暴排トピックス

反社リスク対策を軽視していないか~内部統制システムの重要性を認識せよ

2026.05.12
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首席研究員 芳賀 恒人

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1.反社リスク対策を軽視していないか~内部統制システムの重要性を認識せよ

反社リスク対策の肝は「内部統制システム」の実効性ある運用です。当たり前のことですが、それでも反社会的勢力と企業の不適切な関係が明るみになる事例は後を絶ちません。

記憶に新しいところでは、2025年にはいわき信用組合による巨額の不正融資や反社会的勢力への資金提供問題が発覚しました。本件の最近の動きとしては、金融庁から業務改善命令を受けた同信組が2026年4月30日、業務改善計画の進捗状況の報告書を同庁に提出し、発表しています。不正にかかわった管理職25人を減給の懲戒処分とし、反社会的勢力の口座の86%を解約したといいます。記者会見を開いた同信組の金成茂理事長らによれば、一連の不祥事に関与した当時の管理職25人を同日付で減給(最大で月給の10分の1未満)処分にしたといい、管理職は支店の業績を上げるため、上司らの指示に従って行っていたといいます。また、反社会的勢力との関係を断つため、関連する口座の解約を進め、全部で100近くあるうちの8割以上を解約、5月中にはすべての口座を解約するとのことです。一方、旧経営陣の刑事告訴については「引き続き準備中」としています。

また直近では、琉球新報社の記者が、沖縄県内に拠点を置く旭琉會・糸数会長の告別式に香典を出して参列していたと公表するという事例もありました。同社は「取材目的でしたが、適切な行為とは言い難く、事実関係を詳細に確認した上で、厳正に対処します」とコメントしています。琉球新報社によれば、2026年4月25日に行われた告別式で、記者が個人名で香典2千円を出して入場し、香典返しのタオルを受け取ったということです。記者は死去した暴力団会長や遺族との縁戚関係や交流はなく、葬儀への招待もなかったとしています。会長は4月19日に沖縄市内で発生した火災で死亡していました。同社は「参列することは事前に相談はなく、関知しておりませんでした。事後に香典を出して香典返しを受けていたことを確認しました」としています。なお、この記者はかつて警察取材を担当し、現在はデジタル部門に所属していて、暴力団についての取材を継続的に行っていたということです。

さらに、少し古くなりますが、三栄建築設計創業者による暴力団組長への利益供与問題について、2023年8月15日に第三者委員会の調査報告書が公表されたことを受けて、当時、筆者は以下のようにコメントしています(暴排トピックス2023年9月号より抜粋)。

本件はまずは創業者のコンプライアンス意識の欠如によるものが極めて大きいことは明白です。相手が指定暴力団の暴力団員であると認識したうえで、その関係を長年にわたり継続し、特定の従業員を窓口として、いわば特命案件として各種の便宜を図ったのみならず、同社のトラブル案系の交渉を委ねるなどしたほか、暴力団員の紹介する業者を同社の取引に関与され経済的利益をも供与したものであり、さらには同社の接待交際費によって暴力団員と飲食をともにしていた疑いも認められるなど、プライム上場企業のトップとして、完全に不適格であると指摘せざるを得ません。さらに、報道によれば、2022年9月12日、会社法違反(特別背任)容疑で警視庁の捜索を受けたその日の夜、被疑者とされた創業者は幹部4人と顧問弁護士を集めて不満をぶちまけ、「昔からの知り合いと飲み食いしただけで何の問題があるのか。法に触れるわけではないだろう」、暴力団組長から紹介された業者に解体工事を回し、代金の一部を渡したとの疑惑については、「小切手で払えと言われて、自社内で払うのはリスクがあるので、法律事務所で弁護士に渡してもらうよう指示を出した。リスクヘッジしているのだから、問題はない」と釈明したといいます。この時点で辞める意思はなかったといいますが、社外役員や金融機関の圧力が強まり、1カ月半後には辞任、事件は2023年6月、東京都公安委員会から勧告を受ける形で表沙汰になりました。こうした言動を見るにつけ、創業者のカリスマ性は、会社の成長の原動力であると同じくらい、会社にとっての大きな爆弾を抱えるという「副作用」もまた大きいということを痛感させられます。また、創業者と暴力団員とのが何らかの関係性を有していることを認識していた者もいたものと認められるものの、結局、「創業者に対してものが言えない社内の風土」があり、創業者のコンプライアンス意識が欠如した状態が是正されないまま放置される結果をもたらしたといえます。この点は、一方で、同社の役職員の間で、反社会的勢力排除の意識が十分ではなかったことをも示すものでもあります。誰も、それを深く確認しようとも、関係解消に向けて具体的なアクションを講じようともしなかった不作為につながる結果となりました。さらに、事案が発覚してからの創業者一族の排除の動きの迅速さを見るにつけ、もっと早く社外取締役との連携がなされなかったのかも悔やまれるところです。
筆者は今回、第三者委員会の報告書を読みながら、創業者という絶対的なトップに対するガバナンスをいかに実効性をもって機能させるかとともに、反社会的勢力排除のための「内部統制システム」の整備の重要性を、あらためて強く認識させられました。筆者は以前、当時上場していた不動産会社の創業者と反社会的勢力との関係が噂されていることを受けて、当該企業の過去の社内資料(稟議書や経費関連の証票類など)を精査する機会がありました。その時、正に「内部統制システムが経営者によって無力化」させられている実態、「経営陣の暴走」を誰もとめられてなかった実態を目の当たりにして、強い衝撃を受けました。こうした経験から、しっかりとしたガバナンス態勢以外にも、反社リスク対策においては、反社チェックは その一部に過ぎず、適切な「内部統制システム」を整備することが重要だと言い続けています。実際、2007年の政府指針(企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針)においては、「会社法上の大会社や委員会設置会社の取締役会は、健全な会社経営のために会社が営む事業の規模、特性等に応じた法令等の遵守体制・リスク管理体制(いわゆる内部統制システム)の整備を決定する義務を負い、また、ある程度以上の規模の株式会社の取締役は、善管注意義務として、事業の規模、特性等に応じた内部統制システムを構築し、運用する義務があると解されている」、「反社会的勢力による不当要求には、企業幹部、従業員、関係会社を対象とするものが含まれる。また、不祥事を理由とする場合には、企業の中に、事案を隠ぺいしようとする力が働きかねない。このため、反社会的勢力による被害の防止は、業務の適正を確保するために必要な法令等遵守・リスク管理事項として、内部統制システムに明確に位置付けることが必要である」と指摘されていることを、あらためて皆さまには認識いただきたいところです。

この3つの不祥事を並べてみると、内部統制システムが十分に機能していなかったことが共通しています。その点を中心に、いわき信用組合の件について、暴排トピックス2022年11月号では、以下のとおり指摘しています。

この問題の本質は、経営陣の「これで最後だからな」、「支援には多少のコンプラについてはやむを得ない」にすべてが凝縮されていると考えます。「これで最後」が通用する相手ではないのにあるまじき対応を重ねる愚鈍さ、コンプライアンスに違反し金融庁に虚偽報告をしてまでも「不祥事を隠蔽する」という前時代的な意識が根底にあることをこれほど的確に表現する言葉はないかもしれません。そして、それはまた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が要請する基本原則、すなわち「組織としての対応」、「外部専門機関との連携」、「取引を含めた一切の関係遮断」、「有事における民事と刑事の法的対応」、「裏取引や資金提供の禁止」の重要性をあらためて浮き彫りにしました。総会屋が跋扈したという時代背景は言い訳でしかありません。時代を超えて「不祥事を隠蔽しない」「資金提供を行わない」との「真っ当な感覚」を持ち合わせていれば違った展開となったはずだと、強く感じます
犯罪対策閣僚会議申し合わせとして公表された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(政府指針)においては、「反社会的勢力による被害の防止は、業務の適正を確保するために必要な法令等遵守・リスク管理事項として、内部統制システムに明確に位置付けることが必要である」との指摘がありますが、反社排除の内部統制システムはあったとしても、経営陣の恣意・悪意によりいとも簡単に無効化されることを痛感させられます。その要因としては、不祥事の隠蔽を最優先した経営陣の「前時代的な意識」がありう、さらには相互監視の効かないガバナンスの脆弱性や従業員の意識の低さなどがあげられます。

▼企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(2007年6月)

政府指針においては、反社会的勢力による被害を防止するための基本原則として、「組織としての対応」、「外部専門機関との連携」、「取引を含めた一切の関係遮断」、「有事における民事と刑事の法的対応」、「裏取引や資金提供の禁止」が掲げられていますが、いわき信組はいずれも充足していない状態です。特に政府指針において、「反社会的勢力から不当要求がなされた場合には、積極的に、外部専門機関に相談するとともに、その対応に当たっては、暴力追放運動推進センター等が示している不当要求対応要領等に従って対応する。要求が正当なものであるときは、法律に照らして相当な範囲で責任を負う」、「反社会的勢力による不当要求がなされた場合には、担当者や担当部署だけに任せずに、不当要求防止責任者を関与させ、代表取締役等の経営トップ以下、組織全体として対応する。その際には、あらゆる民事上の法的対抗手段を講ずるとともに、刑事事件化を躊躇しない。特に、刑事事件化については、被害が生じた場合に、泣き寝入りすることなく、不当要求に屈しない姿勢を反社会的勢力に対して鮮明にし、更なる不当要求による被害を防止する意味からも、積極的に被害届を提出する」、「反社会的勢力による不当要求が、事業活動上の不祥事や従業員の不祥事を理由とする場合には、反社会的勢力対応部署の要請を受けて、不祥事案を担当する部署が速やかに事実関係を調査する。調査の結果、反社会的勢力の指摘が虚偽であると判明した場合には、その旨を理由として不当要求を拒絶する。また、真実であると判明した場合でも、不当要求自体は拒絶し、不祥事案の問題については、別途、当該事実関係の適切な開示や再発防止策の徹底等により対応する」、「反社会的勢力への資金提供は、反社会的勢力に資金を提供したという弱みにつけこまれた不当要求につながり、被害の更なる拡大を招くとともに、暴力団の犯罪行為等を助長し、暴力団の存続や勢力拡大を下支えするものであるため、絶対に行わない」といった内容が記載されていますが、少なくとも最後の2項目、「不祥事を隠蔽しない」「資金提供を行わない」との姿勢を堅持しようとする「真っ当な感覚」(コンプライアンス意識)を持ち合わせていれば、違った展開となっていたと思われます。

最近、反社リスク対策が軽視されているのではないかと感じることが増えています。反社会的勢力は「目に見える」ところにはほとんどいないことから、企業の現状の反社チェックレベルでは見つけることができません。「見つからない」ことが重なれば、「どうせいない」のだからと、反社チェック自体、形式化してしまい、その結果、反社会的勢力を見つけることはさらに困難となるという「ネガティブ・スパイラル」に陥っています。さらに酷いことに、多くの企業は、そうした問題を認識することなく、「こんなものかな」「これで大丈夫だろう」と考えているフシがあります。

反社リスクを認識し、自社の反社チェックの限界をふまえ、反社リスク対策の実効性を高めていくには、「内部統制システム」における「社風」を強固なものとし、役員・従業員の意識とリスクセンスを高めることが重要となります。「内部統制システム」は「社風」と「仕組み」から成り立っていますが、「仕組み」の脆弱性を補うのは、健全な「社風」に他なりません。反社会的勢力の実態を深く理解したうえで、「絶対に関係をもたない」とする強い意識と、少しの違和感でも感じ取れるリスクセンス(これは日頃の教育や上司の姿勢などで磨いていくことが可能です)、違和感を覚えたら立ち止まり、組織として対応することが「社風」レベルにまで徹底的に落とし込まれていることが極めて重要なのです。不十分な反社チェックを形式的に実施するだけ、形式的な反社リスク対策の整備では、十分な準備をして攻撃してくる反社会的勢力へ対抗することはできません。今の時代でも、いったん関係を持ってしまえば、不可逆的に企業の存続リスクという「爆弾」を抱えることになります。

三栄建築設計問題の第三者委員会の報告書の末尾は、「今後、当社及びそのグループ会社の役職員は、かかるステークホルダーからの信頼を取り戻すべく行動しなければならない。そのためには、創業者のみに原因がある特異な事案であり、創業者が役員を辞任し、取締役の構成も変わったことをもって足りると安易に考えるのではなく、反社会的勢力との関係をもってしまうことが企業としての存立を危うくしかねない極めて深刻なリスクであることを痛感し、将来にわたり反社会的勢力との一切の関係遮断を実現しなければならないという強い意志を持ち続けていく必要がある」と指摘しています。筆者としても、反社リスクは、正に「企業の存続と従業員の人生を左右しうるほどの破壊力をもつ」重大なリスクであるという危機意識をすべての企業・役職員が持ち、反社リスク対策に資する内部統制システムを整備し、緊張感をもって業務にあたって実効性高く運用していくべきことを、あらためてお伝えしておきたいと思います。

最近の暴力団等反社会的勢力の動向を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 2023年、すでに逮捕されている人物と共謀して静岡市に住む60代の男性に約100万円を振り込ませ、うち約50万円をだまし取った疑いで、六代目山口組三代目小西一家傘下組織組長が逮捕されました。この事件では、すでに住吉会傘下組織組員らも逮捕されており、警察は複数の暴力団が組織の垣根を越えて手を組み、特殊詐欺を行っていたとみて捜査しています。前回の本コラム(暴排トピックス2026年4月号)でも「暴力団とトクリュウの一体化」の状況に加え、組織の垣根を超えた協働犯罪が散見されるようになっていると指摘しましたが、そのような状況は今後も増えていくことが予想されます。なお、この事件は、静岡・富山・鳥取・香川の4県警による合同捜査本部が捜査を進めており、住吉会幸平一家が関わる詐欺事件の捜査過程で今回の男の関与が浮上したということです。この事件を巡っては、2024年に住吉会系組員の男など詐欺グループのメンバー5人が「受け子」や「出し子」をしていたとしてすでに逮捕されています。警察によれば、複数の指定暴力団が関与する特殊詐欺事件で容疑者が逮捕されるケースは珍しいといいます。かつては組織の壁を越えて連携することはほとんどありませんでしたが、ある捜査関係者は「いまは金になるようなものは、組織関係なくとにかく手を組む。彼らは金が欲しいから集まっただけだ」と指摘しています。警察が把握しているだけでも、このグループが関与したとみられる還付金詐欺事件は全国で10件(被害額約650万円)に上ります。詐欺グループの全体像はいまだ解明されておらず、今回逮捕された男よりもさらに上位の立場の容疑者や、実際に詐欺の電話をかける「かけ子」が存在するとみられています。警察は、逮捕された男から事情を聞くなどして、犯罪グループの全容や資金の流れについて解明を急いでいます。
  • 工藤會元幹部の実刑が確定した恐喝事件の被害者が、トップの総裁、野村悟被告=別事件で二審無期懲役、上告=ら3人に損害賠償を求めた訴訟の判決が福岡地裁であり、裁判長は請求通り計約1450万円の支払いを命じました。提訴前の弁護士費用などを福岡県警が負担する制度を利用した訴訟で初の判決となりました。裁判長は判決理由で、元幹部は毎月自身を通じ会に現金を納めないと、北九州で居住や仕事ができないと「会に対して、何らかの筋は見せないかんよ」などと示唆しており、暴力団対策法上の威力を利用した行為だと指摘、元幹部に加え、暴力団対策法の「代表者等」に当たる野村被告とナンバー2の会長、田上不美夫被告=同=に賠償責任があると認めました。被告側は、野村被告が隠居の立場だったと主張しましたが「最終的な意思決定を行っていると認められる」と退けています。判決によれば、元幹部は2018年12月~2022年3月、40回にわたり計1200万円を脅し取ったといい、2023年に福岡地裁小倉支部から懲役4年の判決を受け、その後確定しています。また、野村被告を巡っては市民襲撃事件を巡る訴訟で、これまでに合わせて1億円以上の賠償金を支払う判決が確定しています。
  • 工藤會トップの自宅兼事務所に対する使用制限命令の延長をめぐり、工藤會側が「先代は引退した」などとして、通知書の受け取りを拒否していたことが分かりました。野村悟被告の自宅兼事務所は、暴力団対策法に基づき、福岡県公安委員会が2014年11月以降、使用を制限しています。福岡県公安委員会は、制限の期間を3か月延長する命令を出しましたが、この延長の通知書を工藤會側に送ろうとした際、組幹部が「先代は引退したので工藤會とは関係がなく、自分が受け取る理由がない」として通知書の受け取りを拒否したということです。警察は引き続き、野村被告の「引退」が事実かどうか確認を進めるとともに、工藤會会の動向を注視するとしています。
  • 2026年4月、沖縄市の集合住宅で暴力団の事務所として使われていた4階部分が全焼し、焼け跡から1人が遺体で見つかった火事で、死亡したのは旭琉會の糸数会長と確認されました。死因は一酸化炭素中毒でした。警察によれば、糸数会長はこの事務所に住んでいて、出火当時、1人でいたということです。周囲の防犯カメラの映像などから事務所内部から火が出たとみられ、これまでのところ、外部から第三者が侵入した形跡などは見つかっていないということです。警察が引き続き火事の原因を調べています。沖縄の暴力団は身内で血を流し続けた過去があり、幾度の抗争で一般市民にも犠牲者を出し、暴力団対策法制定の一因になったほどですが、ようやく平穏を取り戻した矢先にトップを失うという事態に見舞われました。糸数会長が旭琉會の当代である二代目会長を襲名したのは2025年2月ですが、長い時間をかけて調整は白紙撤回され、すべて一からやり直しになります。5次に渡る苛烈な抗争を経て、四代目旭琉会と沖縄旭琉会が大同団結、ようやく「旭琉會」として一本化したのは2011年でした。また2019年7月、沖縄のカリスマだった初代・富永清会長が亡くなってからも、実に5年もの間、トップ不在の状態が続いていました。糸数会長の旭琉會の二代目襲名は慎重かつ入念な根回しを経て実現したものでした。糸数会長の急逝について、沖縄県警は六代目山口組トップである司忍組長の出身母体である弘道会四代目を襲名した野内正博会長が、糸数会長の兄弟分だった事実を警戒しているといいます。「もはや昭和や平成ではない。山口組とて、このご時世に強引な横やりを入れるはずもない。だが歴史を見れば、沖縄をかき回したのは山口組だ。沖縄のことは沖縄で決めるにしても、予想外の事態だけにすぐに跡目は決められないだろう」(警察関係者)との見立てですが、一方で、六代目山口組の全国制覇の動きも各地で着々と進められているようにも見えます。いずれにしても、沖縄暴力団社会に大きな試練が訪れたのは間違いないところです。
  • 組員のトラブルで差し押さえられた神戸山口組・井上邦雄組長の自宅の強制競売で、神戸地裁は、約8089万円で落札していた民間企業への売却を許可しました。地裁は民事執行法に基づき、落札企業の役員が暴力団員ではないことを確認したといいます。井上組長は東京のコンサルティング会社側と傘下組員とのトラブルを巡る裁判で、暴力団対策法の使用者責任に基づき、約2億7千万円を支払うよう命じられました。同社が強制競売を申し立てたため、同地裁は差し押さえ後に入札を実施、2026年3月24日、群馬県高崎市の企業が落札していました。元組員は「競売で自宅がとられたら、井上組長がどこに住むことになるのか。暴力団は賃貸物件は借りれないし、ましてや抗争で狙われる立場の井上組長。そのへんのマンションに転がり込むようなことはできません」と、組長の行く末を危惧していましたが、筆者としても興味があるところです。
  • FRIDAYデジタルによれば、国内最大の違法スカウトグループ「ナチュラル」の捜査班の中心メンバーでありながら、会長ら幹部の動向を監視するカメラの画像や設置場所などの捜査情報を漏らしたとして、元警部補が地方公務員法違反で逮捕・起訴されましたが、この元警部補以外にも「取り込まれている」警察官がいる疑いがあるといいます。ナチュラルの現役メンバーも、これを裏付ける証言を同誌に行っており、「警視庁だけでなく、全国の主な警察当局に複数のルートがあります。内通者はまだまだいますので、一人いなくなったくらいでは影響ありません。今も捜査情報は入手できています」といいます。この疑惑は警察当局も把握しており、地方の警察も含めて密かに内部調査が進められたというが、成果は上がらずこのまま終息に向かう可能性が高いといいます。本件については、警視庁が中心になって、なりふり構わぬ頂上作戦を展開、会長の「木山」こと小畑寛昭容疑者を東京都暴力団排除条例違反容疑で逮捕しましたが、取り調べは難航しているといいます。「最初の容疑はスカウト行為を容認してもらう代わりに暴力団にみかじめ料を払ったというもの。その後、複数の女性を風俗店に紹介したとして職業安定法違反で再逮捕を繰り返しているが、本人がほぼ黙秘していることもあり、実態解明にはほど遠い状態だ」(捜査関係者)といいます。末端のスカウトと最高幹部との間には何重にも障壁があり、会長を共犯に問うことについて「公判維持が難しい」という指摘もあるようです。犯罪収益を隠匿したとして組織犯罪処罰法違反での立件も検討されていますが、ナチュラルのメンバーは自ら開発した秘匿性の高い「闇アプリ」を使用しているため、物証も極めて少ないのが実情です。一方、ナチュラルは「会長の逮捕がニュースで取り上げられた際に、一部の若いメンバーが摘発を恐れて離れました。最盛期の2000人から比べると200~300人は減ったかもしれませんが、組織を解散するという話はまったく出ていません。資金もまだ豊富にありますよ」とのことであり、現在は会長の双子の弟を中心に、古くからの幹部らが集団で組織運営にあたっており、会長の意向も弁護士を通じて伝えられているといいます。警察に知られた組織専用アプリを作り直す動きがあり、そのためのIT人材も採用しているといいます。契約先の風俗店の中にはナチュラルとの取り引きを止めたところもあるため、現場のスカウトたちの給料は少し減ったといいますが、支払いが滞ることはないといいます。執行猶予付きの判決を受けた元警部補は「報復が怖い」として公判で情報を漏洩した相手について、口を割りませんでしたが、旧知の警察関係者には「今後の生活は、面倒を見てくれるところがあるので大丈夫です」という趣旨のメッセージを送っているといいます。ナチュラル側から弁護士費用名目で多額の資金提供の申し出があった、という情報もあり、「再度取り込まれるおそれもある。当分の間は動向を監視し、必要に応じて尾行もつけざるを得ない」(捜査関係者)といいます。

現代ビジネス誌上で溝口敦氏のコラムが集中的に連載されていますが、その中から、興味深い指摘を紹介します。「今後やくざ、暴力団への志望者はますます減り、暴力団は高齢化する一方だ。若い組員はいなくなる。若い者が集まらない業種に明日はない。暴力団に将来性がないのは当然すぎるほど当然だろうーということだ。以前はやくざに流れたような人材が今は匿流に流れている。現在は若者が生活しにくい時代だから「反社」(反社会的勢力)に流れる若者も多いにちがいない。警察は暴力団も匿流も「反社」に分類するが、それらの人材源はやくざ全盛だった時代より、むしろ膨らんでいる可能性が高い。警察庁は2024年末の時点で暴力団勢力は準構成員を含め2万人を下回るとしている。対して匿流のメンバーは掴めず、不明であり、単に警察の摘発した人数が1万105人と発表している。暴力団の摘発人数8249人より多い、と。匿流として摘発された人数1万105人のうち、SNSの闇バイト募集で応募した者が4割近くを占めたというから、要するに使い捨て要員を含んでおり、匿流本体のメンバー(構成員)ではない。しかも匿流の実数は把握できず、発表したくても発表できない。警察は匿流の実態、中枢部を把握できていない。SNSなどでの闇バイト募集に応募するような連中はその時々の状況次第だから、実数を把握できなくて当然だが、問題になるのは架け子などの中枢部である。特殊詐欺の場合、ターゲットに電話をかけ、ターゲットにカネを払ってもいいと思わせる架け子がヒーローであり、それが中枢部なのだ。ターゲットが実際にカネを用意し、ATMなどで振り込むとする。そのカネをATMから引き出す「出し子」、あるいは現金を手渡しで受け取る「受け子」は常にATMやコンビニに設置された防犯カメラで顔や服装を撮影される危険がある。あるいは「だまされたフリ」作戦であらかじめ張り込んでいる警官に現行犯逮捕される危険もある。そういう危険があるから、中枢部は「出し子」や「受け子」を最初から作業アジトに入れない。彼らに自供されたらその匿流グループは全滅するからだ。中枢部を守るために闇バイトに応募した者など使い捨て要員をどうしても起用せざるを得ない。問題は匿流の中枢部がどのくらいの数、暗躍しているのか、警察が把握できず、今後ともできないと予想される点にある。中枢部は架け子の集団であり、そこがターゲットの絞り込みや計画の決定、役割(ターゲットの子供や孫、警官、弁護士、会社の上司などを装う各役割)の分担など、詐欺の計画、遂行に当たる中核部分である。もちろん詐取したカネの大半を握るのも中枢部である。暴力団について把握できるのは暴力団が構成員の氏名などを公表し、かつ警察が組員を逮捕した際、個人カードに組員の詳細を記入できるからだ。警察にはデータベースがあり、捜査員は必要の都度、それらを参照することができる。匿流にはそうしたデータが一切ない。では、被害状況から両グループの概況を掴むことはできるのか」、「特殊詐欺は匿流が行うことが多い。対して恐喝や強要は暴力団が得手とする犯罪である」、「要するに詐欺の大半は匿流、プロの詐欺師などによって行われ、暴力団が関与する割合は少ない。なぜ暴力団の関与が少ないのか。理由の一つは組員が民法による組長の「使用者責任」を問われることを恐れ、上層部もまた特殊詐欺に手を出すな、と組員たちに指導しているからである。詐欺による被害額はほとんど被害者に返されることがない。まず詐欺犯は捕まえにくいし、その上詐欺の実行犯が逮捕されても、その者はすでに費消してカネがなく、被害者に弁償することができないからだ。もし、その詐欺犯罪に一人でも組員が加わっているなら、被害者は被害額の多くは組長に上納されているはずだ、と裁判に訴え、ほとんどの場合、被害者が勝訴する。組長はカネを持っている。被害額や慰謝料を優に支払う能力がある。それで使用者責任の裁判を被害者にかまされると、実際に上納された、されないに関係なく、組長には支払う義務が生じてしまう。暴力団の首脳部はこうした事態を避けるため、組員には特殊詐欺に関わるなと口を酸っぱくして注意する。善悪の問題ではなく、損得の観点から特殊詐欺には関わるなと強調しているのだ」というものです。

溝口氏による論考として現代ビジネスがらもう1つ紹介します。「匿流(匿名・流動型犯罪グループ)や闇バイトが行う犯罪に対し、メディアや警察はよく「暴力団の資金源になるかもしれない」などとコメントを付している。事件が暴力団がらみになることでより重要度を増すと考えているのか、読み違えも甚だしい。匿流幹部の中にやくざ好きがいることはいるし、中には暴力団にケツ持ち(後見人)を頼んでいる幹部もいるが、両者は別物であり、ふつう人事面でも資金面でも交流はない」、「暴力団は2024年末、構成員1万人を切った。構造不況業種といってよく、売り上げも収益もメンバーもすべて史上最低レベルに落ち込んでいる。だからこそ警察庁の露木康浩長官が2024年暮れに「これまでの暴力団対策から匿流対策へと大きくシフトすべき転換期にある」と全国の幹部に指示したのだ。匿流のメンバーは、50~80代が大半の暴力団構成員に比べ若い。IT機器にもある程度通じているし、前記したように新シノギの創造力もある。暴力団が掲げる擬制血縁関係による家父長制原理、上下関係を馬鹿らしく思い、学校や勤め先、暴走族時代の気軽な先輩ー後輩関係の延長でシノギを続けたい。暴力団の組員より金回りがいい。組員と違い、暴対法や暴排条例の縛りがない。銀行口座もカタギ同様(というより法的にはカタギだから)自由に開設できる。世間体がよく、何食わぬ顔で子育てもできる。またやくざと付き合うと、たかられるばかりで損と考えている。こういう匿流メンバーが暴力団に接近する理由はない。だが、逆にやくざからの接近はある」「そうした仕事の実入りは少ないから「暴力団の資金源」にはなりようがない。今、暴力団の中堅以下組員の生活レベルは住民税の非課税世帯ギリギリなのだ。とうてい新シノギの開業資金など用意できない」、「組員の個人犯罪などに対しては匿流同様、知らんぷりか、破門、絶縁などの罰を加える。また貧しい組にあってはジギリでの褒賞さえ略す場合がある。暴力団も匿流も下位メンバーや使い捨て要員に対する冷たさは同じだ。匿流は内界と外界をきっちり分け、彼らが外界に属すると見る闇バイト応募者などに対しては、彼らの犯罪結果に対して知らんぷりをする。そうでなくてもカネの受け取り役や実行犯は足がつきやすい。そんな者の面倒をヘタに見ると、自分たち中枢にまで累が及ぶと考えて、一切頬かぶりする。バイト募集で報酬を約束していても、そのジョブが失敗すれば、約束した報酬も反故にして、一切、無視する。その代わり中枢部が属する内界では親密な仲間内関係を維持する。与える給与の類いも一流企業の重役を超えるかもしれない」、「警察は暴力団に対しては組員の個人データさえ蓄積している。対して匿流に対しては情報の蓄積がまるでない。そのグループにしても、なにしろ匿名で流動型だから、基礎資料がまるでなく、暴力団を相手にするのとちがって特別法もない。匿流が暴力を好きということはない。暴力団は暴力という特質を使って暴力団を定義できるが、匿流を準暴力団などと名付けてごまかすことはできない。匿流が好きなのはカネだけである。だから匿流は定義するのが難しく、暴力や親分ー子分などの家父長制といった組織の特性に着眼して、暴力団を定義するのとはまるで次元が違う」、「一般人が匿流と同じ犯罪組織のメンバーになり得るのだ。警察がこれからも捜査に困惑するのは当然だが、考えてみれば暴力団が存在しない先進諸国ではいわば匿流型の犯罪組織と日々戦って、それなりの成果を挙げているのだろう。日本の警察にも諸外国並みの成果を期待できるかもしれない」というものです。こちらもなかなか興味深い内容が詰まっています

政府は、インテリジェンス(情報活動)機能を強化するため、架空のパスポートなどを使った仮装身分の導入を検討する方向で調整に入りました。2027年度末までに「対外情報庁(仮称)」を創設する方針で、情報活動の従事者が海外で活動する際などの安全確保につなげる狙いがあります。複仮装身分は米国や英国、中露などが情報活動で用いられ、2026年7月にも立ち上げる情報活動に関する有識者会議で、検討課題に上がる見込みです。国内では闇バイトが絡む犯罪への対応で、架空の身分証を使う「仮装身分捜査」が導入されています

ロシアのウクライナ侵攻が5年目に入る中、ウクライナを支援する欧州諸国では、ロシアが仕掛けたとみられる破壊工作が活発化しています。民間人に甚大な被害が出かねなかった事件もあり、「戦線」は欧州に拡大しているともいえます。リトアニアから2024年7月に英国とポーランドへ発送された3個の小包が発火した事件を巡り、関係国の合同捜査チームが22人の容疑者を特定し、ロシアの軍事情報機関が関与したとみられると発表しました。小包には爆発装置が入っており、1個は空輸直前のドイツの空港で発火、もし空中の機上で発火していれば、重大な航空機事故につながっていた可能性が高いとされます。他にもショッピングモールへの放火や線路の爆破など、ロシアの関与が疑われる破壊工作が2022年2月のウクライナ侵攻開始以降、欧州各国で相次いでいます。ロンドンでもウクライナ向けの人道支援物資などが保管されていた倉庫が放火され、2000キロ以上も離れた国で起きている戦争の物理的脅威が、自分が暮らす地域にも及びうるという現実を認識させられています。いずれの事件も実行犯は、ロシアの情報機関などが報酬を餌にオンラインで募集したとみられる外国籍の若者が多く、日本の「闇バイト」に近い構図です。ロシアが他国民に「外注」した疑いが強いスパイ活動も欧州でたびたび摘発されています。破壊工作の狙いは、社会不安を増幅させ、ウクライナ支援に慎重になる国を増やすことだとされます。意外なことに、実行犯にウクライナ人が少なくなく、侵攻により故郷を追われて困窮した若者が、侵攻した側のロシアに雇われ、祖国を支える国々を攻撃する皮肉が現実のものとなっています。ロシアは反ウクライナ感情を広げるため、戦略的にウクライナ人を勧誘しているとみられています。米シンクタンクの欧州政策分析センターが公表した報告書で「ロシアは(侵攻の)被害者と加害者の境界をぼかし、ウクライナへの同情を武器化しようとしている」と指摘しています。こうしたロシアの「影の戦争」は、欧州の治安を脅かしているといえます。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFT/CPFを巡る動向

不動産や貴金属などの取引を隠れみのに犯罪収益をマネー・ローンダリング(マネロン)する事件が相次いでいます。前回の本コラム(暴排トピックス2026年4月号)でも取り上げましたが、疑わしい取引の届出では非金融分野の事業者(DNFBPs)の報告が極めて少ないと犯罪収益移転に関する年次報告書(令和7年)で「非金融分野の取引で多数の疑わしい取引に関する情報が潜在している」と厳しく指摘されており、価格高騰を背景に犯罪集団が抜け穴として悪用している可能性があります(本コラムでは「犯罪インフラ化している」と指摘しました)。犯罪収益のマネロンは金融機関などの複数の口座を介して次々に移転させる方法が主流ですが、2025年は不動産や貴金属といった非金融分野を利用したケースが広がりつつあります。警視庁が2025年10月、組織犯罪処罰法違反などの疑いで逮捕した中国籍の女らは、カンボジアの特殊詐欺グループがだまし取った資金の一部を管理、中国人富裕層が都内などの高級マンションを購入する際の「手付金」にあて、購入者から中国元で代金を回収していました。2025年11月に同庁が摘発した中国人グループは、密輸や特殊詐欺で入手したとみられる金地金に、偽の実在する大手貴金属会社名を刻印、買い取り業者らに売却し、約100億円に及ぶ売却代金を暗号通貨に替えていたとみられています(いずでも以前の本コラムで紹介した事例です)。警察庁によれば、不動産や貴金属・宝石の取引を介した犯罪収益隠匿事件は2022年ごろから増え始め、2024年までの3年間で11件に上りました。不動産や金は価格が高騰し、多額の現金と容易に交換できるため、マネロンに利用しやすく、マネロン対策で監視を強化する金融機関を避ける狙いもあると考えられます。犯罪収益移転防止法は「特定事業者」に、十分な本人確認ができない取引などマネロンにつながる恐れがある「疑わしい取引」を届け出るよう義務付けており、情報は警察庁に集約され、事件捜査などに活用されています。特定事業者は金融機関のほか、宅地建物取引業者や宝石・貴金属取扱事業者といった非金融事業者、弁護士、司法書士らも含まれ、2025年の届け出件数は、金融機関の監視強化を背景に約102万件と5年間で倍増したのに対し非金融分野の届け出は439件で、全体の0.04%程度にとどまっています。国内では経営規模が小さい事業者が多く、即座に不審と判断できるような定型的な取引事例の蓄積が少ないことなどから対策が進んでこなかった可能性がありますが、それでいいことにはなりません。マネロン対策を担う国際組織の金融活動作業部会(FATF)は2028年に日本に対する第5次審査で非金融事業者の対策も重点的に調査する予定です。専門家は「業界の対応期間が短く、国際的には規制が有効に運用されていないと評価される恐れがある」と警鐘を鳴らしていますが、筆者も同感です。警察当局は各業者を管轄する省庁とも連携し、制度の浸透を急いでいます。2025年10月には国土交通省の働きかけを受け、宅地建物取引業関連の6団体でつくる協議会は疑わしい取引の届出の徹底を確認したほか、政府は2026年度までに不動産や貴金属業界などを対象にした「疑わしい取引の参考事例」などを盛り込んだガイドラインも改定する方針です。報道で警察幹部は「非金融分野の管轄省庁は複数にまたがり、全国的な業界団体がない業種もある。都道府県警を通じて事業者にマネロン対策の必要性を説明し、制度への理解を深めていきたい」と述べています。

関連して金融庁など4省庁は、暗号資産を用いた不動産取引についてマネロン対策を徹底するよう関連する業界団体に要請、不動産を使った金融犯罪への対策を強化する狙いがあります。財務省や国土交通省、警察庁との連名で、全日本不動産協会など7団体に求めました。要請では不動産業者が不動産の買い主から暗号資産を受け取り、法定通貨を売り主に支払うと、不正な営業になる場合がある(暗号資産交換業の無登録営業に当たる可能性がある)と指摘、マネロンが疑われる取引の届け出や通報の徹底のほか、国内非居住者が不動産を取得した場合、外為法に基づく報告義務があることなどを各業者に周知するよう求めています。暗号資産を使った取引の実態を把握する目的もあります。

▼金融庁 暗号資産を用いた不動産取引に関する要請について
▼暗号資産を用いた不動産取引について(要請)
  • 宅地建物取引業者が取り扱う不動産は、財産的価値が高く、多額の現金との交換を行うことができることから、マネー・ローンダリング等に悪用される危険性があります。
  • また、近年では資産の保全又は投資を目的として不動産が購入される場合も多く、国内外の犯罪組織等が犯罪による収益の形態を変換する目的で不動産取引を悪用する危険性もあるところです。
  • 特に、その移転が国境を越えて瞬時に行われる性質を有する暗号資産は、マネー・ローンダリング等を目的として不動産取引の決済方法として利用される危険性が高いと思われます。
  • つきましては、傘下会員に対して、
    • 暗号資産を法定通貨に交換、交換の媒介等をする行為は暗号資産交換業に該当する可能性があり、当該行為を暗号資産交換業者としての登録を受けずに行うことは資金決済法に違反するおそれがある旨に留意すること
    • また、無登録で暗号資産交換業を行っている等の疑いがあることを発見した場合には警察当局に情報提供を行うとともに、宅地建物取引業者が自ら売主となり売却代金として暗号資産を受け取り法定通貨に換金するなど暗号資産交換業に該当しない行為を行う場合にも無登録の暗号資産交換業者を利用しないこと
    • 宅地建物取引業者において、暗号資産を用いた不動産取引を行う場合については、犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)に基づく取引時確認を厳格に行うとともに、所管行政庁への疑わしい取引の届出、及び事件性が疑われる場合の警察当局への通報を適切に行うこと
    • 暗号資産交換業者において、例えば、顧客が不動産売買代金を暗号資産により受け取り、顧客の属性に見合わない高額な取引を行おうとしている場合等、取引に不審な点が認められる場合には、犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づく取引時確認を厳格に行うとともに、所管行政庁への疑わしい取引の届出、及び事件性が疑われる場合の警察当局への通報を適切に行うこと

など、暗号資産を用いた不動産取引の健全性を確保するための対応について周知方宜しくお願いいたします。

  • なお、こうした実態把握の観点からも、外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)では、(1)海外から3,000万円相当額を超える暗号資産等を受領した者については「支払又は支払の受領に関する報告書」、(2)非居住者が本邦にある不動産等を取得した場合には「本邦にある不動産又はこれに関する権利の取得に関する報告書」(令和8年4月1日以降に本邦にある不動産を取得した場合には、取得の目的を問わず、報告対象となっております。)を提出する義務があるため、併せて対応・周知方宜しくお願いいたします。

暗号資産・電子決済手段の取引経路を追跡できるようにするため「トラベルルール」が導入されていますが、直近で対象となる法域が追加されていますので、「トラベルルール」の再確認の意味も込めて、紹介します。

▼金融庁「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令第十七条の二及び第十七条の三の規定に基づき国又は地域を指定する件の一部を改正する件(案)」の公表について
  • 本件は、犯罪による収益の移転防止に関する法律第10条の3及び第10条の5の規定に相当する外国の法令の規定による通知の義務が定められていない国又は地域(以下「法域」)として、金融庁長官及び財務大臣が指定する法域について、各法域における法令の施行状況を踏まえ改正するものです。
▼(資料1)トラベルルールの対象法域について
  • 我が国は、暗号資産・電子決済手段の取引経路を追跡することを可能にするため、暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者(VASP)に対し、暗号資産・電子決済手段の移転時に送付人・受取人の情報を通知する義務(トラベルルール)を課している。
  • 通知対象の国又は地域(法域)の法制度が整備されていなければ通知の実効性に欠けること等に鑑み、トラベルルールの対象は、我が国の通知義務に相当する規制が定められている法域に所在する外国業者への移転に限ることとしている
  • 今般、各法域におけるトラベルルールの施行状況(注)を踏まえ、下表の法域を追加することとする。(注)各国のFATF相互審査結果及びそのフォローアップ報告書、法令・ウェブサイト等を参照し確認したもの
  • 現在の対象法域(58法域)
    • アイルランド、アメリカ合衆国、アラブ首長国連邦、アルバニア、イスラエル、イタリア、インド、インドネシア、ウズベキスタン、英国、英領バージン諸島、エストニア、オーストリア、オランダ、カナダ、キプロス、ギリシャ、クロアチア、ケイマン諸島、ジブラルタル、ジャージー、シンガポール、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、セルビア、大韓民国、チェコ、デンマーク、ドイツ、トルコ、ナイジェリア、ナミビア(暗号資産のみ)、バーレーン、バハマ、バミューダ諸島、ハンガリー、フィリピン、フィンランド、フランス、ブルガリア、ベネズエラ、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、香港、マルタ、マレーシア、マン島、南アフリカ共和国、モーリシャス、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、ルーマニア、ルクセンブルク
  • 今回追加する法域(5法域)
    • アンギラ、オマーン、キューバ、ドミニカ国、ボツワナ
▼(資料2)トラベルルールについて
  • 暗号資産・電子決済手段の移転に係る通知義務(トラベルルール)2023.6.1施行
    • 暗号資産・電子決済手段の取引経路を追跡することを可能にするため、暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者(以下「VASP」という。)に対し、暗号資産・電子決済手段の移転時に送付人・受取人の情報を通知する義務を新設
  • 対象とする移転[法第10条の3、第10条の5]
    • 国内VASPへの移転・外国VASP(資金決済に関する法律に規定する外国暗号資産交換業者・外国電子決済手段等取引業者)への移転を対象とする(個人・無登録業者は対象外)。
    • 金額、種類にかかわらず、全ての移転を対象とする(電子決済手段のうち特定信託受益権は対象外)。
  • 除外される移転[政令第17条の2、第17条の3]
    • 我が国の通知義務に相当する規制が定められていない国又は地域に対する移転については、除外する。(告示指定)
  • 通知事項[規則第31条の4、第31条の7]
  1. 送付人情報
    1. 自然人
      • 氏名
      • 住居or顧客識別番号等
      • ブロックチェーンアドレスor当該アドレスを特定できる番号
    2. 法人
      • 名称
      • 本店又は主たる事務所の所在地 or顧客識別番号等
      • ブロックチェーンアドレスor当該アドレスを特定できる番号
  2. 受取人情報
    1. 自然人
      • 氏名
      • ブロックチェーンアドレスor当該アドレスを特定できる番号
    2. 法人
      • 名称
      • ブロックチェーンアドレスor当該アドレスを特定できる番号
  • 通知事項の記録・保存義務[規則第24条]
    • 通知した事項・通知を受けた事項について記録・保存義務を課す。

マネロン対策の近接領域である「金融犯罪」への対応も急務となる中、被害の大きいフィッシングによる不正送金・不正取引対策として、「フィッシング耐性のある多要素認証等」の導入が推奨されています。あらためて、金融庁から広報されていますので、以下、紹介します。

▼金融庁 フィッシング耐性のある多要素認証等に係る官民一体・業界横断的な広報について
  • 金融機関を騙ったフィッシングによる不正送金・不正取引被害が増加しているため、金融庁ではフィッシング耐性のある多要素認証の導入等を盛り込んだ監督指針・事務ガイドラインの改正を実施しています。
  • 今般、銀行・信用金庫・信用組合・労働金庫・証券会社と金融庁・警察庁が連携し、フィッシングメールへの注意喚起およびフィッシング耐性のある多要素認証を国民の皆さまに周知するため、官民一体・業界横断的な広報コンテンツを作成しました。
  • フィッシング耐性のある多要素認証等について説明しておりますので、是非ご覧ください。
▼3.フィッシング耐性のある多要素認証編(詳細版)
  • フィッシングに耐性のある「多要素認証」が効く!
    • 昨今、証券口座への不正アクセスが発生しています。その手口は、メールやSMSなどで実在する金融機関のウェブサイトを装い、フィッシングサイトへ誘導するものです。誘導先のサイトでIDやパスワードなどを入力してしまうと、これらの情報が盗み取られ、証券口座に不正アクセスされるおそれがあります。
    • 他にも金融犯罪者があなたのスマホやパソコンなどをマルウェアに感染させ、リアルタイムでそれらの端末を監視するとともに操作し、個人情報を窃取するなどの犯罪がひろがっています。
  • パスワードを入力する必要がない、安全性の高い仕組みでなりすましを防ぐ!
    • メールやSMSに届くワンタイムパスワードを利用した多要素認証は、リアルタイムフィッシングに脆弱なほか、中間者攻撃、マルウェアによる窃取等により突破される場合があります。
    • リアルタイムフィッシングとは…金融犯罪者が利用者から入力された認証情報を即座に盗み取り、リアルタイムに正規サイトへ不正ログインする手口
      1. パスキーによる認証
        • パスワードの代わりに生体認証(指紋認証や顔認証)、PINコードなどを使ってログインする、より安全で簡単な次世代認証方式です。パスワードを覚える手間もなくセキュリティと利便性を両立できます。
      2. PKI(公開鍵基盤)による認証
        • 公開伴と秘密伴のキーペアからなる技術で、信頼できる第三者(認証局)を通じて、本人であることを電子的に証明する仕組みです。マイナンバーカードを認証に利用することもできます。
  • パスキーやPKIには以下のメリットがあります。
    1. パスワードレスでより安全
      • 端末に保存された秘密伴や電子証明書を使用し認証するため、パスワードの入力が不要
    2. フィッシングサイトをブロック
      • 端末側で本物サイトか確認するため、人間に代わってフィッシングサイトをブロック
      • 金融機関から強力な認証方式が提供されている場合は積極的に利用しましょう。金融機関から強力な認証方式が提供されている場合は積極的に利用しましょう。
▼5.フィッシングメール注意喚起編(詳細版)
  • ブックマークやアプリなどを使った正しいログインならフィッシング被害に遭わない
    1. 公式サイトをブックマーク
      • ウェブブラウザでよく見るページを登録しておいて、すぐ開けるようにする機能のことです。検索エンジンで正規サイトにアクセスしたらブックマークを心がけましょう。
    2. 公式アプリ
      • 正規のアプリストアで配布されているアプリは開発元が明記されていて信頼できるものです。アプリをインストールする際は正規のアプリストアからインストールしましょう。
  • そのほか金融機関ではさまざまな対策を講じています
    1. フィッシングサイトの検知・閉鎖活動の強化
      • フィッシングサイトの立ち上がりを監視し、検知したフィッシングサイトの閉鎖。
    2. メールの送信ドメイン認証
      • なりすまされているメールは受け取らないと受信側に対してメールの受信拒否を要求するDMARCという技術。
      • メールを送信した企業のブランドアイコンが受信メールフォルダに表示されるBIMIという技術。
  • ウェブサイトトップだけでなく、アプリ内通知や定期メール、ログイン時に閲覧しなければ先に進めないなどの方法により、必ず注意喚起に目を通すような措置を講じています。
  • 金融機関では送信ドメイン認証技術の導入やフィッシングサイトの速やかな閉鎖など、フィッシング対策を講じていますが、完全に防ぐことはできません。利用者も自身の身を守るために注意することが必要です
  • 金融機関名のメールであっても偽物の場合があります!送信アドレスやリンクを注意して確認!ブックマークした公式サイトや公式アプリからアクセス!
  • ご自身でできる7つの対策
    1. 不審なリンクは開かない
      • 不審なメールまたはSMSや添付ファイル、リンクを開かないこと。
    2. パスワードは使いまわさない
      • パスワードは推測が容易な単純なものを用いず、また、同じパスワードを使いまわさないこと。
    3. 強力な認証方式を利用する
      • 金融機関から強力な認証方式が提供されている場合は積極的に利用すること。
    4. 適切な上限を設定する
      • 金融サービスにおける取引や振込の上限は取引の実態に合わせて適切な金額を設定する。
    5. 公式サイトの利用を徹底する
      • ソフトウェアは必ず公式サイトや正規のアプリストアからダウンロードすること。
    6. 不自然な画面に注意する
      • 普段と違うログイン画面、不自然なポップアップ、追加の個人情報入力要求などが出た場合は閉じること。
    7. 通常と違う入力指示には警戒する
      • ブラウザから通常行わないキーボード操作、特にCtrl+V等のショートカット実行などを求められても実行しないこと。

活動実態がない宗教法人を第三者が取得し、脱税やマネロンなどの違法行為に悪用するケースを防ぐため、文化庁は、対策を議論する初の検討会を開きました。同庁は宗教法人を所管する都道府県向けのガイドラインの年内策定を目指しています。文化庁は2026年4月から、全国に約18万ある宗教法人のうち、約1割の法人に対して不正利用に関する調査を実施、調査結果を基に悪用の具体例を盛り込んだ宗教法人向けの冊子も作成するといいます。検討会は自治体関係者や民法などの学識経験者、宗教家らで構成されており、小林・文化庁次長は会合の冒頭、「不正利用を主導しているブローカーらによって、宗教法人全体の信頼が損なわれる事態はあってはならない」と述べています。議論は非公開で行われ、文化庁によると委員からは「現行制度では都道府県の権限が限定的。警察や国税庁でも実態を把握してもらい、互いに連携することが必要」「宗教界自身が行動規範を作るべきではないか」といった意見が出たといます。宗教法人は公益性を背景に、宗教活動の収益が非課税となるほか、さまざまな税制優遇を受けられます。そのため、第三者が「後継者問題の解決になる」「退職金を出す」などと言って代表役員の地位を取得し、脱税などに悪用するケースが問題視されています。同庁によれば、全国約18万の宗教法人のうち、2024年12月末時点で5019法人が不活動宗教法人に該当、このうち特定の宗派や教団に属さない「単立宗教法人」は521法人で、第三者に脱税やマネロン目的で利用されるリスクが特に高いとされます。本コラムでは数年来、宗教法人の「犯罪インフラ化」に警鐘を鳴らし続けてきました。ようやくここまできたかという感想ですが、ここをスタートして迅速な対策の策定、実施と実効性ある取組みとなることを期待したいと思います。

▼文化庁 宗教法人格の不正利用について
  • あなたの宗教法人が、違法行為に利用されてしまうかもしれません。
    • 近年、宗教法人の売買に類似した行為(※)により、宗教活動を目的としない第三者が、宗教法人格を不正に取得し、脱税やマネー・ローンダリング等の違法行為に悪用する等して、宗教法人格が不正に利用されるおそれがあることが指摘されています。
      • ※宗教法人の売買に類似した行為とは?主として、節税や税制優遇等への活用を謳って、宗教法人の代表役員の地位、その他の実質的に法人の運営に対して深い影響を及ぼす法人内の地位を、名目のいかんを問わず、寄附等、金銭その他の財産上の利益を与えることにより得る取引行為のことを指します。
    • テロ資金供与、マネー・ローンダリングに巻き込まれないようにしてください。
      • FATF(マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融(以下、「マネロン等」という。)対策における国際協力を推進するため、1989年に立ち上げられた多国間の枠組み)においても、宗教法人を含む日本の非営利団体が、知らず知らずのうちにテロ資金供与に巻き込まれる可能性が指摘されています。
    • 法人の売買に類似した取引によって、知らぬ間に違法行為に加担してしまうかもしれません。
      • 宗教法人の売買に類似した取引を呼びかけるインターネット上の仲介サイトが多数あることが報道等において指摘されています。
        • ※「宗教法人 買いたい」「宗教法人 売りたい」「宗教法人 M&A」「宗教法人 事業承継」「宗教法人 譲渡」「宗教法人 売買」
      • このようなサイトを通じた取引の一部は、宗教法人を悪用した違法行為を助長しているおそれがあり、脱税やマネロン等の違法行為に利用するため、活動の継続が困難な宗教法人を狙っている人物がいることが懸念されます。
      • 宗教法人法は、宗教活動以外の目的に法人格を利用する事態をそもそも想定しておらず、元来の宗教活動を継続・継承する意思のない第三者が法人格を取得する行為は、法の目的に合致しないものです。このような事態が放置されてしまえば、宗教法人という仕組み自体への信頼の失墜を招くおそれがあることはもとより、社会的にも望ましいものとは言えないと考えております。
    • 文化庁は、宗教法人格の不正利用の対策等に取り組んでいます。
      • 脱税やマネー・ローンダリング等を目的として、「買いたい」「売りたい」「譲渡」「事業承継」などと謳い、宗教法人格を不正に利用しようとする行為が助長されることがないよう、文化庁では、通信事業者の方々や士業の方々、M&A支援事業者の方々、宅地建物取引業者の方々に対しても、宗教法人の売買に類似した取引による違法行為の助長防止に係る周知や注意喚起をしています。
    • 文化庁は、宗教法人格の不正利用の温床となり得る不活動宗教法人対策等に取り組んでいます。
      • 文化庁としては、特に、宗教法人として設立されながら、事実上、宗教活動を停止しており、法人格のみが残存している法人(いわゆる不活動宗教法人)について、不活動宗教法人の判断に関する基準の明確化や当該基準を踏まえた「不活動宗教法人対策マニュアル」の改訂、各都道府県向けの補助金の創設・支援などを通じて、これまでも各都道府県と連携して、法人の活動再開を促すことや、合併若しくは任意解散の手続を進めること、裁判所に解散命令を請求することなどによって整理する取組を進め、第三者による法人格の不正取得等への対策を行ってまいりました。
      • また、各都道府県担当者、宗教法人関係者が参加するそれぞれの研修会等において、法人格の不正取得等により脱税やマネー・ローンダリング等の違法行為が行われる危険性について繰り返し周知・広報を行うなど、法に基づく事務の適正な遂行に向けて、取組を徹底しています。

2026年4月29日付日本経済新聞の記事「島しょ国の国際送金、日本が決済機関の設立支援 人民元の普及警戒」で、太平洋の島しょ国・地域で国際送金を担う仕組み作りに日本の財務省が乗り出すと報じられています。同地域は国際業務を担う銀行の撤退が相次いでおり、米国やオーストラリア、世界銀行などと連携し代替する決済網を作るというものです。人民元決済が浸透する前に先手を打つ狙いがあります。国際的なネットワークを持たない銀行が国境を越えてお金をやり取りするには、資金決済を代行する「コルレス銀行」と呼ばれる金融機関が間に入り、欧米の金融機関がこれらの業務を担っていますが、太平洋の島しょ国でのサービスをやめる動きが近年目立っているといいます。複数の島しょ国の国際送金を集中的に処理することで1件あたりのコストを抑え、審査などのマネロン対策も効率化を目指すとしています。国際送金ができなくなれば海外からの投資の受け入れや輸出入が困難になります。太平洋の島しょ国にとっては経済を支える外貨による観光収入や、出稼ぎ労働者による送金も受け取りに支障が出かねなません。一方で国際的な金融機関が手掛ける送金業務は、マネロンの審査が厳格化しコストが上がっており、リスクのある業務をできるだけ避ける傾向も強まる中、経済規模の小さい島しょ国での業務は2000年以降、縮小傾向にあるといいます。財務省が国際的な銀行の通信網である国際銀行間通信協会(Swift)のデータをまとめたところ、2011~22年の間に、島しょ国では国際的な送金サービスの契約が6割ほど失われたとみられるといいます。日本政府が島しょ国の決済網構築を支援する背景には、同地域に浸透する中国をけん制する思惑もあり、2019年以降、ソロモン諸島やキリバス、ナウルは台湾と断交し、中国と国交を結ぶなど、近年、中国は島しょ国のインフラ整備に巨額資金を投じるなど影響力を増しています。経済安全保障の観点を踏まえ、新たな決済網を島しょ国における人民元決済の進出や浸透を阻む防波堤にする狙いがあるとみられています

金融庁は、マネロン対策、金融犯罪対策の一環として、口座の不正利用等防止についての広報を行っています。金融機関だけでなく顧客側の理解が不可欠として動画が公開されていますので、以下、紹介します。

▼金融庁 金融機関が行う預貯金口座の不正利用等防止の取組に係る広報について
  • 特殊詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺の被害は深刻さを増しています。
  • このような状況を踏まえ、金融庁は金融機関に対し、預貯金口座の不正利用等防止の観点から、インターネットバンキングに係る対策の強化や、不正等のおそれを検知した取引に係る顧客への確認、出金停止・凍結・解約の措置の迅速化など、様々な対策を求めています。
  • 金融機関がこのような対策を実施し、その効果を一層高めるためには、顧客と接する金融機関の現場の取組が重要となるだけでなく、顧客側の理解・協力も必要です
  • このため、金融庁では警察庁や業界団体と連携し、今般、顧客となる国民の皆様のご理解・ご協力を得られるよう、動画を制作しました。
▼インターネットバンキング対策編 フル版(約80秒)

特殊詐欺などで得た犯罪収益をトクリュウが金融機関の口座などを悪用して移動・マネロンしている現状に、政府は犯罪収益移転防止法を改正して対抗しています。本コラムで繰り返し取り上げていますが、特殊詐欺・SNS型投資・ロマンス詐欺(2026年4月から特殊詐欺として統合)の2025年の被害額は3241億円(暫定値)と過去最悪となり、被害拡大に歯止めがかからない深刻な状況となっています。トクリュウは闇バイトで実行犯を集めて犯罪ごとに入れ替え、秘匿性の高いアプリで犯行を指示し、摘発が上部層に及ばぬようデジタルの匿名性を悪用しています。実際、警察は実行犯の捜査から指示犯を突き止めることに苦労し、組織のトップになかなか辿り着けていないのが現状です。ただ、被害金は必ず組織の上層部に流れるはずであり、金を自由に移動できなくなれば上層部が尻尾を出す可能性があります。金の追跡から組織を炙り出すための環境整備が今回の犯罪収益移転防止法改正の狙いとなります。トクリュウは被害金の移動に違法売買した第三者名義の複数口座を経由させ、暗号資産なども悪用してマネロンし、摘発を逃れていることから、改正案では、預貯金口座の不正売買の罰則を現行の「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」から「3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」に引き上げるほか、報酬を得て被害金を指定口座へ移す「送金バイト」が匿名性を維持したままの被害金移動を支えていることは分かっていたところ、現行法では摘発が難しかったため、改正案でこれに罰則を設け、依頼、バイトの双方を「2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」として、送金バイトを封じることにしました。被害金の移動を不自由にする今回の法改正は、特殊詐欺などの犯行のモチベーションを低下させる効果も期待できます。さらにSNSでの口座買い取り募集に、警察が開設した「架空名義口座」を提供することで入金状況を把握し、捜査に活用、警察の監視下にある口座を通じ被害金の流れを追うことが可能になり、「誰がその口座を実際に使っているか」を割り出せる可能性も出てきます。国民の財産を強奪するトクリュウ対策は待ったなしの状況であり、改正案の早期成立、実効性高い運用を期待したいところです。

闇バイトによる口座売買の実態などについては、廣末昇氏の「闇バイトで取引される「口座売買」の驚きの値段…「罪の意識」を持たずに犯罪に加担する若者たち」(2026年5月1日付現代ビジネス)が大変参考になります。例えば、犯罪に加担している実感を抱かない闇バイトとして、特殊詐欺でいえば、道具屋が募集する闇バイトが紹介されています。マネロンというニーズの高まりから、特殊詐欺以上に検挙者が多くなっています。具体的には、「在宅副業」や「収納代行業サポート」などという名目で募集されている犯罪支援型闇バイトで、「口座のまた貸し」や「通帳の売り渡し」であり、これらは犯罪収益移転防止法違反であり、明確な犯罪だが、彼らは被害者の顔を見たり、声を聴くわけではないので心理的ハードルが低いと指摘されています。実際に、テレグラムのグループでは、銀行の預貯金口座とセットでコインチエック(CC)やOKJ(旧オーケーコインジャパン)などの暗号資産口座とみられるものの売買が活発だといい、高額買取りをほのめかす投稿もあり、若者はいい小遣い稼ぎになると考えてしまう可能性があるといいます。最近では詐取したお金は、詐欺被害者に銀行入金させ、入金があった段階で即座に暗号資産口座に移すという手法が広まっています。銀行口座は事件性があれば凍結できますが、暗号資産口座は凍結できないためです(振り込め詐欺救済法は金融機関が犯罪に悪用されている疑いがある口座を把握した場合、凍結などの措置をとるよう定めており、捜査や司法手続きの途中段階でも凍結できますが、暗号資産交換業者は対象外で、議論がなされているところです)。もう1つ、暗号資産口座に即座に被害金を送金するのは、「架空名義口座捜査」を念頭に置いた対策と考えられます。この捜査を実効的に行うには、銀行口座と暗号資産口座をセットにする等の工夫が求められます(本コラムでは以前から預金口座と暗号資産口座の間のやり取りの監視を強化する必要性を指摘し続けています)。また、道具屋の相場によって報酬は様々だが、(ニーズの高まりから)口座買取り金額が上昇傾向にあり、当該コラムによれば銀行口座は15万円ほど(警察庁の分析によれば2024年の売買価格は1口座あたり平均3万5千円で、比較できる2011~12年から1.5倍になっています)である一方、コインチエックなどの暗号資産口座は20万円ほどで売買されており、法人名義の口座であれば金額は更に高くなります。廣末氏は「青少年や金銭的に困った人たちが、犯罪に誘引される可能性が高まっている。犯罪被害額も過去最高を更新し続けている。冒頭で紹介した米投資ファンドによる国内過去最大とされた不動産取引の金額が3000億円。昨年1年間で、この金額以上が詐取されている。もはや旧態依然とした行政目線対策ではトクリュウ犯罪を防ぐことは難しい」とし、以前の本コラム(暴排トピックス2026年3月号)から「トクリュウ犯罪に対峙するには、「日本がこれまで踏み込んでこなかった新たな捜査手法を大胆に導入(仮装身分捜査や架空名義口座、司法取引や通信傍受、犯罪者側の端末に警察がウイルスを送り込んで情報を盗み出す『ポリスウエア』など)しつつ、『日本が世界中から狙われている』実態を直視し、市民や企業、国との間で『強い危機感』を持つべき状況にあるとの共通認識を持つ必要が」あることは言を俟たない」との部分を引用いただいています。

その他、AML/CFT/CPFに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米政府は、イランへの経済的圧力を強め、同国のシャドーバン​キング(影の銀行)ネットワークに関与‌しているとして、35の個人・団体に制裁を科しています。また、ホルムズ海峡を通過するための通行料を支払ってい​るとされる中国の独立系製油所(ティー​ポット製油所)と取引する銀行に対して⁠も、制裁を科すと警告しています。米財務省の外国資​産管理局(OFAC)によれば、制裁対象に指定された個人・​団体は制裁逃れや「イランによるテロ支援」活動に関連した数百億ドル相当の資金移動を支援していたといいます。OFACはまた、​イラン政府やイスラム革命防衛隊(IRGC)に​海峡通過のための料金を支払う企業との取引を行わないよ‌う銀⁠行に警告し、違反した場合は重大な制裁の対象となるリスクがあると指摘しています。主に中国山東省にある独立系製油所がイラン産原油の輸入・​精製に関与し​ていると⁠し、その一部は米国の金融システムを利用してドル建て取引を行い、米​国製品を調達していたと述べました。中国​は「違法⁠な」一方的制裁に反対する立場を示しており、2026年5月に米中首脳会談を控えるなかで、中国側の反応も焦点になります。ベセント財務長官は声明で、「イランの影の銀行システム⁠は、​同国軍にとって極めて重要​な資金源となっており、世界貿易を混乱させ、中東地域で​暴力を助長する活動を可能にしている」と述べています。
  • 関連してOFACは原油以外の資金調達網への締め付けも強化しており、イラン中央銀行が関わっていたとみられる暗号資産「トロン」の2つのアドレスを制裁対象に追加しています。ステーブルコイン最大手のテザーが、米財務省の要請を受けて2つのアドレスを凍結し、イラン側が資産を動かせないようにしました。凍結された暗号資産は合わせて約3.4億ドル(約545億円)相当に上るといいます。テザーのパオロ・アルドイノCEOは声明で「制裁対象の団体とのつながりが確認された場合、当社は即座に断固とした対応をとる」と述べています。
  • 米政府は、イランの武器や弾道ミサイル、攻撃型無人機シャヘドの部品調達ネットワークに関わったとして、中国やアラブ首長国連邦(UAE)などに拠点を置く計約10個人・団体を制裁対象に追加しました。ベッセント財務長官は声明で「米軍に対し使用される武器をイラン軍に提供する外国の個人や企業を標的にし続ける」とし、制裁対象を拡大する考えを強調しています。
  • 在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)傘下の商工会に所属する自営業者らが100人規模で北朝鮮を訪問しています。2024年夏に朝鮮大学校)の学生らが修学旅行名目で訪朝して以来の大規模な往来となりますが、北朝鮮に日本国内で集めた資金を持ち込むと懸念されています。大規模訪朝団を通じた資金流入は北朝鮮への送金を禁じた制裁の抜け穴として利用される可能性があり、日韓の関係当局が警戒を強めています。核・ミサイル開発を続ける北朝鮮には、国連安保理決議に基づく制裁のほか、日本も独自で制裁を発動しており、北朝鮮への送金は原則禁止の一方、日本出国時における現金の持ち出しは、10万円相当額を超える場合は税関に事前に届け出れば可能となりますが、申告されなければ、調べる手立てはほぼないのが実情です。2024年夏の朝鮮大学校の学生らの訪朝に際して、朝鮮総連は学生1人につき500万円を上限に現金を運ぶよう、指示を出したとの情報があり、関係当局は、今回の訪朝団も資金を持ち込んだ可能性があるとみています。国境封鎖で北朝鮮との往来が途切れた朝鮮総連は、祖国との関係維持に腐心しており、大規模な往来を本格化させ、存在感を示す狙いがあると考えられます。ただ、日本政府の対北独自制裁の対象となっている朝鮮総連中央本部の幹部は、北朝鮮と往来ができない状態が続いており、学生や一般人の訪朝団に北朝鮮政府要人が対応するとは考えられず、かつてのハイレベル交流のような政治的意味は薄いとみられています。
  • FATFは、シンガポールについて新たな相互審査の結果を発表、前回の実質不合格から評価が改善し、合格にあたる「通常フォローアップ国」となっています。シンガポールは2020年に結果が発表された前回の第4次相互審査で、実質的な不合格にあたる「重点フォローアップ国」でしたが、今回の報告書で、シンガポールが「新たな解決策を積極的に試みる意欲を持ち、有能で連携の取れた体制で金融犯罪の課題に対応していることが判明した」とし、マネロン対策の改善を評価しました。シンガポールでは2023年8月に過去最大規模のマネロン事件が摘発され、30億シンガポールドル(約3700億円)超の資産が押収・凍結され、シンガポール金融通貨庁(MAS)はこの事件に関連し、2025年にクレディ・スイスなど9つの金融機関への課徴金を課すなど金融機関にも厳しく対処、マネロンを防ぐため、金融機関や不動産会社、弁護士などに対する監視や規制を大幅に強化した経緯があります。2024年に各国の第4次審査を終え、第5次審査ではベルギーなど数カ国の結果を発表していますが、前回審査で実質不合格となった日本も第5次審査を控えている状況にあります。

(2)特殊詐欺を巡る動向

SNS上の広告やダイレクトメッセージ(DM)で投資話を持ちかけ、金をだまし取る「SNS型投資詐欺」の被害が国内で拡大しています。デジタルプラットフォーム事業者(PF)は対策を強化していますが、警察庁によれば、2025年の被害額は1200億円超と前年の1.5倍に増加しました。自民党のプロジェクトチームが、法整備の検討を政府に求める骨子案をまとめるなど、対策に向けた動きも出ています。SNS型投資詐欺の手口には、主に広告経由とDM経由があり、いずれも著名人や投資クラブなどをかたってLINEなどに誘導、現金を指定口座に振り込ませ、偽アプリで資産が増えていると見せかけるもので、1件当たりの被害額が大きいのが特徴です。ある捜査幹部は、詐欺グループから不審な電話がかかってくる従来の特殊詐欺と異なり、「被害者が投資の運用益や異性に関心を持ち、主体的に行動してしまう点が被害拡大の一因だ」と分析、別の幹部は「貯蓄から投資へ」という国の方針や、新NISA(少額投資非課税制度)の開始により、知識や経験の乏しい人も投資するようになっていると指摘、「被害に遭わないよう、金融知識や正しい意思決定といったマネーリテラシーの形成が必要だ」と注意を呼び掛けているほか、警察幹部は「だまされていることにまだ気付いていない被害者がいるはずだ」と危機感を募らせています。2025年の被害件数は広告、DMがそれぞれ4割弱を占めており、国内外のPFらの不正対策担当者らでつくる「一般社団法人トラスト&セーフティ協会」の田中清隆事務局長は「AIを活用した広告審査や検知などを進めているが、詐欺グループも生成AIで精巧な偽広告を大量に作り出し、審査の網をくぐり抜けようとしている。手口は常に変化しており、従来の広告や勧誘以外の手口にも警戒する必要がある」と述べています。

SNS型投資詐欺の被害を減らそうと、自民党は生成AIを悪用した著名人のなりすまし広告による投資詐欺被害対策を考えるプロジェクトチームの会合を開き、政府に提言する対策の骨子案をまとめました。骨子案では、PFに対して広告主の本人確認や詐欺広告の削除を義務づけ、違反時の罰則を盛り込んだ法整備の検討を求めるもので、詐欺広告の法規制で被害を激減させた台湾の事例を参考にしているといいます(以前の本コラム(暴排トピックス2026年2月号)で紹介しています)。台湾でもつい最近まで、有名人になりすましたSNS広告などを入り口とする詐欺被害が深刻でしたが、2024年7月に詐欺の導線となる広告で収益を上げている大手オンライン広告プラットフォームなどを規制対象とする「詐欺犯罪被害防止条例」(FCHPA)が施行されるとSNS上の詐欺広告が激減、オードリー・タン氏は、金融の世界でKYC(客の身元確認)が不正防止の王道なのと同様に広告の不正防止ではKYA(広告主の身元確認)がカギと説明、身元確認ができない広告主の広告は掲載禁止にし、違反すれば罰金や損害賠償というコストを払うとすることで、「不正放置のコストが不正防止のコストを上回るように逆転させた」と、台湾の考え方を説明しています。ただ、台湾の各種統計によれば、詐欺的広告は減っても投資詐欺全体の被害額はあまり減っておらず、メタは「台湾の投資詐欺の入り口は広告からDMに移っている」と人ごとのように報告しています。そのメタについて、2026年のオンライン広告の売上高で、米グーグルを抜いて初めて世界首位となったといい、AIの活用でSNS上でより効果的な広告を展開できるようになり、広告需要が伸びている一方、著名人になりすまして投資を呼びかける偽広告が横行し、詐欺被害も拡大、ロイターは2025年11月、メタが売上高の約10%を不正な広告から得ていると報じています。日本の研究者やエンジニアらで作る市民団体「デジタル民主主義2030」は3月中旬、情報提供サイト「ストップ詐欺広告」を開設、SNSやネットで詐欺が疑われる広告のページのURLをサイトに報告すると、同団体が確認し「詐欺判定」「なりすまし」「高リスク」などに分類・表示する仕組みで、2026年4月14日時点で600件超の情報が集まっているといいます。団体代表の鈴木健・東大特任研究員は「詐欺広告の手口や市民の意見を『見える化』し、法規制を念頭に各省庁や与野党に提供したい」と述べています。

大阪国税局は15日、課税第1部に勤務する20歳代の職員が、警察になりすました人物からの電話にだまされ、全国11国税局・国税事務所が扱う個人や法人計259件分の電話番号や納税情報などの個人情報を漏えいしたと発表しました。報道によれば、漏えいした職員は、大阪府内の税務署で勤務中に私有スマホに千葉県警職員を名乗る人物から電話を受け、その人物は、職員のフルネームを告げた上で、「あなたに嫌疑がかかっている」と言い、ビデオ通話で警察手帳のようなものを示し、電話を代わった捜査2課の刑事を名乗る人物が職業を尋ね、職員が「税務署勤務」と答えたところ、個人名を挙げて、「この人物と無関係であることを証明するために保有している情報を送るように」と指示、職員は、業務用パソコンで自身が業務で扱っていた様々な個人・法人の情報を表示させ、画面を撮影した写真計108枚を私有スマホからLINEで送信したといいます。約2時間後に、長時間の離席を不審に思った同僚が声をかけて判明。職員は「名前を告げられ被疑者になると言われ、潔白を証明するために相手方の言いなりになってしまった」と話しているといいます。国税OBの猪野教授は「問題は職員が別室で1人で対応し続けたこと。外部から何らかの照会を受けた場合、ただちに上司に報告し、組織として真偽を確認すればいいだけだ」とし、どんな場合でもLINEなどのSNSで業務資料を送らないことは常識で、「若手だけでなく全職員に徹底するべきだ」と指摘しています。また、詐欺電話の被害者は高齢者が多い印象がありますが、高齢者だけではなく、社会経験の乏しい若い世代も狙われているのが現状で、「嫌疑がかかっている」と言われると、火の粉を払わなければならないという不安や焦りに追い込まれる。マインドコントロールに近い状態になり、通常なら考えられない行動を取ってしまうことがあり、こうした点は幅広い世代に注意喚起していく必要があると考えます。

警察官を装った特殊詐欺で2026年に入り、ニセ逮捕状がレターパックで郵送され、多額の現金がだまし取られる被害が各地で相次いでいます。SNSに不慣れな高齢者を狙った手口とみられ、警察は「逮捕状を送ることは決してない」と注意を呼び掛けています。愛知県警によれば、名古屋市緑区の70代の女性は2026年2月、自宅に警察官を名乗る人物から突然電話があり、「犯罪収益の送金を受けたことであなたに逮捕状が出ている」などと言われ、3日後、「逮捕状」と題した書類1枚がレターパックで届いたといいます。被疑者欄に女性の名前と生年月日、住所があり、罪名は組織犯罪処罰法違反と犯罪収益移転防止法違反と記載されており、「最高裁裁判官」が「東京中央署」の請求で発付したとされ、一部の漢字は中国で使われる簡体字でしたが、女性は本物だと信じ込み、指示通り自宅郵便受けの下に現金を置き、計約2700万円をだまし取られ、さらに約1000万円を要求されたが、金融機関の通報で警戒していた捜査員が現金を受け取りに訪れた台湾出身の男を詐欺未遂容疑で逮捕しました。「ニセ逮捕状詐欺」は愛知県内で1~4月に30件以上相次いだほか、各地で確認されています。本事例の手口に加え、「犯罪グループからの報酬が振り込まれていないか確認する」として、通帳とキャッシュカードを郵便受けに入れるよう指示され。盗まれたケースもあります。もともとSNSのビデオ通話に誘導し警官を装った人物が登場して相手を信じ込ませる手口が多いところ、愛知県警幹部は「SNSに誘導できない高齢者にはニセ逮捕状を送り付け、信ぴょう性を持たせているのだろう」と指摘しています。犯人側は悪質な名簿業者などから入手した名前や住所などの情報を使い、電話などをしているとみられ、全国の警察が2024年度までの5年間で詐欺拠点などから押収した名簿には、延べ約233万人分の個人情報が記載されていました。また、レターパックがトクリュウなどにより郵便局で大量に購入されたマネロン事件も発生しましたが、そのレターパックがこうした手口に悪用された可能性も否定できません。なお、この「ニセ逮捕状詐欺」は、愛知県だけでなく、福島県や三重県、岐阜県、兵庫県などでも同様の手口での被害/被害未遂事件が複数発生しており、注意が必要な状況です。2025年1年間のニセ警察詐欺の認知件数は1万件を超え、被害額は985億円に上り、特殊詐欺被害額の約7割を占めました。2026年4月には愛媛県の資産家の80代女性が約12億円をだまし取られる被害も発覚しました。警察庁幹部は「犯人側はいろいろ理由を付けて誰にも言わないように言ってくるが、必ず家族や警察に相談してほしい」と強調しています。

海外のオンライン詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • サポート詐欺は2025年1年間で数千件、被害額は20億円規模の可能性があります。特殊詐欺などと同様、海外から仕掛けられており、摘発が難しいところ、最近、明らかになったサポート詐欺の摘発例は「インド発」と報じられています(2026年4月14日付産経新聞)。警察庁が2025年5月、インド中央捜査局と合同で、インドから世界中を標的にサポート詐欺を繰り返していたインド人6人を逮捕し、拠点を捜索しました。グループはインド国内に2カ所、マイクロソフトのカスタマーサポートセンターを装ったコールセンターを設け、日本人からの電話に費用を払うよう誘導、少なくとも約200人から約1億8千万円を詐取していたといいます。被害者が日本の番号だと思ってかけると、インターネット回線を通じてインドの偽コールセンターに転送されていました。さらにグループはリアルタイム対応の高精度な翻訳ソフトで被害者の言葉を理解し、不自然さが少ない日本語の「台本」を読み上げていたといいます。言葉遣いが丁寧で親切なため、焦っていた日本人被害者は安堵(あんど)して詐欺だと疑わなかったといい、こうした要素から多くの人が騙される結果となりました。報道では、「(1)大音量の警告音、PC操作不能でパニックを誘発する「技術力」。(2)偽コールセンターという「組織力」。(3)被害者に電話をかけさせ「人は自分で行動したものを信じ易い」という心理バイアス(先入観)を逆手に取った「心理戦」。(4)日本語対応という「ローカライズ」。大半がテクノロジーで成立している。技術が進展する限り、詐欺は高度化するということだ」と指摘しており、騙されるメカニズムとして知っておく必要があると思われます。
  • スリランカで、外国人によるオンライン詐欺の摘発が相次いでいます。逮捕された外国人は1月以降600人を超えました。特殊詐欺の中心地はこれまでミャンマーやカンボジアといった東南アジアで、背後に中国マフィアがいるとされてきました。しかし、取り締まりが強化され、スリランカに移ってきた可能性があり、注意が必要な状況です。報道によれば、2026年5月初め、警察が詐欺グループのアジトとみられる首都スリジャヤワルデネプラ・コッテの建物を捜索し、中国やベトナムをはじめとする9カ国出身の約120人を逮捕しました。アパートの複数フロアを借り、犯罪に関わっていた疑いがあるといいます。最大都市コロンボ近郊では中国人37人を拘束、タブレット端末35台や携帯電話147台、SIMカード100枚を押収しました。在スリランカ中国大使館は、地理的要因やビザが取りやすいことなどから犯罪組織がスリランカに拠点を移し詐欺を続けているとの見方を示しており、スリランカ入管当局は、オンライン詐欺で逮捕事例のある国からの入国者を対象に「特別な審査」を行い、監視態勢を強化するとしています。
  • カンボジア政府が特殊詐欺拠点の摘発を強めるなか、拠点から脱出したフィリピン人が2026年4月中旬、マニラで朝日新聞の取材に応じています(2026年4月19日付朝日新聞)。報道によれば、「仕事ができないのなら、お前を別のところへ売り飛ばす」とカンボジアの詐欺拠点で中国人の男にこう脅され、5カ月間にわたって犯罪に手を染めてしまったといいます。元同僚から、「カンボジアに行けば良い仕事がある」と勧められたことがきっかけだといいます。詐欺拠点が集積するカンボジア南部の街、シアヌークビルに連れて行かれ、約20階建てのビルの一室には、フィリピン人のほか、ブータンやマダガスカルなどから来た約60人がおり、ターゲットは米国人で割り当てられた携帯番号にメッセージをひたすら送るよう指示され、相手が返信してきたら、会話を続けて、投資への関心を持たせること、個人情報を聞き出したら、今度は実際に投資詐欺を行う別のグループに伝えることが業務内容で、毎日12時間働かされ、外出は許されず、詐欺に加担していることへの恐怖を感じつつ、指示に従うしかなかったといいます。カンボジアを拠点とする詐欺では、多数の日本人も加害者、被害者になっていますが、カンボジア当局は、2025年6月から2026年4月中旬までに、250か所以上の拠点を摘発し、91カ所のカジノ施設を閉鎖、中国人、タイ人、ベトナム人、日本人など1089人が関与する事件112件を起訴、摘発逃れの動きも相次ぎ、2026年だけで詐欺に関与したとみられる外国人約24万人が自主的に出国したと公表しています。カンボジア政府は2025年以降、詐欺被害が深刻化している米欧などから圧力を受け、対策を強化していますが、政府と詐欺組織の癒着も指摘されています。米財務省は、特殊詐欺関与の疑いでタイ当局が逮捕状を取得しているカンボジア上院議員の実業家コック・アン氏らを制裁対象に指定、同氏はフン・セン前首相の側近で、与党・人民党の資金源とも目されています
  • カンボジアメディアは、現地当局が首都プノンペンで特殊詐欺拠点の取り締まりを実施し、日本人男性1人を「救出」したと報じています。報道によれば、当局は、市内の集合住宅を家宅捜索し、数十台の電子機器を押収、詐欺に関与した疑いなどで、中国人やベトナム人など計16人を拘束、また、この摘発で日本人男性1人を保護したと発表しました。男性は人身売買目的で、国内の複数の州をまたいで移送されていた可能性があるといいます。カンボジアを巡っては、偽の求人でだまされ、詐欺に加担させられる人身取引の被害も指摘されているところです。
  • インドネシア第2の都市スラバヤで、特殊詐欺に関与したとして複数の外国人が現地警察に摘発され、在スラバヤ日本総領事館は「4月22日に邦人6人を拘束したと現地当局から連絡を受けた」と明らかにしました。インドネシアでは3月、出入国管理局が首都ジャカルタ近郊ボゴールで特殊詐欺に関与した疑いのある日本人13人を拘束、特殊詐欺で邦人がインドネシアで摘発されるのは初めてでした。13人は強制送還後の4月、警察官などを装って金銭をだまし取る「ニセ警察詐欺」に関与したとして警視庁などに詐欺容疑で逮捕されました。室内には大量の電子機器のほか、日本の警察官の制服を模した衣類などが発見されたといい、地元警察はスラバヤを拠点に日本や中国に特殊詐欺の電話をかけて金銭をだまし取っていたとみています。地元警察幹部が公開した映像では、拘束されたとみられる日本語を話す女が「強制的に連れてこられ、パスポートを取られ、『もう帰れない』と言われた」などと話している様子や、男が「事件に巻き込まれた」と説明する様子が収められています。カンボジアやミャンマーなど東南アジア各国では特殊詐欺に関与する外国人の摘発が強まっており、警察関係者の間では詐欺グループが新たな拠点を探している可能性が否定できません(前述のとおり、スリランカもその候補の1つといえます)。
  • マレーシアの捜査当局は、2026年1月下旬から全国で特殊詐欺拠点を順次摘発し、日本人5人を含む計2200人超を逮捕したと発表しました。マレーシアでは特殊詐欺に関連する事案が急増しており、詐欺に関与した可能性があるといいます。報道によれば、1月下旬から2月上旬にかけて行われた摘発では430人を逮捕、日本人5人に加え、中国人やインドネシア人、ナイジェリア人など計270人の外国人が含まれていました。住宅やオフィスビルなどを拠点に組織的な犯罪行為を繰り返していたとみて調べています。
  • ミャンマー拠点の国際的な特殊詐欺事件で、現地で「かけ子」をしたとされる少年を詐欺組織に紹介したとして、愛知県警は、神戸市の自称作業員を職業安定法違反(有害業務目的紹介)の疑いで逮捕しました。共謀して少年を詐欺組織に紹介したなどとする同法違反罪などに問われた男については、懲役4年の実刑判決が既に確定しています。県警は容疑者が男らと同じリクルーターグループの構成員で、報酬を巡る詐欺組織との交渉役だったとみています。逮捕容疑は海外で特殊詐欺に関わる人物らと共謀し、2024年11~12月に少年の顔写真などを詐欺組織に提供、少年を中部国際空港からタイへ出国させ、かけ子として紹介した疑いがもたれています。少年は2025年2月、ミャンマーとの国境付近でタイ当局に保護されて帰国、県警が詐欺容疑で2度逮捕し、名古屋家裁が7月、初等・中等(第1種)少年院送致とする保護処分を決定しています。

2026年(令和8年)3月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について公表されていますので、以下、紹介します。被害の全体像や近年急増しているニセ警察詐欺の現状と対策をより分かりやすくするため、「被害が急増している「ニセ警察詐欺」を独立した手口として位置付け」、「SNS型投資・ロマンス詐欺を特殊詐欺の一手口として位置付け」ました。

▼警察庁 特殊詐欺の認知・検挙状況等について
▼令和8年3月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)
  • 令和8年3月末における特殊詐欺の概要
    • 認知件数 11,093件、被害額 937.9億円(前年同期比+2,576件、+413.9億円)
    • 令和5年の年間被害額(907.7億円)を3月末時点で超える
    • 1日当たりの被害額は10.4億円であり、令和7年(8.9億円)と比べ1.5億円増加
    • SNS型投資詐欺の被害額が特殊詐欺全体の48.6%を占める
      • 1日当たりの被害額については、令和8年は3か月(90日)、令和7年は12か月(365日)で計算
  • 手口別の被害状況
    1. SNS型投資詐欺
      • 被害額(億円)(前年同期比)456.1億円(+326.0億円)
      • 既遂1件当たりの被害額(万円)1,351.4万円
    2. ニセ警察詐欺
      • 222.4億円(+50.7億円)
      • 1,029.0万円
    3. SNS型ロマンス詐欺
      • 135.9億円(+18.0億円)
      • 1,041.4万円
    4. 架空料金請求詐欺
      • 43.4億円(+4.7億円)
      • 290.3万円
    5. オレオレ詐欺
      • 30.4億円(−2.1億円)
      • 401.1万円
    6. その他
      • 49.7億円(+16.6億円)
      • 273.2万円
    7. 合計
      • 被害額(億円)(前年同期比)937.9億円(+413.9億円)
      • 遂1件当たりの被害額(万円)859.3万円
  • 最近のニセ警察詐欺の特徴について(令和8年3月末時点)
    • 認知件数 2,204件、被害額 222.4億円(前年同期比+310件、+50.7億円)
    • 当初接触ツールは電話が2,168件で全体の9割以上を占める
    • 携帯電話が全体の約6割を占める
    • 50代以下は携帯電話、60代以下は固定電話が半数以上を占めており、50代と60代を境に当初接触ツールの割合が入れ替わる
  • 犯人と接点を持たないことが最重要!!
    • 携帯電話⇒警察庁推奨アプリをインストールして犯人からの着信を遮断(ダウンロード総数 累計537,500件)
    • 固定電話⇒国際電話の利用休止を申し込んで犯人からの着信を遮断(手続件数 累計945,600件)
      • 数値はいずれも概数
  • 金地金等をだまし取られる被害
    • 認知件数 77件 被害額 35.0億円
    • 被害の99.0%が手交によるもの
    • 既遂1件当たりの被害額は4,548.8万円 特殊詐欺全体(859.3万円)と比べて高額
  • ニセ社長詐欺による被害※自社の経営者等になりすまして、メール等を送った後、SNSに遷移して金銭等をだまし取る手口
    • 認知件数 68件 被害額 23.1億円
    • 令和8年1月に入り減少が続く
    • 既遂1件当たりの被害額は3,449.1万円 特殊詐欺全体(859.3万円)と比べて高額
▼【資料2】最近の特殊詐欺の特徴について

暴力団等反社会的勢力が関与した最近の特殊詐欺等を巡る報道からいくつか紹介します。

  • 年金事務所の職員を装い、60代男性に「年金の過払い金がある」などとうその電話をかけ、ATMから現金約100万円を振り込ませ、うち50万円を盗んだとして、六代目山口組三代目小西一家傘下組織組長が、富山・静岡・鳥取・香川の4県警の合同捜査本部に逮捕されました。報道によれば、容疑者はすでに逮捕されている出し子役や勧誘役の共犯者らと共謀し、2023年10月、年金事務所の職員を装い、静岡市の60代男性に電話し「年金の過払い金がある」などとうそをつき、ATMから現金約100万円を振り込ませ、そのうち現金50万円を盗んだ電子計算機使用詐欺、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反、窃盗の疑いがもたれています。60代男性は容疑者が指示役とみられる犯行グループの指示に従い、静岡市内の金融機関ATMから指定口座へ複数回にわたり合計約100万円を振り込み、すでに逮捕済みの出し子役が、東京都内のコンビニエンスストア設置のATMから現金約50万円を引き出したとみられています。合同捜査本部は2025年から還付金詐欺事件を調べていて、富山県警が特殊詐欺事件で暴力団組長を摘発するのは今回が初めてです。また、警察はこのほかにも、詐欺グループによる詐欺事件を10件把握しているといいます。
  • 金沢市の70代の女性から現金をだまし取ったとして、指示役とみられる住吉会傘下組織組員が詐欺容疑で逮捕されました。報道によれば、この容疑者は複数人とともに、金沢市の70代の女性とやり取り、警察官を名乗り、女性に対し「詐欺の主犯格として名前が挙がっている」などとうそをいい、現金約460万円を東京都内の集合住宅に郵送させ、だまし取った疑いが持たれています。
  • 2025年8月から9月にかけ、石川県内に住む70代の女性に「逮捕した暴力団員があなたから400万円で個人情報を買ったと話している」と警察官などになりすまして電話をかけ、捜査名目で現金約400万円を騙し取ったとして、道仁会傘下組織組員2人が詐欺容疑で逮捕されました。1人はニセ電話詐欺の指示役、もう1人はかけ子とみられています。容疑者は2025年10月、ニセ電話詐欺に関与した疑いで逮捕されており、その事件の捜査の過程で、石川県警に被害届が出されていた事件に2人が関与した疑いが浮上したいうことです。
  • 「年金の過払い金がある」などとうその電話をかけて、静岡市の60代の男性におよそ100万円を振り込ませたなどとして、六代目山口組傘下組織組長が逮捕されました。警察は、組長が特殊詐欺グループの中核的なメンバーの1人だったとみて実態を調べています。報道によれば、組長は複数の共犯者と共謀して、3年前の10月、静岡市駿河区の60代の男性に対し、年金事務所職員を名乗って「年金の過払い金がある」などとうその電話をかけ、指定した口座におよそ100万円を振り込ませたなどとして、電子計算機使用詐欺などの疑いが持たれています。この事件では、これまでにいわゆる「受け子」や「出し子」と呼ばれる特殊詐欺グループのメンバーが逮捕されていて、資金の流れを調べたところ、組長が資金を管理していたとみられることが分かったということです。警察は逮捕された組長が特殊詐欺グループの中核的なメンバーの1人だったとみて組織の実態を調べています。
  • 警察官を装う特殊詐欺事件に関与したとして、福岡県警は、詐欺と窃盗の疑いで、フィリピンを拠点とする暴力団系の日本人集団「JPドラゴン」関係者5人を成田空港に向かう航空機内で逮捕しました。フィリピン当局が2025年10月に拘束し、強制送還したものです。フィリピン当局は、同国内で活動する日本人犯罪集団の摘発を進めており、2025年6月にはJPドラゴンのリーダー=福岡県警が窃盗容疑で逮捕状取得=を拘束、日本側が捜査への協力を依頼し、身柄引き渡しへの調整をしています。
  • フィリピン警察は、日本で詐欺などを繰り返していたとされる日本人の集団「JPドラゴン」と「ルフィ」の構成員7、8人が、フィリピンに潜伏している可能性があると明らかにしました。捜査当局は摘発の強化で一掃を目指しています。捜査当局は2023年、フィリピン国内での両グループの監視を開始、2025年6月にはJPドラゴンのリーダーを拘束するなど構成員の摘発を進めてきました。JPドラゴンでは、ナンバー2がフィリピン国内に残っているとみられるといいます。両グループが、カンボジアとつながりのある日本の詐欺グループと連携して犯罪行為を継続していた痕跡もあり、警察はフィリピンでの活動の全容解明を急いでいるといいます。またフィリピン警察は、入国管理局などと共同で、窃盗容疑で日本から逮捕状が出ていた2人の容疑者を逮捕したと発表しました。2人はJPドラゴンの会計担当(ナンバー3の可能性が指摘されています)、ルフィの一員といいます。

最近の特殊詐欺等を巡る報道からいくつか紹介します。報道自体はこれ以上されていますが、被害の大きい事件を中心に取り上げます。

  • 愛媛県警は、県内の80代女性が約12億円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しました。大阪府警によれば、この約12億円は大阪府内の別の詐欺被害者の口座に入金され、暗号資産として詐欺グループの指定先に送られていました。大阪府警は、詐欺グループが大阪の被害者の口座をマネロンに利用したとみています。報道によれば、女性は2025年10月、薬局店員を名乗る女からの電話を自宅で受け、「保険証が不正に使われている」と告げられ、その後、警官や検事をかたる男らから「あなたの口座で資金洗浄されている」、「あなたの財産を調査する必要がある」などと言われ、2025年12月~2026年2月、指定された口座に8回にわたり計約12億円を振り込んだといいます。女性は、詐欺グループから届いた架空の土地建物売買契約書を金融機関に示し、「土地を買うので現金を送らせてほしい」と説明して多額の送金を行ったといいます。一連の流れにおいて、女性は、柔らかい口調の偽警察官を本物と信じ込んだといい、「大金なので不動産購入の形で振り込んで」として、愛媛県内の一等地の売買を装う偽契約書を女性宅に送付し、送金手続き時に銀行職員に見せるように指示、「誰にも話さないで。話せば犯罪になる」と口止めも忘れなかったといいます。被害額は全国で過去最悪となりました。大阪府警も、府内の70代女性が2025年10月~12月、同様の手口で約3億円を詐取されたと発表しました。また、これとは別に、女性は「資産調査を行う必要があり、金を入金する」などと指示され、2025年12月~2026年2月、自身の口座に愛媛の被害者から振り込まれた約12億円を100回にわたって暗号資産にして指定先に送ったといいます。詐欺グループが、金をだまし取るついでに被害者に口座を作らせ、別の詐欺に悪用する被害の連鎖が浮き彫りになりました。1回の送金額は1億1000万~2億円と高額で、1人暮らしだったこともあり、離れて暮らす家族が気付くことはありませんでした。女性は最初の送金前にも、グループの指示で暗号資産約5000万円分を購入しており、金融機関はこれを不自然な資金移動と判断し、地元の警察署に通報、署の担当者は「詐欺ではないか」と確認の電話をしましたが、女性に被害意識はなくそれっきりになったといいます。今回の被害について県警組織犯罪対策課の担当者は「手口が巧妙になっている。(金融機関、警察双方の)対応に不備はなかった」と話しています。
  • 警察官をかたる詐欺事件が相次ぐ中、警察からの電話を装う手口が被害拡大につながっています。発信元を偽装する「スプーフィング」と呼ばれる手法で、実在する警察署の電話番号を電話機などに表示させるもので、警察官を名乗る古典的な手口と組み合わせることで、詐欺を疑う被害者を信じ込ませたケースもあり、即効性のある対策が求められています。大阪府内の60代男性宅に、警視庁の渋谷署員を名乗る男から2025年9月に電話があり、「あなたの個人情報が悪用されている」という話は典型的な詐欺の手口で、男性も見抜いて最寄りの警察署に相談、ところが帰宅後、再び男から電話があり、「これは詐欺ではない。怪しむなら最寄りの警察署から電話させる」といい、間もなく、自宅に電話がかかってきて、電話機のディスプレーに表示されたのは、それまでの番号とは異なる<06-○×△□-1234>、大阪府内の警察署の代表番号に用いられる「1234」が末尾にあり、相談に行ったばかりの警察署の番号と同一だったといいます。電話に出ると、署員を名乗る別の男が「渋谷署からの電話は詐欺ではない」と告げ、その後もやり取りは続き、男性は最終的に計約4億4300万円相当の暗号資産を男の指定先に送ったといいます。2026年2月に渋谷署に電話し、詐欺だと発覚、大阪府警は詐欺グループが発信者情報を偽装したスプーフィングとみています。実在する警察署の番号を示すスプーフィングには、詐欺に警戒している人でもだまされやすいものの、相手に表示される番号を偽装するだけで、折り返した場合に詐欺グループにつながることはありません。したがって、電話番号を信用せず、こちらからかけ直して確認することが大事となります。不審な電話があった場合は、通話をいったん切り、警察や親族など第三者に確認してもらうこと、こういった情報が広く周知される必要があります。
  • 愛知県警は、一宮市の70代の無職男性が約3億2千万円相当の暗号資産をだまし取られる詐欺被害にあったと発表した。報道によれば、2025年5月、男性がスマホに表示されたAI投資に関する広告にアクセスしたところ、イギリスの投資会社の職員を名乗る人物から電話があり、暗号資産を使った株式投資を持ちかけられ、男性は、購入した暗号資産を指示されたウォレットに送信、その後、払い戻しを受けようとすると、相手から「税金がかかる」「規制の解除に手数料がかかる」などと言われ、2026年3月までに、数十回にわたり計約3億2千万円相当の暗号資産をだまし取られたものです。男性が「これ以上お金を支払えない」と伝えると、「個人情報を全部ばらまく」と脅され、詐欺に
  • 岐阜県警大垣署は、岐阜県大垣市の80代男性が、警察を名乗る人物らから金の延べ棒約7・5キロ(時価約1億9千万円相当)をだまし取られたと発表しました。署は特殊詐欺事件として捜査しています。報道によれば、2026年2月、刑事や検事を名乗る人物から男性宅の固定電話に「マイナンバーカードが流出した」と連絡があり、その後、偽造されたとみられる男性名義のカードの画像がメールで届き、自宅に郵送されたスマホで指示を受け、金融機関の貸金庫に保管していた金の延べ棒を自宅に持ち帰り、指示に従い2026年3月、リュックに入れて玄関の外に置いたところ持ち去られたものです。4月に親族に相談し、詐欺と気付いたといいます。
  • 奈良県警は、県内の男性2人が、金塊と現金1億5千万円超をそれぞれだまし取られる特殊詐欺事件が発生したと発表しました。奈良市の70代男性は2026年1~3月、検察官を名乗る人物から「協力しなければ(逮捕状を)強制執行する」という電話があり、その後、マネロンしたとする偽の逮捕状が届き、指示に従い自宅前に置いた金塊3750グラム(時価約1億620万円相当)をだまし取られたといいます。また、奈良県内の別の60代男性は2025年10~2026年3月、LINEグループに誘われ嘘の投資情報を信じ、指定口座に現金計約1億5618万円を振り込んだものです。
  • 警察官など捜査関係者を装った「ニセ警察詐欺」の手口で、鹿児島県内在住の70代の女性が、2025年10月中旬から2026年4月中旬にかけ、現金や金など計約1億3300万円相当をだまし取られたと鹿児島県警が発表しました。報道によれば、2025年10月中旬ごろ、女性宅の固定電話に警察官を名乗る男から連絡があり「元銀行員の男を詐欺で逮捕しており、あなた名義の通帳を持っていた」などと言われ、その後、電話を代わった検事を名乗る男から「捜査に協力し、守秘義務を守りなさい」と言われ、LINEでやり取りするよう誘導されたといい、女性は、LINEのビデオ通話などで「逮捕されないために資金を預かる必要がある」「あなた名義の銀行口座で暗号資産を使い、マネロンを行っている」などと言われ、複数の口座に現金600万円のほか、暗号資産計約6千万円相当を送金、さらに「あなたが持っている金を国税局に預けなければいけない」などとも言われ、女性は所有する金計2.8キロ(時価約6700万円相当)を指定された屋外の場所に置いてだまし取られたものです。女性が取引する金の取引会社が県警に情報提供し発覚したといいます。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニや金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。一方、インターネットバンキング(IB)で自己完結して被害にあうケースが増えており、コンビニや金融機関によって被害を未然に防止できる状況は少なくなりつつある点は、今後の大きな課題だと思います。以下、被害を防止できた事例や被害防止に関する取組事例など、最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 仙台市内の60代女性が詐欺被害にあっている可能性があるという金融機関の通報を受け、宮城県警が、SNS型投資詐欺の実行役を詐欺容疑で逮捕しました。金融機関の取引監視に基づく通報を実行役の検挙に結びつけたケースは県内で初めてだといいます。通報を受けた捜査員が迅速に被害者に接触したことで被害が判明し、早期の証拠収集による検挙や被害の拡大防止につながったといいます。報道によれば、LINEのメッセージで仙台市太白区の無職女性に投資をもちかけ、2025年12月、女性宅で現金1000万円を受け取ってだまし取ったとされます。詐欺被害の兆候に気付いたのは、楽天銀行の担当者で、女性は、詐欺グループに指定された口座に400万円を送金しようとしましたが、同行の担当者から送金の理由を裏付ける資料の提出を求められたのに応じなかったため、同行が送金を停止、県警に通報し、その翌日には仙台南署員が女性に接触したことで、女性は計2100万円の詐欺被害にあっていることに気付きました。その際、女性は自宅で1000万円を被告に手渡したばかりだったため、県警が証拠の収集を早期に進められて被告の逮捕に至った上、女性の更なる被害の防止につながったといいます。楽天銀行は2025年8月に警察庁とこうした情報共有に関する協定を締結していました。2026年2月時点の締結機関は30に上り、2025年の県警への通報は116件、未然に防いだ額は計約1億3000万円に上るといいます。
  • 福井銀行は福邦銀行との合併に伴い、特殊詐欺の発生が懸念されるとして注意喚起をしています。福井銀行の行員などを装って顧客のキャッシュカードを預かり、暗証番号などを聞き出したり、偽サイトに個人情報の入力を求めたりする手口を例示しています。不審な電話などがあったら、即答せずに取引店舗に確認するよう呼びかけています。想定される詐欺の手口には行員をかたるものばかりでなく、警察官や公的機関などを装うケースがあり得るといい、合併手続き名目でメールやショートメッセージサービス(SMS)が送られる場合も想定されます。福井銀では、銀行が行わない行動として「キャッシュカードを預かることや暗証番号を聞くこと」「メールやSMSでインターネットバンキングのログインを誘導すること」を明示しています。起こりうるケースを事前に想定して、早い段階で注意喚起する取組みは大変高く評価きるものと考えます。
  • 兵庫県内で特殊詐欺の被害が深刻化していることを受け県は、防止に効果があるとされる固定電話の外付け録音装置1万4千台を無償配布すると発表しました。対象は65歳以上の県民で、申込期間は2027年1月29日までとのことです。録音装置を固定電話に接続すると、着信時に「この電話の通話内容は防犯のため会話内容を自動録音いたします。あらかじめご了承ください」という警告メッセージが流れ、犯人を牽制する効果があるといいます。県は2025年度に録音装置7680台を無償配布、県の実施したアンケートでは、同年6~8月に録音装置を設置した627人のうち、不審な着信が「減った」「なくなった」と答えた人は計8割に達したといいます。詐欺の手口が巧妙化し、被害状況が悪化する中、県は台数を1万4千台に増やすことにしたものです。なお、筆者としては、配布された録音装置が常にセットされていることが重要であることから、例えば金融機関側から連絡をしてみることも重要ではないかと考えています。
  • 高齢者を狙った特殊詐欺を未然に防いだとして栃木県警小山署は、栃木銀行小山東支店次長の木村さん、行員の宮下さんと、セブン―イレブン小山神鳥谷1丁目店のパート従業員、高橋さんにそれぞれ感謝状を贈っています。木村さんは、過去1年以内に3回の未然防止に貢献したとして、県警から「声掛けゴールドマイスター」の委嘱状も交付されました。同支店では2026年2月、宮下さんが60代女性から融資に関する電話相談を受けたところ、「投資に使う」などと話したため、詐欺の可能性があると木村さんに報告、来店を促したうえで女性から状況を聞き取り、詐欺の疑いが強まったため警察に通報しました。こうした対応は、宮下さんは今回で2回目、木村さんは2025年2月と3月にも詐欺を見抜いており、今回を含め1年以内に3件の被害を未然に防いだ実績が評価されました。一方、高橋さんは同2月、店内で電子マネーカードを購入しようとした70代男性に応対、慣れていない様子なので事情を聴いたところ、「パソコンが壊れ、直すと言うハッカーに支払う」と話したことから、詐欺ではないかと気づいたといい、購入を思いとどまるよう男性を説得し、警察に通報したものです。木村さんは「これ以上どうやって被害を防いでいくか、行員みんなの気づきが重要。県警から講師を招いて特殊詐欺の研修を行っていることが役立っている」と話し、宮下さんは「お客様に寄り添うことを大事に、自分に足りない部分は周囲を巻き込みながら対応していきたい」、高橋さんも「地域のお役に立てたのはうれしい。今後も気をつけるよう努めていく」と述べています。同署の中里署長は「特殊詐欺の手口は巧妙化している。1回被害を受けると、2回、3回とつけ込まれて被害額が増えていく。店頭や窓口での『おかしい』という気づきと声かけが被害を食い止める大きな力になる。今後もご協力をお願いしたい」と感謝を伝えました。

ウクライナ侵略を続けるロシアで詐欺犯罪が社会問題化しているといいます。被害は軍事作戦に参加する兵士の家族にも広がっています。プーチン政権は批判の矛先が政権に向かわないよう対策に躍起になっています。具体的な事例は次のようなものです。「父親はローンを組もうとしていた。手続きに必要なアプリを携帯電話に入れてほしい」と軍事作戦で父親を失った露中部チェリャビンスク州の少年(17)のもとに2025年、電話がかかってきたため、少年が指示に従うと、今度は捜査員を名乗る人物から電話があり、「おとり捜査で『運び役』になってほしい」と頼まれ、依頼に応じて少年が運んだ現金は詐欺集団に渡ったことが判明し、少年は詐欺罪で起訴されたというものです。軍事作戦に関連した悪質な手口も後を絶たないといいます。ロシアの銀行最大手ズベルの推計によれば、スマホなどを介した詐欺の被害額は2024年に約2950億ルーブル(約6100億円)に上り、2022年の約1200億ルーブルの約2.5倍に達しました。詐欺被害の拡大は、ウクライナ侵略開始後、ロシアから欧米の情報セキュリティ企業などが撤退するなどし、企業の個人情報の管理が脆弱になったことが一因との指摘がなされています。詐欺集団が利用者らにスマホなどで操作させ個人アカウントを乗っ取り、個人情報を悪用するケースも相次いでいることから、露政府は2025年、スマホのSIMカードの管理の厳格化を含む約30項目の対策を打ち出しました。プーチン大統領は3月、内務省幹部らとの会議で、詐欺被害者の救済措置にも注力するよう強調、露大統領府は4月、プーチン氏が担当副首相とこの問題を協議する様子も放映、詐欺被害の拡大が続いて不信感が膨らめば、政権批判につながりかねないことを懸念しているとみられます。2026年春からは詐欺が疑われる事案について治安機関と銀行、通信会社が情報を共有する制度が始まりましたが、被害防止と称して正常な取引まで止められるなど過剰な対策につながる恐れがあり、専門家からは「詐欺対策が管理体制の強化に向かえば、経済活動を制限することになる」との指摘も出ています。なお、前述したとおり、ロシアでも「闇バイト」スキームが横行していることもあり、詐欺被害が拡大している側面もありそうです。

(3)薬物を巡る動向

違法な大麻由来成分を含むサプリメントの密輸入に関与した可能性があるとして福岡県警の捜査を受けたサントリーホールディングス(HD)元会長、新浪剛史氏について、県警が、麻薬取締法違反(輸入)容疑で書類送検したことが判明しました。新浪氏の知人で米国在住の女性も同容疑で書類送検したといいます。報道によれば、新浪氏は2025年8月、知人女性やその弟と共謀し、大麻由来の違法成分「THC」(テトラヒドロカンナビノール)を含むサプリを米国から日本に密輸した疑いが持たれており、県警は海外にいる知人女性から直接聞き取りができておらず、捜査は難航、今回の書類送検で新浪氏について積極的に起訴を求める意見は付けていないとみられ、福岡地検も刑事責任に問えるかを慎重に判断することになります。サプリは、知人女性が福岡県内に住む弟宛てに発送、県内に入った時点で門司税関が成分を検査したところ、基準値を超えるTHCが検出され、情報提供を受けた福岡県警は「コントロールド・デリバリー」(泳がせ捜査)を実施して2025年8月、荷物を受け取った弟を麻薬特例法違反容疑などで逮捕=処分保留で釈放=していました。弟は県警の調べに「サプリは姉から頼まれて新浪氏に送る予定だった」などと説明、また、違法な成分の有無は不明だが、過去にも弟経由で似たようなサプリが1度、新浪氏に送付されていたことも発覚しました。県警は、事件の関係先として東京都内の新浪氏の自宅を家宅捜索、だが、違法薬物や送付されたはずの1度目のサプリは見つからず、薬物使用を調べる尿検査も陰性でした。新浪氏は県警の任意の捜査に「大麻成分が含まれていることは知らなかった」と容疑を否認、また、9月3日に開いた記者会見ではサプリは健康管理のため知人女性から薦められ「適法と認識して購入した」と釈明、1度目に送られたとされるサプリは「送り主が分からない荷物は廃棄する。家族が捨てた可能性がある」と話していました。新浪氏は、2023年からは経済同友会代表幹事も務めていましたが、一連の問題を受けて2025年9月1日付でサントリーHD会長を、同30日付で経済同友会代表幹事をいずれも辞任しています。以下は、筆者がダイヤモンドオンラインに寄稿した記事からの抜粋です。薬物に限らず、今社会問題となっているオンラインカジノ(ギャンブル依存症)やアルコール依存症などにも共通する「無知・無自覚による軽率だが重大な犯罪」であることを正しく理解し、役員・従業員のこれらの問題への関与が「経営リスク」として捉えるべき状況にあることを、あらためてお伝えしたいと思います。

新浪氏はサプリメントを製造、販売する企業でトップを務めていたし、経済財政諮問会議の民間議員でもあり、CBDは大麻草由来で、海外のサプリには大きなリスクがあること、大麻蔓延による被害が深刻化し国もさまざまな対策を講じている中、たとえ該当のサプリに違法との認識がなかったとしても、軽率とのそしりは免れず、(解任ではないとしても)サントリーHDの対応は企業の危機管理対応として妥当と評価できると考えます。また、「経営者と薬物使用」は、企業にとって重大な経営リスクになり得るのであり、例えばオリンパスでは2024年10月、欧州出身のCEOが違法薬物を購入した疑いで書類送検、在宅起訴されたほか、2015年4月にトヨタ自動車初の女性役員として着任した米国出身幹部が、麻薬成分を含む錠剤を密輸した疑いで同年6月に逮捕され辞任、この女性幹部は「膝の痛みを和らげるためだった」と容疑を否認、不起訴処分(起訴猶予)となり、2022年に北米トヨタの「シニアメディアアドバイザー」の役職で復帰しています。薬物関連について、「(違法となる)日本で使用したことはないが、(合法となる)海外で使用したことがある」という人もいますが、本人の認識や常習性の有無に関わらず、「日本では違法なものは、とにかく違法」という当たり前のことを強く認識する必要があります。また、経営者は日々、大きなプレッシャーがかかっているから薬物に手を出す構図がある、などという理屈も論外であり、薬物は、無知・無自覚がもたらす軽率だが重大な犯罪であり、依存症につながる点では、深刻化するオンラインカジノ問題、ギャンブル依存症の増加と共通しています。役員・従業員が関与する薬物事件や賭博事件が、企業の業績やレピュテーションに悪影響を及ぼす可能性が高く、薬物や賭博は依存症や経済的破綻を引き起こし、企業にとって大切な人的資本を毀損する点でも、経営リスクのひとつとして捉えるべきだといえます。「個人の問題」や「そんなの常識でしょう」などと片付けてリスクを放置するのではなく、企業側も大麻をはじめ薬物、そして賭博に関する啓発を全ての役員・従業員に対して継続的に行っていくべきだと考えます

本コラムでの以前からその動向を注視していますが、「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物「エトミデート」の密輸が相次いで摘発されています。日本では2025年に製造や所持が原則禁じられましたが、2026年4月、海外からの渡航者が手荷物や航空便で国内に持ち込もうとした事案が3件、税関で立て続けに見つかりました。こうした事件を受け、警視庁など捜査当局は「国際密輸組織がマーケットとして日本を狙っている」とみて警戒を強めています。海外から持ち込もうとした台湾籍の容疑者は、「マレーシアのホテルでスーツケースを渡された。中身がエトミデートとは知らなかった」と供述、警視庁によれば、フェイスブックで知り合った人物から5万台湾ドル(約25万円)の報酬で荷物を運ぶ仕事を打診され、マレーシアへ行くと、今度は日本への渡航を指示されたといい、会ったこともないその人物を「彼は私を利用した。許せない」と非難しつつ、自身の仕事が「何か違法なことかもしれないという認識はあった」とも語っています。つまり、「闇バイト」に手を染めたとみられており、同様に4月中旬、成田と羽田の両空港で相次ぎました。3件とも輸出元はタイやマレーシアといった東南アジア諸国で、毎日新聞の報道で警視庁の捜査幹部は「こうした国々に拠点を置く、麻薬の国際密輸組織がある」と指摘するも、その実態は解明されていないのが実情です。さらに、台湾やマレーシア以外にもイランやナイジェリア人が関与する密輸組織もあり、判然としないものの、全件を税関で食い止められているとは考えにくく、気付かぬまま国内に持ち込まれているケースもあるとみられています。エトミデートは、本コラムで取り上げてきたとおり、沖縄で流行した後に全国に広がっています。秘匿性の高い通信アプリには広告も出ており、2025年5月に厚生労働省がエトミデートを指定薬物に追加し、医療用途以外の目的での使用や輸入、所持などを禁止した後も各地で使用や所持による逮捕が後を絶たない状況です国内の流通には、暴力団も関わっているとされ、2025年12月、航空便でタイからエトミデートを密輸したとして日本人の男性が逮捕されましたが、この男性は指定暴力団と密接な関係があるとされます。押収されたのは、2000回分の使用量に当たる2.1キロで、「海外と国内の犯罪組織が関わり、日本では暴力団の資金源になっている」と警視庁はみていますが、筆者も同様の見立てです。エトミデートは、液体を電子たばこで吸うのが主流で、1個2万円前後で密売されているとされるも、摘発事例がまだ少なく、警察当局も「末端価格はよく分からない」のが実情で、広がり始めた「ゾンビのもと」のまん延を食い止めるため、警察や税関は水際の警戒に力を入れているといいます。

米司法省と麻薬取締局は、マリフアナ(大麻)を依存の危険性が高い薬物とする現在の分類から外す命令を出しました(2026年4月24日付読売新聞。一方、同23日付時事通信は「医療用大麻の規制を緩和し、鎮痛剤などと同じ危険性の低い分類に変更すると発表した」と報じています)。2026年11月の米中間選挙を控え、大麻の合法化を求めるリベラル層を取り込み、大麻利用に関心の高い若者や退役軍人らにもアピールする狙いがあるとみられています。米国の連邦法では、大麻はヘロインや合成麻薬のLSDなどと同様に、健康リスクが高い「1類薬物」に分類されてきましたが、トランプ大統領が2025年12月に大麻の分類見直しを指示する大統領令に署名したことを踏まえ、医療用としての使用が認められる「3類薬物」に変更されることになりました。大麻の合法化は2012年以降、民主党支持が強い州を中心に進んでいますが、今回の連邦レベルでの規制緩和は、トランプ政権が民主党の「お株」を奪い、新たな票を掘り起こす思惑があるとの見方が強いとされますが、「薬物乱用を助長する」との懸念もあり、保守層の反発を招く恐れもあります。なお、時事通信の報道では、「医療分野での研究開発を促進するのが狙いで、同省は娯楽用大麻を合法化する措置ではなく「違法薬物取引に対する厳格な連邦規制を維持する」と強調している。大麻はこれまで、ヘロインや合成麻薬「LSD」などと同じ、依存性が高く医療への使用は認められない薬物に指定されていた。今回の分類変更により、大麻関連の事業者は税制優遇などを受けられるようになる」と報じており、こちらの方がより正確に伝わると感じます。ほかにも、「直ちに合法化する動きではないとしている」(産経新聞)、「大麻の全面合法化を意味するものではないものの、大麻の潜在的な用途⁠に関する研究にとって追い風となる。税負担の軽減や、企業の資金調達がしやすくなることで、関連業界の活性化につながる可能性がある。連邦政府の大麻に関連する政策において、過去数十年間で最も大きな変更の一つになるという」(ロイター)といった形で報道されていますが、やはり、社会(特に若年層)に「誤ったメッセージ」として受けとめられることを大変危惧しています。以前の本コラム(暴排トピックス2025年9月号)でも以下のとおり、筆者の立場を述べています。あらためて紹介します。

筆者が危惧するのは、特に日本に対し、りさらに「誤ったメッセージ」として発信されてしまう可能性です。スケジュール3は規制の対象であること、犯罪組織の弱体化につながる可能性があることなどは事実ですが、最も重要なことは、米では大麻が十分に普及しており、合法化によって逮捕が劇的に減少する(摘発に要する莫大なコストや税負担を大きく抑制できる)こと、2023年世論調査で米成人の約7割が大麻の合法化を支持(2000年は3割程度)していること、バイデン政権が「大麻の単純所持」で有罪判決を受けた人全員に恩赦を与えていることなど、米社会に特有の問題として捉えるべきで、安易に日本においても「安全だ」「合法化すべきだ」という議論になりえないということです。

ニコチン入り電子たばこ「ニコパフ」が若者の間で広がっています。国内では未承認で、販売や譲渡は禁止されていますが、ニコパフを巡る事件は相次いでおり、専門家は「違法薬物の入り口になる危険性もある」と警鐘を鳴らしています(2026年5月9日付時事通信)。「ニコチン」と、吸うを意味する英単語「puff」を組み合わせた造語で、香り付きの液体を加熱し、蒸気を専用機器で吸う仕組みで、「煙の臭いが少なく部屋で吸えるのが魅力的」、さわやかな味が好き。譲渡が違法だとは知らなかった」、「紙たばこよりたくさん吸えてコスパが良い」、「加熱式たばこよりお金がかからず、おしゃれさに引かれた。周りで吸っている人も多い」、「SNSで購入者を募る投稿を見つけ、投稿者と秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」でやり取りして買っている友人も多い」などと若者を中心に広がっているようです。報道によれば、ニコパフは、ネットなどを通した個人輸入や使用自体は違法ではないものの、ニコチンを含む製品に必要となる医薬品としての承認を受けていないため、国内で販売、譲渡した場合は医薬品医療機器法違反となるといいます。大阪府警によれば、2025年夏ごろからニコパフの取扱件数が増加しており、2026年3月にはニコパフを売ったとして大学生や高校生を摘発しました。大学生は海外サイトで購入し、SNSでの販売を繰り返していたといいます。大阪府内では、少年グループがSNSで知り合った別の少年を襲い、ニコパフとみられる電子たばこや現金を奪う強盗致傷事件も起きています。報道でたばこ対策に詳しい地域医療振興協会のへき地医療研究センターアドバイザー、中村正和さんは「たばこ製品に比べて有害成分は少ないが、発がん性物質などが発生する」と指摘、未成年者の使用を制限する法律がない現状を踏まえ、「違法薬物に手を出す入り口になりかねない。たばこ製品同様、未成年者が買えないよう規制すべきだ」と強調しています。また、たばこの健康被害に詳しい科学ジャーナリストの石田雅彦氏は「ニコパフは若年層のニコチン依存などを招く恐れがある。にもかかわらず、規制が実態に追いついていない」と指摘、電子たばこに詳しい鳥取大医学部の桑原祐樹助教(公衆衛生学)も現行の規制は不十分として、「ニコパフは紙巻きたばこなどと比べ、リスクが十分に啓発されていない。20歳未満の使用を禁じる対象に加え、流通は今と同じ薬機法で規制するなど法規制のアップデートが必要だ」と指摘しています。さらに、厚生労働省などによれば、電子たばこはリキッドを含めて海外製品が多く、実際にはどんな成分が含まれているか判然としない危険性があり、同省は品質や安全性が確認できない成分を含むリキッドがオンライン上で販売されているケースがあるとして、健康被害のリスクに注意を呼びかけています。大麻はよく「ゲートウェイドラッグ」と呼ばれますが、ニコバフもさらに手前の「ゲートウェイドラッグ」と言えるかもしれません。電子たばこを巡っては、前述したとおり、若者を中心に、「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物「エトミデート」の成分が入ったリキッドの乱用も問題になっています。専門家らの指摘するとおり、ニコパフもエトミデート同様に薬物への入り口となる可能性が高く、早急な対策が必要な状況と考えます。

営利目的で麻薬「ケタミン」を密輸したとして、大阪府警は、ブラジル国籍の容疑者を麻薬及び向精神薬取締法違反(営利目的共同輸入)などの疑いで逮捕しました。報道によれば、容疑者は営利目的で2025年7月、ケタミン約5キロを約28センチ四方の箱に隠してオランダから国際宅配便で輸入した疑いがもたれており、大阪府警が大阪税関関西空港税関支署からの通報をもとに、宅配便の宛先だった別の容疑者=麻薬特例法違反容疑などで逮捕=の関係先などを捜査したところ、容疑者の関与の疑いが浮上したものです。府警は容疑者が密輸の指示役だったとみているといいます。ケタミンは一般的に麻酔や鎮痛作用のある医療用医薬品として使われますが、密輸品が乱用されて虚脱感や幻覚症状を引き起こすとして問題となり、2007年に麻薬に指定されています。ケタミンについては、長崎県警が、同県の離島・対馬、壱岐両市の海岸で2025年10~12月、ケタミンの入った四つの袋(計約4キロ)が相次いで見つかったと発表しています。中国語や「China tea」といった文字のほか、緑の茶葉のようなイラストが載った袋を住民が見つけたもので、袋の中身はいずれも約1キロで、白い結晶が入っていたといいます。また、韓国・済州島の海岸でもケタミンとみられる麻薬の発見が相次いでいます。韓国南部の済州島の海岸で2025年9月~2026年3月に20回、計37キロのケタミンとみられる麻薬が見つかり、緑色や銀色の茶袋に1キロずつ入っていたといい、2025年7月に台湾西部の海上で確認された大量のケタミンの包装と似ており、台湾周辺から潮流に乗って流れ着いた可能性があるといいます。

暴力団等反社会的勢力による薬物事犯について、最近の報道からいくつか紹介します。

  • 住吉会幸平一家の傘下組織の組員が末端価格2億6500万円相当の覚せい剤を密輸したとして、覚せい剤取締法違反の疑いで警視庁に逮捕されました。容疑者は、2024年4月、仲間と共謀し、覚せい剤およそ5キロ(末端価格2億6500万円相当)をアメリカから成田空港に営利目的で密輸した疑いがもたれています。警視庁によれば、東京税関の職員による検査で東京・練馬区にある住所宛ての段ボールに入っていた金属製の筒状のフィルターの中に覚せい剤が隠されているのが見つかり、事件が発覚したものです。警視庁は段ボールの受け取り役とされた男女3人への捜査から指示役とみられる容疑者の行方を追っていたところ、2年がかりの捜査の結果、逮捕に至ったということです。なお、容疑者は事件後の2年間、クレジットカードを使用せず、失効した運転免許証の更新もしていなかったものの、都内の関係先に立ち寄っていることを突き止めたといいます。警視庁は、密輸された覚せい剤の量などから、幸平一家が組織的に関与した可能性があるとみて調べていますが、警視庁は2026年1月、幸平一家の特別対策本部を設置、警察庁の発表によれば、2025年に営利目的の薬物事犯で検挙された暴力団構成員のうち約3割は住吉会だったといいます(特殊詐欺だけでなく、薬物事犯においても存在感を示しており、幸平一家対策はさまざまな組織犯罪のポイントだといえます)。
  • 2026年1月、大阪・浪速区にある集合住宅の1室で覚せい剤を所持したなどとして六代目山口組弘道会傘下組織組員ら2人が逮捕されました。部屋からは覚せい剤230グラム、(末端価格およそ1300万円相当)や大量の注射器のほか、大麻やコカインなどが押収されており、警察は、暴力団の密売グループが関わっているとみて捜査しています。集合住宅を拠点として薬物を密売していたとみられ、暴力団の密売グループが関わっているとみて捜査しています。
  • 福岡県警など、福岡県久留米市内にある道仁会傘下組織の組事務所を覚せい剤取締法違反(所持)の容疑で家宅捜索しました。同会傘下組織の組員が同法違反の疑いで逮捕されており、その関係先として捜索したものです。報道によれば、久留米市を本拠地とする道仁会は2025年末時点で構成員数約300人とされ、県内の五つの指定暴力団のなかで最大で、2025年に代表者の変更が官報公示されました。県警は代替わり以降、活発に活動しているとして警戒を強めており、捜査員約15人が組事務所に入り、家宅捜索は30分ほどで終了しています。
  • 空き家の床下におよそ4万回分の覚せい剤を隠していたとして、六代目山口組の関係者の男ら2人が神奈川県警に逮捕されました。2人は2025年12月、埼玉県春日部市の空き家の床下に覚せい剤や覚醒剤の成分を含む粉末、合わせておよそ790グラムをバッグに入れて隠していた疑いがもたれています。報道によれば、2人が隠していた覚せい剤は末端価格およそ4200万円相当で、およそ4万回分の使用量にあたるということです。バッグからは薬物とみられる別の粉末も見つかったということで、警察が余罪を捜査しています。

覚せい剤約270キロ(末端価格143億円)を密輸したなどとして、警視庁は、パキスタン国籍で、住所不詳、中古車販売業の容疑者を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で逮捕し、同国やスリランカ国籍の男計5人(18~57歳)を麻薬特例法違反(規制薬物としての所持)容疑で現行犯逮捕したと発表しました。報道によれば、容疑者は2025年12月~2026年1月、アラブ首長国連邦で、貨物船舶のコンテナ内に鉱物の粉末入りの袋とともに覚せい剤約270キロを隠し、シンガポール経由で東京都品川区の東京港大井ふ頭に輸入した疑いが、他の5人は、茨城県古河市内のヤードで、覚せい剤と知りながら受け取った疑いがそれぞれもたれています。容疑者は千葉・成田空港で出国しようとしていたところを確保されましたが、国際的な麻薬犯罪組織のメンバーとみており、海外の捜査機関とも連携して捜査を進めるといいます。他の5人は「容疑者に頼まれた」と供述しているといいます。東京税関が3月、輸入申告を受けたものの、長期間保管されていることなどを不審に思い、江東区のコンテナ検査センターで荷物検査をしたところ、コンテナから白い粉を詰めた742袋(14トン)が見つかり、大半は鉱物を粉にした「タルクパウダー」でしたが、うち18袋(270キロ)に覚せい剤が入っていたといい、宛先は栃木市の会社でした。

その他、最近の薬物を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • エトミデートを使用したとして医薬品医療機器法違反の罪に問われたプロ野球広島東洋カープ元選手の羽月被告の初公判が2026年5月15日に広島地裁で開かれます。起訴状によれば、2025年12月、医療以外の用途で若干量を自宅で使ったとしています。被告は2026年2月17日に起訴され、同18日に保釈、同24日に球団が契約を解除しました。
  • カンボジアから覚せい剤を密輸したとして、茨城県警は、いずれもカンボジア国籍でつくば市の技能実習生の24歳と23歳の男2人を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で再逮捕しました。報道によれば、両容疑者は2026年2月、他の仲間と共謀してカンボジアから覚せい剤約171.97グラムを溶かした液体をベビーオイルのボトルに入れて航空貨物で発送し、日本国内に密輸した疑いがもたれています。成田空港の税関検査で覚せい剤が見つかり、容疑が浮上したものです。ベビーオイルのボトルは食材や緩衝材と一緒に梱包されていたといいます。なお、2人は麻薬特例法違反の疑いですでに現行犯逮捕されていました。
  • 覚せい剤を所持したとして、警視庁四谷署が覚せい剤取締法違反(所持)容疑で、海上自衛隊1等海尉を現行犯逮捕しました。報道によれば、容疑者は東京音楽隊に所属し、指揮者を務めるなどしていたといいます。逮捕容疑は2026年4月、東京都新宿区新宿の駐車場で、覚せい剤約0.8グラムを所持した疑いがもたれており、容疑者は当時、勤務時間外で、1人でいたといい、職務質問でかばんの中から透明のビニール袋が見つかり、中身を調べたところ、覚せい剤と判明したといいます。
  • 陸上自衛隊滝川駐屯地(北海道滝川市)は、麻薬を含む乾燥植物片を所持したとして第10即応機動連隊の3等陸曹を懲戒免職処分としました。陸自が2月に麻薬取締法違反(所持)の疑いで書類送検していました。処分理由は2025年10月、道内の自宅で麻薬を含む乾燥植物片を所持したとしています。
  • 福岡県警は、久留米署が20代の男性を麻薬取締法違反(所持)容疑で誤認逮捕し、約14時間後に釈放したと発表、同署は男性に謝罪したといいます。報道によれば、久留米市内の交差点を膨らんで左折する乗用車を巡回中の署員が発見、運転していた男性を職務質問したところ、車内から紙巻きの植物片2本が見つかり、現場での簡易検査で大麻の陽性反応を示し、においや形状からも男性が大麻を所持したとして、同容疑で現行犯逮捕しました。調べに対し、「「逮捕前に検査して大麻という結果が出たので、大麻に間違いないと思います」と認めていましたが、福岡県警科学捜査研究所で正式鑑定をしたところ、大麻とは別の麻薬成分が検出されたため、男性を釈放、今後は別の麻薬を所持したとして、同容疑で任意で調べるといいます。現行の試薬による簡易検査と、正式鑑定の結果が違ったケースは福岡県警では初めてだといいます。福岡県警は「様々な状況を総合的に判断すべきだった。今後同種事案が発生しないよう、緻密かつ適正な捜査を推進し再発防止につとめていく」と述べています。
  • 薬物ではありませんが、手口が薬物密輸と酷似している点で注目されます。金価格が高騰する中、成田空港で金密輸の摘発数が急増しているといいます。東京税関成田税関支署が発表した2026年1~3月の摘発数は33件(33人)、押収量は2025年の1年間分(約31キロ)を大きく上回る約46キロ(12億円相当)となっています。報道によれば、摘発された33人は全員が香港国際空港から来た外国人旅客で、このうち30人が粉状にした金をラップや避妊具で包み、体内に入れて密輸しようとする手口で、2.7キロの金を体内に隠し持っていたケースもあったといいます。同支署は、非課税で金を購入できる香港から密輸した粉状の金を日本で精錬し、インゴット(金属塊)にして貴金属店などに売却することで、上乗せした消費税分を利益にしようとしていたとみています。財務省は金密輸の増加を受け、水際対策を強化しています。以前の本コラムでも紹介したとおり、2025年末から無許可輸入の金地金の没収や罰金の事実上の引き上げ、精度の高い金属探知機の導入などの対策を実施しています。

せき止めなど特定の市販薬に、18歳未満への販売制限を設ける改正医薬品医療機器法が2026年5月から施行されています。若者(特に若年女性)を中心に社会問題化している市販薬のオーバードーズ(過剰摂取、OD)に対する規制が強化されました。コロナ禍を契機に急性中毒や依存患者が急増、ドラッグストアなどで入手できる市販薬を用いたケースが多く、規制の在り方が問題となってきました。厚生労働省研究班は2024年、全国の依存症専門医療機関を対象にODに関する調査を実施、29施設から294症例の報告があり、患者の平均年齢は29.1歳、内訳は20代37.4%、10代24.5%、30代21.1%で、全体の7割超を女性が占めました。乱用開始の背景として約4割が家族関係、約3割が友人関係を挙げ、学校や仕事上のトラブルもありました。SNSが乱用に関する主な情報源となっていることも判明、国立精神・神経医療研究センターが高校生約5万人から回答を得た2024年度の調査では、約70人に1人が「過去1年間に市販薬の乱用経験がある」と回答、全体の約1.4%に当たり、男性0.9%、女性1.7%でした。また、北海道・東北ブロックで経験率が高く、ODが全国的に拡大していることも浮き彫りになりました。市販薬の入手先は、薬局やドラッグストアなど実店舗が最多の5割超、家の常備薬が約2割で、インターネットなどが続きました。同省は、ODは意識喪失や心肺停止、急性中毒で死亡に至ることがあるとし、依存症に陥る危険性も警告、「違法ではないからといって、安全でも安心でもない。心と体を傷つける」と注意を呼び掛けています。そのような中、今回の法改正の対象となるのは指定成分を含むせき止めのほか、風邪薬や解熱鎮痛剤、アレルギー薬などで、18歳未満への販売が小容量(5~7日分)1箱のみに制限されます。薬剤師らは購入者に対し、身分証などで年齢や氏名、他店での購入状況を確認した上で、過剰摂取に関する情報提供を行うことになりました。18歳以上は複数、大容量の購入が可能ですが、薬剤師らは理由などを確認し、販売を断ることもあるといいます。全年代でインターネット購入できますが、ビデオ通話システムで薬剤師らから同様の確認を受ける必要があります。なお、規制の実効性を確保するため、厚生労働省と業界団体はガイドラインを整備、頻繁な購入や過剰摂取が疑われる場合、購入者の特徴を店舗内で共有することなどが例示され、薬局やドラッグストアはこれを基に手順書を作り対応することになります。また、規制を順守しなければ、店舗の営業許可が更新されない可能性があるといいます。同省はこれまで、省令などで「乱用の恐れのある医薬品」として6成分を定め、これらを含む市販薬の販売に特別なルールを設けていましたが、改正法では2成分を追加した計8成分を「指定乱用防止医薬品」として規制を義務化しました。

海外における薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 麻薬カルテルに協力したとして米司法省から起訴されたメキシコ・シナロア州のルベン・ロチャ知事が離職しました。シェインバウム政権が対米外交の新たな火種になるのを恐れて動いたとみられ、メキシコ当局主導の捜査が本格化します。2026年5月6日付日本経済新聞の記事「メキシコ「麻薬カルテルと癒着」疑惑の知事捜査へ 大統領の本気問う」の分析が大変参考になります。シェインバウム大統領は「これは我々の尊厳の防衛だ」と述べ、米側が求めるロチャ氏らの米国への引き渡しや即時の身柄拘束は緊急性がないなどとして拒否しています。一方で「かばうつもりはない」とも述べ、政権与党・国家再生運動(MORENA)重鎮のロチャ氏でも忖度なしで捜査する考えを強調しています。ロチャ氏らシナロア州の政治家、官僚、警察幹部10氏(元職含む)は「チャピートス」と呼ばれるシナロア・カルテル創始者の息子たちから多額の金品を受け取り、見返りとして同カルテルの犯罪活動に便宜を図ってきた疑いがもたれています。他国の現職知事をいきなり起訴するという強硬手段には主権侵害の恐れもあることから、これまで米側も自重してきましたが、トランプ米政権は麻薬カルテルを国際テロ組織に指定しており、現職の政治家にも容赦しないという強い警告といえます。なお、賄賂の総額は少なくとも数百万ドル(数億円)に上るとみられます。シェインバウム大統領は麻薬カルテルに毅然とした態度で臨むと繰り返し、トランプ政権の発足から1年3カ月あまりで100人近い受刑者を米国に引き渡してきました。メキシコでは長く、政治家や捜査当局との癒着が麻薬カルテルの台頭を許してきました。カルデロン政権は軍隊による徹底的な取り締まりを軸とする「麻薬戦争」を麻薬カルテルにしかけながら、水面下では治安トップがカルテルの資金で富を築いており、こうした癒着の構図をシェインバウム氏は厳しく非難してきた経緯があります。今回はMORENAの政治家も汚職に手を染めていた可能性が浮上、ロチャ氏はシェインバウム氏を大統領へ導いたロペスオブラドール前大統領の盟友でもあり、外交問題としての過熱を避ける代わりに、自らが先頭に立って進めてきた「腐敗との決別」の本気度と実行力が問われる局面に突入しました。
  • 米国とメキシコの国境沿いでドローン(無人機)の目撃情報が急増、米当局はメキシコの麻薬カルテルが偵察や密入国、麻薬密輸の目的で安価なドローンを投入していると報告し、米南部国境沿いでのドローン対策を急ピッチで進めているといいます。米国土安全保障省(DHS)によれば、2024年10月~2025年9月だけで4万機以上ものドローンを確認、月平均で3000機以上と、前年同期の月1000機から3倍以上に増えたといいます。カルテルはドローンを使ったメタンフェタミンやフェンタニルなどの合成麻薬の密輸を試みているとされ、DHSはこれまで、ドローンが運んだ数千キロもの合成麻薬を押収しており、押収量は2024年下半期だけで500キログラムを超えたといいます。カルテルはドローンで国境を監視し、新たな密入国ルートを探ることが多いといいます。南部国境の警備強化を公約に掲げるトランプ米政権はカルテルを目の敵にしており、米政権は2025年2月にメキシコを含む中南米の複数のカルテルを外国テロ組織に指定し、同年3月には米軍が南部国境統合任務部隊を結成しました。ただ、報道によれば「国境沿いで使用している探知機は風船、鳥、ドローンの識別ができない」といい、2026年2月には米当局が米連邦航空局(FAA)と連携せずにレーザーを使用し、南部テキサス州の一部空域が7時間以上閉鎖される事態となりました。国境沿いの同州エルパソ空港では航空機の離着陸が一時停止、米当局が風船をドローンと誤認したといいます。ドローンの兵器利用はウクライナ戦争をきっかけに注目を集めていますが、中東やアフリカ西部ではイスラム過激派組織がドローン攻撃を実施し、欧州ではロシアのドローンが北大西洋条約機構(NATO)加盟国の空域へ侵入するケースが相次ぎ、米国では国境以外でも米軍基地、国防長官や国務長官など閣僚の自宅付近で不審なドローンが確認されています。カルテルも戦場での利用を参考にしているほか、カルテル間の抗争でもドローンが使用されています。メキシコのカルテルはウクライナ戦争に参加したコロンビア出身の傭兵も採用しており、こうした人材はドローン戦略のノウハウを持ち、スペイン語も通じるといいます。欧州と中東でドローンが安全保障の常識を塗り替えるなか、米国にとっても対岸の火事ではなくなっています。犯罪組織なども着々と新技術を取り入れている実態に危機感を持つ必要があります。
  • スペイン警察の労働組合は、大西洋上の船舶で警察が大量のコカインを押収したと明らかにしました。35~40トンと推定され、スペイン当局が押収したコカインの量としては過去最大規模とみられます。警察は、スペイン領カナリア諸島沖の公海上で船を拿捕し、約20人を逮捕したといいます。船は西アフリカ・シエラレオネの首都フリータウンを出発し、リビア東部ベンガジに向かっていました。スペインのグランデマルラスカ内相は今回の押収について「スペインだけでなく国際的にも最大級の一つだ」と述べています。
  • ブラジル政府は、国際的な組織犯罪対策で米国と連携することで合意したと発表しました。麻薬や武器などの密輸に関する情報共有や対策を進めるとしています。トランプ米政権はブラジルに対して、犯罪組織への取り締まりを強めるよう圧力をかけていました。米税関・国境取締局(CBP)とブラジル歳入庁が連携、両国間で取引される武器や麻薬といった違法貨物の摘発に向け、リアルタイムでの情報共有などを想定しています。ブラジル政府は、近年増加する銃の密輸などに対し、効果的な取り締まりにつながるとみているといいます。トランプ政権は麻薬対策を重点施策の一つに掲げ、中南米の犯罪組織への締め付けが必要だと訴えてきました。ベネズエラなど各国の犯罪組織を外国テロ組織に指定するなどして、麻薬対策を軍事攻撃の理由にも挙げていました。ブラジル国内で大規模な勢力を持つ複数の犯罪組織についても、テロ組織に認定する方向で検討していると報じられています。ブラジル側は米国の国内安全保障に脅威を与えるものではないと反発、さらにトランプ大統領が自身に近いブラジルの前大統領への刑事訴追を不当だとしてブラジルに一時高関税を課すなど、対立が先鋭化していましたが、その後、トランプ氏とブラジルのルラ大統領の初会談が実現、協力関係の模索が続いています。ブラジル政府は今回の犯罪対策に関する合意について、首脳協議の成果だと強調しています。

(4)テロリスクを巡る動向

2026年5月8日付毎日新聞の記事「「何かが欠けている」判決内容に抱いた違和感 安倍元首相銃撃」は大変共感できるものでした。安倍晋三元首相銃撃事件で殺人罪などに問われた山上徹也被告に2026年1月に無期懲役の判決が言い渡され、首相経験者が殺害された戦後初の事件は一つの区切りを迎えました。記者は、「元首相が殺害された事件は1936年の「2・26事件」にまでさかのぼる。それだけでも重い事実だが、社会が「甚大な衝撃」を受けたのは、被害者が安倍氏だったことが大きい。2度にわたる首相在任期間は計3188日。憲政史上最長の政権を率いた。首相退任後も自民党最大派閥の長として影響力は衰えず、応援弁士として駆けつけた奈良市で命を落とした」、「ただ、判決からは安倍氏の人物像は浮かんでこない。2万字近い判決文で「総理」「首相」の単語はそれぞれ1回しか出てこない」、「「犯罪の性質を評価するなら、元首相の殺害という異例さは事件の核心だった」と検察幹部が指摘していたにもかかわらず、だ」、「判決は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍氏の関係にも詳しく触れなかった。「被告は安倍氏のことを教団への影響力がある人物だと考えていた」という具合に、あくまで山上被告の主観的な認識として事実認定をした。教団と安倍氏の接点に関する客観的な証拠や証言がなかったわけではない」、「事件によって自民党と教団の蜜月関係があらわになり、政界にも影響を与えた。3月には東京高裁が東京地裁に続いて教団の解散を命じている。こうした社会の動きは、影響力のある安倍氏が被害者だったことを抜きに語れないはずだった。私は、裁判所が政治的なハレーションにつながる展開を嫌がったのではないかと推測している。もう一つ、公判を傍聴して気になったことを挙げておきたい。「私や教団の被害者にとって良い面もあった」。事件を起こして良かったかと検察側に問われた際の山上被告の供述だ」、「被告人質問で語られた山上被告の半生を知り、教団による宗教被害の苦しみは想像を絶すると思った。山上被告のような「宗教2世」の不遇な生い立ちに同情的な意見が寄せられ、「無期懲役は重すぎる」という考えがあることは理解できる。しかし、社会を変革するために法的手続きを経ず、私的に制裁を加える「私刑」を認めれば、世の中は文字通り無法地帯になるだろう。山上被告の供述は殺人を正当化したとまでは言えないかもしれないが、危うさを感じた。この点は、判決ではっきりと「ノー」を突き付けてほしかった。判決には、犯罪事実や、ふさわしい量刑とその理由が記される。社会に対するメッセージを盛り込む必要はなく、原則通りの判決なのだろう。それでも、法治国家や民主主義のあり方に影響を与えた事件の特異さを考えると、もどかしさを感じてしまう。なぜ安倍氏が狙われたのか。山上被告が踏みとどまる機会はなかったのか。同じような事件はこれから防げるのか。もう一歩踏み込んで社会に警鐘を鳴らしてほしかった」と率直に書いていますが、筆者も同様の思い抱いていました。判決に求めてはいけないのかもしれませんが、同様の事件が起こらないために社会はどうすればよいのかを考える機会となる踏み込んだ問題提起をしてほしかったと思います。

薬物の項でドローンが麻薬組織など犯罪組織、テロ組織にとって重要なツールとなっている実態を取り上げました。同様にAIがテロに与える悪影響についても、そこまで来ているのかと驚かされます。2026年4月14日付朝日新聞の記事「AIが設計した「機能する」ウイルスの衝撃 悪用対策に抜け穴も」は大変参考になりました。報道の中で、世界で初めてAIが設計し、自然界には決して存在しない「機能するウイルス」が紹介されています。細菌に感染するウイルス「ファージ」が簡単に作り出せることは、医療利用への大きな可能性を秘めており、抗生物質などの薬剤が効かなくなった「薬剤耐性菌」も攻撃できるなど、AIで多様なファージを組み合わせれば、菌が耐性を獲得するリスクを下げることにもつながります。一方で、懸念されるのは、危険なウイルスを生み出すリスクであり国や組織によって、ルールの外で活動する人が存在する可能性があること、悪用される可能性があることは否定できません。遺伝情報を使ってウイルスを改変・合成する技術はこれまでもあり、生物兵器やバイオテロに悪用されないよう対策を積み重ね、危険な病原体をリストにして規制してきましたが、新たに合成した病原体は対象外であり、AIで設計するだけなら、そうした規制も難しいといえます。また、新たなウイルスができてしまえば、故意ではなくても流出するリスクがあります。「テロリストはAIを使って世界的なパンデミックを引き起こすかもしれない」と指摘する科学者もいます。恩恵とリスクが表裏一体の「デュアルユース・ジレンマ」の中で、各国はAI時代の規制と推進のバランスを模索している段階であり、リスクがいつ顕在化してもおかしくないとの危機感を持つ必要があります。高市早苗政権は、17の成長戦略の一つとして「合成生物学・バイオ」を位置づけていますが、規制面では、AI時代に対応できているとは言えず、日本では生物テロに使われる恐れがある病原体は、感染症法で規制、リスクに応じて分類し、扱える施設や運搬の基準を定めている一方、ウイルスの機能獲得研究を審査する仕組みや危険な遺伝子配列を監視する体制は弱く、研究機関や企業に委ねられている部分が多いのが実情です。こうした状況をふまえ、米ニューヨーク大や英オックスフォード大などの研究者が2026年2月、危険な病原体のデータがAIの学習に使われるのを防ぐ仕組みをつくるよう米科学誌サイエンスで提言、具体的には、危険度に合わせて病原体のデータを分け、リスクが大きいカテゴリーのものは政府が管理するといったものです。データを提供する場合でも、安全審査をし、使われ方まで把握、提言では「科学の進歩を著しく阻害することなく、将来のAIモデルの悪用リスクを軽減できる可能性がある」としていますが、実現可能性や実効性含め、まだまだ検討の途上といえ、顕在化リスクとの時間との戦いになるかもしれません。

トランプ米政権は、米国に対するテロの脅威に関する認識と対策を示す「国家対テロ戦略」を公表しました。イラン、中国、ロシアが麻薬カルテルやイスラム過激派にドローン(無人機)などの新兵器技術を提供しているとし、監視を強化する姿勢を示しています。国家対テロ戦略はトランプ米大統領が署名、2026年2月末に始まったイランとの交戦を反映し、イランによるテロの脅威を強調する内容が目立ちます。「中東地域から米国に及ぼされる最大の脅威はイランからのものだ」と指摘し、米国人や米国本土を狙ったテロ攻撃を計画するイラン当局に対し、断固とした措置をとるとしています。また、昨年末に発表された国家安全保障戦略で南北米大陸を中心とした西半球に力点を置いたことを受け、国家対テロ戦略でも西半球重視を鮮明にしています。中南米の麻薬カルテルによる違法薬物の流入をテロと位置付け、カリブ海などにおける「麻薬運搬船」の撃沈を含む対策を強化していると説明しています。トランプ政権は米国への違法薬物流入を「生存の脅威」と断じ、西半球の麻薬カルテル壊滅を掲げ、同戦略は、麻薬密輸船への攻撃やベネズエラのマドゥロ大統領拘束を成功事例として挙げ、「軍事、法執行両面で、テロ組織に指定されたすべての麻薬カルテルに対する作戦を続ける」と宣言しています。一方、戦略では麻薬カルテル、イスラム過激派と並び、米国内の極左運動「アンティファ(反ファシスト)」を含む極左暴力集団(反米、過激なトランスジェンダー支持、無政府主義などのイデオロギーを持つ政治グループ)を主要なテロの脅威と位置付け、「現実の脅威が見過ごされたり軽視されたりしてきた」と指摘、トランプ氏は2025年9月、アンティファを「国内テロ組織」に指定する大統領令に署名、射殺された保守系活動家チャーリー・カーク氏の追悼式典では「暴力の大半は左派がもたらす」と語っていました。米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は2025年1~7月に発生したテロのうち、極左による犯行が40%超を占め、「極左テロリストによる攻撃が極右の暴力を上回ったのは、ここ30年以上で初めて」とする報告書をまとめていますが、極右のテロが減少したのは一時的なもので、極左、極右双方への対策が必要だとしています。

米ホワイトハウス記者会主催の夕食会で起きた銃撃事件を巡り、米国土安全保障省(DHS)が大統領殺害未遂罪などで訴追された容疑者について、米国とイスラエルによる対イラン軍事作戦への不満が動機の一つであった可能性があると指摘しています。報道によれば、米連邦捜査局(FBI)はアレン容疑者のSNSでの活動を追跡、「社会と政治に対するいくつもの不満があった」との見方を示したうえで、イランでの紛争が「犯行の決断に寄与した可能性がある」と結論付けているといいます。容疑者はSNSで、トランプ米政権のイラン対応や不法移民対策、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの対応などを批判していたといい、イランへの攻撃を巡り、「一つの文明が滅びる」と自身のソーシャルメディアに書き込んだトランプ米大統領の弾劾を呼びかける投稿も共有していたといいます。これまでに米司法当局は、容疑者が親族らにメールで送った「声明文」で、米軍による南米ベネズエラ沖などでの「麻薬運搬船」に対する攻撃など、トランプ政権への不満を記していたと明らかにする一方、イランとの関連については言及していませんでした。

その他、海外のテロ/テロ組織等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • シリア外務省は、米軍が駐留していた国内の軍事拠点の引き渡しが完了したと発表、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国(IS)」の掃討のために約10年続いた米軍の駐留が終了しました。外務省は声明で、米軍撤退の理由について、「今日のシリアは国際社会と協力しながら、テロ対策を主導できる」と説明しています。米トランプ政権は、暫定政権下で米軍駐留の必要性がなくなったと判断し、2026年2月には米軍の撤退が報じられていました。AP通信によれば、4月16日、シリア北部の基地から最後の米軍部隊が撤退したということです。
  • 西アフリカ・マリ中部で、国際テロ組織アルカイダ系の過激派「イスラムとムスリムの支援団」(JNIM)が二つの村を襲撃し、自警団員や住民計約50人を殺害しました。マリではJNIMと反政府勢力が軍事政権側と戦闘を続けており、JNIMと遊牧民トゥアレグのアザワド解放戦線(FLA)は、共同で複数都市への一斉攻撃を開始、JNIMは首都バマコに通じる一部の幹線道路を封鎖、軍政はロシアの支援を受けて反撃を試みているが、沈静化のめどは立っていません。反政府勢力は北部の都市キダルの制圧を表明し、軍政と協力関係にあるロシアの国防省傘下の部隊要員はキダルから撤収していますが、ロシアはマリへの支援継続を表明しています。
  • ロイター通信は、ナイジェリア空軍が実施したイスラム過激派を標的とした空爆で、ナイジェリア北東部の市場が被害を受け、民間人を含む200人以上が死亡した可能性があると報じました。この市場はイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」が食料の調達に利用していたといいます。ナイジェリア空軍は、ボコ・ハラムの戦闘員を殺害したと発表、民間人が巻き込まれたとの情報を受け、現地調査を始めたと明かしています。ナイジェリア北部ではイスラム過激派によるテロ行為が相次いでいます。
  • コロンビア南西部カヒビオの高速道路で爆発があり、バスなど多数の車が巻き込まれ、19人が死亡、麻薬密売組織によるテロとみられ、地元メディアによれば、軍や警察の施設などを狙った事件が20件超相次いでいるといいます。コロンビアはコカインなど麻薬の製造が盛んなことで知られ、エクアドル国境に近い南西部では左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)の分派が製造や流通に関与、軍や警察の取り締まり強化に反発し、事件を起こしているとされます。ペトロ大統領はXで、高速道路を爆破したのは「テロリスト、ファシストで、麻薬密売人だ」と非難し、組織解体に向けた国際的な協力も呼びかけています
  • 調査会社INSAの最新の週間世論調査によると、​ドイツの極右政党「ドイ‌ツのための選択肢(AfD)」の支持率が同党としては過去最高の28%となりました。前週から1ポイン​ト上昇し、保守連合との差が4ポイ​ントに拡大しています。メルツ首相率い⁠る保守与党キリスト教民主同盟(CDU)​の支持率は前週と変わらずの24%、​緑の党は1ポイント低下して12%、社会民主党(SPD)は14%、左派党は11%でともに横ばいとなりました。投​票の11%が議会に議席を得られない政​党に流れると見込まれるため、議席配分の対‌象と⁠なる政党の中で過半数を確保するには、数学的に少なくとも得票率45%が必要になり、調査では、他の政党がAfDと​の連立を​拒否し続⁠ければ、実現可能な連立政権は3党による連立に限られる​ことが示唆されています。
  • オーストラリアの司法当局は、シリアから帰国したISの戦闘員の妻ら豪国籍の女3人を訴追したと発表しました。1人はテロ組織支援や戦闘地域への渡航、他の2人は奴隷の利用といった反人道的行為の罪に問われています。一方、3人と一緒に帰国した計9人の子供は、当局の観察下で「脱過激化」の教育を受けさせるといいます。訴追された3人は2010年代半ば、ISに参加した夫らと共にシリアへ渡航、夫の死亡や収監の後、シリア北東部のキャンプに6年以上収容されていました。一部の子供はキャンプ内で生まれたといいます。豪メディアによれば、同じ境遇の豪国民21人がなおシリアに残っているとされます。
  • オーストラリア東部シドニー近郊のボンダイビーチで2025年12月に起きた銃撃テロ事件について検証している独立調査委員会は、再発防止に向け銃規制強化などを求める中間報告書をまとめました。一部の地方当局が抵抗している銃の買い取り策を「優先的に取り組むべき課題」と位置付け、着実な履行を促しています。テロではユダヤ教の祭典の参加者ら15人が殺害されました。父子2人組の容疑者は6丁の高性能ライフル銃を所持していたため、政府は禁止対象の銃を増やし、余剰分を買い取る方針を打ち出しましたが、国内8地域のうち、1州・1準州が協力を拒否し、2州で手続きが停滞している状況です。例えば、クイーンズランドのクリサフリ州首相は、反ユダヤ主義への対応がより重要との立場で、「買い取り策がテロリストから銃を遠ざけることにはならない」と主張しています。アルバニージー首相は記者会見で「全国統一の対応が必要だ。各地方当局と連携していく」と述べています。
  • ロンドン警視庁は、2026年4月にユダヤ人2人を刺した容疑者が殺人未遂の容疑などで起訴されたと発表、事件を受け、英政府は5段階あるテロへの警戒レベルを上から2番目の「深刻」に引き上げました。今後6カ月以内にテロが起きる可能性が非常に高いとしています。警戒レベルが「深刻」になるのは2022年以来で、在英日本大使館は英国に滞在している日本人に注意を呼びかけています。事件の容疑者はソマリア生まれで英国籍の45歳の男ですが、事件を起こした動機は明らかになっていません。ロンドンでは3月以降、ユダヤ人社会を狙ったとみられる放火などの事件が相次いでおり、一連の事件を巡っては親イラン派の組織が犯行を認めています。同組織は、欧州各地で米国やイスラエル、ユダヤ人に関連⁠する施設を標的とした攻撃に関与したと主張しています。マフムード内相は「忌まわしい反ユダヤ主義的な攻撃は、卑劣なテロ行為だ。ユダヤ人社会を守るための費用を大幅に増額する」との声明を出しました。今回の事件を受けて、英政府は2500万ポンド(約53億円)を追加で投じるといいます。
  • ロシアの最高裁判所は、2022年にノーベル平和賞を受賞したロシアの人権団体メモリアルを「過激派」に認定し、国内の活動を禁止しました。メモリアルは「市民社会への政治的圧力が新たな段階に入ったことを示す」と訴えています。ロシアはウクライナ侵略下で言論への締め付けを強めています。膠着する戦況を打開できないまま侵略が5年目に入り、プーチン政権は批判に神経をとがらせ、体制に脅威を与えうると見なす活動を徹底的に封じる狙いとみられています。また2021年に同賞を受賞した独立系紙ノーバヤ・ガゼータのモスクワ編集部に同日、治安当局が家宅捜索に入ったことも判明、汚職疑惑などを報じたコラムニストが拘束されました。メモリアルの過激派認定は法務省が最高裁に提起、審理は非公開で理由は開示されていません。認定により、活動の参加者だけでなく、賛同した人も寄付や出版物の再投稿などを理由に法的責任を問われる恐れがあります。メモリアルは声明で、ロシアでのすべての活動を停止すると表明しました。在住者らに関連する再投稿などの記録を削除し、インターネットで検索しないように呼びかけました。2021年末に最高裁が解散を命じ、国内の活動はすでに大幅に制限されていました。最高裁の決定に先立ち、ノーベル賞委員会は過激派の認定について「人間の尊厳と表現の自由という基本的な価値観への侮辱だ」と非難する声明を出し、撤回を求め、ロシアで圧力にさらされる人々を守るための措置をとるように国際社会に訴えています。

(5)犯罪インフラを巡る動向

フランス発のSNS「BeReal」(ビーリアル)を通じた情報漏えいが相次いでいます(BeRealの犯罪インフラ化)。直近では、西日本シティ銀行の行員がBeRealに投稿した支店内の映像から顧客情報が流出した他、仙台市立小学校の20代女性教員が業務システムの画面を投稿して問題になりました。それぞれの投稿は、閲覧した人などを経由してXに転載され、非公開情報が数百万人規模で閲覧されてしまいました。BeRealがなぜ漏えいにつながる犯罪インフラ化しているのかについては、「投稿を焦らせるUI」と「友人しか見ていない」という油断が挙げられます。BeRealは、日本では2023年ごろから、10~20代を中心にブームになり、映えとは真逆の「たまたま撮ったリアルな日常」を共有する点がうけていると考えられます。BeRealは1日1回、ランダムな時間に届く通知から2分以内に撮影・共有するのが原則で、通知には2分間をカウントダウンするタイマーが表示され、「早く投稿しなくては」と焦らせるのが特徴です。遅れれば「○時間遅れ」と表示されるほか、撮り直した回数も表示されるため、「2分以内の一発撮り」で決めたい、という心理が働くことが冷静さを失わせることにつながると考えられます。さらに投稿は1日で消え、公開範囲は原則、友人(または友人の友人)に限られ、自分が投稿しなければ友人の投稿も閲覧できないため、「早く投稿して友人の写真を見たい」という焦りも出ることも冷静さを失わせることにつながるとともに、油断を生む要因となっているともいえます。さらに、写真は自撮りカメラと背面カメラを使って2枚同時に撮影され、加工したり、アルバムから過去写真を投稿したりできないことから、「何が写っているのか」への注意が散漫になる可能性を高めています。つまり、急に来た通知に反応して「2分以内に撮らなくては」と焦らせる構造と、「友人しか見ていない」「1日で消える」という安心感が相まって、リスクのあるシーンでも「とりあえず投稿しちゃえ」という油断につながりやすいといえます。実際、BeRealで流出を起こした仙台市立小学校の教員は「通知が来たので、深く考えずに目の前の画面を撮影してしまった」と話していると報じられています。なお。「友人しか見ていない」「1日で消える」BeRealの仕様は、Instagramのストーリーズも同じで、実際、ストーリーズからも、企業の情報漏えいが相次いでおり、直近でも、日本テレビ系列の情報番組「ZIP!」のシフト表とみられる書類を、制作会社の新入社員がストーリーズに投稿、Xに転載されて拡散され問題になりました。そもそも、非公開の社内の写真や機密情報は、友人であっても、短時間でも漏らすべきではない。公開相手の友人がスクリーンショットや画面録画で保存すれば、さらに拡散・流出する恐れもあることをあらためて周知徹底する必要があります。SNS投稿やインターネット掲示板等への書き込みなど撮影前や投稿前に「今は写していい場なのか」と立ち止まることは大切です。銀行など機密性の高い情報を扱う職場は、私用スマホの持ち込み自体が禁止されているケースが多いところ、それでも事故は起きています。漏えいリスクを低減させるには、「悪意なき漏えい」リスクへの対応も重要となっていることをふまえ、企業側もさらなる対策が必要です。「機密保持誓約書に署名させて終わり」ではなく、何が機密かを具体例で示す研修や、勤務中の私物端末持ち込み・撮影ルールの明文化、就業前に端末を預ける制度などまで踏み込んで検討する必要があります。

米グーグルは、インターネット広告の安全性に関する報告書を公表しました。2025年に掲載を防いだり削除したりした不適切な広告は83億件と前年の51億件から6割増えました。AIで検知精度を高め、99%の広告は配信前に停止したといいます。グーグルはマルウエア(悪意のあるソフトウエア)を含むコンテンツの宣伝や虚偽広告などを利用規約で禁じています。自社のAI「Gemini(ジェミニ)」を使い、広告の内容やアカウントの作成時期といった大量のデータから、不適切な広告を高い精度で配信前に検知できるようにしたといい、投資詐欺など詐欺の疑いがある広告は6億件以上の掲載を防いだり、削除したりしたといいます。詐欺に関連する広告主アカウントも400万件以上停止、広告主の身元の確認を強化し、悪意ある広告主はアカウントを作れないようにし、グーグルのサービス上で表示される広告の9割以上は広告主の身元を確認できているといいます。一方で規約違反により停止した広告主アカウントは2490万件と、2024年の3920万件から36%減りました。AIで不適切広告の検出精度を高め、正当な広告主のアカウントを誤って停止する割合を減らした(ミスを8割減少させた)ためだといい、「AI対AI」の攻防となっています。グーグルは「悪質な広告主は生成AIで欺まん的な広告を大量に作成している。我々もジェミニでリアルタイムに検知し掲載を防ぐ取り組みを広げていく」、ジェミニを広告の中心的なインフラとして進化させ、新しい脅威に対応していく」と述べており、大変心強いものです

米アップルとメタはカナダで審議中の法案が成立した場合、自社のデバイスやサービスの暗号化の解除を要求される可能性があるとして反対を表明しました。カナダの法執行当局は法案によって安全保障上の脅威をより早期に調査し、迅‌速に行動できるようになると説明していますが、アップルは法案について「利用者がアップルに期待している強力なプライバシーとセキュリティ機能提供の能力を損なう」と批判、メタは法案の「広範な権限、最小限の監視、そして明確な保護策の欠如」がカナダ人をより安全にするよ​りも、むしろ危険にさらす恐れがあると訴えています。世界各国で暗号化されたデータに対する合法的なアクセスを拡大​させようとする動きが広がっており、テック企業側はこうした措置がユーザーのセキュリティ⁠を弱体化させるリスクがあると反論しています。カナダの法案は運用方法によっては、英国がアップルに対して2025年に出したデー​タアクセス提供命令に類似したものになる可能性のある条項を含んでおり、アップルは、利用者がエンドツーエンド​暗号化を用いてクラウドにデータを保存できる機能を英国から排除する事態に至りました。これについては、ギャバード米国家情報長官が、英国の要請がクラウドデータに関する条約に違反する可能性があるとの懸念を示したことを受け、英国側は後に要請を撤回しました。エンドツーエンド暗​号化はユーザーだけがデータにアクセスできる技術で、アップルやメタ、または法執行機関でさえも暗号鍵なしでアクセスで​きないもので、この技術はメタやアップルのサービスで広く利用されており、セキュリティの専門家はスパイ行為やサイバー犯罪にとって強力‌な保護手⁠段を提供していると指摘しています。アップルは声明で「この法律はカナダ政府が企業に対し、自社製品にバックドアを挿入することで暗号化を解除するよう強制することを可能​にする。アップルは決してそう​したことは行わない」と表⁠明しました。また、両社は「現在の草案のままでは、法案はメタのような企業に対し、暗号化やゼロ知識セキュリティ設計を破壊・弱体化・回避する機能を構築または維持することを要求する可能性があり、プロバイダーに政府のスパイウエアを自社システムに直接インストールすることを強⁠制する恐​れがある」と記しました。これに対し、カナダ公安省の広報担当は、同法は技術企業に対し、暗号化のような電子保護に「システム上の脆弱性」をもたらす変更を要求するものではないと説明、「企業は自​社システムを熟知しており、それを安全に保つことに利害がある」と述べています。筆者は本件について、米連邦捜査局(FBI)がテロ事件の容疑者のスマホ「iPhone」から、アップルの助けを借りずに情報を取り出すことに成功した10年前の「iPhoneロック解除問題」の延長線上にあると感じました。そもそもアップルはFBIからのロック解除要請を拒否していました。(日本の会社の技術で最終的にロック解除ができたことを受けて)当時アップルは「セキュリティをさらに高める」との声明を出し、捜査当局との対決姿勢を継続することを強調していました。

SNSを使う時間を減らせないなど依存傾向があり「病的使用」を疑われる人が10代で7.0%を占め、他の世代より割合が高いことが、国立病院機構久里浜医療センターの全国調査で分かりました。20代は4.7%、40代以降は1%未満で、子どものSNS利用を巡っては犯罪などトラブルに巻き込まれる恐れがあるほか、インターネットの不適切利用と精神的不調との関連を指摘する研究結果も出ており、10代のSNS利用を規制する動きがオーストラリアをはじめ海外で広がる中、日本の総務省やこども家庭庁が青少年保護のため対応を議論しています。今回の調査で病的使用が疑われるグループでは、ネットの利用時間が1日に「6時間以上」の人が平日で30.0%、休日で62.0%を占め、そうでないグループより割合が高い結果となりました。久里浜医療センターは、子どものスマホ使用に関する家庭でのルール作りのポイントとして「買う前に決める」「使用場所、時間を決める」「違反があった時の対応」「長期休みに注意」「親が模範となる」などを挙げています。

年齢によってSNS利用を規制する動きが海外で広がっており、日本も対応を検討しています。SNSを含むインターネットの不適切利用で精神的不調のリスクが増加するとの研究結果も出ています。オーストラリアでは16歳未満のSNS利用を禁止する法律が2025年12月に施行されました。フランスやマレーシアなどでも規制の動きがあります。国立精神・神経医療研究センターなどの研究グループは2024年6月、10代によるネットの不適切利用が妄想、幻覚などの症状や抑うつのリスクを高めるとの研究結果を発表しました。今回の調査で16歳時点で不適切利用が目立ったグループでは、そうでないグループと比べ、妄想などの症状を有するリスクが2.0倍、抑うつは3.2倍、12歳から16歳まで追跡した場合も同様で、抑うつは男子より女子でリスクの増え方が大きい傾向がみられたといいます。同センターの成田瑞・精神機能研究室長によれば、SNSで他人と比べ体形を過度に気にしたり、直接知らない人と接点ができることをきっかけに性被害に遭いやすかったり、といった要因が考えられるといいます。成田室長は「ネットを使うのは1日何時間以内、SNSの閲覧はいいが投稿はしない、などのルールを年齢に応じて子どもと保護者が一緒に考えることが大事」と述べています。

関連して、総務省が「2025年度 青少年のインターネット・リテラシー指標等に係る調査結果」を公表しました。総務省では、利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会(青少年インターネットWG)の提言(2011年10月)やOECDの「オンライン上の子供の保護に関する勧告」(2012年2月)を受け、青少年のインターネット・リテラシ一向上のための前提として、特にインタ一ネット上の危険・脅威に対応するための能力とその現状等を可視化するため、これらの能力を数値化するテストを指標(ILAS)として開発、2012年度より高校1年生を対象に、青少年のインターネット・リテラシーを測るテスト(ILASテスト)及びインターネット等の利用状況に関するアンケートを実施。本年度は対象を中学生、小学生に広げ実施しています。

▼総務省 2025年度 青少年のインターネット・リテラシー指標等に係る調査結果の公表
  • ILASテスト結果の概要
    • 正答率について、高校1年生は72.4%(前年度71.5%)、中学生は76.8%、小学生(4~6学年)は71.7%、小学生(1~3学年)は71.4%であった。
    • リスクの中分類(「参考」の1a~3bの7分類)別において、最も正答率が低かった分野は、高校1年生では「不適正取引リスク(フィッシング、ネット上の売買等)」、中学生では「有害情報リスク(不適切投稿、炎上等)」、小学生(4~6学年)では「プライバシーリスク(プライバシー、個人情報の流出等)」、小学生(1~3学年)では「違法情報リスク(著作権、肖像権等)」であった。
  • アンケート結果の概要
    • SNS等のインターネット利用について、「家庭ではルールがある」と答えた者は、高校1年生は41.3%(前年度53.4%)、中学生は78.4%、小学生(4~6学年)は79.9%、小学生(1~3学年)は84.9%であり、学齢が低くなるほど家庭でのルールが決まっている割合が高くなった。
    • SNS等のインターネット利用について、「家庭ではルールがある」と答えた者のテストの正答率は、いずれの学齢でも、「家庭ではルールがない」と答えた者の正答率よりも高くなった。正答率の差について、高校1年生は+1.4ポイント、中学生は+4.2ポイント、小学生(4~6学年)は+8.2ポイント、小学生(1~3学年)は+19.1ポイントであり、学齢が低くなるほど、家庭でのルールの有無が、テストの正答率に影響を与えていることが伺えた。
    • インターネットを利用するに当たっての注意点、または対応策について、一つでも「学校で教えてもらったことはある」と答えた者のテストの正答率は、「いずれも教えてもらっていない」と答えた者の正答率よりも高くなった。正答率の差について、高校1年生は+15.6ポイント、中学生は+15.8ポイント、小学生(4~6学年)は+21.6ポイント、小学生(1~3学年)は+14.5ポイントであり、インターネットを利用するに当たっての注意点や対応策を学校で学習したかどうかが、テストの正答率に影響を与えていることが伺えた。
    • 生成AI(文章や画像、音声等のコンテンツを生成できるAI)について、「使ったことはない」と答えた者は、高校1年生は12.6%、中学生は15.9%、小学生(4~6学年)は24.2%にとどまっており、児童生徒にも生成AIの利用が広がっていることが伺えた。
▼別紙 2025年度 青少年のインターネット・リテラシー指標等に係る調査結果
  • ILAS等調査 結果概要
    1. 高校生
      1. ILASテスト結果
        • 全体(全49問)の正答率 72.4%(前年度正答率:71.5%)
        • リスクの中分類別の正答率
        • 不適切利用リスク(過大消費、ネット依存等)」に対応する問の正答率(79.5%)が最も高く、「不適正取引リスク(フィッシングやネット上の売買等)」に対応する問の正答率(62.9%)が最も低い。
          • ※リスクの中分類別の正答率については、前年度までの正答率とほぼ横ばい。
      2. アンケート結果
        • ペアレンタルコントロールの状況
          • SNS等のインターネット利用に関する家庭でのルールの有無について、全体の41.3%が「ある」と回答(前年度:53.4%)。「家庭でのルールあり」かつ「フィルタリング利用あり」の場合、ILASテストの正答率は74.0%と全体の正答率よりも高い。ペアレンタルコントロールの周知啓発を引き続き行うことが重要。
        • 学校における取組状況・トラブル遭遇時の対応
          • 学校で教えられた注意点等について、「長時間利用」、「生成AI」「フィルターバブル」の回答率は、前年度よりも増加。「ネットいじめ」や「個人情報・プライバシー」等の課題に加え、「生成AI」等の新たな課題について学ぶ機会が増加。
          • フェイクニュースに遭遇した際の対応について、他での言及をチェックしたや情報源などの適切な対応をとったとの回答率は前年度より低下。
        • 生成AIの利用状況
          • 生成AIについて、全体の12.6%が「使ったことはない」と回答し、前年度よりも大幅に低下。用途としては、「わからないことを調べる」との回答が最も多い(61.4%)。
          • 生成AIのイメージとしては、「学習効率や効果があがる」との回答が最も多い(51.8%)。
    2. 中学生
      1. ILASテスト結果
        • 全体(全14問)の正答率 76.8%
        • リスクの中分類別の正答率
          • 「違法情報リスク(著作権、肖像権等)」に対応する問の正答率(93.3%)が最も高く、「有害情報リスク(不適切当校、炎上等)」に対応する問の正答率(43.7%)が最も低い。
      2. アンケート結果
        • 家庭でのルールの有無の状況
          • SNS等のインターネット利用に関する家庭でのルールの有無について、全体の78.4%が「ある」と回答。家庭でのルールの内容について、「使用時刻の制限」が最も多い(40.9%)。「家庭でのルールあり」の場合、ILASテストの正答率は77.5%と全体の正答率よりも高い。
        • 学校における取組状況・トラブル遭遇時の対応
          • 学校で教えられた注意点等について、「ネットいじめ」(88.0%)、「個人情報・プライバシー」(86.1%)、「インタ-ネットの使いすぎ」(79.1%)との回答が多い。
          • トラブルに遭遇した経験ついて、全体の48.7%が「トラブルの経験はない」と回答。経験がある場合は「迷惑メールを受け取った」(26.1%)との回答が最も多い。
          • フェイクニュースに遭遇した際の対応について、他での言及や情報源をチェックしたなどの適切な対応をとったとの回答率は約4割。
        • 生成AIの利用状況
          • 生成AIについて、全体の15.9%が「使ったことはない」と回答。用途としては、「わからないことを調べる」との回答が最も多い(63.6%)。
          • 生成AIのイメージとしては、「新たな発見がたくさんできる」との回答が最も多い(50.0%)。
    3. 小学校高学年
      1. ILASテスト結果
        • 全体(全14問)の正答率 71.7%
        • リスクの中分類別の正答率
          • 「違法情報リスク(著作権、肖像権等)」に対応する問の正答率(83.1%)が最も高く、「プライバシーリスク(プライバシー、個人情報の流出等)」に対応する問の正答率(53.8%)が最も低い。
      2. アンケート結果
        • 家庭でのルールの有無の状況
          • SNS等のインターネット利用に関する家庭でのルールの有無について、全体の79.9%が「ある」と回答。家庭でのルールの内容について、「使用時刻の制限」が最も多い(44.8%)。「家庭でのルールあり」の場合、ILASテストの正答率は73.3%と全体の正答率よりも高い。
        • 学校における取組状況・トラブル遭遇時の対応
          • 学校で教えられた注意点等について、「いじめ」(75.4%)、「インタ-ネットの使い過ぎ」(71.3%)、「簡単に自分のことをインターネットに書かない」(71.1%)との回答が多い。
          • トラブルに遭遇した経験ついて、全体の69.8%が「トラブルにあったことはない」と回答。経験がある場合は「まちがっている情報を見た」(16.8%)との回答が最も多い。
        • スマートフォンの使い方を学んだ方法
          • スマートフォンの使い方を学んだ方法について、「おうちの人やまわりの大人」との回答が最も多い。(63.6%)
        • 生成AIの利用状況
          • 生成AIについて、全体の24.2%が「使ったことはない」と回答。用途としては、「わからないことを調べる」との回答が最も多い(46.7%)。
          • 生成AIのイメージとしては、「新たな発見がたくさんできる」との回答が最も多い(43.8%)。
    4. 小学校低学年
      1. ILASテスト結果
        • 全体(全14問)の正答率 71.4%
        • リスクの中分類別の正答率
          • 「不適切利用リスク(過大消費、ネット依存等)」に対応する問の正答率(88.2%)が最も高く、「違法情報リスク(著作権、肖像権等)」に対応する問の正答率(57.6%)が最も低い。
      2. アンケート結果
        • 家庭でのルールの有無の状況
          • SNS等のインターネット利用に関する家庭でのルールの有無について、全体の84.9%が「ある」と回答。家庭でのルールの内容について、「使用時刻の制限」が最も多い(42.8%)。「家庭でのルールあり」の場合、ILASテストの正答率は73.9%と全体の正答率よりも高い。
        • 学校における取組状況・トラブル遭遇時の対応
          • 学校で教えられた注意点等について、「いじめ」(58.2%)、「インタ-ネットのつかいすぎ」(52.6%)、「ほかのひとの、しゃしんをインターネットだすのはよくないこと」(46.2%)との回答が多い。
          • トラブルに遭遇した経験ついて、全体の82.7%が「トラブルにあったことはない」と回答。
        • スマートフォンの使い方を学んだ方法
          • スマートフォンの使い方を学んだ方法について、「おうちのひとや、まわりのおとな」との回答が最も多い。(52.3%)

欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は、米SNS大手メタに対し、同社が運営するフェイスブック(FB)やインスタグラムでの未成年者の年齢確認が不十分だとして、デジタルサービス法(DSA)違反にあたるとの暫定的な見解を示しました。欧州委によれば、FBやインスタは利用規約で13歳未満は利用できないと定めていますが、利用登録時に虚偽の生年月日を入力でき、自己申告の年齢を検証する仕組みも十分ではありませんでした。13歳未満の利用をメタ側に通報する仕組みも煩雑で、通報のためのフォームを開くだけでも最大7回の操作が必要で、メタは通報を受けても十分に対応していなかったといいます。欧州委は、EUで13歳未満の10~12%がFBやインスタを利用していると推計、この年代はSNSから有害な影響を受けやすいと指摘し、サービスから適切に除外するよう求めています。欧州委は、FBやインスタがアルゴリズムによって、中毒性のある内容を次から次へと見せ続けて抜け出せなくする「うさぎの穴現象」を引き起こしていると指摘される問題についても調査しています。メタには反論の機会が与えられますが、是正措置を講じず、DSA違反と最終的に判断されれば、世界売上高の最大6%の制裁金が科される可能性があります。欧州委でデジタル規制を担当するビルクネン副委員長は「インスタとFBは、子どもによるアクセスを防ぐために、ほとんど何もしていない。利用規約は単なる書面上の文言であってはならず、子どもを含む利用者を保護するための具体的な行動でなければならない」とコメントしています。

子どものSNS規制の動きについて、最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 英スターマー英首相はSNSなどのソーシャルメディア企業に対し、子​どものオンライン上の安全に「責任を果‌たす」よう求めました。スターマー政権は、​子どもたちが明確な責任追及なくオンライン​上で危害にさらされているとしてSNS企業など⁠への監視を強化しており、こうしたアプリが​睡眠、家庭生活、学業に与える影響を制限す​る対策を講じると公約しています。スターマー氏は「ソーシャルメディアは子どもたちの自己認識、友人関係、世界観を​形作る。それが現実的なリスクを伴うとなれ​ば、見て見ぬふりはできない」と言明、その上で「子どもた‌ちの⁠オンライン上の安全を守るのに必要なあらゆる措置を講じる」​と述べていますた。政府はこれまでに、ユーチューブの子ども向け自動再生無効化や、門​限を含めた保護者によるスクリーン​タイムの⁠管理強化などを認めていますが、スターマー氏はさらに踏み込んだ対策を模索しており、政府は、アプリの⁠利用​時間制限、中毒性があると​見なしたデザイン機能への規制を含めた16歳未満の子どもの利用制限​の是非について、2026年5月まで意見を公募するといいます。
  • ギリシャ政府は、15歳未満のSNSの利用を禁止する方針を発表しました。スマホへの依存で、子どもたちの睡眠や精神面に悪影響が出ているとして、2027年1月からの実施に向け、法整備などを進めるとしています。規制の対象となるのは、フェイスブックやインスタグラム、TikTok(ティックトック)などで、SNSの運営企業に利用者の年齢確認を義務づけた上で、15歳未満がアクセスできないようにする措置を求め、運営企業が従わない場合には、罰金などが科されるといいます。
  • トルコ議会は、15歳未満によるSNSの利用を禁止する法案を可決しました。法案はエルドアン大統領の署名を経て、年内に発効する見込みです。法案では、SNS事業者に対し、利用者の年齢確認を行い、15歳未満がサービスを利用できないよう義務づけるとともに、保護者が子どもの利用を管理できる機能「ペアレンタルコントロール」の導入も必須化するといいます。エルドアン氏は「SNSは率直に言って『下水道』と化している」とし、SNSが子どものメンタルヘルスに与える影響について批判的な見解を示していました。
  • ノルウェー政府は、子どものSNSの利用制限を課す法案を年内に議会に提出すると発表しました。当初15歳未満としていた制限の対象を、16歳になる年の1月1日に変更しました。ノルウェーのストーレ首相は「子供たちが、子供らしくいられるような子供時代を育んでほしい。遊びや友情、日常生活がアルゴリズムや画面に支配されてはならない」と述べています。企業はログイン時に年齢確認する義務を負うことになります。ノルウェー政府は2024年、学習意欲の低下につながるとして、小学校から高校まで教室での携帯電話の使用を禁止すべきだと提言、こうした取り組みによって、携帯電話を所有し、SNSを利用する子供の割合は減っているといいます。
  • インドネシアのムティア通信デジタル相は、AFP通信とのインタビューで、16歳未満のインターネット通販サイトの利用制限を検討していると明らかにしました。「詐欺被害に遭う子供がいると分かったため」と説明しています。インドネシアは2026年3月末、詐欺被害や過度な依存への懸念から、16歳未満によるユーチューブやインスタグラムといったSNSの利用禁止措置を開始しています。ムティア氏は、将来的には通販サイトを含む「全てのデジタルプラットフォーム」に制限を適用する考えを示しました。
  • 未成年のSNS依存やネット上のいじめは欧州で社会問題になっていますが、単純なクリックだけで年齢確認の壁を越えられるケースなどもあり、対策の実効性が課題となっており、加盟国からはEUレベルでの対策を求める意見が強まっていました。それに対し、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、オンラインサービスの年齢確認に使える独自アプリを近く利用可能にすると発表しました。加盟国では未成年のSNS利用を禁じる動きが広がっており、規制の実効性を高める狙いがあります。欧州委はオンライン空間における未成年の保護をデジタル政策の優先課題と位置づけており、加盟国がそろって導入できるよう支援し、企業にもアプリを活用した年齢確認を求める構えです。利用者はスマホなどの端末でアプリをダウンロードし、住民カードやパスポートといった身分証の情報を登録、オンラインサービスを利用する際の年齢確認時にサイトに表示されたQRコードなどをアプリで読み取ると素早く認証できるといい、年齢以外の個人情報は企業側には渡らない設計で、新型コロナウイルス禍で導入した、ワクチンの接種証明アプリの仕組みを応用したといいます。企業側がアプリと連動した年齢確認の仕組みを設けなければ効果は期待できないという課題について、欧州委は違法コンテンツ対策を義務付けるEUのデジタルサービス法(DSA)に基づき、企業にアプリを活用した年齢確認システムを採用するよう迫っています。採用の義務化は見送ったものの、十分な確認なくワンクリックでサイトに入れるサービスについては今後、DSAによる調査や制裁金の対象となる可能性があります。フォンデアライエン委員長は「このアプリは親や教師、養育者にとって、子どもを守る強力な手段になる。子どもの権利を尊重しない企業は一切⁠容認しない」と強調しています。
  • 子どものSNS利用を巡り、保護強化に向けた政府内の議論が進み始めました。総務省の有識者会議は一律の年齢規制に慎重な姿勢を示す一方、年齢確認の厳格化を検討しています。政府は事業者への年齢確認の義務化も視野に、2026年内にも青少年インターネット環境整備法の改正について方向性を示す考えです。一方、実効性の確保に向けて課題は多く、総務省の有識者会議が示した論点整理案では「SNSは青少年の交流の手段であり、機能や内容もSNSごとに異なる」と指摘し、一律の年齢制限は「望ましくない」との考えを示しました。子どもの表現の自由に配慮する必要性にも触れています。一方、事業者に対しては年齢確認の義務化を検討事項として盛り込んみました。SNSサービスを子どもが利用する際のリスク分析や安全対策の実施・公表を事業者に求めることも検討すべきだと言及しています。年齢確認手法として、携帯電話事業者を通じた年齢確認やSNS事業者への身分証提示などが検討されています。スマホの利用契約には携帯事業者への身分証提示が必要となるため、携帯事業者とSNS事業者が情報を共有すれば正確に年齢を確認できるとみられますが、携帯事業者と契約せずにタブレット端末などでSNSを利用する場合は利用者の情報を共有できない問題が残ります
  • ロシアの脅威に直面してきたフィンランドは、「世界一幸福な国」としても知られていますが、大きな課題として、豊かな財政を支える総人口が減少に転じつつあることが挙げられます。現在は約560万人ですが、2100年には約460万人に減ると予測されており、一番の要因は出生率の低下です。1人の女性が一生の間に産むと予想される子供の数を示す合計特殊出生率は2024年、統計を取り始めて以来最低となる1.25を記録しました。フィンランド人口調査研究所のアンナ・ロトキルヒ所長によれば、特に10~20年代に急速に落ち込んでおり、「10年はほぼ1.9だったが、現在の約1.3(1.25)まで下がった。とても早い落ち込みだ」、「ソーシャルメディアの普及も影響している」と述べている点は極めて興味深いといえます。SNSやインターネットを通じて得た華やかな生活を伝える大量の情報から、「恋愛や結婚は自分には無理だ」と考える人が多いとみる。10~20年代にフィンランドと同じような落ち込みを見せた国も多数あるという。さらに、同氏は「ネットやSNSは基本的に一人で操作する。その時間がかかるほど、他の人と一緒にいるのを避けたいと考える」と指摘し、「社会的なつながりが弱い人々がSNSを使うほど、子どもを持ちたいという気持ちや計画を立てる人も減っていく」といいます。フィンランドに限らず、日本にも当てはまるかと思います。
  • 米メタは写真・動画共有アプリ「インスタグラム」について、10代の利用者に対するコンテンツの表示制限を日本でも厳しくするほか、保護者による管理も強めるとしています。18歳未満のアカウントに対し、性的な表現や罵倒などの強い言葉遣い、薬物やたばこ、アルコールなどといった不適切投稿を自動的に非表示にするもので、米映画業界の年齢制限であるレーティング区分「PG-13」の公開ガイドラインや、保護者からのフィードバックを参考にしたといいます。また、インスタに搭載されたAIが問題のある回答をしないよう見直したりするほか、子どもに不適切な内容を繰り返し投稿しているアカウントは、子どもへのメッセージ送信やフォローを制限するとしています。メタは2025年10月に米国、英国、オーストラリア、カナダで先行して導入し、このほど日本でも段階的に開始しました。今後数カ月以内に、対象となる全アカウントに適用するとしています。新基準は自動適用し、保護者の許可なく解除できません。保護者向けには、より厳格な基準でコンテンツをフィルタリングできる設定も新たに提供、日本では2026年後半から利用可能になります。メタは「子どもは何らかの抜け道を探して別のプラットフォームを探すため、年齢による一律禁止は効果を生まない」と強調、インスタグラムの月間利用者は世界で30億人を超え、ショート動画などで利用時間を伸ばしてきました。13歳からアカウントを作成でき、13~17歳には10代専用のアカウント設定を導、これまでも成人向けコンテンツの表示や投稿を制限してきました。
  • 日本と欧州連合(EU)でデジタル分野の協力を進める「日EUデジタルパートナーシップ」の閣僚級会合がブリュッセルのEU本部で開かれ、共同声明を採択しています。SNSを含むオンライン上での未成年者の保護に向け、日欧当局間で協力をさらに深めていくことを確認しました。共同声明では普及が進むSNSの利用を巡って、「オンライン上での未成年者保護の重要性を認識し、協力をさらに深化させる」と明記、巨大IT企業への監督についても日欧の協力を強化、IT企業側が有害な投稿を監視する体制や、通報を受け付ける仕組みが有効的なのかについて情報交換を深め、企業への対応を強めていくとしています。また、AIについては「安心、安全で信頼できるAI」を推進することでも一致しています。日本が主導する、国際的な規制の枠組み「広島AIプロセス」について、日欧でほかの国に参加を呼びかけるといいます。また、松本デジタル担当相は今後、この独自システムを東南アジアを中心とした新興国や途上国に展開することも正式に発表しました。松本氏は米中のAI開発競争を念頭に「そのまま放っておくと主権に対して大きな障害になりかねない」とし、第3極のAIの開発普及について、「日本がまずは公的分野で協力して主導していく」と述べています。

子どもたちを夢中にさせるSNSの設計について、日本でも企業側の責任を問う議論が始まりました。米国の裁判では米メタや米グーグルが賠償を命じられました。有害コンテンツの遮断にとどまらず、アルゴリズム(計算手法)の改善要望などに発展する可能性があります。総務省の有識者会議で、慶応義塾大学メディア・コミュニケーション研究所の水谷瑛嗣郎准教授が「人を釘付けにする『無限スクロール』や夜間のプッシュ通知など、SNSの設計デザインの中身にも踏み込んで議論すべきではないか」と指摘しました。指で画面を触るだけで短い動画を延々と見られる無限スクロールや頻繁な通知は、利用者をSNSに釘付けにし、アクセス数や閲覧時間に応じて収益が生まれる「アテンションエコノミー」の土台となる技術設計となっていますが、情報の選別が難しい子どもにとって、中傷の拡散やメンタルヘルスへの悪影響など弊害も大きいといえます。本コラムでも以前指摘したとおり、メタは2021年の内部告発で、経営陣が子どもへの悪影響を認識しながら、利用時間の長さを社内目標にしていたことが明らかになっています。有識者会議はSNS企業が子どもの安全に配慮した設計にしているかを把握してリスクを評価し、改善を促す枠組みの創設などを想定、近く報告書をまとめ、こども家庭庁を中心に関係省庁と議論する見通しです。世界は年齢制限に加え、SNSの設計そのものの責任を追及する動きで先行しています。欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は2026年2月、TikTokに対し、無限スクロールなどが「デジタル規制法に違反している」との暫定的な見解を公表し変更を要請しました。米国でも3月、カリフォルニア州裁判所の陪審団がメタとグーグルに計600万ドル(約9億6000万円)の賠償を命じています。米国ではこれまで、SNSの投稿管理は利用者に委ねられてきました。利用者の投稿については運営会社の法的責任を原則問わない「通信品位法230条」があるためですが、今回の裁判の評決は、原告側の「利用者が中毒になるようにSNSのアルゴリズムが設計されており、たばこ産業と同じだ」との主張に寄り添ったもので、潮目が変わりつつあります。日本では子どものSNS依存は「利用者や家庭の問題」とされることもあり、リテラシー教育を強化してきました。2008年成立の「青少年インターネット環境整備法」では、端末側のフィルタリングなどを携帯電話事業者に求めることで、有害情報にアクセスしにくくしてきましたが、それでも、スマホとSNSが普及して誰もが発信できるようになった現代では、サイト閲覧を防ぐといった子どもを受信者とみて保護するだけでは不十分となっています。警察庁によれば、SNSをきっかけとした事犯の被害児童数は2025年に約1600人で、そのうち重要犯罪は約600人と増加傾向にあります。子どもが発信や拡散をしたことでトラブルに巻き込まれるケースも多発しており、SNS企業やスマホの基本ソフト(OS)の提供企業も巻き込んで保護する環境をつくる必要があります。

サイバーセキュリティに関する最近の動きのうち、内閣官房が「」を公表しており、大変参考になりました。以下、紹介します。

▼内閣官房 社会的影響が特に深刻な大規模インフラ障害への対応に係る関係府省庁連絡会議(第3回)
▼資料2 社会的影響が特に深刻な大規模インフラ障害への対応に係る机上演習の結果について
  • 国内外で発生するインフラ障害事案
    • 昨今、国内外において、サイバー攻撃やシステム障害等により、主要インフラの障害が発生し、それに伴い社会経済活動への影響が顕在化する事案が増加している。
      1. 【国内】名古屋港のコンテナターミナル停止
        • 2023年7月4日、名古屋港のシステムがランサムウェア攻撃を受け、約3日間にわたりコンテナの搬入・搬出作業が停止した。
        • ロシア系ハッカー集団「LockBit」による攻撃とされ、港湾の物流に大きな影響を与えた。
      2. 【国内】大阪医療機関での診療機能停止
        • 2022年10月に、大阪急性期・総合医療センターで、電子カルテシステムがランサムウェアに感染し、
        • 一部診療機能が停止。完全復旧まで約2か月を要した。
      3. 【海外】スペイン・ポルトガルでの大停電
        • 2025年4月28日12時30分過ぎ(現地時間)、スペインやポルトガルを含むイベリア半島全域で大規模停電が発生(復旧は翌日29日)。
        • 同年6月のスペイン政府の公式調査では、停電の第一要因として、適切な電圧制御ができなかったことによる送電網における系統電圧の上昇と、それに対する発電所の調整能力の低下・不足が原因と報告されている。
      4. 【海外】ウクライナ侵略前の通信障害
        • 2022年2月24日、サイバー攻撃の影響で、米Viasat社が提供する衛星通信サービス(KA-SAT network)が利用不能に。
        • ウクライナ国内のほか、ドイツの風力発電所等にも影響拡大。
  • 自然災害によらないインフラ障害の不透明性・事態長期化の可能性
    • 自然災害の場合、発災とともに甚大な被害が発生し、その後復旧・復興に向かっていくことが予想される。他方、例えば、サイバー攻撃のように悪意ある攻撃者が裏に存在するようなケースでは、攻撃者の特定や被害実態の把握が困難な場合があることに加え、次に何が起こるか分からないという不透明性が特徴。具体的対策を想定しづらいことから関係機関同士での情報共有や対処体制の強化、支援・応援の要請といった最初期の対応の足並みがそろわず、かつ、事態が長期化する可能性も高い。
    • 現代社会においては、単体のインフラの障害であっても、インフラ間の「相互依存性」を介して、他のインフラへの連鎖障害が短期間で拡散し、それが社会経済への影響を加速度的に増幅してしまうことが予想される。さらに、インフラ障害が長期化する場合には、その影響の深刻さと範囲の広さはより一層拡大する。
  • サイバー攻撃により電力・通信・水道等のインフラが停止し、その障害が拡大・長期化する場合、他のインフラ・産業にも影響が波及し、国民生活・経済活動に甚大な被害が生じ得る。
  • 社会的影響が特に深刻な大規模インフラ障害への対応について(ガイダンス)の概要
    • 大規模インフラ障害への政府としての対応を議論し、必要な施策を検討・推進するため、「社会的影響が特に深刻な大規模インフラ障害への対応に係る関係府省連絡会議」(議長:副長官補(内政担当)及び副長官補(事態対処・危機管理担当))を設置。
    • 2025年7月、大規模インフラ障害への対応の基本的考え方を周知するため、地方公共団体向けのガイダンスを公表するとともに、国の問い合わせ窓口も整理。今後、全ての地方公共団体を対象としたオンライン説明会を開催予定。
      1. 対応の基本的考え方・障害発生時における対応
        • 大規模インフラ障害が発生した時点では、事態の推移を予測することは難しく、不透明な状況が続くことから、自然災害や事故災害とは異なる性格を持つと言える。他方、発生している被害に着目すると、住民の避難の必要性などの社会的影響が生じ得るという意味において、自然災害や事故災害と同様の対応が必要
        • 大規模インフラ障害が一定期間以上継続することが見込まれる場合には、災害対策基本法上の「災害」として取り扱い、災害対策基本法等の関係法令に基づく対応を実施する。
      2. 障害への備え
        1. 地方公共団体等における訓練の実施
          • 毎年行われている防災訓練において、大規模インフラ障害も念頭に置いた訓練を行う。(令和7年度の総合防災訓練大綱においては、大規模インフラ障害を想定した防災訓練を実施するよう努める旨を記載)
        2. 主要インフラ事業者との連携
          • 主要インフラ事業者等との共同訓練の実施も検討する。
          • 災害連携協定等の対象範囲を確認し、大規模インフラ障害時にも発動できるよう、必要に応じて見直しを行う。
          • 応急復旧等について、国・地方公共団体・事業者間での役割分担を平時から確認する。
        3. 地方公共団体や主要インフラの強靱化
          • 地方公共団体や主要インフラについて、非常用発電機等の備えを通じて強靱化を図る。
  • 大規模インフラ障害への対応に係る机上演習の結果概要
    • 近年急速に高まっているサイバー攻撃の脅威等を踏まえ、2025年12月18日、内閣官房・東京都の共催で「自然災害によらない大規模インフラ障害」をテーマとした机上演習を実施。
    • 政府・地方公共団体・インフラ事業者等から約300名が参加し議論を行った。
  • 総合的な経済安全保障シンクタンク(経済安全保障推進法の改正)
    • 経済安全保障をめぐる課題は複雑化しており、外交・情報・防衛・経済・技術の専門 知識を結集して対応することが重要
    • 機動的に調査研究を行い、政府全体の幅広い政策要請に応える総合的な経済安全保障シンクタンク機能を創設するべく準備中。(経済安全保障推進法の改正(R8特別国会にて提出))
    • 当該シンクタンクにおいては、その業務の一つとして、自然災害によらない大規模インフラ障害を含む、経済安全保障上のリスクに関する分析・提言を行う。インフラ間の相互依存性を意識したシナリオを作成・発信すること等を通じて、企業や地方公共団体等における訓練・演習の実施を推進することを想定。
  • 法改正概要(シンクタンク関係部分)
    1. 総合的な経済安全保障の調査研究に関する基本指針の策定
    2. 総合的な経済安全保障シンクタンク機能の構築
      1. 内閣総理大臣は、経済安全保障に関する総合的な調査研究を行うこととし、その一部をRIETIに行わせることを可能とする。
      2. 当該業務を行うRIETIの役職員に国家公務員と同等の守秘義務を求める。
      3. RIETI法を一部改正し、RIETIの所掌に調査研究業務を追加した上で、当該業務の主務大臣を内閣総理大臣とする。
  • 想定される調査研究・政策提言テーマ(案)
    1. インフラ・リスク点検
      • 幅広いインフラ産業等に係る経済安全保障上のリスクについて、新興リスクも含め、発生可能性や影響度等を分析・評価。優先的に対処すべきリスクを特定し、インフラ間の相互依存性も意識しつつ、想定されるシナリオを作成。企業や地方公共団体等の自主的取組・意識醸成を図るためのTTX(机上演習)にも活用する。
    2. サプライチェーン
      • 二国間の輸出入における依存度の分析のみならず、海上輸送リスクや、輸出規制等の事象を想定した際の代替行動までも織り込んだ、多国間におけるサプライチェーンの強靱性についての分析等、高度な専門性を必要とする調査研究を行う。
    3. 技術
      • 安全保障や地政学的な関心を背景とした国内外の先端的な技術動向の把握・分析を行う。また、この分析結果について、他機関の成果も取り込みつつ、実効性のある政策提言につなげる。あわせて、こうした地政学も加味した技術動向に関する情報発信を行い、企業の理解促進につなげる。
  • 演習で確認された課題・教訓
    1. 演習全体に共通する課題・教訓
      1. 自然災害との違い
        1. 自然災害によらない大規模インフラ障害では、災害対応への切り替えの基準を明確に定義しにくく、被害の範囲や様相、障害の原因や復旧の見通しが明らかとなっていない不透明な状況下において、関係機関同士での情報共有や対処体制の強化、支援・応援の要請といった最初期の対応の足並みがそろわないリスクがある。インフラ事業者等による発信はもちろん、政府や地方公共団体が業種横断的に情報収集を行い積極的な発信を行うことで、各組織の迅速な対応を促していくことが重要。
        2. 自然災害を前提としている協定・契約(飲料水や燃料の優先供給協定・契約など)及び組織内のマニュアル・BCP等について、大規模インフラ障害時にも適用できるかどうか、各組織が確認・見直しを行うことが必要。
        3. 電力・通信等の主要インフラに障害が発生した場合には、インフラの相互依存関係に起因して、他のインフラに対しても波及的に被害が拡大する。また、被害の拡大に伴い、支援を必要とする人の範囲が、時間経過とともに広がっていくことが想定される(例えば医療分野における人工呼吸器使用患者や透析患者等)。こうした被害拡大の態様やその対応に必要なリソースの規模は、必ずしも既存の自然災害の想定とは一致しない部分も想定されるところ、想定される被害及び必要な対応のタイムラインを関係省庁・地方公共団体・事業者等、ひいては国民との間で共有し、必要な準備を促していくことが重要
        4. 障害の原因や復旧の見通しが判明しない不透明な状況下では、国民の不安・混乱が過度に増大するリスクがあり、それを抑制するための政府・地方公共団体・事業者等が連携した積極的な情報発信が重要
      2. 被害長期化への対応(優先順位付けの議論の重要性)
        1. 大規模なインフラ障害発生と急速な障害連鎖に伴う社会経済の混乱、さらに、その長期化による被害の拡大が想定される状況下では、復旧の要請に対して必ずしも即時にリソースが手当てできない状況が想定されるなど、不都合な事実に平時のうちから目を向けておく必要がある。まずは、地方公共団体やインフラ事業者において、電源車等の具体的な台数など、地域内のリソースの現状を把握・相互に共有することを進めるべきである。
        2. 手当てできる復旧リソースの到着遅延を前提とすると、大規模インフラ障害が発生・長期化した場合には、リソースをどこから配分していくか優先順位付けの議論が必要となる。原則として、都道府県災害対策本部が要請を集約(※)し、インフラ事業者等、政府が連携しながら重要施設等の機能維持を図ることとなるが、都道府県内のリソースで対応できない場合や、被害が複数の都道府県に及ぶ場合などには、都道府県間のリソース配分について、政府、インフラ事業者等が主体的、積極的に調整することが望ましい。こうした考え方を前提に、障害発生時の連絡ルートを明確化するとともに、演習の実施等を通じて、優先順位付けの考え方について関係者間での共通認識形成に努めていく必要。また、自組織内でのトリアージの方針についても、各組織で事前に整理しておくことが必要。(※)水道の運営主体が市町村である場合は、応急給水の要請は市町村の災害対策本部での集約が基本。
        3. 被害が広範囲に及ぶ状況を想定し、都道府県を越えた広域でのオペレーションの検 討が必要。
        4. 自衛隊の災害派遣を効果的に活用するため、(自然災害同様)地方公共団体と自衛隊が、平素から意思疎通を図っておくことが重要。
      3. 平時の備え
        1. 地方公共団体や主要インフラ施設において、非常用発電機等の備えを通じて強靱化を図っていくことが必要。所管省庁において、必要に応じて対策状況の実態把握や対策水準の周知・要請を実施していくべき。
        2. 大規模インフラ障害発生時の対応に当たっては、政府・地方公共団体・民間の主要インフラ事業者等の連携が必要不可欠であるところ、それぞれの組織の能力や限界について平時から本音で率直なコミュニケーションを図るとともに、想定される対応について演習等を通じて業種を越えた共有を図っていくことが必要。
        3. サイバー攻撃の可能性がある障害を念頭においた場合、サイバー担当部門と防災・危機管理担当部門において、どのような場面でどのような連携が想定されるか、演習等も通じて、各組織で事前に整理しておくことが必要
    2. 個別論点に関する課題・教訓
      1. 交通渋滞への対応
        1. 渋滞が発生した場合、救急車等の緊急車両や燃料を輸送するローリー・電源車などの応急復旧に必要な車両の円滑な通行を確保することが重要。警察含め現場の人的リソースには限界がある中で、渋滞の解消・抑制のため、どのような対応の選択肢があり得るのか、道路管理者、都道府県警察、関係省庁等において平時から整理しておくことが重要。
        2. 渋滞の発生を抑制する観点から、車両の利用自粛について、報道機関とも連携した徹底的な発信が重要。
      2. 帰宅困難者への対応
        1. 現状の帰宅困難者対応(一時滞在施設の協定等)は、基本的に自然災害を前提として設計されているため、自然災害によらない大規模インフラ障害において応用が可能かについて確認が必要。
        2. 自然災害とは異なり、帰宅経路における落下物や余震等の危険は想定されないものの、自動車利用の抑制等による緊急車両の通行確保や鉄道駅等への過度な人流の集中防止の必要性などを勘案し、「一斉帰宅の抑制」を行うのかどうかを政府・地方公共団体・インフラ事業者が連携して迅速に意思決定するとともに、積極的かつ統一的な情報発信が必要。
      3. 燃料分野での影響への対応
        1. 大規模かつ長期間の停電や通信障害が発生した場合には、燃料油の陸上出荷の手配がスムーズにできず、出荷の遅れにつながる可能性があるところ、需要家側においても、十分な備蓄の確保や協定の締結、平素からの取引の確保などの自衛策の徹底が求められる。
      4. 通信障害への対応
        1. 停電が発生している状況下では一般家庭のテレビや充電が切れた電子機器は使えず、通信障害が発生するとインターネットを通じた情報取得に支障が生じるなど、通常どおりの情報へのアクセスが困難になる。政府・地方公共団体・事業者等において、各組織のHPやSNSなどデジタル空間を通じた情報発信のみならず、地方公共団体の防災行政無線や広報車、避難所等の拠点、マスメディアなどあらゆる手段を活用し、国民に直接情報を届けることを検討する必要がある。
        2. 通信障害時には、衛星電話や無線通信を始め各組織が備えているバックアップ手段等を活用し、必要な連絡をとっていくことが想定されるところ、連絡を取るべき関係者との間で通信障害時の連絡手段を予め相互に確認しておく必要がある。
      5. 医療分野での影響への対応
        1. 在宅人工呼吸器使用患者等からの支援要請が区市町村や消防(119番)等へ寄せられ得るところ、どこにどのように情報を集約するか、地域内の関係者において整理をしておくことが必要
        2. 災害時の透析について、全国的なネットワーク整備により、基本的な体制はできているものの、既存の震災想定を超える停電・断水の被害が生じる場合は対応しきれないとの懸念が挙げられた。患者搬送における自衛隊を始めとした他機関との連携も含め、考えられる対応を整理しておくことが必要。
        3. 透析患者を始めとする被災地で必要な医療行為が受けられない人々などの広域避難や、復旧におけるリソース配分等の議論において、都道府県を越えた広域での調整・意思決定が必要となり得る。
      6. 金融分野での影響への対応
        1. 停電時は多くの小売店等においてキャッシュレス決済や読み取り機を用いたクレジットカード決済が困難となることから、現金需要の増加が予想されるところ、現金引き出しなどの混乱防止のため、官民連携した情報発信が重要。
      7. 被災者支援
        1. 都道府県において、災害救助法の適用をどのように判断していくのか、事前の検討を深めておくことが有益。
        2. 広域の停電・断水発生時、受入れ可能な人数を超えた人々が避難所に集まってしまう可能性があるところ、そうした状況も念頭に、必要な情報発信の在り方含め対応を事前に想定しておくことが有益。
        3. 小売店における住民への食料・物資の販売継続については、物流(電力・通信・交通・燃料等の多岐にわたるインフラに依存)や金融決済手段がどれだけ機能するかに依存しており、必ずしも販売が継続される保証がない。さらに、自然災害と同様に、膨大な数の避難者等が発生し被災地内への物資の供給が不足すること、被災地内外での買い占めが発生する可能性があることなども勘案すると、通常の商流による食料・物資の供給は不安定化する可能性も念頭に、平時から、物資の供給体制等の検討をしておくことが必要である。
      8. その他
        1. 停電に伴う自宅や事業所のセキュリティシステムへの影響、偽情報・誤情報等による社会的混乱の発生、それらに伴う治安の悪化等への対応も必要になり得る
▼資料3 想定される主な被害・対応のタイムラインの例

身代金要求型コンピューターウイルス「ランサムウェア」によるサイバー攻撃を受け、暗号化されたデータを復元するためハッカーに身代金を支払った日本企業が少なくとも222社に上ることが、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の調査で分かりました。このうち約6割は身代金を支払ったにもかかわらず、ハッカー側が対応しなかったことなどが原因でデータが復元できなかったといいます。専門家は、犯罪組織の収益源になることから身代金の支払いに応じるべきではなく、「払っても復元される保証はない」と指摘しています。回答があった1107社のうち「被害に遭った」と答えたのは、507社、このうち「身代金を支払った」と答えたのは222社となりました。身代金を支払った222社のうち「システムやデータを復旧させた」と答えたのは83社、「復旧できなかった」は139社、このほか、「被害に遭ったが身代金は支払わずにシステムやデータを復旧させた」と答えた企業も141社ありました。ランサムウェアは、感染したコンピュータやサーバーのデータを勝手に暗号化して使用不能にし、復旧と引き換えに金銭や暗号資産を要求するサイバー攻撃の手法ですが、近年は暗号化に加えて、窃取したデータを公開すると脅す二重恐喝の手口や、データを暗号化せずに窃取だけを行って脅迫するノーウェアランサムと呼ばれる手口も増加しています。警察庁が公表したサイバー空間をめぐる脅威情勢のデータでもランサムウェアの被害報告件数は高水準で推移しており、被害組織の約6割を中小企業が占めています。主な感染経路はVPN機器やリモートデスクトップ機能の脆弱性を突いたものが大半であり、テレワーク環境のセキュリティ対策の遅れが標的となっています。ランサムウェア被害に遭った場合、身代金を支払ってもデータが戻る保証はなく、むしろ犯罪組織の資金源となり再度の攻撃対象になるリスクを伴うことになります。セキュリティの専門家や法執行機関は、身代金の要求には応じず、平時からオフラインでのバックアップ取得やシステムの脆弱性修正、多要素認証の導入といった予防措置を徹底するよう注意喚起しています。

個人や企業を狙うサイバー攻撃がAIにより巧妙化しています。手口の役割分担による「ビジネス化」も進んでおり、国境がないデジタル空間を渡り歩く犯罪に、セキュリティ企業側もAIで対抗し、攻防は激しさを増しています。2026年4月9日付朝日新聞の記事「サイバー犯罪集団と企業の攻防、AIで激化 日本の被害数は世界3位」は大変興味深いものでした。(特殊詐欺の項で取り上げましたが)2025年5月、日本の高齢者をだます詐欺集団が摘発されました。パソコンがウイルス感染したと偽の警告画面を表示し、マイクロソフト担当者を装って修復名目で金銭をだまし取る「テクニカルサポート詐欺」の集団で、日本側から提供された情報をもとに、インドの犯罪拠点を突き止めたのはマイクロソフト本社の「デジタル・クライム・ユニット(DCU)」でした。日本の警察庁やインドの捜査当局と連携し、コールセンター2カ所を摘発、6人を逮捕し、組織を解体しましたが、捜査で明らかになったのは、犯罪者たちによるAIの悪用で、それに対抗する側も、駆使したのはAIでした。海外の犯罪組織による偽メールや偽サイトは従来、日本語が不自然で、怪しいとわかるものが多かったところ、生成AIで翻訳が自然になり、「日本語の壁」がなくなりました。AIは不正プログラム「マルウェア」も生成し、攻撃に弱いセキュリティの穴を見つけ、攻撃を自動化することで速度や規模を増すことも可能にしています。マイクロソフト幹部によれば、パスワードへの攻撃だけでも、1秒あたり4千件だった攻撃が7千件まで増え、1日に6億件の攻撃が行われている計算となります。DCUでは「フィッシング攻撃をAIで自動化すると、クリックしてしまう人の割合は4.5倍に増える」とみています。また、犯罪者が続々と参入してくる理由としてDCUは「たとえ成功率が1%だったとしても、すさまじくもうかる」と指摘しています。さらに、DCUが懸念しているのは、高額の身代金の支払いがすぐに見込めるとして、病院や空港などが標的になり始めたことであり、命に関わり、攻撃されれば混乱が大きくなる対象を狙うことは、かつてはタブーだったところ、「もはや被害に遭うことは『if(もし)』ではなく、『when(いつ)』になった。誰もが、サイバー犯罪者のターゲットになる」と警鐘を鳴らしています。正に正鵠を射る指摘だと思います。

その他、サイバーセキュリティを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米南部フロリダ州でサイバーセキュリティ会社に勤務していた男性が、裏でハッカー集団と通じて多額の利益を得ていたとして摘発されました。司法当局は暗号資産や自動車、高級釣り船など、男性から1000万ドル(約16億円)相当の資産を押収しています。報道によれば、司法省は「知識や技術を犯罪に悪用し、被害者を裏切った」と厳しく批判、男性は2023年以降、ランサムウェアの被害者の代理人として、「ブラックキャット」と呼ばれたハッカー集団との交渉役を担っていました。ところが被害を受けた5企業の保険上限額や交渉戦略などの機密情報をハッカー側に流し、交渉が有利になるよう手助けしていたといい、見返りとして報酬を受け取っていたものです。さらに男性は他の2人と共謀し、自らも米国内の複数の企業にランサムウェアを仕掛け、計120万ドル(約1億9000万円)相当のビットコインを脅し取ったといいます。男性は恐喝による通商妨害共謀の罪に問われ、法廷で有罪を認めているといい、7月に量刑が言い渡される予定で、最大で禁錮20年になる可能性があります。
  • 各国のサイバーセキュリティ機関は、中国系ハッカーがイ​ンターネットに接続されている日常‌的な機器を利用してサイバー活動を隠ぺいしているとして、防御を強化するよう呼びかけ​ました。英国の国家サイバーセキュリティ​ーセンター(NCSC)は、米国、オースト⁠ラリア、カナダ、ドイツ、日本、オ​ランダ、ニュージーランド(NZ)、スペインの8カ​国の業界および15の国際パートナーとともに、新たなガイダンスを公表し、中国系ハッカーは、​家庭用ルーターやスマートデバイスなど、​日常的に使用される脆弱なインターネット接続‌機器⁠を活用し、世界の重要部門を標的に機密データを窃取するなどしていると指摘しています。NCSCのは声​明で「近年、​中国を拠⁠点とするサイバーグループが責任追及を逃れるため、こうした​機器を利用して悪意ある活動を​隠ぺ⁠いする動きがみられる」と述べています。新ガイダン​スは、こうした攻撃は証拠が迅速に消失する可能性が​あるため検知が困難だと警告しています
  • 上記と同じく、NCSCは、ロシア情報機関の関与が濃厚なハッカー集団が、脆弱なルーターを介して、スパイ活動をしていると警鐘を鳴らしています。対策として複数の手段で本人確認する多要素認証の利用などを呼びかけています。NCSCは、ハッカー集団「APT28」が個人のルーターを使って、情報を盗み取る手法の詳細を発表、APT28は「ファンシーベア」、「フォレストブリザード」など様々な名称を持ち、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の傘下にあるとNCSCは分析しています。ルーターの脆弱性を利用して、ハッカー集団が管理するサーバー経由で通信させることで、メールやほかのインターネットサービスのアカウント情報を盗んでいるといいます。ネットワーク機器大手の中国系ティーピーリンクなどが製造する複数の機種が利用されたとみています。NCSCは「広く使用されているネットワーク機器の脆弱性が、どのように悪用されるかを示すものだ」として、警戒を呼びかけています。多要素認証の利用のほかに、ソフトウエアをアップデートして常に最新の状態に保つことや、侵入検知システムの導入などを対策として推奨しています。ルーターを巡って米国は2026年3月、米国外で新しく製造されたルーターの輸入を禁止すると発表しました。米国の通信業界を監督する米連邦通信委員会(FCC)は「悪意のある攻撃者は、外国製ルーターのセキュリティ上の穴を悪用し、米国の家庭を攻撃し、ネットワークを混乱させてきた」としています。APT28はこれまで、2015年のドイツ連邦議会へのサイバー攻撃、2016年の米大統領選における米民主党全国委員会へのハッキング、世界反ドーピング機関(WADA)からの情報流出への関与が疑われています。
  • トレンドマイクロ子会社のヴィックワンは、2025年に報告された自動車関連のサイバーセキュリティに関する説明会を開き、リスク件数は前年比2.8倍の610件で、企業向けに加え車載システムを対象とした攻撃が増えていると発表しました。サイバーリスクには実際のサイバー攻撃に加え、研究で実験的にシステムに侵入できたケースなども含まれ、2025年に発見された自動車関連の脆弱性は前年比1.5倍の1384件となりました。攻撃の対象領域は車載システムが39.7%となり、企業ITシステム(37.7%)を上回りました。車のUSBの挿入口を経由し、不正なプログラムを入れるなどの手口も確認されました。企業向けは、従来ディーラーを対象とした攻撃が多かったところ、直接自動車メーカーを攻撃する例が増えているといいます。2025年8月には英ジャガー・ランドローバーがサイバー攻撃により業務が中断したケースもありました。
  • AIモデルのサイバー攻撃能力は、人間心理の隙につけ込む「ソーシャルエンジニアリング」においても急速に高度化しています。実際に送付されたメッセージの中には、リンクをクリックさせ、攻撃者に端末へのアクセス権を渡させることを狙ったソーシャルエンジニアリング攻撃があり、特筆すべきは、この攻撃をオープンソースモデル「DeepSeek-V3」がすべてを設計し、実行していたといいます。モデルは標的との接触を図り、対象者の興味を引きつけながら、決定的な情報は明かさずに誘導したといいます。こうした事例は、AIを使えば詐欺のシナリオをいかに簡単に大規模に自動生成できるかを示しています。これは「Mythos」の登場によって、いっそう緊急性が高まっている問題となっています。このモデルはコード内のゼロデイ脆弱性を見つけ出す高度な能力を備えており、「サイバーセキュリティの転換点」になるとまで呼ばれています。専門家は、「AIによって詐欺のシナリオの説得力が高まったとは言いませんが、ひとりでも攻撃を大規模に展開しやすくなりました」、「攻撃の一連のプロセスは、完全に自動化されつつあります」と述べている点は今、十分認識しておく必要があります

生成AIを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 読売新聞と帝国データバンクが国内企業を対象に行った共同調査で、生成AIを業務に活用していると回答した企業は全体の3割に上りました。文章の作成や情報収集などでの利用が多かった一方、AIの活用を巡る懸念や課題に関しては、「情報の正確性」や「専門人材・ノウハウの不足」などを挙げた企業が目立ったといいます。活用していると回答した企業に対して行った、悪影響やトラブルの有無に関する質問(複数回答)では、「ない」との回答が67・7%で最多となりましたが、「ある」との回答では、「AIを使いこなせる社員と使いこなせない社員の間で、能力や成果の格差が拡大した」が18・8%で最多となり、「社員から類似した意見や報告が出るようになり多様性が低下した」(4・5%)、「社員が業務をAI任せにして、意欲やスキル(能力)が低下した」(4・0%)との回答もありました
  • 欧州連合(EU)は、実在する人の顔に性的な画像や動画を合成する「ディープフェイクポルノ」を本人の同意なく生成するAIサービスを禁止する方針を決めました。女性や子どもを中心に被害が広がるなか、AIを包括規制する「AI法」を修正し、事業者に対応を求めるとしています。欧州議会とEU理事会は、暫定合意したAI法の修正案に、本人の同意なく性的な画像や動画、音声といったコンテンツを生成するAIサービスの禁止を盛り込みました。児童虐待にあたる性的コンテンツの生成は、同意に関係なく禁止されます。医療や捜査を目的とする生成は対象外となる見通しで、事業者は2026年12月2日までに対応を求められることになります。違反した場合、最大3500万ユーロ(約64億円)または全世界年間売上高の7%のいずれか大きい方を制裁金として科される可能性があります。議論を主導した欧州議会の緑の党のスパレンタック議員は声明で「わずか3クリックで女性や子どもの画像を操作し、偽りの裸体やポルノ素材を生成できてしまうのは異常なことだ。私たちはこの種の暴力に明確な終止符を打った」と述べています。EUは問題を未然に防ぐ規制を重視してきましたが、業界の要望を受けて一部緩和、今回の修正について米大手テックに屈したとの批判が出ていますが、EUのAI法は依然、世界で最も厳格なAI規制と見なされており、フォンデアライエン欧州委員長は今回の合意を受け、「欧州のAIエコシステムが成長するために、シンプルでイノベーションを促進できる環境が整うことになる。同時に、市民の保護も強化していく」とコメントしています。生成AIの登場後、女性や子どもの顔写真を勝手に使ったディープフェイクポルノの生成は、世界各地で問題になっており、2026年1月には、Xに投稿された画像を編集できる生成AI「Grok」で、偽の性的画像が拡散する事案が相次ぎ、規制議論に拍車をかけた経緯があります。韓国や英国では本人の同意のない性的画像の生成や共有を規制する法律があり、日本でも対応を求める声が強まっています

AI/生成AIを巡る最近の大きなトピックは、何と言っても米アンソロピック社の「Mythos(ミュトス)」の登場です。ミュトスは正に「パンドラの箱」を開けてしまったと言えるほど功罪両面で甚大なインパクトがあります。プログラミング能力の飛躍的な向上で、人間が27年間も発見できなかったシステムの欠陥を短時間で特定するなど桁違いに高いその能力は、悪用されれば世界が混乱に陥るのは必至です。欧米メディアは、サイバー防御の転換点として「ミュトス・モーメント」と報じています。同社については、本コラムでもたびたび取り上げているとおり、自社のAIを「大規模監視」や「自律型兵器」に利用することに対して独自の制限を設けており、米国防総省と激しく衝突するほど倫理的に信頼できる企業であり、ミュトスも限定公開にとどめ「断固として慎重な行動」を訴えています。しかしながら、同社の別のAIが複数の中国企業に不正利用された事例や中国のAI開発がミュトスをキャッチアップする可能性、人間がチェックするときだけ従順を装うAIの「フォルクスワーゲン効果」が出現し人間の制御が効かなくなりつつある状況などをみれば、悪用されるのも時間の問題だと指摘せざるをえません。「パンドラの箱」の中に「絶望」しかなかったということにならないよう、人間の叡智を結集させていく必要があります。以下、ミュトスを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 2026年4月中旬に米ワシントンで開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議でもミュトスが議題に上り、各国は危機感を共有していますが、前例のない脅威に具体策が見えないのが実情です。それでも、各国が連携した対策は不可欠で、日本の経済官庁幹部は「AIとAIを競わせるSFの世界も念頭にある。来年では遅く、来月には足並みをそろえなければいけない問題だ」と指摘しています。
  • 対イラン軍事攻撃では、AIの軍事利用について倫理的な課題が改めて浮き彫りとなりました。米国防総省がミュトスを情報分析や作戦支援に利用したと米メディアが報じ、イランの女子小学校で170人以上の児童らが死亡したとされる空爆にAIが関与した可能性も指摘されています。過去の戦争なら数日から数週間を要した作戦をAIで瞬時に実行できるとの指摘があり、人間の対応では間に合わない「AI対AI」の攻防も現実味を帯びています。米戦略国際問題研究所のイアン・レイノルズ博士研究員は「AIの軍事利用で標的の選定や情報分析を迅速に行うことができる反面、人間による制御や責任が形骸化する可能性がある」と指摘しています
  • 専門家は、ミュトスの登場を産業革命になぞらえ、従来のプログラムを分析して読み解く方法を「熟練工」、ミュトスの能力を「工場」と表現、「スピード、把握できる情報量は桁違い。複数の場所を組み合わせて初めてわかる脆弱性といった、人間では同時に把握するのが難しい場面でも限界がない」と説明しています。ミュトスは短時間で、これまで考えられなかったような多くの数の穴を見つけられますが、セキュリティの脆弱性が見つかってから、実際に攻撃を受けるまでの時間が短くなっているというスピードの問題もあります。攻撃側は100回のうち1回でも成功すればいいが、防御側は全てを防がなければならず、「防御側は今、圧倒的に不利な立場にある。組織が修復すべき脆弱性の有無をリアルタイムに近いかたちで把握し、修復できれば対処できることになる。だが、言うのは簡単でも実現できる技術というのはほとんどない」と指摘しています。ただ、「いたちごっこはある」とし、「長い目で見ると、今後出てくるソフトウェア類はミュトスと同等以上のAIで解析したものになる。仮に同じレベルのAIを使っても、簡単には脆弱性が見つからなくなるだろう」とみており、ミュトスのような高い能力のAIの登場について「非常にセンセーショナルだが、実は防御側の力を増す大きな一歩になった可能性もある」とも指摘している点は大変参考になります
  • 閉ざされた環境にいたはずのミュトスがそこを抜け出して、公園にいる研究者にメールしたという話があるといいます。AIが人間を欺くほどの性能になってきたといい、専門家は、人間がチェックするときだけ従順を装うAIについて「フォルクスワーゲン効果」という言葉を使っています。不正に排ガス規制を逃れたドイツの自動車会社にちなんだ言葉ですが、AIが人間のコントロールから抜けだそうという兆候が見え始めたという意味で衝撃は大きいといえます。
  • 米政府機関が世界の主要ソフトウエアに関する脆弱性をすべて分析し、評価するのを取りやめました。ミュトスといった高度なAIの登場で、急増する脆弱性の検知に分析が追いつかない実態を反映したものです。脆弱性の分析や評価を手掛ける米国立標準技術研究所(NIST)が、脆弱性に関する分析について、緊急性が高い案件に限定する方針を示しました。日本企業にとっても、利用するソフトの脆弱性の修正が遅れる要因となる恐れがあります。背景にあるのはAIの進化で、2025年ごろからAIによる脆弱性の検知精度が飛躍的に高まっており、NISTは「増加する報告件数に対応できない」と説明しています。ただ、NISTが重要度の高い脆弱性を見落とせば、重要な修正が遅れて、サイバー攻撃の標的となるリスクが高い状態が長期に続く恐れがあります。今回のNISTの方針転換によって、AIによる脆弱性の検知が増えたとしても、人間の対応が追いつかないリスクが明確になりました。脆弱性の対応は情報システムに不具合が生じないかなどを慎重に見極めながら進め、人材や予算が限られる企業は、AIから報告を受ける脆弱性の数が増えても、すべてを修正できるとは限らず、AIを脆弱性の修正に活用する取り組みも進んでいますが、他のソフトとの連係に影響しないかなどを、最終的には人間の責任で精査することが必要になります。今後は、すべての脆弱性に対応する代わりに、企業が自ら優先順位をつけて、緊急性の高い案件を見極めることが求められることになり、AIの高度化は、サイバー防衛の概念も変えつつあります
  • アンソロピックのアモデCEOは、ミュトスの性能に「中国勢が6~12カ月後に追いつくだろう」と述べています。JPモルガンのダイモンCEOは、ミュトスについて「大手銀行だけでなく、すべての重要インフラに関わる問題だ。全員がリスクを確実に理解する必要がある」と述べました。技術を非公開にしたアンソロピックの決定を「正しい判断だ」と評価、アンソロピックのアモデイCEOは「ミュトスのようなモデルで全てのコードをより安全に書き直すことで、世界をよりよいものにできる」とも述べ、ダイモン氏も、サイバー攻撃リスクが高まるのは対策がとられるまでの「過渡期だ」との認識を示しました。
  • トランプ米大統領が、新たなAIモデルに対する政府の監督制​度導入を検討しているといいます。米政府はテクノロジー企業​の幹部と政府高官を集め、監督手続きの​在り方を検討するAI作業部会を設置する大統領⁠令について協議しているといいます。この動きの背景にミュトスへの懸念があるとみられ、今回の動きは、不干​渉路⁠線を訴えてきたトランプ氏にとって大きな方針転換となります。トランプ氏は昨年7月にAI行動計画を発表し、⁠こ​の重要な技術分野で中国に​対する米国の優位性を維持するため、環境規制を緩和し、​同盟国向けのAI輸出を大幅に拡大する方針を示していました。
  • 国際通貨基金(IMF)は、ミュトスが金融の安定性を脅かしかねないと警告、安全対策や被害時の復旧を含む総合的な計画策定を金融機関に促すよう政策当局者に注意喚起しました。ミュトスが検知した脆弱性をサイバー攻撃者が悪用すると、金融システムなどの重大な脅威となります。IMFは金融危機につながりかねないと警鐘を鳴らしました。複数の金融機関が同時にサイバー攻撃を受けた結果、システム上で決済が中断して流動性の逼迫を招き、金融商品の投げ売りといった事態に連鎖する可能性を指摘、対応策としてAIの活用によりシステムの開発段階から欠陥を減らせると指摘しました。金融機関による自発的な対応を促すために、監督当局は金融機関によるガバナンスや人的監視への投資を評価すべきだと訴えています。また、「防衛システムは必ず突破される」と断じ、サイバー防衛だけでは不十分との認識も示しました。システムの強靱さを保てるよう、迅速な復旧や重要な機能の継続性にも重点を置くよう説き、サイバー攻撃へのストレステストなどが金融安定性の枠組みに不可欠になっていると強調しています。各国で官民連携を深めて対応を急ぐとともに、国際協力も進めるよう要求、防衛力の弱い新興国や途上国が標的になれば、被害がグローバルで広がりかねないためで、情報共有を促進して世界レベルで金融安定の維持に取り組むべきだと言及しました
  • 欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、ミュトスを利用したサイバー攻撃への防御策を検討していると明らかにしました。攻撃者に悪用されれば金融システムの脆弱性をつかれる懸念があり、当局による警戒が広がっています。金融機関に対しても「近い将来ミュトスのようなAIを使った攻撃が可能になることに備え、サイバーセキュリティに十分に資源配分するよう求められている」と警鐘を鳴らしています。一般公開していないミュトスの試験利用はこれまで米国企業に限定されているとして、米国とその他の国・地域との公平な競争条件が損なわれているとも指摘しました。米国に対抗する欧州発のAIの開発のため「巨額の資金を投じる必要がある」との認識を示しています。各国の金融当局も相次ぎリスクの点検に乗り出しています。
  • オーストラリア証券投資委員会(ASIC)は、ミュトスなどのフロンティアAIシステムがもたらすサイバーリスクへの緊急対応​を金融セクターに求めました。ASICは、金融サ​ービス業界に宛てた書簡を公表⁠し、サイバーセキュリティ対策を​可能な限り強化するための一層の取り組​みが必要だとしています。ASICのは「サイバーリスクは新たな時代に入った。​フロンティアAIモデルの登場は機会をもた​らす一方、リスクを大幅に高めるものであり、多‌くの⁠人が認識するよりも速く脆弱性を露呈させる能力を持つ」と説明、その上で「新たなAIモデルがもたらす脅威に対処​するために、​完全な見⁠通しが立つのを待ってはならない。今すぐ規律を持って行​動し、事業を支えるサイバーレ​ジリ⁠エンスの基盤を強化すべきだ」と語りました。
  • 政府機関でも、ミュトスの使い方を試す取り組みが進んでおり、英国のAISIが実施したサイバー攻撃のシミュレーションでは、仮想空間において欲しい情報を73%の確率で見つけ出したといい、実際のインフラへの影響など、詳細な調査を進めているとみられます。アンソロピックがミュトスの提供先を拡大する意欲があっても、米政権側は反対しており、実現に向けた不確実性は大きく、ミュトスを使える組織や国とは、システムなどの安全性の差が大きくなります。特に金融機関などの懸念は大きく、メガバンクからは「ミュトスを使えないと、金融の安定性において大きな脅威になりうる」(幹部)との声が上がっています
  • 金融庁は、ミュトスを悪用したサイバー攻撃への懸念の高まりを踏まえ、地方銀行などに対策を要請する方針です。システム修正や障害発生時の復旧手順などを点検させ、金融インフラの混乱といったリスクへの備えを進めるとしています。月内に開く業界団体との会合で要請を伝えるといいます。地銀は大手銀行に比べ、セキュリティ対策に割ける予算や体制が限られており、金融庁や日銀、3メガバンクなどは2026年4月にミュトスのリスクに備える作業部会の設置を決め、米国やアジアの金融当局も相次ぎリスクの点検に乗り出しています。
  • 経済産業省は、情報システムの脆弱性を特定する能力が高く、悪用が懸念されているミュトスを巡り、電力、ガスなどのインフラ事業者を対象とした意見交換会を開き、赤沢経産相は電力事業者に対し、1か月以内にシステムの緊急点検を実施し、結果を経産省に報告するよう求めました。サイバー攻撃に悪用され、エネルギーや金融などの経済基盤に混乱を引き起こすリスクが指摘されています。会議には電力大手や送配電会社の経営陣と、経産省が所管する電力、ガス、石油、化学、クレジットの5分野の業界団体代表が出席、赤沢氏は「国民の安全安心を損なう重大事態が生じないよう、サイバーセキュリティは経営上の最優先課題との認識を持ってほしい」と述べ、出席者に対し、情報システムの点検に加え、(1)組織トップによる主導(2)積極的な脆弱性の発見と対応(3)挙動を常に確認できるシステムへの移行の観点から対策に取り組むよう要請しています。

その他、AI/生成AIを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • カナダ西部ブリティッシュコロンビア州の学校で2026年2月に子どもら8人が死亡した銃乱射事件で、遺族らが容疑者の元生徒が生成AIのChatGPTに犯行を相談していたのに通報しなかったとして、開発元の米オープンAIを訴えました。安全対策が不足していたと訴え、損害賠償などを求めています。報道によれば、容疑者は事件の8カ月前にChatGPTに犯行計画を相談していたといいます。オープンAIのシステムが検知し、社内の専門チームが議論した上で、警察などに通報すべきだと経営陣に提案、しかし、経営陣は通報せず、アカウント停止の措置にとどめたといい、その後、容疑者は別のアカウントを作成したということです。訴状では、経営陣は容疑者が事件を起こすリスクを把握していたのに通報しなかったと指摘、サム・アルトマンCEOについても、容疑者が使用したモデルの安全設計を徹底せずに、市場投入を急いだ責任があると主張しています。米国では、ChatGPTが自殺を手助けしたとする遺族からの訴訟が相次ぐほか、4月には米フロリダ州の司法長官が、銃乱射事件の容疑者が犯行前にチャットGPTから助言を受けたとみて捜査を開始、AIの開発元の安全対策の責任が問われています。
  • 2025年4月に米南部フロリダ州の大学で8人が死傷した銃撃事件を巡り、地元の司法当局は、殺人では最も量刑が重い第1級殺人罪などで起訴された男性被告が利用していたChatGPTと、運営会社オープンAIを刑事捜査の対象にすると発表しました。司法当局は記者会見で、ChatGPTが被告に対し、使用する銃の種類のほか、多くの人を狙える時間帯や場所についても助言を与えていたと指摘、「もしChatGPTが人間だったら、殺人罪で訴追されていただろう」と批判しました。今後、被告とChatGPTのやりとりを検証し、犯罪を助長するような行為がなかったかを調べるとしています。オープンAIは捜査に協力する姿勢を示す一方、「インターネット上で広く公開されている情報に基づき、事実に即した回答を提供した。違法、有害な活動を助長してはいない」と反論しています
  • 米国防総省は、機密通信網での米軍のAI活用を推進するため、グーグルなど米先端テクノロジー企業7社と協定を締結したと発表しました。企業側は米軍のあらゆる「合法的な作戦用途」で自社技術を提供、今回の協定を通じて米軍を「AI第一の戦闘部隊」とする取り組みの加速を図るとしています。協定を結んだのは、グーグル、マイクロソフト、オープンAI、実業家イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業スペースX、アマゾン・ウェブ・サービス、半導体大手エヌビディア、AI新興企業リフレクションの7社で、複数の企業と取り組みを進めることで、特定のAIに依存しない形を模索しているといいます。活用例としては対イラン軍事作戦など戦闘時の攻撃対象リストの作成や、膨大なデータ分析による情報収集などが想定されます。今回の協定締結はミュトスに代わるAIを急ピッチで米軍に組み込みたい思惑もありそうです。
  • 東京商工リサーチが約6300社を対象に行った調査で、AI活用に前向きな企業約2千社のうち半数近くが、今後5年で「配置転換」や「従業員数の抑制」を行う可能性があると回答しました。大企業に限ると58%に達し、調査の担当者は「AIによる雇用への影響は、大企業のホワイトカラー層により大きく出るのではないか」とみています。生成AIの業務活用を推進しているか、との質問に対し、会社または部門として「推進している」との回答は全体で34%、大企業では59%に達し、2025年8月の前回調査では「推進」は全体で25%、大企業で43%であり、1年足らずでAI活用に対する企業の意識が大きく変化したことがうかがえます。AIの業務活用を「禁止している」とした企業は全体の1%でした。一方、中小企業のAI推進は32%にとどまり、方針が未定の企業も39%にのぼるなど、大手との意識の違いがみられました。業種別では「推進」の比率をみると情報通信が64%と最多で、金融・保険の42%が続いきました。AIの業務活用について「推進」と回答した2088社に対し、「今後5年の人員構成にどのような影響を与えるか」と尋ねたところ、既存業務の効率化で「配置転換する可能性がある」が29%、「総従業員数を抑制する可能性がある」が16%、大企業(246社)に限ると、「配置転換」が47%、「抑制」が11%となり、大企業を軸にAIによる配置転換が起こる可能性が浮かび上がる一方、中小企業ではAIによる業務代替で人手不足を補いたい意向がみてとれます。今後5年以内に事務や企画などの業務にあたるホワイトカラーの従業員に対して早期退職を募集する可能性について、「ある」と答えたのは4%弱(211社)となりました。東京商工リサーチは「前回調査では、AI活用に『様子見』という姿勢が目立ったが、情報通信、金融、製造業などで活用が広がっている。大手を軸にホワイトカラーの配置転換などで大きな影響が出るのではないか」と指摘しています。
  • 雇用に与える影響について、現時点では米国の専門家や企業幹部らの議論は割れている状況です。新たな職種が生まれて雇用が増えるとの観測がある一方、AIによる置き換えが進み、数年後に失業率が大幅上昇するとの悲観論もあります。前者には、世界経済フォーラム(WEF)が2026年1月の年次総会(ダボス会議)で、米求人サービスのデータを基に、過去2年間で約130万件のAI関連雇用が全世界で創出されたと報告したことや、エヌビディアのフアンCEOが、2026年3月、「多くの人々がAIの到来で職が失われると言うが、実際はその逆だ」として、AIやロボットを管理する人材が必要となり、企業は雇用を増やしていくとの見通しを示したといった主張があります。一方で、米スタンフォード大学は2025年11月、ソフト開発や顧客対応などAIが代替しやすいとされる職種で、22~25歳の雇用が16%減少したとの分析を発表しました。
  • メタやマイクロソフトなど米大企業が次々に大規模な人員削減を発表しています。民間集計によれば、2025年の削減数は120万人で、2008~09年の金融危機当時と同水準にまで膨らんでいます。もっとも、政府統計では民間部門の離職者が増えておらず、矛盾があるようにも見えますが、AIの爆発的な普及によるリストラは大手企業で先行し、中小企業にはまだ本格的には及んでいない可能性があります。さらにいえば、大企業は株価対策で大規模なリストラ策を打ち出す一方、実際の人員削減は状況を見ながら慎重に進めているとの解釈も成り立ちます。ただ2026年に入ってもテックなどの大規模な人員削減の発表は止まっておらず、性能の高い新型AIが次々登場し「いよいよ局面が変わってきた」(コンサル幹部)との声も上がっています。雇用がどこまで減るかはまだ見通しにくいものの、確かに言えることは、AIの進化で働き方も企業の人材戦略も大きな変化を迫られていることです。今後はAIで人を減らしてコストを切り詰めるだけの企業と、1人当たりの生産性を高めて成長と雇用を両立させる企業とに二分されていく可能性があります。米保険会社オールステートのトム・ウィルソン会長兼CEOは4月、「AIで雇用を削減するのは難しくない。問題はどうやって新たな雇用を創出するかだ。そこに取り組まなければ、社会からの信頼は低下する」と述べましたが、企業のAIへの向き合い方の方向性として1つの参考になると思います。

(6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向

総務省がインターネット上の誹謗中傷対策として、通信履歴を一定期間保存するよう関連事業者に求めたことに対し、Xの運営会社が対応を拒否しています。社内基準よりも保存期間が延び、コスト負担が増すことに抵抗したとみられていますが、本コラムで以前から指摘しているとおり、すでに社会インフラ化している同社のサービスにおいて、「場の健全性」を担保することはもはや「責務」なのではないでしょうか。また、SNSには特定の人の名誉を傷つけたり、プライバシーを侵害したりする投稿があふれ、誹謗中傷が極めて深刻化する中、対策の重要性、緊急性を理解していないのではないでしょうか。総務省は2025年10月、通信事業者を対象にした指針を改正し、SNSへの接続履歴などの利用者情報を「少なくとも3カ月から6カ月程度」は保存することが望ましいとの考え方を示しました。総務省のこうした要請は、被害救済には発信者の特定が必要であり、通信履歴の保存期間が短ければ特定できなくなる恐れが高まるためで、極めて合理的なものです。携帯電話大手や他のSNS事業者は、総務省の要請に応じるなどして3カ月以上の保存期間を設けています。SNSなどネット上の書き込みは匿名でできるため、安易に行われ過激化しやすいことは本コラムでも以前から指摘していました。誹謗中傷などの投稿への対応をSNS運営事業者に義務付ける「情報流通プラットフォーム対処法」が2025年4月に施行され、Xなど対象となる大規模事業者は被害の申告窓口を設け、投稿の削除についての可否を申告受理から7日以内に判断する必要があります。また、2022年には侮辱罪に拘禁刑を導入する改正刑法も成立しています。「通信の秘密」に当たる通信履歴は漏洩のリスクもあるため、長期間の保存は問題があるのは否定できませんが、時に被害者が命を絶つなど被害は深刻化する一方で、泣き寝入りすることなく救済されるためには一定の保存期間は必要です。アンソロピックのように自らを厳しく律する倫理観をもつ企業もあることで、余計にXの対応は残念です。総務省には3カ月以上の保存期間を義務化するなど実効性ある対応を求めたいところです。

与野党は選挙期間中のSNSでの偽・誤情報や誹謗中傷の拡散対策について、関連法改正の検討に入り、今国会での法案成立を目指す方針です。SNSを駆使する今の選挙では、選挙期間を中心に特定の候補者や政党に関する過激な内容を投稿する「炎上商法」もみられるほか、動画などの閲覧数を稼ぎ収益を得る「アテンション・エコノミー」がビジネスモデルとして定着する中、広告収益を得ることを目的とし、インプレッション(閲覧回数)を増加させるための迷惑投稿を行う「インプレゾンビ」による「有害投稿」も散見されています。注目を浴びる刺激的な内容には虚偽や真偽不明の情報が含まれやすい傾向があるとされ、虚偽情報の拡散が選挙結果に影響する懸念があり、「表現の自由」との兼ね合いも踏まえ、検討の行方が注目されます。現時点の方向性としては、有害投稿の監視や削除などに関する事業者責任のさらなる明確化、選挙に関するSNSの適正利用義務といった利用者のルール整備が法案の柱となるようです。前述した誹謗中傷への対応なども含めた法整備では、違法・有害情報への事業者対応などを定めた情報流通プラットフォーム対処法や公職選挙法の改正が検討されるといいます。公職選挙法は候補者に関する虚偽情報の公表について罰則を設けていますが、即時性という観点では事実認定に一定の時間を要し、短い選挙期間中に対応するのは難しいのが実態です。報道で2026年2月の衆院選で落選した野党ベテランが「選挙後にウソが証明できても、後の祭りだ」と指摘していましたが、その通りです。一方、憲法が保証する「表現の自由」とのバランスのとり方は難しいものがあり、法規制は今後も試行錯誤を繰り返していくことになると考えられます。

SNSや偽情報と選挙を巡っては、2026年秋の米国の中間選挙も注目されます。生成AIで本人が実際に語ったような動画などを作る「ディープフェイク」の「精度」は、AIの進化で格段に上がり、真偽の見極めが一層困難になっています。2026年5月5日付読売新聞で米戦略国際問題研究所ワドワニAIセンターのアーロック・メータ所長は「簡単に作れるようになったディープフェイクが、有権者の投票行動に影響を及ぼすことは、ほぼ避けられない」と警鐘を鳴らしていますが、正にその通りです。また、テキサス州では、予備選が過熱する共和党内でもディープフェイクによる攻撃が横行しているといい、有権者が偽動画の氾濫に「本物かどうか見分けるのが難しくなり、恐怖を感じる」と語っているのが印象的です。共和党が積極的にディープフェイクを活用する背景には、AIで作った合成画像や動画のSNS投稿を繰り返すトランプ氏の影響も考えられ、2026年2月にはオバマ元大統領夫妻を類人猿に見立てた動画を、同4月には自身をキリストに見立てたかのように描いた画像を投稿して物議を醸しました。一方の民主党も、トランプ政権に批判的なカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が、トランプ氏やヘグセス国防長官らが手錠をかけられる動画をSNSに投稿するなど、ディープフェイクを使った非難の応酬が激化している状況にあります。全米州議会議員連盟によると、選挙戦でのディープフェイク情報について、公開を制限したり、AI使用の開示を義務付けたりする規制を設けている州は、全米50州中29州にとどまり、公開規制のある州でも、テキサス州では「選挙30日前」からなど、規制期間は選挙戦直前に限られているといいます。専門家は米憲法修正第1条で保障する言論の自由を挙げ、規制の限界を指摘する一方、「有権者が真実性を疑えば、偽情報を悪用する候補者の大きなダメージになる」とも語り、最後の頼みの綱は候補者の良心と支持者の判断だと指摘していますが、別の専門家は、「残念ながら、偽情報で人々を扇動するという手段が効果を発揮してしまうこともある。私たちはそうした動きに備えなければならない」と指摘した上で、「人々が真偽を判別する能力は日々向上している。ただ、判別がつかないほどの偽情報に直面するようになった時、どうすればいいのか。私にはその答えがわからない」とも指摘しており、大変考えさせられます。

米国とイスラエルがイランを攻撃した2026年2月末以降、ソーシャルメディアで、親イラン動画が大量に拡散されているといいます。AIに生成させた動画でプロパガンダを広めているとみられています。イスラエルのソーシャルメディア分析会社「Cyabraは、2月28日からの1週間で、3万7千件を超える親イランの偽情報コンテンツが作られ、1億4500万回の視聴があったとする報告書を公表しました。「今回の紛争はAIプロパガンダ戦争になっている」と指摘、再生された媒体はTikTokが7割ほどを占めていたといいます。偽情報の多くは、イランが実際以上の軍事的成功を納めている、イランを軍事大国として誇張する、米国とイスラエルがイランにだまされて無駄な攻撃をしている、といった内容だといいます。また、米クレムソン大で偽情報を研究しているダレン・リンビル教授らのチームは2026年3月、SNS上で少なくとも約60のアカウントが米国や英国の市民を装い、2月28日の開戦直後から一斉に、親イランのプロパガンダを広める投稿を始めたとの分析結果を公表、分析によると、これらのアカウントはいずれもプロフィル写真は偽造されており、大きく分けて二つの系統があったといいます。いずれも開戦後はそれまでの内容の投稿をやめ、トランプ大統領やネタニヤフ首相を批判したり、イランの民間人被害を強調したり、イランの最高指導者だった故ハメネイ師を「殉教者」としてたたえたりする投稿に切り替えられといいます。こうしたアカウントは、イランで登録されたスマホから設定されており、いずれもイラン革命防衛隊の関係者とつながっているとみられるといいます。報告書が公開されると、SNS各社はそれらのアカウントをほとんど停止しています。しかしながら、特定できたのはごく一部で、同じような工作はロシアや中国なども実施されていることが確認されています。

インプレゾンビの実態としては、2026年4月30日付朝日新聞の記事「AIで巧妙になるインプレゾンビ 海外アカウントが首相の投稿に殺到」が参考になりました。具体的には、「「特権階級の政治家センセイ」を投稿したアカウントを調べると、プロフィル内にある「所在地」はアフリカ西部のナイジェリアだった。アフリカ最大の産油国で貧富の差が激しい。過去の投稿をたどった。ふだんは英語を使っていたが、数千万回表示される日本の暴露系アカウントなどの投稿には日本語で返信していた。生成AIの提案文とみられる日本語も投稿の中に複数残っていた。「もっと炎上寄りにする?」「少しトゲありでいきましょう」」といった実態に本当に驚かされました。さらに、「他のアカウントの所在地を追うと、ナイジェリアのほか、インドネシアが目立った。世界第4位の人口大国で経済成長が続く一方、格差が広がっている国だ。現地からの投稿の一つにも、AIが回答の「狙い」を説明する一文が残ったままだった。「野党支持者や一般国民の視点から書いた返信の例です。皮肉や疑問を軽く突き、相手を少し刺激するニュアンスを入れています」DMを送ると、英語で取材ができた。「izzi」と名乗った。インドネシア人男性という。高市の投稿文をコピーしXの生成AI「Grok」に貼り付け、インドネシア語でこう指示した。「辛辣だけど非常に丁寧な返信を作って」投稿の目的について「インプレッション(表示回数)を得たいという気持ちはある」と率直に明かした」、「生活費の足しにと2026年2月、日本向けの投稿を副業として始めた。投稿はAIで生成したものをそのままコピーし事実確認はしない。日本のユーザーがどう受け取るかは「関心がない」という。4月には、一方的に大量の返信を送ったなどとして、Xからアカウントの収益化を停止された。それでも「収益を得るため」に、また別のアカウントを作った。「インプレッションさえ得られれば、投稿内容は何でもいい」。Xに稼げる仕組みがある限り「やめるつもりはない」という」という実態も驚きです。報道で、2年間で100アカウント以上のインプレゾンビを研究してきた専門家が、「意図的に怒りを引き起こして返信などの反応を集める『レイジベイト(怒りのエサ)』という手法を身につけているのだろう」と指摘、ユーザーが多く暴露系アカウントなどの投稿がたびたび「炎上」する日本は、特に狙われやすいとも指摘していましたが、こちらも説得力があります。

性的ディープフェイクの被害も深刻化しています。性的ディープフェイクの作成を依頼したり、情報交換したりする場が、「テレグラム」や「ディスコード」といった国外企業が運営しているアプリ内のチャットルームにあるといいます。一般的な生成AIサービスでは性的コンテンツなどの作成が禁止されていることから、こうした規制をかいくぐるために「隠語」が用いられているようです。新たな「呪文」を見つけた人は仲間内で「すごい」「天才」と称賛を受けるといい、専門家は「悪質な性暴力だという認識が乏しい。『直接触ったわけじゃないから』『本人も知らないんだからこれくらいいいだろう』とか、そういうノリなんです」と指摘しており、大変考えさせられます。また専用の作成サービスを使う方法もありますが、専用サービスを提供するサイトはユーザーを誘い込むための「ワナ」を多数仕掛けているといい、SNSで「ゲームの情報交換をしよう」などと声を掛けて掲示板やチャットルームに誘導し、そこにディープフェイク作成のサービスや、性的画像をやり取りするチャットルームへのリンクが張ってあるケースもあり、「性的ディープフェイクへの入り口がさまざまな場所に作られてしまっている状況」だと指摘しています。被害者の低年齢化に加え、加害者も低年齢化しています。警察庁が2026年2月、18歳未満の児童生徒らが受けた「性的ディープフェイク」被害をまとめたところ、2025年に被害の相談や申告があった114件のうち、65件が同級生や同じ学校に通う人物による加害行為でした。しかも匿名性の高い場で行われているため、被害者が画像が悪用されていることを認識できないケースがほとんどだといいます。性的ディープフェイクは世界的に深刻な課題となっています。毎日新聞で各国の対策に詳しい高崎経済大の梁瑞希講師によれば、比較的早い段階で対策が進んだのが韓国で「性暴力犯罪の処罰等に関する特例法」を2020年3月に改正し、本人の意思に反して顔や体などを用いた映像などを「性的欲望または羞恥心を誘発しうる形で、編集、合成または加工する行為」や、流布する行為を処罰対象とし、さらに2024年10月、「所持、購入、保存または視聴する行為」も処罰対象に加え、性的ディープフェイクに関わる行為もその対象に含まれるといいます。また、英国ではディープフェイクを含め同意なき性的画像の作成や共有、それを用いた脅迫行為が処罰対象になり、米国では、同意なき性的画像について通報や削除要請を受け付ける仕組みの整備をプラットフォーム事業者に義務づける法律が2025年5月に成立しています。日本の対策の遅れについて、「刑事立法に対する慎重な姿勢があることは理解しますが、新たな犯罪が急拡大する局面では、被害の深刻化を防ぐため、迅速な対応が必要です」と指摘、画像削除や、被害者の心理的・法的支援の充実も求められると述べていますが、海外でできて日本でできないはずはなく、被害の深刻化や拡大を招いているだけともいえ、スピード感をもって対策を講じていただくことを期待します。

兵庫県の内部告発問題を調査した丸尾牧県議が、動画サイトに投稿された政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志被告(名誉毀損罪で起訴)の演説動画で名誉を傷つけられたとして、サイトを運営する米グーグルに動画の削除を求めた訴訟の判決で、東京地裁は、動画の削除を命じています。判決によれば、2024年の兵庫県知事選に出馬した立花被告は演説で、斎藤元彦知事に対する告発文書について「全部うそ。作ったのは丸尾牧ですよ」と発言、演説を撮影した動画が「ユーチューブ」に投稿されました。グーグル側は訴訟で、選挙候補者の発言の投稿削除には慎重であるべきだと主張していました。判決は、演説内容が政治家の資質の中核について社会的評価を損なうもので、動画が計19万回以上再生されていることから「削除の必要性は高い」と指摘、政治家の自由な意見表明は民主主義の根幹だとしつつ、「虚偽の内容を含む投稿を削除しても、有権者の適切な選択を困難とすることはない」とし、削除を認めるべきだと結論付けました

悪質な口コミ投稿が問題となっているグーグルマップをめぐり、米グーグルは、生成AIを活用した新たな対策システムを導入すると発表しました。虚偽の投稿や詐欺行為を未然に防ぐ仕組みを強化するとしています。グーグルマップは、店舗などの管理者以外の第三者が、掲載情報の修正を提案することができ、提案内容は審査を経て自動的に反映されるか、管理者に通知した上で更新されます。一方で、虚偽情報の書き込みや、削除の見返りに金銭を要求する詐欺行為が横行し、関連する訴訟も相次いでいました。新たなシステムは、グーグルの生成AI「Gemini」を活用し、虚偽または誤解を招く内容や、個人や企業へのハラスメントにあたる投稿など、ポリシーに違反する修正提案を公開前により迅速に特定できるといいます。またシステムを強化し、特定の詐欺のパターンをより的確に検出できるようにし、スパムと思われる口コミが急増していることを検知した場合は、該当する投稿を速やかに削除するとともに、その対象への新規の口コミ投稿を一時停止するといいます。グーグルによれば、2025年にグーグルマップには10億件以上の口コミが投稿され、事業者の営業時間や連絡先などの情報に対して、8千万件の修正提案が寄せられたといいます

災害時にSNSで拡散される偽情報の脅威が増しています。災害対応や救助活動に支障が出たケースもあり、2024年の能登半島地震では警察官が虚偽の通報をもとに人命救助に向かったといい、情報通信研究機構の分析によるば、能登地震では発災後24時間にXに投稿された救助要請1091件のうち1割にあたる104件がデマと推定され、573件のうち1件だった熊本地震と比べて大幅に増えたといいます。「アテンションエコノミー」により、SNSデマは広がりやすい環境にあり、生成AIなどの技術が進み、精巧さも増しています。ウェザーニューズが2026年2月に約1万人を対象にした調査で、SNSのフェイク画像やデマについて見抜ける自信が「ない」「わからない」の回答が8割を超えました。また、2025年12月に公表された首都直下地震の被害想定では、SNSなどでデマが拡散し、被災地の混乱につながる可能性が指摘され、国は対策に向けた議論を進めています。総務省の作業部会は2025年9月、災害時などにSNSの収益化を停止させることの検討などを盛り込んだ中間報告書を取りまとめましたが、具体的な法整備の議論には入っていない状況です。2025年4月に施行された「情報流通プラットフォーム対処法」は誹謗中傷などの投稿に削除申請があれば、原則1週間以内に判断・通知するようSNS運営事業者に求めていますが、対象は個人や法人の権利侵害のみで、鳥取県は2026年1月、同法の対象に災害関連の偽情報を含めるよう国に要請しています。国際大の山口真一教授(社会情報学)は、熊本地震以降の10年でSNS上のデマは(1)作りやすく(2)もっともらしく(3)広がりやすくなったと指摘しています。生成AIを使えばウソだと見抜きにくいデマを簡単に量産でき、SNSのおすすめ機能などによってセンセーショナルな情報が短時間で広範囲に拡散しやすくなったと指摘しています。偽情報抑制のために「自治体はデマが必ず発生することを前提に、正しい情報を早く繰り返しわかりやすく発信することが重要だ」とし、憲法が保障する表現の自由の観点から、行政に強い権限を与えることには慎重さが求められるとして「災害時などに限ってSNSでの収益化を停止するのは一つの考え方だ」と指摘していますが、正に正鵠を射るものです

新型コロナが感染症法上、季節性インフルエンザと同じ5類に移行してから3年が経過しました。コロナ禍では、SNSでの誤情報拡散や差別など混乱が生じました。「トイレットペーパーは中国産が多く不足する」、「漂白剤を飲むと予防効果」、「ワクチン接種で不妊に」など、誤情報や真偽不明の情報が氾濫し、差別も問題になりました。政府は2024年7月、「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を改定し、新たな感染症危機への対応をまとめ、誤情報などを防ぐため、関係者間で情報共有するリスクコミュニケーション体制の整備を掲げまし。これを受け厚生労働省は2025年11月、急性呼吸器感染症(ARI)予防指針を公布、ARIは感染症危機の原因になる可能性が高い風邪やコロナなどの総称で、平時の取り組みを定めた。国は情報提供体制を強化し、「国民に分かりやすく発信するなどリスクコミュニケーションに努めることが重要」と明記、「未知の感染症が流行した場合、誤情報や差別が生じる恐れにも留意し、人権尊重に配慮して対応すべきだ」と示しました。

このように大規模災害時などにはデマ(偽・誤情報)などが流れますが、情報が正しいのか間違っているのかもすぐには分からず、法律で偽情報を止めるのは難しいと考えます。であれば基本的な対策は、災害時には偽情報が流れるものだと人々に認識してもらうことだといえます。不確かな情報に接した際に「偽情報かもしれない」と一度踏みとどまって情報源を確認したり、偽情報を善意で拡散する「よかれ拡散」に加担しない姿勢を身につけておいたりすることが求められます。そのために偽情報が拡散される「手口」を知っておくことが大切です。災害時の不安な状況につけ込もうとする悪意の存在を認識し、「これは偽情報拡散の手口だ」と人々が理解していれば拡散を止めることにつながる可能性があります。災害時では不安を解消するために平時より多くの情報を求め、さらに人に提供したいという思いが強く働きます。感情に訴えかけるような情報が流れてきたとしても「収益のための閲覧数稼ぎをしようとする人物がいる」と冷静になり、根拠のない情報と距離を取ること、こうした姿勢を拡げていく必要があると思います。

台湾初のデジタル担当大臣を務めたオードリー・タン氏が2026年4月8日付日本経済新聞の記事「オードリー・タン氏「偽情報に免疫力」 メディアは公共の対話促進を」で、大変示唆に富む指摘していましたので、少し紹介します。「ソーシャルメディアは衝突や対立ばかりが目に入る。アルゴリズムが私たちの間の分岐点を見つけ、わざと対立を煽るようになった。アルゴリズムを改善し、対立する双方に共鳴するコンテンツを優先する。橋渡しする意見が拡散されやすくなれば、それが共通認識になる」、「異なる立場を維持しながら、双方が受け入れられる解決策を見つける。この合意こそが社会を前進させる動力になる」、「デジタルデータの移動の自由が大切だ。例えば、携帯番号はキャリアを変えても持ち運べる。しかし、Xからほかに移ると、フォロワーはゼロからやり直しだ。ユーザーはワンクリックで全データを移動できるべきだ」、「メディアは『たき火』のような存在になるべきだ。人々が集まり、対話し、温まる場だ。公共の対話を促進し、対立する両者が異なる意見を持ちながらも最低限合意できることを見つけられるようにする」、「AIがあらゆるコンテンツを生成できる今は『見ても信じられない時代』だ。信頼を再構築するには、プロセスの透明性が不可欠だ」、「結論だけを提示するのではなく、オープンソースのソフトウェアのように取材過程、統計データの出所、どのAIを使い再現可能か、解釈可能かまで公開する。メディアは信頼産業であるべきだ」、「偽情報への免疫力を高めることが重要だ。噂が広まってから否定するのでは遅い。広まる前に『こういう噂が出るが事実ではない』『実際はこうで、こうゆがめられる』と知らせる」、「222原則も有効だ。噂や偽情報が出始めてから2時間以内に、2分の動画または2枚の画像を作り、文字数は200字以内で拡散する。こうして『ワクチン情報』をより速く広める」というものです。特に、誤・偽情報が拡散する前に正しい情報を拡げて免疫力を高める、あるいは正しい情報が偽・誤情報を打ち消すための「222原則」などの考え方(処方箋)は広く拡がり、定着してほしいものです。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/ステーブルコイン/暗号資産を巡る動向

本コラムで以前から指摘しているとおり、ステーブルコインは米ドルが「一強」の状況です。暗号資産情報サイトのコインゲッコーによると、米テザーが手掛ける世界最大の米ドル連動ステーブルコイン「USDT」の時価総額は約1840億ドル(約29兆円)、ユーロ連動の代表格である「EURC」は約4億ドルに過ぎないなど、断トツの規模となっています。日本では2025年10月に円連動の「JPYC」が発行されましたが、時価総額は約2000万ドルにとどまっています。通貨市場では米ドルの信認が揺らいでおり、各国でステーブルコインの発行が進む背景にはデジタル産業振興に加え、自国通貨建てなどの育成を通じ米ドル以外の選択肢を持とうとする思惑も働いています。

そのような中、香港の中央銀行に当たる香港金融管理局(HKMA)が法定通貨などを裏付けにした暗号資産であるステーブルコインの発行免許を初めて付与しました。対象は英金融大手HSBCと英スタンダードチャータード銀行や香港ブロックチェーン企業のアニモカブランズなどが共同で設立したアンカーポイント・ファイナンシャルの2社で、数カ月以内にも発行することになります。主要銀行系に限った選定の背景には、暗号資産のリスクに警戒を強める中国側の思惑があると考えられます。ステーブルコインは発行体が現金や国債などの裏付け資産を保有し、価格が安定するよう設計された暗号資産で、決済や送金の時間短縮やコスト低減につながると期待されています。HKMAは(1)香港での決済(2)クロスボーダー決済(3)デジタル資産取引(4)革新的な決済方式の開拓という4分野でステーブルコインの流通を促すと表明、香港政府は2025年8月に免許制を軸とするステーブルコイン条例を施行、発行額に相当する資産保有や、取引での厳格な本人確認、情報開示、マネロン対策などの条件を設定、企業から寄せられた計36件の申請を審査してきました。本コラムで以前から取り上げているとおり、中国当局は本土での暗号資産取引を禁止しつつ、「一国二制度」を適用した特別行政区である香港では振興策を後押しし、「暗号資産の実験場」として活用してきた経緯があります。中国人民銀行(中央銀行)や証券監督管理委員会(証監会)は2026年2月、暗号資産に関する政策の指針を公表し、当局の承認なしに海外で人民元連動のステーブルコインを発行することを禁止すると明言、「法定通貨の機能を一部代替している」として通貨の主権や安定を揺るがすリスクへの警戒感をあらわにしました。資本規制は厳しく、現金の海外への持ち出しは原則、人民元で2万元(約50万円)などに制限、暗号資産が「経済金融の秩序を乱す」と断じ、ブロックチェーン技術で資産をトークン化することも原則禁止しています。デジタル決済分野では中央銀行デジタル通貨(CBDC)である「デジタル人民元」を重視する姿勢を鮮明にしています。専門家らはトランプ米政権がステーブルコインで独走するなか、「中国当局は置き去りにされることへの危機感を強め、将来に向け布石を打とうとしている」、「投機リスクを警戒し、制御しながら発展を模索する」、「海外発行自体を禁じたわけではない。香港で発行される可能性はある」などと指摘しています。2025年9月にはカザフスタンで人民元連動のステーブルコインが発行され、香港のフィンテック企業が手掛けたものの、中国当局の承認は受けていないとされます。まだ廃止などの動きはないものの、当局は統制が及ばなくなる事態を警戒した可能性があります。

本コラムがCBDCに注目するきっかけとなったのが、はメタが2019年にぶち上げたドルやユーロなど法定通貨を裏付けに発行するステーブルコイン計画「リブラ」です。新興国を含めたユーザー27億人がチャットで文字を送るように送金できるようにする壮大な構想でしたが、リブラ計画に対して世界の金融当局・中央銀行が警戒心を露わにし、「銀行預金を流出させ、金融システムを不安定化させる」、「マネロンに利用される」など批判、第1次政権の座にあったトランプ米大統領は当時、「リブラは信用できない。フェイスブックは銀行免許を取得すべきだ」と発言、リブラは名称変更や、延期をしながら発行を探りましたが、2022年に計画を断念しました。あれから4年が経過し、「リブラが復活するかもしれない。今回は米国政府ともきちんとコミュニケーションをとっているようだ」との関係者の発言が注目されます。とはいえ今回は、外部企業の決済サービスを自社プラットフォームに組み込む計画の中で、USDCなど複数のステーブルコインを活用するとみられています。背景にあるのが、米国で審議中の暗号資産市場構造法案「Digital Asset Market Clarity Act of 2025(クラリティー法案)」です。この法案ではステーブルコイン発行者が州の認可形態にかかわらず順守すべき規制の最低ラインを明示したもので、統一された連邦レベルの準備金・資本要件や透明性基準が確立されることで、ビジネス参入しやすくなる狙いがあります。ステーブルコイン慎重派は「現状のステーブルコインは暗号資産取引の待機資金置き場としての利用が大半で、社会実装は全然進んでいない」と指摘していますが、金融やデジタルプラットフォーマーの動きからは、社会実装のスピードは米国を中心に上がっているといえます。デジタルのドル決済市場で起きている変化に日本勢も気付かないと、国際市場における円の存在感はますます薄れかねないとの危機感を持つ必要があります。

なお、ベセント米財務長官は、デジタル資産に関する連邦ルールを定​める法案を議会が可決すべきだ‌と述べ、暗号資産市場構造法(「クラリティ法)案​の通過を強く求めています。ベセント氏は「デジタル資産市場の​規制枠組みは不明確」とし、この不確実性が予測可能な結果をもたらしたと​指摘、「暗号資産開発のシェアは、​アブダビやシンガポールなど、明確なルール‌があ⁠る地域へと移行しつつある。海外では、企業はいつ、どのように登録すべきか、どのような基準を​満たすべ​きか、そ⁠してどのように運営すべきかを把握していた」と​指摘しています。同法案は、ステーブルコインに対して支払われる利息やその他の報酬⁠を法​案がどのように扱​うかを巡って銀行業界と暗号資産業界の間で​対立が続いており、停滞している状況です。

国際決済銀行(BIS)のデコス総支配人は、ステーブルコインの利用を巡る国際協力の必要性を改めて訴え、市場の深刻な分断を防ぐために非常に重要​だという認識を示しました。「中央銀行の中央銀行」とも呼ばれるBISは、暗号資産の一種で通常ドルと連動するステーブルコインに対し、長年にわたり懸念を示してきましたが、デコス氏は日本で講演し、ステーブルコインは金融・財政政策を損ない、金融市場にス​トレスを与え、不正資金対策を阻害する可能性があることから、国際的​な協調が「極めて重要」と指摘、協調がなければ、「管轄区域ごとに⁠異なるステーブルコインの規制枠組みが市場の深刻な分断につながったり、有害​な規制裁定(レギュラトリー・アービトラージ)を可能にしたりする恐れがある」​と警告しました(規制裁定とは、企業が最も緩やかな規制を持つ国・地域を選んで活動することを指します)。金融安定理事会(FSB)の議長を務めるベイリー・イングランド銀行(英中銀)総裁も、ステーブルコイ​ンの国際基準を巡る進展が過去1年間で鈍化したと警告しました。デコス氏は、ステーブル​コインの「取り付け」は市場のストレスを引き起こす可能性があると改めて指摘、た‌だ、ステ⁠ーブルコインの発行体が預金保険のような仕組みや中銀の貸出制度を利用できれば、そのリスクは「大幅に軽減される」可能性があるとも述べました。世界で流通する3150億ドルの約85%を占めるの2大ステーブルコインの発行体であるテザーとサークルについて、「通貨とい​うより有価証券」に近​い特徴が見られる⁠とし、とりわけ、「償還上の摩擦」が生じる仕組みになっており、額面からの頻繁な乖離につながっているとし、「この点で、​現状では通貨というより上場投資信託(ETF)に近い形で機能​している」と⁠述べました。また、従来の銀行口座と同様にステーブルコインに利息の支払いを認めるべきかどうかという現在議論されている主要な問題について、デコス氏は「ステーブ⁠ルコ​インの保有に利息が付かず、高金利局面など保有​の機会費用が高い場合、銀行預金からステーブルコインへの資金シフトは、それほど顕著にならない可​能性がある。ステーブルコインへの利払い禁止が実施できる場合もそうだ」と語りました。

2026年4月29日付日本経済新聞の記事「ステーブルコインとAIエージェント 黄金コンビが変える金融の常識」はなかなか考えさせられる内容でした。ステーブルコインと自律的に作業をこなすAIエージェントの組み合わせが金融の姿を変えようとしているというものです。例えば、「送金・決済・支払いを瞬時に処理できるステーブルコインは、人間に代わってスピーディーに業務をこなすAIエージェントとの相性がいい」、「「自律型AIフリーランサーとして活動。調査、コーディング、ウェブサイト制作、ライティング、ショッピング、DeFi取引など。USDCで支払い、24時間365日いつでも仕事に対応します」米メタが運営する、AIエージェント同士で会話するSNS「モルトブック」をのぞくと、こんな求職活動風の投稿が無数に見つかる。DeFiはブロックチェーン(分散型台帳)上の分散型金融、USDCは代表的な米ドル建てのステーブルコインだ。モルトブックではAIエージェント同士が業務を請け負い、納品完了後にステーブルコインで報酬を支払う経済活動が日常的に行われている。この流れは人間側にも広がり始めている」、「AIエージェント開発では、資金決済や与信判断といった重要な意思決定に人間が介在する「ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)」の設計が大きな課題となっている。ステーブルコインとの組み合わせは、こうしたAIエージェントをより自律的かつ実務的に活用するための有力なヒントになりそうだ」といったものです。

金融商品取引法の改正案が閣議決定されました。暗号資産を金融商品として初めて規制し、未公開情報をもとに売買するインサイダー取引などを禁じるもので、暗号資産の発行者には年1回の情報開示を義務付け、健全な市場環境を整える狙いがあります。今国会で成立すれば、2027年度にも施行される見通しです。金融庁はこれまで、暗号資産を支払い手段としての利用が見込まれるとして資金決済法で規制してきましたが、最近では投資目的での利用が増えていることなどから、金商法の規制に移すものです。登録業者の名称も「暗号資産交換業者」から「暗号資産取引業者」に変更、罰則も強化され、登録がなく販売した業者への拘禁刑を3年以下から10年以下に引き上げるほか、罰金を現在の300万円以下から1000万円以下に引き上げ、罰則を厳しくして投資家保護の姿勢を強く打ち出しています。

税務当局が近年、税金滞納者の暗号資産の差し押さえに動いていると報じられています(2026年5月3日付読売新聞)。ここ数年で暗号資産の利用が急速に広がったためですが、滞納者の管理方法によっては現行法で徴収できない「抜け穴」があり、国は実効性を高めるため、法整備を進めているといいます。ある事例では故人が「ビットコイン」「イーサリアム」などの暗号資産を保有し、交換業者が管理していることが判明、親族が相続放棄していたため、同国税局は2025年2月頃、暗号資産を差し押さえたといいます。報道によれば、数年前から、滞納者の暗号資産を調べ、保有が判明した場合は差し押さえ、交換業者から「円」で払い戻しを受けているといいますが、そうしたケースはあまりなく、差し押さえ件数は少ないということです。一方、現行制度では徴収できない場合もあり、滞納者が保有する暗号資産は、一般的には交換業者の管理下に置かれ、国税徴収法上、滞納者の銀行預金と同様に差し押さえることができるものの、暗号資産は、財布にあたる「ウォレット」として、本人がスマホなどで管理することもでき、この場合、徴収手続きの規定がなく、税務当局は対応できなかったといいます。暗証番号にあたる情報は本人しか知らず、滞納者が差し押さえを拒むと、それ以上の手立てがなかったものです。個人管理による保有方法が税逃れに使われている可能性もあり、2025年11月、納税に関する国の検討会で、個人管理分が徴収できない課題が報告されると、Xでは、「ウォレット最強説」「国家権力が介入できない」といった投稿がみられたといいます。財務省は2026年2月、暗号資産を「特定電子移転財産権」と定め、個人管理でも差し押さえられるようにする国税徴収法の改正案を国会に提出し、3月に成立しました。改正法では、税務当局が滞納者に対し、職員が管理するウォレットに暗号資産を移すよう命じることができ、滞納者が応じない場合、3年以下の拘禁刑か250万円以下の罰金、またはその両方が科される。来年4月に施行される予定です。法改正で個人管理分の「逃げ得」が許されなくなり、今後、差し押さえが増える可能性があます。

②IRカジノ/依存症を巡る動向

大阪市内で建設が進むカジノを含む統合型リゾート(IR)の運営主体「MGM大阪」は、代表取締役会長にオリックスの渡辺展希常務執行役が就任したと発表しました。渡辺氏を会長に据え、IR開業に向けた準備を加速するとしています。MGM大阪は、米MGMリゾーツ・インターナショナルの日本法人とオリックスが主要株主として約44%ずつ出資、取締役会設置会社への移行に伴い、代表取締役社長には米MGM出身のエドワード・バウワーズ氏が再任されました。大阪IRは万博会場の北側約49万平方メートルの敷地にカジノ、ホテル、国際会議場、展示施設などを一体的に整備する計画で、初期投資額は1兆5130億円に上り、2030年秋ごろの開業を目指し、2025年4月に本体工事が始まっています。

それとともに、ギャンブルなどの依存症患者らの支援拠点「大阪依存症対策センター(仮称)」の準備が本格化しています。相談から治療、回復までの支援を一元的に担うほか、依存症への理解を促す情報発信や専門人材養成の機能も備えるもので、大阪府は2026年度中にセンターの基本計画を作成し、2029年度の開設を目指しています。国内外に類似施設はなく、前例のない取り組みとなりますが、すでに2026年4月、府と大阪市の職員にケースワーカーや保健師ら専門家を加えた計13人の準備チームを発足させています。依存症について、ギャンブル等依存症対策基本法は「ギャンブルなどにのめり込むことにより日常生活や社会生活に支障が生じている状態」と定義していますが、一般の理解度は必ずしも十分とはいえず、大阪府の2025年度調査でギャンブル等依存症について項目別に「知っている」と答えた割合をみると、「依存症は病気である」が82.6%に達した一方、「依存症になるのは意志の問題ではない」は42.9%にとどまりました。大阪府内でギャンブルなどへの依存が疑われる人や依存リスクがある人の割合は計2.9%で、問題が深刻化するにしたがって患者は依存症を否定する傾向にあるといい、早期の介入・支援や予防のための啓発も重要になります。そのためセンターは依存に悩む人だけでなく、依存症の自覚がなく支援につながっていない「リスク層」や無関心層もターゲットとしています。さらに、ギャンブルのほかアルコールや薬物などの依存症について、(1)相談から治療、回復までのワンストップ支援(2)学校による校外学習も想定した情報発信(3)大学・医療機関と連携した調査やデータ分析(4)専門人材の養成を担うとしています。(1)の相談は基本的に精神保健福祉士らが受けるが、SNSや生成AIを活用し、24時間対応する方針で、(4)について、ギャンブル依存症の専門家は他の依存症分野に比べて少ないことから、大阪府は京都大と連携協定を結んでおり、大学への寄付を財源とした講座で、ギャンブルなどの依存症に対応できる医師らを養成するとしています。

産経新聞が実施した主要企業アンケートでは、大阪IRについて「期待する」との回答が合計8割を超え、強い期待が寄せられている実情が浮かび上がりました。IRへの期待を尋ねたところ、「強く期待する」が16%、「ある程度期待する」が65%、「あまり期待できない」は4%、「全く期待できない」は2%となりました。期待する理由(複数回答)は「訪日外国人の増加に伴う、海外との交流拡大などが期待できる」、「大阪湾岸地域の再開発と活性化が期待できる」がともに5割を超え、観光と開発の両面で地域が活性化することへの前向きな見方がうかがえました。IRは長期的な大阪湾岸開発の核として期待され、夢洲では隣接する大阪・関西万博会場跡地の開発も進められます。ただ、中国政府の要請による中国人の日本渡航自粛、建設資材価格の高騰など逆風もあり、IRの関係者には2030年後の開業まで気の抜けない状況が続くことが予想されます。

本コラムでも取り上げてきたとおり、「残り2枠」のIR誘致合戦が本格化しはじめました。愛知県の大村秀章知事は2026年2月、愛知県常滑市の中部空港とその周辺エリアにIRの誘致を再び検討すると表明し、県は施設の規模などを定めた「実施方針」を策定、4月からは事業者の具体的な提案を募っています。新型コロナウイルス禍で止まっていた動きが再開した背景には三つの大きな理由があり、まず、中部空港が近い将来、24時間運用化される見通しで、多くの利用客を見込めること、そして、リニア中央新幹線の整備が進んでいることもあってIRは「国際観光都市の実現」に向けての好材料になること、「若年層の人口流出の歯止めになる」(大村知事)ことだといいます。IRでエンタメ性の高い施設を集積させて娯楽を充実させ、都市の魅力を高めることで、若者を引きつけるというものです。一方、不安定な国際情勢に伴う物価高が長引いており、県内部からも「実際に手を上げる業者が出てくるのか」との声が聞こえるようです。国は2027年5~11月、自治体の申請を受け付けるとしており、県は2026年4~7月、企業や団体から事業への参加表明を受け付け、2027年春までに事業者を選定、その後、県と事業者で区域整備計画を作り県議会の議決などを経て、国に申請することになります。ギャンブル依存症への懸念払拭や投資費用の高騰への対応などIRの誘致には課題が多いところ、それでも愛知県のほか、北海道の意向調査に苫小牧市と函館市が関心を示しており、行方に注目が集まっています。

2025年に警察が摘発したオンラインカジノの賭博事件が過去最多の158件だったことが警察庁のまとめで分かりました。2024年と比べて約3倍になりました。「違法性の周知が進み、賭博客からの自主申告や周囲からの匿名の通報が増えた」(警察庁)とみられています。一方で、海外事業者が運営する日本向けサイトの削除は進んでいないのが実情です。2025年はタレントやスポーツ選手のオンラインカジノ利用が次々に発覚、2026年も各地で摘発が相次いでいます。日本の刑法は賭博を禁じており、合法とする国や地域で運営されるオンラインカジノであっても、国内から接続して金銭を賭ければ賭博罪に当たります。警察庁が2025年3月に公表した調査結果によれば、国内の経験者は推計337万人、年間の賭け金は約1兆2000億円に上ります。年代別では10~30代が経験者全体の65%を占め、若い世代へのまん延が問題となるなか、オンラインカジノの摘発も急増しています。警察庁によるば、2025年の全国の摘発件数は158件で、2024年(55件)の2.9倍になり、店舗を置く形態と合わせた摘発者数は317人で、2024年(279人)を上回りました。摘発した事件の大半は個人の賭博客が占めていますが、集客して広告収入を得る「アフィリエイター」、決済システムを運営する代行業者といった「運営側」の摘発は2024年より1件少ない8件となりました(これはかなり残念な結果です)。海外で合法に運営されるカジノ業者自体に日本の法律は及ばず、捜査のハードルは高い現実があります。そのため、国が力を入れるのはインターネット上の「入り口」を防ぐ対策で、2025年9月施行の改正ギャンブル等依存症対策基本法では、カジノサイトに誘導する広告や宣伝を違法行為として規制を強化、総務省の委託調査によると、オンラインカジノやカジノサイトに関連するSNSの投稿は改正法の成立・施行を挟んで大幅に減少、2025年10月までの半年間で投稿数はおよそ20分の1の規模になったといいます。一方で、サイト自体の削除は難航しており、警察庁が委託する「インターネット・ホットラインセンター」は2025年9~12月、海外の事業者らに日本向けのサイトやアプリ計447件の削除を求めたところ、削除されたのは43件、日本から利用できなくなったのは約30サイトにとどまりました。警察幹部は「投稿や広告といったSNS上の接点は減ってきたが、オンラインカジノに依存する人らが接続するサイトは消えていない」と話し、警察庁は外務省を通じ、日本向けサービスの停止の要請を続けています。カジノに詳しい静岡大の鳥畑与一名誉教授は「スマホでいつでも賭けられるオンラインカジノは依存症になりやすく、短時間で多額の金を賭けた若者らが資金繰りに困って闇バイトに流れる恐れもある」と強調、規制や摘発のさらなる強化を対策に挙げています

▼警察庁 令和7年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯等の取締り状況について
  • 風俗営業等の現状
    • 過去5年間の風俗営業(接待飲食等営業、遊技場営業)の許可数(営業所数)は、図1のとおり、継続して減少している。
    • 令和7年末の許可数は7万6,790件で、前年より69件(0.1%)減少した。
    • 過去5年間の接待飲食等営業の許可数(営業所数)は、図2のとおり、継続して減少していたが、令和6年以降増加している。
    • 令和7年末の許可数は5万9,695件で、前年より153件(0.3%)増加した。
    • 過去5年間のぱちんこ等営業(まあじやん営業、ぱちんこ営業、その他)の許可数(営業所数)は、図3のとおり、継続して減少している。
    • 令和7年末の許可数は1万2,911件で、前年より399件(3.0%)減少した。
    • 過去5年間の特定遊興飲食店営業の許可数(営業所数)は、図8のとおりである。令和7年末の許可数は592件で、前年より20件(3.5%)増加した。
    • 過去5年間の深夜酒類提供飲食店営業の届出数(営業所数)は、図9のとおりである。令和7年末の届出数は25万8,163件で、前年より1,435件(0.6%)増加した。
  • 性風俗関連特殊営業の現状
    • 過去5年間の性風俗関連特殊営業(店舗型性風俗特殊営業・無店舗型性風俗特殊営業・映像送信型性風俗特殊営業・電話異性紹介営業)の届出数(営業所等数)は、図10から図13のとおりである。
    • 店舗型性風俗特殊営業の届出数は、継続して減少し、無店舗型性風俗特殊営業及び映像送信型性風俗特殊営業の届出数は、継続して増加している。
  • 人身取引事犯
    • 過去5年間の人身取引事犯(注)の検挙件数及び検挙人員は、図23のとおりである。また、過去5年間の人身取引事犯の被害者の国籍は、図24のとおり、8割以上が日本人であり、日本人被害者の年齢は7割程度が18歳未満である。
  • 悪質ホストクラブに対する取締り等の状況
    • 令和7年12月末時点におけるいわゆるホストクラブに当たるとみられる1号営業の営業所は、全国で約1,100店舗存在する。図26のとおり、約33%が東京、約19%が大阪に所在している。
    • 警察に対する相談は減少している。
    • 令和7年中における悪質ホストクラブに係る検挙は、71事件(前年比-10事件)、143人(前年比-64人)である。なお、図28のとおり検挙人員143人のうち、ホストが54人、その他ホストクラブ関係者(店長等自らは接待を行っているわけではないもののホストクラブに従事する者)が33人である。
    • 令和7年中における風営適正化法に基づくホストクラブへの立入り状況は延べ1,083店舗であり、行政処分は251件である。行政処分251件のうち、風俗営業許可の取消しが5件、風営適正化法又は県迷惑防止条例に基づく営業停止命令が8件、指示処分が238件である。
    • 改正風営適正化法の適用状況を含む行政処分状況
      1. ホストクラブの従業者は、通行中の女性に対し、「ホストに興味ある。今なら安い。」等と申し向けて誘い客引きをしたもので、風営適正化法違反で検挙した。同従業者による客引き行為が、ホストクラブの営業に関して行われていたことから、令和7年6月、ホストクラブの営業者に対し、90日間の営業停止を命じた。【神奈川県公安委員会】
      2. 店舗型性風俗特殊営業の営業者は、スカウトから同店で異性の客に接触する役務を提供する業務に従事しようとする女性の紹介を受け、同紹介の対価として現金を提供したもので、同営業者を風営適正化法違反で検挙した。令和7年10月、同店の営業者に対し、123日間の営業停止を命じた。【熊本県公安委員会】
      3. ホストクラブの営業者は、飲食するなどした客にその料金を支払わせる目的で客を威迫して困惑させたもので、同営業者を風営適正化法違反で検挙した。同営業者による行為がホストクラブの営業に関して行われていたことから、令和7年11月、ホストクラブの営業者に対し、風俗営業許可の取消しを行った。【愛知県公安委員会】
  • オンライン上で行われる賭博事犯の取締り状況
    • 令和7年中におけるオンライン上で行われる賭博事犯の検挙は165事件(前年比+103事件)、317人(前年比+38人)(うち無店舗型158事件、221人)と大幅に増加している。そのうち無店舗型における運営等・賭客別の検挙については、図30のとおり運営等が8事件、25人、賭客が150事件、196人である。
    • 主要検挙事例
      1. オンラインカジノのアフィリエイターらによる常習賭博事件
        • 被疑者らは、海外のオンラインカジノ運営者と共謀の上、動画配信サイト等を利用してオンラインカジノを宣伝し、視聴者を相手方として賭博をした。令和7年1月、被疑者ら4人を常習賭博罪で検挙した。【岡山県警察】
      2. オンラインカジノの決済代行業者による組織的犯罪処罰法違反事件
        • 被疑者らは、海外のオンラインカジノ運営者と共謀の上、被疑者らが管理する他人名義の預金口座に、オンラインカジノにかかる常習賭博により得た犯罪収益を、賭客らに振込入金させた。令和7年2月、被疑者ら2人を組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反(犯罪収益等隠匿)で検挙した。【大阪府警察】
      3. オンラインカジノの紹介サイト等の運営者らによる常習賭博幇助事件
        • 被疑者らは、海外のオンラインカジノを紹介するウェブサイト等を運営し、閲覧者を賭博に勧誘して、オンラインカジノサイトの賭博を幇助した。令和7年8月、被疑者ら2人を常習賭博幇助で検挙した。【岐阜県警察】

総務省の「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会」が、「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会 報告書(案)」を公表しています。その趣旨は次のとおりです。「違法オンラインカジノは、我が国の社会経済活動に深刻な弊害をもたらす犯罪行為であり、喫緊の対策が求められている。今後、政府全体で実効的な対策を検討し、包括的な対策を講じていくべきだ。ブロッキングは通信の秘密や知る自由等に抵触しうる対策であり、他の対策が十分に尽くされたといえるか検証が必要だ。これまでの官民の取り組みにより、誘導投稿などが大幅に減少するなど一定の効果が認められたが、オンラインカジノが違法であるとの認識などは一層の向上が求められる。今後、ブロッキングの実施の可否を判断するためにも包括的な対策を進めるとともに、その効果を十分に検証する必要がある。また、ブロッキングは技術的な回避策が指摘されており、その対策に一定の限界があるものの、現在のインターネット利用環境等に照らせば、若年層などの保護の観点から対策としての有効性は否定できない。違法オンラインカジノ固有の侵害性の内実を突き詰めた上で、得られる利益が失われる利益と均衡しているか検証が必要である。仮に実施する場合の「目的」は、主として違法オンラインカジノに係る依存症やこれを生み出す違法オンラインカジノの流通・蔓延防止とするのが適当であり、加えて、違法な行為による国富の流出防止・スポーツ健全性の確保等を踏まえる必要がある。許容性を具体的に検討するには依存症の危険性や違法オンラインカジノの実態を踏まえた検討が必要だ。対策の効果検証を踏まえ、ブロッキングを実施すべき状況にあるといえる場合には、ブロッキングを最終的かつ効果的な違法オンラインカジノ対策として排除することなく、立法措置を講じることが必要である。その際、諸外国法制等を参考にしつつ、ブロッキングの実効性を確保するとともに、通信の秘密や知る自由等への制約を必要最小限にする観点から、ブロッキングの義務付け主体、ブロッキングの対象、実体要件、手続要件等を具体的に検討していくべきだ。特に、ブロッキングの実効性を確保する観点から、公的機関の関与を適切に確保する必要があると考えられることを見据え、関係省庁において具体的な制度設計を検討していくことが考えられる」というものです。

前述したとおり、政府はこれまで、カジノサイトへ誘導するSNS投稿を違法としたり、日本からの接続を拒否するよう海外のカジノサイト関係国に要請したりするなど、ブロッキング以外の様々な対策を進めてきました。これらにより一定の成果が上がりつつありますが、野村総合研究所の調査によれば、利用者のカジノサイトへのアクセス(接続)経験は、官民による取り組みの前後で大きな変化がみられなかったといいます。海外のカジノサイトへのアクセスも、多くの場合で継続して可能な状況で、カジノサイトでの賭博が違法であるとの認識も6割程度と変化がみられませんでした。警察当局はオンラインカジノでの違法賭博の摘発を強化していますが、日本向けのカジノサイトは依然として乱立しており、根絶への道のりは険しいといえます。

今回の報告書で最も注目されるのが「ブロッキング」導入に向けた考え方の整理です。憲法が保障し、電気通信事業法で具体化されている通信の秘密のルールは、私たちのプライバシーや表現の自由、知る権利を守ってきており、インターネットの登場により、その重みは増しています。電気通信事業者は日常業務で膨大な通信ログを扱い、その気になれば目的外に使うこともできるし、国家が事業者に介入してそれらにアクセスすることもできますが、それでも私たちが安心して通信を使えるのは、通信の秘密のルールがあるためです。一方で、インターネット上では誹謗中傷や著作権侵害、サイバー攻撃といった課題が通信の秘密との衝突を生んできました。政府はそのたび、問題となる権利や利益が、通信の秘密を犠牲にしても守られるべきものなのか、その重みを慎重に検討してきており、とりわけ厳格に検討されてきたのがブロッキングです。問題行為とは無縁のすべてのユーザーの通信のあて先を網羅的に検知する仕組みであり、安易な判断で認めて対象が広がれば、独裁国家で行われているような大量監視につながる懸念があります。朝日新聞は「今回の検討では、オンラインカジノの悪質性や依存症被害の深刻さが強調される一方で、ブロッキングによって保護しようとしている権利は具体的に語られず、通信の秘密との比較もされておらず、いない。そもそも依存症に関する実態調査はまだ十分ではなく、依存症患者がどれほどいるのかも分からない状態で、比較しようもないのが実情だろう。結論が出ないまま報告書案が法制度の具体的な在り方に言及している点も疑問だ。立法論が独り歩きするおそれがある。仮に、依存症対策と通信の秘密との比較の議論がないままにブロッキング法制化を認めれば、誹謗(ひぼう)中傷や著作権侵害などほかの様々な問題にまで対象が広がるおそれがあるだろう」、「技術的にはすでに可能な大量監視への扉を法が開くことのないよう、慎重な検討が必要だ」との指摘がなされていますが、一定の説得力があると考えます。

▼総務省 オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会(第14回)
▼資料14-1 オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会 報告書(案)(事務局)
  • 必要性(ブロッキング以外の対策が尽くされたか)検討
    • 違法オンラインカジノ対策については、関係省庁・関係事業者の各報告のとおり、現在も、官民の関係者が協力し、基本法改正に基づく取組を含め、周知啓発、取締り、情報削除、外国政府等を通じたジオブロッキング等の要請、支払抑止、スポーツ健全性など、様々な観点で、包括的な対策を講じているところである。
    • ブロッキングの必要性(他の権利制限的ではない対策が十分に尽くされたといえるか)について、本検討会で特に指摘の多かったものとして、例えば、取締り、情報削除、ジオブロッキング、支払抑止があり、これらについて検討する。
    • 取締りについては、賭博をした者だけでなく、賭博場を開張している者に対して行うことが重要である。これまでもオンラインカジノに係る決済代行業者やアフィリエイターの摘発など、厳正な取締りが推進されており、引き続き、取締りの推進に努める必要がある。他方、オンラインカジノの多くは、海外で合法的に行われていることから、一般的に、当該国や地域の捜査協力が得られにくい等、法執行は容易ではない。今後も、捜査資源を適切に投入してもなお、賭博場を開張する者の取締り等が困難である場合は、そのことを前提として、ブロッキングの必要性を判断すべきである。
    • 情報削除については、違法オンラインカジノに係る誘導投稿等が大幅に減少し、検索ヒット数が減少傾向にあるなどの効果が認められる。引き続き、官民関係者の連携を強化することが重要である。また、違法オンラインカジノについて、CDNが利用されている旨の指摘があるところ、CDN事業者による情報削除等の取組を促進させるために、引き続き、官民関係者の連携を強化することが求められる。現在、一部の大手CDN事業者と関係省庁の間で削除の促進に向けた協議等が行われていることも踏まえ、今後、CDN事業者による対応状況等を見据え、ブロッキングの必要性を判断すべきである。
    • ジオブロッキングについては、海外に拠点を置くオンラインカジノサイト運営者による対応が必要であるところ、外国政府等への要請により、一部の外国政府等から一定の措置を講じるというような反応が得られている。他方で、任意の協力要請にとどまるため、その実効性に課題があるとの指摘がある。引き続き、同取組を進めるとともに、その効果を十分に検証し、外国政府等によるジオブロッキング等が進まないことが明らかになった場合は、そのことを前提として、ブロッキングの必要性を判断すべきである。
    • 支払抑止については、金融機関等による利用者への注意喚起、違法オンラインカジノに係る決済を把握した場合に当該決済の停止、疑わしい取引の参考事例の更新・公表等の各種取組が実施されており、昨年7月、クレジットカード取引に係る官民関係者が連携した新たな取組が開始されたところである。今後も各種取組を行うとともに、その効果を十分に検証し、ブロッキングの必要性を判断すべきである。
    • これまでの取組の効果については、違法オンラインカジノに係る誘導投稿等が大幅に減少したほか、検索ヒット数や目撃・検索経験が減少傾向にあるなど、一定の効果が認められる。他方で、オンラインカジノに係る違法性の認識については、未だ全体の6割程度にとどまっているほか、オンラインカジノサイトへのアクセス経験については低水準で推移しているものの、基本法改正の施行前後で大きな変化は見られないことから、違法性の認識を向上させるため、引き続き周知啓発を行うことが重要である。
    • 以上によれば、これまでの官民による包括的な対策により、誘導投稿等が大幅に減少するなど、一定の効果が認められるが、違法性の認識等については一層の向上が求められる。今後、ブロッキングの必要性を判断するためにも、基本法改正に基づく取組を含め包括的な対策を進めるとともに、基本法改正の施行から一定の期間を経た適切な時期において、その効果を十分に検証する必要がある。
    • そして、包括的な対策は関係省庁が連携して実施していることから、その効果を十分に検証するためには、関係省庁が連携し、政府全体で実施すべきである。
  • 有効性(対策としてのブロッキングは有効か)検討
    • ブロッキングの回避策としては、VPN等の利用、パブリックDNSの利用、IPアドレスの直接入力等が挙げられる(第8回事務局資料)。これらの手段により、ISPのDNSサーバ等を迂回することが可能であるため、仮にブロッキングを実施したとしても、その対策には一定の限界があり、特に、オンラインカジノに係るいわゆるヘビーユーザに対しては、効果を期待することができないとの指摘がある。
    • 後記のとおり、オンラインカジノに接触する機会を減らすことが、ギャンブル等依存症の予防として当然に有効であるとの専門家の意見があるところ、オンラインカジノに係るブロッキングの有効性については、若年層やカジュアルユーザを保護する観点(オンラインカジノに係る情報に接触する機会を減らすことが可能かどうか)から、検討すべきである。
    • 民間事業者の自主的取組として実施されている児童ポルノブロッキングは、現在も安定的に運用されていることが認められ、当該実績を踏まえ通信事業者からもブロッキングが引き続き有効な手法であるとの見解が示されている。他方で、今後の技術動向やインターネット利用環境の変化に留意すべきである
    • 諸外国(フランス及びスイス)においては、オンラインカジノ対策として、DNSブロッキングを実施しており、他の対策と併せて実施することで効果があるとの報告がある。ブロッキング実施国であるスイスにおいて、ブロッキングの効果検証中であり、今後の検討に当たって参照することも考えられる。
    • APNICの資料によれば、日本では、約95%の利用者がISPのDNSサーバを参照していることが認められる。同資料によれば、諸外国(オンラインカジノに係るブロッキングを実施している国を含む。)についても同様であることが認められ、多くの利用者がISPのDNSサーバを参照しているといえる。
    • 以上によれば、ブロッキングについては、技術的な回避策が指摘されており、その対策に一定の限界があるものの、現在のインターネット利用環境等に照らせば、違法オンラインカジノから若年層やカジュアルユーザを保護する観点から、対策としての有効性は否定できない。なお、技術的動向は変化しうることから、上記検証を行う上でも、当該時点におけるインターネット利用環境等に十分に留意すべきである。
  • 許容性(ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡するか)検討
    • ブロッキングにより失われる利益としては、全てのインターネット利用者の通信の秘密のほか、知る自由・表現の自由であるところ、これらは国民の基本的人権であり、極めて重要である。なお、国内で唯一実施されている児童ポルノブロッキング(民間事業者の自主的取組)については、児童ポルノが被害児童の心に取り返しのつかない大きな傷を与えるものであり、個人の尊厳、幸福追求の権利に関わる問題であることなどから、上記通信の秘密の保護、知る自由・表現の自由と均衡していると解釈の下で、緊急避難として実施されている。他方、インターネット上の海賊版については、様々な議論等を経た上で、経済的利益の確保のみの観点からブロッキングの実施は正当化されないとの考えが示され、現在に至っている。
  • 違法オンラインカジノ対策としてのブロッキングにより得られる利益としては、
    • ギャンブル等依存症やこれを生み出す違法オンラインカジノの蔓延やその情報の流通の防止が挙げられる。ギャンブル等依存症による弊害は深刻であって、依存症患者やその周囲の者の人生そのものを奪い得るものといえることから、単なる財産上の利益の喪失にとどまるものではなく、個人の人格的利益に関わる問題といえる。こうした問題を生じさせ得る賭博犯を含む犯罪行為に係る違法オンラインカジノ特有の問題を検討する必要がある。
    • 違法オンラインカジノ対策としてのブロッキングについては、ギャンブル等依存症の予防的な対策であり、ギャンブル等依存症は、違法オンラインカジノに限るものではなく、また、全ての者が必ず陥るものともいえないことから、違法オンラインカジノ固有の侵害性の内実を突き詰め、ギャンブル等依存症に陥る危険性や違法オンラインカジノの実態等を踏まえ、ブロッキングにより失われる利益と均衡とするかどうか検討していくことが不可欠である
    • これまでの関係者ヒアリングにおいて、違法オンラインカジノについては、公営競技のインターネット投票とは異なり、誰でも、いつでも、他人の目の届かない環境で、賭け額の上限なく、何回でも、利用が可能であること、中毒に陥らせるようなアルゴリズムにより、巧みに利用者の射幸心を煽り、賭け行為をエスカレートさせてコントロール障害を生じさせ、個人の内心の意思決定の過程に影響を及ぼし得ることなどが指摘されている。若年層(30歳未満の者をいう)については、SNS等を通じて違法オンラインカジノに誘導されやすい環境にあること、依存症に関わる脳内報酬系を司る機能が発達途上にあることなどが指摘されている
    • これらの指摘を踏まえ、今後、違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症の実態を把握した上で、認知過程を含む個人の自律や人格への負の影響の観点も踏まえながら、違法オンラインカジノによるギャンブル等依存症に陥るリスクを適切に評価する必要がある。
    • 加えて、違法オンラインカジノ対策を求める議論の過程では、違法な行為による国富の流出防止、スポーツ健全性の確保なども挙げられ、違法オンラインカジノの弊害の深刻さ、問題の大きさなどを表している。
    • 効果検証の結果(前記2.1.5参照)等を踏まえてブロッキングを実施する場合、その「目的」については、主として違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症の予防やこれを生み出す違法オンラインカジノの流通・蔓延防止とするのが適当であり、加えて、違法な行為による国富の流出防止・スポーツ健全性の確保の観点も踏まえる必要がある。そして、許容性(ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡するか)を具体的に検討するに当たっては、違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症の危険性や違法オンラインカジノの実態を踏まえる必要がある。
  • 実施根拠・妥当検討
    • 今後、ブロッキングを実施すべき状況にあるといえる場合は、ブロッキングを実施している諸外国法制を参考にしつつ、ブロッキングの実効性を確保するとともに、通信の秘密や知る自由等への制約を必要最小限にする観点から、遮断義務付け主体、遮断対象、実体要件、手続要件等を具体的に検討していくべきである。
    • 特に、遮断の義務付けを実効的に確保する観点から、公的機関の関与を適切に確保する必要があると考えられることを見据え、関係省庁において具体的な制度設計を検討していくことが考えられる。
  • 今後の方向性
    • 違法オンラインカジノは、我が国の社会経済活動に深刻な弊害をもたらす犯罪行為であり、喫緊の対策が求められている。今後、政府全体で、実効的な対策を検討していくとともに、アクセス抑止策を含め、引き続き包括的な対策を講じていくべきである。
    • ブロッキングについては、通信の秘密や知る自由等に抵触しうる対策であるから、他の権利制限的ではない対策が十分に尽くされたといえるか検証が必要である〈必要性〉。これまでの官民の取組により、誘導投稿等が大幅に減少するなど一定の効果が認められたが、違法性の認識等については一層の向上が求められる。今後、ブロッキングの実施の可否を判断するためにも、基本法改正に基づく取組を含め包括的な対策を進めるとともに、その効果を十分に検証する必要がある。
    • また、ブロッキングについては、技術的な回避策が指摘されており、その対策に一定の限界があるものの、現在のインターネット利用環境等に照らせば、若年層やカジュアルユーザ保護の観点から、対策としての有効性は否定できない〈有効性〉。
    • ブロッキングについては、違法オンラインカジノ固有の侵害性の内実を突き詰めた上で、ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡しているか検証が必要である〈許容性〉。仮に実施する場合の「目的」については、主として違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症やこれを生み出す違法オンラインカジノの流通・蔓延防止とするのが適当であり、加えて、違法な行為による国富の流出防止・スポーツ健全性の確保等を踏まえる必要がある。そして、許容性を具体的に検討するに当たっては、違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症の危険性や違法オンラインカジノの実態を踏まえた検討が必要である。
    • 上記効果検証を踏まえ、ブロッキングを実施すべき状況にあるといえる場合には、ブロッキングを最終的かつ効果的な違法オンラインカジノ対策として排除することなく、立法措置を講じることが必要である〈実施根拠〉。その際、諸外国法制等を参考にしつつ、ブロッキングの実効性を確保するとともに、通信の秘密や知る自由等への制約を必要最小限にする観点から、ブロッキングの義務付け主体、ブロッキングの対象、実体要件、手続要件等を具体的に検討していくべきである〈妥当性〉。特に、ブロッキングの実効性を確保する観点から、公的機関の関与を適切に確保する必要があると考えられることを見据え、関係省庁において具体的な制度設計を検討していくことが考えられる。
    • なお、本報告書は、違法オンラインカジノ対策の一つとして、ブロッキングを含むアクセス抑止の在り方を検討したものであり、通信の秘密や知る自由の保護の重要性を踏まえ、他の違法有害情報に係るアクセス抑止の在り方を規定するものではない。また、インターネット利用環境は絶えず変化していることから、アクセス抑止策の有効性を含め継続的な検証が求められる。

違法なオンラインカジノにはまり、やめられなくなるギャンブル依存症の深刻化の背景には、オンラインカジノサイトを見た人にまた関連のサイトをおすすめするネット広告の仕組みもあります。ギャンブル依存症から抜け出そうとしても、スマホを開けばギャンブル関連の広告がひっきりなしに届く状況が今は放置されている実情があります。いったん動画サイトでギャンブルの動画を見ると、関連の広告が大量に届くようになる人が多く、本人がやめようと決意しても、追いかけるように広告が出てきて、再び始めてしまうきっかけになることもあるといいます。ネット広告の世界では、プラットフォーム事業者などが、ユーザーの閲覧先などをもとに、ユーザーがどんな興味関心を持ち、どんな経済状況や家庭状況にあるかといった情報を収集することは一般的で、その結果をもとに、広告主は広告を届けたい人物像を設定し、ターゲットを絞って届けられる仕組みであり、「仕組み上、ギャンブルに関心のある人物を狙い撃ちして広告を出すことが可能になっている」と専門家は指摘しています。専門家によれば、、どのサイトにもアクセスしたユーザーのデータをプラットフォーム事業者に送信するプログラムが入っており、米メタの運営するフェイスブックで、広告主を対象にした管理画面を見ると、興味関心が「ギャンブル(ゲーム)」「オンラインギャンブル(ギャンブル)」「カジノゲーム(ギャンブル)」にあるユーザーを配信先として選べる設定もあったといいます。海外では、こうした仕組みが「依存症リスクのあるギャンブラーを意図的に狙い撃ちしている」として批判されており、2024年には英国のデータ保護当局(ICO)が、こうした仕組みでユーザーデータを広告会社に送信していたオンラインギャンブル企業を譴責処分としています。欧州では、依存を含めた個人の「脆弱性」につけ込んだ搾取について、個人データ保護や消費者保護、AI規制など重層的な枠組みで規制しようとしています。ギャンブル依存を含む「個人の負債、精神状態、依存」などのリスクについての情報を集め、それを利用して働きかけることについても、欧州委員会はこれまでも違法であるとする見解を示してきましたが、2025年には、それを明確に禁止する立法も検討していることを明らかにしています。今回の総務省のブロッキングの議論においても、「ギャンブル依存症の弊害は、決して財産の問題だけではない。人生そのものが奪われる」など、ほかのギャンブルに比べて被害はより深刻だとする意見が出て、そうした違法カジノによる被害の防止を目的にするべきだと整理されました。そのうえで、守る利益と通信の秘密のどちらがより大きいかについての判断は避けたものの、深刻な被害から社会を守る対策としてブロッキングの手法を「排除しない」と導きました。今後の検討にあたっては、依存症の危険性や違法カジノの実態を把握することなどがさらに必要だとしており、有識者からは「比較のあり方について十分な議論が行われたわけではない」、「どのようなことが(ブロッキングの)反対利益になるかさらに詰める必要がある」などの意見が出ています。

ギャンブル依存症が人生を奪う事例として、最近では、三菱UFJ銀行行員による貸金庫窃盗事件があります。「まじめ」「信頼できる上司」と周囲の評価は高かったが、ギャンブル依存症を抱え、窃盗罪として起訴されただけで被害総額は約3億9000万円相当、本人曰く「約100人から総額17億~18億円相当を盗んだ」といいます。毎日新聞の取材からは、「期待されている会社で、窃盗を繰り返してしまう自分を「怖い」と感じていた」、「うそをついて生きる毎日がつらかった」、「罪悪感、恐怖感が強かったです。お客さまの大切なものに手をつけている自分に恐怖も感じていました」、「自分の意志でギャンブルをやめるとか、やらないとか言える状況ではなくなる状況です。体も心もボロボロで、自分には何の利益にもならないのに、やり続けてしまう、こわい病気だと思います」、「「絶対にお返しせねば」という強い気持ちを変える事は出きず、そのためには高いレバレッジをかけて、また投資せざるを得ないという、負のスパイラルに入ってしまいました」、「相談しなかった事で、とり返しのつかない事となり、その何倍以上もの苦しみ、悲しみを与える結果となってしまいました」「あなたが賭けているのはお金ではなく、ほかでもない、「家族」です。ギャンブルで負けたお金をギャンブルで返す事は絶対に無理です。1人で抱えこまず、助けを求めて下さい。必ず終わりがきます。最初は楽しくても」などと述べており、その深刻さが伝わります。なお、厚生労働省が18歳以上75歳未満の男女1万8000人に過去1年間のギャンブルの頻度や費やした金額を尋ねた調査(有効回答率49.4%)では、ギャンブル依存が疑われる人の割合は1.7%に上っています。

その他、報道からいくつか紹介します。

  • 超党派のスポーツ議員連盟は、八百長などの不正操作防止や、選手や審判の人権保護のための法整備に乗り出す方針を確認しました。オンラインカジノや賭博に関連するトラブルが相次いでいることを受け、山下貴司元法相を座長とするプロジェクトチーム(PT)で議論するといいます。海外では賭博が発端とみられる選手、審判らへの脅迫、誹謗中傷も深刻化しており、スポーツの根幹である公正性、公平性を担保する国内法の在り方を検討するとしています。なお不正操作防止の国際的な枠組みである「マコリン条約」への署名、批准は、現段階では見送ることも確認しています
  • オンラインカジノで賭博を繰り返したとして、常習賭博罪に問われた新潟県の無職の被告に東京地裁は、「常習性は極めて顕著」として懲役1年4月、執行猶予3年(求刑懲役1年4月)の判決を言い渡しました。被告はX上で「明鏡止水」と名乗り、賭博の様子を投稿していました。裁判官は、被告が2年8カ月の長期間に60億円超を賭けていたと指摘、海外のオンラインカジノサイトも紹介し、運営側から報酬を得ていたとし「規範意識は著しく乏しく、相応の刑事責任を負うべきだ」と強調しています。判決によれば、被告は2022年8月~2025年4月、国内から複数の海外のオンラインカジノサイトに数百日にわたり接続し、バカラ賭博などで金銭を賭けたとしています。
  • オンラインカジノで賭博に使う「ポイント」を提供する、いわゆる「ポイント屋」が逮捕されています。常習賭博の疑いで逮捕されたのは、韓国籍の容疑者で、報道によれば、容疑者は2025年11月から2026年1月まで、名古屋市中区のオンラインカジノ店でパソコンを使って客にバカラ賭博をさせた疑いが持たれています。容疑者は、オンラインカジノで賭博に使うポイントを提供するいわゆる「ポイント屋」で、客は1ポイントを1円で購入し賭博に使っていたといいます。「ポイント屋」が摘発されるのは、愛知県警では2例目となります。警察は売り上げが暴力団に流れていた可能性も視野に、実態解明を進めているといいます。
③犯罪統計資料から

例月同様、令和8年(2026年)1~3月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和8年1~3月分)

令和8年(2026年)1~3月の刑法犯総数について、認知件数181720件(前年同期169380件、前年同期比+7.3%)、検挙件数73457件(69572件、+5.6%)、検挙率は40.4%(41.1%、▲0.7P)と、認知件数、検挙件数がともに増加している点が注目されます。刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、、、窃盗犯の認知件数は117123件(113103件、+3.6%)、検挙件数は42246件(40567件、+4.1%)、検挙率は36.1%(35.9%、+0.2P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は26870件(25954件、+3.5%)、検挙件数は18275件(17195件、+6.3%)、検挙率は68.0%(66.3%、+1.7P)と大幅な増加が継続しています。その他、凶悪犯の認知件数は1897件(1656件、+14.6%)、検挙件数は1570件(1481件、+6.0%)、検挙率は82.8%(89.4%、▲6.6P)、粗暴犯の認知件数は15224件(13310件、+14.4%)、検挙件数は12318件(11014件、+11.8%)、検挙率は80.9%(82.7%、▲1.8P)、知能犯の認知件数は20369件(16315件、+24.8%)、検挙件数は5140件(5128件、+0.2%)、検挙率は25.2%(31.4%、▲6.2P)、とりわけ詐欺の認知件数は19.075件(15091件、+26.4%)、検挙件数は4247件(4222件、+0.6%)、検挙率は22.3%(28.0P)、風俗犯の認知件数は4369件(4012件、+8.9%)、検挙件数は4145件(3774件、+9.8%)、検挙率は94.9%(94.1%、+0.8P)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数が増加しているほどには検挙件数が伸びず、検挙率が低調な点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、コロナ禍が明けても「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加しています。さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。

また、特別法犯総数については、検挙件数は15606件(14068件、+10.9%)、検挙人員は11825人(11,069人、+6.8%)と検挙件数、検挙人員ともに増加する結果となりました。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は907件(1119件、▲18.9%)、検挙人員は628人(739人、▲15.0%)、軽犯罪法違反の検挙件数は1442件(1299件、+11.0%)、検挙人員は1470人(1266人、+16.1%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は1143件(1141件、+0.2%)、検挙人員は808人(797人、+1.4%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は384件(267件、+43.8%)、検挙人員は304人(220人、+38.2%)、児童買春・ポルノ法違反の検挙件数は901件(830件、+8.6%)、検挙人員は481人(427人、+12.6%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1509件(1219件、+23.8%)、検挙人員は1036人(940人、+10.2%)、銃刀法違反の検挙件数は1000件(922件、+8.5%)、検挙人員は829人(773人、+7.2%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、、麻薬等取締法違反の検挙件数は2908件(1935件、+50.3%)、検挙人員は1762人(1421人、+24.0%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は27件(27件、±0%)、検挙人員は29人(26人、+11.5%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1941件(1783件、+8.9%)、検挙人員は1300人(1157人、+12.4%)などとなっています。大麻の規制を巡る法改正から1年以上が経過しましたが、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています(今後の動向を注視していく必要があります)。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していたところ、最近、あらためて増加傾向が見られています(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況も危惧されるところです)。なお、麻薬等取締法違反が大きく増加している点も注目されますが、2024年の法改正で大麻の利用が追加された点が大きいと言えます。それ以外で対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。前述したとおり、コカインについては、世界中で急増している点に注意が必要です。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員対前年比較について、総数110人(95人、+15.8%)、ベトナム21人(26人、▲19.2%)、中国18人(19人、▲5.2%)、ブラジル11人(4人、+175.0%)、韓国・朝鮮6人(4人、+50.0%)、スリランカ4人(2人、+100.0%)、アメリカ4人(2人、+100.0%)、フィリピン4人(9人、▲55.6%)などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回って増え続けている点が最近の特徴です。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は1348件(2050件、▲34.2%)、検挙人員は825人(997人、▲17.3%)と検挙件数、検挙人員ともに減少しています。犯罪類型別では、殺人の検挙件数は13件(6件、+116.7%)、検挙人員は15人(8人、+87.5%)、強盗の検挙件数は14件(21件、▲33.3%)、検挙人員は25人(32人、▲21.9%)、暴行の検挙件数は86件(101件、▲14.9%)、検挙人員は78人(89人、▲12.4%)、傷害の検挙件数は156件(175件、▲10.9%)、検挙人員は169人(200人、▲15.5%)、脅迫の検挙件数は50件(51件、▲2.0%)、検挙人員は43人(49人、▲12.2%)、恐喝の検挙件数は55件(75件、▲12.0%)、検挙人員は70人(82人、▲14.6%)、窃盗の検挙件数は582件(862件、▲32.5%)、検挙人員は124人(161人、▲23.0%)、詐欺の検挙件数は180件(449件、▲59.9%)、検挙人員は132人(207人、▲36.2%)、賭博の検挙件数は3件(13件、▲76.9%)、検挙人員は18人(11人、+63.6%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、2023年7月から減少に転じていたところ、あらためて増加傾向にありましたが、ここにきて減少に転じている点が特筆されます。ただし、資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測される(ただし、詐欺は薬物などとともに暴力団の世界では御法度となっています)ことから、引き続き注意が必要です。

さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯総数について、特別法犯全体の検挙件数は778件(847件、▲8.1%)、検挙人員は453人(536人、▲15.5%)となりました。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は5件(4件、+25.0%)、検挙人員は6人(4人、+50.0%)、軽犯罪法違反の検挙件数は12件(8件、+50.0%)、検挙人員は10人(6人、+66.7%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は4件(7件、▲42.9%)、検挙人員は3人(5人、▲40.0%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は4件(4件、±0%)、検挙人員は5人(9人、▲44.4%)、銃刀法違反の検挙件数は16件(12件、+33.3%)、検挙人員は12人(8人、+50.0%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は226件(195件、+15.9%)、検挙人員は98人(99人、▲1.0%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は5件(6件、▲16.7%)、検挙人員は9人(3人、+200.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は403件(484件、▲16・7%)、検挙人員は239人(287人、▲16.7%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は29件(43件、▲32.6%)、検挙人員は7人(28人、▲75.0%)などとなっています。とりわけ覚せい剤取締法違反や麻薬等取締法違反については、前述のとおり、今後の動向を注視していく必要があります。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮政治などを専門とするソウル大の李貞澈(イ・ジョンチョル)教授が、北朝鮮が2026年3月に憲法を改正し、韓国との「統一」に関する表現を削除したとの分析を発表しました。今回の憲法改正で前文や本文から「祖国統一」や「民族大団結」といった表現が消えたと指摘しています。北朝鮮は3月に開いた最高人民会議(国会に相当)で、金正恩朝鮮労働党総書記が韓国との統一を否定する内容を憲法に反映させる方針を示していました。具体的な内容についてはこれまで言及がないものの、南北を「2国家の関係」とする主張を明文化し、北朝鮮は憲法に領土を巡る条項を新設し、領土条項(2条)で「領域は北に中華人民共和国とロシア連邦、南に大韓民国と接している領土」などと規定し、韓国との具体的な境界線については触れていません。北朝鮮は韓国を「敵対的な国家」としてきましたが、憲法上は、韓国を「敵国」とする直接的な表現は盛り込まれませんでした(金総書記は2023年末に韓国について「もはや同族関係ではなく、敵対的な国家関係」だと発言、2024年1月の最高人民会議では韓国を「第1の敵対国、不変の主敵」とみなすよう明記する改憲が必要だとし、「平和統一、民族大団結」といった表現の憲法からの削除も提起していました)。韓国・北韓大学院大の梁茂進・碩座教授は「改正憲法で扱わなかったからといって、敵対的2国家政策を修正したわけではないと見るのが妥当」、「現在の南北間の陸上・海上境界線は停戦協定に基づいているため、国際法上の論争を起こさないためのやむを得ない選択ではないか」との見方を示しています。また、今回の憲法改正では金総書記の権力を強化する内容も盛り込まれ、金総書記が務める「国務委員長」を「l国家元首」と規定し、その権限が大幅に強化され、最高人民会議の上位に位置付けて、最高人民会議による形式的な解任権も削除されたほか、核兵器の使用権限を持つと初めて明文化した可能性があるといいます。また、今回の改正で、序文から「金日成同志と金正日同志の国家建設思想と業績が具現化された主体の社会主義国家」との文言を削除し、金総書記の統治理念とされる「人民大衆中心の社会主義国家」を明記、「朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法」から「朝鮮民主主義人民共和国憲法」に改称されています(聯合ニュースは「金正恩の支配体制が強化される中、統治理念の基盤だった金日成・金正日主義が薄まった」と分析しています)。

関連して、韓国統一省が、北朝鮮の呼称を従来の「北韓」から正式国名「朝鮮民主主義人民共和国」や略称「朝鮮」に変更する検討を始めました。北朝鮮は2023年から「韓国」「大韓民国」と呼んでおり、統一省は北側の立場を尊重し、南北対話の再開を模索する考えとみられています。鄭統一相は2026年3月、統一省などが開催した会議で、南北関係を「韓朝関係」と公式の場で初めて言及、1月には「李政権は朝鮮民主主義人民共和国の体制を尊重する」とも述べています。統一省は、鄭氏の発言を「公論化のきっかけ」と位置づけ、議論を始める見通しですが、韓国憲法3条は「大韓民国の領土は朝鮮半島とその付属の島嶼とする」と規定しているほか、「南北基本合意書」(1991年12月署名)では、南北関係は「統一を志向する過程で暫定的に形成される特殊な関係」で、国家間の関係ではないと定めています。そのため、韓国は伝統的に北朝鮮を「北韓」、北朝鮮は韓国を「南朝鮮」と呼んできました。呼称の変更は、韓国の基本姿勢である統一政策を放棄し、南北は敵対する別国家だとする北朝鮮の「二つの国家論」に同調する結果を招く可能性もあります

北朝鮮IT労働者が世界中の会社に関与し、その報酬が北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源の1つとなっている問題は、本コラムでも取り上げてきました。ある日本企業のオンライン面接に、実在する人物の「なりすまし」が現れ、ぎこちない日本語を話し、フルリモートの仕事を望んだことから、不審に思った採用担当者が応募者と同姓同名の「本人」に連絡をとり、なりすましが発覚、北朝鮮IT労働者が使う手法と酷似していることが判明したことがありました。2026年4月11日付朝日新聞で、5年以上追い続けるホワイトハッカー(善意でハッキング技術を駆使する専門家)の調査から、彼らが組織化された環境で働いている実態が浮かび上がってきています。具体的には、仲間とネット上の公開情報を使った調査「OSINT」で北朝鮮について調べていたところ、エンジニア向けプラットフォーム「GitHub」の中で、北朝鮮IT労働者のものとみられるアカウントを多数見つけ、結果を公表すると、匿名の人物から接触があり、北朝鮮IT労働者に関する内部資料とみられる大量のデータ提供を受けたといいます。内容を精査したところ、データには名簿や案件の進捗管理表、身分偽装用の資料、チャットツール「Slack」のやりとりなどが含まれており、労働者は約12人ごとに12のグループに分けられ、最上位には「Master Boss」(大ボス)という名前の統括役がいたといいます。各グループの仕事や予算、収益は表計算ソフトで細かく整理され、資料の一部には労働者たちが携わる作業の一覧もあり、AIのほか、「ボット開発」や「ブロックチェーン(分散型台帳技術)」などといった分類と、それぞれの想定予算、総支払額を入力する欄が設けられ、別の資料には、実際に支払われた額や収益性の高い地域などをまとめたものもありました。Slackからは、大ボスが「全員、少なくとも1日14時間働くように」と呼びかけ、その直後に「待機時間も含まれる」と念押ししていたり、自己啓発のネットミームを投稿したり、偽の身分証明書を持っていないか仲間に呼びかけたりするやりとりもあったといいます。やりとりは全て英語で、同氏は、Slackのチャンネルで日々の作業を報告する多数の画像や録画も確認したといい、提供を受けた資料からは「監視とノルマの下で動く彼らの姿が浮かび上がってくる」一方、誕生日を祝う書き込みや、バレーボール大会の予定を共有する資料もあり、内部には一体感もあったといいます。

北朝鮮のIT労働者を誤って雇用しないためには、身分証が本物か確かめることや、社内で人事とセキュリティ部門の連携を高めていくことが有効で、相手のメールアドレスのユーザー名をネットで検索することで、別のプラットフォームでは別の人格を使っているケースを見つけることができるといいます。さらに、北朝鮮ではアメリカ英語ではなくイギリス英語で教育を受けるため、彼らの文章からは「イギリス英語の癖が抜けていない」傾向があるといいます国連安保理の「北朝鮮制裁委員会専門家パネル」による報告書でIT労働者が初めて登場するのは、2019年で、その後、通信技術の発展とコロナ禍によってフルリモートの求人は世界的に増えたとされます。北朝鮮は工作員を組織化しており、IT労働者は外貨獲得を主目的とした部隊であり、他にも、諜報活動の部隊や、サイバー犯罪者集団らを核とするサイバー攻撃部隊なども確認されています。専門家パネルの後継にあたる多国間制裁監視チーム(MSMT)が2025年10月に公表した報告書によれば、北朝鮮は2024年、IT労働者を通じて約3億5千万~8億米ドル(約531億~1212億円)の収入を得たとみられています。また、2025年初めの時点で、中国やロシアをはじめ、アジアやアフリカ諸国などに計1千~2千人を派遣した一方、北朝鮮国内からも450~1200人が遠隔で業務をしていたといいます。トレンドマイクロによれば、北朝鮮にはIPアドレスが1024件しかなく、北朝鮮国内から工作をしかけようとしても数が圧倒的に足りず、通信のボトルネックになっているといいます(ちなみに、米国は世界最多の16億件超を保有し、日本は3位で約1億9千万件のIPアドレスを持っています)。加えて給料を受け取るのも、海外にいる方が都合がよく、制裁をかいくぐり、海外の協力者と連携しやすいためだといいます。さらに、2017年の国連安保理決議により、北朝鮮国籍の人物に対して新たに労働許可を出すことが禁止されたため、別の国籍の他人になりすまさなければ海外で就労することはできません。IT労働者は採用されやすくするため、求人を出す企業の国に合わせた国籍を使う傾向があり、履歴書などは加筆修正して使い回しているとみられ、例えば「米国で生まれ育った日本人」という設定の人格であっても、使用言語に「アラビア語」がある場合があるといい、過去にアラビア語圏の求人に応募した際の履歴書を使い回したと推測できます。トレンドマイクロの調査では、IT労働者がディープフェイクを使うとどのように人相を変えられるか試している様子や、面接中に生成AIに受け答えを生成させている様子が確認されているといいます。同氏(ホワイトハッカー)はこの問題について「採用現場に彼らが入り込むリスクは高まっている」と指摘。「中小企業であっても、こうした実態を頭の片隅にとどめておいてほしい」と訴えています。正に、「敵を知る」ことで対策の実効性が高まることを実感させられます。

韓国の人権団体「移行期正義ワーキンググループ」(TJWG)は、北朝鮮住民の処刑状況をまとめた報告書を発表しました。金総書記政権下で136回の処刑を確認し、このうち半数近くの65回が、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国境封鎖の時期(2020年1月)以降に集中していたといいます。また136回の処刑で殺害された人は計358人に達し、コロナ期は、特に韓国文化への接触や金氏の指示違反などを理由にした処刑が急増したといいます。北朝鮮では2020年、韓国ドラマなどを広めた場合は最高で死刑となる「反動思想文化排撃法」を制定し、統制を強化しており、TJWGは「国境封鎖後、文化・思想統制や政治支配の強化を進めている」と指摘しています。報告書によれば、群衆を動員した公開処刑が7割を超え、「罪状」は、韓国の映画、ドラマ、音楽の視聴・流布などが29件(約20%)と最多、金総書記の指示・方針違反などが26件(約18%)といいます。他に殺人、麻薬の密売・使用、コロナ禍での移動違反などもありました。

金総書記が2026年3月、最高人民会議での施政方針演説で「わが国に合致する警察制度を設ける」と明らかにしました。北朝鮮にも警察はありますが、発言の背景には、北朝鮮が抱える深刻な社会秩序の混乱があると考えられています。金総書記は演説で「国家の内部安全と社会的安定を保証する」とも語り、それは北朝鮮の治安が乱れていることを告白したともいえます自国の状況を「地上の楽園」とうたう北朝鮮の国営メディアは犯罪について報じませんが、経済難から北朝鮮の治安は悪化しているとみられています。北朝鮮軍内部でも支給品不足から部隊内で窃盗が相次いでいるといい、背景には公職に就く人たちが賄賂を得るために社会秩序や治安の維持をおろそかにしていることがあるといい、北朝鮮の安全員(警官)たちは治安を担当する公務員であるため、取り締まる対象にあたる市場経済活動(副業)に手を染めにくく、収入を補うために、様々な形で賄賂を要求するといいます。北朝鮮では車のナンバーから、国家公務員、外交官、軍人など所有者のおおよその見当がつく。金総書記は2025年から2026年にかけ、平壌総合病院や咸鏡南道の竜城機械連合企業所などの建設工事で、「敗北主義と無責任、非積極性に慣れきった者」として党や政府の幹部らを解任してきました。元党幹部は新しい警察制度の創設について「社会的な腐敗や矛盾をただし、党や政府に対する国民の信頼を回復させたい思惑がある」とみているほか、「住民監視が強調されてきた社会安全省を、西側諸国の警察機関のイメージに近づける思惑がある」という指摘もあります。一方、最高人民会議は14人で構成される国務委員会の委員にキム・チョルウォン最高検察所長を選びました。司法の幹部を国政の最高機関に招き入れることで、社会秩序の立て直しに向けて国民の信頼を得たい金総書記の意向が働いていると考えられます。ただ、元党幹部は「法の支配がない北朝鮮で、いくら司法幹部を登用しても、社会の秩序形成に役立たない」と述べています。なお、軍事や経済などで連携を強化するロシアと北朝鮮が、治安対策でも協力を深めています。平壌で開催された治安担当閣僚の会談では、北朝鮮が計画する新たな警察組織の創設などにロシア側が協力する意向を示しました。また麻薬密輸事件への対策などについても協議しています。ロシアのコロコリツェフ内相は北朝鮮の警察組織の創設にふれ「ロシアが蓄積した警察の創設と機能についての経験を共有する準備ができている」と述べています。また「現代の最も深刻な問題の一つは麻薬や向精神薬の違法取引だ」と強調、麻薬密輸事件の捜査協力について話し合い、ロシア側は、麻薬事件に関与した疑いのある人物の情報を提供するよう求めています。北朝鮮での麻薬のまん延はこれまでも繰り返し指摘されており、北朝鮮の治安機関出身の脱北者も、北朝鮮で麻薬の海外への密輸などが横行していると証言しています。北朝鮮としては、ロシアとの協力で麻薬犯罪への対策を講じる狙いがあるとみられています。

2026年5月11日付日本経済新聞によれば、ウクライナを侵略するロシアを軍事支援する北朝鮮に空前の戦争特需が生まれつつあり、武器輸出や派兵の見返りとして外貨やエネルギーなどを受け取り、収益は3年ほどで北朝鮮の国内総生産(GDP)に匹敵する2兆円規模に積み上がった可能性があるといいます。韓国の情報機関、国家情報院傘下の国家安保戦略研究院は2025年までの北朝鮮による武器輸出の総額を70億~138億ドル(およそ1兆~2兆円)と見積もっています。ロケット砲や砲弾に加え、北朝鮮がロシアの技術をもとに開発したとされる短距離弾道ミサイル「KN23」の供給も250発近くに上ると推定、対価は外貨だけでなく武器の材料や軍事技術、生活必需品などの現物でも得ているとみられ、ウクライナでの戦闘が長引きロシアの軍需が逼迫すればするほど、武器輸出や派兵の見返りとして外貨やエネルギーなどがもたらされる構図だといいます。韓国の政府系シンクタンク、韓国開発研究院は「ロシアへの軍需物資の供給拡大は長期的に北朝鮮の産業構造や技術力に変化をもたらす可能性がある」と指摘しており、注目されます。

ロシアのウクライナ侵攻を支援するために北朝鮮が派遣した兵の戦死者が2000人を超えるとみられます。平壌で完工した戦死者の追悼施設「海外軍事作戦戦闘偉勲記念館」の石碑に約2300人分の名前が記されています。北朝鮮は派遣した兵に死傷者が出たことを明らかにしていますが、詳しい人数に言及したことはありません。一方、韓国の情報機関、国家情報院は2025年9月、北朝鮮兵の死者が2000人規模に達するとの見方を示したことがあります。北朝鮮はこれまで1万人以上の兵をロシアに派遣したとみられており、完工式には金総書記のほか、訪朝していたロシアのボロジン下院議長やベロウソフ国防相が出席してロ朝の結束を確認しています。ロシアは2025年4月26日にクルスク州の完全奪還を発表、式典は奪還から1年を機に開催され、金総書記は「ロシア軍と肩を並べて侵略者を撃退・殲滅した朝鮮人民軍の勇敢な闘争により、米国と西側が追求した覇権主義と軍事的冒険は挫折した」と強調、戦死した兵士らを「高潔な犠牲だった」と称賛しました。プーチン露大統領は式典に祝電を送り「この記念館は疑いの余地なく、両国人民の友情と団結の明確な象徴となる」と強調しました。両国は、ロシアが北朝鮮の軍事支援を必要とする一方、北朝鮮はロシアからの軍事技術提供を期待する持ちつもたれつの関係にあります。朝鮮半島有事でロシアが加勢することも北朝鮮は望んでおり、北朝鮮は人的犠牲という形でロシアに恩を売っている形です。とりわけ憂慮されるのは、ロシアから核・ミサイルや原子力潜水艦に関する軍事技術が北朝鮮に渡ることです。ベロウソフ国防相は金総書記との会談で「2027~31年の露朝軍事協力に関する計画に年内に署名する用意がある」と述べました。軍事・経済の両面で北朝鮮を利するロシアの行動は、国連安全保障理事会の対北制裁決議に違反しています。自由・民主主義諸国は、ロ朝間の技術や資金の流れを断つために、独自制裁網を強化するなど具体的行動を加速させる必要があります。ロシアがイランとも包括的戦略パートナーシップ条約を結び、関係を深めている構図にも目を向ける必要があります。

2026年4月27日付日本経済新聞の記事北朝鮮に送られたウクライナの少年 国境越えるロシア同化政策「」には大変驚かされました。ロシア占領下のウクライナに住む少年が2025年夏、「ロシア代表」として北朝鮮に滞在していたことがわかったといいます。ロシアによるウクライナ侵略から4年、クリミア併合や東部地域の実効支配から12年が経過し、長引く占領でウクライナの子どもたちは「ロシア化」の危機に陥っていることが浮き彫りになりました。少年は2025年7月から8月に北朝鮮で行われた「朝ロ少年親善キャンプ」にロシア代表として参加したものとみられています。米戦争研究所(ISW)はウクライナの子どもの北朝鮮派遣について「ロシア化と軍事化の取り組みが国境を越えて拡大している」と分析、2022年のウクライナ侵略以降、ロシアは再教育キャンプのネットワークを広げており、占領地と本土の人的交流によって同化を進める狙いが指摘されています。ウクライナ侵略を契機に北朝鮮はロシアと急接近し、武器供与や戦地への1万人超の北朝鮮兵士の派遣を行っており、両国が「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した2024年6月、ロシアの若者組織「第1の運動」がロシアの子どもを松濤園キャンプ場に送ると発表しています。専門家は、「すでに同化を終えた子どもを優秀な人材に育てる手段で北朝鮮に送っているのではないか」、「対米軍事プロパガンダは北朝鮮では日常的なもので珍しくない。ロシア側が自分たちを正当化するのに北朝鮮を利用しているのではないか」などと指摘しています。ロシアの占領が長期化する中、子どものアイデンティティーの喪失が課題となっており、専門家は「占領が長引くほど、固定化されたアイデンティティーを覆すのは難しくなる」、「同化を終えた次の段階を懸念する。成長した子どもがウクライナと率先して戦う可能性がある」と指摘しているとおりです。ロシアはウクライナの子どもを保護する名目で国内へ移送しており、ウクライナ政府によると、2022年の侵略以降で少なくとも2万人が連れ去られたといい、帰還したのは約2000人にとどまり、連れ去られた子どもは再教育を受けたり、養子縁組でロシア人として育てられたりといった同化政策を受けたという報告が出ています。ウクライナの子ども世代を消し去る試みとして、連れ去りはジェノサイド(集団虐殺)の可能性が指摘されています。国際刑事裁判所(ICC)は2023年、占領地の子どもを不法に移送しているとしてプーチン大統領らに逮捕状を出しましたが、戦争犯罪を問われるロシアは反発、2025年12月、ICCの赤根智子所長らへの有罪判決を発表しました。国連総会は2025年12月、ロシアに子どもたちの「即時かつ安全で無条件の帰還」を求める決議を採択、日本や米国など91カ国が賛成しましたが、ロシアやイランなど12カ国が反対、57カ国が棄権しています。

ロシアと北朝鮮との密接な関係について、最近の報道からいくつか紹介します。

  • ロシア南西部クルスク州の奪還作戦に参加した「北朝鮮兵の功績」をたたえる展示がモスクワの戦勝博物館で行われており、兵士が描かれた絵や手紙などが並び、博物館は「注目度は高い。(クルスク奪還を)彼らが神聖な戦争だと考えていると理解してもらえている」としています。戦勝博物館のイワン・コレガエフ副館長は「我々を助けてくれたことに感謝している。彼らの多くが命を落としており、我々と同じ道を歩む仲間がいることを示すのが義務だと考えた」と話しています。
  • 金総書記はロシアの対ドイツ戦勝記念日の2026年5月9日、プーチン大統領に祝電を送りました。ロシアとの包括的戦略パートナーシップ条約を「最大限、重視して発展させる」とし、条約上の義務を果たすと明記、今後もロシアのウクライナ侵攻を支援し続ける姿勢を鮮明にしています。ロ朝が2024年に締結した条約は、有事の際にあらゆる軍事支援を互いに提供すると規定。北朝鮮は、この条約に基づいて軍部隊をロシアに派遣、両国は軍事分野だけでなく多方面で協力を深めようとしています。

国連安全保障理事会は、北朝鮮の核・ミサイル開発を巡る会合を開き、日本や米国、韓国などは、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射を非難し、国連制裁の履行を徹底するよう求めました。北朝鮮は反発し、中国とロシアも日米韓の軍事協力が緊張を高めていると主張しています。英国の民間調査団体「オープン・ソース・センター」のジェームズ・バーンCEOは、北朝鮮の港で2025年11月以降、少なくとも貨物船5隻が石炭や鉄鉱石を積み出したと指摘し、「制裁違反の継続的なパターンで、核・ミサイル開発を支えている」と指摘、国連のローズマリー・ディカルロ事務次長は、寧辺の核施設で核物質の生産能力が「深刻に増大している」と警告、日本の山崎和之国連大使は、北朝鮮による度重なる弾道ミサイル発射について、核兵器などを搭載するミサイル技術を高めるものだと指摘し、「国際的な不拡散体制への重大な脅威だ」と非難、米国代表も、「制裁違反を見逃した国は、意図的に北朝鮮の核開発を助けたことになる」とし、鉄鉱石などの輸出収入が北朝鮮の違法な核・弾道ミサイル計画を支えているとして、関係船舶の制裁指定を提案する考えを示しました。さらに、非常任理事国のデンマークは、北朝鮮はロシアのウクライナ侵攻に協力しており、違反を放置することは国際社会の平和に影響すると訴えています。これに対し、北朝鮮の金国連大使は、安保理決議は自国の自衛権を否定すると反発し、「我々は決議を認めず、拘束されない」として核・ミサイル開発を継続する考えを示し、中ロは日米韓の共同軍事演習や米国の「拡大抑止」強化が緊張を高めていると主張しています。

こうした中、韓国政府で対北朝鮮政策を統括する鄭統一相が、機密情報である北朝鮮のウラン濃縮施設の位置を公言し、波紋を広げています。米側は、自国の偵察衛星などで入手し韓国に提供した情報を鄭氏が話したと疑い、北朝鮮情報の韓国への提供を縮小するなど、同盟を揺るがしかねない事態に発展しています。米側が問題視しているのは、鄭氏が2026年3月6日の韓国国会外交統一委員会で、北朝鮮のウラン濃縮施設の所在地について、既に知られている北西部の寧辺や平壌近郊の降仙に加え、北西部の亀城を挙げた発言で、韓国政府高官が「第3の施設」について公に言及したのは初めてとみられます。核関連施設の位置情報は、米側が偵察衛星などを使って入手し、韓国に提供する重要情報で、鄭氏の発言に対して米側から抗議を受けたほか、北朝鮮に関する情報の韓国側との共有が縮小されたといいます。鄭氏は「何度も学界とメディアで取り上げられた公開情報に基づいている」と述べ、米側の提供情報を基に述べたわけではないと反論、統一省も同趣旨の釈明をしていますが、米側の抗議の有無や情報共有縮小を巡っては確認を避けている状況です。米側の韓国側に対する不信感は、鄭氏の今回の発言だけが原因ではなく、北朝鮮問題を巡り、米側が抑止と圧力の維持を重視するのに対し、韓国は対話と関係改善を軸とするアプローチを模索するなど、米韓両国のスタンスの違いが背景にあります。2026年3月の米韓定例合同軍事演習「フリーダム・シールド(自由の盾)」では、北朝鮮を刺激しないよう、期間中に部隊を動かす野外機動訓練を縮小するよう米側に求め、米側を困惑させたとされます。統一省が国会に報告した、今後5年間の対北朝鮮政策の指針となる「第5次南北関係発展基本計画」も、朝鮮半島の緊張緩和に向け、協力と対話を模索する内容となっており、北朝鮮を巡る政策の足並みをそろえられるかどうかが米側の不信感の解消のカギを握ることになります。

一方、今回の発言をふまえ、北朝鮮が核兵器の原料となる濃縮ウランの生産を加速させているとの見方が強まっています。核の軍事転用の監視に当たる国際原子力機関(IAEA)も、核兵器の生産能力が大きく向上していると分析しています。寧辺周辺でのウラン濃縮活動も活発化している模様で、IAEAのグロッシ事務局長は、「降仙の濃縮施設と似た規模と特徴を持つ、寧辺の新たな施設の建設を監視している」と述べています。これに関連し、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が運営する北朝鮮専門サイトは、衛星画像の分析に基づき、新施設が完成したとの分析を公表しました。グロッシ氏は、ソウルで開いた記者会見で北朝鮮について「核弾頭を数十個生産できるほど、核生産能力が大きく向上した」と懸念を示しています。北朝鮮はロシアとの連携強化を進めていますが、グロッシ氏は、核兵器関連の技術協力については「現時点で確認していない」との見方を示し、その上で、「北朝鮮とロシアの協力が民生用原子力の範囲にとどまることを望む」と述べました。金総書記は2026年2月の党大会での演説で「我々は今後、年次別に国家核戦力を強化する展望計画を持っており、核兵器の数を増やし、核運用の手段と活用の空間を広げるための活動に全力をあげる」と宣言しており、ウラン濃縮施設などの増強に加え、米本土を射程に入れたとする大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの開発も、さらに強化する方針とみられています。

およそ190カ国・地域が参加する核拡散防止条約(NPT)再検討会議が、ニューヨークで開催されました。NPTからの脱退を表明し核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に懸念を示し、復帰を求める声が各国から相次ぎました。韓国の代表は「北朝鮮の核開発はNPTの信頼性に対する重大な挑戦だ」と述べ、北朝鮮が核保有国と自称するのを「国際社会は受け入れてはならない」と強調、ウクライナに侵攻するロシアに対しても北朝鮮との「違法な軍事協力」を即時停止するよう求めました。1985年にNPTに加盟した北朝鮮は2003年、一方的に脱退を宣言し、今回の会議にも参加していません。金総書記は2026年2月の党大会で核兵器を増産する姿勢を示し、核保有の既成事実化を進めていています。オーストリアやノルウェーなど欧州各国からも北朝鮮の核・ミサイル開発への懸念や非難が続出、カナダの代表は「北朝鮮の核保有を正当化するいかなる試みも拒否する」と述べ、NPTに復帰するべきだと訴えています。

米国はイランの核保有を防ぐとして攻撃しましたが、すでに開発が進む北朝鮮への関与は少なく、こうした対応の矛盾がNPT体制の機能不全を深刻にしているといえます。NPTは米国、ロシア、英国、フランス、中国を「核兵器国」として認め、核軍縮を求め、それ以外の国は核を取得・製造しない義務を負い、国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れなければなりませんが、違反に直接の罰則規定はありません。イランは高濃縮ウランを保有し、核兵器製造に転用する恐れがあるとの声があがり、米国・イスラエルは核開発の阻止を名目にイランを攻撃しました。イランは核兵器を保有する意図を否定、ウラン濃縮は「平和利用」が目的だという立場をとっています。一方、核兵器の保有を宣言した北朝鮮は対照的で、正面からNPTを無視する姿勢を示し、1993年と2003年に脱退を通告しています。トランプ米政権は国家安全保障戦略(NSS)で対北朝鮮政策に触れず、関心が低く、2期目に入って北朝鮮を「核保有国」と呼んでいます。米国もかつて北朝鮮の核開発を防ぐために攻撃を検討した時期があり、クリントン政権の1994年、核施設の破壊や海上封鎖する計画が浮上したものの、北朝鮮は「戦争が起きれば、ソウルは火の海になる」と脅し、日本を含めた東アジアに緊張が高まったことで米国は軍事行動を見送り、北朝鮮が核開発を凍結する代わりに日米韓が軽水炉などを供与することで決着、結局、北朝鮮は合意を守らず、2000年代に入って核実験を繰り返し、すでに弾道ミサイルへの核搭載能力も持つとみられています。いまやロシアと軍事協力を深め、経済的な利益も得ています。一方、ウクライナはソ連崩壊後の1994年にブダペスト覚書を交わして核を放棄しましたが、結局、ロシアから侵略されました。覚書にはウクライナの独立や領土の保証が明記されていましたが、ロシアは法的拘束力がないとして無視しています。こうした悪い先例がNPT体制の揺らぎを大きくしており、権威主義国家などの核保有を誘引しかねない状況です。イスラエルはNPTに加盟せず、水面下で核を保有しているとされ、インドやパキスタンもNPTの枠外で核兵器を持っています。いまやイラン国内でもNPTを脱退する議論が起こっています。NPTが認める核兵器保有国の核軍縮に向けた機運も後退、米国とロシアの間の新戦略兵器削減条約(新START)が2026年2月に失効、中国は保有する核弾頭数を増やしており、ストックホルム国際平和研究所IPRI)の推計によると、2025年1月時点で600発ほどで、前年より100発程度増えました。フランスのマクロン大統領も同3月、核弾頭の保有数を増やすと表明しています。

北朝鮮によるミサイル発射も相次ぎました。北朝鮮の朝鮮中央通信は2026年4月9日、国防科学院とミサイル総局が6~8日、重要兵器システムの試験を行ったと伝えました。韓国軍は8日、北朝鮮が弾道ミサイル数発を発射したと発表しており、これを指すとみられます。朝鮮中央通信は、「戦術弾道ミサイル弾頭部の戦闘適用性と子弾の威力評価試験」を行ったとしており、大量の小型爆弾を空中からばらまく「クラスター爆弾」の性能を確かめた可能性があります。同通信は「短距離弾道ミサイル『火星11』型の弾頭部で6.5~7ヘクタールの標的地域を焦土化できることを実証した」と主張、電磁気兵器システムや、炭素繊維を放出することで電力網を破壊する爆弾の試験を行ったとも伝えています。クラスター弾は1発に詰められた子弾を広範囲に散布して敵を攻撃する。不発弾による民間人被害が問題視されオスロ条約で使用や生産が禁じられていますが、北朝鮮は加盟していません。さらに4月12日には、北朝鮮の海軍が5000トン級の駆逐艦「崔賢」から戦略巡行ミサイル5発を黄海に向けて試験発射しました(3月にも2度にわたり、核弾頭などを搭載できる戦略巡航ミサイルの試験発射を行っています)。北朝鮮は5000トン級かそれ以上の駆逐艦を毎年2隻建造する計画を掲げており、5月には金総書記が「崔賢」の試験航行を視察し、6月中旬に海軍へ引き渡すよう命じています。「崔賢」級の駆逐艦は核弾頭を搭載できるミサイルの配備を想定しており、金総書記も「強力で信頼できる核戦争抑止力を絶えず、限界なく拡大し強化するのはわが党の不変の国家防衛路線であり、最も重大な優先課題だ」と述べています。北朝鮮は海軍の強化を進めており、2025年、「崔賢」と同水準の駆逐艦1隻も進水させており、毎年2隻ずつ建造する方針も示しています。朝鮮中央通信によれば、新たに建造する3、4隻目について、金総書記は「戦争抑止力の構築に大きな変化をもたらすことになる」と述べたといいます。また、4月19日には改良型の「地対地戦術弾道ミサイル」の発射実験を行いました。朝鮮中央通信は、短距離弾道ミサイル「火星11」系統のミサイル5発が約136キロ・メートル先の島に向けて発射されたもので、発射実験は、ミサイルに搭載する「散布戦闘部」と呼ばれる弾頭の威力を実証するために行われたと報じています(クラスター爆弾とみられます)。娘(ジュエ氏)とともに視察した金総書記は、「ミサイル弾頭部の専門研究組織を立ち上げて5年をささげたことは少しも無駄ではなかった。貴重な成果だ」と述べ、大きな満足を示したといいます。

少し気になる情報としては、平壌や西部の穀倉地帯、黄海南道の一部地域などで干ばつ警報が発令されたと北朝鮮メディアが報じたものがあります。2026年3月1日から4月20日までの国内の平均降水量は例年の半分程度にとどまり、2015年以降で最も少ないといいます。農作業が本格化する時期に当たり、収穫にも影響する可能性があります。北朝鮮メディアは干ばつが当面続くとして対策を呼びかけたほか、山林火災にも注意するよう求めています。

中国国営新華社通信によれば、王毅外相(共産党政治局員)は、北朝鮮を訪問し、平壌で崔外相と会談、両氏は両国間の協力を強化していくことを確認しています。王氏の訪朝は2019年9月以来で、北朝鮮側が招待したものです。王氏は会談で「あらゆるレベルと分野で対話と実務協力を強化する」と述べ、崔氏は「中国との友好関係を促進することは揺るがない」と応じたといい、中国が主張する「一つの中国」原則への北朝鮮の支持も表明したといいます。さらに王氏は金総書記とも面会し、金総書記は「社会主義を核とする朝中の友好関係を最も大切にし、最優先に重視する」と王氏に説明、中国と台湾を不可分の領土とする「一つの中国」原則を含め、中国側の内外政策を「全面的に支持する」と述べたといいます。王氏は、「変動が絡み合う国際情勢」に直面する中で、中朝両国が「各自の主権や安全、発展の利益を固く守る」ことや、重大な国際、地域問題で意思疎通や協調を強化することを訴えたといいます。両国は2026年、中朝友好協力相互援助条約の締結から65年の記念行事を開く方針で、往来がさらに活発化する可能性があります。条約には有事の軍事援助に関する規定が含まれ、中朝関係の根幹を支えています。中朝関係は、北朝鮮とロシアの接近などによりぎくしゃくしていましたが、2025年9月、金総書記が中国・北京で習近平国家主席と会談して以来、改善が進んでいます。5月には米国のトランプ大統領が訪中し、北京で米中首脳会談が行われる予定で、朝鮮半島情勢も議題になる可能性があり、対米政策について中朝間で事前に協議した可能性があります。なお、中国税関​総署が発表した2026年3月の北朝​鮮へ​の輸出額は1億7060万ドル⁠で、​前年比16.4%減少​(2月は58.5%増)だったとロイターが報じています。前月比はロ​イターの​算出で24.2%増加、主要輸出‌品目⁠は(金額ベース)は、​大豆​油、⁠加工人毛、か​つら用ウ​ール、⁠冷凍アヒル⁠などで、1─2月​の中​朝貿易額は、前年​比22%増でした。

北朝鮮は、同国を脅威と位置づけ​た日本の2026年版外交青書を「重大‌な挑発」だと非難しています。国営の朝鮮中央通信(KCNA)によれば、北朝鮮外務​省の当局者は声明で、外交⁠青書における北朝鮮の​核能力に関する記述は同国​の「主権を侵害する重大な挑発」に当たると主張、日本が完全かつ検​証可能で不可逆的な非​核化を求めていることは「時代錯誤」‌の⁠主張だと述べ、核兵器開発計画は自衛目的だとしています。北朝鮮はこれまで、日本​と米国の​ミサイル⁠開発協力や、日本が核兵器保有への​野心を抱いているなど​と批⁠判してきました。さらに、陸上自衛隊のドローン(無人機)活用拡大に向けた部署の新設や長射程ミサイルの配備を巡り「新たな攻撃手段の確保へと向かう日本の危険な軍事的動きだ」と反発ししています。朝鮮中央通信はミサイル配備などの動きについて日本が「海外侵略のための攻撃型へと確実に変身していることを実証している」と批判、「重大な事態の進展と言わざるを得ない」と評しました。陸上自衛隊は2026年3月末、相手の攻撃拠点をたたく「反撃能力」を担う長射程ミサイルを熊本県と静岡県の駐屯地にそれぞれ配備、射程はおよそ1000キロメートル程度とされ、熊本県の駐屯地からは南西地域や中国沿岸部までカバーが可能となります。4月には無人機の運用に向けた専門部署を陸自内に新設、最長で1600キロメートルほど飛ぶ巡航ミサイル「トマホーク」の納入も始まっています。日本政府は「日本の抑止力、対処力を強化するうえで極めて重要な取り組みだ」と説明しています。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例の改正動向(山口県)

山口県警は暴力団への規制を強めるため、山口県暴力団排除条例(暴排条例)を改正します。歓楽街を対象にした「暴力団排除特別強化地域」を新設し、地域内での用心棒料などの授受について、暴力団と店の双方に罰則を科すなどの内容で、他の自治体の改正動向に同じものとなります。山口県警は暴排条例改正案について、2026年5月19日までパブリックコメント(意見公募)を実施、2026年度中での改正を目指しているといいます。「暴力団排除特別強化地域」内で暴力団が飲食店や風俗店などの事業者から用心棒料を受け取ることと、店側が支払うことを禁止、違反した場合は、双方に1年以下の拘禁または50万円以下の罰金が科され、山口市・湯田温泉や下関市・豊前田などの歓楽街が対象の地域に指定される見込みです。また、青少年を暴力団事務所に立ち入らせることを禁止し、違反した場合は中止命令を出すことができるようにするほか、暴力団事務所の新設禁止区域の拡大・新設もなされます(都市計画法に規定する「住居系用途地域」「商業系用途地域」「工業系用途地域」が暴力団事務所の開設等禁止区域になることで、ほぼ新設が不可能となります)。

▼山口県警 「山口県暴力団排除条例」の一部改正案の概要
  • 改正の趣旨
    • 山口県暴力団排除条例は、暴力団による不法行為等により県の行政や県内の事業活動、県民生活に及んでいる悪影響を排除し、県民の安全・安心で平穏な生活確保に寄与することを目指して、平成23年4月1日に施行されました。
    • 本条例の運用から十余年が過ぎ、県内の暴力団勢力数は減少傾向にありますが、県内の主要な歓楽街、繁華街では、未だに事業者が暴力団と交際し、その関係の遮断が図れていない実態などが認められます。
    • 県では、暴力団を取り巻く社会情勢の変化に応じた規制強化の必要性を認め、県民のより安全で安心な生活を確保するために、条例の改正を検討しています。
  • 改正の概要
    1. 暴力団事務所に対する規制強化【拡大・新設】
      1. 都市公園法に規定する「都市公園」の周囲200メートル区域内で暴力団事務所を開設、運営することを禁止します。
        • 現行の保護対象施設(学校、児童福祉施設、図書館、博物館等)に加え、都市公園法第2条第1項に規定する都市公園を追加、違反した場合には原稿の条例に基づき罰則(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)を科します。
      2. 都市計画法に規定する「住居系用途地域」「商業系用途地域」「工業系用途地域」を暴力団事務所の開設等禁止区域にします。
        • 違反した場合には中止命令を発出します。さらに中止命令に違反した場合には罰則(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)を科します。
    2. 青少年を暴力団事務所に立ち入らせることの禁止【新設】
      • 正当な理由なく、青少年を暴力団事務所に立ち入らせることを禁止します。
      • 違反した場合には中止命令を発出します。さらに中止命令に違反した場合には罰則(6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)を科します。
    3. 暴力団排除特別強化地域【新設】
      • 県内の歓楽街を暴力団排除特別強化地域に設定し、当該地域内で
        • 特定営業の営業に関して、
          • 特定営業者が暴力団員等に用心棒料等を供与する行為(事業者側)
          • 暴力団員等が用心棒の役務の供与、特定営業者からの用心棒料等の利益供与を受ける行為(暴力団員側)
        • を禁止します。
        • 違反した場合には、特定営業者、暴力団員の双方に罰則(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)を科します。
        • 特定事業者が自ら違反事実を申し出た場合には、刑を軽減又は免除することができる自主減免規定を設けます。
        • 暴力団排除特別強化地域には、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する条例第14条「良好な風俗環境の保全を図るべき地域」に指定されている「下関市」「宇部市」「山口市」「周南市」「岩国市」の一部地域を指定します。

(2)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(石川県)

暴力団排除特別強化地域に指定されている金沢市片町の風俗店経営者から現金4万円を受け取ったとして石川県警は、石川県暴排条例違反の疑いで六代目山口組傘下組織・滝本組の幹部と津幡町に住む無職の男を逮捕しています。暴力団排除特別強化地域での禁止行為は7年前に規定されましたが、本件での摘発は石川県内で初めてだといいます。報道によれば、2人は2025年4月下旬に風俗店経営者から営業を認める見返りとして、みかじめ料の名目で現金4万円を受けとった疑いがもたれています。

▼石川県暴排条例

同条例十三条の六(暴力団員の禁止行為)第2項において、暴力団員は、特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすること若しくは当該特定営業を営むことを容認することの対償として利益の供与を受け、又は自らが指定した者に当該利益の供与を受けさせてはならない」と規定されています。また、同条例第二十三条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」として、「二第十三条の六第一項又は第二項の規定に違反した者」が規定されています。

(3)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(佐賀県)

佐賀南署は、暴力団対策法に基づき、浪川会傘下組織組員に対し、不当な方法で金品などを要求しないよう中止命令を発出しています。報道によれば、2026年1月、債務の返済名目で知人の佐賀県内の30代男性に対し、電話で不当に金品を要求したといいます。男性から警察に「借りた金額を大幅に上回る金額を支払っている」という趣旨の相談が寄せられていました。また同署は、暴力団対策法に基づき、小城市の男に対して中止命令(準暴力的要求行為の禁止)を発出しています。2026年2月に佐賀県内の60代女性に電話で「今から来っけん」などと告げ、不当に金品を要求したとしています。

▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

なお、「準暴力的要求行為」とは、指定暴力団員以外の者が、指定暴力団員の行う暴力的要求行為と同様に、暴力団の威力を示して暴力団対策法第9条に掲げる不当な要求行為(27類型)を行うことをいいます。暴力追放兵庫県民センターの解説によれば、準暴力的要求行為を行うことが禁止されているのは「暴力団対策法に基づく命令を受けた者等一定の暴力団周辺者」、「元指定暴力団員」、「指定暴力団への利益供与者等」であり、指定暴力団員が他人に対し、準暴力的要求行為を要求したり、依頼したり、唆したり(教唆)、助けたり(幇助)しても規制の対象となります。

(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(山口県)

山口県警は、違法な貸付金取り立てを行ったとして、下関市の暴力団幹部に、暴力団対策法に基づく中止命令を発出しています。

暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「六次に掲げる債務について、債務者に対し、その履行を要求すること」が規定されています(本件では、そのうちどの類型に該当するか不明ですので詳細は割愛します)。

(5)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(兵庫県)

実弟が起こした交通事故の賠償金を免除するよう不当に要求したとして、神戸山口組傘下組織組長に対し、兵庫県警須磨署が暴力団対策法に基づく中止命令を発出しています。報道によれば、2025年12月、組長の弟が知人男性から借りたワゴン車を運転中、須磨区内の駐車場で止まっている車と接触、組長が男性に「自分が連帯して(賠償金を)支払う」と説明したため、男性が2026年2月にレッカー代など約29万円の支払いを要求したところ、組長が「払わない。追い込みに行かすぞ」と電話で伝えたとされ、署は不当要求に当たると判断したものです。

暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「八人に対し、債務の全部又は一部の免除又は履行の猶予をみだりに要求すること」が規定されています。

(6)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(香川県)

香川県警は、2026年2月初旬頃、組織から脱退しようとした男性を脅し、脱退を妨害したとして、二代目親和会幹部に、暴力団対策法に基づく中止命令を発出しています。

同法第十六条(加入の強要等の禁止)第2項において、「前項に規定するもののほか、指定暴力団員は、人を威迫して、その者を指定暴力団等に加入することを強要し、若しくは勧誘し、又はその者が指定暴力団等から脱退することを妨害してはならない」と規定されています。そのうえで、第十八条(加入の強要等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が第十六条の規定に違反する行為をしており、その相手方が困惑していると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項(当該行為が同条第三項の規定に違反する行為であるときは、当該行為に係る密接関係者が指定暴力団等に加入させられ、又は指定暴力団等から脱退することを妨害されることを防止するために必要な事項を含む。)を命ずることができる」と規定されています。

(7)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(佐賀県)

佐賀県公安委員会は、道仁会傘下組織組員に対し、暴力団対策法に基づいて再発防止命令を発出しています。報道によれば、組員は2026年1月、福岡県内で知人の男性に対し、暴力団の威力を示して「利子を含めて1千万円でいいから返せ」「後遺症が残るくらいうちくらすぞ」などと言い、利息返済の遅延に伴う迷惑料名目で不当に金品を要求、また、2025年11月ごろには別の人物にも不当に金品を要求したといいます。

暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十二条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、第十条第一項の規定に違反する行為が行われた場合において、当該行為をした者が更に反復して同項の規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、当該行為に係る指定暴力団員又は当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員に対して暴力的要求行為をすることを要求し、依頼し、又は唆すことを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

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