暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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1. Q&A~皆さんのご質問にお答えいたします(その1)

 本コラムでは、以前、「暴力団排除条例(暴排条例)Q&A」と題した特集で、暴排条例についてQ&A形式にて解説したことがあります(2012年8月号9月号および10月号)。それ以降は、個別のテーマを深く掘り下げた形でお話してきましたが、今回と次回は、やや趣向を変えて、当社が最近、全国各地で実施したセミナーにおいて、受講者から事前に寄せられた質問の中からいくつか取り上げ、解説していきたいと思います。

 さて、セミナー受講者の業種・業態、あるいは役職等が様々であり、以下の通り、関心領域やレベル感(今さら質問しにくいといったものなど)バラバラですが、おそらく、皆さまの社内で実際に寄せられている質問内容や疑問点等もこれに近いものと思われますし、社内研修等で周知徹底しておくべき点や実務上の留意点等についてもカバーしており、今後の参考にしていただければと思います。

【注】なお、本コラムの読者の皆さまで、取り上げてほしい質問等がございましたら、下記まで送付いただければと思います。
(メールのタイトルは、「暴排トピックス質問」 souken@sp-network.co.jp でお願いいたします)。

1) 反社会的勢力および反社会的勢力排除の動向について

【Q1】

暴力団や、その関係者が関与する、いわゆるフロント企業と呼ばれるような会社は、土木、風俗、飲食、産業廃棄物関係といった業界に多いのではないかと推察されるが、こういった業種以外の最近の特徴的な例や気を付けるべき業種があれば教えていただきたい。

【A1】

 暴力団関係企業(フロント企業)等を介した反社会的勢力のアプローチについては、以前であれば、ご指摘の業種に加え、金融・不動産など特定の業種に集中していた傾向がありますが、特に金融・不動産分野における規制強化にともない、結果的に「資金獲得活動の多様化」、すなわち、業種・業態に関係ない形で、詐欺的手法の高度化や新たな手法などとあわせ、広範囲に拡がっている現状にあります。とりわけ、従来は対象となっていなかった分野や新たな産業・サービス分野、今後成長が見込める分野などにいち早く反社会的勢力が入り込み、その規制や対応の甘さにつけ込んでいる実態があります。

 それらの共通項としては、「暴排の取組みレベルが甘い分野」ということになると思われますが、具体的には、最先端医療技術や特許等を有した技術者集団やベンチャー企業など、将来性があるものの高度な専門家であるがゆえの本業以外の「脇の甘さ」が狙われている点が典型的だと言えます。また、太陽光や地熱発電等の新エネルギー分野など、「規制が行き届いていない」分野でのトラブルも明らかに増えています。当社が関与した事例で言えば、前者であれば、IPOを念頭に資本政策の早い段階から仕手筋に連なる人脈が入り込んでいる事例や、詐欺的な特許権の名義変更や使用許諾手続き等を駆使した「パテントトロール」による悪用などの事例があり、後者であれば、広大な事業用地が必要とされる事業の特性から、彼らの得意とする不動産取引に絡むトラブルや、事業内容の高度な専門性を逆手にとって、好ましくない人脈によって事業に影響を及ぼすケースなどが典型的です。

 平成26年警察白書には、「犯罪組織は、常に法の規制が及ばない分野や、規制が緩い分野を求めて活動範囲を拡大している」との指摘がありますが、正に、特定の業種・業態というわけではなく、「反社会的勢力排除に対する意識」「反社チェックの取組みや精度」が他の分野に比べて甘いといった実務面の脆弱性を突かれて、経営の支配権を奪われる、商品やサービスが犯罪に悪用されている傾向にあると言えます。

【Q2】

反社会的勢力対応は、近年、多くの企業で取り組みが進められていると思われるが、新たな問題が発生している等の状況はあるか。

【A2】

 まず、反社会的勢力の不透明化や手口の巧妙化が進み、これまでのチェックレベルでは認知が難しくなっている現状があります。見方を変えれば、企業の取組みレベルが上がることで、反社会的勢力の更なる不透明化・巧妙化を招いているといった皮肉な状況だとも言えます。したがって、前回の本コラム(暴排トピックス2015年10月号)で、反社会的勢力の捉え方を「属性要件等ベースの捉え方」「実態ベースの捉え方」「結果ベースの捉え方」の3つに分類してご説明しましたが、反社チェックの実務においては、チェック対象について、もはや「点」としての属性等を確認するだけは実効性の面で限界があり、その「点」を取り巻く「面」全体から反社会的勢力との関係を導き出す「実態ベースの捉え方」(マネロン対策の文脈で言えば、KYC(Know Your Customer)からKYCC(Know Your Customer’ Customerへの実務の深化)を志向するワンランク上の取組みが求められています。

 また、福岡県警が指定暴力団工藤会会長を脱税で摘発したことに代表される警察と司法の連携強化や他の行政機関の協力などもあって、これまで以上に摘発手法の高度化・洗練化が進み、官民挙げての暴排の取組みが進んでいますが、その結果として、暴力団からの離脱者が急増しています。ただ、彼らが真っ当な仕事に就こうにも、組を離脱したばかりの元暴力団員を企業が受け入れるには多大なリスクが伴うのも事実であり、結局、彼らが正業に就くことが叶わず(更生ができず)組に戻ってしまうケースも現状では少なくありません。この離脱支援の問題は、一企業の問題ではなく社会全体の問題として、少子高齢化や組織のスリム化の進む暴力団組織への人材の供給を断つことで暴力団の弱体化を推し進めるという意味でも、早急な対策が求められます。

2) 暴排条例関連

【Q3】

SS(ガソリンスタンド)における勧告事例や暴排条例で利益供与とみなされるような行為等、留意しておいた方がよい事項について教えていただきたい。

【A3】

 SSの勧告事例としては、「暴力団員の車両を無料で洗車していた」「暴力団の車両を敷地内に無償で駐車させていた」といった利益供与に該当するものが典型的ですが、他にも、「暴走族のたまり場となったり、トラブルになった場合に、それらを排除してもらう目的で暴力団に駐車スペースを提供していた」という「暴力団の威力を利用する」ケースに該当したものもあります。その他にも、他の顧客には対応していないが特別に掛け売りで対応している場合や(待ち時間なしなど)過剰なサービス提供などについても、特に注意が必要です。

【Q4】

某警察本部に相談した際に、以下のような話があったが、どのように考えたらよいか。

  1. 暴排条項を新たに基本契約に盛り込んでも、過去からの取引関係に遡及適用できない。
  2. 引退した暴力団組長が属している企業の(警察における)反社登録の有無については、個人情報保護の観点もあり、回答できないケースがある。
  3. 反社会的勢力と思われる取引相手でも一般の掛売客より高い値段設定で取引し、店頭やその他でのトラブルもない場合、便宜供与関係にあるとは言い難い。

【A4】

 1.については、既に締結している基本契約に、新たに暴排条項を盛り込んだとしても、「過去あった取引」について暴排条項を遡及して適用することはできないが、暴排条項を入れた後に生じた取引や今後発生する取引については適用対象となるとの理解でよいものと思われます。なお、別途、覚書等で適用時点(起点)を明確にするといった対応も考えられます。

 2.については、警察庁の平成25年12月改正の内部通達「暴力団排除等のための部外への情報提供について」においても、「事業者が、取引等の相手方が暴力団員、暴力団準構成員、元暴力団員、共生者、暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有する者等でないことを確認するなど条例上の義務を履行するために必要と認められる場合には、その義務の履行に必要な範囲で情報を提供するものとする」とされていますので、本来は情報提供の対象に含まれると考えられますが、一方で、「情報提供によって達成される公益の程度によって、情報提供の要件及び提供できる範囲・内容は異なる」とも示唆されています。
 したがって、「元暴力団員」や「その所属する企業」について、現時点の組との関係からみて、「元暴力団員が更生している(あるいはその可能性がある)」「所属する企業が暴力団と何ら関係がない」と判断している場合や、当該企業における元組員の経営に及ぼす影響力を「暴力団との関係があるとまでは言えない」と認定しているような場合は、情報提供することで暴力団排除を達成するという「公益」の程度が高いとはいえないとして、回答がなされない可能性があります(なお、「個人情報保護」を理由として回答できないという言い方については、当該人物や所属する企業が現時点で暴力団等と関係がないことを前提にしての発言であるとも考えられます)。

 3.については、この内容だけでは警察の真意が分からないとの前提となりますが、一般的に、法律によって供給義務が課されている電気・ガス・電話等の取引以外のサービスで、かつ「やむを得ない場合」に該当すると認められない場合であれば、当該見解については、相手が暴力団関係者で、その取引が暴力団の活動を助長する可能性があると「知っている」状況であることとあわせて考えれば、暴排条例の主旨からみてやや無理があるように思われます。貴社として十分納得できない点があるのであれば、あらためて問い合わせすることや、直接、警察庁に見解を確認するといった対応も考えられます。

3) 暴排条項・関連契約に関する事項

【Q5】

契約書に暴排条項を入れるにあたり、注意すべき表現や盛り込むべき内容にはどのようなものがあるか。また、契約の不備に基づくトラブル事例などはあるか。

【A5】

 まず、暴排条項の中で「反社会的勢力」について明確に定義(範囲)することが重要です。平成19年の政府指針(企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針)で例示された属性要件や行為要件をベースとして盛り込むことは当然ですが、暴排条例の施行やその後の動向をふまえ、「共生者」(全銀協のサンプルにある「共生者5類型」などが参考になります)を加える、名誉棄損や信用毀損、業務妨害など行為要件の範囲を拡大するといった対応も今や必須です。一方で、既に導入している企業においても、暴排条項が古いまま(政府指針当時の限定的な範囲)になっていないかを確認のうえ、現時点の社会の要請に応えられていないのであれば速やかに見直す必要があると言えます。その他にも、該当した場合は無催告で解除すること、損害賠償請求を行うことなどの規定を盛り込むことが一般的です。

 また、東京都暴排条例や福岡県暴排条例において、下記のような「関連契約」からの暴排を事業者に求める規定が盛り込まれている点にも注意が必要です。この規定の主旨をふまえ、暴排条項の一つとして、あるいは、解除事由の一つとして盛り込むことなどが求められていると認識する必要があります。この点については、現時点で全ての暴排条例で要請されているものではありませんが、例えば、福島における除染事業の下請の多重構造の中に暴力団関係者が入り込んでいるといった現実がある以上、事業者としては当然留意しておくべきだと言えるでしょう。

<東京都暴排条例 第18条第2項>

二 工事における事業に係る契約の相手方と下請負人との契約等当該事業に係る契約に関連する契約(以下この条において「関連契約」という。)の当事者又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は当該事業に係る契約の相手方に対し、当該関連契約の解除その他の必要な措置を講ずるよう求めることができること。
三 前号の規定により必要な措置を講ずるよう求めたにもかかわらず、当該事業に係る契約の相手方が正当な理由なくこれを拒否した場合には、当該事業者は当該事業に係る契約を解除することができること。

 また、暴排条項を巡るトラブル事例等としては、反社会的勢力の定義を見直していないことから、「共生者」として認定が可能な状況であったにもかかわらず、当該条項を適用できずあらためて誓約書を取り付けたケースや、逆に、警察からの情報提供を得ることなく自らの情報収集の結果をふまえて対応したことから、反社認定の真偽を巡る問題に発展したケースなどがあります。なお、この暴排条項の適用については、事業者による自立的・自律的な判断だけでなく、警察から情報提供を得ることが実務上は必須となりますが、あわせて、暴排条項にも限界があるとの認識が必要です(すなわち、暴排条項を適用せず、契約解除や取引の解消が出来ないか、といった観点から手を尽くしていくことも求められます)。

【Q6】

相手方が反社会的勢力であることが判明した場合、暴排条項に基づき契約を解除することになるが、その際、進め方などで注意すべきポイントにはどのようなものがあるか。

【A6】

 相手が暴排条項に抵触した場合の対応については、一般的には、①自社で情報収集し該当の事実を確認する、②自社で確認した結果と自社の対応方針(契約解除の企業姿勢)を明確にしたうえで警察に照会する(情報提供を求める)、③照会の結果、警察によってクロ認定されたことを根拠として、弁護士から契約解除通知書を送付する(粛々と契約解除実務を遂行する)、という流れになるかと思います(なお、契約解除における実務の流れについては、暴排トピックス2014年5月号など「排除の基本」シリーズ全6回を参照ください)。

 一方で、問題ある進め方としては、「十分に事実を確認しないまま取引を継続した」「十分に事実を確認しないまま相手方に取引解除を通知し、トラブルになった」といったものが代表的ですが、中には「契約解除の方針を示して警察からクロ認定を得たにもかかわらず、企業側の一方的な方針転換で契約を継続することになった」というものもあり、警察との信頼関係を損なう問題ある対応だと言えます(もちろん、暴排条例に抵触する可能性すらあります)。契約解除の取組みにおいては、経営陣の適切な判断(経営判断の原則を充足する十分な事実確認と合理的な結論)によって企業姿勢を明確にしつつ、警察や弁護士等の外部専門家と連携しながら(ブレることなく)進めることがポイントとなります。

【Q7】

当社の工場の定期修繕業務を委託する業者は、二次、三次、四次の下請会社を起用する場合もあるが、暴排条項を入れた契約締結上の注意点は何か。

【A7】

 【Q5】で説明した通り、契約上の措置としては、元請業者との契約に再委託先等に関する「関連契約」に関する条項を入れること、数次にわたる下請業者にも全て同様に「関連契約」からの暴排を含む暴排条項入りの契約を締結するよう求める必要があると思われます。
 また、実務面から言えば、委託先が再委託先等を起用する際には、事前に元請業者に再委託先に関する情報を提供、元請事業者が直接当該再委託先等の反社チェック等を行い(元請業者が当事者意識を持って確認し)、書面で当該業者の起用の許諾を行うといった方法も現実に導入されています。実務上の負担はかなり大きいと思われますが、契約によって「間接的に」管理する、リスクヘッジするだけでなく、特に自社への影響が大きい委託業務など「ハイリスク取引」と認める場合については、下請業者任せではなく、元請事業者が自ら「直接的に」確認するといった対応も、リスク管理上は検討が必要だと思われます。

【Q8】

元請会社の委託先・再委託先・再々委託先(またはその社員)が反社会的勢力か否かまで調査できないが、当社敷地内で仕事をさせないための予防策はあるか?

【A8】

 【Q5】・【Q7】とも重複しますので詳細は省きますが、それらが反社会的勢力か否かを調査することは難しいとはいえ、「関連契約からの暴排」の観点から、契約上、実務上、それぞれについて可能な取組みをまずは行う必要があります。さらに、委託先と再委託先の関係だけでなく、再委託先を通じて再々委託先にも同様の取組みを徹底することも求められます。また、実務面については、例えば、現場からの通報(反社会的勢力と疑わしい者が現場にいる、業務に介入しているなど)を受け付ける体制の導入や元請業者自ら現場を巡回する(監視する)といった対応策も考えられます。

 契約上も実務上も予防することは確かに難しいものの、厳格な姿勢を社内でも対外的にも明確に示すこと、実際に様々な取組みを実施することによって、貴社の姿勢が関係者に広く周知され、それが一種のけん制となること(予防的効果があること)、万が一の際の適切な対応につながること、リスクを事前に認識して可能な限りのリスク対策を講じていたとして一定の説明責任を果たせると期待できることなど、取り組むべき理由は十分あると言えます。

4) 反社チェック関連

【Q9】

取引先調査はどのタイミングで行うべきか。「接触⇒交渉⇒契約締結⇒取引開始」の流れであれば、どの工程の前になるか。

【A9】

 新規取引時は、(既存取引先の契約解除と比較すれば)謝絶の難易度が高くないこと(契約自由の原則に基づき、契約しない理由を述べる必要性がない、厳格な根拠がなくても事業者側で対応をコントロールできるなど)から、可能な限り新規取引を始める前に適切に見極めるべきということになります。いったん契約を締結してしまうと、契約解除の難易度が一気に高まるため、どんなに遅くても契約締結前にチェック取引可否判断を組織的に実施しておくことが重要です。
 さらに、契約交渉段階においても、交渉がある程度「熟して」しまうと、一方的な打ち切り等については、損害賠償を請求されるリスク(訴訟リスク・敗訴リスク)が高まるため、「交渉の早い段階までに」判断を完了しておくべきということになります。
 一方で、接触した時点など早い段階でチェックすることは極めて有効ですが、ある程度相手方とやり取りをしたり、接触したりする中で、反社会的勢力の端緒が得られることもあり、実務的には、「接触時点」よりは「交渉に入る時点」とすることが望ましいと思われます。

 また、「見積書提出」「契約書締結」といった行為(業務プロセス)が、反社チェックの実施と取引可否に関する組織的判断がなされないまま行われてしまうことは避けなければならず、例えば、反社チェック等をふまえた判断がなされた時点で「取引先コード」を付与し、「取引先コード」のない取引は、システム的に見積書が作成できない、契約書が作成されないといった「IT統制」の観点も重要です。ただ、交渉に入る時点をシステム的にどのように押さえるのか、いきなりサービスを提供してしまい、「請求書作成」の段階で初めて取引先登録がなされるといった例外的な対応が、現場では常に想定されるなど、クリアすべき点は意外と多く、現場の業務フローとIT統制の両面から、実施時点を確定させる必要があります。また、「例外的な対応」の中に反社会的勢力の関与がうかがえるケースが多いこともあり、このようなIT統制や業務フロー・システムの限界については、役職員の意識を高めることで取組みの実効性を確保するといった視点も必要となります。

【Q10】

新規取引先などについてはインターネットで調査をしているが、実際にヒットするものなのか(商号や代表者の氏名にネガティブ・キーワードを入れてチェックしているが、こうした方法で本当に反社会的勢力を認知できるのか)。

【A10】

 インターネットの情報を参考にすること自体は「風評検索」と言われる反社チェックの一つの有効な手法であることは間違いありません。また、インターネット検索時にキーワードを設定することは必ずしも必須ではありません。どうしても絞り込む必要がある場合(類似の名称が多い、より精緻な情報を迅速に収集したい等)以外は、広く端緒情報を収集するために、特にキーワードを入れないまま10ページ程度確認する方法も考えられます。ただし、インターネット上にある情報の真贋を見極めるのは極めて難しいことも事実であり、たとえ、インターネット検索でヒットしたとしても、それだけで反社会的勢力であると認定することは危険であり、あくまで端緒情報のひとつとして、他の複数のチェック手法と組み合わせながら見極めの精度をあげていくことになります。

 このような限界をふまえ、反社チェックの精度を高めていくためには、反社会的勢力に関する専門のデータベースの活用(暴追センターの情報や当社のデータベースの活用、記事検索サービスの活用など)や、登記情報に懸念点がないか、現場で疑わしい兆候が見受けられないか(会社の実体や実態に不審な点がある、近隣で不審な噂がある等)といった複数の端緒情報を収集したうえで、それらの相互の関連を多面的に分析しながら総合的に判断していくことが重要です。
 また、調査対象についても、商号や代表者だけでなく、現任役員や退任役員、変更前の商号なども、登記上の履歴事項等を確認してチェック対象に含めるといった精度をあげるためのワンランク上の工夫をしていただきたいと思います(反社チェックの多様な手法については、暴排トピックス2014年2月当社書籍等を是非ご参照ください)。

【Q11】

社員や取引先の葬儀業者、供花については指定されるケースがあるが、そのような場合でも調査して対応しなければならないか。また、該当した場合でも花を出さないという対応が難しい場合、どのような対応が適切か。

【A11】

 実務上、「一回性(単発)の小規模な取引については調査を省略する」という運用もあり得ます(あくまで、事業者の個別のリスク判断であり、それを内部でルール化しておく必要があります。リスク判断の際の重要な検討ポイントは、「反社会的勢力の活動を助長するか」となります)。一方で、たとえ、単発の小規模な取引とはいえ、相手が反社会的勢力であることが分かっていて取引することは好ましいことではなく、「自社で問題ないと判断したところで手配して贈る」という対応がベストとなります。ただし、やむを得ない事情等があり、「今回限り」との組織的な判断については、(反社会的勢力の活動を助長するとまで言えないとする合理的な)個別のリスク判断の範囲内での対応と整理することもできると思います。

【Q12】

自社が運営するECサイトでの商品販売においても、購入者の反社チェックが必要になるか。

【A12】

 一般的に、インターネット上での個別の取引についてまで(暴排条例上は)チェッをすることが要請されているわけではありませんので、実施するか否かは企業姿勢や個別のリスク判断によるということになります。一方で、ECサイトは、反社会的勢力等が関与することが多い詐欺等に悪用される可能性の高い「場」でもあります。事業者が主導して犯罪を助長しているわけではないにせよ、不特定多数の善意の方々を対象にそのような場を提供するという社会的責任がある以上、「場の健全性」を確保するために、何らかの施策を講じる必要があることは言うまでもありません。

 さて、インターネット通販の利用者について、反社チェックする必要がないとみなしている事業者の中には、「クレジットカードを利用した取引については、カード会社がカードホルダーのチェックを行っている」「商品の配送(郵送)の段階で、配送会社が暴力団関係者と判明しているところには配送を行わない運用をしている」ことなど、消極的な(やや他人任せの)根拠をあげているところもあります。しかしながら、最近の不正アクセス等のサイバー攻撃により大量の個人情報の漏えいが頻発している状況からは、カード情報の漏えいリスク、ID・パスワードの使い回しの実態等とあわせれば「なりすまし」リスクが高まっていますし、空き家や配送時における転送指示等を悪用した犯罪も敢行されています。このような現状をふまえれば、「健全な場の提供」が社会的責任であるとする以上、あくまで主体的に取組んでいくべきだと考えます。

【注】直近でも、窃盗グループが、他人名義のクレジットカードで不正購入したことを隠すため、全国のマンションなどの空き部屋に不正購入した商品を届けさせる手口が横行しているとの報道がありました。また、楽天が昨年、不正に気付いて発送を止めたケースだけで約8万件、総額約60億円に上るとされ、業界全体での被害額は相当な水準に上ると推定されています。

 さて、「健全な場の提供」の具体的な取組みとしては、企業姿勢を表明する意味でも、万が一の排除の際の根拠とする意味でも、利用約款(利用規約)に暴排条項を入れることは当然行っておく必要があります。また、利用者について、全件チェックを行うことは必須ではないものの、反復してあるいは一定金額以上の取引を行う購入者、購買履歴からみて何らかの端緒(転売されやすい商品を一度に大量に購入する、お届け先が頻繁に変更される等)がうかがえる場合、あるいは、お客様相談窓口へのクレーム等を契機として、必要に応じてチェックを行い、「取引制限」「取引停止」「契約解除」といった具体的なアクションを講じていくことが考えられます。なお、実際に、一定期間に1度は全件チェックを行いながら、反社会的勢力の可能性が高いものについては可能な範囲で深堀りの調査を行い、主体的に適宜「取引停止」や「契約解除」の措置を行っている大手の事業者もあります。

【Q13】

データベーススクリーニングにおいては同一性の精査が悩ましい問題だが、生年月日や年齢を聞き取ることが難しい。何か確認するのによい方法があれば教えていただきたい。

【A13】

 警察からの情報以外では、一般的には以下のようなソースを活用した同一性確認(精査)が考えられるところです。

① インターネット検索・新聞記事情報検索

新聞等の企業紹介・代表者プロフィール等やSNSに公開されているプロフィール等

② 民間信用調査機関の信用情報の確認

企業プロフィール・経営者情報等

③ 有価証券報告書の確認

役員の状況等

④ 宅地建物取引業者・建設業者名簿の閲覧

役員のほか、主要株主、顧問、相談役、資格取得者などの情報も掲載されている

⑤ その他

過去の新聞記事の情報から年齢を逆算する、掲載されている写真、記事内容から推測される生活・経済圏や行動範囲・状況等

 上記以外にも、取引開始や更新の際に役員等の年齢情報を収集するような情報シートを提出させる、外見上で何歳くらいといった情報を収集することなどが考えられます。これら以外にも、何らかの推測が可能な場面も考えられますが、ご指摘の通り年齢情報の入手は極めて難しいものです。

 実務的には、これ以上の追求が困難な場合は、(企業姿勢次第となりますが)他に不審な点がないのであれば取引だけは進めつつ、年齢情報等の収集を取引開始後も継続して行う、その他の不審な兆候等がないかをモニタリングする(すなわち、「グレー先」と分類して継続的に管理する)、そのなかで問題が判明した場合はすみやかに関係を解消するといった対応が考えられます。

【Q14】

自社で運営する広告枠に、広告代理店を通じて広告主が掲載を行った場合、広告代理店については反社チェック対象としているが、その広告主についても調べる必要があるのか。

【A14】

 一義的には、前述した「関連契約」のフレームワークを使って、広告代理店にチェックさせることでも良いと思いますが、本件の場合、「自社で運営する広告枠」であり、対外的には、「貴社の広告枠に反社会的勢力が広告を出している」と見られる(受け取られる)可能性が高いことから、貴社自身のリスクと捉える必要があります。また、広告は、反社会的勢力の活動を助長する取引の典型でもあり、そもそも反社リスクにおいては「ハイリスク」として厳格な対応が求められているとの認識も必要です。
 したがって、広告代理店から広告主の「候補」を事前に貴社に通知してもらい、貴社が主体的にチェックして判断するというプロセスとすることが望ましいと言えます。なお、その場合でも、広告代理店には自ら広告主のチェックを行うよう要請しておくこと(その結果の報告を受けること)もあわせて重要だと言えるでしょう。

2. 最近のトピックス

1) 競売からの暴排

 裁判所で行う不動産の競売から暴力団等反社会的勢力を排除できるよう、政府が民事執行法の改正作業に乗りだすとの報道がありました。法務省が有識者研究会を立ち上げ、来年の法制審議会(法相の諮問機関)での諮問を目指すということです。
 競売制度というある意味合法的な手段を通じて、「安値で競落し高値で転売する」という手法により多額の利益を得る、通常の取引では新たな用地取得が難しいことから、競売を通じて新たに暴力団事務所を設置するようになっているといった問題が既に表面化しており、この法の抜け道を防ぐことが喫緊の課題とされていました(例えば、以下の預金保険機構のWebサイトに掲載されているような提言が各種団体から繰り返しなされてきました)。

▼預金保険機構 競売からの反社会的勢力排除の試み

 「不動産取引からの暴排(反社会的勢力排除)」については、暴排条例でも明記されるなど、他の分野と比較しても取組みが進んでいる中、裁判所による競売が抜け穴とされてきた経緯があります。前述した平成26年警察白書の「犯罪組織は、常に法の規制が及ばない分野や、規制が緩い分野を求めて活動範囲を拡大している」との指摘の通り、反社会的勢力を利する分野や抜け道が顕在化しているのであれば、それを放置すること(不作為)があってはならず、法改正の速やかな実現を期待したいと思います。

2) 六代目山口組の分裂

 前回の本コラムでは、本事案が世間の耳目を集めている今こそ、反社会的勢力の活動を助長したり、活動に資するような経済取引を行うことがないよう、彼らとの「接点」や彼らからの「アプローチ」に対する警戒への対応として、全ての役職員が、暴排意識やリスクセンスを自らの持ち場で発揮できるよう徹底すること(それによって対応の質を磨くこと)が重要であると指摘しました。

 その後の状況について言えば、局所的な小競り合い等は起こっているものの、大規模な抗争につながるような大きな動きは見られません。しかしながら、水面下ではいまだに情報戦(相手を陥れるための警察への情報提供など)や引き抜き合戦、資金源を巡る駆け引き等が行われていると思われます(例えば、山口組総本部の土地の所有者である「株式会社山輝」の株主は山口組の「直参」全員ですが、報道によれば、神戸山口組に移った13人(直近の報道では17人まで増えたとも言われています)の幹部も未だに名を連ねており、株主という法的立場から「総本部の土地の一部の権利を主張できる」という理屈で乗っ取りを画策しているとの情報まであります)。
 また、警察も、情勢を正確に把握する必要性や神戸山口組の指定暴力団化を急ぐ必要性などから、組員の摘発とそれに伴う組事務所への家宅捜索を活発に行っています。

 今後、福岡県警が全国で初めて取組んだ脱税による摘発手法など、警察と司法が緊密に連携しながら、あらゆる手法・手段を駆使して暴力団取り締まりを強化していくものと期待されますが、その摘発等の端緒として、「民間からの情報提供」は極めて有効であり、警察もそれを期待しています。
 その意味では、今年6月、福岡県警が、特定危険指定暴力団工藤会壊滅作戦において、飲食店など1,600店に対して、一斉に「みかじめ料」に関する実態調査を行いましたが、調査にあたり、福岡県警は、事業者が正直に申告すれば(本来は適用できる)暴排条例を適用しないとの姿勢で臨んだとされており、このようなリニエンシーに考え方は参考とすべきだと言えます(なお、この取組みの結果、組員に対する暴排条例に基づく勧告事例や、今後は支払わないとする事業者や相談に訪れる事業者も出るなどの成果がありました)。

 参考までに、東京都暴排条例においては、利益供与違反(第24条第3項)に当たる行為をした事業者や、名義貸し違反(第25条第2項)に当たる行為をした人であっても、その違反した事実について、東京都公安委員会に申告した場合には、東京都暴排条例に規定された「勧告」の措置を免除されるという、「勧告の適用除外(自主申告)の制度」が設けられています。

▼警視庁 東京都暴力団排除条例Q&A

 いずれにせよ、暴力団の弱体化、とりわけ最大の組織である山口組の壊滅に向けて官民挙げての取組みが求められているこの時期だからこそ、万が一でも自社にグレーな部分があると認識しているのであれば、(正にそれが情報提供となり得るという意味でも)警察に相談しやすい状況であることをふまえ、「今こそ暴力団排除」に真剣に取組むべきだと言えるでしょう。さらに、ここにきて、企業不祥事が連鎖的に多数発覚(多発ではない点に注意)していますが、不祥事はもはや隠ぺいできる社会ではない(必ず発覚する)と認識すべきです。そして、不祥事からの再生、再発防止の第一歩は、正に「膿(うみ)を出し切ること」です。これまでの悪習・悪癖と決別することは、痛みは伴いますが、まずは現実にしっかり向き合うことが重要です。

 そして、一方で、暴力団組織が今後弱体化することが確実であることを社会に知らしめた今回の事案を機に、離脱して更生する道を選ぶ暴力団員が増えることをあわせて期待したいと思います。それとともに、国や事業者が離脱者支援にどのように取組んでいくべきかをあらためて真剣に検討すべき時期にきていることをあらためて指摘しておきたいと思います。

3) 忘れられる権利

 「忘れられる権利」については、本コラムでも高い関心をもってたびたび取り上げてきました(例えば、暴排トピックス2015年8月号など)。ここでは、最近の「忘れられる権利」を巡る動向について、あらためて確認しておきたいと思います。

 まず、直近では、グーグル検索で不正な診療行為での逮捕歴がわかるとして、現役歯科医が検索結果の削除を求めた仮処分申請に対し、東京地裁が表示を消すよう命じる仮処分決定をしていたとの報道がありました。それによれば、「歯科診療での不正」という社会の関心が高い情報であっても、一定期間が過ぎれば検索結果から消すべきだとの判断が示されたということです。
 また、先月、グーグル検索で児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪で罰金の略式命令が確定した男性が、過去の逮捕報道が表示されるのは人格権の侵害だとして、表示の削除を求めた訴訟で、グーグル側が「人々の知る権利に貢献するという観点から争う」との姿勢を示したとの報道もありました。

 以前も指摘した通り、「忘れられる権利」は、検索結果の公平性・中立性、表現の自由、知る権利、プライバシーのバランスをいかに取っていくのかという、極めて今日的な「インターネット上の情報流通リスク」のひとつであり、グローバルスタンダードとしての基準がまだ確立されているとは言えない状況にあります。その中で、「時間の経過」による「公益性」の減少といった考え方がひとつの基準になっていると思われますが、それでも実務面から見れば極めて曖昧なこの概念が、「一定期間を過ぎれば知る権利より人格権の保護が優先する」という結論ありきの状況に既になりつつあり、さらに、それがどの時点なのかの見極めだけが争点になっているようにさえ思われ、やや違和感を覚えます。

 本コラムのテーマとの関連で言えば、そもそも「公益性の高い属性・情報」の代表格である「反社情報」が、個別事情における厳格な比較考量を行うことなく、勝手に、例えば5年という時間の経過だけをもって「公益性」がないものと判断されてよいのか、といった問題点に対する議論がいまだ進まない中、そのような社会的な空気感が先行して醸成されていることに強い危機感を感じます。

4) テロ対策

 以前も指摘した通り、日本は四方が海に囲まれていることから、主に「海(港)」と「空(空港)」における入国管理の強化がその対策のメインとなります。また、具体的な標的(ターゲット)としては、国の重要機関、原子力発電所(原発)、鉄道や主要な駅などのインフラ関連施設が考えられますが、当該施設に入り込む「内通者」の事前排除がテロ対策においては極めて重要なポイントとなります。この点については、残念ながら、昨年、原発作業員等の身元調査の法制化が見送られた経緯がありますが、最近になって、この「内通者」対策に一歩踏み込んだ議論が進んでいます。

▼原子力規制委員会 第5回核セキュリティに関する検討会

▼資料1 個人の信頼性確認制度の方向性について(案)

 公表されている上記文書によれば、「関連会社従業員を含む従業者に対し、防護区域又は周辺防護区域(以下「防護区域等」という。)に入域すること、又は特定核燃料物質の防護に関する情報(以下「防護情報」という。)を取り扱うことをその施設等の管理権に基づき許可する場合に、確認対象者の申請に基づき、信頼性を確認した上で、防護区域等への単独での入域、又は防護情報の取扱いを許可する」ための信頼性確認制度の方向性として、例えば以下のような内容が検討されているようです(下線部は筆者)。

  • 申請者の氏名、住所、生年月日等の人定事項、申請者の学歴、職歴及び賞罰の経歴申請者の法律上の責任能力、テロ組織等暴力的破壊活動を行うおそれのある団体や暴力団との関連等、限定した事項について、申請者に対して自己申告及び当該申告内容の一部についてはこれを証明する書類の提出を求めるとともに、申請者に面接考査及び適性検査を実施する
  • 施設等の管理権に基づき、内部脅威者になるおそれがあるか否かを確認するために必要な個人情報を取得する
  • 取得する個人情報については、原則自己申告によるものとし、一定の範囲でこれを客観的に裏付ける公的な証明書類の提出を求める
  • 事業者は、取得した個人情報を確認するため、面接考査及び適性検査を実施する

 本コラムとの関係で言えば、「テロ組織等暴力的破壊活動を行うおそれのある団体や暴力団との関連等、限定した事項について、申請者に対して自己申告及び当該申告内容の一部についてはこれを証明する書類の提出を求める」となっており、自己申告等をベースとしている点では、グローバルスタンダードから見ればまだまだ脆弱性を有していると指摘できます。また、「これを証明する書類の提出」が誓約書レベルのものなのか不明ですが、少なくとも、原子力発電事業者等が主体的に厳格な反社チェックやテロ等にかかる制裁リストによるスクリーニングを実施するといった取組みは行うべきです。
 今後、多くの国際イベント開催が目白押しとなっている日本が、(好むと好まざるに関わらず)テロリストの格好のターゲットとなっている状況からみれば、グローバルスタンダードに準じた早急な制度設計と厳格な運用の開始が望まれます。

5) 入れ墨(タトゥー)問題

 入れ墨(タトゥー)の問題については、これまでも本コラムで度々取り上げてきましたが、暴力団等の反社会的勢力を連想させる日本的な「入れ墨」概念とファッション的な意味合いの「タトゥー」概念との文化の違いに起因する摩擦が生じています。日本においては、「暴力団お断り」の文脈で「入れ墨お断り」が語られることが多いのですが(加えて、公衆浴場等における感染症対策の意味もあります)、海外からの観光客を排除する理由としては、それだけではやや合理性を欠いているのも事実でしょう。そのような中、観光庁が本件に関するアンケートを実施していますので、以下にご紹介いたします。

▼観光庁 入れ墨(タトゥー)がある方に対する入浴可否のアンケート結果について

 まず、本アンケート結果によれば、入れ墨がある方に対する入浴について、「お断りをしている」施設が55.9%、「お断りしていない」施設が約30.6%という結果になっています。さらに注目すべきは、「シール等で隠す等の条件付きで許可している」という施設が約13%もあるという点です。有名リゾート施設運営会社がこのような運用を始めたことが大きく報道されたことが影響しているようにも思われます。
 また、入れ墨がある方の入浴をお断りする経緯については、「風紀、衛生面により自主的に判断している」が58.6%、「業界、地元事業者での申し合わせ」が13.0%、「警察、自治体等の要請、指導によるもの」が9.3%といった結果になっています。
 一方で、「入れ墨のある客の入浴を巡りトラブルが発生したことがある」のは18.6%ということですが、とりわけ、「一般客から入れ墨に関する苦情を受けたことがある」施設が47.2%あったという点は、入れ墨に対して一般の方々の関心が高いことの表れであり、大変興味深いデータです。

 また、大阪市が職員に入れ墨の有無を確認する調査をしたことと、調査に答えなかった職員を懲戒処分にしたことは違法か、が争われた2件の訴訟の控訴審裁判についても進展がありました。
 今回、大阪高裁は、ともに違法とした1審・大阪地裁判決を取り消し、調査も処分も適法と判断しています。まず、調査について、報道によれば、「市政への信頼が失墜しないよう、目に触れる場所に入れ墨がある職員を把握し、市民らと接触が多い部署を避けるなどの人事配置に生かす目的で、正当だった」と必要性を認め、「思想や信条、宗教についての個人情報とは認めにくく、人種、民族、犯罪歴についての個人情報でもない」ため「社会的に不当な差別を受ける恐れがある情報ではない」と判断したとされています。その結果、2人が回答を拒んだ事実について「職務上の義務に違反し、全体の奉仕者としてふさわしくない非行であり、職場の秩序を乱した」として、戒告処分は「裁量権の逸脱、乱用ではない」とも判断したと言うことです。

6) 犯罪インフラ化を巡る動向

① 不動産

 先に紹介した空き家を悪用したネット通販詐欺事例のように、不動産が「犯罪インフラ化」している実態があり、特に、市町村レベルまで制定が拡がった暴排条例によって暴力団事務所の新設が難しくなっている中、不動産事業者が意図的に(あるいは「情を知って」)物件を仲介する事例も後を絶ちません。最近も、居住用に契約したマンションの一室を特定危険指定暴力団工藤会の関係者が使う事務所にしていたとして、詐欺容疑で自称無職の男を千葉県警が逮捕しています。

 不動産からの暴排については、例えば、東京都暴排条例では、暴力団員が、自らが暴力団員であることを隠す目的であることを知りながら、自分の名義を利用することを許す「名義貸し」行為が禁止されています(第25条)し、特に不動産事業者については、「当該不動産を暴力団事務所の用に供し、又は第3者をして暴力団事務所の用に供させてはならないこと」を契約書に盛り込むこと(第19条)や、「自己が譲渡等の代理又は媒介をする不動産が暴力団事務所の用に供されることとなることの情を知って、当該不動産の譲渡等に係る代理又は媒介をしないよう努めるものとする」(第20条)と規定されています。

 本事例については、契約上の措置とは別に、当該マンション付近で高級車や不審な人物の出入りが見かけられており、「情を知って」ではないにせよ、このような事実が明らかにになれば、より踏み込んだ物件の監視態勢(他の入居者や近隣からの通報の受付体制や巡回の実施など)が社会からは求められることになると認識し、今後のあり方を検討していく必要があるのではないでしょうか。つまり、暴排条例の規定レベルにとどまらず、不動産が暴力団事務所に利用されることは暴力団等の活動を助長する典型的な事例であって、一方で様々な犯罪を助長する「犯罪インフラ化」している実態が顕在化している以上、不動産事業者はより厳格な顧客管理が求められていると言えます。

② レンタル携帯電話

 「犯罪インフラ化」という視点からは、直近では、本人確認をせずに携帯電話のSIMカードを貸し出したなどとして、携帯電話レンタル会社の実質経営者ら男7人が、携帯電話不正利用防止法違反容疑で逮捕されたという事例がありました。首都圏の16の代理店に供給した携帯電話1800回線以上が、特殊詐欺やヤミ金などに使われた可能性があるというもので、本事例に限らず、携帯電話レンタル事業の健全性については、典型的な「犯罪インフラ化」が進んでいると言わざるを得ません。なお、この携帯電話レンタル会社の実態については、以前も本コラム(暴排トピックス2014年9月号)で取り上げていますが、警察庁による以下の資料に詳しく、あらためて紹介しておきます。

▼警察庁「平成26年上半期における主な生活経済事犯の検挙状況等について

 本資料内にある携帯レンタル事業者に関する調査結果によれば、「本人確認の方法」「本人特定事項」等、携帯電話不正利用防止法で規定された記録すべき事項が全て記録されていたのは全体の3.1%に過ぎず、身分証明書の偽変造が認められたものは94.6%に上ること、真正な身分証明書のコピーが添付されていたのが全体の5.2%、連絡が実際についたものは1.0%という惨憺たる実態です。つまり、レンタル携帯電話のほぼ全てが犯罪のために利用されているとさえ言えるのです(これがビジネスとして成立していること自体問題があり、今後、規制や許認可のあり方を含め見直すことが急務だと思われます)。

③ 診療報酬審査

 国民健康保険の審査をすり抜け、患者を治療したなどと偽って診療報酬を水増しして不正請求していたとして、指定暴力団住吉会系組長ら男女14人が逮捕されています。さらに、この事件においては、暴力団組員やお笑い芸人ら数百人が保険証を提供しており、少額の報酬目当てに「アルバイト感覚」でこの詐欺スキームに加担していた実態も明らかになりつつあります。医療費抑制が喫緊の課題とされる中、膨大な数の審査に忙殺されて不正を完全に見抜くのが難しいという(半ばあきらめにも似た)構造的な問題が以前から指摘されており、暴力団がその脆弱性を突いて、この事件だけで数億円単位の資金源にしていたことになります。そして、この事件は正に氷山の一角である可能性も否定できず、診療報酬審査が「犯罪インフラ化」しているのではないかと危惧されます。

 このように、暴力団の資金源として「犯罪インフラ化」している実態が明らかとなった以上、厳格な審査システム(審査管理システム)の導入は、もはや待ったなしです。「同じような治療を短期間に繰り返すなど、全体を見れば不審な動きは見つかる。不正な入出金を自動的に監視している銀行のようなシステムの導入が必要だ」という捜査関係者の指摘(平成27年11月7日付産経新聞)は、正に正鵠を射たものと言えるでしょう。

3. 最近の暴排条例による勧告事例・暴対法に基づく中止命令ほか

1) 東京都の勧告事例

 東京都公安委員会は、バングラデシュ国籍の飲食店経営者の男性が、指定暴力団住吉会系組長が営むヤミ金業者に利息を支払ったとして、東京都暴排条例に基づき、利益供与をやめるよう勧告しています。また、同組長にも同様の勧告をしています。無登録貸金業者への利息払いを利益供与として勧告するのは全国で初めてということです。

2) 愛知県の勧告事例

 愛知県公安委員会は、愛知県暴排条例が施行された平成23年4月から今年6月にかけて、指定暴力団山口組弘道会系の組長の後援会費など計750万円の資金提供をしていたとして、同条例に基づき、愛知県内で飲食業や建設業を営む男性7人に、資金提供を行わないよう勧告しています。また、同組長にも受け取らないよう勧告しています。

3) 大阪府の勧告事例

 大阪府公安委員会は、暴力団組長と知りながら高級外車を貸したのは利益供与にあたるとして、大阪府内のレンタカー会社代表の40代男性に対し、大阪府暴排条例に基づき勧告しています。報道によれば、レンタカー会社代表の男性は「何かトラブルがあったときに助けてもらえると思った」と話しているということです。

4) 福岡県警の中止命令発出

 みかじめ料を要求する目的で電話をかけたなどとして、福岡県警は、特定危険指定暴力団工藤会系組幹部に同様の行為を禁じる中止命令を出しています。脅迫などの暴力的行為が認められない段階で中止命令を出すのは全国でも初めてということです。中止命令により、面会の要求や男性への付きまといなどが禁じられ、違反すれば暴力団対策法に基づき逮捕されることになります。

5) パチンコ業界からの暴排

 前回の本コラムでもご紹介しましたが、福岡県公安委員会は、特定危険指定暴力団工藤会にみかじめ料約4,000万円を渡したパチンコ店経営者に支払いをやめるよう、全国で初めて勧告を出しています。
 これを受けて、パチンコ店でつくる福岡県遊技業協同組合が、暴力団排除総決起大会を開き、あらためて暴力団排除を推進することを確認しています。なお、パチンコ業界が都道府県レベルの暴排大会を開くのは全国でも珍しいということです。

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