SPNの眼

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危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

天災は、忘れぬうちにやってくる!これから始めるBCP(第1回)

ニューノーマル時代の帰宅困難者対策における感染症対策を考える

(2011年東北地方太平洋沖地震による鉄道各線の運転見合わせにより、
京王線新宿駅で足止めを受けた帰宅困難者 出典:Wikipedia)

本日(6月23日)時点で新型コロナウイルスの脅威は小康状態を保っているものの、秋・冬に第2派・第3派の到来も予想され、予断を許さない状況です。本稿では、「ニューノーマルの世界で、考え直さなければいけないBCPのポイント」について考えていきたいと思います。

また、当社ではこれまでも新型インフルエンザ対策について「緊急レポート」を発信してきています。こちらもBCPの視点で書かれたものがありますので、あわせてお読みいただければと思います。

■新型コロナウイルス対策、ステージ3におけるBCPと対策本部の役割
■感染症BCP整備の視点と概要~効率的に感染症対策BCPを整備するための勘所
■「ロックダウン(都市封鎖)」寸前?!「緊急事態宣言」に備えた企業の対応とは
■新型コロナウイルス対策、今後の長期シナリオを見すえた緊急事態宣言解除後の事業継続における5つのポイント

都心部における帰宅困難者対策の重要性について

「帰宅困難者」とは、勤務先や外出先等に於いて地震などの自然災害に遭遇し、自宅への帰還が困難になった人のことを指します。東京、大阪などの都心部では、災害時における企業の帰宅困難者対策がとても重要です。内閣府の推定によると、2011年の東日本大震災では首都圏(1都6県)でおよそ515万人の帰宅困難者が発生しました。同じく内閣府の想定によると、例えばこれから首都直下地震が発生した場合、東京都だけで約380万人~約490 万人の帰宅困難者が発生すると想定されています。

このような被害が想定されている場合、企業は何をしなければいけないでしょうか。重要なことは、災害時において「社員を外に出さず、できるだけ社内にとどめておく」ことです。なぜかというと、大きな地震などが発生した場合、建物が倒壊したり火災が発生したりして、多くの人に救助が必要な状況となることが考えられるからです。東日本大震災において、東京では大きな揺れはあったものの、建物の倒壊や大規模な火事などはほとんど発生しませんでした。それでも500万人以上の帰宅困難者が発生し、大変な混乱が発生しているのです。

もし、首都直下地震や南海トラフ地震で多くの要救助者がいる中で、さらに大規模の帰宅困難者が発生したらどうなるでしょうか。停電で信号機も止まっていることが予想されることから、建物の倒壊や火災などでたくさんの道路が渋滞するほか、多くの人が路上にあふれ、大パニックになることは予想に難くないでしょう。すると、建物の倒壊などで下敷きになった人の救助をしなければいけない救急車や消防車が道路を通行することが困難になり、助かる命も助からなくなってしまいます。人命救助の世界では発災から3日間を「黄金の72時間」といいます。ガレキの下などから人を救助するときに、72時間以内に救出すると生存率が格段に高くなるのです。

東京都では独自の「帰宅困難者条例」を定め、企業に対して72時間は大きな災害が発生した後に従業員を会社内に引き留め、帰宅困難者を減らし、人命救助にあてられるように求めています。災害後、少なくとも3日間は従業員を会社内にとどめるのは企業の重要な責務と言えます。詳しくは、以下の東京都のホームページに詳しく記載されているので、企業の担当者はぜひ一度内容を確認していただきたいと思います。

■帰宅困難者対策ハンドブック・帰宅困難者対策条例の概要リーフレット

ニューノーマル時代の企業の帰宅困難者対策における感染症対策を考える

東京都の帰宅困難者対策では、平日日中に事務所内にいると考えられる従業員に加え、外部からの訪問客などを考えてプラス1割分の人数が3日間、会社内にとどまることができるような物資と備蓄を求めています。いわば、企業が自社の従業員に対して避難所を提供することと同義になります。よって、帰宅困難者対策における感染症を考える場合、避難所の感染症対策が参考になることが考えられるでしょう。6月16日、内閣府防災担当より「新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイント【第1版】」が公開されました。この中から、「ニューノーマル」時代に企業が準備しなければいけないポイントを考えてみたいと思います。

■新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイント【第1版】

(1)追加すべき備蓄品

通常の帰宅困難者対策における備蓄は、先ほど挙げた東京都の「帰宅困難者対策ハンドブック」に記載されているので、そちらをチェックしていただきたいと思いますが、さらに避難所の衛生を保つための追加物資が必要となります。大きくは、「避難所運営用の衛生用品」と「避難所運営担当職員用衛生用品」、そして「避難者に配布するための衛生用品」が考えられるでしょう。以下に例を挙げてみましたので、参考にしてみてください。いずれも、自社の避難者数を想定し、その人数が3日間利用できる量を備蓄することが望まれます。

①避難所運営用の衛生用品

  • 液体せっけん(ハンドソープ)
  • 手指消毒用アルコール消毒液
  • 除菌用アルコールティッシュ
  • 次亜塩酸ナトリウム(※後に詳細を記述)
  • 消毒液を入れる容器
  • 非接触型体温計
  • ペーパータオル
  • ゴミ袋(大・中・小)
  • 新聞紙(吐しゃ物処理用)
  • 清掃用の家庭用洗剤
  • 段ボールベッド(簡易ベッド)
  • パーティション

除菌用アルコールティッシュが無くなった場合は、ペーパータオルに消毒液を浸したもので代用できます。ペータータオルは、キッチンペーパーでも代用可です。手洗い場での布タオルの共用は、衛生上危険ですのでやめましょう。体温計は非接触型のものを用いましょう。体に触れるものは、必ずアルコール消毒をしてから使用します。ゴミ袋は大・中・小を多量に用意し、避難者が共同のごみ箱を長時間使用することは避けましょう。

次亜塩酸ナトリウム消毒液(0.05%)を作成する場合は、次亜塩酸ナトリウム液(台所漂白剤など)を原液とし、作成した消毒液は必ず内容を明記した容器などに入れ、作り置きをしないことが重要です。また、次亜塩酸ナトリウム液は目的別に濃度を0.1%と0.05%を使い分けます。吐しゃ物や便処理、血液や体液がついた衣類の消毒などには0.1%を、ドアノブや床、調理器具などの消毒には0.05%を使用します。詳しくは防衛省の以下の資料をご確認ください。

■「新型コロナウイルスから皆さんの安全を守るために」(防衛省統合幕僚監部)

また、段ボールベッドは感染症対策に非常に有効です。ウイルスなどは床に付着します。感染症対策として就寝時には、少なくとも頭が床から30㎝以上離れることが望まれるためです。さらにパーティションも一緒に確保することで、プライベートを確保することもできます。段ボールベッドとパーティションがセットになった商品もありますので、チェックしてみてください。

■暖段はこベッド(Jパックス)

②避難所運営担当職員用衛生用品

  • 使い捨て手袋
  • マスク
  • ゴーグル・フェイスマスク(なければ、眼鏡などで代用も考慮)
  • 長袖ガウン・ビニールエプロン
  • 足踏み式ごみ箱(蓋つき)

使い捨て手袋は、多数の方が触れる場所での作業時(清掃、物資・食料の配布など)に着用します。また、汚れたとき、破れたとき、一連の作業が終了するとき、作業場所が変わる時に交換します。

ゴーグル・フェイスマスクは咳症状のある人との接触時に手袋・マスクと一緒に着用します。入手ができなければ、さしあたり伊達メガネなどでも代用が可能です。

長袖ガウン・ビニールエプロンがなければ、ビニールのレインコートでも代用可能です。ただし、再利用はしないようにしましょう。ごみ箱は、できればゴミ箱に触らずに投棄できる足踏み式ごみ箱を用意しておきましょう。用意できなかった場合は、ごみ箱の蓋の取っ手をこまめにアルコール消毒するようにしましょう。

担当職員に対しては、感染症予防の基礎知識や手袋・マスクの正しい着脱の仕方を説明することが必要です。例えば、「必ず手袋を外してから、手指を消毒し、次にマスクを耳側から外し、本体を触らずに捨てる」といった手順です。前述した「新型コロナウイルスから皆さんの安全を守るために」(防衛省統合幕僚監部)に写真付きで説明が入っていますので、参考にしてください。また、職員の体調管理や業務従事後の十分な休憩ルールなども必要です。職員の心身の健康に配慮した勤務シフトを組むようにしましょう。

③避難者に配布するための衛生用品

  • マスク
  • 除菌シート

マスクは、ニューノーマル時代では全員が当日分は持参しているものと考え、2日・3日目分を備蓄しておきましょう。自分の身の回りは自分で清潔を保つよう、除菌シートを配布することも有効です。

(2)社内避難所の運営ルールの決定

ニューノーマルにおける避難所運営方針は、人数に応じて事前に決めておくことが望まれます。どこに何人の居住スペースを確保するか、断水があった場合の手洗いのルールはどうするか、備蓄はどのように配布するのか、妊婦がいた場合にはどうすればよいかなど、あらかじめ決めておくと、運営がスムーズになります。もちろん、居住スペースや物資配布時にも2m(少なくとも1m以上)の間隔を空け、密を避ける必要があります。また、社外の人が避難する可能性もあるため、避難者名簿の作成は重要です。

  • 避難者の居住レイアウトの決定
  • 避難者名簿の作成
  • 手洗いなどの利用ルールの掲示
  • 掃除・消毒に関するルールの設定
  • 備蓄や食料配布の密を避けた手順の設定
  • 妊産婦など要配慮者の対応

従来であれば、「緊急時には床にビニールシートを敷いて雑魚寝すればいい」という考え方が一般的でしたが、密を避けるためには従来は活用していない部屋も含め、社屋すべてを活用したレイアウトの設定が不可欠です。できれば事前に社内でHUG(避難所運営ゲーム)をするなどして、密にならずに避難者が過ごせるようなレイアウトを事前に考えておくことが重要です。通常の避難所であれば、「世帯」を基準としてソーシャルディスタンスを意識したレイアウトを組むことができますが、従業員の場合は一人ひとりが基準となり、レイアウトが複雑になります。女性専用の居住区を事前に考えておくなどの取り組みが必須でしょう。また、後述する「咳などの体調不良者」ための隔離施設とゾーニングも検討する必要があります。ゾーニングは専門家の意見を取り入れることが重要になります。

①空間利用の注意点

  • 居住区は2m以上の間隔を空ける。
  • 段ボールベッドパーティションを活用する
  • 普段使わない部屋などの活用も検討する
  • 定期的な換気のため、ドアなどの前に物資を置かない

②手洗い環境の整備

  • 断水時には流水で手洗いができるような手洗い場の設置が早期に必要

③手洗いルールの設定

  • 液体せっけんと流水での手洗いの後、手を乾燥させる必要がある。この時にタオルの共有は不可。
    洋服で拭くことも不可。ペーパータオルの多量の準備が必要
  • 流水環境がなければ、アルコール手指消毒だけで対応することも検討する
  • 手洗いタイミングの周知:手が汚れたとき、外出から戻った時、多くの人が触れたと思われる場所を触った時、咳・くしゃみ・鼻をつかんだ時、配布などの手伝いをした時、炊き出しをする前、食事の前、症状のある人の看病や排せつ物を取り扱った後、トイレの後など。

④掃除・消毒・換気ルールの基本

  • トイレ・出入口・ドアなど人が触る部分を重点的に清掃・消毒する。
  • 消毒はアルコール消毒液や次亜塩素酸0.05%溶液などを用途別に用いる。「2時間ごと」などルールを決める。
  • 換気は最低でも「2時間ごと、10分間」などルールを決める。空気の流れをできるだけ作る。湿度を高くしない。

⑤食事・物資配布ルールの基本

  • 食品などを置くテーブルなどは、アルコール消毒液で常に吹いておく
  • 手渡しはしない。個包装の製品を準備する
  • 一斉に取りに来るような方法は避ける
  • 配布場所には手指アルコール消毒液を用意する
  • 担当者は手袋とマスクを着用する
(3)体調不良者の対応

ニューノーマル時代に最も考えなければいけないことは、感染症を疑う有症状者への対応です。体調不良者が発生した場合、健康な人に移さないようにトイレなどもあわせて隔離が必要となります。同時に、体調不良者が申告しやすいような環境や雰囲気を作ることも大切です。

  • 感染症を疑う有症状者への対応の検討
  • 隔離室の準備、無ければテントなどを準備
  • 産業医などによる相談者の設置
  • 公的機関のコールセンターの案内

①感染者への対応、隔離室設置についての注意点

  • 感染症の症状を持つ人がいた場合のフロー図を、事前に保健所と検討しておく
  • 咳・発熱・下痢などの症状を持つ方を確実に隔離できる空間を選定する
  • 二次避難のリスクがなければ、階を分けることが望ましい
  • 隔離室の準備が難しければ、自立型テントやキャンピングカーも考慮する
  • 間仕切りを使用する。プラスチック素材など拭ける素材で天井から床まで張り巡らすことなどで工夫する。
  • 定期的な換気のため、窓が一箇所以上ある場所が望ましい
  • 飛沫予防策・接触予防策を実施する
  • トイレも専用に区画する
  • ゾーニング場所をテープや注意喚起で分かりやすく表記する。

【ゾーニングの基本】
▼清潔な区域とウイルスによって汚染されている領域(汚染区域)を明確に区分する
▼区域が分かるようにテープや張り紙などで表記する
▼感染者(疑いも含む)と、他の方の生活の場や移動の場所が交わらないようにする
▼汚染区域に入る前に、適切な防護具(マスクや手袋など)を行う
▼清潔区域に入る前に、使用した(身に着けている)防護具を脱ぎ、手洗いをする

「ニューノーマル」の帰宅困難者対策を継続することの重要性

以上、最低限考慮すべき帰宅困難者対策における感染症対策のポイントを挙げてみました。これまでも、東日本大震災、熊本地震ほか様々な災害における避難所において感染症対策の必要性が指摘されてきました。しかし、今ほどその重要性がクローズアップされたことはないでしょう。感染症対策による「密の回避」「清潔さの持続」「要感染者への配慮」は、そのまま避難所における避難者のQOL(Quality of Life)向上につながることは自明の理です。

今回検討する「帰宅困難者対策における感染症対策」を一過性のものとせず、今後のデファクトスタンダードとして、役立てていただきたいと思います。

以上

参考文献:「新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイント」(内閣府防災)/避難所開設での感染を防ぐための事前準備チェックリストVer.2(人と防災未来センター)/「新型コロナウイルスから皆さんの安全を守るために」(防衛省統合幕僚監部)/「新型コロナウイルス感染症対策に配慮した避難所開設・運営訓練ガイドラインについて」(府政防第1239号)

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