暴排トピックス

暴排実務のさらなる深化を期待したい~サプライチェーンからの暴排

アバター 取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

2021.11.09
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1.暴排実務のさらなる深化を期待したい~サプライチェーンからの暴排

G7は10月の貿易相会合で、国際的なサプライチェーンから強制労働を排除する仕組みづくりで一致、共同声明では、輸出入の制限措置など各国の貿易政策が、強制労働を防ぐうえで「重要な手段」になると明記、少数民族などを念頭に「脆弱なグループ」が国家から強制労働を迫られる問題への懸念を共有したうえで、輸出入制限などの貿易措置を活用したり、企業がサプライチェーン上の人権侵害リスクを把握し予防する「人権デューデリジェンス(DD)」を後押ししたりするなどして、強制労働の排除をめざす姿勢を打ち出しました。企業が人権リスクにどの程度対応すればいいか明確化する方針でも一致、企業がどんな証拠やデータを提示すれば強制労働に関わっていないと証明できるか明示して予見可能性を高める取組みを始めるということです。この流れを受けて、経済産業省は11月1日、日本企業の人権問題への対応を支援する部署として、大臣官房に「ビジネス・人権政策調整室」を設けました。サプライチェーン上の人権侵害リスクを把握し予防する「人権DD」の取り組みなどを推進することになります。中小企業からの問い合わせを受け付けたり、業界団体で人権対応の指針を作る際の助言をしたりするとしたほか、一元的に対応できるように省内横断の組織としたことも大きな特徴だといえます。一方、情報セキュリティの分野では、数年前から「サプライチェーン攻撃」が活発化しており、サプライチェーンにおける情報セキュリティ上の脆弱性を極小化していくための取り組みの重要性も認識されはじめています。あるいは、テロ対策の文脈でも、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)がトヨタ自動車製の車両を多数使用しているとみられるとして、米財務省がトヨタに情報提供を求めるという事例もありました。本件では、豪シドニーで2014~15年にかけて800台以上のトヨタ車が盗難被害にあい、テロ組織に渡っている疑いがあると報じられていますが、トヨタの米国法人はテロ活動の恐れがある購入希望者には車は売らないという厳格な規定を採用しているとしていますが、中古車の販売や盗難などの全ての経路を断つことは「どのメーカーでも不可能だ」としています。とはいえ、サプライチェーンの一部でテロ組織との関与が疑われれば、その影響はメーカー本体にも及びうるということを示したものともいえます。

さて、筆者は、10年以上前から、反社リスク対策においても、サプライチェーンからの暴排(反社会的勢力排除)、目の前の相手の背後に潜む「実質的支配者」からの暴排(反社会的勢力排除)、KYC(Know Your Customer)からKYCC(Know Your Customer’s Customer)へと視点を拡大していくことが重要であると主張してきました。しかしながら、多くの方から、「概念的には、あるいは理念としてはそうかもしれないが、実務としては難しいですね」との反応が多く、なかなか具体的に取り組むまでには至らず、歯がゆい思いをしてきた経緯があります。しかしながら、今、人権DD実務の定着化・深化や、サイバー攻撃の巧妙化に伴い情報セキュリティにおける業務委託先等の管理・監督の強化の要請、テロ対策や厳格なAML/CFT実務の要請など、自らが関与するサプライチェーンにおける健全性阻害要因の抽出や持続的に健全性を担保していくための取り組みが今後実務として定着していくことが予想され、反社リスク対策もまたその一つの要素となると考えます。筆者の危機感は、そもそも反社会的勢力の不透明化が顕著となりつつある一方で、反社リスク対策のレベルはそれを見抜くだけの水準に達していないという「絶望的なまでのミスマッチ」が拡大しているところにあります。そのミスマッチを解消し、実効性を高めていくためには、サプライチェーンからの暴排(反社会的勢力排除)を実務の中にきちんと位置付けることがまずは重要だと考えます。具体的な実務のあり方としては、関係者の周辺や背後関係まで精査すること、「実質的支配者」の特定に向けた調査精度を高めることなどが求められるようになり、その対応として、取引先等に対して、「どの程度反社リスク対策に取り組んでいるか調査票の提出を求める」、「実際にヒアリングや実査を行うことで取組み状況を確認する」、「虚偽の申告や回答等の場合は取引の解消や制限をすることがありうるといった規定を設ける」などの取組みが考えられるところです。人権DDやAML/CFT、情報セキュリティといった分野では、すでに取り組まれている先進的な企業も増えていますが、反社リスク対策においても同様の取組みが定着することを期待したいと思います。

さて、2021年10月25日付産経新聞の記事「暴力団への画期的判決薬が毒に?水面下の不穏な「反社」東京社会部長・酒井孝太郎」は、工藤会判決の持つ意味と反社会的勢力への影響等について、極めてコンパクトにまとまった内容となっています。一方で、筆者としては、警察の摘発強化にすがるだけでなく、事業者が自らや自らの関係者を守るためにも、「自分事」として今できる最大限の努力、民間事業としてできる最大限の努力を惜しまないことが極めて重要だとお伝えしておきたいと思います。

「薬も過ぎれば毒となる」のことわざ通り、プラスと思われる事象が逆の結果を生むこともあるから、世の中は難しい。ここでの「薬」は、暴力団という絶対的な社会悪に対する鉄槌だ。特定危険指定暴力団の工藤会(北九州市)がかかわったとされる一般市民襲撃4事件で、殺人などの罪に問われた同会総裁に死刑を言い渡した8月の福岡地裁判決。総裁の指示を裏付ける直接証拠がない中、実行役の組員らとの共謀を認定するという画期的な判断だった。・・・懸念されるのは「報復」だけではない。判決がもたらす衝撃があらゆる暴力団組織に及び、水面下でのマフィア化が加速するのではないかという点だ。・・・確かにいえるのは、暴力団対策の強化と前後し、「半グレ」と呼ばれる組織的犯罪集団が跋扈するなど裏社会が混沌としてきたということだ。半グレとは「グレーゾーン」や「グレる」といった意味が込められた造語。元暴走族や非行集団から派生したのが始まりとされ、暴力団のような明確な組織構造を持たず、離合集散を繰り返す流動性が特徴となっている。彼らの犯罪は多岐に及ぶ。強盗や窃盗、特殊詐欺、違法風俗、ぼったくりバー、闇金融、闇カジノ、違法薬物取引、金塊密輸…。まるで見本市であり、数え上げればきりがない。・・・日常に潜む狡猾なわなを見抜くのは至難の業であり、現状では摘発強化にすがるしかない。暴力団の動向だけを追っていればよかった時代はとうに過ぎ去り、われわれは不穏の中にいる

前回の本コラム(暴排トピックス2021年10月号)でも取り上げましたが、六代目山口組と神戸山口組の分裂抗争を巡り、神戸山口組を離脱した中核団体「山健組」が六代目山口組に合流したと兵庫県警が11月5日に認定しています。近く兵庫県公安委員会を通じて警察庁に報告される見通しとなりました。六代目山口組と神戸山口組は2015年に分裂し、山健組は神戸山口組結成時から組織の中核を担ってきましたが、上納金を巡るトラブルから神戸山口組の井上邦雄組長に反発し、昨年7月に離脱を表明、今年9月に六代目山口組傘下に入ることを認められていたものです(兵庫県警としても、偽装離脱の可能性も排除せず慎重な対応をしてきた背景には、暴力団対策法上の限界を生じさせない側面、すなわち「神戸山口組傘下」からそのまま「六代目山口組傘下」への変更となれば、事務所使用禁止などの規制も引き続き切れ目なく行えることを目指したものでもあると考えられます)。なお、2020年末時点の構成員は六代目山口組が約3,800人、神戸山口組が約1,200人だったところ、今回の合流で神戸山口組の構成員数は半減したとみられています。「2つの山口組」問題は、これにより六代目山口組有利となることが明白となりましたが、今後は、兵庫や大阪など両組織の組員が混在する地域で抗争が激化する可能性もあり、警戒が必要な状況だといえます。

また、国家公安委員会は、暴力団「池田組」が指定暴力団の要件を満たしていると、岡山県公安委員会に通知しています。これにより、岡山県公安委員会が近く暴力団対策法に基づく指定を行う運びとなりました。池田組は昨年7月、神戸山口組からの脱退を表明し、岡山県公安委員会が今年9月に独立を認定していたもので、指定されれば、全国の指定暴力団は計25団体となります。

前回の本コラム(暴排トピックス2021年10月号)でも指摘しましたが、暴力団事務所の撤去等が進んでいます。まず、福岡県公安委員会が、同県大牟田市にあった本部事務所が撤去された浪川会の「主たる事務所」を、同市八江町の同会系組事務所に変更する方針を固めたと報じられています。浪川会の構成員は1都5県で約190人に上り、県外での活動を強めているところ、福岡県公安委員会は大牟田市に浪川会の拠点が残ると判断しています。登記簿などによると、新拠点は、1990年建築の鉄筋コンクリート造り2階建て延べ約160平方メートルで、浪川会は前身団体の九州誠道会時代に、道仁会と抗争を繰り返し、計14人の死者を出しており、新拠点の敷地には抗争の死者を弔う忠魂碑が設置されています。また、絆会(旧・任侠山口組)が本部としている傘下組織「真鍋組」の事務所について、民間事業者へ売却されることが分かりました。建物は年内にも解体される見込みということです。絆会を巡っては市内にある別の拠点事務所も解体されており、市内の暴力団事務所が相次いで姿を消すこととなりました。絆会は2017年、六代目山口組から離脱した神戸山口組の一部組長が再分裂して発足したもので、真鍋組事務所は本部として使われていましたが、住民の訴えを受けた神戸地裁が2018年9月に使用を差し止める仮処分を決定、組幹部が住居での利用を認めるよう不服申し立てを行ったものの、大阪高裁に棄却され、3年以上立ち入れない状態が続いていたものです。絆会側が売却の意向を示しているとの情報を得た住民が、購入を希望する民間事業者を紹介、事業者が反社会的勢力と無関係であることを確認した上で、尼崎東署や暴力団追放兵庫県民センターの仲介で交渉が進み、10月15日に売買契約が成立したものです。県警によると、県内では2016~20年の5年間で計25件の事務所が撤去されたといい、尼崎市では、絆会が同市に本部を構えたことから住民らの暴追運動が本格化しており、今年9月には絆会の拠点の一つ古川組の売却も決まり、解体が進んでいます。このような状況もまた、暴排条例10年の大きな成果だといえると思います。工藤会の主要組織「田中組」の事務所の解体工事が始まっています。事務所は同市小倉北区紺屋町の歓楽街にあり、田中組を巡っては10月8日に撤去作業が始まった本部事務所(同区三萩野)に続く事務所の解体となります。福岡県警は、事務所の維持管理費が負担になった工藤会が拠点の整理を進めているとみて動向を注視しています。田中組は、工藤会トップで総裁の野村悟被告=1審死刑判決で控訴中=の出身組織で、工藤会ナンバー2で会長の田上不美夫被告=1審無期懲役で控訴中=も組長を務めたことがあり、工藤会の主要組織とされます。今回の撤去により、工藤会の「象徴」とされた建物全てが、市中心部から姿を消すことになります。2014年9月、福岡県警の壊滅作戦が開始され、同11月には福岡県公安委員会が暴力団対策法に基づく使用制限命令を出して以降、原則、組員の出入りが禁じられていました。同会に撤去を働き掛けてきた県警も意向を確認、組織の弱体化による資金力低下があり、事務所の維持管理費などが負担になっていたとみられています。土地の所有権は野村被告の親族らに残ったまま、駐車場として活用する話が浮上しているということです。なお、因みに事務所の隣接地は、総裁の正業として「駐車場経営」が脱税事件報道などで話題になったコイン駐車場が所在しています。直近で不動産登記を取得すると所有者は野村総裁から令和2年6月10日に親族2名に所有権移転(信託)変更がなされていますが、委託者受益者は野村総裁となっています。つまり、「真の受益者」が野村総裁であることを示していますので、この駐車場の利用はNGとすべきということになります。

稲川会系組員が関与した特殊詐欺事件で、使用者責任があるなどとして被害に遭った東北地方の80代女性が稲川会総裁ら幹部と実行役らに約760万円の損害賠償を求めた訴訟で、原告弁護団は、和解が成立したと明らかにしています。和解金は800万円で既に支払いが済んでいるということです。報道によれば、同様の訴訟は全国で11件あり、和解成立は今回で2件目ということです。本事案は、2017年3月ごろ、息子を名乗る男らからのうその電話で、現金やキャッシュカードを詐取されて計約660万円の被害を受けたとして、2020年2月に、慰謝料や弁護士費用などの損害賠償を求めて稲川会総裁らを相手取って横浜地裁に提訴していたものです。暴力団対策法に基づく使用者責任を巡る最高裁等の判決の意味などについては、暴排トピックス2021年4月号などを参照いただきたいと思います。暴力団組員が関与した振り込め詐欺などについて、組織トップに損害賠償を命じる司法判断が相次いだことは、特殊詐欺は暴力団の組織的関与が明確にならないケースも多く泣き寝入りしてきたところ、被害者救済の側面はもちろんのこと、特殊詐欺そのものの抑止につながる可能性や、暴力団に直接的な経済的ダメージを与えることができるという点でも意義は大きいといえます。組員による恐喝・暴行などに限り認められてきた法律上の使用者責任の対象が、組織外の人物を脅して加担させた事例にまで拡大されるなど被害救済の道は広がっていますが、今後は暴力団に所属しない「半グレ」への対応が課題として残っています(「訴訟での被害回復に向けた立証は警察の捜査能力に頼る部分が大きい。背後に暴力団が介在するグループもあるとみられ、徹底した捜査を通じて双方のつながりや実態を解明し、被害救済の範囲を一段と広げる必要がある」との指摘のとおりかと思います)。

本コラムでも取り上げましたが、愛知県警は今年4月、組織犯罪対策課内に、元組員の就労支援に専従で取り組む「社会復帰対策係」を新設しました。また、元組員を受け入れる意思を示した企業が今年9月末時点で8業種27社に上ったほか、4月以降、3人(70代の元組長、60代の元幹部、30代の元組員)の就職も決定するなど成果が出始めているということです。人材派遣会社を通じて工場で清掃の仕事をしたり、土木建設会社の現場作業員として働いたりしており、「離脱しても社会が受け入れてくれないと思った」、「やりがいがある」、「警察が就労まで手を貸してくれるとは思っていなかった」などと話していると報じられています。また、愛知県警によれば、警察の支援で離脱する組員は県内では年間60~80人いるとされ、半数は自分で就労先を探すものの、暴力団と関係が疑われる企業で働き、給料の一部がピンハネされる事例もあるといい、課題は、離脱者本人の資質や希望に沿うよう、受け入れ企業を増やすことだということです。報道によれば、県警の担当者は「離脱しても就労につながらなければ真の社会復帰にはならない。少しでも関心を持ってもらいたい」、「就職まで支援することで、組織からの完全な離脱と社会復帰を促していきたい」と述べるなど、愛知県警としては「受け皿」の増加が離脱を促し、組織の弱体化につながるとして、今後も就労支援に力を入れる考えだということです。一方、受け入れた企業の代表も「警察の仲介なので身元もはっきりしていて、安心できる。組に戻らせないためにも、社会に居場所を作ることが大切だ」と語っていましたが、正にそのとおりかと思います。

なお、イスラム主義は本来、非暴力のローカルな世直し運動であって、過激派が登場したのは、イスラム主義が世界を不安定にする「原因」だからではなく、世界が彼らを生み出す構造を持っていた「結果」だとの指摘もあります。つまり、社会不安を増大させる犯罪組織やテロ組織を生み出す社会構造の変革や、その構成員の更生も、結局は「社会的包摂」の実現に向けた本気度が鍵を握っているということになります。確かに、暴力団離脱者が本気で更生しようとしない限り「受け皿」は機能せず、受入れ企業は大きなリスクを抱えることになります。しかしながら、社会全体がその困難性を共有し、失敗も含め寛容になることが、双方が歩み寄り好循環がもたらされるための前提条件となるのかもしれません。その点、直接的な言及はありませんが、2021年11月2日付日本経済新聞において、「社会的包摂」を考えるうえで参考になる指摘がありましたので、以下、抜粋して引用します。

市民全体が「見守り社会」に属するためのヒントはデンマークにある。デンマークは国民の「一般的信頼」、つまり他者一般を信頼する度合いが高い。データ活用でいえば、自分の個人データは国や企業によって悪用されないと人々が信頼していると言い換えてもよい。社会心理学者の山岸俊男氏によれば、一般的信頼が高い人は単なるお人よしではなく、他者が信頼できるかどうかを判別する人間性検知能力はむしろ高い。そして、人々に多くの機会が与えられている社会ほど、市民の一般的信頼が高くなるという。常に新しい人との交流があるほど、他人を見極める能力が鍛えられるからだ。これをデンマークに当てはめると、社会的弱者を見捨てず機会を与えるという政府の姿勢と、アクティブ・シチズンシップ、つまり能動的かつ自分の責任で様々な機会を活用する市民の姿勢に、一般的信頼の高さの理由があると筆者は考えている。日本でも、人々に多くの機会を与えて他者を能動的に信頼する技術を磨くことが、監視社会を見守り社会に転じるカギになるのではないだろうか

その他、反社会的勢力を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 自宅で大麻草約0.2グラムを所持したとして京都府警は、大麻取締法違反の疑いで、住吉会系2次団体組員を現行犯逮捕しています。また、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)の疑いで、無職の容疑者も現行犯逮捕しています。4月に摘発した京都の覚せい剤密売グループの仕入れ先として、組員の関与が浮上、もう1人の容疑者は、組員の指示を受けて販売していた売人とみられています。家宅捜索で、組員宅から大麻を砕く道具のほか、100本以上の注射器や他の薬物とみられる錠剤を押収、もう1人の容疑者は、自宅前の路上との段差を埋める鉄製スロープの隙間に、覚せい剤4袋(計約4グラム)を隠していたといいます。
  • 旭琉会構成員の男らがインターネットバンキングに不正アクセスし、総額5,000万円以上をだまし取った事件で、沖縄県警サイバー犯罪対策課は、沖縄市高原の建築作業員を不正アクセス禁止法違反、電子計算機使用詐欺、窃盗の容疑で再逮捕しています。容疑者は5回目の再逮捕で、県警によれば、容疑者は犯行当時、旭琉会の構成員だったということです。
  • 新型コロナウイルス感染症の影響で困窮した世帯を支援する岡山県社会福祉協議会の貸付金をだましとったとして、津山署は、詐欺の疑いで、六代目山口組系組員を逮捕しています。昨年6~9月の間に、暴力団員ではないことが条件の貸付金を、組員であることを隠して3回にわたり申請し、同協議会に現金計110万円を口座に振り込ませた疑いがもたれています。今年9月、同協議会から被害申告を受けて捜査していたということです。
  • 国の「持続化給付金」をだまし取ったとして、香川県の暴力団員が詐欺の疑いで逮捕されています。「持続化給付金」を申請する際には、暴力団の関係者ではないことを誓約する項目があるところ、容疑者は暴力団員ではないと虚偽の申請をしていたとされますが、報道によれば、「申請したときは暴力団員ではなかった」と供述し、容疑を否認しているということです。
  • 熱海市伊豆山の大規模土石流の起点となった盛り土を造成した神奈川県小田原市の不動産管理会社(清算)の元幹部が、熱海市内の別の山林を宅地造成する際、土地を所有する地元住民らとの移転交渉で「必要な資金はヤクザから借りられる」などと話していたとみられることが分かったと報じられています(2021年10月29日付静岡新聞)。報道によれば、元幹部は熱海市伊豆山での一連の土地改変行為を巡る行政とのやりとりでも暴力団などとの関わりをちらつかせていたといい、静岡県警は元幹部と熱海市とのやりとりも含め、盛り土の造成に関わる経緯を調べるとみられます。
  • 「偶然手に入れた本物」と称し、自作した暴力団幹部の名刺をインターネットで販売して金をだまし取ったとして、愛知県警は、貴金属販売業の容疑者を詐欺などの疑いで逮捕しています。報道によれば、2020年5月、容疑者が運営するネット上のサイトに模造した暴力団幹部の名刺を出品、愛知県内の会社員の男性ら2人に販売し、計13,600円をだまし取ったとしていうものです。販売した名刺は六代目山口組の最高幹部の模造品で、和紙を使用した精巧な作りだったといいます。8月に容疑者の関係先を家宅捜索し、19,000枚以上の名刺や代紋入りバッジ1,600個、ブレスレット200個、湯飲み70個などを押収、大半が自作するなどした模造品とみられていますが、6月には約113万円、7月には約118万円を売り上げていたということです。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2021年10月号)では、現状のAML/CFTの取組みにおける最大の課題が「実質的支配者の確認」実務の脆弱性だと指摘しました。この課題を解決するために、国としても新たな制度(実質的支配者情報リスト制度)を、2022年1月31日から運用開始予定であり、この制度自体、まだまだ改善すべき点は多数あるものの、一歩前進だといえます。関連して、2021年10月28日付日本経済新聞は、「法務省と金融庁、金融機関は2022年1月から非上場を含む株式会社に、大株主に関する情報を法務局に提出するよう促す」と報じています。報道によれば、議決権ベースで直接、間接的に25%超の株式を保有する大株主の名称や保有割合、住所などの情報を書面で提出してもらうもので、対象は企業の大半となる約350万社にのぼります。大企業と異なり、一部の中小企業については経営実態が不透明な面もあったところ、大株主情報の収集をきっかけに、実態把握を進めていく狙いがあるとされ、銀行が口座開設や融資の際に企業に提出を求め、実効性を持たせることになります。なお、情報は法務局がチェックして7年間保管、当該企業から要請があれば、法務局の認証付きの写しを交付するということです。なお、報道では、「非上場の中堅・中小まで含めた株式会社に提出を義務付けるなら会社法などの改正が必要になり、実現まで数年かかる可能性がある。FATFは法人の「実質的支配者の確認」について、金融機関の対応が不十分だと指摘する。迅速な対応が必要なため、まずは任意で提出を求める。今後は法改正などを通じた義務付けに踏み込むかが課題になる」と指摘していますが、この点こそ本制度の脆弱な部分であり、法的な強制力がない限りは実効性あるものとなるか懸念が残ります。そもそも、反社会的勢力や犯罪組織が株式会社を悪用する際に、「実質的支配者」に該当する形で正直に申告する可能性が低いこと、「実質的支配者」が変更になった際の届出も義務化されていないことから、その変化に銀行が気付くことができないなど、誤った判断を誘発し、それにより反社会的勢力や犯罪組織の活動を助長しかねない危険性(もっと言えば、その脆弱性を悪用する可能性)すら有しています。実効性を高めるためのさまざまな工夫を加えながら、制度が改善されていくことを期待したいと思います。

「疑わしい取引」について、警察庁が2022年3月にも、人工知能(AI)を活用した分析を始めると報じられています(2021年10月25日付読売新聞)。報道によれば、年間40万件超の届け出から犯罪性が高いものを自動的に選別し、業務の効率化を進め、「様々な暗号資産や電子決済の普及もあり、業務負担が増している。AIへの期待は大きい」と警察庁幹部とコメントしています。疑わしい取引の届け出は、いったん警察庁に集約され、警察職員が全てを1件ずつチェックし、資金の動きや口座名義人、電話番号などから犯罪が強く疑われる場合に、都道府県警や検察庁、国税庁などに情報提供する流れとなっており、昨年は432,202件にも上り、とりわけ暗号資産の交換業者からの届け出が急増(過去最多の8,023件)、警察庁では、業務の効率化や迅速化が課題となっていました(なお、実際のところ、FATFの第4次対日相互審査結果報告書の中では、「JAFICの情報を活用した都道府県警察における新規事件の発生は、近年安定している(1,001件から1,124件)。インテリジェンス情報での事例が有意に増加した(1,982例から8,842例へ)など、JAFICからの展開が大幅に増加したにもかかわらずである。・・・JAFICと警察庁は、法執行機関のニーズを満たすために、どのようにして展開をさらに発展させることができるかをさらに検討する機会がある」と指摘されており、疑わしい取引の届出が十分に活用されていないのではないかとの懸念が示されているように思われます)。金融取引の多様化に伴い、マネー・ローンダリングの手法は今後さらに複雑化していくことは確実であり、今後、事業者の取組みがさらに強化されれば、疑わしい取引の届出事例も急激に増加することも予想される中、AIの活用は欠かせないものであり、官民で検知・分析システムの導入を急ぐとともに、より有効な活用手法の研究も進めていく必要があるともいえます。

詐欺被害に関わる電子マネーの売買が問題視される中、神奈川県警は、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)容疑で横浜市の電子取引会社の元社長ら男5人を逮捕しています。報道によれば、5人の逮捕容疑は2019年春、埼玉県の50代男性が有料サイトの代金名目でだまし取られた380万円分の電子マネーについて、犯罪収益と知りながらメールで何者かから受け取ったというものですが、県警は同社が2017年1月以降、約14万件(総額57億円相当)の電子マネー情報を買い取っていたことを確認、自社サイトでも電子マネーを買い取っていたものの、大半は大口取引先からの数百万円単位のものだったといいます。県警はこの大口取引先が特殊詐欺グループだったとみており、元社長らが額面よりも大幅に安く買い取った電子マネーに利益を上乗せし、一般の人も使う売買サイトに出品して換金していたとみられています。この仕組み自体、詐欺グループにとっては、リスクなくマネー・ローンダリングできる犯罪インフラであり、摘発された意味は大きく、今後も取組みの強化を期待したいと思います。

さて、犯罪収益移転防止法上の特定事業者である「宝石・貴金属等取扱事業者」について、経済産業省からAML/CFTに関するガイドライン(案)が公表されました。筆者としても、宝石・貴金属等の取引については、ビジネス自体が国際的であること、展示会等で一見取引されることも多いこと、現金取引が多いことなどのリスクがあると認識しています。そのあたりについて、「宝石・貴金属等取扱事業者が取り扱う宝石及び貴金属は、財産的価値が高く、運搬が容易で、世界中で換金が容易であるとともに、取引後に流通経路・所在が追跡されにくく匿名性が高く、特に金地金については現金取引が中心であること等から、マネロン・テロ資金供与等の有効な手段となり得る」、「実際、他人になりすますなどし、犯罪により得た現金で貴金属等を購入した事例や、密輸や盗品により得た宝石・貴金属が買取店等に持ち込まれる事例があること等から、宝石及び貴金属は、マネロン・テロ資金供与等に悪用される危険性があると認められる」、「また、近年の金地金を取り巻く犯罪情勢等を踏まえると、マネロン・テロ資金供与等に悪用される危険度は高まっているものと認められる」といった特有のリスクが明示されている点は評価できると思います。ただし、そのほかの内容については、ほとんどが金融庁による金融機関向けAML/CFTガイドラインをなぞったものといえ、「宝石・貴金属等取扱事業者」のビジネス上の特性などが深く考慮されたものかといえばやや疑問が残ります。とはいえ、まずはしっかりと業界に対してガイドラインが提示されたことは大きな前進だといえます。以下、当該内容から「基本的考え方」を中心にポイントとなりそうな部分を抜粋して引用します。

▼経済産業省 宝石・貴金属等取扱事業者におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(案)
  • 宝石・貴金属等取扱事業者は、犯収法上の「特定事業者」に該当するため、これらの法令の規定をその適用関係に応じ遵守する必要があることは当然である。
  • また、各宝石・貴金属等取扱事業者が講ずべきマネロン・テロ資金供与対策は、時々変化する国際情勢の動向やリスクの変化等に機動的に対応し、マネロン・テロ資金供与リスク管理体制を有効性のある形で維持していく必要がある。
  • こうした機動的かつ実効的な対応を実施していくため、宝石・貴金属等取扱事業者においては、前記動向の変化等も踏まえながら自らが直面しているリスク(顧客の業務に関するリスクを含む。)を適時・適切に特定・評価し、リスクに見合った低減措置を講ずること(いわゆる「リスクベース・アプローチ」)が不可欠である。
  • リスクベース・アプローチによるマネロン・テロ資金供与リスク管理体制の構築・維持は、国際的にみても、金融活動作業部会(Financial Action Task Force、以下「FATF」という。)の勧告等の中心的な項目であるほか、主要先進国でも定着しており、前記の機動的かつ実効的な対応の必要性も踏まえれば、宝石・貴金属等取扱事業者にとっては、当然に実施していくべき事項(ミニマム・スタンダード)である。
  • 宝石・貴金属等取扱事業者が取り扱う宝石及び貴金属は、財産的価値が高く、運搬が容易で、世界中で換金が容易であるとともに、取引後に流通経路・所在が追跡されにくく匿名性が高く、特に金地金については現金取引が中心であること等から、マネロン・テロ資金供与等の有効な手段となり得る。
  • 実際、他人になりすますなどし、犯罪により得た現金で貴金属等を購入した事例や、密輸や盗品により得た宝石・貴金属が買取店等に持ち込まれる事例があること等から、宝石及び貴金属は、マネロン・テロ資金供与等に悪用される危険性があると認められる。
  • また、近年の金地金を取り巻く犯罪情勢等を踏まえると、マネロン・テロ資金供与等に悪用される危険度は高まっているものと認められる。
  • なお、テロ資金供与対策については、テロの脅威が国境を越えて広がっていることを踏まえ、宝石・貴金属等取扱事業者においては、テロリストへの資金供与に自らが提供する商品・サービスが利用され得るという認識の下、実効的な管理体制を構築しなければならない。例えば、非営利団体との取引に際しては、全ての非営利団体が本質的にリスクが高いものではないことを前提としつつ、その活動の性質や範囲等によってはテロ資金供与に利用されるリスクがあることを踏まえ、国によるリスク評価の結果(犯収法に定める「犯罪収益移転危険度調査書」)やFATFの指摘等を踏まえた対策を検討し、リスク低減措置を講ずることが重要である。
  • このほか、大量破壊兵器の拡散に対する資金供与の防止のための対応も含め、外為法や国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法(国際テロリスト財産凍結法)をはじめとする国内外の法規制等も踏まえた体制の構築が必要である。
  • 宝石・貴金属等取扱事業者においては、こうしたマネロン・テロ資金供与対策が、実際の顧客との接点である事業部門において有効に機能するよう、経営陣が主導的に関与して地域・部門横断的なガバナンスを確立した上で、同ガバナンスの下、関係部署が継続的に取組みを進める必要がある。
  • また、経営戦略の中で、将来にわたりその業務がマネー・ローンダリングやテロ資金供与に利用されることのないようフォワード・ルッキングに管理体制の強化等を図るとともに、その方針・手続・計画や進捗状況等に関し、データ等を交えながら、顧客・当局等を含む幅広い関係者に対し、説明責任を果たしていくことが求められる。
  • 監督当局としては、各宝石・貴金属等取扱事業者の取組みをモニタリングし、その結果得られた情報を宝石・貴金属等取扱事業者と共有しつつ、管理体制の強化を促し、必要に応じて、監督上の措置を講ずることを検討していく。
  • 本ガイドラインは、こうしたモニタリングに当たって、監督当局として、各宝石・貴金属等取扱事業者において「対応が求められる事項」「対応が期待される事項」を明確化するとともに、今後の当局としてのモニタリングのあり方等を示すものである。
  • そのほか、日々変化するマネロン・テロ資金供与の動向を踏まえ、特に、規模が小さい又は取引範囲が限定的な宝石・貴金属等取扱事業者における体制構築に資するよう、業界団体等の役割や、当局との連携のあり方についても記載している。
  • 業界団体や中央機関等の役割
    • リスクベース・アプローチに関する先進的な取組みや国際的なマネロン・テロ資金供与対策の動向の把握等について、各宝石・貴金属等取扱事業者による個別の情報収集のみでは限界がある場合もある。マネロン・テロ資金供与の手法や態様は常に変化しており、特に、規模が小さい宝石・貴金属等取扱事業者等においては、十分な情報や対応のノウハウの蓄積が困難なことも考えられる。
    • 我が国の宝石・貴金属等の取引環境全体の底上げの観点からは、業界団体等が、当局とも連携しながら、宝石・貴金属等取扱事業者にとって参考とすべき情報や対応事例の共有、体制構築に関する支援等を行うほか、必要かつ適切な場合には、マネロン・テロ資金供与対策に係るシステムの共同運用の促進、利用者の幅広い理解の促進等も含め、宝石・貴金属等取扱事業者による対応の向上に中心的・指導的な役割を果たすことが重要である。

また、FATFは、「暗号資産及び暗号資産交換業者に対するリスクベース・アプローチに関するガイダンス」(原題「Updated Guidance for a risk-based approach to Virtual Assets and Virtual Asset Service Providers」)を改訂しました(2019年6月に公表した同ガイダンスの改訂版)。今回の改訂は、FATFが昨年7月に公表した「暗号資産・暗号資産交換業者に関する新たなFATF基準についての12ヵ月レビューの報告書」及び「いわゆるステーブルコインに関するG20財務大臣・中央銀行総裁へのFATF報告書」、また本年7月に公表した「暗号資産・暗号資産交換業者に関するFATF基準についての2回目の12ヵ月レビュー報告書」において示されていた通り、FATF基準の実施に関して各国および関係する業界に更なるガイダンスを提供するものであり、主要改訂項目としては、(1)FATF基準における暗号資産、暗号資産交換業者の定義の明確化、(2)いわゆるステーブルコインに対するFATF基準の適用、(3)仲介業者を利用せず、個人間で行われる取引(P2P取引)のリスクおよびリスク低減策、(4)暗号資産交換業者の登録・免許、(5)暗号資産移転における通知義務(いわゆるトラベルルール)の履行、(6)情報共有と監督上の国際協力に関する原則、となっています。また、FATFでは、今後とも、いわゆるステーブルコイン、P2P取引、非代替性トークン(NFT)、分散型金融(DeFi)などを含め、暗号資産に関するモニタリングを継続していくとしています。本ガイダンスの仮訳が金融庁のサイトで公表されていましたので、以下に紹介します。

▼金融庁 金融活動作業部会(FATF)による「暗号資産及び暗号資産交換業者に対するリスクベース・アプローチに関するガイダンス」改訂版の公表について
▼暗号資産及び暗号資産交換業者に対するリスクベース・アプローチに関するガイダンス」 仮訳
  • 2018年10月FATFは、FATF勧告の改訂を採択し、FATF勧告が暗号資産に関する金融活動にも適用されることを明確化するとともに、「暗号資産」(以下、VA)と「暗号資産交換業者」(以下、VASP)の2つの用語の定義を「用語集」(Glossary)に新たに加えた。FATF勧告15の改訂において、VASPを、AML/CFTの目的から規制対象とすべきこと、免許制又は登録制の対象とすべきこと、有効なモニタリング又は監督の対象とすべきことが必要とされている。
  • 2019年6月、FATFは勧告15の解釈ノートを採択した。これは、FATF基準をVAやVASPにどう適用すべきかにつき一層明確化することを目的とし、特にVAの動向や業務、VASPに対するリスクベース・アプローチの適用、AML/CFTを目的としたVASPの監督又はモニタリング、免許又は登録、予防的措置(CDD/EDD、記録作成・保持、疑わしい取引の届出等)、制裁その他の検挙・執行措置、及び当局間の国際協力といった点を明確化するものである。
  • FATFはリスクベース・アプローチのVA及びVASPへの適用に関し、2019年6月に最初となるガイダンスを採択し、2021年10月、これを改訂した。今回改訂の目的は、規制当局がVAに関する活動及びVASPへの規制・監督上の対応を理解・実施することをサポートし、またVAに関する活動に関与しようとする民間主体が、AML/CFTの義務や、これらのAML/CFT要件を効果的に遵守する方法を理解することをサポートすることである。
  • 本ガイダンスは、各国、VASP及びVAに関する活動に関与するその他主体が、VAに関する活動に伴うマネー・ローンダリング及びテロ資金供与(以下、ML/TF)リスクを理解した上で、当該リスクに対する適切な軽減措置を取る必要がある旨を記載している。とりわけ、本ガイダンスは、取引を更に追跡困難とする要素やVASPによる顧客の特定を阻害する要素に重点を置きつつ、VAの文脈で特に考慮すべきリスク指標を例示している。
  • 本ガイダンスは、VAに関する活動及びVASPに対して、FATF基準がどのように適用されるかを考察している。ガイダンスは、VASPの定義によりカバーされる5種類の活動について記載しており、更にVASPの定義に含まれるVAに関するサービスや、逆に除外される可能性のあるサービスについても例示している。この点において、本ガイダンスはVASP該当性の重要な要件として、他人のため又は他人の代わりに業として、VAに関するサービスを提供すること又は積極的に促進すること、を明らかにしている。
  • 本ガイダンスは、各国及び所管当局並びにVASP及びVAに関する活動に従事するその他の規制対象となる主体(銀行、証券ブローカー・ディーラー等の金融機関を含む)に対するFATF勧告の適用について記載している。FATF勧告の大半がVA及びVASPに関連するML/TFリスクに対処するために直接適用される。他のFATF勧告は、VA又はVASPに直接的に又は明示的に関連する度合いは低いものの、依然として関係性があり、適用可能である。従って、VASPは金融機関や特定非金融業者及び職業専門家(DNFBPs)と同一の義務すべてを負うことになる。
  • 本ガイダンスは、FATF勧告のもとでVASPとVAに適用されるべきすべての義務について、勧告毎に順を追って詳述している。そこでは、FATF勧告における資金又は価値を示すすべての概念(「資産(property)」「利益(proceeds)」「資金(funds)」「資金もしくはその他の資産(funds or other assets)」、その他の「対価(corresponding value)」等)にVAも含まれる点を明確にしている。従って、各国は、FATF勧告に基づくすべての関連措置を、VA、VAに関する活動及びVASPに適用すべきである。
  • 本ガイダンスは、VASPの登録又は免許の要件、特に、VASPがいずれの国で登録又は免許を得るべきかを決定する方法について説明しており、少なくとも、当該VASPが設立された法域又はVASPが自然人である場合には事業の所在する法域(its place of business)での登録又は免許が必要である。一方で、各法域は、VASPが当該法域において又は当該法域から業務を開始する前に、登録又は免許を求めることもできる。さらに、本ガイダンスは、各国当局が、必要な免許又は登録を得ずにVAに関する活動を行う自然人又は法人の特定に向けた措置を取ることが求められることを強調している。これは、VAやVAに関する活動を国レベルで禁止することを選択した国に対しても、同様に適用される。
  • VASPの監督に関して、本ガイダンスは、VASPの監督又はモニタリング機関として活動できるのは規制当局のみであり、自主規制機関ではないことを明確にしている。規制当局は、リスクベースの監督又はモニタリングを行うべきであり、また検査の実施、報告徴求、制裁の適用を含む適切な権限を有すべきである。VASPの活動やサービスの提供がクロスボーダーの性質を有することに鑑み、本ガイダンスは、監督当局間の国際協力の重要性に特に焦点を当てている
  • 本ガイダンスは、VASP及びVAに関する活動に関与するその他の主体は、FATF勧告10から勧告21に記載されたすべての予防的措置を適用する義務がある点を明確にしている。
  • 本ガイダンスは、VAの文脈において、これらの義務がどのように果たされるべきかを説明している。一見取引において、USD/EUR 1000の閾値を超す取引ではVASPは顧客管理を実施しなければならず(勧告 10)、またVAの移転を行う場合には、送金人及び受取人に関する情報の取得・保持・送付を直ちにかつ(注:データ保護上の懸念がないよう)確実に行う義務を負う(勧告 16)(「トラベルルール」)ということを明確化している。本ガイダンスが明示しているとおり、関連当局は、これらの措置が各国のデータ保護・プライバシーに係る規則との整合性を確保する形で行われるよう協調すべきである。
  • 最後に、本ガイダンスは、VAに関する活動、VASP及びその他の規制対象となる主体に対して、AML/CFTに関する規制、監督及び捜査・検挙に対する各法域のアプローチについて、事例を示している。
  • 2021年10月に、官民双方に対して新たな指針を提示するために本ガイダンスは改訂された。この改訂は、FATFに対してより詳細なガイダンスが求められた6つの主要領域に焦点を当てたものである。これら6つの領域とは、(1)FATF基準におけるVA及びVASPの定義を明確化し、これらの定義は広く解釈されるものであり、また関連する金融資産(VA又はその他の金融資産)がFATF基準の対象とならない場合があってはならないことを明確にすること、(2)いわゆるステーブルコインに対するFATF基準の適用に関するガイダンスを提供するほか、ステーブルコインに関与する幅広い主体がFATF基準のもとでVASPsに該当し得ることを明確にすること、(3)規制対象となる仲介業者を利用せず、個人間で行われる取引(P2P取引)のML/TFリスク及びそのリスクの対処にあたって各国が利用可能なツールについての追加的なガイダンスを提供すること、(4)VASPの登録・免許に関する最新のガイダンスを提供すること、(5)「トラベルルール」の実施に関し、官民双方に対し追加的なガイダンスを提供すること、及び(6)VASP監督当局間の情報共有と協力に関する原則を含めること、である。本文書は、2019年版ガイダンスを更新改訂するものである

その他、AML/CFTに関連する切り口から、いくつか報道を紹介します。

  • 日本大学付属病院の建て替え計画を巡り、日大資金を流出させたとして逮捕された元日大理事らが、付属病院で使う医療機器の調達でも日大に2億円近い損害を与えたとして、東京地検特捜部が理事と大阪市の医療法人前理事長を背任容疑で再逮捕しています。本件においては、容疑者の親族が役員を務める医療コンサル会社や容疑者自身が全株式を保有する医薬品関連会社に流出したと報じられています。背任事件の犯罪収益がこのような法人を悪用することで還流していくことをあらためて認識すべきだといえます。法人の悪用リスクを見抜いていくために、「実質的支配者」の確認や、商流・ビジネスとの関連性などを精査することが必要であり、「目利き力」を磨いていくことが重要だといえます。
  • 大阪市福島区の松本病院を運営する医療法人(今年8月に経営破綻)への市当局による過去の巨額融資が問題視されています。市は1997年、法人などに計10億円を無担保で貸し付けたましが、今も2億円以上が未返済のままであり、融資の根拠や経緯など不明瞭な点が多く、法人の理事長(故人)と「影の市長」とも呼ばれた当時の助役が高校の同級生だったという関係性を指摘する声もあり、「貸し付けありきだった」との批判は根強いとされます。報道によれば、「市は男性に貸しがあった」とされる一方、「無理難題を押し付けるやっかいな存在」でもあり、何かを忖度した当時のごく限られた市幹部が独断で融資を決めたともいわれており、医療法人がその資金の流れに悪用されたものともいえます。
  • 暗号資産取引所の口座情報を他人に販売したとして、岡山中央署は、犯罪収益移転防止法違反の疑いで、岡山市のアルバイトの女(27)を逮捕しています。報道によれば、2017年に施行された法改正で取引所の口座情報が規制対象になって以降、岡山県内での摘発は初めてだといいます。取引所に自分名義で開いた口座のIDとメールアドレスを氏名不詳の人物に何らかの方法で送り、販売したといい、販売された口座は第三者が不正送金先として悪用され、不特定多数のインターネットバンキングの口座に不正アクセスし、約160回にわたって抜き取った計約2,950万円を暗号資産に換えるなどして別の口座へ送りマネー・ローンダリングを図ったとみられています。暗号資産の口座情報がマネー・ローンダリングの道具(犯罪インフラ)となった事例といえ、組織的犯行を視野に実態解明が進められています。
  • 山口県警は、自身のキャッシュカードを他人に譲り渡したとして、県警本部に勤務する50代警部補男性を犯罪収益移転防止法違反の疑いで書類送検しています。今年7月、インターネットで見つけた消費者金融から金を借りようと、指定された住所にキャッシュカード1枚と暗証番号を郵送した疑いがあるといいます。外国人による口座売買を防ごうと警察挙げて注力する中、警察官によるキャッシュカードの譲渡などあるまじき行為であり、残念です。
(2)特殊詐欺を巡る動向

役所や企業をかたる詐欺電話が増えているようです。警察庁は、警察庁情報通信局をかたり、携帯電話やクレジットカードの情報を保護するなどとしてウェブサイトを閲覧するよう誘導する不審な電子メールが送られているとの情報が、警察庁に寄せられたと発表しています。「このような不審メールを受信された場合には、リンクをクリックしたり、住所、氏名等の個人情報を入力したりせず、警察庁のウェブサイト「フィッシング 110番」から各都道府県警察のフィッシング専用窓口に通報」するよう注意喚起しています。また、厚生労働省も、厚生労働省を名乗る者から、民間事業主に、「パワハラなどハラスメント防止の推進企業の認定制度がある。来社して説明させてほしい」と電話が入る事案が発生していると発表しています。同省は、「現在、ハラスメント防止に関する認定制度を創設しておりません。また、厚生労働省や都道府県労働局の職員がこのような電話をすることもありません。事業主の皆さまは、このような電話があっても対応をしないようにお願いします」と注意喚起しています。さらに、消費者庁や国民生活センターをかたって「示談金3億円受け渡しの件でご連絡しました」などと持ち掛け、電子マネーを購入するよう求める不審なメールが相次いでいるとして、同庁が注意を呼び掛けています。各地の消費生活センターなどに昨年4月以降、相談が120件以上寄せられている(今年の夏以降に急増、金銭を支払ったケースも15件発生している)といい、「消費者庁や他の行政機関が手続きで金銭を要求することはなく、典型的な詐欺の手口。絶対に応じないで」と話しています。報道によれば、消費者政策課によると、メールやショートメッセージに記載されたリンクをクリックすると、指定の出会い系サイトなどに接続。「和解金の受け取りには書類作成費用が必要」といったメッセージが表示され、電子マネーを購入してIDを伝えるよう要求してくるもので、メッセージを無視したり、金銭を支払わなかったりすると「罰則を科せられる」などと脅迫する文言が送られてくるといいます。また光回線を解約してアナログ電話に戻す「アナログ戻し」をめぐる苦情相談が全国で相次ぎ、総務省が注意を呼びかけています。NTTを装った電話で「料金が安くなる」などと勧誘し、事後に数万円の手数料を請求する手口が目立つということです。報道によれば、代表的な事例では、NTTを思わせる名前の業者から「インターネットを使わないならアナログ電話に戻しませんか」と電話で勧誘があり、契約を結ぶと高額の手数料を請求されるといい、解約を申し出ても違約金を請求されるということです。総務省によると、40,000円を超える初期費用に月2,000円のサポート料を請求された事例もあり、直近1年だけで少なくとも約1,700件の相談が全国の消費相談窓口に寄せられているといい、同省ではホームページ上に注意喚起の文書を載せています。

会計検査院は、中小企業の資金繰り対策「持続化給付金」で、中小企業庁に対し不備を指摘しています。今年2月までの給付額約5.5兆円のうち、不正受給は約5億9,000万円に上り、うち約2億2,000万円が未返還だったということです。また、給付の受け付けや審査などの業務は、受注した団体から広告大手の電通に下請け発注され、その後下請けが繰り返され、委託先は延べ約720事業者に膨らんだといい、総額668億円の96%が再委託された一方で、再委託の必要性を検討した記録は残されていなかったというものです。また、2021年10月11日付日本経済新聞によれば、総額5.5兆円の持続化給付金や0.9兆円の家賃支援給付金は不正受給が横行、申請に添える確定申告書の偽造や架空の売り上げ台帳の作成の手口が多かったと指摘されています。さらに、経産省は警察への被害届にあたる答申書を持続化給付金で10月8日までに2,427件、家賃支援給付金で69件出したといい、最終的に不正受給と認定したのはそれぞれ632件と15件、毎週合わせて40件ほど新たに認定しており、年内に1,000件を突破する見通しだといいます。確かに不正受給はゼロにすることは困難ですが、さらなる給付が検討される中、不正受給もまた増えることを想定する必要があります。不正受給の一方で、本来の主旨からみて疑問もあります。先の報道では、「実は、収入が減った事業者の固定費負担を支えるという趣旨自体に省内には反対論が多い。大幅な減収になれば支給する一方、減収を抑えた事業者は対象にならない。経営努力が評価されずモラルハザードが生じる懸念がある。・・・コロナ対策では、業態転換を進める企業を支援する事業再構築補助金も配っている。こうした前向きな投資を支援する補助金のほうが政策効果は高いとみている。SMBC日興証券の丸山義正氏は「まんべんなく配れば市場メカニズムが働かず競争を阻害する」と指摘する。再び配るとしても「以前に比べて必要かどうか厳しく吟味すべきだ」と話す」と指摘されていますが、正に正鵠を射るものといえます。また、不正受給の中でも悪質なものとして、元経産省キャリア官僚によるものは記憶に新しいところです。現在、東京地裁で公判中ですが、検察側の冒頭陳述では、2人が経産省の兼業禁止規定に抵触しないよう、2社の代表を親族や友人に変更し、虚偽の帳簿や賃貸借契約書などを提出して給付を申請したことや、2021年6月頃、警察が捜査していることを関係者から聞いた2人が、経産省の地下でスマートフォンなどを壊し、東京湾に捨てて隠蔽を図ったといった指摘もなされています。その他、最近の報道から、不正受給に関するものをいくつか紹介します。

  • 持続化給付金をだまし取ったとして、詐欺グループのメンバーらが逮捕された事件で、警察は指名手配していたリーダー格と見られる男を逮捕しています。すでに逮捕されている男らとともに、自身が経営する飲食店に大学生らを集めて、持続化給付金の不正受給を指南していたとみられ、警察は容疑者を詐欺グループのリーダー格とみて指名手配して、昨年12月に写真を公開して情報提供を呼びかけていたところ、容疑者が警察署に出頭してきたということです。
  • 知人の女を個人事業主と偽り、持続化給付金100万円をだまし取ったとして、長崎署は、詐欺の疑いで行政書士と飲食店従業員の女性容疑者を逮捕しています。持続化給付金を巡る逮捕は長崎県内で初めてだといいます。持続化給付金は2020年5月から2021年2月15日までオンラインで申請を受け付けましたが、簡素な手続きを悪用した不正受給が問題になり、全国で摘発が相次いでおり、前述のとおり、全国で約424万件の申請があり、10月12日時点で632件を不正受給と認定、ほかに受給要件を満たしていないなどとして、14,244件の自主返還があったとも報じられています。
  • 静岡県内で40人以上が摘発された新型コロナの不正受給グループのリーダー格の男が送検されています。不正受給の金額はグループ全体で4700万円に上るとみられ、冠婚葬祭業の個人事業主を装って、うその申請を繰り返していたといいます。容疑者はグループの指南役6人と共謀し、同年代の知人を勧誘したり、勧誘に成功したメンバーには、紹介料を支払うなどして、「ねずみ講式」にグループを拡大していったようです。
  • コロナ禍で時短営業などの要請に応じた飲食店に支給される東京都の感染防止対策協力金をめぐり、新たな詐欺の手口が確認されています。都の担当部局や弁護士を装って店主に「不正受給」を指摘、違約金を振り込ませようとするものだといい、東京都は注意を呼びかけています。報道によれば、実際に指摘された店側が「弁護士事務所」に問い合わせると、電話口の男は「不正に営業した証拠がある」と話し、違約金を「至急振り込むように」と迫ったといい、弁護士会などに確認し、「重田有都」という弁護士が実在しないとわかったということです。都産業労働局はこうした督促状を発行していないといい、担当者は「詐欺の手口。不審に思ったら連絡してほしい」としていますが、実際に被害が出ているかは確認できていないということです。
  • 新型コロナウイルス対策の家賃支援給付金をだまし取った詐欺の疑いで、会社役員など、男女3人が逮捕されています。3人とほかの共謀者は今年2月、家賃支援給付金のホームページで、架空の飲食店を装って虚偽の内容を入力し申請、300万円をだましとった疑いが持たれているというものです。なお、3人はこれまでにも持続化給付金詐欺で複数回逮捕されており、給付金詐欺の被害件数は100件以上、被害額は3億円以上に上る見込みで、警察は余罪を含めて捜査を続けています。

大量の商品を受け取り、代金を払わずに行方をくらます「取り込み詐欺」は、以前からある典型的な詐欺の手口ですが、コロナ禍で電話やオンラインの商談が増えたことで、相手の不審点に気づけず、被害に遭うリスクが高まっており、飲食店の営業自粛で余った高級食材などが狙われているといい、警視庁などが注意を呼びかけています。2021年10月22日付読売新聞によれば、最近の典型的な手口として、「最初は少額の取引を行い、代金を実際に支払って相手を信用させる。その後、大量の商品を注文して受け取り、突然、姿を消す。休眠会社などを悪用するが、実際に事務所を設け、正規の業者を装う。暴力団が関与する場合もあり、警視庁が今年1月、山口組系組員2人を含む男10人を逮捕した事件では、休眠中の芸能会社を食品卸会社に衣替えし、組員に借金のある男を社長に据えていた。標的になりやすいのは、取引先の信用調査に十分な労力をかけづらい中小企業や、農漁業者だ。東日本大震災の直後は「震災復興のため」、訪日中国人の「爆買い」が注目された時期は「インバウンド(訪日客)需要がある」などと、だまし文句を変えてくる。コロナ禍では、和牛やフグ、冷凍海産物など、飲食店の営業自粛で流通先を失った高級食材を狙う手口が目立つ。消費期限があるため、在庫処分を急ぎたい業者心理につけこむ形だ。「コロナでテイクアウト需要が増え、移動販売に使う」などと言い、発電機を詐取する手口もある。昨年7月には、堺市の商店から発電機15台(約220万円)をだまし取ったとして、大阪府警が無職の男ら5人を詐欺容疑で逮捕した。横浜市の仲卸業者のように、コロナ禍による破産や倒産を理由にして金を支払わないケースもある。虚偽の破産などを信じ込み、泣き寝入りする企業も少なくないとみられている。」と紹介されています。

本コラムでもたびたび取り上げている国際ロマンス詐欺がいまだに猛威をふるっています。国際ロマンス詐欺は、近年、直接顔を合わさないネット上の交流が一般的になってから増えた犯罪といえ、報道によれば、大阪府警が詐欺に加担したとして6人を逮捕した事件では、30~70代の男女66人が計約1億4,000万円をだまし取られていたといいます。ターゲットになっているのは、懐に比較的余裕のある中高年が中心で、まめに連絡をとるうちに、マインドコントロールにかかってしまうとの指摘もあります。さまざまな事例をみると、犯罪グループはSNSなどで軍人や医師、投資家など社会的地位のある立場の人間になりすまし、ターゲットに接触を図るケースが多く、連絡先を交換すると、一日に数十通のメッセージを送ることもあり、「君のような女性が理想だ」などと日本人なら赤面してしまうような甘い言葉を何度も投げかけるといいます。相手から好意を感じられるようになったら、次の段階として、ビジネスの失敗や家族の病気といった災難をでっちあげ、入院費用などとして金銭を要求するのが常套手段で、被害者は周囲に相談する時間も与えられないまま、「何かしてあげないと」と情にほだされ、だまされてしまうというものです。人間の心理を巧みにつく話法や手口は詐欺に共通するものですが、注意喚起をしてもなお、だまされる人が後を絶たない現実をみるにつけ、その巧妙さには大変驚かされます。以下は、日本貿易振興機構(JETRO)の「国際ロマンス型詐欺」として紹介されていた最近の具体的な手口です。

  • 自身の資産や高額の贈り物、家財を日本に送付するための費用や手数料の支払い要求。
  • 現金や高価な贈り物が、積み替え港、到着港の税関で差し押さえられ、その関税や解除金、罰金を当局に支払う必要があるとして金銭を要求。
  • 任地(紛争発生国)から日本に渡航するための航空賃を要求。
  • 送った貨物の保険料として金銭を要求。
  • 出張先で至急現金が必要となる緊急事態が生じ、送金を要求。
  • 新たなビジネスのための機械を購入したが、持っていたカードが使用できないため、機械代金の立て替えを要求。
  • 別れた前妻との間の子供が重病で、その入院費用と治療費を要求。
  • 弁護士と名乗る者から、あなたの婚約者が海外の当局で拘束されたといって、その解放のための弁護士費用を要求。

以下、国際ロマンス詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 静岡県警清水署などは、いずれもカメルーン国籍の派遣社員と埼玉県八潮市の男の両容疑者を詐欺容疑で逮捕しています。2人は2020年11月~2021年1月、仲間と共謀し、SNSで知り合った山梨県の70歳代男性に対し、シリア人女性らを装って「命を狙われている。逃走資金がほしい」と持ちかけ、約420万円を指定した複数の口座に振り込ませた疑いがもたれています。なお、そのうちの1つの口座を昨年末頃に提供したとして、コンゴ共和国籍で大阪市の大学生も犯罪収益移転防止法違反容疑で逮捕されています。国際ロマンス詐欺に、犯罪インフラの他人名義の口座が悪用されていることがわかります。
  • 南アフリカ警察は、南部ケープタウンを拠点に、インターネットを通じた恋愛詐欺で690万ドル(約8億円)をだまし取っていた8人を逮捕しています。8人は全員、外国人で、犯行集団は、ネット上に交際相手を求める偽の経歴を掲載しては被害者を誘い「真の恋愛関係」と信じさせていたといいます。「泣かせる話」を幾つも用意し、脅迫を織り交ぜつつ金を送らせると、姿を消す手口で、捜査は米国の協力を得て行われ、8人は南ア国外の犯行集団との関係を追及されているということです。
  • 広島県警三次署は、三次市の60歳代女性が、SNSで知り合った英国人医師を名乗る男らから計約550万円をだまし取られる被害に遭ったと発表しています。女性は今年8~10月、イラクで働く英国人医師と名乗る男から「テロリストから攻撃を受けて負傷し、政府から見舞金3億円をもらった。金を送る」と言われ、配送料名目で計約50万円を指定口座に送金、「別の医師」という男からも「金塊を現金にして送るので預かって」と頼まれ、手数料名目などで口座へ計約500万円を振り込んだということです。
  • 「国際ロマンス詐欺」の被害を防止したとして、広島県警広島中央署は、ゆうちょ銀行広島支店に感謝状を贈っています。報道によれば、同支店で今年8月19日、70代女性が約444万円を振り込もうとしたところ、対応した女性行員が不審に思って理由を尋ねると、女性は「SNSで知り合った米国軍人の来日費用を振り込む」と説明、詐欺と気づいた女性行員は上司に相談し、同署に通報して未然に防いだというものです。

次に、例月どおり、直近の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認します。

▼警察庁 令和3年9月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和3年1~9月における特殊詐欺全体の認知件数は10,729件(前年同期10,324件、前年同期比+3.9%)、被害総額は202.7億円(201.9億円、+0.4%)、検挙件数は4,520件(5,196件、▲13.0%)、検挙人員は1,636人(1,786人、▲8・4%)となりました。これまで減少傾向にあった認知件数や被害総額が増加に転じている点が特筆されますが、とりわけ被害総額が増加に転じた点はここ数年の間でも珍しく、あらためて特殊詐欺が猛威をふるっている状況を示すものとして、十分注意する必要があります(詳しくは分析していませんが、コロナ禍における緊急事態宣言の発令と解除、人流の増減等の社会的動向との関係性が考えられるところです)。うちオレオレ詐欺の認知件数は2,212件(1,576件、+40.4%)、被害総額は63.2億円(46.7憶円、+35.3%)、検挙件数は992件(1,427件、▲30.5%)、検挙人員は529人(440人、+34.5%)と、認知件数・被害総額ともに激しく増えている点が懸念されるところです。これまでは還付金詐欺が目立っていましたが、そもそも還付金詐欺は自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。直近では新型コロナウイルスを名目にしたものが目立ちます。一方、警察庁によると、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで今年上半期は6,774件、約26億9,000万円と昨年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いだといいます。報道によれば、警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶ちません。なお、最近では、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性が疑われます(とはいえ、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。最近では、コロナ禍の影響もあり、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は1,860件(2,338件、▲20.4%)、被害総額は27.7億円(34.8憶円、▲20.4%)、検挙件数は1,324件(1,890件、▲30.0%)、検挙人員は389人(506人、▲23.1%)と、こちらは認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性があります。一方で、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出始めています)。また、預貯金詐欺の認知件数は1,883件(3,179件、▲40.8%)、被害総額は23.2憶円(44.1億円、▲47.4%)、検挙件数は1,574件(1,003件、+56.9%)、検挙人員は510人(617人、▲17.3%)となり、こちらも認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます(理由はキャッシュカード詐欺盗と同様かと推測されます)。その他、架空料金請求詐欺の認知件数は1,538件(1,486件、+3.5%)、被害総額は48.0億円(51.0憶円、▲5.9%)、検挙件数は176件(395件、▲55.4%)、検挙人員は87人(108人、▲19.4%)、還付金詐欺の認知件数は3,012件(1,226件、+145.7%)、被害総額は33.9億円(17.2憶円、+97.1%)、検挙件数は406件(295件、+37.6%)、検挙人員は78人(36人、+116.7%)、融資保証金詐欺の認知件数は122件(243件、▲49.8%)、被害総額は2.1億円(3.0憶円、▲30.0%)、検挙件数は20件(116件、▲82.8%)、検挙人員は12人(41人、▲70.7%)、金融商品詐欺の認知件数は26件(42件、▲38.1%)、被害総額は2.3億円(2.9憶円、▲19.2%)、検挙件数は9件(22件、▲59.1%)、検挙人員は17人(23人、▲26.1%)、ギャンブル詐欺の認知件数は49件(83件、▲41.0%)、被害総額は1.4憶円(1.9憶円、▲23.7%)、検挙件数は4件(34件、▲88.2%)、検挙人員は4人(10人、▲60.0%)などとなっており、オレオレ詐欺の急増とともに、特にコロナ禍の社会情勢をふまえて「非対面」で完結する還付金詐欺の認知件数・被害総額ともに大きく増加している点がやはり懸念されます。

犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は503件(473件、+6.3%)、検挙人員は293人(318人、▲7.9%)、盗品等譲受け等の検挙件数は2件(2件、±0%)、検挙人員は0人(1人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,659件(1,849件、▲10.3%)、検挙人員は1,324人(1,515人、▲12.6%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は126件(155件、▲18.7%)、検挙人員は111人(126人、▲11.9%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は17件(24件、▲29.2%)、検挙人員は8人(21人、▲61.9%)、組織的犯罪処罰法違反の検挙件数は128件(75件、+70.7%)、検挙人員は32人(14人、+128.6%)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、男性(25.6%):女性(74.4%)、60歳以上91.7%、70歳以上73.8%、オレオレ詐欺では、男性(18.5%):女性(81.5%)、60歳以上96.5%、70歳以上93.5%、融資保証金詐欺では、男性(77.4%):女性(22.6%)、60歳以上23.6%、70歳以上31.2%、などとなっており、類型によってかなり異なる傾向にあることが分かりますが、概ね高齢者被害の割合が高い類型では女性被害の割合も高い傾向にあることも指摘できると思います。このあたりについては、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。なお、参考までに特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上)の割合について、特殊詐欺全体88.2%(男性22.6%、女性77.4%)、オレオレ詐欺95.8%(18.0%、82.0%)、預貯金詐欺98.7%(15.6%、84.4%)、架空料金請求詐欺48.4%(55.7%、44.3%)、還付金詐欺94.3%(23.9%、76.1%)、融資保証金詐欺16.0%(82.4%、17.6%)、金融商品詐欺53.8%(35.7%、64.3%)、ギャンブル詐欺36.7%(55.6%、44.4%)、交際あっせん詐欺0.0%、その他の特殊詐欺27.8%(40.0%、60.0%)、キャッシュカード詐欺盗98.2%(18.6%、81.4%)などとなっています。

最近の報道から、特殊詐欺の被害事例について、いくつか紹介します。

  • 静岡県警が昨年11月に詐欺容疑で逮捕した堺市の無職の被告(詐欺罪で公判中)が、全国の特殊詐欺事件で現金の回収役「受け子」を担い、少なくとも六つの事件で計1億7,550万円を受け取った疑いがあるということです。一人の受け子の受領総額としては異例の高額だといえます。報道によれば、被告は2019年、借金の返済ができなくなったことから「闇バイト」で金を稼ごうと考え、被害者から現金などを受け取る受け子の活動を始め、九州から北海道まで各地を巡り、報酬の金は借金の返済やパチンコに使っていたといいます。
  • 長崎県警諫早署は、特殊詐欺で同県諫早市の80代男性が現金2,220万円をだまし取られたと発表しています。男性宅に、今年3月下旬、架空の「全国民事訴訟相談センター」からはがきが届き、「契約不履行で裁判所に提訴され、財産が差し押さえられる」と記されていたため、不安に思った男性が記載されていた東京の市外局番「03」で始まる番号に電話すると、ホソカワや宮下を名乗る男が「財産の保全手続き」名目で現金を要求、男性は9月中旬まで計4回にわたり指定された千葉、神奈川両県内の別々の住所に宅配便で現金を送り、だまし取られたということです。
  • 広島県警竹原署は、竹原市内に住む60代の会社員男性が、携帯電話の未納料金などの名目で4,833万円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。県内で発生した特殊詐欺被害では今年最高額ということです。男性の携帯電話に今年7月1日、料金が未納とするショートメッセージが届いたため、表示された連絡先に電話するなどしたところ、「有料サイトを利用した形跡がある」「民事裁判の示談金が必要」などと次々に金銭を要求され、男性は9月25日までの間に計53回にわたり、指定された口座に入金したということです。また、同様の手口で、群馬県警大泉署は、群馬県千代田町の70代の男性が、現金1,775万円をだまし取られる詐欺被害に遭ったと発表しています。今年9月、男性の携帯電話に利用料金の支払いを求めるショートメールが届いたため、記載されていた番号にかけると、金融機関の社員をかたる男から「携帯電話がウイルスに侵されている」などと言われ、男性は10月19日までに計19回、指定口座に現金を振り込んだということです。
  • 特殊詐欺に関与したとして警視庁に指名手配され、約1年間にわたり逃走していた20代の男が逮捕されています。男は昨年11月、仲間と共謀し、葛飾区に住む80代の女性に警察官を装ってウソの電話をかけ、キャッシュカード5枚をだまし取った上、ATMで現金60万円を引き出した疑いが持たれています。
  • 警視庁中野署は、横浜市の神奈川県立高1年の男子生徒(15)を詐欺容疑で逮捕しています。男子生徒は、中野区の80代の無職女性宅を訪れ、現金10万円とキャッシュカードを詐取した疑いがあり、女性宅には直前に息子を装った男から「カバンを盗まれて金が必要。上司の息子が取りに行く」と電話があり、男子生徒が女性宅近くに待たせていたタクシーの運転手が、無賃乗車を疑って110番し、事件が発覚したものです。男子生徒は「簡単に稼げるバイトをSNSで探した」と供述しているといいます。
  • 警視庁は、東京都荒川区の70代の女性が「オレオレ詐欺」の手口で現金2,000万円をだまし取られたと発表していますた。うその電話を受け、おいを助けようと待ち合わせ場所に赴き、現れた女に現金を渡したといいます。報道によれば、一人暮らしの女性の家に、おいを装う男から「会社の書類や通帳が入ったかばんをなくした。昼までに4,000万円を払う必要がある。何とかならないかな」といった電話があり、女性は日常的においと電話でやり取りをしていたことから「●かい?」とおいの名を挙げてしまったといいます。女性が男の話を信じ込んで心配していると、おいの「上司」「落とし物拾得のセンター担当者」を名乗る人物からも電話があり、女性は「2,000万円なら用意できる」と答えて銀行の貸金庫から現金を持ち出し、受け渡し場所に指定された区内の公園近くの路上に向かい、上司の関係者を名乗る女に紙袋に入れた2,000万円を手渡したということです。違和感を覚えた女性はこの直後、おいに電話をしてだまされたことが分かったといいます。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。

まずは、高齢男性のだまされたふり作戦の成功事例です。ニセ電話詐欺に気付いた福岡県春日市の90歳の男性が機転を利かせ、警察官と連携して自宅を訪れた容疑者の男の逮捕に結びつけたというものです。今年10月、男性の自宅に電話がかかってきて、警察官を名乗る男が「あなた名義で57万円の大型テレビが電子決済で購入された」、「警察署から後で連絡がある」と話したため、すぐに「詐欺では」と思った男性は110番通報し、福岡県警春日署の署員が男性の自宅に駆けつけたところで、男性はだまされたふりをして会話を続け、相手の話したことを声に出して繰り返して署員に聞かせ、署員はメモで受け答えの指示をするなどして電話でのやりとりが続く中、男性の自宅に警察官を名乗るスーツ姿の男が現れ、その場で署員に詐欺未遂容疑で現行犯逮捕されたというものです。男性の機転のすばらしさが際立つ事例だといえます。

次に金融機関の事例を取り上げます。

  • 詐欺の被害を防いだとして、石川県警津幡署は、かほく市の北国銀行宇野気支店と、行員3人に署長感謝状を贈っています。かほく市内の中高年の女性が、窓口で主任の女性にLINEのメッセージを見ながら振り込み方法を相談したため、詐欺を疑った主任の女性は、上司の営業課長の男性と支店長代理の女性に報告、3人で女性を説得するとともに同署に通報し、被害を未然に防いだというものです。報道によれば、女性は、「あしながおじさん」を名乗る人物とLINEでやりとりし、「寄付金をもらうには許可証の発行が必要」、「発行手数料として約9万円を振り込む必要がある」などのメッセージが送られていたということです。これまでの事例では、振り込みの指示は電話を通じてされることが多かったところ、LINEのやり取りという手口もあることを認識する必要があります。ただ、(一定時間経過後にやり取りが消去されるテレグラムなどと異なり)LINEの場合、やり取りがすべて残されることから、犯罪者側にも相応のリスクは残りますが、注意すべき手口の一つだといえます。
  • 京都府警は、客の詐欺被害を防いだ信用金庫職員に感謝状を贈っています。宇治市の京都中央信用金庫神明支店で、市内の60代の女性から還付金をATMで受け取る方法の相談があったといいます。女性は市役所職員を名乗る犯人に「介護保険料が33,600円返る。キャッシュカードを持って銀行へ行って」と電話で指示されたといい、応対した係長が詐欺を見抜き通報したものです。ATMへ誘い出して「個人番号を入力して」と電話でだまし、犯人への振込金額を入力させる手口だったとみられます。
  • ニセ電話詐欺の被害を防いだとして、茨城県警古河署は、県信用組合総和支店主任の女性と支店長に感謝状を贈っています。主任の女性は、支店のATMの非常電話を通じて古河市の60代の女性から「還付金があるのでATMから電話をするように市役所から言われたが相手が出ない。どうすればいいのか」と相談を受けたといいます。女性主任はATMに駆けつけ、「還付金をATMで戻すことはない。詐欺です」と説明、女性は「そうだよね」と納得し、被害を防いだというものです。
  • 還付金名目の特殊詐欺被害を、顧客への電話対応で防いだとして高知県警高知署は、高知銀行福井支店に感謝状を贈っています。日頃の窓口での交流が、説得の最後の一押しになったといいます。今年8月、顧客の60代の女性から支店に電話があり、行員の女性が対応、市役所や銀行のコールセンターを名乗る男から、還付金の受け取り手続き名目でATMを使って振り込みをするよう電話があったとの内容だったため、「ATMへは絶対に行かないでください」などと約20分説得し、最寄りの交番の電話番号を伝えて通報を促したというものです。

次にコンビニの事例を取り上げます。

  • (コンビニではありませんが)京都府警は、ドラッグストアの店員に感謝状を贈っています。ドラッグユタカ八幡軸店で、市内の80代の男性が電子マネー30万円分を買うと来店、現金でしか買えないため販売しなかったが、詐欺を疑って声をかけた店員が店の連絡網に経緯を残したといいます。男性は再び来て30万円分を買おうとしたため、応対した別の店員が以前の連絡を思い出し、八幡署へ通報したというものです。記録を残すという組織的な対応が詐欺の未然防止につながった好事例だといえます。
  • 特殊詐欺被害を防いだとして、宮城県警仙台北署は「ミニストップ仙台錦ヶ丘店」に感謝状を贈っています。今年10月、60代の男性客から電子マネー3万円分の購入方法を聞かれた女性店長は、同署生活安全課から事前に配られていた「声かけカード」を参考に、男性に購入目的を確認、男性はパソコンがウイルス感染したとして購入を指示されたと説明したため、店長は詐欺と確信して購入を思いとどまらせたというものです。
  • 警視庁愛宕署は、2度にわたって来店した70代の女性が特殊詐欺被害に遭うのを未然に防いだとして、「ファミリーマート汐留タワー店」マネジャーと客の会社員に感謝状を贈っています。会社員は今年8月、同店内でプリペイド式電子マネーのカードとスマートフォンを持ち、操作に手間取っている女性を見かけたため、「何かお手伝いできることはありますか」と声をかけると、女性は同店で購入したばかりのカードの裏面に記載されたIDをどこかに送信しようとしていたため、「詐欺じゃないか」と直感し110番、駆けつけた同署員に説得された女性は、IDを送信せずに帰宅したといいます。後日、女性は再び同店を訪れ、カード1万円分を購入しようとしたため、2日前にもカードを購入した女性が来店したら、声を掛けるように店員に指示していたことから、店員がカードを売らず、マネジャーが「ご家族に相談した方がいい」と説得すると、女性は他のコンビニにカードを買いに行こうとしたため、マネジャーら店員数人で制止して110番、駆け付けた同署員が話を聞くと、女性は特殊詐欺とみられるメールを受け取っていたというものです。会社員の「お節介」と「声をかける勇気」、「迷わずすぐ110番した行動力」には感心させられます。また、コンビニ側も適切な指示を日頃から行っていること、その指示にしたがった対応をし続けたことなど、組織的な対応が日頃から徹底されていることを感じさせます。
  • 還付金名目の特殊詐欺被害を未然に防いだとして、大阪府警西淀川署は、大阪市西淀川区のドラッグストアの店員の女性に感謝状を贈っています。女性は9月下旬、レジで作業中、近くのATMに並んでいた女性客から「高齢の女性が電話をしながら操作している」と相談を受けたため様子を見ると、70代の女性が焦った様子で画面を操作しており、「明らかにおかしい」と直感、最初は「話しかけないで」と拒まれたが、客2人と一緒に「かけ直せばいい。いったん電話を切って」と説得し続け、被害を食い止めたというものです。なお、感謝状を受け取った女性は「どうしたら思いとどまってくれるか必死で考えた。(女性が)被害に遭わないでよかった」と話しており、「お節介」と「声をかける勇気」に加え、その場での機転の利かせ方が重要だと感じさせます。
  • 高齢の女性客が特殊詐欺の被害に遭うのを防いだとして、兵庫県警伊丹署は「ファミリーマート伊丹稲野店」の男性店長に感謝状を贈っています。巧妙に連携して店側の目をそらそうとする手口を、見破ったというものです。報道によれば、店長が店の事務所で苦情の電話に応対、相手の男は以前も同様の電話をしたと説明するものの、身に覚えのない店長が不審に思いつつ防犯カメラの映像に目をやると、女性が映っており、女性は携帯電話で通話しながら店内のATMを操作しており、店長は振り込みの指示を受けていると直感、事務所への電話は、注意をそらそうという詐欺グループの仲間からだと見抜き、女性に操作を中止させたということです。同様の手口は、最近増えているようですが、この店長は手口を知っていたかは不明ではあるものの、すぐに手口を見破った「リスクセンス」が光る対応だと評価できると思います。

本コラムでたびたび指摘しているとおり、そもそも高齢者は電話で直接話すのではなく、留守電設定にするなどしておいた方が詐欺被害にあいにくいといえます。特殊詐欺対策用の電話も数多く販売されているところ、直近では、シャープが、振り込め詐欺に巻き込まれることを防ぐ機能を備えた電話機を発売すると発表しています。手に持たず通話が可能なスピーカー型子機を採用、スピーカーを通じて音声を聞くと、不審な電話に冷静に対応する効果が期待できる(一般的に受話器から耳元で声を聞く場合、声に親しみを感じてしまうため)というノウハウも活用、未登録の番号から着信があった際には、赤色のフラッシュランプが点滅し注意を促すというものです。さらに、音声で電話の発信や着信の操作ができること、番号を登録していない相手から電話がきた場合は、発信者に対し名前を名乗るよう促す、会話の内容も自動で録音する、話したくない相手から電話がきても、専用のボタンを押せば、相手に断りのメッセージを流し自動で通話を終了できるといった特殊詐欺被害防止のノウハウがたくさん詰まった機能を有するもののようです。高齢者の詐欺被害防止という社会的課題の解決に、企業ができることはまだまだあると感じさせます。

(3)薬物を巡る動向

最近の大麻の蔓延を支える組織的な栽培や全国規模での販売体制を有するグループなどが現れはじめています。例えば、福岡県警などは、密売目的で大麻を栽培したなどとして、ともに福岡市在住で無職の男とITコンサルタント業の両被告ら男女12人を、大麻取締法違反容疑で逮捕しています。報道によれば、両被告らは今年7月末、福岡市東区のマンションに設けた栽培拠点で、密売するために大麻草8株を栽培するなどした疑いがもたれていますが、マンションの一室などに報酬付きで住み込みのメンバーを置き、24時間態勢で大麻を管理、住み込みのメンバーのうち1人には、月約30万円の報酬を支払っていたこと、栽培状況は、メッセージが自動的に消去される通信アプリ「テレグラム」で、自営業の被告に毎日報告していたと報じられています。さらに、12人は21~41歳の密売グループで、音楽関係のイベントや出会い系アプリなどで知り合ったといい、大麻を北陸や関西地方に送り、代金は動きが把握されにくい暗号資産(仮想通貨)で受け取るなどしていたといいます。なお、このグループは、北陸、関西地方の別の密売組織に大麻を送っていた可能性があるとされ、月数百万円を売り上げていたとみられています。本件では、SNSや暗号資産、テレグレムなどの犯罪インフラを駆使しながら、全国をまたにかけて、組織的に大麻の栽培から販売まで行われていたという点が驚かされます。また、ツイッターを利用して全国に覚せい剤や大麻を売りさばいたとして、岡山、愛媛県警の合同捜査本部は、麻薬特例法違反(業としての譲り渡し)などの疑いで、密売人の会社員の男を最終送検し、岡山県内外の乱用者ら男女23~47歳の11人を覚せい剤取締法違反(使用)などの疑いで逮捕しています。捜査本部は、会社員の男が2019年12月ごろから、仕入れた覚せい剤などの購入者をツイッターで募り、レターパックで郵送する手口で全国の約200人に密売し、少なくとも計2,300万円を得たとみています。関係先から覚せい剤計147グラム(末端価格882万円)、大麻計167グラム(同100万円)、連絡用の携帯電話4台などを押収しています。なお、最終送検容疑は、昨年7月から今年4月の間、10人に覚せい剤計53グラム、大麻計168グラムを合わせて208万円で密売したほか、うち3人に販売代金の887,000円を他人名義の口座に振り込ませ、犯罪収益を隠匿するなどした疑いです。岡山県警などは、昨年8月に摘発した購入者の取り調べなどから密売人の捜査を進め、今年4月、覚せい剤取締法違反の疑いで会社員の男を逮捕、ツイッターや携帯電話の履歴などを基に密売実態の解明を進めていたというものです。こちらのグループも全国をまたにかけて販売しており、薬物の入手ルートの多様化、容易化の実態が垣間見られます。さらに、自宅で乾燥大麻を所持したとして、愛知県警は、無職の容疑者と、同居する自称スケートボーダーの男2人を大麻取締法違反(営利目的所持)容疑で逮捕・送検しています。容疑者らは、名古屋市中心部の若宮大通公園でスケートボードをするグループで、県警は2019年秋から捜査、容疑者のマンションが大麻乱用の拠点とみて家宅捜索し、大麻草や白色粉末、錠剤、電子ばかりなど約300点を押収、この部屋を拠点に大麻などを若者を中心に密売していたとみて大麻の入手ルートなど実態を調べているといいます。また、県警はこのマンションに出入りしていた、愛知県一宮市の男子大学生を大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕・送検しています。

海外からの密輸の手口も多様化しています。まず、末端価格で9億円相当の覚せい剤(約15キロ)を中国から密輸したとして、警視庁組織犯罪対策5課は男性4人を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで再逮捕しています。4人はいずれも暴力団が関係する密輸グループのメンバーとみられ、指示役や受け取り役など役割を分担していた疑いがあるということです。覚せい剤を隠匿した貨物は容疑者の1人が代表を務める盛岡市の建築会社宛てに送られており、アルミニウムプレートと偽って中国から輸入された厚さ約7.5センチの3枚の鉄板の空洞部分に覚せい剤を約5キロずつに分けて隠しているのを東京税関の職員が発見したものです。なお同課は、再逮捕された4人を含む男性計8人を麻薬特例法違反容疑で逮捕しており、密輸には世界各地で麻薬の売買を手がけるメキシコの麻薬カルテルも関与しているとみて背後関係を調べています(鉄板の中に違法薬物を隠すのはメキシコの麻薬カルテルの典型的な手口だということです)。また、合成麻薬のLSDが染み込んだ紙を絵画の裏に隠して密輸したなどとして、大阪府警は、派遣社員を麻薬及び向精神薬取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕、送検したと発表しています。大阪地検は10月、同罪と関税法違反の罪で起訴、容疑者は「荷物を受け取るだけで金をもらえるアルバイトだと思っていた」と話しているといいます。報道によれば、容疑者は別の人物と共謀して今年8月、LSD成分が染み込んだ紙(縦20センチ、横16センチ)20枚を、額縁入りの絵画(縦80センチ、横70センチ)2枚の裏側に分けて隠し、国際郵便でオランダから輸入しようとした疑いがあるとされます。LSDは、染みこませた紙片を口に含んで使用されることが多いといい、押収した紙には8ミリ四方の切り込みが多数入っており、計約1万回分、末端価格で約5,000万円相当とみられるといいます。絵画が税関を通過した際、麻薬探知犬が反応するなどして発覚しています。なお、容疑者はSNSを使い、LSDの受け取りに関するやりとりをしており、府警は共犯者についても調べています。

大麻栽培用の照明器具を発送したとして、東海北陸厚生局麻薬取締部は、大麻解禁を掲げるネットコミュニティーの開設者で会社役員ら男2人を大麻取締法違反(栽培幇助)の疑いで逮捕・送致しています。容疑者はブログ(現在は閉鎖)で「僕は大麻を解禁させる」などと主張し、栽培方法を紹介、リンク先には種子や栽培器具の販売サイト、栽培者と購入者を仲介するサイトなどがあり、「国内最大級の大麻の総合商社」だったといいます。逮捕容疑は、容疑者は今年2月、器具販売業者のもう1人の容疑者らと共謀して、愛知県の30代男性が大麻を栽培していると知りながら、照明器具を発送して栽培を手助けしたというもので、容疑者はネットコミュニティー上でオンライン面接した栽培者を「公認農家」と称し、密売の仲介手数料を得ていたいたほか、決済には匿名性の高い暗号資産「モネロ」を使っていたということです。ここでも暗号資産が犯罪インフラとして使われ、自ら大麻の一大プラットフォームを形成していたという点は大変驚かされます。また、久留米市にあるマンションの一室などで、大麻草を密売目的で栽培したなどとして、男女5人が逮捕されています。久留米市の無職の容疑者ら男女5人は久留米市東町にあるマンションの一室など福岡県内4カ所で、密売する目的で大麻草を栽培するなどした疑いがもたれています。警察は今年7月、容疑者の自宅を家宅捜索し、大麻所持の疑いで現行犯逮捕していましたが、その後、久留米市や小竹町などのマンションや住宅あわせて4カ所から、大麻草90株や末端価格2,170万円相当の乾燥大麻などを押収したということです。

その他、最近の国内における薬物に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 東京消防庁は、大麻を所持したとして、足立消防署の消防士(23)を懲戒免職処分にしています。今年8月、神奈川県茅ケ崎市内のコンビニ敷地内で所持したとして、大麻取締法違反の疑いで県警茅ケ崎署に現行犯逮捕されたものです。消防士は「ストレスと不眠解消のために持っていた」と話しており、同罪で起訴され10月、横浜地裁で執行猶予付きの有罪判決を受けました。同庁の服務監察課長は「職員の教育を徹底し、再発防止に努めていく」とのコメントを発表しています。公務員の事例としては、長崎県警が、大麻を吸引したなどとして県南地区の警察署に勤務する20代の男性巡査を懲戒免職としたものもあります。巡査は今年7月、長崎市内の駐車場で知人男性と少量の大麻を吸引したというもので、別の薬物事件を捜査する中で巡査が大麻を吸引した疑いが浮上、巡査は調べに「以前から大麻に興味があった」と事実関係を認めているということです。
  • コカインを使用したとして、警視庁麻布署は、米国籍で米海軍の軍人(24)を麻薬取締法違反(使用)の疑いで緊急逮捕しています。逮捕容疑は、東京都内またはその周辺でコカインを使用したというもので、港区六本木の路上にいた容疑者が不審な様子だったため、警戒中の警察官が職務質問して所持品を検査したところ、筒状に丸められ、白い粉が付着した紙幣が見つかり、尿検査でコカインの陽性反応が出たということです。
  • 愛知県警中署は、愛知県豊田市保見ケ丘のブラジル国籍のラッパーと、名古屋市守山区のラッパーの両容疑者を大麻取締法違反(営利目的所持)容疑で逮捕しています。逮捕容疑は今年3月、名古屋市中区の飲食店内で乾燥大麻約35.94グラム、大麻リキッド約15.004グラムを営利目的で所持したというものです。
  • 福岡県警は、乾燥大麻を密売目的で隠し持ったなどとして、北九州市などの男子高校生2人を含む当時18~29歳の男女8人を大麻取締法違反(営利目的所持)容疑などで逮捕、送検しています。高校生らは昨年以降、県内の通信制高校に通う友人の男子生徒(当時18歳)から定期的に大麻を仕入れ、「ヤサイ」「クサ」などの隠語を使用してSNSで不特定多数に密売を繰り返していたといいます。報道によれば、高校生2人は昨年9~11月、県内で密売目的で乾燥大麻を所持するなどした疑いがあり、ほか6人は、高校生のうち1人が所属する密売グループのメンバーや顧客らだったということです。また、販売目的で大麻を所持していたとして、大阪府警は、府立高校の男子生徒(16)ら15~16歳の少年4人を大麻取締法違反(営利目的所持)の疑いで逮捕しています。4人は同じ中学校出身で、うち1人の自宅一室は大麻の密売拠点になっていたとみられています。10人以上が出入りしていたとされ、府警はこの部屋を中心に大麻が広がっていたとみて調べているといいます。また、前回の本コラム(暴排トピックス2021年10月号)でも紹介した舞鶴工業高等専門学校の男子学生3人が大麻取締法違反(所持)容疑で逮捕された事件で、3人に大麻を売ったとして、京都府警は、大麻取締法違反(譲り渡し)の疑いで、兵庫県三田市の無職の容疑者(22)を逮捕しています。舞鶴市内のマンションで舞鶴高専の学生(19)に乾燥大麻1袋(約1グラム)を4,500円で販売したというもので、容疑者は舞鶴高専に在学したことがあり、3人のうち1人と知り合いだったといいます。府警は大麻の入手経路を捜査するとともに、容疑者が過去にも学生に大麻を販売していたとみて調べています。密売グループの拠点とみられるマンションに未成年者を住まわせ、大麻の袋詰め作業を手伝わせていたなどとして警視庁が、会社役員ら男2人を大麻取締法違反(営利目的所持)と児童福祉法違反(有害支配)容疑で逮捕していたということです。報道によれば、2人の逮捕容疑は今年2~4月、横浜市中区のマンションに無職の少年(大麻取締法違反(営利目的所持)容疑で逮捕)を住まわせ、販売用に大麻を小袋に詰めさせるなどの作業をさせたというものです。また2人は今年4月、同市西区のマンションなどで、乾燥大麻約136グラムと大麻リキッド約2グラムを販売目的で所持した疑いもあるといいます。同庁は、容疑者が仲間から「ボス」と呼ばれる、関東地方で空き巣などの違法行為を繰り返していたグループのリーダー格とみており、このグループがSNSで書き込みをして集客して、大麻の密売で440万円以上を売り上げたとみています。高校生の関与としては、横浜市内で、高校2年の女子生徒(17)に対し、覚醒剤を注射して使用した疑いで、神奈川県警高津署などが、住所不定、自称無職の男を覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕した事例もありました。男は複数回にわたって、女子生徒に現金を渡してみだらな行為をしていた疑いも持たれており、県警はその際に覚せい剤を使ったとみているといい、女子生徒も覚せい剤使用の容疑で逮捕され、家裁送致されています。
  • 静岡地検沼津支部は、静岡県富士市の自宅で知人とみられる男性を殺害したとして、殺人容疑で逮捕された無職の容疑者を、事件のあった日に覚せい剤を使用したとする覚せい剤取締法違反(使用)罪で起訴しています。殺人容疑は処分保留としています。
  • 自宅で大麻を所持したとして、警視庁に大麻取締法違反(所持)容疑で書類送検された大相撲の元貴源治関について、東京地検は、不起訴としています(起訴猶予とみられています)。元貴源治関は、日本相撲協会に大麻の使用を認め、7月30日に懲戒解雇されています。
  • 大阪市の路上で合成麻薬MDMAを所持したとする麻薬取締法違反(営利目的所持)や覚せい剤取締法違反(使用)などの罪に問われた無職の被告の判決で、大阪地裁は、「被告の自白は信用性に乏しい」と無罪を言い渡しています。報道によれば、裁判長は、被告は捜査当時、錯乱状態で「確たる記憶や根拠のないまま供述した」と指摘し、所持に関し「合理的な疑いが残る」としています。覚せい剤の使用については、被告が他人に無理やり注射されるのを見たとする第三者の供述があるとして「他人の強制によるものだったと疑う余地がある」と認定しています。
  • 警察の職務質問から摘発に至った事例もいくつかありました。まず、大麻の幻覚成分を濃縮した液体大麻「大麻リキッド」を所持したとして、警視庁日野署がヒップホップグループ「電波少女」メンバーを大麻取締法違反(所持)容疑で逮捕しています。容疑者は昨年8月、東京都日野市上田の路上で、電子吸引器に入れた大麻リキッド約0.3グラムを所持した疑いがもたれており、パトカーで巡回中の警察官が、車を運転中の容疑者が不自然に目をそらしたことから職務質問し、ズボンの中から吸引器が見つかり、警視庁が液体の鑑定を進めていたものです。また、長野県警中野署と県警組織犯罪対策課は、須坂市の保育士の男を大麻取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕したと発表しています。中野市吉田の路上で乗用車内に乾燥大麻約1.4グラムを所持した疑いがあり、近くで起きた交通事故の処理で同署員が男の車を止めたところ、車内から大麻特有のにおいを感じて職務質問し、乾燥大麻を発見したものです。自宅にも乾燥大麻とみられる植物片や吸引具が見つかり、同署が入手先などを調べているということです。さらに、長崎県警佐世保署は、佐世保市の男子大学生(19)を大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕したと発表しています。佐世保市の中心街で巡回中の警察官から目をそらすなど学生に不審な動きがあったため、警察官が職務質問、同署に任意同行し、尿検査で陽性反応が出たため自宅を捜索したところ、乾燥大麻0.1グラムが見つかったということです。

また、海外における薬物犯罪に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 中米のパナマで医療目的での大麻の使用が合法化されています。大麻の合法化はメキシコや南米で先行しているところ、中米ではパナマが初めてとなります。パナマには約5万人のてんかん患者がおり、治療目的での大麻の解禁を求める声が高まっていたもので、大麻を扱う事業者には製造・流通と研究開発の2種類の目的に応じてライセンスの取得を義務づけるほか、購入する患者も病名や処方量などの情報を事前に登録する必要があるとされます。一方、宅配やインターネットを通じた大麻の販売は禁じられています。なお、南米ではすでにウルグアイやコロンビア、ペルー、チリなど少なくとも7カ国が医療用の大麻を合法化しており、そのうちウルグアイは嗜好用の大麻も認めています。メキシコでは2017年に医療用の大麻の使用を合法化、今年3月には連邦議会下院が嗜好品として大麻を合法化する関連法案の大枠を賛成多数で可決しています。
  • 南米コロンビア政府は、世界最大の麻薬密売組織の1つとされる「クラン・デル・ゴルフォ」の首領であるダイロアントニオ・ウスガ容疑者を逮捕しています。同容疑者は「オトニエル」の通称名で知られ、米国への大量のコカイン輸出や警官殺害などの容疑がかかっていました。同国のドゥケ大統領は「違法薬物の取引に対する今世紀の大きな成果だ。(麻薬王として知られた)1990年代のパブロ・エスコバルの殺害に匹敵する」と指摘したと報じられています。ウスガ容疑者は、軍と警察の共同作戦によって、中米パナマとの国境に近いコロンビア北西部アンティオキア州で拘束され、米国と英国の情報協力も得て、拘束作戦には500人以上の兵士やヘリコプターを用いたということです。この麻薬組織には約1,200人の武装人員が所属しており、活動範囲はコロンビア32州のうち10州に広がっています。なお、米国はウスガ容疑者の拘束につながる情報提供に500万ドル(約5億6,500万円)の報奨金を設定していました。また、南米コロンビアのバルガス国家警察長官はその「クラン・デル・ゴルフォ」の取引先が中国やイランを含む4大陸28カ国に及んでいることが判明したと発表しています。クラン・デル・ゴルフォは中米のホンジュラス、コスタリカ、パナマを「配送センター」とし、世界各地へコカインなどの違法薬物を密輸、組織は月平均20トンのコカイン出荷能力を持っており、密輸先は米州、欧州の主要国を網羅しているほか、中国、イラン、アラブ首長国連邦、オーストラリアが挙がっています。なお、コロンビア北部のベネズエラ国境に近いティブで、コカインの原料となるコカ葉畑の伐採を行っていた国軍兵士約180人が、反発する栽培農民約600人に丸2日間にわたり拉致される事件があったと報じられています。政府人権オンブズマンらの説得により、兵士ら全員が無事解放されたといいます。一帯はコカ葉主要生産地の一つで、兵士はコカ葉撲滅作戦中にナタなどで武装した農民に包囲されて連れ去られ、集落の広場に集められて監視を受けたということです。農民代表者は政府が進めるコカ葉から合法的作物への「転作政策」が公約通り機能していないことへの不満を表明しています。報道によれば、コロンビアではここ数年、治安部隊とコカ葉栽培農民の衝突が増えており、農民側の不信感が募れば、多くの犠牲者が出る事態に発展する恐れも指摘されていたところでした。
(4)テロリスクを巡る動向

10月31日、東京都調布市を走行中の京王線の電車内で乗客1人が刺され、車内に放火された事件が発生しました。小田急線車内で8月に乗客10人が刃物で刺されるなどして重軽傷を負った事件が発生したばかりであり、「次」の発生を許してしまった鉄道関係当局、鉄道関係事業者に大きな衝撃を与えています。11月2日、「これまで前提としてきた常識や想定はもはや通用しない。乗客の安全確保について再発防止策を検討し、報告してほしい」と国土交通省の上原鉄道局長は鉄道32社が参加した会議の冒頭で述べています。2つの事件からさまざまな共通要因や限界も見えてきているところです。例えば、乗客10人が切られるなどして重軽傷を負った8月の小田急線の事件も今回の京王線の事件も、停車駅の間隔の長い快速急行で起きたことについては十分な検証が必要だと考えます。走行中で、逃げ場のない中、とりわけ京王線の事件では実際に車内で火が燃え広がったことから、満員電車などで起きていれば、被害がさらに拡大しかねなかったといえます。また、国交省の省令改正で今年7月から乗客への手荷物検査が可能になったものの、両事件とも刃物や可燃性の液体などが「大量に」車内に持ち込まれており、「見える形で危険物を持っている乗客でないと、警備員らが手当たり次第に声をかけるわけにはいかないし、通勤ラッシュ時などの混雑時はなおさらだ。今回のような事件を完全に防ぐのは難しい」、「全ての駅や改札で(空港の)保安検査場並みのチェックをすれば防げる事件もあるだろうが、現実的に難しい」、「多数の人が利用する電車での手荷物検査は現実的には難しい」との関係者の本音も理解できるところです。さらに、京王線の事件では、ホームドアと扉がずれていたため安全を考慮してドアが開かれなかったことから、乗客が窓から避難する事態ともなりました(本件をふまえ、国交省は、緊急時にはドアとホームドアがずれた場合でも、双方の扉を開けて乗客を誘導するよう鉄道各社に指示しています。しかしながら、ホームドアが脱出の邪魔になるケースなども想定しておく必要もありそうです)。事件を受けて、「国は、防犯カメラの設置費など鉄道会社の対策に対する財政支援も検討すべきだ。乗客も電車内は安全ではないと自覚し、不審者を見つけたら通報するなど、安全を守る一員という意識を持ってほしい」といった意見が専門家も含め大勢かと思います。さらに、前回の本コラム(暴排トピックス2021年10月号)でも取り上げたとおり、国交省は8月の小田急線乗客刺傷事件を受けて鉄道事業者と意見交換し、警備員の巡回強化や防犯カメラ増設、人工知能(AI)を活用した不審者の検知といった対策をまとめてもいます。しかしながら、防犯カメラを設置したからといってテロやこのような単独の身勝手かつ確信的な犯行を防ぐことは難しいのではないか、警備員の巡回強化も「抑止」の要素が強く、実際の犯行者とどれだけ対峙でき、排除できるのか、不審者を見つけたら通報するとしても、犯行者が凶器を出すのは走行中の電車の中であり、それまで不審な点に気付きにくいのではないか、そして、これらの取組みでこれまでより早く認知できたしても、それでも避難や身の安全の確保にとっては遅すぎるのではないか、といった懸念を払しょくできるわけではありません。極論すれば、航空機への搭乗時と同じく、手荷物検査の完全履行が望ましいところであり、「利便性を阻害する」として思考停止になるのではなく、その望ましい対応にどれだけ迫れるかを「これまで前提としてきた常識や想定はもはや通用しない」ものとして真剣に検討する必要があるのではないかと考えます。そして、電車の中という「密室」の持つ脆弱性や恐ろしさを認識した社会に対して、「利便性」を犠牲にしてでも乗客の安全を守るという姿勢をどれだけ真剣に社会に提示でき、また説得できるのか、官民挙げたリスクコミュニケーション、説得的コミュニケーションが問われてもいるといえます。なお、参考までに、福岡空港で働く女性職員を対象にした護身術教室が同空港国際線旅客ターミナルビル4階ホールで開かれたといいます。京王線の事件を踏まえて実施したといい、指導した警部は不審な人がいたら2メートル以上距離を取るよう伝えた上で、万一腕をつかまれた場合に相手の力が入りにくい方向に振り払うこつを伝授したと報じられています。大事なことは、このように事件を自分事として捉えて、できる対策から始めることであり、それが乗客を守る使命を持つ事業者に対して社会が求めていることだといえます。

アフガニスタン情勢について議論するロシア主導の国際会合がモスクワで開かれ、中国やパキスタン、インドなど10カ国と、アフガンで暫定政権を樹立したイスラム主義組織タリバンが参加、共同声明では、暫定政権を承認しないものの、タリバンとの関係強化を図る現実路線にかじを切っています。ロシアやパキスタン、中国などタリバンとある程度良好な関係を維持する国々も、タリバンが旧政府の高官らを含む「包括的」な政権作りを進めていないことを最大の理由として、暫定政権を承認することに慎重な姿勢を崩していません。一方、アフガンでは米国などによる資産凍結などの影響で、経済が危機的状況に陥っており、とりわけ食料不足は深刻で、世界食糧計画(WFP)などによると、国民の9割以上が十分な食事を取れていないということです。さらに、2021年末までに5歳未満の子供320万人が急性の栄養失調になり、少なくとも100万人が命を落とす危険性があるということです。また、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)系の「ISホラサン州」(IS-K)もタリバンなどを標的とするテロを繰り返しており、経済情勢の悪化とともに今後の治安悪化への懸念(アフガンが再び破綻すればシリアやイエメンのように過激派が集まり、国際テロを生む危険性が高くテロの温床化の懸念があります。国際社会はテロ抑止を支援の条件としつつ対話に乗り出すなどの工夫が求められています)も広がるなど、暫定政権の統治が機能しているとは言いがたい状況であるのも事実です。そのような中で、各国ともさまざまな思惑で事態に対処しようとしています。例えば、隣国パキスタンは、海外のアフガン資産の凍結解除を求めつつ、アフガンの市民団体を介した人道支援を拡大していますが、パキスタンにとって、隣国アフガンでIS系武装勢力をはじめとするテロ組織が活発化すれば、自国への脅威にもなりかねず、国外資産の凍結などに伴い、財政難に苦しむタリバン政権下のアフガンへの支援は、人道目的だけでなく自国の安全保障にも直結するとの考えがあります。中国やイラン、ロシア、中央アジア諸国も同様に自国への過激派流入を警戒し、タリバンと外交的接触を図っています。経済制裁の維持とは別に人道支援のあり方を模索しているところ、支援の進め方では温度差があり、米国とEUは「アフガン国民に直接届くよう、独立の国際機関を通じて行っていく」(米)、「地元の人々を直接的に援助し、現場の国際機関に振り向けられる」(EU)などタリバン暫定政権を経由しない考えを強調しています(支援がタリバンに流用されることを警戒しているため)。これに対し、中国の王毅国務委員兼外相は、「アフガンを現在の窮状に陥らせた国は、責任を持って人道危機と難民の発生を防ぐべきだ」とした上で、「一方的な制裁は解除すべきだ」と述べ、アフガン政府の資産を凍結している米国を明確に批判、米中の溝が改めて浮き彫りになっています。また、米国の代表団はタリバン側の要人らと会談、人道支援について協議するとともに、アフガン国土をテロ組織に利用させない方針を確認しています(なお、米国の財務副長官は、大部分が米国内で管理されているアフガニスタン中央銀行の準備金について、アフガニスタンの全権を掌握したイスラム主義組織タリバンにアクセスが認められることないとの見解を示しています。「タリバンに対する制裁措置の維持は必要不可欠だと考えている。ただ同時に、アフガニスタン国民に正統的な人道支援を提供する手段を見いださなければならない。今まさにその作業を行なっている」と述べています)。また、欧米諸国などには、支援と引き換えに、タリバンに女性や少数派の権利保障、包括的政権の実現といった条件をのませる意図があるとみられています。一方、アフガンの治安維持を担うタリバンは強気な態度を崩さしておらず、米国代表団との会談後、アフガン外務省は声明で「人道支援と政治とを結び付けるべきではない」とけん制しています。また、直近では、タリバンは、全土で外貨の使用を全面的に禁止すると発表しています。タリバンの報道官は報道陣に共有した声明で「経済情勢と国益を踏まえ、アフガン通貨の使用を全てのアフガン市民に義務付ける」としましたが、アフガンでは市場で米ドルが幅広く利用されているほか、パキンスタンなどの近隣諸国の通貨も使用されており、厳しい冬の到来も控える中、国際支援の引き揚げなどで崩壊の危機に瀕しているアフガン経済の混乱がさらに深まる恐れがあります。

一方、アフガニスタンなどかEUを目指す移民・難民の流れを遮ろうと、域外と接するギリシャやポーランドなどが、国境に壁や鉄条網を設けています。賛同する加盟国はEU首脳会議で建設費補助を要請、人権尊重か「難民危機」回避かでEUは対応に苦慮していると報じられています。報道によれば、EUの行政を担う欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「鉄条網や壁の費用を負担しないのが欧州委や欧州議会の考えだ」と壁の建設費用負担を拒んでいます。人員の派遣や必要な機器への支援はしても、人権を重んじるEUとしては「壁」そのものにお金は出せない建前があり、とはいえEUも移民・難民の流入を防ぎたいのも本音です。アフガニスタンやシリアから逃れる人々の近隣国での受け入れを、資金面でも支援する方針を打ち出したものの、一方で、EU加盟国への受け入れ議論は進んでいないのが実情です。これまで欧州は何度も戦禍に包まれ、自らの市民が難民となったこともあり、フランスのマクロン大統領は「欧州は自由のために戦った人たちを守り、難民を守る原則のもとで築かれた。この価値観を揺るがすことなく、国境を守る必要がある」と述べる一方、「受け入れられなかった移民は、もっと効率的に出身国に送り返さなければならない」として、不法滞在者の国外退去を徹底させる考えも示しています。

その他、アフガン情勢を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • タリバンが掌握したアフガニスタンでヘロイン、アヘンといった麻薬の原料になるケシの栽培が続く見通しです。現金収入を求める農家が10月、種まきを始めたと報じられています。。タリバンの収入にもなるため、ケシ栽培を容認しているとされます。タリバンは首都カブール制圧後の記者会見で、ケシ栽培と決別する方針を示していましたが、このまま農家がケシを栽培し、ヤミ業者が買い上げて精製業者に販売する従来のルートが維持されれば、国際社会はアフガン支援の再開をためらうのは間違いないところです。なお、国連はタリバンの主な資金源を「ケシ生産、麻薬密売、鉱物採掘、恐喝など犯罪行為」とみており、年収は最大で16億ドルと試算してきました。また、国連薬物犯罪事務所によると、アフガンのケシ栽培面積は2020年が224,000ヘクタールと、前回のタリバン政権が米軍の攻撃で崩壊した20年前の約3倍に広がっており、アフガンを構成する34州のうち22州で栽培している実態があります。
  • 米欧などの国際社会がタリバンを国家として承認することに引き続き慎重な姿勢をみせていることから、主要産品の輸出入が停滞し始め、アフガニスタンの産業が窮地に陥っています。輸出では主力のカーペットが、輸入では小麦や医薬品などが打撃を受け、産業復興への道筋はさらに混迷する可能性があります。タリバンにとって貿易の頼みの綱はかねて一定のパイプがある隣国パキスタンなど一部に限られており、パキスタンはタリバン支配後、果物にかかる関税などを撤廃、同国は周辺国にアフガン支援を呼びかけているものの、インドやネパールはテロ活動の活発化を懸念して慎重な姿勢を崩していません。閣僚に国連の制裁対象者も多いタリバンの経済運営の行方は不透明感が強まっているといえます。
  • アフガニスタンでは、地方に住む人々が干ばつなどの影響で飢えに直面し、生計を立てる金銭を得ようと子供を児童婚のため売るケースが相次いでいるといいます。数世紀にわたり児童婚が続くアフガンでは近年、戦争や気候変動に関連した貧困がまん延、多くの家庭が縁組を急ぐ要因となっており、地域の長老らによれば、児童婚を強制される少女の数は2018年の飢饉時に増加し始め、今年に入り急増しているということです。
  • タリバン暫定政権は、国民に対し、労働に従事してもらう代わりに小麦を配給する新たな取り組みを始めると発表しています。アフガンの厳しい冬の到来を見据え、飢餓のまん延を防止するのが目的で、記者会見した暫定政権のムジャヒド報道官によれば、国内主要都市で2カ月間実施され、首都カブールだけで4万人を雇用するとし、冬に食料不足に陥る可能性のある失業者が対象で、労働に対して金銭は支払われないということです。

ISが関与するテロがアフガンやその他の地域においても活発化している状況にあります。直近では、アフガニスタンの首都カブール中心部の病院で少なくとも25人が死亡、50人以上が負傷した爆発で、暫定政権を樹立したイスラム主義組織タリバンと敵対するISが犯行声明を出しています。現場は各国の大使館が集まる地域に近い400床ある軍の大規模病院で、普段、国内の戦闘で負傷したタリバン戦闘員らが治療を受けており、2017年にもISによるとみられるテロ事件が発生したとも報じられています。なお、死者の中にタリバン治安部門のハムドゥラ幹部が含まれていると地元メディアが報じており、同幹部は8月にタリバンがカブールを制圧した際、大統領府に最初に乗り込んだ人物として知られています。ISはタリバンが実権掌握後も、同国で少数派のイスラム教シーア派のモス(礼拝所)などの「ソフトターゲット」を狙ったテロを繰り返しており、治安維持能力を誇示し、統治能力を国内外にアピールしたいタリバンの痛手になっています。IS-Kとタリバンとでは、思想の面で大きく異なり、前者はジハード(聖戦)主義組織であるのに対し、後者はアフガンにおけるイスラム政権の樹立を宿願としてきました。さらに、前者はアフガン、パキスタン全域、インドとイランの一部にまたがる「カリフ国家」の創建を目指すしており、新政権への国際社会の承認を得ようとして地域の大国や米国と協議するタリバンを、イスラムの大義に反する「汚れたナショナリスト」だとみなしており、対立の構図が鮮明となっています。また、米情報機関はアフガニスタンのISが最短6カ月で米国に攻撃を仕掛ける能力を確保する可能性があると判断していると、カール米国防次官が議会に対し明らかにしています。カール国防次官は「情報機関は現在、ISおよび国際武装組織アルカイダ双方が、米国を含め外部への作戦を展開する意志があると判断しているが、いずれも現時点では実行する能力を持っていない」と指摘、「ISは今後6~12カ月でその能力を確保する可能性がある」とし、アルカイダについては「1~2年」という認識を示しています。また、タリバンがISと効果的に戦う能力があるかどうかは「なお明確でない」としています。その他、アフガン以外でのISの状況についての報道から、いくつか紹介します。

  • ISは、東アフリカのウガンダの首都カンパラのレストランで10月23日に起きた爆発の犯行声明を出しています。「十字軍のスパイが集まる酒場の爆破に成功した」と述べています。テロ組織監視団体SITEが公表、爆発で女性1人が死亡したもので、警察は、爆発物の構造があまりに稚拙なため、海外のイスラム過激派との関係性を一蹴、「国内の集団による犯行」と見立てていました。
  • ナイジェリアの軍当局は、IS系組織で同国を拠点とする「イスラム国西アフリカ州」(ISWAP)のアブムサブ・バルナウィ指導者が死亡したと発表しています。死亡の日時や詳しい経緯は明らかにされていませんが、ISWAPはイスラム過激派ボコ・ハラムから分裂した組織で、その後、両グループは敵対関係となったとされます。ISWAPが攻勢をかけ、ボコ・ハラムは今年6月、指導者アブバカル・シェカウ容疑者の死亡を認めています(自爆したとされています)。
  • イスラム過激派の活動が活発なアフリカ・モザンビーク北部カボデルガド州で、周辺国軍による軍事介入が7月から始まっています。モザンビーク軍との共同作戦で主要都市を奪還したほか、有力幹部を殺害するなど攻勢を強めています。同州ではISに忠誠を誓うグループが2017年から政府組織や市民への襲撃を繰り返し、一部の都市を実効支配するなど勢力を伸ばしているといいます。政府軍が有効な対策を打てない中、南アフリカなど周辺16カ国で構成する南部アフリカ開発共同体(SADC)は今年、軍事支援を決定、そこにSADC非加盟のルワンダも参加し、過激派掃討に乗り出しています。ルワンダ、モザンビーク両軍は8月、同州東岸の都市モシンボア・ダ・プライアを過激派から奪還しています。
  • イラクのムスタファ・カディミ首相は、IS幹部のサミ・ジャブリ容疑者を拘束したと発表しています。ジャブリ容疑者は2019年に殺害された最高指導者アブバクル・バグダディの側近で、組織の「財務相」として原油の密輸などによる資金調達を担当していたとされます。AFP通信によるとトルコに潜伏していたといい、米国は最大500万ドル(約5億7,000万円)の懸賞金をかけて行方を追っていたものです。

その他、テロを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 2015年11月に発生し、130人が犠牲となったパリ同時多発テロの裁判がパリの裁判所で始まり、実行犯10人のうち唯一の生存者で、テロ殺人罪などに問われたサラ・アブデスラム被告が出廷しています。パリの空港などで被害がさらに拡大していた可能性や、犯行声明を出したISと犯行グループの指揮命令系統など、事件が残した多くの謎の解明につながるか注目されています。ISはパリ18区でのテロ実行も主張していますが、実際には起きていません。被告の当日の足取りなどから、18区でもテロが計画されていた可能性は高く、現場や実行グループの拠点に残されたメモなどには、パリやアムステルダムの国際空港でもテロが計画されていた痕跡があったとされます。事件の実行犯の多くは、フランスやベルギー国籍の若者だったものの、グループがどのように形成され、テロがどのように計画されてメンバーに指示が伝達されたのかは分かっていません。
  • 英与党・保守党のデービッド・アメス下院議員が、英南東部のエセックス州にある自身の選挙区内の教会で男に刺され死亡しました。警察当局は殺人の容疑で25歳の男を逮捕、テロ事件と断定しています。初期の捜査で、男はイスラム過激派と関連する「潜在的な動機」があったと発表しています。英国では2016年6月に、労働党のジョー・コックス下院議員がEU離脱を問う国民投票のキャンペーン中に襲われて死亡する事件が起きましたが、それ以来の現職の議員の殺害が起きたことになります。なお、同容疑者は数年前、ソーシャルメディアへの扇情的な投稿など不穏な行動を示した後、過激化を防ぐ政府のテロ防止措置の対象になった可能性がありますが、短期にとどまったといい、3,000人以上とされる英情報局保安部(MI5)の正式な監視対象となることはなかったということです。
  • 北欧ノルウェーで男が弓矢で無差別に通行人らを襲撃し、5人が死亡した事件で、警察当局は、テロ事件との見方を示しています。拘束されたデンマーク人の男は改宗したイスラム教徒で、事件前から警察が過激思想に傾倒しているとの情報を得て監視対象にしていたということです。ノルウェーでは2011年、首都オスロなどで極右思想を持つ男が引き起こした爆弾テロと銃乱射事件で計77人が死亡していますが、今回の事件はそれ以降で、死者数が最も多い事件になったといいます。地元警察は、通常は非武装の全国の警察官に対し、銃を携帯するよう命じています。

政府は、2023年度にもテロリストの入国を海外の空港で防ぐシステムをつくると報じられています(2021年10月29日付日本経済新聞)。日本へ出国する人が飛行機に乗る前に、航空会社が要注意人物のデータベースに照会して搭乗の可否を判断するもので、海外で日本の入国審査時と同等の情報をチェックできるといいます。現在、政府は危険人物の「ブラックリスト」をデータベース化しており、海外の空港で発券やチェックインする前に、航空会社が接続して身元を調べる運用を行っています。旅客の名前があれば航空会社が搭乗を拒否する仕組みを想定しています。入管庁は2007年から指紋と顔写真を使った審査を始めており、2021年度には犯罪を起こす可能性が高い人物を検出する人工知能(AI)も導入、今後、短期滞在を目的とした渡航をネットで申請するシステムも検討するといい、テロや人身売買などの対策に効果があるとされ、米国が2001年の米同時テロ後につくった「ESTA(エスタ)」が代表例で、欧州も2022年に導入する予定だということです。

米メタ(旧FB)は、主力SNSのFBで顔認識技術の利用を中止すると発表しています。数週間以内に写真に写っている人を自動で認識してタグ付けを提案するといった機能を使えなくするということです。利用者などの間でプライバシー侵害への懸念が高まっていることに対応するもので、「全社的な顔認識技術の利用制限の一環」と説明しています。利用中止に伴い、写真や動画を判断する際の「ひな型」として使ってきた10億人超の情報を廃棄するとしています。FBの1日当たりの利用者は、今年9月時点で19億3,000万人に上り、このうち3分の1以上が顔認識技術を利用しているといいます。利用者はタグ付けの提案を受けたり、他人が投稿した写真に自分が写っている際に通知を受け取ったりすることが可能だったものの、顔認識技術について視覚障害者のサービス利用を手助けするといった便利な側面がある一方、「懸念が強まっている」と指摘しています。現時点では利用に関する明確な規定がなく、利用範囲を狭めるのが適切と判断したということですが、本人確認に加えて詐欺やなりすましの防止などでは引き続き有用とみており、外部の専門家とも協力しながら顔認識技術の開発そのものは継続するということです。FBを巡っては、サービスの安全性などに問題があると認識しながら、十分な対策を取らなかったなどとして批判が集まっており、強まる逆風が今回の方針転換を促したとの見方も出ています。

東京電力は、柏崎刈羽原発で物品を搬入する業者の車両が誤った車両通行証を使用して核セキュリティに関わる周辺防護区域に入る事案があったと発表しています。同社は「(原因は)悪意というよりヒューマンエラー(人的ミス)。ゼロにするのはなかなか難しいが、きちんと原因を特定し対策を取り、それを継続的に改善していくことが重要だ」と記者会見で述べています。報道によれば、協力企業が搬入の委託先の業者に誤った車両通行証を手渡したうえ、出入り口にいた警備員が物品の照合作業に気を取られて車両通行証のチェックをおろそかにしたのが原因ということです。出入り口の位置や警備員の人数、通行証の種類などは、核セキュリティに関する事案を理由に非公表としています。なお、同原発では、所員が他人のIDカードで中央制御室に不正進入したほか、侵入検知設備の故障を長期間放置していたことが発覚するなど、テロ対策に関する不祥事が続いたため、原子力規制委員会が今年4月、東電に事実上の運転禁止命令を出し、同原発の再稼働ができない状況となっており、原子力規制庁の立ち入り検査が始まったばかりでした。調査は1年あまり続く予定で、(1)不備が東電の全社的な問題かどうか(2)コスト削減が不備に影響を与えたか(3)侵入検知設備の故障時に注意喚起する仕組みがどうだったか、なども調査するとしています。

2021年10月14日付朝日新聞の記事「不祥事続く東京電力 「最後の機会」「本気で生まれ変わる」の違和感」は、同社の組織体質の問題の本質を表すものとして参考になります。以下、抜粋して引用します。

東京電力の組織体質は、やはり変わっていない。柏崎刈羽原発で相次いだテロ対策の不備をめぐり9月に公表された検証結果に、そう思わざるを得なかった。直接問題になったのは、IDカードの不正使用や、侵入を検知する設備の故障だ。しかし、報告書を読むと、個人や一部署にとどまらない組織の問題であることがよくわかる。それぞれのエピソードは、福島第一原発事故前の津波対策、事故対策をめぐる状況とも重なって見える。内部の人はテロの脅威になり得ないという思い込み、代替措置で十分と復旧を急がなかった状況は、「大津波など来るはずない」と対策を先延ばしにしてきた過去と似通う。機器のリース元から懸念を伝えられても積極的に対応しない本社幹部、規制当局の反応や現場からの報告がないなら問題なしととらえる風潮、電力各社への指示を自社の重要課題と受け止めず上司に上げない組織、部署間の壁……。どれも事故の調査や裁判で見聞きしたこととそっくりだ。・・・問われたのはトップの本気度だ。しかし、小林会長は「覚悟を決めてやろうということ」、小早川社長は「しっかりと改革を断行してきたつもり」と真正面から答えなかった。同時に公表された社員アンケートでは、コスト削減のプレッシャーの記述もあった。小早川社長は「何となくそういう雰囲気ができたのではないか」と話し、経営側は求めておらず安全が最優先だとした。同じような話は、法廷で耳にしたばかりだった。7月、事故をめぐる株主代表訴訟の被告として尋問を受けた勝俣恒久元会長と清水正孝元社長は、費用を惜しんだとの見方を否定し、安全を最優先にしていたと主張。「情報が上がってこなかった」などと経営上の責任を否定した。今回の社員アンケートでは、9割以上が安全を優先していると答えたのに対し、核セキュリティへの意識は低かったという。小早川社長は「事故以降、継続的改善は根づいてきている」「セーフティ(安全)に関してはかなりの情報が私まで上がることになっている」とも語った。ただ、組織が変われないことはもう十分に証明されたのではないか。もし再び事故が起きたなら、責任逃れも繰り返されるような気がしてならない。
(5)犯罪インフラを巡る動向

積水ハウスが2017年に土地取引をめぐる詐欺被害で多額の特別損失を計上した「地面師事件」をめぐり、株主が当時社長だった阿部前会長ら現旧役員計4人に対し、計55億5,900万円を同社に支払うよう求めた株主代表訴訟の口頭弁論が、大阪地裁であり、本人尋問で阿部氏は「部下が相談してこない限り問題ないと理解していた。私から積極的に説明を求めることはできない」と発言、自身の経営上の責任や社内での連携不足を認める一方、原告の主張する善管注意義務違反は否定しています。以前の本コラム(暴排トピックス2018年11月号)で、筆者は以下のように指摘しており、そもそも部下が相談できる状況を作り出してこなかったのであり、「部下が相談してこない限り問題ないと理解していた」との発言に何らの説得力もなく、そうであれば、「私から積極的に説明を求めることはできない」との発言は自ら善管注意義務を放棄しているとも聞こえてしまいます。また、この問題では、道具屋の用意した偽のパスポートという「犯罪インフラ」が決定的な役割を果たすとともに、現場のリスクセンスの麻痺の恐ろしさを痛感させられるものでもあります。企業の危機管理を考えるうえで、考えさせられることの多い事例だといえます。

地主になりすまして架空の土地取引を持ちかけて多額の代金をだまし取る「地面師」グループが摘発されました。今回の事例では直接は認められていませんが、暴力団の関与が疑われる事例も少なくありません。地面師グループの代表的な手口といえば、例えば、割安な価格で土地取引を持ちかけて契約を急がせる、地主になりすました者や善意の弁護士等が登場する、精巧に偽造された旅券や印鑑証明、不動産登記等が使われるなどが代表的です。さらに、それを支える犯罪インフラである「道具屋」の仕事が虚構の話にリアリティを加えることになる点も特徴的です。一方で、今回の事例では、積水ハウス側の対応の杜撰さが際立つ形となりました。地主役の本人確認の際に干支や誕生日が不正確だった、代金支払いの前日、所有者役に土地権利証の提示を求めた際、「内縁の夫」とけんかしているとのウソで断られた(にもかかわらず、権利証を確認しないまま全額を支払った)、杜撰な計画については他の不動産会社は軒並み見抜いており、五反田界隈の土地には気をつけろという話は不動産会社の間では有名な話だった、仲介業者として節税目的のペーパー会社の起用を提案された、本来の土地所有者から警告を受けた・・・など、不審な点が多数ありながら「何ら疑いを差し挟まないまま契約を急いだ」といいます。このように、地面師の問題は、対面取引であっても本人確認の実効性については「脆さ」「危うさ」が必ずあることを痛感させられます。例えば、一般的には、名刺交換した際、その情報を何ら疑わないものですが、犯罪者がその「思い込み」につけ込む事例も少なくなく、名刺情報すら疑うことが本来のリスクセンスなのだと思います(例えば、読み方が一緒で別の漢字を一文字充てるだけで別人扱いで、DBスクリーニングや風評チェックからすり抜けることが可能となります)。しかしながら、本件の場合、それ以前の問題で、干支や誕生日が不正確なのに本人と信じるようなリスクセンスが麻痺した状態であり、これでは犯罪者の思うツボだったと言えます。そして、そのリスクセンスの麻痺、冷静かつ合理的な判断を曇らせたのは、トップの関与のもと組織全体で取引を急がせたことによる、ガバナンス、内部統制の問題にあることを指摘しておきたいと思います。・・・「そもそもなぜ「取引妨害の類」と安易に思い込んでしまったのか」こそが、同社の対応を考えるうえでの「肝」のように思われますが、報告書では特段の言及はありません(筆者は、個人的には、おそらく、取引を進めたい、早く進めないといけないという「思い込み」=「バイアス」が強くかかっていたためではないかと推測しています。さらに、そのバイアスがなぜかかったのかがこの問題の本質となりますが、それは「上層部からのプレッシャー」だったのだろうと推測しています)。この管理部門の問題については、金融庁のAML/CFTに関するガイドラインでも言及されていた「3線管理」(現場部門・管理部門・内部監査部門のそれぞれで防衛線を講じること)と同様のフレームワークで説明できると思いますが、とりわけ第2の防衛線である「管理部門」が現場部門に引きずられることなく、「冷めた冷静な目」で案件に向かうことが極めて重要であることに気付かされます。

さて、オートロックの共用玄関からマンション内に侵入し計4人の女性を乱暴するなどしたとして、強盗・強制性交等や逮捕監禁致傷などに問われた元不動産会社員の裁判員裁判の初公判が福岡地裁で開かれました。被告は、仕事で知った暗証番号や隠しカードキーを使って侵入し、無施錠の部屋の物色を繰り返したとみられていますが、検察側は冒頭陳述で、被告は、かつて勤務した不動産会社の業務で知った暗証番号を打ち込んでオートロックの共用玄関を解錠したり、部屋の内見などのために隠してある空き部屋のカードキーを入手したりしてマンション内に侵入したと指摘しています。専門的な知識を悪用して犯罪を行う「専門家リスク」の悪質な手口である一方、不動産業界における慣行がそれを可能にしていることも事実であり、業界をあげた対策の検討が必要だと思われます。「専門家リスク」という点では、大阪国税局OBの男性税理士が代表を務める税理士法人が、顧問先に所得隠しを提案したとされる問題もありました。この問題では、OB側が不正な会計処理を行った場合の税額を顧問先に事前に提示し、了承を求めていたことが分かっています。OB側のやり方で70,000円の課税で済ますか、正規の約3,000万円を納税するか「どちらが良いか」と尋ねていたといい、大阪国税不服審判所がこうした発言も事実と認定しているようです。専門家リスクが犯罪に直結して「犯罪インフラ化」するからこそ、専門家には相応の「職業的倫理観」が求められるといえます。

水産庁は、水産物に漁獲番号を割り振って取引記録を追跡できるようにする新制度の対象魚種について、アワビとナマコ、ニホンウナギの稚魚「シラスウナギ」の3魚種とする方針を決めています。昨年12月に成立した新法「水産流通適正化法」に基づく規制で、違法に漁獲された水産物の不正流通を防ぐのが狙いです。同庁の検討会議は今年5月、対象魚種の選定基準について、密漁の検挙件数の多さ、単価の高さ、漁獲量の減少幅の大きさなどを設定、密漁の検挙件数(2018年までの10年間平均)はアワビ139件、ナマコ31件で、シラスウナギも55件に上ったほか、1キログラム当たりの単価はシラスウナギが約170万円で、アワビの7,328円、ナマコの2,490円と比べて飛び抜けて高くなっています。同庁は当初、密漁の被害の大きいアワビとナマコだけを想定していましたが、シラスウナギも基準を満たしているため、対象に加えることを決めたといいます。なお、漁獲番号は1匹ずつではなく、産地や取引日ごとにまとめて割り振る方式を想定していますが、流通過程で様々な産地・取引日のものが混ざるケースが多く、シラスウナギの流通業者などは事務作業の負担が大きすぎると反発しています。これらの密漁には暴力団等の反社会的勢力が関与するケースが散見されており、彼らの資金源となっている実態もふまえれば、ある程度の対策コストをかけるべきであり、官民双方でそのコストやリスクをどう負担するかの踏み込んだ議論が期待したいところです

ほとんど価値のない商品を客に買わせ、宣伝費などの名目で金銭を融通する「後払い現金化商法」が横行、無登録営業の業者が多く、渡した金額より高い商品の代金を支払わせて利息としており、警察当局はヤミ金融の新たな手口とみて、摘発を強化しているといいます。2021年10月18日付読売新聞によれば、多重債務者を支援する「大阪いちょうの会」には昨夏以降、後払い現金化に関する相談が約190件寄せられているといい、同会が約100の業者の金利を調べたところ、年利600~3000%程度で、大半は貸金業の登録をしていなかったといいます。また、北海道警も今年9月末、キャッシュバックと称して現金を融通した男5人を貸金業法違反容疑で逮捕、全国の延べ約4,700人に約2億4,000万円を貸し付け、約1億円の利益を得ていたとみられています。さらに、強引な取り立てを行う業者もおり、勤務先に返済を迫る電話をしたり、契約時に送った顔写真や名前を「ネット掲示板に書き込む」と脅したりしたケースが確認されています。また、最近は、中古品買い取りを装い、客に物品の画像を送信させ、代金として現金を振り込む「先払い現金化」の業者も確認されており、その後、買い取りが成立しなかったとして、商品代金より高い「違約金」を客に支払わせるといった手口だといいます。先払い分が「貸金」で、違約金が利息を加えた「返済」にあたるとされます。なお、後払い現金化商法は、給与ファクタリングの手法からくら替えした業者が多いといい、規制や摘発の強化との「いたちごっこ」を続けながら、手口を巧妙に編み出し続けている状況だといえます。

インターネット上で犯罪行為に勧誘する「闇バイト」の募集に応じ、強盗予備罪などに問われた男の公判で、犯罪に至るまでの詳細が明らかになっています。2021年10月11日付読売新聞によれば、指示役が「書類審査」と称して犯罪歴を尋ね、通信アプリで犯行の計画書を共有、システム化された手口が垣間見えます。報道によれば、被告は、金に困ってSNSで「裏バイト」「高収入」「タタキ(強盗の隠語)」などのキーワードで検索、ツイッターで闇バイトの指示役側に接触し、以降は一定時間が経過するとメッセージが消える通信アプリ「テレグラム」で連絡を取り合い、強盗グループへの参加を申し込んだといいます。「書類審査」があり、「ブラック(闇バイト)経験はあるか」との問いに、「タタキの経験あります」と返信、身分証明のため、運転免許証の写真も送ったといいます。実行役に選ばれ、もう1人の実行役の男と高松市内で合流、指示役とテレグラムで犯行計画書を共有し、翌日、ガス会社の点検作業を装い、東かがわ市の男性宅に侵入したという実態が明らかにされています。報道において、犯罪心理学の専門家が「SNSが犯罪行為を後押しするツールになっている。表現の自由もあり、不審な投稿の規制は難しく、対策が追いついていないのが現状だ。安易な気持ちで闇バイトに手を出してはいけないと、啓発を続けていくしかない」と語っていますが、ツイッターやテレグラムといったSNSをフル活用し、システマティックに行われる犯行の様には驚かされます。

インターネット広告の閲覧数を水増しして広告費をだまし取るなどの「アドフラウド」(広告詐欺)被害が深刻化しています。2021年10月15日付日本経済新聞によれば、ネット広告のうち、こうした被害に見舞われた割合は約3%と主要国で最悪の水準となっている一方、海外では対策サービスの導入が進むが、日本では閲覧数を増やすことにこだわるあまり、対応が遅れているのが現実であり、犯罪収益につながりかねない懸念があります。具体的な手口としては、「ボットなどを使い広告の閲覧数を増やすのは、アドフラウドに共通の手口だ。競合企業の広告費を浪費させる手段に使われる。犯罪グループによる金銭詐取に悪用されるケースも多いとされる。犯罪グループは詐欺用のサイトを用意し、企業などの広告を誘導。ボットなどにより自分たちで閲覧数を増やし、対価として広告収益が懐に入ってくる仕組みを作る」と紹介されています。さらに、「被害は世界で広がる。世界広告主連盟は損失額が2025年に500億ドル(約5兆5,000億円)にのぼると予測。反社会的勢力が資金を稼ぐ手段として、薬物の売買に次ぐ規模に膨らむと分析する」とも指摘されており、正に「犯罪インフラ化」している実態があり、その深刻さを認識できるものと思います。そのような実態にもかかわらず、「改善への意識も低い。デロイトトーマツグループが20年12月に日本企業(従業員5千人以上)の担当者を対象にした調査では、アドフラウド対策に取り組むとの回答は27%にとどまった」ということです。さらに、「実態が見えづらいだけに、摘発も難しい。米国の司法当局が2018年に数千万ドルをだまし取ったとして、ロシア人ら8人を起訴したが、このほかに目立った摘発例は国内外で見当たらない。「新たな不正の手口が相次いで確認されている」と専門家。国内の警察関係者は「システムは日々アップデートされ、違法行為を突き止めるのは困難」と漏らす」としています。とりわけ、反社会的勢力など犯罪組織の資金源として急激に増加している点(ネット広告費用を通じて反社会的勢力の活動を助長している構図)は、企業にとって相当な注意を要するものであり、サービスを利用するのであれば対策が急務な状況だといえます。

ランサムウエアをはじめとするサイバー攻撃に対する企業の取組みの遅れや脆弱性が「犯罪インフラ化」している実態については、本コラムでもたびたび取り上げているところです。米バイデン政権は、「ランサムウエア」と呼ばれるウイルスを使ったサイバー攻撃対策を巡り、日本や欧州など約30か国とともに共同声明を発表、「世界的な安全保障上の脅威」と位置付け、攻撃の拠点と指摘される中国とロシアへの対応を念頭に、連携を強化する方針を打ち出しています。声明では、盗んだデータを暗号化し、復旧する代わりに身代金を要求するランサムウエアによる重要インフラ(社会資本)などへの攻撃が、「安全や経済に大きなリスクをもたらす」とし、強い危機感を表明したうえで、被害事例の共有を進めるなどして各国の防御力やハッカー集団に対する捜査能力を向上させる必要性を指摘、「我々はサイバー犯罪に対する適切な措置を講じ、他国にも同様の対応を強く求めなければならない」と訴え、中露両政府にも働きかける姿勢を示しています。今後、各国の安保・サイバー対策当局に法執行機関や金融機関も加えた協力態勢の構築を進める方向性も盛り込まれました。関連して、米財務省は、ランサムウエア攻撃をめぐり、今年1~6月に報告された身代金の支払額が5.9億ドル(670億円)だったと発表、昨年1年間の総額4.1億ドルを早くも上回る増加ペースとなっていることが明らかとなっています。さらに、この身代金の取引には暗号資産(仮想通貨)が使われていることなどをふまえ、暗号資産交換業者など業界関係者に経済制裁の順守を求める指針を公表、財務省傘下の外国資産管理局(OFAC)が暗号資産交換業者に対し、「伝統的な金融機関と同様」の規制対応を求めることとし、順守できなければ、取引禁止や米国内の資産凍結といった制裁が科される規制を導入するとしています。また、制裁で禁じられた国家や個人などとの取引には応じないよう警鐘を鳴らし、実際、今年9月にはロシアの暗号資産交換業者がランサムウエアを使った不正行為に加担したとして制裁対象に指定するなど、対策強化に乗り出しています。暗号資産の「犯罪インフラ化」に関連して、日本では、無登録の暗号資産を悪用した事件などが明るみになっています。直近では、国に無登録で暗号資産が販売された事件で、大阪府警などは、投資関連サービス会社「Rawbiz」代表取締役、暗号資産の開発者の両容疑者ら男5人を資金決済法違反容疑で逮捕しています。報道によれば、延べ1,130人に独自の暗号資産「アークキャッシュ」「バイオメックス」15億8,700万円相当を販売したとみられ、取引所で一般的に流通している暗号資産(計1億1,100万円相当)と交換し、換金していたといいます。容疑者らはスマートフォンのマッチングアプリなどで知り合った人物に、「上場すれば、価値が10倍以上に上がる」などと伝え、近く取引所での売買が実現すると示唆して購入を勧めていたとされます(知人女性の身分証明書などを悪用したり、顔写真を他人のSNSから流用したりしてマッチングアプリなどに登録、通話時には声を機械的に変換する「ボイスチェンジャー」を使って女性になりすまして勧誘していたともいわれています)。そもそも暗号資産をめぐるトラブルは年々増えています。2014年度に全国の消費生活センターなどに寄せられた相談は186件だったところ、その後ビットコインなどの高騰を受けて取引が投資家以外の人にも広がったことを受け、2018年度には3,455件にまで増加、その後も約3,000件で推移している状況にあります。暗号資産には「買えばもうかる」というイメージが広がり、詐欺などの関連犯罪が増えたものと推測されます。また、これとは別に、暗号資産の売買益を通じ高配当が得られるとする金融関連商品「ジュビリーエース」「ジェンコ」「グローバリティクス・テック・リサーチ」などをめぐり、配当や出資金の出金が停止されるトラブルが生じているといいます。トラブルを訴えているのは少なくとも350人で総額は15億円に上るということです。報道によれば、勧誘活動をしていた50代の男らが無許可で出資を募っていた疑いがあり、被害相談を受けた警視庁は金融商品取引法違反(無登録営業)などの疑いで、近く本格捜査に乗り出す方針を固めたといいます。外国為替取引と同様に、暗号資産の価格差を利用し売買を行うことで利益を生み出すなどとして、高利回りをうたっており、専用のサイトを通じて暗号資産を購入し、残高などに応じて配当が支払われる仕組みもあるということです。

犯罪インフラを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • コロナ禍の状況をふまえた犯罪が増えています。「在宅勤務で稼げる」といったうたい文句でアルバイトを募り、不正に購入した商品の受け取り役をさせていた転売グループを警視庁が摘発しています。応募した際に渡した個人情報が悪用され、受け取り役が商品の代金を請求された例もあるということです。報道によれば、摘発されたグループには主要メンバーの下に「注文役」「荷受け役」「換金役」といった役割分担があり、グループは2019年ごろからSNSに「在宅勤務で簡単に稼げます」などと書き込み、商品の「荷受け代行アルバイト」として荷受け役を募っており、グループが転売によって約2年間で少なくとも2億円を得たとみられています。関連して、青森県消費生活センターに寄せられた相談で、「簡単に稼げる」などとウェブ上で副業を呼びかけるサイトのトラブルが増加しているとの報道もありました。今年4月からの約7カ月間に寄せられた県内の相談件数は前年のほぼ同期と比べ約2割増の105件、被害額も3割増の1,291万円に上っているといい、ウェブ上で「スマホの簡単な作業で毎日1万円を稼げる」、「スマホの画面をタップするだけでもうかる」などとうたう広告を見て有料の会員登録をしたが、その後、運営会社から具体的な収入を得るための手段の提示がなかったなどの相談が増加、今年4月~10月25日に105件の相談が寄せられ、昨年のほぼ同時期より18件増えたといいます。特に20代の被害が多く、全体の35%を占めています。また、他人のクレジットカード情報で商品を不正購入したとして警視庁に摘発されたグループが、SNS上で「荷受け代行」のアルバイト募集と称し、商品受け取り役を約300人集めていたことがわかりました。不正への加担で逮捕されたり、個人情報を悪用されたりした人もおり、警視庁が注意を呼びかけているといいます。荷受け代行は2015年頃から、手軽な副業として若者や主婦らの間で広まりましたが、募集者が犯罪グループであるケースが後を絶たず、多くの場合、アルバイトには、不正購入した商品であることは知らされないため、警察が商品配送先のアルバイト宅を特定しても、アルバイトを逮捕するのは難しいといいます。アルバイトは指示役らとSNSでやりとりし、本名などは知らないため、捜査の手がすぐに指示役らに伸びることもなく、アルバイトは、犯罪グループに都合良く利用されている形だといえます。それだけでなく、アルバイトを開始する際にグループに提供した運転免許証の画像などを悪用される被害が多発しているともいいます。
  • 世界的な半導体不足や巣ごもり需要の拡大で品薄状態となっている家庭用ゲーム機などをめぐり、高値転売を目的とした買い占め行為が問題化しています。仕入れ担当の買い手を意味するバイヤーにかけて「転売ヤー」とも呼ばれる一群の存在が、需給バランスの混乱に拍車をかけているとみられ、販売店側は一見「アナログ」な手法も導入し、対抗措置を講じ始めているといいます。2021年11月5日付産経新聞によれば、例えば、「商品の外箱に購入者の名前をフェルトペンで書く」という対策や人気のトレーディングカードの新商品販売時には、箱を包むフィルム(シュリンク包装)をその場で開封してもらう措置などは、外箱や包装が手つかずのままの方が、転売時に高値で取引されることを意識した対抗手段といえます。また「転売禁止」の文字と店名など「はんこ」を押すという手法は、、商品転売時の価値をあえて「下げる」というほか、売買の時点で店側と客側に転売禁止の合意が成立したとみることも可能になるというものです。これに反して転売した場合は、詐欺罪での告訴も視野に入れられるようになり、転売防止の有効な手段の一つになるとみられています。
  • 暴力団組員が使うことを隠して携帯電話の名義変更を行った疑いで、稲川会傘下の森田一家幹部と知人の女が逮捕されています。昨年11月、同幹部が使っていた他人名義の携帯電話を、同幹部が使い続けることを隠し女の名義に変更したというものです。手口として古典的ですが、本人確認手続きの脆弱性などが突かれたものといえます。
  • 通訳や技術者などの高度な専門人材対象の在留資格「技術・人文知識・国際業務(通称・技人国)」で入国したベトナム人を、資格外の単純労働の現場に派遣したとして、京都府警は、日本人とベトナム人のブローカーグループの男3人を入管難民法違反(不法就労あっせん)容疑で逮捕しています。報道によれば、単純労働に従事する外国人は、「留学生」のアルバイトの場合は法定の労働時間(週28時間9制限がありますが。府警は3容疑者が、こうした時間制限がない高度な専門人材を装って外国人を入国させ、在留資格外の安価な労働力として働かせていた可能性があるとみています。
  • 盗難車と知りながらトヨタ自動車のプリウスを買い取ったとして、愛知県警は、自動車解体業の容疑者を盗品等有償譲り受けと組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)の疑いで逮捕しています。報道によれば、自動車の車体や部品に含まれる金属の価格は、コロナ禍でいったん落ち込んだ需要の回復などを受け、高騰しているといい、「うまみ」が大きくなった窃盗グループが動きを活発化させている可能性があるようです。実際、「鉄スクラップは廃車と家屋の解体が主な供給元だが、コロナで供給の落ち込みが激しい。製造業の回復で需要が急増し、価格が上がっている」との指摘もあり、国がカーボンニュートラル(脱炭素)の目標を掲げるなか、鉄スクラップを活用すると二酸化炭素の排出量を抑えられるため、製鉄業界での需要も高まっていることも背景にあるということです。鉄スクラップの「犯罪インフラ化」にも注意が必要な状況ですが、世界的に見ても金属の盗難被害が相次いでいるということです。2021年10月25日付日本経済新聞によれば、希少な貴金属が使われている自動車部品の盗難が米国や英国で2020~21年にかけて急増、日本でも同様の事件が発生したうえ、銅材などの窃盗が2021年8月に前年同月比8割増えたといいます。いずれの金属の価格も最高値をつけたことで、窃盗犯は転売を狙ったと考えられています。今後も金属価格は高値が続く可能性があり、注意が必要な状況だといえます。具体的には、今年9月に愛知県長久手市でトヨタ自動車のハイブリッド車(HV)プリウスの盗難事件では、発見された車からは、排ガス浄化に使う「触媒コンバーター」が切り取られていたというものです。コンバーターにはロジウムやパラジウムが使われており、1台の車での使用量は数グラムと少ないものの、プラチナ(白金9の副産物の白金族に分類され産出量が少なく、もともと高価なもので、金属の国際価格の高騰が背景にあると考えられてます。なお、近年は技術革新で触媒コンバーターに含まれる希少金属の量が減っているといい、窃盗グループがあえて古い車を狙って盗みを繰り返している可能性も指摘されています。関連して、千葉県内で自動車盗の被害が昨年より増えているようです。千葉県警生活安全総務課によると、今年1~8月の被害件数は493件(前年同期比25件増)で、全国ワーストとなりました。施錠中でも特殊なシステムでエンジンを始動させて盗む手口も確認されており、被害を地域別に見ると、県北西部では「レクサス」などの高級車、県東南部は「ハイエース」やトラックなどの貨物車が目立つといった傾向もあるようです。盗まれた車のうち8割が施錠をしている間に被害に遭ったほか、販売用中古車が一晩で7台盗まれるなど組織的とみられるケースもあったといいます。同課は千葉県が狙われることに「高速道路網が発達し、車の保管や解体に使うヤードのほか荷出しに使える港もあるためでは」と推測しています
  • 宝飾品や美容用品の卸売業者「APOLLON」が名古屋国税局の税務調査を受け、ダイヤモンドルース(裸石)の仕入れを架空計上したとして、約12億円の所得隠しを指摘されています。追徴税額は重加算税を含め約4億8,000万円で、同社は課税を不服とし、名古屋国税不服審判所に審査を申し立てています。報道によれば、同社は名古屋市内の貴金属輸出入会社(解散)からルースを仕入れ、東京のコンピューター会社に卸していましたが、2018年に国税局が無予告で税務調査に着手すると、登記上の所在地を愛知県大治町から那覇市、名古屋市、岐阜市へと移したということです。税務調査を受けた会社が、意図的に会社の所在地を移転するケースがあり、原則として納税地の国税局・税務署の職員だけが質問検査権を使うことができることを悪用した調査逃れで、対策が課題となっていましたが、国税通則法の改正で、今年7月からは、会社が移転しても元の所在地を管轄する国税局・税務署の職員が法人税や消費税などの調査ができるようになりました。
  • 136カ国・地域が法人税の最低税率を15%とする国際課税の枠組みで合意するなど、課税逃れに対する包囲網が世界で徐々に狭まっています。その結果、税制上の優遇措置で外国企業などを呼び込んできたタックスヘイブン(租税回避地)と呼ばれる国・地域の多くは存続の岐路に立たされている状況にあります。租税回避地の代表例の一つ、英領バミューダでは、活路を見いだそうと、政府がここ数年で力を入れるのが暗号資産関連企業の誘致だといいます。2018年にビットコインなどデジタル資産に関する規制を整備、法定通貨に連動し価値が安定した暗号資産での納税も可能にするなどしており、暗号資産交換所バイナンスや発行会社サークルなど代表的な企業が最新のサービスを試す場となっているといいます。一方、世界で最も信託関連の法律の自由度の高い20地域のうち、17は米国内という問題もクローズアップされつつあり、連邦政府の法規制の必要性を訴える声も高まりを見せ始めています。タックスヘイブンからは「まず自分たちの家をきれいにすべきだ。他国を糾弾できる権限はない」といった声もあがるなど、多国籍企業の課税逃れに目を光らせ、国際課税ルールの歴史的な合意を主導し、富の再分配を重視するバイデン米政権は、重い課題を突きつけられているといえます。なお、前回の本コラム(暴排トピックス2021年10月号)でも取り上げたタックスヘイブンの実態を暴くパンドラ文書の影響としては、南米チリの野党が、ピニェラ大統領の弾劾を求める告発状を提出するというものがありました。ピニェラ氏が1期目の大統領を務めていた2010年、親族の鉱山会社を特別な条件で友人に売却したとの疑惑を「パンドラ文書」で報じてられており、チリの検察は、ピニェラ氏には贈収賄や税法違反の疑いがあるとして、捜査を始めると発表しています。報道によれば、売買条件には鉱山を環境保護区の対象にしないことが盛り込まれており、契約はタックスヘイブンの英領バージン諸島を舞台に行われていたということです。また、南米エクアドル議会は、公職者やその候補者がタックスヘイブンに資金を保有することを禁じた法にラソ大統領が違反していた疑いが持ち上がったとして、特別委員会で調査すると発表しています。ラソ氏は元銀行頭取で、実業家の出身で、「パンドラ文書」は、ラソ氏が同法成立後の2017年、パナマなどを本拠とするオフショア企業14社を閉鎖したと指摘、議会は同文書の「暴露」を受けて調査を決めています。

経済安全保障の重要性が増しています。LINEの情報管理上の問題について、ZHDが設置した外部有識者による特別委員会の最終報告では、中国企業からデータへの不適切なアクセスは確認されず、外部への情報漏洩も認められなかったとした一方で、業務委託先を決める過程で、中国が企業に諜報活動への協力を義務づけている「国家情報法」などのリスクに適切に配慮しなかったと指摘、政府や自治体に「データは日本に閉じている」などと事実に反する説明を少なくとも役職者2人がしていたことも問題視しています。その上で特別委は、グループとしてのガバナンス強化のほか、事業会社ごとにプライバシー保護や経済安全保障などの責任者を置く仕組みや、ユーザー代表も含めた有識者会議の新設も求めました。提言を受け、ZHDとLINEは改善策を公表、ZHDは今後、有識者会議を設けるとしたほか、LINEは、リスク管理部署の独立や経済安保の管理体制強化などに取り組むとしています。特別委の宍戸座長は「経済活動をグローバルに行うデジタルプラットフォーム事業者は、社会の懸念を先取りし、グローバルなガバナンスを継続的にアップデートしていくことが求められる」などと述べ、ユーザー目線での企業統治が必要だと指摘しましたが、このような視点の重要性は何もデジタルプラットフォーム事業者に限られたことではなく、有識者が「日本はデータについての安全保障という観点が出遅れていた」と指摘しているように、多くの事業者が経済安全保障の観点からビジネスのあり方、海外リスクの評価など、厳格に見直していくべき点が多いと認識する必要があります。EUでは、官民が共同して規律づくりを進める動きが強まっており、個人データを巡るルールは安全保障や金融など他の政策分野との結びつきも強まっています。プライバシー専門家の議論だけに任せず、主体的にデータ管理に取り組む姿勢が企業に求められていると厳しく認識する必要もありそうです。

また、政府は日本の大学に長期留学する外国人について、安全保障にかかわる機微技術の提供を許可制にすると公表しています。留学生の受け入れ時に安保上の懸念がないかを事前確認するように国が求めているにもかかわらず、実施していない大学が約4割あり、中国を念頭に留学生を通じて重要技術が国外に流出するのを防ぎ、経済安全保障を強化する方向性を示したものです。経済産業省が年内に外為法の運用に関する通達を改正し、2022年度に施行することになります。具体的には、日本に半年以上滞在する留学生に大学が重要技術を伝える場合、大学は経産相の許可を得る必要が生じる一方、滞在半年未満の留学生は今も許可制で、長期滞在の留学生であっても年間所得の25%以上を外国政府から得るなど「外国の影響下にある」場合が新たに対象となります。対象とする重要技術は汎用機器や部品の軍事転用を防ぐ国際枠組みに基づいて決めるとし、半導体製造装置やロボットなど幅広い技術が含まれる予定です。また、先端技術の保護は軍事転用を防ぐだけではなく、AIや量子、宇宙などの先端技術開発が進めば日本の国際競争力は高まる点にも着目していく必要があります。安全保障上の危機感の共有だけでなく同時に経済成長につながるという視点も必要だといえます。さて、2021年10月15日付日本経済新聞で、北村前国家安全保障局長がインタビューに応じており、大変重要な指摘を行っていますので、以下、抜粋して引用します。

軍事力と経済力の両方を拡大する中国への国民世論の認識と現実の脅威との間に隔たりがあることを懸念している。日本は中国のみならず、ロシア、北朝鮮という3正面と対峙する。台湾海峡の情勢からも目が離せない。・・・安全保障といえば軍事を思い浮かべる人が多いが、近年は経済の分野へと拡大しつつある。外国の諜報員が求める情報が国家の政治や軍事から民間企業が保有する先端技術に移ってきているのが最近の傾向だ。・・・先端技術の軍事転用が可能だからだ。特に中国は軍と民間企業が一体となる『軍民融合』政策を進め、民間技術の軍事転用を国家が後押ししている。・・・民間でも人工知能(AI)や量子など軍事だけでなく経済や国民生活全体に影響を及ぼす技術の発展が著しい。先端技術を巡り大国間の角逐は激しさを増している。・・・経済安全保障には守るという規制の側面もあるが、育てるという振興の側面もある。両方のバランスが重要だ。長期的には外国の政府や企業から日本の優れた技術が不正移転するのを防ぐことで国際的に自由で公正な競争が促される

サイバー攻撃を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • NTTと東京五輪・パラリンピック組織委は、今夏の大会運営に関わるネットワークシステムが大会期間中に4億5千万回のサイバー攻撃を受けたと明らかにしています。一部のスポーツ団体のウェブサイトが改ざんされる事例などはあったものの、システム全体で「実害はほぼなかった」としています。五輪・パラリンピックそれぞれについて、開会式から閉会式までの大会期間中の集計で、競技関連や大会事務、公式ウェブサイトなどに対して確認された攻撃回数を合計したものとなります。比較可能な2012年のロンドン大会と比べると2倍強の多さだということです。東京大会はコロナ禍で開催が1年延期されましたが、この間、パソコンやサーバーのデータを暗号化して復元の引き換えに身代金を要求する「ランサムウエア」攻撃が広がるなどの環境変化がありましたが、深刻な被害を防止できた関係者の努力に敬意を表したいと思います。
  • 米商務省は、サイバー攻撃に利用される懸念のあるソフトウェアなどの輸出や国内での譲渡に関する規制を強化すると発表、新たな規制は90日後に発効するとしています。取引に政府の許可を必要とすることで、中国やロシアなどによるサイバー攻撃の防止につなげたい考えです。米国では5月に石油パイプラインがサイバー攻撃を受けるなど、被害が相次いでいますが、大規模な攻撃には中国やロシアの関与が疑われており、米政権は対策強化を進めているところであり、新たな規制では攻撃だけでなく、国民の監視といった人権侵害に利用可能なソフトや技術の取引に許可が必要となるもので、ハッキング攻撃に使われるスパイウエア「ペガサス」などが対象となります(直近で、米商務省は、スパイウエア「ペガサス」を開発したイスラエルのサイバー企業「NSOグループ」に事実上の禁輸措置を発動すると発表しています。ペガサスを巡っては、専制国家が悪用して政治家やジャーナリスト、人権活動家を監視していると指摘されており、ペガサスは、スマートフォンへの感染で位置情報やメール内容の抜き取りのほか、カメラやマイクを遠隔で起動させることができるとされています。米紙WPなどは7月、マクロン仏大統領ら各国首脳がペガサスを使ったハッキングの標的になっていた可能性があると報じており、レモンド商務長官は声明で、「悪意ある活動のために技術を開発、流通させる企業に責任を負わせる」と述べています。不正アクセスに使われるソフトウェアなどを開発するロシアとシンガポールの企業も合わせて禁輸対象に指定されています)。政府は用途や最終的な利用者を確認した上で可否を判断、サイバー攻撃への耐性を試す場合などは許可するとしています。
  • 英シンクタンクの国際戦略研究所(IISS)が6月に発表した各国のサイバー能力に関する報告書は、日本を最下位のグループに位置づけました。米国や中国、ロシアなどと比べると日本は最下位どころかランク外と言えるほど大きな差がついているのが実態です。この点について、2021年11月6日付日本経済新聞の記事「重要インフラ、監視容認を 土屋大洋・慶大教授」によれば、米国は安全保障上の理由や自国企業の利益を守る目的で、平時から外国のネットワークにひそかに侵入して秘密情報を得ているとされ、「積極的な防衛体制(アクティブ・ディフェンス)」と呼ばれる手法を活用しているといます。潜在的な攻撃者を平時から監視し、兆候をつかんだ場合は攻撃防止策をとり、攻撃主体を特定し、時には政治的・経済的制裁を加え、攻撃する代償は大きいと認識させることが抑止につながるといった考え方で、米国の一部企業は政府の情報収集や偵察に協力し、犯罪集団や国家によるサイバー攻撃から利用者を守ること、通信事業者は政府の通信傍受に協力しなければならないと定める法律があります。したがって、「日本は法制度上、米国のような「積極的な防衛体制」をとりにくい。プライバシー侵害への懸念があり、平時から無制限に監視する仕組みを導入するのはハードルが高い。サイバー空間を防衛するために重要インフラなどを例外的に監視する措置を検討する必要がある。たとえば一般国民の監視ではなく、五輪などサイバー攻撃を受けやすい大規模イベントの期間中や、重要なインフラに限って保護する方法が考えられる。電力や鉄道などの基幹インフラを担う企業に絞って政府に情報提供を可能にするような仕組みも選択肢となる」と指摘していますが、現実的な「解」として納得感のあるものといえます。
  • 米国務省は、サイバー攻撃を仕掛ける犯罪集団「ダークサイド(DarkSide)」で指導的な役割を担う人物の身元や居場所などに関する情報提供に、最大1,000万ドルの報奨金を支払うと発表しています。このほか、ダークサイドによるランサムウエア攻撃に参加しようとしている個人の逮捕につながる情報提供に、最大500万ドルの報奨金を支払うとしています。
  • 新型コロナウイルスが流行したことで広く普及した在宅勤務環境を受け、会社のネットワークへの家庭用IoT機器の接続の増加が顕著となっていることが米企業による調査で分かりました。専門家は、企業を標的に猛威を振るう身代金要求型ウイルス「ランサムウエア」などサイバー攻撃につながる懸念が高まっているとして警鐘を鳴らしています。
  • 米マイクロソフトは、ロシアを拠点とするハッカー集団「ノベリウム」が数百の企業や組織を標的に、最近の米コンピューターシステムに対するサイバー攻撃を仕掛けたという認識を示しました。ノベリウムによる最近の攻撃はクラウドサービスの「再販業者やその他のテクノロジーサービスプロバイダー」が標的にされたと指摘、マイクロソフトは7月1日から10月19日にかけ、609の顧客に攻撃があったことを伝えたといいます。また、マイクロソフトは米紙NYTに対し、サイバー攻撃が成功したケースはごくわずかだったと明らかにしたものの、それ以上の詳細には踏み込まなかったようです。米政府当局者はNYTに対し、攻撃は続いているとし、「ロシアがテクノロジーのサプライチェーンにおける多様なポイントに長期的かつ体系的なアクセスを試み、監視メカニズムを構築しようとしていることを示唆している」と語っています。
  • ネットに接続されているIoT機器は推定100億台に上り、攻撃対象はあまりに広く多様化しており、企業のネットワークへのアクセスを制限するだけでは対処できない状況になっています。例えば、機械の状態をモニタリングする機器などを不正侵入の「踏み台」にならないよう監視し、規格・設計段階からセキュリティ対策を組み込んでおく必要があります。また、これまでインターネットと接続していなかったクローズド型の産業ネットワークがITインフラとつながるケースが増えており、制御装置などの資産が弱点になっています。さらには、データロギング(稼働状況などのデータ化)やデータベースのツールの改善に伴い、人工知能(AI)や機械学習を活用してIoT機器の異常な挙動を検知できるようになっています。プライベートなネットワークやファイアウオールはもはや組織のセキュリティとして十分ではないものの、ハードウエアの刷新はなお企業を守る新たな手段になるといえます。企業のソフトウエアシステムとネットに接続された機械はますます密接になっているため、ネットワークでの攻撃の侵入地点は増えており、ドラゴスが2019年に実施した研究では、製造業へのサイバー攻撃の66%がインターネットからアクセスできる産業制御システムを踏み台にしていたということです。産業用IoTのセキュリティ対策の向上が急務だといえます。関連して、2021年10月26日付日本経済新聞情における報通信研究機構(NICT)の井上大介サイバーセキュリティネクサス長のコメントとして、「IoT機器への攻撃が多いが、ウェブカメラやルーターなどの一般機器だけでなく、特殊な機器も狙われ始めている。例えば、街中で広告を出すデジタルサイネージ(電子看板)や駐車場のシステム、火災報知機や医療関連のデバイスなども感染事例がある。一般の人がコンピューターだと思っていない機器が攻撃対象になっている」、「感染先となる一般的なIoT機器を攻撃者同士が奪い合っている。攻撃者は別のマルウエア(悪意のあるプログラム)を駆除したうえで自ら感染させるなど、潰し合うこともある」、「特殊な機器を狙うことで、新たな感染対象を増やそうとしている。日本のベンダーが出す一般的なIoT機器はIDやパスワードの設定などでセキュリティを高めたタイプが増えてきたことも要因になっている」、「少し前まではランサムウエアを世界中にばらまき、攻撃に成功したら数万円を奪うという薄く広く狙う戦略が主流だった」、「最近は標的型攻撃に移ってきている。新型コロナウイルス禍もあり、医療機関を狙ったランサムウエアが増えた。20年には欧州最大の病院運営会社の独フレゼニウスがランサムウエアに感染した。この会社は過去に150万ドルを要求されたといわれている」、「この1、2年は情報を暗号化し業務を止めるだけでなく、情報を流出させると脅迫する『二重脅迫』タイプのランサムウエアも出てきた。これまで主流の対策だったバックアップを取るだけでは不十分なため、侵入されないよう注意しなければならない。攻撃の手口も巧妙化が進んでいる」などが紹介されており、新たに気付かされる内容も多く参考になります。なお、これを受けて、日本経済新聞は、「新型コロナの感染防止策として在宅勤務が広がり、企業のサイバー防御策も難しくなっている。これまでの主流だった社内システムと社外との境界に監視機器を設置し、社外からの通信を原則的に遮断する「境界型」の防御体制は取りにくくなっている。社内外を問わず、システム利用者や端末などを全く信頼しない前提で防御策を講じる「ゼロトラスト」の対策が必要だ。個人の危機意識が薄くなりがちな点も課題だ。パソコンやスマートフォンは、攻撃を受けて起動しなくなることもある。一方、ルーターやテレビなどは攻撃を受けても被害が分かりにくい。IoT機器がサイバー攻撃の「踏み台」となるリスクにさらされていることを理解する必要がある。IoT機器を再起動し、パスワードを初期設定から変更するだけでもリスクは下がる。個人も基本的な対策を講じることが求められている」と指摘していますが、結局は、正にそのとおりかと思います。

人工知能(AI)やアルゴリズムを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • EUが公表した人工知能(AI)規制案に対し、米テック企業などが修正を求めており、意見は300件超にのぼり、2021年11月1日付日本経済新聞によれば、規定があいまいで責任の範囲が際限なく広がるとの警戒が強いとのことで、EU側は人権侵害などを防ぐうえでテック企業に一定の義務を課す狙いがあることから、両者の駆け引きが激化しそうだと指摘しています。議論の行方はAIの進化にも影響を与える可能性があります。そもそもEUが規制の導入をめざす背景にはAIが見せ始めた「負の側面」があり、顔認証の技術は以前から男性より女性、白人より黒人で精度が低くなる傾向が指摘され、2020年に米ミシガン州では黒人男性が誤認逮捕される問題が起きたこと、中国は少数民族ウイグル族の監視などに顔認証の技術を使っているとされることなどが知られています。自由や平等の価値を重視するEUは、差別の助長や国家による国民の監視につながるAI利用は許さない構えです。また、「誰が責任を負うか」も重要な論点となります。AIの開発や利用は複数の企業がかかわるケースが多く、責任の所在を特定するのは容易ではないといえます。さらに、AI自体も倫理的に受け入れられる形で進化する必要があり、専門家は「EUをはじめとする世界の規制強化の流れは変えられない。5~10年後を見ても(流れが)強まることはあっても弱まることはない」と指摘しています。
  • 米国の人工知能(AI)産業は、サンフランシスコのベイエリアにかなり集中していますが、この状況が長期的には弱点になりかねないとの警告があります。2021年10月30日付産経新聞によれば、サンフランシスコのベイエリアはAIの研究と投資活動において米国内のあらゆる地域をリードしており、AI学会の論文、AIの特許、AI関連企業に関して全米のほぼ4分の1を占めるほか、AI関連の活動について、ベイエリア大都市圏と米国内でAI開発がトップレベルの大都市とを比べると、ベイエリアはほかの大都市の4倍のレベルに達しているといった状況において、「すべてのAI関連活動に関してベイエリア大都市圏の占める割合が高いと、アルゴリズム経済において過度の集中が生じ、多様性が失われ、集団思考に陥るかもしれません」との指摘がなされています。さらに、経済学者や倫理学者の一部は、AIが格差の加速ももたらし、すでに財力も権力もある人々にさらに財力や権力が集中するのではないかと懸念しているともいいます。
  • 米FB(メタ)傘下の写真共有アプリ「インスタグラム」を巡り、私たちがインターネットで見る情報はどのような優先順位で表示されているのかといった仕組みを調査していたベルリンの非営利団体のプロジェクトが中止に追い込まれています。2021年10月31日付毎日新聞では、「ネットには、フェイクニュースや差別的な発言、扇動的なゴシップがあふれている。収集した個人データを基に関心に合わせてネット広告を配信するターゲティング広告は、消費者が「弱み」に付け込まれたり、政治的な世論操作に利用されたりする恐れが指摘される。こうした問題を解決するために、検索サイトやSNSなどのアルゴリズムを第三者が検証すべきだとの声は強い。サイトでどんな情報が優先的に表示され、どんな投稿が促されるのか。その仕組みが不透明なままでは、オンラインの言論や取引に公正さを確保するのは難しいからだ」、「WSJは9月、FBがコメント投稿数などの「エンゲージメント(関与)」減少を食い止めるために18年に実施したアルゴリズム変更を巡り、同社が内部調査した内容を暴露した。調査は新たなアルゴリズムが憎悪や怒りの声を助長し、「政治やニュースといった公共コンテンツの重要な部分に不健全な副作用」をもたらしたと分析していた。また、米モジラ財団は7月、グーグル傘下の動画投稿サイト「ユーチューブ」で、偽情報など利用者が不適切だと判断した動画のうち71%がアルゴリズムによって推薦されたものだとする調査結果を公表している」と報じられています。関連して、米議会上院は公聴会で、動画投稿アプリ「TikTok」などSNS各社の幹部を招き、議員らは若者に与える悪影響を懸念し、対策を講じるべきだと主張しています。米FB元社員の内部告発を受け、SNSへの逆風が強まっており、民主党のブルメンタール上院議員は各社に対し「特に子供の利用者を増やし、より長くアプリにとどまらせている」と非難、議員らは各社に、アプリが健康に及ぼす影響や安全性を調査して結果を共有するよう要請、プライバシー保護のための立法措置への支持も求めています。それに対し企業側は「規制は必要だが、技術の進歩の速さを考慮すると、規制だけでは対応しきれない」(スナップチャット)と規制強化に消極的な姿勢を示したほか、FBと距離を置こうとする発言も目立ったようです。また、FBの社内体制や企業文化への攻撃も増えており、AP通信などは、FBが暴力的な投稿の拡散を防ぐために2020年の米大統領選を前に導入した取り組みを選挙後すぐに取りやめ、2021年1月のトランプ前米大統領の支持者らによる米議会占拠につながったとして、FBの判断の誤りを批判したほか、ロイター通信などは、アフガニスタンやイエメンなど発展途上国で現地言語への対応が遅れ、ヘイトスピーチや暴力的投稿を防げていないと伝え、投資や雇用を怠り、サービスの世界的な拡大に追い付いていないと指摘しています。また、FBの月間利用者のうち米国以外が9割以上を占め、国別では3億人超が使うインドが最多となっている一方、NYTによると、同社の誤情報対策の予算のうち87%が米国向けで、多くの公用語があるインドなどにおける対策が手薄と指摘しています。さらにWSJなどはインドの与党と関係が深い政治団体がイスラム教徒を侮辱する内容の投稿を繰り返しているものの、サービスを利用できる状態が続いていることも報じたほか、FBの利用規約はヘイトスピーチなどを禁じているが、「政治的に敏感」であることを理由に静観していると指摘しています。なお、内部告発した元社員ボーゲン氏は、FBが攻撃的表現を制限するなどの安全対策を怠り「ヘイト(憎悪)を助長している」と非難したほか、米議会占拠事件のような暴力的行為がさらに起きるかどうかについて問われると、「疑いの余地が無い」と述べています。さらに、FBに表示される順番を決めるアルゴリズムについて、「分断を招く過激な内容を優先しており、危険だ」と指摘、安全よりも利益を優先する社風があるとし、マーク・ザッカーバーグCEOについては「30億人を一方的に支配している。システムを十分安全に運営する意思がない」と糾弾しています。同氏がトップのままでは「会社が変わる可能性は低いと思う」と発言、辞任すべきかとの質問に「他の誰かが指揮を執る機会かもしれない。安全性に注力する人ならFBはさらに強くなる」とも述べています。また、同社は先月末、社名を「メタ」に変更すると発表、共有された仮想環境を意味する「メタバース」の構築に焦点を当てるためにブランド名を変更しましたが、社名変更はこのところのネガティブなニュースから逃れるためとの見方もあり、ホーゲン氏は社名変更についても、未着手のセキュリティ問題を考えると意味がないと一刀両断しています。
(6)誹謗中傷対策を巡る動向

国内最大級のポータルサイト「ヤフージャパン」は、衆院選に合わせ、同社のニュース配信サービス「ヤフーニュース」で、読者が自由に感想などを書き込めるコメント欄(ヤフコメ)について、一定数の誹謗中傷や差別に当たる投稿があれば、コメント欄を人工知能(AI)が自動で非表示にする新機能を導入したと発表しています。この取組みについて、2021年10月19日付毎日新聞において、複数の専門家が、「ヤフコメは誹謗中傷、差別や偏見の温床になっており、(今回の新機能導入は)一定の抑止力にはなると思う。不適切なコメントを表示しないというのは大事なことだ。一方で、そもそも(ヤフーニュースに載せる記事の)配信元である週刊誌などの中には、報道自体が芸能人などへの中傷だったり、プライバシー権を侵害するものであったりすることもある。配信会社のヤフージャパンは、ヤフコメのみならず、こうした記事を配信する責任とも向き合わなければ誹謗中傷はなくならないのではないか」、「ただコメントを非表示にするだけでは、どのような誹謗中傷があふれているのか確認することもできず、被害者側も対策が取れなくなると思う」、「コメント欄を非表示にする詳細な判断基準が明らかになっておらず、ブラックボックス化したら、表現の萎縮を招く可能性が高く、慎重な対応が求められる。過度な表現規制に陥らないために、判断基準を公開して透明性を高めることなどが必要だ。この新しい試みが法律によらない、事業者側の自主自律のモデルへ成長することを期待したいが、最初の一歩の踏み出し方を間違えないでほしい」などとコメントしており、参考になります。また、この取組み開始以降、「不適切な投稿」が集中したことを理由として、閲覧者がインターネットのニュースについて意見を書き込める「コメント欄」が非表示となる事例が相次いでいます。その中には、「違反コメント数などが基準を超えた」として共同通信配信の記事「韓国漁船転覆、9人不明島根・隠岐の北方200キロ」のほか、婚姻届を提出し、皇室を離れた小室眞子さんと夫の圭さんが10月26日に開いた結婚記者会見を伝えるニュースでもありました。報道によれば、ヤフージャパン広報室の担当者は「記事の媒体や内容とは関係なく、コメントの投稿内容が基準を超えた場合、自動的にコメント欄を非表示にしている。ご結婚のコメントだけを非表示にしているわけではないので誤解のないようにしたい」と説明しています。宮内庁は眞子さんが「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と診断されたことを公表していますが、26日の会見では、圭さんが「誹謗中傷が続いたことにより、眞子さんが心身に不調を来したことを、とても悲しく思います」と述べていました。多くの専門家らも述べていますが、事業者は社会的責任として、利便性だけでなく、安心して利用できる環境づくりにも配慮する必要があり、どのような投稿を表示し、削除するかは、運営側にも表現の自由に基づいた裁量があるとはいえ、ヤフーなどの社会インフラとなっている大規模プラットフォームは、その責任を担うため、利便性と安全性のバランスをとっていかなければならないと考えます。さらに、コメント欄については、「マスメディアとしての側面も持ち始めている」とある専門家が指摘していることは、正鵠を射るものであり、マスメディアとしての矜持を持って取り組んでいただきたいと思います

なお、プラットフォーマーの社会的責任という点では、傘下のLINEの個人情報管理問題において、事実に反する説明を行ったことなどに端を発して、経済安全保障の観点からも、今後、強く求められる部分といえます。ZHDが設けた外部有識者による特別委員会は、「LINEのセキュリティ部門の担当者はセキュリティ上のリスクがあると認識し、経営陣に報告していた。ただ、経営陣は(民間企業が持つ個人データの開示を外国政府が求める)ガバメントアクセスのリスクへの必要な対応をとることができなかった」、「業務委託の理由は優秀なエンジニアの確保だったと考えている。海外に事業を拡大する企業として、韓国を含めて広くサービスを開発しようとしていた」、「経済安全保障への提言は、第三者委員会から企業への提言としてはおそらく初めてで、最も厳しい水準だ。LINEやZHDは日本社会のインフラを提供し、日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)の基幹的なプラットフォームを担う。重い責任を背負い、通信の秘密を取り扱うことを含めて、非常に高い水準のガバナンスの仕組みを提言した」、「単に法令を守るだけでなく、国際情勢やルールの変化に対応して、ガバナンス体制を整え、データを預ける利用者に説明する必要がある。LINE社内での事業や研究開発部門の『第1線』、プライバシー保護や経済安全保障をモニタリングする『第2線』、内部監査の『第3線』の横のガバナンスに加えて、ZHDのグループ全体の縦のガバナンスとの連携が重要だ」とする指摘は、今後のビジネスと経済安全保障の関係、プライバシー保護、プラットフォーマーの社会的責任のあり方を考えるうえで、大変示唆に富むものといえると思います。

また、「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」との診断が明らかになった眞子さまについては、誹謗中傷と感じられる出来事が続いたことが原因とされています。複雑性PTSDはICD(世界保健機関による国際疾病分類)の第11版で、2018年に新しく導入された診断名で、子どもの虐待や長期間にわたるDVなど「長期間繰り返し大きな心的外傷(トラウマ)体験にさらされ続けた時に起きる複合的な症状」だといいます。具体的には、つらい記憶が鮮明によみがえる「フラッシュバック」といった従来のPTSDの症状に加え、複雑性PTSDの患者には、感情のコントロールが困難、自己無価値感、恥辱感、他者とうまく付き合えないといった特徴があるものの、その症状は人によって異なるのが現実で、専門家は日常生活に大きな支障が出ることが多く、治療には特殊な心理治療が必要な最重度のPTSDであり、完治までには数年以上かかるのが普通だと指摘しています。そのような症状になるまで追い込んだ日本の社会の抱える闇は深いのだと痛感させられますが、自身もネット上で「殺人に関与した」などのデマや中傷に悩み苦しみ、啓発活動に取り組んできたお笑い芸人、スマイリーキクチさんのコメントが考えさせられますので、以下抜粋して引用します(2021年10月22日付毎日新聞)。

国も民間も誹謗中傷について議論を深め、ネット上の人権に対しての意識が少しずつ高まっていると思っていました。でも、そうではなかった。誰もが加害者になり得るという意識が、まだまだ広がっていないように感じます。誹謗中傷に目を通すと、刑法で言えば名誉毀損どころか脅迫にもあたるのではないか、という文言も目につきます。でも、そういう言葉を発する人も、「いいね」などをつけて承認する人も、全く犯罪の意識はないんでしょうね。匿名の誹謗中傷に対しては、プロバイダー責任制限法に基づいて発信者情報を開示請求するといった対抗手段があります。しかし、眞子さまや小室さんがそれをしてこないことをいいことに、たたくことをやめていない。刃向かわない人に対して凶暴になって、集団リンチ状態です。「ネットいじめをなくそう」とか子どもたちに呼び掛けている大人たちがこういう状態で、何を言えるのでしょうか。・・・「悪い人だから、たたくことは正義」とでも思っているのではないでしょうか。でも、ここで言う「良い」「悪い」「正義」「正論」って、自己判断。ネットというツールは、そこに同調者を集めてしまう怖さがあると思います。・・・中傷を繰り返す人は、人をたたくことに快楽を覚える、ある種の「依存状態」だと僕は思っています。よく「ネット中傷するなんて暇な人だな」と言う人がいますが、僕は自分の事件の加害者を見てきた経験から、暇だからではなく「やめられない」状態なんだと思います。そして、孤独。書き込もうとしている誹謗中傷について、もし周囲に話せる人がいたら書き込みを踏みとどまるだろうし、匿名で書き込まないのではないでしょうか。話せる人がいないから、ネット上での承認を求める。コロナ禍で対面でのやり取りが減り、そうした側面を加速させているように思えます。

デマや誹謗中傷が人の命を奪う非常に残酷な手段であり許されることではありません。例えば、北海道旭川市でいじめを受けた疑いがある中学2年の女子生徒が凍死した問題では、いじめと無関係の人たちがSNSで「人殺し」などと加害者扱いされるケースが相次いだことも極めて憂慮すべき問題だといえます。実際に顔写真や実名をさらされた例もあり、インターネットで広がった膨大なデマの削除は困難を極める現実など、「デマは人の人生を変える。拡散する側も正しい情報か確かめてほしい」との被害者の訴えも切実です。今年4月には改正プロバイダー責任制限法が成立し、匿名の投稿者を迅速に特定できるよう新たな裁判手続きが創設されましたが、さらに誹謗中傷やデマを減らす方法として、専門家がプロバイダー(接続業者)に少なくとも1年以上の記録保管を義務付ける法整備をすれば証拠が残りやすくなるとしたうえで、デマを投稿すれば責任を問われるという認識が広まり、抑止につながることが重要と指摘していますが、正にそのとおりかと思います。そういった意味では、本コラムでも取り上げてきた侮辱罪の厳格化の流れもまた重要だといえます。直近では、侮辱罪の厳罰化を盛り込んだ刑法改正案の要綱が、古川法相に答申されました。要綱に基づき刑法が改正されれば、社会問題化するインターネット上の誹謗中傷抑止に一定の効果が期待されるところです。あらためて、侮辱罪の厳格化の必要性については、2021年10月21日付産経新聞「侮辱罪厳罰化でネット中傷抑止期待名誉毀損との適用の違いは…」において、分かりやすくまとめられていますので、以下、抜粋して引用します。

「死ねやくそが」「きもい」。警視庁は今年4月、こうした投稿をプロレスラーだった木村花さん=当時(22)=の会員制交流サイト(SNS)に書き込んだとして、30代の男性を侮辱容疑で書類送検した。その後、男性は略式起訴され科料9千円を納付したが、花さんはすでに自殺しており、「刑が軽すぎる」との意見が相次いだ。花さんをめぐる事件で警視庁は当初、「名誉毀損罪」の適用も検討したという。侮辱罪の現行の法定刑は、「拘留(30日未満)か科料(1万円未満)」。名誉毀損罪は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」で、侮辱罪よりも格段に重い法定刑が定められているからだ。ただ、結果的には侮辱容疑での立件となった。「死ね」「きもい」など、発信者の主観による抽象的な文言には、名誉毀損罪は適用されないからだ。ネット上の中傷問題に詳しい藤吉弁護士は「名誉毀損罪が適用される中傷は、客観的に事実かどうか判断可能な、具体的な内容に限られる」と解説する。…ネット上の誹謗中傷は微妙なケースも多く、確実な立件のため侮辱罪を適用する傾向も一部で見受けられるという。藤吉弁護士は、刑法が改正されれば侮辱罪の公訴時効が名誉毀損罪と同じ3年に延びることを念頭に、「個人の主観による誹謗中傷でも、花さんのように追い詰められるケースはある。ネット上の誹謗中傷は発信者の特定に時間がかかることが多いことを考えても、侮辱罪の厳罰化は必要だ」と話した。

本記事でも取り上げられている木村花さんの母、響子さんも、2021年10月29日付産経新聞において、「今もどこかでSNSの誹謗中傷に苦しんでいる人がいると考えると、心が痛む。発信者の思いとは違う形で受け止められたり、言葉をゆがめられたりする。悪質な投稿者を特定するのに、現状では情報開示や裁判といった煩雑な手続きを経なければならず、時間も費用もかかり、救済までのハードルが高い。人権侵害に当たるような書き込みについては、プロバイダーに投稿の削除を義務付ける法整備が必要と考えており、政治の力で進めてもらいたい。また、被害者救済のための窓口を増やすことも欠かせない。一人でも多くの人が理不尽な状況から救われる世の中になってほしいと切に願う。・・・被害者が一刻も早く救済されるよう検討を深めるとともに、再犯防止に向けた加害者へのカウンセリングといったアプローチも検討してほしい。状況の改善に向けた速やかな動きを期待している」とコメントしています。

次に誹謗中傷や名誉毀損等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 公立病院の汚職事件で2017年に逮捕、起訴された愛知県内の男性医師(67)が、記事で名誉を傷付けられたとして、毎日新聞社に計330万円の損害賠償を求めた訴訟があり、名古屋地裁は、名誉毀損を認めて同社に110万円の支払いを命じる判決を言い渡しています。報道によれば、男性は、身内に賄賂を供与させたとして、第三者供賄罪で起訴されたことについて、毎日新聞社が翌日の朝刊社会面(中部本社版)で、男性が治験委託料の一部を私的流用し、会議費名目でキャバクラを頻繁に利用していたとする記事を掲載したもので、裁判長は判決で、記事は「男性が公私混同する人物との印象を与え、社会からの評価を低下させる」と指摘、公益性は認めながらも、「(私的流用は)捜査関係者が明確に述べたものではなく、病院や製薬会社への取材など、裏付け調査を行っていない」などとして真実性を否定しています。
  • 精神科医の斎藤環さんにツイッターの投稿で名誉を傷つけられたとして、精神科病院を運営する法人が300万円の損害賠償などを求めた訴訟で、東京地裁は、名誉毀損の成立を認め、斎藤さんに20万円の支払いを命じる判決を言い渡しています。報道によれば、斎藤さんは昨年6月、ひきこもりの男性を自宅から連れ出した業者についてツイッターで言及し、「業者の拉致監禁事業に協力を惜しまなかったのは●●病院。他にもケツモチをしている病院を把握している」と投稿した。判決は、「成仁病院が反社会的な組織として業者に協力して不正な対価を得ていると読み取れる」と判断、斎藤さんは判決後に記者会見し、「反省しているが、批判がはばかられる雰囲気になるのは問題」とし、控訴も検討するとしています。
  • 国際日本文化研究センターの助教だった呉座氏がSNSで不適切な投稿を繰り返していた問題で、懲戒権を持つ人間文化研究機構が今年9月、停職1カ月の懲戒処分をしていたことが分かりました。報道によれば、呉座氏は自らのツイッターアカウントで女性研究者を中傷する不適切な内容を投稿していたことが明らかとなり、3月20日に「深く反省し、お詫び申し上げます」などと投稿、同24日には日文研の公式ウェブサイトで井上章一所長が謝罪コメントを出しています。同機構は、SNSで不適切な発言を繰り返したことや、勤務時間中に私的に投稿したことを処分理由に挙げています。なお、日文研のウェブサイトによると、呉座氏は10月から日文研の非常勤の機関研究員になっています。
  • 立憲民主党の石垣のりこ参院議員(宮城選挙区)が、自身が安倍晋三首相(当時)を中傷する内容をツイッターに書き込んでいたとの虚偽の投稿をされたとして、投稿者の情報開示を求めた訴訟の判決が、東京地裁であり、裁判官は「(投稿が)何者かによって加工されたものであると認定するのは困難」として、請求を棄却しています。報道によれば、昨年8月30~31日、石垣氏がツイッターに「安倍が死んでもなんとも思わん」などと書き込んだとするスクリーンショットの画像が計9件投稿され、画像は同一のアカウントから投稿され、「すぐ削除されたツイートです。反省の意はゼロですね」などとコメントが添えられていたというものです。判決理由で裁判官は、問題の投稿について「石垣氏の政治家としての社会的評価を著しく低下させるものといえる」と指摘する一方で「(石垣氏が)誤って投稿した可能性も否定できない」とし、デマ投稿だと認定するのは困難と結論づけています。
  • 野党や左派を攻撃することで知られ、多くのフォロワーを持ち影響力の大きいツイッターの匿名アカウントがアカウントを非公開にしました。同アカウントを巡っては、複数のツイートが名誉毀損に当たるとして、小説家の室井佑月さんが550万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴しています。このアカウントは11月1日現在で14万超のフォロワーを持ち、保守的な投稿が多く「サヨク」などの言葉を使って主に立憲民主党や共産党などの野党や野党議員を攻撃する、いわゆる「ネット右翼」アカウントの一つとされます。報道によれば、室井さんは、同アカウントが2020年5~9月に行った「室井佑月がデマを拡散して誹謗中傷した」など複数の投稿が名誉毀損に当たるとして、プロバイダー責任制限法に基づく発信者情報開示を東京地裁に申し立て、開示が認められ、開示された個人に対し550万円の損害賠償を求め、2021年6月に東京地裁に提訴、8月にあった第1回口頭弁論で、この個人側はツイートを投稿したことは認めた上で、争う意向を示しています。
  • ジェンダー平等を目指すなど、さまざまな分野で活動する女性を対象にしたSNS上の誹謗中傷に対抗しようと、被害当事者のコラムニストや市民活動家らが、東京都内で記者会見を開き、「Online Safety For Sisters」を発足させると発表しています。女性が安全に発言したり活動したりできるインターネット環境づくりを目指す取り組みで、誹謗中傷による自殺をなくすことや、オンライン上のヘイトスピーチ解消などを呼び掛けていくということです。被害の実態に加え、3人とも共通して語ったのは、被害を受けている時に「(SNSを)見ない方がいい」と周囲から言われることで受ける孤立感で、「何人もの人に『ネットの書き込みなんて見なくていい』と言われたのが苦しかった。例えば学校でいじめられている側に改善や責任を求めるのではなく、いじめられた側に『学校を休んだら』と提案するのと同じ。なんの解決にもなりません」、「こういう嫌な思いをしたことに耐えられる人、気にしない人だけが声をあげ続けられる社会はおかしいと思う。自由に安心して発言できるようにしていきたい」と述べている点は考えさせられるものです。
  • インターネット選挙解禁から8年が経過しましたが、選挙のたびに飛び交う真偽不明の怪文書は、ネットの世界にも波及、ツイッターなどSNSが選挙戦に不可欠なツールとなる中、特定の候補者を狙ったようなデマや中傷が氾濫し、有権者を惑わせているとの指摘があります(2021年10月25日付時事通信)。「候補者を落選させる目的で虚偽内容を公表するなどの行為は公選法で禁じられているが、ネット上には投票行動に影響を与えかねない真偽不明の書き込みがあふれる。SNS運営会社は2020年の米大統領選以来、監視を強めており、「Yahoo!ニュース」も政治関連の記事にコメントを投稿するユーザーに対し、法令違反に注意を呼び掛ける文面を表示する対策を取った。・・・専門家は「選挙前に怪文書が出回るように、選挙目的の風評操作はネットにも広がりつつある」と危惧する。「ウェブ上の情報は真実とうその二つだけではなく、(虚実入り交じった)グラデーションになっている」と指摘。「有権者は、発信者がどういう目的で投稿しているかを想像し、情報の取捨選択をすることが重要だ」と話している」との内容で、とりわけ「ウェブ上の情報は真実とうその二つだけではなく、(虚実入り交じった)グラデーションになっている」との指摘は正にそのとおりであり、だからこそ、名誉毀損の立件が困難な状況があり、さらには、多くの投稿者自身が、伝聞やネット上の噂に過ぎないものを自らの解釈で発信することで真実や事実がさらに分かりにくくなってしまうこと、それらがネット上で混じりあってしまうことでさらに混迷度が深まるといったことが実際に起きているのだと痛感させられます。
  • 災害時の氏名公表について議論が進みつつあります。現在、被災者の氏名を公表するかどうかは、自治体がそれぞれ個別に制定している個人情報保護条例に基づいて判断しており、対応に食い違いが生じていることから、全国知事会は国に統一的な基準(指針)策定を要望している状況にあります。直近の熱海の土石流災害では、当初から被害の全容が把握できないと懸念されていたところ、生存確率が大きく下がる発生後72時間も念頭にあり、静岡県は72時間を前に公表がなされました。原則公表の流れはあるものの、氏名が公表されると、SNSで誹謗中傷の対象になると考える風潮が社会に広がっており、どんな目に遭うかわからないから公表しなくてもいいという考えや、公表されたくないという恐れが、社会への信頼を劣化させている状況にある、誹謗中傷の問題が災害時の氏名公表の是非に大きな影響を及ぼしているといえます。

文部科学省が公表した2020年度の問題行動・不登校調査では、パソコンやスマートフォンを通した誹謗中傷といった「ネットいじめ」の認知件数が18,870件と過去最多を更新しました。東京都町田市立小学校6年生の女子児童が昨年11月に自殺した問題をめぐっては、文部科学省が進める「GIGAスクール構想」で児童に1人1台配備されたタブレット端末のチャット機能を悪用したいじめが行われた可能性が指摘されていて、対策が急務となっています。「ネットいじめ」の認知件数は2015年度が9,187件とこの5年で倍増したほか、「ネットいじめ」は年齢が進むにつれ割合が増加する傾向にあり、2020年度でみると、小学校ではいじめ全体に占める割合の1.8%であるところ、中学校では10.7%、高校では19.8%となっています。今回の調査から、「ネットいじめ」に関する啓発活動を実施したと回答したのは小中高校全体の約8割とのことですが、急激な増加傾向を考えれば、効果が出ているとは言い難いのではないでしょうか。また匿名性が高いなどのネットの特性を踏まえると、認知件数と実数の乖離も想定されるところです。なお、全体的な傾向としては、いじめ認知件数が517,163件と、過去最多となった2019年度に比べて95,333件減少しています。コロナ禍の影響で休校期間があったことや、生活スタイルの変化で児童・生徒間の物理的な距離が広がり、直接的なやりとりが減少したことが影響していると考えられます。一方、小中学校の不登校児童生徒数は196,127人と2019年度から14,855人増え、過去最多を更新しています。同省ではコロナ禍を背景にした社会不安などが児童生徒の心理に影響し、数字を押し上げたとの見方をしています。また、新型コロナへの感染を避けるため長期欠席した小中高校生が2020年度は全国で約30,000人いたことも今回の調査で判明しました。

次にフェイクニュースや誤情報を巡る動向も注意が必要です。2021年10月17日付毎日新聞で芥川賞の李琴峰さんは、「フェイクニュースに対しては危機感があります。日本に限らずいろいろな国で問題になっています。生活している一個人としては、マスコミが流しているニュースであっても完全に正しいかどうかは分からないところがあります。結局、何が本当で何がうそなのか、個人では判断が難しい。さまざまな情報を取捨選択するわけですが、どうしても偏りは出てきます。偏っているかもしれないという認識を常に持っていないと危ういのかな、とは思います。台湾ではフェイクニュースを検証する民間組織があり、政府機関もLINEなどのSNSを活用してフェイクニュースに迅速に対応しています。フェイクニュースを流すことへの罰則もあります。台湾は中国と緊張関係にあるため、「工作」としてフェイクニュースが流れる場合もあり、国としても対策が必要ということです。・・・目に入った情報をすぐに信じるのではなく、自分なりに咀嚼することが大事だと思います。・・・覚悟しなければならないのは、共生は痛みを伴うということです。時間、お金、コミュニケーションといったコストがかかります。そうした負担を受け入れたくないのなら共生など成り立ちません。同じことは外国人に対してだけでなく、さまざまなマイノリティーに対して言えると思います」とコメントしています。中国による「工作」としてのフェイクニュースとの戦いを日々行っている台湾については、直近でも、台湾の蔡英文総統が、初めて訪台しているEU欧州議会議員ら一行と総統府で会談し、中国からの圧力を念頭に「フェイクニュースに対抗する民主連盟を創設したい」と述べ、欧州と協力して対策強化に当たる考えを表明しています。報道によれば、訪問団側も「中国の脅威」に言及した上で「で行くニュース対策で台湾の経験に学ぶ」と応じたといいます。また、「共生は痛みを伴うものであり、覚悟が必要」との指摘もまた示唆に富むものです。誹謗中傷やデマ、フェイクニュースなどが「分断」と絡めて社会的課題となるなど、今、社会では「不寛容」が蔓延しています。多様な他者を受け容れる「共生」には「寛容」さが求められる一方、「不寛容」が蔓延している中では、その「痛み」や「覚悟」はますます大きなものとなっていくと考えられます。だからこそ、もう「痛み」や「覚悟」に向き合えないところまで社会の分断が深まる前に、一刻も早く誹謗中傷対策、フェイクニュース対策に本腰を入れる必要があるといえます。

また、2021年10月17日付毎日新聞で、ノーベル平和賞を受賞しフィリピンの独立系ネットメディア「ラップラー」の共同創設者であるレッサ氏は、SNSを通じてフェイクニュースがあふれ、「事実よりウソが速く広がる」現状に対し、「民主主義の危機だ」と指摘、そのうえで、利用者の見たい情報を優先的に表示するSNSのニュース配信のアルゴリズム(計算手法)を変革し、「事実が常に勝利するジャーナリズムを守りたい」と訴えています。以下、レッサ氏の示唆に富むコメントを、抜粋して引用します。

SNSを通じたニュース配信のアルゴリズムは、読まれる記事、利用者個人が好む記事を優先的に提供している。ジャーナリズムは商品化され、事実よりも「売れる記事」が重宝されるようになった。既存メディアも、ページビューの稼げる記事が優先されるようになった。逆に「使命」のために書かれる記事はそこまで読まれない。この仕組みの中では、うそが事実よりも速く広がる。これは学術的な調査でも判明しているが、フェイクニュースは、それを読んだ際の怒りやヘイトを基に拡散されている。ジャーナリストは一生をかけて、いい記事を書くことを学んでいくが、現状の仕組みで拡散される「うそ」にかなわない。・・・今は事実が議論(の対象)になるような時代だ。自分の主張に合う記事だけを読めば、相反する主張に耳を傾けなくなる。例えばフィリピンでも2016年の大統領選で、ドゥテルテ氏を支持する人としない人は全く違うニュースを読んでいる。人々は両極端に分断される。権力者は、この状況を利用する。自分の主張に合う一方だけ利用し、そのほかを排除するようになる。ポピュリズム政治につながる。自身の主張に合わない報道は「フェイクニュース」だと訴えて、ジャーナリストの信頼性を失わせようとする。フィリピンをはじめ(世界各地で)、真のジャーナリストであることが犯罪になるような状況が生まれている。事実がなければ信頼は生まれない。事実が常に勝利するジャーナリズムを守らなければならない。・・・今のような、個人の傾向を調べあげた上で提供されるニュースのあり方は、変えなければいけない。事実に反し、事実を無視するようなシステムは変えなければいけない。ジャーナリストなのだから、テクノロジーを徹底的に調査して、新しいジャーナリズムを後世に残していく必要がある。私がジャーナリズムの好きなところは、知性、感情、体力、精神力、倫理、勇気など、あらゆることが試されること。私がジャーナリストとして危険にさらされる試練の中で気づいたのは、ジャーナリズムの基本である「使命」「倫理」「勇気」の大切さだ。状況に応じた倫理などない。ジャーナリズムを志すのであれば、自分はどこに立っているのか、明確にする必要がある。

また、2021年10月14日付日本経済新聞「フェイクニュースどう抑える カネの流れが急所」において紹介された切り口、視点の斬新さが大変参考になります。以下、抜粋して引用します。

ネット上に流布する偽情報や誤情報、いわゆる「フェイクニュース」の個人や社会への損害や悪影響を抑える方法として、情報発信そのものの制限よりも、情報拡散に伴うカネの流れに着目しようという考え方が広がり始めた。発信者の広告収入を断てれば、言論の自由を守りながらデマ防止に一定の効果を上げられるかもしれない。「フェイスブックの意思決定は(シェア数やコメント数などの)経営指標数値に基づいて下される。その結果、会社の収益と市民の安全のどちらを優先するか問われる局面で、会社は常に収益を優先してきた」。10月5日に米上院が開いた公聴会で、証人に呼ばれたフェイスブック(FB)元社員のフランシス・ホーゲン氏は在職中に観察した同社の行動パターンを総括した。・・・・SNSでの情報の拡散のしかたに関する米マサチューセッツ工科大などの研究で、ネット上では真実に基づく書き込みよりも誤情報や偽情報に基づく書き込みの方が注目を集める力が強く、はるかに広く速く拡散することが証明されている。・・・FBのビジネスモデルのベースにあるのが、人々が閲覧したりクリックしたりすることで表示者に収入が発生するネット広告の仕組みだ。・・・構造そのものに、有害情報が広がるメカニズムが内包されていることが分かってきた。SNSでの情報の拡散のしかたに関する米マサチューセッツ工科大などの研究で、ネット上では真実に基づく書き込みよりも誤情報や偽情報に基づく書き込みの方が注目を集める力が強く、はるかに広く速く拡散することが証明されている。ツイッター上の情報拡散の動態を研究する東京大学大学院の鳥海不二夫教授は、SNS上で人々は正確さよりも面白さを重視して情報を拡散する傾向があったり、既に持っている先入観に合う情報を選択的に拡散したりする傾向があることを定量的に示した。「人間の非合理性」が誤情報の拡散を助長していると表現する。・・・議論の先には、たとえばワクチンに関する誤情報の流布で結果的に感染して死亡した人々が多数出た場合、SNSが集団訴訟により損害賠償を求められるといった世界が待ち受ける。こうした規制体系になればネット企業は多少の収益を犠牲にしてでも、表示コンテンツや検索結果、広告配信先などに強い自己規制をかけざるをえなくなる。・・・SNS内でのデマの震源や拡散者となるページやサイトはごく少数であることが分かっている。少数であれば特定して対策が可能だ。そこで金もうけのためにデマを拡散する常習者のSNSアカウントやブログページ、個人サイト、さらにそれらへのリンクを集めた「まとめ」サイトや情報キュレーションサイトを特定し、広告配信を防いだらどうかというアイデアだ。・・・言論の自由を守りつつ誤情報の被害を防ぐには、「自己検閲」を強制する法規制より民間主導の自主規制が望ましい。広告配信ネットワークに着目し、経済的なインセンティブの力で誤情報を抑える仕組みは、有力な選択肢になりうる。欧州を含めた世界各地で具体案の検討が進むことを期待したい。

その他、フェイクニュースや誤情報を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • FB(現「メタ」)と、アルファベット傘下のユーチューブは、新型コロナウイルスワクチンに関する誤情報を拡散しているとの理由から、ブラジルのボルソナロ大統領の動画を削除しています。同氏は動画で、コロナワクチンとエイズ(後天性免疫不全症候群)を関連付ける発言をしており、FBとユーチューブはともに、自社のポリシーに反する内容と判断しています。報道によれば、FBの広報担当者は「当社のポリシーでは、コロナワクチンが人を死なせたり、深刻な危害を与えるとする主張は認められない」とし、ユーチューブも「ボルソナロ氏の動画は、ワクチンは感染リスクを下げず他の感染症を引き起こすと主張するなど、新型コロナ感染症を巡る医療虚偽情報に対する当社のポリシーに違反したため削除した」と説明しています。
  • 米紙WSJが28日までに、昨年の大統領選は不正に行われたと主張するトランプ前大統領の投書を掲載し「偽情報を広めている」と批判を浴びています。ツイッターなどの利用を禁止されたトランプ氏が次期大統領選への出馬もにらみ情報発信を模索する中、メディア側も対応を問われているといえます。同紙編集者宛てで、東部ペンシルベニア州での大統領選結果を巡り、不正があった可能性のある票数などとして根拠のない数字を列挙、「まだ理解できないようだが、実際に選挙は仕組まれたのだ」と書きつづったものです。他のメディアによる批判も多く、CNNテレビは、同紙ウェブサイトのアクセス数を伸ばすのも投書掲載の狙いの一つだったと分析し「言論の自由の名の下に、大統領選を巡るうそを有力紙が掲載してはならない」と訴えています。これに対し、同紙は社説で、投書の内容について「読者は自分で判断できると信じている」と反論しています。
  • 米国のトランプ前大統領が、独自のSNSサービスを創設すると報じられています。今年1月の米議会占拠事件後、ツイッターなど主要SNSから締め出されており、復権に向けて発信力を強化する構えで、トランプ氏が経営する企業が発表した声明では、新SNSの名称は「トゥルース・ソーシャル」で、米IT大手への対抗を目的に掲げています。スマホアプリの暫定版を11月に公開し、2022年1=3月にも本格運用を始める予定だといいます。声明でトランプ氏は、「もうすぐ巨大IT企業に反撃できると思うと楽しみだ」とコメント、「(イスラム主義勢力)タリバンがツイッターで大きな存在感を示す世界で、(バイデン)大統領は沈黙している。こんなことは許されない」とも述べるなど、次期大統領選の出馬にも意欲を示す中、発信内容が注目されます。なお、この点について、2021年10月22日付日本経済新聞の指摘は興味深く、以下、抜粋して引用します。
彼ら(トランプ氏の支持者)は市井に生きる普通の人たちだ。共通するのはエスタブリッシュメント(支配層)への反感。本来は米国の主流だったはずの自分たち中間層の地位がずるずると沈下し、脅かされていることへの恐怖の裏返しに聞こえた。・・・格差が広がり、経済成長や時代の変化に取り残されたと感じる人々が愛国の名の下で保守化していく。その殻の中で議論するうちにより過激さを増す「エコーチェンバー」効果が社会を揺るがす様相は、当時の中国もいまの米国も大きく変わらない。・・・共和党内でも過激さを増すトランプ氏と距離を置く空気が広がるが、トランプ氏が独自のSNSを持てば、事実を事実と認めない「聞かぬ力」が再び拡散するだろう。共和党がトランプ氏の岩盤支持層を無視できないように、民主党も自らの支持層だけを固めようとリベラルな政策に傾く。米国の分断が癒やされる道筋はまだ見えない
(7)その他のトピックス
①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

エルサルバドルでは、今年9月7日から暗号資産(仮想通貨)ビットコインを法定通貨としましたが、多くの一般市民は自分の生活にどう降りかかってくるのか、理解しあぐねているというのが現実のようです。ブケレ大統領は、10月上旬にツイッターに(人口の約46%に当たる)300万人がチボを使っている」と投稿しましたが、地元シンクタンクの調査では、87%が9月に買い物の支払いでビットコインを使わなかった、事業者の93%も取引に利用しなかったと回答したようです。そもそもデータ保護やビットコイン相場の急変動などの点に懸念があると指摘されているところであり、全人口の7割にも上るとされる銀行口座を持っていない人々が金融サービスにアクセスしやすくなる「金融包摂」の考え方を打ち出しているものの、特に高齢者が、置き去りにされる恐れがあります。とりわけ農村部は自動支払い機やインターネットアクセスが少ない上、現金文化が根付いていることも背景要因として挙げられます。さらに、世界銀行によると、エルサルバドル国民の半分はインターネットにつながっておらず、最貧困層やスマホを持たない人々、デジタルに疎い人々が、ビットコインに飛びつくのも難しいというのが現実で、国民に定着するかどうかはいまだ見通せない状況です。そのような中、直近では専用アプリの個人情報が盗まれたとの訴えが相次いでいるといいます。報道によれば、被害は700件を超え、検察当局は捜査に乗り出したようです。10月中旬までに地元の人権団体に届いた訴えは717件で、アプリを起動するため身分証明書の番号を入力した際、情報を盗まれたなどの声があるといいます。被害はさらに多いとみられ、少なくとも2,000件に上るという試算もあると報じられています。データ保護の問題が解消されない限り、さらなる普及は望めないところです。一方で、一時は価格が急落、反対デモも起きるなど、エルサルバドルの壮大な実験はまだまだ始まったばかりといえます。

最近の暗号資産を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 空売りで知られる米投資会社ヒンデンブルグ・リサーチは、「暗号資産の未公開情報提供者に100万ドル(約1億1,000万円)を支払う」として、暗号資産テザーの裏付け資産に関する情報の提供者に報奨金を出すと発表しています。本コラムでも取り上げているとおり、テザーは暗号資産の一種「ステーブルコイン」で時価総額首位に立ち、コイン1単位は1ドルの現金に裏付けられているとの触れ込みが市場の安心感につながって成長してきた一方で、テザー社が保有するとされる裏付け資産のコマーシャルペーパー(CP)について、現時点でもほとんど開示がなく信用力が問題視されているところです。米商品先物取引委員会(CFTC)がテザー社に、少なくとも2016年6月から2019年2月まで、全てのコインを裏付ける十分なドルなどの資産を保有していなかったとして、4,100万ドルの罰金支払いを命じています。そもそもヒンデンブルグ社は企業の不正や疑惑を告発しつつ、株式への空売りをしかける投資会社であり、今年3月には新興電気自動車(EV)メーカーの米ローズタウン・モーターズが公表していた受注の多くが架空と暴いて、株価暴落と経営陣の退任に追い込んだ実績もあり、テザーでも空売りをしかけるとみられています。デザー社の思惑はともかくも、当局の調査により透明性の高い取引が期待されるところです。
  • 大手暗号資産取引所のバイナンスは、今年末をもって相対取引プラットフォームの対象通貨から人民元を除外すると発表しています。前回の本コラム(暴排トピックス2021年10月号)でも取り上げたとおり、中国は9月に暗号資産の取引を禁止しています。バイナンスはもともとの本拠が中国にありましたが、中国当局が取り締まりに乗り出した2017年に中国本土から撤退していると説明しています。同じく中国発祥のオーケーエックス(OKEx)も1、中核事業は2017年以降、国際市場に移管しており、中国本土市場へのサービス提供は停止していると説明しています。
  • 暗号資産「ビットコイン」を生み出すマイニング(採掘)をめぐり、かつて世界シェアの4分の3を占めた中国が7月以降「ゼロ」に転落し、米国がトップになったことが明らかとなりました。こちらも本コラムでたびたび取り上げてきたとおり、デジタル人民元との競合を懸念する中国政府は今年5月、ビットコインの採掘事業を禁止しましたが、当局側の規制強化により、ビットコインの運営を牛耳ってきた中国事業者の国内採掘拠点が壊滅したことが裏付けられたことになります。報道によれば、8月時点の採掘能力のシェア首位は米国の35.4%で、3カ月前の17.8%からほぼ倍増したほか、2位はカザフスタン18.1%、3位はロシア11.2%となっています。中国のシェアは2019年9月時点で75.5%を占めるなど1強状態が長期間継続し、中国事業者はビットコイン運営の「上流」である採掘を支配することで「下流」の取引事業まで強い影響力をもっていたところ、5月に中国政府による採掘禁止令が出て以降、中国事業者は電力価格が安い隣国のカザフスタンのほか米国、カナダなどへの拠点移転を進めており、コイン運営には一定の影響力を保ち続けるとみられています。ただ中国当局は9月に暗号資産の関連事業を全面禁止する方針を打ち出し、業界勢力図の激変は不可避な状況となっています。
  • マイニングに関連した話題としては、日本の最高裁第1小法廷が、運営するウェブサイトに、閲覧者のパソコンを暗号資産のマイニングに無断利用するプログラムを設置したとして、不正指令電磁的記録保管の罪に問われたウェブデザイナーの男性の上告審弁論を、12月9日に開くと決めたことが注目されます。無罪とした1審判決を破棄し、罰金10万円とした2審東京高裁判決が見直される可能性があります。不正指令電磁的記録保管罪は、コンピューターを使う際に、端末利用者の意図に反した動作をさせるコンピューターウイルスなどを取得・保管する行為を禁じているところ、公判では男性が設置した「コインハイブ」と呼ばれるプログラムが処罰の対象となるか否かが争点となっています。1審横浜地裁は、コインハイブが意図に反した動作をさせていたことは認定したものの、「不正な指令を与えるプログラムとするには疑いが残る」として無罪を言い渡したのに対し、東京高裁は、コインハイブが採掘に利用されていることは閲覧者のパソコンに表示されておらず、一定の不利益を与えるプログラムだと指摘、「一般的な利用者が(無断作動を)容認しないことは明らか」として、不正だと結論づけています。最高裁がどのような判断を示すのか注目されます。
  • 暗号資産に対する相半ばする評価が聞かれます。例えば、イングランド銀行(英中央銀行)のカンリフ副総裁は、暗号資産の崩壊は「妥当なシナリオ」であり、急成長している暗号資産分野を規制するルールが「喫緊の課題」として必要だと述べています。報道によれば、暗号資産の技術の活用に伴う金融安定性へのリスクは現時点で限定的だが、この状況が長く続かないかもしれないと考える「極めて妥当な理由」が複数見られると指摘、「本質的な価値がなく、その結果として価格が乱高下すること、暗号資産の間で影響が波及する可能性があること、サイバー面や運用面での脆弱性、群衆行動の力などを考慮すると、(暗号資産の)崩壊が妥当なシナリオであることは確実だ」と述べたといいます。また、米金融大手JPモルガン・チェースのダイモンCEOは、暗号資産は政府によって規制されるだろうとし、その代表格であるビットコインは個人的には「価値がない」と考えていると語っています。同氏は、マネー・ローンダリング防止や金融商品取引を巡る法律、税金などの面から、暗号資産は政府が規制することになるとの見通しを示しました。一方、米ニューヨーク(NY)市のエリック・アダムズ次期市長は、年明け1月の就任後、最初の3回分の給与を暗号資産ビットコインで受け取る意向をツイッターで表明しています。同氏は11月上旬に投開票されたニューヨーク市長選挙で当選、史上2人目となる黒人のNY市長となりますが、さらにNY市が「暗号資産や他の急成長を遂げいている革新的な産業の中心地になる」とし、NY市の暗号資産を創設したいと語り、暗号資産関連企業の投資誘致に向け、規制上の壁排除を検討するという考えを示しています。なお、フロリダ州マイアミ市長に再選したフランシス・スワレス氏も、ツイッターへの投稿で、給与をビットコインで受け取る計画を発表しています。
  • オーストラリア(豪)の銀行監督当局は、コモンウエルス銀行(CBA)が計画する個人投資家向け暗号資産取引サービスについて、規制面の影響を調査していると表明しています。CBAは、暗号資産への明確な規制枠組みを歓迎すると表明しています。CBAは、豪銀初の個人向け暗号資産取引プラットフォームを構築する計画を明らかにしましたが、銀行監督当局の健全性規制庁(APRA)の報道官は、国内最大手の銀行の計画が提起する規制面の問題を調査していると述べたものです。CBAは、2,000人を対象にした試験運用の後、モバイルバンキングアプリを通じて10のアセットについて暗号資産取引サービスを提供する予定としています。なお、CBAのアプリは、豪成人の約3分の1が利用しているといい、豪経済に与える影響は無視できないものになると考えられます。

次に、ステーブルコイン(法定通貨を裏付け資産とする暗号資産)や暗号資産リスクを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米金融規制当局で構成するバイデン大統領直属の作業部会は、米ドルなどの法定通貨の価値に連動するデジタル通貨「ステーブルコイン」を巡り、議会に迅速な法整備を求める報告書を公表しています。報道によれば、金融機関と同様に、ステーブルコイン発行者を当局の厳格な監督下に置き、破綻に備えた利用者保護の仕組みを整えることなどを要請、投資家や利用者の保護や決済リスクに対処する姿勢を強めています。イエレン財務長官は声明で「現状の監視体制は断片的で、利用者や(金融)システムにリスクをもたらす」、「適切な監視がなければ、利用者やより広範なシステムにリスクとなる」との見解を示しています。報告書では、テザーやUSDコインといった主要なステーブルコインの時価総額が10月時点で1,270億ドル(約14兆5,000億円)超に成長したと指摘、過去1年間で6倍近くに膨らんだとし、資産の価値が変動して利用者に想定外の損失をもたらす可能性もあり、市場の急拡大への対応が必要だと訴えています。
  • 日米など主要国・地域の金融当局で構成する金融安定理事会(FSB)のクオールズ議長(米連邦準備制度理事会(FRB)理事)は、急速に拡大する暗号資産市場と気候変動リスクは「国際金融システムが直面する大きな構造的課題だ」とし、金融の安定に向け対処する必要性があると述べています。G20首脳宛ての書簡で、暗号資産の代表格であるビットコインの価格は高騰し、先物相場に連動した上場投資信託(ETF)の取引も開始される中、「暗号資産市場が過去1年で急速な発展を遂げた」と指摘、暗号資産が他の金融システムと結び付きを強めていることを踏まえ、「暗号資産市場と金融の安定の関わりを注意深く監視していく」と明言しています。
  • バイデン米政権は、制裁措置を一段と有効な外交政策として利用するための一連の提言を発表し、暗号資産の台頭による脅威から守るために一段の取り組みが必要との認識を示しています。財務省当局者は、制裁措置は外交政策の重要な部分であり続けると指摘、アデイエモ財務副長官は声明で「米国の国家安全保障の促進に、制裁措置は基本的に重要な手段となる」とし、引き続き成果を上げているとの認識を示す一方で、新たな課題に直面しているとも指摘、パートナー国のほか、同盟国と提携して制裁措置の近代化と強化に努めると表明しています。さらに財務省は、米ドルの使用や米国の金融システムへのエクスポージャーを減らしている国に対し、制裁措置の効果が薄れる可能性があると指摘、デジタル通貨やその他の技術革新も、制裁措置の効果に対するリスクになるとの認識を示しています。
  • 2021年10月14日付日本経済新聞において国際通貨基金(IMF)のトビアス・エイドリアン金融資本市場局長は、「世界にとってはまだシステミックリスクにはなっていないが、その方向に向かっている。一部の新興市場ではビットコインに関連する資本フローがすでに非常に大きくなっており、システミックなリスクになる可能性がある」、「ステーブルコインは名前ほど安定していない。価値を裏付ける資産がややリスクの高いものもあり、規制の枠組みを強化することは適切だ。MMF(マネー・マーケット・ファンド)や銀行のように規制することも可能だろう」、「DeFiでもウォレット(電子財布)のプロバイダーなど、ある程度の仲介者がいるのが一般的だ。そこが規制の対象となるだろう」、「ビットコインを法定通貨にすべきだとは考えてない。価格変動が大きく、法定通貨にすると家計や企業、税務当局にとって非常に大きな負担となる可能性がある」、「2008年、金融セクターはリーマン以外にも脆弱性があり、危機に対処する手段を打ち出すのに時間がかかった。いま異なるのは米国がすぐにできなかったことを中国はできるという点だ。中国の銀行の資本力は十分に厚い。中国は財政的な余裕もあり、他の方法で経済を支え、不動産部門の減速を相殺することもできる」などと述べています。
  • 米ホワイトハウスは、サイバー攻撃への対策を巡る日本、欧州など約30カ国・地域との協力を柱とした共同声明を発表、共同声明ではサイバー攻撃は国境を越えた犯罪が多く国際的な連携が必要だと指摘、「我々はともにサイバー犯罪に適切な措置を講じ、他国にも同様の措置を講じるように強く求めなければならない。お互いに他の国際的なパートナーとも協力して対抗していく」と強調、攻撃に備えた各国の強靱性の強化や抑止策での能力構築を支援し合う方針を掲げています。一方、身代金の支払い手段に悪用される暗号資産に関して政府や金融機関などが連携する重要性も明記されています。

次に、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • カリブ海の島国バハマがCBDC「サンドドル」を世界で初めて発行してから1年、報道によれば、流通量は現金の1%未満にとどまり、国民の認知度も低いままだといい、バハマの例はデジタル通貨の普及には利用促進策が重要であることを示唆しています。そもそもバハマは700以上の小さな島で構成され、現金を運ぶコストが高く、銀行の店舗が減り、オンラインの金融サービスも普及していませんでした。政府はサンドドルの発行で現金の輸送コストを減らしたり、国民が金融サービスにアクセスしやすくなったりする効果を狙ったものの、広報宣伝活動が不十分で一般国民や飲食店オーナーらの認知度が高まっていない現状です。報道(2021年10月21日付日本経済新聞)において、米シンクタンクの専門家は「優れたサービスを提供するだけでは使われない。教育やマーケティングが重要だ」と指摘していますが、正にそのとおりかと思われます。一方、そのような状況について、国際通貨研究所の研究員が「サンドドルの導入でバハマが直面する課題は他国の中銀も参考にできる」と指摘している点は興味深いともいえます。どういった対策を打てばデジタル通貨の普及につながるか、既存の決済手段に比べた優位性をどう利用者にわかってもらうかなどが参考にできそうな点であり、サンドドルはCBDCの先行事例として今後も世界から注目されるといえます。
  • 中国人民銀行(中央銀行)のデジタル通貨研究所の穆長春所長は、10月時点で約1億4,000万人が中国の新たなデジタル通貨「e―CNY」を管理する「ウォレット」を開設しており、取引累計額は約620億元(97億ドル)に上ると明らかにしています。報道によれば、穆所長はまた、e―CNYの公式発行日はないとも述べています。世界の中央銀行は金融システムの現代化やビットコインなどの暗号資産への対抗、国内外の支払い迅速化のためにCBDCの開発を試みているところ、中国の取り組みは世界的に見て最も先行しています。中国は昨年以来多様な実験やパイロット計画を行っており、穆所長は、現時点で155万の事業者がe―CNYウォレットを通じた公共料金、ケータリングサービス、交通、小売り、公的サービスなどの代金受け取りが可能だと明らかにしています。
  • 日銀は2022年4月にデジタル通貨の実証実験を第2段階へ移行させる方針です。2021年春に着手した第1段階の実験を踏まえ、現金との交換や民間の決済システムとの連携などを中心に検証する予定であり、デジタル人民元の実現を急ぐ中国や欧米など海外中央銀行の動向を意識しながら、発行上の技術的な課題や論点の整理を進めることとしています。今春から始めた第1段階の実証実験では、コンピューターシステム上の実験環境をつくったうえで、電子的に発行したお金の送金や流通といった基本的な決済機能に不具合がないか検証を進めてきており、決済の処理能力なども検証、報道によれば、作業は予定通り進捗しているようです。そして、第2段階の実証実験では保有金額に上限を設けたり、金利を付けたりする具体的な検証のほか、複数の口座保有やオフライン決済といった利便性向上に向けた取り組みも想定、実験用のウォレットアプリと接続し、技術的な課題の検証も視野に入れています。なお、実証実験の期間は現時点で未定です。そのような中、日銀の内田理事は、CBDCに関する連絡協議会であいさつし、仮にCBDCを発行する場合、中銀は公共財としての則を守り、民間決済サービスとの共存を図る必要があると述べ、この「共存」には、CBDCのシステム以外にもさまざまな民間の決済ネットワークが並存する「水平的な共存」と、CBDCのシステムの中でさまざまな主体がどのように役割を分担するかという「垂直的な共存」があり、垂直的な共存のためには、中銀が提供するCBDCは「比較的プレーンな、料理しやすい素材であることが望ましい」と述べています。民間が提供するひとつのウォレットの中で、民間の決済手段に加えてCBDCも使えるようにする可能性や、CBDCを使ったうえで新たなサービスを付け加えていく可能性など、様々な選択肢があるとしています。なお、「垂直的な共存」と「水平的共存」については、(後述する)金融庁の「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第4回)における、日本銀行提供の資料でも説明されています。なお、同資料では、CBDCに対する「日本銀行の基本的な考え方」があらためて示されており、以下のとおりです。
  • 情報通信技術の急速な進歩を背景に、内外の様々な領域でデジタル化が進んでいる。技術革新のスピードの速さなどを踏まえると、今後、CBDCに対する社会のニーズが急激に高まる可能性もある。
  • 現時点でCBDCを発行する計画はないが、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要。
  • このため、内外関係者と連携しながら、実証実験と制度設計面の検討を進めていく。
  • デジタル社会にふさわしい決済システムのあり方について、幅広い関係者とともに考えていく必要。CBDCは、現金と並ぶ決済手段としての役割に加え、民間の事業者が、イノベーションを発揮して様々な決済サービスを新たに提供する基盤となり得る。
  • 現金に対する需要がある限り、日本銀行は、今後も責任をもって供給を続けていく。

すでに新興国でCBDCの発行が相次いでいるほか、DeFi(分散型金融、ディーファイ)など民間でデジタル決済の開発が急速に進んでおり、金融システムの安定確保など課題は多いものの、決済の利便性向上は国民からの要望も多く、各国で発行に向けた議論が進んでいる中、G7は、米ワシントンで開いた財務相・中央銀行総裁会議で、CBDCについて、G7や各国が導入時に留意すべき共通原則をまとめています。G7はCBDCについて「現金を補完し、決済システムとして機能しうる」と評価したうえで、プライバシーの保護やマネー・ローンダリング対策など13項目の原則が示されました。G7がCBDCに関する共通原則をまとめるのは初めてですが、G7が一致して独自のルールを打ち出すことで、CBDC開発で先行する中国をけん制する狙いがあるとみられています。具体的には、「あらゆるCBDCは通貨・金融システムの安定に無害であるように設計されるべきだ」と強調、CBDCの設計、運営にあたり「法の支配」の順守や「透明性」確保を求めたほか、利用者のプライバシー保護に厳格な基準を設ける重要性も指摘、マネー・ローンダリングや不正使用といった悪用を避けるため、安全性に配慮した設計とすること、「中銀の使命の遂行に障害にならないよう設計されるべきだ」として既存の政府、中銀の政策に配慮することを確認する一方で、「既存の決済手段と共存し、競争的な環境で運営すべきだ」と民間の電子マネーとの共存にも配慮を示しています。デジタル人民元がいち早く実用化されれば、中国の技術が世界標準になってしまう懸念があるところ、G7の共通原則には、中国に主導権を渡したくないという思いが反映されているといえます。また、「いかなるCBDCも通貨と金融の安定に関して中央銀行がマンデート(使命)を満たすための能力を支えなければならない」とも指摘されています。本件について、日銀の黒田総裁は、CBDCはグローバルな資金決済や送金を効率化する一つの方策になり得るとの認識を示したうえで、決済システムの効率化や迅速化を、ステーブルコインに頼って行おうとすると、民間発行の通貨のため十分な規制やルール作りが必要になると指摘、仮に規制やルールができたとしても、「常時、金融システムの不安定化を図らないように監視していかなければならない」と述べたほか、決済の効率化を図る一つの方策としてCBDCをいくつかの中銀が検討を進めていると述べています。また、小林経済安保担当相は、中国のデジタル人民元を念頭に、民主主義陣営のデジタル通貨のルール形成で日本は役割を果たすべきと強調しています。金融・通貨が「広い意味で安保に関わる」と指摘し、「日本が国際秩序のルール形成で主導的な役割を果たすには、デジタル通貨のあり方についてもしっかり検討を加速し、いつでも実行に移せる準備が必要」、「他の国がデジタル通貨で日本に先行したとき、そのことが安保を含め日本にどう影響するか頭の整理をしないといけない」、「日本が果たすべき役割は、基本的価値観を共有する同盟国、同志国の(デジタル通貨)連携を主導すること」とし、「米国は既存のドル体制が望ましいとの考えが強く、欧州は意思決定に間がかかる」から、「日本は民主主義陣営の連携を主導できる」との認識を示しています。

なお、このG7による「リテール中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する公共政策上の原則」の仮訳が金融庁のサイトに公表されていますので、以下のとおり抜粋して引用します。

▼金融庁 G7による「リテール中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する公共政策上の原則」の公表について
▼「リテール中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する公共政策上の原則」(仮訳)
  • マネーと決済は我々の社会や経済の基盤である。イノベーションは、新たな形態の民間・公共マネーの登場とともに、国内および国際的な金融インフラを急速に再形成している。安全で効率的な取引は、繁栄する経済を支え、通貨・金融システムの安定を確保し、金融システムに対する信頼を守るために極めて重要である。デジタル決済利用の急速な拡大は、人々や企業の取引の方法を変革しており、現在ではその影響は、より広い公共政策上の目的へのインプリケーションを伴い、広範囲に及んでいる。新型コロナウイルス感染症の大流行は、こうした傾向を更に加速している。
  • CBDCは「暗号資産」ではない。暗号資産は、中央銀行によっては発行されておらず、変動が非常に大きくなりうるほか、現在決済に広く用いられてはいない。また、CBDCは、(典型的には法定通貨等の安定した資産に対する)価格の安定維持を目指した、民間主体の負債である、ステーブルコイン等の民間発行のデジタル通貨とも根本的に異なる。CBDCは2つの要素に分けて検討できる。すなわち、決済手段として移転されたり、あるいは価値保蔵手段として保持されたりする、中央銀行が発行する手段であるCBDCそれ自体と、CBDCの残高管理や決済を可能とするインフラを含む、CBDCが運営される、より広い「エコシステム」である。このより広いインフラには、公的参加者と民間参加者(銀行、デジタルウォレット提供者やその他の決済事業者)の両方が関与しうる
  • クロスボーダー送金を含む、CBDCの国際的な使用は、重要な便益をもたらしうるが、CBDCの設計が慎重に調整されていない場合には、意図しない結果を引き起こしうる。G7は、可能な限り、そうした意図しない結果を回避することにコミットする。この点を踏まえ、G7は、BIS5、BIS決済・市場インフラ委員会(CPMI)、国際通貨基金(IMF)、世界銀行および金融安定理事会(FSB)7ならびに金融活動作業部会(FATF)により現在進められているCBDCに関連する国際的な取り組みを支持する。また、本報告書は、G20が策定したクロスボーダー送金の改善に向けたロードマップの構成要素(Building Block、BB)のうち、CBDCの国際的な側面に関するBB198(CPMIおよびBISイノベーションハブが主導)の作業を補完する。
  • 本報告書が扱う原則は、2つの類型に分かれ、順不同で挙げられている。1つ目の「基本的な課題」の類型では、通貨・金融システムの安定、法的・ガバナンスの枠組み、データプライバシー、競争、オペレーショナル・レジリエンスとサイバーセキュリティ、不正な金融、波及効果、エネルギーと環境について扱う。2つ目の「機会」の類型では、デジタル経済とイノベーション、金融包摂、公共部門との間の決済、クロスボーダー機能、国際開発に対する支援を扱う。最後のセクションでは、リテールCBDCのエコシステムを設計するうえで直面するであろう、例えば、ユーザーのプライバシー保護と不正な金融防止との間に存在する、依存関係の概念について論じる。本報告書は、こうした依存関係が示唆しうるいくつかの設計上の選択肢を紹介するほか、最善なバランスは各国当局が検討するという点を認識しつつ、こうした複雑な問題へのアプローチの仕方について考察を示す。
原則1.通貨・金融システムの安定
  • あらゆるCBDCは、公共政策上の目的の達成を支え、中央銀行によるマンデートの遂行において障害にならないほか、通貨・金融システムの安定にも無害(do no harm)であるように設計されるべきである
原則2.法的・ガバナンスの枠組み
  • 法の支配の遵守、健全な経済ガバナンス、適切な透明性という国際通貨金融システムに関するG7の価値観は、あらゆるCBDCの設計やオペレーションの指針となるべきである。
原則3.データプライバシー
  • 厳格なプライバシー基準、ユーザーデータの保護に対する説明責任、情報の保護・利用方法に関する透明性は、あらゆるCBDCが信頼と信認を得るために不可欠である。各法域における法の支配は、こうした考慮事項を確立し、支えている。
原則4.オペレーショナル・レジリエンスとサイバーセキュリティ
  • 信頼され、耐久性があり、変化に対応可能なデジタル決済を実現するため、あらゆるCBDCのエコシステムは、サイバーリスク、不正リスク、その他のオペレーショナル・リスクに対して安全かつ強靭でなくてはならない
原則5.競争
  • CBDCは、既存の決済手段と共存すべきであり、決済の選択肢と多様性を促進する、オープンかつ安全で、強靭性や透明性のある、競争的な環境で運営されるべきである。
原則6.不正な金融
  • あらゆるCBDCは、犯罪を助長する利用の軽減にコミットするとともに、より速く、より多くの人々が利用可能で、安全かつ安価な決済に対するニーズを慎重に統合する必要がある
原則7.波及効果
  • CBDCは、他国の通貨主権や金融システムの安定を含む、国際通貨・金融システムを害するリスクを回避するように設計されるべきである。
原則8.エネルギーと環境
  • あらゆるCBDCのインフラにおけるエネルギーの利用は、国際社会で共有されたネットゼロ経済への移行に向けたコミットメントを支えるために、可能な限り効率的であるべきである。
原則9.デジタル経済とイノベーション
  • CBDCは、デジタル経済において責任あるイノベーションを支え、触媒となり、既存および将来の決済ソリューションの相互運用性を確保すべきである。
原則10.金融包摂
  • 当局は、CBDCが金融包摂に貢献する役割について検討すべきである。CBDCは、現金が果たし続ける重要な役割も補完しつつ、既存の金融システムから排除されている、もしくは既存の金融システムが十分に行き届いていない層による、決済サービスへのアクセスを妨げてはならないほか、可能な限り改善すべきである。
原則11.公共部門との間の決済
  • あらゆるCBDCは、公的当局と人々の間の決済を支えるために利用される場合、通常時および危機時ともに、速く、安価で、透明性や包摂性があり、安全なかたちで用いられるべきである。
原則12.クロスボーダー機能
  • CBDCの発行を検討する法域は、中央銀行やその他の組織がCBDCの設計の国際的な側面に関する検討にオープンかつ協調的に取り組むこと等により、CBDCがクロスボーダー送金をどのように改善しうるかを検討すべきである。
原則13.国際開発
  • 国際開発援助の提供のために活用されるあらゆるCBDCは、CBDCの設計上の特性について十分な透明性を提供しつつ、発行国および受取国の主要な公共政策目的を保護するべきである。
結論
  • G7のいずれの当局もCBDCを導入することを未だ決定していないが、CBDCは、CBDCの公共政策上のインプリケーションに関する原則について検討し、明確に示すために協働したG7の中央銀行と財務省にとって、戦略的に重要なトピックである。CBDCの必要性や形態にかかる決定は、各国当局や立法者が各法域の個別の事情、目的や選好を考慮し行うものである。しかしながら、一連の共通の原則を示し、透明性、法の支配、健全な経済ガバナンス等の共通の価値観の基本的な重要性を強調することにより、これらの原則は、G7のみならず、その他の法域におけるリテールCBDCの検討の指針や情報を与えることができる。
  • 原則は、ユーザーの信認と信頼を得るためにCBDCが示さなければならない「基本的な課題」を明確に示す。これは、通貨・金融システムの安定の維持、ユーザーのプライバシー保護、オペレーショナル・レジリエンスとサイバー・レジリエンスに関する強力な基準、金融犯罪や制裁回避の防止、環境の持続可能性を含む。加えて、CBDCは、イノベーションとデジタル経済、金融包摂、クロスボーダー送金の摩擦の軽減に関するものを含む公共政策上の目的を進展させるための多数の機会をもたらす。
  • あらゆるCBDCの設計は、CBDCの公共政策上の目的間のバランスを見出す必要性等、複雑な決定を伴う。CBDCの設計に対するアプローチは各国間で異なる可能性があるなか、本報告書は、これら依存関係とトレードオフにうまく対応するのに役立ちうる、いくつかのハイレベルなアプローチを提示する。
  • これらの原則は、G7のCBDCに対する見方を初めて明確に示すが、国内で、および国際的な関係者と協調しての、継続的な研究や分析が求められる。今後のG7メンバーによる国内での検討およびその他の法域における検討は、国際機関や基準設定主体を含む国際社会により行われている重要な取り組みにより、支えられうる。意味のある進展を果たし、CBDCが潜在的に持つであろう、強靭で効率性や包摂性のある決済を提供するためのイノベーションを利用する機会等を中心とした、様々な強力な便益をもたらすために、国際協調を通じて洞察や得られた教訓を共有する機会がある

その他、CBDCを巡る直近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米アトランタ地区連銀のボスティック総裁は、米国がCBDCを発行すれば、プライバシーや政府権限を巡って多くの問題が生じる恐れがあると指摘、実現までに多くのステップを踏む必要があるとの認識を示しています。総裁は、全米黒人MBA協会主催のオンライン会議で「今後も調査を進めるとともに、市場がどのように発展するかを見極めていく」と発言、「ステーブルコインがさらに急速に普及すれば、想定より少し早めにこの分野に参入する圧力が、われわれにかかるかもしれない」と述べています。
  • 欧州中央銀行(ECB)のパネッタ専務理事は、ステーブルコインなど民間主導のデジタル通貨が支配的になれば、金融の安定性が脅かされ、中銀の役割が弱まる可能性があるため、ECBはデジタルユーロを発行すべきと述べています。講演で「インターネットや電子メールの台頭により切手が有用性を失ったように、デジタル化が進む経済において貨幣も意義を失う可能性がある」、「このようなシナリオが現実になれば、中銀通貨の頼みの綱としての有効性は弱まる」と指摘、ただ、民間主導の取り組みには固有のリスクがあり、危機時にはそのリスクが増幅されることが多いとし、ステーブルコインによってCBDCが不要になるとの見方を否定、「歴史的に見ても、金融の安定性と貨幣に対する国民の信頼を得るためには民間の貨幣と並んで広く使用される公的な貨幣が必要だ」と述べています。さらに、CBDCが機能するためには、広く利用され、CBDCが選択肢の一つであることが継続的に認識される必要があり、「そのためには、デジタルユーロが決済手段として広く使用されるような魅力的なものである一方で、価値の保存手段としての優位性が過度に高まり、民間貨幣を締め出して銀行への取り付け騒ぎが起こるリスクを高めることがないような方法で設計されなければならない」としています。
  • カナダ銀行(中央銀行)のレーン副総裁は、当面はCBDCを導入する予定はないとしつつ、現金の使用が減少すれば導入する可能性はあると述べています。CBDCについて現時点では基本的に必要性を感じておらず、導入を決定していないと指摘する一方で、新型コロナウイルスのパンデミック中に一部の企業が現金での受け取りを止めたことに言及し、現金の使用が減少すればCBDC導入の根拠になり得るとしています。また、このような状況が続くと「一部の世帯が冷遇され、経済への十分な関与を事実上損ないかねない」とし、「現金と同等のデジタル通貨が金融包摂において重要な役割を果たすかどうか真剣に検討する必要がある」と述べています。

最後に、金融庁の「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」資料から、ステーブルコイン等についての最新の議論の動向等について、抜粋して引用します。

▼金融庁 「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第4回)議事次第
▼資料1 事務局説明資料
  • 国際通貨基金(IMF)は、2021年10月の報告書において、暗号資産エコシステムがもたらす金融安定上の課題について言及。ステーブルコインについては、各国規制に差があることによる規制アービトラージ、裏付資産の不十分な開示、取り付けリスク等が指摘されている。
    1. ステーブルコインに関する規制や開示の状況
      • 全く規制されていないか、もしくは部分的に規制されている状況(例:AML/CFT目的)であり、現時点において包括的に規制されているものはない。また、部分的な規制がある場合でも、規制手段は限定的で、ステーブルコインの発行者の全リスクに対応できない可能性。
      • ステーブルコインの多くは規制されていない状況にあり、規制当局は、適用可能な規制を策定する過程にある。
      • 多くのステーブルコインでは開示が不十分である。開示を行う発行者もいるが、独立監査人による監査が行われておらず、重要な情報が欠けている等の課題が見られる
    2. ステーブルコインにおける「取り付け」リスク
      • 「1:1での償還」に対する懸念等を発端とし、一部のステーブルコインについては、取り付けの可能性があり、金融システムにも影響が及び得る。
      • 2021年6月、小規模のアルゴリズム型ステーブルコインである「IRON」は取り付け騒ぎを経験した。IRONの裏付資産の4分の1を占めるトークン「TITAN」の市場価値が0となったことが原因と見られる。
      • ステーブルコインは現時点では「システミック」であるとみなされるほどの規模ではないが、その裏付資産の投げ売り等により、金融安定性に影響を与える可能性。
      • さらに、規模の大きいグローバルな暗号資産取引所が関与する場合、一つの国での利用者の取り付けが、クロスボーダーに広がる可能性もあり得る
      • 取り付けリスク(Run Risk)は、CPの投げ売りを引き起こす可能性もある。
      • 裏付資産が特定の発行者又はセクターに集中している場合、波及リスク(Contagion Risk)はより大きくなる可能性がある。
  • IMF報告書では、新興市場国及び途上国において、暗号資産取引が増加していることを踏まえ、現地通貨に代わって暗号資産が使われることによる金融安定性への影響や、国際的な金融制裁等の回避のためにマイニング報酬が利用されるおそれ等が指摘されている。
    • 暗号資産の取引量等を居住国別に推定する信頼できる方法はない。業者のウェブサイトへの訪問数を居住国別に推定した結果からは、グローバルないくつかの暗号資産取引所が、新興市場国及び途上国で人気を博していることが分かる(この結果は実際の取引量を示すものではない点に留意)。
    • 特に新興市場において、暗号資産の普及が進むと、金融政策や資本規制へ影響を与え得る。
  • 新興市場国及び途上国におけるマイニング活動の増加によるエネルギー消費量や資本フローへの影響
    • 中国におけるマイニング活動への取締り措置(2021年)を受けて、マイニング活動が他の新興市場国及び途上国や米国に移行し始めている。
    • 新興市場国及び途上国や米国にマイニング活動が移行することは、資本フローやエネルギー消費に、深刻な影響をもたらす可能性。
    • マイニング活動の大規模な移行は、特にエネルギーコストの補助を実施する国で、国内エネルギー使用量の大幅な増加に繋がる可能性。
    • マイニング報酬は、国際的な金融制裁等を回避するために用いられる可能性。
  • 金融活動作業部会(FATF)は、2020年6月付のG20報告書において、ステーブルコイン(”so-called stablecoin”)のマネー・ローンダリング/テロ資金供与(ML/FT)リスクを指摘。FATFは、残余リスクの一つである仲介業者を通さないP2P取引に関しては、2021年3月に改訂暗号資産ガイダンス市中協議案にてそのリスク削減策を提示。
    1. FATFによる2回目の12ヶ月レビュー報告書(2021年7月)におけるP2P取引に関する指摘
      • 暗号資産のP2P取引に関する定量的な市場データを提示の上、以下の点を指摘。
        • 暗号資産におけるP2P取引は相応の規模
        • 不正な取引の割合は、暗号資産サービスプロバイダー(VASP)経由の取引よりもP2P取引の方が高い
        • 改訂FATF基準最終化(2019年)以降にP2P取引の割合が顕著に増加した傾向は見られない。
        • いわゆるステーブルコインが広範に普及した場合、P2P取引の規模も大きくなり、VASP等の義務主体を通じたML/FTリスクの低減が効率的に機能しなくなり、深刻なリスクを招く可能性。そのような状況において十分なリスク削減を図るためには、FATF基準の変更が必要となる可能性を指摘。
    2. 改訂暗号資産ガイダンス市中協議案(2021年3月)が提示するP2P取引のリスク削減策
      • FATFのG20報告書等で課題とされたP2P取引のリスク削減について、VASPの解釈を拡大の上、下記の対応を国によるリスク削減策として例示。
        • 取引報告の義務付け等によるP2P取引の見える化の促進、アンホステッド・ウォレットとの取引を可能とするVASP等への継続的監督強化、VASP間でのみ取引を行うことの義務付け、義務付け主体以外との取引を認めるVASPに対するAML/CFT要求水準の引上げ(例:厳格な記録保持要件・厳格な顧客管理要件)、P2P取引を行う顧客への対応にリスクベース・アプローチを適用する重要性を強調するガイダンス発出等
        • 民間セクター(VASPやP2Pセクターの代表者を含む)へのアウトリーチ、P2P取引がもたらすリスク認識向上へ向けたガイダンスや勧告の発出、当局向けトレーニングの実施等
  • 現行制度におけるステーブルコインの取扱い
    • いわゆるステーブルコインは、特定の資産の価値に連動するものである。連動する資産の種類等によって、その性格は異なると考えられる。
    • 法定通貨と連動した価格(例:1コイン=1円)で発行され、発行額と同額での償還を約するものの発行・移転は、為替取引に該当し得ることを踏まえ、銀行業免許・資金移動業登録を受けなければ行うことができないと解される。こうしたステーブルコインは、資金決済法上、「通貨建資産」とされ、「暗号資産」から除外。
    • 上記以外のものは、価値が連動するものや、償還合意の有無及びその内容に応じて、その性格を個別判断(有価証券又は暗号資産に該当し得る)。
  • 電子的な為替支払手段については、償還に関する法的な権利義務関係を明確にすることが求められるが、現行の暗号資産の取引については、私法上の権利義務関係が不明確であるとの指摘がある。
  • 発行者と仲介者の両者を合わせた規律
    1. システム全体としてのガバナンスの必要性
      • 発行者と仲介者とが分離する中、両者を合わせた全体としての適切な金融サービス提供には、システム全体としての適切なガバナンスの確立が必要不可欠
    2. 送金分野における当てはめ
      • 社会経済で広く使われる可能性のある送金・決済手段に求められる水準としては、一般に、(1)権利移転(手続、タイミング)に係る明確なルールがあること、(2)AML/CFTの観点の要請に応えられること、(3)発行者や仲介者の破綻時や、技術的な不具合や問題が生じた場合等において、取引の巻き戻しや損失の補償等、利用者の権利が適切に保護されることが必要と考えられる。特に、発行者と仲介者とが分離する中、利用者保護の観点から、利用者の発行者に対する償還請求権が確保され、発行者又は仲介者の破綻時において利用者の償還請求権が適切に保護されること(利用者への確実な払戻し、差押え可能性等)が重要であると考えられる。
      • 発行者・仲介者に対して、FATF等の議論も踏まえつつ、システム仕様等を含めた体制整備において、こうした点への対応を求める方向性で検討する必要があると考えられる。
      • また、利用者保護の観点から、損失の補償等について、発行者と仲介者の間であらかじめ責任分担に関する事項等を定めることを求めることが考えられる。
  • CBDCを巡る諸外国の動向
    1. 英国
      • 2021年4月、財務省とイングランド銀行は、英国におけるCBDC導入のメリット、リスク、実用性等について調査を行うタスクフォースの設立を発表。
    2. 欧州(ユーロ圏)
      • 2021年7月、ECBは、デジタルユーロ導入に向けた2年間の調査開始を決定。※パネッタECB専務理事は、2年間の調査期間の後、CBDC発行の準備に入ることが目標であり、準備には3年間程度要すると発言。
    3. G7
      • 2020年10月、「デジタル・ペイメントに関するG7財務大臣・中央銀行総裁声明」において、透明性・法の支配・健全な経済ガバナンスの重要性を提起。
      • 2021年10月、「一般利用型CBDCに関する公共政策上の原則」を公表。
    4. 中国
      • 2020年10月以降、深セン・蘇州・北京・上海等において、大規模なパイロット実験を実施。
      • 2021年7月、デジタル人民元(e-CNY)の背景や目的、設計枠組み、政策的検討事項についてまとめた「研究開発白書」を公表。
    5. 主要7中銀(カナダ銀行、イングランド銀行、日本銀行、ECB、FRB、スウェーデン・リクスバンク、スイス国)+BIS
      • 2020年10月、「中央銀行デジタル通貨:基本的な原則と特性」を公表。
      • 2021年9月、システム設計と相互運用性、利用者ニーズと普及、金融安定に対する影響についてそれぞれ報告書を公表。
    6. 米国
      • 2020年8月、ボストン連銀とマサチューセッツ工科大学(MIT)がデジタル通貨に関する共同研究を行っていることを公表。
      • 2021年9月、パウエルFRB議長は、「CBDCを発行するべきかどうか、どのような形で発行するのかについて先を見越して検討を行っている」とし、「まもなくディスカッションペーパーを公表する予定」と発言。
    7. その他
      • Multiple CBDC Bridge Project(香港・タイ・中国・UAE)、Project Dunbar(星・豪州・マレーシア・南アフリカ)は、分散型台帳を利用したホールセール型CBDCのクロスボーダー送金について共同研究を実施。
  • 我が国における今後のスケジュール
    • 経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2021(2021年6月18日閣議決定):「CBDCについて、政府・日銀は、2022年度中までに行う概念実証の結果を踏まえ、制度設計の大枠を整理し、パイロット実験や発行の実現可能性・法制面の検討を進める。」
      1. 概念実証フェーズ1
        • システム的な実験環境を構築し、CBDCの基本機能(発行、流通、還収)に関する検証を行う。
        • 2021年4月~2022年3月(1年間)を想定。
      2. 概念実証フェーズ2
        • フェーズ1で構築した実験環境にCBDCの周辺機能を付加して、その実現可能性などを検証。
        • 2022年4月開始予定。
      3. パイロット実験
        • 概念実証を経て、さらに必要と判断されれば、民間事業者や消費者が実地に参加する形でのパイロット実験を行うことも検討。
  • G7「一般利用型CBDCに関する公共政策上の原則」に関連する論点
    • 金融システムの安定、利用者保護を目的とした、金融行政の観点から主として以下のような論点が挙げられる。
      1. 原則1関連:金融システムの安定
        • 銀行等の金融仲介機能への影響やデジタルバンクランのリスクに関する指摘等も踏まえ、具体的な制度設計(例:CBDCの保有上限額・取引上限額や付利の有無等)を検討することが必要か。
      2. 原則2・3・6関連:日本銀行と仲介機関の権利関係、利用者保護・不正利用防止
        • 日本銀行と複数の仲介機関が関与する階層的なシステムのもと、
          • 利用者に対する日本銀行と仲介機関の責任分担、権利移転に関する考え方など、CBDCに関する権利義務関係を明確化することが必要か。
          • 日本銀行と仲介機関の間でAML/CFTに関する適切な役割分担が必要か。
          • 利用者のCBDC保有額等の口座情報は各仲介機関が分散して保有することとする場合、日本銀行と仲介機関の間で個人情報保護に関する責任分担について整理が必要か。
      3. 原則5・9関連:イノベーションの促進
        • 民間デジタルマネーとCBDCが共存し、利用者の利便性向上等に資する観点から、相互運用性の確保等に留意しながら制度設計・機能設計されるべきか。
        • 民間デジタルマネーとの関係で、CBDCが果たすべき役割等についてどのように考えるべきか。
      4. 原則12関連:クロスボーダー決済
        • CBDCは、クロスボーダー決済等において大きな役割を果たす可能性がある。そうした観点から、CBDCの制度設計にあたってどのような点に留意すべきか。
▼資料2 日本銀行説明資料
  • 各国における一般利用型CBDCの取り組み状況
    1. ユーロ
      • 2021年7月14日、ECB政策理事会は、デジタルユーロ・プロジェクトの「調査フェーズ」の開始を決定。実施期間は2年間を想定。
      • 今回の決定は、「将来のデジタルユーロ発行に関するいかなる決定に対しても、予断を与えるものではない」とされている。
      • 「調査フェーズ終了後、(発行が決定されれば)3年程度と見込むデジタルユーロの開発に着手できるよう準備しておく」(パネッタECB理事、7月14日)
    2. 米国
      • 「CBDCについて、メリットがコストを上回るかは、判断しきれていない。現時点で立場はオープンだ」(パウエルFRB議長、2021年7月15日)
      • 「我々は、CBDCに関する市中協議ペーパーを近々公表する予定で、幅広い主体との対話の材料としていく」(同、9月22日)
      • ボストン連銀は、2020年以降、基盤技術に関するMITとの共同研究を実施。
    3. 中国
      • 2014年より、一般利用型CBDC(デジタル人民元:e-CNY)の研究を開始。
      • 2019年末より、対象地域を順次拡大しながら、パイロット実験を実施。
      • 6月末までに、2,087万超の個人、351万超の企業が実験用ウォレットを開設。
      • 中国人民銀行は、「e-CNYの導入に向けて事前に定められたスケジュールはない」としつつ、今後は、(1)パイロット実験の継続、(2)法制度の改正、(3)金融システム等への影響の分析や国際的な議論への参画、に取り組む方針。
  • 日本銀行の基本的な考え方
    • 情報通信技術の急速な進歩を背景に、内外の様々な領域でデジタル化が進んでいる。技術革新のスピードの速さなどを踏まえると、今後、CBDCに対する社会のニーズが急激に高まる可能性もある。
    • 現時点でCBDCを発行する計画はないが、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要。
    • このため、内外関係者と連携しながら、実証実験と制度設計面の検討を進めていく。
    • デジタル社会にふさわしい決済システムのあり方について、幅広い関係者とともに考えていく必要。CBDCは、現金と並ぶ決済手段としての役割に加え、民間の事業者が、イノベーションを発揮して様々な決済サービスを新たに提供する基盤となり得る。
    • 現金に対する需要がある限り、日本銀行は、今後も責任をもって供給を続けていく。
  • 決済システムの二層構造
    • 一般利用型CBDCを導入する場合、中央銀行と民間部門による決済システムの二層構造(「間接型」発行形態)を維持することが適当。
    • 仲介機関やその他の民間事業者が、その知見やイノベーションを通じて、ユーザーのニーズに合ったサービスを提供。日本銀行は、こうしたサービスの土台となるCBDCを設計し、供給していく。
  • CBDCが具備すべき基本的特性
    • 一般利用型CBDCを発行する場合には、機能面やシステム面で、以下のような基本的特性を具備する必要があると考えられる。このうち、ユニバーサルアクセスや強靭性(オフライン決済機能など)を確保する取り組みは、今後の現金の利用状況に応じて段階的に進めていくことも考えられる。
      1. ユニバーサルアクセス
        • 送金・支払に用いる端末、カード等の簡便性、携帯性
      2. 相互運用性
        • 民間決済システム等との相互運用性、決済の高度化等に適応できる柔軟な構造
      3. 即時決済性
        • 決済のファイナリティ、即時決済性、十分な処理性能、将来に備えた拡張性
      4. 強靭性
        • 偽造抵抗力、各種不正の排除
      5. セキュリティ
        • 24時間365日利用できる、オフライン環境下でも利用できる
  • CBDCの発行と流通
    • 日銀当座預金と引替えに発行されたCBDCは、仲介機関を通じて、ユーザーに払出される。払出されたCBDCは、ユーザー間を移転する。仲介機関が受入れたCBDCは、日銀当座預金と引換えに還収される。
  • 「水平的共存」と「垂直的共存」
    • CBDCの導入を検討する際には、水平的な共存(様々な決済手段が機能に応じて役割分担)とともに、垂直的な共存(様々な主体が関わることでCBDCシステムが発展)の実現を目指すことが必要。
    • CBDCと他の決済手段の円滑な交換(相互運用性)は、水平的共存の前提。これは、国民の利便性向上、決済システム全体の効率化・強靭化に資する。
    • 一方、こうした相互運用性が決済手段間の大幅な資金シフトを招き、金融システムを不安定化させないよう、「セーフガード」のあり方を検討する必要がある。
    • 日本銀行は、基礎的な決済手段(公共財)であるCBDCを、仲介機関を通じて、全てのユーザーに等しく提供する。民間事業者(仲介機関を含む)は、CBDCを土台にして個別のニーズに応じた様々な「追加サービス」を提供する。
  • 仲介機関(仲介業務の担い手)の構造
    • 仲介業務に関し、CBDCの「発行・還収」の相手方になるには日銀当座預金取引先であることが必要。他方、当座預金取引先でなくても、ユーザーからのCBDCの「払出・受入」依頼に対応することは可能。
    • こうしたもとで、仲介機関の構造については、大別して「単層型」と「階層型」の2種類が考えられる。
▼資料3 討議いただきたい事項

【論点1】

規制当局と技術者コミュニティを含む関係者間の対話について、実効的なものとするためには、どのような点に留意する必要があるか。

【論点2】

  1. 社会経済で広く使われる可能性のある送金・決済手段に該当するものやデジタルマネー等)については、AML/CFTの観点からの要請が特に強く求められるが、そのための水準を満たす方法について、規制当局と技術者コミュニティを含む関係者間で実効的な対話を行うため、例えば、システム仕様等で、
    • 本人確認されていない利用者への移転を防止すること
    • 本人確認されていない利用者に移転した残高については凍結処理を行うことといった事項を求めることを検討することが考えられるが、どうか。
  2. 上記(1)の実効性は以下の方策で確保することが考えられるが、どうか。
    • 後述する発行者及び仲介者16に対する業規制(体制整備義務)として、上記(1)の検討を踏まえつつ、水準を満たすために必要な要件を満たすシステムの採用及びその疎明を求める
    • 社会経済で広く使われる可能性のある送金・決済手段の売買等の媒介を業として行っていると認められる場合には、後述の仲介者の業規制の適用があり得る。その際、FATF等における議論も踏まえつつ、アプリを提供してP2P取引における取引のマッチング等を行う者の取扱いを含め、適用対象の明確化や周知徹底を図ることにより、イノベーションの過度な委縮につながらないように努める。

【論点3】

発行者に対する上記のような要請を満たす仕組みとして、例えば、以下のようなものが考えられるが、どうか。

  • 銀行預金債権の発生・消滅についての現行実務を前提としたものとして、銀行から代理権を付与された仲介者が、個々の利用者の持分を管理し、振り替える仕組み(仲介者が持分を管理するいわゆる連名預金)
  • 信託法制が適用されるものとして、銀行に対する預金を信託財産とした信託受益権を仲介者が販売・移転する仕組み

【論点4】

仲介者の機能に関しては、利用者保護やAML/CFTの要請の観点から、海外発行のものを含め想定される行為・機能を過不足なく業規制の対象とした上で、取引実態等が類似する暗号資産の交換業者に対する規制を参考に所要の規制を導入する必要があると考えられるが、どうか。

【論点5】

更に、全体として送金・決済サービスが適切に提供されるためには、「発行者」と「仲介者」の適切な連携や利用者から見た「発行者」と「仲介者」の役割や責任関係の明確化及びその履行のための体制整備が求められると考えられるが、どうか。

【論点6】

  1. 民間デジタルマネーとの共存によるイノベーションの促進・利便性の向上の観点から、官民の関係者は、技術面を含め、どのような点に留意して検討を進めていくべきか。
  2. CBDCの具体的な制度設計に当たっては、金融仲介機能への影響やデジタルバンクランのリスク等、金融システムの安定の観点からの考慮が必要と考えるが、どうか。
  3. サービス提供が階層構造で行われる場合、日本銀行と仲介機関の間におけるCBDCに関する権利義務関係や、AML/CFT、個人情報保護に関する責任分担を明確にすることが重要となる。こうした観点から留意すべき点があるか。
  4. 上記のほかに留意すべき点はあるか。
  • ステーブルコインの種別分けと既存のデジタルマネーの関係について
    • いわゆるステーブルコインについて明確な定義は存在しないが、一般的には、特定の資産と関連して価値の安定を目的とするデジタルアセットで分散型台帳技術(又はこれと類似の技術)を用いているものをいうものと考えられる。法定通貨と価値の連動を目指すステーブルコインについては、現行制度の考え方に基づけば、価値を安定させる仕組みによって、以下のとおり分類できると考えられる。
      1. 法定通貨の価値と連動した価格(例:1円=1コイン)で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの(及びこれに準ずるもの)
      2. アルゴリズムで価値の安定を試みるもの等(1以外)
  • これらのユースケースについては、現状では
    1. 上記1に該当するものを使用して、証券決済等や企業間決済等における活用を目指した実証実験等が行われている。こうしたものの中から、既存のデジタルマネーと同様に社会で幅広く使用される送金・決済手段となるものが出現する可能性がある。
    2. 暗号資産運用の一環として利用されるものとしては、上記1、2いずれもあるが、形式的には上記1に該当するものであっても、発行者が有する裏付資産の内容に照らして償還確実性に問題が生じる可能性がある、裏付資産の運用状況の開示が不十分等の指摘がなされているものも存在する。
      • 上記1(以下「デジタルマネー類似型」)と上記2(以下「暗号資産型」)は、経済社会において果たし得る機能、法的に保護されるべき利益、金融規制・監督上の課題が異なると考えられる。そのため必要な制度対応等については、両者を区分して検討することが適当と考えられる。その際、利用者保護等の観点から、問題のあるものについて適切に対応する必要がある。
  • 暗号資産型のステーブルコインを巡る課題
    • 法定通貨で払込みを受けて法定通貨と連動した価格で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの(及びこれに準ずるもの)以外のステーブルコインもある。
    • こうしたステーブルコインが暗号資産に該当する場合、暗号資産の売買・交換・これらの媒介等・管理を行う者は、暗号資産交換業者として規制される。また、暗号資産交換業者には、その特性等に照らして利用者の保護等に支障を及ぼすおそれがあると認められる暗号資産を取り扱わないために必要な措置を取ることが求められており、新規の暗号資産の取扱いに際しては、自主規制団体によりその適切性の確認等が行われている。
    • ステーブルコインと称するものの中には、金融商品取引法に規定する有価証券に該当するものもあり得る。この場合、金融商品取引法に規定する開示規制や業規制(電子記録移転権利を自ら発行・募集する場合には第二種金融商品取引業の登録が必要になる場合があるほか、当該権利の募集の取扱いや売買の媒介を行う場合には第一種金融商品取引業の登録が必要になる)等が適用され得る。
  • 中央銀行デジタル通貨(CBDC)について
    • 情報通信技術の急速な進歩を背景とした内外の様々な領域におけるデジタル化の進展により、今後、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に対する社会ニーズが急激に高まる可能性があること等を受けて、日本銀行を含む各国の中央銀行がCBDCに関する実証実験等を行っている。
    • CBDCは、決済システムのデジタル化や、民間のステーブルコインを含めたデジタルマネーの広がりという流れにおける、大きな動きの1つとして捉えられる。そのため、民間のデジタルマネーとともに、決済のデジタル化の取組み全体として、より安価で利便性が高く、かつ安全に利用できる金融サービスの実現に資するものとなることが重要と考えられる。
    • その制度設計に当たっては、デジタルエコノミーにおける金融インフラの構築、決済スピードの向上や送金コストの低下といった利便性の向上に貢献するとの観点のほか、金融システムの安定の観点から民間金融機関の金融仲介機能への影響や金融危機時等における影響などに対処する必要がある。また、民間の決済サービスとの共存によるイノベーションの促進との観点や、利用者保護、AML/CFTの要請、個人情報保護との関係も重要となる。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

長野県内初の公営ギャンブル施設となる競輪の場外車券売り場「サテライト信州ちくま」がオープン、運営事業者は売り上げの一部を地域に還元するとしており、地元住民からは「地域おこしにつながる」と歓迎する声が上がる一方で、ギャンブル依存症対策については、2018年に施行した「ギャンブル等依存症対策基本法」に基づき、国が各都道府県に「ギャンブル等依存症対策推進計画」の策定の努力義務を課しています。2021年4月時点で21都道府県が策定しているところ、長野県は未策定であり、「ギャンブル依存症が増える」との懸念が強まっています。国の要請のとおり、公営ギャンブル施設ができればギャンブル依存症患者は増えるおそれがあり、その懸念を払しょくするという点でも、努力義務とはいえ計画は当然策定されておくべきものであり、対応の遅さは批判されても仕方のないところです。さらに、カジノとも異なり、海外や長野県外から来訪して地元にお金が落ちていくというより、地元住民のお金が吸い上げられる可能性の方が高いといえ、本当の「地域おこし」につながるかも疑問です。

本コラムでも紹介してきましたが、ゲーム障害は、WHOが2019年5月に新たな依存症に認定、国内でも深刻な問題になっているところ、KDDI、KDDI総合研究所、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)が、2019年12月(以下コロナ前)と2020年8月(以下コロナ禍)に、全国の20歳から69歳の男女51,043名を対象にオンラインで実施した調査の結果から、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが「スマホ依存」(疾病ではないが、スマートフォンの過剰な利用により、体力低下、成績が著しく下がるなど、普段の日常生活に支障をきたしているにも関わらず、使用がやめられず、スマホを使用していないと、イライラし落ち着きがなくなってしまう状態のことを指す)、「ゲーム障害」(ゲーム時間をコントロールできない、他の生活上の関心事や日常の活動よりゲームを優先してしまうなどの症状があり、健康や人間関係など、社会生活への影響を多大に与える疾患である)、「ネット依存」(スマホ依存同様、日常生活においてインターネットの使用を優先してしまい、使う時間や方法を自分でコントロールできない状態を指す)に及ぼす影響(以下本結果)を明らかにしています。

▼KDDI コロナ禍でスマートフォン利用時間が増加し、ゲーム障害、ネット依存傾向の割合は1.5倍以上増加

主な調査結果として、まず「コロナ前と比較して、コロナ禍では平日、休日のスマートフォンの利用時間が増加した一方で、スマホ依存傾向を示す人の数はわずかに減少しました。中でも、スマホ依存傾向を判定する指標のうち、「スマホ使用のため、予定していた仕事や勉強ができない」という項目の平均値が減少していました。一方で、「スマホを手にしていないとイライラしたり、怒りっぽくなる」という項目の平均値は増加していました」と指摘されています。それに対し、「「スマホ使用のため、予定していた仕事や勉強ができない」と言う回答が減少したのは、新型コロナウイルス感染症による外出自粛、テレワークの普及など各種オンライン化によってスマートフォンの利用機会が増え、スマートフォンが仕事や勉強を邪魔する存在から、生活のための重要な存在に変わり、スマートフォンに対する問題意識が低下したことが要因である可能性があると考えられます。しかし、「スマホを手にしていないとイライラしたり、怒りっぽくなる」と回答した方が増加していることから、スマートフォンが使えない状況になった場合、コロナ前に比べストレスを感じやすくなった可能性があります」といった分析が加えられています。また、「コロナ禍ではゲーム障害とネット依存傾向がある人を示す割合が1.5倍以上に増加しています。また、ゲーム障害の中核的な症状である「耐性」「離脱症状」も増加しています。これらの症状を持つ人は、ゲームプレイの長さに問題を感じてもゲームをやめにくく、治療にも時間がかかるとされています。また、ゲーム障害に関しては症状の傾向から、一過性の問題ではなく、コロナ禍収束後も持続した問題となる可能性も示唆されました。さらに、新型コロナウイルスの感染者は非感染者に比べ、ゲーム障害になるリスクが5.67倍であることを確認しました。」とも指摘しています。この結果については、「ゲーム障害やネット依存傾向がある人を示す割合の増加は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによるストレスが一因として考えられます。中でも、新型コロナウイルスの感染者は感染による大きなストレスに対処するためゲームにのめり込み、ゲーム障害のリスク増加に繋がった可能性があります。」と分析しています。これらの結果をふまえ、ATRは、ネット依存やゲーム障害は感染症流行時だけの一過性の問題ではないとしつつも、「コロナの流行が依存の増加に影響を及ぼしている。スマホやゲームとの正しい向き合い方と考えると同時に、感染そのものを抑えていくことも必要」と指摘しています。

その他、ゲーム依存症等については、海外において以下のような報道もありました。

  • 中国国営メディアは、未成年のオンラインゲームのプレー時間を週3時間に制限した規制について、「依存症を防ぐ」ため、抜け穴をふさぐ必要があるとの論説記事を掲載しています。それによれば、「一部のオンラン取引プラットフォームでは、ゲームのアカウントをレンタル・販売する事業が行われており、ユーザーはアカウントのレンタルや購入を通じて監督を逃れ、無制限でオンラインゲームをプレーできる。10代の若者がオンラインゲームに参加できる抜け穴がまだ存在するという意味で、注目に値する」とし、一部のゲーム取引プラットフォームが未成年によるアカウントの売買・レンタルを禁じる厳格な措置を導入したと指摘、ゲーム会社は「社会的責任を積極的に果たし」「次世代の健全な成長に責任を持ち」「ゲーム産業の健全な発達を促す」ことが必要としています。また、親をはじめ家庭や学校でも「未成年の健全な成長」に資する環境を整える必要があると主張、一部の未成年者が親のIDでゲームのアカウントを登録し、時間制限が回避している例があると指摘しています。なお、中国政府は以前から、若者のゲーム依存やインターネット依存に懸念を示しており、心理療法と軍事教練を組み合わせて「ゲーム障害」を治療するクリニックが設立されているといいます。
  • 米交流サイト大手FB(フェイスブック 現メタ)は、写真共有アプリ「インスタグラム」が子どもに悪影響を与えているとの批判を受け、有害コンテンツを避けたり、休憩を促したりする機能を導入する予定だと明らかにしています。米議会では、同社の内部告発者が公聴会で、FBが利用者にスクロールを促し、10代の若者の健康状態を害していると主張するなど、同社のSNSやインスタグラムなど傘下アプリが若者のメンタルヘルスに与える影響について関心が強まっていますが、報道によれば、子どもたちが好ましくない内容を何度も見ているとFBが判断した場合に、他のコンテンツを見るよう誘導、長時間利用している子どもに休むよう促すものだといいます。
③犯罪統計資料

令和3年1~9月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和3年1~9月分)

令和3年1~9月の刑法犯総数について、認知件数は420,597件(前年同期459,720件、前年同期比▲8.5%)、検挙件数は192,119件(201,765件、▲4.8%)、検挙率45.7%(43.9%、+1.8P)と、認知件数・検挙件数ともに減少傾向が継続している点が特徴です。なお、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数は282,904件(313,076件、▲9.6%)、検挙件数は117,582件(123,868件、▲5.1%)、検挙率は41.6%(39.6%、+2.0P)、うち万引きの認知件数は64,952件(64,184件、+1.2%)、検挙件数は47,210件(46,179件、+2.2%)、検挙率は72.7%(71.9%、+0.9P)となっています。また、知能犯の認知件数は26,193件(24,844件、+6.3%)、検挙件数は13,317件(12,874件、+5.1%)、検挙率は50.8%(51.4%、▲0.6P)、詐欺の認知件数は23,779件(22,029件、+7.9%)、検挙件数は11,478件(10,675件、+7.5%)、検挙率は48.3%(48.5%、▲0.2P)などとなっています。刑法犯全体の認知件数・検挙件数が減少傾向の中、万引きと知能犯、詐欺については増加傾向にあり、引き続き注意が必要な状況です。

また、特別法犯総数については検挙件数は50,665件(50,936件、▲0.5%)、検挙人員は41,653人(43,160人、▲3.5%)と昨年同様、検挙件数・検挙人員ともに微減の傾向を示している点が特徴的です(なお、検挙件数については直近までわずかながら増加傾向を示していましたが、今回減少に転じています)。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は3,586件(4,847件、▲26.0%)、検挙人員は2,592人(3,515人、▲26.3%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は6,051件(6,046件、+0.1%)、検挙人員は4,695人(4,397人、+6.8%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,751件(1,988件、▲11.9%)、検挙人員は1,425人(1,615人、▲11.8%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は233件(295件、▲21.0%)、検挙人員は90人(92人、▲2.2%)、不正競争防止法違反の検挙件数は54件(48件、+12.5%)、検挙人員は48人(56人、▲14.3%)、銃刀法違反の検挙件数は3,667件(3,808件、▲3.7%)、検挙人員は3,142人(3,358人、▲6.4%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、迷惑防止条例違反や不正競争防止法違反が増加傾向にある点が気になります。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は594件(698件、▲14.9%)、検挙人員は329人(359人、▲8.4%)、大麻取締法違反の検挙件数は4,765件(4,018件、+18.6%)、検挙人員は3,743人(3,411人、+9.7%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は8,028件(8,260件、▲2.8%)、検挙人員は5,409人(5,795人、▲6.7%)などとなっており、大麻事犯の検挙件数が前年に比べても大きく増加傾向を示しており、かなり深刻な状況となっています。また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員については、総数343人(282人、+21.6%)、ベトナム159人(77人、+106.5%)、中国69人(69人、±0%)、フィリピン27人(20人、+35.0%)、ブラジル23人(43人、▲46.5%)、韓国・朝鮮14人(24人、▲41.7%)、インド11人(14人、▲21.4%)などとなっています。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数総数は8,505件(8,726件、▲2.5%)、検挙人員総数は4,645人(5,332人、▲12.9%)といったん増加していたところ、一転して検挙件数・検挙人員ともに減少に転じている点が特徴です。以前の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、「基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます」と指摘しましたが、一時活動が活発化している可能性を示したものの再度減少に転じたのは、緊急事態宣言等のコロナ禍の状況や東京五輪に向けた自粛(一般的に国民的行事の際には、暴力団は活動を自粛する傾向にあります)などの要素もあることも考えられ、いずれにせよ緊急事態宣言解除など状況の流動化とともに今後の動向に注意する必要がありそうです。犯罪類型別では、暴行の検挙件数は509件(656件、▲22.4%)、検挙人員は472人(626人、▲24.6%)、傷害の検挙件数は795件(1,031件、▲22.9%)、検挙人員は955人(1,202人、▲20.5%)、脅迫の検挙件数は270件(333件、▲18.9%)、検挙人員は255人(295人、▲13.6%)、恐喝の検挙件数は282件(306件、▲7.8%)、検挙人員は326人(385人、▲15.3%)、窃盗の検挙件数は4,242件(3,989件、+6.3%)、検挙人員は683人(857人、▲20.3%)、詐欺の検挙件数は1,195件(1,081件、+10.5%)、検挙人員は965人(821人、+17.5%)、賭博の検挙件数は32件(37件、▲13.5%)、検挙人員は80人(136人、▲41.2%)などとなっています。とりわけ、全体の傾向と同様、窃盗、詐欺については、昨年はコロナ禍の影響で大きく減少したところ、一転して増加傾向を示している点は注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、検挙件数総数は5,036件(5,627件、▲10.5%)、検挙人員総数は3,377人(4,101人、▲17.7%)とこちらも昨年1年間の傾向同様、減少傾向が続いていることが分かります。犯罪類型別では、暴力団排除条例違反の検挙件数は26件(42件、▲38.1%)、検挙人員は64人(99人、▲35.4%)、銃刀法違反の検挙件数は80件(110件、▲27.3%)、検挙人員は61人(91人、▲33.0%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は100件(133件、▲24.8%)、検挙人員は27人(41人、▲34.1%)、大麻取締法違反の検挙件数は839件(773件、+8.5%)、検挙人員は524人(529人、▲0.9%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は3,233件(3,656件、▲11.6%)、検挙人員は2,109人(2,532人、▲16.7%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は97件(90件、+7.8%)、検挙人員は66人(69人、▲4.3%)などとなっており、薬事犯全体が大きく増加している中、暴力団犯罪については、大麻事犯の検挙件数が増加傾向にあること、それ以外は引き続き減少傾向を示している点が特徴的だといえます。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

国連安全保障理事会は、北朝鮮が新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と主張する発射実験を10月19日に実施したことを受け、非公開の緊急会合を開いたものの、理事国の足並みは今回もそろわず、9月以降に開かれた過去2回に続き、安保理としての声明は出さることはありませんでした。北朝鮮の弾道ミサイル発射は法的拘束力のある安保理決議違反であるにもかかわらず、発射を制止する安保理の機能の限界が露呈していることは問題だといえます。米英両国とフランスが要請した会合では、これまでと変わらず、北朝鮮に対する制裁の緩和を求める中国やロシアと、制裁の履行徹底を求める米欧諸国の意見が対立、一致に至るのは「まだ極めて困難だ」という状況であり、それを見越して、フランスやアイルランド、エストニアは会合前に共同声明を記者団に向けて発表、米国のトーマスグリーンフィールド国連大使も、会合の開始を待たず独自に記者団の前で「米国は北朝鮮に敵意はなく、前提条件なしで会うと提案している」との声明を読み上げたほどです。繰り返しとなりますが、9月に入って北朝鮮が相次ぎ発射している弾道ミサイルは、安保理の対北朝鮮制裁決議で禁じられているものであって、日本を含む地域の平和と安全を脅かすものです。にもかかわらず、非核化をめぐる米朝交渉が停滞し、米欧諸国と中ロの対立が続く中、安保理も一致した声を上げることができず、北朝鮮は足元を見るかのようにミサイル発射を繰り返している状況は、正常だとは言えず到底受け入れられるものではありません。

北朝鮮は、9月11、12日に長距離巡航ミサイル、15日に短距離弾道ミサイル、28日に「極超音速ミサイル」、10月19日にSLBMの発射実験をそれぞれ実施しましたが、今回のSLBMとみられるミサイルの発射強行の背景としては、バイデン米政権の怒りを買う「レッドライン」越えてはならない一線)」を見極めつつ、米側の出方を探る狙いもあるように思われます。それに加え、韓国も9月にSLBMの発射実験の成功を発表しており、韓国への対抗意識もあるのではないかと考えますだ。北朝鮮が2019年にSLBMを発射した際、当時のトランプ米大統領は「様子を見てみよう。彼らは対話をしたがっている」と述べ、問題視しない立場を示しましたが、今回の発射は、米側のレッドラインとみなされる大陸間弾道ミサイル(ICBM)ではなく、飛距離は約600キロだったことは、バイデン政権は北朝鮮との対話再開を優先させる立場を示しており、北朝鮮が短距離なら米側が問題視することはないと踏み、新兵器開発を一層加速させる可能性は否定できないところです。その米国については、米国防情報局(DIA)が10月、北朝鮮の軍事力の現状を分析した報告書をまとめ、米本土を射程に収めるICBMを念頭に「来年に長距離ミサイルの発射実験を実施する可能性がある」と指摘しています。2018年からICBM発射を凍結しつつ、北朝鮮が核・ミサイル開発を継続する現状に危機感を強めています。報告書では、金総書記のもと「核兵器を弾道ミサイルに搭載し、確実にシステムとして機能させることが究極の目標だ」と強調、2017年以降は核実験に踏み切っていないものの「兵器の性能を検証するための地下核実験を実施する可能性がある」と警戒しています。米国防情報局は「大量破壊兵器の能力がなくても、このような通常兵器の能力は韓国、日本、この地域の米軍に一定の脅威を与え続けている」と懸念しています。なお、報告書では北朝鮮のサイバー攻撃にも言及されており、「報復リスクが少なく費用上、効果的な手段」として能力向上を図り、敵側の情報収集に加え、経済制裁や国際的な管理を回避して「通貨を生み出す方法」としても重視していると指摘したほか、米国や欧州への攻撃を通じ「核兵器の小型化や弾道ミサイルなどの重要な技術データを流出させている」と明記、「北朝鮮のハッカーは年間8億6,000万ドル(980億円)を得ていると推定され、その一部が軍事活動を支えている」と示しています。さらに、日本と韓国は「敵国とみなすが、両国との意思疎通のラインは維持している」と指摘、DIAのベリエ局長は「世界で最も軍事化された国家のひとつで、米国と北東アジアの同盟国、国際社会にとり安全保障上の深刻な挑戦」と総括しています。

なお、北朝鮮の最近の動向の背後には、金正日総書記が死去し、正恩氏が後継者となって、この年末で10年を迎えることが大きく影響しているとの指摘もあります。2021年10月17日付朝日新聞によれば、北朝鮮では「10周年」を2012年に設定しており、今年から来年は特別な時期にあたるというものです。権力継承から10年という機会に自分の体も国家の政策もリセットを図っているという見立てです。翻って、金総書記は権力継承後、2017年まで核やミサイル開発に邁進、同時に内部では国際社会の一員になるための準備を進め、工場や農場にインセンティブを導入、市場経済を国家経済に取り込み、全国に20余りの経済開発区も整備しています。その狙いとしては、核とミサイルで米国と談判すること、経済制裁の解除、その後の外資誘致が狙ってのことだと考えられます。ところが、制裁解除を狙って臨んだ2019年2月のベトナム・ハノイの米朝首脳会談は決裂、米国と北朝鮮を仲介した韓国の文在寅政権について、金総書記は「情報は不正確で、仲介の姿勢もあいまいだ」と怒ったとされ、「成果に焦る文政権から何か得られるかもしれない」という考えもあって最近の韓国への姿勢の変化として表れてる可能性があります。韓国の情報機関の専門家は、「経済は底をついた。あとは上がるだけだ。少し良くなれば万歳を叫ぶのが北朝鮮。苦しくても自分と既得権層を維持できるシステムを作り上げつつある。核の増強や戦術武器の開発により、対話に備えて交渉力も整えた」、「正恩氏を取り巻くエリート層は対米、対韓の政策だけを何十年も練り上げている。短期、中期、長期でプランB、プランCも常に用意する。方針は一貫している。長期戦なら勝つのは自分たちだと思っている」、「外部の思想や文化に染まりやすい若者への警戒だ。携帯電話の通話内容や位置情報の把握にも乗り出した。普及する携帯電話を統制の手段として逆手に取る狙いだ」、「正恩氏の政策や政権基盤が不安定だと見てはいけない。日米韓とはまったく異なる時間軸で考え、膨大な政策資源を投入する。次の10年を見据えて仕掛ける外交の姿が今、表れつつある。韓国も米国も日本も、相応の戦略と覚悟がいるんだよ」と指摘しており、今後の動向を見誤るこがないよう注視していく必要があります。

SLBMと見られるミサイル発射の数日前、金総書記は、兵器を展示する「国防発展展覧会自衛2021」の開幕式で演説し「米国は(北朝鮮に)敵対しないとのシグナルを頻繁に送っているが、敵対的でないと信じるに足る行動での根拠は一つもない」と述べ、米国との対話の環境はないとの認識を示しました。また、金氏は米国が地域の緊張を高めていると批判、「朝鮮半島に造成された不安定な現状下で、軍事力を相応かつ不断に育てることは、時代的な要求であり、未来のための至上責務だ」として、北朝鮮の兵器開発は自衛のための抑止力強化だと強調し、引き続き進める意思を強調して正当化しています。また、とりわけ韓国の軍備増強を強くけん制しており、韓国が米国から導入したステルス戦闘機や無人偵察機、独自のミサイルや潜水艦開発などを挙げ「度を超した試みを放置するのは危険だ」と訴えたほか、韓国が北朝鮮のミサイル発射を「挑発」と表現することに「二重的で非論理的な強盗のような態度」と不快感を示しています。一方で、「主敵は戦争そのもので、南朝鮮(韓国)や米国ではない」とも述べたものの、韓国が北朝鮮の兵器開発を問題視する態度を続ければ「決して容認せず、強力な行動で対応する」と警告しています。また、朝鮮労働党創建76年を記念する講演会で演説し、2011年12月に急死した父、金正日氏の後を継いで最高指導者となってからの約10年を振り返り、「党と革命の新たな継承・発展期に入り、党を強化するための建設事業がさらに深化した。党の領導力と戦闘力が全面的に、細部にわたって再整備された」などと強調しています。金総書記が党創建記念日に講演会を開いたのは初めてであり、最高指導者となって10年の節目に講演会を開くことで、内部結束を図る狙いがあったと見られています。

中国や北朝鮮などの保有する各種ミサイルの脅威が増大しているのは明らかです。一挙に大量発射するといった攻撃手法に加え、迎撃が難しい新型も登場、日本はミサイル攻撃に対し、国民を重層的に守る新たな備えの時期を迎えているといえます。この点について、2021年10月27日付日本経済新聞の記事「「敵基地攻撃」はミサイル防衛の一部 重層的な備え必要」において、ミサイル防衛のあり方を考察しています。参考になる部分も多く、以下、抜粋して引用します。

いままでの日本のミサイル脅威への対応をまとめると「対処が一面的で、事態が悪化しても一時的に反応するだけで、総じて国民の命を守ることへの執着心が薄い」ということになるだろう。2016年から18年にかけ、北朝鮮が多数の弾道ミサイルの発射訓練をして日米韓を威嚇した。北朝鮮は、1カ所に何発ものミサイルを撃ち込む「飽和攻撃」、打ち上げ高度を高くとることで再突入時の速度を高める「ロフテッド発射」など新たな攻撃手法を次々に誇示した。結果として、日本に飛来するミサイルを自衛隊が迎撃する、地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)のような従来型のミサイル防衛は事実上破綻してしまった。ところが当時の日本政府は、従来型の手法で対応できるとの建前を崩さなかった。・・・なかでも敵基地攻撃に関しては、日米同盟の存続を左右する課題ととらえる必要がありそうだ。朝鮮半島有事になれば、米軍は北朝鮮のミサイル発射台となる移動式運搬車や潜水艦をつぶす危険な攻撃作戦に動くことになる。日本がこうした任務をすべて米軍任せにした場合、日米同盟は続くだろうか。・・・迎撃に関しては、ミサイルをミサイルで撃墜する従来型手法は難しくなったが、新技術で克服する道がある。高出力レーザーや、超電導の力で弾丸を高速で撃ち出す「レールガン」という方法だ。要素技術は川崎重工業や三菱電機、日本製鋼所が既に持っている。イスラエルに「泥棒は壁の穴であってネズミではない」ということわざがある。ネズミが部屋に入ってきて食べ物を盗む厄介ごとの「本質」は、ネズミの存在以上に、出入りを許す壁の穴をふさごうとしない住人のあり方だとの教えだ。中国や北朝鮮などが核兵器やミサイルを放棄することは、それぞれの体制が存続する限り、まず起きないだろう。外交努力は大前提だが、「壁の穴」をふさごうとするのは、攻撃を断念させるための知恵ということになる。ミサイル脅威の「問題の本質」は、日本人の危機意識にこそあると認識する必要がありそうだ

北朝鮮は既存の平山工場を通じて核兵器に必要なウランを全て入手できるほか、大量の尾鉱(製錬過程で生じる廃棄物)を写した衛星画像から同国が現在よりもはるかに多くのウランを製造できることが示唆されると、最新の学術研究がこのように結論付けています。北朝鮮は核兵器実験を2017年以降行っていないものの、これまでに兵器増強を続けると表明しているほか、今年は兵器級プルトニウムを製造していたとみられている原子炉を再稼働させたと考えられています(韓国情報機関、国家情報院は、北朝鮮が寧辺の核燃料棒再処理施設を今年2~7月に稼働させた兆候があり、再処理が行われた可能性があると説明しています。北朝鮮が2018年末に中断した黒鉛減速炉(5,000キロワット)を再稼働させたことを把握、「プルトニウムをさらに確保し核能力を強化する一方、寧辺に戦略的価値があるとアピールするための布石」と分析しています。なお、この寧辺核施設をめぐっては、2019年2月の米朝首脳会談で北朝鮮側が廃棄を提起して制裁解除を求めたものの、米側が満足せず決裂した経緯があります)。研究によると、北朝鮮は生産量を増やすことができる可能性があり、その他のウラン工場を必要としていないといい、「DPRK(北朝鮮)がこれまで利用してきたよりもかなり大きな製錬能力があるように見えることは明白だ」と指摘、「これは、望めばより大量の製錬天然ウランを製造できることを意味している」としています。平山ウラン濃縮工場とそれに付随する鉱山は北朝鮮が唯一公式に認めているイエローケーキ(ウラン精鉱)の供給源であり、年間で核弾頭4~6個分の材料を製造する能力があるとの推定を示しています。

北朝鮮の人権問題を担当する国連のキンタナ特別報告者は、北朝鮮で物資不足が慢性化し国民生活が困窮しているとして、安全保障理事会は「制裁の枠組みを再評価し、必要に応じて緩和すべきだ」と述べています。制裁対象に食料や医薬品は含まれていないものの、同氏は制裁が国民生活に「意図しない弊害」をもたらしている可能性があると指摘、新型コロナウイルス対策として北朝鮮が行っている国境封鎖などにより「今ほど北朝鮮が孤立している時はない」と述べ、国際社会は国民の窮状に注意を払うべきだとの認識を示しています(もっとも、北朝鮮側は、「わが国は人民の生活保障と暮らしに全面的な責任を負っており、人民の生活状況を心配してくれと誰かに頼んだことはない」と反発しています)。安保理では欧米諸国が制裁と国民への支援は両立できるとの立場で、北朝鮮による相次ぐミサイル発射を受けて制裁の履行強化を呼び掛けていますが、中国とロシアは制裁緩和を訴えていることは前述のとおりです。なお、中国税関総署が発表した9月の貿易統計の内訳によると、中国は北朝鮮に粉末を含む乳製品約500トンを輸出したということです。北朝鮮は新型コロナウイルス対策での中朝国境封鎖により貿易が減少、食糧不足も懸念されていますが、8,000トン弱の食用油類を除き、他に目立った食品の輸出はなく、金額ベースで最も多いのはたばこ類の約940万ドル(約10億7,000万円)だったといいます。北朝鮮からはジャガイモの粉約3,400トンを輸入、輸入額の最大は製鉄時に脱酸素材として使われる合金で約680万ドル、2位は完成品の測定機器で約220万ドル、9月の対北朝鮮輸出は約5,563万ドル、輸入は約1,427万ドルと、いずれも前月より2倍以上に増えたものの、北朝鮮が中朝国境を封鎖する前の2019年9月と比べた貿易額は約29%にとどまる結果となっています。また、関連して、韓国の情報機関、国家情報院は、新型コロナウイルス対策で国境封鎖を続けている北朝鮮が紙幣用紙や特殊インキの不足のため国産用紙で「トンピョ」と呼ばれる臨時紙幣を発行しているとの見方を明らかにしています。また北朝鮮中部・平安南道の南興青年化学連合企業所では今年8月、無理に工場を稼働したため爆発事故が起きたともいいます。その一方で、北朝鮮が停止している中朝間の列車運行計画について中国側と協議しており、11月から運行が再開される可能性があるとの見方も明らかにしています。

韓国が提案している朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言について、北朝鮮は議論に応じる先決条件として、米韓合同軍事演習の停止や、主要な経済制裁の解除を要求しています。ただ、米国が条件を認める可能性はほとんどないと考えられています。韓国情報機関、国家情報院によれば、北朝鮮は演習中止のほか、鉱物の輸出と石油の輸入を求めているということです。北朝鮮は2017年、国連安全保障理事会から、ガソリンや灯油など石油精製品の輸入量を9割減まで制限し、石炭、鉄、鉄鉱石などの輸出を全面禁止する制裁を受けており、北朝鮮は今回、制裁の主要部分を解除するよう要求しています。また、中国外務省によれば、王毅国務委員兼外相は、訪問先のイタリアの首都ローマで韓国の鄭外相と会談、王氏は、朝鮮半島情勢について「近ごろ新たな変化が表れている」と指摘、その上で、北朝鮮と米国が「適時、対話を再開することが望まれる」と述べたということです。王氏は「南北関係の改善と発展を支持している」とも発言したといいます。中国は、北朝鮮に対する影響力を保持しており、中国外交担当トップの楊共産党政治局員が北京で、北朝鮮の李駐中国大使と会談、中国外務省の発表によると、双方は朝鮮半島問題など「共通の関心事について意見交換し、意思疎通や協力を引き続き強化」することで一致したということですが、詳細については明らかにされていません。

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく勧告事例(佐賀県)

佐賀県公安委員会は、暴力団と知りながら利益を与えたとして、佐賀県暴排条例に基づき、佐賀県内の飲食業など五つの事業者に勧告を行っています。また、同県内の暴力団組長と組員の2人にも供用を受けないように勧告しています。報道によれば、2012年の同条例施行以降、勧告は8例目となるということです。勧告を受けたのは、飲食業、陶器製造販売業、電気工事業、園芸サービス業、板金塗装業の経営者5人で、昨年12月、組長らから馬刺しやふぐ鍋セットなど1点ずつを2万円で購入、組長らは暴力団の運営などに利用する目的があり、5人は暴力団の活動を助長することになると認識していたといいます。

▼佐賀県暴力団排除条例

本条例では、第22条(利益の供与等の禁止)第3項で、「事業者は、前2項に定めるもののほか、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等指定者に対し、情を知って、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与をしてはならない。ただし、法令上の義務又は情を知らないでした契約に係る債務の履行として利益の供与をする場合その他正当な理由がある場合は、この限りでない。」と規定されています。また、第6章第23条(暴力団員等が利益の供与を受けることの禁止)において、「暴力団員等は、情を知って、事業者から当該事業者が前条第1項から第3項までの規定に違反することとなる利益の供与を受け、又は事業者にこれらの規定に違反することとなる暴力団員等指定者に対する利益の供与をさせてはならない。」との規定もあります。本事例は、事業者も暴力団員もこれらの規定に抵触したものと考えられます。その結果、第27条(勧告)の「公安委員会は、第20条第1項、第22条、第23条、第24条第2項又は第25条の規定に違反する行為があったと認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反する行為をした者に対し、当該違反する行為の中止その他の必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。」との規定に基づき、それぞれ勧告が出されたものといえます。

(2)暴排条例に基づく勧告事例(大阪府)

大阪府公安委員会は、大阪の不動産業者が暴力団の組長から融資を受けてマスクなどの転売を行い、その利益を渡したとして、大阪府内の不動産業の経営者と六代目山口組の3次団体の組長に対し、取り引きをやめるよう勧告しています。報道によれば、不動産業者は今年の春先までの2年あまりの間に、暴力団の組長からおよそ3,000万円の融資を受けてマスクなどの転売を行い、利益の半分にあたるおよそ300万円を渡したということです。不動産業者は警察に対し、「当時はコロナ禍によるマスク不足が続いていて、転売の利益が大きかった。トラブルのときのために現金を渡していた」と話しているということです。

▼大阪府暴力団排除条例

本条例において、事業者については、第14条(利益の供与の禁止)第1項で「事業者は、その事業に関し、暴力団の威力を利用する目的で、又は暴力団の威力を利用したことに関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、金品その他の財産上の利益又は役務の供与(以下「利益の供与」という。)をしてはならない。」との規定が、暴力団員については、第16条(暴力団の威力の利用の禁止)第1項で「暴力団員等は、事業者から当該事業者が第14条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる利益の供与を受け、又は事業者に当該事業者がこれらの項の規定に違反することとなる当該暴力団員等が指定した者に対する利益の供与をさせてはならない。」との規定があり、それぞれ抵触したものと考えられます。その結果、第22条(勧告等)第3項の「公安委員会は、第14条第1項若しくは第2項又は第16条第1項の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な勧告をすることができる。」との規定に基づき、それぞれ勧告が出されたものといえます。

(3)暴排条例に基づく逮捕事例(東京都)

東京・上野のストリップ劇場からみかじめ料を受け取ったとして、警視庁は、六代目山口組系暴力団組長と、おいで同組幹部を東京都暴排条例違反容疑で逮捕しています。報道によれば、2人は2019年12月、台東区上野のストリップ劇場「シアター上野」付近で、劇場の男性経営者から正月飾りの代金と称し、みかじめ料3万円を受け取った疑いがもたれており、2005年から2019年までの間に少なくとも計45万円に上るといいます。なお、警視庁は、経営者についても、両容疑者にみかじめ料を支払った同条例違反容疑で東京地検に書類送検しています。

▼東京都暴力団排除条例

本条例においては、事業者(この場合は、暴力団排除特別地域内の特定特定営業者)について、第25条の3(特定営業者の禁止行為)第2項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、暴力団員に対し、用心棒の役務の提供を受けることの対償として、又は当該営業を営むことを暴力団員が容認することの対償として利益供与をしてはならない。」と規定されています。さらに、暴力団員についても、第25条の4(暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償として、又は当該営業を営むことを容認することの対償として利益供与を受けてはならない。」と規定されています。本事例においては、これらの規定にそれぞれ抵触したものと考えられ、第33条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」の「三 相手方が暴力団員であることの情を知って、第25条の3の規定に違反した者」、「四 第25条の4の規定に違反した者」に該当したとして、逮捕されたものといえます。

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