できるとされています。まず「特定の物質に対する依存症」には、アルコールや薬物(合法の薬剤含む)のほか、たばこ(ニコチン)などの嗜好品への依存などが見られます。また、「特定の行動に対する依存症」には、ギャンブル等のほか、買い物、インターネット利用、性行為、窃盗などへの依存が見られます。いずれも、依存することによって日常生活や健康に問題が生じているにもかかわらず、自らコントロールできない状態に陥っている点が共通しています。「特定の行動に対する依存症」の中で、近年注目が集まっているものが、ゲームに対する依存症、いわゆる「ゲーム障害」です。ゲームに熱中して生活リズムが乱れてしまう、学校や職場でもゲームをしてしまう、といった日常生活上の問題のほか、オンラインゲーム等で過度の課金を行ってしまうといった経済的な問題等も合わせて発生する場合もあることがゲーム障害の特徴として指摘されています。こうしたことから、令和元年5月に、WHO(世界保健機関)はゲーム障害を精神疾患の一つとして位置付け、我が国においても厚生労働省を中心として令和2年2月に「ゲーム依存症対策関係者連絡会議」が開催されるなど、対策に向けた取組が進められています。」と取り上げています。

さらに、「新型コロナウイルス感染症の依存症への影響」では、「世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)は、我が国においても多くの人々の生活に大きな影響を及ぼしました。新型コロナがもたらした影響の中には、外出自粛に伴う景気の悪化、企業等の業績不振に伴う失業の増大、他者と触れ合う機会の減少など様々なものが挙げられます。現在、新型コロナと依存症との関連性に関するエビデンス等は示されていませんが、計画素案の作成プロセスにおいては、これまで活発に社会生活を営んでいた人たちが、依存症になる事例が増えてくるのではないかとの意見が医療関係者から聞かれました。具体的には、様々なリスク要因を持つ人が、失職などにより生活が激変し、様々な苦境にさらされる中で、飲酒量が増えるなどして、数年かけて依存問題が出てくるのではないかとの指摘です。上記の意見を踏まえれば、新型コロナの感染拡大による依存症への影響は、時間をかけて顕在化してくることが予想されます。」との指摘がなされています。

なお、本計画素案に対しては、IR誘致に反対する市民団体「横浜へのカジノ誘致に反対する寿町介護福祉医療関係者と市民の会(KACA)」は、ギャンブル依存症への対策が不十分として、再考を求める意見書を横浜市に提出しています。報道によれば、IR誘致に伴う対策への記述が少ない点、支援策の内容が乏しい点などを指摘、「IRへの予算を貧困・依存症対策に使って」と訴えています。また、KACAの一員でギャンブル依存症治療に取り組む医師は、「素案では普及啓発するだけで実際に苦しむ依存症当事者の姿が見えない。もっと当事者や家族に寄り添ってほしい」と訴えているといいます。

一方、横浜市のIR事業の推進については、林市長のスタンスによるところが大きいのですが、横浜市選挙管理委員会が、林文子市長の任期満了に伴う次期市長選の投開票日を8月22日にすると発表しています。告示日は同月8日となります。この市長選を巡って、IR事業の是非が大きな争点となることは間違いありません。林市長は自身の進退についてはまだ言及していないものの、本コラムでも紹介したとおり、2020年12月には、市への誘致を反対する市民団体が、IRの是非を問う住民投票を求める条例案を直接請求しましたが、2021年1月に市議会で否決された経緯もあります。報道によれば、市民団体は市長選にあたってIR反対の独自候補を擁立する見通しだということであり、今後の動向が注目されます。また、IRの予定地となっている山下ふ頭にある倉庫のうち、市と移転契約を結んだのは半数にとどまることが明らかになったとの報道もありました(2021年3月9日付毎日新聞)。横浜市が要請してきた2022年3月までの移転は難しい状況になり、IRの開業時期にも影響する可能性が出ているといいます。ふ頭はIRの予定地のため、2022年3月までを目安として本牧ふ頭への移転を求めてきたものの、移転交渉が難航、ふ頭にある24棟の倉庫のうち契約を締結したのは12棟と明らかにされました。この点についても、今後、注視していく必要がありそうです。

前回の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)でも取り上げたとおり、取組みが一歩進んでいた大阪府・市のIR計画については、ここにきて厳しい状況となっています。大阪府市が2月中旬に示したIR実施方針の修正案で、全面開業時期は白紙、施設規模は当初構想の5分の1も可とするなど大幅に下方修正されているからです。コロナ禍でIR事業者の苦境は深まっており、MGMも、2020年の通期決算で売上高は前期比6割減に落ち込んでいます。IRと万博の会場になる大阪湾の人工島、夢洲への地下鉄延伸費用として約200億円の負担もIR事業者に求めており、MGM・オリックスが撤退することになれば、IRに先立って開かれる万博にも影響しかねない状況です。もともと大阪府市は訪日客の増加を見込んで、国の要件を大きく上回る施設を2025年の大阪・関西万博にあわせて全面開業させる構想でしたが、来場者の見通しも不透明になり、鉄道各社の延伸投資にも影響が出そうな状況です。そのような状況を受けて、今回修正された実施方針案では2020年代後半の部分開業を認め、展示施設の当初規模を国の要件に合わせて下げ、全面開業時の5分の1の「2万平方メートル以上」でOKとしたものの、これでは隣の咲洲にある「インテックス大阪」の3分の1にも満たない規模であり、「世界最大級のIR」の目標がだいぶ霞んできたようです。一方、IR事業者の追加公募を行ってきたところ、新たな応募がなかったことから、米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同事業体に決まる公算が大きくなりました。報道(2021年4月6日付産経新聞)によれば、「大阪市の松井一郎市長は「MGMは非常に経営が苦しい中でも大阪IRを続ける意思表示をしている。パートナーとして誠意を持って対応できている」と評価した。府市は今後、MGM側からの事業内容の提案書を審査し、9月ごろに事業者として決める見通し」としたうえで、「背景には、オリックスが持つ関西の事業基盤の強さがある。オリックスは関西国際、大阪(伊丹)、神戸の3空港に加え、大阪市内で球場や劇場の運営に携わる。JR大阪駅北側の再開発地域「うめきた2期」の開発企業群にも名を連ねており、大阪でIRが実現した際には、それらの施設との連携も期待される」ことを指摘しつつ、(前述のとおり計画の縮小等の見直しを迫られている点をふまえ)「IR実施法では、カジノを含むIRの整備を進める前提として「国際競争力の高い魅力ある滞在型観光」の実現を目指すことが定められている。コロナ禍後は、海外や今後設置が見込まれる他の国内IRとも顧客誘致をめぐる競争が激化すると予想されるなか、利用者をひきつける魅力的な施設が実現しなければ、実施法の理念そのものがほごにされかねない」とも指摘しています。

さて、IR事業をめぐる汚職事件で、収賄などの罪に問われた衆院議員、秋元司被告らの公判が、東京地裁で開かれました。日本でIR事業の参入を目指していた贈賄側の中国企業「500ドットコム」元顧問の男=贈賄罪で有罪確定=が証人として出廷し、賄賂の提供を認め、「より強力な後押しをしてほしいという意味だった」と証言しています。報道によれば、証人として出廷した贈賄側の中国企業「500ドットコム」の元顧問は、秋元議員の知人=証人等買収罪で有罪確定=から「仕事の面倒を見ることや弁護士費用の見返りに、記憶に反するうその証言をしてほしいと頼まれた」と述べたといいます。さらに、元顧問によると、昨年6月、那覇市内にあるホテルで、秋元議員の知人から「(陣中見舞いの現金を渡す際に)秋元さんはいなかったのに、検察官に脅されて供述したんですよね」と詰め寄られたこと、「一生面倒を見る」などと言われ、裁判での虚偽証言を依頼されたといい、元顧問は断ったと説明したということです。さらに、賄賂の見返りとして、秋元議員からIRの認定区域に関し「1カ所目は大阪、2カ所目は横浜、3カ所目は地方枠だ」と公表前の情報提供を受けたとも証言したといいます。なお、秋元被告の弁護側は冒頭陳述で、元顧問2人が議員会館を訪れた時に被告は別の場所におり、300万円は受け取っていないと反論した上で、「元顧問2人が着服した」と主張、ほかの収賄や証人買収の起訴事実も否定しています。本コラムでは、本公判の推移について今後も注視していきたいと思います。

ゲーム依存症対策についても、動きがあります。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、政府が2020年に実施した休校が明けた後、子どものゲーム依存に関する児童相談所への相談が拡大前に比べ5割増えていたとの調査結果を大阪府立大の山野則子教授(子ども家庭福祉学)らのチームが発表しています。

▼大阪府立大学 山野則子研究室が「コロナ禍における子どもへの影響と支援方策のための横断的研究」報告書を発表―高いストレスを抱える子どもが3割強、見えないリスクが可視化―

調査結果のポイントの1つとして「何となく思われていたことの数値による明確化」がなされたといい、(1)高いストレスをもつ子ども約3割強、(2)休校解除後に学校に行きづらいと感じる子どもが約3割、(3)精神的・身体的・その他の負担が増えた保護者4人に1人などといった実態が明らかとなったことは大変意義のあることだと思います。さらに、今回の調査および報告書におけるポイントとして、(1)新型コロナウイルス感染症の保護者や子どもへの影響を検討し、可視化されにくい子どもにかかわる公的機関における支援の実態に関して、長時間の経緯を網羅的に把握することを目的としたこと、(2)本調査の機関調査においては回収率がおおむね35~55%と、日本における最大規模の調査数かつ非常に高い回収率の調査となったこと、(3)新型コロナウイルス感染症による子どものストレスやトラウマ、PTSD症状などの観点で調査したデータは他にはないこと、(4)報告書は700ページに達し、3月中旬に完成、全国の市町村に送付したことを掲げています。さらに、「特に注視すべき調査結果」として、(1)経済状況や不本意な在宅生活が、家庭内不和を起こす可能性が高く、それは様々なところに影響することも明らかになった。保護者調査では家庭の中で精神的・身体的・その他の負担が増えた回答者は4人に1人であった、(2)子ども調査では、コロナに伴うストレスを問う質問において「まったく当てはまらない」という回答者は13.2%のみだった、(3)学校再開後、学校に行きづらいと感じた子どもは3分の1をしめ、声にならない子どもたちの悲痛な叫びが明らかになった。親の心身ともに健康であることが子どもとのかかわりに影響を与え、それが子どもの自己肯定感に影響し登校意欲につながっていくという大阪調査の結果(山野2019)とつながる結果であった、(4)学校や支援機関では、様々に訪問を伴う作業を実施しているが、コロナによる自粛によって、活動は余儀なく延期されたり、中止されたりした。これは、孤立しがちな保護者や子どもに会話する機会や勇気づける機会を逃したことになる。気になる子どもたちをキャッチできず、結果的には見えないところで、子どもたちのストレスが高くなっていくことを放置せざるをえなくなったものと考える、(5)教育委員会に寄せられた相談では、感染の深刻な地域において、貧困関係相談が特に急増し、一時保護所入所が学校再開後、急増している。ゲーム依存の相談、性的な問題、DVに関係する相談が増えた、(6)児童相談所における子どもの問題の特徴的なこととして、ゲーム依存の相談、性的な問題、DVに関係する相談が増えたことであった、としています。

さらに、昨年4月、全国初のネット・ゲーム依存症対策の条例「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」を制定した香川県教育委員会が同県内の小中高生を対象に実施したスマートフォンやゲームの利用状況調査が公表されています。

▼香川県 令和2年度スマートフォン等の利用に関する調査報告書

同条例で、利用時間の上限が1時間とされているところ、調査結果によれば、「オンラインゲームの利用が平日1時間以上と回答した児童生徒は、小学生(4~6年)は52.3%、中学生は50.9%、高校生は34.9%でした」、「オンラインゲームの1日当たりの利用時間は、全校種で、学校再開後の調査時点(9~10月)では、臨時休業中(3~5月)に比べ短くなっています」ということです。さらに調査結果のうち、ゲーム依存症関連の項目をみると、「ネット・ゲームへの依存傾向にあると考えられる児童生徒の割合は、小学生(4~6年)4.2%、中学生6.3%、高校生4.6%で、前回調査(2017年)と比較ができる中・高校生において増加していること、また、小学生(4~6年)も中・高校生より少ないものの一定数いることがわかりました」、「(依存傾向の内容としては)小学生(4~6年)・中学生では、「ネットに夢中になっていると感じる」ことが最も高く、高校生では「使い始めに思っていたよちも利用時間が長い」が最も高くなっています」といった内容となっています。報道によれば、県教委は調査結果を分析し、「小中高生の4~6%に依存傾向がある」としている。一方、平日に3時間以上スマホなどを利用する「長時間利用」は2017年の調査からそれぞれ2~11ポイント減少したことをふまえ、「条例に一定の効果はあった」とする一方、更なる対策に乗り出したということです。具体的には、教員向けに、児童生徒のネット・ゲーム依存症への予防策をまとめたマニュアルを作成、「授業での啓発活動」、「保護者との連携」、「医療機関などとの協力」などの必要性が記されており、県内全ての幼稚園や小中高校に配布されたということです。

また、厚生労働省の「ゲーム依存症対策関係者会議」でも議論が進められているところです。直近では、第2回目の資料等が公表されていますので、その中から一部紹介します。

▼厚生労働省 ゲーム依存症対策関係者会議
▼資料2 (曽良氏資料)インターネット・ゲーム障害
  • 依存(嗜癖)とは:快感、多幸感、ワクワク感、楽しさなどを追い求める行動がエスカレートし、やがてその行動のコントロールができなくなる状態。その行動の行き過ぎに起因する、健康問題、家族・社会的問題等をともなう。
  • 依存(嗜癖)の構成要素
    • 依存に特有の症状
    • 依存行動に起因する健康・社会・家族問題
    • 依存に共通した脳内メカニズムの存在
  • 依存に特有の症状
    1. 渇望・とらわれ:ゲームのことがいつも頭にある。いかにゲームするかいつも考えている。
    2. コントロール障害:ゲームを始めると、なかなかやめられない。ゲームを減らそうと思ってもできない。
    3. 耐性:以前よりもゲーム時間を増やさないと満足できない。ゲーム機器がより高度になる。
    4. 禁断症状:ゲームをできない状況、または減らさなければならない状況になると、イライラする、ソワソワする、気力がなくなる。
    5. 依存が最優先:ゲームが生活の最優先事項になる。ゲームを中心に生活が回っている。
    6. 問題にも関わらず継続:ゲームで明らかな問題が生じているが、ゲームを続ける、またはエスカレートさせる。
    7. 再発:ゲーム障害の人が、ゲームを止め続けても、また、始めればすぐに元の状態に戻る。
  • ゲーム依存の脳内変化(例)
    • 前頭前野(理性の脳)の働きが悪くなる
    • ゲームCUEに対する過剰な脳内の反応
    • ゲーム報酬に対する低反応(報酬欠乏状態)
    • ゲームの勝ちに高反応、負けに低反応
  • インターネット・ゲーム障害(DSM-5) 以下のうち5項目以上
    1. ネットへのとらわれ(とらわれ)
    2. ネットができない時の禁断症状
    3. 以前に比べて、ネットをする時間を増やす必要がある(耐性)
    4. ネット使用を減らそうとするが失敗におわる(コントロール障害)
    5. 心理的、社会的問題が起きていると知りながらネット使用を続ける
    6. ネット使用の結果として興味、趣味、娯楽をなくす、または、ネット以外に興味、趣味、娯楽がない(ネット中心の生活)
    7. 嫌な気分から逃れるため、または解消するためにネットを使う(気分修正)
    8. ネット使用について、家族、治療者、または他の人をだましてきた(嘘)
    9. 大切な人間関係、仕事、教育や出世の機会を、ネット使用のために危うくしてきた、または、失った(機能障害)
  • ゲーム障害の定義(ICD-11) Definition of gaming disorder(ICD-11)
    1. 臨床的特徴
      • ゲームのコントロールができない。
      • 他の生活上の関心事や日常の活動よりゲームを選ぶほど、ゲームを優先。
      • 問題が起きているがゲームを続ける、または、より多くゲームをする。
    2. 重症度
      • ゲーム行動パターンは重症で、個人、家族、社会、教育、職業やほかの重要な機能分野において著しい障害を引き起こしている。
    3. 期間
      • 上記4項目が、12ヵ月以上続く場合に診断する。しかし、4症状が存在し、しかも重症である場合には、それより短くとも診断可能。
  • 治療の基本
    • 周囲から本人のネット使用をコントロールしようとしても難しいことが多い
    • 本人が自分の意思で行動を変えていくように援助する
    • ドロップアウトを防ぎ、継続的に、我慢強く診てゆく
  • 浮かび上がる予防対策
    • ゲーム・スマホの使用開始を遅らせる
    • ゲーム・スマホの使用時間を少なくさせる
    • ゲーム・スマホを全く使用しない時間を作る
    • 家族のスマホ使用も減らす
    • リアルの生活を豊かにする
③犯罪統計資料

令和3年1~2月の犯罪統計資料が警察庁から公表されていますので、紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和3年1~2月)

令和3年1~2月の刑法犯総数について、認知件数は83,410件(前年同期104,071件、前年同期比▲19.9%)、検挙件数は40,567件(35,333件、+14.9%)、検挙率は48.6%(34.0%、+14.6P)と、認知件数が昨年1年間の数字(▲17.9%)よりさらに減少した一方で、検挙件数については、昨年の▲5.1%から+14.9%と大きくプラスに転じている点が大きな特徴です。まだ2か月分の数字ですので評価が難しいところですが、検挙率が昨年の45.5%から48.6%と3.1Pもアップしたことは素直に評価したいと思います。なお、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数は56,450件(74,228件、▲24.0%)、検挙件数は25,210件(21,579件、+16.8%)、検挙率は44.7%(29.1%、+15.6P)、うち万引きの認知件数は14,181件(14,839件、▲4.4%)、検挙件数は9,816件(9,337件、+5.1%)、検挙率は69.2%(62.9%、+6.3P)、知能犯の認知件数は5,244件(4,969件、+5.5%)、検挙件数は2,788件(1,996件、+39.7%)、検挙率は53.2%(40.2%、+13.0P)、詐欺の認知件数は4,745件(4,432件、+7.1%)、検挙件数は2,357件(1,636件、+44.1%)、検挙率は49.7%(36.9%、+12.8P)などとなっています。

また、特別法犯総数については、検挙件数は検挙件数は10,083件(8,927件、+12.9%)、検挙人員は8,316人(7,531人、+10.4%)と昨年は検挙件数・検挙人員ともに微減となったものの、一転して大きく増加傾向を示している点が特徴的です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は734件(771件、▲4.8%)、検挙人員は531人(532人、▲0.2%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は148件(133件、+11.3%)、検挙人員は117人(110人、+6.4%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は331件(390件、▲15.1%)、検挙人員は260人(326人、▲20.2%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は39件(56件、▲30.4%)、検挙人員は12人(18人、▲33.3%)、不正競争防止法違反の検挙件数は4件(11件、▲63.6%)、検挙人員は6人(20人、▲70.0%)、銃刀法違反の検挙件数は740件(695件、+6.5%)、検挙人員は662人(610人、+8.5%)などとなっています。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は111件(103件、+7.8%)、検挙人員は73人(54人、+35.2%)、大麻取締法違反の検挙件数は863件(642件、+34.4%)、検挙人員は670人(535人、+25.2%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1,467件(1,236件、+18.7%)、検挙人員は991人(902人、+9.9%)などとなっており、いずれも前年に比べ大きく増加傾向を示しており、深刻な状況だといえます。また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯 国籍別 検挙人員については、総数104人(71人、+46.5%)、ベトナム37人(8人、+362.5%)、中国20人(8人、+150.0%)、ブラジル9人(6人、+50.0%)、フィリピン4人(4人、±0.0%)などとなっています。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別 検挙件数・人員 対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は1,469件(1,286件、+14.2%)、検挙人員は805人(769人、+4.7%)と昨年1年間の傾向から一転して、検挙件数・検挙人員ともに増加傾向を示している点が特徴です。前回の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、「基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます」と指摘しましたが、ここにきて活動が活発化している可能性を示すともいえそうですが、2か月分の数字でもあり、今後の動向に注意する必要がありそうです。犯罪類型別では、暴行の検挙件数は101件(109件、▲7.3%)、検挙人員は100人(91人、+9.9%)、傷害の検挙件数は150件(169件、▲11.2%)、検挙人員は177人(197人、▲10.2%)、脅迫の検挙件数は45件(43件、+4.7%)、検挙人員は49人(35人、+40.0%)、恐喝の検挙件数は49件(49件、±0.0%)、検挙人員は53人(51人、+3.9%)、窃盗の検挙件数は751件(542件、+38.6%)、検挙人員は120人(102人、+17.6%)、詐欺の検挙件数は166件(181件、▲8.3%)、検挙人員は140人(113人、+23.9%)、賭博の検挙件数4件(1件、+300.0%)、検挙人員は22人(8人、+175.0%)などとなっています。とりわけ、脅迫や窃盗、詐欺については、昨年はコロナ禍の影響で大きく減少したところ、一転して大きく増加傾向を示している点は注意が必要だといえます。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別 検挙件数・人員 対前年比較の特別法犯総数について、808件(837件、▲3.5%)、検挙人員は547人(616人、▲11.2%)とこちらは昨年1年間の傾向同様、減少傾向が続いていることが分かります。犯罪類型別では、暴力団排除条例違反の検挙件数は7件(5件、+40.0%)、検挙人員は15人(7人、+114.3%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は18件(19件、▲5.3%)、検挙人員は4人(8人、▲50.0%)、大麻取締法違反の検挙件数は113人(118人、▲4.2%)、検挙人員は66人(87人、▲24.1%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は557件(533件、+4.5%)、検挙人員は364人(375人、▲2.9%)などとなっており、暴力団排除条例違反の摘発が進んでいる点、薬物事犯全体が大きく増加している中、暴力団犯罪については引き続き減少傾向を示している点が特徴的だといえます。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮の金正恩総書記は、朝鮮労働党の末端組織「細胞」の幹部ら1万人を集めた「細胞書記大会」で1990年代後半に多くの餓死者を出した経済危機を指す「苦難の行軍」という表現を使い、憶測を呼んでいます。北朝鮮は、国際社会の経済制裁や新型コロナウイルスを防ぐ中朝国境封鎖、度重なる自然災害で経済が厳しくなっています。地方で餓死者が出ているとの情報もあるところ、「苦難の行軍を訴えた対象は党の末端幹部に対してであり、1990年代ほど状況が悪化したわけではないと考えられることや、1月の党大会で外部の力に頼らない「自力更生」の方針を強調しており、米国との対立が長期化するのに備えて体制内の結束を高める狙いがあると考えられます。同会議では、「類例のない困難を抜けていかねばならない極めて難しい情勢にある」、「党と革命の発展に重要な瀬戸際のような時期だ」といった演説を行ったといいます。また、今夏開催予定の東京五輪について、「新型コロナによる世界的な保健危機の状況から選手を守るため」(体育省)不参加を表明しました。北朝鮮が東京五輪不参加を決めたのは、新型コロナウイルス流入を極度に警戒する中、一向に収束の気配が見えない日本に選手団を派遣するのはリスクが大きいという判断からとみられています。医療水準が低く、ウイルスが流入、拡散すれば多数の死者が出かねない北朝鮮は昨年、国境を封鎖し、国家非常防疫体制を宣言、新たに感染力が強い変異ウイルスが世界で広がっていることもあり、朝鮮労働党機関紙・労働新聞は「小さな緩み、油断も絶対に禁物」と訴えています。とはいえ、そこは北朝鮮であり、何らかの政治的なカードを切った可能性も否定できないところです。

その食糧不足問題については、深刻さを増しているとの情報が増えています。国境封鎖の影響は食糧以外の生活物資にも及び、住民の不満は高まっているようだとも報じられています。韓国の情報機関、国家情報院が2月中旬に国会に行った報告によると、北朝鮮の昨年の穀物生産量は440万トンで、需要量550万トンと比べると、100万トン余りが不足するとみられるといいます。不足量は例年とほぼ同じ水準だが、これまで中国から輸入や密輸、支援の形で入ってきた穀物の量が激減し、数字以上に厳しい状況に陥っていることが推測されます。さらに衝撃的なことに、在北朝鮮のロシア大使館は、平壌に駐在する各国の外交官や国際的な人道組織の職員が大量に国外に脱出しているとFBで明らかにしています(大使が残るのはロシアを含む9か国のみ。平壌の外国人も300人未満にまで減少したといいます)。新型コロナウイルスの感染拡大に対応したとみられる「前例のない厳しい全面的な制限措置」が導入され、医薬品など深刻な物資欠乏も起きていると指摘、中国と北朝鮮は新型コロナウイルスの影響でほぼ全面的に停止している貿易を4月中にも再開する方向で調整に入ったものの、中朝貿易の停滞が物資の不足に拍車をかけていた可能性もあります。一方でロシアは、「難しい条件下でも耐え抜く北朝鮮の能力を過小評価すべきではない」と指摘し、金正恩体制の動揺につながるとの見方は否定しています。また、コロナ禍への対応に苦慮する状況を推し量るものとして、例年、日本海側で相次いでいる木造船の漂着が今季は1件も確認されていないという事実もあげられます。報道によれば、日本海側を通過する台風が少なかったので、難破する船も少なかった可能性もあるものの、新型コロナウイルスの感染を警戒する当局が出漁を禁止していることや、中国に漁業権を譲り、遠洋に出にくくなったことが背景にあると考えられます。

さて、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが、対北朝鮮制裁の履行状況に関する最終報告書を正式に発表しています。報道(2021年4月1日付日本経済新聞)によれば、北朝鮮は「大陸間弾道ミサイル(ICBM)に核兵器を搭載できる可能性が非常に高く、中距離および短距離弾道ミサイルにも核兵器を搭載できる可能性がある」と指摘しています。さらに、北朝鮮が2019~20年に暗号資産交換事業者などへのサイバー攻撃を通じ、計3億1,640万ドル(約350億円)の暗号資産を違法に奪ったとも明らかにしています。なお、北朝鮮は盗んだ暗号資産を他の暗号資産に替えることで追跡を困難にする「チェーンホッピング」という手法を使っているとされます。さらに、イスラエルなど数十の防衛企業や関連組織にもサイバー攻撃をしかけたといいます。ビジネス向けSNSで著名な防衛・航空宇宙企業の人事担当者になりすまし、関連企業の従業員に接近、電話による会話やテキストメッセージで信頼を獲得した上で、マルウエア(悪意のあるソフト)を添付した電子メールをターゲットに送る手口を使ったと紹介されています(そのほかにも、韓国政府機関の秘密情報を狙ったとみられるサイバー攻撃では、職員のスマホをハッキングして連絡先や文字メッセージを奪ったほか、女性職員を装ってFBを開設し、顔写真に引かれて友達申請に応じた男性職員に内部資料を要求するといった事例もあったといいます)。また、以前から問題となっている、海上で積み荷を移し替える「瀬取り」の横行も確認され、少なくとも410万トンの石炭及びその他の禁止鉱物を中国に輸出していること、安保理が定める制限を大幅に超える量の石油精製品を密輸入する制裁違反は2020年1~9月に2017年12月の安保理決議が定めた年間供給上限の50万バレルの数倍に達したことなども指摘されています。また、国境が封鎖されるなか、北朝鮮が外貨取得目的で海外に派遣した出稼ぎ労働者は送還の期限を過ぎても国外で働き続けている(観光客や学生ビザで入国し、建設やITなどの分野で活動を継続している)実態も浮かび上がっています。

また、北朝鮮は、3月25日朝、1年ぶりに弾道ミサイルを発射しました。米バイデン政権は日韓を交えた北朝鮮政策の策定作業の大詰めを迎えていた時期で、ミサイル発射で米側の反応を探りつつ、米朝関係を主導するのは自分たちだと存在感を誇示したものと考えられます。なお、米韓両軍は、短距離弾道ミサイルとみてさらに詳しい解析を進めているところです。2発は日本海に向けて発射され約450キロ飛行、高度は約60キロだったと探知されています。なお、北朝鮮は、3月21日には中部から反対の黄海側に向けて巡航ミサイルと推定される短距離ミサイル2発を発射していたことも明らかとなりました。一方、北朝鮮は今回発射した新型弾道ミサイル2発について、改良で弾頭重量を2.5トンに増大させたと主張、事実なら大幅な小型化なしに核弾頭を搭載できることになり、今年1月の朝鮮労働党大会で、金正恩総書記が予告した「戦術核兵器開発」でさらに一歩踏み込んだことを意味することになり、日韓への脅威も一段と高まることになります。北朝鮮による核ミサイル開発では、核弾頭の小型化がネックとみられてきましたが、北朝鮮の主張通り、2.5トンまで弾頭重量が増えたとすれば、小型化の途上でも核弾頭を搭載できる可能性が出てきたことになります。なお、国連安保理は、北朝鮮による短距離弾道ミサイル発射をめぐり非公開で対応を協議、弾道ミサイル発射は安保理決議で禁止されており、大半の国が発射に懸念や遺憾の意を表明したものの、安保理としての見解を出す必要性では一致できず、声明は出せませんでした。

さて、日本の北朝鮮に対する直近の対応を確認します。まず、短距離弾道ミサイルを発射したことを菅首相は「我が国と地域の平和・安全を脅かすものであります。また、国連決議違反でもあります。厳重に抗議し、強く非難いたします」と述べました。それに対し、北朝鮮の朝鮮中央通信は、「われわれの自衛権への露骨な否定で絶対に看過できない」と批判する論評を配信、「われわれの国防力強化は、外部勢力の軍事的脅威を制圧して朝鮮半島の安全を守るための正当な自衛権行使だ」と主張、自衛隊が宇宙部門の専門部隊や電子戦部隊を創設したことにも触れ、「日本こそ地域の平和と安全を重大に脅かす張本人」と批判、「他人に言い掛かりをつける前に、再び侵略するために実戦配備や開発する兵器について、完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄を行うべきだ」と持論を展開しています。また、北朝鮮への対応としては、4月13日に期限となる北朝鮮への独自制裁を再延長したことも大きな動きといえます。

▼経済産業省 外国為替及び外国貿易法に基づく北朝鮮輸出入禁止措置を延長しました
  • 経済産業省は、「外国為替及び外国貿易法に基づく北朝鮮に係る対応措置について」(令和3年4月6日閣議決定)に基づき、北朝鮮を仕向地とする全ての貨物の輸出禁止及び北朝鮮を原産地又は船積地域とする全ての貨物の輸入禁止等の措置を引き続き講ずることとしました。
    1. 措置の内容
      • 北朝鮮を仕向地とする全ての貨物について、経済産業大臣の輸出承認義務を課すことにより、輸出を禁止します(関係条文:外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)第48条第3項)。
      • 北朝鮮を原産地又は船積地域とする全ての貨物について、経済産業大臣の輸入承認義務を課すことにより、輸入を禁止します(関係条文:外為法第52条)。
      • これらの措置に万全を期すため、次の取引等を禁止します。
        • 北朝鮮と第三国との間の移動を伴う貨物の売買、貸借又は贈与に関する取引(仲介貿易取引)(関係条文:外為法第25条第6項)
        • 輸入承認を受けずに行う原産地又は船積地域が北朝鮮である貨物の輸入代金の支払(関係条文:外為法第16条第5項)
      • 人道目的等に該当するものについては、措置の例外として取り扱うものとします。
        • 措置の期間
          • 上記の措置は、令和3年4月14日から令和5年4月13日までの間、実施します。

次に米の北朝鮮政策について確認します。直近では、米ホワイトハウスのサキ報道官は、朝鮮半島の非核化につながるのであれば、北朝鮮との外交を検討する用意があると明らかにしています。報道によれば、「北朝鮮に関する政策については、非核化が米国の明確な目的だ」と述べています。なお、直近で北朝鮮東部の新浦の造船所での活動が確認され、北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の試験発射を準備している可能性が報告されていることについてはコメントを避けています。「国益にかなうのなら、敵対国や競争国であっても交渉していく」と外交方針演説で述べたバイデン大統領は就任当初からしばらくの間、北朝鮮問題に具体的に触れることはありませんでした。しかしながら、北朝鮮による短距離弾道ミサイルの発射をふまえ、「国連決議に違反している」との認識を示したうえで、同盟国や友好国と話し合っているとして「もし事態をエスカレートするなら行動をとる」と警告しました。非核化を最終目標に「外交の用意もある」とも述べ、対話に意欲を示しています(米の非難に対し、北朝鮮の李炳哲朝鮮労働党書記は「自衛権に対する侵害だ」と反発、「米国の新政権の好戦的な姿勢は、我々がやるべきことの正当性を認識させた」とし、「米新政権がスタートを誤って切った」と指摘しています。「米国は好ましくないことに直面するかもしれない」とさらなる軍事挑発を示唆し、「引き続き圧倒的な軍事力を育む」と表明しています)。さらに、4月に入り、日米韓3カ国の国家安全保障会議(NSC)の責任者による会合が、米メリーランド州アナポリスで開催され、バイデン政権が進めている対北朝鮮政策の見直しについて協議、日米韓の緊密な連携のもと、北朝鮮の核ミサイル開発問題に対処することを確認しています。共同声明によれば、サリバン氏らは国連安保理決議を国際社会が完全に履行することが必要であることを確認、南北離散家族の再会と拉致問題の迅速な解決の重要性も協議、新型コロナウイルス問題や気候変動のほか、クーデター後の混乱が続くミャンマーの民政回復に向けた協力についても議題となったようです。

なお、これとは別に米司法省は2月、北朝鮮のハッカー3人が国内外の銀行や企業から計13億ドル(約1,390億円)超を盗むなどしたとして、起訴したと発表しました。3人は朝鮮人民軍の特殊工作機関、偵察総局のハッカー集団に所属し、世界各地の銀行から多額の現金を窃取、仮想通貨市場から巨額の資金を奪っていたとされいます。さらに、北朝鮮ハッカーは新型コロナウイルスのワクチンを狙っていたともいわれています。北朝鮮のハッキング能力は米中央情報局(CIA)並みとの指摘もあるようです。日本もターゲットとされ、中国、ロシア、シンガポールなどを拠点に、実際に狙われた国はベトナム、パキスタン、バングラデシュ、メキシコなどで、銀行のシステムに侵入し第三国に巨額の外貨を送金させる手口が特徴です。また、米連邦捜査局(FBI)はマレーシア政府に対し、対北制裁に違反して酒や時計などのぜいたく品を北朝鮮に送り、ペーパーカンパニーを通じてマネー・ローンダリングしたとして、50代の北朝鮮籍の男の身柄引き渡しを要請、マレーシア最高裁は、拘束決定の取り消しを求めた男の抗告を棄却し、米国への引き渡しが決まりました。本件を受けて、北朝鮮は「特大型敵対行為」を敢行したと大激怒、マレーシアに対し外交関係を断絶すると宣言しています。事件は米国の陰謀だとも主張し「米国も当然の代価を支払うことになる」と反発しています。バイデン政権との対話を拒むなど、米国への敵対姿勢を一段と強め、対北制裁を続けるバイデン米政権を牽制する意図もうかがえるところです。さらに、同被告の身柄の引き渡しを受けた米司法省は、ワシントンの連邦裁判所に出廷させたと発表しています。北朝鮮国民の送還を受けた米国内での裁判は初めてだということです。なお、マレーシアと北朝鮮の関係は、2017年にクアラルンプールの空港で起きた金正恩総書記の異母兄、金正男氏暗殺で冷え込んでいたという経緯もあります。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(千葉県)

千葉県警は、正月用の飾り物などの購入を要求したとして、暴力団対策法に基づく中止命令を出していた双愛会傘下組織の男性組に、同様の要求行為を行う恐れがあるとして、千葉県公安委員会が再発防止命令を出したと発表しています。報道によれば、男性組員は昨年12月下旬~今年1月上旬ごろ、大多喜町内の飲食店などに対し、正月用の飾り物などの購入を求めたため、勝浦署から計3件の中止命令を受けていたというものです。再発防止命令の期間は1年間ですが、男性組員は従う意向を示しているということです。

▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

第11条(暴力的要求行為等に対する措置)第2項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる。」と定められており、前述の通り、行為が繰り返されるのを防ぐために予防的に禁止する措置である「再発防止命令」が発出されたものとなります。

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