企業不祥事・緊急事態対応トピックス

企業不祥事対応 ポジションペーパーの重要性と公表文作成のポイント

2026.05.19
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総合研究部 上席研究員 宮本 知久

書類を作成している男性の手元

『企業不祥事・緊急事態対応トピックス』シリーズでは、緊急対策本部の組織編成や公表の要否判断、緊急記者会見開催の判断など、危機に遭遇した企業が取るべき対応の実務ポイントについて紹介しています。
今回の第7回では、企業不祥事・緊急事態を認知した直後から作成する「ポジションペーパー」についてと、公表文作成の実務ポイントをご紹介いたします。

1.企業不祥事・緊急事態対策本部で作成する主な文書類

ポジションペーパーと公表文の説明の前に、対策本部で作成する主なステークホルダー対応に用いる文書の種類を表1のとおり紹介する。
企業が取るべき対応は、ステークホルダーへの謝罪と説明、被害者の不利益と損害の解消に向けた補償、再発防止の実行による社会的責任の履行、信頼の回復である。こと公表においては、各ステークホルダーの知りたいこと、知らせるべきことを区分し、どのような文書を作成するか検討する。

 

【表1 対策本部で作成する主な文書類の例】

凡例
●は必須
〇は事案等に応じて開示、公表、配布
開示・公表・配布する書類 公表・配布しないがそのステークホルダー用に作成する書類
ホームページ公表文 適時開示 経緯報告書・調査報告書

再発防止報告書

緊急記者会見配布資料 対応マニュアル 想定問答集・FAQ
社外 個人顧客・消費者
取引先
メディア
金融機関
監査法人
個人株主
証券取引所
監督官庁・行政機関
その他(※)
社内 従業員
コールセンター

(※)近隣住民、業界団体など。

 

数点、補足する。
まず、上場会社の場合、ホームページ公表文は適時開示で代用することがある。
次に、「〇」マークの書類は開示、公表、配布してはいけないわけではなく、事案の内容やステークホルダーからの要望に応じて、また要望がなくとも十分な説明を行うにあたって開示等をしたほうがよい場合や、要約版を用いて謝罪、説明を行う場合がある。特に、第三者委員会による調査の報告書は、再発防止策と併せて公表することが多い。
これらの文書の作成は対策本部の各チーム(※)で分担して行うことになるが、後述のポジションペーパーから引用して作成する。
(※)対策本部の編成は、前回のコラム「企業不祥事対応 対策本部組織編制と役割分担」を参照願う。

 

2.ポジションペーパーの作成方法とメリット

企業不祥事・緊急事態対応において必須といえるポジションペーパーについて順に説明する。

 

(1)企業不祥事・緊急事態における「ポジションペーパー」とは

「ポジションペーパー(position paper)」とは、発生事案の事実、原因、経緯、検討事項、会社で決定した対応方針など、事案のすべてを時系列でまとめた報告書のことを指す。自社の立ち位置(position)を示す書類であることからこの名前が付いている。
なお、会計分野においても同名のポジションペーパーと呼ばれる文書が存在する。こちらは、特定の会計問題に対して、組織や個人の立場・見解を明確に示した文書を指し、本項で解説している文書とは別である。
ポジションペーパーは事案の発生直後から作成を開始し(対策本部設置前から作成することがベスト)、対策本部の事務局が更新を担当し、追記、更新していく。

作成例は表3のとおり。

 

【表2 ポジションペーパーの項目例】

項目 記載のポイント
タイトル 簡潔なタイトルを付ける。
事案の概要 事案の概要を記載する。
*下記の項目を記載した結果、把握したあらましを書く。
認知から現在までの経緯 認知から現在に至るまでの事実調査の経緯、会社が取った対応の経緯を時系列で記載する。
発生から認知までの経緯 問題の事象が発生してから認知されるまでの経緯を時系列で記入する。
(例えば、製品の品質不正問題で2年前から不正が行われていたのであれば2年前から認知〔発覚〕までの経緯のこと)
原因 事案の原因を記載する。
調査中の場合、調査中であることを添えて想定原因を記入する。
本件の対応 現在までに会社としてとった対応を記載する。
今後の対応 今後の対応を記載する。
再発防止策 実効性のある再発防止策を構築し、その内容を記載する。
図表・用語集 製品の写真や見取り図、専門用語の解説等を添付する。
統一見解 社会に対する謝罪文と会社の対応方針を記載する。
◆ポジションペーパーの更新方法

  • 更新担当者を決める。(対策本部の事務局が担うことがよい)
  • 対策本部に報告される事実調査の結果、原因分析の結果、行政報告の結果などをもとに更新する。(対策本部に最新情報が報告される体制を作る)
  • 更新作業は1日に何度も行うため、作成日時欄には時刻も記入する。
    例 PP:20260517_12:35
  • ポジションペーパー以外にこれらの情報を記載しない。(他の書類はあえて作らず、ポジションペーパーで情報の一元管理を図る)

要するに「ポジションペーパーを読めば、事案についてのすべて、取った対応のすべて、今後の予定のすべてが書かれている」という状態を目指し、追記、更新して活用する。

 

(2)ポジションペーパーの作成のメリット

企業不祥事・緊急事態対応では表3のような情報の錯綜などの問題が起きやすく、ポジションペーパーで情報の更新を一元管理することで予防を図ることができる。
また、更新作業自体にもメリットがあり、更新していくと、会社として対策本部として次に何をするべきかに気付くことができる。

 

【表3 起きがちな問題】

「誰もやっていない」問題 指示を出したのに誰も着手していない問題
デマ・情報の錯綜 古い情報や間違った情報が混在し、どれが本当か最新か分からない問題
パニックとフリーズ 活動に着手せず、会議で相談ばかりしている問題
ダブり 他の人がすでに活動しているのに、知らずに同じ活動をやり始めてしまう問題
漏れ 調査漏れ、作業漏れ、連絡漏れ、検討漏れ
出典 木村誠明 著『改訂新版 システム障害対応の教科書』株式会社技術評論社
「1.3システム障害対応時に起こり得るさまざまな問題」の項を元に筆者が加工

 

3.ポジションペーパーと対策本部での作成文書類との関係

前掲「1.企業不祥事・緊急事態対策本部で作成する主な文書類」で紹介した対外発信文書、社内文書の作成にあたっては、ポジションペーパーの中から“会社が開示、公表すべき範囲”、“説明しなければならない範囲”を検討し、引用して作ることで、統一した会社方針を各ステークホルダー一律に説明できることにつながる。

3.	ポジションペーパーと対策本部での作成文書類との関係
3.	ポジションペーパーと対策本部での作成文書類との関係

あくまでも筆者の所見であるが、過去の世間での企業不祥事において、開示、公表したあと「説明が足りない」といった批判を招いた会社はたくさんあるが、失敗の一因として、適切なポジションペーパーを作成せずに公表等に臨んだのではないかと思う。
これを踏まえても、ポジションペーパーの作成と更新作業は、企業不祥事・緊急事態対応において、極めて重要な活動、作業である。

4.公表文作成のポイント

(1)ホームページ公表文・適時開示作成のポイント

記載すべき項目と作成ポイントは次のとおり。

 

【表4 公表文・開示文の項目例】

タイトル 簡潔なタイトルを付ける。
リード文 事案概要を短文で記載し、社会に対する謝罪文と会社の原則的な対応方針を記載する。
事案の概要 事案の概要を記載する。
事実関係 結果・結論から先に書く。
5W1H(いつ、誰が、何を、どこで、なぜ、どのように)で書く。
1Y、2T、1B (Yesterday過去、Today現在、Tomorrow今後、Back Ground背景)について簡潔に書く。
経緯 ポジションペーパーの中の、発生から認知までの経緯、認知から現在に至る経緯をまとめて書く。
原因 事案の原因を記載する。

調査中の場合、調査中と書く。

当社の対応 現在までに会社としてとった対応を記載する。
再発防止策 実効性のある再発防止策を構築し、その内容を記載する。
図表・用語集 製品の写真や見取り図、専門用語の解説等を添付する。
◆作成のポイント

  • ポジションペーパーから引用して書く。
  • 「丁寧語」または「謙譲語」で書く。
  • 誰が読んでも理解できる、分かりやすい文章で書く。
  • 専門用語を使うときは、用語の意味を注釈等で添える。
  • 主語と述語がきちんと対応しているかを点検する。
  • 断定してはならない事項について断定していないか点検する。
  • 公表後の世間の反響を想像し、書き漏れ、書きすぎがないか点検する。

最大のポイントは、“公表後の読み手の反響を想像して作成する”ことにある。前掲「1.企業不祥事・緊急事態対策本部で作成する主な文書類」に紹介したとおり、公表文は、すべてのステークホルダーが読むことになるため、不祥事を起こした企業に求められる説明と誠実な姿勢が、文章で表現できていることが必須である。
また、公表時には読んでいないステークホルダーも、公表後に行う会社側の個別の謝罪訪問で他の文書と併せて受け取って読むことになるため、個別の謝罪の局面での公表文の使われ方も意識して作成することが肝要である。

もう一つ、実務上の注意点として、実際に不祥事が起きて公表文を作成するとき、インターネット検索で他社の似たような事案の公表文を検索し、真似して作成する方法が多用される。他社の事例はたいへん参考になり、弊社で作成するときも必ず検索は行っている。しかし、検索でヒットした公表文が、必ずしもお手本としてよい公表文ではない場合があり、注意していただきたい。

 

(2)ホームページ公表文と適時開示のテイストの違い

上場会社の場合、投資家向けの適時開示をホームページ公表文と兼用して掲載する会社を見かけるが、企業不祥事の公表は、関係するステークホルダーすべてに知らせる必要があるわけなので「適時開示で兼用してよい事案なのか」という点を検討してから発表の方法を決める必要がある。
また、兼用するとして「適時開示をWebサイトのIRのコーナーだけに掲載して、株主以外のステークホルダーが読みにくい場所になっている」といった失敗にも注意してほしい。

 

【表4 ホームページ公表文と適時開示の違い】

ホームページ公表文 適時開示
読み手 一般の人・メディア 株主・投資家・メディア
テイストの違い
  • 謝罪の文章を丁寧に書く。
  • 誰が読んでも理解できるようわかりやすく書く。
  • 問い合わせ窓口(≠コールセンター)を必ず書く。
  • 製品自主回収等で消費者に製品を郵送してもらいたい場合、回収方法を併せて記載する。
  • 各証券取引所の「適時開示ガイドライン」に沿って作成する。
  • 発生事実と決定事実を端的に書く。
  • 株主等の関心事である「業績への影響」を書く。
◆参考「プレスリリース」との違い

「プレスリリース」は、新商品の発売や新サービス、新規事業の開始などの企業情報を伝える公式文書。すなわち主にメディア(報道機関)を読み手とした文書を指す(メディアに取り上げてもらいやすいテイストで仕上げる)。適時開示、および企業不祥事対応におけるホームページ公表文とは、厳密には別物である。

5.公表文のホームページ掲載の期間について

最後に「不祥事の公表を行ったあと、いつまで公表文を掲載しておくのか」について説明しておく。なお、この相談は弊社にも多い。会社としては極力、ネガティブな印象を持たれることのないよう、禊が終わればあえて知らせることは避けたいという理由から来るものだ。風評リスクを懸念すれば、検討自体は悪くなく否定はしない。しかし、企業危機管理と健全経営の推進を考えれば、対策本部を解散し、問い合わせもなく収束した後も掲載はし続けることをおすすめしたい。

一つ目の理由として、事案によっては公表が法的な位置づけを有している場合がある。例えば、自動車のリコール事案では問い合わせがなくとも、リコールが完了するまで自動車の利用者等が、リコール対象車両であることを知ることができる方法で周知を続ける必要がある。他にも、個人データの漏えい事案では公表が通知の代替措置と位置づけられているため、企業側に連絡先の情報がなくて通知できない漏えい対象者への通知のためにホームページでの公表は継続しておく必要がある。このように法的な理由で公表を続ける必要がある事案があり、掲載をおすすめしたい。

二つ目の理由は、掲載を取り下げたことで「隠ぺい体質の会社だ」というレッテルが貼られてしまうリスクだ。さらに、掲載の取りやめは従業員も当然、知るところとなる。「うちの会社って都合の悪いことは隠すのね」といった印象を持たれれば、モチベーションも下がるだろう。

このとおり掲載の取りやめにはデメリットが多い。ネガティブなイメージが付くことを避けたい気持ちも分かるが、隠さないことが誠実な企業であることの証明でもあるため、掲載し続けることが前提と考えてほしい。

ポジションペーパーの作成、公表文作成のポイントの説明は以上のとおりです。
今回のコラムを皆様の危機管理経営の参考にしていただければ幸甚です。

 

【参考書籍】

  • 株式会社エス・ピー・ネットワーク 著『企業不祥事の緊急事態対応「超」実践ハンドブック』レクシスネクシス・ジャパン株式会社
    第7章(1)初動対応プロセス ①「事態把握・状況分析」フェーズ
  • 木村誠明 著『改訂新版 システム障害対応の教科書』株式会社技術評論社
    1.3システム障害対応時に起こり得るさまざまな問題

 

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