リスク・フォーカスレポート

内部通報制度の検証の必要性(2)(2016.6)

2016.06.01
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 みなさん、こんにちは。今回のリスクフォーカスレポートは、前回に引き続き「内部通報制度の検証の必要性」をお届けしてまいります。

 第1回では、通報件数についてお伝えしました。今回は、通報内容のカテゴリーについて考えてみたいと思います。当社内部通報窓口『リスクホットライン&#174(以下、「RHL」)』へ寄せられた通報は、RHLにおいて、その内容ごとにカテゴリーを判断しています。これは一定期間経過後に、様々な検証を行うために継続して集計しているものです。実際のカテゴライズ作業では、複数の内容(要素)を含んでいる通報であれば、複数のカテゴリーにまたがって集計を行うことになります。例えば、「有給休暇を取ろうとしても、上司から『そんなものは、退職届を出せば何日分でも使わせてやるぞ』と言われた」などとする通報があったとすれば、カテゴリーとしては、「上司への不満・パワハラ」と「有給休暇」のカテゴリーに集計されます(カテゴリーの種類については、下表は『リスクホットライン&#174通報データ内訳 対象期間2003年7月~2016年4月』をご確認ください)。

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 さて、2016年4月末現在、RHLへ寄せられた全ての通報(以下、「RHL全通報」)の構成比を見てみると、「上司への不満・パワハラ」が42.9%と最も多く、次いで「同僚の勤務態度」が11.1%、「改善提案・意見」が8.9%という結果となっています。なお、1位の「上司への不満・パワハラ」、2位の「同僚の勤務態度」および10位の「セクハラ」(2.6%)の3カテゴリーは、まとめて「人間関係に起因すると考えられるカテゴリー」として区分することができます。一般的に、新聞報道等で目にする「内部通報」においては、不正会計やインサイダー取引、あるいは労働関係の法令違反等が目立つ印象かと思われます。
 しかし実際には、当該「人間関係に起因すると考えられるカテゴリー」の構成比が56.7%と半数以上を占めています。一方、不正会計やインサイダー取引といった内容の通報は、「不正(疑いを含む)」あるいは「法律・法令違反(疑いを含む)」のカテゴリーに分類され、前者の構成比が4.3%、後者が1.8%となり、合計しても6.1%しかなく、一般的な印象とは異なる状況が浮かび上がってきます。確かな根拠があるわけではありませんが、こうした傾向の要因としては、そもそもそうした事案が発生していない可能性や、そうした事案に通報者が接していない可能性、あるいは不正や法令違反を認識しても見て見ぬフリをしている可能性や、不正等に関与している者が通報しようとする動きに対して、何らかの阻害要因(社風や上長からの無言の圧力等)が存在していることなどが考えられるところです。

 RHL全通報におけるカテゴリーの構成比を概観いたしましたが、更に詳細に業種別のカテゴリーを見ていくと、様々な特徴を見ることができます。現在、RHLのご契約をいただいている業種の中で、一定程度(現在までに30件以上)の通報が寄せられた業種ごとに通報のカテゴリーの構成比をあらためて集計したものが下表です。なお、業種については、日本標準産業分類を基礎としておりますが、一部の業種を統合(生活関連サービス業、娯楽業および複合サービス事業とサービス業(他に分類されないもの)を「サービス業」として合算)して表記しています。

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 貴社にて内部通報の内容を集計されている場合、是非、類似カテゴリーとの構成比を比較していただければと思います。また、上記表に加え、RHLにおいて特に取扱い通報件数の多い5業種(製造業、卸売・小売業、金融・保険業、宿泊業・飲食サービス業およびサービス業)について、「RHL全通報の構成比との差」を示したグラフを併せてご覧ください。

製造業

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 製造業においては「上司への不満・パワハラ」に分類される通報が少なく、「同僚の勤務態度」や「社内ルール」に分類される通報の構成比が高くなりました。その背景としては、一連の作業の中で、定められた手順やルールを逸脱することが、生産管理や安全管理に影響するため、このような傾向が出ているのではないかと思われます。加えて「情報漏洩(疑いを含む)」に分類される通報の構成比が若干高いことから、営業秘密に対する意識の高さが窺える結果ともなっています。
 他方、製造業においては、「残業問題」や「給与」に分類される通報の構成比がRHL全通報と比較して若干低いことから、安定した就業環境であることが窺えました。

【通報事例】1 製造業における「同僚の勤務態度」

 「以前あるスタッフ2名は、勤務中だけでなく残業中もインターネットを使用していました。最近は使用出来なくなったので、携帯電話を使って電話やメール、あるいはゲームをしています。みんな、この2名が仕事をしないので嫌がっています。両名とも班長職で、手本となるべきはずがこのような行動を取ります。他のスタッフが「やっても良い」と思って同じ行動をとる可能性があり、私たちも同様のことをしていると思われるのが不愉快です。
 また、この2名は暴言やパワハラがあり、それが原因で辞めた人もいます。調査しても本人達は認めないと思いますが、同じ職場の人は誰もが知っていることです。リーダーから携帯電話の使用方法をたびたび注意されても変わりません。」
 (本事例は、実際の通報内容から一部を抜粋しておりますが、匿名化のうえ加工しております。)

このような通報に対して、まず、通報内容が事実であれば、一部のスタッフが必要な成果を達成せずに、業務に無関係な行動をとることによって、生産計画に支障をきたしたり、(通報内容にもあるように)通報者を始めとした周囲のスタッフもそのように思われたりすることが懸念されるところです。しかしながら、実際の本通報への対応においては、内部通報担当者が多角的にスタッフへのヒアリングを実施したところ、通報内容にあるような業務を逸脱した行為が見られなかったとのことでした。このような状況となった可能性としては、本当にこうした行為がないこと、または、組織的に隠していること、あるいは人間関係の問題に起因する「他人を貶めるための通報」であることなどが考えられます。したがって、真の実態を把握するためには、スタッフへの多角的なヒアリングで得られた内容をもとに、抜き打ちで再度職場を訪問することなども有効かと思われます。

卸売・小売業

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 RHLにおいては、小売業からの通報件数が比較的多いことから、小売業の構成比がRHL全通報の構成比に影響を与えていることが考えられます。小売業において構成比が最も多い「上司への不満・パワハラ」について、実際にどのような通報が寄せられているのか、通報事例をご紹介します(なお、本事例についても、実際の通報内容から一部を抜粋しておりますが、匿名化のうえ加工しております)。

【通報事例】2 卸売・小売業における「上司への不満・パワハラ」

 「上長であるAさんがスタッフにとって大きな問題となっています。Aさんは、気分によって挨拶をしないことや、連絡事項をメモに書いてスタッフと会話しない、あるいは無視する等しています。レジでお客様が列を作っていても応援に入ってくれず、レジに立っていても客が途切れるとボーッとしており、ミスを注意すると不機嫌になる等、上長という立場なのにこの態度はスタッフの反感を買っています。人手不足の現在、Aさんに頼らざるを得ませんが、中途半端な仕事態度では信頼できるはずもありません。」

常に動きのある店舗において、上長がスタッフとのコミュニケーションを円滑に行えないことが問題の原因となっているものと思われます。本通報を受けて、内部通報担当者、店長、Aさんで三者面談を行い、Aさんは一時的に店舗を離れることになりました。

金融・保険業

 RHL全通報と比べて、「上司への不満・パワハラ」の通報の構成比が高い一方、「改善提案・意見」や「社内ルール」に関する通報の構成比が低くなりました。一概には言えませんが、仮に上長と部下の関係に権威主義的な組織風土(厳しい上下関係が支配的な組織風土)がある場合には、こうした「改善提案・意見」といった通報をすることによって不利益な取り扱いを受けるのではないかといった不安感が影響しやすいと考えられることも可能性の一つとして考えられます。

 一方で、「契約関係」、「残業問題」、「給与」、「有給休暇」といったカテゴリーの構成比が低くなっており、金融・保険業においては就業環境や待遇面での整備が他の業種よりも進んでいることが窺えました。

【通報事例】3 金融・保険業における「上司への不満・パワハラ」

 「課長補佐の言動に問題があります。朝礼時、特定のスタッフだけに営業成績を確認し、「まだ取れていない」と答えると全員の前で叱責されます。後から「あの言い方はいかがなものでしょうか」と訴えると「営業に喝を入れるため」と言われました。「それにしてもひどいです」と伝えると、その後から課長補佐は私を避けるようになりました。また、課長補佐は営業をフォローする為に、ご自身では担当を持たないと言っていますが、トラブル処理で同行を求めても拒否されます。更に他の人の検印すら嫌がります。加えて、飲む事が好きで特定のスタッフを頻繁に誘いますが、誘われるスタッフはみんな、「(課長補佐に対して、飲みに行く)回数が多い」とは言えないようです。課長には直接伝えましたが、職場環境は良くありません。」

 本通報に対して、内部通報担当者より通報者へ電話で詳細を確認したところ、「全て課長へ報告している」との事でした。課長からは「通報者と意思疎通を図るようにしているがもう少し様子を見たい」との報告があったそうです。こうした通報の例では、一度嫌悪感を抱いてしまうと、あらゆる言動に対して反感を抱くようになってしまい、なかなか良好な関係性に戻すことが難しいというケースが多いようです。また、当該課長補佐に対しては、周りのスタッフがどのように感じているのかも確認し、その後課長や更に上席者より円滑なコミュニケーションが取れるよう継続的なフォローが必要になると思われます。

宿泊業・飲食サービス業

 一般的に、店舗展開している飲食業においては、店長や副店長といった役職者数名と、多くのパート・アルバイトで運営していることが多いように思われます。勤務歴の違いや前職での経験と現在の店舗の業務プロセスーに違いがある場合、あるいは単純な好き嫌いなどにより、「同僚の勤務態度」に対する通報が増加することが考えられるところです。

 一方、常に「人」と接することが多いと思われる業種と思われますが、「上司への不満・パワハラ」に分類される通報、および「改善提案・意見」の構成比がRHL全通報と比べて低いことが特徴として挙げられます。改善点や意見をその場で上長に進言し解決しようとしているのか、あるいは店舗の業務フロー改善や接客水準・顧客満足度向上に対して、何らかの要因によって意識が削がれてしまっているのか、そもそもパート・アルバイトでは上司への不満や改善提案等をあげる意識がないのか、個店ごとの状況確認が必要かと思われます。

【通報事例】4 宿泊業・飲食サービス業における「同僚の勤務態度」

 「ある調理スタッフは香水がきついです。また、頭を掻くので髪が配膳に入ったり、味付けが決められた通りになっていなかったり、腐った食材に気付かなかったり…。さらに野菜を洗わず使ってしまいます。そのたびに注意しても元に戻るので、今は誰も注意しません。店長や副店長に注意するよう伝えましたが、二人とも及び腰です。しかし、調理スタッフの衛生面は特に指導が必要だと思います。
 別のベテランのパートは、いろいろなことができるものの、ゴミ捨て等細々した事はしません。また、自身のミスを棚に上げて、人のミスについては上席者を呼んで話を大きくします。家族を強引に採用させ、紹介ボーナスを受け取った後にすぐ退職させました。また知り合いが店に来ると自分の賄いを食べさせています。口では土日勤務可能と言って時給を上げてもらっているのに、実際にはほとんど土日にはシフトに入りません。こうした言動は公私混同で身勝手だと思います。」

 本通報においては、内部通報担当者が調査した結果、対象のパートについては、きつい言い方や賄いの件が事実であることがわかり、注意指導が行われました。また、調理スタッフは通報内容ほどの不潔さはないものの、飲食業における身だしなみについて指導を行っています。こうした通報においては、通報者の偏見や対象者となったスタッフとの人間関係に問題があったことが窺えますが、飲食業であることから、衛生面に関する通報に対しては、丁寧な事実確認と定期的なチェック・指導が必要になるものと思われます。
 同時に、仮にベテランスタッフが公私混同ともとられかねない言動をしているようであれば、店内の士気に影響が及ばないよう適切な指導が必要になります。反面、このようなベテランスタッフが指導をきっかけに退職するようなことになった場合の業務の穴埋め、代替要員の確保などのフォローも必要な中、とりわけ、人手不足が深刻な店舗であるほど、こうしたスタッフへの対応には慎重さが求められるのは事実だとしても、それによって指導の適切性を欠くことはあってはならないものと思われます。

サービス業

 比較的「人」と接することが多いと思われる業種において、「上司への不満・パワハラ」の構成比が高くなる傾向にあり、一方で人と接する機会もありながら、「モノ」に関連する業種においては、「上司への不満・パワハラ」の構成比が低くなる傾向が見受けられました。
 前者の業種は「金融・保険業」(RHL全通報と比較して+9.4%、以下同様)、「サービス業」(+6.8%)、そして「医療・福祉」(+5.1%)となり、後者の業種は「運輸業」(-25.1%)、「製造業」(-13.4%)そして、「情報通信業」(-12.4%)となりました。

 サービス業においては、接客に関して上長からの指導が、場合によってはパワハラと認識されてしまい、通報に至るケースも見受けられます。店舗やチームが一丸となって高い目標をクリアするためには、時として厳しめの指導が必要になる場面もあるとは思いますが、それは、その前提となる日頃の信頼関係があってこそ、厳しめの指導が指導として容認されるものと思われます。最近、指導とパワハラの境目に悩む管理職が増えているように感じます。管理職者への研修は大変重要ですが、その研修も「座学」だけでなく、必要に応じて「指導」のあり方について管理職者の中でディスカッションすることも必要かもしれません。その際には、人事部門の方がファシリテートすることや、管理職者の相談に対応するなどのフォローもご検討ください。

【通報事例】5 サービスにおける「上司への不満・パワハラ」

  「このお店では”しっかり挨拶”という指示があり、みんな挨拶をするようになりましたが、B主任は周囲のスタッフから挨拶をされても無愛想に返事をしたり、無視したりすることがあります。特に私が挨拶をすると無視します。私と同様の扱いをされているというスタッフが何人かいるらしいです。B主任は好き嫌いが激しく、仕事が忙しい時などは特に機嫌が悪いです。指示を仰ぐ必要があってインカムで呼んでも、B主任は不機嫌に返事をして、酷いときには完全に無視をされます。お店には、上席者がいますが、B主任のことを直接相談することは、立場上戸惑いがあります。」

 本通報は、B主任以外の上席者に相談できない、すなわち職制のラインを通じての解決が図れないと通報者が感じていることが通報に至った一因と思われます。一般的に、店内での統一目標を掲げている中では、主任を始めとした上席者が率先して実施していくことが望ましいのは言うまでもありませんが、加えて、通報者を始め何人かのスタッフはB主任から無視されている様子からは、良好な職場環境とはいえない部分もあるものと推察されます。本通報への実際の対応においては、上席者よりB主任への指導が行われました。

 以上のように、通報のカテゴリーを比較してみると、業種ごとの傾向が垣間見えてきます。しかし、一見、業種ごとに多種多様な通報事例のように見えるものの、通報内容の背景には「組織の構成」や「業務プロセス」といった共通点が見出せるかと思います。ここでのコミュニケーション障害とは、例えば店舗展開しているような場合に店長(社員)とパート・アルバイトといった職場において、店長(社員)のコミュニケーションの質や量に何らかの不備や不足があることで、通報のトリガーとなってしまう場合や、あるいは極端な男女比の職場であることで、少しの認識のずれが互いの関係性にとって大きな溝となってしまうことが考えられます。他方、業務プロセスとは、例えば生産ラインにおいて、一部のスタッフの生産性が著しく悪い場合、しわ寄せを受けるスタッフからの通報が挙げられるといったことが考えられます。

 そのため、貴社の内部通報窓口に寄せられた通報について、一定期間ごとにカテゴリーの検証し、カテゴリーごと、あるいは通報全体に共通する問題の本質(コミュニケーションの部分なのか業務プロセスの部分なのかなど)を抽出し、その課題に対して解決策を模索していくことが肝要と考えます。言い換えれば、例えば、店長に対する通報が多く、通報に共通する部分として、背景にスタッフからの不信感(「組織の構成」による影響)が窺える場合には、店長会議等の場において、通報事例を(匿名化のうえ)共有し、各店長が自身では気づきにくい部分への気づきを促すことも有効かと思われます。

 また、もし機会があれば、内部通報担当者の方は、他業種の方と情報交換の場を持っていただくこともご検討ください。「業界の常識は世間の非常識」とならないよう、第三者の目(世間の目)を意識していただくことも、日頃、内部通報制度を運営していくうえでリスクの早期発見・早期対応に寄与するのではないでしょうか。

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