暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

大麻を持つ手と女性の後ろ姿

1.令和2年版犯罪白書~「薬物犯罪」を中心に

法務省から、「令和2年版犯罪白書」が公表されました。白書の冒頭では、「我が国の犯罪情勢は、刑法犯の認知件数が令和元年も戦後最少を更新するなど、全体としては改善傾向が続いている。しかしながら、個別に見ると、特殊詐欺、児童虐待、サイバー犯罪等のように検挙件数が増加傾向又は高止まり状態にある犯罪もある。また、出所受刑者全体の2年以内再入率は低下傾向にあるが、満期釈放等による出所受刑者の再入率は仮釈放による出所受刑者よりも相当に高い状態で推移しており、再犯防止対策の更なる充実強化が求められている」こと、「近年の犯罪動向や再犯防止対策に関し、注目すべき犯罪類型の一つに、薬物犯罪がある。近年、覚醒剤取締法違反の検挙人員が減少する一方、若年者を中心に、大麻取締法違反の検挙人員が急増している。また、令和元年において、入所受刑者に占める覚醒剤取締法違反の入所受刑者の割合は、総数では約4分の1、女性では約3分の1を占めている。同法違反の出所受刑者の5年以内再入率は、窃盗と共に、他の罪名と比較して高い」こと、さらに「平成28年に刑の一部執行猶予制度の運用が開始されたほか、刑事施設や保護観察所では、薬物事犯者に対する処遇の充実が図られている。また、薬物事犯者の再犯防止や社会復帰に向けた取組は、「再犯防止推進計画」(29年12月閣議決定)、「第五次薬物乱用防止五か年戦略」(30年8月薬物乱用対策推進会議策定)等にも盛り込まれている」ことなどを指摘しています。そのうえで、本白書では、「薬物犯罪」と題して特集を組み(第7編)、「薬物の概要、薬物関係法令の変遷、薬物犯罪の動向や刑事司法の各段階における薬物事犯者の処遇の現状、薬物事犯者の再犯の状況等を概観・分析するとともに、薬物事犯者に関する特別調査を行い、その特徴を明らかにした。また、これらを踏まえ、薬物犯罪対策や薬物事犯者の処遇・再犯防止対策の在り方について検討を行い、今後の議論の参考に供することとした」と述べています。以下、本白書から重要と思われる点を紹介していくこととします。

▼法務省 令和2年版犯罪白書(P468ありますので、ダウンロードの際にはご注意ください)
▼法務省 令和2年版犯罪白書のあらまし

まず、「薬物犯罪」以外の概要について紹介します。

本コラムでも毎月動向を追っている刑法犯の認知件数については、平成14年(285万4,061件)をピークに17年連続で減少、令和元年(前年比▲8.4%)も戦後最少を更新しています。窃盗については、平成15年以降減少しており、令和元年(▲8.5%)も戦後最少を更新、刑法犯の認知件数の7割以上を占めています。詐欺については、認知件数が3万2,207件(▲16.4%)で、平成30年以降減少しており、うち特殊詐欺の認知件数が1万6,851件(▲5.6%)、うちキャッシュカード詐欺盗は3,777件(+180.2%)、被害総額が約196億円(▲32.9%)となっています。また、粗暴犯のうち、傷害については、認知件数が2万1,188件(▲5.9%)となり平成16年以降減少傾向にあるほか、暴行については、認知件数が3万 276件(▲3.5%減)と平成18年以降高止まりの傾向にあります。

また、性犯罪については、「強制性交等」の認知件数が1,405件(+7.5%)と平成29年以降増加しています。「強制わいせつ」については、認知件数が4,900件(▲8.2%)と平成26年以降減少しています。また、児童虐待の検挙件数は平成26年以降大きく増加しており、令和元年(+42.9%)は平成15年の約9.3倍にも上っています。罪名別でみると、傷害や暴行が顕著に増加していること、加害者(検挙人員)については、父親等の割合が71.5%を占めること、殺人・保護責任者遺棄では母親等の割合が78.0%、68.8%とそれぞれ占めていること、児童買春・児童ポルノ禁止法違反の検察庁新規受理人員については、令和元年は3,397人と平成11年の同法施行後増加傾向にあり、令和元年は前年から5.0%減少したことなどが指摘されています。また、配偶者間暴力については、配偶者暴力防止法違反(検挙件数)は平成27年以降減少傾向にあるものの、令和元年は71件(前年と同じ)となりました。他法令(検挙件数)については、令和元年は9,090件と平成22年の約3.9倍に上ったほか、被害者については、令和元年は総数の約8割が女性で、被害者と加害者の関係では婚姻関係が全体の75.6%を占めていることも指摘されています。さらに、ストーカー犯罪については、ストーカー規制法違反(検挙件数)が平成30年から2年連続で減少し、令和元年は864件となったものの、平成23年の約4.2倍の水準で高止まりしています。他法令(検挙件数)については平成29年以降3年連続で減少し、令和元年は1,491件となったものの、やはり平成23年の約1.9倍の高水準となっています。

また、高齢者犯罪については、高齢者の刑法犯検挙人員が令和元年は前年比▲5.1%となってはいるものの、平成20年をピークに高止まり(平成28年以降は減少)傾向が見られています。なお、70歳以上の者は72.4%となっています。また、女性高齢者の刑法犯検挙人員は、令和元年は1万3,586人(▲7.0%) 、70歳以上の者は79.9%、高齢者率33.7%となっています。罪名別では、全年齢層に比べて、窃盗の割合が高いこと、特に、女性は約9割が窃盗(その大部分が万引き)である点が大きな特徴です。また、少年による刑法犯については、検挙人員は平成16年以降減少し、令和元年は2万6,076人(▲14.4%)、人口比についても検挙人員と同様に低下傾向(令和元年はピークである昭和56年の約6分の1にまで低下しています)にあります。成人人口比に比して高いものの、その差は減少傾向にあります。また、年齢層別の動向では、昭和41年以降初めて年少少年の人口比が中間少年及び年長少年の人口比を下回った点が注目されます(令和元年の検挙人員(人口比)としては、年長少年:6,430人(264.6)、中間少年:8,213人(359.6)、年少少年:5,271人(242.5)、触法少年:6,162人(143.9)となっています。

裁判については、裁判確定人員は前年比▲11.0%と、最近10年でおおむね半減しています。また、裁判員裁判については、第一審判決人員は1,001人、全部執行猶予者の保護観察率7.2%となり、前年比0.6pt低下しています。また、矯正・更生保護については、入所受刑者人員は前年比▲4.4%で戦後最少を更新しています。また、刑事施設の年末収容人員(受刑者)は4万1,867人(▲5.2%)、収容率(既決)は60.6%(▲2.7pt)となっているほか、女性は71.0%、仮釈放率は58.3%(▲0.1pt)などとなっています。非行少年処遇の概要については、検挙人員は刑法犯 2万6,076人(▲14.4%と平成16年以降減少し続けています)、窃盗が1万4,906人と最も多くなっています。特殊詐欺による検挙人員は619人、特別法犯 4,557人(+4.7%)、軽犯罪法違反が最も多く967人となっています。さらに、少年院入院者は1,727人(▲18.1%と平成13年以降減少傾向が続いています)、うち女子133人、年少(16歳未満)10.7%、中間(16歳以上18歳未満)36.0%、年長(18歳以上)53.3%などとなっています。

次に、特集「薬物犯罪」からポイントを紹介します。

まず、薬物犯罪・非行の動向については、検挙人員の推移について、覚醒剤は平成13年以降減少傾向にあり、令和元年は44年ぶりに1万人を下回る(前年比▲13.0%)結果となりました。大麻は平成26年以降急増しており、令和元年は昭和46年以降初めて 4,000人を超える(+21.5%増)結果となりました。また、覚醒剤・コカインの押収量は、平成元年以降最多となったほか、覚醒剤の密輸入事犯の摘発件数は前年の約2.5倍に急増しています。違法薬物の流通量の減少が肝要であり、とりわけ水際対策の徹底が重要で、関係機関との連携、国際協力の活用等が期待されるところです。さらに、覚せい剤の起訴率は75.7%、猶予は9.1%となっているのに対し、大麻の起訴率は50.6%、猶予率は35.7%、麻薬の起訴率は59.9%、猶予率は19.2%となっており、覚醒剤の起訴率の高さが際立っています(一方の大麻の起訴率の低さは今後の大きな課題と思われます)。また、矯正・更生保護における処遇に至らない者(起訴猶予処分・単純執行猶予(保護観察の付かない全部執行猶予)判決を受けた者)が一定数存在しており、刑事処分の早い段階での対応が必要と考えられます。そして、これらの者に対する社会復帰支援(入口支援)の充実が重要であり、個別の事案に鑑み、求刑において保護観察に付するよう積極的に求めるなどが期待されるところです。また、入所受刑者については、増減を繰り返しながらも減少傾向にあり、令和元年は4,378人(▲471人 )で、うち一部執行猶予受刑者は1,275 人(▲119人)、入所受刑者総数に占める比率は20%台で推移、しかしながら、女性入所受刑者に占める比率は30~40%台で推移している点が特筆されます。仮釈放率については、令和元年は平成12年以降最も高い 65.9%となり、出所受刑者全体と比べて7.5pt高くなっています。また、保護観察については、覚醒剤取締法違反において、保護観察開始人員・全部執行猶予者の保護観察率の推移をみると、開始人員は平成22年以降増加傾向にあり、保護観察付一部執行猶予者も制度開始翌年の平成29年以降増加し続け、令和元年は前年比+52.0%となっているほか、一部執行猶予者の保護観察率についても、令和元年は100.0%となっています。さらに、少年の薬物非行については、覚醒剤は平成10年以降減少傾向にあるところ、検挙人員の女子比は40~60%台で推移しています。また、大麻については、平成26年から6年連続で増加し令和元年は前年比+41.0%となっています(麻薬については、昭和50年以降おおむね横ばいです)。若年層が薬物の影響を誤解して使用を開始している可能性が考えられ、薬物の害悪や薬物使用の弊害について正確な情報を提供するため、広報啓発活動の充実強化が必要な状況といえます。

再犯・再非行については、覚醒剤の同一罪名再犯者率は近年上昇傾向にあり、令和元年は平成12年より14.5pt上昇しています。大麻の同一罪名再犯者率は平成27年以降おおむね横ばいとなっており、令和元年は前年より1.2pt低下しています。出所受刑者全体と比べて、5年以内・10年以内再入率が高い(満期釈放・仮釈放のいずれも)のが特徴で、各年の再入所者の再入罪名は、約8割が覚醒剤取締法違反となっています。なお、再入率の高い類型としては、「出所事由:満期釈放」、「入所度数:3度以上」、「男女・初入者・再入者:男性・再入者」と整理することができます

薬物事犯者の処遇については、刑の一部執行猶予制度では、刑事施設出所後に引き続き保護観察が行われるなどすることで指導・支援者の緊密な連携、社会復帰への必要な介入が可能となっています。項目だけとなりますが、ポイントは以下のとおりです。

  1. 検察
    • 入口支援 例:地方公共団体と地方検察庁との連携による薬物事犯者に対する社会復帰支援の取組み
  2. 矯正:特別改善指導・特定生活指導
    • 薬物依存離脱指導【刑事施設】  平成28年度、標準プログラムを3種類に複線化。以後、受講開始人員は1万人前後で推移。受刑者個々の問題性やリスク等に応じ、各種プログラムを組み合わせて実施。出所後の処遇等への効果的なつなぎを重視。
    • 薬物非行防止指導【少年院】 重点指導施設として11庁が指定。
  3. 更生保護 生活環境の調整等 ※ 矯正施設入所中から実施
    • 薬物犯罪特有の問題性に焦点を当てた調査(アセスメント)【地方更生保護委員会】
    • 保護観察所が行う生活環境の調整への指導・助言・連絡調整【地方更生保護委員会】
    • 出所・出院後の生活環境の調整【保護観察所】 帰住予定地(家族のほか、更生保護施設(薬物処遇重点実施施設や薬物中間処遇実施施設)や自立準備ホーム(ダルク等))の調整・必要な治療・支援を受けられるよう関係機関等と連携・家族支援
  4. 更生保護 保護観察等
    • 薬物処遇ユニット 薬物依存に関する専門的知見に基づき、専門的な処遇を集中して実施
    • 類型別処遇 薬物犯罪の保護観察対象者に共通する問題性等に焦点を当てた効率的な処遇
    • 薬物再乱用防止プログラム 特別遵守事項で義務付け。教育課程+簡易薬物検出検査。精神保健福祉センター等のプログラムや民間支援団体につなげる仕組み
    • 治療や回復支援を行う機関等との緊密な連携。医療・援助を受けることの指示、治療状況等の 把握や必要な協議。薬物依存回復訓練の委託等
  5. 治療・支援期間:保護観察終了後も継続的に 治療・支援機関につながることを後押し
    • 医療機関 入院治療、外来医療(専門プログラムの実施)を行う専門病院等
    • 相談機関 依存症の家族の相談を含めた幅広い相談に応じる精神保健福祉センター・保健所等
    • 回復支援施設 依存症者が入所・通所し、依存症からの回復を目指すダルク等
    • 自助グループ 依存症の当事者が公民館等でミーティングを行い、依存症からの回復を目指す等
    • 家族会等 依存症者の家族が互いに支え合う自助的な会
  6. 継続的かつシームレスな処遇・支援のための多機関連携の一層の充実
    • 刑事司法手続終了後も見据えた施設内・社会内処遇、治療・支援の連携強化
    • 支援につながりやすくなるような情報提供・動機付け・連携方法の更なる工夫

また、今回、「平成29年7月3日から同年8月21日まで(女性については同年11月30日まで)の間に、全国の刑事施設(医療刑務所及び拘置支所を除く78庁)に入所し、各施設が新たに処遇施設として刑の執行開始時の処遇調査を行う受刑者のうち、判決言渡日が最も新しい懲役刑の判決罪名に覚醒剤取締法違反を含むもの」を調査対象とした特別調査が実施され、「薬物事犯者の特徴」として以下のとおり分析されています。

  1. 基本的な特徴
    • 再入者:74.1% (前刑罪名=覚醒剤取締法違反:81.8%)
    • 保護処分歴あり:約3分の1 (男性4割強、女性2割強)
    • 調査対象事件(覚醒剤の入手先) 知人6%が最も高く、配偶者・交際相手となる割合については、男性0.7% < 女性20.6%と顕著な違いが見られます。
  2. 薬物の乱用状況等
    • 覚醒剤の使用日数(1月当たり)  5日以下の者:約6割。16日以上の者:約2割
    • 薬物乱用の生涯経験率 有機溶剤(男性0%、女性58.6%)。大麻(男性52.7%、女性52.7%)。処方薬(男性29.0% < 女性44.2%)。危険ドラッグ(男性22.5% < 女性34.4%)
    • 薬物の乱用開始年齢 何らかの薬物乱用の開始年齢(平均)7歳(男女共)。経験者のうち20歳未満で乱用を始めた者の割合:有機溶剤(男性97.4%,女性99.2%)、ガス(男性87.0%,女性92.9%) 覚醒剤(男性35.1% < 女性47.4%) 大麻(男性48.0%、女性49.6%)
    • 薬物の乱用期間(5年以上の割合) 覚醒剤(男性9%、女性92.3%) 処方薬(男性63.6% < 女性75.0%)
    • 薬物依存の重症度 集中治療の対象の目安となる群:5割近く
    • 薬物乱用の問題は相当に深刻。早い段階からの介入の必要性
    • 他の犯罪との関連 違法薬物入手のための犯罪経験あり:5% (男性>女性) 。違法薬物影響下での犯罪経験あり:6.5% ※ 薬物犯罪・交通事故を除く。
    • 薬物乱用下での交通犯罪について、差が顕著な項目 運転:初入者9% < 再入者78.7%。無免許運転:初入者17.1% < 再入者32.2% 更なる犯罪につながる可能性
    • 覚醒剤使用の外的な引き金 総数:「クスリ仲間と会ったとき」 、「クスリ仲間から連絡がきたとき」 。男女別で大きな差異が見られる。男性 > 女性となる差が顕著な項目としては、「セックスをするとき」、「手元にお金があるとき」 等であるのに対し、男性 < 女性となる差が顕著な項目としては、「誰かとケンカしたあと」、「自分の体型が気になるとき」
    • 覚醒剤使用の内的な引き金 総数:「イライラするとき」 、「気持ちが落ち込んでいるとき」 、「孤独を感じるとき」 男性の上位項目「欲求不満のとき」 。男性 < 女性となる差が顕著な項目には、否定的な感情等を表す多くの項目。
    • 男女差のある項目が多数あることから、特徴を踏まえた指導・支援へ
  3. アルコール・ギャンブルの問題
    • アルコール 飲酒経験あり:8% うち有害なアルコール使用が疑われる者:39.3% ※ 初入者・再入者共に同程度の割合
    • ギャンブル ギャンブル経験あり:5% うちギャンブル依存の疑いがある者:45.0% ※ 初入者・再入者共に同程度の割合
  4. 男女差への着目:女性の覚醒剤事犯者 多角的かつ慎重な介入が必要
    • 薬物依存の重症度:「相当程度」以上の割合:男性 < 女性 ※ 集中治療の対象の目安とされる群
    • 小児期の逆境体験:親との離死別(男性2%<女性57.9%)、精神的な暴力(男性23.3%<女性48.2%)、身体的な暴力(男性27.6%<女性39.0%) ※ 全12項目で女性の経験率が高い。
    • 精神疾患・慢性疾患:罹患率はいずれも 男性 < 女性、精神疾患は男性6%、女性40.2% 、慢性疾患は男性10.5%、女性17.2%
  5. 初入者・再入者の違いへの着目:多くの初入者も治療ニーズが高い。身近な者のサポートの重要性
    • 薬物依存の重症度:「相当程度」以上の割合 初入者:4割近く 再入者:5割近く
    • 覚醒剤使用によるデメリット:初入者 < 再入者 ※ 差が顕著な項目 「周囲からの信頼を失った」 「家族との人間関係が悪化した」等
    • 断薬経験(覚醒剤):断薬経験がある者の割合 初入者:2% 再入者:83.0%
    • 断薬した理由:総数 「大事な人を裏切りたくなかった」 、「逮捕されたり受刑したりするのは嫌だという思いがあった」 、初入者 < 再入者 ※ 差が顕著な項目 「家族や交際相手などの大事 な人が理解・協力してくれた」
  6. 関係機関の支援についての経験・意識
    • 関係機関の利用状況:「支援を受けたことがある」者 専門病院9%、自助グループ16.5%、回復支援施設12.9%、保健機関5.8%
  7. 「存在は知っていたが支援を受けたことはない」者 再入者:約6~8割(各関係機関)、「存在を知らなかった」者 初入者 > 再入者(各関係機関)
    • 支援を受けたことがない理由:総数(各関係機関の上位項目) 「支援を受けなくても自分の力でやめられると思った」、「支援を受けられる場所や連絡先を知らなかった」、「支援を受けて何をするのかよくわからなかった」
    • 関係機関から受ける支援への良いイメージ:専門病院・保健機関(上位項目) 専門的な助言・支援を期待する項目、回復支援施設・自助グループ(上位項目) 仲間や支援者の獲得を期待する項目
    • 支援を受ける気になる状況:総数(各関係機関の上位項目) 「自分の力ではやめられないと感じれば」、「家族や交際相手などの大事な人が理解・協力してくれれば」、「刑務所や保護観察所等から具体的な場所や連絡先などを教えてもらえれば」 等
    • 「刑務所の中で、プログラムやグループを体験したり体験者から詳しい話を聞ければ」 専門病院・保健機関:初入者 > 再入者
    • 情報提供と動機付けの重要性 処遇機関での情報提供に一定の成果。対象者の各関係機関への認識を踏まえた更なる情報提供と動機付け
    • 多機関連携の強化 関係機関との連携方法の工夫

なお、上記犯罪白書の特集「薬物犯罪」において、大麻について、「大麻は、法律上、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品(成熟した茎や種子等を除く。)をいうところ、その形状、製法、生産地により様々な名称で呼ばれ、乾燥させたものはマリファナ、ガンジャ等、樹脂を固めて塊状にしたものはハシッシュ、チャラス等、液体状にしたものはハシッシュ・オイル等と呼ばれる。吸煙のほか、食品に混ぜて喫食するなどの方法により摂取される。大麻に含有されるデルタ9テトラヒドロカンナビノール(THC)はカンナビノイド受容体に作用し、多幸感、時間感覚のゆがみ等を引き起こすほか、短期記憶障害等の認知機能障害、協調運動障害、不安、パニック、妄想、頻脈、結膜充血等を引き起こし、慢性的使用により悪心・おう吐等を特徴とするカンナビノイド悪阻症候群を引き起こす。統合失調症等の精神疾患を悪化させることもある。精神的依存性があるほか、使用を繰り返すことにより耐性が形成される。離脱により易怒性、不安、抑うつ気分、不眠、食欲低下等が生じる」と、その有害性や依存性が詳しく紹介されています。その一方で、大変残念なことに、直近では大麻合法化を巡って大きな動きがありました。まず、国連麻薬委員会が、医療や研究目的の大麻を国際条約で定められている最も危険な薬物分類から削除する勧告を承認しています。報道によれば、国連本部での手続きを経て、早ければ2021年春にも適用になる見通しといい、患者の痛みの緩和などに向け、大麻の合法化を後押しする可能性があります。薬物を規制している国際条約は、1961年に制定された「麻薬単一条約」などがあり、麻薬単一条約は薬物を規制の強さに応じて4つの分類に分けており、大麻は1の「依存性が強い薬物」と4の「1のなかでも特に危険」に入っていますが、今回の決定で4からは外れることになります。なお、WHOの勧告は「大麻を医療目的で適切に利用できるようにするのが狙いで、娯楽向けの使用を促すものではない」と強調されていますが、筆者としては、医療用大麻についての措置であり、嗜好用大麻ではないにもかかわらず、「大麻の合法化」といったような誤った形で情報が拡散されることを深く憂慮しています。さらに、米下院は、マリフアナ(乾燥大麻)を連邦法で合法化する法案を史上初めて可決しています。下院多数派の民主党議員の大半と、共和党議員の一部が賛成したものですが、共和党が多数を占める上院を通過する見通しはないとされます。しかしながら、全米各州では州法で大麻を合法化する動きが広がり、「機運の高まり」(ワシントン・ポスト紙)が中央政界にも及び始めている点が気がかりです。報道によれば、法案は大麻を規制物質から除外し、生産や流通、所持の刑事罰を撤廃する内容で、大麻を巡る犯罪歴を取り消し、製品に5%の税金を課して薬物対策の基金に充てることが盛り込まれているといいます。すでに米では、36州で大麻の医療使用が認められ、15州では嗜好品として使うことも合法化されているほか、本コラムでも紹介したとおり、5州では11月の大統領選と同時に実施された大麻合法化の是非を問う住民投票で賛成が多数を占めたという状況にあります。これまで連邦レベルでは合法化されていないため、州法との矛盾が生じているほか、大麻関連企業の州を越えた資金調達などに支障が出ています。報道によれば、下院議長は、「この法案は、全国的に大麻を合法化するものではない。(大麻規制に関する)州政府の決定に連邦政府が口出しできなくするものだ」と指摘しています。そして、国連・米下院のこのよう動きに加えてメキシコでは、嗜好品として大麻使用の合法化に向けた動きが加速していることも注目されます(すでに医療用大麻は解禁されています)。広く知られているように、メキシコでは違法取引による膨大な富を背景に複数の麻薬組織が強い影響力を持ち、抗争や犯罪が相次ぐ「麻薬戦争」が長く続いています。報道によれば、法案は大麻の使用や28グラムまでの所持、自宅での一定量の栽培、認可を受けた事業者による成人への販売を容認するものの、子どもの使用や売買への関与は認めないといった内容で、先日上院で採決が行われ、賛成多数で可決されました。嗜好用大麻は、2013年に世界で初めてウルグアイで合法化され、2018年にはカナダでも合法化されています。メキシコにおける大麻合法化の狙いは、大麻の違法取引を抑制し、組織犯罪や腐敗、暴力行為を阻止するところにあり、その必要性については理解できるものの、必ずしも有害性や依存性を否定したものではない点は十分認識しておく必要があります。

とはいえ、こうした動きは全米に「大麻合法化」(しかも医療用に限定されない「嗜好用大麻」の解禁)の流れをもたらし、それによって日本においても俳優の伊勢谷被告のように「海外で許されているから大丈夫」と言い訳に使う者や、興味本位で手を出してしまう若年層を多数生み出すことになりかねず、やはり、社会に誤ったメッセージを流布してしまうことを深く憂慮しています。今こそ、政府、マスコミ、専門家、インフルエンサーなどが「正しい知識」を拡散することが重要です。「若年層が薬物の影響を誤解して使用を開始している可能性が考えられ、薬物の害悪や薬物使用の弊害について正確な情報を提供するため、広報啓発活動の充実強化が必要な状況」(犯罪白書)であるのは間違いないのです

以下、最近の薬物を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 持続化給付金を騙し取ったとして逮捕・起訴された愛知大学の学生2人が、違法薬物を所持していた疑いで再逮捕されています。報道によれば、今年9月、1人は名古屋市内でコカインおよそ003gを所持した疑いが、もう1人は自宅で乾燥大麻およそ0.153グラムを所持した疑いが、それぞれ持たれているといいます。2人は、持続化給付金の詐欺容疑ですでに逮捕・起訴されおり、容疑者の自宅から、大麻を細かく砕く器具も見つかっており、不正受給で得た金を違法薬物に使っていた可能性もあるとみられます。大麻購入の資金欲しさが不正受給の動機ということであれば大変残念ですし、上記犯罪白書でも指摘されているとおり、「更なる犯罪につながる可能性」、その犯罪助長性・犯罪再生産性には十分警戒していく必要があります
  • 覚せい剤を営利目的で密輸したとして、神奈川県警薬物銃器対策課は、覚せい剤取締法違反の疑いで、いずれもイスラエル国籍を再逮捕しています。再逮捕容疑は氏名不詳者らと共謀のうえ、南アフリカから貨物船のコンテナ内に覚せい剤約237キロ(末端価格約151億6,800万円)を隠し、営利目的で横浜港に密輸したというものです。報道によれば、覚せい剤の押収量としては令和2年に入ってから全国で2番目の規模で、背景に国際的な密輸組織が関係しているとみられます。外国人の密輸入事例としては、覚せい約860グラム(末端価格約5,500万円相当)を密輸したなどとして、愛知県警は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの疑いで、いずれもイラン国籍の職業不詳の容疑者らを逮捕しています。報道によれば、他の者と共謀して、南アフリカからの国際貨物として覚せい剤を輸入するなどしたといい、名古屋税関などによると、覚せい剤は錠剤の形に加工され、ビタミン剤のラベルが貼られたプラスチックボトル3本に入れられていたということです。また、外国人の犯罪ではありませんが、密輸入の事件としては、今年9月に成田空港で、メキシコからの飛行機に積み込ませたスーツケースに、20キロ程度(末端価格約12億8,000万円)の覚せい剤を隠して密輸しようとしたとして、覚せい剤取締法違反の疑いで、神奈川県警が会社役員ら2人を逮捕したというものもありました。覚せい剤は、8つのスーツケースからそれぞれ袋に入れられた状態で確認されたといい、報道によれば、事前に密輸に関する情報提供があり、東京税関成田税関支署で発見されたおいいます。なお、手荷物などの中に隠して密輸された覚せい剤の押収量としては、全国の警察の中で今年最多となりました。
  • 大麻栽培の摘発の昨年以降、増加しています。最近でも、大麻草を販売目的で栽培したなどとして、九州厚生局麻薬取締部と福岡県警、第7管区海上保安本部は、福岡県行橋市の10~50代の男女6人を大麻取締法違反などの疑いで逮捕しています。報道によれば、関係先から押収した大麻草は計約550株に上り、全国の麻薬取締部が押収した中では今年最多となりました。関係先の行橋市内の住宅からは鉢植えの大麻草のほか、覚せい剤約40グラム(末端価格約245万円)などが押収しされています。被告が主導して大麻を組織的に密売していたとみられています。また、北海道厚生局麻薬取締部は、札幌市の繁華街・ススキノにあるマンションの一室で大麻草14株を栽培したとして、大麻取締法違反(栽培)容疑で、2人の容疑者を逮捕しています。報道によれば、約2年前からこの部屋で栽培を始めたといい、「自分たちで吸うためだった」と容疑を認めているといいます。また、札幌地検は大麻約32グラムを所持したとして、同法違反の罪で2人を起訴しています。さらに、大麻取締法違反(栽培)などに問われた瀬戸少年院の元法務教官専門に対し、名古屋地裁は、懲役2年6月、執行猶予4年の有罪判決(求刑・懲役2年6月)を言い渡しています。被告は麻薬及び向精神薬取締法違反(所持)、覚せい剤取締法違反(製造予備)にも問われていました。報道によれば、被告は在職中の6月、少年院敷地内の官舎で大麻草1株を育てたほか、合成麻薬MDMAを所持し、覚せい剤の原料を製造目的で準備したとされます。判決で裁判官は「少年の更生指導に携わる自身の立場を顧みることなく犯行に及んだ。言語道断と言うほかなく、強い非難に値する」と厳しく指摘しています(全く同感です)。
  • 香川県警などは、自宅とは別のアパートで大麻を所持したとして、大麻取締法違反(所持)の疑いで会社役員を現行犯逮捕しています。容疑者は岡山、香川両県で「新鮮市場きむら」などの店名でスーパーを17店舗展開する「きむら」(今年8月期の売上高は170憶円)の取締役で社長の長男だといいます。地場の有力企業の役員の犯罪ということで事業への影響も否定できないところです。また、自宅でコカインや大麻を所持していたとして、近畿厚生局麻薬取締部が麻薬取締法違反容疑で、医師を逮捕しています。報道によれば、被告は逮捕時、社会福祉法人枚方療育園に精神科医として勤務しており、麻薬取締法に基づいて都道府県知事から交付される免許で、医療用の麻薬を使用・管理できる「麻薬施用者」を9月に取得していたといいます。逮捕容疑は今年10月、自宅でコカイン0・68グラムを所持していたというものです。自宅を捜索したところ、コカインのほかに大麻リキッド11グラムも見つかったため、その後、同取締部は大麻取締法違反容疑などでも追送検しています。なお、コカインと大麻リキッドはかばんに入っていたといいます。医師という社会的地位の高い人間であり、こちらも悪影響の波及が懸念されます。また、以前の本コラムでも紹介した俳優の伊勢谷被告については、公判で起訴事実を認めています。報道によれば、25~26歳の時にオランダで大麻を初めて使って以降、断続的に使用していたと主張、リラックスするために大麻に手を出したと説明、オランダでは合法化されており、「海外で許されているから大丈夫」との考えがあったとしています。2019年秋から再び使用するようになり、新型コロナウイルスの感染拡大で自宅にいる時間が長くなる中で、知人から購入して少しずつ使っていたと述べています。また、知人の名前は明かさないとしたうえで、「二度と連絡を取らない。応援してくださった方に大変申し訳なく思っています」と謝罪しています。
  • 営利目的で乾燥大麻を所持していたとして、米国籍の男と妻が大麻取締法違反の疑いで現行犯逮捕されています。報道によれば、2人は、広島市西区の自宅で、営利目的で乾燥大麻を所持していた疑いが持たれていますが、「大麻は2人のもので、営利目的ではない」と否定しているということです。中国四国厚生局麻薬取締部から警察に「大麻を栽培している」と情報提供があり、自宅からは、大麻草のような植物およそ30鉢や、栽培器具などが押収されたといいます。
  • 南米コロンビアのドゥケ大統領は、29カ国が協力した麻薬摘発作戦で、コカイン7トンと大量の原料を押収したことを明らかにしています。同国は世界最大のコカイン生産国で、軍は「末端価格約33億8,000万ドル(約3,500億円)相当のコカイン流通を防いだ」としています。

若年層への大麻蔓延に関する報道も多くなっています。2020年11月17日付産経新聞で、大学におけるリアルな実態が明らかになっていますので、以下、抜粋して転載します。

大学スポーツの名門チームで薬物スキャンダルが続いている。日大ラグビー部や近大サッカー部、そして東海大硬式野球部の部員による大麻所持・使用が発覚、無期限の活動停止処分が下された。 「学生を信じていますが、人ごとではありません」。ある大学の運動部の指導者は部員の中に分け入り情報収集に努めている。「興味本位で手を伸ばしてしまう。コロナ禍? 関係ありません。2、3年前からですから。海外遠征に行き、大麻が合法的な国で覚えてくる学生もいます」。国内では違法なのに簡単に入手できるのか。「SNSの情報をもとに、東京なら渋谷や六本木に行けば買えるらしい」 強豪チームとなれば、学外からさまざまな形でアプローチされる。高校時代から競技に集中してきた運動部員は、社会経験が浅い面もあり、弾みで誘いにのってしまうケースもある。危機感を募らせる大学側とともに実態調査を進めているが全容をつかめていない。「プライバシー優先、自主性尊重の時代でしょ。寮生活をしている部員の部屋には入れないし、荷物検査などできません」

また、ツイッターに乾燥大麻の画像を投稿するなどしたとして、熊本県警サイバー犯罪対策課などは、20代の無職の男性被告=大麻取締法違反で起訴=を麻薬特例法違反(あおり、唆し)容疑で熊本地検に追送致しています。報道によれば、男性は大麻を「野菜」と隠語で呼び、SNS上で闇取引を持ちかけていたといいます。逮捕容疑も、ツイッター上に小袋に入った乾燥大麻の画像を投稿し、「野菜を売ります。早い者勝ち」などと隠語を使って書き込み、薬物犯罪をそそのかしたというもので、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務をしていた同課の捜査員が7月初旬、サイバーパトロール中に男性の投稿を見つけ発覚したといいます。また、同じくツイッターを使って大麻を密売したとして、津市の元自衛官の男が大麻取締法違反(営利目的譲渡)などの疑いで九州厚生局麻薬取締部に逮捕され、同法違反などの罪で起訴されています。報道によれば、2019年夏以降、ツイッターで客を募り、大麻を「野菜」「ドライフルーツ」などと隠語で表記、全国の130人超に大麻など違法薬物を販売し、1,400万円以上を売り上げていたとみられています。被告は、三重県内の自衛隊駐屯地で2015~19年3月に勤務していたといい、同部は被告の自宅から、顧客リストや若干量の合成麻薬LSDも押収しています(今後、購入者側の摘発も進むものと考えられます)。なお、この元自衛官の男の公判では、ヒップホップの歌詞から大麻に興味を持ち、ネットで情報を収集し、使用する側から密売人になっていった経緯が明らかになったと報じられています。「ストレス発散の手伝いを大麻がしてくれた。その人(客)が必要としているなら売ってもいいと安易に考えた」と供述しているようですが、やはり、犯罪白書で指摘されているとおり、若年層への大麻の蔓延については、「更なる犯罪につながる可能性」、その犯罪助長性・犯罪再生産性に十分警戒が必要な状況、どこかでこの負の連鎖を断ち切らないといけない状況だといえます。

取り締まる側の不手際についても、いくつか報じられています。たとえば、知人に微量の覚せい剤を所持させた上で職務質問する「やらせ摘発」をしたとして、覚せい剤取締法違反(所持、譲り渡し)などの疑いで書類送検された愛知県警岡崎署の元巡査部長=懲戒免職=について、名古屋地検は不起訴処分としています。報道によれば、元巡査部長は今年2月、知人男性に覚せい剤の付着した袋を準備させ、職務質問で発見して検挙したように装ったなどとして、10月に書類送検されていたものです。また、覚せい剤取締法違反(使用・所持)や大麻取締法違反(所持)などに問われた被告の男の控訴審判決で、東京高裁は、違法捜査の疑いがあるとして覚せい剤取締法違反を無罪とした1審判決を破棄し、審理を東京地裁に差し戻しています。報道によれば、警視庁の警察官が職務質問の際、被告が運転する車から見つけたとする小袋の束「空パケ」が、警察官が仕込んだ虚偽の証拠かどうかが争点だったもので、高裁は「警察官が仕込んだ疑いは拭い去れないが、それほど濃厚でもない」と指摘、被告の進路をふさぐなど違法な留め置きがあったことを考慮しても「鑑定書の証拠能力を否定すべきではない」とし、改めて審理を尽くす必要があると判断しています。さらに、捜査で押収した違法薬物を不適切に保管していたなどとして、京都府警は、覚せい剤取締法違反や麻薬取締法違反などの容疑で、京都府警科学捜査研究所の50代男性幹部職員を書類送検しています。京都府警は職員を本部長訓戒処分としましたが、鑑定した後に残った微量の覚せい剤や大麻を、研究所の施錠していない共用ロッカーや冷蔵庫で保管したほか、管理帳簿への記載を怠ったなどというものです。また、覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで逮捕され、兵庫県警尼崎東署に留置されていた40代の女性の下着の中から、微量の覚せい剤入りのポリ袋が見つかっていたことが明らかになっています。報道によれば、兵庫県警は留置する際の身体検査で発見できず、留置場に持ち込まれたとみられています。女は覚せい剤を使用したとして逮捕され、神戸地検尼崎支部に身柄を送る際、女性が不審な動きをしたためあらためて身体検査をしたところ、下着の中に白い物質が入ったポリ袋を隠し持っていたということです。

2.最近のトピックス

(1)最近の暴力団情勢

特定抗争指定暴力団に指定されている六代目山口組と神戸山口組の抗争がいまだ続いています。ここ最近では、兵庫県尼崎市内で、六代目山口組系組員が神戸山口組系組員に対して発砲し重傷を負わせた事件、(その返しとみられる)神戸山口組系組員が六代目山口組系組員の自宅に発砲した事件が相次いで発生しています。また、岡山県倉敷市でも神戸山口組系藤健興業の事務所で「拳銃を撃ってきた」と男2人(六代目山口組系組員と同組系幹部)が県警児島署に出頭した事件も発生しました。相次ぐ発砲事件を受けて、兵庫県警は「特別暴力団対策隊」(特暴隊)を現地へ投入し、組事務所や組員の居宅周辺の監視活動を続けています(なお、特暴隊は、2017年に暴力団組織間の衝突などを懸念して、神戸市中央区や尼崎市の歓楽街で暴力団の活動を封じ込める目的で発足されています)。兵庫県警は今後、特暴隊のパトカーや白バイで尼崎市を中心とした地域を巡回するなど警戒態勢を強化し、抗争の沈静化を図り、住民の不安の解消に努めるとしています。なお、報道によれば、尼崎市は、兵庫県警に対し、「住宅を事務所のように使うケースもある」として、暴力団事務所と認定された建物以外の関係先でも組員の活動を制限できるよう、法令改正も含めた検討を要望しています。それに対し兵庫県警は、「総動員態勢で一刻も早く、住民の不安を取り除きたい」と回答していますが、まさに「特定抗争指定」の限界が露呈していること(警戒区域内での活動制限を逃れるために、警戒区域外での活動に軸足を移している現実、さらには尼崎市での銃撃事件がまさに警戒区域内で堂々と敢行された事実など)をふまえ、「現状の特定抗争指定のあり方で住民を守れるのか、抗争終結を導くだけの実効性があるのか」という課題を速やかに解消する必要性に迫られており、暴力団対策法の改正についても視野に入れる必要性を感じます。なお、特定抗争指定は、九州誠道会(現浪川会)と道仁会も指定されたことがありますが(2012年12月指定、2014年九州誠道会の解散により指定解除)、両団体は九州エリアを中心に比較的限定的な活動範囲であったのに対し、六代目山口組と神戸山口組はまさに「広域暴力団」の代表格であって、前回とは効力に差が生じている可能性も否定できないところです。そのような活動実態をふまえ、規制をどのようにかけていくのかが問われているといえます。さて、その警戒区域については、現在、10府県17市町に拡がっていますが、直近では、愛知県公安委員会が、新たに同県刈谷市を追加すると決めています。報道によれば、「組幹部の自宅があることなどを考慮した」と説明しています。愛知県内では、既に名古屋市とあま市、武豊町が警戒区域に指定されています。このように、現行の制度を前提とするのであれば、もっと機動的に、先手を打って警戒区域の追加を検討していくことが考えられます(とはいえ、概ね5人が集まって逮捕される厳しい規制であるとはいえ、警察が行使するまでの間に銃撃事件を起こすことは現実には十分に可能であり、ほぼ抑止的な効果しか望めないことも、制度面での今後の大きな課題といえます)。なお、11月上旬に発生した警戒区域内での司興業組員による尼崎銃撃事件については、(本コラムでも指摘したとおり)六代目山口組が神戸山口組に対する攻勢の手を一切緩めるつもりがないという姿勢を改めて示した事件との見方が大勢を占めています。そして、六代目山口組から次々とヒットマンが送り込まれている現状は、(神戸山口組と絆會に対する)「早く解散しろ」という強いメッセージでもあります(さらには、発砲したら即自主する、取り調べに対し黙秘を続けるという行動様式が見られていることをみれば、六代目山口組においては強い統制が効いているものと見て間違いなく、神戸山口組と絆會の組織の弱体化・分裂・解散の瀬戸際の状況とは雲泥の差があるといえます)。現状を見る限り、六代目山口組への一極集中による抗争終結が始まっていることを感じさせます。ただ、注意すべきは、前回の本コラム(暴排トピックス2020年11月号)でも指摘したとおり、神戸山口組と絆會がそれぞれ解散、あるいは分裂状態となったときの対応です。過去、六代目山口組から神戸山口組が離脱した時期や神戸山口組から絆會(旧任侠山口組)が離脱した時期において、離脱した団体に対する暴力団対策法上の規制の根拠となる指定暴力団への指定作業が新たに必要となり、規制の「空白」が生じたことが問題となりました。神戸山口組と山健組との関係などは、現状、警察当局はあくまで神戸山口組内での内紛とみており、山健組の離脱が正式に確認でき次第、速やかに指定暴力団への指定作業を行う準備を進めているものと推測されます(このあたりについては、「離脱組織についても指定暴力団として規制の対象とすべきではないか」という議論は以前からあるものの、そのためには法改正が必要であり、警察当局の今後の対応・戦略が問われる局面だといえます。前述した警戒区域のあり方とあわせ、やはり現時点の(さらには将来を見据えた)暴力団の行動様式等をふまえた暴力団対策法のあり方を真剣に検討すべき状況と考えます)。

次に、「3つの山口組」以外の動向も見ていきます。直近では、住吉会と稲川会との間で何らかのトラブルが発生し、双方の組員は1名ずつ死亡する事件が発生しています。また、千葉県松戸市内の住宅街では発砲事件が発生、無職の70代の男性が暮らす部屋のドアに複数の銃弾が撃ち込まれたような痕跡が確認されています。松戸市内では2017年、稲川会系元幹部の乗ったワゴン車が銃撃される事件など4件の発砲事件が発生しており、千葉県警が関連を調べています。また、工藤会については、4件の一般人襲撃事件への関与が問われた野村総裁と田上会長の裁判の実質的な審理が終了したところですが、勾留中にもかかわらず、組織運営を任せていた暫定トップを交代させる人事(会長代行を退任させて、別の2次団体組長に実質的な暫定トップを任せた)を主導したことが判明しています。この人事はナンバー2の田上会長が主導し、トップの野村総裁が了承したとみられています。福岡県警は勾留中の2人が依然として求心力を維持しているとみて警戒しているといいます。なお、報道によれば、今回の人事の背景には、組員が組織に納める上納金の集金を巡る会長代行と田上被告のあつれきがあったとされます。また、工藤会幹部の狂暴さが際立つ事件もありました。自宅を売却させるなどして現金あわせて2,000万円を会社役員の男性から脅し取ったとして、福岡県警に再逮捕されたというものです。男性は、同幹部が実質的に管理・経営を行う会社の役員で、この組幹部が同じ会社の従業員の男と共謀し、「逃げたりしたら普通に生活できると思うなよ」などと男性を恐喝したというものです。報道によれば、男性は、容疑者から日常的に暴力を振るわれていて、要求を断れず自宅を売却するなどして現金を用意したということです。また、同じく福岡県を拠点とする浪川会については、公益財団法人福岡県暴力追放運動推進センターなどが、大牟田市にある本部事務所について、福岡地裁が使用禁止の仮処分命令を決定し、執行したと発表しています。事務所には組員らが集合することなどを禁じる命令書が掲示されました。浪川会は前身団体の九州誠道会の時から道仁会と抗争を繰り返しており、同センターは今年9月、住民からの事務所使用差し止めの要望を受け、使用禁止の仮処分を福岡地裁に申し立てていました。浪川会側が仮処分に応じない場合は正式な訴訟に移ることになります(なお、仮処分決定公示後は、浪川会が従う姿勢を示しており、建物への出入りはほとんどないようです)。

次に、持続化給付金の不正受給などや特殊詐欺への暴力団等の関与を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 詐欺で得た金と知りながら現金10万円を受け取ったとして、大阪府警捜査2課などは、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の疑いで、六代目山口組の中核組織「弘道会」系組長を逮捕しています。報道によれば、大阪府警はこれまでに、活動実体のない休眠会社を使って大量の商品を仕入れ、代金を払わずに商品を処分して逃げる「取り込み詐欺」を繰り返していたグループのほか、詐取した商品を転売していた男ら計8人を逮捕しています。グループは、22の業者から家電製品や食品を詐取したとされ、確認されただけで被害額は約8,400万円に上るといい、これら取り込み詐欺で得た金と知りながら、グループのリーダー格の被告に親族の金融機関口座に10万円を振り込ませ、受け取ったというものです。なお振込み以外にも、詐取した金額の1割を現金書留で拠点に送付、上納させていたとみられ、捜査本部は、六代目山口組が組織ぐるみで特殊詐欺に関与していた疑いがあるとみて解明を進めているといいます。
  • コロナ禍における不正受給や詐欺等の新たな手口も続々と摘発されています。緊急事態宣言下で購入したマスク約282万枚に「不良品」などと因縁をつけ、販売した男性に代金請求をあきらめるよう迫ったなどとして、警視庁浅草署は監禁と恐喝未遂の疑いで、六代目山口組系2次団体幹部ら男3人を逮捕しています。報道によれば、今年5月、貿易会社役員の20代の男性から不織布マスク約282万枚(約7,400万円相当)を高額で転売する目的で購入し、知人が経営する台東区千束の風俗店に納入させたものの、代金の支払いを免れるため男性を呼び出した疑いがあるということです。また、浜松市の新型コロナウイルス対策の休業要請に基づく協力金50万円をだまし取ったとして、静岡県警浜松西署などは、詐欺容疑で、六代目山口組系組員と飲食業の容疑者を逮捕しています。共謀して浜松市の休業要請期間中に、容疑者の経営するバーを実際には営業していたのに全日休業したように装って協力金を申請し、容疑者の口座に50万円を振り込ませてだまし取ったというもので、匿名の情報提供があったといいます。さらに、新型コロナウイルスの感染防止のため兵庫県の休業要請に応じた事業者に支給される「経営継続支援金」をだまし取ったとして、兵庫県警暴力団対策課と灘署は、詐欺の疑いで、不動産コンサルティング業で六代目山口組系組員を再逮捕したという事例もありました。同支援金の不正受給容疑での逮捕者は初めてで、組員は自身が社長を務める法人の名義で、虚偽の書類を使い、美術品販売をしている実態があるよう偽装、新型コロナの影響による休業を装い、県社会福祉協議会から不正融資を受けたとして、県警に詐欺容疑で逮捕されていました。また、暴力団員の関係会社であることを隠し、金融機関から現金を借り入れたとして、愛知県警は、六代目山口組系組幹部と、土木建築工事会社役員を詐欺容疑で逮捕しています。豊田市の金融機関で、組幹部の関係会社であることを隠し、会社役員が「新型コロナの影響で売り上げが下がり、借り入れしたい」と申し込み、会社の運転資金として現金300万円をだまし取ったというものです。組幹部は週6回会社に顔を出し、取引企業と賃金交渉をするなど経営に関与しているとみられ、金融機関が会社に300万円を振り込んだ数日後、幹部の口座に現金の一部が入金されていたといいます。
  • 新型コロナウイルスの影響で業績が悪化した個人事業者を支援する持続化給付金を巡り、沖縄県の建設作業員の20代男がいわゆる闇金業者に持ち掛けられて給付金を不正申請し、100万円を受給(男性は借金などを苦に自殺)、闇金業者が振込先となる男性の口座から全額を引き出すという事件もありました。給付金が反社会的勢力に流れている可能性が指摘されています(なお、自殺した男性は自分が不正受給に関与したこと、口座に100万円が振り込まれたこと、すでに全額引き下ろされたことについて、金融機関から問い合わせがあるまで知らなかったといいます)。また、闇金絡みの事案としては、コロナ禍で経営が悪化した中小企業に高金利で金を貸したとして、警視庁は、闇金グループの男8人を出資法違反(高金利)容疑で逮捕したというものもありました。今年3月~7月の間、茨城、千葉、東京、神奈川など1都9県の男女70人の経営者らに計1億3,400万円を貸し、法定金利(年利20%)の約30~75倍に当たる年利約600~1,500%の利息5,700万円の違法な利息を受け取ったというものです。経営者8人の大半がコロナ禍で資金繰りに行き詰まっていたといい、報道によれば、勧誘には一般に出回っている企業の名簿が使われ、電話やファクス、ダイレクトメール、電子メールを使って融資を持ちかける手法で、「コロナ対策融資までのつなぎ」「低利」「担保不要」「即日融資キャンペーン」といった文言で勧誘を繰り返したということです。
  • 新型コロナウイルスの影響を受けた事業者を支援する国の「持続化給付金」をだまし取ったとして、静岡県警静岡南署と県警組織犯罪対策課などは、キャバクラ店経営者とキャバクラ店店長を詐欺の疑いで逮捕しています。両容疑者が女性に指示して個人事業主として確定申告をさせ、申告後に受け取った必要書類で8月中旬頃に給付金を申請したとみられており、給付金は女性個人の口座に振り込まれていた。さらに、この店には20人ほどの従業員がおり、同じ時期に同様の申請が複数あったといいます。両容疑者は申請の手数料名目として、従業員から給付額の約2~3割を受け取っていたと報じられています。このように暴力団が持続化給付金の不正受給に関与した事例は、全国で他にもたくさん摘発されています(この1カ月の間でも、住吉会による茨城県の事例、六代目山口組による愛知県の事例、六代目山口組の兵庫県の事例(緊急小口資金の貸付金詐取でも摘発)などが確認できます)。
  • 埼玉県入間市の男性からキャッシュカードをだまし取ったとして受け子の男らが逮捕された事件で、埼玉県警捜査4課と所沢署は、窃盗の疑いで、六代目山口組傘下組織幹部を再逮捕しています。氏名不詳の者らと共謀し、入間市の70代の男性方に市役所職員などを名乗って「累積保険の還付金がある」などと電話をかけてキャッシュカード1枚をだまし取り、市内の金融機関やコンビニのATMで現金計29万円を引き出した疑いが持たれています。報道によれば、埼玉県警は、西武線所沢駅のコインロッカー付近で受け子兼出し子の20歳の男と19歳の少年を発見し、詐欺容疑で逮捕、押収した証拠品などから、この幹部が浮上し、11月に同容疑で逮捕していたもので、その後の捜査で、だまし取ったキャッシュカードから現金を引き出していたことが判明したということです。

次に、暴力団の関与した薬物犯罪に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 神戸を拠点に全国の客に覚せい剤や大麻を密売したとして、兵庫県警と近畿厚生局・麻薬取締部は、覚せい剤取締法違反などの疑いで、住所不定、無職の40代の男を逮捕、送検しています。報道によれば、兵庫県警は2017年にこの男の客とみられる1人を逮捕し捜査を開始、男に薬物を譲り渡したとみられる住吉会系組員を麻薬特例法違反容疑で逮捕するまでこぎつけたものです。関連して密売グループや顧客ら31人(逮捕29人、書類送検2人)も立件しています。この「兵庫最大級の密売組織」の摘発については、携帯電話の通話履歴や銀行口座の記録などから、密売グループが主にインターネットの匿名掲示板で集客する手口で、県内で拠点を変えながら、手渡しや郵送などで大阪や東京の客にも覚せい剤を販売するなど、延べ約600人と違法薬物を取引し、少なくとも約2億円もの違法収益があったといい、このうち約400人が兵庫県在住の客、特徴として1回あたりの密売量を小口にしていたとみられています。
  • 群馬県警高崎署は、稲川会系組員を、大麻取締法違反(所持)と覚せい剤取締法違反(同)の疑いで現行犯逮捕しています。自宅で大麻約500グラム(末端価格約300万円)と覚せい剤約3グラム(同約10万円)を所持した疑いがあり、大麻は約2,000回分の使用量にあたり、容疑を営利目的所持に切り替えて調べているといいます。同署は、容疑者が自宅で交際相手の女性の足にかみついて軽傷を負わせたとして傷害容疑でも逮捕しており、捜査の過程で大麻の所持など容疑が浮上したものです。また、佐賀県警鳥栖署は、覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで、神戸山口組系組員を再逮捕しています。コンビニエンスストア駐車場に止めていた車内に覚せい剤679グラムを所持していた疑いがあり、同日に公然わいせつ容疑で逮捕した際、発見したということです。

次に、暴力団の関与する犯罪としてはやや珍しい事案を紹介します。警察が暴力団の摘発にあらゆる知恵や手法を総動員して取り組んでいる状況もうかがえます。

  • 実際には開かれていない株主総会の議事録を法務局に提出したとして、愛知県警は、電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで、六代目山口組弘道会傘下組織組長と組員の両容疑者ら男4人を逮捕しています。報道によれば、4人は共謀し、名古屋市北区の組事務所に本店を構える会社の役員変更を登記するため、組事務所で株主総会を開いたように装ったうその議事録を名古屋法務局に提出したとされます。暴力団事務所の土地や建物の所有者を会社名義にすることで、組長の代替わりなどの際に高額な贈与税を免れるなど節税効果があり、県内の暴力団事務所の約6割が会社名義にしている実態があります。その実態をふまえた摘発事例として興味深いいものといえます。
  • 北海道・室蘭警察署などは、六代目山口組系暴力団「四代目誠友会」の組員が健康保険法違反の疑いで逮捕されています。報道によれば、この組員は室蘭市の会社が経営する無店舗型風俗の従業員3人の健康保険の手続きを年金事務所に届け出なかった疑いが持たれています。会社は同じく逮捕された別の男の経営とされていますが、組員の男が実質的に経営していたとみられているということです。警察は、健康保険料の未納分などが暴力団の資金源になっていた可能性があるとみて、売上金の流れなどを追及しているといいます。
  • 児童扶養手当などを詐取したとして、和歌山県警岩出署などは、神戸山口組系組員と同居する元妻の両容疑者を詐欺容疑などで逮捕しています。報道によれば、離婚後も子供2人と同居して生計を共にし、ひとり親世帯に支給される国の「児童扶養手当」の受給資格がないのに今年1月~11月、計63万8,700円を詐取したとされます。また、コロナ禍の国の支援金「ひとり親世帯臨時特別給付金」5万円も9月に詐取した疑いや、ほかにも児童扶養手当の不正受給があるとみて調べているということです。

次に、最近半グレ集団(準暴力団)の動向がやや活発化している状況にあることから、いくつか紹介します(警察庁が把握している半グレ集団の正式な呼称は「準暴力団」ですが、報道ベースでの情報で警察に認定されているかどうか不明な場合もあり、以下では、総称して「半グレ集団」と表記することとします)。半グレ集団については、一応全国で約60グループが存在し、その構成員は約4,000人と推定されています(ある週刊誌での警察関係者の話によれば、「警察としては、約4,000人の半グレのメンバーに対してナンバリング登録を行っている。そしてリーダー格と構成メンバーについての基礎的な情報収集、さらに活動実態、資金源などの解明に力を入れている」ということです)。しかしながら、暴力団対策法の枠外であり規制の網をかけられない存在であるうえ、組織性がなくバラバラ(緩い横のつながりなど)に事件を起こすこと、基本的には事務所もなく定期的な会合もないことから、その実態を把握するのが困難で、(あらゆる法令を駆使するしかなく)取り締まることも極めて難しい「厄介な存在」といえます。また、半グレ集団は暴力団の下請けのような存在から単独で犯行を繰り返す者まで自ら資金源を有し、暴力団に一定の上納金を支払っている実態があり、暴力団とは敵対関係というより「奇妙な共存関係」があるとも言われています。

  • 警視庁組織犯罪対策4課は、半グレ集団「新宿ジャックス」のリーダー格の2人の容疑者を、現金200万円を奪ったとして恐喝の疑いで逮捕しています。報道(週刊誌)によれば、2人は男性にあることないことを言って難クセをつけ、わび料として金を要求したということです。容疑者はもともと暴走族「打越スペクター」の元幹部で、六代目山口組系極心連合会(解散)傘下の組織に所属(のちに破門)していたこともあったとされます。また、もう1人の容疑者は、反社会的勢力の間で知らないものはいないほど有名な兄弟の弟で、警察だけではなく、敵対グループや暴力団もこの兄弟の行方を追っていたものです。関係者の話として、「ジャックスは武闘派のアウトロー集団で、兄弟は10代の頃から関東連合と激しく対立し、反関東連合のグループをまとめ上げた。相手が誰であろうとひるむことなく、抗争を繰り返していた」と指摘されています。
  • 新型コロナウイルス対策の持続化給付金をだまし取ったとして、奈良県警は、行政書士、飲食店経営、無職の女性の3人の容疑者を詐欺容疑で逮捕しています。3人は今年7月~8月、容疑者が経営するガールズバーの元アルバイトの女性に不正受給を持ちかけ、個人事業主を装って中小企業庁に給付金を申請させ、女性名義の口座に現金100万円を振り込ませてだまし取ったとされます。3人のうち飲食店経営の容疑者は半グレ集団「9グループ」のリーダーとされ、知人の行政書士が給付金の申請手続きを請け負ったといいうことです。なお、他の従業員数人の名義でも給付金を申請しており、県警は詐取額が数百万円に上るとみているといいます。
  • 投資を巡ってトラブルになった会社役員の30代の男性から現金245万円を脅し取ったとして、半グレ集団「チャイニーズドラゴン」の幹部ら2人が逮捕されています。報道によれば、昨年7月、東京・新宿区内の喫茶店に男性を呼び出すと、実際には存在しない借金に関する借用書を無理やり書かせるなどし、その後、男性に4回にわたって現金を振り込ませたということです。
  • 茨城県常陸大宮市の住宅で昨年6月、家族6人が手足を縛られ、現金58万円や腕時計などが奪われ、妻と次男が催涙スプレーを噴射されて目にけがを負った事件がありました。この事件について、茨城県警組織犯罪対策課と大宮署などの合同捜査班は、10~20歳代の男7人を強盗致傷などの疑いで逮捕しています。この7人の中には、半グレ集団のメンバーが含まれているといいます。報道によれば、この半グレ集団は、前橋市を拠点とする「BRAT(ブラット)」で、総長とされる20代の容疑者が主犯格とみられています。このように、半グレ集団の資金源は特殊詐欺だけでなく、最近は手口が凶悪化している傾向にあり、大変危惧される状況です。たとえば、「アポ電話強盗」にしても、半グレ集団のリーダー格が情報を収集して計画し、実行役をSNSなどで募集して犯行を実行させる(役割が細部化されているため、追求されても首領まで辿り着くのが困難、指示役と実行役が顔を合わせず遠隔で指示する、やり取りも「シグナル」や「テレグラム」という匿名性の高いアプリを使う、といった手法が採られており、まさに特殊詐欺で培ったノウハウが転用されているといえます。

(2)AML/CFTを巡る動向

まずは、金融庁と金融機関との意見交換会で、金融庁が提起した主な論点から、AML/CFTに関する内容を中心に紹介します。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行等(令和2年9月15日)

まず、「新型コロナウイルスの感染拡大に伴うFATF相互審査の再なる延期について」として、「今般、FATFが、本年 10 月に予定されていた対日審査の結果に関する議論を、2021年2月の全体会合で行う旨公表した」こと、「また、FATF相互審査については継続して行われているところ、各金融機関におかれては、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に従い、全ての顧客のリスク評価やリスクに応じた継続的な顧客管理の実施など、リスクベース・アプローチに基づいたマネロン・テロ資金供与対策に引き続き取り組んでいただきたい」こと、「いずれにせよ、金融庁においては、日本のマネロン対策等が適正に評価されるよう、引き続き、しっかりと対応してまいりたい」ことを述べています。また、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る顧客対応について」として、「現在、多くの金融機関におかれては、継続的顧客管理の開始に当たり、顧客情報の更新を行っていただいているところと承知している。しかしながら、一部においてその趣旨、必要性が十分に伝わっていないことなどから、金融庁にも金融機関の対応を問題視する声が届いているところである。金融庁としても、国民に対する啓発を続けていきたいと考えているが、金融機関の皆様にも、顧客への依頼に当たっては、丁寧な対応を行い、「なぜ顧客情報の更新が必要か」という点についてしっかりとした説明を行うよう取り組んでいただきたく、金融庁よりその旨要請文を発出する予定である」こと、「各金融機関におかれては、要請文の内容を踏まえた対応をお願いしたい」としています。

AML/CFT以外では、「金融行政方針(総合政策局関係)」について、「目下、経済情勢に関する見通しが不透明であり、経営環境や産業構造の大きな変化も想定される状況にある。そうした中、個別金融機関の経営状況や金融システム全体の強靭性・脆弱性を的確に把握することは、特に重要になっていると考えている」こと、「そうしたことを踏まえ、金融庁のデータ戦略として、企業の個社データと徴求データとを組み合わせた分析を行うなど、分析高度化を図っていくこととともに、金融庁としてデータの収集、管理、活用の枠組み・ルール(データガバナンス)を整備することや、人材育成・分析手法の多様化に努めることを盛り込んでいる」こと、「モニタリングの手法についても、従来のモニタリング手法にとらわれることなく、リモート手法を積極的に取り入れることなど、実効的かつ効率的な新たなスタイルへの転換を進めていくことなどを盛り込んでいる」こと、「こうしたモニタリングの高度化やスタイルの転換を進めるに際しては、金融機関の皆様からの理解・協力が不可欠であり、金融庁としては丁寧に対話しつつ、着実に進めてまいりたいと考えているが、よろしくお願い申し上げる」としています。また、「サイバーセキュリティ対策の強化に向けた取組みについて」では、「サイバーセキュリティリスクは重大な経営リスクの一つであり、昨今の「ドコモ口座」を通じた不正出金事案等も踏まえ、経営陣においては、サイバーセキュリティ対策の強化に向けて、取組計画の策定や進捗管理に主体的に関与する等、リーダーシップを発揮して取り組んでいるものと承知」しているとし、「こうした中、サイバーセキュリティの現状については、ランサムウエアを用いたサイバー攻撃が活発化しており、例えば、暗号化したファイルを復号するための身代金に加えて、盗んだファイルを削除するため別の身代金を要求する二重脅迫型や、バックアップも含めたデータ全てを削除する破壊型等による被害が国内外で認められており、サイバー攻撃の脅威は一層高まっているところ」であり、「こうしたサイバー攻撃に対して、グループ全体において、業務の継続性を確保し、情報資産を守るためには、国内の金融機関のみならず、グループ企業や海外拠点も含めた一元的なサイバーセキュリティ管理態勢を高度化することや、また、万が一、サイバー攻撃を全て防御できなかった場合でも被害を最小限に抑え、速やかに業務を復旧させるサイバーレジリエンスを強化することが重要である」こと、「こうした観点から、今事務年度は、従来より対話を行ってきた、グループ・グローバルでのリスク管理態勢、インシデント対応をさらに掘り下げて業務の復旧・継続の実効性についても意見交換していきたいと考えている」ことなどを述べています。また、「スマホ決済等のサービスを利用した不正出金防止に向けた対応について」については、以下のとおり厳しい姿勢を示しています。

  • 近時、NTTドコモの電子マネー決済サービスである「ドコモ口座」を通じ、複数の銀行において、預金者の意図しない不正な引出しが多発するという事案が発生している。全国銀行協会においても昨日、 『資金移動業者の決済サービス等での不正出金に関する注意方依頼』を発出しているものと承知しているところ、改めて注意喚起をさせていただく。
  • 本件事案の概要は既にご案内かと思うが、資金移動業者である NTT ドコモの提供するサービスである「ドコモ口座」に関し、何らかの方法により他人名義の口座番号及びキャッシュカードの暗証番号を入手した犯人が、当該他人名義の預金口座と「ドコモ口座」とを連携させ、不正に預金を出金したという事案である。NTT ドコモによれば、ドコモ口座と連携する 35 行のうち 11 行においてド コモ口座へ不正な出金が発生し、被害件数は 143 件、被害総額は約 2,676 万 円に上っているとのことである。(9月 14 日現在)
  • フィンテックを活用した新たな金融サービスが利用される中、こうした顧客被害が発生した場合には、利用者保護の観点を踏まえ、(1)利用者の保護・被害の回復、(2)被害の拡大防止、(3)真因分析及び再発防止の策定が重要であると考えており、金融庁としてはこうした点を注視していく方針。
  • 本件に関しては、(1)顧客への補償については各行とも、NTTドコモと連携し、全額補償すると承知しており、被害の発生した銀行においては、迅速かつ真摯な顧客対応に努めていただきたいと考えている。また、(2)被害の拡大防止の観点からは、既にドコモ口座との新規連携の停止やチャージ停止といった措置を執られているものと承知。今後、各行は、(3)真因分析及び再発防止策を行っていくことになると考えているが、不正出金被害が発生した銀行に共通する特徴は、「ドコモ口座」と銀行口座を連携する際、氏名、口座番号、キャッシュカードの暗証番号、生年月日といった情報のみで連携可能であり、ワンタイムパスワード等の多要素認証を導入していなかった点である と認識している
  • また、本件は、被害が発生している銀行以外の銀行も含め、改めてセキュリティ対策の強化とリスク特性に応じたサード・パーティー・リスク・マネジメントの重要性を示唆していると考えている。すなわち、新たな形態の金融サービスが出現する中で、金融機関のセキュリティの確保はますます重要となってきていることから、各行において決済サービス等と連携する預金口座がある場合は、多要素認証を導入するなど、セキュリティ対策を強化し、顧客が安心して利用できるサービスの提供に取り組んでいただくよう、お願いする。また、フィンテック企業との連携を通じて多様な金融サービスを提供していく上で、金融サービス全体のセキュリティ対策が強化されるよう、主要行等が積極的な役割を果たしていただくことを期待している
  • これに関連して、スマホでの QRコード決済サービスである「Bank Pay」 において、ドコモ口座と同様に、不正な手段で「Bank Pay」のID と銀行口座の紐づけが行われる可能性があることから、新規口座登録受付の一時停止等の対応を実施して頂いたと承知している。こちらについても、金融機関におけるセキュリティ対策の強化を図り、顧客の保護に万全を期して頂きたい。

最近のAML/CFTを巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 2020年11月6日付ニッキンによれば、信用金庫業界で、AML/CFTで共通のシステムを導入する動きが広がりつつあるといいます。事務負担軽減とコスト抑制が狙いで、しんきん大阪システムサービス(OSS)が大日本印刷と共同開発するシステムには、既に25信金で採用が決定しており、今後拡大する見通しだということです。同システムは金融機関の継続的顧客管理に活用できる「取引目的確認支援サービス」で、確認作業は顧客リスクに応じて年1回から3年ごとなどの頻度で行い、ダイレクトメール(DM)で通知、顧客はDMに掲載のQRコードをスマートフォンで読み取って回答するほか、各信金営業店でも受け付けるというものです。
  • 百五銀行は、フィンテック向けのサービスなどを手がけるカウリスが開発した銀行口座などへの不正ログインを検知するサービス「FraudAlert」を新たに導入したと発表しています。同行のリリースによれば、「FraudAlert」は、「インターネット・バンキングなどの各種Webサービスにおいて、個人情報を用いず、端末から取得するロケーションやアクセス履歴など200以上のパラメータをもとに、なりすましや乗っ取り、マネー・ローンダリングなど不正アクセスの疑いのある取引を検知するサービス」であり、同行が運用する個人向けインターネット・バンキングのセキュリティを強化し、不正ログインによる送金やマネー・ローンダリングなどの防止につなげるとしています。また、各地の地銀で、AI(人工知能)を活用する動きが広がる中、横浜銀行は今秋、マネー・ローンダリングや特殊詐欺など、疑わしい取引を監視する業務にNECのAI技術を採用したといいます。報道によれば、「疑わしい口座」を抽出する1次調査をこれまで行員が行っていたところを、AIを使って効率的に分析・検証できるようになったことで、行員は取引状況などを詳細に調べる2次調査に専念し、効率的に「疑わしい取引」を抽出できているということです。対象口座を的確に抽出できれば、2次調査する口座数を30~40%減らせるとも報じられています。
  • LINEはキャッシュレス決済について捜査当局からの要請で利用者情報を提供した件数の開示を始めています。金融・決済分野で企業が当局への情報提供の実績を開示するのは珍しい取組みとなります。公表された「透明性レポート(LINE TRANSPARENCY REPORT)」によれば、「当社は、殺人・暴行・詐欺等の刑事事件においてLINEが利用されたと捜査機関から連絡を受けた場合や、「LINE」上で爆破や殺人、誘拐等の犯罪予告が行われていると通報があった場合などに限り、法令及び厳格な社内規定・手続きに則り捜査機関からの利用者情報の開示要請に応じることがあります。「LINE」を使った犯罪の被疑者の検挙や被害の軽減、人命保護、犯罪抑止に協力するのは、「LINE」というコミュニケーションインフラを提供する上での責務だと当社は考えています」、「一方、捜査機関からインターネットサービス事業者への過度な情報提供要求は、サービス利用者のプライバシーを脅かす可能性をはらんでいます。捜査機関からの情報開示請求に対する当社のスタンスを明確にし、どの程度の頻度で当社が要請を受領し、応じているかについて透明性を保つことが、ユーザーの皆さまにとって安心安全な環境を提供する上で必要不可欠だと考えます」と、この取組みの意義を説明しています。そのうえで、「私たちは2020年1-6月の間に1,822件(前期比8%増)の要請を世界各国の捜査機関から受領し、うち72%にあたる1,306件(前期比1%減)の要請に対し何らかの情報開示を行いました」、「対応した要請のうち28%が金銭被害に関連する情報開示請求でした。要請の傾向は国や地域毎で異なり、日本では児童被害(29%)が最も多く、台湾では金銭被害(27%)が最も多くなっています」、「対応された1,306件において、1,702アカウントに関する情報開示が要請されました。1要請あたり30アカウントについての情報開示が要請されていることになります。この値は前期の1要請あたり1.23アカウントから大きな変化はありませんでした」、「今期は統計開始後初めてイスラエルからの要請を受領しました。私たちは2016年の統計開始より、17の国/地域から要請を受領しています」、「日本において捜査関係事項照会を根拠にした対応が前期の2件から115件に大幅に増加しております。この対応の内訳はLINE Payに関わる対応(113件)が大部分を占めております。LINE Payでは、捜査関係事項照会により詐欺やマネー・ローンダリングなどの具体的な嫌疑が示されており、かつLINE Payで被害を受けているか、LINE Payが犯罪の手段として用いられている場合にのみ対応しております。犯罪の具体的嫌疑が捜査機関から示されていないユーザーの個人情報を開示することはありません」などと報告されています。
  • メキシコ銀行(中央銀行)は、外国からメキシコへの10月の送金額が35億9,830万ドル(約3,700億円)だったと発表しています。報道によれば、前年同月比で14%増え、過去最高だった今年3月(40億ドル)に次ぐ2番目の高水準となったということです。6カ月連続で前年同月を上回っており、米国で働くメキシコ人就労者から、新型コロナウイルスで厳しい経済環境に置かれた親族への送金が堅調に推移しているといえます。
  • 中国が安全保障を名目に、戦略物資やハイテクの輸出規制を強化する輸出管理法が12月1日より施行されています。米国が中国企業への禁輸措置を強める中、これに対抗する狙いがあるとされますが、中国から米国などに輸出する日本企業も影響を受けるリスクがあります。規制品目には日本の依存度が高いレアアース(希土類)が含まれる可能性があること、同法の禁輸措置は、最終的な顧客企業や輸入企業だけではなく、中国から輸入した材料を加工して海外に輸出する「第三国」の企業も対象になること、中国に進出する外資企業への規制技術の提供・共有なども「みなし輸出」として制限される可能性があることなど、日本企業にとっても十分な注意が必要です。

(3)特殊詐欺を巡る動向

まずは例月どおり、直近の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認しておきます。

▼警察庁 令和2年10月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和2年1月~10月における特殊詐欺全体の11,287件(前年同期13,950件、前年同期比▲19.1%)、被害総額は221.3憶円(260.0憶円、▲14.9%)、検挙件数は5,931件(5,167件、+14.8%)、検挙人員は2,081人(2,191人、▲5.0%)となっています。ここ最近同様、コロナ禍の状況もあり、認知件数・被害総額ともに減少傾向にあることに加え、検挙件数が大幅に増加、検挙人員も認知件数や被害総額ほどが落ち込んでいないことから、摘発が進み、特殊詐欺が「割に合わない」状況になっていることを示しているのではないかと考えることも可能です。なお、後述しますが、直近の犯罪統計資料によれば、暴力団犯罪のうち、詐欺の検挙件数1,204件(1,871件、▲35.6%)、検挙人員は931人(1,137人、▲18.1%)となっており、新型コロナウイルス感染拡大や特定抗争指定などの影響により、暴力団の詐欺事犯への関与が激減していることがより際立つ対照的な数字となっています。類型別では、オレオレ詐欺の認知件数は1,817件(5,654件、▲67.9%)、被害総額は49.3憶円(56.4憶円、▲12.6%)、検挙件数は1,598件(2,642件、▲39.5%)、検挙人員は512人(1,298人、▲60.6%)などとなっています。また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は2,493件(2,911件、▲14.4%)、被害総額は34.7憶円(45.7憶円、▲24.1%)、検挙件数は2,035件(1,151件、+76.8%)、検挙人員は580人(332人、+74.7%)などとなっており、分類の見直しもあり、前期との比較は難しいとはいえ、キャッシュカード詐欺盗の被害の深刻化が顕著であることは指摘できると思います。さらに、預貯金詐欺の認知件数は認知件数は3,487件、被害総額は0.2憶円、検挙件数は1,237件、検挙人員は696人(従来オレオレ詐欺に包含されていた犯行形態を令和2年1月から新たな手口として分類)、架空料金請求詐欺の認知件数は1,639件(2,917件、▲43.8%)、被害総額は59.4憶円(72.8憶円、▲18.4%)、検挙件数は426件(1,047件、▲59.3%)、検挙人員は130人(484人、▲73.1%)、還付金詐欺の認知件数は1,402件(2,143件、▲34.6%)、被害総額は19.2憶円(27.3憶円、▲29.7%)、検挙人員は50人(17人、+194.1%)、融資保証金詐欺の認知件数は259件(253件、+2.4%)、被害総額は3.4憶円(3.9憶円、▲12.8%)、検挙件数は183件(76件、+140.8%)、検挙人員は50人(18人、+277.8%)、金融商品詐欺の認知件数は52件(24件、+116.7%)、被害総額は3.4憶円(1.6憶円、+112.5%)、検挙件数は26件(25件、+4.0%)、検挙人員は24人(18人、+33.3%)、ギャンブル詐欺の認知件数は90件(34件、+164.7%)、被害総額は1.9憶円(2.5億円、▲24.0%)、検挙件数は35件(11件、+218.2%)、検挙人員は10人(10人、±0%)などとなっています。これらの類型の中では、「融資保証金詐欺」や「金融商品詐欺」などが増加している点に注意が必要な状況です。

犯罪インフラの状況については、口座詐欺の検挙件数は538件(769件、▲30.0%)、検挙人員は361人(458人、▲21.2%)、盗品譲受けの検挙件数は3件(5件、▲40.0%)、検挙人員は2人(3人、▲33.3%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,047件(2,008件、+1.9%)、検挙人員は1,677人(1,630人、+2.9%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は170件(236件、▲28.0%)、検挙人員は134人(174人、▲23.0%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は25件(40件、▲37.5%)、検挙人員は22人(27人、▲18.5%)などとなっています。これらのうち、犯罪収益移転防止法違反の摘発が増加しているのは、金融機関等におけるAML/CFTの取組みが強化されていることの証左ではないかと推測されます。

また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、60歳以上89.5%:70歳以上79.3%、男性26.6%:女性73.4%、オレオレ詐欺では、60歳以上95.3%:70歳以上92.1%、男性19.0%:女性81.0%、融資保証金詐欺では、60歳以上38.5%:70歳以上34.6%、男性68.4%:女性31.6%、特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上:女性)の割合について、オレオレ詐欺 94.7%(80.5%)、預貯金詐欺 98.3%(83.8%)、架空料金請求詐欺 45.0%(53.6%)、還付金詐欺 86.9%(64.2%)、融資保証金詐欺 20.8%(14.6%)、金融商品詐欺 75.0%(71.8%)、ギャンブル詐欺 23.3%(38.1%)、交際あっせん詐欺 20.0%(0.0%)、その他の特殊詐欺 38.5%(80.0%)、キャッシュカード詐欺盗 96.6%(79.5%)ル詐欺 22.5%、交際あっせん詐欺 17.6%、その他の特殊詐欺 42.9%となり、類型によってかなり異なる傾向にあることが分かりますが、概ね高齢者被害の割合が高い類型では女性被害の割合も高い傾向にあることも指摘できると思います。このあたりについては、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号
で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。

さて、まずは、特殊詐欺かどうかに関わらず、最近の詐欺的な新たな手口や注目しておきたい手口等について紹介します。

  • 不動産情報サービスのアットホーム株式会社が2019年に18~30歳の男女に対し行った調査によると、7%の人が「知らない番号からの電話はすぐには出ない」としたことが明らかになっています。そのうち5割近くが「番号を調べてからかけ直す」と回答しているといいます。この調査結果からは、若者がコミュニティー外からの電話に対して警戒心を抱いていることが感じられるほか、詐欺から自分の身を守るという点ではその対応は正しいといえます。現在、金銭や個人情報の取得を目的とした詐欺電話が急増し、その手口も多様化している状況にあります。その中で最近、特に注目されているのが「存在しない国番号」からの電話で、「中国語のアナウンス」が流れ、中国大使館や公安を名乗り、留守番電話に折り返しの連絡を要求するメッセージを残すケースが多いといいます。この詐欺の手法は中国の公的機関を装い何かしらの理由をつけて、ATMから現金を振り込ませるというもので、実際に秋田県で「武漢にマスクを送ったのは犯罪」などとして、400万円以上を振り込ませたという事件が発生しています。逆に、詐欺犯が発信番号を日本の番号と偽装し、日本語の留守番電話メッセージや音声ガイダンスでアプローチしてきたら、詐欺電話であると見抜くことは難しいともいえます。単純に考えられる手口としては、折り返し電話をさせて高額な通話料を請求する「国際ワン切り詐欺(国際コールバック詐欺)」で、単純なワン切りで折り返しを待つものから、さらに留守番電話に「家族が事故に巻き込まれた」「懸賞に当選した」など折り返したくなるようなメッセージを入れて、電話をさせるという手法もあるといいます。やはり、詐欺にあわない第一歩は手口を知っておくことだと考えさせられます。
  • 「奨励金」という名目で約1億円を受け取れるなどという知らせをきっかけに、北海道の20代の女性が約250万円をだましとられる架空請求詐欺事件がありました。報道によれば、今年10月初め、女性の携帯電話に「会社不明の社員」を名乗る者から、「お知らせがあります」とのメールが届き、女性が記載されたホームページに接続すると「奨励金として、9,980万円のお受け取りが可能になっております。奨励金を受け取るための、国際送金手続きに料金がかかる」などと表示されたサイトに誘導されたといいます。女性が内容を信じ、電子マネーやクレジットカードの番号を入力したところ、受け取り費用として約250万円をだまし取られたというものです。女性は相手と一度も会話をしておらず、すべてインターネット上を通じたやりとりだったという点が極めて巧妙で、新しい点だといえます
  • 実在する大手製薬会社をかたり、個人識別番号と称するIDナンバー付きの社債の申込書を送りつけ、情報漏洩によって損害が発生したと電話をかける事例が、山口県岩国市内で発生しています。封書が県内全域に送られた可能性もあり、山口県警は、金銭の要求に発展する可能性が高く、うそ電話詐欺の新たな手口として注意を呼びかけているほか、この大手製薬会社も「個人あてに社債の発行などを実施することは一切ない」とホームページ上で注意を呼びかけているといいます。
  • 通常の特殊詐欺での新たなバリエーションも散見されています。(1)神戸市の自営業の70代の男性が電子マネー43万円分をだまし取られる事件がありました。男性がインターネットでサイトを見ていると、画面に「あなたのパソコンはハッカーに乗っ取られています。表示された番号に電話してください」とメッセージが現れたといい、電話をすると、コンビニで電子マネーカードを買うよう指示され、複数のコンビニでカード計8枚を購入してしまったもので、電話で「31万円の返金が郵便為替である」と伝えられていたものの、届かないことから不審に思い、届け出て発覚したものです。(2)「事件について話が聞きたい。警察署に来て」と警察官を名乗り、来署を呼びかける不審電話が愛知県内で相次いでいるといいます。電話の目的ははっきりしないものの、似たような電話でキャッシュカードをだまし取られる事件も起き、愛知県警は注意を呼びかけています。外出させて空き巣に入る狙いなども考えられるところ、狙いははっきりしていないようですが、報道によれば、愛知県警昭和署幹部は「特殊詐欺の犯人が話に説得力を持たせるため、会話のとっかかりにしている可能性がある」とみているといいます。なお、このような不審電話は各地でかかっているとのことです。(3)釧路の60代男性のもとに、新型コロナウイルスに関連して「特別給付金5億円が受け取れる」と書かれた不審なメールが届いていたといいます。メールのタイトルには「至急お受け取り下さい」と書かれていて、添付されていたURLを開くと、新型コロナウイルスの特別給付金として、財務省の機密費から1人あたり5億円を、あわせて13人が受け取れるという内容が書かれていたといいます。このサイトによると、男性は11番目で、10番目の人までは、すでに5億円を受け取っていると書かれていたということです。
  • 十八親和銀行は、来年1月の事務システム統合を前に、行員になりすまして通帳をだまし取る詐欺被害への注意を呼び掛けています。これまで旧十八銀行と旧親和銀行の合併に関連して、同様の行為を計3件確認しており、いずれも未遂にとどまったということです。報道によれば、ある高齢男性は、「合併に伴い通帳とはんこをお預かりしたい」と同行員を名乗る人物から電話で求められ、不審に思った男性は「分からない」と断って電話を切り、翌日、同行に連絡したことで発覚したといいます。昨年10月~11月にも別の顧客に同じような電話があったといいます。
  • コロナ禍における各種給付金等に絡む手口も見られます。持続化給付金以外の手口としては、たとえば、政府の飲食店支援事業「Go To イート」を巡り、農水相は、すでに不正の疑い事例が判明しているポイント事業だけでなく、新たに食事券事業でも店側による不正疑い事例が3件確認されたことを明らかにしています。食事券事業は、購入額の25%が上乗せされたプレミアム付き食事券を客が飲食店で利用できる仕組みですが、店側は食事券と引き換えに運営事業者から現金を得るところ、店側が未使用の食事券を、客が店で使用したように装って換金し、上乗せ分の利益を得ようとした疑いがあるというものです。運営事業者が不正を疑い、店側に現金の支払いはされなかったといい、農水省と運営事業者は警察に相談しているということです。また、国の観光支援策「Go To トラベル」の利用を装い、旅先で買い物に使える「地域共通クーポン」を詐取したとして、警視庁は職業不詳の30代の容疑者を電子計算機使用詐欺容疑で逮捕しています。報道によれば、ホテルの宿泊予約をしてクーポンだけ受け取り、無断キャンセルする手口で、各地で被害が相次いでいるといい、こうした被害の摘発は全国初となるということです(容疑者も「SNSの情報を参考にした」と供述しているようです)。本件では、ネット上の宿泊予約サイトで、東京都内の高級ホテルなど複数の宿泊施設にそれぞれ約1週間ずつ泊まる予約手続きを5回ほど実施、「Go To」の利用を申請し、都内などで買い物ができるクーポンを国から計約54万円分だまし取った疑いがあるとされます。

前回の本コラム(暴排トピックス2020年11月号)でもかなりの事例を紹介していますが、新型コロナウイルスの影響を受けた事業者を支援する「持続化給付金」の不正受給(詐取)については、この1カ月の間も、連日、全国各地での摘発事例の報道が後を絶たず、100件単位、億円単位での不正事例も散見されるなど、一体どれだけの件数が不正受給されているのか想像することも難しいほどの絶望的な拡がりを見せています。今回はすべての報道事例を紹介することはしませんが、最近の事例から、以下にいくつか紹介します。

  • 愛知県警は、20代の甲府税務署員を詐欺の疑いで逮捕しています。同県警が9月に詐欺容疑で逮捕した別の愛知大生2人への捜査で、税務署員の共謀が浮上したということです。報道によれば、この税務署員は虚偽の確定申告書を作る役割で、押収したパソコンに保存されていた名簿データから、報酬を得て100人以上の不正請求に関与した可能性があるとみて調べているといいます。なお、さらに県警は、税務署員とその友人2人について、大麻取締法違反(所持)容疑でも緊急逮捕しています。容疑者宅を詐欺容疑で捜索した際に大麻が見つかったということです。お金のプロが不正受給に関与したうえに、薬物犯罪でも逮捕されるという、大変残念な事件だといえます。また、お金のプロという点では、大阪国税局OBの元税理士も詐欺容疑で逮捕されました。報道によれば、当初に自身や親族らの名義で不正受給に成功したことを受けて、顧問先の従業員や友人らを誘い、約70人分の不正受給に関与したとされ、給付金の申請が始まった初日の5月1日から虚偽の申請を続け(その意味では、制度開始前から犯行を計画し)、振り込まれた計約7,000万円のうち約450万円を手数料として受け取り、経営していた税理士事務所の経費に使ったということです(1億円以上をだまし取り、2,000万円以上の報酬を受け取ったとの報道もあります)。
  • 沖縄タイムスの元社員が国の持続化給付金を不正受給していた問題で、同社が設置した第三者を交えた検証委員会が報告書をまとめています。検証委は元社員の不正受給について「あくまで元社員らの個人的な問題で、会社の法的責任が問われる問題ではない」としつつ、「報道機関として国民の知る権利の一旦を担い、不正を監視し正すべき新聞社において、在職中の社員らが不正な行為に及ぶことを防止できなかったことに対する社会的責任を痛感すべきである」と厳しく指摘しています。また、同社は問題発覚後、グループ全役職員約500人を対象にアンケート調査を実施し、他に不正な申請をした社員がいなかったかどうかを調査、検証委員会は「調査結果の信ぴょう性は高い」とする一方、組織の課題について、不正行為の防止のために必要な行動規範や倫理規程、コンプライアンス規程などが定められていないなど「危機管理が不十分」とも指摘しています。さらに「内部統制(ガバナンス)規定を新たに定め、役職員が実践することが不可欠」、「内部監査制度や内部通報制度は、自浄作用の発揮とコンプライアンス経営を推進するために不可欠」、「研修の充実を図ることが不可欠」などといった再発防止策も提言されています。なお、この沖縄タイムス元社員が詐欺容疑で逮捕された事件に関連して、沖縄県警は、元社員と共謀したなどとして、那覇市の会社役員ら男女2人を詐欺容疑で逮捕しています。県警は2人が指南役で、さらに共犯もいるとみて調べているといいます。本件については、2020年12月3日付沖縄タイムスにおいて、「男らが手掛けた700件にも上るとみられる膨大な給付申請手続きはどのようにして可能だったのか。同給付金の申請代行やサポートに関わった県内の税理士や行政書士によると、依頼人に対する必要書類への記入事項の説明や、事業収支明細の突き合わせ確認などで申請1件当たり1時間前後を要するという。ある男性税理士は「とてもじゃないが700件の申請処理は24時間働きづめでもできない」と断言する。行政書士の一人は「あらかじめ確定申告書に所定の数字が記載されているなど、からくりがないと処理が追い付かない件数だと思う」と話した」と報じられており、さらに多くの共犯者の存在、あるいは組織的な犯行であることが疑われる状況にあることが示唆されています。本件の闇は予想以上に深く、今後の捜査の進展を見守りたいと思います。
  • 複数の不正受給を手掛ける事案も多数報じられています。(1)福岡市の会社役員の男ら2人が逮捕された事件で、福岡県警は新たに実行役とみられる会社員の男1人を詐欺の疑いで逮捕しています。報道によれば、容疑者らを含むグループが、同じ手口でおよそ160件の不正受給を行っていたとみて捜査を進めているといいます。(2)栃木県警は、当時ともに19歳だった無職の男ら2人を逮捕しています。持続化給付金制度を利用して現金をだましとろうと考え、20代の知人男性に持ち掛けてこの男性の名義の口座を利用して虚偽の申請を行ったといいます。この男性の口座に給付金100万円が振り込まれましたものの、この男性が警察に通報し、事件が発覚したということです。県警察本部では2人が少なくとも十数件、総額で1千数百万円分の同様の事件に関わっているとみて組織的な犯罪も視野に入れ詳しく捜査しているといいます。(3)持続化給付金を不正に受け取ったとして逮捕された広島市の会社役員ら6人が詐欺罪で起訴されています。6人は、個人事業主になりすまして虚偽の書類で申請し、4回に渡って持続化給付金合わせて400万円をだまし取ったとされます。なお、名義を貸したのは、百数十人に上るといい、被害総額は1億円以上になるとみられており、警察は、この百数十人に対しても任意聴取を始めていて、事件の実態解明を進めているといいます。(4)埼玉県警は、詐欺の疑いで、不動産会社役員ら3人を逮捕しています。約130人分の不正申請を指南し約1億円をだまし取ったとみて捜査しているということです。(5)神奈川県警は、詐欺の疑いで、会社役員の30代の男ら男女4人を再逮捕しています。共謀して7月、県内に住む20代の男性会社員を個人事業主と偽り、売り上げが50%以上減少したなどとする虚偽の売り上げ台帳などのデータを添付して給付金をオンライン申請し、100万円をだまし取ったといい、県警は、4人が約60件(総額約6,000万円)の不正受給に関わったとみて捜査しているといいます。(6) 熊本県警は、詐欺の疑いで、宇城市の自営業の容疑者を再逮捕しています。県警は、関係者の聞き取りや申請記録などから、約650件の申請を指南し、ほとんどが不正だったとみて裏付けを進めているということです。(7) 兵庫県警暴力団対策課などは、詐欺の疑いで、会社役員の男と自営業の男を再逮捕しています。(詐欺容疑での会社役員の男の逮捕は5回目、自営業の男は2回目)。報道によれば、県警はこれまでに、会社役員の男の関係先から、持続化給付金の申請約170件分の資料を押収、会社役員の男が関与したとされる詐欺事件の被害額は累計で500万円になったといいます。
  • 大阪府警は詐欺グループの統括役の韓国籍の男を公開手配しています。メンバーらとともに人を集め、大阪府内にあるアジトで一斉に不正受給の方法を指南していたとみられているといいます。なお、報道によれば、こうしたアジトは大阪府内に複数あるとみられ、ウソの確定申告をするため、実行役をアジトから税務署に車で送る、送迎役もいたといい、警察は、組織的な犯行とみて実態の解明を進めているということです。
  • 受給資格がない少年に虚偽の申請をさせてだまし取ったとして、警視庁少年事件課などは詐欺の疑いで無職の容疑者を逮捕しています。この容疑者は指南役だとみられ、少年らを募る勧誘役に指示して虚偽申請をさせていたということです。
  • 2020年11月13日付HARBOR BUSINESS Onlineの「詐欺業者が跋扈![持続化給付金]申請代行を直撃」と題する記事に、不正受給の手口の詳細が関係者談として掲載されていますので、抜粋して転載します。「・・・すべての業務を代行してしまうと不正が疑われやすい。実際、同じIPアドレスから複数の申請が行われていることがわかると調査されるリスクがあるので、多くの代行業者がVPNを利用して申請代行業務を行っていましたが、9月以降VPN経由での申請フォームへのアクセスが遮断されました。最後の申請作業は電話で指示を出しながら本人にやらせるほうが確実なんです。・・・やり取りは自動的にメッセージが消える『Signal』を使っているので不正の証拠となるものはない。・・・『#副業』などのハッシュタグをつけて、『10万円追加給付』とSNSに書き込めばいくらでも情弱が集まる。あとはテレグラムに誘導して、免許証のコピーと預金通帳の写しを送ってもらって、申請を代行するだけ。・・・集金に使った銀行口座はホームレスにお金を渡して作らせた他人名義の口座だ。念には念を入れ、資金の大半を相対取引でビットコインに替えた後、国外逃亡したという。・・・素人を相手にする以上、情報を売られるリスクはついて回ります。手軽だからとツイッターのDMやLINEなど、足のつきやすいツールを使った業者が摘発されているにすぎません。慣れた業者は匿名性の高いアプリのみを利用し、摘発が始まった7月以降は使ったPCなどを処分して高飛びの準備を進めていました」など、その巧妙さと用意周到さには驚かされます。

その他、注意が必要な特殊詐欺に関する情報について、いくつか紹介します。

  • 高齢女性から現金をだまし取ったとして、特殊詐欺グループの指示役2人が逮捕されています。報道によれば、2人はアジトにする民泊を転々と変えながら特殊詐欺をしていたとみられるということです。2人は大阪の民泊を拠点にオレオレ詐欺をしていたグループの指示役とみられ、警察の捜査から逃れるために、数日から2週間ほどのサイクルでアジトにする民泊を転々と変えていたということです。短期間でアジトを変えていく手法は以前から見られており、民泊もまた(本人確認等があまり厳格でないことや、管理人等と顔を合わせる機会等も極端に少ないことなどから)アジトに悪用される機会が多いと考えられます。また、民泊をアジトに悪用していた事例としては、保釈中に特殊詐欺をしたとして、大阪府警が、住所不定、無職の被告を詐欺容疑で逮捕した事例もありました。報道によれば、被告は保釈後、大阪市内の民泊施設10か所以上を転々としながら、詐欺を繰り返していたということです。
  • 特殊詐欺の手口で入手した高齢者のキャッシュカードから預金を引き出したとして、警視庁は中国籍の男ら4人を窃盗の疑いで逮捕しています。報道によれば、被害者の多くは東京都と神奈川県の高齢者で、被害総額は1億2,600万円を超えるといいます。警視庁は、中国の犯行拠点から共犯の日本人が日本へ電話をかけ、別の日本人が被害者からカードを受け取って預金を下ろし、逮捕された4人が被害金を集めて中国に送ったとみて調べているといいます。なお、カードを受け取ったとされる男はネットで高額報酬をうたう「闇バイト」に応募して採用されていたといい、警視庁は、中国を拠点にする詐欺グループが、日本人を雇い、国内で特殊詐欺を繰り返していたとみているとのことです。さらに、前述した「存在しない国番号」による詐欺電話でも触れていますが、今年の春ごろから各地で在日中国人を狙った同様の手口の詐欺事件が相次いでいるとも報じられています。報道(2020年12月4日付読売新聞)によれば、ある事例では、女性の携帯電話に9月~11月、中国・雲南省昆明市の警察官や検察官を名乗る男らから中国語で電話があり、女性が国際的詐欺事件の容疑者になっていると告げ、「無罪の証明のために証拠を探す」と金を振り込むよう指示、女性は中国の母親に連絡し、母親が指定された中国の銀行の口座に振り込んだというものです。不審に思って府警に相談した女性は、「警察官の身分証の画像が送られてきたので信じた」と話しているといいます。大阪府内では3月以降、中国人を狙った詐欺の電話やメールが相次ぎ、今回以外に22件計3,740万円の被害を確認しているといい、高知県や静岡県、宮崎県でも被害が出ているようです。「逮捕」や「強制送還」などの言葉で脅すケースが多いといい、府警が注意を呼びかけています。なお、宮崎県の事例では、中国大使館職員を名乗る男から「あなたの名前で中国に送られている荷物に問題がある」と連絡があり、直後に武漢市公安局職員を名乗る女から「犯罪の容疑者になっている。持っているお金が犯罪に使われてないか調べる」と電話があり、女性はこれを真に受け、コンビニのATMで2回に分けて100万円を振り込んだというものです。
  • 東京に住む60代の女性から息子を装って現金およそ1,570万円をだまし取ったとして、大阪に住む20代の男女が逮捕されています。報道によれば、2人は今年10月、「会社の情報を流していたのがばれた。現金1,000万円が必要」などと話したうえで、その後、会計事務所の関係者を装って自宅を訪れ、現金をだまし取った疑いがもたれています。容疑者らはツイッターで闇バイトに応募し「東京で荷物を受け取る仕事をしろ」と指示を受け、大阪から上京したということです。容疑者は「危ないバイトという認識はあったがお金がないからやるしかないと思った」と供述しているということであり、若者の犯罪への抵抗感のなさに驚かされます。
  • 宮城県内で今月、介護保険料の還付などをうたい、高齢者らにATMを操作させ、指定した預金口座に現金を振り込ませる還付金詐欺の被害が相次いでいるといいます。報道によれば、2018年以降は下火になっていた手口で、主に60代が狙われる傾向があるということです。宮城県警は地元の金融機関と連携し、被害の防止に取り組んでおり、七十七銀行と仙台銀行は2017年から、ATMの送金実績が一定期間ない70歳以上の預金者を対象にATMを使った振り込みを制限、こうした対策が奏功し、2018年7月以降は被害が確認されていなかったといいます。しかしながら、現状においては、こうした対策の対象となっていない60代後半が詐欺のターゲットになっている可能性が指摘されています。
  • 男性宅に警察を名乗る電話があり、「口座から不正に現金が引き出されている」などと口座番号や暗証番号を聞き出そうとしたところ、男性は「警察でも教えられない」と断ったものの、再び電話があり「自宅に現金はあるか」、「偽造でないか判別する必要がある」と言われ、訪れた25歳の容疑者に現金119万円を渡してしまったといいます。当日ほかにも同様の電話があり、警戒していた署員が不審な動きをしていた容疑者を発見、後をつけ現場を目撃して現行犯逮捕しています。
  • 実在する会社を騙ってインターネットの利用料金が未納だなどウソの連絡で鳥取市内の40代の男性が約3,000万円をだまし取られる特殊詐欺の高額被害事件が発覚しています。報道によれば、昨年9月中頃、被害男性に送付元が実在する企業「NTTファイナンス」と記されたメールが届き利用料金の未納が通知されたため、男性がメール記載電話番号に連絡したところ、インターネットのサイト2か所に未納料金がある、また携帯がウイルスに感染してまき散らしているため被害が出ており約3,000万円が必要だと告げられたということです。男性は鳥取市内のコンビニエンスストアで電子マネー100万円分を購入して支払ったほか、指定された東京都内の住所へ現金を送付するなどして総額2,977万円をだまし取られたといいます。
  • 静岡県内の特殊詐欺の被害件数が増える一方、通報件数が減っていることも明らかとなっています。今年1月~9月で被害件数は前年同期比29件増の262件になっていたにもかかわらず、通報件数は同1,713件減の4,193件に留まっているということです。報道によれば、これまで静岡県警の啓発は対面型が主流だったところ、新型コロナウイルス感染症対策のため、大幅に制限された事情があり、県警では啓発の機会減が通報件数減の背景にあるとみて、新たな手法を模索するということです。なお、特殊詐欺は、一定の期間中に特定の場所で同じ手口によって集中的に発生することがあり、不審な電話やメールについての住民の通報を端緒に捜査が進展することもある重要なものと位置付けられています。
  • 埼玉県鴻巣市で、高齢の市民に贈っている敬老祝い金を巡り、市職員が振込先の確認のために高齢者宅に電話をかけたところ、特殊詐欺の電話と疑われて通報され、県警の防犯情報ツイッターで「不審な電話」として注意喚起される事態となっていたことがわかりました。すぐに本物の市職員からの電話とわかり、県警は訂正するメッセージを掲載しています。鴻巣市は75歳以上の市民に、5年おきに敬老祝い金として現金5,000円を贈っていますが、従来は手渡しだったところ、今年は新型コロナウイルス感染対策のため原則、口座振り込みに変更、店番号の記入漏れなどがあったため、市職員がに「3桁の店番号を教えてください」などと電話したところ、「口座番号を聞かれた」などと110番される騒ぎになったというものです。むしろ、高齢者の意識の高さがもたらした騒動ともいえます。

次に、最近の特殊詐欺防止ツールに関する報道から、いくつか紹介します。

  • NTTグループは、振り込め詐欺などの通話内容をAIで解析し、撃退につなげる固定電話向けの新サービスを発表しています。AIが詐欺と判断した場合、あらかじめ登録した親族らのスマホなどに瞬時に知らせ、注意を促す仕組みで、電話線の差し込み口と固定電話の間に専用端末を接続して使用するものです。かかってきた詐欺などの通話はデジタル化されてNTTグループの解析システムに転送され、AIが「口座番号」や「振り込み」といったキーワードに反応し、複数の親族らに瞬時に人工音声や電子メールを送って本人に注意するよう促すというものです。注意喚起だけではもはや特殊詐欺を防ぐことには限界があることから、このような最新の技術や知見を活用したツールがその限界を乗り越えることにつながることを期待したいと思います。
  • 医療費や税金が戻るとうそをつき、ATMから送金させる「還付金詐欺」を防ぐため、東京都内の5カ所の無人ATMに、携帯電話を圏外にする機器を警視庁が設置しています。被害者が犯人から電話で指示され、言われるまま操作するケースが多いことをふまえた対策で、(金融機関が独自に設置する例はこれまでもありましたが)警察による設置は全国初となります。報道によれば、警視庁は、設置数を増やし、金融機関に導入を促すということです。
  • 奈良県警と南都銀行は、ATMを操作した際、画面に特殊詐欺の手口に関するアンケートを表示する取り組みを始めています。利用者にキャッシュカードをだまし取る特殊詐欺への注意を呼びかけるほか、今後の防犯対策に生かすことが狙いだということです。南都銀行によると、ATMは県内外に約540台設置されており、月に約100~110万人が利用しているといいます。アンケートは、県内に住む利用者がATMを利用した際に表示され、「キャッシュカードを家まで取りに来る詐欺の手口を知っていますか?」という設問の下に「はい」「いいえ」「画面表示終了」の選択肢が表示され、いずれかを押して答えるようなものです。常に特殊詐欺の危険性を意識させる手法としては、なかなか興味深いものといえます。また、多発する特殊詐欺被害を未然に防ごうと、大阪府警は、大阪府内各地の無人ATM前に警察官を配置する取り組みを始めています。10月以降、医療費や保険料などの還付金詐欺が急増しており、被害の多くは無人ATMの利用者であることから、警戒を強めるということです。2017年6月に府内の全無人ATMで同様の取り組みを行った際は、ATMを通じた送金被害数が直近5カ月間の平均と比べて約10分の1に減少した実績もありました。今回はさらなる被害増となる前に、当面の間、警察官を被害の多発が懸念される無人ATM前に集中的に配置し、被害防止を目指すということです。
  • 特殊詐欺の被害から高齢者を守ろうと、兵庫県警と兵庫県が高齢者宅の固定電話に録音機を取り付ける活動を進めています。電話をかけてきた犯人をひるませるのが狙いで、全国の詐欺事件捜査で押収された「標的名簿」に載っている高齢者宅を中心に1万個を無料で設置しているといいます。これまでも同様の取組みは全国の自治体で行われてきましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大で在宅時間が増え、今後も被害が拡大する恐れが今こそ、このような取組みを速やかに、より多くの自治体で行っていただくことを期待したいと思います。

本コラムでは最近、特殊詐欺被害を防止した金融機関やコンビニエンスストア(コンビニ)などの事例や取組みを積極的に紹介しています。最後に、最近の報道からいくつか紹介します。

  • 最近では警備員に関する報道が多く見られています。特殊詐欺の被害を防いだとして、大阪府警西署は「綜合警備保障(ALSOK)」警送近畿支社の警備員2人に感謝状を贈呈しています。2人は、業務で訪れていた大阪市内のATMコーナーで、特殊詐欺の被害が疑われる70歳代女性を見かけ、女性が混乱してなかなか説得に応じなかったため、最後にATMの前に立ちはだかって操作を中断させ、110番通報して210万円の被害を防いだというものです。報道によれば、女性は「犯人からの電話を正規の手続きと信じ込んでいた。本当に助かりました」と感謝しているといいます。本コラムで指摘しているとおり、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。本事例でも、強い使命感に基づく「お節介」が功を奏したものといえます。さらに、電話de詐欺の被害を未然に防いだとして、千葉県柏市の警備員の男性に警察から感謝状が贈られています。報道によれば、施設内を巡回中に、携帯電話で通話しながら困った様子でATMを操作する70代の女性を見つけたことから、声をかけて電話を代わると若い男の声の相手から「その女性を別の銀行のATMまで案内してください」と言われたため、詐欺を疑い、一旦電話を切り、その後、報告を受けた上司が警察に通報し見事被害を食い止めたというものです。通常とは異なる様子でATMを操作する高齢者を見かけたら積極的に声かけをするよう職場で指導を受けていると話しており、日頃からの事業者の取組みが功を奏した好事例だといえます。
  • 郵便局に関する報道も複数ありました。女性宅に市役所や郵便局の職員を名乗る人物から電話があり、午後5時ごろに女性宅を男が訪問、女性は男にカード2枚を渡し、暗証番号を伝えたといいますが、男が去った直後、不審に思った女性から相談を受けた孫が警察に通報、容疑者が犯行に及んだ際、女性のカードは金融機関の処置により使用できなくなっていたことで、被害を防ぐことに成功したという事例もありました。また、特殊詐欺被害を未然に防いだ京都府綾部市の郵便局員らに、綾部署が感謝状を贈っています。同市では9月にも郵便局員が被害を防いでおり、2カ月連続のお手柄になったといいます。同市内の79歳男性が架空請求を受け、通信料金約30万円をATMから振り込むよう指示されていたところを助けたものです。報道によれば、収集で本町郵便局に立ち寄った局員が、ATM前で携帯電話を持ちながら番号を口にしていた男性を不審に思って報告、局長が代わりに電話に出るなどしたといいます。局長は「電話の相手は正当性を主張し、私も一時本物かと思った」と手口の巧妙さを痛感したと述べています。また、特殊詐欺被害を未然に防いだとして、埼玉県東松山市の東松山白山台郵便局と窓口担当に感謝状が贈られました。市内の80代の女性から現金の引き出しを依頼されたことから、女性に理由を聞くと「孫から電話があり、仕事で失敗して、100万円が必要だと言われた」と話したことから特殊詐欺を疑い、東松山署にホットライン通報して、被害を未然に防いだものです。
  • 埼玉県警が実施する振り込め詐欺防止のためのコールセンターからの連絡で、予兆電話が発生したことが分かり、草加署が女性に連絡、署からの連絡の途中で男が自宅に訪れたため、女性はキャッシュカードなどを渡さず、通報を受けた警察官が、女性の自宅近くの駅で男を発見し詐欺を未然に防止できたという事例もありました。警察の日常からのきめ細かい啓発活動の成果が表れたものとして高く評価したいと思います。
  • コンビニの事例は相変わらず数多く見られています。(1)川崎市のコンビニに従来型携帯電話で通話をしながら、電子マネーを購入しようとする高齢の女性が来店、電話相手の指示に従う姿を不審に思った店員が女性に声をかけ、「詐欺だから購入しない方が良い」などと説得を続け、購入を引き伸ばしているところに、通報を受けた中原署の職員が到着したという事例がありました。NTTをかたった、契約プランに関する架空料金請求詐欺を未然に防ぐことに成功した事例もありました。やはり「不審に思う」リスクセンスと、「声をかける」勇気がポイントです。(2)特殊詐欺の被害を防いだとして、福島県石川町のコンビニ店員に、石川署長から感謝状が贈られたという事例もありました。同町のファミリーマート石川町双里店で機械の端末を操作していた60代の女性から、「30万円分の電子マネーを購入したいが、操作方法がわからない」と尋ねられ話を聞いたところ、子供がインターネットで間違って購入してしまい、支払いを催促する電話がかかってきたといい、女性が持っていたノートには、電話で指示された内容が細かく書かれていたことから、「詐欺かもしれません。支払わないで警察へ行ってください」と話し、女性が石川署へ相談したことから被害を受けずに済んだというものです。(3)長崎県警諫早署は、特殊詐欺を未然に防いだとして長崎県諫早市多良見町のローソン諫早多良見店の従業員に感謝状を贈っています。60代男性が同店で電子マネー購入を申し出たため理由を尋ねると、男性は「チャットのポイントを(電子マネーで)購入したい」と答えたといいます。チャットはあらかじめ購入したポイントを使い、スマホを介してリアルタイムで文字による会話ができる仕組みで、男性は電子マネーを購入し番号を教えるよう、チャット相手に指示されていたといいます。店員は男性に詐欺の疑いを説明し、警察へ相談するよう助言、男性が別の警察署に相談し、被害を免れたということです。(4)特殊詐欺被害を未然に防いだとして、岡山東署と岡山東防犯連合会は、ローソン岡山神崎町店と店員に感謝状を贈っています。35,000円分の電子マネーを購入しようとした60代男性客に店員が用途を質問したところ、「パソコンがウイルス感染し、画面に表示された番号に電話したら直すのに必要と言われた」と答えたことから不審に思い、父の店長を通じて110番したものです。(5) 電子ギフト券悪用のニセ電話詐欺を防いだとして、佐賀県警唐津署は、市内2店のコンビニエンスストア従業員4人に感謝状を贈っています。それぞれ来客の詐欺被害を心配して販売せず、「他店でギフト券を購入してはいけない」と店内にとどまるよう説得し、警察官の到着を待ったということです。うち1店では、60代男性が30万円分のギフト券を購入しようとしたため、使途を尋ねると、強く「大丈夫」と返答したためかえって心配になり、警察に通報し店内に引き留めたとい、別の店では、70代男性が来店し50,000円分のギフト券を求めたため、使途を尋ねると、「パソコンのウイルス除去に必要」と答えたため詐欺を疑い、3人で警官が来るまで店に残るよう説得したというものです。(6)後を絶たない特殊詐欺で目立ってきたのがコンビニなどで購入できる電子マネーを悪用した手口の悪用ですが、それを水際で3回も防いだコンビニ店が松江市内にあり、警察が感謝状を贈っています。今回の事例については、「焦った感じは見受けられなかったが、(5万円分)5枚で25万円分買おうとしたのは、ちょっと違うかなと思って警察を呼んだ」と述べています。なお、松江警察署は、電子マネーを悪用した詐欺は徐々に増えてきており、コロナの影響で自宅でインターネットを使う人が増えていることをふまえ、全ての店舗に担当者を決めて、それらが中心となってコンビニを見回る「サポートポリス制度」を導入しているといいます。1店舗あたり2人の担当警察官を決め特殊詐欺の防止などを図るもので、2年前から始め、一定の抑止効果も見られているようです。
  • 一般人が被害阻止に貢献した事例も多数報道されています。110番通報し特殊詐欺被害を防止したとして、警視庁は女性2人に感謝状を贈呈しています。2人は、東京都豊島区のATMで、携帯電話で通話しながら操作をする80代の男性を見て、特殊詐欺の被害にあっているのではと考え、店に居合わせた他の男性とともにATMの操作をやめさせ、110番通報したということです。これこそまさに一般の方の「お節介」が功を奏した事例であり、「我関せず」の風潮がある現代社会において、やはりこのような優しさが被害を防ぐことにつながることを実感させられます。また、一般人の活躍した事例としては、神奈川県警茅ケ崎署は、茅ケ崎市内の80代女性からキャッシュカードと通帳をだまし取ったとして、東京都の自称無職の20代の女を詐欺容疑で逮捕したというものがありました。被害者宅から女が出てくるのを近所の人が見かけ、「詐欺じゃないの」と尋ねたことが被害に気付くきっかけになったといいます。報道によれば、たまたま被害者宅を訪れた近所の女性が家の前で女とすれ違い、不審に思って経緯を確認、「はやりの特殊詐欺じゃないの?」と尋ね、動揺する被害者のかわりに署に通報、服装などの特徴も伝えたことで逮捕につながったものです。
  • 電話de詐欺事件の解決につながったとして、千葉県勝浦署は、千葉県信用漁協連合会勝浦営業所とエミタスタクシー南総勝浦営業所に署長感謝状を贈っています。市内に住む高齢女性が信漁連で高額な現金を下ろそうとしたため、職員が女性に現金が必要な理由を尋ねても曖昧な返事だったため詐欺だと疑い、同署へ連絡するとともに現金の引き出しをやめるように説得、女性は息子をかたる男からの電話にだまされて現金を引き出そうとしていたところ、一方のエミタスタクシーも、同署へ挙動不審な男を客として乗せたと通報、署員が降車場所に駆け付けて捜査し、女性を狙った詐欺事件の解決につながったというものです。それぞれの事業者が警察と連携したことにより未然防止につながったものとして、高く評価できる事例だと思います。

(4)テロリスクを巡る動向

仏の週刊新聞「シャルリエブド」の風刺画をきっかけに、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)がパリの劇場や飲食店などを襲撃し、130人が死亡した同時多発テロから11月13日で5年が経過しました。直近では、同紙が風刺画を再度掲載したこと、仏マクロン大統領が「冒涜の自由」を掲げて、全面的に擁護したことからイスラム世界からの猛反発に遭い、世界各地でのテロ発生リスクが高まっている状況にあります(前回の本コラム(暴排トピックス2020年11月号)を参照ください)。マクロン大統領は、「仏がイスラムを敵視しているというのは誤解で、問題なのはイスラム過激主義者である」、「彼らは善良なイスラム教徒の敵ですらある」と主張の正当性を述べていますが、やはり預言者ムハンマドの風刺画を容認していることが前提にあり、「共闘」にまで高まっていない現実があります。2020年11月22日付時事通信において、「各国は例外なく暴力的過激主義との戦いを余儀なくされている。ただ、それはイスラムだけの専売特許ではない。むしろ、イスラム恐怖症や「ゼノフォビア」といった排外主義、ヘイト、偏見に基づく暴力も存在するし、また、その反動としてイスラム過激主義が伸張することが問題なのである。(略)人口の9%、約600万人のイスラムコミュニティは、今や仏社会と不可分であるのに、融和を図らず、「風刺画を容認せよ」というのはいかにもまずい。それは、文明の価値の保護ではなく、ヘイトの扇動に過ぎない」との有識者の指摘がありましたが、正に正鵠を射るものと考えます。筆者としても、マクロン大統領の「冒涜の自由」の主張は、イスラム教徒に対してあまりに「不寛容」で乱暴に映ります。有識者の主張に加え、イスラム教徒としての自分を社会で認められない疎外感が過激化につながっている事実も直視する必要があるのではないかと考えています。その意味では、カナダのトルドー首相が、「表現の自由は常に守っていかなければならないが、限度がないわけではない」、表現の自由の行使は「相手への敬意を保ち、同じ社会、地球に暮らす人々を故意に、あるいは不必要に傷つけないよう、自ら戒める責任を負う」、「多元的で多様な社会では、他者への発言や行動の影響に配慮する責任を負う。特に今なお差別を経験している人々に対してはそうだ」と指摘したことは、全く正しいと考えます。

また、地理歴史科の教諭が殺害されたテロでは、この教諭は、授業で表現の自由を教えるため、イスラム教の預言者ムハンマドをやゆした週刊紙シャルリエブドの風刺画を生徒に見せたことがテロリストを刺激しました。本コラムでも紹介してきたとおり、「表現の自由」「冒涜の自由」は、仏社会がもっとも大切にする価値の一つで、社会にタブーをもたないことが仏社会の誇りとなっています。その一方で、預言者への冒涜は、一部のイスラム教徒にとって耐えがたい苦痛となり、これまで抗議運動やテロなどの原因になってきたのも事実です。教諭は、そうした背景全体を生徒に伝えようとしたとしたようです。報道(2020年12月2日付毎日新聞)によれば、この事件後、宗教を授業で扱うことがもたらすリスクを考えれば、扱わない方が安全だとの意識が広がっているといいます。「だが、これこそがフランスの表現の自由、冒とくの自由に反する行為とも言える。イスラム教徒の中には「学校からの宗教の影響力の排除という考え方を、信者である自分の排除として誤って受け取る生徒もいる」とも報じられており、問題の根の深さを感じさせます。

また、テロの再生産の構図は、仏に限らない状況になりつつあります。オーストリアの首都ウィーンで、4人が銃撃されて死亡したテロ事件から1カ月が経過しましたが、残念ながら、同国内ではイスラム教徒に対する嫌がらせが急増しているといいます。報道によれば、頭をスカーフで覆ったイスラム教徒の女性が「テロリスト」とののしられるなど、事件後2週間で80件以上の侮辱、脅迫事案が確認されたといい、市中心部では、反イスラム活動家の男性が、車のスピーカーから事件を思い起こさせる銃声とアザーン(イスラム教の礼拝の呼びかけ)を流し、オーストリアのイスラム化反対などを訴える事案も発生したといいます。同国の人口に占めるイスラム教徒の割合は8%(2016年)と15年前の2倍になったと推計され、仏同様、イスラムコミュニティはオーストリア社会と不可分となっているにもかかわらず、その「分断」が深刻化している状況は、テロリスクを高めることにつながっています。

このようなテロリスクの高まりを受けて、仏政府はテロ警戒レベルを3段階の最高に引き上げたほか、マクロン大統領はEU域内の自由な移動を認める「シェンゲン協定」の見直しにまで言及し、対策強化を進めています。直近では、イスラムの過激思想を広めている疑いがあるなどとして、同国内のモスク76カ所の調査を始めると表明しています。報道(2020年12月6日付日本経済新聞)によれば、調査対象となっているすべてのモスクで過激思想を持っている人物が出入りしている疑いがあり、16カ所はパリにあり、過去の閉鎖命令を無視していたり、危険な宗教指導者「イマーム」がいるなどの18カ所については優先的に調査をすすめるということです。これらの政策は当然イスラム教徒の反発を招いていますが、同国の直近の世論調査では、マクロン大統領の支持率が10月から3ポイント上昇し、41%になったといいます。40%を超えたのは4月以来、7カ月ぶりといいます。なお、仏では危機の際に、大統領の支持率が上昇する傾向があり、新型コロナウイルスの再流行で10月末に再び外出制限を導入したことや、指摘しているとおり、国内で過激派テロが相次ぎ、表現の自由の擁護を訴えたことが背景にあるようです(同氏の一連の強気のアクションはこうした世論の風を読んでのことと考えられます)。同氏は一連のテロ後、隣接国との国境警備員を現在の2,400人から4,800人に倍増する計画を発表、EU首脳らと会談し、「不法移民とテロとの結び付きを見据えなければならない」と強調し、「(難民申請の手続きについて)欧州のいたるところで悪用されている。戦争をしているわけでもない国から欧州に来る人がますます増えている」と述べたほか、「加盟国間の情報共有を円滑にするべきだと訴え、協力しない加盟国には「制裁」も辞すべきではないとするなど、EU域外との国境管理強化や難民認定審査の厳格化を提案、EUとしてもテロ対策の強化、さらなる厳格化に進むことになりました。筆者としては、テロリスクへの懸念が移動の制限や移民への厳格な管理の必要性は認めるものの、マクロン大統領の発言からうかがえるとおり「不寛容」の扉を閉ざしたままでこれらを一気に進めることで、逆にテロリストを刺激して余計にテロリスクを高めてしまうのではないかと危惧しています。さらに、報道(2020年11月13日付時事通信)によれば、仏国際関係研究所(IFRI)が、「過去のテロ事件で投獄された仏国内の受刑者約500人の大半が、数年以内に刑期を終える。刑務所内で過激化した受刑者も多数いる」と指摘し、「出所後にテロ行為に及ぶ危険性がある」と述べて、今後のリスクの高まりに懸念を示している点にも注意する必要があります。

このように、EUは域内でテロが相次いでいることを受け、加盟各国にテロ対策の強化で連携するよう求める圧力が強まっていますが、「表現の自由」との関係で言えば、マクロン仏大統領は「インターネットは自由な空間だが、我々の価値観をあざ笑う人物が集う場所になってはいけない」などと語り、テロをあおるネット上の情報を削除する仕組みが必要だと強調、EUも各国当局による暗号化通信へのアクセス権限を拡大し、「融合」を拒む移民を処罰するよう加盟国に提案、対話アプリ「ワッツアップ」「シグナル」「テレグラム」などのサービスの柱である完全暗号化通信に法執行機関がアクセスする案に、プライバシー保護活動家や人権擁護団体が猛反対する構図も出現しました。このようなテロ対策と人権擁護の相克に対し、司法担当の欧州委員らは各国当局が「標的を絞った合法的な」手段で暗号化されたメッセージにアクセスする案を検討しているといいます。なお、EU各国内相は、過激思想を広めるウェブサイトについて、当局が「報告を受けてから1時間前後」で削除命令を出せる法律の制定を急ぐ方針で一致しました。また、過激ウェブサイトの削除のほか、ヘイトスピーチや扇動をEU法上の犯罪に指定するとの欧州委員会提案を「関心を持って検討する」ともしています。会合後の声明では「人間の尊厳、寛容さ、民主主義、正義、言論の自由に対する私たちの信念について妥協することはない」と訴えていますが、イスラム教徒に対する「寛容さ」をテロリスクの高まりによって見失っているのではないか、矢継ぎ早に打ち出されるさまざまな政策の内容と声明の内容とが矛盾しているようにも感じられます。

以下、最近のISなどのイスラム過激派の動向に関する報道から、いくつか紹介します。

  • スイス南部ルガーノのデパートで、買い物客の女性2人がナイフを持った女に襲われ、1人は首を刺され重傷、もう1人も軽いけがを負うという事件がありました。地元警察は28歳の女を拘束し、テロの疑いがあるとみて調べています。報道によれば、容疑者の女がISについて叫んでいたのを現場近くにいた人が聞いていたといい、警察当局は、女がイスラム過激派に傾倒していた可能性があり、「テロの疑いを排除できない」と述べています。
  • ナイジェリア北東部ボルノ州で、武装勢力が農作業中の住民を襲撃し40人以上を殺害する事件がありました。ボルノ州が拠点のイスラム過激派の犯行とみられ、少なくとも110人が死亡したとの情報もあります。武装勢力は住民に金銭を要求したが断られ、報復で攻撃したといいます。ボルノ州では過激派ボコ・ハラムや、同組織から派生しISに忠誠を誓う勢力が台頭し、襲撃事件を繰り返している状況にあります。
  • オランダ・ハーグのサウジアラビア大使館が銃撃された事件で、オランダ捜査当局は、逮捕された近くの町に住む男は大使館警備員らの殺害を試みており、「テロ目的」だったと発表しています。具体的な目的は示されておらず、政治的、宗教的背景は不明だということです。また、男は以前、同大使館の建物を汚損したとして罰金を科されたことがあるとも指摘しています。
  • サウジアラビア西部ジッダにある非イスラム教徒の墓地で起きた爆発を巡り、ISが「「十字軍の国の領事」が複数人集まっていた墓地でISの「兵士」が手製の爆弾を爆発させた」との犯行声明をインターネットで出しています。ISは声明で墓地の爆発は風刺画に対する報復と主張しています。
  • 英BBCなどによると、アフリカ南部モザンビークの最北部カボ・デルガード州で、イスラム過激派が複数の村を襲撃し、少なくとも住民50人を斬首して殺害するという事件が発生しています。2017年以降、同州でテロを繰り返す「IS中部アフリカ州」の犯行とみられるとしています。報道によれば、武装勢力は8月に州内の主要な港町を制圧し、本格的な領域支配を始めているといい、国際NGO「国境なき医師団」によると、10月下旬以降、戦火を逃れようとする避難民が、州内の政府軍支配地域に殺到しているほか、10月には隣国・タンザニアにも越境攻撃しており、テロの拡散が懸念されているということです。
  • アフガニスタン政府と旧支配勢力タリバンによる和平協議について、協議を仲介する米国のアフガン和平担当特別代表は、アフガン政府とタリバンが協議の規則や進め方で合意したと発表しています。協議は9月に始まったが行き詰まっていました。和平協議でタリバン側は、今年2月に米国と結んだ合意を「和平協議の土台」として位置づけることや、協議で問題が生じた際にタリバンが信奉するイスラム教スンニ派の法学に基づいて解決することなどを要求し、政府側が反対していました。直近では、トランプ米政権が来年1月15日までにアフガニスタン駐留米軍をさらに縮小する(アフガン駐留規模を約4,500人から2,500人に、イラクも約3,000人から2,500人にそれぞれ削減する)と発表したことで、アフガンの戦禍の拡大、混乱の間隙を突いてISの関与の拡大など、駐留米軍が減ればアフガン全土でさらに情勢が不安定化する恐れがあり、テロリストの草刈り場と化してしまう状況が懸念される状況となっていました。実際に、首都カブールでは、ロケット弾23発が着弾し、少なくとも8人が死亡(タリバンは犯行を否定、ISが犯行を認めた)するテロが発生しています。さらには、東部ガズニ州の州都ガズニ近郊の軍施設で大きな爆発があり、政府軍の兵士31人が死亡、旧支配勢力タリバンの戦闘員が乗った軍用車両が突っ込んだテロが発生したほか、南部ザブール州では、州の要人を乗せた車列付近で爆発があり、3人が死亡したテロも発生するなど、治安の悪化が懸念される状況が続いていたところです。トランプ政権の終焉に加え、合意の具体的な合意内容が明らかになっていないだけに、今後の先行き不透明感は拭えません。
  • 米国防総省は、トランプ大統領がソマリア駐留米軍の大半を撤退させるよう命じたと明らかにしています。1月に退任するトランプ大統領はアフガニスタンとイラクの駐留軍縮小も発表しており、世界的な米軍撤退の一環だとしています。報道によれば、ソマリアの米部隊規模は約700人で、武装組織アルカイダとつながりがあるイスラム過激派アルシャバーブの掃討に向けソマリア軍の支援に重点を置いているといいます。国内ではあまり注目されていないが、アルカイダ対策の拠点とされています。

その他、日本の関連したテロリスク対策等を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • JR東日本は、新幹線車内を巡回する警備員にウェアラブルカメラを装着させ、自動送信される映像の画質や通信状況を確認する実証実験を行っています。異常発生時に遠隔地からでも迅速に対応できるよう安全対策を強化する狙いがあり、実験結果を踏まえて導入の可否を判断するということです。実験ではトンネル内を走行した際の通信状況などを確認、カメラを通して、座席の下や荷棚といった細かな場所も遠隔地から確認できることが期待されています。
  • 国土交通省は、タクシー、貸し切りバスに梱包していない刃物、可燃性の液体など危険物を持ち込んだ場合、20万円以下の罰金を科す関係法令を施行しました。来年夏の東京五輪・パラリンピックを控え、安全対策を強化するもので、持ち込みが禁じられるのはほかに火薬、大量のマッチや花火、高圧ガスなどで、酒類、消毒用アルコールも2リットル以下に制限されることになります。
  • ロシア南部ロストフナドヌーの南部管区軍事裁判所は、ロシアでテロ組織に指定されているオウム真理教の布教活動を行い、集めた資金を日本側に渡したなどとして、露国内の活動の中心人物とされる被告に対し、テロ活動罪などで禁錮15年(求刑同18年)の実刑判決を言い渡しています。露国内で2012年~16年の5年間に計8,870万ルーブル(約1億2,200万円)以上の資金を集め、日本の教団側に渡したというものです。露は2016年、オウム真理教をテロ組織に指定、日本の公安調査庁は現在も露国内に約130人の信者がいるとみているといいます。

(5)犯罪インフラを巡る動向

NTTドコモの電子決済サービス「ドコモ口座」を使った預貯金の不正引き出しが起きた問題で、ドコモは、一部の利用者を対象に携帯電話番号の登録の義務付けを始めています。銀行口座からドコモ口座への送金サービスを実施するソニー銀行など6行を利用し、ドコモと回線契約をしていないユーザーが対象で、携帯電話のSMSを使った2段階認証を実施することになります。本コラムでも取り上げてきましたが、ドコモ口座はこれまでメールアドレスがあれば他人になりすまして口座を作ることが可能だった脆弱性を突かれて不正に引き出されるという問題が発生したことを受け、本人確認の強化に乗り出したものです。本人確認の強化としては、運転免許証などをスマホ経由で送る「eKYC」と呼ぶオンラインでの本人確認も既に導入しています。また、この問題等を受けて、全国銀行協会(全銀協)は、「預金者の口座情報等を不正に入手した悪意のある第三者が、銀行口座と連携して利用する決済サービスを提供している事業者(資金移動業者等)を通じて、銀行口座から不正な出金を行う事案が複数発生したことを契機として、各銀行が資金移動業者等と連携して決済サービスを提供するに際しての考え方・例示等を取りまとめ」たガイドラインを公表しています。

▼全国銀行協会 資金移動業者等との口座連携に 関するガイドライン

本ガイドラインでは、特に「認証」について、「資金移動業者等のアカウントに銀行口座を連携させる際の手順は、インターネット・バンキングのログインパスワード等に加え、ワンタイムパスワード 等の複数の要素による認証手段を組み合わせることによる堅牢な認証手続きとすることが必要である」こと、「これら認証方式の選択に当たっては、銀行において採用されているインターネット・バンキングの振込等の為替取引時に用いられる認証方式の水準が一つの目安となり得る」こと、また、「資金をチャージする際の手順においても、リスクに応じて、認証手続き等の牽制の仕組みを設けることが、セキュリティ対策の強化・高度化の観点からは望ましい」こと、「銀行において採用されている非対面取引チャネルの認証方式と比較して、強度の劣後する認証方式を採用する場合には(例:インターネット・バンキング契約がなく、ワンタイムパスワードを発行する仕組みを有さない利用者を対象としてキャッシュカードの暗証番号での確認を許容する場合等)、不正アクセスのリスクが高まることを踏まえた利用者保護上の別途の対策が必要となる」ことを指摘しています。さらに、「不正検知としてのモニタリング」として、「銀行は、資金移動業者等と連携し、一連の資金の流れの中で、定期的な不正検知のためのモニタリング態勢を構築することが必要である。加えて、銀行または資金移動業者等が、不正が疑われる取引を検知した際には相手方に連絡を行う体制を関係法令等を踏まえたうえで整備しておくことが望ましい」こと、「銀行においてはまずは、資金移動業者等が行っているモニタリング態勢を定期的に確認する必要がある(特にサービスの変更・拡大があった際には慎重な確認が必要)」こと、「加えて、銀行でも定期的に不正検知のモニタリングを実施し、こうしたモニタリングの見直し・高度化を図ることが望ましい」こと、「併せて、未然防止においては、預金者が口座振替の契約事実や契約内容を確認できるようにすることが重要である」こと、「モニタリング態勢の確認方法、深度、頻度等については、銀行のセキュリティポリシーや、個別のビジネス、各サービスのリスク、連携先の態様・モニタリング態勢、利用者の属性や取引のリスク等に応じて、個別に判断されるものと考えられる」こと、「資金移動業者等への態勢確認の結果、不備や不足が確認された場合には、サービスの一時停止等の対策を検討する必要がある」ことを指摘しています。

とはいえ、ドコモ口座の問題に限らず、セキュリティを強化しても、さまざまな「犯罪インフラ」を駆使することでその隙を突破されてしまうことが繰り返されている実態があります。一方で、そもそも携帯電話の本人確認を信用したセキュリティが構築されていること自体、脆弱性を有していることを厳しく認識する必要があります。携帯電話の本人確認の脆弱性については、「犯罪インフラ化」の懸念があるとして、本コラムでもたびたび指摘してきたところであり、さまざまな「犯罪インフラ」が世の中に流通していることを前提として、利用者の利便性をどこまで犠牲にして安全性を確保するか、難しい対応が迫られているといえます。ちなみに、ドコモ口座問題と同時期に発覚したSBI不正出金問題については、中国籍の少年ら2人が逮捕されています。報道によれば、2人は「ネット上で知り合った中国人から指示を受けた」と説明しているといい、組織的な犯行が疑われています。本事件は、不正出金に関わったグループは何らかの方法で顧客のパスワードなどを入手し、証券口座に不正にアクセス、金融商品を勝手に売却し、同じ顧客の名義で不正に開設した銀行口座に現金を送金していたもので、同社から情報が流出した形跡はないことから、顧客が利用する他のサイトから流出したIDやパスワードが悪用された可能性が指摘されています(つまり、パスワードを使い回す危険性が示されたものともいえます)。さらに、スマホ決済サービス「PayPay」に他人の銀行口座から約45万円をチャージしたとして、警視庁サイバー犯罪対策課は、電子計算機使用詐欺容疑で、住所不定の無職の容疑者ら2人を逮捕しています。報道によれば、容疑者らは他人の口座番号や生年月日などの情報をペイペイの自分のアカウントとひも付けてチャージ、約60人の口座から計約2,300万円を不正に引き出したとされています。この事件も、すでに漏えいした個人情報が悪用されたものといえ、あらためて情報漏えいの怖さや自衛することの難しさを実感させられます。

なお、「非対面」での本人確認の困難さを乗り越える技術である「eYKC」や「顔認証」技術の進展には目覚ましいものがありますが、過信してはならない事例も発生しています。たとえば、兵庫県姫路市は、顔認証の照合に別部署の職員の写真を利用し、情報を無断で閲覧したとして、市民局の男性主幹を停職3カ月の懲戒処分にしたとの報道がありました(2020年11月9日付毎日新聞)。主幹は2018年5月から今年2月まで90回以上、職員のスケジュールを確認するために教わったIDとパスワードを使い、メールなどの個人フォルダーを閲覧していたほか、撮影した職員の顔写真も使い、職員の部署の共有フォルダー内までのぞいていたといいます。業務用資料が保存されていたものの、市民の個人情報はなく、情報流出もないことから、市は刑事告発を見送っていますが、他人の顔写真で「顔認証」を突破した事例であり、精度向上著しい「顔認証」技術であるものの、同様に精度の著しい向上が見られるデジタル写真技術とのいたちごっこが今後も続くことが予想されます。また、米オレゴン州のポートランド市議会は、レストランや小売店など市内の公共の場では「顔認識」技術を使用禁止とすることを可決しています(2020年9月10日付ロイター)。使用禁止を民間にも求めるのは全米で初めてで、市議会はまた、自治体による「顔認識」技術の利用も禁止しています。報道によれば、米ではこれまでに、サンフランシスコやオークランドなどが自治体による「顔認識」技術の使用を禁止しているといいます。顔認識ソフトは、既存のデータベースの写真や動画から個人を特定することが可能で、プライバシーの侵害や人種などのバイアスにつながる可能性が懸念されているとことであり、ここ数年で企業や警察での採用が進んでいますが、実際に誤認識による弊害事例も発生しています。たとえば、デトロイト市警察が顔認証ソフトを証拠として逮捕した黒人被疑者が、「証拠不十分」で釈放されるという事案がありました。この一件について、デトロイト市警察は「犯罪者の特定に使われる顔認証ソフトの誤認率は96%に達する」と明かしています。同市において、顔認証ソフトはほとんど黒人に対してのみ使われているため、黒人に対する不当な扱いを示す実例として物議を醸しています。なお、サービス提供サイドは、「この種のソフトはあくまで犯人候補を「絞り込む」ためのものであり、「特定する」ものではない」と説明していますが、本人確認における「顔認証」技術自体を過信できないことを痛感させられます。

このように、「非対面」における本人確認の難しさがあらためて露呈していますが、一方の「対面」でも同様に困難さを有していることは、「地面師」により積水ハウス社がだまされた事件が示しているとおりです。なお、本問題を取り上げた暴排トピックス2018年11月号では、「今回の事例では、積水ハウス側の対応の杜撰さが際立つ形となりました。地主役の本人確認の際に干支や誕生日が不正確だった、代金支払いの前日、所有者役に土地権利証の提示を求めた際、「内縁の夫」とけんかしているとのウソで断られた(にもかかわらず、権利証を確認しないまま全額を支払った)、杜撰な計画については他の不動産会社は軒並み見抜いており、五反田界隈の土地には気をつけろという話は不動産会社の間では有名な話だった、仲介業者として節税目的のペーパー会社の起用を提案された、本来の土地所有者から警告を受けた・・・など、不審な点が多数ありながら「何ら疑いを差し挟まないまま契約を急いだ」といいます。このように、地面師の問題は、対面取引であっても本人確認の実効性については「脆さ」「危うさ」が必ずあることを痛感させられます」と指摘しました。なお、直近でも地面師の関与した事件が報道されています。東京都渋谷区・表参道の土地(約160平方メートル)を持ち主の80代女性になりすまして売却し、法務局で所有権を移そうとしたなどとして、警視庁が、男3人を有印私文書偽造と同行使などの容疑で逮捕したというものです。報道によれば、3人は2016年12月、土地の売買取引を任されたとする所有者名義の委任状を偽造、東京法務局渋谷出張所に提出し、所有権が不動産会社に移ったという内容の登記手続きをしようとした疑いがもたれていたものの、職員が不正に気づき、未遂に終わっています。都内の不動産会社に信頼させるため、交渉の場に、所有者の女性とその息子になりすました男女を立ち会わせたといい、この不動産会社が土地の購入代金として3人に数億円を払ったとい、詐欺容疑でも調べが進められているようですが、あらためて、「対面」における本人確認の困難さを痛感させられます。「対面」での本人確認の問題では、最近、さらに驚くべき事件も発生しています。3年半にわたり400万円を超える生活保護費を不正に受給した詐欺の疑いで、運送会社従業員の60代の男が逮捕、起訴されています。報道によれば、男は二つの戸籍を取得し、「木村」の戸籍で働きながら、その収入を隠して、本名の「中村」の戸籍で生活保護費を受給していたといいます。報道(2020年11月17日付熊本日日新聞)によれば、男は2016年3月から2019年7月まで、給与収入があるのに熊本市に届け出ず、生活保護費計約423万円を不正に受給した疑いがもたれているというものです。発覚のきっかけは、男が2019年7月に天草市で起こした窃盗事件で、男が1986年に別の刑事事件で逮捕、起訴されていたことが判明、当時の調べに、男は一貫して「木村」と名乗り、判決も受けたのですが、当時、「木村」の戸籍は存在しなかったため、記憶喪失で戸籍が分からない場合などに申請する「就籍許可」を熊本家裁に申し立て、合法的に「木村」名義の戸籍を取得、二つの戸籍を悪用することが可能となったというものです(今回の逮捕時、男は「木村」名義の運転免許証と、「中村」名義のマイナンバーカードを所持していたようです)。

このような中、政府は規制改革の柱に掲げる「対面」撤廃で、医療や不動産取引の分野を先行して進めるとして、2021年の通常国会へ関連法案を提出する予定です。菅首相は9月の就任後、「押印」「書面」「対面」の撤廃を3本柱とする規制改革を打ち出しており、新型コロナ対策で時限的に認められたオンライン診療を恒久化することや、不動産取引では重要事項に関する対面での説明が不要になる見通しです。デジタル化の進展によりよい方向に改善が進めばよいのですが、なりすましなどの弊害、悪用リスクも十分に検討する必要性を感じます。

さて、以前の本コラムでも取り上げていますが、SNSなどを通じ個人間で金を貸し借りする「個人間融資」をめぐるトラブルがコロナ禍で増えています。「融資」というものの実態はヤミ金業者であることが多く、大阪では、債務者に苛烈な取り立てをしたヤミ金業者の男が逮捕される事件も発生しています。今年に入ってからは、コロナ禍による生活苦などを背景に個人間融資を誘う投稿がSNSで相次いでおり、金融庁も「安易に手を出せば取り返しのつかない事態になる」と警鐘を鳴らしています。また、コロナ禍では「給与ファクタリング」の問題が顕在化しました。一方、(本コラムでも取り上げていますが)ファクタリングはこれまで、建設やソフトウエアなどの中小事業者に、運転資金のつなぎなどで利用されてきたところ、主に「債権譲渡(売買)」の契約となるため、貸し付けの上限金利などを定めた貸金業法や利息制限法などの規制はなく貸金業のような登録もいらない点が悪質業者に悪用されています(その結果、年利に換算すると1,300%ともなる悪質な事件も発生しています)。一方、取引先から代金を受け取る権利(売掛債権)を現金化する「事業者向けファクタリング」には、ノンバンクから地方銀行、メガバンクまで参入するなど金融機関の関心は高いものの、ここでも取引先に債権売却を通知しない手法での悪質業者の存在が指摘されています。また、債権売却を知られれば信用を失うと心配して被害が表面化しにくいことが問題となっています。直近では、企業などから債権を買い取る「ファクタリング」会社に架空の債権を買い取らせ、およそ3億円をだまし取ったとしてイベント会社代表の男が逮捕されています。報道によれば、男は大手企業の偽のメールアドレスや偽造した大手企業の印鑑を使って正式な取引を装っていたといいます。このファクタリング会社の被害額は十数億円に上るとみられています。また、病院の資金を着服したとして、警視庁は、医療法人「一成会」(民事再生手続き中)元理事ら男女3人を業務上横領容疑で逮捕した事件では、2016年4月以降、将来の診療報酬を債権にして販売する「ファクタリング」などの手法で、総額約10億円を不正に引き出したとみられています。報道によれば、法人資金を無断で引き出したり、ファクタリングで捻出した現金を別の法人に不正送金したりした上、大部分を運転資金やブランド品の購入費などに充てていたとされます。

その他、犯罪インフラを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 友人と居場所を共有し、メッセージをやり取りできる位置情報共有アプリが犯罪に悪用されているといいます(2020年12月7日付日本経済新聞)。待ち合わせなどに便利なSNSとして若者に人気のところ、安易に人とつながれば犯罪等に巻き込まれる可能性を孕んでいます。具体的には、性犯罪やストーカー行為への悪用が実際に起きているということですが、窃盗事件を起こした少年グループが、アプリを使って仲間の居場所を把握し合っていたケースもあったといいます。SNSを通じた「闇バイト」で始めた出会った者同士が強盗等を行う事件が増加する中、このようなアプリが犯罪を助長する可能性を否定できません。
  • 佐賀北署は、詐欺と組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで、六代目山口組系組員ら3人を逮捕しています。報道によれば、今年1月、携帯電話販売店で、20代女性店員に、組員が使用する携帯電話1台を別の人が使うとうそをつき、だまし取った疑いがもたれています。組員と自営業の男は友人関係で、無職の女が店を訪れ、親族名義で契約したとされます。携帯電話自体、犯罪に悪用される、暴力団の活動を助長する側面を有していますが、その取得には、このような「なりすまし」の手口が使われていることが分かります。
  • ツイッター日本法人が、24時間で消える新投稿機能「フリート(Fleets)」を開始すると発表しています。ブラジルや韓国などでテスト運用しており、日本国内では順次使用できるようになるといいます。報道によれば、ツイッターの書き込み(ツイート)は、自ら削除しなければそのままずっと残る仕様になっているため、同社は「勢いに任せて投稿することを躊躇してしまったり、『リツイート』や『いいね』をたくさん得ようというプレッシャーを感じるという声も寄せられている」とした上で、「その時のできごとや気持ちをもっとリラックスして共有できる方法を模索してきた」と新機能導入の理由を説明していますが、テレグラムに代表されるように、メッセージが自動的に消去される機能が、組織犯罪やテロリストに悪用されている実態があることをふまえれば、本サービスの「犯罪インフラ」化も危惧されるところです。
  • 生活困窮者らに居場所を提供する「無料低額宿泊所」のうち、劣悪な住環境で高い料金をとる業者の「貧困ビジネス」が問題となっていますが、一定の基準を満たす「優良施設」に移行した施設に、利用者の生活支援を有償で委託する国の制度が始まって2カ月が経とうとしていますが、施設の申請は伸びず、移行は施設全体の約6%に留まっているといいます。報道によれば、行政側に相談する前に、施設の改修費用や相談員の人件費等を理由に申請をためらっている実態や、制度の対象者の定義が自治体により異なり、「利用者の定義が曖昧なせいで、自治体が混乱しているのではないか。こうした点が不明確だと、他の事業者も二の足を踏むだろう」との声も聞かれます。いずれにせよ、「貧困ビジネス」を排除していくためにも、制度の定着には行政側の丁寧な説明が求められるといえます。
  • 宗教活動をしていないのに法人格だけが残る寺の境内地が、初めて国有化される見通しになったと報じられています(2020年11月27日付朝日新聞)。宗教法人が解散するには土地や建物の処分が必要となりますが、過疎地を中心に引き取り手が見つかりにくく、休眠状態が続く「不活動宗教法人」は、他人の手に渡り脱税など不正に利用される恐れも指摘されています。実際に、文化庁が把握する不活動宗教法人は2018年時点で3,528あり、税が優遇されることから、過去には反社会的勢力などが法人の代表役員につき脱税や資産隠しに悪用する問題も起きています。以前の本コラム(暴排トピックス2014年12月号)では、「宗教法人は、寄付金やお布施、お守り販売といった宗教に関する事業や幼稚園の経営などによる収入は非課税となるほか、収益事業の法人税率も一般の法人と比べて優遇されていることから、そもそも悪用される可能性が高いと言えます。 直近でも、開運商法で得た所得を隠したとして、大阪市の開運グッズ販売会社(解散)の元実質経営者ら5人が逮捕された脱税事件で、同社が休眠状態の宗教法人を買収し、同法人から開運グッズを仕入れていると装って経費を架空計上していた事例が報道されています」と指摘しています。今般、不活動宗教法人の解散を促す解決策として、文化庁は国有化の事例を広めたい考えだとしており、反社会的勢力の隠れ蓑とならないためにも、同様の取組みが拡がることを期待したいと思います。
  • インターネット掲示板で7月、高知大と高知県立大に爆破予告があった事件で、警視庁は、威力業務妨害容疑で逮捕された大阪大大学院生が別の大学にも爆破予告をしたとして、威力業務妨害容疑で再逮捕しています。報道によれば、容疑者はネット掲示板で7月31日に長崎大と長崎県立大、8月2日に島根大と島根県立大に爆破予告をし、各校に休講措置を取らせるなど業務を妨害した疑いが持たれており、発信元を隠す匿名化ソフト「Tor」を使っていたといいます。調べに対し、「匿名化ソフトを使えばばれないと思った」と容疑を認めているとのことです。「Tor」も犯罪インフラの代表格ですが、捜査能力・スキルの向上で、いよいよその匿名性のハードルも下がってきていることを示すもので、今後の同様の犯罪を抑止する効果もあるものと期待したいと思います。
  • 車のナンバープレートは、自動車のパーツの中でも、最も盗難被害が多い部品と言われており、犯行車両の偽装に使われるなど「犯罪インフラ化」しつつあります。一方で、日本のナンバープレートが海外で、高値で売買されている実態もあるようです。海外のコレクターたちが、日本のナンバープレートを、自分の車や部屋を飾る装飾アイテムとして見ているといい、転売価値があることから転売目的での盗難もあるようです。
  • 金地金を密輸入して消費税など1,806万円を脱税しようとしたとして、千葉県警は、消費税法違反などの疑いで、韓国籍の無職の被告ら2人を逮捕しています。2人は報酬目的だったと供述、他に複数の韓国人が関与し、密輸入した金地金は計7トン、脱税額は10億円に上るといいます。報道によれば、金地金30キロ(課税価格約1億8,060万円)を香港から航空貨物で成田空港に無許可で持ち込み、消費税などを脱税しようとした疑いが持たれており、金と比重が似たタングステン製の筒に入れて医療用部品と偽って持ち込んでいたようです。4月以降、タングステンの輸入量が急増していたため、疑問を抱いた東京税関成田航空貨物出張所の職員が検査をして発見したということです。
  • 国税庁は、今年6月までの1年間の法人税調査件数は76,000件(前年度比▲9%)で、指摘した申告漏れ所得は総額7,802億円(▲43.5%)、追徴税額は1,644億円(▲15.4%)だったと発表しています。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、調査件数は統計を始めた1967年度以降で最低となったといいますが、海外取引のある法人を重点調査したところ、法人税率の低い国にある海外子会社などに所得を移して節税するのを防ぐ「タックスヘイブン対策税制」に絡む申告漏れは前年度比約4倍の427億円にも上ったといいます。また同じく所得税の調査では、富裕層の申告漏れ額が789億円(+3.4%)に上ったと発表しています。追徴税額は259億円(+27.6%)で、いずれも過去最高となりました。やはり新型コロナウイルス感染拡大の影響で、富裕層への調査件数は4,463件(▲16.0%)にとどまったものの、1件あたりの申告漏れ額は1,767円(+23.1%)、追徴税額は581万円(+51.7%)に上っています。海外投資を行う人の申告漏れが目立ったといい、国税庁は「引き続き海外財産についても情報収集を進め、積極的に調査する」としています。なお、摘発事例としては、法人税では、東京国税局が、ブローカーから入手した外国人のパスポートの写しを使って消費税を不正に免れていたとして、ドラッグストアを経営する法人に8,600万円を追徴課税した事例や、所得税では、各国の税務当局と金融口座情報を交換する制度(CRS)を活用し、海外での資産運用の実態解明につなげたものとして、日本に居住する男性が国外預金を保有していることをCRS情報から把握、金融商品への投資や海外不動産の売却、貸し付けで多額の利益を得ながら適正に税務申告していなかった事実が判明、申告漏れ額は約2億7,900万円で、約6,800万円を追徴課税したというものがありました。報道によれば、国税幹部は、「CRS情報は非常に確度が高く、威力を発揮し始めている」と強調しており、ネットオークションを利用して誰もが手軽に利益を得られるようになるなか、購入価格より高額の転売で稼ぎ、「転売ヤー」と呼ばれる個人などの申告状況も調べているといいます。
  • 日本で働く外国人技能実習生の急増を受けて、朝日新聞社と東海大学が、地域住民に占める実習生の割合が高い全国100自治体の首長に共同アンケートしたところ、自治体には法律で実習生の保護などが求められているが、そのための基礎データとなる実習生の人数を「把握していない」と答えた自治体が42%に上り、建前と現実の乖離が浮き彫りになったと報じられています(2020年12月2日付朝日新聞)。以前の本コラム(暴排トピックス2016年12月号)では、技能実習生を巡る犯罪について以下のとおり指摘しています。実態把握すらままならない表面的な対策すら行えない現状を放置することで、技能実習生の失踪が犯罪や犯罪組織の助長につながる危険性を認識する必要があります
国際研修協力機構(JITCO) 「技能実習生の行方不明者発生防止対策について」によると、JITCOが2015年に受けた技能実習2号の行方不明報告者数は、3,110人(前年比0.9%減、ただし、2014年度は前年比11.2%増)で、主な国籍別の内訳として、中国1,599人(構成比51.4%)、ベトナム1,015人(32.6%)、インドネシア138人(4.4%)となっています。また、行方不明者を発生させないための方策として、「送出し機関の選定と信頼関係の構築」、「熱意のある、心身共に健康な技能実習生を選抜」、「職種のミスマッチ、処遇・技能実習環境のミスマッチをなくす」「日常のトラブル防止のため助言・指導をする」、「多くの人々の世話になっていることを理解させる」、「安心して技術・技能修得に打ち込める環境を整える」、「人権を侵害するような行為は絶対に行わない」といったことが本資料に記載がありますが、この内容では、失踪の背景事情に対して表面的な対応でしかありません。実際に、最近、失踪中国人をビジネスにしていた女社長が摘発されたことが報道されています(2016年12月2日付産経新聞)。報道によれば、この社長は、中国人社会に独自のネットワークを持ち、不法滞在の中国人らを集めて食品加工会社に派遣していたということであり、技能実習制度を隠れ蓑にした人身売買が行われていたことが明らかになっています。さらには、警視庁幹部の指摘として、「暴力団や国際的な犯罪組織と連携しているケースが多い。放置しておけば治安への不安につながるとともに、制度の根幹にかかわる事態になりかねない」とされています。正に人身売買の犯罪インフラ対策としての暴排の視点も求められていると言えます。
  • 新型コロナウイルスの影響で職を失った外国人労働者を相手にした偽造在留カードの密売が活発となっているとの報道もありました(2020年11月29日付日本経済新聞)。転職に有利な資格を得ようと安易に手を伸ばすほか、自ら偽造に加担する事例も相次ぎ、生活の困窮と強制退去への不安につけ込む構図となっており、犯罪組織の解明を急ぐ警察は就労を受け入れる企業の姿勢にも警戒を強めていると指摘しています。法務省は偽造対策としてカードに個人情報を記録したICチップを搭載しており、流通する偽造カードの多くには内蔵されていないことから、民間で販売されている読み取り機器を使えば真贋を確認できるところ、偽造を知りつつ外国人を雇う企業の摘発は少なくないのが現状だといいます。なお、実際の摘発事例としては、SNSを使って偽造された在留カードを400枚以上密売するなどしたとして、群馬、山口両県警が、ベトナム国籍の建設作業員の男ら22~37歳の男女19人を入管難民法違反(行使目的偽造在留カード提供)などの疑いで逮捕したものがありました。報道によれば、群馬県警が今年4月、無職の男を旅券不携帯の疑いで逮捕したところ、偽造カードの密売人と判明し背後のグループが浮上、両県警が7月、偽造在留カードを売った疑いで建設作業員の男の自宅を捜索して逮捕したところ、室内に販売前のものとみられる偽造カード数枚が見つかったといいます。さらに、これまでにグループのメンバーらとみられる17人を不法残留などの疑いで逮捕しています。また、これとは別に、在留カードを偽造したとして、警視庁組織犯罪対策1課などは入管難民法違反の疑いで中国国籍の無職の容疑者を逮捕したという事例もありました。報道によれば、帰国する旅費稼ぎを動機に挙げ「飛行機代を稼ぐにはこの方法しかなかった」と容疑を認めているといいます。容疑者は2019年9月、技能実習生として来日したものの、今年3月ごろ行方不明になり、職を転々としたものの、新型コロナウイルスの影響で勤め先が閉鎖、SNSで勧誘され8月上旬から在留カードや運転免許証、住民票などの偽造に関与していたとみられるということです。本件もまた技能実習生の犯罪インフラ化の構図を示している点で注目する必要があります。

さて、犯罪インフラの代表格であるサイバー攻撃が多発しています。直近では、IBMが、新型コロナウイルスのワクチン供給に携わる組織を標的に、ハッカー集団がサイバー攻撃を仕掛けていると警告しています。また、米国土安全保障省のサイバー・インフラ安全局もIBMの見解に基づき、米国内のワクチン供給網を構成する団体に注意を呼び掛けています。報道によれば、ハッカー集団は今年9月以降、ドイツ、イタリア、韓国、台湾などに本拠を置く団体に対し、中国企業「ハイアール」のバイオ医療部門幹部に成り済ましてメールを送付、情報を盗む「フィッシング」を仕掛け、イアール社のさまざまな冷凍設備に関して形状やモデル、価格設定などの正確な情報を調べていたといいます(ワクチンは低温で輸送・保存する必要があり、ハイアールのバイオ医療部門はそうした低温物流網の一角を占めています)。この事例についてIBMは「狙いの正確さなどから、国家が関与した活動の可能性がある」、「攻撃を企図した者が誰であれ、ワクチンのサプライチェーンに関わる物品すべてに精通している」と分析しています(一方で、より広域なフィッシング攻撃の一部であって、ワクチン供給網を狙い撃ちするものではない可能性も指摘されています)。新型コロナのワクチンをめぐっては、本コラムでもたびたび取り上げているとおり、これまでも開発に携わる企業や研究機関を標的に、ロシア、中国、北朝鮮などのハッカー集団がサイバー攻撃を仕掛けたと報じられています。また、ゲームソフト大手、カプコンがサイバー攻撃を受けた問題では、ネットワークを成長の柱に据えるゲーム業界のビジネスモデルの急所をさらけ出したとの指摘もあります(2020年11月21日付読売新聞)。ある証券アナリストは、「心臓部を抜き取られたようなもの。上場企業として管理が甘すぎる」と指摘、カプコンはスポーツのようにゲームで勝ち負けを競う「eスポーツ」など通信対戦を成長の柱の一つに据える中、セキリュティの弱さを突かれたデータ流出は、顧客の信頼喪失につながりかねないという点で、攻めの経営(攻撃能力)だけでなく防御能力を十分に高める必要性が浮き彫りになったともいえます。なお、本件では、流出した可能性がある情報に採用試験の不合格者の個人情報が含まれていることがわかったとも報じられています。これまで同社は採用試験のHPで、不合格者の情報は破棄すると説明していたところ、実際には履歴書などの内容を電子化して保存した後に破棄していたことまで発覚してしまいました。同社はサイバー攻撃の被害を公表した際、個人情報約35万件が流出した可能性があり、うち約12万5,000件が採用試験の応募者の情報だったとしていましたが、不合格者も含まれていることは説明していませんでした。サイバー攻撃への対応の脆弱性はこのようなところまで社会に詳らかにしてしまうことを如実に示すものとして認識しておく必要があります。関連して、大手電機メーカー「三菱電機」も、不正アクセスにより取引先の情報の一部が流出したと発表しています。同社は今年1月にも大規模なサイバー攻撃を受けたことが発覚(防衛省が装備化をめざす地対地ミサイルの性能に関する情報が流出した可能性が指摘されています)し、対策を強化したばかりでした。今回流出が判明したのは、取引先の金融機関口座番号8,635件のほか、社名や住所、口座名義などで、同社が使うクラウドサービス「オフィス365」で通常とは異なる通信を検知したため調査したところ、何者かが社員になりすまして侵入し、これらのデータを不正にダウンロードしたことが判明したものです。なお、直近では、警察庁が、庁内の端末1台が外部から不正アクセスを受けていたと発表しています。端末は情報通信局内で外部の業者に物品などを注文する際に使っており、他の機器やシステムとは接続されておらず、警察庁が入力した注文情報を、業者が「VPN」(仮想専用線)を使ってアクセスして確認していたところ、VPNの認証情報を第三者が何らかの方法で入手したとみられています。さらに、原子力規制委員会の情報システムが10月下旬にサイバー攻撃を受け、非公開の会議資料などが不正に閲覧された可能性が高いことも判明しています。一部の職員に限られているサーバーへのアクセス権限が不正に入手された可能性もあるといい、システムをインターネットから遮断したことから、約1,200人の職員は外部へのメールが使えず、電話やファクスでやり取りしているとも報じられています。さらに、テレワークや遠隔操作に使われる情報機器の欠陥が悪用され、少なくとも607の国内企業や行政機関などがサイバー攻撃を受けていたことも判明しています。その多くがID、パスワードなどの認証情報を盗まれていたといい、VPNの脆弱性が突かれたものということです。報道によれば、VPNの欠陥が放置されている機器は世界で約5万台あり、何者かがリスト化し11月19日にインターネット上に公開、うち1割超の約5,400台が日本関連だったといいます。

このように、企業に対するサイバー攻撃が頻発するようになり、機密情報や個人情報が盗み取られる事例が後を絶ちませんが、それらの情報がインターネットの闇市場で取引され、その情報が「犯罪インフラ」として悪用されている実態もあります。いったん流出した情報を回収するのは極めて難しく、不正送金などの別の犯罪に悪用される恐れが現実のものとなっています。流出被害の発生が相次ぐなか、企業にはあらかじめ流出を想定した備えも求められることになります。たとえば、流出の疑いが明らかになった場合は速やかに顧客や関係者に注意喚起し、流出情報の悪用を防ぐ必要があるほか、IDやパスワードについては、使い回しをしないことの徹底もまた悪用防止策の一つといえます。また、カプコンに対するサイバー攻撃はランサムウエア(身代金要求ウイルス)によるものでしたが、2020年11月27日付日本経済新聞によれば、同紙とトレンドマイクロと共同で調査した結果として、盗んだ情報をさらして相手を脅す「暴露型ウイルス」と呼ばれる新型サイバー攻撃の被害企業が2020年1~10月に世界で1,000社を超えたことがわかったということです。暴露型ウイルスについては、「先に被害企業のデータを盗み、攻撃の仕上げに元のデータを暗号化する。復旧に身代金を要求するだけでなく、支払いを拒めば盗んだデータを暴露すると二重に脅迫する」ものですが、前述のとおり情報流出は企業の社会的な信用を毀損するものであり、対策が急務となっています。なお、保険を使って身代金を払う企業がいることから、米財務省は相手がテロリストだった場合は企業に制裁を科す可能性があるとの警告を発していることにも注意が必要です。対策の前提として、一度盗まれたデータは元に戻らないと考えるべきであり、データを暴露されることも覚悟しなければならないことを認識したうえで、優先順位の高いデータは日ごろからバックアップしておくことで、暗号化されても復旧させやすいこと、バックアップ先としては、USB端子で接続するハードディスクなら社内ネットワークから切り離して保管できること、ファイルを暗号化してパスワードを設定するなど、機密性の高いデータは暴露されてもすぐに悪用されない措置をとることなどがまずは考えられるところです。なお、関連して、米サイバー対策企業のクラウドストライクが、日本や米国など世界12カ国・地域の企業や組織にランサムウエアによるサイバー攻撃の被害状況などを聞いた「2020年度版グローバルセキュリティ意識調査」の結果を発表しています。

▼クラウドストライク デジタルやセキュリティのトランスフォーメーション加速が企業の優先事項に

本レポートによれば、ランサムウエア攻撃に関する世界的な懸念は毎年増加しており、2020年は、2019年(42%)、2018年(46%)と比べて急増(54%)したこと、日本のサイバーセキュリティ担当者の68%が、新型コロナの件でランサムウエア攻撃への懸念が高まったと回答していること、日本でランサムウエアの被害にあった組織のうち、32%が身代金の支払いを選んだこと、ランサムウエアに感染し、犯罪者組織の要求に屈して身代金を支払った日本企業の支払額が平均117万ドル(約1億2,300万円)に上ったこと、過去1年以内にランサムウエアによる攻撃を受けた企業は56%に達したこと、日本企業も52%と全体平均とほぼ同じ割合が攻撃を受けていること、複数回攻撃されたと答えた日本企業も28%あったこと、国家主導型のアクティビティは引き続きIT関連部門の意思決定者にとって大きな重圧になっており、日本の回答者の94%が、国家主導型サイバー攻撃は多くの人が想像するよりもはるかに一般的だと回答していること、日本のサイバーセキュリティ専門家が、攻撃の発信元として挙げている上位国は、中国(75%)、ロシア(69%)、北朝鮮(69%)であることなどが紹介されています。また、報道(2020年11月26日付日本経済新聞)によれば、同社の最高技術責任者(CTO)は、「身代金の要求に屈するべきではない」として、被害を防ぐために予防措置の徹底を呼びかけています。さらに、従来型のウイルス対策ソフトだけでは不十分とし「AIなどを活用する新しい対策ツールの導入が必要」であること、犯罪者集団が不正侵入してからデータを盗み、暗号化するまでに少なくとも数日など時間がかかることから、その間に不審な振る舞いを検出し、遮断する必要があると指摘しています。なお、同社の1年前の「2019年版グローバルセキュリティ意識調査」によれば、「日本の組織でサイバーインシデントの検知、トリアージ、調査、および封じ込めのプロセスにかかる時間は約31営業日(合計223時間)となり、グローバル平均(162時間)の約1.4倍(138%)という結果となりました。またネットワークへの侵入者の検知に要する時間について、日本企業では165時間という結果となった一方、グローバル平均では120時間でした。回答者全体の大部分(80%)が、過去12か月間においてネットワークへの侵入者が標的のデータにアクセスすることを防御できなかったと回答しており、その原因として44%が検知の遅さを指摘しています」、「日本の回答者のうち、1分以内に侵入者を検知できると答えたのはわずか8%であり、10分以内にインシデントの分析をできると答えたのはわずか9%、60分以内にインシデントを封じ込めることができると答えたのはわずか16%に留まりました。3つすべてを実行できると答えたのは、世界の全回答者のうち5%しかいませんでした」と指摘されており、その対応の遅れには大きな危機感を覚えます。同社では、「企業や組織に対して、サイバー脅威を阻止するため「1-10-60ルール」 の順守を推奨しています。1-10-60ルールとは「1分で検知、10分で調査、60分で攻撃者を封じ込め、対応する」というガイドラインです。このベンチマークに従うことで、最初の侵入ポイントから攻撃が拡大する前に攻撃者を根絶する可能性をはるかに高め、結果的に企業や組織への影響を最小に抑えることができます」としていますが、正に正鵠を射るものであり、今後のベンチマークとすべきだといえます。

さて、本コラムでたびたび指摘しているプラットフォームの「場」の健全性に向けた動きも見られています。消費者担当相は、アマゾンや楽天、メルカリなどインターネット上で買い物の「場」を提供する事業者に対し、違法・危険商品の流通防止や、トラブル解決に向けた体制を整備させることなどの規制を盛り込んだ新法の法案を来年の通常国会に出す意向を表明しました。報道によれば、事業者から個人まで様々な売り主が出品する大手通販サイトやフリマアプリでの買い物をめぐっては、トラブルの際に出品者と連絡がつかないという事例が多発、連絡先などの情報を偽る出品者も存在していますが、出品者は特定商取引法に基づき所在地や電話番号などの表示義務を負うものの、場を提供する事業者は、出品者が表示している情報が本当なのか確かめる法的義務が現在はないところ、規制が強化されることとなります。以下、有識者会議の議事要旨から、重要な論点等について、いくつか紹介します。

▼消費者庁 第10回デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会
▼議事要旨
  • 具体的な論点に関しては、立場が分かれるというところかと思うが、私としては、プラットフォーム事業者による取組状況の開示と、販売事業者による正しい表示について、少なくとも法的な手当が必要であると認識している。まず、総論だが、論点整理の中で挙げられている第2章の項目は、いずれも 消費者の安全、取引の安全、消費者の被害救済のための重要な論点ということであり、これらについて悪質事案が発生し、消費者が泣き寝入りする事態が生じているといった説明が、事務局などからもあった。それを踏まえて、プラットフォーム事業者の方々に実効的に協力していただくための法制度上の手当というのは、何かしら必要ではないかと考えている。個別論点に関しても、違法品、危険な商品の流通、誤認表示、やらせレビュー、利用規約の中でも紛争解決に関わるような重要な項目に関して、プラットフォーム事業者に取組状況を積極的に開示していただくということではあるが、他方で、そうした表示が適正に行われるということは、まさに消費者保護に直結するということであるので、各社の取組を是非実効的に保障するための制度的な保障といったものも設ける必要がある。紛争発生時に関しても、取引相手の正しい連絡先を開示できるような仕組みや、特定商取引法上も、現状で義務づけられている売主の表示が、正しい表示であることを担保するための法的措置といったものが必要であり、そういう制度的な保障を設ける仕組みが必要ではないかと考えている。私としては、法的な措置が一定程度必要になってくるだろうと考えている。全体的に、法規制には慎重な立場があるということ、それから、その理由についても理解しているつ もりではあるので、余り萎縮効果が生じないような配慮を十分に行いながら、自主的取組に加えて、制度的な担保がなされることを期待している。
  • やはり違法製品や事故のおそれのある商品によって、重大な消費者被害は現実にあるというところで、これを防止していくには、やはり法規制を強化しても、出店者をきちんと確保できなければだめであって、出店者の身元をきちんと確保できなければいけない。悪質事業者に出店させないようにするには、何をすればよいのか、どんな規制があればいいのか、そういう法的な枠組みも含めて、今後一緒に考えていければと思う。もっと言えば、今回は重大な消費者被害ということで、優先的にと言っているが、本当に小さな被害で消費者が泣き寝入りせざるを得ない、そういう被害はたくさんあると思う。事業者にとってみれば、何万件もある出店者のうちのほんのわずかな悪質出店者のことにすぎないと思うが、消費者にとってみれば、1回の買い物で被害に遭う可能性もあり、本当に消費者にとってはすごく大きなことだと思うので、そこのところを事業者の皆さんにもよく考えていただきたい。
  • プラットフォーム事業者の自主的取組と、その開示によって、競争原理を働かせるというアイデアはとてもよいことで、この点が推進されれば、適切であると思う。ただ、対応が十分でないプラットフォームの下で問題が起きた場合、競争原理が働くにはタイムラグがどうしても生じる。その短期的なタイムラグの中で、大きな被害を受ける消費者というものは、今後も必ず出てくると思われる。そういった被害にも対応できるような体制を整備するということは、常に重要だと思うので、その点についても、今後、さらに検討していく必要があると思う。
  • 私は、プラットフォーム事業者の方が責任の範囲というものを明確化しておくということは、プラットフォーム事業者の方にとっても意味のあることではないかと思う。特に、継続的に検討していかなければいけない課題というのが、この論点整理の中にもいろいろある。例えば、利用規約の問題とか、消費者レビューの問題あるいは将来におけるパーソナライズドプライシングの問題など、様々な課題が出てくる可能性があるわけだから、そういった中で、プラットフォーマーの皆様が主体的に、これを検討し、そして、消費者にきちんとした方向性というものを示すことができるような仕組みというものを現段階できちんと示しておくことが重要ではないかと思う。こうした取組を通じて、市場の信頼が高まって取引が活発化していくということが1つの重要なポイントではないかと思っている。
  • 規制が過剰にならないようにという観点からは、自主的な取組を推進するというのは、非常に重要な手法だと思うが、単に自主的な取組に任せるだけでなく、自主的な取組を促すような環境整備が必要だろうと思う。より合理的な取組に向けて、事業者間の競争を促すということが重要だと思う。そのためには、消費者ないしは社会への情報提供や説明が非常に重要であり、更に、より合理的な取組が報われるような仕組みづくりというのも必要だろうと思う。もう1つの、規制が過少にならないようにという面では、例えば、この論点整理だと、「悪質・重大事案への実効性のある取組」などが当たる。どのデジタル・プラットフォーム企業も果たすべき実効的な取組を共通ルールとして定めることが重要というのは、本当にその通りだと思う。
  • 海外事業者あるいは中小事業者は、この検討会でのヒアリングないしは委員に入っていないが、中小のプラットフォーム事業者が、どのようなことをされているのか、これはよく分からない。その意味では、 自主的取組だけに期待するのではなくて、それを支えるような法的な枠組み、これは広い意味で法的規制と言っても構わないと思うが、そのようなところは必要になるのだろうと思う。その際に、これは恐らく、自主的取組と法的な枠組みを両立させていく、いわゆる共同規制であるが、きちんとやる事業者には、法的なセキュリティを与えて、法的なリスクをなくし、自主的な取組をどんどんやっていただく必要がある。他方、全然やらないところに対しては、しっかりと法執行をやっていく。中間層と極悪層と、私はよく呼ぶが、そういう両面に対して法というのは使わなければいけない。先ほど委員が述べられたような、過剰でもなく、しかし、過少でもないと、そういう辺りで自主的取組と法的規制を両立させるためには、自主的取組をやることによって法執行をしないというような共同規制の仕組みのようなこと、これは前代未聞ではあるが、これから次のステップとして検討していく必要があるのだろうと思う。
  • 考え方としては、行動経済学で言うような、消費者はなるべく賢く、スマートに行動したいと思いながら、認知限界がある中で、どうしてもうまく行動できないところがある。そうした消費者の至らざるところをプラットフォーム事業者がどう救いの手を差し伸べて、サービスを提供する事業者と消費者の間をとりもっていく方向について、官民の協力的な枠組みというのを目指してきたところである。そういったものが、この論点整理(案)の中には、結実しているところがあるかと思う。
  • 当初は議論になっていなかったが、やはり新型コロナウイルス感染症の問題である。新型コロナで、マスクや消毒液の買い占めが発生し、その転売禁止という規制が実際に国によって行われた。大変難しい問題であって、監督官庁のほうは、昭和48年のオイルショックの物価統制の国民生活安定緊急措置法を使うことによって、今回は緊急事態をしのいだわけであるが、新型コロナでまさに求められているデジタル・トランス フォーメーションの中で、デジタルのプラットフォーム上の取引というのは、我々の社会生活の根幹に当たるところなので、近未来の防疫防災についてもしっかりとした制度的な担保、場合によっては、何らかの法的な枠組みも議論していくことも求められると思っている。
  • 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、まさにデジタル・プラットフォームのビジネス、それから、それについての消費者との関わりというのは、本当に幅広いものがあり、これは全世代での活用が進んでいることで社会インフラになっている。どうしても不慣れな消費者もたくさんいる中で、消費者の安全、それから安心な取引環境を整備していくということは、本当に大事なことだと思っているところである。取引の場としての安全性、それから消費者による合理的な選択、それから紛争解決という観点での整理をしていただいたが、そういうことを踏まえて、恐らく行政が行うこと、まさに事業者がやること、デジタル・プラットフォーム事業者で担っていただくこと、それから、消費者そのものが少し学んでいかなければいけないこと、各々がやるべきことというのも、また、明らかになったのではないかと思っている。

(6)誹謗中傷対策を巡る動向

本コラムで継続的に取り上げてきた、総務省によるインターネット上で匿名の誹謗中傷を受けた被害者が投稿者を特定しやすくするための制度見直しの動向について、有識者会議がとりまとめたによる新たな裁判手続きの創設を柱とする最終案がパブコメに付されています。従来の情報開示訴訟より迅速に開示が進むようにして手続きの負担を減らし、悪質な投稿の抑止や被害者の救済を図ろうとするもので、来年の通常国会に関連法の改正案を提出する予定となっています。

なお、総務省の対策案は、被害者の救済を重視する内容となっており、表現の自由への配慮から対策案には慎重論も根強くあります。表現の自由への配慮から、投稿者の異議申し立てや、正当な批判を封じる目的で制度が乱用されるのを防ぐ仕組みも加わったものの、誹謗中傷と正当な批判の線引きの難しさなど、いかに双方のバランスをとるべきかは、判例の積み重ねや議論の積み重ね今後も続くことが予想されるほか、海外事業者への規制といった課題も積み残しとなっており、今後の制度設計と適切な運用が求められるところです。

▼総務省 発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ(案)に対する意見募集

新制度の概要は上記のとおりですが、最終とりまとめ(案)から、重要と思われる記述について、以下、いくつかピックアップしておきたいと思います。

  • サービスの多様化や環境の変化等といった制定時からの事情変化があれば、それを踏まえて、現在省令に含まれていない情報についても、開示対象の追加を検討することが適当と考えられる。
  • 発信者情報の開示対象の拡大のうち、「電話番号」については中間とりまとめにおいて開示対象として省令に追加することが適当であると整理され、これを踏まえ令和 2年8月に省令が既に改正されている。そのため、本最終とりまとめにおいては、発信者情報の開示対象の拡大の中で残る論点である「ログイン時情報」について検討を行うこととする。
  • ログイン時の通信は、権利侵害の投稿時の通信とは異なる通信であることから、仮にそれぞれの通信の発信者が異なるにもかかわらず、ログイン時情報として、権利侵害投稿の発信者以外の者の情報が開示されてしまった場合には、当該発信者以外の者の通信の秘密やプライバシー等を侵 害することとなる。この点を踏まえると、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限り、開示できることとする必要がある。
  • 現行法上は、原則として、権利侵害投稿に係る IP アドレスを辿って発信者を特定することを想定していることから、ログイン時情報など、権利侵害の投稿時の通信とは異なる通信に関係する情報を辿って発信者を特定することを目的として当該情報の開示が認められるのはあくまで例外的な取扱いであり、その要件としては、コンテンツプロバイダが投稿時情報のログを保有していない場合など、侵害投稿時の通信経路を辿って発信者を特定することができない場合に限定すること(補充性要件)が適当である
  • 例えば、仮に大量のログイン時 IP アドレス等がコンテンツプロバイダから開示されアクセスプロバイダに提供される場合には、アクセスプロバイダにおいて発信者を特定するために大きな負担がかかるほか、一意の者を特定できないことも生じうると考えられることから、開示の対象とすべきログイン時情報等の範囲については、発信者の特定に必要最小限度のものに限定することが適当である。
  • ログイン時の通信以外に、権利侵害の投稿時の通信とは異なる通信に関係する情報を辿って発信者を特定することが可能な情報として、電話番号等によるSMS認証を行った際の通信に係る情報や、アカウントを取得する際の通信に係る情報等が存在する。これらの情報についても、ログイン時情報と同様に、発信者の特定に当たって有用かつ必要な情報であると考えられることから、前述の補充性要件及び権利侵害投稿との関連性の観点から開示の対象とすべき範囲について発信者の特定に必要最小限のものに限定することとした上で、開示の対象とすることが適当である。
  • 発信者情報の開示対象としての「ログイン時情報」については、開示対象となるログイン時情報等の発信者情報の範囲や、請求の相手方となる「開示関係役務提供者」の範囲について見直しを行う観点から、法改正及び省令改正を行うことが適当である。
  • 新たな裁判手続の創設に当たっては、発信者の権利利益の確保に十分配慮しつつ、迅速かつ円滑な被害者の権利回復が適切に図られるようにするという目的を両立した制度設計が求められることから、開示可否について1つの手続の中で判断可能とした上で、現行法上の開示請求権を存置し、これに「加えて」非訟手続を新たに設けることを前提として、非訟手続の具体的な制度設計を検討することが適当である。
  • 現行法上でも、プロバイダの判断による裁判外開示が制度上可能であるものの、権利侵害が明らかな場合であっても実際には裁判外開示がそれほど多く行われていないという現状を踏まえると、プロバイダにとって権利侵害が明らかであると一見して判断ができなくとも、権利侵害である可能性が高く争訟性が低いと考えられる事案などの場合には、現行制度の裁判外開示と訴訟による開示手続の中間的な制度として非訟手続を創設し、当該制度を活用することによって、多くの事案において裁判所の判断を踏まえつつ一定程度迅速に解決が図られるといった利点があると考えられる。
  • 中間とりまとめにおいて「被害者からの申立てにより裁判所が発信者情報の開示の適否を判断・決定する仕組み(新たな裁判手続)を創設することについて、創設の可否を含めて、検討を進めることが適当である」とされた点については、現行法上の開示請求権を存置し、これに「加えて」非訟手続を新たに設けることを前提として、非訟手続の具体的な制度設計を検討することが適 当である。なお、表現の自由やプライバシーといった発信者の権利利益の保護に鑑み開示手続は訴訟とすべきであるという指摘があったことも踏まえつつ、非訟手続の具体的設計においては、以下検討を行うように、発信者の権利利益の保護に関して最大限配慮を行うことが必要である。
  • コンテンツプロバイダを特定主体としつつ、アクセスプロバイダの特定及び発信者の特定に資する情報の提供を迅速かつ適切に行うためには、現在被害者(申立人)の代理人弁護士等が専門性や実務的知見を有して特定作業を支援していることも踏まえ、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダ・有識者・専門性や実務的知見を有する者が協力して発信者の特定手法について支援協力を行える体制やノウハウ共有を行う場が必要である。したがって、総務省は、制度的な検討と並行して、上記の体制及びノウハウ共有を行う場の立ち上げについて、事業者団体及び民間事業者等と連携して取り組むことが適当である。
  • 提供命令及び消去禁止命令は、発信者情報の開示に至る中間段階の手続であって、とりわけ迅速な発令が求められ、また、上記のとおり、発信者の特定に結びつく情報を被害者には秘密にしたまま行われることによりプライバシー侵害の懸念等も低いと考えられることを踏まえると、これらの命令の発令要件については、現在の開示要件よりも一定程度緩やかな基準とすることが適当であると考えられる
  • 中間とりまとめの記載のとおり、新たな裁判手続における当事者構造については、現行制度と同様に、プロバイダが直接的な当事者となり、発信者への意見照会により発信者の権利利益の確保を図る構造を維持することが適当である。現行制度の場合と同様の当事者構造を維持する場合、直接的な当事者となるプロバイダが、裁判所の手続の中で当事者としての主張を行う前に、意見照会により発信者の意見を確認することは、発信者の意見を踏まえプロバイダが適切に対応することに資すると考えられる。
  • 新たな手続においても、現行制度と同様にプロバイダが直接の当事者となり発信者の意見照会により発信者の権利利益の確保を図る構造が維持される中で、現行制度の場合と同様に、直接的な当事者となるプロバイダが、裁判所の手続の中で当事者としての主張を行う前に、意見照会により発信者の意見を確認することは、発信者の意見を踏まえプロバイダが適切に対応することに資すると考えられる。この際、プロバイダがより適切に発信者の意見を反映させることができるよう、例えば、照会の際に「開示するかどうか」に加えて「不開示の場合、その理由」を聞くこととする方法が考えられる
  • どのような場合に、開示請求の濫用であり意見照会が不要であるかの判断をプロバイダが行うことは多くの場合難しいと考えられ、やはり原則としてプロバイダは発信者への意見照会を行うことが適当であると考えられる。ただし、開示請求の濫用であり、意見照会が不要と考えられる場合の事例の積み重ねが今後の制度運用の中で図られるのであれば、状況に応じて、ガイドライン等への追記を検討していくことも望ましい
  • プロバイダとしては、発信者への意見照会を行うことが義務づけられており、これを適切に行うことがまずは求められていることから、手続の初期の段階で適切にプロバイダによる意見照会により発信者の意見を確認することが基本と考えられる。ただし、開示手続の途中で発信者から追加的に意見を述べたい旨の意向が示された場合や、発信者自らが匿名化の責任を負った上で裁判所に書 面により意見を提出したいという意向が示された場合には、プロバイダは可能な限り発信者の意向を尊重した上で、個別の事案に応じて適切な対応を図ることが望ましいと考えられる
  • 制度的には異議申立てについては直接の当事者であるプロバイダが最終的に決定すべき事項ではあるものの、発信者から非訟手続における開示決定に対して異議申立てを希望する意向が示された場合には、プロバイダは可能な限り発信者の意向を尊重した上で、個別の事案に応じた総合的な判断により異議申立ての要否を検討することが望ましいと考えられる。特に、争訟性が高いと認められる事案について、裁判所により開示決定がなされた場合には、発信者の意向が十分に尊重されるよう一層配慮するとともに、より慎重に異議申立てにより訴訟に移行することの要否について検討を行うことが必要であると考えられる
  • 新たな裁判手続における開示可否判断の理由の記載については、裁判所において適切な運用が図られることを前提として、後述の裁判外(任意)開示においてプロバイダが円滑に開示可否の判断を行うことを可能とすること等を目的に、事業者団体及びプロバイダを中心に、関係者間で開示可否に関する事例の蓄積を図り、ガイドラインなどに追記していくことが望ましい。
  • 具体的な制度設計において、請求権を存置しこれに「加える」形で非訟手続を新たに設ける際には、非訟手続であっても、異議がなく開示可否が確定した場合には既判力が生じ、濫用的な蒸し返しが防止できるような制度設計を図ることが適当である。その他、開示請求の濫用の場合には、プロバイダが発信者に意見照会を行うことで、発信者への心理的負担や萎縮効果が生じる可能性があることから、開示請求の濫用であり意見照会が不要と考えられる場合の事例の積み重ねが今後の制度運用の中で図られるのであれば、状況に応じて、ガイドライン等への追記を検討していくなどの対応が図られていくことが望ましい
  • 新たな裁判手続において、非訟手続の中で開示命令を創設する際、現行の仮処分によるコンテンツプロバイダへの開示手続と類似の、申立書の直接送付など、条約で認められている、簡易な方法による迅速な海外への伝達が可能となる仕組みとすることが適当である。
  • なお、仮に開示判断を非訟手続ではなく訴訟手続で行うこととした場合には、海外コンテンツプロバイダに対する送達が必要となり、迅速な被害者救済という目的が達成されない(あるいは現行制度よりも長い時間が必要となる)点に留意が必要である。
  • 「新たな裁判手続の創設及び特定の通信ログの早期保全」のための方策として、発信者の権利利益の確保に十分配慮しつつ、迅速かつ円滑な被害者の権利回復が適切に図られるようにするという目的を実現するために、現行法上の開示請求権を存置し、これに加えて非訟手続を新たに設けることを前提として、アクセスプロバイダを早期に特定し、権利侵害に関係する特定の通信ログ及び発信者の住所・氏名等を迅速に保全するとともに、開示可否について1つの手続の中で判断可能とするような非訟手続を創設することが適当である。

以下、最近の誹謗中傷を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 徳島大学の学生で10月、クラスター(感染者集団)が発生した後、学生がアルバイト先から来なくていいと言われたり、飲食店に入店を断られたりしていたことが、学内のアンケートで分かったということです。徳島県では、感染などを理由に不当な差別的取り扱いや誹謗中傷をしないよう求めた徳島県の感染拡大防止条例が施行されたばかりですが、歯止めにはならなかったようです。さらに、報道(2020年11月12日付朝日新聞)によれば、徳島県立人権教育啓発推進センターには今年度、18件の新型コロナに関わる誹謗中傷の相談が寄せられたほか、5月から始めたウェブサイトのモニタリングでは、今月9日までに新型コロナに関わる書き込みで21件の削除を要請したといいます。
  • 川崎市は、インターネット上の掲示板やブログへの投稿に差別的な内容が含まれていたとして、ヘイトスピーチを禁止する市条例にもとづき運営会社などに削除を要請し、概要を公表しています。報道によれば、削除を求めた投稿は「今すぐに日本から出て行け」「必ず殺してやる、生き延びたければこの国から出て行け」など、外国にルーツのある市民を対象に、地域社会から排除することや危害を加えることなどをあおる内容で、別の掲示板からの転載も含め、投稿は45件あるといいます。これらの投稿については、条例にもとづく差別防止対策等審査会が、削除要請を「適当」とする答申を福田市長に提出しており、条例にもとづく運営者への削除要請は、10月に投稿2件についてツイッター社に行ったのに続き2例目となります。
  • FB(フェイスブック)は、ユーザーから報告を受ける前により多くのヘイトスピーチを検出できるようになったとし、今年7~9月に同社が削除したヘイトスピーチのうち、AI(人工知能)ツールで事前に検出できたものの割合は7%で、前年同期の80.6%から増加したと公表しています。同社は、増加の要因として、システムのトレーニング強化を含む自動ツールの改良を挙げており、この期間に対処したヘイトスピーチは2,210万件、傘下の写真共有サービスInstagramでは650万件だったといいます。さらに、監視の目を逃れている有害な投稿記事の件数を示す新たなデータを初めて公開、同社によれば、FBのコンテンツビューのうち、1万ビューあたり10~11ビューがヘイトスピーチだといいます。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

中央銀行デジタル通貨(CBDC)の議論が加速する大きな要因となった、米FB(フェイスブック)のリブラ構想について、来年1月にも発行される可能性が出てきています。リブラ構想は、各国の規制当局や中央銀行が、マネー・ローンダリングの温床になるとの批判や、金融システムの安定性などへの影響を巡り相次いで懸念を示したこと、通貨主権を侵害するといった猛反発を受けたことなどから計画を見直し、今年4月に縮小版を明らかにしていました。リブラ協会は、ユーロなど他の単一通貨を裏付け資産とするリブラや、複数通貨を合成したリブラの発行に向けてスイスの規制当局に承認を申請していますが、ドル以外の法定通貨を裏付けとしたステーブルコインや、一連のステーブルコインを裏付けとした複合トークンの発行は先送りされる見通しで、ドルを裏付けとした単一のデジタルコイン(米ドル版リブラ)の発行となるようです(また、リブラに対応した電子財布サービスの展開は、米国や中南米の一部の国を先行させるといいます)。ただ、FBが現行の規制の範囲内でサービス展開する現実路線に修正したことについて、2020年11月27日付日本経済新聞で、「リブラがキャッシュレス決済サービスの1つにとどまったとしても十分価値はある。決済は膨大なビッグデータを生むためだ。背景にあるのは、中銀のデジタル通貨(CBDC)との共存だ。国際決済銀行(BIS)によれば、世界66の中銀のうち約4割がCBDCの発行に前向きだ。フェイスブックはCBDCを受け入れつつ、決済プラットフォーマーとしての役割を担おうとしている。決済通貨を巡る競争はまだ始まったばかりだ」と指摘されていますが、各国で通用する「世界通貨」としてではなく、まずは国際送金といった限定的な用途での実用化を優先し、確実に果実も得るという、なかなか強かな戦略が見え隠れしているように思います。なお、FBの暗号資産(仮想通貨)「リブラ」は、「ディエム」に改名したことも明らかとなりました。仮想通貨プロジェクトの独立性を強調し規制当局の承認を得ることが狙いということです(報道によれば、従来の名前は規制当局の受け入れが困難だったプロジェクト初期を彷彿させるとし、「その見方を劇的に変化させる」としています)。

さて、以前の本コラム(暴排トピックス2020年6月号)で紹介した、DeCurret(ディーカレット) が主催する日本におけるデジタル通貨の決済インフラを検討する勉強会について、先ごろ、その報告書が公開されました。

▼ディーカレット 日本におけるデジタル通貨の決済インフラを検討するデジタル通貨勉強会の最終報告書

リリースによれば、「本勉強会では、「民間主体が発行する、円に準拠するデジタル通貨」を主に議論の射程として、様々なユースケースを想定し、デジタル通貨がどのように付加価値向上や効率化に貢献するか、検討を進めてまいりました。その結果、イノベーションを進める上ではプログラマビリティを最大限活用していくことが重要であり、ブロックチェーンベースでデジタル通貨のコア機能である共通領域と、ビジネスロジック・スマートコントラクトを実装する付加領域を併せ持つ、「二層構造」のデジタル通貨モデルが経済の発展に貢献できるのではないかとの考えに至りました」としています。この「二層構造」については、報告書においては、「二層型デジタル通貨は、既存のデジタル決済手段(電子マネー、クレジットカード、デビットカードなど)や集中型の決済インフラ(全銀システムなど)、さらには中央銀行デジタル通貨の検討と決して排他的なものではなく、これらの「橋渡し」を通じて相互運用性などを高め得るものである」と指摘されています。また、リリースによれば、「今後はデジタル通貨の実用化に向け、本勉強会を「デジタル通貨フォーラム」に発展させ、民間発行デジタル通貨について、様々なユースケースを想定した概念検証(PoC)を行ってまいります。また、デジタル通貨の経済的影響や制度的論点等についても、引き続き、具体的なユースケースなどに照らしながら検討を深めてまいります」、「デジタル通貨フォーラムには本勉強会メンバーに加え、各業界をリードする主要企業にご参画いただき、幅広い分野での情報共有や意見交換を行っていく予定です。ディーカレットでは、この活動を通し、参加者の皆様と日本の金融インフラの効率性・利便性の向上や経済のDX 推進に貢献していきたいと考えております」としています。この「デジタル通貨フォーラム」には、3メガバンクやNTTグループなど30社超が組み、小売りや電力、保険など10以上のグループに分かれ、順次実験を始めることとし、グループごとに2022年にもデジタル通貨の共通基盤を実用化を目指すというものです。実証実験で使用するデジタル通貨は、ディーカレットが、データを改ざんしにくくする技術「ブロックチェーン」を用いて設計、発行、管理は銀行が行い、実験のグループごとなどに複数のデジタル通貨を発行、ただし、基本的な枠組みは統一し、交換できるようにするということです。デジタル通貨は、個人や企業が持つ現預金を裏付け資産とし、銀行口座と同様の役割を持つウォレット(電子財布)に発行、送金や決済に使えるようにし、基盤を通じて既存のスマホ決済サービスや電子マネーとの交換も可能にするとしています。事業者間で決済サービスの相互利用を促し、利便性を高める狙いがあり、日本での構想が実用化されれば、世界でも珍しい企業主導のデジタル通貨となります

なお、以下に、本報告書から、示唆に富む部分をいくつか紹介したいと思います。

  • (FBのリブラについて)「情報技術革新により地球の裏側に一瞬で電子メールを送れるようになっているのに、そうした恩恵が支払決済には十分に及んでいない」という、リブラの提起した問題は、関係者がしっかり受け止めるべきものといえる。実際、KYC(Know Your Customer、顧客確認)やAML(Anti-Money Laundering、反マネー・ローンダリング)/CFT(Countering the Financing of Terrorism、テロ資金供与対策)のコンプライアンス(規制遵守)負担の増加などを背景に、近年、銀行が海外送金業務から撤退する動きが世界的に目立っている。このような状況のもと、新しい技術をコンプライアンスコストの低下などにも結び付けながら、デジタル技術を決済インフラの改善に活用していく取り組みが求められている。また、リブラの取り組みは、「安全資産を裏付けとするステーブルコイン」というスキームを導入することで、ブロックチェーン・DLTを決済インフラに現実に応用できる可能性を示した点でも興味深い。実際に、安全資産を裏付けとするステーブルコインは、近年、他のプロジェクトでも試みが始まっている。
  • 現金は「価値」以外の情報を持っておらず、中央銀行などの発行者も、誰が保有者かを把握できないという意味での「匿名性」を有している。このような匿名性は、取引のプライバシーの保護などの面ではメリットとなる一方、「誰が、いつ、どこで、何を買ったか」といった、支払決済に伴う情報やデータを活用することが難しいことも意味する。このことは、デジタルエコノミーの発展にとって制約となり得る。さらに、近年、マネー・ローンダリングに関する世界的な監視がますます厳しくなっている。この中で、とりわけ高額取引への現金の利用には、一段と厳しい目が向けられるようになっている
  • 現金による支払決済がデジタル手段に置き換わることで、現金の受入れや保管、警備、輸送、釣銭の用意など、現金に関連するコストの削減が可能となる。金融機関は現在、店舗網やATM 網の維持に相当なコストをかけている。しかし、人口高齢化やポストコロナ社会を展望すれば、今後はますます、物理的に店舗やATM を訪れることなく、自宅で金融サービスにアクセスできるようにする対応が重要となる。こうした対応にデジタル通貨を活用し、一方で既存のインフラの合理化を進めることで、金融サービスを持続可能なものにしていくことが考えられる。また企業にとっても、デジタル通貨にスマートコントラクトを組み込むことで、バックオフィス事務を自動化したり、物流・商流情報と支払決済とをリンクさせることで在庫の消し込み作業にかかるコストを削減するといった可能性も拡がる。さらに、財やサービスの提供の対価として受け取ったデジタル通貨を直ちに支払に充て ることが可能になれば、受け取り側にとっては、「資金化までのタイムラグ」を短縮でき、流動性コストの節約にもつながる。
  • デジタル通貨の活用は、リスクの削減にも寄与し得る。例えば、証券などの金融資産や財の移転、サービスの履行などとデジタル通貨の受け渡しを、スマートコントラクトを通じて同時に実現することで、取引当事者双方にとってのリスクを削減できる可能性がある。また、COVID-19 の経験は、経済取引のデジタル化・リモート対応を一段と促している。感染症拡大に伴い、多くの国々でeコマースなどの利用が増加しているが、これらの取引も支払決済を必ず伴うことになる。日本では、宅配ドライバーが宅配時に荷物と引き換えに代金を現金で受領する「代引き」が行われてきたが、同様の機能をデジタル通貨を通じて実現できれば、取りはぐれのリスクに加え、感染リスクも低下させられる可能性が考えられる。デジタル決済インフラも含め、決済インフラが人々に安心して利用される上では、そのセキュリティが十分信頼されるものであることが必要不可欠である。この観点からは、ブロックチェーン・DLT、暗号技術や生体認証などの新しい技術をセキュリティやプライバシー保護などに活用していくことも、リスクを削減し、人々の信頼を得ながら決済のデジタルイノベーションを進める上で重要となる。
  • 世界では、GAFAやBATといった巨大企業(BigTech)がデジタル決済分野に参入し、小売や運輸・通信など広範なビジネスと金融とを結びつけたサービスを展開している。これらの企業は、支払決済に付随するデータをさまざまなビジネスに活用し、また、幅広いサービスを決済機能を通じてシームレスに繋いでいる。日本においても、民間が主導するデジタル通貨の活用により、取引の大幅な自動化・効率化、支払決済に伴うデータの利活用、幅広いサービスのシームレスな連携などが進むことが期待される。
  • スマートコントラクトを通じて、部品製造企業から組み立て企業への部品の納入や検品などをトリガーとして、取引の都度自動的にデジタル通貨による支払が行われる。すなわち、サプライチェーンにおける物流・商流と資金流とをリンクさせるというものである。これにより、請求・支払等にかかる照合業務や、振込オペレーションなどのコストの節約につながることが考えられる。例えば、現状、月締めでの支払において、金額の確認や照合に伴うコストが発生しており、これらのコストを節約できる可能性がある。
  • 仕入れ先から小売業への商品の納入などをトリガーとして、デジタル通貨による支払を実行することが考えられる。すなわち、スマートコントラクトを通じて物流・商流と資金流をリンクさせ、売掛金事務や資金管理などの合理化・効率化を図っていくことが想定される。また、デジタル通貨の利用拡大が、小売店舗など各層での現金の取扱いコストの低下につながる可能性も考えられる。例えば、デジタル通貨での決済により、利用者のウォレットから店舗のウォレットや本社のウォレットへ直接、即時の送金を行うことなどが考えられる。
  • 配送されるモノのトラッキングを資金流と連携させ、モノの配送完了などをトリガーとして、複数の事業者間での支払も行われるようにするものである。これに伴い、「どの荷物の配送に伴う支払か」をチェックする清算業務などを効率化できる可能性が考えられる。現在、モノの流れのトラッキングはますます精緻になっているが、一方でモノの配送や保管に関わっている企業間の支払は後日の清算という形でなされることが多い。将来的には、モノが消費者に配送され、消費者がその対価をデ ジタル通貨で支払うと、配送に関わった企業にも自動的に支払が実行されるといった姿が考えられる。
  • 現在、マネーロ―ンダリング規制のコンプライアンス負担の増加などを背景に、銀行が海外送金網を縮小する動きがグローバルにみられている。この中で、安価で迅速な海外送金の実現が大きなテーマとなっている。この中で、現在のコルレス送金網を利用するコルレス銀行を利用する代わりに、送金額をいったんデジタル通貨に交換し、国境を越えて送付し、受取側の銀行で現地通貨と交換するといった方法を通じて、迅速かつ安価な海外送金を実現できないかが、一つの論点となり得る。なお、媒介として暗号資産を用いる同様のサービスは既に提供されている。当勉強会の検討の射程は「円建て」のデジタル通貨であり、これを用いる場合、送金先の国で円建てのデジタル通貨と現地通貨とを交換する必要は残ることになる。したがって、このスキームが現在のコルレス送金のスキームよりも安価で迅速なものとなるかは、デジタル通貨と現地通貨との交換以外の部分で、ブロックチェーン・DLT を用いることによる経済的メリットを生み出せるかどうかがポイントといえる。

次に、各国のCBDCを巡る動きについて、概観したいと思います。

大きなトレンドを把握できるものとして、2020年11月16日付日本経済新聞の記事がまとまっています。たとえば、「中国の「デジタル人民元」。2022年の北京冬季五輪までの発行に向けて実験を重ねている。10月に深セン市で5万人を選び、1人あたり200元(約3100円)を配った。利用者はスマートフォンで専用アプリを入手し、デジタル通貨の財布代わりに使用。スーパーのレジなどにQRコードをかざせば支払いが完了する仕組み」、「すでに正式発行に踏み切った国もある。中米のバハマが10月、世界初のCBDC「サンドダラー」を発行し、カンボジアの「バコン」も続いた」、「中国は国内の統制強化が狙いの一つとされる。電子的にお金をやり取りするデジタル通貨は利用履歴や資金の流れを捕捉しやすい。当局が発行・管理すれば、利便性だけでなく監視力も高まる。国際貿易や金融取引で米ドルに大きく依存する現状から脱却する狙いもある。新興国との貿易決済などに利用を広げ「人民元経済圏」を拡大する戦略が根底に流れる」、「途上国では誰でも金融サービスを受けられる「金融包摂」の意味が大きい。銀行の店舗やATMが十分整備されず、預金口座はないがスマホは持っているという人も珍しくない。信用力の低い自国通貨より米ドルが流通する状況を是正する意図もある」、「先に技術や制度設計の国際標準を握られれば、後から発行に動こうとしても不利になる懸念がある。日銀は21年春にも実証実験を始める。現金志向の強い日本でCBDCの需要が高いかというと疑問が残る。将来、地方などで銀行店舗やATMが減り、現金の利便性が損なわれる恐れに備える」といった状況がよく理解できます。

また、フィリピン中央銀行は、デジタル銀行の開業認可に関する規制の枠組みを承認しています。報道によれば、2023年までにデジタル決済が資金決済全体の半分以上を占めると見込んでいるとのことです。また、2023年までにデジタル決済口座を使う成人が全体の7割を占めると予想、消費者の選択肢が広がり、ヤミ金融から遠ざけられると期待しているといいます。新たな規制の枠組みでは、デジタル銀行に分類された銀行は物理的な支店は設けず、全ての手続きをデジタル・プラットフォーム上あるいは電子的に処理する金融商品やサービスを提供することを想定しているようです。英政府は、EU離脱後も国際金融都市としての地位を維持し、強化するための計画を公表しています。英国として初の環境債発行や中央銀行イングランド銀行(BOE)によるデジタル通貨の検討推進が柱で、現金の補完手段として発行するかどうかやその方法をBOEなどが検討するのを歓迎、ドルや円といった裏付け資産を持つデジタル通貨「ステーブルコイン」の規制方法も今後提示するとしています(なお、BOEのベイリー総裁は、民間が運営主体となる法定通貨を裏付けとしたデジタル通貨「ステーブルコイン」について、幅広い利用に向いているとは考えておらず、大半の伝統的な通貨のように安全な価値保存手段として信用できるとも思わないと述べています。同氏はかねてよりリブラに懐疑的な立場をとっており、「民間のステーブルコインは非常に高い基準をクリアする必要があり、基準を満たしているとは思わない」、「中銀のデジタル通貨が実際に解決策となる可能性がある。価値の保証と確実性があるからだ」としています)。また、直近では、スイス国立銀行(中央銀行)が、金融機関同士の大規模な取引の決済にデジタル通貨を使用する実証実験に成功したと発表しています。報道によれば、スイス証券取引所を運営するSIXおよび国際決済銀行(BIS)と共同で実施した実験では、金融機関間のいわゆるホールセール取引にCBDCを使用し、SIXが計画するトークン化された伝統的資産に特化した取引所でより効率的な取引が行えるかを検証、また、暗号資産などデジタル資産向けに立ち上げるSIXのプラットフォームとスイス国内の既存ホールセール決済システムとの接続性についても検証が行われたというものの、「実証実験の第1段階は成功したが、重要な問題が残っている」として、独自のデジタル通貨発行を決定したわけではないともしています。

日本については、直近で、自民党のプロジェクトチームが、CBDCに関する提言をまとめ、発行の実現可能性と具体的な制度設計を探るよう求めています。提言では、2021年度中までに日銀が基礎的な概念実証(フェーズ1)を完了させ、2022年度中には発展的な概念実証(フェーズ2)を行うよう求めており、結果を踏まえて民間事業者や消費者が参加する実地試験を速やかにスタートし、発行の実現可能性と具体的な制度設計について一定の結論を得ることを目指すべきだとしています。他国の中銀が実行フェーズに移行する中、日本も取り組みを加速する必要があると指摘、先行する中国の動向に注意しつつ、欧米と連携しながら日本が主導する形で国際的な技術標準を策定するよう求めています。なお、とりわけ日本におけるCBDCの導入を巡り、有識者らがさまざまな見解を述べていますので、いくつか紹介します。

  • 2020年11月17日付け日本経済新聞は、「CBDCの利用で蓄積されるビッグデータは、電子マネー以上に消費者の行動をより精緻に分析する材料になる。新たなビジネスを生む起爆剤になる可能性も秘める。データを誰がどう管理し、適切に利用するかは大きな論点になる。一方で、CBDCの匿名性を高めようとすると、犯罪への利用防止が難しくなる。マネーロンダリング(資金洗浄)などに使われれば国際問題となる。日本でCBDCを実現するうえでは、プライバシーの保護や利用者情報の取り扱いで多くの国民が納得できるような制度設計が必要になる。便利さと安全性のバランスが極めて難しいのだ」と指摘しています。
  • 元日銀決済機構局長の山岡浩巳氏は、日銀が検討を進めるCBDCについて、企業や家計など幅広い層の利用を想定した「一般利用型」には課題が多いと指摘しています(2020年11月18日付ロイター)。民間の銀行預金がCBDCにシフトするリスクを解決する制度設計は難しく、実現までに数年かかるとし、一方、民間デジタル通貨にはCBDCができないサービスの可能性があり、すみ分けは可能だと述べています。
  • 井上哲也氏は、「将来的に決済手段がCBDCに集約されても、「〇〇ペイ」のようなサービスはCBDCによる支払いを指示する手段として残存しうる。つまり、現在は最終的に銀行預金による支払いによって決済を行うところが、CBDCによる決済に置き換わるだけである。加えて、CBDCは中央銀行が提供する決済手段として高い安全性やコスト効率性も期待できるので、金融機関だけでなく、幅広い消費者サービス企業にも参入機会を提供し、キャッシュレスサービスにおける競争やイノベーションを活性化する効果が期待できる。CBDCは金融サービスに対する社会インフラとしての役割を担うと予想される」と指摘しています(2020年11月25日付ロイター)。
  • 尾河眞樹氏は、「現在、CBDCが各国で研究されているが、法定通貨をデジタル化すると、究極的には銀行口座を介さずとも、発行元の中央銀行に国民が直接口座を持てば、これを通じて総ての決済を行えることになってしまう。この場合、民間銀行のビジネスを著しく毀損する可能性や、国民の決済情報などの個人情報が中央銀行に集中することの是非など様々な問題が噴出し、議論を呼んでいた。しかし、「2層構造」という設計によって、少なくともこうした問題は当面回避され、「現状の紙幣がデジタル化されただけ」という説明が可能となっている」、「デジタル人民元をベースとした新たな経済圏が広がるには、まずは中国が資本の自由化を行い、通貨の信頼性と利便性を高める必要があるとみている。その時は、自ずと人民元の通貨制度を自由変動相場制にせざるを得ない。今のところ人民元は国民からの信認も低く常に資本流出の懸念にさらされている。これを踏まえれば、突然の自由化は通貨の暴落を招くリスクも高いため、デジタル人民元が導入されたとしても、少なくとも数年は自由化の実現性は低いだろう」、「日本も含め各国中銀によるCBDCの研究・開発はこの1年で急激に加速している。実際に導入するかはさておき、「先手必勝」とばかりに開発を急ぐ中国へのけん制も含め、日米欧を中心とした国際的な基準やルール作りは急ぎたいところである」と述べています(2020年11月30日付ロイター)。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

本コラムで動向を追っているカジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐる汚職に絡む証人買収事件で、衆院議員の秋元司被告=収賄罪などで起訴=と共謀し、贈賄側に偽証の見返りに現金などの提供を持ち掛けたとして、組織犯罪処罰法違反(証人等買収)罪に問われた元会社役員2人の初公判が相次いで東京地裁で開かれ、2人とも起訴内容を認めています。報道によれば、検察側は「事件の正当な審判が妨害される危険性が高く極めて悪質だ」、「被告の果たした役割は不可欠かつ重要なものだった」などとして、1人は懲役1年、もう1人は懲役1年2月を求刑、弁護側は執行猶予付き判決を求め、即日結審しています。日本型IRは「世界最高水準の厳格な規制」(世界一の清廉性/廉潔性)を掲げています。今回の一連の事件は国会議員が関与した贈収賄事件という最悪の事態を招いたという点で問題の根は深く、本件を踏まえてIR基本方針が改正が図られ、「厳格な接触ルール」を定めて「IR事業者の廉潔性確保」に「全般的なコンプライアンス確保」が求められることとなりました。IR事業(とりわけカジノ事業)は、そもそも社会から相当厳しい目で見られているところ、今回の事件で「世界一の廉潔性」はやはり画餅ではないかと冷笑されている事実を関係者はあらためて自覚し、それでもなお、自らを厳しく律しながら「世界一の廉潔性」を目指していくべきだと思います。

また、2021年度税制改正で、IRに関する税制の整備が議題に浮上しています。一時滞在の外国人がカジノで得た「勝ち金」に対する課税の在り方をめぐっては、米国では、外国人は大半のゲームが非課税ではあるものの、スロットマシンなどで一定以上の勝ち金を得ると課税される(払い戻しの際に税金が差し引かれる)ことがあるといいます。一方、シンガポールやマカオなどでは一律非課税となっています。これに対し、国土交通省は一定の金額以上をカジノで稼いだ場合、一時所得として所得税を課し、確定申告するよう求めているものの、訪日して国内を周遊する外国人旅行者に対して、着実に課税できるのか懸念が指摘されているところです。直近の報道によれば、自民党税制調査会の甘利明会長は、「国際標準の非課税というやり方でいいのではないか」として、一時滞在の外国人旅行者は非課税とする方向で調整する考えを示しています。

コロナ禍の影響もあり、IR整備のスケジュールが遅れており、自治体も対応に苦慮していることは本コラムでも継続的に取り上げています。大阪府と大阪市においては、事業者を選定する時期や、政府に提出する区域整備計画を策定するスケジュールについて、2021年1月に見直すと報じられています。政府は当初、2021年1~7月としてた区域整備計画の申請受付期間を、2021年10月~2022年4月に延期しましたが、大阪府・大阪市についても、当初、2020年4月に事業者側から提案書を受け取り、夏ごろから区域整備計画の策定を進めるスケジュールで進めていましたもの、先送りが続いていました。なお、コロナ禍とそれによる関連事業者の経営悪化、そしてIR誘致スケジュールの遅れは、大阪・関西万博にも大きな影響を及ぼしています。万博会場となる人工島、夢洲方面への鉄道各社の延伸が、大阪メトロの地下鉄中央線を除き間に合わなくなっているといいます。

横浜市は先月、IRの推進に関し、国のIR整備法に基づく「横浜イノベーションIR協議会」を開催しています。協議会のメンバーは林市長が議長で、神奈川県知事、神奈川県公安委員会委員長、神奈川県市町内会連合会会長、横浜商工会議所会頭、横浜市立大学学長の6人で構成され、IR施設の要件などを定める「実施方針」の策定や事業者募集などについて意見交換したといいます。報道(2020年11月17日付日本経済新聞)によれば、林市長は冒頭で、IR誘致が観光や地域経済の振興、財政改善につながると述べ、「横浜が持続的に成長していくための活力を生み出していかなければならない」とIR推進の意義を強調、黒岩知事は「基礎自治体の判断を尊重し、全面的に協力したい」と、治安面やギャンブル依存症対策で連携する意向を示しています。さらに、同じく先月末には、IRの推進に関して各界の有識者で構成する「横浜市特定複合観光施設設置運営事業者選定等委員会」の初会合を開いています(なお、メンバーについては、慶應義塾大学理工学部教授、武蔵野大学経営学部教授、日本大学危機管理学部教授、一般財団法人インド経済研究所理事長(榊原氏)、東京工業大学環境・社会理工学院長、平安病院法人統括院長、東洋大学国際観光学部教授の7人で構成されています)。初会合では市の担当部局が2019年に横浜市が推進を表明したIRの方向性や今後のスケジュールなどについて説明したほか、7人の委員のうち元大蔵省財務官の榊原英資氏を委員長に選任、公正な立場からIR事業者を公募・選定して林市長に提言していくことになります(なお、今後の審議は「事業者公募などにかかわる情報が多分に含まれている」(榊原氏)として非公開となります)。また、12月には、「横浜IRを考えるシンポジウム」を開催する予定としています。横浜市のサイトで「横浜市が実現を目指しているIRの意義や、ギャンブル等依存症や治安など、IRを構成する施設の一つであるカジノに起因する懸念事項対策の取組について、市民の皆様に理解を深めていただくため、シンポジウムを開催します。なお、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から無観客で開催し、YouTube専用サイトで特別講演及び基調講演を事前収録の上、当日配信、パネルディスカッションをライブで配信します。また、当日の内容を録画配信にて後日公開します。」と発表しています。一方、横浜市のIR誘致を巡っては、反対派の活動も活発化しており、IR誘致に反対する市民団体「カジノの是非を決める横浜市民の会」は先月、住民投票を求める署名簿を市選挙管理委員会に提出しました。報道によれば、署名総数は20万5,000人を超えたといい、今後選管が有効署名数を審査し、地方自治法の定める約6万人を上回れば、住民投票の直接請求が可能になります。有効署名数の正式決定後に、住民投票実施の条例制定を求める直接請求を行い、市議会への提出は2021年1月ごろを想定しているといいます。また、横浜港の港湾事業者でつくる横浜港ハーバーリゾート協会(YHR)は、IR候補地の再開発に関する新たな代替案を公表しています。同協会はIR誘致に反対しており、報道によれば、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ水素発電所や物流施設などの整備を掲げています。また、電子商取引(EC)が拡大していることから、港湾を生かした物流拠点を検討し、市内の学校向けを想定した給食施設も設置、施設へは発電施設「水素エネルギーセンター」から電力を供給する計画を示しています。

③犯罪統計資料

▼警察庁  犯罪統計資料(令和2年1~10月)

令和2年1~10月の刑法犯の総数は、認知件数は514,427件(前年同期626,742件、前年同期比▲17.9%)、検挙件数は228,524件(238,330件、▲4.1%)、検挙率は44.4%(38.0%、+6.4P)となり、コロナ禍により認知件数が大きく減少していることとあわせ、昨年からの傾向が継続される状況となっています。犯罪類型別では、刑法犯全体の7割以上を占める窃盗犯の認知件数は349,886件(445,386件、▲21.4%)、検挙件数は140,297件(146,349件、▲4.1%)、検挙率は40.1%(32.9%、+7.2P)であり、「認知件数の減少」と「検挙率の上昇」という刑法犯全体の傾向を上回り、全体をけん引していることがうかがわれます(なお、令和元年における検挙率は34.0%でしたので、さらに上昇していることが分かります)。うち万引きの認知件数は71,651件(78,220件、▲8.4%)、検挙件数は51,670件(54,372件、▲5.0%)、検挙率は72.1%(69.5%、+2.6P)であり、認知件数が刑法犯・窃盗犯ほどには減少していない点が注目されます。また、検挙率が他の類型よりは高い(つまり、万引きは「つかまる」ものだということ)一方、昨年から今年にかけて検挙率の低下傾向が続いていましたが、ここ最近はプラスに転じている点は心強いといえます。また、知能犯の認知件数は27,908件(30,290件、▲7.9%)、検挙件数は14,536件(15,312件、▲5.1%)、検挙率は52.1%(50.6%、+1.5P)、さらに詐欺の認知件数は24,911件(27,158件、▲8.3%)、検挙件数は12,253件(12,829件、▲4.5%)、検挙率は49.2%(47.2%、+2.0P)と、とりわけ刑法犯全体の減少幅より小さく、コロナ禍においてもある程度詐欺が活発化していたこと、一方で検挙率が高まっている点が注目されます(なお、令和元年は49.4%であり、ここ最近で昨年並みの水準に回復していきています)。

また、令和2年1月~10月の特別法犯総数について、検挙件数は58,303件(58,855件、▲0.9%)、検挙人員は49,108人(49,861人、▲1.5%)となっており、令和元年においては、検挙件数が前年同期比でプラスとマイナスが交互し、横ばいの状況が続きましたが、ここ最近は減少傾向が続いています。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は5,645件(5,088件、+10.9%)、検挙人員は4,132人(3,838人、+7.7%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は839件(703件、+19.3%)、検挙人員は668人(578人、+15.6%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,227件(2,105件、+5.8%)、検挙人員は1,807人(1,729人、+4.5%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は488件(596件、▲18.1%)、検挙人員は105人(119人、▲11.8%)、不正競争防止法違反の検挙件数は50件(55件、▲9.1%)、検挙人員は58人(50人、+16.0%)、銃刀法違反の検挙件数は4,315件(4,403件、▲2.0%)、検挙人員は3,801人(3,853人、▲1.3%)などとなっており、入管法違反とストーカー規制法違反、犯罪収益移転防止法違反は増加したものの(これまでよりペースダウンしています)、不正アクセス禁止法違反や不正競争防止法違反がこれまで大きく増加し続けてきたところ、ここにきて大きく減少している点が注目されます(不正アクセス事案は体感的にまだまだ減っていないと思われているだけに数字的にはやや意外な結果となっています。引き続き注視が必要な状況だといえます)。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は800件(749件、+6.8%)、検挙人員は415人(350人、+18.6%)、大麻取締法違反の検挙件数は4,600件(4,242件、+8.4%)、検挙人員は3,878人(3,373人、+15.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は9,371件(9,185件、+2.0%)、検挙人員は6,562人(6,546人、+0.2%)などとなっており、大麻事犯の検挙が、コロナ禍で刑法犯・特別法犯全体が減少傾向にあるにもかかわらず、令和元年から継続して増加し続けていること、さらに、覚せい剤事犯については、ここ最近では減少傾向が見られていましたが、ここ最近では検挙件数・検挙人員が横ばい(あるいは微増)の傾向にあり、経済活動の活性化にリンクしている可能性が指摘できます(依存性の高さから需要は大きく減少することは考えにくく、外出自粛の状況下でのデリバリーが潜在化していた可能性も考えられます。なお、参考までに、令和元年における覚せい剤取締法違反については、検挙件数は11,648件(13,850件、▲15.9%)、検挙件数は8,283人(9,652人、▲14.2%)でした)。

なお、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の国籍別検挙人員の総数450人(381人、+18.1%)、ベトナム84人(65人、+29.2%)、中国76人(75人、+1.3%)、ブラジル50人(37人、+35.1%)、韓国・朝鮮25人(20人、25.0%)、フィリピン24人(27人、▲11.1%)、インド14人(7人、+100.0%)、スリランカ11人(12人、▲8.3%)などとなっており、昨年から大きな傾向の変化はありません。

暴力団犯罪(刑法犯)総数については、検挙件数は10,210件(15,607件、▲34.6%)、検挙人員は5,921人(6,714人、▲11.8%)となっており、特定抗争指定やコロナ禍の影響からか、刑法犯全体の傾向と比較しても検挙件数・検挙人員ともに大きく減少していること、とりわけ検挙件数の激減ぶりは特筆すべき状況となっていること、とはいえ徐々に前年同期比の減少幅が縮小していることなどが指摘できます(なお、令和元年は、検挙件数は18,640件(16,681件、▲0.2%)、検挙人員は8,445人(9,825人、▲14.0%)であり、暴力団員数の減少傾向からみれば、刑法犯の検挙件数の減少幅が小さく、刑法犯に手を染めている暴力団員の割合が増える傾向にあったと指摘できましたが、現状では検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあるといえます)。また、犯罪類型別では、暴行の検挙件数は706件(765件、▲7.7%)、検挙人員は677人(709人、▲4.5%)、傷害の検挙件数は1,105件(1,291件、▲14.4%)、検挙人員は1,293人(1,472人、▲12.2%)、脅迫の検挙件数は377件(341件、+10.6%)、検挙人員は340人(322人、+5.6%)、恐喝の検挙件数は338件(405件、▲16.5%)、検挙人員は440人(512人、▲14.1%)、窃盗犯の検挙件数4,964件(9,102件、▲45.5%)、検挙人員は920人(1,113人、▲17.3%)、詐欺の検挙件数は1,204件(1,871件、▲35.6%)、検挙人員は931人(1,137人、▲18.1%)、賭博の検挙件数は43件(78件、▲44.9%)、検挙人員は171人(120人、+42.5%)などとなっており、暴行や傷害、脅迫、恐喝事犯の減少が続く一方、これまで増加傾向にあった窃盗と詐欺が一転して大きく減少している点(さらに、暴行等の減少幅をも大きく上回る減少幅となっており、特定抗争指定や新型コロナウイルス感染拡大の影響がまさにこの部分に表れているものとも考えられます)は注目されます。

また、暴力団犯罪(特別法犯)の総数については、検挙件数は6,167件(6,553件、▲5.9%)、検挙人員は4,467人(4,698人、▲4.9%)となっており、こちらも大きく減少傾向を継続している点が特徴的だといえます(特別法犯全体の傾向より減少傾向にあるもおの、刑法犯ほどの激減となっていない点も注目されます)。うち暴力団排除条例違反の検挙件数は43件(22件、+95.5%)、検挙人員は100人(45人、+122.2%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は148件(156件、▲5.1%)、検挙人員は49人(45人、+8.9%)、大麻取締法違反の検挙件数は852件(924件、▲7.8%)、検挙人員は565人(624人、▲9.5%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は4,036件(4,257件、▲5.2%)、検挙人員は2,794人(2,909人、▲4.0%)などとなっており、令和元年の傾向とやや異なり、大麻取締法違反の検挙件数・検挙人員も大きく減少に転じている点が注目されます。一方、覚せい剤取締法違反については令和元年の傾向とは異なり、ここ最近は減少幅が小幅になってきている点も注目されます。いずれも、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の影響で対面での販売が減っている可能性を示唆していますが、(覚せい剤等は常習性が高いことから需要が極端に減少することは考えにくいこと、さらに対面型からデリバリー型に移行しているとの話もあり、正確な理由は定かではありません(なお、令和元年においては、大麻取締法違反の検挙件数は1,129件(1,151件、▲1.9%)、検挙人員は762人(744人、+2.4%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5,274件(6,662件、▲20.8%)、検挙人員は3,593人(4,569人、▲21.4%)でした)。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

報道によれば、韓国の情報機関・国家情報院は、国会の情報委員会(非公開)で米大統領選の結果をめぐり、北朝鮮が在外公館に対し、米国を刺激する言動や対応を取らないよう指示したこと、問題が生じた場合は大使らの責任を問うことなどを報告しています。また、金正恩朝鮮労働党委員長は親交を深めたトランプ大統領が去り、「再びゼロから始めることに不安を覚えている」との分析結果や、北朝鮮が来年1月に予定する党大会で対米政策の方向性を示すと判断した模様で、党大会に合わせた軍事パレードも予定し、10月の前回パレードに続き、米新政権を意識して軍事力を誇示するとの見方を示しています。また、別の報道によれば、「正恩氏の周囲には数百人の情勢分析の専門家がおり、いま彼らを含む北朝鮮の指導部全体が、誰がバイデン政権で対北外交を担うのか、つぶさに見守っている」とのことです。さらに、バイデン氏は大統領選中のテレビ討論で、正恩氏を名指しで「Thug(悪党)」などと非難しましたが、(これまで金委員長への批判には必ず反応してきたにもかかわらず)現時点でそれにも反応していない点は不気味です。

また、新型コロナウイルスを巡っては、対策を強化している状況や外国の製薬会社等にサイバー攻撃を仕掛けている実態も報じられています。報道によれば、金委員長は、11月の党政治局会議において、厳戒態勢を維持し感染症対策を強化する必要があると強調しています(なお、WHOによると、11月初旬の時点で、北朝鮮は12,000人以上のウイルス検査を実施し、新型コロナの感染者は報告されていないとされます。また、10月の最終週には合計6,173人(うち8人は外国人)が感染の疑いがあるとされ、174人が隔離されたともいいます。ただ、今年1月下旬に国境を閉鎖する前に中国と貿易や人の往来があったことを踏まえると、同国内でコロナ感染拡大の可能性は否定できないとの分析もあります)。さらに、北朝鮮では物資が不足し、中国に依存する砂糖や調味料の流通量が減り、価格が1年で4倍以上に高騰したこと(直近では10倍以上となったとの情報や、米などの穀物価格は比較的安定しているとの情報もあります)、11月に入って、北部の慈江道と両江道の恵山の対中国境封鎖措置を取ったこと、慈江道で調味料、恵山では外貨の密輸がそれぞれ摘発されたこと、北東部の羅先、西部の南浦、首都平壌でも外部との人や物資の移動が相次いで封じられたこと、海水が新型コロナウイルスに汚染されたと恐れ、近海での漁業と塩の生産を禁じていること、中国が支援したコメ11万トンも感染を恐れて受け取りを拒み、中国・大連港に積み残されていることなどが相次いで報じられています。このような状況をふまえ、12月の党政治局会議では、経済指導機関が現在の環境に対応できていないとして厳しく批判、国境封鎖が長期化し、経済への打撃が表面化している可能性がうかがわれます(一方で、「自給自足型経済の実現を目指している」(中朝貿易関係者)との見方まで出ているようです)。関連して、中国税関総署が、北朝鮮との10月の貿易総額が165万9,000ドル(約1億7,200万円)だったと発表、前月比▲92%、前年同月比▲99%と落ち込み、記録的な減少となったとしています(北朝鮮への輸出は前月比98%減の25万3,000ドル、北朝鮮からの輸入は同▲27%の140万6,000ドル)。さらに、直近では、中国が、金委員長とその家族などに対して、新型コロナウイルスのワクチン候補を提供したとも報じられています(2020年12月1日付ロイター)。

また、米マイクロソフトは、ロシア政府や北朝鮮政府とつながりが疑われるハッカー集団が、新型コロナウイルス感染症ワクチンと治療薬を開発している世界中の製薬会社や研究機関などを標的にサイバー攻撃を仕掛けていたと明らかにしています。報道(2020年11月14日付ロイター)によれば、ロシアのハッカー集団「ファンシーベア」のほか、マイクロソフトが「ジンク(Zinc)」「セリウム(Cerium)」と呼ぶ北朝鮮のハッカー集団が、カナダ、フランス、インド、韓国、米国の製薬会社やワクチン開発者を含む7つの対象にサイバー攻撃を仕掛けていたとされ、大部分は攻撃の失敗したものの、一部は成功したようです。さらに、報道(2020年11月28日付ロイター)によれば、北朝鮮系とみられるハッカー集団が過去数週間、英製薬大手アストラゼネカにサイバー攻撃を試みていたことが分かったということです。同社が開発する新型コロナウイルスワクチンの情報が狙われたもようだが、成功しなかったといいます。ハッカー集団は、SNSのリンクトインやワッツアップなどで求人を装い、アストラゼネカの従業員に接触、その後、従業員のパソコンに侵入するため、悪意のあるコードを仕組んだ文書を送り付けていたということです。直近では、北朝鮮系とみられるハッカー集団が、新型コロナウイルスの情報を狙って、米ジョンソン・エンド・ジョン(J&J)など少なくとも9つの医療関連組織にサイバー攻撃を試みていたとも報じられています(2020年12月3日付ロイター)。一連のサイバー攻撃は9月に開始、オンラインのログインポータルを模したウェブドメインを利用して、標的となった組織のスタッフをだまし、パスワードを盗もうとしていたということです。これまで標的となった組織は前述のJ&Jやアストラゼネカのほか、米ノババックス、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(米)、独テュービンゲン大学、セルトリオンなど韓国企業4社で、サイバー攻撃が成功したかどうかは不明だといいます。

さて、北朝鮮に対する国連制裁逃れの実態については、本コラムでも取り上げてきましたが、中国やロシアに対する批判の声が高まっています。たとえば、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会議長を務めるドイツ国連大使は、安保理制裁決議で規制している北朝鮮の石油精製品の輸入の監視を、ロシアと中国が意図的に妨害していると批判しました。報道によれば、制裁決議では、北朝鮮の石油精製品の輸入量上限を年50万バレルに制限しているところ、露中両国は北朝鮮に石油精製品の輸出を続けていること、両国は輸出量の報告を「バレル」単位ではなく「トン」で行っている上、単位の換算率に合意せず、制裁違反の検証を難しくしていること、この問題が3年以上も続いていることなどを指摘しています。なお、以前の本コラム(暴排トピックス2020年10月号ほか)で紹介したとおり、今年9月に公表された制裁委専門家パネルの中間報告書では、北朝鮮が今年1~5月だけで、推定で最大160万バレルの石油精製品を輸入した可能性が指摘されています(なお、一方で同委員会は、北朝鮮への制裁内容から免除される人道支援を巡り、支援期間を6カ月から9カ月に延長すると決めています。人道支援団体などは新型コロナで支援が急がれるなか、制裁が物資を届きにくくしていると批判していたもので、安保理は支援内容を審査する期間も短縮することを決めています。ただし、北朝鮮側の国境封鎖などのコロナ対策により人道支援を妨げていること、北朝鮮は支援を阻止し続けており、国民より兵器開発計画を優先しているといった指摘もあります)。さらに直近では、米国務省が、中国が国連の対北朝鮮制裁に違反している(「目に余る」、「米国は中国が行動を正すのを待ちはしない」など)と非難し、制裁違反の証拠を示す情報提供に最大500万ドルの報酬金を支払う用意があると表明しています。報道によれば、北朝鮮の非核化を目指し国連が発動させた制裁措置を中国が骨抜きにしようとしていると非難、(本コラムでも紹介していますが)制裁措置に違反して中国は北朝鮮の労働者少なくとも2万人を受け入れ続けたほか、石炭などの制裁対象となっている物資を北朝鮮から中国に海上輸送したと指摘、米国はこうした輸送を過去1年間で555回確認したとしています。また、このほか、中国は現在、北朝鮮の大量破壊兵器プログラムなどに関与している複数の人物を受け入れているとも指摘しており、その制裁逃れの深刻さがうかがえます。なお、関連して、米財務省は、北朝鮮による強制労働従事者の海外派遣に関与したとして企業2社に制裁を課し、各国に対し国内の北朝鮮労働者を送還させるよう警告しています。報道によれば、同省は声明で、ロシアの建設会社とロシアで事業を行う北朝鮮企業をブラックリストに指定したと明かし、「北朝鮮には、政府や兵器開発を財政的に支援するために国民を遠い国に派遣し、過酷な労働条件で働かせて搾取してきた長い歴史がある」と指摘しています。

その他、北朝鮮を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 国際原子力機関(IAEA)が国連で「北朝鮮の核活動はなお深刻な懸念材料だ。核プログラム継続は国連決議に明らかに違反しており、極めて遺憾だ」として、同国の核開発が依然として「深刻な懸念の原因」と警告したことを受け、北朝鮮は、IAEAが「敵対勢力に踊らされている操り人形」と批判、国連総会に提出されたIAEAの年次報告書について、「完全に推測と捏造にまみれている」、「IAEAは西側諸国の政治的な道具にすぎない。IAEAが公平性と客観性を欠いている限り、北朝鮮は彼らと取引しない」と反発したと報じられています。IAEAは、2009年に査察官が国外退去になって以来、北朝鮮と接触していませんが、北朝鮮は以降も核兵器開発を進め、2017年9月に最後の核実験を行っています。
  • 国連総会で人権問題を扱う第3委員会は、EUが提出した北朝鮮の人権侵害を非難する決議案を無投票で採択、近く総会で採択される見通しとなっています。同趣旨の決議採択は16年連続で、決議案は日本人の拉致問題について、「被害者の安否や所在に関する正確で詳細な情報を家族に提供し、すべての問題をできるだけ早く解決するよう強く要請する」としています。一方、日本は例年、共同提出に加わってきましたが、2019年、日朝対話の糸口を探る狙いから共同提出を見送り、今回も引き続き、決議案に賛同する共同提案国にとどまっています。
  • 2020年11月17日付日本経済新聞によれば、米誌ニューヨーカーが、北朝鮮の金正恩体制打倒を訴える団体「自由朝鮮」が、2017年の金正男氏殺害事件後に息子のハンソル氏らを台湾からオランダに逃がそうとした際、米中央情報局(CIA)職員を名乗る男性2人が身柄を引き取っていったとする団体リーダーの証言を報じています。事件後、同団体がハンソル氏らを安全な場所に移したと表明していましたが、現在の所在地は不明だということです。
  • 米国防総省ミサイル防衛局は、日米が共同開発した新型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」による大陸間弾道ミサイル(ICBM)の迎撃実験に成功したと発表しています。報道(2020年11月17日付読売新聞)によれば、SM3ブロック2Aは、短距離から中距離の弾道ミサイルを迎撃する目的で開発されたもので、ICBMの迎撃実験を行ったのは初めてとなったほか、艦上から発射したミサイルでICBMの迎撃に成功したのは初めてということです。10月の軍事パレードなど北朝鮮が核兵器の弾頭化技術を獲得し、米本土を核攻撃できるようになることへの懸念が強まる中、米議会が、SM3ブロック2AでICBM迎撃が可能かを検証するよう求めていたものです。

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく指導事例(大阪府)

暴力団の会合と知りながら会合場所を提供したなどとして、大阪府公安委員会は、大阪府暴排条例違反で、大阪府内の中華料理店の60代男性経営者と、いずれも六代目山口組系の70代の会長と60代の別の組織の組長を指導しています。報道によれば、特定抗争指定に伴い、大阪市などが警戒区域に定められたことで、おおむね5人以上の組員の集合や事務所への立ち入りが禁止されることとなり、当該区域外にある同店が使われたとみられており、計4回の会合で約15万円の代金を受け取っていたということです。なお、大阪府警によると、こうした会合の実施に対する指導は府内では初めだといいます。また、飲食店経営者は、「新型コロナウイルスの影響で客も減っていたので、金を払ってくれるなら暴力団でもいいと思った」などと説明したと報じられており、コロナ禍で経営が苦しい状況は理解できるものの、暴力団への利益供与は踏みとどまってもらいたかったところで、大変残念です。

▼大阪府暴排条例

同条例第14条(利益の供与の禁止)第3項で、「事業者は、前二項に定めるもののほか、その事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与をしてはならない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」と規定されています。さらに違反した場合は、第22条(勧告等)において、「4 公安委員会は、第十四条第三項又は第十六条第二項の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な指導をすることができる。」と規定されています。

(2)暴排条例に基づく逮捕事例(東京都)

東京・歌舞伎町などでみかじめ料を受け取ったとして、東京都暴排条例違反の疑いで、極東会組員が逮捕されています。報道によれば、2019年10月ごろから新宿区歌舞伎町などで、フリーの客引きから用心棒代としてみかじめ料およそ30万円を受け取った疑いが持たれており、この組員にみかじめ料を渡した疑いで、客引きの男ら2人も逮捕されています(この2人は、今年2月に別の詐欺事件で逮捕されており、証拠品の解析などで組員との現金のやりとりが見つかり、事件が発覚したということです)。なお、警視庁がみかじめ料を支払った側を逮捕したのは3件目となります。

▼東京都暴排条例

まず客引きの男らについては、同条例第2条(定義)において、第11項「特定営業」が定義されており、「ト 道路その他公共の場所において、不特定の者に対し、次に掲げる行為のいずれかを行う営業(イからヘまでのいずれかに該当するものを除く)」として、「(1)イからヘまでのいずれかに該当する営業に関し、客引きをすること。(2)イからヘまでのいずれかに該当する営業に関し、人に呼び掛け、又はビラその他の文書図画を配布し、若しくは提示して客を誘引すること。(3)イからヘまでのいずれかに該当する営業に係る役務に従事するよう勧誘すること。(4)写真又は映像の被写体となる役務であって、対価を伴うものに従事するよう勧誘すること」となっています。さらに第12項で「特定営業者」について、「特定営業を営む者をいう」と定義されています。そのうえで、第25条の3(特定営業者の禁止行為)第2項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、暴力団員に対し、用心棒の役務の提供を受けることの対償として、又は当該営業を営むことを暴力団員が容認することの対償として利益供与をしてはならない」 と規定されています。さらに、違反した場合の罰則については、第33条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「三 相手方が暴力団員であることの情を知って、第25条の3の規定に違反した者」が規定されています。また、暴力団員については、同条例第25条の4(暴力団員の禁止行為)第2項で、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償として、又は当該営業を営むことを容認することの対償として利益供与を受けてはならない」と規定されています。さらに、違反した場合の罰則については、第33条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「四 第25条の4の規定に違反した者」が規定されています。

(3)暴排条例に基づく逮捕事例(静岡県)

静岡県警は、稲川会系の暴力団幹部が、市内の飲食店経営者からみかじめ料30万円を受け取ったとして、あわせて4人を静岡県暴排条例違反の疑いで逮捕しています。報道によれば、静岡県暴排条例は2019年8月に改正施行されましたが、適用となるのは2例目となるということです。

▼静岡県暴排条例

まず、飲食店経営者については、同条例第18条の3(特定営業者の禁止行為)では、「2 特定営業者は、特定営業の営業に関し、暴力団員又はその指定した者に対し、用心棒の役務の提供を受けることの対償として、又はその営業を営むことが容認されることの対償として利益の供与をしてはならない」と規定に違反したものと考えられます。さらに、第28条(罰則)において「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」として、「(2)相手方が暴力団員又はその指定した者であることの情を知って、第18条の3の規定に違反した者」が規定されています。一方、暴力団員については、第18条の4(暴力団員の禁止行為)第2項で、「暴力団員は、特定営業の営業に関し、用心棒の役務の提供をしてはならない。」として、「2 暴力団員は、特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務を提供する対償として、又はその営業を営むことを容認する対償として利益の供与を受け、又はその指定した者に利益の供与を受けさせてはならない。」と規定されており、違反した場合、第28条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50 万円以下の罰金に処する。」として、 「(3)第18条の4の規定に違反した者」が規定されています。

(4)暴力団対策法に基づく中止命令の発出(岡山県)

岡山県警岡山西署は、神戸山口組系組員に暴力団対策法に基づく中止命令(不当贈与要求行為)を出しています。報道によれば、同市内の家電量販店で、投資事業を行っている20代の男性に、「わしは絶対に許さんと決めたやつは絶対に許さんけぇ」などと言い掛かりをつけ、出資金名目で現金500万円を要求したとされます。なお、同組員は、恐喝未遂容疑で同署に逮捕されていますが、その後不起訴処分となっています。

▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

出資金名目で現金を要求する行為については、暴力団対策法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること。」が禁止行為として規定されています。また、中止命令の発出については、第11条において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる。」と規定されています。

(5)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県)

直近で、福岡県、福岡市、北九州市において、2社のあわせて4社について、排除措置が取られています。

▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
▼北九州市 福岡県警察からの暴力団との関係を有する事業者の通報について

2社ともに福岡県に「排除措置」(福岡県建設工事競争入札参加資格者名簿に登載されていない業者に対し、一定の期間、県発注工事に参加させない措置で、この期間は、県発注工事の、(1)下請業者となること、(2)随意契約の相手方となること、ができない)を講じられ社名が公表されています。2社ともに、「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」(福岡県)として、18カ月の排除措置となっています。なお、福岡市では、2社ともに「暴力団との関係による」として、12カ月の排除措置となっているほか、北九州市では、2社ともに「当該業者の役員等が、暴力団と「社会的に非難される関係を有していること」に該当する事実があることを確認した」とし、うち1社は「令和2年11月25日から18月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」の排除措置となっています(もう1社については、原稿執筆時点(2020年12月6日)では、排除期間は「審議中」となっています)。3つの自治体で、公表のあり方、措置内容等が異なっており、大変興味深いといえます。

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