暴排トピックス
首席研究員 芳賀 恒人

1.「できることは、すべてやる」~トクリュウとの戦いは総力戦で
2.最近のトピックス
(1)AML/CFT/CPF動向
(2)特殊詐欺を巡る動向
(3)薬物を巡る動向
(4)テロリスクを巡る動向
(5)犯罪インフラを巡る動向
(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向
(7)その他のトピックス
・中央銀行デジタル通貨(CBDC)/ステーブルコイン/暗号資産を巡る動向
・IRカジノ/依存症を巡る動向
・犯罪統計資料
(8)北朝鮮リスクを巡る動向
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例の改正動向(大分県)
(2)暴力団排除条例に基づく逮捕(不起訴)事例(東京都①)
(3)暴力団排除条例に基づく逮捕(起訴)事例(東京都②)
(4)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(石川県)
(5)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(三重県)
(6)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(京都府)
(7)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)
(8)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(静岡県①)
(9)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(静岡県②)
(10)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(佐賀県)
(11)暴力団対策法に基づく称揚等禁止命令発出事例(兵庫県)
(12)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(北海道)
(13)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(神奈川県)
1.情報を制する者が戦いを制しトクリュウを統べる
「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)について、本コラムではこれまで多くの考察を重ねてきましたが、それでもその実像に迫れていないのではないかと感じています。そもそもトクリュウの実態を深く知ることが難しいうえ、その概念もあいまいなままであり、新たな手口や形態が明るみになってはじめて「そうなのか」と気づかされることも多いといえます。現状、トクリュウの中核にまで深く迫れていないもどかしさはありますが、「体感治安の悪化」の根源であるトクリュウの「ヤバさ」については、今後も追及し続けていきたいと思います。
直近でその存在がにわかにクローズアップされたのがトクリュウの指揮系統の一端としての「案件屋」の存在とその重要性です。2025年12月に東京都立川市のアパートで現金930万円が盗まれる事件があり、警視庁捜査3課は、被害者の資産や自宅に関する情報を指示役らに流していたとされる「案件屋」を窃盗と住居侵入容疑で逮捕しました。首都圏各地では、相手の資産情報を事前に得た「闇バイト」らによる強盗、窃盗事件が相次いでおり、背後でこうした情報提供役が暗躍しているとみられていましたが、警視庁による「案件屋」の逮捕は初めてとなります。容疑者は2025年11月にSNSで「仕事」を探していた指示役の男性と知り合い、12月上旬に被害者宅の外観写真や手書きの間取り図を送っていました。現金やブランド品の保管場所まで「ベッドの下の引き出し」などと伝えていたといいます。指示役が、男(案件屋)から秘匿性の高いSNSで「タタキ(強盗)、ルパン(窃盗)案件結構あります」、「金庫や金塊を狙うのが多いです。まずは少額案件」と連絡を受け、被害者宅の間取りや現金の保管場所などを教えていたといい、メンバーの報酬の分配方法も決めたとみられ、事件直後に埼玉県内の高速道路のサービスエリアで、指示役から報酬の約400万円とブランドバッグを受け取ったことも分かりました。同庁は、男がこのほかにも、都外で起きた強盗や窃盗事件に案件屋として関与した可能性があるとみて調べています。
首都圏の強盗事件では指示役らが秘匿性の高い通信アプリのグループチャットで標的となる住宅や事務所の情報を共有、こうした「案件」に群がり、実行役を募って犯罪を繰り返していました。2026年4月に警察庁がまとめた2025年の組織犯罪情勢によれば、トクリュウが関与したとみられる資金獲得犯罪全体ではリーダー格や指示役の摘発が1割にとどまり、犯罪グループの指揮系統の捜査が進む可能性があります。2026年6月18日付日本経済新聞の記事「トクリュウ強盗、標的共有チャット「2000万円確実」 群がる実行役」において、その実態が詳細に紹介されていました。具体的には、「実態把握の糸口になったのは、2026年になって警視庁が逮捕した容疑者らのスマートフォン(スマホ)で、解析したところ、複数の指示役が参加するグループチャットの存在が判明しました。捜査関係者によれば、指示役らは秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」でグループを作っており、グループチャットでは「案件屋」と呼ばれる人物らが強盗や空き巣の標的に関する情報を提供する。「確実に2000万円」などと見込みを示し、運転や見張りに必要な人員、それぞれの取り分を設定。「T(タタキ=強盗)」といった隠語も用いる。民家の地図情報に住んでいる人数を付記して共有したり、「金塊を運んでいる」と車のナンバーを伝えたりする投稿もあったという。案件屋が投稿すると、「うちでやります」「車出します」との反応があり、引き取った指示役らがSNSの「闇バイト」などで実行役を勧誘する。案件ごとに実行役を含む別チャットに誘導し、警備の有無や室内の間取りを共有して犯行の計画に移る。案件屋と指示役らの上下関係は薄い。事件によって案件屋と指示役が入れ替わることもあれば、指示役が単独で案件を仕立てる例もある。秘匿性の高い通信アプリはやりとりを暗号化し、メッセージを開いて一定時間後に自動で消す設定がある。運営会社側のサーバーにも記録が残らない。プライバシーや機密情報を守るためだが、犯罪集団も連絡手段として使う。首都圏では特定の住宅や会社事務所が繰り返し狙われる事件が発生している。こうした案件屋が暗躍するトクリュウの情報ネットワークが背景にあるとみられる」というものです。実際、警視庁は2026年5月24日に東京都小金井市の民家に強盗に入る目的でドライバーを隠し持ったとして、男らを強盗予備容疑で現行犯逮捕、民家は5月中旬に強盗目的とみられる住居侵入が連続して起きましたが、何らかの経緯で金品があるとの情報が伝わり、異なるグループから次々に狙われた疑いがあります。東京都新宿区の貴金属店事務所は2026年2月に強盗未遂事件の被害に遭い、5月にも強盗予備事件が起きました。5月の事件では事前に動きを察知した警視庁が実行役らを摘発、事務所では金塊の取引が予定されていたといいます。情報は、買い取り店などをインターネットで検索し、下見をして標的情報を作る指示役もいるとされるほか、住宅が狙われる場合は、資産状況を周囲に話した情報が外部に伝わったり、リフォーム業者を装ったグループなどが得た情報が流れたりするなどしている可能性があるといういます。過去の連続強盗事件では、特殊詐欺に使われる富裕層名簿が転用されているとも言われていました。また、「案件屋」に情報を売る「情報元」がいるパターンもあり、ある事件では案件屋が金品の所在に関する情報を100万円で買っており、案件屋は報酬として現金を確実に回収するため、複数ルートに持ちかける傾向があり、警視庁は同じ現場を複数のグループが何度も狙う結果になったとみています(費用を回収するため、成功するまで同じ標的を繰り返し狙ったり、指示が過激化したりする可能性があります。そのため警視庁は、一度被害を受けた標的の警戒を継続しており、現れた実行役の摘発につなげています。金塊の取引業者などに対しても、古物営業法に基づく立ち入り検査を実施、取引記録の確認など実態把握や防犯指導に取り組んでいます)。捜査幹部は「徐々に情報共有の一端がみえてきた」と話していますが、案件屋が情報を入手する詳しい経路は判明していません。指揮系統の先にある組織の中核の捜査についても引き続き課題となります。
5月に栃木県で起きた強盗殺人事件などトクリュウによる深刻な事件が相次ぐ中、警察幹部は「組織の弱体化には末端の実行役だけでなく主導する人物を割り出し、犯罪収益を押さえる必要がある。通信の解析を強化し、摘発につなげたい」と話しています。トクリュウという「枠」において、実行役は闇バイトなどで集められ、指示役は通信アプリで実行役に指示を出し、リクルート役は人を集め、回収役は盗まれた金品を運び、その中で案件屋は、犯罪の出発点となる標的情報を持ち込む役割を担っています。正に「情報を制する者が戦いを制す」ということだと思います。戦いに勝つためには、事前に敵の情報を掴むことが重要で、即ち先に知ることが、戦いを制する掟だといえます。情報活動は、優秀な人材が関わってこそ正確な敵情が掴めるのです。孫子の兵法に「彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず」とあります。この場合の相手は目の前にある敵だけではありません。孫子が、敢えて「敵」と表現せず「彼」と表現しているのは、敵を含む周辺の敵、全てを想定しているからだと伝えられています。つまり、孫子は「彼や己の何を問題として、何を知るべきかが課題となる」と説いています。あるいは、同じく孫子の兵法に「明主・賢将の動きて人に勝ち、成功の衆に出づる所以の者は先知なり。先知なる者は、(中略)必ず人に取りて敵の情を知る者なり」ともあります。「聡明な君主や優れた将軍が、軍事行動を起こして敵に勝ち、人並み以上の成功を収めることができるのは、事前に敵情を察知するところにこそあるのだ。先んじて敵情を知ることは、(中略)必ず人間が直接動いて情報をつかむことによってのみ獲得できるものである」というものです。トクリュウが人々の「体感治安の悪化」の根源とみなされるほど跋扈できてしまっている背景には、残念ながら暴力団が昔から培ってきた「情報収集」「情報への感度」「情報の活用」という「現場力」を彼らが引き継ぎ、または暴力団と一体化しながらそれを実行できる、洗練されたシステマティックな指揮系統や組織形態を有しているからに他なりません。「情報を制する者こそ犯罪を制す」、「情報を制する者がトクリュウを統べる」ことができるのだと痛感させられます。
トクリュウの犯罪では、SNSで「高額報酬」などとうたう闇バイトに応募した複数の人物が、互いに初対面のまま実行役として集められるケースが典型的ですが、2026年に入り、闇バイトを入り口にしながら、その人物を中心とした同級生、先輩、後輩ら知人が実行役の大半を構成する「ハイブリッド型」ともいえる構図が目立ち始めています。ある捜査幹部は「闇バイトの危険性が広く知られるようになり、実行役が集まりづらくなっている。最初に接触した人物に、知人を誘わせている可能性がある」とみています。低年齢化も特徴の一つで、東京都内で発生したトクリュウ絡みの16事件では、逮捕された約40人のうち、犯行時に少年だった人物が4割近くを占めました。新宿区の酒買い取り店の会社事務所が狙われた強盗未遂事件では、1人の少年が高校の同級生や後輩、小中学校の同級生など計5人を誘っていたとされ、栃木県上三川町の強盗殺人事件では、逮捕された少年の1人が同級生らを勧誘するなどしました。少年らは夫婦から指示を受け、夫婦側は事件後に海外に逃亡した男から「案件」を受け取っていたとみられています。2026年に相次ぐ事件では、「案件屋」から標的情報を受け取り、実行役を集める小規模なグループが多数存在し、緩くつながっている可能性があります。実行役を担う「人材」は絶えず、実際に、指示役側から「やらないと家族を殺す」などと脅され、事件から抜け出しにくくなるケースもあり、捜査関係者は「若年層の方が逃げ場を失いやすい面もある」とみています。ただ、捜査関係者によれば、こうした実行役らの主張と、捜査当局側の説明が食い違うケースもあるといいます。東京都江東区の住宅兼会社事務所への強盗未遂事件で運転役として起訴された40代半ばの男は、取り調べに、「観光案内の運転手」だと思っていたと供述、だが公判で検察側が示した証拠によれば、男は事件当日、秘匿性の高い通信アプリで、犯行グループのメンバーとみられる人物らに「タタキ(強盗)されるほどある。お金が」などと送っていたとされます。新宿区と葛飾区の質店を襲ったとして起訴された実行役の20代半ばの男も、「闇バイトとは思わなかった。友人を人質に取られた」と説明していますが、男はSNSで自ら闇バイトに応募したと捜査関係者はみており、友人が人質にされた事実も確認されていないといいます。こうした状況についてある捜査幹部は、強盗を認識するなどしていても「知らなかった」「脅された」と説明するケースもあるとみています。警視庁は、供述内容とスマホの解析結果などを慎重に照らし合わせるなどし、実行役らの勧誘の手口も調べているといいます。また、警察は闇バイトに応募するなどしてトクリュウの事件に加担しないように注意を呼びかけています。少年がトクリュウに関与する事件が相次ぐ中、警察庁はその危険性を伝える資料を作成(暴排トピックス2026年6月号で紹介)し、「たった一度でも手を染めれば、必ず捕まる」と強調、闇バイトに応募すると、「家族に危害を加える」などと脅迫され、逃げられなくなると説明、逮捕されるまで「使われ続ける」とし、強盗をして人が亡くなれば「死刑か無期拘禁刑、見張り役も同罪」と警告しています。また受け子などになった経緯として、2025年は少年の約6割が知人らの紹介だったといい、犯行グループは身代わりとなる「使い捨て」を求めているだけで、友人や先輩の誘いも絶対に応じないよう呼びかけています。
その他、トクリュウや暴力団等反社会的勢力を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- カンボジアの特殊詐欺の拠点のオーナーとみられる容疑者が逮捕された事件で、愛知県警などの合同捜査本部は、この事件の関係先として、埼玉県内にある住吉会傘下「領家一家」の本部事務所を組織犯罪処罰法違反の疑いで捜索しました。カンボジア北西部の都市、ポイペトを拠点とする特殊詐欺事件では、2025年2月、うその電話をかけるよう「かけ子」に指示し、現金をだまし取ったとして、住所不詳、自称会社役員の容疑者が逮捕され、これまでの調べで、容疑者は、隣国のタイに滞在しながら、拠点の建物の使用料などを出資するオーナーのような立場で、暴力団と関係があるとみており、さらに中国マフィアに金が流れていた可能性もあるとみて、実態解明を進めています。
- フィリピン当局は、東京簡裁から窃盗容疑で逮捕状が出ていた井上容疑者をマニラで拘束したと明らかにしました。同国を拠点とした「ルフィ」と名乗る広域強盗事件の指示役らのグループの幹部だとしています。報道によれば、井上容疑者は日本の高齢者に対する特殊詐欺に関与した疑いが持たれています。現地当局が2024年12月に在フィリピン日本大使館から協力要請を受け、捜査していたもので、今後、日本に強制送還する見通しです。
- 2024年に首都圏であった「闇バイト」による連続強盗のうち、東京都練馬区であった強盗傷害事件に指示役として関与したとして、警視庁などの合同捜査本部は、埼玉県越谷市大泊の職業不詳の容疑者を強盗傷害と住居侵入容疑で逮捕しました。一連の事件で指示役として逮捕されたのは5人目で、捜査本部は、ほかにも横浜市青葉区であった強盗致死など複数の事件にも関与したとみて調べています。
- 少年らを闇バイトなどで募り和歌山市内で盗みをしたとして、大阪府警は、暴力団組員や少年ら計6人を建造物侵入と窃盗の疑いで逮捕したと発表しました。府警は、6人のうち六代目山口組傘下組織組員ら3人が指示役とみています。3人は今回とは別の少年らを闇バイトで募り、2026年3月に大阪府内で盗みをしたとして、6月に窃盗と建造物侵入の罪で起訴されています。6人のうち府警が実行役とみている少年の供述によれば、指示役から、犯行が途中でも数分で現場から立ち去るよう指示を受けていたといい、また、実行役の中に見張り役がおり、侵入からの時間経過を店舗内のメンバーに口頭で伝えていたといいます。なお、6人のうち指示役3人と実行役の2人の計5人は面識があったといい、「5人が『Kグループ』と呼ばれる組織に属していた」と供述している容疑者もいるといい、府警は、「Kグループ」が闇バイトを募り窃盗などを行うための組織とみて実態解明を進めています。
- 水道メーターが盗まれる事件が全国で相次いでおり、金属価格の高騰を背景にした売却目的の犯行とみられ、特に防犯面が脆弱な公営住宅の空き部屋での被害が目立っています。金属盗がトクリュウの資金源になっているとされる中、2026年6月1日には金属盗対策法が全面施行されました。買い取り時の売り主の本人確認などが義務化された一方、被害はその後も続出、規制を回避する何らかの「裏ルート」が確立されている可能性があります。金属盗の背景とされるのが銅をはじめとした金属価格の高騰です。また、不法滞在外国人グループなどがトクリュウを形成して盗みを繰り返し、盗品と知りながら購入する悪質な業者の存在が犯行を助長しているとの指摘があり、警察当局が対応を急いでいます。法施行により買い取り業者に営業の届け出や売り主の本人確認を義務付けられ、業者は都道府県の公安委員会に営業の届け出が必要で、無届けで営業した場合は6月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金、または両方を科すことになりました。売り主については運転免許証などで氏名や住所、生年月日を確認し、記録を作成、取引記録とともに3年間の保存とすることが求められています。捜査の過程や、警察の立ち入りでこれらの義務違反が判明し、公安委の指示にも従わないなど、悪質な業者は6カ月以内の営業停止とする。盗品の恐れがある際の通報も義務付けました。一方、対策法の全面施行後も各地で水道メーター窃盗が相次いでおり、買い取り業者の対策法への認識の差に加え、規制が及びにくい海外への輸出を目的とした解体作業所「ヤード」に流れている可能性があるといいます。一部で法律を軽視している業者が跋扈している形跡があるといいます。
- 車台番号を付け替えた盗難車を不正に車両登録したとして、警視庁は、稲川会幹部ら2人を電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで逮捕しました。警視庁は、男らが盗難車を売却して資金を得ていたとみています。盗難車は転売を重ねた末、特殊詐欺の被害金を回収する際に使われていたといいます。事件が発覚したきっかけは、2025年6月に発生した親族をかたる特殊詐欺事件で、この事件の3カ月後、被害金を回収したとして、警視庁が40代の男を詐欺容疑で逮捕、40代の男が回収時に使っていたのが、この盗難車だったといいます。押収した盗難車を調べたところ、不正に車両登録されて、不正な車検を受けた後、2度の転売を経て、男に渡った疑いが浮上したものです。稲川会幹部の男らは、型落ちで安くなった約30台の車をオークションで購入していたといい、警視庁は、男らが車台番号を付け替えるなどの手口で盗難車を売却し、特殊詐欺などの犯罪に使うツールを提供していた可能性もあるとみて調べています。
- 国内最大級の風俗スカウトグループ「ナチュラル」の実質的ナンバー2で、「小澤」などの偽名で活動していた榎本容疑者を職業安定法違反(有害業務紹介)の疑いで警視庁が逮捕しました。榎本容疑者は「ナチュラル」の実質的ナンバー2で、「小澤」などと名乗って活動してきたとされます。警視庁暴力団対策課が、「ナチュラル」トップの「木山」こと小畑容疑者を東京都暴力団排除条例(暴排条例)違反で逮捕したのは2026年1月26日、その後も含めて職業安定法違反容疑などで計5度逮捕され、同罪で起訴され、同5月21日に東京地裁で初公判が開かれました。その場で小畑被告は起訴内容を認めて争わない姿勢を示しました。捜査当局がナチュラル摘発に血道をあげるのは、ナチュラルが女性を風俗店に紹介して売り上げに応じた報酬をバックさせ、そこから暴力団などに資金が流れていると見ているためです。ナチュラルの先例となる別のスカウトグループのアクセスの代表は組織犯罪処罰法違反の罪でも起訴され、懲役4年6カ月の実刑判決が下りました。組織犯罪処罰法が適用されるためには主として、マネー・ローンダリング(マネロン)の実態、上納(小畑被告あるいは暴力団に対して)が組織的に行われたことなどが実質的に証明されなければなりません。ナチュラルが独自開発していた闇アプリを解析、つまり組織の構造を可視化することが必須ですが、闇アプリの構造の複雑さがこれまでハードルになっていました。当局としては組織のトップとナンバー2の逮捕・起訴、闇アプリの解析、幸平一家の構成員の摘発など、それぞれを同時進行で進めているといえます。なお、相次ぐ摘発を受け、ナチュラルとの関係を断とうとする風俗店も出始めるなど、スカウトバックによる収益は「目減りしているとみられる」(捜査幹部)ものの、一方で、組織は幹部やメンバーを入れ替えて活動を継続しているとみられ、警視庁幹部は「スカウトバックという仕組みがある限り、ナチュラルは生き残る」と説明、「資金源の根絶と、主要幹部の摘発を続ける」としています。
- 女性客に多額の借金を背負わせる悪質ホストクラブを取り締まる改正風営法の施行から2026年6月28日で1年が経過しました。女性を路上や海外での売春に追い立てた業界に対し、警察はこの間、厳しい目を向けてきましたが、悪質ホストたちによる営業実態は変わっておらず、掛け(ツケ)を持ちかけ、恋愛感情をほのめかす行為は続き、女性客からは「私服警察官を絶対に店に入れないようにするなど、店側は捕まらないように手口を巧妙化させ、むしろより悪質になっている」との声が上がっています。日本最大のホストクラブ街、東京・歌舞伎町を抱える警視庁ではこの1年、改正風営法を適用した逮捕事案が1件にとどまり、300店近いホストクラブは改正後もほとんど減らずに営業を続けている実態があります。
- マッチングアプリで出会った相手に誘われた飲食店で、ぼったくり被害に遭うケースが相次いでおり、指示役が秘匿性の高い通信アプリで店員や取り立て役などを管理、警察はトクリュウ」が関与しているとみて警戒しています。ぼったくりグループのメンバーが、別のグループに「移籍」したり、手口を共有したりしているといい、東京・渋谷の事件では、互いに本名を知らないメンバーが集まっていました。デート役のほか取り立て役や店員役、監視役などで構成したチームが四つあり、元経営者から秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」で指示を受け、売り上げを競っていたといいます。捜査幹部は「特殊詐欺や強盗に比べ、罪の意識が薄いのかもしれない」と指摘、警察は今後も悪質なグループの摘発を進める方針としています。
- 犯行の下見とみられる監視カメラが自宅に取り付けられる事例が散見されています。盗みに入る前に家人の動向をリアルタイムで監視するもので、岐阜県警は2026年1~4月で同様の下見事案を80件確認、外壁や郵便受けに「○」や「×」の印を残すマーキングや、営業マンを装っての訪問もあるといいます。5月に多治見市内の住宅に男らが侵入して80代女性が大けがをした事件では、直前に不審な人物が周辺の複数の住宅のインターホンを押していたといいます。
巨額の不正融資が発覚したいわき信用組合は、反社会勢力との取引で回収が困難になっていた融資10件、計約31億円について、預金保険機構が買い取る見通しとなったと明らかにしました。2026年度の総代会を開き、その後の記者会見で説明しました。信組の金成茂理事長は会見で、「不祥事にかかる処理は終了した」と話し、いわき信組が設置した特別調査委員会は2025年10月、2004~25年に計約280億円の不正融資があったと認定し、一部が反社に支払われていたと発表、金融庁は信組に一部業務停止命令を出しました。不正の発覚により、預金残高は2026年3月期末で1350億円となり、前期から約588億円減りました。1年間で3割減と、前期からの減少額、減少率とも過去最大で、2025年度の純損益は2期連続の赤字となりました。役員(12人)は8人が新任され、初めて元警察官や元検察官を採用しました。なお、反社債権の整理回収機構による買取制度については、暴排トピックス2017年1月号で取り上げていますので、抜粋して紹介します。
暴力団対策法に基づき使用者である組のトップに損害賠償請求を行うことができる「組長訴訟」が暴力団を追い込んでいます。大阪地裁では、特殊詐欺被害者4人が六代目山口組の篠田建市(通称・司忍)組長らに対し、計6000万円超の支払いを求める訴訟が係争中です。訴状などによれば、被害の発端は2022年10~12月にかかってきた電話で、被害者4人は、役所職員などを名乗る人物から「還付金を受け取ることができる」「アプリやウェブサイトの未払い料金がある」などといわれ、計約4300万円を振り込み、詐取されました。詐欺グループの全貌をとらえることはできませんでしたが、大阪府警はグループにIP電話回線を提供していた電気通信事業者を特定、実質経営者として、六代目山口組の中核組織「弘道会」のさらに下部組織となる3次団体幹部を逮捕しました。木村受刑者は2025年12月、大阪地裁で詐欺幇助などの罪で懲役2年6月の実刑判決を受け、確定しました。被害回復のため被害者側が2026年4月に提訴した相手は、木村受刑者のほか、六代目山口組トップの篠田組長と、六代目山口組の最高幹部の一人、竹内照明・弘道会会長(当時)で、その根拠となるのが、暴力団対策法31条の2の規定です。同規定は、指定暴力団の組員が組織の力を利用して資金獲得活動を行うために、他者の生命や身体、あるいは財産を侵害したとき、これによって生じた損害は、組織のトップらが「賠償する責任を負う」と定めています。被害者側は訴状で、特殊詐欺は六代目山口組の資金源になっており、木村被告はそれに不可欠な電話回線を提供する重要な役割を担っていたと指摘、同規定が適用されると訴えています。一方で組長側は請求棄却を求めています。2008年の改正暴力団対策法に同規定が盛り込まれて以降、組長訴訟は全国に広がり、警察庁によれば、2025年末までに計77件提起され、係争中を除く全59件が勝訴や勝訴的和解という形で解決に至ったといいます。改正暴力団対策法ができる前にも組長訴訟は起こされてきましたが、それらは民法上の「使用者責任」に基づいており、組織内の指揮命令系統といった要件を立証するのが困難だという課題がありました。それに対し暴力団対策法は、暴力団には厳格な上下関係や上納金制度があることを前提としており、立証のハードルは下がっており、こうした仕組みは、被害者救済にも大きく役立っています。住吉会傘下組織組員による特殊詐欺事件を巡る東京高裁の損害賠償請求訴訟では、2021年6月、組長側と被害者側との間で和解が成立、組長側が被害者ら52人に、被害額を上回る計約6億5200万円の解決金を支払いました。神戸山口組傘下組織組員から詐欺に遭ったとして、東京都のコンサルティング会社が井上邦雄組長らに損害賠償を求めた訴訟でも、大阪高裁が約2億7000万円の支払いを命じました。井上組長が支払わなかったため、神戸市北区の自宅を神戸地裁が強制競売にかけ、群馬県の不動産会社が8000万円超で落札、この代金は賠償金にあてられます。こうした動きを警察当局も後押ししています。大阪地裁の訴訟では、大阪府警が六代目山口組側に対し、不安を覚えさせるような訴訟の妨害行為をしないよう暴力団対策法に基づく命令を発出、ただ暴力団犯罪はより巧妙化しているとみられ、組長訴訟を起こすことも簡単ではなく、目立つのはトクリュウによる犯行です。トクリュウは闇バイトで実行犯を募集し、秘匿性の高いアプリで指示しており、摘発が上部層に及ばないような体制を取っています。暴力団情勢に詳しい龍谷大の廣末登・嘱託研究員によれば、組員がトクリュウの事件に関与している可能性は高いものの、その存在は「匿名化」されてしまっており、廣末氏は「暴力団対策はいたちごっこ状態。あらゆる手口で資金調達しているのが現状で、組員の関与が発覚するのはごく一部にすぎない」と指摘しています。
2013年12月に「餃子の王将」を全国展開する王将フードサービスの社長だった大東隆行さん(当時72歳)を拳銃で撃って殺害したとして、殺人罪と銃刀法違反に問われた工藤會傘下組織幹部の田中幸雄被告に対し、検察側は、京都地裁で開かれた公判で無期懲役を求刑しました。検察側は、出勤直後の大手飲食チェーンの社長が射殺されるという事件の特異性、凶悪性、重大性を強調、周到な準備と強固な殺意に基づく犯行で「社会に与えた衝撃と影響は大きい」と非難しました。公判は結審し、判決は2026年10月16日に言い渡されます。被告は2013年12月19日午前5時45分ごろ、何者かと共謀して京都市山科区の王将本社前の駐車場で、大東さんの腹部や胸を拳銃で撃って失血死させたとされます。被告が大東さんを殺害したことを直接的に示す証拠はなく、争点は被告が実行犯だったかどうかの「犯人性」に絞られています。検察側は、「事件現場付近に被告のDNA型が検出されたたばこの吸い殻が落ちていた」、「事件に関係したとみられる車両を捜査した結果、被告の存在が浮上した」、「事件前後に音信不通だった」、「現場付近の防犯カメラに映った犯人とみられる人物の背格好は被告と矛盾せず、歩く動作の特徴も類似している」、「事件発生から半年後、逃走用のバイクが押収されたことを伝える報道があった日に、被告の携帯電話に「深海魚のように人知れず泳ぎ回れ」とのメモが記録されていた」といった状況証拠を積み重ね、被告以外に犯人がいないとして有罪立証を進めてきました。ただ、事件の動機や共犯関係の詳細については明らかにしていません。これに対し、被告は2025年11月の初公判で「決して犯人ではない」と事件への関与を全面否認し、弁護側も、被告が実行犯であることの決め手になる証拠はないとして無罪を主張しています(「現場の東側通路で、事件直前に被告がたばこを吸い、吸い殻を捨てた」とする検察側の主張については、たばこが燃えた際に出るはずの「白い灰」や「火種」が警察の鑑識活動で発見されなかったと反論、吸い殻は事件当日に吸われたものとは考えがたいとしました。被告は暴力団に所属していて恨みを買いやすく、身代わりに利用されやすいとし、吸い殻は「犯人」が被告を陥れるために東側通路に捨てたものだと訴えました。また、検察側の主張によれば、被告は念入りに事件を計画した「用心深い人物」であるのに、吸い殻を犯行現場に残しておくとは考えがたいとも指摘、そもそも警察によるDNA型鑑定は信用性に疑問があり、科学的な手順を踏まえているか検証されるべきだとしました。さらに、犯行の準備に使われたとみられる軽乗用車の絞り込みの結果、被告が浮上したとする主張や、被告の携帯電話に残っていた捜査を警戒するかのようなメモについても、「捜査の方法に問題がある。犯人性を意味するものではない」と批判し、検察側の立証は、被告が拳銃を発射したことに、疑いなくたどり着くことができていないとしました)。捜査関係者によれば、被告は2022年10月に京都府警に逮捕されて以降、黙秘を貫いています。公判でも供述を拒む意思を示し、被告人質問は実施されなませんでした。公判は今回の期日も含め、計11回開かれました。殺人事件は裁判員裁判の対象ですが、京都地裁は2024年9月、裁判員裁判からの除外を決定しました。被告が暴力団組員であることを考慮したとみられ、裁判官だけで審理されています。筆者は、田中被告の逮捕を受けた暴排トピックス2022年11月号で「本件や逮捕に至った経緯、不適切な取引に関する状況、暴力団との接点などについて、さまざまな報道がなされる中、事件の真相解明は緒に就いたばかりです。「事実は小説よりも奇なり」、「事実は1つだが、真実は人の数だけある」とは危機管理を行ううえで重要な心構えです。2016年に公表された第三者委員会報告書は、反社会的勢力との関係は確認されなかったとした一方、「経緯や経済合理性は明らかではない」260憶円もの取引(うち176憶円が未回収)の不透明さが問題視されました。現時点においては、報告書が示唆する不適切取引の当事者を黒幕とする流れにありますが、当事者の主張や別の側面からの情報はそれを否定するものとなっています。両者は自らの立場から見える(見せたい)「真実」を「事実」であるが如く語っているに過ぎず、「事実」は意外な姿を見せることもあることを念頭に置く必要があります。今後、「事実」に辿りつく道のりを私たちは見守ることになります。今回の逮捕は真相解明に向けた序章に過ぎません」と述べましたが、検察側の無期懲役の求刑までの経緯を見ても、「いまだ真相解明にはほど遠い」というのが正直な感想であり、やはり、犯人性に加え、動機や背景事情などにも踏み込んだ解明を期待したいところです。
全国唯一の特定危険指定暴力団である工藤會のトップについて、総裁の野村悟被告=殺人罪などで1審で死刑判決、2審で無期懲役判決、上告中=から、ナンバー2の会長、田上不美夫被告(70)=殺人罪などで1、2審で無期懲役判決、上告中=に交代したと福岡県警が断定しました。福岡県警は、約12年間に及ぶ身柄拘束で求心力が低下した結果、工藤會側が独断で野村被告の「引退」を主導したとみています。福岡県公安委員会は2026年7月中旬にも、暴力団対策法に基づいてトップの変更を官報で公示する予定です。2000年以降、会長や総裁としてトップに君臨してきた野村被告は、工藤會壊滅を目指す「頂上作戦」で2014年9月に逮捕されました。その後も絶大な影響力を保持し続けてきましたが、工藤會側が2026年3月、野村被告の引退を電話や文書で他団体に通知、福岡県警は「偽装引退」の可能性もあるとみて慎重に確認を進めてきました。捜査関係者によれば、工藤會側が他団体に引退を通知した後、事後報告で野村被告を説得したとみられることが判明、その後、工藤會幹部が福岡拘置所で野村被告と面会する回数も激減していることから、引退したと判断したものです。「総裁」は名誉職のため、田上被告が会長のままトップを引き継いだとみられます。福岡県警は同6月25日にトップの変更を福岡県公安委員会に報告しました。工藤會の構成員数は、ピークだった2008年末の1210人から2025年末には210人まで激減、福岡県警の摘発、工藤會傘下組織組員らが関与した事件の被害者側から複数の訴訟を起こされ、野村被告に計1億円超の賠償命令判決が確定していることや裁判費用などで資金獲得活動もままならない状態とみられ、県警幹部は「工藤會は(野村被告の)面倒を見切れなくなったのだろう。工藤會の弱体化を示す出来事であり、壊滅するまで手を緩めることなく取り締まりをしていく」と話しています。福岡県警や北九州市、行政や市民などが総力を結集した「頂上作戦」の大きな成果といえ、全国の暴排活動にも大きな力をもたらすといえます。工藤會を巡る最近の報道から、以下、いくつか紹介します。
- 工藤會トップで総裁の野村悟被告が土地を親族に信託したのは「賠償逃れ」が目的だとして、工藤會元幹部による恐喝事件の被害者が、野村被告の親族に信託取り消しや所有権移転登記の抹消を求めて福岡地裁に提訴しました。同種訴訟の提訴は2件目で、代理人弁護士によれば、取り消しを求めているのは北九州市小倉北区紺屋町の土地2筆(計約150平方メートル)で、野村被告は2020年、この2筆を含む同市内の土地少なくとも23筆(計約7000平方メートル)と自宅を親族2人に信託して所有権を移転していました。信託法は、信託された財産は差し押さえや競売ができないとする一方、債権者を害することを知りながら信託した場合には取り消し請求ができると定めています。被害者側は「将来の強制執行を妨害する目的でなされた正当性のない無効な信託だ」と主張しています。恐喝事件を巡っては、元幹部の実刑判決が確定した後の2024年10月、被害者側が野村被告らを相手取って損害賠償請求訴訟を起こし、福岡地裁は2026年4月に約1450万円の支払いを命じました。野村被告らは控訴し、賠償金は支払われていません。一方、被害者側はこの訴訟と並行して今回の2筆を保全するため、処分禁止を求める仮処分申請をし、福岡地裁小倉支部が2026年2月に処分禁止の仮処分命令を出しました。被害者側は、信託取り消しが認められれば2筆を強制競売にかけるなどして賠償金を回収するとしています。信託取り消し訴訟を巡っては、工藤會による市民襲撃事件の被害者側が2025年10月に福岡地裁に初めて提訴しています。
- 工藤會組員による事件の被害者らが、工藤會トップに損害賠償を求めた複数の訴訟で、勝訴判決が確定したにもかかわらず賠償金が支払われない事態になっています。「暴力団は裁判の結果には従う」という不文律がこれまではありましたが、近年は工藤會に限らず支払いに応じないケースが出始めています。被害者側の弁護士の間には「報復の恐怖を抱えながら裁判に踏み切った被害者が、泣き寝入りを強いられてしまう」と危機感が広がっています。北九州市小倉北区の住宅街で駐車場などとして利用されている土地(約千平方メートル)の売却先を探すため、福岡地裁小倉支部による強制競売の入札が始まっていますが、所有者は工藤會トップの総裁、野村悟被告で、賠償金が支払われないため、被害者側が登記情報を基に差し押さえた土地で、入札は3度目となります。裁判所が設定する最低入札価格は1度目の約1230万円から回を重ねるごとに下がり、今回は約600万円と約半額になりました。被害者の支援に携わる弁護士は「賠償金が支払われない事態は想定していなかった。何とか買い手が決まるといいんだが」と述べています。福岡県警が工藤會への「壊滅作戦」に着手した2014年以降、殺人事件などの被害者や遺族が、野村被告や同会ナンバー2の会長、田上不美夫被告(70)=同=らを相手に「使用者責任」などに基づく損害賠償を求めた訴訟は、これまでに4件が決着し、うち2020年に和解が成立した歯科医師刺傷事件と、判決が確定した県警の元警部銃撃事件では、工藤會側は、本部事務所跡地の売却益約4千万円を充てるなどして支払いに応じました。しかし、2024~25年に計約1億円の支払い命令が確定したスナック経営者切り付け事件と建設会社役員射殺事件では賠償金が支払われなくなり、他に少なくとも3件で訴訟が続いています。工藤會捜査に関わった県警の元捜査幹部は「壊滅作戦によって野村被告や工藤會の資金は底を突きつつあり、支払いを渋るようになったのではないか」とみています。このような事態は今後も想定されることから、何らかの強制力を持った仕組みを検討すべきではないかと考えます。
週刊誌情報ですが、住吉会の内部が紛糾しているといいます。発端は2025年12月、先代会長の死亡当日に現金5000万円を盗んだとしてトップの小川修司会長が逮捕された事件です(本コラムでも取り上げました)。親のカネに手を付けた事件だけに、組織内からは反発の声が噴出、後任に2次団体の京王会の児島秀樹会長を推す動きも出ているといいます。一方で住吉会は2次団体・幸平一家が警視庁の重点取締対象となり、包囲網そのものも狭まっている状況にあります。指定暴力団のトップが窃盗事件で逮捕され、その被害者が先代会長の遺族という仁義なき構図に、世間の注目が集まりましたが、「小川会長側は、5000万円は遺族への遺産ではなく、これまで組費や上納金として納めたカネだというスタンス。しかし、いきさつはなんにせよ、よりにもよって先代が亡くなった日に、金庫を開けてカネを持っていくという行為自体が咎められている。住吉会内部では、会長交代を求める声まで出ている。そもそもこの事件は逮捕の2年近く前から、小川会長の関与を指弾する怪文書がばらまかれていた。小川会長の行為を問題視し、引きずり下ろそうとする勢力は一定数存在する」という情報もあります。また、警視庁が1次団体の住吉会を飛び越えて、名指しで特別対策本部を据えている幸平一家を巡る問題もあります。トクリュウ関連の事件に絡めるかたちで、恐喝未遂や監禁、強盗傷害などの容疑で立て続けに逮捕されています。そして警察の厳しい摘発に伴い、2026年に入って組員の離脱が相次いでいるといいます。斜陽化が進む中でも圧倒的なブランド力で20~30代の若手組員の獲得で組織を伸長してきた幸平一家ですが、警察の圧力の前に従来の勢いを保てるかは不透明な状況で、いずれにしても今後の住吉会の動向を注視しておく必要がありそうです。
旭琉會は、糸数会長の死亡を受けて、北中城村島袋の同会本部で会合を開き、三代目会長に二代目沖島一家の知念秀視総長が正式に就任しました。北中城村の本部事務所で、旭琉會の関係者が集まるトップ継承の式典があり新体制となりました。旭琉會は2011年、初代会長の富永清氏らが主導し、四代目旭琉会と沖縄旭琉会を一本化して発足、2019年に富永氏の死去後は約5年半、会長不在が続き、2代目の糸数真氏は2026年4月に火災で死亡しました。一本化前の1990年には暴力団抗争で高校生や警察官が巻き添えになっています。捜査関係者は今回、会長不在が長引けば組織体制を巡って抗争が再燃する懸念を示していましたが、一方で、関係者によると、主要ポストの旭琉會理事長でもあった知念氏を次期会長に繰り上げる人事が早い段階から有力視されており「なるべく組織を不安定にせず、順当な人事で引き締めを図った」とみられています。
詐欺などの被害者が訴訟を起こしやすくしようと、静岡県警と静岡県弁護士会が携協定を結びました。この協定は、組織犯罪の被害者が暴力団などを相手取って民事訴訟を起こせるかを調べる費用の一部を県警が負担するものです。静岡県弁護士会会長と静岡県警本部長が締結式を開き、協定を結びました。県弁護士会の山本正幸会長は「そもそも弁護士に調査を依頼する事自体をちゅうちょする方が多くいる。費用の面を心配せずに、被害者の方が弁護士に刑事記録の確認をお願いすることができる」と述べています。この取り組みは福岡県に次いで全国2例目で、訴訟を起こしやすくすることで組織犯罪を抑止する狙いもあるということです。
2.最近のトピックス
(1)AML/CFT/CPFを巡る動向
金融庁は、マネー・ローンダリング(マネロン)・テロ資金供与対策及び金融犯罪対策について、2025事務年度の金融庁所管事業者の対応状況や金融庁の取組等を「マネー・ローンダリング等及び金融犯罪対策の取組と課題(2026年7月)」として取りまとめています。第1章では、金融庁等の取組を踏まえた金融機関等のマネロン等対策や国際的な規制における新たな動向等を記載しています。マネロン等対策については、ほぼ全ての金融機関等で基礎的な態勢整備が完了しており、今後も、金融活動作業部会(FATF)第5次対日相互審査を見据えながら、直面するリスクに応じて継続的に態勢を高度化していくことが重要であり、そのために、金融機関等に対しては、自らが整備した態勢の有効性を検証し、その結果を踏まえて自律的な改善・高度化を図ること(有効性検証)を求めています。金融庁等においても、2025事務年度から、検査等を通じて各金融機関等における有効性検証の取組状況を確認するとともに、検査等の結果も踏まえて取組事例集を改訂・公表し、金融機関に対して具体的な取組を促してきました。こうした取組を不断に行いつつ、他の先発審査国における審査結果の分析も進め、国内外のステークホルダーから信認が得られるよう努めていくことが重要です。また、第2章では、金融犯罪対策に係る政府全体の取組や金融機関等の対応を記載しています。SNS型投資・ロマンス詐欺を含む特殊詐欺やフィッシング等による不正アクセス・不正取引など、金融犯罪の多様化・巧妙化により、被害状況は年々、深刻な状況となっています。金融機関等においては、利用者を詐欺等の被害から守り、金融システムの信頼を確保するため、変化し続ける金融犯罪に追随し、自らの提供するサービスが犯罪に悪用されることのないよう対応していく必要があり、そのためには、犯行手口に即した実効性の高いあらゆる施策を複合的に講じていくとともに、金融犯罪対策が民と民、官と民が連携して底上げを図る「協調領域」であることを意識し、他の金融機関や都道府県警察等との情報共有・連携強化をより一層進めていくことが重要です。
本報告書の最後に「金融機関等においては、本文書も参考に、暗号資産やステーブルコイン、オンラインカジノなど新たに台頭するリスクや国内外における議論・動向も把握したうえで、現状に甘んじることなく、マネロン等対策及び金融犯罪対策の一層の強化・高度化を期待したい」と述べています。以下、重要と思われるものを抜粋して紹介します。
▼ 金融庁 「マネー・ローンダリング等及び金融犯罪対策の取組と課題(2026年7月)」の公表について
▼ 「マネー・ローンダリング等及び金融犯罪対策の取組と課題(2026年7月)」(概要)
- マネロン等対策として、基礎的な態勢整備完了後、有効性検証に焦点を当てた検査を開始。FATF第5次対日相互審査(2028年6月よりオンサイト審査が予定)に向けて、先発国の審査結果の分析結果も踏まえ、更なる高度化を図ることが重要。
- 詐欺等での犯行手口が巧妙化・複雑化し被害が拡大する中、実効性の高い対策を複合的に講じるとともに、都道府県警察等との情報共有・連携強化をより一層図っていくことが重要。
第1章 マネロン等対策の更なる高度化に向けた取組
- マネロン等対策・第5次対日審査に係る政府全体の取組
- 基礎的なマネロン等リスク管理態勢整備に係る取組
- 有効性の確保・高度化に向けた取組
- 有効性検証
- 有効性検証の実施状況に係る検査を本格的に実施
- 経営陣の関与の下、全社的な実施態勢の構築が重要
- 金融機関の取組状況にはバラつき-人員・予算の配分、部門間の連携、内部監査
- 有効性検証の実施状況に係る検査を本格的に実施
- ガイドライン・FAQの改正
- 2026年3月にガイドライン・FAQを改正、今後も機動的に見直し
- 個別の論点・課題
- 為替取引分析業者を利用したマネロン等対策の共同化に係る動向
- 有効性検証
- マネロン等国際的な規制における2025事務年度の新たな動向
- FATF大臣宣言
- 先発国におけるFATF第5次相互審査の状況
- 先発5カ国(馬・白・伊・墺・星)の審査結果、我が国の対応
- RBAの重要性
- FATF勧告16改訂:クロスボーダー送金の透明性向上
- 暗号資産・ステーブルコインに係る国際的動向
- 2026年3月にFATFが2本の報告書を公表
第2章 国民を金融犯罪から守るための取組
- 金融犯罪対策に係る取組の現状
- 特殊詐欺被害は拡大(3,257億円〔R7〕、前年比1.6倍)
- 「被害に遭わせない」ための対策
- 相談窓口の開設及び受付実績
- 無登録で金融商品取引業を行う者に対する取組
- SNS上で投資詐欺等が疑われる広告等に関する取組
- オンラインカジノ対策の現状と取組
- フィッシング等による不正アクセス・不正取引に関する取組
- 「犯罪者のツールを奪う」ための対策
- 口座の不正利用等防止に向けた対策の強化
- IB対策の要請文発出とフォローアップ
- 口座売買の厳罰化・「送金犯罪」に関する罰則の創設
- 金融機関における不正取引の検知能力の向上
- 不正利用口座の情報共有
- 2027年4月の稼働に向けて財政面・制度面で後押し
- 金融機関間での情報共有の促進
- 金融機関による警察への情報提供・連携
- 本人確認の厳格化
- 口座の不正利用等防止に向けた対策の強化
- 利用者向けの周知・広報の強化
- 口座売買・譲渡に係る官民一体・業界横断的な広報
- フィッシング対策等に係る官民一体・業界横断的な広報
- 金融犯罪対策に係る警察庁等と連携した広報
▼ マネー・ローンダリング等及び金融犯罪対策の取組と課題(2026年7月)
- マネロン等対策の更なる高度化に向けた取組
- 2026年7月の金融セクター分析においては、電子決済手段等取引業者のほか、金融セクターのうち他省庁所管のクレジットカード、ファイナンスリース、外貨両替及びその他の特定事業者についても新たに分析対象に追加し、各省庁の分析結果も反映している。足元では、預金取扱金融機関・暗号資産交換業・電子決済手段等取引業・資金移動業を相対的にリスクが高いセクターと評価し、とりわけ預金取扱金融機関のうち、主要行等及び新形態銀行については、サブセクターリスクを相対的により一段高いものと評価している。なお、今回のセクター分析から、各セクターの色分けに応じて、リスクの相対的な位置付けを示すこととしている。
- 有効性検証は、第2線である管理・統制部門が中心となって推進されているが、第1線における自店検査や第3線による内部監査も活用し、それぞれの役割や目的、現状の課題認識を踏まえた上で、検証項目の選定及び検証が行われている。具体的には、当局からの指摘事項や、内部・外部環境の変化に伴うマネロン等リスクの変化を踏まえ、有効性検証の重点領域を明確化し、年間の実施計画を策定した上で検証を実施している。特に、直近に発生した対応不備事案については、真因分析を行い、同様の事象が再発しないか、また関連する業務領域において類似の事案が発生していないかといった観点から、適時かつ重点的な検証に取り組んでいる。
- 検証内容についても、形式的な確認から、より深度ある分析へとシフトしてきている。例えば、顧客リスク格付に関しては、定量的な分析手法を用いることで、客観的かつ合理的に検証結果を導出し、それを踏まえた改善方針の策定を通じて、リスク評価精度の向上が図られている。また、データ品質についても、データソースとなる原データの品質検証を行い、データの欠損、変化、漏れの有無に加え、周辺システムの改修や仕様変更の影響を考慮した確認が実施されている。
- DP等の着眼点を引用して計画を構成するにとどまり、自ら高リスクと評価している業務を検証対象としていない金融機関がみられたほか、DP公表以前から実施している有効性検証の取組や、有効性検証の主管部署以外の関係部署で実施しているマネロン等対策に係る有効性検証の取組を適切に把握しておらず、その十分性の検討もしていないなど、自らのリスク特性に応じた検証対象を十分に洗い出すことができていない金融機関もみられた。また、検証範囲やサンプル抽出を含む検証手法について具体化していない、又は合理的な根拠を十分に検討していない金融機関もみられた。こうした金融機関では、第1線と第2線の連携を欠いている、あるいは検証に必要な人員や専門性を確保していないため、各業務やそれらに内在するマネロンリスク等を正確に把握できていない。その上、毎年検証を行う業務と数年ごとに検証を行う業務とを区分けするためのリスク評価を行わないまま、現行の人員・体制で実行可能な範囲・深度で単年度で検証を行う計画を策定するにとどめており、全社的・網羅的に有効性検証を実施するための計画となっていない金融機関がみられた。
- 外部情報の評価項目への反映基準が不明確で、活用する情報の取捨選択が担当者任せとなっている金融機関がみられた。また、外部環境の変化や新たな犯罪手口、捜査機関等からの外部照会等の情報の分析・活用を十分に行っていない金融機関もみられた。
- リスク評価書で高リスクとした顧客属性等のリスク要素が顧客リスク格付を行う際に考慮されていないなど、リスク評価書との整合性が確保されていない、顧客リスク格付の評価基準等が担当者の主観に依存している、複数の高リスク要素に該当する場合であってもそのリスクが適切に顧客リスク格付に累積されないなど、実際の取引実態やリスク評価を顧客リスク格付に十分に反映していない金融機関や、顧客リスク格付を取引モニタリング等の低減策に十分反映していない金融機関もみられた。
- あいまい検索の検知基準が自社の取引内容やリスク特性を踏まえて妥当かを検証していない金融機関もみられた。
- リスト更新が手順どおりに行われているか、制裁対象者等リストの更新状況に対するサンプル検証等の手法が適切かといった検証や、取引フィルタリングシステムに係るデータ連携の網羅性・正確性についての検証が不十分な金融機関もあった。
- 疑わしい取引の届出の判断基準に対する有効性検証が未実施である金融機関や、疑わしい取引の参考事例の改訂といった外部リスク動向を、届出要否の判断基準へ適切に反映しているかといった検証を十分に行っていない金融機関もみられた。また、判断基準に対する検証は行っているものの、届出判断に至る業務プロセス(検知・調査・判断・承認等)における一連の運用状況を検証対象としていない金融機関もあった。
- 届出要否の判断基準や実施手順等を定めているものの、実務において遵守されているかといった検証が未実施、あるいは実施しているものの部分的・属人的な検証にとどめている金融機関もみられた。
- 有効性検証は、経営陣が自社のリスク管理態勢の有効性を適切に把握し、必要な対応を講じる意思決定を行うための土台である。経営陣は、検証結果の概要を把握するにとどまらず、有効性検証の担当部署に対し、判断の根拠や、過程等の説明を主導的に求め、第1線と第2線の連携や人員・予算などの資源を配分し、必要に応じて外部知見の活用も含めて有効性検証の実施態勢を適切に整備することが必要である。同時に、このような実施態勢が整備され、有効性検証の計画・実施・改善対応の一連のサイクルが継続的に機能しているか、すなわち全体の枠組みが適切であるか、経営陣は、独立した立場にある第3線を活用して把握・確認することが必要である。
- 昨今、金融機関等においては預金取扱金融機関に限らず、非対面取引が広く普及していることもあり、速やかに不正検知を行うことや、検知した時点で不正の確証が得られる場合には不正利用や顧客被害の防止に向けて迅速にリスク遮断措置を講ずることなど、自らの直面するリスクに応じて適切なリスク低減措置を講ずることが、あらゆる金融機関等に共通して求められる。要請文は預金取扱金融機関に対して発出されたものではあるが、今後は預金取扱金融機関以外の業態についても、ガイドライン及びFAQに基づき自らの直面するリスク等に応じて対応の必要性を検討し適切なリスク低減措置を実施する必要がある。
- 金融機関等においては、これらの点も留意しつつ、どの業務を外部委託する場合に外部委託先管理を行うのか、対象業務を整理した上で、自社の外部委託の状況を把握し、当該外部委託先に対してどのように検証すべきかを検討する必要がある。
- モニタリングを実施した預金取扱金融機関の多くが、法人顧客の実質的支配者を、顧客からの自己申告のみに依拠して特定していた。申告内容に疑義がある場合に証跡の提出を求めることとしている金融機関も認められたが、何をもって疑義有りとみなすのかといった基準が明確でなく、結果的に証跡を徴求した実績がほぼないといった事象がみられた。また、法人顧客の事業内容については、ほとんどの金融機関が証跡を用いて実態把握に努めていたが、顧客からの自己申告のみに依拠して把握済み、としている金融機関も一部認められた。金融機関等においては、顧客の申告内容の真正性を基礎付ける証跡を顧客のリスクに応じて求めることが必要であり、その手順の有効性を確保するためには、事前に証跡徴求に係る基準や方針等を文書化しておくことが必要である。こうしたことから、金融庁は、法人顧客の実質的支配者、所有・支配の構造及び事業内容について信頼に足る証跡を用いて特定・確認すべき顧客の類型をあらかじめリスクベースで選定し、規程等に定めておくことを、今後金融機関等に求めていくことを検討している。
- モニタリングを実施した預金取扱金融機関の多くが、外部データベースのリストを用いて各種PEPsスクリーニングを実施しているが、PEPsの家族・近親者のリストを、自社のスクリーニングシステムに取り込んでいない金融機関が一部認められた。また、顧客が各種PEPs本人に該当する場合には、顧客リスク評価において考慮しているものの、PEPsの家族・近親者に該当する場合には考慮していない金融機関が一部認められた。国内PEPs・国際機関PEPs又はその家族・近親者に該当する顧客との取引に際しては、当該顧客のリスク評価を高リスクとしている場合にも、上級管理職の承認取得や、資産・収入の状況及び資金源確認を実施していない金融機関が多くみられた。FATF勧告の趣旨を踏まえ、外国PEPsだけでなく、国内PEPs・国際機関PEPsについても、顧客類型の一つとして認識した上で、顧客やその実質的支配者が各種PEPs又はその家族・近親者に該当するか否かを把握することは、マネロン等リスク管理の観点から重要である。その上で、該当する場合にはそうした事実を踏まえて、個々の顧客の置かれた状況も勘案しつつ、リスクを適切に評価する必要がある。金融庁は、このような考えを基に、今後金融機関等に求めていく事項を検討している。
- モニタリングを実施した保険会社のほとんどが、新規契約時や契約変更時のほか、定期的に受取人の反社・制裁対象者・外国PEPsスクリーニングを実施することで、受取人のリスクを適切に把握していることが認められた。一方、受取人及びその実質的支配者の国内PEPs・国際機関PEPsスクリーニングは、ほとんどの保険会社で実施されていなかった。受取人の実質的支配者の特定に際しては、証跡を徴求している保険会社と、顧客からの自己申告のみに依拠している保険会社に大きく二分された。
- 為替取引分析業者3社のサービスの共通点として、委託元金融機関等において発生した取引のうち特殊詐欺やマネロン等が疑われるものについて、疑わしさの程度を分析・評価して委託元金融機関等に通知することが挙げられる。これにより、当該通知を受けた委託元金融機関等は、疑わしさの程度がより高い取引に対し優先的に調査資源を投入できることとなり、特殊詐欺やマネロン等対策をより効率的・効果的に実施することが可能となる。一方、具体的にどのような手法で分析・評価を行うかについては、AIの活用や検知シナリオの調整に係る助言の提供等、3社それぞれ特色があるほか、分析・評価のみならず継続的顧客管理に係る事務受託等周辺サービスとあわせて受託・提供したり、また、委託元金融機関等を招いて勉強会を開催したりする等、委託元金融機関等における特殊詐欺やマネロン等対策の高度化及び有効性向上に向けて、サービスを競い合っている。委託元金融機関等においては、為替取引分析業者を利用し、特殊詐欺やマネロン等対策の共同化の効果を最大限に享受するため、為替取引分析業者から疑わしさの程度が低いと通知された取引の中に特殊詐欺の被害や疑わしい取引の届出対象となったものがないか検証し、相当数ある場合には分析・評価手法改善のために為替取引分析業者と協議を行う等、自ら能動的に為替取引分析業者と協働して特殊詐欺やマネロン等への対策の効率性及び実効性向上に努めることが求められる。
- 金融機関等によるリスクの理解については、国によるリスク評価も踏まえているか、詐欺や暗号資産などの新しいリスクにも対応しているかといった、観点が重視されている。銀行等の大規模な金融機関を中心に自社に関わるマネロン等リスクの理解が高度化していると評価されている一方で、セクター間及び事業者間でばらつきが見られることが指摘されている。具体的には、VASP等の高リスクセクターにおいてリスクの理解が十分でない場合があるほか、一部の金融機関等では顧客リスク評価の枠組みに改善の余地があるとされている。またベルギーに対しては、一部セクターにおいて国によるリスク評価の内容が十分に認識されていないこと、特定の革新的な商品を提供する金融機関等の間でマネロン等リスク管理よりも利益の追求が優先されていることが指摘されている。
- 顧客の実質的支配者に関しては、複雑な所有・支配構造を有する顧客への対応が課題とされ、また公的登録情報や顧客からの申告に過度に依存し、当該情報の突合や整合性の検証が十分に行われていない事例も指摘されている。疑わしい取引の届出については、件数が各セクター・事業者のリスクや規模に比して十分でないこと、届出が一部の事業者に集中していること、届出の大幅な遅延が見られることなどが指摘されており、量・質とも改善の余地があると評価されている。
- リスクに見合った対応及びリソース配分を行えば、高リスク分野へのリソースの重点投下が可能となり、国全体・個社としてマネロン等対策の実効性が向上すると同時に、低リスク分野におけるオーバーコンプライアンスによる金融排除・デリスキリングの発生を防止できる。こうしたことから、RBAは、FATF基準全体において最も重要な概念の1つであり、最近のFATFにおける議論でも、その重要性に改めて焦点が当たっている。
- FATFは、新しい技術・プレイヤー・ビジネスモデルの登場等によるペイメント市場の構造変化やISO20022等の新たな規格等を踏まえ、FATF基準の原則である競争条件の公平性を確保しつつ、関連規制の抜け穴を防ぎ、犯罪者やテロリストによるクロスボーダー送金システムの悪用を阻止すること等を目的に、2025年6月に改訂勧告16を最終化した。その後、10月に同勧告のメソドロジーも改訂・公表した。
- 近年、市場規模が拡大しているステーブルコインについては、マネロン等への悪用が増加傾向にある。また、ステーブルコインはその価値の安定性等を背景として、規制された仲介者の介在しないアンホステッド・ウォレットを利用したP2P取引に用いられる可能性が指摘されている。こうした状況を踏まえ、本報告書では、ステーブルコインとアンホステッド・ウォレット(P2P)の不正利用に関する脅威や脆弱性に関する分析、リスク低減に向けた各法域の好取組事例、官民関係者向けの推奨事項等が整理されている。例えば、ステーブルコイン発行体に対しては、マネロン等及び拡散金融に係るリスク評価や流通市場の監視、設計段階における適切なガバナンスの組込み、凍結・焼却機能等のスマートコントラクト制御といったリスク低減策の実施が推奨されている。
- VASPに対する登録・免許義務に関して、物理的所在にかかわらずVASPに登録・免許義務を課す法域がある一方、自法域に設立されたVASPのみに登録・免許義務を導入する法域も存在しており、こうした規制上の扱いの差異が、マネロン等及び拡散金融に悪用されるリスクを高めている。また、多くの法域において、域外(オフショア)からサービスを提供する事業者の把握や監督、さらには国際協力に依然として課題が確認されている。こうした状況を踏まえ、本報告書では、オフショアVASPに係るリスク及び脆弱性、規制面での課題や好取組事例、官民関係者向けの推奨事項等が整理されている。民間向けの推奨事項には、取引相手のグループ全体の活動についてリスク評価を実施した上で、そのリスク管理のため、事業内容の把握、マネロン等及び拡散金融リスク管理態勢の評価等を実施すること(FATF勧告13)、海外支店等も含めたグループ単位でのマネロン等及び拡散金融リスク管理(FATF勧告18)、無登録・無免許のVASPを当局へ通報するとともに取引関係を解消すること等が挙げられている。
- 第2章 国民を金融犯罪から守るための取組
- 近年、特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の被害が拡大している。また、詐欺被害金の移転に金融サービスが悪用されており、振込型、中でもインターネットバンキング(IB)を悪用した被害が増加しているほか、暗号資産の送信による被害も増加傾向にある。
- 相談には、無登録で金融商品取引業を行っている者(以下「無登録業者」)が関与する詐欺的なものが多くみられるところ、詐欺被害に遭わないためには、取引相手の事業者が、登録等を受けている金融事業者か確認することが重要である。
- 仮に海外当局の登録や免許等を有している海外所在業者であったとしても、日本の居住者のために又は日本の居住者を相手方として金融商品取引を業として行う場合は、日本の金融商品取引法に基づく金融商品取引業の登録等が必要であり、当該登録等をせずに金融商品取引業を行うことは禁止されている。また、そうした無登録業者の利用を推奨するSNSの投稿も見られることから、金融庁では、過去に警告書を発出した無登録業者を推奨するようなSNS上の投稿に対しては、金融庁公式アカウントから投資家へ利用しないよう呼び掛けを行っている。
- SNS型投資詐欺の中には、著名人等になりすましたSNS上の投資広告や投稿等を端緒とするものがみられる。金融庁では、投資詐欺を目的とするようなSNS上の広告等が金融商品取引法に違反する可能性があることから、投資被害の拡大を防止する観点から、当該広告等に関して情報収集の上、SNS事業者等と連携して当該広告等の削除につなげるために、2024年10月に「SNS上の投資詐欺が疑われる広告等に関する情報受付窓口」を設置した。
- 当該窓口では、そのような偽広告等をきっかけに投資や有料の投資アドバイスの勧誘を受けた、又は実際に投資詐欺の被害に遭った等の情報を持っている方を対象に、金融庁が広く情報提供を受け付け、情報を精査の上、金融商品取引法違反が疑われる当該広告等を特定できるような情報については、主要なSNS事業者への提供を行っている。なお、当該窓口にて2025年度に提供を受けた情報は587件となっている。
- オンラインカジノは、海外で合法的に運営されている場合でも、日本国内から接続して賭博を行うことは犯罪に当たる。オンラインカジノへの賭客からの送金は、銀行や資金移動業者を介した送金、暗号資産による送金など様々な形態で行われており、オンラインカジノの実質的な運営者である犯罪グループ等が、決済代行・収納代行業者を自称する複数の業者の口座を経由して賭客に行わせる事例が見られる。
- 我が国のインターネットバンキングに係る不正送金については、2025年は発生件数が4,747件(前年4,369件)、被害総額は約104億円(前年約87億円)と、被害が前年から増加している。また、証券会社のインターネット取引サービスについても、2025年春頃に不正アクセス・不正取引(第三者による取引)の被害が急増した。こうした不正アクセス・不正取引による被害は、証券業界に限らず金融業界の信頼に直結する問題である。利用者が安心して取引を行うことができるよう、金融機関において不正アクセス・不正取引への対策を着実に強化していくことが重要な継続課題となっている。インターネット取引サービスへの不正アクセス・不正取引について、金融庁は、2025年7月にフィッシング耐性のある多要素認証導入等の対策強化を所管金融機関に対して要請した。さらに同年10月には、金融商品取引業者等向けの監督指針の改正を行った。加えて、2026年上期には、預金取扱金融機関・暗号資産交換業者など各業態の業務内容やリスク特性を踏まえ、監督指針及び事務ガイドラインを改正した。
- 特殊詐欺では、預貯金口座への振込によって被害金が犯罪者の手にわたる場合が多く、中でもインターネットバンキングによる振込がその多くを占めている。警察庁によれば、被害総額のうち振込型の占める割合が57.8%、そのうちインターネットバンキング利用によるものが60.2%を占めている。SNS型投資・ロマンス詐欺ではその割合は更に高く、被害総額のうち振込型の占める割合が67.2%、そのうちインターネットバンキング利用によるものが78.0%を占めている。
- 2024年8月の要請を受けて2025年1月に実施した第1回アンケートと比べ、口座売買等の違法性の周知や口座不正利用の態様分析等は進展がみられた一方、オンライン取引のアクセス環境に着目した不審取引の検知や検知した不正取引に対する適時の保留・制限等、システム対応を要する項目の進展は限定的であった。
- 2025年におけるSNS型投資・ロマンス詐欺を含む特殊詐欺の被害額が3千億円を超えて過去最高となる中、犯罪者は相対的に対策の不十分な金融機関を集中的に狙い続ける傾向があることを踏まえれば、足元の対策の進捗状況は総体として不十分であり、金融機関には対応の加速化が求められる。
- 数多の取引から、特殊詐欺により金銭を騙し取るための取引やその他の不正利用が疑われる取引を的確に検知するためには、取引モニタリングシステムを適切に活用することが不可欠である。また、被害金の移転・散逸を防止するために即時性の高い検知及び検知後の取引停止・口座凍結等、リスク低減措置の実施が求められることに留意する必要がある。
- 共通テストシナリオの検知率は、全国規模で事業展開する大規模金融機関が相対的に高く、地域金融機関は低い傾向であった。共通テストシナリオの類型別では、取引行動に加えてアクセス情報(IPアドレス・端末情報・ブラウザ言語・タイムゾーン等)や顧客の属性情報(職業・年齢・収入/資産・居住地等)を組み合せた多層的検知を要するシナリオ、特殊詐欺の被害者行動等に関するシナリオの検知率は、全体的に低い傾向にあった。また、特殊詐欺による被害の早期検知に必要な即時性の高い取引モニタリングシステムは、全国規模で事業展開する大規模金融機関の多くで導入済みであったのに対して、地域金融機関を中心に未導入の金融機関もあった。
- 金融取引の大部分がオンラインで行われ非対面化が進む中、取引金額や件数に着眼するだけでは不正取引やマネロン等が疑われる取引を的確に検知することが困難になっており、取引データにアクセス情報や継続的顧客管理の中で得た顧客に関する最新の属性情報を組み合わせた多層的な検知ルールの導入検討が有用である。その検討に当たって、金融機関によってはアクセス情報の取得・分析をマネロン等対策や金融犯罪対策を担う部署ではなくサイバーセキュリティ対策を担う部署が所管している場合もあると想定されることから、自らの組織内に散在する情報・インテリジェンスを見落とすことなく活用するためには、部署間での連携が不可欠である。
- 特殊詐欺等の金融犯罪では、一般的には犯罪実行者が金融機関の検知ルールをかいくぐるべく、取引行動の態様を頻繁に変更することから、これに即して金融機関側も頻度高く分析し、検知ルールや検知の敷居値に機動的に反映することが求められる。
- 不正取引については、被害金の移転・散逸を防止するために即時性の高い検知及び検知後の取引停止・口座凍結等のリスク低減措置の実施が求められる。このため、一般的な取引態様との比較、顧客の過去の取引傾向、本人確認結果との整合性等を踏まえ、一定の高リスクの兆候が見られる場合にはアラートを発出することに加えて、顧客に追加での本人認証を求める、取引を保留するなど、被害の未然防止を可能とするシステムとその運用手続を整備していくことも有用である。
- 不正利用口座に係る名義人の情報等を他の預金取扱金融機関に提供することで、提供する側の金融機関が個人情報保護法等の法令違反や守秘義務違反を問われる懸念があっては情報共有が進まないことから、これらのリスクを低減させることが安定的かつ実効的な枠組みの運営に不可欠である。このため、制度面の対応として、金融機関が法的根拠に基づき積極的に情報共有を行えるよう、犯収法施行規則や主要行等向けの総合的な監督指針等を改正し、金融機関間で情報共有を行うための根拠規定を措置することとした。2026年3月に「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令(案)」等を公表し、パブリックコメントを実施した。また、改正後の犯収法施行規則第32条第1項第1号に基づく他の預貯金取扱事業者への不正利用口座情報の提供が個人情報保護法第27条第1項第1号「法令に基づく場合」の例外規定に該当することを明確化するため、「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」の改正案を2026年5月に公表し、パブリックコメントを実施した。
- 単一の金融機関だけの取組では把握し得る事例・ノウハウに限界があることから、金融犯罪対策・マネロン等対策の高度化を効率的・効果的に図っていくためには、金融機関間で情報共有を積極的に行うことが重要となる。
- 2025年12月には、10の銀行と京都府警察との間で情報共有の即時性をより高めた連携体制を構築し、運用を開始した。また、警察庁においても大手銀行中心に9銀行との間で同様に即時性の高い連携体制を構築し、2026年6月から運用を開始している。特殊詐欺の被害防止はもとより、被害金を追跡し、散逸を防止することで被害の軽減・回復を図るためにも、金融機関と警察との緊密かつ即時性の高い情報連携は有効な取組である。
- 券面の視認による真贋判別が困難なまでに精巧に偽造された本人確認書類を用いて口座を開設し、不正取引やマネロン等に悪用する事案が生じている。こうした状況を踏まえ、非対面で行う取引時確認に係る本人確認の方法を改正するための犯収法施行規則の一部を改正する命令が2025年6月に公布されたことに続き、対面で行う取引時確認に係る本人確認の方法についても、本人確認書類の偽変造等によるなりすまし等のリスクの高い確認方法を廃止し、ICチップ情報の読み取りを義務付けること等を内容とする犯収法施行規則の一部を改正する命令が2026年3月に公布された。非対面及び対面いずれの本人確認方法の改正も、2027年4月1日に施行される予定である。
- ICチップ情報を読み取る方法で対面での本人確認を行っている金融機関にヒアリングしたところ、本人確認書類の偽変造等によるなりすまし防止に顕著な効果があることが確認された。この改正への対応に当たっては、システム対応等について計画的に準備していく必要がある一方、その効果に鑑み、対応可能な金融機関においては施行日を待たずに改正犯収法施行規則に沿った方法による本人確認へ早期に移行することが期待される。
▼ (別紙1)金融セクター分析結果概要
- 預金取扱金融機関セクター 共通トピック
- 預金取扱金融機関が提供する預貯金口座は金融サービスの中で最も基本的なものである。我が国では預貯金口座を手軽に開設・維持することができ、あらゆる個人・団体が預金取扱金融機関の顧客となり得る。また、預金取扱金融機関が提供する以下のような様々な商品・サービスは、それらが有するリスク特性等から、犯罪による収益の移転の有効な手段となり得る。
- 安全かつ確実に資金を管理することができる預貯金口座、
- 流動性及び匿名性が高く、資金の流れが追跡されにくい現金取引、
- 時間・場所を問わず、容易に資金の準備又は保管ができる預金取引、
- 預貯金を背景に多額の資金を貸し付けることができる貸付取引、
- 迅速かつ確実に遠隔地間や多数の者との間で資金を移動することができる為替取引、
- 秘匿性が高く、内容が不透明な物理的資産の保管ができる貸金庫、
- 換金性及び運搬容易性に優れた手形・小切手、等
- さらに上記の商品・サービスが複数組み合わされた場合、取引がより複雑化して資金の流れを追跡することが困難となる可能性がある。加えて、業界全体の取引量の大きさ等を勘案すると、預金取扱金融機関が直面するマネー・ローンダリング等リスクは、他の業態よりも相対的に高いと認められる。実際に、過去3年間の現金取引を除くマネー・ローンダリングに悪用された取引の大部分は、預金取扱金融機関が取り扱う内国為替取引、預金取引及び外国との取引(外国為替取引等)である。
- 海外送金サービスを提供する資金移動業者又は収納代行業者に口座を提供する銀行においては、顧客であるこれら業者が国内拠点と海外拠点との間で複数の小口送金取引を取りまとめて決済(いわゆるバルク送金取引)を行っている場合、当該小口送金取引の実態は国境を跨ぐ資金決済でありながら、バルク送金取引の中に含まれる個々の送金人や受取人に関する情報が不透明となるリスクがある。
- インターネットバンキングにおいては、取引の指示から完了までの処理時間が非常に短い即時性、取引完了後に取消しが困難な不可逆性、短時間に多数回の送金等が繰り返し実行可能となる反復性といった特性があり、資金が極めて短時間のうちに分散し、移動し、又は引き出されるリスクがある。
- 預金取扱金融機関が提供する預貯金口座は金融サービスの中で最も基本的なものである。我が国では預貯金口座を手軽に開設・維持することができ、あらゆる個人・団体が預金取扱金融機関の顧客となり得る。また、預金取扱金融機関が提供する以下のような様々な商品・サービスは、それらが有するリスク特性等から、犯罪による収益の移転の有効な手段となり得る。
- 預金取扱金融機関セクター共通:リスクを高める主な要因
- 外国との取引
- 資金移転の追跡を困難とする性質を有すること、諸外国の中にはAML/CFT態勢整備が十分でない国・地域も存在することから、マネロン・テロ資金供与等に加担するリスクやそれにより課徴金を課されるリスクを増大させる。
- また、貿易取引については、取引を仮装することにより、容易に送金を正当なものと装うことができるほか、実際の取引価格に金額を上乗せして支払うなどして犯罪収益を移転することもできる。
- 不正利用口座
- 親族や知人から借り受けた口座、他人から買い受けた口座、架空・他人名義で開設した口座等がマネー・ローンダリングに悪用された事例があり、内国為替取引により口座に入金された犯罪収益は現金化され、その後の追跡が困難になることが多い。
- 為替取引
- 財産の移転性は高く、マネー・ローンダリング等を企図する者が、迅速かつ確実な資金移動が可能な内国為替取引を通じて、架空・他人名義の口座に犯罪収益を振り込ませる事例が多くみられる。
- 現預金
- 換金性及び運搬容易性に優れた有価証券やいかなる商品(宝石等)にも転換することができるため、変換性は高い。
- 非対面取引
- インターネットを通じた非対面取引が拡大する一方で、偽造した他人の本人確認書類を利用したなりすまし取引等が増加している。借り受けた口座、買い受けた口座、架空・他人名義で開設した口座等がマネー・ローンダリングに利用されることも考えられる。
- 外国との取引
- サブセクター個別トピック:暗号資産交換業者
- 暗号資産交換業者の取引は、その大半がインターネットを利用した非対面で行われていることから、取引における匿名性が高い。また、暗号資産の移転は国境を越えて瞬時に行われるという性質を有するほか、暗号資産に対する規制を未導入又は不十分な国もあることから、そうした国の暗号資産交換業者が犯罪に悪用された場合には、その移転を追跡することが困難となる。
- 暗号資産取引が世界規模で拡大し、それを取り巻く環境も急激に変化していること、預金取扱金融機関がマネー・ローンダリング等対策を強化している中、マネー・ローンダリング等を行おうとする者が、預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービスのほかに、暗号資産取引を組み合わせて用いる事例も認められること等も考慮に入れると、暗号資産がマネー・ローンダリング等に悪用される危険度は、他の業態よりも相対的に高い。
- サブセクター個別トピック:資金移動業者
- 資金移動業は、預金取扱金融機関以外の一般事業者が為替取引を業として営むことを言い、安価な手数料で迅速・確実に世界的規模で資金を移動させる。「店舗型」「インターネット型」「証書・カード型」といった業務形態の複雑性、および法人規模や属性を組み合わせれば、その形態は多岐にわたり、マネー・ローンダリング等リスクの所在が業種として一律に判断できない特性を有する。(それゆえに資金移動業者において、AML/CFTに関する管理強化についての理解が相対的に進んでいない。)
- 資金移動業における年間送金件数・取扱金額が共に増加していること、送金金額上限のない第一種資金移動業の認可・登録が始まっていること、2022年10月に全銀システムへの参加資格が資金移動業者に拡大されたこと、2023年4月に資金移動業者の口座への賃金支払が解禁されたこと等決済手段としての利用が拡大している状況を踏まえると、資金移動サービスがマネー・ローンダリング等に悪用される危険度は、他の業態と比べても相対的に高まっている。
- サブセクター個別トピック:電子決済手段等取引業者
- 電子決済手段等取引業者の取引は、その大半がインターネットを利用した非対面で行われていることから、取引における匿名性が高い。また、電子決済手段の移転は国境を越えて瞬時に行われるという性質を有するほか、電子決済手段に対する規制を未導入又は不十分な国の電子決済手段等取引業者、分散型取引所、ブロックチェーン上の匿名化ツール、アンホステッド・ウォレット等が犯罪に悪用された場合には、その移転を追跡することが困難となる。
- 電子決済手段は、法定通貨と連動し価値が安定していることから、将来的には幅広い分野で送金・決済手段として用いられる可能性があり、国外においては電子決済手段による決済が可能な事業者が増加している。また、電子決済手段は、制裁対象国や国家を背景とするサイバー犯罪集団、テロリストグループ等による悪用が確認されており、ブロックチェーン上の不正取引に占める電子決済手段の割合が年々増加している状況を踏まえると、電子決済手段及び電子決済手段等取引業者がマネー・ローンダリング等に悪用される危険度は、他の業態と比べても相対的に高まっているといえる。(※資金移動業者であって、電子決済手段を発行する者に係るリスクを含む)
- サブセクター個別トピック:第一種金融商品取引業者
- 金商業者が仲介する取引に関し、取引される金融市場自体が、インサイダー取引や相場操縦等の前提犯罪によって不正な資金を創出する場としても利用され得るほか、このように創出されたものを含めて犯罪収益を流動性の高い金融商品等に架空名義や借名口座等を通じて転換することで隠匿に利用される場合があり得る。
- 主要顧客が法人顧客が中心となり、取引金額も総じて高額となりうる業者もある。
- サブセクター個別トピック:第二種金融商品取引業者、不動産特定共同事業者
- 金商法の規定により有価証券とみなされる同法に掲げる権利について、顧客等に当該権利を取得させる行為、自己募集業を行う。取り扱い商品を通じて、犯罪による収益を様々な権利や商品へと変換が可能となり得る。
- 複雑なスキームを有するファンドの存在は、その資金の出所が不透明になりがちであり、投資に係る原資の追跡を著しく困難にするものはマネー・ローンダリング等の手段となり得る。
- サブセクター個別トピック:特例業務届出者
- 主に投資家からの犯罪収益流入や、当該業者等の投資行動を通じて経済制裁対象者等が関与している企業等への資金流入などが考えられる。
- 海外投資家等特例業務により一定の条件を満たす運用業者の利便性が向上し、適格特例業務と同様に、組合型のファンドの運用を行う者の関係当局への届出により、投資運用業登録なしに当該運用業務を日本で行うことが可能。
- サブセクター個別トピック:投資運用業者
- 資産運用業務は、主に、投資家から犯罪収益が流入することや、金融商品取引業者等の投資行動を通じて経済制裁対象者等が関与している企業への資金が流入することなどが考えられる。
- 運用商品の販売を委託する場合、委託先販売会社のマネー・ローンダリング等リスク管理態勢について、自社基準に照らして適切であるかの確認も含め、当該商品・サービスのリスクを特定・評価し、当該リスクに応じた継続的な管理が重要。
- サブセクター個別トピック:商品先物取引業者
- 犯罪収益を架空名義や借名口座等を通じて様々な取り扱い商品に転換することで、隠匿に利用される場合があり得る。
- 主要顧客が法人顧客が中心となり、取引金額も総じて高額となりうる業者もある。
- サブセクター個別トピック:その他特別法に基づき投融資業務を行う特定事業者
- 中堅・大企業を中心とした国内外の法人顧客に対する長期資金の供給(投融資)を主たる業務とする特定事業者が存在するが、インターネットバンキング等の非対面取引による商品提供は無く、預金業務、為替業務や資金決済業務の取扱いも無い。
- 一方で、海外企業向けの投融資業務やファンドLP投資その他投資ヴィークルを経由して行う投資業務等については、一定のリスクが認められる。
- サブセクター個別トピック:高額電子移転可能型前払式支払手段発行者
- アカウントの作成や残高のチャージ・利用の大半がインターネットを利用した非対面で行われていることから、取引における匿名性が存在する。キャッシュレス化の進展とあいまって、前払式支払手段が利用可能な店舗はオンライン店舗を含めて拡大しており、その態様や利用方法は多様。
- 一方、資金決済法により原則として前払式支払手段の払戻しが禁止されており、利用者は入金した金額を自由に引き出すことができない。
- サブセクター個別トピック:貸金
- 貸金業者等による金銭貸付には、現金取引における原資の匿名性や、借入れ・返済の繰り返しによる追跡の困難性(移転性)といった特性がある。
- 一方で、総量規制があるため一度の資金洗浄の金額が制限されること、及び貸金業者等と契約顧客間でのみ取引が行われることが一般的であるため、金銭貸付そのものを広範・複雑なMLスキームに悪用する危険性は低い。
- サブセクター個別トピック:信託会社
- 信託は、委託者から受託者に財産権を移転させ、当該財産に登記等の制度がある場合にはその名義人も変更させるとともに、財産の属性及び数並びに財産権の性状を転換する機能を有している。
- 信託の効力は、当事者間で信託契約を締結したり、自己信託をすることのみで発生させることができるため、犯罪による収益の移転を企図する者は、信託を利用すれば、当該収益を自己から分離し、当該収益との関わりを隠匿することができることから、斯かる商品を提供する信託会社はマネー・ローンダリングに利用される事も考えられる。
- サブセクター個別トピック:生命保険会社
- 生命保険の保険金・給付金の支払いは基本的に偶発的な保険事故の発生を前提とするため、第三者に即時に資金を移転させる機能はない。生命保険をマネー・ローンダリングに利用しようとする場合、偶発的な保険事故の発生を前提としない蓄財性の高い生命保険商品に加入、保険料を支払った後、資金を受け取る取引を通じて、犯罪資金等を一時的に退避させるといった限定的な利用が中心。本邦では契約者本人口座への返金・送金が原則であり、マネー・ローンダリングの効果は限定的。
- サブセクター個別トピック:損害保険会社
- 損害保険商品の性質上、保険金の支払いは偶発的な保険事故の発生を前提とすることから、第三者に即時に資金を移転させる機能はなく、生命保険会社とは異なり、大手社の多くが蓄財性の高い商品の販売を停止しており、損害保険がマネー・ローンダリングに利用されるリスクは、生命保険会社よりも低いと考えられる。
- 一方で、損害保険会社は、外国との取引に関連して海上保険(船舶保険・貨物保険)の引き受けを行っていることから、テロ資金供与・拡散金融に間接的に関与するリスクは認められる。
- サブセクター個別トピック:クレジットカード
- クレジットカード決済における資金移動は、原則、決済ネットワーク上の関係者間の精算に限定されるため、匿名性や広範性、複雑性に起因するリスクは限定的。
- 一方、第三者がクレジットカードを使用することによる事実上の資金移転、商品の購入を通じた資金の変換がリスクとして挙げられる。
- サブセクター個別トピック:ファイナンスリース
- ファイナンスリースは、ファイナンスリース事業者及び賃借人という契約当事者のほかに販売者(サプライヤー)が関与すること、リース期間が比較的長期にわたること等の特徴により、賃借人と販売者が共謀して実態の伴わないファイナンスリース契約を締結するなどしてマネー・ローンダリング等に利用される可能性がある。
- 商品・サービスの脆弱性として、取引実態の仮装による資金・財物移転が容易にできる移転性という特性が考えられる。
- サブセクター個別トピック:外貨両替
- 外貨両替取引は、窓口などにおいて、通貨間の交換を行うものであり、取引に際し、必ずしも通貨保有者の情報を伴わない。
- 物理的に金銭の外観・通貨建を変えることができる。
- 両替取引自体は、第三者への権利の移転を伴わず、取引形態は単純であり、取引関係者は限定的。
▼ (別紙2)口座不正利用対策等に係る要請文フォローアップアンケートの実施結果
- 口座開設時における不正利用防止及び実態把握の強化
- 特にSNSや非対面開設時におけるアプリ等による周知が進展、引き続き様々なチャネルで「口座売買・譲渡・譲受・貸借が犯罪であること」を周知することは利用者理解を促すために有用であり、今後も継続的な取組が期待される。
- 本人確認の方法として、ICチップ情報の読み取りを導入した金融機関は若干増加したものの全体としては依然少数。改正犯収法規則の施行日(令和9年4月)までの対応はもとより、不正な口座開設を防止する観点から早期の導入が期待される。
- 大部分の金融機関において口座の不正利用リスクの高い顧客の分析は実施済。分析の頻回化や開設時審査に活用するための不正利用口座に係る情報の蓄積など、引き続き分析の高度化が期待される。
- 複数口座開設時に利用目的等の合理性を確認する態勢及び当該口座を継続的にモニタリングする態勢の構築状況は進展し、大部分の金融機関において整備されている。複数口座の開設にあたっては、開設を許容することで直面するリスク(取引の分散によってモニタリングの敷居値が回避されること、不正利用された場合に被害金が増大するおそれがあること等)を踏まえ、各金融機関における適切なリスク低減措置の高度化が期待される。
- 利用者側のアクセス環境や取引の金額・頻度等の妥当性に着目した多層的な検知
- 不正利用が確認された口座と同一の端末等による取引及びアクセス環境(ブラウザ言語、IPアドレスなど)による検知について、対応状況の進展は限定的、依然として対応済の金融機関は半数以下にとどまっている。また、検知項目に関しても金融機関によって差異がある状況。
- アクセス環境による検知については、不正な取引が実行される前段階でのリスク低減措置を可能にするものであり、詐欺等被害の未然防止に有用。検知項目の拡充も含めて、引き続き対応の高度化が期待される。
- 顧客実態に見合わない取引検知についても対応状況の進展は限定的。把握した顧客実態等と照らし不自然な取引の検知及び検知後の適切なリスク低減措置の高度化が期待される。
- 不正の用途や犯行の手口に着目した検知シナリオ・敷居値の充実・精緻化
- 口座の不正利用リスクの高い顧客に対するモニタリング態勢は大部分の金融機関において整備済。もっとも、マネロン等のリスクと口座の不正利用リスクは必ずしも一致しないことから、マネロン等対策上の高リスク顧客に限定することなく、自らにおける口座の不正利用状況等を踏まえ、当該リスクに着目したシナリオの高度化が期待される。
- 詐欺被害特有の取引パターンに関する検知について、対応状況の進展は限定的。口座が不正利用される前段階での予兆取引を的確に捉えることは不正利用の未然防止に有用であり、犯罪手口の変化に応じた継続的な高度化が期待される。
- 不正利用の発生状況等の分析はほとんどの金融機関において実施されており、分析結果を踏まえた検知シナリオの機動的な見直しを実施している金融機関も多い。一方、分析の頻度に関しては年次での実施が多く、頻回化も期待される。
- なお、不正利用の発生が少ない金融機関においては、金融機関間及び警察との連携や、必要に応じて外部機関等を活用して、情報収集を行うことで分析に取り組むことが期待される。
- 検知及びその後の顧客への確認、出金停止・凍結・解約等の措置の迅速化
- 即時性の高いモニタリングの実施状況は進展したものの、全体数としては少ない。検知サイクルが長い場合は詐欺等被害の抑制には限界があるため、より早期に不正取引を検知する態勢の構築が期待される。
- 不正利用防止に向けた速やかな措置の対応状況の進展は限定的。即時性の高いモニタリングの導入とあわせて、システムによる自動制限等、検知後のリスク低減措置の高度化が期待される。
- 判断基準等の明確化は進展し8割近くの金融機関において対応済。もっとも、一度整備したマニュアル等についても、詐欺等被害の状況を踏まえ、継続的な見直しと高度化が期待される。
- 口座開設から不正利用までの期間分析は進展したが、分析頻度は年次にとどまる金融機関も多い。分析の頻回化や分析結果を踏まえた開設直後の口座に対する適切なリスク低減措置の継続的な高度化が期待される。
- 不正利用の時間帯分析の対応状況は進展したものの対応済の金融機関は半数以下。分析を進めるとともに、必要に応じて夜間・休日における取引制限等の態勢構築(自主的なモニタリングに基づく取引制限等も含む)が期待される。
- インターネットバンキングに係る対策の強化
- 非対面における周知状況については低調。「第三者からの依頼ではないか」と注意喚起することは詐欺等被害への気付きの機会として有用であり、IB利用申込時の注意喚起をはじめ、複数のタイミングやチャネルを通じた継続的な周知が期待される。
- IB利用開始から不正までの期間分析は未実施の金融機関が多い。分析に加え、必要に応じて利用制限等の適切なリスク低減措置に取り組むことが期待される。
- 初期利用限度額は6割程度の金融機関で見直しを実施。もっとも、IBによる詐欺等被害が高額となる傾向を踏まえると、継続的に設定金額の妥当性を検証し、必要に応じて見直しに取り組むことが期待される。
- IB利用開始・利用限度額引上げ直後の多額・多頻度の送金検知は約6割の金融機関で対応済。未対応の金融機関においては早期検討と、対応済の金融機関も含め、検知手法とリスク低減措置の継続的な高度化が期待される。
- 利用限度額引上げ時のリスク低減措置は7割弱の金融機関で実施済。IBによる詐欺等の被害金が高額となる傾向を踏まえると、利用限度額引上げ時における適切な低減措置については継続的な高度化が期待される。
- 詐欺等被害の発生状況の分析及び利用限度額の見直しについては大部分の金融機関において実施済。もっとも、一度見直しを実施した金融機関であっても、継続的に分析を行い、現状の設定金額の妥当性の検証し、必要に応じて利用限度額の見直しに取り組むことが期待される。
- 振込名義変更による暗号資産交換業者及び資金移動業者への送金停止等
- 暗号資産交換業者及び資金移動業者に対する異名義送金拒否の対応は限定的、システム改修等を要する場合も多いことから計画的な対応が必要。
- 一方、システム対応までに時間を要する場合であっても、事後的なモニタリングなどの暫定的な対応に取り組んでいる金融機関も一定数認められるところ。各金融機関において、現時点で実施可能なリスク低減措置に積極的に取り組むことが期待される。
- 利用者への周知については半数近くの金融機関において対応済。口座売買等に関する周知(項番1-1)と同様に、様々なチャネルで周知に取り組みことは利用者理解を促すことに有用。異名義送金拒否の対応とあわせて周知に取り組むことも期待される。
- 不正等の端緒・実態の把握に資する金融機関間での情報共有
- 金融機関間の情報共有については大きく進展し、ほとんどの金融機関において実施済。加えて、半数近くの金融機関では月次または四半期での定期的な情報共有が実施されている。一方、金融機関によって口座の不正利用等に関する情報量には差がみられることから、金融機関間での定期的な意見交換を通じて、業界全体の対応能力向上が期待される。
- 警察への情報提供・連携の強化
- 警察庁及び都道府県警察との連携体制については大きく進展し、ほとんどの金融機関で構築済。加えて、8割以上の金融機関においては連携体制の実効性向上に向けた取組が実施されている。詐欺等の被害状況は日々変化していることを踏まえると、連携体制の高度化に向けた継続的な取組が重要。
前述の「マネロン等及び金融犯罪対策の取組と課題」でも指摘されていましたが、法人の実質的支配者(BO)の特定の実務が形骸化している、あるいは実効性を確保できていない点は大きな課題です。この点、政府は、マネロン対策や経済安全保障強化のため、BO情報の届け出を義務付ける新法を制定する方針を固めたと読売新聞が報じています。国際社会ではBO情報の把握を求める声が強まっていますが、先進7か国(G7)では日本のみ法制度が未整備の状況です。早ければ2026年秋の臨時国会に法案を提出するといいます。新法では、非上場を含む全ての法人にBO情報を把握させ、法務局などの公的機関に届け出ることを義務付ける方針で、捜査当局や関係省庁がBO情報を迅速に照会できるようにし、虚偽の届け出には罰則も検討するというものです。現在も法人の登記簿から代表取締役などは把握できますが、背後にいる株主などBOの把握は難しい現状があります。犯罪組織が資金の流れを見えにくくするため、実態のない法人を「隠れみの」にするケースもあり、こうした法人を実質的に支配する人物を特定する必要性が国際的に高まっています。日本では法務局が株式会社の「実質的支配者リスト」を保管する制度はあるものの、提出は任意で、変更時の届出も義務化されているわけではありません。法整備によりBOに関する情報を、「闇バイト」事件に関与するトクリュウの実態解明などにつなげる考えです。また、外国人による土地の所有状況の把握に役立てることも検討、経済安全保障の観点から、経済制裁の対象者が法人の背後にいるか確認することへの活用も想定しています。英国やドイツなどG7各国は、法人に対してBOの名簿を作成し、政府機関に登録することなどを義務付けています。FATFは2021年の第4次対日審査で、法人の悪用防止などに関する法整備の遅れを指摘し、BO対策の強化を勧告しました。日本は2028年夏頃に、次のFATFの審査を控えており、審査で評価が低下すると日本の金融機関への信用が落ち、取引が冷え込む懸念もあることから、政府は早期に法整備を進め、法人の違法利用を防ぎたい考えです。
貿易取引を装って犯罪収益を米国から送金するマネロンを警視庁が摘発、特殊詐欺の被害金を隠すグループとみられています。国境をまたぐ組織的なマネロン対策が問題になる中、不審な取引情報を検知する取り組みも進んでいます。警視庁は、マネロンの指示役とみられる中国籍の会社代表ら5人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで逮捕、現金の引き出し役を含めると、30~60代の男女7人を摘発しました。容疑者らの逮捕容疑は2023年9月、犯罪収益の可能性を認識しながら、精密機器の輸出代金と偽って約19万4千ドル(当時のレートで約2800万円)を日本の法人口座に入金して隠した疑いです。グループは米国在住の被害者がSNS型投資詐欺でだまし取られた被害金を米国から送金した後、別の法人口座にインターネットバンキングで移し替え、当日のうちに2カ所の郵便局の窓口で引き出し役が出金した疑いがあります。容疑者らは虚偽の取引書類(インボイス)を作成、銀行からの電話の問い合わせに貿易による正当な事業収入と説明したといいます。今回の事件は不審な取引と判断した銀行が警視庁に連絡して発覚したものです。海外の特殊詐欺を日本でのマネロン事件として摘発するのは異例で、警視庁は容疑者らが2023年以降に少なくとも約2億円を不正に送金していたとみており、今後、米国の特殊詐欺事件との関係についても調べるとしています。国際送金サービスや暗号資産の悪用をはじめ、国境をまたぐ資金洗浄の対策は国際社会の大きな課題となっています。取引情報を集約・分析する海外の資金情報機関(FIU)と日本側のやり取りは近年活発化、輸出入を装う手口は「貿易マネロン(TBML=Trade-Based Money Laundering)」と呼ばれ、貴金属や電子機器、食品などの架空の取引や過大な代金の申告によって犯罪収益を移転させる手口です。2000年代以降、各国当局が注目するようになりましたが、膨大な取引の中から不正を見つけ出すのは難しいうえ、物品の価格が不自然かどうか見分けるのも容易ではありません。FATFは2020年の報告書で「TBMLはプロのマネロン組織が最も好んで用いる手法の一つ。公的機関による貿易取引の監視が追いついていない」と指摘しています。日本ではようやく官民の対策が動き始め、財務省は2025年12月、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクと覚書を結び、貿易マネロンの水際対策のために情報交換を進め、インボイスをチェックする税関も含めて不正の検知につなげる狙いがあります。また、貿易業務の電子化サービスを手掛けるトレードワルツは2025年10月、3メガバンクやNTTデータと貿易マネロン対策に関するワーキンググループを立ち上げ、銀行間でのノウハウや官民でデータを共有する仕組みづくりなどを議論しています。ワーキンググループに加わる近畿大の花木正孝教授は日本経済新聞で、巧妙な貿易マネロンに対抗するために「官民で貿易データを共有する仕組みが必要だ。その場合に国が主導してデータ利用に関するルールを整えることも欠かせない」と指摘、そのうえで「今後、各国で同様な仕組み作りが進むと想定される。日本も他国に遅れず対策を整えることが、国際社会全体での犯罪の抑止につながる」と話しています。
警察庁は、欧州警察機関(ユーロポール)や10カ国などが参加した国際共同捜査で、犯罪グループのマネロンを請け負ってきたサイトの管理者2人を逮捕しました。洗浄した資金はランサムウエア(身代金ウイルス)による被害金など3億3600万ユーロ(約622億円)以上の疑いがあり、共同作戦でサイトの閉鎖やサーバーの強制停止などを行い、壊滅に追い込みました。逮捕されたのは、ロシア国籍とウクライナ国籍の男2人で、マネロンサイト「AudiA6」を運営する中核人物とみられ、米当局などがジョージア国内で2人の身柄を拘束したといいます。男らは不正に入手した大量のアカウント間で暗号資産の移転を繰り返し、資金の流れを追跡できなくさせる「ミキシング」というサービスを提供、犯罪グループがランサムウエアやハッキングで得た暗号資産を、受け取りから1時間程度でマネロンして返金し、3~10%の手数料を得ていたといいます。ミキシングサービスは悪質な犯罪インフラの一つであり、中でもAudiA6は「闇のインフラ」として、世界中のランサムウエア攻撃や暗号資産の窃取を行う犯罪集団が利用してきたといいます。警察庁サイバー特捜部が2024年に世界で初めて資金移動の解析や追跡に成功、ランサムグループの摘発につながった実績を買われ、2025年7月に欧米以外から唯一、共同捜査に加わりました。サイバー特捜部は今回、海外当局が押収したサーバーのデータを復元、マネロンに使われた約6000件のアカウント情報やメールデータなどを割り出し、管理者の特定につなげたといいます。多くが、ロシア語圏の人物のものだったといいます。また、2020年以降に日本国内の行政機関や企業などで約90件確認されたサイバー攻撃について、警察庁が2024年中ごろに暗号資産の流れを解明する「デミキシング」に成功、2025年2月、国際捜査でランサムウエア攻撃をした疑いでロシア国籍の男性4人の逮捕につながりましたが、このグループがAudiA6を使っていたといいます。各国の捜査当局はAudiA6が運営するウェブサイトを無害化し、男らの資産を凍結しました。警察庁の担当者は「AudiA6は『汚いお金をきれいにできる』と宣伝した。中核的な犯罪インフラであるミキシング業者を壊滅した意義は大きい」としています。
警察庁 ミキシングサービスの管理者逮捕に関するユーロポールのプレスリリースについて
- プレスリリースの概要
- ユーロポールは、ランサムウエアグループを中心とした犯罪グループが犯罪収益の洗浄のために利用していた暗号資産のミキシングサービスの管理者とみられるロシア国籍、ウクライナ国籍の被疑者2名を逮捕するとともに、被疑者グループが運営・管理するウェブサイトのテイクダウンや被疑者らの資産凍結等を行った旨をプレスリリースした。
- 同プレスリリースにおいては、オペレーション参加国として、日本警察についても言及されている。
- 日本警察の協力
- 関東管区警察局サイバー特別捜査部は、関係国から被疑者グループが使用していたサーバデータの提供を受け、犯行実態を明らかにするデータの復元に成功するなどして本オペレーションに貢献した。
- 引き続き、サイバー空間における一層の安全・安心の確保を図るため、外国捜査機関等との連携を深め、サイバー事案の実態解明や厳正な取り締まりを推進する
オンラインでの証券取引で、安全性が高いとされる認証方法「パスキー」が必須になります。証券口座の乗っ取り事案の発生を受け、対策を強化する狙いがあります。金融庁や日本証券業協会は2025年、不正取引の急増を受けて指針を改正し、フィッシング耐性がある「多要素認証」を必須化、大手各社は、生体認証など2種類以上の方法を組み合わせる多要素認証の中でも安全性が高いパスキーの導入を進めており、2026年6月末にはパスキーがないと原則ネット取引ができなくなりました。ただ、特に高齢の投資家を中心に戸惑いが広がるなど、設定の難しさなどもあって顧客への浸透は難航、証券各社が対応に追われています。金融庁によれば、オンライン証券口座の不正アクセスは2025年、約1万8000件に上りました。2025年4月をピークに減少したものの、2025年5月も194件と依然続いています。パスキー導入など証券各社の対策は進んでいるものの、犯罪手口も巧妙化しています。パスキーは、利用者のスマホやパソコンなどのデバイスに生成する「秘密鍵」を使って本人だと「署名」し、それをサービス提供者側が保存する「公開鍵」で検証する認証方法で、生体認証などで自身しか利用できない端末を用いて本人確認するため、安全性が高いとされ、パスワード入力などは不要となり、利便性も高まります。専門家は「適切に利用すればセキュリティは劇的に向上する」と指摘、ただ、古い機種ではパスキー登録ができないものがあるほか、端末を紛失すると復旧に時間がかかる場合があるのも難点です。最近の不正アクセス拡大は、利用者を偽サイトに誘導してパスワードなどを盗む「フィッシング詐欺」によるもので、生成AIの登場で自然な日本語の偽メールや偽サイトが簡単に作れるようになり、犯罪手口も進歩しています。別の専門家は「犯罪の垣根が下がった」と指摘、「何事も絶対安全はない」と強調し、対策を強化する必要性を訴えています。一方、今後新たな手口が広がって対応コストがさらに重くなれば業界再編につながる可能性も指摘されています。2026年3月には岡三がネット証券サービス「岡三オンライン」をSBIに譲渡すると発表、口座乗っ取り被害を受けたセキュリティー対策が重荷となり、事業の採算が合わなくなったとみられています。「いたちごっこの戦いから降りることは企業の存続に関わる」との危機感をもって対応し続けることが重要だといえます。
金融機関をかたる電話で口座情報を盗む「ボイスフィッシング」で、企業を標的とした新たな手口が広がっています。遠隔操作ソフトをインストールさせ、乗っ取った企業の端末から送金手続きをするもので、全国30社以上で総額10億円以上の被害が把握されており、被害の入り口となった電話は、「+」で始まる国際電話番号ばかりで、サイバー犯罪グループが関与したとみられています。企業端末を隠れみのに不正検知を免れる巧妙な手口であり、警察庁や金融機関が注意を呼びかけています。ボイスフィッシングは主に金融機関をかたって企業に電話をかけると、自動音声が流れ、電話を受けた社員が指示に従って番号を押すとオペレーター役につながり、その後、偽サイトに誘導され、法人口座の認証情報を盗み取られるものが典型的な手口です。警察庁によれば、詐欺グループは偽サイトに誘導する段階で、企業担当者に「セキュリティ強化のためのソフト」などと偽って端末に遠隔操作ソフトをインストールさせ、遠隔操作で「システム更新中」といった偽の画面を表示する間に、偽サイトで盗み取ったIDやパスワードを使って法人口座にログイン、企業担当者の端末から不正送金をするといいます。金融機関は端末ごとに割り当てられる情報など複数の要素から不正送金の疑いを識別しており、従来の手口は盗んだIDやパスワードを使うものの、送金では詐欺グループ側の端末を使っていたところ、新しい手口は被害企業の端末のため識別が難しいのが特徴です。大手銀行の担当者は「企業の端末が遠隔操作されるため、正当な取引との見分けがつきにくい。金融機関による不正検知を回避するやり方だ」と警戒しています。被害は全国で相次いでおり、数億円規模のケースもあるといいます。また、電話でのやりとりを通じて企業の資産状況を探り、標的を絞っている可能性があります。警察庁と金融庁、全国銀行協会、日本サイバー犯罪対策センター(JC3)は、連名で注意喚起の文書を公表、企業に求められる対策として、金融機関をかたるメールにあるURLにアクセスしないことや、金融機関から連絡があった場合に折り返し電話をかけて虚偽でないことを確かめるよう注意を促しています。警察庁によれば、2025年に法人を狙った不正送金の被害額は約47億円で、そのうち9割超がボイスフィッシングによるものでした。2025年12月以降は目立っていませんでしたが、2026年5月になって再び被害が増えました。金融機関は口座取引の監視を強めており、取引金額や振込先の変化などさまざまな観点から不審な動向に目を光らせており、送金目的を企業に確認するため、従来よりも頻繁に取引の一時停止に踏み切る銀行もあります。警察庁の担当者は詐欺の手口を社内で共有する必要性を挙げたうえで「組織内で送金の作業者と承認者を分け、確認を徹底する仕組みを築くことも重要だ」と話していますが、筆者もこの問題の本質は「内部統制システムの脆弱性」にあり、一定金額以上など適切なルールに沿って、適切な牽制を効かせた形で送金業務を行うことが被害防止にとって重要だと考えます。
ビジネスメール詐欺の被害も相変わらず発生しています。警視庁築地署は、東京都中央区のIT会社が、社長になりすました人物からの指示で、現金8000万円をだまし取られる詐欺被害にあったと発表しました。報道によれば、同社社長を名乗る人物から、60代の経理担当社員の女性にメールが届き、「業務を円滑化するため」として、SNSでのやり取りに誘導され、その後、SNSで「今すぐ2000万円を送金して。これから相手企業と契約を締結する」と指示され、翌日には別の企業への送金も指示され、信じた女性は複数回、自社口座から計8000万円を指定された口座に振り込んだといいます。女性から相談を受けた顧問税理士が社長本人に連絡し、被害が判明しました。女性に届いたメールは中国から発信されていたといい、同署が詳しい状況を調べています。
インターネット上の投稿がどのような場合に「違法情報」に当たるかを具体例と根拠法令で示し、プラットフォーム事業者やホットライン等が削除・通報の判断を行うための指針である「違法情報ガイドライン」において、なりすまし型偽投資広告の削除や「送金犯罪」の依頼などの削除を新たに追加することが総務省の検討会で議論されています。以下、ポイントを紹介します。
▼ 総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会(第11回)
▼ 資料11-1 違法情報ガイドラインの改定について
- 「違法情報ガイドライン」の改定
- なりすまし型偽投資広告関係(刑法)
- 令和7年のSNS型投資詐欺の認知件数は9,523件(前年比3,110件増)、被害額1,288億円(前年比416.9億円増)と前年から増加。接触手段としてはバナー等広告が最多(3,785件)で、令和7年3月以降増加傾向。
- 令和7年6月に施行した刑事デジタル法により、電子データをもって作成される文書の偽造等の罪(刑法:私電磁的記録文書等の偽造罪・行使罪)が創設され、なりすまし型偽投資広告も同罪に該当し得る。
- 「なりすまし型偽投資広告」を新たに追加
- 「送金犯罪」の依頼・誘引関係(犯罪による収益の移転防止に関する法律)
- 近年、特殊詐欺等の犯罪を実行する犯罪グループがその被害金について、他人から預貯金口座を譲り受けるのではなく、他人に依頼して、マネー・ローンダリングをさせる新たな手口(「送金犯罪」)がみられる。
- 令和8年6月10日、犯収法の一部を改正する法律が公布され、同法において、上記依頼行為等に対する罰則が創設された(令和8年7月10日施行)。
- 「「送金犯罪」の依頼・誘引行為」を新たに追加
- 化粧品に関する広告関係(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)
- 化粧品は、輸入品を含め、効能・効果等に関する虚偽・誇大広告の禁止など薬機法に基づく広告規制の対象となる。近年、化粧品に係るインターネット上での違反広告が見られるとの指摘が上がっており、化粧品の広告の適正化が求められている。
- 化粧品の国内市場規模は約3兆円弱であるが、近年は諸外国からの輸入が大きく増加している傾向にある。
- 「医薬品・化粧品・医療機器等の効能・効果等に関する虚偽・誇大広告」の記載の明確化
- なりすまし型偽投資広告関係(刑法)
- 改定案(なりすまし型偽投資広告(刑法))
- なりすまし型偽投資広告(偽造私電磁的記録文書等行使の罪(刑法(明治40年法律第45号)第161条第1項、第159条第1項第2号、第3項)
- 著名人の名義を無断で使用して虚偽の投資実績を紹介する内容を表示するなどして偽造された事実証明に関する電磁的記録文書等をインターネット上に流通させるなどして行使した場合、関係法令に違反し得る。投資に関する広告に関し、下記(1)から(3)までの要件を満たす場合には、偽造私電磁的記録文書等行使の構成要件を満たすなりすまし型偽投資広告を掲載する行為に該当する情報であると判断することができる。
- なお、「電磁的記録文書等」とは、文書等(文書又は図画)として表示されて行使されることとなる電磁的記録をいう。
- 権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録文書等であること
- 「権利義務に関する電磁的記録文書等」とは、権利義務の発生、変更、消滅の要件になる文書あるいはその原因となる事実について証明力のある電磁的記録文書等であり、「事実証明に関する電磁的記録文書等」とは、社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる電磁的記録文書等である。例えば、
- 具体的な投資先に投資を行い利益が出たことを記載するなど投資実績を表示する広告
- 名義人が開催するセミナーの参加者が投資により具体的に利益が出ていることを表示したセミナー勧誘広告は、「事実証明に関する電磁的記録文書等」に該当し得る。
- 「権利義務に関する電磁的記録文書等」とは、権利義務の発生、変更、消滅の要件になる文書あるいはその原因となる事実について証明力のある電磁的記録文書等であり、「事実証明に関する電磁的記録文書等」とは、社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる電磁的記録文書等である。例えば、
- 偽造されたものであること
- 「偽造」とは、電磁的記録文書等の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽ることである。
- 例えば、実在する著名人の同意を得ることなく、当該著名人の名前を使用するなどして、当該著名人になりすまし、当該著名人が名義人となった前記(1)で例示したような広告は、「偽造」に該当し得る。
- 「偽造」とは、電磁的記録文書等の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽ることである。
- 行使したこと
- 「行使」とは、偽造電磁的記録文書等を真正なものとして使用することである。例えば、
- SNS上に前記(1)及び②に該当する電磁的記録文書等を掲載する行為は、「行使」に該当し得る注。
- 注:SNS上に投稿した広告のリンク先に、前記(1)及び(2)に該当する電磁的記録文書等を掲載する行為も偽造私電磁的記録文書等の「行使」に該当し得る。
- SNS上に前記(1)及び②に該当する電磁的記録文書等を掲載する行為は、「行使」に該当し得る注。
- 「行使」とは、偽造電磁的記録文書等を真正なものとして使用することである。例えば、
- 権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録文書等であること
- 改定案(「送金犯罪」の依頼・誘引(犯収法))
- 「送金犯罪」注の依頼又は誘引行為(犯罪収益移転防止法第32条第1項及び第2項後段)
- 「送金犯罪」の依頼等の情報をインターネット上で流通させた場合、関係法令に違反し得る。
- 次のすべてを満たす情報は、当該情報をインターネット上に流通させる等の行為が犯罪収益移転防止法違反(「送金犯罪」の依頼等)の構成要件に該当する情報であると判断することができる。
- (「送金犯罪」をするよう依頼又は誘引する行為:犯罪収益移転防止法第32条第1項関係)
- 「送金」、「振込み」、「暗号資産の移転」等の預貯金契約等に係る役務を利用して財産を移転することを意味する表現が記載されていること
- 「有償」、「報酬」、「即金」、「手数料」等の有償であることを意味する表現が記載されていること
- 「副業」、「案件」、「バイト」、「送金するだけ」、「送金してください」等の依頼又は誘引する表現が記載されていること
- (「送金犯罪」の実施を自己に依頼するよう誘引する行為:犯罪収益移転防止法第32条第2項後段関係)
- 「送金」、「振込み」、「暗号資産の移転」等の預貯金契約等に係る役務を利用して財産を移転することを意味する表現が記載されていること
- 「有償」、「報酬」、「即金」、「手数料」等の有償であることを意味する表現が記載されていること
- 「副業」、「案件」、「バイト」、「送金します」等の誘引する表現が記載されていること
- 注:通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で預貯金口座等の金融サービスを利用して自己以外の者に財産を移転する行為のこと。「送金バイト」等と表記されることもある。
金融機関と金融庁の間の意見交換会における主な論点について、直近の資料が公開されています。主要行等との会合で示された論点から一部紹介します。
▼ 金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼ 主要行等
- 2026年2月13日付け金融活動作業部会(FATF)声明に係る要請について
- 2026年2月11日から13日の間に開催されたFATF全体会合において、資金洗浄・テロ資金供与対策上、重大な欠陥を有する国・地域に係る声明が採択された。
- 同声明においては、北朝鮮及びイランを対抗措置の適用が要請される国・地域とし、ミャンマーを同国より生ずるリスクに見合った厳格な顧客管理措置の適用が要請される国・地域としている。また、イランについては、今回から以下の対抗措置が追加された。
- イランの金融機関及び暗号資産サービスプロバイダーの支店等の設置拒否
- 金融機関及び暗号資産サービスプロバイダーによるイランにおける支店等の設置禁止
- イラン又はイランに所在する者との事業関係若しくは暗号資産取引を含む金融取引のリスクに応じた制限
- 金融機関及び暗号資産サービスプロバイダーの新たなコルレス関係構築の禁止及び既存のコルレス関係のリスクに応じた見直しの実施
- これを受け、2026年4月13日、関係する金融機関・協会に対し、金融庁を含む関係省庁から、要請文(「令和8年2月13日付けFATF声明を踏まえた犯罪による収益の移転防止に関する法律の適正な履行等について」)を発出した。
- 同要請文においては、犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づく取引時確認義務、疑わしい取引の届出義務及び外国為替取引に係る通知義務の履行の徹底等を求めているところ、傘下金融機関への周知・徹底をお願いしたい。
- マネー・ローンダリング等及び金融犯罪対策に係る最近の動向について
- マネー・ローンダリング等及び金融犯罪対策については、法令やガイドライン等の改正を含めて留意すべき点が多いため、直近の動向をまとめて御紹介する。
- 有効性検証の事例集更新について
- 金融機関が変化するマネー・ローンダリング等リスクに対して態勢を維持・高度化する取組である「有効性検証」については、実施にあたり参考となる考え方や、金融機関における取組事例集を2025年3月に公表した。
- 公表から約1年が経過した中、金融機関における「有効性検証」の取組を更に促進するため、2026年3月に、これまでに実施してきたモニタリング等で把握した預金取扱金融機関・暗号資産交換業者・資金移動業者等の事例を取組事例集に反映し、更新した。
- 金融機関においては、更新した事例集も参考に、引き続き「有効性検証」に取り組んでいただきたい。
- 預金取扱金融機関間の不正利用口座情報共有枠組みの創設に伴う制度改正等について
- 「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」の施策の1つとして、「預金取扱金融機関間において不正利用口座に係る情報を共有しつつ、速やかに口座凍結を行うことが可能となる枠組みの創設」が盛り込まれているところ、本枠組みの実現に向け、官民が連携して取り組むことが重要である。
- 国としても取組を支援するため、令和7年度補正予算において措置された「預貯金口座不正利用対策高度化推進事業」において、システム構築費用に係る補助対象事業者を2026年3月に決定した。
- くわえて、金融機関間で情報共有を行うための根拠規定の措置等を内容とる犯罪収益移転防止法施行規則及び監督指針の改正案に係るパブリックコメントを開始(2026年3月27日~同年4月27日)したので、内容を御確認いただきたい。
- マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドラインの改訂及びFAQの公表について
- マネー・ローンダリング等対策について、これまで、金融機関においては、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドラインで対応が求められている事項について、2024年3月末までに対応を完了させ、マネー・ローンダリング等リスク管理の基礎的な態勢を整備いただいた。
- 今般、預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策強化やFATF第5次審査のメソドロジー等、金融機関を取り巻く環境変化等を反映する形で、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン及びFAQを2026年3月に改訂し、公表した。
- 金融機関においては、改訂後のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン及びFAQも踏まえ、引き続き態勢の維持・高度化に取り組んでいただきたい。
- 口座不正利用対策強化に係る要請文のフォローアップ結果について
- 2025年9月に要請した口座不正利用対策強化に係る要請文への各金融機関の対応状況を確認するため、11月から12月にかけて、2回目のフォローアップアンケートを実施した。
- 対応状況を集計・分析した結果は、2026年4月以降、金融機関向けに説明会を順次実施するほか、6月を目途に概要を公表予定である。
- 2025年1月の前回アンケートと比べ、口座売買等の違法性の周知や口座不正利用の態様分析等は進展が見られた一方、オンライン取引のアクセス環境に着目した不審取引の検知や検知した不正取引に対する適時の保留・制限等システム対応を要する項目の進展は限定的となっている。
- フォローアップは今後も継続的に実施していく予定であり、システム開発等、一定の時間を要する対応事項もあることから、各金融機関においては計画的に対策を講じ、口座の不正利用対策の一層の強化に取り組んでいただきたい。
- サイバーセキュリティに関する取組について
- 耐量子計算機暗号(PQC)移行に係る実証実験の実施について
- PQC移行は、将来にわたり金融業界のビジネスを維持していくために不可欠な取組である。このため、金融庁においては、金融機関による円滑な移行を支援する目的で、PQC移行に係る実証実験を実施する。
- 具体的には、(1)金融庁の委託事業者による一部金融機関へのクリプトインベントリ構築支援、(2)実証実験で得られた知見を纏めたレポート・手引書の金融業界全体への展開等を行う予定である。
- (1)については様々な協会を通じて実証実験の参加希望に関するアンケートを発出したところ、多数の金融機関から前向きな回答をいただいた。今後、対象となる金融機関に対し、順次声がけを行う予定であるため引き続きの御協力をお願いしたい。
- (参考1)耐量子計算機暗号(PQC:Post-Quantum Cryptography)とは、将来、量子コンピュータが実現・普及した場合に、現在広く利用されている暗号技術が解読されるリスクが高まることを踏まえ、量子コンピュータが実用化された場合でも解読ができないと考えられる暗号技術を指す。
- (参考2)クリプトインベントリとは、情報システム内で、どこに、どの暗号を利用しているかを一覧化した資料であり、PQC移行に取り組むにあたり最初に着手すべき重要な作業。
- 金融機関のサードパーティ・サイバーセキュリティリスク管理強化に関する調査報告書の公表について
- 2026年4月3日に「金融機関のサードパーティ・サイバーセキュリティリスク管理強化に関する調査報告書」を公表した。重要性が高まっているサードパーティのサイバーセキュリティリスク管理について、米国・EU・英国の大手銀行及び大手保険会社における管理手法等を調査したものである。
- 各金融機関においては、本報告書等を参考に、サードパーティに係るリスク管理の高度化に取り組んでいただきたい。
- (参考)サードパーティとは、自組織がサービスを提供するために、業務上の関係や契約等を有する他の組織をいう(例:システム子会社やベンダー等の外部委託先、クラウド等のサービス提供事業者、資金移動業者等の業務提携先、API連携先)。
- 耐量子計算機暗号(PQC)移行に係る実証実験の実施について
国内外のマネロン等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 中国の人民元から日本円へ両替する「地下銀行」を営んだとして、警視庁と沖縄県警は銀行法違反(無許可営業)の疑いで、いずれも中国籍の26歳と24歳の男2人を銀行法違反(無許可営業)容疑で逮捕しました。警視庁は、特殊詐欺でだまし取った日本円がこの地下銀行に持ち込まれ、これらの現金を不正に人民元へ両替するなどしてマネロンの目的があるとみて警視庁が実態を調べています。報道によれば、2人の逮捕容疑は2025年6~12月、銀行業の免許がないのに中国人留学生の依頼を受け、約5万元を受け取り、約120万円を渡す為替取引をしたというもので、両替には東京都内のマンションの一室が使われ、男らは留学生にスマホの決済サービスで人民元を送金させ、同額相当の日本円を現金で渡していたといいます。警視庁は男2人の仲間とみられる別の中国籍の27歳の男も詐欺容疑で逮捕しました。男は2025年6月、他の者と共謀し、沖縄県の80代の女性からニセ警察詐欺で現金500万円をだまし取った疑いがあり、その後、この500万円の多くは男を通じて地下銀行に持ち込まれた可能性があるといいます。これまでに警視庁は特殊詐欺グループとみられる中国籍の男6人を摘発、このグループがだまし取った現金約3億2千万円の多くが、地下銀行に流れていた可能性があるといいます。中国では、人民元を外貨に換える場合、年間上限額などの制約があり、地下銀行を介した不正な両替に一定の需要があります。男らは、人民元を日本円に換金したい中国人留学生らをSNSなどで募集、捜査幹部は「地下銀行の利用者が時代とともに変わってきている」と指摘、かつては不法滞在で口座を正規に開設できない外国人が利用し、出稼ぎなどの金を母国へ仕送りするケースが目立ったものの、近年は特殊詐欺グループなどが被害金をマネロンするために使うようになったといいます。一方、国内での地下銀行の摘発は少なく、警察庁の統計では、地下銀行の摘発は2025年に全国で4件、2021~24年も各年8件にとどまっており、地下銀行への依頼者は通常よりも安い手数料で国外に送金できるため、捜査幹部は「ウィンウィンの関係で警察に相談が来ず、実態が明るみに出づらい」と述べています。
- マネロンに使われた預金口座の暗証番号を何者かに提供したとして、滋賀県警は、犯罪収益移転防止法違反の疑いで、大分市の芸能事務所代表を逮捕しました。また、県警は暗号資産口座を開設してパスワードを送ったとして、電子計算機使用詐欺などの疑いで、3人の容疑者も逮捕しました。報道によれば、2025年11月、滋賀県内の中小企業計19社が滋賀銀行の口座情報を盗まれ、計約3億4900万円を不正送金される被害が発生、うち1社の2000万円が、4人の口座を経由し暗号資産取引所に送られていたものです。
- 熊本地検は、熊本県八代市の新市庁舎建設を巡る汚職事件であっせん収賄で得た犯罪収益の一部をマネロンしたとして、同市議の成松被告=あっせん収賄罪で起訴=ら4人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で起訴しました。報道によれば、成松被告ら4人は2026年4月、東京都内の3カ所のコンビニエンスストアで店内に設置されたATMを使用し、知人のウェブ制作会社名義の口座に41回にわたり、あっせん収賄で得た犯罪収益の現金計約2000万円を入金したとされます。
- 米証券取引委員会(SEC)は、バンク・オブ・アメリカ(BofA)の証券部門メリルリンチ(BofAセキュリティズ)に対し、マネロンなど顧客の不審な活動に関する報告義務を怠ったとして、750万ドルの罰金を科しました。SECは同部門が2020年4月から2024年9月にかけて多数の不審取引報告書(SAR)を提出しなかったとしています。メリルは罰金の支払いに同意したものの、不正行為の有無については認否を留保しています。SECによれば、メリルは調査に協力し、不審事象の内部審査基準を引き下げた後、多数のSARを提出、BofAは声明で、厳格なマネロン対策を実施しており、不審な活動を検知・報告するために関連システムを継続的に見直していると述べています。
- FATFは、金融犯罪などへの取り組みに関して監視強化が必要な国を意味する「グレーリスト」にイラクとボスニアを追加しました。声明で「総会は、金融システムを悪用する犯罪者やテロリストに対する防御強化と、銀行部門の効果的な監督確保に向けた取り組みが必要であることから、ボスニア・ヘルツェゴビナをグレーリストに追加した」と説明、また、イラクについても「現金に関連したリスクへの取り組み、マネロンやテロ資金供与の捜査と金融情報活用の強化に向けた取り組みが必要であるため」リストに追加されたといいます。イラクのアリ・ザイディ首相は2026年5月の就任以来、国内経済の再建、海外投資誘致、汚職撲滅が政権の中心課題になると発言しています。
(2)特殊詐欺を巡る動向
英国の銀行で詐欺による損失額が急増しています。テクノロジーを悪用した詐欺が急増したコロナ禍以来の大幅な伸びとなりました。詐欺の多くがメタなどのプラットフォーム企業を経由しているため、政府に対しこうした企業への規制強化を求める声が高まっています。業界団体「UKファイナンス」のデータによれば、投資詐欺や購入詐欺など、犯罪者が被害者をだまして送金させる「APP(承認済み送金)詐欺」による損失額は2025年、19%増加して5億7640万ポンド(約7億7278万ドル)となりました。今回のデータは、2024年10月に導入されたルールの見直しの時期と重なります。同ルールは、銀行や決済会社に対し、こうした詐欺の被害者に最大8万5000ポンドまで返金することを義務付けています。APP詐欺の返金を義務付けているのは現時点で英国だけです。UKファイナンスの経済犯罪担当ディレクター、ルース・レイ氏はロイターに対して、詐欺師はAIの助けを借りてソーシャルエンジニアリングの手法を高度化させており、被害者の層が広がっていると述べています。
米Googleは2026年6月、「Outsider Enterprise」と呼ぶ中国拠点のサイバー犯罪組織に対し、ニューヨーク連邦南部地区裁判所に民事訴訟を提起したと発表しました。組織が同社のAI「Gemini」を悪用してフィッシングサイトを大量生成し、米国を中心に多数の被害者から金融情報を詐取したとしています。GoogleがGeminiの不正利用を理由に提訴するのは今回が初めてとなります。この組織は、プログラミングの知識を持たない者でも数分でフィッシングサイトを構築できる「Outsider」と呼ぶアプリを中心に展開されており、このアプリは週額88ドルあるいは月額200ドル(いずれも暗号通貨USDTで支払い)のサブスクリプション制で販売され、2025年8月から2026年3月の間に250件超のライセンスが販売されたといいます。ソフトウェアにはGoogle、YouTube、Google Pay、米郵便公社(USPS)、ニューヨーク州の有料道路決済「E-ZPass」など信頼性の高いブランドを模した290種類超のテンプレートが用意されており、リアルタイムのキーロギング機能や攻撃成果を追跡するダッシュボードまで備えていたといいます。組織は、開発担当、ターゲットリスト提供担当、スパム配信グループ、個人情報の現金化担当の4グループで構成され、Telegramの複数チャンネルを通じて連携していました。GeminiはフィッシングサイトのHTMLコードを生成するために悪用されたといいます。被害の規模は甚大で、159万件以上のURLが同組織と紐づくとして検出され、ピーク時には1日に6万2993件の新規フィッシングページが確認され、2026年5月~6月の2週間だけで250万件のフィッシングテキストがAndroidユーザーに送信され、同期間にGoogleの「メッセージ」アプリへのスパム報告は5万5000件を超えたといいます。訴状では10万人以上が被害に遭ったと記載されており、複数の米メディアによると、米連邦捜査局(FBI)はクレジットカード番号の窃取件数を387万件、2023年7月以降の損失総額を約19億ドル(約2800億円)と推計しているといいます。
オンライン詐欺組織が拠点を移転している状況が明らかになってきました。以下、オンライン詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- カンボジアやミャンマーで相次ぎ摘発を受けているオンライン詐欺の国際犯罪組織が、活動拠点をスリランカに構築しようとしています。中国系組織などは東南アジアの拠点を通じて日米など各国での特殊詐欺事件に関与し、数十億ドル(数千億円)を稼いできたとされますが、対応が後手に回るスリランカが狙われているもようです。スリランカの警察と入国管理局、軍情報機関が、最大都市コロンボや地方の高層マンションなどを複数回にわたって合同で捜索し、越境犯罪組織が足場を築こうとしている実態が浮き彫りになりました。捜査チームは2026年6月中旬、詐欺拠点と疑われるコロンボの施設を夜間に一斉摘発し、中国人18人を拘束、同5月にはコロンボ郊外で女性1人を含む中国人37人を拘束しました。警察の報道官は「オンライン詐欺はすさまじい規模で報告されている」と述べています。当局の取り締まりは成果を上げており、税関は同4月中旬、スリランカ最大の国際空港で、詐欺に悪用できる通信機器を所持する中国人9人を逮捕、押収品には中古携帯電話383台、タブレット端末101台、Wi-Fiルーター6台が含まれていたといいます。詐欺拠点の疑いがある施設の捜索で、スリランカ当局は2026年だけで700人超の外国人を拘束、国籍は中国、インド、ネパール、インドネシア、ミャンマー、ベトナム、フィリピンなど多岐にわたるといいます。スリランカは2024年にも世界的な詐欺拠点として浮上したことがありましたが、その年でさえ拘束人数は430人に過ぎず、非政府組織(NGO)「国際組織犯罪に対するグローバルイニシアチブ」の専門家ジェイソン・タワー氏は、東南アジアでのオンライン詐欺の先駆けとなったフィリピンのオンラインゲーム拠点から「2024年までに数千人がスリランカに移動した」と分析、2025年10月以降のタイ・カンボジア国境とタイ・ミャンマー国境の不安定化が「東南アジアからのより大規模な(犯罪組織の)流出を引き起こした」と指摘しています。
- アフリカ西部にある最貧国の一つ、シエラレオネを拠点とする犯行グループのもとで、日本にいる人を狙った特殊詐欺事件に関与したとして、兵庫県警は、神奈川県内の60代の男ら9人を詐欺容疑で逮捕しました。9人のうち50~79歳の男女6人が同国に渡航し、現地で詐欺電話をかけるなどしていたといいます。特殊詐欺事件をめぐっては近年、カンボジアやミャンマーなど東南アジアにある犯行グループの拠点などで日本人容疑者が現地当局に摘発されるケースが相次いでいますが、アフリカの国を拠点とする特殊詐欺事件で日本人容疑者の関与の疑いが浮上するのは異例といいます。ある警察関係者は「東南アジアでは摘発されやすくなり、拠点を移した可能性もある」とみていますが筆者も同感です。60代の男らは共謀して2025年6月、シエラレオネから日本国内に住む人に電話をかけるなどし、うその事情で多額の現金が必要であるかのように信じ込ませ、数千万円をだまし取った疑いが持たれています。60代の男は、シエラレオネから詐欺電話をかける役割の「かけ子」を日本で募り、勧誘したとする職業安定法違反容疑で逮捕、起訴されているといい、兵庫県警は男が「リクルーター」のグループの上位者とみています。他の詐欺容疑での逮捕者の中には、実際にシエラレオネに渡航し、かけ子として現地から日本に電話をかけた疑いが持たれている人物も含まれるといいます。県警が捜査を始めたきっかけは2025年春ごろにあった「知人がシエラレオネに送り込まれそうになった」との内容の通報だったといい、県警は通報者の知人のスマホの通信記録などを調べ、関与した疑いがある人物を割り出していったといいます。
- タイの人権団体「人身売買被害者支援市民社会ネットワーク(CSNHTV)」によると、ミャンマーのタイ国境付近にあるオンライン詐欺拠点には依然として5300人以上が監禁されているといい、同団体は、タイ警察に書簡を送り、早急な対応を要請しました。団体によれば、監禁されている人々には、中国人が約1600人、ミャンマー人が約200人、タイ人が20人のほか、フィリピン、台湾、マレーシア、ブラジル、ロシア、ケニア、ウガンダ、ルワンダ、ジンバブエの出身者が含まれていると推定されています。人々はミャンマーの民兵組織「民主カレン仏教徒軍(DKBA)」が支配する地域にある4カ所の詐欺拠点に監禁されているといいます。タイは2025年、国境沿いの詐欺拠点の摘発に向けた地域的な取り組みを主導し、ミャンマーのミャワディ地区にある広大な詐欺拠点から約5000人を救出しましたが、大規模な違法活動は依然として続いています。CSNHTVは、こうした拠点の多くはまだ解体されておらず、残りの被害者全員を救出するための救援活動も行われていないため、「犯罪組織はオンライン詐欺や人身売買を継続しており、世界中、特に米国や欧州の人々に被害をもたらしている」と訴えています。
- 東南アジアの特殊詐欺拠点の摘発が相次いでいることを受けて、警察庁は、東南アジア各国との連携を強化するため、タイ・バンコクにリエゾン(連絡担当官)の配置を始めたと発表しました。捜査経験がある警察庁組織犯罪対策部の30代の男性警部補を長期出張の形で派遣するといいます。各国との連携をめぐっては、カンボジア拠点で特殊詐欺に関与したとして、2026年1月に日本人13人が逮捕された事件で現地当局と共同捜査を実施、インドネシア拠点にいた13人が同4月に逮捕された事件は、証拠品の提供を受けて捜査、拠点の摘発には在外公館の職員や、その都度捜査員を派遣するなどして対応しています。今回のリエゾンは各国の捜査機関と顔の見える関係を構築することが狙いで、タイは周辺国の中で詐欺対策を主導しており、各国の当局などが人員を配置しているため情報が集まりやすいとされます。タイを拠点にしながら、摘発時には各国の詐欺拠点へ現地入りし、現場レベルで得た情報から分析を進めるとしています。今回は1人の派遣ですが、必要があれば増員も検討するといいます。警察庁の海外への連絡担当官としては、薬物担当の職員がタイに配置されているほか、サイバー犯罪関連での派遣もあります。警察庁によれば、2025年、日本での特殊詐欺に使われた電話のうち国際電話が75%を占め、タイ、カンボジア、フィリピン、マレーシアの特殊詐欺拠点の摘発に絡み、日本人ら54人を逮捕、2026年は5月末時点でインドネシアなど4カ国の拠点の摘発で、35人が逮捕されました。関連してタイ警察は、特殊詐欺の取り締まりに向けて開発した国際情報共有システム「SHIELD」の運用を開始したと発表しました。システムには日本や中国など11カ国が参画、東南アジアは近年、特殊詐欺の拠点となっており、国境を越えた犯罪に迅速に対応する狙いがあります。各国当局が容疑者の情報や金融取引、過去の事件概要、GPSを使った詐欺拠点の位置などを共有、24時間アクセス可能で、捜査機関間の円滑な情報交換が期待されます。特殊詐欺を巡っては、電話をかける「かけ子」など実行役がタイを経由して隣国に送り込まれるケースが多く、タイ警察によると、システムの開発は、日本とのこれまでの捜査協力がきっかけで、タッチャイ副長官は「システムを運用することで、捜査の効率化や人身取引の被害者の救出につながる」としています。
- カンボジアの特殊詐欺拠点を統括していたオーナーとみられる容疑者が逮捕された事件で、容疑者は生活拠点をタイに置き、ポイペトの詐欺拠点の中華系幹部に詐欺の目標額などを遠隔で指示していたことや詐取した被害金の分配を容疑者が決めていたことが分かりました。自身は30~40%程度を得ていた可能性があるといいます。愛知など6県警合同捜査本部はこの拠点による被害は十数億円以上とみており、他に統括に関係した者の有無や詳しい資金の流れを調べています。報道によれば、運営資金を出す容疑者は部下の報酬も決めており、日本人のかけ子は1人あたり被害金の6~8%程度で1カ月の収入が100万円を超えることもあった一方、全く受け取れない者もいたといいます。人材ブローカーには、日本から拠点にかけ子を1人送り込むごとに100万円以上を支払っていたとみられています。高収入を約束しながらも、実際には報酬はほとんど支払われず、得た金は組織が運営する風俗や賭場に消える仕組みで、拠点は厳重な塀や兵士による監視の下、パスポートを取り上げて軟禁状態に置き、住居や施設も整備されていました。また、脅迫や暴力による過酷な管理が行われており、かけ子たちは午前6時から午後3時まで働き、成績をホワイトボードに記入させ、反省会や過酷な罰を受けるなど、徹底した管理体制が敷かれていたといいます。中国人監視役は、殴る蹴る、ナイフやスタンガンを使った制裁を加えるなど、極めて残虐な行為も行っていたようです。報酬は詐取金の一部と偽っていたものの、実際にはほとんど支払われず、多くのかけ子は逮捕時に所持金がほぼなかったことから、組織の搾取構造が浮き彫りになっています。これらの実態は、闇バイトの甘い誘いに騙されやすい人々の危険性と、組織の徹底した管理・搾取の実態を示しており、警察の摘発によって被害の全貌解明が進められています。また、生成AIを駆使した偽動画や偽の警察官の映像をビデオ通話で見せるなど、技術的に高度な詐欺手法を採用していました。特に、「AIルーム」でAIで作成した顔画像を用いて警察官を装い、被害者の恐怖心を煽る手口が特徴的で、自動音声による通信会社の偽警告から始まり、LINEなどのビデオ通話に誘導、偽の制服や逮捕状の画像を見せて金銭を振り込ませるもので、AI画像は動いた際に輪郭がぼやけるなど不自然な点があるため、かけ子らは見破られないようにするため30秒程度の短時間で画面を切り替える工夫も行われていました。警察は、こうした手口の巧妙化とともに、短期滞在の外国人を現金受け取り役に使う手口も確認し、警戒を強めています。捜査の結果、「A先生」と呼ばれるリーダーの正体も明らかになり、容疑者がその一人と判明しました。ポイペトの複数の拠点を管理し、オーナーとして運営に関与していたとみられ、これまでに、約36人の関係者が逮捕されています。「特殊詐欺は一つの『ビジネスモデル』とも言える規模になり、すべてを摘発することは現実的に難しい。だが、相手が組織内でどんなに上位にいても、また海外にいようとも逮捕されると示せたことは、抑止の観点から意義は大きい」と警察幹部は述べていますが、筆者もそのとおりだと思います。
- 以前の本コラムでもたびたび取り上げましたが、プリンス・グループは、アジア最大級の犯罪組織とされ、カンボジアを拠点に不動産開発や金融事業、カジノ運営など多角的に事業を展開している一方、裏では特殊詐欺やマネロンといった闇ビジネスも行っており、「産業」規模の違法活動を行っていることが明らかになっています。米国や英国の制裁対象となり、暗号資産の2兆円規模の没収や幹部の拘束・送還が進められており、とりわけ米財務省は同グループを「アジア最大の犯罪組織の一つ」と断定し、同グループの最高幹部とみられる中国出身のフー・シー容疑者も制裁対象に含めています。今般、日本の警視庁は、そのフー・シー容疑者を虚偽の住民異動届提出の疑いで逮捕しました(東京都中央区に転居した事実がないにもかかわらず、区役所に虚偽の内容の住民異動届を提出した疑い)。グループ幹部が日本を拠点の一つとしていた可能性があり、国内での活動実態や動向を捜査しています。容疑者は日本で会社の代表を務め、在留資格を得ていました。これらの活動は、日本を含む複数国の犯罪ネットワークと連携し、詐欺やマネロンを行う組織の一端を担っている可能性が高く、国際的な摘発の動きもあって、カンボジアや中国の当局も幹部の拘束や組織の解体に動いており、今後もグループの解明と摘発が進むと考えられます。日本政府は現状、プリンス・グループを制裁対象にしていませんが、国際犯罪者の逃げ場とならないよう、警察や外務省は情報共有と連携を強化し、闇ビジネスの根絶に向けて毅然とした対応を進める必要があるといえます。特に、東南アジアを中心に中国系の犯罪組織が拠点を築き、地下活動を展開している懸念もある中、日本にも組織のネットワークや人員が流入し、地下活動を展開している恐れがあります。日本の安全保障と治安維持のためにも、国際的な協力と監視体制の強化が急務だといえます。関連して米英政府は、プリンス・グループの幹部や世界各国の関連会社を経済制裁リストに追加しています。今回新たに制裁されたのは、プリンス幹部で中国系の男性のチェン・ボ幹部とルオ・ブレンドン幹部らで、関係者や登記簿などによると、チェン幹部は2025年10月に米英政府から制裁されたプリンス関連の6社の役員を務めており、東京都杉並区の敷地1600平方メートルの一戸建てを2025年10月に即金で購入、翌11月に転売していました(不動産鑑定士によると、土地だけで当時、実勢価格は8億円超)。
日本の企業や大学におけるなりすましメール対策は遅れており、世界の主要国と比べて防御水準が低いことが明らかになっています。特に、なりすましメールを防ぐ技術「DMARC」の導入状況について、多くの大学や企業は設定の初期段階である「監視」レベルにとどまっており、実効的な遮断や拒否設定に進んでいません。調査によれば、日本の大学のわずか5%しかなりすましメールを遮断する設定をしておらず、主要企業でも遮断設定を行っているのは36%にとどまっています。一方、欧米諸国や一部アジア諸国では、法律や政府の推奨によりDMARCの導入と遮断設定が進んでおり、日本はこれらに比べて危機意識が乏しいと指摘されています。背景には、日本の企業や大学がIT業務を外部委託していることや、多数のメールシステムを併用しているため設定の不備や調整の負担を懸念する事情があります。犯罪グループはこうした対策の隙を突き、日本を標的にした不審メールや詐欺が増加しています。特に、ビジネスメール詐欺では数億円規模の被害も報告されており、経営層や経理担当者が騙されるケースが多発しています。さらに、メールの正当性を示すBIMI技術も有効とされているものの、日本では普及が遅れています。専門家は、日本の対策遅れは企業の理解不足や情報共有の不足に起因し、AIの進展により犯罪グループの攻撃手法も高度化しているため、早急な対策強化と国際的な危機意識の向上が求められています。これらの背景から、日本の防御水準を引き上げるためには、法律や政府の支援を含めた包括的な対策と、企業や大学の意識改革が急務です。
高市首相は、首相官邸で有名人になりすました広告などから偽の投資話に誘い込むSNS詐欺への対策に関する自民党の「ディープフェイク」対策合同プロジェクトチーム(PT)提言を受け、「(取り組みを)どんどん進めてほしい」と述べました。PTは広告を管理する大手のプラットフォーマーが詐欺広告で多額の利益を得ている現状や対策の必要性を首相に説明、提言はプラットフォーマーに広告主の本人確認(KYA)を義務付けるよう検討すべきだと盛り込んでおり、規制で先行する台湾の事例を踏まえ、消費者保護のため法整備の必要性を訴えています。また、早期の対応として、SNS事業者と連携した専用通報サイトの構築や実効性のある運用ガイドラインの策定を求めたほか、情報収集やセキュリティといった技術的対応を集約して担う「総合調整機能」を持つチームを政府内に創設するよう促しています。
深刻化する特殊詐欺対策として、警察庁は、被害金をマネロンする手段とされる「送金バイト」を募るSNS投稿や、偽の投資を呼びかけるウェブ広告などを削除要請の対象に追加する方針を明らかにしました。2026年8月にも運用を始めるとしています。2025年の被害は「SNS型投資・ロマンス詐欺」を含め、過去最悪の約3257億円に上りました。SNSやブログでは「案件」「副業」「バイト」などと称して人を募集し、詐欺の被害金を第三者に送らせたり、暗号資産を移し替えさせたりする事例が増えています。警察庁はこれまでも「闇バイト」の募集や、日本向けオンラインカジノサイトなどを要請の対象にしており、新たにサイト運営者やプロバイダー(ネット接続事業者)に対し、こうした投稿の削除も求めていくとしています。投資詐欺では、2025年7月以降、バナー広告から被害に遭うケースが急増しています。セミナーの参加者が投資で利益が出たことを示したセミナーの勧誘広告や、同意なく著名人の名前を使った投資広告、著名人をかたって「必ずもうかる」などと勧誘する広告でだます手口も目立つことから、著名人の名前を無断で使い、投資実績を表示する広告なども削除対象に加えるとしています。同庁は、違法な情報への対応を委託している「インターネット・ホットラインセンター」(IHC)の運用指針を改定する方針で、パブリックコメント(意見公募)を経て8月上旬からの導入を予定しています。送金バイトを巡っては、2026年7月10日に施行される改正犯罪収益移転防止法で、正当な理由なく報酬を支払って財産の移転を依頼したり、対価を得て請け負ったりする行為が罰則付きで禁じられることになります。赤間・国家公安委員長は「SNS型投資詐欺の被害抑止のためには社会全体で取り組みを進めることが大変重要。引き続きインターネット上における違法情報などへの取り組みを推進し、安全で安心なサイバー空間を確保できるよう警察を指導していきたい」と述べました。IHCの違法情報は闇バイトを募集する書き込みや、オンラインカジノサイトの宣伝などが2025年に加わり、18項目が対象になっています。
▼ 警察庁 インターネット・ホットラインセンターにおける「ホットライン運用ガイドライン」の改定案に対する意見募集について
- 趣旨
- 深刻なSNS型投資詐欺等に対処するため、総務省違法情報ガイドラインの改定と時を同じくして、インターネット・ホットラインセンターの運用指針であるホットライン運用ガイドラインを改定すべく、その改定案を一般に公表し、意見を募集するもの。
- ガイドライン改定内容
- なりすまし型偽投資広告を掲載する行為の追加
- SNS型投資詐欺の入口となっている「なりすまし型偽投資広告を掲載する行為」を、削除依頼の対象となる違法情報の類型に追加するもの。
- 「送金犯罪」の依頼等の追加
- 犯罪収益移転防止法の一部を改正する法律(令和8年法律第34号)の成立を踏まえ、「送金犯罪」の依頼等を削除依頼の対象となる違法情報の類型に追加するもの。
- パブリック・コメントの実施期間
- 令和8年7月3日(金)から同年7月16日(木)まで
- 参照URL
- なりすまし型偽投資広告を掲載する行為の追加
本コラムでもたびたび取り上げている大阪府の独自条例が効果を発揮しており、最近では、超音波やAIといった最新技術を使って特殊詐欺を食い止める取り組みが、大阪で広がっているといいます。大阪府警によると、府内では2026年1~4月の還付金詐欺件数が2025年同期比で8割以上減っています(一方、同時期の大阪を除く全国の認知件数の減少は約4%にとどまっています)。進めているのは府内にATMを置く金融機関で、2025年8月、65歳以上の高齢者が携帯電話で通話しながらATMを使うことを禁じる府の改正条例が施行され、ATMの設置者には、そのための措置を講じる義務や努力義務が全国で初めて課されました。注意喚起のポスター掲示などが義務化され、特殊詐欺被害抑止のための機器の設置などが努力義務となりました。この動きを受け、JAバンク大阪は2026年6月、超音波を発して通話を妨害する「指向性スピーカー」の設置を始めました。スピーカーには人感センサーがついており、利用者がATMの前に立つと超音波が発せられ、それが声にかぶさることで、「ガー」「ギー」といった雑音に変わったり、声がぶつ切りになったりして犯人側に聞こえにくくなるというもので、さらに、スピーカーからは「特殊詐欺の被害が多発しています。心当たりがない振り込みは操作を中止し、必ず確認してください」と注意喚起のアナウンスも大きめの音で流れ、通話を妨害する仕様で、特に、医療費の払い戻しがあるとして、通話しながらATMを操作させて金を振り込ませる還付金詐欺を防ぐのに有効だといいます。また、AIで危険を回避するATMも登場、ATMの内蔵カメラで撮影した利用者の動きをAIで解析し、携帯電話で通話するしぐさを確認した場合、取引を中止する仕組みです。さらに大阪府では、70歳以上で3年間ATMでの振り込みがない人を対象に、ATMでの振込額の上限を10万円に制限する対策も始まっており、全国に支店のある大手銀行では2026年4月までに、府内の支店に登録されている口座を対象に、制限を設けてきました。府警府民安全対策課の担当者は「金融機関による声がけで詐欺被害を防げるケースも大幅に増えていて、改正条例の効果は確実に出ている。特に無人のATMでの被害を防ぐには最新の機器の導入が有効で、引き続き金融機関と連携したい」と話していますが、大変素晴らしい取組みであり、是非、多くの自治体に拡がってほしいと期待しています。
警察官をかたり「捜査に必要だ」などと持ちかけて金銭をだまし取る「ニセ警察詐欺」が全国的に増加しており、警察は2026年4月からこれを新たな犯罪統計項目として位置付け、分析を強化しています。本コラムでも以前から取り上げていますが、カンボジアの詐欺の拠点とみられるマンションからは、警察の制服や偽の逮捕状が発見されており、これらはマレーシアやインドネシアなど東南アジアの詐欺拠点でも類似の手口が確認されています。詐欺の流れは、まず「聞き出し役」が個人情報や資産状況を聞き出し、「持ちかけ役」が偽の警察官を装って資産調査や現金送付を要求するというもので、SNSのビデオ通話を使った手口が典型で、近年、AI技術を用いた顔の変化やフェイク映像も利用されていると考えられています。今や「オレオレ詐欺」のほとんどは「ニセ警察詐欺」で、大阪府警によれば、2025年の被害額は約99億円のうち90億円超がニセ警察詐欺で、2026年も被害は拡大し続けています。特に高額な被害例として、80代男性が約2億円を騙し取られる事件も発生しています。詐欺の典型的な手口は、見知らぬ番号からのメッセージや電話で、「ウイルス感染」や「資産調査」を名目に資金を送らせるもので、実際には警察や内閣府が資産調査や資金送付を求めることは絶対になく、警察は、こうした詐欺に引っかからないために、資産管理を家族と相談するなど、冷静な対応を促しています。
また、最近の手口では、金地金(金塊)を買わせてだまし取るものもあり、特に、金の価格高騰や持ち運びやすさを背景に、金塊を現金の代わりに用意させる手口が多発しています。警察庁によれば、2025年の被害額は約1005億円で、そのうち金塊を狙った事件は全国で163件、被害額は約58億円にのぼります。被害者は自宅や公園、スーパーの駐車場などに金塊を置いて回収されるケースが多く、犯罪組織はこれらの金塊を買い取り専門店などに買い取らせ、マネロンを行っています。金価格の高騰も犯罪を助長している状況で、警察は、金塊の購入や売却に関して不審な動きがあれば早めに通報するよう呼びかけており、貴金属販売店や買取店も、金塊の不審な持ち込みや売却目的の客に対して、製造番号の照合や入手経路の確認を徹底し、犯罪に加担しないよう努めています。また、ニセ警察詐欺では、犯人は電話で「逮捕状や家宅捜索」をちらつかせて、現金をだまし取る手口を使います。特に、郵便局員や警察を名乗る人物が「違法な物が入った小包」や「犯罪に使われている口座」などの話を持ちかけ、被害者を動揺させて騙しますが、この手口は2003年頃から存在しており、最近では「2段階」の詐欺(郵便配達など身近な用件で被害者の気を引き、「あなたの口座が犯罪に使われている可能性がある。捜査のため、口座のお金を警察の口座に振り込んでほしい」などの言葉で詐欺に結び付けるという巧妙さから被害が拡大)や国際電話を悪用した巧妙な手口が増えています。被害者の多くは20代から40代の若年層で、「無実を証明したい」という気持ちに付け込むケースが多いと考えられています。詐欺グループは海外に拠点を置き、国際電話番号を使って警察を装うなど、手口も高度化しています。警察は、国際電話の着信をブロックできる防犯アプリや、固定電話のブロック手続きなどの対策を推奨しています。また、SNSやビデオ通話で警察官が連絡を取ることはなく、警察手帳や逮捕状を見せることもないと強調していますが、まずは何よりもお金を振り込まないことが重要となります。さらに実際の事例では、詐欺グループは、ビデオ通話や偽の警察手帳の画像を使って信用させ、「孤立させる手口」を用いています。ある事例では、男性は、恐怖や不安から複数回にわたり大金を送金し、最後にはスマホのデータも消去してしまいました。男性は「なぜ引っかかってしまったのか、ずっと考えている」と後悔、「これまで特殊詐欺を自分事だと思ったことがなかったが、被害に遭って初めて、聞き流していたニセ警察官詐欺のニュースが耳に入ってくるようになった」とし、「クレジットカード会社から警察へという流れで、(詐欺グループによる虚構の)その世界に入り込んでしまった。『誰にも話すな』と言われ、孤立した状態だった」と振り返り、正常な判断力を欠いてしまったことを悔やんでいます。こうした詐欺は高齢者だけでなく、幅広い世代に被害が広がっており、警察や関係機関は注意喚起を強めています。
暴力団等反社会的勢力が関与した最近の特殊詐欺等の事件について、いくつか紹介します。
- 孫を装った特殊詐欺で現金800万円をだまし取ったとして、広島県警広島西署と県警繁華街・歓楽街総合対策推進本部は、広島市中区に住む指定暴力団共政会正木組組員=詐欺容疑で処分保留=を別の詐欺の疑いで再逮捕しました。県警は、容疑者が指示役の一人とみて調べています。何者かと共謀、何者かが2025年2月、孫を装い、同市の90代女性方に「現金入りのかばんを紛失し、補填のため現金が至急必要となった。代理の者が現金を取りに行く」などと電話でうそを言い、代理をかたる男が同日中に市内の路上で女性から2回にわたり現金計800万円を詐取した疑いがもたれています。同署によれば、正木組に関する捜査で今回の容疑が浮上したといいます。
- 東京・歌舞伎町の「トー横」で知り合った女性を海外の詐欺拠点に送るため誘拐したとして男が逮捕された事件で、警視庁特別捜査課は、別の男性を誘拐したとして、所在国外移送誘拐の疑いで、住吉会傘下組織組員を再逮捕しました。2025年7月、知人を介して、「韓国かカンボジアでセキュリティの仕事がある」と無職男性(44)を勧誘、「頑張れば3カ月で1000万円は稼げる」と誘惑し、国外に移送する目的で、江東区内のビジネスホテルに9日間滞在させるなどしたとされます。同課は容疑者がカンボジアに拠点を置く詐欺グループのリクルーターで、トー横に出入りしていた複数の男女を「かけ子」として同国へ送っていたとみています。容疑者はトー横の路上で飲酒するなどしていたこの男性と、知人を通じて知り合ったといい、男性は容疑者の指示に従い、パスポートを取得、だが、容疑者が他の20代男性に「借金返せないならカンボジアでかけ子をやれ」と命じる場に居合わせ、自身も詐欺に加担させられるかもしれないと気付き、警察署に相談したというものです。
- 2025年1月頃、特殊詐欺の「かけ子」をさせる目的で東南アジアに男性を移送した疑いで、リクルーター役とみられる20代の男が所在国外移送略取・誘拐の疑いで逮捕されました。男は2025年1月頃、「1年間、かけ子をやれば1000万円稼げる」と言って、20代の男性を静岡県内から誘い出し、羽田空港まで連れ去った上、ラオスなど東南アジア諸国に移送した疑いが持たれています。この事件では2026年1月、同じリクルーター役とされる4人が逮捕されており、このうち20代の男が職業安定法違反の罪で公判中、ほかの男性3人は不起訴になっています。警察は、暴力団や海外の犯罪組織の関与も含め捜査しています。
- 闇バイトで詐欺の「受け子」を勧誘したとして、出水署と鹿児島県警捜査1課、組織犯罪対策課は、職業安定法違反(有害業務目的労働者募集)の疑いで、住吉会傘下組織組員ら男2人を逮捕しました。トクリュウのリクルーター役とみて調べています。鹿児島県警が2026年5月、強盗の目的で出水市に集まったとして、強盗予備などの疑いで5人を逮捕した事件の捜査で浮上したものです。強盗予備容疑事件で押収したスマホなどを精査したところ、氏名不詳者らと共謀し、2026年4月、鹿児島県外の10代男性に、匿名性の高い通信アプリで「一発逆転の仕事」「Sだよ」などとメッセージを送り、詐欺の受け子役に勧誘した疑いがもたれており、2人は知人で、10代男性と面識があったといいます。「S」は詐欺の隠語とみられています。県警は、別の面識のある10代男性に同様の手口で「月100万円は稼げます」などと送り、詐欺など犯罪の実行役に勧誘した疑いで再逮捕しました。
- 東京都新宿区の貴金属買い取り業者に強盗に入る目的で警棒を準備したなどとして男ら6人が逮捕された事件で、警視庁捜査1課は強盗予備の疑いで、新たに無職の容疑者(26)ら男3人を逮捕しました。3人は実行役とみられています。逮捕容疑は共謀して2026年5月、事務所付近で、強盗目的で警棒や催涙スプレーを所持するなどしたとしています。報道によれば、「金塊が狙われている」との情報を受けて捜査員が現場で警戒、事件時に実行役ら6人の身柄を確保しましたが、容疑者ら3人は現場から逃走、防犯カメラ捜査などで浮上したものです。捜査1課はトクリュウによる事件とみて、他の人物の関与も調べています。
2026年(令和8年)5月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について公表されていますので、以下、紹介します。被害の全体像や近年急増しているニセ警察詐欺の現状と対策をより分かりやすくするため、「被害が急増している「ニセ警察詐欺」を独立した手口として位置付け」、「SNS型投資・ロマンス詐欺を特殊詐欺の一手口として位置付け」ました。
▼ 警察庁 特殊詐欺の認知・検挙状況等について
▼ 令和8年5月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)
- 令和8年5月末における特殊詐欺の概要
- 認知件数18,067件、被害額1,514.7億円(前年同期比+2,826件、+547.3億円)
- 手口別の認知件数・被害額
- 手口/認知件数(前年同期比)/被害額(前年同期比)
- SNS型投資詐欺 5,099件(+2,843件) 700.4億円(+426.3億円)
- ニセ警察詐欺 3,667件(ー162件) 403.2億円(+78.5億円)
- SNS型ロマンス詐欺 2,056件(+6件) 202.0億円(+7.7億円)
- 架空料金請求詐欺 2,519件(+73件) 61.5億円(+2.3億円)
- オレオレ詐欺 1,472件(+102件) 54.6億円(ー0.4億円)
- 還付金詐欺 1,146件(ー379件) 25.5億円(ー4.1億円)
- 交際あっせん詐欺 284件(+155件) 10.1億円(+5.9億円)
- キャッシュカード詐欺盗 601件(+123件) 6.6億円(+0.4億円)
- 金融商品詐欺 145件(+85件) 17.2億円(+10.4億円)
- 融資保証金詐欺 139件(ー56件) 0.8億円(ー1.0億円)
- 預貯金詐欺 386件(ー377件) 3.6億円(ー4.6億円)
- ギャンブル詐欺 19件(+5件) 0.6億円(ー0.0億円)
- その他の特殊詐欺 534件(+408件) 28.5億円(+25.9億円)
- 合計 18,067件(+2,826件) 1,514.7億円(+547.3億円)
- 手口/認知件数(前年同期比)/被害額(前年同期比)
最近の特殊詐欺等を巡る報道からいくつか紹介します。報道自体はこれ以上されていますが、被害の大きい事件を中心に取り上げます。
- 埼玉県警は、さいたま市大宮区の無職男性(54)が、電話で警察官などを名乗る男らから計約2億1000万円をだまし取られたと発表しました。2026年4月から数回、男らから「詐欺の疑いで訴状が届いている」「資金洗浄が行われているため、口座を調べる」などと電話があり、男性は同月14日~5月8日、自宅で22回にわたり計約2億1000万円分の暗号資産を購入し、男らが管理する暗号資産取引口座に送金、男性はその後、男らから伝えられた口座の残高が大幅に減っていることを不審に思い、5月14日に大宮署に通報したものです。
- 愛知県警は、名古屋市の40代男性が警察官をかたる「ニセ警察詐欺」で約2億円をだまし取られたと発表しました。2026年6月4日、宅配業者を名乗る人物から「あなたが送った小包に偽造カードが入っていた。警察につなぐ」とうその電話があり、その後、偽の警察官から「預金が犯罪に関係していないか調べる」と言われ、男性はインターネットバンキングで、指定された口座に3日間で計約2億円を振り込んだものです。金融機関から県警に「高額出金があった」と連絡があり、発覚しました。
- 愛知県警守山署は、尾張旭市に住む無職の80代男性が1億6500万円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しました。2026年3月、警察官をかたる男から「あなたの口座が犯罪に利用されている」と男性に電話があり、SNSのメッセージや通話機能で警察官や検察官を名乗る男から「あなたの口座に犯罪収益が入金されているかどうかを調べる必要がある」などと言われ、男性は同3月~6月、自宅で13回にわたって、金融庁職員を名乗る30歳くらいの男に現金500万~2000万円を手渡し、計1億6500万円をだまし取られたものです。県外で発生した別の特殊詐欺事件の被害金が男性の口座に振り込まれ、金融機関が凍結したため、不審に思った男性が、署に相談して発覚しました。
- 三重県警桑名署は、同県桑名市の70代男性が、兵庫県警の警察官を名乗る男らから約1億4000万円をだまし取られたと発表しました。男性は全財産のほとんどを失ったとみられています。2026年2月、警察官や検事を名乗る男から「通帳が詐欺に使われている。逮捕を免れるには、資産を暗号資産口座に移す必要がある」と男性の自宅に電話があり、男性は指示に従い、14回にわたり、計1億3800万円を指定された口座に振り込んだといいます。同5月に金融機関から情報提供があり、発覚したものです。
- 三重県警津署は、津市の50代男性がユーチューブの広告をきっかけに、投資名目で2026年3~5月に計約1億円をだまし取られたと発表しました。男性は同1月下旬、ユーチューブの広告から投資に関するLINEグループに参加、紹介されたアプリを通じて、計1億420万円を指定された口座に振り込んだといいます。振り込んだ回数は25回に上り、金額は1回100万~520万円だったといいます。男性は、主催者側からアプリのサイト上で融資を受けて投資に回す形を取っていましたが、返済済みの損失分の支払いを更に求められたり、アプリにログインできなくなったりしたことから、同5月17日に同署に相談、6月18日に被害届が受理されたものです。
- 愛知県警名東署は、名古屋市名東区の70代女性が警察官をかたる男らの指示に従い、金塊4キロ(約1億円相当)をだまし取られたと発表しました。2026年5月、郵便局員を名乗る男から「あなた名義で違法薬物が郵送されている」と電話があり、さらに、ニセ警察官からLINEで「逮捕状が出ている。調査に協力する必要がある」と告げられ、指示通りに金塊を2度購入、それぞれ自宅の玄関先に置き、だまし取られたものです。その後「預かっていた金塊を名東署に取りに来て」と指示があり、女性が来署したことで発覚、来署を求めた理由は不明といいます。
- 札幌・厚別署は、札幌市厚別区の80代女性が警察官を名乗る男らから計約9700万円をだまし取られたと発表しました。2026年2月、電気通信事業者を名乗る男から女性の携帯電話に「携帯が不正に契約されている」などと連絡があり、さらに警察官を名乗る男らから「マネーロンダリング(資金洗浄)の被疑者として浮上している」などと伝えられたといい、女性は同6月20日までに、現金を紙袋に入れて自宅前に複数回置き、指定された口座に約200万円を振り込んだといいます。
- 宮城県警仙台北署は、仙台市青葉区の60代の男性パート従業員が警察官をかたる男性らから虚偽の電話を受け、金地金と現金計約7700万円相当をだまし取られたと発表しました。被害男性は2026年3月、自宅の固定電話に電話があり、クレジットカード会社勤務を名乗る女性から「あなたの名前を使って買い物した人がいる」と言われ、電話は宮城県外の警察官をかたる男性に転送され、「あなたは逮捕した事件の犯人の共犯の可能性がある」と告げられ、さらに後日、警察官をかたる別の男性から電話があり、潔白証明のためとして「今すぐ保有する資産で金を購入してほしい。金融庁の調査員がそれを調査し、後日返却する」などと求められたといいます。被害男性は同4月日~5月、指示された通りに自宅前に置いた金地金約6700万円相当と現金1000万円を持ち去られ、返却されなかったというものです。
- 宮崎県警日向署は、同県門川町の70代女性が、警察官や検事を名乗る男女に、現金計5099万円と400万円相当の暗号資産計5499万円をだまし取られたと発表しました。2026年5月、女性の携帯電話にクレジットカード料金が未納との連絡があり、代わった京都府警を名乗る男から「捜査に協力しないと逮捕する」と言われ、検事を名乗る女からも「資産を確認する必要がある」との電話があり、同30日から6月7日にかけて現金計5099万円を振り込んだといいます。女性はその後、さらに指示を受けて400万円相当の暗号資産を購入し、送金、不審に思った女性が署に相談し、被害が発覚しました。
- 京都府警宇治署は、京都府宇治市の60代のアルバイト女性が警察官らをかたった特殊詐欺で4607万円相当の暗号資産をだまし取られる被害にあったと発表しました。2026年4月2日以降、税関や警察官を名乗る人物から女性に電話があり「あなたの口座を凍結する許可状が裁判所から出ています」などといわれ、現金を確認する名目で暗号資産「イーサリアム」を購入し送るよう指示され、女性は同月10日~5月1日まで計9回にわたり計4607万円相当の暗号資産を送りだまし取られたというものです。
本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニや金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。一方、インターネットバンキングで自己完結して被害にあうケースが増えており、コンビニや金融機関によって被害を未然に防止できる状況は少なくなりつつある点は、今後の大きな課題だと思います。以下、被害を防止できた事例や被害防止に関する取組事例など、最近の報道から、いくつか紹介します。
- 現金入りの宅急便の配送を中止するなど特殊詐欺被害の未然防止や容疑者逮捕に協力したとして、高知県警高知署は、ヤマト運輸台東寿営業所に感謝状を贈呈しました。2026年4月、高知市内に住む高齢女性から同署に、詐欺被害に遭い、現金を送ってしまったという相談があり、同署から協力を依頼されたヤマト運輸は1300万円の入った発泡スチロールを営業所で確認し、現金を回収、中身を替えて配送し、同署は受け取った容疑者を詐欺容疑で逮捕したものです。女性は現金が戻り、泣いて喜んでいたといいます。
- 還付金詐欺の被害を未然に防いだとして、津署は、津市のスーパーマーケット「ぎゅーとらラブリー渋見店」の副店長、小林さんと店員の磯部さんに感謝状を贈呈しました。事案が起きたのは2026年5月、店のサービスカウンターにいた磯部さんが、顔なじみの客から「電話をしながらATMを操作している男性がいる」と知らされ、急いで現場に向かったところ、携帯電話で通話中の60代男性がおり、電話は一度切れたが、間もなく再度かかってきたため「お借りしますね」と代わりに応答、電話の相手から「どちら様ですか」と尋ねられたため「そちらこそ誰ですか」と聞き返すと、電話は切れたといいます。男性は「医療費の還付金の受け取りのためにATMに行くように言われた」と話し、自身の口座番号と暗証番号も既に伝えてしまっていましたが、小林さんがすぐに津署と銀行に連絡し、口座凍結を依頼、動揺していた男性は安心した様子で帰宅したといいます。磯部さんは「あと5分遅ければ男性は入金してしまっていたと思う。資産を守ろうと必死だった」と振り返り、ATMとカウンターは10メートルほど離れているといい、「常連さんが声をかけてくれたおかげで気づくことができた」と述べています。
- 「100万円? そんな大金を仕事で持ち歩くだろうか」というタクシー運転手の機転で、乗客を送り届けた先は郵便局から交番に切り替わり、被害を未然に防いだとして、山口県警山口署は、山口交通のタクシー運転手、石村さん(40)に感謝状を贈りました。2026年6月、石村さんが80代女性客をタクシーに乗せて山口市内の郵便局に向かったところ、女性は「孫から『仕事でお金をなくしたから100万円下ろしてくれ』と電話があった」と打ち明け、不審に思った石村さんは女性と一緒に近くの交番へ行き、状況を説明して警察に引き継いだものです。
- 刑事を装って高齢者から現金を回収する特殊詐欺事件に関わったとして、京都府警左京署は、台湾籍の自称塗装作業員の男(36)を詐欺容疑で逮捕しました。Tシャツ姿で花柄のエコバッグを所持していた男を不審に思った被害者が同署に相談し、逮捕につながったといいます。男は氏名不詳者と共謀し、2026年6月、警察官を装った他の人物が左京区の80代の女性に「口座が犯罪に使われていた可能性がある」と電話し、自宅の郵便受けに現金を入れるように指示、刑事を装った男が417万円を回収し、詐取した疑いがもたれています。当時、男は七分丈の黒色のズボンに青色のTシャツ姿で、青色の花柄のエコバッグを所持していました。女性は回収する様子を目撃し、刑事らしくないと不審に感じて同署に相談、防犯カメラの映像などから男が浮上したといいます。男は「京都観光をしている時に、台湾の友達に頼まれて物を取りにいっただけ」と容疑を否認しています。
- 特殊詐欺の被害を1年に3度防いだとして、四日市北署はこのほど、百五銀行富田支店・富田駅前支店に「特殊詐欺被害防止優秀事業所」の表彰盾を贈りました。度々お手柄を立てる事業所を表彰する2026年4月からの新制度で初の受賞となりました。被害男性の異変に気付き対応した同支店の元支店長代理、柱本さんと行員の水野さんの2人には感謝状が贈られました。20代の男性が同店を訪れ、窓口で「マッチングサイトのシステム復旧費用として約30万円を振り込みたい。振り込めばお金が戻ってくる」などと話したため、対応した水野さんが不審に思い柱本さんに相談、柱本さんが同署に連絡、署員が駆けつけるまで30分以上にわたり、振り込みを急ごうとする男性に「今日はお休みですか」などと世間話をしつつ引き留めたといいます。水野さんは「男性は相手を信用していた様子で、詳細を話してもらえるまで時間がかかった」と振り返り、柱本さんも「落ち着いて話を聞いたことで阻止につながった」とし、「今後も相談しやすい店舗づくりを心がけたい」と話しています。男性は、SNSで見たマッチングサイトに登録し、デート料名目でネットバンキングから3万円を振り込み、さらに個人情報を入力したところシステムが破損したとして、修理費用名目で3回に分けて計59万円をATMから振り込んだといい、その後キャッシュカードを紛失したため窓口を訪れたということです。贈呈式で支店長は「啓発活動のおかげで行員の防犯意識が高まっている」と喜ぶ一方、「阻止できている被害は氷山の一角」と気を引き締めていました。
- 特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、山口県警岩国署は、西京銀行岩国支店の松村さんと、広島銀行岩国支店の斎藤さんに感謝状を贈りました。松村さんは2026年5月、窓口で50代男性から、投資に使う為替システムの更新費用として40万円の振り込み依頼を受けたが不審に思い、いきさつを確認、男性がスマホに届いた振り込みを指示するLINEのメッセージを示すと、説得して手続きを取りやめたといいます。斎藤さんは同5月、40代男性から「社長からLINEで指示された」と3000万円の振り込み依頼を窓口で受けたが、上司らと相談して被害を食い止めたものです。男性は社長を装った人物から偽メールでLINEグループの作成を依頼され、その後、そのグループを通じて振り込みを指示されたといいます。大江明史署長から感謝状を手渡された松村さんは「投資やSNSなどのキーワードがあり、詐欺を疑った。お客さまの資産を守る最後のとりでとしての責任を果たせた」とし、斎藤さんは「さまざまな手口で高齢者だけでなく現役世代まで被害が広がっている。アンテナを広げて敏感に声をかけていきたい」と話しています。
- 鳥取県警倉吉署は、特殊詐欺被害を未然に防いだとして、鳥取県倉吉市のファミリーマート倉吉清谷店の長尾店長に感謝状を贈りました。60代の男性客は、長尾さんにATMでの振り込み方法を教えて欲しいと言ってきて、自分のスマホの画面を見せ「ここに振り込みたい」とのことでしたが、見ると、表示されているのはLINEの画面で、男性がやりとりしていたと思われる相手は女性の個人名、振込先は、別の男性の個人名で、ここへ振り込め、振り込んだら連絡をと指示されていました。長尾さんは画面を見た瞬間に「詐欺ではないか」と疑い、店の向かいにある倉吉署に電話連絡、警察官が来る間も、男性は振り込みを続けようとし、男性が振り込みのボタンを押すので、長尾さんは「お待ち下さい」と取り消しボタンを押すということを2回ほど繰り返したといいます(この男性は聴覚に障害があり、長尾さんの説得の声が聞こえなかったといいます)。警察官が到着して説得に成功したといいます。男性は「当選金名目詐欺」の被害に遭うところだったといいます。何かに当選したというウソのメールを送り、当選金を得るには手数料を振り込め、という手口で、そのまま振り込んでいたら、さらに追加金を求められていた可能性が高いといいます。
(3)薬物を巡る動向
近年、若いアスリートが違法薬物に手を出す事件が相次いでいます。2026年5月には「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物エトミデートを使用したとして、プロ野球広島東洋カープの元選手が医薬品医療機器法違反の罪で有罪判決を受けたほか、同6月には、乾燥大麻を所持したとして麻薬取締法違反(所持)の疑いでバレーボール元日本代表が逮捕、起訴されました。とりわけ大学の運動部員が関与するケースが後を絶たず、2023年、日本大アメリカンフットボール部の部員ら計11人が麻薬特例法違反などの容疑で逮捕、書類送検され、名門は廃部に追い込まれました。2025年夏以降も大学日本一の実績がある天理大ラグビー部、多くの五輪金メダリストを輩出した日本体育大レスリング部などで大麻事件が起きています。流通経済大では2026年2月、サッカー部員5人が違法薬物を使用したとして茨城県警の家宅捜索を受けました。産経新聞の報道で同部の監督代行は、警察関係者から薬物入手の実態を聞いて驚いたといいいます。「たばこを買うのが大変だから、薬物を買っている高校生がいっぱいいる」というものですが、これには筆者も心底驚きましたし、情けなく残念な気持ちでいたたまれなくなりました。厚生労働省や警察庁などの統計資料によれば、2024年の大麻事件の検挙者は6342人で、このうち7割超を30歳未満が占めています。2015年以降、30歳未満の検挙者は4.4倍、20歳未満は7.9倍に増加、若年層における薬物の乱用拡大は深刻な問題となっています。SNSを通じ、薬物が容易に入手できるようになったと読み取れるデータもあり、関西の4私立大「関関同立」(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)が2009年度から共同で、新入生を対象とする「薬物に関する意識調査」を実施しており、2024年度の調査によれば、大麻などの薬物について「手に入る」(11.8%)「難しいが手に入る」(25.8%)を合わせ、全体の4割弱が入手可能と回答しています(それだけ身近に薬物があるということに驚かされます)。また、大学の運動部で主に事件の舞台となっているのは部員が共同生活を送る寮です。筆者も暴排トピックス2023年8月号で大学、とりわけスポーツ団体における実態について、「濃密な人間関係」による構造的要因を指摘、「ただでさえ上下関係が厳しく断りにくいいうえに、共同生活を送る学生寮においては、薬物を受け渡しやすいという物理的な側面だけでなく、同調圧力が強く、ノーと言いづらい心理的な側面、「薬物を使うとパフォーマンスが上がる」などと周囲から言われることによる自己正当化などの要因が挙げられます。さらに、そもそも若者には大麻等について「興味」があり、「好奇心」から手を出しやすい傾向もあります(さらに言えば、使用にとどまらず、営利目的販売など深みにはまる/嵌められる危険性も高まる点にも注意が必要かと思います。大麻だけでなく覚せい剤も見つかった、自らの使用料を大幅に上回る所持をしていた、などは正にその表れといえます)。…学生スポーツにおける薬物蔓延について、「連帯責任」についても検討すべき時期にきていると考えます。ほとんどすべての場合、活動の無期限停止などの措置が講じられることになり、真摯に取り組んできた多くの若者の努力が水泡に帰す結果となります。こうした厳しい措置があることで、「仲間のため、これまでの皆の努力を無駄にしないためにも、薬物は絶対ダメ」という動機になる一方、その重大性がゆえに、見て見ぬふりをしてしまい、結果的に蔓延がより深刻化するリスクもあるように思われます。そのため指導者らによる一定の生活管理や報告窓口の設置など、自浄作用の働く環境整備が必要だといえます」と述べました。一方、産経新聞の報道でスポーツ界の不祥事に詳しい追手門学院大の吉田良治客員教授は「必ずしも寮が悪いわけではないが」と前置きしつつ、「狭いコミュニティの中で年中一緒に過ごしていると、社会常識を身につけにくい。先輩や友達に誘われたら拒否できないこともある」と指摘、スポーツ漬けの生活や寮の閉鎖性、体育会特有の厳しい上下関係など、薬物乱用を助長するさまざまな要因がそこに横たわっており、逮捕された学生は刑事罰を受け、部や大学を追われることになるため、大学側は研修会を開いて再発防止を図っていますが、吉田氏は「背後に反社会勢力がいることをもっとイメージさせるべきだ」と説いています。関与が表沙汰にならず社会的制裁を免れたとしても、個人情報を握られ、「闇バイト」の実行犯のように別の犯罪に加担させられる可能性があると指摘しています。「プロになれば八百長を持ちかけたり、大企業で出世すれば不正に関与させたりと、学生アスリートには利用価値がある。人生の成功者となったとき、彼らを破滅に追い込む時限爆弾のスイッチが入るんです」との指摘は重く、軽い気持ちで手を伸ばした違法薬物は、そのようなリスクを孕んでいることをもっと周知していく必要があります。
国連は、違法薬物の世界的な取引が急増しており、コカインの生産量と非常に依存性の高い覚せい剤であるメタンフェタミンの押収量は過去最高を記録したとする報告書を公表しました。ヘロインの供給崩壊によって生じた空白を埋める形で、新しい薬物が急増していることにも警鐘を鳴らしています。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の年次報告書「世界薬物報告」によれば、2024年のコカイン生産量は純製品で約4100トンと、過去10年間で4倍に増加、一方、メタンフェタミンの押収状況からは、生産量が年間13%のペースで増加していることが示唆されているといいます。UNODCは「市場で前例のないほど新型薬物が急増しており、懸念されるのは、その一部が以前よりも強力・危険であるという点だ」と述べています。長年にわたりアヘンの主要供給源だったアフガニスタンでは、タリバンが政権を奪還しアヘンを禁止したことを受け、2023年にアヘン生産量が急減し、それ以来回復していません。その結果、アヘンから製造されるヘロインの供給量と使用量が減少、しかし、2024年にはフェンタニルや、それよりもさらに強力なニタゼンといった新しい合成オピオイドに関する報告が急増、これらが特に欧州において、ヘロイン供給の減少によって生じた不足分を少なくとも一部は補っている可能性があるといいます。関連して、コカインを使用したことがある15~64歳は調査に回答した0.4%で、人口に換算すると約35万人と推計されることが厚生労働省研究班の2025年の全国調査で分かりました。現行の調査方法になった2007年以降で最多となり、警察が摘発したコカイン事件も2025年が最も多く、全国でまん延している実態が改めて浮き彫りになっています。また、最も乱用者数が多かったのは大麻で、推計141万人(1.6%)でした。研究代表を務める国立精神・神経医療研究センターの嶋根卓也研究室長は「かつては覚せい剤が中心だったが、欧米と同様に大麻やコカインが主流になりつつある」と分析、今後は、立ち直りのための再乱用防止対策が重要になると訴えています。過去に一度でもコカインを使用したことがあると回答した男性は0.5%(人口換算で推計約21万人)、女性0.3%(約14万人)で、年代別では、使用経験がある人は40代が一番多く、0.7%(約13万人)でした。
厚生労働省研究班の2025年の全国調査で、コカインを使用したことがある15~64歳は0.4%で、日本の人口に換算すると約35万人と推計されることが分かりました。現行の調査方法になった2007年以降で最多だといいます。警察が摘発したコカイン事件も2025年が最も多く、国内でまん延している実態が改めて浮き彫りになり、対策強化が求められます。なお、違法薬物の中で最も乱用者数が多かったのは大麻で、推計141万人(1.6%)、覚せい剤は2007年以降、0.3~0.5%で推移しています。研究代表を務める国立精神・神経医療研究センターの嶋根卓也研究室長は「かつては覚せい剤が中心でしたが、欧米と同様に大麻やコカインが主流になりつつある」と分析、今後は、立ち直りのための再乱用防止対策が重要になると指摘しています。調査で過去に一度でもコカインを使用したことがあると回答した男性は0.5%(人口換算で推計約21万人)、女性0.3%(約14万人)、年代別では、使用経験がある人は40代が一番多く、0.7%(約13万8000人)、15~19歳が0.6%(約3万7千人)などとなりました。警察庁によれば、2025年のコカインの摘発者は804人で、前年から218人増え、SNSを通じた流通が主流とみられています。また、コカインの乱用を誘われた経験も尋ねたところ、「ある」と回答した割合を年代別でみると、20代が最多で1.2%(約14万1千人)でした、大麻や覚せい剤は男性が誘われることが多い傾向にありますが、コカインは女性が上回ったといい、大変興味深いといえます。さらに、欧米で問題になっている合成麻薬「フェンタニル」の乱用経験も初調査し、回答した3156人のうち「処方されたものを乱用した」としたのは2人だけという結果となりました。嶋根研究室長は「日本でも治療目的で使用している人はいるが、流通が適正に管理されていることが確認できた」としています。
(薬物ではありませんが)等身大の人形の内部に金地金を隠し、中国から密輸しようとしたとして、警視庁生活経済課は、関税法違反容疑などで、中国籍の会社役員、会社員の両容疑者ら男女6人を逮捕しました。逮捕容疑は2026年1月、中国から航空貨物で、人形3体の骨組みに隠した円柱状の金約49キロ(約10億7500万円相当)を密輸し、消費税計約1億750万円の支払いを免れようとした疑いがもたれています。同課によれば、税関には人形は「マネキン」として申告されており、荒川区西日暮里のマンションに届けられるようになっており、その後、容疑者が受け取り、別の中国籍の容疑者らを介して、容疑者の会社事務所に運び加工される予定だったとみられています。容疑者らは中国内の仲間と連絡を取り合い、金の搬送先などを指示していたことも判明、同庁は、男らのグループが人形の解体や金を回収する役、金を溶かして板状にする役など、役割を分担していたとみています。
財務省の貿易統計によれば、2025年の日本への金の輸出量は直近10年間で最高の約228トン(約3兆7855億円相当)に達しました。一方で、輸入量は約10トン(約1756億円)にとどまり、輸出量の20分の1以下となっており、専門家は「密輸で持ち込まれた分が統計に反映されていないためだろう」とみています。金地金の日本への密輸は2023年ごろから急増、2025年は全国の税関で192件が摘発されました。犯罪組織が日本の課税の仕組みに目をつけているとの見方があります。以前の本コラムでも紹介していますが、香港など海外の一部では、金が通貨として扱われるため購入時は非課税ですが、日本では10%の消費税が課されることから、密輸グループは、海外で免税購入した金を日本に密輸して、国内の買い取り店などに税込価格で売却、消費税分の差額を利益として得ているとされます。警察庁は2025年12月、金の密輸を巡って「不正に利益を得るための犯行スキームが、組織的に構築されている状況がうかがえる」と指摘、犯罪組織の実態解明を進めるよう全国の警察本部に通達しました。相次ぐ密輸に拍車をかけるのが、金価格の高騰です。地金大手の田中貴金属工業が定める参考小売価格の平均は、2026年5月時点で1グラム当たり2万3560円で、5年前は6549円で、約3.6倍になりました。価格が上がるほど、密輸グループの取り分も増えることになります。専門家は「密輸される金に関する情報を掴んだ別の犯罪グループが、輸送中の金を狙う可能性もある」と指摘しています。なお、香港以外では、シンガポールやスイスなどが投資用の金については非課税の国として知られています。「価格の10%という利益がある以上、国が水際対策を強化しても密輸グループとのいたちごっこは続くだろう。国際的な課税実態に合わせ、日本も金の購入時は非課税とすることを検討するべきではないか」としています。
暴力団等反社会的勢力が関与した薬物事犯について、いくつか紹介します。
- 営利目的で覚せい剤の受け渡しをしようとしたとして住吉会構成員の男ら2人が覚せい剤取締法の疑いで逮捕されました。暴力団員は2026年2月、埼玉県川口市から札幌市の82歳男性のもとに覚せい剤入りのレターパックを発送して譲り渡そうとした疑いがもたれています。警察は覚せい剤の密売情報を事前に入手し、札幌市内の郵便局でレターパックを押収、レターパックには覚せい剤約50グラム(末端価格約260万円)が5つの袋に分けて入れられていて、荷物の中身は「お菓子」と表記されていたということです。覚せい剤の密売人とみられる容疑者から、これまで覚せい剤188グラム(約1000万円相当)を押収しています。密売をめぐっては、2025年5月から2026年2月までに覚せい剤を購入した疑いで、北海道内外の男女11人がすでに逮捕されています。警察はさらに捜査を進めています。
- 松葉会傘下組織組長が営利目的で覚せい剤を所持したとして逮捕されたことを受け、警察は茨城県鹿嶋市にある松葉会本部事務所を家宅捜索しました。今回の捜索は松葉会系の組長が、鹿嶋市内の自宅の駐車場で覚せい剤を営利目的で所持した疑いで逮捕されたことを受けて行われました。報道によれば、容疑者は、自宅にとめた車の中にファスナー付きの袋に小分けして、少なくとも数十グラムの覚せい剤を保管していたということです。警察は覚せい剤の入手元や販売ルートを捜査するとともに、売り上げが松葉会の資金源になっていたとみて調べています。
- 宮城県内各地で覚せい剤の密売を繰り返したなどとして、宮城県警と東北厚生局麻薬取締部の合同捜査本部は、薬物密売グループのリーダー格の無職の男(72)ら5人を覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡)などの疑いで逮捕しました。男は調べに対し、「約40年前から覚せい剤の密売をなりわいにしていた」と供述し、購入客や捜査関係者から「東北の麻薬王」と呼ばれているといいます。報道によれば、男と仙台、石巻、大崎市内の男女4人(20~50代)は2024年3月~25年10月、男の自宅や石巻、大崎市内のパチンコ店やコンビニ店の駐車場などで覚せい剤を客に譲り渡すなどした疑いがもたれています。、宮城県警は、仙台、石巻、塩釜、大崎、松島の5市町内の購入客ら12人(20~60代)も同法違反(使用)などで逮捕や書類送検しています。男らはSNSなどで客を募集していたといい、県警は2023年に密売の情報を得て捜査を進めてきました。密売人らが出入りする容疑者宅などからは覚せい剤計約30グラム(末端価格約159万円相当)のほか、大麻やコカイン、MDMAを押収、東北地方の客を中心に違法薬物を密売するトクリュウとみて捜査しています。
最近の薬物事犯から、いくつか紹介します。
- 愛知県警は、イラン国籍で愛知県の自営業の男を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)容疑などで緊急逮捕しました。仲間と共謀して2026年2~3月、貨物船のコンテナに積んだ機械の部品内に、袋に小分けにした覚せい剤約40キロ(末端価格約21億円)を隠し、アラブ首長国連邦から名古屋港飛島ふ頭に輸入した疑いがもたれています。名古屋税関の検査で発覚しました。
- 在留資格を更新しないまま不法に国内に残留したなどとして、大阪府警南署などは、入管難民法違反(不法残留)容疑などでベトナム国籍の21~33歳の男女8人を逮捕しました。事件に関連し府警は、大阪・ミナミのビルを家宅捜索し、違法薬物の可能性がある粉末などを押収しました。ビルはベトナム人が集うナイトクラブやベトナム料理店、カフェなどが入っており、捜索時には従業員や客ら約170人がおり、大半がベトナム人だったといいます。報道によれば、ビルが違法薬物に関与しているとの情報があり、170人体制で捜索、ビル内から違法薬物の可能性がある粉末などを押収したほか、違法薬物を使用した疑いのある客も確認したといいます。
- 陸上自衛隊信太山駐屯地(大阪府和泉市)は、大麻を所持、使用したとして第37普通科連隊の3等陸曹(23)を懲戒免職にしたと発表しました。報道によれば、2025年8月から11月までの間、複数回にわたり乾燥大麻と大麻リキッドを所持し、使用したといいます。同年12月の部隊内の薬物検査で疑惑が浮上し、警務隊が調べていました。
- 兵庫県尼崎市内のコンビニ駐車場で車を急発進させ、17歳の少年にけがを負わせたとして、兵庫県警尼崎北署は、大阪市生野区の無職の男(23)と、尼崎市の無職の女(26)の両容疑者を殺人未遂容疑で逮捕しました。男は、直前に「ゾンビたばこいらんか」と、男性らに声をかけていたといいます。同署は現場で薬物とみられるものを押収し、鑑定を進めています。ゾンビたばこと呼ばれる指定薬物「エトミデート」は、若者らの間で乱用が問題となっています。
台湾の行政院(内閣)は、電子たばこの輸入、販売、所持などを禁じる法律の改正案を決定しました。製造や輸入、販売を刑事罰の対象とし、最高で懲役7年、罰金500万台湾ドル(約2500万円)の量刑を設けました。行政院はたばこ製品の製造や販売などのルールを定めた「たばこ害防止法」の改正案を可決、今後、立法院で審議することになります。電子たばこは所持や使用も行政罰の対象となり、3万~10万台湾ドルの罰金が科され、海外からの旅行者が少量を持ち込む場合についても20万~100万台湾ドルの行政罰を科すとしました。電子たばこの製造や販売に重い量刑を設けたのは、薬物の乱用が社会問題化しているためだといいます。液体を加熱して水蒸気を摂取する電子たばこは、薬物の摂取にも利用されており、日本でも「ゾンビたばこ」と呼ばれる「エトミデート」などが代表ですが、台湾では薬物の影響下で起こる交通事故が急増し、2026年1~4月の摘発数が2025年同期比2.7倍の4725件になっていました。今回の改正では、葉タバコを熱して蒸気を吸う加熱式たばこへの規制も強化、健康リスクの審査を条件に流通を認める一方、関連部品の販売や展示の管理を厳しくするといいます。
国際的に大きな問題となっているフェンタニル問題ですが、そもそも「フェンタニル」とは何かについて、2026年6月22日付日本経済新聞において詳しく説明されていましたので、あらためて紹介します。「オピオイド」と総称する麻薬性鎮痛剤の一種。化学物質を合成してつくるため、植物原料を使うコカインやヘロインより安価に大量生産できるとされる。本来は米食品医薬品局(FDA)も認可する医薬品で、米国では1960年代から麻酔や末期がんのケアなどに使っている。規制外のルートで流通する不正フェンタニルが各国で社会問題になっている。被害が深刻な米国では若年層を中心に中毒患者が急増し、年間数万人が過剰摂取で死亡している。フェンタニルは効能が強い上、SNSなどを介して手軽に買えるため、需要がいっこうに減らない。欧州などでも類似の薬物が広がっている。米国は中国やメキシコが不正に米国へフェンタニルを送り込んでいると主張し、麻薬マネーの膨張にも目をつける。米下院金融サービス委員会の監視・調査小委員会によると、2024年までの5年間で麻薬カルテルと関わる中国の不審な金融取引は総額3120億ドル(約50兆円)にのぼった。「中国系の資金洗浄ネットワークは麻薬組織がフェンタニル原料を調達する上で重要な役割を果たしている」と指摘する」というものです。
フェンタニル問題については、日本経済新聞が継続的に取材を続けており、かなり深いところまで解明してきました。2026年6月22日~24日、数回にわたり特集が組まれており、大変参考になりました。それぞれの報道をざっくりと要約すると、以下のとおりです。
- 中国の組織が合成麻薬フェンタニルの不正輸出に関与し、同時に日本の拠点(名古屋)を利用した大規模な暗号資産詐欺を行っていた疑いが明らかになりました。調査によれば、日本の名古屋に設立されたFIRSKY株式会社を拠点に、組織は暗号資産の口座を通じて違法資金のやり取りを行い、詐欺トークン「zksync.jp」を用いて国内外の被害者から数億円規模の資金を騙し取っていたといいます。これらの取引は2022年9月以降に活発化し、ブロックチェーンの取引履歴から中国系の金融詐欺グループとの密接な関係や、違法化学品の武漢遠成集団との資金交流も判明しました。特に、日本のドメイン(.jp)を悪用した詐欺トークンの発行は、日本国内の住所を持つ企業や個人だけが取得可能なはずのものを不正に利用していたことが問題視されています。米国の制裁対象企業と頻繁に取引を行い、マネロンや犯罪資金の隠蔽を図っていたとみられています。米国当局(麻薬取締局(DEA))は、フェンタニルの密輸拠点として日本が中継地点になっていると認識しており、日本の検査体制の緩さも利用されている実態が指摘されています。中国の違法化学品グループとの関係や、米財務省の制裁対象との資金のやりとりも明らかになり、組織犯罪の規模と複雑さが浮き彫りになっています。これらの活動は、日本が国際的な麻薬・金融犯罪の拠点となるリスクを高めており、今後の対策強化が求められているほか、国際的にはDEAや国連薬物犯罪事務所(UNODC)も密輸やマネロン対策を進めているところ、暗号資産を利用した犯罪の追跡は依然として難航しており、日本を含む各国の対応が急務となっている現状があります。
- 名古屋に拠点を置くAmarvel社がメキシコの麻薬カルテルと連携し、複数の暗号資産口座を通じて資金を移動させていたことが判明しました。詐欺トークンzksync.jpをばらまき、多数の被害者を出すなどしており、組織は中国の複数の企業や人物と密接に関連し、大規模な組織犯罪の一端が明らかになりました。具体的には、「Amarvelは日本名古屋に拠点を置き、フェンタニル原料の代金を暗号資産で受け取っていた」、「詐欺トークンzksync.jpを使い、世界中に4598万枚をばらまき大規模詐欺を展開」、「暗号資産の口座間でマネロンが行われ、数億円規模の資金が組織内で移動」、「ドメイン登録情報から香港在住の同一人物が複数の偽サイトを運営し、詐欺に関与」、「中国河北省那台市の企業や人物と組織的な繋がりが確認された」、「米財務省の制裁リスト対象とAmarvelは120件以上の資金取引があり、組織犯罪の可能性が高い」、「夏鳳兵という中国籍の人物とAmarvelが協調し、70万ドル以上の暗号資産を共通口座に送金していた」といったことが分かったとしています。
- 中国の合成麻薬「フェンタニル」の不正輸出に関わる組織の構造と背景には、単なる少数の悪質企業だけでなく、国際的な格差やグローバル貿易の歪みが深く関係していることも指摘されています。これらの組織は、少ない資本の小規模な企業から始まり、武漢や那台市を拠点に、フェンタニル原料を海外の麻薬カルテルや工場に供給、彼らは合法的な化学品を装いながら、実際には米国やメキシコへ大量に密輸し、暗号通貨や租税回避の法人を駆使してマネロンを行っています。特に那台市や広宗県の地域に密接なネットワークが形成されており、同じ姓や地理的つながりを持つ関係者が多く登場し、地域コミュニティを越えた広範な組織的関与が示唆されています。こうしたネットワークは、パナマ文書や裁判資料からも裏付けられ、国際的なコネクションと資金力を背景に、地方の自転車産業の産業基盤を違法薬物の密輸拠点へと転換させている事例などが明らかになりました。中国国内では、これらの組織の摘発は進んでいない一方、米国や国際社会は制裁や調査を強化しており、米中間の協力も模索されていますが、武漢遠成などの企業が依然として実態を隠しながら活動を続けている可能性も指摘されており、グローバルな貿易のゆがみと地方のネットワークが複雑に絡み合った構造問題が浮き彫りになっています。
- 米国ケンタッキー州の大学生が、知らずに麻薬組織のマネロンに加担するマネーミュールとなった事例を取り上げています。そこから中国の違法化学品メーカーが暗号資産を悪用し、麻薬カルテルと結びついた大規模なマネロンネットワークが明らかになっています。マネロンは「投入」、「分散」、「統合」の三段階で行われ、決済アプリや暗号資産が犯罪に利用されているほか、若者がSNSやアプリを通じて簡単に犯罪に巻き込まれやすい状況が続いており、米当局は摘発を進めているものの、組織は形を変えて存続しているのが実態です。その他、「決済アプリや暗号資産の匿名性が犯罪利用を容易にしている」、「移民の弱い立場を利用した物流会社の闇の実態も存在」といったことも指摘されています。
(4)テロリスクを巡る動向
安倍元首相が奈良市で街頭演説中に銃撃され死亡してからまもなく4年を迎えます。翌2023年4月には和歌山市で衆院補欠選挙の応援演説会場で、岸田元首相に向け爆発物が投げ込まれる事件が起き、2024年10月には自民党本部・首相官邸が襲撃されました。単独で過激化する「ローン・オフェンダー」(LO)によるテロに対し、未然防止に向けた官民の連携が進んでいます。警察当局は長年、極左暴力集団や右翼、カルトといった集団を対象に捜査や摘発を行ってきたが、LOはそうした組織に属さない一個人です。組織に所属する人物に比べて違法行為の前兆を把握することは難しく、インターネットやSNSなどを通じて、人目に付かない中で急激に犯意を形成し、自ら武器を作るなどして違法行為に及ぶ可能性がある点から対策が難しいのが現状です。ただ、2026年7月4日付読売新聞の記事「単独テロ 官民で防ぐ 通販・SNS業者ら情報提供」では、地元警察と警察庁の担当部署「LO対策室」との連携により障害事案を現行犯で逮捕した事件を取り上げていましたが、端緒を掴んで以降、LO対策室から情報を得た各県警が連携し、強行事件を担う刑事部門の捜査員も投入して警戒に当たっていましたた。また、2026年6月29日付毎日新聞の記事「「火炎瓶作ってる?」突然来訪した公安警察 テロ対策の一部始終」では、ある女性がXに、「珍しく政治に怒りすぎて火炎瓶を握りしめています」「高市政権の政策による悪影響が直接的にわたしに及んだので、火炎瓶を腰に巻きつけながら首相官邸での抗議の焼身自殺を検討しています」といった内容の投稿をしたところ、匿名のアカウントだったにもかかわらず特定された事例が紹介されていました。SNSのサイバーパトロールをしていた静岡県警が見つけ、連絡を受けた警察庁が過去の投稿をつぶさに調べ、1枚の写真に目を付ける。「車がレッカーされちゃった」という内容で、写真には車と建物が写っており、そこから山梨県警が特定したというものです。警視庁公安部の幹部は「SNS上の危険投稿を拾っていくことは、LO対策において大きな意味を持つ」と力を込めています。テロ対策の実態はベールに包まれてきましたが、警視庁公安3課は「個別の事案については説明しないが、必要な対策は取っている」としており、いま、SNSの投稿は確かに見張られているのが実態です。なお警視庁は1年前、LO対策に専従する「公安3課」を新設、役割は「予兆の覚知」とされ、武器が作れるような爆発物原料の大量購入、異音や異臭といった不審な情報、それらを集め、分析、加えて、警戒するのがSNSでの殺害予告のような投稿だといいます。また、安部元首相銃撃事件後、刑事や地域など部門の枠を超えて事件の前兆の情報を集約する体制を構築、2025年4月には警察庁にLO対策室を新設し、都道府県警の体制も強化してきました。安倍氏を銃撃した山上被告(無期懲役判決を受け、弁護人が控訴)は自宅で手製銃を作っていましたが、近隣住民から前兆に関する通報を得られなかったためです。警察はこれまでもホームセンターや薬局などに、薬品の大量購入など不審な情報の提供を求めてきましが、事件後は、(本コラムでもたびたび取り上げてきたとおり)不動産やSNS事業者、貸倉庫などの業界にも協力関係を広げています。直近でも不審情報を把握するため、警察庁は、貸倉庫業界と宅配業界に協力を依頼しています(トランクルームや貸しコンテナなど収納用のレンタルスペースは、火薬などの保管や作業場所に悪用される可能性があるといいます。また、貸倉庫に暴力団関係の銃器や爆発物が保管されていたり、配達物を玄関先などに置く「置き配」を悪用し、空き家に特殊詐欺の被害金や違法な薬物を送らせて回収したりする事件も起きていることから、警察庁はテロ以外の犯罪につながる情報も多いと見込んでいます)。具体的には、「薬品・火薬のにおいがする」、「金属音や工作音がする」、「武器を保管している」、「長時間滞在している人がいる」といった情報の通報を求めており、事件が起きるまで表面化しにくい違法行為を起こそうとする「意思」ではなく、攻撃に必要な「物」を調達・製造する過程に着目して、異音や異臭など違法行為の前兆となりえる不審情報が集まることを期待しているものです。効果も出始めており、警視庁公安部は2025年夏、通販会社からの情報提供をきっかけに、黒色火薬を自宅で製造したとして、都内の20代の男を火薬類取締法違反容疑で書類送検しましたが、査関係者によれば、男はインターネットで黒色火薬の製造方法を調べ、原料を販売サイトで購入していたといいます。また、2026年2月には関西地方で、外部からの情報を基に複数の警察本部が連携し、病院内で包丁を所持していた男を逮捕、男は「幸せそうな家族を見つけ、殺そうと思った」と無差別殺人の計画を語ったといいます。警察幹部は「断片的な前兆情報を客観的に評価することがテロ防止につながる。民間から提供された情報は極めて慎重に取り扱うことに留意し、企業や地域との協力関係を一層広げていきたい」と話しています。対策で重要性を増しているのが、SNSの投稿分析で、2026年2月、関東地方で17歳の少年が失踪、警察は、少年がSNSで交流していた男のアカウントを特定し、過去の投稿画像などから、四国地方の自宅アパートを突き止め、男はある事件で「人を殺したい」と供述しており、警察は少年を保護し、男を未成年者誘拐などの容疑で摘発、模造銃も押収しました。また、警察庁は現在、生成AIを導入して危険な投稿を洗い出す調査・研究も進めています。テロ対策に詳しい公共政策調査会の板橋功・研究センター長は、「LOは社会から孤立している傾向があり、未然に発見するのは極めて難しい。警察は自治体などと協力し、プライバシーに配慮しながら対策を進める必要がある」、官民で協力しながら端緒をつかむことが重要だ」などと指摘しており正にそのとおりだと思いますが、一方で企業がテロの端緒を掴める可能性も高まっており、、フリーマーケットアプリの「メルカリ」が手製銃の弾丸に使われるおそれがある空の薬きょうの出品を禁止するなど、事業者側も対策を進めています。企業としても「テロ対策に協力できることはまだまだある」のだということも痛感させられますし、より積極的に協力していくべきだと思います。
国内のテロ対策を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 警察庁科学警察研究所(科警研)と横浜市立大は、微量のサンプルからVXやノビチョクなどの神経剤を迅速に検知する方法を開発したと発表しました。テロ発生時に汚染された箇所を速やかに特定し、除染できるようになるといいます。科警研によれば、VXやノビチョクはサリンに比べて揮発性が低く、手や靴底などに付着すると広範囲に拡散する可能性があり、英国でノビチョクが使われた事件では除染に約1年かかり、迅速に汚染箇所を検知する方法が求められていました。VXはオウム真理教が使用したほか、2017年に北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記の異母兄、金正男氏がマレーシアで殺害された事件で使われ、ノビチョクは旧ソ連で開発され、ロシアの反体制派が襲撃された事件の現場付近で検出されたとされます。
- 木原官房長官は、国会内で化学兵器や放射性物質などを使ったテロ対策の強化へ自民党の議員連盟の提言を受けました。議連は首相官邸直轄の専門家組織の新設を要請、木原氏は政府の関係閣僚会議でテロ対策について「夏をめどに中間とりまとめを行う」と述べました。CBRNE(C:chemical化学的、B:biological生物学的、R:radiological放射線、N:nuclear核、E:explosion爆発)テロ対策の強化に向けた議員連盟の古屋会長が木原氏に提言を渡しました。高市首相は2025年の自民党総裁選で、化学テロ発生時に救急医療と連携する専門組織の創設を公約に掲げました。提言は近年の国際情勢、AIやドローン活用などの進展で化学テロを巡る脅威が多様化していると指摘、情報収集から現場対処まで一体として取り組む必要性を訴え、内閣官房の国家危機管理室とインテリジェンス機能の強化のために新設する「国家情報局」が情報を収集・分析し評価する体制を構築することなどを求めています。
- 原子力規制委員会は原子力発電所のテロ対策の認可時期を早めるとしています。発電のため核燃料を運び入れる直前までと定める現状から原発の工事計画が決まる前に改め、設計段階からの検討を事業者に促すとし、原発建て替えの本格化を想定してルールを整え、2027年にも原子炉等規制法の改正をめざすとしています。原発は核燃料を盗んだり、施設を破壊したりするテロへの対策が欠かせず、原子炉建屋の周辺をフェンスで囲い、侵入センサーやカメラを設置するほか、作業員の出入りを身分証や生体認証などで厳重に管理しています。国際原子力機関(IAEA)は2024年に実施した日本のテロ対策に関する検証作業の報告書で、原発の設計・建設段階からテロ対策を考慮するよう規制委に提案していました。
- バングラデシュの首都ダッカで2016年、地元イスラム過激派が飲食店を襲撃し日本人7人を含む22人を殺害したテロから1日で10年となりました。風化が懸念される中、最多の9人の犠牲者が出たイタリアの大使公邸では慰霊式典が開かれ、凶行で突然命を奪われた人たちを悼みました。テロは2016年7月1日夜に発生、殺害された日本人7人は国際協力機構(JICA)によるダッカの鉄道整備事業に携わっていました。実行犯5人は翌2日、治安部隊に射殺されました。警察幹部によると、実行犯はイスラム教徒でない人や外国人を狙うため飲食店近くの日本料理店や高級ホテルなども下見していたといいます。なお、当時の暴排トピックス2016年7月号では、(発生直後の情報の範囲ですが)以下のような指摘をしており、10年経った今でも参考になるのではないかと考えます。
海外のテロリスクを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 米中央軍は、シリア北西部で空爆を実施し、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の幹部を殺害したとXで発表しました。米中央軍は空爆について「海外にいる米国人や米国を攻撃しようとするテロリストを阻止、排除するための継続的な取り組み」の一環だと説明しています。シリアのシャラア暫定政権は2025年、米主導の対IS連合に加わりました。ISはシャラア政権に対する新たな作戦段階に入ったと宣言し、2026年2月以降、攻撃を繰り返しており、同6月にはシリア北部アレッポでの攻撃に関して犯行声明を出しています。ISはシリアの内戦中に、シリア国内の約4分の1超の地域を支配した時期もありましたが、その後、米国が主導する連合や他の敵対勢力の攻撃を受け、シリアでの影響力が低下しています。
- 西アフリカ・ブルキナファソの軍事政権は、旧宗主国フランスとの断交を発表しました。声明で「国内でテロリストを支援している」と主張しています。ブルキナファソでは2022年に2度のクーデターが発生、軍政はフランスの駐留軍を撤収させ、ロシアとの関係を強めています。ブルキナファソに加え、フランスを旧宗主国とするマリやニジェールでも近年、クーデターが相次いで起き、フランスは過激派対策のため駐留させていた軍部隊を撤収させるなど、西アフリカでの存在感低下が指摘されています。ブルキナファソとマリ、ニジェールでは、国際テロ組織アルカイダ系の「イスラムとムスリムの支援団」(JNIM)といったイスラム過激派が勢力を拡大させています。
(5)犯罪インフラを巡る動向
世界的なAIを利用した広告詐欺(アドフラウド)による損失額は2023年に842億ドル(約14兆円)に達し、広告費の22%に相当、2028年には1723億ドルにまで膨らむと考えられています。また、アドフラウド対策専門のSpider Labsは2025年の国内被害額を1592億円と推計、前年比82億円の増加で、被害の深刻化がうかがえます。広告費の不正取得を目的に作成された粗悪なサイト(MFA)を優良な掲載先と判断し、配信を続ける「AIの死角」が突かれているといいます、さらには、悪徳業者がAIボットを使って広告を不正に何度もクリックすることで閲覧数を水増しして課金せている実態もあります。年齢や性別などの属性やサイトの閲覧履歴に基づく購買行動分析や消費者ニーズを踏まえた情報提供を、アドフラウドが難しくしており、周知や購買につながらないとの弊害をもたらしています。電通グループの調査では、2026年の世界の広告費のうちデジタル広告が69%を占めるとしており、アドフラウドを回避できなければ、広告主の離反にもつながりかねない状況です。広告各社もアドフラウド対策に乗り出しており、博報堂DYホールディングス(HD)は、アドフラウド被害を防ぐために、新たな対策を導入するための新会社「Ads for Humanity」を設立、この会社は、虹彩認証などの生体認証技術を活用し、実在の人間にのみ広告を配信する仕組みを構築しています。さらに、AIボットによる不正だけでなく、クリック数や閲覧履歴の改ざんリスクも抑制し、デジタル広告の価値向上を目指すとしています。今後は、生体認証を基にした配信範囲の拡大や、消費者の裾野を広げることで、より効果的な広告運用を実現し、広告費の増加に対応していくことが求められています。一方、AIによる配信の仕組みは複雑で、企業側が広告の掲載先を詳細に把握するのは困難です。その結果、広告費の不正取得だけを狙った悪質なサイトが横行、一部は反社会的勢力の資金源となっていると指摘されています。総務省は広告主向けの指針で、自社広告が意図せず悪質サイトに掲載されればブランド毀損などのリスクや広告料が悪質サイトの収益源となることで「不健全なエコシステムに加担するリスク」、社会的責任などを指摘、経営陣のネット広告戦略への関与を求めています。不作為は犯罪を助長するとの厳しい認識が必要だといえます。
電子決済サービス「PayPay(ペイペイ)」を悪用した詐欺メールが急増しています。自治体やクレジットカード会社をかたり、「支払いが未完了」などとPayPayアプリの送金画面に誘導して送金させる手口で、金融機関などでつくる「フィッシング対策協議会」への報告は2026年3~5月で計8万件超に上っています。同アプリを提供するPayPay社は対策を強化するとともに、利用者に注意を呼びかけています。同協議会によれば、詐欺メールは、同アプリの利用者が別の利用者に指定した金額を請求できる個人間送金機能を悪用、「税の納付期限が迫っています」「お支払いが未完了です」などのメッセージの下にあるURLを開くと、スマホ内の同アプリが起動し、数万円程度の請求額が記載された送金画面に移り、画面上の「送る」を押すと、利用者の残高から送金されるものです。メールの多くは中国から送信されており、ショートメッセージも使われています。同協議会には3月から報告が寄せられ、3月は592件、4月は2万8499件、5月は5万5447件と増えています。PayPay社は悪用されたアカウントの利用を制限し、送金画面に警告を表示するなど対策を強化しており、「企業や団体への支払いに個人間送金機能は利用されていない。詳細が確認できない場合は送金せず、判断が難しければ、納付先の公式サイトを確認してほしい」と呼びかけています。誤って送金してしまった場合の補償については、「利用者自身の操作による取引は補償対象外」としています。PayPayは2018年にサービスを開始、2026年5月時点の利用者は7400万人に上り、税金や公共料金の支払いなどにも活用されています。最近では、通販サイトの返金手続きを装い、客にPayPayを操作させて金を送らせたとして、警視庁が札幌市の無職の男を電子計算機使用詐欺容疑で逮捕しました。同庁は男が「闇バイト」に応募し、自身のペイペイのアカウントを「返金詐欺」グループに提供したとみています。男は何者かと共謀して2025年8月、通販サイトでスポーツ用品を買った女性にメールで「在庫切れのため電子マネーで返金する」と連絡、ペイペイで自身に4回にわたって計約21万円を送らせた疑いがもたれています。女性が案内に従ってサイトの「ヘルプセンター」に連絡したところ、「ペイペイを起動して」「認証コードを入力して」などと電話で指示され、送金機能だとわからないまま送ってしまったといい、翌日になって女性がアプリの履歴を見て被害に気づいたものです。通販サイトは削除されており、架空だったとみられています。男は「数年前にXで闇バイトに応募した」と供述、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」で、「ペイペイで金を受け取る仕事」などと中国語で伝えられていたといい、警視庁はトクリュウが関与した疑いがあるとみています。関連して、PayPayは、QRコードを使ってお金を受け取る機能について、本人確認の手続きを必須にすると発表しました。このサービスを利用したフィッシング詐欺(QRコード詐欺、クイッシング、QRフィッシング)などが相次いでおり、対策を強化するものです。対象になるのは、アプリ内でQRコードや請求リンクを作成し、LINEで送るなどして相手からアプリ内の残高を受け取る機能です。PayPayアプリで、マイナカードや免許証などを用いた本人確認手続きが必要になりますが、携帯電話番号などを使った受け取り機能は、対象外としています。
SNSの犯罪インフラ性を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 近年、世界中で思春期の子どもたちのSNS利用に対する規制の動きが広がっています。これは、SNSが睡眠障害やいじめ、メンタルヘルスの悪化といった悪影響を引き起こす懸念があるためです。最新の脳科学研究では、頻繁なSNS利用が脳の報酬系に過敏な反応をもたらし、読解力や思考力の低下、承認欲求の増加に影響を与えることが示されています。特に、米ノースカロライナ大学の追跡研究では、11~14歳の子ども約170人を3年間追跡し、SNSの利用と脳の反応の関係を調査したところ、SNSを頻繁に利用する子どもは、脳の報酬系の反応が増大し、年々敏感になっていることが明らかになりました。ただし、因果関係の証明はまだ不十分です。国内の研究でも、SNS利用が女子の孤独感や痩せたい願望を増加させ、長期的にメンタルヘルスの悪化に繋がる可能性が指摘されています。また、男子と比べて女子の影響が大きいこともわかっています。こうした研究結果を背景に、オーストラリアやEU諸国、インドネシアなどでは子どものSNSアクセスを制限する法案や規制が進行中です。アメリカでは、SNS企業に対して依存性を招く設計の責任追及や賠償命令も出ており、社会的な関心が高まっています。専門家は、思春期の脳は未成熟で依存しやすいため、予防策が極めて重要と指摘しています。オーストラリアは規制の効果検証結果を2026年後半に公表予定であり、日本も今後の方針決定に向けて検討を進める必要があります。
- 調査会社のクロス・マーケティングが発表した「SNSに関する調査(2026年)意識編」によれば、20代の約47.9%が「SNS疲れ」を経験していると回答しており、その主な理由は情報量の多さに起因しているといいます。全国の20~69歳の男女3000人を対象に行ったインターネット調査で、全体の44.6%が「距離を置きたい、休みたい」と感じた経験があると答えています。特に女性は47.5%、男性は41.7%と差があり、世代別では30代も45.6%と高く、20代と並んでSNS疲れを感じやすい層となっています。SNS疲れを感じる場面としては、「情報量が多すぎる」が39.5%で最も多く、「同じ情報ばかり流れる」「嫌なコメントや空気を感じる」などが続きます。20代では、「他人の投稿で気持ちが疲れる」(28.6%)や「やめたいのに見続けてしまう」(27.3%)といった心理的負担も顕著です。さらに、全体の43.9%がSNS利用を控えた経験があり、特に20代は49.5%と高い割合です。理由は「無駄に時間を使う」が最も多く、21.8%を占めています。一方、生成AIを活用したSNSコンテンツに関しては、47.6%が「見たことがある」と答え、今後増えると考える人も34.5%いますが、「信用しにくい」といったネガティブな意見も存在します。子どものSNS利用については、80.8%が家庭や学校でのルールを含めて制限すべきと考えており、世代別では60代が88.2%、20代は72.5%と差があります。さらに、56.1%が法律による規制を支持しており、社会的にSNSの適正利用や規制の必要性が高まっていることが示されています。
- 思春期の子どもの脳は、まず後頭葉や側頭葉、頭頂葉といった知覚や運動を司る部分が成熟し、感じることや動くことに関わる能力が発達します。その後、大脳辺縁系の中でも感情を制御する扁桃体や側坐核が活発になり、感情的な反応や報酬系の成長が促進されます。この時期の子どもは感情的になりやすく、リスクを伴う無謀な行動を好む傾向があり、これは脳の発達過程によるものです。一方、判断や行動抑制を担う前頭前野は成熟に時間がかかり、成人の25歳頃まで発達し続けます。前頭前野の未成熟さは、挑戦的な行動やリスクを取る傾向に影響し、SNSの過剰利用や無謀な行動につながる可能性があります。特に、SNSでは「いいね」や評価を求める行動が過激化しやすく、他者と比較した結果、敗北感や無力感を抱きやすくなります。こうした心理状態は、社会的敗北ストレスとして知られ、うつ病のリスクを高めることも示されています。実験動物の研究では、強者に敗れた弱者がうつ状態に陥ることが確認されており、これは人間の子どもや若者にも類似の心理的影響をもたらすと考えられます。さらに、ネット上の社会的排除や攻撃は、ネガティブな感情や攻撃性を増長させ、メンタルヘルスの悪化や自殺者数の増加に影響しています。日本では、若者の自殺者数が増加しており、これはSNSの過剰利用や精神的ストレスと関連していると指摘されています。一方、SNSには自己表現や学習の促進といったプラスの側面もあり、米国心理学会は適切な監督と指導のもとでの利用を推奨しており、子どもの脳の発達段階に応じた適切なSNSの使い方や、精神的サポートが重要であることが示唆されています。
- カリフォルニア州オークランドの連邦地裁のロジャース判事は、フェイスブックやインスタグラムを運営するメタ・プラットフォームズに対する訴訟の却下を求めるメタの申し立てを退けました。この訴訟は、29州の司法長官が、メタが子どもたちが依存しやすいようにSNSを設計し、その有害性を隠していたと主張して提起したものです。原告側は、欺瞞行為や不公正な商慣行、そして児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)違反を根拠に訴えを起こしました。判事は、メタが同法の通知や保護者の同意に関する要件を満たしていなかったと認定し、州側の主張を認めました。一方、メタはこれに反論し、証拠が出れば若者支援に長年取り組んできたことが証明されると主張しています。カリフォルニア州のボンタ司法長官は、この判決を子どもたちの精神的健康危機に対する重要な勝利と評価しました。裁判所は、SNSの依存性や設計意図について争いがあると指摘し、今後の訴訟で決着させる必要性も示しました。研究結果によれば、フェイスブックやインスタグラムの利用は子どもの不安やうつ、自殺や自傷行為につながる可能性があるとされますが、メタは依存性を持つ証拠はないと反論しています。さらに、これらのサービスは13歳未満向けではなく一般向けであるため、児童オンラインプライバシー保護法には違反しないと主張しています。ただし、判事は、設計意図や依存性の有無については争いがあるとし、証拠次第では虚偽と判断される可能性も示唆しています。今後、カリフォルニアやコロラドなど4州の訴訟は8月に裁判が始まる予定です。
- こども家庭庁は、SNSから子どもを守る対策について報告書の骨子案をまとめました。SNS事業者に安全を脅かすリスクの評価や年齢確認などの保護策を求め、違反には罰則も検討するとし、一律の年齢制限については記載を見送りました。子どもがSNSを起点にいじめや犯罪被害に巻き込まれる事例が相次ぐ中、こども家庭庁は青少年インターネット環境整備法の改正などで、新たなルールが作れないか準備を進めています。骨子案ではSNSを提供する事業者に対して、自社サービスがどれだけ子どもの安全を脅かすリスクがあるか自己評価を求める必要があるとしたほか、年齢確認をマイナンバーカードの活用などで厳格化、現在の自己申告ではなりすましの問題がありました。保護策の有効性を事業者自身に改善してもらう仕組みも提言、実効性を高めるために政府は報告徴収や勧告、改善命令を行い、違反に対して何らかの罰則を検討する方針も示しました。また、規制を強める姿勢を明確にしました。子ども向け対策について、これまではスマホ用アプリなどを通じ、有害サイトのアクセスを遮断するフィルタリングが主に使われてきましたが、骨子案ではさらに、保護者の設定で利用できる機能を管理・制限できるペアレンタルコントロールを中心に据えるべきだとの考えも示しました。技術的な保護手段の提供を基本ソフト(OS)事業者に義務付けることも検討するとしています。年齢による一律規制については、記載は見送られ、検討会で賛否両論があり合意形成に至らず、インターネット空間が子どもの居場所になる場合があることにも配慮した形で、引き続き主要7カ国(G7)や各国の施策の動向を参考にして議論を進めるとしています。日本には子どものSNS利用そのものを規制する法律はなく、SNSの普及に伴い、いじめや犯罪被害、依存などのリスクが顕在化し、現行法では対策が不十分だと指摘が相次いでおり、海外ではSNSから子どもを保護する対策や規制を強化、オーストラリアは16歳未満のSNS利用を禁止にする法律を施行、欧州でも子どもの利用制限を進める動きが広がっています。
- 前述のとおり、子どものSNS利用を巡り、日本での規制の方向性が見えてきました。海外のように年齢で一律に制限するのではなく、サービスごとのリスクに応じて、年齢確認を厳格化する方向です。現状多くのサービスで自己申告による年齢確認が行われているため、より実効性のある年齢確認手法の導入が求められます。専門家の水谷瑛嗣郎准教授は、一律の年齢制限は非合理的であり、過剰規制は子どもの自由やサービスの多様性を損なうと指摘しています。日本の議論では、SNSが子どもにとって安心できる居場所となっている側面も考慮されており、規制の影響を慎重に検討すべきだとの意見もあります。一方、海外ではオーストラリアやカナダ、英国などが16歳未満の利用を法律で制限し、SNSの最低年齢を引き上げる動きが広がっています。背景には、SNSがたばこや酒と同様に依存や精神的悪影響を引き起こすとする認識の高まりがあり、米国では裁判例や心理学的研究をもとに、未成年の利用制限や規制強化が進んでいます。特に、前述のとおり、SNSの設計が若者の脳に依存を促す仕組みになっているとの指摘もあり、規制の必要性が国際的に認識されつつあります。日本ではこうした海外の動きや専門家の議論が十分に浸透しておらず、社会的な議論はまだ限定的な状況だといえます。
- オーストラリアは、世界で初めて16歳未満の子どもによるSNS利用を禁止する法律を2025年に施行しました。この法律では、YouTubeやFacebook、InstagramなどのSNS運営企業に対し、年齢確認の措置を義務付け、違反した場合には最大約55億円の罰金が科されるものです。しかし、施行後の調査や研究によれば、多くの子どもたちは依然としてSNSを利用し続けており、年齢を偽るなどして規制を回避している実態が明らかになっています。規制の効果は限定的であるとされ、子どもたちの利用を止めさせるには不十分だとの指摘もあります。これを受けて、豪州政府は規制当局の権限拡大や、企業への法的措置を検討しており、今後数週間以内に規制の強化を発表する見込みです。アルバニージー首相はこの法律を世界をリードするものと誇りに思っていると述べ、他の国々も同様の動きを見せていることから、制度の実効性向上に国際的な関心が高まっています。世界では、インドネシアやフランス、米国などで規制の導入や検討が進められており、日本でも議論が続いていますが、効果的な対策はまだ確立されていません。
- オーストラリア政府は、子どものSNS禁止法に違反したSNS運営企業への罰則を厳しくすると発表しました。罰金をこれまでの2倍の最大9900万豪ドル(110億円)に引き上げるほか、オンライン規制当局の権限も強化、子どもの接続を阻むために講じた具体的措置の証拠提出を運営企業や年齢確認サービス事業者に強制できるようになります。当局は現在、Facebook、Instagram、Snapchat、TikTok、YouTubeの5プラットフォームが法令を順守していない可能性があるとして調査しています。アルバニージー首相は声明で「今回の厳罰化は法律を順守しないSNS企業に対して、我々がその怠慢をどれほど重大に受け止めているかを示している」と述べました。オーストラリア政府によれば、これまでに対象となる500万アカウントが削除・凍結されましたが、それでも複数の調査でいまだ大半の子どもがSNSアカウントを持ち続けていることが明らかになっています。SNS側から年齢確認を求められなかったり、顔認証で16歳以上と認定されたりするなど、制度に抜け穴があるとみられています。
- ドイツ政府が任命した専門家委員会は、13歳未満の子どもが自身のSNSアカウントを運用することを禁止し、プラットフォーム事業者に厳格な子ども保護策を義務付けるとともに、「デジタル・ネグレクト」を防ぐための親の義務を導入することを検討すべきだと提言しました。委員会は、13歳未満のSNS利用禁止に加え、13─16歳と16─18歳の年齢層について段階的な保護基準も提案、若者をデジタル空間から完全に排除することなく、オンライン上のリスクから守ることを目指すとしています。また、代替案として、委員会は一律の年齢制限を設けず、個々のプラットフォームのリスク評価に基づき、サービスや機能ごとに制限を設ける方式も提示しました。オーストラリア、フランス、カナダ、スペイン、スロベニア、ギリシャ、英国など多くの国は、若者を保護するためのSNS利用禁止措置を既に導入したか、導入を進めています。ドイツでは、フェイクニュースやAIが生成した画像、暴力、ポルノが子どもや若者への脅威になっているとして、与党の保守政党と社会民主党が既に利用制限への支持を表明しています。
- カナダ政府は1、16歳未満の子どもがSNSのアカウントを持つことを原則禁止する法案を下院に提出しました。AIが会話形式で質問に答える「チャットボット」にも、有害な内容を伝えるリスクの軽減などを求めています。法案では、一定の安全基準を満たしたSNSサービスについては適用除外を認め、法令を守っているかどうか監督する「デジタル安全委員会」も新設するとしています。また、違反した場合、全世界の売上高の3%か、1000万カナダ・ドル(約11億円)のいずれか高い方を上限とする制裁金を科すとしています。ただ、法案成立には約1年、その後の規制当局の発足にはさらに約1年半かかる可能性があるといいます。子
- アラブ首長国連邦(UAE)国営の首長国通信(WAM)は、同国で15歳未満のSNS利用を禁止することが閣議決定されたと報じました。SNSに年齢制限を設ける動きが各国に広がる中、ロイター通信によれば、中東では初めての事例となります。対象は国内で利用可能なSNSすべてで、15歳未満のアカウント作成・使用が禁じられます。15~16歳の利用に当たっては、コンテンツ制限や、知らない人と交流できないようにするなどの保護措置が必須となります。
- 英政府は、2027年春にも16歳未満の利用を禁止する方針を明らかにしました。悪影響の抑制に期待がかかるものの、先行するオーストラリアでは実効性に課題が出ています。英政府はTikTok、YouTube、Instagram、Xなどを対象に挙げました。英情報通信庁(オフコム)が年齢確認の手法を検証するとしています。スターマー英首相(当時)はSNSについて「依存性を持つように設計されている」と問題視しました。有害コンテンツへの接触や、いじめ・嫌がらせの温床になりやすい点も指摘、SNSに限らず、オンラインゲームでも見知らぬ相手とやり取りできる仕組みの制限を検討するとしています。英国の規制の背景には世論の支持があり、英政府の意見公募には約11万6000件が集まり、子どもを持つ親の9割が規制に賛成しました。SNSは悩みを抱える子どもの居場所や支援の手段になっている側面もあり、禁止による影響を懸念する声も上がっており、英ブリストル大学のリジー・ウィンストン上級研究員は「SNSへのアクセスを遅らせたからといってリスクが消えるわけではない」と強調、リテラシーが不足したまま利用を始めれば、トラブルに巻き込まれる恐れがあります。
- 米下院エネルギー商業委員会の与野党指導部は、SNS運営事業者に対し、未成年者と保護者向けの「安全策とツール」の提供を義務付ける法案で合意しました。子どものオンライン上での保護を巡る長年の議論における重要な一歩となります。同委のガスリー委員長(共和党)と民主党のパローン議員は共同声明で、合意の詳細な内容については明らかにしなかったものの、「大手テック企業に責任を負わせる」ものだと説明、「われわれは何カ月にもわたり党派を超えて協力し、子どもたちのデジタル環境を大幅に改善する政策で共通の立場を見い出した」と述べました。委員会の共和党側報道官は、今回の合意には、ソーシャルメディア・プラットフォームを子どもの安全に配慮して設計するよう企業に義務付ける「注意義務」の条項は含まれないと述べました。米国では、テクノロジー企業が若者に与える影響について監視が強まっており、保護者や州当局者はアクセスを制限するため、学校で携帯電話の使用を禁止するよう働きかけています。なお、米下院は、SNSなどのオンラインプラットフォームに子どもに対する一定の保護措置を義務付ける法案を可決しました。上院はより厳しい基準を支持しており、対立が生じる可能性があります。「子どものインターネットおよびデジタル安全法」案は、民主党と共和党双方の支持を得て、賛成267、反対117の賛成多数で可決されました。法案はソーシャルメディア企業に対し、子どもが依存性のある機能を制限できる手段を提供することや、性的搾取を含む危害から子どもを保護するための方針を策定することを義務付ける内容で、下院がオンライン上の子どもの安全を規制する法案を可決するのは、上院が企業に対し、若年層の利用者に関する「注意義務」を課すことなどを盛り込んだ法案を2024年に可決して以来初めてとなります。
陸上自衛隊が中国系ウイルスに感染したUSBメモリーを使い続けていた問題が発覚しました。1人の隊員の違和感から偶然発覚したものですが、身近なツールの適切な管理を巡り、様々な教訓を得ることができます。報道によれば、2025年2月5日午後3時30分ごろ、陸上自衛隊システム通信団にあるサイバー攻撃の監視部隊で、ウイルスを検知したとアラートが鳴り、ウイルスが潜んでいた場所は、中部方面総監部(兵庫県伊丹市)にあったパソコンで、そこに挿し込まれたUSBにファイルが隠されていたものです。当時パソコンを操作していたのは、総監部に所属する男性隊員で、隊員はパソコンに接続されたLANケーブルを引き抜き、パソコン内部のウイルスチェックを行い、完了するまで6時間近くかかりましたが、幸い感染は広がっていませんでした。隊員は当時、インターネットと接続する「オープン系」のパソコンにUSBを挿した状態でログイン、別の部隊から届いたメールの添付ファイルをダウンロードし、USBにコピー、部隊の指揮命令など極秘情報を扱う「クローズ系」と呼ばれるネットワークにつながれたパソコンにデータを移すためでした。USBにデータをコピーしている時、パソコンの動作がいつもよりも遅く感じ、「USBが悪さをしているのではないか」と懸念、念のためパソコンに導入されているセキュリティソフトに対し、USBに保存されているファイルの全量チェックを指示したところ、ウイルスを検知したものです。動作が遅かったのはこのUSBが粗悪品だったためとみられています。正規品に比べデータのやり取りに10倍以上の時間がかかっていたといい、隊員の気づきは偶然ですが、結果的に自衛隊をサイバー攻撃の脅威から守ったことになりました。自衛隊では日常的にUSBが使われており、私物の使用は一切認めておらず、部署ごとにあらかじめ登録したUSBしか使えない「ホワイトリスト方式」で、厳重に管理されています。USBのデータは全て暗号化され、紛失や不正な持ち出しによる情報流出を防ぐ仕組みがあります。こうした厳重なチェック体制があるにもかかわらず、なぜ自衛隊で粗悪なUSBが登録され、使われたのかについて、USBから見つかったウイルスは、自衛隊の暗号化処理がなされておらず、新品の段階ですでにウイルスがUSBの中に潜んでいたことになります。ただ自衛隊では納品時の検品でウイルス感染がないことを確認する手続きがあり、なぜこの段階で排除できなかったのかが懸念点です。さらに、部隊のパソコンに導入されたセキュリティソフトの設定が、USBだけ検査対象から外れていたかも懸念点です。隊員が手動でチェックしない限り、ウイルスが見つかることはなく、ソフトの設定は外部の業者に任せていましたが、これが自衛隊側の指示によるものだったのかなど不明な点が残っています。調達経路も不透明で、ウイルスの来歴を知る上で重要な情報だが記録が残っておらず、主張が食い違っています。また、問題が次々と明らかとなったのは、隊員が違和感を放置せず、念のためにセキュリティソフトでチェックしたことがきっかけで、陸自は内部文書においてこれを「ユーザーによるセキュリティ対策の成功例」とし「サイバー攻撃などを未然に防止したとして(啓発活動に)推奨すべき」と記しましたが、陸自内部で広く情報が共有されることはありませんでした。内部文書で、同じ中国製の偽装USBがネット通販を通じ広く社会に出回っている実態を把握したにもかかわらず、公表もされませんでした。なお、陸上自衛隊が保有するUSBメモリーからマルウエア(悪意あるソフト)が検知された事案を受け、総務省が地方自治体を対象にUSBメモリーの利用状況などについて実態調査を行うと明らかにしました。実態調査に先立ち、総務省が2026年6月26日に利用状況の確認や見直しなどに関する注意喚起の通知を出しています。その結果、三重県は複数の部署のUSBメモリーからマルウェアが検知されたと明らかにしました。三重県は独自の調査を継続中ですが現時点で情報の流出などは確認されていません。県の調査は専用のソフトを使用し、前述の総務省の通知日から実施しているといいます。県では2023年度にメールソフトを入れ替えており、その際にバックアップとして古いデータをUSBメモリー内に保存、迷惑メール内に含まれていたマルウェアが検知されるなどした可能性が考えられるといいます。県は職員に対し、USBメモリーを使用するたびにウイルスが含まれていないかをチェックするよう求めており、徹底できていなかった可能性もあるとみています。県によれば、所有するUSBメモリーは6000個以上あるとみられ、全容が分かり次第、結果を公表する方針だといいます。
関連して政府は、AIを悪用したサイバー攻撃への対策を自治体に求める方針です。システムの脆弱性を総点検し、見つかった場合は修復するよう促すもので、個人情報など重要な情報が国や自治体のシステムから漏れるのを防ぐ狙いがあり、総務省が近く自治体に通知を出すといいます。自治体はどのような情報システムを持っているか洗い出す必要があり、システム会社に依頼して脆弱性がないか点検し、修復用の「パッチ」と呼ぶプログラムを適用します。自治体によっては情報システムの管理体制が小さく、どのようなシステムを使っているのかすべて精緻に把握できていない例もあり、総務省は自治体からの相談を受ける体制の整備を検討しているといいます。自治体が使うシステムは政府のシステムともつながっており、脆弱性が残る自治体のシステムが攻撃を受ければ政府の重要システムにまで侵入される恐れがあり、政府だけではなく、自治体の対策も急務となっています。高性能AIはシステムの脆弱性を見つける能力が従来のモデルより桁違いに高いとされており、攻撃に悪用されれば重大な被害をもたらす可能性があります。
日本の主要企業がAIによるサイバー攻撃への対策に動き出しました。日本経済新聞の「社長100人アンケート」では「クロード・ミュトス」級の先端AIの悪用に備え、対策投資を「増やす」割合が81.1%に上り、AIで脆弱性の監視体制を整え、AI対AIの攻防に備える動きが加速しています。AIによるサイバー攻撃の高度化に対し、ほぼ全ての企業が懸念を持っており、54.8%が「強い懸念を持っている」と回答しました。サイバーAIでは米新興アンソロピックのミュトスの性能が突出、半年から1年後には他社も追いつき、ミュトス級AIが相次ぐとみられています。サイバー空間の攻防は新たな段階に入ります。ミュトス級AIはソフトウエアの脆弱性を見つける性能が高く、懸念点(複数回答)について、「公表前の未修正の欠陥を突いた攻撃の増加」が95.5%で最も多くなりました。脆弱性は悪用されると、情報の漏洩や不正アクセスにつながる恐れがあります。「サプライチェーンを通じた侵入リスク」も65.9%が挙げました。2022年に自動車部品メーカーの小島プレス工業(愛知県豊田市)が受けたサイバー攻撃の影響で、トヨタ自動車の国内全工場が止まりました。企業は密接なサプライチェーンを構築、一部でも攻撃を受ければ、経営の打撃となることを警戒しています。サイバー攻撃への対策で、今後の投資を「大幅に増やす」(18.1%)と「やや増やす」(63.0%)と回答した企業は81.1%に上りました。ミュトス級AIの悪用を防ぐには、企業もAIでソフトの修正能力を高める必要があり、予定・検討する対策(複数回答)は、「AIを活用したセキュリティ監視・防御」(65.7%)が最多でした。アシックスの富永満之社長は「セキュリティについて取締役会での定期的な議論と、適切な予算配分が不可欠だ」と回答しています。AIによる防御システムを構築するほか、高度な知識を持った人材の確保に力を入れています。防御システムの構築には、ミュトスのアクセス権を得て課題を分析する必要があり、アクセス権を得たのはメガバンクや日立製作所などまだ一部で、53.6%の企業が「ミュトス自体の安全性やリスクに関する情報開示が十分でない」と不安視しています。高度なAIの進化に対策が追いつかない場合、攻撃を受けることを想定して被害を最小限にとどめる施策が重要になります。日本精工の市井明俊社長は「完全に攻撃を防ぐことが不可能であることを前提に、事業継続計画(BCP)を策定する」と述べています。2025年にサイバー攻撃を受けたアサヒグループホールディングスの勝木敦志社長は、「侵入を想定した検知機能や侵入後の対応を強靱化し、障害から迅速に復旧する仕組みを整える」と答えました。AI対AIのサイバー攻防は、企業の事業継続のあり方を根本から変える必要があることを突きつけています。
国連は、AIの恩恵とリスクを評価する専門家パネルによる初の報告書を発表しました。AIの開発や利用状況の格差と、民主主義や人権などへの影響に触れています。国や地域でAIの安全利用に関する研究所を設立するなどの対応策を検討するよう加盟国に呼びかけました。国連のグテレス事務総長は「共通のルールがないままAIが進歩すればするほど、政府や国民が結果に関与できる機会が狭まっていく。対応を先延ばしにしてはならない」と強調しました。今後、AIがもたらす恩恵をいかに分かち合うかなどについて各国に提案する意向も明らかにしました。専門家パネルは医療や農業、教育など多様な分野でAIによる発展が期待できると評価、一方で同時に使用する言語やAI利用に関するガバナンスの面で国・地域間の格差が顕著になっていると問題視しました。報告書は最先端のAIの開発が米国と中国に集中している状況を取り上げ、AIのリスクが幅広い国に及ぶ一方、AI開発によってもたらされる富は少数の国と企業に集中し「権威主義的な支配につながるおそれがある」と指摘しました。世界に7000以上の言語がある一方、AIの開発や査定に用いられる言語は「ごく少数に限られる」と言及、一例として、アフリカのエリトリアやエチオピア北部などで700万~900万人が話すティグリニャ語のAI翻訳に重大な誤りがあると紹介、「抗生物質」を誤って「殺虫剤」と訳すなど、医療現場で使われた場合に「人命を危機にさらす誤訳がみられ、生死に関わる状況での利用に適していない」と警告しました。また、AI利用を巡るガバナンスや規制がグローバルサウス(新興・途上国)で乏しいことも懸念に挙げました。報告書によれば、118カ国がAIガバナンスの主要な議論に関与しておらず、発展途上国で国家レベルのAI戦略を策定しているのは3分の1以下にとどまっており、専門家パネルはこうした課題に対処するため、国や地域で「AI安全研究所」の設立やガバナンスが整った国への技術者の派遣を勧告しました。また、AIの発展は科学的理解や政府の政策を上回るペースで進んでおり、破滅的な被害を引き起こさない保証はないと警告しました。AIが偽情報や誤情報を大量に生成し、誤った認識を広め、社会の分断を招く点もリスクに挙げ、生成AIを悪用した偽画像の拡散による児童への性的虐待、詐欺事件にも触れ、「適切な統治が必要」と訴えました。AIシステムが自律性と欺瞞(性を高めるにつれ、システムに対する制御が失われるリスクが生じる点や、詐欺やサイバー攻撃、生物学的脅威に悪用される恐れなど、安全性に関する懸念も列挙しました。さらに、AIの進化が人権や民主主義を脅かす可能性についても懸念を示しました。言論の自由や情報アクセスを抑圧するためにAIが用いられる事例があると注記、最先端のAIの特徴として、誤った情報でも人間に信じ込ませる説得力が増していると警鐘を鳴らしました。今後の課題として、AIが生み出すコンテンツだけでなくシステムそのものがもつ説得力や操縦の能力を規制する必要が生じていると提起しました。報告書は専門家パネルが科学的な結論を見いだせなかった分野にも触れ、マクロ経済における生産性や雇用への影響について「プラス効果が経済全体に広がるかは確信を持てない」と記しました。AIを駆使することで高度な専門知識を持たなくても生物・化学技術の悪用が容易になったとみられる一方、「実際にパンデミック(世界的大流行)などにつながるリスクがどれほど高まるかは不明だ」と加えました。
米政府が先端的なAIモデルの利用を国家レベルで管理する新たな体制構築を検討し、先進7か国(G7)各国に参加を呼びかけたことがわかりました。G7をはじめとする民主主義陣営で先端AIを利用する体制を整えてサイバー防御を強化し、中国などに対抗する狙いがあるとみられています。フランス東部エビアンで開かれたG7首脳らと各国を代表するAI企業トップらによる昼食会で、米国のベッセント財務長官が言及、トランプ大統領も先端AIへの政府の介入に理解を示した上で、中国との競争に勝つため、AIを国家戦略産業として扱うなどと述べたといいます。先端AIの管理体制の構築は、先端AIを米国などで囲い込み、有志国だけに利用を認めてサイバー防御力を向上させる一方、中国などの利用を制限することで、覇権争いで優位に立つ目的があるとみられています。ベッセント氏は会合で、中国が世界2位のAI大国だとした上で、西側諸国に中国のAIを使う企業が多いことを問題視、米国と民主主義陣営が力を合わせてAI分野で主導権を握る必要性を訴えました。また、金融や通信などのインフラ(社会基盤)を念頭に、民主主義陣営全体でサイバー攻撃に対する耐久性を高めるための仕組みを整備することが重要との認識を示したといいます。米政府は、米新興企業アンソロピックに、最先端AIモデル「クロード・ミュトス5」などの外国人への提供停止を命じるなど、先端AIの利用を政府で管理する姿勢を打ち出しましたが、会合では、G7首脳から「最先端モデルの利用制限はG7などの有志国の間では解除すべきだ」といった声が出たといいます。
米英など5カ国政府の情報機関は、各国企業や組織向けにサイバー防衛の強化を求める緊急声明を発表しました。AIの進化により攻撃側の脅威が急速に高まっているとして、「単なるITの問題ではなく、企業経営の中核的なリスクだ」と警鐘を鳴らしました。共同声明を出したのは、米国家安全保障局(NSA)、英国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)のほか、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドでサイバー防衛を担当する情報機関で、機密情報を共有する英語圏の5カ国「ファイブ・アイズ」として発表したものです。AIの性能向上により、攻撃側はソフトの弱点(脆弱性)探しから、なりすましメールや侵入用のウイルス作成、攻撃実施まで自動化できるようになりました。声明では、攻撃のスピードと精度、規模が急速に上がるなど「サイバー攻撃・防御のあり方が数カ月単位で変わっている」として、企業に緊急対策の実施を求めました。具体的には、(1)攻撃されやすい不要で古いシステムを減らす(2)脆弱性の修正(パッチ)を素早く実施できる体制整備(3)AI活用を含む多層的な防御体制をつくる(4)システムのアクセス権限を見直す(5)情報漏洩は起きると想定し、被害抑止策を訓練するといった基本的な対策です。既にAIを活用した情報漏洩やシステム乗っ取りといった被害が数多く報告されており、声明では、サイバー防御を企業戦略の中核におき、責任者に十分な権限とリソースを与えるなど、経営側の意識改革も求めました。米アンソロピックはサイバー能力が高い先端AI「クロード・ミュトス」の最新版について、米政府の指示を受けて提供を止めましたが、悪用の抑止効果は一時的で、同等の性能を持つAIの開発に別の企業が成功するなどして脅威が高まる可能性があります。
米国のAI開発企業アンソロピックのダリオ・アモデイCEOは、AIの規制強化策を提言しました。現在はAIの急速な進化に制度が追いついていないとし、重大な安全上のリスクがある場合は政府が公開を強制的に停止する権限を持つべきだと主張しました。AI企業のトップが政府に介入を求める提言は異例です。アモデイ氏は、公開した「AIの指数関数的成長に関する政策」と題した論考で、AIモデルが人間の制御を離れる恐れがあると警告、サイバー攻撃や生物兵器への悪用リスクに対し、企業の自主規制では限界があるとし、最先端AIモデルの規制のあり方について、航空機を参考にすべきだと提案、「航空機のように技術検査を義務づけ、基準を満たさない場合は公開させないようにすべきだ」と、政府に対策を求めました。一方、政府に強大な権限を与えることによる独裁や監視社会化への懸念にも言及、国内での自律型兵器の使用や、政府による国民の大量監視の禁止を唱えました。政府から不利益な扱いを受ける市民や組織が、政府と同等以上の能力を持つAIを利用できる権利を保障すべきだとも主張しました。競合するAI開発企業オープンAIも米国の政府機関による安全性の検証を義務づけるよう提言していますが、公開の可否については企業が判断すべきだとしています。トランプ大統領は、最新モデルを一般提供する30日前までに政府がその安全性を評価する仕組みをつくる大統領令に署名しましたが、事前審査は義務ではなく企業の自主的な協力に基づくという位置づけになっています。
米国の金融監督当局が、銀行によるAIの使用に対して監視を強化することが分かりました。外部企業が提供するAIを介して顧客情報が漏えいするリスクが高まっているためです。現時点で新たな規制を設ける予定はないものの、利用状況の調査を進めるとしています。近年、銀行はAIの導入を急いでおり、対話型アシスタントや顧客の支払い能力調査といった複雑な業務にも利用範囲を拡大させてきました。金融サービス全般でのAI普及に伴い、サイバー攻撃や詐欺の危険性が増大しているとの懸念が高まっています。米連邦準備制度理事会(FRB)と米通貨監督庁(OCC)は銀行に対する定期検査で、融資や本人確認手続き、制裁対象者を選別する「スクリーニング」などの高リスク業務でAIをどう活用しているかについて調査、顧客情報の保護や、危機時の取引停止措置をはじめとした安全対策を講じているかどうかも確認するといいます。
米国のAI企業アンソロピックが提供していた最新のAIモデル「クロード・ミュトス5」の提供を停止した背景には、その高性能が安全保障上のリスクと判断されたことがあります。ミュトス5は、システムのバグ修正やコード理解において、オープンAIのGPT-5.5やグーグルのGemini3.5よりも圧倒的に高い正答率を示し、特に複雑な作業や長時間のタスクにおいて優位性を持つことが明らかになりました。具体的には、コードのバグ修正能力を測る試験でミュトス5は80.3%の正答率を記録し、他のAIを大きく引き離しました。これにより、サイバー攻撃やセキュリティ分野での応用においても危険性が指摘され、米政府は輸出管理の対象に指定し、提供停止を命じました。特に、長時間にわたり複雑な作業を粘り強く続ける能力は、サイバー攻撃の高度化に直結し、国家安全保障にとって重大な脅威とみなされたためです。一方、アンソロピックは安全対策を施した新モデル「クロード・フェイブル5」の提供も停止し、国内の一部企業は引き続き旧モデルを利用しています。AIの進化は非常に速く、中国のAIも数ヶ月以内に追いつくと予測されており、今後もサイバーセキュリティ能力の向上競争が続く見込みです。オープンAIもサイバー攻撃能力の測定テストでミュトス5を上回るモデルを開発しつつあり、これらの動きはAIの安全性と規制の重要性を一層高めています。米国の禁輸措置は、AI技術の軍事・セキュリティ面での悪用リスクを抑えるための措置であり、今後も国内外のAI規制や安全対策の強化が求められる状況です。
アンソロピックは、米商務省が同社のAIモデル「クロード・フェイブル5」と「ミュトス5」に対する輸出規制を解除したと発表しました。同社は国家安全保障上のリスクを理由に、最先端のAIモデルへのアクセスを停止するよう命じられていましたが、3週間足らずでの解除となりました。米政府は、高性能AIモデルが中国やロシアなどの軍事情報機関関係者に悪用されかねないとの懸念を背景に、潜在的な脅威を特定するため新モデルの公開に対する監視を強化しています。アンソロピックは米政府が2026年6月12日に出した輸出管理命令を受け、ミュトス5とフェイブル5を停止、同26日には、ミュトス5を一部の「信頼できる」米企業・機関に公開することを米政府が許可したと発表し、命令が部分的に解除されていました。ラトニック米商務長官は、アンソロピックが「モデルに関連する安全保障上のリスクを積極的に検知・対処する」ことに加え、「ミュトス、フェイブル、および将来のモデルに関するプロトコルや基準、リリースについて米政府と入念に連携し、悪意ある活動があれば米政府に通知する」ことに同意したとした一方で「状況が変化した場合、またはアンソロピックが約束を順守しなかった場合、当書簡での決定を再評価し、ライセンス要件を再び課す必要性について検討する権利を留保する」とも述べています。アンソロピックの関係者によれば、同社はフェイブル5のセキュリティ制限を回避(ジェイルブレイク=脱獄)するための手法として政府が問題視したとみられる技術を検知・遮断する新たな安全対策を導入しました。ただ、その手法で見つかった脆弱性は以前から把握され、既に修正されていたといいます。対話型AI「ChatGPT」を手がけるオープンAIは、米政府の要請を受け、最新モデル「GPT─5.6」の一般公開を延期すると発表、また、初期段階でのアクセスは、当局と詳細を共有した審査済みの少数のパートナーに限定するとしました。こうした政府の措置を巡っては、どの企業を「信頼できる」と見なすかを政権が選別するのは不公平で透明性を欠くとの批判が広がっています。
アンソロピックは、米政府の要請により、先端AIモデルの「クロード・ミュトス」や同等の性能を持つ「フェイブル」の提供を突然停止しました(現在は再開)が、この措置は、米政府がこれらのモデルを輸出管理対象に指定したことに伴うもので、安全保障上のリスクを懸念した結果です。ミュトスは、ソフトウェアやシステムに潜む未知の脆弱性を検知する能力に優れており、15以上の国がサイバー攻撃対策に利用する予定だったため、モデルの停止は世界のサイバー防衛に大きな衝撃を与えました。米国のAI供給停止は、AI技術の軍事利用やサイバー攻撃のリスクを高める懸念を生み出し、他国も自国のAIモデル開発を加速させる動きに拍車をかけています。日本を含む多くの国は、国内のAI基盤モデルの開発に巨額の資金を投入し、独自の技術確保を目指していますが、米国との技術格差や投資規模の差が依然として大きい状況です。こうした動きの中、MITの藤末健三氏は、規制のないまま高度なAI開発が進むことは、インフラ攻撃や軍事利用のリスクを高め、核兵器の軍拡競争のような危険性を孕むと警鐘を鳴らしています。特定のAIモデルへの依存は、国家の安全保障を脅かすため、多国間のAI軍縮やガバナンスの枠組み構築が急務となっています。専門家は、米国との直接対決を避け、オープンソースや軽量モデルを活用した「身の丈に合った」AI開発を推進すべきだと提言しています。AI技術の軍事化と競争の激化を抑制しつつ、多様な選択肢を持つことの重要性が国際的に認識されつつあります。
日本政府は、国内のAI技術の自主開発と技術主権の確立を目指し、官民一体の大規模プロジェクトを推進しています。経済産業省は、最大1兆円規模の支援事業の対象にソフトバンクやホンダ、NEC、ソニーグループなどの企業連合を選定し、2026年度からの5年間で約3873億円の資金を投入します。これにより、国内のAI基盤モデルを構築し、2027年までにサービス提供を開始、2031年までに音声や動画の同時処理、空間認識など高度な機能を持つ「オープン型」AIを実現する計画です。新会社「Noetra」が中心となり、さまざまな現場のデータを活用し、製造業や非製造業の企業と連携してAIの性能向上を図ります。特に、計算基盤の整備や知的財産の管理を国が支援し、国内のAI技術の競争力を高める狙いです。米中のAI先行勢と比べて、日本は資金や計算資源の面で遅れをとっており、特に最先端の「第4世代」モデルの開発は難しいと見られています。そのため、日本はフィジカルAIに特化し、ロボットや機械の動作を制御する技術に集中しています。中国や米国はAIの軍事・経済安全保障においても積極的で、中国は特許や人材育成を通じてフィジカルAIの競争力を高めています。日本はこれらの国々に対抗し、国内の製造現場の知見をデータ化してAIに学習させることが課題となっています。国内のAI技術の自立と産業競争力の維持・向上を目指す国家戦略の一環として、これらの取り組みが進められています。一方、米国発のAIサービスに対する利用制限が相次いでいることを背景に、欧州の主要企業はリスク分散のために複数のAIサービス提供事業者を併用する動きを加速させています。特に、米政府がアンソロピックに対し、国家安全保障上の懸念から「クロード・ミュトス5」や「フェイブル5」への外国籍保有者のアクセスを停止した事例は、リモートで提供される「プロプライエタリ」モデル(提供者が独自に開発・保有して内部仕様や学習データを公開していないモデル)の脆弱性を浮き彫りにしました。これらのサービスは提供元による制限のリスクが高く、企業が独自に運用できないため、依存度の高さが問題視されています。こうした状況を受け、パリの「ビバテック」会議では、シーメンスやルノーなどの大手企業が、米国、中国、欧州のAIモデルを組み合わせて利用し、依存を軽減する戦略を明らかにしました。欧州連合(EU)は、米国技術への依存が経済的未来を脅かすと判断し、半導体やAIの自立性を高める「主権パッケージ」を策定していますが、主要企業の幹部は多様な選択肢を持つことの重要性を強調、シーメンスのCEOは、自給自足ではなく柔軟性を持つことが必要だと述べています。一方、欧州の汎用AI提供企業は少なく、フランスのミストラルやDeepLなどが狭い分野で地位を築いています。アンソロピックの利用制限を通じて、欧州は自ら制御できるAIサービスの必要性を再認識し、オランジュのCEOは、欧州が自らの条件でアクセス・統治・検証できるAIの構築を目指すべきだと訴えています。これらの動きは、AIサービスの安全性と自律性を確保し、外部依存のリスクを低減させるための重要性を浮き彫りにしています。
その他、AI/生成AIを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 生成AIで日本の芸能人らの肖像や声を無断利用して作られたとみられるSNS上の画像・動画が、2025年6月下旬からの2か月間に少なくとも延べ4万件超確認されたことがNPO法人「肖像パブリシティ権擁護監視機構」の調査でわかりました。総閲覧数は約3億3500万回に上り、経済的損失額は約20億~45億円と推計されました。投稿者が芸能人に抱きついたり、アニメを実写化して芸能人を主人公にしたりする偽動画や、アニメキャラクターに作品と無関係の曲を歌わせる音声中心の動画などがありました。同機構の相沢康幸理事長(大手芸能事務所「サンミュージックプロダクション」専務)は、「投稿者は遊びのつもりでも、閲覧した人に事実と受け取られ、イメージダウンにつながる恐れもある。損失額の多さから、問題の深刻さが伝われば」と話しています。著名人らの肖像や声の無断利用を巡っては、法務省の有識者検討会がどういった場合に権利侵害にあたるかを議論しており、2026年夏にも指針を策定するとしています。第3回会合では、名誉感情や生活の平穏が不当に侵害されれば不法行為にあたる可能性があるとの方向性を確認、AIを使い、声優の音源を生成してわいせつな文章を読み上げるケースなどを例に検討、著名人と同様に声が一般人のものであった場合にも保護の対象になるとの見方が出ています。
- 国連専門機関の世界知的所有権機関(WIPO)が、生成AIと知的財産を巡る問題の対策強化に乗り出すといいます。日米欧などのAIや知財の専門家グループを設置し、AIによる音楽や出版分野の著作権侵害などに対する技術的な解決策を議論するものです。専門家グループは、生成AIの開発企業がオンライン上の文章や画像、楽曲などの著作物を無断で大量収集し、AIの学習に利用することへの対応などを議論、世界的に著作権の保有者が損害を受けたとして開発企業を提訴するケースが相次いでおり、生成AI開発に伴う著作権侵害への懸念が高まっています。対策としては、著作物がAI開発に無許可で利用されたことを検知するため、文章や画像の電子データに識別情報を埋め込んで追跡する「電子透かし」など複数の技術の開発が進んでいます。専門家グループは技術の効果的な運用方法や改善点などについて協議し、無断利用に対処するための仕組みづくりを検討するといいます。
- ノルウェー政府は小学校でのAIの利用を禁止します。AIに依存して学力が落ちることを避ける狙いがあります。教育現場でAIやタブレット端末の利用を制限する動きは世界で広がりつつあり、北欧では紙の教材に戻そうとするケースも出始めています。「学校で生成AIを無批判に使用すると、学習の重要な段階を飛ばしてしまうリスクが高まる」とノルウェーのストーレ首相は、小学校でのAI使用をほぼ禁止すると発表しました。6~13歳は利用を原則禁止、14~16歳は教師の監督下でのみ利用を段階的に許可し、17~19歳は学習や就職のための適切なAI活用法を学ぶとしています。経済協力開発機構(OECD)が各国・地域の15歳を対象に実施した学習到達度調査(PISA)によると、2022年のノルウェーの生徒の成績は2018年に比べ低下、数学の平均成績は過去最低となりました。同国はデジタル教育に力を入れ、1990年代にパソコン、2010年以降にタブレット端末を教育現場に導入、一方で2012年以降は数学、読解、科学の平均成績が下降線をたどっています。学校でのAI使用禁止にいち早く踏み切ったとされるのが中国です。ユネスコによれば、世界の58%の国が学校でのデジタル機器利用への規制を導入、オランダは2024年に中学校でのスマホ使用を禁止し、その後に小学校も禁止対象に加えました。学校へのデジタル機器の導入で先行してきた北欧諸国では紙の教科書への回帰が始まっています。
- 人間でも訓練すれば、AIが生成した顔と本物の顔を見分ける精度を高められると、オーストラリア国立大などの研究チームが発表しました。生成AI画像は詐欺などに悪用され社会問題となっており、対策の一助となるかどうか注目されそうです。生成AIを用いた偽の画像や動画「ディープフェイク」関連の詐欺被害は年々拡大し、2027年までに400億ドル(約6兆4000億円)に上ると懸念されています。AIで作成されたことを検出するツールは開発されていますが、AIが本物に近づける能力は日進月歩で、またツールのアルゴリズム自体がブラックボックスでもあり、実効性を疑う声もあります。研究チームは、人間が識別できる能力を高めることが効果的ではないかと考え、AI作成の顔の特徴として(1)対称的(2)バランスが良い(3)魅力的(4)個性に欠ける(5)表情に乏しい(6)記憶に残りにくいといった点に注目、実験ではAIで作成した顔と、実際の人間の顔の写真を各48枚用意、この6項目による全体的な印象を意識して両者を識別させる訓練を、東アジア系19人と白人26人の計45人(平均年齢21歳)に実施した結果、訓練前の正解率は41.4%だったところ、訓練後には81.1%と約2倍に改善されました。一部の参加者はほぼ満点に達するまで大きな効果が得られたといいます。同大のエイミー・ダウエル准教授は「今回の方法をどのように普及させるかは課題だが、訓練用の画像を生成AIの進化に合わせて改良すれば、効果を維持できる可能性がある。生成AI対策はいたちごっこが続く。人間とアルゴリズム双方の強みを生かしていくことが重要だ」とコメントしています。
- 政府が今夏の改定を目指す「AI基本計画」素案のパブリックコメントを巡り、生成AI製とみられる意見が大量に寄せられていたことが分かりました。その多くは、計画案で記載がある個人情報保護法改正案について懸念する意見でした。国のAI政策を所管する内閣府は、AI開発や利活用に向けた政府方針を示す「AI基本計画」の改定素案について、2026年6月19日から23日まで任意のパブコメを実施、5日間で集まった意見数は8774件で、前回計画策定時(2025年12月)の7日間603件に比べ、今回はより短い期間にもかかわらず約15倍に上りました。内閣府の担当者によれば、約3分の2にあたる約6000件が、今国会で審議中の個人情報保護法改正案についての懸念で、うち2000~3000件程度が生成AIで作成された可能性があるといいます。担当者は「文章自体は少しずつ変えてあるものの、単語の使い方に特徴的な傾向があり、主張内容にも高い同一性がみられた」などと説明しています。個人情報保護法改正案では、AI開発などの統計情報作成に限り、病歴や犯罪歴など「要配慮個人情報」の取得や、個人データの企業への提供時に本人同意を不要とする内容が盛り込まれています。今回改定予定のAI基本計画案には「個人情報保護法改正案が成立した場合には、その円滑な施行に向けて下位法令の整備等を進める」と記載されました。個人情報保護法改正案を巡っては、非公開の要配慮個人情報も対象になることや、こうした情報が名前や住所付きで事業者に渡る恐れが問題になっています。パブコメでAIによる大量の意見が寄せられた事案は、2024年12月に経済産業省が公表した「エネルギー基本計画」の改定素案時でも起きています。内閣府の担当者は「有識者からも『パブコメの仕組みは本当にこのままでいいのか』という指摘をいただいた。今後は制度を所管する総務省にも相談の上、対処の仕方を考えていく必要がある」と話しています。
- 20カ国・地域(G20)の金融監督当局でつくる金融安定理事会(FSB)は、AIの自律性が高まることで金融システムへのリスクが増大する可能性があると述べ、導入の加速に伴う新たな規制を求めました。自律型AIについて、そのリスクには不正・違法行為、データ漏えい、接続されたシステムの混乱などが含まれると指摘、「AIエージェントは人間の監視にとって明確な課題となる」とし、従業員が気付かないまま、あるいは迅速に介入できないまま、企業の意図から逸脱した行動を取る可能性があると警告しました。こうしたリスクに対処するため、金融機関に対し、AI利用に関する明確な境界線を定め、安全対策を組み込むよう促しています。拘束力のないこのガイドラインは2026年7月22日まで意見を募集しています。また、AIエージェントが実行できる範囲に制限を設け、一定の閾値を超える金融取引など、リスクの高い行動には人間の承認を必要とする提案も盛り込んでいます。
- 欧州中央銀行(ECB)がポルトガルの保養地シントラで開いた世界の主要中央銀行当局者の会合では、AIが世界経済と金融の安定に及ぼす影響が主要な論点となりました。AIが世界経済にどのような影響を及ぼし、金融安定の確保という中銀の使命にどう関わるのかという問題で、議論では、AIにはあらゆるものを揺さぶり、金融市場や労働市場、銀行融資、安全保障、さらには電力需要に至るまで、現時点では想像もできない問題を生み出す力があるとの見方で一致しました。AIは生活のあらゆる面を改善し得る一方、時に違法な形で混乱をもたらす恐れもあり、多くの発言者は、金融当局者にはそれを止める手段がほとんど、あるいは全くない点を懸念しています。株式取引の場合、既に大部分の機能が自動化されていますが、AIによる後押しがあればバブルが急速に膨らみ、その後崩壊する可能性があり、その過程で、現在では違法とされる一種の共謀的な市場操作により、上昇局面と下落局面の双方で利益を得ることもできることになります。AIは銀行の融資業務に役立つ一方、複雑化させる面もあります。銀行はより高度な信用分析が可能となり、従来の対象外だった借り手への資金提供も広がるとみられていますが、その監督は困難を極め、国際通貨基金(IMF)幹部のトビアス・エイドリアン氏は「監督当局は、AIによる自律的な融資判断をどのように評価すればよいのか。それらはある意味でブラックボックスだ。説明可能性が欠けている可能性があり、監督上の重要な課題だ」と語っています。
- 米連邦取引委員会(FTC)は、「イデオロギー的な目的」を反映した回答を生成する対話型AIを手がける企業は連邦法に違反する可能性があるとの見解を示しました。AI分野に対する権限行使の方針案の一環として公表、FTCによれば、特定の集団を差別する回答を避けるよう対話型AIを訓練しているAI企業は、連邦取引委員会法(FTC法)第5条に抵触する可能性があり、同条項は不公正または欺瞞的な取引慣行を禁じており、雇用などの重要な意思決定においてAIによる差別を防ぐことを目的としたコロラド州法に従うことは、FTC法違反になり得るとしています。トランプ米大統領ら保守派は、対話型AIが保守派に対して政治的な偏見を持っていると批判してきました。FTCのファーガソン委員長は、性別移行支援を行う医療関連非営利団体に対する訴訟など、保守派の不満に対処することを狙った他の案件でも、不公正または欺瞞的な行為を取り締まる同委員会の権限を行使してきました。
- 欧州中央銀行(ECB)は、AIの利用拡大により一部の労働者が職を失う可能性はあるものの、米国の総雇用や賃金に対する全体的な影響はこれまでのところ限定的だとする調査結果を公表しました。「経済報告」で、米国経済は数年前からAIブームへの適応を始めており、最も影響を受けやすいセクターの雇用が他の分野へと再配分されることで、労働市場が徐々に再編成されていると指摘、「他の条件が同じであれば、2019年から25年の間に、代替リスクの高い職種の雇用増加率は、代替リスクの低い職種に比べて約15%ポイント低かった」と述べています。同調査によると、エコノミストやグラフィックデザイナーなど、AIによる代替リスクが高い職種での雇用は、2019年から25年の間に平均で4%以上減少しました。対照的に、電気技師や高校教師など、AIによる代替リスクが低い職種における雇用は同期間に13%増加、この結果、米国の総雇用に占める低リスク職の割合は23%から25%に増加した一方、高リスク職の割合は35%から33%に低下しました。また、こうした変革による所得への大きな影響は見られなかったものの、時間の経過とともに大きな変化が生じる可能性は残されているといいます。
- 2026年6月のロイター企業調査で、AIの普及が雇用にもたらす影響を聞いたところ、過半数が「ある」と答えました。単に人員を減らすだけでなく、求められる技能が変化することから採用や評価基準など人事全般への影響を指摘する声がありました。AIの進化で脅威が高まるとされるサイバー攻撃への対応は、3割の企業が「最優先で対応すべき緊急性の高い課題」と回答しました。人材の採用や育成に影響が「かなりある」との答えは8%、「ある程度ある」は48%でした。事務職への影響を指摘する声が目立ち、「すでにAIに置き換わっている」(不動産)、「事務系従業員の採用抑制」(精密機器)、「間接部門の定型業務負荷の削減による人員削減につながり、必要な人員数、要求される職能が変化する」(卸売)などの回答が寄せられました。「部門によっては適正人員を見直している」(小売)企業もありました。採用基準や育成手法を変える必要性を感じている企業も多く、「AI実装は『採用を減らす』ことではなく『求める人材の質・役割・配置を変える』ため、採用・人材活用の両面に影響を与えると認識している」(金属)、「若手社員にいかに泥臭い経験を積む機会を作れるかを考えていく必要がある」(建設)、「AIを使いこなすための人材確保が必要になる」(化学)などの意見がありました。「それほどない」「全くない」との回答は合わせて7%で、「まだ業務に不可欠なものであるとは言い難く、AI活用についてのナレッジや経験が採用条件の上位に来るものではない」(紙・パルプ)、「企業活動の何が、どの程度変わるのか、全体像が判然としていない」(機械)などの声が出ていました。米アンソロピック社の最新生成AI「クロード・ミュトス」などの登場で、高度化したAIがサイバー攻撃に悪用されるリスクが指摘されており、こうした脅威に対する現状認識を聞いたところ、30%が「最優先で対応すべき緊急性の高い課題」とみていました。「メガバンクのみ緊急性が高いとの報道であるが、地方銀行や証券会社、事業会社にも影響があるのではと懸念」(情報サービス)との指摘がありました。また、「セキュリティ対策として外部業者と契約した」(サービス)と迅速に対応した企業がある一方、脅威の内容がまだ不明だったり、予算が限られていることなどから対策に乗り出せないとの声が目立ちました。「脅威としては大きいと思うものの有効な対策が限られており、対応が難しい」(機械)、「本来は最優先だが資金が足りない」(建設)、「個社で対策をするのは限界がある。政府なり、経済団体なりがしっかりとリードしてほしい」(小売)などの声がありました。
- 米国でAIを理由に挙げる人員削減計画が加速しています。米民間雇用調査会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスによると、2026年1~5月の合計で8万7714人と、既に昨年通年の5万4836人を上回りました。「AIが労働力の在り方を変えるかどうかの問題ではなく、どれほどの速さで変えるかだ」と指摘しています。チャレンジャー社によれば、5月に明らかになった人員削減計画は全体で9万7006人、このうち「AI」を理由とした削減は3万8579人で、人員削減の理由として全体の4割を占め、3カ月連続で最多となりました。他には「経済状況」「事業の閉鎖」「組織再編」が続きました。米メディアによれば、米IT大手メタは4月、AI開発に多額の投資をするため、従業員の約1割に当たる約8000人の削減を通知、マイクロソフトも、米国の従業員の約7%に相当する約8750人を対象に早期退職者を募集するなど、IT業界を中心に再編が進んでいます。
- イギリスでは、犯罪の巧妙化に対応するため、警察の業務効率化を目的にAI技術の導入が進められています。2026年に発足した「PoliceAI」は、英国の国家警察サービスの一部として、警察用AIツールの開発と支援を担当し、約50人の専門職員と政府から約161億円の資金を投入しています。初年度は、防犯カメラ映像の分析や犯罪記録の整理など、事務作業の負担軽減にAIを活用し、年間600万時間の業務時間削減を見込んでいます。しかし、市民の中にはAIの使用に対する不安やプライバシー侵害の懸念も根強く、警察はAIの責任ある運用と透明性の確保を重視しています。英国政府は、AIやアルゴリズムの使用目的や判断内容を公開し、市民との対話を促進する方針を示していますが、専門家からは公開情報の理解不足や偏ったデータのリスクについても指摘されています。特に、偏見や差別的表現を含む古いデータの使用は、AIの判断に誤りをもたらし、信頼喪失の恐れがあると警鐘を鳴らしています。一方、日本でも警察のAI導入は進んでいますが、透明性の確保と市民の理解を得る努力が求められています。こうした背景には、犯罪手口の高度化とともに、AIの適切な運用と市民の権利保護の両立が重要な課題となっています。
- 今国会に提出された個人情報保護法の改正案は、AI開発を促進するための規制緩和を目的としていますが、審議は紛糾しています。特に、病歴などの要配慮個人情報の取得や第三者への提供に本人の同意を不要とする「統計特例」が問題視されています。この特例は、AI開発のために情報を匿名化せずに利用できる仕組みですが、実務上は氏名や住所を削除することが困難であり、情報の悪用や漏洩のリスクが高まる懸念があります。野党はこれに対し、情報漏洩や不正利用の歯止めが不十分だと批判しています。さらに、今回の規制緩和は、著作権法の権利制限規定と通じ、AI学習のために著作物を無断で利用できる仕組みを導入していますが、その結果、無断で類似コンテンツを生成する問題も生じています。個人情報の分析やターゲティング広告に関する規制は日本にはほとんどなく、AIによるプロファイリングや個人の意思決定への影響も未だ規制されていません。これにより、AIを使った個人の属性分析や価格差別、健康情報の推定といったサービスが拡大し、差別やプライバシー侵害のリスクが高まっています。国内では、こうした行為を規制する明確な法律がなく、個人や企業の判断に委ねられているのが現状で、専門家は、これらの規制緩和が個人の自由や意思決定の自由を脅かす可能性を指摘し、情報のフィルターバブルや認知過程への干渉、さらには心の状態への影響といった新たな社会的リスクも懸念しています。特に、AIが最適な解を提示する一方で、個人の利益や意思が操作される危険性は、民主主義の根幹を揺るがす問題として指摘されています。
- 2014年以降、米巨大IT企業はもともとリベラルな気質を持ち、軍事や監視技術への関与を避けてきましたが、近年はAI技術の軍事利用が進展しています。2023年5月に米国防総省がグーグルやマイクロソフト、オープンAIなどとAIの軍事利用に関する契約を結び、これに対してグーグルの従業員600人以上が抗議し契約拒否を求めましたが、決定は覆りませんでした。グーグルは2025年に「兵器や監視にAIを使わない」とする原則を掲げつつも、実際には国際法や人権に沿った「責任ある開発」を表明しながらも軌道修正を余儀なくされています。過去にはAIの軍事利用に反発した例もあり、企業の独立性と反骨精神は次第に失われつつあります。米国の科学技術はもともと軍事と密接に関係しており、AI技術の進展とともに政府と企業の一体化が進行しています。特に、保守的な新興企業や軍事AI兵器の実戦投入も始まり、米国は中国に対抗するためにAI技術の国家的管理や資源集中を進めています。トランプ政権はAIを国家革新の柱と位置付け、マンハッタン計画に匹敵する国家事業を推進しようとしています。これにより、米国のAI開発は自由競争から国家統制へと変わりつつあり、冷戦後の民間主導の技術革新の流れが逆行しています。歴史的に見れば、米国の技術進歩は軍事と深く結びついてきたため、今後も国家と企業の再接近は避けられないと考えられますが、その先に何が待つのかはまだ不透明です。
(6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向
サッカーのワールドカップ(W杯)北中米3カ国大会を巡り、国際サッカー連盟(FIFA)は、1次リーグ期間中に検知されたオンライン上などでの誹謗中傷に関する調査結果を公表しました。約600万件の投稿を調査した結果、誹謗中傷など不適切な投稿件数は、約8万9000件と、前回2022年のカタール大会(約6700件)に比べ約13倍も増加しています。攻撃的なコメントのうち、約1割が人種差別を伴う内容で、カタール大会に比べて3ポイント増加、日本の一部選手に対しても誹謗中傷が寄せられており、あらためて対策が求められているといえます。今大会は出場国が32チームから48チームに拡大された影響があるとはいえ、大幅な増加となりましたが、FIFAでは「客観的に見ても、攻撃的な投稿が著しく増えていることを示している」と指摘しています。FIFAは、攻撃的な投稿を検知する「ソーシャルメディア保護サービス」(SMPS)を通じて利用者の了承のもとフィルタリングを行っていますが、約18万1000件の悪質なコメントについてはSNS事業者に報告することで非表示にしたと説明、法的措置の対象となり得る投稿も100件以上確認されたといいます。日本サッカー協会(JFA)では2026年3月、「日本サッカー倫理・コンプライアンスに関する共同声明」を発表、誹謗中傷や人種差別などに対し「あらゆるハラスメントや人権侵害の根絶を目指す」として、対策に乗り出しています。FIFAでも現在、「No Racism(人種差別反対)」キャンペーンなどを展開、差別行為などに対しては毅然と立ち向かうよう、ファンに呼びかけています。
関連して、2026年6月8日付朝日新聞の記事「社会を映し出すサッカー界の差別 誹謗中傷が増加、海外では刑事罰も」において、「サッカーと人種差別」(文芸春秋)の著者である陣野俊史氏が、「被害者に問題があるという考えは「いじめ」と同じ構造だと思います。また、差別が起きたときに、被害を受けた側にばかり語らせる構図も間違っていると思います。差別をした側にも、なぜそうした行為に及んだのかを語らせるべきです。差別が起きるたびに一時的に反応して、忘れてしまっては、また繰り返されてしまう。多角的な議論がなければ、根本的な解決にはつながりません」、「選手の移籍の自由を広げた1995年の「ボスマン判決」以降、国際化が進み、人種や民族の違いがより表面化するようになりました。ただ、サッカーだけの問題としてとらえるのは危険です。排外主義が社会の中で広がるとき、それに最も敏感に反応しているのがサッカーだと感じます。「なぜサッカーだけなのか」という問いは逆です。サッカーは社会の空気を映し出し、問題が可視化されやすい競技なのです。スポーツを社会問題と切り離された「純粋なもの」とみなすのは幻想だと思います」、「SNSが中傷や差別を増幅しているのは間違いありません。一方で監視体制も強まり、チェックして反応する仕組みも整ってきました。望ましい形かどうかは別として、社会がその方向に進んでいるとは感じます」、「どのタイミングで何を伝えるのか、選手の発信力も問われる時代だと思います」、「日本でも今後、ミックスルーツの選手が代表に入ることはより当たり前になっていくでしょう。社会全体の意識も問われています」、「スペインでは、ビニシウス選手に差別的発言やジェスチャーをしたサポーターに対し、禁錮刑などの有罪判決が出ています。差別行為を「スタジアム内の問題」にとどめず、社会として裁く流れが生まれています。一方、日本では入場禁止などの措置が一般的です。「無期限」とされても、その後どうなったかは見えにくい。刑罰として明確に示した方が、社会的なメッセージになる可能性があります。ただし、社会が裁けない問題は、スタジアムの中でも裁けません。差別への対応はサッカー界に限らず、社会全体で考えるべき課題です」といった指摘をしており、大変参考になりました。
スポーツ界での誹謗中傷という点では、日本野球機構(NPB)が、プロ野球の審判員に対するSNSでの誹謗中傷、脅迫、名誉毀損など違法、不当な投稿への対応を強化するため、監視システムを導入すると発表しました。外部の業者に監視を委託し、悪質な投稿が確認された場合はSNS運営会社への通報、アカウントのブロック、投稿の削除、内容によっては警察への届け出などで対処しています。NPBは近年、審判員がSNS上で誹謗中傷を受けるケースが目立っているとし「各審判員の名誉や尊厳、人権を傷つけ、安心して業務に従事する環境を脅かすものであり、いかなる理由があっても決して容認されるものではありません」とコメントしています。
ヘイトスピーチ解消法が施行されて10年が経ちました。しかし、日本社会からヘイトスピーチは消えていません。ヘイトスピーチをなくすには罰則を設けるしかない、という意見があります。2026年6月30日付朝日新聞の記事「表現の自由か、罰則化か 憲法学者が語るヘイトスピーチ解消法10年」において、憲法学が専門で、表現の自由の問題に詳しい榎透専修大教授は、「罰則のない理念法ですが、『ヘイトスピーチは許されない』という基本的な認識が広く共有されました。この法律を生かし、さらに周知啓発を地道に推し進めていくことが大切です」、「川崎市には、解消法にある『地域の実情に応じて』を踏まえて、罰則付きの条例が施行されました。そして、実際に抑止効果が出ています。条例施行後、川崎ではヘイトデモがみられなくなりました。ただ、埼玉県川口市などへ移っています」、「本来、表現の自由とは、人間は犯した過ちに気づいて、過ちを指摘されたら改めることができるという、人間の可能性を信じた理論です。しかし、差別を過ちと認めず、他へ移ってしまう。また、選挙活動やインターネットなど、問題は広がっています。この事実には衝撃を受けているというのが、率直なところです」、「そうなると、全国で規制が必要という考え方が出てくるのも理解はできます。権力を使ってでも規制が必要だ、と腹をくくらないといけない時が来るかもしれません。しかし、今がその時なのか、考え続けています」、「ヘイトスピーチを事前に規制し、罰則付きにするのであれば、ヘイトスピーチとは何かについて厳密に定める必要があります。しかし、厳密にすればするほど、こぼれ落ちる言説の被害者が出てきてしまう点にも注意が必要です。現状よりも『ヘイトスピーチ』とされる幅は狭くなるでしょう」、「権力は常に暴走するわけではないですが、時には悲劇的な結末もありえる。そうだとすれば、それを防ぐ法整備をしなければなりません」、「近年、憲法学者の間では『ヘイトスピーチは表現の自由の保障には入らない』という議論が有力になりつつあります。これは一つの有効な考え方です。それでも、やはりヘイトの定義を明確にする議論をしなければなりません」、「もしヘイトスピーチを事前規制するのだとしても、その言葉が発せられた状況はしっかり見る必要があります。同じ文言も、文脈によって意味は変わります」、「罰則付きの新規立法や法改正、人権機関の創設などでも、結局、ヘイトスピーチの定義をどうするかという同じ問題に向き合わせねばならないのです」、「まずは、現行法の枠組みで、どこまで対応できるのかを突き詰めるべきです。名誉毀損、侮辱、威力業務妨害など既存の法律で対応できることがあり、すでに実際の裁判でも争われています。こうした判例を積み重ねることです」、「何がヘイトスピーチかの判断を行政に委ねるのではなく、司法に判断させるのが、本来の姿だと思います」、「差別が許されないということは、憲法の条文を超えたところにある、自由や権利、民主主義と同じような社会の基本原理、普遍的な価値である、という考えです」、「現状では、差別に対し、被差別部落やアイヌ、ヘイトスピーチと個別的に対応していますが、性的マイノリティーは含まれていません。包括的な差別禁止法の制定は考えられます。それでも罰則を設けたり、権力がヘイトか否かを判断したりすることには慎重であるべきです。グレーゾーンを残せば、それを権力が悪用する可能性は常にあるからです」などと指摘しており、例えば、罰則を導入しようとするとヘイトスピーチの定義が必要となり、幅が狭くなるとの指摘は、反社会的勢力をどう捉えるかの議論と似ており、大変参考になりました。
関連して、川崎市の在日コリアン3世の女性が、X社を相手取り、自身に対する差別的な投稿の削除を求める仮処分を東京地裁に申し立てました。Xの匿名のアカウントから2026年6月、女性の写真と名前を載せた投稿があり、このアカウントは削除されましたが、1500件以上の再投稿や差別的な返信投稿があったといいます。弁護団はこのうち約30件の投稿について、X社に削除を求めたものの、「Xルールの違反は生じていない」とメールが返ってきたといい、仮処分では、投稿のうち30件の削除などを求めています。さらに、「日本社会に寄生するダニ」、「強制送還しろ」といった投稿6件については、神奈川県警川崎臨港署に侮辱容疑で刑事告訴状を提出したといいます。法務省はヘイトスピーチの例として、特定の国の出身者を差別的な意味合いで昆虫や動物に例えることや、「祖国に帰れ」などと合理的な理由なく日本社会から追い出そうとしたりする言動を挙げています、弁護団によれば、女性へのネット上の差別的投稿は、確認されているだけでも直近6年で数百件あり、これまでも法的措置はとってきており、2023年には女性に対し差別的投稿をした男性に、計194万円の損害賠償の支払いを命じる判決が出ました。弁護団は、ヘイトスピーチ解消法ができて10年経つが、禁止規定がなく被害者も救済されていないと指摘、「被害者がひとつずつ裁判を起こすしかない状況は、現行制度の明らかな欠陥だ」と指摘していますが、正にそのとおりだと思います。
総務省は、インターネット上の偽・誤情報対策の技術開発を支援する2026年度の公募事業で、発信者情報を明示するデジタル技術「オリジネーター・プロファイル(OP)」の開発を進めるOP技術研究組合など13件を採択したと発表、13件で合計約15億円を支援するとしています。本コラムでもたびたび紹介しているOPは、ウェブサイト上の情報の作成者や発信者を証明し、利用者に明示するシステムで、総務省の支援を受けるのは24年度から3年連続となります。ほかに支援対象にはNECやJTB、NTTドコモビジネスなども採択され、AIによって合成された音声の判別や、SNSに投稿された偽情報の分析などに取り組むとしています。
選挙運動に関するSNS対策に向けた法改正案が衆院本会議で可決されました。SNS事業者に対し、法令違反や虚偽の情報による悪影響を軽減する措置を義務付けるもので、施行日は2027年3月1日で、春の統一地方選での適用を目指しています。改正するのは公選法と情報流通プラットフォーム対処法で、提出者は憲法が保障する「表現の自由」に最大限配慮するとして「どのような措置を実施するかは、事業者の判断に委ねる。行政処分や罰則の対象としない」と述べ、事業者の措置について「SNSで流通する個別情報の削除を直接義務付けるものではない」と説明、SNSの利用規約に違反した場合の収益化停止などを例に挙げています。事業者の自主規制に委ねるやり方は日本では多いものの、SNS事業者は海外事業者が多い中、どれだけの実効性があるのか、やや懸念が残ります。
誹謗中傷や偽・誤情報の問題ではなく、「忘れられる権利」に関する話題となりますが、Xで15年以上前の犯罪歴を実名で公開され続けているのはプライバシーの侵害だとして、男性がX社に投稿を表示しないよう求めた訴訟の判決で、東京地裁は、2つの投稿を非表示にするよう命じています。判決によれば、男性は過去に駅員への傷害容疑で逮捕され、Xでは、この事件を報じるニュース記事を引用する形で、男性の氏名や当時の勤務先を明らかにする内容が投稿されていました。裁判官は、男性が勤務先を自主退職し、婚約も破談となったことから「一定の不利益が生じている」と指摘、過去の犯罪歴は事実である一方、15年以上前の事件を公表し続ける社会的な意義は乏しく、公表しないことの法的利益が高いと結論付けました。最高裁の判断基準をふまえれば妥当なものといえます。なお、参考までに、以前、トクリュウと「忘れられる権利」の関係について考察した暴排トピックス2024年5月号から、以下、抜粋して紹介します。
(7)その他のトピックス
①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/ステーブルコイン/暗号資産を巡る動向
欧州議会の経済委員会は、欧州中央銀行(ECB)が発行する中央銀行(中銀)デジタル通貨(CBDC)「デジタルユーロ」の導入に必要な規則案を承認、実現すれば日米欧の主要中銀で初となります(リブラ問題からCBDCの動向を注視してきた筆者としても感慨深いものがあります)。欧州議会の本会議で異議が出なかった場合には、欧州議会、欧州連合(EU)加盟国で構成する欧州理事会、欧州委員会による三者協議を2026年7月に開始、年内の最終合意を目指すとしています。ECBと銀行業界の間で約3年間にわたり協議を続けて規則案をまとめ、経済委員会の承認にこぎ着けたもので、銀行側は預金の流出や手数料収入の減少などを懸念し、制度の規模や利用範囲を制限するよう求めてきました。ECBは2027年後半から12カ月間にわたって試験運用し、2029年に本格導入する計画だといいます。トランプ米大統領が復帰後の米国との関係悪化、トランプ氏による輸入品への関税引き上げを背景に、欧州では米国の決済ネットワーク支配が武器化されることへの警戒感が高まっており、その対策として、デジタルユーロ導入の機運が強まっていることが背景にあります。
法定通貨に価値が連動する「ステーブルコイン」を巡る国内外の最近の動向から、いくつか紹介します。
- イングランド銀行(英中央銀行)は、ステーブルコインに関する規制案の一部を緩和しました。ポンド建て市場の成長を阻害するのではないかという懸念に応えたもので、個人の保有に上限を設ける計画を撤回し、代わりにステーブルコインごとの総発行額を制限する方針を採用、当初の制限額は400億ポンド(528億ドル)に設定されています。また、裏付け資産に関する提案も若干緩和し、短期国債で保有できる裏付け資産の割合を60%から70%に引き上げました(残りは無利子の中銀預金として保有しなければなりません)。ロイターの報道によれば、ブリーデン副総裁は「英国の決済分野において、選択肢の拡大とイノベーションをもたらす上で重要なマイルストーンだ」と指摘、「イノベーションは信頼があってこそ繁栄する。そして本日、われわれは、迅速な償還、強力な保護措置、そして中銀による支援を備えた、新しい形態のマネーに対する信頼の基盤を打ち立てた」と述べています。
- 米クレジットカード大手のビザやマスターカード、米暗号資産交換所大手コンベーなどを含む140社余りが参加する企業連合の「オープン・スタンダード」は、共同で米ドル連動型の新しいステーブルコインの「オープンUSD」を立ち上げ、2026年後半の開始を予定しているといいます。オープンUSDの目的は、企業がステーブルコインの導入を拡大する際に直面する障壁を解消し、世界中でステーブルコインの普及を加速させることにあります。オープン・スタンダードのザック・エイブラムスCEOは「既存のステーブルコインには大きな強みがあるが、ビジネスで大規模に活用するためには、オープンで低コスト、高スループット、広範なアクセスが可能であり、かつ企業の利益に合致したものが必要だ」と述べています。オープンUSDは企業が事業規模を拡大しやすいよう手数料を無料に設定、また数量制限なしで発行や償還ができるようにするほか、価値の裏付けとなる準備金から得られる収益は、運営費用をカバーするための管理手数料を差し引いた上で、パートナー企業間で共有されるといいます。トランプ米大統領は2025年、ステーブルコインに関する連邦政府の規則とガイドラインを定めた「GENIUS法」に署名し、同法が成立、政策面での環境も整ってきましたが、現時点でステーブルコインは主として他の暗号資産の取引を円滑にするための利用に限定され、一般的な決済手段としてはまだ広く普及していない現状にあります。
- ステーブルコイン世界2位の米サークル・インターネット・グループは野村HDと組み、2027年にも日本企業向けに外貨の即時決済を始めるといいます。半日ほどかかっていた大規模な為替取引が瞬時に可能になり、国境をまたぐ投資や商取引の活性化につながる可能性があります。ステーブルコインは銀行の国際送金より速く、低コストの決済が可能で、サークルは約740億ドル(約12兆円)規模でドル建てステーブルコインの「USDC」を発行、業界大手の日本企業向け参入は初となります。2025年成立の米GENIUS法を契機とした米国主導の市場拡大が日本に波及する形となります。企業は円をドル建てステーブルコインに替え、投資や即時送金に使えることになります。米国では金融商品への投資にステーブルコインを使えるようにする試みが進んでおり、野村はサークルとの協業を通じて株・債券を即時に取引できる仕組みも検討するほか、米国の金融機関などが円建てステーブルコインを確保する需要も見込んでいます。企業が金融機関を通じてまとまったお金を外貨に替える場合、時差などの関係で半日程度かかる場合があり、このため企業や機関投資家は突発的な不足に備えて外貨をある程度確保しておく必要があるところ、外貨を必要な時に調達できれば待機資金が減り、資金効率が上がることになります。金融機関からの需要も見込み、銀行などは日本国債を担保にドルを借り入れる取引を多用、これもブロックチェーン(分散型台帳)で即時にできるようにし、銀行がドル調達を機動的にできるようになれば、銀行から借り入れる企業も外貨を得やすくなります。将来はメーカーなどが事業に使う決済で利用するケースも見据えています。米マッキンゼー・アンド・カンパニーによれば、ステーブルコインの実需での年間決済金額は3900億ドルで、商取引でのステーブルコイン利用が普及すれば、今回の仕組みを通じて即座に円を外貨に替えて送金できるようになります。
- 三菱UFJ銀行など3メガバンクは2026年度中にステーブルコインを共同発行する方針で、実取引を見据えた協議会を設置し、運営方法を検討しています。3メガバンクは2025年11月から金融庁と連携した実証実験でステーブルコインの共同発行を準備、協議会では関係法令や市場動向を踏まえ、実用化に向けた検討を重ねており、投資家がステーブルコインを使って株式や債券、投資信託を購入できる仕組みを検討しています。2026年2月に金融庁に届け出た野村証券や大和証券との枠組みも活用、3メガバンクが電子決済手段の取引認可を取得し、信託銀行が発行受託者となる想定だといいます。ステーブルコインの実取引を目的に立ち上げる協議会はまずは3メガで立ち上げ、その後は連携先の金融機関の拡大も視野に入れています。また、3メガバンクで規格を統一し、企業内や企業間決済で使うことも想定しています。
- SBIHDは、日本円建ての電子決済手段「ステーブルコイン(SC)」(JPYSC)を発行したと発表しました。信託銀行が裏付け資産を管理する「信託型」と呼ばれるタイプでは国内初といいます。現時点ではグループの暗号資産交換事業者の口座内での利用に限定しており、法令・税務上の環境が整えば国内外で流通可能とする方針だといいます。
欧州連合(EU)の暗号資産規制の強化で業界が試練を迎えています。新規制への対応の猶予期限を迎え、暗号資産交換業大手のバイナンスは登録を取得できず、承認を得られるまでEU内でのサービスを停止しています。EUの新しい暗号資産規制は2024年12月に施行し、最長で2026年7月1日まで移行のための猶予期間を設けていましたが、同日以降、登録のない業者は原則営業できなくなっています。いずれかの加盟国で登録を受ければEU全域でサービスを提供するための「パスポート」を得られる仕組みになっていますが、バイナンスはギリシャ当局に申請していたものの、ギリシャの大手紙カシメリニは、ギリシャ政府は投資呼び込みのため前向きに検討していたところ、欧州中央銀行(ECB)が否定的な姿勢を示したと報じています。バイナンスは「一部のユーザーは影響を受ける可能性があるが、顧客の資産は安全かつ確実に保護される」と説明した。今後は別のEU加盟国で登録をめざす方針で「数カ月以内に承認されると確信している」との見解を出しています。本コラムでもたびたび取り上げていますが、バイナンスを巡っては、米国でマネロン防止法違反に問われ、創業者が2024年に禁錮4月の判決を受けているほか、日本では金融庁が無登録業者として警告を発しましたが、2022年から交換業者に登録されています。世界の暗号資産全体の時価総額は2025年のピーク時で4兆ドル規模に達し、ECBの2025年の報告によれば、ユーロ圏の家計の約10%が暗号資産を保有しています。株や債券など伝統的な金融商品からの分散先として注目される一方で、値動きが激しく投資家保護の体制が不足しているとして各国で規制整備が進んでいます。EUの新規制では、情報開示やマネロン対策を義務付け、厳しい資本要件など体制整備を要求、規制対応コストが重くなり、1000社以上あったとされる暗号資産サービス提供企業のうち、これまでに登録を取得できたのは250社程度だといいます。日本の金融庁もEUのルールを参考にし、2027年度に暗号資産規制を盛り込んだ金融商品取引法改正案の施行を目指していますが、内部管理体制の整備などへの対応コストを背景に再編機運が高まっており、SBIグループが暗号資産交換業のビットバンクを買収すると発表しています。
トランプ米大統領が2025年の1年間に、自らの親族も関わる暗号資産事業で10億ドル(約1627億円)超を得ていたことが、米政府倫理局が2026年6月30日に公開した資産報告書で判明しました。第2次トランプ政権はビットコインなど暗号資産の振興に力を入れており、「利益誘導」「利益相反」との批判が強まっています。報告書によれば、トランプ氏は、2人の息子らが2024年に設立した暗号資産事業「ワールド・リバティー・ファイナンシャル(WLF)」が発行したトークンを売却し、5億2680万ドルを得ていたほか、自身の名を冠した暗号資産「ミームコイン」のライセンス契約による6億3506万ドルの収入もありました。トランプ氏は第2次政権で「米国を暗号資産の首都にする」と宣言し、そのための法整備など振興策を進めてきましが、民主党の議員らは、「(トランプ氏が)自身やその家族らが私腹を肥やせるよう、暗号資産の監視機関を骨抜きにしようとしている」などと批判してきました。資産公開を受け、今後、こうした声がさらに強まるとみられています。この報告書は、第2次トランプ政権にとって最初の年次資産報告で、927ページからなり、証券取引の記録も含まれ、米IT大手アマゾンやアップル、日本のくら寿司の子会社の株式を購入したことも分かっています。さらに、国際サッカー連盟(FIFA)のインファンティノ会長から今回のサッカーW杯決勝のチケット10枚(評価額1万5千ドル)を受け取ったことも記載されています。
②IRカジノ/依存症を巡る動向
統合型リゾート(IR)に関する北海道の「基本的な考え方」の改訂素案が道議会の委員会に提案されました。誘致の意思や具体的な候補地などは明記されませんでした。IRは民設民営で、立地自治体は整備用地の確保やインフラ整備など行政投資を伴うとの考え方を示したほか、目的として富裕層やインバウンド(訪日外国人)の新たな旅行需要を取り込むことなどを記載、観光消費額の全道波及の最大化を図ることも記しています。また、IRの運営は、道内企業や国内企業が出資する特別目的会社(SPC)が担うとしています。道は2019年に策定した「基本的な考え方」を2026年10月に改訂する予定で、当時は「IRを誘致する場合、苫小牧市の候補地を優先することが妥当」としていましたが、改訂版では具体的な候補地名を記載しないことで、苫小牧以外にも可能性を広げる狙いがあります。
オンラインカジノや賭けサイトなどを巡る国内外の最近の動向から、いくつか紹介します。
- サッカーW杯の開幕が背景に、米ウォール街でスポーツの賭けサイト株が上昇しています。ただ不正や依存症など社会的問題もあり、株高には危うさも孕んでいます。W杯を対象とする賭けは主に米企業が手がけており、大手のドラフトキングスや米カジノ会社ファンデュエルを傘下に抱えるフラッター・エンターテインメントなどがあります。賭けは勝敗だけでなく、イエローカードの枚数やアシスト回数などを予測して賭けることもでき、最低賭け金は10セント(16円前後)ほどで、予想が当たればオッズに応じた配当が受け取れます。W杯が始まりスポーツの賭けの関連銘柄が上昇、W杯で賭けが増え、業績が拡大するとの期待が株価を押し上げています。市場が拡大する一方で、米国に突きつけられている課題は山積みで、スポーツ賭博は八百長とも隣り合わせで、米国ではスポーツ賭博が広がる中で不正行為で選手が摘発されるケースも増えており、選手だけでなく、スタッフや審判員などインサイダーの対象が新たに増える懸念もあります。全米ギャンブル問題評議会の調査によれば、2018年の実質的な合法化後、スポーツ賭博への参加者の増加とともに、賭博依存症に陥るリスクは4年間で約30%上昇、「賭けごとの先進国である英国のように依存症対策や法整備が急務だ。でなければ無法地帯化してしまう危険性も孕んでいる」(桜美林大学の小林氏)との指摘は正に正鵠を射るものといえます。
- サッカーW杯が開幕したことを受け、松本・文部科学相は、違法なオンライン賭博に関与しないよう注意を促しています。松本氏は会見で「異例ですが、注意喚起をしたい」と切り出し、諸外国においてはスポーツベッティング(賭博)市場が急速に拡大しており、サッカーW杯でも盛り上がりが予想されると説明、「わが国ではオンライン上で海外の賭けサイトを利用することも刑法で禁止される賭博行為に該当する」と強調、法律に基づいて運営される「スポーツ振興くじ」の活用を提案しまし。本コラムでもたびたび取り上げていますが、海外サイトでのオンライン賭博を巡っては、プロ野球選手や芸人らが立件されるなどした経緯があります。
- 広島県三原市で知人男性を生き埋めにして殺害したとして強盗殺人の疑いで逮捕された容疑者(29)が、インターネットの公営ギャンブルで約8000万円の損失を抱えていたことが判明しました。多額の借金を抱えていたことが動機につながっているのではないかとみられています。報道によれば、容疑者は殺害された男性に700万円の借金があったといい、容疑者は2025年5月以降、ネットで競輪やオートレースの車券を繰り返し購入し、約8000万円の損失を抱えていたといいます。男性の遺体は、東広島市で2026年2月に民家が燃え、住人でリフォーム会社経営者(当時49歳)が刺殺された放火殺人事件の捜査過程で見つかりました。容疑者は経営者の義理のおいで、その会社の従業員でした。容疑者は、この会社が請け負った工事を巡って金をだまし取ったなどとして3回にわたって逮捕され「借金返済のためにやった」などと話していました。
日本アルコール関連問題学会の理事長で、国立病院機構久里浜医療センターの松下幸生名誉院長が、2026年7月3日付朝日新聞の記事「アルコールの問題は自己責任? 専門家は「病気と知る啓発が必要」」で、飲酒運転をやめようと啓発するだけでは問題は解決しないと指摘しています。具体的には、「「飲んだら乗るな」という規範はだいぶ浸透しています。厳罰化である程度は効果がありましたが、下げ止まっています。飲酒運転で捕まる人は、常習性が疑われます。病気に近いと考えた方がいいです。飲酒で免許取り消し処分を受けて再取得のために講習を受けた人を対象に調査をしましたが、4~5割はアルコール依存症が疑われるとわかりました。2024年度にセンターでは、「飲酒と生活習慣に関する調査」を実施しました。推計ではありますが、アルコール依存症が疑われる人は64.4万人(0.6%)、過去1年で飲み過ぎなども含むアルコール使用障害が疑われる人は304.1万人(3.0%)にのぼりました。やめたいと言いながら飲んでいる人もいます。不眠を紛らわすため、孤独や孤立、身体的な痛み、ストレスや不安への対処として飲む。理由があるのです。お酒が売っていると買わずにはいられないのも依存症の特徴です」、「アルコールを飲み続けると耐性ができ、酔う感覚を認識しづらくなります。飲酒運転をした人から「大丈夫だと思った」という言葉を聞きますが、酔いがわからず、本当に大丈夫と思ってしまう。依存症は「否認の病」とも言われます。飲酒量を過小評価したり、「まだ大丈夫」と考えたり。家族や周りの人が「そこまでひどくない」と否認することもあります。相談にも課題があります。センターの調査では、アルコール使用障害が疑われる人の95.8%がアルコールに関する相談経験がないと回答しました。酒のことを相談するのは恥という感覚、酒をやめさせられるのではという恐れ。医療者に「なんでやめないんだ」と怒られて傷ついた経験のある人もいます」、「家族に勧められて受診する人が多いですが「酒をやめろ」ではなく、「あなたのことが心配だ」「健康になってくれたらうれしい」と伝えるのもテクニック。家族向けの相談先や、家族会もあります。病院では、酒にまつわるメリットやデメリットを考えるプログラムがあります。「飲めばつらい現実と向き合わないで済む」。そんな認識を「飲まなければよく眠れる、体の調子もよくなる」に変えていくようにしています。頻度を減らしたり量を減らしたりする節酒、減酒のアプローチもしています。アルコールの問題は自己責任と思われがちですが、病気と知ってもらう啓発が必要です。職場などでお酒くさくて、遅刻や欠勤を繰り返している人がいるかも知れません。お酒の問題を診てくれる場所があるよ、と言った声がけができるようになると良いですね」などと述べており、大変気づきが多い内容でした。
③犯罪統計資料から
例月同様、令和8年(2026年)1~5月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。
▼ 警察庁 犯罪統計資料(令和8年1~5月分)
令和8年(2026年)1~5月の刑法犯総数について、認知件数は313045件(前年同期298467件、前年同期比+4.9%)、検挙件数は119089件(115012件、+3.5%)、検挙率は38.0%(38.5%、▲0.5P)と、ここ最近の傾向に同じく、認知件数、検挙件数がともに増加している点が注目されます。刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は202747件(198694件、+2.0%)、検挙件数は68183件(66741件、+2.2%)、検挙率は33.6%(33.6%、±0P)となりました。なお、とりわけ認知件数の多い万引きについては、認知件数は44504件(43624件、+2.0%)、検挙件数は29740件(28891件、+2.9%)、検挙率は66.8%(66.2%、+0.6P)と増加傾向が継続しています。その他、凶悪犯の認知件数は3226件(2662件、+12.7%)、検挙件数は2592件(2446件、+6.0%)、検挙率は80.3%(85.5%、▲5.2P)、粗暴犯の認知件数は26884件(24085件、+11.6%)、検挙件数は20707件(18876件、+9.7%)、検挙率は77.0%(78.4%、▲1.4P)、知能犯の認知件数は33912件(28556件、+18.8%)、検挙件数は8157件(8108件、+0.6%)、検挙率は24.1%(28.4%、▲4.3P)、風俗犯の認知件数は7487件(7201件、+4.0%)、検挙件数は6387件(6138件、+4.1%)、検挙率は85.3%(85.2%、+0.1P)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数が増加しているほどには検挙件数が伸びず、検挙率が低調な点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、コロナ禍後も「非対面」でないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加、さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。
また、特別法犯総数については、検挙件数は25631件(24061件、+6.5%)、検挙人員は19409件(18833件、+3.1%)と検挙件数、検挙人員ともに大きく増加しています。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は1724件(2088件、▲17.4%)、検挙人員は1164人(1376人、▲15.4%)、軽犯罪法違反の検挙件数は2468件(2308件、+6.9%)、検挙人員は2440人(2264人、+7.8%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は1821件(1852件、▲1.7%)、検挙人員は1326人(1317人、+0.7%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は698件(515件、+35.5%)、検挙人員は547人(431人、+26.9%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2319件(1865件、+24.3%)、検挙人員は1641人(1434人、+14.4%)、銃刀法違反の検挙件数は1721件(1657件、+3.9%)、検挙人員は1417人(1402人、+1.1%)などとなっています。とりわけ犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、、麻薬等取締法違反の検挙件数は4935件(3607件、+36.8%)、検挙人員は3026人(2574人、+17.6%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は42件(49件、▲14.3%)、検挙人員は46人(41人、+12.2%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は3315件(3281件、+1.0%)、検挙人員は2173人(2163人、+0.5%)などとなっています。大麻の規制を巡る法改正から1年半以上が経過しましたが、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています(今後の動向を注視していく必要があります)。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していたところ、最近、あらためて増加傾向にあります(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況も危惧されるところです)。なお、麻薬等取締法違反が大きく増加している点も注目されますが、2024年の法改正で大麻の利用が追加された点が大きいと言えます。それ以外で対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。前述したとおり、コカインについては、世界中で急増している点に注意が必要です。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。
また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員対前年比較について、総数179人(175人、+2.3%)、中国36人(26人、+38.5%)、ベトナム26人(37人、▲29.7%)、フィリピン10人(13人、▲23.1%)、パキスタン7人(4人、+75.0%)、スリランカ6人(5人、+20.0%)、インドネシア5人(13人、▲61.5%)などとなっています。最近はベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回って増え続けていましたが、この時点では、中国人の方が多くなっている点が注目されます。
一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は2159件(3296件、▲34.5%)、検挙人員は1417人(1679人、▲15.6%)と検挙件数、検挙人員ともに大きく減少しています(暴力団員数が減少し続けていることが影響していると考えられます)。犯罪類型別では、強盗の検挙件数は22件(37件、▲40.5%)、検挙人員は45人(49人、▲8.2%)、暴行の検挙件数は148件(166件、▲10.8%)、検挙人員は126人(148人、▲14.9%)、傷害の検挙件数は240件(307件、▲21.8%)、検挙人員は280人(340人、▲17.6%)、脅迫の検挙件数は89件(102件、▲12.7%)、検挙人員は79人(91人、▲13.2%)、恐喝の検挙件数は117件(122件、▲4.1%)、検挙人員は144人(133人、+8.3%)、窃盗の検挙件数は894件(1345件、▲33.5%)、検挙人員は209人(242人、▲13.6%)、詐欺の検挙件数は287件(714件、▲59.8%)、検挙人員は232人(336人、▲31.0%)、賭博の検挙件数は7件(19件、▲63.2%)、検挙人員は36人(44人、▲18.2%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、2023年7月から減少に転じていたところ、あらためて増加傾向になった後、ここにきて大きく減少に転じている点が特筆されます。ただし、資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測される(ただし、詐欺は薬物などとともに暴力団の世界では御法度となっています)ことから、引き続き注意が必要です。
さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯総数について、特別法犯全体の検挙件数総数は1338件(1580件、▲15.3%)、検挙人員総数は764人(980人、▲22.0%)となりました。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は5件(6件、▲16.7%)、検挙人員は764人(980人、▲22.0%)、軽犯罪法違反の検挙件数は15件(14件、+7.1%)、検挙人員は12人(11人、+9.1%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は9件(14件、▲35.7%)、検挙人員は5人(10人、▲50.0%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は9件(7件、+28.6%)、検挙人員は9人(11人、▲18.2%)、銃刀法違反の検挙件数は24件(28件、▲14.3%)、検挙人員は18人(26人、▲30.8%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は421件(366件、+15.0%)、検挙人員は180人(185人、▲2.7%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は8件(10件、▲20.0%)、検挙人員は12人(5人、+140.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は669件(901件、▲25.7%)、検挙人員は413人(540人、▲23.5%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は53件(77件、▲31.2%)、検挙人員は11人(45人、▲75.6%)などとなっています。とりわけ覚せい剤取締法違反や麻薬等取締法違反については、前述のとおり、今後の動向を注視していく必要があります。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。
(8)北朝鮮リスクを巡る動向
韓国の人権団体、北朝鮮人権市民連合(NKHR)は、北朝鮮による制裁対象の石炭・鉱物輸出が国連の監視機能が停止する中で再び拡大していると指摘しました。NKHRは英調査団体「データ・デスク」と共同でまとめた報告書で、石炭などの貿易は2024年3月以降に加速していると指摘、この時期は、北朝鮮の制裁順守を監視する独立した国連専門家パネルの任期更新にロシアが拒否権を行使していた時期にあたります。NKHRは衛星画像を用いて、主要5港湾で確認された大型船舶の数を集計、その結果、2019年の783隻から2025年は3756隻と、ほぼ5倍に増加していました(集計対象は石炭だけでなく、鉄や武器など他の物品を運べる能力を持つ全ての貨物船を含んでいます)。石炭輸出の主要拠点である西部の南浦港では、船舶の確認数が2019年の554隻から2025年には3000隻超に増え、最多となりました。また、制裁対象船舶が外国の港に寄港した回数は、国連の監視体制崩壊後により頻繁になり、2019年の4回から2025年は最大25回に増加、石炭貿易はほぼ全て北朝鮮国防省の関連企業によって運営され、その収益は同国の鉱山と政治犯収容所を運営する軍と治安機関に振り向けられているといいます。鉱山は政治犯や報酬を得ていない兵士、また朝鮮戦争後に帰還できなかった韓国軍捕虜の子孫らによって稼働していると報告書は指摘、世襲的な制度によって鉱山労働に閉じ込められた人々は推定で5万~8万人に上るとしています。国連は2017年に北朝鮮の石炭輸出を禁止しましたが、韓国の国家情報院の推計では2025年も約150万トンを出荷したとみられ、その産地はロシア産と偽装されている疑いがあるといいます。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は党中央委員会の会合で、核保有国としての地位を行使することが、予測不可能で複雑な世界の安全保障情勢に対処する唯一の方法だと述べました。金総書記は、覇権主義勢力の「ギャングのような」強欲によって「想像を絶する驚くべき事件や出来事」が起きており、世界各地の対立がより激しくなっていると指摘、欧州と中東で流血の事態が悪化しているのは米国の責任だと非難、また、米国と韓国が北朝鮮への攻撃のみを目的とした合同の核態勢を着実に強化し、朝鮮半島の安全保障情勢をより危険なものにしているとも述べたほか、韓国との関係について「最も敵対的な国家として公認した」とする党の原則を「堅持すべきだ」と述べ、韓国側が求める対話再開を拒否する構えを改めて見せました。その上で、北朝鮮が南北軍事境界線付近に地雷などの埋設を進めている「要塞化」計画を完結させることを確認したといいます。日本については、「軍事大国化」を進めようとしていると非難し、北朝鮮を刺激するような行動を慎むべきだと警告しました。さらに朝鮮中央通信(KCNA)は、「核戦力を着実に拡大・強化し、核兵器保有国としての地位を徹底的に行使することが、多面的に複雑化する予測不可能な国際的な軍事・政治情勢に積極的かつ自信を持って対処する最も正しい独自の道だ」と伝えています(北朝鮮の核戦力に関して取られる可能性のある具体的な行動については示されていません)。KCNAによれば、金総書記はさらに「世界を圧倒できる水準」を目指し、通常兵器の増強と、排水量1万トンの戦略誘導ミサイル巡洋艦の建造加速を命じましたほか、石炭産業の近代化と鉱山地域の再開発に向けた取り組みが強調され、金総書記はこれを戦略的優先課題と位置付けました。ロイターの報道で北韓大学院大(ソウル)のヤン・ムジン教授はこの発言について、北朝鮮が非核化を依然として拒否し、核保有国としての承認を求めていることを強調するものだと解説、同国が交渉に臨むのは「核保有国として対等な立場で」のみであり、その場合、核施設の解体ではなく軍縮に焦点が当てられる可能性があると付け加えました。同教授は、こうした交渉は「最小限の抑止力」の受け入れを意味し、制裁緩和を必要とするものであり、韓国の李在明大統領がトランプ米大統領に提示したような段階的な非核化案とは根本的に異なると指摘しています。
関連して、北朝鮮が核兵器の原料となる高濃縮ウランの製造を急ピッチで進めていると指摘されています。英国の民間調査機関は、生産能力が2021年に比べて2.5倍になったと推計、韓国の専門家からも「量産段階に入った」との見方が出ています。北朝鮮メディアは2026年6月、新たに稼働した「核物質の生産工場」の写真を公開、核開発の調査・分析などをする非営利法人「VERTIC」(本部・ロンドン)の専門家はこの写真や衛星写真などを検証、北朝鮮北西部・寧辺に新たに建設されたウラン濃縮施設だと指摘、報告書によれば、寧辺の新施設には9184基の遠心分離機があると推定でき、この工場での高濃縮ウランの生産能力は年160キロと算定しました。北朝鮮は他に北西部の亀城と平壌近郊の降仙にもウラン濃縮施設を保有するとみられており、VERTICによれば、2021年時点で北朝鮮全体のウラン生産能力は年150キロだったところ、寧辺の新施設の稼働や、降仙の施設の新規稼働などによって年375キロとなり、5年前の2.5倍となったとしています。金総書記は、過去5年の取り組みによって「兵器級核物質の生産能力が従来の2倍を超える水準に達した」と表明しており、VERTICの分析と一致、また報告書は、寧辺の新施設の稼働時期が2026年6月だとすれば、北朝鮮の高濃縮ウランの備蓄総量は2026年末までに計2.4~2.5トンに達する可能性があると指摘、これは核保有国である英国の23トンと比べ、10分の1ほどの量となります。本コラムでも取り上げましたが、朝鮮労働党は2026年2月の党大会で、今後5年の核開発計画として、核生産能力の「指数関数的な強化」の制度化を決定しましたが、韓国の統一研究院の洪ミン先任研究委員は、北朝鮮が公表した写真の分析から、濃縮の一部工程について、自動化や遠隔操縦などが進んでいると指摘、濃縮ウランの製造が「量産段階に入った」ことを示していると分析したほか、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)も2026年6月、北朝鮮の核弾頭保有数の推計を、前年比10発増の約60発と発表しました。北朝鮮が高濃縮ウランの生産を加速させる背景には、核戦力を強化する戦略の柱の一つに、高濃縮ウランを燃料とする原子力潜水艦の建造を掲げていることもあるとみられています。
中国の習近平国家主席が北朝鮮を7年ぶりに訪問し、中朝首脳会談などが開催されました。会談の後、両国が発表した内容には齟齬がなく、戦略的関係を強化する方向で一致したと考えられます。朝鮮半島の非核化に言及がなかったことは、北朝鮮にとって成果で、会談後の晩餐会で、習近平国家主席は2026年2月の朝鮮労働党の第9回党大会の方針を評価するかのようなスピーチをしましたが、大会では「核保有国の地位」を固めたとの姿勢も示されており、こうした姿勢を黙認したことを示唆しています。中国は、核開発に関する国連の対北朝鮮制裁にも加わり、批判的な態度をとってきましたが、ここ最近は非核化に言及しない「あいまい戦略」に転じており、今回、北朝鮮の核保有を現実として無視できないと公に認めたといえます。米朝対話において、北朝鮮が中国の支持を得られることは大きな意味を持ち、米朝対話再開の最低限の前提が整った可能性があります。一方、今回の発表文では、アジアの盟主として振る舞う中国が強調した自国主導の国際秩序構想について、北朝鮮の発表には一切記載がありませんでした。北朝鮮はロ朝接近を背景として、中国に従属、依存する立場ではないことを示した形ですが、国家存亡に関わる対米交渉の再開に向けては、朝鮮戦争休戦協定の当事者でもある中国の協力が不可欠で、今回、中国との関係改善に動いたのは、ウクライナ情勢に左右されうる対ロ関係の変化も念頭に対米関係にも備えたものと考えられます。北朝鮮は、トランプ米大統領が大幅に譲歩し、非核化交渉ではなく平和協定締結などを提案する展開を期待して、トランプ氏批判や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を控えており、今回の公式報道で米国への言及がなかったことも、抑制的な対米姿勢の一環といえると考えます。経済関係は徐々に回復すると見込まれていますが、国連の制裁を中国がどこまで守るかが注目されるところで、制裁対象の石炭や水産物などの禁輸品を中国が受け入れるか今後の実態を見る必要があります。また、65周年を迎える中朝友好協力相互援助条約を双方が重視、北朝鮮にとっては「後ろ盾がある」として、敵対する国への抑止力となることは間違いなく、中国も北朝鮮に一定の安心感を与えることで、過度な軍事挑発を抑える意図があるとも考えられます。ただ、北朝鮮は核・ミサイル開発を体制維持の生命線と位置づけ、その脅威は東アジアにとどまりません。金与正朝鮮労働党総務部長は「核保有国の地位は絶対不退の限界線」と強調、ロシアへの砲弾供給や兵士の派遣に対する経済的な見返りは制裁の包囲網に穴をあけ、北朝鮮が国連安保理決議に違反する弾道ミサイル発射を繰り返しても、国際社会は一致した対応がとれない現状があります。中東情勢の緊迫などもあり、核開発への国際的な関心や監視の目が薄れがちで、2026年5月に北京であった米中首脳会談では、米側が北朝鮮の非核化を共通の目標として再確認したとしていますが、中国側は沈黙を続けています。さらに中ロ首脳会談後の声明では、北朝鮮の「安全を脅かすことに反対」と明言する一方、やはり北朝鮮の核には触れていません。中国自身も核弾頭の数を急速に増やしており、中国が当面の米国への対抗や北朝鮮への影響力の確保といった短期的な利害のため、北朝鮮の核開発に目をつぶることは許されません。かつて日米韓中ロが北朝鮮と同国の非核化をめざした「6者協議」があり、中国が議長としてまとめた2005年の共同声明は、北朝鮮が経済支援などと引き換えに核兵器・核計画の放棄を約束した経緯があり、北朝鮮の核保有が望ましくないことは、中国にとっても変わらないはずであり、筆者としても、とりわけ米中ロの北朝鮮への対応のあいまいさ、弱腰ぶりには極めて憂慮しています。
北朝鮮と韓国との関係性を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 韓国外務省の南鎮・東北・中央アジア局長は中国との局長級協議で、中国が北朝鮮の核保有を黙認しているとの見方が広がっていることへの懸念を伝えたと明らかにしました。。報道によれば、南氏は中国側に「中朝関係の発展が朝鮮半島の平和と安定に寄与することを期待しており、中国側には建設的な役割を継続してほしい」と要請しました。一方で、外務省関係者は「中国は朝鮮半島の非核化、平和と安定の維持、対話と協力による問題解決という三つの原則を引き続き維持している」との見方を示しました。
- 北朝鮮で韓国との関係を担当する外務省10局の報道官は、韓国の李在明大統領が、欧州連合(EU)首脳との間で北朝鮮の非核化を求める共同声明を発表したことに、「敵対宣言」だと反発する談話を発表しました。韓国に対し、「(南北の)平和共存はあり得ず、永遠に敵対的な2つの国家関係であるしかないという現実を世界に立証した」と非難しました。外務省10局は、北朝鮮が南北を「敵対的2国家」と位置づけて以降、韓国担当として新設した組織で、談話は、韓国とEUの共同声明が、北朝鮮に「核保有国」の地位を認めないと明記し露朝の軍事協力を非難したことに言及し、「韓国の政権は『平和』の仮面を脱ぎ捨てた」と糾弾、北朝鮮に対する敵対行為を控えるとした韓国政府の方針は「偽装」だと主張しました。また、北朝鮮外務省の代弁人も談話を発表し、日米韓3カ国に対し、「時代とともに永久に失われた『非核化』を取り戻すことはできない」と非核化交渉を拒否する姿勢を改めて示しました。
- 金与正党総務部長は主要7カ国首脳会議(G7サミット)が声明で「北朝鮮の完全な非核化」を追求するとの内容を盛り込んだことについて、「核保有は我々の核心的利益であり、譲ることのできない一線だ」と反論する談話を発表しました。金与正氏は非核化の要求は「時代錯誤的だ」と批判し、「核は主権を守る強力な手段であり、平和保障の礎だ」と主張しました。北朝鮮はこれまで、非核化を前提としない米国との対話には応じる姿勢を示しています。
- 北朝鮮外務省は、韓国への最新型空対空ミサイルと関連装備品輸出を承認した米国の決定を非難し、この措置が朝鮮半島の緊張を悪化させると警告しました。同省の対外政策局長は声明で、米国務省が同国の「対外有償軍事援助(FMS)プログラム」に基づいて最新型空対空ミサイルと関連装備品約3億ドル相当を韓国に売却することを承認した措置に言及し、朝鮮半島内と周辺における緊張の高まりに対する国際的な懸念にもかかわらず、米韓の軍事協力は「組織的に強化」されていると主張、さらに「米国の武器輸出は戦争輸出だ」とした上で、北朝鮮は地域の勢力均衡を維持するため自衛的抑止力の強化を継続すると述べています。
- KCNAは、金総書記が240ミリ口径の多連装ロケット砲などの「重要兵器試験」を視察したと伝えました。金総書記は今回の試験が「南部国境の火力態勢を強化する党の方針」に沿ったものだと説明、韓国を射程に入れた打撃能力の向上を狙った試験とみられています。同日は1950年に起きた朝鮮戦争の開戦日でした。金総書記は試験がミサイル戦力の「自動化・長距離化・高精度化という3大原則の実現に向けた技術的進歩を示すものだ」と述べ、その上で「単なる防御機能の向上ではなく、致命的かつ破壊的な攻撃態勢を高め、対抗する敵がいないようにする政策だ」と強調、早期に長距離打撃手段を新型に更新し、配備するとしました。
- 北朝鮮メディアは、金総書記が弾道ミサイルの弾頭部分の破壊力を確かめる試験を視察したと報じました。射程を90キロに延ばした24連発式のロケット砲なども試験、韓国を攻撃するための兵器を改良する計画の一環とみられています。
- 韓国の聯合ニュースは、韓国軍当局などの話として、北朝鮮軍が韓国との軍事境界線(MDL)から80~90メートルの場所に鉄柵を設置したと報じました。MDLの南北各2キロの非武装地帯(DMZ)は朝鮮戦争の休戦協定で軍事活動が禁じられており、韓国軍合同参謀本部は協定違反だと反発しています。北朝鮮は、「主敵」と位置づける韓国との有事に備え、MDLの北側で「戦術道路」と呼ばれる軍用道路や防壁の建設、地雷の埋設などを進めています。鉄柵の設置もその一環とみられています。北朝鮮軍がMDLに近い場所で活動すれば、南北の偶発的な衝突を招く危険性が高まります。一方、米軍などで構成される国連軍は、「DMZ内の活動は全体的な流れの中で理解されねばならない」と指摘し、協定違反と断定することを避けました。国連軍は休戦協定の履行について監視する役割を担っています。
その他、北朝鮮を巡る最近の国内外の動向から、いくつか紹介します。
- 北朝鮮の新型駆逐艦「崔賢」の就役式が西部・南浦港で開かれました。西側の黄海を管轄する海軍が運用するもので、北朝鮮の海軍の役割は、これまで上陸作戦の支援や沿岸防護が主体でしたが、核武装化や遠洋への進出を目指し、大幅に役割を拡大させるとしています。1万トン級の巡洋艦の建造計画もあります。式典で金総書記は、軍の中でも海軍の装備が「最も弱かった」と指摘、逐艦の就役によって「海軍の陳腐さに終止符を打った」と述べました。2026年からの国防5カ年計画の期間内に1万トン級巡洋艦を含め、毎年2隻の軍艦を建造する計画ですが、大型艦を係留する海軍の基地がないといい、整備を急いでいます。新型駆逐艦は5000トン級で、従来の主力だった護衛艦の3倍以上の排水量があるとされ、戦略巡航ミサイルなどの発射実験が行われており、核弾頭を搭載したミサイルの運用を想定しているとみられています。艦上にロシア製に似た兵器も確認されています。日本海側の北東部・清津で建造された2隻目の「姜健」も早期就役を目指しています。なお、KCNAによれば、「姜健」から巡航ミサイルを発射し、艦上で対艦・対潜水艦システムや防空システムを評価する試験が2026年7月3日に行われ、金総書記が視察したといいます。
- 前述したとおり、韓国の李在明大統領はG7サミットの参加国首脳らによる写真撮影の際、南北関係の近況を尋ねたトランプ氏に対して「トランプ大統領が中東戦争を解決したように、北朝鮮問題の平和的解決を主導してほしい」と要請、トランプ氏は努力する姿勢で応じたといいます。トランプ氏は、自身のSNSに、北朝鮮の金総書記と並んで歩く様子を写した写真を投稿、写真に説明は加えられていませんが、2018年にシンガポールであった米朝首脳会談の際の写真とみられています。韓国メディアは、この投稿に先立ち、イランとの戦闘終結の覚書に署名する見通しを明らかにしたことから、イランとの戦闘が終結した場合、トランプ大統領が金総書記との首脳会談を含めて北朝鮮との外交に乗り出す可能性があることを示唆しているとの見方(米朝会談への意欲を示したとの観測)を伝えていますが、韓国の東亜日報は、2026年11月の米中間選挙に向けた外交成果として、「イランだけでなく北朝鮮の核問題も解決できるという自信の表れ」との専門家の見方を伝えています。
- 北朝鮮は第9回党大会で新たな5カ年計画を打ち出し、基幹産業や電力供給、生活水準の向上に重点を置いて経済の安定と強化を目指すとしました。KCNAは石炭、セメント、電力などの分野で生産が伸びた要因として「忠誠心と愛国心の力、科学技術に基づく自力更生」を挙げています。KCNAによれば、金総書記は科学技術を生産拡大の鍵と位置付け、自力更生を通じて「変革の新時代を切り開く」よう呼びかけたといいます。セメント生産は祥原セメント連合企業所などの主要工場で増加し、同企業所の2026年3月の生産は月間目標の107%に達したほか、炭鉱では新たな採掘方法や設備の更新により、生産が前年同期比約106%となりました。火力発電所と水力発電所の効率改善により発電量も増加したほか、肥料や他の工業製品の生産も拡大したとしています。北朝鮮は長年、慢性的な電力不足に直面してきましたが、米紙WSJが引用した衛星画像など最近の一部の分析では、夜間光の強度が新型コロナ禍の約3倍の水準まで回復したことが示されています。北朝鮮国営メディアは全国的な建設活動や幅広い経済成長を強調、アナリストらは、こうした成長がロシアへの武器・人員の提供や、中国との貿易・支援に支えられているとみています。
- 金総書記が、2026年6月の同党中央委員会拡大総会で、日本が軍事大国化を目指していると批判、「敗戦国である日本」が「現在の混乱した局面を軍事大国化を制限するあらゆる足かせを解くことのできる絶好の機会として、堂々と戦争国家へ変貌している」と語りました。「日本軍国主義」という表現も用いましたが、「軍事大国化」「軍国主義」は中国が対日批判に使う用語であり、中国のプロパガンダ(政治宣伝)に金総書記が呼応した格好で、事実に反しており、軍拡を続ける自国を省みない妄言で、異質さをかえって際立たせていると言わざるを得ません。本コラムでも指摘し続けているとおり、北朝鮮は国連安全保障理事会の決議に反して核兵器と弾道ミサイルの開発、配備を進め、核実験を6回実施、2026年6月には核物質の新たな生産工場(ウラン濃縮施設)の稼働を発表、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に加え、近年は変則軌道を飛ぶ極超音速ミサイルなどを開発、ウクライナを侵略するロシアを支援するため、ミサイルや砲弾を供給、およそ1万5千人もの援兵を出し、露西部クルスク州などでウクライナ軍と交戦、世界中の暗号資産を窃取するなど、地域や世界の平和と安全、経済を脅かし続けてきました。日本も北朝鮮の愚行を許してはならず、中朝ロのプロパガンダに国際社会に正々堂々と反論していくべきだといえます。
金融庁は、20年以上前から元役員が約14億円の顧客預金を着服していたなどとして、北朝鮮系のウリ信用組合(本店・札幌市)に対し、業務一部停止命令と業務改善命令を出しました。不正を巡り虚偽の説明をしたことなどから刑事告発も検討しています。新規顧客への融資業務などを7月14日から8月13日までの1カ月間停止します。ウリ信用組合は北海道と東北地方を営業拠点としていますが、顧客の預金着服では、元役員以外にも、4人の職員が2005~13年に計約1000万円を着服していたことが確認されていますが、在日朝鮮人総連合会(朝鮮総連)への送金は確認されなかったといいます。架空名義の口座を多数作っていたことも判明していま。20年以上前にも同様の問題が発覚し、報告徴求命令を出していましたが、一部が報告されておらず、さらに今回の不正を検査する際にも関連資料を破棄したほか、検査官に虚偽の説明をしたといいます。記者会見で(2025年に就任したばかりの)副理事長は、架空名義の口座は2003年時点で計約74億円分、他人名義の口座をつくる借名口座は2014年時点で計約120億円分に上ったと説明、「今回明らかになった事案は、いずれも当組合の経営管理体制と法令順守体制が長年にわたり機能不全に陥っていたことを示すものに他ならない」、「肌感覚で、上に物を言えない組織風土があった。規定違反があっても、これぐらいはいいんじゃないかということもあった」と指摘、再発防止に向け、経営管理体制を再構築する考えを示しています。今後、利害関係のない弁護士3人で構成する第三者委員会で調査が進むと思われますが、そもそも在日朝鮮人系の信組を巡っては、2000年前後に各地の16信組が破綻し、1兆1千億円超の公的資金が投入され、その後、架空口座を通じた朝鮮総連などへの資金流出が発覚し、問題になった経緯があります(朝鮮総連への流出額は少なくとも約630億円とされ、整理回収機構が回収を進めていますが、2025年9月末時点で約62億円しか返済されていないといいます)。ウリ信組は破綻を免れた3信組のうちの一つですが、存続した信組で不正が続いていたことで、(いわき信組の件もあり)金融庁の監視のあり方も問われるうえ、その資金の流れに不審な点がないか、徹底的に解明する必要があります。
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例の改正動向(大分県)
大分県暴排条例が2026年7月1日に改正施行されました。今回の改正は、他の自治体同様、大分市と別府市の繁華街で、飲食店などの事業者と暴力団員との間で、みかじめ料などを受け渡すことが新たに禁止したものです。また、暴力団事務所の開設や運営を禁止する区域の追加、18歳未満の人を正当な理由なく暴力団事務所に立ち入らせることが禁止されました。なお、2025年の大分県内における暴力団関係者の検挙件数は51件で、前年より5件増加しました。また、現在、同条例の施行規則の一部改正案がパブコメにかけられています。
▼ 大分県暴力団排除条例施行規則の一部改正(案)の概要
- 立入検査(第4条の2・新設)
- 大分県暴力団排除条例の一部改正第24条では、同条例第13条第1項(都市公園の周囲200メートルの区域内における暴力団事務所の開設及び運営の禁止・今改正で追加)及び第13条の2第1項(都市計画法が定める一定区域内における当該事務所の開設及び運営の禁止・今改正で新設)並びに第13条の3(青少年を暴力団事務所に立ち入らせることの禁止・今改正で新設)に違反した疑いがある場合は、公安委員会が、暴力団その他の関係者に対し、説明や資料の提出を求めることができること、及び警察職員に対して、立入検査を行わせることができることが規定されています。
- 大分県暴力団排除条例施行規則の一部改正第4条の2(新設)では、立入検査は、検査関係者の説明又は資料の提出では目的を達することができない場合に実施すること、立入検査を行う警察職員は警察本部長が指定することのほか、立入検査時に警察職員が検査関係者に示す身分証明書の様式を規定しています。
- 公安委員会の中止命令・再発防止命令の方法(第10条・新設)
- 大分県暴力団排除条例の一部改正第26条の2では、暴力団事務所の開設及び運営の禁止及び青少年を暴力団事務所に立ち入らせることの禁止違反行為をした暴力団員に対し、公安委員会が中止命令や再発防止命令を行うことができると規定されています。
- 大分県暴力団排除条例施行規則の一部改正第10条(新設)では、その中止命令や再発防止命令を行う場合は、「中止命令書」「再発防止命令書」によって行う旨を規定するとともに、暴力団員が青少年を暴力団事務所に立ち入らせることの禁止違反を行った場合で、緊急を要し、中止命令書により行ういとまがないときは、中止命令書等によらず、口頭で命令を行うことができる旨規定し、さらに口頭で命令を行った場合は、命令後相当期間内に「理由通知書」に」によって命令の相手方に通知するものと規定しています。
(2)暴力団排除条例に基づく逮捕(不起訴)事例(東京都①)
暴力団員とみかじめ料のやり取りをしたとして、東京都暴排条例違反の疑いで2025年8月に警視庁に逮捕された違法スカウトグループ「ナチュラル」の幹部ら男性3人について、東京地検はいずれも不起訴処分にしました3人は2023年7月、同条例で「暴力団排除特別強化地域」に指定された東京都渋谷区宇田川町の路上やその周辺で、女性を性風俗店にあっせんするナチュラルのスカウト活動を容認することへのみかじめ料のやり取りをしたとして逮捕されていたものです。
▼ 東京都暴力団排除条例
同条例第二十五条の三(特定営業者の禁止行為)第2項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、暴力団員に対し、用心棒の役務の提供を受けることの対償として、又は当該営業を営むことを暴力団員が容認することの対償として利益供与をしてはならない」と規定され、違反した場合、第三十三条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」として、「三 相手方が暴力団員であることの情を知って、第二十五条の三の規定に違反した者」が規定されています。
(3)暴力団排除条例に基づく逮捕(起訴)事例(東京都②)
前回の本コラム(暴排トピックス2026年6月号)で取り上げました、東京・板橋区にある保育園の近くに暴力団事務所を構えたとして住吉会系幸平一家の傘下組織の幹部を東京都暴排条例違反の罪で逮捕された事件について、東京地検立川支部は被告を起訴しました。報道によれば、被告は2025年10月から2026年3月ごろにかけて、板橋区にある保育園からおよそ100メートルに所在するマンションの一室に暴力団事務所を構えた罪に問われています。この事件では、被告とともに同じ傘下組織組員ら5人が警視庁に逮捕されていましたが、東京地検立川支部は5人を不起訴処分としています。
同条例第二十二条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供せられるものと決定した土地を含む。)の周囲二百メートルの区域内において、これを開設し、又は運営してはならない」として、「三 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第七条第一項に規定する児童福祉施設若しくは同法第十二条第一項に規定する児童相談所又は東京都安全安心まちづくり条例(平成十五年東京都条例第百十四号)第七条の規定に基づき同法第七条に規定する児童福祉施設に類する施設として東京都規則で定めるもの」が規定されています。また、第三十三条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」として、「一 第二十二条第一項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者」が規定されています。
(4)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(石川県)
石川県が条例で定める暴力団事務所の開設禁止区域に、事務所を構え運営したとして、石川県警は六代目山口組傘下組織「五代目卯辰組」組長ら7人を石川県暴排条例違反の疑いで逮捕しました。報道によれば、組長らは2025年5月頃、組の事務所を石川県の条例で定める金沢市内の禁止区域に開設し、運営した疑いがもたれています。同条例では学校や図書館、公園などの施設がある周囲200メートル区域内で暴力団の事務所を開設、運営してはならないと定められており(金沢市内は、ほぼ全域が暴力団事務所の開設禁止区域となっているといいます)、金沢市内の都市公園近くで事務所を開設したということです(隣には同じ六代目山口組傘下組織の事務所があり、1年にわたって二つの暴力団事務所が並び立っていたといいます)。なお、石川県が同条例を制定した2011年以降、暴力団事務所の開設・運営の禁止を適用した摘発は2回目で、容疑者は2年前にも逮捕されています。
▼ 石川県暴排条例
同条例第十四条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設又は建造物の敷地(これらの用に供するものと決定した土地並びに第七号及び第十一号に掲げる建造物が他の建造物と一体となって社寺その他の施設を構成する場合にあっては、当該施設の敷地を含む。)の周囲二百メートルの区域内においては、これを開設し、又は運営してはならない」として、「九 都市公園法(昭和三十一年法律第七十九号)第二条第一項に規定する都市公園」が規定されており、違反した場合、第二十三条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」として、「三 第十四条第一項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者」と規定されています。
(5)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(三重県)
みかじめ料を受け取ったとして、三重県警四日市南署は、三重県暴排条例違反の疑いで、共に六代目山口組傘下組織幹部の2人を逮捕しました。報道によれば、2026年4月、近鉄四日市駅周辺の繁華街で、風俗店を経営する50代女性から、みかじめ料名目で現金2万円を受け取った疑いがもたれています。別の事件を捜査する過程で容疑が浮上、同様の行為を繰り返していたとみて、詳しい経緯を調べています。みかじめ料の受け渡しを巡っては、2025年10月に施行された改正三重県暴排条例で罰則が新設されましたが、みかじめ料を受け取ったとして、三重県警が同条例を適用して容疑者を逮捕するのは初めてだといいます。改正後、すぐの摘発事例が出たことは大変意義あることと思います。
▼ 三重県暴排条例
同条例第二十二条の四(暴力団員の禁止行為) 第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業に関し、特定営業者から,用心棒の役務の提供をすることの対償若しくは当該特定営業を営むことを容認することの対償として利益の供与を受け、又は自らが指定した者に利益の供与を受けさせてはならない」と規定され、違反した場合、第三十二条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」として、「四 第二十二条の四の規定に違反したとき」が規定されています。
(6)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(京都府)
飲食店からみかじめ料を受け取ったとして、京都府警捜査4課と西京署などは、京都府暴排条例違反の疑いで、京都市山科区の暴力団組員ら5人を逮捕しました。報道によれば、氏名不詳者らと共謀し、2023年11月ごろ~2025年6月、京都市中京区の木屋町地域で居酒屋を経営する20代の男性から20回にわたり、みかじめ料として現金計60万円を受け取るなどした疑いがもたれています。容疑者らは木屋町地域の飲食店やキャバクラから「広告費」の名目でみかじめ料を徴収していたといいます。
▼ 京都府暴排条例
(同条例の構造は他の自治体のものもと少し異なり興味深いですが)同条例第27条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する」として、「(3)暴力団排除特別強化地域における特定接客業の営業に関し、接客業務に従事し、その営業所における用心棒の役務を提供し、又は第18条第4項に規定する金品等の供与を受けた暴力団員」と規定されています。ちなみに第18条第4項は、「特定接客業者は、暴力団排除特別強化地域における特定接客業の営業に関し、暴力団員に対し、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供を受けることの対償として金品等を供与し、又はその営業を営むことを容認する対償として金品等を供与してはならないl」というものです。
(7)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)
沖縄県警名護署は、50代男性に対して金銭を不当に要求したとして、暴力団対策法に基づき、旭琉会二代目桜一家構成員に対し、暴力団対策法に基づく中止命令を発出しました。
▼ 暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)
暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。
(8)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(静岡県①)
静岡県警は、県内にある社交飲食店にみかじめ料や用心棒料を要求したとして、稲川会五代目森田一家幹部に対し、暴力団対策法に基づく中止命令を発出しました。報道によれば、幹部は2026年6月、暴力団の名前を示し、「ごたごたした時に俺らが守るから」などと言って、社交飲食店からみかじめ料や用心棒料を要求した疑いが持たれています。男は「分かりました、もう行きません」と話しているということです。
(9)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(静岡県②)
暴力団の威力を示して、利息制限法の規定を超える高い金利で貸した金の支払いを要求したなどとして静岡県警は、稲川会八代目大場一家幹部と、その妻に暴力団対策法に基づく中止命令を発出しました。報道によれば、この幹部は2026年5月、静岡県東部地区に住む70代の男性に、所属する暴力団の威力を示して利息制限法が規定する制限額を超える利息で貸し付けた数10万円の返済について「月に1割の利息支払いか、一括返済か」などと支払いを要求、また、この幹部の妻は2026年4月、同じ男性に対して暴力団の威力を示して支払いの要求をしました。妻は一般人ですが、夫が所属する暴力団の威力を背景に不当な要求をしていて、静岡県内で初めて、暴力団対策法が禁止する「準暴力的要求行為」にあたるとして中止命令が出されたものです。利息制限法では、借入金額が10万円以上100万円未満の場合の年利上限を「18%」と定めていますが、『月に1割』は「月利10%」で、年利120%にあたり、法定上限を大幅に上回る水準となります。
暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「六 次に掲げる債務について、債務者に対し、その履行を要求すること」のうち、「イ 金銭を目的とする消費貸借(利息制限法(昭和二十九年法律第百号)第五条第一号に規定する営業的金銭消費貸借(以下この号において単に「営業的金銭消費貸借」という。)を除く。)上の債務であって同法第一条に定める利息の制限額を超える利息(同法第三条の規定によって利息とみなされる金銭を含む。)の支払を伴い、又はその不履行による賠償額の予定が同法第四条に定める制限額を超えるもの」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。
また、指定暴力団員以外の者が、指定暴力団の威力を示して行う同27形態の行為を「準暴力的要求行為」と言いますが、準暴力的要求行為を行うことが禁止されているのは、「暴力団対策法に基づく命令を受けた者等一定の暴力団周辺者」、「元指定暴力団員」、「指定暴力団への利益供与者等」となります。
(10)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(佐賀県)
佐賀県佐賀南署は、暴力団対策法に基づき、道仁会傘下組織組員に対し、不当に贈与を要求しないよう中止命令を発出しました。報道にyろえば、組員は2024年夏ごろ、佐賀市の20代男性に対し、知人に対する借金の返済名目で「俺が支払い立て替えてやっとるけん、180万円払わんね」「毎月5万払わんね」などと告げ、2025年11月、佐賀市内の飲食店で不当に現金を要求したもので、同署は2026年5月に恐喝の疑いで組員を逮捕しています。
(11)暴力団対策法に基づく称揚等禁止命令発出事例(兵庫県)
兵庫県公安委員会は、六代目山口組の篠田建市(通称・司忍)組長ら3人に、抗争事件に絡み服役中の傘下組員に対し出所祝いや功労金などを与えることを禁ずる「称揚等禁止命令」を発出しました。報道によれば、この組員の男は2023年12月に対立する神戸山口組傘下組長宅に車を衝突させ、門扉などを損壊したとして逮捕され、器物損壊罪で有罪判決を受け服役中で、命令の効力は出所から5年間で、組織内での昇格も禁じるものです。
暴力団対策法では、第4節「暴力行為の賞揚等の規制」第30条の5において、「公安委員会は、指定暴力団員が次の各号のいずれかに該当する暴力行為を敢行し、刑に処せられた場合において、当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員が、当該暴力行為の敢行を賞揚し、又は慰労する目的で、当該指定暴力団員に対し金品等の供与をするおそれがあると認めるときは、当該他の指定暴力団員又は当該指定暴力団員に対し、期間を定めて、当該金品等の供与をしてはならず、又はこれを受けてはならない旨を命ずることができる。ただし、当該命令の期間の終期は、当該刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過する日を超えてはならない」と規定しています。
(12)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(北海道)
北海道旭川方面公安委員会は、六代目山口組二代目旭導会会長に対し、暴力団対策法に基づき、みかじめ料などを求めないよう再発命令を発出しました。報道によれば、同会の組員は、旭川市内の繁華街で10店舗以上の飲食店経営者に対し、みかじめ料や用心棒代の名目で毎月約2万円要求していて、2011年ごろから継続的に行われていた事例もあるといいます。こうした行為が反復して行われるおそれがあるため、北海道公安委員会は同会から聴き取りを行ったうえで、同会の会長に対し、暴力団対策法に基づいて、みかじめ料や用心棒代などを要求することを禁止する再発防止命令を発出したものです。北海道旭川方面公安委員会は、2026年4月にも同会の幹部に対して、同様の再発防止命令を出しています。
暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十二条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、第十条第一項の規定に違反する行為が行われた場合において、当該行為をした者が更に反復して同項の規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、当該行為に係る指定暴力団員又は当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員に対して暴力的要求行為をすることを要求し、依頼し、又は唆すことを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。
(13)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(神奈川県)
神奈川県公安委員会は、「10万円都合つけて」など金銭を繰り返し要求したとして、暴力団対策法に基づき、住吉会傘下組織組員に再発防止命令を発出しました。


