暴排トピックス

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

最新の暴力団情勢~暴力団対策・反社リスク対策の今後(2019.12)

【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.最新の暴力団情勢~暴力団対策・反社リスク対策の今後

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

(2)特殊詐欺を巡る動向

(3)暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

(4)テロリスクを巡る動向

(5)犯罪インフラを巡る動向

(6)その他のトピックス

・薬物を巡る動向

・IR/カジノを巡る動向

・犯罪統計資料

・令和元年犯罪白書/再犯防止推進白書

(7)北朝鮮リスクを巡る動向

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく勧告事例(東京都)

(2)暴排条例に基づく起訴事例(神奈川県)

(3)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(大阪府)

1.最新の暴力団情勢~暴力団対策・反社リスク対策の今後

兵庫県尼崎市の路上で指定暴力団神戸山口組の古川恵一幹部が、指定暴力団六代目山口組の元組員と見られる男に自動小銃で射殺されるという事件が発生しました。六代目山口組の高山若頭の出所以降、抗争の激化が顕著となっていることをふまえ、警察庁は、両団体の関係事務所20か所について、暴力団対策法上の事務所使用制限命令(対象となる事務所では組員の集合や連絡、凶器の保管などが禁止されます)を発出するなどして規制・対応を強化していましたが、今回の事件を受けて、いよいよ両団体を「特定抗争指定暴力団」に指定する作業を本格化させています。特定抗争指定暴力団に指定されれば、警戒区域内において5人以上で集まることや組事務所へ立ち寄ること、対立する組事務所近くでうろつくこと、傘下事務所の使用などが禁止され、違反すれば即逮捕できるなど、その活動に相当厳格な規制がかかることになります。警察当局はすでに、全国に広がる両組織のどの傘下団体をターゲットとするか、警戒区域をどこへ設定するかなどを検討しており、早ければ来年1月早々には指定される見通しといわれています。なお、過去には、平成24年12月に福岡県の指定暴力団道仁会と指定暴力団九州誠道会(当時)が指定され、抗争沈静化のきっかけとなった経緯があります(参考までに、同年には、同じく福岡県の指定暴力団工藤会を「特定危険指定暴力団」に指定して取り締まりを強化し、組織の弱体化に結びつけたことは本コラムでも紹介しているとおりです)。

古川幹部射殺事件について、六代目山口組側の事情をみると、和平路線に傾きつつあった六代目山口組内で孤立気味とみられていた高山若頭が、実は主導権を握り、強硬策に出ていることが明らかになりつつあります。実行犯は、高山若頭に気合を入れられたうちの一人とされる、二代目竹中組の安東美樹組長の元付人で、武力に長けたボディガードだったと言われているようです(なお、同容疑者は昨年12月に破門されていますが、破門は偽装だったとの見方もあります)。またこの事件の前には、やはり神戸山口組の幹部が熊本で襲撃される事件が起きていますが、その実行犯は高山若頭に引退を迫られていた二代目伊豆組傘下の幹部らだったようです。これらをふまえれば、今回の事件の背景には、高山若頭が出所後、ナンバー4といわれる直系・極真連合会の橋本会長の引退や出身母体である弘道会における幹部人事の刷新などの大きな動きをみせ、また直系組長らを叱責したとの情報もあり、高山若頭の動きが犯行の引き金になったとする見方が有力で、一連の事件は組織的な犯行ではないかと考えられます。

一方の神戸山口組については、井上組長をトップに副組長、若頭などと続く組織になっており、古川幹部を含む5人がそれらを支える「幹部」と呼ばれる役職につく体制となっていますが、一連の抗争では、今回射殺された古川幹部だけでなく、実行犯は京都市内にある神戸山口組の別の幹部がトップの2次団体を名指しし「今から組を襲撃するつもりだった」などと供述しています。さらに、今回の事件の前には熊本市内で別の神戸山口組の幹部本人が六代目山口組系組員に刃物で襲われています。さらに、札幌市内の幹部宅が六代目山口組関係者の車に突入されるなど、幹部5人中4人が標的となる抗争事件が立て続けに発生しています。そのような中、12月に入って、神戸市中央区で今年8月に発生した弘道会系組員が銃撃された事件で、神戸山口組の中核組織「山健組」組長の中田浩司容疑者本人が殺人未遂と銃刀法違反の疑いで逮捕されました。指定暴力団を支える中核組織のトップ自らが実行犯して逮捕されるという前代未聞の事態に、関係者の間に衝撃が走っています。山健組はかつて六代目山口組の中枢を占め、「山健組にあらずんば山口組にあらず」と言われたほどの勢力を誇っていましたが、2005年に名古屋市の「弘道会」出身の司忍が六代目組長に、高山清司がナンバー2の若頭に就くと、名古屋勢が主流派となります。2015年8月の山口組分裂は、名古屋勢に不満を募らせた山健組が主導したとされています。その後、六代目山口組からの相次ぐ襲撃に、警察当局の摘発強化も相まって組織力は低下、2004年には山健組だけで準構成員を含め約7,000人を擁していたものの、2018年末には同組を含む神戸山口組全体で約1,700人にまで激減しており、一方の六代目山口組がいまだに約4,400人もの勢力を維持していることから、その差が際立つような状況となっています。なお、弘道会の資金源が相変わらず盤石であるのに対し、神戸山口組側は資金面、人材面で窮しているとみられ、雲泥の差だとする指摘もあります。また、山健組については、昨年5月にトップが交代し、中田組長が就任しましたが、その代替わりに合わせて山健組の内部対立が先鋭化したとの情報があります。そのトラブル中に神戸山口組3次団体であった「兼一会」が六代目山口組の切り崩し工作に遭い、極真連合会の傘下に入ったともいわれています。今回の中田組長の逮捕により、山健組内部の混乱はピークに達しているとみていいと思われます。このような状況をふまえれば、中田組長本人が実行犯となった理由はさまざまに囁かれているところ、「やられたらやり返す」山健組としての矜持、率先垂範であったのか、本人が「返し」に行かざるを得ないほど、神戸山口組の組織内部がガタガタになってしまっているのか、いずれにせよ最高幹部を失った神戸山口組の屋台骨が大きく揺らぐのは間違いないところだといえそうです。

抗争とはいいつつも、大勢としては、六代目山口組の攻勢が優位な状況にあるように見られますが、六代目山口組とて盤石ではありません。それは、時代とともに暴力団を取り巻く環境が変化(激変)していることへの対応に遅れが見られるという点です。これまでと同じように下部組織からお金を吸い上げる「弘道会方式」はもはや社会情勢的にも構造的にも通用しないことは明らかであるにもかかわらず、六代目山口組は、新たな環境に対応できておらず、今後の新たな暴力団のあり方に対するビジョンも打ち出せていないのが実情です。さらに高齢化の問題も無視できず、このままの形で組織を維持していくことは難しいことは明らかです。ただ、暴力団がなくなったからといって犯罪集団がなくなるわけでもありません。本コラムでたびたび指摘しているとおり、そもそも日本の暴力団のように、堂々と看板を掲げている犯罪組織は世界的には珍しく特殊であって、今後は目に見える暴力団という犯罪組織から、半グレのように潜在化して目に見えない組織、あるいはよりアメーバ的な柔軟な組織、はたまたセル化された組織に変容していくことなども考えられるところです。いずれにせよ、暴力団にとっては新たなあり方の模索が急務であり、裏返せば、暴力団が公然と存在する状態を前提とした現行の暴力団対策法のあり方は時代に合わなくなっている(限界を迎えている)ことをも意味します。そのような状況を厳しく認識し、新たな法律や捜査手法、反社リスク対策のあり方の議論が急務となっているともいえます。

さて、暴力団離脱者支援の重要性が増していますが、暴力団離脱者の口座開設にどう対応していくかも重要な論点となっています。報道(令和元年11月15日付ニッキン)によれば、暴力団追放運動推進都民センターが、離脱者の就労証明書を発行して金融機関に口座開設を働きかける取り組みを本格化させているということです。証明書は警察情報などを基に作り、対象者が組織を脱退済みで就労先企業が反社会的勢力に該当しない点などを明記、また、就労先は対象者が意欲的に継続勤務している事実を説明することとしており、現在は試験的に取り組める金融機関を探しているということです。一方で、この論点については、以前の本コラム(暴排トピックス2019年10月号)でも紹介した令和元年9月11日付の西日本新聞「元組員に口座 銀行敬遠 「離脱5年は開設拒否」7割 九州22行アンケート」と題する記事もあわせて参照する必要があります。本コラムでは、この記事について、以下のとおり指摘しています。

元暴5年条項(いわゆる5年卒業基準)の運用実態がかなり具体的に明かされたものとしてとても貴重であり、個人的な感想としては、想像以上に判断の「振れ幅」が大きいという点に興味を覚えました。偽装離脱の実態、暴力団離脱者支援の視点、現時点での暴力団との関係性、自社(自行)に及ぶレピュテーション・リスクの評価、普通預金口座の「生活口座」としての活用(生活インフラ・社会インフラ性)、犯罪悪用リスク(犯罪インフラ性)、契約自由の原則、社会情勢の変化など考慮すべき点は多々ある一方で、明確にシロクロが判定できるものは多くない状況の中で、総合的に判断せざるを得ないのが実態かと思われます。一般事業者が、契約自由の原則から「疑わしい者とは取引しない」とする考え方に偏りがちな一方で、「生活口座」を提供する公共性の高い銀行業務の性格(それとは別次元で、拒否することで当人に与える有形・無形の影響力の大きさなど)から一般事業者以上に慎重さが求められることも悩ましい部分ではあります。いずれにせよ、(社会的に受容される範囲で)あくまで各行の個別のリスク管理事項であり、事例検討を積み重ねていくことによって、判断基準を明確にしていくことが重要となると思われます。

それに対し、今回の都民センターの取り組みへの反応としてニッキンの記事では、「金融界では08年以降の暴排条項導入により、短くとも離脱後5年間は口座の開設や凍結解除を断るのが一般的に。現状では、証明書で口座開設を認めることにも消極的」、「口座が悪用された場合に金融機関が責任を負う前提では難しい。センターの継続監視が必要」、「証明書で組織と縁を切ったという確証は得られず、雇用主と結託する恐れもある」、「離脱証明は非常に難しく、反社排除に向けた一番悩ましい論点」といった金融機関の声などが報じられています。実際に元暴力団員で今は更生している方も、「ゼロからではなくマイナスからのスタートであることを覚悟しなければならない」、「暴力団ではない『一般人』が当たり前に持つことができるものを持つことができません。社会的制約があります。元暴力団だという風にみられることは当たり前のことで、そこからのスタートとなります」などと述べており、更生のハードルが極めて高い現実も感じられます。さらに、更生を支援する立場からは、「社会に居場所を得ることができなかった離脱者は、生きるため、家族を食べさせるために、カネを稼がないといけません。そうすると、彼らは元暴アウトローとして、半グレなどと組んで悪事を働きます。たとえば、覚せい剤の販売、恐喝、各種詐欺などです。離脱者を元暴アウトローにすることで、新たな被害者を生んでしまう」といった指摘もなされています(令和元年11月10日付弁護士ドットコムニュース)。本問題については、(1)暴排が進めば離脱者支援の重要性が高まること、(2)離脱者支援が不十分であれば暴力団への再加入、「元暴アウトロー」を生み出すなどして社会不安を助長しかねないこと、(3)現状は社会的に離脱者支援を求める風潮が大きなうねりとはなっていないこと、一方、(4)金融機関や事業者にとっては各社(各行)の個別のリスク管理事項であること、などが構造的要因としてあることから、この問題が一気に解消に向けて動くかどうかは厳しい状況にあるのは事実です。しかしながら、社会全体でよい解決方法を模索すべき時期にきているのは確かであり、本コラムでも今後も問題提起を続けていきたいと思います。

金融機関の暴排実務における重要なピースに「整理回収機構(RCC)」への反社債権売却があります。報道(令和元年11月13日付東京新聞)によれば、2012年度から始めた反社債権買い取り事業で、昨年度までの7年間に金融機関から持ち込まれた債権は795件、85億4,600万円に上り、元本の約1割(8億4,700万円)で買い取ったが回収できたのもほぼ同額(8億3,200万円)で、債務者が返済に応じていない実態が浮かびあがったと指摘されています。RCCが買い取った反社債権については、金融機関が暴力団組員やフロント企業、総会屋などに融資し、回収が困難な債権を指し、地方銀行が最も多く、次いでクレジット会社、信用金庫・組合と続くこと、債務者の大半が暴力団組員や元組員、準構成員らで、旧山口組が最も多く、稲川会、住吉会と続くことなどが紹介されています。ただし、反社債権の買い取りには厳しい審査があり、債務者が暴力団組員や準構成員、暴力団を離脱してから5年以内が対象で、半グレなど明確に反社債権と認定できない「グレー債権」が増えており、RCC幹部は「金融機関が反社債権だと思っても、グレー債権は制度上買い取れない」と述べています。さらに、「銀行や信用金庫が暴力団関係者に新規で融資する例はほぼなくなった」とする一方、「クレジット会社や貸金業者は審査が甘い。虚偽の内容で審査をくぐり抜ける例も少なくない」と指摘しています。本制度は、暴力団等から回収できない債権であって、それはつまり反社会的勢力を利する要素もあり、厳格な運用が求められているところ、報道等を見る限り十分に機能しているものと推測されます。反社債権に分類されない「半グレ」等の債権は、現時点では各行の責任において管理すべきものである点にも違和感や異論もなく、各行が十分な「目利き力」を発揮し、管理していくべきものと考えます。

特殊詐欺事案における暴力団対策法上の使用者責任については、現在、下級審の段階で判断が分かれているところです。以前の本コラム(暴排トピックス2019年6月号など)で取り上げていますが、直近の4件の判決では、原告側勝訴が2件、敗訴も2件といった状況であり、今後の高裁の判断が待たれます。なお、4件の裁判については、以下に簡単に確認しておきます。

措定暴力団住吉会系の組員らによる特殊詐欺の被害に遭った茨城県の女性3人が暴力団対策法上の使用者責任規定に基づき、住吉会の関会長と福田前会長に計約700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、水戸地裁は、3人のうち2人に対する605万円の賠償を会長らに命じています。報道によれば、組員が住吉会の威力を利用して「受け子」を集め、詐欺グループを構成したと認定、会長らが特殊詐欺について、暴力団対策法上の使用者責任を負うとの判断を示したものです。特殊詐欺で暴力団トップに暴力団対策法上の使用者責任を適用したのは全国で初めてとなります。本コラムでもたびたび紹介しているとおり、2008年施行の改正暴力団対策法では、「暴力団の威力」を利用して他人に危害を加えたり財産を奪ったりした場合、末端の組員が行った場合でも組幹部の責任を問えると規定しています。判決は、組員が被害者に直接威力を使わなくても、共犯者集めなど犯罪実行までの過程で威力を利用していれば使用者責任が生じると指摘、今回の事件では、受け子探しを指示された男は、組員が住吉会系の暴力団員であることを認識して恐怖心を抱いており、組員もそのことを知っていたと認定し、「威力の利用」にあたると判断、会長らは「損害を賠償する責任を負う」とされました。一方で、受け子役の男については、だまし取った現金を回収する男の腕に入れ墨があることを見ていたものの、暴力団員が関与しているという認識があったとは確認できず、「威力の利用には当たらない」と判断されています。

それに対し、住吉会系組員らによる特殊詐欺の被害者が、組員と住吉会最高幹部ら8人に1,950万円の損害賠償を求めた別の訴訟の判決で、東京地裁は、実行犯の組員に1,100万円の賠償を命じています。一方、幹部ら7人への請求は棄却、「詐欺に暴力団の影響力が使われたとは認められない」と判断しています。報道によれば、判決では、「組員が共犯者をどのように手配し、管理・統制していたか明らかではない」などとして幹部らの責任を否定したほか、「組員が住吉会の資金獲得のため詐欺を行った証拠はない」として、従業員らの不法行為の責任を雇用主らが負うとする民法の「使用者責任」の成立も否定しています。組員の男は詐欺グループの中心人物に受け子を紹介しているものの、その人物と住吉会側との関係も明らかでないこと、詐取された金が住吉会側の収益となった証拠もないことなどから、「組員の男が住吉会の事業として詐欺行為をしたとは認められない」と結論づけています。報道の中で、原告代理人弁護士が、暴力団対策法、民法いずれの「使用者責任」も否定した判決を受けて、「想定外の判決。暴力団内部の収益の移動を被害者が立証するのは難しい。その困難な立証を強いるものだ」と批判していますが、筆者としても、その立証のハードルの高さから使用者責任を認められないとするのは暴力団と特殊詐欺グループの関係性の実態をふまえれば違和感を覚えます。2件とも控訴審でさらに議論が深化していくことを期待したいと思います。

また、指定暴力団稲川会系組員が関わった振り込め詐欺事件の被害者4人が辛炳圭(通称・清田次郎)会長ら4人に計約2,600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は、計約1,500万円の支払いを命じたというものがありました。暴力団対策法では、組員らが「暴力団の威力」を使って市民に経済的被害を与えた場合、暴力団の代表者らの責任を問える形となっていますが、今回の判決では、会長の使用者責任を認めた内容となっています。報道によれば、「事件は組織的、計画的に実行された。組員が加担し、暴力団の威力を背景に資金を獲得した活動に当たる」と指摘。暴力団対策法上の使用者責任を負うと判断したとされます。なお、事案の概要としては、原告4人は2014年、息子を装う稲川会系組員らの詐欺グループからの電話で「知り合いの女性を妊娠させた。示談金が必要」などと言われ、それぞれ250万~400万円をだまし取られたといったものでした。

直近では、暴力団稲川会系組員らによる特殊詐欺事件の被害に遭った70代の女性が、稲川会の辛炳圭(通称清田次郎)元会長に2,150万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は、「詐欺は稲川会の威力を利用した資金獲得行為とは認められない」などとして、暴力団対策法と民法の両面で使用者責任を認めず、請求を棄却しています。組員が詐欺に使う携帯電話などをどう準備したかは明らかでなく、稲川会が協力したと認められる証拠もないと指摘、共犯者に暴力団組員であることを示した証拠もないとして、稲川会の威力を利用したとはいえないと判断しています。さらには、詐取金が稲川会の収益になった証拠もないとして、民法上の使用者責任も否定しています

工藤会の動向については、直近では本部事務所の解体工事が進み、暴力団排除に向けた北九州市などの取り組みは新たな段階を迎えることとなったことが大きなトピックとなります。本コラムでもその動向を伝えてきたとおり、本事務所については、襲撃事件で起訴されたトップ、野村悟被告が代表取締役を務める会社が所有していましたが、福岡県警による頂上作戦後、暴力団対策法に基づく使用制限命令を受け「空き家」状態になっていました。昨年(2018年)末に北九州市が固定資産税の滞納を理由に土地・建物を差し押さえ、一方の工藤会側も同じ頃、売却の方針を固め、市や県警などのあっせんを受ける形で売却先を探していたタイミングでした。そして、11月12日、公益財団法人「福岡県暴力追放運動推進センター」を介して県内の民間業者に約1億円で売却する契約が結ばれ、その売却益が一般人襲撃事件の被害者に対する損害賠償に充てられる「北九州方式」による事務所売却スキームが成立しました。工藤会の県内の構成員数はピークだった2008年末の約730人から2018年末は約310人にまで減っていますが、現在進行中の裁判の行方とともに、福岡県警は引き続き動向を警戒しています。

なお、この「北九州方式」における売却先の選定には、やはり紆余曲折があったことがうかがえます。(週刊誌情報とはなりますが)当初は北九州市が主導して、入札で売却先を決めようとしたものの、工藤会と親しい市内の業者が手を挙げる動きがあったため、福岡県警が待ったをかけて独自に売却先を探したといいます。企業名が事前に漏れれば、元組員たちから嫌がらせを受ける可能性もありましたが、結果として、監査役として県警OBが守護神につく土木関連会社が選ばれたといいます。実は解体業者も顧問に県警OBがおり、すべての過程で反社が手を出せないよう、福岡県警が主導して企業を守る裏スキームが構築されていたということです。

それ以外にも、西日本新聞(令和元年11月23日・24日)で興味深い論点が2つ示されていますので、紹介します。まず、そもそも本事務所は、暴力団対策法上の使用制限命令が出されており、これまで17回延長され、実は現在も同命令が出ている状態であり、12月25日まで原則組員が立ち入れない状況にあります。福岡県警は、命令の延長申請を含めて慎重に検討するということですが、仮に命令が延長されると、使用制限中に事務所自体がなくなる異例の事態になるものの、建物がなくなっても、即時に命令撤回されることはないのではないかとの見方がされています(撤回してしまうと組員が敷地内に出入りでき、民間企業への転売に支障を来す可能性もあることをふまえてのものとされます)。もうひとつは、一般人襲撃4事件を巡り、殺人などの罪に問われた同会トップで総裁の野村悟被告と、ナンバー2の会長田上不美夫被告は2014年の逮捕以降、約5年2カ月以上にわたり家族を含めた接見禁止が続いている状況だということです。野村被告の弁護側は直近11月に家族の接見禁止を解くよう申し立てましたが、福岡地裁は解除しない判断をしています。人権上の問題が指摘されている一方で、5年を超えて家族も接見できない状態は異例ではあるものの、工藤会の組織性を踏まえるとやむを得ない判断だとの見方が一般的です。

その他、最近の報道から、反社会的勢力を巡る動向等について、いくつか紹介します。

  • 富山県射水市に事務所を置く指定暴力団任侠山口組傘下の本江組が、10月末、警察に解散届を提出し、受理されたことがわかりました。一方、組事務所は残されたままのため、周辺住民が射水市に対し、撤去を求めているとのことです。住民らは、土地建物の所有者である前の組長から、無償で譲渡するという申出書を受け取っており、自治体が暴力団事務所を買い取った県外の事例もふまえ、あらためて、市長に要望したいといいます。なお、現時点で市の対応方針については明らかとなっていません。
  • 福井県公安委員会は、敦賀市にある神戸山口組2次団体正木組の正木年男組長に対して、損害賠償請求訴訟の妨害を禁止する命令を出しています。暴力団対策法に基づく措置で期間は1年間となります。2018年2月にあったみかじめ料を巡る組員の強盗致傷事件を受けた訴訟に伴うもので、10月16日に県警が仮命令を出していたものです。
  • 暴力団進出を懸念し、住民らの反対運動が起きていた名古屋市名東区の梅森坂地区の土地が、宅地と商業地となることが決まり、住民らに計画が発表されました。報道によれば、同地区を巡って10年以上、暴力団排除に取り組んできた住民たちからは「これまでの努力が報われた」と、安堵の声が聞かれたということです。問題の土地は、弘道会の幹部と密接な関係にあるとされた人物が約5,000平方メートルを2008年8月に購入、以来、地域住民らは「暴力団の拠点を作らせない」と、暴力団事務所の開設禁止区域拡大を求めて約1万人の署名活動を行い、愛知県の暴排条例改正を実現させています。住民間で土地や建物を暴力団に使用させない「建築協定」も締結するなど、知恵と工夫で取り組んできた成果となります。住民による暴排活動のひとつの好事例として他の地域にも参考に指定いただきたいと思います。
  • 無登録で金を貸し付ける「ヤミ金融業」を暴力団関係者らに対して営んだとして、富士宮署、静岡県警捜査4課、組織犯罪対策課は、貸金業法違反と出資法違反の疑いで、六代目山口組藤友会系組長を逮捕しています。容疑者は藤友会系の現役組員や元組員といった「身内」をはじめ、密接な関係がある共生者らを狙い、法外な利息で金を貸し付ける行為を繰り返していたとされます。なお、本件は容疑者を含む藤友会系の組員らが正月飾りやだるまの購入を商業者に組織的に迫るなどした事件を捜査する過程で、発覚したものです。身内をターゲットに資金獲得活動を行っている点は、民間事業者のノルマ至上主義を連想させ、やや滑稽にさえ感じられます。
  • 菅官房長官は、首相主催の「桜を見る会」に反社会的勢力が出席していたとの指摘について「出席は把握していなかったが、結果的には入ったのだろう」と述べています。また、「個々の招待者が招待されたかどうかも含め、個人情報なので従来回答は控えている。『反社会的勢力』は様々な場面で使われ、定義は一義的に定まっているわけではない」と述べて、物議を醸しています。なお、本件については、筆者は、令和元年12月4日付東京新聞において、「実務上は定義を広く捉え、怪しい者と関係を持たないよう助言している」、「政治家が来るような会合は、写真を撮って宣伝するなど悪用されやすい。来場者がどんな人物か厳しくチェックすべきだ」とコメントしました。
  • 大阪市の繁華街・ミナミのガールズバーで深夜、少女に接客をさせたとして、大阪府警は、ミナミを拠点とする半グレ集団「モロッコ」幹部を風営法違反と労働基準法違反の疑いで逮捕しています。半グレは暴力団の隠れみのになっているとも指摘され、府警が摘発を強化しており、グループのリーダーらを相次いで逮捕しています。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

FATFの第4次対日相互審査が終了しました。結果が出るのは来年の夏ごろになりますが、審査自体はあくまで「通過点」に過ぎず、国際社会からの信頼を得ていくためにも、継続的に態勢の高度化を図っていくことが求められているといえます。以下、金融庁と業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点についていくつか紹介します。実際の会合はFATF審査より前に行われたもののこのあたりの点も言及があります。

▼ 金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点(令和元年9月)
▼ 共通事項

まず、FATF 第4次対日相互審査への対応については、「FATFオンサイト審査がいよいよ来月28日から3週間の予定で行われる。オンサイト審査のインタビュー対象先は9月中下旬に選定される予定である。インタビュー対象となった先にはインタビューの準備をして頂くことになるが、ロジ面も含め金融庁としてしっかりとサポートをさせていただく」、「他方、インタビューに選ばれるか否かに関わらず、各金融機関におかれては、マネロン等における適切なリスク管理体制の構築やリスクの特性に応じた取組みを引き続き経営課題として進めていただきたい。今回のFATF 審査は通過点に過ぎず、継続的に態勢の高度化を図っていく必要があることを今一度ご理解願いたい」、「政府としても、金融機関等の利用者の理解を深めて頂くために、本年8月から9月にかけて、新聞広告、ラジオ、テレビ等により、金融機関窓口等での取引時の情報提供への協力を求める政府広報を実施したところである」といった言及がなされています。また、外国人の銀行口座開設に対する対応については、「ある銀行が覆面調査を行ったところ、外国人の銀行口座開設について、ある支店では適切な対応が行われていた一方、別の支店では誤った認識に基づいて外国人の口座開設を断るような対応が行われていたという事例があった。自発的にこのような覆面調査が行われたことについては大変好ましいが、皆様におかれては外国人の円滑な口座開設のための取組みを進めていただいているところ、その取組みをすべての支店、すべての担当者に浸透させることは容易ではないことが示された事例なのではないかと思う」と述べています。覆面調査という形で現場のリアルを炙り出そうとするところから取り組みは始まるのであって、それに対して「容易ではないことが示された」との指摘は、やや寂しいものがあります。金融庁は、心理的安全性を確保して金融機関と対話していく姿勢を強調していますが、このようなやり取りでは金融機関としても心理的安全性を得られないのではないかと懸念します。「容易ではないことは容易に想像できる」のであって、「どこの店がどのような部分が不足しているのか」を把握することで初めて「改善への道筋が見通せる」のであって、「実効性ある改善策を講じる良い取り組み」と評価されてもよいものと考えます。また、「外国人の口座開設時に障害になりうるものとして、印鑑の作成があるのではないかと思う。主要行では適切に対応いただいているとは思うが、印鑑に馴染みのない外国人に対して、サインでの口座開設を案内したり、印鑑の作成方法について案内したりするなど、親切な対応をしていただくようお願いする」、「金融庁としても、外国人の円滑な口座開設のためにこれまで要請してきたことがしっかりと浸透しているかどうか、今一度確認していく。皆様におかれても、外国人の円滑な口座開設と、マネロンや違法サービス利用の防止を両立していく観点から、より一層のご努力をお願いする」とも述べています。この点も、本コラムでこれまで指摘しているとおり、その両立にはかなりのエネルギーや創意工夫が必要となります。参考になる事例としては、以前の本コラム(暴排トピックス2019年10月号)でも紹介しましたが、セブン銀行の取り組みが挙げられます。受け入れ企業と連携したきめ細かい案内、口座の使用実態をふまえた精緻なリスク分析とルール(リスク対策)の設定、最新のIT等を駆使したモニタリングシステムの導入などが見事に組み合わされた取り組みだと評価できると思います。

外国人口座の取り扱いも極めて難しい問題です。もともと小遣い稼ぎの感覚で口座を売買する事例が後を絶たず、特殊詐欺等の「犯罪インフラ」化している現状があり、AML/CFTの観点からは外国人の口座は「高リスク」とみなされていたところ、外国人労働者の本格的な受け入れが始まったことで、政府からの口座開設に円滑に対応すべきという要請も加わったためです。「外国人であることのみをもって、合理的な理由なく取引の謝絶等が行われてはならない」とされる一方で、たとえば、来日してから長期間が経過している者が口座開設を申し込んできた場合、すでに保有している生活口座と別に口座を開設しようとする可能性をふまえ、口座不正譲渡の懸念から慎重に目的などを確認することが求められます。なお、外国人口座の管理としては、セブン銀行の取組みが参考になります。同行では、海外送金サービスが約26万口座で活用されており、日本で働く外国人の約17%が同行の口座を保有しているといわれています。その取組みとしては、(1)受け入れ企業と連携してオリエンテーションの中で銀行サービスの説明を行う(帰国時の口座解約についての理解を促進する)、(2)送金先を最大12先にあらかじめ特定する、(3)送金金額の上限を300万円とする、(4)口座開設後もATMの利用状況や利用場所、ネットバンキングにおけるIPアドレスのモニタリングなどを実施するといったものが代表的です

また、金融庁からは、「On-site Visit」という手法について言及がありました。すなわち、「今事務年度から保険会社に対するモニタリング手法の一つとして、“On-site Visit”という新たな手法を採り入れていきたい。これは、任意のオフサイトモニタリングという位置付けで実施するものであり、通常のオフサイトだけでは把握しづらい業務運営の実態をより的確に把握することを目的として、保険会社の本社・支社等への訪問も併せて実施するものである」、「保険業法に基づく立入検査ではないことから、本社・支社等への訪問はあくまで真に必要な事項に限定して短期間(数日程度)で実施するほか、訪問する拠点・日程は事前に相談させていただくなど、過度な負担とならないよう実施していきたい」、「また、On-site Visitにおいて課題等が認められた場合には、適宜フィードバックしていきたいと考えている」と述べています。保険業法に基づく立入検査ではないとしながらも、この取り組みが真に効果を発揮するためには、現場のリアルをどれだけありのままに曝け出せるかが重要であり、やはり心理的安全性を十分に確保される必要があるといえます。

さて、国内の金融機関においては、AML/CFTの観点から業務の高度化が進められていますが、一方ではそれが「コスト」増に直結している現実があります。さらに、地域金融機関においてはこれまでのビジネスモデルでは収益の確保もままならない状況が顕在化しており、その結果として、さまざまなサービスの見直しが進んでいます。例えば、三菱UFJ銀行が地方銀行など地域金融機関向けに提供している海外送金の受託業務を縮小すると発表しています。海外銀行との接続が限られる地銀は、顧客から依頼された海外送金を大手行に代行してもらうケースが多いところ、欧米の金融当局が規制を強める中で、AML/CFTコストが膨らんでいることから、経費の削減を進めていることが影響しています。報道(令和元年11月29日付日本経済新聞)によれば、受託停止が与える影響を考慮したうえで、地銀ごとに受託業務の削減に向けた交渉を始めており、同行に委託できなくなった地銀は、他の銀行に移管するか、自行での海外ネットワークを広げるかなどの判断が必要になるとされます。そもそも地銀は自前での海外送金業務を取りやめる動きを加速させており、海外送金はメガバンクや他の送金手段に集約されていくことになります。一方で、海外送金の受託業務については、過去の地銀によるマネロン事案などから、送金元や送金先のKYC/KYCCが不十分であり、受託したメガバンクも直接の接点もなく、地銀のチェックを信用するしかないという状況であったところ、直接、顧客や取引自体を精査できることから、トータルでみればAML/CFTの実務レベルの底上げにつながる効果も期待できそうです(銀行以外の送金手段がメガバンク並みのチェック態勢を構築できていなければ、そちらが「犯罪インフラ化」するリスクが高まることにもなります)。また、ゆうちょ銀行では、海外送金の料金を2020年1月6日から引き上げると発表しています。こちらもAML/CFTコストが上昇していることを受けた対応で、窓口で取り扱う国際送金は4,000円から7,500円に値上げするということです。また、海外送金以外では、三菱UFJ銀行が、一定期間取引がない不稼働口座(休眠口座)の管理手数料導入を模索しているとも報じられています。そもそもは、長引く低金利や人口減少などで都市部よりも経営環境が厳しい地方が先行して改革に踏み出したもので、手数料徴収をきっかけに顧客との接点をつくり、収益機会を掘り起こす狙いもあるようですが、「今までとサービスが変わらないのに、『苦しいからお金をもらいますよ』と言っても顧客は納得しない」と金融庁幹部が報道で述べていますが、手数料の見直しに踏み込む銀行は、ITを使ったサービス充実など新たな価値を提供できるかどうかが問われているといえます。

さて、前回の本コラム(暴排トピックス2019年11月号)で金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」を取り上げましたが、その中でも指摘があった「検知システム任せ」についての指摘は極めて重要だと強調しておきたいと思います。反社チェックにおいても同様の問題があり、犯罪者や犯罪の手口等の実態(リアル)を十分に理解しないまま、「誤った検知手法/反社チェック」を実施しても、「すり抜けられてしまう」危険性が高いのであり、「検知できない=問題ない」との壮大な錯覚、検知されないことが常態化することで「リスクセンスの鈍麻」を招くという点で、現時点の「検知の精度」を確保できないばかりか、将来にわたってその精度に悪影響を及ぼしかねないという点を認識する必要があります。さらには、犯罪者や犯罪の手口等は目まぐるしく姿形を変えていくものであり、機動的な見直しを怠れば、あっという間に実効性を失ってしまう点にも注意が必要です。以下にあらためて指摘内容を紹介しますので、確認いただきたいと思います。

取引モニタリング・フィルタリングについては、自らの業務規模・特性や取引形態等に応じて直面するリスクを踏まえ、ITシステムの導入の検討や既存システムのカスタマイズ等を行う必要があるところ、システムを導入している事業者においては、以下のような点に課題がある

  • 取引モニタリングシステムが検知した取引を十分に検証しないまま、疑わしい取引の届出を行っている。取引モニタリングシステムのシナリオや敷居値等の抽出基準が自らのリスク評価に見合ったものとなっているかを定期的に検証していない
  • 取引フィルタリングシステムのあいまい検索機能の設定が自らのリスク評価に見合ったものとなっているかを定期的に検証していない
  • 取引モニタリング・フィルタリングシステムに用いられるデータの網羅性・正確性を定期的に検証していない

金融庁が、スルガ銀行等の不祥事をふまえ、金融機関の事業モデル変化を警戒して検査周期の視点を復活させるとの報道がありました(令和元年11月15日付ニッキン)。検査で実態把握をしない期間が長くなればビジネスモデルが変質し、潜在リスクが蓄積する懸念があり、特に、収益環境や経済情勢に見合わず業績が急拡大している場合には、強引な営業の多発や法令違反につながることもあるからです。関連して、金融庁は昨年6月に「金融機関の内部監査の高度化に向けた現状と課題」と題したレポートを公表していますが、その中で「アジャイル型監査」の考え方の有用性が示されており、AML/CFTの内部監査においても参考になると思われます。本レポートでは、「内部監査の高度化」として、「事後チェック型監査からフォワードルッキング型監査へ(過去から未来へ)」、「準拠性監査から経営監査へ(形式から実質へ)」、「部分監査から全体監査へ(部分から全体へ)」、「内部監査態勢の整備(IT・データ活用/専門人材の確保)」を掲げ、「内部監査の水準」として、「事務不備摘発監査(事務不備、規程違反等の発見を通じた被監査部門へのけん制機能の発揮)」から「リスクベース監査(リスクアセスメントに基づき、高リスク領域の業務プロセスに対する問題を提起)」へ、さらには「経営監査(内外の環境変化等に対応した経営に資する保証を提供)」へと発展していくイメージが示されています。その中で、「変化」に対応した内部監査のあり方が重要であり、以下のような視点が求められていると指摘しています。とりわけ、変化のスピード感に対応するためにリスク評価や監査自体の周期を短くしていくべきであることは、AML/CFTの実務においても参考になるものと思われます。

  • コンダクト・リスクへの対応:(従業員の行動に影響を与える)企業文化に対する監査の重要性(社会の要請・ステークホルダの要求を満たしているか)
  • 動的なリスク評価:リスクの変動をモニタリングしていく
  • アジャイル型監査:監査部門と被監査部門等とのコミュニケーションを通じた課題認識の共有に基づく機動的な監査手法/短期間でPDCAサイクルを回すことで監査遅延を回避・変化対応力を向上

その他、最近の報道から、AML/CFTを巡る海外の動向について、いくつか紹介します。

  • ドイツの検察当局が、デンマーク最大のダンスケ銀行のマネロン疑惑に関連して同行のフランクフルト本社に家宅捜索に入っています。報道によれば、ドイツ銀がマネー・ローンダリングに関与したか、また同行が遅滞なく不審な取引(疑わしい取引)を当局に報告したかどうかが捜査の焦点となっているようです。本コラムでもたびたび紹介しているとおり、ダンスケ銀行を巡っては、同行のエストニア支店を通した総額2,000億ユーロ(2,200億ドル)にも上る不審な取引が問題となっていますが、本件に関してデンマークとエストニアのほか、米国や英国などが捜査を進めている状況にあり、米司法省はドイツ銀行への調査を拡大、新たにダンスケ銀が不審な取引に関連した資金を米国に移すのをドイツ銀が手助けしたかという問題に注目しているということです。ドイツ銀の関与が証明されれば、多額の罰金を科せられる可能性があります。米司法省によるドイツ銀への調査や、フランクフルト検察との協力が報道されるのは、これが初めてとなります。
  • 豪金融取引報告・分析センター(AUSTRAC)は、マネー・ローンダリング防止法に関連して2,300万件の違反があったとして、豪ウェストパック銀に対する民事制裁金の支払い命令を求めて連邦裁判所に提訴したと発表しています。報道によれば、違反があったとされる取引には、児童搾取グループの間の資金のやり取りが含まれていたといい、豪閣僚らは「ウェストパック銀の経営陣が怠慢によって、小児性愛者にフリーパスを与えたことは明らか。その代償は支払われるだろう」などと批判しています。問題発覚以来、同行は時価総額にして75億豪ドル(約50億米ドル)を失ったことになりますが、これまでのところ、政治家や投資家から上がっている経営陣の退陣要求には応じていません。一方、同行は、当局によって本問題が指摘される2週間前に同行の公募増資に応募した個人投資家に対し、応募撤回を認め、代金を払い戻しする方針を明らかにしています。同行はオーストラリア証券投資委員会(ASIC)との協議後に返金を決めたと説明するにとどめており、理由は明らかになっていませんが、集団訴訟を回避するための動きではないかといった指摘もあります。
(2)特殊詐欺を巡る動向

まずは、例月同様、直近の特殊詐欺の認知・検挙状況等について警察庁の公表資料から確認します。

▼ 警察庁 令和元年9月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

平成31年1月~令和元年10月の特殊詐欺全体の認知件数は13,943件(前年同期14,516件、前年同期比▲3.9%)、被害総額は249.5億円(292.3億円、▲18.4%)となり、認知件数・被害総額ともに減少傾向が継続しています。なお、検挙件数は5,128件となり、前年同期(4,423件)から+15.9%と昨年を大きく上回るペースで摘発が進んでいることがわかります(検挙人員は2,235人と昨年同期(2,248人)から▲0.6%とほぼ横ばいとなりましたが、全体の件数が大きく減少している中、摘発の精度が高まっていると評価できると思います)。また、6月から新たに統計として加わった「特殊詐欺(詐欺・恐喝)」と「キャッシュカード詐欺盗(特殊詐欺(窃盗))」の2つのカテゴリーについても確認します。あらためて、「特殊詐欺(詐欺・恐喝)」とは、「オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺、金融商品等取引名目の特殊詐欺、ギャンブル必勝法情報提供名目の特殊詐欺、異性との交際あっせん名目の特殊詐欺及びその他の特殊詐欺を総称したものをいう」ということですので、従来の「振り込め詐欺」となりますが、「キャッシュカード詐欺盗(特殊詐欺(窃盗))」とは、「オレオレ詐欺等の手口で被害者に接触し、被害者の隙を見てキャッシュカード等を窃取する窃盗をいう」とされ、最近の本手口の急増が反映された形となります(なお、「キャッシュカード詐欺盗」との呼称は今月初めて登場しています)。その特殊詐欺(詐欺・恐喝)については、認知件数は11,034件(13,524件、▲18.4%)、被害総額は208.2億円(292.3億円、▲28.8%)と、特殊詐欺全体の傾向に同じく、認知件数・被害総額ともに大きく減少する傾向が続いています(なお、検挙件数は4,015件(4,120件、▲2.5%)、検挙人員は1,905人(2,141人、▲11.0%)とやはり同様の傾向となっています)。また、キャッシュカード詐欺盗(特殊詐欺(窃盗))の認知件数は2,909件(992件、+193.2%)、被害総額は41.3億円(13.7億円、+201.5%)、検挙件数は1,113件(303件、+267.3%)、検挙人員は330人(107人、+208.4%)と、正に本カテゴリーが独立した理由を数字が示す形となっています。

類型別の被害状況をみると、まずオレオレ詐欺の認知件数は5,634件(7,498件、▲24.9%)、被害総額は56.3億円(105.6億円、▲46.7%)と、認知件数・被害総額ともに大幅な減少傾向が続いています(2月以降、増加傾向から一転して減少傾向に転じ、ともに大幅な減少傾向が続いています。なお、検挙件数は2,643件(2,170件、▲2.5%)、検挙人員は1,325人(1,538人、▲13.8%)となっています)。また、架空請求詐欺の認知件数は2,929件(3,989件、▲26.6%)、被害総額は72.4億円(98.3億円、▲26.3%)、検挙件数は1,051件(993件、+5.8%)、検挙人員は500人(481人、+4.0%)、融資保証金詐欺の認知件数は253件(345件、▲26.7%)、被害総額は3.8億円(5.1億円、▲25.5%)、検挙件数は75件(132件、▲43.2%)、検挙人員は18人(23人、▲21.7%)、還付金等詐欺の認知件数は2,148件(1,541件、+39.4%)、被害総額は27.3億円(18.5億円、+47.6%)、検挙件数は194件(167件、+16.2%)、検挙人員は20人(37人、▲45.9%)となっており、特に還付金等詐欺については、認知件数・被害総額ともに減少傾向となっていたところから、一転して大幅に増加しており、今後の動向に引き続き注意する必要があります。

なお、それ以外の傾向としては、特殊詐欺全体の被害者の年齢別構成について、60歳以上88.1%・70歳以上75.1%、性別構成については、男性25.1%・女性74.9%となっています。参考までに、オレオレ詐欺では、60歳以上98.2%・70歳以上94.2%、男性13.9%・女性86.1%、融資保証金詐欺では、60歳以上37.6%・70歳以上12.2%、男性78.2%・女性21.8%、架空請求詐欺では、60歳以上63.2%・70歳以上46.3%、男性32.1%・女性67.9%などとなっており、類型別に傾向が異なっている点に注意が必要であり、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。なお、犯罪インフラの検挙状況としては、口座詐欺の検挙件数は769件(1,094件、▲29.7%)、検挙人員は466人(591人、▲21.2%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,981件(2,012件、▲1.5%)、検挙人員は1,616人(1,647人、▲1.9%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は234件(245件、▲4.5%)、検挙人員は171人(199人、▲14.1%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は47件(35件、+34.3%)、検挙人員は34人(35人、▲2.9%)などとなっています。

次に、最近の特殊詐欺に関する報道から、いくつか紹介します。主に、犯行の手口が多様化・国際化していることや、社会的身分の高い公務員や少年等も犯行に加担しているケースが多く見受けられることなどが確認できると思います。

  • 警察官を名乗ってニセ電話詐欺の「だまされたふり作戦」に協力を依頼し、現金などを送らせる手口の詐欺事件が茨城県内で確認されています。つくば市の無職女性(85)が、現金計約3,250万円をだまし取られています。報道(令和元年12月5日付朝日新聞)によれば、女性宅に警察官を名乗る男から「ニセ電話詐欺に注意して下さい」という電話があり、「相談窓口」の電話番号を伝えられたといいます(「050」で始まる番号だったようです)。翌日、女性の親戚を名乗る男から「不倫相手を妊娠させた。示談金を工面してほしい」などと電話があり、「詐欺だ」と思った女性が前日伝えられた番号に電話したところ、警察官を名乗る男から「犯人を捕まえるため、だまされたふりをして送金してほしい」などと要求されたというものです。「だまされたふり作戦で送金を依頼することはないので、注意してほしい」と県警が呼び掛けていますが、確かに送金を依頼することはないとはわかっていたとしても、「だまされたふり作戦」に加担しているという思い込みから、その不審さを疑うところまで思いが至らないことは十分に考えられるところであり、人間の心理を悪用した極めて巧妙な手口として、今後も十分な注意が必要だと思われます。
  • オレオレ詐欺の電話をかけていたとして、警視庁は、住所職業不詳の男(21)ら3人を詐欺未遂容疑で逮捕しています。報道によれば、摘発を免れるため、高速道路を走行中の車内から高齢者宅に電話をしていたといいます。3人は約1週間分の着替えを持って、ワゴン車で関越道や東北道、北陸道などを移動し、車を止めるのは休憩時や給油時だけだったといいます。警視庁は3人が所属するグループが今年1月以降、各地の高齢者から計約6,000万円を詐取したとみているということです。特殊詐欺グループのアジト(拠点)への滞在期間の短縮化(以前は2か月程度だったものが、今は2週間程度で移動していくといいます)が進み、極端な例としてホテルや民泊、駐車場等を使って転々としながら詐欺を行う事例もありましたが、高速道路を走行し続けながらの犯行は、アジトの摘発を逃れるための方法としては考えられたものであり、極めて珍しいのではないかと思われます。
  • 警察官などを装って高齢者に電話し、キャッシュカードを盗んだとして、大阪など10府県警の合同捜査本部は、無職の男(29)を窃盗容疑で逮捕しています。特殊詐欺グループが集めた現金をフィリピンに運ぶ「運搬役」とみられています。報道によれば、同種の手口による被害は10府県で計約8億4,000万円に上り、捜査本部はこのグループが関与しているとみているということです。なお、大阪府警などは今年1月以降、カードの受け取り役やATMから引き出した現金の回収役など、このグループに関係するとみられる計44人を逮捕しているといいます。今回の容疑者は3月以降、7回にわたってフィリピンに渡航しており、1回あたり数千万円の現金を運んでいた疑いがあるといい、捜査本部はフィリピンに詐欺グループの拠点があるとみて調べているとのことです。
  • 警視庁職員であるかのような「職員証」を偽造したとして、滋賀県警大津署などは、無職の少年(19)を公文書偽造の疑いで緊急逮捕しています。インターネットで登録したデータを、コンビニエンスストアのマルチコピー機で印刷するサービスを利用していたといいます。同署管内では、警察官を名乗る男から電話があり、通帳などの詳細を聞き出そうとする事案が多数報告されており、同署は関連を調べているということです。組織性の有無は不明ですが、インターネットやコンビニのコピー機など身近なものが「犯罪インフラ化」していることを痛感させられます。
  • 宮城県内で、高齢者のキャッシュカードを切断して持ち帰り、現金を引き出す手口の特殊詐欺が11月20日に2件発生、宮城県警は珍しい手口だとして、注意を呼び掛けているとのことです。2件とも同様の手口で、同一犯の可能性があるといい、報道によれば、同県警では「切断して安心させる手口だが、キャッシュカードを持ち帰ることや、暗証番号を聞き出すのは必ず詐欺。すぐに通報してほしい」と呼び掛けています。なお、25日にも同様の手口で犯行が行われています。報道(令和元年12月1日付読売新聞)によれば、仙台市内の女性(80)宅に、駅員を名乗る男から「キャッシュカードが不正使用されている」と電話があり、直後に警察官を名乗る男から電話で「新しくカードを作らなければならない。古いカードを受け取りに『ハヤシ』という警察官を行かせる」と伝えられ、ハヤシと名乗る若い男が女性宅を訪れ、女性は言われた通りにカード2枚を手渡すと、男はハサミでカードに切れ込みを入れ、暗証番号を聞き出して立ち去ったといいます。その後、計約130万円が引き出されていたとのことです。切れ込みを入れることで安心させる巧妙な手口ですが、ICチップや磁気部分を巧妙に避けて切れ込みを入れて、ATMで使える状態にしておく巧妙さがあるようです。
  • 他人のクレジットカード情報を不正に入手し5万円分の電子たばこを購入したとして、警視庁サイバー犯罪対策課は、詐欺などの疑いで、中国籍の会社員(29)を逮捕しています。「イオンカード」などを発行するイオンクレジットサービスの利用者約60人、計約4,500万円分が被害に遭ったといい、中国の詐欺グループが関わっているとみて捜査を進めているということです。
  • 韓国の人気アイドルグループ「TWICE」のコンサートチケットを譲ると偽り、電子マネーをだまし取ったとして、警視庁下谷署は、職業不詳の男(30)を詐欺などの疑いで逮捕しています。男はツイッターに「本日、名古屋であるTWICEのコンサートのチケットを譲ります」などと書き込み、連絡してきた東京都内の男子大学生(18)にコンビニ店で電子マネー15,000円分を購入させ、その利用番号を送信させてだまし取るなどしたということです。同様の手口で200件以上、計約500万円を詐取したとみられています。
  • 特殊詐欺グループに関与して高齢男性からキャッシュカードを盗んだとして、窃盗の疑いで神奈川県警の現役警察官が逮捕された事件で、横浜地検は、窃盗罪で県警第1交通機動隊所属の巡査(24)を起訴しています。また、県警監察官室は、被告を懲戒免職処分にしたと発表しました。報道によれば、被告は取り調べに対し、スロットで300万円ほど借金があったとし、「短期間でカネになる仕事をスマホで検索し、闇サイトで特殊詐欺グループと接点を持った。他にも6件ぐらい同じように盗んだ」などと供述しているといい、県警は余罪の捜査を進めているとのことです。警察官という高い倫理観が求められる立場にありながらの犯行であり、大変残念です。この点について、令和元年11月15日付産経新聞で専門家が、「昔は、周囲はもちろん、警察官自身もその職業を『聖職』であると考えていたが、現在はそうした感覚は希薄になっていると感じる。今回の事件は極端な例だろうが、仕事に対する『特別な意識』がなかったためにブレーキがかからず、これまでの警察官なら考えられなかった行動に至ったのではないか」といった指摘をしていますが、そもそも「聖職」であるとの意識がなぜ希薄になってきているのか、どのような教育研修がなされてきたのか、何が足りなかったのか、管理者に何が足りなかったのかなどをしっかり突きつめない限り、同様の事案は発生しうるのではないかと危惧します。
  • 特殊詐欺対策で知った情報を悪用し、京都市伏見区の男性から1,110万円をだまし取ったとして詐欺罪に問われた元京都府警巡査長(懲戒免職)に対し、京都地裁は、懲役5年(求刑・懲役6年)の実刑判決を言い渡しています。報道によれば、裁判長は、「警察官に対する高い社会的信頼を利用した極めて悪質な犯行で、非難を免れない」、「特殊詐欺を防ぐための金融機関と警察の協力体制への影響は無視できず、実刑を選択するしかない」と指摘しています。上記の事例同様、本事件についても、その背後関係や真因を突きつめて、実効性ある再発防止につなげてほしいものだと思います。
  • 金融庁職員を装い高齢女性からキャッシュカードを盗み現金を引き出したとして、福岡県警行橋署は、ラグビートップリーグ宗像サニックスブルース元選手で派遣社員(27)を窃盗の疑いで逮捕しています。「カードを盗み、金を引き出したのは間違いない」と容疑を認めているということです。女性方には容疑者が訪問する直前に別の男から「キャッシュカードが不正利用された。金融庁職員を訪問させる」などと電話があり、同署は同容疑者を特殊詐欺グループの一員とみて追及するといいます。
  • 全国銀行協会職員などを装い高齢女性からキャッシュカードをだまし取ったとして、大阪府警捜査2課などは、詐欺容疑などで神戸山口組系組員ら2人を逮捕しています。容疑者は電話をかける「かけ子」グループの中心として、今年4~6月に関東地方の高齢女性らから逮捕容疑を含む計約1,300万円を詐取した疑いがあるといい、被害金が暴力団に流れた可能性が高いと見られています。また、暴力団が関与した別の事例では、大阪府警が特殊詐欺グループのアジトに踏み込んだ際、警察はアジトにいた特殊詐欺電話のかけ子のリーダーで神戸山口組系の暴力団組員やかけ子を詐欺など8件の疑いで逮捕、うち6件が起訴されたというものもありますが、警察はアジトの中から詐欺の電話に使われたとみられるスマホ17台や電話の掛け先となる「60代~80代の女性36,000人分の名簿」、さらに「電話をかける際のマニュアル」なども押収しています。前述した統計資料から、特殊詐欺の被害者の88%が60歳以上、75%が女性であることがわかりますが、まさにこのメインターゲットとなる「名簿」が「三種の神器」として悪用されていたことがわかります。
  • 中国・吉林省に拠点を置き、日本に向けて特殊詐欺の電話をかけていたグループが摘発された事件で、警視庁捜査2課は詐欺の疑いで、電話をかける「かけ子」役の容疑者を逮捕しています(メンバーの勧誘もしていたようです)が、警視庁が逮捕した同グループのメンバーは13人目だといいます。報道によれば、このグループは約50人で、首謀者の中国人は同国内に潜伏しているとみられ、被害は平成29年5月~平成30年12月で計約1億8,000万円に上るといいます。
  • タイ中部パタヤを拠点とした日本人グループによる特殊詐欺事件で、日本人女性から電子ギフト券(電子マネー)をだまし取ったとして、警視庁捜査2課は詐欺容疑で、広告会社役員ら男8人を逮捕しています。容疑者らは、だまし取った電子マネーをインターネットサイトで売却する「換金役」だったとみられ、同課はグループが今年1~3月、全国で計約3億円分の電子マネーを詐取したとみて、裏付けを進めているといいます。
  • フィリピン入国管理局が、首都マニラ近郊で、日本人36人の身柄を拘束、日本に特殊詐欺の電話をかける「かけ子」の集団とみられるとのことです。本コラムでもたびたび紹介しているとおり、日本国内での摘発を逃れるため、特殊詐欺グループが海外に拠点を移す動きが広がっており、警戒が必要な状況です。報道によれば、このグループは、マニラ周辺でホテルなど拠点を2~3カ月おきに移動させながら、(移動を容易にするため固定電話ではなく携帯電話から)日本に詐欺の電話をかけていたといい(海外拠点に加え、アジトを移動しながら犯行に及ぶという点や、携帯電話からおそらく転送サービスを使うなどしていたことも推測され、かなりの組織性がうかがえます)、これまでに約1,400件の詐欺事件に関与していたようです。今年に入って、タイ中部パタヤや中国北部吉林省などに拠点を置く日本の特殊詐欺グループの存在が相次いで発覚、摘発が相次いでおり、かなり現地とのコネクションを有する犯罪組織の存在がうかがわれます。

次に、特殊詐欺対策の取り組み事例をいくつか紹介したいと思います。

最新の技術を駆使して特殊詐欺を防止しようとする取り組みが増えています。報道(令和元年11月22日付産経新聞)によれば、例えば、NTTは警察と連携し、犯行に使われる頻度の高い「銀行口座」「振り込み」など数百のキーワードをAI(人工知能)に登録、会話の中でどのように使われているかなどを総合的に分析するという「通話解析」技術に取り組んでいます。事例が蓄積することで精度が高まるほか、さまざまなバリエーションにも対応できるようになるものと期待されます。また、本コラムでも紹介した警察庁の調査では、詐欺の電話を信じた理由について、被害者の6割以上が「息子や親族の声にそっくりだったから」と回答していますが、NECが来年にも実用化するとしている「声認証技術」を応用すれば、そうした誤認を減らすことができると期待されています。さらには、国内で稼働するATMの4割を製造する日立オムロンターミナルソリューションズでは、AIが、携帯で通話しながら取引をしている利用者を検知すると、操作画面に「携帯電話を外してください」と警告が出るほか、そのまま操作を続けると、取引が強制的に終了する仕組み(画像検知技術)について実証実験を始めるといいます。報道の中で、識者が、「犯罪組織にとっては脅威で防犯効果を期待できるが、どれほど普及するかが鍵となる。プライバシーへの配慮や、サービス利用にかかる出費など利用者側の負担解消が今後の課題となるだろう」と述べていますが、正にそのとおりだと思います。これらの有用な技術も利用されなければ意味がなく、サービスを提供する事業者が高い意識のもとそれを採用することを通じてはじめてその効果が発揮されることになるわけで、「顧客満足」というより「顧客本位」の視点から事業者が取り組むことを通じて、詐欺被害を減らすことにつながってほしいものだと期待したいと思います。

また、地域のつながりや警察との連携から特殊詐欺を防ぐことができた事例がありました。見慣れない男が知人の女性宅に入るのを不審に思った通行人女性が、地域の自治会長を務める兄に相談、駆けつけた兄が女性宅で聞き耳を立てたところ、「キャッシュカードを…」などと聞こえたため詐欺と確信、男が立ち去った後、女性が「キャッシュカードを渡した」と話したことから110番通報、奈良県警がすぐさま20人以上を動員し、周辺の捜査を開始したところ、通報から5分後、女性宅から南へ約400メートルの路上で容疑者を発見、職務質問で容疑を認めたため、緊急逮捕したというものです。この事例では、「地域のつながりから知人宅に不審な男が入っていくのを不審に思ったこと」、「会話から詐欺と見抜いたリスクセンスの高さ」、「警察に速やかに通報したことで速やかな逮捕につながったこと」といった要素が相まって詐欺を未然に防止できたものであり、その背後には日常からの特殊詐欺被害事例や被害防止に向けた地道な報道・広報があったものといえると思います。同様に、コンビニの高校生アルバイトが、64歳の男性が5万円のウェブマネーカードを7枚持って慌てた様子でレジに来たのを見て不審に感じ、「十中八九詐欺だと思います」と購入をやめるよう説得し110番通報したことで詐欺被害を未然に防止できたという事例もありました(実際に、男性は、有料サイトの会員登録解除の名目で35万円分振り込むよう電話で指示されていたといいます)。さらに、コンビニの店長が特殊詐欺を2度も防いだという報道もありました(ただし、残念ながら被害者も同じ男性だったといいます)。報道(令和元年11月16日付朝日新聞)によれば、男性が午前に送金用の封筒を買おうと来店、その後、10万円分の電子マネーギフト券を買おうと再び来店した際、店長がギフト券の販売を保留し警察に通報、退店していた男性を同署が探し出し、事件が発覚したというものです。さらに、この店長は午前に対応した店員から男性の様子がおかしいと聞いていたということであり、店舗における見事な連携も功を奏した形です。なお、男性はすでにギフト券とは別に現金240万円を宅配便で送る手続きをしていたものの、警察の説得を受け、宅配業者に発送を中止させて、こちらも被害を未然に防ぐことができたといいます。これらの事例からは、もちろん当事者のリスクセンスの高さはいうまでもないものの、コンビニにおいて特殊詐欺に関する教育がしっかりなされていることを感じられること(平素からの教育研修の重要性)、店舗内のコミュニケーション(情報共有)が重要であること、躊躇することなく通報できる警察との良好な関係などがその背景にあるものと推測されます。

また、すでに「だまされたふり作戦」を語る詐欺被害事例を取り上げましたが、「だまされたふり作戦」が上手くいった事例もあわせて紹介しておきます。高齢者から現金を詐取しようとしたとして、警視庁町田署は、32歳の男と21歳の男を詐欺未遂容疑で逮捕していますが、被害者がだまされたふりをして偽の現金を渡し、逮捕にこぎ着けたというものです。男性は銀行員を装う男らから電話で「名義貸しは違法で、解決金1,000万円が必要」などと要求され、途中まで信じ込んでいたものの、「400万円でもいい」と言われて不審に思い、町田署に通報、警察官の助言に従い、だまされたふりをして、雑誌を入れた紙袋を32歳の男に渡したということです。途中まで信用していたところから冷静に判断できるように思い直すことができた点がポイントとなったと考えられます。

最後に、特殊詐欺ではありませんが、最近の詐欺を巡る報道からいくつか紹介します。

  • インターネット上で偽のウェブサイトに誘導し個人情報などを盗み取るフィッシング詐欺をめぐり、金融機関が本人確認強化のため導入している「2段階認証」が突破されるケースが増えているということです。詐欺サイト上で打ち込ませたIDやパスワードを正規の銀行サイトに入力、利用者のもとに届いた1回限り有効なパスワード(ワンタイムパスワード)を再び詐欺サイトに入力させ、盗み取る手口だといいます。セキュリティ大手のトレンドマイクロによると、今年1~8月に確認されたのは10~39件だったものの9月には94件と急増し、10月も61件と高止まりの状態が続いているといい、警戒が必要な状況になっています。物理的な「ワンタイムパスワード」から「2段階認証」へと切り替えるケースが増えていますが、その「2段階認証」でさえ万全ではないことに注意が必要です。
  • 欧米で流行しているコンピューターウイルス「Emotet(エモテット)」が日本に本格上陸し、被害が出始めています。エモテットは実在の人物や組織になりすましたメールを送り付け、添付ファイルを開くことでウイルスに感染するもので、感染したパソコンに保存されたメールアドレスの連絡先や本文を盗み取り、その情報から新たななりすましメールを作り出す強力な「自己拡散型」ウイルスとして恐れられており、次々と感染の被害が広がっているということです。国内でも首都大学東京や京都市観光協会など少なくとも400以上の団体・企業で被害が出ているとされ注意が必要な状況であり、菅官房長官も「行政機関、2020年東京大会に関わる事業者に注意喚起を行っている。引き続き状況把握に努めるとともに、被害拡大防止のため必要な注意喚起を行っていきたい」と述べています。
  • ニュージーランド(NZ)で、日系企業が投資目的などで顧客から集めた計4,500万NZドル(約31億円)の大半が、償還不能になっていることが分かったということです。200人以上いる顧客の大半は日本人で、同社は清算手続き中の状況です。捜査当局も事態を把握し、詐欺事件として立件が可能か調べているといいます。関連する7社はいずれも同じ日本人男性が実質的にワンマン経営しており、この男性が今年2月に病気で死亡したことで、経営が行き詰まったようです。
(3)暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

FATFの第4次対日相互審査における焦点のひとつが、暗号資産(仮想通貨)の規制や交換業者の対策だったことは間違いありません。暗号資産に関わる法整備は世界でも進んでいるとされる日本ですが、他の金融機関に比べノウハウの蓄積が少ない業界だけに、手探りの運用が続いているのが実情のようです。専門人材の確保や厳格な本人確認の実施といったベーシックな部分でさえ、大手金融機関のようには十分な態勢が取れない一方で、FATFが求めているのは形式ではなく「実効性」であること、国際的には、匿名で国をまたいだ資金移動がしやすい暗号資産がマネロンやテロに悪用されるという懸念が世界的に広がっていることなどから、その対策のハードルが自然と高いものとならざるを得ない状況もあり、対応に苦慮しています。さらに、FATFが6月に公表したガイダンスの中で問題となりそうなのが、顧客から受託している暗号資産を送る際に顧客情報も送り先に提供する義務、すなわち、「トラベルルール」と呼ばれるもので、銀行であれば国際送金の際には、国際銀行間通信協会(SWIFT)が、顧客情報をやりとりするネットワークとして機能しているものの、トラベルルールへの対応はできていないのが現状です。今後整備を進めようにも、プライバシー保護やシステムの安全性を確保していく必要があり、課題が多いのも問題を大きくしています。今回のFAFT審査で暗号資産業界がどのような評価を受けたかは来年にならないと判明しませんが、その結果次第では、暗号資産を取り巻く環境はさらに厳しいものとなることも予想され、まだまだ手探りの状況は続きます。

さて、金融庁と業界団体との意見交換会が定期的に開かれていますが、今回、あらたに日本仮想通貨交換業協会との会合において金融庁が提起した主な論点が公表されました。以下に簡単に紹介します。

▼ 金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点(令和元年9月)
▼ 日本仮想通貨交換業協会

協会の体制(ガバナンスの強化)について、金融庁からは、「変化のスピードが速い暗号資産業界において、自主規制機能を継続的に発揮するため、6月に外部有識者を理事として招聘し、ガバナンスの強化を図ったと承知しているが、外部理事が、期待される役割・機能を果たすことができるよう、事務局においては、例えば、理事会の事前説明の実施や、改正法の施行に向けた対応を含めて協会の活動状況を定期的に情報提供するなど、外部理事をサポートする仕組みも併せて整備いただきたい」との話が、無登録業者に対する対応については、「無登録営業への対応については、貴協会から、無登録業者の情報について逐次提供いただくなど、これまで、会員、協会、当局の3者間で緊密に連携し対応してきたところ。業界の健全な発展に向けて、引き続き、綿密な情報連携に協力いただきたい」との話があったようです。また、各事業者における新規の暗号資産の取扱いについては、「貴協会においては、各事業者から「国内で取扱のない暗号資産」や「自ら発行した暗号資産」の取扱申請等に対応するため、現在の自主ルールに追加して、より精緻な審査方法を検討していたが、今般、会員との調整を終え、その運用を開始したと承知している。当局としては、各事業者が、適切な内部管理体制の下で、システムやAML/CFT等の観点から、問題ない暗号資産を取扱うことにより、「業界の健全な発展」に繋がることを期待している」としたうえで、「今後、新規に暗号資産を取扱う場合には、貴協会及び各事業者において、利用者保護上問題が生じないよう、今回策定した審査方法を活用して、新規に取扱う暗号資産のリスクを把握した上で、リスク低減措置を十分に講じ、適正かつ円滑な業務運営を展開できるよう万全を期していただきたい」との要請がなされています。さらに、業務改善命令への対応状況について、「業務改善命令を発出されている先について、今後、改正法施行に向けた体制整備にもリソースが必要となることも踏まえ、改善施策が遅延している原因を分析のうえ、経営陣が主体的にリーダーシップを発揮し、必要なリソースを投入するなどして、改善のスピードアップを図っていただきたい」とやや厳しい要請がなされています。さらに、各事業者の決算・財務状況についても、「各事業者において2018年度決算を公表されているが、赤字決算の事業者が、黒字決算の事業者を大きく上回る、暗号資産業界にとって大変厳しい結果であった。決算内容を見てみると、以下のようなことから、暗号資産交換業をとりまく経営環境は厳しさを増している状況である」として、収益については、昨年以降の暗号資産の価格下落トレンドの継続による取引量の低迷や業者間における顧客獲得を狙った手数料の引き下げ競争等によって減少、費用については、サイバーセキュリティ対策を始めとした内部管理体制の整備によって増加したとの認識を示したうえで、「貴協会においては、すでに財務の健全性に関する自主規則を定めているところであるが、さらなる、会員の財務リスク管理の高度化に向けた対応に取り組んでいただくとともに、資本政策についても注意深くモニタリングいただきたい」としています。また、新規登録業者対応については、「先述の事務ガイドライン改正に併せて、質問票を改正するとともに、新たに1社を仮想通貨交換業者として登録した(注:LastRoots社のこと)。貴協会においては、金融庁への登録申請前に2種会員としての申込を受けるとともに、当該会員に対し登録に向けた態勢整備等につき、引き続き指導を実施いただきたい」と要請しています。なお、暗号資産の不正流出については、「昨年、二度にわたり大きな不正流出が発生している中、今般、三度目の不正流出が発生したところ。暗号資産交換業界全体のサイバーセキュリティを強化し、信頼を高めるためには、まずは事業者自身において、自社のサイバーセキュリティ管理態勢が、現在の脅威に対して、適切かつ十分な対策が講じられているか、不断の見直しと改善を行うことに加え、事業者同士で情報共有・分析を行うことが非常に重要である」こと、そのため、「貴協会においては、事業者同士が情報を共有する際のハブとして、各事業者と協同し、不正流出事案を発生させた原因等を、可能な範囲で事業者間において情報共有・分析できる場を設けるなど共助態勢の確立に努め、業界全体でサイバーセキュリティ管理態勢の底上げを図っていただきたい」と申し入れています。

国内の暗号資産を巡る動きとして最近、対照的な動きがありました。ひとつは、オウケイウェイヴ子会社の「LastRoots」社が、資金決済法に基づく仮想通貨交換業者として、関東財務局への登録を完了したというものです。これにより、登録業者数は21社(廃業予定のテックビューロを含む)となりました。一方、暗号資産関連のネットワークビジネスを手掛けるビットマスターは先月、東京地裁に破産を申請し、破産開始決定を受けました。報道によれば、全国で仮想通貨のセミナーなどを開き、代理店となる会員を集めており、債権者は会員を中心として22,369人、負債総額は約109億円とのことです。なお、破産に至った理由としては、「ビットコイン相場が上昇したことにより、会員から預かっていたものと同数のビットコインの調達が困難になった」と報じられています。

その他、国内外の暗号資産を巡る動向としては、以下のようなものがあります。

  • 大阪府寝屋川市は、市税を滞納していた市内の30代の男性について、仮想通貨122円相当を差し押さえたと発表しています。自治体が暗号資産を差し押さえるのは全国初とみられ、報道によれば、市の担当者は「今後も仮想通貨による資産隠しなどを想定し、積極的に調査していきたい」と述べています。
  • 代表的な暗号資産のビットコインが大幅に値下がりしており、米東部時間25日午前1時頃には一時1ビットコイン=6500ドル台と、約6カ月ぶりの安値水準まで急落しています。背景には、中国人民銀行が上海で暗号資産取引における違法行為の取り締まりを強化すると発表したことが挙げられます(具体的には、暗号資産の取引や暗号資産を使った資金調達にはリスクが伴うとし、投資家に暗号資産とブロックチェーン技術を混同しないよう警告したものです。中国では暗号資産は規制の対象である一方で、ブロックチェーン技術を使ったデジタル人民元の実現には力を入れています)。
  • シンガポール金融通貨庁(MAS)は、認可取引所での暗号資産のデリバティブ(金融派生商品)取引を解禁する規制案を公表しています。国内外の機関投資家がビットコインなどの暗号資産の価格変動リスクを軽減したり、現物との裁定取引を手がけたりできるようにする狙いがあるほか、シンガポールはアジアの金融市場の中核拠点としての存在感向上を狙っており、新たな取引需要をとりこみたい考えだとみられています。

さて、リブラ騒動を発端として、日本をはじめ世界で「ステーブルコイン」を巡る議論が活発化しています。ステーブルコインは簡単にいえば「法定通貨と連動した価格が安定したコイン」で、ビットコインなどは該当しません。以下、国内外のステーブルコインを巡る見解について紹介します。

▼ 金融庁 IOSCOによる「グローバル・ステーブルコインに関するステートメント」の公表について
▼ ステートメント(仮訳)

10月30日のマドリッド会合において、IOSCO代表理事会は、他の議題と共に、全世界的な広がりを有する可能性がある「ステーブルコイン」に関する活動(「いわゆるグローバル・ステーブルコイン」)のリスクと便益、及び証券規制がどのように適用されるかについて検討、本年、IOSCOはステーブルコインに関する多数の活動につき調査を実施、IOSCO代表理事会は、「ステーブルコインは市場参加者、消費者、投資家にとって潜在的にメリットがあるものの、消費者保護、市場の公正さ、透明性、利益相反、金融犯罪、システミックリスクを含む多くの面で潜在的なリスクもあると認識している」としています。また、「こうした議論の参考とするため、IOSCOのフィンテックネットワークにおいて、代表理事会に向けて、グローバル・ステーブルコインの活動にIOSCOの原則・基準がどのように適用されうるかにつき分析を実施した。詳細な分析の結果、IOSCO原則・基準や各国の法規制の適用についてはケースバイケースのアプローチが必要と結論付けられた。したがって、関係者の権利と義務、及びスポンサーの継続的な義務を含めた個別のステーブルコインの運営方法についての詳細な理解が必要となる」とされました。また、IOSCO代表理事会議長は以下のように述べたといいます。

  • 我々の分析によると、「ステーブルコイン」と呼ばれるものは、規制されている証券が有する典型的な特徴を兼ね備える可能性がある。すなわち、IOSCO原則・基準が適用されるかは、開示、登録、報告、スポンサー及び販売者の責任に関する事項を含むステーブルコインの構造に影響される
  • グローバル・ステーブルコインの活動は、国際的、公的な検討のまさに対象となる。我々は、システム上大きな影響を与えうるグローバル・ステーブルコインが政策及び規制上の一連の深刻なリスクを生じさせるという直近のG20プレスリリースに同意する。そのため、我々は、ステーブルコインに関するリスクが特定、緩和され、潜在的な利益が実現されるよう国際的な協力を促す。直近のG7報告書では多くの懸念がまとめられており、IOSCOは、金融安定理事会(FSB)のフォローアップ業務に参画し、他の基準設定主体と密接に協働し協調的な対応を実施する
  • ステーブルコインを立ち上げる予定の主体、特に全世界的規模での扱いを検討している者は、業務を行いうる地域において関係する全ての当局と一緒にオープンかつ建設的に対応すべきである
  • FSBの作業のサポートに加え、IOSCOのフィンテックネットワークでは、グローバル・ステーブルコインの活動に関する分析や検討を続けていくとともに、証券当局間の情報共有を促していく
▼ 金融庁 アクセスFSA(金融庁広報誌)
▼ 第196号 2019年11月29日 発行

「ステーブルコインを巡る国際的な議論:G20、G7、FSB」と題した論考が掲載されています。その主なポイントは以下のとおりです。

  • いわゆるステーブルコインという用語については、広く受け入れられた定義があるわけではないが、他の資産や複数の資産の組み合わせに対する価値の安定を図るよう設計された電子的な記録などが考えられる
  • 本年夏以降、一部のステーブルコインの取組みについては、広く国際的に支払いや価値の保存に使われる可能性があること、その場合、AML/CFTや金融システムの安定への影響を含め様々な規制・監督及び政策上の課題をもたらしうることが指摘されるようになり、国際的な議論が高まっている
  • こうした動きを受け、氷見野金融国際審議官は、9月に金融庁が主催した「暗号資産に関する第2回監督監視ラウンドテーブル」の開会挨拶において、米Facebook社やその協力企業・団体が新たなステーブルコインとして提案しているリブラを目覚まし時計(Alarm Clock)に例えながら、「リブラの鳴らすベルは、規制当局や中央銀行に対し、リブラのもたらす課題やリスクについて、スヌーズボタンを押して議論を先送りするのではなく、目を覚まし、真正面から取組むよう促している」と指摘し、金融技術革新等が既存の銀行や現金、規制当局にもたらす避けられない変革のプロセスを破壊的なものとならないように制御していく必要があるとしている
  • G7財務大臣・中央銀行総裁会議においては、議長国であるフランスの中央銀行総裁により、ステーブルコインに関する諸課題を整理する作業部会(G7作業部会)の設置が発表された。G20大阪サミットにおいては、成果文書である大阪首脳宣言において、暗号資産に関し、注意深く進展を監視し、生じつつあるリスクにも警戒を続けること、FSBその他の基準設定主体に必要な対応の助言を求めることに合意。この要請を受け、FSBでは金融安定に係る論点が、金融活動作業部会(FATF)ではマネー・ローンダリング/テロ資金供与リスクに係る論点が議論されることとなった
  • G7財務大臣・中央銀行総裁会議では、議長総括文書において、「規制・政策上の懸念・課題は、サービス開始前に対処される必要がある」とのメッセージを発出。同時に公表されたG7作業部会の議長アップデートにおいて、ステーブルコインのリスクとして、金融政策への影響、金融システムの安定、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策等が指摘されると同時に、ステーブルコインは既存の決済システムを改善する必要性を明らかにしたとも指摘された
  • ワシントンD.C.にて行われたIMF・世銀総会に合わせて、G7財務大臣・中央銀行総裁会議より、議長声明とG7作業部会の最終報告書が公表された。この最終報告書においては、ステーブルコインが提示する様々な規制・監督及び政策上の課題やリスクについての包括的な分析が示されるとともに、当局において既存の決済システムの改善に向けて具体的なロードマップを作成することの必要性も指摘されている
  • こうした動きも踏まえ、G20財務大臣・中央銀行総裁会議は、FSB・FATFから提出された報告を歓迎するとともに、G20メンバー国間の合意内容としてプレスリリースを発出。プレスリリースにおいては、グローバル・ステーブルコイン及びその他の類似の取組みが生じさせる政策・規制上の深刻なリスクは、サービス開始前に吟味され、適切に対処される必要がある、というメッセージを発信している
  • 10月にG20が公表したプレスリリースでは、FSB及びFATFから更なる報告が2020年に提出されることを期待することとされており、今後も作業が続けられる予定となっている。同時に、国際通貨基金(IMF)に対しては、各国の通貨公権を含むマクロ経済上の論点についての検討が新たに要請されている
  • 日本は、これまでもG20・G7及びFSBなどにおけるステーブルコインに関する国際的な議論に積極的に参画してきた。今後も引き続き、金融技術革新がもたらしうる機会の側面にも着目しつつ、ステーブルコインがもたらすリスクや課題について、G20・G7及びFSBなどにおける国際的な議論に貢献していきたい

ステーブルコインの議論は言い換えれば、紙幣や硬貨でないお金「デジタル通貨」の議論でもありますが、米FBが米ドルなどの法定通貨に裏打ちされたデジタル通貨「リブラ」の構想を発表するや、リブラは国家主権の中核である通貨発行権を脅かしかねないと、主要国は強い懸念を示しています。その間隙を突くように、中国は「デジタル人民元」発行の準備を加速させているほか、米中両国の対決構図(基軸通貨を巡る覇権争い)も絡み、デジタル通貨の行方に注目が集まっている状況です。以下、前回に引き続き、世界各国や規制当局等のリブラに対する厳しい視線について、簡単に集約していますので、あわせて参考にしていただきたいと思います。

  • 日本銀行の黒田総裁は、「リブラ」のような裏付け資産がある新たな暗号資産が世界的に流通することに強い危機感を示し、「様々な課題やリスクへの対応が十分整わないうちに発行されるべきではない」と慎重な姿勢を示し、AML/CFTやデータ保護などの課題が解決されなければ「利用者はステーブルコインのメリットを持続的に享受できない」と説明、リブラなどの構想について「既存の決済サービスにどういった問題があり、それをどう改善していくべきかという問いを社会に投げかけている」と指摘しています。その一方で、金融システムの安定を守るため民間企業の技術革新を後押しして円建てのデジタル通貨の利用促進を図りたい考えも示しています。「自国通貨とは異なる独自の通貨建て取引が増えれば金融政策の波及効果が弱まり、金融システムの安定も損なわれる恐れがある」と述べていますが、正にそのとおりかと思います。
  • 米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融システムに関する報告書を公表しています。その中で「リブラ」などグローバル・ステーブルコインについて、「金融システムの安定性や金融政策、マネー・ローンダリング、消費者や投資家の保護に関して重大な課題とリスクがある」と強調しています。グローバル・ステーブルコインは、通貨などを裏付けとし、暗号資産の中でも比較的価値が安定するとされるものの、G20財務相・中央銀行総裁会議が10月、規制が整うまで発行すべきではないとの認識で一致するなど、警戒感が広がっています。報告書は、FRBが各国当局と緊密に連携をとりながら「リスクを注視している」と説明し、適切な規制づくりの必要性を訴えています。関連して、米FRB議長は、米国のデジタル通貨発行には利点と弊害があると指摘し、「費用と便益を慎重に分析する」と早期実現に否定的な見方を示しています。「リブラ」を含め、他の中銀の動向も注視すると説明、脆弱な決済システムなど、デジタル通貨の実用化を目指している国が直面する課題を米国は抱えていないと強調、米国の発行は「慎重な検討を要する法律や金融政策、決済、金融安定化、監督、執行に関する重要な問題をもたらす」とし、現時点で発行計画はないと明言しています。中国が「デジタル人民元」の準備を進めるなど、各国・地域の中央銀行ではデジタル通貨発行を検討する動きが広がっている一方で、米国はこれらと一線を画す考えを打ち出した形となります。発行を計画しない理由としては、米国では比較的、現金志向が強いことなどが挙げられているようです。
  • ムニューシン米財務長官は、中国が目指す政府発行のデジタル通貨を念頭に、米政府としては「向こう5年は必要ないというのが、連邦準備制度理事会(TRB)のパウエル議長と私が共有する見方だ」と述べ、既存通貨に代わるデジタル通貨の役割に否定的な認識を示し、中国が発行準備を進める「デジタル人民元」を念頭に、基軸通貨ドルを発行する現行体制を維持する姿勢をみせています。米国はドル資金の流れについて、国際送金システムを運営する国際銀行間通信協会(SWIFT)を通じて追跡でき、これが米ドル覇権の土台となっているため、中国はSWIFTとは異なる送金システム構築に乗り出しているとみられています。
  • EU財務相理事会は、デジタル通貨は安く早い支払いを実現させる可能性がある一方、消費者保護やプライバシー、課税、サイバーセキュリティなどに課題があると指摘、通貨主権や金融政策などにもリスクになり得ると主張したうえで、リブラなど民間主導の取り組みが既存の金融秩序を傷つけるべきではないとして、当面は発行を認めない姿勢を示しました。共同声明では「いかなる世界的なステーブルコインも、法律、規制、監督上の問題やリスクが適切に特定・解決されるまで運用を始めるべきはない」としたほか、欧州中央銀行(ECB)や他の中銀が、デジタル通貨をはじめ決済システムのデジタル化をさらに進めることに留意すると表明しています。そのような中、フランス中銀のビルロワドガロー総裁は、同中銀が2020年にデジタル通貨の実験を始めると明らかにしています。
  • 中国人民銀行(中央銀行)は、これまでにいかなるデジタル通貨も発行しておらず、デジタル通貨を取引するいかなるプラットフォームも認可していないとする声明文を発表し、デジタル通貨発行を巡るうわさを否定しています。その上で、独自のデジタル通貨の研究と試行を引き続き進めており、インターネット上で広まっているデジタル通貨発行を巡るスケジュールは正確ではないと指摘しました。とはいえ、中国は国として初めてデジタル化された国内通貨を発行しようとしており、世界の金融サービス業界から注目されているものの、発行時期をはじめ、現時点で詳細はほとんど明らかになっていません。そのような中、中国人民銀行幹部はシンガポールでの会議で「紙幣や硬貨を使用することで匿名性を維持しようとする国民の要望を把握しており、望む人々には取引における匿名性を確保する」と指摘、「しかし同時に、『管理可能な匿名性』と、マネー・ローンダリング、テロ資金、税問題、オンライン賭博、犯罪行為への対応とのバランスを維持することになる」と述べています。なお、直近の報道では、中国が主要国では初めてとなるデジタル通貨の発行を視野に入れ始めており、すでに制度設計を終え、地域限定での試験発行の準備を進めるとされています。キャッシュレス化が進む中国で現金の流通をさらに減らし、金融機関の負担を軽くするほか、海外への現金持ち出しによる資本流出を防ぐ狙いもあるとみられています(報道によれば、中国では「タンス預金」を海外に持ち出すことが多く、この中にはグレーな取引で得たお金も含まれており、デジタル人民元で現金流通が減れば、資金移動を把握しやすくなるほか、犯罪やマネロンを防ぐ効果も見込めるとしています)。また、デジタル通貨を導入したとしても、ドルやユーロなどの主要通貨に近づくにはまだまだ高いハードルがありますが、究極的には中長期的には人民元を国際化し、ドル覇権に対抗する思惑も透けて見えます
(4)テロリスクを巡る動向

アフガニスタン東部ナンガルハル州ジャララバードで、農業支援に取り組んでいた医師、中村哲さん(73)が殺害されました。アフガニスタンでは、2001年の米中枢同時テロを受けた米英軍による空爆開始以降、イスラム原理主義勢力タリバンと、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)がテロ攻撃を継続し、治安悪化に歯止めがかからない状況が続いています。米国とタリバンの和平交渉再開が明らかになったものの、近々の治安改善は見通せない状況で、一方でISなどの勢力も国内に残存、支援活動を行う団体が標的となる事件も続発、今回の「テロ」(菅官房長官は「卑劣なテロ」との見方を示し、政府として断固として非難するとしています)もその流れにあったといえます。中村さんを襲った武装勢力の詳細は分かっていませんが、報道によれば、タリバンは今回の事件を受けて、「復興分野で活動するNGO(非政府組織)は標的ではない」と主張する声明を発表、(11月からISの掃討作戦が進んでおり、州政府や警察内部ではISが反転攻勢に出る可能性が指摘されていたことから)ISの関与が疑われています(なお、水利権を巡る隣国パキスタン側との対立があったといい、中村さんらが支援していた用水路建設を巡り、何らかのトラブルに巻き込まれた可能性もあるといわれています)。本テロについては、武装グループは中村さんの車を別の車で追走し、行く手を遮った後に銃撃に及んだといい、通行ルートを事前に把握していたとみられ、地元警察は外国人を狙った計画的犯行という見方を強めているようです。なお、直近の報道では、地元州政府幹部が「中村さんを狙った襲撃計画があることを事件の数日前に本人に伝えていた」と語っています。実際のところ、中村さんを誘拐したり攻撃したりする計画の断片情報がたびたび寄せられており、事件の約1カ月半前には州政府から、事件数日前には治安機関から、中村さん本人に危険情報を伝達したといい、結果的に州政府は、事件当日も警備要員を配置して守りを固めたが、銃撃を防げなかったといいます。

さて、本テロでは活かすことができませんでしたが、事前の兆候をつかんだ際にどう対応していくべきかは極めて重要です。その点については、外務省のサイトで参考となる資料「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」が掲載されています。本コラムでも以前、全13話について継続して紹介しましたが、今回、あらためて「有事への備え(第11話)」と「有事への対応(第12話)」を以下に紹介いたします(暴排トピックス2018年10月号および暴排トピックス2018年5月号にて取り上げたものです)。

▼ 外務省 ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル
▼ 第11話 有事への備え

本話で最も重要だと思われる指摘は、「普段から関連情報をモニターし、渡航先・赴任先の様子を観察し続けていると、有事の兆候をつかめる場合がある」という点です。これは危機管理の鉄則であり、どのようなリスクへの対応においても重要なポイントだと言えます。そして、そのような場合には、不測の事態を想定しつつ、回避する努力を行う必要があり、まずは、現地の日本国在外公館や治安当局、本社に状況の報告・相談をし、アドバイスを求めること(国によっては治安当局の信頼性に問題がある場合もあり、その点は注意が必要)、得られたアドバイスを参考にしながら現地側で可能な対策を検討すること、さらには、「目立たない」「行動を予知されない」「用心を怠らない」という「安全のための三原則」をあらためて見直し、遵守を徹底するとともに、例えば警備などの強化、通勤経路や時間の変更、単独行動の回避、視察予定等の変更など、自衛策を講じることが求められます(なお、あわせて、勤務先・家族とは不測の事態に巻き込まれた場合を想定し、対応を事前に話し合っておくことも必要です)。そして、「重要なのは、どんなに小さな兆候でも、気になることがあればすぐに相談すること」、「ささいな兆候であれば、実際の有事に繋がらない可能性もあるため、報告・相談をためらう場合も多いと考えられるが、報告することにより本社でも関連情報の収集に動くことができ、本社と現地が円滑に連携できる体制をつくることができること」、「情報収集により事前予防や被害を小さくすることが可能な場合もあり、現地で気になる変化が生じた場合には、躊躇なく報告するように心掛けること」を説いています。一方の本社の危機管理担当者に対しては、「現地からの報告を歓迎する雰囲気づくりに努める必要がある」と指摘しています。「常日頃から必要な情報提供や注意喚起を行いながら、現地の情報も積極的に確認するようにすること」、そして「こうしたやり取りを意識的に行うことで、ささいな有事の兆候にも対応できる組織体制をつくることが可能になる」との指摘は、正に、有事に備えた平時にできる危機管理であり、それを実践し続けることが有事に強い組織を生むという点で極めて重要な指摘だといえます。

▼ 第12話 有事への対応

本話では、有事に際しての基本的な行動として次のようなことが紹介されています。まずは、「生き残ることを考える」ことです。「誘拐・襲撃・テロに遭遇した際に守るべき唯一のものは命です。有事の際には、命を守ることを優先して行動することが必要」だと指摘しています。そして、「S、M、Lで自己防衛」として、「Sound」については、「爆発や銃撃など異常な音がした場所には近づかない。在室中なら窓から覗かない。テレビ音声や携帯電話の受信音は標的となるため電源を切る」こと、「Moving」については、「近くでテロが起きたら、まず伏せる。非常口や避難ルートが渋滞し得るため、闇雲に逃げない。利用する施設の非常口や構造は事前に確認しておく」こと、「Light」については、「外で爆発や銃撃など異常な音がしたら部屋の灯りを消す。テレビの明かりや携帯電話の受信ランプも標的になるため電源を切る」といった基本的な行動、対応方法が紹介されています。また、有事に直面した時、携帯電話の操作をすることはほぼ不可能であり、映画館、劇場、美術館などの不特定多数の人が集まる場所では、安全のためにも予め携帯電話の電源を切ることが重要であること、テロ予告などで指定された場所・時間は避けるべきであることも紹介されています。さらに、襲撃・テロに遭遇した場合の行動原則は、「Lie、Run、Hide」であるとしています。Lie(伏せる)については、「銃撃や爆発音を聞いたらその場で伏せる。周囲の状況を確認し、「逃げる」のか「隠れる」のかを判断する」こと、Run(逃げる)については、「脱出ルートがあれば避難する。持ち物はそのまま置いていく。襲撃場所に他の人が入らないように注意する。安全が確保された時点で警察に通報する」こと、Hide(隠れる)については、「犯人から見えない場所に隠れる。ドアをロックするか、バリケードをつくり侵入を防ぐ。携帯電話などは音が鳴らないようにする、机上電話の受話器を外す」ことがそれぞれ紹介されています。人間は、緊急時に冷静でいられるのは1割しかおらず、8割はフリーズし、残りの1割はパニックとなると言われています。そのような心理的メカニズムから逃れるためには、日頃から正しい知識を身に付けること、繰り返し訓練を行うことが重要となります。このような有事に際しての基本的な行動について、社員に正しく周知しておくことも必要ではないかと考えます。

さて、米国防総省の監察官は、米軍のIS掃討戦に関する報告書を公表し、IS最高指導者バグダディ容疑者の死亡が、同組織に及ぼす影響は限定的で、依然として脅威は残ると分析、ISがトルコ軍による越境作戦に乗じて、シリアで勢力の再構築を図っていると警鐘を鳴らしています。ISはすでにイラクやシリアの根拠地を失っているものの、テロ実行能力は保持していると考えられています。今年4月にスリランカで250人以上が犠牲になった連続テロでは、地元過激派グループがISの支援を受けて実行したとの見方が強く、同様の事件が発生すれば、ISはそれを新指導者の成果として喧伝しくことが考えられます。ISは、不断のジハードの果てにカリフの下で世界を統合することが、歴史の必然であり「絶対善」だとの思想で動いており、バグダディ容疑者の死亡がISへの一定の打撃となることはあっても、根絶にはつながらない理由が正にこの「リアルIS」から「思想的IS」への流れから説明できます。したがって、依然としてテロとの戦い、ISとの戦いは続いているといえ、EUの欧州警察機関(ユーロポール)が、ISのオンライン上の活動を妨げるための作戦を展開し、ISに関わりがあるソーシャルメディアのアカウントなど2万6,000件を削除したとの動き(サイバー空間でのISによるプロパガンダは続いています)などがそのひとつです。また、前回の本コラム(暴排トピックス2019年11月号)でも指摘した「IS戦闘員の処遇問題」も顕在化しています。トルコは約1,150人のISメンバーを拘束中で、外国人も多数いるとされ、欧州諸国がISメンバーの市民権を剥奪し、身柄引き取りを拒んでいると批判してきました。トルコは、ISに合流しようとシリアやイラクに向かった志願者の移動ルートとなり、治安当局は潜伏メンバーらの摘発を続けてきた一方で、出身国による身柄引き取りが進んでいないと不満を示していたところ、ついにIS戦闘員の送還を開始しました。欧米など各国は、帰還戦闘員によるテロを警戒して受け入れに難色を示しており、その対応もさまざまです。まず、ドイツと米国出身者2人が送還され、その後欧州出身者23人を順次送還しています(国別の内訳はデンマーク人1人、アイルランド人2人、ドイツ人9人、フランス人11人だといいます)。なお、ISの米国人戦闘員が、ギリシャに身柄を送られ、同国や米国から受け入れを拒否されたためにトルコとの緩衝地帯に取り残されたものの、その後飛行機で米国に送還されたようです。ドイツやデンマーク、英国は一部の戦闘員や家族の市民権を抹消している状況ですが、ドイツはドイツ人送還者の身柄を受け入れています。仏も2014年にトルコと交わした合意に基づき、11人を受け入れています(ただし、シリア北部に60人前後のフランス人IS戦闘員がいるとみられていますが、シリアで戦闘員となった者の受け入れは頑なに拒否しています)。一方、受け入れざるを得なくなった各国でも、過激派組織に関わった疑いがある送還者の不正行為をどう認定し、拘束しない場合にはどう監視するか、さらには同じような送還者は今後も増える可能性があることなど、受け入れる各国は重い課題を突きつけられています。ドイツではツイッター上で「こうやって、テロリズムは合法的にドイツに来る」「政府の失敗だ」といった不安の声が投稿されているといった報道もありました。また、ISの戦闘員の妻となった米国生まれの女性について、首都ワシントンの連邦地裁は、「米市民ではなく、政府は帰還に尽力する義務を負わない」との決定を出しています。米合衆国憲法は米国で生まれた人を米市民と定めるが、外国の外交官の子は例外で、女性は父親が中東イエメンの外交官だったことから、適用外と結論づけたものです。いずれにせよ、送還はまだまだ続くことから、各国の対応を注視していきたいと思います。

バングラデシュの首都ダッカで2016年7月、イスラム過激派組織が日本人7人を含む22人を殺害したレストラン襲撃テロで、ダッカの特別法廷は、テロに関与したとして被告の男7人に死刑、証拠不十分として1人に無罪をそれぞれ言い渡しています。テロ発生後、バングラデシュ政府は国内過激派組織に対する掃討作戦を展開し、弱体化には一定の成功を収めたようです。報道によれば、同国の警察当局は事件後、計28の掃討作戦を実施し、過激派79人を殺害、政府は一貫して「自国内でIS勢力は存在しない」という立場をとっており、「どのテロ組織も大規模テロを実行する能力はもはやない」とするものの、今年に入って、ISの影響下で襲撃テロを首謀した地元過激派「ネオ・ジャマトゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ」(新JMB)のメンバーが、ダッカ市内の2カ所で爆破装置を設置する事件を起こすなど、ISの脅威は継続中で、中東で劣勢に立つISの分派がアジア全体に拡散する中、脅威の根絶は険しい道のりだといえます。

次に、国内のテロ対策の状況について概観していきます。

昨年(2018年)6月発生した東海道新幹線殺傷事件では、(公判における被告の異常さが際立つ言動もさることながら)安全対策が厳しく問われることとなりました。車内への警備員の配置や盾やさすまたなどの備置といった対策がすでに講じられている一方で、最も効果的なものの一つと考えられる「手荷物検査」については否定的な状況が続いています。新幹線の駅は検査スペースを想定した構造ではなく、導入した場合、深刻な混雑を招く恐れもあり、移動を急ぐ乗客の納得や合意なども不可欠でクリアすべき課題は多いのが現状です。一方で、国土交通省は身体・所持品検査の実証実験を開始しています。今年、東京都心の霞ケ関駅や新宿西口駅などで隠し持った危険物などを検知する装置をテストし効果や運用上の課題を調べていますが、そもそも密閉された空間で高速で移動する新幹線においては、刃物だけでなく爆発物等のより殺傷能力の高い危険物を想定した対策が必要ではないかと考えます。すべての乗客のチェックが難しいのであれば、少なくとも一定の抑止効果が期待できる「抜き打ち検査」を行うといった対策ならすぐにでも検討できるのでないかとも思われます。身近となりつつあるテロの脅威をふまえた抜本的な対策のあり方を見直すことが急務だといえます。なお、交通機関におけるテロ対策という点では、最近、空港における手荷物検査の不備が目立っている点は極めて残念です。直近でも、大阪(伊丹)空港の日本航空の保安検査場、検査員が乗客のキャリーバッグに入ったナイフやはさみを見落とし、通過させていたことがわかった事例、同じ大阪(伊丹)空港の全日空の保安検査場で、成田行きの乗客の小型折り畳みナイフを係員が見逃すミスがあり、検査場が約20分にわたり閉鎖された事例、成田空港内にある日本航空の保安検査場で、乗客の手荷物に入っていた工具のドライバーを検査員が見逃し、通過させるミスが判明した事例(シンガポール行きの便に搭乗しようとした客から、保安検査場を通過後に「ドライバーを持っているが、大丈夫か」と申告があり、判明したもの)などがありました。国土交通省が国内の全航空会社と空港管理者に検査の手順を再確認するよう指示したばかりであり、大規模なイベントや注目イベントが続き、テロリスクが高まっている中、危機感をもって取り組んでもらいたいと思います。

また、対策の遅れが指摘されている原発のテロ対策も急務です。そのような中、原子力規制委員会は、東北電力女川原子力発電所2号機について、再稼働に向けた事実上の合格証に当たる「審査書」の案を了承しています。東京電力福島第一原発事故後では9原発16基目の合格となり、東日本大震災で甚大な被害が出た被災3県では初めて、被災した原発としては、日本原子力発電の東海第二原発に続いて2基目になるということです。また、同委員会は、九州電力の玄海原発3、4号機のテロ対策施設の工事計画について正式に認可しています。施設はテロなどで原子炉が冷却不能になった場合、遠隔から冷却を継続する機能を持つ必要があり、東京電力福島第1原発事故を受けて設置が義務づけられました。一方、テロ対策施設を巡っては、規制委の審査の長期化で各電力会社とも工事が遅れている状況にあり、対策が急がれます。

先月、ローマ教皇の来日を受け、警視庁や長崎、広島両県警などは計約1万人態勢で警備にあたりました。結果的には大きな問題もなく終了していますが、ISなどの過激派組織はキリスト教を敵対視して世界各地でテロの標的としてきたため、警備を担う警察当局はテロ防止に重点を置いたといいます。警視庁は東京ドームでのミサを狙ったテロに備え、銃器を所持した「緊急時対応部隊(ERT)」を周辺に待機させたほか、車両突入テロへの対策として移動経路の周辺などに大型車両や専用の柵を設置、長崎、広島両県では公園や野球場でミサなどが行われるため、爆発物などを搭載したドローン(小型無人機)に対処する部隊も配置するなどの態勢を敷いたということです。今年は、大阪サミット、ラグビーW杯、皇室関連行事、ローマ教皇の来日などテロ対策の観点からは重要なイベントが続きましたが、いよいよ来年は東京五輪・パラリンピックの開催が控えています。イベントの規模や世界からの注目度は桁違いとなりますが、これまでの本番経験を有効に活用して、万全の警備態勢を敷いていただくようお願いしたいと思います。

厚生労働省は、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の開催を見据えて、海外で使用されている神経剤に対する解毒剤(アトロピン及びオキシム剤)の自動注射機能を有する筋肉注射製剤(以下、「自動注射器」という。)について、日本においても医師や看護職員(保健師、助産師、看護師及び准看護師)が入ることができない汚染地域等で使用できるようにするよう関連手続きに入っています。以下、審議会から報告された報告書の内容を抜粋して紹介しますが、地下鉄サリン事件の教訓をふまえた大変興味深い内容となっていますので、ぜひ、参考にしていただきたいと思います。

▼ 厚生労働省 第13回厚生科学審議会健康危機管理部会 資料
▼ (資料2)化学災害・テロ時における医師・看護職員以外の現場対応者による解毒剤自動注射器の使用に関する報告書
  • 1995年に発生した東京地下鉄サリン事件は、死者13名、傷病者6300名近くの被害をもたらし、世界においても過去経験のない未曽有の化学テロ事件であった。当時は、現場対応において化学物質に対する検知や防護、除染といった概念が十分に普及しておらず、当日活動した東京消防庁職員の9%(135名)に二次被害が発生するなど、救助者や医療従事者等に化学物質への二次的曝露による被害が発生した
  • その経験を教訓として、これまでに全国の消防、警察、海上保安庁、自衛隊等の実働部隊において、検知、防護、除染、ゾーニングといった化学物質に対する安全対策の体制と装備が整備されてきた。
  • 化学物質に対する安全対策が進展する一方で、現場の被災者の救護という観点では、現状では、安全対策の確立まで医療が提供されない体制であり、東京地下鉄サリン事件と比較すると、適切な医療を受けるまでの所要時間がかかる可能性が指摘されている。東京地下鉄サリン事件以降、救助者等の安全対策と救命の両立を図る観点での研究は世界的にも進展しており、諸外国においては新たな科学的知見に基づき、これらを両立する救護対策が確立しつつある。
  • 化学災害やテロの原因となる化学物質は様々あり、化学テロの原因となる化学物質(以下、「化学剤」という。)・・・事案発生時におけるリスクは、化学物質の毒性の指標である「曝露量(Ct)」と「50%致死曝露量(LCt50)」によって定義される。
  • コリンエステラーゼの半分のエイジングが完成する時間はサリンで5時間、ソマンでは2分間とされる。このように早期投与ができないと解毒剤の効果が失われることからも、早期の解毒剤投与は非常に重要
  • 急性に症状が出現する神経剤等は、曝露量と曝露経路によって症状出現の仕方が異なるとされ、症状出現が速いほど重症である。独力で現場から避難できない状態に陥った傷病者は、早期に症状が出現したことを示しており重症である。更に、こうした傷病者が避難できずに現場である汚染地域に留まった場合、化学物質を吸収し続けることになり、時間経過とともに更に重篤化する危険性が高まる。こうした重症患者を救命するためには、早期の汚染地域からの救出・除染と医療的介入、すなわち解毒剤投与が重要。
  • 化学テロに対する初期救急救命処置は、通常の救命救急処置の手順であるABC(気道(Airway)、呼吸(Breathing)、循環(Circulation))の確保の前に、まず解毒薬投与(Drug)と除染(Decontamination)が必要とされ、その頭文字をとってDDABCと呼ばれる。このように解毒薬の早期投与は極めて重要であるが、その解毒薬の投与が必要となる状況において、医師や医師の指示を受けた看護職員による解毒薬の投与は必ずしも可能ではない。また、こうした解毒剤の早期投与が必要な重症例では、解毒剤の投与に関して、傷病者本人への説明や同意の取得は往々にして困難である。
  • 現在の日本DMAT隊員養成研修、DMAT技能維持研修では化学物質対応に関する研修が必ずしも十分に行われておらず、標準資機材の中にも化学物質に対応しうるPPEは含まれていない。そのため、化学物質に曝露させるリスクに晒し、二次被害を生じさせるリスクがあり、化学物質により多数傷病者が発生した汚染地域や準汚染地域に医療チームが入ることはできない。さらに、化学災害・テロにおける汚染地域・準汚染地域での対応としては、教育を受け日常的な訓練を実施し、実施手順に習熟し、平時から緊急出動ができるように準備がなされた専門部隊が行う必要がある
  • 非医師等による自動注射器の使用について、以下のように考えられる。東京地下鉄サリン事件においては、現場において除染が実施されず、多くの現場対応者や医療従事者に二次被害が生じた。一方で、除染プロセスを経ることなく、迅速に病院に搬送され、医療が提供されたことも事実である。そのため、対応者の安全確保とともに、傷病者の救命体制を確保することが重要である。神経剤等による災害・テロにおいては、傷病者に対して迅速な解毒剤の投与が必要であるが、現実的には、医師や看護職員により解毒剤を早期に投与するには多くの困難が伴う。このため、傷病者の救命のためには、非医師等による自動注射器の使用が許容される必要がある。
  • 医師法17条では、医師以外の医業の実施を禁止しており、ここでいう「医業」とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為、すなわち医行為を、反復継続する意思をもって行うこととされている。すなわち、医師及び医師の指示を受けた看護職員以外の者が反復継続する意思をもって医行為を実施すれば、基本的には、医師法違反となり、刑事罰に問われることとなる。
  • 有機リン系化合物及びサリン・VX等の神経剤等による化学災害・テロによる集団的な被害が発生した場合に、被害者に対してその解毒剤の自動注射器を使用する行為については、その投与に係る医学的判断を要し、適切な使用方法を用いなければ、人体に危害を加えうる行為であることから、医行為に該当すると考えられる。そのため、非医師等が、反復継続する意思をもって自動注射器を使用することは、原則として医師法違反となると考えられる。
  • 一方で、一般に、法令もしくは正当な業務による行為(刑法第35条)及び自己又は他人の生命、身体に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為(同法第37条)については、違法性が阻却され得る。
  • 注射される傷病者に生じ得る被害との関係で問題となる刑事責任・民事責任についても、自動注射器の使用が、緊急の事態において人命救助の観点からやむを得ず実施された場合は、まったく同様に免責されると解されるべきものであろう。
  • 有機リン系農薬やサリン・VX等の神経剤等による化学災害・テロ(以下、「当該事案」という。)による集団的な被害が発生し、その被害者(以下、「対象者」という。)の生命に重大な危害が及ぶ逼迫した状況において、医師及び看護職員以外の実働部隊の公務員(消防隊員、警察官、海上保安官及び自衛官)が、その公務として、その解毒剤(アトロピン及びオキシム剤)の自動注射器を使用する場合において、医師法上の解釈は、以下の通りと考えられる
  • 対象者に対する当該自動注射器の使用については、医行為に該当するものであり、非医師等が反復継続する意思をもって行えば、基本的には、医師法第17条に違反する
  • 一般的に、法令もしくは正当な業務による行為及び自己又は他人の生命、身体に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は違法性が阻却され得る
  • 違法性阻却の可否は個別具体的に判断されるものであるが、少なくとも以下の5つの条件を満たす場合には、医師法第17条における違法性が阻却されると考えられる
    • 当該事案の発生時に、医師等による速やかな対応を得ることが困難であること
    • 対象者の生命が危機に瀕した重篤な状況であることが明らかであること
    • 自動注射器の有効成分が対象者の症状緩和に医学的に有効である蓋然性が高いこと
    • 自動注射器の使用者については、定められた実施手順に従った対応を行うこと
    • 自動注射器については、簡便な操作で使用でき、誤使用の可能性が低いこと
  • 実施手順に従った対応を確実に行うため、使用者はその使用に必要な講習を受けていることが望ましい

その他、国内のテロ対策を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 外務省は海外で大規模災害やテロが起きた際、SNSの投稿をAIで分析するシステムを導入すると発表しています。在外公館などの情報とあわせ、被害状況や規模を速やかに把握し、在外邦人や企業に正確な情報を伝えるのが狙いで、2020年度から運用を始めるといいます。ツイッターなどSNSを分析する民間のAIサービスを使い、現地のSNS投稿から関連するキーワードを抽出し、状況分析に役立てるとのことです。
  • 外務省は、都内で企業の危機管理担当者や海外赴任予定者ら65人を集めて海外でテロが起きた場合などへの実践的な対応を伝授する会合を開いています。ほふく前進や銃撃を受けたときの退避の仕方、止血法や心肺蘇生法などを体験しながら学んだということであり、海外に渡航する日本人や企業への危機管理意識の定着に役立てたい狙いがあるといいます。このような実践的な訓練・研修は民間においても実施されるべきであり、テロへの対応が子どもの頃から叩き込まれている海外と異なり、日本においては、きちんとした訓練・研修が極めて重要だといえます。
  • 2020年東京五輪・パラリンピックに備えたテロ対策強化のため、東京都が都営地下鉄大江戸線新宿西口駅で危険物の探知機器「ボディースキャナー」を使った実証実験を始めています(内容としては、危険物などを検知できるボディースキャナーを設置し、検知された場合は警備員が2次検査をするもので、かつ利用者の多い鉄道で、滞留を起こさずスムーズに対応できるか検証するもの)。政府が今年中にも実施する駅の危険物所持検査の第2弾に都交通局が参加する形で、実験は東京駅でも行われ、JR東日本とJR東海が民間警備会社、警察と連携し、新幹線の改札に爆発物探知犬数匹をそれぞれ配置しました。東京都心の複数の主要駅で乗客を対象に実験することで、大会期間中の導入に向けた課題を探るのが狙いです。
  • 2020年東京五輪のマラソンや競歩、サッカーが行われる札幌市で、北海道警や市消防局などが札幌ドームでテロがあったとの想定で、負傷者の救助や避難誘導などの訓練を行われています。関係機関の連携強化を図るのが目的で、函館市消防本部や旭川市消防本部なども参加、ドームでのイベント中に猛毒のサリンがまかれ、多数の負傷者が発生したとの想定で、救助や除染のほか、応急処置などを実施しています。
  • 第3管区海上保安本部(横浜市)は、来年の東京オリンピック・パラリンピックの期間中、東京港内の一部海域で船舶の航行を自粛するよう求めています。テロ対策などの海上警備や事故の防止が目的。自粛海域付近にはブイを設置し、海保の船舶が待機して監視する。海保は海域図を記したリーフレットを配布し、ホームページなどで周知するとしています。
  • 政府は、東京五輪・パラリンピックや聖火リレーで観客らの安全を脅かす事案が起きた際に司令塔となる「セキュリティ調整センター」を首相官邸に来年3月に設置することを決めています。警察など関係省庁から寄せられる情報を集約し、重大事案発生時には関係省庁や大会組織委員会、開催都市による初動対応を調整することを想定しています。テロ攻撃やサイバー攻撃に加え、自然災害による被害が発生した場合、官邸内に設置されるそれぞれの対策室などと連携して対処することとしています。
  • テロ対策ではありませんが、神戸市が、阪神大震災が発生した1月17日前後に市内で一斉に実施していた災害対応の「シェイクアウト訓練」を中止すると発表しています。2015年から毎年「緊急速報メール」を配信していたが「受信音がうるさい」との苦情が多いことを考慮した結果だということです。訓練は地震発生を想定し、市内にいる全ての人の携帯電話に緊急メールが届くよう設定し、その場で身を守る行動をとってもらうものですが、訓練の重要性・有効性を十分に徹底しきれなかった行政側の問題もあろうかと思いますが、そもそもそのような苦情で中止することになることは、日本人の危機意識の低さを示したものといえ極めて残念です。

最後に海外における最近のテロを巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 英ロンドン中心部のテムズ川に架かるロンドン橋そばの建物で複数の人が刺される事件が発生、犯人は射殺されましたが、刺された2人が死亡し、3人がけがをしています。警察はテロ事件として捜査しています。死亡した容疑者は、2012年にテロ容疑で有罪となり、2018年12月に刑務所を出所していたといい、2012年にロンドン証券取引所の爆破計画が発覚したテログループの一員だったとの報道もあります。なお、そのグループは国際テロ組織アルカイダに影響を受けているということです。なお、容疑者の単独犯行の可能性が高いものの、ISが犯行声明を出したとの報道もあり、信ぴょう性は不明の状況となっています。
  • トランプ米大統領はメキシコの麻薬カルテルをテロ組織に指定する考えを表明しましたが、メキシコ大統領の「内政干渉だ」とする要請を受けて撤回しています。報道によれば、指定の手続きは完了していたといい、「指定を先送りにして、勢力を拡大しつつある卑劣な組織に協力して断固立ち向かうことに尽力する」とツイッターへ投稿しています。なお、テロ組織への指定については、麻薬密輸や人身売買といった犯罪への関与が理由とされており、テロ組織に指定された団体については、米国民がそれを承知の上で支援するのが違法とされるほか、テロ組織のメンバーが米国に入国するのは認められておらず、強制送還される可能性があること、金融機関がテロ組織関連の資金を保有していると気づいた場合は、資金を差し押さえて米財務省に通知する必要があるといった規制が想定されていたようです。
(5)犯罪インフラを巡る動向

賃貸物件の「犯罪インフラ化」が懸念されています。報道(令和元年11月24日付日本経済新聞)によれば、性風俗店の違法営業や振り込め詐欺グループの拠点を排除するため、各地の警察が賃貸物件の貸主への取り締まりを強化しており、違法行為に使われると知りながら契約を結べば、刑事罰を含めたペナルティーの対象となるなど、貸主の摘発事例も目立つようになっており、安易な物件提供のリスクが高まっているといえます。たとえば、特殊詐欺グループは短期間でアジト(拠点)を移動する必要がありますが、報道の中で捜査関係者が「同じ物件を複数の犯罪グループが使うことは少なくない。活動を制限するためには、貸主の協力がより重要になる」と述べているように、実際には、犯罪を助長する「犯罪インフラ事業者」がそのような「犯罪の場」を提供している実態があります。それに対し、特殊詐欺対策として、貸主が負う義務を詳しく規定する条例が増えているといいます(たとえば、2020年春施行を目指す大分県では、特殊詐欺グループへの賃貸の禁止や、発覚時に明け渡しを求める努力義務を定める方針だということです)。賃貸物件の犯罪インフラ化に対して、警察は違法店と知りながら部屋を貸した大家に対して、犯罪を手助けしたとするほう助罪のほか、犯罪収益と認識しながら賃料を得たとする組織犯罪処罰法違反罪などでの摘発に力を入れています。当然ながら、このようなリスクをふまえれば大家としては、賃貸借契約を結ぶ時点で借主が犯罪と関係のある人物かどうかを細心の注意を払っていくことが求められます(なお、筆者はこの報道の中で、「大家さんは入居時に細心のチェックを怠らないで」、「入居後も違法行為をいち早く把握するため、投書やメールを通じて、ほかの住民からの情報提供を受けやすい仕組み作りが重要だ」とコメントしています)。

SNSの「犯罪インフラ化」については、本コラムでもたびたび警告してきましたが、直近では、大阪で女児がSNSを介して誘拐されるという事件も発生しました。報道(令和元年11月24日付朝日新聞)によれば、事件に巻き込まれた18歳未満の少年・少女は、昨年は警察が把握しただけで1,811人に上ったといい、統計を取り始めた2008年以降では2番目に多かったということです。特に最近は小学生の被害が増えつつあり、昨年は過去最多の55人(高校生は991人、中学生は624人)となっています。さらに、SNSへのアクセス手段は「携帯電話」が1,632人と全体の9割を占め、このうち1,621人はスマホだったといいます。なお、被害者が使ったSNSでは「ツイッター」が最も多い718人となっています。また、昨年、SNSを通じて直接相手と会って被害に遭ったのは1,468人に上り、会った理由は「金品目的」の435人に続き、「優しかった、相談に乗ってくれた」が336人に上ったといいます。やはり、子どもに対しては、ネット上には「悪意」も飛び交っており警戒が必要なこと、実際に巻き込まれた事例がたくさんあることを日々教育していく必要があるといえます。なお、子どもにSNSがのめりこむ背景としては、SNSは実際のコミュニケーションとは異なり、身体的な要素がないため見知らぬ人物にも恐怖心が働きにくいこと、特にツイッターなどは文字だけのやりとりのため、子供たちにとっては「知らない人にも自分の言いたいことを言える、『楽しい』ツール」になっていること、実生活で逃避願望を持った子どもが、SNSを通じた家出を試みるハードルは低くなっていること、そもそもSNSにおいては、「フィルターバブル現象」(インターネットの検索サイトが提供するアルゴリズムが、各ユーザーが見たくないような情報を遮断する機能」(フィルター)のせいで、まるで「泡」(バブル)の中に包まれたように、自分が見たい情報しか見えなくなること)や「エコーチェンバー現象」(閉鎖的空間内でのコミュニケーションを繰り返すことよって、特定の信念が増幅または強化される状況)によってリアルの世界とは異なる、自分に心地よい状況が作り出されてしまうこと、を認識する必要があります。その意味では、親こそ危険性について十分な認識を持つ必要があり、「自転車を買い与えれば、子どもの行動範囲が広がるのは当たり前。子どもがスマホを使って何をしているのか、親がきちんと把握する必要がある」との識者の提言はまさにそのとおりだといえます。また、別の識者は「子どもにスマホを持たせるのは、繁華街の入り口に1人で立たせるようなもの。制限を設けないなら、親の責任で使わせないといけない」と指摘していますが、こちらもそのとおりだといえます)。また、SNSの「犯罪インフラ化」としては、それ以外にも、SNS上に投稿した写真や動画などから個人情報が割り出され、嫌がらせや思わぬ犯罪に巻き込まれる事例が増えていることも挙げられます。最近でも、ツイッターに投稿した写真の背景を手がかりに居場所を特定され、脅迫を受けた女性の事例が紹介されましたが、そのほかにも、ピースサインから指紋パターン、瞳から最寄り駅が特定されるなどの事例も報告されています。スマホなどカメラの画質が飛躍的に向上し、SNSに投稿した画像などから、生体情報やプライバシーが読み取られてしまう懸念が強まっており、本人が気付かないうちに個人情報を知られてしまうリスクが一層高まっている点(犯罪者から見れば、犯罪がより容易にできる状況になっている点)に注意が必要です(技術の進歩が犯罪者を助長してしまう典型的な「犯罪インフラ化」の事例だといえます)。また、SNSの「犯罪インフラ化」の側面としては、「偽(フェイク)レビュー」の問題も指摘されています。出品者が仲介業者に報酬を支払い、偽レビューを募集していることが背景にあり、社会のプラットフォームとしての信頼性が揺らぎかねない、プラットフォームの「犯罪インフラ化」が進みつつあります。ある調査会社の調査によると、ネット利用者の8割弱が口コミを見ており、情報源としては電子商取引(EC)サイトが55%と最も多いこと、口コミを見る状況は「買ったことのない商品を購入する時」が69%と多く、「家電を買う時」(63%)や「外食する時」(49%)が続いたということですから、その影響力の大きさをふまえれば、「偽レビュー」対策は急務だといえます。なお、関連して米FBは、実在しない人物や組織を装った偽アカウントの削除件数が2019年7~9月に17億件と前年同期の2.3倍にのぼったことを明らかにしています。偽アカウントは選挙妨害や偽ニュース拡散の温床となっており、同社は対策に注力しており、公表された報告書では偽アカウントのうち99.7%は利用者からの報告がある前に削除されていること、インスタグラムでは7~9月に児童ポルノなどのコンテンツの削除が75万3,000件で前の3カ月間よりも約5割増えたこと、武器や違法薬物の売買に関連したコンテンツの削除件数なども公表されています。

カードの偽造の事例も後を絶たない状況です。たとえば、外国人の在留カードを偽造し、長期固定金利型住宅ローン「フラット35」を不正に契約させていたとして、神奈川県警が同県の建設会社元役員の男を入管難民法違反(偽造在留カード行使)容疑で書類送検しています。元役員は、住宅購入を検討していた神奈川県や群馬県のブラジル人やペルー人など計12人の在留カードを偽造して金融機関に提出、計約1億8,900万円(計9件分)の融資を受けさせた疑いがあるといい、住宅を紹介した仲介手数料の一部を、建設会社から受け取っていたといいます。本件は、「在留カードの偽造」、「フラット35の審査の脆弱性」が「犯罪インフラ化」した事例だといえます。また、偽造したクレジットカードで化粧品17点(約32万円相当)をだまし取ったとして、大阪府警国際捜査課は、詐欺容疑で22歳と38歳のマレーシア国籍の男2人を逮捕しています。本件では、別の偽造カード事件の捜査から、東京都内の民泊のマンション一室がカードの製造拠点として浮上、家宅捜索したところ、偽造に使うとみられるカード約1,560枚や、カード情報を登録する機器などが見つかったというものです。報道によれば、容疑者らは「マレーシア国内の組織の指示に従ってカードを作っていた」と供述しているほか、大阪府警は今年4月にも大阪市内でマレーシア人が関係する製造拠点を摘発していることから、マレーシアに共通する指示役がいるとみられていますが、背後に犯罪組織の存在がうかがわれます。

また、東京電力福島第一原発事故の被災事業者への補償を食い物にする詐欺事件が後を絶たないとする報道がありました(令和元年11月14日付朝日新聞)。最近では男女10人が逮捕されていますが、「加害者」の負い目と、そこにつけ込んだ「賠償金ビジネス」が横行している実態があるようです(具体的な手口としては、福島県いわき市のスナックが原発事故の風評被害で売り上げを減らしたとする虚偽の申請書を東電に送り、損害賠償金約190万円をだまし取ったというもので、飲食店に不正請求を行わせた指南役が存在するといいます)。「とにかく早く、何とかして払え」とせかされ、書類の内容まで詳細にチェックする余裕はなく、必要書類の形式が整えば請求が認められるようにしていたということであり、正に審査が形骸化して「賠償金ビジネス」を助長する「犯罪インフラ化」が進んだといえると思います。報道によれば、「加害者である東電からすると門前払いはできず、不正はないだろうという性善説でやらざるを得なかった」と担当者が述べていますが、これがまさに反社会的勢力の手口と同じであり、その対応の甘さ・脇の甘さが悪用されてしまうことがわかります。

本コラムでも関心をもって紹介している富裕層による租税回避地への資産隠しや、海外の取引法人を利用した税逃れ行為に関連して、みずほ銀行は租税回避地(タックスヘイブン)に置いた特別目的会社(SPC)の税務処理をめぐり、東京国税局から約84億円の申告漏れを指摘され、過少申告加算税を含め約20億円を追徴課税されています。しかしながら、同行は処分取り消しを求め、東京地裁に提訴しています。租税回避を防ぐ税制を適用した国税当局に、みずほ側は「租税回避にはあたらない」と反論しています。報道(令和元年11月26日付日本経済新聞)によれば、みずほ銀行は「一連の資金調達のスキームや構造、資金の流れにおいて何ら租税回避の実態を伴うものではない。課税処分は違法だ」と訴訟で主張、あくまで当局の法令解釈が誤っているとの立場です。一方、国税当局は過去の判例を引き合いに、悪意がなくても形式的に申告漏れに当たれば課税処分できると説明しているとのことです。報道では、「タックスヘイブン対策税制は何度も改正が重ねられ、複雑で分かりにくいとの声も多い。ただ、ひとたび企業が課税処分を受ければ、負担は重くのしかかる。実態はもとより、形式的にも課税処分を受けないような細心の注意と、それを支える体制整備が重要になってきている」と結ばれていますが、タックスヘイブンの「犯罪インフラ」性の高さはよく知られており、法的には問題がないと主張したとしても、社会から「グレー」であると問題視されるリスク(コンダクト・リスク)への対応という観点からも、しっかりとした説明責任を果たしていくことが求められているといえます。

関連して、富裕層による申告漏れも問題です。全国の国税局が今年6月までの1年間に実施した個人の所得税の調査で、富裕層の申告漏れが過去最高の763億円(前年比13・9%増)に上ったといいます。一定以上の資産や所得がある富裕層5,313件を調査し、4,517件で申告漏れがあり、追徴税額は203億円、1件あたりでは383万円(同13・0%増)となったということです。海外投資をしていた人に限ると、1件あたり914万円と高額となっているといいます。なお、大阪国税局の税務調査では、各国が非居住者の口座情報を交換する制度(CRS)を活用、外国で預金口座を持っている男性に、6年間で発生した利子約5,500万円の申告漏れを指摘し、重加算税を含め約2,700万円を追徴した事例もありました。

また、タックスヘイブン利用の実態を記載した「パナマ文書」の報道に関わり、首相の親族の資金隠しなどの疑いを追及したマルタの女性記者ダフネ・カルアナガリチアさんが2017年10月に爆弾で殺害された事件に関し、同国の首相首席補佐官や観光相が辞任、経済・投資・中小企業相は、捜査結果が明らかになるまで職務を停止、そしてついには首相も辞任する事態となっています(直近では、事件の鍵を握る人物とされるマルタの大物実業家も逮捕。実業家が所有するドバイの企業は、パナマ文書のリストに挙がっていたようです。事件を巡って11人が殺人容疑などで逮捕され、うち4人が起訴されました)。女性記者は、首相の妻らがパナマに会社を置いて資産を隠していたと報じ、事件の前には「脅迫を受けている」と警察に訴えていたとされます。

その他、最近の報道から犯罪インフラに関連するものをいくつか紹介します。

  • インターネットバンキングの口座から預金が不正送金される被害が9月から急増しているといいます。警察庁によると、月別で過去最多の436件、被害総額が過去2番目に多い約4億2,600万円を記録、10月以降も被害が続いています。手口は、携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)で利用者を偽の銀行サイトに誘導して個人情報を入力させ、それを悪用するというもので、これまでの被害件数のピークは2014年の年間1,876件(被害総額は約29億1,000万円)だったものの、金融機関が1回の送金に限って有効な「ワンタイムパスワード」を導入するなど対策が強化されて減少していました。昨年は322件、約4億6,100万円、今年も上半期は183件、約1億6,600万円と減少傾向が続いていたところであり、注意が必要な状況です。
  • 令和元年12月8日付日本経済新聞で、「もし情報を扱う関係者が犯罪集団に取り込まれたら……。NHK受信契約者の情報が特殊詐欺グループに流出した事件は、末端のほころびが大きな被害を招く危うさを浮き彫りにした」との指摘がありました。この事件は、以前の本コラムでも取り上げましたが、NHKから受信契約や集金の業務を請け負いながら、その裏で特殊詐欺の実行役に内通、ターゲットとする高齢者の情報を伝えていたというものです。報道では、さらに「日本郵便の委託業者の男2人が架空請求詐欺に関わった事例」にも言及していますが、この事例は、集配として業務に携わりながら、架空の請求にだまされた高齢者が「ゆうパック」で市内の特定のアパートに宛てて現金入りの荷物を発送すると、それを持ち去っていたというものです。これらは、詐欺グループが企業、団体が持つ個人情報や物流ネットワークに目をつけ「犯罪インフラ化」し始めていることを示すものであり、より巧妙かつ精度の高い情報・手段を獲得しつつあるという点では極めて大きな脅威となりうるものと思われます。
  • 元ホームレスなど生活の苦しい人たちが利用する無料低額宿泊所について、神奈川県などが設備や運営の基準を定めた条例を制定するといいます。無料低額宿泊所は、劣悪な居住環境や粗末な食事の対価として高い利用料を生活保護費から不当に天引きするケースもあり、「貧困ビジネス」の温床と批判されてきましたが、条例化は国が求めており、生活困窮者の居住環境や待遇の改善が期待されます。
  • 会員登録などをした特定の利用者が車を共有して使う「カーシェアリングサービス」の利用者が急増していますが、不特定多数を対象とした店舗型のレンタカーと異なり、空いていればネット上の手続きで24時間いつでも車を使え、短時間の使用もOKという手軽さがある一方で性善説に基づいたシステムが悪用され、借りた車を無断で売却する犯罪も発生しているといいます。正にカーシェアリングビジネスが「犯罪インフラ化」しかねに状況であり、本人確認の徹底などの対策が急務だといえます。
  • 携帯電話の契約で本人確認を徹底するよう求めた国の是正命令に違反したとして、警視庁捜査2課は、携帯電話販売店の運営会社を携帯電話不正利用防止法違反の疑いで書類送検しています。同法の是正命令違反容疑での立件は全国で初めてだということです。報道によれば、同社は盗難にあったり紛失したりした免許証から個人情報を入手し、2017年1月~2019年1月に約600回線分の携帯電話回線を不正契約しており、不正契約した携帯電話は特殊詐欺に悪用され、被害額は約1億3,000万円に上るとみられるということです。これこそまさに「犯罪インフラ」の典型であり、特殊詐欺の被害金が暴力団等に流れることも想定されるところ、このような事業者と企業は取引することで犯罪を助長し、暴力団の活動を助長しかねないことを十分に認識し、このような犯罪インフラ事業者と関係をもつことがないようにしていただきいと強調しておきたいと思います。
  • 高性能爆薬を製造したなどとして4月に火薬類取締法違反容疑で警視庁に書類送検された東京都内の高校2年の男子生徒が、無許可で放射性物質「アメリシウム」を所持していた疑いがあることが分かりました。アメリシウムを巡っては愛知県警が、許可なく所持したとして同法違反容疑などで名古屋市の会社員を逮捕していますが、この容疑者は爆薬製造事件などで有罪判決を受けた元大学生の男とSNSで交流があり、男子生徒も元大学生もSNSでやりとりしていたことが判明しています。「化学愛好家」がSNSでつながり、情報交換していた可能性があるとみられています。なお、男子生徒はオークションサイトでウランを落札した疑いもあり、ウラン売買事件で昨年、警視庁が男子生徒宅を家宅捜索してアメリシウムが発見されたということです。危険な物質がネットで入手できる、爆薬や覚せい剤などの製造方法なども簡単に入手できるという点でネット(ネットオークション)のもつ「犯罪インフラ」性、SNSで犯罪がつながるというSNSのもつ「犯罪インフラ」性などさまざまに指摘できますが、「化学愛好家」のレベルであればまだしも、何かのきっかけで思想性を持てばテロにつながります。また、これによって、日本でも簡単に大規模なテロが敢行できてします可能性を示したことになり、本件には相当なインパクトがあります。
(6)その他のトピックス

1.薬物を巡る動向

厚生労働省が、平成30年に策定した「第五次薬物乱用防止五か年戦略」のフォローアップ結果を公表しています。

▼ 厚生労働省 薬物乱用対策推進地方本部全国会議<
▼ 資料2 第五次薬物乱用防止五か年戦略フォローアップ概要<薬物乱用対策推進会議>

平成30年の薬物情勢を概観すると、薬物事犯の検挙人員は、14,322人(前年同期比+303人、+2.2%)と前年より若干増加したこと、うち覚せい剤事犯の検挙人員は、10,030人(▲254人、▲2.5%)と前年より若干減少したが依然として1万人を超えたこと、大麻事犯の検挙人員は、3,762人(+544人、+16.9%)、コカイン事犯の検挙人員は、217人(+32人/17.3%)といずれも5年連続で増加し、過去最多となったことが指摘されています。また、覚せい剤の押収量は、1,206.7kg(+70.1㎏、+6.2%)と前年より増加し3年連続で1トンを超え、乾燥大麻の押収量は、337.3kg(+66.8㎏、+24.7%)とこちらも3年連続で増加、また、コカインの押収量は、157.4kg(+145.8kg、+1256.9%)と前年より大幅に増加し過去最多となり、MDMA等錠剤型合成麻薬の押収量も、12,307錠(+9,063錠、+279.4%)と前年より大幅に増加しています。また、少年及び20歳代の検挙人員は、覚せい剤事犯は前年より減少したものの、大麻事犯は5年連続で増加し、前年に引き続いて、この年代で大麻事犯の検挙人員が覚せい剤事犯の検挙人員を上回ったこと、さらに、20歳代の大麻事犯の検挙人員が、初めて覚せい剤の検挙人員を上回った点も指摘されています。さらに、覚せい剤事犯の再犯者率は、65.9%(+0.4P)と12年連続増加し、過去最高となり、薬物密輸入事犯の検挙人員は、374人(+58人、+18.4%)と前年より増加、危険ドラッグ事犯の検挙人員は、433人(▲293人、▲40.4%)と前年より大幅に減少した点も注目されるところです。

このような全体的に悪化している薬物情勢に対して、政府としては5つの目標ごとに取り組み状況をまとめています。目標1「青少年を中心とした広報・啓発を通じた国民全体の規範意識の向上による薬物乱用未然防止」では、「薬物の専門知識を有する警察職員、麻薬取締官、学校薬剤師、矯正施設職員、保健所職員、税関職員等が薬物乱用防止教室を開催するとともに、各種啓発資料の作成・配付を行った」、「「ダメ。ゼッタイ。」普及運動等の啓発運動・キャンペーンの推進、関係団体への注意喚起、啓発資材の作成・配布・ホームページへの掲載、政府広報ホームページにおけるインターネットテレビやラジオ等を用いた情報発信等多様な媒体を用いた広報啓発活動を実施した」といった取り組みが報告されています。また、目標2「薬物乱用者に対する適切な治療と効果的な社会復帰支援による再乱用防止」については、「「依存症対策総合支援事業」により薬物依存症治療を実施する医療機関の整備を図るともに、「依存症対策全国拠点機関設置運営事業」により医療従事者の依存症治療に対する専門的な能力の向上と人材養成を実施した」といった取り組みが、目標3「薬物密売組織の壊滅、末端乱用者に対する取締りの徹底及び多様化する乱用薬物等に対する迅速な対応による薬物の流通阻止」では、「関係機関による合同捜査・共同摘発の推進、暴力団等薬物密売組織の中枢に位置する者に焦点を当てた取締りを推進し、平成30年中、首領・幹部を含む暴力団構成員等5,511人を検挙した」、「平成30年中、麻薬特例法第11条等に基づく薬物犯罪収益等の没収規定を36人に、同法第13条に基づく薬物犯罪収益等の追徴規定を203人にそれぞれ適用し、没収・追徴額の合計は約2億7,494万円に上った」といった成果が、目標4「水際対策の徹底による薬物の密輸入阻止」においては、「関係機関間において緊密な連携を取り、捜査手法を共有した結果、統一的な戦略の下に効果的、効率的な取締りが実施され、平成30年、水際において、覚せい剤約1,156キログラム、大麻約156キログラム等の薬物の密輸入を阻止した」、「麻薬原料物質に係る輸出入の動向等について、国連麻薬統制委員会(INCB)と情報交換を行うとともに、麻薬原料物質に関する国際動向及び貿易管理の取組状況について、輸出事業者80社110名に対して講演会を実施した」ことなどが、目標5「国際社会の一員としての国際連携・協力を通じた薬物乱用防止」では、「国際捜査共助等を活用し、国際的な共同オペレーションを推進し、薬物密輸入事案を摘発した」といった取り組みなどが公表されています。そのうえで、当面の主な課題としては、以下が列挙されています。いずれも、本コラムで指摘してきた点であり、今後の薬物対策における重要な柱だとあらためて確認しました。

  • 平成30年の我が国の薬物情勢は、覚せい剤事犯の検挙人員は依然として1万人を超え、大麻・コカイン事犯の検挙人員はいずれも過去最多となった
  • また、密輸入事犯の検挙人員は前年より増加し、水際での覚せい剤押収量は1トンを超えている状況にあるが、本年開催されるラグビーワールドカップや来年開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会等を契機として、来日外国人数の増加が見込まれ、今後、旅客に紛れた密輸入事犯が更に増加することも十分に予想される。よって、国内外の関係機関が一層連携を強化し、徹底した水際対策を実施して、薬物の密輸入を阻止する必要があるほか、海外の密輸組織・密売組織と国内の暴力団等犯罪組織との結節点の解明に努める必要がある
  • このほか、国内に流入した大麻を含有する食品の摂取により健康被害が生じる事例が発生し、また、コカイン・MDMA等の押収量が増加した。こうしたことから、我が国では、根強い覚せい剤需要とともに、流通する乱用薬物の種類・形態の多様化が認められる状況にある。また、大麻事犯の検挙人員は過去最多を記録し、その過半数は、30歳未満の青少年であった
  • よって、青少年に焦点を当てた広報・啓発、暴力団等の供給者側と乱用者の徹底した取締り、海外の薬物乱用実態の把握及び迅速な規制、薬物の鑑定・分析体制の強化等の施策を実施する必要がある
  • さらに、上昇を続ける覚せい剤事犯の再犯者率を踏まえ、薬物の再乱用防止を実現すべく、関係機関が連携し、薬物乱用者に対する適切な治療と効果的な社会復帰支援をこれまで以上に強化する必要がある

最近では、沢尻容疑者の麻薬取締法違反での逮捕・起訴等、有名人による薬物事犯の報道が相次いでおり、社会の関心を集めていますが、一方で、それが「薬物乱用防止」につながっているかといえば疑問が残ります。むしろ、薬物をひとつの「スタイル」として受け入れてしまう空気感、「芸能人だから仕方ない」といった諦めが感じられ、筆者としては大きな危惧を覚えています。その要因のひとつに、世界的な「嗜好用大麻」の合法化の流れがありますが、本コラムでたびたび指摘しているとおり、大麻はとりわけ脳にとって有害であり依存性も高い危険な薬物であることは間違いのないところであり、あくまで経済合理性の観点(それに付随して犯罪組織への打撃の観点)から「やむなく」合法化に踏み切っているに過ぎません(日本は大麻の吸引率がそれほど高くなく、現時点では合法化は誤りであって、規制を強化すべき段階といえます)。なお、経済合理性についていえば、一言でいえば「大麻が規制できないほど広く蔓延してしまった」ために、コストや社会的影響を考えれば規制するより管理しながら課税するなどして限定的に使用を認めざるを得ないという状況を意味しています。どこの国も最初は大麻を規制していたものの、より危険性の強いコカイン、ヘロイン、覚せい剤、LSDなどが広がった結果、ハームリダクション(個人が、健康被害や危険をもたらす行動習慣(合法・違法を問わない)をただちにやめることができないとき、その行動にともなう害や危険をできるかぎり少なくすることを目的としてとられる、公衆衛生上の実践、方略、指針、政策)として大麻への規制を緩め、その経済的な結果として流通ルートが整備され、すでに規制できないほど広まってしまったというのが現実です。さらに、大麻を含め強い依存性のある薬物ばかりなので一度、広まってしまえば、それを完全に封じ込めることは不可能だからということになります。一連の芸能人の事件では、芸能界をむしばむ薬物汚染の一端が改めて浮き彫りになった一方で、「華やかさの一方で浮き沈みの激しい業界特有のストレスに密売人がつけこむ構図」も見られるほか、「元芸能人による再犯も後を絶たず、薬物依存から抜け出す難しさ」を示しています。しかしながら、芸能人だから仕方ないは通用せず厳格に取り締まっていくべきであり、一方で薬物依存症という病気であることを社会全体が共有し、その更生・立ち直りを見守っていくことも重要です。耳目を集める芸能人だからこそ、そのような「厳格でありながら社会的包摂を有したスタンス」が明確に伝わるようなマネジメント、企業・政府の広報等が浸透していくことを期待したいと思います。

なお、沢尻容疑者に関する一連の報道から、検討すべき点がいくつか出てきています。まず、これまでの事案同様、不祥事を起こした芸能人の過去の作品が封じられる動きとそれに対して「過剰反応」とする声への対応です。当然ながら、「作品に罪はない。過去にさかのぼって作品を見られないようにするのは過剰反応ではないか。エンターテインメントの土壌がやせ細ることになる」とする意見、一方で、「現在は批判が直接スポンサーに寄せられる時代になっており、仕方のないことだ」とする考えがあります。何が正しいかは、「世の中がNGと言えばNG」ということが基本的な考え方になると思われますが、作品を「なかったことにする」のではなく、「世の中に受け入れられるか」の判断基準で対応していくべきだと考えます。社会の拒絶反応が強ければ、関係者はそれを社会の評価として受け止めるべきであり、そのあたりを見極めたうえで興行的な判断を行えばよく、過去の作品まで含めて「なかったことにする」対応はやはり行き過ぎではないかと考えます。なお、人権問題との関係で十分な検討が必要となりますが、映画やドラマなど社会的影響や興行的観点から薬物排除を徹底するのであれば、抜き打ちの薬物検査等を実施するといった自衛策・予防策も考えられるところです(実際に、2009年に沢尻容疑者の当時の所属事務所が自発的に薬物検査を行い、同容疑者が違法薬物の陽性反応が出たことを理由に契約解除されたと報じられています)。これは極端な対策ですが、最近は芸能人のマネジメントもプライベートへの関与が昔ほど深くなくなっているとも聞く一方で、正にそのプライベートの問題が事業や企業に大きなダメージをもたらすことを踏まえれば、そもそものマネジメントのあり方自体、もう少し踏み込んで検討すべき時期にきているともいえます。

もうひとつは、今回の事件では、直近の使用の有無を確認する尿鑑定の結果が陰性となったことで、立件に必要な具体的な使用の時期、場所の特定が困難となり、現状で使用の立件が見送られた経緯があります(所持での立件となりました)。そして、使用立件の鍵を握るのは尿鑑定であり数日内の使用を裏付けることはできますがそれ以前の使用の場合や、毛髪鑑定にはおおまかな時期しかわからないという限界があります。このように今回の件では、使用での立件のハードルの高さが露呈したともいえます。

その他、最近の報道から薬物事犯に関するものをいくつか紹介します。

  • 宮城県警は、自宅で覚せい剤を所持したとして、元タレントの田代まさし容疑者を、覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで再逮捕しています。県警は11月、同法違反(所持、使用)の疑いで、田代容疑者を逮捕していました。同容疑者については、8月23日に宮城県塩釜市のホテルで、また11月6日に自宅マンション敷地内でそれぞれ覚せい剤を所持した疑いで逮捕、送検されています。更生に向けて取り組んでいただけにやはり更生の厳しさを痛感させられます。
  • 大阪地裁は、大麻取締法違反(所持)と覚せい剤取締法違反(使用)の罪に問われた無職の男(過去にNHKの教育番組で「歌のおにいさん」を務めていた)に対し、懲役1年6月(求刑・懲役2年)の判決を言い渡しています。今年5月、自宅で大麻を所持、9月には大阪市浪速区のビジネスホテルで覚せい剤を使用したというものです。報道によれば、裁判官は、被告が覚せい剤を使用した罪で有罪判決を受けて執行猶予中だったのに、再び覚せい剤を使ったことを非難、「薬物犯罪への抵抗感が低い」と述べたといいます。
  • 米国から大麻を密輸したとして、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部に逮捕されたスノーボード・ハーフパイプの元五輪代表について、東京地検は、米国から大麻を密輸したとして大麻取締法違反と関税法違反で東京地裁に起訴しています。
  • 合成麻薬「MDMA」を使用したとして、警視庁が麻薬取締法違反(使用)容疑で、「KAZMAX」の通称で知られる金融トレーダーを逮捕しています。報道によれば、容疑を否認しており、「クラブで飲み物に混入された」という趣旨の説明をしているといいます。同容疑者は金融商品を解説するなどして、テレビや雑誌などメディアでも活動していました。その後、麻薬取締法違反の罪で起訴されています。
  • 福岡県警は、同県大川市立中学校の教諭を覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕しています。容疑者は、福岡市博多区内の路上で、チャック付きポリ袋に入った覚せい剤約0・5グラムを所持した疑いがあり、「自分で使う目的で持っていた」と容疑を認めているということです。教諭という高い倫理観を求められる職業であるだけに大変残念です。
  • 高校生が路上で乾燥大麻約1グラムを所持した疑いで逮捕されています。赤信号で横断歩道を渡っていたところを自動車警ら隊員が職務質問し、簡易検査で大麻と確認されたものです。長崎地検佐世保支部は、麻取締法違反の非行事実で、長崎家裁佐世保支部に送致しています。大麻の若者への蔓延が問題となっているところ、憂慮すべき状況を示すものといえます。
  • 北海道警は、営利目的で大麻を栽培したり、所持したりしたとして大麻取締法違反容疑で、六代目山口組系誠友会幹部ら6人を逮捕しています。北斗市内のビニールハウスから、乾燥大麻約30キロ(末端価格1億000万円相当)を押収しており、暴力団の資金源とみて調べているといいます。また、これとは別に、同じ北海道において、北海道警函館中央署は、函館市内のアパートの部屋で大麻を所持したとして大麻取締法違反容疑で、男2人を逮捕したと発表しています。部屋からは20キロを超える乾燥大麻や大麻樹脂が押収され、2人は「市内の山から採ってきた」と供述しているようですが、道警では販売目的だった疑いもあるとみて調べているといいます。

さて、税関によると、今年1~6月の半年で、税関が押収した全国の密輸覚せい剤は1,460キロに上り、年間の押収量で過去最高だった平成28年の1,501キロに迫る勢いとなっているということです。前述したように、覚せい剤の押収量は平成28年以降急増し、4年連続で1トンを超えており、税関など水際での対策の強化が望まれているところです。最近の密輸の事例としては、たとえば、福岡県警福岡空港署が、ラップにくるんだ液体大麻を体内にのみ込んで米国から密輸したとして、RKK熊本放送アルバイト(35)を大麻取締法違反(営利目的密輸)の疑いで逮捕した事例がありました。なお、体内に取り込む手口での液体大麻の輸入摘発は全国で初めてだということです。液体大麻は電子たばこを使って吸うことができるため、近年、日本国内でも若者らの間で浸透しつつあり、警察などは水際での警戒を強めているといいます。また、愛知県警と東海北陸厚生局麻薬取締部が、イラン国籍の自称格闘家ら男4人を覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで逮捕した事例もありました。この事例では、容疑者らが住むアパートで微量の覚せい剤を所持した疑いがあるほか、室内にあった鍋の内側に覚せい剤の結晶が付着していたことから、4人が覚せい剤の密売グループの一員で、製造にも関わっていたとみられています。また、変わった密輸の手口としては、今年8月、愛知県に寄港した大型貨物船から約177キロ(末端価格約35億円相当)のコカインが見つかった事例で、何者かが海中に潜り、船底の取水口に隠したとみられる手口があり、この手口が国内で確認されたのは初めてだということです。手の込んだ手口なだけに、国際組織が世界中を回る船に違法薬物を「寄生」させ、大規模な密輸を重ねている可能性が指摘されています。

また、カンボジアから覚せい剤を密輸しようとしたとして、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの罪に問われた、住宅リフォーム業の被告の裁判員裁判の判決が名古屋地裁であり、裁判長は懲役9年、罰金350万円(求刑懲役12年、罰金400万円)を言い渡しています。判決によると、被告は昨年12月29~30日、覚せい剤約3・3キロ(末端価格約2億円)をカンボジアから密輸しようとしたというものです。動機として、事業に失敗して「闇バイト」で運んだことが分かっています。さらに、タイ警察は、日本に密輸されようとしていた疑いがある覚せい剤170キロ超を押収したと発表しています。バンコク近郊の空港で日本向けの航空貨物に不審な点があったため調べたところ、健康器具が収められた箱の中から36キロの覚せい剤を発見、発送者が借りていた倉庫を捜索し、さらに10個の健康器具の箱から計140キロの覚せい剤を見つけたといいます。また、これとは別にタイ警察は、空港から日本に送られる予定だった約20個の掛け時計の中から計8キロの覚せい剤を発見、台湾の男が関与した疑いがあるとみて行方を追っているといいます。本コラムで紹介しているとおり、静岡県伊豆町沖での「瀬取り」現場から1トン超の覚せい剤を押収した大規模密輸事件の摘発の影響で、国内の覚せい剤供給が逼迫し、密輸の手口が「瀬取り」から「ショットガン方式」へ移行していること、また、その「運び屋」を手配するために、SNS等で高額のアルバイト報酬で若者や金に困った人間を引き寄せるといった手口が横行しているといった実態があります。そして、そのような状況を裏付けるかのように、「ショットガン方式」での大型の摘発事例が相次いでおり、本件もそのような背景があるものと推測されます。なお、関連して、海外の事例であり参考までとなりますが、スペイン警察が、北西部ガリシア州沖で拿捕した潜水艦の中から、約3トン(末端価格約1億ユーロ=約120億円)のコカインが見つかり、押収したと明らかにしています。全長20メートルの潜水艦は取り押さえられ、浮上させて調べたところ、コカイン152包を発見したということです。警察は、潜水艦から逃げようとしたエクアドル人2人を拘束し、薬物の出どころなどを調べているといいますが、その額の大きさもさることながら、潜水艦を使った密輸など、海外の犯罪組織の犯行のスケールの大きさに驚かされます。

このような密輸の手口の多様化・国際化とともに、薬物の製造拠点が摘発される事案が増えていることもあげられます。たとえば、指定暴力団の組員ら4人が、千葉県市原市の資材置き場で大麻草約190鉢を営利目的で栽培したなどの疑いで摘発された事例がありました。報道によれば、大麻は地下室で栽培されていて、入り口はコンテナで隠されていたといい、大麻は、成長の過程に合わせて3つの部屋に分けて栽培されていたようです。警察は大麻が6年前から栽培され、暴力団の資金源になったとみて調べているとのことです。また、大阪府東大阪市で、大麻取締法違反罪などで公判中だった、大阪地検が収容した被告が護送車から逃走し2日後に確保された事件で、被告が逃走中に一時潜伏した民家から、大麻とみられる約500株の植物が押収されていたといいます。捜査当局は民家の捜索で、約20本の解錠用具とはさみ、切断された腰縄6本を押収していますが、この民家で大麻の栽培が行われていた可能性が指摘されています。そして、このような栽培拠点の摘発が相次いでいる背景として、それを指南する者の存在も明らかになっています。直近でも、大麻栽培に使うと知りながら、照明器具や液体肥料などを複数回にわたり販売して栽培を手助けしたとして、神奈川県警が、園芸用品販売店社長を大麻取締法違反(栽培ほう助)の疑いで逮捕しています。なお、栽培道具の販売をほう助容疑で摘発したのは全国初とみられます。容疑者は客に栽培方法を教えるなどし、一部の客から「師匠」と呼ばれており、肥料の与え方などのマニュアルも渡していたようです(さらにインターネットでも販売し、大麻の栽培方法も指南していたといいます)。同県警が昨年10月以降、同法違反容疑で摘発した23人も店を利用していたといい、押収した大麻草は計1,683本に上ったということですから、正に「犯罪インフラ化」していたといえます。なお、同様の事案として、大麻栽培に使われると知りながら照明器具を販売したとして、近畿厚生局麻薬取締部と兵庫県警も大麻取締法違反(栽培)ほう助の疑いで、神戸市兵庫区の園芸用品販売会社の40代社長と従業員ら男3人を逮捕しています。報道によれば、社長は「大麻栽培に使われるとは知らなかった」と容疑を否認しているといいます。大麻を室内で栽培するためには、開花時期を調節するなどの目的で照明器具が必要になるケースが多いとされます。

一方、薬物犯罪の取り締まりの過程で違法性が認められるケースが直近で相次いでおり、適正な捜査の重要性があらためてクローズアップされています。横浜地裁の判決では、警察署に任意同行され、銃刀法違反容疑で取り調べを受けた際に、警察官から「身柄引受人が来なければ帰宅できない」との説明を受けたため、家族が来るまで署に約3時間留め置かれたうえ、その間に、警察官が強制採尿令状の発付を受け、男性が採尿に応じたというもので、覚せい剤取締法違反(使用)で問われていたものの無罪となったという事例です。横浜地裁は、警察官の説明を虚偽と認めた上で「被告の退去の自由を直接侵害するような内容で悪質性が高い」と非難、「任意捜査の許容限度を逸脱している」と指摘し、尿の鑑定書の証拠能力を否定しています。また、大阪高裁では、覚せい剤の使用を認めた一審段階の自白は、保釈を得るために当時の弁護人の助言に従ったからで、実際は他人に無理やり覚せい剤を注射されたとの弁護人の主張について、自白に沿う内容とともに「覚える」と書かれていたノートが存在することなどから、公判供述の信用性は否定できず、自白が虚偽である合理的疑いが拭えないと判断され、覚せい剤取締法違反(使用)について無罪を言い渡しています。さらに、熊本地裁の判決では、警察官が令状に基づく車内の捜索を始めるまで被告を約7時間現場に留め置いた状況を「任意捜査の範囲を逸脱し、違法」と認定、被告の車の後ろにパトカーを横付けし、免許証の返却にも応じなかった対応を「実質的に違法な無令状の差し押さえ処分に当たる」とし、所持罪に関係する全証拠は違法に集められたと判断、覚せい剤取締法違反(所持、使用)について、熊本県警が覚せい剤を押収した際の捜査の違法性を認定し、所持について無罪、使用は有罪とし、懲役2年2月(求刑・懲役3年)の実刑判決を言い渡しています。

本コラムで注視している米オピオイド(麻薬入り医療用鎮痛剤)問題について、米連邦検察が、刑事事件として立件する可能性を念頭に、オピオイドの大量流通に関与したメーカーおよび医薬品卸6社を捜査していることが、規制当局への提出資料で明らかになったといいます。まだ捜査は初期段階にあり、検察当局は今後数カ月内に他の企業にも召喚状を出す見通しだということです。また、最近問題視されている(フレーバー付き)電子たばこで健康被害が相次いで報告されている問題(特に未成年の患者の割合が高いことが懸念されています)については、米疾病対策センター(CDC)が、電子たばことの関連が確認された、または関連がある可能性が高い肺疾患の症例と死亡例が過去2週間でそれぞれ1例報告されたとし、死亡例が合計48件になったと明らかにしています。現在調査中の死亡例も複数あるといい、12月4日時点の症例は2,291件になっています。このような状況を受けて、米国で電子たばこメーカーのジュール・ラブスに対する風当たりが強まっており、西部カリフォルニア州や東部ニューヨーク州が、電子たばこがもたらす健康リスクの説明や未成年への販売防止措置が不十分だったとして同社を提訴しています。電子たばこを巡ってはカリフォルニア州サンフランシスコ市が7月に販売を禁じる条例を制定、9月にはトランプ米大統領も「人々が亡くなっており我々は強力な規制を導入する」と述べ、販売禁止の検討を表明しています。なお、本問題では、10月にインドが、12月に入ってバングラデシュが電子たばこの販売禁止に踏み切っています。

2.IR/カジノを巡る動向

政府は、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の認定申請を2021年1月4日から7月30日まで受け付ける日程案を公表しました。申請する都道府県、政令指定都市の準備にかかる時間に配慮したもので、立地区域は最大3カ所、政府による認定は早ければ2020年との見方もあったものの、2021年以降となることになります(おそらく国交省が計画の提出を受けたてから3、4年ごろ後になる見通しです)。今回の日程案は12月18日までパブリックコメントに付されていますが、結果を踏まえ、既に公表している認定審査の基準と合わせ、IR整備の基本方針として来年1月ごろに閣議決定する運びとなります。本コラムでも紹介しているとおり、この基本方針で国交省はIR立地の認定基準として「令和12年に訪日客6,000万人」の政府目標の達成を後押しすることを最重要事項と位置付けているほか、地域への雇用創出やカジノからの反社会的勢力の排除を徹底することなどが盛り込まれています。また、政府は、来年(2020年)1月7日に設置するカジノ管理委員会の初代委員長に元防衛監察監の北村道夫氏を起用する方向を示しました。また、北村氏のほか、医師や警察、国税両庁OBなど4委員の人事案も示しています。治安の悪化やギャンブル依存症などの懸念への対応を考慮したことがうかがえますが、同委員会はギャンブル依存症やマネロン対策などの管理に加え、反社会的勢力との関わりの有無や財務面などで事業者の適格性を審査し、カジノ免許を付与する権限ももっています。

すでに候補地の選定に向けて本格的な活動が始まっています。現時点で誘致を表明しているのは大阪府・大阪市、横浜市、和歌山県、長崎県ですが、それ以外にも観光庁の意向調査では東京都、千葉市、名古屋市も前向きな回答をしているといいます(なお、北海道については直近で誘致の断念を表明しました)。とりわけ、大阪府・大阪市は、すでに全国の自治体で初めて、IRの事業計画の実施方針案を公表するなど積極的です。その大阪は、大阪湾の人工島・夢洲への誘致を目指すIRについて、夢洲で2025年に開かれる大阪・関西万博との相乗効果を狙い、2024年度中のIR全面開業を目指していましたが、万博と工期が重なることや労働力の確保の難しさなど調整が難航しており、実施方針案では「2025年大阪・関西万博前の開業を目指しつつ、早期開業による事業効果が実現できるよう、公民連携して取り組む」と事実上の努力目標にとどめ、開業時期は明記されませんでした(それでも2025年春の全面開業を目指しつつ、ホテルや国際会議・展示場のみの部分開業も是とする構えで、「万博前」にこだわる姿勢を強調しています)。そのほか、リスク管理として、事業者から保証金126億円を徴収することができたり、撤退した場合でも別事業者への承継や資産活用が可能となるよう協議できたりするとの条項が盛り込まれているほか、カジノ事業の収益を施設開発などに再投資するよう義務付け、長期的にIR全体を整備する環境を整えることや、夢洲への地下鉄延伸費用のうち202億円の負担を求めるものの、ほかのインフラなどの費用負担は求めないことなども明記されています。さらには、大阪市を廃止して特別区に再編する大阪都構想が実現した場合に、カジノ収入金を各特別区に人口割で配分することを府市が検討しているとも報じられています。カジノ収入金は子育てや教育環境の充実などに使われるほか、大阪府・大阪市は特別区への財政支援として、移行後10年間で計370億円の財源を上乗せする方針ということです。

一方、和歌山県は、整備区域に今後選ばれた場合に限り、建設予定地である人工島の約21ヘクタールを「和歌山マリーナシティ」から約76億円で買い取る合意を交わしていたことが判明しています。IR事業者が県から土地を直接購入できる形を作り、土地価格が流動的になるのを防ぐ狙いがあるようです。民間同士の取引では、事業者ごとの事情によって価格が変動する可能性があり、信用調査の手間もかかることなどがIR事業者の負担になるため、「公有地にしてほしい」と要望があったことを受けての対応であるともいいます。

また、横浜市も、IRに関する市民説明会を初めて、候補地の山下ふ頭が立地する中区で開くなど誘致活動を本格化させています。説明会には林文子市長らが出席し、IR誘致を生かし、国際会議や展示会など「MICE」誘致や観光振興による新たな産業づくりを目指す方針や、IR事業者が掲げる経済効果や、治安・ギャンブル依存症対策などを説明したほか、11月23日にはIR事業者からのコンセプト提案を締め切り、企業への聞き取りを踏まえて実施方針の策定に着手する流れとなっています。関連して、神奈川県は黒岩知事が、ギャンブル依存症対策を話し合う協議会を2020年1月に立ち上げることを明らかにしています。そもそもは国が各都道府県に対し、ギャンブル依存症対策の推進計画を策定するよう促していることを受けてのものですが、協議会には横浜市などの県内政令市や医療機関、外部有識者などが入り、ギャンブル依存症の実態を把握したうえで、対策を検討することとしており、ギャンブル依存症対策にしっかり取り組む姿勢を示すことで反対派を含む市民へ広くアピールする狙いもあると考えられます。なお、横浜市の場合、地元経済界が推進に動く一方、市民団体などは強く反対しており、地元では賛否が入り乱れている状況です(実際のところ、かながわ市民オンブズマンが、IRのコンセプト提案(RFC)の参加登録をした事業者の一覧表公開を求めたものの、市は事業者名などを塗りつぶした状態で公開したことに対し、非開示取り消しを求めて横浜地裁に提訴するといった動きも起きています)。

IR誘致を見送った北海道については、鈴木知事が「限られた期間で環境への適切な配慮を行うことは不可能である」と述べています(国が予定期限とする2021年7月までの認定申請を見送ったものの、将来の誘致に向けた取り組みは続けるといいます)。見送られた背景には、候補地として挙げられていた新千歳空港に近い苫小牧市について、地元では市民らの反対運動が起きており、候補地が森林のため環境影響評価で貴重な動植物の生息が確認されれば大きな影響があるとの意見にも配慮した結果だといわれています。

その他、IRカジノや依存症を巡るさまざまな報道からいくつか紹介します。

  • 政府は、IRに含まれるカジノについて、利用者がゲームに勝って得た所得に課税するための原案を示しています。チップの購入額や換金額を事業者が記録して利用者に提供することなどが柱となるといいます。カジノで得た利益は競馬などと同様に一時所得として課税の対象となるものの、本来であれば、取引のすべてに課税するべきところ、全てを把握するのは困難なため、原案では、利用者が退場する際、チップを換金した額から、入場時と場内でチップを購入した額の合計を差し引いた分を所得とみなし、課税対象とするというものです。IR実施法では、マイナンバーカードで利用者の本人確認が義務化されていることから、これを活用して事業者が利用者ごとの購入・換金額や、個々のゲームの勝ち負けの記録を保存し、利用者に提供、申告してもらう仕組みにする。利用者ごとの勝ち負けを記録することで、カジノで勝った人が、負けた人にチップを預けて、所得を減らすといった不正も防ぐことを狙っているとのことです。
  • ボートレース(競艇)を主催する自治体の全国組織はNTT東日本と連携し、画像解析技術を使ったギャンブル依存症対策を実証実験するということです。報道(令和元年11月27日付に本経済新聞)によれば、ボートレース場や場外発売場にカメラを設置し、来場客の顔を撮影、本人や家族らから依頼を受けて登録した顔を自動的に検知すると、施設職員が声をかけて注意を促すという仕組みだといいます。ネットワークカメラで顔や来場日時、推定年齢などを解析、撮影した画像は実験終了後に破棄、舟券の購入が禁止されている20歳未満の客の発見にもつなげることが期待されているということです。政府はギャンブル依存症対策の基本計画で、競馬や競艇といった公営競技の主催者やパチンコの事業者にギャンブル依存症対策を求めていることを受けての取り組みとなります。
  • 令和元年12月4日・5日産経新聞でシンガポールにおけるカジノの状況がレポートされていて参考になります。同国では入場規制が厳しく、21歳未満は入場できず、自国民は24時間ごとに150シンガポールドル(約1万2,000円)を払わなくてはいけないといいます(日本での導入の際も外国人旅行客は無料の一方で日本人は有料)。さらにカジノの面積は15,000平方メートル以下、ゲーム機器2,500台以下に制限されているうえ、カジノ内のATM設置禁止、カジノのため高利で資金を貸し付ける業者対策として違法な貸金行為には最高9年の懲役刑や、12回のむち打ち刑もあるほか、IR事業者においては、カジノディーラーやスタッフのうち約500が特別な訓練を受け、依存症になってないか顧客を注意深く見守っており、カジノ場内には監視カメラが数千台も設置されているといった状況のようです。当然、シンガポールでもカジノ解禁に反対運動が起こったといいますが、解禁前にも競馬や宝くじなどのギャンブルがあり、依存症の発症率は2005年に1%だったところ、解禁後、依存症対策の整備などによって、発症率は2017年に0.9%へ激減したという数字もあると紹介されています。現地で働く日本人スタッフが、「懸念はもっともだ・・・カジノに焦点が当たれば、責任あるギャンブルが進むようになり、リスクは下がると思う」、「ギャンブル依存症への対策は欧米よりも、シンガポールでは高いレベルが求められている。隙がないよう、厳しくやっているように感じる」と話しているように、厳格な規制を厳しく運用していくことが、ギャンブル依存症対策にとって重要なポイントとなるものと思われます。
  • 子どもたちがインターネットやネットゲームにのめり込み依存症になるのを防ぐ条例の制定に向け議論している香川県議会の検討委員会で依存症対策の必要性や県の役割を示した条例の骨子案が提示されています。成立すれば都道府県の条例としては全国初ということです。厚生労働省の研究班は昨年8月、ネット依存の疑いがある中高生が全国で推計約93万人に上るとする調査結果を公表するなど中高生のゲーム依存対策も急務となっています。直近でも、国立病院機構久里浜医療センターが今年実施した調査で、10~29歳の5人に1人が、平日に3時間以上ゲームをしていることが分かったということです。平日にゲームに費やす時間を聞く質問で、1時間以上は60・0%に達したほか、全体の2割以上が「ゲームをやめなければいけない時にやめられないことがあった」と回答、生活や健康への影響も浮き彫りになり、やはりゲーム依存症対策の強化が急務といえます。

さて、以前の本コラム(暴排トピックス2019年9月号)でIR基本方針(案)を読み解きながら、反社チェックのあり方についてコメントをしていますが、あらためて、IR/カジノの運営に必要な考え方や手法等について、簡単にポイントを示しておきたいと思います。

まず、そもそも論として、カジノ事業における反社会的勢力排除に向けた取り組みにとっての大前提は、カジノ事業に求められているのが「世界最高水準の廉潔性・適格性」「十分な社会的信用性」だという点です。それに対して、法令およびガイドラインで求められているのは、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2号第6号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(以下「暴力団員等」という。)」の排除となっており、そこには大きな断絶があります。反社リスクが、後から問題視される「後付けリスク」によるレピュテーションの毀損をもたらすことをふまえれば、その時点で可能な最大限の努力を講じるべきであり、最低限の法令やガイドラインを守ればよいというものではないはずです。すなわち、法令およびガイドライン上の要請は「暴力団員等の排除」だが、それだけでよいのか、たとえば、暴力団員等との関係がうかがわれる「共生者」や「半グレ」、「特殊詐欺グループ」などは「十分な社会的信用性を有する者」とは言えないし、世界最高水準の廉潔性・適格性という観点を加味すれば、本来的には、事業者のこれまでの反社会的勢力排除の取り組み以上のレベル感で取り組むべきではないかということです。そして、反社会的勢力の実態をふまえれば、KYCでは不十分、KYCC(実質的支配者の確認)まで踏み込むべきであること、事業の長期的な安定性・継続性をふまえれば、高いレベルでの「中間管理」(適切な事後検証/継続的な顧客管理)が求められると認識すべきであること、あわせて、中途で排除すべき事情が発生した場合、「適切な排除」を実施する体制も求められることをしっかり認識し、法令およびガイドラインの趣旨をふまえ、「事業者が自ら高いレベル感を設定して取り組むべき」ではないかと指摘しておきたいと思います。

次に、背面調査(予備的背面調査)時の反社チェックを考えてみます。

ガイドラインにおけるチェック対象としては、「IR事業者のコンソーシアムの株主となる日本の会社から派遣される役員や社員、(5%以上)株主の役員」とされ、役員の範囲は、「業務を執行する社員、取締役、執行役、会計参与、監査役若しくは監査人、代表者、管理人又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人等に対し業務を執行する社員、取締役、執行役、会計参与、監査役若しくは監査人、代表者、管理人又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む」(ゲーミング担当執行役員だけでなく、その他の執行役員も「役員」の扱いとなる。社外取締役や社外監査役についても背面調査の対象となる)(23条2項)とされています。しかしながら、個人が「暴力団員等」に該当しないことを確認するだけで十分なのか、反社リスクの現状をふまえれば、レピュテーション・リスクは大きく、反社会的勢力の範囲を拡大して調査を行い、個別に判断していくことが望ましいのではないかといえます。さらに、法人を構成する役員個人のチェックが課されているのみのところ、法令およびガイドラインの趣旨をふまえれば、法人自体の廉潔性・適格性についても十分確認すべき(事業者の自主的な取り組みとして実施すべき)と指摘できると思います。また、チェックの深度についていえば、法人の場合、実態として、その役員に暴力団員等が就任しているケースよりも、「実質的支配者」やその周辺者に問題があるケースのほうが圧倒的に多く、いずれのケースでも発覚すれば「カジノ事業自体のレピュテーション」を大きく毀損する可能性があることから、自治体としては、法令およびガイドラインの趣旨をふまえ、法人も含む、広範囲かつ相応の深度のある(調査対象を可能な限り拡大して)背面調査を実施したうえで、その適否を判断していくことが望ましいといえると指摘しておきたいと思います。なお、調査会社自体の信頼性にも注意が必要です。調査会社といってもそのレベル感はさまざまで、過去には、取引所への調査報告において調査会社の質が悪くNGを出された事例や第三者割当の際の怪しい増資に比較的多く登場する調査会社もあり、カジノ管理委員会が実施する「背面調査」に耐えうるしっかりした調査を行うには、信頼できる調査会社を選定するところから始める必要があります。

次に、カジノ事業者との契約時の反社チェックについて考えてみます。

ガイドラインにおいては、「IR事業者は、カジノ事業の免許を得るまでに進める準備(IR施設の建設、調達等に係る契約、各種行為準則の策定、従業員の雇用・教育など)の段階から、その役員、株主等、従業員、契約の相手方等からの反社会的勢力の排除の徹底に取り組むことが必要である」とされています。また、IR実施法では、「契約適合性基準に該当しない場合は契約を締結してはならない」(94条1号)とされ、相手方、相手方(法人)の役員、契約締結権限を有する使用人、支配的影響力を有する者が「十分な社会的信用を有する者」であることが必要です。さらに、契約相手方の欠格事由(94条2号)としては、以下が挙げられています。

  1. IR整備法又はこれに相当する外国の法令により認可を取り消され5年を経過しないもの
  2. IR整備法、これに相当する外国の法令、刑法の賭博罪・賭博開帳罪・富くじ罪、組織的犯罪処罰法・犯罪収益移転防止法の罪に違反し、罰金刑に処せられ、当該刑の執行を終わった日等から5年を経過しない者
  3. 個人であるときは、禁固以上の刑(外国のこれに相当する刑)に処せられ、執行等が終了した日から5年を経過しない者・暴力団員・暴力団員でなくなってから5年を経過しない者
  4. 法人の役員のうちに上記1から3までに掲げる者のいずれかに該当する者がある者
  5. 相手方の当該契約を締結する権限を有する使用人のうちに上記1から3までに掲げる者のいずれかに該当する者がある者
  6. 出資、融資、取引その他の関係を通じて相手方の事業活動に支配的な影響力を有する者のうちに上記1から3までに掲げる者のいずれかに該当する者がある者

これらを見る限り、個人の属性のスクリーニングだけでなく、個人・法人の風評や過去の記事検索など「手を尽くして」ネガティブ情報を収集したうえで、カジノ事業に求められる「廉潔性・適格性」「十分な社会的信用性」の観点から、「取引してよいか」「関係をもってよいか」判断していくことが求められているといえると思います。また、契約の相手方について、法人および役員(背面調査と同等)双方の廉潔性・適格性について十分確認すべきであり、事業者として通常実施している反社チェックのレベル感以上で取り組むことが望ましいといえます。一方で、実質的支配者、KYCCの観点からどこまでチェックすべきかについては、今後の課題(たとえば、建設における重層的な下請構造における反社チェックのあり方など)であり、中間管理としての「定期・不定期のチェック」の運用を厳格に行うことも重要となるなど、チェックの範囲や深度については精査が必要な部分でもあります。

最後に、入場時の反社チェックについて考えてみます。

入場時に排除されるべきは、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2号第6号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(以下「暴力団員等」という。)のカジノ施設への入場の禁止」とされていますが、そもそも暴力団員等のみ入場を認めないとの運用でよいかの検討が必要です。カジノ事業者として「入場を認めない反社会的勢力」をどの範囲とするかは自主的な判断に委ねられているといえます(範囲を拡大すれば、「スピード」「認定」「排除」が困難になる傾向はあるところ、誓約書を取る以外にも、施設管理権の一環として、あらかじめ入場規制が「事業者の裁量」のもと規定されている点を広く周知しておくなども工夫も必要となると思われます)。なお、証券業界や銀行等がすでに接続している警察庁のDB(データベース)の活用や都道府県公安員会等との連携なども考えられるところではありますが、IR事業者とのDB接続については現時点ではハードルが高いことや、接続できても「精確な回答」までに時間を要すること、本人確認の方法など、速やかな入場禁止措置の手段としては課題が多いのも事実です。また、当社のような民間の反社会的勢力に関するDBを活用する場合であっても、本人かどうかの「同一性」をどの程度の情報で判断するか、(警察の情報提供による根拠が不十分な中で)タイムリーにその場からどのような形で排除するのか(同一性や排除の根拠を巡るトラブルが考えられ、実務的にどう対応すべきか)など、今後、十分な検討が必要である点は指摘しておきたいと思います。

3.犯罪統計資料

警察庁から最新の「犯罪統計資料(平成31年1月~令和元年10月分)」が公表されていますので、以下に紹介します。

▼ 警察庁 犯罪統計資料(平成31年1月~令和元年10月分)

平成31年1月~令和元年10月の刑法犯の認知件数の総数は626,991件(前年同期684,037件、前年同期比▲8.4%)、検挙件数の総数は238,442件(250,800件、▲4.9%)、検挙率は38.0%(36.7%、+1.3P)となり、ここ最近と同じく平成30年の犯罪統計の傾向が継続しています。犯罪類型別では、刑法犯全体の7割以上を占める窃盗犯の認知件数は445,457件(488,279件、▲8.8%)、検挙件数は146,410(154,257件、▲5.1%)、検挙率は32.9%(31.6%、+1.3P)と刑法犯全体をやや上回る減少傾向を示しており、このことが全体の減少傾向を牽引する形となっています(ただし、検挙率が少し上向いているのはよい傾向だと思われます)。うち万引きの認知検数は78,2300件(83,122件、▲5.9%)、検挙件数は54,392件(58,814件、▲7.5%)、検挙率は69.5%(70.8%、▲1.3P)となっており、認知件数が刑法犯・窃盗犯を上回る減少傾向を示していることや検挙率が他の類型よりは高い(つまり、万引きは「つかまる」ものだということ)ものの、ここ最近、検挙率が低下傾向にある点は気になるところです。また、知能犯の認知件数は30,330件(34,907件、▲13.1%)、検挙件数15,239件(16,018件、▲4.3%)、検挙率は50.5%(45.9%、+4.6P)、うち詐欺の認知件数は27,179件(31,591件、▲14.0%)、検挙件数は12,838件(13,380件、▲4.1%)、検挙率47.2%(42.4%、+4.8P)ととりわけ検挙率が大きく高まっている点が注目されます。今後も、認知件数の減少と検挙件数の増加の傾向を一層高め、高い検挙率によって詐欺の実行を抑止するような構図になることを期待したいと思います。

また、平成31年1月~令和元年10月の特別法犯については、検挙件数の総数は58,946件(59,566件、▲1.0%)、検挙人員は49,989人(50,623人、▲1.3%)となっており、検挙件数が前年同期比で再度プラスからマイナスに転じるなどプラスとマイナスが交互する状況であり、特別法犯の検挙状況は横ばいとなっています。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は5,094件(4,129件、+23.4%)、検挙人員3,853人(3,284人、+17.3%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,110件(2,082件、+1.3%)、検挙人員は1,735人(1,757人、▲1.3%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は596件(415件、+43.6%)、検挙人員は119人(92人、+29.3%)、不正競争防止法違反の検挙件数は55(32件、+71.9%)、検挙人員は51人(41人、+23.4%)などとなっており、とくに入管法違反と不正アクセス禁止法違反、不正競争防止法違反の急増ぶりが注目されます(体感的にもこれらの事案が増加していることを実感していますので、一層の注意が必要な状況です)。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は751件(691件、+8.7%)、検挙人員は351人(325人、+8.0%)、大麻取締法違反の検挙件数は4,251(3,694件、+15.1%)、検挙人員は3,385人(2,789人、+21.4%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は9,199件(11,183件、▲17.7%)、検挙人員は6,569人(7,751人、▲15.2%)などとなっており、大麻事犯の検挙が平成30年の傾向を大きく上回って増加し続けている一方で、覚せい剤事犯の検挙が逆に大きく減少し続けている傾向がみられます(参考までに、平成30年における覚せい剤取締法違反については、検挙件数は13,850件(14,065件、▲1.5%)、検挙件数は9,652人(9,900人、▲2.5%)でした)。

なお、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の検挙人員総数は378人(426人、▲11.3%)、中国75人(97人、▲22.7%)、ベトナム63人(57人、+10.5%)、ブラジル37人(41人、▲9.8%)、フィリピン27人(19人、+42.1%)、韓国・朝鮮20人(30人、▲33.3%)、アメリカ16人(8人、+100.0%)、スリランカ12人(14人、▲14.3%)などとなっており、こちらも平成30年の傾向と大きく変わっていません。

暴力団犯罪(刑法犯)総数については、検挙件数は15,201件(15,523件、▲2.1%)、検挙人員は6,739人(7,823人、▲13.9%)となっており、暴力団員数の減少傾向からみれば、刑法犯の検挙件数の減少幅が小さく(つまり、刑法犯に手を染めている暴力団員の割合が増える傾向にあるとも推測され)、引き続き注視していく必要があると思われます。うち傷害の検挙件数は1,236件(1,502件、▲17.7%)窃盗の検挙件数は8,8954件(8,365件、+6.3%)、検挙人員は1,123人(1,140人、▲12.6%)、詐欺の検挙件数は1,821件(1,914件、▲4.9%)、検挙人員は1,140人(1,373人、▲17.0%)などであり、「令和元年上半期における組織犯罪の情勢」において、「近年、暴力団は資金を獲得する手段の一つとして、暴力団の威力を必ずしも必要としない詐欺、特に組織的に行われる特殊詐欺を敢行している実態がうかがえる」と指摘されているとおり、最近では窃盗犯の検挙件数の増加が特徴的であり、「貧困暴力団」が増えていることを推測させることから、こちらも今後の動向に注視する必要があると思われます。また、暴力団犯罪(特別法犯)総数については、検挙件数は6,392件(7,965件、▲19.7%)、検挙人員は4,570人(5,791人、▲21.1%)となっており、特別法犯全体の減少傾向を大きく上回る減少傾向となっている点が特徴的だといえます。うち暴力団排除条例の検挙件数27件(13件、+107.7%)、検挙人員は46人(52人、▲11.5%)であり、暴力団の関与が大きな薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は156件(137件、+13.9%)、検挙人員は46人(43人、+7.0%)、大麻取締法違反の検挙件数は901件(946件、▲4.8%)、検挙人員は604人(623人、▲3.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は4,171件(5,483件、▲23.9%)、検挙人員は2,856人(3,746人、▲23.8%)などとなっており、とりわけ覚せい剤から大麻にシフトしている状況がより鮮明になっている点やコカインやMDMA等と思われる麻薬等取締法違反が検挙件数・検挙人員ともに伸びている点が注目されるところです(平成30年においては、大麻取締法違反について、検挙件数は1,151件(1,086件、+6.0%)、検挙人員は744人(738人、+0.8%)、覚せい剤取締法違反について、検挙件数は6,662件(6,844件、▲2.7%)、検挙人員は4,569人(4,693人、▲2.6%)でした。また、暴力団員の減少傾向に反してコカイン等への関与が増している状況も危惧されるところです)。

4.令和元年犯罪白書/再犯防止推進白書

法務省から「令和元年犯罪白書のあらまし」が公表されましたので、以下簡単に紹介します。

刑法犯の認知件数は、平成14年(戦後最多)の285万4,061件をピークに16年連続で減少しており、平成30年も81万7,338件と戦後最少を更新し、平成14年の約4分の1近く(平成14年対比▲71.47%)までとなったようです。特に、窃盗については、平成15年から大幅に減少し、平成30年も582,141件と戦後最少を更新しています(なお、窃盗は、刑法犯認知件数の7~8割以上を占めています)。特に空き巣は平成14年をピークに6分の1以下に、オートバイ盗は平成13年をピークに約18分の1に、ひったくりは平成14年をピークに約27分の1にまで減少しています。また、その他の刑法犯の認知件数では、平成期での増減の幅がとりわけ大きかったのは器物損壊であり、平成3年から平成11年までは、横領が詐欺や器物損壊を上回っていたと指摘されています。傷害については平成20年以降、2万件台で推移しているほか、暴行も平成18年以降、高止まりの状況が続いていること、脅迫についても平成24年に急増して以降、増加傾向が続いています(ただし,30年(3,498件)は前年比▲9.2%)。その他、強制性交等は平成16年以降、減少傾向にあるものの、平成29年から増加し、平成30年(1,307件)は前年比+17.9%と急増しています(一方、強制わいせつについては、平成26年以降、減少しています)。

特別法犯については、平成期では平成12年から減少傾向にあり、平成30年も昭和24年以降最少を更新しています。道交違反を除く特別法犯では、平成19年をピークに減少傾向にあったものの平成30年は増加に転じたほか、児童買春・児童ポルノ禁止法違反については、平成24年以降増加しており、平成30年は前年比+16.3%増と急増しています。また、本コラムでも紹介しているとおり、大麻取締法違反は平成25年から増加、平成30年は平成期で最多となった一方で、覚せい剤取締法違反については、平成9年(1万9,937人)に平成期最多となったものの、平成13年以降は減少傾向にあります(平成30年は前年比▲2.1%。とはいえ、平成期は毎年1万人を超える状況が継続しています)。また、年齢層別では、全体に高齢化が顕著であると指摘しています(50歳以上の年齢層の平成30年の検挙人員(2,615人)は平成元年(1,635人)の約1.6倍に上ります)。さらに、児童虐待の検挙件数・人員については、平成20年前後は緩やかな増加傾向にあったものの、平成26年以降大きく増加しています。罪名別では暴行が顕著に増加、加害者としては父親等の割合が73.9%と高いく、実親が総数の68.6%を占めています。配偶者間暴力については、検挙件数が平成11年頃以降、増加傾向にあり、特に平成24年と平成26年は前年より大幅に増加(傷害・暴行・脅迫の件数が増加)、被害者についても、平成期を通じて総数の約7割~約9割が女性(殺人・放火は5割弱~7割弱)、平成30年は約9割が女性といった状況です。また、ストーカー犯罪については、ストーカー規制法違反(検挙件数)について、平成24年以降、著しく増加しており、平成30年は870件と平成23年の約4.2倍に上っています(なお、その他の法令(検挙件数)では、平成24年以降、1,500件を超えて推移しており、平成30年も1,594件と平成23年の約2.0倍に上っています)。

少年による刑法犯等については、検挙人員は昭和期に三つの大きな波が見られたものの、平成期は一時的な増加を除き(平成8年~平成10年、平成13年~平成15年)減少傾向にあり、平成30年は戦後最少を更新しています(刑法犯等は前年比▲11.6%)。また、人口比では、検挙人員と同様に低下傾向にあり、平成30年は平成期のピークである平成15年の約5分の1となっています。刑法犯は成人人口比に比して高いもののその差は減少傾向にあります。また、年齢層別動向では、昭和46年以降、年少少年の人口比が最も高かったものの、平成28年以降は中間少年が最も高くなっています。一方、少年による特別法犯については、昭和58年をピークとして、平成3年から平成18年にかけて大きく減少、平成30年は戦後最少を更新しています(前年比▲13.6%)。うち薬物犯罪の人員が5年前後に著しく減少、平成18年以降、軽犯罪法違反が特別法犯の中で最も多くなっています。

高齢者犯罪については、高齢者の刑法犯検挙人員は平成20年(4万8,805人)をピークに高止まりしており、平成30年は元年の約6.8倍に上るほか、70歳以上の者は高齢者の検挙人員の70.1%を占めています。その女性高齢者の刑法犯検挙人員については、平成24年(1万6,503人)をピークに高止まりしており、平成30年は元年の約5.7倍に上るほか、70歳以上の者は高齢者の検挙人員の76.8%を占めています。高齢者犯罪においては、罪名別では全年齢層に比べて窃盗の割合が高いのが特徴です(平成30年は71.1%、とりわけ女性は約9割が窃盗でその大部分が万引きと顕著な傾向を示しています)。

また、外国人犯罪については、刑法犯検挙件数は平成前期に急増したものの、平成17年(4万3,622件)をピークに減少傾向にあり、平成30年は1万5,549件となっています。平成5年以降、来日外国人がその他の外国人を上回っている(平成30年検挙件数 来日外国人:9,573件、その他の外国人:5,976件)といい、罪名別(刑法犯検挙件数)では、来日外国人では元年・平成15年・平成30年いずれも窃盗が60%以上、傷害・暴行は増加傾向にあること、罪名別(特別法犯検挙件数)では、来日外国人では入管法違反が多い(約3分の2)といった状況が見られます。

入所受刑者人員については、平成期では、平成18年(3万3,032人)をピークとして減少しており、平成30年は戦後最少を更新しています(前年比▲5.5%)。年齢層別(入所)では、高齢者の増加が顕著です(平成元年315人から平成30年2,222人と約7倍以上となっています)。また、再犯者率については、再犯者人員は平成18年(14万9,164人)をピークに漸減傾向(平成30年は18年と比べて▲32.6%)にあるほか、初犯者人員は平成16年(25万30人)をピークに減少(平成30年は平成16年と比べて▲57.8%)にあること、再犯者率は平成9年以降一貫して上昇していること(平成30年は平成期で最も高い48.8%)、再入者人員は平成18年(1万6,528人)をピークに減少傾向にあること(平成30年は1万902人で前年比▲5.0%)、再入者率は平成16年~平成28年は毎年上昇、平成30年も59.7%で前年比+0.3ptとなっています。なお、出所事由別再入率では、満期釈放者は仮釈放者と比べて相当高いこと、5年以内再入率については、平成26年出所受刑者では約4割の者が5年以内に再入所、うち約半数が2年以内に再入所、10年以内再入率では、平成21年出所受刑者のうち満期釈放者では56.0%、仮釈放者では35.5%などとなっています。また、出所事由別再入率の推移としては、総数の2年以内再入率(23.4%)及び5年以内再入率(46.9%)は平成11年をピークに低下傾向にあり、総数の2年以内再入率は、平成22年以降は20%を下回る状況が続いています。

また、法務省からは「令和元年版再犯防止推進白書」が公表されていますので、以下にポイントのみ紹介します。

▼ 法務省 再犯防止推進白書
▼ 令和元年版再犯防止推進白書

まず、全体的な傾向として、刑法犯検挙者中の再犯者数は、2007年(平成19年)以降、毎年減少しており、2018年(平成30年)は100,601人となった一方で、再犯者率については、初犯者数が大幅に減少していることもあって近年上昇傾向にあり、2018年は48.8%と、調査を開始した1972年(昭和47年)以降、過去最高となったということです。うち新受刑者中の再入者数は、刑法犯検挙者中の再犯者数と同様、近年減少傾向にあり、2018年は10,902人となったものの、再入者率については、同様に新受刑者数自体が減少していることもあり、近年は大きな変化が見られず、2018年は59.7%となっています。また、2年以内再入率については、「再犯防止に向けた総合対策」(平成24年7月20日犯罪対策閣僚会議決定)において、2021年(令和3年)までに16%以下にするとの数値目標が設定されているところ、近年着実に低下しており、2017年は16.9%と、調査を開始した1959年(昭和34年)以降、過去最低となっています。

ストーカー事案を始めとする恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る仮釈放者及び保護観察付執行猶予者について、警察及び法務省は、2013年(平成25年)4月から、被害者等に接触しようとしているなどの問題行動等の情報を共有するなど、緊密かつ継続的な連携によって、こうした者の特異動向等を双方で迅速に把握することができるようにしているといいます。また、保護観察所において、警察から得た情報等を基にして、必要に応じ再加害を防止するための指導を徹底するなどしており、遵守事項違反の事実が確認されたときは、仮釈放の取消しの申出又は刑の執行猶予の言渡しの取消しの申出を行うなど、ストーカー加害者に対する適切な措置を実施しているということです。

また、法務省は、刑事施設において、特別改善指導として暴力団離脱指導を実施し、警察等と協力しながら、暴力団の反社会性を認識させる指導を行い、離脱意志の醸成を図るなどしており、2018年度の受講開始人員は694人だったといいます。また、保護観察所において、暴力団関係者の暴力団からの離脱に向けた働き掛けを充実させるため、警察、暴力追放運動推進センター及び矯正施設との連携を強化しており、暴力団関係者の離脱の意志等の情報を把握・共有して必要な指導等をしていること、さらに、警察及び暴力追放運動推進センターにおいては、矯正施設及び保護観察所と連携し、離脱に係る情報を適切に共有するとともに、矯正施設に職員が出向いて、暴力団員の離脱意志を喚起するための講演を実施するなど暴力団離脱に向けた働き掛けを行っているといいます。さらに、2018年中に、警察及び暴力追放運動推進センターが援護の措置等を行うことにより、約640人の者が暴力団から離脱しています。

依存症を背景とする典型的な犯罪は、覚せい剤取締法違反を始めとする薬物事犯であるところ、2018年における薬物事犯(覚せい剤、大麻、麻薬・向精神薬、あへん事犯の合計)の検挙者数は14,322人と高止まりの傾向にあります。また、覚せい剤取締法違反の検挙人員は10,030人と、依然として1万人を超え、引き続き高い水準にあるほか、大麻取締法違反の検挙人員は3,762人と5年連続で増加し過去最多となるなど、薬物事犯への対応は大きな課題となっていることは本コラムでもたびたび指摘してきたとおりです。さらに、覚せい剤取締法違反の成人検挙人員のうち、同一罪名再犯者率は66.6%となっており、2009年(平成21年)と比べて7.7ポイント上昇しているほか、2017年(平成29年)に出所した者全体の2年以内再入率は16.9%であるのに対し、覚せい剤取締法違反により受刑し同年に出所した者の2年以内再入率は17.3%と高くなっている点が特徴的です。

また、犯罪の背景にアルコール依存症やギャンブル等依存症を抱えている者も少なくないところ、例えば、保護観察所においては、「類型別処遇」を実施し、保護観察対象者の問題性その他の特性を、その犯罪・非行の態様等によって類型化して把握しており、2018年末において、問題飲酒類型と認定された者は1,972人、ギャンブル等依存類型と認定された者は1,270人となっているということです。なお、「依存症のメカニズムと回復について」と題するレポートが掲載されており、大変わかりやすく参考になりますので、以下にポイントを抜粋して紹介します。

  • 薬物依存の依存は、人間関係でいう依存とは全く違う。
  • 薬物の乱用(使用)を繰り返すと、脳の機能に変化が起きる。脳には脳内報酬系と呼ばれる回路があり、この回路が刺激されると、その人は喜びを感じる。本来この回路は、努力して物事を達成することによって刺激され、努力に対する褒美としての喜びをくれる。そして、この喜びは、「またがんばろう」という意欲にもつながる。
  • ところが、薬物は、努力とは無関係に、摂取さえすればこの脳内報酬系を刺激して喜びを感じさせてくれる。そうなると喜びを求めて、その薬物の使用を繰り返す人が出てくる。このようなことを繰り返していると、脳内報酬系が変質して、当人の意思に関わらず、薬物を使わないと「使え」「使え」という指令を出すようになってしまうと考えられている。このような状態を薬物依存と言う。
  • 薬物依存とは、薬物の乱用の結果としての脳機能の変化した状態をいう。頼るという意味はまったくない。困ったことに、一旦変質した脳内報酬系を元に戻してくれる治療薬はない。これが薬物依存の最大の問題。
  • 繰り返される行動のことを嗜癖行動と言う。そして、この嗜癖行動にのめり込んでいること、あるいは、はまっていることをアディクション(嗜癖)と言う。このように考えると、薬物依存はアディクションの一結果であると考えることができる。
  • なお、「依存」とはWHOにより「ある生体器官とある薬物との相互作用の結果として生じた精神的あるいは時には身体的状態であり・・・」と定義されている。アディクション(嗜癖)について、WHOの疾病分類では、「物質使用及び嗜癖行動による障害」の中に薬物依存症、アルコール依存症、ギャンブル障害、ゲーム障害などが含まれています。犯罪に直接関係する、いわゆる「窃盗症(クレプトマニア)」については、国際的にアディクションに含めるかどうか未だに定説はない。「窃盗症」は、薬物やアルコール等の「物質依存」に比べて、そのメカニズムがまだまだわかっていない。
  • ギャンブル等依存症については、ギャンブル等依存症対策基本法(以下「基本法」という。)及び同法に基づき策定されたギャンブル等依存症対策推進基本計画(以下「基本計画」という。)に基づき、関連して生ずる多重債務、貧困、虐待、自殺、犯罪等の問題を広くギャンブル等依存症問題と捉え、多機関の連携・協力の下、重層的かつ多段階的な取組の推進を図ることとしている。

上記以外の最近の再犯防止対策を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 報道(令和元年11月26日付朝日新聞)によれば、刑務所や少年院の出所者らを対象にした求人情報誌を熊本市が発行しています。同様の取り組みは民間にもあるものの、自治体による試みは「全国初」ということです。行政が社会復帰を後押しすることで再犯防止や企業の人材不足解消につなげたい考えだといいます。建設業やビルメンテナンス会社、介護・福祉、運転手などの25社の求人情報を掲載、給与や勤務時間、休日のほか、社員寮など住居や食事付きなどの待遇を記しているほか、「窃盗」「薬物」など採用できない罪状も明記しているとのことです。「過去と他人は変えられない。しかし、自分と未来は変えることができる」など各企業の代表者からのメッセージも添えられています。
  • 報道(令和元年11月17日付ロイター)によれば、福祉の網から漏れ、生活苦などから犯罪を繰り返してしまう障害者や高齢者について、厚生労働省は来年度から支援を強化するということです。刑務所出所者らを福祉につなぐ各都道府県の「地域生活定着支援センター」と、地元の福祉施設や保護観察所など関係機関による連携協議会を全国に設けるもので、累犯の障害者や高齢者を支援するため司法と福祉が協力する国の制度が2009年度から始まり、10年経つものの、受け皿となる福祉施設はまだ少なく、各都道府県で関係機関のネットワークを強め、受け入れ先を広げたいところです。
(7)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮は、11月28日、GSOMIA(日韓秘密軍事情報保護協定)継続後初となる飛翔体2発を発射しました(5月以降13回目となります)。いずれも高度が約100キロメートル、飛行距離は約380キロメートルで、日本政府は、飛翔体は弾道ミサイルで、日本の排他的経済水域(EEZ)の外の日本海上に落下したと発表、韓国軍は今回の飛翔体について、「超大型ロケット砲と推定される」と発表しています。なお、「超大型ロケット砲」は北朝鮮が8月から発射実験を繰り返している新型兵器で、日米韓は、国連安全保障理事会の制裁決議に違反する弾道ミサイルに当たると分析しているものです。今回のミサイルについて防衛相は、「北朝鮮のミサイル発射は短いものでも国連安全保障理事会の決議違反だ。北朝鮮に抗議し、各国と連携している」と述べています。この日本側の見解に対し、北朝鮮外務省の日本担当副局長は、日本が「弾道ミサイル」と発表したことを非難する談話を発表し、北朝鮮は「超大型ロケット砲」だと主張して、「安倍(首相)は本当の弾道ミサイルがどれかを遠からず、それも非常に近くで見ることになるかもしれない」と警告しています。今回の発射を受けて、国連安全保障理事会は、非公開で対応を協議したものの、米国が北朝鮮問題の対応の場を米朝協議に移していることから今回も安保理としての見解は示されず、英独仏など欧州6カ国が非難声明を出すにとどまりました。声明は「北朝鮮が弾道ミサイル試射を続けていることを深く憂慮する」とし、「挑発的行為を非難する」といったものです。その米朝間の協議も表面的には進展がなく、トランプ米大統領がロンドンで北朝鮮との非核化交渉に関連し、「必要があれば軍事力の行使も辞さない」と述べたことに対し、北朝鮮人民軍の総参謀長は、金正恩朝鮮労働党委員長が「非常に不快感を持って接した」と批判、「米国が武力を使用すれば、われわれも任意の水準で速やかに相応の行動を加える」と警告、いまだ朝鮮戦争の休戦状態にあることを指摘し、「偶発的な事件によって瞬時に全面的な武力衝突に変わる」とけん制するなどの状況が続いています(たとえば、北朝鮮の第1外務次官は、トランプ米大統領が北朝鮮への軍事力行使に言及したことや金正恩朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と呼んだことについて、北朝鮮を挑発する目的なら「非常に危険な挑戦だ」とけん制、トランプ氏を「老いぼれ」とこき下ろすといった醜い応酬が繰り広げられています)。関連して北朝鮮はかねてより、「米国が約束を守らず制裁や圧迫に出れば、新しい道を模索せざるをえない」と表明しており、米朝協議が進展しなければ、新たな対米方針を示すのではないかともいわれています。

なお、今回の北朝鮮の超大型多連装ロケット砲2発の発射を巡り、専門家の間ではシステムと部隊のパフォーマンス向上を指摘する声が上がっているといいます。報道(令和元年11月29日付ロイター)によれば、8月と9月の実験では、発射の間隔はそれぞれ17分と19分だったところ、10月末には3分となり、今回はわずか30秒にまで縮小しています。専門家は、迅速な発射能力は、北朝鮮のロケット部隊が有事の際、韓国軍や米軍の攻撃対象になる前に迅速に展開・発射・移動できる可能性を高め、「(発射が)速ければ速いほど、反撃が到着する前に逃げることが可能となる」と指摘しています。また、今後に向けた動きとしては、北朝鮮が今夏ごろ以降、国内の数十カ所で、ミサイルを移動発射台から撃つ際に使うコンクリート製の土台を増設しているといった動きを見せている点も気になります。軟弱地盤からの発射で発射台が壊れたり、ミサイルの軌道が狂ったりするのを避けるとともに、発射場所を事前に察知されるのを防ぐ狙いがあるとみられています。さらには、直近でも「西海衛星発射場」で「非常に重大な実験」を行い、成功したと発表、エンジン燃焼実験など大陸間弾道ミサイル(ICBM)に関連した実験の可能性があると見られています(北朝鮮は2018年4月にICBM発射中止を宣言し、その見返りとなる「相応の措置」を米側に要求してきた経緯があり、非核化を巡る米朝交渉で年末を期限に米側に譲歩を迫っている状況下、揺さぶりをかけているものと推測されます)。これらの動きを総合すると、北朝鮮が新たな軍事挑発に出る恐れは否定できず、十分な警戒が必要な状況ではないかと考えられます。

ミサイル発射以外でも、北朝鮮の制裁逃れへの対応についても国際社会が十分に対応していく必要性が増しています。直近では、外務省が、北朝鮮船籍のタンカー「MU BONG1号」が11月13日未明に東シナ海の公海上で、船籍不明の船舶との間で積み荷を移し替える「瀬取り」を行った疑いがあると発表、国連に通報しています。また、防衛相は、オーストラリア国防相と会談し、「瀬取り」の監視で連携する方針で一致したといいます。一方、米ニューヨークの連邦地検は、北朝鮮制裁逃れにつながる暗号資産やこれを支えるブロックチェーン(分散型台帳)の情報を北朝鮮に提供した疑いで米国人の仮想通貨専門家を逮捕したと発表しています。報道によれば、米国内法は、米政府の許可なしに北朝鮮に技術などを提供することを禁止していますが、今年4月ごろ、米政府からの渡航許可を得ずに訪朝、「平壌ブロックチェーン・仮想通貨会議」に出席し、暗号資産などの技術に関する説明を行ったほか、マネー・ローンダリングや制裁逃れにこうした技術を使う方法について議論したということです。国連報告書によると、北朝鮮は銀行や暗号資産取引所へのサイバー攻撃で推計20億ドル(約2,160億円)を稼ぎ、大量破壊兵器計画の資金源にしていると指摘されています。米政府は、9月にも北朝鮮によるサイバー攻撃に関与したとして、北朝鮮政府が運営するハッカー集団「ラザルス」、「APT38」の名称でも知られる「ブルーノロフ」と「アンダリエル」の3つのグループを制裁対象に指定していますが、米財務次官(テロ・金融犯罪担当)は声明で「違法な兵器、ミサイル計画を支援するためにサイバー攻撃を行った北朝鮮のハッカー集団に対して措置を講じた」と述べています。さらには、人権問題を扱う国連総会第3委員会が、北朝鮮の人権侵害を非難するEU提出の決議案を採択しています。決議は「(北朝鮮の)1,090万人が栄養失調状態にあると推測される」と懸念を示し、例年通り「組織的かつ広範で深刻な人権侵害がある」と非難、拉致被害者については、新たに「安否、所在について正確な情報を提供」することを要求しています。ただ、北朝鮮は「決議で言及のあった人権問題など存在しない。我が国では人間の尊厳と独立は最大限に重視されている」と反論、中国が「人権問題を政治化すべきではない」、ロシアも「このようなやり方は効果的ではない」などと述べ、計7カ国が事実上の反対である「離脱」を表明しています。

さまざまな方法で制裁逃れを行ってくる北朝鮮に対して、国際社会は「穴」を塞ぐ努力をし続ける必要があります。日本は地政学的なリスクをふまえ、北朝鮮の制裁逃れ対策については国際社会を主導していく立場にあるものの、「瀬取り」以外での成果に乏しい点が気になるところです。

暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく勧告事例(東京都)

風俗店にみかじめ料として現金4万円を支払わせたとして、警視庁組織犯罪対策3課は、東京都暴排条例違反容疑で、指定暴力団住吉会系組幹部を再逮捕(恐喝罪で起訴済)しています。本コラムでもたびたび紹介していますが、10月に施行された改正東京都暴排条例では、2020年の東京五輪・パラリンピックに向けた暴力団排除強化のため、都内の主要繁華街29地区を特別強化地域として指定、同地区内で風俗営業を営む店においてみかじめ料を受け取った組員を勧告などの手続きを踏まずに即座に逮捕できる「直罰規定」が盛り込まれましたが、今回初めて当該規定が適用されたことになります。報道によれば、同地区に指定されている墨田区江東橋で風俗店を営む40代男性にみかじめ料4万円を要求し、自身名義の銀行口座に振り込ませたということです。さらに報道によれば、みかじめ料を支払った男性についても同条例違反容疑で書類送検する方針だといいます。

▼ 東京都暴排条例

東京都暴排条例第二十五条の二(暴力団排除特別強化地域)では、「この章において「暴力団排除特別強化地域」とは、暴力団排除活動を特に強力に推進する必要がある地域として別表に掲げる地域をいう」として具体的な地域が指定されています(省略)。そのうえで、まず事業者側については、第二十五条の三(特定営業者の禁止行為)として、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、暴力団員から、用心棒の役務(業務を円滑に行うことができるようにするため顧客、従業者その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。以下同じ。)の提供を受けてはならない」、「2特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、暴力団員に対し、用心棒の役務の提供を受けることの対償として、又は当該営業を営むことを暴力団員が容認することの対償として利益供与をしてはならない」と規定されています。本件は、4万円のみかじめ料を支払ったということですから、第2項の利益供与違反に該当するものと考えられます。また、暴力団側については、第二十五条の四(暴力団員の禁止行為)において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者に対し、用心棒の役務の提供をしてはならない」、「2暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償として、又は当該営業を営むことを容認することの対償として利益供与を受けてはならない」と規定されており、同様に第2項に該当するものと考えられます。今回の改正では、「直罰規定」が設けられている点が最大の特徴となりますが、第三十三条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」との規定があり、事業者側については「三 相手方が暴力団員であることの情を知って、第二十五条の三の規定に違反した者」、暴力団側については、「四 第二十五条の四の規定に違反した者」がそれぞれ規定されています。本件の事業者も書類送検される見通しと報道されていることから、相手が暴力団関係者であることを「知って」、みかじめ料を支払っていたことが推測されます(なお、今回の改正では、第二十八条(適用除外)において、「第二十四条第三項又は第二十五条第二項の規定に違反する行為を行った者が、前条の規定により公安委員会が勧告を行う前に、公安委員会に対し、当該行為に係る事実の報告又は資料の提出を行い、かつ、将来にわたってそれぞれ違反する行為の態様に応じて第二十四条第三項又は第二十五条第二項の規定に違反する行為を行わない旨の書面を提出した場合には、前条の規定を適用しない」とする、いわゆる「リニエンシー」も導入されていますが、本件では対象ではなかったようです。すでにリニエンシーを活用した暴排の動きも見られる中、もっと広く浸透して、暴排が徹底されていくことを期待したいと思います)。

(2)暴排条例に基づく勧告事例(神奈川県)

自動車の購入をめぐって暴力団幹部に名義を貸したとして、神奈川県警暴力団対策課は、神奈川県公安委員会が神奈川県暴排条例に基づき、県内の土木工事会社に利益供与をしないよう、また指定暴力団稲川会系組幹部に利益供与を受けないよう、それぞれ勧告したと発表しています。報道によれば、同社には男と幼なじみである役員がおり、男性は男から「車がほしいけれど、やくざだから買えない。名義を貸してほしい」と申し出を受け、正規ディーラーと購入契約を結び、ローンを組み、男性名義の普通自動車は男が使用し、代金も男が支払っていたといいます。本件は、同課が組事務所に男性名義の車が出入りしているのを発見したのが端緒だということです。男性の行為は完全に「活動を助長する」ものであり、暴排が社会的に浸透しつつあるとはいえ、いまだにこのような行為がなくならないことは極めて残念です。なお、報道によれば、同暴排条例による勧告は今年に入って9件目となるといいます(本コラムでも取り上げており、最近積極的に勧告を発出している動きが見られます)。

▼ 神奈川県警 神奈川県暴排条例

本件における事業者については、同暴排条例の第23条(利益供与等の禁止)において「事業者は、その事業に関し、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対し、次に掲げる行為をしてはならない」と規定され、「(1)暴力団の威力を利用する目的で、金銭、物品その他の財産上の利益を供与すること」あるいは、同条第2項の「(7)前各号に掲げるもののほか、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対して金銭、物品その他の財産上の利益を供与すること」に該当するものと考えられます。また、暴力団員については、第24条(利益受供与等の禁止)「暴力団員等又は暴力団経営支配法人等は、情を知って、前条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方となり、又は当該暴力団員等が指定したものを同条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方とさせてはならない」に該当するものと考えられます(なお、同暴排条例には、第26条の2「名義利用等の禁止」の規定もありますが、本件は、男性名義で男性が自らローン代金を支払っていることから、本条項ではなく、第23条等の利益供与違反に該当するものと考えられます)。なお、本件の勧告については、第28条(勧告)「公安委員会は、第23条第1項若しくは第2項、第24条第1項、第25条第2項、第26条第2項又は第26条の2第1項若しくは第2項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる」に基づく措置であると考えられます。

(3)暴排条例に基づく勧告事例(大阪府)

大阪府公安委員会は、六代目山口組系組長が抗争に備えて武装した車を譲り受けた際、車の名義変更をして活動を助長したとして、大阪府暴排条例に基づき、組長と、府内の自動車販売会社を指導しています。報道によれば、組長は、所属する上部組織から防弾用特殊鋼板が仕込まれ、防弾ガラスや緩衝装置で武装した乗用車を譲り受けたといい、組長の知人である自動車販売会社の40代の社長が、1万円で車の名義を別の組員から組長に変更する手続きをしたというものです。なお、直前に神戸市内で、神戸山口組系組長が山口組系組員に包丁で刺されて重傷を負う事件が起きており、組長は「(敵対する)神戸山口組が私の命を狙うことを心配して、上部組織が車をくれた」と説明したと報じられています。

▼ 大阪府暴排条例

本件における事業者(男性社長)については、同暴排条例第十四条(利益の供与の禁止)「2事業者は、前項に定めるもののほか、その事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる相当の対償のない利益の供与をしてはならない」に、暴力団員については、第十六条(暴力団員等が利益の供与を受けることの禁止)「暴力団員等は、事業者から当該事業者が第十四条第一項若しくは第二項の規定に違反することとなる利益の供与を受け、又は事業者に当該事業者がこれらの項の規定に違反することとなる当該暴力団員等が指定した者に対する利益の供与をさせてはならない」に、それぞれ該当するものと考えられます。そのうえで、第二十二条(勧告等)「4公安委員会は、第十四条第三項又は第十六条第二項の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な指導をすることができる」との規定に基づき、指導がなされたものと考えられます。なお、全国の暴排条例をみても、「勧告」「公表」だけでなく、「指導」が規定されている点はユニークだと言えます。

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