SPNの眼

【緊急レポート】新型コロナウイルス禍における顧客対応~カスタマーハラスメント対策も含めて

2020.07.14
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執行役員(総合研究部担当) 主席研究員 西尾 晋

1.はじめに

当社では昨年5月に、全国顧客対応経験者、約1000名のご協力を得て、カスタマーハラスメントに関する実態調査(以下「カスハラ実態調査」)を実施し、当社ホームページにて、その結果を公表した。

▼カスハラ実態調査

また、昨年10月~12月にかけて、私は、「企業として押さえるべき、カスタマーハラスメント対策~Vol.1~3」と題する論考を執筆して、当社ホームページにて、公開した。

▼企業として押さえるべき、カスタマーハラスメント対策~Vol.1

▼企業として押さえるべき、カスタマーハラスメント対策~Vol.2

▼企業として押さえるべき、カスタマーハラスメント対策~Vol.3

その後、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し、外出や営業の自粛が要請された一方、マスクやトイレットペーパーの品薄によるドラッグストア店頭や宅配員へのカスタマーハラスメントがクローズアップされ、経済活動再開後も、「自粛警察」と呼ばれる、自身の偏向的な価値観をゴリ押しする輩も話題となった。

企業の顧客対応を行う上で、今や、カスタマーハラスメント対策は必須の状況であり、カスタマーハラスメントを放置する企業は、人材の流出やロスの増加等、大きなリスクを抱えることとなる。

そこで、今回、改めて、「新型コロナウイルス禍における顧客対応」と題して、企業のおけるカスタマーハラスメント対策を含めた、顧客対応の在り方について、解説することとする。

2.カスタマーハラスメントの実態と、企業として認識しておくべきリスク等

(1)カスハラ実態調査が示唆するところ

まず、昨年5月に実施した「カスハラ実態調査」の結果を改めて紹介し、アンケート調査が示唆する企業としての課題について、整理していきたい。ここでは、特に取り上げておきたい調査結果と、その結果を踏まえて企業として認識しておくべき事項について解説する。

まず、カスハラ実態調査では、「カスタマーハラスメント」については、消費者や顧客などが、クレーム・苦情を企業に行う際に、担当者に対し(1)通常の顧客対応(CS)以上のことを言わせる(2)クレーム・苦情には関係のない暴言を吐くなどの行為により、担当者に過度なストレスを与えることと定義した。

そして、このようなカスタマーハラスメントが直近3年間で増えているかどうかを尋ねたところ、「とても増えている」「増えている」と回答したのは、55.8%に上った。

また、直近3年間で、「変わらない」との回答も41.8%に上った。「変わらない」とはカスタマーハラスメントが3年前もあることを前提としていることから、97.6%もの回答者が、カスタマーハラスメントの存在を認識している実態が明らかになった。

また、「カスタマーハラスメントにどの程度困っているか」については、「とても困っている」と「困っている」という回答が58.1%に上った。この結果を踏まえて認識しておくべきことは、カスタマーハラスメントはもはや「常態化」しているということである。言い換えれば、もはや「他人ごと」ではないこと、カスタマーハラスメントはすでに現場では深刻なリスクになっているということである。

逆に言うと、自社はカスタマーハラスメントには無縁であると考えている企業は、現場では「穏便」に処理される現実がある可能性、言い換えれば、報告されていないだけという可能性を念頭におかなければならない。

そして、「カスタマーハラスメントを受けたことがある方の中で、あなたが以前対応したカスタマーハラスメント顧客の特徴は、どんなものがありましたか?」という質問に対して、上位5つの回答は、

  1. クレーム中に何度も同じことをいう
  2. 要求が不当な要求である
  3. 論点がズレたクレームをする
  4. クレーム中の口調が命令口調
  5. クレーム中に大声で話す

であった。これらは、昔からクレーマーやカスタマーハラスメントを行うものが用いる手口の典型的なもので、実態調査ではその手口が今でも変わらないことが明確となった。

この結果から、企業として認識しておかなければならないのは、このような顧客への対応を強いられる現場は、「業務負荷が大きく、緊張感の高い現場」であること、現場では、やりたい放題に蹂躙されている可能性があり、対応担当者は人格否定やストレスに晒されていることである。不当要求やカスタマーハラスメントが横行する現場では、従業員は、理不尽な行為に「断れない」辛さと、理不尽な行為に「耐え忍ぶ」辛さを抱えていることを忘れてはならない。

さらに、「カスタマーハラスメント顧客の対応によって会社内の以下の項目にどれくらい影響があるか」について、8割の人が「影響あり」と回答したのは、

  1. ストレス増加:93.1%
  2. 業務遅延:82.5%
  3. 仕事意欲への低下:82.1%

であった。

この結果は非常に重要である。当社では、5年以上前から、不当要求は「ロス」にしかならないことを説明してきたが、正に、それが証明された結果となった。ここで改めて認識しておくべきことは、「カスタマーハラスメントや不当要求は『ロス』を生む」ことである。

(2)パワハラ防止対策法制における「カスタマ―ハラスメント対策」

さて、このような実態を受け、社会問題化しつつあるカスタマーハラスメントに関して、厚生労働省の告示、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)」では、「カスタマーハラスメント」対策について、企業に体制整備の努力義務が課されている。

▼事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)
→「7.事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等か らの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容」の部分

具体的には、以下の行為を対象とした対策を要請している。

  • 引先等の他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)からのパワーハラスメント
  • 顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)

すなわち、顧客からの著しい迷惑行為の他、取引先からの従業員からのハラスメントについても対象としており、BtoCのみならず、BtoBにおけるカスタマーハラスメントも対象としている。

その上で、

  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 被害者への配慮のための取組
  • 被害防止のための取組

についての体制整備に努めるように求めている。

そして、「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」については、

  • 相談先(上司、職場内の担当者等)を定め、労働者へ周知する
  • 相談先が相談の内容に応じ、適切に対応できるようにする
  • 労働者が①の相談をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発する

等を例示している。

また、「被害者への配慮のための取組」については、

  • 相談者から事実関係を確認する
  • 問題が認められた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための取組を行う

とした上で、「被害者のメンタル不調への対応相談、著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に1人で対応させない」と例示している。

さらに、「被害防止のための取組」については、

  • 対応するためのマニュアル作成や研修の実施等の取組を行うこと
  • 業種、業態等における被害の実態や業務の特性を踏まえて、状況に応じた必要な対応、取組を進めること

が、被害の防止に効果的としている。

さて、この厚生労働省の通達は、従来、当社が提唱・解説してきたカスタマーハラスメント対策からすると、やや物足りないが、重要な項目は最低限押さえているといえるであろう。

(3)CS対応の原点・原則に立ち返る

さて、カスタマーハラスメント対策のポイントについては、昨年末に解説した原稿を補足の上、再掲するとして、その前に重要な点について言及しておきたい。

それは、昨今、確かにカスタマーハラスメントが増えており、企業としての対策が重要であることは間違いないが、一方で、企業側の対応のまずさから、お客様を怒らせ、それをカスタマーハラスメントとして対応してしまっているという現実もあることである。

現実に、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言等で、企業側も在宅勤務体制等により、従来の体制では顧客対応ができない状況になっていたにしても、それを理由に本来行うべきサービスやサービスの改善を怠ったり、適切な対応ができていないことを正当化したりする事態が、残念ながら見られた。

散々お客様をお待たせたり、ご不便をおかけしながら、新型コロナウイルス感染症対策を口実に、現状をお客様に強いる状況は、本来のCS対応の原則とは言い難い。

CS対応の原則に立脚すれば、過度な謝罪は不要でも、お待たせしたことやご迷惑をおかけしたことは丁重に詫びつつ、理解を求めるべきであるが、全く謝罪せずに、開き直る事業者までいる始末である。

このような姿勢では、パワハラの事例でも挙げられる事例のごとく、自分のミスは棚に上げて、上司が大声を出したり、皆の前で怒られたりした場合に、パワハラを主張するようなもので、全く論外である。

改めて企業として、自問自答して欲しい。「お客様が怒ったら、カスタマーハラスメントですか」、「そもそもお客様が怒っている原因は何か、お客様が怒るのも当たり前の状況ではないのか」、「CSとして、本来取り組むべきことは何か」と。

新型コロナウイルス感染症から従業員を守る必要があるにしても、お客様を疎かにする姿勢が強ければ、それはお客様軽視にほかならず、お客様が怒っても当たり前である。自社の従業員を感染症からまもりつつ、お客様にご迷惑をかけたり、ご不便をかけたりする事態を極力少なくするような改善・改良を行うのが、本来のCSであることを忘れてはならない。

新型コロナウイルス感染症予防は重要であるが、それを口実に、対応やサービスの制限をいつまでも続け、顧客に不利益を強いるのではなく、ニューノーマルの時代に合わせた新たな対応やサービスのスキームを確立し、従来の対応やサービスに劣らないクオリティを確保、維持していくことが、本来のCSの在り方であることは、強調しておきたい。消費者行動や企業の事業活動のスキームも変わっていく以上、従来の延長線上での発想では競争力を失っていく。ユーザーからすれば、不便でしか無いからである。CS対応を疎かにしてカスハラを問題視するのは本末転倒である。カスタマーハラスメント対策の本論を論じる前に、まずは、この点を改めて強調しておく。

3.企業として行うべきカスタマーハラスメント対策

さて、ここからは、企業として行うべきカスタマーハラスメント対策について解説していく。なお、昨年末の原稿を再掲しつつ、適宜補足していく形式で記述していく。

企業として行うべきカスタマーハラスメント対策は、「組織体制の整備」と「現場の対応要領」の2つに分けることができる。

そこで、まずは、「組織体制の整備」から解説する。

既に解説した通り、カスタマーハラスメントを含む不当要求は、従業員に大きなストレスを与える。特にこのような行為を行う顧客への対応は対応力の高い社員に集中しがちなことから、対応力のあるスタッフは、過重労働にも発展しかねず、対応時のストレスと相まって、メンタル不調をきたす恐れがある。あるいは、上司が穏便に済ませるように現場に指示を出していたがために、現場担当者が精神的・肉体的に疲弊し、メンタル不調をきたす可能性も決して低くはない。

カスタマーハラスメント自体は以前からあるものの(「カスタマーハラスメント」という言葉ができるまでは、個々の特性に着目して、いわゆる「モンスタークレーマー」と呼ばれてきた。)、それが広く社会で蔓延し大きな社内問題となっている昨今の社会情勢(だからこそ、「カスタマーハラスメント」という言い方が普及した。ただし、これまでの文脈では、例えば、「パワーハラスメント」や「セクシャルハラスメント」のように、ハラスメントとなりうる行為や言動を踏や、「マタニティハラスメント」や「パタニティハラスメント」のように、ハラスメントを受ける客体(被害者)に着目したネーミングがされてきたが、「カスタマーハラスメント」は、カスタマー、すなわち顧客(「主体」)によるハラスメントという形で、行為者に着目したネーミングがされている点で、他のハラスメントとは、やや異質と言える)を踏まえれば、カスタマーハラスメントがもたらす大きな影響やリスクも相応に周知・認識されており、その中で企業が何らかの対策を行っていないとすれば、上司によるカスタマーハラスメントに耐えるような指示(黙認・放置も含む)は、将来的に、パワーハラスメントとして、あるいはメンタル不調は職場の安全配慮義務違反として、裁判等で主張されてくるリスクも、十分に想定できる。

企業としてのカスタマーハラスメント対策の重要性を認識し、特に現場部門を預かる幹部は率先して、従業員のケア等とカスタマーハラスメントを許さない職場環境づくりに取り組んでいただきたい。

カスタマーハラスメント対策のための組織体制の整備を進める上では、何よりも、経営者や経営幹部が、カスタマーハラスメントのリスクと重要性を認識することが重要である。具体的には、カスタマーハラスメントから「従業員を守る」ことを明確にすることである。そのためには、まず、クレームと不当要求を区別しておかなければならない。

カスタマーハラスメント対策を進める上で、経営幹部が認識・実行していくべきことは、次の3つである。

一つ目は、「不当要求=ロス」の意識を持つことである。従来の日本企業では、「お客様は神様」という意識が強く、商品やサービスの改善事項の指摘を含む有益な「クレーム」と、顧客のわがまま、言いがかりをゴリ押しする「不当要求」は明確に区別されずに、「クレーム」の一言にまとめられてきた。こうなると、真摯に対応すべき「クレーム」と、対応をお断りすべき「不当要求」の区別がつかなくなり、「顧客満足」や「お客様第一」というスローガンのもと、結局顧客の言いなりになったり、本来応じるべきではない要求に応じてしまうという事態に陥ってしまう企業が少なくなかった。

このような従来の発想では、カスタマーハラスメントを伴う「不当要求」に対する対応方針を明確化できない。現場では、引き際が分からないからである。カスタマーハラスメントに負けない為には、現場で対応できる実践的なノウハウ、概念が重要であり、「一線を越えたら、対応をお断りしてよい」という対応要領を浸透させるためにも、「クレーム」と「不当要求」を明確に区別しておくことが重要なのである。

なお、「クレーム」と「不当要求」を区別するとセミナー等で解説すると、「クレーム」か「不当要求」かと二者択一で判断して、本来、正当な「クレーム」であるにも関わらず、お客様が怒っている等の理由で「不当要求」と決めつけて対応してよいと考える人がいるが、それは間違いである。あくまで、CS対応の原則が根底にある以上、最初は「クレーム」として対応し、一線を越えたら、そこから先は、「不当要求」として、粛々と対応していくことが肝要である。要は、どこまでお客様に寄り添うかの引き際の役割をはたすのが、「不当要求」の概念なのである。

二つ目は、現場で戦うための武器の整備である。

ここで重要な役割を果たすのが、当社が、5年以上前から提唱している危機管理的顧客対応指針5か条(以下、5か条)である。今回は、現場で戦うための武器としての5か条について、組織作りの観点からの意義と、その概要について解説する。なお、本稿では、5か条の詳細には触れない為、当社会員企業においては、会員専用サイトで、5か条に関するセミナーを視聴いただいてその内容を把握いただきたい。また、当社書籍、「クレーム対応の『超』基本エッセンス(新訂版)」(2018年・第一法規刊)にて詳細に解説している。ご興味のある方は、当社書籍にて、そのノウハウを習得いただきたい。

▼クレーム対応の「超」基本エッセンス(新訂版)
→大変好評いただいており、新訂版として初版をリニューアルしている。なお、書籍では、現時点では、カスタマ―ハラスメントに対応する組織づくりの部分は、あまり言及されていない。

そして、三つ目は、現場スタッフの安心感の醸成である。

不当要求の中でも過剰・理不尽な行為の連続であるカスタマーハラスメントについては、対応に当たるスタッフのストレスと緊張感は相応なものがあり、安心して業務に当たれる環境になくては、カスタマーハラスメントに屈してしまいかねない。現場スタッフを孤立させないための組織的な対応体制の整備とスタッフのメンタルケアを中心とした、現場スタッフの安心感の醸成のための対策所以である。

順に説明する。

(1)クレームと不当要求

「お客様は神様です」。日本企業では昔からこのスローガンが浸透し、店舗等の現場では、少々のお客様のわがままや理不尽な要求に対応してきた。その伝統が、未だに多くの企業や組織で浸透しており、企業や組織にとってロスでしかないカスタマーハラスメント等の不当要求に耐えている企業が多い。クレーム対応に関しても、従来、クレームはお客様の声として、企業経営に生かして顧客満足度の向上につなげていくことの重要性が強調されてきた。

SNSの普及・浸透により、レビューサイトやまとめサイト、コメント欄の表示等により、お客様の声が様々な形で見える化されている現代においては、お客様の声としてのクレームを、サービスや商品の改善につなげていくことの重要性は以前に増して高まっている一方で、困った人たちによるカスタマーハラスメント等の不当要求も激増している。

当社では、5年以上前から、クレームと不当要求を区別することを提唱している。

①クレームと不当要求の違い

クレームは、サービス商品の改善すべきポイントをお客様が指摘してくれるもので、これに適切に対応することで、顧客満足度や競争力が増し、企業の収益の向上に繋がっていく、分かりやすく言えば、企業にとって「+」(プラス)になるものである。

他方、不当要求は不当・過剰・法外な要求、犯罪等に近い行為により自らの要求をごり押ししようとするなど、企業に必要以上の対応を迫るものである。不当要求は、企業の視点でみれば、ロスしか生まない。延々と長時間対応を強いられることによる時間的ロス(機会損失を含む)、払わなくてよい金品を渡してしまうこと、あるいは本来はお支払いいただくべき代金を免除させられる等の金銭的ロス、従業員が理不尽行為を強いられることによるストレス等に起因する精神的ロス、もともとクレーム産業はなかなか人が定着しないと言われるが、カスタマーハラスメントのような不当要求対応を強いられ職場や仕事から解放されたいと担当者が辞めてしまう人材ロス等、企業経営上も看過できないロスを生む。さらに、時間的ロスは、それにより業務遅延や業務遅延による残業の発生、特定のお客様の対応に数時間かかってしまうことで別のお客様をお待たせすることで、それが新たなクレームを生む等の間接的なロスをも生起する。また、ストレスフルな状態のまま顧客対応を強いて従業員がストレスでうつ病等を発症すれば安全配慮義務違反の問題にも発展していく。不当要求は、ロス、すなわち企業にとって「-」(マイナス)になるものである。

②「不当要求=ロス」意識の徹底

カスタマーハラスメントは不当要求でしかない。カスタマーハラスメント対策を進める上で重要なのは、経営トップが、不当要求は「ロス」であることを認識し、そのロスを低減させるために、「不当要求には応じないこと」、「効率的に対応すること」を、社内に明確に宣言することである。

そして、それを受けて、管理職がクレーム対応の現場で、それを実践することである。「上司出せ」といわれて出て行って、従業員と同じように理不尽なカスタマーハラスメント行為に耐えていては、カスタマーハラスメント対策は進まない。上司ないし責任者として出て行ったのであれば、「お客様、当社の従業員に対して酷い暴言があったようですので、我々は、これ以上、お客様と話をすることはありません。お客様の行為が度を越えるのであれば、当社は従業員を守ります」と宣言して、断固たる対応をしなければならない。

不当要求を断ってよい理由、断るべき理由は、不当な暴言・暴力などから「皆さんを守るため」であり、対応できないことに対応する「皆さんの負担を減らす為」であり、不当要求により「皆さんの努力を無駄にしない為」なのである。

(2)クレームと不当要求を区別することの重要性と意義

日本の企業では、まだまだ、企業にとってプラスとなる「クレーム」と、マイナスを生む「不当要求」を区別せずに、両者を「クレーム」という言葉でまとめしまっている現状がある。この状況だと、改めて言及すれば、そもそもそこに「ロスを生む」等、要求を断る理由がないことから、「クレーム」として、「お客様第一」とか「顧客満足」というスローガンのもと、結局お客様の言いなりになって、本来受け入れてはいけない不当要求に応じてしまう。

言いかえれば、不当要求を受け入れてしまうことで、対応すればするほど、ロスを生んでいるという皮肉な状況になっているのである。結局は、言ったもん勝ちのお客様にだけ特別対応をしていることであるから、全体的顧客満足度は向上しておらず、やればやるほどロスを出しており、何のために対応しているのか、ということになってしまう。

「ロス」を生み出す「不当要求」概念を明確化する意味は、断ることの理由付け、意識付けにある。カスタマーハラスメントが問題化する現代においては、クレームと不当要求を明確に分け、ロスしか生まない不当要求は、効率的に対応し、受け入れないように徹底していくことこそ、企業の危機管理として極めて重要である。

カスタマーハラスメント対策として、最優先でやるべきことは、経営者や経営幹部が、不当要求は種々のロスを生み、一度受け入れてしまうとどんどんエスカレートして図りしれないロスに繋がることをしっかりと認識すること、そしてそのような不当要求には断固として対応し、受け入れないことを社内外で明確に宣言することである。

最近では、カスタマーハラスメントに対する対応方針(ポリシー)を明確に策定・宣言する企業も出初めている。誠にすばらしい企業姿勢である。

ポリシーの形でなくても、店頭等に、カスタマーハラスメントに応じない姿勢を掲示することでも十分である。不当要求は大きなロスをもたらし、特にカスタマーハラスメントは従業員のメンタルを損なうリスクを正しく認識し、カスタマーハラスメントへの対応方針を社内外に宣言しておくべきである。

参考までに、店舗等に掲示するカスタマーハラスメント対応方針の文例を掲載する。

(参考文例)

「最近、一部のお客様から、従業員に対して、度を越えた暴言や暴力行為、長時間にわたる苦情申し立てによる拘束、対応できる範囲を超えた無理(社会通念を超えた)な要求への対応の強要等の行為が頻発しています。

当該お客様の事情・言い分を執拗に振りかざし、特別扱いを求めるこのような行為は、犯罪行為が行われる場合があるほか、他のお客様への対応の時間を無視して執拗かつ長時間に渡り行われるなど、多くのお客様に当社商品・サービスへのご満足度を高めていただく観点からも、当社としては到底看過できるものではありません。

当社としては、コンプライアンスの観点及び、他のお客様へご迷惑をおかけする事態を回避すべく、このような理不尽な行為に対しては、警察その他の関係機関と連携しながら、断固として対応してまいります。」

カスタマーハラスメントは、一部のお客様が自らの主張をごり押ししようとする過程で行われるが、往々にして、自分の要求を通そうと執拗かつ長時間に渡り、行われるケースが多い。対応に従業員が長時間拘束されれば、他のお客様に対応できなくなったり、少ない従業員で他のお客様に対応せざるをえず、他のお客様にも甚大な迷惑がかかる。暴言や罵声を浴びせるために大声を出していれば、その声は他のお客様にも聞こえており、他のお客様からすれば、迷惑でしかない。暴力や物を投げる行為も、近くにいるお客様もあおりを食って巻き添えになってしまう場合もあり、他のお客様からすれば、迷惑でしかない。

従業員を守り、お客様の安全・安心・期待を確保するためにも、堂々と上記のように宣言し、「他のお客様にも迷惑となりますので、お断りします。お引取りください」と明確に伝えられる環境を作る、あるいは、犯罪行為等の場合は躊躇なく警察通報できる方針を現場に明示することが重要であり、このような宣言が間接的に迷惑をこうむる他のお客様にも安心感を与えるのである。

「不当要求を断る方針の明確化及び社内外への明示」に関して、社外や顧客に対しても会社の方針の方針として、「不当要求は断ること」「カスタマーハラスメントに対しては、決して屈せず、法的対応も含めて徹底的に対応すること」を明示することが重要である。

このように禁止行為や理不尽な行為への拒絶の意思を明確化し、明示・宣言することは、現場の対応をやり易くすることに繋がる。そして、こうすることで、無理やり(執拗に)カスタマーハラスメント行為を続けたという外形を作ることができる。

もちろん、このような宣言は、例えば、航空機を利用した場合に搭乗直後に流れる航空法による禁止行為の伝達のような形でもよい。企業側が禁止・拒否している行為を、それを知りながら行った以上、対応打ち切りや警察対応等の行為者にとって不利益な対応をされても、それは自業自得でしかない。

現場では、クレームか不当要求か明確に線引きしにくいのは確かであるが、それでもなお、いざというときに対応を拒否したり、警察に通報したりといった毅然とした対応ができるための宣言を社外にも明確にしておくことが重要なのである。

「拒絶の意思表示をしていることに対して、あるいは禁止事項(ルール)を破って、理不尽な行為を行った」というロジックを組み立て、顧客側の悪質性を強調することが、警察対応や出入り禁止対応を行う上での重要なポイントになる。

(3)不当要求対応の研修の実施

もう一つ重要なのは、きちんと、不当要求への対応要領を従業員にレクチャーすることである。

不当要求対応は、その勘所を押さえてしまえば決して難しくはない。ただ、あまり多く遭遇しない場面のケーススタディーを数多くやっても、なかなか使いこなせるものではないし、警察OBがよくやるような押さえ込みに近い対応は、SNS全盛のこの時代は、逆にSNSで拡散され、企業価値を大きく損ねる。このような対応は目には目を歯には歯を的な対応にすぎず、コンプライアンスの観点からは大きな問題があるからである。そして、このようなテクニック論は、簡単に使いこなせるものではなく、使い方を間違えれば足元を救われる。まさに「生兵法は大怪我のもと」なのである。

原理原則を押さえ、CS対応の原則に立脚しながら、相手の手口やロジックを踏まえた合理的な対応方法を従業員にしっかりと研修し、訓練し、さらに実際の対応の際は磐石のサポート体制を組むこと、実はこれが最も合理的かつ効率的にカスタマーハラスメントに対応できる方法論なのである。

カスタマーハラスメントによる不当要求に対しては、「毅然かつ断固たる対応」が重要であることは間違いないが、これは決して、真っ向からけんか腰で顧客と対決するような高圧的な対応を意味しない。このような高圧かつ対決姿勢を鮮明にた対応姿勢は企業のイメージも損ねてしまう。あくまで要求内容が一線を越えた場合に、やんわりと不当要求への対応をお断りしていれば、カスタマーハラスメントを行う顧客は、自分の思い通りにならない実情にいら立ちを覚え、暴言や暴行等、さらにその不当要求行為がエスカレートさせてくる。

この段階で、(2)後段で解説したような顧客側の自己責任を明確にするような対応を行い、違法性・悪質性を高めていき、警察対応や出入り禁止等の対応に移行させていけばよい。まさに、柔よく剛を制するの精神で、分かりやすくいえば、不当要求をいなしていけば、カスタマーハラスメントを行う顧客側が勝手に一線を越えて自滅してくれるのである。

このような対応要領を含めて、原理原則について、当社では、危機管理的顧客対応5か条として、まとめ、先に紹介した書籍にて、そのノウハウを公開している。簡単ではあるが、その内容を次に紹介する。

(4)危機管理的顧客対応5か条

対応ノウハウについては、自社で確立されたものであればそれで構わないが、その内容は、不当要求対応やカスタマーハラスメントへの対応要領が具体的に盛り込まれたものでなければならない。

また、それに基づいて対応したことで、従業員が世間から批判を浴びることのない社会的合理性を有したものでなければならない。言い換えれば、対応を拒否するなら拒否するで、なぜ対応を拒否するのかが、現場においても、世間的にも、説明責任の果たせるものでなければならない。

①危機管理的顧客対応5か条の意義

当社では、このようなノウハウとして、5か条を提唱・推奨している。具体的な内容の解説は本項の目的ではないし、当社で書籍も刊行しているので、ここでは触れないが、当社推奨の5か条が戦うための武器として、有用性を有していることの意義は次の5つである。

  • 多くの対応実績に基づき、不当要求に負けないための「エッセンス」が明確化されている(実践性)。
  • CSベースの対応を基本としており、企業イメージを損なわない。
  • 現場で使えることを重視し、実際の対応フローに併せてポイントを網羅している。
  • たった5つの内容で構成されており、シンプルで覚えやすい。
  • 行為者の自己責任・自業自得を根拠とする等、社会的合理性を有している。

②危機管理顧客対応5か条の内容

ここで、5か条の内容をここで紹介しておきたい。なお、それぞれの内容をどのように活用するかは、セミナーや書籍で確認いただきたい。

第1条 初期対応は慎重かつ冷静に対処せよ
第2条 クレームと不当要求は似て非なるもの
第3条 初期対応では3つの基本を徹底せよ
 ①話を聞くに徹する
 ②事実関係の確認・明確化
 ③対応時の内容の記録・共有
第4条 お客様の「話」は4つの要素の使い分けを意識せよ
 ①事実
 ②不満
 ③意見
 ④要求
第5条 お客様の要求に応じるか否かは、5つの基準で判断せよ
 ①責任の有無
 ②損害(不利益)との因果関係
 ③要求行為の正当性
 ④要求内容の対価性
 ⑤要求内容と原因の関係性

第1条は不当要求者が、初期対応で企業の担当者から何らかの約束や補償を取り付けようと注力していることを踏まえて、あせらずに、しかも即答を避けて、状況の把握に努めることを徹底するように意識付けしようという趣旨である。

そして、そのために何をするかを明確にしたのが、第3条である。実際の顧客対応の流れにあわせて解説すれば、第1条→第3条と流れていく。

第3条では、具体的に初期対応で行うべき3つのエッセンスを提示している。初期対応の重要性は、クレーム対応でよく説かれるが、何をすべきかを具体的に整理すると、初期対応ですべきことは3つしかない。第1条でも触れているとおり、初期対応においてはお客様側の言い分や事実関係背景・意図等分からないために安易な回答・説明は控えなければならない。まずは、「お客様の話を聞くに徹する」ことが、負けないための方策として、非常に重要なのである。

そして、お客様の話の中から、事実関係を抽出・整理をして、深堀り、裏取りしながら、「事実関係を確認・明確化」していく必要がある。この事実関係の確認・明確化は、不当要求対応の肝の一つである。

不当要求に応じてしまっている事案は、往々にして事実確認が十分にできていない状況で、顧客側に押し切られて、対応させられてしまっているケースが多い。本来、要求する者が負うべき立証責任を、企業側に擦り付けて企業を困らせ、自分の有利に運ぼうとする熟練者もいる。それゆえ、どのように事実確認をするかを含めて、「事実関係を確認・明確化」は、不当要求に応じないための肝なのである。

第3条に紐付くのが第4条である。クレーム対応に関するどの書籍でも、セミナーでも、「お客様の話を聞く」ということは必ず触れられているが、実際のところ、漠然と「話」を聞くという意識では、なれたクレーマー等の術中に嵌ってしまう可能性がある。

そこで、「事実」、「不満」、「意見」、「要求」という話の要素に着目して、これらの要素を意識しながら、聞き分け、整理し、深堀りしていくことが重要となる。「事実」については、前述のように不当要求対応の肝になるし、「意見」と「要求」の使い分けは、まさに不当要求対応の極意であり、このロジックを知ってしまえば、対応は非常にやりやすくなる(詳細は割愛するが、極めて重要なロジックでもあるので、ご興味のある方は、書籍等を参照願いたい)。

ここでまでのプロセスで、お客様の話を聞き、状況が相当程度把握できる。あとは、そこで出てきた「要求」を受け入れていいのかどうかを判断するのが、第5条である。これまでの説明に絡めていえば、クレーム対応として対応してよい引き際の見極め基準ということができる。5つの基準に照らして、正当な「クレーム」か、「不当要求」かを見極めていく。

ここでも、例えば、③「要求行為の正当性」に関しては、暴言・暴行があった時は、それ自体が不当要求ではあるが、そのような行為は「止めて欲しい」と拒絶の意思表示を明確に伝えることで、カスタマーハラスメントを阻止するための防衛線を張ることが重要である。

付きまといを止めて欲しいという相手に付きまとえばストーカーになるように、拒否している相手に対して、その拒絶している行為を繰り返せば、対応を打ち切られても、警察を呼ばれても、それこそ自業自得である。嫌がる相手に嫌がらせを続けたことの結果として、不利益を受けるのは、カスタマーハラスメント等の理不尽な行為を行った者の自己責任なのである。

そして、5つの基準に当てはめて判断すれば、第2条のクレームか不当要求かが明確に判断できる。あとは粛々と対応していくだけである。

このように対応プロセスにしたがって、それぞれのプロセスで何をすべきか、そこで留意すべきことは何かを明確にしたのが、5か条である。

③5か条各論~カスタマーハラスメントへの現場での対応要領

ここでは、カスタマーハラスメントへの現場での対応要領について補足をしておきたい。カスタマーハラスメントはそもそもが、顧客の理不尽な行為や不当要求であるから、企業側も、その本質を踏まえて対応することが重要である。

カスタマーハラスメントへの対応の基本方針は、

  • 警察に対応してもらうためにも、道筋が必要
  • 謝罪は基本1回。「事実」と「方針」を伝える。「要望」として聞く
  • 暴力や暴言には、明確に「拒絶」の意思表示をする

ということである。

まず、「警察に対応してもらうためにも、道筋が必要」に関しては、不当要求やカスタマーハラスメントに対しては警察対応すべきと巷では言わるが、実際には警察対応はそれほど簡単ではない。

したがって、警察対応を行うためには、顧客側の犯罪性や悪質性を明確化できるように対応を進めていかなければならない。そうすることで、実際に警察対応をした場合にも、事件化等が可能となるからである。

次に、「謝罪は基本1回、『事実』と『方針』を伝える、『要望』として聞く」については、カスタマーハラスメント対応の基本要領として押さえておくべき事項である。罵詈雑言を言われ、殊更店舗側の責任を強調して、ひたすら謝罪せざるを得ないような事態に持ち込もうとするのが、カスハラ顧客の手口でもあるが、従業員側としては、ひたすら謝罪し続けるというのは非常に辛い。

したがって、謝罪は、「店舗として、お客様に満足いただけなかったことに謝罪する。そして、あとは事実と方針を粛々と伝えるという対応で構わない。そして、お客様の言い分は、「ご意見・ご要望」として聞く。具体的には、「お客様のご意見・ご要望は、店長(本部)に伝えます」と対応する。

ところで、クレームや不当要求への対応をする場合は、お客様の「話しを聞く」ことが重要であるが、お客様の話しは、「事実」、「不満」、「意見」、「要求」の4つの要素から成り立っている。

不当要求への対応は、回答を一本化(「対応できない」と)して、一貫対応を繰り返し、あとは、「意見」への対応、すなわち傾聴や謝罪の対応を行っていく。不当要求への対応は、4つの要素のうちの「意見」と「要求」の使い方で勝負が決まる。具体的に説明すると、「要求」については、不当要求である以上是非の判断で言えば、非、すなわち「対応いたしかねます」と一貫対応し、あとは「納得できない」「おかしいじゃないか」と言われたら、すべて意見のカテゴリで、「貴重なご意見として承ります」「ご期待に添えず申し訳ございません」と、「気持ち」や「意見」を受け入れていく。要は、要求に対する答えは一本化してその回答を徹底し、あとはすべて意見のフィールドで対応をしていくことがポイントなのである(これが、上述した「意見」と「要求」の使い分けのロジックである)。

そして、暴言・暴行・迷惑行為には、「~するのは止めてください」と明確に伝える。「嫌がっているのに続けた」という既成事実を作り、犯罪性・悪質性を高めることで、警察対応がし易くなるのである。お客様が激高して手を上げたりすれば、その時点で止めるように警告し、止めなければ速やかに110番通報して構わない。このようにして、断固としてカスタマーハラスメントに屈しないスタンスで対応することが重要である。前出したように、意見や気持ちに理解をしめしながら、不当要求をお断りしていれば、カスタマーハラスメントを行う者は、態度や行動をどんどんエスカレートさせ、犯罪行為等を行って一線を越えて自滅する。自分で墓穴を掘ってくれるのである。焦らなくてよい。

具体的に説明すれば、担当者個人への誹謗中傷(罵詈雑言)や暴力行為、威圧行為(ものを投げる、大声をだす等)が行われた場合、そのような理不尽な言動に、耐え続ける必要はない。

具体的な言い回しを用いて紹介すれば、「自分の要求をのませるために、担当者を困らせたり、怖がらせるために行っていると思われる場合」

  1. まずは、やんわりと、「止めていただきたい」旨、お願いする
    • 例:「誹謗中傷は止めていただけますか」
  2. それでも続く場合は、警告する
    • 例:「止めてください。これ以上続けられると、お話させていただくことは難しくなります」
  3. それでも止めない場合は、対応打ち切り
    • 例:「止めていただけないようなので、これで打ち切らせていただきます」

また、同じ話を何度もされたり、店舗側の対応に「納得できない」「おかしい」などと言って、いつまでも引き下がらないお客様もいる。このような客は、延々と粘ることで、店舗側の根負けを狙い、自分の要求をのませようという意図を持っているが、企業側としては、「できないこと」に延々と時間を費やされると、大きな損失を生んでしまう。

そこで、このようなケースには、

  1. まずは、これまで説明してきた、基本対応を行う
  2. 対応打ち切りの目安
    • 「1人のお客様の対応に30分以上かかっている」、又は「同じ話(要求)が3回目」
  3. それでも引き下がらない場合は、対応打ち切り
    • 例:「申し訳ありませんが、何度おっしゃっても当社の対応・方針は変わりません。他のお客様への対応や品出し等もありますので、これで対応を終了させていただきます」
    • 例:「いずれにいたしましても、今日のところは商品をお譲りすることはできませんし、当店の対応も変わりませんので、同様のお話をされるのであれば、お引き取りください」

と対応すればよい。

(5)現場の従業員の安心感の醸成

「現場スタッフの安心感の醸成」対策として企業の経営幹部が認識・実施していくべき課題は、3つある。一つ目は、現場のスタッフやその現場を預かる管理職層への研修の実施である。二つ目は、上司の指示・サポートである。三つ目は、現場支援のための具体的な組織体制の整備である。

一つ目の研修については、既に説明済みであるため割愛する。そこで、まず上司のサポート・指示から解説する。「指示」については、現場の担当者からすればカスタマーハラスメントで困っている時こそ、上司からの「不当な要求は断ってよい。困ったら、責任者が対応を代わる」という指示ほど、心強いものはない。

カスタマーハラスメントに晒されている現場スタッフの悩みを踏まえ、ぜひ、上司が現場をサポートするような具体的かつ心強いメッセージを発していただきたい。

そして、そのような指示を出すうえでも重要なのが、上司の現場のサポート体制の整備である。上司自らが対応に忙殺されていては、現場が必要な時に相談もできないし、カスタマーハラスメントを断るための指示も適切に行うことができない。そこで、上司、特に部門責任者自らが対応に忙殺されることのないように、次席のものを現場対応の最終責任者とするなどの階層的な対応体制の整備が重要となる。

企業の職制でいえば、課長クラスを対応の最終責任者として、部長は全体の統括や適切なアドバイス・指示を出せるように極力在席している体制を組むことが重要となる。部長等の部門長が統括指揮できる体制ができていれば、必要に応じて速やかに法務部門や弁護士とも相談・連携したり、さらに上の役員と対応方針の協議等も行いやすい。相当に重大な案件は部長自らが対応に当たらざるを得ないとしても、次席者を原則として最終責任者とすることで、組織としても一体となった対応を行うための機動性を確保できる。このメリットは、特にカスタマーハラスメントと不当要求対応においては、非常に大きいことを認識いただきたい。

当然のことながら、統括・指揮を行う部長クラスは、相応に現場の事情に精通したり、現場経験者であることが望ましい。また、このような体制を整備し、各現場スタッフに、その社内体制を知らせ、周知しておくことも重要である。こうすることで、現場のスタッフには、困ったときに対応方法について相談できる社内の窓口がある安心感と、必要に応じて適切なアドバイスや指示をもらえて、いざとなったら責任者がカバーしてくれるという社内体制への信頼感が生まれる。これこそ、現場スタッフの安心感の醸成に大きく寄与する重要な視点である。

もし、組織規模等で階層的な組織体制の整備が難しい場合は、弁護士のような外部の専門家を利用した対応代行体制を検討すべきである。当社でも設立以来、リスクマネージャーを企業に派遣して、案件によっては、企業の現場対応を直接的に実施している。

現場スタッフにとっては、いざというときに対応を代わってくれる安心感や、何かあったときにカスタマーハラスメントや不当要求に対応してくれる専門家が後ろに控えている安心感は何よりも心強いものである。

また、現場支援という観点からは、メンタルケアのための体制も整えて欲しい。カウンセラーを常駐させたり、ストレスを少しでも低減できるような執務環境、こまめな休息・休暇等を与えるマネジメント(配置)など、従業員が過度の緊張状態、ストレスフルになることを少しでも回避できるような対策に意を用いていただきたい。

メンタルケアに関連していえば、長時間の対応や電話を終わったスタッフには、上司は、「大変だったね。何か困ったことがあったら、いつでも相談しろよ」と一声かけてあげていただきたい。ちょっとした些細なことではあるが、現場スタッフとしては、長時間対応に当たっているのを見ていてくれる安心感、大変さを少しでも理解してくれることや、いつでも相談できる環境づくりへの感謝など、上司のサポートが非常にうれしく感じられるのである。

そして、仮に対応を失敗しても、くれぐれも現場のスタッフをその場で叱ったり、担当者を批判、けなすことのないように注意していただきたい。対応は結果論でもあり、担当者は常に、この対応でよいのかなと一抹の不安を抱えながら対応しているものである。対応ミスを叱ったり、けなしたりしては、上司は現場を知らないと、上司への信頼感が薄れることは言うまでもない。

4.最後に

カスタマーハラスメント対策としての組織体制整備の視点について解説してきた。従業員のメンタルケアについては、上記の対策のほかにも種々望ましい施策はあるが、到底紙面では伝えきれない部分もある。また、機会があれば、続編として解説していきたい。

当社では、現場対応のノウハウとしての危機管理的顧客対応5か条のセミナーを全国で開催して、現場の担当者の不安の払しょくに努めてきたが、カスタマーハラスメントからの組織防衛についても、順次セミナー等を開催していく予定である。

直近では、8月5日、7日に、本稿で解説した内容を含めて、「カスタマーハラスメント対応の勘所」について、解説するWEBを使ったLIVEセミナーを実施する(参加費:無料)。ぜひ、参加いただくとともに、皆様の知見もいただきながら、カスタマーハラスメント対策の推進・普及に取り組んでいきたい。

▼【8/5・7 LIVE配信】CSベースの実践的で最強の「クレーム対応術」~危機管理会社のノウハウを伝授

→上記、URLから、セミナーのお申し込みも可能です。

以上

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